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<物語>シリーズ2027年 冬西尾維新

小説「<物語>接物語.33 第九十九話よつぎフランク」感想・ネタバレ

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物語戦物語 33の表紙画像(レビュー記事導入用) <物語>シリーズ

31.戦物語
まとめ
34.鳥物語

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
        1. 忍野メメ
        2. 臥煙伊豆湖
        3. 貝木泥舟
        4. 影縫余弦
        5. 手折正弦
        6. 臥煙遠江(神原遠江)
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
      1. 斧乃木余接の作り方がグロすぎる!忍野メメたちの過去と誕生の秘密
        1. 忍野メメと貝木泥舟が大学生だった頃。意外な関係が面白い
        2. 「斧乃木余接の作りかた」って、材料からしてグロすぎる
        3. 影縫余弦が差し出した妹の足。余接を式神にした理由にもつながる
        4. 四人が魂を分け与える儀式。専門家たちの奇妙な生き方にも理由があった
        5. まさか頭部が別人だったとは。蘇生計画の失敗が恐ろしい
        6. 最後の材料は忍野メメの両眼。そこまで差し出すのか
        7. 臥煙姉妹の再会。死者を蘇らせることよりも大切だったもの
        8. 斧乃木余接という名前。つぎはぎの存在にも一人の人生がある
        9. 余接のキメ顔が今までと違って見える
  5. 考察・解説
      1. ストーリー・プロット
        1. 第1幕:蘇生プロジェクトの始動とメンバー集結
        2. 第2幕:九州の事故現場調査と生存者の判明
        3. 第3幕:焼け首の回収と神原家の町への急行
        4. 第4幕:神原駿河との遭遇と山頂の怪異殺し
        5. 第5幕:十二歳の童女義体と魂の分割補強
        6. 第6幕:反魂の儀式と首の取り違え
        7. 第7幕:両眼の移植と斧乃木余接の誕生
      2. 主要な転換点
        1. 転換点:九州の事故現場での「逆玉突き事故」と娘の生存判明
        2. 転換点:回収遺体の欠損と「十二歳の童女義体」への方針転換
        3. 転換点:反魂の失敗と首の取り違えの発覚
      3. 忍野メメを中心とした人物関係の変化
        1. 臥煙伊豆湖
        2. 貝木泥舟
        3. 影縫余弦
        4. 神原駿河
      4. 主人公の認識と周囲の評価
        1. 主人公自身の認識
        2. 周囲からの評価
        3. 認識の差が現れた場面
      5. 斧乃木余接の誕生
        1. 臥煙遠江を蘇生するためのプロジェクト
        2. 複数の死体を継ぎ接ぎした十二歳の童女
        3. 「合計百年使われた死体」を憑喪神にする発想
        4. 四人が魂の一部として捧げた誓約
        5. 反魂の儀式と重大な取り違え
        6. 忍野メメの両眼と遠江の数秒間の蘇生
        7. プロジェクトの失敗と四人に残った自罰
        8. 斧乃木余接の誕生
        9. 「斧乃木余接」という名前の由来
        10. 斧乃木余接が背負っているもの
      6. 遠江の死因解明
        1. 伊豆湖が抱いた姉の事故死への疑問
        2. 忍野メメによる事故現場の調査
        3. 五台が絡んだ異常な交通事故
        4. 誰かが遠江を狙った事故だったのか
        5. 山奥に集まる「よくないもの」
        6. 「しらやみ」という仮説
        7. 「世界のルールに殺された」という解釈
        8. 遺体の取り違えが判明する
        9. 忍野メメが残した最後の可能性
        10. 伊豆湖が姉へ伝えたかったこと
        11. 死因解明よりも重要だったもの
      7. 事故調査と真実
        1. 事故調査の発端
        2. 急速に姿を変えていた事故現場
        3. 蛇面の幼女・洗人雨露湖
        4. 五台が絡んだ「逆玉突き事故」
        5. スクールバスと多数の犠牲者
        6. 炎とコンクリートによる凄惨な事故現場
        7. 唯一生き残った神原駿河
        8. 駿河の事故記憶の欠落
        9. 「記憶の捏造」という忍野の推測
        10. 町を覆っていた「よくないもの」
        11. 「しらやみ」は確定した怪異ではない
        12. 「くらやみ」に対する人間版という発想
        13. 世界のルールに殺された遠江
        14. 蘇生実験で明らかになった遺体の取り違え
        15. 事故の混乱が生んだ遺体の取り違え
        16. 忍野の両眼による最後の蘇生
        17. 伊豆湖が求めた最後の「真実」
        18. 事故調査によって明らかになった三つの層
        19. 事故調査の本当の結末
  6. 登場キャラクター
      1. 臥煙遠江蘇生プロジェクト
        1. 忍野メメ
        2. 貝木泥舟
        3. 臥煙伊豆湖
        4. 影縫余弦
        5. 手折正弦
      2. 臥煙家・神原家・影縫家
        1. 臥煙遠江(神原遠江)
        2. 神原駿河
        3. 神原駿
        4. 影縫余割
      3. 怪異・式神・関連人物
        1. 斧乃木余接
        2. 洗人雨露湖
        3. 死屍累生死郎
        4. デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター
      4. 事故関係者
        1. 小野道風音
        2. 臥煙遠江蘇生プロジェクトメンバー
  7. 展開まとめ
    1. 第九十九話 よつぎフランク

物語の概要

■ 作品概要

境都大学神道学部に通う大学生・忍野メメは奨励会を辞めた悪友・貝木泥舟と共に、大学の支配者である先輩・臥煙伊豆湖から呼び出され、交通事故で急死した実姉・臥煙遠江を蘇生させる非公式プロジェクトへの協力を持ちかけられる。
状況が変わる契機は、高校生・影縫余弦を加えた調査の過程で判明した事故の異常性と遺体の欠損である。
九州の事故現場は大規模工事で隠蔽され、遠江の乗った軽自動車は四方から大型車に衝突される逆玉突き事故に遭っていた。
さらに回収できた遠江の遺体が焼け焦げた頭部のみであったため、影縫の提案により、事故で死亡した児童らの遺体や影縫の妹の足の剥製を素材とし、人形師・手折正弦に依頼して「十二歳の童女の死体人形」を制作する方針へ変更される。
四人は合計百年生きた死体の憑喪神とし、各自が生涯にわたる重い誓約を立てて魂を分け与える儀式に臨む。
最終的に、蘇生した頭部がタンクローリーの運転手のものであったという取り違えが発覚してプロジェクトは失敗するが、忍野が遠江から授かっていた両眼を移植したことで一時的に遠江の意識を取り戻して姉妹の対話を果たし、残された死体人形が「斧乃木余接」と名付けられて影縫の式神となる。

■ 主要キャラクター

忍野メメ
  • 立場・所属:境都大学神道学部の男子大学生。
  • 主人公との関係:語り手本人(主人公)。
  • この巻での主な役割:フィールドワークによる事故調査、童女義体化の発案、自らの眼の提供による事態の収拾。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:九州の事故現場調査で蛇面の幼女(洗人雨露湖)と接触し、事故の異常性や一人娘・神原駿河の生存を知る。駿河のいる町では崩壊した北白蛇神社で過去の自身の姿をした死屍累生死郎と遭遇した。不足する遺体から「十二歳の童女」の死体人形を作る案を出し、自身は「生涯布団や枕で眠らない」誓約を立てる。蘇生失敗後、かつて遠江から授かった両眼を死体人形に移植して遠江の自我を一時的に引き出し、代償として視力を失って大学を中退した。
臥煙伊豆湖
  • 立場・所属:境都大学の最上級生。学長より偉いとされる大学の主。
  • 主人公との関係:忍野や貝木が逆らえない先輩。
  • この巻での主な役割:実姉・臥煙遠江の蘇生プロジェクトの発案者・リーダー。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:遠江の不自然な交通事故死に疑念を抱き、真相究明と姉との再会を期して蘇生計画を立ち上げ、形見であるレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を提供した。神原家を訪れて駿河への催眠インタビューを行い、遠江が娘を庇った事実を確認する。魂の補強として「何でも知っているお姉さんであり続ける」誓約を立て、蘇生した姉と涙ながらに対話を果たした。
貝木泥舟
  • 立場・所属:境都大学の男子大学生。学内で過去問を販売している。
  • 主人公との関係:忍野の悪友。
  • この巻での主な役割:遺体の掘り起こし、被害児童遺族からの素材蒐集。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:遠江の死に際して喪に服し、奨励会を退会した。故郷の土葬地から遠江の棺を掘り起こして焼け首を持ち帰った後、不足する素材を補うため被害児童の遺族を行脚し、詐欺師となって遺体の一部を集めてきた。魂の補強として「決して善人にならない」誓約を立てた。
影縫余弦
  • 立場・所属:境都大学附属高校3年生。京都の陰陽寺の跡取り娘(保護観察中)。
  • 主人公との関係:プロジェクトの協力者(のちに大学の後輩)。
  • この巻での主な役割:蘇生技術のアドバイザー、憑喪神方式および魂の分割補強の提案、余割の足の提供。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:不死身の怪異を好んで吸血鬼に殺された妹・余割を巡り、人を生き返らせることが正義か悪か見極めるために参加した。駐在所での聞き込みで事故の裏付けを取り、実家から持ち出した余割の足の剥製を素材として提供した。合計百年による「憑喪神方式」と術者四人の魂の分割補強を提案し、手本として「生涯地面を歩かない」誓約を立てた。
手折正弦
  • 立場・所属:境都大学1年生。影縫家の分家である死体人形作りの手折家の跡取り。
  • 主人公との関係:大学の後輩。
  • この巻での主な役割:集められた遺体素材を用いた死体人形の制作。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:影縫の紹介でプロジェクトに加わり、持ち込まれた焼け首、児童の遺体、余割の足の剥製を素材として、約1年をかけて第二次性徴直前の十二歳の童女の死体人形を作り上げた。
臥煙遠江(神原遠江)
  • 立場・所属:臥煙伊豆湖の実姉。神原駿の妻、神原駿河の母。
  • 主人公との関係:忍野の恩人であり、過去に忍野の眼を治療した人物。
  • この巻での主な役割:蘇生の対象。
  • この巻で起きた重要な変化や行動:十数年前に臥煙家を捨てて駆け落ちし、九州の交差点で五台が絡む逆玉突き事故に遭って死亡した。後部座席の娘・駿河を禁じ手を用いて無傷で庇い遺体は蒸発したと見られていたが、忍野の両眼を移植された死体人形を通じて一時的に意識を現し、妹・伊豆湖と言葉を交わした後に消滅した。

書籍情報

<物語>接物語
著者:西尾維新 氏
イラスト:VOFAN(ヴォーファン) 氏
出版社:講談社
発売日:2025年10月15日
JDCN:06A0000000000952991K

物語戦物語 33の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>接物語

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あらすじ・内容

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

西尾維新がおくる青春怪異譚〈物語〉シリーズ、書き下ろし長編!

ついに明かされる、あの式神童女の生誕秘話!

illustration/VOFAN

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

”レシピ公開。

 斧乃木余接の作りかた”

境都大学オカルト研究会に所属する忍野メメと貝木泥舟は、

先輩にして元締め・臥煙伊豆湖から禁忌の儀式に誘われる。

女子高生の影縫余弦と共に準備に奔走するが、

プロジェクトは思わぬ方向へ──!

これぞ現代の

怪異! 怪異! 怪異!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

青春を、接ぎ接ぎできた人形だ。 

接物語

感想

斧乃木余接の作り方がグロすぎる!忍野メメたちの過去と誕生の秘密

斧乃木余接の誕生秘話である。

これまで『物語シリーズ』に登場してきた余接は、無表情で妙な決め台詞を口にする(黒歴史)、どこか愛嬌のある式神だった。

もちろん、死体から作られた人形だということは知っていた。

しかし、今回明かされた製作過程は、想像以上に生々しい。

何しろ、あらすじに掲げられているのが、

「レシピ公開。斧乃木余接の作りかた」

という言葉である。

いやいや、料理番組みたいに紹介していい内容ではないだろう(笑)。

材料は事故で亡くなった子供たちの遺体に、影縫余弦の妹の足の剥製。

さらに、最後には忍野メメの両眼まで加わる。

完成するのは「十二歳の童女の死体人形」。

……材料を考えると、相当グロい。

しかも、これは単に怪異が生まれる話ではない。

忍野メメ、貝木泥舟、臥煙伊豆湖、影縫余弦という、後の『物語シリーズ』を支える専門家たちが、若い頃に犯した大きな失敗の物語でもあった。

忍野メメと貝木泥舟が大学生だった頃。意外な関係が面白い

物語の舞台は、境都大学神道学部。

忍野メメはまだ大学生で、貝木泥舟も奨励会を辞めたばかりの若者として登場する。

この二人が悪友として付き合っていたというのが、まず興味深い。

現在の忍野は、怪異と人間の間でバランスを取ろうとする専門家。

一方の貝木は、金にうるさく、胡散臭い言動が目立つ詐欺師である。

そんな二人が、かつて同じ大学で顔を合わせ、くだらない話をしていた。

それだけでも、少し不思議な気分になる。

しかも、貝木は将棋の奨励会を辞めた直後だ。

後の貝木を知っていると、彼にも何かを目指していた時代があったのだと感じる。

最初からあのような人物だったわけではないのだろう。

そこへ現れるのが、先輩の臥煙伊豆湖である。

大学内でも絶大な影響力を持つ彼女は、交通事故で亡くなった実姉・臥煙遠江を蘇生させる計画への協力を持ちかける。

死人を生き返らせたい。

動機は理解できる。

しかし、そのために大学生たちが集まって、死体を使った非公式プロジェクトを始めるというのだから、最初から普通ではない。

しかも、そこに高校生の影縫余弦まで加わる。

後に怪異の専門家として知られる面々が、若い頃からとんでもないことをしていたのである。

「斧乃木余接の作りかた」って、材料からしてグロすぎる

今回、一番衝撃を受けたのは、やはり余接の製作方法だ。

臥煙遠江を蘇生させようにも、事故現場から回収できた遺体は焼け焦げた頭部だけ。

そこで、足りない肉体を別の遺体で補うという発想になる。

……いや、待ってほしい。

ここで普通に材料集めの話が始まるのが怖い。

事故で亡くなった児童たちの遺体を集め、さらに影縫の妹・余割の足の剥製まで持ち込む。

そして人形師の手折正弦に依頼し、素材の量に合わせて十二歳の少女の姿に仕上げる。

この流れを読んでいると、何だか人形の製作工程を説明されているような気分になる。

しかし、使われているのは人形用の部品ではない。

かつて生きていた人間の身体である。

しかも、その中には子供たちの遺体も含まれている。

考えれば考えるほど、気味が悪い。

「十二歳の童女の死体人形」という言葉だけでも十分に不気味なのに、その材料を具体的に知ると、さらに恐ろしくなる。

普段の余接は、無表情で淡々と話し、ときには妙な冗談まで口にする。

そんな彼女の身体が、これほど多くの死と犠牲をつなぎ合わせて作られていたとは。

今までと同じ目で余接を見られなくなりそうだ。

それにしても、「レシピ公開」という紹介文はなかなか悪趣味である。

材料を一つずつ並べられたら、食欲どころではない(笑)。

影縫余弦が差し出した妹の足。余接を式神にした理由にもつながる

影縫余弦の妹・余割の存在も印象に残った。

余割はすでに亡くなっており、その足は剥製として残されていた。

影縫は、その足を死体人形の材料として提供する。

これも、なかなか受け止めがたい話である。

妹の身体の一部を、別の存在を生み出すために使う。

そこには、単なる術者としての合理的な判断だけでは説明できない感情があるように思えた。

後に余接は、影縫の式神となる。

しかし、影縫は余接を亡くなった妹の代わりにするつもりはないという。

この点が興味深かった。

余接の身体には確かに妹の一部が使われている。

それでも、余接は余割ではない。

別の存在なのだ。

材料になった人間と、そこから生まれた人形を同一視してはいけない。

この考え方は、余接という存在を理解するうえで重要なのかもしれない。

とはいえ、余接の足を見るたびに、今回の話を思い出してしまいそうである。

知りたかった秘密ではあるが、知ってしまうと複雑な気分になる。

四人が魂を分け与える儀式。専門家たちの奇妙な生き方にも理由があった

死体人形を作るだけでは、臥煙遠江を蘇生させることはできない。

そこで四人は、魂の一部を分け与え、それぞれ生涯にわたる誓約を立てることになる。

影縫余弦は、地面を歩かない。

臥煙伊豆湖は、何でも知っているお姉さんであり続ける。

貝木泥舟は、決して善人にならない。

忍野メメは、布団や枕で眠らない。

ここを読んで、なるほどと思った。

これまで少し変わった人物設定だと思っていたものが、余接の誕生に関わる代償だったのである。

特に貝木の「決して善人にならない」という誓いは気になる。

本人の性格だけでなく、かつての儀式で立てた誓約が、その後の生き方にも影響している。

そう考えると、貝木の胡散臭い言動も違って見えてくる。

もちろん、誓約があるからといって、彼の行動がすべて説明できるわけではない。

それでも、自分の生き方を制限するほどの約束を、若い頃に背負っていたという事実は重い。

忍野が布団で眠らないことにも理由があった。

一見すると自由気ままに生きているように見える専門家たちが、実は過去の失敗をずっと引きずっている。

この構造が面白かった。

余接は、ただ四人が作った怪異ではない。

四人がそれぞれ人生の一部を差し出して生み出した存在なのだ。

まさか頭部が別人だったとは。蘇生計画の失敗が恐ろしい

苦労して完成させた死体人形。

四人は儀式を行い、ついに臥煙遠江を蘇生させようとする。

ところが、目覚めた童女は炎に苦しむような反応を見せ、「ガソリン」と叫ぶ。

何が起きたのかと思ったら、そもそも頭部が臥煙遠江のものではなかった。

事故に巻き込まれたタンクローリーの女性運転手の頭部だったのである。

……いや、そんな取り違えがあるのか。

ここまで大がかりな計画を進めておきながら、最も重要な部分を間違えていた。

笑い話では済まない失敗だ。

むしろ、何とも言えない恐ろしさがある。

四人は遠江を生き返らせるために、遺体を集め、死体人形を作り、自分たちの魂まで差し出した。

それなのに、最初から前提が間違っていた。

しかも、間違って使われた頭部にも、かつて一人の人間として生きていた女性の人生がある。

蘇生の材料として扱われた遺体の一つ一つにも、名前があり、家族があり、生活があったはずだ。

そのことを考えると、この計画は最初から相当危ういものだったのではないかと思う。

誰か一人を取り戻すために、別の死者たちの身体を使う。

そこまでして、死んだ人間を生き返らせるべきなのか。

読み進めるほど、簡単には答えを出せない問題だと感じた。

最後の材料は忍野メメの両眼。そこまで差し出すのか

そして、今回最大の衝撃が待っている。

計画が失敗し、臥煙伊豆湖が絶望する中、忍野メメが自分の両眼を死体人形に移植するのだ。

実はその両眼は、かつて臥煙遠江から心霊手術によって譲り受けたものだった。

遠江につながるものが、忍野の中に残っていたのである。

しかし、だからといって、自分の目を差し出すという決断ができるだろうか。

しかも、すでに大量の遺体をつなぎ合わせた死体人形である。

最後の仕上げに、生きている忍野の両眼まで加わる。

材料のグロテスクさが、最後の最後でさらに一段階上がってしまった。

最初は「十二歳の童女の死体人形」という設定だけでも十分に恐ろしいと思っていた。

ところが、読み終えてみると、それだけでは済まなかった。

事故死した子供たちの遺体。

影縫の妹の足。

取り違えられた女性運転手の頭部。

そして、忍野メメの両眼。

改めて並べると、とんでもない材料である。

それでも、忍野が目を差し出した理由には考えさせられた。

臥煙伊豆湖に、もう一度だけ姉と話す機会を与えたかったのだろう。

忍野は、怪異に関わる問題を何でも力ずくで解決する人物ではない。

むしろ、当事者自身が向き合うことを大切にしている印象がある。

そんな彼が、ここでは自分の身体を犠牲にしている。

若い頃の忍野にも、後悔や無茶な選択があった。

そのことが分かる場面でもあった。

臥煙姉妹の再会。死者を蘇らせることよりも大切だったもの

忍野の両眼を移植したことで、死体人形は臥煙遠江の意識を取り戻す。

そして、臥煙伊豆湖はようやく姉と再会する。

ここは、グロテスクな製作過程とは対照的に、切ない場面だった。

伊豆湖は姉に対する思いを抱え続けていた。

亡くなった理由を知りたい。

もう一度会いたい。

自分がどう思われていたのかを確かめたい。

そうした感情が、無理な蘇生計画を動かしていたのだと思う。

しかし、遠江が戻ってきた時間は長くない。

姉妹が言葉を交わした後、死体人形は再び動かなくなってしまう。

結局、遠江が完全に生き返ったわけではなかった。

それでも、伊豆湖には必要な時間だったのだろう。

亡くなった人を取り戻すことはできなくても、伝えられなかった思いを伝えることはできた。

そう考えると、今回の計画は完全な成功でも、完全な失敗でもなかったように感じる。

ただ、そのために払われた犠牲があまりにも大きい。

感動的な再会だからといって、死体人形の製作過程まで美しい話にしてしまうことはできない。

この割り切れなさが、今回の物語で特に印象に残った。

斧乃木余接という名前。つぎはぎの存在にも一人の人生がある

儀式を終えた死体人形は、斧乃木余接と名付けられる。

名前を考えたのは忍野メメだ。

事故で亡くなった女性運転手の名前、儀式に使われた木乃伊、貝木との関わり、そして余りものを接ぎ合わせたという製作の経緯。

それらが「斧乃木余接」という名前につながっていく。

名前の由来を知ると、何とも複雑な気分になる。

確かに、余接はさまざまな死体をつなぎ合わせて作られた存在だ。

しかし、名前を与えられた瞬間から、彼女は単なる材料の集合体ではなくなる。

斧乃木余接という、一人の存在になるのだ。

ここで思い出したのが、影縫が余接を妹の代わりにはしないと言っていたことだ。

余接の身体には余割の一部が含まれている。

それでも、余接は余割ではない。

同じように、事故で亡くなった子供たちでも、女性運転手でも、臥煙遠江でもない。

誰かの代用品として生きる必要はないのである。

今回の誕生秘話は、余接の身体がどのように作られたのかを明かす物語だった。

しかし、最後まで読むと、何から作られたかと、これから何者として生きるかは別の話なのだと感じた。

その点が、単なる怪奇趣味の物語で終わらない面白さにつながっている。

余接のキメ顔が今までと違って見える

『接物語 第九十九話 よつぎフランク』は、斧乃木余接の誕生を描きながら、忍野メメたち専門家の過去まで明かしてくれる一冊だった。

特に面白かったのは、現在の彼らの奇妙な生き方が、若い頃の儀式とつながっていたことだ。

影縫が地面を歩かない理由。

貝木が善人にならないという誓い。

忍野が布団で眠らない理由。

それぞれに、余接を作った際の代償があった。

これまで何気なく見ていた言動にも、重い過去が隠されていたのである。

そして、何より忘れられないのは余接の材料だ。

「レシピ公開。斧乃木余接の作りかた」

最初は妙に軽い紹介文だと思った。

しかし、実際に作り方を知ると、笑っていられない。

死んだ子供たちの遺体に、影縫の妹の足。

最後には忍野の両眼まで使われる。

いや、グロすぎるだろう。

しかも、そこまでして作った人形が、今では無表情でキメ顔をしているのだから、何とも言えない(笑)。

ただ、今回の話を読んで、余接に対する印象は少し変わった。

彼女は、誰か一人を生き返らせるために作られた存在だった。

その計画は失敗し、多くの犠牲と後悔を残した。

それでも、余接自身は誰かの代わりではなく、斧乃木余接として存在している。

生まれ方を選べなかった彼女が、その後も変わらず自分の言葉で話し、自分の役割を果たしている。

そう考えると、いつもの無表情な姿にも違った意味が感じられる。

そして、忍野メメたちが背負い続ける過去も、簡単には消えない。

今回の物語は、余接の作り方を教えてくれると同時に、何かを生み出した人間が、その結果にどう責任を持つのかを考えさせる話でもあった。

それにしても、余接の誕生秘話がここまで凄惨だったとは。

今後、彼女が「僕はキメ顔でそう言った」と口にするたびに、今回のレシピを思い出してしまいそうである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

物語戦物語 33の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>接物語

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31.戦物語
まとめ
34.鳥物語

考察・解説

ストーリー・プロット

第1幕:蘇生プロジェクトの始動とメンバー集結

境都大学の空き教室で、奨励会を辞めたばかりの貝木泥舟が将棋のルールへの不満を語る中、喪服姿の彼を観察していた忍野メメのもとに先輩の臥煙伊豆湖が現れる。
伊豆湖は駆け落ち先で交通事故死した実姉・臥煙遠江を生き返らせる計画への協力を二人に要請した。伊豆湖は遠江の事故死に不自然な隠蔽の気配を感じており、事故に偽装された暗殺の可能性を疑って真相を直接問い質すためだと語る。
そこへ四人目のメンバーとして、不死身の怪異を専門とする陰陽寺の跡取り娘で保護観察中の高校生・影縫余弦が合流する。
影縫が蘇生には遺体と触媒が必要だと指摘すると、貝木が地元に残る土葬地から遺体を掘り起こす役目を引き受け、伊豆湖は生前の遠江が遺したレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を触媒として提示した。

第2幕:九州の事故現場調査と生存者の判明

忍野は影縫を自転車の荷台に乗せ、二人乗りで九州の事故現場へ向かった。
道中、影縫は不死身の怪異を好んで吸血鬼に殺された妹・余割への思いを明かし、人を生き返らせることが正義か悪かを見極めるために参加したと語る。
現場の交差点に到着すると、そこは大規模な迂回路設置工事によって痕跡が遮断されていた。警察へ向かった影縫と別れ、手がかりを探していた忍野は、事故当日の古新聞を売りつける蛇面の幼女と出会う。
忍野が全財産を支払い、幼女の要求に応じて「洗人雨露湖」と名付けると、幼女は全身の鱗を脱皮させて素肌を露わにし、事故の詳細を語った。交差点の中央にいた神原遠江の軽自動車に対し、十トントラック、タンクローリー、ミキサー車、児童を乗せたスクールバスが四方から突入した逆玉突き事故であったこと、そして後部座席に乗っていた遠江の一人娘・神原駿河が無傷で生き残っていた事実が明かされる。

第3幕:焼け首の回収と神原家の町への急行

夜、大学の医学部霊安室に再集結した一行の前で、貝木がズタ袋から掘り出してきた遺体を開帳するが、激しい火災により頭部(焼け首)しか残っていなかった。
影縫は警察の世間話から事故の詳細を裏付けており、首だけで蘇生しても真相は聞けないため、分家筋の手折家に依頼して死体人形で胴体を補うプランを提案する。
しかし成人女性一人分の死体素材が不足するため、事故で死亡したスクールバスの児童たちの遺体を使う案が浮上し、貝木が遺族を騙して集める役目を引き受けて再出発した。
翌朝、忍野は伊豆湖と共に駿河が引き取られた町へ深夜バスで向かった。
町に足を踏み入れた瞬間に異常な瘴気を感じ取った忍野は、神原家へ向かう伊豆湖と別れ、町の調査を開始する。

第4幕:神原駿河との遭遇と山頂の怪異殺し

忍野は事故現場で祈る読書家の少女を見かけた後、がむしゃらに走る体操着姿の女子小学生・神原駿河と遭遇する。駿河は母の形見の「猿の手」に願った結果、自身より足の速い同級生を傷つける呪いに怯えて独学で走っていた。
忍野は「煙樹ヶ浜槐」と偽名を名乗り、貝木の駅伝走法を伝授して励ますが、駿河の記憶からは事故当日の同乗体験が抜け落ち、両親を家から見送った記憶へ改竄されていることを知る。
その後、瘴気が集まる山頂の崩壊した北白蛇神社に登った忍野は、少年時代の自身の姿をした死屍累生死郎と遭遇する。
生死郎は神社が世界中から瘴気を集める穴となっており、あと七年ほどは保つと告げ、人間を超越した存在を世界が排除する修正機能「しらやみ」が遠江の死因である可能性を提示した。
下山後、居酒屋で伊豆湖と合流した忍野は報告を交わし、伊豆湖が駿河への催眠インタビューで遠江が娘を庇った事実を確認したことを知るが、生死郎から得た推理は胸中に秘匿した。

第5幕:十二歳の童女義体と魂の分割補強

翌日、霊安室に人形師見習いの手折正弦が合流した。貝木が遺族行脚で集めてきた児童の遺体は目標の三割程度にとどまり、成人女性の義体を作るには依然として素材が不足していた。
影縫が実家から持ち出した妹・余割の足の剥製を差し出したことを受け、忍野は素材量に合わせて「十二歳の童女の死体人形」として仕上げる案を出し、伊豆湖の承認を得て正弦が制作に入った。
残された課題である自我の崩壊を防ぐため、影縫は複数の遺体の年齢を合計して百年と見なす「憑喪神方式」と、術者四人の魂を分け与えて補強する方針を提示する。
影縫は手本として「生涯地面を歩かない」という呪約を自らに課し、残る三人も人形の完成を待つ約一年の間に、各自が差し出す魂と誓約を模索することとなった。

第6幕:反魂の儀式と首の取り違え

手折正弦によって十二歳の童女の死体人形が完成し、霊安室で反魂の儀式が執り行われた。
胸元にレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊が納められ、四人は人形に触れてそれぞれの誓約を立てる。
影縫の「生涯地面を歩かない」に続き、伊豆湖は「何でも知っているお姉さんであり続ける」、貝木は「決して善人にならない」、忍野は「二度と布団や枕で眠らない」と誓った。
影縫が「コン」と唱える呪文に合わせて全員が声を重ね、激しい音と振動を伴う儀式を通じて魂の注入が試みられた。しかし童女は一度目を覚ましたものの激しい拒絶反応を起こし、「ガソリン」と絶叫して苦痛にのたうち回った末に機能を停止した。
貝木が掘り出してきた頭部は遠江のものではなく、現場で巻き込まれたタンクローリーの女性ドライバーのものであったという取り違えが発覚し、プロジェクトは致命的な失敗に終わった。

第7幕:両眼の移植と斧乃木余接の誕生

絶望した伊豆湖が計画の終了を告げる中、忍野はかつて女子高生時代の遠江から心霊手術によって授かっていた自身の両眼を取り出し、死体人形の眼窩へ移植した。
遠江の肉体の一部が宿ったことで死体人形は静かに身を起こし、かつての遠江の視線を取り戻した。駆け寄った伊豆湖は姉を抱きしめ、生前に伝えられなかった感謝と愛を叫んだ。
童女は無表情のままキメ顔で応じた後、完全に機能を停止して遠江の自我は消滅した。
忍野は怪異を見る視力を失って大学を中退し、残された死体人形には四人の魂の残滓が定着して影縫の式神となった。
忍野は、自腹の現地調査で判明したタンクローリーの運転手・小野道風音の姓にちなむ斧始めの「斧」、木乃伊の「乃」、貝木から譲られた「木」を合わせ、余りものを接ぎ合わせた経緯から「斧乃木余接」と命名した。

主要な転換点

転換点:九州の事故現場での「逆玉突き事故」と娘の生存判明
  • それ以前の状況:遠江は駆け落ち先で単純な交通事故によって死亡したと伝えられていた。 
  • 出来事:忍野が洗人雨露湖から、影縫が警察から情報を得て、四方から大型車が突入した計画的な大事故であり、車内にいた一人娘の神原駿河が無傷で生き残っていた事実が判明した。 
  • 変化:遠江が何者かに狙われ、娘を庇って命を落としたという確信が生まれ、単なる事故調査から「遺志を継いで娘を守る」「真相を解き明かす」という強い動機へと変化した。 
  • 次への影響:遠江の遺体が大火で激しく損壊している可能性が高まり、完全な死体の確保が不可能となって死体人形案へ舵を切る原因となった。
転換点:回収遺体の欠損と「十二歳の童女義体」への方針転換
  • それ以前の状況:貝木が土葬された遠江の遺体を丸ごと掘り起こしてくる予定であった。 
  • 出来事:貝木が持ち帰ったのは焼け焦げた頭部のみであり、児童の遺体を集めても成人女性一人分の分量には達しなかった。 
  • 変化:影縫が持参した妹・余割の足の剥製をきっかけに、忍野が「十二歳の童女の死体人形」として制作する妥協案を出し、正弦と伊豆湖がこれを承認した。 
  • 次への影響:大人の遠江の自我と子供の肉体の不一致が懸念され、自我崩壊を防ぐために「四人の魂を分割して補強する」という誓約のルールが導入された。
転換点:反魂の失敗と首の取り違えの発覚
  • それ以前の状況:四人が重い呪約を立てて魂を補強し、遠江が死体人形として蘇生するものと信じられていた。 
  • 出来事:蘇生した童女が「ガソリン」と叫んで激しい拒絶反応を起こし、頭部が遠江ではなくタンクローリーの女性ドライバーのものであったことが判明した。 
  • 変化:伊豆湖の姉蘇生計画は完全に破綻し、プロジェクトは解散の危機に瀕した。 
  • 次への影響:忍野がかつて遠江から授かった自身の両眼を移植する決断を下し、遠江との一時的な再会と、のちの式神「斧乃木余接」の誕生へとつながった。

忍野メメを中心とした人物関係の変化

臥煙伊豆湖
  • 開始時:大学の絶対的な支配者であり、理不尽な命令にも唯々諾々と従わざるを得ない雲の上の先輩。 
  • 主な出来事:神原家訪問の旅路でサシ飲みをし、伊豆湖の姉に対するコンプレックスや人間的な弱さに触れた。儀式破綻時には自らの両眼を差し出して伊豆湖に姉との再会の時間をもたらした。 
  • 巻末時:単なる命令系統を超え、互いの弱みや隠し事を飲み込んだ上で深い信頼を寄せ合う筆頭の協力者となった。
貝木泥舟
  • 開始時:将棋や過去問販売の利害で繋がる、軽口を叩き合う腐れ縁の悪友。 
  • 主な出来事:初恋の人のために奨励会を辞め、墓荒らしや遺族への詐欺行脚といった泥をかぶる貝木の破滅的な献身を目の当たりにした。 
  • 巻末時:互いに相容れない一線を越えつつも、その愚直な行動を認め合い、生涯にわたる誓約を背負った同業者となった。
影縫余弦
  • 開始時:附属校に通う、足癖と口の悪い初対面の女子高生。 
  • 主な出来事:二人乗り自転車での現場調査や聞き込みを通じて、死んだ妹への葛藤や怪異に対する独自の倫理観を共有した。 
  • 巻末時:互いの腕と覚悟を認め合い、生み出された式神童女(斧乃木余接)とその制約を共有する専門家の仲間となった。
神原駿河
  • 開始時:存在すら知らなかった、亡き恩人・遠江の忘れ形見。 
  • 主な出来事:町の路上で遭遇し、呪いに怯えながら走る彼女に「煙樹ヶ浜槐」と偽名を名乗って貝木直伝の走法を教えた。 
  • 巻末時:遠江が命を賭して守った存在として、将来にわたって見守るべき対象となった。

主人公の認識と周囲の評価

主人公自身の認識

忍野メメは自分自身を「主体性がなく、あっちにふらふらこっちにふらふらとバランスを取りたがるだけの男」と捉えている。陽気で軽薄な振る舞いを装い、専門家としても未熟なアマチュアに過ぎないと自己評価している。また、かつて両目を患い何も見えなかった自分を救ってくれた遠江に対し強い恩義を感じており、その恩を返すために行動していると認識している。

周囲からの評価
  • 臥煙伊豆湖:軽薄に見えて観察眼が極めて鋭く、チームの偏りを正すことができる「もっとも頼りにする後輩(右腕)」として高く評価している。
  • 貝木泥舟:調子のいい口先ばかりの男と見なしつつも、その鋭い嗅覚と隠し事を察知し、重要な局面で外せないパートナーとして認識している。
  • 影縫余弦:最初は「言いなりになっているヘコヘコしたチャラ男」「ねずみ男」と見下していたが、現場での機転や覚悟を見て取ると、一定の敬意を払うようになった。
  • 死屍累生死郎:まだ形を成していない自身の姿を視認できることから、「卓越した才能を持つ修験者」としてその眼力を高く評価した。
認識の差が現れた場面
  • 神原家がある町の調査時:忍野自身は「気味が悪くて逃げ出したい、手の施しようがない」と弱腰になっていたが、伊豆湖は忍野の直感を「電子顕微鏡のような眼力」と呼び、町の異常と姪の無関係性を証明する調査を一任した。
  • 北白蛇神社での生死郎との対話時:忍野は自らを「才能だけでやっている未熟者」と卑下したが、生死郎は「形を成していない拙者が見えている時点で、まごうことなき達人である」と断じた。

斧乃木余接の誕生

『接物語』の「第九十九話 よつぎフランク」では、式神童女である斧乃木余接の誕生秘話と、怪異の専門家たちが若き日に犯した禁忌の試み、その失敗の全貌が明かされた。

臥煙遠江を蘇生するためのプロジェクト

大学時代、臥煙伊豆湖は交通事故で急死した実姉・臥煙遠江を蘇生させ、その死や事故の真相を本人から聞き出そうと考えた。

この非公式なプロジェクトには、臥煙伊豆湖のほか、忍野メメ、貝木泥舟、高校生だった影縫余弦、人形師の手折正弦が参加した。

しかし遠江の遺体は事故やその後の事情によって完全な状態では残されておらず、計画は当初の想定から大きく変化していった。

複数の死体を継ぎ接ぎした十二歳の童女

貝木は遠江の遺体を確保するために墓を掘り返したほか、同じ事故で死亡した児童たちの遺体も集めていた。

さらに影縫余弦は、吸血鬼によって殺された妹・影縫余割の両足の剥製を持ち出した。

しかし、それらを集めても成人女性一人分の肉体を再現するには足りなかった。

そこで忍野メメの発案により、集めた死体を無理に成人女性の大きさへ合わせるのではなく、すべてを使い切れる大きさの「十二歳の童女」として組み上げる方針へ変更された。

手折正弦が人形師として肉体を縫合し、複数人の死体を素材にした死体人形が完成した。

「合計百年使われた死体」を憑喪神にする発想

死体人形を動かす方法として影縫余弦が提案したのが、死体そのものを物体として捉え、憑喪神にする方法だった。

通常の憑喪神は百年使われた道具が怪異化した存在である。

そこで、一つの死体が百年存在している必要はなく、材料となった複数人の生きた年数を合計し、「合計で百年以上使われた死体」と考えればよいという理屈が持ち出された。

事故で亡くなった児童たちや影縫余割などの年齢を合計することで、死体人形を「百年生きた死体の憑喪神」として成立させようとしたのである。

四人が魂の一部として捧げた誓約

死体人形へ遠江の魂を定着させる補強材として、影縫余弦、臥煙伊豆湖、貝木泥舟、忍野メメの四人は、それぞれ自分の人生を縛る誓約を立てた。

影縫余弦は、今後一生地面を歩かないと誓った。

臥煙伊豆湖は、知らないという逃げ道を捨て、どんな悲劇も見て見ぬ振りをせず、「なんでも知ってるおねーさん」であり続けることを誓った。

貝木泥舟は、「実はいい奴」であることを拒絶した。自分の悪行に同情できる理由や悲しい過去を用意せず、一生悪人として嫌われ、恨まれ続けることを選んだ。

忍野メメは、今後一生布団で眠らず、枕も使わないと誓った。

四人はこうして、自分たちの日常や人生そのものに制限を加えることで、自らの魂の一部を死体人形へ捧げた。

反魂の儀式と重大な取り違え

影縫余弦が中心となり、死体人形に魂を宿す反魂の儀式が行われた。

しかし、目覚めた童女は激しく苦しみながら「ガソリン」と叫び、遠江として正常に蘇生することはなかった。

そこで一同は、死体人形の頭部そのものが遠江のものではなかった可能性に気付く。

事故現場ではタンクローリー、十トントラック、ミキサー車、スクールバスなど複数の車両が絡んでおり、大事故の混乱によって頭部が取り違えられていた可能性があった。

後に忍野が改めて事故関係者を調べた結果、他の大型車両の運転手は男性であり、成人女性だったタンクローリー運転手・小野道風音の頭部が、貝木が遠江の墓から掘り出した焼けた頭部だった可能性が最も高いと判断された。

そのため、小野道風音の頭部だったことは完全な鑑定による確定ではなく、状況証拠からほぼそう見定められた形である。

忍野メメの両眼と遠江の数秒間の蘇生

忍野メメは、かつて臥煙遠江から与えられた特殊な視力を宿す自分の両眼に、遠江の自我がわずかに残っている可能性に賭けた。

忍野は自分の両眼と死体人形の両眼を入れ替える心霊手術を行った。

その結果、死体人形の中に臥煙遠江の自我が一時的に蘇った。

ただし、眼球に残されていた遠江の自我はごくわずかなものであり、蘇生できた時間は数秒程度にすぎなかった。

その短い時間の中で、臥煙伊豆湖は姉と向き合い、長年抱えていた思いを伝えた。

やがて遠江の自我は完全に消滅した。

プロジェクトの失敗と四人に残った自罰

臥煙遠江を完全に蘇生させる計画は失敗に終わった。

遠江の自我が消滅したことで、本来なら四人が立てた誓約も必要なくなった。

誓約を破れば遠江の蘇生が失敗するという意味での強制力は、すでに失われていたからである。

それでも四人は、自分たちが犯した禁忌への自罰として、その後も誓約を守り続けた。

影縫は地面を歩かず、臥煙は「なんでも知ってるおねーさん」であり続け、貝木は「実はいい奴」になることを拒み、忍野は布団と枕を使わず安眠を捨てた。

つまり彼らが背負ったものは「解けない呪い」ではなく、解こうと思えば解けるかもしれないにもかかわらず、自分たちの意思で守り続けている無意味な自罰であった。

斧乃木余接の誕生

遠江を蘇生する器としての役割を終えた死体人形だったが、その内部には四人が注ぎ込んだ魂や、複数の死体を素材として成立した憑喪神としての性質が残っていた。

その結果、遠江とは別の新しい魂が宿り、自我を持つ存在として動き始めた。

これが後の斧乃木余接である。

影縫余弦は余接を妹の代わりとしてではなく、一個の存在として自分の式神にすることを決めた。

「斧乃木余接」という名前の由来

余接の名前は忍野メメが考えた。

忍野は最初に、名前の文字について次のように説明した。

「斧」は斧始めの「斧」。

「乃」は木乃伊の「乃」。

「木」は、本人が自分を枯れ木だと言い張る貝木泥舟の「木」。

「余接」は、余りものを接ぎ接ぎして作った存在であることから付けられた。

さらに後になって、影縫から「斧乃」は誰に由来するのかと聞かれた忍野は、事故で犠牲になったタンクローリー運転手・小野道風音の「小野」も重ねていることを明かした。

忍野は改めて事故現場を調査し、小野道風音という一人の人間にも名前と人生があったことを知った。

彼女を単なる遠江の蘇生に使われた材料として終わらせないため、その名前を自分たちが作った死体人形へ刻もうとしたのである。

そのため「斧乃木余接」という名前には、木乃伊、貝木、余りものの接ぎ接ぎ、小野道風音という複数の意味が重ねられている。

なお、「余接」が三角関数の数学用語であることは、本来の命名理由ではなく後付けである。

斧乃木余接が背負っているもの

斧乃木余接は、単なる人工的な式神ではなかった。

臥煙遠江を生き返らせようとした若き怪異の専門家たちの過ち、事故で亡くなった児童たちや小野道風音、影縫余割の遺体、四人が自らに課した誓約、そして反魂の儀式の失敗から生まれた存在である。

遠江を蘇らせるという本来の目的は失敗した。

しかし、その失敗の副産物として、新しい一個の人格である斧乃木余接が誕生した。

『接物語』で描かれた余接の誕生は、怪異の専門家たちが若い頃に犯した禁忌と大失敗の記録であると同時に、死者を誰かの代用品として扱うことの危うさと、失敗の先から別の存在が生まれるまでの物語でもあった。

遠江の死因解明

『接物語』の「第九十九話 よつぎフランク」では、臥煙遠江の死因を探ることが、若き日の怪異の専門家たちによる蘇生プロジェクトの出発点となった。

しかし物語の最後まで、遠江の死因が怪異によるものだったと完全に証明されたわけではない。

忍野メメが事故現場を調査する中で明らかになった異常な事故状況と、そこから導き出された「しらやみ」という仮説によって、遠江の死に一つの解釈が与えられていった。

伊豆湖が抱いた姉の事故死への疑問

臥煙遠江は、臥煙伊豆湖の実姉であり、後に神原遠江となった人物である。

常識や既存の価値観に縛られず、怪異の専門家たちから見ても規格外の存在だった。

そんな遠江が、駆け落ち先の九州で夫・神原駿とともに大規模な交通事故に巻き込まれ、死亡した。

伊豆湖は、姉が単なる交通事故であっさり死亡したことに納得できなかった。

事故そのものに何か裏があるのではないか。

誰かに狙われたのではないか。

あるいは遠江自身が何かを企んでいたのではないか。

そうした疑念から、伊豆湖は遠江本人を蘇生させ、直接事故の真相を問いただすという計画を進めた。

これが後に斧乃木余接を生み出すことになる、遠江蘇生プロジェクトの発端だった。

忍野メメによる事故現場の調査

忍野メメと影縫余弦は、事故の実態を調べるため九州へ向かった。

そこで忍野が出会ったのが、全身を鱗に覆われた蛇面の幼女だった。

幼女には名前がなかったため、忍野は「洗人雨露湖」と名付けた。

雨露湖自身が事故を直接目撃したわけではなかったが、事故現場周辺に生息する毒蛇たちを通じて、事故当時の状況を把握していた。

忍野は彼女から、報道や一般的な交通事故のイメージとは大きく異なる事故の実態を聞かされることになった。

五台が絡んだ異常な交通事故

遠江が巻き込まれた事故は、単純な玉突き事故ではなかった。

交差点の中央にいた遠江の軽自動車を中心として、十トントラック、タンクローリー、ミキサー車、スクールバスという四台の大型車両が事故に巻き込まれていた。

遠江の軽自動車を含めれば、合計五台の自動車が絡む事故である。

雨露湖は忍野が「玉突き事故」と表現したことを明確に否定し、あくまで「五台が絡む交通事故」だったと説明した。

軽自動車へ四台の「はたらくクルマ」が、まるで引き寄せられるように突っ込んできたという異様な状況だった。

さらに事故後には燃料による火災や積載物などが重なり、現場は極めて凄惨な状態となった。

遠江と夫の神原駿は死亡したが、後部座席に乗っていた一人娘・神原駿河だけは生き残った。

遠江が事故の瞬間に娘を守ったことで、駿河は救われたと考えられている。

誰かが遠江を狙った事故だったのか

あまりにも不自然な事故だったため、忍野は当初、何者かが意図的に事故を引き起こした可能性も疑った。

四台もの大型車両が一台の軽自動車へ集中するという状況は、偶然として片付けるには異様だった。

雨露湖も、多数の犠牲者を出すことで本当の標的が誰だったのかわからなくするような、何者かの意図を感じさせる事故として語った。

しかし調査を続けても、特定の人物が遠江を殺したという決定的な証拠は見つからなかった。

忍野たちは、人間による暗殺や陰謀とは異なる可能性を考えることになる。

山奥に集まる「よくないもの」

事故現場の町そのものにも、忍野は強い違和感を覚えた。

町には「よくないもの」と表現するしかない瘴気のようなものが漂っており、それは山の方向へ集まっていた。

忍野が山へ向かうと、そこには崩壊した北白蛇神社があった。

さらに山の奥で、忍野は死屍累生死郎――初代怪異殺しに関係する存在と向き合うことになる。

そこで得たやり取りをきっかけに、忍野は後になって遠江の死について一つの仮説を考えるようになった。

それが「しらやみ」である。

「しらやみ」という仮説

忍野が貝木泥舟へ語った「しらやみ」は、作中でも確定した怪異現象として説明されているわけではない。

忍野自身が「仮説だか風説だか知らない」「証拠はない。資料もない」と認めている。

つまり「しらやみ」は、遠江の交通事故を説明するために忍野が組み立てた仮説である。

忍野は、怪異が本来の役割やルールから逸脱した場合に現れ、それを消滅させる「くらやみ」と似たものが、人間に対しても存在するのではないかと考えた。

遠江は人間でありながら、人間の常識や社会の慣習、法律、既存のルールにほとんど縛られずに生きていた。

臥煙伊豆湖自身も、姉を「超人」と表現している。

そこで忍野は、人間でありながら人間の枠組みを超えすぎた遠江が、世界そのものから異物として排除されたのではないかと推測した。

怪異を世界のルールへ戻すものが「くらやみ」なら、人間の領分から逸脱した存在を世界から弾き出すものが「しらやみ」なのではないか。

それが忍野の考えた遠江の死因だった。

「世界のルールに殺された」という解釈

忍野は、四台もの大型車両が交差点中央の軽自動車へ引き寄せられるように突っ込んだ現象を、「くらやみ」が周囲のものを根こそぎ巻き込む様子と重ね合わせた。

遠江が「人でありながら人を超えた」ことで、現世から追放されたのではないか。

出る杭として世界そのものから引き抜かれたのではないか。

忍野はそのように考えた。

この解釈について貝木も、「しらやみ」そのものを知っていたわけではないものの、遠江らしい死に方だという点では納得を示した。

遠江のことを知る忍野、貝木、伊豆湖にとって、

「ルールを無視して生きた遠江だからこそ、世界のルールに殺された」

という説明には、不思議な説得力があったのである。

ただし、これは最後まで実証された事実ではない。

遠江の死因について作中で示された、最も遠江らしい一つの仮説である。

遺体の取り違えが判明する

蘇生プロジェクトを進めた結果、さらに予想外の事実が明らかになった。

貝木が遠江の墓から掘り起こしてきた焼け焦げた頭部は、遠江本人のものではなかった可能性が高かった。

反魂の儀式によって蘇った死体人形が「ガソリン!」と叫んだことから、事故に巻き込まれた大型車両の運転手の頭部ではないかと疑われた。

忍野は後日、改めて事故関係者を調査した。

十トントラック、ミキサー車、スクールバスの運転手はいずれも男性だった。

一方、タンクローリーを運転していたのは、小野道風音という成人女性だった。

そのため忍野は、貝木が墓から掘り出した焼けた頭部について、小野道風音のものと見定めてよいだろうと判断した。

完全な鑑定によって確定したわけではないが、状況証拠から見て最も可能性が高い人物だった。

事故の混乱の中で、小野道風音の頭部が遠江の軽自動車内へ飛び込み、そのまま遠江の遺体の一部として処理されたと考えられたのである。

忍野メメが残した最後の可能性

遠江の肉体そのものを蘇生する計画は、遺体の取り違えによって根本から破綻した。

しかし忍野メメには、まだ一つだけ遠江につながるものが残されていた。

自分の両眼である。

忍野はかつて臥煙遠江から心霊手術を受け、怪異を見るための特殊な視力を与えられていた。

その眼球には、遠江の自我がわずかに残っている可能性があった。

忍野は自らの両眼と死体人形の眼球を入れ替える心霊手術を行った。

その結果、死体人形は再び起き上がり、ほんの数秒間だけ臥煙遠江としての自我を取り戻した。

伊豆湖が姉へ伝えたかったこと

数秒しか時間がないとわかっていた忍野は、伊豆湖へ姉に聞きたいことを聞くよう促した。

事故の真相を確認する時間はなかった。

しかし伊豆湖にとって、その瞬間にはもう事故の真相など重要ではなくなっていた。

伊豆湖は遠江へ駆け寄り、抱きしめた。

そして、

「大好きだった! 愛してた!」

と、生前には言えなかった思いを伝えた。

さらに、生きているうちに伝えられなかったことを謝った。

遠江は、そんな妹に対して最後まで遠江らしく、「ふーん」とキメ顔で答えた。

それを最後に、忍野の眼球に残っていた遠江の自我は消滅した。

死因解明よりも重要だったもの

蘇生プロジェクトは、本来なら臥煙遠江を蘇生させ、交通事故の真相を本人から聞き出すために始まった。

しかし結果として、遠江本人の口から死因を聞くことはできなかった。

「しらやみ」によって世界から排除されたという説も、最後まで仮説のままである。

つまり、臥煙遠江の死因は完全には解明されていない。

それでも忍野たちにとって、「しらやみ」という説明は、遠江という人物の生き方と死に方を結びつける、一つの納得できる答えとなった。

そして伊豆湖にとって最終的に必要だったのは、姉の死因を聞き出すことではなかった。

生前言えなかった「大好きだった」「愛してた」という言葉を、二度と会えないはずだった姉へ直接伝えることだった。

『接物語』における臥煙遠江の死因解明は、交通事故の謎を完全に解決する物語ではない。

遠江の死を受け入れられなかった伊豆湖たちが、その死に自分たちなりの意味を見いだし、最後に残された思いを本人へ届けるまでの物語として描かれていた。

事故調査と真実

『接物語』の「第九十九話 よつぎフランク」では、臥煙遠江の交通事故をめぐって、忍野メメや影縫余弦らが現地調査を進め、事故当時の状況を少しずつ明らかにしていった。

ただし、最終的にすべての謎が客観的に解明されたわけではない。

作中では、実際の調査で判明した事実、忍野が状況から推測したこと、そして証拠のない「しらやみ」という仮説が重なりながら、臥煙遠江の死に一つの解釈が与えられていった。

事故調査の発端

臥煙伊豆湖の実姉・臥煙遠江は、駆け落ち先の九州で夫・神原駿とともに大規模な交通事故に巻き込まれ、死亡した。

しかし伊豆湖は、常識や既存のルールを超越するような姉が、単なる交通事故で死亡したことに納得できなかった。

事故には何者かの意図があったのではないか。

遠江を狙った暗殺ではないのか。

あるいは何かが隠蔽されているのではないか。

そうした疑念から、伊豆湖は遠江本人を蘇生させ、事故の真相を直接聞き出そうと考えた。

同時に忍野メメと影縫余弦は九州へ向かい、事故現場と関係者を調査することになった。

急速に姿を変えていた事故現場

忍野たちが現地を訪れた時点で、事故現場周辺では工事が進められていた。

事故が起きた道路はそのまま残されるのではなく、迂回路を設置する工事が行われ、事故当時の姿は急速に失われつつあった。

忍野は、この異常なほど早い処理にも違和感を覚えた。

ただし、行政による工事そのものが事故を隠蔽する目的だったと確認されたわけではない。

あまりに凄惨な事故の痕跡が短期間で消えていくことが、忍野の疑念をさらに強めたのである。

蛇面の幼女・洗人雨露湖

事故現場付近で忍野は、全身を鱗に覆われた蛇面の幼女と出会った。

彼女には名前がなく、忍野が「洗人雨露湖」と名付けた。

雨露湖自身が事故を直接目撃したわけではなかった。

しかし周辺の草藪に生息する毒蛇たちを通じて、事故当時の状況を知っていた。

忍野は雨露湖から情報を聞き出し、それまで想像していた事故とはまったく異なる実態を知ることになった。

五台が絡んだ「逆玉突き事故」

事故に巻き込まれた車両は五台だった。

中心となったのは、臥煙遠江が運転し、助手席に夫の神原駿、後部座席に娘の神原駿河を乗せた軽自動車である。

そこへ十トントラック、タンクローリー、ミキサー車、スクールバスという四台の大型車両が絡んだ。

忍野は当初、五台が絡んだ「玉突き事故」だと考えた。

しかし雨露湖は、玉突き事故ではないと明確に否定した。

事故は交差点で発生しており、四台の大型車両が、交差点中央にいた軽自動車へ四方からほぼ同時に突っ込んできたという異常なものだった。

後に忍野は、この事故を「逆玉突き事故」と表現している。

普通の交通事故とは明らかに異なる、まるで一台の軽自動車へ周囲の車両が吸い寄せられたかのような衝突だった。

スクールバスと多数の犠牲者

四台目がスクールバスだったことで、事故の被害はさらに大きくなった。

スクールバスには多数の児童が乗っており、事故によって多くの犠牲者が出た。

忍野は、多くの人間を巻き込むことで、本来誰が標的だったのかわからなくする意図さえ感じた。

ただし、これもあくまで調査段階での疑念であり、事故を意図的に引き起こした犯人が確認されたわけではない。

事故には遠江と神原駿だけでなく、大型車両の運転手たちやスクールバスの児童たちまで巻き込まれていた。

そのため、「誰を狙った事故だったのか」という問いそのものが曖昧になっていった。

炎とコンクリートによる凄惨な事故現場

事故後、現場は極めて凄惨な状態となった。

タンクローリーが運んでいた燃料などによって大規模な火災が発生し、さらにミキサー車の生コンクリートまで事故現場へ流れ込んだ。

その結果、多くの遺体は原形をとどめず、遠江の遺体もほとんど残らなかったと考えられた。

忍野は、まるで事故の証拠や遠江の死体そのものを残さないために車両が選ばれたかのようだと疑った。

しかし、この点も意図的な隠蔽工作だったと実証されたわけではない。

異常な事故の結果が、あまりにも都合よく遠江の死の検証を困難にしていたのである。

唯一生き残った神原駿河

五台が絡む大事故の中で、神原駿河だけは生き残った。

しかもほとんど無傷と言える状態で救助されていた。

忍野は、遠江が事故の瞬間に娘を庇ったのだと強く考えた。

ただし作中でも忍野自身が、遠江が駿河を庇ったというのは「勇み足な思い込みかもしれない」と認めている。

そのため、遠江が特別な術を使って娘を救ったと確定しているわけではない。

一方で、駿河だけが後部座席から生き残り、両親が死亡したことは事実だった。

遠江が娘を守ろうとした可能性は高く示唆されているものの、その具体的な方法までは明らかになっていない。

駿河の事故記憶の欠落

忍野は後に神原駿河本人と接触し、事故について話を聞こうとした。

ところが駿河は、事故当時のことをまったく覚えていなかった。

それだけではない。

駿河は、事故の日に両親の車へ同乗したこと自体を覚えておらず、朝にデートへ出掛ける両親を見送ったと記憶していた。

これは雨露湖から得た情報だけでなく、影縫が駐在所から得た公的情報とも食い違っていた。

忍野は、単純に事故前後の記憶を失ったのではなく、存在しない記憶が作られていると考えた。

「記憶の捏造」という忍野の推測

忍野は、駿河が事故の心理的ショックから自分自身を守るため、事故に遭わなかったという記憶を作り出したのではないかと推測した。

両親が目の前で死亡するほどの凄惨な事故である。

その現実に耐えられず、

事故には遭っていない。

車にも乗っていない。

両親を朝に見送った。

という別の記憶を生み出したのではないか。

忍野はそのように考えた。

ただし、これは医学的に確認された事実ではなく、あくまで忍野による推測である。

さらに後の催眠インタビューで引き出された駿河の無意識の記憶についても、忍野は必ずしも真実とは限らないと考えている。

つまり、駿河本人の証言だけから事故の全貌を確定することはできなかった。

町を覆っていた「よくないもの」

別の調査で忍野は、神原家のある町全体に異様な空気が漂っていることにも気付いた。

忍野はそれを「よくないもの」と表現した。

瘴気のようなものは町中から山へ集まっており、その中心には崩壊した北白蛇神社があった。

忍野は山へ入り、この異常な現象の原因を探った。

そこで初代怪異殺し・死屍累生死郎に関係する存在とも遭遇することになる。

その経験を経た忍野は、後に臥煙遠江の死について「しらやみ」という仮説を考えるようになった。

「しらやみ」は確定した怪異ではない

重要なのは、「しらやみ」が作中で実在を確認された怪異や現象ではないという点である。

忍野自身、

「仮説だか風説だか知らない」

「証拠はない。資料もない」

と認めている。

蛇面の幼女・雨露湖も、「しらやみ」が事故を起こしたとは語っていない。

忍野自身の考え、山での体験、事故の異常性などを組み合わせて生み出した推論だった。

「くらやみ」に対する人間版という発想

忍野は、怪異が本来の役割から逸脱した場合に現れる「くらやみ」と遠江の死を結び付けて考えた。

「くらやみ」が、怪異のルール違反を修正する世界の作用だとすれば、人間にも同じようなものがあるのではないか。

臥煙遠江は人間でありながら、人間社会の慣習や伝統、法律、常識といったものにほとんど縛られずに生きていた。

伊豆湖が「超人」と評するほど、人間の枠から外れた存在だった。

そこで忍野は、人間でありながら人間を超越しすぎた遠江を、世界そのものが排除したのではないかと考えた。

それを便宜的に「しらやみ」と呼んだのである。

世界のルールに殺された遠江

忍野は、四台の大型車両が交差点中央の軽自動車へ吸い寄せられるように突入した事故を、「くらやみ」が周囲のものを根こそぎ巻き込む現象と重ね合わせた。

遠江は人間としてのルールを無視して生きた。

だから最後には、世界のルールによって排除された。

忍野はそう解釈した。

貝木泥舟も「しらやみ」の存在自体を知っていたわけではなかったが、その死に方については「遠江先生らしい」と受け入れた。

しかし、これも客観的に証明された事故原因ではない。

忍野自身も後に「僕の妄想の産物でしかない未確認推理」と表現している。

したがって、「しらやみによって遠江が殺された」というのは真相そのものではなく、遠江の死を最も彼女らしく説明できる仮説だった。

蘇生実験で明らかになった遺体の取り違え

事故調査とは別に進められていた蘇生実験でも、事故の異常さを示す事実が明らかになった。

貝木泥舟は遠江の墓を掘り返し、焼け焦げた頭部を持ち帰っていた。

その頭部を組み込んだ死体人形へ反魂の術を施したところ、蘇った童女は激しい苦痛を示し、「ガソリン!」と叫んだ。

この言葉から、一同は頭部そのものが遠江ではなく、事故に巻き込まれた大型車両の運転手のものではないかと考えた。

忍野は後に事故関係者を改めて調査した。

十トントラック、ミキサー車、スクールバスの運転手はいずれも男性だった。

一方、タンクローリーを運転していたのは成人女性の小野道風音だった。

そのため忍野は、貝木が遠江の墓から掘り出した焼け首について、小野道風音のものと見定めてよいだろうと判断した。

ただし、これもDNA鑑定などによって完全に確定したわけではない。

状況証拠から最も可能性が高い人物が小野道風音だったということである。

事故の混乱が生んだ遺体の取り違え

事故では大型車両が四方から軽自動車へ衝突し、激しい炎や衝撃によって遺体が損壊していた。

その混乱の中で、小野道風音の頭部が遠江の軽自動車内へ飛び込み、遠江の遺体の一部として回収・埋葬されたと考えられた。

事故を調査する側だった忍野たち自身も、大型車の運転手を無意識に男性だと決めつけ、性別を確認していなかった。

忍野はこれを、自分たちの古い偏見と調査不足によって生じた失敗として受け止めた。

事故の真実を追う者たち自身が、思い込みによって重要な事実を見落としていたのである。

忍野の両眼による最後の蘇生

遠江本人の遺体を使った蘇生が不可能だと判明した後、忍野メメは最後の手段を取った。

忍野の両眼には、かつて遠江から心霊手術によって与えられた特殊な視力が宿っていた。

忍野は、自分の眼球に遠江の自我の残滓が残っている可能性に賭けた。

そして自分の両眼と死体人形の眼球を入れ替えた。

その結果、死体人形はほんの数秒間だけ臥煙遠江として蘇った。

事故の経緯を詳細に語れるほどの時間はなかった。

伊豆湖が求めた最後の「真実」

数秒しか時間がない中、伊豆湖は姉へ事故の真相を聞かなかった。

忍野自身も、この瞬間には「真相なんて、どうだっていい」と考えている。

伊豆湖は遠江へ駆け寄り、抱きしめた。

そして、

「大好きだった! 愛してた!」

と、生前言えなかった言葉を伝えた。

さらに、生きているうちに言えなかったことを謝った。

遠江は最後に「ふーん」とキメ顔で答え、その自我は消滅した。

この瞬間に得られたのは、交通事故の物理的な原因ではなかった。

姉妹の間に残されていた感情の答えだった。

事故調査によって明らかになった三つの層

遠江の事故については、「真実」を一つにまとめてしまうと、本文より断定が強くなる。

作中で明らかになったことは、大きく三つに分けられる。

第一は、調査によって確認された事故の事実である。

軽自動車を含む五台が絡み、四台の大型車両が交差点中央の軽自動車へ突入したこと。

神原駿と遠江が死亡し、後部座席にいた神原駿河だけが生き残ったこと。

事故が大規模な火災と破壊を伴い、遺体の判別すら困難だったこと。

これらは調査によって確認された事実である。

第二は、忍野たちの推測である。

遠江が駿河を庇ったということ。

駿河が心理的ショックから事故に遭わなかった記憶を作ったということ。

そして焼けた頭部が小野道風音のものだったという判断も、強い状況証拠に基づく推定だった。

第三が、「しらやみ」である。

これは最も重要でありながら、最も不確かな仮説だった。

人間の枠を超えた臥煙遠江が世界そのものから排除されたのではないか。

忍野はそこに遠江らしい死の説明を見いだしたが、最後まで証明されることはなかった。

事故調査の本当の結末

臥煙伊豆湖が始めたプロジェクトの目的は、姉を蘇生させ、事故の真相を本人から聞き出すことだった。

しかし、最終的にその目的は達成されなかった。

「しらやみ」が本当の死因なのか。

事故に人間の犯人が存在したのか。

遠江自身が事故の瞬間に何をしたのか。

それらすべてが完全に明らかになったわけではない。

それでも伊豆湖は、数秒だけ戻ってきた姉を前にして、事故の真相を問うことをやめた。

最後に必要だったのは、死の理由ではなかった。

生きている間に伝えられなかった愛情を伝えることだった。

『接物語』における「事故調査と真実」は、謎を一つの答えへ収束させるミステリーではない。

調査によって判明した事実、当事者の失われた記憶、専門家たちの推測、証明できない怪異の仮説を積み重ねた末に、「事故の真相よりも大切なもの」へ辿り着く物語として描かれていた。

31.戦物語
まとめ
34.鳥物語

登場キャラクター

臥煙遠江蘇生プロジェクト

忍野メメ

境都大学神道学部に通う大学生である。怪異に対してバランスを重視する立場を取り、臥煙伊豆湖や貝木泥舟らと行動していた。

所属組織、地位や役職
境都大学神道学部学生。臥煙遠江蘇生プロジェクトメンバー。

物語内での具体的な行動や成果
臥煙伊豆湖から持ちかけられた遠江の蘇生計画に参加した。影縫余弦とともに九州へ向かい、交通事故現場の調査を担当した。死体の材料が成人女性一人分に足りないことから、成人女性ではなく十二歳ほどの童女として死体人形を作る案を考案した。

事故現場では蛇面の幼女と出会い、洗人雨露湖と名付けて事故当時の情報を得た。さらに神原駿河とも接触し、事故当時の記憶が事実と食い違っていることを確認した。

反魂の儀式が失敗した後、自分が臥煙遠江から与えられていた特殊な両眼と死体人形の眼球を入れ替える心霊手術を行い、数秒間だけ遠江の自我を死体人形へ呼び戻した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
心霊手術によって失明したわけではなく、遠江から与えられていた怪異を見る特殊な視力を失い、通常の人間と同じ視界となった。その後、貝木に続いて境都大学を中退した。

臥煙伊豆湖からレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を託され、後に各地を渡り歩く怪異の専門家へとつながっていった。

また、誓約として今後一生、布団で眠らず枕も使わないことを自らに課した。

貝木泥舟

境都大学に通う大学生であり、臥煙遠江から家庭教師として教えを受けていた人物である。遠江に強い思いを抱いており、彼女の蘇生計画に参加した。

所属組織、地位や役職
境都大学学生。臥煙遠江蘇生プロジェクトメンバー。

物語内での具体的な行動や成果
臥煙遠江の遺体を入手するため、九州にある墓を自ら掘り返した。そこで遠江のものと思われていた焼け焦げた頭部を回収した。

成人女性一人分の肉体を作るには素材が足りなかったため、同じ事故で死亡したスクールバスの児童たちの遺族を訪ね、甘言を用いて遺体の一部を集めた。しかし集められた量は目標の約三十パーセントにとどまった。

後に、墓から掘り起こした頭部が遠江本人のものではなかった可能性が判明した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
蘇生のため魂の一部を捧げる際、「実はいい奴」であることを拒絶すると誓った。

自らの悪行について同情される理由や悲しい事情を用意せず、悪人として嫌われ、恨まれることを受け入れるという自罰を、その後も守り続けた。

臥煙伊豆湖

臥煙遠江の実妹であり、境都大学の上級生である。大学内では学生だけでなく教職員にも広い影響力を持ち、一説どころか通説として「学長より偉い」とまで語られていた。

所属組織、地位や役職
境都大学学生。臥煙遠江蘇生プロジェクトの発起人・チームリーダー。

物語内での具体的な行動や成果
交通事故で死亡した姉・臥煙遠江の死に疑問を抱き、本人を蘇生させて事故の真相を聞き出す計画を立ち上げた。

遠江が女子高生時代に生み出した怪異レイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を保管しており、反魂の儀式では蘇生の触媒として使用した。

忍野の心霊手術によって遠江の自我が数秒間だけ戻った際には、事故の真相を問いただすのではなく、姉を抱きしめ、生前伝えられなかった思いを直接伝えた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魂の一部を捧げる誓約として、「知らない」という逃げ道を捨て、あらゆることから目を逸らさない「なんでも知ってるおねーさん」であり続けることを選んだ。

遠江の自我が消滅して誓約の必要性がなくなった後も、その自罰を守り続けた。

影縫余弦

陰陽師の家系である影縫家の長女であり、当時は高校生だった。境都大学への進学を控えており、臥煙遠江蘇生プロジェクトにはインターンシップのような立場で加わった。

所属組織、地位や役職
影縫家の跡取り。高校生。臥煙遠江蘇生プロジェクトメンバー。

物語内での具体的な行動や成果
忍野メメとともに九州へ向かい、事故現場周辺で聞き込み調査を行った。

死体人形の材料として、吸血鬼に殺された妹・影縫余割の左右の足の剥製を提供した。

さらに、複数の死体が生きていた年月を合計して「百年使われた死体」と見なし、死体人形そのものを憑喪神として成立させる方法を考案した。

反魂の儀式では中心となって術式を実行した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魂の一部を捧げる誓約として、今後一生地面を歩かないと決めた。

遠江の蘇生計画が失敗し、誓約を守る必要がなくなった後も自らその制約を守り続けた。

後に、新しい魂を宿した死体人形を妹・余割の代用品ではなく独立した存在として引き取り、自らの式神とした。

手折正弦

影縫家の分家筋にあたる人物で、人形師見習いである。当時は境都大学一年生だった。

所属組織、地位や役職
境都大学一年生。人形師見習い。影縫家の分家筋。

物語内での具体的な行動や成果
プロジェクトの途中から新メンバーとして参加した。

貝木が集めた事故犠牲者の遺体、影縫余割の両足、遠江のものと考えられていた頭部などを素材として、死体人形の製作を担当した。

忍野が提案した十二歳程度の童女という条件に合わせ、複数の死体を加工・再構成し、どこに継ぎ目があるのかわからないほど精巧な死体人形を完成させた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
死体人形の完成に全身全霊を注ぎ込み、完成後は栄養失調で大学病院のベッドに倒れるほど消耗した。

蘇生のための魂の誓約を行った四人には含まれていない。

臥煙家・神原家・影縫家

臥煙遠江(神原遠江)

臥煙伊豆湖の実姉であり、神原駿の妻、神原駿河の母親である。人間離れした能力を持つ規格外の人物として語られていた。

所属組織、地位や役職
臥煙家出身。神原駿との駆け落ちによって臥煙家を離れ、神原姓となった。

物語内での具体的な行動や成果
九州で夫・神原駿、娘・神原駿河と車に乗っていた際、五台が絡む大規模な交通事故に遭い死亡した。

事故では神原駿も死亡したが、後部座席の神原駿河だけが生き残った。忍野は遠江が娘を庇ったと考えているが、作中でも自身の思い込みである可能性を認めており、具体的な方法まで確定しているわけではない。

忍野メメの眼球には、過去に遠江から与えられた特殊な視力とともに、遠江の自我の残滓が残っていた。忍野がその両眼を死体人形へ移したことで、数秒間だけ自我を取り戻した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
人間でありながら人間の枠を超えすぎたため、「しらやみ」のような世界の修正作用によって排除されたのではないかという仮説を忍野が立てた。

ただし、「しらやみ」は証拠も資料もない忍野の未確認推理であり、遠江の死因として確定したものではない。

神原駿河

臥煙遠江と神原駿の一人娘である。事故当時は幼い少女だった。

所属組織、地位や役職
神原遠江と神原駿の娘。事故後は神原家に引き取られた。

物語内での具体的な行動や成果
両親とともに軽自動車へ乗っていた際、大規模な交通事故に遭った。

同乗していた両親が死亡する中、駿河だけがほとんど無傷で生き残った。

後に忍野が事故について聞いた際には、事故当日に車へ同乗していたこと自体を覚えておらず、両親がデートへ出掛けるのを見送ったと記憶していた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事故の記憶を単純に失っただけではなく、事故に遭っていないという別の記憶を作り出したのではないかと忍野は推測した。

ただし、心理的ショックによって記憶を自ら改竄したことが医学的に確定したわけではない。

母親の死後は神原家に引き取られ、新しい生活を送ることになった。

神原駿

臥煙遠江の夫であり、神原駿河の父親である。神原家の一人息子だった。

所属組織、地位や役職
神原家出身。臥煙遠江の夫。

物語内での具体的な行動や成果
臥煙遠江と駆け落ちし、九州で生活していた。

遠江が運転する軽自動車の助手席に乗っていた際、五台が絡む交通事故に遭い死亡した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
交通事故によって死亡した。

本文では神原家の「当主」とは明記されていない。

影縫余割

影縫余弦の妹であり、影縫家の次女である。余弦以上に優秀だったとも語られるが、次女であるため跡取りにはなれない立場だった。

所属組織、地位や役職
影縫家の次女。

物語内での具体的な行動や成果
不死身の怪異を好み、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターに自ら会いに行き、殺された。

当初はスーサイドマスターに食べ尽くされたと思われていたが、実際には食べられておらず、左右の足が残されていた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
残された両足は影縫余弦によって呪術的に剥製化され、保存されていた。

後にその両足が臥煙遠江蘇生プロジェクトへ提供され、死体人形を構成する素材の一部となった。

怪異・式神・関連人物

斧乃木余接

臥煙遠江を蘇生するために作られた死体人形から生まれた新たな存在である。

所属組織、地位や役職
影縫余弦の式神。百年生きた死体の憑喪神。

物語内での具体的な行動や成果
複数の事故犠牲者の遺体や影縫余割の肉体の一部などを材料として、手折正弦によって十二歳ほどの童女の姿に作られた。

本来は臥煙遠江を蘇生させる器だったが、遠江の自我が数秒で消滅した後も死体人形そのものは残った。

その後、四人が魂の補強材として捧げたものや、合計百年以上生きた死体を用いた憑喪神化などの影響によって、遠江とは異なる新たな魂が宿った。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
臥煙遠江を蘇生させるための死体人形から、独立した怪異へと変化した。

影縫余弦に引き取られ、忍野メメから「斧乃木余接」と名付けられた。

影縫余割の偽物や代用品ではなく、一個の独立した存在として扱われた。

洗人雨露湖

九州の事故現場付近で忍野メメが出会った、全身を鱗に覆われた蛇面の幼女である。

所属組織、地位や役職
特定の組織への所属は本文では確認できない。忍野と出会った時点では名前も持っていなかった。

物語内での具体的な行動や成果
事故現場周辺の草藪にいる毒蛇たちから得た情報を基に、忍野へ五台が絡む交通事故の状況を伝えた。

雨露湖自身が事故を直接目撃したわけではない。

忍野へ名前を求め、「洗人雨露湖」と名付けられた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
忍野が名前を付ける以前は一般人には認識されにくい存在だったが、名付けられた後には身体を覆っていた鱗が剥がれ落ち、存在の在り方にも変化が生じた。

本文には「西表島を拠点とする蛇遣い」という設定は確認できない。

死屍累生死郎

何百年も昔に活動していた怪異の専門家であり、後に吸血鬼となった人物である。

所属組織、地位や役職
かつての怪異の専門家。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが唯一作った眷属。

物語内での具体的な行動や成果
「怪異殺し」と呼ばれていた人物であり、その名は元々、彼が振るった妖刀「心渡」に由来すると説明された。

忍野は山中で死屍累生死郎に関係する存在と遭遇したと語るが、その存在は怪異や幽霊というより、毒気によって見た幻覚にも近い「非存在」として描写されている。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
遠江の死について忍野が後に「しらやみ」説を考えるきっかけの一つとなった。

ただし「しらやみ」が実在すると死屍累生死郎本人が明確に確定したわけではなく、忍野自身も証拠のない未確認推理として扱っている。

デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター

古くから存在する伝説的な吸血鬼であり、「決死にして必死にして万死の吸血鬼」と呼ばれる存在である。

所属組織、地位や役職
不死身の怪異。吸血鬼。

物語内での具体的な行動や成果
影縫余割が好んでいた不死身の怪異であり、余割は自ら会いに行った末にスーサイドマスターに殺された。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
本編の臥煙遠江蘇生プロジェクトへ直接参加した人物ではない。

死屍累生死郎の主人でもない。死屍累生死郎を眷属にしたのはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードである。

事故関係者

小野道風音

臥煙遠江たちが巻き込まれた交通事故で、タンクローリーを運転していた女性である。

所属組織、地位や役職
タンクローリー運転手。

物語内での具体的な行動や成果
五台が絡む交通事故に巻き込まれ、死亡した。

事故の衝撃によって頭部が遠江の軽自動車内へ飛び込み、その後、遠江の遺体の一部として誤って埋葬された可能性が高いと考えられた。

貝木が遠江の墓から掘り起こして持ち帰った焼けた頭部も、小野道風音のものである可能性が最も高いと忍野は判断した。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
頭部は遠江のものと誤認されたまま死体人形へ組み込まれた。

ただし、小野道風音の頭部だったことは鑑定によって完全に確定したわけではなく、他の大型車両の運転手が男性だったことなどから忍野が見定めたものである。

後に忍野は彼女の名前と人生を改めて調査し、「斧乃木余接」という名前の「斧乃」に小野道風音の「小野」を重ねた。

臥煙遠江蘇生プロジェクトメンバー

臥煙伊豆湖が実姉・臥煙遠江を蘇生させるために立ち上げた非公式のプロジェクトである。

所属組織、地位や役職
臥煙伊豆湖をリーダーとする非公式の蘇生プロジェクト。

物語内での具体的な行動や成果
当初の中心メンバーは臥煙伊豆湖、忍野メメ、貝木泥舟、影縫余弦の四人だった。

途中から人形師見習いの手折正弦が参加し、死体人形の製作を担当した。

遠江のものと思われていた焼けた頭部、事故で死亡した児童たちの遺体、影縫余割の両足などを材料として十二歳の童女の死体人形を製作した。

影縫の発案で死体人形を「合計百年使われた死体の憑喪神」として成立させ、伊豆湖、忍野、貝木、影縫の四人がそれぞれ人生を縛る誓約を立て、魂の補強材として捧げた。

地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
遠江を完全に蘇生させることには失敗した。

さらに、遠江のものと思われていた頭部が別人のものだった可能性が判明し、計画は「歴史的大失敗」となった。

それでも死体人形そのものには新しい魂が宿り、後の斧乃木余接が誕生した。

遠江の自我が消滅したことで四人の誓約を守り続ける必要もなくなったが、四人は自分たちの犯した禁忌への自罰として、その後もそれぞれの制約を守り続けた。

物語戦物語 33の表紙画像(レビュー記事導入用)
<物語>接物語

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31.戦物語
まとめ
34.鳥物語

展開まとめ

第九十九話 よつぎフランク

語られざる死体人形の製作秘話

忍野メメは、死体人形である斧乃木余接がこの世に生み出された当時の経緯を振り返った。関係者全員にとって決して美化できない世紀の大失敗であり、長年秘匿されてきたあの子の誕生譚が語られ始めた。

貝木泥舟の挫折と臥煙伊豆湖の招集

境都大学の空き教室で、奨励会を辞めてきたばかりの貝木泥舟が将棋の不条理なルールについて不満を述べていた。喪服に身を包む彼に対し、忍野メメがその心情を推し量る中、先輩である臥煙伊豆湖が姿を現し、亡くなった実姉の臥煙遠江を生き返らせる計画への協力を二人に持ちかけた。

高校生・影縫余弦の合流とプロジェクトの始動

計画の四人目のメンバーとして、陰陽寺の跡取り娘である高校生の影縫余弦が紹介された。臥煙伊豆湖は、駆け落ち先で交通事故死した姉の死因に疑問を抱いており、真相を確かめるために死体と触媒を用いて蘇生を試みると説明した。影縫余弦が死体の必要性を説き、貝木泥舟が故郷の土葬地から遺体を掘り起こす役目を引き受ける中、臥煙伊豆湖は形見であるレイニー・デヴィルの心臓の木乃伊を提示した。

事故現場への調査と影縫余弦の動機

忍野メメは影縫余弦を後部座席に乗せた二人乗り自転車で、九州にある遠江の交通事故現場へと向かった。道中、影縫余弦は不死身の怪異を好んで吸血鬼に殺された妹の余割について語り、人を生き返らせることが正義か悪かを見極めるために参加したと明かした。到着した現場は大規模な迂回路設置工事が進められており、事故の痕跡は隠蔽されつつあった。

蛇面の幼女との取引と事故の異様性

警察署へ向かった影縫余弦と別れ、手がかりを探していた忍野メメは、事故当日の古新聞を売りつけてきた蛇面の幼女と出会った。全財産と引き換えに得た新聞記事の小ささに落胆する忍野メメに対し、幼女は名前を要求した。忍野メメが洗人雨露湖と名付けた直後、幼女は脱皮して素肌を露わにし、現場の交差点で遠江の軽自動車に対し四方から大型車が突入した逆玉突き事故の詳細を語った。

一人娘・神原駿河の生存発覚

洗人雨露湖から、大事故の中で遠江の後部座席に乗っていた一人娘の神原駿河が無傷で生き残ったと聞かされた忍野メメは、遠江が命を賭して娘を庇ったのだと確信した。合流した影縫余弦も警察の世間話から事故の裏付けを取っており、猛烈な大火と生コンクリートの流入により、完全な遺体が残っていない可能性が浮上した。

焼け首の回収と死体人形案の浮上

夜、大学の医学部霊安室に集まった一行の前に、貝木泥舟が墓から掘り起こした遺体を持ち帰ったが、それは黒焦げの頭部のみであった。影縫余弦は親戚の手折家に依頼して不足部位を補う死体人形の作成を提案し、その素材として事故現場で死亡したスクールバスの児童たちの遺体を利用する方針が浮上した。児童の遺族を騙してパーツを集める役目を貝木泥舟が引き受けた。

神原家訪問と町を覆う瘴気

翌朝、忍野メメは臥煙伊豆湖とともに深夜バスで神原駿河が引き取られた町へ向かった。町に漂う濃密な瘴気を察知した忍野メメは、神原家へ向かう臥煙伊豆湖と別れ、原因の調査を開始した。道中、交通事故現場で祈りを捧げる読書家の少女と出会った後、激しい息遣いで走る体操着姿の神原駿河と遭遇した。

神原駿河との接触と走法の伝授

神原駿河は母の形見である猿の左手に足が速くなるよう願った結果、周囲を傷つける呪いに怯えて独学で走っていた。忍野メメは煙樹ヶ浜槐と偽名を名乗り、貝木泥舟の走法を伝授して彼女を励ました。しかし神原駿河の記憶からは事故当日の同乗体験が完全に抜け落ちており、心理的ショックによる記憶の改竄が判明した。

廃神社での対峙と初代怪異殺しの影

町の瘴気が集まる山頂の崩壊した北白蛇神社に登った忍野メメは、かつて両目を包帯で覆っていた少年時代の自身の姿をした死屍累生死郎と遭遇した。死屍累生死郎は神社の崩壊と瘴気の流入が現状は七年ほど保つと告げ、遠江の死因として、人間を超越した存在を排除する世界の修正機能であるしらやみの存在を口にした。

臥煙伊豆湖とのサシ飲みと深層心理

下山した忍野メメは臥煙伊豆湖と合流し、居酒屋で互いの調査結果を報告し合った。臥煙伊豆湖は神原駿河への催眠インタビューを通じて遠江が娘を庇った事実を確認していた。忍野メメは死屍累生死郎から聞いたしらやみの仮説を秘匿し、臥煙伊豆湖が姉の死の真相以上に、姉からの好意を確かめたがっているのではないかと推測した。

人形師・手折正弦の参加と十二歳の童女義体

後日、霊安室に人形師の手折正弦が加わった。貝木泥舟が集めた児童の遺体は目標の三割に過ぎず、成人女性の再現には不足していた。影縫余弦が実家から持ち出した妹の余割の足の剥製を差し出したことを契機に、忍野メメは素材の分量に合わせて十二歳の童女の死体人形として仕上げる案を出し、臥煙伊豆湖の承認を得て制作が開始された。

憑喪神方式と魂の分割補強

影縫余弦は、バラバラの遺体を合計して百年生きたと見なす憑喪神方式を採用し、自我の崩壊を防ぐため術者四人の魂を分け与えて補強する方針を提示した。手本として影縫余弦が生涯地面を歩かない誓約を掲げる中、他の三人は死体人形が完成するまでの約一年間にわたり、自らが切り分けるべき魂と誓いの内容を模索し続けた。

反魂の儀式と怪異の拒絶反応

完成した童女の死体人形の胸に木乃伊の心臓が置かれ、四人は肉体に触れてそれぞれの誓約を立てた。影縫余弦に続き、臥煙伊豆湖は何でも知っているお姉さんであり続けることを、貝木泥舟は決して善人にならないことを、忍野メメは二度と布団や枕で眠らないことを誓った。全員の魂の補強が出揃ったところで、影縫余弦の呪文によって魂を呼び戻す儀式が執り行われた。しかし蘇生した童女は凄まじい炎と苦痛の叫びを上げ、ガソリンと絶叫して激しくのたうち回った後、再び物言わぬ死体へと戻った。

取り違えの発覚と忍野メメの決断

頭部が遠江のものではなく、現場で巻き込まれたタンクローリーの女性ドライバーのものであったという取り違えが判明し、プロジェクトは致命的な失敗に終わった。絶望した臥煙伊豆湖が解散を宣言する中、忍野メメはかつて女子高生時代の遠江から心霊手術で譲り受けていた自身の両眼を死体人形へ移植し、遠江の自我を呼び戻す最後の賭けに出た。

遠江との再会と真の思い

両眼を交換したことで死体人形は静かに身を起こし、かつての遠江の視線を取り戻した。駆け寄った臥煙伊豆湖は姉を抱きしめ、生前に伝えられなかった愛と感謝を涙ながらに叫んだ。童女は無表情のままキメ顔で一言応じた後、完全に機能を停止して自我を消滅させた。

代償としての呪いと斧乃木余接の誕生

後日、忍野メメは怪異を見る視力を失って大学を中退したものの、臥煙伊豆湖から役目を終えた木乃伊の心臓を託された。自ら課した誓約は残り続け、四人はそれぞれの制限を背負って生きることとなった。残された死体人形には四人の魂の残滓が宿り、影縫余弦の式神として引き取られることになった。忍野メメは、犠牲となったタンクローリーの運転手である小野道風音の姓に由来する斧始めの「斧」、木乃伊の「乃」、貝木泥舟から譲り受けた「木」を合わせ、余りものを接ぎ合わせた事実から、その式神童女を斧乃木余接と名付けた。

七年後の招集

七年の歳月が流れた後、放浪を続ける忍野メメのもとに、成長することのない式神童女となった斧乃木余接が現れた。臥煙伊豆湖からの伝言として、あの町の山に大物が引き寄せられたことを知らされた忍野メメは、再びその地へ向かう準備を整えた。

31.戦物語
まとめ
34.鳥物語

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