バスタード・ソードマン 6巻レビュー
バスタード・ソードマン まとめ
バスタード・ソードマン 8巻レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、異世界に転生した主人公が、あえて目立たずにスローライフを送る姿を描いたファンタジー小説の第7巻である。 物語の世界では、春の訪れとともに人も魔物も活気づき、街中の雑用から魔物の討伐、さらには年に一度の「精霊祭」の準備まで、ギルドマンには山積みの依頼が舞い込んでいた。主人公のモングレルもまた、ぼちぼちと任務をこなしつつ、後輩のライナと一緒に精霊祭を楽しんだり、訳ありの人物であるアーレントのお守りを押し付けられたりと、忙しくも充実した日々を送っていた。そんなある日、二人はレゴールの街中で、モングレルの過去を知るという謎めいたエルフの美女・カテレイネと出くわすこととなる。
■ 主要キャラクター
- モングレル: 本作の主人公。異世界転生者であり、強大な力や知識を有しているが、面倒事を避けるために一番下のブロンズランクに留まり続けている。平穏で怠惰な生活を愛するギルドマンである。
- ライナ: モングレルを慕う後輩の弓使いの少女。本巻ではモングレルと共に精霊祭を楽しむなど、変わらず彼と行動を共にして日常を過ごしている。
- アーレント: サングレールからやってきた外交官。前巻での騒動を経て、本巻ではモングレルがギルドから彼のお守り(監視や世話)を任されることとなる。
- カテレイネ: レゴールの街に突如として現れた謎めいたエルフの美女。モングレルの過去を知るという、物語において重要な立ち位置を担う新キャラクターである。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、主人公が圧倒的な能力を持ちながらも「徹底して活躍を避ける」点にある。チート能力で無双したり世界を救ったりするのではなく、面倒ごとを回避して美味しい食事や趣味を楽しむマイペースな世界観が読者にとっての大きな魅力となっている。 本巻では、春の活気や精霊祭といった季節感あふれる穏やかな日常描写に加え、モングレルの過去を知るエルフの美女の登場により、これまでの緩やかな日常に少しばかりの波乱の気配が入り混じる展開が、非常に興味深いポイントとなっている。
書籍情報
バスタード・ソードマン 7
著者:ジェームズ・リッチマン 氏
イラスト:マツセダイチ 氏
出版社:KADOKAWA
発売日:2026年02月28日
ISBN:9784047387676
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あらすじ・内容
モングレルの過去を知る謎の美女エルフ、現る……!?
暖かくなると人も魔物も活気づく。街中の雑用から急増する魔物の討伐、さらには年に一度の精霊祭の準備まで、春のギルドマンに舞い込む依頼は山積みだ。モングレルもまたぼちぼちと任務をこなしつつ、ライナと一緒に精霊祭を楽しんだり、ギルドからアーレントのお守りを押し付けられたりと、忙しくも充実した日々を送っていた。そんなある日、二人はレゴールの街中で謎めいたエルフの美女カテレイネと出くわす。実は彼女は少年期のモングレルを知る数少ない人物で――。
感想
第7巻は、笑いを誘う下ネタから、地に足のついた生活のリアリティ、そして戦争や暴力のシビアな現実までが、見事に一本の線として繋がっている作品である。
まず、冒頭の「量産型侵略者」という題名からして秀逸だ。いきなり下ネタで突っ込んでくる展開には、思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。主人公モングレルの「形」を模した廉価版が陶器で大量生産され、自身の商売が圧迫されてしまう。文句を言うほどではないが、自分の形が出回っている現実に複雑な心境を抱く姿がとても面白い。笑えるのに妙に生々しく、このアイテムが終盤のエピソードにまで効いてくる構成の妙にも感心させられた。
また、春の日常から一転して「現場」の空気が流れ込んでくるテンポも素晴らしい。パイクホッパーの討伐という地味な仕事の直後に、悲鳴を聞きつけて有名な盗賊団をあっさりと一人で捕縛し、多額の賞金を手にする。この落差が、ギルドという荒くれ者の集まる街のリアルな治安や、お金の匂いを強く感じさせてくれた。
そして、ギルドの祭りの馬鹿騒ぎを象徴するのが「第五回厚切り牛タン猥談バトル」である。チャックとの対決のくだらなさが最高なのだが、このアホさを成立させているのは、間違いなく審判ディックバルトの言語センスだ。蝋燭の熱さを語る場面で、自ら検証して叫ぶ彼に「お前自分で受けるなよ」とツッコミを入れたくなる。作中人物たちの少しズレた倫理観が、見事な笑いに変換されていた。
人間関係の深みを感じさせたのは、白頭鷲アーレントの存在だ。モングレルにとってはただの「気のいいおっさん」に過ぎないが、戦場を知る者からすれば恐ろしい「聖堂騎士」として畏怖されている。その彼が、和平のための外交官としてやってきているという落差。見る側の立場によって評価が真っ二つに分かれる二面性が、物語に厚みを与えていると感じた。
「大地の盾」の同士討ち騒動も印象深い。記憶を奪う魔物イビルフライのせいで仲間同士が傷つけ合ったかもしれないという嫌な状況を、モングレルは元凶のサイクロプスに単騎特攻することで断ち切る。「サイクロプスにやられた」ことにして関係修復を図るという、理不尽の原因を外に置く救いの作り方がとてもスマートで、温かい読後感をもたらしてくれた。新人への技能講習や、「報復の棘」でのバルガーとのやり取りなど、ギルドの先輩としての顔が見えるのも良い。
一方で、終盤に描かれるモングレルの暴力の常態化には、ハッとさせられる。故郷シュトルーベの墓を守るという名目があるとはいえ、サングレール軍の兵士を容赦なく斬り捨て、建設中の砦を潰す行為が、彼にとって「定期的な習慣」になっているのだ。これを読まされると、アーレントの戦場での苛烈さだけを一方的に批判することはできない。ギャグで緩んだ心に、手触りの悪い現実を突きつけてくる鋭さがあった。
最後に触れておきたいのが、表紙にもなっているダークエルフのカテレイネである。意味深なオッドアイにローブ姿と、いかにもファンタジーの大物魔術師のような雰囲気を漂わせているのに、実態はただ農業を営む普通の村人だったという肩透かしが気持ちいい。意味深な言い回しもただの彼女の個性に過ぎず、完全に騙されてしまった。しかし、その「ただの農夫さん」という生活感のズレがあるからこそ、モングレルにとっての居場所としての温かさが際立っていた。
馬鹿騒ぎの楽しさで引き込みながら、英雄の複雑な評価や暴力の現実を提示し、最後は素朴な生活感で包み込む。軽さと重さの切り替えが絶妙で、読後には心地よい余韻が残る、実に魅力的な一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察
アーレントの研修
サングレール聖王国の外交官であり、かつて白頭鷲と呼ばれた元軍人のアーレントは、ハルペリア王国の人々の想いやギルドマンの暮らし、精神性を学ぶため、レゴール支部でギルドマンとしての仕事体験(研修)を行うことになった。ギルド副長ジェルトナからの依頼を受け、モングレルが案内役として彼の研修をサポートしている。
研修の制約と前提
・アーレントは敵国の元エース級軍人であるため、安全措置として月下の死神のエドヴァルドが特製した、身体強化性能を半減させる腕輪(拘束具兼防具)を装着した状態で研修に臨んでいる。
・正体が広く知れると摩擦を生むため、表向きは「ただのアーレントさん」というマッチョな教導官として振る舞うこととされた。
研修の具体的な内容
モングレルの案内により、アーレントは以下の様々なギルドマンの業務を体験した。
・肉体労働(運搬作業):ギルドマンの地道な基礎を知るため、拡張区画の建設現場で石や建材の運搬作業を行った。持ち前の規格外の筋肉と体力を活かして重労働を軽々とこなし、仕事終わりには酒場「森の恵み亭」で食事を楽しんだ。
・解体作業の見学:東門の解体所で獲物の解体や分別作業を見学し、同行したライナからギルドマンは市民から卑しい仕事として低く見られがちであるという現実を聞かされ、ハルペリア社会の複雑な実情を学んだ。
・討伐任務の体験:「アルテミス」の面々と共に初心者向けの魔物クレータートードの討伐に参加した。力を制限されながらも超人的な身軽さで接近し、的確に頭蓋骨だけを陥没させて即死させる離れ業を披露し、可食部を一切傷つけない見事な手腕をモングレルから絶賛された。
・戦技講習での実演:新人向けの戦技講習に見本役の教官として参加した。サングレールの山道での経験を活かし、転倒や滑落時にダメージを減らすための衝撃分散と急所保護を兼ね備えた美しい受け身を実演し、新人たちの生存率向上に貢献した。
周囲の反応とギルドへの浸透
研修を進める中で、アーレントに対するギルド内の評価にも変化が生じていった。
・当初は敵国の人間であることから、「アルテミス」の団長シーナが強い警戒心を露わにし、モングレル同伴での任務見学のみ許可するなど風当たりの強い場面もあった。
・しかし、モングレルがアーレントの孤立を防ぐために研修の持ち回りを企画し、サングレール出身者がいる「若木の杖」に打診したところ、団長のサリーが腕輪の解析を条件に引き受けた。
・ギルドの酒場でサングレールの陽気な「鍛冶の歌」を歌い踊って見せるなど、気さくな人柄も相まって、ギルド内では「同業者ではないらしいがたまに手伝ってくれるすごいマッチョ」「ポリッジ好き」として次第に好意的に受け入れられていった。
まとめ
かつての白頭鷲の凶暴なイメージを知る「大地の盾」の副団長マシュバルも、現在の姿とのギャップに驚きつつ、無用なトラブルを避けるためにアーレントとの接点を持つことを前向きに検討し始めている。アーレントの地道なギルドマン体験は、周囲の警戒心を少しずつ和らげ、レゴールの街に確実に馴染んでいくための確かな一歩となっているのである。
精霊祭の狂騒
ハルペリア王国で執り行われる精霊祭は、月の神ヒドロアを讃える宗教行事である。しかし、一般市民にとっては飲食と騒乱を楽しむ一大イベントとして親しまれている。レゴールの街は黄色い花と装飾で彩られ、今年は例年にも増して盛大な活気に包まれていた。
屋台巡りとスリ事件の発生
モングレルは精霊祭の喧騒の中でライナと共に屋台を巡り、祭り特有の活気を満喫した。
・モングレルは自作の礼服風の衣装を纏い、露出の多いお洒落な格好をしたライナと共に買い食いを楽しんだ。
・王都で見かけるような高級な花飴を買い与えるなど、祭りならではの穏やかな時間を過ごした。
・混雑の中で他所から流れてきた子供がモングレルに接触し、ピックケースを盗み取るスリ事件が発生した。
・子供はサングレール人に襲われていると叫んで周囲の同情を誘おうとしたが、ライナが毅然とスリの現行犯であることを証言した。
・モングレルは状況を冷静に判断し、子供を即座に衛兵へと引き渡して処理を終えた。
大道芸通りでの弾き語りと外飲み
祭りの雰囲気に後押しされたモングレルは、自らの趣味である演奏を披露し、多くの聴衆を惹きつけた。
・持参した特製のリュートを使い、大道芸通りで即興の弾き語りを開始した。
・一曲目には異世界語に翻訳した学生街の喫茶店を披露し、哀愁漂う旋律で聴衆の心を掴んでおひねりを獲得した。
・二曲目には故郷を日本語のまま歌い、歌詞の意味は通じずともそのノスタルジックな調べによって人々を釘付けにした。
・演奏後はライナが調達した精霊祭限定のホップ増し増しビールを堪能し、屋外で飲む酒特有の高揚感を味わった。
ギルドでの厚切り牛タン猥談バトル
ビールとつまみを求めてギルドの酒場に戻ったモングレルは、そこで開催されていた恒例の狂乱行事に巻き込まれた。
・酒場では収穫の剣のチャックらが主導する第五回厚切り牛タン猥談バトルが開幕しており、異様な熱気に包まれていた。
・これは希少な性的知識を競い合い、勝者が厚切り牛タンを獲得するというギルド独自の行事である。
・決勝は例年通りモングレルとチャックの一騎打ちとなり、チャックは特定の道具に関する具体的な知識を披露して有効判定を得た。
・窮地に立たされたモングレルは、火を灯した蠟燭から蝋を肌に垂らすという未知の知識を提示して反撃に出た。
・審判のディックバルトが自らの背中でその効果を検証した結果、衝撃的な絶叫と共にモングレルの逆転勝利が宣言された。
・モングレルは勝ち取った牛タンをライナやウルリカ、レオ、アレックスら仲間たちと分け合い、騒がしくも満足のいく宴を楽しんだ。
まとめ
祭りの喧騒と予期せぬトラブル、そしてギルド特有の馬鹿騒ぎを経て、レゴールの街の精霊祭は幕を閉じた。モングレルとライナは、非日常の楽しみと仲間との絆を再確認し、心地よい疲労感と共に日常へと戻っていったのである。
故郷への墓参り
モングレルにとって、故郷への墓参りは単なる追悼の儀式ではない。それは失われた故郷を守り抜くための、孤独な戦いでもあるのだ。その全容をここに記す。
墓参りの背景
モングレルがこの活動を続ける背景には、幼少期の過酷な経験がある。
・10歳の頃、戦火で焼かれた故郷シュトルーベ開拓村から両親の遺骨を携えて祖父を頼ったが、混血であることを理由に宿泊や埋葬を拒絶された。
・絶望の中で、自らの手で両親の墓をシュトルーベに建てる決意を固め、13歳の時に遺骨を埋葬した。
・故郷が完全に自然に呑まれて廃村となった後も、年に一度は必ず戻るという誓いを立てて旅に出た経緯がある。
シュトルーベへの旅路
31歳になったモングレルは、現在も毎年夏に長期の準備を整えて故郷を目指している。
・ギルドに七日間の長期野営を申請し、拠点であるレゴールを出発する。
・背負う荷物には野営道具だけでなく、普段の任務では持ち出さないような多数の重装備品や医薬品が詰め込まれている。
・道中の山道ではクレセントグリズリーなどの凶悪な魔物と遭遇することもあるが、それらを討伐しながら二泊の行程を経て、21年前に滅んだ故郷に到着する。
両親の墓前での報告
廃墟となり自然に呑まれつつある村の中で、石造りの簡素な墓は今も荒らされずに残っている。モングレルは墓前で以下の儀式を執り行う。
・手向けの品として、サングレールのタンポポとハルペリアの月見草を摘んで捧げる。これらは両親が気に入っていた花である。
・わざわざ持参した琥珀色のウイスキーを小皿に注ぎ、墓前に供える。
・バスタードソードで墓の周囲の草を刈りながら、自身の健康状態やレゴール伯爵の結婚、後輩たちと海へ行く計画などを独り言のように語りかける。
侵略の阻止と亡霊としての戦い
墓前での報告を終えると、モングレルの態度は穏やかなものから一変する。
・持参した重装備を全身に纏い、自身のギフトである蝕(イクリプス)を発動させて周辺の見回りを開始する。
・目的は、サングレール軍がシュトルーベの土地に新たな拠点を築くのを阻止するための破壊活動である。
・建設途中の砦を発見した際は完全に破壊し、そこにいる兵士を一人残らず殲滅する。
・この容赦ない破壊と殺戮により、サングレール兵からはシュトルーベの亡霊として恐れられている。
まとめ
モングレルにとっての墓参りは、両親に語りかける穏やかな時間であると同時に、故郷に侵入しようとする者を駆除し続ける過酷な儀式でもある。ここはお前たちの土地ではないという強い意思を示し、敵兵を排除し続けることで、彼は今もなお独りで故郷を守り抜いているのである。
登場キャラクター
モングレル
ハルペリアとサングレールのハーフであり、前世の記憶を持つ転生者である。争いや面倒事を避け、平穏な日常を望む現実主義的な性格を持つ。バスタードソードを愛用し、日常的な雑用から魔物の討伐まで幅広くこなしている。
・所属組織、地位や役職
ハルペリア王国のギルドに所属するブロンズランクのギルドマン。
世間には「ケイオス卿」という名で知られる匿名の大発明家でもある。
・物語内での具体的な行動や成果
春の討伐任務をこなしつつ、バロアの森で盗賊団を捕縛した。
サングレールの外交官アーレントのギルド体験の案内役を務めた。
夏前に故郷シュトルーベへ向かい、両親の墓参りと周辺のサングレール軍砦の破壊を行った。
過去には、十五歳の頃に故郷を失い放浪していた際、エルフの少女カテレイネと出会い、彼女に読み書きや計算を教えながら共に旅をした経験を持つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルド内で顔が広く、新人への指導やトラブルの仲裁役を担うことが多い。
「ケイオス卿」としての活動は街の経済や生活に多大な影響を与えているが、本人は正体を隠し続けている。
ライナ
弓使いの少女であり、モングレルの後輩にあたる。モングレルと行動を共にすることが多く、彼を慕っている。
・所属組織、地位や役職
女性中心のパーティーであるアルテミスに所属している。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルと共に精霊祭を楽しみ、スリの子供を捕まえた際に毅然とした態度で介入者を退けた。
バロアの森での狩りの際、モングレルから木登りと樹上からの射撃を学び、緊急時の退避手段を身につけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後輩への指導を任される立場になりつつあり、弓の腕前も向上している。
ウルリカ
気さくな弓使いであり、モングレルやライナと親しくしている。
・所属組織、地位や役職
パーティーであるアルテミスに所属している。
・物語内での具体的な行動や成果
シルサリス川での釣りで、約40cm級の巨大な魚「モスシャロ」を釣り上げた。
クランハウスの工作部屋で、ナスターシャの監督のもと弓矢用の毒の調合を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
料理中の油で足を火傷し、一時的に休養を余儀なくされた。
アーレント
サングレールから派遣された外交官であり、かつては「白頭鷲」と恐れられた戦場の英雄である。
・所属組織、地位や役職
サングレール聖王国の外交官。元聖堂騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ハルペリアの人々を理解するため、モングレルの案内でギルドマンの生活を体験する。
建設現場での肉体労働や、クレータートードの討伐で見事な身体能力を披露した。
ギルド酒場での無茶ぶりに対し、明るい「鍛冶の歌」を歌い上げ、ギルドマンたちとの距離を縮めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
両腕に力を半減させる拘束具兼防具の腕輪を装着しており、呪い師エドヴァルドの監視下にある。
その穏やかな態度と実力により、徐々にレゴール支部のギルドマンたちに受け入れられつつある。
カテレイネ
金髪で褐色肌、左右で色の異なるオッドアイを持つエルフの女性である。
・所属組織、地位や役職
ベイスン近郊で畑を持ち、根菜を作って行商する農家。
・物語内での具体的な行動や成果
市場で露店を出しており、モングレルと再会してマクレニアの根を売った。
過去の回想において、放浪中のモングレルを助っ人として雇い、彼から読み書きや交渉術を学んだ後、共に旅に出た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルが故郷を失った後に初めて得た「居場所」の象徴となる人物である。
メルクリオ
モングレルの商売相手である。たくましく商魂たくましい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
黒靄市場で店を構える商人。
・物語内での具体的な行動や成果
モングレルが制作した道具が無断で量産されている事実を伝え、その模倣品を転売して利益を得る計画を語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モングレルの発明や制作物を市場で流通させる役割を担っている。
フランク
若いパーティーのリーダーであり、仲間を的確に指揮する。
・所属組織、地位や役職
パーティー「最果ての日差し」のリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
バロアの森でパイクホッパーの討伐を指揮し、良好な連携を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ロゼット商会から仕事を請け負い、堅実に活動の幅を広げている。
ウォーレン
兵士になることを夢見て、厳しい訓練と仕事に励む若者である。
・所属組織、地位や役職
大規模パーティー「大地の盾」への加入を目指すギルドマン。
・物語内での具体的な行動や成果
レゴール拡張区画の工事現場でレンガ運びに従事し、不満を漏らすもモングレルの諭しを受けて仕事に戻った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
目標に向けて地道な努力を続けている。
ギュスターヴ
建設中の光景など「途中の風景」を描くことを好む中年の男である。
・所属組織、地位や役職
素人の画家。
・物語内での具体的な行動や成果
工事現場でキャンバスに向かい、未来の歴史資料として記録を残すために絵を描き続けた。
モングレルの提案を受け、絵の中に自身の姿とモングレルの後ろ姿を描き加えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後世に名を残すことを望んでおり、街の成長を静かに見守っている。
チャック
ギルド内で機転を利かせて立ち回る男である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」に所属するギルドマン。
・物語内での具体的な行動や成果
「第五回厚切り牛タン猥談バトル」でモングレルと対峙し、具体的な知識を披露して彼を追い詰めるが、最終的に敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルドの酒場での宴会や行事において中心的な役割を担うことが多い。
ディックバルト
近接戦闘を得意とし、色街の情報にも精通するベテランである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」の団長。
・物語内での具体的な行動や成果
蛇肉の精力増進効果を煽り、酒場を盛り上げた。
猥談バトルで審判を務め、自らの身体で知識の真偽を検証して絶叫した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルドマンたちの中心的存在として、酒場や行事を大いに盛り上げている。
シーナ
弓使いであり、警戒心が強く冷静な判断を下す人物である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」の団長。
・物語内での具体的な行動や成果
アーレントのギルド研修において、彼の敵国での経歴から強い警戒感を示し、監視を前提とした厳しい条件を突きつけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルテミスを率いる立場として、組織の安全と規律を最優先に考えている。
ナスターシャ
魔法使いであり、知的好奇心が旺盛な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」の副団長。
・物語内での具体的な行動や成果
アーレントの拘束具である腕輪に強い関心を持ち、サリーと共に解析を試みるも「戒めの呪い」を受けた。
工作部屋でウルリカやライナに魔水調合による矢毒の作り方を指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高い魔法知識を持ち、アルテミスの頭脳として機能している。
レオ
双剣を扱うギルドマンである。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
クレータートードの討伐に参加し、跳ねる相手に追従して首を落とす戦いを見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女性中心のパーティーに加わった新たな戦力として活動している。
ゴリリアーナ
屈強な体躯を持つ剣士である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「アルテミス」に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
クレータートードの討伐で、踏みつけに来た個体を空中で真っ二つにする膂力を披露した。
アーレントと互いの筋肉を称え合う交流を持った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルテミスの重要な前衛として活躍している。
バルガー
短槍を扱うベテランであり、モングレルの兄貴分的な存在である。
・所属組織、地位や役職
パーティー「収穫の剣」に所属するギルドマン。
・物語内での具体的な行動や成果
アーレントの建設現場での労働体験に同行した。
かつての仲間であるオルドールの追跡に参加し、彼を拘束して「報復の棘」に引き渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルド内の人間関係に配慮し、モングレルにアーレントの受け入れ方について助言を与えた。
マシュバル
実務を担う指揮官であり、仲間の安全を重視する。
・所属組織、地位や役職
パーティー「大地の盾」の副団長。
・物語内での具体的な行動や成果
イビルフライの騒動を解決したモングレルに感謝し、彼を高級料理店での会食に招いた。
モングレルからの提案を受け入れ、アーレントとの接点作りを検討することを決めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大地の盾の実質的なまとめ役として組織を運営している。
オルドール
卑怯で身勝手な性格の男である。
・所属組織、地位や役職
元「収穫の剣」に所属していたギルドマン。
・物語内での具体的な行動や成果
バロアの森で野営中のギルドマンを襲う“人狩り”を行い、バルガーたちに追跡され樹上で捕縛された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
犯罪に手を染めた結果、ギルドマンとしての立場を失い処罰されることとなった。
エドヴァルド
呪いなどの闇魔法を扱う人物である。
・所属組織、地位や役職
「月下の死神」の一人であり、呪い師。
・物語内での具体的な行動や成果
アーレントの護衛および監視役として彼に腕輪を装着させ、それを解析しようとしたナスターシャたちに説教をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国家規模の任務を帯びており、アーレントの行動を制御する役割を持つ。
イシドロ
歌と踊りを愛する老神殿長である。
・所属組織、地位や役職
サングレール聖王国のヘリオポーズ教区神殿長。
・物語内での具体的な行動や成果
ハルペリアへ能力が露見したミシェルとピエトロに対し、痛手を誤魔化すように激しく踊り出し、彼らと共に海への遠征計画を立てた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ミシェルとピエトロを幼少期から育て上げ、強い忠誠心を持たせている。
ミシェル
純白の衣を纏い、水魔法を扱う女性である。
・所属組織、地位や役職
サングレール聖王国の騎士。「慈雨の聖女」。
・物語内での具体的な行動や成果
イシドロからの報告を受け、能力の露見という事態に直面しながらも、彼と共に歌と踊りで応え、海への遠征に乗り気になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
表舞台での活動が難しくなったが、裏からの活動を続ける意思を固めている。
ピエトロ
純白の衣を纏い、特殊な能力を持つ男である。
・所属組織、地位や役職
サングレール聖王国の騎士。「蠟翼の審問官」。
・物語内での具体的な行動や成果
イシドロからの報告を受け、ミシェルと共に歌と踊りで応え、海への遠征に乗り気になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
表舞台での活動が難しくなったが、裏からの活動を続ける意思を固めている。
バスタード・ソードマン 6巻レビュー
バスタード・ソードマン まとめ
バスタード・ソードマン 8巻レビュー
展開まとめ
プロローグ
前世で聞いた人種観の回想
語り手は前世で、人を創った存在がいろんな奴がいた方が面白いと考えたために肌の色が分かれたのだという話を聞いていたと回想した。色の違いは本来カラフルで良い発想であったが、人間の一部はそのユーモアを理解せず、色分けを争いの火種にし、時に利用してきたと述べた。それでも語り手が生きていた時代には、色が違っていても同じ人間だと公に言える程度には差別を避ける風潮が広がっていたと振り返った。しかし語り手は、その行く末を見届ける前に転生していたと明かした。
ハルペリアとサングレールの対立
現在の世界では、ハルペリア王国とサングレール聖王国が髪や眼の色で人種を区別し、長年にわたり対立を続けていた。ハルペリアは黒髪と青髪系、サングレールは白髪と金髪系を特徴とし、外見の違いは大きくないにもかかわらず、色の差異が強い排他意識を生んでいた。わずかな混色でさえ風当たりが強くなるほどであった。
外部から見た争いと現状への姿勢
一方で海の向こうのアマルテア連合国は両国と国交を持ち、色分けをさほど気にしていなかった。さらに遠方の魔大陸の魔族からすれば、この対立はなおさら滑稽に映る可能性が示唆された。しかし語り手は、嘲笑しても状況は変わらないと認識し、今がどれほど緊張していようとも少しずつ変わる努力が必要だと考えていた。
語り手の決意と願い
語り手はハルペリア社会に受け入れられるため努力し、レゴールに来た外交官アーレントとも円滑に話し合える関係を築く必要があると自覚していた。今生でも全ての異なる人種が仲良く手を繋ぐ世界を見る前に死ぬだろうと覚悟しつつも、生きている間に互いが握手のために手を差し伸べられる社会へと近づくことを願っていた。そして貴族たちに変革を期待し、自身は裏方として尽力すると述べて締めくくった。
第一話 量産型の侵略者
春の討伐任務の増加
春になり、任務は一気に増えていた。代表的なものはパイクホッパーの討伐であり、神出鬼没に現れる巨大なバッタの駆除は農家だけでは対処できない仕事であった。報酬は高くないが、冬を越えた若いギルドマンにとっては貴重な稼ぎ口であり、レゴール郊外では若者たちが懸命に働く姿が見られた。
同時にジェリースライムの捕獲・討伐任務もあり、こちらは網や釣棒で捕らえるだけで済む比較的容易な仕事であった。語り手もジェリースライムを利用して浄化水を作り、洗浄用途に用いていたが、自作で手を荒らした経験から深くは関わらないと考えていた。
メルクリオからの呼び出し
討伐に出たい気持ちはあったが、この日は黒靄市場へ向かう用事があった。宿に届いた手紙で、商売相手のメルクリオから呼び出しがあったためである。小物や土産のお香を持参し、市場を訪れた語り手は、以前より整備が進んだ黒靄市場の様子に一抹の寂しさを覚えつつ、メルクリオと再会した。
怪我もなく店を構えるメルクリオは、委託販売した商品の一つに問題が起きたと告げた。故障ではないが、今後の商売に関わる話だという。
量産された模倣品の発覚
メルクリオが示したのは、語り手が制作した夜の道具を原型とする陶器製の石棒であった。本来はホーンウルフの角から削り出した品であったが、赤みを帯びた陶器製で量産され、色街の専門店で安価に販売されているという。どうやら購入者の中に店の関係者が紛れており、型を取って大量生産されたらしかった。
無断での模倣と量産は悪質であったが、語り手は抗議を拒んだ。道具のモデルが自分であることを公にして訴えることは耐え難い羞恥を伴うためである。結果として、この件から手を引き、自らは別の品を作ると決めた。
色街の活況と皮肉な背景
量産品の需要増加には、色街の活況が関係していた。最近、スケベ伝道師と呼ばれる人物が技術を広めたことで、店舗の評判が上がり、関連商品の需要も高まっているという話であった。語り手はその元凶が自分にある可能性を自覚しつつ、複雑な思いを抱いた。
メルクリオは量産品を転売して利益を得るつもりだと語り、語り手はたくましさに呆れながらも、複製品の行方を見守るしかなかった。
第二話 春のまったり虫退治
量産騒動からの逃避と春任務への専念
語り手は、自身の分身が各地に出回った件を知らないふりをし、春の任務に没頭することで嫌な記憶から逃れようとしていた。
パイクホッパー討伐の実戦と反省
語り手はレゴール隣村近くの林で、湧き出たパイクホッパーを討伐する任務に就いた。林は魔物の発生源である一方、周辺農家の材木供給の入会地でもあり、潰せないため面倒な討伐がギルドマンに回っていた。語り手はバスタードソードで蔓草を斬り払い、鍋を叩いて敵を誘い出し、動きの遅い相手を脚の付け根や横腹を狙って駆除した。途中で格好をつけた戦い方をした結果、突進を受けて吹き飛ばされ、結局は斬る・蹴るの正攻法が楽だと結論づけ、十匹ほどを処理して任務を終えた。
虫肉への初挑戦と価値の実感
夜の野営で、語り手は偶然きれいに切り出されていたパイクホッパーの肉を前にし、炭火で塩焼きにして試食した。虫食いが差別語として扱われがちなハルペリアの風潮や、自身の抵抗感はあったが、焼ける匂いが普通の肉に近かったため忌避感は薄れた。味は鶏のささみに近く癖がなく、想像以上に食べやすかったため、貧しいギルドマンが解体して食う理由に納得し、料理次第ではさらに活用できると考えた。
帰還と報酬の現実
翌日、農家へ報告して帰還し、討伐証明の額の甲殻を東門の解体所へ持ち込んだ。処理場は春の小物任務で忙しく、ロイドは土産のお香を断りつつ証書を渡した。語り手はギルドでミレーヌから報酬を受け取ったが、アイアンでも可能な任務らしい額で期待通りに低く、虫肉を確保したくなる心理を理解した。
高額任務の不在と森への注意喚起
語り手は祭り前に大きく稼ぎたいと考えたが、ブロンズ以下向けの高額任務はなく、他支部のシルバーランク隊からバロアの森の案内依頼が一件あるのみであった。語り手は今はソロで動きたい気分だとして乗り気にならなかったが、ミレーヌから新参が森に深入りしがちな時期だと頼まれ、気にかけることを約束した。その上で、働く日と休む日を切り替えられるギルドマン稼業の気楽さを語って締めくくった。
第三話 森の見回りと四人組
自由討伐と森の巡回
語り手はミレーヌに促され、自由討伐の任務としてバロアの森を訪れていた。特定の標的を定めず、規則内で狩りを行う形式の任務であり、金にはなりにくいが森を気ままに巡るには都合が良かった。本来の目的は新人の見守りや違法罠の確認、春に増える犯罪者の警戒であった。
最果ての日差しとの再会
森で出会ったのは若いパーティー“最果ての日差し”であった。リーダーのフランクの指揮のもと、投擲武器でパイクホッパーを的確に仕留め、連携も良好であった。語り手は彼らの成長を認めつつ、順調すぎて見守る必要もなさそうだと感じた。
彼らはロゼットの会が立ち上げたロゼット商会から仕事を請け負い、拡張区画の工事手伝いや搬入などで実入りを得ていると語った。語り手は互助会に属していない理由を胸に留めつつ、彼らの堅実な活動を評価し、激励して森の奥へと進んだ。
助けを求める声と盗賊の正体
その後、女の助けを求める叫び声を聞いて駆けつけると、そこには若い女と三人の男が待ち構えていた。女が囮となり、弓と剣を持つ男たちが襲う構図であり、正体は盗賊であった。装備を捨てろと脅され、毒矢まで示されたが、語り手は挑発しつつ応戦した。
弓の矢をかわし、剣を弾き飛ばし、蹴りと斬撃で次々と無力化した。スキルを使った強斬撃も回避し、弓使いの武器をチャクラムで破壊する。最後に媚びを装い毒針を隠し持っていた女も打ち倒し、四人全員を制圧した。
盗賊団の連行と後味
語り手は四人を縛り上げ、大木の枝から吊るし、盗賊である旨の札を掲げた上で装備を回収した。通りかかったブロンズのパーティーの協力を得て連行し、取り調べの結果、彼らは凶悪な盗賊団であり死刑相当の犯罪者であることが判明した。
公開処刑は行われないが、近いうちに刑が執行されると語り手は理解していた。人の死そのものには動じなくなっていたが、犯罪者を引き渡して得た銀貨の重みには、なお慣れきれず、わずかな後味の悪さを覚えていた。
第四話 雨上がりのジェリースライム討伐
報奨金の分配と祭りへの備え
語り手は盗賊四人組を捕まえた報奨金を、連行を手伝ったブロンズのパーティーに一割渡し、さらに門番と衛兵への飲み代として一割を使って媚びを売っていた。それでも銀貨が残ったため、精霊祭で雑に買い食いするために温存することにし、都市清掃やジェリースライム捕獲などの雑務をこなしていた。並行してケイオス卿としての手紙作りも続け、サングレールに漏れても影響が少なくハルペリアで効果が大きい発明を目指し、試作と実験を重ねていた。
火魔法使いとの雑談と奢りの約束
雨で焼却任務が流れた日に、語り手はギルド資料室で裁縫の指南書を読んでいた。そこへ“若木の杖”所属の火魔法使いクロバルとバレンシアが現れ、火魔法使いは森での使用が禁じられているため、平時に全力を出せる場がゴミ焼却任務しかないと語っていた。二人はそれをむしろ肯定的に捉え、生活の役に立ち金になる仕事だとして喜んでいた。語り手は盗賊を捕まえた話題にも触れ、報奨金目当てかと冗談を言いつつ、酒を一杯奢る流れになっていた。
アルテミスの帰還とジェリースライム捕獲の同行
数日後、王都帰りの“アルテミス”からライナとウルリカがレゴールに戻ってきた。二人はクランハウス用の浄化のため、この時期に増えるジェリースライムをまとめて確保する目的で討伐に向かう予定であった。語り手は魔法の本を読んでいたことから魔法熱が再燃したと口にしたが、実戦では普通に動くよう釘を刺され、三人でバロアの森へ向かうことになった。
雨上がりの森での狩りと装備の工夫
森は雨の湿り気が残っていたが、その方がジェリースライムが活気づくため好条件であった。ライナとウルリカは浄化用で生死にこだわらないため、刺さらず重さで落とせる錘弾の矢を使い、普段使わない鏃の練習も兼ねて狩りを進めた。語り手は最初に石やチャクラムで撃ち落とそうとしたが、回収の面倒さを悟って以後は荷物持ちに回り、手の届く範囲だけを補助していた。
護衛任務の内幕と領主婚約の خبر
狩りの最中、語り手は王都行きの護衛内容を問い、二人は侯爵家の女性ステイシーの護衛だったと明かした。ブリジットが親衛騎士となり、その縁でアルテミスが任務に繋がったという。ステイシーは話好きでギルドマンの仕事に興味を示し、帰路では弓の練習までしていた。さらにステイシーがレゴール伯爵の婚約者になるらしいと語られ、語り手は街の安定に直結する重大事として強く驚き、レゴール伯爵を仁君だと捉えて長生きを願っていた。
帰還と新たな思い
三人はジェリースライムを大袋に詰めて帰還し、語り手は自身の近況としてバッタ狩りや盗賊捕縛を語って場を賑わせた。語り手はレゴール伯爵の婚約が決まったなら贈り物をしたいと考えるようになっていた。
第五話 いつか歴史の片隅で
精霊祭と拡張区画の進行
精霊祭の準備は例年以上に盛大に進められており、消耗品や大道具の規模も増していた。語り手はその理由にレゴール伯爵の婚約発表があるのではないかと推測しつつ、確証は持っていなかった。同時にレゴール拡張区画の工事も加速しており、外壁に沿う扇形の新街区が形を成し始め、二つの角には将来物見塔が建つ予定であった。褐色の大きなレンガが積み上がる様子や、窯や職人差による色ムラに、語り手は街が育つ実感を覚えていた。
ウォーレンの愚痴と励まし
工事現場近くでリュートの練習をしていた語り手は、レンガ運びに不満を漏らすウォーレンと遭遇した。ウォーレンは“大地の盾”加入を目指しており、同組織の方針として荷運びやレンガ積みも兵士技能の一部だと教えられ、この任務に従事していた。語り手は兵士には城壁や砦の修復が必要で土建技能が重要だと説明し、重い物を運ぶ訓練にも意味があると諭した。ウォーレンは納得して気を取り直し、語り手に礼を言って仕事へ戻っていった。
工事風景への愛着と現実感
語り手は工事現場が開放的で人も多く、音を出しても咎められにくい場所であるため、趣味の練習に適していると感じていた。同時に、柱を立てる者、炊き出しをする者、道幅を測る役人など、多様な人々が役割を担って街を形作る光景そのものを好んで眺めていた。この世界がフィクションではなく現実であることを、進行する建設の手触りとして実感していた。
画家ギュスターヴとの出会い
城壁際でキャンバスに向かう中年の男を見つけた語り手は、声をかけて絵を覗き込んだ。男はギュスターヴと名乗り、自分は素人で絵は上手くないと述べたうえで、工事中など「途中の風景」を描くのが好きだと語った。彼にとってそれは芸術というより記録であり、ハルペリアの成長を我が子を見守るような気持ちで眺められるから描くのだと説明した。語り手はその感覚に共感し、食事を勧めるが、ギュスターヴは他人から与えられた食事を口にできない性分だとして断っていた。
未来への期待と自画像の追加
ギュスターヴは描いた絵が四十枚ほどあると明かし、今しか残せない建設中の光景は、何十年何百年後に歴史資料として価値を持つかもしれないと語った。生きているうちは無名でも、死後にこの時代を生きた一人として名が残ることを望み、後年の評価に期待していた。語り手はその発想を面白がり、絵の中にギュスターヴ自身の姿も描くよう促した。さらに語り手は自分の後ろ姿にも白髪の特徴を加えるよう提案し、構図を調整してそれを実現させた。
別れと「証」の残り方
薄暗くなるまで語り手とギュスターヴは絵を描き、語らい、やがて別れた。再会できるかは分からなかったが、語り手は生きていればどこかで会える可能性もあると考えていた。仮に会えなくても、数十年後か数百年後に資料を目にした誰かが、キャンバスの片隅に並んで描かれた二人の後ろ姿を見つけるはずだと語り手は感じていた。
第六話 春の蛇肉パーティー
春の討伐事情とベテランの立場
春は小物討伐の季節であり、田舎出身の新人が増えてギルドは賑わっていた。しかし新人だけではなく、語り手たちベテランも仕事を選ばねば生活できなかった。獣系魔物の討伐もあるものの、狩り場が混雑して落ち着いて動きづらく、緊急の大物依頼を待つ者もいた。自由狩猟は報酬が渋く、各自が財布事情を気にしながら活動していた。
装備と維持費の悩み
語り手はライナ、ウルリカ、レオとテーブルを囲み、弓矢の形状や消耗品の費用について語り合っていた。弓使いは矢の消耗が激しく、剣士は比較的出費が少ないものの装備の整備費は必要である。語り手は革鎧を選び維持費を抑えていると説明し、各職の事情の違いが浮き彫りになっていた。
収穫の剣の大猟と蛇肉問題
そこへ“収穫の剣”が大量のダートハイドスネークの肉を抱えて帰還した。巨大な巣を見つけてクラン総出で討伐したものの、量が多すぎて店に卸しきれず、ギルドに持ち込んだのである。保存の難しい蛇肉は人気が低く、処理に困っていたが、ミレーヌの仲介で料理長ローエンが全量を相場より安値で買い取る決断を下した。ギルドは氷室を使い数日で捌く方針となり、酒場は蛇料理一色となった。
蛇料理と精力談義
メニューには蛇のステーキや串焼き、スープが並び、安価なこともあって注文が殺到した。団長ディックバルトは蛇肉に精力増進効果があると煽り、男たちは盛り上がった。実際には乾燥させた皮や内臓に効能があるとされ、通常調理では効果は薄いらしいとウルリカが補足した。語り手は寒さ対策には役立つかもしれないと冷静に受け止めていたが、酒場の熱気は祭り同然であった。
色街の誘いと各々の距離感
バルガーは語り手やレオを色街に誘うが、語り手は縫い物を理由に断り、レオも修行優先の姿勢を崩さなかった。アレクトラがバルガーを制止し、仲間内の軽口と距離感が浮き彫りになる。語り手は縫い物でポケットの修繕をしていると明かし、ウルリカは興味を示すが、一人でやりたいと断られていた。
精霊祭への期待と高揚
やがて話題は近づく精霊祭へ移った。盛り上がる祭りへの期待が高まり、レオも楽しみにしている様子であった。貯蓄も十分で準備は整っていると語り手は感じていた。一方で、蛇肉を食べた男たちはなおも熱狂し、酒場は異様な活気に包まれていた。春の一日、蛇肉を巡る騒動は、ギルドにひとときの祭りのような空気をもたらしていた。
第七話 祭りの余計なつきもの
精霊祭の華やぎと二人連れの朝
精霊祭で通りは黄色い花と飾りに彩られ、レゴールは一層賑わっていた。宗教行事ではあるが、一般市民にとっては飲食と騒ぎが中心の祭りである。語り手は今年もライナと連れ立って回ることになり、衣祭りで買った露出多めの服を着たライナを褒めた。寒さを気にしつつも、周囲も同様に洒落た格好が多く、祭りの空気が背中を押していた。
裁縫の成果とリュート持参
語り手も裁縫の練習の成果として、普段より身体に合った礼服風の服を用意していた。シワを減らすための工夫まで施し、見た目を整えている。さらに今日は演奏もするつもりで、演奏用に調整した特製リュートを持参し、路上で披露しておひねりを狙う腹づもりだった。ライナは採点すると言い、語り手は身内贔屓を求めるが、ライナは公平を宣言していた。
屋台巡りと花飴の小さな贅沢
人出は昨年より多く、景気の良さが街の熱量として現れていた。屋台は飲食・土産・アクセサリーまで多彩で、常連の屋台も見えてくる。王都で見かけた高級屋台の花飴がレゴールにも出ており、語り手はライナに一差し買ってやる。自分は似合う花がないと冗談めかし、ライナに「キザ」と突っ込まれつつ、祭りらしい買い食いの流れが続いていた。
スリの襲撃と即時確保
混雑の中、子供が意図的にぶつかってきて語り手のポケットから革のピックケースを抜き取った。語り手は手首を掴んで逃走を阻止し、スリであることを突き付ける。子供は「サングレール人に襲われている」と叫んで周囲の同情を誘おうとするが、語り手はレゴールで顔が通っており、状況は崩れなかった。
外野の介入とライナの毅然
「可哀想だから離せ」と介入する男が現れるが、ライナが前に出て、スリの現行を自分も見たと断言し男を退けた。語り手は子供だからと見逃す気はなく、初犯の言い訳も信用しない。甘やかしは改心につながらず、将来の悪化を招くと判断していた。
衛兵への引き渡しと後味
近くの衛兵に引き渡し、ライナも証言して処理は完了した。子供は最後まで悪態を吐き、衛兵にも抵抗するが連行される。語り手は基本的に罵声は気にしないと言いつつ、子供に罵られたこと自体はわずかに刺さると内心を認める。ライナは語り手を気遣い、二人は気分を切り替えて次の屋台へ向かい、祭りを続けることにした。
第八話 聴いたことのないヒット曲
祭りの買い食いと酒への渇望
スリ騒ぎの後は平穏に戻り、語り手とライナは屋台の菓子や出来の微妙な高額クロワッサン、たまご入りスープなどを食べ歩いた。満足はしつつも、酒がない物足りなさを二人とも口にし、そろそろビールが欲しくなっていた。
大道芸通りと「千年先の流行」宣言
大道芸人の演奏が聞こえ、祭りらしい賑わいの通りへ向かう。流れていたのは「春の草刈り歌」のアレンジで、皆がエール片手に合唱していた。語り手はこの世界の音楽の素朴さを感じつつ、自分が演奏して客を釘付けにすると豪語し、通りの空き場所に木箱を椅子として据え、特製のアコギ風リュートを構えて即興の演奏準備を整えた。
ビール確保はライナ、演奏は語り手
ライナは精霊祭限定のホップ増し増しビールを見つけ、語り手の分も買いに走る。語り手はサクラ役が減ったとぼやきつつも自力で客を集めると決め、まずは弾き語りを開始した。
一曲目「学生街の喫茶店」とおひねり成功
語り手は異世界語翻訳版として「学生街の喫茶店」を披露し、哀愁ある旋律が受けて人が立ち止まり始める。貴族の歌のようだと言う者も現れ、深皿には小銭が投げ込まれた。語り手は手応えを得て、ビール代が稼げたと満足する。
二曲目「故郷」と言葉の壁
続いて、元いた「村」では三千万人が知っているという大げさな前振りの後、歌詞の意味を理解していない言語の曲として「故郷」を日本語のまま歌う。内容は伝わらないが、牧歌的でノスタルジックな旋律が一定の客を引き留め、おひねりも増える一方、退屈で去る者も出て観衆は適度な規模に落ち着いた。
ホイッスルで合流し、ビールで仕切り直し
演奏を切り上げてライナを探すが人混みで見失う。そこへ間抜けな笛の音が聞こえ、語り手が渡したシャチ牙製の自作ホイッスルだと気づく。ライナは両手にビールを持ち、流されそうになったため合図として吹いていた。語り手は無事を確認し、演奏で稼いだ分でビール代も払うと宣言する。
外飲みの高揚とギルドへ
ホップの香りが強いビールを飲み、外で飲む酒の旨さに二人とも浸る。気分はビアガーデンとなり、最終的にギルドで酢の物とビールをやりたくなって移動を決める。人混みでライナが流されやすいため、語り手は手を繋いで引率する形になり、浮かぶ色とりどりのジェリースライムを眺めつつ、ゆっくりとギルドへ向かった。
第九話 第五回厚切り牛タン猥談バトル
再来、精霊祭ギルドの狂騒
ライナと共にギルドへ入った瞬間、昨年以上の熱気が吹き抜けてきた。中央ではチャック率いる“収穫の剣”が主導し、「第五回厚切り牛タン猥談バトル」が既に開幕していた。厚切り牛タンを賭け、いやらしい話題の情報量と希少性で競う恒例行事である。
常連たちとの合流
モングレルはアレックスとミルコの席に合流し、隣にはウルリカとレオの姿もあった。酒場はほぼ満席。巻き込まれまいとビールを注文するが、主催側から牛タンを渡され半ば強制参加となる。審判はディックバルト。公平を誓い、勝者には牛タン三枚が与えられる。
第一試合と情報戦の様相
店舗名や嬢の名を具体的に挙げる実地情報が飛び交い、会場は異様な盛り上がりを見せる。ディックバルトの主観も絡みつつ、判定は熱狂的に受け入れられる。牛タン三枚の価値は大きく、恥を捨てる動機として十分だった。
宿命の対決、モングレル対チャック
例年通り、最終的にモングレルとチャックが対峙する構図となる。チャックは先攻を取り、玩具店の陶器製アイテムの活用法という具体的かつ実用的な知識で場を沸かせ、有効判定を得る。モングレルは一時咳き込むほど追い込まれる。
珍奇知識による反撃
チャックの「珍しい知識を」という要求を受け、モングレルは蠟燭を手に取る。打撃系の亜種として、火を灯した蠟燭から落ちる蝋を利用する方法を提示。空中で冷えた蝋が肌に落ちる刺激を利用するという説明に、会場は騒然となる。
審判自らの検証と勝敗決着
ディックバルトはその真偽を確かめるべく自ら背中を差し出す。蝋が一滴落ちた瞬間、彼は絶叫と共に勝者を宣言。チャックは吹き飛び、モングレルの逆転勝利となる。未知の知識は決定打となった。
牛タン分配と余韻
勝利報酬の牛タン三枚を得たモングレルは、仲間たちへ切り分けて分配する。ライナは呆れつつも結局口にし、ウルリカやレオ、アレックスらも受け取る。酒場は相変わらず騒がしいが、肉と酒を囲む席には穏やかな満足感が広がっていた。
第十話 祭りの後の面倒ごと
精霊祭翌日の発表
精霊祭の翌日、レゴール伯爵の婚約が正式に公表された。相手はクリストル侯爵家のステイシー・モント・クリストル。既に内々に話は出回っており驚きはないが、改めて聞けば祝意は湧く。匿名で祝いの品を用意しようと考える一方、祭り明けの街はゴミや吐瀉物で荒れ果て、外出する気力は削がれていた。
副長の突然の来訪
宿で金物を削っていると、ギルド副長ジェルトナが訪ねてくる。後ろ暗い件が露見したのではと身構えるが、用件は過去に関わった外交官アーレントの件だった。
アーレントの裏取りと回復
身元確認と紛失物の回収が済み、アーレントは正式な神殿派遣の外交官であることが確定。現在も穏やかに職務を続けているという。冬の森で遭遇した危機的状況から一転、事態は好転していた。
レゴール滞在と新たな役割
ギルドはアーレントをしばらくレゴールで預かる方針を取り、さらに臨時の格闘教導官として雇う予定だという。現場を知りたいという本人の希望でもあり、実力が本物であれば問題はないと判断された。
モングレルへの依頼
既に面識があり、ギルド内に顔が利くモングレルに、アーレントが円滑に馴染めるよう橋渡し役を務めてほしいとの依頼が下る。表向きはただの“アーレントさん”として扱い、余計な反発を避ける方針だが、これは貴族側の意向も絡んだ案件だった。
条件交渉と受諾
簡単ではない任務だと承知しつつも、食事代の補助や資料室への蔵書追加を条件に引き受ける。植物や魚の図鑑の充実という実利を得て、モングレルは一転して前向きになる。
面倒と期待の入り混じる未来
専属護衛の存在など不穏な要素も増えたが、アーレントが「ただのマッチョな教導官」として定着すれば問題は小さいはずだと腹を括る。まずは都市清掃体験でも、と軽口を叩くが却下される。面倒な任務であることに変わりはないが、遠出がない分、案外気楽かもしれないと考え始めていた。
第十一話 ギルドマン体験ツアー
再会と第一印象の変化
その日のうちにアーレントと再会する。冬の騒動以来の対面であったが、今回はきちんとした装いで応接室に現れた。外交官としての落ち着きを取り戻した姿は、かつての無鉄砲な印象とは異なっていた。
ギルド研修の目的
アーレントは、自身の無知が問題の一因であったことを認め、ハルペリアの人々を理解するためにギルドマンの生活を学びたいと語る。仮のギルド員証も発行され、正式ではないが見学・体験が可能な立場となっていた。
護衛と“腕輪”の存在
しかし背後には月下の死神の一人、呪い師エドヴァルドが控えていた。アーレントの両腕には力を半減させる拘束具兼防具の腕輪が装着されており、定期的な魔力補充が必要だという。万一禁を破れば命を奪う契約も含まれていると明かされ、体験の裏には国家規模の緊張が横たわっていることが示される。
地味な仕事からの体験方針
重苦しい説明を終えた後、モングレルはあえて討伐や護衛ではなく、地道な仕事から体験させると決める。受付に相談し、夕方までの建設現場での運搬作業を選択。華はないが、ギルドマンの基礎を知るには適した仕事である。
予想外の前向きさ
アーレントは肉体労働をむしろ楽しみにしており、その筋骨隆々たる体格からも適性は十分に見える。報酬で食事まで体験するという流れに、本人も乗り気だった。
バルガーの参戦
そこへ偶然居合わせたバルガーも同行を申し出る。かつてモングレルに地道な仕事を教えた張本人であり、結果的に三人での作業となった。
汗と酒を目標に
建設現場へ向かう“チームバルガー”は、任務というより汗を流した後の酒を見据えた気軽な出発である。国家の思惑や拘束具の重さとは裏腹に、現場ではただの労働と仲間の空気が流れていた。
第十二話 肉体労働と肉談義
拡張区画での作業開始
アーレントとバルガーと共に、レゴールの拡張区画へ向かった。依頼に基づき、監督事務所へ受注証書を提出し、現場監督ロドリコの指示を受ける。任されたのは、出土した大量の石や建材を運ぶ単純な力仕事であった。
重労働と身体強化の限界
石運びは見た目以上の重労働であり、身体強化を用いれば効率は上がるが、長時間の維持は困難である。短期決戦の討伐とは異なり、土木作業は持久力が問われる分野だった。張り切っていたバルガーは早々に息を切らし、休憩に入る。
異次元の働きぶり
一方、アーレントは圧倒的な体力と筋力で作業をこなし、両肩に建材を担ぎ別部署まで支援に回るほどの活躍を見せる。現場の子どもたちからも人気を集め、すぐに注目の的となった。その姿は、もはや人力重機と呼ぶに相応しかった。
正体の共有と今後の懸念
休憩中、モングレルはバルガーにアーレントの素性を打ち明ける。敵国サングレールの外交官であり、“白頭鷲”と呼ばれた人物であること、そしてギルド体験の背景に複雑な事情があることを説明する。表向きは穏やかでも、正体が知れれば火種になり得る存在であると再認識する。
受け入れ方の模索
バルガーは、まずは理解者の多い若木の杖などから接点を広げるべきだと助言する。偏りすぎず、しかし孤立もさせない距離感が重要だという意見に、モングレルも同意する。全面的な肩入れは避けつつ、自然な形で馴染ませる必要があった。
仕事終わりの酒と食事
作業後は報酬を受け取り、ギルド近くの「森の恵み亭」へ向かう。エールとボアの串焼き、ポリッジを囲みながら、互いの食文化について語り合う。サングレールのあっさりした食事事情と、ハルペリアの脂の乗った肉の違いに話題は広がる。
働き以上に使う金
重労働の後の酒と食事は格別であったが、調子に乗れば給金以上に消えるのも事実である。汗を流し、食い、飲み、そしてまた働く。ギルドマンの生活とは、そうした循環の上に成り立っているのだった。
第十三話 職業の貴賤
解体所での合流と見学目的
東門の解体所で吊り上げ作業を手伝っている最中、鳥撃ち帰りのライナ、レオ、ゴリリアーナが合流した。モングレルはアーレントを同行させ、討伐に入る前段として「獲物の解体・分別」という常設の地味仕事を見学させていた。アーレントは施設の集中処理方式や流通する肉量に関心を示し、現場の仕組みを前向きに観察した。
筋肉同士の共感
アーレントはゴリリアーナの鍛えた身体を評価し、ゴリリアーナもアーレントの肉体を称える。恋愛ではなく「筋肉」を軸に通じ合う空気が生まれ、周囲から見ると妙に微笑ましいやり取りとなった。
アーレント同行の事情説明
解体作業を終えた後、モングレルはライナたちに事情を説明する。アーレントはギルドの実地研修を行う立場で、モングレルが案内役を任されている。アルテミス側にも協力を求めたい意向を伝えると、ライナは乗り気となり、ギルドマンの仕事が市民から低く見られがちな現実も踏まえて、理解を広げる機会だと受け止めた。
ギルドマンへの偏見と当事者意識
ライナとレオは、認識票を見られた際の冷たい視線を実感として語る。モングレルは、ハルペリアではギルドマンが高ランクでも「所詮ギルドマン」と扱われがちで、「腕が立つのにギルドマン=訳あり」という見方も根強いと整理する。ライナは「卑しい仕事と見られるが、実態はそう単純ではない」ことをアーレントに知ってほしいと明確に言葉にした。
アルテミス上層との面談
後日、ギルド酒場でアーレントはアルテミス団長シーナ、副団長ナスターシャと対面する。シーナは白頭鷲への敵意と不信を隠さず、監視を前提に「モングレル同伴での任務見学のみ許可」と条件を提示する。問題が起きた場合の責任はモングレルに帰す形となり、事実上の保護者兼監視役を命じた。
信仰観の衝突
アーレントが「太陽神と命にかけて」無作法はしないと誓うと、シーナはその誓いをこの国では重く取れないと突き放す。さらに「神を優先するのか、人を優先するのか」を見ていると告げ、厄介になる側としての身の振り方を考えるよう釘を刺した。アーレントは抵抗を示しつつも、検討すると応じた。
ナスターシャの関心は腕輪へ
ナスターシャは終始、アーレント本人より拘束具の腕輪に強い関心を向ける。腕輪を闇魔法の芸術として評価し、観察できるなら異論はないという姿勢を示す。シーナは呆れつつも、実務上の合意形成は成立した。
次の段階として討伐見学へ
ライナが積極的に「色々見てほしい」と提案し、アーレント自身も討伐任務の見学を希望する。モングレルも時期として妥当と判断し、次はアルテミスのメンバーと「一般的で軽めの討伐」を受ける方針を固めた。
ウルリカ不在の補足
ウルリカは料理中の油で足を火傷し、ヒーラーの治療を受けて休養中であると判明する。ライナはその分も討伐で頑張ると意気込み、次回へ向けた流れが整った。
第十四話 巨大カエル食べ放題
討伐任務の位置づけと稼ぎの実態
討伐は魔物や害獣の駆除であり、報酬が常に「倒した数だけ」出るわけではない。ギルドが金を出すのは近場で大量発生が見込まれる案件が中心で、森の奥地での狩りは稼ぎになりにくい。一方、食肉になる魔物なら売却益が見込め、春〜秋の森ではそれが実利的な稼ぎ方になる。
今回の獲物はクレータートード
アーレントの討伐体験として、初心者が食い繋ぎに使う春の定番「クレータートード」を狙う。同行はアルテミスのライナ、レオ、ゴリリアーナ。目的は戦闘よりも肉の確保と運搬で、実務寄りの討伐である。
事前レクチャーと遭遇マナー
クレータートードは動きは緩慢だが跳躍・突進が危険で、頭部狙いが基本となる。川沿いで同業のギルドマンと遭遇し、上流側に群れがいる情報を得る。狩場を譲り合う不文律や、強者に場所を譲りがちな風習、逆に居座りや追い払いが起きる現実も示される。
討伐の実演と各人の力量
最初はモングレルがバスタードソードで背後取りから首元を断ち、跳ばせず仕留める手本を見せる。
続いてライナは貫通射で眉間を撃ち抜き、レオは双剣で跳ねる相手に追従して首を落とす。ゴリリアーナは踏みつけに来た個体を空中で真っ二つにし、スキルなしの膂力を誇示する。
白頭鷲の異常性が露呈する一撃
最後にアーレントが出番となり、苔むした岩場を超人的な身軽さで接近する。トードの正面に躍り出て、右手を軽く振り下ろしただけで頭蓋骨を陥没させ即死させた。腕輪で強化が抑制されているにもかかわらず、この速度と精度であるため、モングレルは「本気なら飛ぶ」というエドヴァルドの警戒が誇張ではないと実感する。
理想的な仕留め方とアーレントの手応え
可食部を傷つけず頭部だけを確実に破壊する手口は、肉確保の観点で理想的と評価される。アーレントは「理想的なギルドマン」と言われて素直に喜び、ギルドマン扱い自体を前向きに受け取っている様子が描かれる。
猟師飯と“食べ放題”の結末
アーレントが仕留めた個体をその場で焼いて試食し、初カエル肉は好評となる。鶏肉に近い淡白さが説明される一方、塩を振ると生肉がピクつく小ネタで場が騒ぐ。結局、アーレントとゴリリアーナの食欲が突出し、四体分のクレータートードが胃袋に消える。討伐→即席の猟師飯という流れが、ギルドマンらしい日常の実感として締められる。
第十五話 猛禽飼育の持ち回り
アーレントの「ギルド内での立ち位置」が固まり始める
アーレントは討伐・雑用・工事現場などに顔を出し続け、圧倒的体力と怪力、穏やかな態度で「同業者ではないが時々手伝う、すごいマッチョ」としてレゴール支部に受け入れられ始めた。一方で、解体現場で煉瓦壁を殴って崩すなどの逸話が残り、「優しそう」という印象には繋がりにくい。
モングレルが“付き添い役”から外れる必要
アーレントが常にモングレルとセット扱いでは、ギルドに馴染む目的が達成できない。モングレルは自分不在でも体験が回る体制を作るため、他パーティーへ「持ち回り」を依頼する方針に切り替える。
受け皿としての“若木の杖”
アルテミス(シーナ)は警戒心が強く、看板としての「虎の威」を貸す気配も薄い。そこでモングレルは、サングレール出身者がいる“若木の杖”へ話を持ち込む。
サリーは取引条件として腕輪の解析に食いつき、魔法使い勢の関心が結局そこへ収束する。モングレルは「また腕輪か」と呆れるが、交渉材料としては機能する。
サングレール側の温度差とヴァンダールの緊張
モモは警戒を崩さず、ヴァンダールは元サングレール軍人としてアーレント(聖堂騎士“白頭鷲”)を前に露骨に緊張する。アーレントは「今は外交官」と説明し、平和のための協力を求めるが、“若木の杖”全体の反応は意外に淡白で、「敵国だから」より「手間が増えるか」が主な論点になる。
ヴァンダールは帰化者として古巣に思うところがあると吐露し、アーレントの「訓練するか」という申し出は即座に拒否する。この“畏れ”が、モングレルにとってはアーレントの危険度を再確認できる材料にもなる。
受け入れ成立と、雑談で出る本音
最終的に“若木の杖”でも見学受け入れが決まり、モングレルの拘束が緩む。以後ギルド酒場などでは、アーレントがサングレール人であること、ギルドが丁重に扱っていること、喧嘩を売ると危険そうなこと、ただし悪人ではなさそうなこと、ポリッジ好きといった噂が混在して語られる。全面的な好意ではないが、地道な積み重ねで警戒一色からは確実に後退している。
モングレル側の日常回帰
体制が回り始めたことで、モングレルはライナと釣りの約束をし、案件にかかりきりにならない距離感へ戻る。アーレントの“ギルド飼育”は、個人依存からパーティー持ち回りの運用へ移行した段階で締まる。
第十六話 シルサリス川で魚釣り
近場釣行の動機と狙い
モングレルは肉と粥続きの食生活に魚欲が高まり、遠出は避けてレゴール近郊のシルサリス川へ釣りに出る。同行はライナとウルリカ。魚に加えてエビ・カニなど甲殻類も狙い、釣果はその場で揚げ物中心に調理する前提で、鍋・油・道具一式まで持ち込む。
釣り場の癖と序盤の不調
シルサリス川は川幅は広いが浅く、底に当たりやすく根掛かりもしやすい。餌釣りで岩陰や草陰を狙うのが基本となる。今回はパイクホッパーの肉片を餌にしたが当たりが薄く、ポイントか餌の選択ミスを疑う流れになる。
戦術変更で状況が動く
ライナは以前使った虫餌(コリノムシ/ボルボムシ系)に切り替え、ウルリカは場所を移動。モングレルは調理準備を進めつつ同じ釣り方を続行する。結果、変更した二人が先に成果を出し、モングレルは内心で自分の場所・餌の両方が外れていた可能性を感じる。
ライナの初ヒットとラストフィッシュ
ライナが竿先の震えを捉えて初ヒット。浅瀬へ誘導して釣り上げたのはラストフィッシュで、しかも過去最大級の大物。塩焼き向きの川魚として喜ぶ。
ウルリカの大物ファイトと“モスシャロ”
ウルリカにも強い当たりが出て、リール竿でのやり取りが難航する。モングレルが背後から一緒に竿を支え、糸を出す/巻くのタイミングなどファイトの基本を教えながら介助する。粘った末に約40cm級の大魚を釣り上げ、種は“モスシャロ”と判明する。食用可能で、持参した大鍋に活かして確保する。
競争心の加速とモングレルの現実逃避
大物を見たことでライナはウルリカの場所を試し、ウルリカは餌も真似して釣果を伸ばそうとする。対してモングレルは自分がまだ釣れていない状況を「調理がある」と言い訳し、最終的に“調理に集中する”方向へ逃げるところで締まる。
第十七話 モスシャロの調理
ラストフィッシュは手早く塩焼き
ラストフィッシュは通常の川魚として扱い、内臓を抜いて串打ちし、塩を強めに擦り込んで焼けば成立する。手間を掛ける対象ではなく、現地調理向きの獲物として処理が進む。
モスシャロは“デカい・ぬめる・臭う”で難度が上がる
ウルリカが釣ったモスシャロはナマズに近い体型で胴が太く、丸焼きが現実的ではない。表面のぬめりも強く、味の阻害要因になりそうだと判断される。塩揉みは塩の消費が大きいので避け、熱湯を皮にかけて白い汚れを凝固させ、手が滑りにくい状態にしてから解体へ進む。
内臓の大きさと食用判断の慎重さ
腹を開くと内臓が想像以上に大きく、可食部の比率に不安が出る。肝は太っていて美味そうに見えるが、未知の淡水魚で安全性も分からず、図鑑にも情報がないため廃棄する。胃袋の中身は緑っぽい内容物で草食寄りと推測されるが、食材としての安心材料にはならない。
“ソードブレイカー”で強引に三枚おろし
モスシャロの骨は硬く、腹骨や血合い骨まで手強い。モングレルはソードブレイカーに魔力を流し込み、ペキペキと骨を割るようにして三枚に下ろす。背骨・中骨は骨せんべいにするにも厳しい硬さで、廃棄か出汁用途が現実的だと見積もる。
臭み対策で牛乳確保の“往復走り”
なお臭いが残るため、切り身を牛乳に漬けて臭み抜きを行う方針を立てる。近場に牛乳がないためレゴールまで走って購入し、ついでに卵など食材も補充する。帰路でレオと遭遇し、任務で同行できない代わりにパンの差し入れを受け取る。
釣り場の当たり発見と釣果の積み上げ
川に戻ると、ライナとウルリカは蛇行部の窪み(急流と緩流が混ざる場所)を“爆釣スポット”として確保しており、鍋には魚やエビが増えている。モングレルの竿も場所移動でエビが一匹釣れていた。
現地調理が本格化
モングレルはまず塩焼き用にラストフィッシュを仕込み、串に刺してかまど周辺で焼き始める。エビは泥汚れを落とし背ワタを抜き、殻や尾先を整えて素揚げへ回す。油で揚げる過程で腕が外れるが、味が良いのでつまみ食いし、ライナとウルリカに見つかって咎められる。出来上がった素揚げを渡して機嫌を取り、場の空気を戻す。
牛乳漬けのモスシャロは“出来てから判断”
モスシャロの切り身は小鍋の牛乳に漬け、臭みが抜けるかは完成後に判断する方針となる。残る臭みが強ければ二度揚げ三度揚げも視野に入れつつ、現時点では「そこまで酷い匂いではない」と見て進行する。
第十八話 星の下で夢を見る
終日調理で“現地バイキング担当”になる
昼食はレオからのパン、ラストフィッシュ塩焼き、エビ素揚げで済ませつつ、ライナとウルリカが釣り続けるため調理が途切れない。薪拾い・草摘み・湯沸かし・揚げ物・魚捌きが同時進行となり、モングレルは「ホテルのバイキングで焼き場に張り付くコック」の気分に陥る。
釣果が増え、フライ前提で保存も意識する
夕方まで二人は釣りに熱中し続け、モスシャロの小型個体まで追加で釣り上げる。今日食べない分も衣を付けてよく揚げれば多少は保つと見込み、調理を継続する。
タルタルソースを現地で組み立てる
卵・酢・油・塩・スパイス・刻んだ香味野菜を混ぜ、マヨネーズなしの“玉子サラダソース”としてタルタルを作る。マヨネーズ自作には否定的だが、タルタルは無難に美味くまとまり、手応えを得る。
タルタルフィッシュバーガーが完成する
薄切りパンに葉(その場で摘んだもの)を敷き、ラストフィッシュとモスシャロのフライを載せ、タルタルをかけて挟む。“上品に見えて手づかみ”の料理として提供され、二人はモスシャロの臭みが消えていることや、味の複雑さ(卵・野菜・酸味)を評価して食べ進める。材料が高価で量産しづらい点も同時に自覚する。
帰宅判断と“野営はモングレルだけ”の結論
暗くなる前に帰るよう促すが、未処理の小型モスシャロが残っており、モングレルは一泊して片付けてから朝に戻ると決める。ライナは一瞬泊まりたがるが、結局ウルリカと帰ることにし、モングレルは揚げ物一式を土産として持たせ、特にパンをくれたレオへ渡すよう念押しする。
静けさの中で一人飲みへ移行する
二人が去ると、川の音と熾火の微かな動きだけが残り、モングレルはウイスキーと揚げたてフライ、タルタルで晩酌を始める。鍋で生かしているエビの動き、虫の声、油の音、魔物除けのお香の匂いが夜の空気を満たす。
星空と妄想、そして睡魔
街灯のない夜空には膨大な星が瞬き、見慣れた星座は見つけられないほどだと感じる。ラグマットに寝転びながら「いつか店を開いてバーガーを出す」などの妄想をするが、高級店化を嫌って自分で否定し、酔いと疲れに押されて眠りに落ちる。
第十九話 忘れた明晰夢
夢だと気付いた瞬間
モングレルは自分が夢の中にいると理解する。突飛な状況でも気付かないことが多い中、今回はあっさりと看破できたことに不思議さを覚える。
前世のバイク走行の情景
夢の中で彼は前世の自分としてバイクに乗っていた。中古で買ったお気に入りの車体で、時速百キロ近い速度の風を感じながら走る。北海道の広い道を走りたいと独りごちる姿は、異世界では味わえない感覚への郷愁を帯びていた。
別れと一人趣味の時期
その情景は三十歳手前、交際していた女性と別れた頃の記憶であった。仕事も長続きせず、辞職のタイミングで北海道旅行を画策するなど、無計画ながらも自由を楽しんでいた。当時の自分を俯瞰し、行き当たりばったりな性格は今も変わらないと苦笑する。
人恋しさを拒む心境
サービスエリアで後輩からの誘いを受け取るが、簡潔に断る。傷心というよりも、ただ一人で何かをしたい時期であった。キャンプや弾き語り、花見やラーメン巡りなど、他人を巻き込まない気ままな行動を望んでいたことを思い出す。
尽きない欲求と節制思考
海を見たい、クジラを見たいと欲求は転がり続ける一方、移動費をどう抑えるかと現実的な計算も始める。物を増やし金を減らす癖を自覚しつつも、その日々に満足し、幸せだと思っていた自分の姿があった。
夢の消失と現実への帰還
寒さで目覚めると、焚き火は消え川辺は冷えていた。火を焚べ直すうちに、先ほどまで鮮明だった夢の内容は薄れていく。確かに懐かしく楽しかったはずの記憶も、明晰夢と同様に跡形もなく消えてしまうのだった。
第二十話 猜疑心を煽る翅
揚げ物の余韻と金勘定
食道楽は活力を生む娯楽だと考えつつも、揚げ物続きで胃に負担が出たことを自覚する。数日あっさりした食事に戻したが、財布は確実に軽くなっていた。臨時収入はあったものの、使った分を埋めたくなる性分から、朝からギルドで依頼を物色する。しかし手持ちに余裕があるせいで地味な仕事に気が乗らない。
“大地の盾”の異変とイビルフライの報せ
ギルドで“大地の盾”が同士討ちを起こしたという噂を聞く。原因はイビルフライとされ、討伐証明の複眼は二つのみ回収されたが、森の位置も正確には把握できていないという。イビルフライは銀色の蝶の魔物で、鱗粉を浴びると数分から数時間の記憶を失う特性を持つ。モングレルは報酬度外視で駆除を決意する。
診療所での確認と違和感
東門の診療所で負傷した“大地の盾”の二人を見舞う。顔に痣を作りつつも、当人たちは殴り合いの経緯を覚えていない。同行していたアレックスも同様であった。熟練の三人が同時に戦ったという事実から、イビルフライは二匹では済まないはずだと推測し、探索ルートのメモを受け取って森へ向かう。
記憶の断絶と戦闘の痕跡
森で記憶が途切れ、気付けば夕暮れの中に立っていた。周囲には五匹のイビルフライの死骸と、深く斬られたサイクロプスの遺体が横たわる。自身は無傷だが、戦闘の記憶は飛んでいた。
真相の推測
イビルフライの鱗粉は他の魔物にも影響し、サイクロプスも記憶を錯乱させられていた可能性が高い。記憶を奪う蝶と暴れる巨人の組み合わせは極めて凶悪であり、“大地の盾”の三人が同時に戦闘に入った理由も理解できる。彼らは手負いのサイクロプスを前に複眼だけ回収し、撤退を選んだのだと推測する。
手柄の配分と帰還
モングレルは討伐証明を回収するが、報酬の一部は“大地の盾”に回る形に調整するつもりであった。怪我と仲間割れの疑念を背負った彼らに、これ以上の不運を重ねる必要はないと判断する。剣を収め、森を後にしつつ、二人に仲違いの原因が魔物の影響であったと伝えるため急いで帰還するのだった。
第二十一話 溝と渓谷
誤解の解消と“走れメロス”の抱擁
レゴールへ戻ったモングレルは、“大地の盾”にイビルフライとサイクロプスの討伐を報告した。療養中のログテールとラダムは呆気にとられた後、泣き笑いで抱き合い、互いへの疑念を晴らした。記憶が欠落している以上、殴り合いの真相は断定できないが、サイクロプスと蝶の群れの状況下で仲間割れは現実的ではなく、遺恨はほぼなかったとモングレルは結論づけた。
副団長マシュバルの同席と高級店の謝意
礼は食事で済ませるはずが、副団長マシュバルが代表として同席し、貴族街寄りの高級料理店へ案内される。実務も担う実質的な指揮官であるマシュバルは、“大地の盾”に亀裂が入らずに済んだと明確に感謝する。アレックスも同席し、退却時に情報を残せなかったことを詫びるが、モングレルは風刃剣による傷の痕からアレックスの貢献を認め、全員が大事に至らなかったことを災難として整理した。
会食の終盤で切り出されたアーレントの話
食事が進んだ頃、マシュバルはモングレルが案内していた外交官アーレントの安全性を尋ねる。マシュバルとアレックスの世代では、“白頭鷲”アーレントは悪名高い存在として語られてきた。モングレルは、普段のアーレントは穏やかで、外交官として下手な手出しは国際問題になると釘を刺しつつも、確かに危うさを否定できない現実も認める。
“白頭鷲”の伝説的イメージと現実のギャップ
マシュバルは、自分たちの世代が持つアーレント像を語る。白銀の毛皮を靡かせ戦場を跳び回り、拳で剣を折り、蹴りで鎧を穿つ“虐殺の猛禽”という凶暴な英雄譚であった。モングレルの知る、焚き火のそばで凍えがちな寡黙なマッチョ像とは隔たりが大きく、誇張があるにせよ、かつての戦場での圧倒的な存在感を示唆するものでもあった。
接点づくりという予防策
モングレルは、問題回避のためにも“大地の盾”がアーレントと小さく関わる機会を持つべきだと提案する。食事、共同任務、修練場での指導など、接点を作れば偏見やすれ違いによる衝突を減らせるという考えである。マシュバルも、隔意を抱えたまま放置すれば酔いの勢いなどで事故が起こり得ると受け止め、クランハウスで検討すると決めた。
深い溝と、それを越える方法
会食を終えたモングレルは、味付けの好みは別として“奢られる飯”の良さを噛み締めつつ帰路につく。国家と人種の間に横たわる溝は、個人間の誤解など比べものにならない深い渓谷であり、敵国の英雄であるアーレントを巡る感情は簡単に埋まらないと理解する。それでも、アーレントが橋を架けるのか、鳥のように飛び越えるのかを、モングレルは国民の一人として後方から見守る決意を固めるのだった。
第二十二話 わりと一般的なエルフさん
弓剣の弦切れと市場帰りの寄り道
モングレルは弓剣の弦を切ってしまい、ライナの紹介で“アルテミス”御用達の弓専門店に弦の張り直しを依頼した。店主は刃付き弓剣を面倒がりつつも、割増料金で対応する。用事を済ませた二人は朝の市場をぶらつき、野菜の話をしながら青物市場へ流れ込む。
野菜と栄養の話、そしてタケノコ
モングレルは肉偏重を自覚しつつ、野草などで野菜成分も摂っていると語る一方、この世界の作物の栄養価や安全性は分からず、アク抜きや加熱で対処するしかない現実を整理する。ライナは珍味扱いのタケノコを買い、モングレルはこの世界の竹が成長も強度も加工性も微妙で“チート素材”にならない点まで説明する。
カテレイネ再登場と不穏な雰囲気
市場でモングレルは、かつて放浪していた十代の頃に依頼主として関わったエルフの女性カテレイネと再会する。金髪・褐色肌・長い耳に加え、左右で色の異なるオッドアイという目立つ特徴、さらに古いローブと独特の言い回しが相まって、ライナは強い“ただ者ではない感”を受ける。カテレイネは野菜売りとして露店を出しており、再会を機にサービス価格で根菜を売り、意味深な言葉でモングレルの旅路を“応援”して別れる。
正体は「見たまんま」だった
露店を離れた後、ライナはカテレイネの正体を問い詰めるが、モングレルの答えは拍子抜けするほど現実的だった。カテレイネは見た目通りエルフで、サングレールの血が入って金髪ではあるものの、実態はベイスン近郊で畑を持ち、根菜を作って行商する普通の農家である。褐色肌は日焼け、ローブは古着、杖も“それっぽく見えるだけ”で魔法は使えない。オッドアイも生まれつきだという。
マクレニアの根と、ズレた“怪しさ”
モングレルが買った根菜はマクレニアという植物で、齧ると強烈に辛く身体が熱くなる。冬場はすりおろして飲み物に入れると温まると説明するが、ライナは「怪しい」と反発する。カテレイネ本人ではなく、取り扱う根菜の方が結局“変”という形で会話が締まり、モングレルは寒くなったら特製ホットドリンクで納得させる腹積もりを固める。
第二十三話 狩人の毒牙
クランハウスの工作部屋と矢毒づくり
“アルテミス”のクランハウスには風呂だけでなく、弓使い向けの工作部屋があり、備品の加工や製作ができる。ウルリカはそこで、ナスターシャの監督のもと弓矢用の毒を調合していた。ウルリカの高火力スキル“強射”は獲物の損壊や魔力消耗の問題があるため、獲物の行動力を落とし、肉の廃棄を最小にする“狩猟向きの毒”が必要となる。
無臭毒と魔水調合、ナスターシャの指導
調合は薬研と、魔水調合用の密閉アランビックで進められる。水魔法で生成された水が時間で(ほぼ)自然消滅する性質を利用し、加熱せずに成分を壊さず混ぜる手法である。ナスターシャは腐敗毒や煮詰めた毒よりも自然毒の扱いに魔水調合が適すると説き、防護のためマスク着用を徹底させる。本人は「毒は薬より大雑把で楽」と言うが、ウルリカは細々した作業に乗り気ではない。
ライナ帰宅と“変な根っこ”の正体
弓専門店から戻ったライナが、モングレルから分けてもらった奇妙な根菜を持ち帰る。痩せた人参のような外見だが、ナスターシャは匂いで即座に「マクレニアの根」と見抜き、薬用植物として価値があると評価する。折れた断面から薬臭い香りが立ち、乾燥品でも匂いが続く。
マクレニアの用途と“惚れ薬”の話
ウルリカは矢毒への転用を提案するが、ナスターシャは単純な毒成分はないと否定しつつ、分量次第で血行促進・発汗を促し、結果として毒の巡りを早める補助としては利用可能だと整理する。さらに貴族社会では興奮剤として用いられる例があり、俗に“惚れ薬”に近い用途で高値取引されることもあると説明する。ライナは興味薄めで、ウルリカは逆に値段に食いつく。
銀貨一枚の安さと、ウルリカの衝動行動
ライナは「知り合い価格」で銀貨一枚だったと明かし、露店主は褐色肌でローブ姿のエルフ、雰囲気がある人物だったと補足する。高値で売れるうえ料理にも使えると聞いたウルリカは、調合を放り出して店を見に行くと言い出し、ナスターシャに残作業を丸投げして飛び出す。気ままな末っ子気質がここでも出る。
ライナが調合を引き継ぎ、秋に備える
残されたナスターシャは不満を漏らしつつも、興味を示したライナに魔水調合の続きを教える。ライナはウルリカの途中から矢毒を完成させ、実用化は数か月後、秋の狩猟最盛期に間に合う見通しとなる。
今後の忙しさとステイシー対応
ナスターシャは、今後はステイシー(王都から来た伯爵の婚約相手・侯爵家出身)の護衛や指導で“アルテミス”全体が忙しくなると見通す。ライナは気疲れを覚えつつ、夏頃に遠出して気分転換したいとこぼし、ナスターシャは検討を約束する。
第二十四話 森の奥地のオーパーツ
伯爵の婚約成立と“裏向き”の贈り物問題
レゴール伯爵とステイシー嬢の婚約が決まり、結婚式は秋予定となった。モングレルは庶民としては式に縁が薄いが、裏では「ケイオス卿」として結婚祝いを用意すべきだと考える。モングレル名義の贈り物は警備で止まりかねない一方、ケイオス卿名義なら以前の知識提供の実績から届く見込みがある。ただし“ブランド”を傷つけない品選びが難航する。
迷うと森へ行く癖と、秘密基地四号の捜索
結局モングレルは単身でバロアの森奥地へ向かい、考え事と作業の拠点としている“秘密基地四号”を探す。地図もGPSもなく見失いがちだが、薬剤で腐らせて芽を出さないよう処理した枯れた切り株を目印に発見する。
地下倉庫の構造と“未公開発明品”の隠匿理由
切り株の下を掘ると、タールで防水加工されたレンガ造りの小さな地下シェルター(倉庫)が現れる。ここは居住用ではなく工具・材料・試作品の保管場所であり、作業はテントやタープ下で行う。街中に置けない“ヤベぇ道具”を隠す意図がある。
倉庫に眠るオーパーツ級の試作品
保管物は、手製ベアリング入りの試作旋盤、鉛活字の簡易活版印刷機、永久磁石を使った発電機など。いずれも国内外の技術・産業バランスに影響し得る。特にベアリング機械が外部に漏れれば鉄量で勝るサングレールが優位になる懸念があり、活版は紙の大量生産が整わない現状では時期尚早と判断している。発電機は電気技術そのものよりも「強い電波に一部魔物が強い敵意を示す」危険が判明し、封印気味になっている。
急進の弊害への警戒と“無難”への転換
モングレルは、技術を押し進めても経済や社会が追いつかず、急激な進歩は失業者を生むと考えて躊躇する。結論として“チキンになった”と自覚しつつ、波風の立ちにくい贈り物に切り替える。
結婚祝いはアイデアノート(ルーズリーフ)に決定
クロスレザーシープ(紙のような質感の革)をA4サイズに裁断し、穴を開け、ワイヤーで綴じてルーズリーフ形式の冊子を作る。内容は小ネタ集として、家畜飼料の重要性、短期で成果が出る設置物案、肥料案、軽量車輪デザイン、共通規格コンテナの必要性、睡眠と食事、出産から産後の留意点などを手書きでまとめる。表紙にはケイオス卿らしく、再現に科学知識が要るマーブル模様の膜を固着させて完成させた。
満足しきれない締め
伯爵なら幾つかは活用してくれるはずだと納得しかけるが、「ノートだけでは物足りないのでは」と迷いが再燃する。追加で何か添えるべきか(ぬいぐるみ案まで浮上)と悩み続け、森の奥地で思案が長引く。
第二十五話 成長する娘と息子
庶民の結婚式とジュリアの門出
レゴール伯爵の婚約とは別に、庶民もまた結婚する。宿屋“スコルの宿”の長女ジュリアが、数年交際していた陶器工房勤めのシモン(18)と結婚式を挙げる。神殿での式は、夫が妻にヴェールを被せ、ヴェール越しに参列者に見えない形でキスをする作法がクライマックスとなり、参列者は喝采で祝福する。
女将さんの涙と残る家族の課題
女将さんは第一子ジュリアの嫁入りに号泣する。ジュリアは幼い頃から宿の手伝いと妹弟の世話を担い、反抗的な面はあってもまっすぐ育ったと語られる。今後はシモンの家へ嫁ぎ、姑との同居も控えるが、ジュリアの気質なら適応できると見られる。一方で“スコルの宿”は人手が減り、次女ウィン(11)と末っ子タックが残る。ウィンは協力的だが、タックは手伝いを渋り、女将さんは叱咤して宿の継続を誓う。
披露の宴とモングレルの居心地の違い
式後は宴となり、酒と料理で祝う。モングレルはギルドマン中心の集まりとは違う一般市民の空気に新鮮さを覚える。料理はローリエ多用で好みから外れるが、場の賑わいは続く。
新郎シモンの相談と“嘘”の正体
宴の最中、シモンがモングレルに声をかける。ジュリアから「宿に長く泊まる兄代わり」と聞いていたという。仕事の話題になり、シモンは「高級な器を焼かせてもらっている」とジュリアに言っていたが、本当の担当は別で、結婚を機に打ち明けるべきか悩んでいると告白する。
任されていた仕事は“男性器を模した陶器”
シモンの実務は、夜の街で使われる男性器形状の陶器製具の製作だった。モングレルは事情を知ってしまい、気軽に「正直に言え」と背中を押せなくなる。職に貴賤はないと頭では理解しつつも、内容が内容だけに、ジュリアに伝えるのは時期尚早だと助言し、先延ばしを勧める。
“息子”という自嘲と、職人の決意
モングレルはその道具を自分の名(モングレル)に重ね、シモンが「モングレルを量産している」構図に複雑な苦味を覚える。シモンは助言を前向きに受け取り、「いつか恥ずかしくない逸品を作り、誇れる形でジュリアに示す」と決意して男友達の輪へ戻る。モングレルは苦いビールを飲みながら、娘(ジュリア)も、息子(“モングレル”の象徴=自分の分身のような製品)も、親の見えない場所で成長していくのだと締める。
第二十六話 転ばぬ先の技能講習
夏の到来とギルド内業務
夏が近づき、昼が長く暑さと悪臭の季節になる。都市清掃の任務もあるが、石造りで涼しいギルド内でも備品点検・修理・新人講習・稽古などの仕事がある。モングレルはブロンズのため初期講習は担当できないが、修練場での戦技講習なら教官役として開ける。
戦技講習を開いた理由
戦技講習は参加費収入になるが大儲けではなく、集客は人徳次第である。モングレルは「教えたがり」気質に加え、別の思惑もあって格安設定で講習を開催し、アイアンの新人9人を集める。装備は貧弱だが、身銭を切って学びに来る時点で一定の意欲があると見做す。
アーレント同席と“外交官への礼節”の教育
モングレルは助手としてアーレントを紹介する。新人たちは「誰」「ハゲ」など軽口を叩くが、モングレルは「外交官に失礼をすると貴族が激怒する」と現実的な脅しで態度を正させる。狙いは、アーレントの顔を覚えさせることと、体術の実演役として活用することにある。
テーマは攻撃ではなく防御、そして受け身
今回の講習は夏〜秋の討伐シーズンに備えた「防御の練習」に絞る。新人が攻撃偏重で防御を軽視すると、秋にベテランが遺体捜索(消息不明者の遺品回収)をする羽目になるとして釘を刺す。特に「転倒時の受け身」を生存技術として扱い、森では敵がいなくても転倒が死に直結し得ると教える。
悪い手本と良い手本の比較学習
半笑いしていた少年をわざと転ばせ、受け身なしの「ゼロ点」を実演する。首を折られて死ぬ、魔物にやられるなど過激な比喩で危険性を叩き込んだうえで、アーレントに見本を依頼する。モングレルが雑な投げを繰り返しても、アーレントは衝撃を分散し急所を庇う美しい受け身で即復帰し、要点を「衝撃分散」と「急所保護」に整理して助言する。
森仕様の応用と反復の重要性
新人たちは受け身の有無を比較しながら反復練習し、次に背嚢・武器・盾など装備を想定した転び方や起き上がりを学ぶ。森の行動は荷物込みが常で、肘膝の保護具の有用性にも触れられる。講習後、新人たちは疲労しつつ手応えを口にし、モングレルは「攻撃力は上がっていないが生存率は上がった」と位置づける。
サングレールの地形事情と教訓の再確認
講習後、モングレルはアーレントの体術を称賛し、アーレントはサングレールは山道が多く転倒対策が重視されると説明する。転倒・滑落後の動きが戦うにも逃げるにも生死を分け、捻挫一つで駆け出しは詰むと確認される。モングレルは遺体捜索を増やさないためにも、今日の内容を反復して身につけろと締める。
第二十七話 ありがちな裏切り
ギルドマン社会の暗黙の了解
ギルドマン同士は仲間意識を保とうとし、狩り場では挨拶して距離を取る、遺品は持ち帰る、喧嘩でも武器は使わないなど、荒くれ者の集団なりに秩序を維持している。一方で、その暗黙の了解すら守れず孤立し、犯罪に落ちる者も一定数いる。
ローザの要請と“人狩り”の発生
夜のギルド閉館間際、モングレルとバルガーが銅貨積みゲームをしていると、パーティー「報復の棘」団長ローザが協力を求める。内容は、バロアの森で野営中のギルドマンを襲った“人狩り”の追跡で、被疑者はオルドールだという。証言も複数あり、犯人視は濃厚である。
バルガーの動揺と参加決定
オルドールは元「収穫の剣」のギルドマンで、バルガーの元仲間であったためバルガーは強く動揺する。ローザ側は「ギルドマンの不祥事はギルドマンで片付けたい」として、モングレルとバルガーも追跡に加わる。報復の棘に任せると殺しかねないという理由もあり、バルガーは協力を決断、モングレルも参加する。銅貨塔を崩した罰で、バルガーはゲームの負け分まで失う。
夜の森での捜索計画
東門から馬車で森へ入り、二人一組で四班に分かれて捜索する。松明を使うため互いの位置は目立つが、犯罪者側は火を焚かず潜む可能性が高い。ローザは“浅い場所”に絞り、鐘一つ分の短時間で探す方針を示す。
オルドールの潜伏推理と発見
バルガーは、オルドールは弱腰で卑怯ゆえ魔物対策をしているはずだと言い、モングレルは「魔物除けの香」か「樹上待機」を候補に挙げる。煙は夜に目立つため香は避けるだろうとして、樹上待機が有力となる。モングレルのランタンシールドで上方を照らしながら進み、不自然な影を手掛かりに、枝にロープで身体を固定して潜むオルドールを発見する。
対峙と拘束
オルドールは「自分が襲われた」と主張するが、言動が破綻しており通らない。投げナイフで脅すが、盾持ち二人には効きにくい。追い詰められたオルドールは武器を落とし、泣きながら降りてきてバルガーに拘束される。捜索開始から約一時間半で決着する。
報復の棘への引き渡しと“報復”の気配
合流地点に戻ると、報復の棘の面々は捕縛を評価する。ローザは「裏切りには報復を」とし、オルドールに厳罰を期待するような態度を見せる。引き渡しと手続きは報復の棘が担当し、モングレルとバルガーは先に帰ることになる。
帰路の会話と割り切り
帰り道、バルガーは「いつかやるだろうと思える相手だった」と感じてしまう自分を嫌だと語り、事件が初犯ではない可能性にも思い至る。モングレルは酒に誘うが、バルガーはオルドールの酒癖を思い出しそうだとして断り、今となっては一晩を費やす価値もないと割り切る。最後に「小銭はライナに飯でも奢れ」と言い残し、去っていく。
余韻
モングレルは、今回の出来事が“ものすごく珍しい事件”ではないと再確認し、酒で薄めるより早く寝て忘れるのが正解だと結論づける。
第二十八話 歌の文化
サングレールの歌と芸能の土壌
サングレール聖王国は歌や踊り、劇の教育に熱心で、宗教(聖歌)と結びついた文化が背景にあるとモングレルは推測する。そのため大道芸人や吟遊詩人にサングレール人が多く、被差別になりがちな芸能職でも「歌が上手いサングレール人なら聴く価値がある」と一定の受容が生まれている。ただし太陽神の聖歌をハルペリアで歌えば石を投げられる危険もある。
ギルド酒場の“歌の日”
夕刻、ギルド酒場では吟遊詩人が神話を題材にした古典的な歌を披露する。歌唱力は高く人気もあるが、題材が古く庶民の信仰心も薄いため、内容の理解や熱狂にはつながりにくい。ギルドマンが本当に求めるのは、最近の武勇伝をノリで歌うタイプの方である。
遠征の話と、海に引っ張られるモングレル
同席しているライナ、ウルリカ、レオは「アルテミス」の夏遠征(行先は港町アーケルシア)にモングレルを誘っている。モングレルは海釣りと刺身への欲望で参加に傾き、歌の話題を振られても頭が海一色でうまく答えられない。
酔っ払いの無茶ぶりとアーレント登壇
酒場の空気が盛り上がる中、酔ったギルドマンが壁際でお茶を飲むサングレール人外交官アーレントに「宗教色の薄い歌を歌え」と絡む。周囲は止めに入るが、アーレントは意外にも乗り気で、演奏スペースに上がる。
鍛冶の歌が場を掴む
アーレントが歌ったのは聖歌ではなく、明るく陽気な“鍛冶の歌”であった。台を踏んでリズムを取り、踊りも交えながら野太く通る声で歌い上げる。歌詞は仲良く調子を合わせて鉄を打って延ばすという素朴な内容で、武器礼賛の物騒さもない。その意外性と完成度で酒場の反応は大きく、アーレントはギルドマンたちとの距離を一段縮める。
モングレルへの“次はお前だ”
ライナ、ウルリカ、レオは、モングレルも弾き語りができると知っており歌を求める。しかしモングレルの頭の中は海と日本の海歌で埋まり、異世界語に落とせないこともあって先延ばしにする。代わりに「今度ソロコンサートを開く」「おひねりを寄越せ」と冗談で逃げ、ライナにケチ呼ばわりされて終わる。
第二十九話 女神のアミュレット
戒めの呪いと軽率の代償
モングレルはサリー、ナスターシャと共に呪い師エドヴァルドに呼び出され、説教を受ける。原因はアーレントの腕輪を二人が解析しようとしたこと。腕輪には高度な防護が施されており、解除を試みた結果、二人の頭上には「戒めの呪い」が発動した。黒茨の紋様は“次は殺す”という警告で、再度干渉すれば致死性の呪いに変化し得るという。魔道具解析における事実上の敗北であり、二人はそれを冷静に受け止めつつもどこか満足げである。
ギルドロビーの別の熱気
説教部屋を出ると、ロビーでは男たちが装備に忍ばせる“女神のアミュレット”の図案について真剣に議論していた。武運の加護を齎すという建前だが、実態は露出度の高い女性像の小札である。絵師レスターを中心に、各自の“信仰対象”を女神に見立てて描かせようとしている。
現実の女性を“女神化”する暴走
問題は、モチーフが実在の身近な女性である点だ。ナスターシャやシーナを女神と称して描かせる男たちに、モングレルは呆れる。彼らはあくまで「女神だ」と言い張るが、実態は春画的なお守りであり、夜の森での心の支えという名目で私的欲望を正当化している。
ウルリカ論争と“確定情報”
議論はウルリカの体型に及ぶ。装備のせいで判別しづらい胸囲を巡り、「微」か「無」かで派閥が割れているという。モングレルは一人一ジェリーを受け取り、渋々証言する。結果は「無」。歓喜と落胆が交錯し、レスターは“確定情報”としてアミュレットに反映させる。
ライナ評と男の愚かさ
さらに話題はライナにも及ぶが、色気が足りないと勝手な評価が下される。モングレルは内心で嘆息しつつ、男たちの浅はかさを眺める。
モングレルの不参加理由
レスターはモングレルにも女神アミュレット制作を勧めるが、彼は断る。理由は単純で、画風が好みではないからである。異世界の美人画の様式が自分の感性に合わないという、個人的かつ文化的な問題だ。
結語
ナスターシャやサリーを“変人”と評したが、女神アミュレット談義に熱中する男たちこそ、別種の愚かさを体現している。知識欲に走る魔法使いと、欲望に走る男連中。いずれも極まれば滑稽であると、モングレルは静かに結論づける。
第三十話 木登りライナ
夏前の軽い狩りの約束
モングレルは夏場に長期キャンプへ出る前に、ライナと二人でバロアの森へ狩りに赴いた。本来は森の浅いエリアでマルッコ鳩を狙う軽い鳥撃ちの予定であったが、突如現れたテリジノゲッコーによって思わぬ討伐へと変わる。
木登りの有用性の確認
戦闘後、モングレルは緊急時の退避手段として木登りの可否をライナに問う。テリジノゲッコー自体は木登りが可能で例外であるが、ボアやディア相手には有効と考えたためであった。まず自ら荷物を背負ったまま木に登って見せ、続いてライナも挑戦する。最初は太すぎる幹に苦戦するが、適度な太さの木を選び直し、見事に登ることに成功する。
樹上からの弓構え
横枝に腰かけたライナは弓を構え、高所からの射撃を試す。身体の柔軟性を活かし、不自由な体勢でも安定して構えられることを示す。樹上性魔物が少ないバロアの森において、高所を取る弓使いの優位性が確認された。
恐怖の下りと大胆な跳躍
しかし問題は下りであった。登るよりも恐怖が強く、躊躇するライナに対し、モングレルは受け止めると提案する。半信半疑のまま、ライナは思い切って跳躍する。モングレルは衝撃を段階的に殺しながら抱き止め、自らが下敷きになる形で地面に倒れ込み、怪我なく受け止めることに成功する。
実戦への備えと撤収
無事を確認した二人は、討伐したテリジノゲッコーを解体し撤収に入る。今回の確認で、ライナが登れる木の太さの目安が把握できたことは大きな収穫であった。緊急時に迷わず行動できる備えとなったのである。
軽口と信頼
帰路、ライナは討伐時にも受け止めてくれるのかと冗談めかして問う。モングレルは常に同行できるわけではないと返しつつも、自分がいる限りは支える意思を示す。冗談交じりの会話の中に、互いの信頼と連携の確かさが滲んでいた。
第三十一話 手向けの五輪挿し
長期野営の申請と出立
モングレルはギルドに七日間の長期野営を申請した。夏場の野営は冬よりも寝床に気を遣わずに済むため気楽だと語り、受付のミレーヌに見送られて出発する。東門からシャルル街道を抜け、バロアの森へ入りつつ、目的地であるシュトルーベへと東進する。背負う荷物には野営道具だけでなく、多数の装備品や医薬品も詰め込まれていた。
山中の邂逅と討伐
道中、エルミート男爵領の森を経てラトレイユ連峰を掠める山道を進む中、クレセントグリズリーと遭遇する。背を向けて逃げるよりも仕留める方が安全と判断し、真正面から距離を詰めて頭蓋に一撃を叩き込む。強化された剣撃は頑強な頭骨を断ち、熊は即死する。胆嚢と足肉を回収し、その夜は熊肉で野営を行った。
故郷への帰還
二泊の行程を経て、モングレルは二十一年前に滅んだ故郷シュトルーベへ到着する。今や廃墟となった村には人の気配はなく、自然に呑まれつつあるが、崩れた建物や地形に懐かしさを覚える。両親の墓は荒らされることなく残っており、タンポポと月見草を捧げる。さらに持参したウイスキーを皿に注ぎ、墓前で近況を語る。
近況報告と静かな決意
三十一歳になったこと、レゴール伯爵の結婚、海への旅行計画などを独り言のように話し、墓の周囲の草を刈る。昨年の小競り合いに触れつつも、今年も平穏であることを願う。そして装備を一つずつ身に着け、全身を重装で固める。
見回りと破壊
ギフト「蝕」を発動し、シュトルーベ周辺の見回りを開始する。結果、建設途中の砦を二つ発見し、これを破壊する。詰め所にいた兵五人も殲滅し、生存者は出さなかった。例年通りの行為である。ここは彼らの土地ではないという意思を示すため、侵入の芽を摘み続ける覚悟を改めて固めた。
第三十二話 人生は歌と踊りの中で
白い連星の名乗りと師弟の絆
慈雨の聖女ミシェルと蠟翼の審問官ピエトロは、純白の衣を纏い鮮やかなポーズを決める。二人を拍手で称えるのは、ヘリオポーズ教区の神殿長イシドロである。幼少期に拾われ育てられた二人は、芽の出にくいギフト持ちであったが、イシドロの根気強い教育と庇護により、強い忠誠心を抱くまでに成長していた。
露見した能力と戦争の後遺
イシドロは二人に、ハルペリア王国へ能力が露見した事実を告げる。トワイス平野での補給線破壊任務において撤退を選んだ結果、ギフトや魔法の特性が敵に知られてしまったのである。秘蔵の人材が表舞台で正体を晒したことは痛手であったが、撤退は安全第一の指示に従った正しい判断でもあった。
踊りで誤魔化す老神殿長
痛手を受けた心情を誤魔化すように、イシドロは激しく踊り出す。老体に鞭打つその姿に、二人も歌と踊りで応える。辛い時こそ人を救うのは歌と踊りだと三人は信じており、その騒々しさは変わらない日常の象徴でもあった。
海への遠征計画
やがてイシドロは、夏に海へ向かう計画を告げる。目的地はモートン教区ではなく、敵国ハルペリア領のアーケルシア方面である。身分を隠しての潜入という危険な長旅になるが、二人は食への期待もあって即座に乗り気となる。イシドロも同行し、道中の護衛を任せると宣言する。
騒々しい未来への歩み
能力が知られたことで表の舞台は難しくなったが、裏から動く道は残されている。歌と踊りを信条とする三人は、危険と隣り合わせの遠征すら前向きに受け止める。騒がしくも結束の固い彼らの関係は、これからの長旅においても揺らぐことはない。
特別書き下ろし番外編 ダークエルフが仲間になった!
故郷喪失と旅立ち
十五歳のモングレルは、戦火で故郷シュトルーベを失い、家族や友人を喪った。生存者を探して山林を捜索したが見つけられず、村は深い緑に呑まれて廃村同然となった。単騎でサングレール軍を潰し続けても自然の侵食には抗えず、モングレルは「年に一度は戻る」と墓参りを誓い、居場所を求めて旅に出た。
無目的な放浪と最低限の稼ぎ
旅は観光のように無目的であったが、ギフト由来の腕力と野営経験により生活は成立していた。盗賊や魔物を返り討ちにし、橋の下や林で眠り、村や宿場町で仕事を求めて路銀を稼ごうとする。多くは断られたが、稀に親切な家に出会うこともあり、その「レアケース」がカテレイネとの邂逅であった。
カテレイネとの遭遇と誤解
ベイスン地方で農作業中の少女に声をかけたモングレルは、褐色の肌、金髪、尖った耳、オッドアイを持つエルフの少女を見て強烈な印象を受ける。当時のモングレルは、相手を「実年齢百歳以上のロリババア級の化物」と思い込み警戒するが、実際のカテレイネは見た目通りの年齢で、特別な背景もない素朴な農家の娘であった。
収穫労働と居場所の手触り
カテレイネは力仕事の助っ人としてモングレルを家族へ紹介し、広い農地と裏山の根菜採りを含む収穫作業に参加させる。作物は大きく収量も多いが人手が足りず、モングレルの怪力は重宝された。家族は報酬だけでなく食事や寝具も提供し、戦いで濁っていたモングレルの感覚が、労働と善意の反復で少しずつ浄化されていった。
行商人の不誠実と交渉の学び
収穫期の終わりに来た行商人は、田舎の家族に高値で吹っかけていた。通過した町の相場を知るモングレルは嘘を見抜き、根菜の買い叩きにも口を挟んで強く交渉する。結果として家の売上は改善し、カテレイネはモングレルの知識と交渉力に刺激を受け、自分も学びたいと望むようになった。
家庭教師ごっこと冬の定住
寒い季節が近づくと、モングレルは留め置かれ、カテレイネへ読み書きと計算を教える役目を担う。カテレイネは天才ではないが真面目に取り組み、町の市場での売買計算ができる程度まで短期間で上達した。家族の善意と学びの時間は、モングレルにとって「居着いてしまいそう」なほど居心地の良い日々となった。
同行の申し出と「二人で一人」
春を前に、カテレイネは旅への同行を申し出る。自家の野菜を売り歩く練習をしたいという実利に加え、ハーフとしての風当たりを理解した上での覚悟があった。モングレルも自身がハーフであるため世間の冷たさを知っていたが、カテレイネは「二人で一人として扱われるかもしれない」と前向きに語り、その言葉はモングレルを支えた。モングレルは「人は一人じゃ生きていけない」と認め、春になったら二人で旅に出ることを決めた。
新たな旅の始まり
故郷を失った孤独な放浪に、カテレイネが加わる。モングレルは道連れが一人増える程度の楽観で受け止めていたが、この先さらに似たような仲間が増えていくことを、この時点ではまだ知らなかった。
バスタード・ソードマン 6巻レビュー
バスタード・ソードマン まとめ
バスタード・ソードマン 8巻レビュー
バスタード・ソードマン シリーズ







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