物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー・冒険譚である。本作は「水属性の魔法使い」シリーズの第二部に位置し、主人公・涼の成長と戦いを描く壮大な冒険記である。仲間と国を守るため、異なる大陸から駆けつけられるのかを軸に物語が展開される。
内容紹介:
涼が西方諸国で堕天使との死闘に臨んでいる間、中央諸国では国境の街が“人ならざる者”の大軍に次々と陥落しているという緊急事態が起こる。伝承によれば、それは初代王が封印した魔人の眷属であるらしい。王国軍5万人を以てしてなお苦戦し、涼に迫る最大の試練と、“水属性魔法の真の力”の覚醒の瞬間が描かれる第5巻である。
主要キャラクター
- 涼:本シリーズの主人公。最強と称される水属性の魔法使い。悠久の時間の中で研鑽を重ね、戦略と人間性を併せ持つ英雄である。
- アベル:中央諸国の王族。涼を信じ、絶望的状況下でも彼への信頼を口にした剣士である。
物語の特徴
本作の魅力は、単なる異世界冒険ではなく、“複数地域の視点でダイナミックに描かれる群像劇”にある。西方と中央の異なる舞台を同時に展開させ、涼の戦いと中央諸国の緊迫が交錯する構成は、他のファンタジー作品とは一線を画す戦略性と緊張感をもたらす。また、水属性魔法の奥義的な描写と世界観の設定の厚さも本作ならではの魅力である。
書籍情報
水属性の魔法使い 第二部 西方諸国編5
著者:久宝忠 氏
イラスト:めばる 氏
出版社:TOブックスス
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あらすじ・内容
涼が西方諸国で堕天使と死闘を繰り広げている頃、中央諸国では奇妙な事件が起こっていた。人ならざる者の大軍が国境の街を次々と攻め落としているのだ。伝承を紐解くと、敵の正体はかつてナイトレイ王国初代国王リチャード1世が封印した魔人ガーウィンの眷属だった! 王国東部の貴族家を乗っ取り、復活の機を見計らっていたのだ。王国軍5万が征伐へ向かうが、切り札だったはずのゴールデン・ハインド号すら歯が立たない。人間とは隔絶した力を目の当たりにしたアベルは涼にメッセージを残した。
「――もう、王国はダメかもしれん。絶対に中央諸国に戻ってくるなよ」
仲間と国を守るため、遠く数千キロ離れた西方諸国から駆けつけられるのか!?
「水属性魔法の真の力、思い知らせます!」
最強水魔法使いの気ままな冒険譚、第二章が衝撃のクライマックスへ!
感想
涼が西方諸国で堕天使と戦っている頃、中央諸国では魔人ガーウィンの復活という、とんでもない事態が発生する。アベルはなんとか対処しようと奔走するものの、魔人の圧倒的な力の前に苦戦を強いられる。リョウのいない王国は、こんなにも脆いものなのかと、アベルのピンチにずっとハラハラさせられた。第一部のラストも王国がピンチだったけれど、リョウの存在の大きさを改めて感じさせられる。
今回の物語は、まさに魔人大戦と呼ぶにふさわしいスケールだった。魔人ガーウィンとその四将、オレンジュ、イゾールダ、ヴィム・ロー、ジュクといった強敵たちが登場し、アベルたちを苦しめる。『虚影兵』と『実体兵』という戦術も用いられ、戦況は常に混沌としていた。ゲッコー商会のエヴァンスとクロエ、ジグーとルーチェといったお馴染みのキャラクターたちの活躍も嬉しい。ザックとスコッティーとハフリーナによるスキヴィト砦の防衛戦は、手に汗握る展開だった。シャーフィーの冒険や、巡察使アッサーとの出会いも、物語に深みを与えている。『明けの明星』とウイングストン、『暁の国境団』の決戦準備など、多くのキャラクターたちがそれぞれの場所で戦っている姿に、心を揺さぶられた。
アベルが魔人討伐のために親征する場面は、彼の成長を感じさせる重要なシーンだ。『長距離拡散式女神の慈悲』や『敵味方識別タグ』といった魔法アイテムも登場し、戦闘シーンを盛り上げる。アベルVS魔人の激闘は、まさに息をのむ迫力だった。セーラや魔王、勇者といった意外なキャラクターたちの参戦も、物語に華を添えている。
そして、ついに涼が帰還する。しかし、魔力暴走によってアベルと涼が消えてしまうという、衝撃的な結末を迎える。第二部完結巻にふさわしい、怒涛の展開だった。
少し残念だったのは、妖精王のブーツの力が結局謎のまま、あまり活躍しなかったことだ。しかし、それもまた、物語の奥深さなのかもしれない。
『水属性の魔法使い』は、戦いだけでなく、登場人物たちの日常や人間関係も丁寧に描かれている点が魅力だ。アベルと涼の絆、仲間たちとの信頼関係、そして敵との戦いを通して成長していく姿に、心を打たれる。
第三部が待ち遠しい。アベルと涼は一体どこへ消えてしまったのか、そして、王国はどうなってしまうのか。今後の展開に期待したい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
最終章魔人大戦
クルチョの街陥落
ナイトレイ王国との国境にあるハンダルー連合西部の街クルチョは、王国旗を掲げた一万騎の軍勢によって急襲され、三十分で陥落した。連合執政オーブリー卿は報を受け、王国の仕業と断定するには不自然さがあると考え、謀略の可能性を疑った。王国との全面戦争に繋がるには状況が整っていないことから、別勢力の関与を推察したのである。
王国内の動揺と商会の情報網
王国でも国王アベルにクルチョ陥落の情報が届き、王国軍の関与を否定した。宰相ハインライン侯は各地の領軍を確認し、王国にそんな大軍を動かす余地はないと断定した。王国は商会と結んだ情報協定を活用し、広域から情報を集めて情勢把握を急いだ。こうして、民間の商隊がもたらす情報網は国政において重要性を増していた。
バン・レーンの街の陥落
クルチョ陥落から程なくして、王国東部国境の街バン・レーンも同様の軍勢に襲撃され、三十分で陥落した。現場を目撃した商隊が伝書を放ち、その報告は王都へ届いた。アベルはハインライン侯と共に連合との首脳会談を急ぐ必要を認識し、錬金術師ケネスを同席させることを決定した。緊急時に王国と連合を直接繋ぐ通信網の構築を視野に入れていたのである。
連合と王国の会談
国境上に設けられた天幕で、国王アベルと執政オーブリー卿は会談した。両者は互いの関与を否定し、相手の言葉に虚偽がないことを確認した。襲撃者の真の目的は不明であり、帝国の関与も地理的に困難であるため、謎は深まった。さらに両都市の住民が虐殺され、物資の略奪もないという異常な状況が判明した。
魔人の影の兆候
アベルは、騎馬が次々と城門に突撃し霧散したという報告を共有した。これを受け、錬金術師フランクは魔人の軍勢に関する伝承を想起し、事態が魔人復活に繋がる可能性を指摘した。オーブリー卿とアベルは、その現実味を認めざるを得なかった。二人は伝承官ラーシャータへの確認を急ぐことを決定し、魔人の影が顕在化しつつあることを理解したのである。
ガーウィンの暗躍と策謀
ウイングストン領主館で、アーウィン・オルティスの姿をした存在は、実際には東に封じられた魔人ガーウィンであった。彼は力を完全に回復できず、最後の二割を満たすために人間の死による「神のかけら」の収集を必要としていた。配下のイゾールダは戦争を待つのではなく、自ら積極的に人間を殺すべきだと提案し、ガーウィンもこれに同意した。巨漢オレンジュと黒鎧の戦士ヴィム・ローには実体兵を率いて連合領を荒らす任務が与えられ、復活のための血の流れを広げる方針が定められた。彼らはガーウィンとその四将であり、東部を拠点に活動を開始した。
虚影兵と実体兵の伝承
一方、王城では国王アベルがラーシャータ・デヴォー子爵を招き、魔人伝承の確認を行った。ラーシャータは虚影兵が魔人の力で生み出された霊体兵であり、剣を通さず攻撃時のみ実体化する性質を持つと説明した。ただし活動時間に制限があり、長くても数日しか持続しないとされる。また、実体兵は生身の人間を操る兵であり、意思を持たず魔人や将軍の命令に従う強力な存在だと伝えられていた。虚影兵の出現は魔人復活の兆候であるが、完全覚醒ではない可能性も示された。
王国東部の治安悪化
クルチョとバン・レーン陥落後、王国東部と連合西部では赤い鎧を着た一団による村々への襲撃が頻発した。王国は治安維持のため騎士団を派遣することを決定したが、東部貴族の力は弱体化しており、他地方の領軍派遣は民心を乱すため難しい状況にあった。そのため王国騎士団が直接介入することとなった。
ゲッコー商会の救援行動
東部国境を移動していたゲッコー商会第三商隊は、第一商隊が赤鎧の兵に襲われているとの報を受け、救援に駆けつけた。第一商隊頭ジグーは戦闘中に倒れていたが、第三商隊は氷魔法とポーションを駆使して仲間と巡視隊を救出した。戦闘相手の赤鎧兵は無表情で感情がなく、人間とは思えぬ存在であった。救出後、商隊はハフリーナの街へ撤収し、領主ミラベル・パワー子爵の感謝を受けた。
ハフリーナ子爵と王国騎士団
ミラベルは神殿に育てられた身であったが、王室により正統な子爵として認められ、領地復興に尽力してきた人物であった。今回、王国騎士団二個中隊が駐留しており、指揮するのはザック・クーラーとスコッティー・コブックであった。彼らはゲッコー商会の働きを称え、治安悪化に備えて連携を強めた。こうして東部の不穏は拡大し、魔人の影が確実に現実となりつつあった。
ハフリーナ防衛戦
王国騎士団の防衛体制
ハフリーナの街には王国騎士団二個中隊が駐留しており、中隊長ザック・クーラーとスコッティー・コブックが指揮を執っていた。彼らは交互に出撃する体制を整えており、赤鎧の騎士による襲撃に備えていた。北方の村で狼煙が上がると、スコッティーが部隊を率いて出撃し、ザックが街の防衛を担当することとなった。
赤鎧の実体兵による夜襲
その頃、魔人ガーウィンの四将の一人オレンジュが実体兵三百を率いて夜襲を開始した。実体兵は人間の肉体を持ち、指揮官ブルーニュや副官グリーニュが前線で指揮を執っていた。しかし攻城は思うように進まず、オレンジュは自ら戦場に出て城門を突破する決意を固めた。
ザックとオレンジュの交戦
偶然城門付近にいたザックは、侵入してきたオレンジュと対峙した。ザックは王国騎士団屈指の剣士であったが、オレンジュの剣技は桁外れであり、激戦の末に深手を負った。それでもザックは退かず、城門死守のため剣を振るい続けた。
エヴァンスの介入
商隊頭エヴァンスが駆けつけ、氷魔法でオレンジュを阻んだ。彼の<アイスウォール>はオレンジュの剣を一時的に防ぎ、さらに<アイシクルランス>で攻撃を仕掛けた。ザックにはポーションを与えて命を繋ぎ、同時に戦線を維持した。エヴァンスは商人でありながらも、水魔法の高度な技量を発揮して戦場に立った。
ルーチェの参戦
オレンジュの猛攻に追い詰められたエヴァンスを救ったのは、第一商隊の若者ルーチェであった。血を流しすぎて顔色は悪いながらも、彼は<アイスウォール>を展開し、再び城門を守り抜いた。商人と騎士団、そして若き魔法使いたちが力を合わせ、ハフリーナの防衛戦は続いていった。
オレンジュの提案と戦闘前の会話
ハフリーナ城門前で戦うオレンジュは、回復薬を使って整えるよう敵に促し、純粋に戦いを楽しもうとした。ザック・クーラー、エヴァンス、ルーチェはそれぞれ応じ、名乗りを交わした後に会話が続いた。魔法発動に詠唱を必要としない二人の弟子に注目したオレンジュは、彼らの師が「リョウ」であることを知り、その強さに大きな関心を示した。ザックもその名に驚き、ルーチェとエヴァンスが絶対的な尊敬を抱いている様子を確認すると、オレンジュはますます戦闘への熱を高めた。
三人とオレンジュの激闘
エヴァンスとルーチェは氷の壁や氷槍を組み合わせて前衛のザックを支援し、三人がかりで攻め立てた。しかしオレンジュは大剣一本で全てを防ぎ、圧倒的な技量を示した。ザックは深手を負いながらも退かず、二人は時間稼ぎのために魔法を重ねた。だがオレンジュは力で押し切り、ザックに決定的な一撃を与える場面もあった。
シルバーデール騎士団の突撃
戦いの最中、城外の情勢が急変した。ブルーニュとグリーニュ率いる実体兵部隊を、シルバーデール騎士団が背後から突撃で粉砕したのである。フェイス嬢が率いる三百の騎士団は王国随一の実力を誇り、五度の突撃で敵を撃破し、攻城戦を終わらせた。これによりハフリーナは守られ、人間側が魔人の眷属に初勝利を収めた。
戦後の報告と評価
王都に戻った国王アベルは、宰相ハインライン侯から報告を受けた。上級の眷属オレンジュが現れたが、ザック・クーラーの奮闘とゲッコー商会の商人二人の助力、さらにシルバーデール騎士団の到着によって街は防衛されたと知った。アベルはリョウの弟子である少年たちの活躍に驚きつつも納得し、彼らの存在が大きな力になっていることを理解した。
戦後の人々と眷属側の動き
ハフリーナではルーチェが疲弊し、エヴァンスが彼を労った。ルーチェは己の力不足を悔いながらも、先生に褒められるかどうかを気にする姿を見せた。一方ウイングストンでは、ガーウィンの外見を持つ存在の下でオレンジュが叱責と賞賛を受け、イゾールダは次の段階として王国軍を誘い出す計略を提案した。魔人の居所を意図的に漏らし、さらなる戦いと血を呼び込む準備が進められようとしていた。
シャーフィーの冒険(with アッサー)
捕縛と誤解
護衛任務を終えてレッドポスト支店への帰還命令を受けたシャーフィーは、途中のヴィッラルモーザで兵に囲まれ、理不尽に捕縛された。抵抗を避けたものの、魔法使いアッサーによって気絶させられ、牢獄に収監される。やがて誤認逮捕と判明し釈放されるが、真犯人は商人一家を惨殺した剣の達人であった。実はその捕縛を手伝ったのもアッサーだった。
アッサーとの同行
シャーフィーは解放後、再びアッサーと出会う。老人は「巡察使」を名乗り、レッドポストまで同行を申し出る。結局馬車に同乗することになったシャーフィーは、御者を押し付けられ愚痴を漏らす。道中、アッサーは自らの役割が「領主や権力者の不正を暴くこと」であり、今回は魔人封印に関する最終確認のため王国へ向かうと語る。さらに、かつて教え子だった「爆炎の魔法使い」オスカーとの記憶を胸に秘めていた。
国境越えと別れ
両国での手続きを経てレッドポストに到着すると、二人は別れを告げる。短い旅路ながらも、シャーフィーはアッサーの人となりに触れ、まともな魔法使いもいると実感するのだった。
商会からの任務
支店に戻ったシャーフィーは「配達室」で指令を受け取る。それは「ルン帰還の際、ウイングストンに立ち寄ることを禁じる」という内容を東部国境方面の三つの商隊に届けよというものだった。赤鎧の脅威が迫る情勢下、鷹便ではなく自らが直接届けるべき機密情報――。だが、肝心の商隊の所在が分からないという難題が待ち受けていた。
第二商隊への伝達と残る任務
レッドポスト支店で偶然第二商隊と遭遇したシャーフィーは、情報を無事に伝えることに成功した。残るは第一商隊と第三商隊だが、両隊は国境沿いを南北に広く移動しており、所在の特定は難しかった。どちらに向かうか思案する中、再びアッサーと出会う。
ウイングストン封印の疑惑
アッサーはウイングストンに魔人本体が封印されている可能性を示し、その報告をオーブリー卿に伝えると語った。さらに南方ハフリーナで赤鎧による大規模な襲撃があった情報を口にし、馬車での同行を提案する。結局シャーフィーは御者役を押し付けられ、共に南下することになった。
暗殺教団の刻印とアッサーの驚愕
道中、シャーフィーは暗殺教団時代の体験を語る。入団者は心臓の上に双頭の鷲を剣で貫いた紋章を刻まれ、裏切れば石槍が胸を貫く仕組みになっていた。魔法陣も魔法式も伴わぬ紋様であることを知ったアッサーは強い衝撃を受け、その異常性を「世界の魔法の枠組みを揺るがす」と断じた。
赤鎧との交戦
南下途中、二人は五騎の赤鎧に襲われる。アッサーの<物理障壁>で騎馬を弾き落とし、炎矢で二体を仕留め、残りを押さえ込んで焼き払った。シャーフィーも一体を討ち取ったが、敵が痛みを無視して戦う姿に戦慄する。戦闘後、アッサーは詠唱を改変することで障壁を遠隔展開できることを示し、魔法の精緻さを語った。
戦いの連続と覚悟
さらに砂塵を上げて迫る新たな赤鎧の集団を確認した二人は、逃げれば民を犠牲にするとの思いから再び戦う決意を固める。シャーフィーはナイフから奪った剣へと得物を替え、次の戦闘に備えるのだった。
隊長格との遭遇
砂塵の中から現れたのは二十余騎の赤鎧と、緑髪と青髪の鎧を纏った二体の隊長格であった。アッサーは<物理障壁>で馬を落とさず、情報収集を優先した。問いかけに対して嘘をつくも、見破られて戦闘が始まる。アッサーは高速詠唱の<ファイヤーアロー>で赤鎧を瞬時に殲滅し、残る隊長格二体との戦いへと移った。
アッサーとグリーニュの決着
緑髪のグリーニュはアッサーに斬りかかるが、すでに四方に張られた<物理障壁>に阻まれる。アッサーは障壁で動きを封じ、炎矢を四方八方から叩き込み、グリーニュを焼き尽くした。その姿は、老魔法使いながらも眷属を凌駕する力を示すものであった。
シャーフィーとブルーニュの剣戟
青髪のブルーニュと対峙したシャーフィーは、暗殺者として鍛えられた体捌きで力の差を補い、間合いを操作し続けた。恐怖を糧にして冷静さを保ち、最後は間合いを崩してナイフで頸動脈を突き、心臓を貫いて勝利した。シャーフィーはリョウの圧倒的な恐怖を知るからこそ、この強敵に萎縮しなかったのである。
商隊との合流と任務達成
戦いを終えた二人の前に、第一商隊と第三商隊が現れた。シャーフィーは機密の命令を伝え、両商隊はルン帰還の安全な経路を決定した。ルーチェとエヴァンスは師リョウへの敬意を語り、アッサーは彼らに強い関心を示した。こうしてシャーフィーは任務を完了し、商隊と共にレッドポストへ戻ることになった。
連合政府の報告と王国の懸念
その頃、連合首都ジェイクレアでは、オーブリー卿がアッサーの報告を受け、魔人封印の地がウイングストンである可能性を確認した。だが、被害地域の多くはヴォルトゥリーノ大公国領内であり、大公の頑固さが対応を遅らせていた。
一方、ナイトレイ王国では宰相ハインライン侯が、シュールズベリー公爵邸別館に眷属が出入りしているとの情報をアベル王に報告した。加えて、魔人本体がウイングストンに封印されているとの商会経由の情報も伝わり、両者は重い判断を迫られた。アベルは、未成年の公爵アーウィン・オルティス自身が関与しているかどうかの確認を最重要視し、騎士団ザック・クーラーに調査を命じることを決定した。
ウイングストンへ
明けの明星への依頼
冒険者パーティー「明けの明星」の五人は、宰相ハインライン侯爵の依頼を受け、ウイングストンに潜入した。任務はシュールズベリー公爵家と魔人眷属の関係を確認し、情報提供者の補助と保護を行うことであった。彼らは潜入諜報員の報告を読み込み、魔人の眷属の情報を整理したが、依頼の危険性に全員が渋い顔をしていた。
ザックとスコッティーの潜入
同じ頃、王国騎士団中隊長ザック・クーラーとスコッティー・コブックも、商人に偽装してウイングストンに入った。任務は上級眷属が公爵邸に出入りしているかの確認であり、特にザックはその顔を直接見た経験を持っていた。二人は監視任務に移り、地下道で公爵邸別館と繋がっているとされる屋敷を酒場から見張った。
尾行と遭遇
深夜、屋敷から出てきた四人を追跡するが、途中で正体が露見する。ザックとスコッティーは襲撃を受け、そこに現れたのはかつて交戦した魔人の四将オレンジュであった。彼の存在により、公爵家と魔人との繋がりが確実であることが明らかとなり、情勢は決定的な局面を迎えた。
オレンジュとの交戦
ザックはオレンジュに押し込まれ、スコッティーも眷属二体を相手に苦戦した。そこに「明けの明星」が乱入し、オレンジュとの戦闘に突入した。剣士ヘクターや槍士アイゼイヤの攻撃も通じず、斥候オリアナの投げナイフや魔法使いケンジーの石槍も防がれた。神官ターロウの<サンクチュアリ>や<エクストラヒール>によって辛うじて戦線を維持するが、オレンジュは圧倒的な力を誇示した。
撤退と脱出
オレンジュが最上級眷属であると自ら名乗る中、「明けの明星」はハインライン侯から託された爆発する投げナイフを用いて隙を作り出した。その一撃は赤鎧たちにも命中し、混乱の隙に七人は撤退に成功した。こうしてザックと「明けの明星」は、魔人の眷属と公爵家の関係を確信しつつも、命を繋いで脱出することができた。
オレンジュとイゾールダの会話
七人が去った後、オレンジュは気配が消えるまで動かずに待機した。彼は黒い粉付き投げナイフを受けても致命傷には至らず、部下の眷属は灰となって消えた。そこにガーウィンの眷属イゾールダが現れ、二人は人間たちとの戦闘について語り合った。オレンジュはザックや「明けの明星」の実力を認め、努力を称賛したが、イゾールダは結果こそが評価の基準であると主張し、両者の価値観の違いが浮き彫りになった。彼らの真の目的は、情報を王国に持ち帰らせ、戦争を誘発することであった。
神のかけらの謎
イゾールダは王国と連合の挟撃を意図的に誘発し、多くの死を通じて「神のかけら」を放出させる計画を示唆した。ガーウィンの完全覚醒にそれが必要だとされるが、その仕組みは眷属である彼らすら詳しく理解していなかった。リチャードがその理解に最も近かった可能性が語られ、依然として大きな謎が残されていた。
騎士と冒険者の合流
一方、ザックとスコッティーは「明けの明星」と再会し、互いに助力を感謝し合った。オレンジュとの戦闘がいかに圧倒的であったかを確認し、王国政府への報告を託すことを決定した。ザックは、魔人と公爵家の関係が敵にも察知されたことを懸念し、戦争不可避との認識を共有した。
公爵と眷属の関係確認
「明けの明星」は依頼の最終段階として、シュールズベリー公爵自身と眷属の関係を直接確認する任務に挑んだ。作戦には黒い粉を利用した大規模な音響工作が用いられ、公爵邸周辺を混乱に陥らせた。その中で、公爵アーウィン・オルティスとオレンジュが共に現れ、公爵が眷属に命令する姿が目撃された。これにより、公爵が魔人と繋がっているどころか、魔人そのものである可能性すら示唆された。
王国への報告と決断
二日後、宰相ハインライン侯爵はアベル王に報告を行った。アーウィンが眷属と行動を共にしている事実が伝えられ、王は衝撃を受けつつも、討伐の必要性を認めざるを得なかった。かつて信頼した貴族が魔人である可能性に直面し、王国は再び分裂と戦乱の危機へと歩み出すこととなった。
決戦準備
決戦前の『暁の国境団』の決断
フローラはオーブリー卿からの提案を仲間たちに伝え、協力すべきかどうか意見を求めた。だが仲間たちは迷わず肯定的であり、ジギバンが「悩む必要はない」と断言したことで、フローラも心を決めた。こうして『暁の国境団』は連合政府に協力し、首都ジェイクレアへ向かうことを決断した。
アベル王の判断とオーブリー卿の所感
オーブリー卿はナイトレイ王国のアベル王と直通回線で会談した。アベル王は国境を越えての軍行を容認する姿勢を示し、その豪胆さにオーブリー卿も驚嘆した。彼は「有能な隣国の指導者がよいか、愚かな指導者がよいか」という難問を語り、補佐官ランバーとの間で認識を深めた。
ファウストの謝罪とナラの裁断
戦争状態宣言の直前、フローラはオーブリー卿に呼ばれ、護衛のカラとナラと共に別室に通された。そこに現れたのは三年前ナラを攫ったファウストであった。フローラとカラの怒りを前に、フラムが剣を振るいファウストの左腕を斬り落とす。ナラはその腕を自らの魔法で細切れにし、「これで許します」と告げた。これにより確執は解消された。
会議とフローラの評価
大会議室に入ったフローラたちは否定的な視線を予想したが、多くの軍事関係者は有能な戦力の加入を歓迎していた。ジェイクレア大神官ジェルトルデはフローラに再会し、彼女の進む道を肯定した。また、科学者フランク・デ・ヴェルデとも挨拶を交わし、人工ゴーレムによる戦力補填の説明を受けた。
戦争状態宣言の布告
会議の壇上でオーブリー卿は、正午をもって連合が戦争状態に入ることを宣言した。独裁官として全軍事力を統括し、敵は「魔人の眷属」であると明言された。さらにオドアケル将軍が説明に立ち、赤鎧五百体が籠るスキヴィト砦と、別働で各地を荒らす五百体の存在が明らかにされた。これにより、連合各国は結束して対魔人戦へと動き出したのである。
スキヴィト砦の戦い
進軍と布陣
戦争状態宣言の直後、オーブリー卿率いる連合軍三千はジェイクレアを進発し、翌朝の決戦を目指してスキヴィト砦へ急行した。兵三千、魔法使い百、神官二百、そして人工ゴーレム二百という異例の布陣。フローラはジェルトルデ大神官や神官団と共に後方治療幕へ配属され、『暁の国境団』は重傷者の搬送・選別を担うこととなった。
ゴーレムと赤鎧の激突
戦闘開始とともに、百体のゴーレムが先陣を切って突撃。赤鎧は初めて目にする人工兵器に対応を迷い、迎撃が遅れる。弓矢が有効に機能し、ゴーレムの体当たりが赤鎧を吹き飛ばすが、赤鎧は恐怖も痛みも無視して立ち上がる。その粘り強さに兵らは顔をしかめるも、正面突破で一体ずつ磨り潰す消耗戦が展開された。
後方への脅威と『暁の国境団』の役割
やがて赤鎧の一団が本陣を狙って侵入。後詰のゴーレム百体と三千騎の三分の一が迎撃に回る一方、『暁の国境団』は重傷兵を見極めて治療幕へ搬送する任務に奔走した。ジェルトルデ大神官は「適切な選別だ」と評価し、フローラと共に<エクストラヒール>を次々に施す。仲間を信頼する団員たちの働きが、戦線維持の一助となった。
黒鎧ヴィム・ローの出現
戦場後方に現れたのは、上級眷属「黒鎧」――ガーウィン四将の一人ヴィム・ロー。炎帝フラム・ディープロードが一人で立ちはだかり、圧倒的な剣技で防ぎ続ける。だが疲労の隙を突かれ、黒鎧は治療幕へ突破を開始。護衛剣士カラは腹を斬られ倒れ、ナラとファウスト・ファニーニが迎撃に回る。
ナラとファウストの共闘
ナラの<ダウンバースト>がヴィム・ローの足を止め、ファウストの土魔法が押し潰す隙を作る。さらにナラが風属性上級魔法<エアカッター>を放ち、黒鎧の首を刎ね落とす。ファウストの石壁が追撃し、その肉体を押し潰して完全に討伐した。
戦闘の終結と代償
黒鎧の撃破とほぼ同時に、千体の赤鎧も掃討された。犠牲は兵三十名、ゴーレム大破三十五、小破百。オーブリー卿は「死者には慣れぬ」と漏らし、フランク・デ・ヴェルデも「想定内ではあるが、魔人本体を相手取れる自信はない」と苦渋を滲ませた。
こうしてスキヴィト砦の戦いは、連合軍の勝利によって幕を閉じた。しかしそれは同時に、「魔人大戦」と後世に呼ばれる激動の始まりに過ぎなかった。
魔人討伐
御前会議と情報共有
ナイトレイ王国王城において、国王アベル一世、王妃リーヒャ、宰相ハインライン侯爵らが参集し、魔人討伐に関する御前会議が開かれた。報告によれば、魔人ガーウィンは四将と呼ばれる上級眷属を従えており、眷属には霊体に近い「虚影兵」と、肉体を持ち恐怖を知らぬ「実体兵」の二種類が存在した。虚影兵には光の女神に仕える三千のモンクが対抗可能とされ、実体兵には王国騎士団とワルキューレ騎士団が正面から立ち向かうこととなった。
冒険者不在と騎士団の役割
三年前の王国解放戦と異なり、冒険者は西方諸国への派遣で国内にはほとんど残っていなかった。そのため、王国軍の中心は騎士団が担うことになった。国王は総勢五万を率いて自ら親征に臨み、各地の騎士団が王都に集結した。中でもシルバーデール騎士団、ルン辺境伯領騎士団、そしてカーライル伯爵夫妻の率いる新興のカーライル伯爵領騎士団が注目を集めていた。
連合からの情報と義賊の活躍
ハインライン侯爵の報告によれば、連合は二百体の人工ゴーレムを投入して千体の赤鎧と上級眷属を撃破した。損耗はあったが勝利を収め、特に『暁の国境団』の風属性魔法使いナラと、第三独立部隊のファウストが上級眷属討伐に大きな役割を果たしたと伝えられた。この情報は、王国にとって上級眷属に対抗可能であることを示す貴重な戦訓となった。
錬金術師たちの試み
王立錬金工房のケネス・ヘイワード子爵と、連合にいるフランク・デ・ヴェルデは、魔人再封印用の錬金装置を開発していた。その一つ「長距離拡散式女神の慈悲」は、光属性魔法と水属性魔法を融合させる仕組みを持ち、戦場投入が決定された。だが彼ら自身も、その効果の保証はできないと明言しており、会議参加者は不安を拭えぬままであった。
国王夫妻の決意
リーヒャ王妃は神官としての役割を果たすべく参戦を強く主張し、アベルは説得を断念した。王妃の意志は固く、「勝たねば王国は滅びる」と宣言する姿に周囲も気圧された。王国魔法団も総動員され、五万人の軍が進発した。
魔人側の動向
一方、魔人ガーウィンは四将のイゾールダやオレンジュと共に連合との戦いを回顧していた。ヴィム・ローを失ったものの、連合領荒廃の効果は大きいとされ、次の標的を王国と定める。ガーウィンは不敵に笑い、かつての同胞リチャードの王国を灰燼に帰すと宣言した。
こうして、王国と魔人軍との決戦が避けられぬものとなり、大規模な魔人討伐戦の幕が開けたのである。
御前会議と情報共有
ナイトレイ王国王城において、国王アベル一世、王妃リーヒャ、宰相ハインライン侯爵らが参集し、魔人討伐に関する御前会議が開かれた。報告によれば、魔人ガーウィンは四将と呼ばれる上級眷属を従えており、眷属には霊体に近い「虚影兵」と、肉体を持ち恐怖を知らぬ「実体兵」の二種類が存在した。虚影兵には光の女神に仕える三千のモンクが対抗可能とされ、実体兵には王国騎士団とワルキューレ騎士団が正面から立ち向かうこととなった。
冒険者不在と騎士団の役割
三年前の王国解放戦と異なり、冒険者は西方諸国への派遣で国内にはほとんど残っていなかった。そのため、王国軍の中心は騎士団が担うことになった。国王は総勢五万を率いて自ら親征に臨み、各地の騎士団が王都に集結した。中でもシルバーデール騎士団、ルン辺境伯領騎士団、そしてカーライル伯爵夫妻の率いる新興のカーライル伯爵領騎士団が注目を集めていた。
連合からの情報と義賊の活躍
ハインライン侯爵の報告によれば、連合は二百体の人工ゴーレムを投入して千体の赤鎧と上級眷属を撃破した。損耗はあったが勝利を収め、特に『暁の国境団』の風属性魔法使いナラと、第三独立部隊のファウストが上級眷属討伐に大きな役割を果たしたと伝えられた。この情報は、王国にとって上級眷属に対抗可能であることを示す貴重な戦訓となった。
錬金術師たちの試み
王立錬金工房のケネス・ヘイワード子爵と、連合にいるフランク・デ・ヴェルデは、魔人再封印用の錬金装置を開発していた。その一つ「長距離拡散式女神の慈悲」は、光属性魔法と水属性魔法を融合させる仕組みを持ち、戦場投入が決定された。だが彼ら自身も、その効果の保証はできないと明言しており、会議参加者は不安を拭えぬままであった。
国王夫妻の決意
リーヒャ王妃は神官としての役割を果たすべく参戦を強く主張し、アベルは説得を断念した。王妃の意志は固く、「勝たねば王国は滅びる」と宣言する姿に周囲も気圧された。王国魔法団も総動員され、五万人の軍が進発した。
魔人側の動向
一方、魔人ガーウィンは四将のイゾールダやオレンジュと共に連合との戦いを回顧していた。ヴィム・ローを失ったものの、連合領荒廃の効果は大きいとされ、次の標的を王国と定める。ガーウィンは不敵に笑い、かつての同胞リチャードの王国を灰燼に帰すと宣言した。
こうして、王国と魔人軍との決戦が避けられぬものとなり、大規模な魔人討伐戦の幕が開けたのである。
王国軍幹部会議と布陣
王国軍五万はストーンレイク北方のビシー平野に布陣した魔人軍を迎え撃つ体制を整えていた。国王アベル一世は天幕で幹部たちを集め、魔人アーウィン・オルティス討伐の決意を明言する。敵の実体兵は一万と確認されたが、虚影兵が無尽蔵に生成される危険も警戒されていた。三年前の決戦地を舞台に、王国の存亡をかけた大戦が始まろうとしていた。
虚影兵との第一戦
戦端を開いたのは虚影兵六万。対抗するのは中央・左右に千人ずつ配備されたモンク隊。聖なる杖の一撃で虚影兵を消し去り、<ヒール>で疲労と傷を癒しながら奮戦する姿に、本陣のガブリエルやラーシャータは安堵した。虚影兵に唯一有効な切り札として、三十分にわたり押し寄せる波を食い止め続ける。これは王都騒乱の折、水属性魔法使いから授けられた「持久力を鍛えろ」という教えが活かされた成果でもあった。
実体兵の投入と激突
耐え抜いた後、ガーウィンは実体兵を繰り出す。イラリオンの<伝声>によりモンク隊は下がり、前衛に王国騎士団・カーライル伯爵領騎士団・ルン辺境伯領騎士団・シルバーデール騎士団が進出。魔法砲撃をものともせず迫る実体兵との激突が始まった。王国騎士団中隊長ザックとスコッティーは部下を鼓舞し、「絶対に下がるな」と叫ぶ。カーライル伯爵ウォーレンの騎士団三百は大盾を並べ、一歩も退かずに敵を止め続ける。
黒鎧ヴィム・ローとの遭遇
戦場中央に現れたのは、連合戦でも猛威を振るった黒鎧ヴィム・ロー。圧倒的な剣技でザックを追い詰め、二刀を振るって剣を弾き飛ばした瞬間、ウォーレンが大盾で割って入る。以後、ザックを後退させ、自ら黒鎧と対峙。
「不倒」の二つ名を持つ大盾使いと黒鎧の死闘が戦場中央で展開された。二刀の連撃を大盾で受け流す姿に、ザックとスコッティーは「揺るがない」と感嘆する。
本陣からの視線
本陣でもアベル、イラリオンらがその戦いを見守り、「中央は踏みとどまれる」と評価する。アベルは王国騎士団長ドンタンの成長を信じ、「いずれ宰相ハインラインに追いつく」と語り、士気はますます高まった。
――虚影兵を退け、実体兵との全面激突が始まった今、戦いは正念場を迎えつつあった。戦場の中央、ヴィム・ローとウォーレンの激突が、この決戦の趨勢を左右しようとしていた。
王国軍の戦術的布陣とガーウィンの判断
戦場ではウォーレンの奮戦によって王国中央部が持ち堪えていたが、両翼は徐々に押し込まれていた。突出する中央は危険である一方、王国軍の意図した布陣であり、指揮官たちは全てを承知の上で機を窺っていた。ガーウィンもまた状況を認識し、両翼を攻める策を進めていた。
ヴェイドラ斉射と戦域回復
イラリオンの号令により、王国中央は一斉に伏せ、直後に二条の緑光が横薙ぎに走った。実体兵は多数が切り裂かれ、ヴィム・ローすら討たれた。さらに、錬金術師ケネスとラデンが開発した『長距離拡散式女神の慈悲』が起動し、大神官ガブリエルと聖女リーヒャら神官団の<ヒール>が戦場全体に行き渡った。敵味方識別タグにより王国兵のみが癒やされ、兵力は一斉に回復した。
魔人側の動揺と反撃
一万の実体兵の七割を失い、王国軍が全快する光景に、ガーウィンは激しく動揺しつつも即座に装置の破壊を決断した。オレンジュと共に小型ヴェイドラを潰すが、その際に伏兵から再び放たれた緑光により、従者イゾールダが消滅する。ガーウィンは激昂し、遠距離からの魔法で空中戦艦ゴールデン・ハインドを破壊し、王国軍の本命の一角を潰した。
ガーウィンの本陣突入
本陣に姿を現したガーウィンは、国王アベルと剣を交えた。アベルはその外見からアーウィン・オルティスを見出したが、声と気配で魔人ガーウィンであることを確信した。ガーウィンはアベルを退け、『長距離拡散式女神の慈悲』の破壊に向かった。
ケネスの決死の封印
戦闘力を持たぬ錬金術師ケネス・ヘイワードが、身を挺して装置の前に立ちはだかった。彼は起動スイッチと砕けたペンダントを用いて、『封印起動』として<バレットレイン>を発動させ、魔人を穴だらけにして倒した。その直後に封印装置が起動し、魔人を封じ込めようとした。ケネスは魔力を使い果たして倒れるが、命はリーヒャの回復で繋がった。
封印の失敗と絶望の中の決意
しかし、魔人は再生を始め、封印は破られた。ガブリエルとリーヒャは<聖域方陣>を展開し、なおも抵抗を続けた。アベルは『魂の響』で涼に王国の滅亡を悟らせ、使節団の生存を託した。だが心は最後まで諦めず、「倒せぬ相手でも最後まで抗う」と呟き、剣を手に走り出した。
復活
戦況の推移と虚影兵の再来
『長距離拡散式女神の慈悲』による戦域回復で、王国軍は再び立ち上がった。死者こそ出たが数は少なく、兵の大半が戦線に復帰する。しかし魔人ガーウィンは新たに虚影兵を大量に召喚し、戦場全体が再び混乱する。モンク隊の奮闘により弱点が広まるも、騎士たちにとってはなお強敵であった。
本陣の攻防とアベルの奮戦
本陣では<聖域方陣>の結界を前にガーウィンが静観し、その間アベルは眷属オレンジュと激闘を繰り広げる。圧倒的な剣技に押されるも、アベルは涼の言葉を思い出し、不要な力を抜いて集中を高めたことで剣速と視野が増し、ついにオレンジュの連撃を読み切る。必殺の一撃で両腕と首を断ち切り、勝利を掴んだ。
魔剣と王の限界
アベルの剣はその瞬間、赤に白を帯びた輝きを放った。魔剣が主に応えた証であった。しかし代償としてアベルは気力と魔力を大きく失い、剣を杖のように突き立ててようやく立つ有様であった。
眷属の再生と絶望
斬り伏せられたオレンジュは、イゾールダの<ヘリジェネレーション>によって即座に再生する。アベルは虚脱しながらも「やはり生き返るか」と呟く。オレンジュは本来なら潔く倒れたかったと嘆きつつも、ガーウィンの命令に従ってアベルを再び討とうとした。
ガーウィン本体の降臨
その頃、アーウィン・オルティスの肉体から金色の光が放たれ、封印されていた本体ガーウィンが降臨した。身長二メートル近い金髪褐色の偉丈夫、金色の瞳を輝かせて現れたそれは圧倒的な威圧感を放ち、ワルキューレ騎士団やイラリオンたちを圧し潰すように睨みつけた。
ワルキューレ騎士団の奮起と圧倒的な力
イモージェン率いる近衛隊二十人が挑むも、ガーウィンの「分身」のごとき連撃に全員が吹き飛ばされる。イラリオンの<エアスラッシュ>すら操られ逆撃を受けるなど、次元の違う力を見せつけられる。
絶望とわずかな希望
アベルはなおも剣を握り締めるが、立つのがやっとの状態。オレンジュが迫り、「悪いな、死んでくれ」と申し訳なさそうに告げる。周囲の誰も動けず、絶望が広がるその瞬間――
銀光の救援者
本陣に銀色の光が奔り、アベルの隣に立ったのはエルフの剣士セーラであった。
「少し遅れたな。西の端から駆けつけるのには、どうしても時間がかかる」
そう言って剣を構えるセーラの姿に、王国軍は新たな希望を見出した。
エルフ軍の参戦
セーラに続き、エルフの男がアベルの前に現れ、西の森から二百のエルフ軍が到着したと告げた。直後、数百の矢が虚影兵を射抜き、戦場は一変した。おババ様が虚影兵の急所を指示し、かつての魔人軍との戦いの経験を示した。アベルはセーラに魔人本体の方へ向かうよう指示し、セーラは涼に似てきたと評されて喜びながらも、冷静に戦局を見定めた。
勇者と魔王の登場
魔人ガーウィンの前に現れたのは、聖剣アスタロトを持つ勇者ローマンと、その妻である魔王ナディアであった。二人の関係に驚愕するガーウィンであったが、最終的に戦うことを承諾した。勇者と魔王の連携は強力であったが、ガーウィンはなお余裕を崩さず、徒手格闘による圧倒的な速度と技術で応戦した。
セーラと眷属オレンジュの剣戦
一方、戦場の別の場所ではセーラと眷属オレンジュが剣を交えていた。イゾールダから「速さ」を返してもらったオレンジュは本来の力を取り戻し、圧倒的な速度を見せた。しかし、セーラもまた風装を纏い、人外の領域に達する剣技を披露し互角に渡り合った。その技量はオレンジュすら驚嘆するほどであった。
勇者と魔王の苦戦
勇者ローマンと魔王ナディアの連携攻撃は善戦していたが、ガーウィンは相打ちを装ってナディアの魔力を削ろうとするなど、終始戦いを掌握していた。ついには聖剣アスタロトを奪い取り、ローマンを打ち据え、聖剣をナディアに投擲する。しかし、国王アベルが己の魔剣でこれを逸らしたことで、辛うじて致命傷を避けた。
聖域方陣の崩壊と絶望
神官たちが展開していた聖域方陣がついに維持できなくなり、戦場を覆っていた絶対防御が消失した。ガーウィンは錬金道具と神官たちを破壊しようと笑いながら宣言し、アベルは絶望に沈んだ。
涼の帰還
その瞬間、空が裂け、氷の槍と剣が降り注ぎ、魔人と眷属を次々と切り裂いた。最後に「ウォータージェット2048」により魔人は細切れとなり、消滅した。そこに姿を現したのは水属性の魔法使い、涼であった。彼の帰還により、絶望的な戦況は一変したのである。
帰還
涼の帰還と仲間たちとの再会
戦場に現れた涼は、真っ先にセーラと抱き合い、アベルや神官たちと再会を果たした。マーリンやエルフ軍も到着し、戦況は一時的に安堵の空気に包まれた。涼は、ケネスが格納式バレットレインを用いて魔人に挑み、封印に失敗しながらも命を繋いだことを知り、その奮闘を称えた。
ガーウィンの復活と涼の奇跡
安堵も束の間、消滅したはずの魔人ガーウィンが涼の心臓を貫いて復活した。王国陣営は絶望するが、涼は水魔法で血流を強制的に循環させ、なおも動き続けた。氷で傷を封じ、心臓を失った状態でも立ち上がる姿に、味方たちは驚愕と信頼を寄せた。
ケネスの決断と魔王ナディアの治癒
涼は胸を貫いた腕を抜く合図を送り、ケネスは『長距離拡散式女神の慈悲』を改造し、ナディアの回復魔法を一点集中で届ける仕組みを作り上げた。腕を抜いた瞬間に放たれた<完全回復>は涼を救い、戦線は再び立ち直った。ガーウィンもその錬金術の技に感嘆の意を示した。
伝説の真実と戦闘の次段階
涼はガーウィンから、かつてリチャード王と実際に戦った事実を聞き、伝説が真実であったことを知る。ガーウィンは「そろそろ本気でいく」と告げ、両者は再び激突した。涼の<アイシクルランス256>は空間干渉で反転され、さらに重力魔法による拘束を受けるも、氷の壁で打ち破る。互いに魔法と剣技を織り交ぜた応酬を繰り広げ、涼は「水属性魔法の真の力を見せる」と宣言し、新たな魔法<動的水蒸気機雷>の発動に至った。
第二ラウンド
アベル対オレンジュ ― 剣の第二幕
速さを取り戻したオレンジュとの再戦。圧倒的な速度と力に対し、アベルは正面から受けず「流す」ことで応じ続ける。かつて師ジュリアンに叩き込まれた技術と「王の剣」としての冷静な思考が、彼を支えていた。
やがてオレンジュの癖を見抜き、一瞬の隙を突いて両手首と首を斬り飛ばすことに成功。愛剣の光は、もはや「誰かのため」ではなく「王として己が切り開くため」の輝きに変わっていた。
一方セーラは、イゾールダを百回以上も斬り伏せ続けており、ガーウィンの魔力による眷属の再生を逆に利用していた。アベルが剣士として「王」としての矜持を掴むのと同時に、セーラは仲間の意図を理解しきって動いていた。
涼対ガーウィン ― 魔法と剣の攻防
涼は虚影兵を次々と氷槍で消滅させ、ガーウィンの再生能力を徹底的に削る。
村雨の覚醒による新たな力「氷結剣」によって、受け止めた箇所を凍り付かせる戦法を確立。さらに「スコール」と「パーマフロスト」を組み合わせ、雨水を瞬時に凍結させて動きを止め、リスポーン直後を切り刻む「畳みかけ」を繰り返した。
ガーウィンは怒りながらも「グラビティロッド」で戦場全域を覆い尽くし、涼を拘束。しかし、涼はガーウィンの体内水分を通じて細胞レベルで制御できる情報を掴んでいた。さらに熱量奪取魔法によってガーウィンのエネルギーを吸収し続け、再生の代償を膨大な消費に変えていった。
アーウィンの体を巡る攻防
やがてガーウィンはシュールズベリー公爵家の少年アーウィンの体を乗っ取り、剣を手に涼と再戦。
しかし、体の主導権を失いつつあり、アーウィン本人の意思がガーウィンに抗う。魔法「インプロージョン」が暴走し、強力な魔力は周囲の「力あるもの」に引き寄せられる。
最も危険なのは錬金装置『長距離拡散式女神の慈悲』。だが涼は叫んだ――「飛ぶのはそっちじゃない!」
暴走した魔力が走った先は、国王アベルの剣。リチャード王の遺産たる「エクス」の力を宿したその剣だった。
消失
音が消える。
次の瞬間、戦場から消えたのは――
- 魔人ガーウィンの抜け殻
- 眷属オレンジュとイゾールダの体
- そして、アベル
- そして、涼
「アベル……」リーヒャの声。
「リョウ……」セーラの声。
二人の姿は戦場から消え去った。
特典SS 錬金術師の決意
王立錬金工房と二人の天才
ナイトレイ王国の王立錬金工房は、国王直属の機関として国家の中心的研究施設であった。そこに現れたのは、かつて共に革新的な道具を生み出した二人の天才錬金術師――ケネス・ヘイワード子爵と、亡命先の連合から戻ったフランク・デ・ヴェルデである。二人は互いを最高の錬金術師と認め合い、年齢差を越えた師弟のような関係を築いていた。
魔人封印のための錬金道具
彼らが手掛けていたのは、魔人を再び封印するための巨大な錬金道具であった。四重構造の球体の中心に魔人を閉じ込める仕組みであり、ワイバーンの魔石を含む三つの巨大魔石を同時に励起させる極めて高度な装置であった。しかし試運転は難航し、魔石の表面に髪の毛ほどの細い傷が原因で稼働不良が発覚する。二人は慎重に修正を行い、ついに九十九回目の試運転で成功を収めた。
研究環境の変化と人材の価値
食堂での休息の中、フランクは王立錬金工房がかつての楽園を取り戻していると感じ、ケネスもアベル王の支援による研究環境の改善を語った。研究者にとって最も重要なのは研究に打ち込める環境であり、予算の削減は研究者を国外に追いやることと同義であると二人は理解していた。フランク自身も、かつて予算を削られたことで王国を去り連合に亡命した経緯を持つ。
アベルの決意
アベル王はフランクの帰還を受け、過去に国の宝を流出させた過ちを重く受け止めた。人材こそが国家の宝であり、二度と失ってはならないと誓う。アレクシス・ハインライン侯爵に対し「高い予算で繋ぎ止める人材もいれば、ケーキとコーヒーで留まる人材もいる」と語り、ロンド公爵リョウの存在を引き合いに出して苦笑した。そこには、国を支える者をいかに守り抜くかという為政者としての覚悟があった。
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