物物語の概要
■ 作品概要
最強パーティ【ギルドナイト】の一員として、ギルドから過酷な搾取と洗脳を受けていた松尾篤史は、十五年前のジョブ取得の瞬間へと逆行した。
未来の記憶に加え、固有スキル【ルーム】内に残された深層域の超高性能装備を保持する彼は、二度目の人生において「ギルドの奴隷」にならない自由な生き方を選ぶ。
ギルドによる洗脳や搾取の手から逃れるべく、意図的に外れジョブ「行商人」を偽装しながら、ユニークジョブ【旅人】の圧倒的な成長補正と未来の知識を駆使して独自のレベリングを開始した。
さらに社会的拠点を確保するため、元裏社会組織を母体とする富士元興業へと接触を図る。
時価十億円以上の【ハイポーション】を交渉材料に使い、学生の身でありながら課長兼支部長という異例の地位を勝ち取ってみせた。
加えて、後に最強の戦力となる奥野せらを救済しながら、将来的なレベリングの加速を見据えた独自の協力関係を築いていく導入部を描く。
■ 主要キャラクター
松尾 篤史:
主人公。ユニークジョブ【旅人】。未来の記憶と【ルーム】内のチートアイテムを保持。ギルドの監視と洗脳を回避するため「行商人」を自称して活動する。
奥野 せら:
レアジョブ【侍】。松尾のクラスメイト。両親の治療費のために困窮し、無茶なソロ探索を続けていたが、松尾のスカウトを受け、ポーション提供と引き換えに部下となる。
美浦:
富士元興業部長。人事担当。探索者の戦力差に敏感なアンテナを持ち、松尾の放つ圧倒的なプレッシャーを肌で感じ取ったことで、本能的な恐怖から平身低頭な態度を取る。
但馬 明彦:
富士元興業専務兼、クラン【龍青会】本部長。松尾の実力と持ち込んだハイポーションに圧倒され、彼を特別待遇(営業部課長・支部長)で迎え入れる。
書籍情報
二度目はタの付く自由業1 ~逆行した社畜は、チートな装備&知識持ち越しで万能のアウトローになる~
著者:仏ょも 氏
イラスト:増田幹生 氏
レーベル/出版社:アース・スターノベル(アース・スター エンターテイメント)
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あらすじ・内容
人生やり直しで、最強の探索者!?
「小説家になろう」にて四半期1位獲得!
(ローファンタジー〔ファンタジー〕ジャンル、2024年5月29日時点)
逆行転生×現代無双×アウトロー
探索者志望の松尾は、パーティメンバーやギルドに搾取され、
社畜となる「未来の記憶」を思い出す。
将来手に入るはずのチート装備や知識も、なぜか同時に手に入っており……。
「差し当たっては……目指すか。『最強の探索者』ってやつを」
規格外のジョブ【旅人】を生かし、
誰にも知られずにステータスをトップクラスに鍛え上げる!
圧倒的実力で、元裏社会の組織の“特別な役職”まで得てしまい!?
有能な部下を育て上げ、二度目の人生は不遇な運命に逆らい無双する!
【ギルドナイト視点の前日譚】等の書き下ろしエピソード収録!
感想
ギルドが味方ではなく搾取側。未来で救えなかった人たちを今度こそ救う
本作は、内容をほとんど確認せず作者の名前で購入を決めた作品である。
李儒を主役にして、呂布を戦場ではなくデスクワークで瀕死に追い込んだ『偽典・演義~とある策士の三國志~』。そして、アーマード・コアへのリスペクトを感じる『極東救世主伝説』。
どちらも文章との相性が良く、Web版の頃から何周も読んでいた。
だから今回も自然と手が伸びた。
書籍1巻はWeb版でいうと35話前後まで。
そう考えると、
「このペースで刊行するとWeb版のストック、大丈夫なのだろうか」
という余計な心配までしてしまう。
続いてほしい作品だけに、そこは少し気になった。
そして本編を読んで最も印象に残ったのは、主人公のチート能力そのものではない。
ギルドである。
普通、この手のダンジョン作品におけるギルドは、探索者を助けてくれる便利な組織として登場する。
だが本作は違う。
探索者を守る組織の顔をしながら、その実態は探索者を管理し、囲い込み、利益を吸い上げる側にいる。
味方だと思っていた組織が、一番信用できない。
この構図がかなり面白かった。
最強パーティーにいたのに、松尾は自由ではなかった
主人公の松尾篤史は、未来では世界最強クラスの探索者パーティー【ギルドナイト】に所属していた。
一見すると成功者である。
高いレベル。
世界最強の仲間。
それなりの給料。
家族からも誇りに思われている。
だが実際には、ギルドに囲われていた。
探索へ行けば指示された通りにスキルを使う。
単独行動には監視が付く。
持ち帰った素材は安く買い叩かれる。
本人が集めた素材なのに、勝手に持ち帰ればネコババ扱い。
しかも裏では松尾が単独探索する日を「ボーナスデー」と呼び、本人を「働きアリ」扱いしていた。
酷い。
さらに報酬として渡されるのが現金ではなく、ギルド系列店のタダ券だったりする。
本人がそれを使ってしまい、
「タダ券の人」
として認識されていたのが妙に悲しい。
笑える話なのだが、その裏を見るとかなり重い。
松尾自身も途中から搾取されていることに気付いていた。
それでも抵抗できない。
自分だけなら逃げられても、家族を人質に取られる可能性がある。
ならば従順な道具を演じる。
そうやって未来の松尾は生き延びていた。
最強の探索者パーティーに所属しているのに、本人には自由がない。
この矛盾が、本作の根っこにあるように感じた。
ギルドが探索者の味方ではないのが面白い
同ジャンルでは、
「ギルドへ素材を売る」
「ギルドから依頼を受ける」
「ギルドが探索者を支援する」
という流れはかなり自然に描かれる。
本作はそこへ、
「そもそも、その組織は本当に探索者のために存在しているのか?」
と突っ込んでくる。
ギルドは探索者の互助組織ではない。
国や組織の利益も抱えた巨大な存在であり、立場の弱い探索者なら簡単に押さえ込める。
珍しい素材を持ってきた。
なら安く買う。
強力な能力を持っている。
なら囲い込む。
利用価値がある。
なら逃げないよう管理する。
松尾のような突出した能力者ですら「働きアリ」にされるのだから恐ろしい。
現実のブラック企業や既得権益の構造を連想するところもあった。
会社に所属している。
給料も出ている。
完全な監禁ではない。
だから本人も、
「もっと酷い環境よりマシ」
と思ってしまう。
でも選択肢が、
「少し自由のある家畜」か「もっと酷い家畜」しかないなら、そもそも何かがおかしい。
未来の松尾がようやくそこへ気付いているのが印象的だった。
二度目の松尾が求めるのは、単なる最強ではなく自由だった
そして過去へ戻った松尾は、同じ道を歩かない。
ユニークジョブ【旅人】を得ても、そのことをギルドへ報告しない。
代わりに外れ職扱いされている【行商人】だと偽る。
周囲から見下されても構わない。
未来のように囲われるより、存在価値がないと思われて放置される方がいい。
この判断が面白い。
普通ならチート職を得たら、
「俺にはこんな凄い能力がある!」
と見せたくなる。
松尾は逆である。
凄いから隠す。
強いから目立たない。
力を持っているからこそ、その力を誰に見せるかを自分で選ぶ。
しかも未来から持ち越された装備や知識を使いながら、自分だけが得をして終わるつもりでもない。
松尾が欲しいのは、
「好き勝手に暴れる力」
というより、
「誰かに所有されずに生きるための力」
なのだと感じた。
富士元興業という選択がかなり好きだった
その松尾が手を組むのが富士元興業である。
元を辿ればヤの付く自由業。
現在は建設業を営みながら、探索者クラン【龍青会】を抱えている。
社会的に真っ白とは言いづらい過去を持つ組織なのだが、松尾が巨大なギルドではなく、こちらを選ぶのが面白い。
未来の富士元興業は時流に乗り遅れて衰退していた。
所属探索者は後発組に追い抜かれる。
無理をして深い階層へ挑んだ主力は帰ってこない。
クランは潰れる。
会社も潰れる。
そして残された人間の中には、松尾が未来で知ることになる女性もいた。
未来では、もう手遅れだった。
だから今度は、まだ沈んでいない段階で手を差し伸べる。
もちろん松尾は完全な善意だけで動いているわけではない。
自分には富士元興業の販路と社会的な看板が必要。
富士元興業には深い階層から素材を持ち帰れる松尾が必要。
お互いがお互いを利用する。
ただし、一方的に搾取しない。
ここがギルドとの大きな違いだった。
未来で搾取された松尾が、二度目では相手にも利益が残る関係を作ろうとする。
このあたりがかなり好きである。
未来では救えなかった人を、今度は事前に救える
さらに印象に残ったのが奥野せらである。
未来では松尾と関わりの深かった女性。
しかし今の彼女は、まだ松尾との関係を築いていない。
両親が探索で重傷を負い、その治療費を稼ぐために無理な探索を続けている。
松尾は未来を知っている。
だから、彼女がどうなるのかも知っている。
そこでポーションを使い、まだ取り返しがつく段階で手を差し伸べる。
この展開にはかなり爽快感があった。
未来知識ものの面白さは、
「株価を知っているから儲ける」
だけではないと思う。
未来で後悔したこと。
助けられなかった人。
失ってしまったもの。
それらがまだ壊れる前の状態で目の前にある。
だったら今度は間に合わせる。
松尾の場合、それが自分の利益にも繋がっているので完全な人助けではない。
でも、それでいいと思う。
自分も得をする。
相手も救われる。
富士元興業も生き残る可能性が高くなる。
一方的に誰かが吸い上げるギルドとは正反対の関係が少しずつ作られていくのが良かった。
「強くなる理由」が搾取されないためなのが印象に残った
本作にはレベル、ステータス、スキル、装備といったゲーム的な要素が大量に登場する。
成長率を上げる指輪。
未来から持ち越した装備。
効率の良いレベル上げ。
雷撃などのスキル。
数字だけを見ると、かなり強烈なチート主人公である。
実際、松尾の成長速度はおかしい。
だが読んでいて不思議と、
「チートで俺TUEEEしているだけ」
という印象にはならなかった。
理由は、その力を必要とする背景がかなり切実だからだと思う。
弱ければ奪われる。
珍しい素材を持っていても、社会的信用がなければ没収されかねない。
力だけあっても巨大組織から家族を守れない。
だから戦闘力を上げる。
同時に富士元興業へ入り、社会的な肩書も得る。
仲間を作る。
組織そのものも強くする。
松尾にとって力とは、敵を倒して気持ちよくなるためだけのものではない。
自分の人生を自分で決めるために必要なものなのである。
過去を知っているからこそ、今度は違う選択ができる
1巻を通して感じたのは、
「過去をやり直す」
というより、
「未来で知った後悔を材料に、今の選択を変える」
物語だということである。
未来の自分はギルドに飼われていた。
だから今度はギルドから距離を取る。
未来では富士元興業が潰れた。
だから今のうちに支える。
未来では救えなかった人がいた。
だから今度は手遅れになる前に動く。
未来の自分を完全に否定しているようで、その経験を一番利用しているのも松尾自身である。
そこが面白い。
過去の自分が間違っていたから全部捨てるのではない。
嫌だった経験も、恥ずかしかった記憶も、搾取された時間も、全部二周目の武器にしている。
そして目指しているのは最強の探索者。
ただ、その先に欲しいのは名声ではなく自由なのだと思う。
ギルドという巨大な檻から出る。
未来では失った人たちを今度は救う。
利用される側だった男が、自分で相手を選び、自分で取引し、自分で仲間を集めていく。
『二度目はタの付く自由業』は、ただの逆行チートものというより、
「自分の人生を誰に使わせるのかを、自分で決め直す物語」
として読んでいる。
さて、1巻ですでにかなり進んだ。
Web版のストックを考えると少し心配になるが、そこは続刊してくれることを祈りたい。
未来では働きアリだった松尾が、二度目ではどこまで自由に歩けるのか。
多分、メイビー。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ストーリー・プロット
三三歳の探索者・松尾篤史が一五年の時を越えて過去へと逆行し、自らの未来を切り拓く軌跡を時系列に沿って整理する。未来の記憶と圧倒的な物資を武器に、かつての搾取構造から脱却して独自の勢力を築き上げる歩みを各幕ごとに追っていく。
第1幕:逆行とユニークジョブの取得
三三歳の探索者である松尾篤史は、一五年前の探索者学校時代、初めてジョブを取得した瞬間に意識が逆行した事態を認識する。
- 脳内に搾取に満ちた一五年の記憶が流れ込む。
- 固有スキル【ルーム】の中に、未来で得た最強装備やアイテムがそのまま残存している事実を確認する。
- 世界で唯一のユニークジョブ【旅人】の価値を再確認し、自身を酷使したギルドから逃れて自由と利益のために生きる方針を固める。
第2幕:偽装と戦略的潜伏
【旅人】の性能が公表されれば再びギルドによる搾取の対象になると確信し、情報隠蔽の処置をとる。
- 周囲には商人系の中でも使えないとされる外れジョブ【行商人】を取得したと偽装報告を行う。
- 周囲の侮蔑を利用して監視の目を逸らしつつ、【ステータス成長率倍化の指輪】を装備する。
- 深夜や休日を利用し、周囲に察知されない超効率的な単独レベリングに着手する。
第3幕:富士元興業への接触と交渉
ギルドに対抗し得る社会的地位を確保するため、元ヤクザ系の建設会社である富士元興業へ接触を図る。
- 人事を担当する美浦や専務の但馬に対し、交渉材料として超貴重品【ハイポーション】を提示する。
- 独自の換金ルートと社会的立場を要求し、底知れない実力と物資の希少性を認識させる。
- 実力を認められ、営業部課長およびクラン龍青会の学園支部長という異例の役職で採用を勝ち取る。
第4幕:奥野せらのスカウト
将来的な有力戦力の確保を目的とし、レアジョブ【侍】を保持するクラスメイトの奥野せらへ接触する。
- 両親の治療費に困窮している状況を捉え、現物ポーションの提供と高額な契約金を条件にスカウトを実施する。
- 追加のポーションを長期ローンとして提供する契約を結ぶ。
- 恩義と契約の双方を通じて自陣営に取り込み、強固な協力関係を構築する。
第5幕:中層一五階層での特別訓練
奥野の戦力を短期間で引き上げるため、中層一五階層への同行訓練を敢行する。
- 落とし穴を活用した移動ルートを選択し、未来由来の高性能装備を惜しみなく貸与する。
- 五〇階層ボスのドロップ品である指輪を持参し、規格外の育成環境を整える。
- 自身の装備によるステータス支援を重ね、わずか数時間で劇的な能力向上を実現させる。
第6幕:イレギュラーボスとの遭遇と撃破
二〇階層のボス部屋において、通常とは異なる異常事態に直面する。
- 強化型【黒鬼】と【赤鬼】二体からなる想定外のイレギュラーボスと遭遇する。
- 遠距離魔法を駆使し、主力となる黒鬼と赤鬼一体を瞬時に排除する。
- 残る一体を奥野が撃破し、未知の希少アイテムである【雷撃のスキルオーブ】二個の獲得に至る。
過去の記憶と未来の遺産を的確に運用した松尾は、ギルドの支配網を巧みに回避しながら着実に影響力を拡大させていく。個人の武力強化にとどまらず、裏社会の組織や将来有望な人材を巻き込む周到な戦略により、盤石な活動基盤の確立を着々と進めていく。
主要な転換点
一五年の時を遡った探索者・松尾篤史の歩みにおいて、状況を一変させた重要な局面が存在する。未来の記憶と物資を武器に、過酷な運命を覆した決定的な転換点を整理する。
ステータス成長率倍化の指輪の使用開始
- それ以前の状況 基本職に劣る緩やかなステータス成長にとどまる。
- 出来事の内容 未来のルーム内に保持されていた、レベルアップ時の上昇値を倍化させるアイテムを装備する。
- 発生した変化 成長時のステータスが基本職を大幅に凌駕し、序盤の段階から強大な戦闘力の土台を構築する。
富士元興業へのハイポーション持ち込み
- それ以前の状況 ギルドから監視されやすく、発言権を持たない一介の学生探索者に過ぎない。
- 出来事の内容 市場価格一〇億円以上とされる超貴重品を但馬へ提示する。
- 発生した変化 学生の身でありながら課長および支部長のポストを獲得し、ギルドの介入を排除した独自ルートでの換金体制と強固な活動拠点を確保する。
雷撃のスキルオーブ取得と使用
- それ以前の状況 物理攻撃と基本魔法のみに頼る単調な戦闘スタイルが続く。
- 出来事の内容 二〇階層のイレギュラーボスを撃破し、未来の最強パーティ全員が所持していた必須スキルを現時点で先取り取得する。
- 発生した変化 松尾と奥野の攻撃力および汎用性が飛躍的に向上し、将来の精鋭たちを凌駕する戦闘効率を実現する基盤が整う。
過去へ逆行した直後から周到に重ねられた選択は、個人の能力拡張にとどまらず、組織的な影響力の獲得や戦力の底上げへと結実していく。各転換点で得られた優位性を的確に活用することで、かつての支配構造を打破し、自らの未来を切り拓く基盤が強固に築かれていく。
主人公を中心とした人物関係の変化
過去への逆行を果たした松尾篤史は、かつて自身を苦しめた環境を脱し、自らの未来を切り開くための基盤を着実に構築していく。その過程において、周囲の人物との関係性にも大きな変化が生じる。個人の戦闘力向上にとどまらず、将来を見据えた戦力確保や組織との連携をどのように確立していったのか、二名の主要人物との関係性の推移を整理する。
松尾篤史と奥野せら
探索者学校のクラスメイトという形式的な関係から、絶対的な信頼と契約に基づく主従関係へと発展を遂げる。
- 開始時の関係性 接点のないクラスメイト同士であり、奥野は孤立したソロ探索者、松尾は周囲から侮蔑される行商人という立場に留まる。
- 主な出来事 喫茶店での直接交渉において、両親の治療に必要なポーションを提供し、契約金を含めたスカウトを行う。さらに中層一五階層での特別訓練を経て、二〇階層のボス戦で共闘を果たし、将来の必須スキルとなる雷撃のスキルオーブを授与する。
- 巻末時の関係性 営業部課長と部下という組織上の上下関係を確立する。多額の負債を長期ローンとして抱えさせつつも、圧倒的な実力と恩義による絶対的な信頼で結ばれた強固な協力体制を敷く。
松尾篤史と但馬明彦
正体不明の接触者という警戒すべき対象から、組織の枠を超えた利害一致のビジネスパートナーへと昇華させる。
- 開始時の関係性 元ヤクザ系の建設会社である富士元興業を突如として訪問した、素性不明の入社希望者として扱われる。
- 主な出来事 市場価格一〇億円以上とされる超貴重品ハイポーションを提示し、底知れない実力を誇示することで経営陣を戦慄させる。その価値と実力を認めさせ、学生の身でありながら営業部課長および学園支部長という異例の役職を獲得する。
- 巻末時の関係性 会社の経営陣と、通常の枠組みを超越した物資の供給源としての関係を確立する。互いの利害が完全に一致した協力体制のもと、ギルドの介入を排除した独自の活動拠点を維持する。
松尾の築き上げた人間関係は、単なる友情や組織への従属とは一線を画し、明確な打算と実利の提示によって形成される。相手の窮地や組織の需要を的確に捉えた交渉を行うことで、自らの自由と利益を守り抜く盤石な体制を盤石なものにしていく。
主人公の認識と周囲の評価
過去への逆行を果たした松尾篤史を巡る自己認識と周囲からの視線には、極めて大きな隔たりが存在する。かつての過酷な経験から生じた切実な動機と、規格外の実力を察知した周囲の過剰な警戒感が交錯し、独特の緊張感を生み出していく。
主人公自身の認識
- かつて呼ばれた屈辱的な呼び名を払拭したい強い意向を持つ。
- 現金を確実に稼いで自立を果たしたいという切実な欲求を抱く。
- 未来で味わった絶望の記憶から、自らの自由を守るための力と地位を冷徹に追求する。
周囲からの評価
- 同級生 使えないとされる外れジョブの行商人を引いた哀れな落ちこぼれと見なす。
- 但馬および美浦 底知れない戦闘力と規格外の物資を保持する危険な怪物と捉える。 特に戦力差を敏感に察知する美浦は、松尾の気配に本能的な戦慄を覚える。
認識の差が現れた場面
- 会社の受付において美浦が恐怖のあまり逃亡した際、松尾本人は単に長く待たされた程度に受け止める。
- 一方で但馬らは会社に対する襲撃を疑い、命の危険を覚悟するほどの極度の戦慄に陥る。
本人が抱く自立への切実な願望とは裏腹に、隠しきれない圧倒的な気配は裏社会の人間を深刻な恐怖へと追い込む。この認識のずれこそが、周囲の警戒を呼びつつも異例の待遇を勝ち取る決定的な要因として機能していく。
クライマックス
二〇階層のボス部屋付近において、本来出現しないはずのイレギュラーボスとの交戦が発生した。当時の戦況およびその後の経過について記録を整理する。
事象の概要
二〇階層のボス部屋付近にて、想定外の敵性存在との遭遇を確認した。
- 遭遇対象:イレギュラーボス【黒鬼】および【赤鬼】二体
- 発生原因:ボス部屋の異変を察知後、二一階層への階段付近で前探索者を捕食中の黒鬼らを発見
- 当初の状況:圧倒的な戦力差に奥野は戦慄するが、松尾は実力の隠蔽を一時的に解除
交戦時の動向
両名は連携を取り、各個撃破を試みた。
- 松尾の行動:五二階層由来の霊杖刀を用い、深層装備に依存した圧倒的な魔力のマジックアローにより黒鬼と赤鬼一体を瞬殺
- 奥野の行動:松尾の支援を受けつつ、残る赤鬼一体を自力で撃破
交戦結果および獲得戦果
戦闘終了後、安全を確保した上で物資の回収を実施した。
- 宝箱の回収:松尾が収納スキルを用い、罠や消失のリスクを排除して宝箱を即座に無力化
- 獲得物資:時価数億円相当のスキルオーブ(雷撃)二点を確保して無事帰還
想定外の強敵に対しても深層装備とスキルの即時運用により損害を出さず制圧を完了した。希少物資の獲得も含め、作戦行動は計画以上の成果を収めて終了した。
巻末時点の状況
二〇階層におけるイレギュラーボスとの交戦を経て帰還を果たし、探索者としての基盤を着実に固めつつある。過去への逆行直後に直面した数々の危機を退け、現在置かれている環境と今後の動向について整理を行う。
現在地と生活基盤
二〇階層での任務を無事に完遂し、地上への帰還を達成した。
- 探索者学校における学生としての身分を保ちつつ、平穏な学校生活を継続する。
- 周囲からの不要な注目を避け、表向きは目立たない生徒としての日常を維持する。
組織内における役職と社会的立場
裏社会と繋がりを持つ外部組織へ接触し、自身の活動を保護する拠点を確保した。
- 富士元興業において営業部特殊素材調達課課長の役職を務める。
- 龍青会学園支部支部長の地位も併せて掌握する。
- 学生の枠組みを超えた権限と換金ルートを背景に、ギルドからの不当な干渉を排除する体制を整える。
奥野せらとの主従関係
将来の戦力として見出した奥野せらに対し、実利と恩義を交えた関係を構築した。
- 正式な部下として組織内に迎え入れ、自陣営の戦力として囲い込みを完了する。
- 彼女の両親を治療するためのポーションを提供し、多額の負債を長期的に管理する。
- 圧倒的な実力の提示と生活支援を通じて、強固な忠誠心を獲得する。
今後の継続課題
安全圏を確保した現状に甘んじることなく、直面する懸念事項への対処を進める。
- 自身が一五年の時を遡った逆行現象そのものの原因と謎を解明すべく、情報収集を継続する。
- ギルドによる理不尽な搾取や監視を完全に退けるため、さらなるレベリングを重ねて実力の底上げを図る。
学生としての偽装を維持しながら外部組織の要職を手中に入れたことで、かつての孤立無援な境遇から脱却を遂げた。手に入れた戦力と強固な拠点を足がかりに、逆行の真相究明と絶対的な自由の獲得へ向けて歩みを進めていく。
記憶の逆行
『二度目はタの付く自由業 1』における記憶の逆行は、物語の根幹をなす最大の謎となり、主人公の松尾篤史が二度目の人生を歩む上での強力な武器となる一方、深い恐怖の源泉としても作用する。記憶の逆行が作中でどのように描かれ、どのような謎や葛藤を内包しているかについて検証を行う。
逆行の発生と未来の悲惨な記憶
探索者学校に入学して初めて魔物を討伐し、レベルが上がった瞬間に、以降に歩むはずの一五年の記憶が脳内へ流れ込み、過去のすべてを想起する事態が生じる。
- 記憶の中の松尾は、三三歳で世界最強の探索者パーティ【ギルドナイト】に所属し、ダンジョン六九階層への到達実績を残す。
- 輝かしい経歴の裏で、一五歳からギルドによる洗脳教育を受け、単独探索には監視がつき、ドロップ品は安値で買い叩かれる。
- 報酬の代わりにギルド直営店の無料券を渡されるなど、働きアリのように徹底的に搾取される境遇に甘んじる。
- 搾取と洗脳の記憶を取り戻したことで、二度目の人生では同じ罠に陥らず、自身の力を自身のためだけに行使し、自由を掴み取る決意を固める。
単なる夢や未来視を否定する物証の存在
この逆行現象において最も特異な点は、レベル自体は一にリセットされながらも、一五年後で保管していた最高峰のアイテムがそのまま持ち越されている事実にある。
- ユニークジョブ【旅人】の固有スキル【ルーム】の内部を確認し、世界最強の探索者たちが使用していた装備品や予備武具の残存を視認する。
- 一本で国家予算級の価値を持つハイポーションを確認する。
- 五〇階層の攻略報酬であるステータス成長率倍化の指輪や、全ステータスを一〇〇引き上げる指輪の残存を確かめる。
- 確固たる物証の存在により、単なる脳内の幻覚や未来視ではなく、物資と記憶を引き継いだ二周目の現実と確信するに至る。
主人公だけが直面する魂の牢獄への恐怖
手放しで現状を歓迎する姿勢とは異なり、松尾の内面には発生原因が不明である点への深い危機感が常に渦巻く。
- メディアを通じて確認したギルドナイトの面々は松尾を確保する動きを見せず、記憶の保持者が松尾単身のみと判明する。
- 自身のスキルの暴走や外部要因による自動的な巻き戻しだった場合、今後も一五年の周期を反復する可能性に戦慄する。
- 現金を稼ぎ、家族や穏やかな日常を築いても、すべてが強制的にやり直しとなる無限ループの牢獄に囚われる懸念を抱く。
- 現金を稼いで搾取の象徴から脱却する当面の目的と並行し、逆行を引き起こした原因や意図、関与者の正体を究明する方針を立てる。
手にした圧倒的な遺産と記憶を武器に深層攻略を目指す歩みは、かつての搾取を退ける自立の戦いにとどまらず、時間を巡る不条理な監禁状態から脱出するための冷徹な防衛策として進められていく。
探索者学校
物語の始まりの舞台となる探索者学校は、単なる能力育成の場にとどまらず、探索者ギルドによる支配と社会的な選別や洗脳を具現化した冷酷な縮図として機能している。
この探索者学校が内包する歪んだシステムや実態について、四つの側面から整理する。
ギルドの出先機関としての監視・選別システム
探索者学校は国や企業、ギルドの意向が強く反映された教育機関となっている。その実態は生徒を保護し育成する学校というよりも、ギルドにとって都合の良い道具を早期に発見し、囲い込んで洗脳するための選別所と言える。
- 生徒を引率する担任などの教師はギルドの職員を兼任し、安全確保のみならずレベルアップ時に発現したジョブと初期スキルの確認や報告、監視を主な役割とする。
- 卒業にはレベル10への到達およびダンジョン10階層の攻略という厳格な基準が課せられている。
- 自力で達成できない生徒には教師や優秀な生徒への金銭支払いを伴う同行救済措置が存在するものの、利用時には生涯消えないマイナス評価が付き、将来のキャリアが閉ざされる構造を持つ。
職業偏見と激しい校内カースト
校内ではダンジョン探索に直結する戦闘職や魔法職が優遇される一方、それ以外の不遇職に対する露骨な差別と同調圧力が横行している。
- 商人系ジョブはアイテムボックスの悪用疑惑や鑑定スキルの存在、ステータス成長値の低さ、代替品となるアイテムバッグの普及により、犯罪者予備軍やお荷物として忌み嫌われている。
- 主人公の松尾篤史は、最強のユニークジョブである旅人を隠すため、あえて行商人を名乗ることで周囲の関心を逸らし、監視の目を回避している。
- 希少職の侍を得た奥野せらは、両親の治療費を稼ぐため無謀な単独探索を繰り返した結果、周囲から戦闘狂や死にたがりと噂され、完全に孤立している。
合法的な私刑制度である決闘とその欺瞞
生徒間のトラブルを両者の合意のもとで解決する名目として、決闘という野蛮な公式規則が定められている。
- 降伏、KO、審判の介入によるTKOで勝敗が決まる形式を取りながら、審判を務める教師がギルド職員であるため、特権階級に有利な判定が下される実態を持つ。
- 制度の本質は、一般生徒に対してギルドや特権階級へ逆らっても力とルールの両面で勝てない現実を叩き込み、絶対的な従属を刷り込む儀式となっている。
- ギルド役員の息子である黒羽は奥野せらを囲い込むために決闘を仕掛けたが、松尾篤史の交渉術と実力により自滅を迎える。
- 松尾篤史は等価交換を盾に4000万円の支払いを呑ませ、履行遅延時のギルド報告条項を付加した上で、初心者用の杖と学生服のまま放った不意打ちのマジックアローにより完全勝利を収めている。
特権階級の内ゲバと生徒会の凋落
探索者学校の生徒会は将来の幹部候補となる権力者の子供たちが君臨する場となっているが、その実態は隙あらば相手を追い落とそうと狙い合う政治空間と化している。
- 生徒会長の黒羽輝夜は、弟が仕掛けた多額の賭け決闘による不祥事に巻き込まれる形となる。
- 事後処理と謝罪のために松尾篤史らを呼び出そうとした行為を権力による圧力と糾弾され、弟の不祥事に対する連帯責任を負わされる。
- 決闘からわずか7日後、会長の座を辞任させられる破滅を迎える。
- 迅速な失脚の背景には、悪評を流して生徒を扇動した他の生徒会役員たちによる権力闘争が存在している。
探索者学校は、主人公の松尾篤史にとって二度とギルドの奴隷にならない誓いを立て、自らの社会的立場と仲間を確保するための最初の戦場として機能している。
富士元興業
株式会社富士元興業は、主人公の松尾篤史が二度目の人生において安全かつ自由に活動するための社会的立場として選択し、共生関係を築く極めて重要な組織に位置づく。彼らが抱える背景や松尾と手を組むに至った経緯、取引の実態について整理を行う。
富士元興業の背景と直面する危機
富士元興業は新宿五丁目に拠点を置く従業員数107名の建設系企業であり、かつて裏社会に属した歴史を持ちながら現在は合法的な探索者クランの龍青会を運営する。
- 50年前のダンジョン出現時、真っ先に適応した彼らはお国のために潜る探索者として莫大な利益と高い地位を獲得した。
- 後発の探索者学校出身者が台頭すると、危険への感度が高い社員たちは安全性を重視した中層止まりの探索に終始し、深層へ進出する新興勢力に後れを取る事態に陥った。
- 専務の但馬明彦は会社が数年で立ち行かなくなる危機感を抱きつつも、社員への無理な深層探索の強制が組織崩壊を招く懸念から身動きが取れずにいた。
松尾篤史が組織の盾を求めた背景
どれほど強大な個人の戦闘力を有していても、正当な社会的地位を欠けば、ギルドから言いがかりをつけられて物資を奪われ、搾取される結末を松尾は前世の記憶から熟知していた。
- 国家権力を背景に持つギルドへ対抗するため、容易に手を出せない組織的な看板の獲得を不可欠と判断した。
- 組織の衰退を自覚して延命策を模索する富士元興業に着目し、破格の好条件を提示して利用し合う共存関係を狙った。
誤解から始まった破格の取引と役職獲得
初訪問時、侮りを避ける目的で装備の気配を引き上げた松尾の行動が、思わぬ展開を呼ぶ契機となった。
- 桁外れの戦力差を察知した幹部陣は会社への襲撃と誤認し、極度の戦慄から平身低頭で迎え入れる事態となった。
- 誤解の解消後、松尾は組織力と販路の確保を目的とし、ダンジョン産の超一級素材の提供を持ちかけた。
- ギルドで安価に買い叩かれるポーションを有利な条件で卸し、競売で高額取引されるハイポーションの手数料として会社側へ莫大な利益をもたらす提案を行った。
- 圧倒的な実力と実利の提示が高く評価され、松尾は営業部特殊素材調達課課長および龍青会探索班学園支部支部長という異例の役職を獲得した。
クラン戦力を底上げする育成戦略
市場への素材流通を円滑化し、ギルドの干渉を退ける防壁を強固にするため、クランの戦力を大幅に向上させる施策を展開した。
- 15階層で獲得した規格外の性能を誇る指輪を但馬へ持ち込んだ。
- ステータス上昇を促進する指輪の販売や、能力値を大幅に底上げする指輪の定期レンタルを実施した。
- 信頼の厚い精鋭に装備させて育成を進めることで、安全性を確保したまま限界階層を突破させ、上位ランクへの昇格を狙う盤石な体制を構築した。
会長の困惑と面会を避ける実情
会長の富士元隆は、専務の但馬から取引報告を受け、その規格外の規模に困惑の色を隠せずにいた。
- 国家規模で争奪戦が起きる物資を供給可能な人物が、弱体化した組織を乗っ取る動機は見当たらず、看板の強化のみを望む松尾の意図を受け入れた。
- 莫大な利益をもたらしながらトップへの面会を一切求めない青年の態度に対し、権力欲を持たない世代特有の気質として解釈した。
- 一方で松尾の内面には、組織規模に照らして新任課長が代表者と直に会う必然性はないという判断に加え、前世で縁のあった女性の肉親に対面することを避ける私的な思惑が存在した。
富士元興業は単なる換金窓口にとどまらず、松尾が自らの身を守るための強固な社会的防壁として機能する。双方が利益を享受しながら組織を立て直していく過程は、互いの目的を合致させた極めて合理的な協力関係を示す。
ジョブの偽装
『二度目はタの付く自由業 1』において、主人公の松尾篤史が実行したジョブの偽装は、彼が二度目の人生で自由と安全を勝ち取るために講じた、最も知的で用意周到な防衛策に位置づく。本来、世界最強クラスのユニークジョブである「旅人」を所持する篤史が、なぜあえて社会的に不遇とされる「行商人」を名乗り、周囲を欺き通したのか、その実態を整理する。
偽装の目的:前世における搾取の回避
前世での篤史は、自身が得た「旅人」の規格外な万能性をギルドへ正直に報告した。その結果、ギルド上層部や研究者から解析の対象とされ、最終的には15歳から洗脳教育を施され、組織の利益のために心身を削って戦う働きアリとして搾取される結末を迎えた。二度目の人生において、篤史は自身の力を自身のためだけに行使し、ギルドの奴隷には戻らない方針を固める。そのためには、実力を隠蔽し、国家権力を背景に持つギルドの監視網から完全に外れる防壁が必要となり、ジョブの偽装へと踏み切る。
偽装を可能にしたスキルの類似性
通常、ジョブの偽装は困難を極めるが、旅人を保持する篤史にはそれを可能とするスキルの類似性が存在した。
- 旅人の初期スキル「ルーム」は青白い光の先に特殊な空間を創造する能力だが、その外見は商人系ジョブの初期スキル「アイテムボックス」に酷似する。
- 学校ではプライバシー保護の観点から生徒へ直接「鑑定」スキルを行使する行為が厳格に禁止されており、引率教諭は実演された初期スキルを視認して判定を下す運用を取る。
- 篤史は「ルーム」を「アイテムボックス」に見せかけて提示し、担当教諭へ商人系と虚偽の申告を行うことで、疑念を持たせることなく手続きを通過させる。
最悪の不遇職である行商人を選んだ背景
商人系ジョブは、探索者社会において激しい偏見と差別を受ける立場に置かれている。篤史はこの悪評を逆手に取り、隠れ蓑として活用する。
- 「アイテムボックス」が悪用されやすく、犯罪者予備軍としての疑いを向けられやすい。
- 内部の保管状況を外部から確認できないため、討伐品の横領を疑われてトラブルへ発展しやすい。
- 第二スキルの「鑑定」が他者の個人情報を暴く性質を持つため、社会全体から忌避される。
- ステータス上昇値が全項目均一に低く、代替品となる外部収納具の普及によって存在価値が低下している。
- 商人の中でも攻撃力や防御力に補正が入る職種を名乗ると前衛としての役割を期待される恐れがある。
- 敏捷のみに補正が入る「行商人」を名乗ることで、前衛にも後衛にも不向きなお荷物としての評価を確立し、周囲からの干渉を完全に遮断する。
偽装による優位性の確立と単独行動
周囲からの無関心を獲得した結果、篤史は誰にも行動を阻害されない環境を手に入れる。
- 実際には旅人の高いステータス成長率と成長補正装備を併用し、短期間で一般の探索者を圧倒する能力値へ到達する。
- 単独で魔物を瞬殺する場面を他者に目撃された際も、資金力を背景にした装備と不可視の護衛を理由に挙げ、関わりづらい富裕層の道楽と誤認させて追及を逃れる。
- ギルド窓口以外の場所で無許可に他者のステータスを鑑定する行為は重罪と定められており、本人が自発的に開示しない限り偽装が露見する危険性は極めて低い。
松尾篤史にとってジョブの偽装は、単なる実力の誇示を避ける工作にとどまらず、過去に味わった社会的搾取から身を守り、自身の人生を独力で切り拓くために選択された合理的かつ冷徹な自衛手段に他ならない。
特殊な装備
物語において主人公の松尾篤史が有する特殊な装備は、二度目の人生を誰にも搾取されずに生き抜くための最重要ツールとして位置づけられる。これらの装備は単に戦闘力を引き上げるだけでなく、育成の加速、社会的盾の獲得、敵対勢力への擬態など、高度に戦略的な役割を果たす。作中に登場する特殊な装備の実態とその活用法について、いくつかの観点から考察を進める。
最強ステータスを支える指輪とルール
篤史の固有スキルであるルーム内には、前世において世界最強パーティーが獲得し、ギルドに秘匿して預けていた超一級の装備が保管されている。その中でも特に規格外の性能を誇るのが、ステータス上昇に直接関与する一連の指輪となる。
- ステータス成長率倍化の指輪 レベルアップ時に上昇する各種ステータス値を倍化させるアイテムであり、新宿ダンジョン50階層の攻略報酬として手に入る。前世では既得権益の保持を狙うメンバーによってギルドへ報告されず、篤史に預けられていた。篤史はレベル1の段階からこれを装備してレベリングに励み、短期間で規格外のステータスを獲得する。
- 全ステータスプラス一〇〇の指輪 装備するだけで全ての能力値を一〇〇上乗せする破格の装備であり、50階層のボスドロップ品として存在する。
- 指輪の相殺ルール 左右の手に一つずつ、計二個までしか指輪の効果を発揮できない規定が存在する。片手に二つ以上の指輪をはめると、効果が互いに相殺される。
- 深層攻略の必須装備 新宿ダンジョン60階層報酬の状態異常耐性極大の指輪と環境適応の指輪は、過酷な環境が蔓延する61階層以降を生き抜くために必須となる。これらを装備せざるを得なくなった結果、前世の精鋭たちは一時的に能力向上系の指輪を外す選択を迫られた。
初心者の杖に擬態した霊杖刀
篤史が戦闘で愛用する簡素な木の棒は、単なる木刀にとどまらない性能を秘めている。
- 正体と由来 52階層から55階層に出現する巨大な木の魔物が落とす木材を素材に造られた、深層域の特注品となる。
- 性能と利便性 外見が簡素なため周囲に威圧感を与えず目立たない利点を有する。実態は魔法の威力を約1.3倍に増幅させる極めて優れた補助具として機能する。
- 素材の裏設定 深層木材は魔力親和性が高く、込める魔力によって硬軟が変化するため、かつて大人の玩具の素材としても人気を博した背景を持つ。
奥野せらへの装備貸与と育成
篤史は最初のパーティーメンバーとして勧誘した奥野せらに対し、秘匿していた装備を惜しみなく貸与して実地訓練を行った。
- 黒鬼刀 31階層から35階層に出現する黒鬼の金棒を再加工した高級刀となる。
- 黒蜘蛛の千早 34階層から36階層に出現する黒蜘蛛の糸から造られた防具であり、学校指定のジャージの上から羽織る運用をとる。
- 育成成果 ステータス成長率倍化の指輪および全ステータスプラス一〇〇の指輪を同時に貸与した結果、せらは短時間で急激なレベル上昇を遂げ、実質的に高水準の能力を獲得する。
富士元興業との装備取引
篤史は社会的防壁となる富士元興業を底上げし、下層を安定攻略する戦力を育成するため、15階層の宝箱から得た装備を持ち込んで取引を行った。
- レベルアップ時のステータス上昇値を20パーセント高める指輪 3個を1個あたり2億円、計6億円で売却する。
- 全能力をプラス一〇〇する指輪 1個を月1000万円でレンタル運用する。
- 取引の成果 多額の資金を確保すると同時に、組織力を強化させることでギルドが容易に手を出せない強固な盾を完成させる。
装備に対する合理的な生存哲学
篤史の装備に対する価値観は、前世での過酷な経験から極めて合理的かつ冷徹に形成されている。
- 生存の優先 使える手段は何でも利用する姿勢を貫き、生存を最優先に行動する。
- 決闘における擬態戦術 クラスメイトの黒羽との決闘において、相手が高価な武具で挑んできたのに対し、篤史はあえて学校支給のジャージと最安値の初心者の杖で臨んだ。油断を誘い、極小のマジックアローによる不意打ちで即座に決着をつける戦術を展開した。
作中に登場する特殊な装備は、単なる戦闘用の道具という枠組みを超越し、主人公が搾取から身を守り、効率的に社会的基盤を掌握するための交渉カードや投資商品として機能する。
登場キャラクター
主要キャラクター紹介(完全修正・不備排除版)
探索者学校
松尾 篤史
本作の主人公。魔物を倒してレベルアップした瞬間に、これ以降に歩むはずだった「15年分の未来の記憶」を突如として思い出した青年。前世において、所属していた世界最強の探索者パーティー【ギルドナイト】や探索者ギルドから「働きアリ」のように都合よく洗脳・酷使された悲惨な社畜人生を悔いており、二度目の人生では自分の意志だけで自由に生きることを固く誓っている。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の一年生。
- 株式会社富士元興業営業部特殊素材調達課の課長、およびクラン【龍青会】探索班学園支部の支部長を兼任する。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 他国やギルドにチート能力を解析・解剖されるリスクを避けるため、世界初のユニークジョブである【旅人】の力を隠し、社会的に最底辺のハズレ職とされる【行商人】を得たと偽って周囲へ申告した。
- 固有スキル【ルーム】に保管されていた前世のチート級装備や各種指輪を駆使し、周囲には「実家の資産で凄腕の護衛を雇って道楽でレベリングをしている金持ち」と思わせる擬態を保ちながら、ソロで安全に実力を鍛え上げる。
- 富士元興業との交渉により、ポーションやハイポーションを自らの社会的立場(盾)と引き換えに破格の条件で取引し、幹部直属の特別ポストを確保した。
- 同級生の奥野せらをスカウトして【龍青会】へ加入させ、両親の治療費に苦しむ彼女にポーションを提供して借金を事実上の一括返済へと導いた。
- 決闘を挑んできた同級生の黒羽を魔法の一撃で瞬殺し、さらに生徒会からの追及をかわすアリバイ作りのため、2日間の学校欠席を完遂する。
- 新宿ダンジョン31階層で黒鬼を倒してレベル30に到達した際、ジョブが【旅人】から前世では存在しなかった上位職【過客】に進化し、新スキル【結合】が発現したことを確認した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- わずか1ヶ月ほどで実ステータスが前世のギルドナイトに匹敵する規格外の領域に達しており、社会的にも富士元興業という強固な後ろ盾を得た。
奥野 せら
松尾篤史のクラスメイトであり、極めて希少な戦闘ジョブである【侍】の適性を持つ少女。実直で負けず嫌いな性格だが、探索中に重傷を負って再起不能と診断された両親を救うため、ポーション代の捻出を目的としてソロで無茶なダンジョンアタックを繰り返していた。そのため、周囲の生徒からは「バーサーカー」や「死にたがり」と呼ばれ孤立していたところを、篤史に能力と事情を見込まれてスカウトされる。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の一年生。
- クラン【龍青会】の学園支部に所属する平社員。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 篤史から契約金として手渡された2本のポーションに加え、追加の4本を格安の無利息ローンで購入することで計6本のポーションを確保し、両親の負傷を完治させて退院へと導いた。
- 篤史から貸与された「黒鬼刀」や「黒蜘蛛の千早」、さらに「ステータス成長率倍化の指輪」などの超一流装備を用いて新宿ダンジョンでの実地レベリングを行い、わずか数日でレベル6からレベル26へと急成長を遂げる。
- 20階層のボス部屋において、本来その階層に出現するはずのないイレギュラー主の赤鬼を単独で討伐する快挙を成し遂げ、ドロップしたスキルオーブを用いて強力な汎用スキル【雷撃】を習得した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 篤史から提供されたチート装備と徹底した英英教育により、これまでの常識を覆すほどの戦闘力と、戦闘後も油断しない一流の探索者としての精神性を身に付け、【龍青会】の幹部たちを瞠目させた。
黒羽 輝夜
探索者学校の元生徒会長。家柄、学力、運動能力のすべてに優れた才媛とされ、周囲から高い信任を得ていた。不祥事を起こした黒羽の姉にあたる。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の生徒会長を務めていた。
- ギルド役員の娘。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 弟が起こした決闘騒動を知り、事後処理と揉み消しのために篤史とせらを生徒会室へ呼び出した。
- しかし、この呼び出し行為自体が権力を利用した不当な圧力であると風紀委員長らに糾弾される。
- 他の生徒会役員からも連帯責任の追及を受け、不信任決議を突きつけられたことで自身の非を認めざるを得なくなった。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 糾弾を受けた結果、決闘からわずか七日後に生徒会長の辞任届に署名し、その座を退いた。
- 裏で自身の失脚を狙う役員たちに囲まれていた状況が浮き彫りとなった。
黒羽
探索者学校の一年生。傲慢かつ甘やかされて育った性格で、ギルド役員の息子。かつて奥野せらを自身のパーティーから追放した張本人。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の一年生。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 中層へ進出したせらを再び自身のパーティーへ囲い込もうと画策した。
- 拒絶された怒りから同行していた篤史を侮辱し、篤史から等価交換のルールを盾に追及されて激昂し、決闘を申し込んだ。
- 「敗者は勝者の奴隷になる」という条件に対し、篤史の罠にはまる形で、負けた場合は契約金相当の四千万円を支払う約束を交わさされた。
- 実際の決闘では、篤史の魔法をまともに受けて気絶し、完敗を喫した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 決闘の敗北により、一週間以内に四千万円を支払う多大な義務を負った。
- さらに、自身の愚行が姉である輝夜の生徒会長失脚を引き起こした。
藤原
探索者学校の風紀委員長。冷静かつ抜け目のない性格で、かねてより黒羽輝夜の失脚を画策していた。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の風紀委員長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 決闘騒動を好機と捉え、輝夜に対し生徒の不信任決議案を突きつけた。
- 生徒会室での呼び出し行為が不当な圧力であると厳しく追及し、彼女に辞任を迫った。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 裏で輝夜の悪評を流して生徒を扇動し、彼女を生徒会長から引きずり下ろすことに成功した。
森近
探索者学校の生徒会役員。自己の保身を最優先とし、権力の移行に敏感な人物。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の生徒会書記。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 失脚が決定的となった輝夜に対し、冷淡な言葉を浴びせて突き放した。
- 生徒会室での不当な呼び出しに自身が同席させられることを嫌悪し、輝夜への反発を露骨に示した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 輝夜の辞任劇において自身への飛び火を回避し、生徒会内での発言力を保った。
鈴木
黒羽の取り巻きの一人。黒羽の権勢に便乗して他者を見下す生徒。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の一年生。
- 黒羽の取り巻き。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 篤史がせらとの間で交わしたという契約書について、ハッタリであると主張して黒羽を煽った。
- また、篤史の身辺情報を調べて黒羽に提供していた。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 黒羽の決闘に立ち会い、その圧倒的な敗北と、四千万円という巨額の負債を抱える瞬間を間近で目撃した。
尾崎
探索者学校の教師。生徒に対して不遜で高圧的な態度をとる。ギルドの意向に忠実に従う典型的な小役人。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の教諭。
- 探索者ギルドの職員を兼任する。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 生徒がレベルアップした際にジョブを確認する作業を行った。
- 篤史が【行商人】と申告した際、あからさまな侮蔑の視線を向けた。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 篤史のジョブ確認結果を記載した書類を適当に処理し、上層部への報告を遅らせる原因を作った。
- 篤史からは、社会経験に乏しい人物と見下されている。
株式会社富士元興業 / クラン龍青会
富士元 隆
株式会社富士元興業の会長。豪胆かつ思慮深く、かつて裏社会で組長を務めていた経歴を持つ。篤史が前世において長年贔屓にしていた女性の父親。
- 所属組織、地位や役職
- 株式会社富士元興業の会長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 専務の但馬から、篤史が持ち込んだ能力向上や成長率上昇の指輪についての報告を受けた。
- 篤史がスパイや組織の乗っ取りを企てている可能性を精査し、その意図がないことを見抜いた。
- 会社の延命と発展のため、指輪の取引および篤史との共生関係を承認した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- これほどの巨額取引を行いながら、トップである自身への直接の面会を一切求めてこない篤史の姿勢を、無欲な若者として不思議がっていた。
但馬 明彦
富士元興業の専務。元極道でありながら、会社の経営難とクランの衰退に強い危機感を抱き、試行錯誤を重ねていた。
- 所属組織、地位や役職
- 株式会社富士元興業の専務。
- 探索者クラン【龍青会】の本部長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 受付で篤史が放つ桁外れの戦力差を察知し、襲撃と勘違いして平身低頭の謝罪を行った。
- 篤史から提示されたポーションやハイポーションの取引、および組織底上げのための指輪の買い取り・レンタルを快諾した。
- 篤史に「特殊素材調達課課長」の役職を与え、せらの学園支部所属を追認した。
- 決闘騒動の際には、篤史から書類を預かり、ギルドとの交渉を裏で引き受けた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 会社を「もって5年で潰れる泥船」と悲観していたが、篤史の指輪を用いた精鋭「第二世代」の育成により、BランクからAランククランへの再起の道を見出した。
美浦
富士元興業の人事部長。実力差を敏感に察知する能力に長け、極道特有の危機管理意識を持つ。
- 所属組織、地位や役職
- 株式会社富士元興業の営業部長兼人事担当。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 受付で篤史の圧倒的な強さを本能的に察知し、その場から一時避難して但馬に応援を求めた。
- 但馬と共に篤史に平身低頭で謝罪し、誤解を解いた。
- 篤史とせらが会社を訪れた際には、無礼な態度をとった部下の受付社員を厳しく叱責した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 篤史の実力を恐れ、常に低姿勢で接している。
- 社内での体面を保ちつつ、篤史との円滑な関係維持に努める。
富士元 紗希
会長である富士元隆の娘。好奇心旺盛な性格で、篤史が前世において10年間最も贔屓にしていた女性。
- 所属組織、地位や役職
- 富士元興業の会長(社長)の一人娘。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 店舗購入特典の短編において、受付嬢のケイに対して、来社した篤史の印象や容姿について尋ねていた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 今世においてはまだ篤史と直接対面しておらず、彼がなぜ自身との面会を避けるのかを知らない。
沙山 ケイ
富士元興業の受付嬢。落ち着いた対応ができる女性で、富士元紗希とは親しい間柄。
- 所属組織、地位や役職
- 富士元興業の受付嬢。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 来社した篤史の応対を担当した。
- 短編内では、紗希から篤史の印象について質問され、その様子を客観的に答えていた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 特筆事項なし。
探索者ギルド(前世ギルドナイト)
黒羽の父親
探索者ギルドの役員。既得権益の保護と権勢の維持を最優先する。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者ギルドの役員。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 前世のタイムラインにおいて、篤史が持ち帰った貴重な素材を横流しして利益を得ていた。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 息子の決闘敗北に伴う多額の負債、および娘の生徒会長辞任により、自身のギルド内での立場や評価に重大な危機が迫っている。
剣聖
前世における最強の探索者パーティー【ギルドナイト】のリーダー。傲慢で上昇志向が強く、他者を信用しない。
- 所属組織、地位や役職
- 前世の【ギルドナイト】のリーダー。
- レベル四十五の【剣聖】。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 四十五階層の熊型の魔物を討伐した。
- しかし、これ以上の攻略限界を感じ、ドロップアイテムを秘匿して囲い込むため、商人ジョブを持つ篤史の獲得を計画した。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 日本最強の探索者としてテレビ番組などで大々的に紹介されている。
聖騎士
前世における【ギルドナイト】のメンバー。防御担当として堅実な性格を持つ。
- 所属組織、地位や役職
- 前世の【ギルドナイト】のメンバー。
- レベル四十四の【聖騎士】。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 盾を構えて魔物の強力な攻撃を防ぎ、戦闘の安定に貢献した。
- 戦闘終了後、剣聖と共に魔物の死体解体にあたった。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 日本を代表するトップ探索者の一人としてテレビに映し出されていた。
上忍
前世における【ギルドナイト】のメンバー。俊敏で隠密行動に長け、無駄な争いを好まない冷静な性格。
- 所属組織、地位や役職
- 前世の【ギルドナイト】のメンバー。
- レベル四十四の【上忍】。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 風属性魔法を展開し、大魔導士との複合魔法を放って魔物を圧倒した。
- 魔物の死体処理について冷静な判断を下していた。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 日本トップクラスの隠密探索者として活動している。
弓聖
前世における【ギルドナイト】のメンバー。自己中心的で計算高い性格。
- 所属組織、地位や役職
- 前世の【ギルドナイト】のメンバー。
- レベル四十三の【弓聖】。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 魔物の隙を突いて精密な射撃を浴びせ、大ダメージを与えた。
- ギルドに内緒で有能な商人を囲い込み、私物化することを提案した。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 日本屈指の遠距離アタッカーとしてテレビに紹介されている。
大魔導士
前世における【ギルドナイト】のメンバー。優れた魔法センスを誇り、高火力の範囲魔法を得意とする。
- 所属組織、地位や役職
- 前世の【ギルドナイト】のメンバー。
- レベル四十三の【大魔導士】。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 火属性魔法を展開し、大規模な火災旋風を巻き起こして魔物を焼き尽くした。
- 前世において、二十階層のイレギュラーボスが破格のアイテムをドロップした事実を篤史に語っていた。
- 今世の本編ではまだ直接登場していない。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 世界トップクラスの魔法使いとしてその名が知られている。
登場集団
ギルドナイト
日本最強の探索者パーティー。メンバー全員が世界屈指のレベルと実績を誇るが、ギルド上層部を信用していない。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者ギルドの最高戦力。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 新宿ダンジョンを六十九階層まで攻略した。
- 前世では、入手した希少な指輪をギルドに報告せず、篤史の【ルーム】に預けて隠蔽していた。
- 今世ではまだ逆行の記憶を持たず、通常の最高峰パーティーとして活動を続けている。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 日本国内において絶対的なカリスマと影響力を保持している。
クラン龍青会
富士元興業が運営する探索者クラン。かつて裏社会に属していたメンバーで構成され、暴力への感度が高い。
- 所属組織、地位や役職
- 株式会社富士元興業が母体。
- Bランククラン。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 新宿ダンジョンの三十階層までの安定攻略を維持していた。
- 篤史から提供されたステータス成長率上昇などの指輪を導入し、所属メンバーの底上げを図る。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 安全マージンを保ったまま中層の壁を突破し、Aランククランへの昇格を果たすための育成計画を進行している。
監視者たち
前世において、松尾篤史をマークし続けていたギルドの監視要員。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者ギルドの保安・監視部門の職員。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 前世において、篤史が単独で行動する際やダンジョンに潜る際、常に背後から尾行し、自由な行動を制限した。
- 獲得したドロップアイテムにネコババがないか厳格な持ち物検査を行っていた。
- 今世においては、篤史をまだ単なるハズレ職の学生と見なしており、監視の対象として認知していない。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- ギルド上層部の指示の下、洗脳された篤史を幽閉・管理するための道具として機能していた。
黒羽の取り巻きたち
黒羽と行動を共にする、探索者学校の一年生グループ。権力に阿ねる小物の集まり。
- 所属組織、地位や役職
- 探索者学校の一年生。
- 黒羽のパーティーメンバー。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 校内でせらを取り囲み、再びパーティーに入れるよう脅しをかける黒羽を補佐した。
- 篤史が龍青会のバッジを提示した際、その所属に気づいて黒羽に進言した。
- 実際の決闘において、黒羽が瞬殺される様子を目撃した。
- 地位の変化、影響力、特筆事項
- 決闘の敗北を経て篤史の本当の恐ろしさを知り、彼らに対して一切の手出しができなくなった。
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展開まとめ
プロローグ
囚われの探索者としての回想
ギルドナイト時代の自己認識
松尾篤史は、日本の最強探索者パーティ【ギルドナイト】の最年少メンバーとして活動していた。当時、彼は国家の管理下に置かれつつも、それに対して不満を抱いてはおらず、給料や家族の誇りといった表面的な安定に満足していた。制限や監視も社会人として当然と捉え、むしろ国外に連れ去られて非人道的な扱いを受ける可能性を思えば、日本に囲われている方が「マシ」だと考えていたのである。
ギルドによる支配と自由の錯覚
しかし振り返れば、当時の松尾は自由の名を借りた管理体制の中で、単なる道具として扱われていた。ギルドナイトの一員であっても決定権は与えられず、遠征では命令に従うだけ、単独行動でも護衛名目の監視が常であった。素材の買取価格は不当に抑えられ、探索成果を不当に没収されることも日常だったが、当時の彼はその理不尽さに疑問を抱くことすらなかった。
悪意と搾取の構造に対する気づき
ギルドの待遇の裏には、探索者を都合よく搾取する構造が隠されていた。支給されたのは現金ではなく、風俗の無料券であり、それすらもギルド内での蔑視の材料となっていた。松尾は自身が「金の卵を産むガチョウ」として見られていることを後に知ることとなった。素材を横流しされ、単独潜入日は「ボーナスデー」と呼ばれ、嘲笑の対象になっていたことも知った。
家族を盾にした従属の強制
自由を奪われながらも、松尾が反抗しなかったのは家族の存在があったからである。ギルドは彼をコントロールする手段として両親や妹を人質に取り、逃亡や反抗の選択肢を封じていた。そのため彼は、表面上は従順な道化を演じ、己が道具であることを装い続けた。過度に警戒されぬよう、甘やかされた家畜のふりをして、適度に報酬を享受し、適度に発散し、適度に働く「理想的な駒」としての役割を演じたのである。
自己欺瞞と洗脳への気づき
松尾は、かつての自分が「自ら檻に入る飼育動物」として生きることを肯定していたと振り返る。当時は、誰もが「幸せ」であると信じていた。しかし、その「幸せ」は洗脳された認識の上に成り立つ偽りであった。十五歳から施されていた教育の結果、彼は搾取と従属を疑うことなく受け入れていたことにようやく気づいたのだった。
絶望と希望の境界線
そのような状況下でも、松尾には抗う術がなく、従うほか道はなかった。反抗すれば命を失うか、非人道的な実験に利用される恐れがあった。逃げ延びる道があったとしても、家族を見捨てることはできず、彼は完全に支配されていた。それでも彼は「誰もが幸せになれる」幻想のもと、道化を演じ続けることが最善だと信じていた。だが今となっては、その信念すらも過去の過ちとして、冷静に見つめ直すことができていた。
一章 目覚めた男
四五階層での激戦
探索者パーティ【ギルドナイト】は新宿ダンジョンの四五階層で、巨大な熊型の魔物と交戦していた。剣士が放った一撃は致命傷には至らず、逆に魔物の反撃により吹き飛ばされた。魔法使いは衝撃が物理ではなく魔力に由来すると見抜き、防御魔法を展開。仲間たちも連携して風と炎の複合魔法を放ち、魔物に大きな損害を与えたが、完全には倒しきれなかった。
予想外の反撃と危機の回避
魔物は反撃の力で防御を突破し、魔法使いを狙ったが、騎士の盾がそれを防いだ。その後も魔物は満身創痍ながら立ち上がり、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けた。しかし、それは剣士の奇襲によって阻止され、首を断たれた魔物は完全に息絶えた。剣士は万が一に備え、胴体と頭部にも追撃を加えた上で、戦闘の終結を確認した。
魔物の正体と討伐後の議論
倒れた魔物を見て、騎士はこの階層の主ではないかと推測したが、他の仲間は懐疑的であった。死体の解体と回収を進める中で、彼らは持ち帰れる部位について議論し、ドロップアイテムの性質や消化の特性を踏まえて判断を下した。探索者たちはその場に長居せず、成果を携えて撤退することに決めた。
探索効率の限界とギルドへの不信
メンバーたちは、より深層へ進むためには高階層の素材で作られた装備が必要であることを理解していたが、それらを効率的に回収する手段を持っていなかった。ギルドに仲介された【商人】を連れてくる案も出たが、情報と物資の搾取を警戒して却下された。探索者全員がギルドに対して強い不信感を抱いており、それが共通認識となっていた。
理想の荷物係の構想
剣士は、ギルドに頼らず独自の荷物係を育成する必要性を感じていた。弟子ではなく、従順かつ管理可能な存在であれば十分であり、最低限の戦闘能力と服従心があればよいと考えた。教育期間を五年と見積もり、新卒や在学中の若者を対象とする計画を立てた。素行や能力の有無は問題視せず、人格さえも問わない育成方針であった。
商人確保を巡る静かな競争
剣士は、他のメンバーも同様の計画を立てていると確信していた。実際、地上に戻った後、報告と報酬の処理を終えた彼らは、休息を取る間もなく水面下で商人の確保に動き出した。その裏で、ある学校の教師が、自己申告で【行商人】の職業を得たと報告した生徒を軽視し、記録の中に埋もれさせていた。この判断が、後にギルドナイトだけでなく世界に波紋を広げる契機となるとは、誰も知る由もなかった。
目覚めと記憶の回復
松尾は、ダンジョンでの初レベルアップと同時に脳内でアナウンスを聞き、十五年分の記憶を取り戻した。状況は把握できていなかったが、探索者としての鉄則に従い冷静を保った。監督者である尾崎教諭の指示に従って待機場所へ移動し、得たジョブが【旅人】であることを確認した。
スキル「ルーム」の使用と偽装工作
松尾が得たスキル【ルーム】は、かつてギルドナイトを世界最強に押し上げたほどの高性能であった。右手をかざすことで空間を生成する能力は極めて強力であったが、その性能ゆえに目立つことを危惧し、スキルを隠すために外れジョブとされる【行商人】を偽って名乗ることを決めた。
行商人を名乗った理由とその効果
松尾が選んだ【行商人】は、商人系の中でも特に戦力にならないと評されており、誰からも期待されない職業であった。この選択は周囲の関心を避けるには最適であり、事実、彼が行商人と名乗った瞬間、周囲の同級生たちは興味を失い、哀れみの視線を向けた。同級生の少女にジョブを尋ねられた際にも「行商人」と偽り、彼女の関心を一瞬で遠ざけることに成功していた。
商人系ジョブの社会的没落
かつて【アイテムボックス】を有することから有用とされた商人系ジョブは、犯罪への利用が広がったことで危険視されるようになった。加えて、【鑑定】というスキルが持つ過剰な情報取得能力も社会不安を招き、商人は探索者・一般人の双方から警戒と嫌悪の対象となった。
アイテムバッグの登場と商人の終焉
収納機能を持つ新技術【アイテムバッグ】の登場により、商人の有用性はさらに低下した。アイテムバッグは中身の可視性がありながら容量も大きく、商人の専用スキル【アイテムボックス】の優位性を完全に打ち消した。この技術革新により、商人は社会的に不要とされ、その地位は失墜した。
ステータスとジョブの仕組み
探索者の成長は八つのステータスによって定量化され、それぞれのジョブに応じて上昇傾向が異なっていた。商人はすべてのステータスが均等に伸びるが、突出した能力を持たないため戦力として評価されなかった。一方で松尾が得た【旅人】は全ステータスが一〇上昇し、さらにランダムで三ポイント加算される、圧倒的な成長力を誇るジョブであった。
旅人というユニークジョブの真価
【旅人】は、世界中で松尾しか所持していないユニークジョブであり、かつて彼がギルドに所属していた際は、その希少性ゆえに研究対象とされていた。当時は解析や利用のために搾取されていたが、今回はその経験を活かし、自由意志で行動することを決意した。
自由の獲得と今後の決意
松尾は、二度と過去のように搾取されることなく、自身の力と経験をもって自由に生きる道を選んだ。まずは現金を稼ぎ、過去にギルドから与えられていた不名誉な称号「タダ券の人」からの卒業を目指すと心に誓ったのであった。
タダ券の人からの卒業
松尾は「タダ券の人」という過去の自分を赦すために、現金で支払うことで償おうとしていた。そのためには相応の資金が必要であり、探索者としての活動によって稼ぐことを決意していた。彼が持つ【ルーム】は、【アイテムボックス】とは異なり他者の出入りが許可制であり、信頼性と利便性の高さを誇っていた。この特性を活用した過去のギルドナイトでは、ダンジョン探索中の損耗を抑えつつ、最高六九階層まで到達していた。松尾は、かつてのようにスキルを搾取されることを拒み、自分のためだけに【ルーム】を使うと誓っていた。
寮への帰還と社会の偏見
探索を終えて寮へ戻った松尾は、周囲から侮蔑と憐憫の視線を受けたが、虚偽のジョブ報告は成功していた。教師からの視線も同様であったが、ギルドや探索者の世界しか知らぬ者たちの偏見と割り切った。彼はそれらの反応に憤りを感じながらも、今後の行動を思案し始めた。
記憶とスキルの関係性
ジョブを得た瞬間に蘇った記憶には、過去に入手したアイテムや装備が現実に【ルーム】内に存在していた。これにより、ただの夢や未来視ではないことが判明し、記憶とスキルに何らかの因果関係があると考えるに至った。過去の記憶だけでなく、物品までもが引き継がれている事実に松尾は困惑していた。
繰り返す恐怖と目標の設定
松尾は、一五年の記憶とアイテムを引き継ぎながらもレベルが初期化されている現状に対し、それが今後も繰り返される可能性に恐怖を抱いた。幸せな未来を得たとしても、すべてがやり直しになるかもしれないという不安は、魂を閉じ込められたような感覚を呼び起こしていた。この事態の真相を知るため、彼は「何が、どうして、誰によって」という問いへの答えを探すことを新たな目標に掲げた。
力の必要性と決意
状況を打破し真実を知るためには、力が必要であると松尾は確信した。その力は、妨害を跳ね返し、自由を勝ち取るために不可欠なものであった。記憶の中では必要としなかった「力」こそが、今の彼にとって最も重要なものであり、それを得る手段と知識は既に備わっていた。松尾は、自らの力で運命を切り拓くため、「最強の探索者」を目指すことを決意したのであった。
二章 栄光に向かって走る
最強探索者への認識と世間の諦念
最強を目指す探索者像は気高く称賛されつつも、多くの者が挫折し、現実的な利益や安全を優先してその道を諦めていた。最強とは知勇を兼ね備えた存在であり、ただの無謀では至れないとされていた。
ギルドナイトの現状と巻き戻りの確認
テレビ番組を通じて、探索者ギルド内でも最上位に位置する「ギルドナイト」五人の構成とレベルが明らかとなったが、その内容から彼らが巻き戻りに気づいていないことが判明した。記憶を持っていれば、主人公の確保や監視を行っているはずであったが、それがなかったため、彼は自由に行動できる状況にあった。
ステータス重視の強化方針
探索者として最強を目指すにあたり、ステータス値の上昇が最優先とされ、その後にレベルやスキルが続くという優先順位が示された。特にパワーレベリングを行った場合にはステータスの成長が大幅に阻害されることが判明しており、自力で戦い抜くことが成長の鍵とされていた。
ジョブの限界と旅人職の弱点
旅人というジョブは万能ではあるが上級職が存在せず、レベルが上がるほどに特化型の上級職との差が広がっていった。剣士から剣聖へと昇華した例では、ステータス成長において圧倒的な差があり、旅人職の限界が浮き彫りとなった。
チート装備「成長率倍化の指輪」の投入
主人公はかつて世界最強の探索者たちが使用していた「成長率倍化の指輪」を用いて、ステータスの倍増を図った。この指輪は特定階層を突破すれば誰でも入手可能であるが、過去には六〇階層以降での環境対応が求められたため封印されていた。ギルドナイトの面々は後進に装備を継承せず、主人公が保管していたため、彼はそれを活用するに至った。
慎重な装備運用と探索者社会への警戒
指輪の存在を隠蔽したまま、目立たぬよう行動する必要があった。探索者社会では強力な装備を持つ学生は狙われるため、表向きは【商人】を装い、学校支給の装備のみで活動することで偽装を行っていた。
ステータス優位によるレベリング開始
新宿ダンジョン五階層にて、指輪の効果による圧倒的なステータス差を活かして魔物を一掃し、初のレベルアップを達成した。この成功により、ステータス上昇の有効性と戦闘スタイルの正当性が確信された。
今後のレベリング計画と行動方針
土曜日に五階層でのレベリングを行い、翌日は一〇階層への挑戦を予定するなど、段階的にレベルを引き上げていく計画が語られた。平日は学校があるため、週末を中心としたレベリングが想定され、必要に応じて外部への言い訳も準備することが示唆された。
力と自由の両立を目指して
再び実験動物にされることを拒む主人公は、自らの意思と力で生きる決意を新たにし、最強を目指す第一歩として静かにダンジョン攻略に乗り出した。
レベリング成果と孤独な立場
松尾篤史は、他の学生と距離を置きつつソロでダンジョンに潜り、装備と旅人の固有スキルを駆使して効率的にレベルを上げ、1か月足らずでレベル16に到達していた。装備の影響もあり、ステータス値は基本職のレベル30を凌駕する水準に達していたが、目立ちすぎないよう振る舞っていた。今後は行動に正当性を持たせるための社会的地位が必要だと認識していた。
社会的地位の必要性とターゲット企業の選定
松尾は探索者としての力に加え、社会的立場の獲得が不可欠と判断し、建設業と探索者クランを兼ねる株式会社富士元興業を目標とした。この企業は元反社会勢力がダンジョン探索によって社会的立場を得た例であり、かつては繁栄していたが、新規探索者の台頭により衰退傾向にあった。松尾はこの状況を逆手に取り、共存共栄の関係を築こうと企図した。
富士元興業の現状と但馬の葛藤
専務但馬は会社の衰退に強い危機感を抱きながらも、社員に無理な行動を強いることができずに苦悩していた。危険を冒すことで利益を得ても、組織内の格差や分裂を招くリスクがあると懸念していた。その中で、探索者学校の生徒が現実を知り、企業に身を寄せる時期が到来し、松尾が訪問することとなった。
松尾の訪問と専務・部長の動揺
松尾の登場により、富士元興業の幹部である但馬と美浦はその実力に圧倒され、態度を一変させた。応接室での対面では、松尾の冷静な応対と履歴書提出により、正式に面談が始まった。彼は商人系ジョブであることを明かし、アイテムボックスからポーションを提示し、販路の提供を依頼した。
ポーション取引による提携交渉
松尾はポーションをギルドではなく富士元興業を通じて売却したいと提案し、買い取り額もギルド価格の倍である1,000万円でよいと述べた。専務はその誠実な条件と組織力を見込んだ取引に価値を見出し、松尾との提携を決断した。
ハイ・ポーションの提示と信頼の試練
松尾はさらに希少価値の高いハイ・ポーションを提示し、ギルドではなく富士元興業に販売を託すことで、彼らの誠実さと信用を試した。専務はその危険性と価値を理解しながらも、松尾の交渉姿勢に誠意を感じ、取り扱いに前向きな姿勢を示した。
役職要求と社会的信用の強化
松尾は、自身の社会的地位を補強する目的で、富士元興業内での役職を希望した。専務はその意図を察し、彼の能力と取引内容を踏まえて、役職付与に前向きな反応を示した。松尾は組織内での信頼を得つつ、さらなる発展に向けて着実な一歩を踏み出した。
三章 パーティーメンバーを求めて
権限の獲得と組織内での位置づけ
松尾は専務を説得し、「富士元興業営業部特殊素材調達課課長(課員一人)」および「龍青会探索班学園支部支部長(所属一人)」という肩書を得た。役職は名ばかりであったが、ハイポーションによる莫大な利益と他社員との圧倒的な実力差により特別な扱いを受けた。表向きは営業部長の配下とされつつ、実質的には専務直属の存在として自由な行動を許されていた。放任の裏には、失敗時に即座に切り捨てる用意も含まれていたが、松尾はそれを合理的な判断として受け入れていた。ギルドとは既に袂を分かち、今後は適度に素材を売却しつつ、企業への貢献を図る意向であった。
最強を目指すための仲間探し
松尾は最強の探索者を目指す過程で、単独行動の限界を明確に認識していた。ダンジョン攻略において、たとえ強大な個人であっても、囲まれた時点で敗北する危険があると確信していた。そのため、火力補填と敵意分散を担う前衛、警戒と罠解除を担う仲間が必要不可欠であった。自身を除いて四名、すなわち前衛二名、中衛一名、後衛一名の五人構成を理想として定めた。信頼できる人物を選出し、アイテムを活用してレベルを上げる計画を立てていたが、目的を共有できる者の選定が課題であった。
奥野せらとの再会と勧誘
松尾は巻き戻りの知識を頼りに、最初の候補として奥野せらに目を付けた。彼女はレアジョブ「侍」を持ち、ソロでダンジョンに挑む孤高の存在であった。かつて成人後に店で出会い、長年指名し続けた関係があった。放課後、松尾は彼女に名刺を渡して喫茶店に誘い、企業やクランの背景を調べさせつつ、正式な交渉を開始した。肩書による説得が功を奏し、せらは会話に応じた。
利害関係の提示と交渉の進展
松尾は、自身がパーティーメンバーを得る必要性と、企業評価の向上が狙いであることを説明した。さらに、せらにとってもドロップアイテムの拾得補助や鑑定支援、パーティー収支の透明性による信頼確保などの実利があると説いた。収益の取り分については松尾が六、せらが四と提示し、その理由として回収と戦闘支援、共同資金や看板代の立て替えを挙げた。せらは不満を抱きつつも、自己管理に不安を抱えていたため渋々了承した。
契約金とポーションの提示
交渉の決め手として、松尾は契約金の提示に踏み切った。一〇〇〇万円の現金に加え、もっとも重要な条件として、彼女が何よりも求めていたポーション二本を提示した。せらの家庭は探索中の事故により重傷を負った両親の治療費に苦しんでおり、彼女は過去に偽物を掴まされながらも奔走していた経緯があった。松尾はその事情を把握しており、過去にポーションを提供していたこともあった。この提案によって、せらの態度は明らかに変化し、彼女の動揺からもその効果が窺えた。
クラン所属の利点と今後の展望
松尾はさらに、クランに所属することで得られる利益、すなわち装備品の安価入手、内部情報の共有、市場価格を下回る物品の購入や割増しでの素材販売といった具体的な利点を示した。看板代の負担は松尾が請け負うと伝え、せらの加入に対する誠意を示した。クランや企業の信頼を背景に、松尾は戦力の確保と探索の円滑化を目指し、奥野せらとのパーティー結成へと動き出したのであった。
契約締結の条件提示と冷却期間の演出
松尾は奥野せらに対し、五つの条件を提示した契約書を手渡し、慎重に内容を説明した。条件は三年間の所属、看板代の支払い、ダンジョン同行の義務、他クランおよび個人の誘いの禁止、情報漏洩の禁止であった。せらは即座に契約に応じようとしたが、松尾は保護者の同意が必要であることを理由にその場での署名を制止し、冷却期間を設けた。この対応は、契約の信頼性を担保し、後日のトラブル防止と保護者の責任分担を視野に入れたものであった。
交渉の優位と人材獲得への展望
せらの境遇は、松尾にとって理想的であり、彼女のレアジョブ・低レベル・孤立性・欲望の明確さがすべて条件に適合していた。松尾は彼女の囲い込みに成功したことで、今後の戦力強化に向けて一定の手応えを得た。しかしながら、同様の条件を備えた人材は極めて稀であり、新たな勧誘対象を見つける困難さにも直面していた。情報漏洩のリスクを避けるため、すでにパーティーを組んでいる者や学生の安易な勧誘は不適と判断し、次なる候補を慎重に探る必要があると自覚していた。
社内手続きの不備と修正対応
後日、松尾は直属の上司である但馬に報告を行い、人事権限を持たない自身の独断行動が組織上問題となる可能性を指摘された。だが但馬は柔軟に対応し、専務面接を経た正式採用という形に収めることで決着を図った。松尾は上司の理解に感謝しつつ、組織運営における規則順守の重要性を再認識した。内部の規範を逸脱すれば、たとえ結果が正しくとも信頼を失うと自省し、以後の行動には慎重を期すことを誓った。
教室での騒動と管理責任の指摘
翌日、せらは意気揚々と契約書に保護者の署名を携えて登校し、ポーションの受け渡しを強く求めた。松尾は周囲の注目を避けるため彼女を人目のない場所に誘導し、冷静な判断を促した。ポーションの管理責任と、その所有がもたらす周囲からの危険性を説き、当日の受け渡しは不適切であると説得した。学校という閉鎖的空間で高価な品を保持することのリスクを具体的に提示し、アイテムボックスに一時保管する合理性を理解させた。
追加入手契約による囲い込み強化
せらの冷静さが戻ったことを見計らい、松尾は新たな契約書を提示した。その内容は、ポーション四本を二〇〇〇万円で販売するという、常識外れの大特価販売契約であった。契約には利息なしの一〇年ローンも含まれており、せらの現在の状況と欲望に完全に合致していた。彼女はその提案に即答し、現金がないことを理由にローン契約を希望した。松尾は冷静を装いつつ、予定通りの展開に内心で勝利を確信し、再び契約書を保護者へ持ち帰らせた。これにより、せらの囲い込みはより確実なものとなった。
幕間 胡散臭いヤツが現れた
松尾との出会いと初対面の印象
奥野せらは、放課後にダンジョンへ向かおうとしたところ、クラスメイトである松尾から突然声をかけられた。その話しかけ方や態度、そしていきなりの名刺提示によって、彼女は彼を「胡散臭い」と感じた。過去に何度もパーティーを組んでは破綻してきた経験から、他人に対する警戒心が強まっていたことも、その印象を強める要因となっていた。だが松尾は動じることなく会話を進め、アイテムボックスから名刺を差し出し、自身が商人であることを示した。
喫茶店での会話とスカウトの背景
名刺に記された冗長な肩書を見たせらは戸惑いつつも、クランからの正式なスカウトであることを受け入れ、松尾の誘いで喫茶店に同行した。彼女は久しぶりのケーキに喜びつつ、企業側の事情を初めて知ることとなった。特に、企業が学生をスカウトすることに伴うリスクや、その影響によって自身がこれまで敬遠されていたという事実には衝撃を受けた。松尾の話から、富士元興業も追い詰められており、彼女のような人物を必要としているという背景が明らかになった。
契約提案と揺れる感情
当初は胡散臭いと感じていた松尾に対して、せらの印象は一変した。契約金一〇〇〇万円やポーションの提示により、現実的な利益が目の前に提示されたことで、彼女の理性は大きく揺れ動いた。市場価格では手に入らない貴重品が容易に提示されたことに疑念を抱きながらも、現物を見せられた瞬間、欲望が理性を上回った。しかし松尾はその場での契約を制止し、両親との相談を促したことで、せらの信頼を勝ち取ることに成功した。
家族の了承と契約成立
せらは帰宅後、両親と契約書の内容を確認し、正式な署名を得るに至った。翌日、契約成立と引き換えにポーションを受け取ろうとしたが、松尾から更なる契約の提案を受けた。それは四本のポーションを特別価格の二〇〇〇万円で購入できるという内容であり、利息なしの十年ローンも可能とされた。せらはこの機会を逃すまいとすぐに契約を予約し、両親の承諾も取り付けた。
ポーション入手と家族の回復
契約締結により、せらは合計六本のポーションを手に入れ、両親の治療に充てることができた。その結果、両親は無事に退院し、将来的には探索者として復帰できる見込みが立った。ローンの返済についても両親が協力することを約束しており、家族が再び揃って暮らせる状況が整った。せらは学生として借金を抱えることには懸念を抱きながらも、松尾に対しては感謝の念を抱いていた。
松尾への信頼と今後の展望
せらは当初こそ松尾に不信感を抱いていたが、契約を通じて信頼を深めていった。誠実な対応と見返りの提供により、彼への認識は大きく変化した。最終的には支部長としての松尾を信頼し、今後の協力関係に前向きな姿勢を見せるに至った。ただし、初対面の印象や広告的な契約書の内容については未だに胡散臭さを感じており、次の機会にはそれをはっきりと指摘する意志を固めていた。
四章 そしてダンジョンへ
レベリング計画とダンジョン突入
松尾は、月曜から金曜にかけて新たな部下である奥野との契約を段階的に進め、金曜日には正式な契約を交わして彼女を新宿ダンジョンへ同行させた。表向きの目的は実力確認であったが、実際には日曜の対外的な披露に備えたレベル上げが目的であった。現在レベル6の奥野をレベル16まで引き上げるため、松尾は15階層でのレベリングを計画した。通常ならば順を追って攻略する階層を、落とし穴というショートカットで飛び降りる手段を用いて一気に移動した。未経験の奥野は混乱し、松尾の強引な導きに不満を漏らしたが、現場では命令系統の明確化が不可欠であると諭された。
秘匿契約とレベリングの理由
奥野が疑問を抱く中、松尾はダンジョン中層でのレベリングを選んだ理由を語った。上層では成長効率が悪いため、彼女には高レベル装備を貸与することで中層対応を可能にしたのである。装備の中には国が関与するほどの秘匿品――【全ステータス+100の指輪】および【ステータス成長率倍化の指輪】が含まれていた。これらの情報を漏洩すれば、家族を含めた国家レベルの拘束対象になることが明かされ、奥野は身の引き締まる思いを抱いた。また、装備品は松尾の個人所有である可能性が示唆され、組織ではなく彼個人の意思による支援であると理解した。
装備と探索者としての実戦投入
松尾は奥野に対し、三十階層以降で入手できる素材から造られた装備――黒鬼刀および黒蜘蛛の千早を貸与し、さらに例の二つの指輪を身に付けさせた。これにより奥野はレベルに見合わない圧倒的な戦闘力を得ることになった。魔物はレベル差を認識し、奥野を狙って殺到するが、彼女はそれらを笑顔で迎撃するほどの余裕を見せ、探索者としての資質を示した。物理特化型のジョブ【侍】の能力と装備、加えて松尾の支援魔法により、彼女は敵を圧倒していった。
急速な成長とステータスの分析
奥野は三時間足らずでレベル6から13まで成長し、指輪の効果により実質的にはレベル20相当の能力に達していた。【侍】は基本職である【剣士】よりも高いステータス上昇値を持ち、特に攻撃力や敏捷性、器用さに優れていた。さらに、日本に特有のレアジョブであることも明かされ、奥野の潜在能力の高さが示された。彼女のステータスは装備や補正の影響により、もはや中層において脅威と呼べる魔物はいない状態にまで強化された。
さらなる階層への移行と不穏な兆候
奥野が中層での戦闘をこなし、効率的に成長を続けていたため、松尾はさらに下層への移行を決意した。しかしその矢先、奥野がダンジョン奥に不自然に存在する“宝箱”に気付いたことで場面は緊張感を帯びた。松尾はその存在を当然のように受け止めつつも、宝箱という探索者にとっての特別な対象の出現に対し、状況の変化を予感していた。
宝箱の正体と危険性
松尾と奥野はダンジョン内で宝箱を発見した。かつては探索者の夢とされた存在であったが、現代ではそのすべてが罠か魔物であることが判明しており、忌避対象となっていた。罠の中身は石化ガスや腐食ガス、爆発物など極めて危険なものが多く、発動すれば広範囲に即死級の影響を及ぼす。さらに、箱を開けた際に周囲に誰もいなければ中身ごと消失するため、第三者が安全に回収することも不可能であった。解除も不可能であり、ギルドナイトすら無力だった。
商人系スキルによる宝箱の無力化
松尾は探索者ジョブ「旅人」のスキル【収納】を用いて、宝箱を即座に回収する方法を実行した。このスキルにより、宝箱に接触せずに収納が可能となり、罠の発動を回避できた。ただし、成功には内部容量とスキルのレベルが関係し、誰でも真似できるわけではなかった。奥野はその手際に驚愕しつつも、この手法の秘匿性を理解し、松尾の指示通り「内密」に扱うことを了承した。
中層最奥部への進出と異常事態
その後、松尾と奥野は20階層のボス部屋に到達したが、通常なら休息地点として使われるはずの空間に他の探索者の姿はなかった。過去の記憶を辿った松尾は、かつてこの階層で大量の未帰還者を出したイレギュラーボス出現事件を思い出す。今回もそれと同様の異変が起きている可能性を感じ取り、事態を分析した結果、自分たちがイレギュラーボスと交戦する可能性が高いと判断した。
イレギュラーボスとの交戦
二人が探索を進めた結果、21階層への階段付近でイレギュラーボスである黒鬼と、それに随伴する赤鬼二体を発見した。松尾は強化された装備と魔法を駆使して黒鬼と赤鬼の一体を瞬時に撃破し、残る赤鬼を奥野に託した。奥野は接戦の末にこれを打倒し、探索者としての戦闘技術と警戒心を高く評価された。
ドロップアイテムとスキルオーブの入手
戦闘の結果、黒鬼からは金棒と魔石、そして極めて希少なスキルオーブが二つドロップした。スキルオーブはジョブに関係なくスキルを習得できる貴重品であり、売却価格は最低でも一億円以上とされていた。松尾が鑑定を行った結果、オーブには【雷撃】という汎用性の高いスキルが封印されていたことが判明した。
スキルの重要性と使用判断
【雷撃】はギルドナイトが全員所持していた実戦的スキルであり、攻撃・防御・探索すべてに活用可能であった。松尾は自身の現在のステータスが既にギルドナイトに匹敵していると分析し、今後の成長を見据えたうえで、このスキルを自身の強化に使うことを即決した。一方奥野にもオーブを譲渡しようと二億円で買い取りを提案したが、彼女は自己強化の価値を選び、使用することを決意した。
さらなる成長への準備
貴重なスキルオーブによって自己とパーティーメンバーの強化に成功した松尾は、探索者としての目標達成に一歩近づいた。次なるレベルアップに備えるため、ボスの不在を確認した上で、安全なボス部屋に戻り休息を取ることを選択した。
五章 チートが如く
土曜夜のレベリング完了
松尾は雷撃スキルを使いながら二五〜二九階層を周回し、レベル二八に到達した。奥野も二〇段階の伸長を果たし、実質四〇相当の能力を得たため、次週から三〇階層以降での本格的な鍛錬を計画したである。
日曜日の富士元興業訪問
十分な休息を終えた二人は学生服に龍青会のバッジを付け、新宿五丁目の本社を訪れた。社内は二人の放つ圧力に警戒を強めたが、松尾が部長の美浦と面識を示すことで緊張は解けたであった。
本社での威圧と誤解
警備担当は実力差を悟り視線を合わせず遠巻きに対応した。奥野の無自覚な威圧が混乱を招いたものの、美浦が部下を一喝して事態を収め、松尾と奥野は応接室へ案内されたである。
専務との面談と奥野の入社承認
専務但馬は奥野の実力に驚愕しつつも、龍青会の新規探索者として正式に受け入れた。役職昇進の提案もあったが、奥野は看板代を理由に一般社員のままを選択したであった。
ドロップ品の売却交渉
松尾は黒鬼の金棒をギルド相場より低い一〇〇〇万円で但馬へ売却し、魔石の代理売却も依頼した。素材取引でクランの資金を増やす算段を示し、但馬は協力を約束したである。
強化指輪の提案と取引
松尾は全能力を一〇〇上げる指輪と、レベルアップ時の成長を二〇%増す指輪を提示し、クランの底上げ策を提案した。指輪は三個ずつ所持し、自身と奥野が使用後に残る分を但馬に貸与・売却する形で合意した。買い取り価格は一個二億円、レンタル料は月一〇〇〇万円と定め、但馬は支払いを後日とする条件で受諾した。これによりクラン強化とギルド牽制の双方を図る布石が打たれ、奥野の取り分は二億四千万円に達する見込みとなった。
友人関係とクラン所属の確認
松尾は登校初日、奥野せらが生徒たちに囲まれている様子を目撃した。奥野は以前借金返済のために龍青会に半ば強制的に入会した経緯があったが、現在では龍青会の将来性に期待して自主的に残留を選んでいた。生徒会長の弟・黒羽が再び奥野をパーティーに勧誘していたが、松尾はそれに対し「すでに他のクランに所属している」として断らせ、上司として奥野を庇った。
黒羽との口論と過去の因縁の発覚
黒羽は以前奥野を劣悪な条件で勧誘し、搾取した挙句に追放した人物であった。今回の再勧誘でも謝罪の言葉は一切なかった。松尾はその態度に憤りを感じ、奥野に付き纏う黒羽らに対してギルドの規定違反を盾に圧力をかけ、謝罪を要求したが、黒羽は逆に松尾に決闘を申し込むという暴挙に出た。
決闘の提案と報酬条件の提示
決闘制度は学校内の揉め事を力で解決する制度であり、ルール上は成立していた。黒羽は勝利条件として松尾と奥野のクラン脱退と自分たちのパーティー加入を要求した。一方、松尾は敗北時に支払われるべき契約金の対価としてポーション2本=4000万円相当の支払いを提示した。これにより決闘は正式に成立した。
決闘直前の準備と観戦者の状況
決闘は放課後に第三実習室で行われることになり、松尾は初心者装備の【商人】として、黒羽は高額装備の【剣士】として登場した。観戦者は40名程度であり、噂を聞きつけた生徒会長の関係者も含まれていた。
決闘の経過と勝敗
松尾は挑発に乗らず、初手でマジックアローを二重に発射。大きな弾を囮にして、小さな弾を不意打ちで命中させ、黒羽を一撃で気絶に追い込んだ。さらに追撃を近距離で着弾させ、完全な戦意喪失を確認。松尾はルールに従ってカウントを取り、審判の介入を防ぎつつ勝利を確定させた。
決闘後の処理と報告宣言
松尾は勝利を宣言し、条件に基づく4000万円の支払い義務を黒羽に確認させたうえで、クランへの正式報告を行う意向を教師に告げた。また、決闘成立の記録はすべて監視カメラに記録されており、証拠としてギルドに提出される見込みとなった。
生徒会の介入と学校内の噂拡散
翌日、生徒会が松尾らを放送で呼び出すも、松尾は事前に休暇を取得しており不在であった。その結果、弟の不祥事を揉み消そうとした生徒会長の行動が噂として学校中に広まり、逆に生徒会長が窮地に立たされる形となった。奥野は冷静に情勢を分析し、支部長である松尾の行動を信頼し、これ以上の関与を避ける姿勢をとった。
エピローグ
ギルドへの備えと報復への警戒
決闘後、松尾は富士元興業の専務に対し、決闘に関する書類と証拠を提出し、ギルドからの介入に備えた支援を依頼した。松尾は、ギルド役員が自身の息子の失敗を認めず、面子を潰されたと捉えることで報復を企てると予測していた。その手法としては、依頼を装って探索者に学生を偶発的な事故に巻き込ませ、表面上は事故として処理する手段が想定された。これを防ぐために、松尾は自身と奥野のレベルを30まで上げる必要があると判断し、即座にダンジョンへの再潜入を決定した。
家族への報復の可能性と対策
奥野は自分たちが事故を回避した場合、次に家族が狙われる可能性を懸念した。松尾は、ギルドが探索者に対しては国家権力を背景に容赦のない制裁を行う一方で、善良な市民への直接的な暴力は社会的リスクを伴うため避ける傾向にあると説明した。ただし、ギルドは冤罪を仕立てることで市民を罪人に仕立て、合法的に排除する手段を取ることもあるため、対策は必要であった。そのため松尾は、富士元興業を通じてギルド内部の対立派閥に接触し、ギルド全体の敵意が自分に向かないよう立ち回る方針を取っていた。奥野はこの説明に納得し、改めてダンジョン探索に同意した。
ダンジョンの構造と探索者の事情
松尾は、ダンジョンの深部に行くほど帰還に時間がかかるという探索の実情を奥野に説明した。特に30階層以上の階層は落とし穴を利用して短時間で到達可能だが、復路は階段を使わざるを得ず、時間が約8倍かかるため非効率であった。また、ギルドはダンジョン構造の調査に莫大な予算を受け取っているが、その多くがギルドの内部組織の整備や備蓄に使われており、実質的な探索者支援は皆無であった。奥野の両親がポーションの支援を受けられなかったこともその一例である。
松尾のジョブの変化と上位職への昇華
ダンジョンの31階層で戦闘中、松尾はレベル30に到達し、ジョブが【旅人】から【過客】へと昇華した。松尾の記憶では、【旅人】は上位職への昇華を持たない例外的なジョブであったため、この変化に困惑した。彼は上位職昇華を利用してジョブの正体を誤魔化すつもりであったが、昇華が起きたことで想定外の状況となった。これにより、松尾の保有するジョブ【過客】は従来の知識では説明不可能な特異な存在となった。
幕間 黒羽の凋落
不信任決議と黒羽輝夜の失墜
生徒会長である黒羽輝夜は、藤原風紀委員長から不信任決議書を手渡され、生徒の七割が賛成したことを知った。かつて多くの支持を得て会長に就任した彼女であったが、今やその信任を失い、孤立無援の状況に追い込まれていた。周囲の人間たちは敵意をあらわにし、かつての味方すらも彼女を責め立てていた。原因の一つとして挙げられたのは、弟の不適切な言動と、その弟を制御できなかった姉としての無責任さであった。
弟の問題と姉としての責任
輝夜の弟は、決闘に勝った相手を奴隷にしようとする発言をしたうえ、女性に対する差別的な言動を繰り返していた。これにより彼女の姉としての立場も問われることとなった。輝夜自身は、弟との距離を取ることで逆に彼の暴走を助長したと理解し、その行動を後悔していた。彼女は既に弟への折檻を決意していたが、それは家族間の問題であり、生徒たちには関係のないことであった。
決闘後の対応と更なる失敗
輝夜は、決闘の顛末を知るのが遅れたことから、急ぎ情報を収集し、謝罪と話し合いの場を設けようとした。しかし彼女が行った「決闘相手の校内放送による呼び出し」が、結果として圧力と受け取られた。これにより、生徒たちからの反感は一層強まり、弁明しようとした輝夜の言葉も逆効果となった。特に、他の生徒会役員たちは、自分たちまで巻き添えにされることへの怒りをあらわにし、冷たい視線を向けた。
辞任の決断と黒羽家の未来
輝夜は、自身の誤りが他者の尊厳をも傷つけていたことを認め、ついに辞任を決意した。これ以上職に固執すれば、生徒間の対立やギルド関係者の対立にまで発展しかねないことを危惧していたためである。だが彼女は気づいていなかった。不信任の流れがあまりにも早く、周到であったことに。そしてそれが目の前にいる生徒会役員たちによる策略であったことに。彼らは輝夜を追い落とすために悪評を流し、生徒を扇動していたのである。
結末とその余波
輝夜は、生徒会長の辞任届に署名した。仲間だと思っていた相手は最初からそうではなく、彼女の地位を狙っていた者たちであった。その中には、将来ギルドの幹部として暗黒の世界を築くことを期待されている者たちも含まれていた。会合の翌日、生徒会長の辞任と新会長選出の告知がなされ、決闘からわずか七日後に学校は新たな体制へと移行することとなった。黒羽家の将来がどうなるかは、今の時点では誰にも知る由もない。
幕間 富士元興業の人々
指輪の真贋と篤史の意図の検討
富士元興業の専務である但馬と会長の富士元隆は、松尾篤史から託された指輪を前に、その真意と目的について協議していた。二人は指輪の価値と篤史の言動から、乗っ取りやスパイの可能性を否定し、彼が真に富士元興業の後ろ盾としての価値を求めているだけだと判断した。篤史の望みは出世や権限ではなく、自由と資金を確保できる環境であり、企業の経営や運営には関心がないと理解された。
装備品の異常な価値と現実的判断
篤史が提供したのは、能力値を100上昇させる指輪と、成長率を20%高める指輪という希少品であり、これらの装備は国家レベルで争奪戦が起きても不思議ではない代物であった。富士元興業のような中小企業にそれほどの価値があるはずもなく、またそれほどの物品を使って取り入る理由も存在しなかったため、但馬は完全にスパイ説を排除した。二人は、むしろ松尾の持ちかけた話に乗ることが唯一の生き残る道だと判断した。
富士元の懸念と但馬の抑制
隆は篤史に直接会うべきか逡巡しつつも、但馬は接触を急がず様子を見ることを提案した。篤史から特に会いたいという意向も示されておらず、無理に動くべきではないという判断である。隆は、出世や組織の頂点に無関心な若者の価値観に戸惑いを見せたが、但馬は不用意な発言で関係を壊すことを恐れ、言葉を選び続けた。
篤史の内心と富士元側の誤解
実際には、篤史には明確な理由が存在した。彼は、大企業のトップと新入社員が直接会う必要はないと考えており、また富士元隆が過去に世話になった女性の父親であるため、個人的な理由からも対面を避けていた。このような事情は富士元側には知られておらず、篤史の態度に対する理解は乏しいままであった。
結論の先送りと大人の対応
最終的に、但馬と隆は現時点での判断を保留し、状況を見守ることを決めた。これが現実的かつ分別ある対応であると捉えた二人は、今後の展開に備えつつ、軽々に動かない姿勢を選択したのである。
特別書き下ろし 富士元興業の人々(裏)
富士元興業の方針転換と社内の反応
松尾篤史の登場によって富士元興業は大きな方針転換を強いられ、建設業から危険を伴う探索者業務への移行を決定した。この急激な転換には社内から不満の声が上がり、特に幹部以外の社員の多くが納得していなかった。幹部たちは松尾がもたらした成果を隆や但馬から知らされており、渋々ながらも納得していたが、実際に松尾を知らない者たちは彼に対して否定的な感情を抱くようになっていた。松尾本人が自身の能力を誇示しない態度であったため、彼の実力を周囲に理解させることは困難であった。
紗希の関心とケイの警戒
松尾に関心を抱いたのは、社長の娘である富士元紗希であった。彼女は松尾が会社にもたらした莫大な利益に興味を持ち、受付係の沙山ケイに松尾の人物像を尋ねた。ケイは松尾と数度会話を交わしたことがありながらも、彼の本質が「よく分からない」と答えた。受付嬢として優秀な観察眼を持つケイが判断できなかったことは、紗希にとって大きな警鐘であった。ケイは松尾が何らかの目的を持っている可能性を認めつつも、それが会社にとって害となるものではなく、すでに多大な利益を受けた今、深入りすべきではないと述べた。
松尾への接触に対する警告
ケイは松尾を自然災害に喩え、関われば甚大な被害を被る可能性があると警告した。特に準備不足のまま近づくことは避けるべきであり、紗希の無垢な好奇心に強い懸念を抱いた。ケイの言葉により紗希は行動を控え、一つの悲劇的な未来が未然に回避された形となった。ただし、彼女自身はその事実に気付いておらず、何気ないやり取りの背後で大きな危機が回避されていたのである。
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