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守雨手札が多めのビクトリア

小説「手札が多めのビクトリア 1」感想・ネタバレ

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手札が多めのビクトリア 1の表紙画像(レビュー記事導入用) 守雨

手札が多めのビクトリアまとめ
手札が多めのビクトリア2レビュー

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. 元工作員の逃亡
    2. 孤児ノンナの保護
    3. 偽造身分での生活
    4. 騎士団長との恋愛
    5. 過去との決別
  6. 登場キャラクター
    1. ハグル王国
      1. アンナ・デイル(クロエ / ビクトリア・セラーズ / マリア / ケイト / アンナ・アッシャー)
      2. ランコム
      3. メアリー
      4. ハンス
      5. ダン
      6. ヤコブ
      7. イグズリー伯爵
      8. ノーマン・ハイランド伯爵
      9. デイブ
      10. クロエの両親
      11. エミリー
      12. 特務隊員たち
      13. 暗殺部隊
    2. アシュベリー王国
      1. 国王
      2. コンラッド
      3. セドリック
      4. 宰相
      5. 第一騎士団長
      6. 人事責任者
      7. マッケナー侯爵
      8. マッケナー侯爵の息子
      9. エルド男爵
      10. ジェフリー・アッシャー
      11. エドワード・アッシャー
      12. アッシャー家の前の当主
      13. コートニー
      14. カイゼル
      15. カトリーヌ
      16. ボブ
      17. ハムズ
      18. マイク
      19. 医療班の男性
      20. ウォールド伯爵
      21. フローレンス・ギルモア
      22. ウィリアム・ハンソン
      23. ハンソン男爵夫人
      24. ドロレス
      25. ベアトリーチェ
      26. バーナード・フィッチャー
      27. マイケル・アンダーソン
      28. エバ・アンダーソン
      29. クラーク・アンダーソン
      30. ヨラナ・ヘインズ
      31. スーザン
      32. 警備兵たち
      33. 牢番たち
      34. 護衛兵士たち
      35. 近衛騎士たち
      36. 第二騎士団員たち
      37. 第三騎士団員たち
      38. 侍女たち
      39. アッシャー家の御者
    3. ランダル王国・その他市井の人々
      1. ノンナ(ライル)
      2. マイルズ・グラント
      3. ザハーロ
      4. ヘクター
      5. カール
      6. カールの妹
      7. 南区保護施設の院長
      8. 農家の奥さん
      9. 牧場の旦চ্ছুさん
      10. ミーナ
      11. 漁師町アルデの食堂の奥さん
      12. 貸し馬屋の主人
      13. パン屋の奥さん
      14. くるみボタンの店の女性
      15. 乗合馬車の同乗者たち
      16. 船員たち
      17. ならず者たち
  7. 展開まとめ
    1. プロローグ * 用意周到 
    2. 第一章 * 少女との出会い 
    3. 第二章 * ヨラナ夫人と気難しい老歴史学者 
    4. 第三章 * 初めてのピクニック 
    5. 幕間 * ランコムの回想 
    6. 第四章 夜会 
    7. 幕 間 ジェフリーの後悔 
    8. 第五章 夜会事件の顛末 
    9. 第六章 * 穏やかな日々 
    10. 第七章 ノンナのお留守番 
    11. 第八章 * ビクトリアの傷 
    12. 第九章 ベビーピンクのドレス 
    13. 第十章 マイルズさん 
    14. 第十一章 出国準備 
    15. 幕間 * ハグル王国の料理人 
    16. 第十二章 第三騎士団 
    17. 第十三章 牧場暮らし 
    18. 第十四章 * 船出 
  8. 同シリーズ
    1. 手札が多めのビクトリア
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

本作は、裏切られた元凄腕工作員の女性が、異国で一般市民として幸せな第二の人生を築いていくファンタジー・人生修復物語である。各国で工作員が暗躍する時代、ハグル王国の優秀なエース工作員であったクロエは、上司に家族の死を隠蔽され裏切られたことをきっかけに、自らの死を偽装して組織を脱走する。彼女は隣国のアシュベリー王国に入国し、「ビクトリア」という偽名で念願だった「普通の幸せ」を手に入れるための生活をスタートさせる。新生活の初日、広場に置き去りにされていた6歳の少女ノンナを保護したビクトリアは、工作員時代に培った変装技術や体術、四ヶ国語を操る語学力、料理などの多様な「手札」を駆使し、歴史学者の助手や家庭教師として周囲の人々を助けながら、新しい居場所と家族の絆を育んでいく。

■ 主要キャラクター

  • ビクトリア(クロエ / アンナ):本作の主人公。ハグル王国の元エース工作員で、本名はアンナ。卓越した体術、四ヶ国語を操る語学力、完璧な料理や家事能力を併せ持つ多才な女性。組織を脱走後、アシュベリー王国で一般市民として生きる道を選び、保護したノンナを娘として深く愛するようになる。
  • ノンナ:ビクトリアが王都の広場で保護した6歳の捨て子の少女。無表情だったが非常に賢く、高い身体能力と語学の才能を秘めている。ビクトリアから愛情を受け、彼女を「お母さん」と慕い、共に逞しく成長していく。
  • ジェフリー・アッシャー:アシュベリー王国の第二騎士団長を務める銀髪の美丈夫。ひったくり犯を捕らえた縁でビクトリアと出会い、ノンナを引き取る際の身元保証人となる。過去に婚約者を亡くした深い傷を抱えているが、ビクトリアの自立心と強さに惹かれ、彼女たちを温かく見守り支える。
  • バーナード・フィッチャー:気難しい老歴史学者。ビクトリアを有能な助手として雇う。彼女の行き届いた仕事ぶりや美味しい手料理に心を開き、良き雇い主となる。

■ 物語の特徴

本作の最大の魅力は、主人公ビクトリアが持つ圧倒的なスキルの数々(手札)を使って、日常のトラブルから国家間の暗躍、さらには脱獄の幇助までを鮮やかに解決していく痛快なアクション要素である。同時に、過酷な過去を持つビクトリアが、孤独な少女ノンナを保護し、疑似家族として深い愛情と絆を築いていくハートフルなドラマが丁寧に描かれている。また、作中に登場する美味しそうな料理の描写や、不器用ながらも誠実なジェフリーとの大人の恋愛模様も、物語に温かみと深みを与えている。過去の因縁や迫る追っ手といったスリリングな展開と、平穏な日常の温かさが絶妙なバランスで融合しており、読者を惹きつける構成となっている。

書籍情報

手札が多めのビクトリア1
著者:守雨 氏
イラスト:藤実なんな 氏
出版社:KADOKAWAMFブックス
発売日:2022年7月25日
ISBN:9784046815767

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

凄腕元工作員、夢に見た「普通(しあわせ)」な人生を楽しみます!
各国で工作員が暗躍する時代、とある国――ハグル王国の工作員クロエは、類まれなる変装技術と体術で、難しい任務さえも次々と完遂する日々を送っていた。
しかし、上司の裏切りをきっかけに彼女は組織から忽然と姿を消してしまう。なぜならクロエは、隣国アシュベリー王国の一般市民ビクトリアとして、夢に見ていた「普通(しあわせ)」な人生をやり直す計画を立てていたのだ。
そんなビクトリアはセカンドライフ初日にとある少女を保護したことで、想定外だが幸せなスタートを切り、多くの人々と関わっていく。 
新天地で彼女は歴史学者の助手・語学の先生・凶悪犯の脱獄補助と、工作員時代に培った経験と才能を活かして大活躍!!
一方でビクトリアの強さに興味を持つ第二王子や組織の追っ手など、手札が多い彼女に対して迫る影も多く――!?
アクションと心あたたまるビクトリアの人生修復物語、ここに開幕!!

手札が多めのビクトリア1

感想

最初にタイトルを見た時は、「手札」とは主人公が持つ多彩な技術や特殊能力を意味しており、元裏稼業の女性が新天地で派手に無双する物語なのだと思っていた。

実際、主人公のビクトリアは非常に有能である。

体術、変装、語学、料理、裁縫、乗馬、鍵開け、情報収集など、必要なことは大抵こなしてしまう。

普通の作品であれば、その能力を使って悪人を倒し、周囲を驚かせることが物語の中心になってもおかしくない。

しかし、本作の本当の魅力はそこではなかった。

ビクトリアが求めていたのは、誰かに評価されることでも、工作員として再び活躍することでもない。

子供と一緒に食事をし、仕事から帰る場所があり、信頼できる人と穏やかな時間を過ごすことだった。

工作員として多くの「手札」を持ちながら、彼女が最も欲しかったものは、特別ではない普通の幸せだったのである。

読み終えた後、思わず「うん、良い話や」とつぶやいてしまった。

派手な能力を持つ主人公が、最後には戦いではなく家族と居場所を手に入れる。

爽やかで優しい余韻が残る一冊であった。

工作員クロエが自分の死を偽装するまで

物語の冒頭で、主人公クロエは自分が崖から転落して死亡したように見せかける。

帽子やサンダルを残し、目撃者の記憶まで利用する。

その後は赤毛の女性へ変装し、偽造した身分証を使いながら複数の国境を越えていく。

最初から、彼女が普通の女性ではないことがよく分かる。

何気ない食事や会話まで計画へ組み込み、他人の記憶に残る自分の姿を意図的に作る。

逃亡場面でありながら、焦りや混乱はほとんど見せない。

周囲の人間が何を見て、どう判断するのかを先回りし、追跡される可能性を一つずつ潰していく。

まさに凄腕の工作員である。

しかし、彼女が組織を抜けた理由は、自由への憧れだけではなかった。

クロエは八歳で家族から引き離され、長い年月を工作員として過ごしてきた。

過酷な仕事を続けられたのは、報酬や贈り物を家族へ送っているつもりだったからである。

自分が危険な仕事をすることで、両親や妹が幸せに暮らせる。

そう信じていた。

ところが、実家へ戻ってみると、家はすでに焼失しており、家族は二年前に亡くなっていた。

さらに、家族へ渡していたはずの贈り物や金は、上司であるランコムの部屋に積み上げられていた。

家族の死を知らせなかったのも、クロエを任務で使い続けるためだった。

この事実はあまりにも残酷である。

クロエはランコムを信頼していた。

工作員として育てた上司であり、家族とのつながりを預けていた人物でもあった。

しかしランコムにとって、クロエは大切な妹でも一人の人間でもなく、失いたくない優秀な道具だった。

彼女が組織を捨てたのは、単に仕事が嫌になったからではない。

自分の人生を誰かの都合で使い潰され続けることに、ようやく終わりを告げたのである。

初めて自由に食べる食事

組織から逃れたクロエは、ビクトリア・セラーズという新しい身分を手に入れる。

国境近くのレストランへ入った彼女は、パンケーキやソーセージ、半熟の目玉焼きを注文し、旺盛な食欲で食べ始める。

この何気ない食事の場面が印象に残った。

逃亡の準備として失恋に苦しむ女性を演じるため、ビクトリアは長い間食事を制限し、体重まで落としていた。

普通に食事をすることさえ、計画の一部として我慢していたのである。

そんな彼女が、ようやく誰かの目を気にせず、自分が食べたいものを選ぶ。

豪華な宴会ではない。

特別なごちそうでもない。

それでも、自由になったビクトリアにとっては大切な食事だった。

本作では料理や食卓の描写が何度も登場する。

子羊のロースト、手作りのケーキ、サンドイッチ、野菜とベーコンのスープ、栗と豚肉の煮込み。

どれも単に美味しそうな料理として描かれているだけではない。

誰かと一緒に食べること。

相手の好物を考えて作ること。

帰りを待つ人のために食事を用意すること。

そうした穏やかな生活の象徴になっている。

命令を受け、孤独に任務をこなしてきたビクトリアが、食卓を通して人とつながり直していく。

読んでいるこちらまで、心が少し温かくなった。

捨てられた少女ノンナとの出会い

新しい人生を始めた初日、ビクトリアは広場のベンチで一人の少女を見つける。

六歳のノンナは、母親からここで待つように言われ、何時間も一人で座っていた。

空腹にも喉の渇きにも耐えながら、静かに母親を待ち続けている。

ビクトリアは食事を与え、日が暮れても母親が戻らなかったため、ノンナを警備隊へ連れていく。

最初の段階では、ノンナを正式な施設へ引き渡すつもりだった。

自分は逃亡中の身である。

新しい国へ来たばかりで、生活も仕事も決まっていない。

子供を育てる条件が整っているとは言い難い。

理性的に考えれば、施設へ任せた方が安全である。

しかし、連れていかれるノンナが初めて感情を込めた目で振り返る。

その視線を見たビクトリアは、彼女を引き取ることを決める。

この時、ビクトリアはノンナの姿に幼い頃の自分を重ねていたのだと思う。

ビクトリアも八歳で家族から引き離された。

大人の都合で居場所を失い、工作員を育てる養成所へ連れていかれた。

自分と同じように、助けを求めることさえできず、静かに連れていかれようとしている少女を見捨てられなかった。

一度はすべての人間関係を捨て、誰にも見つからず一人で暮らそうとしていたビクトリア。

そんな彼女が、逃亡初日に家族を作ってしまう。

用意周到な元工作員でありながら、ここだけは計画外だった。

しかし、この予定外の出会いが、彼女の人生を救うことになる。

孤独だった二人が本当の親子になるまで

ビクトリアとノンナは、最初から完璧な親子だったわけではない。

ノンナは実の母親に置き去りにされた経験から、一人で留守番することを怖がっている。

静かにしていれば捨てられないと思っていたのか、自分の感情を表に出すことも少ない。

一方のビクトリアも、子供を育てた経験はない。

工作員として身を守る方法や料理、読み書きは教えられても、一般的な母親が子供とどう接するのかは分からない。

女の子同士の普通の遊びさえ知らず、結果として体術や木登りを教えてしまう。

少し変わった子育てである。

それでも、二人は少しずつ家族になっていく。

一緒に料理をする。

同じベッドで眠る。

知らない言葉を教える。

危険な時にどう逃げるのかを約束する。

時にはノンナがビクトリアの看病をし、疲れて眠った彼女へ毛布をかける。

血のつながりはない。

それでも、互いを気遣い、一緒に暮らす時間を積み重ねることで、本物の親子のような関係が作られていく。

特に印象に残ったのは、逃亡生活の中でノンナがビクトリアを「お母さん」と呼びたいと申し出る場面である。

ノンナは新しい名前を間違えないためという理由を口にする。

しかし、本当は以前からビクトリアを母親だと思っていたのだろう。

ビクトリアもその言葉を心から喜ぶ。

偽名を使い、何者にもならず生きようとしていた女性が、初めて母親という確かな立場を手に入れる。

その変化が心に残った。

完璧な家事能力も工作員の手札

ビクトリアが持つ「手札」は、戦闘能力だけではない。

四か国語を使った翻訳。

書類の整理。

掃除や料理。

裁縫や契約書の作成。

乗馬や家庭教師。

必要なことをすぐ理解し、相手に合った方法で結果を出していく。

気難しい歴史学者バーナードの助手になった後も、その能力は存分に発揮される。

ほこりだらけだった家を整え、研究資料の順番を崩さず整理し、翻訳と料理までこなす。

最初は子供の同行を嫌がっていたバーナードも、静かに本を読むノンナを受け入れ、やがて二人を食事へ招くようになる。

妻を亡くして以来、一人で暮らしていたバーナードにとって、ビクトリアとノンナを交えた食卓は、久しぶりに家庭の温かさを感じる時間だった。

ビクトリアはノンナだけでなく、周囲で孤独を抱えている人まで少しずつ救っている。

ただし、本人は誰かを救っているつもりではない。

自分にできる仕事をして、料理を作り、困っている人を放っておけないだけである。

だからこそ、押しつけがましさがない。

バーナードだけでなく、ヨラナ夫人や侍女のスーザン、家庭教師を担当したクラークなど、彼女の周囲には少しずつ人が集まってくる。

工作員時代は任務のために身につけた技術だった。

しかし新しい生活では、その手札が人を傷つけるためではなく、暮らしを整え、人との縁を作るために使われている。

同じ能力でも、使う目的が変われば、これほど温かいものになるのかと感じた。

子羊のローストと手作りケーキが彩る日常

本作では、料理の描写も大きな魅力になっている。

バーナードのために作る子羊の香草焼き。

ノンナと一緒に作る野菜とベーコンのスープ。

ピクニックへ持っていく三種類のサンドイッチ。

クラークへ振る舞う手作りケーキ。

栗と豚肉の煮込みやアップルパイも登場する。

読んでいるだけでお腹が空いてくる。

しかし、料理が印象に残るのは、美味しそうだからだけではない。

ビクトリアにとって料理は、家族との失われた時間を取り戻す行為でもある。

幼い頃に家族から引き離されたため、母親と一緒に料理をする時間も、妹の世話をする時間も失われてしまった。

ノンナと並んで料理をしている時、ビクトリアは母親も同じような気持ちで自分へ料理を教えていたのではないかと考える。

過去は戻らない。

亡くなった家族ともう一度暮らすこともできない。

それでも、ノンナと新しい食卓を作ることで、失った時間の続きに触れることはできる。

本作の穏やかな食事の場面には、そんな切なさと救いが同時に込められていた。

派手すぎない元工作員のアクション

もちろん、元工作員としての能力を発揮する場面も面白い。

ひったくり犯を足払いで転倒させる。

夜会へ紛れ込んだ暗殺者を数秒で制圧する。

正体を隠したまま王子を返り討ちにする。

死刑囚を救うため、牢獄の構造を調べ、鉄格子を少しずつ切断する。

相手の行動を予測し、必要な道具と逃走経路を準備する。

ビクトリアの戦い方は、巨大な力で敵を吹き飛ばすような派手なものではない。

相手の重心や視線を読み、最小限の動きで無力化する。

正面から戦う必要がなければ、変装や偽造書類、事前準備によって戦いそのものを避ける。

凄腕であることが、力任せの描写ではなく、判断の速さや準備の細かさによって伝わってくる。

この説得力が良かった。

また、ビクトリアは悪人を倒すこと自体に喜びを感じているわけではない。

夜会で暗殺者を捕らえた後、久しぶりの緊張や達成感に心が高揚し、自分が工作員の仕事を嫌いではなかったことへ気づく。

それでも、ノンナとの生活を捨てて戻ろうとはしない。

工作員だった過去を完全に否定するのではなく、好きだった部分も認めたうえで、新しい人生を選ぶ。

この描き方も現実的だと感じた。

過去のすべてが苦痛だったわけではない。

身につけた技術も、共に働いた仲間との記憶も残っている。

それでも、今は別の道を選ぶ。

過去を切り捨てるのではなく、抱えたまま前へ進もうとする姿が魅力的だった。

死刑囚を救う危うい正義

ビクトリアは、夜会で貴族を殺そうとした男カールを牢獄から逃がす。

カールは妹を傷つけた侯爵へ復讐しようとしていた。

侯爵は爵位や役職を失ったものの、平民であるカールだけは死刑になる。

その結末に納得できなかったビクトリアは、変装して牢獄へ通い、鉄格子を切り、偽造した身分証や荷馬車まで用意する。

明らかに犯罪である。

騎士団から見れば、ビクトリアの行動は決して許されない。

ジェフリーを含む多くの人間へ迷惑をかけることにもなる。

ビクトリア自身も、自分が正義だとは考えていない。

偽善者と呼ばれても仕方がないと理解している。

それでも、防げる死を見過ごすことができない。

この行動の背景には、過去の任務で救えなかった少年工作員ハンスの記憶がある。

十五歳だったハンスは、仲間の判断によって危険な場所へ連れていかれ、ビクトリアの目の前で命を落とした。

あの時、もっと強く反対していれば救えたかもしれない。

その後悔が、彼女の中に残り続けている。

正しいか間違っているかだけでは決められない。

自分が行動すれば救える命を、何もしないまま失いたくない。

ビクトリアの正義は危うい。

しかし、その危うさも含めて、人間らしいと感じた。

ナイスガイな第二騎士団長ジェフリー

ビクトリアとノンナを見守る第二騎士団長ジェフリーの存在も欠かせない。

ジェフリーは銀髪の大男で、王都の治安を守る騎士団長である。

身分も地位も高く、ビクトリアが警戒しても不思議ではない人物だ。

しかし、彼は自分の力や立場を押しつけない。

ノンナを引き取る際には身元保証人になる。

危険な夜道では同行する。

生活へ必要以上に干渉せず、ビクトリアが助けを求めた時だけ手を差し伸べる。

不器用ながらも誠実な人物である。

特に良かったのは、ジェフリーがビクトリアの過去に薄々気づきながら、無理に問い詰めなかったことだ。

語学、体術、乗馬、警戒能力。

どれを見ても、普通の平民とは思えない。

それでも、踏み込めば彼女が消えてしまうと感じ、距離を保とうとする。

ビクトリアが突然いなくなった時には深く傷つくが、それでも彼女を責めるより先に、追っ手から守るため動く。

ただ優しいだけではない。

彼自身も過去に婚約者を失い、大切な人から頼ってもらえなかった後悔を抱えていた。

だから、誰にも頼ろうとしないビクトリアを放っておけない。

一方で、自分の保護を無理に受け入れさせれば、彼女の自由を奪うことも分かっている。

守りたい気持ちと、相手の意思を尊重したい気持ちの間で悩んでいる。

その姿が誠実であった。

ビクトリアとの関係も、若い男女の勢いだけで進むものではない。

互いに大きな傷を抱え、大切な相手を失う怖さを知っている。

だからこそ少しずつ距離が縮まり、家族になっていく展開に説得力があった。

ノンナを失うかもしれない恐怖

ビクトリアがどれほどノンナを大切にしているかが伝わるのが、ハンソン男爵夫妻から養女の話を持ちかけられる場面である。

夫妻は亡くした娘とノンナがよく似ているため、彼女を養女に迎えたいと申し出る。

貴族の家へ入れば、衣食住には困らない。

教育も受けられ、安全な生活を送れる。

逃亡者であるビクトリアと暮らすより、条件だけを見れば恵まれているように思える。

ノンナが六日間だけ男爵家へ泊まると決めた時、ビクトリアは大きな衝撃を受ける。

自分との生活は幸せではなかったのか。

このままノンナが帰ってこなければ、一人で暗い部屋に残される。

そんな未来を考え、動けなくなってしまう。

普段はどれほど危険な状況でも冷静なビクトリアが、ノンナを失う可能性には耐えられない。

彼女にとってノンナは、保護した子供というだけではなく、生きる理由そのものになっていたのだと分かる。

最後には、男爵家で亡き娘の代わりとして扱われたノンナが、自力で屋敷から脱出して戻ってくる。

ビクトリアが教えた逃走方法を使い、二階の窓から抜け出したのである。

六歳の少女としてはたくましすぎて、思わず笑ってしまう。

それでも、ノンナが戻る場所としてビクトリアを選んだことが嬉しかった。

豊かな屋敷や貴族の身分ではなく、自分をノンナとして見てくれる家族を選んだ。

この出来事によって、二人の関係はさらに強くなったように感じた。

有能であるほど平穏から遠ざかっていく

ビクトリアは普通に暮らしたいと願っている。

しかし、長年身につけた能力は簡単には隠せない。

ひったくり犯を倒す。

暗殺者を捕らえる。

語学や家事で周囲を驚かせる。

王子を一方的に退ける。

死刑囚を誰にも見つからず逃がす。

本人は目立たないようにしているつもりでも、有能であればあるほど周囲の注目を集めてしまう。

やがて王家や騎士団から監視されていることへ気づき、ビクトリアはノンナと王都を去る決意をする。

ここまで築いてきた生活を、再び自分の手で捨てなければならない。

ヨラナ夫人。

バーナード。

クラーク。

ジェフリー。

ようやく手に入れた人間関係を失うことは、以前のビクトリアには想像できないほどつらい。

組織を逃げ出した直後の彼女であれば、誰にも告げず消えることに迷いはなかっただろう。

しかし、王都での暮らしを通して、彼女は多くの人へ情を持つようになった。

普通の幸せを知ってしまったからこそ、逃げる痛みも大きくなっている。

別れの手紙だけを残し、ノンナと共に姿を消す場面は切なかった。

特にジェフリーは、突然消えないでほしいと何度も伝えていた。

それでもビクトリアは、自分がいることで周囲を危険へ巻き込みたくないと考え、何も説明しないまま去る。

相手を守るために距離を取る。

しかし、残された側は深く傷つく。

工作員としては正しい判断でも、人と共に生きる方法としては不器用だった。

羊牧場と漁村での逃亡生活

王都を離れたビクトリアとノンナは、名前も姿も変え、羊牧場で働き始める。

凄腕の元工作員が羊の世話をし、毛糸を紡ぎ、セーターを編む。

ノンナも羊の世話やボビンレースを覚え、自分で作った品を売って収入を得る。

この逃亡生活が意外なほど穏やかで良かった。

追われる身であることに変わりはない。

いつまでも同じ場所にいられる保証もない。

それでも、二人はただ隠れているだけではなく、新しい場所で技術を覚え、周囲の人と関係を築いている。

どこへ行っても暮らしを立て直せるビクトリアの手札の多さが、ここでも発揮される。

春になると二人は漁師町へ移り、宿屋兼食堂で働く。

ビクトリアは掃除や雑用をしながらセーターを編み、ノンナも新しい生活へなじんでいく。

街から街へ逃げ続ける展開には緊張感がある。

それでも、二人が一緒である限り、そこが一時的な場所でも家になる。

逃亡生活でありながら、不思議と暗さだけを感じない。

ビクトリアが求めていた普通の幸せは、立派な家や安定した地位ではなかった。

ノンナと食事をし、一緒に働き、今日を無事に終える。

それだけでも、以前の孤独な生活よりはるかに幸せだったのだと思う。

カディスの夏祭りで果たされた約束

物語の終盤、ビクトリアとノンナはカディスの夏祭りを訪れる。

そこは以前、ジェフリーと三人で訪れようと約束していた場所だった。

見つかりたい。

しかし、見つかってはいけない。

ビクトリアは相反する気持ちを抱えながら、亡くなった家族のための小舟を海へ流す。

彼女は両親と妹へ、長く頑張ってきたことや、もう疲れたことを心の中で語りかける。

これまでどれほどつらくても泣かず、自分の力だけで生き延びてきたビクトリアが、ここでようやく涙を流す。

ノンナはそんな彼女へ、泣いてもよいと伝える。

いつも守られてきたノンナが、今度はビクトリアを支える。

二人が本当の親子になったことが伝わる場面だった。

そして顔を上げると、約束を覚えていたジェフリーが立っている。

彼はビクトリアが見つかるまで、毎年カディスへ来るつもりだった。

都合よく感じる展開かもしれない。

それでも、ここまで長く逃げ続け、誰かを信じることを怖がってきたビクトリアには、この再会が必要だったと思う。

何も言わず消えても、探してくれる人がいた。

自分が戻ることを待っている人がいた。

それは、組織で道具として扱われていた頃には得られなかったものである。

クロエでもビクトリアでもない本当の名前

ジェフリーと再会したビクトリアは、自分のすべてを話す前に、本当の名前を明かす。

工作員としての名前はクロエ。

逃亡後の名前はビクトリア・セラーズ。

しかし、両親から与えられた本当の名前はアンナ・デイルだった。

八歳で養成所へ入れられた時に捨てさせられた名前である。

名前を取り戻すことは、自分の人生を取り戻すことでもあったのだと思う。

クロエは組織の道具としての名前。

ビクトリアは追跡から逃れるために借りた名前。

どちらも、生き延びるために必要だった。

しかしジェフリーへ本当の名前を伝えたことで、彼女は初めて誰かの前で、偽装せず自分自身として生きようとする。

ジェフリーもまた、自分の家族が父親から暴力を受けていた過去を明かす。

二人とも、外から見れば強い大人である。

しかし、その内側には家族によって傷つき、守りたい人を失った過去がある。

互いの傷を知ったうえで、それでも一緒に家庭を作ろうとする。

アンナがジェフリーとノンナを守ると誓い、ジェフリーも彼女へ結婚を申し込む場面には、素直に安心した。

派手な告白というより、長く逃げ続けた二人が、ようやく同じ場所に立てた瞬間である。

本当に自由になったアンナ

最終的にアンナ、ジェフリー、ノンナの三人は家族となり、新しい国へ向かう船へ乗る。

ジェフリーは夫となり、ノンナは正式な娘になる。

アンナも新しい身分を得て、追跡や偽名に怯える生活から解放される。

印象に残ったのは、アンナが単に安全を得ただけではなく、未来を楽しみにしていることである。

新しい国の言葉や医療を学びたい。

そこでどのような生活が待っているのか知りたい。

これまでの彼女は、生き延びるために先のことを考えていた。

逃走経路。

変装。

追っ手への対策。

危険が起きた時の予備手段。

しかし船の上では、初めて純粋に未来への期待を抱いている。

ジェフリーから本当に自由になったのだと言われ、アンナはその言葉を受け入れる。

組織から逃げ出した時点では、まだ自由ではなかった。

追跡を恐れ、正体が知られればすぐに逃げる準備をし、誰かを信じることもできなかった。

本当の自由とは、誰にも見つからないことではない。

安心して自分の名前を名乗り、大切な人と未来を考えられることだったのだと思う。

ビクトリアとノンナは互いを救っていた

船旅の途中、ノンナは広場に捨てられたことを当時から理解していたと明かす。

母親が戻ってこないことも、おそらく分かっていた。

それでも、静かに待つことしかできなかった。

そんな自分へ食事を与え、青いリボンを買い、母親になってくれたアンナへ感謝する。

一方のアンナも、ノンナがいなければ自分は組織へ戻り、最後には殺されていたかもしれないと気づく。

アンナがノンナを救っただけではない。

ノンナもまた、アンナを孤独な人生から救っていた。

この関係が本作の一番好きなところである。

強い者が弱い者を一方的に守る物語ではない。

大人と子供。

元工作員と捨てられた少女。

立場も能力も違う二人が、互いに必要なものを与え合っている。

ノンナはアンナに家族と帰る場所を与えた。

アンナはノンナに、安全と生きる技術を与えた。

どちらか一人では手に入らなかった幸せを、二人で作っていく。

その姿が温かかった。

手札の多さよりも大切だったもの

『手札が多めのビクトリア 1』は、確かに有能な元工作員が活躍する物語である。

変装、体術、語学、料理、鍵開け、偽造、情報収集。

ビクトリアが持つ手札は非常に多い。

状況に応じて最適な方法を選び、周囲の人間が解決できない問題まで鮮やかに処理してしまう。

その有能さは痛快であり、アクション作品としても楽しめた。

しかし、読み終えて最も心に残った手札は、彼女の技術ではなかった。

困っている子供を見捨てられないこと。

誰かのために料理を作れること。

相手の幸せを考えられること。

過去に失敗しても、次は助けようと手を伸ばすこと。

そして、怖くても誰かを信じようとすること。

そうした人間らしさこそが、ビクトリアを幸せへ導いた最大の手札だったのだと思う。

工作員としてどれほど優秀でも、組織の中では道具として扱われていた。

一方、新しい人生では、完璧ではないからこそ人とつながることができた。

ノンナを失うことを恐れ、ジェフリーを信じ切れず、何度も逃げようとする。

その弱さがあったからこそ、最後に手に入れた家族の重みが伝わってきた。

読み終えた後に残る優しい余韻

本作には暗殺、裏切り、脱獄、追跡といった重い要素も多い。

主人公の過去も決して明るくない。

幼い頃に家族から引き離され、大切な人の死を隠され、組織からは使い捨ての道具として扱われてきた。

それでも、読後感はとても爽やかである。

それはアンナが、過去の苦しみをなかったことにするのではなく、それを抱えたまま新しい家族を作ったからだと思う。

失われた時間は戻らない。

亡くなった家族にも会えない。

工作員として行ってきたことが消えるわけでもない。

それでも、新しい人生を始めることはできる。

食事を作り、子供と笑い、信頼できる人と未来を考える。

そんな普通の幸せを、彼女は自分の手で掴み取った。

派手な無双物語を想像して読み始めたが、実際に描かれていたのは、孤独な女性が家族と居場所を手に入れる物語だった。

戦闘でも日常でも有能なビクトリアの活躍はもちろん面白い。

しかし、それ以上にノンナとの親子関係や、ジェフリーとの不器用な恋愛、周囲の人々と作り上げる温かな食卓が心に残った。

読み終えた後、素直に「うん、良い話や」と言いたくなる。

過酷な過去を乗り越えたアンナと、新しい家族の幸せな未来を、これからも見守っていきたいと思わせる良作であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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手札が多めのビクトリアまとめ
手札が多めのビクトリア2レビュー

考察・解説

元工作員の逃亡

元工作員の逃亡と人生修復の全貌

『手札が多めのビクトリア』における「元工作員の逃亡」は、単なる組織からの離脱ではなく、裏切られた過去との決別と「普通の幸せ」を取り戻すための緻密な人生修復のプロセスとして描かれている。ハグル王国の特務隊エースであった主人公の逃亡劇について、逃亡の動機、死の偽装と身分の使い分け、逃亡先での平穏とスキルのジレンマ、監視の発覚と二度目の逃亡、および逃亡の終結についての解説は以下の通りである。

忠誠の崩壊と家族の真実

主人公のクロエ(後のビクトリア)は、8歳で組織に拾われて以来、過酷な任務をこなし続けていた。

・彼女の唯一の心の支えは、家族への仕送りとその無事を信じることであった。

・彼女の家族は2年前に火事で亡くなっており、上司であり恩人でもあったランコム室長がその事実を意図的に隠蔽していた。

・仕送りの金品を横領していたことが発覚した。

・自分がただの使い勝手の良い道具として扱われていたと悟った彼女は、組織への忠誠を完全に失い、逃亡を決意した。

周到な死の偽装と三つの身分

組織から追われないために、クロエは自身の死を偽装する用意周到な計画を実行した。

・ランコムと同僚メアリーの結婚にショックを受けたように装い、意図的に食事を減らしてやつれた姿を見せた。

・お気に入りの崖に帽子や大切にしていたペンダントを残し、海に身を投げたと思わせる痕跡を作った。

・崖を離れた後は、派手な赤毛のカツラと濃い化粧、胸の詰め物で別人マリアに変装し、乗合馬車でランダル王国へ逃れた。

・同乗者には強い酒を飲ませて記憶を曖昧にさせる徹底ぶりであった。

・ランダル王国を横断後、隣国のアシュベリー王国に入国する際には、10年前から行方不明となっている実在の女性ビクトリア・セラーズの精巧な偽造身分証を使用した。

新生活の開始と高すぎるスキルの壁

アシュベリー王国に入国したビクトリアは、初日に捨て子の少女ノンナを保護し、第二騎士団長のジェフリー・アッシャーを身元保証人として新しい生活を開始した。

・歴史学者の助手や貴族の家庭教師として平穏な日々を築いた。

・皮肉にも彼女の持つ工作員としての手札である圧倒的なスキルが、彼女を再び危険に晒すこととなった。

・王城の夜会で発生した襲撃事件を阻止したことや、無実の死刑囚を脱獄させたことで、王家や裏社会から注目を集めるようになってしまった。

監視の察知と潜伏生活への回帰

ある日、裏隣に越してきた元軍人のマイルズが、実は自分を監視するために配置された人物であると見抜いたビクトリアは、アシュベリー王国に留まる危険を察知した。

・世話になった人々に手紙を残した。

・再び黒髪のマリアを名乗り、ノンナを息子のライルに変装させた。

・ランダル王国の羊牧場や漁師町へと身を隠した。

公式な死亡処理と真の本名での再出発

一方、アシュベリー王国側では、ハグル王国からビクトリア(クロエ)を始末するための暗殺部隊が送り込まれていた。

・エドワード・アッシャー率いる第三騎士団とジェフリーの活躍によって暗殺部隊は捕縛された。

・アシュベリーの宰相と国王の計らいにより、ランダルからの旅人ビクトリアはハグルの強盗団に殺害されたという公式見解が捏造され、クロエという存在は完全に消滅した。

・カディスの夏祭りでジェフリーと再会したビクトリアは、追われる身ではなくなったことを知らされた。

・ジェフリーに、8歳の時に捨てさせられた本名がアンナ・デイルであることを告白し、彼からの求婚を受け入れた。

・最終的にアンナ、ジェフリー、ノンナの3人は、過去の因縁が届かないはるか遠いシェン国へと公的な支援を受けて船出し、元工作員としての長い逃亡生活は真の終わりを告げることとなった。

まとめ

元工作員の逃亡を巡る一連の全貌は、裏切りと家族の喪失による失意から始まり、緻密な死の偽装と身分工作、新天地でのスキル発揮に伴う危機、再逃亡の潜伏期間、そして暗殺部隊の退治と公的な死の捏造による完全な解放に至るまで、主人公が過去を精算し真の平穏を獲得するまでのプロセスを明瞭に示している。組織の呪縛や追手という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの高い知性と信頼できる仲間たちの助力によって完璧に確立するに至る、人生修復と再出発の記録である。偽装工作から、新生活の構築、危険の回避、そして本名の奪還へと繋げたプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって生の自由が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

孤児ノンナの保護

孤児ノンナの保護と真の家族への再生の全貌

『手札が多めのビクトリア 1』において、「孤児ノンナの保護」は、主人公ビクトリア(クロエ)が工作員としての過去を捨て、「普通の幸せ」を手に入れる人生修復の第一歩となる極めて重要な出来事である。広場での出会いと最初の保護、引き取りの決意とジェフリーの協力、「手札」の伝授と自立への教育、および互いにとっての救いについての解説は以下の通りである。

王都広場での遭遇と放置された少女の保護

ビクトリアが隣国アシュベリー王国に入国したセカンドライフの初日、王都の広場で一人ベンチに座る6歳の少女ノンナを発見した。

・彼女は母親に「ここで待ってなさい」と言われたまま、午前中から4時間以上も放置されていた。

・ノンナが捨てられたのだと察したビクトリアは、果実水やパンを与えて暗くなるまで一緒に母親を待った。

・やはり母親は現れなかったため、ビクトリアは眠ってしまったノンナを背負い、警備隊の詰め所へと連れて行った。

孤独な過去との重ね合わせと身元保証人の調達

翌朝、保護施設の院長が詰め所にノンナを迎えに来た。

・無表情だったノンナが、院長に手を引かれて歩き出す際に初めて感情を見せて振り返り、目で助けてと訴えかけてきたようにビクトリアは感じた。

・自身も8歳の時に親元から離され、組織に引き渡された孤独な過去を持つビクトリアは、ここでノンナを手放せば一生後悔すると思い、自ら引き取ることを決意した。

・入国したばかりでホテル暮らしの彼女には身元保証人がおらず、引き取る資格がなかった。

・前夜ひったくり犯を捕まえた縁で知り合った第二騎士団長ジェフリー・アッシャーを身元保証人として呼び出し、無事に引き取りの手続きを済ませてノンナと家族になった。

工作員スキルの伝授と自立のための教育

ビクトリアはノンナにたっぷりの愛情を注ぐと同時に、工作員時代に培った様々な手札を彼女に授けようとした。

・権力や身分がない平民の美しい少女が、将来悪い大人に搾取されたり危険な目に遭ったりしないよう、自分の身を自分で守り、経済的にも自立できる女性に育てるためであった。

・読み書き、計算、語学、料理はもちろん、高い塀への登り方や木登り、棒での打ち合い、さらには前方・後方宙返りといった体術まで教え込んだ。

・ノンナは類まれな身体能力とセンスを発揮し、これらの訓練を遊びのように楽しみながら吸収していった。

孤立からの脱却と相互の救済

物語の終盤、ノンナは「広場に座っていた時、本当は捨てられたことを知っていた」と明かした。

・追われる身でありながら自分を助け、美味しいものを与え、母親になってくれたビクトリアに深い感謝を伝えた。

・ビクトリアにとっても、ノンナの存在は大きな救いとなった。

・組織を抜けて孤独に苛まれていた彼女は、もしノンナがいなければその寂しさに耐えきれず、ハグル王国に戻って暗殺者に始末されていたかもしれないと悟った。

・ノンナの保護は、単なる善意の人助けにとどまらず、傷ついた二人の心が寄り添い、真の家族へと再生していく物語の核となっている。

まとめ

孤児ノンナの保護を巡る一連の全貌は、広場での遭遇から始まり、過去の自分を重ねた引き取りの決意、ジェフリーの協力を得た身元保証、生存スキルの伝授、そして互いの存在による救済に至るまで、二人が真の親子として結ばれる過程を明瞭に示している。過去のトラウマや孤立無援という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を互いを慈しむ温かな意志と自立のための鍛錬によって完璧に確立するに至る、家族再生と救済の記録である。捨て子の発見から、保護手続き、英才教育、そして魂の共鳴へと繋げたプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって生の自由が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

偽造身分での生活

偽造身分での生活と過去からの解放の全貌

『手札が多めのビクトリア』における「偽造身分での生活」は、主人公のクロエが過酷な過去を捨てて「普通の幸せ」を掴むための必須の手段でありながら、同時に彼女の心に孤独と葛藤をもたらす足かせとしても描かれている。複数の偽造身分の使い分け、偽装生活を支える圧倒的なスキル、偽装の綻びと抜けない工作員の習性、偽名で生きる孤独と逃亡の限界、および偽造身分からの解放についての解説は以下の通りである。

追跡を逃れるための複数の偽造身分

主人公は組織からの追跡を逃れ、目的を果たすために複数の偽造身分を巧妙に使い分けた。

・マリアはハグル王国からの最初の逃亡時や、後にアシュベリー王国から再び逃亡してランダル王国の牧場で働く際に使用した身分であり、実在の行方不明者の情報を利用したものである。

・ビクトリア・セラーズはアシュベリー王国での生活の基盤となった本命の偽装身分であり、ランダル王国で10年前から行方不明になっている実在の女性の精巧な偽造身分証に自身の身体的特徴を記入して使用した。

・ケイトは死刑囚を脱獄させるために王城の牢獄へ面会に行く際、一時的に使用した架空の身分である。

工作員スキルによる信頼と生活基盤の構築

ビクトリア・セラーズとしての生活では、工作員時代に培った多様な手札が大いに役立った。

・四ヶ国語を操る語学力や完璧な家事能力、事務処理能力を活かした。

・気難しい歴史学者バーナードの助手や、エバの息子クラークの家庭教師として周囲の信頼を勝ち取った。

・ひったくりを捕まえた縁でヨラナ夫人の離れを借りて暮らすようになり、温かい人間関係を築いていった。

口走った嘘の食い違いと身体に染みついた習性

完璧に見えた偽造身分での生活にも次第に綻びが生じることとなった。

・本物のビクトリアには兄がおらず両親は離婚して所在不明であるが、彼女は周囲に家族は火事で死んだ、馬は軍人の兄に習ったと語ってしまった。

・この情報とランダル王国からの公式な調査報告書の食い違いに、第三騎士団を束ねるエドワード・アッシャーは違和感を抱いた。

・隣人のマイルズと接した際、常に相手を死角に入れない無意識の動きや、不意に投げられた木彫りの小鳥を瞬時にかわして反撃の構えをとる反応を見せてしまい、ただの平民ではないことを見抜かれてしまった。

親愛の深まりが生む罪悪感と再逃亡

偽造身分での生活は、親しくなった人々との間に見えない壁を作り、彼女を苦しめた。

・偽名で親しくなったら別れるときにもっと辛くなるという懸念の通り、ノンナやジェフリー、ヨラナ夫人たちへの情が深まるほど、真実を明かせない罪悪感といつか突然姿を消さなければならない孤独に苛まれた。

・マイルズが自分を監視する者だと気づいたとき、彼女は手紙だけを残して築き上げた生活をすべて捨て、再びノンナと共に逃亡せざるを得なくなった。

公的な死亡処理と本当の名前の獲得

物語の最後、アシュベリー王国の計らいにより「ハグルの工作員クロエ」および「ランダルの旅人ビクトリア」は書類上死亡したこととなった。

・ジェフリーからの求婚を受け入れた彼女は、王城の役人マイクから国費でのシェン国渡航のための新しい身分証を受け取った。

・かつて偽造技術で他人の名前を書き込んだ彼女は、今度は国から渡された白紙の身分証に、自らの本当の名前であるアンナとジェフリーの姓アッシャーを自らの手で書き込んだ。

・これにより、彼女は偽造身分での逃亡生活に真の終わりを告げ、過去のしがらみから解放された自由な一人の女性として、本物の家族と共に新たな人生を歩み始めるに至った。

まとめ

偽造身分での生活を巡る一連の全貌は、追跡を逃れるための身分工作から始まり、手札を駆使した生活基盤の確立、偽装の綻びと習性の露出、偽名ゆえの孤立と再逃亡、そして真の本名の奪還と再出発に至るまで、主人公が偽りの名前を脱ぎ捨てて真の自分を取り戻すまでの軌跡を明瞭に示している。偽りの過去や追手という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの知性と信頼できる仲間たちとの絆によって完璧に確立するに至る、仮面からの脱却と自立の記録である。偽装の開始から、綻びの発生、罪悪感の克服、そして真名への到達へと繋げたプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって生の自由が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

騎士団長との恋愛

ジェフリー・アッシャーとの恋愛と新しい家族への再生の全貌

『手札が多めのビクトリア 1』における第二騎士団長ジェフリー・アッシャーとの恋愛は、過酷な過去と心の傷を抱えた不器用な大人の二人が、互いの痛みを理解し合い、真の家族(居場所)を築き上げるまでの過程として丁寧に描かれている。出会いと自立心への惹かれ合い、偽装恋人と身分差・過去の壁、過去の傷とジェフリーの覚悟、突然の別離とカディスでの再会、真実の告白と求婚、および過去からの解放と新しい家族の船出についての解説は以下の通りである。

王都での遭遇と自立心への深まる惹かれ合い

ビクトリア(クロエ)がアシュベリー王国に入国した初日、ひったくり犯を捕らえたことでジェフリーと出会った。

・ジェフリーは、ビクトリアが孤児のノンナを引き取る際の身元保証人を引き受けた。

・10年間女性を同伴する関係を持たなかったジェフリーであるが、他人に甘えず自立して生きようとするビクトリアの姿勢や気概に強く惹かれた。

・好意を隠さずに食事やピクニックへと誘うようになった。

仮の恋人関係と逃亡者ゆえの慎重な距離感

ジェフリーは、王家主催の夜会で縁談を避けるための虫除け役(仮の恋人役)としてビクトリアを同伴させ、周囲にも彼女に惚れていることを公言した。

・ビクトリアは元工作員としての逃亡生活の身であった。

・ノンナを無事に育てることが一番の目標であるとして、彼からのアプローチに対して慎重な距離を置き続けた。

過去のトラウマと地位を捨てる覚悟

ジェフリーは10年前に婚約者カトリーヌを自死で亡くしており、大切な人を守りたいという強い保護欲と、彼女の苦しみに気づけなかった後悔を抱えていた。

・ビクトリアが何らかの事情で追われている(工作員である)ことに薄々気づいていた。

・彼女と共に生きるために騎士団長の地位を捨てて平民になる覚悟まで固めていた。

手紙を残した疾走と夏至の夜の約束

ハグル王国の暗殺部隊の影が迫り、自分がいることでジェフリーや周囲に迷惑をかけると考えたビクトリアは、手紙を残して突然姿を消した。

・ジェフリーは深く傷ついた。

・かつてビクトリアと交わした「夏至の夜にカディスのお祭りに行く」という何気ない約束を信じて現地へ赴いた。

・ついに彼女とノンナを見つけ出した。

過酷な過去の開露とシンプルな求婚

再会を果たした二人は、互いの最も深い秘密と傷を打ち明けた。

・ビクトリアは工作員としての過去と、一度も名乗ったことのない本名がアンナ・デイルであることを告白した。

・ジェフリーもまた、父親から長年激しい暴力を受け、殺意を抱くほどの凄惨な家庭環境(家庭という地獄)で育った過去を明かした。

・互いの痛みを理解し合ったアンナは、ジェフとノンナを命に代えても守り、幸せな家庭を作ると誓った。

・ジェフリーは彼女の前に膝をついて「アンナ。俺と結婚してください」とシンプルに求婚した。

新身分の獲得とシェン国への船出

王国の計らいにより「ビクトリア」の経歴は抹消され、彼女はアンナ・アッシャーとして新しい身分証を手に入れた。

・ジェフリーはノンナの父親となり、血の繋がらない三人は真の家族となった。

・地位を辞したジェフリーは、アンナ、ノンナと共にシェン国へと出航した。

・過去のしがらみから完全に解放された新しい人生を歩み始めるに至った。

まとめ

ジェフリー・アッシャーとの恋愛を巡る一連の全貌は、出会いと自立心への好意から始まり、偽装恋人としての関わり、過去の傷と双方の覚悟、一度の別離とカディスでの再会、互いの過去の告白と求婚、そして新天地への船出に至るまで、二人が真の信頼と愛情を築き上げるプロセスを明瞭に示している。互いの凄惨な過去や不条理なトラウマという不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を互いの傷を包み込む深い意志と新しい家族としての誓いによって完璧に確立するに至る、愛と救済の記録である。出会いの瞬間から、壁の克服、本名の開露、求婚の受諾、そして新世界の開拓へと繋げたプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって生の自由が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

過去との決別

過去との決別と真の自分としての再生の全貌

『手札が多めのビクトリア 1』における「過去との決別」は、主人公が偽りの自分や過去の罪悪感、過酷なしがらみから解放され、真の自分として愛する者たちと新たな未来を築き上げるための最も重要なテーマとして描かれている。工作員クロエの死と組織からの決別、トラウマと自責の念からの決別、偽りの自分との決別と本当の名前の奪還、および社会的しがらみからの決別についての解説は以下の通りである。

工作員クロエの死と組織からの決別

主人公は8歳の時に親元から離され、ハグル王国の特務隊で工作員クロエとして生きてきた。

・彼女の唯一の心の支えは家族への仕送りであった。

・家族が火事で亡くなった事実を、上司であり恩人でもあったランコムに隠蔽されていた。

・ただの使い勝手の良い道具として利用されていたことを知り、組織への忠誠を完全に捨てた。

・崖からの投身を偽装して自らの死を演出し、十八年間縛られ続けた工作員としての過去と決別した。

トラウマと自責の念からの決別

主人公とジェフリーは、共に過去に救えなかった命への後悔やトラウマを抱えていた。

・ビクトリアは過去の任務で後輩のハンスを死なせてしまったことを深く悔やみ、夜中にうなされることもあった。

・死んだら終わりという現実を強く認識し、その戒めが目の前の命を救う行動へとつながっていた。

・ジェフリーは十年前、婚約者カトリーヌが自死したことに対し、彼女の苦しみに気づけず頼られなかったという強い自責の念を抱き続けていた。

・幼少期から父親に激しい暴力を受け続けた家庭という地獄の記憶にも縛られていた。

・二人は互いの最も深い傷を打ち明け合い、ビクトリアが命に代えても守り幸せな家庭を作ると誓うことで、ジェフリーは過去の呪縛から決別し、彼女に求婚するに至った。

偽りの自分との決別と本当の名前の奪還

組織から逃れるため、主人公はマリアやビクトリア・セラーズといった実在する行方不明者の偽造身分を使って生きてきた。

・ジェフリーと共に生きる覚悟を決めた彼女は、組織に捨てさせられて以来二十年間一度も名乗っていなかった本当の名前アンナ・デイルを彼に告白した。

・最終的に、国が用意した白紙の身分証に自らの手でアンナ・アッシャーと書き込んだ。

・偽造身分の一般市民でも、追われる工作員でもない、本物の自分としての人生を取り戻した。

社会的しがらみからの決別と新天地への船出

物語の終盤、ハグル王国の暗殺部隊の襲撃を退けた後、アシュベリー王国の計らいによってビクトリアは暗殺者に殺害されたと公式に処理された。

・彼女はハグル王国から追われる過去から完全に解放された。

・ジェフリーもまた、騎士団長という地位を捨て、しがらみを断ち切った。

・三人は、過去の因縁が届かないはるか遠い異国シェン国へと公的な支援を受けて船立った。

まとめ

過去との決別を巡る一連の全貌は、偽装死による組織からの離脱から始まり、過去のトラウマの打ち明け、真名アンナ・デイルの奪還、そして異国シェン国への船出に至るまで、主人公と仲間たちが過去の呪縛を断ち切り真の人生を獲得する過程を明瞭に示している。過去の罪悪感や偽りの身分という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの意志と愛する者との誓いによって完璧に確立するに至る、決別と再生の記録である。偽装工作から、トラウマの克服、真名の受容、そして新世界の開拓へと繋げたプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって生の自由が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

手札が多めのビクトリアまとめ
手札が多めのビクトリア2レビュー

登場キャラクター

ハグル王国

アンナ・デイル(クロエ / ビクトリア・セラーズ / マリア / ケイト / アンナ・アッシャー)

家族を大切に思う愛情深い性格である。他人に頼らず自立して生きようとする。ジェフリーやノンナと深い絆を築き上げる。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊のエース工作員。のちに平民。

・物語内での具体的な行動や成果
 死を偽装して組織を脱走した。アシュベリー王国でノンナを保護し、歴史学者の助手や語学教師として働く。夜会で襲撃犯を倒すなど、数々の事件を裏から解決に導いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 工作員の身分を捨て、様々な偽名を使って生活を続ける。最終的にジェフリーと結婚し、アンナ・アッシャーという新しい身分を得た。

ランコム

組織の利益を優先し、部下を道具として扱う冷徹な面を持つ。クロエを幼い頃に拾い、工作員に育て上げた。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の中央管理室室長。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエの家族が亡くなった事実を隠蔽し、彼女からの仕送りを横領していた。クロエの失踪後は、優秀な彼女を連れ戻そうと動いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 家族の死を隠していたことが発覚し、クロエに逃亡される原因を作った。国王の命令により、彼女の回収を諦めさせられた。

メアリー

感情的になりやすく、クロエに対して強い嫉妬心を抱いている。ランコムの婚約者であった。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の工作員。二重工作員。

・物語内での具体的な行動や成果
 任務中に初仕事のハンスを見捨てて逃亡した。ランダル王国にハグル王国の情報を流していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 二重工作員であることが露見し、ランコムに監禁された。その後、見張りの男を倒して組織から脱走した。

ハンス

初任務に意欲的に取り組む真面目な若者である。同期の少女を慕い、自身の妹を大切に思っていた。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の工作員。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエやメアリーとの任務において、メアリーの指示で屋敷へ侵入した。逃走の際、追跡者が投げた剣に胸を貫かれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十五歳で任務中に命を落とした。遺体は回収されなかった。

ダン

ランコムの指示に異議を唱える場面がある。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の隊員。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエが失踪した夜、ランコムの指示でマツールの崖へ捜索に向かった。クロエを連れ戻そうとするランコムを止めようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヤコブ

指示に忠実に従う。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の隊員。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエが失踪した夜、ランコムの指示で警備隊に情報が入っていないか確認へ向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

イグズリー伯爵

かつて料理人のデイブを侯爵家に斡旋した恩人である。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国の伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 デイブからアシュベリー王都でキャロル(クロエ)を見たという報告を聞いた。その後、ランコムへその情報を伝えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノーマン・ハイランド伯爵

木工業を営み、家具の製造と販売を手がける。美味しいものを料理人に食べさせて再現させる熱心さを持つ。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国の伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 木材の買い付けのためアシュベリー王国を訪れた。家具の大口注文を受け、王都へ向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

デイブ

主人に従順な料理人である。かつての弟子を気に掛ける面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ノーマン・ハイランド伯爵に仕える料理人。

・物語内での具体的な行動や成果
 主人に同行してアシュベリー王都を訪れ、かつての弟子であるキャロルを目撃した。帰国後、イグズリー伯爵にその情報を伝達した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

クロエの両親

生活が苦しく、金を対価に娘を手放した過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国の平民。

・物語内での具体的な行動や成果
 八歳のクロエをランコムに引き渡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 クロエが失踪する二年前に火事で亡くなった。

エミリー

クロエが実家を出た時はよちよち歩きの幼児であった。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国の平民。

・物語内での具体的な行動や成果
 物語内で直接の行動は描かれていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 クロエが失踪する二年前に両親とともに火事で亡くなった。

特務隊員たち

厳しい訓練を受け、組織に忠誠を誓っている。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国特殊任務部隊の隊員。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエの失踪や生存の報告に驚き、騒ぎ立てた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

暗殺部隊

任務を忠実に実行しようとする。自白剤に対しては抵抗できずに情報を漏らす。

・所属組織、地位や役職
 ハグル王国の暗殺部隊。

・物語内での具体的な行動や成果
 クロエを処分するためアシュベリー王国へ潜入した。ヨラナの屋敷の離れを襲撃したが、待ち構えていた騎士団に捕縛された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 任務に失敗し、アシュベリー王国の牢獄に収容された。

アシュベリー王国

国王

国の安全と利益を優先する指導者である。ジェフリーを信頼している。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・国王。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会での事件後、緊急会議を開いた。ビクトリアの身辺調査を命じ、彼女が普通の平民であるという報告を受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

コンラッド

思慮深く温厚な性格である。弟や臣下を気遣う。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・第一王子。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会での事件後、緊急会議を仕切った。ジェフリーを気遣い、ビクトリアに監視を付けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。十年前の戦争で夜襲の決断を下した過去を持つ。

セドリック

陽気で活発な性格である。武芸に強い関心を持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・第二王子。のちに公爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会で男を倒した女性の腕前を知るため、単独でビクトリアに接触した。ビクトリアの反撃を受けて肋骨を折った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 第二王子であったが、臣籍降下して公爵領の領主となった。元婚約者のベアトリーチェと再び結婚の約束を交わした。

宰相

国の実務を取り仕切る。エドワードの提案を受け入れる柔軟さを持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の宰相。第三騎士団の長。

・物語内での具体的な行動や成果
 国王にビクトリアの身元調査結果を報告した。ハグル王国の暗殺者送付に対し、抗議の連絡を入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ジェフリーに謹慎と配置転換の処分を下した。

第一騎士団長

国王と王子の護衛を担う。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・第一騎士団長。近衛騎士団長。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会での事件後、緊急会議に出席し、犯人の動機を調べるよう求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

人事責任者

城の雇用に関する責任を持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の城の人事責任者。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会の事件後、犯人の男を雇い入れた責任を問われ、冷や汗を拭った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

マッケナー侯爵

平民の恨みを買うような行動をとる。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の侯爵。財務部の役職。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会で接客係の男に命を狙われた。平民の娘を凌辱したという犯人の動機を否定した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夜会での事件の責任を問われ、爵位と役職を息子に譲って隠居させられた。

マッケナー侯爵の息子

素行が悪く、裏社会に多額の借金を作っている。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の侯爵家の息子。のちに侯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 闇賭博に通い、多額の借金を抱えていた。父親の隠居後、爵位を継いだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父親の役職を引き継ぐことはできなかった。

エルド男爵

金で紹介状を書くなど、不正に関与する人物である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の男爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会で事件を起こした犯人の男に紹介状を書いていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ジェフリー・アッシャー

誠実で保護欲が強い。過去のトラウマから女性との関わりを避けていた。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・第二騎士団長。のちに公爵領の保安管理官。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアの身元保証人となり、彼女とノンナを支えた。夜会での事件や暗殺部隊の襲撃に対処した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 第二騎士団長を解任され、公爵領の保安管理官へ異動した。その後、職を辞してアンナと結婚し、シェン国へ渡った。

エドワード・アッシャー

頭脳明晰で洞察力に優れている。家族を守るためなら冷徹な決断も下す。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・諸制度維持管理部長。アッシャー伯爵家当主。

・物語内での具体的な行動や成果
 ハグルの暗殺部隊からビクトリアを保護するため、部隊を派遣して捕縛した。弟たちをシェン国へ逃がす手配を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 通称「第三騎士団」の実質的な長として、国の裏側の情報を取り仕切る。

アッシャー家の前の当主

家族に暴力を振るう冷酷な人物である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の伯爵家前当主。

・物語内での具体的な行動や成果
 家族に日常的に暴力を振るい、ジェフリーとエドワードを虐待していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エドワードに当主の座を奪われ、家を追放されたのち、二年前に死亡した。

コートニー

夫の暴力により心を病んだ過去を持つ。息子たちを気遣う。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の前伯爵夫人。ジェフリーとエドワードの母親。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジェフリーに親しい女性ができたことを喜び、相手を紹介するよう求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

カイゼル

冷静な判断力を持つ軍人である。妹のカトリーヌと深い絆で結ばれていた。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国軍の中隊長。

・物語内での具体的な行動や成果
 十年前の戦争で夜襲に反対した。戦場でコンラッド第一王子を庇い、矢を受けて命を落とした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十年前の戦争で戦死した。

カトリーヌ

兄の死を受け入れられず、心を壊した。ジェフリーの元婚約者。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の貴族令嬢。

・物語内での具体的な行動や成果
 兄を死なせたとコンラッド第一王子を恨み、ナイフで襲いかかろうとしたがジェフリーに止められた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件後に自宅へ戻されたのち、自ら命を絶った。

ボブ

噂話に敏感で、軽口をたたく若者である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・第二騎士団の若手騎士。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジェフリーが女性と食事をしていた噂を聞きつけ、彼をからかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 罰としてジェフリーから厳しい訓練を命じられた。

ハムズ

領地管理の実務に長けている。温和な笑顔の裏に厳しさを持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・公爵領の管理者。

・物語内での具体的な行動や成果
 ハイデンを抱える領地の管理を担当し、赴任してきたジェフリーを迎えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

マイク

実務的で隙がない人物である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の役人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジェフリーとアンナのもとを訪れ、シェン国への渡航を提案した。アンナの新しい身分証を手配し、彼女の過去について尋問した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

医療班の男性

見返りを求めるしたたかさを持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・王城西棟の医療班。

・物語内での具体的な行動や成果
 エドワードから麻酔薬の使用許可を条件に、ジェフリーたちをシェン国の実家で受け入れるよう依頼され、承諾した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ウォールド伯爵

社交的な人物である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会でジェフリーに話しかけ、同伴していたビクトリアに挨拶をした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フローレンス・ギルモア

ジェフリーに執着し、嫉妬心を隠さない。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の伯爵令嬢。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会でジェフリーと同伴していたビクトリアを品定めするように見つめ、嫌味を言われて激怒した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ウィリアム・ハンソン

亡くした娘への執着が強い。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の男爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 亡き娘に似たノンナを養女に迎えようと提案し、一週間の滞在をさせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 養女の話が白紙となり、領地へ戻って経営に専念することになった。

ハンソン男爵夫人

亡くした娘の面影を追い求め、心が不安定になった過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の男爵夫人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ノンナを亡き娘ドロレスの身代わりとして扱い、部屋に鍵をかけた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ドロレス

幼くして亡くなった。

・所属組織、地位や役職
 ハンソン男爵家の娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 物語内で直接の行動は描かれていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 三歳で病死した。

ベアトリーチェ

一途で行動力がある。病弱な過去を乗り越えた。セドリックの元婚約者。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の貴族令嬢。

・物語内での具体的な行動や成果
 セドリックの公爵領赴任を知り、結婚を直談判して押しかけた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 病弱だった体を鍛えて健康を取り戻し、セドリックと再び結婚の約束を交わした。

バーナード・フィッチャー

気難しいが、一度認めた相手には優しい。学問一筋の老人である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の歴史学者。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアを助手として雇い、彼女の能力を高く評価した。ノンナを可愛がり、自宅の書庫の利用を許可した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 脚立から落ちて骨折し、一時的に療養生活を送った。

マイケル・アンダーソン

妻の提案を支持する理解ある夫である。エバの夫。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の外務大臣。アンダーソン伯爵。

・物語内での具体的な行動や成果
 クラークの語学教師としてビクトリアを雇うよう妻に勧めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エバ・アンダーソン

世話好きで快活な性格である。バーナードの姪。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の伯爵夫人。

・物語内での具体的な行動や成果
 バーナードの家を整えたビクトリアを評価し、賃金を三倍に引き上げた。クラークの家庭教師を依頼し、ビクトリアたちの生活を支援した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

クラーク・アンダーソン

おとなしく自信がなかったが、努力家である。

・所属組織、地位や役職
 アンダーソン伯爵家の一人息子。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアから身体を動かす語学の授業を受け、学ぶ楽しさを知った。ノンナに影響されて木登りに挑戦した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 語学や運動への苦手意識を克服し、活発な少年へと成長した。

ヨラナ・ヘインズ

気が強く、気前がよい。若い二人を応援する。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の前伯爵夫人。ビクトリアの大家。

・物語内での具体的な行動や成果
 ひったくりからバッグを取り戻してくれたビクトリアに離れを貸し出した。ジェフリーとビクトリアの仲を取り持とうとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

スーザン

ノンナを可愛がり、ビクトリアを気遣う。

・所属組織、地位や役職
 ヨラナ夫人に仕える侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 ノンナを自室に泊め、ボビンレースの編み方を教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

警備兵たち

職務に忠実である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の警備隊。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジェフリーが捕らえたひったくり犯を引き取った。夜会で男を取り押さえた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

牢番たち

囚人や面会者に対して横柄な態度をとる。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の王城の牢番。

・物語内での具体的な行動や成果
 面会に来たケイトを身体検査した。死刑囚の脱獄に気づき、大騒ぎを起こした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

護衛兵士たち

職務に忠実である。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の兵士。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会の会場外を警備していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

近衛騎士たち

王族の警護を担う。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の近衛騎士団。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会の会場内を警備していた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

第二騎士団員たち

ジェフリーを慕っている。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の第二騎士団。

・物語内での具体的な行動や成果
 王都全域で脱走犯を捜索した。ジェフリーの交際相手に関する情報を集め、ヨラナの屋敷を警護した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

第三騎士団員たち

極秘の特殊任務を遂行する。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国・諸制度維持管理部。通称第三騎士団。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヨラナの屋敷でハグルの暗殺部隊を待ち伏せし、捕縛した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

侍女たち

主人のために行動し、仕事に熱心である。

・所属組織、地位や役職
 アンダーソン家やハンソン家の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアやクラークの劇の衣装を用意した。アップルパイを譲り受けた侍女がノンナを見かけた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

アッシャー家の御者

主人の客に配慮して行動する。

・所属組織、地位や役職
 アッシャー伯爵家の御者。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜会から帰るビクトリアを馬車で送った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ランダル王国・その他市井の人々

ノンナ(ライル)

母親に捨てられた過去を持ち、無表情だったが、愛情を受けて感情豊かで活発な少女に成長する。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国で保護された捨て子。のちにビクトリアの養女。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアから体術や語学を教わり、高い身体能力を見せた。ハンソン家に養女として滞在したが、部屋から逃げ出して戻ってきた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 孤児からビクトリアの養女となり、ジェフリーを父親として受け入れて共にシェン国へ渡った。

マイルズ・グラント

洞察力が鋭い。ビクトリアの能力を認め、密かに支援を申し出る。

・所属組織、地位や役職
 元軍人。ビクトリアを監視する人物。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアに馬を斡旋し、世話を引き受けた。ビクトリアの正体に感づきながらも鍛錬の相手を務めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ビクトリアが手紙を残して去った後、すぐに王城へ報告へ向かった。

ザハーロ

客と適度な距離を保ち、真っ当な商売を重んじる。

・所属組織、地位や役職
 王都の酒場「黒ツグミ」の店主。元裏社会の人間。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアに絡んだ男を遠ざけるためヘクターに釘を刺した。ビクトリアが猫に威嚇される姿を目撃し、共に笑い合った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヘクター

金次第で依頼を引き受ける裏社会の元締めである。

・所属組織、地位や役職
 王都の裏社会を仕切る人物。

・物語内での具体的な行動や成果
 ザハーロの頼みで部下がビクトリアに絡むのを止めた。ケイトからの依頼で死刑囚の逃走を手助けした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

カール

妹を傷つけられた恨みから復讐を企てた。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の平民。死刑囚。

・物語内での具体的な行動や成果
 マッケナー侯爵を殺害するため、王城の夜会に潜入したがビクトリアに昏倒させられた。その後、ビクトリアの助けで脱獄した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死刑囚から脱獄犯となり、南端の村で妹と新たな生活を始めた。

カールの妹

兄の復讐を止められず、心を病んでいたが、脱走後は前向きに生きる決意をする。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国の平民。

・物語内での具体的な行動や成果
 マッケナー侯爵に凌辱されて婚約破棄され、引きこもっていた。ビクトリアの指示に従って王都を脱出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 兄とともに南端の村へ逃れ、穏やかな暮らしを取り戻した。

南区保護施設の院長

事務的で規則を重んじる。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国南区の保護施設の院長。

・物語内での具体的な行動や成果
 警備隊の詰め所へノンナを引き取りに来た。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

農家の奥さん

気前がよく、困っている人を助ける。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王国南区の外門近くにある農家の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアの嘘の身の上話を信じ、荷馬車と馬を預かり、脱走したカールの妹を匿った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

牧場の旦চ্ছুさん

妻と共に牧場を切り盛りする。

・所属組織、地位や役職
 ランダル王国の羊牧場の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 生まれたばかりの子羊をマッサージして拭き上げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ミーナ

面倒見がよく、働き者を評価する。

・所属組織、地位や役職
 ランダル王国の羊牧場の奥さん。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアたちを雇い、羊の世話や毛糸の紡ぎ方を教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

漁師町アルデの食堂の奥さん

働き者を歓迎し、思いやりがある。

・所属組織、地位や役職
 ランダル王国の漁師町アルデの食堂兼宿の女将。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアに住み込みの仕事を与え、セーターの編み物を依頼した。カディスの夏祭りへ行くよう勧めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

貸し馬屋の主人

客の身の上話を深く詮索しない。

・所属組織、地位や役職
 アシュベリー王都の貸し馬屋の主人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアに馬を二週間分貸し出した。のちに馬を買い取られた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

パン屋の奥さん

近隣の住人に気さくに話しかける。

・所属組織、地位や役職
 漁師町アルデのパン屋の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビクトリアたちにカディスの夏祭りと臨時船のことを教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

くるみボタンの店の女性

客に似合う品物を勧める商売上手な人物である。

・所属組織、地位や役職
 自由市のくるみボタン屋の店主。

・物語内での具体的な行動や成果
 自由市でノンナに水色のくるみボタンを勧めて販売した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

乗合馬車の同乗者たち

他人の話を信じやすく、酒に釣られやすい。

・所属組織、地位や役職
 ランダル王国へ向かう乗合馬車の乗客。

・物語内での具体的な行動や成果
 変装したクロエに強い酒を飲まされ、眠り込んで彼女の記憶を曖昧にされた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

船員たち

気さくで親切である。

・所属組織、地位や役職
 シェン国へ向かう船の乗組員。

・物語内での具体的な行動や成果
 甲板でビクトリアたちに食事の希望を尋ね、シェン料理を勧めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ならず者たち

昼間から酒を飲み、部外者を警戒する。

・所属組織、地位や役職
 王都の裏社会の住人たち。ヘクターの酒場の客。

・物語内での具体的な行動や成果
 ヘクターを訪ねてきたザハーロを目で追って警戒した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

手札が多めのビクトリアまとめ
手札が多めのビクトリア2レビュー

展開まとめ

プロローグ * 用意周到 

工作員クロエの失踪

崖に残した痕跡

ハグル王国の工作員クロエは、お気に入りの崖で昼食を広げ、通りかかった農夫に自分の姿を印象づけた。その後、帽子やサンダル、壊したペンダントを崖下に残し、転落または投身したように偽装して山へ向かった。夜になっても戻らないクロエを心配したランコム室長は部下を崖へ向かわせ、婚約者のメアリーを慰めながら、彼女の無事を願っていた。

赤毛の女マリア

クロエは追跡を避けて馬車を乗り継ぎ、赤毛のかつらや濃い化粧、胸の詰め物で華やかな女性に変装した。乗合馬車では母を見舞う旅だと語り、同乗者たちに強い酒を飲ませて自分への記憶を曖昧にした。国境では偽造した身分証を使い、マリアとしてランダル王国へ入国すると、すぐに変装を解いて別人へと姿を変えた。

ビクトリア・セラーズ

クロエは二十日かけてランダル王国を横断し、十年前から行方不明となっている実在の女性ビクトリア・セラーズの身分証を使ってアシュベリー王国へ入った。正規品に見える身分証には、自分と一致する身体的特徴を記載していた。これにより工作員クロエを消し、今後はビクトリアとして生きるつもりであった。

自由な食事

国境近くのレストランに入ったビクトリアは、パンケーキやソーセージ、半熟の目玉焼きを注文し、旺盛な食欲で完食した。失恋に苦しんでいるように見せるため、八か月にわたって食事を制限し、体重を八キロ落としていたからである。ようやく自由に食べられる喜びを味わった彼女は、王都のホテルに角部屋を取り、そこを新生活の拠点とした。

家族を支えた十八年

クロエは八歳でランコムに拾われ、十五歳から二十七歳まで工作員として働いていた。家族とは直接連絡できなかったため、毎月贈り物と金をランコムに預け、実家へ送ってもらっていた。両親と妹エミリーが喜んでいると思うことが、過酷な仕事を続ける心の支えであった。

消えていた実家

一年前、クロエは十八年ぶりに実家の町を訪れ、家があった場所が更地になっていることを知った。家族は二年前の火事ですでに亡くなっていたが、組織の規則では親族の死は本人に知らされるはずであった。家族を大切にしていたことを知るランコムが、その事実を意図的に隠していたと悟ったクロエは、彼への信頼を失った。

積み上げられた木箱

クロエはいつもどおり家族への贈り物をランコムに預け、その後を尾行した。彼が入った高級集合住宅へ忍び込むと、部屋の隅にはクロエが渡した木箱が二十五個も積まれていた。クロエは箱に入れていた金をすべて回収し、侵入を泥棒の仕業に見せかけるため、銀のカトラリーと金の燭台も持ち出して川へ捨てた。

失恋の偽装

表面上は以前と変わらず働きながら、クロエは組織を抜ける準備を進めた。ランコムと同僚のメアリーの結婚を知ると、周囲にランコムへの恋心があるように装い、結婚発表後には食事を減らして憔悴した姿を見せた。失恋を苦に命を絶ったと思わせることで、組織からの追跡をかわそうとしたのである。

道具だったクロエ

長年成績トップだったクロエは、辞職を申し出ても簡単には解放されないと理解していた。かつては四十代まで現場で働き、その後は後輩を育てる人生を考えていたが、家族を失い、ランコムにも裏切られたことで、組織へ人生を捧げる理由は消えていた。それでも計画を実行する直前まで、ランコムが家族の死を打ち明けてくれることを待っていた。しかし最後まで告げられず、クロエは自分が妹でも大切な部下でもなく、使い勝手のよい道具にすぎなかったと悟り、すべてを捨てて自由に生きる道を選んだ。

第一章 * 少女との出会い 

広場の少女

ビクトリアはアシュベリー王国の王都を見て回る途中、広場のベンチで母親を待ち続ける六歳の少女ノンナを見つけた。四時間以上放置され、空腹と喉の渇きに耐えていたノンナに食事を与えたが、日が暮れても母親は現れなかった。ビクトリアは自分が八歳で家族から引き離された過去を思い出しながら、眠ったノンナを警備隊へ連れていくことにした。

ひったくりの捕縛

警備隊へ向かう途中、ビクトリアは女性物のバッグを抱えて逃げる男を足払いで転倒させた。追ってきた銀髪の大男が犯人を捕縛し、自らをジェフリー・アッシャーと名乗った。彼は王都の治安を守る第二騎士団長であり、ビクトリアとノンナを警備隊の詰め所へ案内した。

ホテルでの一夜

ノンナは翌日まで詰め所に泊まる予定だったが、ビクトリアは見知らぬ場所で一人にすることをためらった。ジェフリーがホテルへの宿泊確認を引き受けたため、ビクトリアはノンナを自室へ連れ帰る許可を得た。二人は同じベッドで眠り、翌朝、ビクトリアはノンナの身体を洗い、虐待の痕跡がないことを確かめた。

静かにしていた日々

朝食の席でノンナは、母親が仕事へ出ている間も、一緒にいる時も、静かにしていたと語った。ビクトリアは深く関わるべきではないと自分に言い聞かせ、ノンナを保護施設へ引き渡そうとした。しかし施設の院長に連れられていくノンナが初めて感情を込めた目で振り返ったため、ビクトリアはその場で引き取ることを決意した。

身元保証人ジェフリー

入国直後で身元保証人のいないビクトリアには、ノンナを引き取る資格がなかった。そこで呼び出されたジェフリーが保証人を引き受け、手続きが認められた。ビクトリアは書類に署名し、ノンナと家族になった。ジェフリーには、助けを求めるようなノンナの目が、かつての自分と重なったと説明した。

二人の家族

ビクトリアはノンナに料理や身を守る方法を教え、二人でたくさん笑って暮らそうと約束した。くすぐられて声を上げて笑うノンナを見て、子供との生活が想像以上に楽しそうだと感じた。ノンナもビクトリアをビッキーと呼び、二人で暮らす部屋を探すことになった。

夜の約束

貸し部屋を夜に確認しようとしたビクトリアに、ノンナは一人で留守番することを拒んだ。母親に置き去りにされたばかりであることを察したビクトリアは同行を認め、危険が迫った場合の行動を細かく約束させた。夕食まで二人で昼寝をした後、ビクトリアは衰えた身体を鍛えるため、密かに訓練を再開した。

三人の夕食

ジェフリーは二人をレストランへ招き、ノンナを交えて夕食を共にした。ビクトリアはノンナの食事を手伝いながら穏やかな時間を過ごした。食後に貸し部屋を見に行くと知ったジェフリーは、女性と子供だけでは危険だとして同行を申し出た。

不向きな貸し部屋

三人は候補の部屋を二軒確認したが、一軒目は隣室から激しい怒鳴り声が聞こえ、二軒目は建物の管理が行き届いていなかったため、どちらも断念した。ジェフリーは疲れたノンナを抱いてホテルまで送り、ビクトリアの過去の仕事を尋ねたが、彼女は詳しく答えなかった。

失った時間

ホテルへ戻ったビクトリアは、侵入者がいなかったことを確認してからノンナを寝かせた。ノンナの世話をするうちに、幼い妹エミリーを育てていたかもしれない人生や、両親に世話をしてもらえたかもしれない時間を思い浮かべた。失った家族との時間が戻ってくるように感じたビクトリアは、ノンナに楽しい子供時代を与えるため、仕事を探すことを決めた。

ジェフリーの好意

アッシャー伯爵家の屋敷へ戻ったジェフリーは、兄エドワードにビクトリアとノンナとの夕食について話した。ビクトリアが自分の地位や容姿に媚びず、他人を頼らずに生きようとしている姿を新鮮で好ましく感じていた。一方で、彼女の無謀さや自立心の強さを心配したが、望まれない手助けは控え、身元保証人として求められた時だけ支えることにした。

騎士団の噂

翌日、ジェフリーが外国人女性と少女を連れて食事をしていた話は騎士団内に広まっていた。若手騎士ボブに昨夜は楽しんだようだと冷やかされたジェフリーは、噂を広めた罰として厳しい訓練を命じた。

ビクトリアからの報告

三週間後、ジェフリーが規則に従ってホテルを訪れると、ビクトリアからの手紙を渡された。そこには、ノンナと元気に暮らし、仕事と安心できる部屋を見つけたこと、今後は毎月現況を報告することが記されていた。新しい住所は貴族の多い東区であり、ジェフリーは期限までに住居を訪れ、ノンナの生活状況を確認しなければならなかった。

第二章 * ヨラナ夫人と気難しい老歴史学者 

ヨラナ夫人との再会

ヘインズ伯爵家の未亡人ヨラナ夫人は、ひったくり事件で犯人を転ばせたビクトリアに礼をするため、滞在先のホテルを訪ねた。謝礼は断られたが、お茶への招待は受け入れられ、数日後にノンナを連れたビクトリアを自宅へ迎えた。平民でありながら貴族の屋敷でも落ち着き、優雅に振る舞うビクトリアに好感を抱いたヨラナ夫人は、敷地内にある平屋の離れを貸すと提案した。

東区の離れ

ビクトリアは正式な契約書を交わすことを条件に提案を受け入れ、良識的な賃貸契約書を自ら作成した。ヨラナ夫人はその内容と教養に感心し、提示された家賃を半額にして契約した。入居後のビクトリアは家賃を前払いし、騒ぎも起こさず、料理をおすそ分けする良い賃借人となった。ノンナも静かに暮らし、ヨラナ夫人や侍女のスーザンに可愛がられた。

思い出の帽子

強風で亡き夫から贈られた帽子が高い木に引っかかると、ビクトリアはズボンに着替えて木を登り、帽子を取り戻した。貴族のような所作に加え、料理や学問、木登りまでこなすビクトリアを、ヨラナ夫人はますます気に入った。スーザンもノンナを自室に泊め、ビクトリアが夜に外出できるよう手助けしたいと望むほど二人に親しんだ。

歴史学者の助手

ビクトリアは気難しい老歴史学者バーナード・フィッチャーの助手兼ハウスメイドとして働き始めた。四か国語を使った翻訳だけでなく、書類の順序を崩さない整理や掃除、料理まで的確にこなし、ほこりに満ちていた家を整えた。バーナードは数日で、ビクトリアを手放せないほど有能な助手だと認めた。

静かなノンナ

当初、バーナードは子供を連れての出勤を嫌がったが、ノンナは台所の隅で静かに本を読み、掃除も手伝った。読み書きを教わるノンナの行儀の良さに触れ、バーナードは子供への考えを改めた。ノンナの好物が自分と同じ子羊のローストだと知ると、ビクトリアたちを夕食へ誘った。

八年ぶりの食卓

ビクトリアは子羊の香草焼きやポタージュ、マッシュポテトを作り、三人で食卓を囲んだ。妻を亡くして以来、外食ばかりだったバーナードにとって、家庭料理を囲む楽しい夕食は八年ぶりであった。二人が帰った後に家の静けさを寂しく感じた彼は、亡き妻の肖像画へ喜びを語り、その後もビクトリアとノンナを時折夕食へ招くようになった。

三倍の賃金

週に一度バーナードを訪ねる姪のエバは、家が見違えるほど整えられていることに驚いた。ビクトリアが翻訳、家事、料理、話し相手まで担いながら、助手一人分の賃金しか受け取っていないと知ると、バーナードの非常識さを指摘した。ビクトリアと対面したエバは謝罪し、三人分働いているとして賃金を三倍に増やした。

バーナードの誕生会

エバはバーナードの六十五歳の誕生会を身内だけで開くため、ビクトリアに料理と準備を依頼した。ビクトリアは快く引き受け、ヨラナ夫人も大鍋や馬車を貸して協力した。誕生会に参加するエバの従兄弟の一人はジェフリー・アッシャーであったが、ビクトリアは当日までその事実を知らなかった。

第三章 * 初めてのピクニック 

誕生会での再会

ジェフリーは伯父バーナードの誕生会を訪れ、整えられた屋敷と穏やかになった伯父の様子に驚いた。さらに料理を運んできた助手がビクトリアだと知り、思わぬ再会を果たした。ビクトリアが用意した料理は見た目も味も優れており、バーナードは彼女とノンナも食卓に招いた。

温かな食卓

以前より健康的になったビクトリアとノンナを交え、誕生会は楽しく進んだ。ジェフリーが二人との出会いを説明すると、ビクトリアがひったくり犯を転ばせた縁からヨラナ夫人の離れを借り、バーナードの助手になった経緯が明らかになった。気難しい二人に気に入られたビクトリアは、自分は周囲の人々に恵まれていると感謝した。

ジェフリーの誘い

誕生会後、ジェフリーはビクトリアに再び食事へ行きたいと伝えた。ビクトリアは身分差とノンナを育てる責任を理由にためらったが、ノンナがピクニックに期待を示したため、三人で出かける約束をした。ジェフリーは身元保証人であることを伏せた理由について、伯父やエバに役目を奪われたくなかったからだと説明した。

初めてのピクニック

休日が重なった日、ジェフリーは馬車でビクトリアとノンナを森へ連れていった。ビクトリアは子供とのピクニックを経験したことがなく戸惑っていたが、ノンナが喜ぶ姿を見て来てよかったと感じた。ノンナには将来、自立して生きるための知識や技術を身につけさせたいと考えており、読み書きや料理だけでなく体術や木登りも教えていた。

ノンナの投石と木登り

森でノンナは投げた石を次々と木に命中させ、ジェフリーを驚かせた。促されたビクトリアも一つだけわざと外しながら高い腕前を見せたが、田舎育ちのお転婆だったとごまかした。さらにノンナが木へ登ると、ビクトリアは危険をすべて遠ざければ守られるだけの女性になると語り、ジェフリーはその考えに驚いた。

三人の昼食

三人は追いかけっこや花摘みを楽しんだ後、ビクトリアが作った三種類のサンドイッチを食べた。ジェフリーは料理や語学など多くの能力を持つ彼女の経歴を尋ねたが、ビクトリアは貧しい家で何でもしなければならなかったとだけ答えた。ノンナは以前よりもビクトリアに甘えるようになっており、ビクトリアも妹や娘のような存在として深く愛情を注いでいた。

前方宙返り

喜びを表したノンナは、これまで成功していなかった前方宙返りを決めた。ジェフリーはそれまでビクトリアが教えたのかと驚いたが、彼女は苦笑するだけで答えなかった。ピクニックは三人に多くの楽しい思い出を残した。

髪へのひと撫で

帰り際、ジェフリーは御者を連れてくれば道中も二人と話せたと残念がり、御者まで務められるビクトリアの多才さに感心した。そして彼女の髪を大切そうに撫でてから御者席に座った。ビクトリアは自分がどんな表情をしていたかわからなかったが、その行為を不快とは感じなかった。

欠けた時間の先

帰りの馬車でビクトリアは、工作員として過ごした十九年間を有意義だったと振り返る一方、恋愛や本当のピクニックなど、一般的な人生で得るものを知らずにいたと考えた。しかし欠けた部分はこれから埋めればよく、歪な人生が劣るわけでもないと受け止めた。ノンナやジェフリーと新しい経験を重ねる未来を思い、ビクトリアは自然に微笑んでいた。

幕間 * ランコムの回想 

ランコムとクロエの出会い

若手工作員だったランコムは、地面に釘で緻密な絵を描く八歳のクロエを見かけ、その知性と器用さに工作員の素質を感じた。生活に困っていた両親へ、貴族の屋敷で働かせると偽って金を渡し、クロエを養成所へ入れた。

工作員としての成長

ランコムは養成所でクロエの話し相手となり、彼女の成長を見守った。家族を支えるために高い報酬を求めたクロエは訓練へ熱心に取り組み、十五歳で任務を始めると、五年以内に組織内で成績トップとなった。

隠された家族の死

ランコムはクロエの家族が亡くなったことを知ったが、彼女が重要な任務中だったため、平常心を失わせないよう事実を伏せた。その後もクロエを必要とする仕事が続き、知らせる機会を逃し続けた。やがてクロエは体調を崩し、ランコムの結婚話が出てからは急激に痩せたが、彼は失恋が原因だという噂を信じられなかった。

崖からの失踪

休養を与えられたクロエは、直後に姿を消した。崖下からは、初任務を成功させた際にランコムが贈ったペンダントが見つかったが、潮の流れが速く、遺体は発見されなかった。上層部は帽子を取ろうとして転落したと判断したものの、ランコムは精神的に強く用心深いクロエが事故で死んだとは納得できなかった。

第四章 夜会 

虫除け役の依頼

ジェフリーは王家主催の夜会で縁談を避けるため、ビクトリアに親しい女性の役を頼んだ。顔見知りの工作員と遭遇する危険を考えたビクトリアは断ろうとしたが、エバとノンナに後押しされ、仕事として引き受けた。

ノンナの気遣い

ノンナは留守番よりも、ビクトリアが仕事と老人と子供だけの生活を可哀想だと言われたことを気にしていた。ビクトリアはノンナとの暮らしを楽しんでおり、決して不幸ではないと伝えた。ドレス姿を見たいというノンナの願いもあり、夜会への準備を進めた。

薄紫のドレス

ビクトリアはエバから貴族の作法を教わり、過去にも貴族の仮の恋人役を務めた経験があると説明した。ジェフリーからは薄紫のドレスと靴が届き、ヨラナ夫人は二人の仲を喜んだ。夜会当日、正装したビクトリアを見たジェフリーは、美しい貴族令嬢にしか見えないと称賛した。

十年ぶりの同伴者

王城に入った二人には、周囲から驚きと注目の視線が集まった。ジェフリーが女性を同伴するのは十年ぶりであり、ビクトリアは隣国の子爵令嬢として紹介された。彼女はジェフリーの腕に手を添え、親密な関係を自然に演じた。

フローレンスの嫉妬

ジェフリーに執着するフローレンス・ギルモア伯爵令嬢は、ビクトリアを品定めするように見つめた。ビクトリアは笑顔で嫌味を返し、ジェフリーは彼女を大切な女性だと告げて肩を抱き、髪に口づけた。ビクトリアも恋人らしく応じたが、ジェフリーの甘い視線には本気で緊張していた。

不審な接客係

ダンスの最中、ビクトリアは仕事をせず誰かを探している接客係の男に気づいた。ジェフリーに知らせると、男が標的へ向かい始めたため、彼は追跡に移った。ビクトリアも男の逃走経路を読み、庭木の陰で待ち伏せした。

庭での制圧

男がテラスから庭へ逃げてくると、ビクトリアは回し蹴り、膝蹴り、手刀を続けて放ち、数秒で昏倒させた。その場を離れて何事もなかったように会場へ戻ると、仕事を続けるジェフリーを残し、アッシャー家の馬車で帰ることにした。

久しぶりの高揚

ビクトリアは途中で地味な服へ着替え、酒場で強い酒を飲んだ。先回りして相手を制圧した緊張と達成感に心地よさを覚え、自分が工作員の仕事を好きだったことに気づいた。しかしノンナとの生活を捨てて戻るつもりはなかった。

男を逃がさなかった理由

ビクトリアは殺人を見過ごして後悔したくなかったため、男を止めていた。また、犯人が逃げれば参加者の身元が詳しく調べられ、偽造した身分と経歴が発覚する危険もあった。男を捕らえれば自分への調査は避けられると判断したのである。

毒の刃

緊急会議では、捕らえられた男が毒を塗ったナイフでマッケナー侯爵を狙っていたことが判明した。ジェフリーは、最初に男の不審な動きを見抜いたのは同伴したビクトリアだったと報告した。さらに警備兵が、昏倒した男の近くからドレス姿の女性が走り去るのを目撃していた。

薄紫の女性

コンラッド第一王子は、目撃された女性のドレスが薄紫か薄い水色だったことから、ビクトリアを疑った。ジェフリーは彼女が平民であることを明かして謝罪し、ノンナを背負ってひったくり犯を転ばせた出会いから、夜会へ誘うまでの経緯を説明した。

ジェフリーの想い

国王たちは、ビクトリアが目的を持ってジェフリーへ近づいたのではなく、ジェフリーの方から親しくなろうとしたと判断した。彼女の自立心とノンナを育てる気概に惹かれたのかと問われ、ジェフリーは恋心を認めた。第二王子セドリックは彼女の腕前に興味を示したが、ジェフリーは自分が見守ると譲らなかった。

ビクトリアの調査

コンラッドはジェフリーとビクトリアの交際を止めなかったが、不審な点があれば報告するよう求めた。会議後、国王は宰相に対し、ランダル王国でビクトリア・セラーズの素性を調べるよう命じた。

幕 間 ジェフリーの後悔 

ビクトリアへの監視

セドリック第二王子はビクトリアを自由にしてよいのかと案じたが、コンラッド第一王子はジェフリーの話から彼女は無関係だろうと考えた。ただし男を倒した理由が不明なため、ジェフリーに代わって嫌われ役を引き受け、密かに監視を付けることにした。

十年前の戦争

十年前、西の民族が聖地奪還を掲げてアシュベリー王国の開拓地へ侵攻した。初陣のコンラッドと第一騎士団員だったジェフリーも参戦し、優勢に戦いを進めたが、敵の援軍が来る前に夜襲するか、夜明けを待つかで意見が分かれた。中隊長カイゼルは同士討ちや待ち伏せの危険を訴えたが、コンラッドは夜襲を選んだ。

カイゼルの最期

夜襲を予測していた敵は、高台からアシュベリー軍へ矢を浴びせた。カイゼルは深手を負いながらコンラッドを庇い、何本もの矢を受けて戦死した。戦いには勝利して開拓地を守ったが、カイゼルの双子の妹カトリーヌは、一年のうちに両親と兄を失った。

婚約者カトリーヌ

当時十八歳のカトリーヌは、二十二歳だったジェフリーの婚約者であった。彼女は兄の死を知らされても気丈に振る舞っていたが、家族を立て続けに失った悲しみに心を蝕まれていた。ジェフリーはカイゼルの壮絶な最期をすぐには伝えず、彼女が落ち着いてから話そうと考えていた。

歪められた戦場の噂

カトリーヌには、コンラッドが功を焦って無謀な夜襲を押し通し、反対したカイゼルが王子を守って死んだという不正確な噂が伝わっていた。ジェフリーは彼女がその話を真実として受け入れ、コンラッドを恨んでいることに気づかなかった。

王子への刃

葬儀から十日ほど後、コンラッドはカトリーヌへ直接謝罪するため、彼女とジェフリーを王城へ招いた。カトリーヌは穏やかに近づきながら小さなナイフを隠し持っていたが、気づいたジェフリーが飛びついて取り押さえた。彼は駆けつけた騎士たちに彼女の体調が悪くなったと説明し、刃物の存在を隠した。

壊れていた心

医務室のカトリーヌは泣きも怒りもせず、虚ろな目で座っていた。ジェフリーは、兄は殿下を守って死ねて本望だったという彼女の言葉と笑顔を信じ、深い苦しみに気づかなかったことを悔やんだ。事件はコンラッドの判断で内密にされ、カトリーヌは監視と治療を受けるため自宅へ戻された。

カトリーヌの死

ジェフリーは数日間カトリーヌの屋敷に泊まり、カイゼルの死はコンラッドの責任ではないと説明し続けた。しかし彼が仕事へ戻った翌日、カトリーヌは家族のところへ行くという遺書を残して命を絶った。ジェフリーは彼女を支えられなかったことに絶望し、責任を取るため騎士団へ辞職を願い出た。

消えない後悔

国王とコンラッドの意向で辞職は認められず、ジェフリーは王都の治安を守る第二騎士団へ移された。カトリーヌの苦しみに気づかず、頼られる存在にもなれなかったという後悔は、十年を経ても消えなかった。そのジェフリーの前に、誰にも頼ろうとせずノンナを背負って生きるビクトリアが現れたのである。

第五章 夜会事件の顛末 

母親と重なる姿

夜会から数日後も考え込むビクトリアを見て、ノンナは母親も同じように動かなくなったと語った。母親は次第に家事をしなくなり、最後にはノンナを広場へ置き去りにしていた。ビクトリアは自分も消えるのではないかと不安を抱かせたことを謝り、絶対にノンナを手放さないと約束した。

初めての涙

ビクトリアは夜会で男を倒したことを明かし、今後はノンナを守るため、戦うより逃げるべきか考えていたと説明した。しかしノンナは、自分のためにビクトリアが我慢すれば、母親のようにいなくなると思い込み、保護されて以来初めて激しく泣いた。ビクトリアは戦える時は戦い、逃げるべき時は逃げるが、何よりノンナを優先すると伝えた。

制圧方法の実演

泣き疲れたノンナは、ビクトリアが男を倒した方法を見たいと頼んだ。ビクトリアは回し蹴り、膝蹴り、手刀を何度も実演したが、身体の小さいノンナが使えば危険だとして、許可するまで人には使わないよう約束させた。ビクトリアは子供にも事情を正直に話し、今後もノンナと話し合って暮らそうと決めた。

書庫の整理

ビクトリアとノンナは、バーナードの書庫にある大量の本を著者名と題名の順に整理した。ノンナは作業中に見つけた物語へ夢中になり、知らない言葉を推測しながら読み進めていた。バーナードは整理された書庫を喜び、ノンナに好きなだけ本を読んでよいと許可した。

本がつないだ時間

バーナードは、ノンナが本を読む姿から、子や孫がいた別の人生を想像した。ビクトリアも、自分に子供がいれば同じような暮らしだったのかもしれないと共感した。夜には父親となる相手もいなかったと苦笑しつつ、ノンナを無事に育てることが現在の喜びだと再確認した。

尾行者の相談

ビクトリアは自宅へジェフリーを招き、食事をしながら夜会後から男に尾行されていると相談した。ジェフリーは、夜会の庭で犯人を倒した女性がビクトリアだと疑ったコンラッド第一王子が、監視を付けた可能性を認めた。目撃された女性のドレスが薄紫だったと聞いたビクトリアは無関係を装ったが、尾行が続けば姿を消すことも考えていた。

消えない約束

ジェフリーは尾行を中止させると約束し、突然いなくならないでほしいと求めた。ビクトリアは否定したが、自分の本質を見抜くような言葉に驚いた。帰り際、ジェフリーは彼女を長く抱きしめたが、ビクトリアは抱き返せず、ランコムに裏切られた経験から、誰かを信じるなら裏切られる覚悟も必要だと自分に言い聞かせた。

黒ツグミの夜

尾行がなくなった後、ビクトリアは酒場「黒ツグミ」を再び訪れた。若い男にしつこく絡まれたため店を出て、庇の上に隠れてやり過ごしたが、店主ザハーロに見つかった。猫に威嚇されながら隠れていた姿を見られ、ビクトリアは気まずそうに立ち去った。

ザハーロの過去

ザハーロは女性客を守るため、裏社会を仕切る旧知のヘクターへ男を近づけないよう求めた。かつて組織に属していたザハーロは、すでに代償を払って抜けた身であった。後日、街でビクトリアとノンナに再会すると菓子店へ誘い、事情を尋ねず、酒場の店主と客の関係で十分だと伝えた。

猫との思い出

ザハーロが庇の上で猫に威嚇されていた件を持ち出すと、ビクトリアも思い出して笑いだした。二人は声を抑えながら長く笑い、ビクトリアはこれほど笑ったのは久しぶりだと語った。その後も彼女は週に一度ほど黒ツグミへ通い、短時間だけ酒を楽しむようになった。

石垣の訓練

ビクトリアはノンナが容姿のために狙われる危険を考え、自力で逃げられるよう石垣へ飛び乗る練習を始めた。読み書きや料理、体術を教え、経済的にも肉体的にも自立できる女性に育てようとしていた。訓練中、近くに潜む男の存在に気づくと、ノンナを一人で屋敷へ走らせた。

黒髪の男

顔を隠した黒髪の男は、話をしたいと言いながら立ち去らず、ナイフを持ったまま近づいてきた。ビクトリアは折った枝で男の脇腹を打ち、蹴りを続けて負傷させた。さらにナイフを構えて警告すると、男は害意がなかったと謝罪して逃げ去った。

王都を離れる決意

男に家を知られたビクトリアは襲撃に備えて眠り、翌日ジェフリーへ事情を伝えた。男の特徴から、ジェフリーは護衛を付けず外出して肋骨を折ったセドリック第二王子だと察した。ビクトリアは王子を傷つけたことで捕らえられる可能性を警戒したが、ジェフリーは処罰せず、王家へ抗議すると約束した。

情に結ばれた暮らし

ジェフリーは安全のためアッシャー伯爵家への避難を提案したが、ビクトリアは彼の家族を巻き込みたくないと考えた。一方、この国を離れればバーナードやヨラナ夫人、ジェフリーとも別れることになると思い、強い胸の痛みを覚えた。ビクトリアは自分が知らぬ間に周囲の人々へ深い情を抱いていたことに気づいた。

ビクトリアの身元確認

ビクトリアは以前の協力者から暗号の手紙を受け取り、本物のビクトリア・セラーズが今も行方不明で、公的にはアシュベリー王国へ出国した扱いになっていると確認した。すぐに国外へ逃げる必要はないと判断しながらも、別の情報を調べさせるため新たな依頼を送った。

セドリックの反省

セドリックはコンラッドから、監視を中止するとジェフリーに約束した後で独断行動に出たことを厳しく叱責された。彼はかつて婚約者ベアトリーチェの心労を減らすため、自ら婚約を解消しており、その後は剣を磨きながら生きる目的を見失っていた。夜会で凄腕の女性の存在を知り、腕前を確かめようとした結果が今回の骨折であった。

母猫の気迫

セドリックは、ビクトリアが何度も立ち去るよう警告し、ノンナを守る母猫のような気迫で戦っていたことを振り返った。技術だけでなく覚悟でも完全に敗れたと認めながら、自分も彼女から体術を教わりたいと考えていた。

第六章 * 穏やかな日々 

バーナードの骨折

バーナードが脚立から落ちて利き腕を骨折し、エバの屋敷で療養することになった。助手の仕事が休みとなったビクトリアは、代わりに十二歳のクラークへハグル語とランダル語を教える家庭教師を依頼された。ノンナの同行も認められたため、ビクトリアは仕事を引き受けた。

クラークの苦手意識

外務大臣の息子クラークは、努力しているにもかかわらず外国語も運動も苦手で、自分には得意なことがないと思い込んでいた。ビクトリアは文法と文学を中心とした従来の授業が彼に合っていないと判断し、身体を動かしながら言葉を覚える方法を試すことにした。

鍛錬を使った語学

ノンナが前方宙返りを披露すると、クラークは護身術に興味を示した。ビクトリアは運動の指示をアシュベリー語とランダル語で繰り返し、耳と身体で言葉を覚えさせた。クラークとノンナは七つの言葉と綴りを習得し、クラークは初めて語学の授業を楽しいと感じた。

二人で作る夕食

ビクトリアとノンナは、お揃いのエプロンを着て豆や野菜、ベーコンのスープを作った。ノンナと料理をするビクトリアは、母も同じような気持ちで自分に料理を教えていたのではないかと考えた。二人で囲む質素な食卓に、ビクトリアは失った母との時間を取り戻すような幸福を感じた。

休日の訪問

授業のない日、クラークは一人でビクトリアの家を訪ねた。ビクトリアの手作りのケーキを食べ、バーナードから彼女の有能さを聞いていたと語った。八歳で親元を離れ、必要に迫られて外国語を学んだという話を聞いたクラークは、自分も努力すると決意した。

木登りの授業

クラークとノンナの希望に応え、ビクトリアは二人を木登りへ連れていった。安全な木の見分け方や登り方を教えながら、動作に関するランダル語も覚えさせた。そこへ現れたジェフリーは、普段おとなしいクラークが楽しそうに挑戦する姿を喜び、ビクトリアの指導を認めた。

ツバメ亭の夕食

ジェフリーはクラークを送り届けた後、ビクトリアとノンナをツバメ亭へ招いた。彼はセドリックが肋骨の怪我を転倒によるものと言い張っており、ビクトリアが責任を問われる心配はないと伝えた。ビクトリアはセドリックの人柄を確認し、卑怯な行動はしない人物だというジェフリーの言葉に安心した。

王族という手札

ビクトリアがセドリックについて尋ねたのは、将来ハグル王国から身柄の引き渡しを求められた場合に、王族とのつながりを自分を守る手札として使える可能性を考えたためだった。危険を伴う選択だと理解しながらも、現在の暮らしを失いたくない気持ちが強くなっていた。

ジェフリーの謝罪

翌夜、ジェフリーは突然ビクトリアを訪ね、夜会へ誘ったことで監視やセドリックとの争いに巻き込んだと謝罪した。ビクトリアは自分で下した判断の結果であり、ジェフリーに責任はないと答えた。彼はビクトリアの強さに安堵し、その顔を両手で包んでから帰っていった。

普通の幸せへの戸惑い

ビクトリアは、実名を捨てさせる組織の方針が、潜入先で築いた人間関係を切り捨てやすくするためだったと理解した。自分はこの国を去るべきだと考えながら、ノンナやバーナード、ヨラナ夫人、ジェフリーとの縁を失うことがつらくなっていた。特務隊に残る仲間たちを思うと、自分だけが普通の幸せを得ることへの後ろめたさも覚えた。

白き姫と青いトカゲ

ビクトリアは童話を演じながら語学を教え、クラークが青いトカゲ、ノンナが魔女、自分が白き姫を担当した。楽しげに役を演じる二人は台詞を繰り返すうちにランダル語を身につけた。授業を見たエバは短期間でクラークの意欲を引き出したビクトリアを評価し、バーナードの回復後も家庭教師を続けてほしいと頼んだ。

二つの仕事

バーナードの許可を得たビクトリアは、助手と家庭教師を掛け持ちすることになった。助手の勤務時間を調整しながら語学授業を続ける形となり、生活の基盤はさらに安定した。ビクトリア自身も、ノンナを参加させながら子供たちへ教える仕事を心から楽しんでいた。

襲撃事件の真相

ジェフリーは夜会の襲撃犯が、妹をマッケナー侯爵に傷つけられた復讐のため、一年かけて城へ潜入していたと伝えた。妹は婚約を破棄され、心を病んで外出できなくなっていた。侯爵は爵位と役職を失ったが、毒の刃を持って王城で殺人を企てた男も死罪になる見込みだった。

異なる命の重さ

ビクトリアは、侯爵の行為を非難しながらも、復讐した平民だけが命を失う結末に、貴族と平民では命の重さが違うと感じた。ジェフリーと共に重い気持ちで事件を受け止め、その夜は一人で長く考え続けた。

第七章 ノンナのお留守番 

ノンナの留守番

ビクトリアは死刑囚を救う計画を進めるため、ノンナに毎夕数時間の留守番を頼んだ。不安を見せるノンナに、留守番も大切な仕事であり、困った時はヨラナ夫人の母屋へ行くよう伝えた。ノンナはビクトリアを信じて待つことを選び、彼女は貸し馬を借りて行動時間を短縮した。

ケイトの駆け落ち話

ビクトリアは赤毛の女性ケイトに変装し、裏社会を仕切るヘクターへ既婚者との駆け落ちを装った依頼を持ち込んだ。同じ王城で働く恋人を妻に知られず脱出させたいと語り、王都南区の外門まで運ぶ手配を金で依頼した。

死刑囚との面会

ケイトは夜会でマッケナー侯爵を襲ったカールの恋人を名乗り、王城の牢獄へ面会に入った。カールへ助かりたければ恋人のふりをするよう伝え、巡回する兵士の間隔や牢の構造を調べ、鍵を開けられることも確認した。帰宅後は急いでノンナの元へ戻り、二人で夕食を囲んだ。

鉄格子の切断

翌日からビクトリアは毎日面会を続け、牢番が離れると牢内へ入り、高窓の鉄格子を糸鋸で一本ずつ切断した。音を抑えるため革をかぶせ、切断部分には黒い革を挟んで元の状態に見せかけた。理由を問うカールには、自分のために助けているとだけ答えた。

脱出用の荷馬車

ビクトリアは荷車を購入して貸し馬をつなぎ、南区の外門近くにある農家へ預けた。頑固な父親から逃げる弟夫婦への結婚祝いだと説明し、馬の世話と婚約者の待機場所を確保した。さらに夜中にカールの妹を訪ね、脱出計画を伝えて体力を戻すよう命じ、食費も渡した。

十日間の準備

ビクトリアは身分証の偽造と鉄格子の切断を夜ごと進め、睡眠を削りながら準備を整えた。ヘクターには脱出日時を指定し、追加料金を支払って王城から外門付近まで運ぶ手配を確定させた。最後の鉄格子を切り終えると、カールと妹を救う準備がすべて整った。

王城からの脱出

決行日、ビクトリアとカールは高窓から牢を抜け、隠しておいた出入り業者の服へ着替えた。二人は制服業者の荷馬車に積まれた空箱へ隠れ、堂々と王城を脱出した。脱獄が発覚する頃には南区の外門近くへ到着していた。

兄妹の旅立ち

ビクトリアはカールを農家へ案内し、妹と共に婚約者同士を装って荷馬車で出発させた。新しい身分証と宿代、新生活の資金を渡し、恩を忘れて生きることを楽しむよう告げた。二人が外門を出たのを確認し、十日間続いたノンナの留守番も終わった。

ノンナとの食卓

ビクトリアは逃走に使った馬を買い取ったと偽装し、肉を買ってノンナの待つ家へ戻った。無事に計画を終えた安堵の中で、二人はバターで焼いた肉を喜んで食べた。その後、睡眠不足のビクトリアは仕事中に眠り込み、目覚めるとノンナが毛布をかけてくれていた。

消えた死刑囚

牢番たちは、毎日面会していた赤毛の女性と死刑囚が、施錠された牢から消えたことに困惑した。切断された鉄格子が発見され、王城と王都全域で大規模な捜索が行われたが、二人は見つからなかった。

疲弊したジェフリー

脱獄から二週間後、ジェフリーは菓子を持ってビクトリアの家を訪れた。第二騎士団は王都中を捜索していたが、カールも家を出た妹も見つからなかった。ビクトリアは申し訳なさを隠しながら話を聞き、疲れたジェフリーを気遣った。

夏至の約束

ビクトリアは、いつか三人でカディスを訪れ、夏至の夜に亡くなった家族のための小舟を海へ流そうと誘った。ジェフリーは必ず休みを取り、共に家族の魂を迎えようと約束した。ビクトリアは彼を元気づけた後、証拠となる赤毛のかつらをクッションの中へ隠した。

南端の兄妹

カールと妹はアシュベリー王国南端の村へたどり着き、両親を失って東から流れてきた兄妹として暮らし始めた。二人は耕地を借りて働き、村人とも穏やかな関係を築いた。妹は、復讐よりも幸せになる努力をするべきだったと語り、兄が殺人者にも死刑囚にもならなかったことを喜んだ。

偽善への覚悟

ビクトリアは脱獄に使った糸鋸や鍵開け道具を再び隠した。自分の行為を知られれば偽善者と責められると理解していたが、どのような非難も受け入れるつもりであった。兄妹が幸せに暮らすことだけを、自分への返礼として望んでいた。

第八章 * ビクトリアの傷 

自由市の買い物

ビクトリアはノンナとクラークを連れ、一般市民が自由に品物を売れる自由市を訪れた。三人で焼き菓子を食べながら店を回り、ノンナは水色と深緑のくるみボタン、クラークは古本を購入した。ビクトリアはかつら作りに適した長い黒髪を見つけ、子供たちに不気味がられながらも喜んで買い求めた。

夜中の悲鳴

その夜、ビクトリアは夢の中でやめてと叫び、ノンナに起こされた。ノンナと一緒に眠り直したものの目が覚めてしまい、過去の任務で命を落とした十五歳の工作員ハンスを思い出した。

ハンスの初任務

二十二歳だったクロエは、メアリーと初任務のハンスと共に、貴族の屋敷から不正の記録を盗む任務に就いた。リーダーを任されたメアリーは直前に配置を変更し、見張り役だったハンスを自分と共に屋敷へ侵入させた。クロエは反対したが、ハンス本人が応じたため変更を受け入れた。

投げられた剣

任務中に発見されたメアリーは、ハンスを残して先に屋敷から逃げ出した。続いて逃げてきたハンスは、追跡者が投げた剣に胸を貫かれて命を落とした。クロエとメアリーは遺体を回収できないまま逃げ帰った。

メアリーとの衝突

帰還したメアリーは失敗への苛立ちをクロエへぶつけ、ランコムにひいきされて成績トップになったと責めた。クロエは、ランコムへの不満を自分に向けるのは筋違いだと反論した。殴りかかってきたメアリーを肘打ちで退け、配置を変えてハンスを置き去りにした責任を厳しく追及した。

忘れられないハンス

クロエは配置変更を止めていればハンスは死ななかったと後悔していた。ランコムから任務と後悔を忘れるよう諭されたが、今のビクトリアはハンスを忘れれば人として大切なものまで失うと考えていた。黒髪のかつらを作りながら、ハンスの笑顔や将来の夢を思い返し、防げる死は防ぎたいという思いを強めた。

ザハーロの警告

ノンナがスーザンの部屋へ泊まった夜、ビクトリアは黒ツグミを訪れた。ザハーロは、ヘクターが赤毛で口元にほくろのある女性を捜していると警告した。脱獄にビクトリアが関わったと察していたが、彼女を売ることはせず、今後ヘクターへ依頼する際は自分を通すよう勧めた。

信頼の距離

ビクトリアはザハーロが自分をヘクターへ売っていないか確かめるため、その夜は長く店に留まっていた。帰りに送ろうとするザハーロへ、他人を信じ切ればろくなことにならないと告げ、東区との境まで同行を許した。帰宅後は侵入者の足跡がないことを確かめ、ようやく眠りについた。

国王の身元調査

宰相は国王へ、ビクトリア・セラーズが実在し、年齢や外見もほぼ一致すると報告した。本物のビクトリアは大工の父と市場で働く母の娘で、十七歳から十年間行方不明だったが、記録上はランダル王国からアシュベリーへ入国していた。国王は十年間の空白を気にしながらも、幼少期から訓練された工作員ではないと判断し、ジェフリーの想い人は無関係だと安堵した。

セドリックの疑念

国王からビクトリアは普通の平民だったと聞いたセドリックは、その調査結果を信じなかった。自分が華奢な女性に手も足も出なかった衝撃から、直接謝罪した上で体術を教わろうと考えた。しかし先にジェフリーへ相談すると、ビクトリアへ関わらないよう冷たく拒まれ、立てなくなるまで厳しい剣の稽古を受けた。

王子の謝罪

セドリックはジェフリーに内緒でエバの屋敷を訪れ、ビクトリアに無断で近づいたことを謝罪した。ビクトリアは謝罪を受け入れたが、夜会の男を倒したことは否定し続けた。セドリックは体術の指導を頼んだものの、ビクトリアは他の者からも腕試しを求められる危険や、仕事と子育てで余裕がないことを理由に断った。

諦めないセドリック

ビクトリアが何度拒否しても、セドリックは気が変わる頃にまた来ると言い残した。エバやヨラナ夫人には、ジェフリーに関する話だったとだけ説明した。ビクトリアは王子との一件を公にできず、詳しい事情を伏せた。

見放される恐怖

セドリックの訪問を知ったジェフリーは、王子へ改めて釘を刺すと申し出た。しかしビクトリアは、ジェフリーに頼り続けていつか見放されることを恐れ、自分の問題は自分で処理すると拒んだ。悲しげに笑う彼女を見たジェフリーはノンナと共に抱き寄せ、何を恐れているのか話してほしいと求めたが、ビクトリアは答えられなかった。

ジェフリーの過去

ワインを飲みながら、ジェフリーは十年前に婚約者を失ったことを明かした。彼女に肝心な時に頼ってもらえず、命を救えなかったため、大切な人を守ろうとする気持ちが強くなったと語った。ビクトリアはその苦しみを理解し、十年間女性を夜会へ伴わなかった理由を知った。

一人になる酒場

ビクトリアはノンナが母屋へ泊まる夜だけ酒場へ行き、他人がいる場所で一人になる時間を過ごしていると話した。ジェフリーは同行を望んだが、ビクトリアは秘密を知るザハーロと彼を会わせられないため、別の店ならよいと答えた。さらに鍛錬の相手を申し出られると、乱れた姿を見せたくないと拒み、ジェフリーから男として意識しているのかと問われた。

第九章 ベビーピンクのドレス 

三人の衣装

エバは完成したランダル語の芝居を家族にも披露したいと望み、使用人たちは三人分の衣装を用意した。クラークには青いトカゲと貴公子、ノンナには黒い魔女の衣装が作られた。ビクトリアにはベビーピンクの姫のドレスが用意され、彼女は年齢に似合わないと恥ずかしがったが、周囲の期待を断れなかった。

ピンクのドレス

ベビーピンクのドレスは、過去の潜入任務で協力者だった後妻候補の女性を思い出させた。その女性は目立つドレスで逃走し、疲れたと不満を訴え続けたため、クロエは彼女を励ましながら安全な場所まで連れていった。ビクトリアは当時の苦労に比べれば今回の恥ずかしさは軽いと自分を励ました。

芝居の発表

発表当日、ジェフリーは白とピンクの花束をビクトリアへ贈り、ドレス姿を褒めた。クラークとノンナの芝居は大人たちを楽しませ、バーナードは涙を浮かべた。マイケルとエバもビクトリアの仕事を高く評価し、クラークは今後も彼女の授業を受けたいと望んだ。

女の子同士の遊び

ビクトリアは、東区で暮らすノンナに同年代の女友達がいないことを心配した。しかし自身も普通の少女同士の遊びを経験しておらず、ヨラナやエバ、スーザンにも適切な相談ができなかった。ノンナは女の子らしい遊びより鍛錬を望み、ビクトリアはほかに教えられる安全なことを思いつけず、再び訓練を始めることにした。

棒を避ける訓練

ビクトリアは棒で殴られそうになった際の避け方をノンナに教えた。速度や攻撃の方向を徐々に増やすと、ノンナは軽やかに動いて全てをかわし、最後には後方宙返りまで成功させた。ビクトリアはノンナが幼い頃の自分以上の身体能力と持久力を持ち、生まれつきの才能があると認めた。

ノンナの打ち込み

今度はノンナが棒を持ち、本気でビクトリアへ打ち込んだ。ビクトリアは全て寸前でかわし、二人は汗だくになるまで鍛錬を続けた。帰り道、ビクトリアは自分の知ることをこれからも多く教えると約束し、ノンナも髪を洗ってあげると応じた。

穏やかな夜

汗まみれで帰宅した二人は、ヨラナに何をしていたのか尋ねられたが、ノンナは秘密だと笑った。二人は一緒に入浴して夕食を食べ、同じベッドで眠った。ビクトリアはノンナと過ごせる穏やかで幸せな日々が、この先も続くことを願った。

第十章 マイルズさん 

マイルズとの出会い

体力の衰えを感じたビクトリアは、夜明け前に一時間ほど走る習慣を始めた。その途中、黒馬を巧みに操る元軍人マイルズ・グラントと顔見知りになった。乗馬経験を話すと、マイルズは彼女の腕前を確かめた上で、長距離を走れる馬を選び、世話も引き受けると申し出た。

愛馬アレグ

マイルズが選んだアレグは、賢くよく走る若い馬だった。ビクトリアは万一の際にノンナと逃げる手段として馬を求めていたが、その目的は伏せた。ノンナも乗馬に強い興味を示し、母屋の者たちには上達するまで秘密にすると約束した。

初めての遠乗り

ビクトリアとノンナはアレグに二人で乗り、マイルズと愛馬ナイトに同行してもらった。王都北側の林で栗を拾った後、走りたがるアレグをビクトリアが単独で駆けさせた。ノンナはマイルズの馬からその姿を眺め、ビクトリアの巧みな乗馬を喜んだ。

栗と豚肉の煮込み

帰宅後、ビクトリアとノンナは拾った栗の皮をむき、豚肉との煮込みを作った。ビクトリアは料理をマイルズへ届けたが、彼は突然木製の小鳥を投げて反応を試した。ビクトリアが即座にかわして構えたため、マイルズは彼女が普通の平民ではなく、常に周囲を警戒する専門家だと見抜いていると明かした。

マイルズの申し出

マイルズは、ビクトリアが血のつながらないノンナを大切に育てていることを認め、事情は尋ねないと告げた。その上で、助けが必要になれば敵の足止めくらいはすると申し出た。ビクトリアは平民であるという態度を崩さなかったが、帰り際には彼の助言へ礼を述べた。

アップルパイの約束

ノンナは語学の授業中、クラークへ美味しいアップルパイの店を教え、一緒に行こうと誘った。後日、ビクトリアは二人を南区の菓子店へ連れていった。クラークは普段あまり食べられない菓子を喜び、ノンナも得意げにその様子を見守った。

譲られたアップルパイ

店では貴族の使用人らしい女性が、売り切れたアップルパイを求めて困っていた。ビクトリアはクラークの家族への土産として買った一台を譲った。後にその女性がハンソン男爵家の侍女であり、ノンナを見て亡くなった男爵家の娘に似ていると感じていたことが判明した。

ハンソン夫妻の願い

ハンソン男爵夫妻はアンダーソン家を訪れ、三歳で亡くした娘が成長した姿にノンナが酷似しているとして、養女に迎えたいと申し出た。ビクトリアは即座に拒否したが、夫妻は貴族の身分と豊かな生活を与えられることがノンナの幸せだと主張した。

一週間の滞在

ノンナは六晩だけハンソン家へ泊まり、嫌なら断ってよいかと尋ねた。夫妻は喜び、その日のうちにノンナを連れて帰った。ビクトリアは、幸せに暮らしていたと思っていたノンナがあっさり承諾したことに衝撃を受け、暗い部屋で一人になる未来を想像して深く落ち込んだ。

ジェフリーの支え

ヨラナから連絡を受けたジェフリーは、暗い部屋で動けずにいたビクトリアを訪ねた。ビクトリアは、自分より貴族の養女になる方がノンナには安全で有利だと語った。ジェフリーはノンナの幸せは本人が決めるものであり、必ずビクトリアを選んで帰ると励ました。

ノンナを待つ決意

ジェフリーは望むなら男爵家へノンナを取り戻しに行くと申し出たが、ビクトリアはノンナ自身の気持ちを尊重して待つことを選んだ。二人で夕食を囲したことで少し落ち着き、帰ってきたノンナのために服へくるみボタンを縫おうと考えた。

マイルズとの鍛錬

ノンナのいない寂しさを紛らわせるため、ビクトリアは仕事や運動に没頭し、マイルズへ実戦形式の鍛錬を頼んだ。短剣と模擬剣を使った勝負は互角となり、二人は汗だくになるまで攻防を続けた。マイルズは事情を尋ねず、鍛錬とお茶でビクトリアを元気づけた。

ノンナの帰還

六日目の深夜、何者かが家へ侵入しようとしたため、ビクトリアはダガーを持って外へ回った。そこにいたのは、ハンソン家から一人で逃げてきたノンナだった。ノンナはドロレスと呼ばれ、両親と呼ぶよう求められた上、部屋に鍵をかけられたため、二階の窓から脱出して戻ってきた。

ノンナの判断

ノンナが滞在を受け入れたのは、養女話を断りきれず困っていたエバを助けようとしたためだった。嫌なら断ってよいという約束を確かめるため、実際に六晩過ごしたのである。ビクトリアは、教えた脱出方法を非常事態だと判断して実行したノンナに呆れながらも安堵した。

エバの後悔

翌朝、ビクトリアとノンナはエバへ報告した。エバは自分が養女話を強く断れなかったことを謝罪した。四年前、流行病で娘を失ったハンソン夫妻から、クラークだけが特別な薬で助かったと誤解されていたため、夫妻への後ろめたさを抱えていたのである。

亡き娘の影

ハンソン夫妻はノンナを亡き娘ドロレスの代わりとして扱っていた。後日、領地へ戻るという手紙と共に、ノンナのために用意した大量の衣服や装身具が届けられた。ビクトリアは、我が子を失った夫妻の痛みを思い、自分の両親も八歳の自分を手放した後に寂しがってくれたのかと考えた。

アッシャー伯爵の忠告

ジェフリーの兄エドワードも、正式な手続きが終わるまではビクトリアがノンナの保護者であるとハンソン男爵へ念を押していた。男爵夫人には過去にも、娘に似た平民の少女を屋敷へ連れ込んだことがあったため、ノンナを手放さなくなる危険が懸念されていた。

家族への願い

戻ったノンナは、男爵夫人からドロレスと呼ばれ、家族が揃ったと泣かれたことが怖かったと語った。そして自分が別の家の子供にされそうになった経験から、ジェフリーとは一緒に暮らせないのかとビクトリアへ尋ねた。ビクトリアは答えられず、そうできればよいが無理だと思いながら、ノンナの頭を撫でた。

第十一章 出国準備 

引っ越しの決意

ビクトリアは、マイルズが裏隣の家の本来の住人ではないと見抜いた。右利きの彼と、左利きで小柄な住人が長年暮らした痕跡が一致せず、自分が走り始めた直後に接触してきたことから、何者かが監視のために配置したと判断した。危険を感じたビクトリアは、世話になった人々へ八通の別れの手紙を書き、ノンナと王都を去る準備を始めた。

ハグル王国への警戒

クラークは父の仕事でハグル王国へ行く予定を語り、ビクトリアとノンナも同行できればよいと望んだ。しかしビクトリアは、特務隊の関係者にノンナを見られれば養成所へ入れられる危険があるため、ハグルへ戻るつもりはなかった。ノンナも遠い旅より、スーザンから教わるボビンレースを選んだ。

ジェフリーの推測

ジェフリーは、ビクトリアの語学、家事、戦闘、警戒能力と過去を語らない態度から、組織を脱走した工作員ではないかと考えていた。彼女と生きるなら伯爵家から籍を抜き、騎士団長も辞めて三人で国外へ行く覚悟があった。しかし踏み込めばビクトリアが姿を消すと感じ、想いを告げられずにいた。

焼き栗の時間

ジェフリーは焼き栗を持ってビクトリアの家を訪れ、三人は穏やかな時間を過ごした。強く踏み込めば失われるかもしれない日常を、ジェフリーは大切に味わった。その後、ビクトリアは秘密に関わる品を焼き、ノンナには一日分の着替えだけを用意させた。ノンナが最も大切な物として選んだのは、保護された日に買ってもらった青いリボンだった。

ノンナの発熱

出発準備を進めていたビクトリアは、ノンナの顔が赤く、熱があることに気づいた。ノンナは高熱と咳に苦しみ、食事も取れなくなった。過去の流行病で多くの子供が亡くなった話を思い出したビクトリアは不安に襲われながらも、額を冷やし、着替えさせ、水分を与えて看病を続けた。

病気からの回復

四日目を過ぎるとノンナの熱は下がり、食欲も戻り始めた。アップルパイを望むノンナに、ビクトリアは胃が驚くからもう少し待つよう伝えた。発熱から十日後には回復したが、体力を考えて馬での移動はまだ難しいと判断した。

幕間 * ハグル王国の料理人 

キャロルの目撃

ハグル王国のノーマン・ハイランド伯爵に同行してアシュベリー王都を訪れた料理人デイブは、かつての弟子キャロルを見かけた。キャロルは銀髪の大男と金髪の少女と楽しそうに歩いていた。帰国後、デイブがキャロルの消息をイグズリー伯爵へ伝えると、伯爵は目撃場所や同行者について詳しく聞き出した。

発見されたクロエ

イグズリー伯爵から報告を受けたランコムは、キャロルがクロエであり、アシュベリー王都にいると確信した。隊員たちはエースだったクロエが生きており、組織を脱走していたことに驚いた。ランコムはダンとヤコブを伴い、自ら説得して連れ戻そうとした。

国王の処分命令

宰相は、クロエを生きたまま連れ帰るのは不可能であり、国王も帰還を望んでいないと告げた。忠誠を失った者は処分せよという国王の命令により、クロエの件は特殊任務部隊から暗殺部隊へ移された。ランコムはクロエの才能を失うことを惜しんだが、目撃情報をすべて提出するよう命じられた。

監禁されたメアリー

二重工作員であることをランコムに見破られたメアリーは、特殊任務部隊の建物内で足を鎖につながれ、二か月近く監禁されていた。ランダル王国から救出を約束されて情報を流していたが、誰も助けに来なかったため、自分が両国から利用され、見捨てられたことを悟った。

メアリーの脱出

メアリーは口内を傷つけて血を吐き、倒れたふりをして食事を運んできた男を誘い寄せた。男を転倒させて鎖で首を絞め、失神させると、シーツで拘束して部屋の鍵を奪った。さらに銀製の爪楊枝で足輪を外し、男を殺さず部屋に閉じ込めた。

誰も信じない逃走

メアリーは建物の二階から飛び降り、暗い場所を選んで走り、塀を越えて逃げ出した。ランダルにもハグルにも裏切られたと感じた彼女は、行くあてもないまま、もう誰も信じないと決意していた。

第十二章 第三騎士団 

第三騎士団の調査

王城北棟の管理部長は、夜会事件をきっかけにマッケナー侯爵親子の悪行を調べ終えた。侯爵は平民の反感を招く行いを重ね、息子は賭博による巨額の借金を抱えていた。管理部長は、二人が能力を持ちながら自ら破滅を招いたことを嘆いた。

三つの報告書

管理部長の正体は、通称第三騎士団を実質的に率いるエドワード・アッシャーであった。エドワードはビクトリアの身元調査、夜会で犯人を倒した女性、死刑囚を脱獄させた赤毛の女性に関する報告書を並べ、三件すべてにビクトリアが関わった可能性を疑った。

食い違う経歴

本物のビクトリアには兄がいないにもかかわらず、彼女は乗馬を軍人の兄から習ったと説明していた。また、両親の生死に関する報告もエドワードの知る情報と食い違っていた。彼はビクトリアが何かから逃げていると考えたが、ジェフリーを救った恩人でもあるため、宰相への報告を保留した。

マイルズの監視

エドワードはビクトリアを目の届く場所へ置くため、アンダーソン家に家庭教師として雇うよう働きかけ、マイルズにも監視を続けさせていた。しかしビクトリアはアレグに乗ったまま戻らず、マイルズは異変を感じてヨラナ夫人の屋敷を訪ねた。

残された手紙

ビクトリアはノンナと共に早朝に姿を消し、世話になった人々へ別れの手紙を残していた。マイルズ宛ての手紙には、アレグの世話への感謝と栗拾いの思い出だけが記されていた。事情を知ったマイルズは王城へ急ぎ、ジェフリーはエバ一家やバーナード、兄へ手紙を届けた。

ビクトリアの別れ

ジェフリーへの手紙には、ここに留まれない事情があり、優しくしてくれたことや初めてのピクニック、焼き栗を囲んだ時間への感謝が綴られていた。突然消えないでほしいと頼んでいたジェフリーは、ささやかな思い出だけで礼を言い、何も告げずに去ったビクトリアへ苦しげに言葉を漏らした。

不審な聞き込み

ビクトリアの失踪後、複数の人物が第二騎士団員に接触し、ジェフリーや交際相手について聞き出していた。報告を集めたジェフリーは、何者かがヨラナ夫人の屋敷を探っていると判断し、離れと母屋へ団員を配置して警戒を始めた。

暗殺部隊の接近

第三騎士団も、ハグル王国の暗殺部隊が屋敷を襲撃するという情報を得て警備に加わった。暗殺者への対応は第三騎士団、周辺警護は第二騎士団が担当し、ジェフリーも離れの中で待ち構えることを譲らなかった。ヨラナ夫人と使用人たちは事前に避難した。

離れへの侵入

クロエを殺すためハグルから来た四人の暗殺者は、ビクトリアの住居を突き止めて夜間に侵入した。しかし寝室ではジェフリーと第三騎士団員が待ち構えていた。侵入した三人も外の見張り役も相次いで制圧され、隠し武器を奪われて王城の牢獄へ運ばれた。

クロエの正体

エドワードは自白剤を使い、暗殺部隊のリーダーから任務の詳細を聞き出した。標的はハグル特殊任務部隊のエースである二十七歳のクロエであり、組織から突然消えたため、国王から処分を命じられていた。暗殺者は、隊員は動ける限り組織で働き続け、辞めるという選択肢はないと語った。

ハグルの協力者

エドワードは、クロエを狙った理由や組織の仕組みを確認すると、アシュベリー国内にいるハグルの協力者についても尋問を進めた。暗殺部隊より早く情報を届けた連絡網の成果を喜び、部下たちへ協力者が逃げる前に捕らえるよう命じた。

第十三章 牧場暮らし 

マリアとライルの旅

ノンナが回復すると、ビクトリアは黒髪のマリア、ノンナは息子のライルに変装し、荷馬車でランダル王国へ移った。道中、辞められない仕事から逃げて追われていることを説明すると、ノンナは新しい名前を間違えないよう、お母さんと呼びたいと申し出た。ビクトリアは喜び、初めて母親として呼ばれることを受け入れた。

羊牧場の暮らし

二人は羊牧場に住み込みで働き、三か月間穏やかな冬を過ごした。ビクトリアは羊の世話や毛糸の紡ぎ方、染め方を覚え、十枚のセーターを編んだ。ノンナも羊の世話を手伝いながら毛糸でボビンレースを編み、完成させたベッドカバーを自分で売って収入を得た。

母羊の出産

春が近づくと、二人は妊娠した羊を運動させ、出産にも立ち会った。ノンナは苦しみながら子羊を産む母羊を見守り、生まれた子羊が立ち上がると喜んだ。その夜、行方を消した実母も自分を産むために苦しんだのかと尋ねた。ビクトリアは、母親もノンナも頑張ったのだと伝え、生まれてきてくれたことへ感謝した。

漁師町アルデ

春の終わりに毛刈りまで学ぶと、二人は牧場を離れ、ランダル王国南端の漁師町アルデへ移った。ビクトリアは食堂兼宿で掃除や雑用をこなし、注文を受けてセーターも編んだ。ノンナも魚を好んで食べるようになり、二人は少しずつ新しい生活を築いた。

ビクトリアの死

アシュベリーでは、宰相がジェフリーへ、ビクトリアがハグル特殊任務部隊のエース工作員クロエだったと明かした。ハグルから暗殺者が送られたため、国王はビクトリア・セラーズが殺されたことにして、さらなる追跡を防ぐ判断を下していた。ジェフリーは彼女の正体に薄々気づきながら報告しなかったことを正直に認め、処分を受けた。

ハイデンへの異動

ジェフリーは第二騎士団長を解任され、港町ハイデンを抱える公爵領の保安管理官へ異動した。そこでは臣籍降下したセドリックが公爵となり、健康を取り戻した元婚約者ベアトリーチェと再び結婚を決めていた。ジェフリーは二人と共に、外国人の出入りが多い領地の治安を守る仕事へ取り組んだ。

カディスの夏祭り

アルデからカディスの夏祭りへ臨時船が出ると知ったノンナは、祭りへ行きたいと願った。カディスはかつてジェフリーと共に行くと約束した場所だったため、ビクトリアは迷ったが、ノンナのために訪れることを決めた。ジェフリーに見つかりたい気持ちと、見つかってはいけないという思いの間で苦しみながら夏至の日を迎えた。

海へ流す小舟

二人は黒髪のかつらを着けてカディスへ渡り、屋台を楽しんだ後、ロウソクを載せた小舟を海へ流した。ビクトリアは亡き両親と妹エミリーに会いたい、長く頑張ったが疲れたと心の中で語りかけ、涙を流した。ノンナは泣いてもよいと背中をさすった。

ジェフリーとの再会

ビクトリアが顔を上げると、約束を覚えていたジェフリーが立っていた。彼は見つかるまで毎年通うつもりだったと告げ、ノンナを抱き上げ、泣き続けるビクトリアを自宅へ連れていった。そこでハグルの暗殺部隊が捕まり、ビクトリアは死亡した扱いとなったため、もう追われずに暮らせると説明した。

本当の名前

ジェフリーはカディスで三人で暮らそうと申し出た。ビクトリアは自分の過去を話す前に、八歳で捨てさせられた本名を明かした。クロエでもビクトリアでもなく、両親から与えられた本当の名前はアンナ・デイルであった。アンナは養成所から逃亡後の牧場や漁村での暮らしまで、全てをジェフリーへ語った。

アッシャー家の過去

ジェフリーも、兄エドワードと母親が父親から長年激しい暴力を受けていた過去を明かした。エドワードは母と弟を庇って鞭で打たれ続け、ジェフリーは十二歳の時、父親を殺す覚悟で反撃した。二十歳だったエドワードは父を追放して家督を奪い、その後は保護者として母と弟を守り続けていた。

アンナへの求婚

アンナは、家庭という地獄を生き延びたジェフリーを抱きしめ、自分がジェフリーとノンナを守り、幸せな家庭を作ると誓った。ジェフリーはそれは自分が言う言葉だと笑い、アンナの前に膝をついた。そして本当の名前を呼び、結婚を申し込んだ。

第十四章 * 船出 

エドワードの渡航計画

ハムズからアンナとジェフリーの再会を知らされたエドワードは、二人をハイデン近くに置けば再び危険が及ぶ可能性があると考えた。そこで医療班の男性と取引し、アシュベリーが高価な麻酔薬などを輸入できるよう交渉する代わりに、ジェフリーとアンナ、ノンナを彼の故国シェンで五年間受け入れてもらう手配を進めた。

アルデとの別れ

アンナは宿屋兼食堂を辞め、世話になった夫婦へ完成したセーターを贈った。夫婦は明るくなったアンナの様子を喜び、餞別を渡して新しい暮らしを応援した。アンナとノンナはカディスへ移り、ジェフリーとの生活を始める準備を進めた。

シェン国への任務

王城から派遣されたマイクは、アンナが再びハグルの者に発見される危険を避けるため、三人でシェン国へ渡るよう提案した。ジェフリーには薬の輸出経路を整える任務が与えられ、三人の渡航と滞在費は国が負担することになった。アンナは安全を得ながら未知の国で暮らせる話を喜び、ジェフリーも彼女の意思を尊重した。

新しい家族の書類

マイクはアンナの新しい身分証、ジェフリーとの婚姻書類、ノンナとの養子縁組書類を用意していた。アンナは自ら印刷と見分けがつかない文字で名前を書き込み、アンナ・アッシャーとして正式な身分を得た。ジェフリーはノンナへ娘になってほしいと頼み、ノンナは彼を父親として受け入れた。

明かされた過去

マイクはアンナと二人になると、特務隊を脱走した経緯や、死刑囚の脱獄、夜会での襲撃阻止について尋ねた。アンナは逃がした兄妹の行方を伏せながら、自分が関わったことと、その理由を認めた。マイクは殺人を防ごうとする元工作員に驚き、シェンでは情報を盗むのではなく、薬や文化を正当に学ぶよう求めた。

五年後の帰国

マイクは、五年後に帰国すればジェフリーが子爵となり、アンナもアシュベリー貴族の妻として守られるため、ハグルが再び手を出す可能性は低いと説明した。アンナの正体を知る者はマイクとその上司だけであり、国王や宰相にも詳細は伏せられていた。アンナは誰かの意向によって自分が守られていると知ったが、その人物の名は明かされなかった。

シェンへの出航

ジェフリーは保安管理官を辞め、アンナとノンナと共にシェン国行きの船へ乗った。王都で出会った少女は娘となり、身元保証人だったジェフリーは夫となった。ノンナは船旅も異国での暮らしも楽しみにし、ジェフリーを自然に父親と呼んだ。

自由になったアンナ

船上でアンナは新しい言葉や医療を学ぶことに期待を膨らませた。ジェフリーに本当に自由になったのだと認められ、ノンナを交えて三人で海を眺めた。追跡や偽名に縛られ続けた生活は終わり、アンナは初めて安心して未来を考えられるようになった。

ノンナの感謝

航海が十日を過ぎた夕暮れ、ノンナは広場に捨てられたことを当時から理解していたと明かした。そして逃亡中だった自分を助け、食事や青いリボンを与え、母親になってくれたアンナへ感謝を伝えた。アンナはノンナがいなければ特務隊へ戻って殺されていたと悟り、互いに救われた関係を噛み締めた。

家族と歩む人生

アンナは、家族を大切にし、縁のある人々と長く付き合い、人の役に立ちながら生きることを決めた。ジェフリーに背後を守られ、ノンナと手をつないで船内へ向かい、この先どのようなことがあっても家族を守り抜くと誓った。

手札が多めのビクトリアまとめ
手札が多めのビクトリア2レビュー

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手札が多めのビクトリア

手札が多めのビクトリア 1の表紙画像(レビュー記事導入用)
手札が多めのビクトリア 1
手札が多めのビクトリア 2の表紙画像(レビュー記事導入用)
手札が多めのビクトリア 2
手札が多めのビクトリア 3の表紙画像(レビュー記事導入用)
手札が多めのビクトリア 3

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e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「とある魔術の禁書目録(2)」感想・ネタバレ
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