楠木邸 10巻レビュー
楠木邸 全巻まとめ
楠木邸 12巻レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、神々や霊獣が集う不思議な屋敷「楠木邸」の管理人・楠木湊と、個性豊かな神霊・妖怪たちが織りなす現代ファンタジー(スローライフ)小説の第11巻である 。
今巻では、四霊(麒麟・応龍・鳳凰)から贈られた神宝「ひょうたん」の驚くべき性能を確かめる日常から物語が始まる 。
湊は、楠木邸に流れる名水の出処を訪ねるため、山神(方丈様)と共に山形県の月山へ向かい、さらに月の神域である「月宮殿」へと足を踏み入れる 。そこでは月神・ツクヨミや眷属のウサギたちが開く賑やかな「芋煮会」に巻き込まれ、さらには人間が飲めば不老不死になるという「神の酒」を巡る騒動へと発展していく 。
一方、現実世界では陰陽師の播磨才賀が泥酔したスサノオに武神と間違われて拉致され、過去の戦場のような神域で戦いを強行されるなど、湊と播磨それぞれの視点で神々に翻弄される様子が描かれている 。
■ 主要キャラクター
- 楠木湊(くすのき みなと):楠木邸の管理人を務める青年 。文字に霊力を宿す異能を持ち、今では妖怪の声もはっきりと聞き取れるようになっている 。山神(方丈様):
- 楠木邸の隣にある御山の守護神で、巨大な狼の姿をしている 。和菓子と酒に目がなく、今巻では月山の名酒を求めて湊を旅へ連れ出す 。
- 播磨才賀(はりま さいが):湊の友人で、神の血を引く陰陽師 。スサノオの勘違いにより神域へ連れ去られるが、相棒のクロと共に窮地を切り抜ける 。
- クロ:播磨の相棒である黒豹の幼獣 。その正体は武神が創り出した神器であり、主の危機に際して「黒い刀」へと姿を変え、比類なき切れ味を発揮する 。
- ツクヨミ:月および月山を司る神 。白髪の貴公子然とした姿だが、農業を愛し、酒癖が悪いという意外な一面を持つ 。ミカヅキ:
- ツクヨミの眷属である白いウサギ 。首元に三日月模様があり、湊を月の神域へ案内するガイド役を務める 。
- スサノオ:湊や播磨たちの前に度々現れる、自由奔放で好戦的な神 。今巻では酒に酔った勢いで播磨を過去の戦場へと放り込む 。
■ 物語の特徴
- 神宝「ひょうたん」の導入:液体を一滴入れるだけで同じものを無限に生み出すという、創造神アメノミナカヌシ由来の強大なアイテムが登場する 。それが湊の意思にのみ従うという設定が、物語に新たな利便性と緊張感を与えている。「月」を舞台にした
- 異色のスローライフ:現代の飛行機で東北へ向かう現実的な描写から、一転して月面にある宮殿で「芋煮」を作るという、ファンタジーの飛躍が大きな魅力となっている 。
- 神器「クロ」の真価:これまで愛らしい「もふもふ」枠だったクロが、主である播磨を守るために本来の武器(刀)の姿を取り戻す熱い展開が、シリーズ読者にとって大きな見どころとなっている。
- 神々と現代社会の接点:スサノオを支援する一族の存在や、神々が現代の服を着用しスマートフォンを使いこなすなど、神話と現代が違和感なく融合した独自の世界観が深化している 。
書籍情報
神の庭付き楠木邸 11
著者:えんじゅ 氏
イラスト:ox 氏
出版社:KADOKAWA(電撃の新文芸)
発売日:2025年11月17日
ISBN:9784049164305
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あらすじ・内容
隣神との賑やかスローライフ第十一弾! 今回は裏話もちょこっとどうぞ。
手水鉢の名水のお礼に、出処の神様にお礼に行く湊たち。その末にたどり着いたのは……まさかの月面!? そこで出会った有名神と芋煮会をしたり、ひょんなことから播磨の代理で一日陰陽師をすることになったり。
さらには、湊と播磨の過去世、幼少期の座敷わらしと湊の馴れ初め、そして管理人になるまでのエピソードなど、特別編も収録。
隣神との賑やかスローライフ第十一弾! 「実はそうだったの!?」な裏話もちょこっとどうぞ。
感想
第一部の完結にふさわしい、驚きと感動が詰まった一冊であった。
湊が住み始めてから長い月日が流れたが、正式な書類上では未だに「榊邸」と呼ばれている事実に、これまでの歩みを振り返るような感慨深さを覚える。
物語の大きな軸となるのは、庭を流れる御水の出処を巡る旅である。
方丈山、伊吹山、富士山に加え、最後の一つの源が「月山」であると判明したことで、湊は山神と共に東北へと向かう。
そこで出会うウサギ姿の眷属に導かれた先が、まさか月にあるツクヨミの神域であったとは、想像を絶する展開に胸が躍った。
一方で、湊の友人である播磨才賀の運の悪さは、今巻でも際立っていた。
神を祖先に持つ播磨家において、男性であるがゆえに祖神から認識すらされない立場にありながら、酔ったスサノオから特大のとばっちりを受ける姿には、同情を禁じ得ない。
しかし、その窮地が相棒であるクロの覚醒へと繋がる展開は、実に見事であった。
普段は愛らしい黒豹の姿をしながら、戦闘時には強力な武器へと姿を変える神器としての立ち位置は、最高にかっこよく、心を掴まれた。
親族の女性陣が持つ神器たちから嫉妬されるという描写も、人間味あふれる神霊たちの関係性を象徴しており、非常に微笑ましい。
また、播磨の代理として湊が陰陽師たちと共に除霊に挑む場面も、本作の白眉と言える。
湊が空中に文字を書くことで発動する霊力の描写は、霊が見える者たちの視点を通して描かれることで、その美しさと圧倒的な威力が鮮明に伝わってきた。
これまでの修行の成果が結実し、確固たる力を持つ一人の術者として成長した彼の姿には、頼もしささえ感じる。
スローライフの中に散りばめられた神々との絆や、人知れず繰り広げられる激しい戦い。それらが第一部の締めくくりとして見事に融合した、満足度の高い内容であった。新たな謎や関係性の変化を予感させつつ幕を閉じた今巻を読み終え、次なる物語への期待が止まらない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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楠木邸 10巻レビュー
楠木邸 全巻まとめ
楠木邸 12巻レビュー
登場キャラクター
楠木家・神の庭の関連人物
湊
神の庭を管理する楠木家の次男であり、妖怪や神々と対等に接しようとする穏やかな性格の持ち主である。
・所属組織、地位や役職
楠木家。神の庭の管理人。
・物語内での具体的な行動や成果
神宝のひょうたんの性質を検証する。スサノオの神域に拉致された播磨を助けるため、廃村の悪霊祓いに協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ひょうたんから自在に液体を出せる唯一の存在となっている。彼のアクションが神々や妖怪に様々な影響を与えている。
山神
方丈山を治める神であり、大狼の姿をして自由気ままに振る舞う。
・所属組織、地位や役職
方丈山の神。
・物語内での具体的な行動や成果
湊とともに月山の神域へ赴き、神々の宴に参加する。カエンに神域づくりを教え、眷属を持つよう促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
強大な力と見通す眼を持ち、湊や眷属たちを見守っている。
セリ
山神の眷属であるテンの一体であり、理知的で真面目な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
ひょうたんの実験に参加する。カエンの眷属選びに同行し、人間の器用さを指摘した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
トリカやウツギとともに、カエンの行動を的確にサポートしている。
トリカ
山神の眷属であるテンの一体であり、慎重で冷静な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
ひょうたんから出た液体の同一性を確認する。カエンに神域の片付けを早急に行うよう忠告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
セリやウツギとともに湊の日常に深く関わっている。
ウツギ
山神の眷属であるテンの一体であり、好奇心旺盛で明るい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
山神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
ひょうたんの実験で様々な液体を試そうと提案する。自身のマンドラゴラを湊のミストシャワーで喜ばせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの眷属選びに同行し、背中に乗せて移動する。
カエン
鍛冶の神であり、エゾモモンガの姿をした職人気質な存在である。
・所属組織、地位や役職
鍛冶の神。
・物語内での具体的な行動や成果
山神から神域づくりの指導を受ける。自ら作った鳥型飛行機を眷属にする決意を固めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現代の刀鍛冶を見学し、鍛冶への情熱を新たにする。
四霊・神々とその眷属
霊亀
四霊の一角である亀の霊獣であり、大池で悠々と過ごしている。
・所属組織、地位や役職
四霊。
・物語内での具体的な行動や成果
遠く離れた鳳凰、応龍、麒麟と超音波で念話を交わす。彼らの近況を確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神の庭の池を独占し、変わらぬ日常を楽しんでいる。
スサノオ
著名な男神であり、気分屋で好戦的な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
神。
・物語内での具体的な行動や成果
空港で湊たちに話しかける。月山の神域でツクヨミと激しい兄弟喧嘩を繰り広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現代社会に適応しており、一族の支援を受けて活動している。
スサノオを支える一族の男性
黒いスーツにサングラスをかけた人物であり、スサノオの勝手な行動を制止する役割を担う。
・所属組織、地位や役職
スサノオを支える一族。
・物語内での具体的な行動や成果
空港でスサノオの背後から現れ、神事への参加を促す。スサノオの言葉遣いに物申した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スサノオの現世での活動を裏から支えている。
スサノオを支える一族の女性
黒いスーツにサングラスをかけた人物であり、スサノオの予定を管理する。
・所属組織、地位や役職
スサノオを支える一族。
・物語内での具体的な行動や成果
スサノオに神事の予定があることを伝える。スサノオの現代服姿について湊の感想を聞き、肩を震わせて笑った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スサノオとともに行動し、彼を補佐している。
ミカヅキ
ツクヨミの眷属である白ウサギであり、首元に三日月模様を持ち、明るく快活である。
・所属組織、地位や役職
ツクヨミの眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
月山の古道で湊と山神を迎え、月宮殿へ案内する。月印の酒を湊へ渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神々の宴の世話を焼き、湊の安全を気遣う。
ツクヨミ
月の神域を治める神であり、貴公子然とした容姿だが酒癖が悪い。
・所属組織、地位や役職
月の神。月山の山の神(代役)。
・物語内での具体的な行動や成果
月宮殿の中庭で麦の収穫を行う。芋煮会のために神力で川を作り上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スサノオと激しい肉弾戦を繰り広げるなど、好戦的な一面を持つ。
コノハナサクヤヒメ
酒に弱く、感情が高ぶりやすい女神である。
・所属組織、地位や役職
女神。
・物語内での具体的な行動や成果
月印の酒を求めてヒグマの背に乗り月面へ突入する。神々の宴で酒を飲み、桜をまき散らした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女の作った酒は、人間が一口飲めば不老不死になるほどの力を持つ。
イワナガヒメ
ヒグマの姿をした女神であり、コノハナサクヤヒメと行動を共にする。
・所属組織、地位や役職
女神。
・物語内での具体的な行動や成果
月印の酒を求めてコノハナサクヤヒメを乗せて疾走する。虚空から酒樽を出し、他の神々に振る舞った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
山神と飲み比べをするなど、酒豪ぶりを発揮する。
鳳凰
四霊の一角であり、現在は南の守護神である朱雀のもとにいる。
・所属組織、地位や役職
四霊。
・物語内での具体的な行動や成果
霊亀との念話で、南の海岸にいることを伝える。朱雀に叱られたことをこぼした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
人間の作るものへの関心を失わず、職人探しを続けている。
応龍
四霊の一角であり、現在は東の守護神である青龍のもとにいる。
・所属組織、地位や役職
四霊。
・物語内での具体的な行動や成果
霊亀との念話で、ワインがないことに不満を漏らす。青龍と酒の好みが合わないことを嘆いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
青龍の神域から出してもらえない状態にある。
麒麟
四霊の一角であり、奔放な性格で北の大地に滞在している。
・所属組織、地位や役職
四霊。
・物語内での具体的な行動や成果
霊亀との念話で、氷だらけの地に住む人間を観察していると語る。人間の逞しさに感心した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
相変わらず話が長く、霊亀に念話を切られる。
風神
青い小鬼の姿をした神であり、雷神とともに行動する。
・所属組織、地位や役職
風の神。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸の温泉に浸かってくつろぐ。湊にリンゴケーキを求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の庭にすっかり馴染んでいる。
雷神
赤い小鬼の姿をした神であり、風神とともに行動する。
・所属組織、地位や役職
雷の神。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸の温泉に浸かり、カエンの作ったスキレットを褒める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの緊張をほぐすような気さくな態度を見せる。
狼の神
灰と白色の大きな狼の姿をした神であり、山の古道を駆け上がる。
・所属組織、地位や役職
狼の神。
・物語内での具体的な行動や成果
太郎に加護を与えた銀狼に対し、事前に一言言うよう注意する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
眷属たちを率いて山を駆けている。
金色の狼
狼の神の眷属であり、金色の粒子を振りまきながら走る。
・所属組織、地位や役職
狼の神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
狼の神の前を颯爽と駆けていく。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
山の古道を通り過ぎていく。
銀狼
狼の神の眷属である銀色の子狼であり、無邪気で好奇心旺盛である。
・所属組織、地位や役職
狼の神の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
太郎に近づき、魂の清らかさを見抜く。太郎の鼻に触れて加護を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
太郎にたくましく育つよう言葉を残す。
武神
播磨一族の祖神であり、尊大で意地が悪い性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
武神。播磨一族の祖神。
・物語内での具体的な行動や成果
播磨を過去の戦場へ飛ばす。播磨に褒美として黒豹の神器を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
子孫である播磨の霊力を高めるため、あえて試練を課す。
ヤタガラス
巨大な黒い鳥の姿をした神の使いであり、アマテラスと同質の神気を放つ。
・所属組織、地位や役職
神の使い。
・物語内での具体的な行動や成果
更地となった神域跡で湊の前に現れる。自らをアマテラスのもとへ導くよう湊に頼んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
太陽神の使いとしての圧倒的な存在感を示す。
ツムギ
天狐の眷属である黒い狐であり、悪霊祓いの役目を担う存在である。単独行動を好む性格であるが、主の命により弟のメノウの監督を行っている。楠木邸の露天風呂と穏やかな空気を好んでおり、頻繁に訪れる。
・所属組織、地位や役職
天狐の眷属。北部の稲荷神社の祭神の眷属であり、宮司からは御姉様と呼ばれている。
・物語内での具体的な行動や成果
北部の稲荷神社で依頼人の悪霊を祓った。楠木邸を訪れ、露天風呂に入り、好物の稲荷寿司を食べた。南部の稲荷神社の眷属である白い狐と空中戦を繰り広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
天狐が自身の体を借りて現世に顕現する際の依り代として機能する。
メノウ
天狐の眷属である茶色い子狐であり、ツムギの弟にあたる。人懐こい性格をしており、自身のことをワレと呼ぶ。主である天狐に惑わされない湊を好ましく思っている。
・所属組織、地位や役職
天狐の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
姉のツムギとともに悪霊祓いの役目を果たすため外出した。楠木邸の庭で湊の膝に乗って甘え、おかきを分けてもらった。初めての悪霊祓いを果たし、その出来事を誇らしげに語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
狐の群れの中で唯一の雄である。生まれてからまだ日が浅い幼獣として扱われている。
楠木旅館
座敷わらし
楠木家に棲みつく妖怪であり、家と宿の秩序を守る存在である。湊をはじめとする家族を気遣い、他の妖怪たちを統率している。
・所属組織、地位や役職
楠木家。妖怪たちのまとめ役。
・物語内での具体的な行動や成果
赤子の湊が妖気を知覚できることに驚き、周囲の妖怪たちを威圧して退けた。湊が神隠しに遭った際、敷地内の妖怪たちに捜索を指示する。いたずらが度を越した鬼女を蹴り飛ばし、追い出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
楠木家の守護神として扱われている。湊が送ってくる神気をまとった荷物を嫌がり、天井へ逃げる一面を持つ。
ミナト
平安時代の陰陽師であり、諸国を巡る祓い屋である。育ての親に感謝しつつも、跡目争いにより家を出た過去を持つ。
・所属組織、地位や役職
祓い屋。元陰陽道宗家の養子。
・物語内での具体的な行動や成果
弟子のハリマとともに旅をし、滝の近くで休息をとる。行き倒れていた犬の太郎を助け、相棒として連れ歩く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
貴族の身分でありながら、自由な生き方を選んでいる。
湊の母
温泉宿で働く女性であり、妖怪の存在を自然に受け入れている。湊の木彫りを大切に持ち歩いている。
・所属組織、地位や役職
楠木家。温泉宿の従業員。
・物語内での具体的な行動や成果
男湯で客が倒れた際、慌てて湊へ報告する。湊から送られてくるダンボールを開封し、ゆべしを神棚に供えた。湊に字を丁寧に書くよう指導している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
穢れに強い体質を持つ。妖怪の姿や気配がわからなくとも、その存在を認めている。
航
湊の兄であり、面倒見が良い性格である。柔道の有段者であり、湊に受け身を教え込んだ。
・所属組織、地位や役職
楠木家。温泉宿の従業員。
・物語内での具体的な行動や成果
男湯で倒れた客を介抱し、氷嚢をあてがう。湊に管理人の仕事を引き受けるよう促し、彼を投げ飛ばした。湊の作ったキーホルダーをガラスケースに入れて販売する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
中学時代に自身の体質に気づき、心霊スポットでも平然としていた。湊が宿泊客から守護神と呼ばれていることを知っている。
湊の父
温泉宿で働く男性であり、穏やかでマイペースな性格である。湊の表札づくりを支援した。
・所属組織、地位や役職
楠木家。温泉宿の従業員。
・物語内での具体的な行動や成果
湊に親戚の家の管理人になる話を持ちかける。悪霊に憑かれて苦しんでいたところを、湊に助けられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
霊障を受けやすい体質である。妖怪の気配をかすかに感じ取ることができる。
厳
湊の祖父であり、連れ合いを早くに亡くして家事と育児に尽力してきた。
・所属組織、地位や役職
楠木家。
・物語内での具体的な行動や成果
湊が神隠しに遭った際、妖怪たちとともに捜索へ向かう。厄介な神と対峙し、湊を無事に連れ帰った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
客に悪さをする妖怪を叱りつけるなど、家と宿の秩序を守ってきた。
播磨一族
播磨才賀
神の血を引く陰陽師であり、不器用だが責任感が強い。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
スサノオの神域から戻った後、湊に妖怪の妖魂について助言する。過去の戦場で銃身を切り落とし、味方を援護した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロを得たことで強大な霊力を扱えるようになる。
クロ
播磨才賀の神器であり、黒豹の幼獣の姿をしている。
・所属組織、地位や役職
播磨才賀の神器。
・物語内での具体的な行動や成果
播磨の指示で黒い刀に変化し、敵の銃身を切り落とす。廃村の妖怪を倒した後、湊にじゃれついた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
播磨の霊力回復を補い、彼の身体を癒やす役割を担う。
椿
播磨才賀の姉であり、冷静沈着で決断力に優れる。
・所属組織、地位や役職
播磨家次期当主。
・物語内での具体的な行動や成果
廃村で湊とともに悪霊を祓う。宴会で剣舞を披露し、一条に警告を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神器の太刀を自在に操り、一族をまとめる中心的存在である。
藤乃
播磨才賀の妹であり、明るく感情豊かな性格である。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
生霊を薙刀で切り離す。クロに構いすぎて自身の薙刀の機嫌を損ねた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
姉の椿とともに現場で活躍し、一族の任務を遂行する。
若い播磨才賀
過去の播磨才賀であり、二年前の伊達眼鏡をかけている。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
スサノオが見せた幻影の中で、エスカレーターを駆け上る姿を見せる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スサノオの力で現在の播磨の前に姿を現す。
一条
播磨一族の親戚であり、堀川に強い執着を抱いている。
・所属組織、地位や役職
播磨一族の親戚。
・物語内での具体的な行動や成果
宴会で湊に嫉妬の視線を向ける。堀川に膝枕をされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
堀川を虐げていた過去があるが、現在は態度を改めている。
堀川
播磨一族の親戚であり、穏やかで控えめな女性である。
・所属組織、地位や役職
播磨一族の親戚。
・物語内での具体的な行動や成果
宴会で湊の皿を片付ける。一条との関係をただの親戚だと断言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一条からの好意を静観し、彼を膝枕で受け入れる。
佐輔
椿の妹の伴侶であり、忍びの一族の出身である。
・所属組織、地位や役職
忍びの一族。播磨一族の義理の家族。
・物語内での具体的な行動や成果
寝起きにクロから襲撃され、棒手裏剣で応戦する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロの扱いに苦労しながらも、家族の日常に溶け込んでいる。
茉莉花
椿の長女であり、愛称はおマツである。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
新しい服を着てクロに披露する。婚約者とのデートに行くことを赤面して否定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
婚約者に好意を抱き始めている。
雛菊
椿の次女であり、四歳ながら大人びている。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
テディベアをクロに差し出し、ぬいぐるみを式神にしたいと望む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神の血を引く者特有の賢さを持つ。
ハリマ
平安時代の若き陰陽師であり、正義感が強く感情的になりやすい。
・所属組織、地位や役職
土着の陰陽師。
・物語内での具体的な行動や成果
ミナトに弟子入りし、ともに音の怪を調査する。倒木の音を妖怪の仕業と疑った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ミナトと対照的な価値観を持ちながら、行動を共にする。
播磨の母
播磨才賀の母親であり、神器を持つ一族の女性である。
・所属組織、地位や役職
播磨一族。
・物語内での具体的な行動や成果
武神の酒宴で酔いつぶれる。クロに祖神の絵本を読み聞かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロの教育に熱心に取り組む。
播磨の父
播磨才賀の父親であり、穏やかな性格である。
・所属組織、地位や役職
播磨一族の伴侶。
・物語内での具体的な行動や成果
武神の神気にあてられ床に倒れる。背中に張り付くクロをセミのようだと笑った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロに美味しい食べ物を与え、人間の子のように扱う。
若い娘の使用人
播磨一族の分家の者と思われる、神器を持つ娘である。
・所属組織、地位や役職
播磨一族の使用人。
・物語内での具体的な行動や成果
武神の酒宴で、震えながら山神に和菓子を配膳する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
山神の神気に耐え、職務を全うする根性を見せる。
妖怪・精霊・動物
カワウソの妖怪
水生の妖怪であり、イタズラ好きで世渡り上手である。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
男性の背に乗って重さを増す悪戯をする。湊から刺身をもらい、男性から離れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後に方丈山へ引っ越し、湊と再会する。
たぬ蔵
狸の妖怪であり、プライドが高く酒好きである。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の風の術に驚く。カエンの眷属選びで遭遇し、カエンと反目し合った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊としばしば会話を交わす関係である。
山姥
山の妖怪であり、気性が荒いが義理堅い。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
楠木邸付近に現れ、湊から甘酒を受け取る。礼を言って御山へ駆けていった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の気遣いにより、態様が軟化する。
送り犬
灰色の犬の妖怪であり、人間を山へ誘う性質がある。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊を山へ誘うが断られ、落ち込む。後日、湊を祠掃除へ案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊に塩をもらったことで、送り犬から迎え犬へと変化した。
野衾
ムササビのような妖怪であり、人間の顔を塞ぐことにこだわる。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の顔を狙うが避けられる。山爺に捕らえられ、口へ放り込まれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖魂を探ろうとした湊を恐れて逃げる。
山爺
筋骨たくましい山の妖怪であり、霞を食う仙人のような存在である。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊を襲う野衾を捕まえ、自分の口に放り込む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
同胞を食うことはなく、後で吐き出すとされる。
木の精霊
ブナの木に宿る精霊であり、苔玉やブナの葉をつけた姿をしている。
・所属組織、地位や役職
精霊。
・物語内での具体的な行動や成果
古道で湊の頭や肩に乗って戯れる。湊のクスノキの葉と引き換えにブナの実を渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宿主となる木を変えながら長く生き永らえている。
腹が膨れた人型の妖怪
凶暴な妖怪であり、猫を咥えて逃走する。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
コンビニの脇を駆け抜ける。播磨に殴り飛ばされ、霧散した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
播磨の容赦ない攻撃により、一撃で消滅する。
猫
首輪をつけたシャム柄の猫であり、妖怪の被害に遭う。
・所属組織、地位や役職
一般の動物。
・物語内での具体的な行動や成果
妖怪に咥えられていたが、播磨の助けにより無事に逃げ去る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後に交差点で湊とすれ違い、挨拶を交わす。
半人半牛の妖怪
禍々しい妖気を放つ強大な妖怪であり、人間を敵視している。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
廃村の石柱の封印から解き放たれ、湊たちを妖気で包む。播磨のクロの刀によって一刀両断された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
密教法具の劣化により封印が解けていた。
ろくろ首
首が長く伸びる妖怪であり、着物姿の女性の形をしている。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
山道で湊に首を伸ばして顔を近づける。湊の反応が薄いため、消え去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊が妖魂を探ろうとしたため、警戒して姿を消す。
下駄の妖怪
下駄だけで歩く妖怪であり、正体は不明である。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
山道を下りてくる。湊の視線に気づき、全力で逃げ去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖魂を探る湊の意図を察知し、警戒する。
リス
先端の白い尻尾を持つニホンリスであり、冬眠せず木の実を隠す習性がある。
・所属組織、地位や役職
一般の動物。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の脚を登り、麒麟の足跡に触れる。頬袋を膨らませて木に止まった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの眷属の候補となるが、小さすぎると判断される。
ツキノワグマ
大きなクマであり、熊棚に座っている。
・所属組織、地位や役職
一般の動物。
・物語内での具体的な行動や成果
小枝をかじりながらカエンに肩へ乗られる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの眷属の候補となるが、大きすぎると判断される。
マンドラゴラ
ウツギの眷属であり、素焼きの鉢に入っている。
・所属組織、地位や役職
ウツギの眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
湊のミストシャワーを浴びて喜ぶ。急激な生長により萎れるが、オタネニンジンを食べて復活した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
復活後は透明な釣り鐘型の花を咲かせる。
ガラス風鈴
金魚の目を持つ風鈴であり、頑固な性質を持つ。
・所属組織、地位や役職
無機物の妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
クスノキの枝でやかましく鳴る。夏が終わると自ら箱にしまわれることを望んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの引き止めにも応じず、夏の風物詩としてのこだわりを貫く。
太郎
山犬と狼の血を引く犬であり、勇敢で食欲旺盛である。
・所属組織、地位や役職
ミナトの相棒。
・物語内での具体的な行動や成果
ミナトとハリマの旅に同行する。銀狼から魂の美しさを認められ、加護を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神々の姿を視認し、ミナトたちには言えない秘密を共有する。
烏天狗
山に棲む妖怪であり、山の秩序を守る役割を持つ。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
上空を滑空し、野衾に錫杖を差し向ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神の庭の日常風景の一部として活動している。
産女
赤子を抱く女性の妖怪であり、赤子に強い興味を示す。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
赤子の湊を抱かせてほしいと頼む。座敷わらしの妖気に恐れをなした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の誕生を祝うために集まった妖怪の一体である。
猫又
猫の妖怪であり、舌を長く伸ばすことができる。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
赤子の湊を味見しようと舌を伸ばす。座敷わらしに舌を叩かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
座敷わらしの監視の下、大人しく引き下がる。
鶴のようなモノ
鳥の姿をした妖怪であり、剛毅な口調で話す。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の手に尻尾をくすぐらせるが、強く握られて痛がる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の緑の瞳を見て、異人ではないかと驚いた。
天井舐め
天井に張り付く妖怪であり、マイペースな性格である。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
温泉宿の天井で食事をする。座敷わらしに注意され、軽く返事をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
楠木家の人々と共存している。
雪女
真白な着物を着た妖怪であり、感情が高ぶると霰や雪を吐く。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の母を手伝い、客室に酒瓶を運ぶ。酒瓶を奪おうとした鬼女の手を凍らせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
人間に親近感を持ち、感謝されることを喜ぶ。
鬼女
鬼の姿をした女性の妖怪であり、酒に目がない。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
客室の酒瓶を奪おうとする。雪女に手を氷漬けにされ、悲鳴を上げて逃げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
温泉に浸かって手を溶かそうとする。
一反木綿
布の姿をした妖怪であり、空を飛んで索敵を行う。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
神隠しに遭った湊を発見し、座敷わらしに知らせる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
厳たちを湊の元へ導く手助けをした。
サル吉
リスザルであり、三河翁と行動を共にしている。
・所属組織、地位や役職
三河翁のお供。
・物語内での具体的な行動や成果
商店街で湊に懐き、首にしがみつく。渋々三河翁の肩へ戻った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の買い物の付き合いをし、周囲の注目を集める。
シャム柄の猫
商店街にいる猫であり、人懐っこい。
・所属組織、地位や役職
一般の動物。
・物語内での具体的な行動や成果
交差点で湊を待ち、脛に体を擦りつける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の日常に溶け込んでいる。
カラス
黒い鳥であり、太陽神の使いを連想させる。
・所属組織、地位や役職
一般の動物。
・物語内での具体的な行動や成果
湊の後をついて歩き、太陽を横切るように飛び立つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊にアマテラスを想起させるきっかけを作った。
町の住人・一般の人々
壮年男性
釣り竿を持った男性であり、妖怪に取り憑かれている。
・所属組織、地位や役職
近くの集落の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
カワウソの妖怪におんぶされ、重さに苦しみながら歩く。湊の交渉により解放された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖怪の存在に気づかないまま、日常に戻る。
案内人
修験者の格好をした人物であり、ツアー客を引率している。
・所属組織、地位や役職
古道ツアーの案内人。
・物語内での具体的な行動や成果
山神が若者の悪霊を祓った後、合掌して念仏を唱える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
山神の存在を知覚し、大口真神と勘違いして感謝した。
悪霊に取り憑かれた若者
ツアー客の一人であり、疲労困憊している。
・所属組織、地位や役職
ツアー客。
・物語内での具体的な行動や成果
瘴気をまとい、足元がおぼつかない状態で歩く。山神の力で悪霊が祓われ、身体が楽になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
原因が分からないまま、困惑の声を上げる。
生霊がついている若い男
顔色が悪く生気のない若者であり、女性の生霊に憑かれている。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
コンビニから出てきたところを、藤乃に生霊を切り離される。身体が軽くなり、椿を車に誘った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
播磨に睨まれ、車へ逃げ帰る。
ミニバンの運転手
車で移動中の人物であり、悪霊の影響を受けている。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
コンビニの駐車場に車を停める。車から悪霊が飛び出し、運転手を押しのけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
播磨一族の悪霊退治に巻き込まれる。
生霊
若い男に取り憑く半透明な女性の霊であり、強い情念を持つ。
・所属組織、地位や役職
生霊。
・物語内での具体的な行動や成果
男の首を絞めるようにしがみつく。藤乃の薙刀で男への情念を切り離された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
情念を失い、本体へと戻っていく。
槍を手に叫ぶ男
武神の旗印を掲げる武士であり、主君の仇を討とうとする。
・所属組織、地位や役職
武神軍の槍隊。
・物語内での具体的な行動や成果
鉄砲隊の銃弾に味方が倒れる中、士気を鼓舞して突撃する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
播磨の戦場介入のきっかけを作った。
刀匠
刀を打つ老職人であり、厳しい指導を行う。
・所属組織、地位や役職
刀鍛冶。
・物語内での具体的な行動や成果
炉で鋼を打ち延ばし、弟子を叱咤する。鋼を水槽へ入れて焼き入れを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンに現代の刀鍛冶の技術を見せる。
弟子
刀匠の下で学ぶ若い少年であり、神の類を視認できる。
・所属組織、地位や役職
刀鍛冶の弟子。
・物語内での具体的な行動や成果
大金槌を振り下ろし、カエンたちを目撃する。火の粉から助けられ、カエンに礼を言った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カエンの再訪を心待ちにする。
蘭丸
湊の幼馴染であり、中性的な顔立ちの男である。
・所属組織、地位や役職
温泉宿の従業員。
・物語内での具体的な行動や成果
門を掃く湊に綿菓子を差し入れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊の嗜好と座敷わらしの存在を理解している。
幼女
温泉宿の常連客であり、湊を慕っている。
・所属組織、地位や役職
温泉宿の客。
・物語内での具体的な行動や成果
湊に抱きつき、仕事ぶりを褒める。門の上の妖怪に気づき、真顔になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖怪を視認できる素質を持つ。
倒れた男性客
温泉宿の客であり、風呂で体調を崩す。
・所属組織、地位や役職
温泉宿の客。
・物語内での具体的な行動や成果
男湯で湯あたりを起こして倒れる。航の介抱を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大事には至らず、無事に回復する。
三河翁
三河金物店の店主であり、愛想の良い人物である。
・所属組織、地位や役職
金物店店主。
・物語内での具体的な行動や成果
サル吉の世話の礼として湊にポチ袋を渡そうとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
湊に押し問答を避けられ、逃げられた。
男児
神や霊獣が視える子どもであり、無鉄砲な性格である。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
迷子防止のリードをつけられ、湊に親しげに挨拶をする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
母親に連れられ、日常を過ごす。
男児の母親
男児を連れた女性であり、慎重に子どもを管理している。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
ベビーカーを押し、湊とすれ違う際に会釈をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
子どもの無鉄砲な行動を見守る。
信濃
庭師の青年であり、爽やかな容姿をしている。
・所属組織、地位や役職
庭師。
・物語内での具体的な行動や成果
私服姿で女性と一緒に歩いているところを湊に目撃される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女性との初々しい関係を築きつつある。
信濃の隣の女性
信濃と歩く女性であり、初々しい態度をとる。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
信濃とともに行動し、過剰に意識し合っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
信濃との関係が進展している。
日向工務店の親方
作業服姿の職人であり、鳥に好かれている。
・所属組織、地位や役職
工務店の親方。
・物語内での具体的な行動や成果
スズメに囲まれ、注意を促しながら歩く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
野鳥の面倒を見ており、鳥たちから慕われている。
裏島岳
湊のご近所さんであり、家族で外出している。
・所属組織、地位や役職
一般市民。
・物語内での具体的な行動や成果
ミニバンを運転し、湊にクラクションを鳴らして挨拶をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家族とともに和やかな時間を過ごす。
裏島岳の祖母
裏島岳の車に同乗する高齢の女性である。
・所属組織、地位や役職
裏島家。
・物語内での具体的な行動や成果
助手席に乗り、湊に手を振る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家族旅行に参加している。
裏島千早
裏島岳の姉であり、車に同乗している。
・所属組織、地位や役職
裏島家。
・物語内での具体的な行動や成果
後部座席に乗り、湊に手を振って挨拶をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家族とともに外出を楽しんでいる。
展開まとめ
第1章 妖怪とも仲良くしたい
カワウソの妖怪との遭遇と交渉
湊は買い物帰り、楠木邸近くで壮年の男性に取り憑いて悪戯をするカワウソの妖怪を目撃した。男性は重さに苦しんでおり、妖怪が徐々に負担を増している様子であった。湊は力で引き離すのではなく、風に声を乗せる方法で妖怪に語りかけることを試みた。声は妖怪にのみ届き、会話に成功した湊は、男性から離れるよう説得したが、妖怪は遊びをやめようとしなかった。
そこで湊は刺身を報酬として提示し、交渉を成立させた。妖怪はそれを受け取ると満足して去り、男性は解放された。湊はこの経験から、妖怪とも対話と交渉によって関係を築けることを実感した。
妖怪との共存への考え
湊は妖怪に対して敵対的に接するのではなく、可能な限り対等な関係を築くべきだと考えていた。人間にも事情があるように、妖怪にもそれぞれの事情があると認識しており、一方的に排除するのではなく、理解し合う姿勢を重視していた。この出来事を通じて、湊は自らの方針を改めて確認した。
たぬ蔵との会話と能力の確認
帰路、湊は狸の妖怪たぬ蔵と遭遇し、先ほど習得した風に声を乗せる技を用いて会話を行った。たぬ蔵はその能力を術と評し、人間離れした力であると認識した。湊は風神の力によるものであると自覚しつつも、実用性を確かめる機会としてたぬ蔵との会話を続けた。
また、鳳凰が去ったことで周囲の鳥が減ったことにも触れられ、環境の変化が示された。
山姥への贈り物と関係の変化
楠木邸付近では山姥が現れ、湊は寒さを気遣って甘酒を差し出した。山姥は警戒しつつも受け取り、最終的には礼を述べて去っていった。このやり取りにより、妖怪との関係は必ずしも敵対的ではなく、善意によって変化しうることが示された。
送り犬と妖怪たちの思惑
その後、送り犬が現れ、山へ来るよう促した。湊は予定がないため断ったが、送り犬は塩を求めていたことが示唆された。妖怪は独自の価値観やこだわりを持って行動しており、人間との関係にもそれが影響していることが明らかとなった。
さらに野衾が襲いかかるが、山爺によって捕らえられ、そのまま連れ去られた。山爺は同胞を食らうことはないと説明され、最終的には吐き出されると理解された。
妖怪との関係の現実
一連の出来事を通じて、湊は妖怪の中には友好的な者もいれば、そうでない者もいることを実感した。それでもなお、可能な限り対話と理解によって関係を築こうとする姿勢を維持することを、改めて認識したのであった。
第2章 神宝とはなんぞや
ひょうたんの性質を確かめる実験の開始
湊は麒麟、応龍、鳳凰から授かった神宝のひょうたんの使い勝手を確かめるため、セリ、トリカ、ウツギとともに楠木邸のキッチンに集まった。ひょうたんは濃藍色で、陶器のような質感を持ちながら、下部には本物の銀河のように見える渦巻きと瞬く星々を宿していた。液体を一滴入れれば同じものを延々と出せると聞いていたため、まず湊は食器用洗剤を一滴垂らし、その後スポンジへ注いでみせた。
出てきた液体は元の洗剤とまったく同じであり、セリとトリカはその一致を確認し、ウツギも今後洗剤を買わずに済むと喜んだ。湊も使い慣れた洗剤を今後も使い続けられることに安心し、ひょうたんの力が確かなものであると実感した。
実験の拡大と使用条件の発覚
洗剤で成功したことで、ウツギはしょうゆや油、みりんなど他の液体でも試そうと提案した。トリカがしょうゆを一滴入れた後、セリがひょうたんから出そうとしたが、まったく出てこなかった。それどころか、セリはひょうたんに触れた瞬間、身まで凍るかと思うほどの冷気を感じ、トリカとウツギに温められてようやく落ち着いた。
一方で、湊が持つひょうたんは以前と変わらずあたたかく、手に心地よく馴染んでいた。この違いから、ひょうたんは湊にしか正常に扱えず、他者にとっては冷たく危険なものとなることが明らかになった。さらに、他者が入れた液体を湊が出せるのか、湊が入れた液体を他者が出せるのかといった検証が続けられ、ひょうたんの扱いには厳密な条件があることが浮かび上がった。
湊の言葉に従うひょうたん
次に湯をひょうたんへ入れた際も、他の者には出すことができなかった。しかし湊がひょうたんに話しかけて茶を出すよう求めると、勢いよく中身が注ぎ出された。この結果から、ひょうたんは単に湊だけが持てる道具ではなく、湊の意思や言葉に従う性質を持つことが判明した。
その後も米油、グレープフルーツジュース、コーヒー、紅茶などで実験が続けられたが、どの場合も他者は扱えず、湊だけが自在に出し入れできた。セリとトリカは、ひょうたんが湊にとことん従順であると受け止め、ウツギはその不思議な挙動に強い好奇心を示し続けた。
山神の観察と神宝の正体
キッチンで実験が進む一方、リビングでは山神がテレビで和菓子特集を楽しみながら、その様子を把握していた。山神は神宝について、もともと決まった形を持つものではなく、それを求める相手が気に入れば、その望みに応じた形へ変わるものだと語った。ひょうたんも、液体を無限に生み出す道具として最初から存在したわけではなく、麒麟たちの望みに応じてその性質を持つようになったのであった。
さらに山神は、神宝は食べ物や飲み物、黄金、武器、人間、さらには神にすらなり得ると明かした。この言葉を受けた湊は、ひょうたんが単なる便利な器ではなく、はるかに危険で根源的な力を秘めた存在であることを理解した。
創造神に由来するひょうたんへの畏れ
湊は、一滴の液体から同じものが無限に出てくるという現象は、内部で新たにその物質を生み出しているからではないかと考えた。そしてこのひょうたんが創造神の産物ではないかと推測し、山神はそれが造化三神の一柱、アメノミナカヌシの産物であると明かした。
その正体を知った湊は、ひょうたんが発する強烈な神気や、内部に銀河を宿しているかのようなあり方にも納得した。同時に、そのようなとんでもない神宝を自分が所有していてよいのかと強いプレッシャーを感じた。山神は、神宝は神ですら容易に手に入れられず、しかも本来は求めた者のものになることすら稀であると説明したうえで、四霊のうち三体が湊一人のために望んだからこそ、この結果になったのだと告げた。
神宝を受け入れ、日常の中で使う決意
あまりの由来と価値に湊は冷や汗を流したが、セリ、トリカ、ウツギは、ひょうたんは麒麟たちからの心からの礼であり、気負わず使えばよいと励ました。湊も、すでに受け取ってしまった以上、その力と向き合うしかないと考え直した。
そして実験の締めくくりとして、ひょうたんからコーヒー、紅茶、グレープフルーツジュースを出してみると、温度も香りも元のままであり、眷属たちはその味を楽しんだ。ひょうたんが液体を複製するだけでなく、状態まで保っていることが確認され、湊はこの神宝を日常の中で活かしていくことになった。ただし山神だけは、複製された茶ではなく急須から注いだ茶を望み、湊はその意向に従って新たに茶を淹れたのであった。
第3章 最後の名水の出処
神の庭の水と去った存在への寂しさ
仕事を終えた湊は、クスノキの部屋の手前にある手水鉢の前で、神の庭の甕から汲んだ特別な水を味わっていた。その水はいつでも冷たく、喉を心地よく潤し、動き回った身体を内側から冷やしてくれる格別なものであった。庭には白いコスモスが咲き、池では霊亀が変わらずのんびりと過ごしていたが、応龍や鳳凰が去ったあとの石灯籠は主を失ったままであり、麒麟の姿も見えなかった。湊は庭の静けさの中に、物理的にも精神的にも寂しさを覚えていた。
クスノキと山神との穏やかな時間
風鈴の音に振り返った湊は、元気よく枝を揺らすクスノキを見て、その成長を気にかけた。クスノキはまだ幼木でありながら神々の力で育つ特別な存在であり、自らあまり巨大になるつもりはないと示した。その言葉を受けるように、クスノキのもとでくつろいでいた山神も、湊が望まぬならそこまで大きくはならないと告げた。
湊は山神のいる座卓へ移り、おすそわけされたアケビを食べながら、山神が観ていた登山動画を一緒に眺めた。山神は北国の風景や家屋の違いに興味を示し、湊もまた豪雪地帯の暮らしに思いを巡らせた。のどかな時間の中で、湊は手元の水に含まれる神気が他の名水とは異なることを改めて意識し、その出処が気になって仕方がなくなった。
最後の名水の正体と月山への興味
湊が名水の出処となる神に礼を言いたいと口にすると、山神はその願いを受け入れ、相手のもとへ行こうと提案した。ただし、まずは銘菓や土地の名物を調べる必要があるとして、旅の下調べを始めた。そして山神が見せた山の映像から、その名水の出処が月山であることが明らかになった。
湊は月山の景色を目にした瞬間、見たことがないはずなのにどこか懐かしさを覚えた。さらに、山中の古道や丁石の映像にも同様の既視感を抱き、その正体を確かめたいと感じた。こうして湊は、月山の名水の出処を訪ねるだけでなく、その古い山道にも実際に足を運ぶことを決めた。
突然決まった旅立ち
山神は観光やご当地の味も楽しむべきだと考え、旅立ちは明日にでもと当然のように決めた。こうして翌朝、秋晴れのもとで湊と山神は飛行機に乗り、目的地へ向かうことになった。山神が飛行機に乗ることを強く望んだためであり、湊はそのための旅費増加も受け入れざるを得なかった。
しかし機内では、山神が景色をもっとよく見ようとして操縦室へ向かおうとし、湊は必死にそれを止めた。座席の狭さや窓の小ささに不満を漏らす山神は、姿を隠していても好奇心を抑えられず、ついには半透明のまま湊の制止をすり抜けて通路へ飛び出してしまった。湊は視えているらしい乗務員に慌てて事情を説明したが、乗務員は神が乗っていることをむしろ心強いと受け止めていた。
空港でのスサノオとの遭遇
多少の騒ぎはありながらも、湊と山神は無事に目的地へ到着した。空港で冷えた空気に土地の違いを感じていたところ、二人の前にスサノオが現れた。意外な再会に湊は驚いたが、スサノオは神気を極限まで抑え、人間の若者のような姿で自然に接してきた。
スサノオは二人の旅の目的を尋ね、行き先が曖昧なら自分が案内すると申し出た。しかしその直後、黒いスーツにサングラス姿の男女が現れ、スサノオには神事への参加予定があるため勝手な行動は困ると制した。二人はスサノオが現世で活動するために取り計らう一族の者であり、神社との関わりを通じて彼を支えている存在であった。
スサノオを支える人々の事情
スサノオは、自分の名を持つ神社が数多く存在することを当然のように語り、その縁によって自分が現世で動くための援助を受けていると説明した。湊は、スサノオが現代の生活に詳しく、服やスマートフォンまで所有している理由をそこで理解した。また、彼が神事では現代服のままではなく、神らしく見える衣装に着替えて顕現していることも知った。
こうしたやり取りから、湊は神々が現代社会の中で人間の側の支えを受けながら活動している一面を知ることになった。やがてスサノオは従者たちとともにその場を去り、湊は見送ることしかできなかった。
空港でのすれ違いと山神の自由さ
スサノオたちを見送る中で、湊は二階のフロアに播磨らしき人物の姿を見かけた。全国を飛び回る職なら空港にいても不思議ではなく、クロもそのそばにいるのだろうと考えたが、確かめる前に姿は見えなくなった。湊は、播磨とクロがうまくやれているとよいと案じた。
そうしてふと山神に声をかけると、当の山神はすでに売店をうろついていた。月山への旅が始まったばかりであるにもかかわらず、山神はいつもどおり自由気ままに振る舞っていたのであった。
第4章 山神とゆく、いにしえの道
古道の入口と滝の景観
空港を出た湊と山神は、黄金色の田園地帯をタクシーで抜け、湊が気にかけていた古道の入口へ至った。その道は千年以上前に開かれた街道であり、日本海側の平野部と内陸部を結ぶと同時に、月山を含む出羽三山への信仰の道でもあった。ふたりは入口近くの橋の上から滝を眺めた。幾筋にも分かれた流れがひとつにまとまり、滝壺へ落ちていく姿は見ごたえがあり、湊はその豊かな水量にブナ林の保水力を重ねて見ていた。
また、この滝がかつて山へ入る者たちの禊の場であったことにも思いを巡らせた。いまは静かであるが、古の信仰の気配はなお残っており、修験者風の装いをしたツアー客たちとすれ違うことで、その道がいまも人々に歩まれていることが示された。
ブナの森と山の生き物たち
古道へ足を踏み入れた湊と山神は、ブナの森の下を進んだ。落ち葉の積もる地面は柔らかく、足元の感触も心地よかった。山神は足跡すら残さぬまま歩いていたが、その神気のためか、周囲の野生動物たちは敏感に反応していた。サルやキツツキがふたりを見つめ、リスまでもが山神を気にしつつ湊の脚を駆け上がり、背中の麒麟の足跡に触れて去っていった。
湊はそうした生き物たちから興味を持たれることを素直に喜んだ。さらに、変形したブナの怪木や雪に耐えて根元から曲がった木々を見て、その力強さにも感嘆していた。山神もまた、過酷な環境でも生き延びる木々を気骨あるものとして好意的に見ていた。
木の精たちとの出会い
道中、湊は変形したブナに手を触れたことで、巨大な木の精と出会った。その精霊は苔玉のような姿をしており、自在に伸び縮みしながら湊の頭に乗るほど人懐っこかった。続いて別の木の精も現れ、こちらはブナの葉と実を頭につけた小ぶりな姿をしていた。湊は古道でいっぺんに二体もの木の精に会えたことに驚き、感動した。
その後も古道には数多くの木の精が棲んでいることが明らかになった。枝先に連なっていた精霊たちは大きく育っており、湊が木の年齢に対して精霊が大きいことを不思議に思うと、山神は彼らが宿主を変えながら生き延びてきたからだと説明した。木の精たちはその表現に反発しつつも、住む木を失った際には次の宿主へ移ることで存在をつないできたのだと認めていた。
木の精の贈り物と古道の豊かさ
湊が持参していたクスノキの葉を見せると、木の精たちは興味深そうに群がった。その中の一体は葉を欲しがり、湊は快く譲った。すると別の木の精は礼として自らの実を差し出した。その実はただの木の実ではなく、木の精の力を宿した特別なブナの実であった。クスノキほど特別な存在にはならないものの、確かな力を持つことが示され、湊は古道の自然の奥深さに触れた。
また、木の精たちは互いに盛んに会話しており、その際に立てる音が木の倒れる音のように響くことも明らかになった。湊はそれが、各地で語られてきた天狗倒しの正体ではないかと気づいた。山神もそれを認め、人間は正体不明の現象を妖怪や獣の仕業として名づけることで恐れを和らげてきたのだと語った。湊はその説明に納得しつつ、人間が妖怪へ責任を押しつけがちな性質にも思い至った。
悪霊に取り憑かれた若者の救済
古道を進む途中、修験者姿の案内人に率いられた別のツアー客の一団が現れた。その中に、足元もおぼつかず、瘴気をまとった若者がいた。湊は悪霊に取り憑かれていると気づき、対処しようとしたが、その前に山神が一声吠えた。神気を含んだ衝撃が一団を通り抜け、若者を縛っていた悪霊だけを祓った。
若者は急に身体が軽くなったことに戸惑い、周囲の者たちは犬か山犬の声だったのではないかとざわついた。案内人だけは山神の存在を知覚していたようで、合掌して感謝を捧げた。山神は念仏そのものにはこだわらず、感謝の念が届いていることを受け入れていたが、その案内人には大口真神と勘違いされていたらしいと湊は察した。山神もその可能性を認め、ふたりはその場を後にした。
古道の記憶と名水の送り主の正体
やがて古道は完全に黄葉に包まれ、林冠の間から青い山波が見える場所へ出た。湊はその景色に強い既視感を覚えた。山神は、それは過去世でこの道を歩いた時の記憶であろうと静かに告げ、その言葉は湊の心に自然に落ちた。湊は、自分がかつて人としてこの道を歩いたのかもしれないと感じ、感慨を深めた。
そして月山の方角を見た湊は、そこから感じる神気が山の神のものだけではないことに気づいた。山神はその違和感を認め、神の庭の名水の送り主は月山の神社に祀られているツクヨミであり、山の神の神気にツクヨミの神気が混じっているのだと明かした。これにより、長く気になっていた最後の名水の出処がついに判明した。
ツクヨミの眷属ミカヅキの来訪
湊が驚いていると、月山から光の塊が飛来し、ふたりの前に現れた。それは白くふわふわしたウサギであり、自らをツクヨミの眷属ミカヅキと名乗った。首元には三日月模様があり、月神の眷属にふさわしい姿をしていた。ミカヅキは山神とも旧知であり、明るく活発な性格でふたりを迎えた。
ミカヅキはちょうど月印の酒が出来上がる時期だと告げ、山神はそれを聞いて珍しく激しく喜びをあらわにした。その酒は神々を虜にするほどの逸品であり、山神は他の酒好きの神々が来る前に急がねばならぬと語った。湊にはその熱意がやや危うくも見えたが、神々にとってはそれほど特別な酒であることがうかがえた。
神々の酒と人の思いの力
ミカヅキは、酒造の神と呼ばれる神々の多くが大酒呑みであることを明かし、スクナヒコナやコノハナサクヤヒメ、さらにはイワナガヒメまで話題に上った。湊は神々の酒好きぶりに戦々恐々としたが、自身は酒を飲めない体質であると伝えた。ミカヅキはそれに強い衝撃を受けたものの、酒以外にもおいしい飲み物や食べ物があるとすぐに持ち直した。
さらにミカヅキは、月でウサギが餅をつくという伝承も、もともとそうだったのではなく、人間たちの強い思いが神に届いたことで始まったのだと説明した。山神も、人間の強い思いは数が多いほど神へ届きやすく、時に神々にとっては耳障りなほどであると語った。湊は、人の信仰や想像が神々のあり方にまで影響を与えることを知り、強い衝撃を受けた。
ツクヨミの神域への招待
やがてミカヅキは、ふたりを自らの神域へ案内すると告げ、虚空に円形の入口を開いた。山神は当然のように先へ進み、湊もそれに続こうとしたが、その前に振り返り、枝の上から手を振る木の精たちへ別れを告げた。古道で木の精たちの生き方や豊かな営みを知ることができたことを、湊は心からよかったと思っていた。
異空間へ踏み込むと、ミカヅキは人間である湊を気遣い、念のためそばにいると告げた。その言葉に湊はわずかな不安を覚えつつも、頼るしかないと受け入れた。こうして湊と山神は、木の精たちの見送る中、ツクヨミの神域へと足を踏み入れたのであった。
第5章 ずいぶん遠くへ来たもんだ
月の神域への到着
ミカヅキが開いた円形の内部は真っ白な空間で、その中央には上方へ続く白い階段が伸びていた。遠近感の狂う空間に湊は不安を覚えたが、ミカヅキが手すりを出現させたことで慎重に上ることができた。やがて階段の先には、濃藍の星空の下に白亜の巨大な宮殿がそびえる広大な空間が広がっていた。
ミカヅキはそれを月宮殿と呼び、湊は礼拝堂のような外観に圧倒された。さらに振り返った先には青い地球が浮かんでおり、ここが月そのものであることを知って驚愕した。山神は、ツクヨミが月に神域の出入り口を置いていること、人間には過酷な環境でも神々には何の支障もないことを説明した。湊は神々の力の大きさを改めて思い知らされた。
月宮殿の中庭とツクヨミの農作業
ミカヅキに導かれた先は宮殿内部ではなく、列柱廊に面した中庭であった。そこには広大な麦畑が広がっており、稲も育てられていることが語られた。ツクヨミが豊穣をもたらす神とされる理由もそこに通じていたが、それすら人々の信仰に応じた結果であることがほのめかされた。
麦畑の中には前屈みで収穫作業をしている人影があり、それこそがツクヨミであった。細身で上背があり、白髪を持ち、貴公子然とした容姿をしていたが、収穫を終えて身体を起こした途端に腰を痛めてしまった。その姿からは、気品と同時に妙な親しみやすさも漂っていた。
ツクヨミとの初対面と試し
ツクヨミは湊に首から下げていた鏡を預け、それを卵の殻に変えるという奇妙な茶番を見せたあと、すぐに元の鏡へ戻した。その気まぐれな振る舞いから、湊はツクヨミもまたスサノオとは別種の気分屋であると感じた。続いてツクヨミは改めて湊に向き直り、神気を絶え間なく浴びせかけて試した。
湊は後ずさりせずに耐え、柔和な態度を崩さなかった。ツクヨミはアマテラスや風神の力を使えばよいと促したが、湊はむやみに使いたくないと断った。その理由として、ここで力を使えば麦畑をめちゃくちゃにするかもしれないと述べると、ツクヨミはそれを即座に受け入れた。湊は、ツクヨミを諌めるには作物を引き合いに出すのが有効であると悟った。
名水の礼と月山の事情
湊は当初の目的であった神の庭の水について礼を伝えた。ツクヨミはそれを大したことではないと受け流したが、同時に自分は本来山の神ではなく、いまは兼任しているだけだと明かした。月山の山の神は千年ほど前から眠り続けており、その代役としてツクヨミが務めているのであった。
この説明により、湊は名水の送り主がツクヨミである理由を理解した。同時に、人間とは異なる神々の長大な時間感覚を改めて思い知った。
月印の酒の完成
ツクヨミの指示でミカヅキが動くと、地下のような空間から酒の香りがあふれ出し、手ぬぐいを巻いた多数のウサギたちが現れた。彼らは月印の酒の完成を告げ、その中心にはこも樽が据えられていた。ミカヅキはその酒を湊へ渡し、湊が飲めなくとも神や妖怪への振る舞いに使えばよいと勧めた。
湊は自分では飲めないが、山神がこの酒を非常に好いていることを思い出し、ありがたく受け取った。山神もその贈り物に強く反応し、月印の酒の価値が改めて示された。
酒を求める神々の襲来
その直後、遠く地球から新たな神気が迫り、月面が激しく揺れた。最初に現れたのはコノハナサクヤヒメとイワナガヒメであり、月印の酒を求めてすさまじい勢いで突入してきた。湊はそのただならぬ様子に怯えつつも挨拶をしたが、ふたりは酒しか見えていない状態であった。
山神が神気で制止すると、ふたりはようやく正気を取り戻した。しかし湊が持つこも樽を見た途端、再び激しく動揺した。彼女たちは自分たちの酒造りの参考にするためにも月印の酒を欲していたのであり、他神の酒を求める理由を山神に突かれても、最後には素直に他の神の酒も飲みたいと本音を明かした。さらに月印の酒はとても貴重な米で造られているため量産できず、今回は湊に渡した分しかないことが判明した。
スサノオの合流と宴の開始
続いて地球から神速でスサノオが現れた。彼もまた酒を求めており、なぜ酒を飲めない湊がその樽を持っているのかと殺気立って問い詰めた。そこへ山神が割って入り、皆で飲めばよいと提案したことで、場は一転して宴会の流れとなった。
麦畑の横にはウサギたちによって高台が設けられ、山神、コノハナサクヤヒメ、イワナガヒメ、スサノオが車座になって酒を酌み交わした。スサノオは自分の分が少ないと不満を漏らしたが、山神に一蹴された。一方、ツクヨミは高台の下で包丁を握り、ネギを刻みながら料理の支度をしていた。
芋煮会の準備とツクヨミのこだわり
湊はミカヅキや多数のウサギたちとともに炊事場で食事の支度を手伝うことになった。作る料理は芋煮であり、里芋を中心に大量の食材が用意されていた。風呂釜のような巨大な鍋も用意され、神々の食欲に見合った規模であることがうかがえた。
しかしツクヨミは途中で重大な欠落に気づいた。それは川がないことであった。芋煮会は本来河川敷で行うものだという強いこだわりを持つツクヨミは、最上川の舟運と船頭たちの宴に由来する歴史を説明し、河川敷なしでは芋煮会とは呼べないと断言した。そうして神力を用い、麦畑の一部をどかして川と河原を一瞬で作り上げた。
酔った神々による料理と兄弟喧嘩
料理が進む中、神々はすでにかなり酔っていた。コノハナサクヤヒメは酒に弱く、山神やスサノオも見事に出来上がっていた。芋煮の味付けがみそ味だと聞いて湊が豚汁のことかと口にしてしまった際には、ツクヨミが真顔でそれを否定し、芋煮への強いこだわりを見せた。
その後、神々は鍋に材料を次々と投入し始めたが、酔っているため手際はかなり危うかった。スサノオが強すぎる火を出したり、コノハナサクヤヒメが勢いよく材料を鍋へ放り込んだりしたものの、意外にも料理そのものは破綻しなかった。しかし同時に、ツクヨミとスサノオは神気をぶつけ合いながら兄弟喧嘩を始め、麦畑や川、砂丘にまで影響を及ぼした。山神は酔いながらも金粉の結界で炊事場と湊たちを守っていた。
芋煮の完成と終わらない宴
騒がしい調理の末、芋煮は無事に仕上がった。湊が味見をすると、里芋はちょうどよく煮えており、ミカヅキも味がしっかり染みていると認めた。こうして神々にも芋煮が振る舞われ、さらにおにぎりや漬物、煮物なども並び、宴は大いに盛り上がった。
だが宴は夜が更けても終わらなかった。湊は神々の宴が長く続くことを知り、ミカヅキの勧めに従って月宮殿の一室で休むことにした。湊は素直に申し出を受け入れ、月で一夜を過ごした。
翌朝の惨状と地球への帰還準備
翌朝、湊が再び庭へ戻ると、宴はまだ終わっていなかった。神々は荒野で車座になって飲み続けており、川は干上がり、地面はえぐれ、昨夜の激しい争いの痕跡が残っていた。スサノオとツクヨミは髪も衣も乱れ、山神も体毛が焦げていたが、コノハナサクヤヒメだけは変わらぬ美しさを保っていた。
その最中、再び巨人と化したスサノオとツクヨミが肉弾戦を始め、ついにはその余波で山神の顔に酒がかかった。酔った山神は即座に体当たりでスサノオを吹き飛ばし、酒瓶ごと地球へ向かわせてしまった。ミカヅキはその酒が人間に渡れば大変なことになると焦り、特にコノハナサクヤヒメの酒は人間が一口でも飲めば不老不死になると説明した。
それを聞いた湊は放置できないと判断し、自分も地球へ向かうことを決めた。山神は酔ってその場に倒れ込みながらも湊を送り出し、ミカヅキは即座に地球への出入口を開いた。こうして湊は、飛ばされた酒を回収するため、ふたたび地球へ戻ることになったのであった。
第6章 播磨、祖神の因縁に巻き込まれる
空港での違和感とクロへの気遣い
湊が神々の騒動に巻き込まれていた頃、播磨もまた別の厄介ごとの渦中にいた。東北の空港内を移動していた播磨は、視界の端に湊の姿が掠めた気がして歩調を緩めたが、見回してもその姿はなかった。肩には黒豹の幼獣クロがしがみついており、播磨はそれがすっかり定位置になっていることを改めて意識した。クロがそこにいるのが当たり前になり、いないと欠けているように感じる自分に、神がつくった神器の影響の大きさを思い知っていた。
また、クロが昨日から頻繁に眠るようになっていることも気がかりであった。異常は見えないため様子を見るしかなかったが、状態が続くなら山神へ相談しようと考えていた。仕事へ向かう最中でありながら、播磨の意識は終始クロに向いていたのである。
姉妹との合流と父親扱いされる播磨
播磨は姉の椿、妹の藤乃と合流した。姉妹は播磨が無意識にクロを撫でている様子を見て、周囲からは肩の上を撫でている奇妙な人物に見えると忠告した。播磨はそこで初めて自分の振る舞いに気づかされた。
その後、姉妹とともにいくつかの現場で悪霊祓いをこなし、最後の廃村へ向かう前にコンビニへ立ち寄った。車のそばでクロを気にかける播磨に対し、姉妹はその様子がまるでクロの父親のようだと言い切った。播磨は気恥ずかしさを覚えたが、姉妹はクロが頑丈な神器であり、そこまで過剰に心配する必要はないと諭した。
生霊に取り憑かれた男への対処
コンビニから出てきた若い男には、生霊の女が取り憑いていた。椿が男へ声をかけて注意を引き、その隙に藤乃が薙刀で生霊と男の情念だけを断ち切った。生霊は本体へ戻り、地面に残った情念も薙刀で消し去られた。
男は身体が軽くなった途端に椿を車へ誘うほど現金な態度を見せたが、播磨が椿のそばへ立つとすぐに諦めて去っていった。播磨は姉妹の行動を咎めなかったが、本来の職務外であっても見過ごせないのが彼女たちの性分であることを理解していた。
ミニバンから溢れた瘴気と悪霊退治
そこへ荷物を積み込んだ一台のミニバンが駐車場へ入ってきた。車が停まると同時に瘴気があふれ出し、運転手を押しのけるように悪霊たちが飛び出してきた。姉妹は冷静に得物を振るい、次々と悪霊を斬り伏せた。播磨もまた悪霊に対し九字を切り、強い霊力で爆散させた。
その様子を見た椿は、播磨が霊力を込めすぎていると指摘した。播磨は、クロによって霊力の器も量も増えたことで、まだ扱いに慣れていないのだと説明した。藤乃はクロのおかげで霊力を節約しすぎずに済むようになったと明るく言ったが、椿はかつて播磨の霊力が極端に少なかったことを踏まえ、やむをえなかったと補足した。
神器たちの機嫌と播磨の本質
藤乃がクロにばかり構うため、彼女の薙刀は機嫌を損ねて顕現を解きかねない様子を見せた。神器は意思を持つゆえに、一筋縄ではいかない存在である。姉は仕事中はクロへの接触を控えるよう藤乃を戒め、播磨もまた武器の使用はほどほどにと促した。神器は持ち主の霊力で顕現しているため、霊力を浪費しすぎれば消えてしまうからであった。
そんな中、腹だけが異様に膨れた人型の妖怪が猫を咥えて走ってきた。首輪をつけた猫を見た瞬間、播磨は反射的に妖怪の横っ面を殴り飛ばして霧散させた。猫は無事に逃げ去ったが、その荒っぽいやり方に姉妹は露骨に引いた。椿は播磨が最近は大人しくなったと思っていたが、昔の癖が出たのだろうと呆れ、播磨も否定しきれなかった。
空から降ってきたスサノオ
その直後、三人は同時に空を仰いだ。半月の前に黒い点が見えたかと思うと、膨大な神気をまとった若い男神が飛来した。現代服をまとい、顔を赤くし千鳥足で立つその神は、強烈な酒気を放っていた。播磨たちは片膝を折りながらも耐え、その存在が名だたる神であることを直感した。
男神は播磨を見るなり、武神だと勘違いして勝負の決着をつけると告げた。その正体はスサノオであった。播磨は即座に否定したが、姉妹は気質や性格が似ているからだと余計な納得を示した。播磨がそれを強く否定する間もなく、スサノオは目の前まで迫り、そのまま播磨の首をつかんで後方へ押した。
神域への拉致と残された姉妹
播磨は踏ん張ろうとしたが、そこに地面はなく、神の落とし穴によってスサノオとともに穴へ落とされた。肩のクロもろとも穴へ飲み込まれ、その入口は瞬時に閉じて消えた。姉妹は何もできず、ただそれを見送るしかなかった。
椿はスサノオのあまりに強大な神気に震えながらも、まずは落ち着くよう藤乃へ告げた。神域への入口は閉ざされており、ここで待っていても意味はないため、先に仕事を片付けるべきだと判断した。そして仕事が終われば、自ら祖神のもとへ行き、才賀を助けるために力を借りるつもりだと明かした。神界へ赴くには肉体から魂を切り離す秘術が必要であり、それが危険であることも承知していたが、それでも弟のために動く覚悟を固めた。
湊との遭遇と希望の芽
そんな姉妹の前へ、新たな人影が現れた。暗い車道沿いを歩いてきたのは湊であり、そのそばには光に包まれたウサギが浮かび、頭には酒瓶が載っていた。椿が人ならざる相手に通常の声量で話しかけるのは控えた方がよいと注意すると、湊はぎくりとしつつも、酒瓶を隠すように前へ出た。
椿は、自分たちはその手の酒に耐性があるから心配しなくていいと告げた。湊はその言葉に安心したものの、藤乃の様子から何か異変を察した。敏く真剣な顔になった湊を見て、椿は彼ならば弟を取り戻す手段を知っているかもしれないと希望を抱き、これまでの経緯を語り始めたのであった。
第7章 湊、播磨の代わりに陰陽師に
スサノオの神域で播磨が戦場に放り込まれる
スサノオとともに穴へ落ちた播磨は、神域にいた。そこはかつて穏やかな集落だったと思しき場所であったが、家々は潰れ、畑は穴だらけになり、山々まで鋭く切り裂かれていた。播磨は、その破壊の痕跡が自然災害ではなく、スサノオのような強大な力によるものだと察しつつ、猛然と襲いかかってくる相手の攻撃を辛うじて避け続けた。
播磨は自分が常人とは少し異なる身体であっても、あくまで人間であり、神と正面から渡り合える存在ではないと理解していた。霊力を込めた真言もスサノオにはほとんど効かず、ただ衣装を揺らしただけで終わった。クロは肩に張りついたまま幸せそうに眠り続けており、戦闘の助けにはならなかった。やがてスサノオは播磨が武神ではないとようやく気づいたが、その直後のくしゃみによって景色は一変し、播磨は突如として合戦場へ放り込まれた。
湊がスサノオの事情を説明する
一方その頃、コンビニ脇では椿と藤乃から事情を聞き終えた湊が、スサノオのしでかしたことに驚いていた。椿からスサノオと知り合いなのかと問われた湊は、気軽に話せる仲ではあるが、神域の場所までは知らないと正直に答えた。以前スサノオの神域へ行った時も、スサノオ自身が剣で道を開いたため、自力で辿れるわけではなかったのである。
さらに湊は、スサノオが普段は気さくでフレンドリーな面もあるが、突拍子もない行動を取り、好戦的なところもあると説明した。しかも今は相当酔っているため、播磨が神の力に対抗できない以上、状況はかなり危ういと考えた。椿と藤乃も、播磨たち神の血を引く者にわずかな神性はあっても、純粋な神に通用する力ではないと認めていた。
湊が悪霊祓いの手伝いを申し出る
椿は焦りを押し隠しつつも、まずは悪霊退治の仕事を片付け、その後に祖神のもとへ向かう決意を示した。湊は、その焦りを感じ取りながらも、少しでも早く仕事を終わらせるために自分も手伝うと申し出た。椿と藤乃は一般人を現場へ連れていくわけにはいかない立場であったが、湊が穢れに一切影響されない特異な体質であることを知っていたため、その申し出を受け入れた。
湊はミカヅキに事情を伝え、用が済んだら月へ向かって呼べば迎えに来ると約束を受けた。こうして湊は、播磨の代わりに陰陽師たちの現場へ加わることになった。
廃村に満ちる瘴気と湊の異質さ
三人が向かったのは山間の廃村であった。かつては宿場として賑わった場所らしかったが、今は集落全体が瘴気に覆われ、普通の人間なら近づくことすらためらう異様な場となっていた。椿と藤乃でさえ、身が穢れるような感覚に気を張っていたが、湊だけは何のためらいもなく集落へ踏み込んでいった。
椿と藤乃の目には、家々が見えなくなるほど悪霊がまとわりついているのがはっきり見えていた。しかし湊には、強い悪霊でなければ知覚できない。そこで椿は、ここにいるのは弱い悪霊ばかりだが、その数が膨大なのだと説明した。湊は悪霊の位置を把握できないことに負い目を感じていたが、椿はそのことを責めることはなかった。
湊の力による静かな悪霊祓い
湊はメモ帳と筆ペンを用い、胸の魂から翡翠色の力を筆先へと流し込んで文字を書いた。その動作は淀みなく自然で、一般的な術者には到底真似できないものであった。神の力を使うことも一瞬考えたが、結局はそれを控え、ただ翡翠の光をまとったまま集落を歩き始めた。
その祓い方は実に静かであった。湊はただ歩いているだけであるのに、周囲の悪霊は翡翠の光に触れると泡のように弾け、残滓すら残さず消えていった。椿はその様子に感嘆し、湊の穢れに対する強さは母方の血筋によるものだと確信した。さらに、彼の目が妖怪を視る特別なものであることも知り、その資質の異様さを改めて認識した。
湊の優しさと陰陽師に向かない資質
悪霊を祓う力は圧倒的であったが、湊自身は晴れやかな顔をしていなかった。悪霊の断末魔は彼には聞こえていないはずであったが、それでも複雑な表情を浮かべていた。椿と藤乃は、湊が優しすぎるからこそ、こうした仕事を続ければ心が疲弊して壊れてしまうだろうと感じた。
そのため二人は、湊が陰陽師の現場に本格的に関わるべきではないと改めて理解した。たとえ現場ではなく後方支援だけであっても、その力は十分ありがたいものであり、彼女たちは才賀と同じく、ただ湊に感謝するしかなかった。
神器の性質と藤乃の薙刀の反発
道中、椿は湊のすぐそばにいたやや大きな悪霊を斬り捨てた。神器は持ち主が望むものだけを斬れるため、人間の身体を傷つけることなく悪霊だけを祓えるのだと説明した。湊はその性能に驚きつつも、先ほど自分の身体を斬られて理解させられたことを苦笑混じりに受け止めた。
しかし藤乃の薙刀は、仕事の途中で機嫌を損ねてしまった。もともと神器は持ち主の護身のために作られたものであり、不特定多数の悪霊を祓うための道具ではない。藤乃は幼い頃から説得を重ねてどうにか協力を得ていたが、ついに顕現を解いて消えてしまった。椿は、それは藤乃の霊力が尽きかけていたことも理由だと見抜いていた。
神が人間に万能を与えない理由と播磨家の事情
神器が護身用でありながら霊力を消費させることを不思議がる湊に対し、椿は神は人間に万能なものを与えることはできないのだと説明した。もしそのような力を無制限に人へ渡せば、世の均衡が崩れ、人間が神にさえ歯向かう可能性があるからであった。
その流れで椿は、祖神が播磨にだけ異様に冷たい理由も明かした。播磨家の男は例外なく祖神に気質が似るため、祖神と互いに激しく反発し、過去には殺し合いにまで発展してきたのである。祖神はそれを望んでいるわけではなく、だからこそ才賀とは生まれた時から関わらないようにしていたのだと語った。
スサノオの本気の危険性に気づく
その事情を聞いた湊は、播磨が祖神に似ているならば、泥酔したスサノオに本気で武神と誤認されたまま挑まれている可能性が高いと気づいた。椿も藤乃もその指摘に硬直した。空は白み始め、なお半月が浮かんでいたが、その月はまるで不敵に笑っているかのようであった。
こうして三人は、悪霊祓いを続けながらも、播磨が極めて危険な状況に置かれていることをはっきり自覚したのであった。
第8章 播磨もまた代行者に
過去の戦場へ移された播磨
照りつける陽光の下、播磨はスサノオとともに合戦寸前の戦場に立っていた。片方の軍勢は祖神の名を掲げた軍旗を翻しており、播磨はここが過去の世界なのだと悟った。スサノオはくしゃみの拍子に妙な場所へつながってしまったと気軽に言い放ち、さらには播磨自身もこの時代には存在していないため、水たまりに姿が映らないのだと説明した。直前には、現代に近い別の時間軸の播磨の姿まで見せており、播磨は神が時間を自在に行き来できることにあらためて戦慄した。
神剣への違和感とクロの本質
スサノオは播磨が武神の子孫であると見抜くと、木の棒を投げ渡し、それを剣へと変化させた。その剣で勝負を挑まれた播磨は応戦したものの、剣は異様に手に馴染まず、強い違和感を覚えた。すると肩で眠っていたクロが目を覚まし、不機嫌さをあらわにしながら播磨の手の剣を退け、自ら黒い刀へと姿を変えた。
播磨はその瞬間、クロの本質がこの刀の姿にあると悟った。姉妹たちが神器以外の武器を用いない理由もそこで理解した。クロが変じた刀は播磨の手に驚くほど馴染み、ようやく自分の武器を得たような感覚をもたらした。スサノオもそれを見て、播磨が武神から良いものを与えられていると認めた。
弔い合戦への介入
やがて戦場では合戦の火蓋が切られた。武神の旗を掲げる側は騎馬隊や槍隊で突撃したが、相手方は鉄砲隊を備えており、前衛が次々と銃弾に倒れていった。それでも武士たちは武神の加護を信じ、士気を落とさず進軍した。播磨には、その加護が誰にも及んでいないことがわかっていたが、目の前の一方的な殺戮を黙って見過ごすことはできなかった。
播磨は倒れた騎手の馬へ飛び乗り、神の血に由来する力で馬を従わせると、敵陣の側面へ回り込んだ。そしてクロの刀を振るい、火縄銃の銃身を次々と断ち切った。これにより鉄砲隊は主力を失い、戦況は大きく変化した。
スサノオによる戦場の改変
播磨の行動を見たスサノオは愉快そうに口笛を吹き、やはり鉄砲は戦にふさわしくないと断じた。そして神剣を振るって残る銃身をすべて切り落とし、さらに弓も飛び道具だから駄目だと言って武神方の弓隊の弦まで断ち切ってしまった。こうして戦場は近接武器だけで戦う形に変えられた。
スサノオはそれを平等だと満足げに笑ったが、播磨にはとても平等とは思えなかった。それでも戦場は神の気まぐれによって強引に姿を変えられ、播磨はその理不尽さに呆れるしかなかった。
廃村の浄化と不穏な石柱
一方その頃、現代では湊、椿、藤乃が廃村の悪霊を祓い終えていた。夜明けとともに荒れた集落の姿があらわになり、かつて宿場として栄えた面影が、家々や看板、生活道具の残骸からうかがえた。悪霊が消えたことで、廃村には不気味さよりも取り残された生活の気配が漂っていた。
そこで湊は、集落外れの木々の間に開けた場所と、そこに立つ傾いた石柱に気づいた。何も刻まれていない石柱が妙に気になり、湊は触れて動かそうとした。すると石柱は倒れ、その下から妖気が噴き出した。椿と藤乃は即座に湊を引き離し、封じられていた妖怪が解放されたことを理解した。
封印から現れた半人半牛の妖怪
石柱の下から現れたのは、上半身が人、下半身が牛の異形の妖怪であった。その胸には独鈷杵が刺さっており、それが封印の要であったが、力尽きて砕け散ったことで封印が解けたのだと椿は判断した。湊は自分が触れたせいで解放してしまったことを気にしたが、椿は封印自体が限界にきており、遅かれ早かれ解けていただろうと告げた。
しかしその妖怪の妖気は異様に重く、神気に匹敵するほど強大でありながら、禍々しさに満ちていた。湊でさえ気分が悪くなるほどの圧であり、ただの妖怪では済まない存在であることが明らかであった。
妖怪との対峙と湊のためらい
妖怪は膨れ上がる妖気を鞭のように振るい、三人を包み込もうとした。湊は以前、穢れた神域で受けたものと似た妖気だと感じ、今度は自ら風神の力を用いて蒼い刃の風で切り裂いた。椿も太刀で、藤乃も薙刀で繭を断ち切り、三人は妖気の拘束から逃れた。
だが、目の前に立ちはだかった妖怪を前に、湊は風を放つことができなかった。普段から妖怪たちと対等に接し、仲良くしたいと願ってきた湊にとって、人を憎む妖怪であっても即座に討つ決断はできなかったのである。相手にも何か事情があるのではないかと考え、まずは話しかけようとした。しかし妖怪は言葉を返さず、妖気の塊を放ってきた。
播磨の帰還と妖怪の討伐
湊が攻撃を避けた次の瞬間、妖怪の胴体に光る横一文字が走った。上半身が滑り落ち、その背後には刀を振り下ろした播磨が立っていた。播磨の背後には縦に裂けた空間があり、その向こうには甲冑姿の者たちが戦う戦場が一瞬見えたが、すぐに閉じて消えた。妖怪もまたその裂け目とともに消滅した。
湊は助けられたことに礼を述べながら、播磨の手にある黒い刀がクロであることに気づいた。名を呼ぶと刀はたちまち黒豹の姿へ戻り、嬉々として湊に飛びついた。クロは完全に湊を遊び相手だと思っており、顎や首元に噛みついてじゃれついた。湊は痛がりながらも、その加減が前より上手くなったことを感じ取った。
クロを巡る姉妹の反応
播磨が申し訳なさそうにしている横で、藤乃はクロが刀にまでなれることを知って心底羨ましがった。しかしその一言に反応して、藤乃の薙刀が即座に顕現し、激しく怒りを示した。藤乃は慌てて冗談だと謝り、必死になって機嫌を取ろうとした。
こうして、妖怪との緊迫した戦いのあとでありながら、クロのはしゃぐ声と藤乃の悲鳴まじりの謝罪が晴れた朝空に軽やかに響いたのであった。
第9章 陰陽師らと慰労会
スサノオの神域から戻った播磨と妖怪封印の事情
スサノオの神域を無理やり斬り裂いて戻ってきた播磨は、二度とあの神とは関わりたくないと吐き捨てた。その後、封印されていた妖怪についても説明した。凶暴で人間を敵とみなす妖怪は珍しくなく、過去には倒せなかったために封印されてきたのだという。魑魅魍魎が跋扈していた平安の頃は陰陽師の力量も高かったが、妖怪の減少とともに陰陽師の力も衰え、江戸の頃には封印に頼るしかなくなっていた。
当時は腕利きの呪具師がおり、呪具と術者の霊力を合わせて妖怪を封じることができた。しかし時が経つにつれて呪具の効力は薄れ、封印が維持できなくなっていることもあると播磨は語った。湊はその事情を聞き、妖怪が封じられていること自体が特別ではないのだと知った。
温泉宿での慰労会と播磨一族の集まり
ひとまず場所を移した一行は、川沿いの温泉街にある旅館へ入った。湊は浴衣姿となり、湯上がりの身で播磨たちと同席していた。そこには播磨、椿だけでなく、迎えに来た伴侶と入れ替わるように現れた親族たちや、一条と堀川まで加わっていた。卓上には大量の料理と酒が並び、陰陽師たちの仕事終わりの慰労会が始まっていた。
椿がもう仕事の話はいいと明るく言ったことで場が和み、皆は飲食を再開した。湊は酒を勧められることもなく、お茶を飲みながらその空気に加わっていたが、普段とは異なる面々に囲まれた場に気を遣っていた。
クロをめぐるやり取りと播磨の変化
湊がクロは食べないのかと尋ねると、播磨は膝の上のクロを見下ろしもせず、いらないと言っていると答えた。播磨は食事よりも酒の方が進んでおり、しかもストレートの酒を次々と飲んでいた。そこで湊が冗談めかしてクロに告げ口すると、クロは播磨に頭突きを食らわせた。椿や親族たちは、クロがそのような反応を見せたことに驚いた。
播磨一族は、クロを含め自分たちの武器は基本的に従順であり、持ち主に危害を加えることはないと説明した。ただし、言うことを聞かないことはあり、特に藤乃の薙刀はその傾向が強いとも語った。播磨はクロに唐揚げを食べさせようとしたが、すげなくそっぽを向かれた。父がうまい物ばかり食べさせるせいで舌が肥えたのだと播磨は言い、湊はクロに食べ物を教えたのが自分であることを思い出して気まずさを覚えた。
播磨一族の伴侶観と一条の不器用な執着
宴席では、椿の伴侶からの着信がひっきりなしに続いていた。湊が愛されすぎるのも大変そうだと漏らすと、椿は自分も同じくらい愛しているから問題ないと、ためらいなく言い切った。播磨一族の伴侶は祖神が決めるとされており、家の存続のためではなく、当人ともっとも相性の良い相手が選ばれるのだという。湊は、その判断が前世からのつながりに基づくのではないかと想像したが、深く追及はしなかった。
一方、一条は湊をじろじろ見るなと刺々しく言いながら、堀川への執着を隠せていなかった。湊が堀川に、あちらの方は旦那なのかと尋ねると、堀川はただの親戚だと晴れやかに答えた。その返答に一条は大きく打ちのめされた。湊は一条と以前どこかで会った気もしたが、特に親しくなりたいとも思わず、その話題は流した。周囲の播磨一族も一条をさりげなく牽制し、場を収めていた。
ベランダでの静かな対話
やがて湊はさりげなく部屋を抜け、ベランダの安楽椅子に座って外を眺めていた。川向こうの宿の灯りが水面に映り、瀬音と硫黄の匂いが漂うその風景に、実家の温泉宿を重ねていたのかもしれなかった。播磨もその後を追い、向かいに腰を下ろした。クロはすぐに湊の膝へ飛び移り、湊は慣れた手つきでひっくり返して抱き上げ、肉球や爪の様子を確かめていった。
湊はクロの心情を正確に汲み取っているように見え、播磨はその扱いのうまさに軽く衝撃を受けた。だがそのやり取りの最中にも、湊の表情にはわずかな陰りが残っていた。播磨が悩みでもあるのかと問うと、湊はあの時、妖怪を倒せなかったことがどうにも引っかかっていると打ち明けた。
妖怪を倒せなかったことへの葛藤
湊は、半人半牛の妖怪と対峙した際、自分が風を放てなかったことを気にしていた。相手が人間を憎むに至った理由があるのではないかと考えてしまい、即座に倒す決断ができなかったのである。播磨は、別に無理して倒さなくてもいいだろうと率直に言った。湊は陰陽師でも祓い屋でもないのだから、そこまで背負う必要はないという考えであった。
しかし湊はなおも割り切れずにいた。そこで播磨は、湊が有する風神ではないもう一つの神の力について尋ねた。湊は少しためらいながらも、その力はさまざまなものを箱のようなものに閉じ込められる力であり、物理的なものだけでなく概念的なものも対象にできると説明した。実際に他者を恨む気持ちだけを閉じ込めたこともあると明かした。
アマテラスの力の性質と新たな可能性
播磨はその説明を聞き、それは封じる力なのだと理解した。さらに問いを重ねると、湊はその力を使えば、物理的なものだけでなく、他者の能力のようなものも奪って閉じ込められるかもしれないと語った。身体能力や記憶力にまで及ぶ可能性を口にしながら、湊は自分の力の危うさをいまさら実感していた。播磨はその鈍さに呆れつつも、神の力とは本来そういうものなのだと受け止めていた。
そのうえで播磨は、妖怪を相手にするなら妖力だけを奪えばいいと示唆した。妖怪には妖魂という力の根源があり、その在り処は個体ごとに異なるが、そこを見極められれば、湊の力で妖力だけを封じることも可能なはずであった。湊はその発想に目を開き、御山には妖怪が多いから、見極める練習もできるかもしれないと考え始めた。
クロとの遊びと山神の気配
考え込む湊に対し、クロはチョウチンアンコウのぬいぐるみを押しつけてきた。これは山神がおもちゃとして与えたものであり、クロはどれだけ攻撃しても壊れないそのぬいぐるみを大事にしていた。湊はその提灯部分を引っ張って長く伸ばし、釣り竿のようにしてクロと遊び始めた。播磨は初めてその仕掛けを知り、思わず身を乗り出した。
湊は、クロが望んだからこそこのぬいぐるみは形を変えられるのであり、山神がそういうふうに作ったのだと説明した。播磨は山神への礼を口にし、湊はそれを伝えると請け負った。すると空の雲が晴れ、半月が顔を出した直後、濃い神気が上空に現れた。
山神の出迎えと別れ
月を背に、巨躯の狼が虚空を歩いて近づいてきた。長毛を風に遊ばせ、金の粒子を振りまきながら歩むその姿は、播磨には圧倒的に神々しく映った。だが湊は、山神がのんびり空中を歩くところは初めて見たと、のんきに笑っていた。
湊は帰りますと言って立ち上がり、チョウチンアンコウを元の長さに戻してクロに渡した。そしてクロにまたねと声をかけ、差し出された前足と握手を交わした。こうして湊は、播磨たちとの慰労会を終え、再び神々の側へ戻っていったのであった。
第10章 湊と播磨、それぞれの後日談
送り犬とともに祠掃除へ向かう湊
湊は早朝から、恒例の祠掃除のため方丈山を登っていた。今回のお供は山神一家ではなく送り犬であり、送りではなく迎えに来てくれたその存在に、湊は素直に頬を緩めていた。先日、妖怪絡みで気持ちが沈むこともあったが、こうして歩み寄ってくれる妖怪がいることで、気分はあっさり持ち直していた。とりわけ犬の姿をした送り犬と山を歩くことは、幼い頃からの夢でもあった。
道中、足を滑らせかけた湊に対し、送り犬は即座に毛を逆立てて警戒を示した。送り犬に送られている最中に転ぶと食われるという言い伝えを思わせる反応であり、湊は転ばないよう気をつけると謝った。送り犬は気を鎮めたが、湊はあらためて、妖怪とは神とも人とも違う、なあなあでは済まされない存在なのだと実感した。
妖魂を探ろうとして妖怪に警戒される湊
湊は、今後のためにも妖怪の妖魂の在り処を見極めたいと考えていた。だが送り犬にさえ唸られ、その試みによい顔をされなかった。山道で出会った妖怪たちも同様であり、ろくろ首は湊の反応が薄いと見るや姿を消し、下駄だけで歩く妖怪も湊の視線に気づいた途端、全力で逃げ去ってしまった。
湊は、妖怪たちがいつもより避けるような態度を取る理由に気づき始めた。妖魂を探られることは、妖怪にとって不快なのだと理解したのである。己も神に魂を凝視されれば気分がよくないのだから、妖怪たちも同じなのだろうと考えた。それでも湊は、今後のために諦めるわけにはいかないと思っていた。
カワウソと野衾から明確に拒まれる
かずら橋では、以前出会ったカワウソの妖怪と再会した。カワウソはこの地へ引っ越してきたのだと軽妙に告げ、湊と気安く言葉を交わした。しかし湊がその妖気の出処を探ろうとすると、カワウソは即座にそれを察し、中身を探られて喜ぶ妖怪などいないと不満を示した。湊は素直に謝り、今後は気をつけると約束した。
その後、野衾もまた湊の顔を塞ごうとして失敗し、いつも通り悪態をついた。湊はついその気配から妖魂を探ろうとしたが、野衾はびくりと飛び上がり、失礼だと怒って逃げてしまった。送り犬も当然だと言わんばかりの反応を見せ、湊は妖魂を探ることが妖怪たちにとってどれほど嫌なことかを痛感した。それでもなお、今後のために方法を考えねばならないと感じ、酒好きのたぬ蔵なら交渉できるかもしれないと思い至った。
播磨邸でクロの世話をする播磨
その頃、播磨は自室のソファから、クスノキで爪を研ぐクロを眺めていた。クロは樹皮を削ろうと容赦なく爪を立てていたが、クスノキはびくともしなかった。爪を研ぎ終えたクロは顔を洗い、やがて播磨のもとへ戻って背を向けたため、播磨は日課のようにブラシをかけ始めた。
播磨は、クロに他人の前では決して姿を現すな、怪力であることも忘れるなと注意した。しかしクロは気楽に返事をするばかりで、どこまで理解しているのか怪しかった。播磨は日々の手入れを欠かさなかったが、その理由は汚れや臭いのためではなく、神器が手入れを好み、放置すると機嫌を損ねるからであった。クロもまた、動物の姿をしている分だけわかりやすく、ブラッシングを好んでいた。
刀にならないクロと黒豹の姿への執着
播磨は、クロが刀になったのは一度きりであり、本来の姿は刀なのではないかと気にしていた。だがクロは、いまの黒豹の姿がいいと視線だけで伝え、そのまま居間へ向かった。そこでは姉妹の神器たちも、それぞれの個性を見せていた。藤乃の薙刀は不満げに震え、椿の太刀はクロの相手をして翻弄していたが、椿の一言で即座に従った。
播磨は、その様子からクロが誰を主と見るべきかもきちんと見極めているのだと感じた。神器たちはいずれも強い自我を持ち、意思ある存在として接しなければならないことを、播磨は改めて実感していた。
姪たちとクロの朝のひととき
やがて椿の娘たちが居間へ入り、クロに挨拶した。長女の茉莉花は新しい服を見せびらかし、播磨にデートかとからかわれて真っ赤になって否定した。実際には婚約者と遊園地へ行くだけであったが、以前は会うのを嫌がっていた相手に今は好意を抱いている様子であり、播磨は生ぬるい視線を向けた。
次女の雛菊は、相棒のテディベアをクロへ差し出した。するとクロもチョウチンアンコウのぬいぐるみを出現させ、ふたつのぬいぐるみが向かい合った。雛菊はテディベアを式神にしたいと願っており、チョウチンアンコウに宿る山神の力を羨ましがっていた。その様子を見た播磨は、ぬいぐるみに込められた山神の力を返しに、近いうちに楠木邸へ行かなければならないと思い出した。
義兄とクロの朝の攻防
そこへ姪たちの父である佐輔も現れた。寝起きのまま姉のそばへ寄ろうとした佐輔に、クロは即座に飛びかかり、佐輔もまた棒手裏剣で応戦した。ふたりは火花を散らしながらやり合ったが、周囲の者は誰も慌てることなく見守っていた。佐輔は忍びの一族の出であり、幼い頃から夜討ち朝駆けで鍛えられているため、クロに狙われることにも慣れていたのである。
とはいえ、クロの相手は決して楽ではなく、佐輔は播磨にきちんと躾けろと文句を言った。播磨はそれを軽く受け流し、クロに遊んでもらえてよかったなと返した。クロも嬉しげに鳴き、さらに佐輔の背後を取ってじゃれついた。こうして、播磨邸には朝から賑やかな声が響き、平和な日常が続いていたのであった。
第11章 カエンの眷属やいかに
舟づくりの傍らで行われる神域づくりの講座
湊はクスノキの近くで、スクナヒコナに渡す舟を作り直していた。一度仕上げて試乗したものの納得がいかず、一から作り直していたのである。作業には慣れてきていたが、相手が神である以上、細心の注意を払わねばならないと自覚していた。
その傍らでは、山神がカエンに神域づくりを教えていた。山神は二つの小さな神域を用意し、その中に咲くリンドウを用いて時間の進行と巻き戻しを実演した。花を枯らし、さらに蕾へと戻して土へ還す一連の御業を見せたあと、神域自体も消し去った。カエンはその様子を熱心に観察し、ようやく理解できたと意気込んだが、実際に神域へ戻って試してみると失敗し、煤まみれのままとぼとぼ出てきた。
散らかった神域と眷属を持つ提案
湊はカエンの神域の中が以前にも増して荒れていることに驚いた。鉄器が増え、床に積み上がり、作業場としても危うい状態であった。湊は片付けを手伝おうと申し出たが、カエンはそれを断った。しかし実際には、倒れた鉄器の下敷きになって身動きが取れなくなることもあると打ち明け、作業環境が悪いこと自体は認めていた。
そこで山神は、カエンも眷属を持てばよいと提案した。神である以上それは可能であり、乗り物を作れたカエンなら眷属も作れるだろうという見立てであった。さらに眷属がいれば鍛冶仕事の助手にもなると言われ、カエンはその案に乗り気になった。
眷属の姿をめぐる迷い
カエンは眷属を作る決意をしたが、自分と同じ姿にはしたくないと考えた。そこで湊は、御山にいる動物を見て決めればよいのではないかと提案した。カエンは後に山へ移る以上、この地にいないエゾモモンガの姿より、御山に棲む獣の方が都合がよいとも考えられた。
湊は、カエンがまだ外の世界にも妖怪にも十分慣れていないことから不安を覚えたが、山神はカエンが見境なく暴れる性質ではないと受け止めていた。最終的にウツギが呼ばれ、カエンとともに御山の獣たちを見に行くことになった。そこへセリとトリカも加わり、小さな眷属たちは四体で山へ向かった。
山神の視点で眺める御山の探索
カエンたちが去ったあとも、湊は気になって舟づくりに集中できなかった。そこで山神は、神の視点を体験させてやろうと申し出た。以前のような水面ではなく、今度は山神と湊の間に立体的な方丈山の映像を出現させ、その中を駆けるカエンたちの様子を見せた。
湊は、眷属たちが並んで走るだけでも微笑ましいと感じた。山中ではリスやツキノワグマ、たぬ蔵、新入りのカワウソなど、さまざまな獣や妖怪が候補として観察された。カエンはリスを小さすぎると評し、ツキノワグマには興味を示しつつも大きすぎると判断した。たぬ蔵とは相変わらず反りが合わず、互いに選ばれたくないと応酬した。カワウソについては、水場を常に用意しなければならないのが面倒だとして候補から外した。
鍛冶場への関心と人間への興味
探索の途中で登山客の姿を見たカエンは、人間にも関心を向け始めた。セリは、人間は器用さの面で群を抜いていると指摘し、ウツギは平地の人間も見てみればよいと勧めた。湊は、まだ山の外へ出すのは早いと強く心配したが、山神はセリたちがついている以上問題ないと判断した。湊も最終的には、それをカエン自身が決めることだと受け入れた。
山神は、昔からある鍛冶場があると教え、そこなら鍛冶の神への信仰も残っているだろうと考えていた。鍛冶場の関係者であれば、カエンも心を開きやすいかもしれないと見込んだのである。カエンたちはその場所へ向かい、湊と山神は池に張った水の幕を通して、その様子を平面的に観察した。
鍛冶場で見た現代の刀鍛冶
水鏡の向こうでは、老いた刀匠と若い弟子が刀を鍛えていた。火花が散る鍛冶場を見たカエンは、刀だと強い関心を示した。セリとトリカは、現代では刀鍛冶も少なくなり、玉鋼の質も古代と異なると説明したが、カエンはそれを不満げに受け止めた。それでも炉や水槽、神棚に至るまで鍛冶場を熱心に見て回り、その場の空気を真剣に受け止めていた。
弟子の少年は、セリたちの存在をはっきり視認していた。特にカエンに強く惹かれており、内心で愛らしさにもだえている様子が見て取れた。鍛錬の最中、火花が刀匠の顔へ飛びそうになった場面では、天井に張りついていたカエンが尾から風を放ってそれを逸らした。少年だけがその助けに気づいていた。
少年とのやりとりとカエンの変化
作業が一段落したところで、セリは帰ろうと促した。カエンも名残惜しそうにしながら従い、鍛冶場を後にした。すると弟子の少年が外へ飛び出し、カエンに向かって礼を述べたうえで、また来てくれるかと懸命に頼んだ。
カエンはすぐには振り返らなかったが、やがて前を向いたまま、気が向いたら来るかもしれないのじゃと小さく答えた。その言葉を受けた少年は大いに喜び、またいつでも来てほしいと告げた。カエンはそれ以上言葉を返さず、ウツギの背に乗って御山をあとにした。
眷属選びの結論と意外な発想
夕暮れ時、カエンたちは楠木邸へ戻った。湊が眷属の形は決まったかと問うと、カエンは決まらないと答えた。セリはじっくり考えればよいと言い、トリカとウツギは急がなくてもよいが神域の片付けは早急にすべきだと現実的な意見を述べた。
その流れで、湊は鳥型飛行機のことを思い出した。カエンが一番手をかけて作ったあの飛行機を眷属にすればよいのではないかと提案したのである。山神たちもそれは思いつかなかっただけで、規則に反するものではないと認めた。山神は、あの飛行機はもともと意思を持っているが弱々しいものであり、御魂を入れれば強化され、自在に話し動けるようになると説明した。
飛行機を眷属にする決意
カエンは、自分が傷だらけになりながら作った飛行機のことを思い返し、それを眷属にすることを決めた。ただし今の形はまだ気に入らず、もっと見栄えよく改造したいと考えていた。そのため、さっそく神域へこもって改造に取りかかると宣言した。
神域へ入る前、カエンはしばらく閉じこもるが心配は無用だと伝えた。湊は、ごはんでもお菓子でも食べにおいでと声をかけ、カエンもそれに頷いて神域へ引っ込んだ。こうしてカエンは、初めての眷属づくりに本格的に取り組むことになった。
ラバーダックと日常のにぎわい
カエンが去ったあと、山神が寝返りを打つと、露天風呂のラバーダックが絶妙なタイミングで鳴いた。湊が無言で見ると、セリたちはあれは誰の眷属でもなく、山神が気まぐれで鳴らしているだけだと説明した。
湊は、その音が風鈴の代わりのように感じられ、にぎやかで悪くないと受け止めた。湯船に浮かぶラバーダックは、何事もなかったような顔でぷかぷか揺れており、楠木邸の日常の一幕として穏やかにそこにあったのであった。
第12章 変わったようで変わらぬ神の庭
四霊たちの近況と霊亀の実感
霊亀は、雨の降る外界とは無縁の神の庭で、遠く離れた仲間たちへ念話を送っていた。南にいる鳳凰は朱雀のもとで療養しつつも、相変わらず職人探しへの情熱を失っていなかった。東にいる応龍は青龍の神域で大人しくしているものの、好みの酒であるワインがないことに不満を募らせていた。北にいる麒麟もまた、過酷な土地で生きる人間たちを観察して楽しんでいたが、その話は相変わらず長かった。
それぞれが旅先で変わったものを見て楽しんでいることを知りつつも、霊亀は、いま自分が見ている楠木邸の庭ほど変わった場所はそうないと感じていた。かつて四霊が長く揃って過ごしたこの場所は、仲間たちが去ったあともなお、独特の賑わいと異質さを保ち続けていた。
クスノキへの水やりとマンドラゴラの成長
クスノキのもとでは、湊が日課の水やりをしていた。この日はウツギがマンドラゴラのドラちゃんを連れてきており、クスノキとともにミストシャワーを浴びせてもらっていた。ドラちゃんは以前、神域でティラノサウルスもどきに葉を与えたことがあるが、その時も若葉が生えたほど強い力を持っていた。今回も湊の水を受け、元気そうに葉を見せつけていた。
しかしセリとトリカは、その葉の効能を問題視していた。たった一枚で大きな存在を酩酊させるほどの力があり、さらにドラちゃん自身から漂う甘い香りも危険なものであった。湊も、それに引き寄せられそうになる自分を自覚しており、神の実に慣らされていたからこそ自制できているのだと理解した。
マンドラゴラの衰弱とオタネニンジンによる復活
その最中、ドラちゃんは突然葉を伸ばしたあと、急速にしおれはじめた。湊も眷属たちも一斉に動揺し、水のやりすぎではないか、枯れてしまうのではないかと騒然となった。そこへ目を覚ました山神が、ドラちゃんは急激に成長したために栄養が足りなくなったのだと見抜いた。
湊は園芸用の栄養剤やヒサメの土を思いついたが、山神はどれも役に立たないと否定した。ドラちゃんはすでに風神の力と池の水の影響で、普通のマンドラゴラとは別物になっていたからである。そこで湊は麒麟からもらった特製のオタネニンジンを与えることを提案し、山神もそれを認めた。ドラちゃんはそれをむさぼり食い、たちまち活力を取り戻した。葉はすべて生え変わり、より艶やかで厚みを増し、さらには透明な釣り鐘型の花まで咲かせたのであった。
リンゴケーキ作りと山神の和菓子談義
その後、湊はクスノキのもとでリンゴケーキを作っていた。カエンが作ったスキレットを使い、紅玉を焼いていたが、カエンは熱の通りの不均一さに納得していなかった。出来はまだ不満らしかったが、焼けるリンゴの香りには大いに惹かれていた。
一方で山神は、地域情報誌の和菓子特集を夢中になって眺めていた。秋限定の和菓子や新ショウガ餅などに心を奪われ、文句を言いながらも尻尾を振り続けていた。湊が新ショウガの和菓子を今度買ってくると約束すると、山神は神気まで放って喜びをあらわにした。だが、最終的には雑誌の菓子よりも、目の前で焼かれるリンゴケーキの香りの方に抗えず、出来立てに敵うものはないと認めた。
眷属たちと風神雷神を交えた賑やかな茶会
焼き上がったリンゴケーキを切り分けようとすると、香りに誘われてセリ、トリカ、ウツギが集まってきた。さらに風神と雷神まで現れ、ケーキは次々と人数に合わせて細かく分けられることになった。雷神はカエンの作った鋳物を褒め、カエンは緊張しながらも丁重に応じた。
こうして一口大に切り分けられたリンゴケーキを囲み、湊たちは穏やかなひとときを過ごした。神の庭は、もはや昔の伝統的な日本庭園とは大きく姿を変えていたが、その変化もまた神の庭らしさであると湊は感じていた。雨の降らぬ庭、差し込む秋の陽光、複数の神や眷属たちの相槌に包まれながら、湊はこの場所の賑わいを心から嬉しく思っていた。
風鈴じまいと夏の終わり
夕刻、湊はクスノキのもとで風鈴を丁寧に磨いていた。夏の間ずっと働いてくれた風鈴を労うためであり、この日は風鈴じまいの日でもあった。風鈴は自ら、夏が終わった以上、もうしまってほしいと申し出ていた。
カエンは、寺院の風鐸のように一年中吊るされていてもおかしくないと引き止めたが、風鈴はあくまで自分は夏の風物詩であり、夏とともに去るものだというこだわりを曲げなかった。湊は苦笑しながら、また来年を願う気持ちで風鈴を木箱へ収めた。諦めて座り込んだカエンの尻に潰されたラバーダックが鳴き、その音はまるで風鈴の代わりに自分がいると慰めているようであった。
第13章 【特別編】平安時代の湊と播磨の旅、もふもふ付き
滝場での休息とミナトとハリマの対照
平安時代、ミナトとハリマは山麓の滝の途中にある岩場で足を止めていた。水しぶきの届かぬ場所は涼しく、ミナトに抱えられていた太郎も水辺の心地よさに落ち着きを見せた。ミナトは太郎を下ろして水を飲ませ、滝の下で身を清める者たちを気にするハリマを軽くいなした。
ハリマは都育ちで、山道にも慣れておらず疲労を隠せなかったが、ミナトはそれを見越して休憩を取っていた。陰陽師として名の知れたミナトに弟子入りを望み、ついてきたのがハリマであった。二人は育ちも気質も異なっていたが、ともに行動をしていた。ミナトは三十を迎えた己を年寄りだと笑い、若く感情の出やすいハリマとの差をあらためて感じていた。
ミナトの素性と旅暮らしの在り方
ハリマは、貴族であるはずのミナトの粗野な所作をたしなめた。陰陽寮に属するには貴族でなければならないからである。しかしミナトは、自分はもともと孤児であり、莫大な霊力ゆえに陰陽道宗家に養子として迎えられた身だと明かした。厳しい養父には感謝していたが、その死後に起きた跡目争いの末、家を追い出されていた。
その結果、ミナトはいま、風任せの祓い屋として諸国を巡る生活を送っていた。都とは言葉も風習も違う土地を面白がり、その地の名産に思いを巡らせる余裕もあった。旅の相棒である太郎も団子や肉を喜ぶ変わり種であり、ミナトはそんな太郎を可愛がっていた。
太郎という存在への信頼
太郎は山犬と狼の血を引くと思しき獣であり、幼い頃に行き倒れていたところをミナトに拾われた存在であった。団子によって息を吹き返して以来、太郎はミナトのそばを離れず、危険な獣や悪しきものを恐れぬ頼もしさも見せていた。ハリマは獣臭さや抜け毛を嫌がって距離を置いていたが、ミナトは太郎を高く評価していた。
休憩を終えた二人は、国司から依頼された音の怪を調べるため、さらに山奥へ向かうことにした。その途中でも、ミナトは太郎の働きぶりを疑わず、ハリマとは違う基準で状況を判断していた。
山中で響く怪音と木の精霊の存在
山道を進む最中、突如として大木が倒れるような音が響いた。だが森は異様なほど静かで、野生動物も太郎も怯える様子を見せなかった。太郎が見上げていたのは一本の大きなブナであり、その木から再び生木が裂ける音と倒木の音が鳴った。ミナトは、この木には精霊が宿っているのだろうと見抜いた。
一方のハリマは、村人を怯えさせている以上、害あるものではないかと考え、符で滅することも視野に入れていた。しかしミナトは、この木から禍々しさは微塵も感じられないと判断し、精霊がただ普通に声を発しているだけで、人間の耳には大木が倒れる音のように聞こえているのだろうと推測した。さらに、このことをそのまま伝えれば巨木が切られてしまうと考え、国司には天狗の仕業だったと伝えるつもりだと決めた。
人と精霊の間で揺れる判断
ハリマは、人々を怯えさせる以上放置すべきではないと考えていたが、ミナトは人間の都合だけで精霊を排除することをよしとしなかった。町外れの巨木が、ただ気味が悪いという理由だけで切り倒されていたことも、その判断を後押ししていた。ミナトは、得体の知れぬものを恐れる人間の傲慢さを知っていたからこそ、このブナも守ろうとしていたのである。
そのうえでミナトは、太郎に精霊へ声をかけてやってくれと冗談めかして頼んだ。しかし太郎は別の方向に意識を向けており、二人の会話には反応しなかった。ここで初めて、この場にいる二人には見えていないものが太郎には見えていることが示された。
太郎だけが見た狼の神とその眷属
太郎の目には、山道を駆け上がる金色の狼と、それを追う灰白の大きな狼、さらにその後を追う銀色の子狼の姿が見えていた。灰白の狼は神そのものであり、金色の狼はその眷属、銀色の子狼もまた眷属であった。太郎は神気の濃さに圧されつつも目を逸らさず、彼らの姿を見届けた。
銀色の子狼は太郎に興味を持ち、近づいて匂いを嗅ぐと、太郎の魂がほとんど臭わず、極めて清らかであることを見抜いた。灰白の狼も、太郎が狼の血を引きながら人間のそばにいる珍しい存在であり、すでに転生をほとんど終えかけている魂であると見て取った。銀色の子狼は太郎に加護を与え、今後はもっとたくましく育てと励まして去っていった。
知らぬまま見送る人間と神気を受けた太郎
ミナトとハリマには、狼の神も眷属たちも見えていなかった。太郎が何に気を取られていたのかを測りかねる二人は、カモシカかヤマドリの気配でもあったのではないかと話した。太郎は、いま起きたことを言葉で伝えることはできなかったが、神と眷属たちから与えられたものの確かさを感じていた。
そのため太郎は、口を開けて笑うような顔を作り、尻尾を振ってみせた。ミナトとハリマにはただ機嫌がよく見えただけであったが、実際には太郎だけが、神の眷属たちとの束の間の出会いを胸に刻んでいたのであった。
第14章 【特別編】クロの誕生秘話
播磨と湊が神域へ落ちた直後の山神の焦り
播磨邸の床に突如現れた穴へ播磨と湊が落ちた直後、山神はすぐには対処できなかった。閉じかけた穴をこじ開けること自体は可能であったが、人の身は脆弱であり、無理に切り開けば二人を傷つけるおそれがあったためである。かつて風神と雷神が湊たちを神域から救い出せたのは、湊に風神の力が貸し与えられていて正確な位置が分かっていたからであり、今回は同じ手が使えなかった。
山神は武神が椿の身を借りてその場にいることを見抜き、二人をどこへやったのかと厳しく問いただした。武神は、自らの神域へ放り込んだだけだと答えたうえで、湊も無関係ではないと告げた。湊と播磨には過去世でも何度か縁があったという話に、山神は興味を示さず、個人の魂の記憶を探るつもりはないと突っぱねた。
武神が播磨に向ける複雑な感情
武神は、播磨才賀が憎いわけではなく、己の血を引く愛しい子孫の一人であると明言した。しかし同時に、自分に似ていることだけはどうにも気に入らないとも漏らした。播磨の母や藤乃の言葉によれば、播磨家の男たちは代々、武神と気質が似てしまうがゆえに激しく反発し合い、過去には死闘にまで及んでいたという。武神が才賀と生まれた時から距離を置いていたのも、その因縁を避けるためであった。
山神はその感情を、己と同じ姿の眷属を持ちたくないという感覚になぞらえて理解した。己の御魂を分けた存在と外見まで同じであることに嫌悪感を抱く心情は、武神にも通じるものであった。
酒宴の中で武神が褒美を考える
山神と武神が対峙する場は、やがて酒宴のような流れへ変わった。武神は配下に酒や菓子を運ばせ、山神の前にも甘酒饅頭や上等な酒が並べられた。播磨の家族たちは次々と酒に酔い潰れていったが、山神は警戒心を崩さずに飲み続けた。
その最中、武神は播磨に与える褒美を作ろうと思い立った。播磨は霊力の質こそ高めてきたものの、回復が遅いという弱点があったため、それを補う存在を与えようと考えたのである。通常は獣の姿を取りつつ、必要であれば刀にもなれるものにしようと武神は決めた。それは将来、播磨が自分と戦う日が来るかもしれないと見越した設計でもあった。
黒豹の姿をした褒美の創造
武神は球状の塊に神気を練り込みながら、播磨に必要な恩恵を次々と付与していった。山神は、そこまで気を遣うなら播磨を嫌っているわけではないだろうと感じたが、武神はあくまで不機嫌そうな態度を崩さなかった。とはいえ、その行動には播磨への詫びや期待も含まれていた。
しかし武神は、最後に意地の悪い条件を付け加えた。その獣が誕生した後、播磨が自ら名をつけねば、せっかく仕込んだ恩恵が発揮できないままただの獣に留まるよう封じたのである。武神は自分が名づけを極端に苦手とするため、己に似た播磨もまた名づけなど思いつかないだろうと見越して、そのまま意地悪く仕掛けたのであった。
湊の一言がクロの力を解放する
武神と山神は、出来上がった獣が播磨たちの前に現れる様子を映像として眺めた。寺の境内で、倒れた妖怪の代わりに黒豹の幼獣が現れ、播磨に近づいて霊力を流し込んだ。武神は播磨に念話で必要なことだけを伝えたが、肝心の名づけに関わる制限については伏せていた。
ところがその時、湊が当然のように、この子に名前をつけなければならないのではないかと口にした。武神はその瞬間、思惑を外されて目を丸くし、山神は痛快だと大笑いした。こうして湊の何気ない一言によって、播磨は無事に獣へ名を与える流れとなり、クロはすべての恩恵を使えるようになったのであった。
クロの役割と播磨への献身
現在のクロは、播磨のベッドの上で眠る才賀の腹に乗り、霊力だけでなく気力や体力までも満たしている。武神は子孫が健やかで幸せであることを強く望んでおり、その命を受けたクロもまた、その役目を忠実に果たしていた。なお、クロがまだ幼い黒豹の姿をしているのは、武神が急ごしらえで作ったためであった。
クロは基本的に眠らず、才賀が目覚めるのを待つ。そして才賀が起きれば、まず頭から背まで乱暴気味になでられるが、それすら許容していた。日々くり返されるそのやり取りのなかで、才賀もクロの存在に慣れ、無意識のうちに世話を焼くようになっていた。
播磨家での朝とクロの日常
才賀が休みの日には、家でゆっくり過ごすこともあった。山で鍛錬することの多い才賀にしては珍しい一日であり、クロにとっても穏やかな時間であった。朝食への期待を抱きつつ、クロは才賀の肩や腕に張りつき、家族の集まる居間へ向かった。
そこでは才賀の母が、神器の持ち主としての余裕を見せながら、クロに絵本の読み聞かせをしていた。クロは文字を覚えたがっていたが、才賀には頼まず、察した母がひらがなから教えようとしていたのである。その絵本は播磨家で作られた祖神の武勇伝であり、幼い子供向けに時代に合わせて作り直された新版であった。
祖神の武勇伝と播磨の動揺
母が読み聞かせる絵本の中では、武神が鉄砲隊の銃身を神力で切り落とし、戦場を救ったと語られていた。しかし播磨にとって、その出来事は自分が実際に起こしたことでもあった。幼少期に読んで感銘を受けた逸話が、まさか己自身の行動だったと気づいた播磨は大いに動揺した。
そこへクロが、それは祖神ではなく才賀がやったのだと得意げに鳴いた。播磨はますます落ち着きを失い、家の中では伊達眼鏡をかけていないにもかかわらず、癖で眼鏡を上げようとして空振りした。女避けのための伊達眼鏡であっても、もはやそれがないと落ち着かないほど、播磨は動揺していたのであった。
第15章 【特別編】前日譚
温泉宿で働く湊の日常
春の山間の温泉街では、湊がいつも通り働いていた。宿泊客が来る前の時間、表門を掃き清めながら、真っ先に目につく場所だからこそ綺麗にしておかねばならないと考えていた。そこへ竹馬の友である蘭丸が現れ、差し入れとして綿菓子を渡していった。湊は甘味を好まないが、座敷わらしのために喜んで受け取った。
続いて、常連客の幼い女の子とその両親が早めに到着した。湊はいつも通り丁寧に迎え、時間前ながら部屋へ通すつもりで応対した。その最中、門の上にいる妖怪の気配を感じ取っていたが、はっきりとは見えず、正体を捉えようと首を振り続けていた。妖怪たちは箒を奪おうとしたり頭に乗ったりして、仕事中の湊にちょっかいをかけていたのであった。
妖怪たちとの距離感
湊には妖怪が白くぼんやりと視えていたが、その詳細までは判別できなかった。家に棲みつく座敷わらしだけは特別な存在であり、家族のように思っているからこそ、他の妖怪と区別がつかないことを許しがたく感じていた。そのため、妖怪たちが現れるたびに神経を研ぎ澄ませて見極めようとしていた。
しかし、妖怪たちはその事情を知ってか知らずか、湊が仕事に呼ばれるとあっさり散っていった。実際には、見送るように手を振ったり、あとで酒を持ってきてほしいと声をかけたりしていたが、湊にはそこまではわからなかった。ただ、悪い感じはしないため、何かしらの意思は伝わっているのだろうと解釈していた。
男湯での騒動と仕事への充実感
その日の夕方、受付にいた湊のもとへ妖怪たちが群れになって現れた。直後に母が駆けつけ、男湯で客が倒れたと告げたため、湊はそれが妖怪たちの知らせだったのだと気づいた。急いで男湯へ向かうと、兄がすでに倒れた男性客に対応しており、湊は扇風機を取りに走った。途中、扇風機の前で風を楽しんでいる妖怪に丁寧に断ってから持ち出すあたりにも、湊が経験から身につけた妖怪との付き合い方が表れていた。
幸い倒れた客は湯あたりにすぎず、大事には至らなかった。温泉宿では時にそのまま命を落とす客もいるため、兄も今回は助かってよかったと安堵していた。湊も、こうした緊張のある出来事はありつつも、仕事そのものには充実感を覚えていた。
家を出ることへの迷い
一方で湊は、二十四歳となった自分がいつまでも実家に居続けるわけにはいかないとも感じていた。家業を継ぐのは兄であり、自分はこのままここに甘えていていいのかという思いがあった。いずれは家を出て、自活しなければならないという意識が、心の片隅にあったのである。
そんな折、父から真剣な顔で話があると告げられた。夕食後、父は、親戚筋にあたる榊から家の管理人になってくれないかという話が来ていると切り出した。湊は突然の話に驚きつつ、どのような家なのか、なぜ自分にその話が来たのかと疑問を抱いた。とはいえ父は、嫌なら無理に引き受けなくてよいと告げ、最終的な判断を湊に委ねた。
一人暮らしへの不安と座敷わらしへの思い
その夜、湊は自室でノートパソコンを開き、方丈町という土地や件の家について調べた。そこは田園と山に囲まれた、まごうことなき田舎であった。都会でないことに安堵しつつも、一人暮らしがどのようなものかまったく想像できずにいた。湊は、これまで常に家族や幼馴染、近所の人々に囲まれて生きてきたからである。
また、家を出れば今の家に棲む座敷わらしのような存在もいないだろうと考えると、それも寂しく思えた。家の中のどこかに常に気配があり、見守られているような感覚は湊にとって当たり前であった。しかし、それがない住まいこそが普通なのだと、自分に言い聞かせてもいた。
兄の言葉と決意
翌朝、湊は神棚に駄菓子を供え、座敷わらしが近くに来るのを待っていた。そこへ兄が現れ、家の管理人の話をどうするつもりなのかと尋ねた。湊が迷っていると答えると、兄は、いったん引き受けて実際に行ってみて、気に入らなければ断って帰ってくればいいと、気楽な考えを示した。さらに、そもそも裕福な榊がわざわざこの家に頼んできたこと自体が不自然だとも指摘した。
それでも湊は、榊が悪人ではなく、この家の敷居をまたぎ、何事もなく過ごせたことを思い出していた。そして何より、自分もいつまでもこの家に甘えていてはいけないと感じていた。兄の存在を理由に、兄が結婚を先延ばしにしているのではないかと冗談めかして口にしたことで、兄に投げ飛ばされはしたが、そのやり取りの末に、湊はついに家の管理人の仕事を引き受ける決意を固めた。
一年後の神の庭での実感
それから一年以上が過ぎた現在、湊は神の庭で本を読みながら、周囲を見回していた。クスノキの下には山神が眠り、大池には霊亀が浮かび、温泉には風神と雷神が浸かっている。縁側にはツムギとメノウが寝そべり、塀の上ではカエンが駆け回っていた。さらに御山には山爺や烏天狗、野衾といった妖怪たちも存在していた。
かつては、家を出れば妖怪も座敷わらしもいない普通の暮らしが待っているのだろうと思っていた。ところが現実には、妖怪どころか神々にまで囲まれる日常が待っていたのである。それは常人から見れば異常そのものであろうが、湊にとってはいまやすっかり日常となっていた。そう思った湊は、結局これでよかったのだと軽く受け流し、再び手元の本へと視線を戻したのであった。
第16章 【特別編】座敷わらし流、家族の護り方
赤子の湊との初対面
座敷わらしは、里帰り出産から戻ったばかりの母子を驚かせぬよう、珍しく忍び足で居間へ向かった。ベビーベッドにいた湊は、座敷わらしと目が合うと泣くどころか笑みを見せたため、座敷わらしは戸惑った。さらに位置を変えても目が合い、妖気を強めても平然としていたことから、湊は妖気を知覚できるのではないかと座敷わらしは考えた。
そこへ祖父の厳が駆けつけ、湊の豪胆さは母親譲りかもしれないと語った。座敷わらしも、妖怪を恐れぬ母の性質を思い出しながら、湊の並外れた資質に感心した。すると湊の反応に引かれるように妖怪たちまで集まり、赤子を囲んで勝手なことを言い出したため、座敷わらしは強い妖気を放って制した。厳はそんな座敷わらしに、湊のことも頼むと真剣に願い、座敷わらしはそれを引き受けた。
妖怪たちに囲まれて育つ幼い湊
湊は家族と多くの妖怪に見守られながら育ち、五歳になる頃には兄の真似をして家業も手伝うようになっていた。座敷わらしは、仕事をする湊のそばで跳ね回り、その反応を確かめた。湊は視えたり視えなかったりと不安定ではあったが、確かに妖怪の存在を感じ取っていた。
その頃の楠木家や温泉宿には多くの妖怪が出入りしており、家人たちもそれを自然に受け入れていた。座敷わらしが温泉宿の中を歩けば、すぐに他の妖怪と行き会うほどであった。湊の母は妖怪に手伝わせることすら恐れず、雪女や鬼女のやり取りも日常の一部として受け流していた。厳もまた、客に悪さをした妖怪をきちんと叱りつけ、座敷わらしとともに家と宿の秩序を守っていた。
湊の神隠しと座敷わらしの無力感
ある日、湊は兄の航や近所の幼馴染たちと出かけたが、その途中で忽然と姿を消した。帰ってきた航は、ほんの少し目を離しただけだと動揺しながら事情を説明した。座敷わらしは航や子どもたちの身を調べ、他の妖怪の痕跡がないことから、人ではなく神による神隠しだと見抜いた。
座敷わらしは怒りと焦りで妖気を高ぶらせたが、自分は家につく妖怪であり、家の外では十分に力を振るえない存在であった。厳は自ら湊を捜しに行く決意を示し、もし自分に何かあった時は家族を頼むと座敷わらしに託した。座敷わらしは妖怪たちに助力を求め、厳のあとを追わせた。
厳による湊の奪還
夕刻になると、一反木綿が湊を見つけたと告げて飛び去り、その後すぐに厳が妖怪たちを引き連れて戻ってきた。厳は湊を背負っており、二人とも無事であった。座敷わらしはようやく安堵したが、厳の疲労が濃いことから、かなり厄介な神と対峙してきたのだと察した。
厳は、少々面倒な神ではあったが湊をきちんと返してくれたこと、そして妖怪たちが騒いで助けになったことを語り、座敷わらしに礼を述べた。湊は高熱を出し、神隠しに遭ったことどころか遊びに行ったことすら覚えていなかったが、無事に戻ってきた以上、それでよいと座敷わらしは受け止めた。
神気をまとった荷物と現在の見守り
時が流れ、湊は神域に住むようになった。そんな今も、湊は定期的に実家へ段ボールを送ってきていた。その荷物は強い神気をまとっており、居間を明るく照らすほどであった。座敷わらしにとってその神気は鬱陶しいものであり、襖の陰や天井へ逃げるほどであったが、山神が意図的に込めたその神気が家人を護っていることも理解していた。
湊の母は、箱の中身を楽しげに取り出し、景品に使えそうな品や東北土産などを喜んでいた。湊が送る品には一貫性がないものの、家族や宿のことを思って選ばれていることは明らかであった。やがて母は、ゆべしを神棚に供えておくから食べるよう座敷わらしに声をかけた。座敷わらしはすぐには神気の強い居間へ行けなかったが、夜中にいただくつもりで、帯に下げた鳳凰の木彫りを欄間に当てて応えたのであった。
【第二部・序章】 導くのはどっち?
三河金物店でのやり取りとサル吉との別れ
湊は商店街の三河金物店の前で店主の三河翁と会い、サル吉の世話について礼を言われた。サル吉は湊に懐いて離れようとせず、三河翁が引いても抵抗したが、湊が帰る旨を伝えるとしぶしぶ翁のもとへ戻った。三河翁は礼として金銭を渡そうとしたが、湊はそれを拒み、早々にその場を去った。
商店街での交流と周囲の人々の様子
湊は交差点で見かけた猫と短く触れ合い、その後、神や霊獣が見える男児とすれ違った。さらに庭師の信濃と思しき人物と女性の様子を見て関係性を推測しつつも、互いに意識し合っている様子を微笑ましく感じていた。また、大工の親方の周囲に鳥が集まる光景を目にし、自身にも鳥が寄ってくるが、鳳凰がいなくなったことでその数が減っていることを実感した。
鳳凰を模したケーキとアマテラスへの想起
湊は鳳凰に似た装飾のケーキを購入しており、それを持ちながら過去に出会ったアマテラスを思い出していた。カラスが太陽を横切る様子を見て、太陽神の使いという連想からアマテラスのことを強く意識し、神域に立ち寄ることを決めた。
バス移動と帰路の風景
バスに乗り移動した湊は、途中で越後屋や越前亭、その家族の和やかな様子を目にして心を和ませた。降車後は稲刈りが進む田園風景を歩き、裏島家の人々と挨拶を交わしながら進んだ。道中では子どもたちからテイマーと呼ばれ、親しみを持たれている様子が描かれていた。
神域の消失と異変の発覚
かつて存在した荒れた社を訪れようとした湊であったが、そこには何も残っておらず、更地となっていた。社が撤去されたことに気づき、異変を感じ取った矢先、上空に巨大な黒い鳥が現れた。
ヤタガラスとの邂逅と依頼
現れた巨大な鳥はヤタガラスと名乗り、アマテラスと同質の神気を持っていた。湊はその正体を察し、対話を交わす。ヤタガラスは湊に対し、自らをアマテラスのもとへ導くよう頼んだ。これに対し湊は、その役割は本来ヤタガラス自身のものではないかと疑問を呈し、物語は新たな展開を示唆していた。
神の庭付き楠木邸 一覧











その他フィクション

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