小説「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 6」感想・ネタバレ

小説「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 6」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、異世界転生ファンタジーであり、前世に“聖女”だった主人公がその立場を隠しつつ騎士として生きる物語である。騎士家の令嬢として転生したフィーア・ルードは、300年前の大聖女セラフィーナとしての記憶と力を秘めながら、日常と冒険を両立させていた。第6巻では、黒龍ザビリアとの再会の余韻を残しつつ、霊峰「黒嶽」への探索を遂行し、竜の棲み処で歓待を受けた翌日の嵐の中、未知なる脅威と直面する展開が描かれている。

主要キャラクター

  • フィーア・ルード:本作の主人公。騎士家に生まれた令嬢でありながら、前世“セラフィーナ”として大聖女の力を有していた。聖女であることを隠しつつ騎士として成長を目指す。
  • ザビリア:黒龍の姿を持つ存在で、フィーアと旧知の従魔的な繋がりを持つ。第6巻では再会を果たし、物語の鍵を握る。

物語の特徴

本作の魅力は、「聖女」という崇高さと、「隠す」という逆説的なテーマの掛け合わせにある。主人公が“聖女である”という立場を隠しながらも、その力と立場が少しずつ顕在化していく過程が読者の興味を引く。第6巻では、「竜の棲み処」「霊峰探索」「再会と未知の脅威」といった要素が絡み合い、ただの転生成長譚ではなく神話的・冒険的な構造が強まっている。他作品と比して、「転生→聖女→隠す」という構図が異色であり、さらに「騎士団/地方政治/竜族」という多層的舞台設定も差別化要素となる。また、巻を重ねるごとに世界観が広がっており、書き下ろしエピソードや過去編を含むボリュームも魅力である。

書籍情報

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 6
著者:十夜 氏
イラスト:chibi  氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2021年 12月15日
ISBN:978-4803015942

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あらすじ・内容

”魔人”現る

ザビリアと再会したフィーアたち一行は、霊峰黒嶽でゆったりと過ごしていた。

そんな中、カーティス、グリーン、ブルーの三人は周囲の探索に出掛け、黒髪黒目の謎めいた少女と出会う。
人間にしか見えない少女に対し、カーティスは静かに剣を向け……。

300年間姿を現さなかった魔人との突然の遭遇。
強大な“敵”を前に、フィーア最大の危機!?

霊峰黒嶽編の後日譚に加え、人気投票1~6位のキャラクターの特別エピソードを収録!
なんと全体の約半分が書き下ろしという、過去最高のボリュームでお届け!

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 6

感想

魔人情報の露呈と不穏
三百年ぶりに魔人が現れた。物語上は大きな節目であるが、登場シーンは想定より弱かったと感じた。それよりも、フィーアの記憶に改変の気配がある点が強く残った。ザビリアが彼女のために何かを画策しているのか、その真意が気掛かりである。

黒嶽での遭遇と戦闘評価
現れた個体は「二紋の鳥真似」であった。フィーアの不意打ちや支援、カーティス・グリーン・ブルーの三名の実力が噛み合い、想定より短期に押し切った印象である。右腕だけが特別なのか、あるいは三人が単に強いのかは判断保留だが、少なくとも当代の前衛は三百年前の寄せ集めより練度が高い可能性がある。当時、もしより弱い戦力やフィーア単独で封印に臨んだのだとすれば、その苛烈さは想像に難くない。

竜群対応と心理面
戦闘後、竜群の収拾や砦帰還までの運びは手堅い。フィーアには恐怖の残滓があるが、団長級の実力者が傍に立てば実戦には十分耐えうると見た。とはいえ油断は禁物である。

精霊の不在と願い
今巻で改めて、精霊がフィーアの精神的支柱であり戦術資産でもあることが明確になった。再会を急いでほしい。帝国側には、正式にフィーアを招く段取りを進めてほしいところである。

力量評価と王権の問題
ザビリアの魔力追加を考慮しても、全盛期のフィーアの方が強かった可能性がある。「九割減」は誇張の余地があるにせよ、ザビリアが未だ王として認め切られていないのは、単純に実力や成果が不足しているから、という仮説は捨てがたい。

名剣の返還
騒動を経て、フィーアに相応しい最高の剣が戻った。通常運用か、あるいはシリウス復活の伏線となるのか。今後の使い方に最も期待している。

巻末構成への所感
魔人の初出で本筋が加速すると思いきや、後半は人気投票順の短編集に移行した。短編自体は悪くないが、本編の推進をもう少し見たかったというのが本音である。次巻に期待したい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

フィーア

慎重さと決断力を併せ持ち、仲間を守るために自ら前面に出る立場である。魔人への恐怖を自覚しつつも再起し、支援と指揮に徹する姿勢を取ったのである。
・所属組織、地位や役職
 王国側の騎士団に所属する新人の立場である。
・物語内での具体的な行動や成果
 ザビリアに騎乗して現場に急行し、前衛三名を治癒した。身体強化と弱化で戦況を転換した。竜たちへ回復と防御付与を一斉に行った。黒嶽産の薬を調合し、回復薬を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 竜群から厚い敬意を受ける存在と認知された。帝国側からも敬礼を受ける立場となった。

ザビリア

黒竜王であり、縮小形態で肩に留まることを好むが、必要時には本来の巨体で介入する守護者である。行動は即断であり、移動と感知で優位を作るのである。
・所属組織、地位や役職
 黒嶽の竜王。
・物語内での具体的な行動や成果
 遠隔感知で魔人接触を察知し、空間切断で現地へ搬送した。竜領の再配置と通信網の構築を指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王都同行を決定し、不在中の統治体制を整えた。

カーティス

実戦経験に富む前衛であり、誓いに基づき魔人を逃さない方針を崩さない守護者である。冷静な判断と高い剣技で隊を引くのである。
・所属組織、地位や役職
 王国騎士団の団長格。
・物語内での具体的な行動や成果
 疑わしい少女を即時に斬り、正体を見抜いた。身体強化を受けて両翼を切断し、攻勢を維持した。封じの箱の特性を説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 誓いを理由に撤退を拒否し、指揮を継続した。

グリーン=エメラルド

帝国皇弟であり、解呪の恩義を最上とし、要所への介入力を持つ調整役である。礼節を重んじ、実務でも前に出るのである。
・所属組織、地位や役職
 アルテアガ帝国の第一継承者。
・物語内での具体的な行動や成果
 はじまりの書の情報を提供した。大聖堂での箱確認の手配を約した。前衛として包囲に加わり、翼の切断に寄与した。黒嶽産回復薬の受領役となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国への案内役を担う意思を示し、外交窓口としての位置を強めた。

ブルー

帝国側の実力者であり、実戦で連係を支える補助前衛である。過去の縁を現代へつなぐ媒介にもなったのである。
・所属組織、地位や役職
 アルテアガ帝国の皇族近親。
・物語内での具体的な行動や成果
 前衛として包囲を維持し、負傷しつつも戦列を保った。ルード領を介して名剣の返還に関わった。妹のための護符を受領した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国内の仲介役を担う立場が明確化した。

二紋の鳥真似

紋付きの魔人であり、髪と羽を武器とする擬態と再生を得意とする脅威である。闇属性の軽減で打撃を通しにくい相手であった。
・所属組織、地位や役職
 不明。
・物語内での具体的な行動や成果
 人間の少女に擬態して接触し、致命傷を即時再生した。髪を武器化して圧をかけ、背から羽を顕現した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 弱化を受けて防御が崩れ、翼を切断されて劣勢に転じた。

ガイ団長

砦の指揮官であり、現場統括と補給調整を担う管理者である。言動は直截であるが、隊の安全を優先するのである。
・所属組織、地位や役職
 第十一騎士団の団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 速やかな砦帰還を指示し、食糧と安全を手配した。黒竜目撃の噂を収めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 隊内における求心力を維持した。

オリア

洞察力に優れ、周囲の行動を穏やかに修正する助言者である。外向きの配慮で事態を丸く収めるのである。
・所属組織、地位や役職
 王国側の高位者。
・物語内での具体的な行動や成果
 古代竜の生態差を婉曲に示し、誤解を和らげた。理想像の具体化で行動変容を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 砦運営に対する間接的な影響力を示した。

ゾイル

上位竜の一角であり、領内の再編と統率に従う実務担当である。号令に応じて群れを保つのである。
・所属組織、地位や役職
 黒嶽の上位竜。
・物語内での具体的な行動や成果
 通信網の再編に協力した。群れの士気を回復させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 留守居の要として役割を担うことになった。

クェンティン団長

従魔を持つ団長であり、隊の象徴的存在に位置する。番の候補受け入れで戦力強化が見込まれるのである。
・所属組織、地位や役職
 王国騎士団の団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 直接の登場は少ないが、従魔グリフォンの番探しの対象となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 従魔系統の強化による影響拡大が見込まれる。

緋色のグリフォン

峡谷群の上位個体であり、高速の急降下と刺突で広域を掃討する存在である。番候補として随伴したのである。
・所属組織、地位や役職
 ギザ峡谷の高位巣の主。
・物語内での具体的な行動や成果
 バジリスクの群れを瞬時に殲滅した。番羽根に反応し、同行の意思を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王都への同行により、今後の照合対象となった。

シリウス

統治と教育に関与する理性的な指導者である。観察から事実を導き、是正を促すのである。
・所属組織、地位や役職
 王族もしくは統治層の要職。
・物語内での具体的な行動や成果
 報告書から誤解を看破し、強行軍を指摘した。夜間に説諭を行い、行動の是正を求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 儀礼用の名剣の来歴に関わる記憶と権威を持つ。

セラフィーナ

行動力が高く、感覚で動く面があるが、周囲の助言で軌道修正する立場である。対外行事で注目を集めるのである。
・所属組織、地位や役職
 王族の一員。
・物語内での具体的な行動や成果
 訪問先で記念祭の契機を作った。誤認を笑いで流しつつ場を収めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 対外的な影響が年次行事として固定化した。

カノープス

実務を担う側近であり、情報の受発信を管理する連絡役である。場の緊張を和らげる配慮も行うのである。
・所属組織、地位や役職
 王族側の側近。
・物語内での具体的な行動や成果
 報告書の受領と共有を行った。セラフィーナの立場を守る振る舞いを見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 連絡窓口としての役割を維持した。

リン

地方領の騎士であり、使者として確実に事実を運ぶ連絡者である。礼節に配慮した伝達を行うのである。
・所属組織、地位や役職
 ルード領の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 肖像の件と剣の預け入れを報告した。帝国貴族家の騎士の動向を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領間連絡の信頼性を示した。

展開まとめ

38 霊峰黒嶽2

朝の目覚めと小さな竜王の甘え
フィーアは小柄化したザビリアを腹の上に乗せたまま目覚め、冗談交じりに黒竜王と侍女の掛け合いを楽しんでいた。ザビリアは終日フィーアの肩に留まると言い、威厳を案じるフィーアに対して見かけで自分を測る竜はいないと応じたのである。

竜たちと同行者の反応
洞窟を出た二人は各種の竜に遭遇し、小柄なザビリアにも皆が硬直して敬意を示した。合流したグリーンとブルーは驚愕し、ブルーは子どもと誤認したが、ザビリアはフィーアが楽しむなら満足だと受け流した。カーティスは礼を述べつつやや疲労の色を見せたが、眠れなかっただけだと述べたのである。

竜王が語る訓練の要諦
フィーアは竜たちの訓練内容を問うた。ザビリアは種別ごとの特性を集団行動で活かす方針を説明し、群れる魔物に数で劣らぬよう連係を教えることが目的であると述べた。フェンリル対策の想定戦闘や上位種への備えにも触れ、最も厄介なのは魔人だと言及したのである。

魔人の語が誘発した恐怖
魔人という語を聞いた瞬間、フィーアは恐怖で硬直した。グリーンとブルーは問いを控えて見守り、カーティスは上着でフィーアの体を包み込んだ。フィーアは自らの過敏さを省みつつも、ガイ団長への恐怖や前世の記憶を踏まえ、逃げないと心を立て直したのである。

魔人の存否をめぐる問い
フィーアは世界に残る魔人の数を問うた。帝国の通説は全て封印であり、民間では子どもへの脅し文句としてのみ語られるとグリーンとブルーは説明した。これに対しグリーンは知己から聞いた秘匿情報として、はじまりの書には世界に三十三紋の魔人ありとあると示唆したのである。

立場の確認と情報提供の申し出
グリーンは遠回しな物言いで立場を測ったが、カーティスはフィーアの言葉を額面通りに受け取るべきだと助言した。グリーンはそれを受け入れ、帝国通説を伝えたうえで、恩人であるフィーアの望みとあらば自分の知る限りのはじまりの書の話を語ると申し出たのである。

はじまりの書の要旨
グリーンは秘匿情報として「世界に三十三紋の魔人あり」と説明した。魔人の中でも紋を持つ存在を「紋付き」と呼び、強さは紋数に概ね比例すると述べたのである。

フィーアの生理反応と支え
魔人への言及でフィーアは動悸と呼吸の乱れを示したが、ブルーの介助と膝上のザビリアの甘えが鎮静に寄与した。フィーアは守られているという実感を得て、話の続きに向き合ったのである。

三百年前の異変
大聖女が「十三紋の魔王」を封じた直後、各地の魔人は城と配下を捨てて世界から姿を消した、とグリーンは述べた。表向きは「全て封印」が通説であるが、実際はいくらかが潜伏して存続したという説明である。

封印実績と残存推定
生前の大聖女が計二十紋を封じ、その後に「二紋の月乙女」と「五紋の渦裂き」が封じられ、合計二十七紋が確定済みとなった。よって未確認は六紋と推定される、とグリーンは結論づけた。

右腕の存在確認
未確認六紋のうち一紋は特定済みで、それが「一紋の右腕」であると示された。フィーアは前世の最期の記憶と照合し、右腕が一紋である事実を思い出し納得したのである。

フィーアの懸念と論点
フィーアは推定に留保をかけ、「十三紋の魔王」そのものが箱から逃れている可能性を排除できないと考えた。彼女は右腕の生存と合わせ、未確認総量が六紋に加えて魔王の十三紋を含む恐れを意識したのである。

大聖堂での確認要請
フィーアはカーティスに魔王の箱の現物確認の可否を問うたが、権限上困難との回答を得た。入室資格はごく一部の聖職者と列強の元首に限られるためである。

グリーンの介入宣言
グリーンは「お偉い知り合い」の伝手を示し、魔王の箱の確認を自ら手配できると明言した。フィーアは想定外の提案に驚きつつ、次善策の現実味を得たのである。

【SIDE】アルテアガ帝国皇弟グリーン=エメラルド

出自と呪い
アルテアガ帝国の正妃の子として、ルビー、グリーン、サファイア、妹の四人は生まれた。側妃の呪いにより、グリーンとルビーは誕生直後から顔面出血に苦しみ、体力も奪われ、忠臣から皇位に不適と断じられたのである。

潜在能力の自覚
成長と共に、グリーンは優れた身体能力と言語習得に秀でた頭脳を自覚したが、呪いのため活かせず、無力感を深めていた。

解呪と世界の反転
ある日、フィーア(創生の女神と信じる存在)により一瞬で解呪された。帝国の重臣は態度を翻し、ルビーの皇位継承を全力支援と表明した。グリーンは圧倒的な感謝をフィーアに抱き、彼女のためなら世界をも差し出すと誓ったのである。

地位の確立
ルビーが皇帝に即位し、グリーンは第一継承者として“帝国のスペア”となった。この身分により世界の要所に通じる権限を得た。

大聖堂への介入表明
フィーアが「魔王の箱」の現物確認を望み、カーティスが困難だと答えると、グリーンは自らの権限で実現を約した。フィーアは制止しつつも感謝を述べ、グリーンは最高の結果を持ち帰ると内心で決意した。

懸念の察知と使命の再定義
フィーアの真意を読み取り、魔王封印の現状に疑義があると理解した。カーティスとザビリアの落ち着いた反応から危機の実在を確信し、皇弟として「民を守る」責務を再確認したのである。

最終誓約
グリーンは、真実を知るために可能な限りの手段を尽くし、「魔王の箱」確認に踏み出すと誓った。

39 霊峰黒嶽3

大聖堂確認の依頼を巡る逡巡
朝食後、フィーアは草上でザビリアを抱えつつ、グリーンに「魔王の箱」の確認を託した判断が妥当かを省みた。グリーンの身分や伝手に疑念を抱きつつも、既に出立したカーティス、グリーン、ブルーの探索を見送り、結論として彼に任せる他ないと考えたのである。

ザビリアの距離感と楽観
ザビリアは「何とかなる」と軽く応じ、伝手よりも本人の突破力を示唆した。フィーアは現実性に欠けると感じたが、依頼後である以上は思考の切り替えに努めた。

『右腕』一紋の再想起と恐怖の残滓
フィーアは前世の断片が遅れて戻る性質を自覚しつつ、『魔王の右腕』が一紋であった事実を今回ようやく明確化した。紋数と強さは比例するため理屈では脅威は限定的と判断できるが、体感の恐怖は減衰せず、思い出し得ていない要素の存在を示唆した。

残存魔人の整理と情報源の信頼
未封印は合計六紋、うち一紋が「一紋の右腕」という整理に同意した。カーティスが否定しなかった点から、グリーン情報の信憑性を高く見積もった。ただしカーティス個人への追問は、前世最期の回想での傷心に配慮して回避した。

黒嶽流出対策の要請
砦側からの要望を受け、フィーアは魔物流出の抑制を相談した。ザビリアは「根本原因の除去」として山を下りる提案を示し、同行意思を表明した。

緊急察知――魔人との遭遇
直後、ザビリアが遠隔感知で三人が魔人に遭遇したと断じた。当初は紋なし相当と見積もったが、魔力量の制御から紋付きと訂正した。フィーアは動揺しつつも、カーティスの過去経験を拠り所に最悪回避の可能性を探った。

救援決断と即応展開
待機と治癒後方支援を勧めるザビリアに対し、フィーアは救援同行を明言した。ザビリアは即座に本来の黒竜の巨体へと変化し、空間切断による高速移動で現場へ急行する態勢を整えたのである。

【挿話】紋付きの魔人

黒嶽の観察と薬草採取
カーティス、グリーン、ブルーの三名は黒竜領の山を下りつつ植生を確認した。黒土の影響で特異な植物が多く、カーティスはフィーアのために薬草らしきものを採取したのである。

村娘の出現と不審
静寂の山中に村娘風の黒髪黒瞳の少女が接近した。この環境で無傷の少女は不自然であり、三名は間合いを保って警戒した。挑発的言動と状況証拠から、カーティスは魔人の可能性を断じたのである。

初撃と“死”の演技
カーティスは躊躇なく抜刀し少女の胸を貫いた。大量出血と痙攣ののちも少女は嘲笑を続け、血色は黒へと変化し、致命傷は瞬時に再生した。鳥の鳴き声めいた笑いと残虐な過去を語り、自らを「鳥真似」と示唆した。

正体顕現――二紋の鳥真似
少女は角を顕し、頬の黒い体液の下から羽形の紋を二つ露出させ、「二紋の鳥真似」と名乗った。髪は腰まで伸長し、圧力が一変。感情の欠落した黒眼で三名を見据え、圧倒的優位を誇示したのである。

応酬と《身体強化》
鳥真似は「刺されば武器は抜けない」と挑発したが、カーティスは再度突き、肩に刺さった剣を《身体強化・攻撃力二倍》で引き抜いた。鳥真似は初めて警戒して後退し、古の力の残存に動揺を見せた。

黒竜の来翔と合流
天が裂け、空間の切断から黒竜が出現した。背にはフィーアが同乗しており、三名が最も現場に来てほしくなかった人物が降り立った。カーティス、グリーン、ブルーはいずれも苦渋の面持ちで名を呼んだのである。

40 二紋の鳥真似

到着と状況把握
フィーアはザビリアに乗って現場後方に着地し、カーティス、グリーン、ブルーが自立し戦闘可能であることを確認して安堵したのである。

魔人の異変と違和感
対峙する存在は角と黒眼を備えた典型的魔人の外形であったが、笑みを作り、人語を流暢に話し、黄色い服の名残を纏うなど人間的挙動を模していた。300年の間に魔人側の「人間社会への擬態」が進んだ可能性が示唆されたのである。

鳥真似の宣言と脅威
魔人は「目撃者は帰さない」とし、フィーアの赤髪を“300年前の姫”になぞらえる発言を行った。これにより過去との連続性を仄めかしつつ敵意を明示したのである。

退避案とカーティスの誓い
フィーアは箱の不携行や露見リスクを踏まえ一時撤退を提案したが、カーティスは「魔人を見たなら一人たりとも逃さず封じる」との誓いを理由に拒否し、問題はないと断じた。

交戦開始と魔人能力
鳥真似は髪束を武器化し突撃。通常なら受け太刀が折れる強度であるが、カーティスは全てを捌き弾き返した。彼は自己《身体強化》を施しており、前段の戦闘で示した通り、武器を奪われぬ出力で応戦したのである。

フィーアの動揺と再起動
魔人への恐怖で身体が冷え手が震えるなど平常を欠いたが、「右腕」とは別個体であると認知し直すことで恐怖反応が収束。直後、背後のザビリアが無言の護衛で支え、フィーアは平静を回復した。

隊の役割分担と意思決定
前衛はカーティスを中心にグリーンとブルーが補助、ザビリアは主保護と魔力供給の後詰めに徹する。フィーアは「聖女として助力せねばならない」と自責を断ち、支援行使を決意して前方に手を掲げた。

現在地
二紋の鳥真似と三名の前衛が交戦継続。フィーアは聖女としての支援発動に移行し、戦況は本格的な封印・制圧フェーズへ移る局面である。

魔人戦直前の内省と精霊への想起
フィーアは魔人と相対する緊張の中で前世を想起し、失われた精霊に心中で呼びかけて気持ちを整えた。聖女の存在を隠す必要から表立った加護行使は避け、戦闘全体を最小の犠牲で終える判断に徹する姿勢を固めた。

三方包囲と装備優位の確認
カーティス団長の誘導で、カーティス・グリーン・ブルーが鳥真似を三方から囲み、魔法付与の高品質武器で髪の攻撃を弾いていた。フィーアは三人の連係を評価しつつ、鳥真似の生命力が12,200で残存100%と把握し、格上であることを明示した。

紋付き魔人の規格外性と戦況
フィーアは紋付き魔人が生物として別格で、個体ごとに構造が異なるため見極めが要と分析した。三人は踏み込みと技量で応じたが、鳥真似はほぼ不動のまま反撃を通し、カーティスの腕や兄弟に負傷を与えた。

羽の発現を起点とする強化介入
鳥真似が背から二枚の羽を顕現し動きが停まった刹那、フィーアは《身体強化》(攻撃力・速度を各2倍)を付与した。強化を得たカーティスとグリーンが連続して両翼を根元から切断し、鳥真似を動揺させた。

急所情報の提示と即時治癒
フィーアは急所が羽の付け根にある心臓であると指示し、鳥真似が殺気を放って背面を髪で覆う間に、三人の深手を即時に痕跡なく回復した。グリーンとブルーは治癒と強化の異常な即効性に驚愕し、カーティスは感謝を述べて再度剣を構えた。

素性追及と遮断、剣技の切り崩し
鳥真似は失われた魔法を扱う赤髪の素性を追及したが、カーティスが無礼として遮断した。その直後、カーティスは髪束の防御を斬り落とす鋭い剣技で応じ、フィーアは前世からの戦闘同調のしやすさを確認した。

拮抗の長期化と疲労兆候
鳥真似の髪は半ば再生し、肉体への決定打は乏しかった。三人は高水準の技量で生命力を削ったが、疲労の兆候からグリーンとブルーにミスが出始め、フィーアの即時治癒が追随する展開となった。闇属性ゆえの軽減が与ダメ不足の要因であった。

誘導の演技と属性弱化の発動
フィーアは転倒を装う拙い演技で大技誘発を狙い、鳥真似が再度羽の生成に魔力を大量投下した瞬間を捉えた。立ち上がりながら狙いが成功したことを明言し、《身体弱化》によって闇属性を30%減少させ、打開の条件を整えた。

戦後の叱責回避と謝意の反転
戦闘直後、カーティスは負傷を嫌う性分からフィーアの自傷策に怒りを示しそうであったが、先手を取ったフィーアの主張により謝意へ転じた。カーティスは「自力で倒す」との宣言を恥じ入り、跪いて謝罪した。

身分認識の齟齬と“臣下”問題
フィーアは新人騎士である現状を強調したが、カーティスは前世の忠誠を引きずり「臣下」を自認して譲らなかった。説得は心理的に逆効果となり、彼は平伏して赦しを請う段に至った。

帝国兄弟の“創生の女神”儀礼再燃
グリーンとブルーは前回同様の儀礼を再演し、片膝をついて「創生の女神」へ感謝を捧げた。フィーアは儀礼を受けつつ、今回の力は“一時的で呪い由来”と説明し、二人は即座に了承した。

進路提案の食い違い
フィーアは二人の戦闘適性を評価し「帝国騎士」入りを提案したが、当人らは歯切れの悪い反応を示した。発言の勢いは失われ、内情に触れかけた言葉は曖昧に退いた。

ザビリアの状況診断
ザビリアは、二人の推測が概ね正解に近く、駒と影響力を備えた彼らが関与するほどフィーアへの傾倒が深まると分析した。目を離すと事態が複雑化する、と苦言を呈した。

新たな脅威の兆候――竜群の接近
会話の最中、上空に赤・青・黄の竜が旋回して集結した。ザビリアは黒嶽での命令不履行を察し、誘因が「甘い聖女の血の匂い」であると示唆した。事態は戦後処理から新局面へ移行しつつあった。

41 霊峰黒嶽4

竜の集結と原因の特定
竜群が上空を旋回し急速に増えたのは、フィーアの腕に残った聖女の血の匂いに惹かれたためであると判明した。ザビリアは「封じの箱」や魔物が同様に惹かれる傾向を指摘し、フィーアの“魔物に好かれすぎる”特性を再確認した。ゾイルを含む上位竜まで降下し、周囲を多重に取り囲む事態となった。

『封じの箱』と聖女の血の再解釈
カーティスは箱の材質が「魔人の一部」であること、魔人には“同胞を取り込む性質”があることに加え、研究知見として「箱は聖女の血そのものも取り込もうとする」性向を説明した。従来の“結合を助ける血”という理解から、“血を欲する箱(=魔人性の残滓)”への再定義が示された。過去は精霊の目くらましにより事実認識が歪んでいた可能性が示唆された。

精霊への希求と帝国行きの示唆
フィーアは前世の契約精霊の不在に寂寥を覚え、かつて出会った森(現アルテアガ帝国領)へ再訪の意志を口にした。これにグリーンとブルーは全面的な案内と便宜を約束した。

カーティスの備えと秘匿
カーティスは将来の遭遇に備え複数の箱を各地に秘匿していたと明かした。今回持参の箱は経年品質低下の可能性があるが、魔人に悟らせぬため“所持していない体”を通し、機を見て投入する用心深さを示した。

心的外傷への配慮と状態確認
ザビリアはフィーアの心理を問診し、フィーアは「鳥真似は魔王の右腕とは別種」と認知再構成して平常化を報告した。ザビリアとカーティスは安堵した。

同行決定と竜王問題
ザビリアは「最重要はフィーア」であり山を降り王都へ同行すると宣言。ゾイルは絶望したが、ザビリアは上位種としての自立を促した。三本角への執着は否定され、「角は見た目であり目的はフィーアを守る力」と整理した。

竜群の再配置と“音声網”構築
ザビリアは自ら不在となる前提で、竜たちのテリトリーを“声が連鎖する”通信網として再編するようゾイルに指示した。士気は回復し、体制は維持可能と判断された。

“期待”を用いた保護動機づけ
ザビリアは隷属契約の代替として、「恩恵への期待」を活性化させる手法を提案。従魔契約ほど強固ではないが、契約主へ“自主的に尽くす”動機を高められると推論した(同調強度は魔物のレベルと“隷属したい思い”に相関)。

誤解防止と立場の明示
フィーアは竜たちへ礼を述べ、「ザビリアを大切な友として預かる。無闇な危険は避ける努力をする」と対外宣言した。ザビリアはその率直さを「可愛らしい聖女」と評し、両者の信頼関係が一層明確化した。

竜の異議と主従の明示
フィーアが「ザビリアを危険に遭わせない」と宣言した直後、竜が鳥真似の黒羽を指して反論した。フィーアは魔人遭遇を正直に認めた。ザビリアは「彼女は自分の主」であると冷然と釘を刺し、竜たちに礼節を要求した。

拗ねた王と仲裁
縮小化して肩に乗ったザビリアは竜の非礼を無視した。フィーアが宥め、去る前に不和を残さぬよう説得すると、ザビリアは「今回は見逃す」と和解を許可した。

一斉治癒と防御付与
フィーアは竜全員へ《回復》と《身体強化(防御+20%)》を施し、損傷や鱗の欠損を修復した。ザビリアは過度な心酔を懸念しつつも評価し、竜たちはフィーア守護とザビリア同行容認を表明した。

従魔観の再考
契約なしで全竜が庇護側に回った事実に、カーティスは「従魔は聖女によって完成する在り方かもしれない」と示唆した。

下山と麓での別れ
一行はゾイルらと別れ、騎竜で麓まで移動し徒歩に切り替えた。ザビリアは縮小してフィーアの肩に待機した。

捜索隊との合流と機転
オリア、ガイ団長ら捜索隊と合流。周辺で黒竜を視認したという報告に、フィーアは「黒竜は太ってウォーキング中」と即興の虚偽説明で回避し、ガイ団長は信じて警戒を解いた。

黒の解釈を巡る応酬
ガイ団長が肩の黒い“鳥”を不潔と評すると、フィーアは黒色を擁護。オリアは「古代竜は一般の竜と生態が異なる。王都に新天地を求める可能性も」と婉曲に事実を示唆した。

砦へ帰還方針
ガイ団長は速やかな砦帰還を指示。食糧や安全の手配に努め、表向きの騒動は収束へ向かった。

砦での休息と歓待
一行は砦に帰還し、騎士たちの祝意を受けつつ見回りや訓練見学を行った。夕餉ではガイ団長の厚意で大量の肉料理が供され、カーティス、フィーア、グリーン、ブルーの四名で平らげて周囲を驚かせたのである。

滞在方針の決定
カーティスは「次にオリアと会える時期が不明」として砦滞在を提案した。シリルの事前承認があるため業務扱いと判断し、フィーアは「黒竜不在時の黒嶽における竜の移動状況確認」を名目に滞在継続を決めた。グリーンとブルーも同調して滞在した。

ルード領からの使者
日をおいて、ルード領の騎士リンが来訪し、帝国の貴族家の騎士が「婚約者探し」を理由にフィーアの肖像画を求め、身元保証代わりに剣を置いていったと報告した。騎士団の目撃情報から、その使者は青髪の美丈夫すなわちブルーの関係者と推測された。

剣の正体と感情の奔流
布を解いた剣は柄に大きな魔石をはめ込んだ名剣であった。フィーアはそれを見て号泣した。剣は三百年前、フィーアがシリウスに贈った王国ナーヴの剣と同一であり、長い歳月を経て本人のもとへ戻ったのである。

由来確認と所持の承認
ブルーは剣が仲間由来である旨を述べ、占いの指示やルード家の「逆勲章」に感銘を受けた経緯を補足した。フィーアは王国の剣であると断じ、所持を希望した。ブルーは即応じ、オリアも承認したため、剣はフィーアの所有となった。

安眠の自覚と出立
その夜、フィーアは剣を枕元に置いて熟睡した。翌朝、カーティス、グリーン、ブルー、ザビリアとともに第十一騎士団砦を出立し、騎士たちに別れを告げた。魔人遭遇、ザビリア同行決定、姉との再会、名剣との再会という成果を携え、快晴のもと王都帰還の途についたのである。

クェンティン団長へのお土産

別れの挨拶と進路分岐
翌日、進路の違いによりグリーンとブルーは東の帝国へ、フィーアたちは南の王都へ向かうことになった。別れに際し、レッドへの労をねぎらった。

回復薬の贈与
フィーアは黒嶽産の希少薬草で自調合した高性能回復薬を十本ほどグリーンに託し、レッドへの土産とした。重度出血や昏睡まで回復可能と説明した。

ブルーへの返礼と妹への護符
ルード領でシリウスの剣を置いていった帝国騎士への返礼として、強化付与済みの短剣をブルーに渡した。さらに、青竜鱗と黒い魔石で作った髪飾りを妹用に贈り、その魔石には「一度だけあらゆる呪いを反射」する効果が付与されていると明かした。

ザビリアの所感と進路相談
ザビリアは「贈り物の規格外さ」を指摘しつつ、空路提案を行ったが、フィーアは寄り道希望を示す。髪飾り素材への嫉妬を交えつつ、黒嶽—ルード間のギザ峡谷行きを承認した。

目的の開示:クェンティンへの“土産”
目的はクェンティン団長の従魔グリフォンに「番」を見つけて贈ることであった。フィーアは番の羽根を髪に飾り、道中で反応を探っていたと説明した。

ギザ峡谷の状況
峡谷には近時、北部から集結した多数のグリフォンが生息。黒竜集結の余波で移動してきた個体が多いとザビリアが分析した。

候補抽出の方策検討
ザビリアの威嚇的咆哮案や、カーティスの色合い類推案は却下。フィーアは「番羽根を可視化し、全群に提示して自然反応を引き出す」策を採用することにした。

実行手順の決定
ザビリアが非敵意を示しつつフィーアを掴み、峡谷中央上空へ静かに接近する。全個体の視線を集め、番反応の有無を見極める段取りであった。

上空接近と誤認
ザビリアが両腕を掴み上昇し、峡谷上空の群れへ接近した。グリフォン側はこれを「黒竜の捕食行動」と誤認し、散開した。計画の前提は崩れた。

谷底異変の察知
見張り個体の警告は下方への注視に起因した。谷底では約三十頭のバジリスクが巣穴を狙い集結していた。絶壁登攀能力により下位巣が脅威に晒されていた。

グリフォン社会の階層性
高位ほど高所巣に居住し、上位救援は存在するが下位救援は期待できない構造であった。低位巣が主目標となり、群れは混乱に陥った。

対応方策の再検討
威嚇収容や色合い類推といった便法は不適と判断された。「番の羽根を提示し自然反応を引き出す」原案は、体勢の誤解(磔状)が障害となり機能しなかった。

緋色個体の出現と掃討
最上層の巣から緋色の大型グリフォンが出撃し、急降下刺突でバジリスク群を瞬時に殲滅した。技量と個体強度はいずれも群れ内上位と判別された。

接触と関心の焦点
緋色個体は接近し、髪飾り(黄金色の羽根)に強い注目を示した。勧誘に対し同行の意思を明確化したが、その動機は「番反応」よりも「黒竜と渡り合う主体への評価」である可能性が示唆された。

番候補としての位置付け
緋色個体は高位巣の主であり、気質は強勢であった。関係性は上下に収斂する恐れがある一方、実地照合までは番確定不可と結論づけた。

撤収と次行動
当面の混乱収束と群れの疲弊を考慮し、緋色個体を番候補として伴い王都へ帰還する方針とした。今後はクェンティン従魔との直接照合を実施する計画である。

シリウス、イルカとクラゲの類似性についてセラフィーナに確認する

カノープスの報告と記念祭の決定
セラフィーナとシリウスが庭を歩いていた際、カノープスが険しい表情で手紙を読んでいた。問い掛けにより、それがサザランドから届いた報告書であると判明した。内容は、セラフィーナの訪問を記念した祭りを毎年開催し、最初の演目として「クラゲの踊り」を披露するというものであった。

シリウスの推理と誤解の露見
シリウスは、演目がクラゲである理由を不審に感じ、イルカの聖地でなぜクラゲかと追及した。セラフィーナはごまかそうとしたが、シリウスは「セラフィーナがイルカの踊りをクラゲと勘違いした」ことを即座に見抜いた。カノープスは発言を避けつつセラフィーナを庇おうとしたが、すべて看破された。

クラゲとイルカの類似性の弁明
シリウスの問いに対し、セラフィーナは「疲れたイルカと張り切ったクラゲは似ている」と主張して場を取り繕おうとした。しかし、シリウスは「そのような状況は起こり得ない」と否定し、論理の破綻を指摘した。セラフィーナは感覚的な話だと笑ってごまかした。

強行軍の発覚と逃走
さらにシリウスは、祭りの最中に眠った事実から「休息を取らずに強行した旅程」を推測した。危険を伴う行動であると判断し、理由を追及したが、セラフィーナは危機を察して逃走した。カノープスも同行し、シリウスの追及を逃れようとした。

夜の再会と説諭
その日の夕方、セラフィーナが部屋に戻ると、シリウスが待ち構えていた。彼は穏やかに声をかけながらも退路を塞ぎ、昼間の会話の続きを始めた。セラフィーナは観念し、夜遅くまで叱責を受けることになった。

フィーア、オリアと理想の男性像を語る

理想の男性像を語る姉妹の会話
談話室でおやつを食べながら、オリアがフィーアに理想の男性像を尋ねた。フィーアは恋愛経験がないため理想が高いと語り、「背が高い人」や「一緒にいて安心できる人」と答えたが、具体性に欠けていた。オリアは笑みを浮かべながら、自身の理想を「早寝早起き、書類仕事も嫌がらず、乱暴な言動をせず、弱い者に優しい男性」と具体的に挙げた。

姉の発言の真意と翌朝の変化
オリアが話の途中で扉の向こうを見やり、「金と黒の大きな猫」が覗いていたことに気付き、意図的に理想像を口にした。翌朝、ガイ団長が食堂で珍しく早朝から書類仕事をしている姿が目撃された。フィーアとオリアが挨拶すると、団長は動揺した口調で応じ、フィーアに大量の朝食を勧めた。

発破の結果と団長の努力
フィーアはオリアの理想を忠実に実行しようとしている団長の行動に気付き、驚愕した。早起き、書類仕事、丁寧な言葉遣い、親切な振る舞い――全てが前夜のオリアの発言を実践した結果であった。フィーアは、姉が団長に本気で影響を与えたと理解した。

オリアの対応とまとめ
オリアは団長の努力を褒めつつ、「言葉遣いだけは元に戻してよい」と柔らかく諭した。ガイ団長は素直に従い、場は穏やかに収まった。フィーアはその様子を見て、姉が巧みに団長を導いていると感じ、この砦が円滑に回る理由を悟った。そして最後に、理想の男性像はまだ分からないが、ガイ団長は理想の上司にはなれそうだと思うに至った。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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