小説「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す3」感想・ネタバレ

小説「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す3」感想・ネタバレ

Table of Contents

物語の概要

本作は、前世で「大聖女」として魔王を封印したが、裏切りにより処刑された少女が、騎士家の末娘フィーアとして転生し、聖女の力を隠しながら騎士を目指す物語である。第3巻では、従魔の黒竜ザビリアが旅立ち、フィーアは第一騎士団に復帰する。シリル団長とともに彼の領地サザランドを訪れるが、10年前の事件により領民との間に溝が生じていた。フィーアは「大聖女の生まれ変わり、かもしれない者」として振る舞うことになる。

主要キャラクター

• フィーア・ルード:前世で大聖女だった少女。転生後は騎士を目指し、聖女の力を隠している。
• シリル・サザランド:第一騎士団団長で、フィーアの上司。自身の領地であるサザランドの問題に直面する。
• ザビリア:フィーアの従魔である黒竜。旅立ちによりフィーアと一時的に別れる。
• カノープス:かつて大聖女の護衛騎士だった人物。サザランドに関わる過去を持つ。

物語の特徴

本作は、前世で「大聖女」として魔王を封印したが、裏切りにより処刑された少女が、騎士家の末娘フィーアとして転生し、聖女の力を隠しながら騎士を目指す物語である。第3巻では、従魔の黒竜ザビリアが旅立ち、フィーアは第一騎士団に復帰する。シリル団長とともに彼の領地サザランドを訪れるが、10年前の事件により領民との間に溝が生じていた。フィーアは「大聖女の生まれ変わり、かもしれない者」として振る舞うことになる。

書籍情報

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 3
著者:十夜 氏
イラスト:chibi  氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2020年5月15日
ISBN:978-4-8030-1419-8

メディア関連

コミカライズ版『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す A Tale of The Great Saint』が連載中。
スピンオフ小説『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す ZERO』が刊行されている。
2025年にはTVアニメ化が決定しており、公式サイトが公開されている。

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あらすじ・内容

――――誰よりも美しく、慈悲深い大聖女。
あなたはこうやって、伝説となっていくのだ………

従魔の黒竜が旅立ち、第一騎士団に復帰したフィーアは、
シリル団長とともに彼の領地であるサザランドへ向かう。

そこはかつて、大聖女の護衛騎士だったカノープスの領地であり、
一度だけ訪れたことのある懐かしい場所。

再びの訪問を喜ぶフィーアだったが、
10年前の事件により、シリル団長と領民の間には埋めがたい溝ができていた。

そんな一触即発状態のサザランドで、
うっかり大聖女と同じ反応をしてしまったフィーアは、
「大聖女の生まれ変わり、かもしれない者」として振る舞うことに…!

フィーア、身バレの大ピンチ!?
書き下ろしは、書籍連載でおなじみの『アルテアガ帝国』編をはじめ、
300年前の過去編ほかを大ボリュームでお届け!

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す3

感想

サザランドでの歓迎と誤解

本作の序盤において、フィーアは300年前の前世で訪れたことのある土地・サザランドを再訪した。
過去の記憶と現在の行動が重なったことで、現地の人々から大聖女の再来と見なされ、過剰な歓迎を受けることとなった。
かつての反乱による中央との断絶が残る中、彼女の無自覚な言動がさらなる混乱を招いた構図が興味深い。

セリフが生む過去と現在の交錯

フィーアの口から、前世での大聖女セラフィーアの言葉が漏れ出る場面は、意図的か無意識かの曖昧さを残しつつ、物語に奥行きをもたらした。
「聖女は騎士の盾だ」「あなたのお墓はこの地にある」などの発言が、300年という時を越えて今の状況に影響を及ぼし、想像力を刺激した。

シリル団長とフィーアの対照的な描写

シリル団長の策略的とも言える交渉術と、フィーアの天然かつ楽観的な受け止め方は対比的であり、物語にコミカルな緩急を生み出していた。
団長のしたたかさを「優しい人」と表現するフィーアの認識のズレは、作中での重要なユーモア要素であった。

前世の因縁と現在の交差

本巻の中核には、300年前の悲劇とそれを引き継ぐ人々の想いがあった。
大聖女が守った人々の誓い、そして彼女を見殺しにした王族たちへの精霊の怒りという構図が、世界観に重層性を与えている。
ザビリアの再登場は、フィーアを守る者の系譜が続いていることを明確に示し、感動と希望を与えた。

今後への期待

再会シーンの演出や、シリウスの正体への憶測など、本巻には多数の伏線が張られている。
フィーアの正体にいつ誰が気づくのか、精霊たちの動向はどうなるのか、次巻への関心を大いに高める展開であった。
とりわけ、国旗の変更や精霊の判断など、歴史の裏側に隠された真実が徐々に明らかになる様が期待される。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

フィーア・ルード

前世で大聖女として知られた少女であり、転生後はその正体を隠して生きようとしている。感情豊かで天然な言動が目立つが、その言葉の端々には前世の面影が現れる。
・王国第一騎士団の一員として行動
・サザランドで「大聖女の再来」として扱われる
・周囲の誤解や期待の中で、大聖女らしい振る舞いを見せる場面が多発

シリル・サザランド

第一騎士団の団長であり、冷静沈着な判断力と策略的な交渉術を持つ。サザランド領の領主として、領民との関係修復を目指している。
・領地の祭事にフィーアを同行させる
・かつての事件により領民と確執があるが、和解の兆しを見出す
・戦略的にフィーアを使って状況を好転させる手腕を発揮

ザビリア

フィーアのかつての従者であり、今世でもその忠誠を貫く存在。正体を隠していたが、再会によってフィーアを再び守る立場となる。
・前世から300年間、主を想い続けた忠臣
・サザランドでフィーアと再会
・彼の登場が過去と現在をつなぐ鍵となる

ザカリー

第一騎士団の騎士。シリル団長の部下として活動しており、フィーアの行動にたびたび驚かされる。
・任務中にフィーアとともに行動
・場面ごとのリアクション要員として登場
・物語内での大きな転機は無いが、騎士団の空気を象徴する存在

クェンティン

第四魔物騎士団の団長であり、フィーアと共に戦場に赴く経験を持つ。硬派な姿勢を崩さないが、内に情を秘めている。
・サザランド編では目立った出番は少ない
・過去作でフィーアに信頼を寄せた描写がある
・今後の展開で再登場が予想される人物

ファビアン・ワイナー

王宮所属の官僚であり、情報収集と交渉事に長けた実務家である。表立った行動は少ないが、王国の意向を背後で支える役目を果たしている。
・王都と現場の橋渡し役として間接的に登場
・過去にフィーアと関わりを持ち、信頼を得ている
・サザランド編では現地に同行はしていないが、政治背景に影響を持つ立場である

オルガ

フィーアの身の回りを世話する女性。穏やかで母性的な性格を持ち、時に天然なフィーアの行動にツッコミを入れる存在でもある。
・フィーアの行動を日常的に支える
・旅や任務の補佐役として随行
・騎士団内部の女性関係や調整役として機能している

サヴィス・ナーヴ

王国の王子であり、冷徹な政治的判断を下す立場にある。フィーアに対して複雑な感情を抱いているが、それを表に出すことは少ない。
・王族としての義務を全うしながらも、フィーアを観察する姿勢を取る
・サザランドへの直接関与はないが、王国の対応に影響を与える存在である
・今後の展開で再びフィーアと関わることが予感される

デズモンド・ローナン

騎士団に所属する戦士であり、質実剛健な性格の持ち主。命令に忠実で、感情よりも任務を優先する傾向にある。
・サザランドへの同行はなかったが、以前の戦闘でフィーアに接している
・騎士団の規律を体現する存在として描写されている
・今後の集団戦描写において再登場が期待される

イーノック

古参の騎士であり、かつて大聖女に仕えていた過去を持つとされる人物。フィーアの言動に時折懐かしさを感じる様子を見せる。
・過去と現在をつなぐ証言者のような立ち位置にある
・サザランド編では目立った行動はない
・記憶と経験をもとに、今後の鍵となる可能性がある

カーティス・バニスター

第十三騎士団の副団長であり、実直かつ忠義に厚い性格である。部下思いの一面と、理知的な判断力を併せ持つ人物である。
・第十三騎士団において部隊の指揮を担当
・離島任務においてフィーアと共に行動し、現地の民との調整を図った
・実務面での支援と、騎士団の規律維持に貢献した

ラデク

離島に住む青年であり、外界からの訪問者に対して警戒心を抱いていた人物である。次第にフィーアに信頼を寄せるようになった。
・離島の民の代表的立場として登場
・過去の出来事から中央に対して反発心を持っていた
・フィーアの振る舞いに心を開き、村と外部との橋渡しを果たした

ブルー=サファイア

かつて大聖女に仕えていた青盾騎士団の一人であり、冷静沈着な性格である。現在はフィーアの存在に反応を示している。
・300年前の時代から再登場した重要キャラクター
・セラフィーナ(前世のフィーア)に忠誠を誓っていた
・現代のフィーアに対しても感情を抑えきれない描写がなされている

チェーザレ・ルビノー

赤盾近衛騎士団の現団長であり、王国軍の精鋭である。礼儀正しく、政治的判断にも長けた実力者である。
・赤盾騎士団を率いてシリウス王子の命令に従って行動
・離島任務ではフィーアの行動を注視していた
・後の展開で騎士団の方針を左右する鍵となる存在である

レッド=ルビー

赤盾騎士団に所属する戦士であり、かつてセラフィーナに仕えていた一人である。激情的な性格と忠誠心を併せ持つ。
・ブルー同様、セラフィーナの忠臣として復帰
・現代のフィーアに対しても守護者としての態度を崩さなかった
・騎士団内では突出した戦闘力を誇る

セラフィーナ

フィーアの前世であり、伝説の大聖女として語られる存在である。慈悲深くも孤高の振る舞いを貫いた人物である。
・300年前に世界を救い、命を落としたとされている
・物語では過去の記憶として断片的に回想される
・その言葉や行動が現代のフィーアの振る舞いと重なり、物語に影響を与えている

カノープス

かつての大聖女の護衛騎士であり、フィーアが訪れた領地のかつての主である。堅物だが信念のある人物として描かれる。
・シリル団長の過去と深く関わっている
・領地サザランドの反乱とその後の影響を残している
・フィーアの再訪に対する民の反応に関与している存在である

ベガ第一王子

アルテアガ帝国の王族であり、外交上の要職にある。高圧的な態度をとることもあるが、その背景には政治的な思惑がある。
・書き下ろし短編にて登場
・帝国の威信を体現する存在として描かれた
・フィーアと対峙する場面では意外な反応を見せた

シリウス・ユリシーズ

かつての黒騎士と目される存在であり、現代においては謎多き人物である。感情を抑えた中に強い意志を秘めている。
・物語終盤にて登場し、フィーアとの因縁を暗示
・国旗の色に関連する過去と接点が示唆されている
・彼の存在が物語全体の真相に関わる可能性を持つ

シャウラ

精霊の一種であり、意識を持った存在である。フィーアの力に反応を示すが、その真意は明かされていない。
・精霊信仰の象徴的存在として描写された
・フィーアの正体に対する鍵となる存在である
・登場シーンは短いが、今後の展開に重要な影響を及ぼすと考えられる

サルガス

王国の高位貴族であり、政治に深く関与する人物である。保守的な思想を持ち、フィーアに対して疑念を抱いている。
・アルドリッジ侯とともに議会の一翼を担う
・精霊や旧大聖女に対する見解が描かれている
・騎士団と対立する可能性を秘めている

アルドリッジ侯爵

王国の重鎮であり、貴族階級における発言力を持つ存在である。伝統を重んじる保守派として描かれている。
・王都の議会に所属し、権力構造に深く関与していた
・フィーアの言動に対して警戒心を持ち、監視を試みた
・一連の騒動により政治的立場に揺らぎが生じた

子どもたち

第十三騎士団が関与した村落や離島の住民であり、物語における純粋な存在として描かれている。フィーアとの交流が物語に温かみを加えていた。
・騎士団との接触により物語の重要な要素となった
・精霊や旧大聖女に関する信仰に無垢な反応を示した
・フィーアの存在を通して変化を見せた

第十三騎士団の団員たち

カーティスの配下として秩序を守るべく活動する騎士たちである。規律正しく、任務に忠実な性格が強調されていた。
・離島任務にて戦力および管理の役割を担った
・フィーアの言動に困惑しながらも従った
・現地民との摩擦の仲介に携わった

赤盾近衛騎士団

王家直属の精鋭騎士団であり、王国の威信を担う存在である。忠誠心と戦闘力を兼ね備えた組織として描写された。
・チェーザレ・ルビノーの指揮下で行動
・セラフィーナを知る騎士の再来を中心に構成される
・離島の精霊信仰と大聖女の真実に深く関わった

離島の民

精霊信仰を守り続ける孤立した村落の住民たちである。中央との接触を拒みながらも、フィーアの存在によって心を開いた。
・過去の迫害から中央権力に不信感を抱いていた
・フィーアの言動が前世の大聖女と一致したことで彼女を受け入れた
・村の信仰と歴史が物語の核に迫る鍵となった

バルビゼ公爵家

物語の終盤にて言及された高位貴族の家系である。王国の政治構造や大聖女にまつわる隠された歴史に関与していた。
・精霊の意志や国旗の由来に関わる伝承を担っていた
・物語の舞台であるアルテアガ帝国との関係性を示唆
・今後の伏線として登場し、続巻への接続点を構成していた

展開まとめ

【SIDE】騎士団総長サヴィス  ~始まりの風とともに ~

髪の色と国旗の一致

フィーアと偶然すれ違った総長は、彼女の赤い髪に目を奪われ、そのまま彼女を連れ城の最上階のバルコニーに案内した。バルコニーからは王都を一望でき、総長とフィーアは共にこの景色を「守るべきもの」として見つめた。風にたなびく彼女の髪と、黒竜を描いた赤いナーヴ王国の国旗が重なり合い、両者は全く同じ色に見えた。

「大聖女の赤」の由来

総長は、その色が単なる赤ではなく、「大聖女の赤」と呼ばれる特別な色であることを思い出した。300年前、ナーヴ王国の国旗は大聖女の髪の色に合わせて変更され、この色を再現するために国中の染色職人が苦闘したと伝えられていた。最終的に一人の職人が再現に成功し、それ以降「大聖女の赤」は一子相伝の技術として守られてきた。

偶然と無自覚

フィーアの髪がその「大聖女の赤」と完全に一致することに驚いた総長は、彼女に染色の意図や自覚がないことに愕然とした。しかも彼女はその赤を「よくある色」と認識しており、その希少性に気づいていなかった。総長は、聖女の力を持たないフィーアにこの色が現れたことが奇跡的な偶然だと考えた。

伝説の再来の可能性

フィーアは「金の瞳」も持ち合わせており、これはかつての大聖女と完全に同じ特徴である。総長は、聖女の力を持たないことがかえって幸運であったと考えた。もし力を有していたら、国民から偶像視され、自由を失っていたかもしれない。

天然な受け答えと希望

総長はフィーアの無邪気な受け答えに内心でため息をつきつつも、彼女の存在がこの国の未来にとって明るい希望であると感じた。彼女の髪を染めないよう助言し、彼女が昔からその色だったことを確認した。フィーアは景色を見せてもらった礼を述べて去り、総長はその背中を見送りながら、国の繁栄を信じて歩を進めた。

25  第一騎士団復帰

第一騎士団への帰還と報告

黒竜探索任務からの帰還と第一騎士団への復帰

フィーアは黒竜探索から戻り、第一騎士団へ復帰した。久しぶりに団長であるシリルの顔を見て、帰属意識を実感した。宴席での出来事を思い出せず、任務報告をしていないと感じていたが、実際にはザカリーとクェンティンが代わりに報告していた。

自身の評価と反省の交錯

シリルはフィーアを労い、その活躍を他の団長たちから高く評価されたと伝えた。しかしフィーアは、自分には活躍した記憶がなく、自身の役立たなさを思い返して落ち込んだ。

ザビリアとの別れと喪失感

ぬくもりを失った日常と喪失の実感

ザビリアとの別れが現実となり、フィーアは深い寂しさを感じていた。ザビリアの無事を願いつつも、不安は尽きなかった。

シリル団長との友情成立(?)

シリルはフィーアの落ち込みを慰めようとし、自身と友人関係を結んだと主張した。酔った勢いで同意したか否かは不明なまま、フィーアは押し切られる形で友人としての関係を受け入れた。

思い出の地への同行要請

友人としての同行依頼と驚きの地名

シリルは「思い出の地」としてサザランドへの同行を求めた。フィーアは軽い訪問だと思い承諾したが、サザランドは前世で自分が仕えた「青騎士」の領地であった。

青騎士の伝承と禁色“赤”の象徴

国旗の変遷や「青騎士」「白騎士」の伝統が廃れたことを知り、フィーアは時代の流れを感じた。さらに、赤色が「大聖女の色」として禁色とされていたことに驚いた。

サザランド訪問の真相

かつての仲間の末路と遅すぎる祈り

シリルが「青騎士」の子孫でないこと、領地が王家に返還された後に父が再度拝領したことが明かされた。フィーアは、かつての仲間が平穏であったことを願いながら、墓参を決意した。

公的行事としての訪問と名代の真相

ファビアンとの会話で、シリルとの訪問が王弟サヴィスの名代としての公的任務であることを知る。フィーアはその重大さに動揺し、軽い旅ではなかったことを悟った。

騎士団と王族の思惑

サザランドの過去と国家的な儀式

サザランドは10年前に「サザランドの嘆き」と呼ばれる戦場となり、以降は毎年王族が追悼のため訪れていた。今回、シリルが名代を務めるのはその一環であった。

総長サヴィスの登場と意味深な呼び出し

最後にフィーアはサヴィス総長から呼び出しを受け、公的な役目の一端として扱われていることを実感するに至った。

サヴィス総長との会話とサザランド派遣の決定

デズモンド団長への“思わせぶりな態度”の試行

フィーアはシリル団長の助言に基づき、第四魔物騎士団での自衛手段として“思わせぶりな態度”を訓練していた。その成果をデズモンド団長相手に試した結果、従魔の強さを過剰に誤解させることに成功した。デズモンドは極度の恐怖を示し、フィーアに対して過剰な配慮を見せた。これにより、彼女は訓練の有効性を確認した。

黒盾棟と大聖女の肖像画への反応

フィーアはサヴィス総長の執務棟である黒盾棟を初めて訪れ、大聖女時代の自画像に動揺した。肖像画は300年前から飾られており、初代黒竜騎士団総長の命により恒久設置されたものであった。彼女は自分が過去に尊敬されていたことに驚き、過去と現在の評価の差に混乱した。

サザランドへの派遣任務とその意義

サヴィス総長は、10年前に内乱があったサザランドへの視察をフィーアに命じた。その地では大聖女信仰が根強く、彼女の髪と瞳が大聖女セラフィーナと同じであるため、強烈な反応を引き起こす可能性があった。フィーアには「騎士ではなく公平な立場」で事実を観察するよう求められた。彼女は困惑しつつも、総長の意志に従って同行を決意した。

大聖女セラフィーナの評価と過去の自覚

自らの存在が唯一の“大聖女”である事実の判明

フィーアはシリル団長との会話から、大聖女の称号を得たのが自分ひとりであったことを知り驚いた。当初は過去の自分が特別扱いされる理由に疑問を持っていたが、「唯一無二」の存在であるとされることに対して困惑と責任を感じるようになった。

前世の歴史と王家のつながりに関する疑問

彼女は大聖女の末裔がナーヴ王家を興したとする歴史書の記述に疑問を抱いた。自身の知識と一致しない点が多く、歴史の改変や意図的な美化の可能性を意識し始める。王家の血筋や伝承が、彼女の過去とどう結びつくのか、未解明の謎として残った。

前世の記憶と“青騎士”との再会

護衛騎士カノープスとの思い出の夢

その夜、フィーアは初めて前世の夢を見た。夢の中で彼女は、かつての忠臣であった護衛騎士カノープスと再会した。彼は彼女の無鉄砲な行動を叱責しつつも、深い忠誠と敬意を示した。カノープスの領地を無理に訪問した過去の出来事が回想され、夢の中での温かい歓迎の記憶がよみがえった。フィーアは、彼に代わって300年後の領地の様子を見届けることを誓った。

自分の過去と向き合い始める兆し

この一連の出来事を通じ、フィーアは前世とのつながりを改めて意識し始めた。現世では“普通の騎士”として生きることを望みつつも、過去の因縁や期待が彼女の周囲に影響を与え続けている現実に直面し、心の在り方にも変化の兆しが生まれていた。

26  サザランド訪問 1

サザランドへの出発と旅の描写

訪問団の構成と目的

フィーアは第一騎士団の一員として、王国南端のサザランドへ向かう訪問団に参加した。今回の旅は、若手騎士に歴史を学ばせる目的もあり、同行するシリル団長は王弟の名代として貴族服を纏い、騎士団と文官合わせて100名規模の大行軍であった。

道中の雰囲気と子どもたちの歓迎

旅の途中、子どもたちが騎士団に花輪を投げるなど歓迎する姿が見られ、フィーアも陽気に応じた。しかしサザランドに近づくにつれ、住民たちの反応は冷淡になり、無言で頭を下げるのみとなった。

サザランド到着と第十三騎士団との対面

第十三騎士団との合流と団長の人物像

サザランドの館に到着した一行は、現地を管轄する第十三騎士団と対面した。団長のカーティス・バニスターは、外見は文官のように温厚で控えめな印象を持ち、騎士団長としては異質な存在であった。

フィーアへの誤認とシリルの素性の判明

カーティスはフィーアを故人の公爵夫人と誤認し、これによりフィーアはシリル団長が公爵であると知る。シリルは前王の弟の子で、王族籍を捨てた後にこの地を与えられたことが明かされた。

サザランドの過去と住民の敵意

10年前の「サザランドの嘆き」

10年前、先代の公爵夫人が事故死した際、住民が積極的に救助を行わなかったとして処罰された。これに激昂した公爵は騎士を率いて住民を襲撃し、多数の死者を出した。この事件は未だに住民との間に深い溝を残していた。

王家の対応と住民の不満

国は事件後、王族を慰問に送り、形式的な和解を進めてきたが、住民の心情は回復せず、公爵家への不信と怒りは根強く残っていた。フィーアは住民たちの穏やかな気質を思い出し、その耐える姿勢に感銘を受けた。

騎士団と住民たちの関係性

カーティス団長の過去と信頼

カーティスは第一騎士団出身で、かつてこの地への慰問に同行していた経験があり、住民たちから比較的受け入れられていた。そのため、3年前に第十三騎士団長に抜擢された経緯がある。

子どもたちの反応と領主への警戒心

海辺でフィーアと子どもたちが戯れていた際、シリルとカーティスが現れると、子どもたちは一転して逃げ去った。住民たちは今なお騎士や領主に強い警戒心を抱いている様子が見て取れた。

フィーアへの依頼と決意

シリルからの友人としての依頼

シリルはフィーアに、赤い髪が持つ象徴性を用いて住民との関係改善の橋渡しになってほしいと懇願した。赤髪は伝説の大聖女を想起させるが、一方で過去の悲劇も想起させるため、住民にとって複雑な象徴でもあった。

フィーアの決意と協力

フィーアはシリルの誠実さと、住民たちとの和解を望む強い意志に心を動かされ、その役割を引き受ける決意を示した。危険も伴う可能性を理解したうえで、彼女は「何かを変えられる存在になりたい」と願いを新たにした。

慰問先での街歩きと住民たちの反応

街での買い物と髪色への偏見

フィーアは慰問先のサザランドの街を訪れ、団長たちと共に買い物を楽しんでいた。しかし彼女の赤い髪は住民に不吉な印象を与え、露骨な拒絶反応を受けた。シリル団長が懸念していた通り、赤い髪にまつわる過去の出来事が地域に影を落としていた。

子どもとの交流と突発的な事件の発生

街中での買い物中、フィーアは助けを求める子どもと遭遇した。子どもたちは森で魔物に襲われていた。住民たちは騎士を頼ることを躊躇い、過去の不信感が根強く残っていることが浮き彫りとなった。

魔物との戦闘と圧倒的な実力の証明

バジリスクとの交戦と団長たちの奮戦

森の入口付近に出現したバジリスク2体を、シリル団長らが迎撃した。フィーアは子どもの保護を任されたが、3人の団長たちは魔物に対して的確かつ迅速な連携を見せ、特にシリル団長は剣術と風魔法を駆使して1体を単独で討伐した。その圧倒的な技量は、フィーアをして魔物の脅威を感じさせないほどであった。

住民の誤解と団長の対応

救出後、住民たちは騎士団に対して理不尽な糾弾を行った。10年前の事件が原因で騎士や領主に不信を抱いており、助けられた事実よりも過去の怒りが先行していた。シリル団長は怒ることなく、住民の感情を受け止めてその場を収めた。

騎士団長の内面と夜の対話

感情を押し殺すシリル団長の苦悩

フィーアは夜中に目を覚まし、酒を取りに行くシリル団長と遭遇した。団長はこの時期になると眠れず、酒の力を借りていた。団長にとっては、両親の命日でもあり、住民からの不信も重なって心を痛めていた。

母との思い出と静かな夜

フィーアは団長の母親について尋ねた。シリル団長は静かに応じ、彼女の赤い髪が母と同じ色であることを語った。赤い髪はかつての大聖女、そしてシリル団長の母の象徴でもあり、敬意と哀惜が入り混じった複雑な思いを抱えていた。

【SIDE】第一騎士団長シリル

母との確執と聖女への認識の変化

母の美しさと疎外感

主人公シリルは、赤髪の美しい母を誇りに思いながらも、幼少期から乳母に育てられ、母との接点は希薄であった。5歳の誕生日に初めて両親と食事を共にしたが、弟を欲しいという無邪気な願いが母の怒りを買い、激しい拒絶と否定の言葉を受けることとなった。そこで彼は初めて、母からの愛情が存在しないことを痛感した。

母の過去と家庭の構造的歪み

母は本来、王妃となるべき聖女だったが、年齢差ゆえに王妃の座を姉に奪われ、王弟である父と結婚することになった。この経緯が母の心に深い傷を残し、家庭における精神的な支配構造を生んだ。父は聖女としての母に引け目を感じ、夫というよりも盾として彼女を支える存在であり続けた。

住民への偏見と孤立の始まり

母は離島出身者を徹底的に蔑視し、聖女としての治癒の力を彼らに向けることはほとんどなかった。その一方で、遠方から訪れる貴族には時折気まぐれに施術を行っていた。住民たちは母の冷遇に耐えながらも、聖女としての存在を敬い続けた。

大聖女の象徴を切り倒す行為と民意の断絶

公爵家の庭にあった大木は、300年前に大聖女が植えたものとして村人に大切にされていた。だが、母はその木を大聖女の象徴と知るや否や切り倒し、家具に加工させて自身のために使用した。これにより住民の信頼は完全に失われ、母との間には決定的な断絶が生じた。

聖女の傲慢と死、そして父の狂気

ある日、母が崖で薬草採取を指示していた最中、住民に支えられることを拒絶し、強風で崖から転落。その死を知った父は激怒し、住民たちに対して報復として討伐を命じた。二日間の争いの末、父も命を落とし、抗争は終結した。

フィーアとの対話と心の変化

聖女観の転換

騎士であるフィーアは、聖女とは「職業の一つ」であり、能力によって選ばれる存在に過ぎないと考えていた。それに対し、シリルは聖女が神に選ばれた存在であり、地位と身分により行動が制限されると感じていた。だが、フィーアの「もし自分が聖女でも同じ発言をする」という真っ直ぐな姿勢が、シリルの心に変化をもたらした。

心の救済とフィーアの存在意義

フィーアの飾らない言葉と態度に、シリルは心を解かれていく。彼女とのやりとりの中で、過去の苦しみや母との確執によって濁った心が浄化されていく感覚を得た。聖女の力が人を癒すように、フィーアは言葉と存在で人を救っていた。

未来への希望と冗談めいた対話

最後に交わされた軽妙なやりとりは、フィーアの人間味とシリルの心の回復を象徴するものであった。笑い合う彼らの姿は、物語の陰鬱な過去と対比的に、未来への光を感じさせた。フィーアの存在は、確かに聖女に匹敵する価値を持っていたのである。

27  サザランド訪問 2

カノープスの墓を探す試み

過去の護衛騎士との絆と探索の困難

フィーアは前世の護衛騎士カノープスの墓を訪ねようとしたが、長い時間を費やしても発見できなかった。自身の思い込みと記憶への自信に揺らぎが生じ、墓の所在が不明なまま疲労と困惑を募らせた。

シリル団長との対話と葛藤

自責の念と領主としての苦悩の吐露

フィーアは海辺でシリル団長と再会し、団長は自らの家系と10年前の事件の因果を引き受けるべきか葛藤していた。住民の感情に寄り添えず、領主としての資質を疑う彼の姿に、フィーアは自身の過去と重ね合わせながら静かに励ました。

過去への理解と前進への意志

フィーアは前世の兄たちの裏切りについて理解できないまま受け入れ、自身も解けない問いに囚われず生きる決意を語った。シリル団長もその言葉に感化され、自分なりに尽くす覚悟を新たにした。

大聖女訪問を記念する祭礼の準備と驚き

準備と伝承の誤認

フィーアは住民たちの祭りの準備に参加し、大聖女の記念行事に国旗が掲げられている理由を知った。また、自身が伝説と化していることを実感し、過去の伝承に大きな誤差があることを再認識した。

大聖女伝説の誤解と滑稽さ

祭礼の舞で住民の一人から踊りの主題を尋ねられたフィーアは「イルカ」と答え、それが伝説と一致してしまったために大騒動となった。過去の言動が偶然にも語り継がれていたことが、誤解を助長する結果となった。

住民たちとの接触と「蘇り信仰」の顕在化

魂の蘇りへの信仰と錯誤

離島の民の族長ラデクはフィーアの振る舞いや知識を根拠に、彼女を大聖女の「魂の蘇り」と信じた。族長は過去の恩義からその存在を待ち望んでいたと語り、フィーアに受け入れを求めた。

状況の悪化と“本物”扱いの波紋

フィーアは誤魔化すつもりで大聖女の護衛騎士カノープスの名を出した結果、信憑性が爆発的に高まり、住民たちの反応が過熱した。カーティス団長はこれを利用して、騎士団と住民との和解の糸口と捉えたが、フィーア自身は困惑しきりであった。

訓練の日々と実力の露呈

フィーアは第一騎士団の一員として日々の訓練に励んでいた。上官の前では目立たぬよう努力していたが、魔物討伐の場で騎士団員たちを指揮し、結果的にその実力を露呈することとなった。彼女の行動は周囲に驚きをもたらしたが、本人はあくまで自然体を装っていた。

新たな任務とチーム結成

黒竜の痕跡が見つかった「星降の森」への調査任務が下され、フィーアはクェンティン率いる第四魔物騎士団に加わることになった。団員との関係構築を試みる中で、彼女の言動や判断力が信頼を集め、チームの一体感を高めていった。

ザビリアの過去と魔族の襲撃

星降の森での任務中、かつての聖女に関わる記憶を持つザビリアの過去が明かされた。彼は前世でフィーアを裏切った人物であり、その贖罪の思いを胸に共闘していた。突如襲来した魔族との交戦でフィーアはその力を発揮し、状況を打開した。

黒竜との再会と新たな従魔

森の奥で再び黒竜と遭遇したフィーアは、かつて従えたその存在との意思疎通を図った。過去の記憶を重ねつつ、黒竜は再び彼女に従う意志を示し、強力な仲間として再契約が成立した。この出来事は団員たちに深い衝撃を与えた。

団員たちとの絆と帰還

帰還後、任務の成功とフィーアの活躍により、第四魔物騎士団との関係はより良好なものとなった。クェンティンをはじめとする隊員たちは、彼女の正体に気づきながらも尊重の意を示し、信頼を築いていった。

【SIDE】護衛騎士カノープス( 300年前)

疑念と不安に揺れる第一騎士団

戦力差への自覚と焦り
第一騎士団では、若手とベテランの間に力量差が存在し、それを実感した団員たちは動揺していた。フィーアの異常な力もまた不安要素として映り、団内の雰囲気は微妙な緊張を帯びていた。

フィーアの決意と研鑽
フィーアは自分が異端であることを理解しつつも、騎士としての自覚を強めていった。訓練や模擬戦を通じて周囲に馴染もうとする姿勢を見せたが、無自覚な力の発露が逆に注目を集めてしまった。

「星降の森」遠征と黒竜の痕跡

黒竜の気配と調査命令
第四魔物騎士団長クェンティンの帰還により、「星降の森」に黒竜の痕跡があることが判明した。騎士団には調査と討伐の任務が与えられ、緊張感が高まった。

遠征準備と部隊編成
フィーアを含む一行は、複数の部隊に分かれて森の奥深くへ進軍した。過去のトラウマや不安を抱える者もいたが、それぞれが役割を果たすべく行動を開始した。

森の深部で明かされる真実

ザビリアの過去と孤独
調査中、ザビリアの過去が語られた。彼はかつて差別や迫害を受けながらも、第四騎士団長としての誇りを胸に生きてきた。フィーアとの出会いは、彼の心に変化をもたらした。

魔物との戦闘と連携の深化
森で遭遇した強力な魔物との戦闘では、団員たちが連携を発揮し、成長した姿を見せた。フィーアの支援も功を奏し、複数の部隊が戦果を挙げた。

黒竜の正体とフィーアの選択

従魔としての黒竜との再会
ついに黒竜と遭遇したフィーアは、前世の記憶と重なる存在を目の前にし、過去との向き合いを迫られた。黒竜は敵ではなく、従魔としての忠誠を誓った存在であった。

真実の開示と団員の覚悟
フィーアが一部の真実を明かしたことで、団員たちは混乱しつつも彼女の人柄と実力を認め、信頼を深めていった。騎士団の中に新たな絆が形成され始めていた。

28  サザランド訪問 3

カーティス団長との対峙と誤解の解消

カーティス団長が倒れた際、フィーアは周囲に気づかれないようにして治癒を行った。だが、団長が倒れた原因について、護衛役たちはフィーアを守るための正当な防衛行為だと主張した。彼らはフィーアの髪色や行動から、彼女を大聖女の転生者と確信し、地面に膝をついて謝罪した。これに対し、復活した団長が激怒し、彼らの無礼を厳しく糾弾した。

団長の変貌と前世の記憶との重なり

カーティス団長の態度は一変し、その存在から滲み出る威圧感は以前のものとは異なっていた。フィーアはその違和感の中に既視感を覚え、団長が前世での知己ではないかと疑念を抱いた。彼の仕草や表情に既視感を重ねる中で、かつての忠義の騎士カノープスの面影を強く感じ取った。

前世の記憶と確信、再会の涙

カーティス団長が剣を収める動作を見た瞬間、フィーアは彼の正体がカノープスであると直感した。思わず彼の墓の所在を問うと、団長は魔王城の隣にあると答えた。その返答を受けたフィーアは涙をこぼし、彼の名を呼びかけることで確信を深めた。

カノープスとの再会と忠誠の継続

カノープスは困惑しつつも、変わらぬ忠義心を見せ、丁寧にフィーアの涙を拭う仕草を見せた。フィーアはその変わらない姿に安堵し、彼が戻ってきてくれたことに深く感謝した。カノープスもまた、真剣な表情でそれに応じた。

過去と現在を結ぶ絆

300年前に失われたはずの絆が、ふたたび形を取り始めていた。カノープスはフィーアの傍らに再び仕えることとなり、その存在は彼女にとって心強い支えとなった。彼の不器用ながらも誠実な行動は、フィーアの心を強く打ち、涙を誘うには十分であった。

サザランド訪問事後報告( 300年前)

ベガ第一王子との対峙と謝罪

無断行動への糾弾と謝罪の表明
セラフィーナは王国最高会議の決定を無視してサザランドを訪れたことにより、ベガ第一王子から厳しい叱責を受けた。彼女は自らの非を認め、王女としての威厳を保ちつつも、頭を下げて謝罪を行った。

嫌味の応酬と沈黙の選択
ベガ王子は彼女を貶めるため、あえて侮辱的な言葉を繰り返した。セラフィーナはあくまで穏便に収めるため、無益な反論を控えた。一方、忠義心の厚い騎士カノープスは主君をかばおうとして口を開きかけたが、セラフィーナが制止した。

近衛騎士団長シリウスの介入

突如の来訪と強引な救済
シリウス・ユリシーズ団長が王子の執務室に無遠慮に踏み入り、セラフィーナをかばう言動に出た。彼は王子の言動を非難し、強く主張を展開した。

討伐成功の真相と王子の誤算
シリウスは、セラフィーナの代わりにバルビゼ公爵夫人が魔物討伐を完遂したことを明かし、最高会議の決定が誤りであったと断言した。それにより、王子の非が浮き彫りとなり、謝罪の必要性を突きつけた。

セラフィーナとシリウスの私的な交流

優しさと忠義の表出
シリウスはセラフィーナの頬に触れ、彼女の真意を理解していたことをほのめかした。彼は王国の権力構造においても、セラフィーナの苦悩を慮りつつ支える姿勢を崩さなかった。

慰めと信頼の再確認
二人の会話には親しみと信頼がにじんでおり、セラフィーナは帰還後に真っ先に彼に会えなかったことを詫びた。シリウスは変わらぬ忠誠と保護の意思を伝え、彼女を励ました。

事後の余韻と内省

討伐成功の真の立役者
バルビゼ公領での成功は、シリウスが率いた赤盾近衛騎士団の働きによるものであった。セラフィーナはそれを後から知り、彼の行動に内心で感謝しつつも、恋人ができない理由を彼の存在に求める自嘲を交えて語った。

アデラの花と未来への思い
サザランドから届いた子どもたちの手紙に、セラフィーナは笑顔を見せた。アデラの木が咲く十年後、再び訪れる未来に思いを馳せ、次はシリウスと共に行く決意を胸に刻んだ。

【挿話】バルビゼ公領での魔物討伐( 300年前)

青竜討伐の任務とシャウラの決断

討伐任務の中止と公爵家の混乱

バルビゼ公爵家は「大聖女による魔物討伐」の直前、中止を知らされ混乱に陥った。代わりに現れたのは女官と騎士のみであり、肝心の大聖女は不在であった。公爵家の人々が動揺するなか、唯一冷静だったのは元第一王女にして公爵夫人のシャウラであった。

討伐任務の引き受けと覚悟

シャウラは大聖女からの手紙と土産を受け取り、自ら討伐を引き受けることを決意した。討伐対象はSランク魔物である青竜であり、討伐は危険を伴うものだったが、シャウラは迷いなく応接室で準備を進めた。

赤盾近衛騎士団の登場と協力

シリウス・ユリシーズの登場

討伐前日、王国最強の部隊「赤盾近衛騎士団」がシャウラのもとに到着した。団長シリウス・ユリシーズが自ら率いており、彼の登場は周囲に衝撃を与えた。シリウスはシャウラの能力を確認するため、いきなり自らの肩を刺し、治癒魔法の実力を試した。

シャウラの回復魔法の発動

シャウラは精霊の助力を受け、「裂傷回復」の魔法で即座にシリウスの傷を癒やした。その一連のやり取りにより、明日の戦いに向けた信頼関係が構築された。

青竜との交戦と戦場での統率

討伐部隊の編成と出発

翌日、バルビゼ公爵夫妻、赤盾近衛騎士団30名、公爵領の騎士30名、補助の聖女たちが討伐へと向かった。貴族たちも見学のため同行し、戦闘は洞窟の外で行われることとなった。

青竜との激戦と剣技の冴え

見張り役の青竜の叫びで3頭の仲間が現れ、計4頭の青竜が出現した。騎士団の魔導士は火属性の魔法を駆使し、炎の渦で竜を包みながら攻撃を開始した。シリウスは冷静に一歩ずつ前進し、竜の鱗を正確に貫いて攻撃を重ねた。

シャウラの戦場支援と治癒

戦闘中、何人かの騎士は負傷したが、シャウラは迅速に回復魔法を施し、全員が戦列に復帰した。この連携により、4頭の青竜は見事に討伐され、討伐作戦は成功裏に終わった。

討伐後の反響と騎士団の帰還

貴族たちの称賛と宴の不在

討伐の見事さに貴族たちは大いに感動し、騎士たちとシャウラを称賛した。特に、シャウラが唯一の回復役として活躍したことが称えられた。だが、赤盾近衛騎士団は晩餐会を辞退し、即座に王城へ帰還した。

絨毯の返礼とシャウラの決意

後日、公爵家にシリウスから高価な絨毯が届いた。討伐前に応接室で自傷した際、絨毯を血で汚してしまったことへの謝罪であった。公爵夫人シャウラはこの礼儀に感銘を受け、王城への訪問を決意した。公爵はその表情に不穏を感じながらも、彼女の決意に逆らえず、ただ善い出来事であるよう願うばかりであった。

【SIDE】アルテアガ帝国皇弟ブルー =サファイア  ~ Side Arteaga Empire ~

女神探索団の結成と出発

侍従長の提案とブルーの潜入
侍従長が提案した「創生の女神の足跡を追う任務」に、ブルー=サファイアは自ら探索団へこっそり加わった。探索団長は、忠誠心の厚い騎士団総長チェーザレ・ルビノーであった。

帝国の兄妹たちの関係性
出発の際、兄レッド=ルビーは隠密行動に加わろうとして失敗し、ブルーは改めて兄の立場とチェーザレの配慮を再認識した。

女神探索の進展と困難

情報収集の難航と失望
探索は森から始まり、冒険者組合、各地の町や村へと拡大したが、有力な情報は一つも得られなかった。ブルーは侍従長の意図に気づき、自身の感情の整理を迫られた。

フィーアへの執着と信念
ブルーは、フィーアが女神であると信じ、彼女に見出された過去を振り返った。呪いに苦しむ兄たちを癒し、役割を与えてくれた存在として、彼女を探すことを諦められなかった。

騎士団総長チェーザレとの対話

忠義と恩義に生きる騎士の苦悩
チェーザレは帝国に仕え続ける理由を語り、主君たちに報いたいという真摯な想いを明かした。ブルーは彼の性格に理解を示しつつ、話し方の堅さに苦言を呈した。

フィーアとの出会いの回想と意義
ブルーは、兄たちと自分が傍流に生まれ、国の中枢に関われなかった過去を語った。フィーアが彼らを受け入れたことこそが、今の力と地位をもたらしたと語り、彼女が人生の転機であったと明言した。

フィーアの手掛かりと確信

ルード家での邂逅
探索団はルード騎士家にたどり着き、そこで赤髪金瞳の少女フィーアの存在を知った。家族の肖像画には、確かにフィーアの姿があり、ブルーは涙を浮かべて歓喜した。

フィーアの成人と手作り品
予想外にフィーアはすでに成人しており、ルード家には彼女の奇抜な手作り作品が保存されていた。それらはブルーにとってかけがえのない宝物に見えた。

フィーアの婚約と再出発

肖像画と剣の交換
チェーザレは騎士としての義務を果たすべく、国宝級の剣と引き換えにフィーアの肖像画を譲り受けた。それは婚約者としての贈り物としても意識されたものである。

王都への決意と再出発
ブルーはフィーアの存在を確信し、王都へ向かうことを宣言した。探索期限が迫る中、彼の胸には女神に再会したいという強い想いが満ちていた。チェーザレもまた、その決意に黙して従った。

【SIDE】憲兵司令官デズモンド「フィーアに関する大聖女報告を受領する」

転生と記憶の覚醒

フィーア・ルードは、魔物との戦いで致命傷を負った瞬間、前世の記憶を思い出した。かつて大聖女と呼ばれていた彼女は、魔王の封印後に仲間たちに見捨てられ、魔族に捕らえられて処刑された過去を持っていた。そのため再び聖女として目立つことを避け、今世では騎士として生きる決意を固めていた。

騎士団への入団と力の露見

フィーアは騎士家の娘として第一騎士団への入団試験に臨んだが、兄たちの嫉妬心から容赦ない攻撃を受けた。自身の生命を守るため大聖女としての力を一部発動した結果、その力の片鱗を見せることとなった。最終的に最上位の第一騎士団への配属が決定され、王都の訓練生活が始まった。

王都での日常とトラブル

騎士団での任務に励む傍ら、フィーアは度重なる事件を引き起こした。従魔の黒竜との契約、泉の水を全て回復薬に変えてしまうなど、常識を超えた力を持て余していた。本人は騎士として慎ましく生きようとしていたが、そのたびに彼女の異常な力が表面化してしまっていた。

遠征と黒竜の影

第四騎士団長クェンティンの帰還により、「星降の森」で黒竜の目撃情報が持ち込まれた。フィーアは調査のための遠征に参加し、その過程でザビリアの過去が明かされた。彼の壮絶な過去と現在の葛藤が描かれ、フィーアの周囲に新たな緊張感が生まれた。

大聖女としての認定と混乱

サザランドの地でフィーアは住民から「大聖女の生まれ変わり」と認定され、事態は急変した。憲兵司令官デズモンドは報告を受け混乱し、現地領主であるシリルの対応を問題視した。一方、フィーア自身はその事実を知らぬまま日常を過ごしていた。

騎士団内の人間関係と混乱

騎士団内部では、フィーアの無意識な言動が他者に波紋を広げていた。第二騎士団長デズモンドは、自ら投げたインク壺が第六騎士団長ザカリーに直撃したことで関係が悪化した。ザカリーは怒りを抱えつつも冷静に応対し、デズモンドに責任を突き付けた。

結末と波紋の残響

最終的に、デズモンドはザカリーとの対話によって「大事な話」を受けることになり、その意味を身をもって体験した。フィーアの存在は周囲にさまざまな影響を与え続け、彼女を巡る状況は騎士団全体に混乱と笑いをもたらしていた。

特別書き下ろし  【 SIDEカノープス】カノープスの失恋祭( 300年前)

護衛初日の苦難と仲間との祝宴

護衛騎士任命と文官たちの反発

カノープスは、第二王女セラフィーナの護衛騎士に任命され、その初日を迎えた。手続きと説明で夜遅くまで拘束され、文官たちからは平民の護衛任命に対する不満と嫌味を繰り返し聞かされた。だが、その背後にはセラフィーナを思う強い忠誠心があり、自らも共通の目的を持つ者として彼らと協力できると感じていた。

騎士寮での誤解と仲間の驚き

疲労困憊で帰寮したカノープスを待っていたのは、仲間の騎士たちによる予想外のサプライズであった。彼らは失恋を慰めるために集まり、酒やつまみを用意していた。護衛任命を知らなかった彼らは誤解し、慰めの宴を開いていたのである。

任命証明と誤解の解消

カノープスが任命の証として与えられた剣を示すと、仲間たちは事実を受け入れ、驚きと賞賛の声を上げた。特に、平民が王女の護衛に選ばれるという前代未聞の事態に感嘆し、その功績を称えた。

仲間との祝杯と深い感謝

騎士たちはカノープスを讃え、深夜にまで及ぶ祝宴が開かれた。その中でカノープスは、自身の任命を支えてくれた仲間たちと笑い合いながら、改めてセラフィーナへの忠誠と感謝の思いを深めた。

翌日の後悔と自省

しかし翌日、深酒がたたり体中にアルコールの匂いをまとわせたままセラフィーナに接したことで、彼女から「面白い匂い」と評される失態を犯した。これによりカノープスは、自らが王女に相応しい護衛騎士となるには、まだ未熟であると痛感した。護衛初日は、喜びと反省の両方を刻む出来事となった。

電子書籍特典  【 SIDEアルドリッジ侯爵家サルガス】第二王女護衛騎士内定者のため息と微笑み( 300年前)

護衛騎士への選定と心情の変遷

王女の護衛選定における失意

サルガスはアルドリッジ侯爵家出身で、第二騎士団副団長という地位にあり、王女セラフィーナの護衛騎士に選ばれることを期待されていた。しかし、選ばれたのは、血統や出自において劣ると見なされる離島出身の平民の騎士であった。この結果により、彼は自らの無力さを痛感し、落胆の中に沈んだ。

近衛騎士団への抜擢と再起

数年後、セラフィーナの近衛騎士団長であるシリウスから声がかかり、サルガスは赤盾近衛騎士団に加わることとなった。この異動は極めて迅速に行われ、彼は翌日には赤い騎士服を纏い、王女の傍に控える立場となった。以前の所属での手続きや引継ぎも一切なく、シリウスの計らいによってすべてが整えられていた。

青騎士カノープスとの対比と感情の解放

さらに年月が経ち、『青騎士』に選ばれたカノープスが赤い騎士服を脱ぎ、青い騎士服を着用するよう命じられた。その姿を見たサルガスは、自らが長年抱えていた劣等感や悔しさに気づき、そしてそれが消えていくのを感じた。自身が赤い騎士服を着用している現在の状況が、内面のわだかまりを解き放ったのである。

主君との関係と誇り

サルガスの微笑みを見たセラフィーナが声をかける場面では、彼が主君を守ることへの誇りと喜びを再確認していた。彼は、選ばれた主君に仕えるという稀有な幸運を得たことを実感し、その幸せに満ちた心を表情ににじませていた。一方、セラフィーナにはその深い感情は十分に伝わらなかったものの、サルガスにとっては満ち足りた瞬間であった。

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その他フィクション

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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