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2026年 秋十夜転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す

小説「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す8」感想・ネタバレ

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転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す8の表紙画像(レビュー記事導入用) 2026年 秋

大聖女7レビュー
大聖女まとめ
大聖女9レビュー

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. オルコット公爵邸訪問
    2. 筆頭聖女の選定
    3. ロイドの過去
    4. セルリアンの若返り
    5. 聖女風の道化師
    6. グリフォンの卵孵化
  6. 登場キャラクター
    1. 第一騎士団
      1. フィーア・ルード
      2. シリル・サザランド
      3. ファビアン・ワイナー
    2. 第二騎士団
      1. デズモンド・ローナン
    3. 第三魔導騎士団
      1. イーノック
    4. 第四魔物騎士団
      1. クェンティン・アガター
      2. ギディオン
    5. 第五騎士団
      1. クラリッサ
    6. 第六騎士団
      1. ザカリー
    7. 第十三騎士団
      1. カーティス
    8. ナーヴ王国(王族・高位貴族・その他)
      1. ロイド・オルコット
      2. プリシラ
      3. シャーロット
      4. セルリアン
      5. ローレンス・ナーヴ
      6. ノエル・バルフォア
      7. ペイズ
      8. エステル
      9. サヴィス・ナーヴ
      10. コレット・オルコット
    9. ナーヴ王国(300年前)
      1. セラフィーナ
      2. ハダル
      3. ツィー
      4. アルナイル
      5. エルナト
    10. 赤盾近衛騎士団(300年前)
      1. シリウス
    11. 魔物・精霊
      1. ザビリア
      2. ギザーラ
  7. 展開まとめ
    1. 45 公爵邸訪問2 
    2. 【挿話】第二回騎士団長秘密会議 
    3. 46 第一騎士団配属の理由 
    4. 47 道化師の弟子 
    5. 48 聖女デビュー 
    6. 49 危機との遭遇1 
    7. 【SIDE】 オルコット公爵ロイド 「君を守ると誓ったから」 
    8. 【SIDE】 国王ローレンス 「世界か君かであれば、君を選ぶ」 
    9. ザビリア、 「粛清リスト」 を更新する 
    10. 【SIDE】 カーティス「休暇の正しい使い方」 
    11. 【SIDE】 クェンティン「クェンティン・アガター(29歳・独身)、母になる」
    12. セラフィーナと騎士団長食事会(300年前) 
    13. 特別書き下ろし 【SIDEローレンス】 コレット(9歳)、王城のに入る 
    14. 電子書籍特典 【挿話】クラリッサ&デズモンド、クェンティンから母になると宣言される 
  8. 同シリーズ
    1. 同著者の作品
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

本作は、異世界転生・聖女ファンタジー小説シリーズの第8巻である。前世は300年前の大聖女セラフィーナでありながら、現在は第一騎士団の新人騎士として正体を隠して生きる少女フィーア・ルードを主人公とする。 本巻では、オルコット公爵邸を訪問したフィーアが、次期筆頭聖女候補であるプリシラと対面する場面から物語が始まる。その後、サヴィス総長の結婚を祝う出し物を探すため、フィーアは道化師のセルリアンとドリーに弟子入りを志願する。道化師の仲間として「聖女の衣装」を身に纏い、街へプチ武者修行に出たフィーアは、偽物のふりをしながら本物の奇跡を次々と起こし、民衆を熱狂させてしまう。
さらに、国王ローレンス(セルリアン)が幼い姿をしている理由や、オルコット公爵ロイドが聖女を嫌う理由となった10年前の悲劇が明かされる。
死んだとされていたロイドの妹コレットが実は眠り続けており、彼女を救うための最後の希望として、フィーアが発見した「大聖女の薔薇」が託されるという、物語の核心に迫る展開が描かれている。

■ 主要キャラクター

  • フィーア・ルード:第一騎士団の新人騎士。前世は300年前の大聖女セラフィーナの記憶と力を持つ。道化師の弟子として「なんちゃって聖女」を演じながら街へ繰り出すが、隠し切れない規格外の力で人々の怪我や病気をあっさりと治癒してしまう。
  • セルリアン(ローレンス・ナーヴ):道化師の少年であり、その正体は真の国王。10年前にコレットの命を救うため、精霊王の力で彼女の時を止めた代償として、自らの命を削り若返り続けている。限界が近づくコレットを救うため、フィーアに未来を賭ける。
  • ロイド・オルコット(ドリー):オルコット公爵であり、道化師ドリー。過去の悲劇から聖女に不信感を抱いていたが、惜しみなく人を救うフィーアの姿に大聖女の面影を見出し、純粋な尊敬の念から彼女に友人となることを申し込む。
  • コレット・オルコット:ロイドの妹であり、セルリアンの婚約者だった聖女。10年前に瀕死の重傷を負った際、セルリアンの願いにより時を止められ、現在も眠り続けている。
  • クェンティン:第四魔物騎士団長。従魔のグリフォンが育児放棄した卵を騎士服の腹部に入れて温め、「間もなく母になる」と宣言して周囲の騎士団長たちを戦慄させる。

■ 物語の特徴

正体を隠しているはずの主人公が、無自覚に奇跡を起こして周囲を驚愕させるという痛快なコメディ要素と、世界の根幹に関わるシリアスな人間ドラマの絶妙なバランスが本作の最大の魅力である。
本巻では、聖女の扮装をしたフィーアが街中で「聖水」と称して回復薬をばらまき、民衆から本物の聖女として熱狂的に支持される「聖女デビュー」の爽快な展開が描かれる。
一方で、セルリアンの若返りの呪いや、ロイドが抱える長年の苦悩といった重い過去が明かされる。
10年間絶望の中で奇跡を探し続けた彼らが、フィーアの無私無欲な姿に大聖女の希望を見出し、切実な願いを託すシーンは非常に感動的であり、笑いと涙の双方を深く味わえる点が読者にとって最も興味深いポイントとなっている。

書籍情報

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 8
著者:十夜 氏
イラスト:chibi  氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2023年02月15日

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

聖女の扮装をした大聖女が起こす奇跡は……本物!?オルコット公爵邸でのお茶会に招かれたフィーアは、筆頭聖女候補であるプリシラを紹介され……。さらに、サヴィスの婚姻話を聞いたフィーアは、道化師たちに弟子入りして、最高の出し物を披露することを思いつく。「衣装の試着がてら、プチ武者修行に行かないか?」セルリアンの提案により、聖女の扮装をしたフィーアは、道化師の仲間として街へと繰り出すことになり!?書き下ろしは、ロイドとセルリアンの過去編二本、ザビリアの「粛清リスト」第二弾、カーティスの休日の過ごし方、クェンティンが「母親」になる話、そして300年前の騎士団長たちとフィーアの食事会を大ボリュームでお届け!

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 8

感想

本巻でも、正体を隠しているはずのフィーアが、無自覚のまま規格外の奇跡を起こしていく。

本人は目立たず、普通の騎士として過ごしているつもりである。

しかし実際には、道化師へ弟子入りし、聖女の衣装で街へ出かけ、人々の傷や長年の不調を次々と治してしまう。

思わず「またやりおった」と笑いたくなる展開の連続だった。

その一方で、セルリアンが若返り続ける理由や、ロイドが聖女を嫌うようになった過去も明らかになる。

前半の明るい騒動から一転し、後半では十年間眠り続ける少女コレットを巡る切実な物語が描かれた。

笑いと痛みの落差が大きいからこそ、最後に託される願いが強く心に残る一冊だった。

オルコット公爵邸で出会う次期筆頭聖女候補

物語は、フィーアたちがオルコット公爵邸を訪れる場面から始まる。

オルコット公爵ロイドは、自ら玄関まで迎えに出る。

さらにフィーアの皿にだけ、ストロベリータルトを三切れも用意していた。

友人への特別扱いだと説明するロイドに対し、シリル団長は安っぽい賄賂だと切り返す。

二人の間には明らかな対抗心がある。

しかしフィーアは、そのやり取りを「本当に仲がいいのね」と受け取っている。

周囲が緊張する中、一人だけ遠慮なくタルトを食べ続ける姿も相変わらずだった。

公爵邸では、ロイドの養女となったプリシラ聖女と対面する。

プリシラは次期筆頭聖女の最有力候補である。

美しいピンク色の髪を持ち、自分の能力にも強い自信を持っている。

しかし、聖女ではないフィーアには興味を示さず、騎士と聖女では会話も成り立たないと考えていた。

聖女の中でも、強い者が高く扱われる。

それ以外の存在は比較対象にすらならない。

その価値観はかなり傲慢に見える。

ただ、幼い頃から大聖堂で「聖女の力は奇跡である」と教えられ続けてきたことを考えると、プリシラ個人だけの問題とも言い切れない。

彼女は、その環境の中で正しいと教えられた振る舞いをしているだけなのだろう。

傷を治そうとしないプリシラ

公爵邸で、デズモンド団長が割れたカップによって手を負傷する。

血が流れるほどの傷である。

部屋にはプリシラとシャーロットという二人の聖女がいるため、フィーアは当然のように治してもらえばよいと考える。

ところが、プリシラは回復魔法を使おうとしない。

一度公爵家の客人を治せば、今後も同じ対応を求められる。

そのような前例を作るべきではない。

聖女の力は限られているため、定められた業務以外で簡単に使うべきではない。

プリシラの考え方には、一応の理屈がある。

回復魔法は無限に使えるものではない。

魔力を使い切れば、必要な時に治療ができなくなる可能性もある。

しかし、目の前で怪我人が血を流している。

それでも自分の立場や将来の前例を優先する態度には、聖女とは何なのかを考えさせられた。

フィーアにとって回復魔法は、苦しんでいる人を助けるための力である。

そのため、怪我を治したいから治すという考え方を、子どもの発想だと否定されても理解できない。

この二人の違いは、能力の差よりも、力を何のために使うのかという価値観の差なのだと思う。

勇気を出したシャーロット

プリシラが治癒を拒む中、シャーロットが勇気を出して手を挙げる。

シャーロットは他の聖女の前に立つと、自分の能力に自信を失ってしまう。

幼い頃から経験豊富な聖女たちに囲まれ、自分の魔法を高く評価されてこなかったからだ。

それでも今回は、自分からデズモンド団長の怪我を治したいと申し出る。

デズモンド団長は遠慮して断ろうとする。

しかしフィーアは、好意を受け取らない人がいるから、聖女が自由に力を使いにくくなるのだと説得する。

怪我をして痛い。

だから治してほしい。

その気持ちのまま頼ればよい。

フィーアの考え方は、とても単純である。

しかし、物事を複雑にしていた立場や慣習を取り払い、誰かを救いたいという本質へ戻してくれる。

シャーロットは緊張しながらも回復魔法を発動し、デズモンド団長の手の傷を完全に消し去る。

デズモンド団長から優秀な聖女だと称賛され、シャーロットが頬を染める姿には胸が温かくなった。

フィーアは直接魔法を使っていない。

それでも、彼女の言葉がシャーロットの背中を押し、聖女としての成長につながっている。

フィーアの本当の力は、奇跡的な魔法だけではない。

周囲の人間が本来持っていた優しさや勇気を、自然に引き出してしまうところにもあると感じた。

プリシラの傲慢さだけでは終わらない

シャーロットが評価される姿を見て、プリシラは自分でも同じ程度の傷なら簡単に治せると対抗心を見せる。

さらに、赤い髪を持ちながら聖女ではないフィーアを、宝の持ち腐れだと批判する。

それに対してフィーアは、プリシラもタルトが欲しいのだと勘違いする。

真剣に怒っている相手へ、残っているタルトを分けると提案する。

あまりにも話がかみ合っておらず、思わず笑ってしまった。

ただ興味深かったのは、それまで他人にほとんど関心を持たなかったプリシラが、フィーアに対してだけは感情を露わにしている点である。

ロイドも、フィーアがプリシラの庇護欲を刺激しているのではないかと面白がる。

プリシラはフィーアを見下している。

しかし同時に、赤い髪を持ちながら聖女の常識を何も知らない彼女を放っておけないのかもしれない。

価値観は大きく異なる。

それでも、完全に無関心ではいられない。

今後フィーアとの関わりによって、プリシラがどのように変わるのかも気になるところである。

ロイドが心の底から聖女を嫌う理由

公爵邸で、プリシラはロイドの私室に飾られていた少女の肖像画について尋ねる。

青銀色の髪をした少女は、ロイドの妹コレットだった。

ロイドは、妹は十年前に亡くなったと説明する。

ところがプリシラは、聖女なら自分で病気を治せばよかったのではないかと口にする。

その瞬間、ロイドの顔色が目に見えて青ざめる。

普段は何を考えているのか分からないロイドが、感情を隠し切れなくなった場面だった。

帰り際、ロイドはフィーアへ、自分がかつて騎士を目指していたと語る。

十二年前には、騎士になって守りたい存在がいた。

しかし今は、その存在を失ってしまった。

だから騎士になる意味もなくなった。

ロイドが守りたかったのは、間違いなく妹のコレットだろう。

さらにロイドは、鮮やかな赤髪を持ちながら聖女ではないフィーアの存在を、最高の皮肉だと評する。

その言葉と暗い笑みを見て、フィーアは初めて気づく。

ロイドは心の底から、聖女を嫌っている。

普段のロイドは飄々としている。

誰に対しても軽口を叩き、深刻な感情を見せない。

しかし、その内側には十年間消えることのなかった怒りと絶望が残っていた。

フィーアが第一騎士団へ配属された理由

公爵邸訪問後、ファビアンはフィーアが第一騎士団へ配属された理由を説明する。

第一騎士団は、基本的に十年以上の経験を持つ騎士が所属する場所である。

それにもかかわらず、新人のフィーアとファビアンが配属された。

フィーアは、自分の入団試験の成績がよかったからだと信じていた。

しかし、思い返せば試験中に兄へ麻痺をかけた後、三分間立ち尽くしていただけの場面もある。

十年分の経験を埋めるほどの高評価だったとは考えにくい。

本当の理由は、フィーアの鮮やかな赤髪にあった。

教会は赤い髪を尊び、代々の筆頭聖女の周囲には赤髪の騎士を配置してきた。

近く新たな筆頭聖女が選ばれれば、専用の近衛騎士団が作られる。

フィーアは、その団員候補として第一騎士団へ集められた可能性が高い。

大聖女の生まれ変わり本人が、赤髪だからという理由で筆頭聖女の護衛に選ばれようとしている。

何とも皮肉な状況である。

しかも本人は、自分が聖女の中でも最上位の存在だったことを隠している。

今後、プリシラの近衛騎士として仕える展開になれば、さらに大きなすれ違いが起きそうである。

サヴィス総長の婚約祝いに道化師へ弟子入りする

新たな筆頭聖女が選ばれれば、サヴィス総長との婚約が進む可能性がある。

その話を聞いたフィーアは、素直に結婚を喜ぶ。

そして、祝いの席では若い騎士が余興を披露するものだと考える。

第一騎士団で最も若い自分の出番に違いない。

そこから、道化師へ弟子入りするという結論に飛ぶのがフィーアらしい。

国王面談で出会ったセルリアン、ロン、ドリーは、一流の道化師である。

彼らから芸を教えてもらえば、サヴィス総長を喜ばせる出し物ができる。

ファビアンも誘われるが、危険を察知して即座に逃げる。

ファビアンの判断は正しいと思う。

フィーアが何かを思いついた時、それが普通の余興で終わる可能性は低い。

それでもフィーアは、一人で国王の執務室へ向かい、セルリアンへ弟子入りを申し込む。

そこで初めて、ドリーがロイド・オルコット公爵、ロンがノエル・バルフォア公爵であることに気づく。

国王と二人の公爵が道化師に扮している。

その事実を知ったフィーアが、この国は大丈夫なのかと本気で心配する場面には笑ってしまった。

これまで道化師の正体を次々と見抜いてきたフィーアだが、正体を知るたびに王国への信頼を失っているように見える。

セルリアンがサヴィスへ背負わせたもの

道化師たちは、単に遊びたいから正体を隠しているわけではない。

ロンとドリーは、若返り続けるセルリアンを心配し、そばにいるため道化師になった。

国王と二人の公爵は幼馴染である。

高い地位や責任を背負いながらも、道化師の姿でいる間だけは昔の関係へ戻れるのかもしれない。

フィーアから兄なのだからサヴィス総長を支えるべきだと言われたセルリアンは、自分の過去を語り始める。

若返りが始まった頃、セルリアンは何もかもが嫌になり、国王として背負っていたものを一度投げ出してしまった。

その重荷をすべて引き受けたのが、弟のサヴィスだった。

かつてのサヴィスは、今よりも感情を表に出す人物だった。

よく笑い、怒り、一人ですべてを背負い込むような性格でもなかった。

しかし兄に代わって国の未来を引き受けたことで、現在のように重々しく、感情を抑える人物になった。

セルリアンは、自分が逃げる選択をした一方で、サヴィスは引き受ける選択をしたのだと悔やむ。

普段は子どもの姿で自由に振る舞うセルリアンだが、弟に背負わせたものを忘れてはいない。

軽い言動の奥にある罪悪感が見えた場面だった。

物より思い出を贈る

フィーアは、セルリアンにも婚約祝いの余興へ参加するよう誘う。

セルリアンは、すでに珍しい剣や鎧、魔石を贈るつもりでいた。

しかしフィーアは、金で買える物だけでは真心が伝わらないと言う。

剣や鎧は壊れる。

しかし思い出は、いつまでも残る。

素晴らしい出し物を見せれば、サヴィスはセルリアンのことをずっと覚えている。

この言葉に、セルリアンは強く心を動かされる。

サヴィスに自分を覚えていてもらいたい。

その反応は、少し不自然なほど切実だった。

この時点では、なぜセルリアンが「覚えていてもらう」ことに強く反応したのか、フィーアには分からない。

しかし後に明らかになる事実を考えると、この言葉は非常に重い。

セルリアンには、残された時間が限られている。

だからこそ、弟の記憶に残る何かを渡したかったのだと思う。

本人に深い意図はなかったとしても、フィーアの言葉はいつも相手の心の奥へ届いてしまう。

聖女の衣装で街へ出るフィーア

道化師の弟子としての修行を始めるため、フィーアはドリーが作った聖女風の衣装を着る。

鮮やかな赤髪に、赤と白の華やかなドレス。

見た目だけなら、誰が見ても高位の聖女である。

本物の大聖女が、聖女であることを隠すために騎士となり、今度は道化師の修行として偽物の聖女を演じる。

状況が複雑すぎて面白い。

セルリアンとドリーは、衣装への街の反応を見るため、フィーアを中央広場へ連れ出す。

セルリアンは角のないユニコーン。

ドリーは幻の鳥ツァーツィー。

フィーアは三百年前の大聖女を意識した聖女役である。

あくまで道化師として人々を楽しませるための出し物だった。

しかし、フィーアが聖女役を演じて、それだけで終わるはずがない。

なんちゃって聖女が起こした本物の奇跡

中央広場で、一人の少年が転んで膝を擦りむく。

フィーアは、聖女役として少年を治療することにする。

噴水の水と薬草を使い、魔力を込めた回復薬を作る。

セルリアンにはユニコーンの鈴で水を浄化する演技をさせる。

完成した緑色の水を少年の膝へかけると、傷は跡形もなく消える。

見物人たちは演技だと思っていた。

しかし、本当に傷が治ったことで笑顔を失い、驚きに包まれる。

フィーアは余った回復薬を「聖水」と呼び、その場にいる人々へ振りまく。

水を浴びた人々は、動かなかった指が動くようになり、長年痺れていた足まで回復したことに気づく。

ちょっとした道化師の出し物だったはずが、本物の奇跡になってしまった。

しかもフィーアは、回復薬の効果をユニコーンとツァーツィーの力だと説明する。

優しい人ほど効果が長く続くと付け加えることで、人々は奇跡だけでなく温かな気持ちまで持ち帰る。

フィーア自身は、自分が大聖女だと知られないようにしているだけだろう。

しかし、その振る舞いはまさに、人々へ希望を与える聖女そのものだった。

見返りを求めず癒やしを振りまく姿

広場での出来事を見たロイドは、大きな衝撃を受ける。

ロイドは、貴重な聖石の力を戦場の騎士へ使うべきだと考えていた。

国を守る者。

価値のある者。

助ける優先順位を無意識に決めていた。

しかしフィーアは、目の前に苦しんでいる人がいれば、身分や立場を考えずに助ける。

子ども。

老人。

兵士ではない一般の人々。

誰であっても区別しない。

しかも、感謝や報酬を求めない。

魔力を使ったことすら隠し、すべてを演技として終わらせようとする。

その姿を見て、ロイドはフィーアに大聖女の面影を重ねる。

聖女を心から嫌っていたロイドが、フィーアの在り方だけは否定できなかった。

力の強さではない。

力を何のために使うか。

フィーアが見せた無私無欲な行動が、ロイドの固まっていた価値観を動かしたのだと思う。

重病のエステルを救う

広場を離れた一行の前に、ペイズ伯爵が現れる。

伯爵は、重い病に苦しむ娘エステルを救ってほしいと懇願する。

セルリアンとロイドは、その頼みへ強い反発を示す。

十年前、コレットが命を失いかけていた時、ペイズ伯爵は彼女を助けようとしなかった。

聖女なら自分で治せばよい。

そんな言葉が投げかけられた場にいながら、何も言わなかった。

それにもかかわらず、自分の娘が病に倒れると助けを求める。

二人が身勝手だと怒るのも無理はない。

しかしフィーアは、病に苦しむエステル本人を見捨てることができない。

寝台の上で血を吐きながらも、病がうつるから離れるよう周囲を気遣うエステルを見て、助けると決める。

フィーアは一方的に回復魔法をかけるのではなく、エステル自身に体の悪い部分を見つけさせる。

胸と背中にある異常へ、自分の魔力を集中させるよう教える。

エステルにも聖女としての力があった。

しかし魔力の出口が狭く、持っている力を十分に使えていなかった。

フィーアはその出口を広げ、自分の魔力も補う。

その結果、長く苦しめていた病は完全に消え去る。

病気を治すだけではなく、本人が自分の力を使えるよう導く。

ここでもフィーアは、目の前の人間を一方的に救済するのではなく、その人自身が前へ進むための力を与えていた。

深入りするなと警告するカーティス

エステルを救った後、カーティスはフィーアへ強い警告をする。

セルリアンとロイドが抱えているものは、暗く、重い。

彼らを救おうとすれば、フィーアの正体が明るみに出る。

さらに、サヴィスとシリルも同じ問題の中にいる。

このまま関わり続ければ、フィーアはいずれ精霊を呼ぶことになる。

カーティスの言葉は、これまでになく厳しい。

彼はフィーアの力を誰よりも信じている。

同時に、その力を使えば彼女自身が危険になることも理解している。

フィーアなら、セルリアンたちを救えるかもしれない。

しかし、そのためには大聖女であることを隠し続けられなくなる可能性が高い。

助けられるから助ける。

フィーアはいつも、そのように行動する。

だが今回は、救おうとする相手が背負っているものが大きすぎる。

フィーア自身の未来まで変えてしまう分岐点に近づいているように感じた。

フィーアと友人になりたいロイド

街での行動を見たロイドは、改めてフィーアへ友人になってほしいと頼む。

以前は、面白い人物だから近づきたいという好奇心が強かった。

今回は違う。

フィーアを心から尊敬し、彼女のそばでよりよい人間になりたいと語る。

聖女への憎しみを抱き、人を助ける価値を無意識に選別していた自分を変えたい。

フィーアの在り方を見て、そう思ったのだろう。

フィーアは押しの強さに負けた形ではあるが、友人になることを受け入れる。

そしてついに、オルコット公爵ではなくロイドと名前で呼ぶようになる。

ロイドが長く求めていた関係が、ようやく形になった。

ただし、友情を結んだ直後に、ロイドとセルリアンは最も重い秘密を打ち明ける。

亡くなったのではなく眠り続けているコレット

ロイドの妹コレットは、十年前に亡くなったのではなかった。

現在も、時間を止められた状態で眠り続けている。

十年前、コレットは命を失いかけていた。

その時、婚約者だったセルリアンは、精霊王の力を使って彼女を救おうとした。

コレットを死なせないでほしい。

その願いによって、コレットの時間は止まった。

しかし、奇跡には代償が必要だった。

使われているのは、セルリアン自身の命である。

セルリアンが一年ごとに一歳ずつ若返っていたのは、精霊の祝福による特殊な体質ではなかった。

コレットの時間を止め続けるため、彼の命が毎年削られていたのだ。

幼い姿になっているのは、命の残量が減り続けていることの表れだった。

この事実には大きな衝撃を受けた。

第7巻では、若返り続ける国王という奇妙で少しコミカルな設定に見えていた。

しかし、その実態は、愛する人を生かすために自分の命を差し出し続けている状態である。

セルリアンが王位をサヴィスへ譲ろうとしている理由も、残された時間が限られているからだった。

世界よりもコレットを選んだセルリアン

セルリアンにとって、コレットは幼い頃から特別な存在だった。

権力や駆け引きが渦巻く王城で、打算なく自分を慕ってくれる唯一の存在。

失敗して毒入りの料理を作ってしまっても、自分のそばで心から心配してくれる少女。

コレットが聖女と認定された時、セルリアンはその場で結婚を申し込む。

王族は聖女としか結婚できない。

制度として決められた相手ではなく、自分が愛した少女が聖女だった。

二人は互いを幸せにすると誓い合っていた。

しかし、その未来は十年前に止まってしまった。

セルリアンは王位や世界よりもコレットを選ぶ。

国王としての責任を投げ出し、彼女を目覚めさせる方法だけを探すと決める。

その重責を引き受けたのがサヴィスだった。

兄が愛する人を選んだことで、弟は国の未来を背負うことになる。

誰かを愛する気持ちは美しい。

しかし、その選択によって別の誰かが犠牲になっている。

セルリアン自身も、そのことを理解しているからこそ苦しみ続けているのだろう。

ロイドが十年間探し続けた奇跡

ロイドもまた、十年間コレットを救う方法を探し続けてきた。

妹の時間は止まっている。

しかし、体は少しずつ痩せ衰えている。

永遠にその状態を保てるわけではない。

精霊王の力を解除する方法は見つからない。

現代の聖女では、状態異常を解くこともできない。

ロイドは、大聖女が生きていれば救えたはずだと考える。

しかし、大聖女は三百年前に亡くなっている。

存在しない奇跡を探し続けるしかなかった。

そのロイドの前に、フィーアが現れる。

誰にも見抜けなかった国王の正体を見破る。

精霊王の呪いに気づく。

失われた大聖女の薔薇を発見する。

惜しみなく回復の力を振りまく。

ロイドにとって、フィーアとの出会いは偶然とは思えなかったのだろう。

大聖女の薔薇が、コレットの命の期限が近づく時期に現れた。

そこに、最後の希望を見いだすのも無理はない。

大聖女の薔薇へ託された最後の希望

フィーアが発見した大聖女の薔薇には、花びらごとに異なる効能がある。

麻痺。

攻撃力の上昇。

疲労回復。

本音を引き出す効果。

状態異常を発生させる力があるなら、状態異常を解除する力を持つ花びらも存在するかもしれない。

騎士団長たちが薔薇の紅茶を飲んだ時、フィーアにだけ変化が起きなかった。

ロイドは、フィーアが状態異常解除の花びらを引いたのではないかと考える。

本人には異常がなかった。

そのため、何も起きなかったように見えただけではないか。

その推測が正しいなら、コレットを眠りから目覚めさせられる可能性がある。

セルリアンとロイドは、薔薇の花びらの中から、コレットを救う一枚を選んでほしいとフィーアへ願う。

科学的な根拠があるわけではない。

確実に成功する保証もない。

それでも二人は、フィーアが関わる時だけ正しい道筋が現れると感じている。

十年間、あらゆる方法を試しても何も見つからなかった。

その末に、目の前に現れた少女へ最後の希望を託す。

二人の切実さが痛いほど伝わってくる場面だった。

フィーアは奇跡そのものではなく、希望を選び直させる存在

フィーアは、何でも簡単に解決できる万能な主人公ではない。

セルリアンの呪いを見ても、すぐには解除できない。

コレットの状態についても、この時点で確実な治療法を提示できるわけではない。

それでも、絶望していた人々へ、もう一度希望を持たせる。

ロイドは聖女を憎み続けていた。

セルリアンは自分の未来を諦めていた。

二人とも、十年間探し続けた末に疲れ果てていた。

そんな彼らが、フィーアの行動を見て、再び奇跡を信じようとする。

フィーアは、ただ強い回復魔法を使うだけの存在ではない。

人が諦めていた未来を、もう一度選び直させる存在なのだと思う。

本人はその重さを理解せず、目の前の相手を助けたいと考えているだけである。

だからこそ、その優しさには打算がなく、周囲の心を動かすのだろう。

コメディの裏側に積み重なっていた悲しみ

第8巻の前半には、笑える場面が多い。

フィーアがタルトを三切れ食べる。

プリシラの怒りを、タルトが欲しいのだと勘違いする。

国王と公爵が道化師になっている事実を知り、国の未来を心配する。

聖女の衣装で街へ出て、道化師修行のはずが本物の奇跡を起こす。

どの場面もフィーアらしく、明るく楽しめる。

しかし後半で真実が明らかになると、それまでの場面の見え方も変わってくる。

子どもの姿で自由に笑うセルリアンは、命を失い続けている。

軽薄に見えたロイドは、十年間妹を救う方法を探している。

二人が道化師として一緒にいるのは、苦しい現実から少しだけ離れ、昔の関係へ戻るためでもあったのかもしれない。

明るさの下に隠されていた悲しみが見えることで、物語に大きな深みが生まれていた。

シリウスとセラフィーナの穏やかな食事会

三百年前の過去編では、セラフィーナと騎士団長たちの食事会が描かれる。

セラフィーナは魔力を大量に使うと、強い空腹を感じる。

食事を取ることで魔力が回復するため、通常の聖女よりも多く食べる必要がある。

しかし王女として、小食で上品に振る舞おうとしていた。

騎士団長たちの前で食べる量を抑えるものの、腹の音をシリウスに聞かれてしまう。

シリウスは彼女が遠慮せず食べられるよう、騎士団長たちにも料理を勧め、場の注意を分散させる。

セラフィーナが苦手な食べ物を前に困っていると、自分で食べてしまう。

そして最後には、満足したかと優しく尋ねる。

セラフィーナは十分に食べていなかった。

それでも、胸が満たされたように感じて頷く。

後になって再び空腹を覚え、なぜ満足したと答えたのか分からず首を傾げる。

本人だけが、シリウスに優しくされて心が満たされたことへ気づいていない。

このすれ違いが微笑ましくも切なかった。

現在の重い物語の中で、三百年前の二人の穏やかな時間は小さな救いになっていた。

笑いと涙が自然につながる一冊

『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 8』は、前半と後半で大きく印象が変わる。

前半では、フィーアの無自覚な行動によって騒動が広がっていく。

聖女の衣装を着て街へ出る。

擦り傷を治す。

余った回復薬を人々へ振りまく。

長年の不調まで治してしまう。

道化師の修行だったはずが、完全に大聖女としての活動になっている。

その痛快さには何度も笑わされた。

一方で後半では、セルリアンとロイドが抱えてきた十年間の絶望が明かされる。

眠り続けるコレット。

命を削り続けるセルリアン。

妹を救えなかった自分と聖女を憎むロイド。

兄の代わりに国を背負ったサヴィス。

誰か一人だけが悪いわけではない。

それぞれが大切な人を守ろうとした結果、傷が連鎖している。

だからこそ、フィーアの存在が一筋の光として際立っていた。

読後に残ったのは、奇跡を願う二人の切実さ

本巻で最も心に残ったのは、セルリアンとロイドがフィーアへ大聖女の薔薇の花びらを選んでほしいと願う場面だった。

二人は国王と公爵である。

本来なら、多くの人間へ命令できる立場にいる。

しかし、コレットを救うことだけは権力でも金でも解決できなかった。

十年間探し続け、最後には一人の少女へ頭を下げるしかない。

その姿から、どれほど追い詰められているのかが伝わってくる。

フィーアは、自分が大聖女であることを隠している。

それでも彼女が起こした奇跡や、見返りを求めない行動は、隠しているはずの本質を少しずつ周囲へ伝えている。

ロイドが彼女に大聖女の面影を見たのも当然だろう。

託された一枚の花びらが、本当にコレットを目覚めさせるのか。

目覚めたとして、病を治すことができるのか。

セルリアンの失われた命は戻るのか。

そして、カーティスが警告した精霊の存在へ、フィーアはどのように関わっていくのか。

笑いながら読んでいたはずが、最後には切実な願いの行方が気になって仕方がなくなる。

フィーアの明るさと無私の優しさが、絶望に沈んでいた人々の未来を少しずつ動かし始める、温かくも胸を締めつけられる一冊だった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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大聖女7レビュー
大聖女まとめ
大聖女9レビュー

考察・解説

オルコット公爵邸訪問

作中におけるオルコット公爵邸への訪問は、物語の大きな転換点となる重要なエピソードである。本稿では、訪問に至った真の目的から公爵邸で起きた一連の出来事、そして明かされた重大な秘密と「真の依頼」について詳しく解説する。

公爵邸訪問の目的と経緯

シリル第一騎士団長とデズモンド第二騎士団長がオルコット公爵邸を訪問した真の目的は、次期筆頭聖女の最有力候補として公爵の養女となったプリシラ聖女の見極めである。

次代の筆頭聖女には専用の近衛騎士団が新設される予定であり、大聖女を象徴する鮮やかな赤い髪を持つフィーアや、同期のファビアンがそこに配属される可能性があった。そのため、以下の点を確認するべく、フィーア、ファビアン、王城の聖女シャーロットを伴って訪問が行われた。

・プリシラが赤い髪の騎士をどのように受け入れるか

・プリシラがどのような人物であるか

プリシラとの対面とシャーロットの活躍

公爵邸で対面したプリシラは「聖女と騎士には接点がない」と語り、フィーアたちに対して冷淡な態度をとる。

面会の最中、デズモンド団長が誤って割れたティーカップで手を負傷する事態が発生した。しかし、プリシラは「聖女の力は奇跡であり、怪我を治したいからと安易に使用するべきではない」として治癒を拒否した。

これに対し、普段は他の聖女の前で自信を持てないシャーロットが勇気を出して治療を申し出る。彼女が短時間で跡形もなく傷を完治させたことで、ロイド公爵やデズモンド団長からその有能さを高く称賛される結果となった。

肖像画の秘密とロイドの動揺

その後、プリシラはロイドの私室で目にした「青銀色の髪を持つ聖女の肖像画」について尋ねる。ロイドは、それが10年前に病で亡くなった妹のコレットであると明かした。

しかし、プリシラが「聖女だったのなら、自分で病を治せばよかったのに」と無神経な発言をしたため、ロイドは顔面蒼白となり激しく動揺する。険悪になりかけた空気は、ファビアンがタルトの話題を出して機転を利かせたことで何とか収束した。

ロイドとの友情と真の依頼

訪問の終盤、ロイド公爵はフィーアに対し、彼女が惜しみなく人々に奇跡(聖石の力)を使う姿に大聖女の面影を見たと語り、友人になってほしいと熱烈に申し出る。

フィーアがそれを受け入れると、ロイドと同席していたセルリアン(道化師に扮した国王)は、物語の根幹に関わる重大な秘密を打ち明けた。

・妹のコレットは実は死んでおらず、精霊王の力によって10年間眠り続けている状態であること

・フィーアが王城で発見した「大聖女の薔薇」の花びらに、失われた大聖女の魔法(状態異常の解除など)が宿っている可能性に最後の希望を見出していること

ふたりは、限界が近づいているコレットを目覚めさせるため、数ある花びらの中からコレットを救う効能を持つ正しい一枚をフィーアに選んでほしいという切実な願いを託したのである。

まとめ

オルコット公爵邸の訪問は、単なる次期筆頭聖女の視察にとどまらず、眠り続けるコレットの救済という物語の核心に迫る展開へとつながる重要な場面である。フィーアが結んだロイドとの友情と託された決断は、今後の物語の展開において極めて大きな意味を持つこととなる。

筆頭聖女の選定

ナーヴ王国における「筆頭聖女の選定」は、単なる能力の評価にとどまらず、王族の婚姻や国家の政治的背景が深く関与する重要な制度である。本稿では、作中における筆頭聖女選定のルールや背景、そして現在進行中である次期筆頭聖女選定を巡る動向について解説する。

筆頭聖女の選定ルールと王族の婚姻

ナーヴ王国では、国王や次代の王となるべき王族が婚姻を結ぶ際、その相手となる新たな筆頭聖女が選定される規則が存在する。選定の基準や特徴は以下の通りである。

・聖女の順位付けは基本的に能力が基準となるが、次代の王と結婚可能かどうかという年齢などの条件も考慮して調整が行われる

・300年前に定められた規則により、聖女は17歳を過ぎなければ結婚できない

・王位継承権第一位であるサヴィス総長が27歳まで独身を貫いているのは、最有力候補とされるプリシラ聖女が17歳になるのを待っていたためと推測される

次期筆頭聖女候補プリシラ

間もなく開催される選定会と、その最有力候補については以下の状況となっている。

・選定会の告知:国中の教会から一斉に告知が発せられ、その2週間後に選定会が開催される予定である

・現在の筆頭聖女:国王とサヴィス総長の母であるイアサント王太后が務めている

・最有力候補の存在:ロイド・オルコット公爵が極秘に養女へ迎えたプリシラ聖女が挙げられる

・プリシラの実力:大聖堂で育った選ばれた聖女であり、市井にまでその名が知れ渡るほど強力な能力を持つ

筆頭聖女の特異な地位と専用の近衛騎士団

聖女は何よりも尊ばれる存在であり、筆頭聖女には特殊な待遇と専用の組織が用意される。

・独立した地位の保持:王と結婚しても王族にはならず独立した存在として扱われるため、前王の死後は王城を離れて離宮で暮らすこととなる

・近衛騎士団の新設:新たな筆頭聖女の選定とサヴィス総長との婚約に伴い、専用の近衛騎士団が新設され、第十三騎士団長のカーティスが団長に就任する予定である

・赤髪の騎士の配属:教会側を厚遇するため歴代の筆頭聖女の護衛には赤い髪の騎士が配置されてきた経緯があり、フィーアやファビアンが第一騎士団に配属されたのも新騎士団への配属を見据えた布石である

過去における選定の歪みと悲劇の火種

政治的な意図や年齢条件を優先した選定は、過去に大きな禍根を残している。

・不当な選定の経緯:シリル団長の母は国一番の実力者であったが、当時15歳で結婚可能年齢に達していなかったため選ばれなかった

・姉の繰り上げ:国王の威光を守ろうとする忠臣たちにより、次席の実力だった彼女の姉が筆頭聖女として王妃に選出された

・悲劇の発端:この評価への不満がシリル団長の母の心に深い傷を残し、後にサザランドの民を巻き込む大きな悲劇(サザランドの嘆き)を引き起こす要因となった

まとめ

筆頭聖女の選定は、能力の優劣だけでなく年齢規則や政治的思惑が複雑に絡み合うシステムである。過去にはその歪みが深刻な悲劇を生んだ歴史もあり、新たに執り行われる選定会とプリシラを巡る動向は、王国の未来を左右する重大な局面といえる。

ロイドの過去

ロイド・オルコット公爵が抱える深い孤独と苦悩は、過去に起きた悲惨な出来事に起因している。本稿では、妹コレットとの幸せな記憶から10年前の悲劇、騎士の道を諦めた理由、そして彼が仲間と共に歩んできた苦難の10年間について詳しく解説する。

妹コレットと永遠を信じた日々

ロイドには1歳下の妹であるコレットがおり、彼女は現在の国王であり道化師セルリアンとして身を隠すローレンスの幼馴染であった。

・幼いコレットが聖女と認定されたことで王族との婚姻が可能になり、ローレンスからの求婚を受けてふたりは婚約を果たした

・ロイドにとって、妹やローレンスと共に公爵邸で笑い合って過ごす日々は、永遠に続くと信じて疑わないほど幸せな時間であった

10年前の悲劇と聖女嫌いの原点

しかし10年前、コレットが重傷を負い大量に出血してロイドの腕の中で命を落としかけるという重大な事態が発生した。

・現場には他の聖女たちも居合わせており、ロイドは自身の持てるすべてを差し出すと訴えて救いを求めたが、彼女たちは魔力を惜しんでコレットを救おうとはしなかった

・この絶望的な体験を通じて、ロイドは誰もが人を救うために魔力を差し出すわけではないと痛感し、聖女という存在全体に対して強い不信感と嫌悪を抱くようになった

騎士の道を捨てた理由

ロイドはかつて騎士養成学校に通っており、第一騎士団長であるシリル・サザランドとは同級生で頻繁に衝突する間柄であった。

・ロイドが騎士を目指した真の理由は守りたい存在である妹の存在があったからであるが、彼女を実質的に失ったことでその目標は完全に消失した

・ロイドにとって騎士団は痛みの記憶を呼び起こすだけの場所となり、自ら騎士への道を諦めて文官へと進路を変更することとなった

セルリアンの犠牲と奇跡を探し続けた10年

絶望するロイドに代わり、コレットの婚約者であったローレンス(セルリアン)は自身に流れる精霊王の力へコレットの助命を強く願った。

・その代償としてコレットは命を繋ぎ止めたものの10年間眠り続ける状態となり、セルリアン自身は毎年1歳ずつ若返り続ける呪いを背負うこととなった

・ロイドは自分たちを救ったセルリアンに深く感謝しつつも、コレットを目覚めさせる手立てを求めて禁書を読み漁るなど、10年間にわたり報われない探索を続けて苦しみ抜いた

まとめ

ロイドが抱える悲痛な過去と聖女への嫌悪感は、10年前の悲劇とそれ以降の孤独な闘いによって形作られたものである。だからこそ彼は、自らの力を惜しみなく人々に与え続けるフィーアの姿に真の大聖女を見出し、深い感動と尊敬を寄せることとなったのである。

セルリアンの若返り

ナーヴ王国の国王ローレンス(セルリアン)が抱える「若返り」の呪いは、10年前の悲劇と深い犠牲の上に成り立っている。本稿では、彼が若返るに至った原因とその代償、周囲に及ぼした影響、そして託された未来への希望について解説する。

若返りの原因と精霊王の力の代償

セルリアンが若返り続けている根本的な原因は、10年前(当時18〜19歳頃)に発生した悲劇に起因している。

・婚約者でありロイド公爵の妹であるコレットが瀕死の重傷を負った際、セルリアンは彼女の命を取り上げないでほしいと強く願った

・王族に流れる精霊王の血がその強い望みに反応し、コレットの時を止めて眠らせることで命を繋ぎ止めた

・術を持続させる膨大なエネルギーの代償としてセルリアン自身の命が削られており、コレットと命が繋がった影響で毎年1歳ずつ年齢が逆行(若返り)する状態となっている

実年齢と外見のギャップによる影武者体制

精霊王の力による影響で、セルリアンの置かれている環境は一変することとなった。

・現在の実年齢は30歳近く(28〜29歳)であるが、肉体は9歳程度の少年の姿まで若返っている

・そのままの姿では国民の混乱を招くため、彼とよく似た外見の影武者を玉座に配し、自らは道化師として正体を隠す異例の体制をとっている

サヴィス総長への深い負い目と後悔

若返りが始まった当初、セルリアンは絶望から自暴自棄となり、王としての義務や全ての物事を投げ出してしまう時期が存在した。

・彼が逃げ出した結果、弟であるサヴィスが代わりに国の未来と重荷を背負うこととなった

・兄に代わって全てを引き受けると決意したサヴィスは、感情を表に出さない重々しい性格へと変化した

・自身の不甲斐なさが弟の生き方を変えてしまったことを深く後悔しており、退位してサヴィスに王位を譲る前に、弟のためになることを成し遂げたいと願っている

閉ざされた未来とフィーアへ託す希望

セルリアン自身はコレットの時を止める代償として命を削り続けており、長生きできないことを自覚している。

・自らの未来は閉じていると語りつつも、コレットを救いたい一心で10年間にわたり奇跡を探し続けてきた

・王城で大聖女の薔薇を発見し、自身の正体を完璧に見抜いたフィーアに対し、未来を変えてくれる存在としての強い希望を見出している

・限界が近づくコレットを目覚めさせるため、薔薇の花びらの中から正しい一枚を選んでほしいという最後の切実な願いをフィーアに託すこととなった

まとめ

セルリアンの若返りは、愛する者を救うための切実な願いと引き換えに負った重い代償である。自らの命の限界が迫る中、彼がフィーアに託した最後の希望は、止まった時間を再び動かすための鍵となっている。

聖女風の道化師

サヴィス総長の結婚が近いことを知ったフィーアが、披露宴での出し物のために道化師へ弟子入りし、街で「聖女デビュー」を果たしたエピソードは、作中でも賑やかで印象的な場面である。本稿では、聖女風衣装の着用から街でのパフォーマンス、そして視察中だった国王一行との遭遇までの一連の騒動について解説する。

道化師への弟子入りと「聖女の衣装」

サヴィス総長のお祝いの席で最高の出し物を披露するため、フィーアは宮廷道化師であるセルリアン(若返った真の国王)とドリー(オルコット公爵ロイド)に弟子入りを志願した。

・ドリーはフィーアの弟子入りを快く歓迎し、自らデザインした渾身の衣装を贈呈した

・用意された衣装は、伝説の大聖女をイメージして作られた、赤と白を基調にレースをあしらった可愛らしい「聖女のドレス」であった

「プチ武者修行」への出発

衣装を試着したフィーアに対し、セルリアンは試着を兼ねた「プチ武者修行」として街へ繰り出すことを提案した。

・中央広場に到着すると、セルリアンは「道化師にも聖女にも皆を笑顔にする役割がある」として、フィーアに「聖女デビュー」を促した

・セルリアンは浄化と解毒を司る「角のないユニコーン」、ドリーは全病を治す「幻の鳥ツァーツィー」という設定の道化師となり、フィーアのサポート役に回った

広場での奇跡のパフォーマンス

広場で転んで怪我をした少年を見つけたフィーアは、ふたりの力を借りる「なんちゃって聖女」のパフォーマンスを装いながら、実際には自身の魔法で回復薬を調合した。

・噴水の水と薬草を用いて精製した緑色の水を「聖水」と称して少年の膝にかけると、傷が完全に消失した

・余った聖水を広場の人々へ振りまいたところ、動かなかった指が動くようになったり身体の痛みが消えたりと、次々に不調が改善した

・奇跡を目の当たりにした人々は歓喜し、割れんばかりの拍手と称賛を送り、三人は「皆を笑顔にする」という目的を完遂した

視察中の国王一行との遭遇とシリル団長の牽制

パフォーマンスを終えて広場を離れた直後、街を視察中だったローレンス王(影武者)と、護衛を務めるシリル団長やバルフォア公爵らの一行に遭遇する事態となった。

・広場の民衆が「聖女様に治してもらった」と口々に訴えたことで、フィーアは最前列に押し出された

・フィーアを見習い聖女と思い込んだバルフォア公爵が「王城に招いて芸を披露させよう」と提案したが、正体を知るシリル団長が「こちらの聖女様は明日は騎士かもしれない」と皮肉交じりに牽制し、その場を収めた

・その後、シリル団長は笑顔で近づき、「ゆっくりお話しさせてくださいね」と恐ろしい説教の予告を残し、フィーアを恐怖させた

まとめ

出し物の練習として始まった「プチ武者修行」は、フィーアの本物の魔法によって街中に本物の奇跡と笑顔をもたらす結果となった。しかし、その裏でシリル団長に見つかるという痛恨の失敗を犯したことで、フィーアにとって別の意味でも忘れられない聖女デビューとなったのである。

グリフォンの卵孵化

作中における「グリフォンの卵孵化」を巡るエピソードは、クェンティン団長の極端な魔物愛と奇行が強烈な印象を残す場面である。本稿では、放置された卵を巡る出来事とクェンティン団長の行動、そしてフィーアたちによる評価について解説する。

卵の誕生と育児放棄

ギザ峡谷から連れ帰られた緋色のグリフォン(ギザーラ)が産み落とした卵を巡り、以下の事態が発生した。

・ギザーラは亡き番との間にできていた卵を2個産み落とした

・グリフォンは通常1個の卵しか産まず、稀に2個産んだ場合でも大きい方の卵しか温めない習性を持つ

・ギザーラは小さい方の卵を足で遠くに蹴り飛ばし、あっさりと育児放棄をした

クェンティン団長の母親宣言と奇行

見捨てられた小さい卵を目にした第四魔物騎士団長のクェンティンは、奇想天外な行動に出る。

・自らが卵の母親となって孵化させると決意し、大きめの騎士服の腹部に卵を入れ込み肌身離さず温め始めた

・腹部を膨らませた状態で「腹の子が驚くから大きな声を出すな」「走らない」など、本物の妊婦のような言動をとるようになった

・「オレは母になる」という宣言や異様な姿に対し、ギディオン副団長やザカリー、クラリッサ、デズモンドといった他の騎士団長たちは激しく困惑・恐怖し、距離を置く事態となった

フィーアによる肯定と刷り込み

周囲から理解を得られず孤立していたクェンティンであったが、フィーアとザビリア(黒竜)は彼の行動を高く評価した。

・鳥型の魔物であるグリフォンには、孵化して最初に見たものを親と思い込む「刷り込み(インプリンティング)」の習性がある可能性をフィーアが指摘した

・肌身離さず卵を身につけて常に顔を見せられるようにしておく行為は、非常に理にかなっていると称賛された

ザビリアの忠告と命懸けの覚悟

さらに、従魔であるザビリアからは専門的な観点からの忠告が与えられた。

・卵の掛け合わせ次第ではギザーラ以上に強力な個体が生まれる可能性があり、成長後に能力で劣るクェンティンが襲われて食べられる危険性を指摘した

・刷り込みによって親だと思い込ませることは、クェンティン自身の命を守る「防止策」として必須であった

・忠告を受けたクェンティンは恐れるどころか、「母親になるというのは命を懸けるほど大変なことなのだ」と覚悟を深め、フィーアと完全に意気投合した

まとめ

一見すると異様に思えるクェンティン団長の行動は、グリフォンの習性や自身の安全面を考慮すると極めて合理的なアプローチであった。フィーアやザビリアからの理解と後押しを得たクェンティンは、無事に雛と対面する日を目指して、命懸けの「妊婦生活」を続けていくこととなる。

大聖女7レビュー
大聖女まとめ
大聖女9レビュー

登場キャラクター

第一騎士団

フィーア・ルード

第一騎士団の新人騎士である。前世は300年前の大聖女セラフィーナであり、その事実を隠している。セルリアンやドリーに道化師の弟子入りを志願し、聖女役を演じる。

・所属組織、地位や役職
 第一騎士団・新人騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 中央広場において「聖水」と称した回復薬を作り、人々の不調を治した。ペイズ伯爵の娘エステルの病を、エステルの治癒に見せかけて完治させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ロイドから大聖女の面影を見出され、正式に友人となった。サヴィスの結婚に伴い新設される近衛騎士団の団員に選ばれる見込みとなっている。

シリル・サザランド

第一騎士団長にしてサザランド公爵である。王位継承権第二位のサヴィス総長を支持する一派に属する。聖女に対しては評価が甘くなる傾向を持つ。

・所属組織、地位や役職
 第一騎士団・団長。サザランド公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
 プリシラを見極めるためにオルコット公爵邸を訪問した。王城内でセルリアンたちと遊びに行こうとするフィーアに対して苦言を呈した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 過去のサザランドの悲劇を自らの責任だと考えており、同様の悲劇を二度と起こさせないと誓っている。

ファビアン・ワイナー

第一騎士団の新人騎士である。ワイナー侯爵家の嫡子であり、王国の情報に通じている。フィーアの同僚であり、彼女のお目付け役を自認している。

・所属組織、地位や役職
 第一騎士団・新人騎士。ワイナー侯爵家嫡子。
・物語内での具体的な行動や成果
 公爵邸において、亡き妹の話題で空気が重くなった際にタルトの話題を出して場を和ませた。フィーアに対して、第一騎士団への配属理由や近衛騎士団の設立について説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 第一騎士団への配属は、試験の成績と家柄の信頼性に加え、フィーアのお目付け役としての理由であったと推測している。

第二騎士団

デズモンド・ローナン

第二騎士団長である。ローナン伯爵家の当主として王都に所領を持つ。ザカリーとともにカーティスの休日の過ごし方に苦言を呈した。

・所属組織、地位や役職
 第二騎士団・団長。ローナン伯爵。
・物語内での具体的な行動や成果
 オルコット公爵邸を訪問した際、割れたカップで手を切り、シャーロットから治癒を受けた。騎士団長秘密会議において、公爵邸訪問の報告を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ザビリアの作成した「粛清リスト」の第一位に記載されており、目をつけられている。

第三魔導騎士団

イーノック

第三魔導騎士団長である。社交性に欠ける傾向を持つ。

・所属組織、地位や役職
 第三魔導騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 騎士団長秘密会議において、一月ほど誰とも口をきかずに暮らせると主張し、大聖堂行きや王太后の迎えを拒否しようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 運試しにより大聖堂行きか王太后の迎えのいずれかの任務に就くことが決定した。

第四魔物騎士団

クェンティン・アガター

第四魔物騎士団長である。従魔であるギザーラが育児放棄した卵を自ら温め、母親になると宣言する。

・所属組織、地位や役職
 第四魔物騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 騎士服の腹部にグリフォンの卵を入れ、周囲の騎士団長たちから距離を置かれた。フィーアから刷り込みの重要性を指摘され、理解を得たことに感動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

ギディオン

第四魔物騎士団の副団長である。

・所属組織、地位や役職
 第四魔物騎士団・副団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 執務室でクェンティンの膨らんだ腹を見て驚愕の声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

第五騎士団

クラリッサ

第五騎士団長である。他者の真意や状況を正確に推測する能力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 第五騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 騎士団長秘密会議で、シリルが聖女に対してのみ評価が甘いと指摘した。廊下で腹を膨らませたクェンティンを見て、想像妊娠を疑った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

第六騎士団

ザカリー

第六騎士団長である。細かい機微を理解するのが苦手だと自認している。

・所属組織、地位や役職
 第六騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 王太后は女性ばかりの離宮で暮らしているため、自分の対応には向かないと主張した。クェンティンの妊娠宣言に驚愕し、彼から距離を置くことを決意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

第十三騎士団

カーティス

第十三騎士団長である。フィーアに対して絶対的な忠誠を誓っている。休日は彼女のために時間を使うことを無上の喜びとしている。

・所属組織、地位や役職
 第十三騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 フィーアが女子寮へ向かう道で転ばないよう歩道を整備し、星降の森で魔物を狩って夕食用の肉を届けた。フィーアへ、セルリアンとロイドに深入りしないよう警告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 次代の筆頭聖女を警護する近衛騎士団の団長に就任する予定である。

ナーヴ王国(王族・高位貴族・その他)

ロイド・オルコット

オルコット公爵家の当主であり、道化師ドリーとしてセルリアンに仕える。10年前に妹コレットが重傷を負った際、聖女から救いを得られなかった過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 オルコット公爵。道化師ドリー。
・物語内での具体的な行動や成果
 大聖女をイメージした衣装を作成し、フィーアに着せた。フィーアの無私な行動に大聖女の面影を見出し、正式に友人の関係を結んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 眠り続けるコレットを目覚めさせるため、フィーアに大聖女の薔薇の花びらを選んでほしいと懇願した。

プリシラ

オルコット公爵家の養女である。大聖堂で育った能力の高い聖女であり、自尊心が高い。

・所属組織、地位や役職
 聖女。オルコット公爵家養女。
・物語内での具体的な行動や成果
 公爵邸の応接室において、デズモンドの怪我に対する治癒を拒否した。赤髪の騎士であるフィーアを非難した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新たな筆頭聖女の最有力候補とされている。

シャーロット

王城に勤務する聖女である。フィーアの友人であり、他の聖女の前では自信を失いがちである。

・所属組織、地位や役職
 王城勤務の聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
 公爵邸において、勇気を出してデズモンドの手の傷を完全に治癒した。デズモンドやロイドから有能な聖女であると称賛された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

セルリアン

道化師の少年であり、ナーヴ王国の真の国王ローレンスである。コレットの時間を止める願いの代償として、自らの命を削り続けている。

・所属組織、地位や役職
 道化師。ナーヴ王国真の国王。
・物語内での具体的な行動や成果
 フィーアに聖女役を与え、中央広場でのパフォーマンスを提案した。ペイズ伯爵邸でエステルを治癒したフィーアの力に驚愕した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 精霊王の力により年々体が若返っており、サヴィスへの退位を予定している。

ローレンス・ナーヴ

ナーヴ王国の国王として表舞台に立つ影武者である。

・所属組織、地位や役職
 ナーヴ王国国王(影武者)。
・物語内での具体的な行動や成果
 視察で中央広場を訪れ、聖女の衣装を着たフィーアに声を掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

ノエル・バルフォア

バルフォア公爵であり、道化師ロンとして王に仕える。

・所属組織、地位や役職
 バルフォア公爵。国王派。
・物語内での具体的な行動や成果
 国王の視察に同行し、見習い聖女を装うフィーアを王城へ招いて芸を披露させようと提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

ペイズ

伯爵家の当主である。娘のエステルを大事に思っている。

・所属組織、地位や役職
 ペイズ伯爵。
・物語内での具体的な行動や成果
 道化師一座として街にいたフィーアたちに、娘の治癒を懇願した。カーティスから最後通牒を突きつけられ、道化師たちに無礼を謝罪した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 10年前にコレットが倒れた際、聖女の治癒を促さなかったとしてロイドやセルリアンから恨みを買っている。

エステル

ペイズ伯爵の娘であり、聖女である。

・所属組織、地位や役職
 ペイズ伯爵家令嬢。聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
 重い病に臥せっていたが、フィーアの補助を受けて自らの回復魔法で病を完治させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 フィーアを王家が密かに抱える特別な聖女だと誤解し、その存在を口外しないと誓約した。

サヴィス・ナーヴ

黒竜騎士団総長であり、王弟である。感情を抑え、何事も一人で引き受ける性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 黒竜騎士団総長。王弟殿下。王位継承権第一位。
・物語内での具体的な行動や成果
 セルリアンとロイドに対し、大聖女の薔薇の花びらに状態異常を発生させる効能があることを報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新たな筆頭聖女を妃に迎える予定であり、将来的に国王へ即位することが見込まれている。

コレット・オルコット

ロイドの妹であり、セルリアンの婚約者だった聖女である。10年前の事件で重傷を負った。

・所属組織、地位や役職
 オルコット公爵家令嬢。聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
 10年前、セルリアンに自慢の魔物料理を振る舞ったが、毒抜きを失敗して彼を寝込ませた。自ら地下牢に入って反省を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 セルリアンの精霊王の力によって時間が止められ、10年間眠り続けている。

ナーヴ王国(300年前)

セラフィーナ

300年前の大聖女であり、ナーヴ王国の王女である。魔力を消費すると食欲が増す特異な体質を持つ。

・所属組織、地位や役職
 大聖女。ナーヴ王国王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 騎士団長たちから晩餐に招待され、空腹を隠しながら食事を進めた。シリウスの促しにより大量の料理を平らげた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼女の作成した回復薬は極めて強力であり、騎士団長たちから深く感謝されている。

ハダル

300年前の第二騎士団長である。

・所属組織、地位や役職
 第二騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 他の騎士団長とともに森へ入り、セラフィーナを歓待するための食材を集めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

ツィー

300年前の第三魔導騎士団長である。

・所属組織、地位や役職
 第三魔導騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 セラフィーナから手作りのクッキーを受け取り、自分だけのために作られたと妄想した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

アルナイル

300年前の第五騎士団長である。

・所属組織、地位や役職
 第五騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 セラフィーナから大量の回復薬を受け取り、その効果に深く感謝した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

エルナト

300年前の第六騎士団長である。

・所属組織、地位や役職
 第六騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 他の騎士団長とともに晩餐会に参加し、セラフィーナを手厚くもてなした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

赤盾近衛騎士団(300年前)

シリウス

300年前の赤盾近衛騎士団長である。セラフィーナの教育係を務め、彼女を深く理解している。

・所属組織、地位や役職
 赤盾近衛騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 晩餐会において、セラフィーナが遠慮なく食事ができるよう騎士団長たちに料理を食べるよう命じた。セラフィーナが苦手なリリコの実を彼女のフォークから直接食べた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

魔物・精霊

ザビリア

フィーアを主とする黒竜である。フィーアに危害を加える可能性のある者を事前に排除しようと考える。

・所属組織、地位や役職
 魔物・黒竜。フィーアの従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
 粛清リストを作成し、デズモンドやセルリアン、プリシラを対象に挙げた。クェンティンに対して、刷り込みの重要性を助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

ギザーラ

クェンティンを主とする緋色のグリフォンである。

・所属組織、地位や役職
 魔物・グリフォンの王。クェンティンの従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
 2個の卵を産み落としたが、小さい方の卵を足で蹴り飛ばして育児放棄した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化は確認されていない。

大聖女7レビュー
大聖女まとめ
大聖女9レビュー

展開まとめ

45 公爵邸訪問2 

オルコット公爵邸の歓待

フィーアたちはオルコット公爵邸を訪れ、養女となったプリシラ聖女と対面した。ロイドはフィーアだけにストロベリータルトを三切れ用意し、友人への特別扱いだと語ったが、シリルは安い賄賂だと切り返した。フィーアは二人の応酬を仲の良さだと受け取り、遠慮なくタルトを味わった。

プリシラの聖女観

プリシラは聖女と騎士に接点はないと考え、フィーアとの交流にも消極的だった。また、筆頭聖女候補として前髪を伸ばし、聖女の力は奇跡であるため、定められた業務以外では安易に使うべきではないとの価値観を持っていた。

デズモンドが割れたカップで手を傷つけても、プリシラは前例を作るべきではないとして治癒を拒んだ。

シャーロットの回復魔法

他の聖女の前では自信を失いがちだったシャーロットは、勇気を出してデズモンドの治療を申し出た。フィーアは好意を受け入れるべきだとデズモンドを説得し、シャーロットは緊張しながらも傷を完全に治癒した。

デズモンドとロイドから能力を称賛されたシャーロットは喜び、フィーアも彼女の成長を嬉しく思った。フィーアは褒美としてタルトを分けようとしたが、周囲から食べ物だけで考えるべきではないと呆れられた。

プリシラの対抗心

シャーロットが評価される姿を見たプリシラは、自分も同程度の傷なら簡単に治せると主張した。さらに、赤髪でありながら騎士であるフィーアを宝の持ち腐れだと非難したが、フィーアはプリシラもタルトを欲しがっているのだと誤解した。

感情を露わにしたプリシラを見て、ロイドは普段無関心な彼女がフィーアを放っておけないのは、庇護欲を刺激されているからだと面白がった。

赤髪の騎士への評価

シリルとデズモンドは、筆頭聖女に仕える騎士が大聖女を思わせる鮮やかな赤髪だった場合、どう感じるかをプリシラに尋ねた。プリシラは、聖女が比較されるのは聖女同士だけであり、騎士の髪色など気にしないと断言した。

シリルはその回答から、フィーアを将来の近衛騎士団へ配属しても問題ない可能性を確認した。

亡き妹の肖像画

プリシラはロイドの私室で見た、青銀色の髪を持つ聖女の肖像画について尋ねた。ロイドは、少女が十年前に亡くなった妹だと明かし、留守中に私室へ入らないよう静かに警告した。

プリシラが、聖女なら自分で病を治せばよかったと口にすると、ロイドは青ざめながら、誰もが強い聖女ではないと答えた。ファビアンは重くなった空気をタルトの話へ変え、フィーアは彼の機転に感心した。

ロイドの過去

帰り際、ロイドはフィーアへタルトを一ホール渡し、友人になる条件を尋ねた。フィーアが同僚になることだと答えると、ロイドは同じ目的を持って行動する関係になればよいと解釈した。

ロイドはかつて騎士養成学校に通い、守りたいもののために騎士を目指していたが、それを失ったため道を変えたと語った。さらに、鮮やかな赤髪を持ちながら聖女ではないフィーアの存在を、最高の皮肉だと暗く笑った。その姿から、フィーアはロイドが心の底から聖女を嫌っているのだと悟った。

【挿話】第二回騎士団長秘密会議 

公爵邸訪問の報告

王都の騎士団長たちは娯楽室に集まり、シリルとデズモンドからオルコット公爵邸訪問の報告を受けた。筆頭聖女候補のプリシラは、治癒魔法を使おうとせず能力を確認できなかった一方、同行したシャーロットはデズモンドの手の傷を短時間で完全に治した。騎士団長たちは、フィーアが黒竜だけでなく優秀な聖女とも親しくしていることに驚いた。

聖女への理想

デズモンドはプリシラを高位聖女らしい人物だと皮肉交じりに評したが、シリルは正しい教育を受け、感情も持つ聖女として好意的に解釈した。クラリッサは、シリルが聖女に対してだけ評価が甘いと指摘した。

シリルは、自分もサヴィスも聖女との婚姻を義務付けられているため、将来の相手を悪く考えたくないのだと認めた。騎士団長たちは、聖女を尊ぶ教育と現実の間で苦しむシリルを案じながら、聖女と結婚して幸せになるのは難しいだろうと考えた。

十年前の悲劇

プリシラが王妃となれば、十年前の関係者が再び揃うことになるとクラリッサが不安を口にした。シリルは、過去の悲劇は二度と起こさず、自分がいる限り何も起こさせないと断言した。

騎士団長たちは、シリルが今もサザランドの嘆きから始まった悲劇を自分の責任だと考えていることを察し、無言でその決意を受け止めた。

近衛騎士団への配属

プリシラは、騎士の髪色には興味がなく、聖女以外は比較対象にならないと答えていた。そのため、鮮やかな赤髪を持つフィーアを筆頭聖女の近衛騎士団へ配属しても問題ないと判断された。

団長となる予定のカーティスは、フィーアとともに聖女たちへ正しい道筋を示せるならば、役目を謹んで受けると答えた。彼は、聖女の力は正しく導かれれば人を救う喜びにつながると信じていた。

二つの任務

続いてシリルは、魔人を封じた箱を大聖堂へ運ぶ任務と、王太后を離宮から迎える任務の担当者を決めると告げた。シリルとカーティスを除く五人の騎士団長は、どちらの任務も避けようと、それぞれ王都を離れられない理由を訴えた。

シリルは全員の主張を退け、二人を大聖堂へ、三人を王太后の迎えへ向かわせると決定した。

果実入りの酒

担当は、果実入りの酒を使った運試しで決められた。種なしの果実を引いた者が大聖堂へ向かい、種入りを引いた者が王太后を迎えることになった。

五人は真剣にグラスを選び、騎士団の言葉を唱和して一気に酒を飲み干した。その直後、静まり返った部屋に三人が果実の種を噛む音が響いた。

46 第一騎士団配属の理由 

公爵への疑問

オルコット公爵邸を訪れた翌週、フィーアはファビアンに、シリルとデズモンドが同行した理由を尋ねた。ファビアンは冗談を交えながらも、フィーアが見抜いたロイドの聖女嫌いについて、十年前に妹コレットを亡くした事件が原因だろうと語った。

コレットの死

コレットはロイドの一歳下の妹で、聖女であった。彼女が亡くなった際には他の聖女も居合わせており、ロイドは魔力を惜しまなければ助けられたのではないかと考え、その不信感を聖女全体へ向けた可能性があった。

フィーアは、聖女の回復魔法も万能ではなく、死に至る傷や病を治せない場合があると考えた。一方で、ロイドが誰かの責任にしたくなる気持ちも理解し、真相は当事者にしか分からないと受け止めた。

筆頭聖女の見極め

ファビアンは、シリルとデズモンドが公爵邸を訪れた目的は、次の筆頭聖女候補であるプリシラを見極めることだったと説明した。現在の筆頭聖女は、セルリアンとサヴィスの母であるイアサント王太后であり、癒しの花と称される高名な聖女であった。

フィーアはその呼称に憧れたが、ファビアンから自身の二つ名であるぽっこり救世主を持ち出され、不満を示した。

第一騎士団への配属理由

ファビアンは、十年以上の経験者だけが所属する第一騎士団へ新人の二人が配属された理由を考えるよう促した。フィーアは試験成績によるものだと思っていたが、自身の成績が特例に値するほどではなかったと気付いた。

ファビアンは、鮮やかな赤髪を持つフィーアが、高位聖女の警護役として選ばれた可能性を示した。自身は成績と家柄の信頼性に加え、フィーアの同行者や目付け役として配属されたのだと考えていた。

新たな近衛騎士団

次代の筆頭聖女には専用の近衛騎士団が新設され、フィーアとファビアンもその団員に選ばれる見込みであった。第一騎士団が王族級の人物を警護する組織であることから、新たな筆頭聖女は王族に並ぶ立場になると説明された。

サヴィスの婚姻

サヴィスは王位継承権第一位でありながら二十七歳まで独身だった。ファビアンは、十年以上前から高い能力を認められていたプリシラが結婚可能な年齢になるのを待っていた可能性を語った。

プリシラが筆頭聖女に選ばれれば、王城へ迎えられてサヴィスと婚約し、その警護のために近衛騎士団が結成されると考えられた。

聖女の婚姻規則

ファビアンは、聖女は十七歳を過ぎなければ結婚できないという、三百年前に定められた規則を説明した。前世の時代にはなかった制度だと知るフィーアは、自分の死後に作られたものだろうと考えた。

騎士たちの涙

フィーアは、独身ばかりだった騎士団長たちの中で、サヴィスが初めて結婚することを喜んだ。ファビアンは王国中の女性だけでなく、サヴィスを敬愛する多くの騎士も涙を流すだろうと予想した。

フィーアはその暑苦しい騒ぎへ巻き込まれないよう、結婚前後には騎士たちへ近付かないと決めた。

47 道化師の弟子 

道化師への弟子入り

サヴィスの婚約を祝う余興を披露しようと考えたフィーアは、宮廷道化師へ弟子入りすることを思い付いた。ファビアンも誘ったが拒まれたため、一人で国王の執務室を訪ね、セルリアンへ芸を教えてほしいと頼んだ。

道化師たちの正体

ドリーが用意した聖女風の衣装を見たフィーアは、その言動から彼女がロイド・オルコット公爵であることに気付いた。さらに、ロンもノエル・バルフォア公爵だと見抜き、国王と二人の公爵が道化師に扮している事実に王国の将来を案じた。

セルリアンは、ドリーとロンが若返り続ける自分を心配し、幼馴染として側にいるため道化師になったと明かした。

セルリアンの悔恨

フィーアから兄としてサヴィスを支えるべきだと言われたセルリアンは、若返り始めた頃に全てを投げ出し、その重荷をサヴィスへ背負わせた過去を語った。その結果、サヴィスは感情を抑え、何事も一人で引き受ける人物になったのだと悔やんだ。

セルリアンは、王位を譲る前にサヴィスのために何ができるか考えると決めた。フィーアは婚約祝いの余興へ誘い、物よりも忘れられない思い出を贈るべきだと説いた。セルリアンは感銘を受け、共に出し物を披露すると約束した。

聖女の衣装

フィーアはドリーが作った赤と白の聖女風ドレスを試着した。衣装はよく似合ったが、聖女らしく振る舞おうと口を開くと、セルリアンたちから黙っていた方がよいと評された。

三人は衣装への街の反応を見るため、プチ武者修行へ出ることにした。フィーアは本来の国王護衛任務を理由にためらったが、セルリアンから自分の護衛なら買い食いや寄り道も任務になると聞き、即座に同行を決めた。

シリルとの対立

セルリアンはシリルへ、フィーアを自分の専属護衛にすると要求した。シリルは、正式な任務を通して成長すべき時期に道化師と遊ばせれば、騎士としての成長を妨げると反対した。

しかし、セルリアンの命令である以上拒めず、シリルは聖女の衣装を着せたドリーの趣味を皮肉りながら、今回だけは護衛任務を認めた。フィーアは三人の険悪な空気に巻き込まれないよう、最低限の返事だけをしてその場を離れた。

退位と二つの派閥

街へ向かう途中、セルリアンは近く退位し、サヴィスへ王位を譲る予定だとフィーアに打ち明けた。三大公爵のうちロイドとノエルは国王側、シリルはサヴィス側に立っており、両派には大きな意見の相違があると説明した。

フィーアは、その対立が聖女への考え方に関係していると見抜いた。セルリアン一派は聖女を否定的に捉え、サヴィス一派は受け入れる立場なのではないかと尋ねると、セルリアンは驚きながらも否定しなかった。

詳細を語る覚悟がまだできていないセルリアンは、少し時間がほしいと頼んだ。中央広場へ到着すると話を切り替え、フィーアに聖女役として人々の前へ出るよう促した。

48 聖女デビュー 

聖女デビュー

中央広場に到着したフィーアは、道化師として人々を笑顔にするようセルリアンから求められ、聖女役を演じることになった。フィーアは回復魔法が込められた聖石のネックレスを取り出したが、セルリアンとドリーは貴重な聖石を使わないよう止めた。

聖獣と大聖女

セルリアンは角のないユニコーン、ドリーは幻の鳥ツァーツィーを模していた。どちらも浄化や治癒に関わる存在であり、衣装も三百年前の大聖女をイメージして作られていた。

フィーアは、聖女や騎士を嫌っているように見えるロイドが、両者に複雑な思いを抱いているのではないかと考えた。

傷ついた少年

広場で少年が転んで膝を擦りむくと、フィーアは噴水の水と薬草を使い、なんちゃって聖女として治療を始めた。セルリアンにはユニコーンの鈴で水を浄化する役を演じさせ、その間にフィーアは魔力を込めて回復薬を作った。

緑色に輝く水を膝へかけると、少年の傷は完全に消えた。見物人たちは演技だと思っていたため、本当に治癒したことへ驚き、笑顔を失った。

広場に降る聖水

フィーアは回復薬を聖水と呼び、余った分を広場の人々へ振りまいた。水を浴びた者たちは、動かなかった指や痺れていた足が回復したことに気付き、その効果に騒然となった。

フィーアは、ユニコーンとツァーツィーの力による聖水であり、優しい者ほど効果が長く続くと説明した。三人が礼をすると、広場は大きな拍手と感謝の声に包まれ、聖女デビューは成功した。

疲れ果てた師匠たち

広場を離れると、セルリアンとドリーは壁にもたれかかるほど疲弊していた。フィーアが演技の評価を尋ねると、二人は満点と言いかけながらも、弟子を手放したくないため慢心してはいけないと誤魔化した。

実際には観客の視線がフィーアだけに集中しており、セルリアンとドリーは自分たちの存在が忘れられていたことに複雑な思いを抱いていた。

カーティスの追加配置

落ち込むドリーを励まそうとフィーアが踊ろうとした際、樽にぶつかって転びかけたところをカーティスが支えた。カーティスは、フィーアがセルリアンの護衛に就いたことでシリルが配置を組み直し、自分も追加護衛として派遣されたと説明した。

フィーアは、自分が護衛人数に加算されるどころか不足分として扱われているのではないかと疑った。しかし、カーティスだけでなくセルリアンとドリーも沈黙し、誰もその疑問を否定しなかった。

49 危機との遭遇1 

聖石に残った魔力

広場での聖女役を終えたフィーアは、聖石のネックレスを外してドリーに預けた。ドリーは、戦場の騎士を優先しようとした自分の考えを省み、人々を区別せず救ったフィーアの行動こそ聖女の本質に近いと認めた。

さらにドリーは、広場で強力な回復薬を作ったにもかかわらず、聖石の魔力が全く減っていないことに気付いた。フィーアは手の内を明かさず、カーティスも彼女を全面的に擁護したため、ドリーは変わり果てたカーティスの盲信ぶりに驚いた。

国王一行との遭遇

街を視察するローレンス王と護衛のシリルたちが近付くと、フィーアは逃げようとした。しかし、広場で治療を受けた人々に聖女だと見つかり、最前列へ押し出された。

人々はフィーアに体の不調を治してもらったと王へ訴え、彼女を称賛した。聖石のネックレスと民衆の証言を目にしたシリルは険しい反応を見せ、後で詳しく話を聞くと笑顔で告げた。フィーアはそれを説教の予告だと受け取り、恐怖した。

ペイズ伯爵の依頼

食事へ向かおうとした一行は、娘を救ってほしいとペイズ伯爵から頼まれた。セルリアンとドリーは、伯爵が十年前にコレットを救おうとしなかった過去を覚えており、強く反発した。

当時、病に倒れたコレットへ聖女なら自分で治せばよいとの言葉が投げかけられた際、ペイズ伯爵は何も言わなかった。それにもかかわらず、自分の娘が病に倒れると助けを求めたため、二人は身勝手だと憤っていた。

エステルの病

伯爵が謝罪したことで、一行は娘エステルの部屋へ向かった。寝台に横たわる若い女性を見たセルリアンとドリーは、十年前の記憶から傷病者恐怖症を発症し、動けなくなった。

エステルは咳とともに血を吐きながらも、病がうつるから離れるようフィーアを気遣った。フィーアは放置できないと考え、エステル自身に悪い部位を見つけさせ、そこへ回復魔法を集中する方法を教えた。

エステルの治癒

エステルは胸と背中の異常を捉えて回復魔法を使ったが、魔力の放出口が狭く、総魔力量も少なかった。フィーアは放出口を広げた後、自ら魔法を補い、病を完全に消し去った。

エステルは、病が消えたことに加え、体内へ流れ込んだ温かな力に感動して涙を流した。フィーアは聖石による仕掛けだと説明しようとしたが、エステルは彼女を王家が密かに抱える特別な聖女だと誤解し、存在を口外しないと誓った。

カーティスの忠告

王城へ戻った後、カーティスはフィーアに、セルリアンとロイドへこれ以上深入りしないよう強く忠告した。二人が抱えるものは暗く重く、救おうとすればフィーアの秘密が明るみに出ると警告した。

さらに、サヴィスとシリルも同様の事情を抱えており、このまま関わればフィーアはいずれ精霊を呼ぶことになると断言した。フィーアは返事をできず、彼の真剣な訴えを受け止めた。

ロイドとの友情

道化師姿を解いたロイドは、フィーアが聖石を惜しまず人々へ使った姿に大聖女を重ね、心から尊敬したと語った。そして、彼女の側でよりよい人間になりたいとして、正式に友人になることを求めた。

フィーアはその熱意を断れず承諾し、ロイドと名前で呼び合う関係になった。食事の席では、セルリアンも加わり、三人の友情を祝った。

眠り続けるコレット

ロイドは、十年前に亡くなったとされる妹コレットが、実際には眠り続けていると明かした。コレットの命が尽きかけた際、婚約者だったセルリアンが精霊王の力で彼女の時間を止めたためであった。

その術の代償としてセルリアンの命が使われ、彼は一年ごとに一歳ずつ若返っていた。セルリアンは、自分が退位を急ぐ理由にもつながる重い事実をフィーアへ打ち明けた。

大聖女の薔薇への願い

セルリアンが以前フィーアへ依頼した花は、眠るコレットへ捧げるものだった。フィーアが選んだ大聖女の薔薇には、三百年前に失われた多様な魔法の効能が宿っていた。

間もなく筆頭聖女の選定会が行われ、選ばれた聖女なら目覚めたコレットを治せると、セルリアンとロイドは考えていた。そのため二人は、薔薇の花びらの中からコレットを目覚めさせる効能を持つ一枚を、フィーアに選んでほしいと懇願した。

【SIDE】 オルコット公爵ロイド 「君を守ると誓ったから」 

幸せだった三人

幼いコレットは聖女になったことを喜び、兄ロイドやローレンスの怪我を治そうとしていた。ロイド、コレット、ローレンスの三人は、オルコット公爵邸で笑い合い、ロイドはその関係が永遠に続くと信じていた。

しかし十年後、ロイドだけが二十七歳になり、コレットは眠り続け、ローレンスは若返っていた。ロイドは二人を救う奇跡を探し続けながら、何の成果も得られない日々に苦しんでいた。

フィーアとの面談

今年最後の国王面談で、道化師ドリーに扮したロイドは、新人騎士フィーアと出会った。フィーアは道化師たちの口調や名前、衣装の由来だけでなく、セルリアンの腕の呪いまで見抜き、ロイドを驚愕させた。

その数日後、セルリアンはフィーアが王城で見つけたという大聖女の薔薇をロイドへ見せた。滅びたはずの花が、コレットの命の期限が迫る時期に現れたことで、ロイドはフィーアを救世主かもしれないと考えた。

十年前の絶望

十年前、重傷を負ったコレットは大量の血を流し、ロイドの腕の中で命を失いかけていた。ロイドは持てるものを全て差し出すと訴えて聖女に救いを求めたが、その心を動かすことはできなかった。

絶望するロイドに代わり、セルリアンは精霊王の力へコレットを死なせないよう願った。その結果、コレットの時間は止まり、セルリアンの命を代償として眠り続けることになった。

続けられた探索

セルリアンは、コレットがいなければ長く生きる意味はないと語り、残された時間を好きに使うと決めていた。ロイドは、妹と自分を救ったセルリアンへ感謝しながら、コレットを目覚めさせる方法を探し続けた。

しかし、精霊王の祝福を解除する手段は見つからず、コレットの体は少しずつ痩せ衰えていった。ロイドは、大聖女が生きていたなら状態異常を解除できたはずだと考えながらも、現実には存在しない奇跡を求める自分を嘲っていた。

大聖女の薔薇の効能

ロイドとセルリアンがコレットへ薔薇を捧げた後、サヴィスとシリルから、花びらに状態異常を発生させる効能があると知らされた。騎士団長たちの茶会では、攻撃力の上昇や麻痺など、花びらごとに異なる効果が表れていた。

状態異常の発生と解除は、大聖女だけが使えた魔法だった。そのためロイドとセルリアンは、薔薇の中にコレットを目覚めさせる効能も存在するかもしれないと希望を抱いた。

フィーアへの確信

茶会で九杯の紅茶を試したうち、効果が表れなかった一杯はフィーアのものだった。ロイドは、フィーアが状態異常解除の花びらを引いたものの、本人に異常がなかったため何も起こらなかったのではないかと考えた。

その後の調査では薔薇の効能は弱くしか現れなかったが、ロイドとセルリアンは、フィーアが関わる時だけ正しい道筋と最善の一手が示されると感じていた。

二人は、フィーアとの出会いから薔薇の発見までを導きのように受け止めた。そして、コレットの命を救うため、目覚めの効能を持つ花びらをフィーアに選んでもらうことこそ、自分たちが導き出した最善の一手だと決めた。

【SIDE】 国王ローレンス 「世界か君かであれば、君を選ぶ」 

コレットの手料理

ローレンスは、幼馴染のコレットが作った魔物肉の料理を食べ、毒によって二日間寝込んだ。コレットは料理中に多くの傷を負いながら、その間ずっと食事も取らずに彼へ付き添っていた。

ローレンスは心配するコレットを責めず、次からは料理人と一緒に作るよう求めた。そして、心から食べたい料理は彼女の作ったものだけだと告げ、料理をやめないよう励ました。

唯一信じられる存在

ローレンスは、コレットが生まれた頃から彼女を見守っていた。幼いコレットは彼を見るだけで泣き止み、打算なく笑顔を向け、いつも一心に後を追ってきた。

駆け引きに満ちた王城で暮らすローレンスにとって、感情を隠さず好意を示すコレットは、何があっても裏切らないと信じられる唯一の存在であった。

聖女となったコレット

コレットが聖女と認定されると、彼女は尊い地位を得たことよりも、ローレンスの怪我を治せることを喜んだ。王族は聖女としか婚姻できなかったため、ローレンスはその場で跪き、妃になってほしいと求めた。

コレットは自分がローレンスを幸せにすると力強く承諾した。ローレンスも彼女を必ず幸せにすると誓い、二人は花びらが舞う庭で抱き合った。

コレットを選んだローレンス

十六年後、コレットが眠りに就くと、ローレンスの幸福な日々は終わった。彼は王位や世界よりもコレットを選び、王であることを放棄して、彼女を目覚めさせる方法だけを探すと決めた。

その重責を引き受けたサヴィスは、国を預かると迷わず答えた。ローレンスは高潔な弟へ負担を押し付けたことを心苦しく思った。

孤独な玉座

ローレンスは、サヴィスが恋や誰か一人に選ばれる幸福を知らないことを案じた。孤独な玉座に座る弟にも、いつかコレットのように心を預けられる相手が現れてほしいと願った。

しかしサヴィスは、教会が婚姻相手となる聖女を選ぶと答え、心を預ける相手は必要ないと拒絶した。王位を放棄したローレンスは、それ以上何も言えず、弟の未来の幸福を祈ることしかできなかった。

未来を変える出会い

それから十年間、ローレンスはコレットを目覚めさせる手段を探し続けたが、成果を得られなかった。やがて一人の少女騎士との出会いによって、彼の未来は新たな局面を迎えた。

ローレンスはコレットの目覚めを願う一方、王となるサヴィスにも、いつか運命を変え、心を預けられる相手が現れるよう祈っていた。

ザビリア、 「粛清リスト」 を更新する 

ザビリアの粛清リスト

フィーアは、ザビリアが更新していた粛清リストを見つけた。上位にはデズモンド、セルリアン、プリシラの名が並び、ザビリアはフィーアへ危害を加える可能性がある者を事前に排除しようとしていた。

フィーアは、周囲に危険人物はいないと訴え、プリシラも一度会っただけの聖女仲間だと説明した。しかしザビリアは、公爵邸でのプリシラの態度を許しておらず、約束の言葉の隙を突いて飛んで行こうとまで考えていた。

セルリアンへの警戒

ザビリアは、外見こそ子どもでもセルリアンは国王であり、権力を保ったまま責任を弟へ分散させる厄介な人物だと見ていた。さらに、フィーアにしかできないことを求め続け、いずれ彼女へ絡みつく存在になると予測した。

フィーアは、年々小さくなるセルリアンが巨木になることはないと的外れな反論をし、何とか粛清を思い留まらせようとした。

デズモンドへの敵意

粛清リストの第一位はデズモンドだった。ザビリアは、黒竜である自分の存在を知りながらフィーアへ無礼な態度を取るのは挑発だと考え、人前で黒焦げにする機会を探していた。

フィーアは、デズモンドは長時間労働で疲れ、自分の発言を理解していないだけだと庇った。そして、彼の言葉は真面目に受け取るものではなく、ザビリアが時間を使う価値もないと説得した。

ギザーラの卵

フィーアは話題を変えるため、ギザ峡谷から連れ帰ったギザーラが卵を産んだことを持ち出した。ザビリアは、ギザーラの主であるクェンティンが再びおかしな行動をしていると仄めかし、実際に見に行くよう誘った。

フィーアはクェンティンへ近付きたくなかったが、ザビリアの関心を粛清リストから逸らすため、従魔舎へ同行することを決めた。ただしザビリアは、見学後にリストの更新を続けるつもりであり、問題は先送りになっただけだった。

【SIDE】 カーティス「休暇の正しい使い方」 

女子寮前の整備

休暇中のカーティスは、フィーアが女子寮へ向かう途中で転ばないよう、歩道のへこみを砂で埋めて平らにならした。偶然通りかかったデズモンドは、騎士団長が休日にすることではないと呆れたが、カーティスは当然の務めだと考えていた。

夕食の肉料理

食堂で夕食用の肉が届かないと料理人たちが困っているのを聞くと、カーティスは星降の森へ向かった。フィーアが肉料理を好み、成長のためにも必要だと考えたからである。

三時間後、カーティスは鹿型の魔物を狩って届けた。料理人たちから礼を求められると、鮮やかな赤髪の女性騎士には、望むだけ肉料理を提供するよう頼んだ。

回復薬の泉の薬草

カーティスは森で採取した薬草を、フィーアがよく訪れる緑の回復薬の泉の周辺へ植えた。王城にはない種類なら、彼女が興味を持つと考えたためである。

その姿を見たザカリーは、フィーアに関わるとカーティスやクェンティンが異常な行動を始めると呆れた。カーティスはクェンティンと同類にされたことへ不満を示したが、ザカリーは彼よりはまともだと訂正した。

星降の森への単独行

夕食時、デズモンドはカーティスが一人で星降の森へ入り、フラワーホーンディアを狩ったことを知って叱責した。カーティスは森の浅い範囲しか進まず、強敵が現れても退避できると説明した。

しかしデズモンドは、竜からも逃げられるという自信自体が過剰だと指摘した。カーティスは前世の経験から危険とは考えていなかったが、表には出さず善処すると答えた。

休暇の正しい使い方

デズモンドとザカリーは、歩道の整備、魔物狩り、薬草の移植まで、休日の全てをフィーアのために使ったカーティスへ、自分自身のために時間を使うよう諭した。

カーティスは、自分の物を買ったり手入れしたりする時間こそ無駄であり、フィーアのために行動している時だけ満足できると断言した。そして、それこそが自分にとって最高で正しい休暇の過ごし方だと主張した。

二人はその価値観に圧倒されながらも、最後には静かに頷いた。カーティスは、自分の休暇の使い方を同僚へ理解させられたと満足した。

【SIDE】 クェンティン「クェンティン・アガター(29歳・独身)、母になる」

グリフォンの卵

ギザーラは二個の卵を産んだが、グリフォンは一個しか育てない習性を持つため、大きい方だけを温めた。捨てられた小さい卵を見たクェンティンは、自分が母親になって孵化させると決め、騎士服の内側に入れて温め始めた。

母親業の優先

クェンティンは腹の卵を守るため、大声や激しい運動を避け、母親業を最優先すると宣言した。膨らんだ腹を見たギディオンや他の騎士団長たちは驚き、正気を疑ったが、クェンティンは自分の説明を理解できない相手の方に問題があると考えた。

ザカリーには間もなく子を産むため訓練を避けると説明し、今後近寄らないとの返事を得た。クラリッサやデズモンドにも騒がれたため、クェンティンは静かに卵を温められる執務室へ逃げ込んだ。

フィーアの理解

フィーアとザビリアが訪れると、フィーアはクェンティンの行動をすぐに理解した。孵化した雛が最初に見た相手を親と思う可能性があるため、肌身離さず卵を温める方法は有効だと評価した。

これまで誰からも賛同されなかったクェンティンは、的確な助言をくれたフィーアに感服した。

命懸けの刷り込み

ザビリアは、卵からギザーラ以上に強い個体が生まれた場合、成長後にクェンティンが襲われる可能性があるため、刷り込みが必要だと指摘した。クェンティンは、孵化した瞬間に自分の顔を見せると真剣に約束した。

フィーアは、育てた雛に襲われる危険を承知しながら母親になろうとするクェンティンの覚悟に驚いた。クェンティンも、母親になることは命を懸ける行為だと力説した。

立派な母親への決意

フィーアは、独身男性でありながら母親について深く語るクェンティンを称賛し、立派な母親になると励ました。クェンティンは期待に応えると誓い、二人の認識は珍しく完全に一致した。

ザビリアは、クェンティンが世話焼きの母親になるだろうと笑った。クェンティンは雛との対面を期待し、明るい未来を思い描いた。

セラフィーナと騎士団長食事会(300年前) 

魔力と食欲

魔物討伐後、セラフィーナは大量の昼食を取っていた。シリウスは、彼女が魔力を多く使うほど食欲が増し、食後には魔力が回復することを指摘した。

セラフィーナほど膨大な魔力を持ち、一度に使い切る聖女は他にいなかったため、食事による回復は彼女の体が選んだ負担の少ない方法だとシリウスは考えていた。

回復薬のお礼

セラフィーナは、作り過ぎた回復薬をアルナイルへ木箱ごと渡していた。その回復薬は対外的には王族専用とされていたが、セラフィーナが自主的に配る分については黙認されていた。

騎士団長たちは回復薬への感謝を示すため、セラフィーナを晩餐へ招待した。彼女は騎士団長専用の食堂での開催を希望し、招待を受け入れた。

騎士団長たちの歓待

晩餐当日、ハダル、ツィー、アルナイル、エルナトは勲章を着けてセラフィーナを迎えた。彼らは三日間森に籠もって魔物や果物、蜂蜜を集め、料理人に豪華な料理を用意させていた。

セラフィーナも手作りのクッキーを持参したが、騎士団長たちは食べずに家宝として残そうとしたため、彼女はきちんと食べるよう念を押した。

隠された空腹

セラフィーナは討伐で魔力を使い果たして空腹だったが、皆の前では小食な王女を演じようとした。騎士団長たちの話を聞きながら少しずつ食べていたものの、腹の音をシリウスに聞かれてしまった。

シリウスは料理を残さないよう命じ、騎士団長たちにも食事を進めさせた。彼らの注意が料理へ向いたことで、セラフィーナは周囲の目を気にせず好物を存分に食べられるようになった。

シリウスの気遣い

セラフィーナが苦手な緑のリリコの実を刺して困っていると、シリウスは彼女のフォークから直接食べ取った。騎士団長たちは驚愕したが、シリウスは食べられずに困っていた彼女へ優しくしただけだと返した。

その後、シリウスはセラフィーナの髪を払い、満足したかと優しく尋ねた。セラフィーナは胸が満たされたように感じ、満腹だと思って頷いた。

月夜の気付き

晩餐は全員の笑顔で終わったが、夜になるとセラフィーナは再び空腹を覚え、夜食を取った。実際には十分食べていなかったのに、なぜシリウスへ満足したと答えたのか理解できず、首を傾げた。

窓の外の月を眺めたセラフィーナは、その銀色の輝きからシリウスの髪を思い出していた。

特別書き下ろし 【SIDEローレンス】 コレット(9歳)、王城のに入る 

牢に入ったコレット

コレットは、毒を抜き損ねた魔物料理をローレンスに食べさせたことを重く受け止め、自ら出頭して地下牢に入っていた。報告を受けたローレンスは牢へ駆け込み、彼女を連れ出そうとした。

コレットは罰を受けるべきだと拒んだが、ローレンスは公爵令嬢を一般牢へ入れた者を処罰しなければならないと告げた。騎士が罰せられることを望まないコレットは、すぐに牢から出た。

ローレンスの説得

ローレンスはコレットを温かい部屋へ移し、毒が残っている可能性を承知しながら食べ続けた自分にも責任があると説明した。

コレットは深く反省していたが、ローレンスの言葉を受け入れ、これ以上自ら罰を求めないと約束した。

聖女への願い

公爵邸へ戻る前、コレットは、自分が聖女なら苦しむローレンスを助けられたのにと呟いた。ローレンスも、彼女が聖女であれば妃に迎えられるため、同じ願いを抱いた。

翌年の検査でコレットは聖女と認定された。ローレンスはその場で、毒入りの料理であっても食べたいと思わせる唯一の少女へ求婚した。

電子書籍特典 【挿話】クラリッサ&デズモンド、クェンティンから母になると宣言される 

クラリッサの誤解

廊下で腹を膨らませたクェンティンを見たクラリッサは、想像妊娠を疑った。クェンティンは騎士服の内側にグリフォンの卵を入れており、間もなく母親になるのだと説明した。

グリフォンの卵への執着

クラリッサは、グリフォンの卵が美容と健康に良いという話を持ち出し、食べてみたいと冗談を口にした。クェンティンは卵を食べたら絶交すると激しく警告し、腹の子を守るため走らずに早歩きでその場を離れた。

デズモンドの逃走

続いてクェンティンと遭遇したデズモンドは、膨らんだ腹を騎士服の流行的な着崩しだと勘違いした。クェンティンは妊娠以外にあり得ないと反論し、グリフォンの母親になるため邪魔をしないよう命じた。

デズモンドは働き過ぎによる幻覚と幻聴だと結論付け、危険なものから逃げるように後退した後、全速力で立ち去った。

理解されない母親業

クェンティンは、偉大な母親になろうとしている自分を誰も理解していないと嘆いた。そして、親になる覚悟が足りないのは周囲の騎士団長たちの方だと考え、彼らへ親業の評価を下した。

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