小説「とある魔術の禁書目録(3)」感想・ネタバレ

小説「とある魔術の禁書目録(3)」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容
本作は、科学(超能力開発)と魔術(オカルティックな力)が共存・対立する「学園都市」を舞台にしたライトノベルである。無能力者と称される高校生が、右手に宿した“幻想殺し(イマジンブレイカー)”という異能を契機に、魔術結社および科学組織の陰謀へと巻き込まれていく展開が描かれている。第3巻では、放課後の何気ない出来事を起点に、レベル5能力者「一方通行(アクセラレータ)」による殺戮劇が幕を開け、主人公やその仲間たちが「学園都市」の深部へと足を踏み入れていった。

主要キャラクター

  • 上条当麻:学園都市に暮らす高校生。「無能力者」と評価されながらも右手に他者の超能力・魔術を打ち消す“幻想殺し”の力を宿す。巻を追うごとに巻き込まれ型から主体的な立場へと変化を見せていった。
  • インデックス:一万三千五百冊を超える魔道書を記憶・所蔵するシスター。魔術結社から追われ、上条当麻と出会うことで物語の核心に深く関わる存在となった。
  • 御坂美琴:学園都市におけるレベル5超能力者「電撃使(エレクトロ・マスター)」。科学サイドの代表的存在であり、本巻ではその“妹”たち(“御坂妹”)の存在も示され、物語に新たな視点を加えている。

物語の特徴
本作の魅力は、科学として制度化された超能力と、秘匿された魔術という相反する力の交錯を軸に、能力者・魔術師・組織・都市の闇という多層的構造を描いている点にある。第3巻においては、主人公が「無能力者」という立場から抜け出しつつも、強大な敵・一方通行による殺戮という極端な状況に直面することで、単なる能力バトル以上の「倫理」「存在意義」「信仰と科学の狭間」というテーマが浮き彫りになった。他のライトノベル作品と比して、「学園×超能力×魔術結社」という三重構造の設定が明確であり、また「能力を使えば使うほど代償が発生する」「主人公が万能ではない」という構図も、読者に共感と緊張を同時に与える。さらに、テレビアニメ化やコミカライズなどメディアミックス展開も行われており、その世界観の広がりも魅力の一つである。

書籍情報

とある魔術の禁書目録 3
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA電撃文庫
発売日:2004年9月10日
ISBN:9784048664325

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あらすじ・内容

学園都市で殺戮の気配が静かに広がる――。
魔術と超能力を駆使して戦う学園アクション第3弾!真夏の夕暮れ。 補習帰りに自動販売機に金を呑まれた上条当麻。カツッと革靴を鳴らしながら、上条に声をかける御坂美琴。そこに偶然通りかかる美琴にそっくりの御坂妹。何気ない放課後……。これが一方通行と呼ばれる超能力者が起こす殺戮劇の幕開けになるとは、3人はまだ知る由もなかった――。

とある魔術の禁書目録(3)

感想

物語は、学園都市最強の超能力者・一方通行(アクセラレータ)に対する狙撃の失敗から幕を開ける。
この事件が、不穏な追跡劇の始まりを告げる導火線となる。
冷たい都市の闇と理不尽な強者の存在――この世界の非情さが、冒頭から鮮烈に刻まれていた。

補習帰りの上条当麻は、御坂美琴と再び顔を合わせる。さらに“御坂妹”とも出会い、何気ない自販機騒動が日常を揺らす。
黒猫の一件や風紀の話題は、やがて訪れる惨劇の前触れとして巧みに配置されていた。

上条は路地裏で“御坂妹”の死体を目撃、同じ顔を持つ“ミサカ”たちから「レベル6シフト計画」の存在を知らされる。
御坂美琴のDNA提供が軍事利用へと転化し、クローンたちが実験動物のように命を消費されている現実が露わになる。

常盤台寮に潜入した上条は、計画の資料を発見する。
そこには、御坂が加担者ではなく、外部から計画を止めようとしている痕跡があった。
孤独に抗う少女の姿を知った上条は、彼女の戦いに介入する決意を固めた。

夜の鉄橋で、上条は美琴の前に立ち塞がる。
彼女が自らの命で計画を止めようとする意志を否定し、上条はただ受け止めることで彼女を支えようとする。殴り合いではなく、意志のぶつかり合いこそがこの場面の核心であった。
誰かを救いたいという純粋な衝動が、理屈を超えて心を打つ。

上条は操車場で一方通行と対峙する。右手による能力無効化を頼りに肉弾戦へと挑む姿は、理屈を超えた執念に満ちていた。
御坂妹たちの並列制御による援護も重なり、ついに“最強”へ拳が届く。
理屈を凌駕する情熱が、科学都市の論理を一瞬だけねじ伏せた。

激闘の後、上条は病室で目を覚ます。御坂妹、美琴との再会は短いながらも確かな温もりを残す。
計画は中止の方向へ動くが、クローンたちの寿命問題など課題は山積していた。
それでも確かに、誰かが救われたという実感が余韻として残る。

この巻は、上条当麻の“熱血”によって物語が動く転換点であった。
能力理論の整合性よりも、「誰かを救いたい」という心情的衝動が主動力となっていた。
学園都市の暗部を暴きつつも、最後に残るのは希望の灯。
テンポに粗はあるものの、上条当麻という主人公像を決定づけた重要な一冊といえるだろう。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

上条当麻

学園都市の高校生であり、右手の「幻想殺し」で異能を相殺する者である。
・所属組織、地位や役職
 高校生。寮住まい。
・物語内での具体的な行動や成果
 御坂妹の死を目撃し計画の実在を把握した。
 常盤台寮で資料を発見し「レベル6シフト計画」の骨子を確認した。
 操車場で一方通行に接近戦を挑み、右手で反射を無効化して勝利した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記憶喪失のまま判断と行動を選び信頼を得た。
 入院後も周囲の行動に影響を与えた。

御坂美琴

常盤台中学に通う電撃系レベル5であり、計画停止のため単独で施設破壊を続けた者である。
・所属組織、地位や役職
 常盤台中学二年。学園都市レベル5。
・物語内での具体的な行動や成果
 研究所の機材と端末を止めて実験の継続を妨害した。
 操車場周辺で風力発電機の電磁操作を指示し一方通行の演算を乱した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自責から孤立していたが、上条の介入を受け止め共闘へ傾いた。
 妹達への関与を再定義し行動方針を更新した。

一方通行(アクセラレータ)

学園都市最強のレベル5であり、あらゆるベクトルを操作する者である。
・所属組織、地位や役職
 学園都市レベル5最上位。
・物語内での具体的な行動や成果
 御坂妹を追跡し実験で殺害した。
 操車場で風と空気圧を制御し上条を圧倒したが、近接戦で敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 敗北により「レベル6シフト計画」は停止方向となった。
 絶対能力への到達仮説に疑義が生じた。

御坂妹(検体番号10033号)

御坂美琴の体細胞クローンであり、量産モデルとして実験に投入された個体である。
・所属組織、地位や役職
 学園都市のクローン計画対象。レベル2相当の電気能力。
・物語内での具体的な行動や成果
 操車場の実験個体として一方通行と対峙した。
 並列リンクを用いて風力発電機群の回転同期に加わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死亡と記録共有により群全体へ情報を渡した。
 停止後は寿命調整の医療対応が必要となった。

妹達(シスターズ)

御坂美琴のクローン群であり、脳波リンクで記憶と判断を共有する集団である。
・所属組織、地位や役職
 学園都市の軍事研究ライン。量産個体群。
・物語内での具体的な行動や成果
 路地の痕跡隠しと遺体回収を実施した。
 都市一帯の風場撹乱に協調参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 計画停止により殺害サイクルが中断した。
 医療調整により生存期間の延長が検討された。

白井黒子

常盤台中学の生徒であり、空間移動を使う風紀委員である。
・所属組織、地位や役職
 常盤台中学。風紀委員(ジャッジメント)。
・物語内での具体的な行動や成果
 繁華街での放電事案を回避した。
 上条に寮での待機と配慮を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 美琴の私的領域を守る立場を維持した。
 事件中の直接戦闘は行っていない。

月詠小萌

上条の担当教員であり、能力研究の基礎を教える教育者である。
・所属組織、地位や役職
 学園都市の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
 補習でESPの基礎理論と思考防壁を解説した。
 自宅で上条らの食事を整えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 授業を通じて上条の理解と姿勢に影響を与えた。

姫神秋沙

上条の周辺にいる少女であり、生活圏での助言と対応を行った者である。
・所属組織、地位や役職
 学生。上条の知人。
・物語内での具体的な行動や成果
 猫のノミ対策で高刺激の薬品案を示した。
 現場収束へ協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件の核心情報には関与していない。

インデックス

修道服の少女であり、上条の同居人に近い立場で生活を共にする者である。
・所属組織、地位や役職
 宗教系の背景を持つ少女。
・物語内での具体的な行動や成果
 小萌宅で保護され上条の無断行動を指摘した。
 見舞いで関係の均衡を回復させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件後の上条の行動規範に影響を与えた。

土御門舞夏

清掃ロボットに乗って登場した少女であり、周辺人物との軽い関わりを見せた者である。
・所属組織、地位や役職
 学園都市の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
 上条から飲料を受け取り場を離れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件そのものへの関与は限定的である。

展開まとめ

序章 レディオノイズ Level2

風と狙撃の準備
宵闇のビル屋上で、少女は巨大な対戦車ライフル「メタルイーターMX」を構えていた。この銃は湾岸戦争で戦車を撃破した「バレットM2A1」を改造した試作機であり、少女は十四日間の学習によってその反動を完全に制御できるようになっていた。スコープの先には、学園都市最強の超能力者「一方通行(アクセラレータ)」がいた。

標的への照準と発砲
少女は風向きを解析し、慎重に照準を修正した。狙撃対象は十五、六歳ほどの白髪の少年であり、全戦全勝の戦績を持つ存在だった。正面から勝てない相手であるため、少女は不意打ちによる一撃必殺を選んだ。ビル風が一瞬一定となった刹那、少女は引き金を引いた。

弾道の反転と破壊
轟音とともに十二発の徹鋼弾が放たれたが、そのすべてが少年に届く前に逆流した。砲弾はまるで巻き戻しのように弾道を反転させ、ライフルの銃口へと戻り、銃を内側から爆発させた。少女は右肩を貫かれ、全身に破片を受けた。

狙撃の失敗と逃走
一方通行は無傷であり、狙撃は失敗した。少女は自身の敗北と発覚を理解し、血まみれの体でビルの非常階段へ向かって逃走した。もはや勝機はなく、逃げることは延命のための行動にすぎなかった。宵闇の中、狩る側と狩られる側が逆転し、追跡劇が始まったのである。

第一章 イマジンブレイカー Level0(and_More)

補習帰りと記憶喪失の事情
八月二十日午後六時十分、上条当麻は夏期補習を終えて帰路についていた。上条は七月二十八日以前の記憶を失っており、結果として過去の補習を欠席していた分の埋め合わせに通っていたという状況であった。

自販機トラブルと御坂美琴の出現
道中で上条は自販機に二千円札を呑まれ、途方に暮れていた。そこへ御坂美琴が現れ、場所を空けるよう促した。上条は相手が誰か判断できず戸惑ったが、御坂は常盤台中学の生徒であった。

雷撃と「幻想殺し」の反応
御坂が苛立ちを見せた直後、前髪から火花が散り、雷撃の槍が上条に向かった。上条の右手は条件反射で動き、異能を打ち消す能力で雷撃を無効化していた。上条は思考よりも先に体が動いた経緯から、過去に似た攻撃を受けた経験が体に残っていると理解した。

常盤台流の“裏技”と自販機の蹴り
御坂は自販機の不具合を承知の上で、斜め四十五度からの打撃で缶を落とす常盤台内伝の方法を実行し、実際にジュースを取り出してみせた。上条はその荒技に呆れつつも、現実的な対処であると受け止めた。

二千円札の顛末と電撃操作の試行
上条は渋々、呑まれた金額が二千円であると告げた。御坂は笑わないと約束しつつ、二千円札という点で興味を示し、結果的にからかう反応を見せたうえで、電撃で自販機から金を取り戻す試みを行った。

暴発、過剰排出、警報発報
御坂の電撃が自販機に直撃し、内部から黒煙と轟音が発生した。大量のジュースが排出される一方で、金は戻らず、機体は大きく揺れた。危険を察した上条はその場から走り去り、普段沈黙していた自販機の警報が周囲に鳴り響いたのである。

逃走後の停留所と奇抜なジュース
上条当麻は全力で逃走した後、繁華街のバス停のベンチで休息していた。飛行船のニュース画面は水穂機構の業務撤退を流していた。そこへ御坂美琴が大量の缶を持って合流し、誤作動で排出された多種多様な飲料を上条に渡した。学園都市の実験的商品が自販機に並ぶ事情が示され、上条は同じ対価で奇抜な品を買わされる理不尽さを嘆いていた。

強さへの指摘と記憶の齟齬
御坂は上条が本来は強いのに逃げ腰だと断じ、超電磁砲を打ち負かした事実を自覚し勝者としての責任を示すべきだと述べた。上条は記憶喪失ゆえに身に覚えがなく、相手の言葉を測りかねて曖昧に合わせていた。御坂は上条が自分からは殴らず全てを防いだ戦い方に不満を口にし、上条は女の子に手を上げなかった可能性を思い、複雑な自尊心を抱いた。

白井黒子の乱入と騒擾
御坂の前に白井黒子が現れ、お姉様と呼びかけて上条に挨拶した。御坂は動揺し雷撃を放ったが、白井は空間移動で回避した。御坂の放電に通行人の視線が集まり、上条は収拾に苦慮した。

もう一人の御坂の出現
ベンチの背後に、暗視ゴーグルを額に掛けた別の御坂美琴が現れた。無表情で焦点の定まらない瞳を持つこの少女は、妹です、とミサカは答えましたと名乗った。上条は遺伝子レベルで同質という説明を受け、双子のような一致に驚いた。

自販機事件への疑義と応酬
御坂妹は現場状況から窃盗の片棒の疑いを示し、上条は主犯は御坂だと反論した。御坂妹は指紋特定を示唆して挑発した後、ウソですと打ち明けた。上条が助けを求めても、御坂は異様に沈黙し、怒声で制しつつも妹の反応を待つ姿勢を見せた。

研修の一言とぎこちない別れ
御坂妹が研修中ですと答えると、御坂は動揺を隠せなかった。上条は風紀委員の研修を想起し、学園都市の警備員と風紀委員の制度や研修の厳しさを思い出した。御坂は胡散臭い口ぶりで話題を切り上げ、妹に来なさいと平坦な声で促した。その声色に含まれた得体の知れない感情が上条の内側を刺し、二人が去っていくのを見送りながら、複雑なご家庭、なのかなぁと呟いたのである。

大量のジュースと転倒
上条当麻は十九本の缶ジュースを抱えて学生寮へ向かっていたが、足元のテニスボールを踏んで転倒し、缶を周囲にばら撒いてしまった。背中を打って動けなくなりつつも、散乱した缶を回収せざるを得ない状況に陥っていた。

御坂妹の再登場と荷物運び
無言で近づいてきたのは暗視ゴーグルを持つ御坂妹であった。彼女は必要なら手を貸すと申し出て実際に回収を手伝い、上条は渋々協力を受け入れた。軽トラックのクラクションに急かされ、二人は分担して缶を集め、学生寮まで運ぶことにした。

寮への道すがらの遭遇
寮の出入口に向かう途中、土御門舞夏が清掃ロボットに正座で乗って現れ、上条から抹茶ミルクを受け取って去っていった。エレベーターで七階に上がると、通路の補修跡から過去の騒動が示唆され、部屋前ではインデックスと姫神秋沙が三毛猫スフィンクスのノミ取りをしていた。

危うい対処案と御坂妹の助言
インデックスはセージの燻蒸、姫神は強力なスプレーを提案したが、上条は安全性に疑義を示した。御坂妹は市販のノミ取り薬の使用を勧めつつ、薬害と害虫被害の比較を簡潔に説明した。さらに、煙や殺虫剤を避けたいという条件を確認した上で、最適な方法を提示した。

静電気による駆除の実演と収束
御坂妹は掌から特定周波数の放電を行い、猫の体表からノミの死骸を落としてみせた。暴れたスフィンクスは姫神に確保され、事態は収束した。御坂妹は室内には燻煙型殺虫剤が有効と助言し、礼を求めずに立ち去った。インデックスは彼女をパーフェクトクールビューティと評し、上条は周囲に見習いを求める一言を残したのである。

第二章 レディオノイズ Level2(Product_Model)

補習の継続と教室の孤独
翌日も補習が続き、夕暮れの教室で上条当麻は一人受講していた。長引く補習にうんざりしつつも、残り二日で解放される見通しにわずかな安堵を覚えていた。

小萌の講義と「力」への疑義
月詠小萌はESPカード実験の再制定条件など能力研究の初歩を講じていた。無能力者である上条は内容と自分の実益の結び付きを疑問視し、補習の意義に不満を示した。

努力論と御坂美琴の例示
小萌は力がなくとも学習で御し方を見出せると説き、御坂美琴が元は低能力者から努力で超能力者へ至った例を挙げて上条を鼓舞した。上条は御坂の素行を引き合いに皮肉を返し、両者のやり取りは続いた。

授業への引き戻し
軽口の応酬ののち、小萌は読心能力者の思考防壁に関するテキストの朗読を指示し、補習は通常運転へと戻っていったのである。

補習後の帰路
午後六時四十分、完全下校時刻を過ぎた上条は商店街を歩行していた。風力発電のプロペラが回る夕暮れの中、偶然に御坂美琴を見つけ、並んで帰路についたのである。

「妹」話題と微妙な牽制
上条が前日の「御坂妹」への礼を口にすると、美琴はわずかに反応を見せ、上条の関心が妹に向いているのかを探る発言をした。上条は誤解を否定しつつも、二人の間に軽い緊張が生じたのである。

飛行船と機械主導への違和感
上空の飛行船(学園都市の時事ニュース放映)を見上げる中、美琴は「機械が決めた政策に人間が従う」ことへの嫌悪感を示した。上条は実利的に受け止めるが、美琴の表情には内心の複雑さが垣間見えた。

『樹形図の設計者』の言及
学園都市が人工衛星「おりひめⅠ号」に搭載した超級演算機『樹形図の設計者』について、天候を“予言”レベルで一括演算する仕様や、余剰計算力が研究予測に流用されるという噂が語られた。上条は「所詮は人の入力で動く」と割り切る一方、美琴はその実在や運用意図に含みを持たせたのである。

はぐらかしと別れ
美琴は最後に冗談めかして話題を打ち切り、軽口を交わして別れた。上条は美琴のテンションの落差と真意の読みにくさに戸惑いを覚えたのである。

路上の御坂妹との再会
上条は美琴と別れた直後、風力発電機の根元で黒猫に菓子パンを差し出す人物を目撃し、暗視ゴーグルから相手が御坂妹であると判別した。御坂妹は猫を刺激しないため一度ゴーグルを外していたが、上条に気づくと装着し直したのである。

磁場体質と動物忌避の事情
御坂妹は自らの体が常時微弱な磁場を形成するため、動物には「苦手」と判断されやすいと説明した。地殻変動時に動物が磁場変化へ反応する例を示し、黒猫に餌を与えることが事実上困難であると明言したのである。

保護の要請と上条の葛藤
御坂妹は黒猫の保護を上条に迫り、保健所収容の末路を暗示して圧をかけた。上条は経済事情や寮の規則を懸念しつつも、結局は黒猫を抱き上げて引き取る決断を下したのである。

命名を巡る応酬
上条は命名を御坂妹に委ねたが、彼女は「いぬ」「徳川家康」「シュレディンガー」など場違いな候補を挙げ、上条の全力却下を受けた。最終的に名は保留となり、黒猫は当面「保留」呼びになりかねない状況であった。

夜の街と飼育準備
上条は黒猫を抱え、飼育法の知識を得るため古本屋へ向かったのである。インデックスと姫神の“善意ゆえの暴走”を懸念し、早急な情報収集の必要性を自覚していたのである。

御坂妹の同行と警告
御坂妹は道順の違いを指摘しつつ、猫の扱いにおける常識と責任を強調した。先日の行動から上条の楽観を危惧し、法的・倫理的観点からも注意を促したのである。

古本屋前の応酬と猫の預け
上条は店内入店のため、反射的に受け止めると見込んで黒猫を御坂妹へ放った。御坂妹は動物愛護心から受け止めたが、磁場体質ゆえに猫を怯えさせてしまい、抱えたまま店先に留まる事態となったのである。

雑踏の異物と対象認識
人波の中に、白濁した肌と全身黒の装い、緋色の双眸を持つ少年が佇立していた。学園都市最強の超能力者“一方通行(アクセラレータ)”であり、彼は御坂妹を静かに見据えて嗤っていたのである。

分岐点としての遭遇
御坂妹は黒猫を地面に下ろし、同行すれば殺到する危険に巻き込むと即断した。黒猫は怯えながらも彼女の傍を離れず見上げ、御坂妹は迫る脅威を確信した。過去に少女の右腕を噛み千切った一撃のイメージが去来し、この瞬間をもって彼女の日常は終わり、地獄が始まったのである。

古本屋での飼育本探索
上条は古本屋で「猫の飼い方」を入手した。書棚の配置に違和感を覚えつつも、安価であることを優先し購入を終えたのである。

量産少女の逃走と武装
表では、御坂美琴と瓜二つの少女(御坂妹)が軍用ゴーグルと電子制御式アサルトライフルF2000Rを携え、路地裏を逃走していた。装備は高度であったが、状況の主導権は彼女に無かったのである。

学園都市最強との交戦
追うのは“一方通行(アクセラレータ)”であった。御坂妹は実弾射撃と雷撃で応戦したが、彼の「ベクトル(向き)変換」により弾丸も電撃も全反射され、自身へ跳ね返って被弾・自傷に至った。彼は血流の“向き”すら操作しうることを示し、圧倒的優位を誇示したのである。

上条の違和感と路地の手掛かり
買い物を終えた上条は店先で御坂妹の不在と黒猫だけが残されている異様を察知した。路地入口の片方だけのローファー、壁の削痕、散乱する薬莢と破片などの痕跡から、ただならぬ事態を直感したのである。

死の確認という帰結
闇の先に倒れる人影へ近づいた上条は、御坂妹がすでに事切れていることを目撃した。これにより、彼女の日常は完全に断ち切られ、同時に上条の平穏も崩壊へと踏み出したのである。

惨劇の現場
御坂妹は仰向けで倒れており、路地は血液で満たされていた。外傷は衣服の損傷を伴わず、血管の流れに沿って内側から身体が裂かれていた。上条は吐き気を催しながらも状況を直視したのである。

通報と圏外、そして到着
上条は路地を離れて通報を試みたが、狭所では圏外であった。表通りに出て119へ連絡後、先着したのはアンチスキルであり、上条は発見者として状況説明を行った。

消えた痕跡
再び路地へ同行すると、先ほどまであった靴・薬莢・壁傷・血痕・遺体がすべて消失していた。現場は徹底的に処理され、事件の痕跡は初めから無かったかのようであった。

奥の路地での遭遇
上条は単独で路地の奥へ進み、寝袋を担ぐ御坂妹と遭遇した。寝袋のファスナーの隙間からは茶色の髪が覗き、中身が「人」であることを示唆していた。

“ミサカ”の群出と告白
闇から同一容貌の“ミサカ”が次々と現れ、上条を包囲した。寝袋を担ぐ個体(検体番号10033号)は、自身が「死亡した」ことを述べつつ、脳波リンクにより記憶を共有する“妹達(シスターズ)”であると説明した。彼女らは御坂美琴の体細胞クローンであり、量産軍用モデルとしての“実験”進行中であると示した。

死体処理と証拠隠滅
血液凝固・薬剤処理等で痕跡は迅速に除去され、遺体は“ミサカ”たち自身により回収された。現場の消失は彼女らの計画的行動の結果であった。

上条の推論と葛藤
上条は“同一容貌の多数”という異常から、自然の双子ではなく人工的な生成であると結論した。また、素材提供の観点から御坂美琴の関与可能性に思い至り、吐き気と怒りを覚えつつも、実験が継続すれば犠牲が増えるという現実を直視したのである。

焼肉の支度と来訪者
小萌先生は同居人の姫神秋沙と焼肉の準備を進めていた。缶ビールを開け上機嫌の小萌に対し、姫神は「健康ネタ」で牽制した。インターホンが鳴り、姫神が応対すると腹を空かせた純白のシスター(インデックス)が倒れており、介抱して部屋に迎え入れたのである。

学園都市の都市伝説と超能力の講義
食卓では虚数学区・五行機関などの都市伝説が話題となり、小萌がシュレディンガーの箱を用いて「可能性の収束」を説明した。さらにガンツフェルト実験やRSPK、パーソナル・リアリティの概念に触れ、能力開発は「自分だけの現実」を形成する記録術であると語った。姫神は古典的神秘思想(グノーシス/アルスマグナ)との接続を示唆した。

上条の不安と常盤台寮への訪問
上条当麻はインデックスを気に掛けつつも、御坂美琴の所在と「実験」への関与を案じ、常盤台中学の学生寮を訪れた。部屋にいた白井黒子の招きで入室した上条は、美琴の「輪の中心に立ちながら輪に混ざれない」孤独について黒子から示唆を受け、寮監の巡回に備えて身を隠した。

ぬいぐるみの隠し資料と“実験”の全貌
ベッド下のぬいぐるみ内部から上条は機密資料を発見した。内容は「レベル6シフト計画」であり、学園都市最強の一方通行を“絶対能力”へ導くため、超電磁砲のクローン計画“妹達(シスターズ)”を戦場シナリオで多数殺害するというものであった。必要試行は二万人規模であり、人格形成は短期成長と洗脳装置で補うと記されていた。

美琴の立場の再検討
印字されたバーコードから、資料はAランクデータをCランク端末で不正取得した痕跡が示され、美琴が正規の協力者でない可能性が高まった。さらに、学園都市地図の“赤い×印”は関係研究施設の“撤退/潰し”の痕跡と読み取れ、美琴が外から計画の停止に動いている公算が生じた。

上条の決意
上条は“人として当たり前の行為”を示した御坂妹の人間性を想起し、計画の非道に激怒した。美琴が実験を看過していないと確信し、彼女の味方として行動する決意を固め、寮を飛び出して美琴のもとへ向かったのである。

夜の捜索の開始
上条はレポート読了で夜更けとなる中、根拠の乏しいまま御坂美琴の行方を求めて繁華街を走り抜けた。腕の黒猫は揺れに鳴き、上条は不安を紛らわすように走り続けたのである。

不安と安堵の同居
居所も目的も曖昧であったが、上条はふたたび美琴を「心配できている」現状に微かな安堵も覚えていた。不確実さが焦燥を煽り、足を止める理由にはならなかったのである。

風車の異常回転に着目
風を感じない夜にもかかわらず、遠方の風力発電プロペラが回転している事実に上条は立ち止まり注目した。発電機=モーターの可逆性と電磁波駆動の性質を踏まえ、不可視の電磁波源の存在を推論したのである。

電磁波を“痕跡”とする追跡論理
無風下の回転は外的電磁刺激の指標であると判断し、上条は回転する風車列を方位標として走行経路を定めた。微小回転→緩速回転→高速回転と強度が段階的に増す配置から、源点が市街外縁に近いと見積もった。

導かれる進路と“爆心地”の仮説
回転速度の階段状増大は、見えざる“爆心地”へ向かう勾配のように観測された。上条は人波を切り裂き、角を曲がり、灯の落ちた街外れへと走行を継続したのである。

行動原理の確立
上条は「確証はないが、観測可能な物理痕跡を追う」という最小仮説で行動を正当化し、電磁波源=美琴の活動領域(あるいは“実験”の関連地点)へ収束する道筋を見出した。

第三章 レールガン Level5

闇夜の鉄橋
夜の街外れ、灯りのない鉄橋に御坂美琴は独り立っていた。黒い川面と三日月の光が重なり、世界は沈黙に包まれていた。手すりに手を置く少女の周囲では青白い火花が散り、雷撃の光が彼女だけの星空を描いていた。

理想の始まりと裏切り
幼少期の美琴は、生体電気を操る力を筋ジストロフィー患者の治療に応用できると信じ、自らのDNAマップを学園都市の研究者へ提供した。「誰かを救いたい」という純粋な願いの結果、そのデータは軍事利用され、量産された劣化複製体“妹達(シスターズ)”が生まれた。だが、彼女らは兵器ですらなく、ただ“殺されるため”の実験動物として生み出されていたのである。

罪と赦しの間で
自らの行為が数万人の命を奪う結果を生んだ現実に、美琴は絶望していた。研究の歪みか、初めからの欺きかは不明。しかし少女にとって、結果だけは変えようがなかった。彼女は震える体で、それでも「止めなければ」と決意を固めていた。命を賭す覚悟に震えながら、なお「助けて」と心の奥で願った。

想起される少年の存在
美琴の脳裏には、一人の少年――上条当麻の姿が浮かんだ。学園都市でも異質の存在、“無能力者”とされながら誰よりも強く、奢らず、誰にも分け隔てなく接する少年。その真っ直ぐな姿を思い出した美琴は、あのとき彼に助けを求めていたらと一瞬想像する。しかし、自分だけが救われることを「卑怯」と感じ、その言葉を飲み込んだ。

声なき祈り
罪の重さを背負う彼女は、誰もいない夜にだけ小さく呟く。「たすけて」。その声は風にも届かず闇に溶けた。

邂逅
足元に一匹の黒猫が現れた。闇の中でただ一つの温もりを持つその小さな命が、美琴の孤独に寄り添うように鳴いた。その瞬間、鉄橋に足音が響く。
三日月の光を背に、闇を裂くように現れたのは上条当麻だった。
「……何やってんだよ、お前」
少女の沈黙に届いたその声が、凍てついた夜を動かしたのである。

邂逅と対峙
上条当麻は夜の鉄橋で佇む御坂美琴を発見し、声をかけたのである。美琴は普段通りの虚勢を装ったが、その裏の疲弊を上条は看破した。

報告書の提示と日常の崩壊
上条は「妹達(シスターズ)実験」のレポートを提示し、御坂が隠し通してきた日常は崩れ去った。美琴は動揺を笑みで覆い隠しつつ、上条の動機を「心配か、糾弾か」と問い質したのである。

御坂の告白:研究所破壊と黙認構造
美琴は、ネット経由で研究機材を機能停止させ研究所を潰してきたが、実験は別施設に引き継がれ終わらないと述懐した。学園都市は衛星監視下にあり、理事会は実験を黙認、警備員・風紀委員にも影響が及び内部告発は逆に拘束の危険があると明かしたのである。

実験の骨子と“八百長”計画
実験は「超電磁砲を128回殺すことで一方通行(アクセラレータ)をレベル6へ進化させる」という仮説に基づき、代替として二万人の劣化複製を用意していると説明した。美琴は演技でもよいから初手で完敗し続け“樹形図の設計者”の演算結果に誤りがあると思わせ、実験全体を停止させる“八百長”を企図していた。加えて、その人工衛星は既に撃墜され再計算不能であるため、今こそ揺さぶりが効くと判断していたのである。

上条の否定と論点
上条は「お前には一方通行を殺せない」「それはお前の性に反する」として抹殺案を否定し、相談せず孤立する在り方を糾した。美琴の“自己犠牲での停止策”は成功保証がなく、たとえ演算への不信を生んでも継続され得る危うい賭けであると断じたのである。

決裂と覚悟の衝突
美琴は「自分が死ねば一万人が救われる」と覚悟を示し、上条に退去を最後通告した。上条は退かず、「戦わない」と明言して両手を広げた。これに美琴は激昂し、青白い雷撃の槍を至近距離から放つ。上条はなお拳を握らず、無抵抗のまま彼女の攻撃を受け止める覚悟を示したのである。

雷撃直撃と少年の起立
美琴の雷撃が上条に直撃し、上条は地面に叩きつけられたが、なお歯を食いしばって立ち上がったのであった。美琴は彼の無抵抗を前提にしたはずの一撃が通り、なお起き上がる事実に動揺した。

「戦わない」宣言と理由なき執念
上条は拳を握らず、「理由は分からないが、お前を殴りたくない」と叫び続けた。理屈よりも“美琴を傷つけたくない”という一点で立ち塞がり、説得不能でも退かない姿勢を貫いたのであった。

自己犠牲の正当化と対話の断絶
美琴は自責から「自分が死ねば一万人の妹達が救われる」と主張し、上条の不介入を望んで攻撃を強めた。上条は「その方法では誰も救われない」と反駁し、感情の衝突は決裂へと進んだ。

手加減の露見と善性の指摘
連続する雷撃でも上条が致命傷に至らない事実から、上条は「電圧は高くとも電流が低い=殺意が通っていない」点を看破した。結果として美琴は“最後の夢”を奪おうとする相手すら殺せない善性を晒し、言葉を失ったのであった。

引き止めの本音と恐れ
美琴は上条を失望させて「実験」に踏み込ませない目的で、あえて醜悪な真相と一方的攻撃を示していた事が滲んだ。しかし上条は罵倒も攻撃も受け入れてなお「どかない」と宣言し、介入の意志を明確にした。

臨界の一撃と不倒の意思
美琴は「ここから先に救いはない」と宣告し、本気の雷撃の槍を発射した。轟音と閃光が鉄橋を満たす中で、上条は最後まで拳を握らず、立ち続けたのであった。

美琴が目を開けると少年が遠くに倒れていた
美琴が恐る恐る目を開けると、少年は数メートル離れた場所にうつ伏せで転がっていた。少年の衣服のあちこちから薄い煙が漂っており、長時間通電した物体が発する熱の影響であちこちに軽度の火傷が刻まれているように見えた。

美琴は少年が高圧電流で致命的なダメージを受けたと理解した
美琴は状況を見て、今回の電流は本物の高圧電流であり、少年の心臓はショックで停止している可能性が高いと直感した。彼女はこれで終わったと唐突に悟った。

黒猫の反応が美琴に気づきを与えた
少し離れた場所に怯えた黒猫が座っており、その幼い瞳が何故こんなことが起きたのかを訴えているように見えた。美琴はその黒猫を見て、自分がした行為の本質に気づいた。

美琴がしたことは信頼の裏切りに等しいと理解した
美琴は、自分が少年に対して行ったことは、信頼して寄ってくる猫にいきなり雷撃を浴びせるような行為であると自覚した。少年には選択肢があり得たが、彼は真実を明かし、戦いたくないと訴え、それでも美琴を止めようとした。

少年の行動は美琴の期待を裏切らなかったが致命的な結果を招いた
少年はレポートの内容や事情を知らないまま美琴のために立ち上がった。しかしその行為は美琴のトリガーとなり、引き金が引かれた結果、少年は倒れたままで動けなくなった。

上条の指のわずかな動きが美琴の感情を乱した
倒れた上条の右手がわずかに動き、指先が地面を撫でるように動いた。その動きは復讐心や逃走願望からではなく、ただ一人の少女が助けを求めたときに手を差し伸べたいという執念に基づくものであった。

美琴は少年を撃つことができず涙を流した
美琴は少年を排除して先に進もうとする論理的結論に至ったが、実際には雷撃を撃てなかった。美琴は少年に死んでほしくないと強く思い、助けを内心で叫び、昔錆びていた涙腺から涙が零れ落ちた。

上条の視界は明滅していた
鉄橋の上に転がったまま、上条の視界は明滅していた。目の前には呆然と立つ美琴がいた。雷撃は止んでいた。美琴の頬からは子供のような涙が零れていた。

美琴の言葉を反芻する上条
上条は必死に考えを巡らせた。美琴が口にした「私が死ぬしかない」という言葉を反芻した。それは美琴が死を望んだのではなく、選べる選択肢がそれしか残されていなかった事を示していた。

第四の選択肢を模索する決意
上条は思考を突き詰めた。三つの選択肢に全て「自殺」と書かれているなら、四つ目の選択肢を用意すればよい。すなわち「やっぱり生きる」という選択肢を作ればよい。美琴が生きられる道を自ら作ることが答えであると考えた。

「実験」を終わらせるための思考の展開
上条は「実験」を止めるための現実的な制約にも思考を向けた。研究所を潰すだけでは計画は別施設へ継承されると理解した。実験を終わらせるには、実験自体が利益を生まないと信じ込ませる必要があるという結論に到達した。

違和感と意識の喪失
その直後、上条は何か違和感を掴んだ。しかし高圧電流による衝撃で傷ついた身体は限界に達していた。意識は急速に暗闇へと沈んでいった。

第四章 アクセラレータ Level5(Extend)

冷たい夜と御坂妹の無表情な行進
真夏でありながら、夜の冷気は鋭く肌を刺していた。検体番号10033号、御坂妹は繁華街を抜け、工業地帯の一角へ向かって正確な歩調で歩いていた。これから行われる「実験」の内容を頭の中で反芻しながら、彼女は自らが殺される手順を淡々と確認していた。その表情には恐怖も悲壮もなく、ただ「無」があった。

命の価値を知らないわけではないが自分に適用できない
御坂妹は他者の命を救う行動を取ることはできるが、それを自分に向けることはできなかった。自動製造され、洗脳装置で人格を上書きされた存在として、自分の命の単価は十八万円に過ぎなかった。大量生産される肉体に価値はなく、いずれは安売りされるだろうと認識していた。

理解不能な「少年」の反応
歩きながら、御坂妹はある少年の顔を思い出していた。路地裏で彼女たち「ミサカ」を見たとき、少年は息を呑んで立ち尽くした。彼は問いかけた――「お前は誰なんだ」と。しかしその言葉の意味は、「お前は何をしているんだ」という悲痛な否定の願いだったと彼女は分析する。

無関心を装いながらも残る疑問
御坂妹は少年の心理を理解できず、「理解できないものはいちいち考えるな」と結論づけた。だがそれでも、なぜ自分がその少年の顔を思い出したのかが分からなかった。本当に価値がないものなら、思い出す必要などないはずだった。

処刑台への歩み
「実験」以外の思考を許されないはずの少女は、気づけば無意識に少年を思い出していた。何も理解できないまま、御坂妹は予定された死の場所へと歩を進めた。その一定の足音は、時限爆弾の針のように正確で冷たかった。

上条の覚醒と生存確認
上条当麻は鉄橋上で意識を回復し、指先と呼吸、微弱な心拍を確認した。全身は感電の影響で冷却し、運動機能は著しく低下していたが、起立の意思を保っていた。

御坂美琴の動揺と膝枕
御坂美琴は上条当麻の頬を膝で支えつつ、雷撃の停止後も震える声と涙を見せた。上条当麻は言葉にならない安堵を示し、状況把握を継続した。

「実験」を止める仮説の提示
上条当麻は「樹形図の設計者」に依存する計画の性質を整理し、研究者に「一方通行は最強ではない」と思い込ませれば計画が無効化されると推論した。その手段として、無能力者と判定される自分が一方通行を打倒する実例を提示する案を示した。

御坂美琴の反駁と脅威評価
御坂美琴は同格のレベル5同士の勝敗では誤差扱いになると指摘し、さらに一方通行の「全ベクトル操作」により戦闘が一方的虐殺になると評価した。従って自分たちでは勝てないと結論づけた。

上条当麻の決意と起立
上条当麻は反論せず起立を続行し、幻想殺しを唯一の拠り所として戦闘意思を確定した。他者依存を排し、自身の右手で状況を転回させる選択を取った。

作戦開始の要求
上条当麻は御坂美琴に対し、「実験」の実施地点の情報提供を求め、即時の一方通行迎撃に踏み出そうとした。

操車場の邂逅
御坂妹は学園都市西端の操車場へ到達し、「実験」開始直前の一方通行と対峙した。周囲はコンテナが積み重なる盆地状の地形で、人影は皆無であった。一方通行は飄々と挑発を重ね、自己の到達点を「最強の先=絶対的無敵」と定義して渇望を語った。御坂妹は終始無表情で手順を確認し、午後八時三〇分に第一〇〇三三次実験を開始した。会話の応酬から、御坂妹の自己評価の低さと、一方通行の目的が「力の更新」にあることが明確化されたのである。

上条の疾走と美琴の逡巡
上条当麻は黒猫を美琴に預け、徒歩で工業地帯へ向けて走った。公共交通は下校時刻で停止しており、上条は消耗した身体で繁華街から無人の工業ビル街を突破した。鉄橋に残された美琴は上条の論理――無能力者が単独で最強を倒す事実を示し研究者の判断を覆す――を理解しつつも、感情的には同行を望んだ。上条は「御坂妹を必ず連れ帰る」と断言し、単独行動を選択した。

美琴の追走
理屈では待機が最善と理解しながらも、美琴は不安と焦燥に抗しきれず上条の後を追った。黒猫を抱え、決意と恐怖の入り混じるまま夜の工業地帯へ踏み出した。

戦闘開始と環境制御
午後八時三〇分、操車場で「実験」が開始された。御坂妹は帯電で周囲の酸素を分解しオゾンを生成、風のない場を利用して一方通行の呼吸環境を悪化させる消耗戦へ誘導したのである。

一方通行の加速接近と蹂躙
一方通行は運動量の向きを改変して瞬間加速し間合いを詰めた。反射で無効化できない“接触の速達”に特化し、非致死の範囲で打撃を連打し御坂妹を圧倒したのである。

上条当麻の介入
操車場外縁に上条当麻が出現し、御坂妹から離れるよう一方通行に要求した。上条は静かな怒気で退去を迫り、状況を一変させたのである。

最強と無敵の軋轢
一方通行は「最強」を自称しつつ「無敵」への到達を語り、上条の挑発を「面白い」と評価した。視線の焦点は御坂妹から上条へ移り、戦場の主題が「実験」から対峙へ転じたのである。

御坂妹の動揺と自己像の揺らぎ
御坂妹は自らを「替えの利く模造品」と規定し上条の介入を止めようとしたが、身体は動かず言葉だけが彼を呼び寄せた。胸中に説明不能の痛みが生じ、自己評価の前提が揺らいだのである。

上条当麻の宣言
上条は「作り物か否かは無関係、お前は世界でただ一人だ」と断じ、御坂妹個体そのものを救うと宣言した。御坂妹はその生き方を「強さ」と認識し、上条の前進を見届けるしかなかったのである。

開戦直後の遠隔制圧
上条当麻は一方通行へ正面突進を試みたが、一方通行は足元の砂利の「向き」を変換して散弾化し、至近距離の面制圧で上条を吹き飛ばしたのである。

砂利散弾とレール砲弾の連撃
一方通行はレールを起立・殴打して砲弾化、直撃と巻き上げ散弾で上条に蓄積ダメージを与え続けた。上条は転がり回避で致命傷を避けつつも、操車場外縁へ追い詰められたのである。

コンテナ崩落と粉塵爆発
頭上コンテナの崩落に合わせて一方通行が追撃。コンテナ内部の小麦粉が白煙となって充満し、一方通行は粉塵爆発を誘発した。上条は爆炎は回避したが、急減圧の衝撃で内側から損傷を負い、なお劣勢であった。

“幻想殺し”が開く隙と最弱の強さ
近接で右手が一方通行の“反射”を無効化し、上条の軽打が顔面に通り始めた。能力に依存し「勝負」を学ばなかった一方通行は、構え・重心・間合い運用が稚拙で、上条の牽制ジャブと回避ステップに対応できず、被弾と動揺を重ねたのである。

膠着の崩壊と決定打の予兆
蓄積打撃で膝が落ちた一方通行に、上条は腰を載せた「本気」の一撃を通した。追い詰められた一方通行は視界の風に着目し、能力拡張として大気流そのものの「向き」を掌握、巨大な風渦の鉄球を形成して一撃必殺を狙ったのである。

風圧の極致と上条の被弾
一方通行は大気の「向き」を掌握して風速一二〇メートル級の渦を形成し、上条を風力発電機の支柱へ叩きつけたのである。上条は動けず、生死も危ぶまれる状態となった。

万能感の獲得と再攻撃の予告
一方通行は風制御の未完成さを認識しつつも、その威力から絶対能力に匹敵する到達可能性を確信した。続けて空気圧縮を重ねる第二撃を愉悦と共に予告した。

美琴の介入決意と“計画”の葛藤
美琴は負傷した上条を前に介入を決意し、超電磁砲の装填に入った。しかし上条の「無能力者が勝つ」という前提を守るため制止の叫びが飛び、美琴は計画崩壊と上条救命の間で板挟みとなった。

空気圧縮からの高電離気体形成
一方通行は都市規模の風を一点集中させ、圧縮熱で摂氏一万度級の高電離気体(プラズマ)を生成した。美琴は電撃で再結合させても再形成されると判断し、電撃のみでは封殺不能と結論した。

解法の転換―風の撹乱という対抗軸
美琴は勝機を「風の制御妨害」に見出した。学園都市の大量の風力発電プロペラを電磁波で強制回転させ、都市全域で風を撹拌すれば一方通行の演算を崩せると推論したのである。

役割の分担と“妹達”の並列演算
美琴自身が直接干渉すれば計画が破綻するため、操作担当を御坂妹に委ねる方針へ転換した。御坂妹はレベル2相当の「欠陥電気」で個々の出力は小さいが、一万人規模の脳波リンクにより並列演算で風場を予測・同期可能であると位置づけられた。

御坂妹の覚醒と立ち上がり
御坂妹は自らの命に価値を見出さない認識を抱えつつも、美琴の懇願と上条の在り方に触発され、哀しむ他者の存在を知ったことで「守るべきもの」を得た。極限の負傷下でなお立ち上がり、都市の風を乱す作戦遂行へ踏み出したのである。

高電離気体の崩壊と風場撹乱の発覚
一方通行が都市風を一点圧縮して生成した高電離気体は、風場の揺らぎによって形状を崩したのである。再計算を完了させた直後も風向は意図的に乱され続け、圧縮は破綻した。要因は都市一斉の風力発電プロペラ回転であり、御坂妹の並列制御が風場を撹乱していたと一方通行は看破した。

標的の転換と美琴の遮断
一方通行は主導権を奪い返すべく御坂妹の排除を選択したが、御坂美琴が盾として割り込んだ。美琴は自らの劣位を承知で退かず、時間と距離を稼ぐ構えを取ったのである。

上条の再起と心理的圧
致命的打撃を受けた上条当麻は、それでも立ち上がり前進した。論理・体力の裏付けを欠く行為であったが、「御坂妹を守る」という一点の理由が行動を駆動し、一方通行に本能的な危険信号を与えた。

最終接近戦と“右手”の封殺カウンター
一方通行は再び砲弾的な踏み込みで間合いを潰し、右の“苦手”と左の“毒手”による二重の必殺を同時に叩き込もうとした。上条は残余体力の全てで頭を低く切り込み、右を空振らせた上で左を“幻想殺し”で払い落とし、至近距離からの右ストレートを打ち抜いた。決め台詞「俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ」と共に拳は命中し、一方通行は砂利へ叩きつけられて転がったのである。

終章 オンリーワン ID_Not_Found

病室の再会
上条は暗い病室で目覚め、ベッド脇に座る御坂妹が手を握っていた事実を知ったのである。御坂妹は生体電気で脳波と心拍を測定していたと説明し、黒猫が足元で丸くなっていた。

御坂妹の寿命問題と「調整」
「実験」は一方通行の敗北により中止の方針となったが、御坂妹は急速成長とクローン由来の短命化により、研究施設でホルモンや分裂速度を調整し寿命を回復させる必要を述べた。彼女は近いうちの再会を約して病室を後にしたのである。

御坂美琴との対話と救い
朝、美琴が見舞いに来訪した。上条は、美琴が提供したDNAマップが妹達の誕生を可能にした事実と、救えた多くの命を指摘し、罪責のみで閉じこもるべきではないと伝えた。美琴は沈黙の後に感情を揺らしつつ受け止め、二人は日常的なやり取りへと戻った。

インデックスの叱責と和解
午後、インデックスが見舞いに現れ、独断行動への怒りと「心配した」という本音を示した。上条は謝罪し、インデックスは笑って受け入れた。彼女は相談の不足を指摘しつつも追及を収めたのである。

動機の確認と日常への回帰
上条は今回の戦いの理由を「自分のため」と明言し、過去に囚われず日常へ歩む姿勢を示した。先にある再会と幸福は望むが、仮になくとも自らの歩みで掴み取る覚悟を固めたのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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