小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ

小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ

Table of Contents

物語の概要

ジャンル
異世界ダンジョン攻略ファンタジーである。吸血鬼の貴族に転生した主人公が、捨てられた境遇からダンジョンを支配するほどの力を得て冒険する、戦略と成長の物語第2巻。
内容紹介
かつて現代日本で平凡な会社員だった少女・メルセデスは、吸血鬼貴族として異世界へ転生した。側室の娘ゆえに冷遇される身であったが、ダンジョン探索者(シーカー)として生きる決意を固める。異形のモンスターを腕力で従え、信頼できる仲間は“魔物だけ”という冷徹な合理主義を武器にダンジョン攻略を進める中、王家の影武者救出などの陰謀に巻き込まれ、やがてダンジョン支配をめぐる争いに抗うこととなる。

主要キャラクター

  • メルセデス・グリューネヴァルト:本作の主人公である吸血鬼少女。前世の後悔を抱えつつ、「悔いなく生き、笑って逝きたい」と願いながら、冷静な合理主義と非情な戦略でダンジョン探索を進める強者。

物語の特徴

本作の魅力は、「吸血鬼令嬢による極端にクールな生存戦略」と「人間以上に魔物を信頼する異種間の絆」である。「他者を信じるべきではない。究極的には信じていいのは自分だけだ」という冷艶なテーマが貫かれており、従来の異世界ファンタジーと一線を画す深い心理描写とシニカルな世界観が光る。

書籍情報

欠けた月のメルセデス 2~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~
著者:炎頭 氏
イラスト:KeG  氏
発売日:2021年11月20日
ISBN:9784866993720

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059427 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

現代日本の会社員から転生後、「悔いなく生き、そして笑って逝きたい」と願う吸血鬼の少女メルセデスは学業に意気込む。ダンジョン攻略で金銭を稼ぐ探索者【シーカー】として財を築いた今も、前世の未練を満たすため模索中だ。しかし暗殺者から王家の影武者を助けたことで、ダンジョンを支配可能な王剣を巡る陰謀に巻き込まれて!? 一方、人ならざる者達が文明を築く世界には衝撃の真実があり――。
「他者など信じるべきではない。究極的には、信じていいのは自分だけだ」
同族からも恐れられ、冷徹な合理主義者であるメルセデスの味方は魔物だけ!?
人型怪物、黒狼、悪魔、そして新たなお供は巨大な鷲型モンスター!
月への誓いを胸に全力で駆け抜ける吸血鬼少女の攻略冒険譚第2巻!

欠けた月のメルセデス2~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~

感想

今作も、メルセデスの生き様が痛快で、あっという間に読み終えてしまった。
愛や情といったものが理解できない彼女が、利害関係で物事を判断していくさまは、ある意味清々しい。
今回は、そんな彼女が父親と手を組み、基礎を学び直すために学園へ通うことになる。
そこで案の定、王家の後継者争いや他国の謀略に巻き込まれてしまうのだが、彼女にとっては平穏な学生生活を送るための、ちょっとした障害物といったところだろうか。

それにしても、王家を乗っ取ろうと企む連中の愚かさには、目を見張るものがある。
ここまで間抜けな悪役も、そうそういないのではないだろうか。
彼らの浅はかな策略と、それを軽々と打ち破るメルセデスの姿を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。

今作で特に印象に残ったのは、ハンナの存在だ。彼女の的確なツッコミは、物語に良いアクセントを加えている。
シリアスな展開の中でも、彼女の存在によってどこかユーモラスな雰囲気が保たれており、読んでいて飽きることがない。

また、書き下ろしで語られたジークリンデの話や、メルセデスの二人の異母妹の話、特典のピーコの話も、それぞれ個性豊かで面白かった。
特にピーコの、どこか憎めないお調子者ぶりには、思わず笑ってしまった。

物語全体を通して感じたのは、人間性が欠けた怪物の後継者には、やはりどこか「欠けている」主人公が相応しいのではないか、ということだ。
メルセデスの兄は、エリート教育を受けた優秀な人物なのだろうが、怪物の後継者としては、完璧すぎるのかもしれない。
ただ美しいだけ、ただ優れているだけでは、何か物足りないのだ。

父親に認められないのは、確かに悲しいことかもしれない。
しかし、怪物に見込まれないこと自体は、ある意味幸せなことなのではないか、とも思う。
なぜなら、それは彼女がまだ、人間としての心を失っていない証拠だからだ。

メルセデスは、これからも様々な困難に立ち向かっていくのだろう。
しかし、彼女ならきっと、どんな状況でも自分の信じる道を突き進んでいくはずだ。
今後の彼女の活躍が、ますます楽しみになった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレブックライブで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059427 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

登場キャラクター

主要キャラクター

メルセデス・グリューネヴァルト

グリューネヴァルト家の娘であり、重力操作と血操術を併用する吸血鬼である。父ベルンハルトに従いながらも、将来は必ず対立することを自覚している。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家令嬢。シュタルクダンジョンの攻略者。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下コロシアムで二十名の吸血鬼を制圧。第五王子誘拐未遂を阻止。学園入試を首席で突破し、新入生代表を務めた。巨鷲アシュタールを捕獲し、誕生祭では偽王剣を粉砕した。狩猟祭では単独優勝を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学園で孤高の存在として周囲を圧倒し、派閥勧誘を寄せ付けなかった。妹二人に戦闘訓練を施し、後継育成にも関わり始めた。

ベルンハルト・グリューネヴァルト

グリューネヴァルト家当主であり、支配に慈悲は不要と考える冷徹な統治者である。
・所属組織、地位や役職
 オルクス王国公爵。鉄属性魔法の使い手。
・物語内での具体的な行動や成果
 誕生祭で王家を偽装と断じ、クーデターを主導した。野盗を捕らえてダンジョンに投入し、資源化した。孤児院を経営し、密偵を養成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 野盗被害を激減させ、名君と評価される一方で、実態は打算に基づいた支配者である。

フェリックス・グリューネヴァルト

グリューネヴァルト家の長男であり、幼少期に父から見放されながらも努力を続けてきた。妹メルセデスの登場で存在感を失った。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家長男。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下コロシアムで野盗三名を討伐。武芸祭で準優勝を果たした。派閥「鮮血」を結成したが、誕生日の騒動で失墜した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 メルセデスが家督辞退を表明したため、再び跡継ぎ候補として注目されている。

ハンナ・グリューネヴァルト

ベルンハルトの姉であり、学園では年齢を偽って生徒として潜伏していた。王家直属の隠密を統率し、真王剣を管理していた。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の長女。王家直属の隠密隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 誕生祭で真王剣を提示し、偽王家を失墜させた。学園では内通者摘発を実施し、ジークリンデの護衛を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 家族を見守りつつ、メルセデスの孤立化を懸念して助言を続けている。

ジークリンデ・アーベントロート

正統な王家の血を継ぐ王女であり、影武者として育てられた過去を持つ。自らの意思で民を救う行動を取り、王族としての自覚を深めた。
・所属組織、地位や役職
 オルクス王国王女。王剣の継承者。
・物語内での具体的な行動や成果
 山賊に支配された村を救い、王剣とドラゴンを用いて住民を守った。狩猟祭や武芸祭にも参加し、成果を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 名君の素質を見出され、周囲からの期待と支持を集め始めた。

ジークハルト(影武者王子)

学園で「第五王子」として行動していたが、実際は囮役である。血筋の真偽を巡って葛藤を抱えた。
・所属組織、地位や役職
 王家の影武者。エーデルロート学園生徒。
・物語内での具体的な行動や成果
 巨鷲アシュタールと戦闘し、メルセデスに救われた。学園内での秘密保持を依頼し、協力関係を築いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王家の正統性に関わる重要な存在と再評価された。

シュフ(ベーゼデーモン)

封石に封じられていた魔物であり、メルセデスに名を与えられ「シュフ」となった。料理の技術を有し、屋敷での生活を支えている。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家厨房の料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔物肉を用いた料理を多数作り、家族や妹たちに供した。ダンジョン探索でも解体処理で役立った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 名付けを受けて忠誠を誓い、家中に不可欠な役割を持つ存在となった。

アシュタール(ピーコ)

飛行能力を持つ巨大な猛禽であり、学園の捕獲実習でメルセデスに従属した。
・所属組織、地位や役職
 メルセデスに従う魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
 模擬戦で圧倒的な力を示し、対戦者を棄権に追い込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学園でメルセデスの象徴的戦力として注目を集めた。

クロ

メルセデスのダンジョンから随伴する魔物であり、実戦で妹たちを守る役目を担った。
・所属組織、地位や役職
 メルセデスに従う魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
 模倣体の襲撃で逃走する敵を仕留め、妹たちの安全を確保した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 屋敷やダンジョン探索の護衛として活躍を続けている。

ベンケイ

ダンジョンから召喚された魔物であり、戦闘や探索の先頭に立つ存在である。
・所属組織、地位や役職
 メルセデスに従う魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
 プラクティスダンジョンで罠を察知し、先行役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 信頼できる護衛として常に同行している。

メルダーハーゼ(ウサちゃん)

銃剣を扱う兎型の魔物であり、ハンナの従属下にある。
・所属組織、地位や役職
 ハンナの従う魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
 白装束の襲撃で銃撃を行い、敵の四肢を無力化した。葉巻を好む癖を持つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 銃器を所持した際の危険度はアシュタールを上回ると評価された。

家族・親族

リューディア

メルセデスの母であり、屋敷での生活を支える存在である。冷静な視点で助言を行い、娘たちの進路に柔軟な考えを示した。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の側室。
・物語内での具体的な行動や成果
 マルギットとモニカの戦闘訓練を希望した際、やれるだけやって結論を出すよう助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 フェリックス継承を支持する姿勢を示し、家督問題でメルセデスと立場を同じくした。

モニカ

メルセデスの妹であり、実戦に興味を持って訓練を志願した。狩猟経験を下地として戦闘に適応した。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 投石で連続命中を果たし、槍で模倣体ボリスを討ち取った。ダンジョン探索では姉と共にレッサードラゴン討伐に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 短期間で戦闘動作に慣れ、将来の学園入学に備えた自信を得た。

マルギット

メルセデスの妹であり、当初は不安を抱えながらも訓練に挑戦した。実戦を通じて自らの弱さを克服した。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 投石による攻撃に成功し、槍訓練でも敵を退けた。模倣体ボリスの攻撃を受け止め、血操術で押し返した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 従属を拒絶する意志を示し、姉の支援を得ながら実戦対応力を高めた。

ヴァルブルガ

フェリックスの母であり、息子を強く支持する立場を取った。メルセデスには敵意を抱いている。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の側室。
・物語内での具体的な行動や成果
 正餐の場でベルンハルトに対し、フェリックスを正式な跡継ぎとするよう迫った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 家督問題で家中を分裂させる要因となり、フェリックス派の中心に立った。

学園関係者

グスタフ・バルト

Aクラス担任であり、過去に獣人との戦争で功績を挙げた吸血鬼である。老練な立場から冷静に授業を導いている。
・所属組織、地位や役職
 エーデルロート学園教師。Aクラス担任。
・物語内での具体的な行動や成果
 算術や歴史の授業を行い、魔法の理を実演して解説した。捕獲実習や狩猟祭を監督し、実力を黙して記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帝国の動きを知りつつ静観し、自らを「使われる剣」と称した。

フレデリック

学園長であり、凡才の努力で地位を得た吸血鬼である。保身を第一に考える姿勢を持つ。
・所属組織、地位や役職
 エーデルロート学園学園長。
・物語内での具体的な行動や成果
 メルセデスに飛び級を打診したが断られた。帝国の庇護を受け入れる思考に傾き、王女を差し出す判断を正当化した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学園の安定を口実に属国化容認へ傾斜し、内通者としての危険が明らかになった。

学園派閥関係者

ハルトマン・ハルトマン

濃霧派の長であり、西方ネーベルバンクの次期統治者である。若年ながら権力を背負う立場にある。
・所属組織、地位や役職
 濃霧派の派閥長。侯爵家の後継。
・物語内での具体的な行動や成果
 メルセデスを派閥へ勧誘したが拒絶され、ハンナに諌められた。護衛二人と共に行動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王家直属の隠密とも関係を持ち、学園内で勢力を誇示した。

ゲッツ・ヘルダーリン

雷鳴派の幹部であり、上級生として派閥運営を主導している。表向きは温厚だが内心は苛烈である。
・所属組織、地位や役職
 雷鳴派幹部。六年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 メルセデスを派閥に誘ったが拒否され、部下の失態を暴力で制裁した。部下を野に捨て置く指示を出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外面と内面の落差を露呈し、信頼を損なう要因となった。

ジクストゥス・シェーンベルク

螺旋派の長であり、奇抜な兜と装束で学園内に知られる人物である。
・所属組織、地位や役職
 螺旋派の派閥長。侯爵家の長男。
・物語内での具体的な行動や成果
 食堂で派閥勧誘を繰り返したが拒絶された。武芸祭の上級生部門で優勝した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 留年を重ねつつも実力で地位を保ち、周囲からは異色の存在と目されている。

敵対勢力

白装束(ベアトリクス帝国隠密部隊)

ベアトリクス帝国に属する隠密部隊であり、王家の正統継承者抹殺を目的に活動した。
・所属組織、地位や役職
 ベアトリクス帝国隠密部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジークリンデの捕獲とベルンハルト失墜を狙ったが失敗した。封石による魔物流通にも関与した。学園内でも襲撃を試みたが撃退された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 複数が拘束され、計画は瓦解したが、幹部級は退避して組織は温存された。

王家関係者

イザーク国王

現王として振る舞っていたが、実際には偽りの王であった。
・所属組織、地位や役職
 オルクス王国国王。
・物語内での具体的な行動や成果
 誕生祭で王剣を披露させたが、偽物が砕かれ正体が露見した。妻を幽閉し、影武者を王女と偽った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王としての権威を失い、命乞いを繰り返して失墜した。後に拘束され処刑に至った。

バルドゥル第一王子

王家の後継として扱われたが、その存在は偽装に基づくものであった。
・所属組織、地位や役職
 オルクス王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 誕生祭で王剣を掲げたが応えはなく、偽りが暴かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王剣を扱えないことが明らかとなり、正統性を完全に失った。

偽王家の王子たち

突然公表された複数の王子であり、王権正統性を支えるために存在を作られた。
・所属組織、地位や役職
 オルクス王国の王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 誕生祭で王剣を試したが全員が失敗した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 偽装の証拠として記録され、貴族の信頼を失った。

グリューネヴァルト家周辺

ボリス・グリューネヴァルト

グリューネヴァルト家の子であり、過去に暴走事件を起こした。
・所属組織、地位や役職
 グリューネヴァルト家の庶子。
・物語内での具体的な行動や成果
 封石の魔物を暴走させ、メルセデスとフェリックスの運命に影響を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後に模倣体がダンジョンに現れ、妹たちの訓練で討伐対象となった。

その他

山賊頭

ミュルの村を支配し、住民を虐殺した首領である。
・所属組織、地位や役職
 山賊集団の首領。
・物語内での具体的な行動や成果
 村人を盾にして逃走を試みたが、ジークリンデに討ち取られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 その死によって村は救われ、ジークリンデの名声が高まった。

展開まとめ

第二十四話 グリューネヴァルト家での生活

穏やかな本邸生活と学習環境
メルセデスはグリューネヴァルト家での一年を穏やかに過ごし、ノルマを満たせばベルンハルトから口出しされなかった。勉学とトレーニングには主体的に取り組み、教師の指導下でフェリックスや側室の子ら(ゴットフリート、モニカ、マルギット)と共に学びを深めていた。

血操術の理とメルセデスの到達
吸血鬼が血流を制御して身体能力を高める技法は血操術と呼ばれた。心臓と全身の血の巡りを能動的に操ることで力を増す仕組みであり、メルセデスは重力修行を通じて自然とその技を鍛えていた。彼女の強さの秘密はここにあった。

世界観の限界と重力操作の独創性
この世界では天動説と地上平面説が支配的であり、引力や重力の発想に至る者はいなかった。教会は神の御業として説明を閉じ、土魔法の使い手も重力を活かすことを考えなかった。結果として重力操作はメルセデスだけの魔法となり、彼女をさらに強くした。

フェリックス周辺の余波と家中の思惑
フェリックスは騒動以降、表立った干渉を避けつつ複雑な思いを抱えていた。本妻は抗議を繰り返すも退けられ、ボリスは闇市で偶然入手したと主張したが、背後にグリューネヴァルト家を敵視する勢力の意図があると推測された。

ベーゼデーモンの証言と現在の役割
ベーゼデーモンは誕生直後に封石に収められ、敵を倒せという命令のみを覚えていたと語った。今は所有権がメルセデスに移り、新たな命令の危険はなくなった。彼は本邸の厨房で料理人として働き、その腕前は高く評価されていた。

地下コロシアムの実戦訓練
ベルンハルトは座学に加え、地下コロシアムで二十名の吸血鬼との実戦を課した。相手は元兵士の野盗で武装していたが、メルセデスは無手で臨み、最小の動作で回避と反撃を繰り返し、一分以内に制圧してみせた。

あえて受けた一撃と条件操作
メルセデスは敵に安堵を抱かせるため、頬に軽傷を受けることで条件に沿った。彼女は避け損ねたと父に報告し、ベルンハルトは満点を逃したと評したが、全体としては圧倒的な勝利と認めた。

ベルンハルトの冷酷な統治観
戦闘後、ベルンハルトは野盗たちを一挙に屠り、支配者に慈悲は不要だと諭した。娘の頭に手を置き、冷徹さこそが高みに至る道だと説き、上機嫌で立ち去った。

死体を前にした感情の不在と恐怖
メルセデスは安堵の表情を浮かべたまま死んだ野盗を見下ろし、彼らを魔物以下と感じていた。以前は魔物を屠った際に微かな嫌悪を覚えたが、今は憐憫も罪悪感も湧かず、その無感動さを恐れた。上手くいかないと呟き、血の海に背を向けて去っていった。

第二十五話 命名

魔物食と日常の光景
魔物を食べる文化は吸血鬼の都市に限らず世界全体で一般的であり、家畜よりも無尽蔵に湧く魔物を消費する方が合理的であった。精肉店にも当たり前のように並び、人々は日常的に魔物肉を買い求めた。その中で漆黒の悪魔ベーゼデーモンは常連となり、食材を抱えて帰宅した。

ベーゼデーモンの料理技術
屋敷に戻ったベーゼデーモンは調理に取りかかり、オーク肉やレッカーフーンの卵を用いてホッペルポッペルを完成させた。味付けには胡椒や自家製ブラッドソースを使用し、その手際は見事であった。メルセデスが由来を尋ねると、彼は魔物が同じ個体を複製する仕組みによって元となった存在の経験を継承しているのだと語った。

命名の儀と忠誠
メルセデスはベーゼデーモンに名を与える時が来たと告げ、彼を「シュフ」と呼ぶことに決めた。名の由来は主夫から取られ、素直で実直な命名であった。シュフはその名を受け入れ、感謝と共に改めて忠誠を誓った。

フェリックスの幼少期と努力
フェリックスは名門の血統を受け継ぎ、将来を嘱望されて生まれたが、十歳を境に父ベルンハルトから見放された。素質を見切られたと感じた彼は必死に学問と戦闘に励んだが、父は側室を設けて予備を用意していた。フェリックスは十五歳の誕生日に兄弟を打ち倒し、自らの優秀さを示すことで父の認めを得ようと決意した。

メルセデスとの邂逅と敗北
しかしその場で現れたのは腹違いの妹メルセデスであった。彼女はボリスの暴走で解き放たれた魔物を圧倒し、その力を示した。結果、フェリックスは噛ませ犬となり、ベルンハルトはメルセデスを本邸に迎え入れた。フェリックスは自ら父と娘を出会わせてしまったことを深く後悔した。

地下コロシアムでの現在
十五歳のフェリックスは地下コロシアムで三人の野盗を倒すことに成功した。しかし八分二十秒を要し、父からは既に期待を抱かれず無関心を示された。ベルンハルトはメルセデスが二十人を相手に五十五秒で制したと告げ、その勝利を誇らしげに語った。父の関心が完全に妹に向けられていることを知ったフェリックスは悔しさに駆られ、答えのない問いを胸に床を殴り続けた。

第二十六話 エーデルロート学園

入学への道中と心境
メルセデスは王都アーベントロートにあるエーデルロート学園への入学勧奨を受け、馬車で向かっていた。年齢要件は十一歳からで時期も新学期に合致し、彼女は即座に承諾した。同行するフェリックスは複雑な面持ちを見せ、メルセデスは自嘲を交えつつ学校生活への意外さを噛みしめていた。

ダンジョンの私室と退屈しのぎ
移動中、メルセデスはダンジョンキーで内部映像を展開し、最下層に設けた自宅や温泉、プール、訓練設備を確認した。魔物に本を運ばせてページを捲らせ、読書で時間を潰していたが、やがて遠方の口論を風魔法で拾い上げてしまった。

第五王子誘拐未遂への介入
聞こえたのは第五王子を狙う集団と護衛のやり取りであった。学園運営への影響を危惧したメルセデスは馬車を降り、樹上から現場へ急行した。豪奢な馬車を取り囲む白装束十名に対し、地面叩打で全員を跳ね上げ、空中連撃で九名を失神させ、最後の一人も蹴りで制した。礼を受ける前に離脱し、馬車へ戻って行程を再開した。

王都到着と学園の威容
二日の移動を経て王都に到着し、西区一帯を占める学園へ向かった。ゴシック様式の高層建築は夜間の灯火に照らされ荘厳さを放っていた。入学は試験制であり、彼女は免除なく受験する段取りであった。

筆記試験の経過
算術は容易で短時間で解き終え、歴史も蓄積した読書で対応可能であった。戦学では前世の知識と設問の定石が噛み合わない箇所がありつつ、要求解答に合わせて記述し、支障なく終えた。

実技試験の展開
格闘では教官を軽く小突いただけで失神させ、見誤った加減を省みた。武器術は槍で教官の武器を弾き、意識を飛ばさず勝利した。魔法は相対的に不得手ながら、的を風刃で細断して十分な成果を示した。

最終結果と新入生代表
総合成績は最優秀となり、第五王子と並んで壇上に立ち、新入生代表の挨拶を務めた。

第二十七話 始まる学園生活

Aクラス配属と担任の登場
メルセデスは新入生代表挨拶を終え、入学試験上位者二十名のAクラスに配属された。成績次第で移動もあると告げられ、教室では第五王子が注目を集めていた。そこへ担任のグスタフ・バルトが入室し、前期・後期ごとの筆記と実技試験、長期休暇の活用、夏の狩猟祭と冬の武芸祭の概要を示した。老練な風貌と気配から、彼が相当の実力者であるとメルセデスは直感した。

寮室到着と同室者ハンナ
学園では寮生活が義務づけられており、メルセデスは割り当てられた相部屋へ向かった。室内は清潔で簡素であり、浴室やトイレは共用であった。入室してきた水色の髪の少女はハンナ・バーガーと名乗り、二人は挨拶を交わして打ち解けた。メルセデスは自身の名家出身を明かしつつも、家督に興味がない姿勢を示した。

清潔観念の差と何気ない会話
ハンナはメルセデスの髪や肌の整いに感心し、メルセデスはダンジョン由来の温泉利用で日常的に清潔を保っている事情を踏まえて応じた。世間話を重ねるうちに、互いの口調は次第に砕けたものへと変わっていった。

英雄グスタフの評判
メルセデスが担任の知名度を尋ねると、ハンナはグスタフが八十年前の獣人との戦争で活躍した英雄であり、劇の題材にもなるほど著名だと説明した。誇張を含む逸話もある一方、戦時の功績は確かであり、学ぶ価値の大きい教師であるとメルセデスは判断した。

必修・選択科目と履修決定
学科は必修の算術・歴史・戦学・魔法に加え、選択の格闘・武器術・領地経営・行政・探索術・エルフェ語から三つを選ぶ仕組みであった。武器術か格闘のいずれかは必修同然とされ、メルセデスは領地継承の意志がないことから領地経営と行政を外し、格闘・武器術・エルフェ語を選択した。

幕開け
こうしてメルセデスは新たな仲間と教師に囲まれ、学園での生活を始動させた。

第二十八話 学業

授業の難易度と学びの取捨選択
メルセデスにとって学園の授業は概して負担が小さく、算術だけは水準の低さゆえに退屈であった。十進法で九九も未整備という環境では得るものが乏しく、一方で歴史や魔法は今後の行動判断に資する知見が多いと評価していた。

歴史講義と世界の起源
グスタフは二万年前に神々がエデンから来訪し世界を作り替えたと教えた。メルセデスはダンジョンで得た断片から、神々が人間でありエデンが地球に近い可能性を推測したが、レッド・プラネットの正体については結論を保留した。神々の争いと“神の火”による滅亡譚を聞き、過剰な武力が自滅へ直結するという教訓を胸に刻んだ。

戦学の実益と限界
戦学は中世的水準であるが、吸血鬼の身体能力や魔法を前提にした陣形や対処が提示される点で独自性があった。空を飛ぶ敵に対する包囲の無効化など、相手種族の特性を織り込む必要性を認識し、定石の機械適用を戒めた。

実技演習と一撃必殺
実技では子供サイズの狼男を相手に、メルセデスが『猛牛』の構えからの片手平突きで頸部を貫き即時に沈めた。速度と膂力の差が歴然で、グスタフは黙して評価を記録した。続くジークハルトも一撃で仕留め、二人だけが瞬殺を達成した点で周囲に鮮明な対比を生んだ。

エルフェ語という新規領域
選択科目のエルフェ語は前世の知識が通用せず、オルクス語とも体系が異なるため容易ではなかった。それでも汎用性の高さを見込み、基礎から学ぶ手応えを楽しんだ。未知が既知へ変わる充足が勉学継続の動機となった。

一か月後の手応え
入学から一月が過ぎ、メルセデスは学ぶ量と質のバランスに満足し始めた。退屈な科目は切り捨て、価値ある領域を深掘りするという方針が確立し、学園生活は悪くないと実感していた。

第二十九話 捕獲実習

王子を巡る人間関係と孤独
学年の中心はジークハルト・アーベントロートであり、容姿や才覚を目当てに同級生が群がっていた。将来的な利得を求める思惑が交錯し、笑顔の下で牽制が続いた結果、彼の周囲は常に賑やかでありながら当人は孤独であった。

平原での実地と捕獲の意義
戦学は学園近郊の平原で行われ、グスタフが魔物を従える利点を実例と共に説いた。戦闘のみならず運送や偵察、消防など多用途であると示され、他者から譲られた個体は主の強さを測って反抗しやすい事情が説明された。そこで一月後の模擬戦を見据え、各自が捕獲に挑む課題が課された。

魔石の支給と状況判断
魔物鎮圧用の魔法を込めた魔石が支給され、平原の個体には十分に有効と告げられた。メルセデスは機構を推し量りつつ、今回は戦力より移動利便性を優先し、飛行可能な魔物の確保を目標に据えた。

探索と選別
平原を周回したメルセデスは巨大な蛇や騎乗可能な猫型などに遭遇したが目的外として退けた。途中、ハンナが葉巻をくわえた兎に翻弄される場面を目撃し、安否を確認した上で彼女の再挑戦を見送った。さらにカンガルー型の個体とも遭遇したが、飛行条件に合致しないため選外とした。

取り巻きの潰走と強敵の兆候
その後、ジークハルトの取り巻きが何かから退避しつつ現れ、彼を残して教師への報告に走る事情が伝わった。囮となったジークハルトの判断を聞いたメルセデスは、逃走の規模から平原の想定外の強個体が紛れ込んだと推察した。

目標の確定と決意
遠見で状況を確認したメルセデスは、人を載せて飛べるほどの巨体を持つ猛禽を視認した。平原の常在種を超える脅威であり他の生徒にとっては不運であったが、飛行個体を求める彼女にとっては好機であった。メルセデスは捕獲対象をその猛禽に定め、速やかに行動へ移る決意を固めた。

第三十話 王子の正体

巨鷲アシュタールとの交戦
メルセデスが平原に到着すると、ジークハルトと巨大な鷲アシュタールが拮抗した戦いを展開していた。ジークハルトの剣術は正道を極めた洗練であり、膂力と速度も年齢を超えていたが、相手は生徒の域を逸した強敵であった。

優先権の確認と介入
メルセデスは授業の捕獲実習に配慮し、ジークハルトへ捕獲意思を確認した。彼が辞退したため言質を得て介入を決定した。アシュタールは察知して上空へ退避し、刺客が差し向けた個体であるとジークハルトは告げた。

重圧と魔石による制圧・拘束
メルセデスは情報端末ツヴェルフでアシュタールの脅威度と属性を確認し、局所重圧『ドルック』で墜落させた。学園支給の剣は爪の鉄硬化に耐えられず折損したが、魔石の鉄鎖で拘束に成功した。以後は敵意の希薄化を狙い、手餌で段階的に信頼形成を開始した。

ジークハルトの秘密の露見
戦闘の最中に露わになった胸元から、メルセデスはジークハルトが本物の王子ではないと看破した。本人は慌てて身支度を整え、口外無用を懇願したが、メルセデスは噂を広める意図はないと明言した。

囮作戦と渦巻く思惑
一連の不自然な護衛体制と豪奢な移動、刺客出現の経緯から、彼女は王家が敵対勢力を炙り出すために影武者を囮として学園に投入したと推察した。学内には対処要員も潜んでいると見立て、既に自分が二度関与した事実から標的化の可能性を自覚した。メルセデスはアシュタールの体毛を撫でながら、厄介な局面の到来を静かに受け止めた。

第三十一話 王家が継ぐ物

手紙と目的の明確化
メルセデスは学園騒擾の芽を早期に断つため、ジークハルト周辺の不穏を整理して父ベルンハルトへ報告する手紙を書いた。学内に敵が潜む可能性を踏まえ、教員や生徒への打ち明けは避け、外部の情報源に当たる方針を定めた。

配達と塩対応の返書
配達役に選んだテガッツェが任務を果たし、届いた返書は直接来いの一文のみであった。メルセデスは授業の合間を縫って帰邸し、面談に臨んだ。なおアシュタールは空腹ゆえに近くの標的へ突っ込んだだけと判明し、刺客の意図と無関係であった。

父子の密談と噂の骨子
防音の術が施された私室で、ベルンハルトは今の王家が偽物だという噂を提示した。先王に男児がなく婿入りが起点となり、妃の急逝公表と新妃の迎え入れを挟んで、存在しなかったはずの五人の兄が突如公表された経緯を示した。さらに第一王女ジークリンデの容貌が祝祭で別人のように変貌していた点を疑義として挙げた。

乗っ取りの推論と影武者の位置づけ
メルセデスは妃の死が偽装であり、婿となった男と新妃が共謀して王家を乗っ取ったと推論した。五人の兄は事前に生まれていた私生児であり、真のジークリンデには別名を与えて影武者として扱った可能性を示した。学園で見た自然な銀髪の「ジークハルト」は、その血統の連なりに属する本物の王家の子である公算が高いと捉え直した。

行動指針と目的の再定義
ベルンハルトは王家への恩義づくりと国家戦力の維持を両立させるため、影武者の周辺警護と襲撃者の生け捕りを命じた。王家の血脈が絶えればオルクスの戦力が痩せるという父の言葉に対し、メルセデスは個人武勇の範囲での評価に留まるのではと疑義を挟んだ。

王権の源泉としてのダンジョン
ここでベルンハルトは王権の実体を開示した。ダンジョンを真に攻略した者は、そのダンジョンを所有物として具現化でき、魔物と道具を量産することで一個人が一国に匹敵する兵站と戦力を持つと語った。初代アーベントロート王はそれを王剣の形で保有し、揺るがぬ権威を築いた歴史を示した。ダンジョンは達成者の血に限定して継承され、機能は制限されるが王家の力の核として受け継がれてきたと結論づけた。

閉所戦と個の突出がもたらす帰結
ベルンハルトはダンジョンの構造が集団戦術と物量を無効化し、突出した個の力と少数精鋭にのみ門戸を開く点を強調した。ゆえに攻略後は所有権を巡る内紛が常であり、都市経済を支える既存ダンジョンにはむしろ手を出さない方が得策という現実も語られた。

理解と覚悟の更新
メルセデスは自らが手にする鍵の意味を改めて理解し、王家に連なる血の継承とダンジョン所有の論理が重なる構図を把握した。以後は影武者の周辺を密かに監視し、襲撃者の確保と情報抽出を通じて王家乗っ取りの真相に迫る決意を固めた。

第三十二話 マスターの特権

継承と抑止の構図
メルセデスはベルンハルトから、ダンジョンは攻略者本人のみならずその血を継ぐ者にも限定的に使用が許され、これこそがアーベントロートの正統性と最大戦力の根拠であると教えられた。遥か昔に「最初の八人」が各種族から現れてダンジョンを得、八つの大国が相互牽制の均衡を築いたという枠組みが語られ、核抑止に似た力学として理解された。王家は本音では新規攻略を望みながらも、新たな攻略者=新たな王の出現が自権力を脅かすため、真実を秘匿せざるを得ない状況にあった。

王家継承機能の限界
継承者は魔物や道具の量産と使役が可能だが、あらかじめ登録された範囲に限られるという制約が示された。文献上、真の攻略者だけが新規の魔物登録によって生産種を拡張できるとされ、メルセデスは自分自身が未把握の機能を精査する必要を感じた。ベルンハルトは王家の血を絶やすべきでないと念押しし、影武者を狙う者の生け捕りと情報抽出を命じた。

ダンジョン会議と確認作業
学園へ戻る前にメルセデスは鍵の自動隠匿機能を作動させてダンジョン内へ入り、ベンケイ、クロ、迷走気味のシュフ、捕獲したアシュタールを集め、ツヴェルフに機能差を問い質した。血縁者でも運搬・解凍・圧縮や既存登録の量産は可能だが、新規登録と設計変更は攻略者専権であると確認した。

攻略者専用の拡張権限
ツヴェルフは、攻略者本人のみが新規の魔物登録を行えると明言し、メルセデスはシュフとアシュタールを登録して増産可能なリストに加えた。ベンケイの再登録と量産も理論上可能だが、将来世代の扱いを考慮して保留とした。さらに、鍵の形状変更やダンジョンの増改築は本人のみが行使でき、ダンジョンそのものの知性であるツヴェルフが会話・協働する権利も攻略者に限られると判明した。守護者の召喚と使役も特権に含まれるが、破壊時には二十四時間の機能停止という重大リスクが付随した。

資源と運用設計
ツヴェルフが可視化したダンジョンポイントは六百で、魔物の生産や武具・魔石・封印石といった道具生成、ならびに一マス単位での空間拡張や民家規模の建築に充当できると示された。メルセデスは即時の大量生産は避け、戦力増強と将来の対ダンジョン所有者戦を見据えた配分設計を検討した。餌は不要だが与えるほど忠誠が上がるという性質も把握し、資源運用の優先順位を再考した。

第三十三話 世界を構成するもの

二十四階層の再設計とポイント運用
メルセデスは消費100Pの方針で着手。二十四階層を更地化して回復の泉を移設し、街で買った全種のトレーニング器具を登録・量産して巨大ジムへ改装。さらにゴブリン二十体+ゴブリンゲネラール一体を投入し、下級戦力の底上げと将来的な“強化版の再登録”を狙った。一方で年間600Pという蓄積量の少なさに疑問を抱く。

ポイント収支の真相と“分解”
疑念からツヴェルフに確認し、ダンジョンは内部で死んだ生物・物質をナノマシンへ分解してマナ(ポイント)化していると判明。遺体や骨が残らない清潔さの理由が明らかになり、開放運用の方が資源回収効率が高いという“嫌な合理性”を理解する。

生物観の揺らぎと情報規制
「自分たちは本当に生物なのか」という問いに対し、ツヴェルフは“発言規制コード”で説明を遮断。一本のダンジョンでは権限が足りず、世界の根幹は「すべてのダンジョン制覇」で段階開示されると示唆される。メルセデスは悔しさと同時に、生の目的の輪郭を見出す。

学園実習:準ダンジョンへ
グスタフは学園近郊の洞窟に魔物を封じて作った“準ダンジョン”での四人一組実習を告げる。メルセデスはハンナに腕をつかまれ、さらにドード、ジークハルト(影武者)を巻き込んでパーティ結成。

各人の自己紹介と違和感
ドードは風属性・中距離、ジークハルトは剣で近遠距離対応、ハンナは軽い魔法、メルセデスは近接得意と明かす。進行中、ハンナの足さばきだけが罠踏破前提の“職人技”で、床を触れる瞬間に反発を確かめる異様な慎重さを見せる。無邪気な笑顔の裏、メルセデスと目が合った刹那に能面のような無表情を覗かせ、正体への新たな疑問を残した。

第三十四話 白装束の目的

準ダンジョンでの実習
学園の授業で準ダンジョンに挑んだメルセデス、ジークハルト、ハンナ、ドードは、整備された洞窟を進みながら魔物と遭遇した。最初に現れたゲコグロースは無害であり、戦闘を避けて通過した。次に出現したゴブリンニート四体に対しては、ドードが鞭で一体を仕留め、ハンナが水魔法で一体を倒し、ジークハルトが剣で一体の首を刎ね、最後の一体はメルセデスが素手で撃破した。危険もなく実習は順調に終わった。

白装束の襲撃
翌朝、学園内を散策していたメルセデスは四人の白装束に囲まれた。短刀を手にした彼らに対し、メルセデスはマスターキーをハルバードに変えて応戦し、瞬時に三人を斬り捨てた。残る一人を捕らえ、情報を引き出すためにツヴェルフに助言を求め、ゴブリンヘクサーを召喚して催眠を施した。

判明した陰謀
尋問の結果、白装束の正体はベアトリクス帝国の隠密部隊であった。彼らの目的はアーベントロート唯一の正統後継者ジークリンデ王女の抹殺であり、王剣を使える者を絶やすことで帝国の優位を確立しようとするものであった。情報源は新王派であり、現王がジークリンデ排除を企図して他国に情報を売ったと明かされた。

襲撃後の余韻と不穏な影
証言を終えた白装束は自害し、ゴブリンヘクサーは踊りながら死を弔った。メルセデスが死体を処理した直後、木の上から誰かが姿を消すのを目撃した。それは間違いなくハンナであり、彼女が一部始終を見ていたことを察したメルセデスは、今後の動向に警戒を強めた。

第三十五話 白か黒か

密談の場
授業後、メルセデスはジークハルトを呼び出し、人気のない教室で密談を行った。寮ではハンナの存在が不審であるため安全ではなく、外部に情報を漏らす可能性を避けるためであった。

真実の告知
メルセデスは先日の襲撃者から得た情報を明かした。ジークハルトを狙うのはベアトリクス帝国の隠密部隊であり、その背後で現王自身が情報を売っていること。そして、ジークハルトこそが正統な王家の血を引く存在であることを告げた。ジークハルトは動揺し、自分は孤児で王子の影として育てられたと信じていたと語るが、メルセデスの言葉に徐々に現実を受け入れ始めた。

決断の時
王族の証は王剣であると告げられ、ジークハルトは苦悩するも決意を固めた。メルセデスは「進むか止まるかはお前次第だ。だが進むならば私が守る」と宣言し、利害の一致ゆえに危険を引き受けると断言した。その言葉にジークハルトは赤面しつつも覚悟を定めた。

学園内の影
メルセデスは、学園内に監視者が存在するはずだと指摘する。アシュタールが絶妙なタイミングで現れたことから、Aクラスの内部に内通者がいると推測した。ジークハルトも、自身が囮として学園に潜入した際、共に配置されたもう一人の存在を明かす。それは敵を捕える役目を持つ者だったが、もし王家そのものが敵であるなら、その者も敵に他ならない。

疑惑の名
ジークハルトが口にした名は「ハンナ」であった。彼女はメルセデスと同室の少女であり、すでに最も疑わしいと目されていた存在であった。

第三十六話 第一王子の誕生祭

王家の現状とベルンハルトの思惑
オルクス王国では陽の日が休養日とされ、学園も休みとなった。その機会を利用し、メルセデスはジークハルトを伴ってグリューネヴァルト邸へ帰還した。ベルンハルトはジークハルトが正当な王家の血筋であることを確認し、現王家が偽りの存在であると判断した。彼は第一王子バルドゥルの誕生祭を利用し、王家の正当性を揺るがす策を企図した。

誕生祭の開始
数日後、盛大な誕生祭が催され、メルセデスとジークハルトも出席した。華やかな場の中で、ジークハルトはドレス姿を披露し、メルセデスは場の空気から外れ壁際に立っていた。やがて現れたバルドゥル第一王子は不自然な銀髪と肥えた体躯を持ち、腰には豪奢な赤い剣を帯びていた。ジークハルトはそれを王剣と見たが、ツヴェルフはマスターキーではないと断言した。

王剣披露の要求
演説の後、貴族の一人が王剣の使用を求め、他の貴族も同調した。国王は応じ、バルドゥルに剣を抜かせた。しかしメルセデスは重力魔法でその剣を圧し砕き、王剣が偽物であることを示した。貴族達は動揺し、王家への疑念を募らせた。

ベルンハルトの告発
好機を逃さず、ベルンハルトは王家を偽物と断じ、王剣の不自然さを糾弾した。さらに私兵を会場に投入し、国王を大罪人として告発した。こうして王家の正統性を揺るがす大事件は、クーデターの様相を呈し始めた。

第三十七話 命乞い

戦いの勃発
第一王子の誕生祭は混乱に包まれた。ベルンハルトの告発を契機に、王側とベルンハルト側の貴族が対立し、戦闘が始まった。数の差に加え、メルセデスとベルンハルトの圧倒的な力が戦況を決定づけた。兵士達は精鋭であり、かつてのAランクシーカーを隊長に擁していたが、全く歯が立たなかった。

父娘の力量と相互の警戒
メルセデスはハルバードを振るい、兵士を紙のように吹き飛ばし、ベルンハルトは鉄属性の魔法を操り精密に敵を貫いた。二人は共闘しつつも互いを観察し、いつか必ず敵対する未来を確信していた。父は娘がいずれ牙を剥くと信じ、娘は父の強大さを認めつつ警戒を深めた。

ジークリンデの立場と国王の動揺
ジークリンデは一時呆然としていたが、自ら動こうとしたところを制止され、事態の中心に立つ自覚を促された。一方で国王イザークは恐怖に駆られ、情けなく腰を抜かしていた。彼は王位を得るために妻を幽閉し、ジークリンデを影武者と偽り、ベアトリクス帝国の助力で偽の王剣を用いていたことが明かされた。

ベルンハルトの矜持と王の失態
ベルンハルトは王に立ち上がり戦えと促し、メルセデスも意地を示せと突きつけた。しかし王の口から出たのは情けない命乞いであり、妻や子を差し出すとまで言った。その言葉は二人を深く失望させ、同時に侮蔑を抱かせた。

命乞いの結末
王の姿はもはや小物以下であり、存在そのものが国にとって害であった。ベルンハルトは槍を構え、メルセデスも武器を握った。二人は「もういい、死ね」と吐き捨て、同時に武器を振り下ろした。

第三十八話 ハンナの正体

真紅の剣と正体の発覚
メルセデスとベルンハルトの攻撃は、一振りの真紅の剣に受け止められた。その剣は先に砕けた偽の王剣と同じ意匠であり、持ち主は学園で共に過ごしてきたハンナ・バーガーであった。メルセデスは驚きつつも彼女を弾き飛ばしたが、ベルンハルトが制止に入った。

ベルンハルトの姉という事実
ベルンハルトはハンナを「姉」と呼び、彼女の本名がハンナ・グリューネヴァルトであることを明かした。つまりメルセデスにとっては伯母にあたる存在であり、実年齢は百歳を超えて子も持つ吸血鬼であった。メルセデスは学園での同年代の友人が年齢詐称していた事実に衝撃を受けた。

王剣すり替えの暴露
ハンナは国王一家の前に進み、真の王剣を差し出した。国王や王子達は必死に剣を握ったが応えはなく、王剣を扱えない事実が貴族達の前で明らかになった。全員が失敗した後、ハンナは剣を取り上げ嘲笑した。

学園への残留理由
その後もハンナは学園に留まり、内通者探索と王女護衛の指揮を理由に潜伏していた。生徒の姿で近くにいる方が都合が良いと語り、軽い調子でメルセデスをからかった。メルセデスは冷淡に応じ、ハンナは涙を見せた。

フェリックスを巡る話題
ベルンハルトは跡目をメルセデスに継がせる意向を示し、長男フェリックスは軽んじられていた。ハンナは彼を不憫に思い、手柄を挙げれば認められる可能性があると語った。メルセデスも自らが押し付けられるのを避けるため、フェリックスの評価向上を考える必要があると認識した。

模擬戦の開始とピーコの脅威
狩猟祭に先立ち、捕獲した魔物による模擬戦が行われた。メルセデスの魔物アシュタール、通称ピーコは凶悪な存在であり、他の生徒の魔物は到底太刀打ち出来なかった。最初の対戦相手トムは棄権し、続くハンナも兎の魔物を連れて出たが即座に退却した。その後も対戦者全員が棄権し、メルセデスは戦うことなく一位となった。ピーコが御馳走を前に取り上げられたかのような悲しげな目をしていたのが印象的であった。

第四十三話 派閥争い

狩猟祭の性質と学園の緊張
夏の中旬、エーデルロート学園は狩猟祭を前に緊張に包まれていた。狩猟祭は有力者が将来性のある生徒に目を付けて勧誘する場であり、生徒にとっては進路獲得の機会であった。ゆえに学内では生徒同士の競争が激化していた。

得点方式と暗黙のチームプレイ
狩猟祭は時間内に討伐した魔物の部位提出で得点が加算される方式であり、リアルタイム加点ではなかった。この仕組みを利用し、複数人での討伐を特定の一人の手柄に集約する暗黙のチームプレイが横行していた。教師は黙認し、上級生は下級生の取り込みを競い、下級生は将来性のある上級生に売り込む形が定着していた。

四大派閥の構図
勢力集中の帰結として四大派閥が形成され、「濃霧」「螺旋」「雷鳴」「鮮血」が並立していた。「鮮血」派の中心はフェリックスであったが、誕生日の不祥事で信頼を失い離反が進んでいると見做されていた。

雷鳴派の勧誘とメルセデスの拒絶
授業後、メルセデスは六年生ゲッツ・ヘルダーリンに呼び止められ、「雷鳴」派への参加を持ちかけられた。彼は将来の派閥運営を教えると誘ったが、メルセデスは派閥に属する意志がなく丁重に断った。同行していた一人が威圧的に進路を塞いだが、ゲッツが制して謝罪し、メルセデスはその場を離れた。

ゲッツの本性と内部制裁
メルセデスが去った後、ゲッツは態度を一変させ、失点を招いた部下を暴行し「好感度マイナス」と吐き捨てた。将来の便宜のために有望株へ媚を売るべきだと説き、派閥内の失策を激しく糾弾した。部下の始末を平原に捨て置く形で偽装する指示まで下した。

メルセデスの所感と方針
隠れて一部始終を聞いていたメルセデスは、ゲッツを小物と評し関わる価値なしと断じた。他者の取り入り合戦に嫌悪を示し、今後は不必要な勧誘が寄らぬ策を講じる必要を認識しつつ、寮へと戻った。

第四十四話 魔法の仕組み

螺旋派の奇抜な勧誘
狩猟祭を前に、メルセデスへ『螺旋』派が食堂で接触してきた。先頭のジクストゥス・シェーンベルクは馬で乗り入れ、茶色の螺旋兜と真紅のマントという珍妙な装いで自らの派閥参加を命じる形で勧誘したが、メルセデスは即答で断った。ジクストゥスは留年二回の二十歳で侯爵家長男と明かし、同じ勧誘を繰り返したが、メルセデスは一貫して拒絶した。

拒絶後の騒動と評価
ジクストゥスは落ち込み、取り巻きが兜を巡って漫才めいた応酬を見せた。メルセデスは関与を避けて食事を終え、螺旋派のダサいユニフォームや兜を理由に今後も関わらぬと心に決めて食堂を後にした。

魔法実技移行の予告
授業でグスタフは座学から実践に移ると告げ、最後に小テストを実施し七十点未満は補習とした。生徒達は緊張したが、彼は要点を復習する形で講義を進めた。

魔法と魔力の定義
魔法は大気中のマナに働きかけて事象を起こす力であり、マナへ与える影響力の大きさを魔力と呼ぶと説明された。魔法使用後に体重が僅かに減る研究例から身体内の何かを消費していると示され、過剰使用は命に関わるが通常の範囲では健康や寿命に影響しないとされた。

イメージの重要性と既存魔法
魔法はイメージを現実にする力であり、想像力が核心であった。既存魔法は誰もが同じ完成像を思い描きやすく、完成度を高める助けになるとされた。グスタフは火属性初級魔法フランメを例示して指先に炎を灯し、固定観念が時に力になると説明した。

メルセデスの優位性の自覚
メルセデスは、自身が容易にオリジナル魔法を創出できた理由を、前世で見た創作物により完成されたイメージを多く持っている点に見出した。大規模作の記憶は限られるが、映像や物語が与える明確な像が魔法構築に有利であると理解し、本授業は有意義であったと結論づけた。

第四十五話 勧誘

濃霧派からの呼び出し
狩猟祭を前にメルセデスへの勧誘は続き、『濃霧』派が休憩時間に空き教室へ呼び出した。青いコートとサングラスの護衛二人に挟まれ、桜色の髪の少年ハルトマン・ハルトマンが名乗りを上げ、自身が『濃霧』派の長で西方ネーベルバンクの次期統治者であると示した。

即断の拒絶と強要の気配
ハルトマンは派閥加入を命ずる口調で迫ったが、メルセデスは即座に断った。なおも護衛二人が前に出て圧力をかけ、衝突寸前の空気が生まれた。

ハンナの乱入と“家庭教師”の正体
突如ハンナがウサちゃんを伴い銃剣を構えて乱入し、相手を制止した。ハルトマンは彼女を自身の“家庭教師”と認め、王家直属の隠密隊長および裏幹部の家系との関係が明らかになった。護衛二人はハンナを「ママ」と呼び、実子であることが示された。ハンナは権力を用いた脅迫を戒め、再教育を宣言した。

謝罪の訪問
後刻、頭に大きなこぶを作った三人がメルセデスのもとを訪れ、謝罪と今後の不干渉を誓った。

フェリックス派の形成と失墜
フェリックスは十三歳で派閥を結成し、弱者の連携による得点集約で勢力を拡大、四年次には準優勝まで至った。しかし誕生日の騒動で貴族社会の信頼を失い、離反が続いて派閥規模は半減した。残留者の多くは将来の便宜を狙う打算的な者となり、現状フェリックスは孤立していた。

白装束の接触と封石の提案
寮への廊下で白装束の男がフェリックスに接触し、封石に封じたベーゼデーモン級の魔物を提供すると持ちかけた。男は先のボリスに渡した封石も自分達の手によると認めた。

策の読み解きと目的の露見
フェリックスは、妹への嫉妬を動機とする“暴走”を演出して自身とベルンハルトの権威を貶める目論見だと洞察した。白装束はそれをほぼ肯定し、操心系の禁呪による強制も示唆される状況であった。

ベルンハルト観の差と危機の到来
フェリックスは、ベルンハルトなら既に手を打っていると断じた。直後に白装束は悪寒を覚え回避行動を取るも、背後から迫ったハンナの短刀がかすめた。

制圧作戦の展開
窓ガラスが砕け、メルセデスが音速で突入して白装束を蹴り飛ばした。続いてウサちゃんがマスケットで両脚を撃ち抜き、さらに腕も撃って四肢を無力化した。

ウサちゃんの特性と締め
ツヴェルフはウサちゃんを現地識別名メルダーハーゼと説明し、武器所持で危険度が大きく変動し、銃所持時はアシュタールを上回る危険性を持つと述べた。戦闘後、ウサちゃんは葉巻に火を求めたが、ハンナは喫煙は外でするよう釘を刺した。

第四十六話 一件落着?

夜の協議と捕縛状況
フェリックス襲撃の翌夜、メルセデスの部屋にメルセデス、ジークリンデ、ハンナ、フェリックスが集まり、事後の整理を行った。白装束の一人は無力化後にハンナの部下へ引き渡され、尋問済みであった。周囲を張っていた他の白装束も数名を確保したが、主力は撤退しており、学園内に敵勢は残っていないと判断された。

敵作戦の目的と崩壊の確認
尋問で得られた情報は既知の域を出ず、当初の計画がジークリンデの捕獲とベルンハルトの影響力低下の同時実行であったこと、王剣の権威を利用してイザークを失脚させ、ベアトリクス帝国が恩を売る筋書きであったことが再確認された。だがジークリンデの確保に失敗した時点で作戦は瓦解しており、今回捕らえた小隊長格は幹部退避の囮として切り捨てられたと結論づけられた。

機先を制した影響と取り逃し
イザークの正体暴露と拘束が迅速に進んだ結果、敵は動く前に出先を潰され、撤退を余儀なくされた。これにより幹部級の捕縛機会は失われ、ハンナは成果と取り逃しの両面を認めた。

内通者の処理と残る違和感
襲撃タイミングを通報していたAクラス内の内通者は、ジークリンデの取り巻きの一人であることが判明し、ハンナの手で転校処理が施された。ただし発覚があまりに容易で、撒き餌に食いついた可能性が拭えないとして、ハンナは警戒継続の必要を感じていた。

フェリックスの動揺と線引き
全容を初めて知らされたフェリックスは動揺したが、ハンナは子供を巻き込むべきでないと明言し、メルセデスは参考外とされた。学園内の敵排除により、王族への貸しを得つつ当面は学業と基盤強化に専念する方針が共有された。

今後の方針と目標の再確認
メルセデスは卒業までの七年間で力量を最大化し、ダンジョン探索と制覇、さらにはベルンハルトに勝つための基盤作りを優先すると整理した。グリューネヴァルト家の情報網と王族の支援を将来の探索に活用する意図が示された。

血縁疑惑の提起と暫定対応
フェリックスは白装束に示唆された血縁疑惑をハンナへ確認し、髪色の相違から生じた不安を吐露した。ハンナはヴァルブルガの人柄から不貞は考えにくいとしつつ、隔世遺伝の可能性を挙げて当座の不安を和らげた。

締め括りの不穏な一言
会議散会後、ハンナはメルセデスにのみ、ヴァルブルガの家系に金髪の者が一人も確認できない事実を漏らし、事態が完全な終息ではない可能性を示唆して場を締めくくった。

第四十七話 動かなかった男

狩猟祭開幕と準備
狩猟祭当日、生徒達は大ホールで学園長の挨拶を受け、グスタフがルールを説明して開始の合図を放った。参加者の多くは派閥所属であり、メルセデスとジークリンデは個人参加に近い形で臨んだ。

教員室での対話
開始後、教員室でハンナとグスタフが対面した。グスタフは帝国から事前に接触を受け、計画の全容を知りつつも介入しなかったと明かした。

介入しなかった理由
グスタフは帝国による実質的な統一が市民生活の安定に資する可能性を挙げ、自身を「使われる剣」に過ぎないと位置づけて独断で動かない姿勢を示した。暗殺であれば排除したが、捕獲が目的であったため静観したと述べた。

世界情勢と危機感
獣人や鳥人、エルフの統一の進展に対し、吸血鬼のみが遅れている現状を指摘し、次の大戦では吸血鬼が劣勢になるとの見立てを示した。

自己評価と過去
グスタフは自らを無能と断じ、独断の働きが被害を拡大させると述懐した。英雄視を否定し、思考よりも指示に従う道具であるべきとする立場を貫いた。

内通者の不在宣言
別れ際にグスタフは「自分のクラスに内通者はいない」とだけ告げて去り、教員室に残されたハンナは彼の選択と職務への内心を思い測った。

第四十八話 孤高か孤立か

狩猟祭の終焉と単独優勝
ハンナが戻った時、狩猟祭は形式上の制限時間を残しつつも実質的に終わっていた。平原の魔物はメルセデスにより殲滅され、討伐部位を詰め込んだ袋を教師に渡すと、彼女は静かに控室へ向かった。生徒達は道を開け、客席のベルンハルトだけが満足げに頷いていた。

派閥争いへの回答としての圧勝
メルセデスは雷鳴や螺旋、鮮血、濃霧といった派閥抗争そのものを雑音と見なし、差を見せつけることで勧誘と妨害を封じる方策を選んだ。出すぎた杭は打てないという理屈で、圧倒的な成果をもって派閥ごっこの終焉を告げたのである。

ハンナの懸念と孤立の兆候
ハンナはこのやり方の効果を認めつつも、周囲に残るのが信奉者だけとなり、対等な友やライバルを失う危険を見て不安を覚えた。必要な者まで遠ざける負の循環に陥れば、メルセデスは満ちることのない欠けた月のままだと感じた。

観衆の退避と無関心の境地
生徒達は嫉妬を超えて無関心へと移行し、巨木のごとき差異に目を逸らした。メルセデスは有象無象を等しく無価値と判断し、踏み荒らす意図なく踏み越えていった。

ジークリンデの接近と価値観の対話
誰も近づかぬ中でジークリンデだけが歩み寄り、優勝を称えた。メルセデスは喜色を示さなかったが、ジークリンデは素直に「凄いものは凄い」と断じ、彼女を真っ直ぐに評価した。この反応を見てハンナは笑みを浮かべ、ジークリンデの善性がメルセデスを孤高から救う契機となり得ると直感した。

父娘の対比と未来への含み
ハンナは、ベルンハルトが独りで硬化していった過去を思い出しつつ、メルセデスにはまだ間に合うと確信した。彼女の隣には、本人の自覚とは別に確かな友がいる。場内ではベルンハルトが不機嫌さを漂わせ、周囲を退かせていたが、ハンナの視線は娘が父とは異なる道を歩み始める可能性に向けられていた。

第四十九話 内通者

前期試験とメルセデスの余裕
前期の筆記と実技の試験期間に入り、生徒達が緊張を強める中、メルセデスは平常心を保ち続け、普段どおりの復習で臨む姿勢を崩さなかった。実技は試験官の士気を損なうとの理由で免除となり、その間に学園長室での面談を指示された。

学園長との面談と飛び級の打診
学園最上階の学園長室で、フレデリックは成績と狩猟祭の単独優勝を称え、多数寄せられている勧誘の仕分けを告げたうえで飛び級を提案した。メルセデスは基盤固めを優先し、将来の対ベルンハルトとダンジョン制覇を見据えて飛び級を辞退した。学園長は凡才の惨めさを引き合いに翻意を促したが、メルセデスは他者の感情に配慮して目的を損なう意思はないとして退けた。

排除の気配と価値観の相違
面談の応酬から、メルセデスは学園長が自分を“異常”として排除したいと認識したが、教師としての大義に基づく選択と受け止め、その場を収めた。学園長は勧誘書簡の取り次ぎのみを約し、面談は終了した。

フレデリックの回想と劣等感
メルセデス退室後、フレデリックは若き日の劣等感を噛みしめた。ハンナという同級生に追いつけず、不老期にも恵まれず、下級生のベルンハルトは大貴族へ駆け上がった。非才の身で積み上げて得た学園長の座こそ執着の結晶であり、天才達の動向に左右されたくないという鬱屈が露わになった。

属国化容認と狂気への傾斜
彼はベアトリクス帝国の庇護下による安定を善と捉え、王権や貴族の誇りよりも学園と自身の地位の保全を優先すべきだと断じた。思考はついに「王女一人を差し出す」選択すら正当化する域に達し、内通者としての危うい決意を固めるに至った。

第五十話 跡取り問題

長期休暇と帰郷
学園の前期休暇に際し、メルセデスは自習を望んでいたが、グリューネヴァルト家から迎えの馬車が来たため帰郷せざるを得なかった。ハンナの進言もあり、フェリックスの立場に配慮して同行を選んだのである。

妹たちとの再会
屋敷ではマルギットが飛びついて歓迎し、メルセデスは穏やかに受け止めて応じた。続いたモニカの抱擁はかわされ、彼女は転倒後に平然と礼を尽くした。リューディアは健康を取り戻し、笑顔で娘を迎えた。フェリックスは母ヴァルブルガに強く抱きつかれ、彼女はメルセデスに敵意を示した。

正餐の卓
一族が揃った正餐では、シュフの手による料理が供され、場は形式上の和やかさを保っていた。だが食事の最中、空気は一転して跡継ぎの話題へと傾いた。

跡取りを巡る口論
ヴァルブルガがベルンハルトに対し、フェリックスを正式な跡継ぎとして公表するよう迫った。ベルンハルトは「状況は変わった」とのみ応じ、明言を避けた。貴族社会の常として長男継承が原則であることが確認されつつも、例外の存在も示された。

メルセデスの意図と家内の分裂
メルセデスは伝統尊重を理由にフェリックス継承を支持し、自身の家督回避を明確にした。リューディアもこれに同調したが、他の側室の一部は強く反発し、屋敷内はフェリックス派と反対派に割れた。最有力対抗馬であるメルセデス自身がフェリックス派に回ったことで、跡取り問題は一層複雑化していったのである。

第五十一話 プラクティスダンジョン

ギルド再訪とカード更新
貴族社会の煩わしさに辟易したメルセデスは気分転換を兼ねてシーカーギルドを再訪した。受付でギルドカードを更新し、血判により現在値が反映された結果、各能力は一桁台ながら上昇が確認された。

能力停滞の理由と鍛錬方針
自身の成長が想定より鈍いことから、メルセデスは常時付与している重力負荷に身体が順応したと分析した。生体は必要最小限へ最適化されるとの前提に立ち、負荷増強の必要性を結論づけた。

依頼選択とダンジョンへの疑義
掲示板からオーク捕獲依頼を選択し、受付からオークの特性(炎・冷気に耐性、鈍重で斬撃に弱い)と対象ダンジョンの概要説明を受けた。プラクティスダンジョンは全十五層で最下層に宝がなく「行き止まり」との通説に対し、メルセデスはダンジョン所有者の知見から矛盾を覚え、最下層の自確認を決意した。

編成と進行準備
ブルート近郊の当該ダンジョンへ、メルセデスはベンケイ、クロ、シュフを同行させ、先行探索役としてワルイ・ゼリーを召喚した。ピーコとクライリアは不適と判断して不参加とした。

初動交戦と素材回収
先行するゼリーが罠検知を兼ねて進み、出現した羊型魔物ヴァイヒシャーフを一撃で撃破した。シュフは即座に現地解体と血抜きを行い、上質な素材であると評価した。メルセデスはカオスな光景を前に、計画どおり最下層踏破へと歩を進めたのである。

第五十二話 そのダンジョンを持つ者

不自然な容易さ
メルセデス一行はプラクティスダンジョンを進み、ゼリーが先頭で罠や魔物を次々と処理した。だが十階層を超えても危険はなく、出現する魔物も弱すぎることから、メルセデスは不自然さを覚えた。罠が存在すること自体、過去か現存するマスターの介入を示すと推察された。

ダンジョンの意図
ベンケイは手応えの無さを指摘したが、シュフは「全ての魔物や草木が有用」と評価した。これによりメルセデスは、このダンジョンが意図的に弱い魔物と有用な素材で構成され、市場と都市の発展を促す設計が施されていると看破した。これは民を富ませ、徴兵と軍備を強化する仕組みであり、所有者が統治者として狡猾に利用していると考えられた。

ベルンハルトの影
この仕組みで最も利益を得るのはベルンハルトであると推測され、メルセデスは父がダンジョン所有者である可能性を強く疑った。もしそうならば、決闘はダンジョン所有者同士の戦争に発展し、甚大な被害を伴うことになると警戒した。

最下層の戦闘
十五階層には扉がなく、代わりにレッサードラゴンが待ち構えていた。ゼリーが炎に焼かれ退けられるも、クロとベンケイの攻撃、さらにメルセデスの渾身の一撃で首を両断して撃破した。戦利品として火属性を強化する腕輪を得たが、彼女自身には使えないため保管に回した。

武芸祭の開催
その後、学園では武芸祭が開かれた。メルセデスは下級生の部への参加を拒否し観戦に回ったが、ジークリンデが下級生部門で優勝し、上級生部門はジクストゥスが制した。フェリックスは準優勝に留まった。会場を去った時、ベルンハルトの姿はすでになかった。

第五十三話 不老期に関する一つの考察

平穏な後期と終業式
後期は大きな事件もなく、メルセデスは学園での平穏な日常を過ごした。終業式では学園長フレデリックが壇上に立ち、不老期について語ったが、話は次第に脱線して下品な方向に逸れ、教師達に引きずり下ろされて生徒を困惑させた。発言の中で「不老期の到来は性行為の有無に関係する」という説が示され、上級生の一部が動揺を見せた。

不老期の学説と考察
ハンナの回想を踏まえ、メルセデスはこの説に一理あると感じた。不老期は吸血鬼が子孫を残すことに消極的な傾向を補う仕組みであると考えれば合理的であった。ただし個人差は大きく、ハンナのように幼少で成長が止まる例も存在するため、結局は断定できない結論に至った。

魔力成長の停滞と訓練
屋敷に戻ったメルセデスは魔法訓練に取り組んだ。身体能力は重力負荷訓練で大きく成長していたが、魔力はレベル3に留まり伸び悩んでいた。これは「ズル」に頼れない部分であると認識し、歩みを止めず地道に鍛えることを決意した。

魔法訓練と知見
シュタルクダンジョンでゴブリンヘクサーを教師役とし、ゼリーの翻訳を介して魔法理論を学んだ。魔法は体内のマナを命令して外界のマナに働きかける力であり、蓄えられるマナ量が魔法力を左右するという。肥満体はより多くのマナを備蓄できるため魔法に有利である一方、華奢な者は効率的に扱う技術が求められる。実際にゴブリンヘクサー自身が肥えた体形で魔力を蓄えていることが示された。

第五十四話 悪意ある善行

領主の義務と野盗問題
領主には自領を守る義務があり、魔物の討伐や野盗の排除は必須であった。野盗とは戦場から生還した敗残兵であり、素人ではなく統率された猛者達であるため、シーカーも討伐を避ける対象であった。ゆえに野盗討伐は領主の責務であり、常に頭を悩ませる問題であった。

ベルンハルトの迅速な対応
オルクス国では野盗被害が極端に少なかった。その理由は、ベルンハルトが異常な速度で野盗を発見し、即座に殲滅するからであった。彼は未来を予知しているかのように恐れられたが、実際には領内に無数の密偵を張り巡らせていたのである。

孤児院という投資
密偵の供給源はベルンハルトの経営する孤児院にあった。孤児を拾い、衣食住を与えつつ調教することで、裏切らぬ駒として育成していた。周囲からは慈善家と称えられたが、実際は徹底した打算による投資であった。彼にとって孤児は未来の兵士であり、駒であった。

善行に見える悪意
ベルンハルトは善行を装い、その裏に悪意を潜ませた。森を築いて悪行を隠すように、孤児院や迅速な野盗討伐という善行は彼の悪を覆い隠し、むしろ信頼を集めた。これこそが先代の王が彼を公爵に据え、敵とならぬよう囲い込んだ理由であった。

プラクティスダンジョンでの所業
ベルンハルトは捕らえた野盗をプラクティスダンジョンへと連れ込み、魔物と会話するかのように振る舞った。彼はメルセデスの存在に言及し、十八階層の開放を指示した。その後、野盗達を壁や床から生えた鉄槍で一斉に串刺しにし、彼等をポイントへと変換させた。野盗達は救いがないと悟り、その予感は正しかったのである。

冷徹な総括
得られたのは僅か二百五十ポイントに過ぎず、ベルンハルトは「今回は外れだ」と吐き捨てた。そして次もまた野盗を連れて来ると告げ、失った魔物や罠の補充を命じて去っていった。そこには善意は一切なく、冷徹な悪意のみが存在していた。

名君の片鱗

名前のない少女の生い立ち
孤児院から引き取られた少女は、自らを何者でもない存在と認識し、それで良いと考えていた。王家や貴族の汚濁を見続けて育った彼女は、皮肉にも他者の美点を見抜く眼を養った。学園に入ってからの日々は新鮮であり、メルセデス・グリューネヴァルトの強さに強く惹かれることとなった。

ジークリンデとしての覚醒
王家の血を引くと知らされた少女は、ジークリンデ・アーベントロートとなった。従来の王家は偽物であったことが判明したが、彼女にとって衝撃だったのはメルセデスの恐れなき強さであった。彼女から守ると告げられ、初めて選択の自由を与えられたジークリンデは、本物の強さに触れ、こうなりたいと願う存在を見出した。

旧王家の滅亡と哀惜
王位を追われたイザークは処刑され、家族は僻地で労役に従事した末に崩落事故で命を落とした。かつてジークリンデの名を与えられた少女は何も知らずに育った存在であり、罪なきまま死んだ彼女にジークリンデは深い哀れみを抱いた。それは、かつての自分のもう一つの未来を見たようで悲痛であった。

公務の学びとミュルの村の惨状
城に戻ったジークリンデはハンナから公務を学ぶ中で、バシュ男爵の圧政で荒廃し、山賊に支配されたミュルの村の惨状を知った。ベルンハルトは被害軽減のため村を見捨てたが、ジークリンデはその判断に憤りを覚えた。ハンナは軍の損耗を避ける合理を説いたが、同時にジークリンデが王族の力を用いれば理想を実現できると示唆した。

村を救う決断と出陣
ジークリンデは王剣を携え、ドラゴンを率いて村へ向かった。そこでは山賊が村人を虐殺していたが、彼女の命令を受けたドラゴン達は山賊のみを襲い、村人を守った。山賊頭は村人を盾に逃げ延びようとしたが、ジークリンデは動揺する村人に私が守ると宣言し、恐怖を鎮めた。最終的に彼女は剣技で山賊頭を討ち取り、村を救った。

勝利の意味と評価
この戦いは大局的には価値の少ない小規模なものであったが、若い王女が自ら赴き村を救った逸話は、ジークリンデの求心力を高めるものとなった。ハンナはその姿を見て、彼女に名君の素質を見出し、未来への期待を抱いた。

妹達のダンジョン訓練

魔法訓練の方針
メルセデス・グリューネヴァルトは長期休暇中、屋敷で魔法、とりわけマナ操作を重点的に鍛錬した。マナはツヴェルフの語でナノマシンと呼ばれる存在であり、過剰使用は生命を脅かすため、体内にマナのまま蓄蔵する技法の習得を目指した。訓練の場は自身のシュタルクダンジョンであった。

妹たちの依頼と動機
夜のティータイムの折、妹のマルギットとモニカが戦い方の指導を願い出た。二人はエーデルロート学園の入学試験に不安を抱いており、メルセデスは当初、学園教育の実利と二人の生活環境を踏まえ必要性に疑義を呈した。

母の助言と指導開始の決断
リューディアはやれるだけやって結論を出せばよいと諭し、吸血鬼の長い時間を根拠に進路選択のやり直し可能性を示した。これを受けてメルセデスは自分が教えることを承諾した。

初期訓練の設計と投石の選択
訓練場所には初学者向けで親切な挙動を示すプラクティスダンジョンを選んだ。武器は遠距離攻撃と弾数確保を重視し、弓やクロスボウではなく投石を採用した。吸血鬼の腕力と血操術の強化により、石でも弱い魔物を十分に制圧できると判断した。

投石の実演と習熟
メルセデスが投石で一撃必殺を示し、続いてモニカが連続投で対象を撃破した。モニカは貴族の嗜みとして狩猟経験を持ち、下地があった。マルギットも緊張しつつ連続投で制圧に成功し、両名は遠距離から命を奪う行為に慣れる段階を踏んだ。

白兵戦への移行と成果
翌日は槍を用いた白兵訓練へ移行した。非生物的外見の魔物から生物的外見の魔物へと段階を上げ、直接刺突の感触に一定の嫌悪はあったが、吸血鬼としての性質もあり実戦対応を獲得した。三人とベンケイ、クロで十五階層まで到達し、レッサードラゴンはメルセデスの重力魔法で行動を制限した上で、モニカとマルギットが協力して撃破した。

未知階層の出現と慎重撤退
ベンケイが十五階層の先に下層階段を発見し、メルセデスは未知の危険を考慮してこの時点では撤退を選択した。

ボリスの姿をした存在との遭遇
撤退直前、腹違いの兄ボリス・グリューネヴァルトと同じ声と姿の存在が複数出現した。メルセデスは知人に化ける魔物と推定し、先頭の一体を即座に制圧した。残る二体は妹たちへ突進し、人質化を狙う挙動を見せた。

モニカの対処
モニカは呼びかけを退け、槍で胸と首を的確に貫き、動揺なく排除した。彼女は躊躇を見せず、実戦動作を完遂した。

マルギットの克服
マルギットは暴力で従わせようとする相手の拳を受け止め、血操術で強化した力で押し返したうえで、従属を拒否して撃退した。逃走に転じた相手はクロが喉を噛み切り、完全に無力化した。

撤収と残された含意
三体の弱い模倣体を排した後、メルセデスは深入りを避けて撤収した。ダンジョン制覇者が魔物の新規登録と増殖を可能にする事実を踏まえ、遭遇した存在が真に魔物であったかどうかを一考しつつも、この場では魔物として処理した。床に横たわる三体のボリスの眼差しが虚空を見つめていた情景が残像として刻まれた。

同シリーズ

ed6b4fccf14b5938a0a0dd0974f68c77 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ
欠けた月のメルセデス 1 ~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~
3c862e9405d3a58cb4810b4c8096d2a6 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ
欠けた月のメルセデス 2 ~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~
a95ace909d4916c61ccacaa959270bde 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ
欠けた月のメルセデス 3 ~吸血鬼の貴族に転生したけど捨てられそうなのでダンジョンを制覇する~

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説【アニメ企画中】「欠けた月のメルセデス2」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順

Share this content:

こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

コメントを残す

CAPTCHA