物語の概要
本作は和風ファンタジー恋愛ライトノベルである。鬼の一族に生まれながら強大な霊力を巧みに扱えず、落伍者として周囲から疎まれてきた少女・六花。彼女は病弱な妹を守るために懸命に生きていたが、ある日、神の血を引く“最強軍人”・一龍斎氷雨との縁談話が舞い込む。氷雨は優れた霊力を持つが、人間やあやかしを忌避する立場であり、二人は利害の一致によって偽装婚約を交わすに至る。愛などないはずの契約関係は、やがて互いの心に変化をもたらし、運命の契りとしての真実の絆へと発展していく。
主要キャラクター
- 六花(ろっか):
本作の主人公。鬼の一族に生まれながら霊力を上手く扱えない“落ちこぼれ”であり、妹を守ることを最優先に生きてきた少女である。 - 一龍斎氷雨(いちりゅうさい ひさめ):
神の血を引く最強軍人とされる男。絶大な霊力を持つ反面、あやかしを嫌悪する価値観を持つ。利害一致による偽装婚約から六花と関係を築いていく。
物語の特徴
本作の魅力は、“最弱と思われた少女”が運命の出会いを経て自らの強さを見出す王道成長譚と、偽装から真実へと変わる恋愛描写の融合にある。
主人公・六花は単なるヒロイン的存在ではなく、能力と現実のギャップ、周囲の評価や自身の葛藤を抱えながら成長する姿が丁寧に描かれる。また、相手役である氷雨との関係は偽装婚から始まるため、“利害関係→信頼→愛”という心理の変遷が読者の共感を誘う構造となっている。
さらに、あやかしと人間の境界や誤解、価値観の衝突と和解といったテーマも本作の魅力を高めており、単なる恋愛小説を超えた“和風ファンタジーとしての厚み”を持つ。
書籍情報
鬼姫 ~運命の契り~
著者:クレハ 氏
イラスト:白谷ゆう 氏
出版社:スターツ出版
レーベル:スターツ出版文庫
発売日:2025年12月28日
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あらすじ・内容
鬼の一族に生まれた六花は、強大な霊力を持ちながらも全く上手く使えない。最弱の落ちこぼれと疎まれながらも、病弱な妹を守るため懸命に生きていた。そんなある日、神の血を引く最強軍人・一龍斎氷雨との縁談が舞い込む。あやかしからの絶大な人気とは裏腹、氷雨自身は大のあやかし嫌い。ある利害の一致のためだけに、偽装婚約を交わす二人。そこに愛などないはずだったが…。「六花のどこが弱い」「お前に触れていいのは俺だけだ」「俺にはお前が必要だ。だから、俺を選べ」氷雨の隣で、六花は本当の自分を取り戻していく――。
感想
クレハ先生の新作は、鬼の花嫁と同じ世界で同じ時代の物語。
主人公の六花は、裏の世界を牛耳る天鬼月の当主直系の系譜であり、当主の証と呼ばれている”宵闇”に選ばれながら、その力をまったく振るえない存在。
最弱と蔑まれ、力があるのに使えないという状況は、読んでいて胃が痛くなる。
一方で、それでも妹を守ろうとする姿勢が一貫しており、芯の強さがある人物として描かれている点が印象的であったが、妹の件でキレる弱点でもあった。
そんな彼女の前に現れるのが、一龍斎の長男で神の血を引く氷雨。
霊力が体内に溜まりやすい体質という設定は、最初から六花との対比として機能しており、祖父から婚約を命じられる展開も含めて、婚約を決めた者は判ってやってる感があった。
ただ、その強引さが嫌味にならないのは、二人の利害がきれいに一致していおり。
決めた張本人と六花との関係が良好なのが救いとなっていた。
特に印象に残ったのは、六花が氷雨の血を吸うことで宵闇を振るえるようになると判明する場面である。
「この二人、相性が良すぎる」という感想が自然に湧いて来た。
片方が溢れ貯まり体調不良となり、片方が空であるという関係性は、設定としても感情面としても説得力があり、力の共有がそのまま心の距離を縮めていく構図に納得感があった。
また、氷雨の態度も好印象である。あやかし嫌いという前提を持ちながら、六花個人を見て評価していく過程が丁寧であり、周りの評判に流されず「弱い」と決めつけない姿勢が六花を少しずつ変えていく。
六花が氷雨の隣で本当の自分を取り戻していく流れは、派手ではないが確かな変化として伝わってきた。
総じて本作は、力の強弱ではなく、お互いの弱点を補い合う相手と出会いを描いた物語であると感じた。
欠けているからこそ成立する関係性があり、その事実を受け入れたとき、人は前に進める。
六花と氷雨の関係は、その分かりやすい答えを静かに示してくれる。読み終えたあと、素直に「この二人なら大丈夫だろう」と思わせてくれる、安心感のある一冊であった。
お互い素直なら…
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
天鬼月六花
天鬼月当主の孫娘であり、妹の霞を救うために宝刀『宵闇』を手放せず、家の命令と現実の板挟みで動く人物である。
・所属組織、地位や役職
天鬼月・暁天の孫娘。宝刀『宵闇』の保持者。
・物語内での具体的な行動や成果
霞の看病を続けた。
当主命令で一龍斎氷雨との縁談に臨んだ。
任務で指名手配あやかしを捕縛して引き渡した。
時雨との戦闘で『宵闇』を用いて刺突し、消滅を確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷雨の血を介した連携で『宵闇』の扱いが安定した。
任務実績の増加により周囲の態度が軟化した。
天鬼月霞
六花の妹であり、腹部の黒い薔薇の刻印による発作に苦しみつつ、姉を支えようとする人物である。
・所属組織、地位や役職
天鬼月家の一員。六花の妹。
・物語内での具体的な行動や成果
六花の看病を受けながら日常を保とうとした。
館での失踪事件で連れ去られた。
時雨討伐後に刻印の消滅が確認された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
呪いの消滅により病の前提が変化した。
天鬼月暁天
天鬼月の当主であり、圧倒的な霊力で家を支配し、六花を縁談と当主候補の両面で動かす人物である。
・所属組織、地位や役職
天鬼月・当主。六花の祖父。
・物語内での具体的な行動や成果
六花に一龍斎との結婚を命じた。
一龍斎側の事情を説明し、協定の必要性を語った。
負傷した氷雨の治療を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六花に「味方を作れ」と指針を与えた。
天鬼月紫電
天鬼月の次期当主最有力と見られ、六花への侮辱と干渉を重ねて対立の火種となる人物である。
・所属組織、地位や役職
天鬼月・当主候補と見られる立場。六花の従兄。
・物語内での具体的な行動や成果
回廊で六花を挑発し、暴力に及んだ。
霞失踪の疑いを向けられ、関与を否定した。
白霧の暴走時に押さえ役として動いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六花の婚約を知り動揺を見せた。
香鬼白霧
暁天の側近として振る舞いながら、六花への敵意を抱え、時雨の介入で暴走する人物である。
・所属組織、地位や役職
天鬼月・暁天の側近。
・物語内での具体的な行動や成果
回廊で紫電を諫める形で介入した。
霞を狙い短刀を振るい、六花とも交戦した。
時雨から血を与えられて操られたとされる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
紫電が血を抜く処置で沈静化が図られた。
ナギ
六花が霞のために作った使役獣であり、毒舌と情報収集で場を揺らし、追跡の鍵にもなる存在である。
・所属組織、地位や役職
六花の使役獣。霞の傍にいる存在。
・物語内での具体的な行動や成果
使用人の陰口を拾って霞に伝えた。
霞失踪時に気配追跡の手がかりになった。
白霧の暴走現場で六花に警告し、腕にしがみついて抵抗した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
時雨討伐後に呪い消滅を喜び、場の空気を変えた。
一龍斎氷雨
星影の制服を着る一龍斎の直系であり、復讐と制御不能な力を抱えつつ、六花の『宵闇』を突破口に協力へ向かう人物である。
・所属組織、地位や役職
国家機関「星影」所属。星影の隊長とされる立場。
一龍斎の長男。直系。
・物語内での具体的な行動や成果
六花との顔合わせで敵意を示し、対立を生んだ。
時雨戦で六花を庇って負傷し、血を飲ませて連携を成立させた。
霞失踪の場面で六花を叱責し、追跡の道筋を提示した。
時雨拘束の結界を展開し、六花の刺突を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六花の霊力を吸わせることで体調を調整できる状態になった。
婚約を「合理」として提案し、共同生活へ移行した。
一龍斎日方
一龍斎の当主として協定と縁談を進め、氷雨の状態を気にかけながら家を保つ人物である。
・所属組織、地位や役職
一龍斎・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
顔合わせの中断を提案し、日程変更をまとめた。
天鬼月との協定を背景に縁談を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷雨の危うさを理解し、当主として繋ぎ止めようとしている。
時雨
六花と氷雨の仇として現れ、霞の呪いと館への介入を行い、最終的に『宵闇』で討たれる人物である。
・所属組織、地位や役職
所属不明。六花と氷雨にとって討つべき相手。
・物語内での具体的な行動や成果
ビル上で六花と氷雨を挑発した。
白霧に血を与えて操ったと認めた。
霞の呪いが近接で活性化する旨を示唆した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六花の『宵闇』により肉体が消滅した。
鬼龍院千夜
鬼龍院の当主であり、表の影響力を担う家として暁天と接触し、六花の居心地をさらに悪くする存在である。
・所属組織、地位や役職
鬼龍院・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
あやかしのパーティーで暁天へ気安く声をかけた。
六花へ距離を詰め、息子の玲夜の名を出して会話を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六花の両親と親しかった過去が示される。
狐雪撫子
天狐の当主として場に介入し、『宵闇』へ視線を向けて六花を揺らす人物である。
・所属組織、地位や役職
天狐・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
パーティーで六花の腰の『宵闇』に注目した。
六花に「いまだ使えぬか」と言葉を投げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宝刀持ち込みが特例扱いである点を浮かび上がらせた。
展開まとめ
プロローグ
世界大戦と日本の荒廃
多くの国を巻き込んだ世界大戦は日本にも甚大な被害をもたらし、人々は終戦に安堵しながらも、変わり果てた町の姿を前に深い悲しみと絶望を抱えていた。復興には長い時間と労力が必要であり、先の見えない状況が続いていた。
あやかしたちの表舞台への登場
そのような中、それまで人に紛れ陰で生きてきたあやかしたちが陽の下へ姿を現した。彼らは人を魅了する美しい容姿と人ならざる力をもって、戦後日本の復興に大きく寄与し、社会を支える存在となっていった。
現代社会と新たな問題
時代が進み、あやかしたちは政治、経済、芸能などあらゆる分野で能力を発揮し、確固たる地位を築いていた。一方で、人間と同様に罪を犯すあやかしも現れ、その強大な力ゆえに人との均衡が崩れる危険性が生じていた。
二つの家の役割
情勢の中、害なすあやかしを取り締まる二つの家が存在した。神の血を引くとされる一龍斎は、強い霊力をもとに国家機関「星影」を組織し、人の立場から対あやかしの秩序を担っていた。もう一方の天鬼月は、鬼の一族としてあやかし界の裁定者を務め、人との共生を望むあやかしの代表として星影との協力を表明していた。
運命的な出会いの兆し
互いに矜持を持ち、交わることのなかった二家であったが、天鬼月に生まれた最強の鬼と一龍斎に生まれた者は、星の巡りに導かれるように出会った。その邂逅がもたらす未来は、まだ誰にも分からなかった。
一章
星夜の契約
星が輝く夜、青年は女性に手を伸ばし、互いに必要だと告げた。女性は復讐心を宿した金色の瞳に息を呑みつつも、目的の一致を確信して手を取った。大切なものを守るためなら魂さえ売る覚悟があり、彼があやかしと“あの男”を憎むからこそ信用できると判断した。女性は彼の憎しみが以前より和らいだことも感じ取り、星合いの空の下で強く握手を交わした。 要約プロンプト
六花と霞の看病
天鬼月当主の孫娘・天鬼月六花は、病床の妹・霞の看病を続けた。霞は青白い顔で苦しそうに呼吸し、六花は恐怖に耐えながらも、霞を守れるのは自分だけだという責任感で離れなかった。霞は謝罪しつつも、六花がそばにいることで救われると笑い、六花はその儚さに不安を募らせた。 要約プロンプト
使用人の陰口と六花の抑制
部屋の外で使用人たちが六花と霞を侮蔑し、霞の存在を呪われた子として疎む声が聞こえた。六花は怒りで立ち上がりかけたが、霞が弱い手で止め、争いを避けるよう静かに訴えた。霞は真実を言われただけだとして気にしないと微笑み、六花は優しさゆえに現状を変えられない自分の無力さを痛感した。 要約プロンプト
当主への呼び出しと本家の冷淡さ
六花は当主側近から呼び出されるが、霞の容体を理由に渋った。しかし側近は取り合わず、当主の命令を最優先だと冷たく迫った。霞は自分は大丈夫だと六花を送り出し、六花は念話で“それ”に霞の見守りを頼んだうえで、黒薔薇の刻印がある刀を携え当主の館へ向かった。六花は直系の姫でありながら軽んじられる現実を受け止め、早く用件を済ませようと足を速めた。
天鬼月の役割と暁天の威圧
六花が暮らす天鬼月は、鬼龍院が表で経済と調和を担うのに対し、裏で秩序を守る役割を負う家であった。六花は当主・天鬼月暁天の孫娘であり、回廊を通って当主の館へ入った。暁天は圧倒的な霊力と存在感で場を支配し、六花は視線を受けてもひるまず対峙した。
結婚命令と一龍斎氷雨の名
暁天は前触れなく、六花の結婚が決まったと告げ、一龍斎の息子と結ばせると断言した。六花は相手が一龍斎氷雨であることを知り、天鬼月と一龍斎の結婚が前代未聞だとして理由を求めたが、暁天は説明を拒んだ。六花は霞のことを理由に断ったが、暁天は拒否権を認めず、先方は既に到着しておりすぐ顔合わせだと告げた。
氷雨との遭遇と刀の反応
扉を開けた六花の前に、星影の制服を着た青年が立っていた。整いすぎた容姿と金色の瞳、銀色の髪を持つその青年を見て、六花の刀が脈打つように反応し、六花は戸惑った。背後の男が青年を氷雨と呼んだことで、六花は相手が一龍斎氷雨だと確信し、常人離れした霊力も感じ取った。
天使の笑みと暴言
氷雨は柔らかな物腰で六花に名を確認し、一見すると天使のように微笑んだ。だが顔を近づけた直後、氷雨は鬼の協力は不要で惚れるなと低い声で言い放ち、六花は理解が追いつかず呆然とした。表向きの態度と内側の敵意の落差により、六花は氷雨を友好的とは捉えられなくなった。
隣室での衝突と周到な偽装
暁天の命令で六花と氷雨は隣室に通され、二人きりにされた。氷雨は落ちこぼれを選んだと六花を嘲り、六花も対抗して刀に手をかけた。氷雨も小刀を取り出して一触即発となるが、側近が戻ると氷雨は武器を隠し、穏やかな態度で六花が一方的に怒っているように装った。六花は氷雨の不敵な笑みを見て、相手の敵意と狡猾さを悟った。
顔合わせの中断
六花は暁天に結婚は無理だと訴えたが、氷雨は背後から耳元であやかしと仲良くする気はないと囁き、六花も同じだと言い返した。暁天と一龍斎当主・日方が困惑する中、氷雨は一瞬胸を押さえて顔色を変えた。日方は本日はタイミングが悪いとして日を改める提案をし、暁天も目的は達したとして了承した。日方は氷雨に心配そうな視線を向けつつ、二人は退出した。
二章
結婚命令と六花の反発
暁天は六花に「一龍斎との結婚は決定事項」と告げ、六花は理由と相手の選定根拠を求めた。暁天は六花をからかいながらも、六花が「天鬼月で最強の霊力を持つ」こと、そして宝刀『宵闇』が六花を選んだ事実を根拠に挙げた。六花は力量不足を自覚しつつも、宵闇が妹・霞を救うための唯一の可能性であるため手放せないと語り、結婚どころではないと強く拒んだ。
宵闇と当主候補としての重圧
宵闇は意思を持つ刀であり、選ばれた者が当主となってきた経緯があるため、六花は当主候補の一人として扱われていた。しかし六花は霊力の制御が未熟で、周囲から「役立たず」「落ちこぼれ」と陰口を叩かれていた。次期当主最有力と見られる従兄・紫電は実力を持ち、六花を見下す立場にあった。
回廊での紫電の挑発と暴力
二度目の顔合わせのため当主の館へ向かう途中、六花は「当主の回廊」で紫電と遭遇した。紫電は六花を「はみ出し者」と罵り、さらに霞を「一族のお荷物」と侮辱し、六花の怒りを煽った。六花は反発するが力の差で投げ飛ばされ、紫電は霊力まで行使しようとした。そこへ側近の香鬼白霧が介入し、「弱い者いじめ」を諫めて紫電を落ち着かせたが、六花は白霧が最後まで傍観していた点を偽善と見なした。
暁天との再対話と結婚の目的
六花は暁天に氷雨の人物像を尋ねるが、釣書と調査報告が用意されていたにもかかわらず未確認だったことが判明した。暁天は側近の嫌がらせや霞への陰口にも触れ、必要なら人員を入れ替える姿勢を見せた。結婚の理由として暁天は、一龍斎の「神の血」が薄まり力が弱まっていること、これ以上一龍斎だけでは人の世を守れず天鬼月との協定を求めてきたこと、そして次代の強い力を残すため天鬼月の霊力を血に取り込む必要があることを説明した。
顔合わせの急な中止と六花の激昂
しかし当日、先方は「急用」を理由に来訪を取りやめ、具体的な説明もなかった。六花は天鬼月を侮る行為だと憤り、破談を訴え、毒霧などの嫌がらせまで準備していたことも明かしたが暁天に没収される。暁天はこれは家同士の契約であり、跡取りである氷雨以外に替えられないと断じ、六花の拒否を退けた。
霞のもとへ戻る日常とナギの存在
六花は自分の館に戻り、霞の部屋へ向かった。霞は結婚話を側近から聞かされており、六花は情報を流した使用人への不信を強めた。霞の傍には六花が作った使役獣の日本人形・ナギがいて、使用人の陰口を拾って霞に伝えるなど毒舌であった。六花は霞を守る意識が強く、外出中も不安に襲われるほどであった。
発作の悪化と呪いの刻印
入浴後、霞が髪を梳かす穏やかな時間が訪れるが、霞は突然腹部の痛みを訴え発作を起こした。霞の腹には黒い薔薇の刻印があり、そこから瘴気が漏れていた。六花は宵闇に霊力を込めて瘴気を吸わせ、発作を鎮めたが、霞は気絶するほど消耗していた。ナギは発作の回数が増えていることを指摘し、時間がないと六花に突きつけた。
“あの日”の喪失と六花の決意
六花は過去、毒々しい赤黒い瞳の男に襲われ、両親を殺され、霞に呪いを刻まれた経緯を想起した。宵闇は破邪の刀として呪いの進行を一時的に抑えられるが、根本の解呪には呪った本人を討つ必要がある。六花は自分が宵闇を使いこなせない無力さに苦しみつつも、霞を救うために「どんなことをしても助ける」と宵闇と霞の手を握り締めて覚悟を固めた。
三章
六花の焦燥と宵闇への課題
六花は任務の少ない立場であり、暁天が便宜を図っている現状に支えられていた。しかし暁天が永遠に守れるわけではなく、六花は宵闇を使いこなし一族に認めさせる必要を痛感していた。霞の呪いの主を探すことと、宵闇を使えるようになることは直結しており、六花の焦燥は強まっていた。
指名手配あやかしの捕縛と“落ちこぼれ”の誤認
六花は末端のあやかしを発見し、挑発されつつも宵闇の一閃で氷の攻撃を散らし、蹴りで制圧した。相手は「落ちこぼれ」の噂を信じて油断していたが、六花は鬼としての身体能力と宵闇の破邪性で難なく捕縛し、下部組織へ引き渡した。
氷雨の出現と宵闇の異変
現場に一龍斎氷雨が現れ、鬼たちは過剰に浮き足立った。六花は氷雨に棘のある態度を取るが、氷雨も途中から本音を覗かせ、互いに険悪な空気となった。直後、宵闇が脈打つように反応し、六花は呪いの主が近いと確信して走り出し、氷雨も追従した。
時雨との再会と復讐の衝突
六花は血の臭いと霊力の残滓を辿り、袋小路のビル上で時雨を発見した。時雨は六花と氷雨双方を挑発し、氷雨は「仇」として強い憎悪を露わにした。さらに氷雨は神の力の負荷で苦しみ、時雨はそれを嘲笑しつつ、六花の宵闇だけが自分を討てると示唆した。
六花の決断と氷雨の負傷
霞の呪いを解くため、六花は時雨を殺す覚悟を固めるが、時雨の実力差は圧倒的であった。時雨は宵闇を奪い六花を刺そうとするが、氷雨が庇って負傷した。宵闇は一度時雨の手に収まるものの、拒絶して六花へ戻り、六花は追撃か治療かの選択を迫られた。
神の血で宵闇が“繋がる”
氷雨は六花に自分の血を飲めと命じ、六花が血を舐めると宵闇との一体感が生まれた。六花の一撃は時雨に直撃し、時雨は驚きつつ撤退した。六花は氷雨を連れ帰還し、暁天が治療すると、氷雨は異常な回復力を見せた。
霊力過多の問題と“吸血”による調整
氷雨は体内に霊力を溜め込みすぎて苦しんでおり、六花は直系の能力として血を介し霊力を取り込めると説明した。六花が氷雨の霊力を吸うことで氷雨の体調は改善し、険が弱まった。氷雨は時雨に両親と妹を殺された過去を語り、六花もまた両親を奪われ霞が呪われたと明かし、目的が一致することが確定した。
婚約という“合理”への着地
宵闇は神から下賜された破邪の刀であり、時雨を討てる唯一の手段である一方、六花は使いこなせない。氷雨の神の血が宵闇の力を引き出す鍵だと分かり、氷雨は今後も血を飲ませるための理由として婚約を進める案を提示した。六花は反発しつつも実利を認め、暁天へ報告する方針を取った。
暁天への報告と“恋人芝居”
六花と氷雨は暁天に婚約を報告し、互いに好意的な芝居を打った。氷雨は外向けの完璧な笑顔で六花の手を恋人繋ぎで握り、暁天を満足させた。ふたりは本家に滞在し共同生活を始め、情報収集と宵闇の訓練を進める利害関係を固めた。
紫電との遭遇と火種の確認
回廊で紫電が氷雨に激しく噛みつき、氷雨は容赦なく言葉で叩き潰した。六花が婚約を告げると、紫電はショックを受けたように勢いを失い、六花は珍しくすんなり通過できた。六花は過去に紫電との婚約話があったが拒否して破談にした経緯を説明し、氷雨はそれを聞いて複雑な反応を見せつつ話を打ち切った。霞は婚約を心から祝福し、六花と氷雨は“期間限定の利害婚約”を秘密にする方針で一致した。
白霧の慰めと内心の敵意
六花と氷雨が去った後、当主の回廊には意気消沈した紫電が残り、白霧が表向きは慰め役に回っていた。しかし白霧は紫電の落ち込みを見て内心で苛立ち、紫電と六花の関係に根深い感情を抱いていた。
紫電の幼い恋慕と拗れた加害
紫電と六花の婚約話が持ち上がった過去を白霧は覚えていた。六花は強い霊力を持ちながら扱えず嘲笑され、当主に寵愛される家への妬みも重なって陰口が増幅していた。紫電はその空気の中で育ち、六花に意地悪を重ねたが、白霧は止めなかった。紫電の視線に恋慕が混じることを白霧は見抜いており、紫電は高いプライドのせいで好意を歪め、嫌がらせで関心を引こうとしていた。
婚約拒否と紫電の未練
婚約話は紫電が当主へ直談判して生まれたものの、普段から嫌がらせを受けていた六花が受け入れるはずもなく、縁談はあっさり断られた。紫電は初めての失恋を境にさらに当たりが強くなり、成人後は昇華したと白霧は見ていたが、六花が氷雨と婚約すると聞いた際の反応は未練を残しているように映った。白霧は六花が当主にも紫電にも目をかけられている状況を「目障り」と捉え、六花が紫電を誘惑しているとまで決めつけて憎悪を深めていた。
一龍斎の血統と氷雨の資質
氷雨は一龍斎の長男として生まれ、神の血を守る直系に属していた。一方で分かれた別系統は血を軽んじて力が薄まり、金と権力に傾いた存在になっていた。直系側も近年は強い神子が減る中、氷雨は生まれつき神子としての高い才能を持ち、さらに年下の妹も強い霊力を有して一族の希望とみなされていた。
十四歳の帰宅と惨劇
氷雨は十四歳で星影に入隊し、才能ゆえに早期から中核を担っていた。七夕の頃、地方任務を終えて誕生日の妹への贈り物を抱えて帰宅したが、家は異常な沈黙に包まれていた。駆けつけた先には血の海と倒れる使用人たち、血まみれの両親、そして妹の首筋に噛みつく鬼の男がいた。妹は氷雨の前で力尽き、鬼は「神の血を飲みたかった」「邪魔だった」と薄い理由で虐殺を語り、氷雨の怒りを嘲るように笑った。
暴走する力と復讐への固定
氷雨は怒りで神の力を爆発させかけるが、周囲の人間を崩壊させる危険を示されて踏みとどまり、抑え込んだ反動で苦しみに沈んだ。その隙に鬼は去り、氷雨は追うことすらできなかった。以後の氷雨は復讐に支配され、叔父の日方が当主として氷雨を繋ぎ止めようとしつつも、氷雨の危うさを理解していた。氷雨は鬼を強く憎み、特に現場で会う天鬼月紫電にだけは仮面を外して衝突し、鬱憤をぶつけるようになっていた。
協定の縁談と六花との初対面
一龍斎の血の衰えを背景に、日方は天鬼月と協定を結び直系同士を結ばせる方針を示した。相手側は当主が最も可愛がる孫娘を出すと言い、こちらも直系の氷雨が指名された。氷雨は拒絶するが決定は覆らず、顔合わせで六花と初めて会った瞬間、その美しさと意思の強い眼差しに不覚にも心を掴まれる。しかし氷雨は認めまいとして毒づき、六花は当主に苦情を訴えるなど、想定外に気丈な反応を示した。さらに天鬼月内部では六花が「落ちこぼれ」と陰口を叩かれており、氷雨は客前で平然と身内を貶める空気に嫌悪を抱いた。
宵闇が示した光明と心の揺らぎ
氷雨は宿敵を見つけながら、肝心な場面で力が暴走して果たせなかった。その中で六花が持つ宵闇が突破口になり得ると見出す。六花が天鬼月である事実を知っても、六花自身を憎む感情は生まれず、六花も同じ被害者だと理解していた。六花と妹の霞は、呪いに苦しみつつ互いを思いやり続け、氷雨に失われた家族の記憶を呼び起こした。復讐だけで生きてよいのかという問いが氷雨の中に芽生え、六花の「今を生きる人のために足掻く」姿勢が、氷雨の復讐心に迷いという波紋を広げていった。
四章
同居開始で露骨に変わる館の空気
氷雨との婚約が正式化し同居が始まると、館の使用人たちは露骨に浮き足立ち、六花を「妄想」「分不相応」「お荷物」と嘲る噂話を平然と垂れ流した。六花は聞き慣れた扱いとして受け流そうとしたが、隣にいた氷雨は状況を見て黙っていられず、笑顔のまま「調教」を示唆した。
氷雨の“静かな粛清”と生活環境の改善
ほどなく騒いでいた使用人は総入れ替えとなり、真面目な者たちが配置されて館の運営が安定した。料理・洗濯・掃除なども行き届き、霞にとっても暮らしやすい環境へ変わる。六花が問い詰めても氷雨は微笑むだけで詳細を語らず、六花は藪蛇を避けて追及を諦めた。
血の摂取と宵闇の訓練が日常化
氷雨の協力で六花は宵闇を扱えるようになり、効果維持のため定期的に氷雨の血を摂取する必要が生じた。六花は多幸感に流されて飲み過ぎがちで、氷雨に腕を振り払われて叱られる。さらに氷雨は毎朝の剣術・体術訓練を課し、口の悪い鬼教官ぶりで六花を鍛え上げた。六花は星影隊長としての指導姿勢を疑うが、氷雨は飴と鞭でしごいていると即答し、六花は内心で引いた。
霞の前で“夫婦喧嘩”を演出する
口喧嘩の延長で霞の部屋へ向かうと、霞は不安げに「また喧嘩してたの」と問う。六花は霞を安心させるため氷雨の腕を組み、仲良しを装って喧嘩を「相互理解」と言い換えた。ナギは「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と茶化し、霞は勘違いしたままほっとする。しかし霞が「もし私に何かあっても氷雨お兄ちゃんがいる」と口にすると六花は強く反応し、霞に自分を大切にするよう諭して抱きしめた。
氷雨の霞への眼差しと、六花の気づき
氷雨は霞相手だと攻撃性を引っ込め、穏やかで寂しげな目を見せた。六花はその視線が霞ではなく、亡くした妹の記憶を透かしているのではないかと感じるようになる。六花は宵闇の扱いが安定し任務もこなせるようになり、一族の評価もわずかに上向いた。
暁天の本音と“味方を作れ”という指針
難度の高い任務を任された六花は暁天へ報告し、暁天から紫電の資質への懸念を聞かされる。紫電は強いが挫折を知らず、弱者の気持ちを汲めず、力で抑えつける暴君になり得ると暁天は危惧していた。さらに暁天は、六花を縁談に推したのは気まぐれではなく、六花の霊力は本来抜きん出ており、欠けた“扱う力”は伴侶で補えると考えたからだと明かす。ただし当主として皆を率いる“力”が必要であり、そのために「味方を作れ」と六花に命じ、それは霞を守る力にもなると説いた。
霞が笑う日常と、六花の焦り
館へ戻ると霞は氷雨の武勇談で楽しそうに笑っており、氷雨を「お兄ちゃん」と呼んで懐いていた。六花は安心しつつも、自分がいずれ氷雨と別れる可能性を思い、霞にどう説明するかという不安を抱える。氷雨が六花にだけ厳しく、霞には優しい差を六花が指摘すると、氷雨は甘い声で“優しさ”を演出して六花を冷やし、すぐいつもの態度に戻った。霞とナギはそれを恋人のやりとりとして面白がった。
六花の“笑顔は武器”と周囲の態度変化
一か月後、任務を重ねた六花は宵闇が手に馴染む変化を実感し、暁天側近の態度も軟化していることに気づく。六花はこれまで無関心と虚勢で敵を増やしていたと自覚し、氷雨の助言「笑顔は武器」と暁天の言葉「味方を作れ」を重ね、愛想笑いで身を守る方針に切り替えた。六花は氷雨への感謝も芽生え、氷雨が六花にだけ外面を向けないことを信頼の兆しと受け取った。
紫電の絡みと白霧の毒、氷雨の介入
回廊で紫電に呼び止められた六花は「媚びがうまくなった」と嘲られ、紫電にだけは笑わないと突っぱねる。紫電は腕を掴み「俺にも笑え」と強要し、白霧は大人しく従えと甘言に毒を混ぜて六花を縛ろうとする。紫電は庇護を餌に屈服を迫るが、六花は応じず耐える。そこへ氷雨が現れ、紫電の手を振り払い、六花を抱き寄せて「触れていいのは俺だけだ」と挑発した。氷雨は六花を「弱い」と貶す紫電を一蹴し、妹を守り続けた六花の強さを言語化して突きつけ、紫電の幼稚さを周囲に晒す形に追い込んだ。
氷雨の“怒り”と次の段階への宣言
氷雨は六花を連れて立ち去りながら、六花が紫電に好き放題言わせたことに怒りを向けた。六花は耐えるしかないと返すが、氷雨は「今のお前なら互角にやれる」「次は地獄を二倍にする」と圧をかける。最後に氷雨は、目的は紫電ではなく時雨討伐だと釘を刺し、六花もそれを認める。去っていく二人を、紫電は呪詛のような敵意で見送った。
五章
評価の変化と焦りの加速
六花が宵闇を扱えるようになるにつれ、露骨な陰口は激減し、任務の出動回数も増えた。だが時雨の手がかりは途絶えたままで、霞の容体は目に見えて悪化している。六花は「早くしないと」と自分を追い込み、焦燥感を募らせた。
七夕の準備と束の間の平穏
七夕を前に暁天が大きな笹を用意し、霞は短冊や飾り作りに夢中になった。暁天に手紙を書いて礼を言う霞の姿に、六花は複雑さを覚えつつも温かさを感じた。一方ナギは短冊を量産して大興奮し、内容が危険すぎて六花は途中で読むのをやめた。
館の異変と霞の失踪
任務から戻った六花は館の静けさに違和感を抱き、廊下で倒れた使用人を発見して血の気が引いた。霞の部屋はもぬけの殻で、気配も追えない。ベッドの上には黒い薔薇が一輪置かれ、そこから時雨と同じ血の匂いが漂っていた。六花は霞が連れ去られたと悟り、恐怖で取り乱した。
氷雨の叱責と“ナギを追え”という突破口
駆け込んできた氷雨は六花を叱り、霞を守るために冷静さを取り戻せと促す。六花の状況説明を聞いた氷雨は、ナギが霞と一緒なら使役獣の気配を辿れると指摘した。六花が追跡すると、ナギの気配は本家の結界内に残っており、氷雨は内部協力者の存在を疑う。六花は念のため氷雨の血を飲み、宵闇の準備を整えた。
辿り着いた先は紫電の館
ナギの気配の先は紫電の館だった。六花は紫電が霞を攫い、時雨と手を組んだと決めつけて扉を叩き、氷雨は蹴破る寸前までいく。現れた紫電は困惑し、氷雨の質問に「ここにいるはずがない」と否定するが、霞の状態を知っている不自然さを見せる。六花は疑うが、氷雨は紫電が犯人ではないと判断し、まずナギの声を追うよう促した。
中庭の惨状と白霧の暴走
中庭の噴水付近で霞が倒れ、白霧が馬乗りになり短刀を握っていた。ナギは白霧の腕に必死でしがみつき、六花に遅いと叫ぶ。紫電は白霧の行動を否定し、白霧は「あなたのため」と陶酔した口調で歪んだ忠誠を口にする。白霧の瞳は赤黒く変質しており、六花は直系の血を取り込み“血に呑まれている”と見抜いた。六花は血を抜けば戻ると判断し、紫電に押さえるよう命じる。
寸前の刃と氷雨の結界
白霧はナギを振り払って紫電に投げつけ、自由になった手で短刀を霞へ振り下ろした。だが霞を覆う見えない壁が刃を弾き、氷雨が結界で防いだことが示される。六花は霞の意識を確認し、気絶しているだけだと安堵するが、直後に白霧が六花へ斬りかかり、六花は霞を抱えて間一髪で回避した。
白霧の怨恨と黒幕の存在
白霧は六花への妬みと憎悪を噴出させ、暁天が紫電ではなく六花を当主にしたがっているという情報が漏れていることも明かす。さらに白霧は「あの方」の命令で霞を殺し、六花の心を徹底的に壊すつもりだと語った。そこへ屋根の上から時雨が姿を現し、自分が白霧に血を与えて操ったとあっさり認める。時雨は暁天の結界すら超える力を誇示し、霞の呪いが近接で活性化していることも示唆された。
氷雨が切り込み、六花が刺す
六花が宵闇を抜いて対峙する中、氷雨はいつの間にか時雨の背後へ回り、体術で攻める。時雨は余裕でいなし続けるが、氷雨は事前に置いた石を起動し、光の柱で時雨を閉じ込める結界を展開する。氷雨の合図で六花が突入し、宵闇を時雨へ突き刺した。時雨は吐血して倒れ、六花は無表情のまま止めを重ね、宵闇の破邪で時雨の肉体は痕跡すら残さず消滅し、血痕だけが残った。
呪いの消滅と残る後始末
氷雨の確認で時雨の死が確定し、六花は霞の腹部の黒薔薇刻印が消えているのを見て、呪いが解けたことを確信する。ナギは大喜びする。一方で、紫電は白霧の首に噛みついて血を抜き、暴走の沈静化を図っていた。白霧が時雨の侵入に加担した事実は重く、紫電には責任を問う声が避けられない状況となった。
【もうひとつの鬼の大家】
不本意なパーティー出席
六花は暁天に連れ出され、あやかしたちのパーティーへ出席していた。六花は表情を崩さないが内心は不機嫌で、暁天だけがそれを見抜いていた。六花は早く帰りたがり、暁天はそれを許さず小言を言い合う流れとなった。
紫電の“珍しい接近”と暁天の悪癖
暁天は「今回は紫電が自分から話しかけてきた」と面白がって語った。紫電が暁天を恐れて普段は近づかないため、暁天にとってその怯えた様子が愉快だった。六花は紫電を連れてくればよいと主張するが、暁天は紫電が他家と繋がろうとする動きも含めて放置しているらしく、六花はその真意を測りかねた。
天鬼月の立ち位置と六花の居心地の悪さ
天鬼月は“裁定者”として孤高を貫く家であり、他家の口出しを許さない。六花は落ちこぼれとして好奇の視線を浴び、場の空気自体が苦痛だった。暁天に「紫電を見習って顔を売れ」と言われ六花は強く反発し、紫電への積年の感情が露骨に表に出た。
鬼龍院千夜の登場と“逃げ失敗”
会場に圧倒的な霊力が満ち、鬼龍院千夜が暁天に気安く声をかけて現れた。六花は苦手意識から距離を取りたがるが、暁天に手を掴まれて逃げられない。千夜は鬼の二大勢力の一つ・鬼龍院の当主で、表舞台や政財界への影響力を担う存在だが、見た目も言動も軽く、六花は余計に対応に困った。
千夜の馴れ馴れしさと六花の比較意識
千夜は六花に親しげに接し、息子の玲夜の名を出して「もっと気軽でいい」と距離を詰めた。六花は、落ちこぼれの自分と次期当主が確定している玲夜は立場が違うと考え、深入りを避ける。六花は鬼龍院の“後継争いのない平和さ”に羨望を抱きつつ、千夜が父親である点には妙な憐憫も覚えた。また千夜が六花の両親と親しかったこと、父の気質が千夜寄りだったことが回想され、六花が暁天に気にかけられている背景として父の存在が示された。
天狐当主・狐雪撫子の介入と宵闇への視線
天狐の当主・狐雪撫子が現れ、場はさらに“上の連中の集会”感が増す。撫子は六花の腰の宵闇に注目し、破邪の宝刀が特例として持ち込み許可されている事実が強調された。撫子は「いまだ使えぬか」と六花に刺さる一言を落とし、六花は悔しさで動揺する。
当主たちの茶番と六花の限界
千夜は撫子の発言を“いじめ”と止めようとし、撫子は事実だと返し、言い回しで火花が散る。暁天も巻き込まれそうになって口を出し、暁天と撫子は千夜の当主らしからぬ軽さに呆れる。会話は実質的に当主同士の悪口合戦に近く、六花は「こんなくだらない話のためにいる意味がない」と判断する。
六花の離脱と後日の理不尽
六花は暁天に掴まる前に機敏に逃げ、帰宅した。後日、パーティーに鬼龍院と狐雪の当主が揃っていたと知った紫電が、なぜか六花に文句を言いに来た。しかし六花は呼んでいないため、理不尽だと切り捨てた。
【番外編 ナギと氷雨】
ナギの役割と最近の嗜好
ナギは六花が霞のために作った使役獣であり、日常の大半を霞と過ごしている。性格はひねくれており毒舌も標準装備だが、最近は館に来た氷雨を密かに気に入っていた。理由は高尚でも何でもなく、氷雨の反応がいいからである。
深夜の“ホラー映画ごっこ”発生
夜中に帰宅した氷雨は、部屋に入る前から不気味な笑い声を聞き、警戒を強めた。電気をつけようとした瞬間に腕へ何かが触れ、鳥肌が立つ。明かりがついたと同時に、日本人形のような恐ろしい形相のナギが腕にしがみつき、さらに顔面へ這い上がってきたため、氷雨は思わず絶叫した。
六花の介入と温度差
氷雨の悲鳴は一階の六花の部屋まで届き、六花は慌てて二階へ駆け上がった。だが現場を見ても呆れるだけで、氷雨に「何をやっている」と冷めた反応を示した。ナギは“ホラー映画ごっこ”だと平然と言い放ち、氷雨は「ごっこじゃない」と反発する。
ナギの煽りと氷雨の降参
ナギは「これくらいで叫んでいては時雨討伐など無理」と煽り、氷雨は疲労もあって反論を飲み込んだ。氷雨はせめて夜はやめろ、できれば明るい時間にしろと懇願するが、ナギは楽しそうに笑って誤魔化した。氷雨は恐怖で思考が回らず、その頼みが“起床時の覗き込み”という最悪ルートを呼び込む可能性に気づいていない。
外伝 鬼姫 一覧

本編 鬼の花嫁 一覧







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