物語の概要
■ 作品概要
本作は、現代日本で神々や霊獣のお世話をする青年・楠木湊の日常を描いた現代ファンタジー(スローライフ)小説の第7巻である。
これまでの物語では湊が管理する「楠木邸」やその周辺の山が舞台であったが、今巻では湊と邸の神々たちが「夏休み」として海辺の街へ旅行に出かけるシリーズ初の「お出かけ」エピソードが展開される。宿泊先のホテルで囁かれる「幽霊が出る」という不穏な噂に対し、湊が神々の力を借りながらその真相を探る、ミステリー要素を含んだ物語である。
■ 主要キャラクター
- • 楠木湊(くすのき みなと):
- 楠木邸の管理人。文字に霊力を宿し、悪霊を祓う力を持つ青年である。今巻では神々や眷属たちの旅行の引率役を務め、旅先でのトラブル解決に奔走する。
- • 方丈様(山神):
- 楠木邸の隣にある御山の守護神で、巨大な白い狼の姿をしている。前巻でその名が「方丈(ほうじょう)」であることが判明した。和菓子が好物で、旅行先でも地域の特産品や甘味を楽しむマイペースな性格である。
- • セリ、トリカ、ウツギ:
- 山神に仕える三匹のテンの眷属。洋菓子を好み、湊との交流を通じて徐々に人間に慣れつつある。今巻では初めての海での宿泊に興奮し、人間界のレジャーを満喫する姿が描かれる。
- • 播磨才賀(はりま さいが):
- 国家公務員として働くエリート陰陽師。湊の能力を高く評価しており、今回の旅行の手配や、滞在先での心霊現象の調査において湊と協力し合う。
- • 播磨藤乃(はりま ふじの):
- 才賀の妹で、薙刀を武器に戦う実力派の陰陽師。湊たちの旅行に同行し、ホテルの異変に対処する。負けん気が強く、霊的な存在に対しても怯まない性格を持つ。
■ 物語の特徴
• 新舞台での「お出かけ」スローライフ:
これまでの楠木邸という定点観測的な物語から一転し、旅行という形式を取ることで、湊や神々が外部の世界とどのように関わるかに焦点が当てられている。海辺の街という開放的なロケーションが物語に新鮮さを与えている。
• ミステリーと現代ファンタジーの融合:
「幽霊ホテル」の謎解きが主軸となっており、それが単なる怨霊騒ぎではなく、土地に根ざした神事や過去の想いに繋がっていく過程が本作ならではの魅力である。
• 「もふもふ」の多様な反応:
旅行という非日常において、眷属たちがホテルの設備や海にどのような反応を見せるかといった、キャラクター同士の微笑ましいやり取りが癒やし要素として機能している。
書籍情報
神の庭付き楠木邸 7
著者:えんじゅ 氏
イラスト:ox 氏
出版社:KADOKAWA(電撃の新文芸)
発売日:2024年6月17日
ISBN:9784049156614
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あらすじ・内容
隣神との賑やかスローライフ第七弾! 天狐さんとご対面!
御山に人が訪れるようになって、山神さんも力を取り戻してきたご様子。ならばやることは一つ……庭の改装です! 新たなくつろぎスペースを備えた楠木邸に、ついに天狐さんご本神がやってくる!
さらに、妖怪たちとの交流を通して、湊は座敷わらしさんと出会った幼少期を思い返して……。
隣神との賑やかスローライフ第七弾、今回はほっこり思い出話もどうぞ。
感想
今作は湊の成長と新たな絆が色濃く描かれた、非常に密度の高い一冊であった。
日常の穏やかさと、大切なものを守るための緊迫感が交互に押し寄せ、最後まで夢中でページをめくった。
最も驚かされたのは、湊が鍛錬の成果によって、ついに神霊や妖怪たちの声を聞き取れるようになったことだ。
物語の途中で彼らが急に話し始めたため、「いつの間にそこまで」と面食らってしまったが、言葉を交わす姿には感慨深いものがある。
これまでの努力が形となり、意思の疎通ができるようになったことは、彼にとって大きな転換点と言えるだろう。
また、酔っ払った山神がその強大な力を使って、庭を大規模に模様替えする場面も印象的であった。
かつての改装では神力を使いすぎて体が縮んでしまったが、今回は元の姿を保ったままであったことに胸をなで下ろした。
仔犬のような小さな形態も愛くるしいものの、消えてしまいそうな危うさは見ていて忍びない。
威厳ある姿のまま、のびのびと力を振るう山神の様子には、確かな安心感を覚えた。
新入りのエゾモモンガに「カエン」という名が付けられたエピソードも、心に深く残っている。
この名前の由来が、セリやトリカ、ウツギたちとお揃いの植物に関わるものであると知る。
言葉を交わし、固有の名前を持つことで、カエンがようやく本当の意味で楠木邸の「ファミリー」として迎え入れられたように感じ、温かな気持ちになった。
その一方で、心ない退魔師に鳳凰が攫われそうになった際に見せた湊の激しい怒りは、これまでになく鮮烈であった。普段は温厚な彼が、仲間を傷つけようとする者に対して初めて見せたあの激情は、彼の中に育った強い絆の証でもあるのだろう。
懐かしい座敷わらしの思い出とともに語られる日常は、優しくもどこか切ない。しかし、新たな仲間とともに歩む今の湊には、確かな力と信頼が備わっている。癒やしのスローライフの中に、力強い意志が芽生えたことを感じさせる、素晴らしい読後感であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察
楠木邸の庭
楠木邸の庭とは
楠木邸の庭は、主人公の湊が管理する特殊な環境にある「神の庭」である。敷地外が夏の酷暑であっても、庭の中は常に快適な気温に保たれている。また、山神による強力な結界が張られているため、許可のない妖怪や神の眷属は容易に侵入できない。
山神による大改装と現在の景観
ある日、酔った山神によって庭は大規模な改装を受けた。現在の景観には以下のような特徴がある。
- それまで存在した滝や川が姿を消し、庭の中央に大きな池が出現した
- 応龍が呼び寄せた雲の雨により、御神木であるクスノキが楠木邸の屋根と同じ高さまで成長し、傘のように枝葉を広げた
- 池の中央にあるクスノキの周囲に、六角形の舞台のような板張りの床が作られた
- 縁側からはクスノキへ続く長い渡り廊下が形成された
- 渡り廊下の脇に移動した手水鉢には、大口真神が持参したひまわりやマリーゴールドによる鮮やかな花手水が飾られることもあった
湊は、この木陰と香りに包まれた心地よい空間を「クスノキの部屋」と名付けている。
神々や霊獣たちの憩いの場
この庭は、多くの神々や精霊、妖怪たちが集まり、自由に過ごす場所となっている。主な来訪者や住人の様子は以下の通りである。
- 四霊(鳳凰、霊亀、応龍、麒麟)が日常的に滞在し、山神の新たな眷属となったカエン(エゾモモンガの姿をした神霊)の滑空訓練や念話の練習をそれぞれの方法で見守っている
- 稲荷神社の祭神である天狐とその眷属の白狐たちが訪れた際には、庭中が狐で埋め尽くされるほどの賑わいを見せ、庭にある露天風呂や湊が用意したいなり寿司を堪能した
庭で行われる宴
神の庭では、しばしば賑やかな宴が開かれる。
- カエンの命名祝いの宴では、クスノキの下に座卓が設けられ、四霊や山神一家が思い思いに酒や料理を楽しんだ
- 夏の夕刻には、風神や雷神も交えて「夏祭りもどき」が開催された
まとめ
このように楠木邸の庭は、提灯やランタンのように明かりが灯る夜の空間で、湊が鉄板で焼きそばを作り、神々や眷属たちが焼きとうもろこしや綿あめを味わうなど、人間と神々が種族を超えて穏やかな時間を共有する特別な場所となっている。
神霊と四霊
楠木邸の庭において、エゾモモンガの姿を与えられた神霊(後に「カエン」と名付けられる)と四霊(鳳凰、霊亀、応龍、麒麟)は、非常に温かな交流を持っている。神霊が新しい体に慣れるために庭で滑空訓練を行っていた際、四霊たちはそれぞれの個性的な方法で神霊を気にかけて見守っていた。
滑空訓練における四霊の見守り
- 鳳凰:神霊の訓練に何度も付き合ってきたため、二匹は親しい関係になっている。
- 霊亀:ゆっくりと通り過ぎる霊亀の甲羅の上に神霊が乗り、まるで親子のように運ばれていく微笑ましい様子が見られた。
- 応龍:川辺で水面から羽を出して待機し、神霊が誤って落ちてしまわないように防いでいた。
- 麒麟:少し離れた遠くの場所から、神霊の様子を静かに見守っていた。
まとめ
このように、四霊たちはまだ力をうまく使いこなせない神霊に対して、それぞれのやり方でサポートし、優しく気遣っている。また、神霊が山神から「カエン」という名を与えられ、力が安定したことを祝う宴が開かれた際にも、四霊たちは揃って参加し、共に穏やかな時間を過ごしている。
山神と眷属
「神の庭付き楠木邸」における山神と、その眷属たち(セリ、トリカ、ウツギ、カエン)の関係性やそれぞれの役割について解説する。
山神は方丈山を御神体とする強大な神であり、普段は威厳ある大狼の姿をとっている。彼の眷属には、白いテンの姿をしたセリ、トリカ、ウツギに加え、新たにエゾモモンガの姿を与えられたカエンがいる。眷属たちの名前はすべて毒草(セリ、トリカブト由来のトリカ、ウツギ、カエンタケ由来のカエン)に由来しており、山神なりの統一感を持って名付けられている。
山神の主としての顔
山神は絶大な神威を持ち、悪霊や他の神の干渉から主人公の湊を強固に保護している。たとえば、湊に強い関心を寄せる天狐が楠木邸に現れた際には、突風で別神域へ吹き飛ばして牽制し、互角に渡り合うほどの力を見せた。
一方で、日常においては怠惰な面も見せ、以下のような人間臭い一面やトラブルメーカーとしての側面も持ち合わせている。
- 和菓子や洋菓子(抹茶レアチーズケーキ)、手土産のこし餡を好む
- 酒に酔った勢いで楠木邸の庭を池のある景観へと一夜にして大改装した
- 改装の最後には自ら水浸しになって高いびきをかいた
新眷属・カエンの成長と保護
エゾモモンガの姿を持つカエンは、元々は火を操る鍛冶の神霊であった。過去に人間へ自らの神名を教えたことで囚われてしまった経験があり、元の名で呼ばれることを強く拒絶していた。新しい体に慣れず、湊を守りたい一心で湊の魂を神に縛り付けかねない危険な力の暴発を起こしてしまった。
これを見た山神は、彼の力を安定させるためカエンという新たな名を与えた。名を得たことでカエンには以下のような変化が見られた。
- 炎が美しく制御されるようになった
- 湊を害そうとした怨念の木箱を容赦なく焼き尽くすなど、愛らしい見た目に反する苛烈な気性を発揮した
- 普段は滑空訓練に励んだり、初めて食べる綿あめに夢中になったりと、無邪気な子どものような存在として過ごしている
先輩眷属たちの役割
白いテンの姿をした先輩眷属たちは、それぞれの役割を持ちつつカエンをサポートしている。
- セリ:真面目で長兄的な存在である。山神が酔って失態を演じた際も、セリの記憶を通じて山神自身に状況を把握させるなど、しっかり者としての役割を果たしている。
- トリカ:霊道の管理を担っており、カエンの命名の場にも駆けつけて弟分の誕生を静かに見守った。
- ウツギ:好奇心旺盛で明るく、カエンに念話や炎の出し方の練習を直接指導した。また、マンドラゴラを欲しがったことがきっかけで、湊たちが大口真神の神域へ赴くエピソードにも繋がっている。
まとめ
山神と眷属たちは、確固たる主従関係にありながらも、一緒に神の実(みかん)や焼きとうもろこしを食べたり、不器用なカエンの成長を家族のように見守ったりと、強い絆で結ばれている。強大な力を持ちながらもどこか人間味に溢れる彼らは、楠木邸の日常を騒がしくも温かく彩る中心的な存在である。
湊の過去
湊の過去については、彼が山神たちに語った幼少期のエピソードの中で詳しく明かされている。
妖怪が視えるようになったきっかけと座敷わらしとの出会い
湊は生まれた時から妖怪が視えていたわけではなく、5歳になったばかりの頃に突然視えるようになった。
- 兄の航とともに神棚に自分の好きなお菓子を供えた際、白く透けた子どもの手がそれを掴むのを目撃した
- 驚いて祖父のもとへ駆け込むと、それが楠木家に古くから棲みつく守護神のような妖怪「座敷わらし」であると教えられた
湊は座敷わらしと仲良くなろうと座布団や煎餅を用意して待ち、四つ葉のクローバーのお返しをもらうなどして、少しずつ交流を深めていった。
妖怪たちとの日常と家族の温かい支え
座敷わらしと打ち解けるにつれて、他の妖怪たちも湊にちょっかいをかけるようになった。ある時、屋根の上の狒々に帽子を奪われたが、祖父や兄に相談して励まされ、狒々の好物であるカステラを餌に交渉して帽子を取り返した。
湊がこのように妖怪と積極的に関わりを持てたのは、実家の恵まれた環境のおかげであった。
- 祖父は妖怪を明確に視ることができた
- 父は気配を微かに感じ取れた
- 母や兄は姿も気配もわからなかったが、虚空に話しかける湊を奇異の目で見ることは一度もなかった
家族全員が妖怪の存在を認めて自然に受け入れていたのである。
葛木角之丞との出会いと祓いの力
小学5年生の時、湊は幼馴染の蘭丸との下校中に巨大な妖怪に遭遇しそうになるが、そこへ現れた和装の退魔師・葛木角之丞に助けられた。葛木はそのまま楠木家の温泉宿に長逗留することになり、座敷わらしをはじめとする妖怪たちは祓われることを恐れて彼を強く警戒した。
葛木は、当時の湊が書く文字に祓いの力が宿っていることを見抜いていたが、無闇にその力を自覚させることはしなかった。代わりに字が美しいと褒め、丁寧に文字を書かせることで、結果的に湊の力を自然に引き出していた。
まとめ
現在の湊は、当時の自分が葛木にうまく乗せられていたのだと理解している。妖怪が見えるようになった幼少期から、家族の温かい支えや退魔師との出会いを経て、湊の持つ祓いの力は自然な形で引き出されていったのである。
悪霊と退魔師
作中に登場する悪霊と、それに対処する陰陽師・退魔師たちについて解説する。
悪霊の性質と浄化方法
悪霊は人間の未練や恨みから生じ、生者に害をなす存在である。たとえば、人間に殺害されたアオダイショウ(蛇)の魂は、復讐相手が先に事故死してしまったことで行き場のない怒りを抱え、悪霊になりかけていた。また、稲荷神社には悪霊に取り憑かれてひどく憔悴した中年夫婦が訪れる描写もあり、人間に直接的な被害をもたらす。
これらの悪霊は、さまざまな手段で浄化・退治されている。
- 神霊や眷属による祓い:稲荷神社では、天狐の眷属であるツムギが尻尾で風を起こし、悪霊を瘴気ごと一掃した。また、アオダイショウのケースでは、湊が引き剥がした怨念をカエンが白い炎で跡形もなく焼き尽くしている。
- 特殊な力を持つ人間や式神:湊が作った護符の力のほか、無自覚に悪霊を消し去るほどの歌声を持つ少女や、悪霊を喰らうシャチのぬいぐるみ型の式神なども登場する。
湊自身は、悪霊の事情や悲しい背景を知ってしまうと祓い続ける心の強さが保てなくなると自覚しており、普段はあえて事情を知らないまま容赦なく祓うスタンスをとっている。
陰陽師と退魔師たちの多様な思惑
退魔師や陰陽師たちは、皆が正義のために動いているわけではなく、己の欲望のために力を悪用する者も存在する。
- 播磨(はりま):陰陽寮に所属する陰陽師である。泳州町(えいしゅうちょう)を瘴気で覆った悪質な退魔師との死闘を繰り広げ、湊が風の精に託した護符を用いて放たれた大量の悪霊を完全に祓い切った。後日、湊へ直接お礼に訪れるなど義理堅い人物である。
- 安庄(あんじょう):泳州町に住む悪質な退魔師である。金儲けのために自ら悪霊を増やすという本末転倒な行為に手を染めていた。播磨との戦いの末に逮捕されるが、捕縛時に大量の悪霊を町に放つという危険な置き土産を残した。
- 園能(えんのう):黒衣の退魔師である。動物霊を無尽蔵に手に入れるための道具として、四霊である鳳凰を鳥かご状の檻に捕らえて痛めつけた。この行為が湊の逆鱗に触れ、危うく湊に両手を切り落とされかけるほどの激しい報復を受けそうになる。
- 葛木角之丞(かつらぎ かくのじょう):悪霊を喰らう式神を使役する、老獪な流れの退魔師である。過去に楠木家の温泉宿に滞在した際、幼い湊の文字に宿る祓いの力を見抜き、湊に無闇な自覚を持たせないよう慎重に力を引き出した。また、園能への怒りで風神の力を暴走させ、町を吹き飛ばしかけた湊の腕を掴んで制止し、正気を取り戻させるという非常に重要な役割を果たした。
まとめ
このように、神々や妖怪と穏やかに共存する湊の周囲において、人間の退魔師たちが持ち込む業の深さや身勝手さが、物語のトラブルの大きな要因として描かれている。
登場キャラクター
楠木家
楠木湊
本作の主人公であり、特殊な環境にある屋敷の管理人を務める青年である。四霊から加護を与えられており、悪霊を祓う特異な力を持っている。山の神々や妖怪たちと自然に共存する生活を送る。
・所属組織、地位や役職
楠木邸の管理人。自由業。
・物語内での具体的な行動や成果
神の庭の整備や木彫り、護符作成を行う。悪霊の怨念を木箱に封じ込め、神霊や人々を危機から救った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
四霊の加護を受け、周囲の神々や妖怪から一目置かれる存在となる。
楠木航
湊の兄であり、やや厳しい性格の持ち主である。幼少期は白皙の少年であった。弟の不思議な言動を冷静に見守る。
・所属組織、地位や役職
楠木家の長男。温泉宿の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い頃に座敷わらしの存在に気づいた湊に対し、落ち着いた態度で接した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
楠木湊の祖父
妖怪が明確に視え、会話も可能な人物である。孫の湊に妖怪との接し方を教え導いた。
・所属組織、地位や役職
楠木家の祖父。台所の番人。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い湊に座敷わらしの存在を教え、妖怪との関わり方を静かに見守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
故人である。
楠木湊の母
大雑把な性格であり、仕事のオンとオフをきっちり分ける教育方針を持つ。妖怪の姿は視えないが、その存在を受け入れている。
・所属組織、地位や役職
楠木家の母。温泉宿の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い湊に文字の丁寧な書き方を指導した。実家に送られた木彫りを神棚に供えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
楠木湊の父
おっとりした性格であり、妖怪の気配を微かに感じ取れる人物である。
・所属組織、地位や役職
楠木家の父。温泉宿の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
妻が神棚に供えた木彫りを座敷わらしが受け取った際、その気配を感じ取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
山神一家
山神
方丈山を御神体とする山の神である。普段は怠惰で和菓子を好む大狼の姿をとる。湊を気に入り、楠木邸に入り浸る。
・所属組織、地位や役職
方丈山の神。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸の庭を自らの趣味で大改装した。悪霊や他の神の干渉から湊を保護する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
強大な神威を持ち、天狐や他の神々と互角以上に渡り合う力を見せる。
セリ
山神の眷属であり、白いテンの姿をした妖怪である。真面目で冷静な長兄的な立ち位置にいる。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
南部の瘴気を調査し、事態の把握に努めた。湊の行動をそばで支える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
カエン
カナヤマヒコとカナヤマヒメの系譜に連なる鍛冶の神である。エゾモモンガの体を与えられ、火を操る力を持つ。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。鍛冶の神。
・物語内での具体的な行動や成果
歩行や滑空の訓練を行い、新しい体に慣れていく。湊を悪霊の怨念から守るために火を放って木箱を燃やした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
山神から「カエン」という名を与えられ、力が安定する。
トリカ
山神の眷属である白いテンである。神経が細かく、霊道の管理を担当する。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
霊道から外れる霊を説得して送り届ける。滑空訓練でカエンの指導役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
ウツギ
山神の眷属である白いテンである。好奇心旺盛で明るい性格の持ち主である。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
マンドラゴラの栽培に興味を持ち、伊吹山を訪れた際に種を入手した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
四霊
鳳凰
鳥類の長である。職人芸を好み、優れた技術を持つ人間に加護を与える性質がある。
・所属組織、地位や役職
四霊の一つ。鳥類の長。
・物語内での具体的な行動や成果
日本刺繍の職人に加護を与えようとした。退魔師に捕らわれるも湊に救出される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
力を取り戻すにつれ、ひよこから若鳥へと成長する。
霊亀
温和で落ち着いた性格の持ち主である。四霊の中でも長老のような振る舞いを見せる。
・所属組織、地位や役職
四霊の一つ。
・物語内での具体的な行動や成果
竜宮城と楠木邸の池を行き来する。湊の行動や神霊の成長を静かに見守る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
応龍
気位が高く酒を好む存在である。青龍の力を借りることができる。
・所属組織、地位や役職
四霊の一つ。
・物語内での具体的な行動や成果
雨を降らせてクスノキを成長させた。悪霊になりかけたアオダイショウに巻きつかれ、それを静かに受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
麒麟
人間嫌いだが湊には好意的な態度をとる。派手好きで世情に詳しい。
・所属組織、地位や役職
四霊の一つ。
・物語内での具体的な行動や成果
白虎の力を借りて十和田記者に木彫りを渡した。湊の背に加護を刻み直す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
稲荷神社
ツムギ
天狐の眷属である黒い狐である。礼儀正しく、楠木邸の露天風呂と稲荷寿司を好む。
・所属組織、地位や役職
天狐の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
湖の悪霊を祓う作業を行った。疲労を癒やすために楠木邸で休息をとる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
多くの眷属を束ねる頭目のような立場にある。
白い狐
南部の稲荷神社の眷属である。ツムギに想いを寄せ、執拗に追いかける若造である。
・所属組織、地位や役職
南部稲荷神社の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸の神域を攻撃して山神に制裁される。その後ツムギへの接触を控える誓約を立てた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
稲荷神社の宮司
北部稲荷神社の宮司である。祭神である天狐に深い恋心を抱いている。
・所属組織、地位や役職
北部稲荷神社の宮司。
・物語内での具体的な行動や成果
悪霊祓いの儀式を行うが、実際にはツムギに祓わせている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
天狐
九尾を持つ巨大な白狐である。非常に魅力的で多くの者から想いを寄せられる魔性の存在である。
・所属組織、地位や役職
北部稲荷神社の祭神。
・物語内での具体的な行動や成果
ツムギの体を借りて湊の前に現れた。山神の神域で運動と称して山神と戦闘する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
絶大な信仰と力を持つ。
メノウ
天狐の眷属である赤錆色の子狐である。雄であり、人懐っこい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
天狐の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の膝に乗って甘えた。ツムギの手伝いでケサランパサランの作成に関わる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
天狐の眷属たち
天狐に仕える白い狐の集団である。主への忠誠心が強い。
・所属組織、地位や役職
天狐の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸を訪れて庭を埋め尽くした。露天風呂といなり寿司を堪能する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
方丈山・楠木邸周辺の神々・妖怪・精霊
たぬ蔵
方丈山に棲む古狸の妖怪である。いたずら好きだが約束は守る性質を持つ。
・所属組織、地位や役職
方丈山の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の姿に化けて酒を手に入れた。祠に酒を供えに来た人間に幻術を見せる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
イチョウの精霊
落雷で倒れた御神木イチョウに宿る精霊である。苔玉のような姿をしている。
・所属組織、地位や役職
南部の稲荷神社の御神木の精霊。
・物語内での具体的な行動や成果
湊からクスノキの枝を与えられて生命力を取り戻し、急速に成長した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
クスノキ
楠木邸の庭の中心に生える御神木である。自主的に動き、湊の意思を汲み取る。
・所属組織、地位や役職
楠木邸の庭木。
・物語内での具体的な行動や成果
イチョウの精霊に自らの枝を与えた。山神の改装に抵抗したのち、雨を受けて屋根のような形に成長する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
風の精
風神の子である精霊の集団である。自由気ままでいたずら好きである。
・所属組織、地位や役職
風の精霊。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の周囲を飛び回り、情報を伝えたり護符を運んだりする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
悪霊たち
人間の恨みや未練から生じた存在である。生者に害をなす。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
泳州町や廃ホテルなどに出現し、陰陽師や湊によって祓われた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
アオダイショウ
人間に殺された恨みを抱える蛇の魂である。悪霊になりかけている状態である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
応龍のもとに現れた。湊によって怨念を切り離され、鬼火となって天へ昇る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
クヌギの木の精
立ち枯れしかけた老木に宿る精霊である。神を嫌うが湊には好意的である。
・所属組織、地位や役職
大口真神の神域の植物。
・物語内での具体的な行動や成果
湊から霧状の水を与えられて歓喜し、木を回復させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
烏天狗
鳥の頭部と翼を持つ妖怪である。規律に厳しく、自然を荒らす人間を許さない。
・所属組織、地位や役職
方丈山の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
山にゴミを捨てた中年男を空へ吊り上げ、制裁として投げ捨てた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
座敷わらし
楠木家に棲みつく妖怪である。家や宿に繁栄をもたらす守護神のような存在である。
・所属組織、地位や役職
楠木家の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い湊の前に現れて供物を受け取った。宿の客である葛木角之丞を強く警戒する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
狒々
猿に似た風貌の妖怪である。いたずら好きで陽気な性格である。
・所属組織、地位や役職
方丈山の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い頃の湊の帽子を奪ってからかった。カステラと引き換えに帽子を返す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
山爺
方丈山に棲む妖怪である。白髪で痩せぎすの巨体を持つ。
・所属組織、地位や役職
方丈山の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
かずら橋の棟梁の頭に息を吹きかけるいたずらをした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
その他の神々・精霊
四神
天の四方を司る神獣である。四霊に力を与える存在である。
・所属組織、地位や役職
天の四方を司る神。
・物語内での具体的な行動や成果
四霊に自らの力を与えていると言及される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
スサノオ
荒々しい性格の男神である。神剣を所有し、湊を鍛えようとする。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
湊に魚を差し入れた。エゾモモンガの神霊を炎の力で試すような行動をとる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
アマテラス
神格の高い女神である。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
湊に自らの力を与えているとスサノオによって言及される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
田神
田の神である。人間との関わりを求めるが、不器用な性格である。
・所属組織、地位や役職
田の神。
・物語内での具体的な行動や成果
カカシの行列を作り、人間を驚かせた。カラスの姿をした式神を種籾で撃ち落とす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
猪神
伊吹山を御神体とする神である。大猪の姿をとり、温和な性格である。
・所属組織、地位や役職
伊吹山の神。
・物語内での具体的な行動や成果
山神と戦闘という名の運動で交流した。湊やウツギに大量の神の実を与える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
ヒサメ
猪神の眷属である。うりぼうの姿をしており、神の実を栽培する。
・所属組織、地位や役職
猪神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
お使いの途中で神の実を落として人間を惑わせた。湊たちの協力を得てそれを回収する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
大口真神
日本狼が神格化した存在である。植物の栽培を好む気さくな神である。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸に花手水を提供した。湊を自身の神域の広大な植物園へ案内する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
マンドラゴラ
引き抜くと絶叫する奇妙な植物である。自発的に動く変わり種も存在する。
・所属組織、地位や役職
植物。
・物語内での具体的な行動や成果
ウツギにからかわれ、真神によって引き抜かれて凄まじい叫び声を上げる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
風神
赤い子鬼の姿をした神である。風を操る力を持つ。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の力の暴走を止め、嵐を起こして町への被害を防いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
雷神
青い子鬼の姿をした神である。雷を操り、普段は眠っていることが多い。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
神鳴りを鳴らして人間を屋内にとどめ、湊の暴走による事態の収拾に協力する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
陰陽師・退魔師
播磨
陰陽師であり、憑坐の家系に連なる人物である。疲労困憊しながら悪霊祓いに従事する。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮に所属する陰陽師。
・物語内での具体的な行動や成果
泳州町で安庄と戦闘した。湊の護符を用いて悪霊を祓う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
安庄
泳州町に住む退魔師である。金儲けのために自ら悪霊を増やす悪質な人物である。
・所属組織、地位や役職
退魔師。
・物語内での具体的な行動や成果
町に悪霊を放ち、播磨と戦闘する。湊の護符の力で敗北し、逮捕される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
葛木角之丞
流れの退魔師である。老獪で飄々とした性格の持ち主である。
・所属組織、地位や役職
退魔師。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い湊の文字に祓いの力を見出した。鳳凰を護れず暴走しかけた湊を制止する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
葛木小鉄
陰陽師であり、角之丞の息子である。ぬいぐるみの式神を使役する。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮に所属する陰陽師。
・物語内での具体的な行動や成果
播磨とともに泳州町の悪霊祓いに参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
シャチの式神二体
葛木小鉄が使役するぬいぐるみの姿をした式神である。悪霊を喰らう性質を持つ。
・所属組織、地位や役職
葛木小鉄の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
泳州町や廃ホテルで悪霊を喰らい、祓いを手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
園能
退魔師である。動物霊を使役するために手段を選ばない人物である。
・所属組織、地位や役職
退魔師。
・物語内での具体的な行動や成果
鳳凰を檻に捕らえ、激怒した湊の風の刃を受けて重傷を負う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
黒衣の退魔師
角之丞とすれ違った退魔師である。油断のならない雰囲気を放つ。
・所属組織、地位や役職
退魔師。
・物語内での具体的な行動や成果
葛木角之丞と道ですれ違い、舌打ちをして去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
一般人・動物
配達員
楠木邸に荷物を届ける配達員である。愛想の良い青年である。
・所属組織、地位や役職
宅配業者。
・物語内での具体的な行動や成果
湊に化けた古狸を湊本人だと思い込み、荷物を渡す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
洋菓子屋の娘
パティシエの娘である。湊に特別な力があると信じている。
・所属組織、地位や役職
洋菓子屋の販売員。
・物語内での具体的な行動や成果
新作ケーキを湊に売り込み、店の繁盛を願う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
パティシエ
洋菓子屋の店長である。体調不良を抱えながらも仕事に励む人物である。
・所属組織、地位や役職
洋菓子屋のパティシエ。
・物語内での具体的な行動や成果
湊が来店したことで体調が回復したと娘に言われるが、偶然だと考えている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
日本刺繍の翁
熟練の技術を持つ日本刺繍の職人である。高齢で目に不調を抱えている。
・所属組織、地位や役職
日本刺繍の職人。
・物語内での具体的な行動や成果
イベントで刺繍を披露し、鳳凰と麒麟から加護を与えられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
野鳥たち
鳳凰を慕う鳥の群れである。統率の取れた行動を見せる。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
鳳凰とともに運動を行い、湊の周囲に集まった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
ヨウム
人語を真似る大型インコである。鳳凰に会うために店から脱走した。
・所属組織、地位や役職
店舗の飼い鳥。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の肩に乗り、家庭内の会話を真似しながら飼い主のもとへ戻る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
ゴロウ
店舗の看板犬である。
・所属組織、地位や役職
店舗の飼い犬。
・物語内での具体的な行動や成果
湊たちが店を訪れた際に激しく吠えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
海斗
鳳凰の姿が視える純粋な少年である。母親の関心を引こうとして迷子になる。
・所属組織、地位や役職
小学生。
・物語内での具体的な行動や成果
湊と鳳凰を見つけて追いかけ、湊から秘密を守るよう諭された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
海斗の母親
海斗の母である。息子を心配する愛情深い人物である。
・所属組織、地位や役職
海斗の母親。
・物語内での具体的な行動や成果
迷子になった海斗を探し出し、湊の言葉を受けて息子を強く抱きしめた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
海斗の妹
海斗の妹である。ベビーカーに乗る幼児である。
・所属組織、地位や役職
海斗の妹。
・物語内での具体的な行動や成果
ベビーカーに乗って母親とともに現れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
店舗の店員
ゴロウとヨウムを飼育する店の店員である。
・所属組織、地位や役職
店舗の店員。
・物語内での具体的な行動や成果
戻ってきたヨウムを見て歓声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
悪霊に取り憑かれた中年夫婦
悪霊に憑かれ、憔悴しきった夫婦である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
稲荷神社で祓いの儀式を受け、ツムギに悪霊を祓われて安堵の涙を流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
愛鳥家の中年男
野鳥撮影を趣味とする中年男性である。マナーに欠ける行動をとる。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
山にゴミを捨てたため、烏天狗に捕まり空から放り投げられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
裏島千早
裏島岳の姉である。方丈山にまつわる奇妙な噂を気にする女性である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
祠の掃除をしていた湊に、妖怪の仕置きに関する噂を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
裏島岳
裏島千早の弟である。都会から地元へ出戻ってきた明るい性格の青年である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
湊と初対面で気さくに話し、地元の良さを実感していると語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
播磨の運転手
播磨の車を運転する若手ドライバーである。明るく愛想が良い。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
播磨の車を運転し、夕飯のメニューを楽しみにしていると語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
蘭丸
湊の幼馴染である。温泉宿の息子でマイペースな性格である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い頃、妖怪から逃げようとする湊に反発し、葛木角之丞と出会った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
近所のおばさん
湊の近所に住む女性である。
・所属組織、地位や役職
特になし。
・物語内での具体的な行動や成果
家の前で仁王立ちする幼い湊に声をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
歌う小学生の女児
歌を歌うのが好きな少女である。自身の歌が音痴だと思い込んでいる。
・所属組織、地位や役職
小学生。
・物語内での具体的な行動や成果
歌で無自覚に悪霊を祓い、葛木角之丞に絶賛されて喜ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆事項なし。
展開まとめ
第1章 夏に涼をもたらす存在?
夏の夕暮れと草取りの後
楠木邸の敷地外の塀沿いを、湊は草取りを終えた直後の汗だくの姿で歩いていた。庭の中は常に快適な気温に保たれているが、一歩外に出ると夏の暑さが容赦なく襲ってくる。抜き取った雑草を詰めたゴミ袋を表門の横に並べながら、湊は雑草の生命力の強さに感心しつつも、放置すれば屋敷が荒れて幽霊屋敷と噂されかねないと苦笑した。
鬼火の出現と古狸の変化
帰ろうと表門に手をかけた瞬間、青白い火の玉が宙を交差する奇妙な現象が起こった。警戒しながら見ていると背後から妖気を感じ、振り返った湊の前に自分とそっくりの男が立っていた。湊はすぐにそれが方丈山に棲む古狸の変化であると見抜く。古狸は湊の姿と声を真似ていたが、その不気味な笑い方に湊は違和感を覚えた。
宅配便と術による認識の操作
そこへ宅配便の軽バンが到着し、配達員が挨拶をした。しかし配達員は湊には一切気づかず、古狸だけを湊として認識していた。古狸が術をかけているためであり、湊はその説明を受けて理解する。配達員は荷物を渡し、古狸は軽々とダンボール箱を受け取った。
酒を巡る湊と古狸の攻防
荷物の中身が高級酒であることを知る湊は、古狸がそれを持ち帰ろうとするのを阻止する。古狸は名前を「たぬ蔵」と名乗り、その名を呼ぶことを許す代わりに酒を譲るよう要求するが、湊は断固拒否した。古狸は媚びたり泣き落としたりして粘るが、最終的に一本だけ譲るという条件で決着する。古狸は酒を得る代わりにダンボールを家まで運ぶ手伝いをすることになった。
山神の悪戯と荷物運び
二人は軽口を交わしながら玄関へ向かうが、古狸は途中で妙に苦しそうにしていた。実は山神が古狸に体重の三倍以上の重みを加えており、古狸はそれに耐えながら荷物を運んでいたのである。玄関に着くと湊は約束通り一本の日本酒を渡し、古狸は大喜びで受け取って帰っていった。
風鈴の礼と古狸の退場
去り際、風鈴の音が鳴ると古狸は振り返り、湊が風鈴の世話をしてくれたことに礼を述べた。そして湊に風鈴を今後も頼むと言い残し、軽やかに門を抜けて姿を消した。
稲荷神社の白狐の来訪
古狸が去った後、再び火の玉が現れ、その向こうに白い狐の姿が見えた。南部の稲荷神社の眷属であり、ツムギに想いを寄せている若い狐であった。狐は楠木邸に近づこうとするが、山神の結界に阻まれて弾き返される。狐は反省した様子で湊に謝罪した。
ツムギを巡る誤解
狐はツムギが湊に会うためにこの屋敷へ来ているのではないかと疑っていた。湊はそれを否定し、ツムギが露天風呂や休息を楽しむために訪れているのだと説明する。さらに、しつこく迫る態度がツムギを遠ざけている可能性を指摘した。
狐の誓約
湊の助言を受けた狐は悩んだ末、ツムギに近づくことや見つめることを一定期間控えると誓う。神楽鈴の音とともに誓約が成立し、それを破れば命をもって償うほど重い誓いとなった。
御神木イチョウの件
話題は雷で倒れた御神木イチョウへと移る。湊が精霊を助けたことで木は回復し、現在は急速な成長が神社で話題になっていた。狐は宮司の夢枕に立ち、神霊が宿る特別な木であると告げたため騒ぎは収まり、神社では大切に見守られているという。湊はその対応に安堵し、若い狐の成長を願うのであった。
第2章 実はそこそこ騒がしい楠木邸
朝の庭掃除と町の異変の回想
朝の庭で掃除を終えた湊は、整然と整えられた楠木邸の庭を見渡した。葉一枚落ちていない庭を確認したあと、裏門の方角に視線を向ける。そこから見える泳州町は、少し前まで瘴気に覆われていた場所であった。悪霊を増やしていた退魔師が原因であり、捕縛の際に放たれた大量の悪霊も、湊が風の精に託した護符によって完全に祓われたと播磨から聞いていた。現在は陰陽師たちも他県へ向かい、事態は収束しているようであった。
神霊の滑空訓練
考え事をしている湊の背中に、エゾモモンガの姿をした神霊が滑空してしがみついた。山神から与えられた新しい体を使いこなせるようになった神霊は、方丈山での飛行訓練のあとも屋敷で練習を続けていた。湊がもう一度見せるよう頼むと、神霊は屋根へ駆け上がり、そこから滑空して湊の手のひらに見事に着地する。湊が褒めると神霊は喜び、勢い余って跳び降りるが着地には失敗する。それでもすぐに走り回る様子は子どものように元気であった。
四霊たちの見守り
庭では鳳凰が石灯籠から飛び立ち、エゾモモンガの神霊と交流していた。鳳凰は神霊の訓練に何度も付き合ってきたため、二匹は親しい関係になっている。そのそばを霊亀がゆっくり通り過ぎると、神霊はその甲羅に乗り、まるで親子のような様子で運ばれていった。川辺では応龍が水面から羽を出して神霊が落ちるのを防ぎ、麒麟も遠くから様子を見守っていた。四霊たちはそれぞれの方法で神霊を気にかけていた。
クスノキとの対話と神霊の挑戦
神霊はクスノキの幹に登る前、必ず湊に許可を求めた。クスノキは湊の所有物だと理解しているためである。湊はその律儀さに感心しつつ、クスノキと意思を通わせるようになったことを実感する。四霊の加護を受ける湊の力は極めて強大であり、望めば世界を征服できるほどの力を持つが、本人にその欲はないため猛威を振るうことはなかった。
神霊の落下と突然の睡眠
枝を進んでいた神霊は、案の定バランスを崩して地面へ落下した。湊が叱ろうと近づくと、神霊は仰向けになったまま眠っていた。遊び疲れて突然眠るのはよくあることであり、まるで子どものような無防備な姿であった。湊は神霊がいずれ方丈山へ戻る必要があることを思いながらも、まだ力を使いこなせない現状では時期尚早だと判断する。
神霊の休息と山神の様子
湊は神霊を抱き上げ、石灯籠の火袋にある小さな座布団の上へ寝かせた。そこで神霊は再び豪快な寝相で眠り続けた。縁側へ戻ると、大狼の姿の山神があくびをして迎える。湊は山神の体調を尋ねるが、山神は非常に調子が良いと答え、全身から光を放った。
神獣と霊獣の違いを探る観察
湊は播磨の父に助言された通り、神獣と霊獣の違いを知るために山神と四霊を注意深く観察していた。山神の気配は四霊よりも強く硬質で、肌を押すような圧があり、独特の香りや硬質な音も伴っていると湊は感じ取る。山神はその観察力の成長を認め、かつて鈍かった湊が多くのことを理解できるようになったと感慨深げに語った。
四霊の声を聴く訓練
湊は四霊の会話に耳を澄ませるが、まだ完全には聴き取れない。山神の助言で目を閉じ、耳に集中すると、鳳凰の声がはっきり聞こえるようになった。湊はようやく四霊と会話できるようになったが、集中を切らすとすぐ聞こえなくなるため、さらなる鍛錬が必要であった。
四霊の配慮と神霊への期待
四霊は人間の脳に直接声を届ける方法を持つが、その際に強い痛みが伴うため湊には使わず、彼が自然に聴けるようになるまで待っていた。湊はその配慮に感謝しながら、石灯籠で眠る神霊のことを思い浮かべる。まだその声を聴いたことはないが、いずれ聴ける日を楽しみにしているのであった。
第3章 ぬしの名は
神霊の念話訓練
霊亀たちが竜宮城へ向かった翌日、楠木邸ではウツギが石灯籠のそばで神霊に念話の練習をつけていた。山神によれば、山にいるセリやトリカと話せるようになるための訓練であった。しかし神霊はいまだ生来の力も眷属としての力も十分には扱えず、遠方の眷属同士が当然のように行える感覚の共有すらできなかった。湊は山神が与えた体が神霊に合っていない可能性を問うが、山神はその可能性を低いと見ており、神霊がまだ不器用で、新しい体を動かすことに精一杯なのだろうと判断した。
神霊の不器用さと山神の見立て
ウツギは感覚的な説明で念話のやり方を教えるが、神霊はうまく理解できず、何度試しても成功しなかった。それでも山神は、まったく何もできていないわけではなく、念話も遠景の共有もかすかにはできていると見ていたため、続ければ習得できるだろうと湊に告げた。落ち込む神霊を元気づけようとして、ウツギは今度は炎を出してみせるよう促した。
炎の披露と火袋の失火
神霊は気を取り直して炎をまとい、その力を見せた。全身を包む大きな炎は、やがて龍のように螺旋を描く形へと変化し、ウツギは歓声を上げた。しかし勢いが増した炎は石灯籠の火袋内部にまで及び、寝床の小座布団やクスノキの枝葉に燃え移ってしまった。山神は即座に火袋の窓を閉ざして被害の拡大を防いだが、中の品々は焼け焦げてしまった。
湊への力の暴発
燃え残りの火が再び強くなった瞬間、その炎は湊へ向かって伸びた。湊はとっさに風で身を守ろうとしたが、その直後に動きが止まり、意識も曖昧になった。炎をまとった神霊は湊の名を呼び、胸元へ火を絡ませるように力を及ぼしていた。そこへ山神が大喝し、神霊の炎も火の筋も一瞬で消し飛ばしたことで、湊は正気を取り戻した。
魂を縛る力の危険性
山神は神霊を厳しく問いただし、神霊は湊を護らねばならないと思って力を使ったと答えた。しかしそれは、湊の魂を神に縛りつけかねない危険な行為であった。湊は事情を理解できずにいたが、ウツギから、神が強い力を込めて個人の名を呼ぶと、その者の魂を自らに縛りつけることができると教えられた。そうなれば人は輪廻から外れ、転生もできず、その神と共に在り続けることになる。しかも理に反して死を遠ざけられた魂は変質し、自ら死を望むことさえあるため、軽々しく許されることではなかった。
神霊に名を与える決断
この暴発を受け、山神はもはや悠長に成長を待ってはいられないと判断した。そして神霊に新たな名を与えることを決める。神霊には元の神名があったが、その名を人間に知られたことで囚われることになった過去があり、そのため本人は元の名で呼ばれることを望んでいなかった。山神は、神霊が自らの新たな名を強く自覚すれば、不安定な力も安定するだろうと説明した。湊は明るく励まし、神霊も涙をこぼしながらその申し出を受け入れた。
命名を巡る長い思案
命名の場は縁側に移され、山神と向き合う神霊の後ろには湊とウツギが座した。山神は山にちなんだ名、花や草にまつわる名、さらには海に関する名まで思案しながら長く悩み続けた。ウツギによれば、自分たちの時も名付けには三日かかったという。その最中にトリカとセリも駆けつけ、命名の場を見守ることになった。
カエンという新たな名
長い思案の末、山神は神霊に与える名を「カエン」と定めた。火を扱う力を持つ神霊にふさわしい名であるとして、その神気を神霊の額の紋様へ注ぎ込んだ。名を受け取った神霊改めカエンは、以前とは違う静けさを宿した眼差しとなり、深く頭を下げて感謝を示した。湊はその名がよく似合うと感じたが、山神はその由来が毒きのこのカエンタケであると明かした。セリ、トリカ、ウツギも毒草由来の名であるため、眷属たちの名としては揃いのあるものでもあった。
力の安定と祝福
名を得たカエンは、その場で力の安定を確かめることになった。カエンが目を見開くと、赤い炎が自らの周囲を正確な輪となって巡り、さらに分裂と変化を繰り返しながら赤、黄、白、青へと色を変えていった。それは以前のような暴走した炎ではなく、明らかに制御された美しい演舞であった。山神もこれで力は安定し、もう暴発はしないだろうと認めた。湊たちが祝福して駆け寄る中、クスノキも枝をしならせて青葉を降らせた。その葉はカエンの炎に触れても一枚たりとも燃えず、カエンがもはや大切なものを燃やすことはないと示していた。
第4章 酔っぱらい山神、大・暴・走
命名祝いの宴の始まり
カエンの命名を祝うため、湊の提案で宴が開かれた。庭の中央では、祝福の葉を大量に降らせて丸裸になったクスノキが枝を揺らしており、縁側には湊、山神一家、そして帰宅した四霊が集っていた。山神を境に、酒を楽しむ四霊とのんべえではない湊たちが分かれて座り、主役のカエンは湊の隣に積んだ座布団の上にちょこんと座っていた。テン三匹とカエンは神の実であるみかんを嬉々として食べていたが、湊だけは不老不死を避けるため、それに手を出すまいと必死に耐えていた。
神の実への拒絶とカエンの理解
カエンはみかんを湊にも勧めたが、湊は真顔で断った。セリから神の実には人間を不老不死に変える力があると教えられたカエンは、湊がそれを望まないのかと静かに問いかけた。湊は、不老不死になれば自分は不幸になる気がすると正直に答えた。その場に少し重い空気が流れたが、ウツギがりんごを食べ始めて香りを変えたことで、湊の緊張もやわらいだ。
食卓の賑わいとカエンの食への興味
座卓には果物だけでなく、ハンバーグやエビフライ、ナポリタンなどの料理も並んでいた。カエンは湊が食べる物にも強い関心を示し、ハンバーグを一口もらって嬉しそうに味わった。その様子を皆が微笑ましく見守る中、応龍が酒箱を積んで遊んでいたものを自分の羽で崩し、床を転げ回って笑い出した。普段とは違う応龍の酒癖に、湊は少し不思議さを覚えた。
庭を巡る山神と応龍の口論
やがて山神と応龍が、庭の価値を巡って言い争いを始めた。応龍は竜宮の庭の方が絢爛豪華で見応えがあると主張し、山神は庭に必要なのは派手さではなく安らぎだと反論した。霊亀が間に入って応龍をたしなめるものの、両者は引かなかった。湊はそのやり取りを聞きながら、四霊たちがこの場所で本音をさらしてくつろいでいることに、むしろ喜びを感じていた。
酔った山神の改装決意
口論ののち、山神はかなり酔った様子で立ち上がり、自分の庭が他に劣ると言われたことを許せないとつぶやきながら縁側を歩き回り始めた。湊たちはその濃密な神気に圧倒され、ただ身をかわすしかなかった。山神は庭を見渡すと、まず滝と瀧の水を止め、岩を壁へ埋め込んで消し去った。続いて川を大きく広げ、庭の中央には湖のような池を出現させた。その過程でクスノキの周囲は丸く囲まれ、池は縁側の近くにまで迫った。
池の中央へ続く道の出現
山神が池へ踏み出そうとすると、足元には新たな板が一枚ずつ現れ、縁側から池の中央へ続く道が形成された。四霊はその様子を落ち着いて眺めていたが、湊は改装中の庭に近づく危険性について麒麟から説明を受けた。楠木邸の庭は現世と神界が混じり合った特殊な場であり、改装中はいっそう神界寄りになるため、酔った山神に近づけば神界のどこかへ飛ばされる危険があるという。湊はその忠告に従い、庭へ出ないことを決めた。
クスノキと山神の交渉
池の中央へ進んだ山神は、クスノキのもとで、その場に屋根付きの部屋を造るつもりだと告げた。クスノキはそこを動く気がまったくなく、強く反発した。山神は、動かないなら屋根に遮られて日光を浴びられなくなると冷たく告げたが、クスノキはなお譲らなかった。そこで山神は、クスノキ自身が屋根になるかと問い、決断を迫った。しばらくの葛藤ののち、クスノキは応龍に助けを求めるように枝を動かした。
応龍によるクスノキの成長
応龍は自信満々に応じて飛び立つが、酔っていたため一度は風に流され、塀の方へ飛ばされてしまった。しかし仕切り直して戻ってくると、自らの光を天へと伸ばし、雲を呼び寄せた。その雲は当初、方丈町を覆い尽くすほど巨大になってしまったが、湊の要望で小さく調整され、最終的にはクスノキの真上に浮かぶほどの大きさとなった。そこから降る雨を受けて、クスノキは枝と幹を大きく伸ばし、やがて楠木邸の屋根と同じ高さ、縁側の軒と揃う位置に広がる傘のような樹形へと成長した。
池の中央の新たな宴席
成長を終えたクスノキを確認した山神は、その周囲に板を次々と出現させ、六角形の舞台のような床を池の中央に作り上げた。そして、縁側にいた一同を座卓や料理ごと一気にその場所へ移動させた。湊は何の前触れもなく飛ばされたことに驚きつつも、気づけばそこが最初から宴の場だったかのように整えられているのを見てため息をついた。クスノキは前回ほど太くはないが、より頑丈で柔軟な木へと育っており、テン三匹もその幹を撫でながら喜んだ。
最後の改装と大岩の落下
しかし山神はまだ改装が終わっていないことを思い出した。そして方丈山に向かって、自慢の逸品を呼び寄せる。闇の中から飛来したのは、以前山神が熱い視線を向けていた山のような大岩であった。それが池に落ちると、大波が立って板の床を洗い流し、一同はみな池の中へ落ちた。池の水深は浅く、四霊は器を持ったまま浮かび、テン三匹も元気に泳いでいた。湊は泳げるか分からないカエンだけをとっさに抱き込んで守った。一方、すべての元凶である山神は、水浸しの床板の上でひっくり返ったまま高いびきをかいていた。
深夜の霊亀と鬼火たち
その夜、眠っていた湊は庭の異様な明るさに気づいて目を覚ました。カーテンを開けると、クスノキの下にいる霊亀の周囲を、無数の青い鬼火が取り巻いていた。鬼火たちは霊亀に寄り添うように飛び交い、霊亀は静かにそれを見上げていた。やがて霊亀が口を開くと、しゃぼん玉のようなものが数多く空へ放たれ、それを鬼火たちが追いかけていった。哀愁を帯びた風鈴の音が響く中、星空の彼方へ消えていく小さな光を、霊亀はいつまでも見つめ続けていた。
第5章 怒りなれていないもので
静かな怒りと山神への説教
早朝の楠木邸には、普段のような鳥のさえずりもなく、冷え切った空気が漂っていた。クスノキのそばに座る湊は無表情のまま山神を見据え、昨日の騒動について問いただした。山神は大半を忘れていたものの、セリの記憶で自身の失態を知っており、座布団まで水浸しにしたことを素直に詫びた。湊は怒りを維持しきれず揺らぎながらも、今後は気をつけてほしいと伝えた。山神も真摯に受け止め、気をつけると応じた。
改装後の庭と新たな景観
叱責ののち、湊と山神は改装後の庭を見渡した。池が四方を囲み、長い渡り廊下の先に家屋と縁側があり、手水鉢も位置を変えていた。太鼓橋がなくなったことで不便さは増したが、クスノキのすぐそばで過ごせるようになった点は湊にとって嬉しい変化であった。枝には風鈴も移され、静かな空間の中で存在を主張していた。池には霊亀と応龍がそれぞれの場所に分かれて泳ぎ、山神も強い存在感を放っていた。
悪霊になりかけた蛇の出現
そこへ山神が唸り、瘴気をまとった蛇の魂が近づいてきた。湊が悪霊を見ようと意識を向けると、山神はそれを制し、悪霊の声や事情を知ったうえでも祓い続けられるだけの心の強さがあるのかと問いかけた。湊は即答できず、自分が悪霊の事情を知らないからこそ容赦なく祓えているのだと自覚した。山神はそのうえで特別に神域を調整し、蛇の姿を湊にも見えるようにした。
蛇の恨みと応龍への執着
見えるようになった蛇は、まだ完全な悪霊ではなく、なりかけの状態であった。その蛇はアオダイショウであり、応龍に会いに来ていた。山神によれば、蛇は自分を殺した人間への激しい恨みを抱えていたが、復讐を果たす前にその相手が車に轢かれて死んでしまったため、やり場のない怒りだけを抱え続けていた。応龍はその蛇と向き合っていたが、四霊の力だけでは状況を変えられそうになかった。山神も自ら動くつもりはなく、湊は自分にできることを考え始めた。
恨みの感情を木箱に封じる試み
湊は縁側に積まれていた木製の酒箱を見て、蛇の恨みの感情だけをそこへ封じ込めようと思いついた。アマテラスの神域で見た力の使い方を思い出し、蛇へと駆け寄る。蛇はすでに黒く染まり始めており、時間は残されていなかった。湊は網のような力を放って蛇を包み込み、恨みの感情だけを引きはがそうとした。蛇は激しく抵抗し、そのたびに湊の全身へ痛みが走ったが、湊は力を緩めず、ついに重く淀んだ怨念だけを引き抜いて木箱へ封じ込めることに成功した。
怨念の反動と山神の救助
封印を終えた湊は強い疲労に襲われたうえ、蛇の怨念の影響で心が暗く淀む感覚に囚われていた。そこへ山神が現れ、湊の胸に獣の手を当てると、湊の中に入り込んでいた感化された感情だけを押し出した。黒いモヤとなって現れたそれを山神は噛み砕くように消し去り、湊はようやく震えを止めた。山神は、湊にはまだ怨念に打ち勝てるだけの心の強さがなく、放置していれば感情に振り回されていたと告げた。湊は深く頭を下げて礼を述べた。
蛇の救済と鬼火への変化
怨念を失った蛇は応龍に巻きつき、離れがたい様子を見せた。やがてその体は薄れ、生前の姿を保てなくなっていった。ついには青白い鬼火へと変わり、応龍の周囲を巡ったあと、静かに空へと昇り始めた。応龍が羽を広げると、空に浮かぶ雲から小雨が降り、虹の橋が架かった。鬼火はその橋を渡るようにして去っていき、湊と山神、池の縁の霊亀、屋根の上の応龍、石灯籠から現れたカエンがそれを見送った。
残された怨念とカエンの処断
蛇の本体は救われたが、木箱に封じた怨念だけが残った。湊はそれをどう扱えばよいのか分からず困惑する。山神によれば、その中に封じておけるのは三年ほどが限界であった。そこへカエンが現れ、それが不要なものかと湊に尋ねた。湊がいらないものだと答えると、カエンは即座に木箱を浮かび上がらせ、白い炎で焼き尽くした。箱も中の怨念も跡形もなく燃え尽き、何も残らなかった。山神はその手荒さをたしなめたが、カエンは、あの怨念が湊を闇へ引きずり込もうとした以上、一刻も早く消すべきだったと譲らなかった。愛らしい見た目に反して、カエンがかなり苛烈な気性を持つことが明らかになった。
第6章 鳳凰・麒麟とおでかけ
商店街で待ち受ける人々と鳥たち
その日、北部商店街には異様な熱気が満ちていた。アーケードの手前には町民が両端に寄って並び、中央を空けて待機していた。そこへ数多の野鳥が飛来し、最前列を争ったのち整然と並ぶ。彼らが待っていたのは、湊の肩に鳳凰を乗せた北部の名物男の到来であった。鳳凰が同行している時にだけこの現象が起こるため、視えない町民たちにも鳳凰の同行は判別できていた。湊はその歓迎ぶりにやや気圧されつつも、鳳凰が鳥たちから深く愛されていることを改めて実感した。
鳳凰と麒麟の対照的な人気
湊の背後には、珍しく麒麟も同行していた。鳳凰が鳥たちから熱烈な歓迎を受ける一方で、麒麟の周囲には建物の陰から猫やアライグマなどの動物たちが様子をうかがっていた。麒麟は彼らに心配されているような状況であり、湊はそこに立場の逆転を感じた。麒麟はそれを強く否定したが、湊はすでに麒麟の扱いに慣れており、軽く受け流した。鳳凰のために歩調を落として進む湊の気遣いもあり、鳥たちはアーケードの入口まで鳳凰を見送った。
職人イベントへの興味
アーケードに入ると、鳳凰は店舗を見回し、優れた職人を探し始めた。鳳凰は職人芸を何より好み、湊の買い出しに同行するのもその技を見るためであった。すると湊は、すぐ近くで職人が集うイベントの看板を見つける。四霊の加護を受けた湊と共にいれば、鳳凰が望む優れた職人に出会える可能性が高いことを知っていた湊は、鳳凰と共に会場へ向かうことにした。
洋菓子屋の娘の待ち伏せ
その頃、ある洋菓子屋では、販売員の若い女性が通りをうかがいながら湊を待ち構えていた。彼女は、以前湊が店を訪れた直後に父であるパティシエの体調が回復し、職人としての腕も冴えたことから、湊には特別な力があると信じていた。製菓の世界大会を控え、再び父を回復させたい一心で、新作の抹茶レアチーズケーキを用意していたのである。実際には鳳凰がその父に加護を与えていたのだが、父娘はその事実を知らなかった。
新作ケーキとの出会い
洋菓子屋の娘は、湊の姿を見つけると看板を抱えて店から飛び出し、震えながら新作ケーキを売り込んだ。湊はその品に興味を持ち、山神が好みそうだと感じたが、今は鳳凰の用事が優先であるため、帰りに寄ると伝えてその場を後にした。去り際に、販売員の口調が風鈴に似ていると感じて思わず笑うが、彼女は喜びに満ちた笑顔で応じた。鳳凰と麒麟は、彼女の父がまた別のものに憑かれていることを察しつつも、湊には詳しく告げなかった。
刺繍職人との遭遇
職人イベントの会場は比較的空いており、鳳凰はすぐに日本刺繍の翁の職人に目を留めた。翁は背を曲げた姿勢で絹布に針を進めており、その動きは遅くとも、仕上がりは群を抜いて優れていた。湊と鳳凰は真正面の特等席からその手仕事をじっと見つめ、熟練の技に感嘆した。一方、麒麟は当初興味を示さなかったが、やがて絹や金糸の華やかさには好意的な感想を述べた。
翁への加護を巡る対立
しばらく見守るうち、翁が目の不調を訴え始めた。鳳凰は、このままでは貴重な技術が失われるとして加護を与えようとしたが、麒麟はそれを強く止めた。鳳凰はまだ完全に力を回復しておらず、加護を与えるたびにその回復が遅れるからである。湊はその説明を受け、鳳凰の身を案じるが、鳳凰は、あの刺繍が完成するところを見たいと強く望んだ。その思いを前に麒麟は折れ、結局、自ら翁に加護を与えることになった。
ヨウムとの遭遇
会場を後にした湊たちの前に、一羽のヨウムが舞い降りた。ヨウムは人語を巧みに真似しながら湊の周囲を歩き回り、鳳凰に会えて浮かれている様子を見せた。どうやら飼い鳥が脱走してきたらしく、鳳凰も麒麟も、家に帰した方がよいと判断する。ヨウムの話す内容は家庭内の雑談ばかりで、住所などの手がかりにはならなかったが、「ゴロウちゃん」という豆柴の名前だけは重要な情報として残った。
迷子の少年との再会
その後、湊たちは人通りのある通りへ向かう途中で、以前鳳凰が視えることを明かした少年と再会した。少年は鳳凰と麒麟を見つけて無邪気に騒ぎ立てたが、湊は目線を合わせ、彼にだけ視える存在を他人に言いふらさないよう真剣に諭した。さらに、鳳凰たちは悪い人に狙われやすいのだと説明し、今後は大声で呼ばないよう約束させた。少年は素直に受け入れ、湊の頼みを真剣に受け止めた。
少年の情報で飼い主へ到達
湊がヨウムのことを少年に尋ねると、少年はゴロウという豆柴を知っており、それが母親の買い物先の店の看板犬だと教えた。湊は少年と手をつなぎ、その店へ向かうことにした。途中で海斗と名乗った少年の母と合流し、彼女は突然いなくなった息子を強く叱ろうとしたが、湊はまず抱きしめてあげてほしいと促した。母親に抱きしめられた海斗は、自分がどれほど心配され、愛されていたかを改めて知ることになった。
ヨウムの帰還と一日の締めくくり
店へたどり着くと、看板犬のゴロウが激しく吠え、店員もまた肩に乗ったヨウムを見て歓声を上げた。ヨウムは店員のもとへ羽ばたいて戻り、一件、そして海斗の件も含めて二件が無事に収まった。鳳凰は忙しない一日だったとため息をつき、湊も同意した。麒麟は鳳凰から、こういう騒がしい日になったのは麒麟のせいではないかと冗談交じりに言われて不満を述べたが、湊はそのやり取りを含めて一日を受け入れていた。
不穏な人影
湊たちが街角を曲がって去ったあと、その姿を見つめていた人影が一つあった。その人物は店舗の陰に潜んでおり、湊たちが見えなくなったのを確認すると、音もなく動き出した。
第7章 ツムギさんちの事情
稲荷神社での悪霊祓い
北部の稲荷神社では、宮司が中年夫婦に取り憑いた悪霊を祓う儀式を行っていた。夫婦は悪霊に蝕まれてひどく憔悴していたが、実際に悪霊を祓っていたのは祭神の眷属であるツムギであった。宮司は祓詞を唱えるだけで、悪霊祓いの実務はすべてツムギが担っていた。ツムギは瘴気にまみれた悪霊を不快に思いながらも、尻尾を振って風を起こし、悪霊を瘴気ごと一掃した。悪霊が消えたことで夫婦は涙を流して安堵し、宮司はその成果を自分の祈祷によるもののように振る舞った。
宮司の執着とツムギの疲弊
依頼人が去ったあとも、宮司はツムギを引き止めて天狐との祝言の話を持ち出した。宮司は幼少の頃から天狐に恋い焦がれ、いまだ独身を貫いており、自分こそが最も天狐を愛していると本気で信じていた。しかも代々この一族の長男は天狐に惚れ込み、生涯独り身で終えるのが常であった。ツムギはその執着の強さに辟易していたが、天狐への信仰を支える一族でもあるため、あからさまに突き放すこともできず、長々と続く称賛と妄想に付き合わされていた。
楠木邸への渇望
宮司の相手をしながら、ツムギの心には楠木邸の露天風呂と穏やかな空気が浮かんでいた。稲荷神社では御姉様として多くの役目を担っているが、楠木邸ではその重荷を下ろし、ただのツムギとして気を抜いて過ごすことができるからである。前回の訪問から一週間以上経っていたこともあり、そろそろ訪ねてもよいだろうと考えたツムギは、宮司の話を強引に打ち切って神社を後にした。
露天風呂への一直線
楠木邸に現れたツムギは、庭の変化にも目を向けず、ひたすら露天風呂だけを見つめていた。湊はその疲れ切った様子を察し、先日の騒動への謝罪を受けると、すぐに風呂へ入るよう勧めた。ツムギは感謝をこめて礼を述べると、一直線に露天風呂へ飛び込んだ。ここの住人たちもその行動を咎めず、湊もまた、温泉で癒やされるなら好きに使ってよいと考えていた。
温泉後の食事とくつろぎ
風呂から上がったツムギは、被毛も瞳も見違えるほど艶を取り戻していた。湊はクスノキの下の座卓に彼女を迎え、いなり寿司と蕎麦いなりを勧めた。ツムギは遠慮がちにしながらも、実際には空腹を隠しきれず、上品な所作でそれらを味わい、相変わらず詳細な食レポを交えつつ堪能した。その一方で山神は、湊が昨日買ってきた抹茶レアチーズケーキを前に警戒しつつも口にし、その意外な美味さに衝撃を受けた。湊は山神がその洋菓子を気に入りそうだと見抜いており、その予想は的中した。
天狐の乱入
ツムギと食事の好みについて話していた最中、ツムギの額の紋様が変化し、尻尾が九本に増えた。そこへ前触れなく天狐が降りてきたのである。天狐はツムギの体を借りて現れ、湊の様子を直に確かめようとした。湊はその圧倒的な色香と神気に気圧されるが、どうにか平静を保った。天狐は湊が自分に惚れも乱れもしないことを確認すると、満足したように神気を収めた。山神は天狐が勝手に現れたことに強く苛立っていたが、天狐は意に介さなかった。
天狐の神域と眷属たちの来訪
続いて空間が歪み、山側に天狐の神域が姿を現した。そこには蓮の咲く池と華やかな楼閣が広がり、眷属たちが道を作るように列をなした。その先から巨大な白い九尾の狐である天狐が姿を見せた。眷属たちは主の訪問を山神に願い出て、天狐も湊に直接、楠木邸へ入ってよいかと尋ねた。湊は迷いながらも受け入れを決めたが、山神は天狐が境界を越えようとした瞬間に突風で吹き飛ばし、自ら作った別の神域へと天狐を追いやった。ツムギは、それは戦いではなく運動のようなものだと平然と説明した。
狐だらけの庭
天狐がいなくなったあと、残された眷属たちは楠木邸の中へ招かれた。渡り廊下や縁側、池の周囲まで庭中が狐で埋まり、その数の多さに湊は圧倒された。女狐たちは遠慮なく露天風呂やいなり寿司を求め、ツムギの許可を得るや、温泉へ飛び込み、食卓にも群がった。湊は圧に押されながらも応じ、狐たちはいなり寿司や蕎麦いなりの美味しさに大喜びした。
子狐メノウとの交流
そんな中、一匹だけ茶色い毛並みをした子狐が湊のもとへやってきた。他の白い狐たちとは異なり、唯一の雄であるメノウであった。メノウは非常に人懐こく、湊の膝に乗って甘え、もっと撫でるよう要求した。湊はその愛らしさを堪能しながら応じるが、ツムギはあまり甘えすぎるなと窘めた。するとメノウは、湊が天狐を見ても惚れない貴重な人間だから構ってもらいたいのだと胸を張って主張した。
天狐が抱える厄介さ
メノウの言葉を受け、ツムギは天狐が異常なまでにモテることを説明した。相手は人間だけでなく、神や妖怪、さらには野生動物にまで及び、天狐を見た者は必ずといってよいほど恋に落ちるのだという。しかも天狐自身も以前は軽率に相手へ気を持たせるような振る舞いをしていたため、山神は長年にわたってその騒動に巻き込まれてきたのであった。湊はようやく、天狐が魔性と呼ばれるに足る存在であることを理解した。
山神と天狐の帰還
やがて別神域への穴が再び開き、泥だらけで毛も乱れた山神と天狐が戻ってきた。互いに文句を言い合ってはいたが、天狐はどこか晴れやかな様子であり、山神も以前より明らかに互角に渡り合えていた。湊は、山神が力を増したことで天狐と正面からぶつかれるようになったのだと悟る。その一方で、湊の膝の上ではメノウがすっかり安心したように丸くなり、のんきな寝息を立てていた。
第8章 旧交をあたためる、第二弾
手水鉢の水と四山の名水
神の庭の改装後、手水鉢はクスノキを囲う板張りの床の手前、渡り廊下の脇へと移されていた。湊はそこで水を汲んで飲み、その日の水が伊吹山の猪神のものであると気づいた。山神もそれを認め、覚から流れる水が四山の名水を日替わりで楽しめるものになっていると改めて示された。湊は味や神気の違いを少しずつ感じ取れるようになっており、自分の感覚の変化を実感していた。
真神の来訪と花手水の交換
手水鉢の花を眺めていた湊のもとへ、奇妙な自作のチャイム音とともに新たな神が訪れた。現れたのは、大口真神と名乗る狼の神であり、手水鉢に生ける花を持ってきたのであった。真神は山神を御爺と呼んで気さくに接し、山神も応じた。二神は花手水の配置を巡って軽く言い合いながらも、最終的にはひまわりとマリーゴールドを使った鮮やかな花手水を完成させた。湊はその明るい色合いに元気づけられ、真神の花へのこだわりの強さを知った。
植物好きの真神とマンドラゴラの話
真神は庭の色味が少ないことを指摘し、自分の住まいはもっと花や珍しい植物に満ちていると語った。その中には食虫植物や寄生植物、さらにはマンドラゴラまで含まれていた。山神はこれを聞いて、真神ならウツギが欲しがっているマンドラゴラについて知っているだろうと考え、湊も興味を示した。こうして三者は、真神の神域へ赴くことになった。
真神の神域と甘い香気
真神の神域の入り口は、堅牢な巨大扉として現れた。その向こうには花が咲き乱れる色鮮やかな空間が広がっていたが、湊は漂ってきた甘い香りに当てられてめまいを起こしかけた。真神はそれを受けて風で香りを押し戻したが、湊はなお念のためクスノキの葉を折って香気を嗅ぎ、正気を保った。真神の神域は花屋や植物園のように整然と整えられ、それぞれの花が見やすく配置されていた。真神が植物栽培を心から楽しんでいることが、その空間全体から伝わってきた。
熱帯雨林区域と食虫植物
さらに奥へ進むと、景色は一変して熱帯雨林のような湿潤で蒸し暑い区域へと変わった。そこにはウツボカズラをはじめとする食虫植物や絡みつく植物が群生していた。湊はその香りや動きに翻弄されつつも、クスノキの葉の助けでなんとか耐え抜いた。真神はこれらの植物を面白がって紹介したが、湊にとっては危険と驚きの連続であった。
通常のマンドラゴラとの遭遇
ようやくたどり着いた先には、整然とした畑があり、そこにマンドラゴラが植えられていた。伊吹山で見た白い特殊な個体とは違い、ここにあったのは茶色い、ごく普通のマンドラゴラであった。真神が一本を引き抜くと、伝承通りの姿と凄まじい絶叫が現れた。湊は山神と真神に耳を塞がれていたため鼓膜は守られたが、皮膚や身体には衝撃を受け、その危険性を思い知った。山神は、この絶叫では眷属には厳しいと判断し、ウツギに直接交渉させることを決めた。真神もまた、伊吹山の白い変わり種のマンドラゴラに強い関心を示した。
クヌギの老木と木の精の出現
帰路の途中、湊は何かに呼ばれるように歩みを進め、立ち枯れしかけたように見える老いたクヌギの木の前で立ち止まった。木の洞から現れたのは、小さな木の精であった。淡い緑色をしたその精は、湊に対して明確に好意的であり、水を求めた。湊は当初ただの水球を差し出したが意図が伝わらず、山神の助言を受けて、いつもクスノキにしているようにミスト状の水まきを施した。
水まきによるクヌギの回復
水まきを受けた木の精は大いに喜び、踊るように揺れた。それに呼応するようにクヌギそのものにも変化が起こり、若葉が芽吹き、花が咲き、傷んでいた幹も修復されていった。木の精は殻斗を器のように作り、その上に乗って舞いながら歓喜を表した。真神はこの変化に驚き、山神もまた湊が植物に深く好かれる性質を改めて認めた。湊はクヌギの精と握手を交わし、穏やかな気持ちで楠木邸へ戻った。
クスノキによる縁の切断
帰宅した直後、クスノキの青葉が三枚飛来し、湊の両腕と指先に絡みついていた三本の糸を断ち切った。それは真神の神域にいた樹木たちとの縁であり、山神によれば、よくも悪くも植物たちから強く好かれた証であった。しかしそのまま放置すれば、植物たちに深く依存される危険もあったため、クスノキが許さず断ち切ったのである。湊はその説明に言葉を失い、自分が想像以上に植物たちを惹きつけてしまう存在なのだと知るのであった。
第9章 住まいは綺麗な状態が望ましい
烏天狗による山での制裁
夕暮れの方丈山を下山していた中年男は、念願の野鳥を撮影できた満足感に浸りながら、飲み終えたペットボトルを茂みに投げ捨てた。その直後、不穏な静けさに包まれた山中で鳥の羽音を聞き、不安を覚えつつも歩みを進めた。すると突如として体ごと空へ吊り上げられ、その先で山伏の装束をまとった巨大な烏天狗と対峙させられた。烏天狗は、山にゴミを捨てた男を、自分たちの住まいを汚す者として断罪したうえで、因果応報だと告げ、男をゴミのように放り投げた。
湊とウツギの山道
翌朝、湊は祠を掃除するため、ウツギの案内で方丈山を登っていた。道なき道を進みながら、湊は何度も通ることで人間がこの道を辿ってしまうのではないかと案じたが、ウツギは毎回通る場所を少しずつ変えているため問題ないと答えた。また、最近迷った登山者を登山道へ誘導したことも明かし、自分が人間の魂の臭いに慣れるため、方丈山に来る人間へ片っ端から近づいていたことも語った。人間の魂は多かれ少なかれ臭気を発するものであり、生きているうちにその臭いをなくす努力をしなければならないという話に、湊は強い印象を受けた。
裏島姉弟との再会
祠の近くまで来ると、湊は裏島千早とその弟・岳に出会った。岳は都会から地元へ戻ってきたばかりで、地元の良さを離れて初めて実感したのだと屈託なく語った。湊もまた、最初こそ地元へ帰りたいと思うことがあったものの、今ではほとんどそう感じなくなったと答えた。岳はそんな湊の答えを、この土地を気に入っている証拠だと前向きに受け止めた。
山で囁かれる妖怪の噂
会話の流れの中で、千早は方丈山で妙な噂が広がっていることを打ち明けた。山でゴミを捨てたり場を荒らしたりした者が、妖怪にお仕置きされているらしいというのである。具体的には、自分で捨てたゴミを投げ返されたり、転ばされたり、大きな音で脅かされたり、追いかけ回されたりしたという話であった。実際に彼女たちも、妖怪に襲われたと喚きながら、恐怖のあまり失禁したらしい男を目撃していた。湊はその話を聞きながらも、自分の立場を明かすべきか迷い、ひとまず現状を確かめることを優先した。
烏天狗との対面
裏島姉弟が下山したあと、湊は一人で山の奥へ分け入り、妖怪たちの気配を探った。すると、強い妖気とともに、鳥の頭部と大きな翼を持つ烏天狗が湊の前に舞い降りた。湊は敵意がないことを示すためにまず挨拶をし、山で起きている噂の真偽を尋ねた。烏天狗は、千早が語っていた内容が事実であることを認めたうえで、その理由を一つずつ説明した。
妖怪側の理屈
烏天狗によれば、ゴミを投げ返したのは人間が山に捨てた物を返しただけであり、転ばせたのは野生動物を追い回したからであり、大きな音で脅かしたのは意味もなく木を傷つけようとしたからであり、追いかけ回したのは野生動物に石を投げたからであった。つまり、すべて人間の側に原因があった。烏天狗は、ここは自分たちの棲家であり、見ず知らずの者に荒らされて黙っているはずがないと告げたうえで、人間の方がよほど残虐で、自分たちはせいぜい脅かす程度なのだから、むしろ温情だと断言した。
湊の受け止め方
烏天狗の話を聞いた湊は、人間側に非があることを認めざるを得なかった。人間以外の存在や野生動物にも、それぞれ自由に生きる権利がある以上、人間だけが優遇されるのはおかしいと湊は考えていた。だからこそ、妖怪たちが行き過ぎない範囲で自分たちの住まいを守ろうとすることに、湊は文句を言わなかった。そして、自分としては人間と妖怪が仲よく共存できるのが理想だと伝えた。烏天狗は、それが叶うかどうかは人間次第だと言い残し、林冠の上へと飛び去っていった。
第10章 播磨は見た
播磨の道中と泳州町への不安
播磨は車窓を流れる雨粒と田園風景を眺めながら、楠木邸へ向かっていた。昨夜の季節外れの台風は過ぎ去っていたが、なお風は強く、田んぼでは倒れた稲が水に沈みかけていた。播磨はその光景を見つつ、先日泳州町で安庄と死闘を繰り広げたことを思い返した。安庄は逮捕されたものの、それで本当に終わったのかという不安は消えていなかった。しかし現時点で泳州町に大きな異変はなく、ひとまず平穏は保たれているようであった。
田の神の姿を目撃する
道中、播磨は一枚の田だけが台風の被害を受けず、稲も水量も正常に保たれていることに気づいた。その中央には、回り続ける一体のカカシが立っていた。播磨はそれが田の神であると見抜く。しかもその姿は常人にも見えるはずの堂々たるものであった。田の神は信仰を向ける者の田を守っているらしく、その露骨な依怙贔屓ぶりに播磨は神という存在の身勝手さを改めて感じた。
楠木邸の神気への圧倒
やがて楠木邸へ到着した播磨は、表門の外に立っただけで、以前よりはるかに濃くなった山神の神気に圧倒された。肌はひりつき、呼吸すらしづらいほどであったが、拒絶されているわけではないことも感じ取った。前回の訪問では山神の香気で眠り込んでしまった失態があったため、播磨は今回は十分に睡眠を取り、気を引き締めて訪れていた。
湊との再会と敷地内への案内
門前で湊と合流した播磨は、敷地外の木々の後始末をしていたらしい彼から、楠木邸自体はほとんど被害を受けていないと聞かされた。播磨は塀沿いに積まれた大量の落ち葉袋を見て、その作業の大変さを思いやった。湊に導かれて敷地内に入ると、播磨はさらに強まった神気を感じつつも、以前より様変わりした庭の景観へ目を奪われた。
神霊の視線と改装後の庭
歩みを進める途中、石灯籠にいた神霊がモモンガの姿で湊の肩へ飛び移り、播磨を鋭く観察した。湊に敵意がない以上、播磨も黙って受け入れるしかなかった。そのまま庭を見渡すと、中央の大池と、その真ん中に立つ大きく育ったクスノキ、そこへ続く渡り廊下が目に入った。以前とはまったく異なる構造であり、播磨は山神が再び大規模な改装を行ったのだと理解した。
取引の開始と山神の機嫌
クスノキの下に設えられた座卓で、播磨はいつものように護符を受け取り、その代わりに手土産を差し出した。手土産は南方の銘菓であり、こし餡を使った品を選んでいた。湊と播磨が視線を向けた先では、水たまりのような現象が起こり、それがすぐに蒸発した。山神が手土産をたいそう気に入ったことを、湊が神意として伝えたのである。播磨は、何度も護符に書かれていた「こし餡」の文字から山神の嗜好を察していたため、その選択は狙い通りであった。
山神の顕現
風鈴の音が次第に強まり、濃い神気が満ちる中、ついに山神がその姿を現した。真白な大狼の姿は威厳に満ちていたが、手土産を抱え込み、楽しげに菓子の名を口にする様子には妙な人間臭さもあった。播磨はその神圧の強さに圧倒されつつも、ようやく山神をこの目で見られたことを理解する。湊は播磨にも山神が見えるようになったことを素直に喜んでいた。
播磨の礼と湊への返礼の提案
護符の確認を終えた播磨は、先日の泳州町での一件について改めて礼を述べた。湊が風の精に託してくれた護符があったからこそ、悪霊を一掃できたからである。播磨は何か礼をしたいと申し出るが、湊はすでに十分だとして遠慮した。すると山神が、湊は辛い物を最も好むと明かし、それならば播磨の家へ湊を招き、辛い料理でもてなすのがよいと提案した。さらに山神自身も同席する気満々であり、播磨は即座に了承した。
田神からの返礼
播磨が帰途についたあと、その車と入れ替わるように一羽の赤い眼を持つ鳥が楠木邸へ向かった。式神であった。その影が田に立つカカシへ落ちると、田神はすぐにそれを察知し、麦わら帽子のリボンを揺らしながら種籾を放って式神を撃ち抜いた。紙片へと変わって散ったその式神を意に介さず、田神は美味い菓子への礼だと一言残し、再び田の水の調整へ戻っていった。
第11章 湊、過去を語るの巻
クスノキの部屋という呼び名の決定
クスノキの下でくつろいでいた湊は、新たにできたこの空間を「クスノキの部屋」と呼ぶことに決めた。東屋や離れとは異なるため、ちょうどよい呼び名が必要だと考えたのである。クスノキや風鈴もその名を受け入れるように反応し、湊は満足して寝転がった。木陰と香りに包まれた贅沢な空間を楽しみながら、ここでの心地よさを改めて実感していた。
烏天狗の話題から幼少期の記憶へ
山神との会話の中で、湊は方丈山の烏天狗のことに触れた。烏天狗は秩序や決まり事に厳しく、古狸とはずいぶん性質が違うと語る。その流れで山神は、湊が幼い頃から妖怪を視ていたのかと問うた。湊は、生まれた時からではなく、五歳になったばかりの頃に突然見えるようになったのだと話し始めた。
神棚のお供えと座敷わらしとの初遭遇
五歳の湊は、兄の航とともに神棚へ酒と菓子を供えていた。湊は自分の好きな菓子を神にも好きになってほしいと思い、供物として神棚に置いた。その瞬間、白く透けた子どもの手が菓子袋をつかむのを目撃し、湊は驚愕する。慌てて祖父のもとへ駆け込んだ湊に、祖父はそれが神ではなく妖怪であり、「座敷わらし」というのだと教えた。
座敷わらしの存在と祖父の説明
祖父は、座敷わらしが楠木家に古くから棲みつく妖怪であり、守護神のような存在なのだと説明した。妖怪は成長しないため、見た目はずっと子どものままだという話も聞かされ、湊は少し切ない気持ちになる。また祖父は、妖怪が視える人間は珍しいこと、自分は湊よりもっとはっきり視えていることも明かした。湊はこの時、家にいる不思議な存在が確かに現実のものなのだと知った。
湊と座敷わらしの交流の始まり
それから湊は、座敷わらしと仲よくなろうと考え、自分の横に座布団を置き、煎餅を供えて待つようになった。じっと見ている間は現れないものの、気を抜いた隙に供え物は消え、笑い声や足音だけが残るようになる。数日後、湊は窓の外に置かれた四つ葉のクローバーを見つけ、それを座敷わらしからの贈り物だと思った。祖父は、その後ろで実際に座敷わらしが駄菓子を振って見せているのを見ており、それが返礼だと湊に伝えた。こうして湊は、追いかけすぎると離れてしまうことも学びながら、座敷わらしと少しずつ交流を深めていった。
妖怪たちのいたずらと狒々への対抗
座敷わらしと打ち解けるにつれ、家に出入りする他の妖怪たちも湊にちょっかいをかけるようになった。肩を叩いたり、物を隠したりする程度であったが、湊にとっては戸惑う出来事ばかりであった。ある日、門をくぐった瞬間に帽子を取られ、見上げると狒々が屋根の上でそれを弄んでいた。祖父と兄に相談した湊は、やられっぱなしではいけないと励まされ、自分なりの方法で対抗を決意した。
カステラを使った交渉
翌日、湊は好物だと知っていた刈谷家のカステラを餌に、狒々へ交渉を持ちかけた。帽子を返し、いたずらをやめるなら菓子をやると告げると、狒々は迷いながらも帽子を返した。しかしすぐにカステラだけを奪って屋根へ駆け上がり、勝ち誇るように笑った。完全に約束を取りつけたわけではなかったが、それ以降、狒々は帽子を奪わなくなった。その代わり、相変わらず湊をからかうような仕草は続けたが、危ない時には助けてくれることもあった。
家族に支えられた妖怪との共存
過去を語り終えた湊は、自分が妖怪と積極的に関われたのは実家の環境があったからだと振り返った。祖父は妖怪を明確に視ており、父は気配をわずかに感じ、母と兄は姿も気配もわからないながら、それでも妖怪の存在を認めて受け入れていた。虚空に話しかける湊を奇異の目で見ることは一度もなく、自然に共存していたのである。湊は、自分がそうした恵まれた環境で育ったことに感謝していた。
葛木角之丞との出会い
話はさらに数年前へ移る。小学五年生の湊は、幼馴染みの蘭丸と帰宅途中、大木の陰に潜む巨大な妖怪の気配を察知した。祖父の教えを思い出し、相手に気づかれる前に逃げようとしたが、蘭丸は暑さを理由に動こうとしなかった。そこへ和装にパナマ帽という異様な出で立ちの中年男が現れ、柏手一つで妖怪を退かせた。その男が葛木角之丞であった。
葛木の宿泊と妖怪たちの警戒
葛木は温泉宿の場所を尋ね、そのまま湊たちの案内で温泉郷へ向かった。ちょうど宿には空き部屋があり、葛木は長逗留する客として泊まることになった。しかし彼が来て以降、宿に出入りする妖怪たちは落ちつきを失い、家の方へ逃げ込むようになった。狒々も露天風呂に入れず不機嫌になり、座敷わらしの気も荒れた。湊はその異変に戸惑いながらも、葛木がただの客ではないのだと感じ始めていた。
座敷わらしと葛木の対峙
ある日、宿の待合室で湊は、玄関口に立つ座敷わらしと、その向こうにいる葛木が向き合っている場面を目にした。座敷わらしはかつてなく不機嫌で、建物が軋むほどの気を放っていた。葛木もまた、普段の柔らかな笑みを消し、ただならぬ霊気をまとっていた。何が起きているのかはわからなかったが、湊は容易に近づけず、その場を見守るしかなかった。
葛木による力の引き出し
その後、葛木は湊に対して急に親しげになり、宿の帳場で書き物をしている姿を熱心に観察するようになった。湊が書く文字には祓いの力が宿っていたが、当時の湊には自覚がなかった。葛木はその不安定さを見抜きつつも、直接は何も教えず、ただ字が美しいと褒めて丁寧に書かせることで、結果的にその力を引き出していた。現在の湊は、当時の自分が葛木にうまく乗せられていたのだと理解している。
葛木への再評価と里帰りへの思い
山神は、葛木が流れの祓い屋であり、湊の力を無闇に自覚させなかったのも、最後まで面倒を見られない立場ゆえの慎重さかもしれないと語った。さらに、妖怪たちが葛木を嫌っていたのも、彼が彼らを祓える力を持っていたからだと指摘した。ただし葛木は無害な妖怪まで祓う者ではなかったらしく、その点で湊も納得した。そして湊は、今度実家へ帰った際には、あの時座敷わらしと葛木の間に何があったのかを訊いてみようと考える。鮮明に見えるようになった昔馴染みの妖怪たちと再会することを思い浮かべながら、座敷わらしへの土産も買わなければと楽しげに思うのであった。
第12章 怒らせてはならぬヒト
歌声で悪霊を祓う少女と葛木角之丞
下校中の少女は、歌を口ずさみながら住宅街を歩いていた。その高い歌声は本人も知らぬうちに瘴気を祓い、空にいた悪霊すら消し去っていた。そこへ和装の男、葛木角之丞が現れ、彼女の歌声を絶賛する。音痴だと思い込んでいた少女は有頂天になり、もっと歌の練習を頑張ると宣言した。角之丞は、歌で除霊できるほどの希少な才を見出し、その素質を伸ばすきっかけだけを与えて立ち去った。
角之丞の回想と湊への評価
少女と別れた角之丞は、かつて出会った楠木湊のことを思い返した。湊もまた希少な才を持つ存在であったが、あの頃は妖怪に囲まれながらも、それを使役する血筋には見えず、極めて特異な立ち位置にいた。しかも楠木家の温泉宿は妖怪だらけで、特に座敷わらしはこの家の絶対的な支配者として角之丞を強く警戒していた。そのことを懐かしみつつ、角之丞は悪霊を喰らう二体の式神シャチを従えながら、孫に退魔師としての技術を叩き込む必要性を考えていた。
同業者とのすれ違い
歩を進める角之丞は、途中ですれ違った黒衣の男が同業者であることを瞬時に見抜いた。相手もまた角之丞を警戒し、舌打ちを残して去っていった。互いに油断ならぬ相手であると察した、わずかな交錯であった。
鳳凰と野鳥たちの競争
一方その頃、北部商店街近くの公園では、鳳凰が多くの野鳥を従えて準備体操をしていた。スサーやエンジェルポーズを完璧にそろえる野鳥たちの動きは、軍隊のような統率ぶりであった。湊の合図で始まった競争では、鳳凰も野鳥たちも飛ばずに地上を全力で駆け、公園を沸かせた。見物人たちは鳥遣いの人の技量だと感嘆したが、実際には鳳凰の統率力によるものであった。
若鳥となった鳳凰と商店街への道
運動を終えた鳳凰はたいそう機嫌がよく、湊もまたその成長を喜んでいた。頭部以外の産毛はほぼ羽へと変わり、もはやひよことは呼べない姿になっていた。湊は、鳳凰が早く本来の大きな姿へ戻れるよう願いながら、この日は刺繍職人のもとへ向かうことを優先した。座敷わらしへの土産を買うのは、そのあとにするつもりであった。
黒い蝶と鳳凰の異変
商店街へ向かう途中、湊は人々の様子を注意深く観察していた。悪霊の声や事情に深く関わる覚悟はないと自覚したため、悪霊そのものではなく、人間の異変から危険を察知しようとしていたのである。そうして警戒を緩めた瞬間、黒く光る蝶が湊の前をよぎった。鳳凰はその蝶を目にした途端、激しく反応し、理性を失ったように追いかけ始めた。湊が呼び止めても振り返らず、蝶を一心に追い続ける姿に、ただならぬ異常が見て取れた。
園能の罠と鳳凰の捕縛
路地裏へと誘い込まれた鳳凰は、そこで黒衣の退魔師・園能の術によって鳥かご状の檻に閉じ込められた。園能は、鳳凰を使えば動物霊をいくらでも手に入れられると歓喜しており、完全に利用対象としてしか見ていなかった。檻の中で鳳凰は苦しみ、羽を散らしながら悲鳴を上げた。その姿を見た湊は、護れなかったという怒りと悔しさで我を忘れた。
湊の暴走しかけた怒り
湊は風神の力を爆発的に解放し、風の刃で檻を切断して鳳凰を救出した。その周囲では風と雨が荒れ狂い、積乱雲まで発達して町を覆った。園能は吹き飛ばされ、逃げようとするも看板や暴風に阻まれた。怒りに駆られた湊は、園能が再び術を使えぬよう両手を切り落とすことすら思いつくほど、危険な領域に踏み込んでいた。
葛木角之丞の介入
そこへ葛木角之丞が現れ、湊の手首をつかんで制止した。角之丞は、これ以上力を暴走させれば町ひとつが滅びかねないと静かに告げる。そして何より、傷ついた鳳凰をいつまでも放置していてよいのかと問いかけた。その言葉で湊はようやく我に返り、風を収めた。怒りはなお消えていなかったが、鳳凰を優先すべきだと気づかされたのである。
風神と雷神の介入
実際には、湊が町を吹き飛ばさずに済んだのは、上空で風神と雷神が介入していたからであった。風神は湊に与えた力の大半を一時的に取り上げており、雷神は大きな神鳴りで人々を建物の外へ出さないようにしていた。二神は、湊が暴走しても町が原型を保てるよう見張っていたのである。湊が落ち着くと、風神は取り上げていた力を戻し、二神は楠木邸で夏の料理を食べる話をしながら、その場を去る準備を始めた。
田神への返礼の予告
積乱雲の上で語る二神は、最後に楠木邸へ手土産を持っていこうと相談していた。春に桜餅を食べさせてもらったことを思い出し、今度は夏の食べ物を楽しみにしていたのである。その一方で、地上では大きな騒動が収まり、次に楠木邸へどんな形で関わるかをうかがわせる締めくくりとなった。
第13章 神の庭で夏祭りもどきを開催します
風神と雷神への謝罪と感謝
夏の夕刻、クスノキのもとには湊、山神一家、四霊、風神、雷神が集っていた。湊は二日前、鳳凰を狙った退魔師への怒りで風神の力を暴走させかけた件について、風神と雷神が町を守ってくれたことを山神から聞かされ、土下座して礼と謝罪を述べた。風神と雷神は大したことではないと笑って受け流したが、湊は自らの無知と危うさを改めて痛感していた。鳳凰は無事であったものの、今後また同じような脅威が現れる可能性を思うと、これまでのように何も知らずにいるわけにはいかないと感じていた。
夏祭りもどきの宴の開始
重い空気を払うように、雷神が大量の魚介を取り出し、夏らしい料理を所望したことで宴が始まった。夜の神の庭には提灯のような明かりが灯り、風鈴もランタンのように輝いていた。湊は料理人として鉄板の前に立ち、祭りの屋台飯を意識して焼きそばを作り始めた。肉や野菜、イカにソースを絡めて炒める香ばしい匂いが広がり、庭の住人たちの食欲を刺激した。
それぞれの持ち場で進む調理
湊が焼きそばを仕上げる傍らで、セリとトリカは七輪でイカ焼きと焼きとうもろこしを焼いていた。山神も珍しく調理に加わり、皮付きのとうもろこしを焼いて、自ら剥いて味わった。みずみずしさと甘さに満足した山神は、旬の食材の力強さを素直に称賛した。湊もその感想に共感しつつ、祭りらしい料理を揃えていくことに楽しさを感じていた。
綿あめに夢中なカエンと二神への緊張
一方、綿あめ機の前ではウツギとカエンが綿あめ作りに熱中していた。カエンは綿あめの食感と甘さを大いに気に入り、自分でも大きな綿あめを作ろうとしたが、欲張りすぎて綿あめを体にまとわりつかせてしまった。そこへ雷神が手を貸して助けるが、カエンは風神と雷神の前でひどく緊張しており、礼もぎこちないものになった。神格の差を本能的に理解しているがゆえに、二神の前では萎縮せざるをえなかったのである。
焼きそばへの評価と食卓の賑わい
湊は焼きそばをカエンに渡し、自らも食べながら出来を確かめた。屋台特有の少しパサついた食感までは再現できなかったと悔しがったものの、カエンは麺のカリカリした部分を美味いと喜び、素直に好意的な感想を述べた。風神と雷神も焼きそばを気に入り、夏場に人間が麺類を好む理由を想像しながら、その味を楽しんだ。神々にとって暑さそのものは理解しにくくとも、料理の味には確かな魅力を感じていた。
四霊たちの自由な酒宴
四霊もまた、それぞれ好き勝手に酒宴を楽しんでいた。霊亀は大きな盃に浸かるように酒を味わい、その贅沢さに満足していた。麒麟はビールを飲み、鳳凰は果実酒を舐め、応龍は高価なワインを樽ごと欲しがるという世間知らずな願望を口にしたが、麒麟にたしなめられておとなしく引き下がった。誰もが好きなものを好きなように味わう、神の庭らしい自由な宴であった。
眷属たちの焼きとうもろこしと夜空の花火
テン三匹とカエンは輪になって焼きとうもろこしにかじりつき、その美味さに毛を逆立てて歓声を上げた。あまりに見事に揃った反応に、湊は思わず笑みをこぼした。そんな賑やかな最中、夜空が明るく染まり、花火が打ち上がり始めた。山神がそれに気づいて声をかけ、湊が振り向くと、夜空には大輪の火の花が咲いていた。宴の終わりにふさわしい、夏らしい光景であった。
神の庭付き楠木邸 一覧











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