小説「お気楽領主の楽しい領地防衛 9」感想・ネタバレ

小説「お気楽領主の楽しい領地防衛 9」感想・ネタバレ

お気楽領主の楽しい領地防衛 9巻の表紙画像(レビュー記事導入用)

お気楽領主8巻レビュー
お気楽領主まとめ
お気楽領主10巻レビュー

物語の概要

本作は異世界ファンタジーに分類される領地運営・生産系ライトノベルである。
第9巻では、主人公ヴァンが海洋国家フィエスタ王国との交流をきっかけに、試作船の建造と航海に挑む展開が描かれる。船造りを進める中、ヴァンは使者の帰国に合わせてセアト村へ戻り、再び領地運営に励んでいた。そこへ、実兄セストがイェリネッタ王国からの訴状を携えて来訪し、久々の再会を果たす。

ヴァンはフィエスタ王国の大型帆船を見学し、試行錯誤の末に試作船を完成させ、記念すべき初航海に臨む。しかし安全な近海航行のはずが、大型魔獣の襲撃という予想外の事態に見舞われる。ヴァン、アルテ、ティル、パナメラの四人は海へ投げ出され、無人島へ漂着することとなる。こうして第9巻では、領地運営から一転し、無人島でのサバイバル生活が描かれる構成となっている。

主要キャラクター

  • ヴァン
    本作の主人公であり若き領主である。生産系魔術を駆使し、戦闘よりも準備と構築によって領地を守る思考を持つ。第9巻では領主としての判断力と責任が一層問われる立場に立つ。
  • ディー
    ヴァンを支える側近的存在であり、実務や軍事面での補佐を担う。領地運営の現場を支える実行力を持つ人物である。
  • アーブ
    領地防衛や戦力運用に関わる人物であり、軍事的観点からヴァンを支援する。戦闘だけでなく、防衛体制構築にも関与する。
  • ロウ
    領地の発展と住民の安定に関わる協力者の一人であり、組織運営や実務面で重要な役割を果たす。

物語の特徴

第9巻の特徴は、これまでの領地運営中心の展開から一歩踏み出し、造船・航海・海洋国家との交流という新要素が加わる点にある。さらに、物語後半では無人島でのサバイバル生活が描かれ、生産系魔術が「領地」ではなく「極限環境」でどのように活かされるかが見どころとなっている。
お気楽な雰囲気を保ちつつも、海洋魔獣との遭遇や漂流といった危機的状況を盛り込み、シリーズに変化と広がりをもたらす一巻である。

書籍情報

お気楽領主の楽しい領地防衛 9 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
著者:赤池宗
イラスト:

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

ヴァン君ついに試作船で大海原へ! しかし、無人島に漂着しサバイバル生活に!?
海洋国家フィエスタ王国からの使者と交流し、船造りに挑んでいたヴァンは、使者の帰国に合わせセアト村へと戻り、再び村造りに励んでいた。
そこへやってきたのは久々の再会となる実の兄セスト。イェリネッタ王国との戦でミスを連発し、父ジャルパから叱責され、陛下の訴状を届けに連絡役としてやってきたのだった。再び現れたフィエスタの使者の元へ向かうヴァンに同行することになったセストは、ますます成長しているヴァンを前に、驚きを隠せないでいた。
そんなヴァンは、新たにやってきた大型帆船を見学させてもらい、苦労を重ねつつ試作船を完成させることに成功。記念すべき初航海を迎えると、陸地の見える近距離だけの航海で安全に終わるはずが、まさかの大型魔獣と遭遇し、予想外の襲撃を受けてしまう。そしてヴァンとアルテ、ティルとパナメラの四人は海へと投げ出されてしまい──。
お気楽領地運営ファンタジー第9巻は、無人島で釣りに狩猟と、楽しい?サバイバル生活開幕!

お気楽領主の楽しい領地防衛 9 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~

感想

ヴァンのどこまでも自由な発想と、予想もつかない物語の展開が面白い9巻。

ヴァンが持ち前の能力で、外海に出られる他国の最新型の船のコピーを造り出す。
何年も失敗を重ねて開発した他国の事を考えると、チートだよな‥

しかし、記念すべき試作船の船出のときに事件は起きる。
航行中に大きな魔獣に襲われ、ヴァンたちは海へと投げ出されてしまうのだった。
たどり着いたのは、未知の無人島。
そこで始まるサバイバル生活は、いつもの領地づくりとは少しちがうようでどこかで見た風景。
アルテやティル、そしてパナメラといった、仲間たちとの何処か「お気楽」なサバイバル生活。

島でのくらしの中で、人魚と出会う場面には、どこか過去に見たことがあるような、ふしぎななつかしさを感じさせる。
前半で船の素材について話をしてたよな?

戦いやきびしい自然の中でも、どこか「お気楽」な空気がただよっているのが、この作品の大きな魅力。
どんなピンチでも、ヴァンなら「お気楽」に何とかしてくれるという安心感がある。
次はいったいどんな驚きが待っているのか、今から楽しみでならない。

お気楽領主8巻レビュー
お気楽領主まとめ
お気楽領主10巻レビュー

最後までお読み頂きありがとうございます。

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

展開まとめ

序章 新たな国との出会いに備えて

セアト村への帰還と過密な領地改革
海洋国家フィエスタ王国の存在を知ったヴァン・ネイ・フェルティオは、次の使者来訪に備えて一度セアト村へ戻っていた。十歳にして子爵位に就き、将来を期待される存在であったが、実情は無茶な日程で進められる領地改革により、極度の疲労状態に追い込まれていた。その原因は執事エスパーダによる過密な業務配分であった。

限界に達するヴァンと周囲の動揺
魔力を使い果たしたヴァンは作業中に倒れ込み、アルテ、ティル、カムシンが慌てて介抱した。ヴァンは冗談めかしつつも限界を訴え、周囲は本気で命の危険を感じて取り乱した。特にティルは涙ながらに、年齢に見合わない労働環境をエスパーダに訴えた。

半日休暇の決定
騒動を受け、エスパーダは状況を冷静に判断し、この日は半日休暇とする決断を下した。連絡待ちの案件が多く、急務がないことを理由に、午後の予定を翌日以降へ回すと宣言した。この予想外の判断に、ヴァン自身も強く驚いた。

領主命令によるエスパーダの休息
ヴァンは領主としての立場を用い、エスパーダにも半日の休暇を命じた。当初は難色を示したエスパーダであったが、最終的には命令を受け入れ、珍しく穏やかな笑みを見せた。

セアト村での食事と領地の現状認識
一行はセアト村の食堂で食事を取り、ヴァンは村の発展状況を改めて実感した。商会や飲食業、宿屋、そして領地管理に携わる者たちは過酷な労働に追われており、冒険者や農業従事者、アプカルル達は比較的余裕を持って働いていた。ヴァンは将来的に、誰もが無理なく暮らせる領地を目指したいと考えていた。

ロザリーの昇進報告
食事の場にメアリ商会のロザリーが加わり、上級会員への昇進を報告した。セアト村での出店成功が評価された結果であり、年齢を考えても異例の出世であった。ロザリーは妬みや圧力を覚悟しつつも、結果で示す覚悟を語った。

出世と危険への示唆
ロザリーの話を受け、エスパーダは商会内での出世の厳しさを評価すると同時に、ヴァン自身も貴族社会の中で強い妬みを受けている現実を指摘した。今後はセアト村内であっても暗殺の危険を警戒すべきだと述べた。

静かな不安と締めくくり
暗殺という言葉に動揺しつつ、ヴァンは出世を望んだわけではないと内心で嘆いた。その後、重い気持ちを抱えながらも食事を続け、束の間の休息の時間を過ごしたのであった。

第一章 まさかの対面と報せ

セストの来訪と険悪な再会
半日休暇から三日後、フィエスタ王国関連の報せが届き、届け役としてヴァン・ネイ・フェルティオの兄セストが現れた。セストはやつれた雰囲気で態度も刺々しく、報せの受け渡しでも舌打ちで応じた。書状は金属箱に収められ、厳重な形で運搬されていた。

エスパーダの諫言と周囲の警戒
セストがヴァンに対して無礼な呼称を使うと、エスパーダが当主としての立場を理由に改めさせた。セストは激昂して裏切りを責めたが、エスパーダは引退手続きの正当性と爵位序列を淡々と述べ、セストを黙らせた。ディーも同調して牽制し、アルテ、ティル、カムシンも敵意を隠さず、場の緊張が高まった。

書状の内容と侯爵家の窮状
書状にはロッソ侯爵領にフィエスタ王国の使者が再来したこと、ただし来訪者がトランではないことが記されていた。一方でフェルティオ侯爵家は戦争での失態の責任を負い、ヤルドとセストが走り回る状況に陥っていた。兵士長からは、戦死者が多い中でヴァンの騎士団が無傷だった事実が騎士達に強烈な印象を残し、転属を口にする者までいると語られた。

護衛依頼とオルトの武器願望
領主館にはセアト村最強の冒険者オルトとプルリエルが現れ、護衛依頼の成功報酬を武器で欲しいと申し出た。ダンジョン最深部で硬い魔獣に半日戦い続け、あと一歩で撤退した悔しさが背景にあった。ヴァンは別手段の検討を促しつつも、強武器への興味から協力を決めた。

出発準備と異例の同行者
ヴァンはフィエスタ王国の使者に間に合うよう出発準備を整え、ディー、アーブ、ロウが部隊を率い、装甲馬車で移動する体制を取った。さらに川を下る行程に合わせ、水棲のアプカルルであるラダヴェスタが協力を申し出て同行し、海の仲間への連絡も試みる方針となった。

行軍の遅れと馬車改造の検討
休憩時、ヴァン達は整然と準備できた一方、後方のセスト一行は低性能の馬車が原因で大きく遅れていた。ドワーフのハベルが改造を申し出、ヴァンも車輪や車軸、衝撃吸収機構の話を交わしつつ、実質的に新造した方が早いと判断して制作に着手した。

セストの叱責と兵士長への手当て
遅れの原因を問うセストは兵士長を叱責し、さらに頬を叩いて周囲の注目を集めた。ヴァンは兵士長シルエトの立場を慮り、行軍速度を上げるためとして馬車を作ると告げ、過去に剣を教わった恩も理由にして申し出を押し通した。木材は即座に集まり、馬車制作が始まった。

馬車制作の暴走と出発の遅延
ヴァンは短時間で馬車を組み上げたが、制作途中で過剰な装飾を付け始めていたことに気付き、性能優先の二台目を急いで完成させた。しかしハベルが中途半端な装飾に反応して手伝いを宣言し、結果として出発はさらに遅れた。

セストの内心とヴァンへの敵意
セストは戦争での失敗により父の信用を失い、雑用に追われる現状に強い焦りと屈辱を抱いていた。ヴァンの評価が上がるほど自分達が不利になると考え、ヴァンの評価を落とす手段を思案したが、動かせる資金も人員もなく、命令に従うしかない状況であった。行軍中も苛立ちは続き、休憩の遅れに不満を募らせていた。

馬車提供への困惑と形式的な礼
休憩地でヴァンが新しい馬車を提供すると、セストは理解できず固まったまま受け取り、後に短く礼を述べて馬車へ向かった。ヴァンはその言葉が予想外で、現実感を確かめるように頬をつねって痛がる場面まで見せた。

荷物移送と行軍速度の回復
ヴァンは新馬車に荷物を移し、旧馬車は上部を外して荷台として牽引する指示を出した。ディーが即座に全体を動かし、以後は移動速度が大きく向上して夕暮れまでに遅れを取り戻した。夜営でも双方が同時に準備できる状態となった。

夜営後の不機嫌と後始末の検討
夜営準備の中、セストは足元がおぼつかず、ヴァンに近づきかけて舌打ちして去った。ヴァンは時間不足で馬車内の床や座面が硬いままだったため、長時間移動で体が痛んだ可能性を推測し、翌朝までに内部環境を整える方法を考え始めた。

第二章 ロッソ侯爵領で使者と対面

セストへの内装フォローと不信の露呈
ヴァンは朝一番でセストの馬車を訪ね、アルテとティルに用意させた布を座布団代わりに敷くよう勧めた。セストは「罠ではないか」と疑い、ヴァンは内装まで手が回らなかっただけだと憤って反論した。誤解が解けるとセストは布を受け取り、次の町までは我慢すると応じた。

シルエトの忠義と人材評価
ロッソ侯爵領へ向かう道中、兵士長シルエトは迷惑を詫びつつも、主君を簡単に替えない騎士の矜持を語った。さらにジャルパ侯爵がヤルドとセストに実務と見聞を積ませ、王都・ロッソ領統治・ヴァンの働きを学ばせようとしている可能性を示した。ヴァンはシルエトの洞察を高く評価し、騎士団長器だとして勧誘めいた冗談を投げた。

トリブート到着とロッソとの再会
一行はトリブートに到着し、ヴァンは格式張らない応接室でロッソ侯爵とすぐに面会した。ロッソは余裕ある態度で明日の会談を告げ、休息後に情報共有すると約束した。町へ戻った後、セストはロッソと自然に会話するヴァンに驚き、ヴァンはロッソの懐の深さを評し、セストにとって学びになると考えた。

モンデオ・オーカスとの会談と帝国情報
翌日、フィエスタ王国の使者モンデオ・オーカスが来訪し、礼儀正しく振る舞いながらヴァンを過剰に持ち上げた。会談ではソルスティス帝国の火砲の脅威、資源と国力の規模、そしてフィエスタがスクーデリア・帝国・へセル連合国と接触し地図精度を高めたことなどが語られた。一方でモンデオは同盟後に他国沿岸へ港を作り、自国民が領主になる可能性まで探るなど、地位や利得への執着が見えた。

モンデオへの不信とロッソの見立て
会談後、ヴァンは率直にトランの方が好ましいと述べ、ロッソも同意した。ロッソはモンデオの野心が国家より個人の利に寄って見える点を問題視し、翌日の船見学を警戒した。ヴァンは「考えがある」と述べ、見学で主導権を取る方針を示した。

船見学の交渉と“贈り物”による突破
翌朝、朱色の帆を持つ大型船エスカレードの見学が始まった。ヴァンは部下の同行を願い、モンデオは「機密」を理由に五名までと条件を付けて許可した。ヴァンはロウ、クサラ、そしてドワーフのハベルを同行に選び、モンデオはハベルの存在に動揺したが、ヴァンは贈り物として最高級ミスリル短剣を提示し、見学の対価として受け取らせた。モンデオは短剣の価値に押され、実質的に拒否を引っ込めて案内を進めた。

見学中の情報収集とロッソの期待
ハベルが舵輪や機構を次々と質問し、モンデオは対応に付きっきりとなった。その隙にロウとクサラが内装や構造を描き写し、必要箇所を分担して記録した。ロッソは表面上の差が少ないと感じつつも、ヴァンが「今回は本気で盗む」と小声で告げると興味を示し、成否を見守った。

“本命”の回収とアプカルルの偵察結果
見学が終わり、モンデオは友好姿勢を強調して引き上げた。ロッソが成果を問うと、ヴァンは町の川沿いへ誘導し、ラダヴェスタを呼び出した。ラダヴェスタは水中から石板を取り出し、船底形状を図として描いていたと報告した。ヴァンは、船内を見せられても核心は盗めないというモンデオの油断を逆手に取り、水中から“底”を写し取らせていたのである。

第三章 船の研究

船底溝の再現と“音・振動”への着目
ラダヴェスタは模型を使い、船底に左右対称の溝が刻まれていたことを説明した。鉛筆で紋様を描かせると、草模様のような複雑な線が浮かび上がり、海流が強い時に高い音と振動が響いたと証言した。ヴァンは高周波や低周波の可能性を推測し、水棲魔獣を遠ざける仕組みかもしれないと見立て、研究対象として価値が高いと判断した。

ロッソの警戒と情報統制
ロッソは成果を高く評価しつつ、モンデオが帰国するまで試作を控えるよう提案した。モンデオが「船底まで見られた」と気付けば交渉が厄介になると見て、三日後に“模型を作った程度”だけを伝えて様子を探った。モンデオは冗談交じりに驚き、精密さには素直に感心した様子を見せたが、遠洋船が再現されるとは思っていないとヴァンは読んだ。

秘密裏の試作と完成への到達
モンデオ滞在中もハベルは我慢できず、館の裏庭に深い池を作って試作品を量産した。ラダヴェスタの聞き比べと再調査も加わり、溝の深さや一部の円状部分など、模様の要点が更新された。膨大な試行錯誤の末、音がほぼ一致する試作品が完成し、ヴァンとハベルは達成感を共有した。

パナメラ来訪と“悪ノリ貴族”の増殖
モンデオ帰還直後、ロッソは即座に造船開始を要請した。そこへパナメラ・カレラ・カイエン伯爵が強行軍で到着し、館は騒がしくなる。パナメラはヴァンをからかい、失言したヴァンを腕で固めて制圧するなど、いつもの圧で場を支配した。ロッソもそれを面白がり、上級貴族二人の悪ノリでヴァンは若手芸人枠に追い込まれた。

試作船建造の開始とハベルの鬼検品
翌日、海岸に木材と資材が集められ、ヴァンは純ミスリルで船底装甲を作り始めた。船底のV字に近い断面と、溝の幅・長さ・深さを再現する作業は最重要工程であり、ヴァンは丁寧に仕上げた。しかしハベルは容赦なく十五か所の修正を要求し、ヴァンは悲鳴を上げながらミリ単位で直して合格を得た。

進水式の失速と筋肉による強制解決
完成した試作船はレールで海へ滑り込ませる進水式を試みたが、角度不足で途中停止した。そこでディーとオルトが上半身裸で船尾を押し、人力で船を海に浮かべるという意味不明な力技を成功させた。騎士たちは異名込みで神格化し、パナメラはディーを欲しがるが、ヴァンは「家族だから渡せない」と即断した。

最終チェックでの異変と不穏な予兆
ラダヴェスタが海中で最終確認に入ったところ、「前に見た船と少し違う」「波を受けて発せられる音が違う気がする」と指摘した。ヴァンは出航前の段階で想定外の差異を突き付けられ、試作船第一号が失敗する可能性に動揺した。

第四章 船造りは難航?

異音の原因探索と“素材”への疑い
ラダヴェスタは模様や溝の深さ、大きさ、角度に問題はないと断言し、原因は別にあると示唆した。ハベルは角度差の可能性を確認したうえで、最終的に「素材が波を受けてたわむことで共鳴が変わる」と結論づけ、合金の可能性を指摘した。ミスリル主体で錆びにくい条件から、混ぜるなら銀が有力と見立て、割合を詰める方針が立った。

魔術による反則級の合金再現
ヴァンは魔術で船体素材を即座に変化させ、砂浜に不要金属を吐き出させる形で検証を高速化した。ミスリルに銀をざっくり混ぜて当たりを付け、二割から三割の間を中心に1%刻みで調整し、ラダヴェスタの「今回は良い。音と振動が響いた」という確認で再現に成功した。ハベルは結果を喜びつつも、その工程のズルさに拗ねた。

運用計画の現実味と祝賀会
完成報告を受けたロッソは、運用に必要な人員を質問した。ヴァンは最低十人、現実的には二十人と見積もり、操舵・帆操作・風の魔術師に加え、船大工や料理人、交代要員が必要だと説明した。ロッソは風の魔術適性者の提供を約束し、翌日から運用開始が決まった。夜は主要メンバーで祝賀会が開かれ、ロッソはヴァンの功績を称え、当人は料理に夢中で笑われるという平和な光景が展開された。

初航海の順調さとカムシンの限界
出航当日、見学枠としてパナメラ、アルテ、ティルまで乗船し、ディーの号令と風魔術で船は急加速した。航行自体は快適だったが揺れは大きく、カムシンが青ざめて減速を要請したため、風魔術を止めて落ち着かせた。その間に想像以上に沖へ出ており、船が移動手段として桁違いであることが実感された。ついでにカムシンは遠距離の陸上人物の所属まで見分ける異常視力を披露し、別方向で怖さを上乗せした。

海中の巨大影と緊急退避
船の周囲に“船より大きい”魚影が現れ、アーブとロウが大型魔獣の可能性を報告した。水中相手には火が通りにくく、水魔術も不在で攻撃手段が乏しいため、ヴァンは即座に帰還を指示し、風魔術で離脱を図った。パナメラは攻撃を考えつつも決め手に欠け、アルテは不安でヴァンの服を掴んだ。

襲撃と転落、そして“黒い影”の接近
その直後、船が下から持ち上げられ、船首が跳ね上がって甲板がほぼ垂直になるほど傾いた。ヴァン、アルテ、ティル、パナメラらは投げ出され、カムシンの手も掴めないまま海へ落下した。渦のような激流で回転させられ、抵抗も泳ぎも成立しない状況に陥る。視界が薄暗くなる中、右手首に白い布の感触を覚え、同時に巨大な黒い影が迫ってくるのを目撃して物語は切迫したまま次へ続く。

第五章 まさかの事態

漂着と全員の生存確認
ヴァンは砂浜で目を覚まし、波打ち際に倒れるティル、アルテ、パナメラを発見した。呼吸を確かめると四人とも生存しており、大きな外傷も見当たらなかった。ヴァンは安堵しつつも、巨大魔獣に襲われた状況から「なぜ助かったのか」「ここはどこか」という疑問に囚われた。

海面の“生首”と正体不明の監視者
意識が朦朧とする中、ヴァンは海面に頭だけ浮く影を見つけ、カムシンかと思うが違和感を覚えた。アプカルルが警戒時に水面から顔だけ出す習性を思い出し、ラダヴェスタの可能性も考える。しかし見えたのは髪の長い女性のようで、確証は得られないまま状況把握を優先した。

無人島の確定と最低限の防衛
探索の結果、砂浜の背後は鬱蒼とした森と尖った山のみで、人の気配も集落もなかった。ヴァンは砂浜を一時拠点にし、簡易の柵を組み、ウッドブロックでベッドも用意して三人を休ませた。助かったのは奇跡だが、助けた存在が誰なのかは分からないままであった。

ティルの再起動と感情の爆発
ティルが寝ぼけた状態で目を覚まし、痛みがないと笑った直後、状況を思い出して泣きながらヴァンに抱きついた。死を恐れていたと訴え「もう離れないで」と感情をぶつける。ヴァンは困惑しつつ背中を叩いて宥め、恐怖の体験が三人の心に残っていることを実感した。

パナメラの挑発とアルテの“芝居”
パナメラも起床し、冷静に漂流と無人島の可能性を推測した。濡れた衣服の処置を“紳士の作法”としてからかい、アルテが危険だと脅してヴァンを動かすが、アルテは実は起きており、パナメラの悪戯だったと判明する。ヴァンは本気で心配した分だけ怒り、パナメラは笑って受け流した。

罪悪感と受け止める言葉
ヴァンは全員を巻き込んだ責任を謝罪したが、ティルとアルテは自分の意思で乗ったと庇った。パナメラは「この程度は日常茶飯事」と豪胆に笑い、ヴァンの反省を面白がる。緊張をほぐす言葉ではあったが、ヴァンの中の罪悪感は消えなかった。

仮住まいのはずが“別荘”級
ヴァンはウッドブロックで住居建設を開始し、生木の加工の難しさに苦戦する。パナメラが流木を集め、アルテとティルも手伝い、結果としてログハウス風の家にテラス、東屋、ガーデンテーブルまで整えた“マイホーム”が完成した。パナメラは「仮の住まい」の規模に呆れ、アルテとティルは素直に喜んだ。

無人島生活の順応とカラフル魚の怪
漂着から二日ほどで、パナメラは軽量鎧をまとい鹿ほどの魔獣を担いで帰還し、火魔術で焚火台に着火するなど島暮らしに適応した。食事は魚を焼くことになったが、赤青黄の派手な魚が並び、ヴァンだけが見た目に怯えた。結果は皮肉にも黄色の魚が最も美味く、ヴァンの感覚だけが置き去りにされた。

カムシンの視点:届かなかった手とディーの出撃
船上に残ったカムシンは、落下するヴァンたちを見てロープを確保しようと奔走し、涙を流しながら綱を切って救助準備を急いだ。ディーは大剣を携えて海へ向かい、魔獣の方へ泳ぎ出す。カムシンは追うが追いつけず、視界が暗転して意識を失っていった。

アーブの視点:救助、喪失、そして賭けの追跡
アーブとロウはロープを投げるが二人は戻らず、アーブは潜って捜索する。遠方で意識を失ったカムシンを発見して確保し、ロープで引き上げて救助に成功した。目覚めたカムシンは真っ先にヴァンの安否を問うが、ヴァン、パナメラ、アルテ、ティルは未発見で、船上に重い空気が流れる。カムシンは「魔獣の向かった先に高速で泳ぐ人影」を見たと語り、アーブとロウはその情報に賭けて魔獣の進行方向へ船を向ける決断を下した。

第六章 帰りたい

中型魔獣の襲撃と戦力差の再確認
ヴァンは森の開拓中、ライオンのようなたてがみを持つ高速の中型魔獣と遭遇した。だがアルテの人形が正面から突進と牙爪を受け止め、パナメラの強力な火魔術が追撃して、撃退ではなく討伐で決着した。ヴァンは二人の戦力に戦慄しつつも、拠点防衛の必要性を強く意識した。

防壁の建設と“異常”認定の逆転
ヴァンはログハウスを囲う壁をウッドブロックで構築し、鉄板以上の硬度を期待できる厚板と深い支柱で防御を固めた。完成後、パナメラは「異常なのは少年のほうだ」と真顔で指摘し、ヴァンは納得しきれないまま“平和なら良し”で折り合いをつけた。魔獣の解体をティルに頼む案は、涙目で震える姿を見て即撤回した。

島暮らしの定着と頻発する魔獣
漂着から四日を過ぎても救助は来ず、塩や濾過水を確保して生活基盤は整ったが、魔獣の多さが最大の脅威だった。浜辺で襲われた際には、パナメラが超速で割り込みヴァンを突き飛ばして守り、剣と火魔術で撃退した。ヴァンは説明不能な身体能力や“揺れ”に思考を放棄し、触れないのが正解だと悟った。

一週間後の平穏と不穏な前兆
生活に慣れ、ティルは塩と果汁の料理研究、ヴァンとアルテは安全柵の中で釣り、パナメラは狩猟に没頭した。アルテは餌の虫が苦手で悲鳴を漏らす一方、海を眺める時間は心から楽しんでいた。だが海面に波紋が走り、魚が異常に跳ね始め、群れが岸へ押し寄せる不気味な現象が起きた。

化け物鯨の再来と逃走
魚の群れは“何か”から逃げており、沖で海面が盛り上がると、巨大な鯨型の魔獣が姿を現した。無数の牙と爪のあるヒレを備え、ヴァンの試作船を襲った個体だと確信できる禍々しさだった。ヴァンはアルテの手を引いて森へ逃げるが、咆哮と尾びれの叩きつけで地震級の衝撃が走り、さらに巨体が跳躍して影が覆いかぶさった。

パナメラの救出と即席防壁の限界
アルテが恐怖で動けなくなり、ヴァンは抱きかかえて逃げるが速度が出ない。そこへパナメラが駆け込み、ヴァンたちを弾き飛ばすように退避させ、落下の直撃を回避させた。続けてヴァンは流木から即席の壁を生成し、パナメラも飛び込んで合流する。壁は巨体の跳躍衝撃を辛うじて耐えたが大きく歪み、次は無理だと全員が理解した。

ログハウス籠城と崩壊
ティルの誘導で三人はログハウスへ逃げ込むが、化け物鯨は海岸を跳ねて追撃し、家を標的に衝撃を与え続けた。ウッドブロックの箱構造は強いはずだったが、傾き始めると強度が落ち、軋みながら崩れていく。アルテとティルは涙目で抱き合い、ヴァンは「もうセアト村に帰りたい」と本音を漏らした。

捨て身提案とシェルター案
パナメラは自分が囮になって森側へ誘導すると提案し、剣を投げつける覚悟を示す。ヴァンは危険性を指摘し、自分が壁で耐える案も出すが、どちらも運要素が強く決定打にならない。そこでティルが地下室という発想を提示し、ヴァンは即座に“シェルター”として採用した。

地下通路の構築と別方向の地獄
ヴァンは床材を変形させて簡易地下室を作り、天井を閉じて落下音と衝撃をやり過ごした。選択自体は正解だったが、咄嗟の地下室は狭すぎて暗闇で接触事故が多発し、ヴァンは痴漢冤罪という地球知識を思い出して無駄に追い詰められた。さらに換気が不足し、アルテが朦朧とし始めたことで酸欠の危険が顕在化した。

換気口の確保と地上復帰
ヴァンは通路を延伸し、外光が漏れる換気口を作って空気を確保した。皆は換気口側へ移動し、呼吸を整えながら状況回復を待つ。やがて外へ出る出入口も作り、ヴァンは化け物鯨が海へ向かって離れていくのを確認した。

トリブート側の動揺と捜索の再始動
一方トリブートでは、ヴァン不在で戻った船が衝撃を広げた。ロッソ、ハベル、オルトらが動揺し、ディー達は憔悴しながらも現状把握と捜索継続に努めた。成果が出ないまま帰還を決断したディーは、捜索隊の編成をロッソへ要求し、自分たちは準備を整えて再出航すると宣言した。ロッソは条件付きで協力し、風魔術師を預けて捜索の効率を上げる手配を進めた。

ラダヴェスタの限界と“海の仲間”
ロッソはアプカルルのラダヴェスタなら海中捜索が可能ではないかと考えるが、ラダヴェスタは「海の知識がない」として単独捜索の難しさを述べた。だが事前に“海の仲間”へ声を掛けていたことを示唆し、沖を見つめて状況の変化を待つ姿勢を取った。

第七章 化け物鯨退治

本気編成と“時間稼ぎ”
地上へ戻った後もパナメラの闘争心は衰えず、ヴァンは渋々ながら化け物鯨対策の本気編成を組んだ。海岸線を広くカバーするようバリスタを設置し、鉄矢も用意したうえで、大剣持ちの大型アルテ人形を急造した。だが準備を整えた頃には、化け物鯨は一度海へ引いていた。パナメラはヴァンの“勝てないなら戦わない”思考を見抜き、わざと時間をかけたと疑うが、口論は冗談と痴漢冤罪ネタに逸れていった。

救助対象の発見と迎撃開始
アルテが、化け物鯨の進行方向に人影らしき存在を見つけた。金髪の“何か”が水面すれすれを逃げており、アプカルルかもしれないと判断して救助を優先する。ヴァンはバリスタで注意を引き、アルテ人形が上陸阻止を担当し、パナメラが魔術で仕留める方針を決めた。ティルは護衛役として斧を渡されかけ、結局はバリスタ補助として予備矢の準備を担った。

上陸戦と炎槍の決定打
ヴァンがバリスタを撃つと化け物鯨は即座にこちらを特定し、巨体のまま上陸して突進した。アルテ人形は口端を切り裂き、化け物鯨は咆哮と尾撃で地震のような衝撃を起こした。そこへパナメラが「炎槍」を放ち、空中で回避不能となった化け物鯨を焼き落とした。続いてアルテ人形が尾を切り裂いて動きを鈍らせ、ヴァンは鉄矢で胴体を貫き、パナメラの「火炎雨」が追撃として全身を焼き尽くした。

火の海の後始末と人魚リルダとの会話
討伐後も燃えているのは魔術そのものではなく流木や脂による延焼であり、数時間は消えないとパナメラが説明した。熱気を避けつつ海辺へ向かうと、そこにはアプカルルではない金髪の若い人魚が現れ、名を「リルダ・ウアンナ」と名乗った。リルダは船の所在を知っており、島の反対側を指して案内したうえで、反対側が深く危険で大型魔獣が多いからこそ、ヴァン達をこちら側へ運んで助けたと語った。ヴァンは命の恩人だと感謝するが、声が大きくて何度も警戒される羽目になった。

恩返しの試行と島周回の決断
ヴァン達は礼として魔獣肉と果物を贈り、リルダは生でも食べられると言って受け取った。ヴァンは島の反対側まで連れて行ってほしいと頼みかけるが、言い切る前に去られてしまい、妙に傷心する。だが最重要の情報として「反対側に船がある」ことを得たため、森を避けて海岸沿いに周回し、昼に移動して夜は家を建てて休む方針を固めた。

人魚集団の来訪と“暴王”の依頼
翌朝、ログハウスを解体して台車に変え、物資を積んで海岸沿いに進むと、海面に金髪の人魚達が三十人規模で現れた。中心の男は、化け物鯨を「ウィール」と呼び、その討伐を確認したうえで、海に現れた「暴王」の撃退に協力してほしいとパナメラへ依頼した。パナメラは恩返しの意思を示しつつも、時間がかかる可能性を考慮して判断をヴァンに委ねた。

優先順位と最適解
ヴァンはまず島の反対側へ行き、ディー達と合流してから確実に撃退するのが最善だと結論づけた。人魚達の助力があれば移動も早まり、救援と討伐を両立できる。パナメラはその案を「大正解」と評価し、方針は“合流を急いだうえで暴王に対処する”へ収束した。

第八章 合流

人魚との交渉成立と即席船の制作
ヴァンは「仲間が島の反対側にいるかもしれない。そこまで運んでくれれば魔獣撃退に協力する」と提案し、人魚側は協議の末に了承した。岩場で交渉役の男、同年代の女、年長の勇ましい男、リルダの四名が待機し、ヴァンは人魚が牽引できる五人乗りの小舟を急造した。短時間で船を作り上げたことで人魚達は唖然とし、人間への警戒心を強めた。

贈り物が逆効果になりつつ出航
ヴァンは友好の印として短剣を即席で作って渡したが、切れ味を示した結果「怖い」と距離を取られ、パナメラにまで疑われた。それでも船は牽引可能な形に改良され、人魚三十人の推進力で船は高速移動を開始した。ティルとアルテは風を楽しみ、パナメラも移動短縮に満足する。リルダは船首で揺れを気にしつつも、ヴァンの返答に小さく微笑んで海へ戻った。

恋愛疑惑の茶化しと到着直前の異変
パナメラは含み笑いでヴァンとリルダの関係をからかい、アルテは過去の婚約事例まで持ち出して妙に真剣になり、ティルは種族を超える魅力などと言い出してヴァンが全力で否定した。そんな騒ぎの最中、人魚の男が「もう反対側だ、あの船に見覚えはあるか」と告げ、ヴァン達の大型船と、その近くに潜む巨大な魔獣影が視界に入った。

船上の死闘とディーの単独迎撃
大型船ではディーが指揮を執り、風の魔術で加速しつつ魔獣の追撃をかわしていた。化け物鯨が再接近すると、ディーは海へ跳躍して単独で迎撃し、噛みつきを牙への打撃でいなし、空中で跳ね返って再度斬撃を叩き込み、後頭部を深く切り裂いた。その間、船側にも別個体が迫り、回避と回収を両立しようとするが詠唱が間に合わず、緊迫が高まる。

カムシンの暴走と落水
船に迫る化け物鯨に対し、カムシンはヴァン不在への怒りを爆発させ、躊躇なく海へ跳んで斬りかかった。アーブは追いつけず、剣を投げ、クサラも投擲で続け、口内に刺さった衝撃で化け物鯨は退避する。しかしカムシンは海へ落下し、救助のためアーブが叫び、クサラが飛び込み、オルトがロープを準備した。

ヴァン側の介入とバリスタ支援
ヴァンは追跡される船を見て危機を察し、試作船上にバリスタを急造した。海面から別の化け物鯨が襲い、人魚達は「囲まれれば自分達でも食われる」と近づけないと告げる。ディーは二段跳躍のような動きで噛みつきを回避し、直後に落下斬で大損害を与えたが、船には別個体が接近し、ヴァンは二連バリスタで後頭部と顎付け根付近に連続命中させ、進路を逸らして船の危機を凌いだ。

防火幕の合図と“泳ぐディー”の回収劇
パナメラは炎の帯を展開する「防火幕」で合図を送り、船はヴァン側へ寄せ始めた。船の挙動が不自然に細かく変わるのは、ディーを拾うかヴァンへ向かうか迷っているためであり、やがてディーは大型魔獣がいる海を異常な速度で泳いで接近した。その姿に人魚達も「本当に人間か」と困惑する。

合流とディーのベアハッグ事件
船とディーが同時に到着し、ディーはヴァンへ一直線に抱きつき、骨が軋むほど締め上げてヴァンは半ば意識を飛ばした。目覚めたヴァンは、泣き崩れるカムシンから「落下時に手を取れなかった」後悔を告げられるが、ヴァンは頭に手を置いて感謝を伝え、カムシンは子供のように泣いた。オルト達にも礼を述べ、ヴァンが新しい剣を作ると言うとオルトとクサラは即座に報酬扱いで要求した。

人魚側の名乗りとリルダの正体
人魚達は状況を見守っていたが、ディー達がようやく気づいて警戒し、距離が開く。ヴァンが落ち着かせ、リルダ達を「命の恩人」と紹介すると、族長ラルグス・ダチアが名乗り、さらにリルダが「ウアンナ国の王女リルダ・ウアンナ」であると明かした。ティルとアルテは驚愕し、パナメラはまたしても余計な含みを向けるが、ヴァンは無視して状況説明を優先した。

恩返しとして魔獣撃退へ、そして伐採開始
ヴァンは恩返しとして海の大型魔獣撃退に協力するため、すぐ帰れない可能性を告げる。ディーは討伐を即答し、アーブ達も続き、カムシンは「全力で魔獣を殺す」と殺気を滲ませて同意した。ヴァンは拠点整備として、体力回復後に伐採して作業空間を作ろうと提案するが、ディーは休憩不要と言い出し、カムシンも同調して即伐採へ向かう。疲労困憊のアーブ達は引きつった顔で後に続き、その行軍はゾンビの行進のようであった。

第九章 強敵を撃退したい

伐採と拠点整備が異常速度で進行
ディーとオルトがほぼ主力となって森を切り開き、騎士達が木材運搬を担当し、ヴァンはそれを次々ウッドブロック化した。人魚側は人間の作業速度と怪力に驚愕し、パナメラも「あの二人の働きは真似できない」と冷静に評した。アルテ達は船の資材搬入を申し出て、ヴァンは桟橋建設を決めた。

桟橋と人魚用の“海の家”を即席で建築
ヴァンは幅約四メートル・長さ約二十メートルの桟橋を造り、支柱も海底深くまで十本伸ばして魔獣対策を施した。さらに、人魚が利用できる家を桟橋に接続する形で建て、室内中央を海面にし、潮位変化に対応する段差床や水中扉まで用意した。リルダが住処の情報を口にしてラルグスが警戒顔になる場面もあったが、ヴァンは侵攻意図を見せず拠点整備を進めた。

砦建設と武装強化、夕食会で士気回復
夕刻までに二階建ての砦を完成させ、船と砦それぞれにバリスタ四基ずつを設置した。食事はティルとプルリエルが調理し、パナメラは果実酒でくつろいだ。ラルグス達も化け物鯨の肉を持参し、ヴァンは内心ひるみつつ受け入れた。実際に焼いた肉は意外にも美味で、ヴァンは「蒲焼が作れるのでは」と醤油欲に悶える。仲間と人魚が同席する食卓は和やかで、涙もろくなったカムシンも噛みしめるように食べ、リルダの絵画的な美しさと“現実的な肉食”のギャップが強調された。

翌朝、未知の脅威へ備え作戦開始
人魚側が「化け物鯨より凶悪」とする魔獣の出現に備え、人数を絞って警戒態勢に入った。パナメラは硬すぎて剣も魔術も効かないとされるザラタンの名を挙げ、皆が嫌な予感を抱く。カムシンは「ヴァン様の敵は殺す」と呪詛のように繰り返し、味方からも怖がられるほど殺気立った。

物資調達と静けさの中の緊張
探索に出ていたオルト達が二足歩行の耐久型魔獣を仕留め、皮・肉・骨を持ち帰った。プルリエルは弾力ある素材の活用を進言し、ヴァンは感謝しつつも海の不気味な静けさに注意を向けた。やがてラルグスが出現を告げ、ディーが即座に配置命令を出し、人魚達は作戦通り海中へ潜った。アルテは水中戦不可のウッドブロック人形を海の家前に待機させ、ヴァンは人魚側の危険を案じた。

出現したのは“多頭竜ヒュドラ”
沖で海面が盛り上がり、五つの首と十の目を持つ巨大な竜が姿を現した。パナメラはそれをヒュドラと断定し、ディーは「海辺の町が滅んだ記録があるが討伐例はない」と危険度を説明した。にもかかわらずディーは高笑いで士気を上げ、パナメラも討伐を歴史に刻むと気炎を上げ、騎士達の緊張も和らいだ。

バリスタ初撃とヒュドラの接近
人魚達が注意を引く中、ヴァンは「当たる距離」と判断し、船上からバリスタを二発同時で発射させた。遠距離で命中確認は曖昧だったが、ディーとパナメラは船に移動して戦闘準備を整える。砦側に残ったヴァン達が見守る中、ヒュドラは怒りを示しつつ急速に接近し、海面を進むだけでなく正面を向いて前進してきたため、バリスタが挑発として効いたことが明確になった。

第十章 歴史に残る戦い

ヒュドラ潜航で船を捨て、砦へ退避
ディーとパナメラはバリスタ連射と詠唱開始を同時に指示したが、ヒュドラは突進をやめて五つの頭を沈め、海中へ潜った。水中奇襲を警戒したディーは船からの脱出を命じ、魔術師も詠唱を中断して撤退した。ヴァン達が砦へ向かう最中、背後で破壊音と衝撃が走り、潜航したヒュドラが船に噛みついて甲板を粉砕しながら出現した。

至近距離の咆哮と、人形の特攻で生還
距離五十メートル未満で十の目に捉えられ、ヴァンは恐怖で硬直したが、カムシンが前に出て盾となり撤退を促した。さらにヒュドラが口を開けて迫る絶体絶命の局面で、アルテの人形がヒュドラの口内へ飛び込み、噛み砕き動作を一瞬止めた。ティルがヴァンの手を引いて全力疾走し、砦上からアーブとロウが胴体を狙ってバリスタを撃ち込み、ディーが跳躍して大剣で顔面を斬り裂いた。パナメラは炎槍を直撃させ、他の魔術師の風刃・暴風・水流弾が追撃し、狙っていた首の一つを海へ退かせた。

“本当の本気”への切り替えと、陽動戦術の再構築
砦に滑り込んだヴァンは大型魔獣を甘く見ていたと認め、撤退案を退けて恩返しのため戦闘継続を宣言した。避難徹底をカムシンに伝え、アルテの人形は「壊される前提」で撹乱特化に作り替える方針を決めた。ヴァンはオルトとクサラに注意を引く役を依頼し、巨大な和弓級クロスボウを新造して機動射撃で追い回す役目を与えた。クサラは無理を叫びつつも、オルトを巻き添えにして前へ出る流れとなった。

殺戮じみた新型人形と、再戦準備
ヴァンは軽量化し四肢を極端に長くした人形を作り、両手そのものを長剣化して翻弄性能を最大化した。見た目の悪さにアルテが困惑したため、服とマント、帽子を装着して“裸ではない”ことを重要視する形で納得を得た。ディーはヒュドラが海中に潜んだまま近海で様子見していると報告し、再度バリスタと魔術で削る段取りが整えられた。

ヒュドラ再浮上と、オルト達の挑発で時間稼ぎ
海面が爆発のように噴き上がり、ヒュドラが砦を睨みつけて咆哮した瞬間、クサラが挑発して注意を引き、オルトと共に逃走した。ヴァン達はその隙に海の家へ走り、ラルグスとリルダを呼び出して協力を要請した。ラルグスは二百人規模の戦士を連れてきていると明かし、ヴァンが作る通常サイズのクロスボウで遠距離から攻撃し、ヒュドラの動きを鈍らせる作戦を受諾した。

人魚部隊への武装供給と、人形の高速強襲
ヴァンはクロスボウと矢を量産し、人魚達へ次々配備したが、ヒュドラが追跡を切り上げて戻り始めたため一時退避を判断した。ここでアルテは新型人形を投入し、風のような速度で接近させて跳躍し、剣腕でヒュドラの片眼を斬り裂いて出血させた。ディーは追撃に出てカムシンへ護衛を託し、ヴァンはティルに追加のウッドブロック搬入を命じ、クロスボウ量産を再開した。

最終章 偉業

回避特化の人形と人魚クロスボウで戦線を支える
アルテは人形を「飛ばずに地を這う」挙動へ切り替え、五つ首の攻撃を徹底回避しながら剣撃を重ねた。そこへ人魚達が三十挺のクロスボウで矢の雨を浴びせ、目や口内を狙ってヒュドラの集中を崩した。狙いが散ったことで戦場の主導権は一時こちらへ傾いた。

人形の撃破と、ディーの一撃が潮目を変える
アルテが好機を見て人形を突進させた瞬間、ヒュドラは別の首で横から噛みつき、人形の胴体を貫いて破壊した。直後、ディーが伸び切った首へ上段から斬り落とし、首を半ばまで断つ深手を与えた。この痛撃でヒュドラは「最大の脅威」をディーと判断し、尾と四本の首で総攻撃に移った。

バリスタと魔術の一斉射で押し返すが、上陸の危機が迫る
首がディーに集中した隙を逃さず、砦上のアーブとロウがバリスタを一斉射し、三本が胴体へ、一本が激しく動く首へ命中した。牙の一撃でディーは砦方向へ吹き飛ばされるが、パナメラの炎槍を合図に魔術が連打され、猛攻が成立する。ところがヒュドラは撤退せず砦へ迫り、巨大な足が降り注いで砦ごと破壊しかねない状況となった。

カムシンの体当たりで海へ退避し、人魚が救助する
ヴァンは全員へ退避を叫び、遅れるアルテをティルと共に引いて走った。間に合わない瞬間、カムシンが横から突撃して三人まとめて弾き飛ばし、追い打ちの足が落ちる直前に海へ転落させた。水中で四人は互いを掴んだまま沈み、人魚のリルダとラルグス達が駆けつけて支え、海面へ浮上させた。

ディーが首を両断し、ヒュドラは撤退する
陸上では戦闘が続き、鬼気迫るディーが傷を負った首を踏み台にして跳躍し、切り上げの追撃でついに首一本を両断した。首を失ったヒュドラは海へ後退し、そのまま潜って去ったが、帰り際の尾で海の家は破壊された。生還した一行は互いの無事を喜び、特にカムシンの働きは騎士達から称賛を受けた。

人魚との和解と帰還準備、そして“最上級のお土産”
ラルグスは暴王が去ったと告げ、帰国の手助けも申し出た。リルダは「海王の首を落とす力」を勇者級の偉業と評し、ヴァンはディーに勇者の鎧を用意する考えを口にした。船は破壊されていたが、残った船底を再利用して約三時間で修復し、翌日の出航へこぎつけた。風の魔術で船は加速し、人魚達が護衛として並走する中、船は巨大な浮き桟橋に“ヒュドラの首”という戦利品を載せてトリブートへ向かった。綺麗な海の景色は、さっきまで怪獣映画だった事実を平然と無視して輝いていた。

番外編 無人島での貴族達

ログハウスの朝と即席の優雅さ
ヴァンはログハウスでぐっすり眠り、陽光で目を覚ました。外は涼しい朝で海も穏やかであり、ヴァンとティルは少しワイルドな格好のまま庭へ出て、即席のガーデンテーブルにティーセットを並べて朝食にする流れとなった。魚の姿焼きが添えられ、状況の割に妙な上品さが成立していた。

フルーツティー研究と安定の失敗
ティルは昨日見つけた果物で茶を淹れたが、甘い香りの後に酸味とえぐみが広がり、ヴァンは曖昧に評価して場を濁した。原因は皮のえぐみにありそうだと指摘すると、ティルは即座に作り直しへ向かい、ヴァンだけが魚の姿焼きと向き合うことになった。

パナメラの新果物とアルテの“野菜”
森からパナメラとアルテが合流し、パナメラは味見していない未知の果物を「食べられそう」と持ち帰った。アルテも両手いっぱいの草を「食べられそうな野菜」と報告し、ヴァンは見た目が観葉植物じみた縞模様の草に強い不安を覚えつつも礼を述べた。現状の食事は塩味の魚と魔獣肉、果物に偏っており、食文化の薄さが際立っていた。

誰も味見しない島の慣習とヴァンの危機感
休憩しながら海を眺める一同は、ティルの“次の試作品”を待つ空気になる。戻ってきたティルは今回も自信満々だが、相変わらず味見はしていなかった。新しい食べ物ほど誰も試さず、なぜか最初にヴァンへ差し出される流れが固定化しつつあり、ヴァンはこの無人島に最悪の慣習が根付いていると感じて静かに戦慄した。

番外編 ヴァンと再会して限界突破したカムシン

行方不明期間における消耗と崩れた日常
ヴァンが行方不明となっていた間、カムシンは明らかに憔悴していた。捜索中は食事も取らず、地図を睨み続け、夜は眠らずに一人泣くこともあった。捜索が不発に終わりトリブートへ戻った後は特に酷く、休まないまま痩せ細っていく様子は、ロッソの目にも分かるほどであった。

再会による安堵と、予想外の“限界突破”
セアト騎士団はヴァンとの再会で安堵し、これでカムシンも元に戻ると考えていた。しかし現実は逆であり、カムシンの忠誠と警戒心は極端な形で表出した。ヴァンがトイレに行くだけでも同行を申し出るなど、常に傍を離れず行動を共にするようになった。

常時護衛という異常行動
食事、釣り、昼寝に至るまで、カムシンはヴァンの側を離れなかった。夜間も警護を続けようとしたため、ヴァンの説得で寝室の外に簡易寝具を置くという妥協案に落ち着いたが、それでも警戒態勢は解かれなかった。

周囲の懸念と打つ手なしの結論
ディー、アーブ、ロウをはじめとする同僚達は、カムシンが倒れるのではないかと心配し、交代制などを検討した。しかし誰かが代わっても、カムシンが眠らず警戒を続けるだけだと判断され、結局は「気が済むまで任せる」以外に手がないという結論に至った。

行き過ぎた安全策の提案
帰路の船に乗る際、カムシンはヴァンの腰にロープを結び、自分が反対側を持つという案を真剣に提案した。落水時の救助を想定したものだったが、ヴァンはそれを聞き、自身がペットの散歩のような扱いになる光景を想像して困惑することになった。

忠誠の極致としてのカムシン
この一連の行動は、カムシンがヴァンを再び失うことを極端に恐れている証であり、騎士としての忠誠心が限界を越えて発露した状態であった。周囲が苦笑しつつ見守る中、カムシンだけは一切気にすることなく、ヴァンの安全を最優先に行動し続けていた。

お気楽領主8巻レビュー
お気楽領主まとめ
お気楽領主10巻レビュー

同シリーズ

お気楽領主の楽しい領地防衛 1巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 1 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 2巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 2 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 3巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 3 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 4巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 4 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 5巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 5 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 6巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 6 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 7巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 7 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~
お気楽領主の楽しい領地防衛 9巻の表紙画像(レビュー記事導入用)
お気楽領主の楽しい領地防衛 9 ~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~

類似作品

異世界のんびり農家

お薦め度:★★★★☆

異世界のんびり農家シリーズの表紙画像(レビュー記事導入用)
異世界のんびり農家 1巻

戦国小町苦労譚

お薦め度:★★★★★

戦国小町苦労譚シリーズの表紙画像(レビュー記事導入用)
戦国小町苦労譚 1 邂逅の時

転生したらスライムだった件

お薦め度:★★★★★

転生したらスライムだった件シリーズの表紙画像(レビュー記事導入用)
転生したらスライムだった件

その他フィクション

フィクションのまとめページの表紙画像(導入用)
フィクション(novel)あいうえお順

Share this content:

こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

コメントを残す

CAPTCHA