物語の概要
異世界転生×現代無双×アウトローなローファンタジー作品である。探索者としてダンジョンで搾取され社畜と化した主人公・松尾篤史が、未来の記憶と共にチート装備や知識を引き継いで再スタートする。ユニークジョブ「旅人」を活かし、表立たずに能力を極め、最強の探索者を目指す成長譚である。
主要キャラクター
- 松尾 篤史:主人公。前世(未来)の記憶とチートな装備・知識を持ち、ユニークジョブ「旅人」とスキル「ルーム」で最強を目指す探索者。
- 奥野 せら:レアジョブ「侍」を持つ有能な部下。松尾に鍛えられ、強力な戦闘力を発揮する。
- 但馬 明彦:富士元興業の専務で、松尾の上司にあたる。本作での“裏社会”組織とも接点を持つキャラクター。
物語の特徴
本作の特徴は、転生した主人公が現代知識と未来からのチート装備を併せ持ちつつ、従来の「正統派英雄」ではなくアウトローかつ計算高い立ち回りを見せる点にある。また、ユニークジョブ「旅人」のスキル「ルーム」によって、ダンジョン探索や戦略が“科学的”かつ“冷徹”に進む点が読者を引き込む
。さらに、ギルドナイトの視点を交えた書き下ろしエピソードも含まれ、世界観への理解とキャラクターの掘り下げが充実している。
書籍情報
二度目はタの付く自由業1 ~逆行した社畜は、チートな装備&知識持ち越しで万能のアウトローになる~
著者:仏ょも 氏
イラスト:増田幹生 氏
レーベル/出版社:アース・スターノベル(アース・スター エンターテイメント)
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あらすじ・内容
人生やり直しで、最強の探索者!?
「小説家になろう」にて四半期1位獲得!
(ローファンタジー〔ファンタジー〕ジャンル、2024年5月29日時点)
逆行転生×現代無双×アウトロー
探索者志望の松尾は、パーティメンバーやギルドに搾取され、
社畜となる「未来の記憶」を思い出す。
将来手に入るはずのチート装備や知識も、なぜか同時に手に入っており……。
「差し当たっては……目指すか。『最強の探索者』ってやつを」
規格外のジョブ【旅人】を生かし、
誰にも知られずにステータスをトップクラスに鍛え上げる!
圧倒的実力で、元裏社会の組織の“特別な役職”まで得てしまい!?
有能な部下を育て上げ、二度目の人生は不遇な運命に逆らい無双する!
【ギルドナイト視点の前日譚】等の書き下ろしエピソード収録!
感想
本作は、作者の名前で購入を決めた。
李儒を主役にし、呂布をデスクワークで瀕死に追い込んだ”偽典・演義~とある策士の三國志~”アーマード・コアをリスペクトして執筆された”極東救世主伝説”。
文書の相性も良いのでweb版の時から何周も読んでいた。
1巻はweb版の35話前後。
そう考えるとweb版のストックが心許ないのが続くか心配になる。
この作品で最も印象深かったのは、ギルドという組織が「味方」の仮面を被った搾取構造そのものであるという描き方であった。
同ジャンルの他作品であれば主人公を支える存在として描かれることが多いギルドが、本作では圧政の象徴であり、利権を守るために個人を潰そうとする敵として登場する。
これは非常に皮肉的で痛烈であった。
探索者を「働きアリ」に例え、管理・抑圧・搾取の対象とするギルドの存在は、現実社会における政商な◯◯等のブラック企業の比喩とも読める。
その中で、松尾が“未来の記憶の自分”を否定しながらもそこから一歩踏み出す姿勢が、読みどころ。
また、松尾が手を結ぶことになる組織、富士元興業の存在も特筆すべきである。
ここには、未来では時流に乗り遅れて潰れご令嬢がギルドから搾取されていた「ヤの付く自由業」のフロント企業という背景がある。
過去では関わりの深かった女性・奥野の存在を軸に、松尾はこの企業を支え、再生の鍵を握る人物となっていく。
未来では手遅れだった人達を事前に救う展開は爽快感があった。
本作は、力を持つということが単なる暴力や戦闘力ではなく、「搾取から自分や大切な人を守る手段」であるというテーマを繰り返し描く。
装備もスキルも、単なる強さの象徴ではなく、背後には国家や組織の利害が絡んでおり、常に緊張感の中に置かれていた。
仲間を得ること、信頼を築くことすら、戦略と覚悟が伴う。
一方で、戦闘やダンジョン攻略の描写はスピーディかつ的確で、飽きさせない。
レベル上げの過程、装備の活用、スキル取得などが合理的かつ説得力を持って描かれており、「チートで俺TUEEE」の一言では片づけられない重みと精密さがある。
とりわけ心に残ったのは、「過去を知ることで未来が拓ける」という姿勢であった。
過去の自分を否定するのではなく、そこから何を学び、どう活かすか。
松尾が「自由」を選んだ背景には、自分が囚われていた檻から出て、自分の足で歩くという決意が込められていた。
この作品は、ただの逆行チートものではない。苦くも熱い感情、そして「本当の自由とは何か?」という問いかけであった。
既得権益と真っ向から戦いながら、孤独な戦いのなかで仲間を得ていく松尾の姿に、きっと心を揺さぶられるであろう。
多分、メイビー。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
松尾篤史
冷静沈着かつ合理的な判断力を備えた探索者であり、過去の搾取経験を踏まえて自由と力を追求する意志を持つ。
・元【ギルドナイト】の最年少メンバー
・巻き戻りによって過去の記憶とスキル【ルーム】を保持したまま再スタートを果たした
・ジョブ【旅人】から【過客】へと昇華し、唯一性のある成長を遂げた
・富士元興業と提携し、営業部特殊素材調達課課長および龍青会学園支部支部長の肩書を得た
・奥野せらとのパーティー結成を皮切りに、最強探索者としての再起を目指す
・ポーションの販売やスキルオーブの運用を通じて富士元興業に多大な利益をもたらした
奥野せら
実直で自立心が強いが、家族想いの一面を持つ孤高の探索者志望生徒である。
・ジョブはレア職【侍】で、剣士よりも高い成長力を持つ物理特化型
・家庭の事情でポーションを必要としており、それを契機に松尾との契約を結んだ
・松尾から装備と強化指輪を貸与され、中層ダンジョンを単独で制圧可能な実力を獲得
・正式に龍青会に所属し、探索活動および企業活動に従事している
・当初は松尾に不信感を抱いていたが、次第に信頼と協力関係を築いた
但馬
現実的な判断力と柔軟な対応を備えた、富士元興業の専務である。
・探索者業務への業態転換を主導し、松尾の価値を的確に見抜いて提携を決断した
・組織運営の規律と信頼を重視し、松尾の独断行動には適切な手続きを促した
・ギルドや外部圧力に対しても慎重に対処し、企業の利益と安定を守っている
美浦
富士元興業の営業部部長であり、現場の対応と判断を担う立場にある。
・松尾や奥野に対し最初は警戒心を抱いたが、但馬の指示に従い受け入れた
・学生でありながら企業交渉を行う松尾の異質さに驚きつつも、現実を受け入れた
富士元紗希
富士元興業の社長令嬢であり、企業の変化に関心を寄せる人物である。
・松尾に興味を抱き、社内の情報を集めようとする姿勢を見せた
・受付係の忠告により、無防備な接触を控えたことで、潜在的なリスクを回避した
沙山ケイ
富士元興業の受付係であり、観察力と冷静な判断を持つ人物である。
・松尾を得体の知れない存在として警戒しつつ、無暗な関与を控えるよう忠告した
・紗希の行動に対して助言を与え、社内の安定を守る立場を取った
黒羽輝夜
探索者学園の生徒会長であり、弟の不始末によって信頼を喪失した指導者である。
・決闘事件の後処理で判断を誤り、生徒からの不信任を受け辞任を余儀なくされた
・弟との距離を取る対応が裏目に出て、組織内外から孤立した
黒羽
輝夜の弟であり、過去に奥野せらを搾取的に扱った問題児である。
・探索者としての能力は高かったが、人格面に問題があり、パーティーを破綻させた過去を持つ
・松尾との決闘で一撃で敗北し、その後の責任を追及された
展開まとめ
プロローグ
囚われの探索者としての回想
ギルドナイト時代の自己認識
松尾篤史は、日本の最強探索者パーティ【ギルドナイト】の最年少メンバーとして活動していた。当時、彼は国家の管理下に置かれつつも、それに対して不満を抱いてはおらず、給料や家族の誇りといった表面的な安定に満足していた。制限や監視も社会人として当然と捉え、むしろ国外に連れ去られて非人道的な扱いを受ける可能性を思えば、日本に囲われている方が「マシ」だと考えていたのである。
ギルドによる支配と自由の錯覚
しかし振り返れば、当時の松尾は自由の名を借りた管理体制の中で、単なる道具として扱われていた。ギルドナイトの一員であっても決定権は与えられず、遠征では命令に従うだけ、単独行動でも護衛名目の監視が常であった。素材の買取価格は不当に抑えられ、探索成果を不当に没収されることも日常だったが、当時の彼はその理不尽さに疑問を抱くことすらなかった。
悪意と搾取の構造に対する気づき
ギルドの待遇の裏には、探索者を都合よく搾取する構造が隠されていた。支給されたのは現金ではなく、風俗の無料券であり、それすらもギルド内での蔑視の材料となっていた。松尾は自身が「金の卵を産むガチョウ」として見られていることを後に知ることとなった。素材を横流しされ、単独潜入日は「ボーナスデー」と呼ばれ、嘲笑の対象になっていたことも知った。
家族を盾にした従属の強制
自由を奪われながらも、松尾が反抗しなかったのは家族の存在があったからである。ギルドは彼をコントロールする手段として両親や妹を人質に取り、逃亡や反抗の選択肢を封じていた。そのため彼は、表面上は従順な道化を演じ、己が道具であることを装い続けた。過度に警戒されぬよう、甘やかされた家畜のふりをして、適度に報酬を享受し、適度に発散し、適度に働く「理想的な駒」としての役割を演じたのである。
自己欺瞞と洗脳への気づき
松尾は、かつての自分が「自ら檻に入る飼育動物」として生きることを肯定していたと振り返る。当時は、誰もが「幸せ」であると信じていた。しかし、その「幸せ」は洗脳された認識の上に成り立つ偽りであった。十五歳から施されていた教育の結果、彼は搾取と従属を疑うことなく受け入れていたことにようやく気づいたのだった。
絶望と希望の境界線
そのような状況下でも、松尾には抗う術がなく、従うほか道はなかった。反抗すれば命を失うか、非人道的な実験に利用される恐れがあった。逃げ延びる道があったとしても、家族を見捨てることはできず、彼は完全に支配されていた。それでも彼は「誰もが幸せになれる」幻想のもと、道化を演じ続けることが最善だと信じていた。だが今となっては、その信念すらも過去の過ちとして、冷静に見つめ直すことができていた。
一章 目覚めた男
四五階層での激戦
探索者パーティ【ギルドナイト】は新宿ダンジョンの四五階層で、巨大な熊型の魔物と交戦していた。剣士が放った一撃は致命傷には至らず、逆に魔物の反撃により吹き飛ばされた。魔法使いは衝撃が物理ではなく魔力に由来すると見抜き、防御魔法を展開。仲間たちも連携して風と炎の複合魔法を放ち、魔物に大きな損害を与えたが、完全には倒しきれなかった。
予想外の反撃と危機の回避
魔物は反撃の力で防御を突破し、魔法使いを狙ったが、騎士の盾がそれを防いだ。その後も魔物は満身創痍ながら立ち上がり、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けた。しかし、それは剣士の奇襲によって阻止され、首を断たれた魔物は完全に息絶えた。剣士は万が一に備え、胴体と頭部にも追撃を加えた上で、戦闘の終結を確認した。
魔物の正体と討伐後の議論
倒れた魔物を見て、騎士はこの階層の主ではないかと推測したが、他の仲間は懐疑的であった。死体の解体と回収を進める中で、彼らは持ち帰れる部位について議論し、ドロップアイテムの性質や消化の特性を踏まえて判断を下した。探索者たちはその場に長居せず、成果を携えて撤退することに決めた。
探索効率の限界とギルドへの不信
メンバーたちは、より深層へ進むためには高階層の素材で作られた装備が必要であることを理解していたが、それらを効率的に回収する手段を持っていなかった。ギルドに仲介された【商人】を連れてくる案も出たが、情報と物資の搾取を警戒して却下された。探索者全員がギルドに対して強い不信感を抱いており、それが共通認識となっていた。
理想の荷物係の構想
剣士は、ギルドに頼らず独自の荷物係を育成する必要性を感じていた。弟子ではなく、従順かつ管理可能な存在であれば十分であり、最低限の戦闘能力と服従心があればよいと考えた。教育期間を五年と見積もり、新卒や在学中の若者を対象とする計画を立てた。素行や能力の有無は問題視せず、人格さえも問わない育成方針であった。
商人確保を巡る静かな競争
剣士は、他のメンバーも同様の計画を立てていると確信していた。実際、地上に戻った後、報告と報酬の処理を終えた彼らは、休息を取る間もなく水面下で商人の確保に動き出した。その裏で、ある学校の教師が、自己申告で【行商人】の職業を得たと報告した生徒を軽視し、記録の中に埋もれさせていた。この判断が、後にギルドナイトだけでなく世界に波紋を広げる契機となるとは、誰も知る由もなかった。
目覚めと記憶の回復
松尾は、ダンジョンでの初レベルアップと同時に脳内でアナウンスを聞き、十五年分の記憶を取り戻した。状況は把握できていなかったが、探索者としての鉄則に従い冷静を保った。監督者である尾崎教諭の指示に従って待機場所へ移動し、得たジョブが【旅人】であることを確認した。
スキル「ルーム」の使用と偽装工作
松尾が得たスキル【ルーム】は、かつてギルドナイトを世界最強に押し上げたほどの高性能であった。右手をかざすことで空間を生成する能力は極めて強力であったが、その性能ゆえに目立つことを危惧し、スキルを隠すために外れジョブとされる【行商人】を偽って名乗ることを決めた。
行商人を名乗った理由とその効果
松尾が選んだ【行商人】は、商人系の中でも特に戦力にならないと評されており、誰からも期待されない職業であった。この選択は周囲の関心を避けるには最適であり、事実、彼が行商人と名乗った瞬間、周囲の同級生たちは興味を失い、哀れみの視線を向けた。同級生の少女にジョブを尋ねられた際にも「行商人」と偽り、彼女の関心を一瞬で遠ざけることに成功していた。
商人系ジョブの社会的没落
かつて【アイテムボックス】を有することから有用とされた商人系ジョブは、犯罪への利用が広がったことで危険視されるようになった。加えて、【鑑定】というスキルが持つ過剰な情報取得能力も社会不安を招き、商人は探索者・一般人の双方から警戒と嫌悪の対象となった。
アイテムバッグの登場と商人の終焉
収納機能を持つ新技術【アイテムバッグ】の登場により、商人の有用性はさらに低下した。アイテムバッグは中身の可視性がありながら容量も大きく、商人の専用スキル【アイテムボックス】の優位性を完全に打ち消した。この技術革新により、商人は社会的に不要とされ、その地位は失墜した。
ステータスとジョブの仕組み
探索者の成長は八つのステータスによって定量化され、それぞれのジョブに応じて上昇傾向が異なっていた。商人はすべてのステータスが均等に伸びるが、突出した能力を持たないため戦力として評価されなかった。一方で松尾が得た【旅人】は全ステータスが一〇上昇し、さらにランダムで三ポイント加算される、圧倒的な成長力を誇るジョブであった。
旅人というユニークジョブの真価
【旅人】は、世界中で松尾しか所持していないユニークジョブであり、かつて彼がギルドに所属していた際は、その希少性ゆえに研究対象とされていた。当時は解析や利用のために搾取されていたが、今回はその経験を活かし、自由意志で行動することを決意した。
自由の獲得と今後の決意
松尾は、二度と過去のように搾取されることなく、自身の力と経験をもって自由に生きる道を選んだ。まずは現金を稼ぎ、過去にギルドから与えられていた不名誉な称号「タダ券の人」からの卒業を目指すと心に誓ったのであった。
タダ券の人からの卒業
松尾は「タダ券の人」という過去の自分を赦すために、現金で支払うことで償おうとしていた。そのためには相応の資金が必要であり、探索者としての活動によって稼ぐことを決意していた。彼が持つ【ルーム】は、【アイテムボックス】とは異なり他者の出入りが許可制であり、信頼性と利便性の高さを誇っていた。この特性を活用した過去のギルドナイトでは、ダンジョン探索中の損耗を抑えつつ、最高六九階層まで到達していた。松尾は、かつてのようにスキルを搾取されることを拒み、自分のためだけに【ルーム】を使うと誓っていた。
寮への帰還と社会の偏見
探索を終えて寮へ戻った松尾は、周囲から侮蔑と憐憫の視線を受けたが、虚偽のジョブ報告は成功していた。教師からの視線も同様であったが、ギルドや探索者の世界しか知らぬ者たちの偏見と割り切った。彼はそれらの反応に憤りを感じながらも、今後の行動を思案し始めた。
記憶とスキルの関係性
ジョブを得た瞬間に蘇った記憶には、過去に入手したアイテムや装備が現実に【ルーム】内に存在していた。これにより、ただの夢や未来視ではないことが判明し、記憶とスキルに何らかの因果関係があると考えるに至った。過去の記憶だけでなく、物品までもが引き継がれている事実に松尾は困惑していた。
繰り返す恐怖と目標の設定
松尾は、一五年の記憶とアイテムを引き継ぎながらもレベルが初期化されている現状に対し、それが今後も繰り返される可能性に恐怖を抱いた。幸せな未来を得たとしても、すべてがやり直しになるかもしれないという不安は、魂を閉じ込められたような感覚を呼び起こしていた。この事態の真相を知るため、彼は「何が、どうして、誰によって」という問いへの答えを探すことを新たな目標に掲げた。
力の必要性と決意
状況を打破し真実を知るためには、力が必要であると松尾は確信した。その力は、妨害を跳ね返し、自由を勝ち取るために不可欠なものであった。記憶の中では必要としなかった「力」こそが、今の彼にとって最も重要なものであり、それを得る手段と知識は既に備わっていた。松尾は、自らの力で運命を切り拓くため、「最強の探索者」を目指すことを決意したのであった。
二章 栄光に向かって走る
最強探索者への認識と世間の諦念
最強を目指す探索者像は気高く称賛されつつも、多くの者が挫折し、現実的な利益や安全を優先してその道を諦めていた。最強とは知勇を兼ね備えた存在であり、ただの無謀では至れないとされていた。
ギルドナイトの現状と巻き戻りの確認
テレビ番組を通じて、探索者ギルド内でも最上位に位置する「ギルドナイト」五人の構成とレベルが明らかとなったが、その内容から彼らが巻き戻りに気づいていないことが判明した。記憶を持っていれば、主人公の確保や監視を行っているはずであったが、それがなかったため、彼は自由に行動できる状況にあった。
ステータス重視の強化方針
探索者として最強を目指すにあたり、ステータス値の上昇が最優先とされ、その後にレベルやスキルが続くという優先順位が示された。特にパワーレベリングを行った場合にはステータスの成長が大幅に阻害されることが判明しており、自力で戦い抜くことが成長の鍵とされていた。
ジョブの限界と旅人職の弱点
旅人というジョブは万能ではあるが上級職が存在せず、レベルが上がるほどに特化型の上級職との差が広がっていった。剣士から剣聖へと昇華した例では、ステータス成長において圧倒的な差があり、旅人職の限界が浮き彫りとなった。
チート装備「成長率倍化の指輪」の投入
主人公はかつて世界最強の探索者たちが使用していた「成長率倍化の指輪」を用いて、ステータスの倍増を図った。この指輪は特定階層を突破すれば誰でも入手可能であるが、過去には六〇階層以降での環境対応が求められたため封印されていた。ギルドナイトの面々は後進に装備を継承せず、主人公が保管していたため、彼はそれを活用するに至った。
慎重な装備運用と探索者社会への警戒
指輪の存在を隠蔽したまま、目立たぬよう行動する必要があった。探索者社会では強力な装備を持つ学生は狙われるため、表向きは【商人】を装い、学校支給の装備のみで活動することで偽装を行っていた。
ステータス優位によるレベリング開始
新宿ダンジョン五階層にて、指輪の効果による圧倒的なステータス差を活かして魔物を一掃し、初のレベルアップを達成した。この成功により、ステータス上昇の有効性と戦闘スタイルの正当性が確信された。
今後のレベリング計画と行動方針
土曜日に五階層でのレベリングを行い、翌日は一〇階層への挑戦を予定するなど、段階的にレベルを引き上げていく計画が語られた。平日は学校があるため、週末を中心としたレベリングが想定され、必要に応じて外部への言い訳も準備することが示唆された。
力と自由の両立を目指して
再び実験動物にされることを拒む主人公は、自らの意思と力で生きる決意を新たにし、最強を目指す第一歩として静かにダンジョン攻略に乗り出した。
レベリング成果と孤独な立場
松尾篤史は、他の学生と距離を置きつつソロでダンジョンに潜り、装備と旅人の固有スキルを駆使して効率的にレベルを上げ、1か月足らずでレベル16に到達していた。装備の影響もあり、ステータス値は基本職のレベル30を凌駕する水準に達していたが、目立ちすぎないよう振る舞っていた。今後は行動に正当性を持たせるための社会的地位が必要だと認識していた。
社会的地位の必要性とターゲット企業の選定
松尾は探索者としての力に加え、社会的立場の獲得が不可欠と判断し、建設業と探索者クランを兼ねる株式会社富士元興業を目標とした。この企業は元反社会勢力がダンジョン探索によって社会的立場を得た例であり、かつては繁栄していたが、新規探索者の台頭により衰退傾向にあった。松尾はこの状況を逆手に取り、共存共栄の関係を築こうと企図した。
富士元興業の現状と但馬の葛藤
専務但馬は会社の衰退に強い危機感を抱きながらも、社員に無理な行動を強いることができずに苦悩していた。危険を冒すことで利益を得ても、組織内の格差や分裂を招くリスクがあると懸念していた。その中で、探索者学校の生徒が現実を知り、企業に身を寄せる時期が到来し、松尾が訪問することとなった。
松尾の訪問と専務・部長の動揺
松尾の登場により、富士元興業の幹部である但馬と美浦はその実力に圧倒され、態度を一変させた。応接室での対面では、松尾の冷静な応対と履歴書提出により、正式に面談が始まった。彼は商人系ジョブであることを明かし、アイテムボックスからポーションを提示し、販路の提供を依頼した。
ポーション取引による提携交渉
松尾はポーションをギルドではなく富士元興業を通じて売却したいと提案し、買い取り額もギルド価格の倍である1,000万円でよいと述べた。専務はその誠実な条件と組織力を見込んだ取引に価値を見出し、松尾との提携を決断した。
ハイ・ポーションの提示と信頼の試練
松尾はさらに希少価値の高いハイ・ポーションを提示し、ギルドではなく富士元興業に販売を託すことで、彼らの誠実さと信用を試した。専務はその危険性と価値を理解しながらも、松尾の交渉姿勢に誠意を感じ、取り扱いに前向きな姿勢を示した。
役職要求と社会的信用の強化
松尾は、自身の社会的地位を補強する目的で、富士元興業内での役職を希望した。専務はその意図を察し、彼の能力と取引内容を踏まえて、役職付与に前向きな反応を示した。松尾は組織内での信頼を得つつ、さらなる発展に向けて着実な一歩を踏み出した。
三章 パーティーメンバーを求めて
権限の獲得と組織内での位置づけ
松尾は専務を説得し、「富士元興業営業部特殊素材調達課課長(課員一人)」および「龍青会探索班学園支部支部長(所属一人)」という肩書を得た。役職は名ばかりであったが、ハイポーションによる莫大な利益と他社員との圧倒的な実力差により特別な扱いを受けた。表向きは営業部長の配下とされつつ、実質的には専務直属の存在として自由な行動を許されていた。放任の裏には、失敗時に即座に切り捨てる用意も含まれていたが、松尾はそれを合理的な判断として受け入れていた。ギルドとは既に袂を分かち、今後は適度に素材を売却しつつ、企業への貢献を図る意向であった。
最強を目指すための仲間探し
松尾は最強の探索者を目指す過程で、単独行動の限界を明確に認識していた。ダンジョン攻略において、たとえ強大な個人であっても、囲まれた時点で敗北する危険があると確信していた。そのため、火力補填と敵意分散を担う前衛、警戒と罠解除を担う仲間が必要不可欠であった。自身を除いて四名、すなわち前衛二名、中衛一名、後衛一名の五人構成を理想として定めた。信頼できる人物を選出し、アイテムを活用してレベルを上げる計画を立てていたが、目的を共有できる者の選定が課題であった。
奥野せらとの再会と勧誘
松尾は巻き戻りの知識を頼りに、最初の候補として奥野せらに目を付けた。彼女はレアジョブ「侍」を持ち、ソロでダンジョンに挑む孤高の存在であった。かつて成人後に店で出会い、長年指名し続けた関係があった。放課後、松尾は彼女に名刺を渡して喫茶店に誘い、企業やクランの背景を調べさせつつ、正式な交渉を開始した。肩書による説得が功を奏し、せらは会話に応じた。
利害関係の提示と交渉の進展
松尾は、自身がパーティーメンバーを得る必要性と、企業評価の向上が狙いであることを説明した。さらに、せらにとってもドロップアイテムの拾得補助や鑑定支援、パーティー収支の透明性による信頼確保などの実利があると説いた。収益の取り分については松尾が六、せらが四と提示し、その理由として回収と戦闘支援、共同資金や看板代の立て替えを挙げた。せらは不満を抱きつつも、自己管理に不安を抱えていたため渋々了承した。
契約金とポーションの提示
交渉の決め手として、松尾は契約金の提示に踏み切った。一〇〇〇万円の現金に加え、もっとも重要な条件として、彼女が何よりも求めていたポーション二本を提示した。せらの家庭は探索中の事故により重傷を負った両親の治療費に苦しんでおり、彼女は過去に偽物を掴まされながらも奔走していた経緯があった。松尾はその事情を把握しており、過去にポーションを提供していたこともあった。この提案によって、せらの態度は明らかに変化し、彼女の動揺からもその効果が窺えた。
クラン所属の利点と今後の展望
松尾はさらに、クランに所属することで得られる利益、すなわち装備品の安価入手、内部情報の共有、市場価格を下回る物品の購入や割増しでの素材販売といった具体的な利点を示した。看板代の負担は松尾が請け負うと伝え、せらの加入に対する誠意を示した。クランや企業の信頼を背景に、松尾は戦力の確保と探索の円滑化を目指し、奥野せらとのパーティー結成へと動き出したのであった。
契約締結の条件提示と冷却期間の演出
松尾は奥野せらに対し、五つの条件を提示した契約書を手渡し、慎重に内容を説明した。条件は三年間の所属、看板代の支払い、ダンジョン同行の義務、他クランおよび個人の誘いの禁止、情報漏洩の禁止であった。せらは即座に契約に応じようとしたが、松尾は保護者の同意が必要であることを理由にその場での署名を制止し、冷却期間を設けた。この対応は、契約の信頼性を担保し、後日のトラブル防止と保護者の責任分担を視野に入れたものであった。
交渉の優位と人材獲得への展望
せらの境遇は、松尾にとって理想的であり、彼女のレアジョブ・低レベル・孤立性・欲望の明確さがすべて条件に適合していた。松尾は彼女の囲い込みに成功したことで、今後の戦力強化に向けて一定の手応えを得た。しかしながら、同様の条件を備えた人材は極めて稀であり、新たな勧誘対象を見つける困難さにも直面していた。情報漏洩のリスクを避けるため、すでにパーティーを組んでいる者や学生の安易な勧誘は不適と判断し、次なる候補を慎重に探る必要があると自覚していた。
社内手続きの不備と修正対応
後日、松尾は直属の上司である但馬に報告を行い、人事権限を持たない自身の独断行動が組織上問題となる可能性を指摘された。だが但馬は柔軟に対応し、専務面接を経た正式採用という形に収めることで決着を図った。松尾は上司の理解に感謝しつつ、組織運営における規則順守の重要性を再認識した。内部の規範を逸脱すれば、たとえ結果が正しくとも信頼を失うと自省し、以後の行動には慎重を期すことを誓った。
教室での騒動と管理責任の指摘
翌日、せらは意気揚々と契約書に保護者の署名を携えて登校し、ポーションの受け渡しを強く求めた。松尾は周囲の注目を避けるため彼女を人目のない場所に誘導し、冷静な判断を促した。ポーションの管理責任と、その所有がもたらす周囲からの危険性を説き、当日の受け渡しは不適切であると説得した。学校という閉鎖的空間で高価な品を保持することのリスクを具体的に提示し、アイテムボックスに一時保管する合理性を理解させた。
追加入手契約による囲い込み強化
せらの冷静さが戻ったことを見計らい、松尾は新たな契約書を提示した。その内容は、ポーション四本を二〇〇〇万円で販売するという、常識外れの大特価販売契約であった。契約には利息なしの一〇年ローンも含まれており、せらの現在の状況と欲望に完全に合致していた。彼女はその提案に即答し、現金がないことを理由にローン契約を希望した。松尾は冷静を装いつつ、予定通りの展開に内心で勝利を確信し、再び契約書を保護者へ持ち帰らせた。これにより、せらの囲い込みはより確実なものとなった。
幕間 胡散臭いヤツが現れた
松尾との出会いと初対面の印象
奥野せらは、放課後にダンジョンへ向かおうとしたところ、クラスメイトである松尾から突然声をかけられた。その話しかけ方や態度、そしていきなりの名刺提示によって、彼女は彼を「胡散臭い」と感じた。過去に何度もパーティーを組んでは破綻してきた経験から、他人に対する警戒心が強まっていたことも、その印象を強める要因となっていた。だが松尾は動じることなく会話を進め、アイテムボックスから名刺を差し出し、自身が商人であることを示した。
喫茶店での会話とスカウトの背景
名刺に記された冗長な肩書を見たせらは戸惑いつつも、クランからの正式なスカウトであることを受け入れ、松尾の誘いで喫茶店に同行した。彼女は久しぶりのケーキに喜びつつ、企業側の事情を初めて知ることとなった。特に、企業が学生をスカウトすることに伴うリスクや、その影響によって自身がこれまで敬遠されていたという事実には衝撃を受けた。松尾の話から、富士元興業も追い詰められており、彼女のような人物を必要としているという背景が明らかになった。
契約提案と揺れる感情
当初は胡散臭いと感じていた松尾に対して、せらの印象は一変した。契約金一〇〇〇万円やポーションの提示により、現実的な利益が目の前に提示されたことで、彼女の理性は大きく揺れ動いた。市場価格では手に入らない貴重品が容易に提示されたことに疑念を抱きながらも、現物を見せられた瞬間、欲望が理性を上回った。しかし松尾はその場での契約を制止し、両親との相談を促したことで、せらの信頼を勝ち取ることに成功した。
家族の了承と契約成立
せらは帰宅後、両親と契約書の内容を確認し、正式な署名を得るに至った。翌日、契約成立と引き換えにポーションを受け取ろうとしたが、松尾から更なる契約の提案を受けた。それは四本のポーションを特別価格の二〇〇〇万円で購入できるという内容であり、利息なしの十年ローンも可能とされた。せらはこの機会を逃すまいとすぐに契約を予約し、両親の承諾も取り付けた。
ポーション入手と家族の回復
契約締結により、せらは合計六本のポーションを手に入れ、両親の治療に充てることができた。その結果、両親は無事に退院し、将来的には探索者として復帰できる見込みが立った。ローンの返済についても両親が協力することを約束しており、家族が再び揃って暮らせる状況が整った。せらは学生として借金を抱えることには懸念を抱きながらも、松尾に対しては感謝の念を抱いていた。
松尾への信頼と今後の展望
せらは当初こそ松尾に不信感を抱いていたが、契約を通じて信頼を深めていった。誠実な対応と見返りの提供により、彼への認識は大きく変化した。最終的には支部長としての松尾を信頼し、今後の協力関係に前向きな姿勢を見せるに至った。ただし、初対面の印象や広告的な契約書の内容については未だに胡散臭さを感じており、次の機会にはそれをはっきりと指摘する意志を固めていた。
四章 そしてダンジョンへ
レベリング計画とダンジョン突入
松尾は、月曜から金曜にかけて新たな部下である奥野との契約を段階的に進め、金曜日には正式な契約を交わして彼女を新宿ダンジョンへ同行させた。表向きの目的は実力確認であったが、実際には日曜の対外的な披露に備えたレベル上げが目的であった。現在レベル6の奥野をレベル16まで引き上げるため、松尾は15階層でのレベリングを計画した。通常ならば順を追って攻略する階層を、落とし穴というショートカットで飛び降りる手段を用いて一気に移動した。未経験の奥野は混乱し、松尾の強引な導きに不満を漏らしたが、現場では命令系統の明確化が不可欠であると諭された。
秘匿契約とレベリングの理由
奥野が疑問を抱く中、松尾はダンジョン中層でのレベリングを選んだ理由を語った。上層では成長効率が悪いため、彼女には高レベル装備を貸与することで中層対応を可能にしたのである。装備の中には国が関与するほどの秘匿品――【全ステータス+100の指輪】および【ステータス成長率倍化の指輪】が含まれていた。これらの情報を漏洩すれば、家族を含めた国家レベルの拘束対象になることが明かされ、奥野は身の引き締まる思いを抱いた。また、装備品は松尾の個人所有である可能性が示唆され、組織ではなく彼個人の意思による支援であると理解した。
装備と探索者としての実戦投入
松尾は奥野に対し、三十階層以降で入手できる素材から造られた装備――黒鬼刀および黒蜘蛛の千早を貸与し、さらに例の二つの指輪を身に付けさせた。これにより奥野はレベルに見合わない圧倒的な戦闘力を得ることになった。魔物はレベル差を認識し、奥野を狙って殺到するが、彼女はそれらを笑顔で迎撃するほどの余裕を見せ、探索者としての資質を示した。物理特化型のジョブ【侍】の能力と装備、加えて松尾の支援魔法により、彼女は敵を圧倒していった。
急速な成長とステータスの分析
奥野は三時間足らずでレベル6から13まで成長し、指輪の効果により実質的にはレベル20相当の能力に達していた。【侍】は基本職である【剣士】よりも高いステータス上昇値を持ち、特に攻撃力や敏捷性、器用さに優れていた。さらに、日本に特有のレアジョブであることも明かされ、奥野の潜在能力の高さが示された。彼女のステータスは装備や補正の影響により、もはや中層において脅威と呼べる魔物はいない状態にまで強化された。
さらなる階層への移行と不穏な兆候
奥野が中層での戦闘をこなし、効率的に成長を続けていたため、松尾はさらに下層への移行を決意した。しかしその矢先、奥野がダンジョン奥に不自然に存在する“宝箱”に気付いたことで場面は緊張感を帯びた。松尾はその存在を当然のように受け止めつつも、宝箱という探索者にとっての特別な対象の出現に対し、状況の変化を予感していた。
宝箱の正体と危険性
松尾と奥野はダンジョン内で宝箱を発見した。かつては探索者の夢とされた存在であったが、現代ではそのすべてが罠か魔物であることが判明しており、忌避対象となっていた。罠の中身は石化ガスや腐食ガス、爆発物など極めて危険なものが多く、発動すれば広範囲に即死級の影響を及ぼす。さらに、箱を開けた際に周囲に誰もいなければ中身ごと消失するため、第三者が安全に回収することも不可能であった。解除も不可能であり、ギルドナイトすら無力だった。
商人系スキルによる宝箱の無力化
松尾は探索者ジョブ「旅人」のスキル【収納】を用いて、宝箱を即座に回収する方法を実行した。このスキルにより、宝箱に接触せずに収納が可能となり、罠の発動を回避できた。ただし、成功には内部容量とスキルのレベルが関係し、誰でも真似できるわけではなかった。奥野はその手際に驚愕しつつも、この手法の秘匿性を理解し、松尾の指示通り「内密」に扱うことを了承した。
中層最奥部への進出と異常事態
その後、松尾と奥野は20階層のボス部屋に到達したが、通常なら休息地点として使われるはずの空間に他の探索者の姿はなかった。過去の記憶を辿った松尾は、かつてこの階層で大量の未帰還者を出したイレギュラーボス出現事件を思い出す。今回もそれと同様の異変が起きている可能性を感じ取り、事態を分析した結果、自分たちがイレギュラーボスと交戦する可能性が高いと判断した。
イレギュラーボスとの交戦
二人が探索を進めた結果、21階層への階段付近でイレギュラーボスである黒鬼と、それに随伴する赤鬼二体を発見した。松尾は強化された装備と魔法を駆使して黒鬼と赤鬼の一体を瞬時に撃破し、残る赤鬼を奥野に託した。奥野は接戦の末にこれを打倒し、探索者としての戦闘技術と警戒心を高く評価された。
ドロップアイテムとスキルオーブの入手
戦闘の結果、黒鬼からは金棒と魔石、そして極めて希少なスキルオーブが二つドロップした。スキルオーブはジョブに関係なくスキルを習得できる貴重品であり、売却価格は最低でも一億円以上とされていた。松尾が鑑定を行った結果、オーブには【雷撃】という汎用性の高いスキルが封印されていたことが判明した。
スキルの重要性と使用判断
【雷撃】はギルドナイトが全員所持していた実戦的スキルであり、攻撃・防御・探索すべてに活用可能であった。松尾は自身の現在のステータスが既にギルドナイトに匹敵していると分析し、今後の成長を見据えたうえで、このスキルを自身の強化に使うことを即決した。一方奥野にもオーブを譲渡しようと二億円で買い取りを提案したが、彼女は自己強化の価値を選び、使用することを決意した。
さらなる成長への準備
貴重なスキルオーブによって自己とパーティーメンバーの強化に成功した松尾は、探索者としての目標達成に一歩近づいた。次なるレベルアップに備えるため、ボスの不在を確認した上で、安全なボス部屋に戻り休息を取ることを選択した。
五章 チートが如く
土曜夜のレベリング完了
松尾は雷撃スキルを使いながら二五〜二九階層を周回し、レベル二八に到達した。奥野も二〇段階の伸長を果たし、実質四〇相当の能力を得たため、次週から三〇階層以降での本格的な鍛錬を計画したである。
日曜日の富士元興業訪問
十分な休息を終えた二人は学生服に龍青会のバッジを付け、新宿五丁目の本社を訪れた。社内は二人の放つ圧力に警戒を強めたが、松尾が部長の美浦と面識を示すことで緊張は解けたであった。
本社での威圧と誤解
警備担当は実力差を悟り視線を合わせず遠巻きに対応した。奥野の無自覚な威圧が混乱を招いたものの、美浦が部下を一喝して事態を収め、松尾と奥野は応接室へ案内されたである。
専務との面談と奥野の入社承認
専務但馬は奥野の実力に驚愕しつつも、龍青会の新規探索者として正式に受け入れた。役職昇進の提案もあったが、奥野は看板代を理由に一般社員のままを選択したであった。
ドロップ品の売却交渉
松尾は黒鬼の金棒をギルド相場より低い一〇〇〇万円で但馬へ売却し、魔石の代理売却も依頼した。素材取引でクランの資金を増やす算段を示し、但馬は協力を約束したである。
強化指輪の提案と取引
松尾は全能力を一〇〇上げる指輪と、レベルアップ時の成長を二〇%増す指輪を提示し、クランの底上げ策を提案した。指輪は三個ずつ所持し、自身と奥野が使用後に残る分を但馬に貸与・売却する形で合意した。買い取り価格は一個二億円、レンタル料は月一〇〇〇万円と定め、但馬は支払いを後日とする条件で受諾した。これによりクラン強化とギルド牽制の双方を図る布石が打たれ、奥野の取り分は二億四千万円に達する見込みとなった。
友人関係とクラン所属の確認
松尾は登校初日、奥野せらが生徒たちに囲まれている様子を目撃した。奥野は以前借金返済のために龍青会に半ば強制的に入会した経緯があったが、現在では龍青会の将来性に期待して自主的に残留を選んでいた。生徒会長の弟・黒羽が再び奥野をパーティーに勧誘していたが、松尾はそれに対し「すでに他のクランに所属している」として断らせ、上司として奥野を庇った。
黒羽との口論と過去の因縁の発覚
黒羽は以前奥野を劣悪な条件で勧誘し、搾取した挙句に追放した人物であった。今回の再勧誘でも謝罪の言葉は一切なかった。松尾はその態度に憤りを感じ、奥野に付き纏う黒羽らに対してギルドの規定違反を盾に圧力をかけ、謝罪を要求したが、黒羽は逆に松尾に決闘を申し込むという暴挙に出た。
決闘の提案と報酬条件の提示
決闘制度は学校内の揉め事を力で解決する制度であり、ルール上は成立していた。黒羽は勝利条件として松尾と奥野のクラン脱退と自分たちのパーティー加入を要求した。一方、松尾は敗北時に支払われるべき契約金の対価としてポーション2本=4000万円相当の支払いを提示した。これにより決闘は正式に成立した。
決闘直前の準備と観戦者の状況
決闘は放課後に第三実習室で行われることになり、松尾は初心者装備の【商人】として、黒羽は高額装備の【剣士】として登場した。観戦者は40名程度であり、噂を聞きつけた生徒会長の関係者も含まれていた。
決闘の経過と勝敗
松尾は挑発に乗らず、初手でマジックアローを二重に発射。大きな弾を囮にして、小さな弾を不意打ちで命中させ、黒羽を一撃で気絶に追い込んだ。さらに追撃を近距離で着弾させ、完全な戦意喪失を確認。松尾はルールに従ってカウントを取り、審判の介入を防ぎつつ勝利を確定させた。
決闘後の処理と報告宣言
松尾は勝利を宣言し、条件に基づく4000万円の支払い義務を黒羽に確認させたうえで、クランへの正式報告を行う意向を教師に告げた。また、決闘成立の記録はすべて監視カメラに記録されており、証拠としてギルドに提出される見込みとなった。
生徒会の介入と学校内の噂拡散
翌日、生徒会が松尾らを放送で呼び出すも、松尾は事前に休暇を取得しており不在であった。その結果、弟の不祥事を揉み消そうとした生徒会長の行動が噂として学校中に広まり、逆に生徒会長が窮地に立たされる形となった。奥野は冷静に情勢を分析し、支部長である松尾の行動を信頼し、これ以上の関与を避ける姿勢をとった。
エピローグ
ギルドへの備えと報復への警戒
決闘後、松尾は富士元興業の専務に対し、決闘に関する書類と証拠を提出し、ギルドからの介入に備えた支援を依頼した。松尾は、ギルド役員が自身の息子の失敗を認めず、面子を潰されたと捉えることで報復を企てると予測していた。その手法としては、依頼を装って探索者に学生を偶発的な事故に巻き込ませ、表面上は事故として処理する手段が想定された。これを防ぐために、松尾は自身と奥野のレベルを30まで上げる必要があると判断し、即座にダンジョンへの再潜入を決定した。
家族への報復の可能性と対策
奥野は自分たちが事故を回避した場合、次に家族が狙われる可能性を懸念した。松尾は、ギルドが探索者に対しては国家権力を背景に容赦のない制裁を行う一方で、善良な市民への直接的な暴力は社会的リスクを伴うため避ける傾向にあると説明した。ただし、ギルドは冤罪を仕立てることで市民を罪人に仕立て、合法的に排除する手段を取ることもあるため、対策は必要であった。そのため松尾は、富士元興業を通じてギルド内部の対立派閥に接触し、ギルド全体の敵意が自分に向かないよう立ち回る方針を取っていた。奥野はこの説明に納得し、改めてダンジョン探索に同意した。
ダンジョンの構造と探索者の事情
松尾は、ダンジョンの深部に行くほど帰還に時間がかかるという探索の実情を奥野に説明した。特に30階層以上の階層は落とし穴を利用して短時間で到達可能だが、復路は階段を使わざるを得ず、時間が約8倍かかるため非効率であった。また、ギルドはダンジョン構造の調査に莫大な予算を受け取っているが、その多くがギルドの内部組織の整備や備蓄に使われており、実質的な探索者支援は皆無であった。奥野の両親がポーションの支援を受けられなかったこともその一例である。
松尾のジョブの変化と上位職への昇華
ダンジョンの31階層で戦闘中、松尾はレベル30に到達し、ジョブが【旅人】から【過客】へと昇華した。松尾の記憶では、【旅人】は上位職への昇華を持たない例外的なジョブであったため、この変化に困惑した。彼は上位職昇華を利用してジョブの正体を誤魔化すつもりであったが、昇華が起きたことで想定外の状況となった。これにより、松尾の保有するジョブ【過客】は従来の知識では説明不可能な特異な存在となった。
幕間 黒羽の凋落
不信任決議と黒羽輝夜の失墜
生徒会長である黒羽輝夜は、藤原風紀委員長から不信任決議書を手渡され、生徒の七割が賛成したことを知った。かつて多くの支持を得て会長に就任した彼女であったが、今やその信任を失い、孤立無援の状況に追い込まれていた。周囲の人間たちは敵意をあらわにし、かつての味方すらも彼女を責め立てていた。原因の一つとして挙げられたのは、弟の不適切な言動と、その弟を制御できなかった姉としての無責任さであった。
弟の問題と姉としての責任
輝夜の弟は、決闘に勝った相手を奴隷にしようとする発言をしたうえ、女性に対する差別的な言動を繰り返していた。これにより彼女の姉としての立場も問われることとなった。輝夜自身は、弟との距離を取ることで逆に彼の暴走を助長したと理解し、その行動を後悔していた。彼女は既に弟への折檻を決意していたが、それは家族間の問題であり、生徒たちには関係のないことであった。
決闘後の対応と更なる失敗
輝夜は、決闘の顛末を知るのが遅れたことから、急ぎ情報を収集し、謝罪と話し合いの場を設けようとした。しかし彼女が行った「決闘相手の校内放送による呼び出し」が、結果として圧力と受け取られた。これにより、生徒たちからの反感は一層強まり、弁明しようとした輝夜の言葉も逆効果となった。特に、他の生徒会役員たちは、自分たちまで巻き添えにされることへの怒りをあらわにし、冷たい視線を向けた。
辞任の決断と黒羽家の未来
輝夜は、自身の誤りが他者の尊厳をも傷つけていたことを認め、ついに辞任を決意した。これ以上職に固執すれば、生徒間の対立やギルド関係者の対立にまで発展しかねないことを危惧していたためである。だが彼女は気づいていなかった。不信任の流れがあまりにも早く、周到であったことに。そしてそれが目の前にいる生徒会役員たちによる策略であったことに。彼らは輝夜を追い落とすために悪評を流し、生徒を扇動していたのである。
結末とその余波
輝夜は、生徒会長の辞任届に署名した。仲間だと思っていた相手は最初からそうではなく、彼女の地位を狙っていた者たちであった。その中には、将来ギルドの幹部として暗黒の世界を築くことを期待されている者たちも含まれていた。会合の翌日、生徒会長の辞任と新会長選出の告知がなされ、決闘からわずか七日後に学校は新たな体制へと移行することとなった。黒羽家の将来がどうなるかは、今の時点では誰にも知る由もない。
幕間 富士元興業の人々
指輪の真贋と篤史の意図の検討
富士元興業の専務である但馬と会長の富士元隆は、松尾篤史から託された指輪を前に、その真意と目的について協議していた。二人は指輪の価値と篤史の言動から、乗っ取りやスパイの可能性を否定し、彼が真に富士元興業の後ろ盾としての価値を求めているだけだと判断した。篤史の望みは出世や権限ではなく、自由と資金を確保できる環境であり、企業の経営や運営には関心がないと理解された。
装備品の異常な価値と現実的判断
篤史が提供したのは、能力値を100上昇させる指輪と、成長率を20%高める指輪という希少品であり、これらの装備は国家レベルで争奪戦が起きても不思議ではない代物であった。富士元興業のような中小企業にそれほどの価値があるはずもなく、またそれほどの物品を使って取り入る理由も存在しなかったため、但馬は完全にスパイ説を排除した。二人は、むしろ松尾の持ちかけた話に乗ることが唯一の生き残る道だと判断した。
富士元の懸念と但馬の抑制
隆は篤史に直接会うべきか逡巡しつつも、但馬は接触を急がず様子を見ることを提案した。篤史から特に会いたいという意向も示されておらず、無理に動くべきではないという判断である。隆は、出世や組織の頂点に無関心な若者の価値観に戸惑いを見せたが、但馬は不用意な発言で関係を壊すことを恐れ、言葉を選び続けた。
篤史の内心と富士元側の誤解
実際には、篤史には明確な理由が存在した。彼は、大企業のトップと新入社員が直接会う必要はないと考えており、また富士元隆が過去に世話になった女性の父親であるため、個人的な理由からも対面を避けていた。このような事情は富士元側には知られておらず、篤史の態度に対する理解は乏しいままであった。
結論の先送りと大人の対応
最終的に、但馬と隆は現時点での判断を保留し、状況を見守ることを決めた。これが現実的かつ分別ある対応であると捉えた二人は、今後の展開に備えつつ、軽々に動かない姿勢を選択したのである。
特別書き下ろし 富士元興業の人々(裏)
富士元興業の方針転換と社内の反応
松尾篤史の登場によって富士元興業は大きな方針転換を強いられ、建設業から危険を伴う探索者業務への移行を決定した。この急激な転換には社内から不満の声が上がり、特に幹部以外の社員の多くが納得していなかった。幹部たちは松尾がもたらした成果を隆や但馬から知らされており、渋々ながらも納得していたが、実際に松尾を知らない者たちは彼に対して否定的な感情を抱くようになっていた。松尾本人が自身の能力を誇示しない態度であったため、彼の実力を周囲に理解させることは困難であった。
紗希の関心とケイの警戒
松尾に関心を抱いたのは、社長の娘である富士元紗希であった。彼女は松尾が会社にもたらした莫大な利益に興味を持ち、受付係の沙山ケイに松尾の人物像を尋ねた。ケイは松尾と数度会話を交わしたことがありながらも、彼の本質が「よく分からない」と答えた。受付嬢として優秀な観察眼を持つケイが判断できなかったことは、紗希にとって大きな警鐘であった。ケイは松尾が何らかの目的を持っている可能性を認めつつも、それが会社にとって害となるものではなく、すでに多大な利益を受けた今、深入りすべきではないと述べた。
松尾への接触に対する警告
ケイは松尾を自然災害に喩え、関われば甚大な被害を被る可能性があると警告した。特に準備不足のまま近づくことは避けるべきであり、紗希の無垢な好奇心に強い懸念を抱いた。ケイの言葉により紗希は行動を控え、一つの悲劇的な未来が未然に回避された形となった。ただし、彼女自身はその事実に気付いておらず、何気ないやり取りの背後で大きな危機が回避されていたのである。
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