漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ

漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、和風妖怪・陰陽道要素を背景に、宿命や傷を抱えた男女の絆と葛藤を描くダークファンタジー系少女漫画である。主人公の少女が「妖印(あやしいきず)」と烙印を押され孤立しながらも、陰陽家当主の青年と婚約し、妖怪・陰謀・家族・過去という多層構造の中で物語が展開する。本巻第9巻では、家族との面会や大妖怪「天狗・外法」との対峙、そして主人公の抱える傷の真実がさらに明らかになっていった。

主要キャラクター

  • 白蓮寺菜々緒:本作のヒロイン。陰陽五家の一つ「白蓮寺家」分家出身で、妖怪に攫われた過去と妖印の刻印を負っており、婚約先として選ばれた紅椿家当主との新たな人生を模索している。
  • 紅椿夜行:陰陽五家「紅椿家」当主。椿鬼という吸血体質を抱え、菜々緒との婚約を通して自身の宿命や家族の秘密に関わる展開を迎えている。
  • 武井(橙院武流):本巻にて過去が明らかになる大妖怪・天狗・外法との接点を持つ重要な脇役。菜々緒を攫った存在として陰の舞台裏で動く。

物語の特徴

本作の魅力は、和洋折衷の妖怪・陰陽道世界観に加えて、心の傷やトラウマを抱えた主人公が「傷モノ」として周囲から疎外されながらも、自らの価値を見いだしていく逆転の物語である。他の少女漫画と一線を画す点として、「妖怪との共存・陰陽寮の儀式」「受難を背負った女主人公」「和風テイスト+ダークファンタジー」の要素が挙げられる。本巻ではさらに、外部の大妖怪との直接対決と仲間・家族との対話が描かれ、心理ドラマとアクションが密接に絡み合う展開となっている。読者にとっては「怯え」「傷」「支えあい」というテーマが重くも希望を帯びて描かれており、強烈な印象を残す作品である。

書籍情報

傷モノの花嫁(9)
原作: 友麻 碧
著: 藤丸 豆ノ介 氏
発売日:2025年10月30日
ISBN:9784065410684
出版社:講談社

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

五行結界の外へ攫われた菜々緒は、残虐非道な大妖怪ーー天狗・外法と会い、武井の壮絶な過去を知る。天狗に襲われそうになるものの、間一髪のところで夜行に救われ、二人はついに再会。十三番隊隊長・京極零時の力を借りながら、皇都へ帰りを急ぐ。一方皇都では、姿を現したぬらりひょんに、一成と蓮太郎が応戦していた。
大妖怪・ぬらりひょんへと成り果てた母・朱鷺子を倒すため、決意を固める夜行。そんな夜行を心配する菜々緒の前に参番隊隊長・卑弥子が現れる。それぞれが想いを抱えながら、決戦の刻は、すぐそこまで迫っていてーーー。

傷モノの花嫁(9)

感想

天狗に囲まれた菜々緒の前に夜行が現れ、瞬時に救出。撤収の途上、菜々緒は気を失い、小田原宿へ。
宿では零時が天狗を尋問。鯖出汁×呪詛という容赦ない“拷問”に苦笑させられつつ、外法や女性拉致の情報を引き出す。
夜行と菜々緒は互いの無事を確かめあい、夜行は「母・朱鷺子を斬る覚悟」を静かに口にする。ここで二人の心は確かに結び直されるが、同時に価値観に距離が出来たのかもしれない。
牢では武井が、妹・蛍流を守るために犯した罪を告白。
夜行は真相の開示と協力を求める。代わりに蛍流の骨と沙羅の力で「わずかな再会の可能性」を武井に示してこちら側に引き込む。
一成が巨大な“髪の繭”=本体と対峙。蓮太郎は対大妖怪兵器で打開を図るが、一成は「夜行に母を殺させたくない」と拒む。そこへ鷹夜が現れ、母へ呼びかけ、わずかに理性が返る。だが鷹夜は“自爆の呪符”で共死を選ぼうとし、父・夜一郎が「お前は死ぬな」と抱き留める。
過去編で、若き日の夜一郎と朱鷺子の出会い・花火・政略結婚・子の誕生と幸福、そして紅椿家の「吸血衝動」が朱鷺子を壊していった経緯が描かれ。
現在へと戻り、夜一郎は“夫としての最期の覚悟”で朱鷺子を抱き締め、蓮太郎が容赦なく引き金を引く。
蓮太郎も“断末魔の呪い”の反動に倒れ、命がけで「未来」(三馬鹿)を遺そうとした男の生き様が胸を打つ。
その蓮太郎を身を挺して護った噛姫、小さい方がカワイイと感じてしまった。
だが朱鷺子は丸薬で妖力を補充。
橋は崩落し、八咫烏に跨った零時と夜行が父を救い、朱鷺子は「椿鬼を殺す」と言い捨て退く。
零時の“一目連の瞳”で夜一郎は一命を取り留めるが、右腕は穢れに侵され切断を余儀なくされる。
夜一郎が朱鷺子に刺されて片目を失った「昔」と、右腕を失った「今」が重なり、家族のために身を挺して守り続けた父の背中が示された。
ボロボロだ。
ぬらりひょん討伐作戦は“早朝決行”。一成・夜行・零時の三隊長が前線を担う。
夜、夜行は菜々緒を抱き寄せ「死ぬつもりはない」と微笑みつつも、もしものときは「俺を忘れて幸せになれ」と告げる。
だが占いは「相打ち」を示し、呪いは血を伝う――夜行も死ぬ、という可能性が突きつけられる。
菜々緒は前鬼・後鬼に止められながらもなお抗い、武井の“覚醒の術”を受け。
強い執念と愛が、ついに菜々緒の“才”を開く。
その前にアノ時の記憶の開放に菜々緒は耐えられるのだろうか?

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

紅椿夜行

菜々緒を救出し、現場指揮と決断を担う退魔師である。母である朱鷺子の討伐を自らの責務と定め、血の縁に基づく調伏を受け入れている。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・隊長。紅椿家の次男。
・物語内での具体的な行動や成果
 天狗の群れを斬り伏せ、菜々緒を救出した。印の多発を確認し、撤収を指揮した。皇都上空で八咫烏に騎乗し、ぬらりひょん化した朱鷺子と交戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 作戦会議で前線指揮の一角を担うことが決定した。椿鬼の力を用いる覚悟を明言した。

菜々緒

紅椿家の若奥である。拉致と追跡の渦中で自我を保ち、夜行への強い帰属を示した。武流の術により才の覚醒に踏み出した。
・所属組織、地位や役職
 紅椿家・若奥。
・物語内での具体的な行動や成果
 天狗に囲まれるも夜行の到着まで生存し、印の発生を証言した。気配を消す打掛の正体を説明した。拷問に用いられた鯖節出汁の性質を補足した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 武流の術で封じられた才の開花を受け入れた。夜行への私的誓約を明確化した。

京極零時

「皇國の死神」と称される予言の子である。治療と斬断の判断を即断し、尋問でも実務的対応を取る。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・十三番隊隊長。京極家。
・物語内での具体的な行動や成果
 鯖節出汁に呪詛を重ねた拷問で天狗から情報を引き出した。一目連の瞳で夜一郎を治癒し、穢れた右腕を切断した。空戦で夜行を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先祖返りの資質を保有し、十三番隊の戦力中核を担う。

菊大路一成

守りの剣を信条とする隊長である。浄化と指揮で戦場を安定させた。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 風神の加護を呼び、呪詛を浄化した。皇都でぬらりひょん本体の繭に接近し、隊の退避を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 三隊長の一人として討伐作戦の前線を担うことになった。

橙院武流(武井)

妹を救うために違法な取引に手を染めた男である。菜々緒の才を見抜き、覚醒の端緒を与えた。
・所属組織、地位や役職
 元・檀院家分家筋。拘束中の被疑者。
・物語内での具体的な行動や成果
 気配を消す打掛を所持し、菜々緒へ渡した。天狗に皇都の女を差し出した事実を自白した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 取り調べでぬらりひょん関連の情報提供を求められている。

紅椿夜一郎

紅椿家の長であり、作戦全体を牽引した人物である。最終局面で妻と相討ちの覚悟を示した。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮上層。紅椿家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 対大妖怪用銃の運用を蓮太郎に託した。朱鷺子を抱え込み、身命を賭した拘束を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 零時の治癒で一命を取り留めたが右腕を失った。

紅椿鷹夜

紅椿家の長子である。母への情と責任感から独断行動に及んだ。
・所属組織、地位や役職
 紅椿家・若君。
・物語内での具体的な行動や成果
 ぬらりひょん化した母に呼びかけ、正気の断片を引き出した。自爆用の呪符で心中を図ろうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父との和解を果たし、以後の行動に影響が生じた。

朱鷺子

将軍家出身で紅椿家の妻である。丸薬の影響でぬらりひょん化し、皇都を危機に陥れた。
・所属組織、地位や役職
 紅椿家・前奥方。
・物語内での具体的な行動や成果
 繭状の本体で妖気を放出し、結界を汚染した。丸薬の服用で妖力を再点火した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 討伐後も撤退し、行方不明となった。

卑弥呼

研究と指揮の両面を統括する要職である。ぬらりひょんの来歴と丸薬の分析を主導した。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・統括。
・物語内での具体的な行動や成果
 壺と丸薬の成分一致を示し、復活の機序を説明した。三隊長の出撃方針を決定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 結界維持の限界を宣言し、作戦の時間制約を明確化した。

蓮太郎

異国技術を運用する射手である。命令と情の間で最終引き金を引いた。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・弐番隊隊長(前・十番隊副隊長)。
・物語内での具体的な行動や成果
 対大妖怪用銃で朱鷺子と夜一郎を同時に撃ち、決定打を与えた。断末魔の呪いを受け重傷となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 三馬鹿の育成者として過去が語られ、隊内評価が示された。

噛姫

神格を持つ支援者である。呪詛対策で前線を援護した。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮協力存在。
・物語内での具体的な行動や成果
 簡易五行結界内への同行を可能とし、蓮太郎の防護を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦闘後に力を使い果たし、小さな姿へと変化した。

京極小雪

京極家の先祖返りである。情報伝達と警戒を担当した。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・十三番隊。京極家。
・物語内での具体的な行動や成果
 天狗の眷属出現と結界突破を報告した。夜一郎の容体確認に従事した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 雪女の資質が示され、部隊機動を支えた。

京極大門

京極家の炎鬼の先祖返りである。周辺戦闘で火力を担った。
・所属組織、地位や役職
 陰陽寮・十三番隊。京極家。
・物語内での具体的な行動や成果
 小田原周辺での迎撃戦を継続し、零時に増援要請を送った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十三番隊の即応性を補強した。

ぬらりひょん

将軍家に関与した大妖怪である。身体依り代と丸薬を介して復活する特性を持つ。
・所属組織、地位や役職
 記録上の大妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
 妖気を結界内に拡散し、百鬼夜行の影響で式神を錯乱させた。髪状触手で接近を阻み、戦場を制圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 本体の所在が不定であり、撤退後の追跡が困難である。

天狗

外法の指揮下で活動する敵勢力である。拉致と撹乱を行う。
・所属組織、地位や役職
 外法配下の眷属。
・物語内での具体的な行動や成果
 菜々緒の拉致を試み、印の残留と同時消失を示した。船上で群体攻撃を行ったが撃退された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 鯖節由来の神饌性に弱点を示した。

展開まとめ

第33話

夜行の登場と救出
菜々緒が天狗に囲まれた場に紅椿夜行が現れ、剣を抜いて彼女を守るように立った。夜行は即座に天狗たちを斬り倒し、倒れかけた菜々緒を抱きとめた。菜々緒は安堵の涙を流し、夜行の名を呼んだ。夜行は怪我の有無を確かめ、彼女の無事に安堵した。

再会の会話と約束
菜々緒は震える声で「夜行の許しを得て帰ると約束した」と伝えた。夜行はその言葉に優しく応じ、「よく頑張った」と労いながら菜々緒を抱きしめた。菜々緒も涙を浮かべながら「はい」と答え、再会の安堵に包まれた。

現場の確認と印の発見
直後に零時が現場へ到着し、状況を確認した。地面に刻まれた「✖︎印」に気づいたのは零時であり、彼は夜行に「妙な印がある」と報告した。夜行が周囲を見渡すと、同様の印が複数刻まれているのを確認した。

天狗の消失と印の関係
菜々緒はその印に心当たりがあると述べ、自分を連れ去ろうとした天狗が突然消え、その跡に印が残ったことを説明した。天狗の消失を見た仲間たちは恐怖し、菜々緒を「危険な存在」として殺そうとしたが、直後に夜行が駆けつけて彼女を救出した。

呪術の痕跡と打掛の発見
零時は「呪術の痕跡かもしれない」と述べたが、既知の術式ではないと判断した。その場に落ちていた古い打掛に夜行が気づき、零時が拾い上げた。菜々緒はそれが武井(橙院武流)の持ち物であり、「気配を消す打掛」と呼ばれるものだと説明した。

武井の行動の推測
夜行は武井の気配を追えなかった理由が打掛にあると理解した。菜々緒は、武井が自分に打掛を渡した後、一人で天狗を引きつけて去ったと証言した。夜行はその行動が囮であると察し、零時に武井の所在確認を指示した。

武井の確保と撤収命令
ほどなく零時が戻り、武井を拘束したこと、天狗の制圧が完了したことを報告した。夜行は全員に撤収を命じ、援軍が到着する前に小田原宿へ戻るよう指示した。菜々緒を支えながら移動を開始する。

菜々緒の異変と終幕
移動の途中、菜々緒は急に力を失い、夜行の腕の中で崩れ落ちた。「ごめんなさい、力が入らない」と弱々しく呟き、意識を失った。夜行が名を呼びかける中、画面には静かに立つもう一人の菜々緒の姿が映され、物語は不穏な余韻を残して終わった。

夜行の登場と救出
菜々緒が天狗に囲まれた場に紅椿夜行が現れ、剣を抜いて彼女を守るように立った。夜行は瞬く間に天狗たちを斬り倒し、倒れかけた菜々緒を抱きとめた。菜々緒は涙を浮かべて夜行の名を呼び、夜行は怪我の有無を確かめて安堵した。

再会の会話と約束
菜々緒は震える声で「夜行の許しを得て帰ると約束した」と語った。夜行はその言葉に穏やかに応じ、「よく頑張った」と労いながら菜々緒を抱きしめた。菜々緒も涙ながらに「はい」と答え、互いの無事を確かめ合った。

現場の確認と印の発見
そこへ零時が駆けつけ、周囲の状況を確認した。彼は地面に刻まれた「✖︎印」に目を留め、「これは何だ」と夜行に報告した。夜行が周囲を見回すと、同じ印がいくつも刻まれているのを確認した。

天狗の消失と印の関係
菜々緒はその印を見て、心当たりがあると口を開いた。自分を連れ去ろうとした天狗が突然消え、その跡にこの印が残ったのだと説明した。天狗の仲間たちは恐怖し、菜々緒を殺そうとしたが、その直後に夜行が現れて彼女を救出したという。

呪術の痕跡と打掛の発見
零時は「呪術の痕跡かもしれない」と述べたが、見覚えのない術式であると判断した。その近くで夜行が古い打掛を見つけ、零時が拾い上げた。菜々緒はそれが武井(橙院武流)の持ち物であり、「気配を消す打掛」と呼ばれるものだと説明した。

武井の行動の推測
夜行は、武井の気配を追えなかったのはこの打掛のせいだと理解した。菜々緒は、武井が自分に打掛を渡したあと、一人で天狗を引きつけるように去ったと語った。夜行はその行動を囮と見なし、零時に武井の捜索を命じた。

武井の確保と撤収命令
まもなく零時が戻り、武井の確保と天狗の制圧完了を報告した。夜行は全員に撤収を命じ、援軍が到着する前に小田原宿へ戻るよう指示した。夜行は菜々緒を支えながら現場を後にした。

菜々緒の異変と終幕
移動の途中で菜々緒は突然力を失い、夜行の腕の中で崩れ落ちた。「ごめんなさい、力が入らない」と弱々しく告げ、意識を失う。夜行が名を呼ぶ中、最後の場面では静かに立つもう一人の菜々緒の姿が映り、物語は不穏な余韻を残して終わった。

もう一人の菜々緒と無数の印
夜行の腕の中で意識を失った菜々緒の前に、もう一人の菜々緒が現れた。足元には無数の「✖︎印」が広がり、光がゆらめいていた。彼女は自らの手を見つめ、体が淡く光に溶けていくような感覚を覚えていた。

自問と記憶の揺らぎ
暗転する中、菜々緒は「あの時、私はいったい何をしてしまったのだろう」と心の中で呟いた。過去と現在の境界が曖昧になり、意識が揺らぐような描写が続いた。

夜行の動揺と菜々緒の覚醒
現実へと戻り、夜行が菜々緒を呼びかける場面に切り替わった。菜々緒は目を開けて状況を確かめ、謝罪しながら「眠ってしまっていた」と説明した。夜行は無理をするなと諭し、疲労の蓄積が原因であると判断した。菜々緒も「大事ありません」と答え、夜行を安心させた。

結界内への帰還と小田原宿
夜行に支えられた菜々緒は、見慣れぬ街並みに気づき、「ここはどこですか」と尋ねた。夜行は「もう結界の中だ」と答え、ここが東海道沿いの宿場町・小田原宿であると説明した。五街道沿いには小規模な結界が張られ、人が安全に暮らせる区域が設けられていることを告げた。

安堵の会話と再確認
夜行は「ここなら天狗どもも簡単には手出しできない」と語り、菜々緒の無事を喜んだ。怪我の有無を気遣い、さらに「腹は減っていないか」と尋ねる。菜々緒は笑みを浮かべ、この時期は山の食材が豊富だと答えた。白蓮寺での経験が思わぬ形で役立ったと語る菜々緒に、夜行は「お前は本当に強いな」と微笑み、安堵と敬意をにじませた。

浅草の状況と夜行の決断
夜行は、あやかしの活動が落ち着く夜明けを待ち、船で皇都へ戻る方針を菜々緒に伝えた。現在、浅草では夜行の仲間たちが五行結界を張り、大妖怪・朱鷺子をその内部に閉じ込めていると説明した。朱鷺子は結界内を逃げ回っており、隊長たちが捜索と制圧を進めているという。菜々緒は、自分を取り戻すために夜行がここまで行動していたことを悟り、驚きと共に感謝の念を抱いた。

朱鷺子との決着への覚悟
夜行は、朱鷺子を討つことが自らの責務であると語った。それは母を救うため、そして過去から決着をつけるための戦いであると明言した。彼は仲間たちの支えを思い浮かべながら、「自らが斬らねば母上は報われない」と静かに覚悟を示した。菜々緒は、夜行が背負う重い使命を前に言葉を失った。

嫉妬と恐れの自覚
菜々緒は、自分が朱鷺子に嫉妬していることを打ち明けた。もし夜行が朱鷺子を殺せば、その死の重みが彼を永遠に縛ると感じ、「お願いだから朱鷺子様を連れて行かないで」と涙ながらに訴えた。夜行は菜々緒の手を取り、静かにその想いを受け止めた。

想いの交差と支え合い
菜々緒は「夜行様の決意を否定はしません」と前置きしつつ、「できるなら自分に力があれば、私が朱鷺子様を斬りたい」と語った。その言葉に夜行は微笑み、「菜々緒が戻ってきてくれただけで十分だ」と答えた。二人は互いの手を握り、心を通わせた。

愛の確証と夜行の告白
菜々緒は「私、たぶん今すごく汚いです」と呟いたが、夜行は即座に「汚くなどない」と否定した。彼は菜々緒を抱き寄せ、「お前は綺麗だ」「俺の最愛の妻だ」と穏やかに告げた。菜々緒は涙を浮かべながら微笑み、夜行の愛情を受け入れた。

静かな口づけと絆の再生
夜行は菜々緒を抱き寄せ、額を合わせて互いの温もりを確かめた。二人は静かに唇を重ね、これまでの試練と悲しみを越えて絆を確かめ合った。菜々緒は目を閉じ、夜行の微笑みの中で安らぎを取り戻した。

天狗の嘲笑と外法の言葉
宿の一室で、京極零時が捕らえた天狗に尋問を行っていた。部屋の外まで響く悲鳴に驚いた菜々緒と夜行が駆けつけると、天狗は苦痛に呻きながらも嘲るように言葉を吐いた。
「人間ごときが……お前らなど、外法様にかかれば一瞬だ。苦痛の中で生と死を繰り返し、生まれてきたことを後悔する羽目になる」と告げ、零時を睨みつけた。

鯖の出汁と静かな尋問
零時は天狗の言葉を聞き流しながら、平然と液体を天狗にかけた。「え?なんて?」と穏やかに問いかけ、その笑みには一切の感情がなかった。液体から強烈な臭気が漂い、夜行は思わず鼻をしかめて「なんだ、あの液体……ひどいにおいだな」と呟いた。
菜々緒はその匂いに気づき、「ええ、でもこの匂い……私、覚えがあります。たぶん私も使ったことがあるかと」と述べる。夜行の顔が引き攣る中、菜々緒は悪気なく続けた。「クセはありますが、使い方によっては味に深みを加えてくれる。鯖節出汁です」と液体の正体を明かした。

零時の自己紹介と再会
場面が変わり、零時は菜々緒に天狗を拷問していた場面を見られたことを恥ずかしそうに笑いながら詫びた。
「いや〜お見苦しいものをお見せしました。紅椿の若奥様に見られていたなんて、恥ずかしいなぁ」と言い、改めて「俺は京極零時。十三番隊を率いております。夜行とは幼なじみみたいなものです」と自己紹介した。
夜行は「陰陽察病院で同じ日に生まれてな。以来の腐れ縁だ」と補足し、菜々緒は「まぁ」と驚きの声を漏らした。

鯖出汁の拷問理由と外法の調査
自己紹介が終わると、夜行は「で、何をしていたんだ」と問いかけた。
零時はにこやかに「いやほら、天狗って鯖が苦手じゃん?だからその煮汁に、少々“アレ”な呪詛を加えたものを」と説明した。
料理に通じた菜々緒は「鯖は神饌とされますものね。神饌の霊力は天狗にとって確か毒だと」と補足し、零時も「そうです、そうです」と楽しげに同意した。
さらに零時は表情を引き締め、「武井に攫わせた女性たちの行方、そして奴らの長――外法のこと。天狗から聞き出したいことはいくらでもあるから」と続けた。

次なる標的への言及
最後に零時は微笑を残したまま、「天狗の身体で確かめたかったこともあるし……よし、次は武井だな」と言い放った。その言葉に菜々緒は息を呑み、「あの、武井さんは……っ」と問いかけたところで場面は締めくくられた。

牢での対話と夜行の問い
夜行たちは捕縛された檀院武流のもとを訪れる。牢の中で静かに座る武流に、夜行は「妹のことは菜々緒から聞いた。お前の行動がすべて妹のためだったことも理解している」と告げ、「なぜ陰陽寮を頼らなかった」と問いかけた。
武流は俯きながら苦笑し、「たった一人の娘のために陰陽寮が動くものか」と吐き捨てた。腐敗していた当時の陰陽寮が弱き者を見捨てた現実を語り、「俺たちは檀院というだけで“穢れ”扱いされていた」と続けた。

娘を守るための絶望的な取引
やがて武流は、自らの行動の全てを吐露する。「連れていったよ。皇都の女共を、天狗の許へ。なるべく華族の馬鹿共の娘を狙ってな。俺が役に立つ間は、少なくとも蛍流を殺すことはないだろうから……そんなことしかできなかった」と、苦渋に満ちた告白をした。
彼の声には、妹を守るために他者を犠牲にした自責と諦念が滲んでいた。

蛍流の人生と皇都への怒り
武流は続けて、「蛍流はただ慎ましく生きていただけなのに、贅沢なんて何ひとつ望まなかった」と悔しさを噛みしめるように言葉を継いだ。そして声を荒げる。「蛍流の人生には苦痛しかなかった。なのに、今の皇都はどうだ。クソみたいな奴らがのさばり、贅をむさぼり、自分勝手な欲望を満たす。そんな奴らが当たり前のように平和を享受している。どうして蛍流が不幸になるんだ。教えてくれよ、なあ」と叫んだ。

零時の問いと武流の狂笑
沈黙を破り、零時が口を開く。「数年前、檀院家本家の人間が数人、あやかしに襲われ惨殺される事件があった。特に大奥様の遺体が悲惨だったと聞くが、もしかしてあれもお前の仕業か?」
その問いに武流は笑い出し、「あははっ、そうだとも! 蛍流をあんな目にあわせたんだ。当然の報いだろう。皇都の連中だってそうだ、ざまあみろだ!!」と狂気を帯びた表情で叫んだ。

菜々緒への言葉と彼女の返答
武流は視線を菜々緒に向け、「お前はいいよな、菜々緒。救われて、救ってくれたのが権力のある奴で。お前一人のために、これだけの奴らが動いて。蛍流とお前、何が違ったんだよ……」と問うた。
菜々緒は涙をこらえ、真っすぐに彼を見返して答えた。「違いません。何も……違いません。蛍流さんは……もう一人の私です」と。
彼女の言葉には、罪と哀悼の両方が静かに滲んでいた。

菜々緒の告白と心の記憶
菜々緒は静かに「助けられなかった、もう一人の私です」と語る。
内心では、過去の記憶がよみがえっていた――あの時、何かが違えば自分もこの世にいなかった。人ならぬ存在に弄ばれ、喰い散らかされ、骨だけ残されていたかもしれない。
それでも菜々緒は表向きに「私は……運がよかっただけです」と告げた。さらに「もし大切な人があやかしに攫われたら、何をしたって助け出そうとすると思います」と続け、武流の行動を否定しなかった。

夜行の判断と武流への言葉
夜行は「菜々緒を責めるのはお門違いだ」と告げ、当時の陰陽寮の不備を認めた。「本来ならお前ら兄妹は陰陽寮が保護すべきだった」と悔しげに述べ、「お前の力は陰陽寮で生かしてほしかった」と言葉を重ねる。
しかし、武流は「蛍流を助けられないなら意味がない」と答え、妹を救えなかった事実に縛られていた。

罪と結果の提示
夜行は厳しくも冷静に言い渡す。「橙院武流、事情はあれど罪は罪だ。お前は紅梅朱鷺子と繋がり、存在しなかったぬらりひょんを生み出し、天狗たちの怒りを煽った。お前一人の行動で皇都は危機に瀕している」。
だが同時に、「妹を思う気持ちは考慮すべきだ。菜々緒はお前に助けられたとも言っていた」と述べ、完全な断罪ではなく、真実の告白を求めた。

零時の提案と“再会”の可能性
夜行は「すべてを話せ。母上のこと、ぬらりひょんのこと、知っていることを全部教えろ」と命じ、「皇都を恨んでいるだろうが、それでも力を尽くせ。そうでなければ妹に胸を張って会えない」と告げる。
武流は皮肉げに笑い、「あの世で……か? 俺が行くのは地獄だ。今さら何をしたって蛍流に会えるわけがない」と嘆いた。

その時、零時が蛍流の頭蓋骨を取り出し、「それはどうかな?」と告げる。
「これが本当に橙院蛍流の骨だとしたら、たぶん降ろせる」と静かに言い、夜行も続けて「遺骨と双子の兄の血、これだけ揃えば沙羅なら十分なはずだ」と補足した。

わずかな救いと次の試練
夜行は「橙院武流、ほんの僅かな時間になるだろうが、お前は妹と会えるかもしれない」と告げる。だが、その直後に冷徹な現実も突きつけた。
「なんにせよ、お前次第だ。皇都のぬらりひょんを調伏できなければ、どのみち何もかも終わりだ」と。

終幕の静寂
武流は目を見開き、揺れる瞳で夜行と零時を見つめる。
妹に再び会うため、贖罪の機会を得た彼の運命は、ぬらりひょん討伐の成否に託された。

京極小雪の報告と事態の急変
京極小雪が駆け込み、「報告です! 小田原宿周辺に天狗の眷属が多数出現! 一部が結界を突破した模様です!」と緊急事態を告げる。
さらに、「夜明け前ですが、紅椿隊長たちは急ぎ皇都へお戻りください。皇都ではぬらりひょんが姿を現したとの報告も上がっています。しかも厄介なことに……」と続け、場に緊張が走った。

皇都での異変と終幕
場面は皇都へ移り、一成がぬらりひょんの姿を追っていた。
「くそ……あの野郎、やっと見つけたと思えば……」と吐き捨てながらも、彼の視線の先にあったのは、黒い糸を無数に張り巡らせた巨大な“繭”であった。
「いったいなんだよ、これは……」と呟く一成。

第34話

ぬらりひょんの状況と異常な妖気
京極小雪の報告により、ぬらりひょんは沈黙を保っているものの、極めて濃密な妖気を放出しており、放置すれば土地が穢れ、人が住めなくなる危険があると判明した。
またその特性による「百鬼夜行」の影響で、簡易結界の内部では式神が錯乱するため、神格を持たない式神を同行させるのは不可能とされた。

紅椿家の若奥を狙う動きと出発
夜行が小田原の様子を問うと、小雪は結界は維持されており副隊長が応戦中だと説明。しかし妖達が「紅椿の若奥様」を探している可能性を示唆した。
夜行は菜々緒を抱え、船で皇都へ急行する決断を下す。

零時の戦闘と夜行の説明
その途中、京極大門が妖魔と交戦しながら「零時、そっちに数体行った!」と報告。
零時は夜行に「先に行け」と告げて加勢に向かう。
夜行は船上で菜々緒に零時の人物像を語る。
「皇國の死神」京極零時。生まれる前から英雄となることを約束された“予言の子”。
雪女・一目連・鵺――三種のあやかしの力を受け継ぐ“先祖返り”である。

京極家の力と十三番隊の実態
京極家は後八家筆頭であり、先祖が多くのあやかしと契約したことで異能を受け継ぐ一族となった。
京極小雪は“雪女の先祖返り”、京極大門は“炎鬼の先祖返り”であり、十三番隊はその大半が京極家出身の者で構成されている。
夜行はそれを「陰陽寮最強の退魔部隊」と称した。

副隊長の実力と零時の登場
その後、零時が船に飛び乗って合流。
夜行が「こっちに来ていいのか」と問うと、零時は笑って「大丈夫、大丈夫。うちの副隊長、強いから」と応じた。
最強の血脈を継ぐ京極家の力が、皇都の異変へと立ち向かう幕開けとなる場面で締めくくられている。

母を斬る覚悟
零時は夜行に問いかけた。「皇都に戻ったら、大妖怪となり果てた母を斬るのか?」
夜行はその問いを静かに受け止め、「ああ、斬るとも」と答えた。すでに彼の中に迷いはなく、母・朱鷺子との決着を覚悟していた。

血の宿命と陰陽師の因縁
零時は「難儀だね。悪妖を斬るだけなら楽だったのに」と苦笑しながら語る。
陰陽師の力は血の繋がりのある者ほど通じやすく、親兄弟との呪い合いや争いが珍しくないという。
夜行はそれを承知の上で、「だが俺にはもう守るものがある。迷ったりはしない」と断言。
零時はその覚悟を認め、「わかった。なら俺はその戦いを見届けよう」と応じた。

天狗の襲撃と船上の迎撃
零時は夜行たちを皇都へ送り届けるため出航の指示を出すが、突如、空から無数の天狗が襲来。
「天狗……!?」と驚く小雪に、零時は「ぬらりひょんの件で怒らせたか、あるいは紅椿の若奥様がどうしても欲しいのだろう」と推測した。
小雪が「小田原宿結界を出ます!」と叫び、菜々緒を守るように動く中、夜行と零時は同時に剣を構える。
夜行は「これ以上、奴らの好きにはさせない」と叫び、空を舞う天狗の群れへと斬り込む。

ぬらりひょんとの交戦
一成は皇都の結界内で、髪の房が絡まり合って形成された巨大な繭――ぬらりひょん本体と対峙していた。
繭はすでに自らの妖気を結界全体に垂れ流し、内部に潜む妖の核を覆うように硬質化している。
一成が斬り込もうと間合いを詰めた瞬間、繭から無数の髪状の触手が伸び、一成を迎撃。
その動きは柳の枝のようにしなやかで、斬撃を加えても切断できず、逆に打ち返される。
触手の一撃を受けるたびに距離を取らされ、一成は繭に接近することすら叶わなかった。

戦略の転換と蓮太郎の登場
妖気の濃度が高まり、一般の陰陽師では立ち入れない状況となる中、蓮太郎が現れる。
彼は本部から持ち出した異国技術を応用した対大妖怪用兵器を提示し、これで状況を打開しようと提案する。
「夜行が戻る前にケリをつけるぞ」と促す蓮太郎に対し、一成は「夜行に母親を殺させたくない」と強く拒絶した。

守りの剣としての信念
一成の言葉に蓮太郎は苦笑しながらも理解を示し、「お前はほんと夜行が大好きだよな」と冗談を交えつつ、「お前の剣は守りの剣だ。夜行を、みんなを守ってやれ」と背中を押した。
一成は決意を新たにし、夜行のため、そして仲間のために剣を握り直す。

不穏な気配と新たな来訪者
その直後、二人の前に新たな気配が現れる。
現れたのは――紅椿鷹夜。
予想外の姿に一成は息を呑み、ぬらりひょんとの戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

鷹夜の決意と母への接近
鷹夜はぬらりひょんと化した母・朱鷺子のもとへ歩み寄ろうとする。一成は危険を察し、「離れろ!」と制止するが、鷹夜はそれを振り切り、「止めないでくれ」と静かに言う。
彼は自らの過去を語り、母を突き放したことがすべての原因であり、自分の責任として決着をつけると告げる。鷹夜は「僕の言葉なら届くかもしれない」と信じ、繭に包まれた母へと歩み出した。

母への呼びかけ
鷹夜は「母上!僕です、鷹夜です!」と必死に声を上げる。「僕の声が聞こえますか!」という叫びに呼応するように、繭が震え、髪の隙間から朱鷺子の顔が現れた。
母は正気を取り戻しかけ、「鷹夜さん……」と息を漏らす。鷹夜もまた涙を浮かべ、「ごめんなさい、母上。一人にしてしまって」と謝罪し、互いに「ごめんなさい」と言葉を交わす。

母と子の再会、そして覚悟
涙を流しながら鷹夜は微笑み、「もう二度と母上を一人にしません。ですからどうかこちらへ」と静かに語りかける。
しかしその身体には無数の護符が巻かれており、それは自爆用の呪符であった。
鷹夜は母と共に死ぬ覚悟を固め、「そうです……僕と一緒に行きましょう」と穏やかに微笑む。
その言葉の意味を悟った一成は、目を見開き、恐怖と焦燥の入り混じった表情を浮かべた。

鷹夜の自爆を止める声
自らの命を賭して母と共に逝こうとする鷹夜を前に、一成は「ダメだ、鷹夜!」と叫ぶ。
鷹夜が死を覚悟していると察したその瞬間、低い声が響いた。――「お前は死んではならない」。
声の主は鷹夜の父、紅椿夜一郎であった。

父子の再会と和解
突然の登場に驚く鷹夜は、「父上……!」と声を震わせる。
夜一郎は彼を力強く抱き寄せ、「今まで本当にすまなかった。何もかもお前に押しつけてしまった」と謝罪した。
鷹夜が涙をこらえながらも父を抱き返すと、夜一郎は静かに語る。
「お前は十分頑張ってくれた。何一つ悪くない。お前が生まれた時は嬉しかった……あれは人生で一番幸せな瞬間だった」と。
その言葉に鷹夜は嗚咽をこらえながら「父上……」と返した。

家族の記憶と朱鷺子の涙
夜一郎は鷹夜の肩に手を置き、「お前もそうだろう、朱鷺子」と呼びかける。
その名を聞いた朱鷺子の表情がわずかに揺らぎ、かつての家族の情景――幼き鷹夜を抱く若き日の二人――が脳裏に浮かぶ。
朱鷺子の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。

夫婦の再会
夜一郎は朱鷺子の前に進み出て、跪きながら深く頭を下げた。
「お迎えにあがりました、姫様」と穏やかに告げる。
かつて妻として、そして母として家族を支えた朱鷺子へ、今度は夫として迎えに来た――その言葉に、朱鷺子の心は確かに揺れていた。

初対面と幼き縁
十九歳の紅椿夜一郎は、十三歳の朱鷺子を迎えに行く役目を任じられていた。
「お迎えにあがりました、姫様」と礼を尽くすが、朱鷺子は無邪気に「わたくし、まだここにいたいの」と言って微笑む。
夜一郎が部屋へ戻るよう促すも、朱鷺子は「どうして母上はいつも閉じ込めようとするのかしら。夜一郎はわたくしのことが嫌いなの?」と問いかけ、夜一郎をたじろがせた。
その素直さに心を動かされた夜一郎は、彼女の手を取り「行きましょう」と導いた。

過去と喪失
朱鷺子の母は過保護ながら娘を深く愛していたが、まもなく病に倒れて亡くなった。
その喪失は幼い朱鷺子の心に深い影を落とし、夜一郎は彼女を支えるために傍にあり続けた。

皇帝からの命令
時が経ち、皇帝から夜一郎に「朱鷺子と結婚せよ」との勅命が下る。
夜一郎は「身分が違いすぎます」と辞退を試みたが、皇帝は「朱鷺子の血統は霊力が高く、この国の未来のために必要だ」と断じた。
命令は絶対であり、夜一郎は受け入れざるを得なかった。

政略結婚と理解
結婚後、朱鷺子は「どこかお達者で」と形式的に別れの言葉を述べるが、夜一郎は「これが我々の結婚だ」と静かに受け止めていた。
互いに任務の延長として始まった結婚だったが、朱鷺子は次第に夜一郎への情を深め、「たとえば“椿鬼”が生まれたとしても、わたくしは受け入れます」と微笑む。
その覚悟に夜一郎は胸を打たれ、彼女への敬意と愛情を芽生えさせた。

家族の誕生と幸福
やがて二人の間に男児・鷹夜が生まれる。
夜一郎はその小さな命を抱いて「これで生きているなんて信じられない」と感嘆し、朱鷺子は「守るものができたのね」と優しく微笑んだ。
穏やかな家庭の中で、夜一郎は朱鷺子に深く感謝し、「姫様はやめて、“朱鷺子”と呼んで」と言われた彼女の言葉を胸に刻む。
二人は互いの存在を心から慈しみ、「幸せだった」と静かに回想される。

紅椿家の呪いと朱鷺子の錯乱
穏やかな日々は長く続かなかった。紅椿家に代々伝わる「吸血衝動」は次男・夜行に受け継がれており、その異質な力に皇族出身の朱鷺子は耐えきれず、精神の均衡を崩してしまう。錯乱した朱鷺子は手に刃を握り、衝動のまま夜行を刺そうとする。
その瞬間、夜一郎が身を挺して息子を庇い、片目を失う重傷を負った。

離縁できぬ運命と夜一郎の葛藤
事態を受けて夜一郎は朱鷺子を紅椿家の呪縛から解放したいと願ったが、二人の婚姻は天皇の命によるものだったため、離縁は許されなかった。
彼は「せめて自由にしてやりたい」と苦悩しつつも、家と国の決まりの中で身動きが取れずにいた。

鷹夜の成長と家族のすれ違い
時が流れ、夜一郎は陰陽寮での任務に追われ、家庭を顧みる時間がなくなっていった。
久方ぶりに帰宅した彼の前で、朱鷺子と息子・鷹夜は穏やかに談笑していた。
鷹夜は母を気遣い、父に向かって「母上のことは僕に任せてください。ちゃんと聞いてくれます」と微笑む。
その姿に夜一郎は安堵しながらも、息子が背負う重さに胸を痛めた。

理解できぬ心と崩壊への歩み
夜一郎は朱鷺子が何を求めていたのかを理解できぬまま、任務に追われて時を費やした。
朱鷺子の心は次第に孤立し、彼女の中で狂気と寂寞が入り混じっていく。
夜一郎はその崩壊を止めることができず、やがて二人の心の距離は取り返しのつかないほどに広がってしまった。

現在への帰結
そして現在。
妖怪「ぬらりひょん」と化した朱鷺子を前に、夜一郎は彼女を抱きしめる。
「もう後戻りはできないほどに、すれ違ってしまった」
彼は静かに微笑み、「これからはずっと、私がお供いたします。共に参りましょう」と語りかけた。
それは、長い年月の果てにたどり着いた“夫としての最期の覚悟”であった。

朱鷺子との最期の抱擁
夜一郎は大妖怪へと変貌した朱鷺子を静かに抱きしめ、「共に参ろう」と告げた。
朱鷺子は夫の名をかすかに呼び返し、わずかな理性を残してその腕の中に身を委ねる。
夜一郎は彼女を救うことができぬ現実を受け入れ、刀を抜いてその身を貫く覚悟を固めた。

蓮太郎の介入と引き金
その瞬間、背後から蓮太郎が対大妖怪用兵器を構え、夜一郎の背を撃ち抜いた。
一発では終わらず、彼は涙を滲ませながら引き金を引き続け、朱鷺子と夜一郎を同時に葬ろうとする。
それは命令と責務の狭間で下した、苦渋の決断であった。

崩れ落ちる二人と鷹夜の衝撃
弾丸を受けた夜一郎はなおも朱鷺子を抱きしめ、倒れ込む。
その場に居合わせた鷹夜は、信じられない光景を目の当たりにして立ち尽くした。
彼の目の前で、両親は静かに崩れ落ちていった。

止めようとする一成と鷹夜の絶叫
鷹夜は衝動のまま駆け出そうとするが、一成が肩を掴んで制止する。
「行くな、鷹夜!」
それでも鷹夜は震える声で叫ぶ。
「嫌だ……やめてくれ……!」
銃撃の閃光が再び走り、響き渡る轟音の中で、彼は両親の名を呼び続けた。

青年の慟哭
「父上ぇっ……母上ぇぇっ……!」
叫びは虚空に吸い込まれ、煙と血の匂いだけが残る。
こうして、夜一郎と朱鷺子の長きすれ違いは、息子の慟哭の中で終焉を迎えた。

第35話

蓮太郎の回想と十番隊時代
蓮太郎は弐番隊隊長になる以前、十番隊の副隊長として中山道奪還作戦に従事していた。
五街道奪還任務の中でも、五行結界外で最も過酷とされる戦線であり、そこで彼は三人の若者――「三馬鹿」と呼ばれる隊員達と出会った。

大妖怪討伐用の銃の説明
場面は陰陽寮へと移る。
夜一郎は蓮太郎に対し、異国技術で開発された対大妖怪用の銃を見せ、「妖魔必殺の弾を込めた特製兵器」であると説明する。
この弾は椿鬼である夜行の“妖魔必殺の才”と同じ力を再現したもので、理論上は大妖怪にも致命傷を与え得るとされた。
しかし、夜一郎は「未知の技術ゆえ、どこまで通用するかは不明」とも告げる。

夜一郎の覚悟と蓮太郎への託し
ぬらりひょんの捕捉が難題であることを踏まえ、夜一郎は「その役は私が引き受ける。チャンスが来れば私ごと撃て」と告げた。
蓮太郎は静かに頷き、「構いませんよ。俺は元々、先代の不祥事で陰陽寮に売られた身。あなたに拾われなければ使い捨ての駒で終わっていました」と語る。
そして「あなたには感謝しています」と述べた後、淡々と続ける。
「確かにあなたは良い夫でも父でもなかったかもしれません。ですが五街道奪還は、あなたでなければ成し遂げられなかった」

夜一郎の本心と別れの時
夜一郎は「後任はすでに頼んである。最期くらい家族を選びたい」と告げ、自らの死を受け入れていた。
蓮太郎は一瞬沈黙し、「まあ、いいですけどね。俺もどうなるか分かりませんし」と笑みを返す。

噛姫の登場と作戦準備
そこに噛姫が現れ、蓮太郎に「妾がついておる。髪なら簡易五行結界の中にも入れる。ぬらりひょんには惑わされぬ」と言い、支援を申し出る。
夜一郎は「噛姫は確かに神格を持っていたな」と頷き、作戦の布陣が整う。

蓮太郎への労いと三馬鹿への想い
別れ際、夜一郎は蓮太郎に「君の功績は偉大だ。あの三人を育てた。それは皇國の未来そのものだ」と告げる。
蓮太郎は笑みを浮かべ、「俺は何もしちゃいませんよ。あいつら三人が最初から特別で、馬鹿みたいに正直に俺についてきてくれただけです」と心中で呟いた。
彼にとって三馬鹿は、己の誇りであり、未来への希望そのものであった。

独白の終わり
「新人のくせに馬鹿みたいに強くて、馬鹿みたいに才能に溢れていた。なのに中身は子供で、勝手な奴らばかりだった。
……けど、あいつらは俺に“未来”を見せてくれた。誇らしい部下だったよ」
そう回想しながら、蓮太郎はかつての戦友たちを思い浮かべ、次の戦場へ向かう決意を固めていた。

蓮太郎の追憶と三人への想い
蓮太郎は銃を構えながら、かつての部下である一成・零時・夜行を思い出していた。
努力家で情に厚い一成、金銭に疎くも仲間思いの零時、そして冷静沈着で理想的な英雄像を体現した夜行。
三人それぞれの姿を胸に、蓮太郎は「お前たちは人を守れる英雄になれ」と祈るように語りかけた。

夜行への遺言と決意
特に夜行には深い思いがあった。
蓮太郎は「お前は俺にとって弟のような存在だった。家族のことで悩んでいたことも知っている」と内心で語り、
「夜行、菜々緒さんを必ず救い出せ。彼女を大切にしろ。お前が一人の人間として幸せになってくれたら、それが一番嬉しい」と願う。

銃撃と呪詛の反撃
その祈りとともに、蓮太郎はぬらりひょんと化した朱鷺子を抑える夜一郎ごと撃ち抜いた。
弾丸は確かに目標を貫き、朱鷺子に致命傷を与えたが――同時に呪詛が発動。
「断末魔の呪い」と呼ばれる妖魔の反撃が放たれ、朱鷺子を討った者へ等価の呪力が返される。

蓮太郎の最期
蓮太郎はその反動をまともに受け、吐血しながら崩れ落ちる。
「噛姫の守りがあってこれか……」と呟き、己の限界を悟る。
それでも彼は最後まで銃を離さず、己の任務を果たしたことを確信していた。
彼の犠牲によって、夜一郎と朱鷺子の戦いは終焉を迎える。

風神召喚と浄化
瀕死の蓮太郎を救うため、一成は刀を地面に突き立て、「お通りください、風神様」と唱える。
直後、強烈な旋風が巻き起こり、周囲の妖気を浄化していく。
風神の加護を宿した浄化の風が朱鷺子の呪詛を祓い、戦場を覆っていた瘴気が一気に晴れていった。

噛姫の限界と小さな姿
蓮太郎を守っていた噛姫は風神の浄化が終わるのを見届けると、「風神の……浄化の風か……」と呟き、力尽きて小さな姿へと変化する。
一成は駆け寄り、「生きてますか、蓮太郎さん!?」と叫ぶ。
蓮太郎は息を荒げながらも「まあ……なんとか……お前、すげーな……」と応える。

浅草の地脈と噛姫の献身
一成は安堵の息を吐き、「ここが浅草でよかったです。加護が最大限に生かせた」と説明する。
蓮太郎は小さくなった噛姫を見つめ、「呪いを一部、受け持ったのか……お前も頑張ったんだな」と労う。
噛姫は弱々しく「蓮太郎~~きゅってして~~」と甘えるように言い、蓮太郎は「付き合わせて悪かったな……」と抱きしめた。
「夫婦とはそういうものじゃ~」と返す噛姫に、蓮太郎は苦笑しながら「何言ってんだお前……」と返す。

戦闘の終結
その後、隊員達が駆けつけ、蓮太郎は担架に乗せられる。
別の隊員が「目標沈黙! 妖力の消沈も確認しました!」と報告し、ぬらりひょん討伐作戦は完了したかに見えた――が、その背後にはまだ不穏な気配が残っていた。

朱鷺子の覚醒
戦闘が終わりかけたその時、朱鷺子が突如動き出す。
異変を察知した一成は「総員、待避!!」と叫び、全員に退避命令を出した。
朱鷺子は懐から丸薬を取り出し、ためらいなく大量に飲み込む。
瞬間、彼女の身体から膨大な妖気が噴き上がり、周囲の空気が震えた。

再び暴走する朱鷺子
一成は「鷹夜さん、一旦退くぞ! 橋が保たない!」と叫ぶが、
鷹夜は呆然としたまま「どういうことだ……? 消沈したはずの妖力が……復活した!?」と動揺する。
そして朱鷺子を見た鷹夜は震える声で、「いや……あれは母上じゃない……」と呟いた。

崩落と絶望
朱鷺子の一撃が橋を貫き、構造物が音を立てて崩壊する。
一成は咄嗟に鷹夜を抱えて退避するが、橋は完全に崩れ落ち、
下方では夜一郎が落下していくのが見えた。
「父上っ!」と叫ぶ鷹夜に、一成は「無理だ……!」と唇を噛み締める。

新たな影の出現
その瞬間、頭上を巨大な影が覆う。
見上げた一成は「八咫島……!? 黒条家の式神か!」と驚愕する。
降下してきた八咫烏から一人の影が飛び降り、
疾風のように朱鷺子へと斬りかかった。
それを見た一成は息を呑み、「夜行!!」と叫んだ。

夜行の救援と再会
橋の崩落中、一成は空から現れた夜行を見上げ、「遅えぞ!」と笑みを浮かべた。
夜行の八咫烏が落下中の夜一郎を回収し、その背に零時が乗っていた。
一成は鷹夜を抱え、「口閉じとけよ、鷹夜さん!」と声をかけながら八咫烏の背に着地した。
鷹夜は零時に受け止められ、夜一郎の容体は小雪が確認していた。

朱鷺子の撤退
崩れた橋の上では夜行と朱鷺子が激突していた。
朱鷺子は「椿鬼め……お前は必ず殺す」と言い残し、妖気とともに姿を消した。
夜行はその撤退を見届け、八咫烏へと戻る。

治癒の力・一目連の瞳
撤退した朱鷺子の気配を感じ取った零時は、周囲を見渡しながら「すごいな。もう気配も妖力も追えやしない。あれがぬらりひょんか」と呟く。
夜行は「零時、頼む」と指示を出し、零時は包帯を外して「解」と唱えた。
右目の「一目連の瞳」が発動し、強い癒やしの力を持つ涙が夜一郎に落ちて傷を癒していく。
夜一郎は息を吹き返し、鷹夜が「父上……!」と涙ながらに呼びかけた。

容赦なき治療
しかし零時は冷静に「右腕は無理だな。ぬらりひょんの血が傷口に沁みて穢れている。全身に回る前に斬り落とすか」と言い放つ。
夜行が制止する間もなく、零時は一瞬で夜一郎の右腕を斬り落とした。
「せめて躊躇え!」と夜行が叫び、鷹夜は衝撃で気絶する。

場面転換:菜々緒の登場
戦闘の混乱が収束する中、屋敷の方角から菜々緒が駆けつける。
その姿を見た夜行は静かに振り返り、次の展開への緊張が漂う。

合流と安堵
夜行のもとへ駆けつけた菜々緒は、息を切らしながら無事を確認した。
夜行も安堵の笑みを見せ、互いに怪我や体調の異常がないことを確かめ合う。
菜々緒は夜一郎と緑川の負傷を心配するが、夜行は「二人とも命はとりとめた」と説明し、状況を共有した。

三馬鹿の再会
そこへ一成と零時が姿を見せ、夜行に軽口を叩きながら会話へ加わる。
三人は和やかに冗談を交わし、零時が「いやほんとすごいよね、紅椿の若奥様」と菜々緒を称賛した。
夜行は「俺は菜々緒のそういう逞しいところに惚れたのだ」と笑い、一成が「さらっと惚気るな」と呆れながらツッコむ。
そのやり取りを見た菜々緒は「噂の三馬鹿、勢揃い?」と半ば呆れ顔で言った。

新たな呼び出し
そこへ武井と卑弥呼が現れ、空気が引き締まる。
卑弥呼は「皆、疲れているところ悪いけど、会議室に来て頂戴」と告げ、重大な報告があることを示唆した。
その議題は「ぬらりひょんについて」であり、一同は緊張をもって彼女の言葉を聞き入れた。

朱鷺子の回想と花火の夜
朱鷺子は将軍家の姫として厳しく育てられ、自由を許されぬ日々を送っていた。
外へ出ることを禁じられていた彼女は、従者の夜一郎に導かれ、密かに花火を見に行く。
その夜、初めて外の世界に触れた朱鷺子は、夜一郎の優しさに惹かれ、心を通わせた。

禁じられた外出と悲劇
しかし、花火の一件が露見し、夜一郎は罰として折檻を受ける。
命を落としかけた彼に朱鷺子は泣きながら謝罪するが、夜一郎は「楽しかったですよ」と微笑み返した。
彼の言葉と笑顔は朱鷺子の心に深く刻まれ、やがて彼女は椿鬼の一族に嫁ぎ、夜一郎の妻となる。

椿鬼の風習との乖離
嫁いだ後、朱鷺子は椿鬼一族の独特な風習と常識に馴染めず、次第に心身を削られていく。
「霊力の高い子孫を残す」ことを至上とする一族の思想は、朱鷺子にとって耐え難いものだった。
愛する夜一郎と共にいたいだけなのに、彼女は家の義務と己の感情の狭間で追い詰められていく。

ぬらりひょんの介入
弱りきった朱鷺子の心に、ぬらりひょんが忍び寄る。
「椿鬼は裁かねばならぬ」と優しく囁きながら、彼女の苦しみと孤独に付け入る。
朱鷺子は次第にその言葉に縋るようになり、理性を蝕まれていった。

終焉と安息
ぬらりひょんは彼女を抱きしめ、「ありがとう、将軍家の末裔。その血を繋いでくれて」と告げる。
「もうお眠り」と囁かれる中、朱鷺子は静かに微笑みを浮かべながら、永遠の眠りへと落ちていった。

第36話

ぬらりひょんの正体と復活の謎
卑弥呼は会議の場で、ぬらりひょんがかつて将軍家に仕え、指導的立場にあった大妖怪であると説明した。
その存在は人々に畏れられつつも、詳細な記録が少なく不明な点が多い。
卑弥呼は浅草から持ち帰った壺を取り出し、「これを見ろ」と言って中身を示す。

復活の鍵となる丸薬
壺の中には丸薬が一粒だけ残されており、ぬらりひょんがそれを飲んで復活したとされていた。
第三研究室の分析によって、この丸薬の主成分は妖怪の血と骨を妖力で固めたものであり、
紅椿隊長が斬り落としたぬらりひょんの腕の成分と一致することが確認された。
これにより、朱鷺子がぬらりひょん化した原因は、この丸薬である可能性が高いと結論づけられた。

将軍家と秘宝の関係
卑弥呼は、朱鷺子が代々将軍家に伝わる「ぬらりひょんの贈り物」を受け継いだと説明した。
その中の一つがこの丸薬であり、将軍家には不老不死の呪術に関する記録も残されていたという。
武井は「この術は身体を乗っ取って生き続けるものではないか」と指摘し、
ぬらりひょんが人間の身体を依り代として使う呪法の存在を示唆した。

ぬらりひょんの呪術と将軍家の関係
卑弥呼は、ぬらりひょんが古くから将軍家に対しその呪術を仕込んでいた可能性を認める。
つまり、不老不死の術は将軍家に向けた「贈り物」であると同時に「呪い」でもあった。

結論と推測
武井は「朱鷺子はぬらりひょんに身体を乗っ取られた可能性がある」と総括するが、
あくまで推測であると強調した。
卑弥呼は、江戸末期の将軍家が異様なまでにぬらりひょんを信奉していたことを思い返し、
「今思えば、あの異様さこそが全ての始まりだったのかもしれない」と締めくくった。

作戦会議と三隊長の出撃準備
ぬらりひょんの脅威に備え、卑弥呼は対策会議を開く。
菊大路一成・紅椿夜行・京極零時の三隊長が前線指揮を任されることとなり、
「あやかしの力が最も弱まる早朝に作戦を実行する」との方針が決定された。
結界の維持はあと一日が限界であると確認され、全員に緊張が走る。

卑弥呼と夜行の会話
会議後、卑弥呼は夜行を呼び止め、鷹夜と夜一郎の様子を尋ねる。
夜行は「今は落ち着いている」と報告し、朱鷺子の件に関しても気遣いを見せた。
卑弥呼は夜行に「こんな役を押し付けてごめんなさい」と謝罪するが、
夜行は静かに首を振り、「俺たちの力は血の縁の方が通りやすい」と言って覚悟を示す。

夜行の決意
夜行は、自らの血筋に宿る椿鬼の力を受け入れ、
「皇国を脅かす悪妖を斬る。それが俺の存在意義ですから」と断言した。
その真摯な言葉に卑弥呼も表情を和らげ、次なる戦いへの準備を見守る。

別れの前夜
出撃を目前に控え、夜行は菜々緒に別れを告げに訪れる。
彼はいつものように優しく彼女を抱き寄せ、「すまないな」と頭を撫でた。
菜々緒は「お手伝いできることがあるなら」と静かに応じ、その手に想いを込めた。

別れの言葉
菜々緒は夜行の無事を祈り、「どうかご無事でお戻りください」と告げる。
夜行は微笑み、「俺がそう簡単にくたばると思うか?」と軽口を返すが、
その目には決意と不安が交錯していた。

夜行の決意と責務
夜行は「俺だけがまだ何もできていない」と語り、自分の使命を果たす覚悟を示す。
親である鷹夜や小夜子がそれぞれの役割を果たしてきたことを思い出し、
「せめてこの役目だけは果たさなければ」と心に誓う。

約束と覚悟
夜行は「死ぬつもりはない。俺には帰る場所がある」と菜々緒に言い、
「きっとお前の存在が俺を繋ぎ止めてくれる」と穏やかに微笑んだ。
しかし彼は続けて、「もし俺に何かあったら、俺のことなど忘れて幸せになれ」と告げる。
菜々緒は涙をこらえ、「私を一人にしないで」と懇願した。

二人の抱擁
菜々緒は「夜行様がいなくなったら生きていく自信がありません」と涙を流し、
夜行はその頬を撫でながら「お前が欲しい」と静かに想いを伝える。
二人は互いを求め合い、深く抱き合いながら別れの夜を過ごす。

最後の言葉
夜行は「菜々緒、愛している。お前に会えてよかった」と告げ、
彼女の涙を受け止めながら唇を重ねた。
菜々緒は彼の背に手を伸ばし、「嫌だ、まだ伝えたいことがあるのに」と泣き崩れる。
そしてその声は夜明けの静寂に消え、彼の名を呼ぶ「夜行様……」という言葉だけが残った。

夜行出撃の報せと不穏な兆し
菜々緒は夜行の不在に気づき、慌てて起き上がる。外では地鳴りと雷鳴が轟き、戦闘の始まりを告げていた。
窓の外に広がる光景を見た菜々緒は、夜行が既に朱鷺子との戦いに赴いたのだと悟る。
彼女は胸の奥で「夜行様は負けない」と信じつつも、不安に押しつぶされそうになる。

朱鷺子を倒す代償
その頃、卑弥呼から星読の巫女による占いの結果が告げられる。
「紅椿夜行はぬらりひょんと相打ちになる」――さらに、ぬらりひょんの呪いが血の縁を伝って夜行にも及ぶという。
朱鷺子を討てば、夜行の命も奪われる。菜々緒はその真実に愕然とし、「夜行様が死ぬ……?」と震える。

屋敷を出ようとする菜々緒
菜々緒は夜行のもとへ駆けつけようとするが、前鬼と後鬼が立ちはだかる。
二人は「夜行の命令だ。お嬢ちゃんを本部から出すことはできない」と断言する。
菜々緒は必死に説得するも、「行ったところで夜行の邪魔になるだけだ」と制止され、何もできずその場に崩れ落ちた。

無力な自分への悔しさ
地響きの中で、菜々緒は拳を握りしめ「何もできない……」と涙を流す。
彼女の心には、夜行を救いたいのに動けない無力感と、彼を失う恐怖だけが残された。

武井の提案と菜々緒の決意
武井は菜々緒に、彼女の中に眠る力を引き出せるかもしれないと告げた。ただし、その過程で過去に封じた記憶や真実まで呼び覚ます危険があると警告する。
それでも菜々緒は迷わず、「夜行様を助けられるなら、なんだってします」と決意を口にした。

誰にも奪われたくない想い
菜々緒は続けて、「私は夜行様を誰にも奪われたくない」と叫ぶ。その想いは、朱鷺子からも運命からも夜行を取り戻したいという強い執念に満ちていた。
たとえそれが夜行自身の選んだ道を遮ることになろうとも、彼女は夜行を守ることを選ぶと宣言した。

武井の言葉と覚醒の儀
武井はその覚悟を見届け、「誰にだって奪われたくないものがある。奪われてしまえば、もう戻らない」と静かに語る。
そして「お前はお前の望むまま歩め。その偉大な才をもってして」と告げ、菜々緒に術を施す。

才の開花と覚醒
光に包まれた菜々緒の意識は研ぎ澄まされ、抑え込まれていた力が解放されていく。
彼女の心には一つの想いだけが浮かぶ――「ああ、夜行様に会いに行かなくちゃ」。
その言葉とともに、菜々緒の「才」は完全に覚醒へと至った。

同シリーズ

85750560f49a7c99f1a621aae2f2b8fb 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁
9d25e23dbeca9b9aa97d593906cf5bbd 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁 2
02f25769f917f9082f18b118f3e63068 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁 6
450434a528763418b3a69c9cd78c869c 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁 7
3834b151e5f33a7858a312b0364d1a70 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁 8
e3f1bb1d7a4312bfe087d128e1826b52 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
傷モノの花嫁 9

類似作品

結界師の一輪華

お薦め度:★★★★★

『結界師の一輪華』はクレハ 氏によって書かれた日 本の小説で、契約結婚から始まる異能と和風の要素が組み合わさったファンタジー。

本棚

和風恋愛ファンタジーのジャンルに分類される。

この作品は、落ちこぼれの術者である18歳の一瀬華(いちせ・はな)が主人公。

彼女は、柱石を護る術者の分家に生まれ、幼い頃から優秀な双子の姉・葉月(はづき)と比べられ、虐げられてきた。

ある日、彼女は突然強大な力に目覚めるが、静かな生活を望んで力を隠し、自らが作り出した式神たちと平和な高校生活を送っていた。

この物語は、日本が遥か昔から5つの柱石により外敵から護られているという設定の中で展開。

傲岸不遜な若き当主との間で契約結婚が行われ、大逆転の展開が描かれている。

9d772ec1cc992eae8553222ed2e1e061 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
結界師の一輪華

後宮の烏

お薦め度:★★★★★

『後宮の烏』は、白川紺子 氏による日本のライト文芸作品。

この小説は2018年4月から2022年4月まで集英社オレンジ文庫より出版され、全7巻で完結している。

このファンタジー小説は、中華風の世界観を背景にしており、後宮の奥深くに住む「烏妃」と呼ばれる特別な妃と、彼女の元を訪れた皇帝の物語を中心に描いている。

烏妃は不思議な術を使い、呪殺から失せ物探しまで、様々な依頼を引き受けるという設定。

時の皇帝・高峻がある依頼のために烏妃の元を訪れ、この出会いが歴史を覆す禁忌になるとは知らずに進行するという物語。

また、この小説はメディアミックスとして、2022年10月から12月までテレビアニメが放送されていた。

3f2dbdcfa71477001cc771df27b4b7e7 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
後宮の烏

花菱夫妻の退魔帖

お薦め度:★★★★★

『花菱夫妻の退魔帖』は、白川紺子 氏による大正九年の東京を舞台にしたファンタジー小説。

物語の主人公は、侯爵令嬢でありながら下町の浅草出身の瀧川鈴子。

彼女の趣味は怪談蒐集で、ある日、花菱男爵家の当主・花菱孝冬と出会う。

孝冬は鈴子の目の前で、十二単の謎の霊を使い、悪霊を退治する特異な能力を持っている。

鈴子は孝冬から求婚され、二人は結ばれることになる。

この物語は、逃れられない過去とさだめを背負った二人の未来が描かれている。

5f88f6ffeb89590d1ab031b88cbc1f7c 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
花菱夫妻の退魔帖

わたしの幸せな結婚

お薦め度:★★★★★

『わたしの幸せな結婚』は顎木あくみ 氏による日 本の小説。

本棚

この作品はもともと小説投稿サイト「小説家になろう」で公開されたオンライン小説で、KADOKAWAの富士見L文庫より2019年1月から 書籍化された。

書籍版のイラストは月岡月穂 氏が担当。

この小説の物語は、超常的な力を持つ異能者の家系が存在し、長女の美世は異能を持たない家系に生まれてしまう。

美世は幼い時に母を亡くし、異母妹の香耶が生まれたことから居場所を失い、使用人以下の扱いを受けながら成長。

2023年3月時点で、シリーズ累計発行部数は700万部を突破しており、高坂りと 氏によるコミカライズも連載中。

さらに、朗読劇、映画、テレビアニメといったメディアミックス展開も行われている。

135f42b604ebd15e29254ff79eaae5fe 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
わたしの幸せな結婚 1

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 漫画「傷モノの花嫁(9)第33話~第36話」感想・ネタバレ
フィクション あいうえお順

Share this content:

こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

コメントを残す

CAPTCHA