物語の概要
本作はファンタジー作品であり、異世界でのタイムリープ要素を取り入れたストーリーである。人族と魔族の戦争で魔王を討伐した主人公カイルは、勝利の直後に全てを失い瀕死となる。その際、紅い宝石に包まれて意識を失い、気づくと4年前の過去に戻っていた。前世の記憶と経験を活かし、二周目の人生(ニューサーガ)で、再び仲間と共に魔族の侵攻を阻止すべく奮闘する展開である。
主要キャラクター
- カイル:本作の主人公。前世で魔王を討った魔法剣士。過去へ戻り、失ったものを取り戻すべく戦う。
- セラン:カイルの仲間。旅に出る際、彼と共に行動し支える存在。
- リーゼ:幼なじみで、カイルにとって大切な人物。再び共に未来を目指す。
- ウルザ:旅の途中で再会する重要キャラクター。
物語の特徴
本作の最大の特徴は「過去への逆行転生」という設定であり、いわゆる“二週目”を舞台とする点である。従来の転生ものと異なり、前世の知識と経験を武器に戦略性を持って困難に挑む姿や、失った仲間との絆を再構築していく人間ドラマが魅力である。更に魔族や魔王の正体・行動の動機が単純善悪ではなく、多層的な背景が織り込まれている点も本作の深みを生む要素である。
書籍情報
強くてニューサーガ 2
著者:阿部正行 氏
イラスト:布施龍太 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2013年10月07日
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あらすじ・内容
話題沸騰の“強くてニューゲーム”ファンタジー、第二章!
早くも累計4万部突破! 超話題沸騰中の“強くてニューゲーム”ファンタジー、待望の第二章! 滅びの運命を変える為、前世の記憶と実力を駆使して英雄を目指す魔法剣士カイル。王女からの信頼を得たカイルとその仲間達は、使者として鉱山都市カランを訪れる。しかしそこでは住民の行方不明事件が続発しており、ついには伝説の“魔王殺しの聖剣”を持つ都市長も姿を消してしまう。王女の依頼を果たし、更には聖剣を手に入れる為に都市長の行方を追うカイル達。そんな彼等の前に、恐るべき仇敵・魔族と邪悪な陰謀が立ち塞がるのだった――
感想
『強くてニューサーガ2』は、滅びの運命を変えるため、前世の記憶と実力を武器に英雄を目指すカイルの物語である。今回は王女からの依頼で、ドワーフが多く住む鉱山都市カランを訪れることとなる。しかし、そこには魔族が潜んでおり、カイルは策略を巡らせ、前世で情報を提供してくれた魔族を、今回は自らの手で葬り去るのだ。
タイムリープもののファンタジーとして、この作品は着々と魔族との戦争に向けた準備を進めていくカイルたちの姿を描いている。登場する魔族は、最初は強敵に見えるものの、カイルたちの圧倒的な力の前には、意外とあっけなく倒されてしまう。カイルたちが強すぎる、というのもあるのだろう。そんな中で、セランの変わらぬキャラクターは、読んでいて安心感を与えてくれる。
目的のためには手段を選ばない、カイルの英雄としての生き方は、ある意味で危うさも孕んでいる。未来を知っているとはいえ、直接関与していないことは伝聞でしか知りえないため、常に最適な判断ができるわけではない。それでも、最悪の結果を回避しようと奔走する姿は、まさに限界ギリギリのヒーローそのものだ。少しずつ未来を書き換えていく中で、未だに最後の敵の姿が見えてこないことが、どこか不気味さを感じさせる。
今回の物語では、魔族との戦いだけでなく、カイルの葛藤や人間関係も描かれている。特に、前世で協力してくれた魔族を、今回は罠にかけて殺してしまうという展開は、彼の目的のためには手段を選ばない姿勢を強く印象づける。しかし、その裏には、未来を変えるための苦渋の決断があったのだろう。
『強くてニューサーガ2』は、爽快感のある戦闘シーンだけでなく、主人公の葛藤や成長も楽しめる作品である。未来を書き換える旅はまだ始まったばかり。最後の敵は一体誰なのか、そしてカイルはどのような未来を掴み取るのか、今後の展開が非常に楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
1
喪に包まれた王都マラッド
国王レモナスの急死から十日が経過し、王都マラッドは未だ喪中の空気が漂っていた。劇場や広場も沈黙し、王を悼む吟遊詩人だけが哀歌を詠っていた。カイル一行は市内の高級宿に滞在しつつ、武具の修理や物資の補給、情報収集などを行いながら次の動向を検討していた。
カイルの内心と今後の方針
表向きは国王の死を悼む市民の一人として過ごすカイルであったが、内心では自身が手を下した暗殺者として複雑な思いを抱いていた。セランは「影が薄くなった」と不満を漏らすが、カイルは「授与式が無事行われただけでも良し」と楽観的に応じる。
将来的には名声を高め、三年後の『大侵攻』に備えて人族の団結に貢献するという目標があるため、ジルグス国から離れることを視野に入れていた。しかし、次の目的地をどこにするかは未定であり、戦略的に関与できる事件や権力者との接点を模索していた。
王女からの突然の呼び出し
そんな中、ミレーナ王女の側近であるキルレンが宿を訪れ、「王女が会いたい」との伝言を伝える。形式上は非公式の招待であったが、その口調と態度から実質的には王命であることは明らかだった。カイルは渋々ながらも従うことを決める。
宮殿での再会と新たな依頼
宮殿では過剰なまでの歓待を受けるが、王女本人はなかなか姿を現さず、やがてキルレンを伴って現れる。丁寧に詫びる王女に対し、カイルは目を合わせるのを避けながらも礼を尽くす。表情に僅かな翳りを見せたミレーナは、本題として「婚姻に関わる依頼」を切り出す。これが、カイル一行の新たな騒動の幕開けとなるのだった。
2
突然の縁談とその背景
ミレーナ王女は、父レモナス王の死後、ガルガン帝国第三皇子マイザーとの婚約が密約として存在していたことを知った。これは、二年前の都市国家カランを巡るジルグスとガルガンの紛争に端を発する。カランはミスリルを採掘・加工できる重要都市であり、ジルグスがその保護を約束する代わりに従属を受け入れさせ、戦争を回避した形となっていた。しかし、密かに交わされた王女と第三皇子との婚姻条項が、その実代償であった。
婚約の破棄と使者の任務
ミレーナはこの婚約を破棄しようと考えていた。表向きには婚姻とカランの処遇は無関係であり、まだ正式契約もなかったため、先王の独断として無効とする腹づもりだった。カイル達に与えられた任務は、カランの長へ王女の書状を届け、協力を取り付ける使者としての役割である。
しかし、これには明確な危険が伴っていた。ミレーナは、婚姻による影響力獲得を望まない帝国強硬派が、王女暗殺未遂に関与していた可能性を示唆する。ジルグス国内は人手不足と政務の混乱が続く中、信頼と戦力を兼ね備えたカイル一行に白羽の矢が立った。
カイルの葛藤と任務受諾の理由
カイル達は一度持ち帰って話し合うも、結局はカイルに最終判断が委ねられた。依頼を断れば王女の信頼を裏切ることとなり、ジルグス国内の影響力確保という戦略上も損失であるため、受けざるを得ないと結論づける。
また、カランには魔法金属を加工できるドワーフ職人が多く、今後の装備強化においても重要な地である。カイルはこれを機に、接点を持つ好機と考えた。
シルドニアの示唆と不穏な兆候
シルドニアは、カランの長が国王の弔問に来ていないことに疑問を呈し、カラン内部で異変が起きている可能性を指摘する。今回の任務は単なる使者としての役割にとどまらず、カランの状況調査と潜在的問題の対処をも期待されているのではないかと分析する。
夜の邂逅と王女の心情
その夜、トイレに向かう途中で偶然ミレーナ王女と再会したカイルは、王女から「少しだけ気晴らしに付き合ってほしい」と声をかけられる。その声は寂しさと悲しみを湛えており、カイルにとっては断ちがたい感情を抱かせる瞬間となった。王女の裏にある真意と重圧に、カイルは再び向き合うこととなる。
3
夜の中庭での対話
カイルはミレーナ王女の誘いを断れず、宮殿の中庭に同行した。そこで彼女は、自身の心の内を吐露する。国王と王子を一度に失い、国家の命運を背負う立場に置かれた重圧に加え、女王という運命に対する孤独と葛藤を抱えていた。だがカイルは、過去の尊敬すべき人物の言葉を借り、王たる者の覚悟について語り、ミレーナ王女を励ました。これにより王女は少しだけ気を持ち直し、改めて覚悟を固める。
婚姻と政治のはざまで
ミレーナ王女は、自らの婚姻を政治的手段の一つとして割り切っていた。女王に離婚は許されないため、結婚は一度限りの切り札であると認識していた。彼女はガルガン帝国との婚約を断るつもりであり、その代替としての政治的繋がりを模索していた。冗談めかして愛人という発言をしつつも、理想の相手像として「命を救い、謎を持つ人物」に惹かれると語り、暗にカイルへの興味を匂わせた。
王女の観察と試験
ミレーナは、距離を置きたがるカイルの態度に一抹の寂しさを感じながらも、その誠実さと助言を嬉しく思っていた。政治的な意味合いも込めて、あえて自身を見せ、カイルの反応を試していたのだった。その後、王女は侍女ニノスと会話し、男心の操作という側面以上に、カイルという人物を高く評価していることを明かした。
ニノスは冷静に分析し、カイルの行動原理の不明瞭さに警戒心を抱いていた。だがミレーナ王女は、それを理解した上で「勘」による信頼を口にした。これは彼女にしては非常に珍しいことであり、ニノスにも衝撃を与えた。
旅立ちの朝
翌朝、カイル一行は正式にカランへの使者としての任を引き受けた。書状や証明書などを受け取り、ジルグス王都マラッドを後にし、新たな任務へと旅立った。ミレーナ王女の信頼と期待を背負い、彼らの次なる物語が始まったのである。
4
武具の受け取りと情報収集
カイル達は宮殿を出た足で、マラッド市内の武具店へ向かった。目的は修理済みの装備の受け取りと魔法薬などの消耗品の補充である。店主フェスバは、上客であるカイル達を丁重に迎え、修理品を迅速に仕上げたことに満足げな態度を見せた。フェスバにとって、彼らは資金力に優れ、かつ今後も期待の持てる貴重な客であり、その素性に興味を持ちつつも商人としての節度を守っていた。
またフェスバは、カランという都市について情報を提供した。カランは長い歴史を持ち、閉鎖的な気質を有する都市であったが、近年はジルグスへの従属に伴い、対外交流に開かれ始めていると述べた。鍛冶ギルドが実質的な支配者であり、都市長も兼ねているため、独自の文化と誇りが根強いことも伝えられた。
鉄と魔法の山・カランの姿
マラッドを発って二日後、カイル達はカランの姿を遠望した。そこは巨大な山の中腹を切り開いて築かれた、まさに「山と一体化した都市」であった。周囲の平原とは明らかに異質な地形であり、異様なまでの堅牢さを備えていた。
シルドニアの解説により、この山自体がかつての古代魔法文明ザーレスによって作り出された人工地形であり、地中深くの鉄脈を地表に押し出すという大規模な地形変動魔法による産物であることが明かされた。カランは元々、魔族に対する前線拠点として設計された要塞都市でもあり、今なおその堅牢さを維持していた。
飛来する帝国の脅威
カラン到着を目前にした時、空より飛来する複数のワイバーンをカイル達は目撃した。その背には、ガルガン帝国の紋章を掲げた兵が騎乗していた。帝国の誇る飛竜騎士団である。ワイバーンは通常非常に気性が荒く、人間に飼いならされる存在ではないが、ガルガン帝国はそれを軍事力として組織化することに成功していた。空からの高速攻撃を可能とする彼らは、帝国の拡張主義を支える特殊部隊の一つであった。
セランは、このタイミングで帝国の飛竜騎士団がカランを訪れた意図に警戒感を強め、カイルも「無関係であってほしい」と呟きつつ、強く懸念を抱いていた。そして一行は、対応を覚悟しながら、都市カランへの第一歩を踏み出したのである。
5
カラン入城と因縁の再会
カイル達はジルグスの公式使者として、他の商人達を尻目にスムーズにカランへ入城した。カランは石造りの堅牢な町並みで、質実剛健な印象を与える街であった。入城後まもなく、ジルグス大使であるミランダが現れ、カイルと再会する。彼女はかつてミレーナ王女の教育係でもあり、カイルとは旧知の仲であった。

鍛冶師の国へ
複雑な勢力関係と病に伏す都市長
ミランダは、都市長が疫病により面会謝絶の状態であると説明する。だがミレーナ王女の正式な使者である以上、面会の必要性があるとして、カイル達を案内することを決断する。大使館前でガルガン帝国の大使館について説明がなされる中、そこに所属する飛竜騎士団が無断で到着している事態が発覚する。
帝国の魔道士アルザードの登場
その場に現れたのは、ガルガン帝国宮廷魔道士第二位に序列されるアルザードであった。彼は、ある職員の家族が危篤であることを理由に、急遽ワイバーン騎士団をカランに派遣したと説明するが、ワイバーンの体調不良を理由に「しばらく滞在する」と述べ、あからさまな嘘を並べた。
その図々しさに対してミランダは強い警戒心を見せるが、外交上の配慮から直接的な拒絶はできなかった。さらにアルザードは都市長への訪問を希望し、ミランダとカイル達と同行することとなる。
カイルの素性とセライアの名
カイルが自己紹介した際、アルザードは「レナード」の姓に反応し、カイルの母・セライアの名を挙げる。彼はセライアの学友であり、またカイルの父ロエールも知っているという。旧知の者の息子と出会ったことで、アルザードはさらに興味を深め、不敵な笑みを浮かべながら今後の展開を楽しみにしている様子を見せた。
この章では、カランという閉鎖的な都市に潜む勢力の思惑が徐々に明かされ始め、カイルの過去や人脈にも新たな伏線が加えられている。帝国の意図、都市長の病、そしてアルザードの登場と、事態は不穏な空気を孕みながら次なる局面へと進んでいく。
6
二重の支配構造と都市長不在の謎
カランの現在の支配構造は、従来の鍛冶ギルドを中心とした旧来勢力と、ジルグスによる新たな統治勢力の二重構造となっていた。カイル達は正式な書状を携えて都市長・バックスとの面会を求めたが、副都市長は病気を理由に面会を拒絶し続けた。
ミランダは強硬に都市長の交代を示唆し、2日以内の対応を求めた。対するガルガン帝国側のアルザードも、新都市長就任の折には「祝意を示す」とほのめかし、暗に介入の意志を表した。ミランダとカイルは、アルザードがミレーナ王女との婚約破棄を把握していること、そしてカラン奪取に向けて帝国が再び動き出している事実を確信する。
帝国の動向と王女側の狙い
アルザードがあまりにも迅速にカランへ到着していたことから、カイルは宮殿内部に帝国のスパイが存在すると推測した。ミレーナ王女はその事態を想定し、カイル達の動向を「餌」として利用しつつ、スパイの炙り出しを図っていると見られる。
また、アルザードの存在はあまりにも目立ちすぎており、単なる威圧外交とは別の目的がある可能性も示唆された。カイルは帝国の二重・三重の策を警戒し、ミランダにも警戒を呼びかけた。
セランの探索と偶然の事件
一方、別行動を取ったセランはカランの街中で理想の剣を探していたが満足するものには出会えず、街全体にも活気の無さを感じ取っていた。裏通りに入った際、暴漢に絡まれる少年を発見し介入する。初めは少女と誤認して意気込んだものの、少年と知って落胆する。
しかし少年に美人の姉がいると聞いた途端、態度を一変させて再び暴漢に立ち向かう決意を固めた。周囲の反応を一切意に介さず、自らを「正義の使者」と称して啖呵を切るセランに、暴漢たちは激しい敵意を燃やし始めた。
7
セランの「誤算」とゴウとの出会い

鍛冶師の国へ
暴漢を瞬時に撃退したセランは、助けた相手が男の子・ゴウであったことに落胆した。しかもゴウは投資話に失敗して借金を抱え、その取立てから逃げていたという、自業自得な境遇だった。姉に会えると期待して助けたセランは、姉が既に嫁いで不在と知って大きく落胆する。

鍛冶師の国へ
それでも捨て置けず、ゴウの家まで同行することとなった。ゴウは12歳ほどの少年ながらも、古代魔法王国の魔道兵器を復元しようとする天才魔技師であると判明する。
ジルグスの思惑と候補者ガザス
一方、ミランダは都市長代理として推したい人物——腕利きの鍛冶師ガザスを訪ねる準備を整え、カイル達を同行させた。ガザスはカラン内で人望も厚く、政治に興味を示さない人物であるため、ジルグス側にとっては「都合のいい」候補だった。
ミランダの説得に対してガザスは強く拒否した。彼は一介の鍛冶師であり、政治には一切関わらないという強い信念を持っていた。二人の議論は平行線をたどった。
ゴウの秘密と魔道兵器の設計図
話の行き詰まったカイル達は、ゴウの案内で地下の作業室へ移動する。そこは危険な薬品や魔道具の試作品が所狭しと並ぶ混沌の工房であった。そこでカイルは、机の上に広げられた設計図に目を奪われる。
それはかつての大戦でカイルも目にした、古代魔法王国ザーレス時代の魔道兵器の設計図だった。白銀に輝き、戦場を駆けたその姿は、カイルにとって希望の象徴でもあった。
復元に取り組んでいるのがゴウだと知ったカイルは、即座に「金は出す、量産してくれ」と、投資を即決するほどの熱意を見せた。ゴウは困惑しつつも了承するが、リーゼ達はそんなカイルに呆然とするしかなかった。
この章では、未来を左右する技術とカラン支配の人選、そしてカイルの過去の記憶と繋がる魔道兵器の復活という、物語の核心に触れる展開が始まった。小さな出会いが、大きな局面へとつながり始めている。
8
古代兵器ゴーレムとゴウの才能
ゴウが復元を試みていたのは、古代魔法王国ザーレスの時代に量産されていた兵器特化型のゴーレムであった。この時代には高性能なゴーレムが一般家庭に普及し、戦闘にも用いられていた。シルドニアが設計図の精度を認めたことで、ゴウの技術力の高さが証明される。カイルは試作品の一年以内の完成と量産を強く希望し、潤沢な資金援助を約束した。その一方、既存の出資者への対応として、出資金の全額返金と口止めも要請した。
鍛冶師ガザスとの対面と交渉
ガザスへの都市長就任依頼は平行線のまま進展せず、ミランダも一旦退こうとする。だがカイルは剣の作成を依頼することで打開を図る。最初は拒絶されたが、ゴウの仲介やセランの実力が後押しとなり、ガザスの態度が軟化する。しかしカイルの持つ剣を見たことで状況が一変する。ザーレスの技術を宿すその剣の存在にガザスは衝撃を受け、同等の剣を作るのは不可能と明言する。
魔道兵器量産計画と政治的懸念
夜、カイルはゴーレムの量産について思案する。個人でこの力を保有することは国家的脅威と見なされかねないため、いずれかの国家の後ろ盾が必要になる。ジルグスには技術基盤が乏しく、兵器ゴーレムを実戦投入した実績を持つガルガン帝国が現実的候補となる。しかし帝国に過度な戦力を与えれば、人族間の戦争の火種にもなりかねず、カイルは国家間の均衡に頭を悩ませていた。
アルザードの招待と魔族の襲撃
翌朝、帝国大使館からカイルにアルザードの招待が届く。アルザードは気さくに振る舞い、カイルの母セライアとの旧交を語るが、彼の真意は依然として不明であった。ミランダと共に会食に向かうカイルは、大使館内で異様な殺気を感じ、扉を破って中に突入する。
そこで彼が目にしたのは、惨殺されたアルザードと職員達の凄惨な死体であった。そしてそこには、一本角を持つ女性型の魔族が立っていた。美しい容姿と異形の角を持つその存在に、カイルは本能的な恐怖と怒りを抱き、「魔族」と絶叫した。
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魔族との遭遇と会食場の惨劇
カイルは、帝国大使アルザードの招きに応じて会食場に赴いたが、そこで見たのは凄惨な光景であった。アルザードをはじめとする大使館関係者は無惨に殺され、その場には一本角を持つ女魔族が立っていた。魔族特有の威圧感とその角により、カイルは即座に敵の正体を見抜いた。
女魔族は躊躇なく襲いかかるが、カイルも反射的に応戦し、魔力を帯びた拳で打撃を加えた。だが、装備なしの状態では決定打に欠け、負傷したカイルは劣勢に立たされる。最終的に女魔族は戦いを中断し、周囲の気配を察知して撤退した。
魔族の異常な戦闘手段と消失
カイルは女魔族の逃走を追おうとしたが、身体的限界により断念。現場に駆けつけたミランダらが目にしたのは、血に染まった惨劇の跡であった。確認の結果、帝国大使館の半数が殺害されていたが、不思議なことに誰も殺害の瞬間を見ておらず、物音さえ聞かなかったという。
この異常な手口に関係者は震撼し、魔族の脅威が今も現実に存在していることを思い知らされる事態となった。
一方、ガザス宅での昼下がり
その頃ガザスの家では、リーゼらがゴウのもてなしを受けていた。魔道兵器開発は順調で、シルドニアの助言により作業は大幅に進展していた。ガザスの不在が続く中、セランは「聖剣ランド」の情報を聞き出す。これは300年前の英雄ランドルフが魔王を倒したとされる伝説の剣で、現所有者は病床にある都市長バックスと推測されている。
忍び寄る殺気と襲撃の予兆
穏やかな時間の中、セランは屋外に潜む殺気に気づき、戦闘準備を整えるよう皆に指示する。外には十人規模の刺客が待ち伏せており、セランは迎撃のために玄関を突き破って先制攻撃を仕掛ける。残されたリーゼ、ウルザ、シルドニア、ゴウらは室内で迎撃陣形を取り、二人の刺客と交戦状態に入る。
毒付きの短剣で武装した敵に対し、リーゼは肉弾戦で応戦し、ウルザは土の精霊ノームを召喚して防衛を展開。ゴウは非戦闘員として守られる立場であったが、その場の緊迫感に飲まれながらも、仲間たちの戦いぶりに深く感銘を受けていた。
この章では、魔族の本格的な再出現とその異常性が明確となる一方、人族側も個々の能力と結束で脅威に対処し始めた様子が描かれている。また、聖剣ランドの存在や、魔道兵器開発の進展など、後の展開への伏線も多数張られている章である。
10
リーゼとウルザの圧倒的戦闘力
ガザス宅を襲撃した刺客二人に対し、リーゼとウルザが迎撃にあたった。リーゼは神官戦士として培った冷静さを保ち、正確無比な打撃で敵を圧倒し昏倒させた。一方ウルザは召喚した土の精霊ノームを用いて、敵の短剣攻撃を完封。最終的にはノームが敵を締め上げて失神させた。いずれも完勝であり、ゴウはその実力に恐れと敬意を抱く。
セランの尋問と工作兵の正体
屋外での戦闘を終えたセランは、生け捕りにした敵一人を連れて戻る。尋問を通じて、敵が元ガルガン帝国の**工作兵(脱走兵)**であり、ゴウの誘拐が目的だったことを白状させる。ゴウ以外は殺害指令も出されていたと知り、事態の深刻さが明らかとなる。
更に、他の誘拐事件や失踪事件との関連性、都市内部での衛兵の異常な反応の遅さなどから、セランらは依頼主がカランの中枢にいる大物である可能性に気づく。尋問により、工作兵達の活動をもみ消している者が都市行政に関わっていることも判明した。
魔族による爆撃とセランの恐怖
尋問の最中、セランは強烈な殺気を感じ取り、外の屋根上に魔族の気配を察知。間一髪で爆撃魔法から味方を避難させるも、建物は半壊し、重傷者が出かねないほどの威力であった。敵は魔族と断定され、姿を消した。
セランはかつての母との戦い以来となる「勝ち筋の見えない相手」に恐怖を覚えた。魔族の本格的な活動が始まっていることを、仲間たちは改めて実感する。
11
非常事態と外交問題
魔族の襲撃による帝国大使の死亡と、ゴウ誘拐未遂事件を受けて、都市カランには非常事態宣言が発令された。ジルグス国の大使ミランダは、ガルガン帝国の宮廷魔道士が自国内で殺害されたという事実が、外交上の深刻な問題になる可能性を懸念する。帝国本国が事件を政治利用する可能性が高く、ジルグス国が非難の的にされる危険があった。
魔族の脅威とカイルの葛藤
シルドニアの見解により、襲撃者が魔族であることが確定する。魔族の魔法は魔力依存で威力は高いが、多様性に欠けるという特徴を持っていた。セランやウルザらも魔族の存在に衝撃を受けるが、特にカイルはかつての大侵攻の記憶と重ねて深く沈黙する。自身の行動が魔族の行動を誘発した可能性があると考え、重い責任を感じていた。
都市長の関与と疑惑の浮上
ゴウ誘拐に関与した犯人の証言や市中の誘拐事件から、バックス都市長の関与が疑われるようになる。特に、明日予定されていた都市長との面会を前に急速に事態が悪化したことから、カイルは都市長が魔族と通じている可能性すら想定した。聖剣ランドの所在も都市長にある可能性が高く、彼を詰問する必要が出てきた。
今すぐの行動と夜間突入の決定
ミランダは翌朝の面会予定を前倒しして都市長宅への訪問を提案するが、カイルは「魔族が絡んでいるなら一秒も無駄にできない」と即座の突入を主張し、夜間突入が決定される。ゴウには安全確保のために大使館滞在が命じられる。
ガザスとミランダの関係
会話の中で、ゴウはミランダとガザスが恋人関係であると明かす。元々は仕事を通じての関係だったが、今ではミランダが一途に想いを寄せていると語る。ミランダの意外な一面に驚きつつも、カイルは過去に戦時中のミランダと交わした会話を思い出す。彼女が語った「心を閉ざした理由」がガザスの死にあった可能性に思い至り、不安に駆られる。
急報:都市長邸の火災
その直後、ミランダが駆け込んで報告する。「都市長宅で火災が発生」との知らせが入り、事態はさらに緊迫する。都市長の身の安全、真相究明、そして魔族の影との対峙——カイル達は直ちに行動を開始せざるを得なくなった。
12
都市長宅炎上と証拠隠滅
火災発生の報せを受け、カイルたちは都市長宅に急行したが、すでに屋敷は焼け落ち、瓦礫の山となっていた。石造りにもかかわらず完全焼失した様は不自然で、明らかに証拠隠滅と時間稼ぎのための放火と見られた。現場からは死体も骨も見つからず、ガザスの消息も不明のままだった。
地下通路の発見と魔法陣の遺構
カイルはミランダの過去の発言から、屋敷に地下の隠し通路があると推測。ウルザの協力で、強力な魔力を消費しながら地下通路を掘り当てた。通路の先には禁呪の儀式場が広がっており、魔法陣と祭壇、そして副都市長を含む多数の生贄の死体が残されていた。これは生贄の生命を魔力に変換する禁断の魔術によるものであり、誘拐事件の目的が儀式の魔力供給だったことが判明する。
魔族の出現と敵の目的
身を隠していたカイルたちの前に、男女二人の魔族が現れる。彼らの会話から、魔族は現在の穏健な魔王の指示で「人族を可能な限り殺すな、目立つな」との方針のもと行動していたが、現場では協力者(=都市長)からの依頼であえて派手な襲撃を実行したことが明かされた。
また、魔族たちは**「アレ」と呼ばれる重要物**の入手を目的としており、それが魔王の最も望むものらしい。その入手のために都市長と取引し、裏で活動していたことが発覚する。
増す緊張と次なる行動
魔族が去った後、カイルたちは安堵するが、魔族の力とその存在の恐ろしさを改めて体感することとなった。目的不明の魔法儀式、都市長の失踪、ガザスの安否、そして「アレ」の正体という新たな謎が加わり、カイルたちは魔族の通った地下通路の更なる奥へと踏み出した。
13
地下での再会と都市長の狂気
カイルたちは地下の居住空間で縛られたガザスを救出した。彼は全身傷だらけであったが、命に別状はなかった。その場にはもう一人、カランの都市長バックスがいた。彼はかつての冷静な指導者の面影を失い、狂気と執念に突き動かされた状態であった。
都市長は、カランの鉱脈が枯渇しかけている現状を憂い、カランの再興を信じて禁断の手段に手を染めたと語った。その背景には、自身が不治の病に冒され、余命わずかであることも影響していた。追い詰められた末に、彼は魔族と取引を交わし、都市の再興のためであれば生贄も辞さぬ姿勢を見せていた。
魔族の登場と真の目的
都市長の狂気の背後には、青い羊の角を持つ男魔族の存在があった。男魔族は、地形変動による鉱脈の復活という手段を提示して都市長を唆したが、真の目的は「聖剣ランド」の回収と情報収集であった。聖剣は先代魔王を倒した伝説の武器であり、魔王の私的な関心からその入手が望まれていた。
カイルは驚いたふりをして男魔族から情報を引き出すことに成功し、魔族が禁呪と引き換えにカランを利用していた実態を把握する。男魔族は任務達成を宣言して撤退を決めるが、女魔族は剣の回収を諦めきれず、内部で意見が分かれる。
魔族の裏切りと都市長の失墜
バックスは魔族との「取引」がまだ有効だと信じていたが、男魔族は剣の入手を諦めたことを明言する。カイルはそれを聞いて、バックスに対して「魔族に騙されただけだ」と指摘し、バックスの愚かさを責めた。
男魔族はなおも都市長への皮肉を口にし、地形変動魔法の失敗によって都市ごと吹き飛ぶ危険性があったことを仄めかした。この発言にバックスは狼狽するが、セランが彼を昏倒させて保護し、これ以上の混乱を防いだ。
戦闘開始とカイルの挑発
カイルたちはついに男女の魔族と戦闘することになる。男魔族はカイルと一対一での戦いを受け入れ、女魔族は残る仲間たちを相手にすることとなった。カイルはあえて挑発的な態度を取り、男魔族の余裕を崩そうと試みる。
女魔族は魔王の命に忠実であり、できる限り人族を殺すなという命令に従おうとするが、最終的に命令に従って戦闘に入った。
14
女魔族との交戦と挑発
カイルが男魔族と対峙する一方、リーゼとウルザは女魔族と戦闘となった。女魔族は初め、任務の中止に従い戦う意志を見せなかったが、侮蔑するような言動がリーゼたちの怒りを買い、交戦に発展した。
女魔族は身体能力・戦闘技術ともに圧倒的で、リーゼとウルザは苦戦。ウルザは体調不良もあり魔法に精彩を欠き、リーゼの打撃もまったく通じなかった。しかし、これはカイルの意図的な経験値積みの場であり、セランも冷静に観察していた。
聖剣ランドの発見
戦闘の隙を突いてセランは都市長バックスの椅子に隠されていた「聖剣ランド」を発見。セランの奇声と椅子の切断で剣が露わになり、魔族たちが一瞬だけ動揺。この一瞬の隙を、カイルは見逃さず男魔族に飛びかかり、角を切断するという痛烈な一撃を与えた。
角は魔族にとって名誉の象徴であり、これを失うことは「死よりも重い屈辱」に等しい。
戦闘の一時中断と決闘の約定
角を盾に取ったカイルは、男魔族の動きを封じる。そして、**戦闘の一時中断と「三日後の再戦」**を提案。
提案内容は、魔族が勝てば聖剣と角を返す代わりに、人族側は魔族の潜入状況などの情報提供を受けるというもの。女魔族はリーゼ・ウルザと、男魔族はカイルとそれぞれ一騎打ちを行うという約束が交わされた。
戦略的撤退と魔法陣のリスク
セランは即時戦闘を望んでいたが、カイルは魔法陣の暴走によるカラン壊滅のリスクを回避するため、あえて三日後の決戦を選んだ。
また男魔族は、感情的に暴走した都市長の代替わりを計画していた節もあり、現時点での撃破よりも、冷静な判断を下す必要があった。
今後への布石
カイルは、男魔族を**「特級魔法使い並みの強敵」と認めながらも、勝算を見出していた**。聖剣ランドを得たセランも戦力となり、次なる決戦に向けた準備が始まった。
この三日間が、彼らにとって戦力整備と情報収集、そして魔法陣の解除という重大な猶予となる。
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魔族との再戦に向けた覚悟と動揺の見極め
戦いを終えたリーゼとウルザは、魔族の実力に驚愕しつつも戦意を失わず、三日後の再戦への決意を新たにした。
カイルは、魔族の恐怖に心が折れていれば戦線から外すつもりであったが、逆に闘志を見せたことで、喜びと複雑な不安を同時に抱えることとなった。
魔族の強さと違和感
セランとの会話を通じて、カイルは魔族の力が人間の特級魔法使いクラスに匹敵することを確認した。
一方で、戦ってみて感じた違和感——単なる強さ以上の、何か異質な要素があることも心に引っかかっていた。
バックス都市長の過去とガザスの告白
気絶していた都市長バックスは、かつてはカランを誰よりも想う理想的な指導者だったが、都市の衰退と己の病により、魔族との取引に手を染めてしまった。
その経緯を知るガザスは、脅迫と都市への忠誠心の間で葛藤していたことを打ち明ける。
聖剣ランドをめぐる交渉と譲歩
ガザスは聖剣ランドをカランの象徴として保管したいと主張するが、カイルは巧みに恩義と報酬の提示を重ね、聖剣の譲渡を事実上了承させる。
その最大の報酬として提示されたのが、古代ザーレス時代の純ミスリルの塊であった。ガザスはその品質と量に圧倒され、協力を決意する。
再戦に向けた装備の製作依頼
カイルはガザスに対し、再戦用の特注装備を2日で仕上げるよう依頼。本来5日かかる作業であったが、説得と目的意識によりガザスは承諾した。
加工にはカラン山の特殊な地脈を利用する地下鍛冶場が必要であることが明かされる。
ミランダとの再会と恋愛の確証
その後カイルは、ミランダが心配していると察し、ガザスを大使館へ強引に送り込む。
再会の喜びに涙するミランダを見て、カイルたちは二人の恋愛関係を確信しつつ、微笑ましくも興味津々に盗み聞きしていた。
最終準備と決戦への静かな決意
ガザスは鍛冶場に籠り、カイルたちはミランダに魔族との戦いがあったことだけを報告。
再戦の詳細は伝えなかったが、それは戦力としては頼れず、巻き込みたくないという配慮によるものだった。
バックス都市長の身柄を引き渡し、カイルたちは三日後の決戦へ向け、静かに準備を整え始めた。
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魔法陣の暴走を回避する手段
カイルとシルドニアは、カラン地下に設置された魔力暴走寸前の魔法陣の対応にあたっていた。
エメラルドに蓄積された魔力は限界近く、下手に触れれば都市を吹き飛ばしかねない危険性を孕んでいた。
最終的にカイルは、自身の持つ神話級の宝石**「神竜の心臓」を用い、エメラルドの魔力を安全に移し替える作戦**を選択した。移送には二日かかる見通しであった。
地形変動魔法の真偽とバックスの誤信
カイルは念のため、再び地形を変えて鉱脈を得ることが可能かと問うが、シルドニアはそれを完全に否定した。
既に鉱脈は使い尽くされており、都市ごと再構築しない限り不可能であると判明。
つまりバックス都市長が魔族と取引してまで目指した行為は完全な幻想であり、すべては無駄だったことになる。
女魔族戦のための作戦会議
同時刻、セランはリーゼとウルザに対して、三日後の再戦に向けた作戦立案を行っていた。
セランは敵の戦闘力を「自分でも五分五分」と評し、実力差を認めつつも、敵の経験不足や過信に付け入る余地があることを説いた。
リーゼとウルザも、先の戦闘で得た感触から「経験と技術でなら勝機はある」とし、模擬戦を繰り返して連携を高めることとなった。
カイルとセランの現実主義的思考
セランは、約束を反故にしてでも「奇襲をかけるのが最善」という策を提案したが、リーゼとウルザはその「卑怯な現実主義」にあきれ顔を見せた。
それでもカイルやセランの本質が「目的のためには手段を選ばないタイプ」であることは二人も理解しており、彼らの現実主義が信頼できるものでもあると納得していた。
再戦前日の準備と信頼の構築
リーゼとウルザは模擬戦で連携の確認を重ね、セランを**「最良の実験台」として活用。
ガザスは二日間の鍛造作業で完全に消耗し、息子ゴウは空気を読んでミランダに父の看病を任せる**賢い立ち回りを見せた。
決戦当日の平静と緊張の共存
再戦の当日、カイルたちは魔族との戦場に早朝から待機していた。
しかしその様子は、お茶と菓子を囲むピクニックのような光景であり、一見すると緊張感とは無縁のようであった。
だがこれは意図的に肩の力を抜いたものであり、いざとなれば即応できる状態であることも伺えた。
魔族の到着と対決の開幕
やがて魔族の二人が現れ、ついに三日後の決戦が幕を開ける。
カイルは決意を込めて指を突きつけて迎え撃つが、リーゼに口元の食べかすを拭かれるという茶番で締まりを失う。
それでも仲間全員が、過酷な戦いを前にしてもなお、互いに信頼し合い、自然体で臨むその姿勢が、強さの裏付けでもあった。
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カイルと男魔族の一騎討ちの開始準備
三日後、カイルは男魔族に一騎討ちの場を提案し、「広い場所で戦いたい」と申し出た。男魔族は「場所など関係ない」と受け入れたが、それはカイルの策略に素直に乗るか否かを見るテストでもあった。結果、魔族は自身の強さを過信し、罠の可能性を疑わずに従った。カイルは「任せた」と言い残し、男魔族を連れて戦場を離れた。
女魔族 vs リーゼ&ウルザの開戦
残された女魔族は、リーゼとウルザとの戦闘に臨む。魔族は肉体を変化させることで戦闘力を上昇させ、鉤爪や筋肉の増強、赤い眼に変貌。魔族としての本気を見せる形で戦闘開始となった。
精霊の連携による反撃
初撃で劣勢に立たされるリーゼを援護すべく、ウルザはサラマンダーによる精密な火球攻撃を開始。さらに、女魔族がウルザを狙ってきた際には土の精霊ノームを盾として召喚し、二体使役による連携防御を展開した。
ノームは攻撃を受けながらも、女魔族の動きを封じ、リーゼの渾身の蹴り→突き→連打による集中攻撃で、魔族に深刻なダメージを与えることに成功した。
女魔族の戦闘力と戦術の欠点
ダメージを受けながらも立ち上がる女魔族に、リーゼとウルザは冷静に戦闘経験の差・動きの硬さ・反撃パターンの単調さを指摘し、精神的優位を取った。
戦いを通して、魔族が「命懸けの戦闘経験がない」ことが致命的な弱点であると看破された。
女魔族の敗北宣言と撤退
完全に追い詰められた女魔族は、自ら敗北と降伏を宣言する。敗因は「魔王の命令で生きて帰還する必要があるから」とし、死ぬ可能性のある戦いは続けられないと判断した。
人族への降伏は魔族として最大級の屈辱であったが、それでも命令を優先するという姿勢を示した。
降伏後の対応と名前の交換
ウルザとリーゼは、想定外の降伏に困惑しながらも、女魔族の処遇をどうするか迷った末、逃亡を黙認する選択をした。
女魔族は「ユーリガ」と名乗り、対するリーゼとウルザも自分たちの名を明かした。魔族が人族に自ら名を明かすのは極めて稀であり、ユーリガの行動は異例中の異例であった。
セランの不意打ち「試し斬り」
和解が成立したように見えたその瞬間、セランが突如として背後からユーリガへ抜剣攻撃を仕掛けた。
「試し斬りをまだしていなかった」という理由で、全くの虚を突く形となり、女魔族は振り返るも反応が間に合わず、聖剣の一撃が目前に迫る状況となった。
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冷静な男魔族と一騎討ちの幕開け
カイルと男魔族は、広く整備された地下空間にて一対一の決闘を開始した。
当初、カイルは挑発によって男魔族の冷静さを崩す作戦を取っていたが、相手はまったく反応せず、その態度にカイルは逆に焦りを感じた。
魔力と策略の交錯
戦闘開始と同時に、カイルは斬撃を仕掛けたが、男魔族はそれを左腕で受け止めつつ、至近距離からの魔力弾でカウンター攻撃。
この反撃は、かつてカイルが女魔族に用いた手法を逆に応用したものであり、男魔族の冷静さと準備の周到さを物語っていた。
溶岩鍛治場への誘導
負傷を抱えながらもカイルは、男魔族を地下鍛治場へと誘導する罠を進行させていた。
最終的に角を使って気を逸らせ、体当たりで鍛治場へ押し込み、溶岩の前に男魔族を追い詰めた。
しかし、男魔族は踏みとどまり、逆にカイルが溶岩の縁に追い込まれる展開へ。
粘着剤と溶岩の鎖による逆転
追い詰められたカイルは、自ら溶岩に腕を突っ込み、事前に沈めていたミスリル製の鎖を取り出す。
さらに、足元に塗った粘着剤によって男魔族の動きを封じ、鎖で拘束して勝負を逆転させた。
この鎖は、魔族でも破れぬ純粋なミスリル製で、鍛冶師ガザスが作った特注品であった。
魔王に関する情報の尋問
カイルはガニアス(男魔族)に対して尋問を開始。
目的は、「角無し・黒翼の魔族」が次の魔王かどうかの情報確認であったが、ガニアスはまったく心当たりがないと答えた。
これにより、カイルが最も求めていた情報は得られなかった。
最後の切り札とカイルの洞察
ガニアスは粘液状の透明爆弾「インビジブルアサシン」を使用してカイルを暗殺しようとしたが、
カイルはその存在をすでに見抜いており、背後に回り込んだ瞬間に斬り捨てた。
さらに名前を呼び当てることで、カイルがガニアスと過去に接点があることが明かされた。
ガニアスの末路とカイルの虚無
かつてガニアスは魔王城の情報を持つ捕虜としてカイルに拷問されていた。
今回も同様に拷問では情報を引き出せず、カイルは最終手段としてガニアスを溶岩に蹴り落とした。
ミスリルの鎖で縛られたガニアスは、ゆっくりと焼かれながら沈んでいったが、カイルに喜びの表情は無かった。
ユーリガへの暗殺未遂と別れ
一方、地上ではセランがユーリガへの「試し斬り」と称して襲いかかってきたインビジブルアサシンを撃破していた。
これはガニアスが仕込んでいた罠であり、ユーリガも命を狙われていたことを悟る。
セランの行動により命を救われたユーリガは、仲間を殺そうとしたガニアスに対する怒りと屈辱を噛みしめ、
人族への一時的な信頼と礼を告げて静かにその場を去った。
それぞれの戦いの総括
リーゼとウルザは、今回の勝利が「相手の弱点を突いた偶然の産物」に過ぎず、再戦すれば勝てる保証はないと自覚していた。
セランは、最後の斬撃を加えようとしたが、インビジブルアサシンの気配を察してユーリガへの攻撃を止めたことを黙していた。
戦いは終わったが、魔族の本質的な脅威と、来たる戦乱の予感は払拭されていなかった。
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聖剣を得たセランと、魔族に対する所感
魔族戦から二日後、ジルグス大使館の中庭にて、セランは新たに手にした聖剣の稽古を行っていた。
カイルの問いに対し、セランは魔族について「強いが怖くない」と感想を述べる。魔族も結局は人族と大差ない存在だと理解し、かつての恐怖の対象ではなくなっていた。
カイルはセランの考えに共感しつつも、仮初の平和の中で魔族の在り方も変化している可能性に思いを馳せる。
再会と感謝の言葉
リーゼとウルザ、そしてガザスが登場し、回復後の様子を報告する。
カイルは二人の健闘と無事を心から喜び、手を取って感謝を述べる。二人も照れながらもその想いを受け取り、仲間としての結束を強めた。
またガザスは鍛治場への復帰を宣言し、預かったミスリルを必ず活かすと誓った。
ゴウの淡い想いとシルドニアの立場
一方、ゴウはシルドニアに思い切った告白をするが、シルドニアは「自分はカイルのもの」としてあっさりと断る。
ゴウは失恋に打ちのめされるが、それでも尊敬する師匠としての想いは変わらず、前向きに精進する決意を固めた。
バックス都市長の最期と騒動の収束
カイルはミランダから、バックス都市長が死亡したとの報を受ける。
真相を語った後、気力を失って急速に衰弱し息絶えたとのことだった。
事件の真相は把握され、魔族の存在については非公表とされた。
討伐報告も「地下探索中に偶然遭遇した魔族を討伐・撃退」として処理されている。
都市長就任と新たな秩序
新たな都市長にはガザスが任命された。
鍛治に専念することを条件とした名目上の就任であり、実務は周囲が担う。
この措置により、カランは表面的にも秩序を回復し、ジルグスの対外的評価も保たれた。
ミランダへの問いと警告
カイルはミランダに対し、過去にゴウの出資問題を意図的に操作したのではないかと問いかける。
ミランダは動揺するも直接的には否定せず、カイルはあくまで推測として追及を打ち切った。
ただしこれは、かつての仲間としての「牽制」であり、ミランダの才と過去を知るカイルの本音でもあった。
ゴーレム復元に関する秘密保持の依頼
カイルはミランダに、「ゴウが取り組んでいる魔道兵器の復元を外部に漏らさないように」と依頼する。
これは一時的なものとし、研究が実用段階に達した時点で公表する予定である。
ミランダは驚きつつも了承するが、カイルの本気度に戸惑いを見せる。
真意と信頼の再構築
最後にカイルは、かつて「ただ生きているだけだった」ミランダの表情より、今の方がずっと良いと告げる。
ミランダにはその意味は不明だったが、カイルの言葉に嘘はないと感じ取る。
こうして、かつての仲間との信頼がほんの少しだけ、形を変えて再び芽生え始めた。
戦後の余波と記録される戦い
後日、事件は都市長交代とともに公的に収束し、魔族との戦闘自体は非公開のまま処理された。
だが、カイル達は「数少ない魔族の討伐経験者」として、密かにその名を記録に刻まれることとなった。
同シリーズ






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