小説「最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか 4」感想・ネタバレ・アニメ化

小説「最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか 4」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
悪役令嬢リベンジ系ライトノベルである。婚約破棄をきっかけに、主人公スカーレットが“拳”を武器に悪徳貴族や教義の闇に立ち向かう痛快ファンタジーである。
内容紹介
婚約を破棄され、悪徳貴族たちを制裁してきたスカーレットであったが、国内では殴る価値のある悪人が少なくなってしまった。そんな折、竜の“レックス”が病に倒れ、彼女はその病を治す術を探すため、ヴァンキッシュ帝国を訪れる。帝国内での旅路では、聖地巡礼や教団パルミア教との対立、スパイの暗躍などが次々と明らかになる。病を治す手がかりとともに、スカーレットはさらなる“ざまぁ”を展開するため立ち上がる。

主要キャラクター

  • スカーレット・エル・ヴァンディミオン:本作の主人公である公爵令嬢。婚約破棄を契機に悪徳貴族たちに鉄拳制裁を加えてきた強さと信念を持つ女性である。竜レックスを救いたくて帝国へ旅立つ。
  • 第一王子 ジュリアス:スカーレットを助け、支援する王族。国内での事件や教団との争いの中で、スカーレットにとって頼れる存在となる。
  • 竜 レックス:スカーレットの家族であり、病に倒れる大切な存在。スカーレットにとって病を治すことが重要な目的となる。 
  • パルミア教:国内で暗躍する教団。スカーレットと第一王子ジュリアスの行動と対立する存在であり、教義と権力の闇を抱える敵対勢力である。

物語の特徴

本巻の魅力は、スカーレットのこれまでの“復讐もの”としての展開に加えて、竜レックスの病という“弱さ”を持つ存在を救いたいという目的が加わることで、主人公の行動原理に新たな動機が生まれている点である。さらに、帝国という新しい舞台での教団との対立、聖地巡礼という宗教的儀式、スパイの暗躍といった要素が物語にスケール感と緊張感を与えている。読者にとっては、ただ相手を叩く“ざまぁ”だけでなく、信念・犠牲・救済というテーマが交錯する重みのあるストーリーが響くであろう。

書籍情報

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか 4
著者:鳳ナナ 氏
イラスト: 沙月 氏
レーベル/出版社:Regina Books/アルファポリス
発売日:2024年2月5日

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あらすじ・内容

最強ヒロインの拳は新天地でも止まらない!?
「この国には、殴りがいのあるお肉がたくさんおりますわね」 婚約破棄をきっかけに国内の貴族を拳で制裁したスカーレット。殴りがいのある悪人がいなくなったと嘆いていたある日、スカーレットの家族である竜――レックスが病に倒れてしまう! スカーレットは、病を治す術を手に入れるべく、ヴァンキッシュ帝国を訪れることに。そんな彼女を待ち受けていたのは、『業火の花嫁』と呼び彼女を歓迎する皇子アルフレイムと皇位を狙う後継者候補たち。そして、アルフレイムに協力しているという第一王子ジュリアス。きな臭い皇位争いに巻き込まれたスカーレットは、新たな敵と出会い――? 人気シリーズ第4弾!

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか4

感想

スカーレットは見た目こそ優雅な令嬢だが、本性は拳を振るうことを好む痛快な存在。
本作はそんな彼女を描くシリーズ第4弾である。物語は家族である竜レックスの病から始まり、治療法を求めてヴァンキッシュ帝国へ向かう彼女が、皇位継承を巡る複雑な人間関係と新たな敵に挑む姿が描かれる。
拳で次々と問題を解決する一方で、家族を思う優しさが光り、そのギャップが魅力を際立たせる。竜の妻エレオノーラの存在感も強く、今後の展開に期待が高まる。
スカーレットの戦いは爽快で、読む者に元気を与えてくれる。次巻でのさらなる活躍と人間関係の変化に期待したい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ヴァンディミオン家・王宮秘密調査室

スカーレット・エル・ヴァンディミオン

ヴァンディミオン家の令嬢であり、圧倒的な身体能力を持つ。暴力を必要とする思想を持ち、拳による制裁を正義と見なす。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンディミオン家令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 業火宮大広間で侍女組を圧倒し「業火の花嫁」と称された。紫焔宮ではヴァルガヌスの勧誘を拒絶し交渉を決裂させた。炎帝殿修練場では皇帝バーンと拳を交え、詰所戦ではアルフレイムを救うため加護を枯渇させながらも奮戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「撲殺姫」「業火の花嫁」といった異名を得て、国外でも武名を高めている。

ナナカ

獣人族の女性であり、スカーレットの相棒である。冷静に戦況を補佐し、潜入と索敵を得意とする。
・所属組織、地位や役職
 獣人族、スカーレットの同行者。
・物語内での具体的な行動や成果
 紫焔宮での交渉に立ち会い、イフリーテの不調を潜入調査で報告した。詰所戦では弓兵一斉射を「風の精霊シルフの短剣」で防ぎ、仲間を守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 スカーレットから深い信頼を寄せられ、補佐役としての役割を固めている。

レックス

飛竜であり、人化できる特異体質を持つ。スカーレットに従い「家族」と呼ばれる。
・所属組織、地位や役職
 飛竜。スカーレットの同行者。
・物語内での具体的な行動や成果
 低地病に苦しみ、治療法探索の契機となった。詰所戦ではイフリーテの救済を嘆願した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 人化能力を示す稀少存在である。

ルク

侍従として仕えるが、その正体は飛竜である。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・侍従。飛竜。
・物語内での具体的な行動や成果
 修練場でスカーレットの加護を無効化し、詰所戦で結界の触媒とされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 意思を無視して利用される状況にあり、真意は不明である。

グラハール

十年前にスカーレットへ短期家庭教師を務めた人物。不可視の拳圧を操る。
・所属組織、地位や役職
 不明。
・物語内での具体的な行動や成果
 詰所包囲で現れ、兵を殲滅した。スカーレットの体に刻まれていた魔の刻印を除去し、加護を完全復帰させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「世のため人のため」を体現する存在として、規格外の力を示した。

レオナルド・エル・ヴァンディミオン

スカーレットの兄であり、王宮秘密調査室の室長を務める。責任感が強く、妹を案じながらも職務を優先する。
・所属組織、地位や役職
 王宮秘密調査室・室長。
・物語内での具体的な行動や成果
 パルミア教断罪を指揮し、ヴァンキッシュ帝国では潜入員シグルドの再雇用を承認した。葬儀ではアルフレイム陣営を支え、宰相ヴァルガヌスへの警戒を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 調査室を統率する存在として影響力を強めた。

エピファー

伯爵家の三女であり、秘書官としてレオナルドを補佐する。冷静に職務をこなし、事務処理と薬学に通じる。
・所属組織、地位や役職
 王宮秘密調査室・秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
 晩餐会で料理解説を担ったが、一杯の酒で酔倒した。会議では薬をナナカに渡し、精神的負担を軽減した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 室長から信頼を得て、調査室の運営を支えた。

シグルド・フォーグレイブ

王国騎士団を辞して調査室に復帰した。理想の遂行のため独断行を選び、皇宮に潜入した。
・所属組織、地位や役職
 王宮秘密調査室員。元騎士団員。
・物語内での具体的な行動や成果
 皇宮でヴァルガヌスとイフリーテの暗殺計画を傍受した。黒い霧の刺客と交戦し、命からがら証拠を持ち帰った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 再雇用され、独自行動権限を得た。

パリスタン王国

ジュリアス・フォン・パリスタン

第一王子であり、軽妙な態度と計算された行動を兼ね備える。調整役を担い、外交と戦場の両面で影響力を発揮する。
・所属組織、地位や役職
 パリスタン王国・第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 業火宮接収戦では《英雄譚》を侍女全員に付与して戦況を逆転させた。葬儀では証人を確保して継承の公正化を図った。詰所戦ではアルフレイムの軽率な行動を抑えつつ、戦場で飛竜と交戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国の内政に深く関与し、国際的影響力を高めている。

ヴァンキッシュ帝国

アルフレイム・レア・ヴァンキッシュ

第一皇子であり、武を尊び奔放に求婚を繰り返す。父帝から鋼鉄神メテオールの加護を継承した。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・第一皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
 葬儀で父の死を告げ、遺言の証人を立てて継承を公正化しようとした。詰所戦ではイフリーテと交戦するも呪毒矢で倒れ、スカーレットに救命された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後継者争いの有力候補であり、周囲から注目を集めている。

フランメ・レア・ヴァンキッシュ

病弱な皇子であり、バーンの遺言により後継者に指名された。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
 晩餐会を主宰し、スカーレットらをもてなした。葬儀では遺言により皇帝に指名され、波紋を呼んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新帝に指名され、宰相ヴァルガヌスに利用される危険が生じた。

バーン・レア・ヴァンキッシュ

帝国皇帝であり「拳皇」と呼ばれる存在。武を重んじ、多様な力を登用した。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
 炎帝殿修練場でスカーレットと拳を交え、飛竜ルクを抱擁した。海魔の呪いによる病で崩御した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 崩御により後継者争いが激化した。

ヘカーテ

黒竜の姫であり、アルフレイムの翼として誓約した。人間を警戒しつつも、その意志に心を動かされた。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・黒竜の姫。業火宮の主。
・物語内での具体的な行動や成果
 大広間乱戦を鎮圧し、フェザークとの空戦に勝利した。詰所戦ではルクと呪毒の疑念を抱き、次に現れた際は自ら対処すると誓った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 竜種を代表する存在として帝国に強大な抑止力を持つ。

イフリーテ

近衛兵団長であり、赤い竜鱗を顕す体質を持つ。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・近衛兵団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 紫焔宮でスカーレットと遭遇し激昂した。詰所戦では紅天竜騎兵団を相手に互角に戦ったが、呪毒矢により失陥した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 レックスに救われた過去を持ち、今後証言者として重要となる可能性がある。

ジン

紅天竜騎兵団の副隊長であり、冷静に戦況を判断する。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・紅天竜騎兵団副隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 書庫への案内を行い、詰所戦で部下を指揮した。撤退戦では仲間を犠牲にしながら進路を開いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 指揮能力を発揮し、戦線の要を担った。

宰相派・紫焔宮

ヴァルガヌス

軍師将軍から宰相へ昇進した人物。冷酷な策謀家であり、権力掌握のために私兵を糾合した。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国・宰相。
・物語内での具体的な行動や成果
 スカーレットを勧誘したが拒絶され、業火宮接収を強行した。詰所戦では“寵愛破断”の結界と呪毒矢を用い、アルフレイムを倒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇帝崩御後、宰相として権勢を振るい、国内を支配した。

ケセウス

ファルコニアの使者であり、ヴァルガヌスと連携する。
・所属組織、地位や役職
 ファルコニアの高官。
・物語内での具体的な行動や成果
 紫焔宮で協力者を紹介し、業火宮接収戦で戦況を混乱させた。敗北後は幻惑で姿を消した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国内で不和を煽る役割を果たした。

フェザーク

元・蒼天翼獣騎兵団長であり、投擲無効の加護を持つ。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国軍OB。ヴァルガヌスの協力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヘカーテとの空戦で刻印を突かれ、墜落敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 私兵勢力の一角として活動したが、戦力を喪失した。

ガンダルフ

元・蒼天翼獣騎兵団副団長であり、地母神キュベレイの加護を持つ。
・所属組織、地位や役職
 ヴァンキッシュ帝国軍OB。ヴァルガヌスの協力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 業火宮接収戦でスカーレットと一騎打ちし、古傷を突かれて敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 主力戦力であったが早期に戦線を離脱した。

その他の存在

黒ローブの人物

正体不明の存在であり、頭内に声を響かせて助言する。
・所属組織、地位や役職
 不明。
・物語内での具体的な行動や成果
 スカーレットに“心臓の誓い”と“魔眼”を示唆した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 敵味方不明のまま影響を与えている。

展開まとめ

第一章 我が愛しのかがり火よ。

邂逅と拒絶
黒竜の姫ヘカーテは、人間を脆弱で短命と断じ、決して心を許さぬと誓っていた。そこへ朱髪の皇帝フェルド・レア・ヴァンキッシュが日参し、「背に乗せろ」「番となれ」と求婚を続け、ヘカーテは殴打やブレスで幾度も追い払ったのである。

言葉の交わりと揺らぎ
炎耐性を持つフェルドは怯まず、ヘカーテの叡智と気高さを賛美し続けた。無防備な愛情表現にヘカーテは殺意を退け、人化して対話に応じるまでに心が揺らいだが、最終の「心臓の誓い」は交わさずにいた。

皇帝の死と喪失
やがてフェルドが魔物討伐で戦死した報が届き、業火宮の奥でヘカーテは荒れ、沈黙し、喪に沈んだ。侍女らの労りも届かず、彼女は山のねぐらへ帰る決意を固めたのである。

若き来訪者と真相
部屋へ押し入った第一皇子アルフレイム・レア・ヴァンキッシュは、討伐前日にフェルドから「鋼鉄の神メテオールの加護」を継承した事実を告げ、自らの責を詫びた。火耐性の源が加護にあったと知り、ヘカーテは誤解を解いて少年の傷を癒やした。

意志の継承という答え
アルフレイムは「人は力と意志を継いで悠久を生きる」と宣言し、ヘカーテの背に乗ることを切望する。彼女は「他人の力に縛られる脆弱さ」を退け、己の意志を証明せよと試した。

野望の告白と選定
アルフレイムは「大陸諸国を屈服させ、ヴァンキッシュを世界一の強国にする」と野心を露わにした。その業火のごとき志に、ヘカーテは久方ぶりに胸を震わせ、「魂の誓い」をもって彼の翼となることを受諾したのである。

新たな同盟と条件
ヘカーテは「その身が朽ちる時まで、いや意志と力が消える時まで共にある」と誓い、誓約不履行の折は「頭から噛み殺す」と厳しく釘を刺した。こうして黒竜姫は、番の意志を未来へと繋ぐべく、業火の貴公子の翼となった。

ヘカーテの警戒と内心
ヘカーテはスカーレットを「アルフレイムの最も好む女」と見なし、ヴァンキッシュから早急に退去させるべき相手と判断した。表向きは嫉妬を否定しつつも、スカーレットの意志と戦闘力を認めざるを得ず、心中は揺れていた。

大広間の乱戦
業火宮の大広間でスカーレットは侍女衆に囲まれ、挑発を交えつつ一人また一人と殴り倒していった。切り札とされた「業火宮侍女組三竜頭」も瞬時に制圧され、場は彼女の圧倒的優勢で収束した。

降参と称揚
侍女たちは敵対心を捨て、スカーレットを「紅蓮(業火)の花嫁」として礼賛し土下座して服した。武を至上とする国風ゆえ、強者への敬意が一挙に向かったのである。

ヘカーテの介入
広間の破壊と喧噪に激昂したヘカーテが黒炎のブレスで一帯を薙ぎ払い、「全員出ていけ」と一喝して場を断ち切った。結界の自動補修が働く一方、汚損の後始末は侍女衆に委ねられた。

客室での再会
スカーレットは客室でレックスと再会した。低地病の件を案じ、彼を「家族」と明言して治療法を見出すと誓った。ナナカとの軽口を交えつつ、同行して支える方針が固まった。

三通の手紙
レックスが託された三通の書状が届けられた。

  • 一通目はアルフレイムからの常套的求愛文で、即処分の扱いとなった。
  • 二通目はフランメからの晩餐会招待状で、夕刻の参席を予定した。
  • 三通目は竜刺繍入りの高価な封書で、送り主ヴァルガヌスが「撲殺姫」たるスカーレットに対し、望むものの供与を約して私邸への来訪を求める内容であった。

次なる行き先
挑発的文面にスカーレットは興をそそられ、ナナカとレックスを伴い、まずヴァルガヌスの下へ赴く決断を下した。ヘカーテの不信と宮中の緊張を残したまま、対面の火蓋が切られようとしていた。

第二章 貴方達の態度が気に入りません。

紫焔宮への到着
スカーレット、ナナカ、レックスは、鋼門と高壁に守られた紫焔宮へ赴いた。業火宮の開放性とは対照的な厳重さであり、三名は武断色の濃い空気を感じ取ったのである。

庭に並ぶ協力者
宮殿前庭には鳥獣の頭を持つ亜人や有翼人ら十余名が整列していた。ヴァルガヌスは彼らを「皇帝就位のための私的協力者」と説明し、国家間の同盟ではなく個人の人脈で集めたと明かした。

ケセウスと二名の重鎮
ケセウスが紹介され、有翼人フェザーク(元・蒼天翼獣騎兵団長)と腹心ガンダルフ(元副団長)が随伴していた。両名はいずれも紅天竜騎兵団に匹敵し得るとされ、スカーレットは潜在的な強敵と見做したのである。

誘致の本音
ヴァルガヌスは、皇帝から預かる正規軍を個人的権力闘争に使えぬ事情を述べ、私兵化した外部戦力に頼る現状を吐露した。さらに、アルフレイムへの対抗上の切り札としてスカーレットを勧誘し、「協力者になれ」と単刀直入に求めた。

“撲殺姫”の本質を突く挑発
ヴァルガヌスは事前調査に基づき、スカーレットの「悪人のみを標的にして暴力衝動を処理してきた」本質を言い当てると、即位後は国内で自由に暴力を振るえる庇護を与えると提案した。これはスカーレットにとって一見魅力的な条件であった。

拒絶の理由(第一)—獲物不在
スカーレットは微笑を浮かべつつも握手を退けた。第一の理由として、ヴァンキッシュには「脂の乗った殴り甲斐のある上質なお肉(悪人)」がいないと断じ、武を至上とする国柄が彼女の“嗜み”と相性不良である点を挙げたのである。

拒絶の理由(第二)—侮蔑的態度
続けて、検問や入門対応など一連の過程で示された女性蔑視と不遜を糾弾した。謝意も謝罪も欠いた姿勢は協力ではなく敵対に値するとし、招待状を空中で粉砕して意思表示した。

決別と退出
逆上したヴァルガヌスは「愚かな皇子についたことを後悔する」と恫喝したが、スカーレットは会釈のみで退室した。ナナカとレックスはこれに同行し、紫焔宮での交渉は決裂に終わったのである。

紫焔宮を後にした一行の会話
スカーレット、ナナカ、レックスは廊下を歩きながら、ヴァルガヌスとのやり取りを振り返った。レックスは彼が飛竜を戦いの道具としか見ていないことを嫌悪し、かつて仲間が命を賭して人間を救った際の発言に強い怒りを示した。ナナカも同調し、スカーレットはヴァルガヌスを殴る理由がまた増えたと語った。

イフリーテとの遭遇
三人は廊下で近衛兵団長イフリーテと出会った。イフリーテは無礼な態度で彼らを罵り、スカーレットを退けようとしたが逆に手を払われ挑発された。激昂した彼は襲いかかったが、レックスが割って入り飛竜であることを明かしたことで戦意を失った。彼は飛竜に育てられた過去を持ち、飛竜を傷つけたくなかったのである。スカーレットは無礼の落とし前は保留としつつも、いずれ制裁を加えると心に決めた。

レオナルドらとの合流
宮を出るとレオナルド、ジュリアス、エピファーが駆けつけ、スカーレットを案じた。ヴァルガヌスからの誘いを拒絶したと聞いたレオナルドは安堵と同時に落胆し、ジュリアスは皮肉を交えつつも彼女の行動を肯定した。三人は今はまだ表立って敵対する時期ではないと確認し合い、燈火宮へ向かうことを決めた。

燈火宮での動揺
燈火宮に到着すると、スカーレットは美しい庭園を目にして懐かしさを覚えた。その折にジュリアスが彼女へ口づけを交わし、惑わせる言葉を残した。スカーレットは動揺を隠せず、その場に立ち尽くした。

フランメとの対面
応接間でフランメが一行を迎え、宴席に招いた。レックスの食事にも心を配ったフランメの態度に一同は和らぎ、ナナカが慌てる場面もあったが、場の空気は穏やかに流れていった。

宴席の始まりとナナカの苦労
燈火宮に移った一行は、フランメのもてなしで豪勢な料理を前にした。ナナカは緊張と心労で胃を痛め、エピファーに薬を渡される。スカーレットはその姿をレオナルドと重ね、苦労人として労った。

伝統料理とエピファーの酔倒
パリスタンの甘味中心の料理とは異なり、香辛料を多用したヴァンキッシュ料理が供された。エピファーは一品ごとに解説し喜んだが、ワインを一杯飲んだだけで酔い潰れ眠ってしまった。フランメは後に土産を用意する約束をした。

レックスの寝息と使用人の優しさ
飛竜の姿に戻ったレックスは満腹で庭に眠り込み、使用人達は子供を見守るように穏やかに接した。スカーレットは宮の居心地の良さを語り、フランメも微笑みを返した。

皇帝の容態を巡る応酬
ジュリアスはバーン皇帝の体調を問い、フランメは薬で落ち着き鍛錬に励んでいると答えた。しかし吐血の事実を隠している様子が見え、ジュリアスは疑念を抱いたが追及はせずに話題を変えた。

フランメの立場と過去
ジュリアスが皇位への意志を問うと、フランメは病弱ゆえ皇帝の器ではないと語った。かつては頭脳も武力も卓越していたが、今は他の候補に劣ると自嘲した。レックスは彼のかつての才能を誇らしげに語り、スカーレットも兄アルフレイムの言葉を言い当てて驚かせた。

誤解と挑発
フランメが「業火の花嫁」と口を滑らせ、スカーレットは不快を押し隠した。ジュリアスはその反応を愉快そうにからかい、さらに先の口づけを仄めかして挑発した。スカーレットは怒りを押し殺し、報復を誓った。

知人の存在と呼び出し
フランメはスカーレットの古い知人が滞在していると明かしかけたが、その時、使者が現れた。使者は一行に対し、皇帝バーンが炎帝殿へ呼んでいると告げた。

第三章 荒事なんて困りましたわね、本当に。

夜の皇宮の威圧感
月夜に照らされた皇宮は昼間と一変し、赤い屋根と竜装飾が灯火に浮かび上がる幻想的な美を放っていた。レオナルドは緊張を強め、ジュリアスは用心を促した。スカーレットは拳を無意識に握り、ナナカにたしなめられていた。

炎帝殿から地下修練場へ
人気のない謁見の間で侍従のルクに導かれ、一行は地下深くの大扉を抜けた。そこは天井高十五メートルの広大な修練場であり、的や打ち込み人形が並んでいた。中央には赤鱗の胸甲を纏うバーンが、ヒュドラの首を踏み据えて待っていた。

“歓迎”という名の殴り合い
バーンは自ら胸を貸すと宣言し、一同に全力で挑むよう求めた。常識的対応を望むレオナルドに対し、スカーレットは「郷に入っては郷に従え」として手袋を装着し前へ出た。ジュリアスは会話録音の魔道具で言質を確保し、レオナルドの懸念を封じた。

不死竜の赤鱗と挑発
ジュリアスはバーンの鎧が“不死竜の赤鱗”であり、心臓が止まらぬ限り活力を与える国宝級魔道具であると説明した。バーンは挑発を重ね、スカーレットは決闘を受諾した。

拳帝と狂犬姫の初撃
スカーレットの強化アッパーはバーンの顎に直撃したが、受け止められた。直後のバーンの両拳叩きつけは修練場に巨大なクレーターを生み、圧倒的な膂力を示した。石片の連打、空中からの打撃が続く中、スカーレットは“加速”の加護で応戦し、左ハイキックの激突で双方が遠くへ吹き飛ばされた。

加速五段と決定打の直前
バーンは無防備に両腕を広げ「全力を見せよ」と受け太刀を宣言。スカーレットは“加速五倍”で腹部への渾身の一撃を放たんと踏み込んだ。

ルクの介入と正体
刹那、ルクが飛び込み紫紺の吐息を放ち、スカーレットの加護を消し飛ばした。消耗した彼女は膝をつき、吐息を吐き切ったルクは蒸気に包まれて全長五メートルの飛竜へ変じ、気絶した。スカーレットは吐息が加護消失の効果を持つと分析した。

飛竜愛好の皇帝
バーンは激怒ではなく号泣しつつルクを抱き締め、以後は意志を無視して戦わぬと誓った。レオナルドは情の厚さに感服し、ナナカとジュリアスはヴァンキッシュに蔓延る“病的な飛竜愛好者”の噂を想起した。バーンは埋め合わせを約してルクを担ぎ、修練場を去った。

残された疑念と内語
スカーレットは、ヴァルガヌスの前で人の姿のルクに冷淡だった理由と、公衆の面子を優先した可能性に思案した。また、バーンの上空落下直前に脳内へ響いた未知の声の正体が判然とせず、もやを抱えたまま拳の衝動を持て余したのである。

厳戒の皇宮と孤独な巡察
深夜のヴァンキッシュ皇宮は近衛の巡回が絶えず、空気は張り詰めていた。シグルド・フォーグレイブは近衛兵の鎧をまとい、月を仰ぎつつ自問していた。

回想―騎士団離脱と“理想”の再定義
一か月余り前、シグルドは王国騎士団を辞し、王宮秘密調査室への復帰を直訴した。レオナルドは動揺したが、ジュリアスは見透かしていた。ゴドウィン事件やパルミア教事件を経て、彼は「命令待ちで守るだけ」の騎士では悪を断てない現実を知り、独自権限を持つ調査室こそ理想を遂行できる場だと確信した。家督は勘当覚悟、決意は揺らがなかった。

再任用と潜入任務の付与
ジュリアスは即座に再雇用を承認し、翌日からのヴァンキッシュ潜入を命じた。第一皇子アルフレイムと同盟を結ぶ一環として皇宮内部の機密収集を行う任務であり、シグルドは近衛兵として潜入した。

炎帝殿の気配―二人の皇位候補を追う
当夜、外廊下に軍師将軍ヴァルガヌスと近衛兵団長イフリーテの姿を認めたシグルドは尾行を決断。人払いされた炎帝殿内部で二人の密談を盗み聞きする。

密談の核心―“今宵、陛下を殺す”
会話は激昂と嘲笑の応酬であった。ヴァルガヌスは「バーンは次期皇帝にアルフレイムを選んだ」と断じ、武の優劣を退けた評価軸を示した。追い詰められたイフリーテは憤怒し、やがてヴァルガヌスは「来たるべき時が来た」と囁き、今宵のバーン暗殺を明言。シグルドは即時報告を決意する。

帰路に差す“黒い霧”―正体不明の刺客
報告のため撤収する廊下で、黒い霧状の人影が進路を塞ぐ。「逃がさない」と雑音混じりに呟き、パリスタンへの憎悪を吐き捨てて急襲。重装のままでは逃走困難と判断したシグルドは抜剣し、交戦に入った。

目覚めと装い
前夜の激闘の反動で昼過ぎに目覚めたスカーレットは、業火宮で身支度。アルフレイムを慕う女性戦士たちが押しかけ、ヴァンキッシュの宮廷衣装(動きやすい赤のドレスと伝統の髪型)で飾り立てる。彼女たちの荒れた手を「努力の証」と称えられ、一同は感極まり「スカーレットお姉さま」と慕い始める。

ヘカーテ不在と書庫行き
本来の目的はレックスの低地病の手掛かり。だがヘカーテは魔力消耗で長眠中。そこへジンが現れ、皇宮書庫の使用許可証を提供。道案内として紅天竜騎兵団の“四人組”が同行(うるさいが有能)。

“心臓の誓い”という鍵
書庫での調査は難航。そこへ黒ローブの人物が忽然と現れ「竜と人の魂を霊的に結び、命を分かち合う秘術――より強い呪いで上書きする『心臓の誓い』」を示唆し即消失。声は昨夜、頭内に響いた警告の声と酷似。味方か敵か判別不能のまま、強い警戒を残す。

弔鐘
宮中に弔鐘が鳴り響き、書庫は騒然。スカーレットは門前でナナカ、ジュリアス、レオナルド、エピファーと合流。アルフレイムが到来し、静かに告げる――亡くなったのはバーン皇帝。死因は海の魔物の呪いによる病で、加護でも癒えぬ宿痾。スカーレットの責は否定され、「最後に強者と戦えたことを父は喜ぶはず」と感謝を述べる。

証人としての招致
次期皇帝の名はこれから発表。アルフレイムは、内輪の隠蔽を封じるため他国の要人(パリスタン一行)を“遺言の証人”として立ち会わせ、ヴァルガヌスやイフリーテに既成事実を迫る策を明かす。炎帝殿へ進む道すがら、スカーレットは彼の握り拳の震えに気づき、剛毅の裏の不器用な悲嘆を読み取る。

炎帝殿―別れと対峙
赤い喪の羽織で埋まる殿内には、ヴァルガヌス、イフリーテ、さらにファルコニアのケセウスも(向こうも証人を用意)。アルフレイムは棺前で祈りを捧げ別れを告げ、立ち上がると両候補の前へ――これより皇位継承の真実と対決の幕が上がる。

炎帝殿の対峙
アルフレイムはヴァルガヌスとイフリーテに詰め寄り、葬儀に現れないフランメの所在を追及。ヴァルガヌスははぐらかし、イフリーテは動揺してうわ言のように嘆き続ける。

“遺言”の開封
ルクが棺前で皇族印の封蝋を、皇帝専用指輪で解錠。封書の後継者は「フランメ・レア・ヴァンキッシュ」と読み上げられ、場内は困惑に包まれる。

策の気配と激昂の抑止
ジュリアスは“先手を取られた”と見抜き、ヴァルガヌスはほくそ笑む。激怒したアルフレイムをスカーレットが制止し、「ここで暴れれば不正を暴く機会を失う」と理を説いて鎮める。

強要された喝采
ヴァルガヌスが「新帝誕生」に万歳を強要。偽りの喝采が響く中、パリスタン一行は殿外へ退く。

次の一手
アルフレイムは単身で燈火宮へ向かいフランメに直談判する決意を表明。「何かあればヘカーテを頼れ」と言い残す。ジュリアスは業火宮での作戦会議を指示し、同時にナナカへ――今朝から消息を断った諜報員の代行調査を依頼する。

第四章 だってこれは私達女の尊厳と誇りをかけた戦いですから。

作戦会議の開始と不穏な兆候
業火宮に戻った一行は、今後の方針を話し合うため応接室に集まった。ジュリアスは沈黙を保ち、レオナルドが進捗を質すと、ようやくレックスの件を口にした。だが会議の最中、宮全体に鏡を割るような破砕音が響き、結界が破られたことが判明した。侵入したのは皇宮護衛軍であり、兵は「女は皇帝の所有物」と暴言を吐いた。スカーレットは憤り、行動を決意した。

業火宮接収勅書と宰相ヴァルガヌスの影
広間では侍女組と兵士達が対峙していた。そこにガンダルフ、フェザーク、ケセウスが現れ、勅書を突きつけて業火宮の廃止を通告した。新帝フランメの命令と称されたが、実際には宰相となったヴァルガヌスの独断であることが露見した。スカーレットは反論し、侍女達は声を上げて抗戦を誓った。

黒竜姫ヘカーテの登場
事態が緊迫する中、ヘカーテが姿を現し、「この宮の主は妾である」と宣言した。侍女達は彼女を出迎え、敵対者達は動揺した。ヘカーテは「黒竜姫の逆鱗に触れた代償は重い」と告げ、兵を威圧した。だがケセウスは兵に攻撃を命じ、広間は乱戦へと突入した。

女達の戦いの宣言
ガンダルフはスカーレットに弟の仇を理由に挑戦を挑み、フェザークはヘカーテに立ちはだかった。侍女達は「男は引っ込んでろ」と叫び、女達の尊厳をかけた戦いであることを強調した。スカーレットは「これは私達女の戦い」と断言し、ガンダルフとの一騎打ちに臨んだ。

ガンダルフとの激闘
戦闘開始直後、スカーレットは加速の拳でガンダルフを叩き込むも、彼は地母神キュベレイの加護によって攻撃を吸収し強化する性質を持っていた。殴れば殴るほど強化される相性最悪の敵であったが、突如、黒ずくめの男の声が頭に響き、“目”の力を授けられた。スカーレットはその力でガンダルフの古傷を見抜き、脇腹へ五倍速の拳を打ち込んで撃破した。

戦況の逆転とジュリアスの秘策
広間に戻ると、侍女達が優勢に戦っていた。その理由はジュリアスが《英雄譚》を全員に付与し、能力向上と防御結界を密かに展開していたからである。彼は「脇役は脇役に徹するもの」と軽口を叩いたが、実際には女達を陰で支える策を講じていた。スカーレットはその痩せ我慢を見抜き、彼の真意を理解したのであった。

ジュリアスの策と侍女達の奮戦
広間では侍女組が皇宮護衛軍を次々に叩き伏せていた。ジュリアスは自ら前に出ず、《英雄譚》を発動させて侍女達に加護を与えていた。その効果により彼女達は強化され、短時間で戦況を優勢に運んだのである。スカーレットはその献身を見抜き、彼の痩せ我慢を指摘した。

空中戦と魔眼の力
天井に空いた大穴からは、ヘカーテとフェザークの戦いが続いていた。スカーレットは《停滞》を発動し、魔眼によって見えた刻印を狙って棒を投擲した。投擲はフェザークの翼を貫き、直後にヘカーテの炎で黒焦げとなり地に落下した。フェザークの加護は投擲を無効化するものであったが、魔眼の力はその防御を無効化したのである。

敵の撤退と襲撃の終結
ケセウスは戦況不利を悟り、幻惑魔法で姿を消して退却した。倒れていたガンダルフやフェザークの姿も消えており、敵は一時撤退を選んだ。スカーレットは深追いせず、捕縛よりも撤退を許すことが得策であると判断した。こうして業火宮を巡る戦いは侍女達の勝利で終結した。

アルフレイムの帰還と一時の安堵
そこへ完全武装のアルフレイムが駆けつけ、侍女達の勝利を称賛した。彼の言葉に彼女達は歓声を上げたが、背後から現れたヘカーテの炎により、アルフレイムは壁を突き破って吹き飛ばされた。遅れて現れたジンは「皇帝にならずに済んだのは幸い」と冷淡に評した。

燈火宮の不在と捕縛の疑念
応接室に戻った一同は情報を交換した。アルフレイムは燈火宮にフランメの姿がなく、朝にヴァルガヌスへ呼び出されたまま戻っていないと報告した。フランメが囚われた可能性は高く、利用される危険が示唆されたのである。

イフリーテの不調と好機
ナナカが潜入調査から戻り、イフリーテが詰所に籠り異常な様子を見せていると伝えた。ヴァルガヌスと不和が生じているらしく、帝都での戦力も限られていると判明した。ジンは「今が動く好機」と述べ、アルフレイムも同意した。

行動方針の分岐と婚約の盾
アルフレイムは詰所に赴く決意を固めたが、ジュリアスはパリスタンの立場上、同行を拒否した。ただしスカーレットはアルフレイムの婚約者と公認されているため、同行しても侵略行為と見なされにくいと指摘された。これにより彼女は合法的に行動できる立場を得たのである。

ヘカーテの支援と出立
ヘカーテは業火宮の守りを優先するため残留を宣言し、スカーレットに魔力を補充して送り出した。スカーレットは暴れる決意を固め、ナナカと共にアルフレイム一行に加わることを選んだ。こうして次なる目的地、イフリーテの詰所へ向かう準備が整えられた。

ジュリアスの思索と新たな報告
スカーレット達を業火宮の門で見送った後、ジュリアス・フォン・パリスタンは応接室に戻り、ヴァンキッシュの現状と今後の策を巡らせていた。近海で大型魔物の襲撃が頻発している事実を踏まえ、戦争好きとして知られたバーン皇帝が協調路線に傾いていた理由を理解したのである。彼はもっと早く情報を得ていれば、同盟交渉でさらなる譲歩を引き出せたと悔やんだ。そこへレオナルドが駆け込み、シグルドの帰還を告げた。現れたシグルドは傷だらけであり、皇宮においてヴァルガヌスとイフリーテが共謀して暗殺を企てていた証を持ち帰った。さらに彼は、窮地を救った謎の男の存在を語り、その男が「本当の暴力を教えよう」と言い残したことを伝えた。

アルフレイムの軽率な行動
一方、業火宮を出たスカーレットらは、人目を避けて裏道を進もうとした。しかしアルフレイムが大通りを進もうと声を上げ、巡回兵に見つかりかける事態を招いた。ナナカが吹き矢で制止したことで大事には至らなかったが、彼の軽率さは仲間を大きな危険に晒したのである。裏路地で状況を笑い飛ばすアルフレイムに、ナナカは憔悴した様子を見せた。

紅天竜騎兵団の対応
副隊長ジンは冷徹な声でノア、ランディ、ジェイクに命じ、二度とアルフレイムを先頭に立たせぬようにした。三人はそれぞれの調子で応じ、場はにぎやかになったが、ジンの苛立ちは隠せなかった。スカーレットは二人を安心させるため、自分がアルフレイムを物理的に黙らせると笑顔で告げた。ナナカとジンはその言葉に半ば本気で同意し、負担を軽くした。こうして真面目組と奔放な者たちとの間に、一応の均衡が保たれた。

詰所への到達
やがて一行は帝都北西端の近衛兵団詰所の目前にたどり着いた。士気を鼓舞するアルフレイムに応じ、ノアとランディは声を上げたが、ナナカは依然として不安を隠せなかった。ジンもまた感情を殺した声で謝罪し、彼らの未熟さを認めざるを得なかった。スカーレットは仲間を励ましつつ、拳を握りしめて詰所での対決に備えたのである。

第五章 ご立派になられましたね、お嬢様。

詰所の様子と潜入の困難
皇宮西側の近衛兵団詰所は、壁や門を持たない質素な建物であった。訓練する兵の姿や裏山を飛び交う飛竜により、裏手からの侵入は不可能と判断された。表からの潜入も兵の数が多すぎて難しく、一同は黙り込んだ。

アルフレイムの独断行動
思案の最中、アルフレイムは路地から姿を晒し正面から歩み出た。こそこそ動くのは不審を招くと主張し、近衛兵団に呼びかけたため兵士達が激怒して殺到した。ジンらは諦め気味に対応を任せることを決めた。

イフリーテの登場
アルフレイムは大声でイフリーテを呼び出し、やがて詰所の入口が爆発して彼が姿を現した。喪服を纏ったイフリーテは激昂していたが、アルフレイムの挑発にも戦意を見せず背を向けた。しかし、侮辱を受けたことで怒りを爆発させ、戦闘の構えを取った。

竜人の姿と激突
イフリーテは全身に赤い竜鱗と翼を現し、人と飛竜の混血を思わせる姿となった。その力でアルフレイムを蹴り飛ばし、周囲を圧倒した。ジュリアスは加護で応戦し、互いの蹴りが激突した。さらにイフリーテは飛竜の吐息を放とうとし、時間操作の加護すら破りつつあった。

紅天竜騎兵団との交戦
ジンは短槍を投げ、ランディ・ジェイク・ノアと共に三方向から攻撃を仕掛けた。イフリーテは巧みに槍を弾き、紅天竜騎兵団四名を相手にしても劣勢を見せなかった。戦況が膠着する中、アルフレイムが再び前に出て戦意を示した。

飛竜の群れの襲来
イフリーテは飛竜の咆哮を放ち、山から二十頭もの飛竜を呼び寄せた。紅天竜騎兵団は散開して応戦を始め、ジュリアスも飛竜と対峙した。その一方でアルフレイムとイフリーテは激突し、拳と蹴りがぶつかり合い周囲を破壊するほどの戦闘に突入した。

飛竜を“ハンマー”にして撃墜
スカーレットは気絶した飛竜の尻尾を掴み、加速三倍で上空の別個体へ叩き付け、詰所屋根へと撃墜した。周囲は彼女の暴れぶりに呆気を取られた。

加護の枯渇兆候
戦況を見渡す中、スカーレットは強いめまいと動悸に襲われ、加護が枯渇しかけていると自己診断した。以後の使用は失神の危険が高い状況となった。

弓兵一斉射と“風の短剣”
近衛の弓隊が一斉射を開始。スカーレットを庇ったナナカが「風の精霊シルフの短剣」を起動し、矢を全反射させた。ただし短剣は一撃で亀裂が入り、再使用は困難となった。

アルフレイム対イフリーテは膠着
両者は鋼鉄の加護と竜鱗で互いの打撃を殺し、決定打に欠いて長期戦の様相を呈した。スカーレットの戦闘継続が難しいことから、撤退案が浮上した。

ヴァルガヌス軍の包囲と“反逆者”指定
大通りから四〜五百の兵が到来し詰所を包囲。ヴァルガヌスは近衛兵までも「反逆者」と断じ、接触してきた近衛兵を味方兵が殴打した。事前想定の動員であるとジンは分析した。

イフリーテ、毒矢で失陥
ヴァルガヌスに憤激したイフリーテは突撃寸前で硬直。放たれた矢は無害に見えたが、直後に膝をつき大量出血して倒れた。矢には「飛竜特化の呪毒」が塗られていたとヴァルガヌスが明かした。

降伏勧告とアルフレイムの帰還
ヴァルガヌスは弱ったスカーレットに丁重な拘束を提案。そこへアルフレイムが戻り、スカーレットに休息を促した上でヴァルガヌスに宣戦の意思を示した。

“寵愛破断”の結界と矢の雨
ヴァルガヌスは切り札としてルクに術を詠唱させ、半径数百メートル規模の透明なオーラを展開。直後の一斉射に対し、アルフレイムは矢を正面から受け、全身を貫かれ倒れた。彼は鋼鉄の加護を発動できず、致命傷となった。

ルクの力の種明かし
術は“神々の寵愛(加護)を打ち消す結界”であり、強力な加護持ち対策の切り札であるとヴァルガヌスが嘲笑とともに説明。ルクは消耗で崩れかけたが、目的達成として扱われた。

仲間の動揺とスカーレットの言葉
紅の四騎士は動揺・嘆泣。スカーレットはアルフレイムの頬に触れ、彼への辛辣な本音と共に、なお手を離さず状況を見極めようとしていた。

アルフレイムへの辛辣な別れ
スカーレットは矢に倒れたアルフレイムの手を取り、過去の共闘や信頼を回想しながらも、最後まで辛辣な言葉を添えて別れを告げた。だが胸の脈動により生存の兆しを確認したのである。

治癒と遡行の葛藤
治癒魔法により表層の傷は癒えたが致命傷は残った。スカーレットは国家機密である“遡行”の加護を使えば救えると悟り、世のため人のための誓いに従い救出を決意した。しかし結界を抜ける必要があるため、紅の四騎士は足止め役を買って出た。

紅の四騎士の奮戦と別離
ジンを筆頭に四騎士は東側突破を図り、順に仲間を守るため残っていった。ノアは小柄ながら狂気を孕んだ戦闘で敵を殲滅し、仲間に道を開いた。スカーレットとナナカはアルフレイムを担いで業火宮への裏通りを目指したのである。

包囲網の完成とヴァルガヌスの暴挙
路地に到達する直前、国境から呼び寄せられた千人規模の兵が現れ、ジンらは捕縛され、二人も完全に包囲された。ヴァルガヌスは村や街を犠牲にしてでも権力を握ると宣言し、兵に捕縛を命じた。

窮地と師の帰還
加護を使えぬスカーレットは限界に陥り、ナナカと共に最後の覚悟を固めた。だが突如、兵士やヴァルガヌスが見えぬ力に殴り飛ばされ、戦場に混乱が広がった。現れたのは十年前に短期間家庭教師を務めた恩師グラハールであった。

再会と刻印の除去
グラハールはスカーレットの志を称え、彼女の体に潜んでいた魔の刻印を除去した。その結果、加護は完全に復帰し、失われた力を取り戻した。スカーレットは十年前の誓いを再確認し、師と共に次なる戦いに向かう覚悟を固めたのである。

グラハール先生の介入と礼
グラハールはジン達の礼に対して「世のため人のため」と謙遜して応えた。スカーレットは先生の不変の姿勢を思い、礼を述べつつアルフレイムの治療の必要性を告げたのである。

先生の単独殲滅と圧倒的な強さ
グラハールは兵士の密集する方へ歩み出し、視認不能の拳圧で次々と兵士達を吹き飛ばした。彼の所作は学識だけでなく暴力をも専門とする職業性を滲ませ、周囲は圧倒されたのである。

スカーレットの急行とレックスの再会
スカーレット達はアルフレイムを担いで先を急ぎ、途中で人化したレックスと再会した。レックスは無事を喜びつつ、イフリーテがレックスを救った経緯を語り、イフリーテ救助の嘆願を行ったのである。

イフリーテ救出の是非と決定
レックスの真剣な願いにより、スカーレットは当初の目的を思い返して方針を転換した。スカーレットはイフリーテを業火宮へ連れて行って話を聞く価値があると判断し、ジン達もそれを了承したのである。

救助態勢と役割分担
ジェイクやランディがイフリーテの運搬を申し出し、ノアらも支援を誓った。ナナカは懸念を示しつつも同行を決め、スカーレットは皆の協力を得て業火宮へ向かう決意を固めたのである。

出発——業火宮へ
全員の合意を得て、スカーレット達はアルフレイムとイフリーテを伴い、業火宮へ向けて出発した。各自が胸にそれぞれの思いを抱えつつ、次の局面へ進んでいったのである。

業火宮での治療
スカーレットはアルフレイムを業火宮に運び、ヘカーテの同席のもとで遡行の加護を発動した。致命傷は癒され、アルフレイムの容体は安定した。ヘカーテはその力を初めて目にし、時を巻き戻す神秘に驚嘆したのである。

イフリーテとルクの疑念
ヘカーテは、飛竜を殺す毒や加護を打ち消す結界について疑念を抱いた。それらは神話の時代の遺物とされ、ルクが使えるとは信じ難いと語った。彼女は次にルクが現れた際には自ら対応すると宣言したのである。

ジュリアスの帰還
侍女の報告により、ジュリアスが業火宮に戻ったことが知らされた。彼はシグルドや紅天竜騎兵団を伴い、さらには即位したばかりのフランメを連れていた。

不可解な奪還
フランメ本人ですら無事に脱出できた理由を理解しておらず、経緯は不明であった。シグルドは再会に際してスカーレットを凝視し、動揺する様子を見せた。

ジュリアスの説明
ジュリアスは皇宮のヴァルガヌス不在をシグルドから知らされ、残っていた紅天竜騎兵団を率いてフランメ奪還に動いたと語った。スカーレットは、自ら達を囮に利用したのではないかと疑念を抱いたが、ジュリアスは平然と説明を続けたのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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