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ありふれた職業で世界最強

小説「ありふれた職業で世界最強 9 」感想・ネタバレ

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ありふれた職業で世界最強 9の表紙画像(レビュー記事導入用) ありふれた職業で世界最強

ありふれた8レビュー
まとめ
ありふれた10レビュー

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  1. どんな本?
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
          1. 最後の大迷宮【氷雪洞窟】へ
          2. 可愛いウサギを躊躇なく踏み潰すハジメ
          3. 氷雪洞窟の本当の試練は「自分自身」
          4. 雫がずっと隠してきたもの
          5. そして一番認めたくなかったハジメへの感情
          6. 偽物の雫が本音を全部ぶつけてくる
          7. そこでハジメが助けに来るのは反則だろう
          8. 雫が「弱さ」を認めたのが良かった
          9. 一方、光輝はかなり危ない
          10. 雫と光輝の違いがかなり残酷
          11. 香織と雫の友情もやっぱり良い
          12. 真夜中の女子会が何気に好き
          13. ハジメはやっぱりハジメだった
          14. まとめ|最後に立ちはだかったのは、自分の中にあるものだった
  5. 考察・解説
    1. ストーリー・プロット
      1. 主要な転換点
      2. 主人公を中心とした人物関係の変化
      3. 主人公の認識と周囲の評価
      4. クライマックス
      5. 巻末時点の状況
    2. 最後の大迷宮
        1. 概要と到達経路
        2. 迷宮のコンセプトと環境特性
        3. 段階的に現れる仕掛けと敵対存在
        4. 第三の試練における虚像との一対一の死闘
        5. まとめ
    3. 氷雪洞窟の試練
        1. 洞窟への進入と環境および魔物の仕掛け
          1. 白銀の子ウサギ 
          2. ビッグフット 
          3. フロストゾンビ 
          4. 空間転移の罠 
          5. 宝珠の回収 
        2. 精神干渉と無意識下の攻撃誘導
          1. 心理的摩耗 
          2. 同士討ちの誘発 
          3. 個別分断と虚像との対決
          4. 南雲ハジメの試練 
          5. 八重樫雫の試練 
        3. まとめ
    4. 精神的葛藤
        1. 八重樫雫における自己犠牲と弱さの受容
        2. 天之河光輝における劣等感と正義の歪み
        3. 南雲ハジメにおける自己認識と鋼鉄の意志
        4. 仲間たちにおける葛藤と選択
        5. まとめ
    5. 虚像との対峙
        1. 虚像の出現と試練の性質
        2. 南雲ハジメによる克服と撃破
        3. 八重樫雫による自己受容と覚醒
        4. まとめ
    6. 雫の覚悟
        1. 雫が抱えていた精神的葛藤と抑圧
        2. 虚像による暴露と絶体絶命の危機
        3. ハジメの介入と背中を押す言葉
        4. 雫が固めた覚悟
        5. 試練の克服と結末
        6. まとめ
  6. 登場キャラクター
    1. 日本からの召喚者・地球の人物
      1. 南雲ハジメ
      2. 白崎香織
      3. 八重樫雫
      4. 天之河光輝
      5. 坂上龍太郎
      6. 谷口鈴
      7. 畑山愛子
      8. 遠藤浩介
      9. 中村恵里
      10. 檜山大介
      11. 八重樫鷲三
      12. 担任の女性教諭
      13. 勇者パーティー
    2. 吸血鬼族
      1. ユエ
    3. 兎人族(ハウリア族)
      1. シア・ハウリア
      2. カム・ハウリア
      3. モナ
      4. ハウリア族
    4. 竜人族(クラルス族)
      1. ティオ・クラルス
    5. 海人族
      1. ミュウ
    6. ハイリヒ王国・聖教教会
      1. リリアーナ・S・B・ハイリヒ
      2. イシュタル
    7. 魔人族(ガーランド王国)
      1. フリード・バグアー
    8. 解放者(神代の反逆者)
      1. ミレディ・ライセン
      2. リューティリス・ハルツィナ
      3. ヴァンドゥル・シュネー
      4. オスカー・オルクス
    9. 大迷宮の魔物・試練の存在
      1. 虚像(もう一人の自分)
      2. 白銀の子ウサギ
      3. ビッグフット
      4. フロストゾンビ
      5. フロストイーグル
      6. フロストワーウルフ
      7. フロストタートル
      8. フロストオーガ
      9. フロストゴーレム
  7. 展開まとめ
    1. プロローグ
    2. 第一章 最後の大迷宮
    3. 第二章 囁く声
    4. 第三章 感情の矛先
    5. 第四章 本当の心
    6. 番外編
    7. 真夜中のガールズトーク
  8. 同シリーズ
  9. その他フィクション

どんな本?

『ありふれた職業で世界最強 9』は、白米良氏によるライトノベルシリーズの第9巻である。本作では、主人公・南雲ハジメたちが故郷への帰還の手がかりを得て、氷と雪に閉ざされた最後の大迷宮「氷雪洞窟」へと挑む。新たな力を携えた一行は、氷面鏡の迷路や奇怪な囁き声など、精神を蝕む仕掛けに直面する。特に、雫は自身の偽りの姿と対峙し、内なる葛藤と向き合うこととなる。本巻は、登場人物たちの内面描写や試練を通じた成長が描かれており、シリーズの中でも重要な位置を占める作品である。

■ 作品概要

本巻は、七大迷宮の最後の一つ「氷雪洞窟」の攻略過程を記録している。主人公・南雲ハジメ一行は飛空艇フェルニルにて大陸最南東の「シュネー雪原」へ到達。
ハジメが調整を施したアーティファクトを受領した天之河光輝らクラスメイト組と合流し、氷雪の峡谷を経て迷宮内部へと侵入する。
物理的試練としての魔物戦、概念魔法アーティファクトによる最短ルートの選別を経て、物語の焦点は「氷鏡面の迷路」における精神的干渉へと移行する。
各登場人物が自身の負の感情を具現化した「囁く声」や暗示による同士討ちの試練を突破し、光の門を抜けて個別に分断された後、ハジメと雫がそれぞれ自らの虚像(もう一人の自分)を打ち破り、雫がハジメへの想いを受け入れて覚醒・告白を果たした段階で本巻は終了する。

■ 主要キャラクター

  • 南雲ハジメ:  錬成師。シアとの関係性が恋人として公認されたことで、彼女を「身内」と定義し過保護に扱う心理的変容が見られる。合理的判断に基づき、擬態した魔物に対しても一切の容赦なく排除を実行する。
  • ユエ:  吸血姫。ハジメの第一の恋人。他メンバーへの牽制を維持しつつ、ハジメの精神的変化を静観し、戦場では圧倒的な魔法火力で後援する。
  • シア・ハウリア:  ハジメの第二の恋人。ハジメとの関係変化により羞恥心を示す場面が増加したが、戦闘では重量級武器ドリュッケンによる物理破壊能力がさらに洗練されている。
  • 白崎香織:  治癒師(使徒の肉体)。極度のホラー耐性の低さが原因となり、恐怖心が閾値を超えると分解魔法を用いた過剰な攻撃性を発揮する。
  • 天之河光輝:  勇者。ハジメにより機能調整された聖剣を使用。ハジメの実力と効率性を目の当たりにすることで、自己肯定感の喪失と底暗い嫉妬、精神的不安定さが顕在化している。
  • 八重樫雫:  剣士。ハジメによって機能改良された相棒「黒刀」と昇華魔法「禁域解放」を駆使して戦う。光輝の危うさを察知する役割を担うが、自身もハジメに対する無意識の情動を「囁く声」に指摘され始める。
  • 坂上龍太郎 / 谷口鈴:  近接戦および結界術担当。ハジメ製の新装備(空間振動の籠手、結界特化の双鉄扇)により、迷宮の主級と交戦可能な水準まで戦力を底上げされている。

読んだ本のタイトル

ありふれた職業で世界最強9
著者:白米良 氏
イラスト:たかやKi  氏
出版社:オーバーラップ
発売日:2018年12月25日
ISBN:978-4-86554-428-2

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

ついに故郷へ帰還する手がかりを得たハジメたち。目指すは【氷雪洞窟】――氷と雪に閉ざされた、極寒にして極限を成す最後の大迷宮。
新たな力を携え挑むハジメたちだったが、氷面鏡の迷路に加え、奇怪な囁き声に悩まされる。その仕掛けは一行の精神を着実に蝕んでいき――。
そんな極限状態の中で分断され、一人ぼっちとなった雫の前に現れたのは、偽りの自分。
自身を超える試練に臨む雫だったが、目を逸らしてきた真実を虚像に突きつけられ、心が決壊してしまい……!?
「南雲君、少し、疲れたわ。ちゃんと……守って……ね?」
内に秘めた自身に克己せよ。“最強”異世界ファンタジー、第9巻

ありふれた職業で世界最強 9

感想

ついに最後の大迷宮【氷雪洞窟】へ挑むことになったハジメたち。

七大迷宮もこれで最後。

いよいよ地球への帰還が見えてきた。

……と思ったのだが、最後に待っていた試練がかなり嫌らしい。

今回の敵は強大な魔物だけではない。

自分自身である。

心の奥底に隠していた不安。

認めたくなかった感情。

過去の傷。

自分でも見ないようにしていた醜い部分。

それらを真正面から突きつけてくる。

力だけならハジメたちはすでに相当な領域まで来ている。

だから最後に試されるのが「心」というのは納得できる。

そして今回、特に印象に残ったのが雫だった。

最後の大迷宮【氷雪洞窟】へ

舞台となるのは、極寒のシュネー雪原。

猛烈な吹雪が吹き荒れ、周囲は雪と氷ばかり。

いかにも最後の大迷宮らしい場所である。

ただ、ハジメたちは飛空艇フェルニルでかなりの部分をショートカット。

さらに寒さ対策のアーティファクトまで準備済み。

大迷宮へ挑むというより、

「事前準備を完璧にした廃人プレイヤーが高難易度ダンジョンへ乗り込んでいる」

ようにも見えてしまう。

さすがハジメ。

攻略前の準備がおかしい。

もっとも、氷雪洞窟が本当に恐ろしいのは寒さではなかった。

可愛いウサギを躊躇なく踏み潰すハジメ

氷雪洞窟へ向かう途中では、白銀の可愛らしい子ウサギが登場する。

雫も思わず反応するほど可愛い。

そんなウサギがハジメへ近づいてきた。

ここ最近、少しずつ人間らしい柔らかさを取り戻しているハジメ。

これはもしかして優しく抱き上げるのか?

……と思ったら。

踏み潰した。

容赦がない。

シアたちドン引き。

特に同じウサミミ族のシアからすると複雑すぎる。

だが実際には、このウサギは相手の熱を奪って凍死させる厄介な魔物だった。

つまりハジメの判断が正しい。

正しいのだが。

もうちょっとこう……。

何かあるだろう。

しかもシアに対しては、

「俺のウサギはシアだけ」

という趣旨のことを平然と言う。

さっきまで大量のウサギを血祭りにしていた男と同一人物とは思えない。

シアがチョロくなるのも仕方がない。

氷雪洞窟の本当の試練は「自分自身」

氷雪洞窟へ入ってから、物語の雰囲気が変わっていく。

この大迷宮が試しているのは戦闘能力だけではない。

むしろ重要なのは精神面だった。

自分の中にある負の感情を見せつけられる。

嫉妬。

恐怖。

後悔。

罪悪感。

依存。

認めたくない本音。

それらを突きつけられ、それでも前へ進めるかを試される。

考えてみれば、これから相手にするのは人間の精神へ干渉してくる神である。

単純に強いだけでは足りない。

どれだけ強大な力を持っていても、心の隙を突かれて操られてしまえば終わる。

だから最後の大迷宮で精神を鍛える。

かなり合理的な試練である。

ただし、受ける側からしたら最悪だろう。

雫がずっと隠してきたもの

今回、一番印象に残ったのは雫だった。

これまでの雫は、とにかく頼れる。

冷静。

剣術も強い。

周囲を見ることができる。

香織や光輝たちが暴走すれば止める。

まさに皆のお姉さん役だった。

だが、それが雫のすべてではない。

本当は可愛いものが好き。

誰かに甘えたい。

守ってもらいたい。

普通の女の子らしいことだってしたい。

それでも八重樫流の家に生まれ、周囲から期待され、自分がしっかりしなければならないと思い続けてきた。

その結果、

「頼れる八重樫雫」

を自分で作ってしまったように感じる。

別にそれが偽物というわけではない。

強い雫も本物である。

でも、それだけではなかった。

そして一番認めたくなかったハジメへの感情

さらに厄介なのがハジメである。

親友の香織がずっと好きだった相手。

そのハジメに、自分も惹かれてしまった。

これは雫にとって相当きつかったと思う。

香織がどれだけハジメを好きなのか知っている。

昔からずっと一緒にいた親友である。

その親友が好きな男を、自分も好きになってしまった。

だから認めたくない。

認めれば、自分が香織を裏切っているように感じてしまう。

しかも雫は、もともと自分より周囲を優先するタイプだ。

なおさら素直になれるはずがない。

氷雪洞窟は、そこを容赦なく突いてくる。

本当に嫌な迷宮である。

偽物の雫が本音を全部ぶつけてくる

試練の中で現れたのは、雫自身を写したような虚像だった。

剣術まで雫と同じ。

それだけでも面倒なのに、口まで最悪である。

雫が見ないようにしてきた感情を次々と言葉にしてくる。

家族への不満。

周囲の期待に応えるため、自分を抑えてきたこと。

誰かに甘えたいという弱さ。

そしてハジメへの恋心。

雫本人が蓋をしていたものを、全部こじ開けてくる。

これは剣で戦うよりきつい。

しかも相手は自分自身なので、言われたことを完全には否定できない。

図星だからこそ効く。

精神を乱されれば剣も乱れる。

そして雫は追い詰められていく。

そこでハジメが助けに来るのは反則だろう

そんな雫の前に現れるのがハジメ。

いや。

これは反則だと思う。

自分の気持ちを必死に否定している最中に、その原因になっている男本人が助けに来る。

しかも圧倒的な力で守られる。

雫がこれまで心の奥に隠してきた、

「誰かに守ってほしい」

という部分にまで刺さってしまう。

そりゃ無理だ。

プロローグの時点から、雫の感情がかなり危ない。

ハジメの紅色。

大きな背中。

自分の心へ当たり前のように踏み込んでくる存在。

だからこそ、

これ以上、自分を守らないでほしい。

そう思ってしまう。

守られるほど惹かれてしまうからだろう。

ここまで来たら、もう誤魔化すのは難しい。

雫が「弱さ」を認めたのが良かった

印象に残ったのは、雫が突然強くなったことではない。

むしろ逆だった。

自分は弱い。

誰かに甘えたい。

可愛いものが好き。

守られたい。

そしてハジメに惹かれている。

今まで隠してきたものを、

「それも自分だ」

と認めたことが大きかった。

強さとは弱さを消すことではない。

弱い部分があると分かったうえで、それでも進む。

氷雪洞窟が求めているのも、おそらくそこなのだと思う。

だから雫は、自分自身の虚像を切り伏せることができた。

これまでの「完璧なお姉さん」から、一人の少女としての八重樫雫が見えてきたのが良かった。

一方、光輝はかなり危ない

雫が自分の弱さを認めて前へ進んだ一方で、かなり危険なのが光輝だった。

ハジメとの圧倒的な実力差。

仲間たちがハジメを信頼していること。

自分が勇者であるにもかかわらず、中心にいるのはハジメ。

これまで少しずつ積み重なってきたものが、かなり大きくなっている。

光輝は悪人ではない。

むしろ正しくありたい人間なのだと思う。

だからこそ厄介なのかもしれない。

「自分は正しい」

という前提が崩れ始めると、自分自身まで崩れてしまう。

間違っていた。

嫉妬していた。

ハジメが羨ましかった。

そう認められれば違うのだろうが、光輝にとってはそれが難しい。

雫と光輝の違いがかなり残酷

今回の試練では、雫と光輝の違いが印象的だった。

雫にも嫉妬や罪悪感、弱さがある。

決して綺麗な感情だけではない。

それでも最後には、

「これも自分だ」

と認める。

対して光輝は、自分の中にある負の感情を受け入れることができない。

自分は勇者。

自分は正しい。

自分は皆を守る側。

そういう自己認識が強いからこそ、そこから外れた自分を認めるのが難しい。

同じように自分の内面を突きつけられているのに、受け止め方がまるで違う。

氷雪洞窟の試練が恐ろしいのはここだと思う。

強いか弱いかではない。

自分自身を認められるかどうか。

そこを容赦なく試してくる。

香織と雫の友情もやっぱり良い

そして忘れてはいけないのが香織と雫である。

二人は昔からの親友。

だからこそ、雫にとってハジメへの感情は大きな罪悪感になっていた。

しかし、ここまで二人の関係を見てきたからこそ感じる。

簡単に壊れるような友情ではないだろう。

香織は香織でかなり強烈になった。

ハジメを追いかけて異世界でも突き進み、ついには身体まで変えてしまった女である。

雫も相当だが、香織も相当である。

この二人が親友なのは妙に納得できる。

真夜中の女子会が何気に好き

そして番外編の女子会。

こういう場面が好きである。

大迷宮攻略や神との戦いだけではなく、女の子たちが集まって普通に話している。

香織と雫。

ユエとシア。

鈴。

ティオ。

それぞれ関係性が違うから、会話をしているだけでも面白い。

特に香織が雫を自慢すると、ユエがシアを引き寄せて対抗する流れ。

何を競っているんだ。

親友自慢大会か。

しかし、こういう何気ない会話があるからこそ、それぞれの絆が見えてくる。

雫が光輝を放っておけない理由についても、恋愛ではなく八重樫流の門下生として「身内」だからという話が出てくる。

雫という人間が、なぜあれほど周囲の面倒を見るのか。

その根っこの部分まで見えてくるのが興味深かった。

ハジメはやっぱりハジメだった

氷雪洞窟は精神を試す大迷宮。

当然、ハジメにも試練が来る。

日本へ戻ったとき、自分が受け入れられなかったらどうするのか。

人を殺してきた自分を両親が見たらどう思うのか。

大切な仲間を失ったらどうするのか。

ハジメにだって恐怖はある。

ここが意外と重要だった。

ハジメは何も怖くないから強いわけではない。

怖い。

不安もある。

失いたくないものも増えてしまった。

それでも進む。

奈落に落ちた頃のハジメなら、

「全部切り捨ててでも帰る」

だった。

しかし今は違う。

守りたい相手が増えている。

それでも故郷へ帰る。

この変化を考えると、ハジメもかなり遠くまで来たのだと思う。

まとめ|最後に立ちはだかったのは、自分の中にあるものだった

『ありふれた職業で世界最強』9巻は、最後の大迷宮【氷雪洞窟】へ挑む巻である。

しかし印象に残ったのは派手な戦闘より、それぞれが自分自身と向き合う姿だった。

特に雫。

ずっと頼れるお姉さん役だった彼女が、自分の弱さや本音、そしてハジメへの感情まで認めていく。

強いから弱さがないのではない。

弱さを抱えたまま、それでも前へ進めるから強い。

そんな雫の姿が印象的だった。

一方で、光輝はかなり危うい。

同じように自分自身を突きつけられながら、雫とは違う方向へ進み始めている。

この対比も気になるところである。

そして最後には女子会。

大迷宮で心を抉られた後に、こういう日常的な会話を読めると少し安心する。

香織と雫の友情。

ユエとシアの関係。

鈴の決意。

何だかんだで仲間同士の距離は確実に近くなっている。

七大迷宮もついに最後。

故郷への帰還も見えてきた。

だが、物語はまだ終わらない。

むしろ問題はここからなのだろう。

そして何より。

光輝、大丈夫か?

どう考えても嫌な予感しかしない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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ありふれた8レビュー
まとめ
ありふれた10レビュー

考察・解説

ストーリー・プロット

  1. シュネー雪原への進路:  飛空艇内にて概念魔法「導越の羅針盤」の機能を確認。シアとの関係性公認によるパーティー内の心理的力学の変化と、光輝らへの新アーティファクト供与による戦力再編が行われる。
  2. 氷雪の峡谷と死を招く子ウサギ: 峡谷突入後、外見の愛らしさで油断を誘い熱を奪う魔物「子ウサギ」に遭遇した。ハジメは魔物の本質を即座に断定し、リボルバー式エアショットガン(アルルス)等で殲滅した。
  3. 大迷宮入り口の番人戦:  迷宮入り口にて、氷上を高速滑走する「ビッグフット」と交戦。光輝らが新装備の性能を実戦確認し、撃破に成功する。
  4. 氷雪洞窟への潜入と亡者の群れ:  迷宮内部にて氷壁に埋まった「フロストゾンビ」の群れと遭遇。無限再生する死者の群れを排除しつつ、中枢部へ進行する。
  5. 氷の闘技場と守護者フロストタートル:  巨大な氷の亀(守護者)が出現。ハジメが雑魚(フロストイーグル等)の掃討を担い、光輝ら4人がボスを分担。光輝の「神威」と雫の精密な連携により魔石を破壊する。
  6. 氷鏡面の迷路:  3つの宝珠を回収し扉を解錠。周囲を鏡状に映し出す「氷鏡面」エリアへ進入。「導越の羅針盤」の使用による物理的試練のショートカット(原因)が、精神的干渉の早期発現(結果)を招く。
  7. 内面の露呈と囁く声:  自身の声を模した「囁き」による精神干渉が開始。過去の後悔や自己欺瞞、嫉妬が言語化され、各個人のアイデンティティーに負荷をかける。
  8. 暗示による同士討ちと守護者戦: 終着点の門の前で、囁き声による暗示が発動し、光輝らが無意識に仲間(ハジメら)を標的に攻撃してしまう同士討ちの罠に陥る。さらに九体のフロストゴーレムと熱線の乱反射が襲いかかる中、各自が個別に敵を撃破して試練を突破した。
  9. 光の門による分断と自問自答: 試練を終えて光の門へ飛び込んだ一行は個別に空間を分断され、ハジメは氷樹の前で実体化して語りかけてくる「もう一人の自分」と対峙した。ハジメは不安や恐怖を抱えたまま進む鋼鉄の意志を示して自身の虚像を粉砕した。   
  10. 雫の覚醒と虚像の撃破: 一方、自身の弱さや恋心を暴かれて瀕死に追い詰められた雫のもとへハジメが介入して救出した。ハジメに背中を押された雫は、自らの弱さとハジメへの恋心をありのままに受け入れて虚像を一刀両断し、ハジメへ想いを素直に伝えて前進する決意を固めた。  

主要な転換点

  • 転換点1: 概念魔法アーティファクト「導越の羅針盤」の使用
  • 以前の状況: 目的地への正確なルートおよび「鍵」の所在が不明。
  • 変化: 迷路や隠蔽を無効化し、最短距離を指し示す。
  • 影響: 迷宮探索の物理的難易度を大幅に下げた結果、攻略の本質が「精神的試練」へと早期に移行した。
  • 転換点2: クラスメイトたちへのアーティファクト供与
  • 以前の状況: 実力がハジメの要求水準に達しておらず、戦力外に近い状態。
  • 変化: 各自の特性を強化した「魔改造」装備により、主級と戦える戦力を獲得。
  • 影響: ハジメに依存せざるを得ない事実が光輝の自己肯定感を破壊し、精神的崩壊を加速させた。
  • 転換点3: 精神干渉「囁く声」の発現
  • 以前の状況: 外部の魔物との物理的戦闘が主体。
  • 変化: 対象自身の負の感情を言語化して認識させる事態に。
  • 影響: キャラクター間の信頼関係や光輝の自己認識に致命的な亀裂を入れ始めた。

主人公を中心とした人物関係の変化

  • ハジメ ⇔ シア:
  • 開始時: 恋人として認め合った直後の状態。
  • 変化: シアが好意を無制限に表出させるようになり、ハジメも彼女を「身内」として過保護に扱う場面が増加。パーティー内の親密度の偏りが鮮明となる。
  • ハジメ ⇔ 光輝:
  • 開始時: ハジメの実力を認めつつも、手法に対する反抗心を保持。
  • 変化: 圧倒的な実力差に加え、雫や香織がハジメを信頼する様子を視認。対抗意識が「底暗い嫉妬」と「自己嫌悪」へと変質し、精神的不安定さが深刻化。

主人公の認識と周囲の評価

  • 主人公自身の認識:  帰還という目的に対し、最短・最効率の手段を選択しているに過ぎない。子ウサギの殲滅やゲートによる鍵回収は、合理的な最適解であると定義している。
  • 周囲からの評価:
  • ユエ・シア・ティオ: 合理性を信頼し、その中にある「身内への甘さ」を本質として受容。
  • 光輝・龍太郎ら: 圧倒的な「悪魔的」な非情さに戦慄しつつ、頼らざるを得ない現状に屈辱や焦燥、劣等感を抱く。
  • 認識の差が現れた場面:  外見上無害な子ウサギを躊躇なく踏み潰すハジメの行動に対し、光輝らが道徳的嫌悪感を示す場面。

クライマックス

  • フロストタートル戦の分析:
  • 発生原因:  迷宮のキーアイテム(宝珠)を守護する番人として出現。
  • 状況:  無限再生するフロストイーグル等の群れと、極めて頑強な本体。
  • 行動:  ハジメは周囲の雑魚掃討に専念。光輝、雫、龍太郎、鈴の4名がボスへ挑む。
  • 危機:  ボスの変則的な頭部再生能力と、雫への強襲。
  • 対応:  ハジメが視認しない背後への超精密射撃により雫を救出。ユエが「雷龍」で隙を作成。雫は昇華魔法「禁域解放」を使用し、知覚能力の拡大と神速の領域へ到達する。
  • 決着:  光輝が「神威」で甲羅を粉砕。雫が「閃華」で空間を割断し、逃走を図る魔石を直接破壊して勝利。

巻末時点の状況

  • 主人公の位置:  氷樹の試練を突破した先にある、新たな通路。
  • 立場:  物理的守護者を全て排除し、迷宮攻略の最終段階へ到達。
  • 解決した問題:  フロストタートル撃破、3つの宝珠による扉の解錠、暗示による同士討ちとフロストゴーレム戦の突破、ならびにハジメおよび雫による自身の虚像の撃破。
  • 継続している問題:  分断された他の仲間達(光輝、龍太郎、鈴、ユエ、シア、ティオ、香織)の合流と、彼らが直面する個別試練の結末。
  • 今後につながる要素:  雫が自身の本心(ハジメへの無意識の情動)を自覚し始める兆候。光輝の精神的境界線が限界に達しつつある点。

最後の大迷宮

大陸最南東の極寒地に位置するシュネー雪原には、七大迷宮の最後を飾る氷雪洞窟が存在する。狂神との最終決戦を前に、神につけ込まれない強靭な精神力を養う目的で設計されたこの試練について、環境特性から戦闘の推移、精神的な克己の過程を整理する。

概要と到達経路
  • 常に暗い曇天と猛烈な吹雪に閉ざされた極地であり、過去に外部へ被害を出さないよう解放者によって外界との境界が遮断されている。
  • ハルツィナ樹海で獲得した導越の羅針盤を用いて正確な位置を特定し、飛空艇フェルニルで上空の雲海を越えて氷雪の峡谷へ到達する。
迷宮のコンセプトと環境特性
  • 試練の本質的な主題は自分自身への克服に設定されている。
  • 自身の負の感情、目を背けてきた醜い一面、過去の傷、矛盾する葛藤を突きつけ、それらを乗り越える心の強さを測定する。
  • 通路や壁面は透明度の高い氷鏡面で構成され、音や光を不気味に反射するほか、魔力反応や気配を遮断する性質を備えている。
  • 接触によって瞬時に凍傷を引き起こす極低温の吹雪が常時吹き荒れる。
段階的に現れる仕掛けと敵対存在
  • 珍妙かつ凶悪な魔物の群れ ・愛らしい白銀の子ウサギ型魔物は、対象へ取り付いて熱量を奪い去り凍死させる固有魔法を行使する。 ・体長3メートルを超える白いゴリラ型魔物は、滑らかな氷上を作り出し、フィギュアスケートを思わせる華麗な跳躍やステップで攻撃を回避する。 ・氷壁内に埋没していた挑戦者の遺骸が動くフロストゾンビや巨大なフロストタートルは、遠隔地に隠された本体の魔石を破壊しない限り無限に再生を繰り返す。
  • 第一の試練となる大迷路と3つの宝珠 ・高さ10メートル、厚さ2メートルの氷壁で構築された巨大迷路が進入を阻む。 ・壁上を跳躍して近道を図った者は、空間転移によって天井の六角氷柱へ拘束され窒息の危機に直面する。 ・扉を開放するためには迷宮内に点在する3つの宝珠を回収する必要があり、クロスビットや空間転移ゲートを用いた連動作戦により黄色、赤色、緑色の鍵を確保する。
  • 第二の試練となる囁き声と攻撃誘導 ・迷宮の深層へ進むにつれ、挑戦者自身の声による囁きが耳元で響き渡り、後悔や暗い過去を突きつけて精神力を激しく消耗させる。 ・フロストゴーレム戦では、頭上からの熱線攻撃と視界を塞ぐ雪煙の中で意識を誘導され、仲間への同士討ちを引き起こす不可避の暗示が作用する。
第三の試練における虚像との一対一の死闘
  • 光の門を通過した挑戦者は全員個別の空間へ強制分断され、自己の負の側面から具現化した虚像と単独で対峙する。
  • 虚像は対象の能力、神代魔法、保有する装備品や武術を完全に再現する。
  • ハジメと虚像の対峙 ・虚像は化け物へ変貌したことで故郷や両親に拒絶される恐怖、他者への精神的依存を指摘して心を砕こうと試みる。 ・不安や負の感情を内包したまま前進する強靭な決意を示し、戦いの最中に自身の挙動を進化させ、虚像の頭部を粉砕して圧倒する。
  • 雫と虚像の死闘 ・八重樫流刀術を完全に模倣する虚像は、親友の想い人へ心を寄せた罪悪感、保護される立場への憧憬、周囲の期待に応え続けた重圧を暴き立てて追い詰める。 ・致命傷を受ける直前にハジメが介入して窮地を脱し、神水による回復と激励を受ける。 ・自身の弱さや他者への愛情、胸に秘めた恋情のすべてを受け入れて覚醒を遂げ、渾身の一閃によって虚像を一刀両断する。
まとめ

氷雪洞窟の突破を経て、一行は七大迷宮のすべてを踏破する偉業を達成する。己の深層心理と向き合い、弱さを受け入れた上で打ち勝った経験は、すべての神代魔法の統合と概念魔法の行使へ向けた最後の基盤を完成させる。

氷雪洞窟の試練

七大迷宮の最後を締めくくる氷雪洞窟の試練は、挑戦者の戦闘技量のみならず、心の弱さや負の感情を白日の下に晒して乗り越えさせる過酷な精神試練の場となる。

洞窟への進入と環境および魔物の仕掛け

氷雪の峡谷を越えて到達する氷雪洞窟は、極低温の吹雪と音や光を不気味に乱反射する氷鏡面の壁で構成されている。道中には特異な生態系と凶悪な仕掛けが待ち受ける。

白銀の子ウサギ 

愛らしい外見を有するものの、対象に取り付いて体温と熱量を奪い去り凍死させる固有魔法を行使する。ハジメは即座に危険性を見抜き、散弾針などを用いて徹底的に排除する。

ビッグフット 

フィギュアスケートの三回転半ジャンプや洗練されたステップを駆使し、攻撃を軽妙に回避するゴリラ型の魔物となる。

フロストゾンビ 

氷壁内に埋没していた過去の挑戦者の遺骸が動く存在であり、本体となる魔石が数百メートル離れた場所に隠されているため、粉砕されても即座に再生を果たす。

空間転移の罠 

迷路の壁上を跳躍して近道を図った龍太郎に対し空間転移の罰則が発動し、天井の六角氷柱内へ拘束されて窒息寸前に陥る。

宝珠の回収 

扉の開放には三つの宝珠が必要となるが、ハジメはクロスビットと転移ゲートを連動させ、遠隔で鍵を回収しながら爆弾を用いて守護者を殲滅する。

精神干渉と無意識下の攻撃誘導

迷路の深層へ進むにつれ、挑戦者自身の声に酷似した不快な響きの囁き声が脳内に侵入する。

心理的摩耗 

本人が抑圧してきた後悔、心の葛藤、過去の傷、家族に拒絶される恐れや自己犠牲への不満を絶え間なく刺激し、精神を疲弊させる。

同士討ちの誘発 

最奥の広場で展開されたフロストゴーレム戦では、集束熱線と雪煙で視界が奪われる中、暗示の影響により攻撃の瞬間に意識を誘導され、味方を誤射する危機に直面する。

個別分断と虚像との対決

光の門を通過した挑戦者は個別の閉鎖空間へ隔離され、巨大な氷樹がそびえる部屋で自己の負の側面から形成された虚像と一対一の対峙を強いられる。虚像は対象の能力、神代魔法、戦闘技術、装備品を完全に再現して襲いかかる。

南雲ハジメの試練 

虚像は人殺しの化け物へ成り果てたことへの恐れや、故郷に拒絶される不安、ユエへの依存心を突きつけて精神の破綻を狙う。 ハジメは恐れや不安を内包したまま進む鋼鉄の意志を示し、ユエへの感情を揺るぎない愛情と位置づける。戦いの中でリアルタイムに挙動を修正および進化させ、過去の記録に基づく虚像を圧倒して粉砕する。

八重樫雫の試練 

虚像は八重樫流刀術を完全に模倣し、期待に応えるために自分を抑圧してきた不満、幼少期の未練、親友の想い人へ心を寄せた罪悪感を暴き立て、雫を瀕死の重傷へ追い込む。 止めを刺される直前にハジメが乱入して白刀を砕き、神水による治療とともに叱咤激励を与える。 雫は自己の弱さや恋心をありのままに受け入れ、覚醒の居合一閃によって虚像を両断する。

まとめ

氷雪洞窟の試練は、自らの負の感情から目を背けずに受容し、精神を統御する強靭さを求める構造を持つ。この迷宮の踏破によって七大迷宮の制覇が成し遂げられ、すべての神代魔法と概念魔法を手中に収めた一行は、狂神との最終決戦および故郷への帰還へ向けた最後の舞台へ歩みを進める。

精神的葛藤

物語における精神的葛藤は、最後の大迷宮となる氷雪洞窟の試練を通じて、登場人物たちの隠された本音やトラウマ、抑圧された負の感情として鮮明に描かれる。
この大迷宮では、脳内に響く囁き声や己の負の面を映し出す虚像が登場し、個々人が直視を避けてきた心の弱さと向き合うことを強制される。

八重樫雫における自己犠牲と弱さの受容

・八重樫家の当主としての期待に応えるため、頼れる剣士やまとめ役として自身を抑えて生きてきたが、内心では可愛い服を着たい、誰かに甘えて守られたいという本音を抱える。 

・親友である白崎香織の想い人に自身も惹かれてしまった罪悪感や、親友を裏切る卑怯者ではないかという葛藤に苦しむ。 

・虚像に過去や本音を暴かれて肉体的かつ精神的に絶体絶命へ追い詰められた際、ハジメから背中を押されたことを契機に覚醒を果たす。

 ・自身の弱さや恋心を正面から受け入れ、最良を手繰り寄せると決意したことで虚像を切り伏せて撃破に至る。

天之河光輝における劣等感と正義の歪み

・勇者でありながらハジメとの圧倒的な実力差を見せつけられ、周囲の関心もハジメに向かう状況に対し、激しい嫉妬や疑念、苛立ちを募らせる。

 ・自身の正しさを証明することへ執着するあまり余裕を失い、心の奥底に歪んだ感情を蓄積させる。

南雲ハジメにおける自己認識と鋼鉄の意志

・虚像から、人を殺した存在に成り果てて日本や両親に拒絶される恐怖や、特定の仲間への依存を鋭く突かれる。

 ・不安や恐怖を認めた上で、悩みや恐れを抱えながらも決意を武器に押し通す姿勢を貫く。

 ・どのような未来であっても立ち向かう強靭な意志を示し、戦いの中で直前の自身を超えて進化を遂げ、虚像を粉砕する。

仲間たちにおける葛藤と選択

・ユエは過去の親族や家臣による裏切りのトラウマから深層心理の不安を突かれるものの、仲間への強い信頼によって一蹴する。

 ・シアは家族を失った悲劇に対し、過去はやり直せないため未来のために全力を尽くす姿勢で前を向き受け流す。

 ・谷口鈴は仲間の裏切りに対する傷を抱えつつも、直接対話して決着をつけるという強い目的意識を維持して試練を耐え抜く。

まとめ

氷雪洞窟の試練は、単なる戦闘能力の優劣を競う場にとどまらず、自らの負の感情や葛藤を直視し、受け入れた上で前に進む精神の強靭さを問う局面を形成する。
登場人物たちが己の内面を克服した経験は、神との最終決戦へと向かう強固な足がかりとなる。

虚像との対峙

物語の第9巻において描かれる虚像との対峙は、七大迷宮の最後を飾る氷雪洞窟の最深部付近で課される試練に位置づけられる。外面的な戦闘技術のみならず、挑戦者が抱える心の弱さや抑圧された負の感情を真正面から暴き立てる過酷な精神試練の全容を以下に整理する。

虚像の出現と試練の性質

・光の門を通過した挑戦者は一人ずつ個別の空間へ強制分断され、中央に巨大な氷樹がそびえる閉鎖空間へ送られる。

・迷宮は対象の記憶や深層心理を読み取り、行使可能な魔法、技能、所持する武器や装具まで完全に複製したもう一人の自分を具現化する。

・同じ技を用いて物理的に襲いかかるのみならず、本人が目を背けてきた過去の傷、嫉妬、後悔、罪悪感を言語化して執拗に精神を追い詰める。

・己の負の面を否定して拒絶するほど敵は勢いを増すが、自らの未熟さや弱点を受け止め、それを凌駕する強固な意志を示すことで打倒が可能となる。

南雲ハジメによる克服と撃破

・複製体は、人命を奪う存在へ変貌したことで故郷や家族に拒絶される恐れや、心の拠り所として仲間へ依存している甘えを鋭く指摘する。

・恐怖や苦悩の存在を否定せず、どのような感情を内包していようとも強靭な決意を軸に前進し続ける姿勢を表明する。

・提示された虚像が迷宮突入時点の記録に基づく点を見極め、交戦中の短時間で自身の戦闘挙動をその場で進化させ、過去の写し身を完全に粉砕する。

八重樫雫による自己受容と覚醒

・対峙した虚像は八重樫流刀術を完全に再現し、集団のまとめ役として自身を抑圧してきた不満、庇護される立場への憧憬、親友の想い人に惹かれた罪悪感を暴露する。

・精神的な動揺から太刀筋を狂わされ、全身に傷を負って瀕死の窮地に陥るが、自らの試練を終えたハジメの介入によって危機を脱する。

・一切の虚飾を排して自らの弱さや恋心をありのままに肯定し、大切な絆を守り抜く覚悟のもとで放った渾身の一撃により、自身の複製体を両断する。

まとめ

氷雪洞窟における対決は、登場人物たちが長年目を背けてきた心の陰影を直視し、自己の内面を統御する強さを確立する転換点となる。精神的な克己を経て揺るぎない絆を結び直した一行は、故郷への帰還と狂神との最終決戦へ向けて確固たる足がかりを築き上げる。

雫の覚悟

物語の第9巻において八重樫雫が見せる覚悟は、最後の大迷宮である氷雪洞窟の試練を通じて結実する。長年抑圧してきた精神的葛藤や自己犠牲の姿勢を乗り越え、自らの本心と向き合うまでの経緯を整理する。

雫が抱えていた精神的葛藤と抑圧

・八重樫流の当主である祖父や家族の期待に応えるため、幼少期からまとめ役や頼れる剣士として己を抑えて生活を続ける

・内心では可愛い服を着たい、誰かに甘えて守られたいという本音を抱えながらも、それを隠し通す

・親友の白崎香織が好意を寄せる南雲ハジメに惹かれ、親友を裏切る卑怯者ではないかという強い罪悪感に苦しむ

虚像による暴露と絶体絶命の危機

・氷雪洞窟の個別空間で分断された際、自らの負の面を写し取った白い虚像が現れる

・虚像は八重樫流刀術を完全に再現して攻撃を仕掛ける

・親友の好きな人を欲しがる卑怯さ、家族のために自身を殺してきた不満、誰かに寄りかかりたい弱さを言葉として浴びせかける

・醜い感情を直視できず動揺した結果、太刀筋を乱されて全身を刻まれ、瀕死の重傷を負う

ハジメの介入と背中を押す言葉

・致命傷を負う寸前にハジメが割り込み、虚像の白刀を粉砕して窮地を救う

・神水を投与して肉体の損傷を全快させる

・自身がいる限り死なせないと告げ、見届ける姿勢を示して勝てるまで挑戦を促す言葉をかける

雫が固めた覚悟

・自らの弱さと恋心の受容

強がる姿勢を改め、誰かに守られたいという弱さやハジメへの恋心を正面から受け止める

・親友へ想いを伝える決意

罪悪感から身を引く選択を捨て、香織に対して正直に自らの恋心を打ち明けると心に決める

・最良を手繰り寄せるための闘志

守られるだけの立場に甘んじることなく、支えを受け止めながら親友との絆も恋も諦めずに戦い抜く意志を固める

試練の克服と結末

・迷いを払った太刀筋で再び虚像へと挑みかかる

・己の心を肯定したことで相手の勢いを挫き、一瞬の交差で居合一閃を放って虚像を両断する

・内面の試練を完全に制覇する

まとめ

この覚悟を経たことで、八重樫雫は自己犠牲的な役割から脱却を果たす。自らの望みや好意を偽らずに受け入れる精神的成熟を遂げ、一人の女性として確固たる一歩を踏み出すに至る。

ありふれた8レビュー
まとめ
ありふれた10レビュー

登場キャラクター

日本からの召喚者・地球の人物

南雲ハジメ

奈落から生還した錬成師の男子生徒。仲間を守るため立ち塞がる障害を排除する。ユエやシアとの関係を深めて絆を強める。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。錬成師。「金」ランク冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果  飛空艇フェルニルを操縦してシュネー雪原へ到達する。仲間たちの武器やアーティファクトを改良して能力の強化を図る。大迷宮の試練で己の虚像と対峙して勝利を収める。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  シアを特別として受け入れる。試練に苦しむ雫を救出して言葉をかける。

白崎香織

ハジメに想いを寄せる治癒師の女子生徒。仲間への献身的な優しさを持ちノイントの肉体で活動を続ける。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。治癒師。

・物語内での具体的な行動や成果  銀羽を用いた分解能力で仲間を援護する。大迷宮内で疲弊した雫や仲間たちを治療する。ユエと連携してフロストゴーレムの撃破に成功する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  葛藤を抱える雫を抱き締めて受け止める。パーティーの精神的な支えを務める。

八重樫雫

八重樫流の跡取りを務める女子生徒。周囲の期待に応えるため責任感を背負って生きてきた。ハジメへの恋心と香織への罪悪感に葛藤する。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。剣士。

・物語内での具体的な行動や成果  黒刀を用いた神速の抜刀術で魔物を撃退する。大迷宮の個別空間で自身の虚像と死闘を繰り広げる。ハジメから与えられた神水で全快して覚醒を果たす。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  己の不完全さを受け入れて虚像を両断する。ハジメへ恋心を素直に打ち明ける決意を固める。

天之河光輝

強い正義感を掲げる勇者の男子生徒。ハジメとの圧倒的な実力差に苦悩を深める。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。天職は勇者。

・物語内での具体的な行動や成果  聖剣を振るい極大の光の斬撃神威を発動する。大迷宮の囁き声の影響で仲間へ攻撃を誘導される。フロストタートル戦で勝利を迎える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  自身の正しさに執着して精神的に揺らぐ。心の中に黒い感情を蓄積させる。

坂上龍太郎

光輝の親友を務める豪快な男子生徒。前衛として肉弾戦を担当する。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。拳士。

・物語内での具体的な行動や成果  改造された籠手で空間振動を伴う破拳を放つ。迷路の上を跳び越えようとして六角氷柱に閉じ込められる。フロストゴーレムと素手の殴り合いを展開する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  香織の分解能力により衣服がボロボロになる失態を演じる。明るい言葉で光輝の心を解す。

谷口鈴

明るいムードメーカーを務める女子生徒。恵里の裏切りに対して傷と決意を抱える。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。結界師。

・物語内での具体的な行動や成果  双鉄扇を用いて最上級の複合結界を展開する。洞窟内の極寒の風や敵の攻撃を遮断して仲間を守る。恵里と再会して対話する決意を直訴する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  結界術の精度を向上させて防衛の要を務める。精神的な成長を見せる。

畑山愛子

生徒たちの安全を第一に考える女性教師。作農師の天職を持つ。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。教諭。作農師。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメたちの会話の中で存在が語られる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  神山での出来事やハジメとの関係について言及される。

遠藤浩介

影が非常に薄い特徴を持つ男子生徒。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。斥候。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では香織たちの会話や回想の中で登場する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  気配の薄さから香織に杖で撃たれた過去のエピソードが明かされる。

中村恵里

降霊術師の女子生徒。王国を裏切って魔人族側へつく。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。降霊術師。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では鈴の決意や会話の中で言及される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  鈴が再会して決着をつける対象として語られる。

檜山大介

かつてハジメを奈落へ突き落とした男子生徒。

・所属組織、地位や役職  日本からの召喚者。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では雫の回想の中で言及される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメの心の強さに嫉妬していた過去が描かれる。

八重樫鷲三

八重樫流の当主であり雫の祖父。

・所属組織、地位や役職  八重樫流当主。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では雫や香織の回想シーンに登場する。幼い雫の才能を認め髪を短くするよう指示した。道場に直談判へ訪れた香織を認めて大笑いした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  家族を見捨てない教えを雫に伝授する。

担任の女性教諭

地球の学校でハジメや雫たちのクラスを担当していた女性教師。

・所属組織、地位や役職  学校教諭。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では雫の回想の中に登場する。劇の配役決めにおいて雫の意向を聞く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  雫の葛藤に配慮する態度を示す。

勇者パーティー

光輝を中心に編成された生徒たちの主力部隊。

・所属組織、地位や役職  生徒たちの戦闘組織。

・物語内での具体的な行動や成果  フェルニルに乗船してシュネー雪原へ移動する。最後の大迷宮である氷雪洞窟の攻略へ挑む。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメから与えられたアーティファクトで戦闘力を引き上げる。

吸血鬼族

ユエ

ハジメのパートナーを務める吸血鬼の姫。高い魔法能力と知性を誇る。ハジメに深い愛情を注ぐ。

・所属組織、地位や役職  元吸血鬼族の王。ハジメのパートナー。

・物語内での具体的な行動や成果  界穿や重力魔法を行使して仲間を救援する。囁き声の試練を強い信頼で克服する。香織と小競り合いを演じつつ共同作業で敵を消滅させる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメとの間に確固たる絆を保持する。シアや香織との関係を温かく見守る。

兎人族(ハウリア族)

シア・ハウリア

未来視の固有魔法を持つ兎人族の少女。明るく一途な性格でハジメを慕う。

・所属組織、地位や役職  兎人族ハウリア族。ハジメの仲間。

・物語内での具体的な行動や成果  ドリュッケンを振り回して圧倒的な力で魔物を粉砕する。雪原で穴に落ちるお茶目な行動を見せる。心の傷を乗り越えて囁き声の試練を打ち破る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメから特別と認められて恋人関係となる。

カム・ハウリア

ハウリア族の族長を務めるシアの父親。

・所属組織、地位や役職  ハウリア族族長。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメたちの会話の中で登場する。地球への同行提案を辞退した事実が語られる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  トータスに留まり生きていく道を選択する。

モナ

シアの亡き母親。

・所属組織、地位や役職  兎人族。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではシアの回想の中で登場する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  樹海の墓所でハジメたちと過ごした思い出が語られる。

ハウリア族

ハジメの手で強靭な戦闘集団へ変貌した兎人族の一族。

・所属組織、地位や役職  兎人族の部族。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメたちの会話の中で登場する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  地球へは同行せずトータスで過ごす選択をする。

竜人族(クラルス族)

ティオ・クラルス

竜人族の姫。風の魔法を得意とする。過激な被虐趣味を持つ。

・所属組織、地位や役職  竜人族クラルス族の姫。ハジメの仲間。

・物語内での具体的な行動や成果  風の魔法で極寒の暴風を分散させる。鈴の背中を押して崖下へ突き落とす。魂魄魔法を用いて仲間の精神力を回復させる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  スーパーティオの件で周囲から警戒される。最古参としてパーティーを支える。

海人族

ミュウ

ハジメをパパと慕う海人族の幼女。

・所属組織、地位や役職  海人族の子供。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメの約束や会話の中で名前が登場する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  エリセンの街でハジメたちの帰還を待つ。

ハイリヒ王国・聖教教会

リリアーナ・S・B・ハイリヒ

ハイリヒ王国の王女。

・所属組織、地位や役職  ハイリヒ王国王女。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメたちの会話の中で登場する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメから自衛用アーティファクトの贈呈を検討される。

イシュタル

聖教教会の元教皇。

・所属組織、地位や役職  元聖教教会教皇。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では雫の回想の中で登場する。生徒たちへ魔人族討伐を要請した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  過去の要請が雫の恐怖心の一因となったことが明かされる。

魔人族(ガーランド王国)

フリード・バグアー

魔人族の最高司令官。

・所属組織、地位や役職  魔国ガーランド将軍。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編ではハジメたちの会話の中で言及される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  大迷宮の情報を利用した人物として語られる。

解放者(神代の反逆者)

ミレディ・ライセン

ライセン大迷宮の創設者。

・所属組織、地位や役職  解放者。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では会話の中で情報提供者や騒がしい存在として語られる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメに大迷宮の存在を伝えていた事実が確認される。

リューティリス・ハルツィナ

ハルツィナ樹海の創設者。

・所属組織、地位や役職  解放者。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では導越の羅針盤の元所有者として言及される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  羅針盤をハジメたちへ託した存在として語られる。

ヴァンドゥル・シュネー

氷雪洞窟を創設した古代の解放者。芸術的な感覚を持つ。

・所属組織、地位や役職  解放者。氷雪洞窟創設者。

・物語内での具体的な行動や成果  迷宮内に複雑で洗練された仕掛けや魔物を配置した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  挑戦者の心を試す過酷な試練を構築した。

オスカー・オルクス

オルクス大迷宮の創設者。生成魔法の使い手。

・所属組織、地位や役職  解放者。

・物語内での具体的な行動や成果  第9巻本編では集束熱線兵器の制作者として推測される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  洗練された兵器の設計者として語られる。

大迷宮の魔物・試練の存在

虚像(もう一人の自分)

挑戦者の負の感情や記憶から形成された複製体。挑戦者の全能力や技術を完全に模倣する。

・所属組織、地位や役職  大迷宮の試練。

・物語内での具体的な行動や成果  個別空間でハジメや雫の前に現れて深層心理の不安を言葉で攻撃する。本人と同じ技や所持品を行使して肉体的・精神的に追い詰める。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメにより粉砕され、覚醒した雫によって両断される。

白銀の子ウサギ

白銀の毛並みと綺麗な瞳を持つ見た目が愛らしい魔物。

・所属組織、地位や役職  大迷宮周辺の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  保護欲をそそる仕草で近づき対象の体温と熱を奪う固有魔法を行使する。ハジメによって冷酷に粉砕・排除される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  群れをなして押し寄せるもハジメの散弾針で全滅する。

ビッグフット

3メートルを超える白毛の二足歩行ゴリラ型魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  氷の上で華麗なスケート技術を披露して攻撃を回避する。地面を突き破って奇襲を仕掛ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  光輝たちの新技や合体攻撃によって撃破される。

フロストゾンビ

氷壁の中に閉じ込められていた挑戦者の遺体が動き出した魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  集団で呻き声を上げながら猛ダッシュで襲いかかる。手足を投げつけて攻撃を試みる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  本体となる魔石が離れた場所にあるため粉砕されても無限に再生する。

フロストイーグル

氷でできた大鷲型の魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  天井の氷壁から大量に生成されて上空から降下して強襲する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  ハジメのシュラークや散弾によって粉砕される。

フロストワーウルフ

氷でできた二足歩行の狼型魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  氷壁から吐き出されるように出現して集団で襲撃する。鋭い爪と牙で攻撃を仕掛ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  部屋を埋め尽くすほどの数で押し寄せる。

フロストタートル

魔石を取り込んで巨大な亀の姿へ変化した大迷宮のボス級魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟のボス級魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  広範囲に螺旋状の氷牙ブレスを放つ。足を切断されても足から新たな頭部を生やして再生する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  光輝の神威と雫の黒刀によって魔石を粉砕され撃破される。

フロストオーガ

一本角と鋭い爪を持った筋肉質な氷の鬼型魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  氷壁から現れて左右から奇襲を仕掛ける。鍵を守る巨大な個体も出現する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  シアのドリュッケンによる連続打撃やハジメの爆弾で全滅する。

フロストゴーレム

氷のハルバードとタワーシールドを装備した5メートル級の巨人型魔物。

・所属組織、地位や役職  氷雪洞窟の大型魔物。

・物語内での具体的な行動や成果  強固なタワーシールドで遠距離攻撃を防ぎながら進軍する。個別の空間で挑戦者たちと一対一で対峙する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項  挑戦者それぞれによって倒される。

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まとめ
ありふれた10レビュー

展開まとめ

プロローグ

心に刻まれる想い

彼女は、お伽噺のヒーローのような相手の姿や美しい紅色、大きな背中を反則だと感じていた。相手は、彼女が意地や笑顔で隠してきた心の奥へ容易に踏み込み、温かさや心地好さだけでなく、痛みや切なさまで刻み込んでいた。

甘さと苦さが入り混じった感情を抱えた彼女は、そんな相手を腹立たしく、憎らしく思いながらも、これ以上心を揺さぶられないよう、自分を守らないでほしいと願った。

第一章 最後の大迷宮

氷雪洞窟への飛行

ハジメ達は飛空艇フェルニルで、最後の大迷宮が存在するシュネー雪原へ向かった。雪原は常に曇天と猛烈な吹雪に覆われ、周辺地域と明確に隔てられていることから、解放者が何らかの手を加えた場所だと考えられた。

ハジメはハルツィナ大迷宮で得た導越の羅針盤を使い、氷雪洞窟への進路を確認していた。羅針盤は望んだ場所を指す概念魔法のアーティファクトであり、以前には地球の方角まで示していた。帰還への道筋を掴んだハジメの心には以前より余裕が生まれ、その変化を仲間達も感じていた。

恋人になったシア

シアはハジメの恋人になったことで、かえって以前のように気軽に抱きつくことを恥ずかしがっていた。そんなシアをハジメが手招きして隣へ座らせると、シアは照れながら寄り添った。

ティオは二人が恋人として過ごした夜について聞き出そうとしたが、ハジメに弾き飛ばされた。ユエまで余計なことを口にしたため、シアはさらに羞恥に沈んだ。

ミュウとハウリア族

氷雪洞窟攻略後の話になると、ハジメはエリセンにいるミュウへ思いを馳せた。ミュウとは地球へ連れて行く約束をしており、シアも彼女なら元気にしていると信じていた。

ハジメはカム達ハウリア族にも地球へ来るよう提案していたが、彼らはトータスで生きる道を選んでいた。亜人族に厳しい世界で自ら生存権を勝ち取り、戦い続けることが新たなハウリア族の矜持となっていたためである。カムからシアを幸せにしてほしいと託されたハジメは、帰還前にシアが家族と過ごせる時間を作ろうと考えていた。

強化されたアーティファクト

光輝、龍太郎、鈴、雫は、ハジメが昇華魔法を用いて改良した装備の訓練を行っていた。龍太郎の籠手は威力を増し、空中に足場を作る空力ブーツも与えられていた。鈴には結界術に特化した新たな専用武具が用意され、雫の黒刀にも多数の能力が追加されていた。

一方、光輝の聖剣は元から完成度が極めて高く、ハジメでも根幹部分を改造する余地がなかった。そのため機能不全を修復し、外付け機能を加える程度に留めていた。それでも聖剣は本来の力を取り戻し、光輝達の戦力は大きく向上していた。

氷雪の峡谷

フェルニルは雷と氷礫が荒れ狂う雲を突破し、猛烈な吹雪に覆われた氷雪の峡谷へ降下した。ハジメはグリューエン大火山での経験を踏まえ、周囲の温度を快適に保つエアゾーンを全員に用意していた。

ユエ達には雪の結晶を模した美しいペンダントが渡されていたが、ティオだけは雪だるま型だった。ハジメは樹海の大迷宮で精神が反転した際に現れた真面目なティオを再び見たいと考え、それを実現できれば希望するアクセサリーを贈ると告げた。一方、鈴や雫達に渡されたエアゾーンは加工すらされていない石であり、二人は扱いの差に落ち込んだ。

シアの雪初体験

フェルニルを降りたシアは、生まれて初めて見る雪にはしゃぎ、雪へ飛び込んだ。しかし、その場所はクレバスの上に積雪していただけであり、そのまま谷底へ落下した。

ハジメはシアなら落下程度で問題ないと冷静に判断し、自らも六百メートルほど下の谷底へ飛び降りた。ユエと香織も続き、空力ブーツを持つ光輝達も降りることになった。恐怖で動けない鈴はティオに谷底へ投げ落とされ、雫、龍太郎、光輝も覚悟を決めて飛び降りた。

谷底では、シアが氷壁をドリュッケンで破壊して自力で戻ってきた。ハジメは危険地帯で油断したシアを叱ったものの、落ち込む彼女の耳を撫で、久しぶりの残念な姿に和んだと告げた。

氷雪洞窟への地下道

羅針盤に従った一行は、峡谷の底から続く氷のトンネルへ入った。内部は極寒の風が吹き、氷塊や氷柱が道を塞ぐ天然の回廊となっていた。

途中で暴風が吹き抜ける場所に差しかかると、鈴が自ら対処を申し出た。彼女の新武器である双鉄扇は結界術に特化し、防御魔法の強化や複合魔法の使用、魔力の蓄積と消費軽減などの能力を備えていた。

鈴は聖絶・散を発動し、暴風のエネルギーを分散させて一行を守った。ユエとティオから実力を認められた鈴は喜びながらも集中を維持し、一行を先へ進ませた。

白銀の子ウサギ

道中、一行の前に白銀の子ウサギが現れた。愛らしい姿に雫達が心を奪われる中、ハジメは近寄ってきた一匹を躊躇なく踏み潰した。さらに現れた子ウサギ達も次々と殺したため、鈴や雫、シア達は強い衝撃を受けた。

しかし、子ウサギ達は相手の保護欲を利用して近づき、気付かれないよう熱を奪って凍死させる魔物であった。ハジメは最初に接近された時点でその能力を察知していたため、容赦なく排除していた。

それでも同じウサギとして複雑な気持ちを抱くシアに、ハジメは魔物とシアは別物であり、自分のウサギはシアだけだと告げた。シアはその言葉だけで機嫌を直し、香織とティオは自分達も同じ関係になる未来を目指して意気込んだ。

揺れる雫と光輝

香織とユエがいつものように戯れる中、鈴はハジメの周囲に香織やティオまで加わりそうだと雫に話しかけた。しかし、雫は前方を見つめたまま物思いに沈み、声を掛けられてようやく我に返った。

最後尾にいた光輝も、そんな雫を見て僅かに表情を歪めた。龍太郎に話しかけられるとすぐ普段の笑顔へ戻ったものの、その内面には複雑な感情が生じていた。

氷雪洞窟の入口

暴風を越えた先で、一行は神殿を思わせる巨大な氷の空間へ到着した。奥には輝く氷柱に囲まれた大きな亀裂があり、導越の羅針盤はその暗闇を真っ直ぐ指していた。そこが最後の大迷宮、氷雪洞窟の入口であった。

直後、洞窟の奥から六体の巨大な白毛の魔物が現れた。地球のビッグフットを思わせる姿をした魔物達を前に、光輝、龍太郎、鈴、雫は自分達だけで戦うことを選び、ハジメ達は装備の性能を確かめるため戦闘を見守った。

強化された光輝達の戦闘

光輝は強化された天翔閃震で魔物達を吹き飛ばし、龍太郎は籠手の空間振動を利用した破拳によって一体を内部から粉砕した。雫も高速の抜刀術で一体の首を落とし、序盤から新たな力を発揮した。

鈴は背後から奇襲した二体を聖絶・爆で吹き飛ばし、さらに聖絶・重で一体を超重力の結界へ封じ込めた。守るだけだった結界術を攻撃や拘束にも転用し、望んでいた戦う力を実戦で示した。

雫の禁域解放

残った魔物が放った大量の氷柱を前に、雫は黒刀の引天で全ての軌道を自分へ集中させた。そして昇華魔法による禁域解放を発動し、知覚と身体能力を飛躍的に高めた。

雫は刹那の間に無数の斬撃を放ち、迫る氷柱を全て細切れにした。抜刀術はもはや軌跡すら残さず、微風と切断された氷片だけが結果として残る神速の領域へ達していた。

一方、雫に守られた光輝は、その瞬間に生じた感情によって僅かに動きを鈍らせ、狙った魔物を仕留め損ねた。

氷上を舞うビッグフット

残ったビッグフット達は氷を操り、地面を滑走し始めた。その姿はスピードスケートのように整っており、さらに光輝の天翔閃震を三回転半の跳躍で回避した。

その後も華麗な回転や姿勢で攻撃をかわし、三体同時に高速回転しながら光輝達へ襲いかかった。雫は冷静にその動きを見切り、空間そのものを断裂させる黒刀の閃華を発動した。

光輝と龍太郎を退避させた直後、回転攻撃を終えて着地した一体のビッグフットは、雫が空間に残していた絶対斬撃へ触れ、真っ二つに切断された。

ビッグフット戦の決着

光輝達は奇怪な動きに翻弄されながらも残るビッグフットを倒し、鈴も重力結界で捕らえた一体を圧殺した。全員無傷で戦闘を終えたが、光輝は思うように活躍できなかったことに不満を残していた。

ハジメ達は、ビッグフットの無駄に洗練されたふざけた動きからミレディの影響を疑った。一方、鈴は短期間で結界術を仕上げたことをティオやユエから称賛された。雫も戦闘中に昇華魔法を使った抜刀術をハジメから高く評価され、照れながらその言葉を受け止めた。

最後の大迷宮

一行は氷雪洞窟の入口へ到着した。ハジメが覚悟を問いかけると、ユエ達だけでなく光輝達も力強く応じ、最後の大迷宮攻略を開始した。

洞窟内には人影を薄く映す透明な氷壁が続き、視界の端を影が走る不気味な空間となっていた。光輝や鈴が過剰に警戒する中、雫は怪談を持ち出して香織をからかった。ハジメ達もそれに乗って場を和ませたため、光輝と鈴の緊張は幾分ほぐれた。

凍傷をもたらす吹雪

通路の奥から雪を伴う冷風が吹き始めると、ハジメは異常を察して鈴に聖絶・散を使わせた。雪は触れただけで瞬時に凍傷を引き起こすほど危険であり、結界からはみ出した龍太郎は顔に凍傷を負って香織の治療を受けた。

洞窟内では炎属性魔法も大きく減衰し、通常なら飲み水の確保すら困難であった。しかし、ハジメ達にはエアゾーンと宝物庫があるため、極寒の環境そのものは大きな障害にならなかった。

氷壁の死者

一行は氷壁の中に埋まった男の遺体を発見した。外傷もなく眠るような姿だったが、壁にもたれているのではなく内部へ取り込まれていることをシアが不審に思った。

ハジメは魔眼石で調べても異常を見つけられなかったため、念のため強化したドンナーで遺体の額と心臓を撃ち抜いた。何も起こらなかったため一行は先へ進んだが、その後、誰もいなくなった場所では氷がひび割れ、苦悶するような呻き声が響いていた。

魔人族の遺体

洞窟を進むにつれ、氷壁の中から大量の遺体が見つかった。その多くは魔人族であり、軍服姿の者も少なくなかった。

ハジメは、フリードが大迷宮を攻略した後、彼一人に戦力を依存する危険を避けるため、魔人族が国を挙げて攻略者を増やそうとしたのではないかと推測した。香織は新たな攻略者が生まれて魔人族の軍勢が再編される可能性を心配したが、雫は王都の大結界や優花達の存在から、すぐに再侵攻される可能性は低いと考えた。

光輝の決意と不安

香織が王都に残した仲間達を案じる中、光輝は全ての神代魔法を手に入れ、自分が神を倒して人間も魔人も守ると宣言した。しかし、その言葉には以前のような純粋さがなく、ハジメへの対抗心を思わせる攻撃的な響きがあった。

雫は、光輝の瞳に嫉妬や焦燥、苛立ちなどが入り混じった不安定さを感じた。ハジメも光輝の視線に気付き、言いたいことがあるなら言えと正面から問いかけたが、光輝は何でもないと感情を押し殺した。

リリアーナ達への贈り物

ハジメは香織の不安を察し、帰還前にリリアーナ達へ自衛用のアーティファクトを贈ると告げた。攻撃兵器を想定するハジメに雫は世界のパワーバランスを心配したが、ハジメは攻撃こそ最高の防御だと譲らなかった。

ハジメは世界全体を救うつもりはなく、大切な者達を危険にさらしてまで際限なく手を伸ばすこともしなかった。それでも関わりを持ったリリアーナ達には、自分のできる範囲で力を貸そうとしていた。

さらにハジメは、雫達にも魔人領から戻った後、この世界に残るのか地球へ帰るのか決めるよう求めた。雫、鈴、龍太郎は、それぞれ自分達の事情と向き合った上で答えを出すことになった。

蘇った死者

一行が十字路へ到着すると、シアが四方から大量の存在が接近していることを察知した。現れたのは、それまで氷壁の中に埋まっていた死者達だった。

魔人族だけでなく人間族や亜人族も混じり、青白い肌と白濁した目を持つ彼らには鼓動がなかった。フロストゾンビとなった死者達は突然猛烈な勢いで襲いかかり、恐怖に駆られた香織は分解砲撃を放って背後の一団をまとめて消滅させた。

しかし、一体が氷の中を移動して香織の足を掴むと、香織は恐怖で気絶しかけた。雫とユエに叩き起こされた香織は、恐怖を振り払うように銀羽を乱射した。

無限再生するフロストゾンビ

ハジメ達は大量のフロストゾンビを次々と粉砕したが、砕かれた肉体は再び集まり、分解された個体すら再生した。魔石も体内には存在せず、通常の魔物とは異なる仕組みで動いていた。

ハジメが導越の羅針盤で魔石を探すと、フロストゾンビ達を動かしていると思われる魔石は五百メートル以上離れた場所に存在していた。遠隔操作か固有魔法による支配だと考えたハジメは、その魔石を破壊するため突破を決断した。

フロストゾンビの包囲突破

ハジメはオルカンの大量砲撃でフロストゾンビの群れを爆砕し、奥へ続く道を開いた。一行は再生する敵を押し退けながら一気に進み、数分後に巨大な闘技場のような空間へ到達した。

そこでは吹雪が入口で遮断され、部屋の奥深くに赤黒い魔石が隠されていた。ハジメは強化されたシュラーゲンで魔石を撃ち抜こうとしたが、天井から氷でできた大鷲が大量に出現した。

無限の闘技場

ハジメがフロストイーグルを撃破して魔石を狙うと、魔石は攻撃を避けるように移動した。ティオは氷壁そのものが魔物の擬態であると見抜き、ハジメも周囲の氷全てが攻撃手段になると警告した。

直後、氷壁からフロストワーウルフが出現し、フロストイーグルや追いついたフロストゾンビと合わせて数千規模の群れとなった。さらに魔石を抱えた氷壁が膨張し、六本足を持つ巨大な亀型の魔物、フロストタートルへ変貌した。

フロストタートルは周囲の魔物を生み出しながら再生させる存在であり、その魔石を破壊しなければ戦闘は終わらない構造になっていた。

光輝達へのボス戦

ハジメは周囲の雑魚を自分達が引き受け、フロストタートルを光輝、龍太郎、雫、鈴の四人に任せた。大迷宮のボス級を自分達の力で倒す機会を与えられた光輝は挑発に応じ、必ず倒すと宣言した。

光輝は天翔閃・震で頭部を破壊し、鈴は聖絶・散で氷牙のブレスを防いだ。フロストタートルが即座に再生することから、雫は魔石を一撃で破壊する必要があると見抜いた。

光輝は最大威力の神威を放つため三十秒を求め、龍太郎と雫が時間を稼ぎ、鈴が光輝を守ることになった。

雫と龍太郎の猛攻

雫は黒刀の閃華を連続で放ち、フロストタートルの右側三本の足を空間ごと切断して巨体を転倒させた。しかし、フロストタートルは地面から大量の氷柱を生み出して雫を追い詰め、さらにフロストイーグルを連携させて空中の雫を挟撃した。

回避しきれず重傷を覚悟した雫を救ったのは、遠く離れた場所で別の敵と戦っていたハジメだった。ハジメは雫を見ずに、間を飛び交う多数のフロストイーグルの隙間を通して三発を命中させ、彼女を襲った敵だけを正確に撃ち抜いた。雫はその神業に息を呑み、改めてハジメの頼もしさを感じた。

龍太郎も重力魔法を加えた重拳でフロストタートルの頭部を吹き飛ばした。しかし、切断された足から新たな頭部が生まれ、龍太郎は至近距離からブレスを受けそうになった。鈴が新たな結界術で防ぎ、さらにユエの雷龍が別の頭部を粉砕して危機を救った。

神威とフロストタートル

雫と龍太郎が時間を稼ぎ切ると、光輝は最大威力の神威を発動した。巨大な光の奔流はフロストタートルの甲羅を粉砕し、再生を上回る勢いで巨体を削り取っていった。

光輝は、自分には力が必要なのだと叫びながら攻撃を続けた。ハジメへの対抗心や自分の正しさを証明したい思いが強まり、鈴はその必死な表情に危うさを感じた。

それでも神威はフロストタートルの巨体を貫き、魔物は真っ二つに崩壊した。光輝は自分が倒したと喜んだが、魔石だけは破壊されていなかった。

雫による魔石破壊

フロストタートルは敗北を悟った瞬間、魔石をフロストイーグルへ移して逃がしていた。魔力を使い果たした光輝はなお攻撃しようとし、自分がやる、南雲より自分が正しいと呟きながら限界突破まで使おうとした。

鈴が必死に止める中、雫がフロストイーグルへ追いついた。爪閃で敵を切り刻んで魔石を露出させ、黒刀の鞘に付与された衝撃変換による衝破を叩き込み、最後は蹴りで魔石を完全に粉砕した。

魔石の消滅と同時に、広間を埋め尽くしていた魔物達は全てただの氷塊へ戻った。

光輝に残った焦燥

龍太郎は光輝の神威を素直に称賛し、自分達で大迷宮のボス級に勝利したことを喜んだ。その明るさによって、思い詰めていた光輝も一時的に表情を和らげた。

雫も光輝の神威を称賛したが、光輝は自分が最後まで仕留めきれず、雫が魔石を破壊したことに複雑な感情を抱いていた。それでも感情を隠し、雫へ最後の援護は見事だったと笑顔を向けた。

氷雪洞窟の本当の試練

戦闘後、先へ進む新たな通路が現れた。ハジメは光輝達が大迷宮のボス級とも十分に戦えるようになったことを認め、雫も危機を救った精密射撃について礼を伝えた。

ハジメとティオは、今回の戦闘は氷雪洞窟へ挑む最低限の力を試すための篩にすぎず、本当の試練はここから始まるのではないかと推測した。

光輝はその説明に納得した態度を見せたが、圧倒的な余裕を残すハジメ達を前に、再び自分との差を意識していた。その暗い感情を笑顔の奥へ押し込める光輝に、雫は胸騒ぎを覚えた。しかし声を掛ける機会を逃し、一行は薄暗い通路の先へ進んでいった。

第二章 囁く声

大迷路への挑戦

フロストタートルを倒した一行の前には、数キロ規模に及ぶ巨大な氷の迷路が広がっていた。ハジメは導越の羅針盤があるため道に迷う心配はないと考えたが、龍太郎は迷路を進むこと自体を面倒がり、上空を飛んで越えようとした。

しかし、龍太郎が迷路上空へ踏み込んだ瞬間に強制転移が発動し、離れた場所の六角氷柱へ閉じ込められた。さらに脱出を阻むように無数の氷柱まで現れたため、ユエが空間を繋ぎ、香織が銀羽を送り込んで龍太郎を救出した。

その際、香織は銀羽の解除を忘れて龍太郎まで傷つけてしまった。龍太郎は治療を受けた後、自分の軽率な行動を謝罪した。ハジメは壁を破壊して直進する方法も試したが、氷壁は瞬時に再生したため、一行は正規の入口から迷路へ入った。

羅針盤の導き

ハジメが迷路内で導越の羅針盤を確認すると、問題なく進むべき道が示された。概念魔法で作られた羅針盤の力までは大迷宮にも妨害されておらず、一行は迷うことなく進めるようになった。

迷路にはしばらく魔物も罠も現れず、一行は順調に進んだ。しかし、三十分ほど経った頃、光輝だけが何者かの囁き声を聞いた。周囲には何の反応もなく、シアの聴覚にも声は捉えられていなかった。

やがて光輝は再び、このままでいいのかという声を明確に聞いた。自分だけに聞こえる状況に不安と苛立ちを募らせた光輝は、声の主へ姿を現すよう叫んだ。ハジメ達は氷壁が魔力反応を隠しているため正体を特定できず、警戒しながら進むことにした。

全員に届く囁き

その後、雫にも囁き声が聞こえ始め、さらに鈴と龍太郎にも声が届いた。鈴は本当は気が付いていたよね、龍太郎はいつまで誤魔化す気だという言葉を聞いたが、その意味を理解できなかった。

声には聞き覚えがあるように感じられたものの、誰も正体を思い出せなかった。ハジメは、何かを直接命令するのではなく、それぞれの内面を刺激するような言葉ばかりであることを不審に思った。

やがてハジメにも、どこに帰るつもりだという囁きが届いた。ユエ達にも次々と声が聞こえ始めたが、一行は立ち止まらず、情報を共有しながら迷路を進み続けた。

強まる心への干渉

迷路を三時間ほど進み、ゴールへ近づくにつれて囁き声は頻繁になり、その影響も強まっていった。当初は意味を理解できなかった言葉も、次第にそれぞれの記憶や感情と結び付き始めた。

一行は、囁きが単なる幻聴ではなく、心の奥にある問題へ働きかけていることを感じながらも前進を続けた。迷路は道そのものだけでなく、挑戦者の内面にも干渉する試練となっていた。

迷路攻略の休息

長時間歩き続けた一行は途中で休息を取り、食事を始めた。その間もハジメはクロスビットを迷路の中へ進ませ、探索を続けさせていた。

やがてクロスビットの一機が宝珠のある場所へ到達すると、ハジメはゲートキーを使ってその場所と空間を接続した。ゲートの先には黄色く輝く宝珠と、それを守る巨大なフロストオーガがいた。

ハジメは迫るフロストオーガを相手にせず、ゲート越しに黄色の宝珠を回収した。光輝は正面からガーディアンを倒さず宝珠を取る方法に納得できなかったが、ハジメはクロスビット自体には迷路を正規の道順で進ませており、遠隔操作による探索と回収も攻略手段の一つだと説明した。

三つの宝珠

迷路の先には、三つの宝珠をはめ込むための巨大な両扉が存在していた。ハジメが黄色の宝珠を入手する一方、ユエ達もガーディアンを倒して赤色の宝珠を手に入れた。

最後の緑色の宝珠は光輝達が回収することになり、クロスビットの案内を受けて別行動を取った。香織は幼馴染み達を心配したが、光輝達は多少苦戦し、龍太郎が軽い凍傷を負いながらも自力でガーディアンを倒した。

戻ってきた光輝達は、自分達で迷路を進み、敵を倒して宝珠を獲得したことに達成感を抱いていた。合理性を優先するハジメとは異なり、正面から迷宮を攻略する経験そのものを楽しんでいたのである。

開かれた扉

光輝が緑色の宝珠を最後の窪みにはめ込むと、三つの宝珠から黄色、緑色、赤色の光が溢れ出した。光は扉に刻まれた意匠を巡り、陽光や茨、花を思わせる色彩を生み出した。

やがて巨大な両扉が開き、その先に新たな通路が現れた。そこは、それまでの氷壁とは異なり、向かい合う壁が完全な鏡のように周囲を映し出す空間であった。無数の像が連なる合わせ鏡のような光景を前に、一行はさらに奥へ続く試練へ足を踏み入れようとしていた。

第三章 感情の矛先

雫の記憶

雫は小学生時代の学芸会の記憶を見ていた。香織から姫役を勧められ、本心では嬉しく感じていたものの、周囲から騎士役が似合うと言われると、自ら騎士を希望した。香織だけは雫の本心を察していたらしく、その選択に怒りと悲しみを見せていた。

場面が闇へ変わると、雫がこれまで他人から頼られ、期待に応え続けてきた記憶が次々と蘇った。誰かを優先して自分の望みを譲り、守る側であり続けることへの不安や焦燥が雫を追い詰めた。そこへ白いポニーテールと赤黒い瞳を持つ人影が現れ、陽だまりの中に自分はいないと囁いた。

休息中の雫

目を覚ました雫は、大迷路の深奥近くで休息していたことを思い出した。一行は長時間にわたって囁き声を浴び続け、特に光輝達の精神的疲労が限界に近づいていたため休憩していたのである。

その傍では、ユエを求めて暴走しかけるハジメをシアが関節技で止めていた。恋人となったシアは以前よりハジメとユエに対等に接するようになり、二人もそんなシアを自然に受け入れていた。

雫は三人を中心に香織やティオが笑う光景を複雑な表情で見つめていた。鈴はその異変に気付き、雫を心配したが、雫は自分のことを隠して逆に鈴を気遣った。香織も雫の異変には気付いていたものの、今は言葉で解決できる状態ではないと考えて見守っていた。

深まる光輝の異変

光輝は迷路を進むほど口数を減らし、ハジメへ向ける負の感情を強めていた。ハジメもその敵意には気付いていたが、声をかければ逆効果になると考えて何も言わなかった。

ティオは魂魄魔法で一行の精神を回復させたが、囁き声そのものに強力な魔法的作用はなく、本人の不安や悩みから生じる負担までは取り除けなかった。雫、鈴、龍太郎には多少の余裕が戻ったものの、光輝だけは作り物めいた笑顔を見せるほど危うい状態に陥っていた。

鏡の中の光輝

再び迷路を進む中、光輝は戦闘で苛立ちを募らせ、囁き声によってさらに追い詰められた。やがて氷鏡面に映る自分が実際の動きと異なり、無表情のままこちらを見つめていることに気付いた。その虚像は突然、不気味な笑みを浮かべた。

光輝は敵がいると叫んだが、鏡像はすぐ通常の状態へ戻った。事情を聞いた雫が見間違いではないのかと確認すると、精神的に余裕を失った光輝は疑われたと受け取り、南雲なら信じるのだろうと嫌味を口にした。

雫の心配する様子を見て光輝は一度冷静さを取り戻しかけたが、囁き声に苦しんだ雫が前方へ視線を向けたことで、再び黒い感情を募らせた。

大迷路の終着点

一行はついに巨大な円形空間へ到達した。奥には太陽や煮えた池、その間に喜怒哀楽を象徴する人や動物、自然が刻まれた巨大な門があり、導越の羅針盤もそこが迷路の終着点であることを示していた。

しかし中央へ進むと、上空に擬似太陽が出現し、周囲にはダイヤモンドダストのような細氷が舞い始めた。細氷は太陽の力を蓄えて無数の熱線を放ち、氷鏡面で乱反射させた。さらに雪煙が高度を下げ始め、一行の視界まで奪おうとした。

ユエと鈴が聖絶を展開し、香織が再生魔法で障壁を維持した。ハジメは熱線の軌道を読み、氷片を撃ち抜きながら門を目指した。

フロストゴーレムと同士討ち

進路上には九体のフロストゴーレムが現れた。強固なタワーシールドを持つ敵に対して一行が攻撃を始めると、光輝、龍太郎、雫、香織の攻撃が突然味方へ向かった。

本人達に攻撃の意思はなく、香織は攻撃直前に囁き声を聞いたことを思い出した。ティオは、長時間聞かされた囁きが無意識領域への刷り込みとして働き、攻撃対象を仲間へ誘導していると推測した。長い迷路と精神的疲労も、その暗示を深めるための仕掛けであった可能性が高かった。

ハジメはオルカンでゴーレム達をまとめて吹き飛ばしたが、雪煙と氷片は復活し、ゴーレムも八体が再び現れた。このことから、一人につき一体を自力で倒すことが試練の条件だと判明した。

雪煙の中の分断

雪煙によって互いの姿さえ見えなくなる中、ハジメは味方への攻撃を恐れず、自分の相手を倒すよう指示した。直後に一行は完全に分断され、それぞれ一体のフロストゴーレムと戦うことになった。

ハジメは既に一体を倒していたため、雪煙の中に門へ続く安全なトンネルが出現した。光輝達から攻撃が飛んでこないことから、彼らが同士討ちを恐れて攻撃をためらっていると察したが、それも本人達の選択として先へ進んだ。

香織とユエの連携

香織はフロストゴーレムと戦いながら、攻撃を放とうとするたびにユエの方向へ誘導されることに苦戦した。そこで香織は逆に誘導を利用し、自分の攻撃が向かう先からユエの位置を割り出した。

香織が特大の分解砲撃をユエへ放つと、意図を理解したユエは重力魔法で軌道を曲げ、香織の相手であるフロストゴーレムへ送り返した。二人の連携によってゴーレムは消滅し、香織も試練を突破した。

雫の死闘

雫は遠距離攻撃を使うたびにシアへ誘導されるため、フロストゴーレムと熱線を相手に苦戦した。囁き声は、雫が心の奥に抱えていた妬ましさや、どうして自分ばかりという感情を刺激し続けた。

追い詰められた雫だったが、黒刀が熱線を反射できることに気付いたことで戦い方を変えた。引天で複数の熱線を黒刀へ集めてゴーレムへ反射し、閃華で盾を腕ごと切断した。

さらに禁域解放で能力を高め、衝破で胸部を破壊し、重閃で重力を断って巨体を浮かせた。最後はゴーレムを地面へ叩きつけ、胸部へ深く突き刺した鞘から再び衝破を放ち、内部の魔石を破壊した。

満身創痍となった雫は、一人ではまだ足りないと自嘲した。しかし窮地を切り抜けられたのは、ハジメから贈られた黒刀のおかげでもあった。雫は相棒への感謝として黒刀へ口付けし、自分の行動に照れながら仲間達のもとへ戻った。

香織の抱擁

門前へ戻った雫は、攻撃を飛ばしてしまったシアへ謝罪した。シアはむしろ自分への攻撃をためらって雫が傷ついたことを怒り、香織は重傷を負った雫を治療した。

香織は、雫が昔から痛みや本心を隠し、周囲を心配させないよう笑顔を作ってきたことを案じていた。そのため、もっとわがままになってほしい、自分なら雫のわがままを喜んで受け入れると伝え、抱き締めながら魂魄魔法で心まで癒やした。雫も泣きたいような感情を覚え、香織を抱き締め返した。

ハジメの言葉

ハジメは雫と香織の仲の良さをからかいながらも、雫は真面目すぎるため、もっと適当になった方がいいと告げた。ここには雫が世話を焼かなければならない者はいないのだから、時には一緒に騒いで気分転換すればいいという言葉は、囁き声とは正反対に雫の心へ響いた。

さらにハジメから可愛いもの好きをからかわれ、名前で呼ばれた雫は真っ赤になった。その反応を香織とユエにもからかわれ、雫はますます羞恥に沈んだが、先ほどまでの重苦しさとは異なる空気に包まれていた。

鈴の決意

ハジメは羅針盤とクロスビットを使い、まだ戦っている鈴と龍太郎の様子を確認した。鈴は自分とフロストゴーレムをそれぞれ聖絶で包み、敵側の結界内部を高熱化する聖絶・焰によって少しずつゴーレムを溶かしていた。

膨大な集中力と精神力を消耗しながらも、鈴は恵里ともう一度話すという決意を支えに耐え続けた。その姿を見た雫は、鈴が自分の助けを必要とするだけの弱い少女ではなく、自らの意思で立てる強さを得ていることを認識した。

龍太郎の殴り合い

龍太郎はフロストゴーレムと武器を捨てた状態で正面から殴り合っていた。熱線を避けることも諦め、金剛で急所だけを守りながら、自分が倒れる前に相手を倒すという戦法を選んでいた。

光輝、鈴に続いて最後にゴーレムを倒した龍太郎は、大量の血を流して気絶した。危うく熱線で首を切断されかけたところをハジメのクロスビットに救われ、駆けつけた香織によって治療された。

光輝の憎悪

全員がゴーレムを倒すと擬似太陽や熱線、雪煙が消え、巨大な門が光の膜へ変化した。疲弊した光輝は、戦闘中に神威までハジメへ誘導されていたことを謝罪した。

しかし、無傷のハジメと自分を比較した光輝は、何をしてもハジメには届かないと自嘲した。雫が休むよう気遣っても拒絶し、一瞬だけ彼女へ恐れるような眼差しを向けた。

ハジメは、光輝が最後に見せた冷たい憎悪にも気付いていた。その感情の矛先が自分へ向いていることを理解したものの、これは光輝自身が答えを出さなければならない問題だと考え、ユエ達には伝えなかった。

囁き声の残る場所に留まることを嫌った一行は休憩を取らず、光輝の強い希望もあって、そのまま光の門へ飛び込んだ。

第四章 本当の心

ハジメと虚像の対決

仲間と分断されたハジメは、氷鏡面の一本道を進んだ先で巨大な氷樹に辿り着いた。そこに映った虚像は、大迷宮の試練が己の負の面や認め難い現実、矛盾した感情と向き合い、自分自身に打ち勝つためのものだと確認すると、色彩を反転させたハジメの姿となって現実へ出現した。

虚像はハジメと同等の装備と能力を持ち、互いの思考まで読み合う激戦となった。銃撃や格闘、クロスビットや円月輪を駆使した攻防は拮抗したが、虚像は戦いながらハジメの心の奥にある不安を突き始めた。

帰郷への恐怖

虚像は、人を殺すことを躊躇わなくなったハジメが日本へ戻っても、家族や故郷に受け入れられないのではないかと問いかけた。ハジメが帰還後の生き方を語った愛子の言葉を無視できなかったことも、心の奥でその恐怖を抱いていたからだと指摘した。

さらに虚像は、ユエへの愛情さえ、故郷や家族に拒絶された際に自分を守るための依存に過ぎないと断じた。その言葉によってハジメの動きには僅かな遅れが生じ、肩や首を傷つけられた。

しかしハジメは、虚像の言葉によって初めて己の弱さを知ったわけではなかった。故郷に拒絶されることを恐れていることも、望んだ帰還にならなくてもユエがいると考えていることも、既に自覚していたのである。

鋼鉄の意志

ハジメは、不安や恐怖を完全に解決してから進めるほど、自分が歩んできた道は甘くなかったと虚像へ告げた。悩みや恐怖を抱えていても、決意を武器に障害を踏み越えてきたことこそが現在のハジメであった。

たとえ奈落で生まれた化け物となり、故郷に居場所がなくなっていたとしても、それでも帰還を目指して進む意志は変わらなかった。また、そんな自分を受け入れる者が既に周囲にいることも、ハジメを支えていた。

虚像からユエへの気持ちの大半は依存だと指摘されたことに対しても、ハジメは依存に当たる部分は一厘に過ぎず、残り九割九分九厘は愛情だと言い切った。

虚像を上回るハジメ

負の感情を克服すれば虚像は弱体化し、目を逸らせば強化されることが試練の仕組みであった。しかしハジメは問題を完全に克服したわけではなく、虚像も弱体化していないにもかかわらず、次第に戦闘で優位に立った。

虚像が再現していたのは、あくまで対峙するまでのハジメであった。ハジメは虚像と戦う最中にも相手の動きを読み、さらに先へ進んでいたため、同じ能力を持つはずの虚像を僅かずつ上回っていった。

雫ともう一人の自分

一方、雫も自分自身の虚像と戦っていた。虚像は雫と同じ八重樫流の技と黒刀の能力を操り、互角以上の剣技で雫を追い詰めた。

さらに虚像は、雫が幼い頃から周囲の期待を優先し、自分の望みを抑え続けてきたことを突きつけた。本当は剣術を嫌っていても家族の期待を裏切れず、光輝との関係に苦しみながらも彼を突き放せず、いつしか他人に頼ることさえ諦めていたことを暴いた。

雫は香織に救われながらも、常に自分が誰かを守る側であろうとしていた。しかし実際には、最も苦しい時に香織から支えられ、守られてきたことも事実であった。

シアへの嫉妬

虚像はさらに、雫がハジメへ抱いている感情を突きつけた。雫は香織を大切に思うあまり、親友と同じ相手へ好意を持つこと自体を裏切りのように感じていた。

最終試練で攻撃対象がシアになったことについても、虚像は、ユエには敵わないと理解し、香織には嫉妬を向けたくない雫が、ハジメから恋人として認められたばかりのシアを羨んだからだと指摘した。

反論できない雫は心を折られ、虚像の攻撃を受けて重傷を負った。戦う意志まで失い、死を覚悟した雫の前へ虚像が止めを刺そうと迫った。

ハジメの救援

追い詰められた雫のもとへハジメが現れ、彼女を救った。雫は安堵から涙を流し、ハジメの存在を確かめるように手を伸ばしかけたが、自分の感情への罪悪感から触れることができず、距離を取ろうとした。

ハジメは雫の傷を癒やしたうえで、虚像との決着は本人につけさせようとした。しかし心を折られた雫は、自分には勝てないと弱音を吐いた。

そんな雫に対し、ハジメは彼女の戦いを見届け、危険になれば守り、再び折れても立ち上がらせると約束した。その言葉を受けた雫は覇気を取り戻し、ハジメへ行ってきますと告げて再び虚像へ向かった。

雫の本心

雫は、自分の気持ちを持つだけで香織への裏切りになるわけではなく、これから何が起きるのかは実際に向き合ってみなければ分からないと受け入れた。香織と喧嘩するかもしれず、傷つけたり軽蔑されたりする可能性があっても、生きて帰り、もう一度会ってから向き合うことを選んだ。

守っているつもりだった自分こそ、香織にずっと守られていたことにも向き合った雫は、自分の気持ちを押し殺すのではなく、もっと素直に生きる道を選んだ。

最後の抜刀

雫は残された力を一撃に込め、虚像との最後の勝負に臨んだ。背後でハジメが自分を見守り、必要なら守ってくれるという信頼によって心を静め、同じ抜刀術の構えを取る虚像と同時に踏み込んだ。

二人が交差すると雫の髪紐が切れたが、直後に雫が納刀した瞬間、虚像の体が両断された。虚像は満足したような表情を残して消滅し、雫は自分自身との戦いを乗り越えた。

力尽きた雫をハジメが受け止めると、雫はそのまま惚れてくれてもいいと冗談を返した。試練を終えた雫には、それまでより自分の気持ちを素直に表へ出す変化が生まれていた。

雫への髪飾り

新たな通路が現れると、貧血で歩けない雫はハジメへ抱いて運ぶよう頼んだ。さらに再生魔法を付与した髪飾りを求め、切れた髪紐の代わりとして可愛いものが欲しいと注文した。

ハジメは攻略祝いとして、淡い輝きを纏うヘアクリップを錬成した。雫はそれを気に入り、髪を再びポニーテールにまとめた。似合っているか尋ねてもハジメは意図的に答えを逸らしたが、雫は以前のように引き下がらず、再び抱いて運ぶよう求めた。

雫の告白

ハジメに背負われた雫は、香織だけでなくユエ、シア、ティオにも早く会いたいと口にした。そして、ハジメを好きになったことを皆に伝え、どうなるか分からなくても、これからはもう少し素直に自分の気持ちをぶつけてみると宣言した。

驚くハジメに答える間を与えず、雫は疲れたから守ってほしいと告げて寝たふりをした。さらにハジメを困らせたくなり、彼の首元を噛んでから頑なに眠ったふりを続けた。

ハジメが呆れたように溜息を吐くと、雫はその表情を想像して笑みを浮かべた。雫は香織へ、これからわがままな自分を見せに行くと心の中で告げ、晴れた気持ちでハジメの首に回した腕へ力を込めた。

番外編

真夜中のガールズトーク

氷雪洞窟突入前夜

最後の大迷宮【氷雪洞窟】を翌日に控え、雫と鈴は【シュネー雪原】手前に停泊したフェルニルの甲板で、ハジメに強化されたアーティファクトの習熟訓練を続けていた。二人は魔力を使い果たすまで練習し、ようやく納得できる水準まで扱えるようになった。

香織、ユエ、シア、ティオが夜食を持って現れ、光輝と龍太郎もそれぞれ聖剣の出力調整や訓練を終えて休んでいると聞くと、そのまま女性だけで夜食を囲むことになった。

香織と雫の親友関係

香織が作ったスープを一口で言い当てた雫を見て、シアは二人の仲の良さに感心した。香織が雫を自慢すると、ユエもシアを引き寄せて対抗し、互いの親友の魅力を競い始めた。

そこへ鈴が、親友だと思っていた相手への暗い感情を漏らしたため、場の空気は一変した。ティオが鉄扇の話へ切り替えると、鈴は普段の明るさを取り戻した。雫は鈴の鉄扇を使った戦いを優雅で美しかったと称賛したが、光輝の前ではハジメのアーティファクトを褒めにくかったとも明かした。

光輝への家族意識

光輝がハジメから力を与えられたことへ複雑な感情を抱いていると知ったシア達は、それでも雫が光輝へ気を遣い続ける理由を尋ねた。雫は光輝を恋愛対象として見ているのではなく、八重樫流の門下生であるため身内として放っておけないのだと説明した。

八重樫家では正式な門下生を家族として扱い、決して見捨てないという教えが受け継がれていた。光輝もその一員であるため、雫にとっては手のかかる弟に近い存在であった。

幼い雫を救った香織

雫は幼い頃、光輝と一緒にいることで女子達から嫉妬を受け、陰湿な扱いに苦しんでいたと明かした。身内である光輝を見捨てることもできず、当時の不器用な雫は追い詰められていた。

そんな雫へ最初に近づいたのが香織であった。女の子らしく輝いて見える香織に嫉妬さえ感じていた雫は、当初は彼女を避けていた。しかし香織は毎日のように好意を向け続け、周囲から雫への接し方を変えるよう言われても従わず、真っ直ぐ雫の傍に居続けた。

香織に救われた雫は、自分も嘆くだけではなく立ち向かえる人間になろうと決め、自らを磨き始めた。髪を伸ばしたのも香織の勧めがきっかけであり、香織は雫の祖父・鷲三にまで直談判して認めさせていた。

雫の好み

雫は光輝を家族同然に知りすぎているため、恋愛対象として意識したことはないと断言した。そこで好みの男性を尋ねられると、香織が以前のインタビューで雫が守ってくれる人と答えていたことを明かした。

雫は、自分を守ってくれた香織のような人が好みだと返した。二人の親密な雰囲気をユエ達にからかわれる中、鈴は再び自分には親しい相手がいないことを思い出して暗くなった。さらに好みの男性を尋ねられても、ロリコンではない人と答え、自分を好きになる者などいないと自虐した。

オルクス大迷宮のハジメ

鈴がユエをお姉様と呼ぶ理由は、オルクス大迷宮で救われた時の姿が強く印象に残ったためであった。その話から香織が当時のハジメも素敵だったと振り返ると、雫も同意した。

雫にとっても、オルクス大迷宮で見たハジメの紅色の輝き、不敵な笑み、大きな背中は鮮烈な記憶となっていた。その様子を見たユエ達は、雫から見たハジメがどのような人物なのかを尋ねた。

変わった同級生

雫がハジメへ最初に抱いた印象は、変な人であった。入学式の騒がしさの中でも一人だけ眠り続け、普段もぎりぎりに登校しては眠り、昼食も短時間で済ませ、放課後になると素早く帰宅するなど、周囲とは異なる生活を送っていた。

一方で話しかければ穏やかで聞き上手でもあり、香織が積極的に接近しても全くなびかなかった。雫はそんなハジメを理解できず、時には香織の何が不満なのかと苛立ちながら見ていた。

やがて香織達と行動を共にするハジメには周囲から嫉妬や悪意が向けられるようになった。雫は自分も同じ経験をしていたため心配したが、ハジメは陰湿な扱いを受けてもほとんど動じなかった。その姿から、雫は彼が見かけによらず非常に強い心を持っていることに興味を抱くようになった。

ハジメの揺るがない生き方

雫は当初、ハジメが他人へ関心を持たないため悪意にも平然としていられるのだと考えた。しかし見続けるうちに、彼には他人以上に夢中になれるものがあり、好きなものへ全力を注ぐことで生じる代償も受け入れているのだと理解した。

困った顔や苦笑いを浮かべても、自分がこうしたいという気持ちを曲げずに逆境を跳ね返す。その強さこそ、香織がハジメへ惹かれた理由なのだと雫は考えていた。

二人きりの放課後

ある日の放課後、雫は忘れ物を取りに戻った教室で眠っているハジメを見つけた。彼を起こし、誰もいない夕暮れの校舎を二人で歩いたことは、香織にも話していない雫だけの記憶となっていた。

雫がいつものように香織や光輝のことで謝ると、ハジメは、幼馴染みのためにいつも頭を下げる雫を不思議に感じていたと話した。そして、既に身内へ十分気を遣っているのだから、自分にまで気を遣う必要はないと告げた。

雫はその言葉にどう答えればよいか分からなかったが、ハジメは光輝の姿を見つけると先に走り去った。初めて二人だけで交わした会話は、何故か雫の記憶に残り続けていた。

雫が認めた心の強さ

異世界へ召喚された後も、ハジメの本質は変わらなかった。ありふれた天職と低い能力を馬鹿にされ、檜山達から酷い扱いを受けても、錬成を使うための試行錯誤を止めなかった。

雫自身は異世界へ召喚されたことに強い恐怖を抱えていたからこそ、状況が変わっても自分を失わないハジメの姿に励まされていた。雫は、ハジメを自分が知る中で最も心が強い人物だと言い切った。

ユエから、その強さは雫を守れるほどなのかと問われると、雫は、この人なら香織を守ってくれると思えるほどだと答えた。その言葉には迷いがなく、ハジメへの強い信頼が表れていた。

ユエへの感謝

雫はさらに、ユエがいてくれて良かったと告げた。恋敵でありながら香織を大切にしているユエへ、親友を大事にしてくれてありがとうと以前から抱いていた感謝を伝えた。

真正面から礼を言われたユエは珍しく本気で照れ、香織へ八つ当たりした末に女子会の解散を宣言した。

香織から雫への言葉

部屋へ戻る途中、香織は雫を後ろから抱き締め、素直な雫が一番好きだと告げた。雫はユエへの感謝を素直に口にしたことを指していると思ったが、香織は否定した。

香織は具体的な意味を説明せず、自分で気づかなければ意味がないため、その時が来たら今の言葉を思い出してほしいと頼んだ。雫は意味を理解できないまま了承したが、胸の奥には何か重大なものが迫っているような感覚が残った。

雫はまだ、自分の本当の心にも、香織の言葉が再び自分を救うことにも気づいていなかった。

ありふれた8レビュー
まとめ
ありふれた10レビュー

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