小説「継母の心得 3 悪魔・アバドン暗躍」感想・ネタバレ

小説「継母の心得 3 悪魔・アバドン暗躍」感想・ネタバレ

『継母の心得』第3巻の表紙画像(レビュー記事導入用)

継母の心得 2 レビュー
継母の心得 4 レビュー

物語の概要

本作は、前世で読んでいた漫画の世界に「悪辣な継母キャラ」として転生してしまった女性――イザベル が、原作の“継母=悪役”という定めを乗り越え、義息のノア を真摯に育て直す異世界ファンタジーである。第3巻では、義息との平穏な日々のみならず、かつて物語を影で操っていた魔物勢力――アバドン の暗躍が明らかとなり、皇宮を舞台とした政変の危機、そして“悪役の記憶を持つ継母”としてのイザベルの覚悟が試される展開となる。

甘く穏やかな育児と、陰謀と策謀が入り混じる“家族と王宮の狭間”という、異色のファンタジーが描かれている。

主要キャラクター

  • イザベル:本作の主人公。前世の記憶と、漫画の設定された“悪辣な継母”という枠からの転生者。義息ノアを虐げるのではなく、溺愛し、彼の幸福と安全のために奔走する。第3巻では、育児のみならず、王宮における陰謀から家族を守るため決断を下す重要人物。
  • ノア:イザベルの義息。漫画で描かれていた虐待される子ども像とは異なり、現実では愛情深く優しい子ども。イザベルの愛情によって心身ともに育てられ、その無垢さと純粋さが物語の癒やしとなる。第3巻でも彼の存在が、物語の軸として重要な意味を持つ。
  • テオバルド:ノアの父にあたる男性。初めは冷淡で距離を置く夫であったが、イザベルとノアの関係、そして家族の安寧を守るイザベルの姿勢を目の当たりにし、態度に変化が生じつつある人物。第3巻では彼の感情の揺れ動きも描写され、物語のドラマに深みを与える。

物語の特徴

本作の大きな魅力は、“悪役継母”という設定を逆手に取った「育児 × 異世界 × ファンタジー」の異色ミックスである点だ。主人公が前世の知識を活かし、義息との愛に全振りしながら世界を再構成しようとする、いわば“ハッピー系家庭改革ファンタジー”である。

しかし第3巻では、単なるほのぼの日常だけでなく、“王宮の陰謀”“魔物の介入”“家族を守る戦い”というサスペンス的・ダークファンタジー的展開が重なり、甘さと緊張感のコントラストによって読者を惹きつける構造となっている。

この「溺愛と策略」「育児とファンタジー」「家庭と王宮」の三重構造こそが、似たような“転生もの”“悪役令嬢もの”との差別化を成しており、シリーズとして唯一無二の魅力を放っている。

書籍情報

継母の心得 3
著者:トール 氏
イラスト:ノズ  氏
出版社:アルファポリス
レーベル:レジーナブックス
発売日:2023年12月31日

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あらすじ・内容

旦那様の溺愛が、激しすぎますわ!!
マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、悪辣な継母キャラとして転生してしまったイザベル。実際に会った義息のノアはめちゃくちゃ可愛くて、ノアのためならなんでもしてみせる! と自重しない日々を送っていた。そうしているうちに、何故か女嫌いだった旦那様の態度も変わり、最近はやけに甘い雰囲気を醸し出してくるように……。一方で、マンガで暗躍していた悪魔・アバドンはこの世界でもその力を振るい、皇宮を中心に不穏な空気を漂わせていた。どうやら皇帝もアバドンの影響下にあるようで――。義息への愛とオタクの力で異世界を変える異色のファンタジー、策謀と溺愛が錯綜する待望の第3巻!

継母の心得3

感想

『継母の心得 3』は、甘さと不穏さの温度差で読者を揺さぶってくる巻であった。
前巻までに積み重ねられてきた「仮面夫婦の微妙な距離」と「皇宮に漂う悪魔の影」が、とうとう本格的に形を取り始めていく。

まず強烈だったのは、「宿六」な皇帝が悪魔アバドンによって洗脳されていたという事実が明かされ、その洗脳が解けた途端、側室の顔を一切覚えていないというのは衝撃だった。
子どもの顔だけはなんとなく記憶に残っているのに、肝心の相手である側室の存在が丸ごと抜け落ちているというバランスの悪さが、妙に生々しくて笑うしかなかった。
しかも、この残酷な事実を知った側室が、逆に悪魔へ魅入られて暴走していく流れが重くのしかかり、「皇宮の歪み」がついに表面化したと感じさせる展開であった。

一方で、イザベルとテオバルドの「仮面夫婦」にも確かな変化が訪れていた。
ノアへの愛情が日増しに深まっていくイザベルに対し、テオバルドが息子へベッタリな妻へ嫉妬するという、本来なら立場が逆転することのない感情のねじれ方が非常に面白かった。
普通は子が母へ執着し、父がその絆を静かに見守るものだが、この家庭では父が「ぼくの妻を息子に取られた」と不機嫌になる方が自然に見えてしまう。
読んでいて「いや、逆だろ」と呟いてしまった。

ノアの存在が家庭の中心にあることは変わらないが、そこに嫉妬や戸惑いといった新しい感情が混ざることで、家族としての形が少しずつ変化し、仮面だったはずの夫婦関係にも温度が生まれていく。
その揺れが柔らかくて心地よく、同時に「この家族はこれからどうなるのか」という期待を大きくする部分であった。

その一方、皇宮では悪魔アバドンが静かに影響力を広げ、側室たちの不満や承認欲求に入り込みながら混乱を深めていく。
政治と感情が結びついたときの脆さが鋭く描かれ、日常の甘さとは対照的に重苦しい空気が漂っていた。洗脳の痕跡が消えた皇帝が「覚えているのは皇后だけ」という事実は、権力の歪みを象徴するようで、物語全体に新たな不吉さを刻みつけている。

総じて本巻は、日常の甘い時間と、皇宮で進む陰謀という二つの流れが鮮やかに対照をなし、家族の温かさと王宮の冷たさが交互に読者を引っ張る構成であった。イザベルとノアの幸せが可愛いほど輝くからこそ、アバドンが広げる闇がより濃く見える。その対比が読後に強い余韻を残し、次巻ではどこまで世界の歪みが浮き彫りになるのかと期待を抱かせる一冊である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

展開まとめ

プロローグ

義息子ノアとの穏やかな時間
イザベル・ドーラ・シモンズは療養中の部屋で、ノアから贈られた向日葵を眺めつつ穏やかな時間を過ごしていた。ノアの無邪気な笑顔に心を和ませながら、前世で読んでいた漫画の悪辣継母へ転生した自身の境遇を思い返していた。

転生後の環境と運命の変化
イザベルは氷の大公と呼ばれる公爵の後妻として嫁ぎ、そこで出会った幼いノアに心を奪われた。前世の知識でおもちゃや菓子を作り、ノアのみならず第二皇子にも好かれるなど、物語の筋書きから大きく外れた状況が続いていた。皇后との関係改善や毒殺未遂など、予定外の出来事が重なりながらも、イザベルは幸せを望んでいた。

悪魔の潜伏と記憶改竄の発覚
物語のラスボスである悪魔が皇城に潜伏していることが判明し、公爵や皇后が記憶を改竄されていた事実も明らかとなった。悪魔に対抗できるのはノアと聖女フローレンスであったが、二人は幼すぎるため状況は絶望的であった。

妖精の出現と新たな混乱
妖精が突如現れ、イザベルに妖精が見える魔法をかけた。さらに公爵まで巻き込まれ、妖精が見えるようになったことで新たな混乱が生じた。イザベルは仮病による療養を続けつつ、妖精の存在を隠すために神経を張りつめていた。

イーニアス殿下の招待状とノアの喜び
ある日、ノアがイーニアス殿下から届いた手紙を持ってくる。手紙には誕生日パーティーへの招待状が入っており、ノアは喜びを隠せなかった。イザベルは皇族の式典に幼い子が参加することを案じ、公爵への相談を決意した。妖精が唐突に現れて殿下の誕生日を告げるなど、混乱は続いたが、イザベルは気を取り直し、招待状を公爵へ伝える旨を侍女カミラへ告げた。

第一章 祝福の儀

帝都行きと祝福の儀の決定
イザベルは快復の診断を受け、朝食の席でイーニアス殿下の誕生パーティーについてテオバルドに尋ね、皇族の慣例として教会で祝福の儀を行い、その後皇城でパーティーが開かれることを知らされた。ノアも招待されていることが判明し、テオバルドはノアに礼儀作法を学ぶよう命じた。帝都へは一週間後に出発することが決まり、妖精たちとの会話から、祝福の儀と悪魔の存在が密接に絡むことが示唆された。

馬車の旅と魔法契約の変更
帝都への道中、テオバルドは妖精が瞬時に移動できるにもかかわらず同行していることに苦言を呈しつつも、ノアを見守りながらイザベルとの距離を縮めていった。馬車内でテオバルドは、魔法契約の「イザベルから触れない」という条項の撤廃を提案し、自身の女性嫌いにもかかわらずイザベルだけは触れられても平気であり、むしろ触れていたくなると告白した。到着後の契約見直しで、性的接触禁止と無断で触れてはならない条項が削除され、互いに離婚できない文言が追加され、テオバルドがイザベルを手放さない意思を明文化した。

ノアの祝福への憧れと準備の忙しさ
ノアは祝福とは何かをイザベルに尋ね、教会で神に魔法使用の許可を得る儀式であると知ると、自身も魔法を使いたいと目を輝かせたが、五歳まで受けられないと聞き落胆しつつも来年を楽しみにすることにした。一方イザベルは、妖精がフローレンスのもとへ飛んでいるとは知らぬまま、イーニアス殿下の祝福の儀とパーティーに向けて、ノアと自分の衣装選びや「ベル商会」の収支確認など、多数の業務に追われた。ミランダに促されてテオバルドをお茶に誘い、贈られたドレスと宝飾への感謝を伝えるが、寝室の話題に踏み込もうとした瞬間に妖精が乱入し、機微な会話は中断された。

皇帝側の思惑と不穏な運命
同じ頃、皇城の一室では皇帝と謎の男が対面しており、男は祝福の儀でイーニアスが必ず炎の神の加護を授かると断言した。皇帝はそれを当然視し、男はそれが皇子の揺るがぬ「運命」であり誰にも変えられないと告げた。二人の影は一つに溶け合い、暗闇の中でイーニアスを不幸に陥れよと願うような不気味な笑いを浮かべ、儀式の裏に不穏な企てが存在することが暗示された。

金木犀の装いと世間の注目
誕生パーティー当日、イザベルはメイドたちの「奥様エステ隊」によって徹底的に磨き上げられ、テオバルドから贈られた金木犀をモチーフにしたホワイトゴールドのアフターヌーンドレスとジュエリーを身に着けた。髪型や化粧も金木犀の色に合わせて整えられ、イザベル自身も鏡の中の自分の変化に驚いた。ノアとテオバルドも同じ色合いの衣装で揃えられ、親子で気品を漂わせながら、妖精たちの冷やかしを受ける中、テオバルドはイザベルを妖精ではなく女神のように美しいと評し、三人は新型馬車で教会へ向かった。教会前では新型馬車と一行の姿に貴族も庶民も視線を奪われ、「帝国一美しい家族」として熱狂的な歓声を浴びた。

トルノ大聖堂での祝福と焔の神の顕現
トルノ大聖堂最奥の祭壇の前で、純白の祭服をまとったイーニアスは大司教の進行に従い跪き、神々の像の前で祝福の言葉を受けた。像からあふれた光が殿下を照らし、虹色の光が降り注いだ後、イザベルとテオバルドと妖精にだけ見える火柱が立ち上がり、炎で形作られた赤い仁王像のような焔の神が姿を現した。焔の神は殿下の頭に触れて火柱で包み、その加護を与えると妖精たちに手を振って消えた。テオバルドは、皇帝になる者が必ず火の攻撃魔法を得ることから、神がイーニアスを次期皇帝と認めた証だと理解し、イザベルは前世の物語どおりの展開でありながら、皇帝が異様な上機嫌を見せることに、今後の争いと不幸な運命を予感して戸惑っていた。

第二章 ディバイン公爵とダスキール公爵

祝福の儀後の対面とダスキール公爵の野心
祝福の儀後、テオバルドはオリヴィア側妃の父ダスキール公爵に呼び止められた。ダスキールはイザベルの容姿を値踏みしつつ、かつて次女を後妻として押し付けようとした過去をほのめかし、さらにノアを将来一族の娘と結婚させようとする含みを示した。テオバルドは冷淡にこれを退け、妖精のリークによって、ダスキールが「オリヴィアの子でディバインを凌駕する」と豪語している野心が明らかになった。

パーティー準備と「愛され妻」であることの自覚
邸に戻ったイザベルは、祝福の儀と夜会に備え徹底的なエステと衣装合わせを受けた。金木犀をモチーフにした昼のドレスと、星空を思わせる夜会用ドレスはともにテオバルドの贈り物であり、メイドたちは金木犀の花言葉から夫の深い愛情を指摘した。さらに家族肖像画の依頼も知らされ、イザベルは自分が公的にも「公爵の妻」として位置付けられつつあることを実感した。

夜会での皇帝の「余興」とイーニアスの初魔法
誕生パーティー本番、テオバルド一家は昼とは趣の異なる「夜空と二つの月」のような装いで会場の注目を集めた。そこへ皇帝が空気を壊すように、祝福を受けたばかりのイーニアスに魔法の披露を要求する。皇后が危険性を訴えるも押し切られ、魔法使いたちが防壁を張る中、イーニアスは一人広間の中央に立たされた。

ノアの魔力制御法と「火の攻撃魔法」の顕現
ノアは以前イザベルから遊び半分で教わった魔力コントロールの手順を口にし、その内容と同期するようにイーニアスは丹田の魔力を全身に巡らせ、右手に集め、巨大な火柱を生み出した。暴走寸前に見えた炎は次第に小さな火球へと収束し、イザベルの指示でテオバルドが進行方向に氷の壁を展開する。イーニアスは火球を正確に撃ち出し、帝国最強の氷壁の上半分を溶かしきるという前代未聞の成果を示した。

後継争いへの火種と皇帝の異常な歓喜
この一撃により、イーニアスが「火の神の加護を持つ者」、すなわち伝統上の次期皇帝候補であることが公然と証明された。皇后の父は歓喜しつつも、火の神の加護を持たない現皇帝の立場に触れて逆鱗に触れ、皇帝から叱責・退出を命じられる。テオバルドは、まだ幼いイーニアスがこの場で「皇太子確定」に近い扱いを受けたことで、暗殺や政治的攻撃の標的になる危険性が一気に高まったと危惧した。

皇帝の幼少期と「悪魔」のささやき
一方その頃、皇帝の内面では過去の記憶と現在の歪んだ執着が交錯していた。火の神の加護を持つ兄二人に劣る「でき損ない」として育ち、両親の宮にも入れず、名を呼ばれることすらなかった第三皇子時代。兄たちの相討ち死後、貴族に強いられて愛妾との子を量産しながらも、火の加護を持つ子は一人も生まれなかった。そんな中、自ら望んで迎えた皇后マルグレーテと、その子イーニアスだけを「本当の家族」と定め、彼を皇帝にすることを唯一の希望とした過去が語られる。
しかし現在の皇帝の意識には、イーニアスの身体を「乗っ取って完璧な皇帝になる」ことを唆す冷笑的な声が入り込み、皇帝自身がそれを否定しきれず飲み込まれていく描写が示された。イーニアスへの異常な期待と、彼の魔法披露を強要した暴走は、この「悪魔的存在」による精神操作の結果である可能性が強まり、物語は帝位継承争いと超常的脅威が絡み合う段階へと進んだのである。

第三章 生贄

オリヴィアの焦燥と悪魔との「契約」
第二皇子イーニアスが皇太子同然の扱いを受けた報せを聞き、臨月のオリヴィアは癇癪を起こし、部屋を荒らしていた。彼女は、自身が悪魔と結んだ「自分の子を皇帝にする」という契約が違えられたと受け取り、タイラー子爵に第二皇子の殺害を命じた。だが子爵は、契約内容は「オリヴィアの腹から男児が産まれること」であり、生贄も「男児誕生の暁にダスキール公爵を捧げる」という約束であったと冷静に告げ、対価が足りないと突き放した。追い詰められたオリヴィアは、母や妹すら悪魔への生贄候補として口にし、次の贄としてイザベルの名が挙がるに至った。

皇帝への違和感とアバドンの正体への推理
誕生パーティー後、イザベルは皇帝の振る舞いに強い違和感を抱き、夜遅くにテオバルドの私室を訪ねた。彼女は、火の神の加護を持たない皇帝が、加護を得た息子に嫉妬するどころか、異様なほど上機嫌である点を問題視した。テオバルドは、皇帝が本来は女好きではなく、皇后だけを特別に愛していること、側妃や愛妾は皇帝派が「焔神の加護を持つ子」を求めてあてがった存在に過ぎないことを説明し、イーニアスが「愛する者との特別な子」として心から喜ばれていると推測した。しかしイザベルは、そんな父親が息子を魔力暴走の危険に晒したことこそ不自然だと指摘し、両者は悪魔の関与を疑う。妖精の情報から、建国当時から皇宮に巣食う悪魔アバドンが、記憶改竄や洗脳だけでなく複数の能力を持ち、人間の肉体で千五百年以上生きてきた存在であると判明する。イザベルは、その本質が「憑依」による肉体と特異魔法の強奪であり、吸収系の能力と組み合わせて能力を蓄積してきたのではないかと推理した。

第三皇子誕生と「ダスキール公爵」への憑依
数日後、オリヴィアが第三皇子を出産したとの報告が入り、物語は原作マンガどおりに第三皇子とイーニアスが皇位を争う可能性を帯び始めた。同時に、謹慎中のダスキール公爵が行方不明になり、その後「登城していた」として発見されたという不自然な報せが届く。皇后は特異魔法で様子を見に行き、公爵に強烈な違和感を覚えたと語るが、タイラー子爵の名を完全に忘れていた。テオバルドは、これを記憶改竄の証拠と見なして、アバドンがタイラー子爵からダスキール公爵へと乗り換えたと結論づけた。皇后は黒蝶花と教会を独自に調査しており、悪魔の影響範囲の広さに気付きつつも、その事実に心身を消耗させていた。

側妃オリヴィアの現実崩壊と歪んだ執着
出産後のオリヴィアは、伸びた腹の皮や妊娠線に不満を募らせ、我が子を「嘘泣き」呼ばわりして母乳を拒み、乳母や侍女に八つ当たりしていた。皇帝からの労いがないことに憤り、他の側妃から「皇帝は子を産んだ女には二度と会わない」「皇后だけを愛し、側妃は皇后の補佐役として自由を享受している」という現実を突きつけられると、自分だけは特別に愛されているという妄想が崩壊する。皇后が男女問わず仕事を与え、側妃たちもそれを誇りにしているという価値観も、オリヴィアには受け入れ難く、彼女の自己中心的な被害意識と嫉妬心は一層肥大化していった。

アバドン視点から見た「生贄」と人間の醜悪さ
アバドンは妖精を通じて「運命を二つ持つ女」イザベルの存在を知り、面白い玩具として興味を抱いていた。一方、新たな器として得たダスキール公爵の肉体と「植物成長」の特異能力には不満を覚えつつ、皇城を徘徊していたところ、侍女たちからオリヴィアの暴走を止めてほしいと懇願される。彼は以前から、父を生贄に捧げたと信じ込みながら契約の仕組みを理解していないオリヴィアを「使えないが面白い人間」と見なしており、部屋を訪ねると、そこには皇后と第二皇子への殺意を剝き出しにした彼女の狂態があった。アバドンは洗脳もしていない人間がここまで醜悪に歪んでいることを愉しみ、「まず誰から殺したいか」と焚き付けることで、自らの「生贄の遊戯」をさらに加速させようとしていたのである。

第四章 秘密の庭園

妖精騒動と「怪奇現象」のごまかし
ディバイン公爵邸での茶会で、妖精たちが皇后用のスイーツを次々つまみ食いし、イザベルは仕方なく「公爵家の怪奇現象」として誤魔化した。皇后も皇宮の七不思議を持ち出して怪談でからかい、怪談が苦手なイザベルは本気で怯えたが、その様子をテオバルドは「可愛い」と擁護し、場は和んだ。

黒蝶花と皇族しか入れない庭園の秘密
話題は皇后が調査した黒蝶花に移り、花は本来聖女が咲かせた白い聖なる花であったが、皇族が魔物の血で土地を汚したことで黒く変質し、皇宮の特別な庭園でのみ生き残ったと明かされた。その庭園には、血筋の濃い皇族だけが通れる結界が張られており、イーニアスだけが入れた理由が説明された。黒蝶花自体は悪魔とは直接無関係と判明したものの、アバドンが毒として利用している点は問題視された。

皇帝とイーニアスの脱出と「変態撃退魔法」
その頃、皇帝は洗脳されたままイーニアスを連れ出し、黒蝶花の庭園へ向かっていた。妖精から連絡を受けたイザベルは、皇后に無策で転移しないよう制止し、イーニアスを「悪魔が入れない場所」、すなわち黒蝶花の庭園へ誘導する作戦を立てた。妖精の声をイーニアスに届けて進路を導き、皇后には生活魔法を応用した目くらましの光魔法を教え、「悪魔と戦うのではなく、イーニアスを庭園に押し込むためだけに使え」と念押しした。

妖精の加護と皇帝洗脳の解除
皇后は庭園内に転移し待機、外ではアバドンが憑依したダスキール公爵が入口で立ちはだかる中、皇帝視点では洗脳が揺らぎながらもイーニアスを守ろうと必死にもがいていた。イーニアスは妖精の声の助けを受け、皇帝に「自分を信じて目を閉じて走ってください」と訴え、そこへ皇后の光魔法がアバドンの視界を奪い、一行は結界内へ滑り込むことに成功した。皇帝はレーテとイーニアスを抱きしめ、完全に洗脳が解けたことが示された。

アバドンの撤退とディバイン邸への避難
一方アバドンは、正体を皇后とイザベルに見破られたことや皇帝の洗脳解除を受け、皇帝を「おもちゃ」として見限り、将来的に利用価値の高いイーニアスのみを標的として「しばらく姿を消す」と決めて皇城から退いた。妖精たちは皇帝一家にも付き、非常時に一時的な結界を張ることで守ると約束し、イザベルはディバイン邸へ皇帝一家を避難させる準備を進めた。

皇帝一家の来訪と今後への布石
テオバルドは妖精と共に皇宮へ向かい、皇后とイーニアス、洗脳の解けた皇帝を連れてディバイン邸へ戻った。ノアとイーニアスは妖精の声を聞けるようになり、菓子を餌に妖精との距離を縮める。皇帝ネロはディバイン夫妻に深く頭を下げ、洗脳下での非道を謝罪し、十八歳頃から記憶に靄がかかり始めていたことを語った。こうして皇帝一家とディバイン家、そして妖精たちの連携体制が整い、アバドンとの決戦に向けた足場が固まりつつあることが示されたのである。

第五章 皇帝の激変

皇帝の過去と悪魔との歪んだ養育
皇帝は、自身が幼少期に使用人からほとんど世話を受けられず、着替えや掃除、料理など生きるために必要な全てを、幼い頃からそばにいた「あやつ」から教わっていたと語った。そしてその「あやつ」は兄皇子たちを互いに敵対させた可能性が高く、千五百年前から皇城に巣食う悪魔アバドンであると結論づけられた。皇帝にとっては養育者でもあった存在が悪魔であった事実は、洗脳と情の入り混じる複雑なものとして描かれた。

黒蝶花の提供と解毒剤の確保
洗脳の完全解除を妖精に確認したテオバルドは、皇帝の体調も良好であることを確認した。皇帝はレーテの進言により、黒蝶花を二輪納めた箱をテオバルドに託し、自らが黒蝶花の毒を盛らされた形でイザベル夫婦を害しかけたことを深く詫びた。これにより、聖女の成長を待たずして解毒剤が確保される展開となった。

どら焼きと「悪辣皇帝」の子煩悩化
休憩の席ではイザベル考案の「どらやき」もどきが供され、夜豆から作られたあんこ入りスイーツに皇帝が感激した。イーニアスを膝に乗せて共に菓子を楽しむ姿は、かつて悪辣と噂された皇帝像から一転し、子にデレデレな父親として描かれた。ノアもイザベルの膝に抱かれ、イーニアスと並んでスイーツを楽しみ、二家族の距離が一気に縮まる描写となった。

バランスゲームと皇帝の「人間味」
食後にはテオバルドと皇帝がバランスゲームで勝負する場面が挿入され、皇帝は本気で挑みつつも見事に崩し、ノアの素直な判定に打ちひしがれた。ブロックを巡って妖精たちとも本気で張り合い、最後には自分の耳に聞こえていた「不気味な声」が妖精の声だと今さら気付いて騒ぐなど、皇帝の抜けた一面と、レーテに叱られる夫婦漫才的やり取りが、洗脳解放後の「人間らしさ」を強調していた。

粛清計画と妖精の役割
テオバルドとレーテは、皇帝の洗脳が解けたことを受け、予定していた粛清を前倒しする案を検討した。ただし愚かな貴族の中にも皇帝同様に洗脳されている者がいる可能性を考慮し、四半期報告会議の場に妖精を投入して、悪魔の支配下にある者を見極める方針が示された。皇帝本人は子供たちとブロック遊びに興じており、緊張感のある政治方針と、リビングの微笑ましい光景が対比されている。

レール馬車の国家事業化構想
晩餐後、テオバルドはイザベルに対し、レール馬車案を粛清後の国家事業として提案する意向を明かした。まず公爵領で試験運用し、将来的には食糧や薬品の安定輸送、未開地や魔物地帯を含む物流ルートの整備に結びつけ、食糧難や孤立する村を減らす構想が語られた。イザベルは自らの提案が「物流革命」と多くの命の救済に繋がる可能性を示され、発案者としての重みと震えを自覚することになった。

皇帝一家の帰還と「変形馬車」注文
翌朝、魔力の戻ったレーテは皇帝とイーニアスを連れて皇宮に戻る決意を語った。イザベルが悪魔の再接近を案じる一方、レーテは皇族として宮を離れ続けることはできないと宣言した。皇帝はディバイン家の変形馬車に強い興味を示し、レーテの分に続いて自分の馬車も注文するという、小さな贅沢に喜ぶ姿が描かれた。皇帝一家は転移で帰還し、イザベルは無事に一行をもてなした安堵を皆と分かち合うが、この後の波乱はまだ知らされていなかった。

悪魔消失と側妃オリヴィアの野心
一方宮中では、悪魔アバドンがオリヴィア側妃の父の身体ごと姿を消し、実家の記憶だけ改竄していた。オリヴィアは、自身を「国母」と信じて側妃宮に閉じ込められた現状からの脱出を画策し、「皇帝に再び自分を振り向かせる」ことで側妃の地位と自分の子を皇太子に押し上げ、皇后と第二皇子を消す妄想に耽っていた。悪魔不在のはずの皇宮に、別の危険な火種が残されていることが示された。

皇子たちの血筋問題と焔の神の加護の真実
ディバイン邸では、妖精が「皇帝の子は正妃からしか生まれない」「第一皇子と第三皇子は皇帝の血を継いでいない」と暴露し、イザベルは衝撃を受けた。焔の神は一途な神であり、正妃との子にのみ皇子と加護が与えられるという理が説明され、第一皇子と第三皇子が皇族の血すら継いでいないと判明した。一方で、火の攻撃魔法が使えない皇帝にも焔の神の加護自体は与えられており、単に魔力量が少ないため行使できないだけであることも明かされた。

皇帝の決断と子供たちの保護
イザベルはこの事実をテオバルドに報告し、側妃たちの罪と子供への影響を案じた。テオバルドは虚偽と国庫金横領により母親側は死罪、家族や実父も処罰対象となり、子は平民として孤児扱いになる可能性を示したが、イザベルの心情を慮り「皇子たちが悪いようにはしない」と約束した。皇帝は報告を受け、自身を謀った妃たちへの処罰は認めつつも、父として慕ってくれる子供たちへの情を捨てきれず、「子に罪はない」として、彼らをイーニアスとは別枠で守る決意を固めた。後継はあくまで神の加護を持つイーニアスと明言しつつ、妃と実家は粛清対象とし、子供のみを救済するという線引きがなされた。

皇帝の加護告白と夫婦の再確認
皇帝は焔の神の加護を自分も得ているとレーテに報告しつつ、「魔力が少ないから攻撃魔法は使えない」と明るく笑った。コンプレックスと思われていた事実を、レーテとイーニアスがそばにいる現状ゆえに受け入れられるようになった姿が描かれる。レーテは泣きながらも「加護がどうでもいいと言う皇帝はあなただけ」と叱咤し、皇帝は「それでよい」と抱きしめることで、夫婦の絆が改めて強調された。

組立式模型の開発と新たな日常の一歩
一方イザベルは、妖精たちを実験台として組立式模型の試作を進めていた。馬車と馬の部品を自分で組み立て、色を塗る「世界に一つのオリジナルおもちゃ」という発想は妖精たちの創作意欲を刺激し、部品の扱い難さや道具の要否といった改善点も浮かび上がった。イザベルは皇子問題の重さに悩みつつも、レール馬車構想や玩具開発など、民の生活を豊かにする案を次々と具体化していく。その裏で、側妃オリヴィアが新たな策動に動き出していることだけが、今後の不穏な伏線として残されていたのである。

第六章 こめかみのキス

皇帝襲撃とオリヴィア側妃の拘束

夜中、妖精から「皇帝ネロウディアスが襲われた」と知らされたイザベルは、ナイトドレス姿のままテオバルドの部屋へ駆け込み、状況を伝達したのである。妖精経由の確認で、侵入者が武装もせず皇帝の寝所に現れたオリヴィア側妃であり、彼女に色仕掛けで懐柔された護衛騎士ごと妖精に拘束されたことが判明した。テオバルドは急ぎ皇宮へ向かい、その直前にイザベルのこめかみに軽く口づけを落とし、彼女を動揺させたのである。

皇后マルグレーテによる断罪と側妃の崩壊

皇宮では、洗脳から解放された皇帝がオリヴィアをまったく覚えておらず、皇后マルグレーテこそが唯一の妃であると公言したことで、側妃の自尊心は崩壊した。オリヴィアは逆上し、かつて皇后暗殺を狙ってエイヴァ側妃を送り込み、四年間にわたり皇后を恐怖で追い詰めていたことを得意げに自白したのである。マルグレーテは怒りを爆発させて平手打ちを見舞い、「法の下では身分に関係なく裁かれる」と告げ、公爵家の地位剥奪と一族への処罰を宣言した。父ダスキール公爵の失踪も指摘されると、オリヴィアは支えを失ったように崩れ落ち、犯罪者として連れ去られたのである。

女性不信の理由とテオバルドの告白

帰館したテオバルドは、疲労困憊の中でイザベルと二人きりになり、膝枕を受けながら自らの過去を語った。幼少期から使用人や他家令嬢らに性の対象として狙われ続け、前妻サラには薬と媚薬で無理やり身体を奪われた結果、女性そのものに嫌悪と恐怖を抱くに至ったことを明かしたのである。彼は自分を「汚れている」と思い込み、真実を知られ軽蔑されることを恐れていたが、イザベルは被害者である彼を強く否定せず、「どこも汚れていない」「美しい」と繰り返し伝え、心身ともに肯定した。

両想いの確認と「本当の妻」宣言

テオバルドは、形式的な妻として放置してきたことを悔い、「本当の自分を知ったうえで、自分の妻でいてほしい」と求めた。そしてイザベルを「ベル」と愛称で呼び、恋情を自覚した愚かな男として愛を乞い、自身の愛情をはっきりと告白したのである。イザベルもまた、自分が彼を愛していると気付き、涙ながらに想いを返した。以後、二人は互いを「テオ」「ベル」と呼び合うようになり、書類上だけでない夫婦として歩み出したのである。

家族の寝室騒動と平穏の裏の不穏

翌朝、同じベッドで目覚めたイザベルは、テオから名で呼ぶよう求められ、羞恥に耐えつつ受け入れた。朝食では、ノアを交えた賑やかな食卓でクロワッサンなどの新作パンを味わい、妖精と使用人に生温かく見守られながら、両想いになった夫婦の空気が邸内に共有されたのである。夜になると、ノアが「母と一緒に寝たい」と主張し、テオも「妻は自分と寝る」と譲らず、父子でイザベルの「一番」を巡って子どもじみた争いを繰り広げたが、執事ウォルトの提案で三人いっしょに就寝することで決着した。子守唄で先に眠った父子を眺めつつ、イザベルは満ち足りた幸福を噛みしめて眠りについた。しかしその裏で、ディバイン公爵領の急速な発展とイザベルの存在に目を付けた隣国の者が動き始めており、次の波乱の火種が静かに生まれていたのである。

第七章 大粛清

貴族社会を揺るがした大粛清と後宮の再編

皇帝が突如として腐敗貴族の大粛清に踏み切り、多くの横領・収賄貴族とその親族が摘発されたのである。妃たちの実家も多数罪に問われ、自ら収賄していた妃は離縁と投獄の憂き目を見た。皇后の父も粛清対象となったが、皇后自身は事前に父と縁を切っていたことや家柄が考慮され、弟への当主交代のみで家は存続し、皇后としての地位も守られた。皇帝は一夫多妻を解消し、第一皇子と第三皇子は継承権から遠ざけたうえで手元で育てる方針を取り、母である側妃たちは平民落ちなどそれぞれ別の道を歩むことになった。

女性登用と政治観の変化

粛清により皇城の人員は半減したが、かえって仕事は円滑に進むようになった。皇帝は優秀な平民と女性を文官・武官として登用し、女性の社会進出を後押しする画期的な政策を打ち出した。テオは、非情さこそ政治に必要と信じてきた自分が、情を捨てきらない皇帝の姿を見て考えを揺さぶられ、陛下の甘さを補う「非情な役」を自分が引き受けると覚悟を固めた。イザベルはその在り方を誇りに思い、夫を支える決意を新たにした。

黒蝶花の解毒剤と家庭の温もり

黒蝶花の解毒剤が完成し、イザベルとテオは真っ黒な薬を共に服用した。副作用は命に関わらないと説明されていたが、イザベルだけが激しい腹痛と下痢に見舞われ、一日中トイレに籠る羽目になった。それでも、看病に訪れたノアの無邪気な甘えと、ベッドの上での追いかけっこがイザベルの心身を癒やした。そこへテオが現れ、ノアと「お母様の取り合い」をする微笑ましいやり取りが繰り広げられ、父子関係の改善がはっきりと見て取れるようになった。

夫婦の親密さと妖精たちの日常

夜、イザベルはテオの膝に座らされ、酒の肴扱いに抗議しつつも、妻として特別視されていることにときめきを覚える。妖精アカとアオは菓子と玩具に恵まれ、ほんの少し成長しており、甘いものを巡って小競り合いをするなど、ディバイン家の屋敷は穏やかな幸福感に満ちていた。テオはイーニアスからの誘いを伝え、ノアと皇宮で遊ぶ約束を取り付ける一方、イザベルの皇宮図書館利用も許可する。

新型馬車とタンブラーが結ぶ皇帝一家との関係

イザベルは皇后の注文した新型馬車と保温・保冷タンブラーを皇宮へ納品する。屋根の開閉機構や変形座席、折り畳み机などの仕掛けに皇帝とイーニアスは子供のように歓声を上げ、皇后も大いに気に入る。さらに、人気のフローズンドリンクを入れたタンブラーを提供し、皇帝は「おもちゃの宝箱」のカフェに行きたいと駄々をこねるほど喜ぶ。こうしてイザベルはいつの間にか皇帝一家のお抱え商人のような立場を築いていく。

イーニアス視点の授業と誕生日プレゼント

イーニアスは家庭教師クリシュナから初代皇帝アントニヌスの治水事業と戦争の歴史を学ぶ。友達と玩具を分け合うべきだと語るイーニアスの価値観は、欲に駆られた周辺国の姿と対照的であり、教師に「皆がその考えなら戦争は起きなかった」と評される。授業を覗きに来た皇帝は息子の言葉に感動し、後に誕生日プレゼントとして、自作の海賊船の組立式模型を贈る。イーニアスは憧れの絵本の海賊船が再現された精巧な模型に大喜びし、皇帝に「大好きです」と抱きつき、皇帝も深く満足する。この模型は、イザベルが用意し、皇帝が一週間部屋に籠もって作り上げたものであった。

皇宮図書館で見つかった乳母の日記と隠された弟

イザベルは皇宮図書館で、アントニヌス帝の乳母の日記と建国史などの書物を手に取る。日記には、正妃との間のアントニヌスとウェルスのほかに、庶民出身の愛妾との婚外子である第三王子の存在が記されていた。黒髪金眼のその王子は、貴族出身の使用人たちに冷遇されながらも、国王本人には大切にされていたらしい。この記述から、イザベルは誰かが千五百年にわたって第三王子の存在を歴史から隠してきたのではないかと推測し、テオに報告する。

リッシュグルス国王太子の来訪要請と不穏な気配

一方、粛清で人員不足となった皇宮にはディバイン家から優秀な使用人が侍従として派遣されていた。そんな折、隣国リッシュグルスから、新たに立太子した第三王子が、帝都とディバイン公爵領を訪問したいという書簡が届く。国内が混乱する中での急な要請を断ることは難しく、テオはベルに公爵夫人としてのもてなしを依頼しつつ、彼女が王太子に近付きすぎないよう警戒を示す。ベルは図書館で見た「婚外子」の話と、第三王子の立太子に不気味な符合を感じ始める。

消えた乳母の日記と謎の司書

翌日、テオと共に再び図書館を訪れたイザベルは、前日に読んだ乳母の日記だけが棚から消えていることに気付く。司書に尋ねても、そのような本は知らないと言われ、黒髪金眼で若い男性司書の存在を伝えても、該当する人物はいないと返される。歴史を揺るがすかもしれない記録と、それを差し出した司書ごと消えた事実が、不穏な謎として物語の次章への伏線となった。

第八章 リッシュグルス王国

図書館司書の正体と「悪魔」仮説

イザベルは皇宮図書館で出会った若い司書がどこにも存在しないと知り、その容姿が千五百年前の第三王子アベラルドと一致することから「亡霊」説を口にした。テオは呆れつつも、第三王子と悪魔が同一人物である可能性を示し、妖精から聞いた「悪魔は元は綺麗な魂の人間」という話と結び付けて、司書が悪魔であり、第三王子の成れの果てかもしれないという結論に至ったが、目的も真相も分からないままであった。

公爵領への帰還と隣国王太子一行の来訪

隣国王太子一行の帝都訪問が近づき、テオが帝都に残る一方で、イザベルたちは先にディバイン公爵領へ戻り、領民の熱烈な歓迎を受けた。イルミネーションや雇用創出の効果で感謝され、奥方としての人気を実感する。やがてリッシュグルス王国のジェラルド王太子とユニヴァ第二王子が来訪し、王太子は小柄で柔和な癒やし系、第二王子は絵に描いたような王子様然とした美貌の持ち主として登場した。ユニヴァがイザベルの手に口づけしようとすると、テオは既婚者への接触を制し、イザベルを庇う形で強い独占欲と嫉妬を示した。

晩餐会で明かされる毒の過去と兄弟の絆

晩餐では、子ども好きのジェラルドがノアと打ち解ける一方、ユニヴァはイザベルの新素材開発や領地運営への関与を鋭く探り、噂の真偽を確かめようとした。さらに彼はイザベルの少ない食事量に反応し、ジェラルドがかつて食事に毒を盛られたことで摂食障害に陥っていた過去が語られる。ユニヴァは各地の美味な食材やレシピを集めて弟を支えた経緯から、食事量の少ない者を見ると過敏に口出ししてしまうようになっており、弟を命懸けで守ろうとする過保護さと兄弟の強い絆が明らかになった。

黒蝶花の毒と「原作」戦争ルートの回避策

酒席では、ジェラルドに毒を盛った犯人が特定済みでありながら捕らえられていないことが示唆され、イザベルは第一王子が毒殺未遂の犯人であると推測する。同時に、前世で読んだ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』において、王太子毒殺と第一王子の即位が隣国との戦争の引き金であったことを思い出す。皇帝とテオが十二年後に毒で死ぬ未来も踏まえ、ジェラルドが黒蝶花の毒で緩慢に蝕まれている、あるいはこれから盛られると判断し、解毒薬の必要性を痛感するが、見た目が毒そのものの黒い薬をブラコンの第二王子や当人に飲ませることの難しさ、自身への疑惑の可能性にも悩まされた。

悪夢として見せられた「本来のイザベル」とノアの悲劇

その夜、イザベルは明晰夢のような形で、原作世界の出来事を追体験する。そこでは、自身がテオと冷え切った関係にあり、新素材の発見をきっかけに父と弟が皇帝に利用され、辺境に飛ばされた末に隣国との戦争で命を落とす未来が描かれる。助けを求めても何もしなかったテオへの絶望と憎悪が募り、ついには九歳のノアを「あの男と同じ顔」と罵り、初めて頬を打つ継母としての姿が示された。父と弟を救えなかった悔恨、皇帝と隣国への憎しみ、自身への自己嫌悪が混じり合い、原作の「悪辣継母」として狂っていく過程が、第三者として見せつけられる形となった。

目覚めと現在のテオへの愛情の再確認

悪夢から目覚めたイザベルは、優しく抱きしめてくれる現在のテオの姿に、夢の中の冷酷な公爵との決定的な違いを痛感し、涙ながらに恐怖と安堵を吐露した。テオは「自分が守る」と繰り返し、イザベルもまた心からの恋情を言葉にして応えた。額から頬へ重ねられる口づけと慈しみに満ちた視線の中で、イザベルは原作の悲劇ルートとは異なる今の関係と未来を守る決意を新たにしつつ、テオとノア、そして隣国をめぐる毒と戦争の運命をどう変えるかという大きな課題を胸に抱えることになった。

エピローグ

ノアと王太子の早朝の散歩

早朝、公爵邸の庭でノアはカミラに見守られながら番犬ナラとデュークと遊ぼうとしていた。そこへリッシュグルス王国のジェラルド王太子が現れ、ノアを誘って庭の散歩に出た。ジェラルドは帝都支店で体験した滑り台を絶賛し、ノアが普段遊んでいる遊具、とくに滑り台を見せてほしいと望み、ノアは手をつないで案内することになった。カミラは畏れ多さに固まりつつ、空気のように付き従うしかなかったのである。

悪夢からの目覚めと日常への安堵

その頃イザベルは、昨夜の悪夢の余韻を残したまま、ノアの声で目を覚ました。ベッド脇に立つノアのアイスブルーの瞳を見て、イザベルは思わず抱きしめ、現実の温かさに安堵した。ノアは先ほどジェラルド王太子と庭を散歩し、公爵家の遊具の話や、帝都支店の滑り台の話で盛り上がったことを嬉しそうに報告し、ジェラルドがイザベルの玩具を大好きだと語っていたと伝えた。イザベルは自身が生み出した玩具や遊具が、我が子と隣国の王太子の双方に喜ばれていることを知り、胸を満たされる思いがしたのである。

「いちばん」の告白と母としての決意

会話の最後にノアは、玩具を褒めたうえで「いちばんはお母様だ」と囁き、イザベルにとって何より欲しかった言葉を与えた。イザベルは、ノアのために作り始めた玩具をノア自身が愛してくれること、そのうえで自分を一番に選んでくれることに深く感動し、この日常こそ守るべき宝だと痛感した。前夜に見た、原作どおりに進めばノアを傷つけてしまう未来の光景がなお心に残る中で、イザベルはノアの笑顔と「母」と呼ばれるこの時間を守るためなら、悪魔であれ運命であれ決して負けないと固く誓ったのである。

使用人の環境改善プロジェクト

制服トラブルから見えた管理体制の欠陥

イザベルは、メイド服紛失騒ぎの報告を受け、個人管理と紛失=懲戒解雇という重すぎる罰則が、セキュリティと費用面から来ていることを改めて把握した。二〜四人部屋で鍵のないクローゼットを共有し、休みの者も仕事時間には部屋を追い出される現状を確認し、紛失の責任を個人だけに負わせる制度の歪みと、生活環境の貧しさを問題視したのである。

公爵への提案とロフトベッド・寮計画

イザベルは企画書を携え、公爵テオバルドに制服管理部署の新設と、将来的な使用人寮の建設、暫定措置としてロフトベッド導入を提案した。テオは「使用人にそこまでの待遇は前代未聞」と難色を示したが、「使用人は奴隷ではなく、快く働ける環境整備は雇用主の義務」と論じるイザベルと、ロフトベッド案に熱狂したウォルトに押され、邸内改修と寮建設を許可した。イザベルは工務店と服飾店に出向き、具体化を急いだのである。

新メイド服と更衣・居住環境の刷新

新制服はセパレート式で、軽く動きやすく、エプロンやスカートに目立たないポケットを備え、スカートには一体型パニエを採用した。またゴム入り靴下の開発により、ガーターベルトが不要となった。試着したメイドたちは機能性の高さに感激しつつ、上質さに戸惑ったが、イザベルは「公爵家のメイドとしての誇りを持つための制服」として着用を促した。邸内には更衣室と制服管理部署が新設され、紛失事件は激減した。ロフトベッドも大好評で、ベッド下をカーテンで仕切った半個室空間が生まれ、使用人たちは「個室ができたようだ」と喜んだ。このロフトベッドは、寮完成後に騎士団寄宿舎へ転用されることも決まった。

労働時間改革と「ホワイト職場」への転換

イザベルは環境整備だけでは不十分と考え、従来の一日十六〜十七時間労働・月二回休みという過酷な労働条件を、八時間労働・一時間休憩・週二日休み・有給休暇ありという体制へと改めた。使用人たちは当初、「クビになるのでは」「仕事が回らないのでは」と不安を口にしたが、給与据え置きとシフト制導入により業務はむしろ効率化し、体調や表情も改善してミスも減少した。ウォルトも効果を認め、イザベルはテオとウォルトに対しても「休息の必要性」を説き、過労体質の是正を促したのである。

ロフトベッド見学とノアの無邪気な希望

おまけとして、イザベルはノアにロフトベッドを見せるためカミラの部屋を訪れた。ノアは階段付きの構造を滑り台のような遊具と捉え、「あそこで寝たい」「カミラと一緒に寝る」と目を輝かせた。カミラは感激し、イザベルはわずかな嫉妬を覚えつつも、息子の無邪気な反応と、使用人たちの生活が少し豊かになった事実を、静かな満足とともに受け止めたのである。

クリシュナ先生の魔法の辞書

テオバルドの多忙と「辞書」の記憶

テオバルドは、貴族粛清の結果として事務量が激増し、自宅の執務室で仕事を続けながら、女性や平民登用による官僚制改革の難しさに頭を悩ませていたのである。唯一の救いとして、将来有望なイーニアス皇子と、その傍らに立つであろう息子ノアの未来を語り合い、ふと自分が幼い頃から大切にしてきた「クリシュナ先生の辞書」を思い出したテオバルドは、そろそろノアにも辞書が必要だと判断したのである。

イーニアス皇子とノアが出会った「魔法の辞書」

一方ノアは、難しい言葉に通じたイーニアス皇子に憧れ、その秘訣を尋ねていたのである。皇子は、教師ロバート・ラーマ・クリシュナ伯爵から贈られた辞書を見せ、文字の並びや「単語」の意味を実際に引きながら丁寧に説明した。ノアは挿絵もない分厚い本に最初は戸惑ったが、「わからない言葉がわかる本」としてそれを受け止め、辞書を「難しいことも教えてくれる魔法の辞書」と呼び、皇子と共に誇らしげに笑ったのである。この話は同席していたイザベルにも伝わり、辞書は「魔法の辞書」として家族の間の共通認識となっていった。

家族の食卓と「魔法の辞書」の継承

その日の晩餐で、テオバルドはノアの勉強への意欲を確認し、イザベルから「勉強が楽しい」と聞かされて驚きつつも喜んだのである。ノアは既にクリシュナ伯爵の名と業績をイーニアス皇子から聞き及んでおり、父の「先生」を尊敬の眼差しで見ていた。テオバルドはそこで、自身が少年時代から愛用してきたクリシュナ製の辞書をノアに譲ることを決意し、ウォルトに運ばせて息子の前に差し出した。ノアはそれを「アス殿下と同じ魔法の辞書」と呼び、宝物のように両手で抱きしめ、父に深く感謝したのである。

知識を授ける「最強のアイテム」としての辞書

イザベルは、辞書を「わからないことを知ることができる魔法の辞書」と表現し、テオバルドもまた、自身が子供の頃「辞書にはなんでも書いてある」と信じていた記憶を思い出した。クリシュナ伯爵が初めて作り上げたその辞書は、テオバルドにとっても学びと成長の象徴であり、今度はノアの知識と自立を支える道具として受け継がれたのである。テオバルドは「クリシュナ先生の魔法の辞書」を、身を助ける知恵を蓄える最強のアイテムと認識し、その継承を通じて父としての役割を静かに果たしていく決意を新たにしたのである。

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継母の心得 一覧

『継母の心得』第1巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
継母の心得の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
『継母の心得』第2巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
継母の心得 2の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
『継母の心得』第3巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
継母の心得 3の表紙。
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継母の心得4の表紙画像(レビュー記事導入用)
継母の心得 4の表紙。
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e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「継母の心得 1」ノアが天使過ぎる! 感想・ネタバレ
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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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