物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジーおよびほのぼのスローライフ・コミックである。元サラリーマンの主人公が素材採取家として異世界を旅し、素材採取や仲間との交流を通じて成長と癒やしを描くシリーズの第4巻である。
内容紹介:
ドワーフの王国を目指す途中、タケルは新たな仲間として竜人およびエルフと遭遇し、彼らとともに危険な地下坑道へと足を踏み入れる。そこでは悪魔のようなモンスターや強い魔素が充満しており、レア鉱石の採取をめぐって再び冒険と困難が交錯する。仲間の信頼と素材採取のスリルが交わる中で、タケルは自身の生き方や素材採取家としての在り方を改めて見つめ直す。
主要キャラクター
- 神城 タケル(かみしろ たける):元サラリーマンで異世界に転生した素材採取家。探索と素材を見つけること、仲間との交流を楽しむ穏やかな性格だが、仲間や郷を守るためには危険な場所にも自ら踏み込む勇気を持つ。
物語の特徴
本巻の魅力は、「素材採取」というテーマを軸としながら、戦いや殺戮に重きを置かず、探索と発見、仲間との共闘、そして素材という異世界のリソースを巡るドラマを丁寧に描く点にある。他の異世界バトルものとは異なり、「採取」と「旅の途中での人との出会い」が主役となっており、読者に安心感と冒険のほのかな緊張感の両方を届ける“やさしい異世界譚”として差別化されている。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記 4
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本 氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
発売日:2021年7月27日
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あらすじ・内容
大ヒット! 累計8万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第4弾! エルフの郷の厄介なトラブルに巻き込まれたタケル。いつもなら面倒事を避ける彼だったが、仲間のエルフから助けを求められたため、郷の救済に乗り出すことになった。状況調査をかねて、ギルドでヘンテコ素材採取の依頼を受注したところ、いきなり怪しい洞に行き着く。そこから溢れ出る強烈な魔素は、生き物の命さえ奪ってしまうという――。嫌な予感しかしないが、ヘンテコ素材のため、そして何より仲間のため、彼はその危険な洞に挑む。異世界のヘンテコ素材を探して、採って、郷を救え! 採取家タケル、仲間のために大・奮・闘!
感想
読了し、タケルの活躍に今回も心が温まった。
エルフの郷のトラブル解決から、クレイの故郷訪問へと繋がる物語は、どちらの郷でも子供たちの愛らしさが際立っていたのが印象的であった。
エルフの郷では、洞窟に潜むナメクジモンスターとの戦いを通じて魔素問題を解決していく。
頑固なエルフたちと精霊王との仲を取り持ち、閉鎖的な郷に外との交流を認めさせる展開は、読んでいて清々しい気持ちになった。
特に、エルフの出産問題にまでタケルが関わることになるとは思ってもみなかった。
採集用のハサミが、まるで神器のように扱われる場面は、思わず笑ってしまった。
そして、物語はクレイの槍が折れたことをきっかけに、彼の故郷であるリーザードマンの里へと舞台を移す。
普段は武士なクレイが、家族のこととなると途端に堅物になるギャップが面白い。彼の意外な一面を知ることができ、より一層クレイというキャラクターが好きになった。
エルフの郷でのギルド依頼では、Sランクモンスターとの戦闘に巻き込まれるというハプニングも。リュティカラ捜索の結末や、リベルアリナの登場には唖然としてしまった。精霊王であり、エルフの神である存在が、緑色でマッチョなオネェだったという設定は、良い意味で期待を裏切られた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
神城タケル
地球から転生した素材採取家である。仲間を支える立場を重視し、結界や浄化を駆使して環境を整える行動が多い。鞄や採取用ハサミといった特異な魔道具を所持し、仲間たちの結束の中心となっている。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・素材採取家。
・物語内での具体的な行動や成果
洞窟でのバジリスクやダークスラグの討伐を支援し、結界と浄化で仲間を守った。エルフの郷では精霊王リベルアリナの言葉を通訳し、価値観の転換に寄与した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
外部者でありながら「救い主」と呼ばれ、女王から神器を下賜された。
クレイストン
元聖竜騎士のドラゴニュートである。誇り高い戦士であり、槍術に優れる。故郷では英雄視されているが、家族の過去に苦悩している。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・戦士。故郷リザードマンの郷の英雄。
・物語内での具体的な行動や成果
バジリスクやダークスラグ戦で主力として奮戦し、仲間を勝利へ導いた。帰郷後は英雄として迎えられ、家族や村長との関係を再確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
聖竜騎士からドラゴニュートへ変化した存在であると判明した。
ブロライト
両性を持つハイエルフである。血脈重視の掟に抗い、種の未来を模索している。妹想いであり、仲間と共に行動する。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・剣士。ヴィリオ・ラ・イの巫女一族。
・物語内での具体的な行動や成果
洞窟探索で剣技を発揮し、姉リュティカラ捜索を進めた。外エルフの郷では姉と再会し、衝突を経て和解へ歩み寄った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
精霊王との対話に立ち会い、郷の価値観改革に関与した。
ビー
古代竜の幼生である。幼い姿をしているが、戦闘では強力な炎息を用いる。タケルや仲間から大切に守られている。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・古代竜幼生。
・物語内での具体的な行動や成果
バジリスクやダークスラグ戦で炎と振動で仲間を支援した。外エルフの子供たちから懐かれ、交流を深めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正体が古代竜であると広く知られ、畏敬の対象となった。
プニ
馬の神であり、誇り高い存在である。普段は馬の姿だが、人型へ変化して仲間と行動することもある。食に強い関心を持つ。
・所属組織、地位や役職
蒼黒の団・守護神格。
・物語内での具体的な行動や成果
戦闘では後方支援や指示を担い、ダークスラグ戦で仲間を助けた。幌馬車の製作を望み、旅路の方向性に影響した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
精霊王との口論に臨み、神々の限界を指摘する役割を果たした。
サーラ
エルフ族の女性であり、ギルド「ダイモス」の受付嬢にしてギルドマスターである。妖艶な雰囲気を持ち、ブロライトの知人である。
・所属組織、地位や役職
エルフ族ギルド「ダイモス」・ギルドマスター。
・物語内での具体的な行動や成果
タケルに複合依頼を仲介し、ネコミミシメジの情報を提供した。ブロライトの姉の件で内通し、探索を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正体がギルドマスターであると明らかになり、影響力が強調された。
リュティカラ
ブロライトの姉であり、巫女である。血脈を背負う宿命を持つが、外の郷で新しい家族を築いていた。
・所属組織、地位や役職
ハイエルフ巫女。外エルフの郷フルゴル在住。
・物語内での具体的な行動や成果
ブロライトと再会して衝突したが、やがて赤子ティルウェと共に現在の幸福を語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
巫女としての役割を果たせなくなり、精霊王の言葉を聞けなくなった。
クウェンテール
エルフ族の警備隊長である。弓の名手であり、神器を託されていた。
・所属組織、地位や役職
エルフ族・警備隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
ダークスラグ戦で「ブロジェの弓」を放ち、一行を救った。ブロライトと意見を交わしつつも互いを案じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
執政官アージェンシールの信頼を受けて神器を託された。
アージェンシール
エルフ族の執政官である。改革派の立場を取り、外界との交流を推し進めた。
・所属組織、地位や役職
エルフ族・執政官。
・物語内での具体的な行動や成果
女王に代わって郷を支え、価値観転換を宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
改革派として郷の方針に影響を与えた。
女王
エルフ族の長である。病を抱えながらも、一行に謝意を示した。
・所属組織、地位や役職
エルフ族・女王。
・物語内での具体的な行動や成果
救済の礼を尽くし、秘宝を下賜した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
病身ながら権威を持ち、公式に感謝を表明した。
ラガルティハギンガ(ギン)
クレイストンの息子である。郷で孤児を育てつつ、父を支えている。
・所属組織、地位や役職
リザードマンの郷・若者。
・物語内での具体的な行動や成果
タケルを迎え入れ、クレイの過去を明かした。孤児を保護して家庭を築いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クレイの息子である事実が公に示され、家族の絆を表した。
サウラ
クレイストンの妻である。すでに亡くなっており、墓に眠る。
・所属組織、地位や役職
リザードマンの郷・故人。
・物語内での具体的な行動や成果
妊娠中に子を救うため海に飛び込み、命を落とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
死後もクレイの心を縛り続けたが、精霊王により恨みが無いと証明された。
アヴリスト・プスヒ
リザードマンの村長である。鋭い観察眼を持つ高齢の指導者である。
・所属組織、地位や役職
リザードマンの郷・村長。
・物語内での具体的な行動や成果
タケルに古代カルフェ語の文献を示し、槍と墳墓の関係を明らかにした。クレイの変化を察し、秘密を共有した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
郷の中心人物として判断を下し、次なる探索の道筋を示した。
展開まとめ
タケルの回想と自己紹介
神城タケルは、自身が謎の青年に殺され、惑星マデウスへと転生させられた経緯を語った。彼は一般人であったが、現在は素材採取家として活動していた。
仲間たちとの結束
タケルは古代竜の幼生ビー、元聖竜騎士であるドラゴニュートの戦士クレイストン、両性のエルフであるブロライト、そして誇り高い馬の神プニと共に「チーム蒼黒の団」を結成していた。仲間たちと共に地道な採取を続ける中で、彼は一般人であるはずの自分の立場に戸惑っていた。
エルフの郷での出来事
タケルはブロライトの姉を探すためにエルフの隠れ郷を訪れたが、いつの間にかエルフたちから救い主として崇められてしまった。タケルは困惑しつつも、ブロライトの頼みを受けて手助けする決意を固めた。
課題と目標
タケルは頑固なエルフたちの意識改革だけでなく、郷に漂う濃い魔素の原因を突き止める必要があった。また、巫女であるブロライトの姉リュティカラの行方を探すことも課題として残されていた。
仲間との未来への歩み
数多の課題に直面しながらも、タケルは仲間の存在に支えられていた。独りでの一歩よりも仲間と共に進む一歩こそが明日へとつながると信じ、前へ進む意志を新たにした。
1 浅蘇芳の誘惑
幻のギルドと鍛冶場の音
グラン・リオ・エルフ族の郷にあるギルド「ダイモス」は、冒険者の平均ランクが大陸一と称される存在だった。周囲にはドワーフの鍛冶場があり、武具を打つ音が静かな郷に響いていた。外を旅するエルフはドワーフを郷へ招き入れ、文化の交流を生んでいた。保守派が彼らを蔑む姿勢に対し、ブロライトは全てを守ろうと語り、タケルはその姿勢に敬意を抱いた。
サーラとの再会
藁葺きの小屋に入ったタケル一行は、受付嬢サーラと出会った。サーラは妖艶な雰囲気を持つエルフで、ブロライトの幼少からの知人でもあった。彼女はブロライトを気遣い頬に触れ、仲間の存在を喜んだ。タケルはその艶やかな態度に動揺しながらも、クレイストンの冷静さに助けられ依頼掲示に集中した。
複合依頼の受注と素材
タケルは月夜草を含む複合依頼を受注し、手持ちの素材を提出した。ブロライトはネコミミシメジがキエトの洞にあると説明し、その効能を語った。タケルは未知の素材が高い価値を持つと考え、採取を決意した。加えて、プニの希望である大人数でも軽い魔道荷馬車の製作をサーラに相談し、依頼の形を整えていった。
守護神の不在と新たな課題
プニとビーは郷の守護神リベルアリナの気配を探ったが見つけられなかった。タケルは神を介してエルフの慣習を改めさせる計画が揺らいだことを理解した。さらにブロライトの姉リュティカラの所在も不明であり、一行は複数の課題を抱えたまま洞への調査に向かうこととなった。
出立と準備
タケルは移動中に浄化魔道具を作り、仲間の防護を整えた。やがて湖畔に到達すると、無数の死骸と濃い魔素に圧倒され、ブロライトが急性魔素中毒に倒れた。タケルは広域の清潔魔法を展開し、環境を浄化して症状を鎮めた。彼は浄化小瓶を仲間に配布し、魔素からの防御を固めて再び洞を目指した。その直後、プニは小型の姿へと変化し、同行可能な形を取った。
2 濃墨の闘争
洞窟内部への進入
キエトの洞は強い拒絶の気配を放っていた。タケルは灯光を展開し、魔石に結界を施して退路を確保した。ビーは体調不良を抱えながらもタケルの頭上に留まり、プニは小型化した姿でクレイストンの肩に乗った。ブロライトの案内で一行は洞を進んだ。
突如の奇襲とバジリスクの出現
静寂の中でブロライトの首に粘液が落下し、天井の穴から巨大なバジリスクが姿を現した。酸を吐き、魔法を弾く表皮を持つ危険な存在だった。調査で弱点は八つの瞳であることが判明し、尾端の金剛石は高値がつく素材であると知らされた。
環境操作による戦術
タケルは氷結槍と暴風雪で洞内を極寒に変え、バジリスクの体温を奪って動きを鈍らせた。直接攻撃が効かない状況を環境の変化で補い、仲間の攻撃機会を作り出したのである。
連携による急所攻撃
クレイストンの槍が瞳を貫き、ブロライトの剣が次々と弱点を破壊した。プニは眉間の瞳の位置を示し、ビーは超音波振動で敵の感覚を麻痺させた。最後はクレイストンが渾身の槍を放ち、残る瞳を貫いて討伐を果たした。
素材回収と異常の認識
タケルは冥福を祈りつつ、バジリスクを鞄に収納した。尾端の金剛石や特殊進化した素材は高い価値を持つと考えられた。一方で、ブロライトは本来出現しない高位個体の存在を異常と断じ、魔素の濃度が進化を歪めていると推測した。タケルも当初の依頼ランクを超える危険度を実感し、今後の探索に警戒を強めた。
3 吾亦香の休息
連戦の消耗と退避拠点の確保
神城タケル一行は、毒性を帯びた変異種の群れと連戦を続け、心身ともに疲弊していた。タケルは灯光と結界魔石で退路と安全圏を準備し、広間へ誘導してから特大結界を最大出力で展開した。結界は周囲の魔素を吸い上げて隔絶空間を作り、追撃してきたモンスターを遮断した。
結界下の小休止と補給
クレイストンとブロライトは腰を下ろして呼吸を整え、タケルは温かい食事とそば茶、回復薬を配って戦力の立て直しを図った。ビーは膝上で眠り、プニは人型に戻って周囲の魔素が薄まったことを指摘した。結界の四隅には保険として結界魔石が追加設置された。
祭壇の所在と封印への懸念
ブロライトは最奥の祭壇まで残り半分ほどと述べ、祭壇がリベルアリナの様式と異なる点を挙げた。タケルは地震後の環境変化と魔素の異常を踏まえ、何かを抑えるための装置である可能性を考えた。長老が改革派として郷外に暮らしている事実も伝えられ、情報の不確かさが残った。
再進発と素材採取の目標
休息後、一行は進軍を再開した。タケルは防御力低下などの支援を重ね、毒性の群れを突破した。最奥手前の広間では壁と天井一面に発光する巨大なキエトネコミミシメジが群生し、食用かつ回復効果を持つランクB素材であると判明した。
濃密な殺気とラスボスの気配
素材の歓喜も束の間、広間の奥からモンスターが逃げ去るほどの圧が迫り、ビーが初めて怯えの声を漏らした。タケルは照光、盾、速度上昇、軽量化を全員へ付与し、戦闘環境を整備した。
Sランクの正体と脅威評価
姿を現したのは真紫の巨大ナメクジ、キエトダークスラグであった。身体全てが猛毒で触れれば致死、弱点は炎と判定された。ブロライトは過去にSランクのスラグ種が一国を滅ぼした逸話を想起し、撤退を主張した。
撤退論と抗戦決意
タケルは仲間の存在を拠り所に抗戦を選び、クレイストンは変身して戦闘能力を引き上げた。タケルは天井と壁に結界を張って群生キノコの損壊を防ぎつつ、役割分担を明確化した。ブロライトには毒への警戒と汚染回避、ビーには全力投入、プニには後方支援が割り当てられた。
初撃と弱点の探索
ダークスラグの触手がクレイストンを拘束したが、追加の速度上昇と軽量化で突破した。タケルは盾と浄化の重ねがけを維持しつつ、感覚器と見た触角の切断をブロライトに指示し、これが成功した。続けてビーが古代竜由来の強力な炎息を放ち、風精霊の補助で表皮を焼いた。
攻勢転換と追い込み
タケルは攻撃力上昇を付与して全体火力を底上げし、クレイストンの打撃とブロライトの斬撃が勢いを増した。触手の数と機動は減退し、魔素濃度も目に見えて低下した。ダークスラグは奥の窪みへ退避しようとし、タケルは脳部位が触角根元にあると判定して止めを指示した。戦闘は最終局面へ向けて収束しつつあった。
4 粉錫の決着
優勢への転換と塩の発想
クレイストン、ブロライト、ビーは連携してキエトダークスラグを追い込み、神城タケルは支援に徹して機会を作った。ブロライトが塩を示唆し、タケルは貴重な天然塩を温存するため高濃度の塩水球を生成する方針へ切り替えた。塩水の直撃により表皮は溶解し、敵は明確に弱体化した。
塩水連打と洞の崩落
タケルとブロライトは塩水球を連続投射し、クレイストンの猛攻と相まってダークスラグの反撃力を奪った。度重なる衝突で天井に亀裂が走り、崩落が始まったため、タケルは結界で被害を最小化した。隙を逃さず、ブロライトが切除した触角の根元を刺突し、クレイストンが喉を裂いて致命傷を与えた。
謎の一撃と救援者の正体
とどめの後、ダークスラグが最後の触手でブロライトを狙ったが、未知の光線が割り込み敵体を爆砕し、被害は免れた。現場に現れたのはエルフの警備隊長クウェンテールであり、彼が執政アージェンシールから託された神器「ブロジェの弓」による一射であったことが判明した。ブロライトとクウェンテールは口論を交えつつも互いの身を案じていたことを示し、サーラがギルドマスターである事実も明かされた。
卵群の発見と太陽光処理
逃走方向の窪みにはダークスラグの卵が無数に密集していた。調査により、卵は五年で孵化し、太陽光に晒すと死滅し「邪王の水」となることが判明した。日没が迫る状況で、タケルは太陽光の魔法を創出して紫外線を強化し、群全体を黒変させて死滅処理を完了した。残渣は錬金用の媒体水として回収可能と判定された。
戦後の整理と示唆
崩落後の広間は結界で保護され、ビーの風精霊が塵を払い視界が回復した。魔素濃度は平常域に近づいたが、卵群のさらに奥に濃い流れが残存している気配があり、異常の根は完全には断てていない可能性が示された。巨大シメジの採取と「邪王の水」の回収準備が整い、一行は休息ののち後処理へ移行する段取りを固めた。
5 黄櫨の真実
温泉の癒やしと戦後処理
タケルは郷の温泉で疲労を洗い流し、星空を仰ぎつつ暗闇での死闘を回想した。洞の修復魔法により爆散したダークスラグの肉体が“遺骸として”再生したため、希少素材として鞄に収納した。また燃し遺した卵を完全焼却し、洞と湖、河川の流れが正常化へ向かったことを確認した。
碑文の発見と魔素異常の推測
最深部から露出した石碑に「死を招く果ての王ここに眠る」と神文が刻まれており、封印対象がダークスラグであったと判明した。地震が封印を揺るがし、産卵と地形変動が魔素の停滞を誘発したとタケルは推測した。結果として郷を覆っていた濃密な魔素は通常域へ戻りつつあった。
帰還後の休養と実地証明
転移門で戻った一行は極度の疲労で昏倒し、翌朝に食堂で厚い給食を受けて回復した。タケルは郷の要人らに事の次第を説明し、懐疑的な古参ハイエルフへダークスラグの遺骸を現物提示した。クウェンテールが洞での目撃と卵群処理の事実を証言し、疑念は払拭された。
女王の謝意と執政官の宣言
謁見の間で女王は病身を押して膝を折り、一行を「救い主」として礼を尽くした。近習の反発に対し、執政官アージェンシールは変革の必要を高らかに宣し、外界と異種の受容を促した。これにより保守的空気は一時鎮静し、郷は恩義を公式に表明した。
古代竜の露見と秘宝の下賜
アージェンシールの言及からビーの正体が古代竜であると広く認知され、場は一転して畏敬へ傾いた。続いてクウェンテールの一射の出所として神器「ブロジェの弓」が示され、女王は郷の秘宝を感謝の証としてタケルに下賜した。
受領の逡巡と譲渡意向
タケルは弓術未経験と過大な魔力消費を理由に辞退を試みたが、郷側とブロライトの強い推挙により受領した。ただし自らの運用には消極的で、実用面からブロライトへの使用移譲を望む姿勢を示した。以上により、郷の魔素異常は収束へ向かい、一行は恩賞とともに次の段階へ備える構えを固めた。
6 桃花染の行方
エルフ族の閉塞とブロライトの使命
エルフ族は血脈を重んじて内向化し、近親婚の弊害で存続の危機に陥っていたため、両性のハイエルフであるブロライトだけが掟に背いて種の滅亡回避を模索し続けていた。ブロライトは過去に竜騎士クレイストンと邂逅し、その縁が現在の同行へとつながっていた。
採取任務の達成とギルドでの報告
タケル一行は女王との謁見後にネコミミシメジを大量採取し、ギルドマスターのサーラへ提出した。魔素の濃い環境ゆえ長期放置で巨大化していたが安全性は保たれており、依頼主への引き渡しとサーラの便宜により五万ゴールドの報酬を得た。併せてキエトで得た毒モンスター素材も高値で買い取られた。
S級モンスター素材の評価
討伐対象は王都の調査機関で取り扱われる見込みとなり、大陸紙幣数枚相当の価格が示唆された。タケルは将来の資金として巨大ナメクジ素材を保管する方針を示した。
サーラの勧誘と所属の維持
サーラはタケルの腕を評価してダイモス所属を提案したが、タケルはエウロパ・ギルドへの恩義と便宜を理由に所属維持を選択した。サーラはこの姿勢を軽い冗談を交えて受け止めた。
本来の目的の再確認とブロライトの事情
ブロライトは甘味を頬張りつつも、リベルアリナ探索や姉リュティカラの件を失念しがちであったことを指摘され、安否は把握していたが所在不明であった事情を明かした。リュティカラはサーラと秘密裏に連絡を取り、半年後の探索許可を伝えていたため、ブロライトは依頼で力量を磨きランクを上げたのち、探索支援としてタケルを頼るに至っていた。
リュティカラの所在手掛かりと長老の存在
サーラは女王側近も含め郷がリュティカラの所在を把握している可能性を示し、ブロライトに思考を促した。結果、改革派の最高齢ハイエルフであり、近親婚に反対して郷を離れた長老アドゥクスアデイトケノヴィーラの元が有力と判明した。長老はプネブマ渓谷でレインボーシープを育てつつ暮らしているとされ、リュティカラがそこに匿われている蓋然性が高まった。
木工依頼と温泉卵の伝授
タケルはエルフの木工技術を見込み、ギルド経由で高額報酬かつ途中確認条件つきの発注を行った。また、調理技術として温泉卵の作り方を料理長へ伝授し、プニの帰還時には温泉卵やパンケーキでもてなし、エルフの面々にも好評を得た。
リベルアリナの潜伏先と出立準備
プニはリベルアリナの気配を検知したが威圧で引き込ませてしまい、潜伏先がプネブマ渓谷であると報告した。一行は休息後、渓谷行きを決定した。
プネブマ渓谷の景観と集落の発見
一行は快晴の下プニに騎乗して谷へ向かい、岩場の先に広がる一面の緑と虹を望む壮大な渓谷景観を目にした。渓谷底には川が走り、ログハウスが連なる集落と生活の煙が確認され、リュティカラと長老のみならず他の住民の存在も示唆された。
接触前の警戒と新たなエルフの姿
目立つためプニは人型へ変化し、一行は集落外縁に着地した。遠目に接近するエルフの中に茶褐色の肌と白銀の長髪を持つ者が確認され、ブロライトはアッロ・フェゼン・エルフの名を挙げた。未知の系統との遭遇が示され、リュティカラ捜索は新段階へ移行した。
7 花緑青の大地
外エルフの郷フルゴルへの到着と子供たちの歓迎
タケル一行はプネブマ渓谷の秘境フルゴルの郷に到着し、各大陸から流れ着いた外エルフの集落に迎えられた。タケルは幼子らに懐かれ、ビーは興味津々に撫でられ、クレイストンは建築の手伝いで力を示し、プニは祭壇で供物を平らげるなど、郷は終始和やかな空気に包まれていた。
四大陸と多様なエルフの背景
郷には肌や価値観の異なるエルフが暮らしており、アッロ・フェゼン大陸由来の茶褐色のエルフもいた。大陸ごとの文化と遺伝的多様性が交わった結果、郷の子供たちは総じて健康に育っていた。
サーラの内通と長老との対話
タケルは長老と対面し、サーラが事前に来訪を伝えていた事実を知った。長老は外との交流による血脈の更新を是とし、ヴィリオ・ラ・イの硬直化を嘆いた。タケルは人間社会の近親婚の危険性を引き合いに出し、守るべき伝統と改めるべき慣習の両立が必要と述べた。
ブロライトとリュティカラの再会と衝突
ブロライトは姉リュティカラと再会したが、郷を出た経緯をめぐり取っ組み合いの喧嘩に発展した。長老や郷人は静観し、タケルは夕食抜きの通告とから揚げの提案で争いを収め、調理にブロライトを誘導して場を切り替えた。
もてなしと信頼の形成
タケルは温泉卵やから揚げを振る舞い、郷の面々に感謝された。ビーは子供らの執拗な可愛がりからローブ下に避難するほど疲弊したが、郷全体は来客を祝う宴の空気となった。
リュティカラの告白と現在の幸福
宴後、タケルはリュティカラと語り、無詠唱の清潔・修復で衣装や装身具を整えた。リュティカラは巫女として次代の長を産む宿命に縛られつつ、ブロライトを深く慕っていた過去と、その血脈が許されないと知った絶望を明かした。やがて外エルフのハイエルフと結ばれ、茶褐色の肌の赤子ティルウェを授かって現在は穏やかな幸福を得ていると語った。タケルは血や性別の烙印を退け、ブロライトはブロライトであると断じ、仲間としての立場を明確にした。
宴の夜と静かな対話
クレイストンは竜騎士として郷人の関心を集め、タケルは郷産の琥珀酒を味わいながら眠気に抗うビーをあやした。リュティカラはタケルの在り方に信頼を示し、ビーは安心して無防備な寝姿をさらした。
翌日の熟考とレインボーシープ
翌日、タケルはビーとレインボーシープの群れにもふられつつ、伝統の尊重と改革の必要の両立を思索した。郷の問題は郷自身が解くべきと結論づけ、ただ仲間の幸福と故郷の継続を両立させる道を模索する決意を固めた。
森の精霊王リベルアリナの出現
独白を続けるタケルの前に、豪奢で逞しい姿の存在が現れた。相手は高貴な魔力を放ちビーを抱き上げ、森を統べる者、森の精霊王、エルフの守り神リベルアリナであると名乗った。物語は精霊王との対話へと舵を切る段階に至った。
8 千歳緑の実正
森の精霊王リベルアリナの来訪と通訳役の指名
タケルはレインボーシープの丘で緑の精霊王リベルアリナの降臨を受け、精霊王の声をエルフに伝える通訳役を務めた。リベルアリナはヴィリオ・ラ・イの魔素濃度上昇で住みにくくなり渓谷へ移ったと述べ、郷に緑が満ちたのは自身の適応の結果であると明かした。タケルはエルフの期待を損ねぬよう発言を選び、碑文の真意が古よりのリベルアリナの伝言であると確認したのである。
プニとリベルアリナの応酬とタケルの仲裁
プニは守るべきものを守らず移住した精霊王を皮肉り、リベルアリナは古代馬の石化を揶揄して応じた。口論は激化したが、タケルは両者を宥め、万能ではない神々の限界を踏まえた相互の努力を認めさせた。ビーも状況を察して静観した。
巫女リュティカラの事情と通訳機能の欠落
巫女であるリュティカラは出産により魔力の大半を子へ譲渡し、リベルアリナの言葉を正しく受け取れなくなっていた。タケルのみが精霊王の声を聞き取れるため、集会での意思疎通は彼に委ねられたのである。
血脈偏重への警鐘と精霊王の立場
長老は血の濃さが破滅を招くという教えを強調し、郷に歓喜が広がった。だがリベルアリナは血脈に拘泥せよとは言っていないと訂正し、緑を愛し守る者すべてに応える存在であると明言した。エルフを特別視しない姿勢が示され、価値観の転換が迫られた。
精霊と神の差異、可視化の儀
精霊は自然の力がなければ姿を保てず、神々とは位相が異なると説明された。プニは力の貸与を申し出て、リベルアリナの真なる姿をエルフの前に顕現させた。これにより精霊王は権威を示しつつも、過去への固執を戒めたのである。
顕現の訓戒と揺らぐ信仰
リベルアリナは祖先の教えを曲解した近習を叱責し、今ある命を大切にしなさいと諭した。信仰対象からの否定はエルフに苦痛を与えたが、同時に硬直した規範の見直しを促す契機となった。タケルは当事者間の解決を優先し、場を離れて議論を委ねた。
郷の和解に向けた夜更けの協議とタケルの支援
夜まで話し合いが続く中、タケルは料理長と協力して肉すいとんスープを提供し、満腹が議論を前進させた。古参も歩み寄りを見せ、プネブマ渓谷の「外」エルフの扱いが主要議題となった。
依頼処理の区切りと幌馬車計画
エルフの危機対応を一段落させたタケルはベルカイムへの帰還を決定し、サーラからプニ専用幌馬車の制作進捗を聞いた。動力用魔石はタケルが用意する方針で、完成まで郷との転移門は維持することになった。
ギルドの「お墨付き」と謝礼の提案
サーラはタケルら蒼黒の団にギルドマスター直々の印を授与し、各地ギルドの信頼が積み上がった。謝礼については宿代無料や燻製肉の進呈を望むタケルに対し、エルフ側は幌馬車代金の肩代わりを申し出て、過度な贈与の議論が起きたが最終的に感謝の形として幌馬車支援が妥当と整理された。
別れの機運とブロライトの逡巡
帰還準備の中でブロライトは郷残留の意思を固めたかに見え、タケルは意思を尊重して再会の約束を交わした。プニは幌馬車完成後の旅路を見据え、海での食事を動機に滞在方針を定めた。
再合流の決断と巨大ミミズの来訪
出立後、タケル一行は強烈な悪臭とともに巨大ミミズに騎乗したブロライトの追走を受けた。ブロライトは外の世界で学ぶ決意を述べ、リュティカラの怒りを受けつつも自らの選択として合流を選んだ。
次なる目的地「海」への志向
タケルは刺身を語って一行の食欲と好奇心を煽り、ダヌシェの港を次の有力候補として挙げた。プニは食の期待から賛同し、クレイとビーも新たな旅路に前向きであった。
転移門の運用と今後の旅程設計
転移門によりヴィリオ・ラ・イと外界の往来が現実的となり、郷の再編と外との交流拡大が見込まれた。タケルは幌馬車完成を待って近郊依頼を消化し、その後に海路の探索へ進む構えを固めた。
幕引きと小さな課題
ブロライトの再加入で隊の結束は強まり、未知への期待が高まった。タケルは出立前にミミズの返却を指示し、些細な後始末を済ませたうえで次章の旅路へ向けて歩みを進めたのである。
番外編 タケルと鞄
屋台村での荷運び依頼
ベルカイムの屋台村では、腰を痛めた運び屋の爺さんの代役として、タケルが荷物の運搬を手伝っていた。果物屋の依頼でロゴの実を配達するなどの小口の仕事を請け負い、その見返りとして食べ物のつまみ食いを許されていた。タケルが用いる鞄は、無限収納と所有者認識機能を備えた特別な魔道具であり、周囲からも興味と称賛を集めていた。
アイテムボックスの性能と価値
この鞄はタケルにしか扱えず、中に入れた物は種類ごとに整然と保管され、望むだけで瞬時に取り出せる。また、持ち主のもとに自動で戻る仕組みもあり、誰にも奪えない。こうした特性ゆえに、タケルの象徴的な存在ともなっていた。屋台の人々も鞄の存在を承知しており、タケルとその鞄はベルカイムに定着していた。
鞄を狙うスリとその顛末
混雑した通りでスリに鞄を奪われるも、鞄は自動でタケルのもとに戻り、スリは混乱の中で叫び声をあげた。タケルは改めて鞄の頼もしさを実感し、それを相棒と呼んで信頼を寄せていた。
襲撃者との対峙と照光の発動
通りを進むタケルはゴロツキに囲まれ、鞄を狙われる。彼らは魔道具としての鞄の価値を狙っていた。タケルは戦闘経験に裏打ちされた動きで攻撃を避けつつ応戦。状況が悪化する中、照光魔法を発動して仲間を招集する。
仲間の登場と劣勢からの逆転
招集に応じてクレイが屋根上から登場し、圧倒的な存在感で場を制圧。続いてブロライトとプニが参戦し、ゴロツキの切り札であった粉末瓶を奪い中身を確認すると、それは激辛香辛料であった。野次馬も増え、ベルカイム市民の怒りも加わって雰囲気は一変した。
人質事件と静電気の裁き
ゴロツキのリーダーは逃走を図るために子供を人質に取るが、タケルは子供を睡眠魔法で安全にし、プニの魔法でゴロツキ全員を感電させて制圧した。事件は終結し、犯人たちはギルドにより手配され、フィジアン領へ送還されることとなった。
鞄の意味と存在の特異性
タケルは報酬の代わりに香辛料を受け取り、自身の信条に従って暴力を避けたことを振り返った。戦いを避ける心情と共に、この鞄の特異性と危うさについても考え、今後はより慎重に扱うべきだと自省した。最後には、鞄から現れたハニワのような精霊らしき存在に「アリガトウ」と感謝されるという不思議な現象に見舞われ、物語は幕を閉じた。
9涛
神器級のハサミの完成と試用
タケルはベルカイムの職人街にあるペンドラスス工房を訪れ、グルサス親方から特注の採取用ハサミを受け取った。素材にはミスリル魔鉱石、魔素水、トランゴクラブの甲羅などが使用され、切れ味と強度は圧倒的であった。試しに鋼のインゴッドを切断すると、力を入れずとも切断でき、切る対象によって色が変化するなど、魔道具としての性質も備えていた。調査によりこのハサミは「ランクS+++」の神器であると判明した。
副産物の刃物と親方の情熱
親方は余った素材から大小さまざまなハサミやナイフ、さらには眉毛抜きや果物ナイフまで大量に制作していた。これらもすべてミスリル魔鉱石製であり、美しさと機能性を兼ね備えていた。タケルはこれらをすべて譲り受け、感謝を述べて工房を後にした。
転移で向かった港町ダヌシェ
タケルはギルド関係者に見つからぬよう路地裏から転移門を開き、仲間たちが滞在する港町ダヌシェへ向かった。そこはアルツェリオ王国カンディール領の湾岸都市で、グラン・リオ大陸西端に位置し、交易と漁業の盛んな町であった。
暴走する魚の乱獲と冒険者たちの興奮
タケルが到着すると、クレイとブロライトはギルドの依頼で魚を獲りすぎており、海から巨大魚を次々と釣り上げていた。魚は見た目こそ奇怪であったが、ほとんどが食用可能であり、スキャンによって薬効のある魚も確認された。新鮮な魚を前にして、タケルは多様な調理法を思案しながら、納品用と自家用を区分して運搬作業に取り掛かった。
クレイの大物との格闘と悲劇
その後もクレイは巨大な鮫を仕留めたが、さらなる獲物に挑む最中、愛用の槍を折ってしまう。沖合で起きたこの出来事は、タケルや仲間たちにも衝撃を与えたが、詳細は明かされなかった。
便利道具と目立たぬ工夫
タケルは受け取ったハサミを便利と評価しながらも、その目立ちすぎる特性ゆえに街中では使用を控える決意をした。公の場では地味な裁縫ハサミを使う一方、仲間にはその性能を自慢する予定であった。精鋭揃いの仲間たちに囲まれつつも、タケルは自らの力と立場を自覚し、慎重さを忘れぬよう戒めていた。
10 砕波
麦飯の漬け丼と新鮮魚料理
タケルは清潔の魔法で麦の皮を剥き、殺菌することに成功し、麦飯を用いた酢飯の調理に挑戦した。マグロに似た巨大魚をクレイに捌かせ、新品のハサミで切り分けて漬けにし、酢麦飯にのせた漬け丼を完成させた。クレイやブロライト、プニもその味に感動し、全員が何杯もおかわりを求めた。
壊れた槍と修復の失敗
食後、折れたクレイの大槍の修復に挑むも、魔法では完全に修復できなかった。タケルが調査した結果、槍には意思があり、修復を拒否しているかのようであった。槍は古のリザードマンの勇者ヘスタス・ベイルーユが使っていたランクA+の名槍であり、現在は破損によりランクCまで低下していた。
クレイの落胆と過去の真実
この槍が伝説の英雄のものだと判明し、クレイは尊敬する英雄の遺品を壊してしまったと自責の念に駆られ、激しく落ち込んだ。さらにこの槍はヴォズラオでの装飾研磨が原因で耐久性を失い、プニの分析により、槍の精霊が装飾を拒んだ結果として修復不可能であることが明らかになった。
郷への帰還を決意
タケルと仲間たちは、槍を譲ってくれた故郷の村長に事情を聞くため、クレイの郷を訪ねることを提案した。槍はクレイが十二歳で成人の儀を終えた際に与えられたものであり、村長はその由来を知っている可能性があった。仲間たちは郷への同行を快諾し、馬車の旅を計画し始めた。
再出発に向けての準備と感謝
ダヌシェでの目的を果たし、魚も十分に確保されたことから、タケルたちは一旦ベルカイムを離れる決意を固めた。クレイは仲間たちの支援に感謝し、涙をこらえて礼を述べた。旅は新たな目的地、リザードマンの郷へと向かおうとしていた。
11 小波
豪華すぎる馬車と快適な旅路
タケルたちは、エルフの郷で特注された幌馬車に乗り、リザードマンの郷「ヘスタルート・ドイエ」へ向けて旅を開始した。外見はボロいが、内部は豪奢な魔道具付きの構造で、四部屋に分かれた居住空間を持つ。振動も少なく、魔法の効果により盗賊やモンスターには目立たないよう幻惑されていた。移動中はビーと童謡を歌ったり、景色を楽しんだりしながら進み、予定よりも早く「リコフォス滝」に到着した。
故郷を前にしたクレイの重い沈黙
夜、焚き火を囲んで夕食をとったタケルたちは、クレイがリザードマンの郷に帰りたがらない理由を問いかけた。クレイは黙して語らず、ブロライトが不用意な冗談で女性関係を追及すると動揺した。タケルとブロライトはクレイを信じることを誓い、翌日へと備えた。
郷へ向かう難所とリザードマンの暮らし
郷への道は三つの吊り橋を越える過酷なもので、断崖に築かれた家々の姿が圧巻であった。郷のリザードマンたちは海に飛び込み、巨大魚を次々と釣り上げる独自の生活を営んでいた。門の前では入門審査が行われ、クレイは身を隠そうとしたが、検査官によって正体が暴かれ、鐘が鳴らされて歓喜の声と共に凱旋を祝われた。
伝説の英雄としての歓迎
クレイは郷の民から「栄誉の竜王」「ギルディアス・クレイストン」として英雄視されており、巨大な神輿に担がれ盛大に迎えられた。タケルは郷の女性からクレイの過去を聞き、彼が帝国の王位継承者を守ったこと、竜騎士として最高位「聖竜騎士」の称号を持つことなどを知る。
それぞれの想いとギルドへの報告
タケルはギルド「ネレイド」へチームの滞在を報告した。ギルドではタケルの「オールラウンダー」認定に驚きの声が上がり、ランクFやEの地味な依頼を確認しながら登録を完了させた。すると、受付のリザードマンから突然問いかけられる。
驚愕の告白とクレイの過去
受付のリザードマンは、タケルがクレイと行動を共にしていることに疑問を抱き、ついに口を滑らせる。クレイは郷に戻らず放浪を続けていたが、それは郷と自分自身に向き合うのを避けていたからだという。さらに、受付リザードマンはクレイを「親父殿」と呼び、自身がクレイの息子であることをほのめかした。
タケルはこの衝撃の事実に言葉を失った。
12 激浪
リザードマンの町を歩く喜びと食の誘惑
タケルたちは郷の中心街に出て、今夜の食事処を探すことにした。市場では新鮮な巨大魚や多彩な貝、干物、煮付け、塩焼きなどが露店で売られ、活気に満ちていた。貝は地球基準の五倍もの大きさで、バターと醤油で焼いたら絶品であろうとタケルは想像した。海鮮を活かした料理の発想が膨らむ中、ビーに現実に引き戻されたタケルは、目の毒な通りから気を逸らすよう努めた。
驚きの出会いとクレイの家族事情
タケルの隣には臙脂色の鱗をもつ青年リザードマン、ラガルティハギンガ・クレイストンがいた。彼はクレイの息子であり、タケルに対し礼を述べた。タケルはクレイが家族を持っていた事実に驚きを隠せなかったが、ギン(ラガルティハギンガ)は自然体で応じ、クレイの実家にチーム全員を招待した。
クレイストン家の温かい歓迎
クレイの実家は郷のはずれ、小高い丘の上にあり、大きな暖炉や尾用の椅子など、リザードマン向けの造りが随所に見られた。出迎えたのはリンゲルとリウムという二人の幼いリザードマンの子供で、タケルたちに人懐っこく接した。ブロライトは自己紹介をし、プニは自由に室内の椅子でくつろいでいた。
誤解と真実、ギンの家族
二人の子供がクレイの子であると誤解したタケルだったが、ギンはそれを否定し、両親を亡くした孤児たちを引き取ったのだと説明した。子供たちはクレイの帰還を喜んでおり、彼らにとってもクレイは大切な存在であると窺えた。
夕食と居場所の温もり
本来は町の食堂に行く予定であったが、ブロライトとプニがタケルの料理を強く望んだため、彼は自炊を決意した。彼の料理に慣れると他では満足できないとまで言われ、作り手としての誇りを感じつつも、明日は必ず地元料理を味わうと心に誓った。
ギンの語り口と微笑みは穏やかで、子供たちを含めた温かな暮らしがそこにあった。タケルたちはその一員として迎えられ、リザードマンの郷で新たな日常を迎えつつあった。
13 漁火
帰還したクレイと台所の賑わい
クレイは神輿から解放された後、一度家に戻ったがすぐに外出していた。彼の台所には魔道具が整備されており、巨大な調理器具が並んでいたが、タケルには使いやすかった。夕食の支度はタケルを中心に、プニやブロライト、ギンたちも加わり、賑やかに進んだ。
クレイの妻サウラの墓
タケルはギンの言葉に従い、クレイを追って家の裏手にある丘へ向かった。そこにはクレイの妻、サウラが眠る花に囲まれた墓があった。クレイは自らが不在の間にサウラを失ったことを悔やみ、自分を責めていた。サウラは妊娠中に子供を救おうと海に飛び込み、命を落としたのである。
サウラの安らかな眠りを証明する召喚
クレイがサウラに恨まれているのではと苦しむ姿を見て、タケルは精霊王リベルアリナを召喚した。リベルアリナは花が咲き乱れるその地を「愛情に満ちた場所」と称し、サウラが恨みを抱いていないと断言した。クレイはその言葉を聞いてもなお迷っていたが、タケルとビーの言葉に背を押され、少しずつ心を解きほぐしていった。
奇妙な精霊王と騒がしい夜
召喚されたリベルアリナは過剰にハイテンションな性格で、タケルやクレイに絡みながら饒舌に語り続けた。結局、彼女は夜になっても帰らず、クレイストン家にまで同行し、夕飯の準備中も張り付いてタケルを疲弊させた。
村長との対面と謎の言葉「アポポル」
翌朝、タケルはギンの家で双子に起こされ、村長アヴリスト・プスヒと対面した。村長は朝食の準備をしており、タケルに「アポポル」という食材を求めた。正体はメークイン芋であり、タケルは持っていた芋を提供して朝食に協力した。
槍の破損とドラゴニュートへの変化
クレイが村長に槍の破損を報告したことが明かされた。タケルは村長の反応に驚くが、村長は破損をむしろ喜び、「あの槍が壊れたのはギルディアスがリザードマンではなくなった証だ」と語る。つまり、クレイがドラゴニュートへと変化したことを察していたのである。
村長の鋭い観察眼により、クレイの変化が郷の秘密にされていないことが明らかとなり、物語は新たな展開へ向かおうとしていた。
14潮騒
村長宅での会談と村の共同体構造
朝食後、タケル、クレイ、プニ、ギンの四人は村長宅を訪問した。ブロライトと子供たちは郷の学校へ向かい、別行動をとった。村長宅は集会所のような役割も兼ねており、多くのリザードマンが常時集まり、高齢の村長を支えていた。そこは村の中心であり、日常と非日常が交錯する場所であった。
ドラゴニュート化の経緯と魔素水の秘密
村長は奇妙な訛りで問いかけ、クレイはゴブリン襲来時の負傷とタケルによる治癒について語った。タケルは古代竜ボルから託された「魔素水」によってクレイの致命傷を回復させたが、それによりクレイはドラゴニュートへと変化した。この事実に、村長とギンは驚愕しつつも、秘密を守ることを誓った。
魔素水の威力とプニの言葉
魔素水は極めて希少かつ強力なエネルギー源であり、魔石数十個分の力を一滴で持つとされた。プニはその威力を認めつつも、好みの味ではないと素直に述べた。村長はタケルの力を「太古の秘術」と捉え、その能力を評価したが、タケル自身はあくまで「素材採取専門家」として自らを紹介した。
折れた槍と古代カルフェ語の文献
ドラゴニュート化によりクレイの持つ伝説の槍は破損してしまった。タケルは修復の可能性を探り、村長は古代カルフェ語で書かれた文献を提示する。タケルはその文字を読み取る能力を見せ、文献が槍と関連する地下墳墓に関するものであると判明した。
祖先の墓と新たな探索の兆し
クレイは槍の元の所有者である勇者ヘスタスが、地下墳墓に眠っていることを明かした。その地には亡霊が出るとされており、危険を伴う探索になることが予想された。しかしタケルは不安を抱えながらも、槍の再生を目指し、その墓地探索へと向かう決意を固めていった。
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