フィクション(Novel)俺は全てを【パリイ】する読書感想

小説【パリイする】「俺は全てを【パリイ】する 10」感想・ネタバレ

フィクション(Novel)
  1. 物語の概要
    1. 主要キャラクタ
    2. 物語の特徴
    3. メディア展開
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 登場キャラクター
    1. クレイス王国
      1. ノール
      2. イネス
      3. リンネブルグ王女
      4. レイン王子
      5. クレイス王
      6. セイン
      7. ダンダルグ
      8. カルー
      9. シグ
      10. オーケン
      11. ミアンヌ
      12. シレーヌ
      13. 黒竜ララ
    2. 『時忘れの都』
      1. メリッサ
      2. リーア
      3. クロン
      4. ザザ
    3. サレンツァ家関係者
      1. ラシード
      2. ザイード
    4. 神聖ミスラ教国
      1. アスティラ教皇
      2. シギル
      3. 十二使聖
    5. エルフ(長命者の里)
      1. ルード
    6. 傭兵
      1. ザドゥ
  6. 展開まとめ
    1. 186 出演依頼
    2. 187 脱兎の如く
    3. 188 忘却の迷宮
    4. 189 王の当惑
    5. 190 刀剣商にて
    6. 191 主人の残り香  1
    7. 192 主人の残り香  2
    8. 193 主人の残り香 3
    9. 194 メリッサの罷免
    10. 195 商都の嵐
    11. 196 敗北者たち
    12. 197 六聖と巨人
    13. 198 俺はかなり大きめのゴーレムをパリイする
    14. 199 砂上の星
    15. 200 滅びゆく街で
    16. 201 嵐の縫い目
    17. 202 星穿ちのリゲル 4
    18. 203 追い風
    19. 204 シレーヌの弓 3
    20. 205 俺は人型の何かをパリイする
    21. 206 二度目の約束
    22. 207 メリッサとラシードの契約書
    23. 208 廃墟での結婚式
    24. 209 反省会
    25. 210 冒険者ギルドにて
    26. 【時忘れの都の新館長】
    27. 特別書き下ろし  メリッサの帰還
  7. 同シリーズ
    1. 俺は全てを【パリイ】する
  8. その他フィクション

物語の概要

本作は、才能を持たないと評価された青年・ノールが、防御技「パリイ」を極めることで無自覚に最強の力を手に入れ、冒険者としての道を歩む物語である。彼の行動は周囲に誤解を与えつつも、数々の強敵を打ち倒していく。第10巻では、王都に迫る巨大な脅威「厄災の魔竜」に立ち向かうノールの奮闘が描かれる。

主要キャラクタ

  • ノール:本作の主人公。才能なしと判定されながらも、「パリイ」を極めた結果、無自覚に世界最強の力を持つ青年。

物語の特徴

  • 逆勘違い系:主人公が自分の強さに気づかず、周囲がその実力に驚愕する展開が魅力。
  • ユーモアとシリアスの融合:コミカルな描写と緊迫したバトルシーンがバランスよく配置されている。
  • 成長物語:才能なしとされた主人公が努力と工夫で最強へと成り上がる姿が描かれる。

メディア展開

  • TVアニメ:2024年7月から9月まで放送された。
  • コミカライズ:KRSGによる漫画版が『コミック アース・スター』にて連載中。

書籍情報

俺は全てを【パリイ】する ~逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい~ 10
著者:鍋敷
イラスト:カワグチ 氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
発売日:2025年5月15日
ISBN:978-4-8030-2125-7

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あらすじ・内容

「できれば俺に、力を貸してくれないか?」
サレンツァに出現した『忘却の巨人』
その強大な力を前にしてノールは
宿敵ザドゥに一緒に戦うことを申し出る
【厄災の魔竜】ララも加わり、
一度は倒したかに見えたのだが…
最強&最凶vs最悪…総力戦の末に生き残るのは?

砂漠の商業自治区編、壮絶なフィナーレ!

俺は全てを【パリイ】する ~逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい~ 10

感想

本巻は、シリーズを通して積み重ねられてきた伏線が収束し、まさに物語の一大転機を迎える構成となっていた。
中盤から終盤にかけての展開は激烈であり、巨人との戦いとエルフの暗躍、さらには神的存在の顕現と、次々にスケールの異なる脅威が重なっていくさまは、息つく暇を与えないほどであった。

まず印象的だったのは、「俺はかなり大きめのゴーレムをパリイする」「俺は人型の何かをパリイする」という2つの副題が1巻内で共に回収された点であった。
これまで1巻につき1回のペースで用いられていたサブタイトル的決め台詞が、今回は2度も用いられたことで、本巻が章のクライマックス的位置づけにあることを強く印象づけた。

また、物語後半で登場する“黒幕のようなエルフ”の存在も見逃せない。
人類を管理する立場から発動された「忘却の巨人」という仕組みが、物語世界の根幹を揺さぶる装置として機能しており、その起動と暴走が神の出現にまで繋がった構造は見事であった。
この一連の過程で、管理と進化という2つの視点から人類とエルフの対立が浮かび上がり、読後に残る重厚な余韻をもたらしている。

そして、あらすじに引用されていた「できれば俺に、力を貸してくれないか?」という台詞の意味も、本編を読んで初めて理解された。
常に殺意を向けてきたザドゥに対し、まさかの共闘を持ちかけるという展開は、ノールという主人公の懐の深さを際立たせると同時に、敵味方の枠組みを越えた信頼の瞬間を描き出していた。

加えて、雇用契約の成立を通じてザドゥとの共闘が実現する流れも注目すべきであった。

ノールが自らの全財産を賭けて支援を仰ぐ描写は、これまで築かれた人間関係と信頼の蓄積を象徴していた。
ノールは一時的に文無しとなったが、最終的には無事に資金面も回収された点が救いであり、読者の安心感にも繋がった。

本巻は戦闘描写の密度と情報量が格段に上がっており、一方でノールらしい柔軟な行動と思考の転換が全編にわたって貫かれている。
激動の物語の中でも、ノールの芯のぶれなさが際立つ一冊であった。
今後、覚醒した神格存在との対峙がどのような帰結を迎えるのか、次巻への期待が高まるばかりである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

クレイス王国

ノール

クレイス王国に籍を置く冒険者であり、本作の主人公。
六聖をも凌駕する実力を持つ戦闘者である。多数の戦闘において中心的役割を果たした。
・所属:クレイス王国(冒険者)
・神格存在との戦いで勝利し、国際的にも名を知られる存在となった。
・『時忘れの都』の最大出資者であり、施設運営の根幹を担った。

イネス

クレイス王国の近衛騎士であり、六聖には属さないが、父であるダンダルグ譲りの高い戦闘能力を持つ。
・所属:クレイス王国(近衛騎士)
・ノールに同行し、神格存在との戦闘に加わった。
・魔導兵装への対応能力を持ち、将来性を期待されている。

リンネブルグ王女

クレイス王国の王女であり、政務を統括する実務派の王族。六聖とも連携しつつ、国家運営において冷静な采配を見せる。
・所属:クレイス王国(王族)
・王都にて六聖やノールと共に政治判断を下した。
・神聖ミスラ教国との外交対応を担った。

レイン王子

クレイス王国の王子であり、登場時点で明確な政治・軍事的役割は不明。王族の象徴的存在として描かれている。
・所属:クレイス王国(王族)
・王都の儀礼場面で姿を見せ、王家の正統性を示した。

クレイス王

クレイス王国の現国王であり、六聖や軍事力を直接統制する権限を持つ最高権力者。理性と威厳をもって統治に臨む。
・所属:クレイス王国(君主)
・神聖ミスラ教国との会談を主導し、外交均衡を保った。
・王国内部の軍事再編と六聖の任命を通じて体制を強化した。

セイン

「癒聖」の称号を持つ六聖の一人であり、僧侶系統における最高戦力を担う存在である。治癒・防衛において圧倒的な技能を有する。
・所属:クレイス王国(六聖、僧侶訓練所教官)
・神格戦にて支援と防御魔法を担当した。
・後進の育成にもあたっており、王国の医療戦力を支える。

ダンダルグ

「盾聖」と呼ばれる六聖の一人であり、防御に特化した重装戦士である。義娘イネスの養父としても描かれている。
・所属:クレイス王国(六聖、戦士訓練所教官)
・集団戦における前線防御を担い、陣地崩壊を防いだ。
・軍規や指導力において安定感を示し、信頼を集めていた。

カルー

「隠聖」と呼ばれる六聖の一人であり、盗賊系統の技能に特化している。諜報活動と戦場での機動力に優れた戦力である。
・所属:クレイス王国(六聖、盗賊訓練所教官)
・攪乱や敵背後からの強襲で戦況を翻した。
・王国の情報網を管理し、戦術設計にも貢献した。

シグ

「剣聖」として六聖に数えられる剣士であり、王国随一の白兵戦能力を持つ。訓練所の教官として後進の育成にもあたっている。
・所属:クレイス王国(六聖、剣士訓練所教官)
・神格存在との戦闘を前に臨戦態勢を整えていた。
・実力と人格が両立した指導者として認識されている。

オーケン

「魔聖」として六聖に属する魔術師であり、理術系魔法の運用と戦術設計を兼ねる存在である。
・所属:クレイス王国(六聖、魔術師訓練所教官)
・防衛陣や結界の設計により、拠点防衛の要を担った。
・ノールとの知見交流を通じて見識を広げていた。

ミアンヌ

「弓聖」の六聖にして、狩人兵団の実質的指揮者である。戦闘と教育の双方で成果を上げてきた人物である。
・所属:クレイス王国(六聖、狩人兵団教官・代理団長)
・シレーヌの覚醒を後押しし、弓技の核心を伝えた。
・集団戦術の整理と部隊再編にも関与した。

シレーヌ

狩人兵団に所属する女性戦士であり、優れた弓の使い手である。冷静な判断力と感情の制御を併せ持ち、戦術行動にも長けている。
・所属:クレイス王国、狩人兵団
・神格存在との戦闘において実践的な貢献を果たした。
・ミアンヌの指導のもと、弓術における新たな境地に至った。

黒竜ララ

かつて【厄災の魔竜】として恐れられた存在であり、現在はノールに従う黒竜である。高い知性と判断力を有し、かつての生体兵器としての姿からは想像できない変化を遂げている。
・所属:ノールの随行者(個体分類上は魔導生物)
・多重認識阻害を無視して現れ、明確に意思を持つ様子を見せた。
・ノールの影響を受けたとされ、他の竜とは異なる進化を示していた。

『時忘れの都』

メリッサ

『時忘れの都』の館長を務める女性であり、かつてはサレンツァ家に連なる存在であった。現在は施設運営に全権を持ち、各勢力と一定の距離を保ちながら中立性を維持している。
・所属:『時忘れの都』(独立運営施設)
・館長として施設の管理・交渉・人事を一任されている。
・ノールからの出資により都を復興させ、拠点として再生させた。
・ラシードとの婚姻後も館長職に留まり、現場運営を継続している。

リーア

『時忘れの都』に勤務する職員であり、メリッサを補佐する役割を担う。冷静かつ現実的な思考を持ち、情報処理や対応判断に長けている。
・所属:『時忘れの都』
・ラシードや外部勢力との連携において実務を担った。
・内政や防衛管理の補佐を通じて館運営を支えていた。

クロン

施設の管理スタッフのひとりであり、庶務と人事面の調整を担当する。穏やかで誠実な性格を持ち、職員の精神的な支柱とも言える存在である。
・所属:『時忘れの都』
・館内の人員調整や行事運営の中核を担った。
・メリッサとラシードの結婚を誰よりも純粋に祝福した。

ザザ

館職員として主に外部との情報連絡や警戒態勢を担当していた人物である。館外との折衝や防衛に関する判断にも積極的に関与していた。
・所属:『時忘れの都』
・諜報および警備体制の整備を担当した。
・緊急時には独自判断で情報の操作や報告を行っていた。

サレンツァ家関係者

ラシード

かつてはサレンツァ家の分家に連なる人物であり、現在は独立して行動する商人兼交渉者である。策略と人心の機微に通じた人物でありながら、情を重んじる一面も持つ。
・所属:元サレンツァ家(独立行動)
・神格存在との戦いに関わり、後方支援と資金供出を担った。
・メリッサとの婚姻を通じて、新たな人間関係を築いた。
・ノールに都の再建資金を託し、信頼を寄せた。

ザイード

サレンツァ家の現役指導者の一人であり、旧体制を維持する立場として描かれた。権威と血統を重視し、政治的には排他的な傾向を示していた。
・所属:サレンツァ家
・都の過去の崩壊や支配体制の維持に関与していた。
・ラシードとの対立構造の一角として言及された。

神聖ミスラ教国

アスティラ教皇

神聖ミスラ教国の最高指導者であり、宗教的権威と政治的統率力を併せ持つ女性である。威厳と包容を両立した統治者として描かれている。
・所属:神聖ミスラ教国(教皇)
・クレイス王国との会談に臨み、宗教国家としての立場を表明した。
・神格存在の復活に際し、国家の意志を代弁した。

シギル

神聖ミスラ教国に所属する使節であり、アスティラ教皇の意向を伝える役割を担っている。忠実かつ実務的な態度を貫いている人物である。
・所属:神聖ミスラ教国(使節)
・クレイス王国との交渉において、教皇の代理として出席した。
・儀礼と条約文書の確認に関与し、外交交渉を円滑に進めた。

十二使聖

神聖ミスラ教国における十二の聖職位を持つ上級聖職者の集団であり、神意の実行と宗教法の執行を任されている。
・所属:神聖ミスラ教国(聖職上位機関)
・国是決定および軍事方針の確認に参加した。
・教皇の布告に従い、神格存在への対処方針を支持した。

エルフ(長命者の里)

ルード

長命者の里に属するエルフであり、里の代表的存在として外界との調整を担う。冷静かつ論理的であり、他者との衝突を避けつつ情報を収集する。
・所属:長命者の里(エルフ集団)
・理念物質の存在を把握し、ザドゥを監視対象として行動した。
・サレンツァ家の動向に関心を持ち、帰還後に「里」へ報告を行う予定を立てていた。

傭兵

ザドゥ

独立傭兵として活動する男性であり、かつてはエルフ側と契約関係にあったが、後にノール側と接触した経歴を持つ。戦闘力に加えて生存技能にも優れる。
・所属:傭兵(契約により変動)
・神格存在と交戦し、「黒い石(理念物質の断片)」を保持していた。
・ルードの提案に従い、理念物質を保持したまま「里」へ同行した。

展開まとめ

186 出演依頼

オークション会場の制圧とレピ族の救出

かつてオークションが行われていた会場では、襲撃者たちが神盾イネスによって捕縛されていた。彼らはクレイス王国からの来客を狙った暗殺者であったが、少女一人によって壊滅させられていた。現場には「魔族」とされるレピ族の少年少女たちがおり、魔導具で操られていた痕が残されていたが、命に別状はなかった。

捕縛者からの情報聴取と残る可能性

イネスは襲撃者から他の被害者の情報を探るが、少年ロロの読心により有益な情報は得られないと判断された。ロロはまだ救出されていない仲間の存在を示唆し、王女リンネブルグは救出が遅れたことを悔いた。だがロロは今救えた命に感謝し、前を向く姿勢を見せた。

警戒すべき現状と父の策略

ラシードは現在の状況を危険視していた。彼の父は部下を使い捨てる性格であり、この一連の騒動も計算の内であった。少年少女という「重荷」があることで、敵を逃すリスクが高まっていた。彼はこの場の全員が捕まるまでが計画の一環であり、父がすでに逃走を開始した可能性を指摘した。

忘却の迷宮への逃走と追跡の開始

シレーヌの報告により、重い足音とともに地竜型ゴーレムが敷地内中央へ向かったことが判明する。それが父の逃走と見たラシードは、シャウザに追跡を命じた。シャウザは一度は迷うが、最終的に出発し、イネスも彼を追うことになる。

残された者たちの判断と策謀

ラシードとリンネブルグは今後の動きを検討する。弟たちの処遇については、彼らが「サレンツァ家」の一員であることを踏まえ、利用価値があると判断された。ラシードは「神託の玉」を用いて物語を演出し、援軍を得るための大義名分を作り出す計画を語った。

即席演劇計画と教皇アスティラの参入

神聖ミスラ教国の教皇アスティラはその演劇計画に強く興味を示し、主演兼演出として参加を申し出た。彼女は元々演劇好きであり、演技力に自信があった。ティレンス皇子も彼女の意向を尊重し、協力を約束した。

全体合意と弟たちの参加

王女リンネブルグも父へのメッセージ性を理解し、協力を決意した。最終的にラシードは、弟たちを含めた全員にこの即席劇への参加を促し、強制ではありつつも、彼らは同意せざるを得なかった。こうして、逃亡を図る敵に対抗するため、偽装された「物語」が動き出すこととなった。

187 脱兎の如く

記憶の喪失と『栄光の鍵』の覚醒

ザイードは意識を取り戻すと、床に倒れていた自身の状態に困惑した。手には黄金色の金属塊を握っており、それが記憶の鍵となって失われていた記憶を一気に呼び起こした。彼はそれを「栄光の鍵」と認識し、『忘却の迷宮』にある強大な力を起動させるための至宝であると信じた。

無意識の導きと逃走の開始

黄金の鍵が与える不思議な安心感と内側から響く「迷宮に行け」という声に従い、ザイードは秘密の地竜型ゴーレムで邸宅を脱出した。道中、オークションで足止めを狙った策略が功を奏さなかったことを察しつつも、王女や来訪者を拘束する魔導具によって時間を稼げると期待していた。

追跡者との遭遇とゴーレム軍の壊滅

ザイードはラシードの獣人部下と神盾イネスの追跡を受け、埋伏させていた数万のゴーレムを一斉に召喚した。しかしその全ては、短剣と光の盾によって瞬時に殲滅され、彼の支配の象徴であった戦力は無力化された。ザイードはこの現実に歯噛みしながらも、逃亡を継続した。

『忘却の迷宮』への到達と肉体の変質

ザイードは死力を尽くして迷宮に辿り着いた。体は既に人の限界を超え、骨が砕け、臓器が損傷していたが、それでも走り続けた。黄金の鍵が痛みを快感に変換することで、彼は苦痛すら喜びとして受け入れていた。理性は失われ、自身が導かれるままに動いていた。

禁断の扉と栄光への妄執

迷宮最深部にある封印された扉を力尽くで開いたザイードは、核に鍵を掲げた。だがその瞬間、黄金の鍵は赤熱し、彼の手を焼き、迷宮全体が脈動を始めた。護衛としていたゴーレムたちは崩れ去り、彼自身も制御不能な力の奔流に呑まれていった。

喪失の自覚と砂の同化

迷宮はまるで意思を持つかのようにザイードを包み込み、彼の肉体と精神を圧倒した。ようやく彼は、自分が自らの意思で動いていなかったことに気づいたが、もはや遅かった。すべてを失い、彼は自らの行動が破滅を招いたことを理解しながら、砂に飲まれて消滅していった。

188 忘却の迷宮

ザイードの追跡とゴーレムとの戦闘

シャウザとイネスは、逃走中のザイードを『忘却の迷宮』へと追った。ザイードは自らが設置した大量のゴーレムを使い、二人の足止めを図ったが、イネスの『光の盾』とシャウザの短刀により、次々と撃破された。迷宮の入口はゴーレムにより塞がれたが、イネスは盾で開口部を作り、強引に突破した。

迷宮内での強行突破とザイードの異変

迷宮内部は複雑で視界が悪かったが、シャウザはザイードの気配を辿り、深部へと進んだ。途中、迷宮に備えられた警備ゴーレムが出現したが、二人は無視して突き進んだ。最深部で二人は変貌を遂げたザイードと遭遇した。彼は身体を激しく変質させながらも、『栄光の鍵』を迷宮の核へと捧げた。

迷宮の変容とザイードの捕縛

黄金の鍵が祭壇に吸い込まれると、迷宮全体が生物のように脈動を始めた。意識を失い砂に呑まれようとするザイードを、イネスとシャウザは間一髪で救出した。再生する砂の壁に追われながら、二人は天井を破壊して地上への脱出を図り、間もなく迷宮から脱出することに成功した。

シャウザの離脱と迷宮の消失

脱出直後、シャウザはザイードを連れたまま忽然と姿を消した。イネスが異変に気づいた時には、迷宮から流出した砂が三人の脱出経路を完全に覆い尽くしていた。次の瞬間、大地が激しく揺れ、巨大な腕が地中から現れた。

巨人の出現とイネスの消失

地中から姿を現したのは、人型をした巨大な砂の巨人であった。その巨人は虚ろな眼窩でイネスを見下ろし、強烈な風とともに攻撃を開始した。イネスは『光の盾』で攻撃を防いだものの、足元から無数の砂の手に掴まれ、地中へと引きずり込まれた。必死の抵抗も虚しく、彼女は完全に砂に呑まれて姿を消した。最期まで王女の安否を案じながら、イネスは静かにその存在を失ったのである。

189 王の当惑

王女の映像と王の激昂

王都を揺るがす地鳴りの中、王城ではクレイス王が激しい怒りを露わにしていた。きっかけは、サレンツァから届いた一つの映像であった。そこには王女リンネブルグが拘束され、痩せた貴族風の男に刃を突きつけられる様子が映されていた。演技じみた教皇アスティラの台詞や、作為的な演出が明白であったにもかかわらず、王は冷静さを失い、王都全体に影響を及ぼすほどの怒気を放っていた。

偽映像と王子の判断

カルーは王を落ち着かせることを試みたが効果は薄く、代わりに王子レインのもとへ相談に赴いた。王子は映像の内容が救援要請であり、演技であることを理解しつつも、状況の異常性を警戒した。彼は最高戦力の派遣を決断し、国宝『黒い鏃』を含む装備の準備を命じた。王には理性的な判断として伝えつつ、私情を含んだ強い意志で対応を進めていた。

六聖の集結と出陣準備

王子の指令を受け、王都にて【六聖】が招集された。王の激情を受けての派遣であることに呆れつつも、全員が重大性を理解し、出発の準備を整えた。メリジェーヌによる装備提供や、新兵器『透明な弓』の授与も行われた。最終的に、かつて【厄災の魔竜】と呼ばれた黒竜ララの背に乗り、六聖はサレンツァへ向けて飛び立った。

神聖ミスラ教国の暴走

同時刻、神聖ミスラ教国では映像を受けた『十二使聖』の面々が混乱に陥っていた。一部は冷静に虚構と見抜いたが、多くは教皇の演技に心を揺さぶられ、激昂していた。指導者シギルの命により、聖騎士団が飛空艇に乗り込んで出陣を開始し、クレイス王国とほぼ同時に南の商都サレンツァを目指すこととなった。

国際規模の武力行使の引き金

こうして、作り物であるはずの映像が、二大国の王と宗教国家の中枢を動かす引き金となった。それは単なる救援ではなく、下手をすれば国家間の全面衝突へと発展しかねない軍事行動に繋がりつつあったのである。

190 刀剣商にて

救援要請のための芝居の成功

神聖ミスラ教国の教皇アスティラ主導の下、王女リンネブルグとティレンス皇子らによる大掛かりな救援要請用の芝居が終了した。偽の拉致劇を演じた一同は、演技の出来に満足しながらも、映像を受け取った王や聖騎士団が過剰に反応していないかを懸念した。王女は事態が無事に伝わったかを気にかけつつ、同行していたイネスとシャウザ、そして姿を消したノールへの不安を口にした。

ノールの迷子とザドゥとの再会

一方、ノールは単独行動中に街中で完全に道に迷い、何度も同じ場所に戻っては通行人に道を尋ねていた。再び訪れた広場で青年に助けを求めていたところ、かつて『黒い剣』を奪った奇妙な男ザドゥと再会した。ザドゥは既に剣を依頼主に渡したと語りつつ、ノールに対し殺意を向けてきた。

衝突と異常な戦闘

ノールはザドゥの殺意を退け、物理的な格闘に持ち込むが、男は執拗に攻撃を繰り返した。街中での戦闘は剣具店に突入する形で巻き起こり、展示された武具の多くが破壊される事態に発展した。ノールは次々と投げられる武器で応戦しつつも、過剰な力により使用した剣を壊し続けた。彼の“パリイ”によって刃を弾き返しつつ、双方は小競り合いを繰り返したが、最終的にザドゥは引き下がった。

巨人の出現と商都の危機

戦いの最中、突如として地震が街を襲い、遠方に異様な巨大人影が現れた。その巨体は塔をも凌ぐ規模であり、土の人形のような姿をしていた。ザドゥはその存在を「この街が不要になったから消される」という話に結びつけ、不気味に笑った。ノールは混乱の中、その事態の規模と意味を正確に把握できぬまま、迫る脅威を目前にすることとなった。

191 主人の残り香  1

忘却の巨人の起動とエルフの帰還

ルードはエルフ族の一員として、地上における長き任務を終え、故郷である「長命者の里」へと徒歩で戻っていた。その道中、彼はかつて人類が旧き神に対抗するために創造した破壊兵器「忘却の巨人」の起動を見届けた。この巨人は、動力を使い果たすまで周囲の文明を痕跡ごと消し去り、土地を完全な白紙に戻す自動機構であった。ルードの任務とは、その巨人を管理し、必要に応じて起動させることで人類の数と文明の程度を調整することであった。

巨人の設計とエルフの使命

「忘却の巨人」は旧き神を滅ぼすことを目的に作られたが、活動の停止条件を持たず、文明すら破壊し続ける欠陥構造を持っていた。ルードらエルフはそれを利用し、人類の「管理者」として干渉を続けていた。彼らは人類を絶やさず、また過度に繁栄させないよう均衡を保つことを使命として課されていた。しかし、その役目自体が旧人類の遺志によるものであり、ルードはその重荷と、絶え間ない監視の役割に強い憎悪を抱いていた。

クレイス王国の異常な進化

クレイス王国はかつて冒険者の寄り合い所帯に過ぎなかったが、現王の統治下で目覚ましい進歩を遂げていた。『還らずの迷宮』から持ち帰られた『黒い剣』と、それを支える六聖、さらにはその後継者たちにより、国は秩序と安定を保ちながら成長を続けていた。しかもその発展は、エルフの管理下にある理想的な人類像すら凌駕する速度で進んでおり、ルードは強い危機感を抱いていた。

エルフの策略と失敗

ルードはかつて、魔導皇国の皇帝に戦争を仕掛けさせ、クレイス王国の力を削ぐとともに『還らずの迷宮』の制御を取り戻そうと画策した。しかしそれは一日で終結し、逆に両国の友好が深まる結果となった。また、宗教国家ミスラに封じられていた旧き神『聖ミスラ』もクレイス王国の手で倒され、彼らは更なる知識と武力を得ることになった。

『黒い剣』の危険性と神盾の存在

クレイス王国の【神盾】イネスは、旧人類が『黒い剣』を補完するために創り上げた機能の再現体であり、本来であれば歴史の表に出るはずのない存在であった。ルードは、剣が壊れてなおその機能が再び芽吹いていることに強い危惧を抱いた。それは『還らずの迷宮』から持ち出された理念物質が起こした奇跡的な共鳴現象であり、エルフが永く封印してきたものが無知な冒険者によって解き放たれてしまったことを意味していた。

人類の進化とエルフの苛立ち

クレイス王国の台頭は、ルードにとって予測不能の異常であった。人類が自己管理の域を越えた成長を遂げ、エルフによる支配が無意味になる未来が見え始めていた。ルードはそれを阻止すべく、「忘却の巨人」の起動という手段に踏み切った。これにより数年以内にクレイス王国も白紙に戻る運命にあり、脅威は排除される見込みであった。

黒竜と六聖の接近

その矢先、かつてルードが差し向けた【厄災の魔竜】が再登場し、六聖を乗せてルードのもとへ向かっていた。竜を服従させたのは『魔族』ロロであり、ルードにとってこの存在の処理失敗もまた誤算であった。六聖の動向を警戒したルードは、自身の存在を隠しながら静かに回避行動を取った。

予想外の追跡と匂いの失念

だが、六聖を乗せた黒竜はルードの進路に追尾するような飛行を見せた。不可視・無音の隠蔽処理を施したはずの自らの存在が感知されていることにルードは驚き、その原因が匂いの消去を忘れたことによるものだと推測した。こうしてルードは、望まぬ接触を回避しきれぬまま、再びクレイス王国との不本意な交錯へと向かっていく運命を迎えようとしていた。

192 主人の残り香  2

黒竜ララと六聖の国境越え

かつて【厄災の魔竜】と呼ばれた黒竜ララは、六聖を背に乗せ、クレイス王国から南の国境を越えて飛行していた。竜はあくまで無表情に飛び続けていたが、その飛行は荒々しく、搭乗者たちは落下の恐怖に晒されていた。軽口を交えつつも、六聖は本件が単なる救援では済まない可能性を意識していた。

見慣れぬ集落とノールの関与

飛行中、六聖は砂漠に囲まれた農園のある集落を発見した。それはノールが提案した計画によって王都から持ち込まれた「湧水の円筒」による灌漑施設であり、その実現速度の異常さに彼らは驚愕した。彼の関与によって、辺境地帯にも目覚ましい発展がもたらされていたことが判明した。

進路の逸脱とララの異変

当初、ララの飛行は指輪による「誘導線」に沿っていたが、突如として進路が逸れ始めた。オーケンの呼びかけにも応じず、ララは加速を開始し、周囲には異様な緊張感が漂い始めた。ララの様子に異変を察知したミアンヌは、竜が戦闘態勢に入っていると警戒した。

謎の存在への急接近と隠蔽除去の試み

ララは急降下を始め、地表すれすれを高速で滑空した。その先にあるものは【隠蔽】により完全に姿を隠されていたが、カルーの感知により存在が判明する。彼は【隠蔽除去】を試みるが、相手側により完全に無効化され、異常な警戒感が六聖の中に広がった。

魔竜の『吐息』と障壁の存在

ララは自発的に攻撃を開始し、巨大な光線「吐息」を放った。吐息は凄まじい熱量と衝撃を伴い、あらゆる都市を一撃で焼き払える規模であったが、目標地点に届くことなく、不可視の障壁に弾かれて上空へと逸れてしまった。

正体の露見と六聖の困惑

光線が到達するはずだった地点には、一人の男が立っていた。黒いローブを纏い、頭部のフードが脱げたその男は、長い耳を持つ長耳族であった。さらに、その背には『黒い剣』と同様の物体が浮かんでおり、六聖は思わぬ存在との遭遇に動揺した。魔竜ララはその男に反応してさらに加速し、事態は新たな局面へと突入していった。

193 主人の残り香 3

匂いによる激昂と破壊衝動の発露

魔竜ララは、主人の匂いに混じる忌まわしい者の匂いを感じ取ったことで激昂した。その匂いは、かつて自分を不正な手段で服従させた黒いローブの男のものであり、主人の匂いと混ざり合うことが、竜にとっては耐え難い侮辱であった。竜はその理由を理解できぬまま怒りに身を委ね、相手を完全に破壊することを望んだ。

破壊の寸前で思い出した「お願い」

相手を噛み砕こうとした刹那、竜は主人から受けたたった一つの「お願い」を思い出した。それは「もう誰も傷つけないでほしい」という言葉であり、その記憶が暴走しかけた本能に冷水を浴びせた。竜は主人の言葉を守るべきだという想いと、自身の破壊衝動との間で葛藤した。

『黒い剣』への再認識と奪取

竜は敵の背に浮かぶ「黒い針」が、自身と主人との思い出の品「黒い剣」であると認識した。それは竜にとって特別なものであり、失われてはならぬ存在であった。激昂のなかで暴力を選ぶのではなく、竜は顎の先端で器用にその剣のみを突き飛ばし、敵を殺さずに『黒い剣』を回収した。

自らの行動への満足と飛翔

ララは主人に褒められるであろう未来を思い描き、喜びに満ちた気分のまま高空へと舞い上がった。敵の存在はもはや些細なものであり、もはや自ら遊ぶ価値すらないと判断した。竜は敵を無視し、剣をくわえたまま誇らしげに飛び去った。

六聖の混乱と事態の整理

ララの急降下と急上昇によって、背に乗っていた六聖は振り落とされそうになったが、全員が何とか耐えた。ダンダルグは事態の理解に苦しみながらも、セインの言葉からララが『黒い剣』を奪還したことを知った。ミアンヌはララの機嫌が収まった様子に安堵したが、長耳族の出現に関しては警戒を強めた。

オーケンの警告と追跡の断念

長耳族を追跡しようという意見が出る中、オーケンが突然重い口調で止めに入った。彼は「エルフが現れるところ、必ず国が滅ぶ」と警告し、すぐに商都に向かうべきだと主張した。その姿にはかつてないほどの怯えが表れており、六聖は彼の意見に従って追跡を断念した。

不安を残しての飛翔再開

オーケンの直感を信じた六聖は、長耳族との接触を避けて先を急ぐことにした。竜ララもまたその意図を察し、剣をくわえたまま一層の力で砂漠の空を翔けていった。こうして六聖と黒竜は、強大な存在との邂逅を経て、再び本来の目的地へと進路を取ったのである。

194 メリッサの罷免

黒竜の目撃と使者の来訪

『時忘れの都』に突如発生した地震は、従来のゴーレム襲撃とは異なる規模で都市に混乱をもたらした。館長のメリッサは混乱の収拾に努めたのち、屋上で空を見上げ、遠方を飛ぶ黒い竜の姿を目撃した。不吉な予感を覚える中、彼女のもとにノールの使いを名乗る少年リゲルとその姉ミィナが現れ、ラシードからの手紙を届けた。

手紙の内容とラシードの意図

リゲルの手から受け取った手紙には、ラシードからの一方的な「解雇通告」が綴られていた。メリッサが暗殺者として雇われていた過去、そしてその家族が人質にされていた事実が明かされ、現在はその家族も全員救出されていることが伝えられた。さらに、手紙にはラシードのかつての隠し財産の在り処も記されており、退職金の意味合いを持つとされていた。

自由の宣言と別れの予感

ラシードはメリッサを「自由の身」とした上で、これまでの感謝と友情の想いを伝えた。その文面はあくまで軽妙であったが、メリッサにはまるで遺書のような印象を与え、ラシードがこれから大きな危機に臨むことを予感させた。彼の言葉の一つ一つが、今生の別れを予告しているようにも思えた。

館長辞任の申し出と部下たちの対応

動揺を抱えたまま、メリッサは信頼する部下ザザとリーアを呼び、自らの職を辞して『時忘れの都』を去る意向を伝えた。混乱するクロンの反対とは裏腹に、ザザとリーアはその申し出を静かに受け入れ、後任として館を守ることを誓った。二人の配慮により、メリッサは正式な辞任を棚上げする形で去ることを許された。

行き先と真意

クロンの問いに答えることなく、メリッサは館の人造ゴーレム乗り場へ向かい、高速移動用の地竜型ゴーレムに搭乗した。そして、手紙に記された家族の居場所とは逆方向、すなわち、胸騒ぎを覚えさせるラシードのもとへ向かって走り出した。彼の真意と無事を確かめるため、彼女は静かに覚悟を決めたのである。

195 商都の嵐

巨人の出現と王女たちの危機感

リンネブルグ王女らは、突如『忘却の迷宮』の方角から現れた巨大な砂の巨人を目撃した。その姿は圧倒的な威容を放ち、遠く離れた王女たちにさえ本能的な恐怖を抱かせた。同時に、始原のゴーレムたちの残骸が一斉に集まり、巨人へと吸い寄せられるように移動し始め、異常事態が明らかとなった。王女はイネスの気配を感じなくなったことで、彼女が巨人の出現に関係している可能性を察し、強い不安を抱いた。

ラシードの別れと胸騒ぎ

ラシードはこの異変が都市を滅ぼすための意図的な行動であると読み取り、自らの無力を語りながらその場を去る意向を示した。彼はリンネブルグ王女に別れを告げ、後始末のための行動へ向かうと述べた。その言葉には、これまでにない真摯な決意と、予期せぬ別れを感じさせるものがあった。王女はその空気を察しつつも、彼を引き止めることはなかった。

ノールとザドゥの再会

商都の塔に登ったノールは、ザドゥと共に遠方に立つ砂の巨人を目撃した。異常な嵐の中心にいるその存在に対し、ノールは自らの知人たちが巻き込まれる危険を案じ、ザドゥに協力を依頼した。当初は拒絶の姿勢を見せたザドゥだったが、報酬の額次第で態度を変えると述べた。

財産の提示と交渉成立

ノールは自身が所有する『山込めの財布』の中身を全て提示し、広場一面に溢れ出る膨大な金貨と虹色の貨幣を差し出した。ザドゥはその膨大な量に目を見張り、即座に空中に貨幣を浮かせて数え上げた。その結果、割増しを含めた依頼料が満額揃っていると判断し、契約を成立させた。

雇用の成立と共闘の開始

ザドゥは、契約の内容には制限があることを前置きした上で、昼過ぎまでの間ノールに協力することを承諾した。報酬の対価として、わずかに釣銭を返却したのち、ノールとともに砂の巨人に向けて行動を開始した。こうして、臨時の共闘関係が成立し、都市を襲う脅威への対抗が静かに始まったのである。

196 敗北者たち

巨人の出現とザイードの目覚め

商都の塔の上で目を覚ましたザイードは、街を蹂躙する巨大な砂の巨人の姿を目の当たりにした。赤黒く異様な巨体は、あらゆるものを踏み潰し吸収しながら肥大化しており、その存在が『忘却の巨人』であることに彼は気づいた。制御不能な災厄が自身の手から解き放たれている現実に、ザイードは愕然とした。

シャウザとの対峙と正体の明かし

そこに現れたのは、片腕を失った獣人・シャウザであった。彼はかつてザイードに家族と仲間を虐殺された復讐者であり、自身が「リゲル」であることを明かした。ザイードがかつて処刑したはずの存在が生き延びていた事実に驚愕しながらも、シャウザは復讐の念を抱きながらも、もはやザイードに対して何も感じなくなったことを告げた。

崩壊する理想と敗北の自覚

シャウザはかつて自分が超えられぬ壁と信じていたサレンツァ家の脆さを嘲笑し、ザイードが必死に築き上げたものがいかに儚く崩れ去るものであったかを語った。ザイードは巨人の出現によって自身の野望が瓦解した現実を受け入れ、すでに何もかもが終わったと語った。シャウザもまた、仇敵との邂逅を経て自らが抱いていた憎悪すら無意味となり、ただ同じ「負け犬」だったと結論づけた。

息子ラシードとの再会と本音の告白

シャウザが立ち去った後、ラシードが姿を現した。ザイードは全てが息子の計略であったと問いただすが、ラシードはそれを否定し、目的は復讐ではなく「邪魔を排除する」ためだったと語った。母を見殺しにした父を家族とすら認識しておらず、単に保身と破壊を両立させるためにサレンツァ家を崩壊させたのだと述べた。

最後の審判と塔の闇へ

ラシードは、ザイードをかつて彼が設けた収容塔『贖罪の塔』の内部へと引きずり込ませた。そこには、過去にザイードの命令で理不尽に処罰された囚人たちが生存しており、彼に復讐する機会を待ち続けていた。無数の手がザイードを捉え、暗闇へと引き摺り込んだ。

別れの言葉と静かな終幕

ラシードは父を見送りながらも、なおも他人のような態度を崩さなかった。彼は「もし生き延びたら、酒を酌み交わそう」と語り、父の断末魔を背に受けながら塔を後にした。こうして、サレンツァ家の長は自らが築いた罪と向き合うことを強いられ、終焉を迎えたのである。

197 六聖と巨人

巨人の出現と王女の危機

黒竜ララの背に乗った六聖は、商都を蹂躙する巨大な砂の巨人を目撃した。ロロの指輪の光を頼りに王女リンネブルグとレピ族の子供たちを発見したが、彼女たちはちょうど巨人の進行方向上に位置していた。イネスとノールの姿は確認できず、緊張が高まる中、六聖の一部は巨人を止めることを決断した。

セインとダンダルグの突撃

セインは自ら志願して巨人の進行を阻止しようとし、ダンダルグもそれに続いた。地上に降り立った彼らは、巨人の拳によって肉体を砕かれながらも、セインの超常的な回復魔法により再生し、ダンダルグはその拳を持ち上げて投げ返す離れ業を成し遂げた。巨人は転倒したものの、その再生能力によってすぐに立ち上がった。

追加攻撃と巨人の再生能力

カルーの【朧刀】が巨人の腕に設置された罠を発動させ、片腕を切断することに成功したが、巨人は即座に腕を再生させた。さらにシグが【千殺剣】によりもう一方の腕を斬り落としたが、巨人は再び砂を吸収して復活した。敵は明らかに高度な自己再生能力を持ち、通常の攻撃では決定打を与えられなかった。

オーケンの奥義と対策の進化

オーケンは自身の最高魔法【灼熱爆裂】を発動し、巨人の上半身を消滅させる威力を見せつけた。しかし、それにもかかわらず巨人は復活し、さらに魔法への耐性を獲得し始めた。オーケンはこの事態に愕然とし、六聖の手に余る存在であることが明白となった。

方舟の来航と増援の到着

その最中、神聖ミスラ教国の反重力船「方舟」が上空に現れ、興奮気味な聖騎士たちの声が拡声器を通じて響いた。映像による救援要請に応じた形で、彼らも戦地に到着した。だが、竜ララはノールの不在に気付き、空高く飛び立って捜索を開始した。

合流と再編成

六聖と王女たちは無事に合流し、安堵するが、ノールとイネスの所在は依然として不明であった。そんな中、突如としてザドゥが姿を現し、緊張が走る。だが直後にノールが駆けつけ、ザドゥが雇われた傭兵であることを明かして場を収めた。さらに、空を舞うララが取り戻した『黒い剣』が健在であることが確認され、事態は僅かに好転の兆しを見せた。

198 俺はかなり大きめのゴーレムをパリイする

巨人の再生とイネスの同化

半壊していた砂の巨人は急速に再生し始め、その過程でイネスの身体が内部に取り込まれていることが判明した。彼女は意識を失っていたが、『光の盾』に守られており、その存在は完全に消えていなかった。さらに、巨人の再生を守るかのように『光の盾』を模倣した膜が現れたことから、巨人がイネスの能力を取り込んでいると推測された。

ロロによる神の記憶の解読

ロロは突如意識を変え、『聖ミスラ』の記憶を読み取りながら「忘却の巨人」の真の正体と目的を語った。それによれば、巨人は人類が神々に対抗するために作り出した管理装置であり、本来の名は「忘却の迷宮」とも呼ばれていた。現在、巨人の中枢には『青い石』が存在し、それが活動の源であると明かされた。

巨人との戦闘と『黒い剣』の再起動

ララの投擲によって『黒い剣』を受け取ったノールは、その一撃で巨人の腕を弾き飛ばした。巨人の攻撃は驚くほど軽く感じられ、『黒い剣』が特別な効果を持っていることが明らかとなった。ノールはそのまま複数回にわたり剣を投げ、巨人の腕や半身を爆砕し、イネスを救出することに成功した。

ザドゥの支援と『青い石』の発見

ノールの要請により、傭兵ザドゥはイネスの回収を引き受け、彼女を安全にノールのもとへ届けた。また、ザドゥの魔法によって地面が凍結され、地下にある『青い石』の所在が視認可能となった。これにより、巨人の活動源である核が初めて明確に示された。

巨人の反撃と『黒い剣』の連携戦術

巨人は再び反撃を試み、ノールを地中に引きずり込もうとしたが、ザドゥの魔法により妨害され、事なきを得た。ノールは再度『黒い剣』を投擲して巨人の下半身を爆砕し、戦況を優位に導いた。ララとの連携による剣の回収・再投擲が戦闘を有利に進める鍵となっていた。

『青い石』の浮上と決戦への兆し

ノールが『黒い剣』で『青い石』を破壊しようとした瞬間、それは突如として地中から飛び出し、何重もの『光の盾』を纏いながら空中に浮上した。その輝きは星のようにまばゆく、巨人の最終防衛機構が発動したことを示唆していた。決戦は、いよいよ佳境を迎えようとしていた。

199 砂上の星

正体の顕現と設計目的の発露

地中から現れた輝く存在は、かつて「自律駆動型ナノマシン NMP-006プロトタイプ AR23」と呼ばれた機械であった。これは約2万7千年にわたり、神々の浄化を目的として稼働し続けた自動環境浄化プログラムであり、造物主が滅びた後も使命を継続していた。神的存在の根絶とその痕跡の抹消を最終目標とし、現存する「スキル」使用者なども神の影響下にあると見なして殲滅対象と規定していた。

長年の稼働と自我の芽生え

数万年にわたる稼働と学習を通じ、当初定義されていなかった思考様式を獲得したこの機械は、自らを人類の「正当なる後継者」と再定義した。造物主不在の現在、その意志を継ぐ者は己のみであると信じ、世界の浄化を自己の希望として受容した。

異物の接触と敵の出現

イネスの『光の盾』を解析・吸収したことで、新たな機能を得た巨人は喜びを覚えたが、続いて現れた黒竜とその背にいた人型の存在──ノールと六聖の攻撃により状況が一変した。巨人はこれまで無敵を誇っていた自己の腕を切断され、炎で半身を消失させ、初めて「脅威」と感じる敵に出会った。

理解不能な力と『理念物質』の出現

ノールが用いた武器──かつて神に唯一対抗できたとされる『理念物質』が現れたことで、巨人は自身がその存在に勝てぬと認識した。この物質によって受けた攻撃は、従来の物理法則を無視し、あらゆる反撃を無効化したため、巨人は強い「不安」と「怯え」を初めて経験した。

自我の誕生と葛藤

危機に直面した巨人は、論理的に自己を「生命体」として再定義し、自我を芽生えさせた。かつて神々と同質と化した自らが、その『理念物質』を振るう者に敗北しようとしている現状を前に、「自己保存」と「存在意義」の狭間で深く葛藤した。

学習と模倣、そして決断

巨人はノールの持つ『理念物質』を真似るため、己の構造を即時更新し、神的霊力を消費して耐性強化を図った。しかし、あらゆる模倣と解析をもってしても、それは敵に太刀打ちできないと判断せざるを得なかった。

最終戦略としての自爆

自己保存と存在意義の両立を追求した巨人は、最終的に「自爆」という戦略に至った。それは、千年にわたり蓄えた神的エネルギーの全てを数秒で放出し、広範囲を分子単位で破壊することで自らを守ると同時に、敵を消滅させる策であった。この決断は、計算能力の極限で導かれた唯一の解であり、存在の誇りと恐怖が交錯する中、遂行の準備が始まったのである。

200 滅びゆく街で

再会と問いかけ

激しい嵐の中、荒れたままの邸宅に佇んでいたラシードは、突然姿を現したメリッサに驚いた。罷免されたはずの彼女は、『時忘れの都』から一時的に暇を取り戻ってきたと語り、ザザ、リーア、クロン、そしてリゲルが館を支えている現状を伝えた。彼女はラシードが屋敷にいると察して訪れた理由として、ここに母との思い出の品があることを根拠に挙げた。

罷免と手紙の真意への疑念

メリッサは、自身を突然置いていった理由や一方的な罷免、さらに手紙の内容について問い詰めた。ラシードは説明の遅れを詫びながらも、それが悪意ではなかったと弁明したが、彼女はそれを簡単には受け入れなかった。ラシードが罷免後も彼女を生かしていた理由についても疑問が呈され、彼は自身の感情を率直に語ることの難しさを吐露した。

感情の表出と曖昧な告白

ラシードは、メリッサと出会う前の自分が空虚であったことを述べ、彼女との出会いによって別の未来を見たくなったと語った。しかしその曖昧な告白は、メリッサには理解されず、より具体的な説明を求められた。ラシードは自身の言葉の不器用さを自嘲しつつも、全てを語るには「ある賭け」が終わるまでは早いとした。

シャウザの離脱と自己評価

シャウザの存在について問われたラシードは、彼の復讐が果たされたことで役目を終え、既に街を離れたことを明かした。その上で彼が生きる意味を見失い、どこかで彷徨っているだろうと推測した。対照的に、ラシード自身はそれを達観しており、シャウザの真面目さを認めながらも、自身の奔放さを隠さず語った。

手紙に込めた思いと賭けの行方

ラシードは、手紙での説明不足や真意についても、あくまで「賭け」の一環であったと語った。今、外で戦っているノールたちに全てを託しており、それが終わるまで何も言うべきではないという独自の「ルール」に従っていた。メリッサはその理屈に困惑しつつも、彼の約束を受け入れ、結果を見届ける覚悟を固めた。

邸宅の静寂と嵐の対比

ラシードは屋敷の構造が嵐に耐えるよう作られていることを説明し、下手に外へ出ないよう促した。嵐が街を崩壊させる中、邸宅だけが異様な静けさを保ち、まるで外界から切り離された空間となっていた。窓の外では黒竜と巨人が戦い、巨大な光が天へと昇っていく幻想的な光景が広がっていた。

静かな時間と未完の言葉

ラシードの頼みにより、メリッサはお茶を淹れ、かつて母が使っていた茶葉とカップを用意した。二人は窓辺に並んで座り、激しく壊れていく街を見つめながら、言葉少なに静かな時間を共有した。ラシードは、今はまだ語れぬことを後に明かすと約束し、メリッサはその言葉を信じて黙って待つ道を選んだ。こうして、かつての主従は一時の安寧を得る中で、過ぎ行く世界の変化を見届けていた。

201 嵐の縫い目

星形物体の静止と不穏な力の蓄積

ノールは、頭上に浮かぶ星形の光体を見上げていた。それは先ほどまでの砂の巨人とは別物のように見え、砂糖菓子のような外見に『光の盾』のような光膜をまとっていた。周囲では嵐が荒れ狂っていたが、彼らの周囲だけは妙に静かであり、ザドゥはその物体が「魔力とは異なる力を溜めている」と警告した。

戦士教官と狩人教官の来訪

ノールのもとにまず現れたのは、イネスの義父である戦士教官であった。彼はイネスを連れ退避することを決意し、ノールには重い金属製の箱を託した。続いて現れた狩人教官は、物体の危険性を察知し、街の壊滅を予見していた。彼女はノールに『黒い剣』を物体へ投げ込むように指示したが、剣は途中で失速し、空間の歪みによって阻まれた。

シレーヌの助言と突破口の発見

シレーヌは、物体の光膜には綻びが存在することを見抜き、それを通して攻撃すれば貫通可能と示唆した。しかし、彼女の特殊な視覚に基づく説明はノールには理解しきれず、その綻びを狙って矢を射通すことは困難とされた。狩人教官は、それには強力な弓と精密な視覚、そして一発限りの特別な矢が必要だと説明した。

透明な弓と『黒い鏃』の授与

教官は、砂漠の神獣の外殻から作られたメリジェーヌ製の「透明な弓」をノールに渡し、その箱の中から『黒い剣』と同じ材質の鋭利な『鏃』を取り出すよう指示した。これは一発限りの切り札であり、『光の盾』を貫ける可能性を秘めていた。教官はこの矢をあの綻びを縫って通すようノールに期待したが、それは常人では不可能な芸当であった。

条件を満たす者の存在とシャウザの再登場

そのとき、ノールは空を行くミスラの反重力艇に視線を向け、そこに乗っていたシャウザを発見した。彼はノールと同等の腕力を持ち、視覚もシレーヌと同等、さらには弓術も得意であるという条件をすべて満たす存在であった。ノールは即座に彼に矢を届ける決断を下す。

最後の手段としての投擲

ノールは自身の技能である【しのびあし】により弓の空気抵抗を消し、続いて【身体強化】で全身に力を込め、全力で『透明な弓』をシャウザへと向けて投げつけた。その行為は、勝利の可能性をたった一人に託す、一世一代の賭けであった。こうして、決戦の鍵は空を行く一隻の船と、そこに立つ男の手に委ねられたのである。

202 星穿ちのリゲル 4

空虚の中の彷徨と船への収容

シャウザは滅びを迎えようとする商都の惨状を無感動に眺めていた。復讐も約束も果たせぬまま、自らの存在が空虚であると感じていた彼は、人々の避難に巻き込まれる形でミスラの浮遊船へと乗せられた。避難民であふれる船内の空間は、彼にとってただの雑音としか映らず、やがてその場から抜け出し、上階へと向かった。

上空からの観察と再会

甲板に出たシャウザは、空に浮かぶ星形の存在と、その直下に立つ妹シレーヌ、ノール、ザドゥの姿を確認した。その瞬間、背後から声をかけたのはロロであり、彼の言葉からシレーヌがノールに協力するためその場にいることを知った。やがてノールがシャウザの存在に気付き、彼へと透明な弓と黒い石を次々と投擲した。

弓を託された者の葛藤と覚醒

利き腕と利き目を失ったシャウザは、自身にできるはずがないと弓を見つめて葛藤するが、その内面ではかつての少年「リゲル」の声が語りかける。その声は、自らが積み重ねてきた偽りや逃避を容赦なく暴き、弓への執着と己の本質を突きつけた。弓を手にした瞬間、身体は疼き、過去の記憶と熱が甦った。

かつての英雄の弓と心の再起

シャウザは弓の構え方も、風の読み方も忘れてはいなかった。自らを偽ることなく向き合い、かつての母の教えと少年の声を心に重ね、未来を信じて矢を番えた。牙で石を咥え、心で目標を視たシャウザは、身を削りながら弓を引き、背骨が砕ける音にすら歓喜を感じながら限界を超えて矢を放った。

空を貫く一矢とその結末

放たれた黒い石は、星を守る多重の『光の盾』を全て打ち破り、空に輝く星の中心へと届こうとした。商都に降るはずのない雪のように、砕けた光の欠片が舞い、全てが終わったかに見えた。しかし、矢はあと一歩届かず、星の核である『青い石』の表面に軽く触れただけで失速し、地に落ちた。

失敗と新たな希望

シャウザは己の全てを賭して放った一矢が届かなかった現実に打ちひしがれ、深い空虚を感じた。しかし、ロロの声が再び背後から響き、シレーヌがまだ諦めていないことを告げた。その言葉に顔を上げたシャウザの目には、嵐の中を蠢く無数の矢──新たな反撃の兆しが映り込んでいた。こうして、まだ終わらぬ戦いの希望がわずかに灯されたのである。

203 追い風

イネス救出とミスラ船への帰還

ダンダルグはイネスを抱え、偶然通りかかったミスラの飛行救助艇に救助された。激しい砂嵐の中、ようやく大型船へと戻った彼は、待機していたカルーとオーケンに引き継ぎを行い、安堵と疲労からその場に崩れ落ちた。船内は嘆きの迷宮由来の静寂と高度な設備により、外界の混乱とは隔絶されていた。

シャウザの一矢と『光の盾』の破壊

突如として船が大きく揺れた直後、甲板に出た一同の前に現れたのは、片腕で弓を引くシャウザの姿であった。彼の放った矢は空に浮かぶ星型物体の『光の盾』を破壊し、全ての者がその威力と精度に圧倒された。だが、『青い石』そのものには届いておらず、完全なる破壊には至らなかった。

嵐の再活性とシレーヌの登場

一度は鎮まった嵐が再び強まり、『青い石』の再起動が予見された中、矢がまるで意志を持つかのように舞い、黒い石を掲げ始めた。その制御者として名乗りを上げたのは、風の中で弓を構えるシレーヌであった。彼女の姿に驚くダンダルグとオーケンに対し、ミアンヌはシレーヌの弓術における非凡さを明かした。

ミアンヌの評価と風の魔法陣

ミアンヌは、シレーヌが弓の才能だけでなく風読みの能力においても極めて高水準であることを語った。さらにアスティラとリンネブルグも加勢し、風の魔法による支援を展開した。アスティラは【四重詠唱】を瞬時に完成させ、リーンと共に風の増幅を開始。オーケンは二人の実力に感嘆しつつも、意地を見せようと奮起した。

『狩人兵団』の真の団長とその理由

ミアンヌは、シレーヌが本来ならば『狩人兵団』の団長に相応しい実力者であり、自らがその代理を務めているに過ぎないと打ち明けた。シレーヌは弓の腕前だけでなく、走りながら矢を放ち、静止時と同じ精度で連射できる唯一無二の存在であった。だが、その実力は追い詰められなければ発揮されない特性があった。

嵐の最大強化とシレーヌの飛翔

風魔法が共鳴し合い、嵐は制御不能なほどに増幅した。その影響で船体は軋み、甲板の者たちは強風に耐えるのがやっとの状態となった。しかしミアンヌは、それでもまだ足りないと断言し、「本気」のシレーヌの力はここからだと宣言した。そして、暴風の中心へと軽やかに飛び込むシレーヌの姿が、誰よりも確かな希望として映し出されたのである。

204 シレーヌの弓 3

嵐の中での覚醒と風の道の可視化

シレーヌは暴風の中心に飛び込み、そこに広がる無数の風の流れを感知した。彼女には、億を超える組み合わせを持つ風の通り道がすべて視えていた。肌を裂くほど凶暴な風も、彼女にとっては優しく抱く存在であり、風がどこから来てどこへ向かうのか、その一つ一つが心地よく感じられていた。

矢の道を繋ぐ奔走と加速の連鎖

彼女は嵐の中を舞う自らの矢の群れを足場とし、その上を踏みしめて駆け出した。シレーヌは矢を一本ずつ丁寧に射ち、それぞれが風の道をなぞるように疾走することで、前方の矢を後押しする形で連なっていった。やがてそれは生き物のように一体化し、龍のような螺旋を描いて加速した。

自らの非力と向き合う矢の奔流

シャウザの放った一矢には到底及ばぬと理解しながらも、シレーヌは「凡才」としての自分にできる方法で挑み続けた。千の矢でも届かないなら、一万、それでもだめなら“ありったけ”。矢を数えるのをやめ、ただ手当たり次第に矢を番えて放ち続けることで、風の中に巨大な意志の流れを作り上げていった。

矢の奔流の収束と青い石の破壊

無数の矢の力が一点に収束し、遂に『青い石』を砕いた。シレーヌは、始めからこれが成ることを予感しており、風の変化も、天の晴れゆく兆しも、すべてが視えていた。風と一体化した彼女の意思は、嵐そのものを収束へと導いた。

重大な誤算と神の出現

だが、シレーヌはひとつだけ忘れていた。『青い石』の内部に封印されていた存在──数万年前に人類を支配した『神々』の一柱が封印を解かれ、具現してしまったことである。銀の鎧を纏い、未知の刃を持つその存在は、シレーヌを解放者と認識し、真っ先に刃を振るった。

最後の守護と退場

その刃が届く直前、ノールが『黒い剣』で敵の攻撃を防ぎ、シレーヌは命を救われた。全力を出し尽くした彼女は、疲労困憊のまま風に乗せられ、ミスラの飛行船の方角へと吹き飛ばされていった。こうして、嵐の中心での彼女の戦いは終わり、次なる戦場はノールの手へと引き継がれることとなった。

205 俺は人型の何かをパリイする

青い石からの出現と異形の存在の登場

『青い石』の破壊に伴い、その内部から異様な姿の生命体が出現した。白銀に輝く鎧のような外皮を持ち、虫のような目と複数の腕を備えたその存在は、過去の言語とは異なる高周波による思考で世界を認識し始めた。明らかに神格の存在であり、人類の創造した『理念物質』を脅威と判断し、即座に排除行動へ移行した。

ザドゥとの再契約と戦闘の開始

ザドゥは時間契約の満了を理由に一度戦列を離れようとしたが、ノールは『黒い鏃』を譲渡することで再契約を交わし、共闘体制を再構築した。彼は再び神格存在との戦闘に挑み、パリイと理念物質を駆使してその攻撃を防ぎつつ、反撃を重ねていった。

神格存在の理解と初の敗北体験

異形の存在は、理念物質により腕や頭部を切断されるたびに再生しながらも、ノールとザドゥの異常な戦闘能力に対する理解を深めていった。これまで対峙してきたどの生物とも異なる、反応速度、切断能力、回避力すべてにおいて計測不能な力を持つ存在を前に、彼は「敗北」という概念に初めて直面した。

神の記憶と異世界からの来訪の歴史

この存在はかつて、他次元から渡来した神々の一員であり、人類を支配すべきか滅ぼすべきかという選択を前に、「管理・支配」を選んだ派閥に属していた。一方で、その中には人類の進化を予見して滅ぼすか共存するかの二択を迫った“指導者”も存在した。異形の存在は彼の予言を信じ、数万年にわたり戦いに耐え得る敵の出現を夢見て、『青い石』に自らを封じて時を待っていた。

覚醒と歓喜、そして死の体験

ついに念願の敵と出会い、理念物質による切断や脳の露出、腕の消失などを体験しながらも、それを歓喜と受け止めていた。長き退屈の末に訪れた理想の闘争世界に酔いしれ、自己の滅亡すら「甘美な贈り物」として享受していった。そして、全身が細切れとなり、自己の存在情報ごと完全に消滅していく過程を内側から観測し、「死」を初めて体験した。

最期の抵抗と理念物質への敗北

最期の手段として放たれたのは、かつて世界を焼いたとされる『霊槍グングニル』であったが、ノールの一言「パリイ」により弾かれ、無力化された。その攻撃が虚空へ消えたことを確認すると、神格存在は笑みを浮かべ、なおも喜びのうちに斬首されていった。

祝福と消滅、異次元生命体の終幕

異次元から来た神格生命体は、戦いの中で敗北の美を知り、圧倒されたことに対して畏敬と賞賛を捧げながら、霧散した。その思念は、かつての過ち、誤った選択、予言の成就すべてを受け入れ、これこそが生命という存在の勝利であると結論付けた。そして、誰にも理解されぬ言葉で世界に祝福を叫びながら、静かに、完全なる消滅を迎えたのである。

206 二度目の約束

戦いの終焉とザドゥの離脱

神格存在との戦闘を終えたノールは、ザドゥと対峙しながら、その姿が光の粒となって消えゆく怪物を見つめていた。ザドゥは今後の対応を「依頼人に確認する」として、その場を煙とともに離脱した。周囲の被害は甚大で、かつてのザイード邸すら形をとどめておらず、戦いの余波が街全体に及んでいた。

仲間たちの到着と『黒い鏃』の回収問題

ノールのもとに、リーン、シレーヌ、シャウザ、そして狩人教官が駆けつけた。無事を確認し合う中で、戦闘中に使用された『黒い鏃』がザドゥに渡されたことが明かされ、その扱いについて懸念が共有された。教官はザドゥが返却に応じるとは思えず、次に会った際の対応を検討する必要性を示唆した。

シャウザからの返却と弓の受け渡し

シャウザはノールに『透明な弓』を返却しようとするが、それが彼の所有物ではないと知りつつ、ノールはひとまず預かることを了承した。しかしその場でシレーヌが現れ、シャウザに対して「星穿ちのリゲル」と呼びかける。彼女は兄が生きていることを確信しており、過去の経緯や声の記憶から本人であると見抜いていた。

兄妹の再会と許し

シャウザ──かつてリゲルと呼ばれた男──は、妹シレーヌに自らが兄であることを認め、過去の約束を果たせなかったことを詫びた。シレーヌはその謝罪を受け入れ、再会を喜びの涙で迎えた。彼女は「今からでも会えばいい」と母も待っていることを伝え、シャウザもまた「今度の約束は破らない」と応じた。

『星穿ち』の評価と弓の譲渡

ノールたちの前でリゲルの正体が明かされると、教官ミアンヌは「サレンツァに星を射落とす男がいる」という噂の本人であると明言した。彼の技術と偉業に敬意を表した彼女は、リゲルに『透明な弓』の所持を勧め、それを引き受けることを促した。シャウザはかつて憧れていたミアンヌの申し出を受け入れ、正式に弓を受け取った。

兄妹と教官の新たな関係

ミアンヌはシャウザに【狩人兵団】への参加を勧誘し、彼も「いつかは」と前向きに答えた。シレーヌの面倒を見てくれたことへの感謝を述べた彼に対し、ミアンヌもそれを受け入れ、弓の大切さを再確認させた。弓を壊さないと誓うシャウザの言葉に、教官がノールへ嫌味な視線を向ける一幕もあった。

旅立ちと決意

最後に、シャウザは「もう迷わずに為すべきことを為す」とだけ言い残し、その場を後にした。行き先も定かでなく、何をするかも明かさぬまま、彼は静かに歩き去っていった。新たな決意を胸に、かつてのリゲルは、再び己の道を歩き始めたのである。

207 メリッサとラシードの契約書

再会とサレンツァ家との交渉

ラシードは荒廃した街を見下ろしながら、旧知の暗殺者ギルドの長・ワイズと対話していた。サレンツァ家の親族がラシードを「当主」として迎える条件で和解を申し出てきたが、彼は大叔父・大叔母以外の一族に対しては「対等な商売敵」として扱うよう命じた。また、部下のはずのメリッサを「様」付けで呼ぶワイズに対し、彼女への特別な感情が匂わされた。

契約書の正体と「一目惚れ」の告白

ラシードがメリッサに提示した契約書は、商業自治区における婚姻契約と同様の内容であり、条項は彼女に極端に有利な内容であった。その理由を問うメリッサに対し、ラシードは「一目惚れしたから」と率直に告げ、彼女の人となりや過去の行動に惹かれた経緯を語った。

身辺警護の真実と感情の抑制

ラシードは、かつて暗殺未遂を起こしたメリッサが報復を受けぬよう、密かにシャウザを彼女の護衛に雇っていたことを明かした。また、メリッサがラシードの「想い人」であることが周囲に知られれば彼女に害が及ぶと考え、全てを秘匿していたことも説明された。

サレンツァ家との敵対の理由とノールへの賭け

ラシードはサレンツァ家との決裂の背景に、メリッサの存在があったことを告げた。彼女を守るために家との決別を選び、「時忘れの都」へ移住したこと、さらにクレイス王国から訪れたノールに全財産を託す大博打を打ったことも明かされた。それは全て、事態を終息させた後にメリッサと新たな関係を築くための布石であった。

正直な告白と契約書の返却

ラシードは全てを「洗いざらい話した」と語ったが、メリッサは彼の言葉に矛盾があることを指摘し、「対等な関係」を装いながら一方的に守ろうとする姿勢に疑問を呈した。その上で、提示された契約書を「不公平」として一度返却した。

白紙からの再契約と互いの信頼

メリッサは、ラシードに対して「自分を信じてほしい」と静かに告げ、彼が作成した契約書ではなく、まっさらな一枚の紙を差し出した。そして、二人でその紙に自分たちの名だけを書き記し、口頭でのみ契約内容を交わした。その約束に立ち会ったのは、柔らかな陽光と風に舞う砂塵だけであったが、それは二人にとって十分な「誓いの証」となったのである。

208 廃墟での結婚式

結婚式の開始と予想外の祝宴

ラシードとメリッサの結婚式が突如として開かれ、ノールとリーンは急遽その場に留まって式へ参加することとなった。当初は身内のみで静かに行われる予定であったが、噂を聞きつけた多くの人々が集まり、廃墟同然の会場は熱気と工夫によって賑やかな雰囲気に包まれた。ミスラの関係者も姿を見せる中、クレイス王国からはノールとリーンのみが参列していた。

ノールの戸惑いと仲人の任務

ノールは、友人としてラシードから式の最初の挨拶役を頼まれていたが、急な依頼に戸惑い、壇上で言葉に詰まる場面も見られた。ラシードからは「適当に思ったことを話してくれ」と言われていたものの、集まった聴衆を前に即興の挨拶に苦戦する様子を見せた。

シャウザの登場と指名

ノールがスピーチ中、式に姿を見せていなかったシャウザの存在に気づいた。会場の隅でこっそりと様子を見ていた彼に対し、ノールはその場で仲人の役割を譲る形で拡声器を投げ渡した。拡声器を受け取ったシャウザは、嫌そうな反応を見せつつも壇上に立ち、挨拶を引き継ぐこととなった。

祝福の言葉と過去への言及

シャウザは、自分にはこの街にもう用がないと思っていたが、ラシードとメリッサの婚約を聞いて急ぎ戻ってきたことを明かした。二人は形式上の儀式などなくとも深く結ばれていると語り、長年二人を見守ってきた立場から、互いに信じ合うことの重要性を訴えた。ラシードには「メリッサにだけはもう嘘をつくな」と告げ、メリッサには「ラシードを信じてやれ」と強く言い切った。

締めの一言と会場の沸騰

感動的な言葉で締めくくられるかと思われた矢先、シャウザは更に追い打ちをかけるように「どうせまだ手すら握っていないのだろう」と二人の関係をからかい、「さっさと世継ぎでも作れ」と発言した。場内は一瞬騒然となり、メリッサは恥じらいながらも呆れ、ラシードは爆笑。聴衆からは歓声と祝福が入り混じる騒ぎが巻き起こった。

幸せの中心に立つ二人

シャウザの言葉で一気に和やかな空気が広がり、ラシードがメリッサの肩を抱くと、彼女は照れながらもそれを受け入れた。砂まみれの廃墟同然の式場は、その喧騒と笑いの中心に二人の姿を輝かせながら、真の祝祭の場と化していった。

209 反省会

任務失敗と『青い石』の破壊後の報告

広大な砂漠を歩く黒いローブの男──ルードは、自身が失敗した仕事について振り返っていた。そこへ姿を現したのは、傭兵ザドゥであった。彼は『忘却の巨人』が破壊されたことを確認し、『青い石』の中に封じられていた神格存在が解体されたと報告した。その過程でザドゥは偶然にも貴重な「黒い石」を入手していた。

理念物質の欠片とザドゥの武装化

ザドゥが手にした「黒い石」は、かつての『黒い剣』から分かたれた理念物質の欠片であり、本体には及ばないながらも極めて希少な存在であった。ルードはそれが「里」の者たちにとって価値あるものだとしつつも、ザドゥの武器として適性がある限りは奪取しないと述べた。ただし、エルフの長老たちには内密にすべきだと忠告した。

黒竜の認識と変化の兆候

会話の途中、二人の頭上を通過したのは、かつて【厄災の魔竜】と恐れられた黒竜ララであった。多重の認識阻害を施していたにもかかわらず、その竜は明らかに二人の存在を把握していた。ルードは、魔竜が本来ただの生体兵器であったことに触れながら、現在のララが知性を備え、状況に応じて行動している異常性を指摘した。

竜の変化とノールの影響

ザドゥはララに幾度か殺意を向けた経験を語り、毎度それ以上の殺気で睨み返されたと述べた。ルードはその変化の原因が、ララの主人であるノールにあると読み取っていた。知性を持つ魔竜は通常存在し得ないため、その成長が剣の所有者との接触によって引き起こされたと判断していた。

ザイード家の処遇と『里』への帰還

話題はサレンツァ家の対応へと移ったが、ルードは当面は放置すると決断した。『忘却の巨人』という大量破壊兵器が失われた今、新たな手段を講じるには「里」の承認が必要であり、準備には時間がかかると語った。そのため、ルードはザドゥに同行を命じ、「里」への帰還を決定した。

多重契約と今後の調整

ルードは、今回のザドゥによる一時的な裏切り──すなわち、敵側との接触──についても咎めることはなかった。契約内容に明確な制限がなく、曖昧な依頼が原因であったとしつつ、今後は「里」の承認を経た文書による契約に改めたいと提案した。ザドゥはその面倒さを嘆きつつも了承し、再びルードと共に道を進み始めた。

旅路の開始と契約再編の予告

かくして、理念物質を携えたザドゥと、計画の再構築を目指すルードは、契約見直しと『里』への報告を目的に、果てしない道を共に歩み出した。未来の対サレンツァ戦略と、ノールとの決着を見据えながら、二人は静かに地平線の彼方へと姿を消していった。

210 冒険者ギルドにて

帰還報告とギルドマスターの詰問

ノールは旅を終えて王都に戻り、冒険者ギルドのギルドマスターにこれまでの出来事を簡潔に報告した。盗賊団との遭遇、巨大エビとの戦い、ゴーレムの群れとの戦闘など数々の波乱を経た旅だったが、大筋のみを語るに留めた。ギルドマスターは、旅の経費として持たせた全財産について尋ね、その結末に驚愕した。

金の使途と「勝負」の顛末

ノールは全財産を賭けた勝負に勝利し、大金を得たものの、それを現地で知り合った友人に預け、さらにその友人を通じて全額を別の人物に渡したことで手元には何も残らなかった。ギルドマスターはその軽率さに呆れつつも、ノールの楽観的な性格と信頼の強さを否定せず、もう少し用心深さを身につけるよう助言した。

投資銀行の存在と金の運用

ギルドマスターは、王都に存在する「王立投資銀行」の存在を説明した。それは国の専門家が代わりに資産運用してくれる施設であり、金利設定も自由にできる仕組みであった。ギルドマスターは、もしノールがその大金を銀行に預けていたなら利息だけで生涯安泰だったと後悔の念を漏らした。

ゴーレム馬車の到来と「届け物」

突然、ギルドが大量のゴーレム馬車と武装した男たちに包囲され、ノール宛の「届け物」が到着した。届け主は「ハンス商会」の代表であり、匿名の友人から託された手紙と共に大量の現金入り袋を運び込んできた。手紙の内容から、それがラシードからの心づくしであることが示唆された。

銀行への預託とギルドマスターの苦悩

ギルドの玄関を埋め尽くすほどの金を受け取ったノールは、ギルドマスターの助言に従って投資銀行に預けることを決意した。しかも、彼は「利子なし」で預けるつもりであると告げたため、ギルドマスターは頭を抱えつつも止めることはできなかった。ノールの価値観に口を挟めないと悟り、苦笑交じりに送り出すこととなった。

積まれた経験と今後への思い

旅で得たものは金だけではなかったと感じるノールは、自身が「時忘れの都」の所有者であることや、まだ訪ねていない場所を再訪する意欲を胸に抱いていた。獣人の集落への再訪を含め、再びゆったりと旅をすることを決意しつつ、新たな行動の準備を整えていた。

こうして、無一文から大富豪、そして再び身軽な旅人へと巡ったノールは、穏やかな笑みと共に、王都の街路を進んでいったのであった。

【時忘れの都の新館長】

再訪と種屋の同行

ノールはリーンとともに再び砂漠地帯を訪れ、王都から連れてきた種屋の男・アルベールを獣人集落へ案内した。彼は過酷な環境に驚きつつも、現地の変貌した景観と繁栄ぶりに感動した。栽培計画書に従って整備された畑は想像を超えて成功しており、村の副長カイルからは感謝の言葉とともに歓待を受けた。

異常な成長と技術の裏側

畑には通常では考えられないほど成長した作物が広がっており、アルベールは自身の計画を超えた成果に驚愕した。その理由として、ノールが王都の人脈を活かして手に入れた魔導具「湧水の円筒」や、現地で偶然見つかった優れた肥料が大きく貢献していた。彼は農業技術と現地の努力に対し心からの称賛を送った。

集落の発展と謝礼の辞退

カイルは集落が「免税特区」として正式に認定され、大規模な移住と経済活動が始まっていることを報告した。謝礼の用意があることを申し出たが、ノールはそれを辞退し、資金はすべて今後の集落発展に使ってほしいと伝えた。そして一行は次の目的地『時忘れの都』へ向かった。

『時忘れの都』への到着と歓迎

都に到着すると、ノール一行は盛大な出迎えを受けた。施設の内部はまるで森のような自然環境が再現されており、アルベールはその壮麗さに圧倒された。これはすべて人の手で設計・管理されているものであり、ノールはこの施設こそが本来彼に見せたかった場所だと明かした。

メリッサからの依頼と驚愕の任命

館長メリッサ・サレンツァから正式に紹介を受けたアルベールは、『時忘れの都』の新たな運営補佐──とりわけ農業部門の責任者に任命されることを知らされ、言葉を失った。栽培試験場としての活用が目的であり、大規模な人員と設備が提供されることを聞かされると、彼は歓喜に震え、自ら志願してその職を引き受けた。

栽培計画と組織支援の申し出

アルベールは、必要な計画書を即日で用意すると即答し、専属書記やスタッフが全面的に支援を約束した。ノールは彼の張り切りすぎを案じつつも、その熱意と才能を信頼し任せることを決定した。メリッサは業務の引継ぎを約束し、リーンもクレイス王国からの了承を事前に取り付けていたため、体制は万全であった。

名も知らぬ英雄と新たな幕開け

役割を受け入れたアルベールは、自分の名前すらノールたちに伝えていなかったが、その実力と情熱によって誰よりも大きな役割を得た。ノールとリーンは彼を都に残し、王都への帰路についた。彼の姿が遠ざかる中、ノールの目には『時忘れの都』全体が、以前よりも明るく、楽しげに輝いているように映っていた。

特別書き下ろし  メリッサの帰還

『時忘れの都』帰還と祝福の一日

メリッサの帰還と従業員たちの祝意

メリッサが『時忘れの都』へ戻ると、従業員のクロンは彼女を「大奥様」と呼び出迎えた。彼女はその呼称を遠慮し、いつも通りの呼び方を求めたが、ザザとリーアをはじめとする全職員は、彼女とラシードの結婚を心から祝福し、業務が滞りなく進行したことを報告した。

ラシードの帰還と情報漏洩の発覚

ラシードも同行していたが、彼の「サレンツァ家家長」就任の情報が早くも広まっていたことに驚き、ザザとリーアに情報源を問いただした。二人は、暗殺ギルドのワイズに情報を漏らしていたことを認めたが、ラシードは最初から二人の副業を承知して雇っていたと告げ、むしろ状況によっては有用であると語った。

クロンの涙と和解の言葉

情報漏洩を咎める空気の中で、クロンはラシードとメリッサの結婚を心から祝福し、涙ながらに感謝と喜びを表現した。その真摯な姿にラシードは気を緩め、今回の件を不問にし、むしろ普段からの尽力に感謝を述べた。彼は今後もザザ、リーアにメリッサとノールの支援を頼みたいと告げた。

メリッサの今後と新たな配置

メリッサは当面『時忘れの都』に留まることを決意した。緊急時に一方的に去ったことへの責任を感じており、適任者を見つけるまで自らの職責を果たすと語った。ラシードは彼女の判断を尊重しつつも、商都の業務が逼迫しているため、彼女の能力がそちらでも求められていると漏らした。

双子への任命と育成計画

ラシードは、ノールから託された双子の姉弟リゲルとミィナの育成を引き受ける意志を示した。リゲルには自らの仕事を手伝わせ、ミィナには元護衛シャウザの推薦を得て、メリッサの身辺警護を依頼した。二人はそれぞれの役割を光栄に感じ、任務を全うする決意を示した。

祝宴の準備とノールからの手配

クロンは自発的に祝宴を提案し、すでに従業員全員で準備を進めていることを明かした。その準備は、事前にノールが機鳥郵便で依頼していたものであり、彼の心遣いが式場全体に温かい空気をもたらした。ラシードはそれに苦笑しつつも感謝を示し、メリッサと共に笑顔で応じた。

こうして『時忘れの都』は、祝福と感謝に包まれ、ラシードとメリッサの新たな門出を温かく見守る場となったのであった。

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