小説「とある魔術の禁書目録(2)」感想・ネタバレ

小説「とある魔術の禁書目録(2)」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、超能力(“科学”として体系化された能力)と魔術(オカルト的な力)が共存・衝突する学園都市を舞台にしたライトノベルである。無能力者と称される高校生が、右手に宿した“幻想殺し”の力を契機に、魔術結社および科学組織による陰謀に巻き込まれていく。第2巻では、学園都市で囚われの身となった巫女を救出するべく、主人公がかつての敵である魔術師とともに行動を共にする展開が描かれている。

主要キャラクター

  • 上条当麻:本作の主人公。学園都市に暮らす高校生で、無能力者と評価されながらも右手に“幻想殺し(イマジンブレイカー)”という異能を宿す。第2巻では囚われた巫女救出のため奔走する。
  • インデックス:一万三千五百冊を超える魔道書を記憶・所蔵するシスター。魔術結社から追われており、上条との出会いにより物語に深く関わる存在である。
  • ステイル=マグヌス:かつて上条にとって敵対的であった魔術師。本巻では上条と協力して救出作戦に参加し、物語の鍵を握る役割を果たす。

物語の特徴

本作の魅力は、科学として制度化された超能力と、秘匿された魔術という二つの異なる力の交錯にある。第2巻においては「囚われの巫女」「救出作戦」「魔術師との協力」という展開から、従来の“巻き込まれ型”主人公設定に加えて、よりアクションとドラマが強まっている。また「無能力者」でありながら強大な力を持つ主人公」「能力使用による代償や制約」「学園都市という閉ざされた舞台」が、読者にとって興味深く、他のライトノベル作品と差別化される要素である。さらに、シリーズ全体のメディア展開(アニメ化・コミカライズ)が進んでおり、ライトノベルとしてだけでなくクロスメディア作品としても楽しめる点も本作ならではである。

書籍情報

とある魔術の禁書目録 2
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA電撃文庫
発売日:2004年6月10日
ISBN:9784048665155

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あらすじ・内容

魔術と超能力を駆使した学園アクション第2弾!
「超能力」が“一般科学”として認知された学園都市で、1人の巫女が囚われの身に……。かつての敵・魔術師ステイルとともに救出作戦を決行する高校生・上条当麻の運命は!?魔術師、吸血殺し(ディープブラッド)、禁書目録(インデックス)、そして、上条当麻。すべての線が交差するとき、物語は始まる――。

とある魔術の禁書目録(2)

感想

『とある魔術の禁書目録(2)』を読了した。今回は、ローマ聖教を裏切った男の悲しい末路が描かれており、上条当麻の不幸体質も健在である。右腕を失いかけながらも、ハイテンションで敵を圧倒する姿は、まさに主人公といったところだろう。しかし、記憶が無くなるという展開には、少しばかり同情してしまう。

記憶喪失による不安や葛藤を抱えながらも、錬金術師アウレオルス=イザードと戦う上条の姿は、読んでいて胸が熱くなった。かつて上条と同じようにインデックスを庇護していた人物が、敵として立ちはだかるという展開は、シリーズを通して見ると印象が薄れてしまうかもしれないが、本作においては非常に燃える展開であったと言えるだろう。

ただ、ヒロインである姫神秋沙の存在感が薄いのは、少し残念な点である。しかし、上条当麻の戦う原動力は、許せないことに対する怒りであるという点は、強く印象に残った。切り札として扱われる吸血殺し(ディープブラッド)や、「グレゴリオの聖歌隊」や「瞬間錬金」の歯車のように使い捨てられる生徒たち、そして、やりきれない怒りを押し付けるためだけに姫神を殺そうとしたアウレオルス。人の命を何とも思っていない者たちへの怒りこそが、上条を戦場へと駆り立てるのだ。

例えそれが幻想であっても、ハッピーエンドを望む。それこそが、上条当麻の戦う動機なのだと、改めて感じさせられた。理不尽な現実に対する抑えられない怒り、それが上条当麻というキャラクターを形作っていると言えるだろう。今回の戦いを通して、上条はまた一つ、大切なものを守るために戦う意味を見出したのではないだろうか。次巻以降の展開にも、期待が高まるばかりである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

上条当麻

学園都市に通う高校生である。右手に異能と奇跡を打ち消す「幻想殺し」を宿し、記憶喪失の状態で行動した。

・所属組織、地位や役職
 学園都市・高校生。

・物語内での具体的な行動や成果
 三沢塾へ突入し、姫神秋沙の救出を決意した。
 アウレオルス=イザードの改変を右手で破り、再突入して対峙した。
 ステイル=マグヌスの記憶を右手で復旧させ、連携を再構築した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 右腕を切断されるも再接合に成功した。
 戦闘中に“竜王の顎”様の現象が観測され、右手の未知性が示唆された。
 周囲からの信頼を得て、事件収束の中心となった。

インデックス

完全記憶能力を持つシスターである。一〇万三〇〇〇〇冊の知識を抱え、記憶消去の体質を抱える。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教・禁書目録。

・物語内での具体的な行動や成果
 寮に残留後、ルーンの痕跡を感知して現場へ向かった。
 アウレオルスと再会し、事件の核に位置づけられた。
 終盤に上条当麻を明確に認識し、均衡を変えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ステイル=マグヌスへ感謝を示し、関係のしこりを和らげた。
 保護体制の継続が確認された。
 知識の保持が引き続き各勢力の焦点であった。

ステイル=マグヌス

炎の魔術を操る青年である。任務と個人的感情を分けて行動した。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教・魔術師。

・物語内での具体的な行動や成果
 三沢塾内部の「聖歌隊」の核を特定し破壊した。
 アウレオルス=ダミーを討滅し、被害の拡大を抑えた。
 蜃気楼で狙撃精度を落とし、上条当麻を援護した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻への見方が変化し、協力姿勢を強めた。
 インデックスの安全保持に責任を示し続けた。
 事件後、処理責任を担い終局を整えた。

アウレオルス=イザード

言葉で現実を歪める錬金術師である。目的は禁書目録の救済であった。

・所属組織、地位や役職
 ローマ正教・隠秘記録官。

・物語内での具体的な行動や成果
 三沢塾を要塞化し、外部攻撃を「巻き戻し」で無効化した。
 上条当麻の右腕を切断し、劣勢でも支配を維持した。
 姫神秋沙へ致死の改変を命じたが、右手により打ち消された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 目的が論理破綻し、制御不能へ陥った。
 事件後は記憶を失い、処理の対象となった。
 世界規模の改変規模を示しつつも終局で力を失った。

姫神秋沙

吸血鬼のみを殺す「吸血殺し」の性質を持つ少女である。自己犠牲を避けるための選択を続けた。

・所属組織、地位や役職
 所属不詳・学生相当。

・物語内での具体的な行動や成果
 食堂での大規模詠唱を停止させ、被害を縮小した。
 負傷生徒へ迅速な応急処置を行い、搬送判断を示した。
 上条当麻と行動を共にし、事実の整理に協力した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教会の保護下へ移る方針が示された。
 自身の力の限定性を明確化し、誤解を正した。
 歩く教会の結界服への希望が提示された。

アレイスター

学園都市を統括する存在である。逆さに浮かぶ生命維持の姿で現れた。

・所属組織、地位や役職
 学園都市・統括理事長。

・物語内での具体的な行動や成果
 事案を「まずい」と断じ、魔術側の処理方針を選択した。
 ステイル=マグヌスの起用を決定し、当麻の同行を容認した。
 能力観と観測の関係を提示し、枠組みを示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 寿命の長期化が示唆され、超越的管理者像が強まった。
 科学と魔術の均衡維持に重きを置いた。
 直接戦闘は行わず、戦略の舵取りを担った。

青髪ピアス

上条当麻の知人である。軽口で場を動かす性質を持つ。

・所属組織、地位や役職
 学園都市・学生。

・物語内での具体的な行動や成果
 街頭でのやり取りに介入し、空気を乱した。
 相席時の会話で混乱を助長した。
 事件本筋には関与しなかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 立場の変化はない。
 周囲の反応を引き出す役回りが目立った。
 以後の影響は限定的であった。

ビットリオ=カゼラ(ランスロット)

銀鎧の騎士である。硬直した任務遂行を優先した。

・所属組織、地位や役職
 ローマ正教・十三騎士団「ランスロット」。

・物語内での具体的な行動や成果
 三沢塾周辺を封鎖し、聖呪爆撃の開始を通告した。
 住民の巻き込みを顧みずに威圧をかけた。
 外周の統制を維持した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 攻撃は「巻き戻し」により無効化された。
 権限の限界が露呈した。
 戦術面での成果は乏しかった。

アウレオルス=ダミー

本物の影武者である。模倣の力を濫用した。

・所属組織、地位や役職
 三沢塾内部・擬似運用体。

・物語内での具体的な行動や成果
 瞬間錬金を連射し、生徒を純金化した。
 ステイル=マグヌスに左腕と左脚を断たれた。
 混乱に乗じて撤退を試みた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 最終的に討たれて消滅した。
 本物との思想差が指摘された。
 要塞機構への依存が明らかになった。

スフィンクス

子猫である。家庭内で小騒動を起こした。

・所属組織、地位や役職
 上条当麻の部屋・飼い猫。

・物語内での具体的な行動や成果
 風呂場での扱いをめぐり、インデックスと対立した。
 食事や遊びで主導権を握った。
 生活の場で注意を引いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 飼育が正式に認められた。
 日常面での存在感が増した。
 事件そのものへの影響はない。

展開まとめ

序章 相変わらずな日々 The_Beginning_of_The_End.

本棚の体裁を整える決意と不幸な出費
上条当麻は部屋がマンガ一色であることを気にし、見栄を張るため参考書を買いに駅前へ向かった。ところが一冊三六〇〇円という価格に打ちのめされ、しかも前日まで半額だったと知って不運を嘆いた。それでも本棚の印象を変える必要から引き下がれない状況であった。

記憶喪失の現状認識と自己探求
上条当麻はエピソード記憶のみを失い、意味記憶は保たれている状態であった。日常生活の知識は機能しているが、自分が何者だったかという「思い出」が欠落しているため、本棚という手がかりにすがって過去の自分像を探ろうとしていた。

炎天下の帰途とインデックスとの応酬
帰り道、上条当麻はインデックスと合流した。炎天下のなかアイスの看板に視線を向けるインデックスに対し、上条当麻は金欠を気にして渋った。インデックスは修道女として嗜好品を禁じられていると主張しつつも、誤って口に入る可能性を持ち出すなど、事実上の要求を示し、上条当麻は押し切られそうになっていた。

青髪ピアスの乱入と火種の拡大
青髪ピアスが現れ、場違いな冗談でインデックスを刺激した。小柄発言や女装少年疑惑などの挑発が続き、インデックスの不機嫌が臨界に近づいた。上条当麻は不幸の兆候を察して場を収めようとしたが効果は乏しかった。

アイス店休業の張り紙と噴出する怒り
事態をアイスでごまかそうとした上条当麻であったが、店は改装休業中であった。この不運が引き金となり、インデックスの怒りが爆発し、上条当麻は襲撃を受ける羽目になった。

妥協のシェイクと席探しの難航
二人はファーストフード店でシェイク三種を確保して一息つこうとした。しかし店内は満員で、店員から相席を勧められる状況に追い込まれた。インデックスは機嫌を持ち直しつつも、座席確保は急務であった。

学園都市の日常会話と能力の提示
女子高生たちの会話から、テストでの能力使用が半ば容認される学園都市の特異な日常が示された。上条当麻は異能や奇跡を無効化する右手・幻想殺しを有する能力者であり、異常が日常である環境に身を置いていた。

眠る巫女との相席と不吉な既視感
相席先として示されたのは、四人掛けで一人眠る巫女姿の少女であった。上条当麻は強い不吉感と既視感を覚え回避を望んだが、インデックスは先に席に着いた。上条当麻が渋々近づくと巫女は身じろぎし、食い倒れたと口にしたところで場面は緊張を孕んで推移した。

第一章 ガラスの要塞 The_Tower_of_BABEL.

舞台設定―窓なき要塞と逆さの「人間」
学園都市の最高硬度ビル内部、出入口を空間移動に限定した要塞にステイル=マグヌスが立ち会った。室内は壁面一杯の機器群と配線に満たされ、中央の巨大ガラス筒には赤色培養液とともに「人間」アレイスターが逆さに浮かんでいた。彼は生命活動を機械に委ねる在り方を当然視し、推定寿命一七〇〇年という極端な姿を示していた。

対話の発端―「まずい事態」と呼ばれた事件
アレイスターは学園都市統括理事長として、事態が「まずい」と告げた。要点は吸血殺し(ディープブラッド)という稀少能力の保持者が監禁され、しかも魔術師が介入して三沢塾の施設を乗っ取ったことであった。

三沢塾の逸脱―科学崇拝と希少能力の神格化
三沢塾は学園都市の能力開発に触れる過程で科学崇拝へ傾き、「再現不能の希少能力」を価値として祭り上げた。学力と異能力が序列を形成する街の土壌も相まって、吸血殺しの「保管・研究」は求心力の道具と化していた。

均衡の問題―科学が魔術を討つことの政治的リスク
学園都市は街内の不祥事を隠蔽・鎮圧する手札を無数に持つが、科学側が魔術師を公然と討てば、技術流出と権威の衝突を招く。統合部隊の運用でも主導権争いと相互スパイ化は避け難い。ゆえに「魔術側の問題は魔術側で濯ぐ」ことが最適解と位置づけられた。

配置と役割―ステイルの起用と幻想殺しの同行
例外措置として、魔術側の人間であるステイル=マグヌスが派遣される。さらに学園都市は幻想殺し(イマジンブレイカー)を「無能力かつ技術流出の懸念がない戦力」として併走させる構図を提示した。ステイルはその評価を「狸」めいた打算と見て内心反発したが、表に出さなかった。

存在論の針―吸血殺しが証明してしまうもの
吸血殺しを是とすれば、吸血鬼という「ある生き物」の実在をも肯定することになる。無尽蔵の魔力という世界規模の危機概念が現実味を帯び、ステイルはその影響を重大視した。

観測の議論―シュレディンガーと能力の位置づけ
アレイスターは「現実は観測者により歪む」という比喩を持ち出し、能力者をリトマス紙のような指標と定義した。二三〇万人の能力者は目的でなく手段であり、法則の把握と操作こそが学園都市の本懐と示唆した。

心理の描写―恐怖と疑念、そして禁忌への配慮
ステイルは、人が機械へ境界を委ねるアレイスターの在り方に底冷えする恐怖を覚えた。同時に、幻想殺しの量産不可能性と、一〇万三〇〇〇〇冊の少女の扱いが学園都市の建前とどう整合するのか、疑念を胸に留めた。

章の着地点―二重の証明への伏線
事案の核心は二つの「証明」にある。吸血殺しが吸血鬼の実在を、幻想殺しがこの世界の何を暴くのか。アレイスターは後者に薄笑を添え、学園都市と必要悪の教会の綱引きの中で、三沢塾攻略の幕が上がるに至ったのである。

相席の成り行きと「食い倒れた」の一言
上条当麻・インデックス・青髪ピアスは満席の二階禁煙席で、眠る巫女を前に相席となった。巫女は開口一番「食い倒れた」と述べ、場の空気を凍らせたのである。

やけ食いの理由と電車賃の不足
巫女は五八円ハンバーガーを三〇個注文したと説明し、帰路の電車賃四〇〇円に対して全財産三〇〇円しかないと明かした。上条当麻は一〇〇円分だけ乗車距離を縮める案を提示したが、巫女は無言で上条当麻を見据え、支援を期待する姿勢を見せた。

一〇〇円をめぐる応酬と三者三様の反応
インデックスは不機嫌を隠さずシェイク三種を抱え、青髪ピアスは上条当麻の“女の子と自然に会話”する姿に錯乱気味であった。巫女は「美人に免じてあと一〇〇円」と畳みかけ、上条当麻は「顔を売って金にする性悪女は美人ではない」と反発し、火花が散った。

身上の告白――「巫女ではない、魔法使い」
インデックスが卜部流だの陰陽道だのと学派特定を迫る中、黒髪の少女は「巫女ではない。魔法使い」と名乗った。インデックスは学派・魔法名・結社名の開示を求めて激昂し、テーブルを叩いてさらにヒートアップした。

無音の包囲――気配を消した一団
騒然とするテーブルを、感情の欠落した瞳を持つスーツ姿の男たちが無音で取り囲んだ。周囲の客は誰も異常に気づかず、彼らの存在は風景から切り取られたように溶け込まない異物であった。

「塾の先生」発言と同行の決着
巫女は席を立ち、「彼ら」から無言で一〇〇円を受け取ると、「塾の先生」とだけ答え、階段へ向かった。男たちは影のように随行し、喧騒は遠のいた。青髪ピアスは「塾の先生が生徒の面倒を見る筋合いがあるのか」と疑念を漏らし、その場には不穏な余韻だけが残ったのである。

同居のぎこちなさと路地裏の違和感
夕暮れ、上条当麻はインデックスと帰路につく。猫騒動ののち、インデックスが「土属性の魔力の束」を感知して路地へ駆け込む。

赤髪の神父・ステイル=マグヌスの再会と威圧
背後から「久しぶりだね」と声。香水臭い修道服の少年・ステイルが現れる。彼はルーンで「人払い」を施し、大通りは無人化。炎剣で試すが、上条の右手・幻想殺しが即座に無効化。上条は自分の“戦い方を知っている”身体の反射に戦慄する。

封筒のブリーフィング――標的は「三沢塾」
ステイルはルーンで開いた資料を空中に展開。「三沢塾」は表向き予備校だが、内部に隠し区画・不可解な電力消費・外部に出ない食料の痕跡があり、女子生徒が一か月前から戻っていない。科学崇拝に染まった支部は、いまはチューリッヒ学派の錬金術師に乗っ取られている。

「吸血殺し(ディープブラッド)」の意味
監禁されているのは“吸血殺し”――吸血鬼を殺し、あるいは捕縛し得るとされる希少能力者。吸血鬼の実在は未確認だが、力の存在が“対象の存在”を逆説的に示してしまい、各勢力の切り札として奪い合いを招いている。ステイルは、学園都市と魔術側の技術均衡と政治的火種にも触れる。

強引な勧誘と“足枷”の宣告
ステイルは突入同行を一方的に決定。「拒否すれば禁書目録(インデックス)を回収する」と圧をかける。上条当麻は怒りを噛み殺しつつも、彼女の涙を守るために虚勢を貫く覚悟を固める。

吸血殺しの正体――姫神秋沙
提示された写真に写っていたのは、昼間ファストフードで出会った“巫女風”の少女。名は姫神秋沙。上条は彼女が「塾の先生」に囲まれた場面と、「帰りの電車賃が足りず、やけ食いしていた」状況を繋げ、脱走未遂の末に連れ戻されたと推理する。助けを乞えば他人を巻き込むと分かっていて、抵抗しなかった――その自己犠牲に上条は激昂し、救出を決意する。

到達点
標的は「三沢塾」、敵は錬金術師。救うべきは姫神秋沙。上条当麻は、インデックスを守る誓いと、姫神の“勝手な自己犠牲”を正すために、突入を受け入れる。

行間 一

イギリス清教の十三騎士団の一つ・先槍騎士団が、十年前、京都の山村で発生した「異常な魔力流」を調査に向かった。連絡途絶と警官失踪を受けた定型任務で、装備は施術鎧と十字槍のみと軽装。だが隊員たちは、英国の記録にのみ残る“ある生き物”(実在すれば世界が終わるほどの脅威)――無限の魔力を持つ存在――を本能的に警戒していた。

村に到着すると一面が白い灰に覆われ、死骸らしき痕跡は灰の吹雪のみ。中心には五、六歳ほどの黒髪の少女が無傷で立ち、彼女の周囲だけ灰が聖域のように避けていた。少女は平板に「わたし、またころしたのね」と告げる。
“吸血鬼は死ぬと灰になる”という伝承と符合する情景、そして無傷の少女の存在が、騎士団に決定的な戦慄を刻みつける。

第二章 魔女狩りは炎と共に By_The_Holy_Rood…

インデックスの事情と当麻の決断
インデックスは完全記憶能力で一〇万三〇〇〇〇冊を脳内保存するが、忘れられない負荷ゆえ定期的に記憶消去が必要な体質。上条当麻は彼女を戦場に連れていけず、言いくるめて寮に残す方針を取る。道中拾った子猫「スフィンクス」を巡って口論の末、当麻は“飼ってよし”と折れる。

ステイルの防衛措置と関係性
寮の前でステイル=マグヌスがルーン結界を構築し、炎の自動追尾霊装「イノケンティウス」を置いてインデックスの時間稼ぎ役に。弱点(結界内限定・ルーン破壊で無力化)も当麻の“知識”として示される。やり取りの中で、当麻はステイルのインデックスへの好意を見抜くが深掘りは避ける。

敵情—アウレオルス=イザードと錬金術
標的は「三沢塾」を乗っ取ったローマ正教の隠秘記録官アウレオルス=イザード。学派はチューリッヒ系の錬金術。ステイルいわく錬金術の本質は「創る」ではなく「知る」—世界の法則を網羅し頭内で完全再現(シミュレーション)し、そこから“想像を現実へ”と引き出す理。完成すれば脅威だが、人の寿命では詠唱(計算)し切れない未完の学。ゆえにアウレオルスは実戦向きではなく、現状できるのは要塞化や罠設置など“舞台作り”が中心と読む。

吸血殺しとの関係
ステイルの最大懸念はアウレオルス本人より“吸血殺し(ディープブラッド)”の扱い。もし“ある生き物(吸血鬼)”を手懐ける切り札にされていれば、事態は質的に跳ね上がる。

突入直前
当麻とステイルは夕焼けの街を抜け、「三沢塾」のビルに到達。ここから救出作戦(姫神秋沙)と要塞攻略に踏み込む。

奇妙な構造の学舎
上条とステイルは、学園都市に存在する四棟連結型の予備校「三沢塾」に到着した。ビル群は空中通路で「田」の字に結ばれ、外観は常識的ながら不自然な構造をしていた。ステイルは図面をもとに、錯視や錯覚で隠された十七の「隠し部屋」の存在を指摘し、最寄りの探索地点を南棟五階の食堂脇と定めた。しかし彼は、「怪しい所は見当たらない」と繰り返しながらも、その言葉に確信を欠いていた。

作戦なき突入
上条は慎重策を提案したが、ステイルは正面突破を選択した。魔術を使えばアウレオルスの“赤い魔力”に紛れることができず、逆に上条の右手“幻想殺し”は異常として常に検知される。二人は発信機を抱えて敵陣に入るような状態であり、上条は不満を漏らすも、結局は救出のために決意を固めた。

ロビーの異常と鎧の死体
ビル内部は光の差し込む清潔なロビーで、生徒達が日常通りに行き交っていた。しかしエレベーター脇には「Parsifal」と刻まれた全身鎧が破壊されて転がり、赤黒い液体を流していた。誰もそれに関心を示さず、上条だけが異常を感知した。ステイルによれば、それはローマ正教の十三騎士団の一人であり、戦闘で死亡した騎士の遺体であった。

見えない壁と二重の世界
上条は鎧の救助を試みたが、生徒に触れた瞬間、巨大な力に弾かれた。ステイルはそれを“結界”と断定し、この施設が「コインの表」と「裏」のように二重構造を成すことを説明した。表の住人である一般生徒は裏の魔術師を認識できず、裏の侵入者もまた表の世界に干渉できない。幻想殺しの拳も無力であり、内部から結界を破壊することは不可能であった。

死者への祈り
上条はそれでも鎧の中の者を助けようとしたが、ステイルは「既に助からない」と冷静に断じた。怒りに駆られて掴みかかる上条に対し、ステイルは静かに祈りを捧げる。彼の口から発せられた言葉は外国語で意味は分からなかったが、ひしゃげた騎士の右手がわずかに動き、安らかな弛緩を見せて息絶えた。
ステイルは十字を切り、神父として死者を送った。
上条はその背中を見つめながら、ここが紛れもない「戦場」であることを悟る。
そして、ステイルは短く告げた。
「――戦う理由が、増えたみたいだ。」

階段を進む疲弊
上条とステイルは、南棟五階食堂脇にある隠し部屋を目指し、非常階段を登っていた。建物が「コインの表」に属しているため、「裏」に立つ二人は物理的な干渉を受けられず、床を踏むたびに衝撃が全て自身へ返ってくる構造であった。そのため疲労は倍増し、精神よりも身体の負担が先に限界へ近づいていた。

エレベーターの不使用
上条は階段の厳しさに愚痴をこぼし、エレベーターを提案したが、ステイルは即座に否定した。「表」に属する装置は「裏」の存在では操作できず、仮に乗り合わせても接触できぬまま押し潰されるだけだと述べた。二人は物理的にも精神的にも孤立した環境の中で、わずかな会話を頼りに登攀を続けた。

電話の試みと安堵
息抜きも兼ねて上条は携帯電話を取り出し、寮に残したインデックスへ発信した。結界の影響を危惧したが、通話は正常に繋がった。電話越しのインデックスは受話器の扱いに慣れず、混乱の中で弁当やプリンを食べてしまったことを弁解した。上条は怒りつつも、久々に日常を感じて気持ちを落ち着かせた。戦場にいながらも、彼にとってそのやり取りは心の休息となった。

ステイルの静かな嫉妬
通話を終えた後、ステイルは戦場での緊張感を欠く上条を咎めたが、上条の「妬いてるのか」という問いに言葉を詰まらせ、最後には認めた。ただしそれは恋愛ではなく、インデックスを守ろうとした一人の“同僚”としての悔恨であった。ステイルは静かに語る。インデックスには、記憶を失うたびに傍らで寄り添おうとした者がいた。父親、兄妹、親友、師――そして自分もその一人であったと。だが、皆が忘れ去られ、上条だけが彼女を救えた。その差が痛みとして残っているのだと。

上条の沈黙と責任の重み
ステイルの言葉に上条は沈黙した。もし大切な人が記憶を失い、代わりに自分が“別人”として隣に立つ状況を迎えたなら、果たして受け入れられるのか。インデックスを「今の自分」が独占する権利があるのかという疑問が生まれた。
だが同時に、上条は思う。たとえ自分が“記憶を失う前の上条当麻”とは異なる存在であっても、助けた責任は果たすべきであると。拾った命を途中で投げ出すことは、希望を与えてから奪う残酷さに等しい。そう自らに言い聞かせながら、上条は静かに階段を登り続けた。

隠し部屋の所在確認
上条とステイルは南棟五階へ到達し、図面と実測の齟齬から食堂脇の壁面に隠し部屋があると見当をつけた。だが「裏」にいる彼らは「表」の建具を操作できず、位置把握のみを優先する判断となった。

学食に漂う科学宗教性
二人は混雑する食堂へ進入した。生徒らは点数や効率のみを語り、互いを貶めて安心を得る空気に満ちていた。壁面のポスターは“勉強すれば幸福/しなければ不幸”の二項対立で不安を煽る内容であり、上条はこの装置的な煽動こそ三沢塾の“科学宗教”だと断じた。

自動警報と“グレゴリオの聖歌隊(レプリカ)”
隠し部屋に近づいた刹那、食堂の全生徒が一斉に無機質な視線を向け、合唱めいた詠唱を開始した。各人の眉間に青白い球体が生じ、強酸のように侵蝕する弾として放たれ始めた。ステイルはこれを多数同調式の大魔術“グレゴリオの聖歌隊”の模造と見抜き、同調の核を破壊しない限り数の暴力に呑まれると分析した。

階段での分断と“囮”の露見
通路へ退避した二人は前後から球体の洪水に挟撃され、階段へ飛び込んだ。ここでステイルは「秘策」を口にしつつ上条を下階へ突き落とし、自身は上階へ走った。上条は自らの右手〈幻想殺し〉が常時“異常”を露呈する発信源であることを悟り、囮として利用された事実に気づいた。

受験生少女の自己崩壊
階下には黒髪眼鏡の受験生が立ち塞がり、詠唱のたびに体内回路が破綻するかのように皮膚が微細爆発を繰り返した。上条の“知識”は、能力開発を受けた学園都市の学生が無理に魔術系統を流せば回路焼損のように自傷へ転落する、と警鐘を鳴らしていた。

上条の選択
洪水のような球体が迫る中、上条は“敵は捨て置け”“荷は重い”という打算を退け、崩れ落ちる少女を抱き留めて撤退を図った。右手で至近の弾を弾きながらも、意識を失った身体の重さに足を取られ、決定的な遅延を招いた。

球体の失速と姫神の出現
飲み込まれる直前、無数の球体は空間で一時停止し、やがて落下して消散した。階段下の出入口には夕光が差し込み、その逆光の中に“吸血殺し”姫神秋沙が静かに立っていた。場は一転し、救済と対峙の焦点が彼女へ収束したのである。

核の破壊と通路の惨状
ステイル=マグヌスは生徒の微量な魔力が一点に集約する流れを読み取り、通路の壁内部に隠された「グレゴリオの聖歌隊」の核を特定して破壊したのである。炎は微細な隙間からでも流し込めるため封じは無意味と判断した結果であった。魔術の無理な行使で倒れた生徒が通路や室内に多数横たわり、血の匂いが漂う惨状に、ステイルは自らの言葉に人間味が残ることへ苦味を覚えていた。

大胆な足音と白衣の来訪者
通路の奥から、奇襲ではなく勝利を確信したかのような足音が近づいた。現れたのは純白のスーツに身を包んだ若い男アウレオルスである。館そのものが聖域という巨大な魔道具である以上、自身が多数の魔道具を携える必要はないと示唆しつつ、彼は侵入者への対処を宣言した。

瞬間錬金の披露と脅威
アウレオルスは右袖から鎖付きの黄金の刃を射出し、倒れていた生徒の背へ突き立てた。刺傷部から身体は瞬時に金色の液体へと変質し、純金の溶融体として弾け飛んだのである。彼は自らの術を瞬間錬金と述べ、傷を付けた対象を即座に純金へ強制変換できると誇示した。

ステイルの反論と挑発
ステイルは、術そのものの速度や派手さを誇る姿勢を無駄と断じ、人を強酸で溶かすのと変わらぬ結果だと批評した。魔術は結果ではなく実験であり検証であると指摘し、ここでイノケンティウスを向けるのは弱者いじめに過ぎないと切り捨てて、アウレオルスの本分を問い直したのである。

蜂の巣となる幻影と正体の看破
アウレオルスは怒気を込めて瞬間錬金を連射し、ステイルの上半身に大穴を穿った。しかし、それは蜃気楼によって作られた幻であった。空気を熱して屈折率を変えた映像に攻撃を誘導させる一方、実体のステイルは背後へ回り込み、炎剣でアウレオルスの左腕と左脚を一挙に切断した。ステイルは相手がアウレオルス=イザード本人ではなくアウレオルス=ダミーであると看破し、錬金の目的や姿勢が本物の信念に反していると突きつけた。

動揺と純金の飛沫による反撃
理性を失いかけたアウレオルス=ダミーは周囲の生徒へ次々と刃を突き立てて純金化させ、その溶融金を瞬間錬金で攪拌・散布して遠心的に飛沫化させた。ステイルは炎剣の爆破で飛沫をまとめて払いつつ煙を切り裂いたが、ダミーは混乱に乗じて姿を消した。

退路の選択と遠回りの決断
通路には高熱の純金が水溜まりのように横たわり、追撃は危険であった。ステイルは三沢塾が空中の渡り廊下で四棟を連結している構造を踏まえ、回り道での追跡に切り替える判断を下したのである。

本物への言及と価値観の衝突
ステイルは対話の端々で、真のアウレオルス=イザードは人としての尊厳を保ったまま到達点を探るはずで、外部存在である吸血鬼に安易に頼ることも、術そのものを結果より尊ぶこともないと断じた。ダミーはその言葉に内面を揺さぶられ、自身が借り物の力に依存している現実と、容易に敗北し得る矛盾に崩れていったのである。

姫神秋沙の応急処置
上条当麻は「三沢塾」の生徒を廊下へ運び出し、姫神秋沙は止血・圧迫・縫合まで迅速に施したのである。皮膚裂傷と毛細血管損傷が中心で動脈損傷は否定し、二時間以内の病院搬送を提案した。上条は返り血を浴びつつも、救えた事実に安堵した。

退避判断と姫神への勧告
上条は救急車の事前手配と退避を決め、姫神にも同行を促した。長期監禁の影響で「逃げる」発想が希薄な姫神は戸惑いを見せたが、上条は外へ出る意思を明確にした。

アウレオルス=イザードの再出現
左腕と左脚を炎剣で失ったアウレオルス=イザードが、金色の義肢を突き刺して狂気を帯びて現れた。彼は六人の生徒を「材料」と称し、瞬間錬金の鎌と鎖で貫いて純金へ変換し、周囲を高熱の金属津波で満たしたのである。

黄金の津波と上条の初動
姫神は怪我人を抱えて数歩後退し、上条も後退したが、黄金の鎌が真円軌道で突進した。上条は回避姿勢のまま右手で刃を掴み、手掌を裂傷させつつ飛翔軌道を逸らした。

幻想殺しの発現と鎌の崩壊
上条の右手「幻想殺し」は、鎌と鎖に宿る異能を遅延的に打ち消し、黄金の刃を砂像のように崩壊させた。アウレオルスは理の否定に動揺しつつも連射を加速し、上条は右手で受け払い続けた。

姫神への照準と無名の少女の自己犠牲
錯乱したアウレオルスは姫神秋沙の眉間を狙ったが、支えられていた負傷少女が身を挺して掌で受け、笑みを残して純金へと変換され消失した。上条は咆哮し、錬金術師の動作を一拍遅らせた。

鎖の非致死性の看破と反撃
上条は瞬間錬金の致死効果が「鎌」に限られると直感し、左手で鎖を掴んで足で踏み潰した。アウレオルスは引かれて一歩、灼熱の金属溜まりへ踏み込み、右足を焼損した。

窓枠走法による跳躍と包み込み
上条は助走なしで三メートルの金属溜まりを越えるため、窓枠の出っ張りを踏み台に斜め上から覆いかぶさる軌道で突入した。ここで瞬間錬金を撃てば、降り注ぐ溶融金属が自滅を招くという配置が成立した。

錬金術師の撤退
自己危険を察したアウレオルス=イザードは背転して回避し、そのまま敗走へ移った。魔術師でもない上条当麻に背を向ける屈辱を呑み込み、暗がりへ転げるように退いたのである。

ダミーの逃走と大量殺戮計画
アウレオルス=ダミーは「三沢塾」全体が瞬間錬金の本体であるとの前提に立ち、最上階から黄金の濁流を流し込む殲滅案を描いていた。だが核をステイルに破壊された現実と、上条当麻の右手が底なしに異能を喰う事実に恐怖し、撤退を選んだのである。

上条当麻の追撃と無言の殺意
上条は無駄口を排し、救えたはずの命を奪われた怒りを内に燃やして接近した。アウレオルスは連射で迎撃したが、上条は屈身で第一射を誘導し、第二射を右手の裏拳で砕いて前進を継続した。直後に右拳と額打ちの連撃で錬金術師を地へ沈めたのである。

鎖の無効化と肉体制圧
上条は左手で黄金の鎖を掴み、自らの腕に巻き付けて射出機構を封じた。義足を踏み外して引き抜き、さらに鎖を叩きつけて動きを止め、頸へ巻いて締め落としに移行したが、「助けて」の懇願に手を止めた。上条は相手がなお「人間」であると判断し、致死行為を退けたのである。

ダミーの崩壊と自己認識
アウレオルス=ダミーは一撃以降、結界からの供給が断たれ自立不能な「量産品」に過ぎないと悟った。上条の右手に学術的好奇心を見出しつつも、満足と虚無の狭間で非常階段へ転がり落ち、余命わずかの自失状態に陥った。

ステイル=マグヌスの引導
ステイルは「手向け」と称して現れ、学者としての未練が再燃する前に終わらせると告げた。儀礼として魔法名を示し、祈りを拒む錬金術師に対し、炎を口腔から流し込み内部から焼却した。全身は内側から破裂し、上半身は炎噴流で吹き飛び、ここにダミーは消滅したのである。

風呂場の小戦争と違和感の芽生え
学生寮の風呂場で、インデックスは三毛猫スフィンクスの「再教育」を断行し、泡まみれの攻防を展開したのである。元飼い猫ゆえの不遜さ(遊ばない・呼んでも動かない・食事強奪)に手を焼きつつも、上条当麻の親切なメモに従って湯沸かし機能を使いこなしていた。

上条当麻への疑念と電話という壁
インデックスは、上条当麻が「嫌なことをしない」性格にもかかわらず、電話の件や猫の横取りを容認した不自然さに気づいた。問い質そうと玄関へ向かったが、家の電話(ファクシミリ付き)の操作は理解不能で、連絡という手段は実質封鎖されたままであった。

壁のルーンと置いてきぼりの予感
部屋へ戻る途中、壁に貼られたルーンカードを発見した。ステイル=マグヌスの魔術であると即座に看破し、数日前に病室で味わった「透明な少年」絡みの絶望と焦燥が蘇った。誰かがまた自分を置いたまま事態を動かしている――その確信がインデックスを突き動かしたのである。

魔力の糸を辿る決断
インデックスは魔術を行使できないが、魔力の感知は可能である。ルーンが術者からの持続供給で作動する性質を理解し、幽体離脱の糸の如き魔力の流れを追跡可能と判断した。十万三千冊の知識を根拠に、戦場へ走ることを決めたのである。

駆け出す聖職者、そして新たな火種
戸締まりも忘れて寮室を飛び出したインデックスは、上条当麻の行方と渦中の真相を追うため「戦場」へ向かった。皮肉にも、その行動こそが新たなトラブルの火種となる運命を孕んでいたのである。

第三章 主は閉じた世界の神のごとく DEUS_EX_MACHINA.

北棟最上階への探索
ステイル=マグヌスは「三沢塾」北棟の最上階を目指していた。囮として放った上条当麻が想定以上に敵を引きつけたため、ステイル自身には妨害がない。彼は隠者(ハーミット)のごとく行動し、複数の隠し部屋を検証してその構造を把握した。結果、姫神秋沙は監禁ではなく、むしろ自らアウレオルス=イザードに協力している可能性が高いと判断したのである。

異能者への不信と少年への棘
ステイルは異能者全般を嫌悪していた。だが、上条が階段から突き落とされた際に見せた「裏切られたような表情」が心に刺さる。自らを盾に利用すると明言されたにもかかわらず、上条はなお彼を“仲間”として信じた。その純粋な反応が、ステイルの内側に小さな棘を残したのである。苛立ちを覚えながらも、少年が囮になった以上、相応の成果を上げねばならぬと自らを駆り立て、階段を駆け上がった。

背後の声と未知の出現
突如として、背後から冷たい声が響いた。狭い非常階段を昇っていたステイルがすれ違いを見逃すはずもない。にもかかわらず、その声は“何もない空間”から現れた。振り返ると同時に、背後を取られた事実が致命的な意味を持つことを、ステイルは直感した。

異常な「死んだ魔塔」
その頃、インデックスは「三沢塾」前に到着していた。建物の外壁を境に魔力の糸が完全に途絶しており、そこだけ世界の“力”が存在しない。通常なら感知不能な界力の欠落が、魔力を持たぬ彼女には息苦しさとして明確に伝わった。世界の力を遮断したこの四つのビルは、まるで切り取られた墓標――“死んだ魔塔”と化していた。

内部の異様と血塗られたロビー
インデックスはロビーへ進入した。そこではローマ正教の騎士が施術鎧ごと圧壊しており、魔術防御を無視した純粋な物理破壊の跡があった。敵は常識外の力を持つ。魔術の素養を持たぬ上条をこんな場所に置くのは危険と判断し、警戒を強めた。

這い出る異形と粉砕の魔手
非常階段から、下半身を失い炭化した“人ならざるもの”が這い出てきた。それはまだ動いており、インデックスへ飛びかかった。避けようとした瞬間、横のエレベーター壁が「砕けよ」の声とともに破壊され、内部から伸びた手が異形の頭を掴み、一瞬で粉砕した。まるで灰を砕くように、残骸は空中で崩れ、風に溶けた。

神の如き男との再会
「開け」の命令とともに、歪んだエレベータードアが強制的に開く。現れたのは、緑の髪をオールバックに撫でつけ、純白のスーツを纏う長身の男――アウレオルス=イザードであった。彼はインデックスに微笑みかけながら「久しいな、禁書目録」と語り、彼女の記憶喪失を当然のように喜んだ。

そして、インデックスが息を呑み「金色の……アルス=マグナ?」と名を呼ぶと、男は柔らかな笑みでそれを肯定するように答えた。

帰還願望と自己嫌悪の芽生え
上条は姫神と合流し、戦場から離れて帰ろうと考えていた。アウレオルスは倒したと判断し、日常へ戻ることだけを望んでいたが、ステイルから聞いたインデックスの記憶喪失の事実や一年ごとに新たな協力者を得ていたという経緯を思い出し、自分がその他大勢である可能性に動揺していた。上条は所有願望めいた感情に自己嫌悪を覚え、深呼吸で心を落ち着かせようとしていた。

姫神の指摘:倒したのは偽物
姫神は上条が倒したアウレオルスは影武者であり、本物は無闇に人を殺さないと断じた。鍼を常用していない点や立ち居振る舞いの品のなさを根拠にし、上条の帰還の論理を揺さぶった。上条は認めたくなかったが、姫神の静かな断言によって思考の空回りを止めた。

姫神の目的の告白とディープブラッドの本質
姫神は三沢塾に留まるのは自らの目的のためであり、アウレオルスの存在が不可欠であると語った。自身の血が吸血鬼を誘い、一滴でも吸えば灰に還す性質を持つこと、そして甘い匂いによる強い誘引性があることを明かし、人間には害がない一方で吸血鬼を例外なく殺してしまう現実に苦悩していた。姫神はもう誰も殺したくないため、この力を助けるために使うと決め、アウレオルスが約束した歩く教会の結界服に希望を見いだしていた。

理想と現実の齟齬に対する上条の応答
上条はアウレオルスがまだ人の道に踏みとどまっているのなら止めなければ取り返しがつかなくなると考え、姫神を連れて帰るのではなく話をつける決意を固めた。姫神はアウレオルスを知人のように評価しつつも、理想と現実のズレが生じていることを内心理解している様子であった。

本物のアウレオルスの出現と結界支配
上条と姫神の前に、虚空から本物のアウレオルスが出現した。彼は鍼を首に刺して状態を調整しつつ、距離や位置の概念を歪める力で上条の接近と後退を同時に無効化し、圧倒的な威圧で支配した。上条は幻想殺しを意識したが、何を打ち消せば良いか掴めず足が竦んだ。

ディープブラッドの限定性と最後の拠り所の否定
アウレオルスは姫神の力が吸血鬼にのみ作用する血であり、人間には無害であると断じ、上条が最後に吸血殺しへ望みを託した点を糾弾した。姫神は上条の行動が自己紹介もない他人を助けるためだったと弁護し、アウレオルスの目的を問い質した。

禁書目録への言及と記憶消去の宣告
アウレオルスは禁書目録の扱いに言及し、上条はインデックスがここにいる可能性に息を呑んだ。状況を打破しようとした上条に対し、アウレオルスは殺しはしないと述べた上で、ここで起きたことを全て忘れろと宣告し、事態を自らの都合で収束させようとしていた。

忘却の帰路と違和感の兆し
上条当麻は停留所で意識を取り戻し、病院へ向かう算段を立てていたが、頭の奥に「三沢塾」への得体の知れぬ違和感が残った。やがて右手で頭を押さえた瞬間、今日一日の記憶が洪水のように蘇り、アウレオルス=イザードの「全て忘れろ」による記憶改変を受けていた事実に気づいたのである。

無人の繁華街と銀鎧の包囲
「三沢塾」に駆け戻る途上、繁華街から人影が消えている異常を察し、人払いの結界に近い現象であると推測した。現地では銀鎧の集団が四棟のビル群を取り囲み、その一体がローマ正教十三騎士団「ランスロット」ことビットリオ=カゼラと名乗った。彼らは「グレゴリオの聖歌隊」による聖呪爆撃の開始を通告し、巻き込みを厭わぬ硬直した論理を示した。

紅蓮の神槍と世界の巻き戻し
赤い雷槍がビルを貫き三棟を半壊させる甚大な破壊が発生したが、直後に粉塵と瓦礫が逆流し、建物も人も傷ひとつなかったかのように復元された。上条は攻撃そのものが術者へと「巻き戻された」と看破し、これこそが本物のアウレオルス=イザードの“改変”の規模であると理解して戦慄した。

日常の偽装と「戦場」への再突入
自動ドア一枚の向こうに広がる「授業中の平穏」は、死亡者さえ無かったことにする冷酷な偽装であった。上条は教室で、先に溶解したはずの三つ編みの少女の無事な姿を目にし、改めて現実の改竄を確信した。

ステイルとの再会と記憶の復旧
通路でステイル=マグヌスと再会したが、彼もまた古い層から記憶を消されていた。北棟にいたことを確認して「復活の上書き」の危険が及ばないと判断した上条は、右手でアッパーカットを見舞い、幻想殺しによりステイルの記憶を復旧させた。ステイルは舌を噛んで転げ回りつつも、三沢塾内部の状況を即座に思い出したのである。

情勢の核心
外周ではローマ正教が原典級兵装で圧をかけ、内部ではアウレオルスが結界と「巻き戻し」によって因果を掌握していた。姫神秋沙の安否、インデックスの所在、そして“記憶を断つ声”の再発を警戒しつつ、上条とステイルは結界の支配者へ再び挑む段へ入ったのである。

最上階の静観と目的の一点化
北棟最上階「校長室」にて、アウレオルス=イザードは夜景ではなく窓に映る己の無表情だけを見つめていた。感情を削り落としてでも達すべき目的は一つ、禁書目録を抱えた少女を救うことであると確信していたのである。

禁書目録との出会いと教会への背反
アウレオルスはローマ正教の隠秘記録官として魔道書を編纂し、魔女の脅威に対抗する「切り札」を著してきた。だが教会はそれを独占し改宗の道具としたため、彼は外部(イギリス清教)へ知を持ち出し救済を図った。その過程で、一〇万三〇〇〇冊の邪本を宿す禁書目録と出会い、年ごとの記憶消去に依存する悲劇を目の当たりにした。

救済の破綻と堕落の転位
幾冊もの魔道書を書き続けても禁書目録は救えず、アウレオルスは自分が「救うため」ではなく「彼女に会うため」に筆を執っていたと自覚した瞬間、信念は崩壊した。以後、彼は人の理から踏み外し、ヘルメス学に根ざす錬金術と「吸血殺し(ディープブラッド)」までをも利用対象とするに至った。

外縁戦況:真・聖歌隊の無力化
外ではローマ正教十三騎士団が「グレゴリオの聖歌隊(原典)」を行使したが、放たれた紅蓮の神槍は因果の「巻き戻し」で術者へ返送され、被害はなかったことに改竄された。これにより、アウレオルスの改変能力の規模が確認された。

上条とステイルの推論:アルス=マグナの影
上条は「近づくな/忘れろ/世界の巻き戻し」という超常の挙動から、ステイルの語る錬金術の究極「アルス=マグナ(世界を思い通りに歪める)」を想起した。ステイルは本来それが人間の寿命では行使不能な長大儀式であると否定するが、現実の改変規模に声を震わせた。

動機の核心と決定的不可能
ステイルは、事件の核が禁書目録にあると断定した。インデックスには毎年新たな協力者がつく構造があり、三年前の担当はアウレオルスだった。歴代の協力者同様、彼も記憶消去の運命を変えられず離別したはずだが、彼はなお「救済」をやり直そうとしている。ところが今年、上条によってインデックスはすでに「救われて」いるため、アウレオルスが果たすべき救済は論理的に成立しない。ゆえに彼は記憶の改竄という非道へ踏み込み、「救えない理由」を世界ごと塗り替えようとしていると推測された。

対峙への扉
上条とステイルは校長室前へ到達した。扉は自動的に開かれ、二人は「既に救いの成立した世界」で、なお救済を掲げる錬金術師との決着に踏み込もうとしていた。

空虚な校長室と価値の喪失
北棟最上階の校長室は虚飾に満ちつつも空虚であった。アウレオルス=イザードは世界を書き換える力を誇示しながら、創り得るもの全てに価値を見いだせなくなっていた。そこへ上条当麻とステイル=マグヌス、さらに姫神秋沙が揃い、対峙の場が整ったのである。

「既に救われた」事実の突きつけ
ステイルは、インデックスが今代のパートナーによって既に救済済みである事実を告げた。さらに右手の「幻想殺し」が人の身に余る異能を打ち消す性質であることを明かし、三年越しの執着が無効化された現状を突きつけた。これによりアウレオルスの均衡は崩れ、内面の破綻が露呈した。

インデックスの微笑と錬金術師の沈墜
眠っていたインデックスが覚醒し、視線はただ上条当麻だけを捉えた。かつて「救済」を誓った相手からの完全な失念は、アウレオルスの最後の拠り所を粉砕した。しかし彼はなおインデックスに刃を向けきれず、噴出した殺意の矛先は上条へと転じた。

圧制と禁呪の宣告
アウレオルスの命令により見えない重圧が二人を床へ縫い付け、状況は絶望的となった。上条は自らの歯で右手に触れて拘束を打ち消し、体勢を立て直そうとする。だが錬金術師は姫神秋沙を前に「死ね」と言い放ち、因果そのものを書き換える殺の命令を実行した。

「死」の打消しと怒りの確定
姫神は倒れ込むが、上条の右手に触れた瞬間に微弱な鼓動が戻り、致死の改変は破られた。上条は、忘却や裏切りに苛まれたとしても、他人を傷つけて憂さを晴らす思考は決して認められないと断じ、錬金術師を「人間」として許容しない覚悟を固めた。

宣戦の一句――幻想をぶち殺す
姫神をそっと床に横たえた上条は、昂然と立ち上がる。世界を思い通りに歪めるという思い上がり――その「ふざけた幻想」を、右手の「幻想殺し」で叩き潰すと宣言した。ここに、上条当麻とアウレオルス=イザードの最終決戦が不可避となったのである。

行間 二

十年前の夜と“逆襲する血”
京都の山村が吸血鬼に襲撃され、村は一夜で地獄と化す。逃げ惑う中、姫神秋沙を噛んだ吸血鬼は噛んだ瞬間に灰へと崩れた。彼女の血は吸血鬼だけを溶かす“逆襲”の性質を持ち、村人たちは「ごめんなさい」と謝りながら次々と灰になって消えていった。

誰も救われない平和と気づき
最終的に村は灰の吹雪に覆われ、吸血鬼も人もいなくなった“平和”だけが残る。姫神秋沙は、村を襲った吸血鬼すら恐怖に追い詰められた被害者だったのだと理解する。自分の血は守りにも救いにもならず、ただ“消す”だけ――誰も報われない現実を知る。

願いの芽生え――魔法使いになりたい
被害者も加害者も、さらには死者すら地獄の底から救い上げる“絵本の魔法使い”のようになりたい――姫神秋沙はそう強く願う。錬金術師と出会った時、叶わぬ夢が進路のように近づいた気がして胸を高鳴らせた。

現在へ――残酷な命令と、少年の叫び
いま目の前のアウレオルス=イザードは「死ね」と言い放つ。意識が闇に沈む直前、姫神秋沙は上条当麻の「ふざけんじゃねえぞ、テメェ!!」という叫びを聞いた気がする。魔術師でも錬金術師でもないただの人間が、彼女の死に本気で怒っている――その姿に、姫神秋沙は自分のユメの光を重ね見る。

第四章殺しの七並べ Deadly_Sins.

上条とアウレオルスの開戦
上条当麻は倒れた姫神秋沙に目を向けず、言葉で世界を歪めるアウレオルス=イザードへ踏み込んだのである。開始直後、上条は窒息を命じられて呼吸を奪われたが、喉へ指を突き入れて右手で異常を打ち消し、五秒で呼吸を取り戻した。

電撃・絞殺・圧殺の連撃と右手の有効性
アウレオルスは感電死や絞殺・圧殺を次々宣言したが、上条は右手で電光やロープ、落下物を触れては消し去り、攻撃の予兆を言葉から先読みして対処したのである。これにより上条は恐怖より高揚を覚え、対応の道筋を掴んだ。

暗器銃の出現と不可避の弾丸
アウレオルスは鍼を打ち込み、剣に銃を仕込んだ暗器銃を出現させ、人間の動体視力を超える速度で魔弾を射出した。上条は十連射を受けて吹き飛ばされたが、致命傷は避けて行動可能であった。アウレオルスは簡単には殺さないと示唆しており、狙いは別にあると見えた。

ステイルの陽動と時間稼ぎ
ステイル=マグヌスは上条を生かすため注意を引き、黄金練成の実現方法を議論へ誘導した。インデックスはグレゴリオの聖歌隊による並列詠唱で儀式を短期完成させた推定を述べ、アウレオルスは一部肯定したのである。上条はその間に携帯電話を投げて隙を作り、間合いを詰めようとした。

魔女狩りの王のはったりと惨劇
ステイルは魔女狩りの王を名指ししてさらに注意を逸らしたが、アウレオルスは処刑のように命令を重ね、ステイルの身体を内側から爆散させた。それでも血管と内臓は循環を保ち、ステイルは生存していた。上条は悲鳴を飲み込み、ステイルの言葉に含まれた示唆――鍼――へ思考を向けた。

鍼という手掛かりと違和感の連鎖
上条は鍼が神経を刺激し興奮を制御する医学的手法であることを思い出し、アウレオルスが頻繁に首へ鍼を打つ理由を考えた。右手の力を無効化しない、吸血鬼を作らないなどの不自然さが積み重なり、上条は黄金練成が言葉通りではなく、アウレオルスの思考や不安に現実が従う性質であるとの仮説へ至った。

右腕切断と確信の芽生え
アウレオルスは右腕の切断を優先する命令を行い、暗器銃の刀身を回転射出させて上条の右腕を肩口から切断した。心臓を握り潰すより先に右腕を奪った事実から、彼が右手の力だけは言葉でどうにもできないと恐れていると上条は確信したのである。やるべきことが見えた上条の意識は、戦闘の次段へと切り替わった。

不敵な笑みと“必殺”の外れ
右腕を切断された上条当麻は笑い、動揺するアウレオルス=イザードは暗器銃で眼球狙いの射撃を命じたが、魔弾は頬をかすめて外れたのである。続く一〇連射も掠り傷すら与えられず、上条は肩口から出血を続けながらも笑いを崩さなかった。

「不安」の膨張と命令の空転
二度の不発により、アウレオルスの胸中に「不安」が芽生えた。三度目の命令で天井からギロチン刃を雨あられと降らせたが、刃は上条に触れた端から砂糖細工のように砕け散った。上条は嘲るように笑い続け、攻撃の弱点を見抜いた確信を示したのである。

言葉と想像の逆転事故
アウレオルスは「直接死ね」と言い切れず、心のノイズに言葉を乱された。平静を保つための治療鍼も取り落とし、口にした「言葉」に固定されるはずの黄金練成が、むしろ未固定の「想像」側に引きずられて暴発する兆候を示した。彼の術は「言葉通り」ではなく「思い通り」を実現する性質であり、その根にある「不安」すら現実化させる諸刃であった。

無言の接近と宣告
上条は無言で歩を進め、至近で吐き捨てるように「右腕を斬れば幻想殺しを潰せると思うな」と宣した。アウレオルスは祈ることしかできず、しかし「思う」ことを止められず、「不安」を拡大させた。

血飛沫が形を与えた“竜王の顎”
次の瞬間、上条の断面から噴き上がる血が透明の輪郭を染め、二メートル級の“竜王の顎”が右腕の代位として顕現した。顎が空気を噛んだ刹那、室内に充満していたアウレオルスの気配が一変し、先の命令で四散していたステイル=マグヌスの血肉が収斂、命令が打ち消されたかのようにステイルは無傷で床へと落下した。

崩落する自制と最後の抵抗の消滅
「不安」が現実を改変した事実を自認したアウレオルスは、なおも「落ち着けば消せる」と己に言い聞かせたが、視界は狭まり、足は後退し、治療鍼は折れていた。制御不能な黄金練成は自壊の局面へ至り、上条の“顎”が主導権を奪取したのである。

決着の嚥下
対峙は机一つを隔てた至近へと縮まり、恐怖の極みに達したアウレオルスは「敵わない」と思ってしまった。直後、最大まで開いた“竜王の顎”がアウレオルスを頭から呑み込み、勝負は終局へ傾いたのである。

終章侵蝕のディープブラッド Devil_or_God.

病室の再生とカエル顔の医者
上条当麻は病院で右腕の再接合手術を受け、断面が極端に綺麗であったため一日ほどで連結が進んだと告げられたのである。カエル顔の医者は軽口を叩きつつも回復の異常な早さを指摘し、上条は戸惑いを隠せなかった。

ステイルの来訪と“必殺不発”の種明かし
ステイル=マグヌスが見舞いに現れ、上条が“棒立ちのまま”弾丸を二度外させた場面はハッタリではなく、炎と熱気で蜃気楼を作り視差を生んだ彼の援護によるものだと明かした。上条の挑発と演技はその後の“不安”増幅に効いたが、導入の決定打はステイルの術であったと示された。

アウレオルスの最期と現実的帰結
アウレオルス=イザードは事件後、記憶を失った状態で多方面からの標的となり、ステイルの手で葬られたと語られた。世界初の黄金練成の成功者として拷問と搾取が確実視される未来より、死が“より軽い”選択であるという冷徹な判断が示されたのである。上条は納得しきれずも、人命軽視への怒りが自らの原動力であった事実を再確認した。

「殺す」の定義転換と救済の示唆
ステイルは「命を奪うことだけが殺すではない」として、記憶を失った者が外見を変えれば社会的には“別人”になり得るという比喩を提示した。顔を焼いて治して造形を変えるという彼の専門的手段は、実体の抹消ではなく“社会的死”としての救済を含意していたのである。

インデックスの乱入と“ありがとう”
インデックスが病室へ飛び込み、メロン味ポテチをめぐる騒動のさなか、ステイルは無言で去ろうとした。インデックスは扉際で小さく「ありがとうね」と告げ、ステイルは満たされた表情で仕事へ戻った。三人の関係性はぎこちなさを残しつつも、確かな信頼の糸が確認されたといえる。

“竜王の顎”への自問と幻想殺しの不気味さ
上条は右腕の断面から現れた“竜王の顎”を思い返し、それが本当にアウレオルスの“不安”だけで具体像に至ったのかを疑問視した。もし“幻想殺し”そのものに未知の相が潜むなら、その価値と危うさは姫神秋沙の“吸血殺し”を遥かに凌ぐ。上条は正体不明の右腕に戦慄しつつも、守るべき少女を守れた現実を優先したのである。

姫神秋沙の去就と小さなオチ
インデックスは姫神秋沙が教会に預けられる手筈になったと告げた。結論として“歩く教会”も“教会”であるという言葉遊びが落としどころとなり、戦場の余韻は日常の会話へと緩やかに回収された。上条は曖昧に笑い、今は目の前の平穏を受け入れる選択をしたのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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