小説「怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました」感想・ネタバレ

小説「怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は、悪役貴族と悪役令嬢が織りなす逆転結婚ファンタジーである。主人公アルバン・オードランは、傲慢で怠惰な悪役貴族として知られていたが、自身が破滅する運命にあることに気づき、改心を決意する。そんな彼のもとに、婚約破棄された悪役令嬢レティシアとの縁談が舞い込む。最初は困惑するアルバンだったが、レティシアの有能さと純粋さに触れ、次第に惹かれていく。二人は互いの悪名を逆手に取り、陰謀や敵対者に立ち向かいながら、最凶の夫婦として成長していく物語である。

主要キャラクター

• アルバン・オードラン:傲慢で怠惰な悪役貴族。破滅の運命を回避するために努力を始める。
• レティシア・バロウ:婚約破棄された悪役令嬢。実は有能で純粋な性格。

物語の特徴

本作の魅力は、悪役同士の結婚という斬新な設定と、二人の成長過程にある。アルバンとレティシアは、互いの悪名を利用しながらも、信頼と愛情を深めていく。また、彼らが直面する陰謀や敵対者との対決も見どころである。コミカルなやり取りとシリアスな展開が絶妙に組み合わさり、読者を飽きさせない構成となっている。

書籍情報

怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました
著者:メソポ・たみあ 氏
イラスト:カリマリカ  氏
発行元:TOブックス
発売日:2024年7月10日
ISBN: 9784867942260

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あらすじ・内容

「貴方となら、復讐ハネムーンも楽しそうね?」
悪×悪の最凶夫婦が織りなす報復逆転ファンタジー!
書き下ろし番外編2本収録!
コミカライズ企画進行中!


自分が小説の中の悪役貴族だと気付いたアルバンは、
重い腰を上げ剣と魔法の鍛錬を始めた。主人公との決闘に敗れて没落するのは絶対に避けたい。少しずつ実力がつき始めた矢先、悪い噂ばかりの悪役令嬢レティシアが嫁いでくることが決まってしまう。
しかし――いざ会ってみれば、どタイプどストライクの最高の嫁だった!? 
悪評は元婚約者の謀略で、実は裏では屋敷で家なき子たちへ無償の愛を注ぐという天使っぷり。
あまりの尊さに破滅回避も忘れ、彼女の冷えた心を強引に解かし、愛妻を陥れたクズ公爵への復讐を決意。
夫婦の悪名を逆手にとっておびき出し……?
「俺たちの邪魔をするなら、蹂躙するだけさ」
悪×悪の最凶夫婦が織りなす報復逆転ファンタジー!

怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました

感想

破滅回避と恋愛の同時進行という妙

本作は、「気づいたら小説の中の悪役貴族に転生していた主人公」が、自滅ルートを回避しつつ悪役令嬢と惹かれ合い、共に成長していく物語である。
序盤で見せるアルバンの肉体改造から剣術の習得までは、テンプレに則りながらも描写に説得力があり、導入に引き込む力があった。
ただし、半年の鍛錬で小説の主人公に勝つという急成長には違和感も残ったのは否めない。

夫婦としての異例なスタート

婚約破棄された令嬢との結婚を通じて物語が動き出すが、驚くべきは「結婚してから学園に通う」という順序である。
同棲生活と学園生活が同時に進行することで、ラブコメと学園ファンタジーが交錯する構造となっていた。
夫婦が同室で生活し、時に甘々で、時に策略を巡らせる展開は読者に強いインパクトを与える。
まさに“おしどり悪役夫婦”という印象が鮮烈に刻まれる構成である。

ストレス発散と痛快な報復描写

本作の魅力の一つは、悪役夫婦が悪党らしく徹底して報復する点にある。
妻を貶めた元婚約者を断罪する展開や、誘拐事件の犯人に制裁を加える場面は、善悪の彼岸を踏み越えつつも「正義感」に裏打ちされた痛快さがある。
とりわけアルバンが百人の敵地に単身乗り込み、力で道を切り開く場面には、チート的な快感と同時に背徳的なロマンが漂っていた。

物語の軸の曖昧さと読後感

一方で、ストーリー全体として「どこへ向かうのか」という軸がやや曖昧である点は否定できない。
破滅回避と妻との幸せを守ることが目標に据えられているが、それ以上の目的意識が読み取りづらく、盛り上がりどころが連続している反面、全体構造が平板に感じられる瞬間もあった。
いわばエピソード主導型であり、流し読みには向いているが、強い“続きが気になる”展開を期待すると物足りなさが残る。

セリフ回しとキャラの掛け合いの妙

セリフのテンポ感や掛け合いの軽妙さは、カジュアルな作風と相まって読後感を明るくしている。
とりわけside構成の連続には苦笑する場面もあったが、会話の応酬はニヤリとさせられる仕掛けが多く、ラブコメ的な面白さを存分に発揮していた。
推し絵師による挿絵もその雰囲気を支えており、キャラの魅力をビジュアル面でも後押ししていた。

総評と今後への関心

読みやすく、テンポもよく、チート成長も含めてライトノベルらしい快作である。
ただし、一巻時点では物語の目的が希薄で、主人公の成長や夫婦の関係深化に主軸がある以上、二巻以降も同じテンポで続くなら惰性感が出る懸念もある。
読み放題など気軽に手を伸ばせる環境があれば続きを読んでもよい、というライト層向けの作品であると感じた。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

アルバン・オードラン

極度の怠惰さと傲慢さを併せ持つ男爵家の当主である。自己中心的な言動で周囲を困惑させるが、内面には変革への強い意志が芽生えていた。転生者として、自身の破滅を回避するべく鍛錬に励むようになる。
・オードラン家の当主、王立学園入学予定者
・怠惰な生活から脱却し、剣術と減量に取り組んだ
・レティシアを守るため、マウロへの報復を決意した

レティシア・バロウ

かつてマウロ・ベルトーリ公爵の婚約者だった女性であり、世間的には悪女と誤解されているが、実際には領民思いで献身的な性格の持ち主である。マウロの失政によって困窮する領民のために私財と違法行為により支援した。
・バロウ家の令嬢、後にアルバンの妻
・ベルトーリ領の捨て子や貧困層を保護し支援した
・マウロに裏切られ婚約破棄されたが、沈黙を貫いた

セーバス・クリスチャン

オードラン家に仕える老執事であり、元剣士である。アルバンの変化を喜び、剣術指南役として彼を支えた。忠誠心が極めて強く、精神的な支柱としても機能する人物である。
・オードラン家の執事
・剣術の指導者としてアルバンの成長を助けた
・過去には剣士として高い技量を持ち、アルバンを自らの後継と見なした

シャノア・グレイン

内向的で繊細な性格の少女。アルバンとレティシアの夫婦仲に憧れを抱き、観察を試みた。喫茶店を家族で経営し、実直な生活を送っている。
・Fクラスの生徒、自宅は喫茶店
・レティシアとの交流を通じて自信を得た
・アルバンを尊敬し、Fクラスの「王」として支持を表明した

レオニール・ハイラント

平民出身でありながら名誉試験に合格して王立学園に入学した男子生徒である。かつて読んだファンタジー小説の主人公と同名であり、アルバンを破滅へ導く存在とされていた。実直かつ礼儀正しく、剣の才能にも秀でている。
・名誉試験を経て王立学園へ入学した生徒
・アルバンと同じクラスに配属され、互いに複雑な感情を抱く
・剣術に秀でており、アルバンに対抗意識を抱いている

マウロ・ベルトーリ

ベルトーリ家の公爵であり、無責任かつ享楽的な性格である。政務を放棄し、女遊びに耽り、レティシアの支援を逆手に取って婚約破棄を言い渡す冷酷な人物である。
・ベルトーリ家当主、公爵
・レティシアの正義の行為を悪行として公表した
・政務を放棄し、領民の窮状に無関心であった

クラオン

王国騎士団・最高名誉騎士団長であり、王族の血を引く高位貴族である。威厳と影響力を持ち、登場時にマウロを震え上がらせた。
・王国騎士団・最高名誉騎士団長
・王族の血筋を持ち、国内でも屈指の権力者である
・アルバンの行動を裏から支援する存在と見なされる

ファウスト・メルキゼデク

王立学園の学園長であり、ヴァルランド王国でも指折りの大魔法使いである。人間の身でありながら二百年を生きてきた人物で、魔法において卓越した技量を持つ。クラオンの推薦によりアルバンを評価し、入学を許可した。
・王立学園の学園長
・クラオンの推薦を受け、アルバンの入学を認めた
・教員の職務怠慢に厳しく、バスチアンを即時に解任した

バスチアン

王立学園の教員であったが、入学前のアルバンに対して不当な対応を取ったことで、ファウスト学園長から職務怠慢を理由に即座に解任された。貴族勢力と繋がりを持っていたが、任務失敗により学園を追放された。
・王立学園の元教員
・ファウスト学園長により職を解かれ、学園から追放された
・貴族との癒着が示唆されるが、職責を果たせなかった

パウラ・ベルベット

王立学園Fクラスの担任教師として配属された女性である。厳格な教育方針を持ち、就任初日から生徒たちに対し、「1か月以内にクラスの王を決めなければ全員退学」という校則を提示した。
・王立学園Fクラスの担任教師
・生徒たちに厳格な課題を与え、統率を図った
・アルバンたちの指導を通じて成長を促した

イヴァン・スコティッシュ

スコティッシュ公爵家の嫡男であり、自尊心の強い性格を持つ。当初はアルバンを見下していたが、戦闘で敗北し、自身の無力さを痛感する。その後は態度を改め、アルバンに償いの意思を示した。
・スコティッシュ公爵家の嫡男
・三対一の決闘で敗北し、劣等感に苛まれた
・後にアルバンへの尊敬を抱き、「王」として認めた

マティアス

金による支配を信じてきたが、アルバンの行動力と信念に触れて価値観を覆された。王にふさわしいのは力と覚悟を持つ者と認識し、アルバンをFクラスの「王」として推挙した。
・Fクラスの生徒
・金の力を信じていたが、アルバンの行動でその信念が揺らいだ
・多数派工作を行い、アルバンを王として推し上げた

ローエン

戦いを重んじる性格で、「強き者こそ王にふさわしい」と主張する武闘派である。アルバンの精神的強さと実力を認め、王にふさわしい人物と評価した。
・Fクラスの生徒
・暴力による王選出を主張
・アルバンの力量に敬意を表し、賛同者となった

エステル

筋力と気合いで商会を守り抜いた豪胆な少女。家業を立て直した後、刺激を求めて王立学園へ入学した。筋肉への信仰と独自の価値観を持つが、Fクラスでは穏やかな態度を保つ。
・アップルバリ&パワー商会の令嬢
・魔法強化を超える筋力で商敵を圧倒し、商会を掌握
・王立学園入学後、アルバンを「王」と認めた

ラキ・アザレア

策略的かつ目的志向の少女。「王」そのものには関心がないが、「王妃」という立場に価値を見出し、影響力を得るためにアルバンへ接近した。冷静かつ計算高い一面を持つ。
・Fクラスの生徒
・影響力を求め、アルバンへの接近を図った
・表向きは協調的だが、目的達成のためなら手段を選ばない

カーラ・レクソン

Fクラスに所属する女子生徒であり、決闘に敗北したイヴァンを気遣い看病するなど、心優しい一面を持つ。戦闘能力に関する記述は少ないが、仲間への思いやりを行動で示す人物である。
・Fクラスの生徒
・ダンジョン探索後のイヴァンを手当てした
・明確な戦闘描写はないが、仲間思いの姿勢が描写されている

串刺し公

仮面を被った謎の人物であり、アルバン夫妻を排除しようとする貴族勢力の代弁者として暗躍している。イヴァンを言葉巧みに誘導し、二人を罠に嵌める計画を実行した。最終的に計画は失敗に終わるが、その後も動向は不明である。
・仮面を着けた謎の人物
・複数の貴族家と繋がりを持ち、陰謀を画策した
・イヴァンを利用し、アルバン夫妻の排除を試みた

ニネット

レティシアの元侍女であったが、マウロ・ベルトーリと内通し、裏切った存在である。現在はマウロの愛人として行動を共にしている。忠誠心はなく、私利私欲で動いている。
・元バロウ家の侍女
・マウロ・ベルトーリの側女として登場
・レティシアを裏切り、敵対勢力に加担した

展開まとめ

第一章  悪役男爵と悪役令嬢

怠惰な悪役貴族

自分が悪役であることへの気付きと改心の決意

アルバン・オードランは、ファンタジー小説の登場人物であること、そして自身が破滅する運命の悪役貴族であることに気付いた。極度に傲慢かつ怠惰な性格で、誰にも謝らず、自らの才覚に甘んじて努力を放棄していた。しかし破滅を避けたい一心で、彼は改心を決意し、ダイエットと剣術の修行に取り組むことを決めた。

セーバスとの再契約と修行の開始

執事セーバス・クリスチャンにダイエットと剣術指導を依頼したアルバンは、最初の一週間で己の体力不足を痛感した。だが「言ったことを曲げるのは面倒」という理由で踏ん張り、稽古を継続する意志を貫いた。セーバスもまた、その決意に感銘を受け、全力で支援することを誓った。

才能の開花と驚異的な成長

一ヶ月後、アルバンはセーバスの剣技を吸収し始め、すでに実戦形式の稽古が必要とされるほどに成長していた。二ヶ月目には身体が引き締まり、実戦的な機動訓練や罠を交えた追撃訓練に移行。巨大丸太を一刀両断するなど、剣の才能は天性のものと証明された。セーバスはその剣才に戦慄しながらも、歓喜を覚えていた。

ダンジョンでの初実戦と剣士としての覚悟

四ヶ月が過ぎた頃、セーバスはアルバンに実戦としてダンジョンの探索を命じた。彼はゴブリンを即座に斬り捨て、殺すことへの心理的障壁が自分に存在しないことに気づいた。さらに十体以上のゴブリンの群れも一掃し、迷いのない冷酷な斬撃により、セーバスから「真の剣士」としての資質を認められた。

稽古の終焉と肉体の変化

修行開始から半年、アルバンはついにセーバスとの稽古で勝利を収めた。怠惰な肥満体は筋肉質な体に生まれ変わり、剣技も完全に会得していた。セーバスは教え子に完敗したことを誇らしく受け入れ、アルバンの変化に深い感動を示した。

再び現れる破滅の兆し

その矢先、アルバンに縁談の話が舞い込んだ。相手は名門・バロウ公爵家の令嬢。彼女はかつて婚約破棄された悪役令嬢であり、原作ではアルバンの破滅の引き金となった存在であった。努力の末に掴んだ平穏がまたしても崩れる兆しに、アルバンは面倒事の予感とともに叫びを上げるのであった。

悪役令嬢レティシア

嫁入り前の不安と悪評の記憶

バロウ公爵家の令嬢がオードラン家へ嫁いでくる当日、アルバンは破滅を予感し、縁談を拒みたい思いに駆られていた。セーバスからは、令嬢レティシアが領地の税金横領や奔放な浪費、淫靡な行為を重ねていたという悪評を聞かされ、彼女を完全な厄介払いと見なしていた。

初対面と予想外の印象

到着したレティシアは、想像とはかけ離れた人物であった。白銀の髪と冷静な態度、気品ある佇まいからは、悪行に耽った過去など一切感じられなかった。侍女も連れず、孤独な状態で現れた彼女に対して、アルバンとセーバスは強い違和感を抱きつつ、裏の事情を探る必要を感じ取った。

距離のある同居生活

屋敷での生活が始まっても、レティシアはアルバンと会話を交わさず、無視を貫いた。いくら改心し努力してきたとはいえ、悪評の根深さゆえ、レティシアにとってアルバンは依然として「最悪の男爵」であり、彼女の警戒心は強かった。

強引な突破と初の接触

口をきいてもらえない状況を打破すべく、アルバンは扉を破ってレティシアの部屋へと踏み込んだ。剣を携えていたが敵意はなく、「デートに行こう」と誘いをかけた。驚きつつもレティシアは拒絶せず、結果的に彼に連れ出される形となった。

自然の中での対話と打ち解け

郊外の絶景を見せられたレティシアは、初めてアルバンに心を開き始めた。彼の気遣いや人柄、田舎領主としての誠実さに触れ、彼女の中にあった偏見が少しずつ崩れていった。互いの趣味や好みを語り合い、わずかではあるが心の距離が近付いていった。

危機と信頼の芽生え

二人の前に突如として現れたキラーベアーに対し、アルバンは即座に反応し、一刀で撃破した。その姿にレティシアは驚愕しつつも、守られたことへの感謝と安心を抱いた。アルバンが見せた優しさと強さは、彼女の中に新たな印象を残した。

優しさの理由と告白

レティシアは、アルバンがなぜ自分に優しくするのかを尋ねた。アルバンは「政略結婚の被害者」ではあるが、それでも彼女に興味があると告げた。そして、彼女が何者かに陥れられたのではないかという予感を口にし、真実を探る決意を示した。

迫害の提案と信頼の拒絶

レティシアは「オードラン家を守りたければ自分を迫害しろ」と告げた。だがアルバンはその提案を拒み、彼女の悪評が虚偽であることを見抜いていた。彼はレティシアが優しく聡明な人物であると確信し、真実がわからなくとも守る覚悟を口にした。

賭けと共に歩む決意

レティシアが真実を語らぬまま「後悔する」と忠告する中、アルバンは「賭けをしよう」と提案した。自らの手で彼女の真実を解明し、それでも後悔しなければ「仲良くしてほしい」と告げた。彼の率直で不器用な言葉に、レティシアは戸惑いながらも心を揺らしていた。

悪行の真相

レティシアの過去の真相調査

レティシアが嫁いできてから十日後、諜報任務に出ていたセーバスが帰還した。彼は王国騎士団や商人連合、冒険者ギルドなどと繋がりを持ち、レティシアに関する情報を徹底的に調査していた。その結果、彼女は陥れられた被害者であることが明らかとなった。黒幕は元婚約者であるマウロ・ベルトーリ公爵であり、舞踏会の場でレティシアの「悪行」を暴露し、別の女性との婚約を宣言していた。

悪行の真実と歪曲された事実

セーバスの報告によれば、レティシアが税金を横領し屋敷に男を連れ込んでいたという噂は、一部事実であった。しかしその実態は、貧困により路頭に迷った子供たちを保護し、生活を支援するための行動であった。また、「浪費家」とされた理由も、領地の生活改善のために投資を行っていた結果であり、マウロの失政により危機に陥った領地を守るための苦肉の策であった。

犠牲者としてのレティシア

マウロに代わって領地の運営を支えていたレティシアは、その献身ゆえに罪を問われ、最終的には公に糾弾された。バロウ家ですら庇い切れず、結果的に嫁ぎ先として選ばれたのがオードラン家であった。彼女が真実を語らず、アルバンとの距離を置き続けていたのは、自らと関わることによってアルバンがマウロの標的となることを恐れていたためである。

アルバンの怒りと決意

レティシアの過去と真意を知ったアルバンは、彼女の潔さと献身に強く胸を打たれた。彼女は悪行を否定せず、覚悟をもって沈黙を貫いていた。その姿勢を理解したアルバンは、彼女を守るため、またマウロ・ベルトーリに正当な報いを与えるため、行動を起こす決意を固めた。セーバスもその意思に同調し、主人に忠義を尽くす姿勢を見せた。

悪党としての宣言

アルバンは、自らが悪役貴族であることを再認識しつつ、レティシアを苦しめた者に「悪党のなんたるか」を教えると宣言した。彼女の名誉を回復し、失われた尊厳を取り戻すべく、アルバンは悪としての力を正義のために振るう決意をしたのである。

悪事の準備

婚約者への淡い期待と裏切りの現実

レティシア・バロウは、幼少期よりマウロ・ベルトーリ公爵との婚約が定められていた。彼女は将来に胸を躍らせ、婚約者に尽くすことを信条として育った。しかし、現実のマウロは政務を放棄し、女遊びに明け暮れる無責任な男であった。領民が飢餓に苦しむ中、彼は一切の責任を取らず、レティシアは自らの私財で子供たちを保護するも限界が訪れた。

正義のための悪事と舞踏会での破滅

助けを求めてもマウロに見向きもされず、レティシアはついに税金の横領と資産の流用に手を染めた。全ては領民とマウロのためという信念に基づいていたが、マウロはそれを逆手に取り、舞踏会の場で彼女の「悪行」を公にし婚約破棄を言い渡した。夢も努力も踏みにじられた彼女は、沈黙を選び、自らの罪を受け入れた。

オードラン家への嫁入りとアルバンとの出会い

破棄された婚約と共にバロウ家の面汚しとなったレティシアは、オードラン男爵家への再婚を命じられた。怠惰で傲慢と名高いアルバンに嫁ぐことは、彼女にとって「罰」であり、再び破滅へ向かう道とすら思えた。だが、実際に出会ったアルバンは、優しさと誠実さを持ち、レティシアを一人の女性として見てくれる男であった。

心の揺らぎと拒絶の葛藤

アルバンの優しさに触れ、レティシアは初めて「理解される」ことの喜びを知った。しかし同時に、自らの過去にアルバンを巻き込むことへの恐怖が芽生えた。再び誰かを傷つけることへの拒絶、期待することの怖さが彼女を縛っていた。真実を知られたくない一心で距離を取り続けたが、彼の真摯な態度は心を揺さぶり続けた。

アルバンの復讐計画と覚悟の共有

ある朝、アルバンはマウロへの復讐の噂を流したことを告げ、レティシアを驚かせた。だがそれは表向きであり、同時に「レティシアと仲が悪く、彼女を処分しようとしている」という逆の噂も流していた。相反する情報を巧みに使い分けることで、マウロを誘き出す策を立てていたのである。

妻としての信頼と共闘の始まり

アルバンはレティシアの過去と真実を知った上で、彼女を非難せず、むしろ誇りに思っていた。彼女の献身と覚悟に深い敬意を抱き、絶対に手放さないと誓った。そして彼は、大悪党だからこそ家族を守ると宣言し、マウロへの復讐を貫く意志を固めた。レティシアに協力を求めたその言葉には、彼女をただ守るだけでなく、共に未来を切り開こうとする覚悟が込められていた。

決着

マウロとの再会と策略の布石

レティシアがオードラン家に嫁いでから二十二日目、彼女はかつての婚約者であるマウロ・ベルトーリを倉庫へと誘い出した。表向きには、アルバンに虐げられていると嘆き、助けを求める内容の手紙をマウロへ送り、自らを救い出すよう懇願した。マウロはこの訴えを嘲笑しつつも、自身が先にアルバンと接触していたことを明かし、二人の不仲を確信していた。

偽装された殺害計画と逆転劇

マウロはレティシア殺害の命を下し、アルバンがそれに従う演技を行った。しかし、その直後にアルバンは護衛三人を瞬時に斬り伏せ、全てが演技だったと明かした。マウロは状況を理解できず狼狽するも、アルバンの激しい憎悪と剣技の前に圧倒された。この一連の計画はすべて、レティシアとアルバンが共謀して仕組んだ策略であった。

クラオン閣下の登場と権威の介入

王国騎士団最高名誉騎士団長クラオン閣下が登場し、レティシア殺害の証拠とともにマウロを追及した。セーバスが提供した証拠書類により、マウロの謀略が立証され、騎士団によって連行されそうになる。追い詰められたマウロは、自らの名誉を回復すべくアルバンに決闘を申し込んだ。

決闘とアルバンの圧勝

クラオン閣下の立ち合いの下、決闘が開始された。マウロは激昂し斬りかかるが、アルバンの圧倒的な実力により翻弄され、一方的に打ちのめされた。アルバンはマウロの手を剣で貫き、顎を砕き、遂には右腕を斬り落とすなど、徹底的に制裁を加えた。レティシアの苦しみを代弁するような言葉を投げかけながら、彼はマウロを断罪した。

トドメの一撃と妻の制止

アルバンは剣を振り下ろしマウロに止めを刺そうとしたが、背後からレティシアが抱きつき、それを制止した。彼女はこれ以上アルバンの魂を穢してほしくないと語り、クラオン閣下に決闘の終了を求めた。その結果、アルバンの勝利が正式に認められ、マウロとその愛人ニネットは騎士団によって拘束された。

悪役夫妻の結束

事件後、レティシアは人を殺すことを望んでいなかったと語りつつも、アルバンの怒りと行動を嬉しく思っていた。二人は共に協力し合い、演技と計略を完遂した達成感を共有し、夫婦としての結束を深めた。レティシアは「悪女」、アルバンは「大悪党」として、互いの立場を受け入れ、最凶の夫婦として歩み始めたのである。

悪役 ×結婚

式の準備とセーバスとの絆

マウロとの決闘から一か月後、レティシアの冤罪が公になったことでベルトーリ家は没落した。アルバンとレティシアは平穏な日々を取り戻し、ついに正式な結婚式を挙げることとなった。当日、緊張に包まれるアルバンを支えたのは、執事セーバスであった。彼はアルバンの両親の婚礼にも立ち会った経験を語り、主従というよりも親子に近い絆を感じさせた。

レティシアの心情と決意

控室にいたレティシアは、身支度を終えた後、一人の時間を過ごしていた。オードラン家の使用人たちの温かい配慮を受けながらも、結婚式を前に不安と緊張が募っていた。かつての婚約では感じなかった胸の高鳴りと、今の幸福感に戸惑いながらも、彼女はこの新たな一歩を踏み出す決意を固めていた。

入場と聖壇での再確認

チャペルの扉が開き、セーバスにエスコートされたレティシアが入場した。純白のドレス姿に息を呑んだアルバンは、あらためて彼女の美しさに惚れ直した。二人は視線を交わし、互いの緊張と想いを言葉少なに確認し合った。セーバスは役目を終えて席に戻り、神父による誓いの言葉が始まった。

指輪交換と誓いの言葉

指輪交換の場面で、レティシアは突然の不安から手を震わせた。過去の罪や境遇を思い、自らの幸福を疑っていた。だが、アルバンは即座にそれを否定し、彼女を世界で一番幸せにすると断言した。その言葉にレティシアは心を打たれ、涙ぐみながらも指輪を交わすことで互いの誓いを形にした。

未来への約束と夫婦の出発

式の終盤、アルバンはこの瞬間を「始まり」に過ぎないと語り、これからも何度でも「一番の幸せ」を更新していくと誓った。レティシアもその言葉を受け止め、笑顔で応じた。アルバンはベールアップを行い、二人の絆を確かめ合った。チャペルは祝福の拍手に包まれ、最凶夫婦としての門出は華々しく始まったのである。

第二章  学園へ入学する悪役夫婦

尻に敷かれる悪役男爵

新婚生活とレティシアの活躍

夫婦となって半年が経過し、アルバンとレティシアの新婚生活は順調であった。レティシアは領地経営や書類仕事を始め、家事全般にも積極的に参加していた。彼女の有能さは屋敷の使用人たちにも高く評価され、まさに理想的な当主の妻として認められていた。一方のアルバンは、その影の薄さに少なからず複雑な心情を抱いていたが、それでもレティシアとの穏やかな生活に満足していた。

王立学園への入学と別れの予感

十六歳を迎えたアルバンとレティシアは、王立学園「マグダラ・ファミリア」への入学資格を得た。三年間の寮生活が始まることにより、二人は一時的にオードラン領を離れることになる。セーバスは二人を誇らしく送り出すつもりであり、オードラン領の留守を一手に引き受けると請け負った。

学園の実情と評価の二極化

王立学園は入学こそ容易であるが、卒業は極めて難しい超エリート教育機関であった。学業や武術などの基準を満たせなければ即退学となる厳しい環境にあり、生徒間の競争も熾烈であった。また、アルバンに対する世間の評価は二分されており、擁護派と批判派に分かれていた。擁護派はマウロ公爵の不正を暴いた正義の男爵と評し、批判派は身分差を無視して公爵を陥れた暴君と非難していた。

入学資格への干渉と試験の決定

批判派貴族の一部が、アルバンの学園入学に異議を唱え、「王立学園に相応しくない」と声明を提出した。彼らはかつてベルトーリ家と関係を持ち、マウロと利益を共有していた面々であり、失脚によって自身の立場も危うくなったことへの報復であった。結果として、クラオン閣下の介入により、アルバンは入学に際し「試験」を受けるという妥協案が採用された。

異例の対応とアルバンの決意

貴族が入学試験を課されるのは極めて異例であり、本来は家柄がそのまま入学資格を保証するものであった。アルバンはこの措置を差別的と感じながらも、挑戦を拒まず受け入れた。彼は政敵たちの意図を見抜きつつ、試験を乗り越えることに意欲を燃やしていた。どのような試練が課されようとも、彼は自らの力で正当性を証明する覚悟を決めていたのである。

いざ王都へ

出発の日とレティシアの存在感

王都への出発当日、オードラン家の屋敷ではメイドたちがレティシアとの別れを涙ながらに惜しんでいた。彼女は屋敷の家事を積極的に担い、使用人たちの信頼と尊敬を勝ち得ていた。別れの場では主であるアルバンの存在感が霞むほど、レティシアの人気が際立っていた。

馬車の旅と新たな実感

出発の際、セーバスはアルバンに「悪事はほどほどに」とウィンクを残し、二人の旅立ちを見送った。馬車に揺られて五日後、王都に到着した二人は王立学園「マグダラ・ファミリア」へと向かった。旅の疲労に苦しむアルバンとは対照的に、レティシアは慣れた様子であった。

入学試験と不公平な対応

学園到着後、レティシアはすぐに寮へ案内された一方で、アルバンは独自の入学試験を受けるよう命じられた。これは一部の反対貴族による妨害工作であり、買収された試験官バスチアンが対応にあたった。アルバンは挑発されながらも、混合魔法や剣術の実力を駆使し、試験官を圧倒した。

学園長の登場と評価

試験の終盤、王立学園の学園長ファウストが登場し、アルバンの実力と態度を評価した。一方で、教師として不適格と判断されたバスチアンには即時退職を命じた。ファウストはクラオン閣下の推薦を受けてアルバンの入学を承認し、彼の才を「百年に一度の逸材」と評した。

寮生活と不意の同室

入学後、アルバンとレティシアは男女別棟ではなく、特別な理由による個別棟での同室生活を命じられた。これは学園長の意向によるものであり、アルバンは動揺しつつも受け入れた。レティシアは動じず、夫婦としての関係性に肯定的であり、むしろ楽しんでいる様子であった。

学園の腐敗とレティシアの怒り

アルバンが受けた試験の不正に対し、レティシアは強く憤り、学園に意見書を提出する意志を示した。しかし、アルバンはことを荒立てぬよう説得し、今回は見逃すよう促した。彼女はそれを受け入れつつも、腐敗の根深さに対する怒りを滲ませていた。

学園長とクラオンの思惑

クラオンとファウストはチェスを打ちながら、アルバンの持つ圧倒的な才と危うさについて語り合っていた。ファウストは、アルバンが「暴君の器」であると分析し、その歯止めとしてレティシアを同室に置く判断を下した。一方で、クラオンは彼女を「賢君の器」と評し、二人の関係性に将来的な可能性を見出していた。両者は、アルバンとレティシアが共に歩む未来に期待を寄せていたのである。

やっぱり絡まれる悪役令嬢

入学式と悪名の影響

王立学園の入学式が終わり、アルバンは中庭で一人休息を取っていた。学園長ファウストの挨拶が長く退屈だったものの、ようやく儀式が終わり、落ち着いたひと時を迎えていた。周囲の生徒たちは彼を遠巻きに見つめ、小声で噂していた。教師を打ち倒した逸話やマウロ公爵との一件が広く知れ渡っていたため、警戒されていることが明白であった。

レティシアへの陰湿ないじめ

レティシアが中座した後、なかなか戻ってこないことを不審に思ったアルバンは、彼女を探しに向かった。そこで彼は、三人の女生徒に囲まれ、嫌がらせを受けているレティシアを目撃した。彼女たちは、レティシアがマウロ公爵を陥れたとして非難し、学園にいる資格がないと迫っていた。

主人公の登場と騒動の収束

その時、一人の金髪の男子生徒が間に割って入り、女生徒たちをたしなめた。理性的で威圧感のないその振る舞いにより、女生徒たちは渋々その場を去った。男子生徒はレティシアを気遣い、優しく接したが、その距離感に嫉妬したアルバンが割って入り、自分がレティシアの夫であることを伝えた。

意外な正体と再会の記憶

金髪の男子生徒はアルバンの名を聞き、彼が平民間で英雄視されていることを語った。自身もまた平民出身であり、「名誉試験」に合格して学園へ入学したことを明かした。その優秀さと気さくな態度からアルバンは好意的に接していたが、彼の名を聞いた瞬間、記憶が蘇った。

主人公レオニールとの邂逅

男子生徒の名は「レオニール・ハイラント」。それは、アルバンが断片的に覚えていたファンタジー小説の主人公の名であり、いずれアルバンを破滅へと導く存在であった。握手を交わした瞬間、アルバンはレオニールの正体と自らの未来を直感的に理解したのである。

Fクラス

主人公との邂逅と動揺

アルバンは、王立学園での生活初日からレオニール・ハイラントと遭遇した。彼こそがファンタジー小説における主人公であり、未来においてアルバンを破滅へ導く存在であった。その出会いに衝撃を受けたアルバンは、彼を排除すべきかという思考に囚われたが、レティシアの言葉によって自らを見つめ直し、過去とは異なる今の自分として堂々と立ち向かう決意を新たにした。

Fクラスへの配属と奇妙なクラスメイトたち

アルバンとレティシアは、学園長の意向によりFクラスに配属された。そこには個性の強い十名の生徒たちが集められており、爵位や身分もバラバラであった。そこには既にレオニールの姿もあり、アルバンは思わぬ形で彼と同じクラスとなったことに内心動揺した。

担任教師と異例の学級制度

担任教師としてパウラ・ベルベットが現れ、Fクラスには新たな校則が課されることとなった。その内容は、1か月以内にクラスの「王」を決めることであり、決定できなければ全員退学という厳しいものであった。王の選出方法には制限がなく、暴力や交渉、財力も含め自由に競い合うことが許された。

王候補を巡る主張と対立

生徒たちはそれぞれ自分が王に相応しいと主張し始めた。筋力による支配を提案するローエン、財力を盾にしたマティアス、爵位の高さを根拠にするイヴァンらが、それぞれ異なる価値観で「王」の条件を語った。中でもマティアスとエステルは、過去の失脚を揶揄する形でレティシアを挑発した。

レティシアの支持表明と夫への信頼

周囲の心ない言葉に対し、レティシアは毅然とした態度で反論し、自らが王になることは望まず、夫であるアルバンこそがこのクラスの「王」に相応しいと断言した。その発言は場の空気を一変させ、アルバン自身も動揺しながらも、彼女の信頼に応える覚悟を固めるのであった。

誰が〝王〟に相応しいのか?

妻の推薦とクラスメイトの嘲笑

アルバンが「王」に指名されたのは、レティシアの突然の発言によるものであった。場の空気が凍り付く中、イヴァンは嘲笑と共にアルバンを侮辱した。レティシアは即座に立ち上がり、夫への侮辱を撤回するよう詰め寄った。強い言葉と態度にイヴァンは押され、渋々謝罪した。レティシアの気迫と夫への信頼が際立つ一幕であった。

主人公の提案と決闘への流れ

場の空気が収まらぬ中、レオニールが提案したのは「誰が一番強いかを決める」ことであった。単純かつ明確な指標として実力で上下を決めるという案にクラスは同意し、実戦形式での試合が決まった。レティシアが夫の実力に全幅の信頼を置いていたこともあり、アルバン一人に対して三人同時に挑むという決闘が成立した。

決闘開始と圧倒的な実力差

決闘場では、魔法陣の効果により安全に戦えるよう配慮されていた。イヴァン、マティアス、ローエンの三人はそれぞれ武装して挑んだが、アルバンは冷静に受けて立った。開始の合図と共に三人が同時に襲い掛かるも、アルバンの動きは彼らの理解を超えていた。瞬時にローエンを倒し、次いでマティアス、最後にイヴァンを立て続けに撃破した。

魔法による応戦と最後の一撃

イヴァンは魔法を用いた攻撃を仕掛けたが、アルバンはそれを軽々とかわし、懐に飛び込んで斬撃を決めた。結果、三対一の決闘は圧倒的な差でアルバンの勝利に終わった。立会人のパウラは勝利を宣言し、観戦していた女性陣たちは恐怖に青ざめてその強さに驚愕した。

妻の称賛と周囲の反応

レティシアはアルバンを称賛し、その場でさらなる挑戦者を募るように他の女生徒たちに笑顔で問いかけた。これにより、彼女たちは一様に戦意を喪失し、完全にアルバンを「化物」として見るようになった。彼の圧倒的な強さは、威圧と畏怖の対象となり、悪役としての存在感を一層際立たせた。

新たな挑戦者の登場

決闘の余韻が残る中、場に緊張が走る。レオニールが静かに言葉を発し、アルバンとの決闘を自ら申し出た。彼はアルバンの実力を目の当たりにし、自身の力量を試したいという思いから申し出たものであり、物語はいよいよ主人公との直接対決へと動き出すこととなった。

アルバン対レオニール

アルバンとレオニールの一騎打ち

レオニールの挑戦を受けたアルバンは、決闘場で彼と相対した。両者の剣術は互角であり、初手から鋭い鍔迫り合いが展開された。アルバンはレオニールの天性のセンスと読みの鋭さに驚きつつも、次第に本気を出していった。防御と反撃を重ねながら、両者は幾度も斬り結び、技と集中力の極限を競い合った。

死角を突く攻撃と直感による回避

アルバンは姿勢を低く保ったままレオニールの背後へと回り込み、勝利を確信して斬撃を繰り出した。しかし、レオニールは直感だけでそれを察知し、寸前で回避した。この予想外の反応にアルバンは戦慄し、レオニールの「天賦の直感」という異常な能力に本能的な危機感を覚えた。

緊迫する攻防と勝利の瞬間

その後もレオニールは鋭い斬撃を繰り出したが、アルバンは冷静にその動きを観察し、刃筋のわずかな乱れから攻撃を読み切った。絶好の隙を見つけたアルバンは、一閃でレオニールを打ち倒した。パウラの判定により、アルバンの勝利が宣言され、勝負は幕を閉じた。

称賛と不穏な余韻

膝をついたレオニールは潔く敗北を認め、アルバンの強さを称賛した。一方のアルバンは、全力を出してもなお拮抗した戦いを演じたレオニールの潜在力に脅威を感じていた。剣術における実力差は僅かであり、今後彼がさらなる力を得れば、いずれ自身を超えると確信していた。

意外な宣言と混乱

決闘後、レオニールは突如としてアルバンの「騎士になる」と宣言した。その言葉にアルバンは面食らいながらも、握手に応じた。さらにレオニールはクラスメイトの前でアルバンを「王」に推薦し、支持を表明したことで、場は一層騒然となった。

決闘の余韻とレティシアとの時間

放課後、城下町を訪れたアルバンとレティシアは、平穏な時間を過ごしていた。決闘のことを思い返しつつ、アルバンはレオニールへの不安と警戒をレティシアには告げずに抱えていた。街中で注目を浴びながらも、二人は手を取り合い、微笑ましいひと時を過ごした。

自分の居場所と夫婦の絆

レティシアは、王都にある実家には未練がなく、今はオードラン領こそが自分の帰るべき場所であり、アルバンの隣こそが最も恋しい場所だと語った。アルバンもその言葉に応え、互いの存在が何よりも大切だと確認し合った。人々の注目を浴びつつも、二人の絆は確かに深まっていったのである。

新婚デートは城下町で

城下町での新婚旅行計画

アルバンとレティシアは、城下町を歩く途中、偶然耳にした新婚夫婦の会話をきっかけに、自分たちの新婚旅行を思い出した。結婚後すぐに多忙となり、旅行の機会を逃していた二人は、その場で「今から新婚旅行をする」というレティシアの提案により、王都観光を始めることとなった。

王都名所巡りとレティシアの案内

レティシアは城下町の観光スポットを次々と案内した。王の橋、ティネム大教会、レトネスク公園など、アルバンにとっては初めて見る場所ばかりであり、その案内を嬉々として行うレティシアは少女のような明るさを見せていた。彼女の笑顔を間近で見ることができたアルバンは、それだけで幸せを感じていた。

青空市場での触れ合いと価値観の共有

二人が訪れたヴェルハスク青空市場は、王都最大のマーケットであり、活気に満ちた場所であった。元公爵令嬢であるレティシアが平民と接することに好意的であり、特に子供たちに対する思い入れを語る姿は、慈愛に満ちていた。かつてマウロから婚約破棄された原因の一つでもある「子供の保護」という行動が、今でも彼女の信念として息づいていた。

ジェラートを通じた甘い時間

市場内でジェラートを買った二人は、お互いに「あーん」と食べさせ合い、カップルらしい甘いひとときを過ごした。ぎこちないながらも微笑ましいそのやり取りは、普段とは異なる素直な二人の表情を引き出し、互いの愛情をより一層強く感じさせる時間となった。

少年との出会いと誘拐事件の発覚

ジェラートを味わっていた最中、二人は迷子と思しき少年と遭遇した。レティシアは彼を助けるべく動き出したが、それはチンピラたちによる罠であった。少年はチンピラの手下であり、二人は路地裏で囲まれてしまった。レティシアに危害を加えようとしたチンピラたちは、アルバンの怒りに触れ、次々と叩きのめされていった。

少年への制裁とレティシアの慈悲

最後に残った少年に対し、怒りを滲ませるアルバンが制裁を下そうとした瞬間、レティシアがそれを制止した。少年の境遇が孤児であり、食事のためにやむを得ず協力していたことを知ったレティシアは、彼に金銭を与え、悪人との決別を約束させた。彼女は「許した」のではなく、「正しくあってほしい」と願ったのである。

過去の自分とレティシアの信念

少年を見送った後、レティシアは「子供には無限の可能性がある」と語り、改心を信じることの尊さをアルバンに示した。そして、自身の隣にいる改心の成功例としてアルバンを例に挙げた。互いに微笑み合い、手を取り合った二人は、新婚旅行の続きを共に歩む決意を新たにした。王都の裏通りを後にしながら、愛と信念を胸に、夫婦としての絆をさらに深めていったのである。

シャノアの喫茶店

偶然の再会と喫茶店への訪問

城下町を新婚旅行として散策していたアルバンとレティシアは、偶然Fクラスのクラスメイトであるシャノア・グレインの姿を見かけた。彼女が入っていった古びた喫茶店に興味を抱いた二人は、そのまま店内に入店した。そこはシャノアとその母親が暮らす自宅兼店舗であり、シャノア自身が接客と調理を手伝っていた。

シャノアの素性と紅茶の腕前

入店後、シャノアが平民出身であり、「名誉試験」を突破して学園に入学したことが明かされた。彼女の淹れた紅茶とスコーンは上質で、レティシアはその味と香りに強く感銘を受けた。使用されていた茶葉や調理技術の高さから、彼女の並外れた才覚と努力が窺えた。

地上げ屋の出現と騒動の勃発

和やかな雰囲気の中、二人組の地上げ屋が店に押しかけ、執拗な嫌がらせを始めた。レティシアは言葉で応戦し、アルバンは実力で二人を圧倒した。腕を折る寸前まで追い詰められた彼らは、アルバンとレティシアの正体を知るや否や恐れをなして退散した。

地上げの実情と母娘の葛藤

騒動後、シャノアの母親は、地上げ屋による継続的な嫌がらせで店の経営が立ち行かなくなり、閉店を検討していたことを打ち明けた。シャノアは父の遺した店を守りたいという強い意志を示したが、母親は娘の将来を優先すべきだと考えていた。

レティシアの決意と喫茶店の後ろ盾

二人の会話を聞いていたレティシアは、シャノアに「王」に関心がないかと問いかけたうえで、今後この喫茶店を自らの「行きつけ」にすることを宣言した。それにより、再び地上げ屋が手を出しにくくなることを意図していた。アルバンもそれに賛同し、二人はシャノアと母の店を陰ながら守ることを決めた。

新たな友情の芽生えと誓い

レティシアはシャノアに「王になりたくない者こそ、真の友となり得る」と告げ、初めての本当の「お友達」としての距離を感じさせた。紅茶を飲み干した彼女の態度からは、喫茶店への好意だけでなく、シャノア自身に対する信頼と友情の芽生えが滲んでいた。店を後にした二人は、その新たな縁を胸に、再び城下町の散策へと戻っていったのである。

ハニートラップ

喫茶店再訪と別行動

決闘の翌日、Fクラスには重苦しい空気が漂っていた。放課後、レティシアはシャノアとともに再び喫茶店へ足を運び、アルバンは一人で剣の手入れなどを行うため部屋に残っていた。喫茶店には前日の地上げ騒動の影響もなく、レティシアは落ち着いて過ごす時間を楽しんでいた。

ラキの来訪と意図的な接近

その間、アルバンのもとを訪れたのは、Fクラスの生徒であるラキ・アザレアであった。彼女は唐突に訪問し、馴れ馴れしい態度で会話を始めた。さらに、相手の警戒を無視する形で不適切な行動に出ようとし、アルバンの反感を買った。

接触の拒絶と真意の暴露

ラキの言動に対し、アルバンは強く拒絶し、厳しい態度で退去を促した。そこでラキはようやく本心を明かした。彼女は「王」には興味がないが、「王妃」という立場、すなわち影響力を持つ存在を目指しており、アルバンの傍に立つことを狙っていた。彼女にとっては、そのための手段が何であっても構わなかったのである。

レティシアとの対話と信頼の確認

ラキの退室後、帰宅したレティシアは部屋に残る香りから違和感を覚え、アルバンを問い詰めた。アルバンは一連の出来事を隠すことなく説明し、自身の誠意を示した。レティシアは彼の言葉を信じ、怒りを静めることで、互いの信頼を再確認した。

心の絆と夫婦の関係性の進展

話の中で、アルバンが自身の未熟さを気にしている様子を見たレティシアは、今こそ夫婦としての関係を一歩深める時だと考えた。二人は改めて互いを思いやる気持ちを確かめ合い、心と心の距離を縮めた。その夜、アルバンは彼女への深い愛情を自覚し、夫婦としての絆を強くしたのである。

翌朝の穏やかな時間

翌朝、アルバンは隣で眠るレティシアの姿を見つめ、彼女の美しさと存在の尊さを改めて実感した。穏やかな朝の中で、彼らは静かに言葉を交わし、互いの心を再び確認した。登校までのわずかな時間を共に過ごすことで、二人の関係はさらに確かなものへと変わっていったのである。

陰謀

登校初日の異変と視線の集中

登校時間、アルバンとレティシアがFクラスに入室すると、クラス内の視線が二人に集中した。前日までとは異なる堂々とした態度と雰囲気の変化が噂され、クラスメイトたちは密かにざわついていた。

再登場したラキとレティシアの対立

ラキ・アザレアが登場し、前日と同様にアルバンへ接近を試みたが、レティシアがそれを阻止した。レティシアは遠回しにラキの行動を非難し、ラキも挑発的に応じ、両者の間に激しい火花が飛び交った。緊張感に満ちたやり取りは、周囲を圧倒させるものであった。

レオニールの介入と空気の変化

レオニールとローエンらが教室に到着したことで、場の緊張はわずかに和らいだ。ラキとレティシアは対立を一時中断し、席に着いた。レオニールは状況を把握しようとアルバンに問いかけたが、アルバンはあえて詳細を語らず、面倒ごとを避ける姿勢を見せた。

レオニールの告白と決意

レオニールはアルバンに対し、「王」になるつもりはなく、「あなたより強くなること」を目標にしていると明言した。彼はそのためにアルバンの鍛錬に付き合ってほしいと申し出た。アルバンは一瞬世界の意志を感じたが、その思いを打ち消し、申し出を受け入れた。

最後の登校者と新たな提案

クラス内の雰囲気が落ち着き始めた頃、最後のクラスメイトであるイヴァン・スコティッシュが登校し、「王」選出に関して提案があると宣言した。彼の発言により、クラス内は再び注目を集めることとなった。

イヴァンの葛藤と謎の男の接触

二日前の三対一の決闘で敗北したイヴァンは、自身の無力さに苛立ち、訓練場で一人剣を振るっていた。そこに仮面を被った謎の人物が現れ、イヴァンの焦燥と劣等感を言い当てた。この人物は自らを「串刺し公」と名乗り、貴族勢力の意向として、アルバン夫妻にFクラスの支配権を持たせたくない旨を語った。

仮面の男の提案とイヴァンの選択

「串刺し公」はイヴァンに対し、アルバンとレティシアを排除する計画を持ちかけた。既に恨みを抱く集団と手を組んでおり、指定された場所へ二人を誘導するよう依頼した。イヴァンは当初警戒したが、自身の焦りと家名の重圧に抗えず、その提案を受け入れた。

画策される罠と計略の始動

「串刺し公」は、オードラン男爵が王となる前に排除することが目的であり、そのための手段として暴力的な介入を示唆した。イヴァンには、翌日二人を罠の地点に誘導するという任務が課された。こうして、Fクラスの王を巡る権力闘争は、新たな陰謀の火種を孕みながら進行していったのである。

ダンジョン突入

ダンジョン競争とイヴァンの提案

放課後、Fクラスは『暁ダンジョン』に集まり、イヴァンの提案で「ポーション原草争奪戦」が開催された。これは「武力」「知性」「勇敢さ」の3要素を競うという名目で、最奥部の薬草を最初に持ち帰った者を勝者とするものであった。アルバンは消極的であったが、レティシアの名誉のため参加を決意した。

クラスメイトたちの動向と戦闘開始

レティシアとシャノアは不参加を表明し、ダンジョンの外で待機することとなった。他のメンバーは次々と突入し、初戦ではエステルが怪力でゴブリンを瞬殺するなど波乱含みの展開を見せた。アルバンは素早さと剣技で順調に先行し、イヴァンやレオニール、ラキらが後を追った。

イヴァンの真意と裏切り

道中、イヴァンはアルバンに「王の座を辞退せよ」と勧め、学園内に敵対勢力が存在することを警告した。アルバンは拒絶し、最奥へ進んだ。そこでイヴァンは「串刺し公」と名乗る人物との密約に従い、アルバンを裏切った。しかし、指定されたゴロツキは現れず、代わりに転移魔法でサイクロプスが出現した。

サイクロプスとの死闘

突如現れた巨大モンスター・サイクロプスにより、イヴァンは重傷を負い、アルバンとレオニールが共闘することとなった。高威力の魔力光線を回避しながら、アキレス腱と腕を狙う連携攻撃を展開。レオニールがサイクロプスの一つ目を斬り、アルバンが風魔法をまとった剣で首を討ち取り、勝利を収めた。

クラスメイトたちの合流とイヴァンの告白

戦闘後、エステルらが駆けつけ、アルバンはイヴァンに剣を突きつけて事情を聞き出した。イヴァンは「串刺し公」によって騙されていたと明かし、ゴロツキが襲撃するはずだったがサイクロプスが現れたのは予想外であったと語った。また、標的はアルバンとレティシアの両名であった。

ダンジョン外での襲撃と誘拐

一方その頃、外で待機していたレティシアとシャノアは不安を抱きながら仲睦まじく語り合っていた。しかしその最中、何者かに背後から殴打され、二人は誘拐されてしまった。意識を失ったまま連れ去られる様子が描かれ、ダンジョン内の事件と並行して新たな脅威が迫っていた。

カラスの報告と新たな危機

戦闘後、カーラ・レクソンのもとに飼いカラスが飛来し、レティシアとシャノアの誘拐を報告した。カーラは即座にそれをアルバンへ伝え、彼は衝撃を受ける。サイクロプスとの戦いを乗り越えた矢先、最愛の妻が連れ去られた事実が、アルバンの次なる戦いの火種となることが示唆された。

レティシアの試練

目覚めと檻の中の現実

レティシアは冷たい床の感触とカビ臭い空気に包まれながら目を覚ました。鉄格子のある薄暗い密室に閉じ込められており、傍らには意識を失っているシャノアの姿があった。後頭部に裂傷を負ったシャノアに対し、レティシアは自らの魔力で応急処置を施し、彼女の意識を取り戻すことに成功した。

地上げ屋との再会と報復の意図

意識を取り戻した二人の前に現れたのは、かつてシャノアの喫茶店を狙った地上げ屋の男たちであった。彼らは以前の騒動への報復として、レティシアたちを拉致したことを明かし、傷の痕を見せつけながら恨みを語った。さらに、レティシアとシャノアは動物用の檻に閉じ込められ、南京錠で厳重に封鎖されていた。

背後の黒幕と恐るべき計画

男たちを裏から支援していたのは、「串刺し公」と名乗る仮面の人物であった。彼は多額の資金提供と、レティシアたちの行動情報、さらには事件隠蔽のための貴族への根回しまで行っていた。これにより、男たちは一切の罪を恐れることなく、悪事を実行する態勢を整えていた。

ゴロツキたちの計画とシャノアの動揺

男たちは、まずシャノアの実家である喫茶店を潰すと宣言した。シャノアは泣きながらそれを懇願したが、鉄格子越しに罵声を浴びせられ、威嚇された。レティシアは彼女を抱き寄せながら、決して屈しない姿勢を保ち、必ず報いを受けさせると誓った。

完全包囲と絶望的な状況

ゴロツキたちは、倉庫には百人以上の構成員が見張っており、逃走は不可能であると嘲笑した。また、誘拐の際も誰にも目撃されておらず、助けが来る見込みはないと断言した。レティシアはその言葉を聞きながらも、絶望に屈することなく、アルバンとの再会を誓って静かに意志を燃やしていた。

アルバンへの報告と激怒

一方その頃、カーラはカラスを通じてレティシアとシャノアが城下町西端の倉庫へ連れ去られたことを察知し、アルバンに伝えた。報告を受けたアルバンは怒りに満ち、すぐさま現地への案内を求めた。百人以上の敵が待ち構えているとの忠告にも耳を貸さず、レティシアを救出することだけを最優先に行動を開始した。

理性を捨てた決意

レオニールが制止を試みたが、アルバンは「これは俺個人の問題だ」として聞き入れず、自らの剣に宿る怒りを隠さぬまま進んでいった。彼はすでに殺すことへの迷いを捨てており、愛する者を傷つけられた報復として、倉庫に潜む敵を「皆殺しにする」と静かに宣言し、カーラを伴って行動を開始したのである。

再会

檻の中での反撃準備

レティシアはシャノアとともに密室の倉庫に監禁されていた。外部の見張りが多く、内側の監視は手薄であると見抜いた彼女は、監視役の不用心さを利用し、脱出の機会を窺った。怯えるシャノアを励ましながら、レティシアは自らの機転で状況を分析し、反撃の糸口を掴もうとしていた。

監視役の挑発と護身術の発動

ゴロツキの挑発に対し、レティシアは計算のうえで彼らを怒らせ、檻を開けさせるよう仕向けた。その隙に彼女は護身術を使って相手を投げ飛ばし、もう一人の逃走を風魔法で阻止した。その間に檻の鍵を奪い、二人は脱出に成功した。

作戦の続行と人寄せの準備

倉庫の外は多くの敵が待ち構えていたため、レティシアは即時脱出を避け、焚火によって煙を上げ、王都の騎士団などに助けを求める「人寄せ」を実行した。シャノアと協力し、倉庫内に火を放つ準備を整え、外部への合図とした。

アルバンの突入と再会

煙を目印にレティシアの居場所を察知したアルバンは、単独で倉庫に突入した。黒煙の中で声を頼りにレティシアを探し出し、彼女と再会を果たした。互いの無事を喜び合いながらも、すぐに脱出を開始し、壁を破って倉庫から抜け出した。

ゴロツキとの再遭遇と怒りの爆発

外に出た一行の前に、火災にもかかわらず逃げなかった二十名のゴロツキとその首領が現れた。アルバンはレティシアを誘拐した張本人が目の前にいると知るや激昂し、復讐を決意する。レティシアは彼に「殺さず生き地獄を与えて」と伝え、制止した。

怒涛の制裁と見せしめ

アルバンはレティシアの意志を尊重し、ゴロツキたちを一人ずつ斬り倒すも、命は奪わずに徹底的な痛みを与えた。最後に残った首領には素手での制裁を加え、顔が変形するまで殴り続けた。彼は命乞いを始めるが、アルバンはこれを拒絶し、ようやく制裁を終えた。

事件の結末と王都への波紋

事件の後、誘拐されたレティシアとシャノアは無事保護され、犯人であるゴロツキ集団は全員捕縛された。協力していたとされる貴族たちにも取り調べが及び、王都に大きな波紋を広げた。アルバンとレティシアは無言のうちに絆を深め、再び平穏な日常へと戻る決意を固めた。

闇に潜む黒幕の動向

一方、遠巻きに倉庫の火災を眺めていた「串刺し公」は、計画の失敗を呟きながら姿を消した。彼は背後に控える「お方」への言い訳を思案しつつ、次なる陰謀の機会を狙っていたのである。

〝王〟と〝王妃〟

クラスメイトによる密会と評価の変化

レティシア誘拐事件が解決した翌日、アルバンとレティシアを除いたFクラスの生徒たちは、人気のない中庭に集まり、マティアスの呼びかけで意見を交わした。話題の中心は、アルバンの行動力と覚悟に関するものであった。彼が愛する妻を救うため、百人の敵が待つ場所へ単身で乗り込んだ姿勢に、多くの生徒が敬意を抱いていた。

アルバンの資質と「王」としての器

マティアスは、自分が信じてきた「金で買えないものはない」という価値観を覆される経験として、アルバンの行動を高く評価した。ローエンやシャノアもアルバンの強さと精神力を認め、Fクラスの「王」に相応しい人物として名を挙げた。エステルやラキもそれぞれの立場から支持を表明し、クラス内の多数派がアルバンを「王」と認める流れとなった。

レオニールの思索と尊敬の深化

アルバンの「騎士」を自称するレオニールは、今回の事件を通じて自身の未熟さとアルバンとの決定的な差を痛感した。特に「人を守るために斬る覚悟」の有無が、両者の間にある本質的な差であると認識した。貧しい出自から鍛錬を重ねてきた彼にとって、その覚悟の欠如は致命的であり、アルバンへの尊敬の念は一層深まった。

イヴァンの態度と罪滅ぼしの意志

誘拐事件で負傷したイヴァンもまた、包帯姿で集会に現れた。マティアスの問いに対し、イヴァンは罪滅ぼしの必要性と、まだやるべきことがあるという理由で学園に残ることを表明した。スコティッシュ家の名誉を守るためにも、アルバンへの償いを誓ったことで、彼もまたアルバンを「王」と認めたのである。

アルバンの就任と葛藤

その二日後、Fクラスの「王」として正式に推挙されたアルバンは、マティアスからその事実を告げられた。当初は煩わしさを感じていたが、レティシアの推薦と彼女の期待に応えるため、最終的に承諾した。愛妻と過ごす時間を優先したいという思いが、平穏な日々よりも強く、アルバンは王としての責務を受け入れた。

レティシアの夢と決意

レティシアは、アルバンに感謝と恩返しの意志を語り、彼を学園の「王」、そして将来的には最も偉大な貴族に育て上げる決意を示した。アルバンはその壮大な夢に戸惑いながらも、彼女の期待に応えるために努力する覚悟を新たにした。彼にとって何よりも大切なのは、レティシアが笑っていてくれることであり、そのためならばいかなる困難も厭わぬと心に誓った。

夫婦の絆と新たな始まり

手を取り合った二人は、改めて互いの存在を確かめ合いながら、思い出の場所であるシャノアの喫茶店へと歩みを進めた。Fクラスの「王」として、また夫婦としての新たな日常が、ここから再び始まろうとしていたのである。

書き下ろし番外編  シャノアから見たおしどり夫婦

夫婦円満の秘訣を求めて

シャノア・グレインは、レティシアとアルバンの仲睦まじい関係に憧れ、その秘訣を知りたいと考えていた。ある日、レティシアが一人で喫茶店を訪れた機会を捉え、思い切って質問を投げかけたが、明確な答えは得られなかった。レティシアは「自然とこうなる」とだけ語り、笑顔を浮かべるばかりであった。

尾行の決意と観察の開始

答えに納得できなかったシャノアは、学園の休みに便乗して、変装したうえで二人のデートを尾行する決意を固めた。城下町での仲睦まじい姿を目にした彼女は、その甘いやり取りに驚きながらも、真相を探ろうと観察を続けた。

甘いデートと危機の共有

アルバンとレティシアはジェラートを食べさせ合い、さりげない会話の中にも互いへの愛情を見せていた。レティシアが不意に馬車に轢かれそうになった場面では、アルバンが即座に彼女を抱き寄せて守り抜いた。その直後もユーモラスなやり取りを交わし、二人の信頼と親密さが自然と伝わる行動が続いていた。

芋けんぴ事件と自然体の愛情

レティシアの髪に芋けんぴが絡まっていたという出来事にも、アルバンは動じることなく笑って受け止めた。そんな自然体のやり取りから、シャノアは二人が互いに緊張感なく過ごせていること、日常の中で無理なく愛情を示し合っていることに驚きと羨望を抱いた。

尾行の発覚と対話の機会

観察を終えて広場で休んでいたシャノアは、突然現れたアルバンとレティシアに声をかけられ、尾行がばれていたことを知った。レティシアは怒ることなく、シャノアの疑問に真正面から向き合い、尊敬と愛情こそが夫婦円満の要であると語った。

自信と尊厳のメッセージ

レティシアはシャノアに「自分を尊敬してくれる相手を見つけること」「自分自身に自信を持つこと」の大切さを説いた。そして、「あなたには学ぶ必要はない。あなたはあなたでいい」と背中を押した。彼女の毅然とした言葉と態度は、シャノアの心に強い印象を残した。

新たな感情と気づき

シャノアは二人の姿を見送りながら、レティシアへの尊敬と憧れに似た新しい感情に気づいた。秘訣を知ることは叶わなかったが、真に大切なのは愛と信頼、そしてお互いを思いやる姿勢であると理解し始めたのである。

書き下ろし番外編  エステルのお嬢様道《クソ雑魚の皆さま〝対あり〟ですわ》

雑草すら喰らう貧乏少女の決意

エステル・アップルバリは、かつて貧乏商家の一人娘として生まれ、父と二人三脚で零細商店を営んでいた。父は元格闘家で腰を痛め引退、母は家を出奔し、生活は困窮を極めていた。筋肉こそが力であり、力こそ優雅さと信じたエステルは、筋トレを重ねながら店を立て直し、日々を凌いでいた。

小商店を狙う悪徳豪商の出現

経営が軌道に乗り始めた頃、町に進出してきた悪名高い豪商ラムフェッドが、彼女の店を買収しようと現れた。エステルはその申し出を断固として拒否し、腕相撲勝負という形で勝敗を決める提案を行った。条件は、自分に勝てば無給で働くが、負ければ彼の財産を全て貰うというものであった。

腕相撲勝負と圧倒的な力の誇示

試合当日、ラムフェッドは筋骨隆々の男を連れてきたが、エステルは一切の抵抗なくその力をねじ伏せた。相手は魔法による筋力強化すら施されていたが、彼女の純粋な筋力の前では無力であり、勝負は一瞬で決着した。

契約の反故と暴力による報復

敗北を認めたはずのラムフェッドは、部下二十人にエステルへの襲撃を命じた。しかしエステルはそれを予見しており、ドロップキック一発で敵を吹き飛ばすなど、素手で次々と相手を制圧した。最終的に彼女はラムフェッド一派を全滅させ、商会と財産の全てを掌握した。

商会再編と父娘の新たな暮らし

こうして「アップルバリ&パワー商会」として商会を再編し、父を会長に据えたエステルは経営の実務を担った。財力と時間を得たことで父の健康も回復に向かい、自身も「貧乏商家の娘」から「大商会の令嬢」へと身を変えた。

満たされぬ心と新たな挑戦

しかし、筋肉と喧嘩の日々を懐かしむエステルは、新たな刺激を求めていた。そんな折、王立学園「マグダラ・ファミリア」からの推薦状が届く。貴族社会への本格進出、真の“お嬢様”としての再出発に胸を躍らせた彼女は、新たな夢に向かって歩み出す決意を固めた。

新天地への意気込み

王立学園は本物の貴族の子女が集う場であり、エステルにとって「真の令嬢」への通過儀礼でもあった。筋肉と誇りを携えた彼女は、貴族社会に殴り込みをかけるように、こう宣言して旅立った。「──対よろ、ですわね」。

電子版特典 SS  レティシアのドレス選び

朝の支度と妻の慎ましさ

学園が休みのある朝、アルバンはレティシアと穏やかなひとときを過ごしていた。ドレス選びに悩むレティシアの様子から、彼女が必要以上の贅沢を避けていることが語られ、家計や立場への気配りが滲んでいた。そんな姿に感銘を受けたアルバンは、新しいドレスを贈る決意を固めた。

ドレス探しと価値観の違い

城下町の「ドレス通り」へ出向いた二人は、いくつもの店を巡りながら理想のドレスを探した。しかし、価格とデザインの折り合いがつかず、なかなか決められなかった。慎ましく振る舞うレティシアと、彼女に似合う一着を見つけたいアルバンの間には、価値観の差が浮き彫りとなっていた。

行きつけの店への訪問

行き詰まった末、アルバンはレティシアがかつて通っていた服屋を提案し、彼女を導いた。五年ぶりに訪れたその店では、店主バーベリーが温かく二人を迎え、レティシアのために仕立てたという一着のドレスを提供した。それは彼の想いが詰まったもので、料金不要とまで申し出た。

特別なドレスとの出会い

ドレスに袖を通したレティシアは、淡い紫色の華やかな装いへと姿を変えた。それはこれまでの彼女にない明るさと柔らかさを引き出し、アルバンは感動のあまり動けなくなるほどであった。ドレスは彼女の魅力を一層引き立て、二人にとって特別な一着となった。

感謝と装いへの想い

ドレスを受け取ったレティシアは無償での提供にためらいを見せ、少額ながらも代金を支払うことを申し出た。その姿には、贈り物に対する誠意と敬意が込められていた。アルバンはその様子を微笑ましく受け止め、二人はドレスを携えて部屋へ戻った。

ネックレスの交換と愛情の表現

部屋に戻った後、アルバンはレティシアのドレスに付属する青い宝石のネックレスに着目し、自らが店で購入した赤黒色の宝石のネックレスを贈った。互いの瞳の色に似た宝石を身につけ合うという提案を通じて、アルバンは愛情を込めた形で感謝を伝えた。

穏やかな結びと夫婦の絆

ネックレスの交換を終えた後、レティシアは照れつつもアルバンの提案を受け入れた。最後にアルバンが彼女の頬に優しく口づけ、静かであたたかい一日が幕を閉じた。慎ましくも深い愛情を育む二人の関係は、また一段と強く結びついたのである。

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました」感想・ネタバレ
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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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