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物語の概要
■ 作品概要
本作は、マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、非業の死を遂げる悪辣継母イザベルとして転生した主人公が、義息子ノアへの深い愛情と前世の知識を武器に運命を切り拓く異世界ファンタジーである。第8巻『継母の心得8 攫われた聖女を救え!』では、タイトルが示す通り、教会内部の陰謀によって連れ去られた聖女フローレンスの救出劇が物語の中心となる。前巻までの地下迷宮探検を経て、神獣の管理者となった子供たちの成長と、彼らを守ろうとする親たちの奮闘が描かれる世界観である 。
■ 主要キャラクター
- イザベル・ドーラ・ディバイン:本作の主人公であり、ディバイン公爵夫人である。前世は日本人で、義息子ノアを溺愛するあまり自重しない日々を送っている。現在は新たな命を授かっており、つわりに苦しみながらも家族の幸せを第一に考えて行動する 。
- ノア:イザベルの義理の息子であり、本来の物語では非業の死を遂げるはずだった少年である 。イザベルの深い愛情を受けて素直に成長しており、現在はキノコ妖精のアオと契約して転移魔法を使いこなす 。
- フローレンス:本作における「聖女」であり、その特別な加護を枢機卿ディオネに狙われている少女である 。本来は教会の保護下にあったが、権力闘争に巻き込まれ、身柄を拘束される危機に瀕している 。
- ウィーヌス・ウラノ・ディオネ:教会の頂点に立つ美貌の枢機卿である 。自身の権力を盤石にするため、神獣や神殿に関わる「聖女」の力を利用しようと画策する狡猾な野心家である 。
- イーニアス:グランニッシュ帝国の第二皇子であり、ノアの親友である 。地下迷宮での冒険を経て神獣不死鳥に選ばれ、焔の神殿の管理者となった 。
■ 物語の特徴
本作の魅力は、王道の「悪役令嬢(継母)転生もの」に、本格的な子育て要素と世界存亡を賭けた壮大な謎解きが融合している点である。特に、主人公がオタク知識を駆使してベビー用品の開発や離乳食の改善に努める一方で、裏では教会の腐敗や神獣の復活といった重厚なストーリーが進行するギャップが他作品との差別化要素となっている。また、言葉を話す妖精やドーベルマンといった「もふもふ」なキャラクターたちが、警備や戦闘で重要な役割を果たす点も大きな特徴である 。
書籍情報
継母の心得 8
著者:トール 氏
イラスト:ノズ 氏
出版社:アルファポリス(レジーナブックス)
発売日:2026年3月15日
関連メディア展開:コミカライズ:作画:ほおのきソラ、構成:藤丸豆ノ介。
第1巻は2024年11月26日発売
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あらすじ・内容
攫われた聖女を救い出せ!
マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、悪辣継母キャラとして転生したイザベル。実際に会った義息のノアはめちゃくちゃ可愛くて、ノアのためならなんでもしてみせる! と自重しない日々を送っていた。――イザベルの実家で働くドニーズが教会に向かい、そのまま行方不明になった。慌てるイザベルのもとに、今度はドニーズの娘で聖女であるフローレンスまでもが攫われたという情報が届いて……!? 愛とオタクの力で異世界を変える異色のファンタジー、衝撃の第8巻!
感想
物語は、冬の朝に広がるダイヤモンドダストの幻想的な景色から、静かに幕を開ける 。家族と妖精たちが笑い合う、穏やかな日常に癒やされるのも束の間、物語は聖女フローレンスを巡る、緊迫した誘拐事件へと一気に加速していった 。
今回の事件は、いくつもの不運と敵の策略が重なることで起きた。まずは、フローレンスの父であるドニーズが、教会で聖水を受け取ろうとした際に行方不明となる 。これに激怒した、継母イザベルの弟・オリヴァーが教会へ乗り込むのだが、その「カチコミ」によって屋敷が手薄になった瞬間、フローレンスが攫われてしまうのである 。敵のルネという人物が、枢機卿ウィーヌスの元へと彼女を連れ去る展開は、読んでいて非常にハラハラさせられた 。
ここで活躍するのが、ノア、ぺーちゃん、そしてイーニアスの「ちびっこ三人衆」である。彼らは、契約した妖精や神獣の力を借りて、「瞬間移動(転移魔法)」という、大人でも驚くような手段を手に入れていた 。自分たちだけで助けに行こうと意気込む姿は可愛らしいが、一方で、彼らがどこにでも現れてしまう自由奔放さは、周囲の大人たちからすれば、まさに「タチが悪い」と感じるほどの、強大な力と言えるだろう 。
クライマックスの舞台となったのは、地下迷宮にある「焔の神殿」である 。ここはすでにイーニアスの管理下に置かれていたが、枢機卿は聖女の力と神殿の「石」を使って、かつての恋人を蘇らせようと画策していた 。最終的には、イザベルたちの必死の説得によって、枢機卿は自分の過ちに気づくことになる。さらに、驚くべきことに、ぺーちゃんが、枢機卿の生き別れた息子であったという、衝撃の事実まで判明した 。バラバラだった点が一つに繋がり、親子が再会を果たす結末には、深い感動を覚えざるを得ない。
事件は一応の解決を見たが、依然として不穏な空気が漂っている。枢機卿の背後には、犯罪組織「エンプティ」が存在しており、彼らはまだ、何かを企んでいる様子である 。物語の裏で糸を引く「真の黒幕」が誰なのか、今後の展開から目が離せない。日常の温かさと、一筋縄ではいかない複雑な設定が絶妙に混ざり合った、読み応えのある一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察
ゴム製品の開発
イザベルは、自身が創設した育児用品店『おもちゃの宝箱』の報告日誌を読んで創作意欲を刺激され、弟のオリヴァーが開発した新素材「ゴム」を活用した新しいおもちゃの開発を思いついた。
ゴム製品の開発とアイデア
イザベルは研究室に数日籠もり、ゴムの特性を活かして以下のような製品を次々と完成させた。
・風船やゴムボール、動物型の人形
・馬車のタイヤを改良したゴム製の車輪
子供のノアとフェリクスは特に風船を気に入り、庭で喜んで遊んでいた。なお、番犬デュークが風船を噛んで割ってしまい、子供たちが泣き出してしまうハプニングもあった。さらに、ゴム製の車輪のアイデアには夫のテオバルドも強い関心を示している。
販売と「ゴム製品おもちゃショック」
完成したおもちゃが『おもちゃの宝箱』の店頭に並ぶと、瞬く間に飛ぶように売れた。
・ゴムで作った髪留めや装飾付きのヘアアクセサリーは、髪を簡単にまとめられる画期的なアイテムとして、庶民から貴族まで幅広く絶大な人気を集めた。
・帝都支店での発売当日には口コミが急速に広がり、予想を遥かに超える客が殺到して風船やゴム製品は即座に売り切れとなった。
この大流行は後に「ゴム製品おもちゃショック」と呼ばれるほどの社会現象となり、皇后マルグレーテの仕事量を増やしてしまうほどの影響を及ぼした。
ビジネスとしての広がり
このゴム製品の成功と需要の拡大を受け、開発者であるオリヴァーの側近・ドニーズは、ベル商会という大きな商会との間でゴムに関する重要な商談を取りまとめている。新素材としてのゴムは、おもちゃの枠にとどまらず、事業としても大きく成長している。
聖女誘拐事件
「聖女誘拐事件」は、シモンズ伯爵家に保護されていた聖女フローレンス(フロちゃん)が、教会のウィーヌス枢機卿らによって誘拐された事件である。事件の経緯、犯人の目的、結末、そして背後に潜む謎について解説する。
事件の経緯
事件は、フローレンスの父であるドニーズが、シモンズ伯爵家の名代として教会へ聖水を受け取りに行った際に行方不明になったことから始まる。父やオリヴァーが不在となったシモンズ伯爵邸では、雷雨の音に怯えて泣き出したフローレンスを、メイドに変装して潜入していたルネが「聖女様」と呼んで連れ去り、教会のウィーヌス枢機卿のもとへ運んだ。
その後、イザベルたちは妖精の知らせを受け、珍獣(不死鳥)の力で教会の礼拝堂に転移し、枢機卿と対峙する。枢機卿は「神託」を理由にフローレンスを保護していると主張し、彼女を盾にして教会の地下迷宮にある「不死の神殿(焔の神殿)」へと逃走した。
枢機卿の目的と動機
ウィーヌス枢機卿は、対象の魂の形やエネルギーを感知する特異魔法を持っており、その力でフローレンスが特異な魔力を持つ「聖女」であることを見抜いていた。彼の目的は以下の通りである。
・妻ポレットの蘇生または我が子の捜索:枢機卿は、不治の病で亡くなった妻ポレットを氷の棺に保存していた。神殿の宝物庫にある「使用者の能力を最上位にする赤い石」と、聖女の治癒能力の最上位魔法(死者の蘇生)を組み合わせることで、妻を生き返らせるか、あるいは行方不明になっている我が子を見つけ出そうとしていた。
・神殿の罠の無効化:神殿には焔神の加護がなければ発動する致死の罠が仕掛けられていた。枢機卿は先祖から伝わる神殿への「証」を持っていたが、それを機能させるためには「どの神でもよいので加護を持つ同行者」が必要だったため、光の神の加護を持つ聖女を同行させる必要があった。
事件の結末
イザベル、テオバルド、イーニアス殿下らは、神殿の管理者であるイーニアス殿下の許可を得て神殿内に突入し、宝物庫の奥の秘密の部屋で枢機卿を追い詰める。そこでイザベルは、「教会の教えによれば死者の魂はすでに転生しており、肉体だけを蘇生させることは不可能である」と残酷な現実を突きつけ、ポレットが残したかった思いや、行方不明の我が子を見つけるべきだと説得した。
この説得により枢機卿は蘇生を諦め、フローレンスは無事に父ドニーズの腕の中へ返された。幸いにもフローレンスに怪我はなく、怯えている様子もなかった。
背後に残る謎
事件解決後、枢機卿は犯罪組織エンプティから情報を得るために便宜を図っていたことを認めた。しかし、枢機卿はドニーズへの暗殺者差し向けや、同じく教皇フェリクス(ぺーちゃん)の過去の誘拐については明確に否定している。このことから、フローレンスの誘拐は枢機卿の単独の目的によるものであった一方で、エンプティ、あるいはさらに別の第三者(黒幕)が背後で暗躍している可能性が示唆される形で事件は幕を閉じた。
不死鳥の神殿
不死鳥の神殿(子供たちからは屋根の形から「たまねぎの神殿」とも呼ばれている)は、教会の地下坑道から皇城の地下迷宮へと繋がる先にある、古代の神秘的な建造物である。星空の下に位置し、大雨が降る帝都とは別空間のような静寂に包まれている。インドのタージ・マハルを思わせる異国風の外観を持ち、内部は吹き抜けの高い天井や象嵌細工が施された壁、大理石の床など、現代をはるかに凌ぐ高度な建築技術と装飾で彩られている。神殿の主な特徴と関連する出来事は以下の通りである。
焔神の罠と回避方法
この神殿は「焔神(火の神)」を祀っており、焔神の加護を持たない者が侵入すると命に関わる危険な罠が発動する。罠を回避・無効化するにはいくつかの方法がある。
・管理者の許可:現在の神殿の管理者はイーニアス第二皇子殿下である。管理者の許可があれば罠は作動しないが、加護を持たない者は管理者の半径5メートル以内にいる必要がある。
・「証」の所持:加護に反応して結界を作る「証」を持っていれば、同行者のうち一人でも加護持ちがいるか、自身が加護を持っていれば安全に神殿に入ることができる。
神獣(不死鳥)
神殿には炎をまとった巨大な鳥がおり、イーニアス殿下と契約を結んでいる。イザベルたちは当初「赤い鳥」や「珍獣(オウム)」と呼んでいたが、その正体は偉大なる不死鳥であることが判明した。
宝物庫と秘密の部屋
神殿の奥には宝物庫が存在し、恐ろしげな像が見守る扉の先には、金貨や宝石、名剣や鎧が山のように積まれている。
・宝物庫の中にはピカソの『夢』に似た女性の絵画があり、これが秘密の部屋への扉となっている。
・この扉を開ける鍵は、フェリクス(ぺーちゃん)やクレオ大司教が持っている「教皇の間の鍵」と同じものである。
なぜ同じ鍵で開くのかというと、遥か昔、神殿を作る際に結界を張れる魔法を求められた不死鳥が、面倒くさがって手元にあった超重要な鍵を安易に複製して渡してしまったためである。
究極のアイテム「赤い石」と枢機卿の目的
秘密の部屋の祭壇には、不死鳥の力が込められた赤い石(魔石)が安置されている。これは「使用者の能力を最上位にまで底上げするアイテム」である。
・ウィーヌス枢機卿の先祖はかつてこの神殿を管理する立場にあり、彼は先祖の日誌や地図、神殿に入るための「証」を受け継いでいた。
・枢機卿の真の目的は、この「不死の神殿」で赤い石を手に入れ、光の加護を持つ聖女フローレンスの治癒能力を最上位(死者の蘇生)に引き上げ、亡き妻ポレットを生き返らせることであった。
しかし、イザベルの説得によって魂の輪廻転生の事実を突きつけられた枢機卿は蘇生を諦め、石を使って行方不明の我が子(フェリクス)を探し出すことを決意した。
最終的にこの赤い石は、神殿の管理者であるイーニアス殿下が使用することになる。イーニアスの「管理者としての能力」を最上位に引き上げたことで、加護を持たない枢機卿と義妹のルネが罠にかかることなく神殿に常駐し、神殿を守る役割を担えるようになったのである。
枢機卿の過去
ウィーヌス枢機卿の過去は、愛する人を救おうとする悲痛な努力と、家族との悲しいすれ違いに満ちている。彼の過去の主な出来事は以下の通りである。
生い立ちとポレットとの出会い
ウィーヌスは武に重きを置くディオネ辺境伯家の生まれだが、筋肉が付きにくい体質だったため一族から浮いていた。しかし、両親、特に父親は彼を気遣い守ってくれていた。彼には幼馴染であり、次期当主である兄の婚約者候補でもあったポレット・フェリス・ナイトレイ(ナイトレイ子爵家の長女)がいた。ウィーヌスが帝都に出る際、ポレットも半ば強引についてきてアカデミーに入学し、二人は次第に惹かれ合っていった。
ポレットの病と教会への入信
アカデミー在学中、ポレットは体内に魔力が蓄積して体を蝕む不治の病「魔栓症」を発症してしまう。ウィーヌスは彼女を救うため、以下の行動をとった。
・彼女の病を治すために医療を学び、教会の門を叩いて司祭となった。
・治療の手がかりや薬を求めて、犯罪組織エンプティとも繋がりを持つようになった。
妊娠と周囲の猛反対
やがてポレットはウィーヌスの子を身ごもるが、魔栓症が遺伝することを恐れたディオネ一族から結婚と子供の誕生を猛反対される。
・特に、兄が亡くなりウィーヌスが跡取り候補になったことで、一族の反対はより強硬なものとなった。
・ポレットの家族も反対する中、彼女の妹であるルネだけが二人を支え続けていた。
ポレットとの死別と子供の喪失
出産が近づいたある日、ウィーヌスは外国の商人が持つ特効薬の情報を得て外出するが、その間にポレットが産気づき、彼が戻った時にはすでに亡くなっていた。
・ウィーヌスは彼女の死を受け入れられず、氷の魔石で作った氷の棺に彼女を安置した。
・さらに、生まれたばかりの赤ん坊はウィーヌスの父(ディオネ辺境伯)によって連れ去られ、養子に出されて行方不明になってしまった。
隠された真実(養子縁組と性別の偽装)
実は、子供を養子に出すようディオネ辺境伯に頼んだのは、ポレットの父であるナイトレイ子爵であった。
・魔栓症の血を引く子供を殺そうとするディオネ一族の暴走から赤ん坊の命を守るための苦渋の決断だった。
・さらに、ウィーヌスが子供を捜し出せないよう、わざと性別を「娘」だと偽って伝えていた。
現在の枢機卿としての目的
これらの絶望的な経験から、ウィーヌスは実家の遺品整理で見つけた先祖の日誌を頼りに「不死の神殿」の存在を知る。彼はポレットを蘇生させること、そして行方不明の子供(娘だと信じていた)を捜し出すことを人生の目的とした。その目的を果たすために教会のトップである枢機卿の地位に上り詰め、犯罪組織エンプティの情報を利用していたのである。
最終的に、彼が長年捜し求めていた子供は「娘」ではなく「息子」であり、それが教皇フェリクス(ぺーちゃん)であることが判明する。
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登場キャラクター
ディバイン公爵家
イザベル・ドーラ・ディバイン
ディバイン公爵テオバルドの妻であり、ノアの継母である。前世の記憶を持つ転生者で、シモンズ伯爵家の出身だ。育児グッズ専門店を経営している。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵夫人。ベル商会の総取締役。
・物語内での具体的な行動や成果
おもちゃや知育菓子などを開発した。馬車の襲撃事件に巻き込まれたが難を逃れた。地下迷宮の探索や皇宮の図書館で情報収集を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
悪役継母の役割を持つ人物に転生した。ノアを深く愛している。夫のテオバルドからも溺愛される存在である。
テオバルド
ディバイン公爵であり、イザベルの夫である。ノアの父親で、氷の大公と呼ばれる。風と水の神の加護を持つ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
馬車の襲撃事件で氷魔法を使用し、犯人を一瞬で氷漬けにして制圧した。妻と子供の安全を第一に考えて行動する。レール馬車事業の国家規模への拡大を推進した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつては女性嫌いだった。現在はイザベルを深く愛している。皇帝派に対抗しうる実力者である。
ノア・キンバリー・ディバイン
イザベルの義息であり、テオバルドの息子である。銀髪とアイスブルーの瞳を持つ。年齢は四歳だ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家公子。
・物語内での具体的な行動や成果
誘拐事件に巻き込まれた。風と氷の魔法を使って誘拐犯を倒した。共に誘拐されたフェリクスを守り抜いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イーニアスと仲が良い。妖精のアオと契約を結んだ。イザベルの愛情を受けて明るく成長している。
マディソン
ディバイン公爵家タウンハウスの侍女長である。ウォルトの母親で、テオバルドの乳母を務めた。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家タウンハウス・侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
イザベルの妊娠に伴い、テオバルドの要請で領地の邸に戻った。イザベルとノアの世話を担当した。フェリクスの世話も自ら引き受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベテランの風格を持つ。イザベルにも毅然とした態度でアドバイスをする。
カミラ
ノア専属の侍女である。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアの世話を献身的に焼いている。ノアが誘拐された際は激しく取り乱した。ノアとイーニアスの絵本作りを温かく見守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平凡な出自である。ノアへの愛情は深い。
ミランダ
イザベル専属の侍女である。ディバイン公爵家の影の一員だ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・侍女。影の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
イザベルを護衛している。襲撃事件の際は冷静に対応してイザベルを守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルからの信頼が厚い。
ウォルト
ディバイン公爵家の執事長である。マディソンの息子で、影のまとめ役を務める。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・執事長。
・物語内での具体的な行動や成果
テオバルドの側近として事件の調査報告を行った。領地管理の補佐を担当している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
テオバルドからの信頼が厚い。主を的確に支える。
ムーア
ディバイン公爵家に常駐する医師である。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・医師。
・物語内での具体的な行動や成果
イザベルの妊娠を診断した。ノアが熱を出した際は知恵熱だと見立てた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルの体質を考慮している。過保護気味に注意を与える。
デューク
ディバイン公爵家の番犬である。犬種はドーベルマンだ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・警備犬。
・物語内での具体的な行動や成果
屋敷の警備を担っている。ノアやフェリクスと遊ぶ。侵入者を威嚇して捕縛に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
見た目は怖いが、人懐っこく優しい性格である。
ナラ
ディバイン公爵家の番犬である。犬種はドーベルマンだ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・警備犬。
・物語内での具体的な行動や成果
デュークとともに屋敷を警備している。子供たちと一緒に庭で遊ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
忠実な警備隊の一員である。
グランニッシュ帝国皇族
リューク
皇帝ネロウディアスとオリヴィア元側妃の息子である。マルグレーテ皇后の元で育てられている。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国・第三皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い赤子として登場した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実際は皇帝の血を引いていない。イーニアスの弟として扱われる。
マルグレーテ
グランニッシュ帝国の皇后である。イーニアスの母親で、転移の特異魔法を持つ。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国・皇后。
・物語内での具体的な行動や成果
イザベルと友人関係を築いた。子育て支援センターの研修に参加する意欲を見せた。地下迷宮の探検を引率した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝の洗脳を解いた。息子を深く愛している。
イーニアス
グランニッシュ帝国の第二皇子である。マルグレーテとネロウディアスの息子で、真紅の髪を持つ。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国・第二皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
焔神の加護を持っている。地下迷宮で不死鳥の神殿の管理者となった。ノアと仲良く遊ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次期皇帝と目されている。妖精のアカと契約を結んだ。
オリヴィア
ネロウディアス帝の元側妃である。リュークの母親で、妖精のような美貌を持つ。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国・元側妃。
・物語内での具体的な行動や成果
皇帝を洗脳していた悪魔と契約した。皇后やイーニアスを狙って暗躍した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
洗脳が解けた皇帝と皇后により断罪された。処刑されて死亡した。
アントニヌス
グランニッシュ帝国の初代皇帝である。焔神に愛された存在だ。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国・初代皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
戦争を勝利に導いた。帝国を建国した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
弟のアベラルドを追放した過去がある。
ウィルス
ディバイン公爵家の初代当主である。アントニヌスの弟で、美しい銀髪を持つ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家・初代当主。
・物語内での具体的な行動や成果
風と水の神の加護を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アヴェラルド
アントニヌスの末の弟である。光の神の加護を受けた聖者だ。
・所属組織、地位や役職
元第三王子。聖者。
・物語内での具体的な行動や成果
戦争で治癒の力を使い続けた。親の悪魔召喚の罪を被った。兄たちを救うために悪魔アバドンとなった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
悪魔として百回の転生を不幸にする契約に縛られていた。イザベルたちによって契約の矛盾を突かれ解放された。
シモンズ伯爵家
オリヴァー
シモンズ伯爵家の嫡男である。イザベルの弟で、新素材の研究開発を行っている。
・所属組織、地位や役職
シモンズ伯爵家・嫡男。
・物語内での具体的な行動や成果
ドニーズが行方不明になった際は教会へ乗り込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
姉のイザベルを尊敬している。妊娠中の姉の無茶を心配して叱責する。
ドニーズ
シモンズ伯爵家の文官である。フローレンスの父親で、クリエイトの特異魔法を持つ。
・所属組織、地位や役職
シモンズ伯爵家・文官。
・物語内での具体的な行動や成果
教会で寄付金を渡そうとして事件に巻き込まれた。クレオ大司教と共に教会の隠し部屋に逃げ込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妻に先立たれた。フローレンスを深く愛している。
フローレンス
ドニーズの娘である。光の神の加護を持つ聖女だ。
・所属組織、地位や役職
シモンズ伯爵家・関係者。聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
枢機卿ウィーヌスに誘拐された。恐怖を感じることなく過ごし、無事に救出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルの妊娠をいち早く察知した。愛称はフロちゃん。
サリー
シモンズ伯爵家の侍女である。イザベルと姉妹同然に育った。
・所属組織、地位や役職
シモンズ伯爵家・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
オリヴァーに付き従っている。教会の探索に同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルの思考を読むのが得意である。
教会
フェリクス
クレオ大司教の養い子である。神託の子とされる教皇で、前世の記憶を持つ。
・所属組織、地位や役職
教会・教皇。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアと共に誘拐された。クレオ大司教から教皇の証である鍵を託された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルの離乳食を気に入り、ディバイン家に預けられる。愛称はぺーちゃん。
クレオ
教会の大司教である。フェリクスの親代わりを務める。
・所属組織、地位や役職
教会・大司教。
・物語内での具体的な行動や成果
フェリクスを溺愛している。教会内の不穏な動きから守るためディバイン公爵家にフェリクスを預けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖精の光を視ることができる。
ウィーヌス
教会の枢機卿である。ディオネ辺境伯家の次男で、エネルギー感知の特異魔法を持つ。
・所属組織、地位や役職
教会・枢機卿。
・物語内での具体的な行動や成果
亡き妻ポレットを生き返らせるため、フローレンスを誘拐した。地下の神殿のアイテムを狙ったが、イザベルの説得で蘇生を諦めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女性のような美しい容姿を持つ。神殿の常駐者となった。
ディオネ辺境伯家・ナイトレイ子爵家
ディオネ辺境伯
ウィーヌスの父親である。武闘派の家柄の当主を務める。
・所属組織、地位や役職
ディオネ辺境伯家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
魔栓症の血を引くウィーヌスの子供を殺そうとする一族を抑えようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ナイトレイ子爵の提案で子供を養子に出した。
ウィーヌスの兄
ディオネ辺境伯家の長男である。ポレットの元婚約者候補であった。
・所属組織、地位や役職
ディオネ辺境伯家・長男。
・物語内での具体的な行動や成果
特になし。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
死亡しており、ウィーヌスが跡取り候補となった。
ナイトレイ子爵
ポレットとルネの父親である。
・所属組織、地位や役職
ナイトレイ子爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
孫を守るために辺境伯に養子縁組を提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
娘を奪ったウィーヌスを恨みつつも交流を持つ。
ポレット・フェリス・ナイトレイ
ウィーヌスの妻である。
・所属組織、地位や役職
ナイトレイ子爵家出身。
・物語内での具体的な行動や成果
魔栓症を患い死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
遺体は氷の棺で保存されていた。
ルネ
ポレットの妹である。ウィーヌスの部下として活動する。
・所属組織、地位や役職
ナイトレイ子爵家出身。枢機卿の部下。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィーヌスを支えている。偽の前妻やメイドに変装して暗躍した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
変装が得意である。ウィーヌスと共に焔の神殿に常駐することになる。
妖精・神獣
アカ
光の妖精である。赤いキノコ帽子をかぶる。
・所属組織、地位や役職
妖精。
・物語内での具体的な行動や成果
迷宮の道案内を行った。情報の報告を担当している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
幸せパワーで中妖精に進化した。イーニアスと契約を結びバディとなる。
アオ
光の妖精である。青いキノコ帽子をかぶる。
・所属組織、地位や役職
妖精。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアを転移させる能力を得た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
幸せパワーで中妖精に進化した。ノアと契約を結んだ。
チロ
赤ちゃん妖精である。マッシュルームのような帽子をかぶる。
・所属組織、地位や役職
妖精。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアが誘拐された際にポケットに潜んでいた。通信で居場所を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルと契約を結んでいる。
正妖精
妖精の王である。アカとアオの弟にあたる。
・所属組織、地位や役職
妖精王。
・物語内での具体的な行動や成果
妖精たちの進化の仕組みを説明した。情報をイザベルに伝達している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フローレンスと仮契約を結んでいる。
神獣
焔の神殿を守る不死鳥である。赤い鳥の姿をしている。
・所属組織、地位や役職
焔の神殿の神獣。
・物語内での具体的な行動や成果
イーニアスを神殿の管理者に選んだ。加護と魔力の器を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
尊大な性格だが、イーニアスの願いを聞き入れる。
継母の心得 7 レビュー
継母の心得 全巻まとめ
継母の心得 9 レビュー
展開まとめ
プロローグ
冬の朝に現れる幻想的な光景
夜、イザベル・ドーラ・ディバインがノアとフェリクス(ぺーちゃん)を寝かしつけていると、侍女長マディソンが翌朝は「妖精のダンス」が見られるかもしれないと告げた。冬の晴れた早朝に稀に現れるその現象は、氷の結晶が日光を受けて輝くダイヤモンドダストであり、ディバイン公爵領を象徴する風物詩であった。マディソンの予想はよく当たるため、イザベルは翌朝を楽しみにしたのである。
子供たちが見上げた輝く空
翌朝、ノアはフェリクスを抱えながら窓辺で輝く光景を見上げていた。地下迷宮の探索を経験して少し成長したノアは、空に舞う光の粒を見て目を輝かせていた。イザベルはその光景を見守りながら、何度見ても飽きない美しさだと感じていた。氷の結晶が光を受けて虹色に輝く庭の景色は、そこに立つノアの姿と重なり、まるで天使が舞い降りたように思えるほど幻想的であった。
妖精たちの登場と賑やかな朝
ノアがフェリクスに妖精のダンスのことを教えていると、ノアと契約関係にある妖精アカとアオが現れた。幸せの力によって成長した二体の光の妖精は、楽しげにダンスを始めたのである。さらにイザベルの契約妖精チロも踊り始め、静かだった朝の光景は一気に賑やかなものへと変わった。ノアもフェリクスを抱えたまま踊り出し、庭の幻想的な景色は妖精たちの陽気な舞によって一層華やかなものとなった。
家族の温かな朝のひととき
イザベルはその様子を微笑ましく見守りながら、ダンスが終わったら朝食を食べようと子供たちに告げた。夫であるテオバルドが空腹で待っていると冗談めかして伝えると、ノアは楽しそうに笑い、フェリクスも自分の腹を押さえて反応した。こうして家族と妖精たちに囲まれた賑やかな朝の中で、イザベルと子供たちは笑い合いながら温かな時間を過ごしたのであった。
第一章 ぺーちゃんの鍵
食堂で起きた騒動
朝、食堂で待っていたテオバルドの姿を見たイザベルとノアは再び笑い出してしまった。状況が分からず呆気に取られるテオバルドに対し、フェリクスが仲間意識を示すような言葉を発したことでカミラが吹き出し、場はさらに賑やかになった。しかしテオバルドの表情が恐ろしく見えたのか、フェリクスは大泣きしてしまい、食堂は大騒ぎとなった。侍女長マディソンはテオバルドに子供の前で怖い顔をしないよう諭し、珍しく言い負かされるテオバルドの姿にイザベルは密かな楽しさを感じていた。
新しいおもちゃの発想
朝食後、イザベルは自らが創設した育児用品店『おもちゃの宝箱』の報告日誌を読みながらミランダと話していた。店は貴族だけでなく一般の人々にも人気を広げており、その様子を知るうちにイザベルの創作意欲が刺激された。新しいおもちゃを考えると言うと、ノアとフェリクスが興味を示す。そこでイザベルは、弟オリヴァーが開発したゴムのことを思い出し、ゴムを使ったおもちゃのアイデアを思いついた。
ゴム製おもちゃの開発
イザベルはゴムの特性を活かしたおもちゃを考え、数日でいくつかの新作を完成させた。作業に没頭して研究室に籠もっていたところ、テオバルドから休憩を取らなければ研究室の鍵を預かると伝言が届く。慌てて研究室を出たイザベルはテラスでテオバルドと合流し、新しく作ったおもちゃについて説明した。風船やゴムボール、動物型の人形などを紹介し、さらに馬車のタイヤを改良したゴム製の車輪についても考案を語ると、テオバルドは特に後者に興味を示した。
子供たちと新しいおもちゃ
その後ノアとフェリクスも加わり、新しいおもちゃで遊び始めた。特に風船は子供たちの気に入り、庭で楽しそうに遊び回った。しかしそこへ番犬デュークが飛びつき、風船を噛んで割ってしまう。突然の大きな音に子供たちは泣き出し、デュークは耳を伏せて怯えた様子を見せた。イザベルは子供たちを慰めながら、その賑やかな様子に微笑んでいた。
店での販売と大ヒット
完成したゴム製おもちゃは『おもちゃの宝箱』の店頭に並べられた。冬のディバイン公爵領では通常外出が減る季節であったが、除雪や道路整備の改善によって街に人が出るようになっていた。その状況の中で新作おもちゃは瞬く間に売れ、特にゴムで作った髪留めや装飾付きのヘアアクセサリーは庶民から貴族まで幅広く人気を集めた。髪を簡単にまとめられるその道具は画期的であり、スタッフたちはこれが大きな変化をもたらすと興奮していた。
帝都支店での騒動
帝都支店でも新商品発売の準備が進められ、スタッフたちは売り場の配置や展示方法を工夫していた。ところが発売当日、口コミが急速に広がり、予想を超える客が押し寄せた。風船やゴム製品は瞬く間に売り切れ、他のおもちゃもついで買いで減っていく。店は対応に追われ、急いで追加発注の連絡を入れる事態となった。
新たな流行の始まり
この出来事は、ヘアアクセサリーの流行と同時に帝都で大きな話題となり、後に「ゴム製品おもちゃショック」と呼ばれるほどの現象となった。さらにそれは皇后マルグレーテの仕事量を増やすほどの影響を及ぼすことになるが、その時のイザベルはまだその波紋を想像していなかったのである。
皇后との穏やかな茶会
『おもちゃの宝箱』の新作おもちゃが好評であることを喜びながら、イザベルは皇后と茶会を開いていた。今日は皇后とイーニアスがディバイン公爵領を訪れており、子供たちが遊ぶ様子を眺めながら、二人は穏やかな時間を過ごしていた。皇后は皇帝から休むよう命じられて来訪したと明かし、さらに土産として帝都の人気店の焼き菓子を持参していた。その焼き菓子が、以前イーニアスがイザベルの誕生日に贈った店のものだと判明し、皇后とイーニアスが朝から庶民街の行列に並んだと知って、イザベルは驚かされたのである。
イーニアスの新たな力の実践
皇后は、今日は自分の転移魔法ではなく、イーニアスの転移魔法で公爵領まで来たと語った。しかもそれは、アカの力ではなく、焔の神殿で契約したオウムの力を使ったものであった。皇后は、新しい能力は実際に使って慣れておかなければ有事の際に役に立たないという考えから、イーニアスに様々な状況で力を使わせているのだと説明した。イザベルはその話を聞き、皇族として備えを怠らない皇后の姿勢に改めて感心していた。
ぺーちゃんの鍵を巡る騒動
その最中、妖精のアカとアオがフェリクスの首から鍵を勝手に借りていたことが発覚した。イーニアスは、それがフェリクスにとって大切なものであり、無断で持ち出せば悲しませるのだと、妖精たちに丁寧に言い聞かせた。そして妖精たちに謝らせ、自らも妖精の主としてフェリクスに頭を下げて謝罪した。ノアはフェリクスの言葉を通訳し、フェリクスが気にしていないことを伝えた。このやり取りを見たイザベルは、イーニアスの優しさと誠実さを好ましく思ったが、皇后は皇族が軽々しく頭を下げてはならないと語り、その優しさが時に国と民を危険に晒すこともあると指摘した。イザベルは皇族の責任の重さを改めて認識したのである。
子供たちの好意と和やかな空気
皇后とイザベルが友人としての思いを言葉にすると、その様子を見ていたフェリクスもイーニアスに対して好きだと伝えた。ノアも加わり、互いに好きだと言い合う子供たちのやり取りに、その場は温かな空気に包まれた。アカとアオも自分たちの好きなものを挙げ、ノアとイーニアスは嬉しそうにそれを受け止めていた。
鍵の正体と教皇の間
その後、アカがフェリクスの鍵について疑問を口にしたことで、話題はその鍵の用途へと移った。イーニアスが尋ねると、フェリクスはそれが教皇の間の鍵であり、そこには教皇の証である杖、指輪、神の書があると示した。イザベルと皇后は、赤ん坊であるフェリクスが教皇の間の鍵を持ち、その意味まで理解していることに衝撃を受けた。イザベルは、フェリクスがクレオ大司教の言う「神託の子」であり、事実上の現教皇であることを当然のように受け止めていたが、皇后はその事実を初めて知り、大きく動揺したのである。
神託の子と教会の事情
イザベルは、フェリクスが七十年前の神託に示された「神託の子」であることを皇后に説明した。皇后は、その神託自体は知っていたが、それがフェリクスを指すとは知らされていなかった。さらに二人は、神託以降教皇の座が空席であり、聖女も長く現れていない現状について語り合った。教会は世界中に広がり、帝都に総本山を置く巨大な存在であったが、近年は威信が低下しつつあり、神託の子の出現は教会にとって極めて重要な意味を持っていた。イザベルは、フェリクスが幼すぎるため公にされていないのだろうと考えたが、皇后はそれだけではない事情を感じ取っていた。
教皇毒殺と悪魔の関与
皇后は、七十年前に教皇が毒殺されていたこと、さらにその少し前に聖女も命を落としていたことを明かした。そして、その背後には悪魔が関わっていると推測していると語った。黒蝶花がかつて白い聖なる花であり、八十年前にある皇族がその土地を魔物の血で汚したことで黒く変じたこと、その毒が遅効性であることから、教皇と聖女は黒蝶花の毒によって蝕まれていた可能性が高いと示された。これにより、教皇と聖女の不在が悪魔の策略によるものだという見方が強まり、現代に聖女フロラと教皇フェリクス、そして英雄ノアが同時代に生まれた意味も、悪魔に対抗するため神々が用意した存在なのではないかと考えられた。イザベルは、かつて堕ちたイーニアスに代わり、自分を軸として世界が回帰したのではないかと推測したのである。
鍵と地下迷宮の神殿の関係
そこへアカが、フェリクスの鍵の柄が地下迷宮の神殿の宝物庫の扉や魔法陣の柄に似ていることを思い出した。イーニアスは焔の神殿の珍獣を念話で呼び出し、鍵について尋ねた。珍獣ははっきりとは覚えていなかったが、その鍵に関わる部屋が神殿内にあるかもしれないと述べ、神殿の管理者であるイーニアスが好きに調べてよいと許可した。これにより、ノアとフェリクスも一緒に鍵の部屋を探したいと言い出したのである。
神殿探索の許可
イザベルは、焔神の加護を持たないノアを西の神殿に行かせることに難色を示した。しかし珍獣が、管理者であるイーニアスが許可すれば神殿の罠は発動しないと説明したため、状況は変わった。ノアは以前交わした約束を思い出し、行動の前に必ずイザベルかテオバルドに相談するという決まりに従って、きちんと許可を求めた。その姿に心を動かされつつも、イザベルは安全が確保されるならと考え、最終的に神殿探索を認めた。ノアとフェリクス、そしてイーニアスは大喜びし、イザベルはそんな子供たちを少し寂しさを覚えながら見守っていた。
未来を知る存在への疑問
鍵の話が一段落した後、皇后は神託の文言にある「未来を知り」という部分から、フェリクスには未来が見えるのではないかと口にした。その流れで、イザベルが人生をやり直したように見えることにも触れたため、イザベルは一瞬緊張した。しかし、フェリクスの普段の様子を見ている限り、前世の記憶を持つ存在には思えず、神託の意味は未来予知など別の力によるものではないかと結論づけた。皇后も前世の記憶を持つ者がそう多くいるはずはないと笑って受け流したが、七十年前の神託という時期に思い当たることがあったのか、最後にわずかに顔を引きつらせた。イザベルはその反応の意味を測りかねたまま、首を傾げるのであった。
第二章 聖女と父
ドニーズの外出準備と父としての願い
早朝、シモンズ伯爵家のタウンハウスで、ドニーズはオリヴァーに外出の挨拶をしていた。この日のドニーズは、シモンズ伯爵家の名代として教会へ聖水を受け取りに行く役目を負っており、寄付金もきちんと用意していた。オリヴァーは留守の間フローレンスを見ていると約束し、ドニーズは安心して出発した。馬車に乗り込んだドニーズは、まずベル商会でゴムの商談を済ませ、その後教会へ向かう予定を確認しつつ、娘フローレンスへの土産を買うことも考えていた。かつては妻を亡くし、幼い娘を抱えて苦しい生活を送っていたが、シモンズ伯爵家に拾われたことで生活は一変し、今では娘のために服やおもちゃを買えることを幸せに感じていた。
ベル商会での商談
ベル商会に到着したドニーズは、改装された元貴族の屋敷を利用した支部の立派さと、そこで生き生きと働く人々の様子に感心した。シモンズ伯爵家との商談は重要な案件であるため、防音性の高い個室に案内される。そこで待っていたのは、帝都に用事があって立ち寄ったというベル商会の会頭であった。会頭はドニーズの元上司でもあり、数字に強く手強い相手であったが、商談は概ね満足のいく形でまとまった。大きな山場を越えたドニーズは安堵し、後は教会で聖水を受け取り、娘への土産を買って帰るだけだと気を緩めていた。
教会での違和感
教会へ到着した頃には雨が本降りになっていた。ドニーズは御者に聖水の受け取りを任せ、自分は寄付金を渡すために教会の中へ入った。礼拝には毎週通っていても、奥の部屋に通される機会は少なく、荘厳な空気の中でやや緊張していた。シスターに案内されて部屋に入ったものの、司祭はなかなか現れず、三十分以上も待たされることになった。さすがに不安を覚えたドニーズがそっと扉を開けて廊下を覗いたところで、場面は途切れた。
雨の中で休むイザベル
その頃、雨と雷が強まる中、イザベルは帝都の公爵家タウンハウスで過ごしていた。テオバルドが皇城で仕事をしているため、何かあった時にすぐ駆けつけられるよう、イーニアスの力で一家は帝都へ移動していたのである。遊び疲れたノアとフェリクスは昼寝をしており、イザベルは本を閉じてロッキングチェアで休むことにした。マディソンはイザベルに膝掛けを掛け、さらに雷で子供たちが怖がらないようノアのそばにカミラを待機させ、フェリクスもノアの横に移すよう指示を出した。イザベルは侍女たちの気配りに感心しつつ、雨が早く上がることを願いながらまどろんでいた。
ドニーズ失踪の報せ
一方オリヴァーのもとには、ドニーズを乗せて出かけた御者が青ざめた顔で戻ってきた。御者の話によれば、ドニーズは教会へ入ったきり戻らず、三十分以上待っても現れなかったためシスターに尋ねたところ、先ほど帰ったと言われたという。しかし、この土砂降りの中を馬車も使わず一人で帰るはずがなく、教会内部を捜してもドニーズの姿はどこにもなかった。オリヴァーはその話に不審を抱き、ドニーズが何か厄介事に巻き込まれた可能性を考えた。
オリヴァーの決断
御者から、対応したのが昔から帝都の教会にいる年配のシスターであると聞いたオリヴァーは、状況がただ事ではないと判断した。そして、義兄であるディバイン公爵テオバルドなら助けてくれるかもしれないと考え、急いで手紙を書いて皇城へ送る手配をした。さらに自らも教会へ向かって事情を確かめることを決める。フローレンスのことを使用人に託し、新型馬車に乗り込んだオリヴァーは、土砂降りの中で義兄が皇城にいることを祈りながら教会へ向かったのであった。
雷に怯えるノアとぺーちゃん
うとうとしていたイザベルは、ノアが目を覚まして遊びたがっている声で意識を戻しかけた。ノアはまだ眠っているフェリクスを気にしつつ、イーニアスのもとへ行こうとしたが、カミラに勉強中だと止められたため、別の遊びを考え始めた。その直後、近くに雷が落ち、大きな轟音と衝撃が室内を震わせた。驚いたイザベルが飛び起きると、ノアは恐怖で固まり、やがて泣きながらイザベルに抱きついた。さらに雷で目を覚ましたフェリクスも大泣きし、カミラに抱かれて寝室から連れてこられた。イザベルはノアを抱き上げ、マディソンはフェリクスを安定した抱き方であやし、二人の子供を落ち着かせた。やがて二人は泣きやみ、自分たちがどれほど驚いたかを一生懸命語り始めたのである。
正妖精が伝えたドニーズ失踪
その時、突然空間が輝き、正妖精が慌てた様子で現れた。正妖精は、オリヴァーが教会へ向かったと告げたあと、事故ではなく、ドニーズが教会で行方不明になり、そのことでフローレンスが不安がっているのだと説明した。ノアはドニーズの名を聞いてすぐにフローレンスの父親だと理解し、フェリクスにも説明した。イザベルは子供たちのやり取りに和みかけたが、すぐに事態の深刻さへ意識を戻し、詳しい事情を正妖精に問いただした。
教会で途絶えた妖精の連絡
正妖精によれば、ドニーズは聖水を受け取りに教会へ行ったまま戻らず、オリヴァーはその知らせを受けて教会へ向かったのだという。しかも正妖精は、ドニーズの居場所を追うために妖精の卵たちをつけていたにもかかわらず、その卵たちと連絡が取れなくなっていた。正妖精はその異常事態に動揺し、不安がるフローレンスを置いてイザベルのもとへ来てしまった。イザベルはその軽率さを咎めつつも、妖精同士の連絡が遮断される状況そのものがただ事ではないと判断した。そこへアオが現れ、結界の中に入ると妖精の通信ができず、居場所も分からなくなると説明した。イザベルは、ドニーズは教会内のどこか、妖精の通信を遮断する結界の中にいる可能性が高いと結論づけた。
テオバルドへの妖精通信
教会内に結界があり、ドニーズがそこに囚われている可能性があるうえ、この悪天候の中でオリヴァーまで教会へ向かっていると分かり、イザベルは緊急事態だと断じた。正妖精に命じて、すぐにテオバルドのそばにいる妖精の卵たちへ連絡を取らせる。確認の結果、テオバルドは皇城でウォルトと共に、貴族街と皇城を繋ぐ道に雷が落ち、騎乗者が落馬して診療所へ運ばれた件を調べている最中であった。イザベルは、その落馬者がオリヴァーからの使いではないかと考え、今のうちに直接テオバルドへ事情を伝えることにした。
ドニーズ失踪と教会の危険性
妖精通信が繋がると、イザベルはドニーズの足取りが教会で途絶えたこと、結界の中にいる可能性が高いこと、そしてオリヴァーが悪天候の中で教会へ向かったことを報告した。ノアは、外が雷で危険だからオリヴァーもきっと怖がっているはずだと訴え、フェリクスは状況が分からず首を傾げていた。正妖精もまた、ドニーズが帰らずフローレンスが不安がっているから助けてほしいと必死に頼んだ。テオバルドは、今の教会は枢機卿派と教皇派、実質的には大司教派に分かれており、その内部対立に巻き込まれて監禁された可能性、あるいは犯罪組織エンプティの関与もあり得ると冷静に分析した。そして、ドニーズは新素材を次々に開発するオリヴァーの側近であるため、狙われる理由は十分にあると指摘したのである。
聖女フローレンスの父という危険
その言葉を聞いたイザベルは、もしドニーズが危険に巻き込まれたのなら、その遠因は自分が新素材を広めたことにあるのではないかと考え、前世で父とオリヴァーを失った記憶を思い出して動揺した。するとノアとフェリクスは、イザベルに悪くない、大丈夫だと幼い言葉で励ました。テオバルドもまた、ベルのせいでもオリヴァーのせいでもなく、まだ状況は憶測にすぎないと諭した上で、ドニーズにはもう一つ狙われる理由があると告げた。それは、フローレンスが聖女であり、ドニーズはそのただ一人の肉親だからであった。
特異魔法による情報把握の可能性
さらにテオバルドは、これまで起きた襲撃や誘拐などの事件が、いずれも自分がそばにいない時を狙って起きていること、ベルやノアの思いつきの行動までも敵が把握していたことを踏まえ、内部に情報漏洩者や侵入者がいた形跡はない以上、敵は我々の居場所を感知する特異魔法を持っている可能性が高いと推測した。イザベルは、ただ居場所が分かるだけでフローレンスが聖女だと見抜けるのか疑問を呈したが、テオバルドは聖女は魔力の質が他と異なるらしいと説明し、もし人物に目印のようなものを付けられる能力まであるなら、敵が標的を特定できてもおかしくないと語った。そうであれば、聖女を操るためにその父であるドニーズを人質にする、あるいは殺害するという可能性も十分に考えられた。
テオバルドの出動決意と子供たちの制止
ドニーズの危険とオリヴァーの行動を踏まえ、テオバルドは自ら教会へ向かう決断を下した。大司教の見舞いを名目にすれば不自然ではないと判断したのである。これを聞いたノアは自分も教会へ行くと言い出し、フェリクスも教会という言葉に反応して目を輝かせた。イザベルは、この土砂降りの中で子供たちを連れて行くことは危険だとしてきっぱりと拒んだ。アオやアカは皆で行けば怖くないと無邪気に言ったが、テオバルドもまた、ドニーズが消息を絶った場所へ幼い子供たちを連れて行くことはできないし、ベルも邸で待機していてほしいと告げた。そしてウォルトに馬車の準備を命じたのである。
シモンズ伯爵家で起きた聖女誘拐
その頃、シモンズ伯爵家のタウンハウスではさらに恐ろしい事態が進んでいた。雷が落ちた大音響により使用人たちは大きく動揺し、その不安は幼いフローレンスにも伝わった。父のドニーズもオリヴァーも不在の中、フローレンスはこれまで以上に激しく泣き出し、メイドたちは必死にあやしたものの泣きやませることができなかった。仕方なくフローレンスを抱いて廊下を歩いていたメイドは、突然首に痛みを受け、そのまま意識を失って倒れた。泣き続けるフローレンスが次に気づいた時には、別のメイドの腕の中に抱かれていた。そしてその人物は、フローレンスを聖女と呼び、自分と共に来るよう告げたのであった。
フローレンス誘拐の発覚
正妖精は突然青ざめ、フローレンスが外へ連れ出されていると叫んだ。イザベルが事情を問うと、誰かがフローレンスをこの雨の中で連れ去ったのだと分かり、誘拐の可能性が一気に現実味を帯びた。ノアは異変を察して不安そうに尋ねたが、イザベルはノアが転移で飛び出してしまうことを恐れ、表向きは大丈夫だと答えた。だが内心では、フローレンスが誰に誘拐され、どこへ向かっているのか分からず、強い焦りを抱いていた。
フローレンスの行き先が教会だと判明
まだ繋がっていたテオバルドとの通信を通じて、正妖精はフローレンスが教会の方へ向かっていると伝えた。これにより、先ほどの推測どおり、フローレンスの正体が敵に知られている可能性がさらに高まった。正妖精はすぐにフローレンスのもとへ戻ると告げて姿を消し、以後はアオを通じてテオバルドの声が届くようになった。イザベルは自らも教会へ向かうと申し出たが、テオバルドは、もし聖女だと知られているなら命までは奪われないはずだとしつつも、無茶はしてほしくないと制止した。
子供を守りたいイザベルの決意
イザベルは、命の危険がないとしても、誘拐が幼い心に深い傷を残すことをノアの過去の経験から痛感していた。だからこそ、フローレンスも守らなければならないという思いを強くした。テオバルドは、ベルの大事な人は自分にとっても大事だと告げ、その言葉はイザベルの胸を熱くした。そこへノアが、自分は転移できるからアオと一緒にフローレンスのところへ行くと言い出した。ノアはフローレンスを助けたい、そして自分は母の騎士なのだと真っ直ぐに訴えたが、テオバルドは、ノアは自分だけなら転移できても契約のないフローレンスを連れ帰ることはできないと指摘した。イザベルはその事実に安堵しつつも、ノアの気持ちの強さに寂しさと誇らしさを同時に覚えていた。
正妖精の仮契約と救出の限界
イザベルは、正妖精がフローレンスを転移させられるのではないかと思いついたが、アオによれば、正妖精とフローレンスは正式契約ではなく仮契約の状態であった。正妖精は妖精王であるため仮契約でも多少の力を貸せるものの、完全に繋がっていない状態での転移は危険すぎて不可能だという。すぐにフローレンスを連れ戻す手段がないと知り、イザベルは悔しさを覚えたが、それでも子供たちに不安な顔をさせまいと、自分が必ず助け出すと約束した。だがテオバルドは、ベルは妊娠中なのだから邸で待機してほしいと改めて求め、自分を信じろと力強く告げた。イザベルはその言葉を受け入れ、皆で無事に戻ってくるよう願ったのである。
テオバルド出発とチロの行動
通信を終えた後、マディソンはテオバルドなら氷の大公の名にふさわしくすぐに片付けて戻るはずだと穏やかに語り、イザベルを安心させた。その時、いつもそばにいるはずのチロの姿が見えないことにイザベルは気づいた。アオに尋ねると、チロはオリヴァーを心配して彼のもとへ向かったという。オリヴァーには妖精は見えないが、そばにはサリーがついていると聞き、イザベルは少し安堵した。ノアはオリヴァーとフローレンス、そしてフローレンスの父の無事を案じ、フェリクスは自分が助けに行くと言いたげな様子を見せた。
ぺーちゃんの鍵と教皇の間の可能性
フェリクスは首から下げた教皇の間の鍵を取り出し、何かを伝えようとした。ノアの通訳によれば、その部屋は安全だという意味であった。イザベルは、もし教皇の間のような重要な場所に結界が張られているなら、教会でドニーズと妖精の卵たちの連絡が途絶えたのは、彼がそこへ入ったからかもしれないと思い至った。さらにフェリクスは、クレオ大司教の名を示し、この鍵は自分だけでなくクレオ大司教も持っているのだと伝えた。イザベルは、教会にいるクレオ大司教とドニーズが一緒にいる可能性を見出し、わずかな希望を抱いた。フェリクスは皆のために大切な鍵を貸そうとし、クレオ大司教の存在まで教えたため、イザベルはその優しさを褒めた。するとフェリクスは照れたように顔を赤らめ、震え始めたのであった。
教会へ向かうオリヴァー
一方その頃、オリヴァーは激しい雨の中で馬車に揺られながら教会へ向かっていた。チロは彼を止めようとしていたが、サリーがそれを受ける形で、今教会へ入るのは危険ではないかと進言した。だがオリヴァーは、自分たちはシモンズ伯爵家の紋章入りの豪華な馬車で目立つように乗り込むのだから、ここで自分に手を出せば教会はディバイン家、シモンズ家、さらには皇帝側まで敵に回すことになると理詰めで説明した。サリーはそれ以上は口を出さず、オリヴァーは教会へ入った。シスターたちに事情を話すと、彼女たちは困惑しながらも奥の部屋まで確認したが、ドニーズはどこにもいなかった。
枢機卿との再会と不穏な反応
その時、以前劇場で会ったことのある男が現れ、彼が枢機卿猊下であることが判明した。オリヴァーは以前の無礼を詫び、枢機卿は穏やかに受け流したものの、オリヴァーにはその笑みがどこか冷たく感じられた。オリヴァーが教会へ来た理由を説明すると、枢機卿は一瞬笑みを消し、教会が使用人失踪に関与しているのかと問い返した。オリヴァーはそのつもりはなく、あくまで教会内に留まっている可能性を考えて探しに来ただけだと答えた。すると枢機卿は、自分の部屋も含めて好きに確認してよいと協力を申し出た。その後、礼拝堂へ入っていった枢機卿のあとで、オリヴァーは礼拝堂の扉近くに落ちていた子供用の猫の刺繍入りハンカチを見つけた。それを枢機卿の落とし物だと思って拾うと、礼拝堂の扉が激しく開き、慌てた様子の枢機卿が現れた。枢機卿はオリヴァーの手にあるハンカチを見るなり、触るなと叫んでそれをひったくるように奪い、そのまま再び礼拝堂へ戻っていった。シスターたちは、枢機卿は普段は穏やかな人だと取り繕ったが、オリヴァーの胸には強い違和感が残った。
フローレンスを連れ去った女の正体と教会の隠し通路
同じ頃、メイドに変装してシモンズ伯爵邸へ入り込んでいた女は、指示どおりフローレンスを連れ出し、準備していた馬車へ押し込んでいた。女は、自分が仕えている「あの方」のためとはいえ、本当にこんなことをしてよかったのかと迷いを抱えていた。以前にもディバイン公爵の前妻に変装させられ、厄介事に巻き込まれたことを思い出しつつ、今度もまた「あいつら」の言いなりになっていることに苛立っていた。それでも、あの方の役に立ってほしいとフローレンスに語りかけ、雨音に紛れて教会の裏手へ馬車を進めた。女はフローレンスを抱えて教会の奥へ入り、普段使われない書庫へ向かった。そこには古い本や壊れた家具が雑然と積まれていたが、女は迷うことなく一冊の本の中から鍵を取り出し、さらに別の場所の鍵穴へ差し込んだ。すると本棚が扉のように開き、その裏には別の空間が現れた。さらに燭台の下にあった別の鍵穴と仕掛けを使って壁を開くと、女はその先へ進み、待たせた相手に向かってウィーヌス様と呼びかけたのであった。
第三章 氷の棺
ハンカチを失った動揺
ウィーヌス枢機卿は、シモンズ伯爵家の子息と話した後、いつものようにポケットへ手をやった。しかし、そこにあるはずの大切なハンカチがなくなっており、彼は血の気が引いた。礼拝堂を出ると、そのハンカチをオリヴァーが拾って持っている姿が目に入り、落とし物として拾っただけだと理解しながらも感情を抑えきれず、ひったくるようにして取り戻したのである。
礼拝堂の奥に隠された部屋
ウィーヌスは礼拝堂を横切り、さらに奥にある古びた書庫へ向かった。そこには普段誰も立ち入らないことを利用して作られた隠し部屋があり、三つの部屋に分かれていた。一つ目は見せかけの部屋、二つ目は多目的室であり、三つ目の部屋へ入るための鍵は彼だけが持っていた。ウィーヌスは二つ目の部屋でルネの到着を待ちながら、地下の神殿へ行くには聖女の力が必要であり、神殿に辿り着けさえすれば目的を果たせると考えていた。
聖女フローレンスの確保
やがてルネがフローレンスを連れて部屋へ現れた。ウィーヌスは、オリヴァーのそばにいたこの子供こそ聖女であると確信していた。彼の特異魔法は魂の形を映し出すものであり、その眼は誤魔化せなかったからである。ついに聖女を手に入れたことで、聖女の加護と力、さらに神殿の鍵が揃えば目的を進められる段階に来た。ウィーヌスはルネを労い、残る鍵を手に入れた後にすぐ出発するつもりでいた。
ルネが望んだ再会
しかしルネは、出発前に「あの人」の顔を見ておきたいと願った。ウィーヌスはそれを受け入れ、その人物が眠る三つ目の部屋の扉を、自らの鍵で開いた。そこからは強い冷気が溢れ出し、全身を刺すような寒さが広がったが、ルネはためらわずに部屋の中へ入っていった。寒さで震え始めたフローレンスは、ウィーヌスが抱き取り上着で包んだ。
氷の棺に眠る存在
三つ目の部屋の中は、天井や壁に霜が付き、床まで凍りついた氷の世界であった。その冷気の源は、部屋の中央に置かれた氷の棺にあった。棺には氷の魔石が取り付けられており、その中には「彼女」が眠っていた。ルネはその姿を前に姉さんと呼びかけ、ウィーヌスもまた強い執着をにじませながら、棺の中の存在を見つめていたのであった。
子供たちの穏やかな時間
ノアは積み木を上手に積み上げるフェリクスをお兄ちゃんらしく褒め、イザベルたちはその微笑ましい様子を見守っていた。フローレンスを助けられないことに強い衝撃を受けていたノアも、なんとか玩具で気を紛らわせ、落ち着きを取り戻していたのである。イザベルは、緊急事態の最中とは思えない穏やかな空気に安堵しつつも、子供たちの心配が完全には消えていないことを感じ取っていた。
イーニアスの来訪と子供たちの密談
そこへ勉強を終えたイーニアスがやって来た。ノアは喜んで駆け寄ったが、突然現れたイーニアスに驚いたフェリクスは仰向けに倒れてしまった。イーニアスは、チロがイザベルのそばにいないと聞き、ノアにだけ連絡して訪れたのだと素直に説明し、突然の来訪を詫びた。その後、ノアとイーニアス、フェリクスは円陣を組むようにして内緒話を始めた。イザベルはその様子を見守りながら、三人が何か危険なことを考えていないか不安を抱いたが、マディソンはノアが先日の件を反省している以上、勝手な行動は取らないだろうと諭した。
親の愛情への励まし
子供たちの強い正義感と力を持っていることを心配するイザベルに対し、マディソンは、それこそが親心なのだと語った。自身もウォルトに対して小言を絶やさないのは愛情ゆえだと明かし、イザベルにもノアへの深い愛情を遠慮なく注いでよいと励ました。カミラもまた、自分がいつでも支えると胸を張り、イザベルは二人の存在に支えられていることを改めて実感したのである。
子供たちの教会行きの提案
やがて内緒話を終えたノアは、自分たちは教会へ行くと宣言した。イザベルが、ノアの転移ではフローレンスもドニーズも助けられないと止めようとしたところ、ノアは自信ありげにイーニアスを指し示した。イーニアスは赤い鳥と契約しており、その力なら複数人を転移させられると説明したのである。イザベルが必死に宥めようとする中、珍獣が突然現れ、何度も呼び出すなと不満を言いながらも、いきなり転移を実行した。
教会への強制転移
一瞬のうちに炎に包まれたかと思うと、イザベルたちは帝都のトルノ大聖堂の礼拝堂へ転移させられていた。マディソンとカミラも巻き込まれており、イザベルは慌ててノアたちを探したが、三人は無事に内陣の椅子に座っていた。ノアは教会に来られたことを喜び、フェリクスは驚き、イーニアスは珍獣が先走ったことを詫びた。イザベルは子供たちを抱き寄せつつ、テオバルドが来るまでここで待機する方針を取った。
礼拝堂での潜伏
教会関係者に見つからぬよう、イザベルたちは内陣後方の太い柱の陰へ移動した。その直後、礼拝堂に誰かが入ってくる気配があり、子供たちは好奇心から覗こうとしたが、イザベルにかくれんぼだと言われて静かにすることになった。そうして息を潜めていると、ディバイン公爵が迫っているという声とともに、ウィーヌスと呼ばれる男の声が聞こえた。イザベルはその名から、相手が枢機卿であると悟ったのである。
枢機卿との対峙
やがてウィーヌス枢機卿は、柱の陰にイーニアスやイザベルたちが隠れていること、さらには人数まで正確に言い当てた。見つかっている以上隠れ続ける意味はないと判断したイザベルは、子供たちを柱の陰に残し、自ら姿を現した。礼拝堂の入り口にはウィーヌス枢機卿がおり、その腕の中にはフローレンスが抱かれていた。隣には見知らぬ女ルネがおり、彼女は短剣を見せて威嚇した。イザベルは恐怖を押し殺しながらも、フローレンスはシモンズ伯爵家、ひいてはディバイン公爵家の庇護下にある子だとして返還を求めた。
聖女を巡る枢機卿の主張
これに対し枢機卿は、自分は聖職者だからこそフローレンスを保護しているのだと答えた。その理由として、フローレンスは聖女であると断言したのである。イザベルは、聖女は七十年現れておらず、祝福の儀も受けていない三歳児を聖女と認めるわけにはいかないと応じた。すると枢機卿は、それは神託によるものだと主張した。イザベルは驚きつつも、隣にいたルネがその言葉に動揺したことを見逃さず、枢機卿の言葉にどこか虚偽があるのではないかと感じ取った。さらに枢機卿は、フローレンスの親は了承済みであり、外部の者が口を挟むことではないと述べたが、イザベルには到底信じられなかった。
イーニアスの介入
そこへイーニアスが姿を現し、枢機卿に対してここに留まりたいと穏やかに、しかし堂々と告げた。枢機卿は悪天候の中なぜ護衛もなく教会へ来たのかと尋ねたが、イーニアスは苦し紛れにピクニックだと答えた。場に微妙な沈黙が流れたものの、イーニアスは外が雨だからここで雨宿りをしているのだと胸を張った。ノアはその姿を格好いいと心の底から称賛し、イザベルは緊張の中にも子供らしさが残るやり取りに複雑な思いを抱いた。
フローレンスを巡る押し問答
フローレンスはイザベルのもとへ行きたがって必死に手を伸ばしたが、枢機卿は彼女を下ろそうとしなかった。イーニアスは、子供が泣いているのだから下ろしてやるべきだと真っ向から主張したが、枢機卿は聖女に必要な儀式をこれから礼拝堂で行うため外部の者には見せられないと返し、イーニアスたちには奥の部屋を用意すると言った。だがイーニアスは、おさなごが泣いているのに待てないような儀式などおかしいと更に追及したため、枢機卿は反論を失った。
枢機卿たちの逃走
追い詰められた枢機卿は、計画を変えたらしく、フローレンスを連れたままルネと共に祭壇の裏へ回り、そのまま姿を消した。イザベルが追って祭壇の裏側を確認しても扉はなく、地下へ続く隠し通路があるのではないかと推測された。イーニアスとノアはすぐにフローレンスを助けなければと飛び出しそうになったが、イザベルは一旦待つべきだと制した。そして正妖精に、フローレンスのそばについて居場所を知らせるよう命じた。
新たな課題
その場でマディソンは、イーニアスが戻らなければ皇后にとって大事になるため、すぐに報告しなければならないと指摘した。イザベルもその重大さに思い至り、子供たちを伴って教会に来てしまったことの影響の大きさを理解したのである。
教皇の間への避難
ドニーズは、教会の地下にある小部屋で状況を把握しようとしていた。そこは「教皇の間」と呼ばれ、本来なら教皇しか入れない場所だとクレオ大司教から説明を受けた。ドニーズは、寄付のために教会を訪れて奥の部屋へ通された後、長く放置されたことを不審に思い、廊下を覗いたことで騒動に巻き込まれたのだった。廊下には倒れた男女と腰を押さえるクレオ大司教がおり、さらに扉の裏から刃物を持った者に襲われたが、クレオ大司教が杖で相手を殴り倒して事なきを得た。そのままドニーズは大司教に連れられ、この教皇の間へ避難したのである。
狙われた理由の不明瞭さ
ドニーズは、自分たちが何から逃げているのかを問い、大司教は我々に危害を加えようとする者からだと答えた。しかし、なぜドニーズ自身が狙われているのかについては、大司教にもはっきりとは分からなかった。大司教は、自分が狙われる理由は分かるが、ドニーズの件は断定できないとしつつも、シモンズ伯爵家の新素材だけが理由とは思えず、教会で狙われた点に違和感を抱いていた。ドニーズは、情報の乏しさに不安を募らせながらも、ここで味方が来るまで待つしかないと知る。教皇の間には風呂や寝床はあったが、食糧がなく、その点だけは現実的な問題として残っていた。
フローレンスへの不安
時間の感覚も分からないまま閉ざされた空間で過ごす中、ドニーズの心は娘フローレンスへの心配で満たされていた。自分のような力のない一般人が狙われた以上、真の標的は聖女であるフローレンスではないかと考えたのである。フローレンスが聖女であることは、イザベルの妊娠が判明した頃に光を放ったことや、以前から妖精のような存在に向かって話しかけたり、傷を癒したりしていたことから、今となっては疑いようがなかった。ドニーズは、娘が菓子につられて誘拐されていないことを祈りながらも、何もできない自分をもどかしく感じていた。
外への脱出の試み
ついにドニーズは、このまま閉じこもっているだけではいられないと決意し、教皇の間から出ることを提案した。クレオ大司教も外の様子を見ることに同意し、二人は慎重に扉を開けて廊下へ出た。人の気配がないことを確認した後、地下から地上へと続く階段を進んだ。ドニーズは、自分にも多少の武術の心得があるとして、大司教を背後に庇う形で進んだが、地上へ上がった直後、潜んでいた暗殺者に襲われた。咄嗟に拳を繰り出したものの相手には全く通じず、逆に床へ投げ飛ばされてしまう。しかし、ナイフが振り下ろされる寸前で、大司教の杖が暗殺者の側頭部を打ち、ドニーズは危うく救われたのである。
書庫への進路変更
礼拝堂側へ続く右の通路には複数人がいるらしいと大司教が察したため、二人は左手にある書庫へ向かうことにした。書庫は広く、書物だけでなく雑多な物が置かれた埃だらけの場所で、普段使われていないことが一目で分かった。ドニーズは窓から脱出できないかと考えていたが、クレオ大司教は途中で本棚の床に新しい擦れ跡があることに気づき、不自然さを指摘した。さらに、埃を被っていない本を見つけ、その中に鍵が隠されていることをドニーズが発見した。大司教はその鍵を本棚の鍵穴へ差し込み、隠し扉を開けたのである。
隠し部屋の発見
本棚の向こうには何もないように見える部屋があったが、大司教はそこにも更なる仕掛けがあると直感した。燭台の下に鍵穴を見つけたものの、対応する鍵は見当たらなかった。ドニーズは、この隠し部屋が最近作られたものだと大司教が見抜いていることに不審を抱き、枢機卿の仲間ではないかと疑いかけたが、大司教はそれを否定した上で、この隠し部屋はおそらく枢機卿の仕業であり、犯罪に関わる証拠が隠されている可能性があると推測していた。ただし証拠はまだなく、あくまで推測の段階であった。
ドニーズの特異魔法
そこでドニーズは、鍵がないなら作ればよいと考え、自身の特異魔法「クリエイト」を使うことを決めた。この魔法は簡単な物しか作れず、一日に三回までしか使えないが、鍵程度なら生成できた。ドニーズは燭台の鍵穴に合う鍵を作り出し、大司教の助言どおり燭台を横に傾けると、再び壁が扉のように開いた。二つ目の部屋にはソファや机などの家具があるだけで、書類など証拠らしいものは見当たらなかったが、そこにはさらに奥へ続く冷気が漂っていた。大司教はその先にも仕掛けがあると見抜き、ドニーズは再度鍵を作り出して三つ目の部屋を開けた。
氷の棺との遭遇
三つ目の部屋が開いた瞬間、全身を刺すような冷気が溢れ出し、ドニーズの身体は震え始めた。その部屋の中央には氷でできた棺があり、クレオ大司教は中に女性の死体があると告げた。ドニーズは恐れつつも覗き込み、大司教も見知らぬ女性だと確認した。だがドニーズは、その棺がわずかに溶けかけていることに気づき、目の前の異様な光景に新たな不穏さを感じ取ったのである。
テオバルドと皇后の到着
テオバルドは皇城を出発してから約三十分後、湿った空気とともに礼拝堂へ現れ、突然の妖精通信と転移騒動に肝を冷やしたことを率直に告げた。イザベルもまた、珍獣によって突然礼拝堂へ転移させられたことに驚いていたと説明した。そこへ皇后も駆けつけており、イザベルから一連の事情を聞いた上で、イーニアスの無事を確認して安堵していた。外は依然として土砂降りで、日も暮れ始めていたため、まだ会えないオリヴァーやドニーズ、そして連れ去られたフローレンスへの不安は一層強まっていた。
ぺーちゃんの震えと子供たちの励まし
その時、ノアがフェリクスの様子がおかしいと知らせに来た。マディソンによれば、フェリクスは枢機卿の声を聞いてからずっと震え続けていた。テオバルドは、フェリクスが教皇として枢機卿に命を狙われた過去がある可能性、そして誘拐事件にも枢機卿が関与している可能性を指摘した。するとノアはフェリクスのそばに寄り、自分もイーニアスもそばにいるから大丈夫だと励ました。イーニアスも、自分たちは悪魔を倒したほど強いのだと胸を張り、二人の言葉によってフェリクスは次第に落ち着きを取り戻していった。
地下迷宮と神殿への移動計画
正妖精からの情報により、教会の地下には坑道があり、それが皇城の地下迷宮に繋がっていること、さらに枢機卿が地図を持っていて、フローレンスと謎の女性を連れて珍獣の神殿へ通じる転移陣へ向かっていることが判明した。イザベルが枢機卿の狙いは神殿なのかと問うと、テオバルドと皇后は深刻な面持ちを見せた。神殿の屋根の形から、子供たちはそれを「たまねぎの神殿」と呼んで騒いだが、その無邪気さとは裏腹に、事態は極めて深刻であった。
神殿の宝物庫の鍵という手掛かり
そこへアカが、正妖精から新たな通信が入ったと告げた。枢機卿の目的はやはり神殿であり、宝物庫にある鍵について話しているという。これを聞いたイーニアスは、以前フェリクスの鍵の柄が宝物庫の扉と同じだと気付いていたことを思い出した。フェリクスが持つ鍵は教皇の間の鍵だと分かっていたため、テオバルドは関連性は低いと見たが、イーニアスはそれが古代魔法によって変形する鍵かもしれないと考えた。イザベルはその発想を否定せず、もし教皇の間の鍵が他の場所も開けるものだとすれば、それが何を開き、何が中にあるのか気になると話したことで、子供たちは再び勢いを取り戻した。ノアは、その鍵は宝箱の鍵なのだと自信満々に言い、子供たちの間では宝物を巡る想像が膨らんでいった。
フローレンスが神殿へ連れていかれる危険
しかし皇后は、そもそもなぜ光の神の加護を持つフローレンスを焔の神殿へ連れていくのかが分からないと疑問を呈した。そこでイザベルは、神殿には焔神の加護がなければ命を落とす危険な罠があることを思い出し、フローレンスの身を案じた。テオバルドはその間に妖精の卵からドニーズとオリヴァーの所在を掴んでおり、二人とも教会内にいて、少なくともオリヴァーは閉じ込められていないことを明かした。ただしドニーズは命を狙われているらしく、安心できる状況ではなかった。子供たちもまた、焔の神殿が極めて危険な場所であることに気付き、フローレンスの危機を理解したのである。
テオバルドの行動と礼拝堂での待機
結局、テオバルドはアカを伴い、ドニーズを捜しに向かった。イザベルたちは邸へ戻るよう言われたものの、念のため礼拝堂でオリヴァーと合流することになった。アオは礼拝堂で待っていればよいと告げたため、イザベルたちは子供たちとともに長椅子に座っていた。すると、数人のシスターを伴い、サリーとともに現れたオリヴァーが、そこにいるイザベルを見て驚愕した。
オリヴァーとの再会と叱責
オリヴァーは、大雨の中で妊娠中の姉が帝都まで来ていること、しかも子供たちまで連れて教会にいることに強く動揺し、イザベルを厳しく叱った。イザベルがサリーの呟きを聞き返そうとしても、オリヴァーはそれを遮るほど勢いづいていた。しかしその直後、イーニアスと皇后の存在に気付き、先ほどまでの勢いを急に失った。イザベルは、テオバルドが一緒に来ており、今はドニーズを迎えに行っていると説明したが、オリヴァーはむしろ最初からそう言ってほしかったと不満を漏らした。
姉弟の言い争いとノアの仲裁
それでもオリヴァーは、危険な場所に妊婦のイザベルが来ても困るのだと責め、イザベルも自分だって手伝えると反発した。姉弟の言い合いが始まる中、ノアはイザベルを庇うようにオリヴァーを「めっ」と叱った。ノアに初めて叱られたオリヴァーは大きな衝撃を受け、イザベルはそんな息子の姿に感動した。サリーとの昔ながらのやり取りも交えつつ、礼拝堂には一時的に騒がしくも家庭的な空気が流れた。皇后は、イザベルが弟の前では年相応に見えることを面白がり、イーニアスも母との会話で兄への甘えを指摘されていた。
ドニーズの居場所の判明
やがてオリヴァーは、結局テオバルドは来ていないのかと確認したが、イザベルは来ており、今まさにドニーズを迎えに行っているのだと答えた。さらに、ドニーズはクレオ大司教と一緒にいるらしいと明かすと、オリヴァーは驚きながらも強い関心を示したのである。
テオバルドが隠し部屋に到着する
妖精の卵に導かれたテオバルドは、教会の倉庫の中に隠し部屋が存在していることを知り、その異様な構造に驚いた。開け放たれた隠し部屋を進むと、極端に冷えた室内で、ドニーズとクレオ大司教が呆然と立ち尽くしていた。二人の前には氷の棺が置かれ、その中には女性の遺体が横たわっていたのである。
ドニーズ救出の経緯
テオバルドに気付いたドニーズは礼を取ろうとしたが、すぐに説明を求められ、自分も状況を把握しきれていないことを明かした。寄付のために教会を訪れた後、突然命を狙われ、クレオ大司教に救われて逃げ込んだ先がこの隠し部屋であったという。どうやらこの隠し部屋自体も、意図して辿り着いたのではなく、偶然発見したものであった。テオバルドは、オリヴァーからドニーズが教会で消息を絶ったと知らされて様子を見に来たのだと伝え、オリヴァーの機転によって無事を確認できたことを内心で評価した。
フローレンスを案じる父への配慮
ドニーズは、自分が狙われた理由として思い当たるのは娘フローレンスの存在しかないと考え、彼女の無事を必死に確かめようとした。テオバルドは、その不安が正しい方向を向いていることを理解していたが、ここで真実を告げればドニーズが娘を追って無茶をしかねないと判断した。そのため、フローレンスはシモンズ伯爵家にいるはずだから早く帰ってやれとだけ告げ、ひとまずドニーズを落ち着かせたのである。
溶け始めた氷の棺
その時、クレオ大司教が険しい顔でテオバルドを呼び、氷の棺の様子を見るよう促した。近づいて確認したテオバルドは、棺が溶け始めていることに気付いた。中の女性はすでに息をしておらず、死亡していると見られた。テオバルドは、この女性が枢機卿と関係しているのであれば、先ほど礼拝堂で枢機卿が焦っていたこととも繋がるのではないかと考えた。
枢機卿の目的地の推測
クレオ大司教が、枢機卿は焦っていたのかと問い返すと、テオバルドは、枢機卿はすでに教会地下の迷宮へ潜っており、追跡の結果、その目的地は焔の神獣の神殿ではないかと考えていると説明した。教会地下の坑道や皇城地下迷宮との接続、さらには神獣の存在すら知らなかったクレオ大司教は、その話に目を見開いた。テオバルドは、自分がベルと関わるようになってから不可思議な事態に慣れすぎていたことを思い出しつつも、今はそれより優先すべき事態があると判断した。
礼拝堂への移動の決断
テオバルドは、これ以上この場で立ち止まっていても得るものは少ないと見て、まずは礼拝堂へ移動することを決めた。氷の棺と遺体の存在、枢機卿の焦り、そして地下迷宮への逃走という異常事態を抱えたまま、一行は次の対応へ向かうことになったのである。
礼拝堂での再会と束の間の安堵
ぺーちゃんが空腹を訴え、ノアがそれをイザベルに伝えたことで、礼拝堂にいた一行は別室へ案内された。オリヴァーはぺーちゃんを見て混乱し、イザベルがいつの間に赤ん坊を産んだのかと大騒ぎしたが、ノアが得意げにぺーちゃんのことを説明していた。そこへチロも戻ってきて、イザベルに勝手に離れたことを叱られつつも、すぐにテオバルドへ皆がここにいることを伝えていた。礼拝堂には一時、緊張を忘れるような賑やかで穏やかな空気が流れていたが、フローレンスのことを思うイザベルの胸中には不安が残り続けていた。
テオバルドたちの帰還
やがてテオバルドが、クレオ大司教とドニーズを連れて戻ってきた。イザベルはテオバルドに待っていたことを伝え、ドニーズの無事にも安堵した。クレオ大司教とぺーちゃんは感動の再会を果たし、大司教はまるで孫を可愛がる祖父のように振る舞っていた。ノアたちもドニーズや大司教のもとへ集まり、場は一瞬和やかになったが、テオバルドはすぐにイーニアスへ、自分だけを神殿前へ転移させるよう珍獣に頼んでほしいと求めた。イザベルはそれを危険だとして止めようとしたが、テオバルドはベルたちを皇后とともに邸へ戻すつもりでいた。
再び起きた強制転移
しかし珍獣は、イーニアスの制止も聞かず、またしてもその場にいた全員を神殿前へ転移させた。二度目の強制転移の先に広がっていたのは、子供たちがたまねぎの神殿と呼んでいた建物であった。インドのタージ・マハルを思わせる異国風の神殿が静かな星空の下に立っており、帝都の土砂降りとはまるで別世界のようであった。オリヴァーとドニーズは初めての転移に動揺し、周囲を落ち着きなく見回していた。イザベルはその景色に見惚れながらも、ここが帝国内ですらないのではないかと感じた。
神殿前で明かされた誘拐の事実
神殿前にフローレンスの姿は見えず、イザベルがそのことを漏らすと、ドニーズは初めてフローレンスがここへ連れて来られるのだと悟った。テオバルドがこれまで真実を伏せていたこともあり、ドニーズは大きく動揺したが、ノアとイーニアスは自分たちがフローレンスを助けるのだと、幼いながらも力強く宣言した。やがてテオバルドは、フローレンスが枢機卿とともにこちらへ向かっており、怪我もなく、今のところ怯えてもいないと説明した。ドニーズは崩れ落ちそうになりながらも、オリヴァーに支えられていた。
フローレンスを盾にした枢機卿
そこへフローレンスを抱いた枢機卿が現れた。フローレンスは父を見つけて嬉しそうに手を伸ばしたが、枢機卿の隣にいる女がナイフを見せて牽制したため、ドニーズは近づけなかった。フローレンスは空腹を訴え、状況の深刻さに反して無邪気な様子を見せたが、それがかえって周囲の焦りを際立たせた。ノアとイーニアスは枢機卿に対し、フローレンスを離すよう怒ったが、子供らしいぷんぷんという表現にとどまり、それを見たテオバルドと皇后はそれぞれ我が子への甘さを隠しきれなかった。
枢機卿の特異魔法の正体
枢機卿は、一行が教会から消えたことを「魂の反応が消えた」と表現した。イザベルはその言葉から、枢機卿の特異魔法が人の魂、すなわちエネルギーの感知能力であると確信した。これにより、これまでディバイン公爵家の動きやノアの誘拐のタイミングを正確に把握できていた理由、礼拝堂で隠れていた人数まで見抜けた理由、さらにフローレンスが聖女だと知った理由にも説明がついた。テオバルドもその推測を補強し、枢機卿は感知能力によって人の居場所や魂の特質を捉えていたのだと認識した。
神殿の罠と枢機卿の証
子供たちは、神殿には焔神の加護がなければ危険な罠があることを繰り返し訴えた。フローレンスは光の神の加護を持つ存在であり、焔神の加護ではないため神殿内は危険だとイーニアスと正妖精は叫んだ。しかし枢機卿は、自分は神殿に入るための「証」を持っていると語った。その証は加護に反応して結界を作り、同行者のうち一人でも加護持ちであれば安全に神殿へ入れるものだという。さらに、その証を持っている理由として、自分の先祖がこの神殿に出入りできる立場の者だったからだと明かした。クレオ大司教も、この告白には強い衝撃を受けていた。
氷の棺と枢機卿の執着
クレオ大司教は、書庫の隠し部屋にあった氷の棺について触れた。そこに眠る女性と、枢機卿が時間がないと焦っていたことには関係があるのではないかと問うと、枢機卿の様子はさらに変わった。彼は、自分は「彼女」と「娘」のためなら何でもできると口にした。大司教が娘のことにまで踏み込むと、枢機卿は明確に動揺しつつも、それ以上は語らなかった。イザベルは話を整理しようとし、氷の棺の中の女性が娘とは思えず、むしろ別の大人の女性であり、枢機卿はその女性を通じて娘に会おうとしているのではないかと推測した。すると枢機卿は、自分は娘に会うために神殿へ入らねばならないのだと苦しげに吐露したのである。
テオバルドの制圧とイザベルの制止
テオバルドは前に出て、今すぐ足を凍らせて砕くこともできると無表情に告げた。足元から冷気が広がり、枢機卿の周囲の地面は凍りついていった。しかしその影響でフローレンスも寒さを訴え、小さなくしゃみをした。イザベルはそれを見て、フローレンスが風邪を引いてしまうと強く制止した。ノアもまた、フローレンスが冷たい思いをしていることを理由に、父へ「めっ」と叱った。言い訳をしようとしたテオバルドは、ノアから言い訳は格好悪いとまで言われ、大きな衝撃を受けて固まってしまった。
枢機卿の神殿突入と新たな手掛かり
その隙を突き、枢機卿はフローレンスを抱えたまま神殿内へ駆け込んだ。ドニーズは追いかけようとしたが、皇后と大司教に止められた。イザベルは自分が口を挟んだせいで逃がしたのではないかと自責したが、ノアとテオバルドはそれを否定した。イーニアスが神殿の管理者であることを思い出したイザベルは、管理者として侵入者を追い出したり捕まえたりできないのかと尋ねた。しかしイーニアス自身にはその方法が分からなかった。そこでノアが手を挙げ、神殿そのものにお願いすればよいのだと真剣に提案した。両手を上げて「いでよ、たまねぎ。そしてお願い、かなえたまえ」と唱えながら侵入者を捕まえてほしいと願う子供たちの姿はあまりにも愛らしく、周囲を困惑させつつも和ませた。
取り残された女への着目
その騒動の最中、枢機卿に従っていた女がその場に取り残されていることにイザベルは気付いた。テオバルドが彼女の足元まで凍らせていたため、女は編み上げブーツごと地面に固定され、逃げ出せない状態にあった。すでに諦めたようにも見えるその女こそ、枢機卿の事情を知る重要な手掛かりであるとイザベルは悟り、ここから真相を聞き出すべきだと考えたのである。
第四章 真相
枢機卿の過去とポレットへの執着
ウィーヌス枢機卿は、神殿へ駆け込んだあともフローレンスを抱えながら、かつて愛したポレットのことを思い出していた。ポレット・フェリス・ナイトレイはナイトレイ子爵家の長女であり、幼い頃からウィーヌスと近しい関係にあった。やがて二人はアカデミーで共に過ごすうちに惹かれ合ったが、ポレットは魔管が詰まりやすくなり、体内に魔力が毒のように蓄積する不治の病、魔栓症を患っていた。ウィーヌスは彼女を救うために医療を学び、教会へ入り、さらには犯罪組織とも関わりを持ちながら治療法を探し続けたが、病の進行を止めることはできなかった。
子供の誕生と失われた家族
ポレットがウィーヌスの子を身ごもったことで、二人は一時幸せを感じていた。しかし魔栓症は進み、ディオネ辺境伯家は病を持つ女性との婚姻も、その血を継ぐ子の誕生も強く拒んだ。出産を目前にしたある日、ウィーヌスは病に効くかもしれない薬の情報を追って外出し、その間にポレットは産気づいた。そしてウィーヌスが戻った時には、ポレットはすでに目覚めぬ眠りについていた。さらに、生まれた子供は父である辺境伯によって連れ去られ、養子に出されていた。辺境伯はそれが娘だと告げたため、ウィーヌスは長い間、娘を捜し続けることになったのである。
不死の神殿への執念
ポレットを失ったウィーヌスは、氷の魔石で作った氷の棺に彼女を眠らせ、その死を受け入れられずにいた。兄の遺品整理で見つけた先祖の日誌には、不死の神殿に関する記述があり、そこにポレットを取り戻す手がかりがあると信じた。聖女が存在しなければその手段は成立しなかったため、ウィーヌスは聖女の出現を待ち続けていたのである。
ルネが語ったウィーヌスの真意
一方、神殿の外では、ルネが一行にウィーヌスの過去を語っていた。氷の棺に眠っていた女性こそ、枢機卿の妻ポレットであり、氷の魔石の効力が弱まって棺が溶けかけていることが、ウィーヌスを焦らせていた原因であった。さらにルネは、以前ノアを攫おうとしたのは、氷の魔石に魔力を補充するためだったと認めた。ディバイン公爵ではなく、公子であるノアなら狙えると判断したのだと謝罪したが、それによってノアやフェリクスが深く傷ついた事実は消えなかった。
ノアの言葉による諭し
それでもノアは、ルネに対して怒りではなく、自分は誘拐されてとても怖かったのだと伝えた。そして、何かを望むなら誘拐ではなく、目を見て理由を話し、最後にお願いしますと言えばよかったのだと、幼いながらも真っ直ぐに諭した。その言葉を受けたルネは泣き崩れ、ノアの優しさと強さが場に深く響いた。
ルネが真実を語った理由
イザベルが、なぜルネが自分たちに事情を話したのかを問うと、ルネは、優しすぎるウィーヌスを止めたかったのだと答えた。このままでは彼は破滅すると分かっており、こんな世界から抜け出して幸せに生きてほしかったのだという。ルネは姉を失い、義兄を狂気へ追いやった現実を前に、ついに沈黙を守れなくなったのであった。
皇后が示した子供の性別の可能性
皇后は、ウィーヌスがそれほど強い情報網を持ちながら娘の行方だけが分からないのは不自然だと指摘した。そして、実際に赤子をきちんと見たのは辺境伯と産婆、そして一瞬見たルネだけであることから、辺境伯がわざと性別を偽り、娘ではなく男の子だと隠していた可能性を示した。もし捜す性別そのものが間違っていたなら、いくら探しても見つからないのは当然であった。
ぺーちゃんへの疑念と否定
その推測から、イザベルは年頃の近いフェリクスの存在を思い浮かべたが、クレオ大司教は、保護した時期が少しずれていることや、この子には両親の記憶があることなどから、フェリクスではないと考えていると答えた。イザベルも、もしフェリクスがウィーヌスの子であったなら、父が自分の息子を誘拐したことになってしまうため、その可能性を打ち消した。
ルネがぺーちゃんに反応した理由
しかしその後、ルネはフェリクスをじっと見つめ始めた。ぺーちゃんがにゃんこ語で何かを話すと、クレオ大司教はそれを、白状しろと迫っているのだと解釈した。さらにルネは、姉ポレットも時折にゃーにゃーと話すような癖があったと打ち明け、それがきっかけでフェリクスに強く目を向けていたのである。やがてルネは、クレオ大司教にフェリクスを保護した時期を尋ねた。大司教は、フェリクスは半年ほど前にボロボロの籠に入れられ、痩せ細った状態で教会の門前に捨てられていたこと、名も与えられていなかったため自分が名付けたことを語った。その過酷な境遇に一同は言葉を失い、ルネもまた半年という時期を聞いて深く考え込むのであった。
ぺーちゃんが過去を思い出す
ルネがフェリクスを枢機卿の子ではないかと疑ったことで、フェリクスは自分を捨てたかつての両親のことを思い出していた。夜になると目に浮かぶ模様を不気味がられ、会話を理解しているのではないかと恐れられ、ついには教会の前に捨てようと相談されていたのである。前世の記憶があるため精神は大人であったが、空腹や世話をしてもらえない苦しさは幼い身体にはつらかった。だがクレオに拾われ、ノアやイザベルたちの優しさに触れるうちに、フェリクスは初めて家族の温かさを知った。だからこそ、自分にはもう家族がいるのであり、血の繋がりが誰にあろうとどうでもいいと感じていた。クレオ大司教もその気持ちを理解し、フェリクスがそれでよいのなら何も言うまいと受け止めた。
ドニーズの失踪と神殿突入の決断
その直後、オリヴァーがドニーズの姿が見えなくなったことに気付き、一同に緊張が走った。イザベルが神殿に入ったのではないかと青ざめる中、テオバルドは即座に神殿へ向かおうとした。イザベルは焔神の加護がなければ罠が作動すると止めたが、妖精たちはテオバルドなら大丈夫だと軽く言い放った。さらにノアとイーニアスも同行を申し出たが、管理者の許可がなければ神殿内は危険であり、しかもドニーズとフローレンスは事前にイーニアスへ申請していないため、自動的に許可を与えることはできないと判明した。そこで皇后が珍獣に確認した結果、イーニアスが許可を出せば罠は作動しないが、焔神の加護を持たぬ者は管理者の半径五メートル以内にいなければならないことが分かった。その条件のもと、一行は全員で神殿に入ることになった。
古代神殿の内部とドニーズの救出
神殿内部は高い吹き抜けと広い空間、象嵌細工や大理石の床など、現代を超える精緻な建築と装飾で満ちていた。イザベルと皇后はその価値に圧倒されたが、今は見学よりもドニーズとフローレンスの救出が優先であった。ドニーズはその頃すでに単独で先行し、娘を追っていたが、途中で罠の落とし穴にかかりかけていた。オリヴァーがそれを見つけて叫ぶと、テオバルドが氷魔法で足場を作り、間一髪で救い上げた。救助されたドニーズは意気消沈し、愛娘を救えない自分に打ちのめされていた。
宝物庫への追跡と鍵への疑問
正妖精から、枢機卿とフローレンスがすでに宝物庫の前にいるという報告が届いた。一行は宝物庫へ急ぎながら、ルネに枢機卿の持つ日誌のことを尋ねた。ルネによれば、ウィーヌスの先祖が焔の神殿を管理していたため、その日誌には神殿内の地図も記されていたという。さらに、枢機卿が捜している鍵が何の鍵かは分からないが、姉を蘇らせるもの、あるいは姉の子を捜し出すものではないかと推測していた。イザベルは、死者を蘇らせるほどの物であれば珍獣が知らぬはずはないこと、そしてそれでもなお聖女であるフローレンスを連れていることに強い引っかかりを覚えていた。
枢機卿が宝物庫に辿り着く
一方ウィーヌス枢機卿は、先祖の残した地図を頼りに宝物庫へ到達していた。道中、フローレンスに聖女の力について尋ねたが、幼いフローレンスは何も理解しておらず、ただ首を傾げるだけであった。ウィーヌスは、不死の神殿にある何かを手に入れれば、聖女の力で目的を果たせるのではないかと考えながらも、ポレットを選ぶべきか、失われた子を選ぶべきかの間で迷い続けていた。だがまずは鍵を手に入れるべきだと自らに言い聞かせ、宝物庫の扉を開いた。そこには金貨や宝石、名剣や鎧が山のように積まれたまばゆい光景が広がっていた。証を持つことで罠は発動せず、ウィーヌスは膨大な財宝の中から鍵を探し始めたのである。
宝物庫での再対峙
しかし鍵を見つけ出せないまま、一行は宝物庫に追いついた。クレオ大司教がウィーヌスに声をかけ、ドニーズもフローレンスの名を叫んだ。フローレンスも父やオリヴァー、イザベルのもとへ行こうと必死に手を伸ばしたが、ウィーヌスは近づくなと牽制し、娘を傷つけられたくないだろうと再び人質に使った。フローレンスは父とイザベルたちの名を呼びながら助けを求めたが、ウィーヌスにとってこの子は絶対に必要な存在であり、聖女の能力こそが目的達成のために欠かせないものだと確信していたのである。
ぺーちゃんが自分の家族を受け入れる
ルネがフェリクスを枢機卿の子ではないかと疑ったことで、フェリクスはかつて自分を捨てた両親のことを思い出していた。夜になると目に浮かぶ模様を不気味がられ、気味が悪いと罵られたうえで、教会の前に捨てる相談までされていたのである。前世の記憶を持つフェリクスは、そのような両親に未練はなく、クレオやノア、イザベルたちと過ごす中で、今の温かい関係こそが家族なのだと実感していた。だからこそ、血の繋がりのある相手が誰であろうと、自分にはもう関係ないのだと考えていたのである。クレオ大司教もその気持ちを理解し、フェリクスにはすでに家族がいるのだと受け止めた。
ドニーズの無断行動と神殿への突入準備
その矢先、オリヴァーがドニーズの姿が見えないことに気付き、一同は緊張した。ドニーズがフローレンスを追って神殿へ入った可能性が浮上し、テオバルドはすぐに神殿へ向かおうとした。イザベルは焔神の加護がなければ罠が作動すると止めたが、妖精たちはテオバルドなら問題ないと軽く言い放った。さらにノアとイーニアスも同行を申し出たが、皇后が珍獣に確認した結果、イーニアスの許可があれば罠は作動しない一方、焔神の加護を持たない者は管理者であるイーニアスの半径五メートル以内にいなければならないことが判明した。こうして一行は、全員で神殿に入ることになった。
古代神殿の壮麗な内部
神殿の中へ入ったイザベルたちは、その内部の壮麗さに目を奪われた。吹き抜けの高い天井、広々とした空間、象嵌細工の施された壁、大理石の床など、現代よりもはるかに高度な建築技術と装飾がそこには存在していた。イザベルと皇后は、その文化財としての価値に感嘆したが、今は見学よりもドニーズとフローレンスの救出が優先であった。
罠にかかったドニーズの救出
しばらく進んだところで、オリヴァーが前方にいるドニーズを見つけた。ドニーズは罠の落とし穴にかかりかけており、突起に必死でしがみついていた。テオバルドは氷魔法で足場を作り、すぐにドニーズを救い出した。助けられたドニーズは、娘を追って先走ったものの、何もできずに罠にはまった自分を情けなく思い、意気消沈していた。
宝物庫へ向かう枢機卿の手掛かり
正妖精から、枢機卿とフローレンスがすでに宝物庫の前にいるという知らせが入った。一行が急ぎ宝物庫へ向かう中、ルネは、ウィーヌスが持つ先祖の日誌に神殿の地図が記されていることを明かした。また、枢機卿が捜している鍵が何の鍵かは分からないが、姉を蘇らせるものか、姉の子を捜し出すものではないかと推測を述べた。イザベルは、死者を蘇らせるほどの力を持つものなら珍獣が覚えていないはずがないこと、そしてそれでもなおフローレンスを連れていることに疑問を深めていた。
宝物庫での再対峙
一方、宝物庫に到着したウィーヌスは、金貨や宝石、名剣や鎧が山のように積まれた光景の中で鍵を探していた。だが鍵を見つけられないまま、クレオ大司教たちに追いつかれてしまう。フローレンスは父やオリヴァー、イザベルへ手を伸ばして助けを求めたが、ウィーヌスは彼女を手放さなかった。クレオ大司教が子を解放するよう諭しても、ウィーヌスは鍵を見つけるまで解放するつもりはないと突っぱねた。
ぺーちゃんの鍵が持つ意味
その時、後方ではイーニアスとノアがフェリクスの鍵について話していた。二人は、その鍵こそ枢機卿が捜しているものであり、願いを叶えるために必要な鍵なのではないかと考えていた。イザベルは、もしこの鍵が本当に枢機卿の求めるものであった場合、渡してしまえば何を願われるか分からず危険だとして隠すよう促した。だがイーニアスは、鍵を渡せばフローレンスを解放してもらえると思っていたと落ち込み、ノアもそれに同調した。テオバルドはそのやり取りを踏まえたうえで、枢機卿に鍵を使わせ、フローレンスを手放したところで取り返すのが最も安全だと判断した。
秘密の部屋を開いた鍵
テオバルドが枢機卿に鍵を渡すと、枢機卿は宝物庫の中を見回し、床に無造作に置かれていた大きな絵画の前へ向かった。そしてその絵に鍵をかざすと、鍵は浮かび上がって鍵穴に吸い込まれ、赤く光ったあと、絵画そのものが扉のように開いた。こうして、教皇の間の鍵と同じものが、神殿の重要なアイテムを隠した秘密の部屋を開く鍵でもあったことが明らかになった。
不死鳥の正体と秘密の部屋のアイテム
枢機卿がその部屋へ入るのを追って、テオバルドも中へ飛び込んだ。イザベルたちも遅れて中へ入ると、そこには祭壇のような場所に置かれた赤い石があり、枢機卿はそれに触れようとしていた。そこへ現れた赤い鳥の正体は、ただの珍獣ではなく、炎をまとった不死鳥であった。不死鳥は、この部屋に隠されていた石が、使用者の能力を最上位にまで底上げするアイテムであると説明した。祝福の儀を受ける前の子供でも安全に使えるものであり、神獣たる不死鳥自身の力が込められているのだという。
枢機卿の真の選択
テオバルドは、枢機卿の目的が死者の蘇生か、子の行方を探すことかを問い質した。枢機卿は、子を見つけ出すことと迷ったものの、もう一度ポレットの声を聞き、その笑顔を見たいと答えた。そしてこの神殿が「不死鳥の神殿」であり、そこに眠るアイテムを使えば不可能を覆せるのではないかと信じていた。さらに、聖女の治癒能力の上位は死者の蘇生であると語り、この石とフローレンスの力を用いてポレットを蘇らせようとしていたのである。
イザベルが突きつけた現実
しかしイザベルは、そこで枢機卿に決定的な事実を突きつけた。教会の教えでは、人の魂は死後に巡り、新たな生を得る。つまり、すでに亡くなったポレットの魂は転生しており、今さら肉体だけを蘇らせることはできないはずだと述べたのである。クレオ大司教も、かつて聖女から輪廻転生の話を聞いたことがあるとして、イザベルの言葉を裏付けた。魂を感知できる枢機卿なら、本当はそのことを最初から理解していたのではないかとテオバルドに問われたウィーヌスは、自分はこれまで一体何のために生きてきたのかと打ちのめされた。
フローレンスの救出
枢機卿が動揺のあまりフローレンスから手を離すと、イザベルはすぐにフローレンスを抱き上げ、ドニーズへ引き渡した。ドニーズは涙を流しながら娘を強く抱きしめ、フローレンスも空腹を訴えながら父の腕の中に収まった。彼女には怪我もなく、怯えている様子もなかったため、イザベルはひとまず安堵した。
ポレットが残したもの
イザベルは、ポレットが子供を産もうとしたのは、愛したウィーヌスとの証を残したかったからであり、同時に彼に生きる意味を与えたかったからではないかと語った。ポレットは、病気で先に逝く自分を忘れないでいてほしい一方で、残された彼には幸せになってほしいとも願っていたはずだと伝えたのである。その言葉に触れたウィーヌスは、抑えていた感情を爆発させるようにポレットの名を呼び続けた。イザベルはさらに、彼には悲しみに沈む前にやるべきことがある、それはポレットとの子供を捜すことだと告げた。
失われた子供への新たな推理
皇后はここで、以前から抱いていた疑問を明かした。枢機卿が強力な情報網を持ちながら我が子だけ見つけられないのは不自然であり、もしかすると捜していた性別そのものが違っていたのではないかと推理したのである。父である辺境伯が、わざと娘だと偽っていたのなら、実際は男児であり、どれだけ娘を探しても見つからないのは当然であった。ウィーヌスも、その可能性に思い当たり、父に騙されていたのだと苦悩した。
ぺーちゃんへの疑念と未解決の違和感
ルネは、その条件に最も近いのがフェリクスではないかと指摘した。だがクレオ大司教は、フェリクスを保護したのは半年ほど前であり、当時はガリガリに痩せて教会の門前に捨てられていたこと、さらに親の所在も調査済みであるとして否定した。それでもルネは、フェリクスを預けられた夫婦が辺境伯から子を渡され、半年育てて捨てたのであれば辻褄は合うと食い下がった。大司教はなおも確信を示さず、決定的な証拠を持っているようでもあったが、結論は出なかった。
枢機卿への取引とエンプティの利用関係
その後、枢機卿は石を使って我が子を探し出せるかもしれないと考えた。クレオ大司教は、ここを管理するのがイーニアスである以上、使用には許可が必要ではないかと指摘した。イーニアスは、子供を探すために使うのであれば構わないと快諾したが、皇后はその代わりとしてエンプティについて知っていることをすべて話すよう条件をつけた。すると枢機卿は、自分はエンプティの幹部ではなく、あくまで情報を得るために便宜を図り、逆に利用されていただけだと明かした。ノア誘拐の件では、公子を連れてくるよう指示したのは自分だが、ルネも枢機卿も子供をさらうこと自体を本意としていなかったと説明した。一方で、フェリクスの誘拐やドニーズ暗殺未遂には関与していないと断言し、そこには自分たちとは別の第三者が関わっている可能性が浮かび上がった。
ルネの正体と枢機卿の本心
イザベルは、ルネの身のこなしが明らかに訓練を受けた者のものであることから、その素性を問うた。ルネは、ディオネ家の親戚筋の家の出で、女であっても武芸を学び、ウィーヌスの部下となってからは変装を活かした諜報活動をしていたと明かした。そして、以前イザベルたちの前に現れた偽の前妻に変装していたのも自分であり、それはエンプティからの依頼で、公子の件で協力してもらう見返りとして受けた初めての仕事だったと語った。枢機卿がルネをエンプティから遠ざけたかったのではないかと感じさせる話であった。
教皇派と対立した理由
さらにイザベルは、ポレットと子供を救うことが目的だったなら、なぜ枢機卿は教皇派と対立し、自らの地位を固めようとしていたのかと問いかけた。すると枢機卿は、自分が教会の上に立たなければエンプティと取引ができず、情報も引き出せなかったからだと答えた。加えて、教皇の存在が公になれば、エンプティに簡単に殺されてしまうおそれがあったため、その前に失脚させて教会の外へ追い出せば命だけは助かると考えていたのだという。つまり、フェリクスを政敵として扱っていたのは、逆説的に命を守るためでもあった。
不死鳥が明かした鍵の由来
最後にイザベルは、どうして教皇の間の鍵で神殿の秘密の部屋が開いたのかを確かめるため、不死鳥に問いただした。不死鳥は最初こそ渋ったが、やがて遥か昔、焔神を祀る神殿を作る際に、結界が張れて限られた者だけが出入りできる魔法をどう実現するか問われた時、教えるのが面倒だったため、たまたま手元にあった結界付きの鍵を複製して渡したのだと白状した。つまり、教皇の間の鍵と神殿の秘密の部屋の鍵が同じなのは、不死鳥が超重要な鍵を安易に複製して渡したせいだったのである。イザベルはそのあまりの杜撰さに呆れ返り、不死鳥への印象をさらに失墜させるのであった。
ナイトレイ子爵が明かした養子縁組の真相
ディバイン公爵夫人の助言を受けたウィーヌス枢機卿は、すぐにナイトレイ子爵を訪ねた。そこで、自分の子供の性別が本当は息子であったこと、さらに子供を養子に出すようディオネ辺境伯へ頼んだのはナイトレイ子爵自身であったことを知らされた。ディオネ一族の中には、魔栓症の血を引く子供を殺すべきだという危険な声が上がっており、ディオネ辺境伯はそれを抑えきれなくなりつつあったため、子供の命を守るために養子に出すしかなかったのである。ナイトレイ子爵は、ウィーヌスとポレットの仲を引き裂こうとしたわけではなく、家の名誉や子供の命を守るために苦渋の決断をしていたのだった。
教会での再会と石の返還
数日後、イザベルたちはぺーちゃんを連れて教会に呼ばれた。そこにはウィーヌス枢機卿、ルネ、そしてクレオ大司教が待っていた。枢機卿は、ディバイン公爵夫人の助言によって父との長年のわだかまりも解け、子供の行方も判明したと告げた。さらに、不死の神殿で手にした石は使わずに済んだとして、イーニアスへ恭しく返却した。イザベルは、ドニーズから託されていた小さな猫の家族の人形を枢機卿へ渡した。それは、同じ子を持つ親として、子供と再会できることを願うドニーズの気持ちが込められた贈り物であった。枢機卿はそれを受け取ると、ポレットの名を呼びながら涙を流した。
ぺーちゃんが枢機卿の息子だと判明する
その後、枢機卿はナイトレイ子爵から聞いた新たな真相を語った。子供は子爵の息子の養子として育てられるはずだったが、ディオネ一族の差し金で何者かに誘拐され、そのまま行方知れずになっていたのである。枢機卿は、そこにエンプティが関わっているのではないかと考え、乳幼児誘拐の記録を調べさせた。そして、生まれたばかりの赤ん坊を誘拐し殺害する依頼を受けた下っ端が、情に負けて農家の軒下に放置したという事実に辿り着いた。その赤ん坊こそがぺーちゃんであり、育児放棄した夫婦のもとを経て教会に捨てられたのだと判明した。こうして、ぺーちゃんが枢機卿の息子であることが確定したのである。
ぺーちゃんの今後を巡る提案
真相が判明したことで、今後ぺーちゃんをどうするかが話し合われた。ルネは、ウィーヌスからぺーちゃんを取り上げないでほしいと大司教に訴えたが、誘拐の前科がある以上、すぐに親子として暮らさせるのは難しかった。そこでイザベルは、焔の神殿に枢機卿とルネを常駐させる案を提案した。イーニアスは管理者ではあるが、常に神殿に留まることはできないため、代わりに守る者が必要であったからである。さらに皇后が、焔神の加護を持たない二人が常駐するには問題があると指摘すると、イザベルは神殿で得た石を使って、イーニアスの管理者としての能力だけを最上位まで引き上げれば解決できると説明した。そのための確認はすでに正妖精を通じて済ませており、危険もないと分かっていた。イーニアスは自らの意思でその提案を受け入れた。
ぺーちゃんと枢機卿を繋ぐ新たな形
イーニアスが石を使って管理者の能力を高めたことで、枢機卿とルネは焔の神殿に常駐できるようになり、すでに立ち入り許可を得ている者については、管理者がそばにいなくても罠が作動しないようになった。一方で、エンプティがなおぺーちゃんを狙っている可能性がある以上、ぺーちゃんを教会へ戻すのは危険であると判断され、公爵家のタウンハウスで預かることになった。ぺーちゃんはまだ枢機卿を怖がっているため、無理に会わせることはせず、会いたい時だけ会う形を取ることになった。現在はクレオ大司教が二、三日に一度の頻度でぺーちゃんを焔の神殿へ連れて行き、親子で過ごす時間を作っていた。ぺーちゃんも最近は楽しそうに向かっているため、いずれ枢機卿を「とうちゃ」と呼ぶ日が来るかもしれないと感じられた。
残る不安と前向きな結び
エンプティについては、黒幕や狙いがまだ完全には明らかになっておらず、不安は残り続けていた。それでも、子供たちは今、笑って日々を過ごせていた。だからこそ、大人たちは焦らずに子供たちの成長を見守りながら、それぞれの親子の絆を少しずつ深めていこうと考えた。そうした中でイザベルは、翌日もノアや子供たちのために楽しいおもちゃを開発しようと前向きに思いを新たにし、ノアとぺーちゃんもそれを楽しみにしていたのであった。
エピローグ
帝都での出産準備と周囲の奔走
タウンハウスで出産することを決めてから、帝都と領地の両方で大きな騒ぎとなった。ナラとデューク、さらに領地へ戻っていたムーア医師は、イーニアスの転移によってすぐに帝都へ移された。一方で、一般人である産婆を同じ方法で連れてくるわけにはいかず、帝都で新たに探すことになった。マディソンやミランダはそのために奔走し、テオバルドの希望もあって、帝都で最も腕のよい産婆に依頼することができた。タウンハウスの使用人たちも、マディソンの帰還を喜び、出産に向けて期待を抱きながら働いていた。
ノアのお兄ちゃんらしさ
ノアは、赤ちゃんの誕生を誰よりも楽しみにしており、日に何度もイザベルの腹を撫でて話しかけていた。イザベルはそんなノアに、お兄様がよしよししてくれるから赤ちゃんも喜んでいると伝えた。ノアは早く会いたい一心で、まだ生まれていない赤ちゃんに毎日語りかけていたのである。イザベルは、その姿がテオバルドによく似ていることを嬉しく思っていた。
ぺーちゃんがいない日の寂しさ
ぺーちゃんが焔の神殿へ行っている日は、ノアはどこか退屈そうで寂しそうであった。ウィーヌス枢機卿が父親だと分かってから、クレオ大司教が時折ぺーちゃんを神殿へ連れていくようになっていたためである。ノアはぺーちゃんが早く帰ってこないかと口にし、イザベルはそんな姿を見て、ノアがお兄様らしくなってきたと感じていた。
母子の甘え合い
イザベルが、お兄様らしくなったとはいえ、たまには甘えてくれないと寂しいと伝えると、ノアは天使のような笑顔を見せた。そして、板にくっつくのではなく、お母様にくっつくのだと可愛らしく言い直した。イザベルもまた、板ではなくノアにくっつくのだと応じ、二人は抱き合って笑い合った。イザベルは、こうしてノアと過ごせる日々の幸せを改めて噛みしめていた。
家族が重なり合う幸福な時間
そこへ、神殿から帰ってきたぺーちゃんが、楽しそうに寄り添う二人を見て、自分も混ざりたいと抱っこを求めてやってきた。イザベルとノアは顔を見合わせて笑い、ぺーちゃんも一緒に抱きしめた。さらにそこへテオバルドも加わり、家族全員を包み込むように抱きしめた。おかしな形になりながらも、子供たちもテオバルドも喜んでおり、イザベルもまたその温もりを抱き返した。やがて生まれてくる新しい命も加わり、さらに輪が広がっていく未来を思い描きながら、イザベルは愛する家族とともに笑い合ったのである。
悪夢を食べるバク
星空の下で感じた不思議な恐怖
その夜のディバイン公爵領は、真冬にしては珍しく雪が降っていなかった。イザベルは星で埋め尽くされた空を眺めるため、ノアとともにテラスへ出た。しかし空を見上げ続けているうちに、あまりにも広がる星空に吸い込まれてしまうのではないかという、不思議な恐怖が胸に湧き上がった。美しい光景であるはずなのに、壮大すぎる宇宙の広がりが、かえって人を不安にさせるのだと感じられたのである。
ノアの瞳に映る星
その時、ノアが星を見上げて「お星さまがキラキラしている」と声を上げた。イザベルはその言葉で我に返り、ノアを抱き上げると、息子のアイスブルーの瞳の中にも星が映り込んでいることに気づいた。イザベルがそれを伝えると、ノアは自分の目に本当に星が入ってしまったのではないかと驚き、慌てて目を覆ってしまう。イザベルは、星が入ったわけではなく、瞳に映っているだけだと優しく説明した。ノアは母の目を覗き込み、そこに自分の姿が映っていることを見つけて嬉しそうに笑った。
星空への不安と母の行動
しかし、ノアが星に向かって手を伸ばす様子を見た瞬間、イザベルは再び胸の奥に不安を覚えた。まるでノアが星空に呑み込まれてしまうように感じられたのである。思わずノアを抱き上げたまま部屋へ駆け込み、寒さを理由に室内へ戻ったと説明した。ノアは素直にそれを信じ、母が風邪をひかないようにとベッドから掛け布団を引きずって持ってきてくれた。その優しさに胸を打たれたイザベルは、ノアを強く抱きしめ、感謝と愛情を伝えた。
母子で読む絵本の時間
まだ眠るには早い時間であったため、イザベルは布団にくるまりながら絵本を読もうと提案した。ノアはすぐに喜び、ベッドへ登って準備されていた絵本の中から一冊を選んだ。それは「悪夢を食べるバク」の物語であった。ノアは布団に潜り込み、期待に満ちた表情で読み聞かせを待った。イザベルが読み始めると、母子は物語に引き込まれていった。
バクの物語と眠り
絵本に登場するのは、のっしのっしと歩きながら悪い夢を食べてくれるというバクの物語であった。イザベルとノアはその話を楽しみながら、次第にまどろみ始める。そしていつしか、二人はそのまま眠りに落ちていた。まるで、悪夢を食べてくれるバクが、優しく夢の世界へと導いてくれたかのようであった。
炎に包まれた世界
イザベルは、赤く燃え盛る炎に四方を囲まれた世界に立っていた。周囲は火柱に包まれていたが、不思議なことに熱さは一切感じず、夢の中にいるような曖昧な感覚だけがあった。そこへ炎の向こうから、イーニアスとノアの名、そしてイザベルがすでに息を引き取ったという言葉が聞こえてきた。さらに、燃えているのがディバイン公爵家のタウンハウスだと知り、イザベルは夢だと割り切って炎の中へ飛び込んだ。
大人になったノアとイーニアスの対立
炎の向こうにいたのは、成長したノアとイーニアスであった。銀髪とアイスブルーの瞳を持つ青年ノアはテオバルドによく似た美しい姿をしていたが、その表情は冷たく、イーニアスと激しく対立していた。イーニアスは、フローレンスを渡せばこの惨事は起きなかったと責め、ノアは追い詰められているのはそちらだと返した。イザベルは、目の前の光景が前前世で読んだ物語『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の終盤そのものであることに気づき、悪夢のような未来を目の当たりにした。
滅びた公爵領都の光景
場面は変わり、イザベルは荒廃しきったディバイン公爵領都に立っていた。瓦礫の散乱する街に人影はなく、かつて賑わいに満ちていた大通りも、城のような邸宅も廃墟と化していた。自分の身体を見ると、ネグリジェ姿のまま透けて浮いており、まるで幽霊のようであった。そこで見かけたノアは、見知らぬ青年とともにおり、ディバイン公爵領を守るものはもう何もない、フローレンスも殺されたという話をしていた。さらに、リューク皇帝の治世になってから国がおかしくなり、オリヴィアが国を売ったために破滅したのだと語られた。イザベルは、これが自分が死んだあとの前前世の世界なのだと悟った。
ノアに見つかるイザベル
やがてノアはイザベルの存在に気づき、「お母様」と呼んだ。驚きながらも、ノアは彼女を自分が殺したはずだと告げ、警戒心を露わにした。イザベルは、自分は幽霊ではなく、夢の中にいるのだと説明しつつ、今のノアに謝罪しようとした。ノアはなおも信じられず、隣の青年もまた危険だとしてノアを守るように前へ出た。だがノアは、その透けた存在が確かにイザベルであると認めざるを得ず、戸惑いながらも彼女から距離を取った。
避難所としての地下空間
ノアたちの後を追ったイザベルは、荒れ果てた公爵邸の地下に広がる避難所へ辿り着いた。そこには多くの領民が身を寄せ合って暮らしており、ノアは彼らから深く慕われていた。食糧を届け、戦い方を教え、子供たちとも言葉を交わすノアの姿は、領主として人々を支える存在そのものであった。イザベルは、その姿に誇らしさを覚える一方で、こんな状況に追い込まれた息子の苦しさを思って胸を痛めた。
ノアの部屋での対話
避難所の一角にある殺風景な部屋に入ったノアは、そこでイザベルと向き合った。ノアは、イザベルが最期に「全て滅びればいい」と言い残したと語り、それが現実になってしまったのだと口にした。そして、こうなったのは自分の考えが足りなかったせいだと、自らを責めていた。イザベルは、それはノアのせいではなく、悪魔が運命をねじ曲げた結果なのだと説明した。悪魔がいなければ、ノアは本来、父や祖父、イザベルからも愛されて育つはずだったのだと伝えたのである。
前前世の罪と謝罪
イザベルは、幼いノアを虐待し、成長した彼をも傷つけた自分の罪を認めた。悪魔に操られていたとはいえ、それは言い訳にならず、ノアにとっては受け入れ難い話であることも理解していた。だが、夢の中であってもこうして再び会えたのだから、謝罪だけはしたかったと素直に打ち明けた。ノアは、それを今更言われてもどうしろというのかと諦めきったように返し、布団を頭から被ってしまった。イザベルは、その反応がかつてテオバルドの前で見せていた、諦めと自己否定に満ちた幼い頃の目と同じであることに気づき、涙を流した。
ノアが抱えていた真実
それでもイザベルは、前前世でノアが自分を殺す瞬間に泣いていたことを思い出し、その時点で既にノアが自分を憎みきれていなかったのだと気づいた。さらに、フローレンスが聖女として妖精を見ており、イザベルの周囲に妖精が集まっていることから、イザベルが悪魔に操られているとノアに伝えていた可能性を指摘した。ノアは、タイラー子爵を倒したあともイザベルが元に戻らなかったために絶望し、涙を流していたのだと暗に認めた。つまりノアは、最後までイザベルを救おうとしていたのである。
母としての愛の告白
イザベルは、透けた手でノアの頭を撫でるようにしながら、自分はノアを見た瞬間から愛していたのだと伝えた。前前世でも今世でも、ノアを守りたいと思った気持ちは同じであり、ずっとお母様でいると約束したことも本心だったと語った。そして、次に出会う時は決して離さず、嫌がるほど可愛がり、父と母の二人で愛し抜くと告げた。ノアは困ったようにしながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。
悪夢を食べるバクとして
イザベルは、全てを失い、生きることを諦めたようなノアの目を前にして、それでも生きてほしいと訴えた。この悪夢のような世界に負けないでほしい、悪魔なんかに負けないでほしいと、涙ながらに願った。そして、ノアがこの世界を悪夢だというのなら、自分がその悪夢を食べるバクになるのだと心の中で誓った。そうして希望を託した直後、イザベルの姿は夢の中から消えていった。ノアがその名を呼んだ時には、もうそこに彼女の姿はなかった。未来で再び会えることを信じて、夢は静かに終わったのである。
幼いノアの声で目覚める朝
イザベルは、すぐそばで聞こえる幼いノアの声によって目を覚ました。先ほどまで見ていた夢の余韻が残る中、目の前には大人になったノアではなく、いつもの愛しい息子がいた。寝ぼけたまま頭を撫でると、ノアはお寝坊だと頬を膨らませながらも、今日はイーニアスとカレーの店へ行く約束があるのだと張り切って伝えた。
日常へ戻る母子の会話
イザベルは、まだ眠気を残しながらも、外出の予定を思い出した。ノアは、すでにテオバルドも起きているのだと教え、それをカレーを楽しみにしているからだと無邪気に思い込んでいた。イザベルはその勘違いを微笑ましく受け止めつつ、自分も起きなければならないと気持ちを整えた。久しぶりの外出が許されたこともあり、その日を少し楽しみに感じていた。
涙に気づくノアの優しさ
支度を始めようとした時、ノアはイザベルの目元と頬が濡れていることに気づいた。イザベルは、自分が泣いていたことに気づかされるが、悲しい夢を見たような感覚だけが残り、内容までははっきり思い出せなかった。ノアは小さな手でイザベルの涙を拭い、どこか痛いのではないかと心配した。イザベルは、あくびをしたせいで涙が出ただけだと優しく答え、ノアを安心させた。
悪夢を食べたバクと前向きな朝
イザベルがふと枕元を見ると、昨夜ノアと読んでいた、悪夢を食べてくれるバクの絵本が置かれていた。それを見て、自分の悪夢もバクが食べてくれたのかもしれないと静かに思った。そうしてイザベルは気持ちを切り替え、ノアとともに着替えて、まずは朝食を取ろうとテオバルドのもとへ向かうことにした。ノアは、父に「めっ」をするのだと楽しそうに言い、イザベルはそれを笑って否定した。こうして、悪夢の余韻を残しながらも、母子はまた穏やかな日常へと戻っていったのである。
継母の心得 7 レビュー
継母の心得 全巻まとめ
継母の心得 9 レビュー
継母の心得 一覧

あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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