読んだラノベのタイトル
異世界料理道 1
著者:EDA 氏
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あらすじ・内容
父親の経営する大衆食堂の見習い料理人、津留見明日太(つるみあすた)は、父親の魂とも言える三徳包丁を火事から救うべく火の海に飛び込んだ。そして気づけば、そこは見知らぬ密林の真っ只中。イノシシにそっくりの野獣ギバに襲われ、『森辺の民』を名乗るアイ=ファという少女に救われた明日太は、そこが異世界だということを知る。ガスコンロも冷蔵庫も存在せず、人々はただ生きるためにモノを喰らう。「食事」の喜びが忘れられた異世界で、見習い料理人が無双する!
異世界料理道1
感想
え?無双???
してないよ?
いきなり猛獣ギバに追いかけられて、落とし穴に落ちて足を挫いて、森辺の民の中で孤独になっていた少女に助けられて、彼女と生活を共にしていたけど、弱くて足を引っ張ってたよ?
森辺の民は元は別の地域の民だったのだが、戦災で住処にしていた森を燃やされ難民となって今の森辺に流れ着き、森辺に住む代わりに畑を荒らす猛獣ギバを狩る事を義務付けられた民だった。
森の恵みは人間が収穫すると、猛獣ギバが畑に来てしまうので禁止されており、森辺の民はギバを狩り、その牙と角と毛皮を銅貨と交換してアリアとポイタン、果実酒、岩塩等を購入する。
そして、ギバの肉とアリア、ポイタンを煮込んで食べる。
そんな生活を80年近く続けているらしい。
最初、1000人居た森辺の民は数年で半分にまで減ってしまい、それからあまり人口は増えてない。
かなり過酷な生活をしてるようだ。
だから生きる事に精一杯で、美味しい料理を食べる事を忘れてしまっていた部族でもあった。
その部族の中で父親が亡くなり、その喪に服してた時に族長筋の男にレイプされそうになり反撃して撃退した少女は部族の中で孤立してしまった。
その少女の元に突然異国の少年が現れて一緒に住むようになった。。
その少年は料理人を自称しており、先ずはギバを狩った直後に血抜きする事から始めるのだが、、
血抜きすら知らないとか、、
どんだけだよ、、
そんな部族の最長老の老婆は老齢により、歯が無くなったせいで硬いギバの肉が食べれなくなり、それに気落ちして食事もろくに取れなくなって弱って行ってた。
それを側で見ていた曾孫の末娘が少年の料理に出会い、その柔らかい料理を家で作って老婆に食べさせて欲しいと願う。
それに応えて少年は最長老にハンバーグを料理する。
それを食べた最長老は、生きる活力を得るのだが、、
コレはあくまで歯の無い、前歯が抜けてしまった老人の食事でもある。
その辺りの事で健康体で、誇り高い狩人の家長は不満を爆発させ、波乱を呼びそうになったが、、
その家長の祖母である最長老が一喝して黙らせて、食の喜びを噛み締め生きる活力を得たと褒める。
そんな処で1巻は終わる。
ただ、家長は不満タラタラだわ。。
2巻はその問題からスタートかな?
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展開まとめ
プロローグ
異世界での目覚め
津留見明日太は、気がつくと見知らぬ森で目を覚ました。そこは日本とは思えぬ、異様な自然に囲まれた密林であり、彼は調理着姿のまま横たわっていた。半ば無意識のうちに草の中から引き出した三徳包丁を手にした瞬間、彼は自らの過去を思い出したのである。
家業「つるみ屋」と父親
明日太は関東・千葉出身の高校二年生であり、家業として大衆食堂「つるみ屋」を営んでいた。父親の料理人としての腕と人柄もあり、店は安定した人気を保っていた。しかし、隣接する土地に複合アミューズメント施設が建設されることになり、利権を巡って食堂に対する嫌がらせが始まった。
陰湿な嫌がらせとネット中傷
新オーナーの目的はフードコートへの集客阻害の排除であり、「つるみ屋」は標的にされた。シャッターへの落書きや無言電話、死骸の投棄といった古典的嫌がらせに加え、ネット上で虚偽の風評が拡散された。一見客が激減し、売上も減少したが、常連客は変わらず来店していた。
父の事故と確信的な犯行
ある日、父は買い出し中に軽トラックにはねられ、重傷を負って救急搬送された。複雑骨折や頭部の裂傷を負いながらも父は笑みを絶やさず、担当医を驚かせた。事故はナンバープレートを外した車両による逃走を伴うもので、明らかに計画的な犯行であった。
三徳包丁への執念
病院のベッドで父は、包丁の安否だけを気にした。それは「榊屋」の逸品であり、父が命よりも大切にしてきた道具であった。明日太は、父の心を守るためにも包丁だけは守らなければならないと決意した。
火災と炎への突入
幼馴染の玲奈から「つるみ屋が燃えている」との連絡を受け、明日太は店へ駆けつけた。現地ではすでに消火活動が始まっていたが、店舗は激しい炎に包まれていた。呆然とする玲奈を尻目に、明日太は燃えさかる店舗の中へと躊躇なく飛び込んだ。
第一章 最悪なる晩餐
炎の中から異世界へ
津留見明日太は、火災に包まれた実家の食堂から父親の形見である三徳包丁を救出するため、燃えさかる店舗へ飛び込んだ。包丁を手にした瞬間、建物が崩壊し、自身も炎に巻かれて命を落としたはずであった。しかし、目覚めた彼は、傷一つない身体で見知らぬ密林に横たわっていた。
喪失と孤独の実感
新たな現実を受け入れられずにいた明日太は、自身の死とすべてを失った事実に直面した。幼馴染や父との永遠の別れを思い、涙を堪えながら三徳包丁を握り締めた。そのとき、近くの茂みから野獣の気配が現れ、赤い目を光らせた巨大な獣に追いかけられることとなった。
落とし穴への転落
逃走の末、彼は落とし穴に落ち、足首を捻挫して身動きがとれなくなった。見上げた先には少女の影が現れ、彼に声をかけた。少女は罠を仕掛けた張本人であり、本来は獣を捕らえる目的のものであったと告げた。
初対面の攻防
少女は明日太に冷たく当たりつつも、最終的には彼に蔓草を垂らして助け舟を出した。明日太は懸命に登りきり、礼を述べたが、その直後、少女は蛮刀を突きつけて正体を問い詰めた。明日太は出身地や状況を説明するが、少女には「日本」も「千葉県」も理解されず、完全に異世界であることが明らかとなった。
アイ=ファとの出会い
少女の名はアイ=ファといい、浅黒い肌に金髪、青い瞳を持つ美しい戦士であった。露出度の高い衣装と傷跡が彼女の過酷な生活を物語っていた。明日太は彼女の発する複雑な香りに食欲を刺激され、空腹を訴えてしまう。そのことでアイ=ファの怒りを買い、殺されかけるが、彼の様子に彼女は笑い出してしまう。
信頼の兆しと同行の決意
その後も気まずいやり取りが続いたが、アイ=ファは明日太を自らの住処に連れていくことを提案した。夜の森に留まれば命に関わることを理由に、同行を促したのである。彼女の力強い姿に感謝しつつ、明日太は名を名乗り、彼女の肩を借りながら歩き出した。
相互理解のはじまり
アイ=ファは明日太の胸に隠した包丁の存在を即座に見抜いたが、危害の意思を否定する彼に対し冷ややかに警告を発した。彼女は常に冷静なまま、敵意と疑念を隠さなかったが、同時にどこか複雑な感情を抱いている様子も見せた。こうして、異世界での第一歩は、一本の三徳包丁とひとりの少女との出会いから始まったのである。
異世界での移動とギバの存在
明日太はアイ=ファと共に密林を進んでいた。夜が迫り、森は暗さを増していた。彼はギバと呼ばれる獣について話を聞き、アイ=ファの毛皮のマントがその素材であることを知った。森辺の民はギバを狩って生活しており、石の都の人々から差別されていた。アイ=ファはギバの肉が臭くて固いと言ったが、明日太は香りからその味に期待を抱いていた。
森辺の集落への到着と対立する男
二人は十五分ほど歩き、集落にたどり着いた。そこはひなびた山間の地に家屋が点在する静かな村であった。だが、ディガ=スンという若い男が現れ、アイ=ファに敵意をむき出しにして絡んできた。彼は森辺の民を治めるスンの家の人間であり、過去にアイ=ファに手を出そうとしたことがあった。それを拒絶されたことにより、彼女は村人たちから距離を置かれていた。
アイ=ファの住居と森辺のしきたり
集落の中でも特に静かな場所にあるアイ=ファの家は、木造で大きく、内部は清潔かつ整っていた。彼女は明日太に三徳包丁を預けるよう求めた。これは森辺のしきたりであり、他人の家で武器を持つことは許されなかった。明日太は包丁が大切な家族の形見であると説明し、アイ=ファもそれを尊重して大切に扱った。
狩猟肉と野菜の調理風景
アイ=ファはかまどに火を入れ、ギバの後ろ足の肉を小刀で削ぎ落とし鍋に投入した。料理は豪快ながらも手慣れており、肉には黒い香辛料がまぶされていた。明日太は食材や調理道具に強い関心を示し、異世界の食文化に対する興味を口にしていた。調理の進行とともに、鍋の中は豊かな香りで満たされていった。
明日太の正体と異世界への転移
アイ=ファは明日太の素性を問い、彼は自分が異世界から来た人間であることを告白した。日本という国の存在や神の概念の違いを語り、この世界が自分の故郷とはまったく異なると結論づけた。アイ=ファは驚きつつも、彼が嘘をついているわけではないと受け止めた。彼女は狂人扱いはしたが、明日太の話を頭ごなしには否定しなかった。
居場所の保証と仮初の安堵
明日太は今後の方針について問われるも、元の世界に戻る手段も不明で、現時点では成り行きに任せるしかなかった。アイ=ファは彼に外で勝手な行動をしないよう釘を刺し、最低限の知識を身につけるよう求めた。また、明日太がディガ=スンに見られていたことから、自身にも責任が及ぶ可能性を考慮し、当面は目の届く範囲に置くことを決めた。
初めての異世界料理と明日太の反応
やがて煮込み料理が完成し、木製の器に取り分けられた。白くとろみのあるスープに、肉と野菜が沈んでいた。明日太は香りと見た目に期待を抱きつつ一口食べ、即座に「不味い」と感じた。だがその反応には、異世界の食文化との初の出会いとしての衝撃と、本音で語り合えた相手への感謝が滲んでいた。
第二章 異教の朝
異世界での目覚めと混乱
アスタは猟友会のファームキャンプでイノシシをさばき、シシ鍋を食した記憶を夢に見ていた。香り豊かな肉や出汁の記憶に包まれたまま眠る彼は、異世界で迎える朝に意識を戻された。夢と現実の境が曖昧な状態で、彼は隣にいたアイ=ファの首筋に噛みついてしまう。突然の暴挙により、アイ=ファは激昂し、抜き身の小刀を振り上げてアスタを威嚇した。寝ぼけた末の行為だと気づいたアスタは即座に謝罪し、命乞いをする羽目となった。こうして異世界での二日目は、物騒な騒動とともに幕を開けた。
朝食と昨晩の不満
アイ=ファの怒りを買った代償として、アスタは小刀の柄で何度か殴られた後、ようやく朝食にありついた。提供されたのはギバの干し肉であったが、その食感はまるでゴムのようで、動物臭も強烈であった。アスタは前夜に食したギバ鍋の不味さを思い出し、素材の風味を損ねる料理法に大きな不満を抱いた。シャキシャキとしたタマネギモドキや粉状に溶けたジャガイモモドキも調和を乱し、全体の完成度は著しく低かった。香りだけは極上であったため、そのギャップが逆に彼を苦しめた。
食糧庫の発見と興味
三徳包丁を探しに室の奥へ入ったアスタは、そこが食糧庫であると気づいた。内部には香辛料の強烈な匂いが充満しており、ギバ肉の保存に用いられる黒胡椒に似た香草が大量に保管されていた。好奇心から観察を続けた彼は、保存技術の一端を理解しつつも、調理への意欲をさらにかき立てられた。食材の潜在力を活かしきれていない現状を嘆き、料理人の視点から改良を試みたいと強く思うようになった。
料理への提案と許可
朝の支度を終えたアスタは、アイ=ファに夕食を自ら作らせてほしいと申し出た。当初は訝しんでいた彼女であったが、調理を苦労とは捉えておらず、関心のなさから了承した。アスタはギバ肉の調理法を工夫し、彼女に少しでも笑顔を見せてもらいたいと願っていた。調理人の端くれとしての意地と、恩人への感謝を込めた挑戦であった。
森辺の民の誇りと制限
森へ向かう途中、アイ=ファはピコの葉の効能と保存の重要性、さらに森辺の民が置かれた立場について語った。彼らはモルガの山の恵みを採取することを禁じられ、西の王国の統治の下、ギバを狩ることでかろうじて生存を許されていた。アスタはこの理不尽に強い憤りを覚えるが、アイ=ファはそれを誇りとし、自らの役割に矜持を抱いていた。狩猟こそが彼らの誇りであり、禁忌を犯すことは誇りを汚す行為とみなされていた。
信頼と行水の場面
川辺に到着したアイ=ファは、汗を流すために行水をすると宣言し、マントと首飾りをアスタに預けた。首飾りは彼女たちにとって財産であり誇りの象徴であったため、それを託されたことは信頼の表れであった。アスタは禁忌を破らぬよう森を見張る役目を引き受け、信頼に応えることを誓った。
感情の揺れと不意の悲鳴
アスタはアイ=ファの一貫しない言動に戸惑いつつも、彼女が本質的には誠実で信頼に足る人物であると感じていた。感情の起伏は激しいが、根底にある善意は疑うべくもなかった。そう思い定めた矢先、川辺の静寂を破るように、アイ=ファの悲鳴が響き渡った。平穏な朝の時間は突如として緊張に転じ、再び波乱の兆しを見せることとなった。
川辺での異変と危機
アスタが川辺で待機していた最中、突如としてアイ=ファの悲鳴が響いた。応答のない状況に不安を覚えたアスタは、意を決して岩場を乗り越え、騒ぎの発生源へ向かった。水面ではアイ=ファが必死に水から浮かび上がろうとしており、その体には青黒い鱗を持つ大蛇が巻きついていた。彼女は水中で大蛇と格闘していたのである。
大蛇との格闘と救出
アスタは右腕に激痛を感じながらも、水中に手を伸ばしてアイ=ファを引き上げようと試みた。大蛇の尻尾に締め上げられつつも、渾身の力で彼女の身体ごと川辺へ引き寄せた。岩場に引き上げた彼女の身体には大蛇が何重にも巻き付いており、その太さと長さは尋常ではなかった。アスタは岩を用いて大蛇の頭部や腹部を叩き、執念の一撃でようやくその拘束を解くことに成功した。
蘇生と動揺
大蛇の胴体を川に蹴り飛ばした後、アスタは岩場に横たえたアイ=ファに必死の呼びかけを続けた。やがて彼女は水を吐き、生気を取り戻し始めた。弱々しくも意識を回復した彼女を見て、アスタは安堵のあまりその身体を抱きしめた。しかし次の瞬間、アイ=ファは激昂し、彼を突き飛ばして距離を取った。
刃を向けられた理由
怒りをあらわにしたアイ=ファは蛮刀を手に取り、アスタを威嚇する姿勢を見せた。アスタは無意識に彼女の裸身を目にし、抱きしめたことで重大な禁忌を犯したのではないかと自覚した。そのまま刃を向けられる覚悟を決めていたが、アイ=ファの視線は彼ではなく背後に向けられていた。
ギバの奇襲と反撃
その直後、巨大なギバが背後からアスタに襲いかかってきた。アイ=ファは瞬時に蛮刀を振るい、見事にギバの頭を打ち砕いた。アスタの背に重くのしかかっていたのは、まだ痙攣するギバの屍体であった。全てが終わったあと、アイ=ファは素肌のまま淡々と注意を与えたが、その姿には気丈さと誇りがにじんでいた。アスタはようやく状況を理解し、彼女の戦闘能力と胆力に改めて感嘆することとなった。
第三章 異世界の見習い料理人
感謝と気まずさのやりとり
アイ=ファはアスタに対して、マダラマの大蛇やギバなど危険な出来事を引き起こす存在として疑念を口にしたが、助けてもらったことには小声で礼を述べた。アスタもギバの襲撃に気づけなかったことを悔やみ、互いに命の恩人であると認識しあった。気まずさと照れが混じる中、両者の間にはささやかな信頼が芽生えていた。
ギバの血抜きと文化的誤差
アスタはギバの解体を始めるにあたり、まず血抜きの重要性を語った。しかしアイ=ファはその概念を知らず、肉の臭みの原因である血液を適切に抜くという技術がこの世界では広まっていないことを知る。アスタはギバの動脈を切って血を流し、狩猟文化との違いに内心で驚きつつも、相手の反応に落胆することなく作業を進めた。
内臓の摘出と皮の扱い
血抜きの次にアスタは解体作業を続け、内臓の摘出を行った。胆嚢や膀胱を傷つけないよう注意しながら胃腸や睾丸を取り除いていった。アスタは命を尊重しつつ、不要な部分にも敬意を払いながら処理した。また、解体されたギバのすべてを持ち帰りたいアスタに対し、アイ=ファは大きな氏族でない限り後ろ足のみを持ち帰るのが常識であると語った。
狩猟の役割とアイ=ファの過去
アスタの問いかけに対し、アイ=ファは自分が女である前に家長であり、父からギバ狩りを教わってきたと述べた。彼女は男の仕事である狩猟を一人で担っており、それが父の遺した教えによって生き延びる力となっていた。集落から孤立したアイ=ファがなぜ狩猟術を受け継いだかに、アスタは複雑な思いを抱きつつも、彼女の生き方を尊重していた。
帰還とギバの運搬
アスタはギバの解体された肉をすべて家まで運ぶ決意をし、アイ=ファは頷いて協力した。グリギの木を使い、四肢を固定して運搬体制を整え、協力しながら川辺から家までの長距離を搬送した。疲労は蓄積していたが、料理への情熱と彼女への配慮から、アスタは文句を言わず作業を続けた。
皮剥ぎの工程と手際の良さ
家に戻ったアスタは、皮剥ぎ作業を始めた。まず後ろ足、次に前足、そして胴体と段階的に皮を剥いでいった。毛皮に穴を開けず、脂をできるだけ肉側に残すように工夫した。作業の難度と疲労は増していったが、アスタは手際よく処理し続け、皮剥ぎ作業は数時間に及んだ。
首の処理と料理への情熱
皮剥ぎの途中、アスタは頭部を切断して処理を楽にすることにし、小刀とノコギリを使って首を落とした。その作業は困難を極めたが、彼は料理への情熱で乗り切った。父親から料理を学び、料理こそが自分の道であると信じる姿勢がこの場面にも表れていた。アイ=ファはその様子を見守りながら、彼の本気に感心を示した。
最終工程:解体と保存処理
皮剥ぎ後、アスタはギバの各部位を解体し、四肢を切り離し、ノコギリを用いて背骨を縦割りにして二分した。解体作業は重労働で、脂と汗にまみれながら数時間かけてようやく完了した。肉は腐敗を防ぐためにピコの葉と香辛料で漬け込み、アイ=ファもその工程を手伝った。収穫された肉は四十~五十キロ程度と見積もられた。
後始末とささやかな優しさ
作業後、アスタは疲れ果てて横になったが、アイ=ファは毛皮や骨の後始末を引き受けた。彼女は関わればスン家を敵に回すため他者と協力できないことを口にしたが、アスタには休息を勧めた。そのぶっきらぼうな言葉には、彼女なりの優しさが込められていた。アスタは眠りに落ちる間際、彼女の優しさに心を温められていた。
目覚めと夕食の準備
アスタが目を覚ますと周囲はすでに暗く、アイ=ファはかまどに火を入れていた。ギバの残骸は処分され、調理の順番はアスタに回っていた。アスタは新鮮なギバ肉や野菜を取り出し、夕食の準備を開始した。
三徳包丁による解体とスライス
アスタは父親の形見である三徳包丁を使い、ギバのモモ肉を丁寧に切り分けた。骨から肉を外し、薄くスライスしつつ一部はブロック肉として保存した。その後、骨に残った肉も小刀で削ぎ落とし、必要な分量を確保した。
塩と果実酒の登場
アスタは調味料の有無を尋ねたところ、アイ=ファは果実酒と岩塩を取り出した。塩は非常に貴重で、ギバの角と交換できるほどの価値があると説明された。アスタはその鮮烈な味に感激し、今後の料理への展望を膨らませた。
調理方針と弱火での煮込み
アスタは強火ではなく弱火でじっくり煮込む方針を取り、灰汁を丁寧に取り除きながら鍋の様子を見守った。前回の反省から、脂身の多い肉の方が鍋に適していると学び、加熱時間を長くして旨味を引き出すことを目指した。
食材の再検討と森辺の知恵
調理の傍ら、アスタはポイタンの正体について問い、アイ=ファから食材と食生活の知恵を教わった。森辺ではギバの肉と野菜を組み合わせて栄養を補うのが基本であり、寿命も捕食や事故がなければそれほど短くないことが明かされた。
寝ぼけて噛んだ記憶と照れの応酬
会話の中で、アスタが以前寝ぼけてアイ=ファを噛んだことが話題にのぼった。アイ=ファはその跡が残っていると不満を示し、アスタは照れつつも謝罪した。これが二人の距離を縮める一因となった。
スープ完成と試食の開始
一時間二十分後、ギバ肉とスープは完成した。アスタはタマネギモドキのアリアとピコの葉のみを投入し、ジャガイモモドキのポイタンは控えたまま、初のギバ・スープを完成させた。アスタはこの試作品をアイ=ファに振る舞い、反応を見守った。
アイ=ファの素直な感想
アイ=ファは食事に意味を求めていなかったが、スープを味わう中で「美味いということ」を初めて理解し、料理を通じて得られる幸福を実感した。彼女はアスタの情熱と行動に初めて共感を示し、素直な笑みを浮かべて感謝の意を表した。
感動と自覚、そして新たな闘志
アスタはアイ=ファに認められた喜びに胸を熱くし、自身が彼女に認められたいと強く願っていたことを悟った。アイ=ファの優しさと強さに心を揺さぶられながらも、彼は料理人としての誇りと向上心を新たにし、次なる課題としてポイタンの攻略に意欲を燃やした。
幕間 ~森辺の日々 ~
水場での始業と作業の背景
森辺の朝は早く、日の出と同時に目を覚まし、晩餐の後片付けから一日が始まっていた。夜間の危険な動物を避けるため、調理器具や食器の洗浄は朝に行われ、水場まで鍋や水瓶を運搬するために「引き板」が使用された。水瓶の重量は百キロに達することもあり、作業は過酷であった。
集落の女性たちとの接触と孤立
水場で他家の女性たちと顔を合わせる機会はあったが、スン家の怒りを買ったアイ=ファの傍に近づく者はほとんど存在しなかった。アスタは異質な風貌と格好から、集落内でさらに異端視されており、周囲から距離を置かれていた。彼に対する視線は冷ややかであり、交流の兆しは皆無であった。
衣服と身体的特徴の観察
森辺の女性たちは、機能性を重視した民族的な衣服を身に着けていた。既婚女性は身体全体を布で包み、未婚女性は露出が多い服装であった。肌は褐色であり、髪や瞳の色は多様であったが、アスタのような黄色人種は存在しなかった。こうした違いが、彼の異物感を強めていた。
屋内での手入れと食材管理
水場の作業を終えると、刀の手入れと食糧庫の管理が日課となった。特にギバの肉は防腐のためにピコの葉に漬け込まれ、葉の劣化を防ぐために毎日攪拌が必要であった。保存用の干し肉もこのときに取り出され、ようやく朝食にありつけるのである。
森での採取と生活維持
アスタは香草や薪の採取に向かい、まずはラント川で行水を行った。大蛇マダラマとギバに襲われた記憶に怯えつつも、行水の快適さに癒されていた。森ではピコの葉を優先して確保し、グリギの実やリーロの葉なども必要に応じて採取された。これらは調理や害虫避け、防腐に用いられ、生活の維持に不可欠な素材であった。
異世界での食に対する価値観の違い
森辺の民にとって「食」は単なる生存手段であり、味覚の楽しみは不要な贅沢であった。ギバ鍋もギバ・スープも、栄養的な差はなかったため、短時間で作れる料理が最適とされていた。しかし、アスタは食を娯楽や文化と捉える世界の出身であり、この世界においても自らの料理観を貫く覚悟を持っていた。彼の戦いは、食を通じて異文化と向き合う挑戦でもあった。
第四章 小さな来訪者
燻製作りとアイ=ファの狩り支度
アスタは異世界五日目の昼、ギバ肉の燻製作業を任され、食材保存の技術に挑んでいた。作業は順調に進み、アイ=ファが狩りに出た間に大量の燻製を完成させた。狩猟はアリアやポイタンなどの食材確保にも必要であり、五日に一頭のペースでギバを狩ることが求められていた。
ポイタンの研究と難航
燻製作業の後、アスタは日課としていたポイタンの調理法の研究に取り組んだ。ポイタンは外見がジャガイモに似ていたが、中身は全く異なり、渋みと粉っぽさが強く、加熱しても食べられる状態にならなかった。煮ても焼いても変化は乏しく、栄養価があるとされるにもかかわらず、美味しく食べる方法が見つからず、苦悩していた。
衣服と小刀の贈与
調理に悩むアスタに、アイ=ファは父の形見である衣服と小刀を渡した。アスタの目立つ服装が原因で共に注目されるのが不快だと語り、彼の生活を思いやった行動であった。アスタはその思いに感謝し、大切に扱うと誓った。
栄養と料理人の誇り
アスタはポイタンを無駄に消費した自分を省みつつ、アイ=ファの助言により食材の大切さと自身の信条を再確認した。料理人として味と栄養の両立を重視する自分の姿勢を貫きたいという思いが強まり、ポイタンにも正しい調理法があると信じて再起を図った。
寝ぼけてアイ=ファに抱きつく一幕
アイ=ファの横で考え込んでいたアスタは、彼女の存在に導かれる形で閃きを得た。その勢いで無意識に彼女の肩を掴み、さらには抱きしめてしまったため、当然のように頭を殴られる事態となったが、彼の心は新たな発見への期待で高揚していた。
ギバ・バーグの調理
夕刻、アスタはギバ肉のハンバーグ、通称「ギバ・バーグ」の調理に取り掛かった。ギバのモモ肉とバラ肉を混ぜ、アリア、ピコの葉、岩塩、そしてポイタンから抽出した粘性のあるエキスを加え、粘りのあるタネを形成した。強火で両面を焼き、果実酒で蒸し焼きにするという即興的な工夫で、内部までしっかりと熱を通すことに成功した。
調理への誠実な姿勢とアイ=ファの反応
アイ=ファは調理に黙って付き添い、器を差し出すなど無言で支えていた。ぶっきらぼうな態度ながらも、アスタの努力を理解していた様子が伺えた。アスタはそんな彼女の気遣いを感じつつ、完成したハンバーグと付け合せのアリアを皿に盛り付けた。
ポイタンの新しい姿
アスタは最後にポイタンの新たな料理を披露した。それは平らで焼き色のついた、インドのナンやお好み焼きのような姿をしていた。見た目は全く違っていたが、ポイタンの栄養を活かした調理法をついに見出したことを確信し、彼はその成果を胸に、食卓に並べたのである。
ポイタンの正体と調理法の発見
アスタは、ポイタンを炭水化物を含む穀物であると推測し、その調理法を導き出した。高温で煮込むことで渋みを取り除き、さらに天日で乾燥させて粉末状に加工することで、小麦粉のように扱えることを発見した。この成果により、ポイタンを「つなぎ」として使用し、ハンバーグ調理への意欲を高めた。
初めてのハンバーグ作りと試食
アスタは、ギバ肉と粉末ポイタンを用いて『ギバ・バーグ』を完成させ、アリアのスライスと果実酒ソース、焼いたポイタンを添えた料理をアイ=ファに振る舞った。ギバ肉は噛み応えが強く、脂の甘味と風味が独特で、アスタにとっては非常に美味であった。炭水化物としてのポイタンも、空腹を満たす存在として十分に機能していた。
リミ=ルウの登場と称賛
食事の最中、窓越しに森辺の少女リミ=ルウが現れ、料理の香りに惹かれてアスタとアイ=ファのもとを訪れた。彼女は料理を試食し、大きな感動と歓喜をあらわにした。リミ=ルウの純粋な反応は、アスタにとって料理人としての大きな達成感をもたらすものであった。
ルウ家からの依頼と苦境の説明
リミ=ルウは、ルウ家の最長老ジバ=ルウが老衰により食が細り、生きる意欲を失っていることを語り、アスタに料理を届けてほしいと懇願した。アスタは申し出に心を動かされつつも、アイ=ファの反応に配慮して即答を避けた。
アイ=ファの葛藤と過去の確執
アイ=ファは、スン家とルウ家の間に存在する過去の因縁を語った。両家はかつて深刻な事件をきっかけに敵対関係となり、二年前にはアイ=ファ自身がスン家の男と対立した際、ルウ家から嫁入りの話が持ち上がったこともあった。彼女はその申し出を拒絶し、両家との関係を断っていた。
アスタの選択と真意の表明
アスタは、アイ=ファの立場を重く見て、リミ=ルウの願いを断る決意を一度は示した。その上で、自分にとって誰が最も大切な存在であるかを明言し、アイ=ファに感情を隠すなと語りかけた。アイ=ファは、ジバ=ルウとの過去の交流やリミ=ルウとの縁を語り、複雑な思いを涙ながらに吐露した。
共に背負う未来への決意
アスタは、アイ=ファの気持ちに寄り添いながら、森辺の確執にとらわれず、正面からルウ家の依頼に応える意志を示した。アイ=ファにとって大切な人々を救うことで、アイ=ファの心も救いたいという想いからであった。アイ=ファは何も言葉を返さなかったが、アスタの胸ぐらを強く掴んだまま、静かに涙を流していた。
第五章 ルウの一族
ルウ家訪問の決定と森辺の掟
アスタはリミ=ルウの願いを受け入れ、ジバ=ルウに料理をふるまうためルウ家へ赴く決意を固めた。だが森辺には「料理をふるまう者は同じ場所で同じ料理を共に食すべし」という決まりがあり、単に料理を届けるだけでは済まされなかった。さらに、調理はジバ=ルウ一人分ではなく十二人分の大家族分であり、アスタはこの重責を引き受けることになった。
アイ=ファの同行と料理への覚悟
アスタはルウ家のかまどを預かる者として、重大な責任を負うことをアイ=ファから強く諭された。調理の失敗があれば追放すら免れぬ重大な行為であると知りつつも、アスタは自らの誇りと名誉をかけて料理に臨む覚悟を固めた。また、リミ=ルウやジバ=ルウだけでなく、アイ=ファのためにも料理を成功させるという新たな動機が加わり、内なる闘志を燃やしていた。
ルウ家との対面と歓迎の空気
ルウの本家に到着したアスタとアイ=ファは、広場に面した複数の家屋に迎えられた。リミ=ルウに案内され、かまどの間へ向かう際には調理器具である刀類の一時預かりが求められた。出迎えたのは女衆ばかりで、男たちは森へ狩猟に出ていた。アスタは初対面の女性たちに圧倒されつつも、敵意ではなく好意的な視線に迎えられた。
レイナとの邂逅と親しみの感情
女衆の中にはアスタの幼馴染と同名のレイナという少女もいたが、風貌は全く異なっていた。それでも無邪気な笑顔に懐かしさを覚え、アスタは一瞬戸惑ったが、現実を受け入れて気を引き締め直した。
料理人としての信頼と自己紹介
アイ=ファは家長代理としてアスタを紹介し、ティト=ミンやミーア=レイら家族は丁寧に応対した。ティト=ミンら三人が調理補助として任され、アスタはかまどの中心を任される立場となった。
異国出身の告白と懐疑の視線
長姉ヴィナ=ルウはアスタに異国出身である理由を問いかけた。アスタは出自を偽らず、「日本」から来たと正直に語った。モルガの森辺で目覚めて以来、世界の理が分からないままにここまで来たことを説明した。アイ=ファと相談の上で決めた方針であり、必要以上の秘密は持たないと心に決めていた。
ルウ家女性陣の人柄と受容の姿勢
ヴィナはやや挑発的な言葉を放ちながらも、歓迎の意を示した。アイ=ファの評判やジバ=ルウへの思いも言葉にし、女たちはアスタたちの来訪を受け入れていた。家長ドンダ=ルウの不満はあるものの、家族はアスタたちの行動に感謝していた。アスタはこの穏やかで温かい空気に、緊張を解きつつも、責任の重さを再認識した。
料理人アスタとしての第一歩
曾祖母ジバ=ルウの命を支える一膳を、森辺の伝統と信頼の中でふるまうため、アスタは自らの料理のすべてをぶつける決意を固めた。すべては、森辺で出会った人々のために。そして何よりも、アイ=ファの想いに応えるために。
ギバ料理の準備とレイナ=ルウとの邂逅
レイナ=ルウの案内でアスタはルウ家の炊事場に向かった。屋外にはギバを焼く専用のかまどがあり、ドンダが焼き肉を好むために設置されたものであった。レイナ=ルウは明るく親しげな性格で、妹のリミと同様に無邪気な印象を与えた。アスタは彼女に昔の知人と同じ名前を重ね、複雑な心境を抱いていた。
調理場での火起こしと準備作業
レイナ=ルウは慣れた手つきで火を起こし、アスタは彼女の助力のもとでギバ肉の調理に着手した。彼女はアスタに親しみを込めて接し、アスタも次第に心を開きつつあった。調理場には多くの調理器具が整っており、本格的な炊事が可能な環境であった。やがてリミが戻り、ポイタンの準備も始まった。
ティト・ミン=ルウとの対話とアイ=ファの立場
ティト・ミン婆が調理に加わり、アイ=ファの過酷な生活を讃えた。アイ=ファは感情をあまり見せなかったが、ティト・ミンは彼女の生き方に対して懸念を示した。家を守るために戦うアイ=ファに、他者と関わる道を考えるよう諭したのである。
調理作業の進行と少女たちの成長
ポイタンの調理はレイナ=ルウが担当し、ギバ肉のミンチ作業をリミと共に進めた。二人は非常に優秀で、アスタは彼女たちの成長に感銘を受けた。レイナ=ルウの包丁さばきは見事で、アスタが仕上げをせずとも完成されたミンチが出来上がった。三人は一体となって調理に取り組み、信頼関係が芽生えつつあった。
ルウ家の食糧事情と食材の豊富さ
アスタはレイナ=ルウたちと共に食糧庫を訪れ、そこで見た豊富な食材の数々に驚嘆した。見たことのない野菜が所狭しと並び、贅沢な暮らしぶりがうかがえた。アスタは使いたい気持ちを抑え、時間と技術への責任を重視して、見慣れた食材のみを持ち帰ることにした。
ドンダ=ルウとの初対面と緊張の幕開け
食糧庫を出たアスタたちの前に、ドンダ=ルウ率いるルウ家の男衆が現れた。リミの父であり家長である彼は、アスタを余所者と見て敵意をあらわにした。アスタの白い肌を嘲り、威圧的な態度でにらみつけたことで、その場の空気が一変した。ルウ家の中でのアスタの立場に新たな緊張が生まれた場面であった。
第六章 祝福の夜
ルウ家の男衆との対面
アスタとアイ=ファの前に、ルウ家の家長ドンダ=ルウと三人の息子たちが現れた。ドンダは威圧的な風貌で、力強さと暴力的な迫力を放っていた。次兄ダルムは冷笑的で攻撃的な言動を取り、末弟ルドは無邪気だが口が悪かった。一方、長兄ジザは温厚そうに見えたが、静かに威圧感を漂わせていた。ドンダはアイ=ファを挑発し、ダルムは彼女を侮辱したが、アイ=ファは毅然とした態度で応じ、場の空気は張り詰めたまま一触即発の様相を呈した。
ジバ=ルウの存在と女衆の怒り
ドンダが最長老ジバ=ルウを軽んじる発言をしたことで、リミとレイナは怒りを露わにした。特にリミは父親に飛び蹴りをかまし、レイナも涙ぐみながら訴えた。その場はジザの冷静な挨拶によって沈静化したが、彼の口からは「家のかまどを他家に任せるのは極めて異例であり、規律を重んじる自分としては複雑だ」という本音も明かされた。
晩餐の準備とヴィナ=ルウの登場
かまどの間では、ヴィナ=ルウが色香をまとって登場した。彼女は料理の進行に驚きながらも、アスタの料理技術と発想に興味を示した。ポイタンの再調理や、ハンバーグ風のギバ肉の加工について説明を受けたレイナは、真剣な眼差しで学ぼうとする姿勢を見せた。ヴィナはアスタを観察しつつも敵意は示さず、感情を読みづらい態度で立ち去った。
料理人としての使命感とアスタの覚悟
アスタは、自分の料理でジバ=ルウに生命の喜びを与えることを目標とし、丁寧な調理法を後進に伝えていた。異世界という文化も価値観も異なる場所であっても、自らの料理が誰かの心を癒せるのであれば、それが生きる意味であると彼は自覚していた。
価値観の違いと女衆の誤解
アスタがヴィナを「素敵」と称した発言が波紋を呼び、レイナは切なげな表情を見せ、リミやアイ=ファも含めた場の空気が微妙に揺らいだ。アスタは誤解を解こうとしたが、異文化における恋愛や結婚観の違いに直面し、慎重な言動が求められると再認識した。内心ではアイ=ファへの特別な想いを抱いていた。
ジバ=ルウの食事と料理の成否
夕刻、大広間での晩餐が始まり、ジバ=ルウが最終的に席に着いた。彼女のために用意された特別メニューは、柔らかく煮込んだアリアとスープ、ふやかしたポイタン、刻まれたギバのハンバーグで構成されていた。初めは抵抗を示していたジバ=ルウであったが、ゆっくりと匙を受け入れ、料理を口にして涙を流しながら「なんて美味しい肉だろう」と呟いた。この一言が、アスタの料理が確かに心に届いた証であった。
ジバ=ルウの感動と涙
ジバ=ルウはアスタたちが作った料理を口にし、その美味しさに涙を流した。レイナ=ルウやリミ=ルウも感極まり、感情を露わにした。アイ=ファは表情を隠しながらも、深い感動を胸に抱いていた。ジバ=ルウは歯を失っていたため、柔らかく調理された肉を少しずつ味わい、そのたびに感嘆の声を漏らした。
ドンダ=ルウの怒号と家族の緊張
一方、家長のドンダ=ルウは料理に不満を爆発させ、料理法や食材に対する嫌悪感を露骨に表した。彼はギバの胴体肉を忌避し、自身を誇り高い狩人として主張した。だがジバ=ルウは静かに彼を諫め、価値観の違いを認めながらも、自身にとってはこの料理が正しいと断じた。
ジバ=ルウとリミ=ルウの交流
ジバ=ルウはリミ=ルウの努力を認め、彼女に感謝の言葉をかけた。リミは泣きながら喜び、残された料理を口いっぱいに詰め込んだ。ジバ=ルウの言葉は、単なる褒め言葉ではなく、家族への深い愛情と感謝を含んでいた。
アイ=ファとの再会と触れ合い
ジバ=ルウは視力の衰えた目でアイ=ファの存在を求め、アイ=ファは戸惑いながらもアスタと共にその前に膝をついた。ジバ=ルウは彼女の顔に触れ、久しぶりの再会を喜んだ。慈愛に満ちたその表情は、長年の時を越えた温もりを伝えていた。
過去の記憶と失われた森への想い
ジバ=ルウは、自らの過去を静かに語り始めた。南の豊かな森から追われ、西の森辺に移り住んだ経緯、ギバとの過酷な戦い、仲間の死、失われた文化と記憶への悲しみを語った。彼女は自らの無力さを嘆き、歯を失ったことで食の喜びさえ奪われていたと打ち明けた。
アスタの励ましと家族の絆
アスタはジバ=ルウの手を取り、今の家族を大切に思う気持ちを伝えた。彼は料理人としての誇りと、家族の愛があったからこそ自分も努力できたのだと語った。ジバ=ルウはそれに応え、アイ=ファとリミたちへの感謝の念を深めた。
ジバ=ルウの祝福と牙の贈与
ジバ=ルウは首飾りからギバの牙と角を外し、それぞれをアイ=ファとアスタに差し出した。それは森辺の民にとって最大級の感謝と祝福の証であった。ドンダ=ルウが制止しようとしたが、ジバ=ルウは意志を貫き、森の加護を込めて二人の魂を祝福した。
形となった報酬と料理人としての証
アスタはこの贈り物を、自分が異世界で初めて得た料理人としての報酬であると認識した。それは単なる感謝ではなく、命と魂に通じる深い絆の証であった。彼の料理が命を救い、家族をつなぎ、過去と現在を癒したことを示す象徴であった。
箸休め ~ルウ家の末娘 ~
アイ=ファを探すリミ=ルウの不安
黄の月の二十五日、リミ=ルウは久々の自由時間を得てアイ=ファに会うため森辺の道を駆けていた。だがファの家に誰もおらず、水場や周辺を探しても姿はなかった。不安に駆られたリミ=ルウは近隣の家に助けを求め、ようやくアイ=ファが異国人と共に森へ向かったことを知る。不審に思いながらも、彼女を待つ決意を固めた。
集落の不穏な空気と女衆の忠告
助けを求めた痩せ細った女衆から、スン家の動きとアイ=ファの孤立を知らされた。スン家とルウ家の対立が集落全体に緊張をもたらしており、アイ=ファとの関係すら危険視されていた。リミ=ルウはその言葉に悲しみを覚えながらも、アイ=ファを友として信じ続ける覚悟を深めた。
アイ=ファと異国人の姿を目撃
リミ=ルウは偶然、アイ=ファが異国人と共にギバを担ぎ歩く姿を目にした。異国人は町の人間らしい出で立ちでありながら、黒髪と黒い瞳を持つ不思議な雰囲気の若者であった。その表情には明るさが宿り、リミ=ルウは彼が悪人には思えないと感じた。だが、森辺と町人の間には越えられぬ壁があり、なぜアイ=ファがそんな男と共にいるのか理解できなかった。
リミ=ルウの家族の反応と孤独な思い
ルウ家に戻ったリミ=ルウは兄たちに異国人の存在を伝えるが、理解を得られなかった。兄のジザ=ルウや父ドンダ=ルウは異国人との関わりを厳しく戒め、アイ=ファに関わることすら避けるべきと告げた。家族の無関心と冷淡さに、リミ=ルウは孤独と憤りを感じた。
過去の嫁取り話とアイ=ファの決意
かつてアイ=ファはルウ家からの嫁取りの話を受けたが、狩人として生きる道を選んでそれを拒んだ。リミ=ルウはその選択に安堵し、たとえ家族にはなれずとも、友としての絆を大切にしたいと考えていた。しかしスン家との確執や嫁入り拒否により、周囲は次第に彼女を遠ざけ、孤独が深まっていった。
異国人との日々を見守る決意
アイ=ファとの交流を断たれつつある現実に抗い、リミ=ルウは密かにファの家を訪れ続けた。異国人の存在は日常となり、リミ=ルウはその正体や目的に強い関心を抱いた。彼女は、異国人がアイ=ファの心の拠り所となる存在なのではと感じ始める。
晩餐を通じて見えた変化と理解
ある晩、リミ=ルウは窓越しにアイ=ファと異国人が共に晩餐を取る姿を目撃した。異国人はギル=ファの装束を纏い、まるで家族の一員のように見えた。ふたりの表情は穏やかで、特にアイ=ファはこれまで見せたことのない柔らかな笑顔を浮かべていた。その姿を見て、リミ=ルウは安堵と希望を覚えた。
新たな家族の形への理解と受容
リミ=ルウは異国人に対する不安を抱きながらも、アイ=ファの幸せを第一に願っていた。たとえ血縁ではなくとも、彼がアイ=ファに心の平穏を与えられる存在なら、それでよいと受け入れた。そうして、リミ=ルウは涙を拭い、再び前を向いて声をかけた。自らの思いと行動をもって、友としての絆を守り続ける決意を固めたのである。
同シリーズ
異世界料理道







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