物語の概要
本作は、前世で大聖女セラフィーナとして生きていた少女フィーアが、転生後の世界で聖女であることを隠しながら騎士として生きる姿を描いた異世界ファンタジーである。ナーヴ王国の第一騎士団に配属されたフィーアは、聖女の力を隠しつつも、魔物討伐や回復魔法の暴走など、数々の騒動を巻き起こす。物語は、彼女の正体を巡る秘密と、黒竜ザビリアとの契約、そして彼の過去に迫る展開を中心に進行する。
主要キャラクター
- フィーア・ルード:前世で大聖女セラフィーナとして生きていた少女。転生後は聖女であることを隠し、騎士として生きる道を選ぶ。
- ザビリア:フィーアと契約を結んだ黒竜。過去に壮絶な経験を持ち、その秘密が物語の鍵となる。
- クェンティン:第四魔物騎士団の団長。長期遠征から帰還し、フィーアたちと共に「星降の森」の探索に向かう。
- シリル:第一騎士団の団長。フィーアの上司であり、彼女の行動に注目している。
物語の特徴
本作の魅力は、前世の記憶を持つ少女が、聖女であることを隠しながら騎士として生きるというユニークな設定にある。フィーアの正体を巡る秘密が、物語に緊張感とユーモアをもたらしている。また、黒竜ザビリアとの契約や彼の過去に迫る展開が、読者の興味を引きつける要素となっている。シリーズ累計発行部数は300万部を突破し、2025年にはTVアニメ化も決定している。
書籍情報
転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す2
著者:十夜 氏
イラスト:chibi 氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2020年5月15日
メディア関連
コミカライズ版『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す A Tale of The Great Saint』が連載中。
スピンオフ小説『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す ZERO』が刊行されている。
2025年にはTVアニメ化が決定しており、公式サイトが公開されている。
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あらすじ・内容
天と地の全ては、ナーヴ王国黒竜騎士団と共に!
念願叶って新人騎士になったフィーアが配属されたのは、エリートぞろいの第一騎士団。
聖女の力を隠し普通の騎士としておとなしくしているつもりが、
思わずベテラン騎士を指揮して魔物を討伐したり、うっかり泉の水を全部回復薬に変えちゃったり…?
そんな時、長期遠征からクェンティン第四魔物騎士団長が帰還し、
「星降の森」で黒竜が目撃されたとの情報が! フィーアたちは探索のため出発するが、
そこで明かされるザビリアの壮絶な過去。そして――。
小説家になろうで、2019年6月~現在ジャンル別年間第1位の超人気作!!
本編大幅加筆&書き下ろしエピソードも大ボリュームでお届け!
感想
前巻の読後感そのままに、今巻もまた笑いとじんわりとした感動が詰まった一冊であった。物語の中心にいるのは、前世で大聖女だったにもかかわらず、それをひた隠して騎士団に身を置く少女・フィーアである。彼女の真面目でけなげな姿勢があまりにも天然で、読んでいるこちらの心をふんわりとほぐしてくれる。
今巻では、第一騎士団というエリート集団のなかで「目立たず過ごす」つもりが空回りし、結局は人並外れた力と行動力で注目を集めてしまうという展開が繰り返された。それがまた愛らしくて、微笑まずにはいられない。とくに、泉の水をまるごと回復薬に変えてしまうという“やらかし”には、思わず笑ってしまった。
そして、物語の中盤からは、第四魔物騎士団長クェンティンの帰還と「星降の森」での探索をきっかけに、黒竜ザビリアの過去が明かされていく。その内容がとても重たく、読み進めるほどに胸が締めつけられる思いがした。普段のコメディ調から一転、深くて重いテーマにぐっと引き込まれた。
ザビリアという存在は、単なる従魔ではない。フィーアと結ばれた契約の裏側には、孤独と痛み、そして信頼があった。その過去を知ることで、彼への見方が大きく変わり、読者としてより深く彼に感情移入できた点は大きな魅力である。
また、騎士団の仲間たちとの関係も少しずつ変化している。騒動のたびに増えるフィーアへの好意と信頼、そしてそれに気づかぬままの彼女の鈍感ぶりが、笑いと温かさを同時に生み出している。とくにシリル団長やザカリー団長とのやり取りには、人と人との距離感に対する作者の巧みな描写が見て取れた。
総じて、本作は「笑い」と「癒し」、そして「切なさ」が丁寧に織り交ぜられた作品であり、読み終えた後にふっと深呼吸をしたくなるような余韻が残った。次巻ではどのような“やらかし”と感動が待っているのか、今から読むのが楽しみでならない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
フィーア・ルード
騎士家ルード家の末娘であり、本作の主人公。前世で「大聖女」として魔王を封印したが、仲間に裏切られ魔族に捕らわれた末に処刑された。転生後もその記憶を持ち、聖女の力を隠して騎士になることを望んでいる。
・所属組織、地位や役職:ナーヴ王国第一騎士団所属
・物語内での具体的な行動や成果:黒竜ザビリアを従魔とし、数々の魔物討伐や騎士団の混乱収拾に関与
・地位の変化:従魔たちや聖女たちに好影響を与える存在として騎士団内で注目されている
ザビリア
フィーアの従魔であり、かつて青竜だったが進化して黒竜となった存在。
過去には仲間と母竜に捨てられた悲惨な生い立ちを持ち、長い孤独を生き延びて名と力を得た。
・所属組織、地位や役職:フィーアの従魔
・物語内での具体的な行動や成果:多数の魔物を一掃する咆哮を放ち、フィーアの命令に忠実に従う
・地位の変化:黒竜となったことで他の竜や魔物から一目置かれる存在に成長した
チェーザレ
アルテアガ帝国の騎士団総長であり、皇帝の命によりナーヴ王国への女神調査に派遣された。
皇帝の私情によって動かされる形となり、騎士団の柱としての職務を超えた行動に巻き込まれている。
・所属組織、地位や役職:アルテアガ帝国騎士団総長
・物語内での具体的な行動や成果:皇帝の外遊に伴い調査団を率いて出立
・地位の変化:国家の重鎮として騎士団を代表する存在
オリア・ルード
ルード家の長女であり、フィーアの姉にあたる。理知的で冷静な性格を持ち、家族内では調整役を担うことが多い。フィーアの従魔契約が発覚した際には、その行動を咎めるよりも擁護に回る柔軟さを見せた。
・ルード騎士家の長女。
・黒竜ザビリアとの契約をフィーアの功績と認め、「成人の儀」の達成を支持した。
・王家との縁談の可能性など、家族の利益にも目を向けた発言をしていた。
アルディオ・ルード
ルード家の長兄で、フィーアに対しては理詰めで接する冷静な人物。感情的になることは少なく、事実に基づいて判断する姿勢を貫く。
・ルード騎士家の長男。
・フィーアの従魔契約について問いただし、契約の正当性や力の程度を論理的に分析した。
・妹の実力を認める場面では慎重な態度を崩さず、兄としての威厳を保った。
ファビアン・ワイナー
侯爵家の嫡男であり、フィーアと同じ第一騎士団に配属された新人騎士。物腰は丁寧で、誠実な性格をしている。フィーアとの交流を大切にしており、たびたび気遣いを見せている。
・侯爵家の嫡男。
・騎士試験で剣を拾ってもらったことでフィーアに感謝し、交流を深めた。
・第一騎士団への新人配属という異例の抜擢を受けた人物である。
オルガ
第一騎士団に関係する人物であるが、具体的な立場や性格の記述は少ない。フィーアとの接点を通じて物語に登場しているが、描写は限定的である。
・詳細な所属や地位の記載なし。
・フィーアと行動を共にする場面で名前が確認されている。
シリル・サザランド
第一騎士団の団長であり、王位継承権第2位の公爵でもある。過去の出来事から総長サヴィスに強い忠義を誓い、“右目”としての役割を果たしている。冷静沈着かつ戦術に優れた実力者である。
・第一騎士団団長、公爵、王位継承権第2位。
・救援要請を受けて戦場に駆けつけ、フィーアの異常な戦術能力を目撃した。
・部下からの信頼も厚く、王国随一の実力者とされる。
デズモンド・ローナン
第二騎士団長であり、伯爵家の嫡男として育ったが、婚約者に裏切られた経験から女性不信となり、他者との関係構築にも慎重な性格を形成した人物である。
・第二騎士団団長を務め、冷徹で職務に忠実な指揮官である。
・第一騎士団長シリルのみを自分と並び立つ存在と認め、互いに信頼を寄せている。
・黒竜ザビリアの従魔問題に深く関与し、フィーアの異常性に困惑しつつも冷静に対処し続けた。
・騎士団長会議での対立、諜報活動の中止宣言、誤解に基づく対応など、精神的にも消耗していた。
・宴席では言葉の綾から「禁忌の名前」を口にし、危険な状況に巻き込まれる一因を作った。
ザカリー
第一騎士団所属の騎士であり、任務に忠実ながらも冷静な判断力と慎重さを兼ね備えていた。
・第一騎士団所属、職位は明示されていないが、複数の重要な会議や行動に参加している。
・黒竜ザビリアを従魔とするフィーアの存在に衝撃を受け、情報共有の範囲を最小限にとどめる決断を下した。
・フィーアに完全には信頼されていないことを自覚しつつも、より信頼される存在を目指して誠実に接した。
・黒竜の角を証拠として提示し、フィーアの危険性と有用性を両面から伝える役割を担った。
ギディオン
第四魔物騎士団の副団長であり、言動に皮肉が多く敵意を示すことがあるが、その裏には不器用な性格が見え隠れしていた。
・第四魔物騎士団副団長を務め、職務においては厳格で皮肉交じりの言動が目立つ。
・フィーアに対し否定的な発言を行ったが、自身も過去に同様の感情を抱いていたことを部下に暴露された。
・団長クェンティンとの意見対立やシリル団長からの叱責を受ける場面が多く、その実力と評価には開きがあった。
・本心では仲間想いであり、騎士としての矜持を持ちつつも言葉足らずな場面が多かった。
クェンティン
第四魔物騎士団の団長であり、魔物や従魔に対する深い知識と情熱を持ちつつも、言動には奇異な面が多く、誤解を招く人物。
・第四魔物騎士団の団長を務め、魔物に関する高度な知識を持ち、独自の哲学を展開している。
・フィーアの魔物知識や黒竜の扱いを高く評価し、次期団長に推薦したが、周囲の猛反発を受けた。
・従魔ザビリアの呼称に関しても厳格であり、名前を呼ぶことに対して制裁を加える姿勢を見せた。
・宴席や会議中でも突飛な発言を繰り返し、周囲から変人扱いされる場面が散見された。
シャーロット
理知的かつ信仰心の強い性格で、聖女の力に対する理解と敬意を持っている。フィーアとの交流を通じて、新たな信仰の形を学びつつある。
・第一騎士団に所属する聖女候補
・フィーアの力に触れたことで、彼女が伝説の大聖女の転生者であることを確信した
・フィーアの秘密を守ると誓い、自身が新たな聖女としての使命を自覚した
レッド=ルビー
アルテアガ帝国の皇帝であり、「創生の女神」フィーアに対して強い執着を示している。感情表現が過剰で、弟たちと共に女神の崇拝に没頭している。
・アルテアガ帝国皇帝
・血拭き布を大切に保管しており、それを誇らしげに語る
・フィーアへの想いが強すぎて、政務よりも個人感情を優先する傾向がある
グリーン=エメラルド
アルテアガ帝国の皇弟の一人で、兄たちと同様にフィーアを「創生の女神」として崇拝している。真面目で優しさも持つが、感情表現が極端である。
・アルテアガ帝国皇弟
・フィーアと行動を共にし、彼女の仲間としての立場を受け入れた
・外遊を希望し、兄弟と共にナーヴ王国への渡航を決意した
ブルー=サファイア
皇弟の一人で、他の兄弟と同様にフィーアに夢中になっている。戦闘力は高いが、フィーアの行動には注意を向けており、助言を与える場面もある。
・アルテアガ帝国皇弟
・怪我をしていなかったため、血拭き布をもらえず落胆した
・女神の調査という名目でナーヴ王国へ密かに同行した
チェーザレ
アルテアガ帝国騎士団総長であり、帝国の秩序と安定を支える重鎮。
皇帝の命令で「創生の女神」に関する調査団の長としてナーヴ王国へ向かう役目を担っている。
・アルテアガ帝国騎士団総長
・外遊に出る皇帝たちの同行者兼監視役として調査団を率いて出発した
・政務と安全を第一に考えつつも、女神崇拝に走る皇族たちに振り回されている
展開まとめ
19 第四魔物騎士団 3
クェンティン団長の異常な反応と従魔に対する畏怖
芸術的なパペットに対する過剰な賞賛
フィーアが差し出した青い鳥型パペットに対し、クェンティン団長はやけに丁寧な口調で称賛した。フィーアはその過剰な反応に戸惑いを覚えたが、ギディオン副団長が率直な意見を述べた瞬間、団長は激怒し、彼の足を踏みつけた。
シリル団長との言い争いと異常行動
シリル団長が皮肉交じりに発言したことで、クェンティン団長は彼を壁際に追い詰めて恫喝した。フィーアが原因不明の異変に困惑する中、団長はザビリアに対しても過剰なまでの賛辞を述べ、異常な言動を繰り返した。
テーブル破壊の犯人探しとフィーアへの誤解
ローテーブルが真っ二つに割れていることに気づいたクェンティン団長は、シリル団長を疑い追及したが、途中でフィーアを犯人と誤解した。結果的にその破壊を好意的に受け取るという支離滅裂な態度を見せた。
従魔ザビリアの名と魔物騎士団の掟
名前に関する助言とギディオンへの制裁
従魔の名前を安易に他人が呼ぶことへの危険性を説いたクェンティン団長は、アルファベットでの呼称を提案した。それに反発するギディオン副団長がザビリアの名を呼びかけると、団長は即座に制裁を加えた。
業務報告と静かな退場
騒然とする中、フィーアは状況を察してその場を去ることを決意した。業務進捗や回復薬の件について関係者へ手短に報告を済ませ、場を収めて退出した。
シャーロットとの再会と聖女としての導き
怪我を負った魔物たちの回復
従魔舎で再会したシャーロットは、魔物たちの驚異的な回復速度に驚愕した。フィーアが持つ緑の回復薬の効果を目の当たりにし、彼女の長年の理想が実現されたことに涙した。
聖女の力の覚醒と告白
シャーロットは過去に受けた上位聖女の指導との違いを実感し、フィーアが真の聖女であると確信した。さらに、彼女が伝説の大聖女と同じ容姿を持つことから、その正体を確信するに至った。
フィーアへの誓いと役割の継承
シャーロットはフィーアの秘密を守ると誓い、自身が新たな聖女として導かれたことに深い感謝を示した。フィーアはその思いに応え、聖女としての自覚を育てるよう導いた。
魔物専用の回復薬という提案と実用的な判断
緑の薬の秘匿と合理的運用
シャーロットは、緑の回復薬の効果が強大すぎるため、「魔物専用」とすることで外部の疑念を回避すべきだと提案した。フィーアはその発想に感心し、当面はそれに従うことにした。
クェンティン団長との再会と食堂での問答
食事中の謎と従魔の証への関心
クェンティン団長と再会したフィーアは共に食堂へ向かった。団長は食欲を失うほど緊張しながら、彼女の左手首にある従魔の証に強い関心を示した。その証は完全な一本線であり、団長自身の不完全な証と比較して劣等感を抱いた。
ザビリアとの同調と真実の告白
完全同調の関係と一方通行の供給
クェンティン団長の問いに対して、ザビリアはフィーアとの関係が完全調伏であると答えた。魔力と生命力はザビリアからフィーアへ一方通行で供給されており、感情や思考も共有されていた。
黒竜への仄めかしと黙契の成立
クェンティン団長はザビリアの正体を明言こそしなかったが、幼生体や空間を切り裂く能力から、彼が黒竜である可能性に気づいていた。フィーアもまたその意図を汲み、互いに黙契を交わすように明言を避ける判断をした。
御前会議と旧知との再会
会話の最中、御前会議への出席を求めるデズモンド第二騎士団長が現れた。クェンティン団長はフィーアに同行を依頼し、彼女もそれを了承したことで、次なる場面へと移行することとなった。
20 騎士団長会議
騎士団長会議と“黒き王”をめぐる騒動と決断
デズモンド団長の導きと会議室への到着
デズモンド第二騎士団長の案内で、フィーアとクェンティン団長は御前会議へと急いだ。道中、フィーアの従魔ザビリアは騎士服の中で眠りに落ち、彼女は軽くその背を叩きながら進んだ。到着した会議室には各騎士団の団長たちが集い、準備が整いつつあった。
ザカリー団長の歓迎と勘違いによる騒動
第六騎士団長ザカリーは、フィーアに親しげに接したが、彼女を以前親しく会話した相手と勘違いしていた。さらに、彼女がクェンティン団長と食事を共にしたと知り、彼の濡れ髪の原因が水を吹きかけられたためと聞いて誤解が広がった。
クェンティン団長の誤解を招く発言と弁解
クェンティン団長は、食事中にフィーアの左腕に触れたことをうっとりと語り、周囲の騎士たちからは変質者と見なされる発言を連発した。フィーアは慌てて弁解し、彼の話し方を痛烈に批判したが、彼は恐縮しつつも要領を得ない謝罪を繰り返した。
サヴィス総長の介入と異常の沈静化
サヴィス総長の到着により場の空気は一変し、フィーアは彼に助けを求めて状況を説明した。総長はクェンティン団長の異常行動を「長期遠征の疲労によるもの」と断じ、彼の奇行をやんわりと収束させた。
御前会議における所属争いとフィーアの選択
会議開始に際し、フィーアの随伴先を巡ってクェンティン、シリル、ザカリーの各団長が譲らぬ姿勢を見せた。混乱の中、フィーアは美少女かつ豊満な容姿を持つクラリッサ第五騎士団長に魅せられ、同行先として彼女を選択した。
騎士団長会議の開始と黒き王の議題
会議が開始され、今月の予定や予算といった定例議題に続き、黒き王の捕獲が議題として取り上げられた。かつて幼生体であった黒き王はすでに成長しており、当初予定されていた捕獲作戦は断念されることとなった。
計画変更と討伐隊の規模調整
クェンティン団長は、捕獲ではなく霊峰黒嶽への誘導を目的とした作戦へと方針転換を提案した。隊の規模は、敵意を抱かせぬよう少数にとどめ、魔物騎士団から15名、第六騎士団から35名を選抜する案が承認された。
クラリッサ団長の懸念と黒き王への対応案
王都警護を担うクラリッサ団長は、黒き王が王都に近づくことへの強い懸念を示し、万一の際には自身が報復すると予告した。一方、ザカリー団長は黒き王の記憶混濁による行動である可能性に言及し、かつての居場所にあった遺物を見せて誘導する案を示した。
フィーアとクェンティンの無言の合意と挑発
その提案に応じる形で、フィーアとクェンティン団長は視線を交わし合意した。これを見たシリル団長は「会議中に団員に色目を使うな」と皮肉り、クェンティンは視線だけで意思疎通できる関係性を誇示して挑発した。
クラリッサ団長の観察とデズモンドの嘆息
クラリッサ団長は二人のやり取りを愉しげに観察し、焦らすことの効果を語った。一方、デズモンド団長はその様子に呆れ、「災厄を招くのはいつも女性だ」と嘆息した。イーノック団長は終始沈黙を守っていた。
討伐隊の編成決定と会議の閉会
ザカリー団長が会議を引き締め、翌朝の出発を決定した。総長がこれを承認し、会議参加者たちは一糸乱れぬ動作で敬礼し、閉会となった。サヴィス総長の発声に続き、全員がナーヴ王国黒竜騎士団の名のもとに唱和し、儀礼を終えた。
21 黒竜探索 1
星降の森への出発と従魔たちとの邂逅
出発前の準備とザビリアの装い
フィーアは黒竜探索という名目の星降の森への遠征に向け、早朝から準備を整えていた。ザビリアには真紅のリボンと花冠を飾り、可愛らしさと強さの両立を意識した装いを施した。
騎士たちとの合流と団長たちの存在感
集合場所に到着すると既に多くの騎士が集まっており、フィーアは旧知の第六騎士団の者たちと親交を深めた。中でもザカリー団長とクェンティン団長は圧倒的な存在感を放っていた。
クェンティン団長の接触と周囲の誤解
クェンティン団長はフィーアの居場所を一目で見抜き、打ち合わせの申し出をした。その様子に周囲の騎士たちは驚き、彼の通常と異なる言動に混乱を見せた。
作戦会議と黒き王への確信
三者による作戦立案と役割分担
ザカリー団長、クェンティン団長、ギディオン副団長、そしてフィーアを交えて作戦会議が行われた。第六騎士団は精鋭三十五名、魔物騎士団からは翼付きと翼なしの従魔十五頭が投入されることが決定された。
黒き王との遭遇確率と作戦方針
ザカリー団長は遭遇確率を一割以下と見積もったが、クェンティン団長は「十割」と断言した。誘導戦の方針が採られ、黒き王との接触時は敵意を示さず、従魔による霊峰黒嶽への誘導が想定された。
魔物との接触回避と連携訓練
探索中の魔物との接触は可能な限り避ける方針が決まり、その間に第六・第四騎士団間の連携を図る意図も共有された。フィーアは上位魔物との戦闘の可能性を指摘され、慎重な行動を求められた。
従魔たちとの交流とフィーアの影響力
他の従魔たちへの挨拶とザビリアの自尊心
フィーアは聖女待機の時間を利用し、ザビリアと共に他の従魔たちに挨拶回りを開始した。その中でザビリアの可愛さを再認識し、独占的な愛情を表現したことで、彼の拗ねた感情をなだめることとなった。
負傷従魔への回復と想定外の反応
従魔たちの中で特に美しいグリフォンの負傷に気づいたフィーアは、魔法で即座に治癒した。さらに、他の従魔たちにも同様の処置を施したことで、従魔たちが次々とフィーアに懐くという異常な事態を引き起こした。
団長と副団長の困惑と騎士団の反応
従魔たちの様子に驚愕したクェンティン団長とギディオン副団長は、フィーアの行動に衝撃を受け、誤解と過剰な感動を重ねた。団長はフィーアの手を「黄金」と称賛し、副団長は深い反省とともに辞任を申し出る騒動に発展した。
騎士団内の混乱と隊列編成の決定
ザカリー団長の介入と状況整理
騒動を見たザカリー団長が介入し、混乱する団員たちを一喝した。団長は聖女の到着に伴い、従者としてのフィーアの役割を再確認し、指揮権の明確化を促した。
隊列編成とフィーアの所属決定
参加者は三小隊に分けられ、それぞれに指揮官が任命された。クェンティン団長とギディオン副団長はフィーアの配属を求めたが、ザカリー団長の判断により彼女はザカリー隊に配属された。
星降の森への進軍と遭遇戦の開始
森への進軍と夢見鳥との遭遇
隊列は順に森へと進軍し、フィーアの隊は最初の魔物「夢見鳥」と遭遇した。夢見鳥は幻覚を操る厄介な魔物であり、戦闘力は高くないが戦術的に危険な存在であった。
幻覚の発動と変化の兆し
遠距離攻撃により撃破を試みたものの、夢見鳥は騎士たちの周囲を飛行して幻覚空間を形成し始めた。次第にその体は緑に染まり、「夢緑」へと変化しつつあり、Aランク相当の危険度へと進化していった。
青竜との戦闘とフィーアの戦術支援
夢緑の突進と幻覚空間の罠
夢緑は地面を蹴って騎士たちに突進し、視覚・聴覚・嗅覚を狂わせる幻覚空間を展開した。ザカリー団長の指示で罠魔法が仕掛けられたが、夢緑の実体は幻覚とは異なる位置にあり、罠は発動せず、騎士たちは幻に対して攻撃を始めた。恐怖が支配する中、幻の外側で爆発が起き、夢緑の跳躍が確認された。
フィーアによる戦術的指示と従魔の活用
フィーアは控えていた従魔たちの視線が自身に向いていることに気づき、契約外ながらも命令を試みた。彼女の指示に従って、翼を持つ3頭の従魔は夢緑の上空に飛び立ち、実体の位置を可視化する役割を担った。幻覚の範囲外に出ることで、夢緑の位置が明らかとなった。
夢見鳥への変化と魔法による防御
夢緑は即座に夢見鳥に変化し、従魔たちを攻撃しようとしたが、フィーアが施した檻と隠蔽魔法に阻まれ、攻撃は防がれた。この魔法は従魔を保護するために用意されたものであり、夢見鳥の攻撃は無力化された。
指揮の発動と幻覚空間からの脱出
フィーアはザカリー団長に向けて、夢見鳥の位置と戦術指示を叫び、幻覚範囲からの脱出を促した。団長の指示のもと、騎士たちは混乱を乗り越えて退避に成功した。夢見鳥は幻覚空間にとどまり、従魔たちと対峙する状況となった。
ザカリー団長との掛け合いと幻覚解除後の再戦
幻覚解除と団長への揶揄
幻覚が解かれた後、フィーアは笑顔で再戦の開始を告げた。その様子にザカリー団長は動揺し、学生時代の鬼教官と彼女を重ねて錯乱した様子を見せた。団長の過去の記憶が蘇り、フィーアの態度に畏怖の念を抱いた。
重力魔法による夢見鳥の撃墜
フィーアは《身体強化》で夢見鳥の体重を倍加させ、飛行を不可能にした。降下した夢見鳥に対し、フィーアはザカリー団長にとどめを依頼し、団長は見事に一太刀で夢見鳥を討伐した。
次なる魔物の襲来と指揮官としての判断
新たな魔物の出現と混乱
夢見鳥討伐直後、索敵隊から7時方向にバイオレットボアー2頭とフラワーホーンディア1頭の接近が報告された。さらに、東と西からギディオン副団長とクェンティン団長から救援要請の笛が響いた。
各隊の戦力分析と援軍の判断
フィーアはギディオン隊の魔物は自己解決可能と判断し、援軍不要と伝達。クェンティン隊には竜が2頭出現しているとの情報から、即時の援軍が必要と判断し、ザカリー団長に支援を促した。
部下たちの成長と独立行動の許容
騎士たちはフィーアの意図を汲み、団長抜きでも魔物と戦う決意を固めた。彼らは鹿肉祭りへの意欲を燃やし、自らの成長を示す行動をとった。フィーアは彼らを称賛しつつ、クェンティン隊への出発を決意した。
青竜出現とクェンティン団長の奮闘
クェンティン団長の無謀な対峙
クェンティン団長は青竜とわずか10メートルの距離で対峙していた。フィーアはその行動に驚愕し、命を賭して従魔を救おうとする姿勢に驚嘆した。
ザビリアの過去と戦いたくない理由
ザビリアはかつて青竜であり、千年を生きて黒竜となったことを明かした。そのため、同族との戦闘を避けたいと語り、フィーアは彼を思いやり戦闘への参加を請け負った。
青竜戦とグリフォンの救出
団長たちの連携攻撃と従魔の解放
クェンティン団長とザカリー団長は連携して青竜に攻撃を加え、グリフォンの拘束を解いた。グリフォンは負傷しながらも飛び立ち、団長を守る位置に留まった。
退避戦の開始と青竜の反撃
騎士たちは団長の指示で退避を開始し、団長たちは殿として青竜を引きつけた。しかし、青竜は空を飛び、逃げる騎士たちに急襲をかけてきた。従魔たちや弓矢使い、魔道士の支援も空しく、青竜はフィーアを狙って急降下してきた。
黒竜の登場とフィーアの救出
フィーアへの急襲と黒竜の庇護
フィーアは青竜の直撃を受けそうになったが、その直前に黒竜ザビリアが現れ、彼女を庇うように立ちはだかった。黒竜の登場により、戦況は新たな局面を迎えることとなった。
【SIDE】黒竜ザビリア
ザビリアの過去
双子としての誕生と母竜からの拒絶
ザビリアは双子の卵として誕生し、限られた栄養を分け合うために自ら体を小さく育てることで孵化に成功した。しかし兄竜は栄養を得るために彼の片翼を食らい、母竜も片翼の彼を見限って放置した。ザビリアは殻をまとったまま洞窟で待ち続けたが、母は二度と戻らなかった。
生き延びるための孤独な闘争
飢えに耐えかねたザビリアは洞窟を出て、生きるために泥水や死肉をあさる生活を送った。竜としての誇りや名前を持たぬまま、ただ生き延びることを目標に1年を過ごし、次第に力を付けていった。
青竜の群れとの生活と成長
やがて青竜の営巣地にたどり着いたザビリアは、仲間として迎え入れられた。最下位の序列に甘んじながらも、実戦経験を積んで力を高め、10年後には頭領に次ぐ戦力となった。仲間の信頼も厚く、支援要請が集中する存在となった。
フェンリルの襲撃と頭領の死
ある夜、群れはフェンリルの大群に襲われ、頭領は致命傷を負った。ザビリアは頭領を救おうと奮戦し、重傷を負った頭領から名前と力を継承した。名を持たなかった彼は、ようやく「ザビリア」としての存在を得た。
翼の再生と黒竜への変化の始まり
名を得たことでザビリアの体は青く輝き、失った翼も再生された。空を飛び、初めての飛翔を経験し、仲間たちを率いて洞窟へ戻った。そこでは兄竜と母竜の群れと再会したが、旧交を温めることはできなかった。
領地の共有と頭領としての責務
兄竜の群れと共に一つの洞窟を共有しつつ、ザビリアは10頭の群れを率いる頭領となった。彼は力をもって仲間を守ることを誓い、営巣地の確保に奔走した。
兄竜の襲撃と仲間の裏切り
ある嵐の夜、兄竜とその仲間に奇襲され重傷を負ったザビリアは、助けを求めるが自群の仲間たちは裏切っていた。彼らはザビリアが前頭領の力を「奪った」と断じ、共謀して彼を排除しようとした。雌竜たちも静観し、彼の存在を見限っていた。
群れからの離脱と黒竜への転生
自らの守る価値を見失ったザビリアは、激しい雨の中で群れを去った。彼は霊峰黒嶽にたどり着き、そこで千年を過ごすことで黒竜へと変化した。黒竜としての再誕を繰り返しながらも、孤独な王として生きていた。
黒フェンリルの襲撃とフィーアとの邂逅
千年に一度の弱体化と死の淵
黒竜となったザビリアは千年に一度の弱体化期を迎え、黒フェンリルとその群れの襲撃を受けた。傷を負い、命を繋ぎ止めるために南西へと逃亡するが、力尽きて森に墜落した。
フィーアによる救済と聖女の力
幼体化して倒れていたザビリアは、フィーアという少女に助けられた。彼女は聖女としての力で彼を蘇生し、その圧倒的な奇跡にザビリアは深く心を打たれた。彼は初めて誰かに隷属したいと心から願い、フィーアと契約を交わした。
守護者としての覚醒と新たな誓い
フィーアへの忠誠と愛着
フィーアは過去の聖女としての迫害に怯え、自らの力を隠そうとしていた。ザビリアは彼女の真の姿を知り、彼女を守ることを己の使命とした。フィーアの存在は、かつての青竜の仲間とは異なり、命を懸けてでも守りたいものであった。
魔物たちの襲撃とフィーアの危機
フィーアの甘い血の匂いに惹かれて魔物たちが群がり、彼女は命の危機にさらされた。ザビリアは黒竜の姿となって彼女を守り、二度と仲間を失わない決意を新たにした。
聖女としての本質と誤認される強さ
フィーアは聖女としての力を発揮しながらも、自覚が乏しく周囲から誤解されていた。その力は常人には想像すらできず、結果として「正体を見抜けない」状況を生んでいた。
ザビリアの決意
ザビリアはフィーアの守護者であることを運命として受け入れた。彼女のために竜王となることを誓い、世界で最も価値ある存在を、命を懸けて守る覚悟を固めた。彼の物語は、孤独の果てに出会った一人の聖女によって、真の意味を得たのである。
22 黒竜探索 2
黒竜の覚醒と別れの決意
黒竜ザビリアの登場と威圧的な対峙
フィーアと騎士たちの前に現れたのは、圧倒的な威容を誇る黒竜ザビリアであった。上空に舞い上がった彼は、敵対する二頭の青竜に向けて咆哮を上げ、その圧力を抑えるためにフィーアは音声遮断魔法を展開した。
黒竜と少女の信頼のやり取り
ザビリアはかつて青竜であったがゆえに、同族とは戦いたくないと語っていた。だが、フィーアがその気持ちに理解を示し、今は騎士たちに任せるよう告げると、彼は静かに彼女の背を押すように見守った。
騎士たちの混乱と畏怖
黒竜の存在に騎士たちは動揺し、フィーアとの親しげなやり取りに混乱した。一部は幻覚を疑い、一部は神聖な存在として拝んだ。混乱の中、フィーアは強化魔法を準備したが、その瞬間、ザビリアは後ろから彼女に額を寄せてきた。
ザビリアの覚悟と再決意
ザビリアはフィーアへの思いを語り、自らの使命は青竜との和解ではなく、彼女を守ることだと再確認した。そして、彼女の返事を待つことなく、再び大空へと飛び上がった。
青竜との戦闘と圧倒的勝利
一頭目の青竜との交戦と瞬時の決着
空中で青竜二頭と対峙したザビリアは、迷いなく片方を狙って襲い掛かり、その首元に一噛みを加えた。その攻撃は青竜を真っ二つにし、重力に引かれて落下した巨体が騎士たちの近くに叩きつけられた。
怒り狂うもう一頭の青竜との交戦
番を殺された怒りで突進してきたもう一頭の青竜を、ザビリアは尻尾で弾き飛ばし、直後に口から炎の柱を放って喉元を貫いた。その攻撃は青竜を絶命させ、背後の森さえも黒焦げにした。
黒竜王の証と旅立ちの決意
角の出現と王になる決意
フィーアのもとに戻ってきたザビリアの額には、かつてなかった一本の角が生えていた。ザビリアはこれを王になるための第一歩だと語り、将来的に竜たちを統べる「竜王」を目指すと宣言した。
自らの角を折り、騎士団に託す
王の証とも言える角を自らの前脚で折り、それを騎士団長たちの足元へと投げ渡したザビリアは、それを「駄賃」と呼び、フィーアを守る剣に使えと命じた。クェンティン団長はその重みに感極まり、命を懸けて彼女を守ると誓った。
契約の真実と想いの告白
フィーアとの繋がりと警告
ザビリアはフィーアと命を共有していることを明かし、彼女に危険が及べば自らが先に絶命する仕組みになっていると語った。そして、無茶をせずに生きていてほしいと願いを込めた。
再会の約束と角を折る意味
フィーアに対し、再会の約束を交わしたザビリアは、「王になるには角が三本必要だ」と語りつつ、自分の成長が未完成であることを認めた。今はまだ「守れる存在」として出直すと語り、角を折ることで一時の別れを示した。
黒竜の離脱と騎士たちの余韻
飛び去る背中と儀式の失念
ザビリアが飛び去っていった後、クェンティン団長は慌てて儀式用の霊峰黒嶽の石を投げたが、時すでに遅く、形式的な手順だけが辛うじて守られたに過ぎなかった。
空を見上げる想いと別離の余韻
騎士たちは皆一様に呆然とし、ザビリアの飛び去った空を見上げ続けた。フィーアもまたその背中に別れを告げ、黒竜の誇り高さと優しさ、そして自分だけの友としての姿を心に焼き付けていた。
23 黒竜探索後始末
黒竜との別れと隊の再編
ザビリアとの別れとぼんやりする騎士たち
黒竜ザビリアが去った空を、フィーアと騎士たちは呆然と見上げていた。皆が夢見心地のまま動けずにいる中、ザカリー団長が最初に我に返り、錯乱した騎士たちを「幻覚と幻聴の影響」として落ち着かせようと指導を始めた。
フィーアへの名指しと異常認定
ザカリー団長はフィーアにも「錯乱している」と断定し、他の騎士たちもそれに同意した。動揺したフィーアは自身の正気を疑い始め、周囲の視線に戸惑いながら団長の指示に従った。
作戦の再編とフィーアの追従
ザカリー団長は部隊を再編し、捜索・合流・支援の三隊に分割した。フィーアには個別に「ついてこい」と命じ、再び部下と合流するため東へ向かって移動を開始した。
黒竜の影響と戦況の変化
戻った先の隊の様子と魔物の撤退
フィーアとザカリー団長が合流した隊の騎士たちも、黒竜の戦いに圧倒され呆然としていた。既に戦闘は終わっており、目に映るのは一体の魔物の死体のみで、他は黒竜の登場により逃走したと報告された。
隊長代理の感動と黒竜への畏怖
隊長代理はザカリー団長の無事を喜び、黒竜と青竜の空中戦に全員が圧倒され、ただ見守るしかなかったと述懐した。黒竜の気まぐれによって生き延びたという実感が彼らの中に深く残っていた。
今後の警戒と箝口令の指示
ザカリー団長は、黒竜の影響で当面魔物の接近はないと判断しつつも、予測不能な動きに備えるよう部下に命じた。また、戦闘に関する内容、とりわけ黒竜の存在に関しては箝口令を敷くよう徹底させた。
合流・撤退とザカリーの疲労
クェンティンとの合流とさらなる称賛
ザカリー団長はギディオン隊との合流に向かう途中、既に撤退していたクェンティン団長らと出会った。クェンティンは黒竜が魔物を追い払ったと熱弁し、ザカリーに敬意を表した。ザカリーはややうんざりしつつも、その評価を受け入れた。
森の離脱と落胆
ザカリー団長は森の戦闘が早期に終結したことを残念がり、用意した野営道具が無駄になったことに肩を落とした。数日間の行軍を覚悟していたにもかかわらず、わずか1時間の滞在で森からの撤退となった。
再編と尋問の予感
昼食の指示と特別な呼び出し
森の入り口に戻った後、ザカリー団長は隊ごとに昼食を指示したが、フィーアを個別に呼び出し、自身とクェンティンとの三者昼食を命じた。強引に襟を掴まれたフィーアは抵抗するも、受け入れざるを得なかった。
フィーアの動揺と団長たちの意図
フィーアは一人でザビリアとの別れを考える時間が欲しかったが、ザカリー団長は彼女の悩みを聞くと申し出た。その様子はあたかも「尋問」のようであり、フィーアは対ザカリー・クェンティン連合との対話において自らの敗北を予感していた。
24 第六騎士団長主宰査問会
ザカリー団長との対話と信頼の構築
ザカリー団長の疑問とフィーアの過剰な否定
クェンティン団長の唐突な称賛から会話が始まり、ザカリー団長はフィーアに黒竜との関係を問い質した。フィーアは自身が“はげマッチョ教官”と間違えられていると早合点し、血縁否定と髪の毛の話題に熱弁を振るった。騎士団長2名の真剣な空気は徐々に崩れ、場は完全に茶番劇と化した。
取り乱すザカリー団長とフィーアの無邪気な振る舞い
錯乱状態を訴えるフィーアと混乱する団長たちの応酬により、会話は一層混迷を深めた。ザカリー団長は常識の崩壊に頭を抱え、クェンティン団長は狂信的な解釈でフィーアを女神と称え、議論の核心は一向に進まなかった。事態収拾のため、フィーアは食事の準備を申し出た。
昼食の受け取りと騎士たちの態度変化
騎士たちの感謝と「沈黙の誓い」
昼食の配膳所に向かったフィーアは、クェンティン隊の騎士たちから不器用な感謝の言葉を受け取った。彼らは「沈黙の誓い」により真実を語れず、それでもフィーアに敬意を抱いていた。フィーアは無邪気に応じ、和やかな雰囲気が生まれた。
食事を通じた和解と信頼
ザカリー団長はフィーアに白パンを渡し、彼女の快活な様子に呆れながらも安堵した。フィーアが楽しげに食べる姿を見た団長は、彼女の存在に感謝の意を表し、正式に礼を述べた。
隠された力と信頼の誓約
ザカリー団長の告白とフィーアの動揺
ザカリー団長は、フィーアが異常な情報把握や戦術指揮を行った点を挙げ、彼女が力を秘めていたことを見抜いたと語った。フィーアは動揺しつつも否定できず、クェンティン団長は黒竜ザビリアの力であると推察した。
黒竜の関与と力の共有
フィーアはザビリアから情報を得ていたこと、従魔を統制していたことなどを素直に認めた。だが、聖女としての力までは明かせず、動悸と過呼吸に陥ってしまう。
苦悩と誠意のすれ違い
聖女の正体を明かせない葛藤
前世での記憶に基づき、フィーアは自らの正体が明かされれば多くの者が命を落とすと理解していた。強者たちでさえ魔王の側近には敵わず、ザカリーや仲間たちを危険に巻き込む恐怖から告白を拒み続けた。
ザカリー団長の誓約とフィーアの沈黙
ザカリー団長は騎士の十戒に則り、命を懸けてフィーアの秘密を守ると宣言した。その誠意にフィーアは胸を打たれたが、やはり真実は語れなかった。苦悩の中で涙を流しながら沈黙を選び、ザカリーは彼女の意思を尊重した。
別れの支度と報告への配慮
城への帰還命令と見送りの意志
ザカリー団長はフィーアに休養を命じ、騎士を数名同行させると告げた。フィーアは一人で帰れると主張したが、団長の配慮を受け入れて出発の準備に移った。
サヴィス総長への報告と気遣い
最後にザカリー団長は、サヴィス総長への報告が避けられないことを伝えつつも、フィーアに不利益を与えない内容にすると約束した。フィーアは、自ら何も語っていないにも関わらず気遣いを示し続ける彼の姿に深く感謝し、心中でため息をついた。
【SIDE】第六騎士団長ザカリー
騎士団入団式での衝撃
総長との模範試合とフィーアの初陣
ザカリーは入団式において、総長との模範試合に臨む新人フィーアの姿を目撃した。当初は頼りなく映ったが、彼女は重く鍛え抜かれた剣を使い、的確に総長の弱点を突いた攻撃を仕掛けた。その試合は総長に勝敗をつけさせぬまま終わり、彼女の洞察力と剣技の非凡さが注目された。
宴席での混乱と驚異的な指揮能力
問題視された魔物討伐の主導者
フィーアは第六騎士団の魔物討伐に参加し、討伐中にその指揮を執っていたことが発覚した。第一騎士団長シリルは激怒し、指揮を任せた騎士たちを厳しく追及した。ザカリーは状況を把握できぬまま驚愕し、フィーアの説明に呆然とした。
フィーアの異常な洞察力
フィーアは図鑑と夢の記憶を基に、初見の魔物の行動と残存生命力を読み切り、的確な指揮を執ったと主張した。これにはザカリーも信じがたい思いを抱いたが、彼女の能力の片鱗を否応なく認識させられた。
異端の存在としてのフィーア
筆頭団長への反抗と異質な存在感
恐れを抱く騎士たちを尻目に、フィーアは筆頭団長シリルに堂々と意見を述べた。その態度は騎士としての範疇を逸脱し、周囲に大きな衝撃を与えた。ザカリーは彼女の存在が既に常識を超えたものになっていると感じた。
筋肉と体型の話題での動揺
宴席の中でフィーアが自らの体型について語った際、ザカリーは返答に窮し、騎士としてのあり方に一瞬疑問を抱いた。彼女の率直さは時に騎士の威厳すら崩壊させるものであった。
変貌する周囲と拡がる影響
クェンティンの変質と騎士団の混乱
その後、フィーアと共に行動していた第四騎士団長クェンティンが奇行に及び始め、ザカリーはその変化を「病」とまで表現した。御前会議の場でもクェンティンやシリルがフィーアを巡って争う姿が見られた。
新たな崇拝者たちの出現
副官ギディオンまでもがフィーアに跪く姿を目撃し、ザカリーは彼女の影響力の強さと、周囲の異常なまでの変化に危機感を抱き始めた。
黒竜との邂逅と真実の片鱗
圧倒的な指揮と冷静な判断
黒竜との接触に際し、フィーアは常に冷静さを保ちつつ正確な指示を出した。従魔たちも彼女を中心に動いており、フィーアが真の指揮官であることは明白だった。
青竜が示した価値の所在
青竜が最初に狙ったのはザカリーでもクェンティンでもなく、フィーアであった。これはフィーアがその場で最も価値ある存在と見なされた証左であり、彼女の正体に対する疑念をさらに深めた。
従魔・黒竜の存在とその危険性
黒竜の忠誠と従魔の証
黒竜がフィーアに見せる忠誠心は絶対的なものであり、彼女のために角を落とすという行動まで見せた。クェンティンの説明により、その従魔の証がいかに異常かが明らかになった。
フィーアの危うさと守護者の責務
黒竜の力は、フィーアの感情にすら反応しうる危険性を孕んでいた。そのため不用意な言動が命を危うくする可能性すらあった。ザカリーは、自分の発言でフィーアを苦しませたことを悔い、彼女を守る強さが必要であると痛感した。
信頼と秘密のバランスを問う対話
慎重な報告と判断の難しさ
情報の取扱いについて、フィーアを守るために総長への報告は限定的にする方針を採った。情報共有の範囲は慎重に選ばれ、総長が危険に晒されぬよう配慮された。
黒竜との距離感と報告戦略
黒竜が残していった角を通じて、最低限の共有は許可されていると推察されたが、確信は乏しく、慎重を期す必要があった。ザカリーは全情報をシリルとデズモンドにのみ伝え、他者への展開は時期を見て判断することに決めた。
フィーアという存在の本質と希望
情愛と信念に基づいた行動
フィーアの行動は、すべて隠された力に根差していたが、その力の使い道は常に他者のためであった。騎士たちを守るため、自身の正体を犠牲にしてまでも動く彼女の姿に、ザカリーは深く感謝した。
騎士としての自覚と誓い
ザカリーは、自分がまだフィーアから完全に信頼されていないことを自覚し、彼女が心を許せる存在になれるよう、より強く誠実な騎士になる決意を新たにした。
【挿話】縮小騎士団長会議
御前会議での緊張と黒竜の暴露
異常な早期帰還に対する疑念
ザカリーはクェンティンとギディオンを伴って御前会議に出席したが、その早すぎる帰還に対し、シリルとデズモンドは強い疑念を抱いた。任務完遂報告に対して信じ難いという反応が続き、ザカリーは第一級秘匿情報の存在を示唆しつつ、二人に覚悟を問うた。
黒竜従魔の事実と反発
ザカリーはフィーアの従魔が黒竜であると明かし、クェンティンもこれに同調した。だが、デズモンドはその荒唐無稽な話に強く反発し、シリルも疑念を拭い切れなかった。
黒竜の角による証拠提示
ザカリーは証拠として黒竜の角を披露し、その魔力吸収率と物質の異様さから、シリルたちも言葉を失った。角はフィーアへの忠誠の証として黒竜自らが与えたものであった。
黒竜との関係と危険性の分析
力でなく“魅了”による従属
黒竜との契約は、フィーアが幼体状態の黒竜を救ったことに起因していたが、回復薬だけでは説明がつかず、真相は不明のままであった。ザカリーは力による支配ではなく、黒竜の同調による従属だと解釈した。
黒竜の自律的判断と危険性
黒竜はフィーアの感情や思考を距離を問わず受信できる状態にあり、場合によっては独断で敵意を排除する可能性があると警告された。この「過保護」な従魔の存在は、周囲の命にも直結しかねない危険因子であった。
騎士団長らの混乱と混成案の発生
魔物知識の不足による辞意表明
ギディオンは自身の無知を恥じ、第四団副団長職を辞する意志を表明。さらにクェンティンも同様に団長職を辞し、副団長から再出発すると主張した。
フィーアを団長に推薦する提案
クェンティンはフィーアの魔物知識と黒竜を従える能力を根拠に、彼女を次期団長として正式に推薦した。この提案にザカリーとデズモンドは強く反発したが、シリルの静かな魔法行使により、議論は封殺された。
騎士たちの疲弊とフィーアの謎行動
屈辱と困惑のなかでの宴会提案
シリルはフィーアの団長就任を事実上却下し、会議はうやむやのまま終了した。デズモンドは憤慨しつつも、ザカリーの宴会提案に乗ることで気持ちの整理を図った。
芝生の上で転げるフィーア
会議後、一同が中庭で見かけたのは、芝生の上で奇声を上げて転がるフィーアの姿であった。彼女は回復薬を試していたが、過去に痛みで服用を止めたことがあり、今回は痛みに耐えて完治させようとしていた。
団長昇格の現実性と皮肉な副団長像
フィーアの騎士団長就任への懐疑
デズモンドはフィーアの団長就任に強く否定的であり、常識や察する力の欠如などを問題視した。一方、クェンティンはその“仕事を残す”姿勢に副団長としての支えがいがあると称賛した。
【SIDE】第二騎士団長デズモンド
黒竜とフィーアに翻弄されるデズモンドの一日
過労の中で始まる縮小騎士団長会議
デズモンド・ローナンは、24時間勤務の末に早退を企てていたが、間一髪でザカリーからの緊急招集を受けた。内容は第一騎士団の新人騎士フィーアの従魔が黒竜であるという、極秘中の極秘事項であり、縮小騎士団長会議として秘密裏に対処されることとなった。
驚愕の事実と苛立ち
フィーアが大陸最強の魔物である黒竜を従えているという事実に、デズモンドは怒りと困惑で精神が揺さぶられた。黒竜は未成熟でありながら青竜を圧倒し、フィーアと生命を共有しているという衝撃的な情報に、彼は乾いた笑いしか返せなかった。
黒竜の目的と自分への警告
黒竜はさらに高みを目指し、他の竜を従えるべく旅立ったと伝えられた。また、デズモンドにはフィーアと黒竜の関係を「仄めかす」役割が割り振られたが、下手に知りすぎれば命の危険もあると聞かされ、戦慄を覚えた。
宴席での混乱と禁忌の言葉
名前を口にしてしまった過失
宴の席でフィーアと出会ったデズモンドは、彼女の口から「ザビリア」という名前が自然に出たことで、黒竜の真名をうっかり口にしてしまう失態を犯した。契約主以外が従魔の名を呼ぶのは禁忌とされており、デズモンドは死を覚悟した。
フィーアの無自覚と周囲の反応
フィーアは無邪気にザビリアについて語り、黒竜の危険性にまったく頓着していなかった。これに対してデズモンドは絶望し、シリルから国王賜与のペンまで差し出される始末となった。死を意識する中、デズモンドはシリルに助けを求めたが、過去の件を持ち出され軽くあしらわれた。
騎士団長たちとの交流と内心の変化
シリルとの和解と信頼の再確認
デズモンドはシリルにご機嫌取りの言葉を並べつつ、内心ではシリルを頼れる存在と見なしていた。冷酷な表情の裏に仲間を見捨てない性格を見抜いており、黒竜と対峙する事態に備えてシリルとの協力を意識した。
安堵と平穏な時間の共有
その後、ザカリーがフィーアを労いに現れ、クェンティンとギディオンも彼女の周囲に集まった。魔物騎士団の魅力を語る彼らに囲まれたフィーアは、時に真剣に、時に笑顔で応じていた。デズモンドはその様子を眺めながら、穏やかな空気に安堵し、この場にいる仲間たちの存在に満ち足りた気持ちを抱いた。
黒竜への備えと静かな決意
デズモンドはグラスを傾けながら、もし黒竜が現れたとしても、この場に揃う騎士団長たちがいれば何とかなるという安心感を抱いていた。そして、自らの感情の変化と仲間への信頼を噛み締めつつ、その平和な一時を静かに楽しんでいたのである。
【SIDE】第一騎士団長シリル
シリル団長とフィーアの夜の語らい
宴の観察とフィーアの価値への思案
シリル・サザランドは宴の賑わいの中でフィーアの姿を確認し、彼女の無邪気な笑顔に安堵していた。御前会議での黒竜の従属という驚きの事実を踏まえ、国にとっての価値が跳ね上がった少女が、他の騎士たちと何ら変わらず笑っている様子に違和感を覚えた。
庭園での再会と任務完了の報告
一人で外に出たフィーアを心配して追いかけたシリルは、庭園のベンチに座る彼女に声をかけた。フィーアは騎士の礼を取り、魔物騎士団の任務からの帰還を報告したが、自身がなぜその任務に就いていたのかすら思い出せないほど酔っていた。
黒竜への不安と別離の寂しさ
酔ったフィーアは黒竜との別れについて語り、彼が王になると旅立ったことを寂しく思いながらも、その希望を尊重して見送ったことを明かした。シリルは、その語り口に驚きと呆れを覚えつつも、彼女が黒竜を「友達」と呼ぶ様子に真実味を感じていた。
友情の申し出と拒絶の会話
シリルの提案とフィーアの返答
シリルはフィーアの寂しさを紛らわせようと、自身と友達にならないかと申し出た。フィーアはその提案を真剣に受け止め、「くだらない話に付き合ってくれるか」「買い物に行ってくれるか」「お腹の上で眠ってくれるか」など、極端な条件を挙げて確認を求めた。
あの子の席はあの子のために
シリルがそれらの一部は不可能だと指摘すると、フィーアは「あの子の席はあの子のもの」と静かに断った。シリルはその真っ直ぐな返答に胸の奥で寂しさを覚え、自分の本心が友情を求めているのか戸惑いを抱いた。
新たな席の願いとフィーアの照れ隠し
シリルは「別の席を作ってもらえないか」と願いを述べたが、フィーアは「団長は人気者だから、いちいち落ち込む部下全員と友達になったら大変ですよ」と返して笑顔を見せた。気遣いと照れが入り混じったやり取りの中で、二人の距離が少しだけ近づいた。
上位者の孤独とフィーアの理解
重責に伴う孤独への共感
シリルは、自分のような立場にある者が発言に慎重にならざるを得ず、相談すら難しいことを語った。フィーアはその意味を正確に理解し、「総長も個人の感想を言わない」と例を挙げて共感を示した。
上位者の悩みを語る相手としての提案
フィーアは、相談できる相手がいなければ組織のバランスが崩れると語りながらも、「酔っているのかもしれない」と冗談めかして自分の気持ちを表現した。そして、「明日になっても団長が友達になりたいと思ったら、そうしてください」と微笑んで了承を仄めかした。
言葉と心のやりとり
月がきれいという言葉の誤用
フィーアはシリルに感謝を伝えた後、「月がきれいですね」と言ってみせた。文学的には愛の言葉として知られる表現であったが、フィーアの意図は別にあり、彼女はただ嬉しさと感謝の気持ちを表現したつもりであった。
幸せな時間の共有と笑顔
フィーアは満月を見て、「悪い人はいなくなった」と無邪気に笑った。その笑顔にシリルもまたつられて微笑み、共に過ごす穏やかな時間の中で、心が温かくなっていくのを感じていた。
【挿話】アルテアガ帝国の憂鬱 ~ Side Arteaga Empire ~
アルテアガ帝国の皇弟たちと“創生の女神”の問題
晩餐会での騒動と侍従長の苦言
アルテアガ帝国の皇弟であるグリーン=エメラルドとブルー=サファイアは、貴族令嬢を集めた晩餐会で終始無言を貫き、場を硬直させた。これに対し侍従長は、貴族のマナー上、皇弟から話しかけねば誰も発言できなかったことを指摘し、強く抗議した。
皇弟たちの呪いと奇跡的な復活
三皇弟はかつて前皇帝の側妃により呪われ、皇位継承から除外されていたが、「創生の女神」によってその呪いを解かれ、美しい容姿と健康を取り戻して帰国した。この劇的な逆転劇は国民の熱狂を呼び、ルビー皇子は皇帝に即位し、他の二人も高位の継承権を得た。
婚姻問題と女神への傾倒
皇室の後継問題と冷淡な対応
即位後、皇室の未来を憂えた侍従長は三皇子の誰もが女性に興味を示さず婚姻に消極的なことに頭を悩ませた。だが皇弟たちは「創生の女神」から役割を授かったため結婚する暇はないと断言し、その上、女神に偽名を伝えたと悔やんで全員が改名した。
女神“フィーア”への異常な執着
皇弟たちは「創生の女神」が名乗った“フィーア”という名前を神聖視し、日がな一日彼女の話題ばかりを口にしていた。彼らはフィーアの姿や体力、性格、髪の色までを美化し、他の女性が一切目に入らなくなっていた。
皇帝レッド=ルビーの登場とさらなる混迷
血拭き布を誇る皇帝
皇帝レッド=ルビーもまた女神に強く傾倒しており、自身がもらった血拭き布を自慢げに掲げ、弟たちもそれに同調して語り合った。ブルーは自分だけが怪我をしていなかったため血拭き布をもらえなかったと落胆し、皇帝・皇弟全員が女神の話題で盛り上がった。
侍従長の現実提案と皇帝たちの過剰反応
侍従長は皇帝たちに現実を直視させるため、「女神の足跡をナーヴ王国で調査してはどうか」と進言したが、皇帝はその発言を「破廉恥だ」と激しく動揺し、皇弟たちも過剰に反応した。彼らは女神の私生活を探る行為に対して強い拒絶感を示した。
女神との接触願望と出立の決意
調査の名を借りた接近欲求
皇弟たちは女神の好物が「肉」であることや、どのように食べていたかなど、私的な情報を語り合い、過去の接触を自慢し合った。侍従長はその熱量に呆れつつも、三人の女性免疫のなさが問題の根底にあると見抜いていた。
皇弟たちの外遊希望と皇帝の決定
ブルー=サファイアは自らナーヴ王国に赴くことを志願し、グリーン=エメラルドもこれに続いた。皇帝も「三人で帝国を治める誓い」を盾に自らの外遊を宣言したため、侍従長は必死に止めに入った。
チェーザレ総長の派遣と騒動の拡大
総長の出立と侍従長の懸念
侍従長は皇帝の命により、帝国の柱であるチェーザレ騎士団総長を女神調査に派遣せざるを得なくなった。だがこれは極めて非常識な対応であり、皇帝の私的な感情に国家の要人が巻き込まれる事態となった。
外遊の混乱と皇弟の密同行
秘密裏に出立するはずだった調査には皇帝自らが見送りに現れ、加えてブルー=サファイア皇弟が密かに同行していたことが発覚し、現場は騒然となった。アルテアガ帝国の皇統にまつわる憂慮は、ますます深まりを見せたのである。
フィーア、黒竜ザビリアと『ザビリア粛清リスト』を確認する
ザビリアの体格変化による悪戯
休日の朝、フィーアはベッドでうとうとしていたが、ザビリアの異変に気づいて起き上がった。ザビリアは通常よりも小さくなっており、フィーアは自分が成長したのではと誤解して歓喜した。しかし、ザビリアの気まぐれな体格変化による悪戯であることが判明した。
粛清リストとの遭遇
フィーアが驚きつつザビリアの様子をうかがうと、「粛清リスト」を確認していたことを明かされた。そのリストには、フィーアに害をなす可能性がある人物の名前が記されていた。フィーアはリストの存在とその過激な意図に衝撃を受けた。
対象者への異議とザビリアの理屈
リストの第1位であるギディオン副団長について、フィーアは危険人物ではないと主張したが、ザビリアは「想定不能な人物はリスク」と主張した。第2位のザカリー団長については、酔って記憶を失ったフィーアに腹筋を数えさせたという不可解な理由で警戒されたが、最終的には保留とされた。
シリル団長への嫉妬と評価競争
第3位のシリル団長について、フィーアが肯定的に語ったことに対し、ザビリアは自分の立場が脅かされると懸念した。フィーアはザビリアの長所を並べ立てて説得し、彼を満足させたことで、シリルも保留扱いとされた。
リスト回避のための誘惑策
リストが20位まで存在することを知ったフィーアは動揺し、ザビリアの気を逸らすために入浴を提案した。ザビリアはこの誘いに乗り、リスト確認を後回しにすることに同意した。フィーアは、ザビリアが忘れてくれることを期待して、彼を抱えて風呂場へ向かった。
フィーア、ザビリアの鱗をクェンティン団長に供与する
ザビリアの鱗の処理と訪問の決意
ザビリアの脱落した鱗が大量に溜まり、フィーアはその処理に困っていた。彼女は鱗を喜んで受け取るであろう人物としてクェンティン団長を思い浮かべ、軽い気持ちで執務室を訪ねた。
過剰な歓迎とローテーブルの謎
訪問を喜んだクェンティンとギディオンは過剰に歓迎し、割れたローテーブルが修復されそのまま使用されている光景にフィーアは驚いた。そのテーブルはかつてギディオンが侮辱発言をした際にシリルによって破壊されたもので、戒めとして残されていた。
鱗の贈呈と団長の感激
フィーアがザビリアの鱗を渡すと、クェンティンは驚愕し、当初は鑑賞だけでも十分と考えていたが、全て譲渡されると知るや膝をついて感謝した。彼は今後の給金すべてを代金として渡すと申し出たが、フィーアはそれを断った。
噂の拡散とシリル団長の叱責
給金袋をめぐる押し問答が人目を引き、フィーアとクェンティンの間に不穏な噂が広まった。結果としてフィーアはシリルに呼び出され説教を受け、姉に知られぬよう願いながら頭を下げることになった。
フィーア、ザカリー団長と成長について議論する
身長に対する希望とミルク信仰
フィーアは高い棚の荷物を取ろうとしていた際、ザカリー団長に助けられたことをきっかけに、自身の成長願望について語った。兄たちがミルクを飲んで背が伸びたことを根拠に、ミルク信仰を主張し、自らも父より高くなると熱弁した。
ザカリー団長の策略と“真実の伝達者”の譲渡
フィーアの情熱的な語りに圧倒されたザカリー団長は、事実を伝える責任をシリル団長に丸投げすることを決めた。団長は自らの越権を避ける名目でその場を逃れ、任務を他者に押し付ける道を選んだ。
禁忌の発言と団長間の混乱
フィーアはザカリー団長の頭頂部の秘密を口走ってしまい、デズモンド団長がそれを伝えた犯人として巻き込まれた。三者は互いに言い訳と責任の押し付け合いを繰り広げた末、ついにはシリル団長の登場により場の空気が一変した。
三つ巴の混乱からの逃走と決意
事態の収拾がつかないと判断したフィーアは、その場からの逃走を決意し実行した。翌日、傷を負った団長たちを目にした彼女はシリル団長への忠誠を誓い、次は彼の味方に付くことを心に決めた。
特別書き下ろし デズモンド憲兵司令官、フィーアに関する諜報活動から手を引くと宣言する
積み重なる投書と団長の疲労
デズモンド団長は、フィーアに関する噂や誤情報の報告書が憲兵司令部に殺到している現状に苛立ちを覚え、ついに彼女を呼び出した。睡眠不足と無意味な報告の連続により、彼の精神は限界を迎えていた。
騎士団内での誤解を招く行動の羅列
団長は、フィーアとクェンティン、ギディオン、ザカリーとの過去のやり取りについて詳細に詰問した。食堂での接触、任務前の様子、抱きかかえられた件など、すべてが周囲に誤解を与える内容として処理されていた。
団長の爆発とフィーアの懐柔戦術
激昂したデズモンドは諜報活動の打ち切りを宣言したが、フィーアは逆手に取り、特別扱いされたと喜ぶ様子を見せた。さらに彼女は食事への誘いをワインによる記憶消去と婉曲に示唆し、団長の防御を崩した。
最終的な敗北と団長の謝罪
フィーアの奔放な提案に押されたデズモンドは食事に同意し、その場で態度の悪さを謝罪した。やがて団長は疲れから眠りに落ち、フィーアは彼を起こさぬよう静かに帰宅したが、その行動が再び誤解を招くこととなった。
電子書籍特典「フィーアとファビアン、ファビアンの元学友に絡まれる 買い物編」
ファビアンとの買い物と布の物色
休日を利用してフィーアはファビアンと買い物に出かけた。剣の鞘用の布を選んでいた最中、騎士養成学校時代のファビアンの同級生ハロルドと再会した。
過去の因縁とハロルドの優越感の主張
ハロルドは第五騎士団での自分の立場を誇り、フィーアとファビアンに対して優越感を露わにした。彼は勤務日であることも自身の信頼の証だと主張したが、二人には逆に扱き使われているように見えていた。
偶然の出会いと圧倒的な存在感の面々
会話中にデズモンド団長が登場し、さらにシリル団長が体調確認のためにフィーアに接近した。続いてサヴィス総長までが現れ、フィーアへの厚遇を見せたことで、ハロルドは言葉を失った。
ハロルドの崩壊と謝罪
シリル、デズモンド、サヴィスという王国の上位指揮官たちが次々にフィーアに親しく接する様子を目の当たりにしたハロルドは、精神的打撃を受け、最後にはフィーアに土下座し、その場から逃げ去った。
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