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マンガ新九郎、奔る!読書感想

漫画「新九郎、奔る!(22) 満を持す 」感想・ネタバレ

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新九郎、奔る!22の表紙画像(レビュー記事導入用) マンガ

新九郎、奔る!21巻
新九郎、奔る!23巻

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. 足利義材の失踪
    2. 伊豆討伐の決意
    3. 今川家の参戦
    4. 葛山家との婚姻
    5. 家族との再会
    6. 堀越御所への討ち入り
  6. 登場キャラクター
    1. 伊勢家
      1. 伊勢新九郎
      2. 大道寺
      3. 荒木彦次郎
      4. 在竹
      5. 荒川又次郎
      6. 山中才四郎
      7. 多米権兵衛
      8. 笠原弥八郎
      9. 伊勢九郎
      10. 伊勢弥次郎盛興
      11. 左近次
      12. ぬい
      13. 千代丸
      14. 盛定
      15. 小笠原政清
      16. 小笠原新六郎
      17. 三郎
      18. 犬若
      19. 富久
      20. 三助
      21. 女房達
      22. 伊勢家の家臣たち
    2. 今川家
      1. 今川龍王丸
      2. 伊都
      3. 今川新五郎範続
      4. 瀬名一秀
      5. 朝比奈丹波守
      6. 三浦左衛門尉
    3. 堀越公方家
      1. 堀越茶々丸
      2. 狩野介祐貞
      3. 狩野太郎
      4. 横井越前守知時
      5. 横井の妻
      6. 外山豊前守
      7. かや
      8. 竹阿弥
      9. 嘉助
      10. 堀越公方府の奉公衆
    4. 元堀越公方府奉公衆
      1. 松田弥次郎直秀
      2. 遠山隼人佑直景
      3. 富永右衛門尉政胤
      4. 千鶴姫
    5. 葛山家
      1. 葛山備中守氏堯
      2. 葛山の妻
      3. 多岐
      4. 半田惣左衛門
    6. その他
      1. 興国寺の和尚
      2. 吾作
      3. 富士下方開拓をする農民
  7. 展開まとめ
    1. 第百四十三話 満を持す その1
    2. 第百四十四話 満を持す その2
    3. 第百四十五話 満を持す その3
    4. 第百四十六話 満を持すその4
    5. 第百四十七話 満を持す その5
    6. 第百四十八話 満を持す その6
    7. 第百四十九話 満を持す その7
  8. 同シリーズ
  9. 同時に読みたい本
    1. お金の流れで見る戦国時代 歴戦の武将も、そろばんには勝てない
    2. 百姓から見た戦国大名
  10. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

室町幕府末期の乱世を舞台に、「最初の戦国大名」とも呼ばれる伊勢新九郎(北条早雲)の活躍を描いた歴史漫画である。 本巻では、いよいよ歴史の表舞台となる**「伊豆討ち入り」が目前に迫る**。前将軍・義材の脱走の報を受けた新九郎は討ち入りの準備を急ぐが、声をかけた元奉公衆たちの覚悟が決まらず膠着状態に陥る。その状況を打破したのは、甥である今川龍王丸からの思いがけない**合力の命(サプライズ)**であった。一方で、伊豆攻略の布石として駿河の国人・葛山氏から新九郎への縁談が持ち込まれ、結婚9年目を迎える新九郎と妻・ぬいの円満夫婦に危機が訪れるという私生活の急展開も描かれている。

■ 主要キャラクター

  • 伊勢新九郎:本作の主人公であり、後の北条早雲。真面目な性格で、単身赴任中は自ら掃除や洗濯もこなす。京の新御所から密かに堀越茶々丸討伐の命を受け、奪われた所領を取り戻すために伊豆討ち入りの工作を進める。
  • 今川龍王丸:新九郎の甥であり、後の今川氏親。マイペースで戦嫌いな平和主義者だが、新九郎の窮地を救うため、母に内緒で今川の軍勢に出兵を命じるなど、駿河守護としての成長と頼もしさを見せ始めている。
  • 伊勢千代丸:新九郎の息子であり、後の北条氏綱。新九郎以上に真面目で心優しい性格の持ち主。長期間家を空ける父に対し、「母を寂しがらせないでほしい」と堂々と意見を述べる聡明さを持つ。
  • ぬい:新九郎の正妻。自身を大雑把な性格だと語るが、夫に持ち込まれた政略結婚の話に対し、家の繁栄と子供たちの将来を第一に考えて受け入れる、正室としての強い覚悟と誇りを持つ。
  • 伊都(大方様):新九郎の姉であり、龍王丸の母。今川家を第一に考え、龍王丸の独断による出兵命令を厳しく叱責するが、最終的には新九郎の覚悟を認め、今川家からの派兵を決断する。
  • 葛山氏堯(備中守):駿河の国人領主。今川家の勢力拡大を前に生き残りを図り、今川家に臣従しつつも、一定の独立性を保つために娘を新九郎に嫁がせようと画策する。
  • :葛山氏堯の娘。極度の人見知りであるが、寺で見かけた新九郎の凜とした姿に惹かれており、両家を結ぶ鍵として別妻となる覚悟を決める。
  • 堀越茶々丸:新九郎の討伐目標となる堀越公方。かつて肉親を殺害して地位を得た経緯から極度に猜疑心が強く、些細な疑いで忠臣であった外山豊前守らを討伐してしまい、自ら求心力を低下させていく。

■物語の特徴

本作の最大の魅力は、単なる合戦の描写にとどまらず、会談での駆け引きや事前の調略による張り詰めた緊張感が描かれている点である。
下剋上の時代において、いかにして味方を増やし敵を切り崩すかという政治的な手腕が詳細に描かれている。
また、主人公の新九郎だけでなく、龍王丸や千代丸といった「次世代の戦国大名」たちの成長の軌跡が丁寧に描写されている点も読者の興味を惹きつける。
さらに、伊豆討ち入りという歴史的な大事件と並行して、新九郎の縁談問題や、息子・千代丸との対話といった
家族の絆や私生活における人間ドラマが深く掘り下げられており、歴史上の人物たちの血の通った群像劇として、他作品とは一線を画す差別化要素となっている。

書籍情報

新九郎、奔る!  22巻
著者:ゆうきまさみ 氏
出版社:小学館(ビッグコミックス)
発売日:2026年2月12日
ISBN: 9784098638574

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あらすじ・内容

伊豆討ち入り&新九郎の私生活に急展開!
幽閉中の前将軍・義材の脱走。

その一報を耳にした新九郎は
伊豆討ち入りの準備を急ぐが、
声かけをしている者たちの覚悟が決まらない。

そんな膠着した状況を動かしたのは
甥・龍王丸からの“サプライズ”!

特大の追い風を得た新九郎だが、
もうひとつ、思いもよらぬ話が降って湧き
結婚9年目の円満夫婦に危機が訪れて!?

新九郎、奔る! 22

感想

いよいよ歴史の大きな転換点となる伊豆討ち入りに向けて、政治の駆け引きと人間ドラマが絶妙に交差する読み応え抜群の巻であった。

物語の背景では先代将軍・足利義材の逃亡が描かれており、その存在が影にチラつくだけで新九郎たちの行動が制約されてしまうという政治の緊張感がリアルだ。伊豆の旧領主たちに助力を頼むものの、圧倒的な兵力不足に悩まされるというシビアな現実もしっかりと描かれている。 そんな膠着状態を打破したのは、甥である今川龍王丸の独断による「兵三百を送る」というサプライズ命令となっている。ここで面白いのは、それが大方様(伊都)の許可を取っていない先走りだと気づくや否や、新九郎が慌てて軍勢を差し戻し、きちんと姉の許可を取り付ける点が見事だ。勢いに任せず、身内であっても筋を通す新九郎の生真面目さと実務家としての堅実さがよく表れているシーンと言える。

また、本作の特徴である日常と政治が地続きになっている描写も特筆すべき魅力だ。駿河の国人・葛山氏堯が今川家に臣従するにあたり、自身の娘・初を新九郎の妻に迎えよと縁談を持ち込んでくる。結婚9年目を迎える円満夫婦の危機かと思いきや、そこに正妻のぬい様が登場してもドロドロの修羅場にはならないのが面白い。家の繁栄を第一に考え、相手の姫とも不思議な絆を結んでしまうぬいの聡明さは見事であり、これが許されるのも新九郎の日頃からの人徳ゆえなのだろう。後背の安全を固めるという軍事的な目的が、家族の深い理解によって達成される展開に温かみを感じた。

一方、標的である堀越御所の茶々丸は、猜疑心に駆られて忠臣の外山豊前守らを謀反人として討ち果たしてしまう。自ら求心力を低下させ、公方府を崩壊寸前へと追い込んでいく自滅ぶりは、着実に味方を束ねていく新九郎と鮮やかな対比となっている。

そして、敵の兵が関東へ出向いて守りが手薄になるという絶好の機会が訪れ、ついに興国寺に今川軍や葛山勢、旧奉公衆らが集結する。伊豆討ち入りに向けた総大将としての軍議の幕が開け、いざ出陣という胸が熱くなる場面を迎えるわけだ。 しかし、最高潮の緊迫感の中で、最後は新九郎が現代のプレゼンのようなスクリーン(スライド)を持ち出して周囲からツッコミを入れられるというオチがつく。

いかにもこの作品らしいユーモアで締めくくられており、思わず笑みがこぼれると同時に、来るべき大戦への期待が最高潮に達した。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察・解説

足利義材の失踪

足利義材(今出川殿)の失踪(脱走)は、新九郎の伊豆討ち入りを加速させる極めて重要な政治的転機として描かれている。

失踪の状況と京の混乱
幽閉中であった前将軍・足利義材は京から姿を消し、その脱走は広く知れ渡る事態となった。新九郎の家臣たちは暗殺や流罪の可能性を疑ったが、敵対する京兆家(細川氏)が必死になって行方を捜索していることから、自力での脱走であることが確定している。

新九郎の反応
左近次からこの報告を受けた新九郎は、「また余計なことを考えて眠れなくなりそうだ。迷惑な男だな」と苦笑する。しかし、この一報を耳にしたことで、新九郎は伊豆討ち入りの準備を急ぐことになる。

東国情勢への影響と新九郎の分析
義材の失踪は、東国のパワーバランスに以下の重大な影響を及ぼすと新九郎は分析している。

  • 幕府(公儀)の東国への介入停止: 前将軍の脱走劇により、京の公儀はその対応に追われ、もはや東国の情勢に構っている余裕がなくなる。
  • 茶々丸や関東管領との結託リスク: 新九郎は、逃亡した義材が伊豆の堀越茶々丸や武田五郎を味方に取り込む危険性を強く警戒している。義材と関係が深い関東管領側が茶々丸の名を借りて伊豆を掌握した場合、相模の扇谷家に対して背後から圧力をかけることが可能になる。
  • 関東全域の支配図の変化: 上記の事態に陥れば、北は上野から南は伊豆に至るまで、関東一帯が関東管領の影響下に入ってしまい、情勢がさらに複雑化すると新九郎は予見している。

まとめ
このように、足利義材の失踪は単なる中央の政変にとどまらず、新九郎に対して「関東管領側と結びついて伊豆が掌握される前に、いち早く茶々丸を討たねばならない」という戦略的な危機感を与え、討ち入りを決断させる決定的な要因となっている。

伊豆討伐の決意

伊豆討伐(伊豆討ち入り)に向けた新九郎の決意は、単なる主命や武功の追求にとどまらず、公儀への見切りと新体制構築の覚悟が入り交じった強い信念として描かれている。主なポイントは以下の通りである。

討伐の大義と「所領奪還」という私情
新九郎は、京の新御所(将軍)から堀越茶々丸討伐の密命を受けているが、それは正式な書式を欠く私的な命であった。新九郎はこれを奉じつつも、元堀越公方府の奉公衆らに対し、京にいたというだけで理不尽に所領を奪われたことへの屈辱を晴らすという「私情」があることを隠さずに語る。新九郎は将軍からの密命を、自らだけでなく「苦境にあるすべての奉公衆に宛てられたもの」と定義し直し、同志たちに戦う理由を提示した。

公儀(幕府)への完全な見切り
新九郎の決断の根底には、機能不全に陥った幕府に対する深い失望がある。妻のぬいから「勝手なことをして公儀の方々に怒られないか」と心配された際、新九郎は「以前の俺なら気にしたかもしれないが、今は(息子の)千代丸に怒られるほうがよほど怖い」と笑い飛ばす。かつて新九郎たちは幕府に苦境を訴えたものの、上層部は将軍交替の政争に血道を上げるばかりで何も助けてくれなかった。そのため、「俺が尽くそうと定めていた公儀はもうない」と断言し、自らの信念に従って道を開く決意を固めている。

伊豆の新たな統治者としての覚悟
討ち入りは、茶々丸を討ち取って終わるものではない。茶々丸討伐後の伊豆の知行についてぬいに問われた新九郎は、「俺がやるしかあるまい」と明確に答える。自らの計画に巻き込んだ家来や国人衆に所領を宛行い、崩壊した公方府に代わる新たな統治体制を作り上げる責任が自分にあると自覚しており、一介の武将から「一国の統治者」へと飛躍する覚悟を示している。

入念な準備と士気の掌握
決意を現実にするため、新九郎は多方面で盤石な準備を整えた。

  • 士気の高揚: 母と弟を茶々丸に殺された千鶴姫を松田・遠山ら元奉公衆に引き合わせ、「茶々丸の首を墓前に供えてほしい」と直接言わせることで、彼らの士気を極限まで高めた。
  • 軍事力と後背の確保: 甥の今川龍王丸から今川軍300の出兵を取り付け(後に伊都から正式承認を獲得)、さらに駿河の国人である葛山氏堯を臣従させ(娘・初との縁組を受諾)、駿河側の安全を完全に固めた。

まとめ
最終的に、敵の主力が関東に出向いて伊豆の守りが手薄になるという幸運(天佑)も重なり、新九郎は総大将として「勝ち味は十の内九」と確信し、軍議の幕を開けたのである。

今川家の参戦

『新九郎、奔る!(22)』における「今川家の参戦」は、新九郎の伊豆討ち入り計画を単なる無謀な襲撃から、勝算の高い本格的な軍事行動へと昇華させる決定的な追い風として描かれている。主なポイントは以下の通りである。

突然の参戦表明と龍王丸の「先走り」
善得寺にて、新九郎が元堀越公方奉公衆たちに伊豆討ち入りへの協力を呼びかけていた最中、突如として今川新五郎範続が現れ、「龍王丸の命により精兵三百を率いて合力する」と宣言する。兵力不足に悩んでいた奉公衆はこれに歓喜するが、新九郎はこれが実質的な決定権を持つ大方様(伊都)の許可を得ていない、甥・龍王丸の独断(先走り)であることに気づく。

龍王丸の成長と強い恩義
新九郎は事態を収拾するため、急ぎ駿府へ向かい伊都に直談判を行う。無断で兵を動かしたことに伊都は激怒するが、龍王丸は一歩も引かない。「現在の今川家があるのはすべて叔父上(新九郎)のおかげであり、困窮している叔父上を今こそ助けるべきだ」と強く主張する。戦嫌いでマイペースだった龍王丸が、当主としての自覚と身内への強い恩義を示し、母に対して堂々と意見をぶつける姿は、彼の大きな成長を感じさせる場面となっている。

伊都の決断と戦略的意義
新九郎から将軍の密命を見せられ、すでに奉公衆に今川の参戦が知れ渡ってしまった状況を知った伊都は、最終的に三百の出兵を正式に承認する。ただし、ただ感情で動いたわけではなく、歴戦の重臣である朝比奈丹波守や三浦左衛門尉、瀬名一秀を副将として同行させるなど、盤石の体制を整える。さらに、「新九郎が東の伊豆を押さえれば、今川家は後背の安全を確保し、腰を据えて遠江を睨むことができる」という戦略的なメリットを見出しており、新九郎には「この貸しはどこかで返してもらうから、死んじゃだめよ」と厳しくも温かい言葉をかける。

参戦がもたらした絶大な効果
今川家という大勢力の公式な参戦は、新九郎の計画に以下の絶大な効果をもたらした。

  • 奉公衆の士気向上: 兵力不足を懸念していた松田や遠山ら旧奉公衆は、今川の合力を得たことで「百人力じゃ」と勇気百倍になり、一気に兵集めへと奔走する。
  • 葛山氏堯への衝撃と臣従: 新九郎が単騎討ち入りではなく、今川本体を動かしたという事実は、駿河の国人である葛山氏堯に多大な衝撃を与えた。これが決定打となり、葛山は新九郎に臣従を誓い、娘の初を妻として差し出すという縁組(後背の安全確保)へと繋がっていく。

まとめ
結果として、今川家の参戦は新九郎にとって最大の切り札となり、総大将として興国寺に盤石な討伐軍を集結させる原動力となったのである。

葛山家との婚姻

『新九郎、奔る!(22)』における「葛山家との婚姻」は、伊豆討ち入りという軍事作戦と並行して進む、国人のしたたかな生存戦略と家族の絆が交差する重要なエピソードとして描かれている。主なポイントは以下の通りである。

葛山氏堯の政治的思惑と「保証人」としての新九郎
駿河の国人である葛山氏堯は、新九郎の活躍によって今川家の内紛が収まり、自らも被官化(臣従)が避けられないと悟る。当初は新九郎の伊豆討ち入りに合力して恩を売ろうとしたが、今川本体が参戦を決めたことでその目論見が外れてしまう。そこで妻の助言も受け、以下の策を画策したのである。

  • 娘の初を新九郎の妻(別妻)として嫁がせる。
  • 今川家に対して顔が利く新九郎を自分たちの「保証人(鎧)」とする。
  • 臣従しつつも葛山家の独立性を保つ。

新九郎の判断と後背の安全確保
新九郎にとって、伊豆討ち入りを成功させるためには背後となる駿河側の安全確保が至上命題であった。以前、妹の阿茶を葛山に縁づけて身内に取り込もうとして頓挫していた経緯もあり、この申し出は渡りに船であった。この縁談を受諾したのには以下の判断があった。

  • 葛山家と縁組し、心強い味方を加えて駿河を盤石にする。
  • 伊豆討ち入りに向けた後背の安全を確保する。
  • 将来的に甥の龍王丸へ安定した駿河を引き渡す。

正妻・ぬいの覚悟と暗躍
この縁談において最も重要な鍵を握っていたのが、京から下向し、久しぶりに家族との再会を果たしていた正妻・ぬいの存在である。

  • 正妻としての覚悟: 新九郎から事情を聞いたぬいは、最初は反対して新九郎を慌てさせるが、それが家の繁栄や子供たちの将来のためになる政略結婚であることを理解すると、正妻としての覚悟と誇りを持って受諾する。
  • 相手の姫への後押し: ぬいは相手の姫の人柄を確かめるため、富士見物と称して興国寺に赴く。そこで素性を隠したまま初と接触し、彼女が誠実な人物であることを確認すると、妻というのは両家の鍵であり、その覚悟を決めて嫁げばきっと大事にされると助言し、不安を抱える初を優しく後押しした。

初(葛山の姫)の恋心と決意
葛山の姫である初は極度の人見知りであったが、以前興国寺で見かけた新九郎の凛とした坐り姿(佇まい)に惹かれていた。政略結婚であり、京に正妻がいる別妻としての立場や、家臣たちとうまくやっていけるかに不安を抱いていたが、名も知らぬ旅の女(ぬい)からの励ましを受け、両家が栄えるように務める決意を固める。

まとめ
このように、葛山家との婚姻は単なる政略結婚にとどまらず、乱世を生き抜くための政治的駆け引きと、新九郎の戦略的眼力、そして何より、家を守る正妻・ぬいの聡明さと懐の深さが光る人間ドラマとして深く描かれている。

家族との再会

『新九郎、奔る!(22)』における「家族との再会」は、過酷な伊豆討ち入り作戦を目前に控えた武将たちの束の間の安らぎであると同時に、新九郎が背負う家族への責任や絆の深さを再確認する重要なエピソードとして描かれている。主なポイントは以下の通りである。

家臣たちと家族の再会と新九郎の配慮

  • 八月半ば、京から家臣たちの妻子を乗せた船が小川湊に到着し、新九郎は正妻のぬい、息子の千代丸と再会を果たす。
  • 家臣の在竹が妻の富久や息子の三助との再会を大いに喜ぶ姿をはじめ、家中は久々の家族の団欒に活気づいた。
  • 新九郎自身も大道寺に対して「ぬいと千代丸の顔を見て嬉しかった」と素直な喜びを口にしている。
  • 部下たちが気兼ねなく家族との時間を過ごせるよう、自らが率先して休暇を取るという細やかな配慮を見せ、英気を養わせた。
  • 一方で、まだ幼い次男の松寿丸は長旅に耐えられないため、京の義父(伊勢守)に託してこざるを得ないという厳しい現実も描かれている。

妻・ぬいとの対話と正室の覚悟

  • 再会を喜ぶぬいから「駿河のことは一段落されたのでしょう?そろそろ帰京されてはいかがです」と促された新九郎であるが、伊豆討ち入りという大仕事が控えているため、まだ上洛はできないと告げる。
  • さらに新九郎は、この大仕事を成功させるための布石として、駿河の国人である葛山氏堯から持ち込まれた縁談(葛山の姫・初を別妻として迎える件)をぬいに打ち明ける。
  • ぬいは一瞬反対するそぶりを見せて新九郎を慌てさせるが、それが家の繁栄や子供たちの将来のためになる政略結婚であると理解すると、「それで我が家が栄えるならば否も応もありません」「私は伊勢新九郎の正妻でございますからね」と、正室としての強い覚悟と誇りを示し、新九郎を大いに安堵させた。
  • 新九郎が伊豆討ち入りの真意(公儀への見切りと所領奪還)を語り、さらなる留守を詫びた際、ぬいは「いささか寂しうございましたよ」と本音をこぼしつつも、夫の決断を静かに受け入れている。

息子・千代丸の成長と父子の対話
再会した7歳の息子・千代丸との対話も、非常に印象的に描かれている。

  • 千代丸は、新九郎が自分や母よりも、甥の龍王丸や姉の伊都と過ごす時間の方が長いことに嫉妬し、「父上は私の父と言うより、まるで龍王殿の父上のようではないですか」と不満をぶつける。
  • さらに、政略結婚のせいで帰京が遅れることを見抜いた千代丸は、「母上を寂しがらせないでください!千代丸からのお願いです!」と新九郎に直言する。
  • また、新九郎に何か甘えたいことはないかと問われると、龍王丸が昔作ってもらったという「竹トンボ」の作り方を教えてほしいと頼む。
  • 自分が遊ぶためではなく「家中の幼い子女たちに作ってやりたいのです」と答える千代丸の優しさと聡明さに触れ、新九郎は「七歳児にやり込められた」「俺より人間の出来がいいかもしれん」と舌を巻き、息子の名君としての資質を深く認めることになる。

まとめ
このように「家族との再会」は、政略や戦に明け暮れる新九郎にとって、自分が「誰のために、何のために戦うのか」という根源的な理由を再認識させ、来るべき伊豆討ち入りへの決意をより強固なものにする重要な転機となっている。

堀越御所への討ち入り

『新九郎、奔る!(22)』における「堀越御所への討ち入り」は、本作の最大のクライマックスに向けた一大軍事作戦であり、新九郎の周到な政治的・軍事的準備と、敵対する御所側の自滅が交差する形で描かれている。主なポイントは以下の通りである。

討ち入りの大義と新九郎の覚悟
新九郎は、京の新御所(将軍)から堀越茶々丸討伐の密命を受けているが、それは正式な書式を欠いたものであった。しかし新九郎は、以下の理由からこの命を戦う大義として提示した。

  • 理不尽に所領を奪われた旧奉公衆たちに対し、この命は「苦境にあるすべての奉公衆に宛てられたもの」であると解釈した。
  • 所領奪還という彼らの切実な願いを戦う理由とした。
    機能不全の幕府に見切りをつけ、茶々丸を討伐した後は自らが伊豆の新たな統治体制を築くという強い覚悟を持って行動している。

堀越茶々丸の自滅と天佑
標的である堀越御所では、茶々丸が猜疑心に駆られ、横井越前守の最期の諫言にも耳を貸さず、忠臣であった外山豊前守や秋山蔵人を謀反人として討伐してしまう。新九郎はこれを、茶々丸が人の寝首を掻いて地位を得たため、自らも裏切られることを恐れた結果の自滅であると分析した。これにより以下の状況が生まれた。

  • 御所を守る兵力が減少したことで、公方府は一突きで落ちる熟し切った柿のような状態へと弱体化した。
  • さらに、東伊豆の国人衆の半数が関東での戦いに出向いており、北伊豆の守りが手薄になっているという幸運(天佑)も重なった。

盤石な軍勢の集結と士気の極致
新九郎は討ち入りに向けて以下の盤石な布陣を整えた。

  • 甥の今川龍王丸と姉の伊都から今川軍の精兵三百と朝比奈や三浦といった歴戦の重臣の加勢を取り付けた。
  • 駿河の国人である葛山氏堯も臣従させて合力させた。
  • 茶々丸に母と弟を殺された千鶴姫を松田や遠山ら旧奉公衆の前に立たせ、茶々丸の首を墓前に供えてほしいと直接語らせることで、彼らの士気を極限まで高めた。

まとめ
茶々丸が法要のため一日御所にいる九月一日が好都合であると判断され、八月三十日の夜間に発向、九月一日の夜明けと同時に討ち入りを行う計画が決定された。八月三十日、興国寺に集結した今川の重臣や旧奉公衆たちから総大将としての全幅の信頼を寄せられた新九郎は、勝ち味は十の内九と力強く宣言した。緊迫した空気が最高潮に達する中、軍議の始まりに新九郎が現代のプレゼンテーションのようなスクリーンを降ろし、参加者たちが驚くというユーモラスな場面で幕を開け、いよいよ運命の討ち入りへと突入していくのである。

新九郎、奔る!21巻
新九郎、奔る!23巻

登場キャラクター

伊勢家

伊勢新九郎

富士下方の領主であり、真面目で実務的な性格を持つ。京の新御所から堀越茶々丸討伐の命を受け、伊豆攻略の準備を進める。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家当主。富士下方の領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 茶々丸討伐のため、今川家や元奉公衆と交渉して軍勢を集結させた。駿河の国人である葛山氏堯から持ち込まれた縁談を受諾する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 奪われた所領を奪還し、伊豆に新たな統治体制を築く決意を固めた。今川軍や元奉公衆を束ねる討ち入りの総大将となる。

大道寺

新九郎の側近であり、冷静に状況を見極める。主君の相談役として行動を共にする。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎と碁を打ちながら、伊豆攻略や葛山家との縁談について意見を交わした。興国寺で討ち入りに向けた宿所の割り振りや結納の段取りを進める。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 小川湊に到着した妻や子供と久しぶりの再会を果たした。

荒木彦次郎

血気盛んな面を持つ武士である。無礼な振る舞いに対しては厳しく対処しようとする。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 左近次が新九郎に対して軽口を叩いた際、刀に手をかけて咎めた。富士下方で農民の不満について新九郎へ見解を述べる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 荒川又次郎に同行して興国寺へ向かった。

在竹

家族を深く愛する人物である。新九郎の命令を忠実に実行する。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 小川湊に到着した妻の富久や息子の三助と再会し、大いに喜んだ。新九郎から葛山家との誓紙取り交わしを進めるよう命じられる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 休む間もなく働く九郎や弥八郎を呼び戻すよう新九郎へ進言した。

荒川又次郎

状況を冷静に分析し、柔軟な対応を取る。周囲の意図を汲んで行動する能力に長けている。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 陣中の兵たちの士気が低下している状況を報告した。ぬいの富士見物に同行し、興国寺で葛山の姫と会う機会を設ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ぬいが葛山の姫の顔を知りたがっていることに気付き、寺で待ち受ける作戦を立てた。

山中才四郎

噂話に敏感であり、情報を他人に伝える癖がある。戦陣の状況をよく観察している。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 兵たちが京へ帰りたがっているという不満を新九郎へ報告した。葛山の姫が美女であるという噂を荒川へ伝える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 口の軽い三郎に秘密の噂を話してしまい、荒川を呆れさせた。

多米権兵衛

実務を担当し、軍の裏方を支える。現場の準備を的確に進める。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 葛山家からの使者が持参した書状を受け取り、新九郎へ届けた。興国寺で寄せ集めの軍勢のための宿所割り振りを担当する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 葛山家との結納の段取りについて、相手の重臣と相談を進めた。

笠原弥八郎

伊豆の情勢を探る密偵のような役割を担う。過酷な状況でも生き延びるしぶとさを持つ。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 桑原邸から逃亡し、金棒で追手を倒しながら山中を逃げ延びた。石脇城館へ戻り、無事を報告する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自身の妻子が小川湊へ到着している。

伊勢九郎

弥八郎と共に伊豆の情勢を探る。慎重な性格である。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 追手から逃れるため、弥八郎と共に伊豆の山中を駆け抜けた。石脇城館へ帰還し、堀越御所の反主流派が壊滅したことを伝える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外山豊前守と良好な関係にあった国人たちが存在することを報告した。

伊勢弥次郎盛興

新九郎の弟であり、京と駿河の間を取り持つ。兄の力になることを喜ぶ。

・所属組織、地位や役職
 加賀守家。申次職。

・物語内での具体的な行動や成果
 新御所から下された茶々丸討伐の命が真筆であることを保証した。京から家臣の妻子たちを連れて駿河へ到着する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 短い期間で京と駿河を往復し、多忙な日々を送る。

左近次

通りすがりの鎧職人を名乗る謎の男である。新九郎に興味を持ち、情報を持ち込む。

・所属組織、地位や役職
 不明。

・物語内での具体的な行動や成果
 足利義材が京から姿を消したという重要な情報を新九郎へ伝えた。伊豆の山中で逃走中の九郎や弥八郎の前に現れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 気配を消して接近したため、新九郎から今後は名乗って門から入るよう厳命された。

ぬい

新九郎の正妻であり、大雑把な性格を自認している。家の繁栄と子供たちの未来を第一に考える。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家。

・物語内での具体的な行動や成果
 京から小川湊へ到着し、新九郎との再会を果たした。葛山家から持ち込まれた縁談を正妻としての覚悟を持って受け入れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 富士見物と称して興国寺へ赴き、葛山の姫である初に素性を隠して助言を与えた。

千代丸

新九郎の息子であり、七歳の子供である。聡明で心優しい性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家。

・物語内での具体的な行動や成果
 長期間家を空ける父に対し、母を寂しがらせないよう直言した。家中の幼い子供たちのために竹トンボの作り方を教えてほしいと頼む。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大人顔負けの意見を述べたことで、新九郎から名君の資質があると評価された。

盛定

ぬいの縁者であり、率直な物言いをする。

・所属組織、地位や役職
 不明。

・物語内での具体的な行動や成果
 京の邸において、今川龍王丸の元服が遅れている理由について推測を語った。急いで駿河へ戻る弥次郎を労う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

小笠原政清

ぬいの父であり、娘を温かく見守る。

・所属組織、地位や役職
 小笠原家。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎が不在で不満を漏らすぬいに対し、夫が恋しいのだろうとからかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

小笠原新六郎

ぬいの弟であり、姉の行動を支える。

・所属組織、地位や役職
 小笠原家。

・物語内での具体的な行動や成果
 急いで駿河へ向かう弥次郎に同行を促した。ぬいの富士見物に護衛役として付き添う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

三郎

伊勢家の関係者であり、口が軽い人物である。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 山中才四郎から葛山の姫に関する噂話を聞かされる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

犬若

千代丸と共に遊ぶ子供である。千代丸よりも体が大きい。

・所属組織、地位や役職
 不明。

・物語内での具体的な行動や成果
 京の邸で千代丸と相撲を取り、勝利を収めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

富久

在竹の妻であり、痩せている女性である。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣の家族。

・物語内での具体的な行動や成果
 京から船で小川湊に到着し、夫との再会を喜んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

三助

在竹の息子であり、八歳の子供である。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家家臣の家族。

・物語内での具体的な行動や成果
 母と共に小川湊へ到着し、父との再会を果たした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

女房達

伊勢家の邸で働く女性たちである。ぬいを慕っている。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家。

・物語内での具体的な行動や成果
 庭で相撲を取る子供たちを見守った。ぬいが作った砂糖入りの菓子を食べて喜ぶ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

伊勢家の家臣たち

新九郎に仕える兵士たちである。先の見えない任務に不安を抱くこともある。

・所属組織、地位や役職
 伊勢家。

・物語内での具体的な行動や成果
 長期間の滞在により京へ帰りたがる者が増え、一時的に士気が低下した。小川湊で家族と再会し、酒宴を開いて活気を取り戻す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

今川家

今川龍王丸

新九郎の甥であり、マイペースな性格を持つ。元服前の身でありながら当主としての自覚を見せ始めている。

・所属組織、地位や役職
 今川家。

・物語内での具体的な行動や成果
 独断で今川新五郎範続を元服させ、新九郎への合力を命じた。千鶴姫と旧奉公衆たちが対面する場を設ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 母である伊都に対して堂々と意見をぶつけ、成長した姿を示した。

伊都

新九郎の姉であり、龍王丸の母である。今川家の利益と安全を第一に考える。

・所属組織、地位や役職
 今川家(大方様)。

・物語内での具体的な行動や成果
 許可なく兵を動かした龍王丸を激しく叱責した。最終的に新九郎への出兵を承認し、歴戦の重臣を副将として同行させる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伊豆討ち入りの成功が今川家にとって遠江を睨むための戦略的利益になると見定めた。

今川新五郎範続

小鹿範満の子供である。戦慣れしていないが、重役を任される。

・所属組織、地位や役職
 今川家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 善得寺に突然現れ、精兵三百を率いて新九郎に合力すると宣言した。興国寺の軍議に参加する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伊都から働きによって小鹿の名を高めるよう命じられた。

瀬名一秀

今川家の家臣であり、龍王丸や伊都の側近として立ち働く。

・所属組織、地位や役職
 今川家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 遠江からの書状を読み、一門から養子を迎えるという相手の思惑を伊都に報告した。新九郎と碁を打ちながら駿府の復興について相談する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伊都から五十騎を率いて伊豆出兵に加わるよう命じられる。

朝比奈丹波守

先代からの歴戦の重臣である。実戦経験が豊富である。

・所属組織、地位や役職
 今川家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 出陣の準備が整ったことを伊都へ報告した。興国寺の軍議に出席し、新九郎を総大将として従う姿勢を示す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伊都から副将として今川新五郎範続を支える役割を与えられた。

三浦左衛門尉

先代からの歴戦の重臣である。頼りになる武将である。

・所属組織、地位や役職
 今川家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 朝比奈と共に伊都へ出陣準備の完了を報告した。興国寺の軍議で新九郎の指揮下に入ることを了承する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伊都から副将として軍勢を支えるよう命じられた。

堀越公方家

堀越茶々丸

伊豆の堀越公方であり、猜疑心が強い。周囲の忠義を信じられず自滅の道を歩む。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方家。

・物語内での具体的な行動や成果
 横井越前守からの諫言に耳を貸さず、外山豊前守と秋山蔵人を謀反人として討伐を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 旧臣を次々と切り捨てたことで公方府の求心力を低下させた。

狩野介祐貞

茶々丸の後見役であり、公方府の政治を動かす。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 外山豊前守の周辺を調べ、扇谷方との通謀の疑いから謀反人であると断定した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

狩野太郎

狩野介祐貞の息子であり、実働部隊として動く。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 横井越前守が未明に亡くなったことを茶々丸たちに報告した。茶々丸の命を受け、嘉助を斬殺する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

横井越前守知時

茶々丸の旗挙げに最初に従った奉公衆である。主君を思いやる忠臣である。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方府奉公衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 死の床から茶々丸へ、耳に痛いことを言う旧臣を重用するよう諫言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死去した後、茶々丸によって所領を没収され、妻子は追放の処分を受けた。

横井の妻

横井越前守知時の妻である。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方家家臣の家族。

・物語内での具体的な行動や成果
 病に倒れた夫の枕元で看病し、気をつかっていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夫の死後、茶々丸の命により追放された。

外山豊前守

旧来の奉公衆であり、国人衆に牛耳られる公方府に不満を抱いていた。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方府奉公衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 茶々丸から謀反の疑いをかけられ、討伐軍の襲撃を受ける。娘や客人たちを逃がした後、抵抗の末に切腹して果てた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新九郎からは忠臣であったと評価されている。

かや

外山豊前守の娘である。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方家家臣の家族。

・物語内での具体的な行動や成果
 討伐軍が押し寄せる直前、父の命により竹阿弥に連れられて避難した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

竹阿弥

外山邸に出入りしている者であり、地元の地理に明るい。

・所属組織、地位や役職
 不明。

・物語内での具体的な行動や成果
 茶々丸の討伐軍が来ることを夜のうちに外山豊前守へ知らせた。外山の娘や客人を安全な場所へ誘導する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

嘉助

外山邸に出入りしていた奉公人である。主を見限る性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方府奉公人。

・物語内での具体的な行動や成果
 外山邸へ出入りする不審な者たちについて茶々丸や狩野に証言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 容易に主人を売る者として茶々丸に嫌悪され、密かに斬殺された。

堀越公方府の奉公衆

茶々丸に従う軍勢である。

・所属組織、地位や役職
 堀越公方府。

・物語内での具体的な行動や成果
 茶々丸の命により、外山豊前守の邸に討伐軍として押し寄せた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

元堀越公方府奉公衆

松田弥次郎直秀

茶々丸の旗挙げで所領を奪われた奉公衆である。情に厚い武士である。

・所属組織、地位や役職
 元堀越公方府奉公衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎からの討ち入り計画に賛同し、今川勢の合力を得て兵集めへ奔走した。千鶴姫からの言葉に感動し、涙を流す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 興国寺の軍議において、新九郎を総大将として認め、自らは部下として従うことを宣言した。

遠山隼人佑直景

伊豆に散らばる所領の奪還を願う奉公衆である。現実的な視点を持つ。

・所属組織、地位や役職
 元堀越公方府奉公衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎の計画に対し、当初は兵力不足を懸念していた。今川家の参戦表明を受けて奮い立ち、討伐に加わる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 軍議において新九郎の下知に従い、部下として戦うことを受け入れた。

富永右衛門尉政胤

伊豆に所領を持つ奉公衆である。状況の変化に機敏に反応する。

・所属組織、地位や役職
 元堀越公方府奉公衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 善得寺での会談に参加し、新九郎による茶々丸討伐と所領奪還の提案に賛同した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

千鶴姫

前堀越公方と円満院の娘である。毅然とした態度を持つ。

・所属組織、地位や役職
 元堀越公方家。

・物語内での具体的な行動や成果
 松田や遠山の前に立ち、母と弟の仇である茶々丸の首を供えてほしいと明確に語った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼女の願いが旧奉公衆の士気を極限まで高める結果となった。

葛山家

葛山備中守氏堯

駿河の国人であり、乱世を生き抜くためのしたたかな計算を持つ。独立性を保とうと画策する。

・所属組織、地位や役職
 葛山家当主。駿河郡葛山領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎に対して駿河守護家への臣従を表明した。自らの娘である初を新九郎の妻にするよう申し出る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新九郎を保証人とすることで、今川家に臣従しつつも権益を守ろうとした。

葛山の妻

葛山備中守氏堯の妻である。現実的な助言を行う。

・所属組織、地位や役職
 葛山家。

・物語内での具体的な行動や成果
 娘の初を新九郎の妻として差し出し、いかなる時も味方をする約束をすべきだと夫へ進言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

葛山の姫であり、極度の人見知りである。純粋な心を持つ。

・所属組織、地位や役職
 葛山家。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎の凛とした立ち居振る舞いに惹かれ、政略結婚を受け入れた。興国寺で素性を隠したぬいと出会い、両家のために務める決意を固める。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新九郎の別妻として結納の儀を交わした。

多岐

初の侍女であり、姫の世話を焼く。

・所属組織、地位や役職
 葛山家。

・物語内での具体的な行動や成果
 興国寺への参詣に同行し、見知らぬ家へ嫁ぐことに不安を抱く初をたしなめた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

半田惣左衛門

葛山家の取次役である。

・所属組織、地位や役職
 葛山家家臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 新九郎が滞在する富士下方へ、葛山からの重要な書状を持参した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 興国寺で結納の段取りについて多米権兵衛と相談を進める。

その他

興国寺の和尚

興国寺の僧侶であり、周囲をよく観察している。

・所属組織、地位や役職
 興国寺。

・物語内での具体的な行動や成果
 寺を訪れた初に対して、かつて見かけた新九郎の坐り姿が堂に入っていたと証言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

吾作

富士下方で開拓を行う農民である。重労働に不満を抱えている。

・所属組織、地位や役職
 農民。

・物語内での具体的な行動や成果
 水が湧き出して作業が進まない土地での新田開発について、無理難題だと声を荒らげた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

富士下方開拓をする農民

富士下方で働く人々である。過酷な自然環境に直面している。

・所属組織、地位や役職
 農民。

・物語内での具体的な行動や成果
 山の長雨による増水や、土地の条件の悪さに苦心しながら開墾作業を続ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

新九郎、奔る!21巻
新九郎、奔る!23巻

展開まとめ

第百四十三話 満を持す その1

夜の素振りと来訪者

夜更け、石脇城館で新九郎は刀の素振りをしていた。それは日課であり、座禅と変わらぬ心身の鍛錬である。雑念を払い、眠りを得るための行いでもあった。

そこへ気配を察し、「左近次か」と声をかける。現れた左近次は、気配を悟られたことを軽口で受け流しつつ、京からの来訪であることを告げた。

足利義材失踪の報

新九郎が用件を問うと、左近次は今出川殿からの話として、足利義材公が京から姿を消したと伝える。家臣たちは流罪や暗殺の可能性を口にするが、左近次は京兆家が必死に行方を追っていること、そして義材が脱走したとの噂が広まっていることを語る。

思わぬ報せに、新九郎は感謝しつつも、また余計な思案が増えると苦笑する。

軽口と主従の緊張

左近次は、新九郎の「王道楽土を作る」という大言を持ち出し、それを面白いと評する。一介の奉公方が口にするには壮大すぎる志だというのである。

荒木は無礼を咎めて刀に手をかけるが、新九郎はそれを制する。自らを奉公方風情にすぎぬと位置づけ、御所の命を一つ一つ果たすのが精一杯であり、王道楽土など夢のまた夢だと現実を見据える。

命令と線引き

左近次は何か新たな命があったのかと探るが、その会話を大道寺が聞いていたことが明らかになる。新九郎は荒木に刀を収めさせつつ、左近次には今後は名乗り、正面から門を通るよう厳命する。

さらに、次に気配を悟らせたなら斬ってよいとまで言い渡し、主従の一線を明確にする。そして左近次を帰らせる。

家臣団への宣言

左近次を退けた後、新九郎は家臣たちを集める。そして静かに切り出す。

「いいことがひとつと――よくないことがひとつ。」

足利義材失踪という大きな波紋を前に、新九郎は次の一手を示そうとしていた。

今出川殿を巡る戦略整理

新九郎は家臣らと今出川殿の動向について協議していた。今出川殿が茶々丸や武田五郎を味方に取り込む可能性を指摘し、それによって関東の勢力図が変動する危険を示した。関東管領は京兆家との関係が深く今出川殿を許さないとの意見も出たが、新九郎は伊豆との結びつきの強さを重視した。伊豆を茶々丸の名で掌握できれば、相模扇谷に後背から圧力をかけられ、関東管領の影響を北は上野から南は伊豆まで及ぼせると整理した。遠方の京兆家よりも近隣の伊豆を選ぶ現実的判断を示し、今後さらに情勢は複雑化すると見通していた。

富士下方の新田開発と現地視察

三日後、富士下方では新田開発が進められていたが、湧水の多さにより農民たちは開墾に苦しんでいた。水をかき出しても再び湧き出し、作業は難航していた。年貢免除策により無理な土地まで開発が進められているとの不満も上がった。そこへ馬上の新九郎が現れ、自らが領主であると名乗った。地形の難所ぶりや長雨による増水の実情を聞き取り、即断せず熟考の時間を求めた。収穫量は前年より増える見込みであると認識しつつも、このままでは限界に達すると判断し、状況を「背水の陣」と捉えていた。

駿府・今川館の動向

場面は駿府丸子の今川館へ移った。龍王丸は庭石を動かしながら、叔父を驚かせる計画を楽しげに語っていた。側近の一秀はそれに応じ、龍王丸が何らかの企図を胸に抱いていることが示された。

善得寺での会合と上意の開示

善得寺にて、新九郎は元堀越公方奉公衆の松田直秀、遠山直景、富永政胤らと会した。将軍家の家督交代に伴う公儀の動向が問われたが、新九郎は目立った動きはないと述べた上で、新御所より堀越茶々丸討伐の上意が自らに下されたことを明かした。書状は直筆であると保証されたが、正式な書式を欠いていた。公儀が東国に積極的に関与できず、関東管領との関係悪化を避けたい事情が背景にあるため、私的命令の形を取ったと説明した。

新九郎の立場と覚悟の表明

新九郎は命を断固として奉じる意思を示した。自らは御所の奉公衆であり、単独でも討伐を実行する覚悟であると述べた。同時に前堀越御所の奉公衆であり、伊豆に所領を持つ立場でもあることを示した。京にいたという理由で茶々丸旗挙げに不在だったことをもって所領を取り上げられた経緯を明かし、その理不尽さと屈辱を語った。私的命令の事情と自身の覚悟を明示することで、同席者に決意を示していた。

私情と現実の提示

新九郎は、たとえ一時であっても自らの手で所領を取り返さねば面目が立たぬと述べた。ただしそれは私情に過ぎず、同席する者たち全員の所領まで取り返す力はないと率直に明かした。これに松田らは動揺を見せた。

伊豆の現状と戦う理由の再定義

新九郎は、伊豆の所領がすでに茶々丸の近臣たちに分配され、家柄に関係なく奉公衆を名乗る者が現れているとの情報を示した。もはや嘆願や交渉で解決できる段階ではないと整理した。その上で、新御所の命は自分個人に宛てられたものではあるが、苦境にある奉公衆全体に向けられたものと解釈すべきではないかと提起した。

松田は理を認めつつも慎重姿勢を崩さなかった。遠山は、所領が各地に散在している者もおり、茶々丸一人を討っても所領が戻る保証はないと指摘した。さらに伊豆全土での戦になる可能性を懸念した。

北伊豆制圧という具体案

これに対し新九郎は、まず堀越を落とすことを優先すべきであると述べた。各々の合力で北伊豆を制圧できたならば、貫高に応じた闘所を仮の所領として分配する構想を示した。そして決断を求めた。

富永は、新御所の命が下った以上、伊勢が茶々丸を討ち、混乱の中で所領を取り返す構図は理にかなうと発言した。一方で遠山は、所領を保持している者の発言であると皮肉を述べた。松田も、自分たちの困窮を踏まえ、動員可能な兵力が限られている現実を示した。

兵力不足と周辺勢力への懸念

新九郎は、襲撃だけであれば可能でも、その後の北伊豆占領地を維持する兵力が足りないと認めた。富永も、乱入となれば狩野や伊東らが黙っていないと警戒を示し、現有戦力では心許ないと分析した。

今川の参戦表明

そのとき、外部から声がかかった。龍王の命を受け、今川新五郎範続が精兵三百を率いて合力するとの報告がなされた。突如示された今川勢の参戦表明により、戦局の前提は大きく変わることとなった。

第百四十四話 満を持す その2

今川新五郎範続の突然の宣言

今川新五郎範続が龍王丸の命として新九郎への合力を宣言すると、その場は騒然となった。松田直秀・遠山直景・富永政胤らは今川家の援軍を得られることに色めき立ち、即座に兵集めへと動き出す。しかし当の新九郎は事前に何も聞かされておらず、範続の独断ではないかと疑念を抱いた。

龍王丸の先走りと今川家の手続き

範続は龍王丸の命によるものと主張するが、大方様の承認は得ていないことが判明する。新九郎は、龍王丸が未だ元服していない以上、今川家の軍勢は大方様の許可なく動かせぬと指摘した。今回の件は龍王丸の先走りである可能性が高く、手続きを踏まねば謀反にもなりかねぬ危うさを孕んでいた。

外聞と名誉を守るための決断

すでに諸将は歓喜して帰陣しており、今さら撤回すれば龍王丸と新九郎の面目は潰れる。範続は狼狽するが、新九郎は事態を収拾するため自ら丸子へ赴き、龍王丸の真意を問い、大方様に直談判して正式な承認を得る決意を固めた。もはや後には引けぬと覚悟を示す。

今川館での対面と伊都の叱責

駿府・丸子の今川館では、伊都が龍王丸を厳しく問い質す。新五郎に新九郎への合力を命じたのは本心か、また新九郎が裏で頼み込んだのではないかと疑う。新九郎はそれを否定し、そのような裏工作をしていれば直談判には来ぬと応じた。伊都はため息をつきつつも、龍王丸の軽率な命令がもたらした波紋の大きさを痛感するのであった。

龍王丸の独断と伊都の叱責

龍王丸は、今川新五郎範続を元服させ合力を命じたのは自らの判断であり、叔父にも母にも相談していないと認めた。伊都は強く咎める。義忠死後、今川家が公儀方針と食い違った遠江遠征の余波でどれほど苦境に立たされたかを説き、隣国への出兵など軽々しく許せぬと断じた。

義忠死後の混乱と新九郎の働き

龍王丸は、帰駿後の今川家再建はほぼ新九郎一人の尽力であったと述べる。小鹿範満との交渉、葛山・富士の国人衆の説得、普代ながら小鹿側に付いていた者の調略などにより、範満を追い詰める状況を作り上げた。公儀が介入せず、争いを放置した結果の戦であり、自らが今ここにあるのは新九郎の勝利あってこそだと強調する。

龍王丸の反発と新九郎の制止

龍王丸は、現在の今川家は新九郎の功によるものであり、その新九郎が所領を奪われ困窮しているのに助けぬのは理に合わぬと母に迫る。伊都は「反抗期か」と憤る。新九郎は龍王をたしなめ、伊都が常に今川家を第一に考えていることを諭す。さらに、自身は見返りを求めて今川を助けたのではなく、迷惑をかけるつもりもないと述べる。

範続の提案と奉公方構想

範続は、新九郎が今川家の助力を当てにせず、奉公方(御所の私兵)を率いて堀越御所を襲撃する腹づもりであったことを明かす。そして小鹿衆を龍王丸の「私兵」という形にすれば動かせるのではと提案するが、伊都は屁理屈だと一蹴する。

伊豆攻略計画の具体像

新九郎は、松田弥次郎・遠山隼人佑・富永四郎ら、離散した奉公衆を再集結させる構想を示す。さらに葛山備中守を味方に引き入れたいと語る。京の新御所から討伐の命を受けていると書状を提示するが、その形式は簡略で心許ない。伊都は「ずさん」と断じる。

成算と今川加勢の重み

新九郎は命の真筆に間違いはなく、これをテコに茶々丸を討ち、奪われた所領を確保する算段があると説明する。ただし今川勢が加われば計画は盤石になるとも認める。すでに松田・遠山らには今川加勢を伝えており、彼らは大いに奮起しているという。

伊都は状況の深刻さを悟る。今川の名を出した以上、もはや後戻りは難しい。龍王丸の独断、範続の進言、新九郎の覚悟が交錯し、今川家の立場と伊豆攻略の是非が緊迫した局面を迎える。

伊都、出兵を決断

逡巡していた伊都は、新五郎に小鹿の戦力を問い質す。戦慣れした家臣は多くが失われたのではないかと懸念するが、範続は武蔵出陣組などが残っていると答える。
伊都は覚悟を決め、「新九郎は止めても行く」と認めたうえで、失敗は許さぬと断言。今川から公称三百の兵を出し、副将は自ら選ぶと命じる。新五郎には働きで小鹿の名を高めよと命じ、新九郎には「この貸しは返してもらう、死ぬな」と釘を刺す。新九郎は了承する。

今川三百の衝撃

今川の三百出兵は周辺に衝撃を与える。
興国寺での葛山との会談では、葛山は表向き心強いと歓迎しつつも内心では驚愕する。単騎討ち入りを口にしていた新九郎が、今川家と新御所の命を取り付けたこと、その影響力の大きさに警戒を強める。

縁談破談と葛山の疑念

新九郎はまず、妹と葛山家との縁談を病を理由に破談にしたいと詫びる。
葛山は表向きは穏やかに受け流すが、内心では「今川勢の当てができ、葛山を頼る必要がなくなったのだ」と見抜く。さらには新九郎の計画を堀越方へ伝える策まで思案するが、下手を打てば今川三百の矛先が自らに向くと計算する。

新九郎の条件提示

そこへ新九郎は踏み込んだ条件を提示する。
葛山からも兵を出して合力するなら、沢田一帯の所領返還を認め、伊豆側に突出する阿野郷全域を安堵する、と具体的な利益を示す。さらに葛山も奉公方の家柄であり、御所の命に乗るのは悪い話ではないと理を説く。

葛山は、自らの腹を読まれたと悟り、駆け引きは新たな局面へ入る。

葛山の決断と新たな策

沢田の別宅で葛山氏尭は、新九郎の働きによって今川家がもはや内紛を抱えた弱い家ではなくなったと認めていた。これまで今川の圧力をかわしてきたが、いよいよ潮時かもしれないと考える。

さらに駿河国内では今川に逆らう勢力が消えつつあり、富士本宮家までもが被官化したと聞く中、葛山家もいずれ今川に従属する流れは避けられないと判断していた。本来は伊勢新九郎に恩を売るつもりだったが、今川本体が伊豆へ本格介入したことで、その思惑も外れてしまったのである。

そんな葛山に対し、妻の初は大胆な提案をする。自分を新九郎の妻にしてもらい、その代わり葛山家が永遠に新九郎の味方になるという策であった。葛山は呆れつつも、その発想に驚かされるのだった。

第百四十五話 満を持す その3

新九郎の違和感

一方、新九郎は伊豆攻略の準備を進めながらも、地図を前にして漠然とした不安を抱いていた。

大道寺と話し合う中で、その懸念が葛山ではないことを明かす。計画自体は完成しているはずなのに、どこか重要な何かが欠けている感覚が消えなかったのである。

大道寺も話を聞くうちに違和感を覚え、弥次郎らにも確認してみようと提案した。

兵たちの士気低下

石脇城館に集まった面々は、兵の様子に変化が出ていることを報告する。

鍛錬に身が入らない者が現れ、「いつ京へ帰れるのか」と尋ねる者も増えていた。伊豆へ来てすでに一年が経過しており、将たちは目的を知っているから耐えられるが、兵たちは今後の方針を知らされていない。そのため不満や里心が芽生え始めていたのである。

新九郎はそれを聞いて、自らの配慮不足だったと認める。そして士気を立て直すための方法を思いつき、弥次郎を呼ぶよう命じた。

京の新九郎邸

八月初旬、京の新九郎邸では穏やかな時間が流れていた。

ぬいは女房たちと菓子を囲みながら談笑し、子供たちの相撲を見守っていた。砂糖を使った菓子が評判となり、ぬいは皆で菓子作りを学ぶ「すうぃーつ教室」を開こうと提案する。

そこへ千代丸が現れ、犬若との相撲に負けたことを報告する。ぬいは体格差を理由にせず工夫を考えたかと問いかけ、新九郎も常に工夫を忘れない人物だと教える。しかし千代丸は、父は家にほとんどいないので分からないと不満を漏らした。

その言葉にぬいは返答に詰まり、周囲も苦笑するのだった。

龍王丸の話題

その場には盛定や、ぬいの父である小笠原政清も同席していた。

話題が龍王丸へ移ると、盛定はまだ元服していないと語る。政清は年齢を尋ね、龍王丸の成長ぶりを思い浮かべながら話を続けようとしていた。

京では家族が平穏な日々を過ごす一方で、伊豆では新九郎の討ち入り計画が着々と進行していたのである。

ぬいの不満と龍王丸の将来

龍王丸の元服が遅れている理由について話題になると、ぬいは今川家中の事情を知らないと前置きしつつ、龍王丸はゆっくり育つ人物だから元服もゆっくりなのではないかと語った。

盛定は、龍王丸に時折優れた才覚を感じる一方で、まだ駿河の体制固めや教育が十分ではないため、新九郎が父親代わりとして支え続ける必要があるのではないかと推測する。

しかしぬいは、新九郎にはまず千代丸や松寿丸の父親としての役目を果たしてほしいと不満を漏らした。さらに、新九郎が不在だと部屋の隅に埃が溜まるなどと愚痴をこぼし、父の小笠原政清から「恋しいのであろう」とからかわれて赤面するのだった。

弥次郎の急使

そこへ加賀守家の弥次郎が到着し、新九郎からの文を届けた。

旅装も解かず駆け付けた弥次郎の様子から緊急性がうかがえたが、文を読んだぬいは大声を上げて驚愕する。盛定や政清も何事かと顔を見合わせた。

遠江からの厚かましい要求

同じ頃、丸子の今川館では伊都が遠江から届いた書状を読んでいた。

その内容は、龍王丸の元服が遅れているのであれば、一門から養子を迎えて家督継承者とすることを提案するものであった。しかし伊都は、その真意が瀬名の弟や堀越家の血筋を守護家に据えたいという遠江側の思惑にあると見抜いていた。

瀬名は、遠江守護斯波家からの圧力を背景にした要望だろうと分析するが、伊都は取り合わず、返答を曖昧にして遠江支援も駿河安定後に判断すると決めた。

伊都による出陣準備

その後、朝比奈丹波守と三浦左衛門尉が参上し、両家とも出陣準備が整ったことを報告した。

伊都は今回の出兵が利益を得るための戦ではなく、新九郎の伊豆討ち入りを支援するためのものであると説明する。しかし新九郎が伊豆を掌握すれば、今川家は安心して遠江へ力を向けられるようになると語り、その将来的な価値を強調した。

さらに先代義忠以来の歴戦の将たちに、新五郎範続を支えるよう命じるとともに、瀬名にも五十騎を率いて参戦するよう命じた。

葛山からの書状

富士下方では、新九郎のもとへ葛山氏尭から書状が届けられた。

葛山は、興国寺周辺から沢田に至る土地の返還を申し出る一方で、それに関する重要な話があるため改めて面談したいと求めていた。

新九郎は伊豆討ち入り後でも構わないと考えていたため、急な申し出を不思議に思いながらも、葛山の真意を確かめるため会談に応じることを決めた。

興国寺での会談

三日後、興国寺で新九郎と葛山の会談が行われた。

葛山は土地と寺を返還することを認めたうえで、その代わりに新九郎へ一つ条件があると切り出す。

そして深く頭を下げながら、自らの願いを聞き入れてほしいと申し出るのであった。

葛山氏尭の臣従表明

興国寺での会談において、葛山氏尭は駿河守護家への臣従を決意したと明言し、その取り成しを新九郎へ依頼した。

葛山は、本来奉公衆の所領は守護不入の特権で守られているものの、実際には守護の圧力が強く、さらに堀越公方家との境目争いまで抱えている現状を説明した。室町幕府も在国奉公衆を十分には保護してくれず、もはや守護家に頼らず生き残ることは難しいと語る。

かつて今川家が内紛を抱えていた頃は圧力をかわす余地もあったが、新九郎によって家中がまとめ上げられた今、そのような余地はなくなったと認めた。

思わぬ縁談の申し出

葛山は話題を変え、新九郎の単身赴任生活に触れたうえで、身の回りの世話をする女性の必要性をほのめかした。

新九郎は洗濯や掃除、繕い物まで自分でこなしていると答えたが、葛山はなおも話を進め、ついに愛娘・初を新九郎の妻として迎えてほしいと申し出た。

新九郎は臣従の証として人質を差し出す話かと考えるが、葛山はそれを否定した。土地の返還や伊豆出兵への全面協力も約束したうえで、純粋に新九郎との縁戚関係を望んでいるのだと説明した。

京での出立準備

一方その頃の京では、弥次郎が再び駿河へ戻る準備を進めていた。

盛定は短期間で何度も京と駿河を往復する弥次郎を労ったが、弥次郎は兄である新九郎の手伝いができることを喜んでいた。

さらに小笠原新六郎も同行を促し、駿河へ向かう一行の出発が迫っていた。弥次郎は女性だけを旅に出すわけにはいかないと語り、ぬいも全員で無事に駿河へ到着しようと呼びかけた。

葛山の真意に驚く新九郎

再び興国寺では、葛山の突然の縁談話に新九郎が困惑していた。

臣従の証としてなら理解できるが、純粋な婚姻を望むという申し出は予想外だったのである。葛山は、新九郎自身と強く結び付くことこそが自家の将来を守る道だと考えていた。

新九郎は葛山の意図を測りかねながらも、その申し出の重さを理解し始めていた。

第百四十六話 満を持すその4

葛山家との婚姻話を巡る思案

石脇城館では、新九郎と大道寺が葛山氏尭から持ち込まれた婚姻話について語り合っていた。

大道寺は今川家へ証人を差し出させるべきではないかと考えるが、新九郎はそれでは葛山側の態度が硬化すると説明した。葛山が望んでいるのは臣従しながらも一定の独立性を保つことであり、その保証役として新九郎を選んだのだと理解していた。

また、葛山家は今川家が駿河へ入部する以前からの勢力であり、公儀の調停機能が弱まった現状では、今川家と良好な関係を築きながら旧来の権益も守りたいのであろうと分析した。

縁談の政治的価値

大道寺は、葛山家が新九郎を身内に取り込むことで、将来今川家から無理な要求を受けた際の備えにしようとしているのではないかと指摘した。

新九郎もその見立てを認めつつ、かつては阿茶を葛山家へ嫁がせて関係を強化しようと考えていた経緯があり、その計画が頓挫した直後に逆に葛山側から縁談を持ちかけられたことへ複雑な思いを抱いていた。

伊都の反発は避けられないだろうが、葛山家を味方として取り込めれば龍王丸へより安定した駿河を引き渡せるうえ、伊豆討ち入り後の後背地も固まるため、大きな利点があると考えていた。

家族たちの到着

その頃、小川湊には京から家臣たちの妻子を乗せた船が到着していた。

到着の知らせを受けた新九郎は迎えに向かい、ぬいや千代丸との再会を果たした。千代丸は父との再会を喜び、道中も弥次郎や家臣たちが守ってくれたため問題なく到着できたと報告した。

弥次郎も一行四十八名を無事に送り届けたことを報告し、新九郎はその労をねぎらった。

家族との再会がもたらした喜び

同行した女性たちの一部は船酔いで長谷川の館に残っていたが、多くの家臣たちは久しぶりに家族との再会を果たした。

特に大道寺配下の在竹は妻の富久や息子の三助と再会し、成長した息子を抱き上げながら大いに喜んだ。周囲にも再会を喜ぶ声が広がり、新九郎はその光景を静かに見守った。

大道寺自身も、久方ぶりに妻子の顔を見ることができた喜びを素直に認めた。

家臣たちへの休暇

新九郎は家族との再会を喜びながらも、まだ幼い松寿丸のように京へ残さざるを得なかった子供たちもいることを思い出し、手放しでは喜べないとも語った。

それでも大道寺は、幼い子を持つ家臣たちには上洛の機会を与え、家族と会わせることができたではないかと応じた。

二人は、思っていた以上に士気が落ちていたのは家臣ではなく自分たちだったのかもしれないと語り合う。そして新九郎は、長旅を終えた女性や子供たちを十分に休ませるため、家族が到着した家臣には三日ほど休暇を与え、自らもぬいと千代丸との時間を過ごすことを決めた。

家臣たちへの休暇

大道寺は、新九郎が自ら休暇を取ろうとしていることに驚いていた。しかし新九郎は、自分が率先して休まなければ家臣たちも気兼ねなく家族との時間を取れないと考えていた。ここで十分に鋭気を養わせたうえで、月末には再び全力で働いてもらうつもりであった。

大道寺は了承し、自身も妻のもとへ戻ることにした。また久しぶりの酒宴を開きたいと申し出ると、新九郎もこれを許可した。

再会を祝う酒宴

夜になると館では盛大な酒宴が開かれた。久しぶりに家族と再会した家臣たちは上機嫌で、翌日も明後日も宴を続けようと盛り上がった。

しかし下戸の新九郎は早々に席を立ち、翌日の仕事に備えて休むことを選んだ。家臣たちは残念がったものの、そのまま宴を続けていた。

ぬいとの再会の時間

部屋へ戻った新九郎は、家中に活気が戻ったことを喜んだ。ぬいもまた、家族が揃ったことで館全体の雰囲気が明るくなったと感じていた。

一方で、乳飲み子である松寿丸は危険な長旅に耐えられないため京へ残してきたことを語り合った。ぬいは松寿丸を義父に託してきたことを説明し、新九郎も高齢となった父の身を案じながら近況を尋ねた。

終わらせるべき仕事

ぬいは、駿河の情勢も落ち着いたのだから帰京してはどうかと勧めた。しかし新九郎は、まだ終えていない重要な仕事が残っているため、今は京へ戻れないと答えた。

順調に進めばあと一か月ほどで終わる見込みだと説明すると、ぬいはそれまで駿河に滞在し、仕事が終わったら一緒に帰京したいと申し出た。

その言葉を聞いた新九郎は、ぬいへ打ち明けるべき話があることを決意した。

葛山家との縁談の告白

千代丸を部屋の外へ出した後、新九郎は葛山家との関係や奉公方の立場、そして葛山備中守から持ち込まれた婚姻話について順を追って説明した。

長い説明を聞き終えたぬいは、要するに葛山の姫を妻として迎える話なのかと確認した。新九郎は、自分から望んだ話ではなく葛山側から持ち込まれたものであり、ぬいが反対なら再考すると答えた。

するとぬいは即座に反対を表明したため、新九郎は動揺のあまり転げ回り、障子を破って庭へ落ちてしまった。

ぬいの覚悟

ぬいは、新九郎がその姫を好いているのかを確認した。新九郎は顔もよく見ておらず、ただ一度挨拶を交わしただけだと説明した。

さらにぬいは、この婚姻が家同士を結び付けるための政略結婚なのかを問いただした。新九郎は葛山家を味方にできれば駿河はさらに安定し、自身が進める大事業の成功も近づくと正直に語った。

その答えを聞いたぬいは、新九郎がすでに決断していることを見抜いたうえで、この縁談が家や子供たちの将来のためになるなら受け入れると告げた。

正妻としての誇り

新九郎は、ぬいが嫉妬深い妻ではなく助かったと安堵した。しかしぬいは、自分にも嫉妬心はあるが、それ以上に自分は伊勢新九郎の正妻であると胸を張った。

家の繁栄や子供たちの将来を優先することこそ正妻の務めであるという覚悟を示し、新九郎もその言葉を深く受け止めた。

縁談受諾の決断

後日、新九郎は在竹を呼び出し、葛山家との縁談を受ける決意を伝えた。

ただし伊豆討ち入りを控えているため、すぐに婚儀を行うことは難しい。そのため、まずは婚約の証となる誓紙の取り交わしを進めるよう命じた。

在竹はその命令を承り、葛山家との新たな関係構築へ向けて動き始めるのであった。

追手の捜索

新九郎は在竹に対し、休暇を与えると言いながら働かせてしまっていることを詫びた。在竹は気にする様子もなく、長く伊豆の情勢を探り続けている九郎と弥八郎をそろそろ呼び戻してはどうかと進言した。弥八郎には妻子も到着しており、二人とも休みなく働いている状況だったためである。

その意見を聞いた新九郎は同意し、自ら使者を出して呼び戻すことを決めた。

伊豆での逃亡劇

その頃、伊豆の桑原の山中では九郎と弥八郎が追手から逃げ続けていた。追手たちは山中を捜索しながら二人の行方を追い詰めていた。

発見されそうになった弥八郎は金棒を振るって追手を打ち倒し、九郎へ日没まで逃げ切ろうと呼びかけた。しかし追われる立場に置かれた九郎は、事態の深刻さに苛立ちながらも逃走を続けるしかなかった。

二人は追跡を振り切ろうと必死に山中を駆け抜け、追手との危険な追走劇を続けていた。

第百四十七話 満を持す その5

横井越前守の最期の諫言

二日前、堀越御所近くの館では、堀越公方府奉公衆の横井越前守知時が病の床についていた。死を前にした横井は茶々丸へ伝えたいことがあると使者を求めるが、そこへ茶々丸本人が見舞いに現れた。

茶々丸は横井に言い残したいことを尋ねるが、横井はまず若い公方が軽々しく外出することを諫めた。さらに、忠義には様々な形があり、ときには耳の痛い進言をする者こそ側に置くべきだと説いた。

旧臣軽視への警告

横井が念頭に置いていたのは外山豊前守ら旧来の奉公衆であった。しかし茶々丸は、彼らを父の代に取り立てられた成り上がり者として軽視し、弟の寿王へ頭を下げるよう求められたことへの不満もあって、もはや必要のない者たちだと言い放った。

横井は最後の力を振り絞り、旧臣をないがしろにすれば将来に禍根を残すと訴えたが、その直後に意識を失ってしまった。

外山への疑惑

翌日、横井の死が報じられると、茶々丸は後見役の狩野介祐貞へ横井の言葉を伝えた。狩野はその意味を探る中で、横井が親しくしていた外山豊前守や秋山蔵人の動向へ注目した。

調べによれば、外山の屋敷には頻繁に人の出入りがあり、他国の者まで訪れていた。また、関東では扇谷修理大夫が兵を集めており、伊東氏や河津氏など有力な被官たちも関東へ出兵していた。

これらの情報を聞いた家臣たちは、外山が兵力の空白を狙って挙兵を企てているのではないかと疑い始めた。

謀反認定と討伐命令

茶々丸は外山の忠義を信じようとしたが、狩野らは外山が生き残るために従っていただけであり、円満院や潤童子への処遇にも不満を抱いていた可能性があると指摘した。

さらに、外山がかつて扇谷方との取次役を務めていた事実まで持ち出されると、疑惑は一気に膨れ上がった。狩野は外山豊前守の謀反と断定し、茶々丸もその判断を受け入れた。

そして茶々丸は、外山豊前守と秋山蔵人の討伐を命じ、横井越前守の所領没収と妻子の追放まで命令したうえで、奉公衆へ参集を命じた。

密かに走る急報

討伐軍の出発が決まると、堀越御所から一人の者が密かに抜け出した。

その人物は夜明け前の討伐開始を前に、外山側へ危機を知らせるため急ぎ駆け出していた。

外山豊前守への急報

竹阿弥は夜のうちに韮山の外山豊前守邸へ駆け込み、茶々丸が外山を謀反人と断じ、翌朝には奉公衆による討伐軍が押し寄せると知らせた。

突然の報せに外山は驚くものの、もはや事態を受け入れるしかないと覚悟を決めた。そして秋山蔵人への連絡や相模からの客人の避難を命じるとともに、娘のかやを竹阿弥へ託し、安全な場所へ逃がそうとした。

外山の決意

外山は、自分が考えていたのは公方府の未来であり、それを謀反と呼ばれることへの怒りを露わにした。

国人衆に支配された公方府にはもはや居場所がないと感じた外山は、謀反人と呼ばれることさえ受け入れ、最後まで自らの信念を貫く決意を固めた。

堀越御所で進む追及

一方、堀越御所では外山邸に出入りしていた奉公人・嘉助への尋問が行われていた。

嘉助は、武蔵訛りの坊主や桑原平内の奉公人を名乗る人物が外山邸へ出入りしていたと証言した。しかし嘉助自身もまた、茶々丸から遠ざけられた外山の将来に見切りをつけ、御所側へ寝返った人物であった。

その証言を聞いた茶々丸は褒美を与えるように見せかけながら、主人を売るような者は信用できないとして密かに処刑を命じた。

外山派の壊滅

翌朝、茶々丸の奉公衆は外山邸へ攻め込み、外山方は激しく抵抗したものの敗北した。

外山豊前守は切腹し、秋山蔵人も同日に討ち取られた。さらに彼らと行動を共にしていた桑原平内は田中郷へ逃亡した。

こうして茶々丸に反対していた奉公衆や国人勢力は大きな打撃を受けることとなった。

山中を逃れる九郎と弥八郎

桑原邸に滞在していた伊勢九郎と笠原弥八郎は、辛うじて追手を逃れて函南の山中へ潜んでいた。

食糧も尽きかけた二人は空腹に苦しみながらも身を隠していたが、そこへ左近次と名乗る男が現れた。彼は通りすがりの鎧職人だと名乗り、二人へ接触してきた。

石脇城館への帰還

翌々日、九郎と弥八郎は石脇城館へ帰還し、新九郎へ一連の出来事を報告した。

外山や秋山が討たれたことで、堀越御所周辺の反主流派勢力は事実上壊滅したことが判明した。荒川は蜂起の機会を失ったと残念がるが、新九郎はむしろ御所を守る兵力が減ったと前向きに捉えた。

茶々丸への評価

大道寺は、新九郎が千鶴姫の相続権を外山へ示唆した結果ではないかと問うた。しかし新九郎は外山を忠臣だったと評価し、今回の悲劇は茶々丸自身の問題だと断じた。

新九郎は、茶々丸が権力を得る過程で裏切りを経験したため、自らも同じように裏切られることを恐れているのだと分析した。その結果、有力な家臣や国人たちの心は徐々に離れ始めていた。

公方府崩壊への確信

九郎は外山と親しかった国人たちも少なからず存在すると報告した。

それを聞いた新九郎は、公方府はいまや熟し切った柿のようなものであり、あと一押しで崩れ落ちる段階にまで弱体化していると確信するのであった。

千鶴姫との対面

翌日、丸子の今川館で新九郎たちは龍王丸に迎えられた。龍王丸は、京から来た高貴な人物である千鶴姫のために面会の場を用意していた。

新九郎は、堀越御所への討ち入りに加わる松田弥次郎と遠山隼人佑を千鶴姫へ引き合わせ、二人へ言葉を賜りたいと願い出た。

千鶴姫の願い

千鶴姫は、自らの母である円満院と弟の潤童子の仇を討つために戦う者たちへ感謝を述べた。

戦や流血を好むわけではなく、その道理もよく理解していないと前置きしながらも、母と弟を死に追いやった茶々丸だけは決して許せないと語った。そして茶々丸の首を母と弟の墓前へ供えてほしいと強く願った。

その言葉を受けた松田と遠山は、必ず成し遂げると誓った。

元堀越公方府奉公衆たちの奮起

千鶴姫が退席した後、遠山は松田が涙を流していることに気付いた。

松田は、千鶴姫が自分たちの名前を覚えていてくれたことに感激していた。主家の姫から直接期待を託されたことで、これ以上ないほど士気を高めていたのである。

遠山もその思いに深く共感し、二人は改めて決意を固めた。

討ち入りの日程決定

家臣たちの覚悟を確認した新九郎は、最終的な行動日を告げた。

そして一同に対し、三十日に興国寺へ集結するよう命じ、堀越御所への討ち入りへ向けた準備を本格的に進めるのであった。

第百四十八話 満を持す その6

千鶴姫への評価

新九郎は、先日の千鶴姫との対面を振り返り、その気丈な振る舞いに感心していた。当初は大人しい姫だと思っていたが、母と弟の仇討ちについてはっきりと言い切った姿に驚かされたのである。

また、松田や遠山の士気を高めるため、あえて千鶴姫に言葉をかけてもらったことも明かした。一方で龍王丸には、人の心を巧みに動かす新九郎が女性の気持ちだけは理解できないとからかわれた。

ぬいの食べ過ぎと心配事

石脇城館では、ぬいが考え事をしながら饅頭を食べ続け、子供たちのために用意していた菓子まで食べてしまっていた。

ぬいの悩みは、新九郎と葛山家の姫との縁談であった。政略的に重要な話であることは理解していたが、相手の人柄を誰も知らないことに不安を抱いていたのである。

葛山の姫への関心

ぬいは荒川又次郎を呼び出し、富士山の景色を見たいという口実で話を切り出した。しかし本当の目的は、新九郎の婚約相手となる葛山家の姫について情報を集めることだった。

新九郎自身も相手の顔すらよく知らないと聞いていたぬいは、相性が悪ければ双方が不幸になるのではないかと心配していた。荒川は、こうした縁談は家同士の利益を優先するものであり、家臣としては主君の決定に従うしかないと諭した。

縁談は覆せない現実

荒川は、すでに両家の合意が成立している以上、相手の人柄に不安があったとしても縁談を覆すことは難しいと説明した。

さらに、ぬいは新九郎の正室として堂々と構えていればよいと励ましたが、ぬいは納得しきれないまま引き下がった。

葛山の姫の噂

ぬいが去った後、荒川はなぜ自分が相談相手に選ばれたのか首をひねった。

そこへ山中才四郎が、商人から聞いた話として葛山の姫は滅多にいないほどの美女だという噂を持ち込んだ。そして美女に弱い新九郎が夢中になってしまうのではないかと面白がる。

荒川は根拠のない噂を家中に広めるべきではないとたしなめたが、才四郎はすでに口の軽い三郎へ話してしまったことを思い出し、慌て始めた。荒川はそんな様子を見て、自分が相談役として選ばれた理由を悟るのであった。

富士見物への出発

八月二十五日、ぬいは女中たちを連れて富士山見物へ出かけた。雄大な富士山を前に一行は感嘆の声を上げる。

この外出は、石脇で退屈しているぬいの気晴らしを兼ねたものであった。新九郎も健康のためには歩くのがよいと許可を出し、荒川又次郎や小笠原新六郎らが護衛役として同行していた。

葛山の姫との偶然の出会いを狙う策

ぬいは道中、荒川へ考えを変えた理由を尋ねた。

荒川は調査の結果、葛山家の姫が毎月一、二度、大安の日に興国寺へ参詣していると知ったことを明かした。そのため興国寺で待てば偶然を装って姫と会えるかもしれないと考えたのである。

ただし相手が必ず来る保証はなく、その場合は諦めてほしいと念を押した。それでもぬいは荒川の工夫を高く評価した。

興国寺で判明した予定変更

興国寺へ到着した荒川たちは、多米から思わぬ話を聞かされた。

本来は三十日に集結するはずだった者たちが、結納の準備や宿所の割り振りのため既に集まり始めていたのである。しかも結納の儀は翌日に行われる予定となっていた。

ぬいが葛山の姫を見たい理由を聞いた多米は、その気持ちに理解を示しつつも、誰も姫の顔を知らないという重大な問題に気付いた。

待ち人の到着

ぬいは和尚に尋ねればよいと提案し、一行は寺で待機することになった。

やがて市女笠と虫の垂衣を身につけた女性たちが現れる。荒川は、その装いから葛山家の姫一行ではないかと推測した。

現れたのは葛山家の姫・初と侍女の多岐であった。初は明日の結納や婚儀を思うだけで胸が高鳴ると語り、多岐から落ち着くようたしなめられていた。

ぬいと初の初対面

初は和尚へ挨拶するため本堂へ向かったが、そこには既にぬいの一行がいた。

見慣れない女性に戸惑う初へ、ぬいは富士見物の途中で立ち寄った旅の者だと名乗る。そして他人がいると落ち着かないかと気遣った。

突然声を掛けられた初は慌てながら否定し、思わず顔を赤らめたのであった。

初の不安とぬいの祝福

初は人見知りの性格を多岐にからかわれながらも、見知らぬ家へ嫁ぐ不安を吐露していた。

そこへぬいが祝いの言葉を掛けると、初は自分が京に正妻を持つ伊勢新九郎の別妻として嫁ぐ予定であることを明かした。ぬいが不満はないのかと尋ねると、初は父が決めた縁談であり、自分も新九郎の姿に惹かれていたのだと語った。

初が新九郎に惹かれた理由

初は興国寺で初めて見かけた新九郎の姿が忘れられなかった。

座禅を組む僧のように背筋を伸ばして座る姿や、凛とした立ち居振る舞いに心を奪われたのである。和尚もまた新九郎の坐り姿を高く評価しており、どこかの寺で修行した者のようだったと証言した。

当初は年齢差を理由に反対していた父も、やがて考えを改め、初と新九郎の縁談を進めることになったのだった。

政略結婚への不安

初は縁談を受け入れながらも不安を抱えていた。

実際に会って話したことがなく、新九郎がどのような人物なのか分からないことに加え、正妻であるぬいに嫌われるのではないかと心配していたのである。また、人見知りの自分が新九郎の家臣たちとうまく付き合えるのかという不安も口にした。

その様子を聞いていたぬいは、葛山の姫が噂通り誠実な人物であると確信していた。

ぬいから初への助言

ぬいは自分が新九郎をよく知っていることをほのめかしながら、彼は信頼できる人物だと初を安心させた。

さらに、この縁組は葛山家と伊勢家の双方に利益をもたらすものであり、妻とは両家を結ぶ鍵のような存在なのだと説いた。そして、その覚悟を持って嫁げば、新九郎も必ず初を大切にするはずだと励ました。

その言葉を受けた初は、両家の繁栄のために力を尽くす決意を固めた。

結納を前にした別れ

目的を果たしたぬいは、荒川へ善得寺へ戻ることを告げた。

葛山の姫の人柄を十分に見極めたぬいは、近いうちに菓子を作って送ろうと考える。一方の初は、ぬいの正体を知らないまま、不思議と話しやすく親しみを感じる女性だったと振り返った。

そして翌日、伊勢家と葛山家の間で結納の儀は滞りなく執り行われた。

第百四十九話 満を持す その7

伊都たちの交流と新九郎の決断

伊都と龍王丸、ぬいと千代丸は和やかに語り合い、互いに親睦を深めていた。

その一方で新九郎は瀬名と碁を打ちながら、駿河の中心である駿府を再び太守の居館とすべきだと相談していた。瀬名も同意し、新九郎は駿府復興のための予算確保を進める決意を固めた。

千代丸の訪問

そこへ千代丸が現れ、新九郎へ話があると切り出した。

新九郎は龍王丸と遊ぶよう勧めたが、千代丸は父と話したいのだと譲らなかった。瀬名も親子で語り合う時間の大切さを説き、新九郎は千代丸と向き合うことにした。

父の不在への不満

二人きりになると、千代丸は龍王丸から聞いた昔話について問い質した。

新九郎が自分の誕生直後に駿河へ下向し、長く家を空けたことに不満を抱いていたのである。生まれたばかりの自分や母と一緒に過ごしたいとは思わなかったのかと率直な思いをぶつけた。

新九郎は遊びで出立したわけではなく、当初は短期間で帰るつもりだったと説明する。しかし情勢の変化によって帰京は大幅に遅れ、結果的に長期間離れることになったのだった。

龍王丸への嫉妬

千代丸はさらに、龍王丸やぬいと過ごした時間の方が、自分や母と過ごした時間より長いのではないかと問いかけた。

新九郎は比較できる話ではないと答えながらも、月末に控えた大仕事が終われば改めて話そうと約束した。しかし千代丸は、その仕事が何年かかるのかと皮肉を交えて問い返し、新九郎は自分が息子からあまり信用されていないことを痛感する。

母を思う願い

新九郎が年内の上洛を約束すると、千代丸は自分のためではなく母のために願いを口にした。

母を寂しがらせないでほしいという切実な頼みである。新九郎はその言葉に、千代丸が思っていた以上にしっかりと成長していることを感じ取り、その願いを受け入れた。

父子を結ぶ竹トンボの約束

新九郎は、他に何か望みはないかと尋ねた。

すると千代丸は、龍王丸が幼い頃に新九郎から作ってもらった竹トンボの話を聞いたと語り、自分にもその作り方を教えてほしいと願い出た。

新九郎は完成品を与えるのではなく、自ら作り方を教えることを約束し、父と子の距離は少しだけ縮まることとなった。

千代丸の願い

新九郎が竹トンボを作ってやると申し出ると、千代丸は自分が遊ぶためではなく、家中の幼い子供たちへ作ってやりたいのだと答えた。

その言葉に新九郎は感心し、石脇へ戻ったら竹トンボの作り方を教えると約束した。

息子の成長を語る新九郎

その日の夕刻、石脇城館へ戻った新九郎は大道寺と語り合った。

七歳の千代丸に言い負かされたことを振り返り、自分より人間ができているかもしれないと苦笑する。大道寺は、それはぬいの教育の賜物だろうと評し、新九郎もまた、ぬいや父、小笠原家の縁者たちに頭が上がらないと認めた。

さらに大道寺は、名君の資質を備えた息子を持ったことを羨ましがり、新九郎もその評価に異論を挟まなかった。

伊豆討ち入りの最終確認

話題はすぐに軍事へ移った。

大道寺から、堀越公方茶々丸が九月一日に法要で御所へ留まるとの報告を受けた新九郎は、八月三十日の夜に出陣し、九月一日の夜明けと同時に討ち入りを行う方針を決定した。

長期間準備してきた伊豆侵攻はいよいよ実行段階へ入ったのである。

ぬいへの告白

翌朝、新九郎はぬいに、前日に千代丸から叱られたことを話した。

その流れで、自分が家を空けている間に寂しくなかったかと尋ねる。ぬいは照れながらも、頼りにしているのは新九郎一人なのだから寂しかったと素直に打ち明けた。

新九郎は謝罪するとともに、さらにしばらく辛抱してほしいと頼み、その理由として伊豆侵攻の計画を明かした。

伊豆侵攻の真意

ぬいは御所様の首を狙うという計画に驚いたが、新九郎はこの戦いが単なる権力争いではないと説明した。

茶々丸の政策によって没収された旧奉公衆の所領を取り戻し、新たな統治体制を築くための戦でもあるというのである。

たとえ茶々丸を討てたとしても、伊豆国内には抵抗勢力が残るはずであり、そのため味方を増やす工作も続けなければならなかった。

その結果、上洛はなお先送りになるとぬいへ告げた。

公儀への失望

ぬいは、勝手にそのような計画を進めて伊勢守や幕府関係者から叱責されないのかと心配した。

しかし新九郎は、かつてなら気にしたかもしれないが、今は千代丸に叱られる方が怖いと笑う。

これまで奉公衆は苦境を公儀へ訴えてきたが、何の救済も得られなかった。その間、公儀の中枢は将軍交代などの政争に明け暮れていたのである。

だからこそ新九郎は、自らの家臣たちを救うために自分の道を進むことを決意した。そして自分が尽くそうと信じていた公儀は、もはや存在しないのだと語った。

興国寺への出陣

八月三十日、新九郎は興国寺で仏前に座し、出陣を前に静かに心を整えていた。

そこへ大道寺が現れ、討ち入りに参加する者たちが全員揃ったことを報告した。

伊豆攻略へ向けた決戦の時が、ついに訪れようとしていた。

討ち入りの主力が集結

興国寺には伊豆討ち入りに参加する主だった武将たちが集められた。

元堀越公方府奉公衆の松田弥次郎直秀と遠山隼人佑直景、葛山氏堯をはじめ、今川家からは今川新五郎範続、朝比奈丹波入道、三浦左衛門尉、瀬名一秀らが参陣していた。

新九郎は軍議を始める前に、自分が総大将を務めることについて異論がないか確認した。

今川家と奉公衆の信任

今川家の重臣たちは、龍王丸と御方様の命によって参陣しているため問題ないと答え、新九郎へ全権を委ねる姿勢を示した。

さらに松田と遠山も、新九郎を対等な仲間ではなく主将として扱い、自分たちは部下として従うと申し出た。

新九郎から支度金を受けたことで鎧の修繕や旧臣の再集結が実現しており、その恩義に報いる決意を固めていたのである。

伊豆攻略への勝算

大道寺は支度金の工面によって石脇の蔵がほぼ空になったと嘆いたが、葛山氏堯は収穫期を迎えた伊豆を手に入れれば十分回収できると豪快に笑った。

瀬名がそれも計算のうちだったのかと尋ねると、新九郎はそこまでの策ではないと否定する。

ただし、多くの東伊豆国人衆が関東へ出向いているため北伊豆の守りが手薄になっており、自分たちに有利な状況が生まれていることは認めた。

その好機もあって勝率は十のうち九ほどあると判断していた。

新九郎の軍議開始

十分な戦力と好条件が揃ったことで、新九郎は軍議の開始を宣言した。

そして何やら新しい道具を用意して布を下ろし始める。

見慣れないその仕掛けに集まった武将たちは驚き、一体何が始まるのかと戸惑うのだった。

討ち入り前夜

こうして新九郎率いる討伐軍は、堀越公方茶々丸を討つための最終準備へ入った。

長期間にわたる工作と根回しを経て、伊豆攻略の戦いはついに実行段階を迎えたのであった。

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