小説「私の心はおじさんである 1」感想・ネタバレ

小説「私の心はおじさんである 1」感想・ネタバレ

Table of Contents

物語の概要

ジャンル:異世界転生ファンタジー・ヒューマンドラマである。孤独な中年サラリーマンが異世界で美少女ダークエルフとして生まれ変わり、自らの心と向き合いながら成長する物語である 。

内容紹介
43歳の山岸遥は感情表現が苦手な孤独なサラリーマンであったが、ある日目を覚ますとそこは異世界であり、かつ美少女ダークエルフになっていた。圧倒的な魔力と頑丈な身体を得たものの、中身は依然として内向的なおじさんであり、同期の冒険者たちとのぎこちない交流を通じて、“心”をゆっくり成長させていく姿が描かれる。

主要キャラクター

  • 山岸 遥(ハルカ):43歳の中年サラリーマンであり、本作の主人公。異世界に美少女エルフとして転生したが、その心はおじさんのまま。人間関係に不器用な性格から冒険者として少しずつ自身の心の在り方を変え始める存在である 。

物語の特徴

本作は転生先で“見た目”と“中身”のギャップをユーモアと共感をもって描く点に魅力がある。チート能力を得ながらも臆病で人付き合いに消極的な主人公が、少しずつ心を開いていく姿は、異世界ファンタジーとヒューマンドラマが調和した唯一無二の成長物語である 。

書籍情報

私の心はおじさんである 1
著者:嶋野夕陽 氏
イラスト:NAJI柳田  氏
出版社:主婦と生活社PASH! ブックス
発売日:2023年06月02日
ISBN:978-4-391-15967-7

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あらすじ・内容

最強美少女ダークエルフになったけど…無双なんてできません!

友人、恋人、家族もいない孤独なサラリーマン山岸遥(43)。感情を表に出すのが苦手で、人と付き合うことを避ける内に、枯れたおじさんになっていた。
しかし、ある日目を覚ますと、美しいダークエルフの女性になっていた⁉︎
内気な性格のハルカは、鋼の肉体、圧倒的な魔法力を持ちながらもウジウジウジウジ。
そんな彼女(彼)だったが、二回り以上歳の離れた同期冒険者たちとパーティーを組み、徐々に異世界に順応し始める––
人間関係を諦めたおじさんが、新しい自分として異世界で心を成長させていく、歪だけど王道な冒険の物語が幕を開ける!

私の心はおじさんである 1

感想

友人や恋人、家族もいない孤独なサラリーマンが、ひょんなことからダークエルフの女性に転生してしまうという、奇想天外な物語である。主人公の山岸遥、通称ハルカは、内気な性格のまま、鋼の肉体と圧倒的な魔法力を手に入れる。しかし、最強種に生まれ変わっても無双するわけではなく、相変わらずウジウジと悩む姿が、なんとも人間味にあふれていて面白い。

物語の始まりは、まさに衝撃的だ。いきなりおじさんが、銀髪で褐色肌、肉感的なダークエルフの美女になってしまうのだから。戸惑うハルカは、右も左もわからない異世界で、冒険者として生きていくことを決意する。そこで出会うのが、二回りも年下の同期たちだ。彼らとパーティーを組むことで、ハルカは徐々に異世界に順応していく。

この作品は、ただの異世界転生ものではない。現代社会で擦り切れてしまったおじさんが、年下の仲間たちと触れ合うことで、愛情を知り、我を出すことを覚え、子供心を再び取り戻していく、そんな「おじさんの心」の救済と成長の物語なのだ。

タイトルにもあるように、この作品は、流行りの異世界転生ものに、アンチテーゼを投げかけているようにも感じる。最強の力を持つ主人公が、無双するのではなく、むしろその力に戸惑い、悩み、成長していく姿は、読者の共感を呼ぶだろう。

この物語は、戦いや魔法といったファンタジー要素だけでなく、人間関係の描写も丁寧に描かれている。ハルカが仲間たちと出会い、絆を深めていく過程は、読者の心を揺さぶるだろう。

『私の心はおじさんである 1』は、異世界転生という舞台設定でありながら、現代社会を生きる私たちにも共感できるテーマが込められている。それは、年齢や性別に関係なく、人はいつからでも成長できるということだ。この作品を読むことで、読者はきっと、新しい自分を見つける勇気をもらえるだろう。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ハルカ・ヤマギシ

異世界に転移した元中年男性で、若いダークエルフの女性の姿となった存在である。自分の意見を言うことが苦手で、他人を優先しがちな性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 詠唱や名告げなしで強力な魔法を行使し、タイラントボア討伐など多数の依頼を成功させた。仲間とパーティを組み、護衛や遠征任務でも成果を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 登録から短期間で五級、さらに四級冒険者へ昇級し、周囲から高い評価を受けるも、自身の力や立場に不安を抱いている。

コリン

商人の娘で、計算に長けたしっかり者である。徒手格闘と弓を扱い、方向感覚が極端に弱い。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦闘や金銭管理、遠征での行動管理などで仲間を支えた。ホーンボアや狼型魔物の討伐に弓で貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 活動を通じて五級冒険者に昇級し、パーティの安定運営に不可欠な役割を担っている。

アルベルト・カレッジ

元冒険者の父に憧れて冒険者になった少年である。喧嘩っ早いが素直な面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 剣技を駆使して戦闘に貢献し、タイラントボア討伐や護衛任務で活躍した。仲間との衝突や和解を経て関係を深めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 活動の中で六級から五級へ昇級し、成人を迎えた。仲間との信頼関係を維持しつつ成長している。

モンタナ・マルトー

獣人族の少年で、鍛冶師の家に育った。実年齢より幼く見えるが高い戦闘力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 短剣術や高い索敵能力で戦闘に貢献し、交渉や人間関係構築にも優れた対応を見せた。露店でのアクセサリー販売も行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 活動を通じて五級へ昇級し、仲間内外で信頼を得ている。鍛冶と宝石加工の技術を持ち、将来の夢として生みの親探しを掲げている。

冒険者ギルド関係者

ラルフ=ヴォーガン

弁舌と機転、知識を武器に活動する二級冒険者である。魔法や身体強化は不得手だが、危険回避能力に優れる。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。二級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 湖畔でハルカと遭遇し、街まで案内した。街での宿や装備の世話をし、冒険者制度や周辺国の情報を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 女性関係で評価が分かれるが、経験豊富な冒険者として一定の信頼を得ている。

エリ=ヒットスタン

三級冒険者で、講師役を務める魔法使いである。女性だけのクラン所属。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。三級冒険者。クラン【金色の翼】メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 新人講習でハルカに注意や助言を与え、宿舎移動や資金面での支援を申し出た。魔法運用の目立ちすぎに対して忠告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 講師として新人育成に関与し、ハルカの友人として交流を深めた。

トット

二十歳の四級冒険者で、粗野な言動が目立つ青年である。

・所属組織、地位や役職
 オランズの冒険者ギルド所属。四級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 当初ハルカに敵対的に接したが、魔法の力を目の当たりにして態度を改め、以後は「姐さん」と呼び付き従った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 行動を共にする仲間3人とともにハルカへの態度を一変させた。

クラン【金色の翼】

ヴィーチェ=ヴァレーリ

金髪ツインドリルの女性で、一級冒険者。クラン【金色の翼】のマスターである。

・所属組織、地位や役職
 クラン【金色の翼】マスター。一級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハルカに加入を勧誘し、妬みへの対処や安全面の助言を行った。食事へ同行しつつ、身体的接触を伴う行動も見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 高位冒険者として名声を持ち、美人好きとしても知られている。

商業・宗教関係者

コーディ

使節団の荷物管理兼地竜世話役である男性。

・所属組織、地位や役職
 オラクル教渉外担当部所属。使節団の荷物管理担当。
・物語内での具体的な行動や成果
 遠征護衛依頼の依頼人として、護衛メンバーに説明と指示を行った。ダークエルフへの偏見に配慮し、ハルカに対して敬意を持った対応をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 依頼人として護衛隊をまとめる役割を担い、神聖国レジオンへの外交任務に参加した。

神殿騎士団関係者

デクト

神聖国レジオン所属の神殿騎士団のリーダー。

・所属組織、地位や役職
 神聖国レジオン・神殿騎士団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 遠征中の戦闘指揮を執り、後衛や非戦闘員の安全確保を指示した。襲撃後には負傷確認や死骸の処理を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冷静な判断で護衛部隊を指揮し、信頼を得ている。

神学院関係者

レオ

神学院の双子兄弟の兄で、十三歳の魔法使い。

・所属組織、地位や役職
 神学院生徒。飛び級卒業予定。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハルカの魔法に興味を示し、基礎指導を申し出た。戦闘では高精度の魔法を放ち、後衛を守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 旅を通じてハルカたちと交流を深め、距離を縮めた。

テオ

レオの双子の弟で、十三歳の魔法使い。

・所属組織、地位や役職
 神学院生徒。飛び級卒業予定。
・物語内での具体的な行動や成果
 当初は無愛想だったが、モンタナとの交流で態度を和らげた。戦闘後にはハルカへ辛辣な評価を述べた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 兄と共に護衛隊の一員として戦闘に参加した。

展開まとめ

<私の心はおじさんである>

おじさんの異変と新たな姿
四十代半ばの中間管理職で、独身のくたびれた男性であったが、目覚めると体の不調が消え、女性の身体になっていた。胸の重みや腹部の軽さ、そして耳の尖った姿から、自分がエルフに変わっていることを確認した。湖面に映る姿は銀髪の美しいダークエルフであり、年齢は二十歳前後に見えた。さらに声も低めの女性の美声に変わっていた。

見知らぬ森での状況確認
周囲は日本ではなく森であり、鳥の鳴き声や花の香りが漂っていた。近くには切り株や焚火の跡があり、人の存在が推測されたが、人影はなかった。当選は食料確保の必要性を感じつつ、最初に出会う人物が親切であることを願った。

火の魔法の実験
ファンタジー世界である可能性を意識し、当選は火の魔法の使用を試みた。湖に向けて杖代わりの棒を構え、炎を想像して発動すると、湖面から巨大な炎が立ち上り、水を煮立たせ魚を浮かせた。魔法の力は強大であったが、何を消費しているのかは不明であった。

予期せぬ遭遇
魔法の後、水蒸気が漂う中で振り返ると、剣を構えた一人の男が立っているのを目にした。

<最初の街>

一、ファーストコンタクト

湖畔に向かう冒険者ラルフ
ラルフ=ヴォーガンは、魔法も身体強化も不得手ながら二級冒険者にまで登り詰めた人物である。彼は弁舌、機転、知識、勘の鋭さ、周到な準備を強みとし、危険回避能力に優れていた。整った容姿と柔和な雰囲気から女性にも人気があり、依頼を終えた後は酒や女性、そして人里離れた湖畔での休養をルーティンとしていた。この日も半日かけて湖に向かうが、胸騒ぎを覚え、第六感が何かの異変を告げていた。

湖畔で目撃した異質な存在
茂みから湖畔を覗くと、そこには見知らぬダークエルフの女性がいた。だらしない服装で灰をあさっていたが、表情は凛としていた。北方大陸ではエルフの森から外に出る者は稀で、ダークエルフは南方最南端にしかいないとされており、この地での遭遇は異例であった。彼女が湖に棒を向けた瞬間、ラルフは吐き気を催すほどの魔素の流れを感知し、強い危機感を覚える。

圧倒的な魔素と恐怖
呪文を唱えた直後、圧力が霧散したため、ラルフは剣を抜き警戒した。しかし再び魔素の波が襲い、体が硬直し震え出す。湖と空を焦がす炎は規模こそ大きくなかったが、流動する魔素の存在そのものが恐怖の源であった。

対峙する二人
炎の後、ダークエルフはゆっくりと振り返り、紅い瞳でラルフを見据えた。その姿は恐ろしくも、同時に今まで見た中で最も美しく妖艶であった。

二、その男は変態か紳士か

緊迫する対峙
見知らぬ青年が剣を構えて立ち塞がり、山岸は冷静を装いつつも恐怖を覚えた。相手は二十代ほどの整った顔立ちで、顔を赤らめて興奮している様子であった。湖を荒らしたことで激怒した管理者と誤解し、最悪の場合は殺されると考えた山岸は、逃げずに交渉を試みつつ、必要であれば火の魔法で逃走の時間を稼ぐ準備を整えた。

予想外の失態と態度の変化
観察を続けると、青年の足元に水たまりが広がり、失禁していることに気づく。山岸は相手の尊厳を守るため視線を逸らし、着替えを勧めた。やがて青年は剣を納め、清潔な服装で戻り、言葉が通じることが判明した。ラルフ=ヴォーガンと名乗る彼は、オランズの街を拠点とする二級冒険者であった。

名乗りと情報交換
山岸は元の自分の存在や体の正体に思いを巡らせた末、仮にこの体が自分のものだと想定して「ヤマギシ」と名乗り、魔法の試射を謝罪した。ラルフは土地の所有権はなく、独立商業都市国家プレイヌの領地であると説明した。山岸はこの世界の知識を持たないため、記憶喪失を装って街までの案内を依頼したところ、ラルフは快く了承し、必要な説明も約束した。

関係の改善
山岸は誠実な対応に安堵し、初対面での剣を向けられた印象を引きずりながらも、事態が穏やかに進展し始めたことに胸をなでおろした。

三、知識の整理

街への到着とラルフの厚意
日没頃、山岸はラルフに案内されて街オランズへ到着した。慣れない森道で時間がかかったが、若い女性の体であったため疲労は少なかった。街に着くとラルフは靴や宿、一人部屋まで用意してくれた。

都市と周辺国の情報
オランズは【独立商業都市国家プレイヌ】に属し、商人組合と冒険者ギルドの合議で統治される自由度の高い国であった。西には宗教国家【神聖国レジオン】、北に【ディセント王国】、南に軍事国家【ドットハルト公国】がある。

冒険者制度と階級
冒険者は十級から始まり、一級の上に特級が存在する。特級は国を滅ぼす力を持つ者など伝説的存在で、国は彼らに権威と特権を与え、管理下に置いていた。実質的な最高位は一級であり、特級との接触は避けるべきとされた。

魔法の基礎知識と自分の特異性
魔法は世界に満ちる魔素を操作し、詠唱と魔法名の宣言で発動するのが一般的であった。ラルフは魔法を使えないが知識は豊富であった。山岸の魔法は詠唱も名告げもなく発動しており、これがラルフに高位の魔法使いと誤解させた可能性があるため、今後は詠唱のふりをすることにした。

新たな意欲と自己認識
知識を貪欲に吸収しようとする自分に久しぶりに気づき、元の世界への執着が薄いことを自覚した。これまで無気力に生きてきた人生が小さく感じられ、わずかな悲しみを覚えた。

四、慣れない

目覚めと宿の寝具
翌朝、山岸は前日の沈んだ気分が晴れ、宿の木製ベッドで目覚めた。乾いた植物を包んだ敷布団は繊維が少し刺さる感触があったが、慣れると快適で、十年以上使い続けていた自宅の煎餅布団よりも快適であった。若い体の軽さを改めて実感しつつ、朝食を取るため階下へ向かった。

朝食と人目
ロビーには多くの宿泊客がいたが、珍しいダークエルフの姿に視線を向けられ、居心地の悪さを感じた山岸は朝食を部屋に持ち帰った。黒パンと具沢山のスープは硬さと香りに癖があったが、スープに浸すと食べやすくなり、十分に満足できる内容であった。

不適切な服装への指摘
食後、ラルフが迎えに訪れた。空の食器を持って扉を開けた山岸に対し、ラルフは上着を羽織るよう助言し、食器を持って去った。自室に戻った山岸は、自分がランニングシャツ一枚で歩き回っていたことに気づき、人々の視線はダークエルフへの興味ではなく、その格好によるものだったと理解した。今後は不用意に人前へ出ないよう心に決めた。

五、街の様子

街歩きと盗難未遂
山岸はラルフと共に晴れた街を歩くが、珍しいダークエルフの姿や浮いた服装のため注目を集めた。生活水準の差が見える街並みを眺めていると、少年たちが駆け抜け、その一人が山岸の手帳を盗む。ラルフが捕まえて返却し、スリは女性を狙いやすく、貧しい子供の収入源となっていると説明した。

街の治安と現実感
雑踏の表向きは平和だが、裏には厳しい社会が存在し、子供ですら危険な行為に関わっていた。山岸は、現実感のないまま過ごしてきた転移後の生活に、徐々に生々しい現実を感じ始める。

ラルフの親切の理由
冒険者ギルドに入る前、山岸はラルフに親切の理由を尋ねた。ラルフは直感で縁を大事にすべきと感じたと答えるが、最終的には初対面時に山岸の魔法を見て惹かれたと告白し、いつか格好いいと思われたいと語った。山岸は期待を持たせないよう釘を刺しつつも、彼の親切を素直に受け入れた。

<冒険者ギルド>

一、受付

ギルドの様子と登録制度
オランズの冒険者ギルドは、冒険者や依頼者、職員で賑わい、食堂や消耗品店、宿泊施設まで備えた大型施設であった。裏には広い訓練場もあり、都市と国の方針によって設備は変動する。冒険者登録に資格審査はなく、名前と年齢、登録料を支払えばドッグタグが発行され、誰でもなれる仕組みであった。低級冒険者の多くは戦闘を行わず、日雇い労働や知識を活かした仕事を担っていた。

年齢記入のやり取り
登録用紙を記入する際、山岸は性別を女性に丸を付けるも、年齢で迷う。受付の女性に年齢を尋ねてしまい気まずくなるが、ラルフのフォローで事情が伝わり、彼女は資料からダークエルフの成人年齢を調べ、十七歳と書くよう助言した。

手厚い案内と今後の予定
登録料はラルフが支払い、夕方にはドッグタグが完成する予定となった。また昼過ぎには新人講習会が開かれること、資料室が自由に使えることを案内された。山岸は一日をギルドで過ごすことに決め、ラルフに礼を述べて単独行動を申し出る。ラルフは宿を一週間分確保していることを告げて去り、山岸は恩を受けたまま資料室へ向かった。

二、はじまりの日

資料室での学習
山岸は資料室を訪れ、商業通貨と国発行通貨の違いや価値、物価感覚などをまとめた本、そして魔法の基礎を図解した本を読み、必要な情報を手帳に記録した。魔法書は高名な魔法使いによるもので、内容はわかりやすく整理されており、山岸は少し高揚感を覚えたが、未だ異世界生活に慣れていないことを自覚し、気持ちを落ち着けた。

研修室での待機と参加者たち
鐘の音で講習会の時間を知った山岸は研修室へ向かうが、最初は無人だったため不安を覚える。やがて、獣人の少年が入室し、石を削る作業を始める。続いて茶髪の少年と赤茶髪のお団子頭の少女が到着し、活発な会話を交わしながら山岸と獣人の少年の隣に座った。三人は山岸を「珍しい新人」「ダークエルフ」と噂し、興味を示していた。

講師との再会
教室が賑わい始めた頃、講師役の青髪の少女が入室した。彼女は山岸の顔を見るなり「あ」と声を漏らし、山岸も今朝ロビーで痴女のような格好をしていた際に見られた相手であると気づき、互いに認識が一致した。

三、お誘い

講習と世界情勢の説明
エリ=ヒットスタンと名乗る三級冒険者の講師が、冒険者の心得、依頼の種類、そして種族の区分について説明した。人間・獣人・ドワーフ・小人・エルフは協力可能な【人】とされ、小鬼族・吸血鬼・巨人族・人魚・リザードマンなどは【破壊者】として敵視される存在だった。北方大陸にも巨人族の国や混沌領と呼ばれる危険地帯が存在し、冒険者は魔物や賊などとも戦う必要があることが語られた。

同期との交流
講習後、登録同期のアルベルトとコリンが山岸と獣人の少年モンタナに声をかけ、机を寄せて交流を持ちかけた。アルベルトは元冒険者の父を持つ十四歳で剣を扱い、コリンは幼馴染として彼を支えている少女だった。モンタナはドワーフの養子で短剣使い、血縁の両親を探す旅を夢見ていた。山岸は争いごとが苦手と自己紹介し、場に加わった。

パーティーへの勧誘
会話の末、アルベルトとコリンはモンタナと山岸をパーティーに誘った。モンタナは即答で了承し、山岸は慎重な性格から迷いを見せつつも、魔法が使えると知った二人の期待に押され、「一晩考える」と返答した。胸の高鳴りを自覚しながらも、現実的な生活計画との間で揺れ、結論を先送りにした。

四、観察と実験

訓練場での魔法観察と試行
山岸はギルドの訓練場で魔法使いたちの動きを観察し、呪文詠唱から発動までの手順を確認した。一般的な魔法は数発で休憩を挟み、「魔素酔い」という頭痛を避けていた。山岸は自ら的に向かい、教本通りの呪文でファイアアローを放つことに成功。その後もウィンドカッター、ウォーターボール、ストーンバレットを次々に発動し、五十発以上放っても魔素酔いは現れなかった。

魔法運用の分析
他の魔法使いは命中精度の確保に苦労しており、山岸は自身の初発動時のように視線先で炎を生じさせる方法が命中率向上に有効と考えた。ただし、目立つことを避けるため実戦投入は保留した。

訓練終了と予期せぬ呼び出し
空腹を感じて訓練場を後にしようとした際、今日の講師エリが出口で待ち構えていた。理由も告げず「ご飯を奢る」と言い、返事を待たずに歩き出す。山岸は処罰の予感に怯えつつも、食事の誘いを受け入れ、後に続いた。

五、忠告

食事の誘いと会話のきっかけ
エリは講習後にハルカを食堂へ誘い、軽食と薄紫色の酒を共にした。会話の中で、朝にラルフと一緒に宿を出ていたことを確認し、ラルフの女癖や女性関係のトラブル歴を理由に注意を促した。また、ハルカが珍しいダークエルフであることや、冒険者としては場違いな高級宿に泊まっていることに触れ、その理由を尋ねた。

宿の移動と金銭問題の提案
ハルカがラルフから金を借りて宿代を支払っていると聞いたエリは、高額な宿からギルド宿舎への移動を勧め、自らキャンセル手続きと返金を引き受けると申し出た。さらに、必要であれば一時的に資金を貸す提案も行い、その理由として、女性だけのチーム所属や友人がラルフに泣かされた過去を挙げた。

親交と忠告
会話の中でハルカとエリは名前で呼び合う仲となり、友人としての距離を縮めた。エリは訓練場での魔法連射が噂になっていると注意し、目立たぬよう振る舞う必要性を説いた。また、冒険者として活動するなら自分のクランへの加入も提案したが、ハルカが同期からパーティーに誘われていると知ると、その選択を尊重した。

自己評価への助言
ハルカが自分は仲間に不釣り合いではないかと不安を漏らすと、エリは美貌や魔法能力、落ち着いた性格を評価し、「釣り合う努力をするべきなのは相手の方だ」と励ました。最後に「死なないよう気をつけろ」と忠告し、冗談ではなく本気でチームに勧誘したことを伝えた。

六、洗礼

ギルド内の賑わいと宿舎申込み
ハルカはギルド内を巡った後、宿舎申込みのため受付に戻った。朝よりも人が増え、荒くれ者や無遠慮な視線も目立ち、容姿を隠す服の必要性を感じた。申込みを終えた後、エリに礼を述べると、エリはチーム加入を念押しし、友人としての交流を提案した。

依頼ボードへの興味と別行動
エリの同行申し出を断り、一人で依頼ボードを見に向かった。人混みを抜けて到着すると、金髪ツインドリルの女性に胸元へ衝突され、不可解な行動を取られるが被害はなかった。依頼内容を見ながら仲間候補の存在を想像し、気持ちを引き締めた。

絡まれるハルカ
大柄な男性たちからラルフの女と揶揄され、性的なからかいを受ける。否定しても取り合われず、挑発を避けながらやり過ごそうとするが、肩を掴まれ、周囲の冒険者も見て見ぬふりをして孤立する。

路地裏での危機
男性たちに外へ連れ出され、性的暴行をほのめかされる。美人の女性としての危険を自覚し、抵抗の意思を示すも笑われる。相手を傷つけず打開するため、訓練で習得したウォーターボール魔法を応用し、水球を男たちの頭部に留めて呼吸を妨害した。

危機の回避と自己嫌悪
男たちは30秒ほどでもがいた末に気絶。殺害の可能性を恐れ魔法を解除し、自己嫌悪に陥る。そこへ駆けつけたエリが安否を確認し、男たちは無事だと告げると、ハルカの手を引きその場を離れた。

七、苛立ちと後悔

トットの苛立ちと劣等感
トットは幼馴染の女性が、密かに恋心を抱いていたにもかかわらず、ことあるごとにラルフの話ばかりすることに苛立っていた。自身の実力はラルフと大差ないと思っていたが、階級差を理由に見下され、酒で不快感を紛らわす日々を送っていた。二十歳で四級冒険者として活動する中、想い人から評価されず、劣等感を募らせていた。

美しいダークエルフとの遭遇
ギルドで仲間と再会したトットは、酒席でラルフが美しいダークエルフと親しくしていた話を聞く。やがて依頼ボード前に立つハルカを見かけ、一瞬見惚れながらも苛立ちを募らせ、彼女に絡みに行く。挑発的に接するも、動じない態度に後に引けず、外へ連れ出すが、抵抗も助けも呼ばれないため、侮られたと感じて怒りを増幅させた。

魔法の脅威と後悔
仲間と共に脅すつもりだったが、ハルカが詠唱したウォーターボールが四つ同時に発動したことに戦慄する。特級冒険者級の所業に驚きながら水に溺れ、意識を失う。薄れる意識の中で、自分が手を出してはいけない相手だったと痛感した。

救助と誤解
ハルカはエリと共に戻り、男たちに水を吐かせて介抱した。トットは目覚めた際、謝罪の言葉を脅迫的な意味に誤解し、恐怖から土下座して許しを請う。ハルカは拍子抜けしつつ場を離れ、エリは面白がって誤解を解かなかった。

舎弟化と後悔
その日以降、トットら四人は「姐さん」と呼びハルカに付き従うようになった。ハルカは迷惑に感じ、やめて欲しいとやんわり伝えるも効果はなく、食堂で囲まれる日々に羞恥を覚え、水を吐かせに戻ったことを少しだけ後悔した。

八、結成

朝の目覚めと心境
鐘の音と聞き慣れない鳥の声で目覚めたハルカは、異世界での日常に少しずつ慣れつつも元の世界を思い出し、戻れないことへの寂しさを感じていた。軽快に体を起こせる新しい身体に満足しつつ、昨日の出来事を思い返す。夕食はトットたちに奢られたが、エリは不満げで、特にトット以外の三人は反省が見られなかった。冒険者同士の関係はこの程度の距離感が良いのかもしれないと考えつつ休んだ。

宿舎の様子と準備
宿舎は質素な四畳半ほどの部屋で、洗濯物用の紐がある程度。服や胸の揺れの問題をどうにかしたいと考えながら、まずはアルベルトたちに会うため食堂へ向かうことにした。携帯電話がない不便さを感じつつ、食堂で待てば会えるだろうと判断した。

仲間との再会
食堂でモンタナを見つけ挨拶。彼は目を開けたまま寝る特性があるらしく、会話を交わしながら朝食を取った。やがてコリンと寝癖のアルベルトが現れ、三人はハルカの返答を待つ。

パーティ結成
ハルカは彼らのパーティに加えてほしいと申し出る。三人は即座に快諾し、和やかな雰囲気に包まれる。ハルカは仲間と共に冒険できることへの期待を高め、依頼ボードを見に行くことを提案。全員が楽しそうに賛同し、依頼探しに向かう準備を始めた。

九、集合

依頼ボードへ向かう途中の遭遇
アルベルトが興奮気味に依頼ボードへ先行し、ハルカも後を追う途中、受付脇で不機嫌なラルフとエリに出会う。二人は険悪な雰囲気のまま、ハルカのファミリーネームを話題にして言い争っていた。ハルカは状況を見て、自分が昨日説明を怠ったことが原因だと悟る。

謝罪と自己反省
ハルカはラルフに向かって深く頭を下げ、宿を出た理由や、エリへの負担を避けたかったことを説明しつつ、親切に甘えすぎた自身の非を認めた。ラルフとエリは怒っていないと庇うが、ハルカはそれを受け入れず、責任ある大人として恥ずべき行為だったと断言する。

乱入する四人組
そこへ昨日知り合ったトット、デニス、ドミニク、ローマンの四人が現れ、状況を誤解してラルフに詰め寄る。デニスたちは「制裁」などと口走り、場が一気に混乱する。トットは必死に仲間を制止するが収拾はつかず、さらにアルベルトまで加わって騒ぎが拡大した。

受付の一喝と移動
混乱の最中、受付の女性が鋭い口調で「受付前で騒がれると邪魔」と一喝。全員が顔を見合わせ、逆らわずにギルドの端へ移動することとなった。ハルカは彼女を少し怖く、しかし格好良いと感じた。

+、プレゼント

服の贈り物と感謝
場所を移した後、デニスがハルカに替えの服を贈る。昨日「服がない」と話したことを覚えての行動であり、麻色のパンツ、紺色のチュニック二着、黒いフード付きローブが入っていた。目立つジャージ姿を解消できるため、ハルカは感謝して受け取る。トットを含む四人組は頭を下げて渡し、ハルカは後輩を思わせる姿に微笑ましさを感じた。

ラルフとトットの火花
ラルフが四人組に昨日の件を尋ねると、トットが反発し、エリもラルフを牽制する発言をする。ハルカは喧嘩を避けるため話題を自分に戻し、ラルフの気遣いに礼を述べる。ラルフは渋々納得し、依頼を一緒に受けようと提案するが、ハルカはすでに他パーティで活動予定のため断る必要があった。

エリからの贈り物とクランマスターの存在
エリが肌着を渡し、その背後に金髪ツインドリルの少女が立っている。彼女はクラン【金色の翼】のマスターで一級冒険者であり、美人好きだとエリは忠告する。ハルカは危険を感じつつも、彼女の実力の高さを理解する。

ラルフの退場と周囲の反応
ラルフは最終的に「何かあったら頼ってほしい」と告げて立ち去る。エリとトットは彼に否定的で、コリンはハルカを横取りされず安堵して抱きつく。ハルカは戸惑いながら、この世界や自身の身体にまだ慣れていないことを自覚した。

<閑話 山岸遥という男>

幼少期と孤独感の芽生え
山岸遥は共働きの両親のもとで育った。物質的には不自由なく過ごしたが、家で接する時間が限られており、愛情に飢えた子供だった。本や物語のヒーローに憧れ、正しい行いをすれば仲間ができると信じていた。しかし集団生活が始まると、自らの正義は同意を得られず、逆に煙たがられる存在となった。悩んだ末に両親へ相談しようとしたが、帰宅した母から叱責され、父からも「くだらない」と一蹴され、心を閉ざす契機となった。以降、反抗せず感情を抑えた「手のかからない子」になった。

高校時代の恋愛と再びの喪失
成長しても優等生であり続け、他人の顔色を読む術を身につけた。高校時代、明るく人気のある女子生徒に告白され交際を開始。彼女との日々は穏やかで幸せだったが、半年後「面白くない」「好きじゃないのでは」と責められ、否定する言葉を恐れて沈黙。そのまま関係は終わり、遥はさらに笑顔を失った。以降、人を傷つける可能性を避けるため、人との距離を広げた。

大学から社会人までの変化
大学ではゲームや物語に没頭。道筋が決まっており、誰も傷つけない世界に安らぎを見出した。孤独を好むと自己暗示し、過去の傷を忘れていった。就職後、両親が旅行中に事故死。葬儀後、独りになって涙を流し、自分が何かしてやれたのかと自問した。以降20年間、仕事と家での創作物消費だけの生活を送り、他人を傷つけないことを第一に生きた。

異世界での再出発
他者のために貧乏くじを引いても構わないという生き方を続けてきたが、異世界転移と肉体の変化により、過去の常識や人間関係がリセットされた。この状況で、心の奥に眠っていた少年の部分が蘇り始める。ハルカ=ヤマギシは、仏頂面で臆病だが善良なお人よしという性質を保ちながら、少しずつ山岸遥とは異なる人物へと変化しつつあった。

<討伐依頼>

一、冒険者ランク

下積みと冒険者評価制度
ハルカは冒険者登録から三ヶ月間、十級として土木作業や運搬などの雑用に従事し、日銭を稼ぎながら実績を積んでいた。冒険者の評価は依頼達成後に依頼者から付けられ、本人も結果を確認できるため、公平性が保たれていた。このシステムは努力が直接成果に反映されるため、前世で無意味に働き続けた経験を持つハルカにとって大きな励みとなっていた。

身体能力の異常と無意識の身体強化
ハルカは細身ながら疲れを感じず、重量物も容易に扱える自分の身体能力を若さのせいと思っていた。しかし仲間のエリから、無意識に「身体強化」を行っている可能性を指摘される。身体強化とは、魔素を体内に巡らせることで肉体性能を高める技術であり、本来は訓練や指導を経て身につけるものだった。ハルカはその仕組みを理解できないまま、現状を受け入れることにした。

高位冒険者と身体強化の関係
魔法使いを除く一流冒険者は高水準の身体強化を行うことが多いが、例外としてラルフ青年のように身体強化が苦手な者も存在する。そのため彼への評価は二分されていた。エリもかつては彼を尊敬していたが、女性関係での対応をきっかけに評価を下げたという。この出来事を通じ、ハルカは女性同士の人間関係の複雑さを認識し、自身も注意しようと考えた。

能力への理解不足と今後の課題
ハルカは、傷を負わない理由が肉体の硬化によるものではなく、肌は柔らかいままであることに不思議さを感じていた。魔素や魔法、身体強化の知識を学びたいと思いつつも、今は仕事や仲間との交流を優先し、学習の機会を先送りにしていた。

二、依頼ボード

器用な仕事ぶりと急速な昇級
ハルカは義務教育による計算能力、現場経験に基づく効率的作業法、部下への的確なフォローを活かし、多様な依頼を高水準でこなしていた。現場作業では騒がしい仲間たちや粗野な冒険者も彼女の指示に従い、作業速度は飛躍的に向上した。その結果、冒険者ランクは急上昇し、ついに<オランズ>最速で五級に到達。街の商人や親方からも高く評価され、経済的にも安定した生活を送っていた。

仲間との食堂でのやり取り
昇級を仲間に報告するため食堂へ向かったハルカは、コリンやモンタナから祝福を受ける一方、アルベルトの不満げな態度に直面する。アルベルトは「冒険がしたい」と雑用ばかりの日々に不満を爆発させるが、ハルカは五級冒険者と組めば上位依頼が受けられる制度を説明。これにより、アルベルトも七級討伐依頼に挑戦可能となり、彼は喜び勇んで依頼ボードへ向かった。モンタナも興味を示し、二人で依頼選びに走り出す。

依頼選定とホーンボア討伐
四人で依頼ボードを確認した結果、ユニコーン状の角を持つ猪型魔物・ホーンボアの討伐を選択。ハルカは事前に資料室で図鑑を調べ、生態や生息地(オランズ東方の斜陽の森)を把握した。

魔物の性質とギルドの役割
この世界には通常動物と、魔素を取り込んで進化した魔物が存在し、両者の交配も可能である。魔物は世代を経るごとに強化・凶暴化し、人里を襲う危険性を持つ。一方で、肉や皮、角は貴重な資源であり、冒険者ギルドは間引きや食肉確保を目的とした討伐依頼を常設していた。

オランズの地理と戦略的重要性
<オランズ>は独立商業都市国家プレイヌ最東端に位置し、東には資源豊かな斜陽の森、その奥に破壊者との戦いで生まれた「忘れ人の墓場」と呼ばれる荒野がある。さらに先にはアンデッドの森と破壊者の領域が広がり、この街は対破壊者・対アンデッドの最前線として冒険者の需要が高かった。

新たな挑戦への期待
部屋に戻ったハルカは、翌日からの本格的な討伐依頼を前に不安を感じつつも、訓練の成果を活かす機会と捉え、胸を高鳴らせて眠りについた。

三、はじめての獲物

早朝の出発と方向ミス
ハルカたちは人通りの少ない早朝に集合し、ホーンボア討伐へ出発した。常設依頼のため狩るほど報酬と評価が上がる条件に、アルベルトは意気込んで先導する。しかし彼が西門へ向かっていたことにハルカが気づき指摘すると、彼は気まずそうに引き返した。コリンも気づいていなかった様子で、モンタナは朝が弱く反応が鈍かった。以後、地図はハルカが持つことにした。

斜陽の森への道中
迷わず<斜陽の森>に到着した一行は、全員で行動しながら奥へ進んだ。伐採により見通しの良い森林は次第に草木が生い茂る道なき区域となり、獣道をたどる途中で耳が刃物状のキラーラビットを発見。モンタナは食用としても美味しいと説明し、武器を構えるが、魔物は逃走した。

巨大ホーンボアとの遭遇
その直後、背後から草をかき分ける音とともに巨大なホーンボアが出現。角や牙は危険で、体高はハルカの目線以上、幅は人の両腕ほどもある。アルベルトは驚愕し、モンタナは冷静に一時撤退を指示。ホーンボアは執拗に追跡し、ジグザグ走行で回避を試みた。

反撃の開始
モンタナは「大きな木に角を刺させる」作戦を提案し、実行に移す。角が木に刺さると、モンタナは後ろ足を斬りつけ、アルベルトも反対側の足を攻撃。コリンは矢で目を狙い、ハルカは首元への魔法攻撃を試みた。コリンの矢が命中し、ホーンボアが暴れる中で木が倒れ、首と体の間に隙間が生まれる。

討伐と余韻
ハルカの放った風の刃が首元を貫き、ホーンボアは倒木に頭を刺したまま絶命。大量の血が周囲を染め、仲間たちは驚きの声を漏らす。コリンは「魔法ってすごい」と呟き、ハルカも同感しつつ、自身が流血や痛みの描写に弱いことを改めて自覚した。

四、帰るまでが

巨大な獲物を前にした困惑
ハルカたちはタイラントボアを討伐したものの、その巨体の処理方法に困り果てていた。アルベルトは当初、複数頭狩って等級を上げると意気込んでいたが、この化け物のような猪を何頭も狩る気力は失われていた。コリンがからかう中、アルベルトは木に縛り付けて運ぶ案を出すが、ハルカは重量やバランスの問題から現実的ではないと判断する。

ベテラン冒険者の登場
思案中、【抜剣】のリーダー・アンドレが仲間を連れて現れ、倒れた獲物を見て驚愕する。彼はこれがホーンボアの進化種・タイラントボアであり、危険のため四級以下は近づくなと通達されていたことを告げた。緊急依頼対象であるこの魔物を新人たちだけで討伐したことに感心し、アルベルトの背を叩いて称賛した。

昇級への期待と仲間の喜び
アンドレから「五級くらいに上がる」と聞いたアルベルトは歓喜し、モンタナに抱きついて祝福を受ける。さらにハルカのもとへ駆け寄り、彼女は犬や子供のように頭を撫でて応じた。続いてコリンとモンタナも撫でられ、三人とも穏やかな表情を見せた。

帰路と昇級結果
アンドレは「帰るまでが依頼だ」と促し、ギルドへの報告と搬送用の増援手配を指示した。見張りを引き受けてくれる頼れる先輩に礼を述べ、一行は街へ急いだ。結果として、ハルカは四級、コリンとモンタナは五級に昇格したが、アルベルトは実績不足で六級止まりとなり、喜びと拗ねを同時に見せた。

五、朝方

タイラントボア討伐と収入
タイラントボア討伐は緊急依頼であり、高額の報酬が得られた。オランズでは木材加工が産業の一つであり、斜陽の森にこの魔物が出現すると経済に深刻な影響が及ぶためである。依頼発生直後に討伐できたのは幸運で、通常なら名声と素材売却益のみであった。得た収入により一行は休暇を楽しんでいた。

街での生活と食への探求
時間と資金に余裕ができたことで、筆者は街で珍しい食材や飲食店を探す日々を過ごしていた。日常の食事は簡素であったが、肉料理の工夫によりおいしい店も見つけていた。特にハンバーグの店を発見し、さらなる美食を求め飲食店街を巡っていた。街での装いはフード付きローブを主体とし、当初は目立たぬために着用していたが、現在は知人も増え馴染んでいた。最近は質の高いローブを贈られ、やや不気味さを感じつつも使用していた。

ヴィーチェとの再会と勧誘
朝市で果物を購入し休憩していたところ、クラン【金色の翼】のマスターである一級冒険者ヴィーチェ=ヴァレーリが現れた。彼女は筆者をつけ回す習性があり、過去にも度々行動を共にしていた。今回はクランへの加入を提案されるが、仲間との関係や加入条件から断った。ヴィーチェは拒否を予想していたが、急速な等級上昇による妬みの存在を忠告し、所属すれば支援できると述べた。

忠告と食事の誘い
忠告を受け感謝を述べた後、筆者はハンバーグ店を探していることを伝え、店の紹介を求めた。ヴィーチェは快く同行しつつ、筆者に身体的接触をして不快感を与えた。筆者は後悔しつつも、案内される店の料理を楽しみにしていた。

六、露店

モンタナの露店準備
宿舎へ戻る途中、モンタナが露店で自作のアクセサリーを販売することを知り同行した。露店区域の端に布を広げ、商品を整然と並べて開店したが、呼び込みはせずのんびりと過ごしていた。客は少なかったが、道行く人の視線に対しては尻尾や耳の動きで感情を示していた。

青年と初老の客
最初の客は緑色の石がはめられた指輪を熱心に見つめていた青年で、手持ちの銀貨を半分差し出し購入した。青年は明るい表情で去り、プロポーズ用と推測された。続いて初老の紳士が現れ、琥珀色の石のネックレスを金貨5枚で購入した。この短時間での高額取引は珍しいものであった。

迷惑な男との対峙
夕方、装飾品とモノクルを着けた男が全品買い取りを申し出たが、モンタナは無視して撤収を続けた。男が強引に迫ると、モンタナは短剣を抜き、モノクルにひびを入れる距離で威嚇し、男を退かせた。

少年への臨時開店
帰路、往路で立ち止まった場所で少年が駆け寄り、銅貨2枚を差し出して先ほどのイヤリングを求めた。モンタナは臨時開店として商品を渡し、少年は母への贈り物として喜んで去った。モンタナの基準は不明だが、信念を持って販売していることが感じられ、筆者は再び同行を願い、快諾された。

七、アルベルト=カレッジという少年

ハルカの抜けた一面と警戒
アルベルトは買い物中のハルカの横顔を見ながら、その能力の高さに反して間抜けな一面が多いことを思い返していた。財布をすられたり、ナンパについて行きそうになったりと不用心な行動があり、コリンからも常に注意を促されていた。こうした経験から、路地裏で評判の悪い男が気絶している事件にはハルカが関わっていると推測していた。

嫉妬と誤解の積み重ね
冒険者としての評価で仲間に劣っていると感じていたアルベルトは、万能なハルカに卑屈さと嫉妬を募らせていた。ハルカが過去や個人的な話をしないことから不信感を抱き、八つ当たり的に言葉をぶつけてしまった。コリンからハルカが過去の記憶を失っていると知らされ、自分の勝手な思い込みだったことを悟るも、謝罪をためらっていた。

訓練場での再会と本音
食堂でハルカが不在と知ったアルベルトは、コリンに促され訓練場へ向かう。そこで一人佇むハルカは、自分が仲間を不快にさせたと思い込み、パーティを離れる意思を告げた。アルベルトはそれを否定し、自分の力不足への苛立ちが原因だったと打ち明ける。ハルカもアルベルトを尊敬していたことを明かし、まだ一緒に冒険者を続けたいと伝えた。

和解とこれから
ハルカはコリンにパーティ脱退の相談をしていたが、撤回するための言い訳をアルベルトに求めた。二人は和解し、再び共に行動することを約束する。アルベルトはハルカを、頼りがいがありながらも目が離せない大切な仲間として認識し、嫉妬の必要はないと感じるようになった。

<遠征依頼>

一、互いの認識

斜陽の森での護衛任務と仲間の戦闘力
斜陽の森はオランズを含む国全体に良質な木材を供給しており、中級冒険者は林業従事者の護衛を担っていた。森には危険な魔物も多いが、ハルカたちは既に対処に慣れており、等級に見合わぬ高い戦闘能力を発揮していた。アルベルトは剣技で突出し、コリンは正確な弓と体術を持ち、モンタナは急所を突く剣術と高い索敵能力を備えていた。ハルカは技術面では劣るが、強力な魔法と異常な耐久力により、魔法使いの弱点を完全に補い、仲間から高く評価されていた。

木こりや仲間からの評価
ホーンボアの突進を片手で受け止め魔法を放つなど、常識外れの戦いぶりは木こりからも賞賛されていた。仲間もハルカの安全を心配する必要がなくなり、戦闘時の動きが向上した。護衛任務を終えた日、アルベルトが五級に昇級し、同時に十五歳の成人を迎えた。

成人祝いと今後の方針
夕食の席でアルベルトは初めて酒を飲み大騒ぎし、やがて酔いつぶれた。彼を寝かせた後、残ったメンバーは今後の活動について話し合った。全員が五級以上となったことで、階級を上げるため遠征依頼の必要性が高まっていた。遠征は長期間街外に出る者の護衛を務めるもので、金払いが良く功績にも直結するため理想的であった。初回はベテランパーティとの合同遠征が安全とされ、冒険者同士のつながりを広げる意義も確認された。

二、酒盛り

転移の理由と新たな目的
生活が安定したことで、ハルカは自分がこの世界に転移し、この姿になった理由を考える時間が増えていた。魔法の文献には異世界渡航の記述はなく、帰還を試みるのは危険と判断した。元の世界に戻る意思はなく、理由の解明を新たな人生の目的とし、仲間と共に世界を旅することを決意する。

モンタナの酔態と旅の経験
宴の席でモンタナは大皿にワインを注ぎ、口をつけて飲むなど行儀の悪い飲み方をし、すでに酔っていた。彼は故郷【ドットハルト公国】からこの街まで護衛なしで一人旅をしてきた経験を語り、山越えで山賊に追われても走って逃げ切ったと話した。これにより、旅の経験がないのはハルカだけと判明した。

不安と泥酔の広がり
旅経験の差に悲しさを覚えたハルカは、自分が足を引っ張って見捨てられるのではと不安になり、見捨てないでほしいと訴えた。この時点でコリン以外は泥酔状態であり、話し合いは困難になった。コリンは片付けを始め、アルベルトを起こすが彼も酔い潰れ、モンタナはテーブルで眠ってしまった。

後始末とコリンの決意
コリンはハルカにモンタナを抱えて運ばせ、その役立ちを認めつつも、翌日からパーティでの飲酒を禁じることを心に決めた。ただし、酔って子供っぽくなったハルカの様子は可愛らしく、少し惜しいと感じていた。

三、準備

二日酔いの朝と反省
翌朝、ハルカは前夜の泥酔を鮮明に思い出して自己嫌悪に陥り、禁酒を決意した。食堂では二日酔いのアルベルトが現れ、コリンに叱られながらも弱々しく応じていた。話し合いは夜に回すことにし、その日は遠征用の道具を買い揃えることになった。

買い物と道具選び
アルベルトは休ませ、ハルカ・コリン・モンタナの三人で出発。調理器具売り場でハルカは重量のある丈夫なフライパンを選び、冗談交じりに武器にもなると述べて店員を驚かせた。一方、モンタナは珍しく刃物を熱心に品定めしていた。

モンタナの背景と将来
モンタナは父が鍛冶師であり、他人の作った刃物を見るのが好きだと語った。鍛冶や宝石加工、戦闘など多才だが、鍛冶屋を継ぐつもりはなく、アクセサリー作りの方が得意で、今は冒険者として活動し、生みの親探しと未知の経験を目的にしていると明かした。コリンはその饒舌さに感動し、撫でて称賛したが、モンタナは年下からの接触にはやや抵抗を示した。

四、モンタナ=マルトーという少年

出生の秘密と鍛冶師の家族
モンタナ=マルトーは獣人族の少年で、両親は獣人ではなく、自分の耳と尻尾を不思議に思いながら育った。父は【ドットハルト公国】有数の鍛冶師で、国境近くの工房で良質な武具を生産し、多くの武人や貴人が訪れていた。ある日、酔った弟子の失言で、自分が拾われた子であることを知るが、動揺を見せず受け入れた。とはいえ、血の繋がらない両親への愛情は変わらなかった。

鍛冶の才能と工房内の軋轢
父から鍛冶を教わると、モンタナは秘伝級の技術を即座に理解し、父に似た動きで作品を生み出す天才ぶりを発揮した。しかし、父が付きっきりで教えることに弟子たちが不満を募らせ、ある弟子が同条件での剣打ち勝負を提案。モンタナは勝てば関係が壊れると悟り、自ら鍛冶をやめると宣言して工房を離れた。

宝石加工との出会いと成長
工房から距離を置いたモンタナは、石の中に光るものを見つけ、独学で宝石加工を始めた。数年後、指輪を完成させて両親に贈り、父は照れ隠しに着用し、母は涙を流して喜んだ。十四歳の誕生日には弟子たちへの感謝を込めたアクセサリーを用意し、両親に冒険者になる決意を告げた。

旅立ちと和解
出発の日、父は先祖伝来のハンマーを渡し、「決めたことを成し遂げろ、辛くなったら帰ってこい」と告げた。街を出る直前、かつて勝負を挑んだ弟子が現れ、誤解と不在を詫び、激励した。モンタナは涙をこらえながらも「鍛冶師より有名になって武器を作ってもらいに来る」と宣言し、泣き笑いの声に送られて旅立った。こうして彼の冒険者としての第一歩は、涙と共に始まった。

五、遠征依頼

依頼の提示と背景説明
買い物を終えて帰還したハルカたちは、受付のドロテに呼び止められ、個室へ案内された。提示された依頼は【神聖国レジオン】への使節団護衛で、相手国は軍事力こそ低いが、宗教と文化の中心として世界的に影響力を持っていた。ハルカは未経験の遠征任務に不安を覚えるが、ドロテはタイラントボア討伐や依頼者からの高評価、さらに商会からの推薦を理由に適任と判断したことを説明した。

ドロテの評価と動機
ドロテは長年の経験から四人の能力を把握しており、アルベルトは実力と素直さ、コリンは冷静さと金銭管理能力、ハルカは高い魔法技術と丁寧な物腰、モンタナは無自覚ながら可愛らしさと個性を評価していた。今回の依頼では、自前の護衛がいるため、求められるのは縁を結ぶことだと強調した。

依頼受諾とアルベルトの不満
ハルカ・コリン・モンタナは即座に依頼を受諾するが、その場に二日酔いで不在だったアルベルトは後に合流し、決定に自分が関わらなかったことを不満に思う。コリンが謝罪するも、モンタナは淡々と「肯定」と答え、ハルカも言い訳できず沈黙した。

和解と出発への期待
アルベルトは拗ねながらも遠征に必要な道具の話題で次第に機嫌を取り戻し、翌日の買い物を楽しみにする様子を見せた。最後にはいつもの調子で皆に声を掛け、ハルカはその素直さを微笑ましく感じ、安堵した。

六、中型竜と依頼人

出発準備と荷積みの手伝い
出発当日、ハルカは温度調整機能のあるローブを着込み、西門で使節団の荷積み作業を手伝った。木材や加工品が荷車に積み込まれ、荷物管理兼地竜世話役のコーディとアルベルトが握手を交わす。ハルカは地竜オジアンに目を奪われ、許可を得て撫で、その感触を楽しんだ。

種族への偏見とコーディの配慮
コーディはハルカの種族がダークエルフであることに触れ、一部で破壊の神の末裔とする偏見があると説明した。ハルカは顔を隠す案を出すが、コーディは護衛としての立場を尊重し、不快なことがあれば知らせるよう促した。ハルカは信用してフードを外すことを選んだ。

竜の生態と交流
ハルカは竜が冬眠しない理由を尋ね、火炎袋による体温調節や火を吐く種類の存在を聞く。モンタナとアルベルトは地竜によじ登って遊び、ハルカは羨ましさと羞恥心の間で葛藤した。

神殿騎士団との合流
やがて、青と白の装備を身に着けた【レジオン】の神殿騎士団が到着し、リーダーのデクトが自己紹介。鎧姿の威圧感の中、ローブを纏った少年たちも同行していた。コーディは改めて使節団代表として護衛への感謝を述べ、出発準備を確認。依頼書を読んで正体を知っていたハルカとコリンは落ち着いて応じ、コーディは少し残念そうに笑った。

七、コミュカ

使節団の構成
使節団は四つのグループで構成されていた。コーディ率いるオラクル教渉外担当部とその部下、オランズ教会の管理人として三年間勤務していた帰任者たち、護衛役の神殿騎士団、そして神学院の双子の生徒レオとテオである。双子は十三歳の魔法使いで飛び級卒業予定の優秀な生徒だが、終始不機嫌そうな態度を見せていた。

双子との初接触の失敗
アルベルトが双子に名前を尋ねるも、同時に答えられて聞き取れず、聞き返したところ舌打ちされて引き下がる。コリンも挑戦するが同じく舌打ちを受け、二人の間で小競り合いが起きた。幼馴染同士のやり取りは息が合っていたが、双子との距離は縮まらなかった。

モンタナの接触と成功
そこへモンタナが現れ、ベリーの実の枝を差し出して双子に接近。危なげな後ろ歩きにも双子は注意を向け、テオが受け取ったことで会話が始まる。モンタナは自己紹介を繰り返し、二人から名前を聞き出し、レオにも枝を渡して自然にやり取りを続けた。双子は兄弟仲をからかわれ苦笑し、最終的にはモンタナを真ん中に呼び寄せて談笑するまでになった。

周囲の驚きと観察
その様子を見た若い騎士フラッドは驚き、何をしたのかとハルカに尋ねる。ハルカは魔法のようだと評しつつ、モンタナが十六歳で双子より年上であることを説明。フラッドが過去に身長をからかう発言をしていた可能性を指摘し、若い者への接し方に注意を促した。

八、共同作戦

双子の心境変化と見張りの時間
モンタナと打ち解けた双子は、会話を続けながらも他の仲間たちの様子を窺っていた。旅の四日目、深夜の見張り交替でハルカは仲間を起こし、ウォーターボールで顔を拭かせて目を覚まさせた。モンタナは半分寝た状態で水に頭を突っ込み、髪を濡らしてコリンに拭かれていた。夜の焚火を囲む穏やかな時間が続くが、やがて森に狼の遠吠えが響き、緊張が走った。

襲撃への初動と役割分担
複数方向からの遠吠えに、全員が即座に動き出す。コリンは騎士たちを、アルベルトは神殿騎士団を、モンタナはコーディを起こしに行く役目となった。ハルカは松明を取りに行く予定だったが、コリンに双子を起こすよう頼まれ、やむなくテントへ向かう。双子はすぐに状況を理解し、松明運びを手伝うことに同意した。荷馬車で松明を持ち上げる際、双子が重さに苦戦し、ハルカが代わりに運ぶ姿に驚きの声を上げた。

戦闘準備と双子とのやり取り
松明で広場を照らし、戦える者と非戦闘員を分ける布陣が整う。後方に配置されたハルカと双子は、互いに会話しながら接敵を待った。テオはハルカの力に疑いを持ち、レオは落ち着いて状況を観察していた。やがてデクトの号令で遠距離攻撃が始まり、双子がウィンドカッターを放つが、ハルカは五重展開で高威力かつ精密な攻撃を繰り出し、双子を圧倒した。

乱戦と後衛への奇襲
接近戦に移行すると、ハルカは十頭撃破の成果を得て討ち漏らしの処理に回る。戦況を見守る中、双子の様子を気にかけた矢先、茂みから灰色の鼻先が現れた。警告と同時に双子を押しのけ、巨大な狼の奇襲を受ける。前線を突破できないと判断した魔物化した狼のリーダーが後衛を狙った可能性がよぎるが、思考よりも速く間合いを詰められ、炎の矢を構えたハルカは恐怖に震えながらも退くことなく迎え撃った。

九、事態の収拾

魔物の視点と奇襲失敗
群れを率いる巨大な魔物は、進化により体格・知能・機動力を増し、多くの獲物を狩ってきた。しかし獲物不足に直面し、森に侵入した人間を餌と定める。森を迂回して後衛のハルカへ奇襲を仕掛けるが、噛みついた腕は異様な弾力で牙を弾き返す。詠唱省略の炎魔法を口内から受け、頭部を吹き飛ばされて絶命した。

戦況の変化と負傷確認
ボスを失った狼たちは混乱し、戦意を喪失。デクトが駆け寄り、ハルカの負傷を確認するが、腕は無傷であった。ハルカはウォーターボールで腕と衣服を洗い流し、破れた衣類に肩を落とす。デクトは安堵しつつ、死骸の火葬準備を指示した。

仲間とのやり取りと双子の反応
アルベルトや仲間たちは無事を喜び、双子のレオが丁寧に礼を述べる。兄テオは渋々礼を言うも、「魔法がキモい」と罵倒して立ち去る。ハルカは心中で落ち込み、自らの印象を気にした。

魔法と身体強化を巡る口論
アルベルトが「身体強化魔法なら双子も使えるはず」と発言すると、レオは魔法使いとの相性の悪さや、ハルカの特殊性を理詰めで反論。近接職への皮肉も交えた言葉に、アルベルトは耐えきれず大声で罵り返し、テントへ逃げ去った。ハルカはその背を見送り、切なさを覚えた。

〈異端〉

一、キモさの説明

双子との距離の変化
魔物襲撃以降、双子はハルカたちと共に歩くようになった。レオは積極的に会話し、テオも渋々同行している様子だった。モンタナは相変わらず茂みを出入りし、野兎を捕まえては血抜きの準備をしていた。

魔法談義の始まり
レオはハルカの魔法習得経緯を尋ね、独学に近いことを知ると基礎を教えると提案。ハルカは年下から学ぶことに抵抗なく快諾する。学院で優秀だった双子にとって、外で自分たち以上の魔法使いと出会うのは初めてであり、レオは強い興味を抱いていた。そこへアルベルトも加わり、レオを「先生」と呼ぶ条件で講義参加を申し出る。最終的にテオも加わり、場は和やかに整った。

三つの“キモい”指摘
レオとテオは交互に説明を始め、ハルカの魔法の「気持ち悪い」点を三つ挙げた。

  1. 魔素の過剰集積 – 必要以上の魔素を集める非効率な魔法運用。
  2. 魔法の自動追従 – ウォーターボールがハルカの移動に合わせて動く仕様。通常はその場に留まるため異質。
  3. 身体強化と魔法の同時使用 – 両立が極めて難しい中で自然に行っている点が不気味であり、研究事例も少ない。

心情の揺れと仲間の支え
指摘を受け、ハルカは自身の力の不明さに不安を覚え、仲間に恐れられるのではと危惧する。しかしモンタナが尻尾で手に触れ「大丈夫」と小声で告げ、心が落ち着く。コリンとアルベルトの軽口や、レオの呆れを交えた会話により場は再び和み、ハルカは仲間に恵まれたことを実感した。

二、この世界に生きる

村の異変と初期分析
山越え前の物資補充のため訪れる予定だった村を遠望した際、コーディとデクトは様子の異常に気づいた。炊事の煙も見張りの姿もなく、コリンは襲撃の可能性を指摘。モンタナは戦闘痕跡や死体が見えないことから魔物襲撃ではないと断言した。コーディは補足情報として、村の戦力や周辺状況、救援依頼が出ていなかった事実を示し、計画的な襲撃の可能性を示唆した。

推測と選択の提示
ハルカは「組織的に村人全員を始末した」可能性を推測し、コーディに肯定される。続けて「真相を知りたいか、逃げるか」と選択を迫られる。ハルカは護衛任務や仲間の安全、生存者救出の可能性を秤にかけ、恐怖と葛藤を抱く。アルベルトやコリンは迷いなく進む意志を示し、デクトも同行を表明。コーディは村人たちの挑戦と勇気を称え、その結末を見届けるべきだと語った。

覚悟の形成
若くして己の道を決めた仲間たちの姿に、ハルカは自らの空虚な過去を思い、英雄への憧れを刺激される。恐怖を抱えつつも仲間を失うことを拒み、モンタナの「互いに守り合う」という言葉に勇気をもらう。コリンとアルベルトにも頭を撫でて触れ、三人から勇気を分けてもらったと感じたハルカは、逃げずに危険へ立ち向かう決意を固める。

出発と自己評価
コーディに向かい「雇い主の希望に応える」と宣言するも、見透かされたように評価され、恥ずかしさを覚える。決意を固めたものの足はわずかに震えており、武者震いだと自分に言い聞かせながら、モンタナに悟られぬよう胸を張って村へ向かった。

三、嫌いなもの

村内への侵入と異臭
覚悟を固めたハルカたちは、双子を林に待機させ、デクト先導のもと村へ侵入した。人の気配は皆無で、聞こえるのは隙間風の音のみ。モンタナが「血と腐敗臭がする」と告げ、全員が緊張を強める。デクトが近くの家を確認すると、内部には三人の遺体があり、村全体が全滅状態と推測された。

遺体との対面と内心の葛藤
捜索は分担され、ハルカたちは大きな家の左手側を担当。ベッドルームでは夫婦と子供の遺体が発見され、就寝中に襲われたと考えられた。葬式で見た整えられた遺体とは異なり、苦悶や驚愕の表情を浮かべたままの亡骸に、ハルカは深い悲しみと怒りを覚える。相手にも事情があると理性で考えてきたこれまでの人生観を揺るがされ、「他人に訪れる理不尽が何よりも嫌いだ」という感情が強く湧き上がった。

捜索中の手掛かり
寝室を順に確認する中、一部屋だけが使用された形跡を残しており、シーツが乱れ、窓が開け放たれていた。ハルカは、襲撃に気づいて逃げた生存者がいる可能性を願う。

不審な気配と発見
窓の外を見ていたハルカは、モンタナから「何かいる」と告げられる。クローゼットに視線を向けたモンタナは慎重に扉を開け、即座に距離を取ったが、攻撃はなかった。再度中を覗き込むと、予想外の存在が静かに眠っていた。

四、安らかに眠る

赤ん坊の発見
夕暮れの薄暗い部屋で、クローゼットの中から布に包まれた赤ん坊が見つかった。泣きもせず目を閉じている姿は不自然で、生後間もないように見える。この村全体が襲撃を受けた中で、この子だけが生き残っていることは不可解だったが、それ以上に保護しなければという思いが勝り、ハルカは慎重に抱き上げた。温もりと呼吸を感じ、生存を確信する。

コーディへの報告と推測
合流したコーディは、この赤ん坊が以前訪れた際にはいなかったと述べ、外部から連れてこられた可能性を示唆。さらに襲撃の原因がこの子に関係する可能性も口にした。服の裾の刺繍から名前が「ユーリ」と判明し、連れ合いを探すためデクトらと共に村の外を捜索することになった。

護衛判断と待機要請
コーディは、赤ん坊を死体だらけの場所から早く離すべきだとし、ハルカたちにユーリを連れて待機組と合流するよう指示。何かあっても責任は問わないと約束した。普段は悪戯好きで意地の悪い印象のコーディだが、この時は真剣で優しい一面を見せた。

林への帰還
コーディたちが去った後、コリンが彼を「ちょっとかっこいい」と評し、アルベルトと軽口を交わす。そのやり取りにハルカは肩の力を抜き、仲間に周囲の警戒を依頼しながら、待機組のいる林へ向かった。

五、身元

皇帝の側室と継承問題
五十を超えた皇帝が街で見初めた若い女性を強引に側室とし、初めての子を授かった。皇帝は「男児であれば次代の皇帝にする」と宣言し、宮廷内に波紋が広がった。正室の長子は三十歳で軍事・政治・人脈ともに優秀で、誰もが次期皇帝と見なしていたが、側室が産んだのは男児だった。

皇子のクーデターと側室の最期
二年ぶりに帰還した正室の長子は、皇帝の精神衰退を察知し、部下とともに即座にクーデターを決行。短期間で成功させ、父と側室を斬首した。しかし側室の息子は行方不明で、彼女が死の直前に逃がしたと推測された。真意は不明だが、皇子は後の脅威を恐れ、その抹殺を命じた。

妹による脱出と赤ん坊の隠匿
側室には気性の激しい妹がおり、唯一彼女を支えていた。クーデター発生時、姉は自らを囮として残り、妹に息子を託す。妹は買い物を装って城を脱出し、追手をかわしながら神聖国レジオンを目指したが、進路を塞がれ回り道を強いられた。追手接近を察知すると、赤ん坊を衣服で包みクローゼットに隠し、「泣かないように」と諭した。

命を賭した攪乱と最期の祈り
妹は籠を抱えて森へ走り、谷に空の籠を投げて子供が落ちたと偽装。しかし追手に捕らえられ、拷問を受けても居場所を明かさなかった。意識が薄れる中、「あの子が幸せになりますように」と繰り返し願い続け息絶えた。

遺体発見とコーディの祈り
村から離れた崖下近くで、半ば損壊した女性の遺体が発見された。身元を示す所持品はなく、岩肌には衣服の切れ端が残されていた。デクトは直視できず、観察をコーディに委ねる。コーディは「これは彼女が生きた証だ」と語り、残された子のためにも情報を読み取ろうとし、最後に尊敬と安息の祈りを捧げた。

書き下ろし番外編
モンタナの小さな旅

山越えの決意と準備
モンタナは【ドットハルト公国】北東の国境の山に面した街で暮らしていたが、冒険者になるため【独立商業都市国家プレイヌ】を目指す決意を固めた。門弟の男と別れた後、山越えを選択。山には無頼の徒党が潜んでおり、子供である自分は格好の標的になると理解していたが、これまで冒険者から学んだ技能と知識を駆使すれば可能と考えていた。短剣とハンマー、最低限の食料を携行し、森の中での生存術にも自信があった。

山賊との遭遇と回避行動
半日進むと道の様子に不自然な荒れを察知し、耳と目で周囲を探った結果、矢が飛来。茂みに飛び込み、低姿勢で移動しながら接近戦を避けた。怒声はやがて遠ざかり、進路を変えて森の奥を進む。途中で薬草を採取し、自ら噛み砕いて擦り傷に塗布し、血の匂いを消す工夫も行った。

夜間の警戒と野営
日没前に行動を停止し、大木に登って枝上で休息。体をロープで固定し、干し肉を食べながら警戒を続けた。月明かりが十分だったが、夜行性の肉食獣を警戒し移動は控えた。自由と才覚が支配する冒険者の国を思い描き、仲間との出会いを期待しつつ浅い眠りについた。

山越えの達成と不穏な兆し
翌朝、体調は万全でないながらも行動を再開。国境越えまでに三度山賊の襲撃を受けたが、すべて回避。やがて巨大な壁に囲まれた【オランズ】の街が視界に入った。門で入場手続きをしている最中、森の奥上空が一瞬光り、すぐに消えるのを目撃。全身の毛が逆立ち尻尾が膨らんだが、「なんでもないです」と門番に返した。これがハルカの初めての魔法によるものであり、翌日の新人研修でその主と出会い、長い付き合いが始まることになるとは、この時のモンタナは知らなかった。

電子版特別付録 休みの日の過ごし方

街歩きと予期せぬ接触
街での生活に慣れたハルカは、裏路地探索を趣味としていた。しかし治安は日本より悪く、時折柄の悪い者に絡まれることもあった。この日も散策中、洒落た青年から道案内を頼まれる。目的地を知っていたため同行するが、青年は道中で自慢話を繰り返し、やがて交際を持ちかけてきた。丁重に断るも態度が豹変し、腕を掴まれて強引に連れ去ろうとされる。

ナイフと乱入者たち
青年がナイフを取り出し緊張が走るが、その背後から複数の男たちが現れ、青年を暴行。彼らは自警団ではなく素行の悪いクランの者たちだった。関係ないと突き放されても、目の前の暴力を放置できないハルカは、人数分のウォーターボールを放ち男たちを制圧した。

救助の拒絶と心の傷
青年は助けられたにもかかわらず、怯えて逃走。化け物を見るような視線にハルカは傷つく。男たちの無事を確認した後、気持ちを落としつつ帰路につく。

モンタナの登場と忠告
帰路でモンタナと遭遇。事情説明を試みるも、モンタナはそれよりも無事を優先し、大通りへの帰還を促す。一人行動の危険性を指摘され、ハルカは今後は外出時に仲間へ一言伝えることを決意。最後にモンタナから「迷惑じゃないから、ちゃんと言うですよ」と気遣われ、年下からの優しさに気分が和らぐのだった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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