物語の概要
『負けヒロインが多すぎる!』は、恋愛に敗れる「負けヒロイン」たちとの交流を描いた青春ラブコメディである。第8巻では、生徒会選挙を舞台に、新たなヒロイン・馬剃天愛星が登場し、主人公・温水和彦との関係性が描かれる。天愛星は会長選に立候補し、推薦人として和彦を指名するが、和彦は文芸部部長としての責務もあり、断ろうとする。しかし、天愛星の強引なアプローチにより、和彦は選挙戦に巻き込まれていく。一方、対立候補の推薦人として八奈見杏菜が名乗りを上げ、物語は新たな展開を迎える。
主要キャラクター
- 温水和彦:文芸部部長で高校3年生。面倒見がよく、後輩たちからの信頼も厚い。
- 八奈見杏菜:食いしん坊な幼なじみ系ヒロイン。明るく元気な性格で、和彦とは親しい関係にある。
- 焼塩檸檬:元気いっぱいのスポーツ系ヒロイン。活発で前向きな性格。
- 小鞠知花:人見知りの小動物系ヒロイン。控えめながらも芯の強さを持つ。
- 馬剃天愛星(ばそり てぃあら):生徒会副会長で、今巻の中心となる新ヒロイン。会長選に立候補し、和彦を推薦人に指名する。
物語の特徴
本作は、「負けヒロイン」と呼ばれる恋愛に敗れるヒロインたちに焦点を当てたユニークなラブコメディである。第8巻では、新たなヒロイン・馬剃天愛星の登場により、物語に新たな風が吹き込まれる。生徒会選挙という学園イベントを通じて、キャラクターたちの成長や関係性の変化が描かれ、読者を引き込む展開となっている
書籍情報
負けヒロインが多すぎる! 8
著者:雨森たきび 氏
イラスト:いみぎむる 氏
レーベル:ガガガ文庫(小学館)
発売日:2025年5月19日
ISBN:978-4-09-453242-5
関連メディア:TVアニメ第1期(2024年7月〜9月放送)、第2期制作決定(2025年4月発表)
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あらすじ・内容
「――私だけを推してくれませんか」
「いまだけは私を――私だけを推してくれませんか」
生徒会選挙の季節。
会長に立候補した天愛星さんは、なんと推薦人に俺を指名した。
ただでさえ文芸部部長という重責があるのに、俺にそんな余裕はない。
やんわり断るのだけど、天愛星さんはいつにもまして頑なで……。
あの手この手で迫られ、なし崩しに俺は生徒会選挙に巻き込まれていく。
そんなとき、対抗馬の推薦人に八奈見がなったと聞いて――
「正々堂々やろうよ、温水くん」
――あなたは推さずにいられるか?
遅咲きヒロイン、馬剃天愛星ここにあり!!
感想
本巻は、生徒会選挙という明確な主軸を立てつつ、各ヒロインの動きや感情の機微を丁寧に追い、シリーズ中でも特に青春と群像の熱量が高い巻となっていた。
イベント過多とも思える構成ながら、それぞれが意味ある繋がりを持ち、恋愛と友情、日常と勝負、理性と感情がせめぎ合う中で、登場人物たちは確かに“前に進んでいる”。
物語としては次巻での決着を予感させる流れであり、温水が“女の敵”から“誰かの特別”へと変化する一歩目を踏み出すのか、非常に楽しみである。
生徒会選挙とヒロインたちの動向
本巻の主軸となるのは、馬剃天愛星が立候補した生徒会長選挙であった。
彼女の推薦人として巻き込まれる形で登場人物たちの関係が動き出す構図は、シリーズの持ち味である多ヒロイン群像の妙を存分に引き出していた。
温水が推薦人を渋る姿や、推薦人を引き受ける条件として持ち出す“コスプレ演説”という案は、彼らしい脱力と誠意が同居する選択であり、物語をコミカルに彩っていた。
一方で、志喜屋や桜井といった過去の登場人物たちの内面にも光が当たり、それぞれが抱く矛盾や成長も丁寧に描かれていた。
馬剃天愛星の覚悟と“推し”の意味
馬剃の行動力と情熱は、これまでの彼女の不器用な印象を裏切る力強さに満ちていた。
かつての副会長としての立場とは異なり、自ら“推される側”になることを選び、敗北も辞さない姿勢で生徒会長選挙に臨んだ様子は、まさしく「遅咲きヒロイン」と呼ぶに相応しい輝きであった。
演説における“推し”というキーワードの多用も、ただのネタではなく、彼女の生徒会活動に対する真摯な思いと、温水との信頼関係の積み重ねを感じさせるものとなっていた。
学園イベントとキャラクターの多面性
生徒会選挙と並行して進行する体育祭や応援合戦、借り物競争といったイベント群も、物語に緩急と厚みを与えていた。
焼塩の全国大会出場という目標に向けた努力、小鞠との一日家族体験、八奈見の食欲と野心、白玉の無垢な計略――それぞれが一過性の描写ではなく、キャラクターたちの“今”を映し出す鏡として機能していた。
特に、借り物競争での「好きな人」=温水という馬剃の選択は、王道ながらも心を掴む演出であり、少女漫画的な空気感と本作特有のズレ感が見事に融合していた。
恋と友情の交錯、そして“優柔不断”の核心
終盤、天愛星の告白とそれに対する温水の曖昧な返答は、これまでの彼の態度を象徴する一幕である。
彼女からの「まずは友達から」という提案は、温水の気持ちを尊重しつつも歩み寄る理性的な恋であり、決して突飛な展開ではない。
それゆえにこそ、残るのは“優しさと曖昧さの境界”という問いである。
八奈見の「温水君ってやっぱ、女の敵だね」という一言は、皮肉でありつつも核心を突いており、読後の余韻を深くする巧みな締めとなっていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
文芸部
温水 和彦
文芸部の部長であり、物語の中心人物である。多数の女子生徒から好意や関心を向けられる一方で、当人は優柔不断な態度を見せることが多く、それが人間関係に波紋を広げる原因ともなっている。
・ツワブキ高校2年生、文芸部部長
・生徒会選挙にて馬剃天愛星の推薦人として活動し、演説でも彼女を支えた
・白玉、八奈見、小鞠らとの関係において、恋愛的・信頼的揺らぎの中心にいる
八奈見 杏菜
文芸部の個性派部員であり、生徒会副会長選出を視野に入れた行動派である。打算と策略を交えながらも、感情に揺れる場面も多く見られる。
・文芸部所属、副会長候補として生徒会選挙に深く関与
・桜井の推薦人として選挙戦を支援しつつ、温水にも執着心を見せた
・喫茶店での姫宮との会話や新聞記事に動揺しながらも、冷静な外面を保っていた
小鞠 知花
文芸部の主要メンバーであり、弟妹の面倒をみる面倒見の良さが際立つ。温水に対して複雑な感情を抱きつつ、家族的な交流を通じて関係を深めている。
・文芸部所属、弟・進と妹・陽奈を抱える姉
・温水との休日に家族的交流を重ねる
・生徒会選挙に関しては距離を置きつつも、彼に一定の信頼を寄せている
白玉 リコ
文芸部の1年生であり、マイペースで天然気味な性格。表面上は飄々としながらも、他者の感情や状況に鋭く気付く一面を持つ。
・文芸部所属、演劇的表現や小説執筆も行う
・八奈見の行動や選挙戦の動きを冷静に観察
・天愛星の生徒会招集を受け、選挙後は生徒会入り
焼塩 檸檬
陸上部に所属するツワブキ高校の女子生徒であり、文芸部の関係者でもある。明朗で勝気な性格をしており、温水との関係には特有の親しみと複雑な感情が混ざっている。運動能力は非常に高く、校内外の大会でも好成績を残している。
・ツワブキ高校陸上部所属、女子1500mで東海大会優勝、全国大会へ出場
・温水に対し好意を匂わせつつも、駆け引きや嫉妬心を見せる言動が多い
・生徒会選挙を巡っても彼に関与し、選挙戦中に天愛星との関係を問い詰めた
・家庭的な一面を見せる場面や、シャワー使用・私物の放置など距離感の近さが描かれる
生徒会
馬剃 天愛星
生徒会副会長から生徒会長へと選出されたヒロインの一人。真面目で努力家でありながら、不器用な一面と妄想癖を持つ。温水に好意を抱き、様々な形でアプローチを試みる。
・元生徒会副会長、選挙にて新生徒会長に当選
・温水に告白し、友人関係からの関係深化を望んだ
・猫耳コスプレやチカピョン演説など、自己犠牲的戦略も辞さない行動派
桜井 弘人
前生徒会会計であり、生徒会選挙の立候補者の一人。温水や放虎原との関係が深く、常に他者の思いを受け止めようとする内省的な人物である。
・元生徒会会計、生徒会長選に出馬
・八奈見の推薦を受けるも敗北
・天愛星への好意と、志喜屋への複雑な想いを内に秘める
志喜屋 夢子
生徒会書記であり、策略家である一方で繊細な心を持つ。選挙演説では異例の乱入を果たし、自らの想いを率直に伝えた。
・生徒会書記、演説会での乱入者
・天愛星や桜井への想いを抱え、陰から支援を行った
・放虎原との間には深い信頼と複雑な関係がある
放虎原 ひばり
前生徒会長として任期満了を迎える人物であり、冷静で温厚な指導者。志喜屋や桜井を見守りつつ、新体制へ移行する責務を果たした。
・前生徒会長、生徒会伝統の継承者
・机の片付けや懸案事項の整理など、次代への引き継ぎに尽力
・志喜屋に対しても優しく接し、別れを穏やかに見送った
教師
甘夏 古奈美
2-Cの担任教師であり、自由奔放な性格で生徒との距離感も近い。ジューンブライドへの持論を熱弁するなど、個性的な一面が際立つ。
・2-C担任教師、雑談好きで教室を明るくする存在
・天愛星の教室乱入時に写真を撮るなど、騒動にも柔軟に対応
・教師でありながら生徒会選挙や恋愛沙汰に茶々を入れる立場
家族
温水 佳樹
温水の妹であり、兄の動向を鋭く見抜く観察眼を持つ。天愛星や白玉とも接点を持ち、兄の恋愛関係を陰ながら見守っている。
・温水の妹、自宅では兄の行動を監視する役割
・白玉や天愛星とも交流を持ち、状況を的確に把握
・兄の恋愛や生徒会関与をいち早く察知している
小鞠 進
小鞠の弟であり、妹のために気を配るしっかり者。買い物やプレゼントを通じて、家族思いな一面を見せた。
・小鞠の弟、弟妹との買い物で活躍
・陽奈のために三段ベッドの玩具を購入し、感謝された
・温水にも一時的に懐いたが、後に唐突な暴言を吐いて去った
小鞠 陽奈
小鞠の妹であり、素直で天真爛漫な性格。買い物中の素直な反応や、兄姉に対する愛情表現が印象的である。
・小鞠の妹、幼児的な純粋さを持つ
・三段ベッドやパジャマに興味を示すなど、可愛らしい行動が多い
・バス内で温水に抱きつくなど、親密な時間を過ごした
展開まとめ
放課後の図書室と文芸部の近況
5月下旬の放課後、ツワブキ高校の図書室は閑散としており、温水と小鞠は図書委員の手伝いとして受付に入っていた。仮廃部が解除された文芸部は新生として活動を再開し、白玉や焼塩、八奈見らがそれぞれの個性を保ちながら順調に適応していた。特に白玉は毎日のように部室に現れ、小鞠とも少しずつ会話を交わすまでに関係が進んでいた。
馬剃天愛星の登場と突然の告白
静かな図書室に訪れたのは、生徒会副会長の馬剃天愛星であった。彼女は漢方に関する書籍を借りに来たものの、真の目的は温水に話があることであった。緊張と混乱の中で話を切り出そうとするが、言葉がまとまらず、突如として「あなたが欲しい」と唐突な発言をしてしまう。周囲の空気が凍りつく中、温水は落ち着いてその場を収め、勤務終了後まで話を保留するよう促した。
予兆としての混乱
天愛星は冷静さを欠いた自分の発言を反省しつつも、強い意志で温水に接触を試みていた。彼女の行動は、これまでの関係性に新たな波を生む兆しであり、温水はその予感に内心で警戒感を抱いていた。文芸部や周囲の人間関係がようやく落ち着きを見せ始めたこの時期に、彼女の登場は再び静かな日常に波紋を広げることとなったのである。
~ 1敗目 ~ 断じて下心はありません
文芸部部室での奇妙なやりとり
天愛星は文芸部の部室を訪れ、部員たちからお茶とクッキーの歓待を受けながら、居心地の悪さを感じていた。彼女は温水に「生徒会長選挙への推薦人になってほしい」と依頼するが、温水は即座に拒絶した。八奈見は推薦の条件として部活へのメリットを要求し、生徒会の予算権限を盾にして温水の態度を揺さぶろうとした。部内での多数決の末、白玉が白票を投じたことで話は一時保留となった。
桜井との対話と生徒会の内情
数日後、温水は家庭科室で桜井と再会し、天愛星の推薦人の件について相談する。桜井は彼女の申し出を断っていた理由を説明し、天愛星が現生徒会の面々とは距離を取りつつも、信頼できる人物だと伝えた。また、桜井自身は選挙を最後に生徒会を退く意志を語り、温水に対して個人的な信頼を寄せる一方で、自身の役割は終えたことを認識していた。
家庭訪問という名の奇襲
帰宅した温水は、佳樹とともに天愛星が自宅の台所で味噌汁を作っている姿を目撃し、驚愕する。天愛星は家庭的な面を見せようと奮闘していたが、誤解を招く発言で場を混乱させた。さらに、焼塩が当然のように温水宅でシャワーを浴びる姿を見て、天愛星は強い動揺を示した。彼女の思いと家庭的努力は、佳樹の指南もあって料理の腕に結実していたが、情緒的な揺れは最後まで収まらなかった。
焼塩との口論と嫉妬
温水は自宅で風呂上がりの焼塩と会話を交わす中で、生徒会選挙に関わる件について改めて問われた。焼塩は、自分が帰宅部に誘った際にはすぐ断った温水が、馬剃の誘いには即答しないことに不満を抱いた。怒っていないと言いつつも距離を詰めてきた彼女に、温水は小鞠の不安を煽らぬよう行動すると約束した。その後、焼塩が持参していた香り付きシャンプーの存在に気付きつつ、温水は混乱した心を整理できぬまま階段を駆け上がった。
小鞠との対話と疑念
翌日、温水は旧校舎の非常階段で一人昼食をとっていた小鞠のもとを訪れ、牛乳を差し出すことで彼女の機嫌をうかがった。焼塩からの依頼で小鞠にフォローを入れつつ、馬剃からの推薦人依頼について話題を切り出す。小鞠は温水の優柔不断さに不満を持ちながらも、最終的には「好きにしろ」と突き放すような発言を残した。彼女の言葉には、過去の件を踏まえた諦めと警戒がにじんでいた。
志喜屋夢子との邂逅と策略
放課後、温水は生徒会書記の志喜屋夢子とボードゲームカフェで会った。表向きはゲームを楽しむ形を取りつつも、温水は馬剃についての相談を持ちかけた。夢子はかつて馬剃の推薦人に立候補したが、断られた経緯を明かす。生徒会内での孤立や天愛星の性格に触れながら、彼女は温水に対し間接的に背中を押すような助言を与えた。やがて夢子は馬剃を店に呼び出しており、温水と共に隠れて様子をうかがうという妙な展開へと発展した。
馬剃との再会と説得
天愛星が来店後、夢子は満足げに退席し、温水と馬剃が二人きりで会話をすることとなった。天愛星は自分の願いを押し付けることなく、温水の意志を尊重する形で推薦人依頼を撤回した。温水はその態度に拍子抜けしつつも、彼女が推しキャラグッズの写真をスマホに表示するという謎の布石に心を揺さぶられる。最終的に、天愛星は勉強を教えてほしいという新たな願いを口にし、温水はそれを快く引き受けた。
感情の余韻と駆け引き
一連の会話の終わり際、天愛星は温水のスマホに空メッセージを送信し、着信音の設定の有無を確認した。温水が初期設定のままだと答えると、天愛星はどこか不機嫌な表情を見せた。去り際、彼女は翌日の予定を告げてその場を後にし、温水は彼女の行動と心理の奥を計りかねながら、静かに見送った。選挙と関係ないはずの勉強依頼に、彼女の真意がどこまで含まれているのか、まだ確信は持てていなかった。
勉強会前日の準備と佳樹の勘づき
温水は翌日の勉強会に備え、参考書や服装を整えながら準備を進めていた。妹の佳樹に予定を探られ、友人の予定を熟知していた彼女から勘繰られるが、何とかごまかして部屋を追い出した。佳樹の鋭さに内心の動揺を隠しつつ、温水は準備を整えて当日に臨んだ。
書店での偶然の再会と白玉の策略
勉強会の待ち合わせ場所である精文館書店では、偶然にも八奈見と白玉に遭遇した。白玉は八奈見をスイーツバイキングに誘い、温水を勉強会に集中させるため意図的に遠ざけていたことが明かされる。さらに彼女は佳樹とも連絡を取り合っており、温水の行動を予測していたことを示唆した。
馬剃との合流と秘密裏の移動
天愛星と合流した温水は、彼女の早足に困惑しつつも同行した。馬剃は学校周辺のゴシップを警戒しており、勉強会を人目につかぬ自宅で行うことにしていた。温水は不意に彼女の家へ招かれることとなり、内心動揺しながらも従った。
馬剃家での勉強会と秘密の開示
馬剃の家に到着した温水は、畳の部屋で彼女と共に勉強を始めた。雰囲気はぎこちなかったが、やがて打ち解けた空気が流れた。馬剃は会長選に他の立候補者が現れなかったことを明かし、選挙戦は形式上終了したと伝える。それにより推薦人の必要がなくなったはずだったが、馬剃は温水を説得する“とっておき”として猫耳カチューシャを装着し、可愛らしいポーズを披露した。
弟の目撃と冷静な対応
勉強中、馬剃の弟が部屋に入ってきたことで事態は一変した。猫耳姿を見られたことに動揺する馬剃に対し、温水は巧妙な詭弁で「弟には見えていなかった」と言いくるめ、事なきを得た。馬剃もこの説明に納得し、場の空気は再び落ち着きを取り戻した。
妄想癖の告白と現実感覚の確認
馬剃は妄想と現実の境界を保つために日記のように書き出して整理していると語り、温水に対する恋愛的想像もあったことを示唆した。しかし、現在は現実を見据えていると強調し、改めて真剣な勉強モードへと戻っていった。
突然の立候補と選挙再始動
平穏に終わるかに見えた勉強会で、天愛星のスマホに一本の電話が入り、事態が急変する。桜井弘人が選挙への立候補を届け出たことで、選挙戦が実施されることとなった。驚き動揺する温水に対し、天愛星は再び猫耳カチューシャを装着し、懇願するような仕草で「一緒に戦ってほしい」と訴えた。
温水はその姿を前に、どう応じるべきか言葉を失っていた。
Intermission とっておきの思い出を
放虎原の整理整頓と桜井の心情
放課後の生徒会室にて、生徒会長・放虎原ひばりは任期終了を見据えて、自身の机を丁寧に掃除していた。会計の桜井弘人は書棚を整理しながら、彼女の様子を眺めていた。放虎原はこれまでの生徒会の伝統を受け継ぎ、それを次の代に渡すことが自分の役目であると考えていた。
一方で桜井は、放虎原の任期が終わった後は生徒会に関わらないと決めていた。放虎原がいない生徒会に興味はないという自身の意思を、心の中で静かに確認していた。
思い出と引き継ぎの葛藤
放虎原は、自身が受け継いできた懸案事項を記したファイルを桜井に手渡そうとしたが、桜井は辞退の意思を示した。放虎原はそれを理解しつつも、どこか桜井に後を任せたい気持ちがあったことを口にし、複雑な表情を浮かべた。
バケツの取っ手が外れるという小さなアクシデントが起きたが、放虎原はそれを難なく処理し、笑顔で桜井に肩の荷が下りたことを伝えた。二人の間には、穏やかな信頼と過去を分かち合う空気が漂っていた。
桜井の決意の兆し
会話の最中、桜井のスマートフォンが鳴る。相手が小春であることを察した放虎原は気遣いを見せたが、桜井は電話に出ず、机に伏せた。代わりに彼は放虎原に再び歩み寄り、懸案事項のファイルを見せてほしいと頼んだ。無意識にその存在が気になっていた自分に気づき、静かに何かを決意した様子でファイルに手を伸ばした。
彼の口からは、「少し興味が出てきた」という言葉がこぼれた。それは、放虎原の退任後も生徒会に残る意思の兆しでもあった。
~ 2敗目 ~ 肩の重みに揺らされて
甘夏担任の雑談と天愛星の乱入
週明けのホームルームにて、2-C担任・甘夏古奈美は「ジューンブライド」への持論を熱弁し、教室に私情を全開にした演説をぶつけていた。生徒たちは慣れた様子で聞き流していたが、温水は桜井の後ろ姿に意識を向け、選挙の話を切り出せずにいた。そんな中、教室に馬剃天愛星が突如現れ、土曜の「部屋での出来事」について語り出す。誤解を招く内容に教室中の注目が集まり、甘夏すら写真を撮る騒ぎとなった。
中庭での選挙戦交渉
場を変えた二人は中庭に移動し、天愛星は選挙に関する具体的な手続きや日程を説明した。温水は文芸部との両立に悩みつつも、推薦人にはなれないが、手伝いはすると伝えた。天愛星は一度断念しかけるも、温水の提案に救われ、和やかな空気が戻った。
白玉の乱入と推薦人の事実
その場に現れた白玉が二人の手を見て意味深な言葉を投げかけたことで再び空気が引き締まる。さらに白玉は、桜井の推薦人が八奈見であるという事実を告げ、天愛星と温水は衝撃を受けた。
体育祭練習と八奈見の野心
翌日、体育祭練習の応援合戦を見守る温水のもとに、八奈見が登場し、チアリーダーへの意欲や副会長への野望を語った。彼女は生徒会権力を利用して文芸部に設備導入を目論むほどの本気ぶりを見せた。
綾野と小鞠の登場と誤解の拡大
綾野は温水に「恋をしているのか」と勘違いし、小鞠は応援係として登場。八奈見は温水と馬剃の間柄に疑念を抱き、猫耳事件や部屋訪問について問い詰めた。最終的に八奈見と小鞠は去り際に「正々堂々やろう」と言い放ち、温水をさらに混乱させた。
選挙戦開始と部活訪問の連携
二日後、選挙戦が正式に開始され、温水は馬剃の補佐として部活動への訪問を重ねた。選挙違反にならぬ範囲で意見聴取を行い、訪問は順調に進行した。美術部、ソフトボール部に続き、男子バスケ部への交渉にも挑戦することになった。
体育館での偶然と桜井の本音
体育館での男子バスケ部への交渉中、八奈見と桜井が女子バレー部と遊ぶように交じっている姿を温水は目撃した。直後に合流した桜井は温水に謝罪し、立候補に至った事情を語った。「諦めきれなかった」と吐露する桜井の言葉には、自身の矛盾と後悔がにじんでいた。
再びの対立と新聞部の影
その場に現れた八奈見は桜井と親しげに行動し、白玉の鋭い観察も加わって、温水の周囲はますます騒がしくなった。さらに一眼レフを持つ女子が盗撮していたことで、元「鳥を見る会」が現・新聞部として暗躍していることが判明し、天愛星の警戒心が高まった。
天愛星の心情と曖昧な誘導
その後、天愛星は温水に「次の仕事がある」と言いながらも、内容を曖昧にしたまま強引に誘導する。天愛星の心には何かしらの複雑な感情が渦巻いており、その一端が言動の端々に滲み出ていた。温水はその圧力に押されながら、再び選挙戦へと巻き込まれていくのであった。
文芸部との再会と小鞠からの誘い
金曜日の夕方、温水は選挙活動の疲れを抱えて自転車置き場に向かった。そこで小鞠に再会し、しばらく文芸部に顔を出していなかったことを謝罪した。小鞠は不機嫌そうにしながらも、翌日の予定を空けておくよう伝え、その場を去った。温水はその様子から、説教を受けるのではと不安を覚えた。
ディスカウントストアでの待ち合わせ
土曜の朝、待ち合わせ場所に現れた小鞠は、弟妹である進と陽奈を連れていた。急な親の仕事で預かることになったという。小鞠の素朴な服装や弟妹の初々しい反応に、温水は微笑ましさを感じながら買い物に同行することとなった。
店内での買い物と交流
進と陽奈の買い物に付き添いながら、小鞠と温水は少しずつ距離を縮めていった。おもちゃ売り場では、進が特撮ベルトの解説をし、陽奈は欲しかった三段ベッドのミニチュアを見つけて興奮した。しかし、購入は我慢するよう説得され、陽奈は素直に従った。
進の気遣いと陽奈へのプレゼント
後に現れた進は、陽奈のためにこっそり三段ベッドを購入しており、小鞠に隠れてプレゼントを渡した。陽奈は大喜びし、進は照れ隠しをしながら立ち去った。小鞠はその行動を察し、姉として二人を優しく見守った。
フードコートでの食事と家族のような時間
買い物の後、一同はフードコートで食事をとった。温水は、小鞠と弟妹の姿に「週末の家族サービス」のような感覚を覚え、不思議な居心地の良さを感じていた。陽奈が選んだパジャマの話題や食事の世話を焼く小鞠の姿に、温水はやわらかな時間を過ごした。
ゲームセンターでのエアホッケー対決
食後、一同はゲームセンターへと移動し、チビスケたちの提案でエアホッケーをすることになった。小鞠と陽奈のペアは圧倒的な強さを見せ、温水と進のペアを打ち負かした。試合後、進が温水を慰め、小鞠は得意げに笑みを浮かべた。温水はリベンジを誓い、再戦に向けて財布の中身を投入した。
一日を通して深まった関係
買い物、食事、遊びを通じて、小鞠と温水、そして弟妹との関係は温かく、親密なものとなっていた。温水は無意識のうちに小さな家族のような時間を享受し、自分の居場所に戸惑いながらも、その心地よさを実感していた。
小鞠との休日を終えて
4歳児の陽奈を膝に乗せたまま、温水は小鞠・進と共にバスに揺られていた。進は目を閉じ、小鞠は陽奈を返してほしそうな素振りを見せつつ、感謝の言葉を口にした。温水が一日を振り返るなか、小鞠は生徒会選挙に関して「信用していないけど信じている」と語った。その表情には、温水への一定の信頼と期待がにじんでいた。
陽奈と進、そして疑問のぶつかり合い
陽奈が目を覚ますと小鞠に抱きつき、進も目を覚ましたが、バスを降りた直後、なぜか温水に「ばーか」と暴言を浴びせ、走り去った。小鞠はその理由をはっきりとは語らず、「自分で考えろ」と言い残した。温水は困惑しつつも、その日が家族のような温かい時間であったことを噛みしめていた。
天愛星との定例会議と政治的駆け引き
月曜の放課後、温水は天愛星と中庭で所信表明や演説準備に関する会議を行っていた。彼女は推薦人ではない温水に対しても「情に訴えれば動く」と判断し、選挙協力を続けていた。演説原稿には校則や条例、聞き取り調査の内容が反映されていたが、天愛星は文章の硬さを気にし、文芸部員である温水にその補助を依頼した。先輩である放虎原や志喜屋には頼らず、自力で戦う決意を見せた。
小鞠からの緊急呼び出しと新聞部の暴走
会議中、温水は小鞠からのメッセージで呼び出され、校舎の掲示板前に駆けつけた。そこには「ツワブキ新聞」の選挙特集号が貼られており、その見出しには「生徒会選挙は恋愛代理戦だった?!」という煽情的な文言が踊っていた。記事では、候補者たちが恋愛沙汰を巻き起こしているかのように書かれ、特に温水と天愛星の関係について根拠のない憶測が綴られていた。
二重の誤解と視線の集中
記事の内容に動揺した天愛星は、思わず温水を非難し、小鞠もその発言に頷いて加勢した。二人のヒロインから責められる温水は、周囲の視線に耐えきれず狼狽した。新聞は桜井に対しても過激な内容を書き立てており、記事は途中で終わり「続きはWEBで」と誘導していた。
終わらぬ波紋
この記事によって、選挙戦は単なる政策論争の場ではなく、感情と誤解と視線が入り乱れる「恋愛劇場」へと変貌しつつあった。温水は事態の中心に巻き込まれ、困惑しながらも事の重大さを実感することとなったのである。
Intermission 私こう見えてモテるんです
喫茶店で語られる選挙の思惑
夕暮れの豊橋駅前、喫茶店「UNO-UNO」にて、八奈見杏菜と姫宮華恋は並んで座り、生徒会選挙や恋愛模様について会話を交わしていた。八奈見は所信表明の原稿を仕上げ、ポスター撮影を残すのみであると語り、桜井の多忙を冷静に分析していた。
推薦人としての計算と策略
華恋が桜井との関係を問うと、八奈見は「クラスメイト」と即答し、推薦人となった理由については、馬剃が温水を誘ったことをきっかけに「どちらが勝っても恩を着せられる」という計算を明かした。副会長という立場を活用し、大学推薦の強化も視野に入れていた。
学校新聞をめぐる会話と自己評価
学校新聞の内容に触れた華恋は、温水への当てつけではないかと冗談めかして指摘した。八奈見は新聞の有料版を購入しており、自分が振った側であると豪語した上で、温水が「女の敵」と書かれていることも意に介していなかった。
馬剃と温水の関係に対する油断
華恋が馬剃と温水の距離について懸念を示すと、八奈見は馬剃が男子に不慣れであることを理由に、「接近の可能性はない」と楽観視していた。しかし、温水が馬剃の家を訪れていたことを聞かれると、内心で微かな動揺を覚えた様子を見せた。
記事の一文が与えた衝撃
何気なくスマホで記事を読んでいた八奈見は、ある一文に衝撃を受ける。記事には「男子人気をすべて転校生に奪われたA子」として、過去の八奈見を揶揄する記述があり、彼女のプライドを強く傷つけた。その場に沈黙が流れ、八奈見のオーラは一気に消沈した。
親友の気遣いと心の回復
動揺する八奈見を見かねた華恋は、すぐに彼女の気分転換をはかり、喫茶店のメニューから好きなものをおごると提案した。八奈見は次第に笑顔を取り戻し、パスタ料理の選択に悩むほどの元気を見せた。華恋はその姿に安心し、改めて親友の幸せを願ったのである。
~ 3敗目 ~ 紅の狂騒曲
焼塩の試合を観戦する文芸部の仲間たち
生徒会選挙の喧騒もひと段落し、日曜日、温水は八奈見、小鞠と共に名古屋の陸上競技場を訪れた。焼塩が東海高校総体の女子1500m決勝に出場するためである。そこにかつての文芸部OG・月之木古都と玉木元部長が現れ、久しぶりの再会を喜び合った。現文芸部員の白玉も合流し、和やかな雰囲気の中で決勝戦を待ち受ける。
白玉とOGたちとの初対面と波乱
白玉は玉木先輩に親しげに接し、鍵を落としたとする即興のやりとりで距離を縮めた。それに苛立ちを覚えた月之木が割って入り、白玉と対面した。白玉は天真爛漫な態度で場を和ませるが、月之木は戸惑いを隠せなかった。場には独特の空気が流れ、文芸部らしい温度感が再び蘇った。
月之木との会話と選挙の過去
トイレから戻った温水は月之木と再び話し、生徒会選挙の思い出を聞かされた。彼女は自分が選挙で何もせずに副会長に選ばれた過去を語り、応援演説だけで当選したことを懐かしんだ。そして温水に「選挙後はどうするつもりか」と問うが、その真意は曖昧なまま終わった。
焼塩の全国出場と歓喜の瞬間
女子1500m決勝が始まり、焼塩は序盤から独走態勢に入った。他の選手を圧倒するスピードでトラックを駆け抜け、2位に大差をつけてゴール。観客席では小鞠が歓喜し、八奈見と抱き合って喜んだ。温水も無意識に声を上げ、焼塩の力強い姿に圧倒された。
余韻と雑談、そして新聞部の影
試合後、朝雲と綾野が感極まった様子で姿を見せ、文芸部メンバーはそれぞれに祝福の空気を味わった。表彰式を待つ中、八奈見が唐突に焼塩の速さに驚き、温水がやんわりとフォローを入れた。焼塩は全国進出を決め、堂々たる勝利を収めた。
選挙ポスターと所信表明の思惑
翌日、温水は校舎に貼られた所信表明ポスターを眺めながら、八奈見の奇抜な公約「学食メニューの掲載」に呆れつつも笑っていた。八奈見はそれを「一食で二食分の満足を得られる」と自信満々に語った。天愛星の所信表明は真面目な内容で、原稿の文字数調整に苦労した記憶を温水は思い出していた。
天愛星の“チカピョン”コスプレと困惑
天愛星からの連絡を受けて中庭に向かった温水は、そこで“チカピョン”のコスプレをした彼女と対面した。彼女は温水の好きなキャラになりきろうとしていたが、恥じらいと緊張でパフォーマンスはぎこちなく、温水はただ困惑するばかりであった。
新聞部の強制撮影とポスター問題
そこへ現れた新聞部の女子生徒が、ポスターの写真提出が不備であることを指摘し、天愛星を強引に撮影へと連れ出した。コスプレのまま連れていかれる彼女を見送りながら、温水は空を見上げ、結局この格好は何だったのかと自問せずにはいられなかった。
喫茶店での再会とコスプレの余波
温水は天愛星を、駅前の落ち着いた喫茶店へ連れていき、彼女の気持ちを静めようとした。二日前の“チカピョン”コスプレ事件の余波により、彼女は憔悴していたが、ぶどうジュースを口にしながら徐々に落ち着きを取り戻していった。温水は彼女の選挙ポスターを示し、真意を尋ねると、天愛星はそれが推薦人を得るための“色仕掛け”だったと告白した。
過去の経験と生徒会長選への決意
天愛星は、自身が副会長に指名された経緯に対する疑念と、周囲との衝突からくる自己不信を吐露した。生徒会に留まるためには、同情ではなく自分の力で勝ちたいと語り、温水に推薦人として協力してほしいと頼んだ。彼女は温水の持つ“周囲からの信頼”を自分に足りない要素とし、彼を信頼していた。
選挙戦略と“コスプレ演説”の提案
温水は推薦人として承諾する条件として、「コスプレ姿での演説」を提案した。これに天愛星は当初困惑するが、アンケート結果を分析し、男子票を取り込むための戦略だと理解した。女子人気が落ち込む一方で、男子の支持率が上昇している現状において、勝利のためには演出も必要だと納得した。
掲示板の反応と天愛星の覚悟
温水が新聞部の掲示板を確認すると、天愛星のコスプレに関する書き込みは賛否両論だった。肯定的な男子の声と、批判的な女子の声が入り混じる中、彼女は冷静に受け止め、傷付いた素振りを見せずにいた。だが内心では動揺していたことが、温水には伝わっていた。
推薦人としての本契約と共闘の決意
天愛星は「今だけは私だけを推してほしい」と訴え、温水は応援演説を引き受けることを決意した。演説戦略を練る中で、彼女は恥ずかしさを押し殺しながらも、コスプレ演説を実行することを承諾し、二人の間には確かな信頼が芽生えた。
選挙演説の準備と温水の懸念
その夜、温水は演説原稿を仕上げ、天愛星との通話で準備の完了を確認した。妹の佳樹が現れ、彼が生徒会に関与していることを見抜いていたが、温水は生徒会には入らないと釘を刺した。しかし天愛星の真摯な言葉を思い出す中で、選挙への関与が深まっていくことに一抹の不安も感じていた。
掲示板の炎上と覚悟の揺らぎ
新聞部の掲示板には、天愛星のコスプレ演説に対する好意と非難が溢れ、温水はそのバランスの悪さに葛藤を覚えた。勝利のための戦略であったとはいえ、彼女に不本意な行動を強いているのではないかという懸念が胸をよぎった。
最終局面の気配と志喜屋からの連絡
夜も更け、温水が演説原稿を完成させた時、窓の外に人影がよぎった。それと同時に、スマホには志喜屋からの着信が入った。生徒会選挙の最終局面が、静かに、しかし確実に幕を開けようとしていた。
志喜屋との再会と夜のやりとり
投票日前夜、温水は志喜屋に呼び出され、モバイルバッテリーを手渡した。通学の自主練習中だという彼女は、自立への一歩を踏み出そうとしていたが、天愛星とのすれ違いに傷ついていた。温水は彼女を途中まで送る中で、彼女の繊細な心と孤独感に触れた。志喜屋は天愛星を勝たせてほしいと願いを託すが、別れ際には「女の敵」と小さくつぶやき、去っていった。
投票日当日の朝と八奈見との会話
当日の朝、温水は緊張しながら演説原稿を確認していた。そこに現れた八奈見は、ゲン担ぎとして用意したカツサンドを振る舞い、明るい調子で会話を進めた。温水は天愛星との関係について話し始めるが、八奈見は自身との話と勘違いして感情的に反応した。すれ違いの末、八奈見は温水を置いて校舎に入るが、校舎内では天愛星がチカピョン姿で再び気合いを入れていた。
体育館での演説前の空気と緊張感
演説会直前、候補者と推薦人は体育館に集まり、放虎原会長から段取りの説明を受けた。演説順は桜井組が先で、八奈見、桜井、続いて温水、天愛星の順となる。天愛星は緊張しながらもチカピョン姿での演説に挑む覚悟を固めていた。一方、志喜屋は天愛星をじっと見つめた末、無言でその場を去った。
桜井と温水のすれ違いと決意
待機中の温水は、天愛星のスカートの丈を心配しながらも、新たな“扉”を開きかねない彼女に一抹の不安を覚えていた。そこへ桜井が話しかけ、「今回は勝ちに行く」と告げた。互いの立場を認めつつも、心のどこかに複雑な想いが交錯していた。
生徒の入場と演説開始の幕開け
生徒の入場が終わり、放虎原会長の宣言によって静まり返った体育館に演説会の開始が告げられた。第一声は八奈見による応援演説であり、ついに生徒会長選挙の決戦が幕を開けたのである。
八奈見の応援演説と桜井の策略
演説会の幕開けは、八奈見杏菜による桜井弘人の応援演説であった。彼女は「白米」を比喩に使い、桜井の包容力や多様性の受容性をユーモラスに訴え、会場の笑いと拍手を誘った。会話形式のトークと例え話で空気を掴んだ彼女は、最後に「炊きたてご飯にしてください」と呼びかけ、印象的な締めを行った。
続く桜井の演説は、落ち着いた語り口と正攻法の内容で構成されていた。彼は過去の生徒会実績を丁寧に列挙し、特に施設予約の電子化や女子運動部棟への照明設備設置など、具体的な成果を強調した。しかしその実績の多くは、天愛星が主導したものであり、先に演説されたことで後発の彼女に不利な状況を生んだ。
温水の即興演説と信頼の言葉
応援演説を控えていた温水は、準備した原稿の内容が桜井と重複していることに気づき、即興での演説を強いられた。緊張で言葉に詰まるも、天愛星の真剣な眼差しに支えられ、自身の言葉で彼女の真面目さと不器用な優しさ、そして初めての“自分のためのわがまま”を実現したいという思いを語った。演説の終盤には「彼女の悪口を言うなら、自分のところに来てくれ」と訴え、全力で支える覚悟を表明した。
志喜屋の乱入と意外な真実の暴露
温水の演説直後、場内の照明が落ち、混乱の中で志喜屋夢子が突如登壇。彼女は天愛星との出会いや、生徒会に推した桜井の推薦による加入経緯を静かに語った。不器用ながらも誠実な言葉が観客の心を打ち、終盤には天愛星の「背中が弱い」「ブラが合っていない」など私的すぎる内容も交えて、彼女の魅力を率直に伝えた。最後は「どちらにも投票してほしい」と締めくくり、強い拍手を受けて舞台を降りた。
天愛星の情熱的演説と“推し”宣言
続いて登壇した天愛星は、真面目な挨拶から始まり、自らの学力や運動能力の低さ、普通になれなかった過去を語った。その中で生徒会活動を通じて、ヒーローやヒロインにはなれなくとも、それを支える存在になれると気づいたと述べた。演説は次第に熱を帯び、全校生徒を「推し」と断言するほどの情熱を見せ、鼻血を流しながらも叫びを続けた。
最後に志喜屋に対して「下の名前で呼ばないでほしい」と抗議しつつ、全身全霊で自身の思いを届け、演説を締めくくった。
生徒たちの選択と結末
この日、投票の結果により、馬剃天愛星がツワブキ高校の次期生徒会長に選ばれた。全力で挑んだ彼女の姿勢と、仲間たちの支援によって勝ち取られた勝利であった。彼女は後日、「紅の生徒会長」と呼ばれることとなる。
Intermission あとかたづけのお時間です
放課後の生徒会室と選挙の余波
夕暮れの生徒会室で、放虎原ひばりと志喜屋夢子はホワイトボードに向かい、絵や文字を描いていた。会話の中で、放虎原は演説中の志喜屋の乱入に驚いたことを明かし、もし馬剃が落選していれば大問題になっていたと振り返った。志喜屋は結果をあっさりと受け入れつつも、桜井の落選には罪悪感をにじませた。
志喜屋の行動の理由と放虎原の理解
放虎原は志喜屋の行動理由を問い、志喜屋は「可愛い二人が争うのが嫌だった」と答えた。放虎原は怒りを見せず、それがより強い想いを持った者の勝利であったと語った。志喜屋はその言葉に安心しつつも、「そっちじゃなくて」と意味深に付け加えたが、それ以上の説明はなかった。放虎原もまた、志喜屋の言外の想いに気づきつつ、過去の件として軽く流した。
新体制への移行と個々の決意
放虎原はホワイトボードへの作業を進めながら、志喜屋に「もう決めたのか」と問いかけた。志喜屋は「少しずつ」と答え、心の整理が進みつつあることを示唆した。天愛星が桜井に副会長を打診したことも語られ、放虎原は「だろうと思った」と笑って受け入れた。今後の人手については天愛星が構想を練っている様子が伺えた。
最後のメッセージと笑顔の別れ
二人はホワイトボードに『あとは任せた!』の文字を描き終え、イラストとともに現生徒会としての最後のメッセージを完成させた。志喜屋は放虎原の背中に体を預け、身長の変化に驚きつつ、互いの成長を感じ合った。短い会話の中で「楽しかった」と語り合い、3年間の活動の幕引きを穏やかに迎えた。
残された時間と親しきやりとり
体育祭を最後に現生徒会は解散となる。刻々と過ぎる時間の中で、放虎原は志喜屋の描いた「ヌコマクラ」に興味を示し、可愛いからという理由に納得した。最後に志喜屋が頬へのキスを求めるも、放虎原はそれを「いざというときのために」とやんわり断り、静かにホワイトボードを見つめ続けた。
二人のやりとりは、別れの寂しさと未来へのささやかな希望を滲ませる、穏やかで温かい時間であった。
~ 4敗目 ~ 女の敵ってだれのこと?
焼塩の活躍と綾野とのマウント合戦
体育祭当日、焼塩は2-Eのアンカーとして男女混合リレーに出場し、圧倒的な走りで男子陸上部すら振り切ってゴールした。温水と綾野は、焼塩の短距離タイムや試合当日のルーティンを語り合いながら、彼女の成長に驚嘆しつつ、互いにマウントの取り合いを繰り広げた。走り終えた焼塩が指を立てて温水に合図したように見えたことで、二人は自分に向けられたものだと張り合いを始めた。
八奈見との弁当騒動と白玉の可愛らしい姿
昼休みに入ると、八奈見が温水のもとに弁当を求めて現れ、根性が足りない弁当に対し「根性のありそうなパン」を買ってこいと命じた。購買で大量のカレーパンを買い込んだ温水は、帰り道で白玉に遭遇。タヌキ衣装をまとった白玉は可愛らしさ全開で応援合戦への参加を伝え、温水に「合図を送る」と意味深な一言を残した。
小鞠との再会と応援合戦への巻き込み
弁当を楽しんでいた温水のもとに小鞠が現れ、人目を避けて食事をしたいと訴える。そこにチア衣装の姫宮華恋が現れ、小鳥遊の代役として小鞠にリフトされる役を依頼。小鞠は半ば強引に連れて行かれ、温水は呆れながらも彼女の成長を見守った。
応援合戦の本番と少女たちの輝き
午後の応援合戦では、姫宮の圧倒的な存在感と八奈見の奮闘、小鞠の控えめな参加が印象的であった。小鞠は周囲のフォローを受けてリフトされ、観客の喝采を浴びた。一方、白玉のクラスの演目では、白玉が卓越した可愛さと演技力で注目を集めた。投げキッスを受け取った温水は、周囲の男子との間で密かな優越感を抱いた。
田中先生との会話と白玉の意外な一面
演技を終えた白玉との関係について田中先生に話しかけられた温水は、彼女の家庭訪問や小説執筆の話題に戸惑いつつも応じた。白玉が田中先生をモデルにした小説を書いていることを思い出しつつ、その内容の危険性に内心で警鐘を鳴らした。
温水の競技と桜井との再会
障害物競走で転倒した温水は救護テントに運ばれ、そこで桜井と再会する。消毒を受けながら、桜井がかつて馬剃を先輩たちに推した理由を聞き、馬剃の人柄と過去を知ることで、温水は彼女を巡る人々の思いの深さに触れた。
馬剃の登場と再びの“合図”
天愛星は閉会式の準備の合間に温水を訪ね、借り物競走への出場を伝えた。彼女は「私の出番を見ていてほしい」と願いを口にし、温水に何かしらの“合図”を送ることを示唆した。選挙後も続く天愛星のアプローチに、温水は首をかしげつつも受け入れ、次なる展開を予感していた。
借り物競走の競技と“少女漫画的展開”
午後の競技「借り物競走」では、選手がメモに書かれた「借り物」を会場内から調達し、ゴールするルールであった。観戦していた温水は、綾野との会話中、出走者のひとりである天愛星が近付いてくるのを目撃した。彼女は温水に手を差し伸べ、「一緒に来てください」とだけ言い、そのまま手を引いてゴールへと走り出した。周囲の注目を浴びながらの疾走に温水は戸惑いながらも歩調を合わせ、見事ゴールに到達した。
実行委員による確認の際、天愛星はメモを提示し、明言を避けながらも競技の成立を示した。その直後、同じ競技に出場していた朝雲も合流し、「馬剃さんのお題は温水さんだったのですか」と問う。天愛星は曖昧に微笑みながら朝雲を案内し、去り際に温水へ「放課後、時間をいただけますか」と囁いた。
橋の上での再会と感謝の言葉
放課後、温水はツワブキ高校から自転車で十五分ほどの向山大池の橋で天愛星を待っていた。半年前に同人誌を渡された記憶が蘇る中、天愛星が現れ、ふたりは並んでカモの親子を眺めながら他愛のない会話を交わした。やがて話題は生徒会選挙と応援演説へと移り、天愛星は温水にこれまでの支えに対して感謝を伝えた。互いの信頼関係が穏やかに言葉にされ、ふたりの距離は自然と近づいていた。
借り物競走の“お題”と告白
天愛星はポケットから小さな紙片を取り出し、温水に手渡した。それは借り物競走のお題であり、そこには「好きな人」と書かれていた。お題が温水であったという事実を理解した瞬間、彼は言葉を失った。天愛星は真剣な面持ちで「好きです」と伝え、恋愛的な意味での交際を申し込んだ。
混乱する温水は即答できず、言葉を探す中で、天愛星が再び言葉を発した。「まずは友達から始めませんか」と。すでに友人関係にあったふたりであったが、天愛星はより自然な関係の深化を望んでいた。温水はそれを受け入れ、「そのくらいなら」と返した。
未来への予感と前向きな保留
天愛星は「いつか私を好きになってもらえたら」と控えめながら確かな意志を伝え、温水は「ちゃんと考える」と返答した。赤面しながらも冗談を交えて場を和ませる天愛星に対し、温水は気恥ずかしさを感じながらも、確かに嬉しさを覚えていた。
最後に天愛星は「早いうちに私を好きになったほうがいい」と笑みを浮かべ、軽やかに背中を押した。こうして、ふたりの関係は新たな段階へと踏み出したのである。
エピローグ 大人への階段
天愛星からの告白と温水の動揺
衝撃的な告白の翌日、温水は眠れぬ夜を過ごしたまま文芸部の印刷作業に参加していた。天愛星からの好意を即答で受け入れられなかった自分を省みながら、小鞠と部誌を印刷していたが、心ここにあらずの様子を見せていた。唐突に恋について問う温水に、小鞠は動揺しながらも罵倒で返し、部誌のミスを指摘するなど日常的なやりとりが続いた。
学校新聞の内容と焼塩との遭遇
部室へ向かう途中、温水は学校新聞の掲示板で天愛星の演説の写真や、生徒会選挙を巡るゴシップ記事を目にした。そこには温水が“女の敵”として描かれていた。焼塩が現れ、記事を読んだ彼女は冗談めかして温水を責めつつ、全国大会出場の祝いの言葉を催促した。彼女とのやりとりは、冗談と軽口の応酬ながらも温かさに満ちていた。
部室での製本作業と天愛星の訪問
部室では八奈見と白玉が和気あいあいと製本を進めていた。そこへ天愛星が現れ、温水にチカピョングッズを手渡すとともに、文芸部員である白玉を生徒会に招いたことを報告した。温水が彼女を下の名前で呼んでいないことを確認すると、天愛星は「温水さんなら構いません」と言い残し、白玉と共に去っていった。
八奈見との問答と感情の交錯
残された温水は、八奈見から天愛星との関係に対する皮肉混じりの追及を受けた。温水が「文芸部のためのコネ」と説明するも、八奈見は納得せず、逆に桜井との関係を指摘されて動揺する。温水が“妬いている”と指摘されたことで、彼自身の感情の正体に自覚が生まれた。
借り物競走のお題と八奈見の視線
天愛星が借り物競走で温水を連れてゴールした件について、八奈見は強く関心を示した。温水は「友達」とごまかすが、八奈見は納得せず、天愛星が“好きな人”を借りたという事実に迫るような視線を向けた。その後の八奈見の行動と言葉は、温水への複雑な感情と嫉妬心を内包していた。
自分の気持ちの整理と八奈見の一言
文化部の日常に戻りながらも、温水は天愛星への返答を保留した自分の迷いと、八奈見や他の女子たちとの関係性を考えていた。橋の上での告白の記憶と、それに重なった他の誰かの姿が思い起こされる中、彼は未だに答えを出せずにいた。沈黙のあと、八奈見が向けた一言は静かな笑みとともに放たれた──「温水君ってやっぱ、女の敵だね」。それは温水の優柔不断さと、女子たちとの関係の曖昧さを突く、痛烈で愛ある皮肉であった。
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