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物語の概要
本作はプロサッカーを題材としたスポーツ漫画であり、リアルな戦術描写、クラブ経営、監督・選手・サポーターそれぞれの視点が交錯する群像劇である。68巻では、天宮杯5回戦・仙台戦、およびJFリーグジャパンアウォーズ(年間表彰式)が主軸となり、ETUの監督・達海猛の心境の揺れとチームの成熟が描かれる。選手不在・体調不良・一発勝負という不利を抱えながらも、ETUがどのように勝利へ向かうかが物語の焦点である。
主要キャラクター
- 達海猛(たつみ たけし)
ETU監督。鋭い戦術眼と型破りな指導でチームを上位へ押し上げる存在。今巻では退任発表後の迷いと、自分らしさの再確認が重要テーマとなる。 - 椿大介(つばき だいすけ)
ETUの中心MF。代表活動により不在だが、ベストイレブン選出や周囲の期待により存在感は非常に大きい。 - 赤崎遼(あかざき りょう)
ETUのFW。U-22代表として最終予選に参加。不在の中でもチームの士気を支える重要人物。 - ジーノ(ルイジ吉田)
ETUのレフティーMF。黄金の左足を持つ天才型で、アウォーズでの派手なパフォーマンスも描かれる。 - 金田(かねだ)
分析担当コーチ。達海の不在時に実質的な指揮を執り、確かな戦術理解でチームを支える。 - 笠野(かさの)
コーチ。達海の迷いを見抜き、本来の姿へ引き戻す役割を担う。 - 仙台・立花監督
天宮杯でETUと対戦する相手監督。格上相手との戦略的な戦い方が描かれる。
物語の特徴
本作の魅力は、単なるスポーツ青春ものに留まらず、「勝者と敗者」という構図を超え、戦術・心理・チーム改革といった多層的テーマを描いている点である。特に「弱小クラブが状況をひっくり返す」という“ジャイアントキリング”の本質を徹底的に掘り下げており、読者にとってリアリティと戦略性を兼ね備えた展開が興味深い。また、巻を重ねても「改革」「挫折」「再起」が繰り返される構成が、長期シリーズとしての骨太さを備えており、スポーツ漫画としての深みが他作品と差別化されている。さらに、アニメ化もされた実績があり、多メディア展開されている点も特徴である。
書籍情報
GIANT KILLING(68)
著: ツジトモ 氏
その他: 綱本 将也 氏
出版社:講談社(モーニング KC)
発売日:2025年11月21日
ISBN:9784065414415
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あらすじ・内容
リーグ戦を締めくくる祭典・アウォーズが開幕!!混沌極まる中で、ベストイレブン、そしてシーズンMVPは誰の手に!?
感想
まず読み始めてすぐに、「まだ終わらないのか!」という複雑な感情に襲われた。リーグ戦を締めくくるアウォーズで物語も一区切りつくのだろうと思っていたところに、天宮杯とU-22代表、さらに「next」の文字まで出てくる。最終巻かもしれないとドキドキしながらページをめくっていた自分はいったい何だったのか、と拍子抜けしつつも、まだこの世界を読み続けられる喜びも確かにあった。
アウォーズのシーンは、混沌とお祭り騒ぎが入り混じった、いかにも『GIANT KILLING』らしい場面である。ぺぺ侍の寸劇に始まり、ベストイレブンの副賞発表では、巨大グローブや相撲対決、バラ配布に白馬入場と、真面目な表彰と悪ノリ寸前の演出がギリギリのところで同居していた。
その中で、杉江やジーノ、椿、夏木といったETU勢が選ばれていく流れは胸が熱くなったし、ジーノの白馬登場は、バカバカしいのに妙に絵になってしまう“王子様感”があって、笑いながらも感心してしまった。
一方で、MVPに選ばれたのが江田だったことには納得だった。
鹿島の二冠を支えたセンターバックとして、数字も内容も申し分ないからこその受賞であり、作中の説明も説得力がある。
そのうえで、投票結果を見ると椿とわずか数票差という事実が明かされる。達海が「んなわけないじゃん」と言いつつ、本音では椿やジーノを推していたことも含め、ETU勢の躍進と「もう一歩届かなかった」感覚が強く残るMVPシーンであった。
アウォーズが終わると、物語は「次」へと視点を移していく。
変装して会場に潜り込んでいたブランとの会話では、FAカップで注目を集めた過去、ヨーロッパのプロクラブ監督という高い壁、そして「それでも勝ちたい」「ぶっ倒したい」という達海自身の本音がじっくりと描かれていた。
欧州に挑もうとする達海が、単なる“有能な日本人監督”ではなく、「困難な状況ほど燃える男」としてきちんと位置づけ直されている印象であった。
一方で、ETUに残るシーズンはまだ終わらない。
天宮杯に向けて再始動する中で、U-22代表に招集される椿と赤崎の壮行シーンが入る。
五輪最終予選という大舞台へ向かう二人が、チームを一時的に離れることへの申し訳なさと、それでも成長して戻るという決意を口にする場面は、彼らがもはや“若手枠”を飛び出して、クラブと代表の両方を背負う存在になりつつあることを感じさせた。
同時に、怪我で離脱している窪田が、その場に姿を見せる演出も効いている。
自分は間に合わないと分かっていながら、仲間たちにプレッシャーと期待を託す言葉には、痛みを抱えたエースらしい重みがあった。
天宮杯初戦の仙台戦は、達海不在という異常事態から始まる。風邪でベンチに入れないという、ある意味『ジャイキリ』らしい理由ではあるが、サポーター目線で見れば笑えないほどの非常事態である。
その不安を、金田と松原、そしてピッチの選手たちがどう埋めていくのかが、このパートの見どころであった。
実際には、戦術もメンバー選考もすでに達海が組み立てており、それを金田が正確に運用し、選手たちが期待に応えて0-4の完勝を収める。
ここには、もはや“達海頼み”ではなく、自分たちで試合をコントロールできる集団へと成長したETUの姿がはっきりと表れている。
その裏で、達海自身は「来季の監督に任せるべきか」「自分は距離を置いたほうがいいのではないか」と迷い続けていた。笠野とのやり取りを通じて、その迷いが実は「退任への負い目」や「置き土産としてのタイトル」への焦りから来ていたことが暴かれていくくだりは非常に印象的である。
選手のためを思っているつもりで、いつの間にか自分のキャリアや感傷を優先し始めていた――そのことを突きつけられて、ようやく達海が本来の“自分勝手で、でも誰よりチームのことを考えている監督”に立ち返る流れは、本巻の大きなテーマになっていると感じた。
試合終了後、達海が観客席から「今日の気持ち忘れずに、これからも俺のために働くように!」と相変わらずな物言いで叫び、選手全員から総ツッコミを浴びるシーンは、『GIANT KILLING』らしい笑いと温かさが凝縮された場面である。笠野の指摘通り、選手たちはすでに大人で、達海を“重し”ではなく“楽しい中心”として扱っている。だからこそ、彼がいなくなっても戦えるし、彼がいるうちは全力で一緒に戦おうとしているのだと分かる。
巻末では、U-22の壮行会での会話や、窪田の決意、天宮杯の先の対戦相手への不安など、次の物語への布石が次々と打たれていく。リーグアウォーズというひとつの区切りを迎えながらも、天宮杯、五輪最終予選、達海の海外挑戦と、これから先に続いていく“戦いの場”がいくつも提示されて終わる構成になっている。そのため、読み終わった瞬間の感情は、「終わってしまう寂しさ」と「まだ続いてくれる安堵感」のあいだを揺れ続ける、不思議な余韻を残した。
あらためて感じたのは、『GIANT KILLING』が単なるサッカー漫画ではないという点である。アウォーズのバカバカしい演出から、MVP争いのシビアな現実、監督のキャリアと葛藤、選手たちの成長と世代交代、そしてクラブの未来までを一貫して描き切っている。勝利への執念や仲間との絆はもちろん、「チーム」というものがどのように育ち、変化し、次の世代へと受け継がれていくのか。その過程そのものが物語の核になっていると強く感じた一冊であった。次巻でこの“続き”がどのように描かれるのか、文字通り「next」の一言が、今は何より待ち遠しい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
達海猛
ETUの監督であり、ユーモアを交えながらも勝利と成長に強いこだわりを持つ指導者である。退任を控えていることから距離を取ろうと迷う場面もあったが、最終的には「自分勝手に楽しくやる」という原点に立ち返った存在である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド(ETU)・監督である。
・物語内での具体的な行動や成果
JFリーグジャパンアウォーズで優秀監督賞に選ばれた。天宮杯に向けて情報が少ない相手を分析し、発熱しながらも布団の中で戦術を組み立て続けた。仙台戦では体調不良でベンチ入りしなかったが、試合内容を客席から見守り、勝利後に選手達へ上から目線の激励を投げかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
退任が決まった後も選手やスタッフから強く慕われており、チームの精神的な核であり続けている。自らの迷いを笠野に指摘され、最後まで全力で指揮する覚悟を取り戻した。
椿大介
急成長を遂げた若手ミッドフィルダーであり、プレーでも人間的な面でも周囲から大きな期待を集めている存在である。浮つくこともあるが、自分の言葉に責任を持とうとする姿勢が描かれている。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・ミッドフィルダーである。U-22日本代表メンバーである。
・物語内での具体的な行動や成果
リーグ戦での活躍によりベストヤングプレーヤー賞とベストイレブンに同時選出された。U-22最終予選のためチームを一時離れる前に、「経験を積んでチームの助けになる」と決意を口にした。壮行会では他クラブの選手からも評価され、世代の中心と見なされている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
MVP投票で江田剛央とわずか6票差まで迫り、リーグ全体からも最優秀選手候補として認められている。発言後に照れて走り去る一面もあり、成長途上であることが周囲にも好意的に受け止められている。
ルイジ吉田(ジーノ)
「赤黒の王子」と呼ばれる華やかなミッドフィルダーであり、黄金の左足と強い存在感でリーグを代表する選手となった。派手な演出も自然にこなすカリスマ性を持つ。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・ミッドフィルダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
優秀選手に選ばれ、ベストイレブンにも名を連ねた。天宮杯仙台戦では開始早々に直接フリーキックを決め、流れを引き寄せた。授賞式では白馬に乗って会場に現れ、「ペペ侍」に続く大きな話題をさらった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
白馬での入場演出と「白馬の王子様からのハグ」を副賞とする扱いからも、女性ファンを中心に圧倒的な人気を持つ選手として描かれている。MVP候補としても名が挙がり、リーグ戦だけを基準にすれば最有力と評されている。
夏木陽太郎
破天荒なストライカーであり、プレーと振る舞いの両方で強いインパクトを残す選手である。髪型など見た目のインパクトも大きく、会場の空気を一気に変える存在である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・フォワードである。
・物語内での具体的な行動や成果
名古屋戦で決めたスーパーゴールがコータから最優秀ゴール賞候補として期待された。授賞式では奇抜な髪型で登場し、コータを爆笑させた。仙台戦では途中出場に備えてベンチで控えつつ、チームの雰囲気を盛り上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
受賞は逃したが、他クラブの選手にも名前を挙げられる存在となっており、人気と実力の両面でリーグを代表するFWの一人として描かれている。
赤崎遼
攻撃センスと明るい性格を併せ持つアタッカーであり、椿と共に世代を代表する存在になりつつある選手である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッドのアタッカーである。U-22日本代表メンバーである。
・物語内での具体的な行動や成果
優秀選手賞に選出され、U-22最終予選に向けてチームを一時離れることになった。壮行会では海外組の細見らと談笑しつつも、代表戦を「集大成」として意識している窪田の言葉を受け止めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
椿と並んでETUを押し上げる存在と認識されており、他クラブの選手にもその名を知られている。
世良恭平
スピードと運動量を武器とする攻撃的プレーヤーであり、ムードメーカーとしてもチームに影響を与える選手である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッドの攻撃的選手である。
・物語内での具体的な行動や成果
仙台戦では湯沢のロングフィードを追いかけてボールを収め、ジーノと堺を使ったカウンターの起点となった。その後も追加点を決め、スコアを4点差に広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
試合前円陣で「今日は絶対に負けられない」という意志を共有した一員であり、達海不在の中でも自らの役割を果たしている。
杉江勇作
堅実な守備で評価されるセンターバックであり、チーム躍進の象徴としてサポーターからも愛されている。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・ディフェンダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
優秀選手に選出されて壇上に登場し、コータとゴロウから大きな歓声を受けた。天宮杯では準決勝から復帰予定の選手として説明されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベストイレブン選外となったが、投票の順番やポジションの関係で可能性が薄いと分析され、サポーターからは「本来なら選ばれてほしい選手」と見られている。チームの旗頭と紹介され、クラブ内での存在感は高い。
江田剛央
鹿島ワンダラーズのセンターバックであり、対人の強さと空中戦を兼ね備えた日本有数の守備者である。
・所属組織、地位や役職
鹿島ワンダラーズ・ディフェンダーである。日本代表選手である。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選出され、副賞として元大関・鴻鵠山との相撲対決に挑み、渾身の力で投げ倒した。リーグジャパン・ディビジョン1のMVPにも選ばれ、二冠達成の中心選手として表彰された。授賞式ではサッカーを始めた理由や勝利への探究心を語り、宙に浮かされる演出の中でスピーチを続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
MVP受賞により、日本を代表するセンターバックとして公式に認められた。投票では椿と僅差でありながら頂点に立ち、鹿島のリーグ・カップ二冠の象徴となっている。
ペペ
名古屋グランパレスのエースストライカーであり、ゴール前で圧倒的な決定力を見せる選手である。
・所属組織、地位や役職
名古屋グランパレス・フォワードである。
・物語内での具体的な行動や成果
第22節で決めた96分の決勝ゴールが今季最優秀ゴール賞に選ばれた。リーグ戦通算22得点で得点王となり、ステージ上では「ペペ侍」として殺陣を披露し、斬った人数を得点数と連動させる演出の中心となった。ベストイレブンにも選出され、「ペペ侍」の映像化を副賞として受け取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゴールと寸劇の両面でリーグの話題をさらい、国内外で名前が取り上げられる存在となっている。
メンデス
山形の守備の柱として描かれるセンターバックであり、落ち着きと重厚な守備でチームを支える選手である。
・所属組織、地位や役職
モンテビア山形・ディフェンダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
優秀選手とベストイレブンに選ばれ、副賞として大型トレーニングマシンを受け取った。授賞式の最後では、そのマシンを黙って触り続けている様子が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「山の如き守備リーダー」と紹介され、鹿島と並ぶ最少失点に貢献した選手として評価されている。
越後直
カリスマ性と華やかなプレーで支持される攻撃的選手であり、女性ファンから特に強い人気を集める存在である。
・所属組織、地位や役職
浦和レッドスター・攻撃的プレーヤーである。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選出され、副賞として自分のブロマイド付きのバラ50本を配布することになった。会場中にバラを投げ続け、女性サポーターから悲鳴に近い歓声を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女性記者から「今だけは独占状態」と評されるほどの人気を持ち、授賞式を混沌とさせる中心人物の一人として描かれている。
星野克弘
日本代表のゴールを守る守護神として紹介されるGKであり、安定したセービングと存在感を持つ選手である。
・所属組織、地位や役職
川崎フロンティア・ゴールキーパーである。日本代表の守護神である。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブン最初の受賞者として発表され、巨大キーパーグローブの副賞を受け取った。膨張し続けるグローブに悲鳴を上げつつも、授賞式を盛り上げる役割を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
優勝クラブ所属ではないが、代表レベルの信頼感から妥当な選出と見なされている。
浦田尚貴
清水インパルスの左サイドを支配する選手であり、攻守両面で中心として機能したミッドフィルダーである。
・所属組織、地位や役職
清水インパルス・ミッドフィルダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選出され、副賞としてVRシステムを体験させられた。空中浮遊や落下映像に翻弄され、最後にはVR内に現れた蟋名監督から祝福を受けて戸惑う様子が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
シーズンを通じてチームの中心として冴えたプレーを見せたと記者から評価され、清水サポーターにとって象徴的な存在となっている。
志村春人
強烈な存在感と実績を持つミッドフィルダーであり、大阪ガンナーズの心臓ともいえる選手である。
・所属組織、地位や役職
大阪ガンナーズ・ミッドフィルダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選ばれ、副賞として「自宅くつろぎセット」を受け取った。授賞式ではその選出が当然視されるほどの評価を受けていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
リーグ終盤に存在感を爆発させた窪田と共に、大阪の中盤を支える軸として扱われている。
八谷渡
攻守の切り替えと展開力に優れたミッドフィルダーであり、川崎フロンティアの中盤を支える選手である。
・所属組織、地位や役職
川崎フロンティア・ミッドフィルダーである。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選出され、副賞としてネルソン監督の等身大パネルを受け取った。これを喜んで抱きしめる姿を見せ、周囲から「気持ち悪い」とツッコミを受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
監督との強い信頼関係がうかがえる描写があり、クラブ内で重要なポジションを担っている。
岩淵斗真
二冠を達成した鹿島ワンダラーズのエースストライカーであり、得点能力と勝負強さを備えた選手である。
・所属組織、地位や役職
鹿島ワンダラーズ・フォワードである。
・物語内での具体的な行動や成果
ベストイレブンに選出され、副賞としてアウトドアグッズ一式を受け取った。授賞式ではMVP候補として名前が挙がったが、最終的には選に漏れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
二冠達成チームのエースとして、タイトル獲得に大きく貢献した存在と説明されている。
コータ
ETUを熱心に応援する少年サポーターであり、豊富な知識と鋭い分析眼を持つ存在である。感情表現が豊かで、授賞式や試合を誰よりも楽しんでいる。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッドのサポーターである。
・物語内での具体的な行動や成果
アウォーズ会場で達海や椿、王子、岩淵のMVP可能性を独自に分析した。優秀選手にETUから5人選ばれたことに喜びつつも、「もっと選ばれてもいい」と不満をこぼした。ルイジ吉田の欠席や演出に対して強く反応し、会場の空気を代弁する役割を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
子どもでありながら戦力分析を行い、大人のサポーターからも一目置かれている描写がある。ETUの感情的な代表として、読者に視点を提供している。
ゴロウ
コータの父であり、冷静で経験豊かなサポーターとして描かれる人物である。息子の暴走をなだめつつも、同じくETUを愛する存在である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッドのサポーターである。コータの父親である。
・物語内での具体的な行動や成果
アウォーズ会場で受賞状況を見守りながら、優秀選手賞にETUが5人選ばれたことに感慨を示した。MVPやベストイレブン選考を現実的に分析し、コータの期待をなだめた。天宮杯では達海不在の重大さにいち早く気づき、一発勝負の怖さを噛みしめた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
冷静な大人の視点を提供する役割を担い、サポーター目線で物語の状況を整理する存在となっている。
有里(ユリ)
ETUフロントの中心人物であり、イベント企画やチーム運営に深く関わる女性スタッフである。現実的で辛口なツッコミ役としても機能している。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッドのフロントスタッフである。
・物語内での具体的な行動や成果
アウォーズではルイジ吉田の白馬入場演出を仕掛け、「赤黒の王子」企画を成功させた。控室ではベストイレブン取材対応など裏方業務に追われ、達海の「送ってくれ」発言を一喝した。天宮杯に向けた準備では、達海の無茶な働き方に怒りつつも支え続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
達海の退任に対して涙を見せるほどクラブと監督に思い入れがあり、感情と職務の両面でクラブを支える核となっている。
永田会長
ETUのクラブ会長であり、チームの成長を長期的な視点で見守る経営者である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・クラブ会長である。
・物語内での具体的な行動や成果
アウォーズでジーノのベストイレブン選出に感慨を示し、「左足以外に価値がないと言われてきた選手が一流と認められた」と語った。U-22壮行の場では椿と赤崎に五輪出場権獲得を託し、クラブとしても代表活動を支える姿勢を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
達海とジーノの成長を見届けて涙を流す場面もあり、クラブの歴史と選手の歩みを象徴する存在となっている。
金田
分析担当として試合準備を支えるコーチであり、冷静かつ実務的な思考でチームを下支えする人物である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・コーチである。戦術分析担当である。
・物語内での具体的な行動や成果
情報が少ない2部クラブ相手の天宮杯に向けて大量のデータ分析を行い、仙台戦のゲームプランを構築した。試合中は松原に代わって具体的な指示を出し、相手の5-4-1布陣への対応や試合運びを主導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
達海不在の試合でも戦術面の要として機能し、選手からの信頼を高めている。ユリに対し、「本人が思っている以上に皆が達海を好きだ」と本音を語る場面もあり、チームの空気を把握している。
松原
現場での指揮を任されることもあるコーチであり、不器用ながら責任感を持ってチームに向き合う人物である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・コーチである。仙台戦では監督代行であった。
・物語内での具体的な行動や成果
達海の体調不良により仙台戦の指揮を任され、選手達の前で「安心しろ」と気迫を見せた。試合中は金田に主導権を奪われつつも、相手監督との挨拶では虚勢を張り、自らの役割を果たそうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
選手から「監督のために優勝したい」と言われた達海に体当たりで怒りをぶつけるなど、感情豊かな一面を見せている。
笠野
冷静な視点でチームと達海を見つめるコーチであり、ときに厳しい言葉で本質を突く役割を担う人物である。
・所属組織、地位や役職
イースト・トーキョー・ユナイテッド・コーチである。
・物語内での具体的な行動や成果
仙台戦を観戦する達海のもとへ向かい、退任を意識して距離を取ろうとする姿勢を「現実から目をそらしている」と指摘した。選手の方が大人であり、達海のために戦っている事実を突きつけ、迷いを晴らすきっかけを与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
達海から「来季以降を託す相手」として信頼されており、今後のETUを支える柱の一人として位置づけられている。
ブラン
日本代表監督として登場する人物であり、理知的でありつつも遊び心を持つ指導者である。
・所属組織、地位や役職
日本代表監督である。
・物語内での具体的な行動や成果
一般客に紛れてアウォーズを変装して観戦し、達海に見つかった後にその理由を説明した。FAカップで話題となった東洋人監督としての達海に興味を持った経緯を語り、欧州で監督をすることの難しさを伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
達海に「何かあったら頼れ」と告げるなど、同業者として深い関心と友情を示している。
窪田
大阪ガンナーズ所属の若手ミッドフィルダーであり、怪我で離脱中でも強い存在感を持ち続ける選手である。
・所属組織、地位や役職
大阪ガンナーズ・ミッドフィルダーである。U-22日本代表である。
・物語内での具体的な行動や成果
アウォーズには怪我のため欠席したが、ベストイレブン候補として名前が挙がった。壮行会ではリハビリ中にもかかわらず会場に姿を見せ、U-22最終予選を「世代の集大成」として位置づけ、椿や赤崎にプレッシャーと激励を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
復帰が五輪本大会に間に合わないと自ら判断しつつも、その思いを仲間に託す姿勢が描かれている。
立花監督
ベガイル仙台の監督であり、現実的な戦略で上位クラブに挑む指揮官である。
・所属組織、地位や役職
ベガイル仙台・監督である。
・物語内での具体的な行動や成果
天宮杯5回戦でETUと対戦し、「90分無失点から延長、PKへ持ち込む」という耐久戦略を採用した。達海不在と主力欠場を「チャンス」と捉え、慎重に試合へ入ったが、ジーノのFKやカウンターに崩された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
2部で苦しむ立場にありながらも、上位クラブに対して現実的なプランを持つ監督として描かれている。
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展開まとめ
#668
授賞式会場とETUの受賞状況
JFリーグジャパンアウォーズが開催され、優勝クラブ表彰は鹿島、優勝監督賞はクライトン、フェアプレー賞および最優秀主審・副審賞が発表された。続いて優秀監督賞に達海、ベストヤングプレーヤー賞に椿が選出された。会場ではETUサポーターのコータが興奮して声を上げ、父のゴロウが静かにするよう諫めていた。
最優秀ゴール賞への期待と選考基準の説明
司会は次の発表として最優秀ゴール賞を紹介し、「今シーズンの全ゴールから月間ベストゴールに選ばれた八つのゴールを対象に選考委員会が決定した賞」であると説明した。コータは、ETUの夏木が名古屋戦で決めたスーパーゴールが選ばれると期待していた。
最優秀ゴール賞の結果と夏木の反応
受賞が発表されたのは「第22節 名古屋グランパレス対大阪ガンナーズ、96分のペペ選手のスーパーゴール」であった。コータは落胆しつつも拍手を送り、ゴロウは「海外でも話題になった」と評価した。舞台裏では大阪の選手にからかわれた夏木が不満をあらわにしていた。
受賞者登壇前に起こった異変
司会が「ペペ選手を拍手でお迎えください」と促したが、ステージに現れたのはペペ本人ではなく、別の人物であった。この瞬間にページが切り替わった。
ぺぺ侍乱入と寸劇の開始
ステージ上に姿を現したのは名古屋グランパレスのゼウベルトとカルロスであり、二人は「悪い人間に追われている」と訴えた。直後に不破監督が名古屋の選手を引き連れて登場し、「高額年俸で成績が伴わず監督だけが責められる」と叫び、選手たちに「やってしまえ」と指示を飛ばしたことで寸劇が始まった。
ぺぺ侍の登場と殺陣の披露
ゼウベルトとカルロスが「ぺぺ侍」を呼ぶと、ぺぺが侍姿で登場した。司会は観客へぺぺ侍の登場を告げ、不破監督はぺぺ侍に勝負を挑む芝居を続けた。ぺぺ侍は名古屋の選手を次々と斬る殺陣を披露し、その太刀さばきが会場を沸かせた。
殺陣と得点数の連動演出
ぺぺ侍が斬り倒した人数はステージ上でカウントされ、それが「ぺぺ選手が今季リーグ戦で挙げた得点数」であると司会が説明した。カウントは21まで進み、不破監督が自ら斬りかかり、最後の一太刀が成立した瞬間に「22」が刻まれた。
ダブル受賞の発表
ぺぺ侍が納刀したところで、司会が改めて最優秀ゴール賞受賞を告げ、さらに今季22得点で得点王となったことが紹介された。名古屋グランパレスのペペ選手は二つの栄誉を同時に手にした。ゼウベルトとカルロスは抱きついて感謝を伝え、舞台裏ではスタッフがぺぺ侍の見事な演技とプロ意識を高く評価していた。
スタッフの反応と不破監督への言及
舞台裏では、ぺぺ侍の寸劇が海外でも話題になると盛り上がった一方、「これが通常と思われると困る」との声もあった。控室ではユリが不破監督の熱演に触れ、達海が「この後に解任されたら不破さんは死ぬ」と冗談交じりに返した。コータは寸劇を純粋に楽しんでいたが、ゴロウはやや戸惑っていた。
優秀選手賞の発表開始
司会が優秀選手の紹介を宣言し、会場は再び盛り上がった。ここから各ポジションの受賞者が登壇した。
ゴールキーパー(GK)受賞者
川崎フロンティアの星野は日本のゴールを守る守護神として紹介された。鹿島ワンダラーズの玉置は優勝クラブを支えた要として登場した。清水インパルスの上川は堅実な守備でオレンジのゴールを支え続けた。モンテビア山形の野村は鹿島と並ぶリーグ最少失点を成し遂げた守護神として選ばれた。
ディフェンダー(DF)受賞者
鹿島ワンダラーズからは梶川、江田、綿谷の三名が選出され、それぞれ二冠を支えた中核、“赤き鉄壁”、現代的サイドバックとして紹介された。大阪ガンナーズからはリマン、寺内、小室が選ばれ、フィジカル、将来性、若き力が評価された。ジャベリン磐田の田辺は正確なキックで名を上げ、東京ヴィクトリーの秋森は王者の誇りを体現し続けた。広島の与木は代表でも活躍する闘将として、山形のメンデスは“山の如き”守備リーダーとして紹介。浦和レッドスターの越後は圧倒的カリスマ性を示す存在として、ETUの杉江はチーム躍進の旗頭として大歓声を浴びた。
#669
杉江の入場と会場の熱気
ディフェンダー紹介の最後に杉江がステージへ登場すると、観客席のコータとゴロウは大歓声を上げた。場内の熱気はさらに高まり、次のポジション発表へ進んだ。
ミッドフィルダーの紹介開始
司会はミッドフィルダー10名の登場を告げ、まず“東欧の指揮者”シャリッチを紹介した。ライバルチーム所属のため、コータは反射的にブーイングしようとしたが、ゴロウに制止された。
MF陣の入場と個性の強調
続いて磐田の磯部、川崎フロンティアの八谷、王国が誇るサイド支配者・有田、一年で大きく飛躍した瀬古、アシスト量産の赤崎が登場した。さらに、日本サッカー界を驚かせ続けた椿が姿を現すと、観客席は大いに沸いた。黄金の左足を持つルイジ吉田は名前こそ呼ばれたが姿を見せず、コータは不思議がった。
大阪ガンナーズの中心MFたちの登場
大阪ガンナーズからは説明不要の存在感を誇る志村、潜在能力を一気に爆発させた窪田が紹介された。コータは怪我で欠席の窪田には納得したものの、ルイジ吉田の欠席には疑問を抱いていた。
フォワード陣の紹介開始
司会は続いてフォワード8名の登場を宣言した。まず、ボックス内のグラディエーター・レオナルド、決定機創出に優れた鹿島アンデルソン、二冠達成の原動力となった岩淵、アジアのスナイパー・カン・チャンスが紹介された。
強烈な個性を放つFWたち
ゴール前のハイタワー・ハウアーが奇抜な衣装で登場し、会場からどよめきが起きた。日本語が理解できないハウアーが戸惑う姿に、コータは同情していた。さらに“金狼”畑が姿を見せると、観客席の熱気はさらに上昇した。
人気者の登場と会場の爆笑
宙を舞うストライカー・夏木が紹介されると、コータは夏木の奇妙な髪型に爆笑し、ゴロウに注意された。最後に今季最強のゴールゲッターとしてぺぺが登場し、侍姿のままステージへ現れて再び会場が沸騰した。
優秀選手34名の集結
司会は今季の優秀選手34名が出揃ったと告げ、観客に改めて拍手を求めた。ステージには各クラブの代表選手が並び、授賞式は最高潮の盛り上がりに達した。
欠席選手の理由と反応
司会は、大阪ガンナーズ田選手が怪我治療、ETUルイジ吉田がバカンスのため欠席していると説明した。特に吉田の不在に、女性サポーターたちは強い落胆を見せた。
ETU選出人数への反応
ゴロウは優秀選手賞にETUから5名が選ばれたことに感慨を示した。一方コータは「もっと選ばれてもいい」と不満を述べ、村越、黒田、瀧、世良の名を挙げていた。
ベストイレブン発表への導入
司会は、優秀選手34名の中から今季のベストイレブンを選出すると説明し、受賞者には正賞としてトロフィーと賞金10万円に加えて、選手ごとに異なる副賞が贈られると告げた。この“副賞”という言葉に会場がざわつき、ゴロウはETUからの選出に期待を寄せた。
星野克弘のベストイレブン選出
最初のベストイレブンとして川崎フロンティアGK・星野克弘が発表された。観客席では畑と夏木が「優勝してないのに代表とか忖度だ」と野次を飛ばしたが、星野は「お前らうるせーよ」と即座に返していた。
星野への巨大グローブ副賞
星野が以前「どんなシュートも止めたい」と語っていたことを踏まえ、巨大キーパーグローブが副賞として贈られた。装着したグローブが膨張し続け、星野は破裂を恐れて悲鳴を上げたが、司会はそのまま進行し受賞を締めくくった。
次の受賞者紹介への移行
会場が大いに沸く中、司会は2人目のベストイレブンの発表へ移った。
メンデスのベストイレブン選出
2人目の選出者はモンテビア山形のメンデスであった。山形サポーターは歓喜し、ゴロウもその気持ちに深く共感した。
メンデスへの副賞と観客の反応
メンデスへの副賞は「自宅用大型トレーニングマシン」であり、会場からは「置き場所に困る」「どこに金を使っているんだ」と野次が飛んだ。
達海とユリの控室での会話
控室では達海が「メンデスは自分でも選ぶ」と評価し、一方のユリは「達海のベストイレブンも聞きたい」と話題を広げていた。
越後直の選出とユリの不穏な発言
3人目のベストイレブンは浦和レッドスター・越後直であった。女性ファンから悲鳴のような歓声が上がる中、ユリは越後を見つめ「今だけは独占状態よ」と含みを持たせた一言を残した。
エンディングの小ネタ
授賞式後、メンデスが副賞のトレーニングマシンを無言で触り続け、周囲から「案外気に入ってる」と冷やかされながら締めくくられた。
#670
越後の副賞と会場の熱狂
越後がベストイレブンに選出され、司会は副賞として「越後のブロマイド付きバラ50本」が贈られると発表した。撮影の意図を知らされずに撮られた写真であったため越後は戸惑ったが、「会場に配ってほしい」と促され、複雑な表情のまま女性ファンへバラを配り始めた。女性サポーターは大歓声を上げ、ゴロウもその人気の高さに感心していた。
夏木との人気比較と会場の混沌
ゴロウが越後を絶賛する一方、コータは夏木のワイルドさを推し、ゴロウは「それは男の好むカッコよさだ」と呆れていた。越後のバラ配布と観客の雑談が入り乱れ、会場は混沌とした空気に包まれた。
江田剛央の選出と相撲副賞の発表
次に司会は鹿島ワンダラーズの江田剛央を発表した。観客もコータ達も「妥当」と納得する中、江田の前に相撲力士が登場し、司会は「江田の希望により本物の相撲取りとの一番が副賞」と説明した。現れたのは元大関・鴻鵠山であり、会場は騒然とした。
江田と鴻鵠山の異種格闘技戦
江田は迷わず土俵へ上がり、鴻鵠山と組み合った。江田は相撲の重さを体感しつつも、「世界のどんな強力なストライカーにも当たり負けないセンターバックになる」という自身の理想を思い返し、渾身の力を込めて鴻鵠山を倒した。行司も江田の勝利を宣言し、会場は歓声に包まれた。
江田と鴻鵠山の交流と仲間のツッコミ
鴻鵠山は江田を称賛し、江田も「次は手加減なしで稽古をつけてほしい」と礼を述べた。だが梶川は「相撲が強くなってもファウルになるだけだ」と冷静に突っ込んだ。企画スタッフは鴻鵠山への負担が軽かったことに安堵し、胸を撫で下ろしていた。
越後のバラ配布とアウォーズの混沌
観客席で越後を見守っていた女性記者達。越後が延々とバラを投げ続ける異様な光景に対し、「面白いけど、今年のアウォーズはどんどん混沌としていく」と評し、式典が予測不能に向かっていることを実感していた。司会はそのまま次の発表へ移り、五人目として清水インパルスの浦田尚貴を紹介した。
浦田尚貴の選出と記者たちの評価
浦田がベストイレブンに選ばれると、記者たちは「清水サポーターは嬉しいだろう」「今季の浦田は中心として冴え渡っていた」と評価し、納得の選出として受け止めた。
VR副賞と浦田の混乱
浦田への副賞は“想像力を高めるVRシステム”であった。突然装着された浦田は、空中浮遊や落下映像に翻弄され、最後にはVR内に現れた蟋名監督から祝福されて目を丸くしていた。
杉江落選の予兆と親子の不安
浦田(中盤)が呼ばれたことで、コータは「杉江外れた…?」と不安になり、ゴロウも「後ろから順に発表だから、残念だがその可能性が高い」と認めた。コータは涙目で「ETUから誰か選ばれるよな!?」とすがり、親子は焦燥感を強めた。
志村・八谷の選出と副賞
六人目として大阪ガンナーズの志村春人、七人目として川崎フロンティアの八谷渡が選ばれた。志村には“自宅くつろぎセット”、八谷には“ネルソン監督の等身大パネル”が副賞として贈られた。八谷は大喜びしたが、畑からは「気持ち悪い」とツッコミが入った。
残り枠への焦りと親子の緊張
既に七人が発表され、残りは四枠。ペペの選出は確実なため、実質三枠しか残っていなかった。山形サポーターは「うちは一人出ただけで十分」と複雑な笑みを浮かべつつ、コータは「もう無理だ!」とゴロウに縋りついた。
発表続行と親子の悲鳴
司会が「どんどんいきましょう!」と発表を進めると、親子は「聞きたくない!!」と叫んだが、発表は止まらず八人目へ移行した。
ETUからついに選出:ルイジ吉田
八人目として、イースト・トーキョー・ユナイテッドのルイジ吉田が発表された。コータとゴロウは歓喜し、「やったあー!!」と抱き合った。
赤黒の王子、サプライズ登場
司会はさらに「バカンスに行っていた赤黒の王子が駆けつけた」と宣言。観客が振り向くと、ルイジ吉田が乗馬したままスポットライトの中から登場し、会場は大絶叫に包まれた。
企画者ユリの勝利宣言と会場の爆発的盛り上がり
この演出の仕掛け人であるユリは「越後のバラなんて忘れなさい!ジーノ王子にひれ伏すがいい!」と勝ち誇った。女性観客は歓声を上げ続けた。
椿まで歓声、赤崎のツッコミ
女性陣と同じテンションで歓声をあげる椿に、赤崎は「なんなんだよ椿、お前」と呆れつつツッコんで締めくくられた。
#671
ジーノの白馬入場と会場の騒然
授賞式ではジーノが白馬に乗って入場し、会場の視線を一身に集めた。観客は歓声を上げ、杉江は驚き、夏木は戸惑った。司会が「白馬で会場を一周する」とアナウンスすると、盛り上がりはさらに増した。
観客の熱狂と椿の反応
ジーノが優雅に会場を回ると女性客は陶酔状態となり、椿は赤崎に「すごすぎる」と興奮気味に話しかけた。赤崎は冷静に受け止めていた。
副賞の白馬とジーノの振る舞い
副賞として白馬が贈呈されると伝えられ、ジーノはその白馬を「大切にすべきレディ」と称した。白馬が反応を示し、周囲は驚かされた。
桃田記者と藤澤の評価、有里の策の成功
桃田記者は、ジーノの“バカンス不在”は嘘で、入場演出の準備だったと理解して撮影に没頭。藤澤は、女性陣を虜にしたジーノと、その演出を仕掛けた有里を高く評価した。有里は計画成功に満足していた。
永田会長と達海、ジーノへの評価
永田会長は達海に対し、ジーノがETUからのベストイレブン選出者であると告げ、長年「左足以外に価値がない」と言われてきた彼がついに一流として認められたと感慨を語った。有里は涙を流し、会長も感情を抑えられなかった。達海は二人の反応にやや困惑していた。
ベストイレブン発表と椿の選出
司会が発表を再開し、9人目のベストイレブンとして椿大介を読み上げると、会場は大歓声に包まれた。椿自身も驚きと喜びでいっぱいだった。
椿の選出と祝福の反応
仲間たちが椿を祝福し、夏木は喜びを爆発させた。畑は「もっと堂々としろ」と励まし、椿は緊張しながらも感謝を述べた。
ジーノからの祝福とハグの副賞
ジーノが馬から降りて椿に歩み寄り、「身内が褒められたようで嬉しい」と祝福。司会は椿への副賞として「白馬の王子様からのおめでとうハグ」を発表し、椿は感激した。一方で観客からは「副賞が偏っている」といった声も上がった。
親子の期待と残り二枠の発表
ETU勢が続けて選出され、ゴロウ親子は夏木の選出にも期待を寄せた。司会は残り二枠の発表に進み、10人目として名古屋グランパレスのぺぺを発表。サポーターは歓喜し、親子も納得した様子だった。
ぺぺの副賞「ペペ侍」映像化
ぺぺの副賞は、寸劇で披露した「ペペ侍」の映像化であった。会場は驚きつつも盛り上がり、企画意図には疑問の声も出た。
最後の1人・岩淵の選出
11人目は鹿島ワンダラーズの岩淵斗真。二冠チームのエースという実績もあり、会場は納得の歓声に包まれた。親子も「やっぱりな」と受け止めていた。
岩淵の副賞・アウトドアセット
岩淵への副賞は「アウトドアグッズ一式」。彼の“ホーム偏重”な傾向を踏まえた内容で、鹿島サポーターの一部は不満を漏らす。岩淵自身は複雑そうに受け取った。
ベストイレブン11名の紹介
11名の選手が壇上に揃い、今シーズンのリーグジャパン・ディビジョン1のベストイレブンが正式に発表された。観客は盛大な拍手でこれを祝福した。
次なる発表・MVPへ
司会は授賞式が佳境を迎え、残るはMVPの発表のみであると告げた。会場が期待に包まれる中、MVP発表へ続く形で回が終わった。
#672
MVP発表への高まる期待
会場ではMVP発表が始まろうとしており、観客はメインイベントの到来に大興奮していた。ゴロウは壇上に並ぶ選手たちの豪華さに驚き、誰が選ばれてもおかしくないと感じていた。
コータによるMVP候補4名の分析
コータはMVP投票がリーグ優勝前に締め切られているため、優勝クラブが必ずしも有利ではないと説明した。そのうえで、優勝争いを繰り広げたETUと鹿島から、椿・王子(ETU)、岩淵・江田(鹿島)の4名が候補と推測した。
日本代表での印象と投票への影響
日本代表での活躍が投票に影響する可能性を指摘し、代表経験のある椿、岩淵、江田の3名が強く印象を残していると説明した。さらに椿はU-22での活躍もあり、最も記憶に残りやすいと論じた。
リーグの評価基準から見た王子の有利性
代表活動を評価に含めず「リーグ戦のみ」を基準にすると、リーグで突出して活躍した王子(ルイジ吉田)が最も有利だと整理。周囲はコータの分析に感心し、本人はさらに調子づいていた。
岩淵の不利要素とETUへの期待
岩淵は得点王をペペに奪われたため今回は不利と判断。結果としてETU勢からMVPが出る可能性が高まり、ゴロウ親子をはじめETUサポーターは期待を膨らませた。
MVP発表の開始とチェアマンの登場
司会がMVP発表を宣言し、チェアマンの野々浦が登壇。選手たちは緊張の面持ちで、会場全体が固唾を飲んで発表の瞬間を待った。
鹿島ワンダラーズ・江田剛央の受賞
チェアマンはリーグジャパン・ディビジョン1の最優秀選手賞が江田剛央であると発表。鹿島サポーターは歓喜し、ゴロウ親子も驚きと納得が入り混じった反応を見せた。
江田のMVP選出理由の説明
司会は江田の対人の強さ、空中戦での支配力、スピード、ボックス内での冷静さを高く評価し、日本を代表するセンターバックへ成長したとして紹介。鹿島のリーグ・カップ二冠の原動力であったと述べた。
MVP受賞と会場の反応
江田の名前が呼ばれると会場は大歓声に包まれた。ゴロウは「期待させるようなこと言って」と苦笑し、山形サポーターは「でも説得力あった」と返した。
控室での達海とユリ
達海は「江田なら文句はない」と受け止めつつ、ユリは「結果がわかってても悔しい」と本音を漏らした。達海は越後や秋森の存在感を評価しつつも、現時点では「頭ひとつ抜けているのは江田」と分析した。
達海の本音と永田会長との会話
永田会長に「納得か」と問われると、達海は即答で「んなわけないじゃん」と言い、自分が選ぶなら「椿か王子(ルイジ吉田)」だと述べた。自分自身もユリと同じく悔しいと語った。
投票結果を見た達海の驚き
ユリが投票結果を達海に渡すと、椿が江田とわずか数票差だったことを知り、「マジで惜しかったじゃん」と驚きの声を漏らした。(※椿と江田の僅差を知った正確なタイミング)
江田のスピーチと異様な演出
江田は5歳でサッカーを始めた理由、サッカーが探究心を満たしてくれたこと、勝利の高揚感が人生を決めたことを語った。途中、演出で宙に浮き始め、空中で回転しながらスピーチを続け、会場は騒然。スタッフは「宙を舞ってスピーチしたいなんてクリエイティブ!」と満足していた。
授賞式の締めと控室でのやり取り
親子は「最後までスゴかった」と呆然としつつも、一生に一度の経験に満足していた。控室では達海が「来年はジーノにやらせろ」と冗談を言い、ユリは「王子がやるわけないでしょ」と返した。ただし椿については「椿君ならアリ」と評価した。
票数リストが示す僅差の争い
最後に票数リストが映され、
江田:228票
椿:222票
わずか6票差であったことが明らかになった。
#673
アウォーズ終了と達海の帰り支度
授賞式がすべて終了し、ようやく控室から解放された達海は大きく伸びをしながら「終わった終わった」と疲労をこぼした。不可解な演出の連続に「何を見せられていたのか分からなかった」と本音を漏らした。
ユリへの送迎要求と叱責
達海は当然のように「帰るから送っていってくれ」とユリに頼んだが、ユリは「どこまで王様気取りなのよ」と呆れた。達海が「最優秀監督賞だよ?」と反論すると、ユリは即座に「優秀監督賞ね!」と訂正し、偉そうにして良い理由にはならないと釘を刺した。さらにベストイレブンの取材対応が残っているため、離れられないことを説明した。
王子(ルイジ吉田)の申し出と達海の辞退
その場にいた王子は「馬で送ってあげようか」と申し出たが、達海は時間がかかりそうだと判断して丁寧に断った。
ロビー散策の誘惑とユリの注意
達海は他クラブのサポーターと話す機会があるのは面白いかもしれないと考えた。しかしユリは「ロビーにはサポーターがまだ沢山いるからフラフラしないで!」と警告し、囲まれたら対処できないでしょうと念押しした。
変装したプラン監督との遭遇
達海が控室エリアを出ると、怪しい変装をした人物と鉢合わせた。達海は怪しげに感じて本気で警備員を呼びつけたが、途中で相手がプランだと気づき、「大声出しちゃってゴメンゴメン。知り合いでした。このヤバい人」と警備員に誤解を解いた。
プラン監督が変装して来場した理由
落ち着いた場所に移動すると、プランは変装理由を説明した。リーグを締めくくるアウォーズは世界的にも珍しいイベントであり「生で見たい」と思ったが、自身が日本代表監督として突然現れると会場の注目が自分に集まり迷惑になるため、一般客に紛れて観覧していたのだという。
変装成功への自負と再会の目的
プランは誰にも気づかれなかったと得意げに語り、達海は「捕まらなくて良かった」と苦笑した。さらにプランは、監督の旅立ちを前にどうしても会っておきたかったと打ち明けた。
達海の次の行き先を巡る会話
プランが次の移籍先を問うと、達海は「興味を示すクラブはいくつかあるが、具体的な提示をしてきたクラブは面白くない」と率直に語った。プランは契約を探る意図ではないと慌てて弁解した。
FAカップで注目を浴びた理由
プランは、達海が指揮したFAカップが話題になった背景を説明した。アマチュアクラブの躍進だけでなく、そのクラブを東洋人が率いていたことが欧州で大きな驚きを呼び、メディアも美談として報じたという。プラン自身もそれをきっかけに興味を抱いたと語った。
プロクラブ監督としての壁
プランは欧州のクラブ監督がいまだ同じ人種で占められている現実を挙げ、達海が飛び込もうとしているのは簡単ではない世界であると強調した。
プランの心配と達海の返答
達海は、プランが自分を心配しているのを感じ取り、冗談めかして「優しいね」「ほんと俺のこと大好きだよね」とからかった。プランは照れながら否定しなかった。
達海が語る“支えてきた人々”
達海は自分は常に誰かに支えられてきたと振り返り、イングランドでの監督業、ライセンス取得、選手時代、今季のETUでも味方がいたと語った。「何かあったら頼れ」というプランの言葉にも「元からそのつもり」と素直に応じた。
達海の覚悟と野心
達海は自分の本心を語る中で熱が入り、「勝ちたい」「ぶっ倒したい」「ボッコボコに潰したい」と強い闘志を見せた。プランはその姿に“困難な状況ほど燃える男”であると再認識し、「本当にヤバいのは君の方だよ」と笑った。
翌日のETUでの再始動
翌朝、ETUのグラウンドで達海は選手たちを前に、「天宮杯だ。リーグ戦の借りをドカンと返そうぜ!」と力強く宣言し、チームを再び奮い立たせた。
#674
U-22出発前の壮行と達海の登場
翌朝、五輪最終予選に向けて出発する赤崎と椿がスーツケースを引いてクラブハウス前に現れた。永田会長は「しっかり五輪出場を決めてこい」と激励し、ユリも怪我に気をつけるよう声をかけた。そこへ達海が姿を見せ、代表に合流する二人に声をかけた。
赤崎の説明と代表離脱期間の問題
赤崎は1週間ほどチームを離れると説明し、永田会長は最終予選のカタール戦・ウズベキスタン戦の重要性を語った。赤崎は「次とその次の天宮杯は俺たちいませんからね」と告げ、ETU側の苦境を示した。
達海の“縁起でもない”発言と会長のツッコミ
達海は「カタールに勝ったら途中で戻れよ」と軽口を叩き、すぐ赤崎に否定された。さらに「今日負けたらシーズン終了だから、これが最後の会話かもな」と握手を求め、ユリと永田会長から「その話がいらないんだ!」と総ツッコミを受けた。
椿の決意と赤崎のフォロー
椿は緊張しつつも「俺と赤崎さんで経験を積んで帰ってきます。絶対にチームの助けになります」と決意を語った。達海は「頼もしくなったね」と感心し、赤崎も「今の椿に怖いもんはないですよ」とフォローした。
椿の逃走と達海の締めの言葉
自分で言った熱い言葉に耐えきれず、椿は顔を真っ赤にして「今の発言全部忘れてください!」と走り去った。達海は「気持ちは受け取ったぜ」と笑い、彼らが戻る頃にチームが解散していては気の毒だと冗談を言いながら、天宮杯への気持ちを引き締めた。
ユリとの軽口とシーン転換
ユリは「達海さんが言うと何か企んでそうで怖い」と呆れ、達海は「俺って風邪ひかないんだよ」と胸を張ったが、「そういうところ!」と再びツッコまれた。場面はアウォーズ翌日のETUグラウンドへ戻る。
状況説明と天宮杯の厳しさの共有
達海は選手達に向け、天宮杯を制するには5連勝が必要であること、椿・赤崎が2試合欠場、杉江も準決勝からの復帰見込みであることを説明した。さらに、徳島や仙台のように普段戦わない相手は読みにくく、想定外が発生しやすいと警告した。
敗北=シーズン終了という現実
達海は「負けた瞬間に今季は終了」と強調し、選手達の表情が一気に引き締まった。
天皇杯特有のリスクと精神面の注意
延長・PK戦の可能性、リーグ戦終了後の気の緩みなどを挙げ、油断・慢心・動揺といった落とし穴が無数にあると指摘。「余計なことは徹底的に排除して、次の試合だけに集中しろ」と命じた。
選手の気持ちと達海の噛み合わなさ
達海は「監督のために優勝したいなんて考えは捨てろ」と言ったが、世良が「俺、監督と優勝したいスけど」と反論。亀井も「達海さんのためにタイトル獲りたいと思ってますよ」と真顔で続き、夏木も驚愕した。
達海の“鈍感さ”が露呈
達海が「いやいや自分の成長を…」と話を戻そうとするも、「この人、本当に鈍すぎる」と周囲から呆れられた。そこへ松原コーチが体当たりし、「監督のバカ!鈍感!もう知らない!」と捨て台詞を残して走り去った。
笠野の冷静な一言
状況を理解できず固まる達海を見て、笠野は「やっぱりやべえな、あいつ」とため息をつき、場面は締められた。
深夜の外作業とスタッフの心配
夜、ユリは寒空の下で作戦を練る達海に気づき、「部屋でやればいいのに」と嘆いた。金田は「ピッチにいる方が頭が働くタイプ」と説明しつつも、風邪を心配した。
天宮杯への執念と膨大な分析作業
金田は、達海が天宮杯を「何が何でも獲りたい」と思っていると語った。相手は2部リーグで情報が少なく、スタッフ側の分析量は膨大だった。
スタッフの本音と達海への信頼
ユリが労うと、金田は「死ぬほど大変だが、監督と働くのは楽しい。多分、本人が思ってる以上に全員が達海さんのこと好きですよ」と語った。
達海の体調悪化とユリの怒り
ユリが外を確認すると達海の姿はなく、次の瞬間部屋に戻ってきた達海は顔を真っ赤にし「風邪ひいたかもしんない」と報告。ユリは「バカー!!言わんこっちゃない!!」と怒り、金田も驚いた。
試合当日へ――仙台戦の幕開け
そして場面は天宮杯5回戦「ベガイル仙台 vs ETU」の当日へと移り、物語は次章へ続く。
#675
アウェイ遠征サポーターの動揺
天宮杯5回戦の会場に到着したETUサポーターは、達海が体調不良でベンチ入りしないという報を聞き、大きな衝撃を受けた。遠征してきた彼らは「嘘だろ」「そんなことあるのか」と困惑し、情報源を確認しても事実であることに動揺を深めた。
達海不在が招く不安と指揮官予想
「誰が指揮を執るんだ?」という不安が広がり、松原コーチが代行すると知るとさらにざわめきが起こった。椿・赤崎欠場に加え監督不在という状況は、サポーターに深刻な不安を植えつけた。
羽田への無茶振りと応援強化の呼びかけ
一部サポーターは羽田に「昔みたいに不良スタイルで締めてくれ」と無茶な声を飛ばしたが、羽田は否定しつつ「だからこそ応援が重要だ」と語り、全員で雰囲気をホーム化させる必要性を訴えた。
一発勝負特有の緊張感
ゴロウは「ETUなら勝てると思っていたが、天宮杯は負けたら終わり。達海不在は初めてだ」と気づき、今回が緊急事態であると痛感した。
ETU内部で始まる静かな準備
同時刻、ドレッシングルームでは選手とスタッフがミーティングを開始し、達海不在でも冷静に準備を進めていた。
松原コーチによる指揮宣言
達海が風邪で回復しきれないため、松原が指揮を執ることが発表される。選手たちは不安を抱いたが、松原は強い口調で「安心しろ」と気迫を示した。
金田が明かす達海のゲームプラン
金田は、今日のメンバー選考も戦術も全て達海が考えたものであり、高熱の中でも布団で分析を続けていたと説明した。さらに金田自身も分析内容を完全に把握しており、達海も会場に来ているため、必要な時は助言が届くと選手を励ました。
全員で勝ち取る試合であるという意志統一
金田は「今日の勝利は全員で掴むものだ」と強調し、必ず16強へ進むと締めた。松原は、その締めまで金田に奪われたことに密かに驚いていた。
監督同士の挨拶と松原の虚勢
入場後、松原は仙台の立花監督と握手を交わした。達海不在を惜しむ立花に対し、松原は「今日は私の采配が炸裂するかも」と虚勢を張った。立花はそれを聞きつつ、自陣の状況を思案した。
仙台側が感じた“勝機”
仙台は今季2部で7位と苦しいが、ETUは主力と監督を欠いており、立花は「これはチャンスだ」と判断した。一発勝負の天宮杯では何が起きてもおかしくないと捉えていた。
試合開始と仙台の耐久戦略
両チームが整列し、天宮杯5回戦がキックオフした。立花は「90分無失点で我慢し、延長からPKへ持ち込む」戦略を掲げ、徹底した守備陣形で挑んだ。
ベンチ前の主導権と金田の積極指揮
実際に指示を飛ばしていたのは松原ではなく金田であり、「仙台は5-4-1」「相手の立ち位置を見て回せ」と明確な戦術指示を続けた。立花は松原がほぼ無言であることに気づき、完全にペースを取られていると悟った。
ガブの強引な仕掛けでFK獲得
前線でガブが強引に突破し、仙台DFがたまらずファウル。立花は「ファウルに気をつけろと言ったのに」と嘆き、金田は「いい仕掛けだガブ!」と声を張った。
ジーノの衝撃的な先制FK
フリーキックを任されたジーノは、黄金の左足から完璧な弧を描くシュートを放ち、開始6分でゴール左上へ突き刺した。実況も「ベストイレブンの黄金の左足!」と熱狂し、スタジアムは沸騰した。
静かに観戦する達海の姿
観客席の片隅では達海がフードを深くかぶり、静かに試合を見つめていた。先制点を確認しながらも表情は読み取れず、物語は次の展開へと移っていく。
#676
追加点で主導権を握るETUと後半の展開
ETUは後半開始直後までに二点を追加し、スコアは0-2。仙台は打開のため攻撃姿勢を強めたが、その裏を突く形でETUがカウンターの機会を掴み、試合はさらに動き始めた。
湯沢のロングフィードと世良の加速
GK湯沢のロングフィードが前線のスペースへ落ちると、世良が右サイドから一気にスピードを上げて追いついた。仙台の守備陣は必死に戻るが、世良の運ぶリズムがそれを上回った。
ジーノへの展開と堺の決定打
世良はサイドで時間を作り、動きを確認してからジーノへパス。ジーノは切り返しでDFを外し、そのタイミングで堺がエリアに侵入した。ジーノの正確なラストパスを堺がダイレクトで決め、見事なカウンターが完成した。スコアは0-3となりETUが大きくリードを広げた。
金田の判断と冷静な試合方針
後半十五分で三点差がつくと、指揮権を預かる金田は「仙台がオープンなロングボール勝負に移る」と予測し、「その展開には付き合わない」「クリーンシートで終える」と明確に方針を示し、交代準備も進めた。
達海への声掛けと体調確認
ベンチ上段で観戦する達海の元へ笠野が向かい、三点リードで多少は気が楽になっただろうと声をかけた。達海は体調は問題ないと主張したが、鼻をすすり続ける姿を見た笠野は呆れ、選手が薬を飲めない立場を考えろとたしなめた。
達海の評価とチームの成熟
達海は、金田の統率、夏木の温存、殿山へのキャプテンマークなど、ETUが自分不在でも堅実に試合を運んでいる点を高く評価し、チームの成熟を実感していた。
達海が抱えていた“距離を置く”という迷い
達海は来季新監督を迎えることを見据え、天宮杯では金田や松原に任せた方が良いと考えていた。自分が前面に立つよりも、残る者に経験を積ませるべきだという“現実的”判断だった。
笠野の叱責と迷いの核心
笠野はこの考えを真っ向から否定し、達海が最も現実を見失っていると厳しく指摘した。サポート役に引く姿勢は集団の戦いを妨げるだけであり、達海の迷いは「退任への負い目」から来ていると喝破した。
達海の気づきと自覚
笠野の言葉を受け、達海は自分が選手たちとの距離を勝手に広げ、迷いで行動を曇らせていたことに気づいた。選手のためと思いながら、その実、自分の都合が判断を揺らしていたと理解し始めた。
迷いの根と笠野の核心的指摘
笠野は、達海が最も動揺したのは退任発表の瞬間だったと指摘し、選手のためではなく、自分の不安が行動に影を落としていたと断じた。達海は深く納得し、大きく息をついた。
達海の本音と“覚悟の欠如”
達海は、選手に“自分のキャリアのためのタイトルを獲ってほしい”という本音を語ったが、笠野はそれを「選手と向き合う覚悟の欠如」と切り捨てた。達海は最近の自分がらしくなかったと認め、呆然とした。
選手の大人びた姿勢と達海の迷い
笠野は「選手達の方がよほど大人だ」と告げ、達海の迷いを突きつけた。選手全員が達海のために戦っており、その意志は目の前の試合に表れていると強調した。
試合前の円陣に込められた決意
試合前、丹波を中心に「今日は絶対に負けられない」という強い意志が共有されていた。椿・赤崎・松江ら主力が不在でも勝てる状態にあると確認し、チーム全員が“次の舞台へ進むのは自分たちだ”と決意していた。
高い集中力が示すチーム完成度
笠野は選手たちが極めて高い集中で戦っている姿を示し、「これこそ達海が鍛えたチームの証」だと伝えた。達海は視界が晴れるような感覚を覚え、迷いが消えていった。
止まらない勢いと世良の追加点
その間にも試合は進み、ETUは世良がさらに得点。スコアは0-4となり、チームは達海の想いと自らの意思を胸に勝利へ突き進んだ。
#677
達海の心境の整理と感謝
達海は追加点に沸く選手達を見つめながら笠野へ感謝を伝え、自らが過剰に「来季のチームのこと」を背負い込んでいたと認めた。選手達は十分に強く、自信を持って戦える存在であり、「自分はそんな柄じゃなかった」と、本来の自分をようやく取り戻した。
ETUを去る決断の原点
達海は、ETUを離れようと決めた理由が「こいつらなら大丈夫だと思えたから」であったと語り、必要以上に抱え込んでいたことを反省した。また、無理をした結果風邪をこじらせたことを自嘲気味に振り返った。
笠野との対話と方針転換
笠野は達海の気付きに肯定を示し、達海は「来季以降は笠さん達がいる」と述べ、過度な心配を手放した。その上で達海は、選手に余計な隙を与えないためには「考える暇もないほどのハードトレーニング」でよいと極端な結論を出し、笠野を呆れさせた。
“自分勝手に楽しく”という原点回帰
達海は「最後の1日まで自分勝手に楽しくやる」ことこそ、このチームの取り組みに最も合ったやり方であると断言し、笠野もこれに同意した。
笠野の内心と達海への理解
笠野は内心で、達海が「自分の退任が決まった後のチーム」を率いた経験がないため、タイトルを“置き土産”にしようと焦ったことがむしろ達海らしい判断ミスだったのかもしれないと考えていた。
試合終了と勝利の歓喜
試合はホイッスルとともに0-4でETUの完勝となり、サポーターは「これでラウンド16進出だ!」と歓声を上げた。選手達は互いに抱き合い、勝利の余韻を噛みしめた。
達海の登場と選手達の反応
歓喜の中、世良が観客席の達海を見つける。達海は陽気に手を振り、
「俺がいない割にはまあまあいい試合だったんじゃねーの?褒めてやるよ。今日の気持ち忘れずに、これからも俺のために働くように!」
と上から目線で叫んだ。
これを見た選手達は、
「心配したのに元気すぎだろ!」「偉そうなんだよ!」「ただのサボりじゃねぇか降りてこい!」
と総ツッコミを浴びせ、達海へ容赦なく野次を飛ばした。
16強進出と次戦への懸念
ユリは「バタバタしたけど何とかなった」と安堵する。スタッフ達は「次が問題だ」「抽選で厄介な相手に当たらないように」「椿や赤崎不在で鹿島は勘弁」と不安を語るが、ユリは「そん時はそん時よ」と落ち着いて応じた。
U-22壮行会の開始と仙台戦の振り返り
壮行会では椿と赤崎が細見と仙台戦の話題で盛り上がった。細見は椿・赤崎・達海が不在であった事実に驚きつつも、ジーノや夏木の存在を挙げ、最近のETUの選手層の厚さを認めた。
椿・赤崎への称賛と細見の本音
細見は椿のベストヤングプレーヤー賞・ベストイレブン選出、赤崎の優秀選手賞を讃え、二人がETUを押し上げる存在であると語った。一方で、自身がここ数ヶ月で追い抜かれたように感じていると本音を打ち明けた。
赤崎の評価と綿谷の割り込み
赤崎は細見の海外でのゴール量産を称えるが、そこへ綿谷が割り込み、小室と共に優秀選手賞に選ばれたこと、天宮杯でも勝ち上がっていることを自慢しつつETUを挑発した。
天宮杯の状況と海外移籍の話題
湘南も天宮杯に残っていると知らされると、細見は昇格の勢いを説明した。続いて窪田が、主力不在でも勝ったETUを見た椿・赤崎が海外移籍を考え始めるのではないかと揺さぶり、椿を動揺させた。
窪田の登場と騒然とする会場
その時、リハビリ中の窪田が会場へ姿を見せ、周囲は驚きに包まれた。窪田は退院後すぐにリハビリを開始しており、特別許可で壮行会に参加したことを説明した。
世代別代表戦への思いとプレッシャー
窪田は「今日の試合は世代別代表にとって一つの集大成」であると語り、あえてプレッシャーを与えに来たと宣言した。その言葉には重さと強い励ましが込められていた。
五輪への可能性と窪田の決意
選手達は、順調なら夏頃に復帰する窪田を五輪へ連れて行けるのではと期待を口にしたが、窪田は間に合わないと断言した。そのうえで、だからこそ今日の試合へ思いを託したいと語り、壮行会は真剣さを帯びていった。
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