物語の概要
ジャンル:和風奇幻・恋愛ファンタジーである。妖怪と人間が交錯する江戸風架空世界を舞台に、陰陽師家当主と“傷モノ”と呼ばれた少女との婚約を軸に描かれるドラマである。
内容紹介:
第8巻では、大江戸花火大会を舞台に、謎の存在・武井との対峙が決定的となる。陰陽寮の戦略通り武井を捕縛しようと待機した夜行は、捕縛隊との連係中に菜々緒を抱えて逃避行を始める。しかしその途中で「大妖怪の気配」を察知し、思いもよらぬ“存在”と遭遇する。さらに負傷した鷹夜の行方や、「紅椿家の傷」が呼び込む運命的展開が明らかとなり、物語は皇都を飛び越え、五行結界の外へと展開していく。
主要キャラクター
- 白蓮寺菜々緒:妖印によって“傷モノ”と蔑まれてきた少女であるが、第8巻では夜行に抱えられて逃避行し、未見の妖気と直面する覚醒的な役割を果たす。
- 紅椿夜行:陰陽寮当主。“皇國最強の鬼神”とも称される存在である。菜々緒を護りつつ武井との戦いに臨む。大妖怪の気配を察知し、行動の選択を迫られる。
- 武井:皇都を脅かす黒幕的存在。花火大会に現れ、陰陽寮との衝突が激化する重要人物である 。
- 鷹夜:戦闘に巻き込まれて負傷するが、一命を取り留める。その行方と回復が物語の焦点となる 。
物語の特徴
本巻は、シリーズ最大級のクライマックスを迎える。花火大会という華やかな祭りの裏で繰り広げられる緊張感あふれる戦闘描写と、その最中に突如として立ちはだかる“大妖怪”という未知の存在との遭遇が見どころである。他巻との大きな差別化点として、物理的戦闘だけでなく、霊的危機と陰陽結界を巡るミステリー要素も強まっており、読者の心を掴んで離さない。夜行と菜々緒の距離感がさらに深化し、その絆が試される展開は、シリーズ屈指の心理描写と緊迫感を併せ持っている。描き下ろし小冊子付きの特装版では裏話や描写補完が収録されており、ファンには特に価値のある内容である。
書籍情報
傷モノの花嫁(8)
原作: 友麻 碧 氏
著: 藤丸 豆ノ介 氏
発売日:2025年07月30日
ISBN:9784065399422
出版社:講談社
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あらすじ・内容
陰陽寮の想定通り、花火大会に姿を現した武井。捕縛のために待機していた隊長二人、沙羅と一成との交戦がスタートする。夜行は菜々緒を守るため、彼女を抱えて武井から距離を取るが、その道中で、ありえない妖気――“大妖怪の気配”を感じて立ち止まる。その気配の先で夜行が見たのは、信じられない“モノ”だった―――。
ついに始まった大江戸花火大会。夜行が相対するもの、負傷した鷹夜の行方、それら「紅椿家の傷」が招く結末とは。そして舞台は皇都の外、五行結界の外へと移っていく―――。
感想
読み終えて、まず感じたのは、物語が大きく動き出したという高揚感だ。大江戸花火大会という華やかな舞台裏で、陰謀と策略が渦巻いている。夜行と菜々緒を襲う危機、そして明らかになる武井の過去。息をつく暇もない展開に、ページをめくる手が止まらなかった。
武井の襲撃は、まさに予想外の連続だった。倒したと思った敵が、禁呪の力で蘇るとは。しかも、その禁呪が蠱毒の妖を利用したものだったとは、驚きを禁じ得ない。それを利用して陰陽寮の隊員たちを襲撃し、沙羅に重傷を負わせるという展開は、読者であるわたしを大いに焦らせた。沙羅の安否が心配で、次のページをめくるのが少し怖いくらいだった。
夜行と菜々緒が大妖怪・朱鷺子に襲われる場面も、手に汗握る展開だった。夜行が必死に迎撃する中、菜々緒が武井に攫われてしまう。しかも、連れ去られた先は結界の外、天狗の郷。そこで明らかになる武井の事情は、彼の行動に複雑な背景があったことを示唆している。天狗の長・外法の外道っぷりには、言葉を失った。武井にも愛する者がいたという事実に、胸が締め付けられる思いがした。天狗一族の所業は、あまりにも酷い。
物語は、いよいよ菜々緒の覚醒が近づいていることを予感させる場面で終わる。彼女がどのような力を発揮するのか、そして、夜行とどのように再会を果たすのか。期待と不安が入り混じった気持ちで、次巻を待ちたい。
『傷モノの花嫁』シリーズは、単なる妖との戦いを描いた物語ではない。登場人物たちの葛藤や成長、そして人間関係が丁寧に描かれている点が魅力だと感じる。今回の巻では、特に武井の過去が明らかになったことで、物語に深みが増したように思う。彼の悲しみや怒りが、読者であるわたしの心に深く響いた。
次巻では、菜々緒がどのように覚醒し、武井とどのような決着をつけるのか。そして、夜行はどのようにして菜々緒を救い出すのか。物語の展開から目が離せない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
第29話「祭り」
大妖怪の脅威と武井の動向
五行結界の外に潜む大妖怪たちが、皇都に対する本格的な侵攻を狙い始めていた。国家としては開国以来最大の危機に直面しており、仮に武井が大妖怪と通じているのであれば、その動向は注意深く監視されるべきであると判断された。そうした緊張感の中、表向きの花火大会は無事に開催されていた。
朱鷺子による襲撃と逃走
第二研究室の室長である紅椿鷹夜が、朱鷺子に刺され重傷を負った。現在は陰陽寮病院で治療を受けている状態であり、朱鷺子は逃走中であった。監視下にあった朱鷺子がいかにして脱出したのかは不明であり、脱出の痕跡も確認されていなかった。第四隊が一部を割いて彼女の捜索にあたっていた。
監視体制の不備と協力者の疑念
朱鷺子の脱出を誰も察知できなかったことに対して、関係者らは監視体制が万全であったことを強調したが、現実として彼女の逃走を許していた。橘院武流らは、朱鷺子が単独で行動したとは考えにくく、何者かの協力があった可能性を示唆した。
武井の襲撃と混乱の発生
指揮系統が「朱鷺子を早急に捜し出せ」と指示を出す中、朱鷺子は錠剤を服用し、「鷹夜、あなたがいない世界なんて」と呟いた。その直後、場面が切り替わり、武井が突如現れて皇国の人間に襲撃を仕掛けた。武井による武力行使により、その場は混乱に包まれた。
皇国隊長たちの迎撃
騒乱の中、鳴神・菊大路一成と詩姫・翠宮沙羅が現れ、武井に対して迎撃態勢を取った。二人は隊長としての責務を果たし、戦闘の意志を明確にした。その直後、夜行が菜々緒を抱えて現場から離脱していく様子が描かれ、武井は舌打ちした。
一成は武井を拘束し、その真意を問いただそうとした。
武井の動機と沙羅の問い
武井は、菜々緒を「天狗様の花嫁」にすると語り、彼女を手に入れると明言した。沙羅はその「欲しいもの」とは何かを問い、武井の動機を探った。その問いに武井は一瞬反応し、思わず足を止める。
沙羅の声と武井の動揺
沙羅は穏やかに言葉を投げかけ、対話を促した。その声に心当たりがある様子の武井は動揺し、「しまった」と口にした。
沙羅の能力と防衛線の布陣
翠宮沙羅は、本名を唱えることで魂に干渉し、相手の反応や情報を優位に引き出す力を持っていた。この能力により、彼女は「皇国の詩姫」と称されていた。一方、皇都周辺では武井以外の目立った襲撃はなく、菊大路一成と厳堂マリアが防衛線を構築していた。
武井の反撃と雷神の制圧
警戒の中で武井が再び毒を使って襲いかかり、沙羅に攻撃を仕掛けた。一成は即座に雷神を召喚し、「お通りください 雷神様」の言葉と共に雷撃を放った。この一撃により武井は地に倒れた。
雷撃後の武井と蠱毒による回復
雷撃を受けた武井は重傷を負い、護送用の檻に入れられた。しかしその後、蠱毒の虫が肩代わりすることで、武井の傷は実質的に無効化された。彼の身体に刻まれた紋章が光を放ち、その効果を示していた。
妖気の感知と夜行への襲撃
武井の回復と同時期、ぬらりひょんの妖気が再び現れたことで、一成と沙羅は表情を変え、異変を察知した。一方、菜々緒を抱えて安全地帯へ向かっていた夜行は、一成の雷撃を感じて戦闘が終わったと判断したが、その隙を突かれ、気配を絶っていた朱鷺子(ぬらりひょん)に襲われた
大妖怪の出現と夜行の動揺
突如として朱鷺子(ぬらりひょん)の姿が木々の向こうに現れ、夜行は「いつからそこにいたのか」と驚愕した。完全に気配を消して接近していたその存在に、彼は接近にすら気づかなかったことに危機感を抱いた。
五行結界を超えた存在と檻目玉の準備
ぬらりひょんが放つ圧倒的な妖気は霊毒とは異質であり、通常の方法では説明できない強さを有していた。夜行は「大妖怪は五行結界内に入れないはず」と断じたが、現実には目の前に存在していた。菜々緒は夜行に檻目玉の使用を申し出て、発動準備に入ろうとした。
妖気による圧倒と展開妨害
ぬらりひょんは妖気を伴って突撃し、咆哮とともに圧倒的な速度と力で迫った。菜々緒と夜行は迎撃の構えを取るも、檻目玉を展開する余裕すら与えられなかった。夜行は強烈な衝撃を受けつつも、菜々緒を庇って応戦した。
ぬらりひょんの正体と夜行の認識
戦闘の最中、ぬらりひょんの姿が明確になり、夜行はその顔を見て「母上」と呟いた。それにより、ぬらりひょんが自分の母である朱鷺子であることを認識した。朱鷺子はその言葉に応じ、「お前なんか産まなければよかった」と冷たく言い放った。
夜行の混乱と朱鷺子の攻撃
夜行は実母である朱鷺子が大妖怪となり襲いかかってきた現実に苦しみ、「どうして母上がこんなことに」と苦悩した。朱鷺子はそのまま夜行と菜々緒を同時に襲いかかり、ふたたび激しい戦闘が始まった。
籠目玉の展開と菜々緒の保護
朱鷺子の攻撃が迫る中、菜々緒は夜行に籠目玉の使用を求め、自ら発動して防御結界を展開した。夜行は結界の外に、菜々緒はその中に位置し、朱鷺子の攻撃から保護される形となった。これにより、朱鷺子の意識は夜行から菜々緒へと向けられた。
朱鷺子の憎悪と夜行の決意
朱鷺子は「傷モノが」「私の血を継ぐ子を産むなど絶対に許さない」と叫び、激しい怒りをぶつけながら結界内の菜々緒に襲いかかった。夜行はその姿を見据え、「菜々緒を傷つけるなら、たとえあなたが母でも殺す」と決意を固め、剣を抜いた。この言葉に最も衝撃を受けたのは、結界内からそれを聞いた菜々緒であった。
棒鬼としての覚悟表明
夜行は「俺は悪妖を討つために生まれた棒鬼だ」と自らの存在意義を口にし、朱鷺子との決別を明言した。菜々緒はその覚悟の強さに動揺し、言葉を失う。
武井の攫取と夜行の動揺
戦場の混乱の中、武井が突如として現れ隙を突いて菜々緒を攫って逃走した。それに気づいた夜行は呆然とし、「菜々緒…っ」と叫びながら追いかけようとするが、直後に朱鷺子から攻撃を受ける。
一成の防御と戦況の急変
夜行を襲った朱鷺子の攻撃は、一成によって防がれた。一成は夜行に向かって「馬鹿野郎、よそ見すんな!」と叱咤しつつ、状況を説明した。武井の逃走を許したこと、沙羅が別の現場で重傷を負ったことが明かされ、戦況は一気に不利に傾いた。
皇都防衛の選択と葛藤
夜行は菜々緒の身を案じるが、一成は「奥さんが心配なのはわかるが、こいつ(ぬらりひょん)を逃がしたら皇都が危ない」と説得する。夜行は二者択一の板挟みに苦しみながらも、棒鬼としての責務と個人の感情の狭間で揺れていた。
夜行と一成の連携戦闘
一成は「まずはこいつをなんとかするぞ」と夜行に呼びかけ、二人は朱鷺子(ぬらりひょん)に対して同時に左右から挟撃を仕掛けた。だが、斬撃が届く直前、朱鷺子の姿は一瞬で消え、攻撃は空を斬る結果に終わった。防御ではなく、まるで「そこに存在しなかったかのように」消えたその動きに、夜行と一成は動揺する。
菜々緒の目覚めと武井の登場
場面が切り替わり、眠っていた菜々緒が目を覚ます。目の前には武井の姿があり、彼は笑みを浮かべながら「紅椿夜行はここにはいない」と語る。菜々緒は混乱しつつも警戒を強める。
皇都への帰還を否定する武井
武井は「逃げようなんて思わない方がいい」と牽制し、「お前一人で皇都に戻るのは絶対無理だ」と断言する。そして「見せてやる」と言って菜々緒をどこかへ連れ出す。
山中の移動と異変への気づき
菜々緒は武井に連れられ山中を歩く。周囲にはすでに彼岸花が咲き始めており、菜々緒は「季節外れなのに」と違和感を抱く。やがて遠くに見える山の姿に目を見開く。
五行結界の外の世界
菜々緒が目にしたのは、目前に迫る富士の山。そのあまりの近さに衝撃を受け、「ここは……」と呟く。武井はその思いを肯定し、「そうだよ、ここは五行結界の外だ」と告げる。
第30話 五行結界の外の世界
浅草の完全封鎖と五行結界の展開
民間人の避難が完了したのち、部隊は浅草一帯を完全に封鎖する五行結界を発動した。巨大な陣形が街を覆い、強力な封印術が展開された。
朱鷺子の行方と異常な結界内部
朱鷺子(隠語「夏彦」)の正確な位置は捕捉できていなかったが、紅椿隊長らの応戦中に結界は完成しており、封じ込め自体は成功していた。しかし、内部の把握が困難であり、結界内に異様な存在感があるとの証言が出ていた。
結界の持続時間と皇都の危機
結界は三日間程度持続すると見られており、その間に朱鷺子の所在を突き止め、状況を鎮静化する必要があった。一方、沙羅と鷹夜室長は重傷を負い、負傷者も多数発生していた。皇都の混乱と危機的状況が浮き彫りとなった。
菜々緒、五行結界の外へ
菜々緒は五行結界の外に出ていた。その地に立った彼女は、紅椿の若奥様が掌握されてしまったと知り、衝撃を受ける。見知らぬ景色を前に、そこが「五行結界の外の世界」であると理解する。
武井との再会と朱鷺子の暴走
菜々緒は武井(橙院武流)と再会する。武井は朱鷺子の暴走によって脱出が容易になったと語り、菜々緒を外へ連れ出すことに成功していた。さらに、朱鷺子が「ぬらりひょんの贈り物」を受け取っていたことが明かされ、その変化の背景が示された。
朱鷺子の血筋と正体
武井の説明により、朱鷺子が江戸期の将軍家の血を引く最後の生き残りであることが判明した。皇族の父と将軍家の母を持ち、現代において最も高貴な血筋を有する人物であると語られた。
妖怪化の要因と結界内の混乱
朱鷺子の大妖怪化は、彼女の霊力の高さと血統に起因していると武井は分析する。血統により霊力が高くなるのは必然であり、その力が暴走した結果が結界内の混乱を招いたとされる。皇都はこの影響で大混乱に陥っていた。
親子の悲劇と夜行の葛藤
武井は「子が母を殺す」という最悪の悲劇を語り、これを「最高の悲劇」と称した。それに対し菜々緒は、夜行が朱鷺子を手にかけることは絶対にないと断言する。
朱鷺子を元に戻す可能性
突然の痛みに顔を顰める武井。
彼には、雷を落とした金髪の人物(一成)の術の影響が残っていた。
菜々緒は朱鷺子を元に戻す方法があるのではと問いかけるが、武井は即答を避けた。
夜行の笑顔を守りたいという想い
菜々緒は、朱鷺子を殺してしまえば夜行が二度と笑えなくなると危惧し、彼の少年のような笑顔が大好きであると武井に語った。夜行が時折見せる無邪気な笑顔を守りたいという強い思いが、彼女の行動の動機であった。
武井の目的と菜々緒への宣告
菜々緒が「なぜこんなことをするのか」「目的は何なのか」と問うと、武井は「欲しいものがある」とだけ答えた。そして彼は菜々緒に対し、「お前はこれから天狗の花嫁になる」と告げ、自らの妹の身代わりとして菜々緒を差し出す意志を明かした。
陰陽寮での分析と朱鷺子の妖怪化
陰陽寮では、朱鷺子が大妖怪と化した理由が分析されていた。ぬらりひょんがその正体であると推定され、江戸時代には将軍家の指南役として深く関わっていたこと、さらには将軍家の姫を娶った記録も存在することが語られた。
将軍家の血筋と変貌の要因
朱鷺子が将軍家の最後の血を引く者であることから、ぬらりひょんに縁ある血統が変貌の一因になったと推察された。ぬらりひょんは高度な隠匿術を持ち、姿だけでなく記憶からも存在を消すことができるため、誰も異変に気づけなかったとされる。
蠱毒のあやかしと禁術の利用
武井は蠱毒のあやかしに対して、命を削る禁術を用い、ダメージを肩代わりさせていた。この行動は、菜々緒を夜行から奪うという目的に対し、命を賭けた覚悟に基づいていたことが明らかになる。
ぬらりひょん討伐命令と菜々緒の安否
状況把握が進むなか、壱番隊隊長・紅椿夜行にはぬらりひょんの討伐命令が正式に下された。参番隊・四番隊には引き続き結界の維持と捜索の任が与えられた。陰陽寮では、標的の潜伏先が明らかになるまでの待機指示が出される一方で、菜々緒の救出の指示が出なかった事に夜行が反発した。
皇都と菜々緒、どちらを救うべきかの葛藤
菜々緒が武井に攫われ天狗の花嫁にされようとしていることに対し、「皇都の民すべてを見捨てて菜々緒を助けに行くのか」と厳しい問いが投げかけられた。一方で、ここに至るまで母・朱鷺子を放置してきた過去に悔いを示す者も現れ、感情が揺れ動いていた。
朱鷺子の役割と犠牲
朱鷺子は皇帝の命によって紅椿家に嫁がされ、次世代の英雄を産む役割を担っていた。その使命を自覚し、彼女は四人の優れた子を産み育てた。このことは夜行だけでなく、家族全員にとって重い意味を持っていた。
父の謝罪と朱鷺子への感謝
父は、自分が家庭を顧みなかったことを認め、朱鷺子への感謝の言葉を述べた。「償う方法があるならいくらでも償う」と語り、彼女の献身に対する贖罪の意思を示した。
陰陽寮の使命と抑圧された感情
陰陽寮の人間として、まず皇都の安全を最優先とすべきであるという立場が再確認される。父は心を殺し、身を粉にして国を守ってきたが、その姿を見ていた家族たちもまた、理解しながらも苦悩を抱えていた。
押し殺された家族の想い
朱鷺子も最初から自身の役割を理解しており、恐怖や感情を抑えながら役目を果たしていた。ただひたむきに忠実であろうとし、家族もまた感情を押し殺してそれに応えてきたことが描写された。
歪みと自問
一連の抑圧が家族や当主たちを歪めたのではないかという自問が語られた。正しさを貫いてきた父の姿勢は理にかなっていたが、その正しさが皆に影響を与えたこともまた否定できない現実であった。
夜行の決意と愛の告白
夜行は、自分が菜々緒を救いに行った結果、皇都の民が犠牲になったと知れば菜々緒は笑ってくれないだろうと語った。それでも彼は「菜々緒なしでは生きていけない」「俺はもう菜々緒を愛している」と心からの想いを告白した。
菜々緒は唯一無二の存在
夜行は「皇都すべてを天秤にかけても、菜々緒に代わるものはない」と断言した。その言葉には、彼女を守るためには何も惜しまないという強い意志が込められていた。
菜々緒救出への動きと一成の決断
夜行は「俺は菜々緒を助けに行く」と決意を新たにした。周囲が止めようとするなか、一成が「三日だ」と告げた。これは、五行結界が持つ残り時間であり、夜行に行動の猶予が与えられたことを意味していた。
一成の申し出と三日間の猶予
一成は、陰陽寮が展開した浅草の五行結界が「最低でも三日間は持つ」と説明し、その間は自分が浅草を守ると夜行に断言した。そして「三日だけ俺がなんとかしてやる」と猶予を引き受け、夜行に菜々緒の奪還を託した。
菜々緒の霊力の危険性と天狗の狙い
陰陽寮の面々は、菜々緒の霊力が極めて高いことを改めて確認した。特に、天狗が人間を使って皇都を狙い始めており、菜々緒の霊力を目的に動いている可能性が高いことが示された。これ以上その力を増幅させることは危険であると判断された。
箱根山に潜む可能性と捜索範囲の絞り込み
天狗の縄張りが富士山二帯にまで及んでいることを前提に、小田原宿にいる十三番隊の動員が提案された。そして菜々緒が「箱根山にいる」との推定が導き出され、捜索範囲が具体的に絞られた。
天竺鼠による位置特定の手段
鷹夜室長は、菜々緒が籠目玉を所持していることを前提に、天竺鼠の性質を応用すれば位置の逆探知が可能であると説明した。箱根付近が天狗の縄張りであることから、彼女の現在地として高い確度で推定された。
第一研究室と鷹夜室長の支援
第一研究室は、夜行の菜々緒救出作戦を全面的に支援することを表明した。鷹夜室長は「母上が見つかるまで構いません」と述べたうえで、「菜々緒くん奪還の許可を夜行にどうか」と要請し、正式な後押しを行った。
奪還許可の承認と夜行の出発
夜行は出撃の許可を受けると、「菜々緒を助けに行ける」と喜びをあらわにし、ただちに行動を開始した。浅草の守りは一成に託され、救出作戦のために現場を後にした。
一成の信頼と激励の言葉
夜行が「浅草は頼む」と伝えると、一成は「何言ってんだ、浅草の英雄は俺だろ」と返し、信頼の言葉を投げかけた。そして「奥さんは絶対に助け出せる」と励ましたうえで、「十三番隊にはあいつがいる」と言い添えた。
京極零時への信頼
一成は心中で、「あの男なら絶対にお前を助けてくれる」と確信を抱いていた。その「あいつ」とは、十三番隊の京極零時を指しており、菜々緒救出の要となる存在であることが示唆された。
京極零時の登場と居眠り
場面は木々に囲まれた場所へと移り、京極零時が葉陰で居眠りをしていた。彼は突如目を覚まし、「いよっしゃああ三連単三列目 大穴馬きたぁぁぁぁ!!」と叫び出す。
京極零時、居眠りからの覚醒
京極零時は、夢の中で競馬の三連単的中に歓喜していたが、それは単なる居眠りであった。小雪による一喝と制裁によって現実に引き戻されると、零時は事態の深刻さにようやく気付く。夢と現実のギャップに困惑しつつ、現場の情報を受け止めた。
紅椿隊長の行動と夜行の焦燥
報告によれば、紅椿隊長が結界外に連れ出されており、夜行の奥方・菜々緒が依然危険な状況にあることが伝えられた。零時は菜々緒が夜行の妻であることを改めて確認し、彼の焦りを想像して真顔になる。そして、自分が菜々緒の奪還を手伝うと自然に心を決めた。
再会への期待と過去の回想
小雪の言葉により、紅椿隊長とまもなく合流する予定であることが判明した。零時は夜行との再会を喜び、「あいつは奥さんを大事にする」と信じる思いを口にしつつ、任務に対して前向きな姿勢を見せた。
仲間との絆と決意
零時は過去に夜行や一成とともに十番隊で過ごした日々を懐かしく思い出しながら、再び共に戦うことへの期待を語った。そして、画面には「陰陽寮退魔部隊 十三番隊隊長・京極零時」の名が記され、彼の決意と共にエピソードが締めくくられた。
第31話 富士の天狗郷
菜々緒の回想と移送先の描写
菜々緒は、自身が「夜行様の妻」として穏やかに過ごしていた日々を思い返しながらも、現在はその平穏を奪われた状況にある。彼女は天狗の住む地「富士の山の天狗郷」へ連行されていた。
天狗郷の支配者・外法の登場
天狗郷では、大和天狗の長である「外法」が登場。彼は菜々緒を「大和天狗の長の花嫁」にするつもりであると告げる。菜々緒は困惑しつつも従わされ、周囲の天狗たちからも品定めのような視線を向けられる。
外法の言葉と菜々緒の評価
外法は人間社会での生活を「さぞ不自由だったろう」と嘲る一方で、菜々緒の霊力の高さを見抜く。菜々緒の額の妖印に興味を持ち、その存在に何かを隠していると感じ取る。
菜々緒の正体に迫る描写
外法は菜々緒の妖印に触れ、「人じゃない」「娘」と呟くなど、その正体に何らかの特別な秘密があることを示唆。菜々緒自身も戸惑いを隠せない。
武井の交渉と異変
菜々緒を連れてきた武井(橙院武流)は、外法に対して菜々緒が「蛍流以上の霊力保持者」であると主張し、妹である蛍流の返還を要求する。外法はそれに応じる素振りを見せつつ、意味深な笑みを浮かべる。
異様な箱の登場
天狗の側近が謎めいた箱を抱えて登場。
妹をと武井が言った返答が小さい箱というのが不安を煽る。
蛍流の死と外法の嘲弄
外法は、死んだ蛍流の骨を武井(橙院武流)に見せつけたうえで、「血も肉も自分の一部になった」と語り嘲弄した。蛍流は武流が差し出した娘たちと引き換えに解放されるはずだったが、実際には殺されていた。
文(ふみ)を渡さなかった外法の策略
武流は、「捜った女を引き渡す時に、いつも文を預けた」と語り、妹・蛍流に向けた手紙も外法に託していたことが明らかとなる。しかし外法はその文を渡しておらず、「武流は他の女と皇都で幸せに暮らしている」と吹き込むことで、蛍流から生きる気力を奪い、絶望させたと明かした。
交渉の破綻と外法の開き直り
武流は「蛍流以上の娘を連れてくれば解放する」と言った外法の言葉を信じて菜々緒を差し出したが、外法はその約束を反故にし、交渉を一方的に破棄した。「俺は殺していない、喰ってやっただけだ」と語り、蛍流の死を過去の出来事として嘲笑する様は、完全に武流を愚弄するものであった。
戦闘の激化と菜々緒の確保
従者たちが武流に襲いかかり戦闘が激化する中、劣勢となった武流は菜々緒を拘束し、「手を出せばこの娘を殺す」と告げることで一時的に敵の動きを止める。外法は「新しい玩具を壊されては困る」として攻撃を中止させ、従者たちはその命に従った。
蠱毒の妖の出現と追撃命令
その場に突如として蠱毒の妖が姿を現し、異様な瘴気を漂わせながら場を攪乱する。武流と菜々緒はその混乱に乗じて脱出に成功する。外法は逃走を許さず、「橙院武流は殺して構わない。ただし、娘は傷つけるな」と追撃を命じた。
重傷の中での撤退
逃走中、菜々緒は武流の大量出血に気づき、肩を貸しながらなんとか逃げ延びようとする。武流は意識こそあるものの、すでに限界に近い重傷を負っており、その様子を見た菜々緒は表情を強張らせる。
籠目玉の回収と一時的な防御手段の確保
菜々緒は瀕死の武井(橙院武流)を支えながら、小屋へとたどり着いた。そこはかつて自らが囚われていた場所であり、記憶を頼りに緊急時用の籠目玉を探し出すことに成功した。籠目玉は一時的な結界を張る呪具であり、これにより一帯に位置情報が陰陽寮に伝達された。菜々緒は、小屋の中で体力の回復を図りながら機会を待った。
陰陽寮への希望と夜行への思慕
菜々緒は陰陽寮の状況を案じながらも、自らを助けに来る余裕がない可能性を考え、夜行が朱鷺子の救出を優先しているのではないかと疑念を抱いた。しかし、夜行の下に帰るためには自分が生き延びなければならないと決意し、そのために踏ん張る覚悟を固めた。
蠱毒の呪具と武流の意識回復
場面は変わり、武井(橙院武流)は気を失った状態であった。傍らには妹の髑髏が転がっていた。武流は苦痛の中で過去の記憶を回想する。
兄妹の記憶と過去の絆
武流と蛍流は、橙院の結界守の里に生まれた双子であり、使用人の女性との間に生まれた不遇の存在であった。蛍流は武流を「兄様」と慕っており、再会の場面では夢のように彼を抱きしめ、「おかえり」と微笑んだ。武流も蛍流の無事を確認し、深い安堵を覚えた。
日常のやり取りと縁談の話題
再会後の二人は、互いの傷を気遣いながらも微笑ましい日常の会話を交わした。蛍流には複数の縁談が来ており、その中には陰陽五家の者も含まれていた。武流は、蛍流の霊力や器量が評価された結果であり、嫁げばより良い生活が送れると諭す。しかし蛍流は、兄と離れることに難色を示し、兄も一緒に来てくれるかを尋ねた。
兄妹の未来への対話
縁談の話を受けて、蛍流は「ならお嫁になんていかない」と宣言し、兄との離別を強く拒んだ。一方の武流は、陰陽学衆への入学が控えていることから、それは無理だと即答する。ここに、兄妹の間での未来への価値観の違いが浮き彫りとなった。
兄妹の深い絆
蛍流は武流に強く抱きつき、「兄様以外を家族だと思ったことはない」と涙ながらに告白した。兄と離れるくらいなら死んだ方がマシだとさえ口にし、武流もまた「ずっと一緒にいてくれ」と願いを口にした。
共に生きてきた過去
幼い頃に両親を失った二人は、周囲から虐げられながらも支え合って生きてきた。蛍流は「一人にしないで」と叫び、武流も「蛍流は俺の半身だ」と心の内を明かした。
束の間の団欒と金色蛍の訪れ
その後、兄妹は囲炉裏を囲み食事を共にし、和やかな時間を過ごす。蛍流はふと外に現れた金色蛍に気づき、興奮して外へ飛び出していった。
幻想的な光景への感動
外に出た蛍流は、兄に「見てみて!」と声をかけ、多くの金色蛍が舞う幻想的な光景に心を奪われた。兄妹はしばし見惚れ、「綺麗ね…」と感嘆の声を漏らした。
橙院家の呪術と運命の自覚
武流は、自らの身体に刻まれた呪術と橙院家の使命を受け入れながらも、蛍流の笑顔だけが支えであると語った。そして、自身がいずれ陰陽寮に送り込まれる駒に過ぎないと見なしていた。
もしも蛍流に未来があるなら
最低限とはいえ受けた施しへの義理から逃れられずとも、蛍流が陰陽寮の一族に嫁ぐことになれば、衣食住に困らず温かな家庭を築けるのではという希望を抱いた。
平凡な幸せを夢見て
武流は、蛍流が夫に愛され子を産み、家族と共に幸せに生きる未来があってもいいと願った。そして自身は陰陽寮で武功を上げ、胸を張って蛍流に会いに行くのだと誓った。
希望と現実の対比
その一方で、現実には血と呪いに塗れた蛍流の遺体を抱える武流の姿が描かれる。理想と現実の落差が強調された。
悔恨の嘆き
最後に、武流が「俺は…どうすればよかったんだ」と自問する場面で締めくくられた。彼の脳裏には生前の蛍流の姿が焼き付いていた。
第32話 蛍と彼岸花
突然の別れと偽りの縁談
ある日、武井(橙院武流)が小屋に戻ると、蛍流の姿がなくなっていた。嫁ぎ先が急遽決まったとの話が伝えられたが、武流はその説明に納得していなかった。彼自身は来年には陰陽寮に進む予定であり、蛍流の側にはいられなくなると自らを納得させようとした。
疑念と虫の知らせ
武流は、蛍流が嫁ぐこと自体に違和感を抱きつつも、大奥の差し金であったとの噂を耳にする。格上の家への嫁入りが叶わず、大奥様が例の貿易商に蛍流を売り渡したという陰口も交わされていた。
あやかしの生き餌としての蛍流
耳にした噂の真相は想像を絶するものだった。蛍流は異国の金持ちにあやかしを売るための「生き餌」として扱われていた。武流は激しい怒りと恐怖に駆られ、情報提供者に詰め寄り「蛍流はどこだ」と問い詰めた。相手は、蛍流が「霊毒の材料の調達場所」である五行結界の境目の狩り場にいると告げた。
衝撃の現場と対峙
現地に到着した武流は、異形の妖たちが群がる不気味な光景を目にし、背筋を凍らせた。その場に吊るされていたのは、瀕死の蛍流であった。彼女はすでに深く傷つき、もはや助からない状態にあった。
最後の対話と別れ
武流は蛍流を抱きしめながら「なぜこんなことになった」と叫び、彼女が何をしたというのかと嘆いた。蛍流は涙を流しながらも「兄様の腕の中で死ねる」と語り、ようやく救われたような笑顔を見せて「幸せ」と言い残し、静かに息を引き取った。
蛍流の死と天狗の登場
蛍流は致命傷を負いながらも、「大丈夫」と繰り返し武流を気遣い、静かに息を引き取った。蛍流の死体を抱え絶望に沈む武流の前に、血の匂いを嗅ぎつけた天狗が現れ、彼女の霊力の高さを惜しみつつ「助けてやろうか」と口にした。
交換条件としての誘導
天狗は蛍流の救命と引き換えに、「五行結界の外まで来るように」と武流に条件を突きつけた。半信半疑の武流であったが、天狗は妖気を込めた火垂る玉を取り出し、蛍流の魂に干渉するように振る舞うことで、武流の関心を引いた。
「奇跡」と思えた瞬間
武流は、誰も蛍流を助けてくれなかった現実と、陰陽寮が民草を顧みぬ体質であることを振り返る。そして「橙院に戻っても蛍流は助からない」と理解した彼は、この出会いを「奇跡だと思った」と語った。
魂の再接続と天狗の笑み
天狗の力によって蛍流の魂は一時的に肉体へと呼び戻され、彼女は武流の腕の中で目を開けた。武流は喜びに震えたが、天狗は「さあて」と意味深な言葉を口にし、事態は予断を許さないものとなる。
契約の代償と急変
天狗は満足げな表情で、武流に対して「今度はお前が私を助けてくれる番」と告げる。天狗は蛍流を再び拘束し、絶望する武流を前に「なんでもするって言ったよね?」と冷笑した。
武流の抵抗と失敗
武流は蛍流を取り戻すために突進するが、天狗の圧倒的な力により地面に叩き伏せられる。天狗は「いけない、殺してしまうところだった」と言いつつ、武流の術者としての能力を評価し、「お前ほどの術者は稀」と語った。
絶望の命令
天狗は武流に対し、「人間の娘を攫ってこい。私の役に立て」と命令する。そしてその命令の背景には、天狗が“人の絶望を好む大妖怪・外法”であることが明かされる。
取引の条件と屈服
天狗は「蛍流以上の霊力を持つ娘を連れてきたら蛍流を返す」と告げ、選択肢を奪うように武流を従わせた。武流は抵抗する術もなく、その提案を受け入れるしかなかった。
受け入れざるを得なかった選択
武流は蛍流を失った絶望と、天狗の強大な力の前に屈し、命令に従う決断をする。「従うしかなかった」と、彼はその瞬間の絶望を回想する。
現在への回帰
場面は現在に戻り、武流が目を覚ます描写へとつながる。回想の終わりとともに、彼がどれほどの犠牲と決意を経て今に至るかが強調された。
菜々緒の料理と霊力回復
武井(武流)は菜々緒が作った料理を口にし、「まずい」とこぼしながらも、霊力が回復していくのを感じていた。その味の不出来とは裏腹に、身体は術を使えるほどに回復しつつあった。料理を味わいながら、彼は亡き妹・蛍流の面影を思い出し、苦悩をにじませた。
蛍流の幻影と武流の絶望
蛍流の姿をした幻影が武流の前に現れ、彼はすでに彼女がどこにもいないという現実を受け入れざるを得なかった。骸骨を見つめながら「どこにもいないのか」と呟く彼の姿には、妹を救えなかった後悔と無力感が滲んでいた。
妹を助けるための執念
武流はどんな犠牲を払っても蛍流を助けるつもりだったと回想する。外法の言葉を全面的に信じていたわけではなかったが、他に選択肢がない状況の中で、彼は「蛍流以上の娘」を探し続けていた。そうして菜々緒を見つけたことで、妹を救える最後の機会と考えた。
菜々緒と蛍流の幸せの重なり
菜々緒の姿に、蛍流が幸せになっていたかもしれない未来を重ね合わせた武流は、菜々緒の手を取りながらも「なぜ蛍流だけが」と悔しさを噛みしめていた。菜々緒の存在は、蛍流が望んでいた幸福の象徴であった。
蛍流と似た境遇の菜々緒の奪取
菜々緒は蛍流と同じく一族から虐げられていた存在であり、武流は彼女を最愛の男――夜行――から引き離して奪ったのだった。
術の基礎を活かした対応
菜々緒は結界の限界点を見極め、小夜子に感謝しながら術の基礎知識を活かして状況の整理に努めた。周囲の妖気の濃さや、結界の外であることを認識し、井戸や食料の状況を確認しつつ冷静に現実を受け止めていた。
金色蛍の出現と武流の再登場
突如として金色の蛍が現れ、それが霊力の高い女性に引き寄せられる低級妖であることを、武流が菜々緒に説明した。菜々緒は驚きつつも状況を理解し、金色蛍に引き寄せられる自分の霊力の性質を認識するに至った。
霊力の回復と皮肉交じりの会話
武流は霊力の回復により術が使用できる状態になったことを告げ、天狗から受けた傷を蠱毒の妖に肩代わりさせたと説明した。その後、菜々緒が作った料理に対して「料理上手は嘘だったな」と皮肉を交えながらも、回復への感謝を示した。
菜々緒の怒りと夜行への想い
菜々緒は自分の料理を嘲笑されつつも、夜行に対して何かあれば許さないという強い意志を口にした。彼女にとって夜行は特別な存在であり、その想いは揺るがなかった。
武流の自己否定と告白
菜々緒がナタを構え対峙する中、武井(武流)は自らを殺すよう促す。蛍流はもういない、生きる理由もないと語り、自暴自棄な態度を取る。彼は、蛍流を助けようとした過去と、その失敗への悔恨を語り、彼女が孤独と絶望の中で死んだことを明かす。
後悔と贖罪の思い
武流は蛍流が死にかけていたときに幸せそうに笑っていたことに触れ、あの時ともに死ぬべきだったと自責の念に駆られる。一方、菜々緒は彼の罪を受け止めた上で「殺しません」と拒絶する。
菜々緒の意志と希望
菜々緒は自分勝手に絶望して死のうとする武流を非難し、夜行の腕の中で死にたいと願う自身の思いを語る。そして涙ながらに「私はまだ生きてる」と叫び、皇都へ戻りたい、夜行の元へ帰りたいと強く訴える。
決意と別れの兆し
菜々緒の言葉に対し武流は苦笑いで応じ。さらに菜々緒は「死ぬならその後で勝手に死んでください」と言う。しかしその直後、結界が破られ、敵(天狗)の接近に気づく。
襲撃と決断
天狗たちの襲撃が始まり、武流は菜々緒に打掛を渡し、気配を完全に消すよう助言する。そして自らが囮となって敵を引きつけ、菜々緒を脱出させようとする。菜々緒には南の道を走り、陰陽寮の駐屯地を目指すよう指示を出す。
武流の囮行動と菜々緒の潜伏
武流は天狗の注意を引きつけながら屋根の上に飛び去り、菜々緒は打掛をまとって物陰に身を隠す。天狗たちは武流を殺そうと騒ぎ立てるが、菜々緒の姿は見つけられない。
菜々緒の葛藤と静かな決意
菜々緒は打掛をまとったまま天狗の声が遠ざかるのを聞き、そっと行けば逃げられると理解するが、顔に浮かぶのは複雑な表情であり、胸に秘めた思いが揺れている様子が描かれている。
ぬらりひょんの呪具による攪乱と菜々緒の潜伏
囮となった武流を多数の天狗が追いかけていく一方、菜々緒はぬらりひょんの呪具を手に森の中に身を潜めていた。しかし、残っていた天狗の一団にその存在を察知され、「呪具を持っていた」と報告される。
呪具の効果による強風と天狗の接近
天狗が放った呪具の効果により突風が吹き荒れ、その風に煽られた菜々緒の姿が露見する。天狗に発見された菜々緒は、連れ去られそうになるが、捕まれた手をナタで切りつけるなど、激しく抵抗する。
菜々緒の拒絶と天狗の異変
菜々緒の反撃の騒動により周囲の天狗たちが集まり、彼女は囲まれて拘束される。だが、菜々緒が強く「紅椿夜行の妻である」ことを叫び、天狗のものにはならないと拒絶すると、天狗のが菜々緒に触れてる箇所にに菜々緒と同じ模様が浮かび、突然消滅してしまう。
恐怖と動揺による処刑命令
仲間が跡形もなく消滅した光景を見た天狗たちは、菜々緒の存在を「危険」と判断し、即座に「殺せ」と命令を下す。菜々緒自身も、何が起こったのか理解できず混乱しながらも追い詰められる。
紅椿夜行の登場と戦局の逆転
その瞬間、紅椿夜行が現れ、剣を構えた姿で菜々緒を守るように立ちはだかる。彼の登場により、追い詰められていた状況は一変する。
菜々緒、繊小路夫人とのその後
総小路家との和解の場
菜々緒は総小路家婦人・香代と面会し、香代はしのぶに対して公の場で厳しく当たったことを後悔していた。香代は西園寺家の騒動がしのぶの過失であると知らず、落ち着いて事態を振り返った結果、自身の非を認めたのである。菜々緒は香代を責めることなく、むしろ自分に起きた事実を明かしたことで真実が表に出たことに感謝の意を述べた。
西園寺家の陰謀とその顛末
西園寺元公爵は皇都を巻き込む陰謀を企てていたことが判明し、皇帝暗殺すらも視野に入れていた。そのため現在は離島の監獄に収監されている。また、西園寺しのぶも同じ罪で監獄送りとなった。菜々緒への加害行為に加え、皇都の危機を招いた結果として断罪されたことが語られる。
香代と夜行の対話と今後の支援の約束
香代は自身の孫娘が罪に問われたことに心を痛めるが、夜行は「罪は憎んでも人は憎むな」と述べ、香代の人柄を「立派である」と評する。菜々緒のためにも今後も助力をお願いしたいという夜行の言葉に、香代は支援を約束した。
血縁関係の発覚とあたたかな結び
香代は、菜々緒と自分が遠縁の血縁関係にあると明かし、驚きとともに喜びを示す。場は和やかな雰囲気となり、香代は改めて菜々緒に料理を教えてほしいと願い、菜々緒も快く応じた。こうして香代と菜々緒は互いに理解し、協力関係を築くこととなった。
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