物語の概要
『異世界料理道 2』は、EDAによる異世界グルメファンタジー小説の第2巻である。本作は、料理の概念が存在しない異世界に迷い込んだ見習い料理人・津留見明日太(アスタ)が、現代日本の料理知識と技術を駆使して異世界の人々に食の喜びを伝え、文化的な変革をもたらしていく物語である。
アスタは、父親の経営する食堂で見習い料理人として働いていたが、火事で店が焼失する際に父の形見である三徳包丁を救おうとした結果、見知らぬ密林の中に転移してしまう。そこで彼は、森辺の民と呼ばれる部族の少女・アイ=ファに助けられ、彼らの暮らす世界が料理という概念を持たないことを知る。アスタは、自身の料理技術を活かし、森辺の民に食の楽しさと栄養の重要性を教えながら、彼らの生活を豊かにしていく。
主要キャラクター
- 津留見明日太(アスタ):異世界に迷い込んだ見習い料理人。現代日本の料理知識を活かし、森辺の民に食の喜びを伝える。
- アイ=ファ:アスタを助けた森辺の民の少女で、ファ家の家長。狩猟を生業とし、強い責任感を持つ。
- ヴィナ=ルウ:ルウ家の長姉。閉鎖的な森辺から外の世界への憧れを抱いている。
- レイナ=ルウ:ルウ家の次姉。料理に誇りを持ち、アスタの技術を尊敬している。
- ララ=ルウ:ルウ家の三姉。短気でぶっきらぼうだが、家族思いな一面を持つ。
- リミ=ルウ:ルウ家の末妹。無邪気で、アイ=ファを大好きな友達と慕っている。
- ドンダ=ルウ:ルウ家の家長で、森辺の中でも大きな力を持つ。狩人としても有数の実力者。
- ジザ=ルウ:ルウ家の長兄。規律と秩序を重んじる実力者。
- ダルム=ルウ:ルウ家の次兄。プライドが高く、家族以外には攻撃的な態度を取る。
- ルド=ルウ:ルウ家の末弟。無邪気で人懐っこい性格をしている。
物語の特徴
本作の最大の特徴は、料理の概念が存在しない異世界で、主人公が料理を通じて文化的な革命を起こす点にある。アスタの料理は、単なる食事ではなく、人々の心を癒し、生活の質を向上させる手段として描かれている。また、異世界の風習や価値観との衝突と融合が丁寧に描かれており、文化交流の物語としても魅力的である。
書籍情報
異世界料理道 2
著者:EDA 氏
イラスト: こちも 氏
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJノベルス
発売日:2015年10月22日
ISBN:978-4798610070
関連メディア:コミカライズ版が『コミックファイア』にて連載中。
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あらすじ・内容
ジバ=ルウの心を料理によって救い、森辺の祝福を受けたアスタ。しかし、ルウ家の家長ドンダ=ルウに『この料理は毒だ』と言われてしまう。もう一度料理を作らせてほしいと訴えたアスタに、ドンダ=ルウは眷属の婚儀の前祝で料理を作れと命じた。果たしてドンダ=ルウが料理を『毒』であるとした理由とは。そしてアスタの出した答えは――。
異世界料理道2
感想
ギバのハンバーグは狩人達には柔らか過ぎた。
狩人達は生命力が溢れ、力強い連中だった。
今回、アスタが作った料理は歯が無くなった最長老の為に作った料理だったのだが、健康体の狩人からしたら噛みごたえの無いハンバーグは気持ち悪い食感でしか無かった。
そんな食感のハンバーグは、力強さを常に求めている狩人達からしたら、自身の尊厳を愚弄されたような料理だった。
でも、ほとんどの女性陣には大好評である事にドンダ・ルウは最初は困惑していたが、狩人が食す料理では無い、歯の無い老人が食べる物だと理解すると、老人への薬ではあると認める。
それをルー家の家長、ドンダ・ルウは毒と表現した。
それに対抗心に火を付けたアスタは狩人に相応しい料理を考案する。
数日もの研究の結果、納得の行く料理を開発したアスタはドンダ・ルウに再戦を挑む。
それに対してドンダ・ルウは、ファの家の家長アイ・ファに納得がいかなかったら絶縁すると曰う。
その絶縁は、今まで何とか郷での生活を維持出来ていたアイ・ファに族長のスー家の男にレイプされても黙認すると云う意味でもあった。
そんな背水の陣の中、アスタが出した料理。
それは猛獣ギバのスペアリブだった。
だが、その部位は優秀で誇り高い狩人からしたら屈辱的な箇所だった。
ハイエナのような死肉貪る唾棄すべき森の獣、ムントと同じだと評価されたと勘違いして憤る狩人達。
だが、背水の陣のアイ・ファとアスタは食べてみろと云う。
納得行かなかったら分かってるんだろうなと凄みながらも、スペアリブを食べた狩人達はあまりの美味さに驚愕する。
そして、さっきまで青筋を浮かべて怒っていたダン・ルティムはアスタの料理の魅力に堕とされるww
別段美味しいと思った事の無い猛獣ギバの肉が美味しいと、、、
そしてアスタはルティム家から、カズラン・ルティムとアマ・ミンとの結婚式の竈門係を依頼される。
ダン・ルティムの豹変がこの巻のツボだと思う。
この後、このオッサンもアスタを気に入るのだが、その息子のカズラン・ルティムの方がアスタを熱烈に支持する存在になる。
アスタの料理は、狩人の魂にまで食事への悦びをもって火を付ける事に成功する。
次はカズラン・ルティムとアマ・ミンとの婚姻式の食事。
それをアスタは捌けるのだろうか?
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展開まとめ
プロローグ
夢の描写と家族の夕食風景
主人公はある夜、久々に夢を見たが、目覚めとともに内容を忘れてしまった。その夢は、全てが終わった後になってふと思い出されたものであった。夢の中で主人公は小学校に上がったばかりの子どもであり、自宅では父がビールを飲みながらテレビで野球を観戦し、母が台所で夕食の準備をしていた。実家が大衆食堂を営んでいたため、家族全員がそろう光景は定休日に限られていた。平凡ながらも温かな家庭の一場面であった。
父への問いかけとその返答
主人公は、なぜ料理の上手な父ではなく母が晩ごはんを作るのかと疑問を抱き、父に問いかけた。父は動揺しつつも、母の料理を否定しているわけではないのかと確認し、主人公は母の料理が好きだが、父の料理のほうがより好きだと答えた。父はプロの料理人であり、家庭では母が料理をするべきだと述べた。理由としては、料理人は客のために料理を作るのが仕事であり、家庭では母が家族のために料理を作るという分業意識を語った。
忘れがたい記憶と母の死
幼かった主人公にはその理屈を十分には理解できなかったが、夢にまで見るほど印象的な言葉であった。その後、母は一年後に亡くなり、主人公はもっと母の手料理を食べたかったと涙を流した。
第一章 月下の幕間劇
ジバ=ルウの祝福とアスタの煩悶
最長老ジバ=ルウから祝福を受け、アスタとアイ=ファは深い感動を覚えた。しかしその後、アスタは無人の家で怒りと屈辱に苛まれた。理由は、自分の料理に対して抱いた不満であり、ジバとの再会に没頭するアイ=ファたちの留守番を任されたことに対する孤独感でもあった。
食事中の罵倒と祝福の連鎖
ルウの本家での食事中、家長ドンダ=ルウはアスタの料理を激しく罵倒したが、ジバ=ルウや他の家族はそれを絶賛した。これに触発された次姉レイナ=ルウが祝福を授け、続いて妹リミ、長姉ヴィナ、ティト婆、義姉サティ、母ミーア、末弟ルドも祝福を贈った。一方で三女ララ、次兄ダルム、長兄ジザの三名は否定的もしくは中立的な反応を示した。
ドンダ=ルウの真意と認識の変化
家族の反応に困惑したドンダ=ルウは、ジザの言葉を通じて、料理の評価が人それぞれであることを理解した。その結果、自らの価値観の正当性を保ちながらも、ジバを救った料理の意義を認め、アスタたちに感謝を述べた。そして、自身の非礼を詫び、アスタとアイ=ファに正式な祝福を授けた。
アスタの自省と敗北感
アスタは、自身の料理が一部に受け入れられなかった事実に苦悩した。とりわけ、献立を選んだ自分の判断が至らなかったことや、血抜きの技術を男衆に伝えられなかったことを反省し、敗北感を抱いた。祝福の証である角と牙を得たことで存在を認められたと感じながらも、料理人としての自信を揺さぶられていた。
ヴィナ=ルウの夜の訪問
深夜、アスタのもとを訪ねてきたのはレイナではなく長姉ヴィナ=ルウであった。彼女は色気を漂わせながら部屋に入り込み、果実酒の力を借りて自身の疑問をアスタにぶつけた。ヴィナはアスタの料理に深い感銘を受け、その出自に興味を示し、彼の生まれ故郷へ連れていってほしいと訴えた。アスタはその情熱と距離感に戸惑いながらも、応じざるを得ない状況に置かれた。
ヴィナ=ルウの誘惑と告白
ヴィナ=ルウは深夜にアスタのもとを訪れ、激しい誘惑を仕掛けた。彼女は婿を迎えることに抵抗感を抱き、アスタの料理に触れたことで異なる世界への憧れを抱くようになっていた。肉体的接触を伴いながら想いを告げるが、アスタはその申し出を拒絶し、誠意をもって自身の立場を説明した。ヴィナ=ルウは傷つきつつも彼の態度を受け入れ、去り際に古い風習に基づく「契の約束」を告げて立ち去った。
不穏な気配と壁越しの言い争い
ヴィナ=ルウが去った直後、建物の壁を叩く音が響き、続いて男女の言い争う声が聞こえた。アスタは屋外の様子を窺い、そこでアイ=ファがダルム=ルウに壁際で詰め寄られている場面を目撃した。ダルムはアイ=ファの生き方や狩人としての姿勢を嘲り、過去の出来事に言及しながら侮辱的な言葉を投げかけていた。
アスタの介入とダルムとの対立
アスタは黙っていられず、怒声を上げて場に割って入った。彼はダルムの態度を強く非難し、アイ=ファの尊厳を守るべく言葉で応戦した。挑発に対しダルムが武器に手を伸ばす緊張の中、アスタは料理人としての自負とアイ=ファの生き様を引き合いに出し、誠意と覚悟をぶつけた。アイ=ファはこれを制止し、自らの意志でダルムとの関係を明確に断ち切った。
アイ=ファとの和解と感謝の言葉
緊迫したやり取りの後、アスタとアイ=ファは家へ戻った。アイ=ファはアスタの無鉄砲な行動に怒りを見せつつも、手を傷つけた彼を気遣い、その行動に込められた想いを理解した。彼女はアスタが自分たちにとってどれほど大切な存在であったかを言葉にし、祝福を与えなかった理由も語った。二人の間には静かな信頼と絆が築かれた。
ヴィナ=ルウの再訪と契の真意
会話の終わり際、アイ=ファはヴィナ=ルウの訪問理由を問い、果実酒を持っていたこと、契の約束に言及したことを知る。アスタはその詳細を明かせず狼狽し、事態を曖昧にしようとしたが、アイ=ファの瞳にはすべてを見透かしたかのような鋭さがあった。こうして一連の騒動の夜がようやく静けさを取り戻した。
第二章 道標は何処なり
アイ=ファの失踪とアスタの動揺
アスタは朝目覚めた際、共に雑魚寝していたはずのアイ=ファの姿がないことに気づいた。不安を覚えつつも家屋を見回り、外の広場に出て周囲を観察したが、彼女の所在は掴めなかった。昨夜の出来事が原因で一人帰ってしまったのではないかと疑念を抱きつつ、ルウの本家に向かうことを決意した。
ルド=ルウとの会話と姉たちへの婿入り話
広場で出会ったルド=ルウと共に本家方向へ進む途中、彼からルウ家の姉たちとの婿入りを勧める発言が続出した。アスタは軽口に戸惑いながらも、自らの信条に基づき真面目に応対した。会話の中でルドは、料理の技術を通じて家長ドンダ=ルウを説得する方法を提案したが、アスタは婿入り自体を望んでいなかった。
水場での再会と禁忌の発覚
水場に着いたアスタは、戸板越しに様子を窺った際、偶然にも裸のアイ=ファと鉢合わせしてしまった。この出来事は掟に触れる重大な禁忌とされ、アスタは彼女からの物理的な制裁を受けた。その直後、事態の深刻さによりルウ家の長兄ジザ=ルウとの緊急会談が開かれることとなった。
ルウ家長兄ジザ=ルウによる裁定と掟の解釈
ジザ=ルウは、アスタの行動が掟に違反している点を指摘したが、同時にファ家の教育不足も問題視した。アイ=ファは責任を負い、自らの片目を差し出す覚悟を見せたものの、狩人として生きる術を絶つことになるとジザ=ルウはそれを退けた。掟の厳格な解釈と共に、ルウ家の立場も慎重に語られた。
ジザ=ルウの信頼と問題の手打ち
アスタが見たのはアイ=ファのみであったと主張すると、ジザ=ルウはその言葉を信じ、問題をファ家の内部問題として処理することを宣言した。ルド=ルウの軽率な行動も不問とされ、事態は穏便に収束した。ジザ=ルウは家長ドンダ=ルウへの報告を避けるよう告げ、両家の名誉と平穏を守った上で、アスタたちに帰路を促した。
アイ=ファとのすれ違いと和解
アスタはルウ家での誤解からアイ=ファの怒りを買い、帰路で彼女の無言の態度に苦しんでいた。軽口から婿入りの話題に及んだ際、アイ=ファは激怒し、アスタに襲いかかって地面に押し倒した。彼女は自らの覚悟と誇りを語り、涙を浮かべながら怒りを爆発させた。アスタは罪悪感に苛まれ、懸命に謝罪し、ようやくアイ=ファの怒りは収まり、二人の関係はかろうじて修復された。
料理への執念とドンダ=ルウへの挑戦
アスタはルウ家の家長ドンダ=ルウに料理を否定されたことを深く悔やみ、再度自分の料理を食べさせたいとアイ=ファに打ち明けた。アイ=ファは当初は突き放すように振る舞ったが、最終的にはアスタの意志を支持し、「勝て」と背中を押した。彼女もまた、ジバ婆に美味い料理を食べさせたいという想いを抱いていた。互いの覚悟を確認した二人は、対ドンダ=ルウへの準備を本格化させていった。
かまどの増設と調理環境の改善
調理の質を向上させるため、アスタはかまどの火加減、とりわけ「弱火の維持」を課題と捉えた。屋内の煙問題に直面した彼は、アイ=ファの助言で屋外かまどの作成を決意し、岩と粘土を使った重労働の末に一基を完成させた。さらに翌日には二基目も設置し、火力の使い分けが可能な調理環境を整えた。アイ=ファの協力と支援により、アスタは料理研究を一層進めることができるようになった。
狩猟と生活の両立、そして互いの信頼
アイ=ファはアスタの研究に時間を割きながらも、狩猟を怠らず、三日連続でギバを仕留め、最終日には血抜き処理を施した50キロ級のギバを単身で持ち帰った。その献身と強さにアスタは深く感謝し、アイ=ファもまたハンバーグを所望することで素直な感情を表した。二人の関係には次第に穏やかな親密さが育まれており、互いに敬意と信頼を深めていた。
静かな夜と交錯する想い
かまどの完成後、アスタは満足げなアイ=ファの表情から自信を得て、対ドンダ=ルウ用の献立の完成を実感した。夜、暗がりの中で二人は静かに語り合い、アスタはアイ=ファへの感情が恋愛に近いものであることを自覚する。彼は責任感と異世界人としての引け目から、その想いを行動に移すことなく抑えていたが、彼女の存在の大きさを改めて認識していた。
ルウ家への想いと料理人としての矜持
アスタはルウ家の人々の印象を振り返りつつ、家長ドンダ=ルウとの対決に向けて思いを巡らせた。敵意や憎しみではなく、納得と調和を求めて料理を振る舞いたいと願っていた。料理人としての誇りと責任、そしてルウ家の人々に対する誠意を胸に、彼は明日の再訪に向けて心を整えていった。
訪れる夜と決意の時
夜が更ける中、アイ=ファはアスタの感傷的な語りに不満を漏らしながらも、その言葉を否定しきれずにいた。月明かりのもとで横たわる彼女を見て、アスタは彼女の存在がいかに自分にとってかけがえのないものであるかを改めて実感した。そして、静かな夜の終わりに向けて、ドンダ=ルウとの決着に挑む覚悟を新たにしたのである。
第三章 約定と再会
ドンダ=ルウとの再会と約定の提案
アスタとアイ=ファは、十一日ぶりにルウ家を訪問した。ドンダ=ルウは当初冷淡な態度を見せたが、アスタは丁重に過去の料理の不出来を謝罪し、再びルウ家のかまどを預からせてほしいと申し出た。ドンダ=ルウは拒否の姿勢を示しつつも、三日後のルティム家の婚儀前夜の宴を任せるという形で約定を提案した。条件は、来客を満足させることができなければ、ルウ家はファの家と絶縁し、スン家による迫害の再発も想定されるという過酷なものであった。
アイ=ファの決意とアスタの覚悟
ドンダ=ルウは、アイ=ファが過去にルウ家からの嫁入り話を断ったことを持ち出し、ファの家が現在まで無事であったのはルウ家の庇護によるものだと暗示した。アイ=ファはその発言に激昂し、自らの尊厳を守るために約定を受け入れると宣言した。アスタもまた、アイ=ファの意思と信頼に応えるため、ドンダ=ルウの提示した条件を受け入れ、再戦の決意を固めた。
明かされる条件とルウ家からの試練
ドンダ=ルウは約定の代価として、アスタの首飾りを取り上げることを告げた。これは、ルウ家の祝福を授ける資格を剥奪するという象徴的な措置であった。アスタはその条件も承諾し、両者の間に正式な約定が成立した。傍らでその様子を見ていたアイ=ファは、満足げな表情を浮かべていた。
ミーアとサティとの再会と明るい会話
会見を終えたアスタたちは家の外でミーア・レイとサティ・レイに再会した。婚儀前夜の宴のかまどを任されたことを告げると、二人は無邪気に喜び、アスタの料理に期待を寄せた。アスタは陰惨な約定の内容を口にせず、二人の善意と笑顔を大切にした。
アイ=ファとの距離と信頼関係の確認
アスタはアイ=ファが自分を完全に信頼していることを再認識し、その堅固な意志に圧倒されながらも応える決意を強めた。彼女は挑戦に対して迷いなく、二人で泥をかぶる覚悟を持っていた。アスタもまた、自身の過去と向き合い、誇りを取り戻すための闘志を燃やしていた。
リミ=ルウとの再会と騒動の再燃
リミ=ルウは久々の再会に照れと羞恥からアスタを避けていたが、やがてアイ=ファに抱きついて現れた。彼女はアスタが女衆の水浴びを覗いた件を蒸し返し、アスタを困惑させた。誤解を解こうとしたアスタの発言は逆効果となり、再びアイ=ファの怒りを買ってしまった。
レイナとララの反応と騒動の拡大
裏庭で作業中のレイナとララにもリミ=ルウが話を広げてしまい、二人は激しく動揺した。ララは激昂し、アスタに詰め寄ろうとしたが、レイナに制止された。アスタは場を収めようと弁明したものの、またしてもアイ=ファに制裁を受け、反省を強いられた。
過ちの自覚と最優先すべき存在
アスタは、アイ=ファの羞恥心を犠牲にして他者に配慮する自分の姿勢を悔い、最も大切にすべき存在は誰かを自問した。その答えは明らかであり、アイ=ファへの配慮を欠いていた自分を愚かだと痛感した。これにより、彼の覚悟と責任感はさらに深まった。
宴への挑戦と料理人としての誇り
すべての騒動を経て、アスタは再びルウ家のかまどに立つこととなった。婚儀前夜という大切な宴にふさわしい料理を提供し、過去の過ちを克服し、尊厳と誇りを取り戻すことこそが彼の目標となったのである。
ルウ家への再訪と謝罪の申し出
アスタとアイ=ファは十一日ぶりにルウ家を訪れた。ドンダ=ルウは敵意を込めて迎えたが、アスタは以前の不出来な料理を謝罪し、再びかまどを預かりたいと申し出た。最長老の魂に安息をもたらした功績があるとして、過去の失敗は不問とされたが、アスタはそれでも納得せず、家族全員に満足を与える料理を作りたいという意思を強く示した。
ドンダ=ルウの提案と過酷な約定
ドンダ=ルウはアスタの覚悟を試すように、ルティム家の婚儀前夜の宴を任せる条件を提示した。来客に不満を与えた場合、ファの家はルウの一族から絶縁され、スン家による過去の因縁も再燃する可能性があると警告した。アイ=ファはこの提案に激しく反応し、自らの尊厳を守るために約定を了承した。
アスタの決意と試練の受諾
アイ=ファの覚悟を受け止めたアスタは、自らの誇りと責任をかけて試練を受け入れた。ドンダ=ルウはその意志を認め、アスタが満足のいく料理を提供できなければ首飾りを返上させると宣告した。アスタはそれを受け入れ、静かに覚悟を固めた。
ミーアとサティの好意と穏やかな交流
会談後、ミーアとサティに再会したアスタたちは、婚儀前夜の宴について話し、二人はその話題に歓喜した。アスタの料理に強い期待を寄せる二人の姿に、アスタは暗い約定のことを伏せ、穏やかな雰囲気を大切にした。
アイ=ファとの信頼の確認と心の結束
アイ=ファはアスタに信頼を寄せており、彼が試練を乗り越えると確信していた。アスタもまた彼女の意志と強さに応えようと決意し、過去の失敗を乗り越えるために闘志を燃やした。互いの信頼と覚悟が固く結ばれた瞬間であった。
リミ=ルウの登場と過去の誤解の発覚
リミ=ルウが再登場し、過去の水浴びの件を蒸し返したことで、アスタは再び釈明に追われることとなった。アイ=ファに加えてリミ=ルウも巻き込んだやり取りは騒動となり、アスタは羞恥と怒りの板挟みに陥った。
レイナとララの反応とさらなる混乱
裏庭で毛皮なめしの作業をしていたレイナとララは、リミ=ルウの叫びによって過去の事件を思い出し、強い羞恥と怒りを見せた。アスタの不用意な弁明はアイ=ファの逆鱗に触れ、再び制裁を受ける結果となった。
誤りの自覚と最も大切な存在への回帰
アスタは、自分の行動がアイ=ファの心を傷つけたことを反省した。彼にとって最も守るべき存在が誰であるかを思い出し、彼女のために自らを律する必要性を痛感した。過去の自分に打ち克ち、真に大切なものを守るため、アスタは己の誇りと誠意をかけた戦いに挑む覚悟を深めていた。
第四章 半人前の料理道
婚儀前祝いの宴と料理人の使命
森辺の風習に従い、婚儀の七日前から始まる前祝いの宴が、ルウ家で開催された。主人公アスタは、家長ドンダ=ルウと交わした約定のもと、この宴で満足のいく料理を提供しなければ、アイ=ファの家はルウ家を含む全眷属と縁を絶たれることになっていた。これは彼女にとっても、かつて彼女を狙ったスン家のディガ=スンに再び目を付けられる可能性を意味しており、アスタの責任は極めて重大であった。彼は自らの料理で運命を切り拓くべく、気合いを入れてかまどに立った。
かまどの準備と女衆たちの役割分担
かまどにはミーア・レイ=ルウ、ヴィナ=ルウ、レイナ=ルウの三名が加わり、アスタとともに調理にあたることとなった。レイナは前回の経験もあり戦力として期待され、ミーア・レイは頼れる主婦として存在感を発揮した。一方、色気と自信のなさが入り混じるヴィナは、自らの貢献に不安を抱いていたが、アスタの激励を受けて担当業務に加わった。各料理の担当が割り振られ、ギバ鍋にはミーア・レイ、焼きポイタンにはレイナ、肉料理はアスタとヴィナの二人が受け持つこととなった。
ギバ鍋の工夫と森辺の味覚観
アスタは宴の品格を高めるため、ギバ・スープに通常よりも高価な野菜を加えることを提案した。ミーア・レイはティノやプラを候補に挙げたが、失敗を危惧した。一方アスタは創意工夫の重要性を説き、挑戦の意志を示した。ギバの臭みを抑える方法についても語られ、血抜きの重要性が再確認されたが、男衆の伝統的な偏見が大きな障害となっていた。
胴体肉に対する偏見と氏族の誇り
アスタが使用したギバの胴体肉に対して、ルウ家の家長が強い嫌悪感を示したことから、ルティム家の反応を案じる声があがった。胴体肉を「腐肉」と見なす思想には、狩人としての誇りや氏族の力関係が背景にあると推測された。アイ=ファは、そのような偏見を正面から受け止めた上で、自ら説得にあたることを決意し、アスタに料理を貫くよう命じた。彼の調理には、ファの家の名誉と未来がかかっていた。
宴開始直前の緊張とヴィナ=ルウの不安
準備が整う中、ヴィナ=ルウは自らの役割に自信を失い、失敗への恐怖を吐露した。アスタはその責任を自分が背負うと宣言し、彼女の不安を和らげた。二人のやり取りを見かねたアイ=ファが登場し、来客の到着を告げることで、場が引き締まった。
ルティム家の到着と重圧の高まり
宴にはルウ家と並ぶ氏族であるルティム家の家長ダン=ルティム、その息子ガズラン=ルティム、新婦アマ=ミンらが出席した。アスタは客人に挨拶しながら料理を運んだが、その間にルウ家の次兄ダルム=ルウの敵意ある視線を感じ取った。宴の空気は重く、アスタにとって緊張の連続であった。
対立の火種と料理人の覚悟
料理の品を前にしてもドンダ=ルウの不機嫌は明らかであり、ミーア・レイもその様子に不安を募らせた。しかしアスタは、対立を避ける道ではなく、正面から挑む覚悟を示した。その決意を聞いたミーア・レイは、敵には回れぬとしつつも、応援を約束した。
開宴と家長たちの怒号
アイ=ファとともに料理を運んだアスタは、上座に着くドンダ=ルウとダン=ルティムに皿を差し出した。しかし料理の中身を目にした二人の家長は、烈火のごとく怒りを露わにした。宴は一気に緊張感に包まれ、運命の勝負がいよいよ幕を開けたのである。
ステーキ料理への反発とルティム家長の怒号
料理の提供直後、宴の場は険悪な空気に包まれた。ギバ肉の胴体部位が使われた料理が披露されると、ルティム家の家長ダンは激怒し、祝いの場に相応しくないと断じて非難を浴びせた。ルウ家の家長ドンダはそれに対し、自身はかまど番に任せただけだと冷ややかに応じ、責任を転嫁した。かまど番として料理を用意したアスタは、ステーキがムントの餌ではなく正当な料理であることを主張し、各人に対してスペアリブ、肩ロース、モモ肉の三種を用意したと説明した。
調理法と食感の工夫
料理には焼き加減や肉の厚さ、血抜きなど細やかな調理技術が施されていた。特に2.5センチの厚みにこだわり、肉汁を損なわずウェルダンに仕上げるための工夫が施されていた。スペアリブ、肩ロース、モモ肉の各部位には、それぞれに応じた下処理がなされており、特にモモ肉は土瓶で叩いて繊維を柔らかくする配慮も加えられていた。仕上げには強火と果実酒による蒸し焼きを組み合わせ、迅速に火を通した。
ギバ肉に対する偏見と対話の試み
ギバの胴体肉は森辺の民の間では軽蔑されており、力なき狩人の象徴とされていた。ダンはその価値観をもとに料理を非難したが、アイ=ファはかつての家族の困窮と胴体肉を食した過去を語り、それが弱さの証ではないことを強調した。食の背景にある文化の違いが浮き彫りとなり、アイ=ファは丁寧に作法の違いを認めつつ、狩人としての矜持と生活の現実を両立させる必要性を説いた。
料理の評価と変化した態度
当初怒りをあらわにしていたダンは、実際にステーキを食したことでその美味さに驚き、ムントの餌とされていた部位の価値を認識し始めた。アスタは丁寧な解体と処理により、胴体肉の臭みが取り除かれ、味覚的にも満足のいく料理が実現可能であると説明した。ダンは次第に素直な反応を見せ始め、自分たちが貴重な食材を無駄にしていた可能性に気付き、衝撃を受けた。
言葉による説得と真意の告白
アスタは、異世界人である自身の料理が文化や健康に与える影響を真摯に考察し、柔らかい料理ばかりが招く危険性について語った。特に顎や歯の力の低下が生活に及ぼす長期的な影響を例示しながら、料理人としての責任と危惧を述べた。そのうえで、自分がこの料理を通して伝えたかったのは、家族が支え合うことの尊さと、手間を惜しまないことで得られる食の豊かさであると告白した。
宴を支えた協力と意図の明示
今回の料理はアスタが単独で調理したものではなく、ルウ家の女衆が協力して作り上げたものであった。ポイタンはレイナ、スープはミーア・レイ、ステーキはヴィナが担当し、アスタはその指導に徹していた。これは、家族の連携で再現可能な家庭料理であることを証明し、ルウ家の絆を強めるきっかけにしたいという意図に基づいていた。
異文化理解と料理の役割
アスタは、森辺の民に適した食文化を模索し、料理が「毒」ではなく「薬」となるよう願っていた。自身の失敗を認めつつ、文化や作法の違いを超えた理解を求め、料理を通じた対話と交流を目指した。最終的にアイ=ファをはじめとする人々がその真意に触れ、宴は穏やかな空気の中で進行していった。料理が文化の橋渡しとなることを実証した一夜であった。
エピローグ
宴の後と静かな対話
アスタとアイ=ファは晩餐の片付けを終え、ジバ婆のもとで短く語らった後、ルウの集落の空き家に戻って落ち着いた。リミ=ルウも加わったひとときを経て、夜は静かに更けていた。宴ではルウ家の人々とルティム家の客人たちによる酒盛りが続いていたが、アスタとアイ=ファはその場を離れていた。落ち着いた空間で、アスタは演説の疲れを漏らす一方、アイ=ファは沈んだ様子を見せていた。
アイ=ファの不安と問いかけ
アスタの長広舌がまるで別れの言葉のように聞こえたとアイ=ファは語り、彼が森辺を去るつもりではないかと問いかけた。アスタはそれを否定し、自身の真情を述べた。彼は異世界に投げ込まれた者として、できる限り周囲に害をなさず、役に立ちたいと願っていた。また、突然元の世界へ戻る可能性も否定できない以上、後悔のない日々を送りたいと語った。
ドンダ=ルウの訪問
深夜、ルウ家の家長ドンダ=ルウが空き家を訪れた。刀は携えていなかったが、果実酒の瓶を手にしていた。ドンダはアスタとアイ=ファに虚言なきことを誓わせたうえで、アスタの真意を問いただした。彼は、なぜルウ家の絆に言及したのか、何を企んでいるのかを問うた。
アスタの本心の告白
アスタは、単なる自己満足ではなく、ドンダ=ルウを納得させたかったと述べた。彼は自らの料理が一夜限りのものであることを理解したうえで、家族の手によって再現できる家庭料理こそが持続可能な幸福であると信じていた。そして、美味しさの基準は人それぞれであることを示すため、ステーキの三部位とハンバーグの四種を用意したと説明した。
家族と絆をめぐる訴え
アスタは、家族の絆を軽んじるような行為は愚かであると断じ、仮に絶縁に至っていればリミ=ルウらとの関係に深刻な影響が及んでいたと指摘した。アイ=ファとともにジバ=ルウを味方につけてもなお説得に苦心した経緯を語り、彼女がルウ家の一員として慕われている事実をドンダ=ルウにも認識してほしいと訴えた。
料理人としての誇りと責任
アスタは自らを料理人と定義し、料理を通して森辺に役立ちたいとの思いを明かした。そして、家庭の料理において必要なのは料理人の技術ではなく、家族の手で幸福を分かち合うことであると語った。そのうえで、誤りであれば首飾りを返す覚悟も示した。
ルティム家の伝言と祝福
ドンダ=ルウは無言で立ち上がり、ルティム家の家長からの伝言を告げた。アスタに次の婚儀のかまど番を任せたいという依頼であった。最後に、祝福として一本の角と牙をアスタに手渡し、闇の中へと姿を消した。
静かな感情の交錯
アスタはその重圧に疲労を滲ませながらも、大喧嘩を収めた安堵をかみしめた。そして婚儀のかまど番という重責に戸惑いを見せるが、アイ=ファは黙して語らなかった。やがて、彼女はアスタの前に座り直し、静かに彼の不在を望まぬ心情を伝えた。感情をあらわにはせずとも、その瞳に宿る想いは揺るぎなく、ただ真っ直ぐにアスタを見つめ続けていた。
食前酒 ~狩人の道 ~
父ギル=ファの死とアイ=ファの喪失感
狩人ギル=ファは、娘アイ=ファが十五歳になった翌月に、ギバとの戦いで命を落とした。彼は多くのギバを狩った有能な狩人であり、アイ=ファの誇りでもあった。その死により、アイ=ファは家族と血縁のすべてを失い、孤独な存在となった。父の形見である狩人の衣、大刀、小刀、首飾りを手元に残しながら、彼女は自らの今後と狩人としての資格に葛藤していた。
未成熟な狩人としての自覚と迷い
アイ=ファは十三歳から狩人の手伝いを始め、基本的な技術は身につけていたが、一人前としてはまだ未熟とされていた。父からも鍛錬の必要性を告げられていたものの、もう少しで一人前に近づけるという実感も抱いていた。しかし、家族も眷族もいない自分が、たった一人で狩人として生きられるのかという不安にさいなまれていた。
侵入者ディガ=スンとの対峙
父を亡くして間もない夜、見知らぬ若い男が家に侵入した。彼はスン家の長兄ディガ=スンを名乗り、無理矢理アイ=ファに迫った。アイ=ファは咄嗟に反撃し、頭突きで男の鼻を折る。ディガ=スンは逃走し、彼女は大刀を手に追いかけた。川辺で追いつくと、ディガ=スンは命乞いをし、スン家の威光を盾に逃れようとしたが、アイ=ファはその行為の罪を責めた末、革鞘のまま刀で顔を打ち、彼を川に沈めた。
翌朝の対応とサリス=ランとの対話
翌朝、アイ=ファは壊された格子窓を修理していた。近所の友人サリス=ランが訪れ、事情を知って驚きと不安を露わにした。アイ=ファはディガ=スンが族長筋であろうと、自らの非を認めずに謝罪するつもりはないと断言した。サリス=ランはその態度に懸念を抱きつつも、説得には至らなかった。
森辺社会における掟と女衆の役割への反発
アイ=ファは幼少のころから父と共に男女の別なく家事と狩猟を分担してきた。しかし、森辺の社会では女衆が狩人になることは一般的でなく、周囲からも好ましく思われていなかった。掟として禁じられてはいなかったが、狩人は男衆の職とされ、女衆は家を守るべきという固定観念が強かった。
アイ=ファの将来と周囲の視線
サリス=ランは、家族も眷族も失ったアイ=ファの将来を案じ、嫁入りか家人となる道しか残されていないと考えていた。しかしアイ=ファは、自らの生き方として狩人の道を選ぶことを望み、それを曲げる気はなかった。サリス=ランはスン家との問題を重く見ており、事の重大さを伝えようとしたが、アイ=ファの決意を変えることはできなかった。
ルウ家での議論とドンダ=ルウの決断
スン家の無法に関する話は、ルウ家の晩餐の場にも届いた。家長ドンダ=ルウはこの事態に怒りを見せ、同時に興味も抱いた。彼は次男ダルム=ルウにアイ=ファを嫁に迎えることを提案した。一族の存続と狩人としての才覚を重視し、偏屈な父娘の血筋に価値を見出した判断であった。長兄ジザ=ルウは懸念を示したが、ドンダ=ルウは意を曲げなかった。
ジバ=ルウとリミ=ルウの不安
晩餐後、リミ=ルウは病床のジバ=ルウを訪れ、アイ=ファの将来を案じて涙を流した。ジバ=ルウは自らの死期を覚悟しつつも、リミ=ルウにアイ=ファの支えとなるよう伝えた。彼女は、アイ=ファが正しい道を自ら選ぶと信じていたが、幼い孫の涙には深い憂いをにじませていた。
ルウ家の訪問と嫁入りの提案
翌日、アイ=ファはルウ家の家長ドンダ=ルウとその息子三人の訪問を受けた。ドンダ=ルウは彼女の母の容貌と父の眼差しを重ねつつ、スン家との確執について言及し、彼女をルウ家へ嫁入りさせる意向を示した。次兄ダルム=ルウは狩人の道に進む女衆に価値を認めず、アイ=ファの生き方を否定したが、ドンダ=ルウは力強く保護を申し出た。ルウ家とスン家の因縁を語る彼の圧倒的な存在感に、アイ=ファは父に勝るかもしれぬ力を感じつつも、森辺における力と正義のあり方に思い悩んだ。
選択の重圧とマサ=フォウの告白
アイ=ファは狩人として生きる意思を確かめる一方で、ルウ家との婚姻に伴う血の縁や覚悟に苦しんだ。その後、フォウ家の次兄マサ=フォウが突然の求婚を申し入れた。彼は昔からアイ=ファに想いを寄せていたと告白し、サリス=ランとの婚儀を取りやめる決意を語ったが、アイ=ファは狩人としての生を否定された怒りと、サリス=ランへの裏切りに対する憤りから彼を拒絶した。そのやり取りを偶然目撃したサリス=ランは涙を流して立ち去り、アイ=ファは友人を失った喪失感に襲われた。
ドンダ=ルウへの返答と決断の宣言
三日後、再び訪れたドンダ=ルウに対し、アイ=ファは狩人の装束で応対し、嫁入りを断る意思を明確に示した。女衆としての役割を放棄し、狩人として一人生きる道を選んだ決意に対し、ドンダ=ルウは怒りを見せた。アイ=ファは、自らの意志を優先することを選び、父ギル=ファのように森に朽ちる覚悟をもって生きていくことを宣言した。ルウ家との縁を絶たれ、孤独を覚悟しながらも、彼女は自らの志を貫くことを選んだ。
孤独な狩人としての旅立ち
アイ=ファは一人きりの狩人として生きる覚悟を固め、装備を整えて森に向かおうとした。その直前、リミ=ルウが訪れ、変わらぬ笑顔で彼女を励ました。アイ=ファは深い感情を抑え、縁を断つよう突き放したが、リミ=ルウはなおも再会を願い続けた。過去の絆は失われても記憶は残るという思いを胸に、アイ=ファは彼女との別れを受け入れ、己の信念に従って森へと足を踏み出した。涙を流しながらも、その心に迷いはなかった。
同シリーズ
異世界料理道







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