物語の概要
■ 作品概要
『業物語』「あせろらボナペティ」と『接物語』「第九十九話 よつぎフランク」は、『〈物語〉シリーズ』本編へつながる二つの大きな過去を描いた前日譚である。
『業物語』では、約六百年前、人間だったアセロラが吸血鬼デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターと出会い、後のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードになるまでが描かれる。
『接物語』では、それよりはるか後、阿良々木暦たちの高校時代以前に、境都大学の臥煙伊豆湖、忍野メメ、貝木泥舟、高校生だった影縫余弦らが臥煙遠江の蘇生を試み、その歴史的大失敗から斧乃木余接が誕生するまでが明かされる。
怪異の王キスショットの起源と、後に怪異の専門家となる忍野メメ、貝木泥舟、臥煙伊豆湖、影縫余弦らの原点が描かれる物語である。
主な語り手
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター
『業物語』「あせろらボナペティ」の語り手である。
決死にして必死にして万死の吸血鬼を名乗り、「死体城」を居城としていた。自分で殺したものは必ず食べ、自分が殺していない死体は食べないという独自の食事ルールを持つ。
人間だったアセロラを食べようとして出会ったことから、後のキスショット誕生へつながる物語が始まる。
忍野メメ
『接物語』「第九十九話 よつぎフランク」の語り手である。
境都大学神道学部に在籍する大学生で、オカルト研究に関わる学生の一人だった。臥煙伊豆湖の後輩で、貝木泥舟とは悪友として付き合っていた。
物事のバランスを重視し、現場調査や交渉、状況に応じたアイデアを出す役割を担った。
幼少期の交通事故で両親と本来の両眼の視力を失った過去を持つ。その後、高校生時代の臥煙遠江による心霊手術で、遠江自身の眼球と特殊な視力を与えられていた。
忍野メメの立場
境都大学神道学部の学生である。
臥煙伊豆湖からは「もっとも頼りにする後輩の中のひとり」と評され、後には貝木泥舟に続く「もう一本の右腕」とも呼ばれた。
ただし、臥煙伊豆湖の絶対的な側近というより、彼女の指示に従いながらも、自分なりにバランスを取り、必要なら情報を伏せることもある独立した立場だった。
遠江蘇生プロジェクト後に境都大学を中退し、各地を渡り歩く怪異の専門家へつながっていく。
忍野メメの主な特徴
怪異や通常の人間には見えない存在を捉える特殊な視力を持っていた。
フィールドワークを得意とし、事故現場の調査、聞き込み、神原駿河への接触、山中の異常現象の調査などを担当した。
死体の材料が成人女性一人分に足りないと判明した際には、成人女性ではなく、材料を使い切れる大きさの童女として死体人形を作る発想を出した。
自分自身については軽薄な三下やアロハ野郎のように振る舞う一方、物事が一方向へ傾きすぎないよう調整することを強く意識している。
『接物語』終了時点の忍野メメ
遠江蘇生計画が失敗した後、自分の眼窩にあった臥煙遠江の両眼を死体人形へ移した。
その結果、遠江の自我を数秒間だけ呼び戻すことに成功した。
忍野自身は失明していない。
遠江から与えられていた怪異を見る特殊な視力を失い、死体人形側にあった通常の眼球を得たことで、一般人と同様の視界となった。
その後、貝木に続いて境都大学を中退した。
また、死体人形へ魂の一部を与えるために課した「今後一生、布団で眠らず、枕も使わない」という誓約を、その必要がなくなった後も自罰として守り続けることになる。
臥煙伊豆湖から、役割を終えたレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊も託された。
主要キャラクター
アセロラ/うつくし姫/キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード
裕福な貴族の一人娘として生まれた女性である。
実際の王女ではない。
類まれな外見の美しさによって皇帝から称号を贈られ、人々から「うつくし姫」と呼ばれていた。
しかし外見しか見てもらえないことに苦しみ、魔女へ自分の内面を見えるようにしてほしいと願った。
その結果、外見以上に美しかった心そのものが可視化され、人々が彼女へ命や命より大切なものを競って捧げるようになった。
国を離れて放浪する中でスーサイドマスターと出会い、最終的に人間であることを捨て、吸血鬼になることを選んだ。
スーサイドマスターから「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」と名付けられ、後の伝説的な吸血鬼となった。
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター
決死にして必死にして万死の吸血鬼である。
死体王がかつて暮らしていた廃城「死体城」を居城としていた。
自分で殺した生物だけを食べるという独自の主義を持ち、殺した以上はどれほど不味くても必ず食べ尽くした。
アセロラを食べようとするものの、彼女に害を加えようとすると凄まじい罪悪感によって攻撃が自分自身へ向かい、何度も自壊して死亡した。
やがてアセロラを単なる食材としてではなく大切に思うようになり、彼女自身の願いを受け入れて吸血鬼にした。
アセロラにとっての吸血主であり、キスショットという名前を与えた人物でもある。
トロピカレスク・ホームアウェイヴ・ドッグストリングス
スーサイドマスターの眷属である。
当時残っていた唯一の眷属であり、「死体城」の管理を担っていた。
元人間であり、かつては魔術師の家系に属していた。
主人であるスーサイドマスターがアセロラに執着していくことへ危機感を抱き、最終的にアセロラへ害を加えようとした。
しかしアセロラに対する害意によって自らが破壊され、死亡した。
スーサイドマスターは、自分にもその死の責任があると受け止め、自らのルールに従ってトロピカレスクの亡骸を残さず食べた。
臥煙伊豆湖
境都大学の学生であり、後に怪異の専門家たちを束ねる元締めとなる人物である。
大学内では「学長より偉い」とまで語られるほど大きな影響力を持っていた。
交通事故で死亡した実姉・臥煙遠江の死に納得できず、本人を蘇生させて事故の真相を聞くため、蘇生プロジェクトを立ち上げた。
忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦を中心メンバーとして集め、後に手折正弦も加わった。
死体人形へ魂の一部を与える際には、「知らない」という逃げ道を捨て、何でも知っているおねーさんであり続けることを自らに課した。
貝木泥舟
境都大学に在籍する学生であり、忍野メメの悪友である。
高校生時代に臥煙遠江から家庭教師として教えを受け、彼女へ強い思いを抱いていた。
遠江の死を受け入れられず、奨励会を辞め、喪に服していた。
蘇生プロジェクトでは遠江の墓を掘り返し、遠江のものと思われていた焼け焦げた頭部を回収した。
さらに成人女性一人分の肉体を作るため、事故で死亡したスクールバスの児童たちの遺族を訪ね、遺体の一部を集めた。
魂を捧げる誓約として、「実はいい奴」であることを拒絶し、悪人として嫌われ続けることを自らに課した。
後に境都大学を中退する。
影縫余弦
京都と大阪の境付近に代々続く陰陽寺の跡取り娘である。
当時は附属校に通う高校三年生で、境都大学への進学が決まっていた。
不死身の怪異を専門とする家系に生まれ、高校生ながら臥煙遠江蘇生プロジェクトの正式メンバーに選ばれた。
妹・影縫余割を吸血鬼デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターに殺された過去を持つ。
死者を生き返らせることについて自分なりの答えを得る目的もあり、プロジェクトへ参加した。
死体人形の素材として、保存していた余割の左右の足の剥製を提供した。
複数の死体が生きていた年月を合計し、「百年使われた死体」として憑喪神化する方法を考案した。
自らの魂を与える際には、「生涯、地面を歩かない」と誓った。
後に誕生した斧乃木余接を、妹の代用品ではない独立した存在として式神にした。
手折正弦
境都大学一年生の人形師見習いである。
影縫家とは本家・分家の関係にある。
プロジェクト途中から参加し、集められた複数人の遺体を加工して死体人形へ組み上げた。
成人女性一人分の材料が集まらなかったため、忍野メメの発案に従い、十二歳ほどの童女として死体人形を完成させた。
死体人形の造形には極めて高い技術を発揮したが、魂を分け与える四人には含まれていない。
斧乃木余接
臥煙遠江を蘇生させるために製作された死体人形から生まれた存在である。
複数の事故犠牲者の遺体、影縫余割の両足、遠江のものと思われていた焼け焦げた頭部などを素材として作られた。
十二歳ほどの童女の姿をしている。
材料となった死体が生きていた年月を合計し、「百年生きた死体の憑喪神」として成立させられた。
本来は遠江の魂を呼び戻す器だったが、蘇生計画が失敗した後も死体人形は残った。
やがて遠江とは別個の魂を持つ存在となり、影縫余弦の式神として引き取られた。
忍野メメによって「斧乃木余接」と名付けられた。
『業物語』「あせろらボナペティ」の流れ

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うつくし姫の悲劇
約六百年前、裕福な貴族の一人娘ローラは、あまりに美しい容姿から「うつくし姫」と呼ばれていた。
しかし本人は、誰も自分の内面を見てくれないことに苦しんでいた。
魔女に願い、外見の美しさを見えなくする代わりに心の美しさを可視化してもらったところ、その心は外見以上に美しかった。
人々は彼女のために、自分の命や命より大切なものを捧げ始める。
家族も国民も次々と死亡し、姫の周囲には死体の山が築かれた。
一瞬だけ蘇った魔女から、人々を救う方法が見つかるまで誰とも寄り添わず旅を続けるよう言い残され、アセロラは一人で放浪することになった。
スーサイドマスターとの出会い
放浪の末、アセロラはスーサイドマスターが暮らす王国へたどり着いた。
その国の人々もアセロラのために命を捧げ、ほぼ全滅していた。
食料となる人間を失ったスーサイドマスターは餓死するが、吸血鬼として蘇生する。
そして国を滅ぼした「うつくし姫」の存在を知り、食べるために探し出した。
食べられないアセロラ
スーサイドマスターはアセロラを殺して食べようとした。
しかし彼女へ危害を加えようとすると、アセロラを傷つけることへの罪悪感が攻撃者自身へ向かい、スーサイドマスターは自分の身体を破壊してしまった。
木っ端微塵になり、心臓をえぐり、首をもぐなど、何度も死亡しては蘇生した。
アセロラ自身が攻撃を跳ね返しているわけではない。
攻撃者がアセロラの心の美しさを前に、自分自身を許せなくなり、自壊する現象だった。
悪女になるための訓練
スーサイドマスターは、アセロラ自身の美しい心を変えることなく、外見や言葉遣い、態度だけを悪くすれば、人々が命を捧げる現象を抑えられるのではないかと考えた。
そこでアセロラを「死体城」へ連れ帰り、悪女らしい言葉遣いや振る舞いを教えた。
しかしどれほど悪ぶっても、アセロラの本質的な美しさは変わらなかった。
トロピカレスクの死
スーサイドマスターが次第にアセロラへ情を抱くようになる中、眷属トロピカレスクはその状況を危険視した。
アセロラを排除しようとした結果、その害意は自分自身へ向かい、トロピカレスクは死亡した。
スーサイドマスターは、自分がアセロラを城へ連れてきたことにも責任があると考え、トロピカレスクの死を無駄にしないため、その亡骸を食べ尽くした。
アセロラの吸血鬼化
アセロラは、これ以上自分のために誰かが死ぬことを拒んだ。
そして、人間でなくなれば現在の美しさによる呪いから逃れられる可能性があるとして、スーサイドマスターへ吸血鬼にしてほしいと願った。
スーサイドマスターは、アセロラを殺して食べたいという欲望ではなく、彼女のためを思う無私の気持ちで牙を立てた。
そのため自壊することなく吸血に成功した。
アセロラは吸血鬼となり、スーサイドマスターから「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」という名を与えられた。
『接物語』「第九十九話 よつぎフランク」の流れ

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臥煙遠江蘇生プロジェクト
境都大学の臥煙伊豆湖は、駆け落ち先の九州で交通事故死した実姉・臥煙遠江について、単なる交通事故で死んだことに納得できなかった。
事故の詳細もほとんど伝わってこなかったため、事故に偽装された殺人の可能性まで疑った。
そこで遠江本人を蘇生させ、本人の口から真相を聞き出すという計画を立てた。
中心メンバーとして忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦が集められた。
事故現場の調査
忍野メメと影縫余弦は九州へ向かった。
忍野は事故現場付近で蛇面の幼女と出会い、「洗人雨露湖」と名付けた。
雨露湖から得た情報により、事故は単純な玉突き事故ではなく、交差点中央にいた遠江の軽自動車へ、十トントラック、タンクローリー、ミキサー車、スクールバスの四台が四方向から突入した異様な事故だったことが判明した。
さらに、後部座席にいた一人娘・神原駿河だけが生き残っていた。
忍野は遠江が駿河を守ったと考えたが、具体的にどのような方法で守ったのかまでは確定していない。
遠江の焼け首と事故犠牲者の遺体
一方、貝木泥舟は遠江の墓を掘り返した。
しかし残っていたのは、遠江のものと思われる黒焦げの頭部だけだった。
成人女性一人分の身体を作るには材料が足りない。
そこで貝木は、同じ交通事故で死亡したスクールバスの児童たちの遺族を訪ね、遺体の一部を集めた。
それでも目標量の約三割にしかならなかった。
さらに影縫余弦が、吸血鬼に殺された妹・影縫余割の左右の足の剥製を提供した。
十二歳の死体人形
成人女性一人を再現する材料が不足していたことから、忍野メメは発想を変えた。
成人女性として作れないのであれば、集まった材料で作れる大きさの子供にすればよい。
その案を受け、人形師見習いの手折正弦が十二歳ほどの童女の死体人形を製作した。
百年生きた死体の憑喪神
影縫余弦は、複数人の死体が生きていた年月を合計し、「合計百年使われた死体」として憑喪神化する方法を提案した。
さらに自我を安定させるため、臥煙伊豆湖、忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦の四人が、自分の魂の一部を補強材として与えることになった。
そのため、それぞれが人生を縛る誓約を立てた。
影縫余弦は、生涯地面を歩かない。
臥煙伊豆湖は、知らないという逃げ道を捨て、何でも知っているおねーさんであり続ける。
貝木泥舟は、「本当はいい奴」であることを拒絶し、善人にならない。
忍野メメは、二度と布団で眠らず、枕も使わない。
四人はそれぞれの誓約を魂の一部として死体人形へ与えた。
反魂の儀式の失敗
完成した死体人形へレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を置き、影縫余弦が反魂の儀式を行った。
しかし蘇った童女は激しい苦痛に襲われ、「ガソリン!」と叫びながらのたうち回り、再び動かなくなった。
ここで、死体人形の頭部が遠江のものではない可能性が浮上した。
後に忍野が事故関係者を調査した結果、大型車両の運転手のうち成人女性だったのはタンクローリー運転手・小野道風音だった。
そのため、貝木が遠江の墓から掘り出した焼け首は、小野道風音のものだった可能性が最も高いと判断された。
ただし、DNA鑑定などによって完全に確定した事実ではなく、状況証拠からの推定である。
遠江との最後の再会
蘇生計画が失敗した中、忍野メメは自分の両眼を利用することを思いついた。
忍野の眼球は、かつて臥煙遠江から心霊手術によって与えられたものだった。
そこに遠江の自我が残っている可能性に賭け、死体人形の眼球と自分の両眼を交換した。
その結果、死体人形は数秒間だけ臥煙遠江としての自我を取り戻した。
臥煙伊豆湖は事故の真相を聞かなかった。
姉を抱きしめ、生前には伝えられなかった愛情を直接伝えた。
遠江は最後まで遠江らしい反応を残し、その自我は完全に消滅した。
斧乃木余接の誕生
遠江の自我が消滅しても、死体人形そのものは残った。
複数の死体を材料に百年の憑喪神として成立させ、四人の魂によって補強された人形には、遠江とは異なる新たな魂が宿った。
影縫余弦は、その存在を妹・余割の代わりにはせず、一個の独立した存在として引き取った。
忍野メメが名前を考え、「斧乃木余接」と命名した。
「斧」は斧始めの斧。
「乃」は木乃伊の乃。
「木」は貝木泥舟から取った木。
「余接」は、余りものを接ぎ接ぎして作られたことに由来する。
さらに後から、事故で犠牲となった小野道風音の「小野」も「斧乃」に重ねられていることが明かされる。
物語の重要な転換点
アセロラの吸血鬼化
『業物語』「あせろらボナペティ」における最大の転換点である。
自分の存在によって人々を死なせ続けたアセロラは、人間として生きることを捨て、吸血鬼になる道を選んだ。
スーサイドマスターが無私の気持ちで吸血したことにより、アセロラはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードとして生まれ変わった。
遠江の遺体取り違えの発覚
『接物語』の蘇生計画を根本から破綻させた転換点である。
遠江のものと思って使用していた焼け首が別人のものである可能性が判明し、遠江本人の肉体を蘇生する計画は失敗した。
忍野メメによる遠江の両眼の返還
忍野は、自分が遠江から与えられた両眼を死体人形へ返すことで、わずか数秒ながら遠江本人を呼び戻した。
その代わりに忍野は遠江由来の特殊な視力を失った。
これは失明ではなく、通常の視力への変化である。
四人の誓約
遠江を蘇生させるため、四人は人生そのものを縛る誓約を立てた。
遠江の自我が消滅したことで、誓約を守る必要は本来なくなった。
それでも四人は、自分たちが犯した禁忌への自罰としてその制約を守り続けた。
斧乃木余接の誕生
遠江を蘇生するという本来の計画は失敗した。
しかしその失敗から、遠江でも小野道風音でも影縫余割でもない、新しい一個の存在である斧乃木余接が誕生した。
忍野メメを取り巻く人物関係
臥煙伊豆湖
大学の先輩と後輩である。
臥煙は忍野を「もっとも頼りにする後輩の中のひとり」と評価し、後には「もう一本の右腕」と呼んだ。
忍野も臥煙を強く尊敬していたが、全面的に従属していたわけではない。
臥煙のためになると判断すれば動く一方、「しらやみ」の仮説など、あえて報告しなかった情報も存在する。
貝木泥舟
境都大学時代の悪友である。
考え方は大きく異なるが、人助けについて独自の考えを持つ者同士として付き合っていた。
遠江蘇生プロジェクトでも異なる役割を担い、終了後はともに大学を中退した。
その後も完全に縁が切れたわけではなく、断続的な付き合いが続いた。
影縫余弦
遠江蘇生プロジェクトで知り合った。
当時は大学生と高校生だった。
九州へのフィールドワークを共にし、後に影縫が境都大学へ進学してからも、地面を歩けなくなった彼女を忍野が自転車で送り迎えしていた。
忍野は影縫の依頼を受けて、彼女の式神となった死体人形に「斧乃木余接」という名前を付けた。
臥煙遠江
忍野にとって大きな恩人である。
幼少期の交通事故によって視力を失っていた忍野に、高校生だった遠江が心霊手術を施し、自らの眼球と特殊な視力を与えた。
遠江蘇生プロジェクトの最後に、忍野はその両眼を死体人形へ返した。
これによって遠江の自我が短時間だけ戻り、伊豆湖との最後の再会が実現した。
主な敵・対立要素
アセロラの「美しさ」
『業物語』では、明確な悪人が敵として存在するわけではない。
アセロラ自身の意思とは無関係に、人々がその心の美しさに感化され、自ら命を捧げてしまう現象そのものが最大の問題となる。
アセロラ本人もその力を望んでおらず、自分のために人が死ぬことを止める方法を探し続けた。
「しらやみ」
『接物語』で忍野が遠江の死について考えた仮説である。
「くらやみ」が本来の道を外れた怪異を消す修正作用であるなら、人間の枠を超えすぎた人間を排除する同様の作用が存在するのではないか。
忍野はその仮説上の現象を「しらやみ」と呼んだ。
遠江が人間としての慣習、伝統、法律、ルールに縛られず、超人と呼ばれるほど人間の枠を超えていたため、世界そのものから排除されたのではないかと推測した。
ただし、「しらやみ」は確定した怪異でも、実証された遠江の死因でもない。
忍野自身が「僕の妄想の産物でしかない未確認推理」として扱っている。
主な事件
アセロラの吸血鬼化
アセロラが、自分のために人々が死に続ける人間としての生を終わらせるため、スーサイドマスターへ吸血鬼化を願った事件である。
スーサイドマスターはアセロラを食べるためではなく、彼女を救うために牙を立てた。
その無私の行為によって吸血に成功し、アセロラは吸血鬼となった。
遠江の反魂の儀式
臥煙伊豆湖、忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦の四人が、十二歳の童女として作られた死体人形へ魂の一部を与え、遠江を蘇生させようとした。
影縫の術によって人形は一度動き出したが、「ガソリン!」と叫んで苦しみ、儀式は失敗した。
頭部が遠江のものではなかった可能性が発覚し、蘇生プロジェクトは致命的な失敗を迎えた。
その後、忍野の両眼によって遠江の自我だけが数秒間戻り、伊豆湖との最後の対話が実現した。
継続して残された問題
北白蛇神社周辺の瘴気
事故現場の町では、「よくないもの」と表現される瘴気が山へ集まっていた。
その中心となっていたのが、崩壊した北白蛇神社周辺である。
忍野は山中で、かつての自分の姿をした死屍累生死郎らしき非存在と遭遇した。
その存在は、あと七年前後は大きな動きを起こせないと語った。
瘴気は山に蓄積しているというより、吸い込まれて消えているようにも見えたが、その正体や行き先は解明されなかった。
忍野自身も「今はどうにもならない」と判断し、現状維持を選んだ。
七年後、成長しない式神童女となった斧乃木余接が忍野のもとへ現れ、臥煙伊豆湖から「あの町の山に大物が引き寄せられた」という伝言を届ける。
こうして、遠江蘇生プロジェクトの際に残された問題は、その後の物語へつながっていく。
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