継母の心得 4 レビュー
継母の心得 全巻まとめ
継母の心得 6 レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、トール氏による異世界ファンタジー小説「継母の心得」シリーズの第5巻である。ジャンルは「悪役令嬢(継母)転生もの」および「子育てファンタジー」に分類される。 物語の舞台は、生前に主人公が愛読していたマンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界である。不治の病で命を落とした現代人・山崎美咲は、そのマンガの中で幼い主人公を虐待する悪辣な継母「イザベル」として転生してしまった。しかし、実際に目の当たりにした義息・ノアのあまりの愛らしさに心を奪われた彼女は、運命に抗い、持てる知識を総動員して彼を幸せにすることを誓う。 第5巻では、強敵である悪魔アバドンとの死闘を乗り越え、平穏を取り戻したかに見えた家族に新たな危機が訪れる。亡くなったはずの先妻を名乗る女性が、ノアの祖父母を伴って現れ、自らの正当な地位を主張し始める。家族の絆を揺るがす陰謀に対し、イザベルが愛と執念で立ち向かう姿が描かれる。
■ 主要キャラクター
- イザベル: 本作の主人公。前世は日本のオタク女子であり、マンガの世界の悪役継母に転生した。義息であるノアを狂信的に愛しており、彼の幸福のためなら周囲の目を気にせず、前世の知識や規格外の行動力を発揮する。
- ノア: イザベルの義理の息子であり、原作マンガの本来の主人公。純真無垢な性格でイザベルを深く慕っている。そのあまりの可愛らしさは、イザベルが「推し」として崇めるほどである。
- テオバルド: イザベルの夫であり、公爵の爵位を持つ。原作では冷酷な人物として描かれていたが、献身的に家族を支えるイザベルの姿に触れ、現在は彼女を深く愛し、信頼を寄せる良き夫となっている。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、従来の「悪役令嬢もの」に見られる恋愛要素以上に、「育児」と「家族愛」に重きを置いている点である。本来は虐待を行うはずの継母が、原作知識(メタ知識)を「オタクの情熱」として昇華させ、全力で子供を甘やかし守り抜く姿が読者の支持を集めている。 また、単なる日常系の子育て物語に留まらず、原作のストーリーラインに隠された貴族社会の闇や魔族との戦いなど、重厚なファンタジー要素が絡み合う点も魅力である。第5巻においては「死んだはずの先妻の登場」という、家庭の根幹を揺るがすドラマチックな展開が、物語に緊張感を与えている。
書籍情報
継母の心得 5
著者:トール 氏
イラスト:ノズ 氏
出版社:アルファポリス
レーベル:レジーナブックス
発売日:2024年12月5日
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あらすじ・内容
悪役継母、今度は貴族界の闇を暴く!?
マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、悪辣な継母キャラとして転生してしまったイザベル。実際に会った義息のノアはめちゃくちゃ可愛くて、ノアのためならなんでもしてみせる! と自重しない日々を送っていた。――強敵・悪魔アバドンとの戦いに勝利し、ノアと夫テオバルドとともに幸せな毎日を送っていたイザベル。そんなある日、亡くなったはずのテオバルドの前妻だという女性が現れた。ノアの祖父母とともに近づいてきたその人物は、自分は実際には死んでおらず、今も変わらずテオバルドの妻だと主張し始めて……!? 家族への愛とオタクの力で異世界を変える異色のファンタジー、新展開の第5巻!
感想
物語は、大きな決着がついた前巻の熱量が落ち着き、新たな波乱へと向かうための準備期間といった趣きが強い。
前巻で発覚したイザベルの妊娠からいきなりの臨月の展開には驚いた。それでも、愛らしいノアとのやり取りや、新しい幼児の登場。さらに異世界の常識を塗り替えていく発明の数々は、相変わらずの楽しさを提供してくれている 。
プロローグで描かれたイザベルの妊娠生活は、非常に微笑ましい 。設定では八ヶ月とのことだが、おなかを内側からポコポコと叩くような胎動の描写からは、あたかも臨月のような生命の力強さが伝わってきた 。そんな中で見せたノアの赤ちゃん返りは、これまでの成長を知る身として、たまらなく愛らしく感じた 。両親の間に挟まれて眠ることで情緒を安定させ、一週間ほどで立ち直る姿には、彼が健やかに育っている証が端的に現れていた 。
物語が本編に入ると、悪魔との戦いの直後へと時間が遡る 。侍女のミランダが主を守れなかったと謝罪する場面があったが、相手が悪魔では仕方のないことだと感じてしまう 。
続く展開では、子供のための知育菓子開発や、乳幼児の死亡率を下げるための模索など、イザベルらしい前向きな活動が目を引いた 。
一方で、平民のコーラをめぐるエピソードも興味深い 。仕事のストレスを育児中の妻にぶつける夫が、近所の奥様方に正座で説教されるという構図は、貴族社会にはない独自の社会保障のようで妙な説得力があった 。
不穏な動きを見せるのは、公爵家の忠臣であったはずのデルベ伯爵家である 。
さらに、死別したはずの前妻が「実は生きていた」と名乗り出て、それに便乗する前妻の両親には、あまりに無理がありすぎて失笑を禁じ得ない 。
案の定、イザベルに論破されてあっさりとお縄についたものの、前妻が鮮やかに脱獄してしまった点は、背後の大きな闇を感じさせて不気味だ 。
その後のデルベ伯爵夫人の無遠慮な振る舞いには、あきれを通り越して驚きを覚えた 。
他人の家の私的な場所に踏み込み、挙げ句の果てにノアのダンスを下手だと嘲笑する無神経さは、一線を越えている 。
最終的にはイザベルから出入り禁止を言い渡され、夫とともに処分を受けるが、その後に賊を雇って親子を外国へ売り飛ばそうとするなど、もはや正気とは思えないほど短絡的である 。
襲撃の際、ノアが自らの氷魔法を発現させて敵を拘束した場面は、今巻における最大の見どころと言えるだろう 。
公園建設現場で起きた謎の大陥没など、いまだ因果関係の掴めない出来事も多く、物語はまだ「序章の序章」といった雰囲気である 。
エピローグで語られたスニーカーの構想が、今後どのような変化をもたらすのか 。混乱を極める貴族社会の中で、冒頭に登場した幼い子供の正体が明らかになる日を待ちつつ、次巻の展開を注視したい 。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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継母の心得 4 レビュー
継母の心得 全巻まとめ
継母の心得 6 レビュー
考察
義息子の赤ちゃん返り
『継母の心得』において、義理の息子であるノアが見せた赤ちゃん返りは、新しい家族を迎える準備期間に起きた重要なエピソードである。これはイザベルとテオバルド、そしてノアの三人が、家族としての絆をより深める過程として描かれている。その経緯と家族の対応について、以下の通り整理する。
赤ちゃん返りのきっかけ
事の発端は、テオバルドがノアに対して「弟か妹をつくろうと思っている」と突然告げたことであった。テオバルドは、ベルと夜に二人きりで過ごさなければ弟妹は来ない、と率直に説明した。そして、これまでイザベルと一緒に寝ていたノアに対し、一人で寝るよう促したのである。ノアは当初戸惑いを見せたが、テオバルドから少し我慢すれば兄になれる、修業と同じである、と諭された。親友であるイーニアス殿下が弟の世話をしていることに憧れていたことも重なり、ノアは健気に一人で寝ることを宣言した。
赤ちゃん返りの発症
一人で寝る生活を始めてから一週間後、ノアに明らかな変化が現れた。夜中に突然泣き出す夜泣きが始まり、普段は真面目に取り組んでいたマナーの勉強を強く拒否して講師を困らせるようになったのである。ノアは勉強ができないと甘えて抱っこを求め、自身のことをノアと呼ぶなどの行動を見せた。これらの様子を確認したイザベルは、彼が赤ちゃん返りを起こしているのだと正しく理解した。
イザベルとテオバルドの温かい対応
イザベルはノアの寂しさを正面から受け止めた。
・その日の勉強を休ませて一緒に遊び、彼が眠るまで寄り添う時間を設けた。
・ノアと過ごす時間を増やす必要性を感じ、テオバルドにしばらく三人で一緒に眠ることを提案した。
・テオバルドは赤ちゃん返りという現象に疑問を持ちつつも、イザベルの判断を尊重した。
・ノアの安心を最優先事項として、三人で寝ることを快く受け入れた。
このように、両親がノアの不安を解消するために柔軟な対応をとったことが、事態の好転に繋がったのである。
終息と家族の絆
再び三人で眠る生活を続けた結果、ノアの赤ちゃん返りは一週間ほどで無事に落ち着きを見せた。ノアは安心感を取り戻し、眠る前にはイザベルと一緒に寝るのが大好きである、と素直な心情を伝えるようになった。
・のちに妊娠八ヶ月を迎えたイザベルは、胎動を感じながらこの出来事を振り返っている。
・誰よりも素直でよい子であったノアが、その時だけは見せた初めての甘えを、微笑ましい思い出として懐かしんでいる。
このエピソードは、ノアが無理をして良い子を演じるのではなく、ありのままの弱さや甘えを両親に見せられるようになったという、確かな家族の信頼関係を象徴している。
まとめ
ノアの赤ちゃん返りは、新しい家族を迎えるという環境の変化が生んだ一時的な現象であった。しかし、イザベルとテオバルドがノアの心情に寄り添い、十分な安心感を与え続けたことで、結果として家族の結びつきはより強固なものとなった。この出来事は、血の繋がりを超えたディバイン家の確かな絆を証明する一助となったといえる。
デルベ伯爵夫妻の陰謀
デルベ伯爵夫妻による陰謀の全容と公爵家の危機
継母の心得におけるデルベ伯爵夫妻の陰謀は、ディバイン公爵家の存続を脅かす重大な脅威として描かれている。テオバルドが兄のように慕ってきた重鎮であるデルベ伯爵の不可解な忠誠心と、感情的で愚かな伯爵夫人の暴走という二つの側面が重なり、公爵家に牙を剥くこととなった。本稿ではその陰謀の全容と、破滅に至るまでの展開を整理する。
皇后マルグレーテが抱く公爵家乗っ取りの疑念
事の発端は、皇后が語った過去の事件への疑念であった。かつてテオバルドが前妻サラから薬を盛られて襲われた事件について、皇后はデルベ伯爵の手引きがあったのではないかと推測した。
・サラ単独での犯行はテオバルドの性格上不可能であり、背後に協力者がいたと考えられる。
・テオバルドの両親の事故死や、ノアの乳母の不審死にもデルベ伯爵が関与している疑いがある。
・最終的な目的はノアを傀儡に据え、ディバイン公爵家を事実上乗っ取ることにあると危惧されていた。
銀髪の聖女騒動と伯爵の不可解な自白
帝都に銀髪の聖女と呼ばれる女性が現れ、テオバルドたちを糾弾する騒動が発生した。自称両親とともに、イザベルを愛人と呼び、自分こそが本物の正妻であると主張する詐欺事件であった。
・イザベルの論破によって彼らが偽物であることが暴かれ、関係者は詐欺罪で逮捕された。
・テオバルドの追及により、この騒動の黒幕がデルベ伯爵であったことが判明した。
・伯爵は将来の足枷となるフィオーレ家を一掃するための独断の忠義であると自白した。
・この自白により、伯爵の真意が乗っ取りなのか歪んだ忠誠なのかを判断することが一層困難となった。
デルベ伯爵夫人の暴走とイザベルによる追放
デルベ伯爵夫人は自らの権力を背景に、公爵邸の私的空間への無断立ち入りなどの無作法を繰り返していた。さらに、ノアのダンスレッスンを嘲笑し、幼い少年の心を深く傷つける決定的な暴挙に出た。
・イザベルはお茶会の席で伯爵夫人と対峙し、そのマナー違反と悪意に満ちた人間性を論破した。
・ディバイン公爵夫人としての権限を行使し、伯爵夫人に対して公爵邸への出入り禁止を申し渡した。
・テオバルドもイザベルの決断を全面的に支持し、妻を制御できなかったデルベ伯爵に謹慎を命じた。
復讐の馬車襲撃事件と破滅への道
追放に逆恨みした伯爵夫人は、イザベルを外国の奴隷商へ売り飛ばすために武装集団を雇用し、馬車の襲撃を画策した。
・妖精が事前に夫人の計画を聞きつけて警告していたため、公爵家は警戒態勢にあった。
・テオバルドが迅速に救援に駆けつけ、圧倒的な実力で事態の制圧にあたった。
・馬車内に侵入した刺客に対し、ノアが自らの氷魔法で撃退するという成長を見せた。
・襲撃の失敗を知ったデルベ伯爵は、狂乱する夫人を見限り、諦念を露わにした。
・夫人が領地の鉄鉱石を横流ししようとしていた事実も判明し、陰謀は完全に破綻した。
まとめ
デルベ伯爵夫妻による陰謀は、イザベルの冷静な対処とノアの魔法の才能、そしてテオバルドの守護によって阻止された。狡猾な伯爵と暴走する夫人の足並みが崩れたことで、公爵家への脅威は去ることとなったのである。本事件を通じて公爵家の絆はより強固なものとなり、家族を守るための決意が改めて確認される結果となった。
銀髪の偽聖女騒動
銀髪の偽聖女騒動は、ディバイン公爵家の過去を利用して家門を揺るがそうとした重大な事件である。同時に本件は、イザベルが公爵の正妻としての強い立場を民衆に誇示する重要な契機となった。
銀髪の聖女の噂とその背景
帝都の庶民街に腰まで届く銀髪を持つ女性が現れた。彼女は教会の関係者と慈善活動を行い、民衆から銀髪の聖女と呼ばれるようになる。この噂は公爵家の家臣の妻たちの間でも話題となった。ノアと同じ銀髪であることから、亡くなったはずの前妻サラとの関係が囁かれ始めている。デルベ伯爵はテオバルドに対し、イザベルを傷つける可能性があるとして早急な対応を促した。
教会での対決とイザベルによる論破
テオバルドとイザベルは噂を確かめるため、庶民街の教会へ赴いた。そこで銀髪の女性が自らをテオバルドの妻サラであると名乗る。さらに自称両親が現れ、テオバルドが愛人を囲っていると群衆の前で侮辱した。これに対しイザベルは正式な妻であると法的な根拠を示して反論した。
・夫婦でなければ知り得ない好物や嫌いなものの詳細を問うた。
・身体にある傷の正確な場所とその由来について追及した。
テオバルドの左手の甲にある傷が、前妻につけられたものであると示したことが決定打となった。自称父親が口を滑らせたことで、別人を用意した詐欺であることが完全に露呈したのである。
逮捕と偽聖女の逃亡
自称両親たちは降爵と領地没収への不満から、金と地位を求めて犯行に及んだと動機を語っている。テオバルドは彼らを詐欺罪と不敬罪で衛兵に引き渡した。しかし後日、偽聖女は牢から脱走した。侍女ミランダは彼女が高度な訓練を受けた諜報員である可能性を指摘した。教会での粗雑な振る舞いすらも自ら捕まるための演技であった疑いが生じ、事件の背後に深い闇が浮上した。
黒幕デルベ伯爵の不気味な自白
テオバルドは騒動の背後で糸を引く人物を推測し、デルベ伯爵を直接問いただした。デルベ伯爵は偽聖女を雇ったのは自分であるとあっさりと自白した。
・不審な動きを見せていた前妻の実家を一掃することが目的であった。
・民衆の前でイザベルが深く愛されている正妻であると印象付けるための演出であった。
彼はすべてが主家を守るための独断の忠義であると主張した。伯爵の態度は忠臣としての立場を強めたようにも見えたが、その真意は読めないものであった。イザベルとテオバルドの心には強い疑念と不気味さが残る結果となった。
総括
偽聖女騒動はデルベ伯爵の自白という形で一応の収束を見せた。しかし主家への歪んだ忠誠を誓う伯爵の存在は、公爵家にとって新たな不安要素となっている。イザベルの地位は民衆の間でも盤石なものとなったが、事件の背後に潜む闇は依然として深く残されている。
知育菓子と新商品開発
継母の心得において、イザベルが考案した知育菓子は、子供の創造力を育む画期的な新商品である。さらに、この開発過程で得られた知見は、大人向けの入浴剤という別の実用品の開発へと繋がった。本稿では、その発想から実用化までの展開を整理する。
知育菓子の発想と教育的意図
イザベルは、植物図鑑に掲載されていた水分で色が変わる花や泡の出るハーブに着目した。ここから、子供が自ら作って遊べる知育菓子のアイデアを思いついたのである。
・色が変わるハーブティーのように、材料を混ぜる変化を楽しみながら作る工程を重視した。
・指先を使い、創造力を育てる教育的効果を狙いとしている。
・安全性を最優先し、シェフやパティシエの協力を得て試作を重ねた。
ベル商会での提案と社会的障壁
自身がオーナーを務めるベル商会の幹部会議にて、知育菓子を新商品として提案した。しかし、当時の貴族社会特有の価値観が壁となった。
・貴族社会では大人が料理をすることが稀であり、火や刃物を使う作業への警戒心が強かった。
・子供に菓子作りをさせることへの危険視や、世間からの批判を懸念する声が相次いだ。
・このため、商品化を巡る議論は激しく紛糾する事態となった。
子供パーティーでの披露と成功
会議での反発をよそに、皇宮で開催された子供主催パーティーにて知育菓子が披露された。ノアはイーニアス殿下たちへの贈り物として、以下の三種類を用意した。
・水を加えると膨らむ菓子。
・炭酸ジュースに変化するもの。
・型に粉を入れて水を垂らすと、色が変わって固まるグミ。
特に、船やドラゴンの型を使用したグミは大好評を得た。不思議な変化に子供たちは驚き歓声を上げ、知育菓子は大きな成功を収めたのである。
炭酸ハーブ入浴剤への応用と実用化
開発過程で生まれた炭酸パウダーは、菓子以外の分野にも応用された。イザベルは、パーティーの待機室にいる親たちへの土産として、入浴剤の開発を考案した。
・粉末の過剰使用を防ぐため、ネチャネチャ草の接着成分を活用して固形化した。
・ネチャネチャ草には保湿効果もあり、実用性が高まった。
・皇后の助言を受けて精油を加え、香りによるリラックス効果を付加した。
・血行促進、保湿、リラックス効果を兼ね備えた画期的な固形入浴剤が完成した。
まとめ
イザベルによる知育菓子の開発は、子供の笑顔を引き出しただけではない。異世界の常識に新しい風を吹き込み、副産物として大人向けの実用品まで生み出した。これは、前世の知識を活かした多角的な新商品開発の成功例といえる。
登場キャラクター
イザベル・ドーラ・ディバイン
本作の主人公であり、ディバイン公爵家の夫人である。かつては冷え切っていた夫との関係を改善し、現在は第一子を身ごもっている。義理の息子であるノアを実の子以上に深く愛しており、彼の教育や幸福のために全力を尽くす。前世の知識を活かして新しい商品を開発し、商会のオーナーとしての顔も持つ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵夫人。ベル商会オーナー。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアの赤ちゃん返りに寄り添い、家族の絆を深めた。自称「前妻」の正体を鋭い観察眼で暴き、詐欺事件を解決に導く。ノアを侮辱したデルベ伯爵夫人に対して毅然とした態度で出入り禁止を言い渡し、息子を守り抜いた。知育菓子や炭酸入浴剤など、数々の画期的な発明品を世に送り出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公爵夫人としての地位は盤石である。実家のシモンズ伯爵家が開発した新素材の影響力もあり、社交界において無視できない存在となっている。皇后マルグレーテとは個人的な友人関係を築いている。
テオバルド
ディバイン公爵家の当主であり、イザベルの夫である。「氷の大公」の異名を持ち、非常に強力な魔法の使い手として知られる。かつては冷酷な人物だと思われていたが、現在は家族に対して深い愛情を見せる。主家としての責任感が強く、一門の不正や無礼には厳格な態度で臨む。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵。帝国最強の魔法使い。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵。帝国最強の魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
大規模な陥没事故に対して迅速に騎士団を派遣した。偽の前妻を名乗る一団を魔法で拘束し、即座に衛兵へ引き渡した。イザベルとノアが襲撃された際には、皇后の助けを借りて現場へ急行し、賊を壊滅させた。長年の友人であるデルベ伯爵への疑惑を抱きつつ、冷静に調査を進めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帝国において絶大な軍事力と政治力を保持している。家族を守るための行動は迅速であり、部下や家臣からも深く信頼されている。
ノア
テオバルドの息子であり、イザベルにとっては義理の息子にあたる。美しい銀髪を持つ四歳の少年で、純真無垢な性格をしている。両親を深く慕っており、特にイザベルのことを強く愛している。将来有望な魔力を持っており、危機に際してはその才能の片鱗を見せる。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家次期後継者。
・物語内での具体的な行動や成果
弟妹ができる不安から一時的に赤ちゃん返りを起こしたが、両親の愛を再確認して克服した。馬車が襲撃された際には、侵入してきた刺客の足を魔法で凍らせて拘束した。親友のイーニアス殿下と共に子供パーティーを主催し、知育菓子をプレゼントして参加者を喜ばせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家臣たちの前で正式に後継者として紹介された。その愛らしい容姿と利発な振る舞いにより、多くの貴族から注目されている。
マルグレーテ
グランニッシュ帝国の皇后であり、イザベルの良き理解者である。非常に活動的かつ現実的な性格で、社交界の頂点に君臨している。政治的な洞察力に優れ、イザベルに数々のアドバイスを与える。家族愛が強く、特に息子であるイーニアスの成長を温かく見守っている。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国皇后。
・物語内での具体的な行動や成果
転移魔法を駆使してイザベルの移動や救援をサポートした。デルベ伯爵家の不審な動きを察知し、調査の必要性をイザベルに共有した。子供たちのパーティーを全面的に支援し、イザベルの発明した入浴剤の有用性を即座に見抜いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
社交界の主導権を握っており、絶大な影響力を行使する。皇帝ネロとの間には独特の信頼関係がある。
ミランダ
イザベルの専属侍女であり、ディバイン公爵家の「影」の一員でもある。侍女としての完璧な作法と、護衛としての卓越した戦闘能力を兼ね備えている。常に冷静沈着であり、イザベルの安全を第一に考えて行動する。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家専属侍女。諜報・護衛組織「影」の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
悪魔の襲撃から主を守れなかったことを悔いて土下座で謝罪したが、テオバルドに続投を許された。店に現れた不審な人物の正体を即座に分析し、イザベルに警戒を促した。馬車への襲撃時や伯爵夫人の無断侵入時にも、常に最前線で主を守り抜いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルから絶大な信頼を寄せられている。公爵家の「裏」の仕事にも精通しており、騎士以上に自由に動く権限を持つ。
デルベ伯爵夫人
テオバルドの幼馴染であるデルベ伯爵の妻である。選民意識が非常に強く、傲慢な振る舞いが目立つ。自らの家系が社交界の重鎮であることを鼻にかけており、若くして公爵夫人となったイザベルを敵視している。
・所属組織、地位や役職
デルベ伯爵夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
公爵家の私的な区画に無断で侵入し、ノアのダンスを下手だと嘲笑した。さらにイザベルを社交界から失墜させようと陰謀を巡らせ、最終的には賊を雇ってイザベルの誘拐を企てた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イザベルによって公爵邸から永久追放され、夫であるデルベ伯爵も謹慎処分となった。これにより、社交界での地位と名声を著しく損なう結果となった。
ネロウディアス
グランニッシュ帝国の皇帝であり、マルグレーテの夫である。通称「ネロ」。一見すると頼りない印象を与えるが、実際には妻や子供たちを深く愛している。歴史や伝統を重んじつつも、新しいものに対する好奇心も持ち合わせている。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
料理人に変装して子供たちのパーティーに忍び込み、お菓子の家作りを手伝った。イザベルを「皇家御用達の商人」として高く評価し、様々な相談を持ちかける。マルグレーテへの昔のプロポーズをやり直し、彼女への唯一無二の愛を誓った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつての洗脳が解けた後は、一途にマルグレーテを愛し続けている。政治的な実務の多くを皇后に委ねているが、皇帝としての品格は備えている。
イーニアス
帝国の第三皇子であり、ノアの親友である。素直で責任感の強い性格をしている。ノアを弟のように可愛がっており、彼に文字を教えるなど面倒見が良い。
・所属組織、地位や役職
グランニッシュ帝国皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
ノアの助言を受けて「子供だけのパーティー」を主催した。慣れない準備に苦労しながらも、ノアへのプレゼントや会場の演出に尽力した。ノアから贈られたスニーカーとリュックを非常に気に入り、お揃いの姿で遊び回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇族としての自覚を持ちつつ、ノアとの友情を最も大切にしている。
ウォルト
ディバイン公爵家の執事長である。公爵家のあらゆる実務を取り仕切る有能な人物で、テオバルドの右腕として活動する。冷静な判断力と高い情報収集能力を持つ。
・所属組織、地位や役職
ディバイン公爵家執事長。
・物語内での具体的な行動や成果
領地の陥没事故の報告を受け、即座に地質調査の手配を行った。デルベ伯爵家の鉄鉱石の行方について影を使って綿密な調査を実施した。ノアのダンスのために見事なピアノ演奏を披露し、彼の自信回復を助けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
テオバルドとは幼少期からの付き合いであり、家族同然の信頼を得ている。
デルベ伯爵
テオバルドの兄弟のような親友であり、デルベ家の当主である。実直な性格だと信じられていたが、近年はその行動に不審な点が見え始めている。
・所属組織、地位や役職
デルベ伯爵。ディバイン公爵家一門。
・物語内での具体的な行動や成果
偽の前妻を「公爵家を守るため」に自ら雇ったと告白した。領地内の鉄鉱石を不自然に蓄積しており、その真意は不明である。妻の暴走を抑えきれず、結果として主家から謹慎処分を下された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一門の有力者であるが、現在はテオバルドや影による監視対象となっている。
今後、各キャラクターの人間関係の変化や、デルベ伯爵の真意についてより詳しい情報を整理することも可能である。必要であれば、特定のシーンにおける彼らの詳細なセリフや行動の分析を申し受ける。
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展開まとめ
プロローグ
胎動を感じるイザベル
イザベル・ドーラ・ディバインは、腹の内側からポコン、ポコンと伝わる振動を感じて手を当てた。妊娠が判明してから八ヶ月が経過し、大きく膨らんだ腹を見るたびに、そこに我が子がいるのだと実感していた。かつて大の女嫌いであったディバイン公爵の子を身ごもることになるとは、イザベル自身も想像していなかったことであった。
夫婦関係の変化の回想
結婚当初、イザベルと公爵は顔を合わせない日々が続き、馬車に乗る際にもエスコートすらなかった。イザベル自身も当時は、義息子ノアさえいれば十分だと考えていた。現在の穏やかな状況から振り返ると、その頃のことは懐かしい思い出として感じられていた。
成長する胎動
当初は蝶が羽ばたくような微かな感覚だった胎動も、腹の膨らみとともに次第に強くなっていった。最近では元気に動き回るようになり、ノアが腹に触れると高い確率で蹴り返すほどであった。
ノアとの穏やかな時間
秋の終わり、よく晴れた日のサンルームで、イザベルはソファに腰かけながらノアの頭を撫でていた。ノアは嬉しそうに近づき、赤ちゃんはお腹の中でぽんぽんしているのかと尋ねながら、優しく腹を撫でていた。そよ風に揺れる木々の音を聞きつつ、イザベルはノアのさらさらとした銀髪を指で感じていた。
弟妹を迎える決意とノアの赤ちゃん返り
その穏やかな時間の中で、イザベルはノアに弟妹をつくろうと夫婦で決めた当時を思い出した。誰よりも素直でよい子であったノアが、その時だけは初めて赤ちゃん返りを見せたのである。その記憶を思い出し、イザベルは思わず微笑みを漏らしていた。
弟妹の話を突然切り出すテオ
家族三人で過ごす時間の中で、テオはノアに弟か妹をつくろうと思っていると突然告げた。ノアは意味をよく理解できないまま問い返したが、テオはベルと夜に二人きりで過ごさなければ弟妹は来ないと率直に説明した。イザベルは夫の発言に強い羞恥を覚え、顔を覆うほど動揺した。使用人の耳にも届く状況であったため、さらに恥ずかしさを感じていた。
兄になる決意をするノア
ノアはこれまでイザベルと一緒に寝ていたが、弟妹を望む話を聞いて戸惑いを見せた。イザベルは寂しさを思って一緒に寝ようと提案しかけたが、テオはノアに少し我慢すれば兄になるのだと説いた。ノアはイーニアス殿下が弟の世話をした話を思い出し、兄になることに憧れを抱いていた。テオに修業と同じだと励まされると、ノアは一人で寝ると宣言した。
突然始まったノアの夜泣き
それから一週間後、ノアが夜中に泣き出すようになったと侍女カミラが報告した。それまでは問題なく一人で眠れていたが、突然泣きじゃくるようになったという。イザベルはノアが赤ちゃん返りを起こした可能性を考え、様子を見るためノアの部屋へ向かった。
勉強を拒むノア
部屋の中では、ノアがマナーの勉強を拒み、講師を困らせていた。いつもは真面目に勉強するノアが、今日は勉強をしないと強く嫌がっていた。イザベルは講師に帰ってもらい、ノアを抱き上げて話を聞いた。ノアは勉強ができないと訴え、甘えるように抱っこを求めた。普段と違い、自分のことをノアと呼ぶ様子からも、赤ちゃん返りであるとイザベルは理解した。
母子で過ごす時間
イザベルはその日、ノアの勉強を休ませて一緒に遊び、ノアが眠るまで寄り添って過ごした。そして、ノアと過ごす時間をもっと増やす必要があると感じた。
三人で眠る決断
その夜、イザベルはテオに事情を説明し、しばらく三人で一緒に眠ることを提案した。テオは赤ちゃん返りについて疑問を持ちながらも、イザベルの判断を尊重しノアを優先すると決めた。子育てに理解を示す夫を誇らしく思い、イザベルは感謝を伝えた。
夫婦の距離の変化
イザベルの言葉にテオは照れたような反応を見せつつ、冗談めかしてイザベルをからかった。そして髪を取って口づけ、子づくりは夜でなくともできると耳元で囁いたため、イザベルは強く恥ずかしがった。
赤ちゃん返りの終息と家族の日常
三人で眠る生活を続けた結果、ノアの赤ちゃん返りは一週間ほどで落ち着いた。ノアは眠る前にイザベルと一緒に寝るのが大好きだと伝えるようになり、家族は穏やかな日常を取り戻していった。ディバイン公爵家では、そんな幸せな時間が続いていた。
庭から現れた幼い子供
イザベル・ドーラ・ディバインはノアの髪を撫でながら穏やかな時間を過ごしていたが、庭の方から幼い声が聞こえた。顔を上げると、ノアよりさらに幼い、まだ二歳にも満たない子供がよちよち歩きでこちらへ向かってきていた。ノアはその子に走ると転んでしまうと声をかけたが、子供は何かに躓き身体を前に傾けた。
転びそうな子供を支えるテオ
イザベルが慌てて助けようと立ち上がった瞬間、子供を支えたのはテオであった。テオは猫のような声を上げる子供を抱き上げ、そのままソファの前まで連れてくると静かに座らせた。イザベルはその手つきの優しさを見て、思わず笑みを浮かべた。
家族の穏やかなやり取り
テオはイザベルの体調を気遣い、イザベルは問題ないと答えた。氷の大公と呼ばれるテオは、その呼び名とは対照的に温かな笑みを浮かべてイザベルの隣に座った。子供はイザベルをかぁちゃと呼び、抱っこしてほしいというように両手を伸ばした。イザベルが抱っこしてほしいのかと尋ねると、子供は頷いた。
過去へ続く出来事の示唆
イザベルはその子供との出会いを思い返した。それはある事件がきっかけであり、やがて大きな出来事へと発展していくことになる。その出来事を語るためには、悪魔を倒した翌日まで時間を遡る必要があった。
第一章 不穏な影
妖精の卵が孵る騒動
悪魔を倒し、聖人アベラルドと精霊ウィルを見送った翌朝、イザベル・ドーラ・ディバインは公爵家のタウンハウスの寝室で目を覚ました。皇城からの帰りの馬車で眠ってしまったらしく、隣ではノアが静かに眠っていた。安らぐ間もなく、妖精の卵が孵るという出来事が起こり、騒ぎが広がった。妖精たちがテオのもとへ向かった後、ノアの寝顔を見ていたイザベルのもとへ、侍女カミラとミランダが慌てて駆け込んできた。二人はイザベルの無事を確かめようと必死で、特にミランダはノアの魔力暴走で凍った腕の怪我を心配して細かく確認し、カミラは安堵のあまり泣き崩れていた。
ミランダの謝罪
ミランダはイザベルに怪我がないと確認すると、突然土下座して謝罪した。悪魔から主を守れなかったことを深く悔いており、自分は侍女失格だと涙ながらに語った。イザベルは悪魔と聖人という人外の戦いに人間が太刀打ちできるはずがないと説き、侍女にそのような力は求めていないと必死に止めた。
テオの判断
そこへテオが現れた。彼は護衛を兼ねる侍女である以上、主を命がけで守るのは当然だと厳しく言ったが、今回の件は悪魔や聖人、さらにノアの魔力暴走という人間では対処できない事態であったことも認めた。そのうえで、イザベルが最も信頼している侍女であるミランダを側から外すのは得策ではないと判断し、引き続き専属侍女として仕えることを許した。緊張した場面の中で、カミラは状況に戸惑い声を上げていた。やがて誕生した小妖精を見たテオの表情がチベットスナギツネのようになり、イザベルは思わず笑ってしまった。
ミランダの正体
その夜、ノアの赤ちゃん返りの件を話す中で、イザベルはミランダが護衛も兼ねていることを思い出した。テオはミランダがディバイン公爵家の影の一員であると説明した。影とは情報収集や統制、護衛を担う者たちであり、騎士より自由に動く存在であるという。イザベルは影という言葉から裏組織や犯罪の支配者を想像していたが、テオは公爵家は犯罪者を取り締まる側であり、そうした組織ではないと否定した。イザベルの勘違いにテオは笑い、安心してほしいと伝えた。
家族で迎える夜
話を終えた二人は、ぐっすり眠るノアを見つめた。テオは寝返りを打ったノアに布団をかけ直し、二人も休むことにした。ノアを挟むように横になり、穏やかな空気の中で眠りについた。テオはふと、ディバイン公爵家の裏の顔という言葉を思い返していた。
没落した男女の嘆き
庶民の家にしては大きく、貴族の屋敷としては質素な一軒家の中で、一組の男女が頭を抱えていた。二人は降爵され、領地も没収された結果、男爵という下位の身分に落とされた現状を嘆いていた。寒さに震えながら毛布にくるまり、どうして自分たちが犯罪者のように扱われなければならないのかと繰り返し不満を口にしていた。
息子への執着
女は、奪爵されなかっただけでもましだと言われたことに怒りを示しながら、ある考えを口にした。もしあの子が当主になれば、自分たちはこのような扱いを受けずに済んだはずだと語った。その言葉を聞いた男は突然顔を上げ、まだあの子がいると気づいた。
企みの芽生え
男は、うまくいけば自分たちは相手からすべてを奪えるかもしれないと語った。女はその言葉に強く反応し、二人は何かを思いついたように笑みを浮かべた。暖炉の薪が燃え尽きればさらに寒さが厳しくなる状況の中で、薪を取りに行く者もいない惨めな生活に追い詰められた二人は、互いに顔を見合わせながら不穏な笑みを交わしていた。
賑わう『おもちゃの宝箱』帝都支店
『おもちゃの宝箱』帝都支店の店内には、色とりどりのおもちゃやテディ、絵付けされた食器やタンブラーが並び、多くの客で賑わっていた。イザベル・ドーラ・ディバインはミランダとともに店内を見て回り、新しく増えたテディや絵本、おもちゃを楽しそうに眺めていた。イザベルの発想をきっかけに企画部が新しい商品を次々と形にしていることを聞き、イザベルはこの世界でも多くのアイデアが生まれていることを嬉しく感じていた。
巨大滑り台で遊ぶノア
店の人気設備である巨大滑り台ではノアが遊んでいた。上から声をかけてきたノアは楽しそうに滑り降り、イザベルのもとへ駆け寄ってきた。ノアは大きな滑り台が楽しいと笑顔で伝え、イザベルはその姿を微笑ましく見守った。ノアの頭の上では妖精アオも揺れながら楽しんでおり、イザベルはその様子を見て笑みを浮かべた。再び滑り台へ向かうノアを見送りながら、穏やかな時間を過ごしていた。
店長からの報告
その時、帝都支店の店長がイザベルに声をかけ、別室で話があると伝えた。ノアをカミラと護衛に任せ、イザベルは店長とスタッフルームへ向かった。店長は、イザベルが店に来る少し前に、自分はノアの祖母だと名乗る貴族が来店したと説明した。その人物は自分は店のオーナーのようなものだから商品を融通しろと言い、大量のおもちゃを要求したという。
不審な要求
店は他の客への商品がなくなるため大量販売はできないと説明し、それでも望むならディバイン公爵夫人に相談すると伝えたところ、その人物は名前も名乗らず帰っていった。ノアの祖母を名乗る者はこれまで現れたことがなく、不審に思った店長はイザベルに報告したのであった。イザベルは対応に感謝し、今後同様の人物が現れた場合は自分かディバイン家の名を出して対処してよいと伝えた。
前妻の両親の可能性
店長の話を聞いた後、イザベルはノアの祖母という言葉に思い当たる人物がいる可能性に気づいた。ノアはテオの前妻の子であり、その前妻の両親が存命であることを思い出したのである。ミランダによれば、その両親は前妻の起こした事件に関与しており、テオはディバイン公爵家に関わらないよう処置していた。しかしその後も何度も押しかけてきたため、領地から出られないようにされていたという。さらに大粛清の後には領地を没収され、降爵されていた。
警戒の必要
イザベルは店長の対応を評価し、今後も同じような人物が現れる可能性を考えて、スタッフには注意するよう伝えることにした。ミランダもそれに従い、店の警戒を強めることになった。
帝都支店の様子
『おもちゃの宝箱』帝都支店は多くの客で賑わい、店内にはおもちゃやテディ、絵本、絵付けされた食器などが並んでいた。イザベルはミランダとともに店内を見て回り、新しく増えた商品を楽しそうに眺めていた。自分の発想をきっかけに企画部が様々な商品を生み出していると聞き、この世界でも新しいアイデアが形になっていくことを嬉しく感じていた。
ノアと巨大滑り台
店の人気設備である巨大滑り台ではノアが遊んでいた。上から声をかけてきたノアは勢いよく滑り降り、イザベルのもとへ駆け寄ってくる。滑り台がとても楽しいと笑顔で話す息子を、イザベルは微笑ましく見守った。ノアの頭の上では妖精アオも一緒に揺れており、その様子にイザベルは思わず笑みを浮かべる。ノアは再び滑り台へ向かい、店内には穏やかな時間が流れていた。
店長からの相談
そこへ帝都支店の店長が現れ、別室で話があるとイザベルに伝える。ノアをカミラと護衛に任せたイザベルは、店長とともにスタッフルームへ移動した。店長によれば、イザベルが店に来る少し前に「ノアの祖母だ」と名乗る貴族が来店していたという。その人物は自分は店のオーナーのようなものだと言い、店の商品を融通するよう求め、大量のおもちゃを要求してきた。
不審な来訪者
店長は他の客への商品がなくなるため大量販売はできないと説明し、それでも希望するならディバイン公爵夫人に相談すると伝えた。するとその人物は名前も明かさないまま店を去ったという。これまでノアの祖母を名乗る人物が現れたことはなく、不審に思った店長はイザベルへ報告したのであった。イザベルは適切な対応をした店長に礼を述べ、今後同様の人物が現れた場合は自分やディバイン家の名を出して対応してよいと伝える。
思い当たる人物
話を聞いたイザベルは、「ノアの祖母」という言葉からある可能性に思い至る。ノアはテオバルドの前妻の子であり、その前妻の両親がまだ生きていることを思い出したのである。ミランダの説明によれば、その両親は前妻の事件にも関わっており、テオバルドは公爵家に近づけないよう処置していた。しかしそれでも何度も押しかけてきたため、領地から出られないようにされていたという。さらに大粛清の後には領地を没収され、降爵されていた。
今後の警戒
イザベルは今回の出来事を軽視せず、同じ人物が再び現れる可能性を考えて店の警戒を強める必要があると判断した。店長の対応を評価するとともに、今後も怪しい人物が来た場合はすぐに報告するよう指示する。ミランダもそれに同意し、帝都支店では警戒体制を強めることになった。
SIDE コーラの夫
夜泣きと叱責
赤ん坊の夜泣きに苛立ち、コーラに怒鳴ってしまった翌日、コーラの夫は帰宅直後に隣の奥の妻に呼び出された。共有スペースへ連れて行かれると、近所の女性たちに囲まれ、妻と子供に怒りをぶつけたことを厳しく叱責された。仕事の疲れを理由にしても妻子に当たるのは情けない行いだと責められ、彼はその場で正座させられて説教を受けた。
父親としての戸惑い
後日、休憩中にその出来事を先輩へ愚痴として話した。帝都に来てすぐ妻の妊娠がわかり、出産直後には配置換えも重なり、仕事に追われて余裕がなかったことを打ち明けた。さらに、自分の子供を可愛いと思えないのではないかと悩んでいることも告白した。
先輩の助言
先輩は、子供が妻の腹にいる間に触れたり話しかけたりしていなかっただろうと指摘した。子供の成長をその過程から見守ってきた父親だからこそ、生まれた瞬間に深い愛情を抱くことができるのであり、何も準備がないまま突然父親になれば戸惑うのは当然だと説明した。これから毎日子供と接していけば、やがて可愛いと思えないという感覚はなくなると励ました。先輩自身もかつて同じ気持ちを抱いていたと語った。
父親としての実感
その後、息子が初めて父親をとおちゃと呼んだ。コーラと共に喜びながらその言葉を聞いたコーラの夫は、胸の奥から強い愛情が湧き上がるのを感じた。そして、自分の息子こそ世界で一番可愛いと心から思うようになり、息子が生まれてきてくれたことに深い感謝を抱くようになった。
第二章 大陥没
真夜中に響いた異音
それが起きたのは、人々が眠りについた真夜中であった。何かの気配を感じた者たちは目を覚まし、揺れや音の正体を確かめようと耳を澄ませた。ディバイン公爵領で建設中の公園を中心に、半径数キロにわたる範囲で巨人の唸り声のような地響きが広がり、直後に地面が大きく揺れ、爆発したかのような音が響いた。
街に広がる混乱
揺れそのものは大きな被害をもたらすほどではなかったものの、突然の出来事に街の人々は驚き、家の外へ飛び出して騒ぎになった。何が起こったのか誰も分からないまま夜は過ぎ、翌朝になってようやく街の人々はその出来事の正体を知ることになるのだった。
SIDE テオバルド
早朝の報告
夜が明けきらない早朝、テオバルドはウォルトの呼び声と寝室の扉を叩く音で目を覚ました。隣ではイザベルとノアが熟睡しており、その姿を確認してから静かにベッドを抜け出した。二人を起こさぬようガウンを羽織り、扉の前にいるウォルトに何が起きたのか尋ねた。
公園で起きた陥没事故
ウォルトは、夜中にディバイン公爵領都で発生した出来事を報告した。開発中の公園で大規模な陥没事故が起きたという内容に、テオバルドは強い衝撃を受けた。幸いにも事故が起きたのは夜中であったため負傷者は出ておらず、現在のところ被害の報告も上がっていないという。
迅速な対応の指示
ウォルトはすでに工事を中断し、地質調査員を現地へ向かわせる準備を進めていると伝えた。テオバルドはそれを聞き、街から離れている場所とはいえ大規模な陥没であれば周辺に被害が出ている可能性もあると判断した。直ちに領都の騎士を巡回させ、被害状況を報告させるよう命じた。ウォルトはその命令を受け、すぐに行動へ移った。
悩み続けるイザベル
乳幼児の死亡率を下げるための良い案が思いつかず、イザベルは数日間思い悩んでいた。また、『おもちゃの宝箱』に現れたノアの祖母を名乗る人物もその後現れておらず、もし本当にノアの祖母だった場合どう対処すべきかも分からずにいた。前妻の実家についてはあまり良い噂を聞かず、不安を抱えたまま過ごしていた。そんな様子に気づいたノアや妖精たちは心配し、イザベルは考え込みすぎていたことに気づいて気持ちを切り替えようとした。
公園建設現場への外出
そこへテオバルドが現れ、気分転換として公園の建設現場へ行こうと誘った。皇后の転移魔法によって一行は現地へ向かい、広大な敷地を見渡した。皇后はレール馬車の計画を楽しそうにイーニアスへ説明し、子供たちも興味深そうに話を聞いていた。かつて岩や木で覆われていた土地は整地され、広い空き地へと変わっていた。
陥没によって生まれた湖
しかし広場の中央にはバリケードが設けられており、立入禁止になっていた。テオバルドの説明によれば、夜中に地面が陥没し、地下の空洞が崩れたことで巨大な穴が生まれ、そこから水が湧き出したという。幸いにも事故は夜中に起きたため被害や負傷者は出ていなかった。地盤調査は地下を見通す特異魔法を持つ専門家が行い、他に危険な空洞はないと確認されていた。妖精も安全だと断言しているため、テオバルドは問題ないと判断していた。
丘から見た公園の全景
子供たちが穴の中を見たがったため、テオバルドは安全のため丘の上から眺めることを提案した。一行が丘の展望スペースから見下ろすと、公園の中央には巨大な湖が生まれており、その周囲では領民たちが活気よく作業を続けていた。妖精たちは、領民たちがイザベルの提案した公園の完成を楽しみにしていると伝えた。
領民の期待
イザベルは陥没事故の話を聞いたとき、公園を提案したことを後悔していたが、領民や子供たちが楽しみにしている様子を知り、気持ちを改めた。テオバルドもまた、イザベルが見せてくれる未来を楽しみにしていると語り、彼女を励ました。イザベルはその言葉を受け、後悔するのではなく前向きに取り組むべきだと考え直した。
湖を活かす新たな発想
丘から眺める湖は美しく、イザベルは公園の名物になるかもしれないと考えた。湖の周囲を走るレール馬車や湖を横断する設備など、新しい構想も思い浮かべる。湖を眺めながら食事を楽しむガゼボの案も語られ、子供たちや妖精たちは食べたい料理の話で盛り上がった。
賑やかな帰路
公園完成までにはまだ長い時間が必要だとテオバルドが説明すると、妖精たちは落胆したが、皆で食事をすることになり再び元気を取り戻した。丘を下りる準備をする中、皇后はレール馬車の路線拡張について真剣に考え込んでいた。賑やかな雰囲気のまま一行は丘を下り、イザベルは気分転換に誘ってくれたテオバルドに感謝しながら、彼の好物であるカレーパンを食べることを考えていた。
第三章 銀髪の聖女
庶民街に現れた銀髪の女性
帝都の庶民街の路地を、腰まで届く美しい銀髪の女性が歩いていた。通りかかった人々はその姿に足を止め、髪の美しさや整った容姿に見惚れていた。白百合のように上品で妖精のような愛らしさを持つその女性は、庶民街にいるような身分の人物ではないと誰もが感じていた。どこかの貴族の令嬢ではないかと噂されながらも、なぜそのような女性が一人でこの場所を歩いているのか、人々は不思議に思っていた。
『銀髪の聖女』と呼ばれる存在
それから数日後、その女性は教会のシスターや司祭と共に慈善活動に励む姿を見せるようになった。その姿を見た人々は、彼女を次第に『銀髪の聖女』と呼ぶようになった。その評判は瞬く間に帝都の街中へ広がっていった。
家臣たちが集う日
ディバイン公爵家では主だった家臣たちが集まる日を迎えていた。その中にはブランビア家も参加しており、娘のブルネッラ・アレグラ・ブランビアも訪れていた。ブルネッラはいつも連れているテディのぬいぐるみにリリちゃんという名前を付けたとイザベルに教え、似合っていると言われると頬を赤らめて嬉しそうにしていた。さらにノアにもその名前を教えたいと話したが、ノアはテオバルドに連れられて家臣たちへ挨拶に行っており、その場にはいなかったため、ブルネッラは母のもとへ戻って待つことになった。
夫人たちの集まり
一人になったイザベルは、重臣の妻たちに誘われて会話の輪に加わった。そこで最近庶民街に現れた銀髪の美しい女性の噂が話題に上がった。その女性は妖精のような美しい外見をしており、教会の関係者とともに慈善活動を行っているという。そのため人々の間では聖女ではないかという噂まで立っていた。
銀髪の話題
会話の中で、銀髪といえばノアも同じ髪色であるという話が出ると、その場の空気が一瞬緊張した。前妻に関係する話題になる可能性を皆が気にしたためであった。イザベルは気にしていないと伝え、ノアの銀髪がとても好きだと笑顔で語った。
ディバイン家の銀髪
さらにイザベルは、ディバイン公爵家の初代であるウェルスも美しい銀髪だったという記録を皇宮の図書館で読んだことがあると説明した。その話題によって場の空気は和らぎ、夫人たちは興味深そうに話を聞いていた。
銀髪の聖女への関心
こうして会話が落ち着いた後、夫人の一人は噂の銀髪の聖女に一度会ってみたいものだと語った。噂だけでなく実際にどのような人物なのか、多くの人々が関心を抱いている様子であった。
SIDE テオバルド
後継者としての紹介
家臣たちが集まる場で、テオバルドはノアを正式に紹介した。ノアは自ら名を名乗り、家臣たちへ挨拶をした。これまで一族が集まる機会はあったが、このように息子として紹介することはなかった。家臣へ紹介することは、ノアを自身の後継者として認める意味を持っていた。テオバルドはかつて、前妻の子であるノアを息子として受け入れることに抵抗を抱いていたが、イザベルの言葉をきっかけに、その認識が変わっていた。
家臣たちの歓迎
ノアの挨拶を受けた家臣たちは、利発そうな後継者だと褒め、可愛らしいと笑顔で歓迎した。テオバルドは、ノアがイザベルに似て商才と頭の回転を備えた優秀な後継者に育っていると語り、今後もディバイン公爵家を支えてほしいと家臣たちへ告げた。ノアも丁寧に挨拶を返し、その姿に家臣たちは拍手を送った。
父としての思い
テオバルドは、ノアがディバイン公爵家を継げば家はさらに発展すると考えていた。一方で、優しすぎる性格や繊細な面があることを少し心配していた。しかし将来、イーニアスの治める時代には今より良い世の中になっているだろうと期待していた。
家臣たちの思惑
挨拶を終えて退出しようとするノアに対し、家臣たちは自分の子供を紹介しようと次々に声をかけ始めた。後継者であるノアに自分の家の子供を覚えてもらおうとする思惑が見え、場は騒がしくなった。
父の配慮
テオバルドはその様子にため息をつき、すぐに会議を始めると宣言して家臣たちを席に戻らせた。ノアがベルのもとへ戻れるよう配慮したのである。ノアは礼を述べて部屋を出ていき、その素早い行動を見たテオバルドは、息子の将来を過度に心配する必要はないのかもしれないと感じていた。
ノアの帰還と再びの挨拶
家臣たちへの挨拶を終えたノアは、胸を張ってイザベルのもとへ戻ってきた。周囲に夫人たちがいるのを見ると、甘える様子から一転して背筋を伸ばし、改めて名乗って丁寧に挨拶をした。その礼儀正しい姿に夫人たちは感心し、可愛らしい公子だと口々に褒めた。ノアは仲良しのブルネッラを見つけると嬉しそうに近寄り、二人は楽しそうに話を始めた。
婚約者の話題
夫人たちはノアの年齢を尋ね、四歳であること、来年には祝福の儀を迎えることを聞くと、そろそろ婚約者を考える時期だと話題にした。デルベ伯爵夫人は、貴族社会では家同士のバランスが重要であるため、後継者の婚約者は慎重に決めるべきだと助言した。イザベルは夫と相談すると答えたが、夫人たちは一門から選ぶのが最も問題が少ないのではないかと関心を示した。
後継者への質問
さらにデルベ伯爵夫人は、もしイザベルが将来男児を出産した場合、後継者をどうするのかと問いかけた。イザベルはディバイン公爵家の後継者はノアであり、その立場は変わらないときっぱり答えた。デルベ伯爵夫人は微笑みながら応じたが、イザベルはその質問の意図に疑問を抱いた。
皇后との密談
その後、訪れていた皇后を別室に案内し、先ほどの出来事を話した。皇后はデルベ伯爵家が社交界で大きな影響力を持つ家であると説明したうえで、声を潜めてある疑念を語った。それは、かつてテオバルドが前妻に薬を盛られて襲われた事件に不自然な点があるというものであった。
デルベ伯爵への疑惑
皇后は、テオバルドが普段は家から持参したもの以外口にしない性格であることから、前妻が単独で薬を盛るのは難しいはずだと指摘した。そしてテオバルドと兄弟のように親しかったデルベ伯爵が関与している可能性を疑っていると打ち明けた。さらにテオバルドの両親の事故死やノアの乳母の死も、伯爵が関わっているのではないかと考えていた。
陰謀の可能性
皇后は、デルベ伯爵家がノアを傀儡としてディバイン公爵家を乗っ取ろうとしている可能性を示した。前妻サラの実家であるフィオーレ家はデルベ伯爵夫人の遠縁であり、その関係を利用してサラを動かしたのではないかという推測であった。しかし確かな証拠は見つかっておらず、テオバルド自身も伯爵を疑っていないため、皇后はこの話を公にはできずにいた。
妖精による調査
イザベルは自分たちで調べると申し出たが、皇后は危険だと止めた。そこでイザベルは、妖精たちに調査を頼めば誰にも気づかれずに情報を集められると提案した。話を聞いていた妖精たちは現れ、張り切って協力を申し出た。こうしてデルベ伯爵家の調査を妖精たちに任せることが決まり、皇后は最後に、社交界で影響力の大きいデルベ伯爵夫人にはまだ直接手出ししてはいけないと忠告した。
SIDE テオバルド
デルベ伯爵の報告
会議の前、デルベ伯爵はテオバルドに最近気になる噂があると切り出した。庶民街に銀髪の女性が現れ、『銀髪の聖女』と呼ばれているという。銀髪は珍しいため、公子ノアと関係があるのではないかという噂も広まっていると語った。テオバルドは銀髪というだけで息子と関係があるとは限らないと指摘し、根拠のない噂を軽々しく口にするべきではないと諭した。
噂への対応
しかしデルベ伯爵は、その噂が広く広まっているため確認する必要があると主張した。さらに、その噂が前妻の話題を呼び起こせばイザベルの心を傷つけるかもしれないと述べた。テオバルドはその言葉を聞き、ベルが傷つく可能性があるならば噂を放置すべきではないと判断し、調査を行うことを決めた。デルベ伯爵は、テオバルド自身が直接出向いて否定すれば噂はすぐに収まるだろうと提案した。
会議の終了
その後ディバイン公爵一門の会議が始まり、各家からの報告が続いた。ブランビア家の報告が終わる頃には晩餐の時間が近づき、会議は終了となった。家臣たちはそれぞれ家族のもとへ戻っていった。
ブランビアの疑問
人がいなくなった後、ブランビア家の当主がテオバルドへ声をかけた。先ほどの報告の中で気になる点があったという。それはデルベ伯爵領の鉄鉱石の採掘量に対して、武器の生産量がわずかに少ないように感じたという点であった。
鉄の行方
ブランビアによれば、デルベ伯爵領はブランビア領と隣接しており商人の行き来も多いが、鉄鉱石や鉄製品が外へ出た形跡は見当たらないという。それにもかかわらず、領内では鉄が不足しているという噂まであると報告した。採掘量は例年と変わらないにもかかわらず鉄が足りないという状況に、テオバルドは違和感を覚えた。
再調査の指示
テオバルドはウォルトに対し、デルベ伯爵領の監査状況を確認した。これまでの監査では問題は見つかっていなかったが、ウォルトは改めて詳しい調査を行うと答えた。テオバルドはそれを了承し、デルベ伯爵領の状況を再調査することになった。
ブランビア家の親子
ブルネッラの父でありブランビア家当主の男性が現れ、娘を嬉しそうに抱き上げた。紺色の長い髪をまとめた若い当主は娘を溺愛しており、抱き上げた勢いでブルネッラのテディであるリリちゃんを潰してしまいそうになりながらも、謝りながら優しく接していた。その様子を母親は呆れた表情で見守っていた。イザベルは、若く穏やかな雰囲気ながら知的で有能そうな人物だと感じていた。
晩餐前のひととき
そこへテオバルドも現れ、自然な動作でノアを抱き上げた。晩餐の時間が近づいていたが、妖精たちは早く食事がしたいと騒ぎ出した。テオバルドは晩餐は皆が集まってから行うものだと説明し、妖精たちが席に混ざることは許さないと告げた。妖精が触れると食べ物が消えたように見えるため、晩餐の場では問題になるからであった。
ブルネッラの晩餐参加
ブランビア家当主は、ブルネッラもリリちゃんと一緒にお洒落をして晩餐に参加すると伝えた。テオバルドから許可も得ていると聞き、ブルネッラは嬉しそうに礼を言った。その様子を見た父は娘の可愛さを改めて喜び、妻に軽くたしなめられていた。
妖精による調査開始
その頃、イザベルは妖精のアカとアオにデルベ伯爵夫妻の調査を任せることにした。二体は伯爵夫妻に張り付いて行動を探るため、テオバルドに気づかれないよう静かに向かった。皇后はすでに仕事のため帰っており、妖精たちは張り切って調査に向かった。
晩餐の準備
ノアは妖精の行方を気にしたが、テオバルドは特に気にしていなかった。やがて晩餐の準備の時間となり、イザベルは着替えをすることにした。カミラは張り切ってノアの着替えを担当し、イザベルとテオバルドもそれぞれ支度を始めた。
正妖精の警戒
着替えの直前、正妖精が現れ、一門の家臣たちの様子を見て回ると告げた。イザベルはそれを頼み、危険が起きないことを祈りながら晩餐の準備を進めることになった。
晩餐の開始
テオバルドの挨拶と乾杯の後、晩餐が始まった。幼い子供たちも参加しているため、会場は明るい話し声に満ち、家臣たちは酒を酌み交わしながら楽しそうに語り合っていた。テオバルドはデルベ伯爵と親しげに話しており、その様子を見たイザベルは二人の関係の深さを改めて感じていた。
妖精の感じ取る悪意
妖精チロはデルベ伯爵に悪魔の気配は感じないと告げたが、それでも伯爵夫妻に対して恐ろしさを感じると話した。妖精は悪意に敏感であるため、悪魔の影響ではなく心そのものが悪意に染まっている可能性を示していた。その言葉を聞いたイザベルは不安を覚えたが、その様子に気づいたテオバルドが心配して声をかけた。
家族の気遣い
イザベルは体調を理由にごまかしたが、テオバルドはその後もそばに付き添い続けた。ノアも水を差し出し、テオバルドも果物を勧めるなど、二人はイザベルを気遣って世話をした。その優しさに触れたことでイザベルの不安は次第に和らいでいった。
晩餐の成功
会場では客たちが料理を楽しみ、サラダや肉料理、パンなどの味を褒める声があちこちから聞こえていた。ポテトサラダやハンバーグ、焼きたてのパンなどの料理は好評であり、イザベルはその反応を嬉しく思いながら晩餐を終えた。
正妖精の報告
晩餐が終わり、宿泊しない客が帰った後、正妖精が調査の報告をするため戻ってきた。イザベルは話を聞くため、テオバルドにノアを風呂へ連れていくよう頼んだ。ノアは妖精たちも一緒に入ろうとしたが、チロが代わりに同行することで納得し、二人は浴室へ向かった。
調査結果
イザベルは寝室で正妖精から報告を聞いた。デルベ伯爵夫妻以外にも多少嫌な印象を感じる人物はいたが、人を見下す程度の汚れであり、テオバルドの事件に関わるほど深い悪意ではないようだと説明された。ただし妖精が分かるのは魂の汚れの程度だけであり、直接的に関わったかどうかまでは断定できないとも語られた。
次の手がかり
イザベルは念のため、妖精が違和感を覚えた人物の名前を教えてほしいと頼んだ。正妖精はその人物の名前を思い出しながら答えようとしていた。
SIDE テオバルド
デルベ伯爵との酒席
ノアを寝室へ送る途中、テオバルドはデルベ伯爵に呼び止められ、久しぶりにウォルトと三人で酒を飲もうと誘われる。息子を寝かせてから客用リビングへ行くと約束し、ウォルトに準備を指示する。
ノアのジュース騒動
途中でノアが「何を飲むのか」と尋ね、ジュースを欲しがる。夜は虫歯になるからダメだとイザベルに言われているはずだったが、ノアは聖水で口を清めれば大丈夫だと主張する。テオバルドは結局、一杯だけと許してしまう。
昔のような三人の時間
客用リビングで、デルベ伯爵・テオバルド・ウォルトの三人は酒を酌み交わす。
デルベ伯爵は、テオバルドが今では妻イザベルを溺愛していることを話題にし、ウォルトもイザベルが多くの人に慕われていると語る。
銀髪の聖女の話
デルベ伯爵は再び「銀髪の聖女」の噂への対応を急ぐべきだと話す。理由として、イザベルが前妻の噂で傷つく可能性を挙げる。テオバルドも、妻を困らせたくないとして対応する意志を示す。
しかしその時のデルベ伯爵の笑みは、テオバルドにはどこか違和感のあるものだった。
家族の夜
酒席を切り上げて寝室へ戻ると、イザベルとノアが寄り添って眠っていた。
夜中、ノアがトイレで目を覚まし、テオバルドが抱えて連れていく。用を足したあと、ノアはそのまま腕の中で眠ってしまう。
テオバルドは息子をベッドに戻し、妻と息子の寝顔を見ながら、穏やかな気持ちで眠りにつく。
家族と過ごすこんな夜も悪くないと感じていた。
第四章 知育菓子
朝の目覚めと知育菓子の発想
朝、ベルは目を覚ますと、珍しくテオとノアがまだ眠っていることに気づいた。目を覚ましたテオと挨拶を交わした後、ベルは今日の予定として、客の相手の合間に知育菓子の研究を行うつもりだと話した。知育菓子とは子供が作る菓子であると説明するが、テオは菓子は職人が作るものだと不思議がる。そこでベルは、色が変わるハーブティーの例を挙げ、成分の反応で色が変化する仕組みを説明し、複数の材料を混ぜて変化を楽しみながら作る菓子を子供が体験できれば面白いと考えたのだと語った。テオは想像がつかない様子ながらも、安全のため研究内容を報告するよう求め、朝の訓練へ向かった。
不思議な植物を使った試作の準備
テオを見送ったベルは、ノアを喜ばせるため知育菓子の材料探しを決意した。以前から構想していたが後回しになっていた計画であり、ウォルトが入手した植物図鑑に、水分で色が変わる花や泡の出るハーブなど興味深い植物が掲載されていたことがきっかけである。ベルは取り寄せていた植物を机に並べ、試してみようとしたところ、寝起きのノアが現れ、葉を見て興味を示した。ベルは食べられる葉だと説明し、まず自分が味見しようとする。
使用人の制止と料理人への依頼
ノアが葉を差し出しベルが食べようとした瞬間、ミランダがそのまま食べるのは危険ではないかと止めた。カミラも消化不良の可能性を指摘し、ベルは助言を受け入れてシェフとパティシエに協力を頼むことにした。シェフはハーブを預かり、昼食で調理して提供すると約束して厨房へ戻った。事情を聞いたノアは、ベルの腹痛を心配して安堵する。ベルはその優しさに喜び、ノアのために楽しく美味しい菓子を作ろうと改めて決意した。
ベル商会にて
ベル商会の会議で提案された新商品
ベル商会では月に一度、各部署の代表が集まり新たな取り組みを議論する会議が開かれていた。その日も主要な関係者が集まり、事前に配布された書類に目を通しながら会議が始まった。会議で使用されていたのは隣国リッシュグルス国で作られた新しい紙であり、高価な紙が使われることからもベル商会の財力と人脈の大きさがうかがえた。議題は新商品開発であり、オーナーであるイザベル・ドーラ・ディバインが提案する商品は社会を大きく変える可能性を持つため、出席者たちは緊張した様子で説明を待っていた。
知育菓子という発想への困惑
いくつかの優れた企画が紹介された後、知育菓子という提案が話題に上がると、出席者たちは戸惑いを見せた。説明によれば、知育菓子とは遊び感覚で作れる菓子であり、子供が自分で作ることを前提とした商品である。しかし貴族社会では大人であっても料理を行うことは少なく、まして子供が菓子を作るという発想に多くの者が驚き、否定的な意見が相次いだ。
教育効果の説明と会議の混乱
議長は知育菓子について、指で生地をこねたり形を作ったりすることで手の訓練になり、さらに子供の創造力を育てる効果があると説明した。しかし参加者の多くは、料理といえば包丁や火を使う危険な作業という印象を持っており、子供に菓子作りをさせることへの危険性や、貴族社会で批判される可能性を指摘した。そのため知育菓子の提案をめぐり会議は大きく紛糾することになった。
聖女の噂の確認に向かう夫妻
イザベルは知育菓子をめぐるベル商会幹部会議の混乱を知らないまま、アカとアオに調査を頼んだ二日後、テオバルドが噂の聖女を確かめに行くと言い出した。イザベルは同行を願い出て許可を得たが、ノアは危険を理由に同行を断られ、落胆したため、イザベルは土産を約束した。馬車の中でテオバルドは噂を気にする必要はないと告げ、イザベルをそばから離すなと念押しした。
教会で現れた銀髪の女と拘束
庶民街の教会に着くと、神父が迎え入れたが周囲は落ち着かず、馬車の周りには人だかりができていた。そこへ銀髪の女性がテオバルドをテオバルド様と呼んで飛び出してきて、妻サラ・ユリアン・ディバインだと名乗った。テオバルドは顔色を失い、ウォルトの判断で夫妻は馬車へ退避したが、テオバルドは詐欺罪と不敬罪として女の拘束と衛兵への引き渡しを命じた。神父は聖女の可能性がある保護者だと訴えたが、テオバルドは虚偽と不敬を理由に退け、サラは四年前に亡くなったと断言した。
自称両親の登場と愛人騒動の拡大
女性は証拠があると言い、教会から中年の男女を呼び出した。男女はサラの両親を名乗り、テオバルドが療養中の妻を差し置いて愛人を囲ったとイザベルを侮辱したため、テオバルドは激昂して魔法で彼らを凍らせ、三人を詐欺師の仲間と断じた。周囲の野次馬は銀髪の聖女が正妻で、馬車のイザベルが愛人だという噂を広げ始め、状況は悪化した。
イザベルの介入と正式な妻である主張
イザベルは噂の扇動に気づき、ノアを奪われる恐れから強く拒絶して馬車を降りた。イザベルは群衆に向け、教会で誓いを立て宣誓書に署名し国へ届け出た正式な妻であると明言し、愛人扱いの訂正を求めた。相手側は前妻が生きているなら正妻はサラだと主張したが、イザベルは届け出が成立している以上、前妻とは離縁し再婚した扱いになり、重婚が禁じられている法の前提も示した。
偽物の露呈と詐欺の確定
イザベルは夫婦なら知っているはずの情報として、好物や嫌いなもの、身体の傷の場所などを問い、女性と自称両親が答えられない点を突いた。女性は蒸留酒やカレーパンを挙げたが、イザベルはカレーパンは自分と結婚してから好きになったものだと返し、さらに左手の甲の傷が前妻に付けられたものだと示して決定打とした。自称父親が似ているから本物だと言いかけたことで、娘に似た別人を用意した疑いが強まった。
動機の告白と逮捕
三人は背後の指示を否定しつつ、降爵と領地没収の不満から、跡取りであるノアを根拠に金と地位を求めて抗議したかったと述べた。テオバルドは、前妻が嫁ぐ条件としてフィオーレ家との関係断絶と子供との接触禁止の契約を交わしていたと明かし、三人は息子と無関係だと断じた。男は降爵で契約が無効だと主張したが、テオバルドは詐欺行為の責任を取らせるとし、到着した衛兵に三人と手配したサクラを引き渡して連行させた。神父は呆然と立ち尽くし、銀髪の聖女の正体は不明のままだった。
帰路での言葉と残るしこり
帰宅の馬車でテオバルドは、イザベルが守ると言った言葉が嬉しかったと告げた。イザベルは自分が守れた気がしないと俯いたが、テオバルドは、前に出た後ろ姿を見て初めて守られる心地よさを知ったと語り、イザベルが自分に知らない感情を教えてくれる存在だと認めた。事件は解決したものの、テオバルドが窓の外を遠い目で見つめたことで、イザベルの胸には言い知れない波立ちが残った。
デルベ伯爵夫妻の中間報告と不気味さの残存
アカとアオに調査を頼んでから一週間が経ち、中間報告ではデルベ伯爵夫妻が偽前妻と銀髪の聖女の騒動当日に怪しい行動をしていなかったとされた。イザベルはテオバルドの心情を思い、夫妻が関与していない可能性にひとまず安堵したが、チロが夫妻を怖がっていた事実は消えず、皇后が尻尾を掴めないと言った意味を理解した。イザベルは、悪人は常に悪事を働くのではなく善人を装って機会を待つのだとアオに教え、長期の調査が必要だと説明した。納得したアオはデルベ伯爵のもとへ向かったらしく姿を消し、イザベルは銀髪の聖女について追加で聞きたいことが残ったままとなった。
偽聖女の脱走と諜報員疑惑の浮上
イザベルがため息をついていると、ミランダが銀髪の偽聖女が牢から脱走したと報告した。イザベルは牢からの脱走という事実に衝撃を受け、ミランダは偽聖女が訓練を受けた諜報員である可能性を示した。イザベルは、事件時の粗雑さや失態の多さから疑い、あれ自体が演技だったというミランダの考察に困惑した。
影の活動範囲と変装技術による追跡困難
イザベルが影は敵対組織の諜報員を把握しているのかと尋ねると、ミランダは影は対立する貴族家に潜入して諜報活動を行うが、個々の諜報員を特定するのは難しいと答えた。理由として、顔や体型は特殊な技術で変えられ、目立つ行動は本来の姿ではない可能性が高いと説明した。イザベルはデルベ伯爵家にも影のような存在がいるのか問うが、ミランダは大規模組織ではなく個人で雇われた者がいる可能性を挙げた。
デルベ伯爵家との関連推測と動機への疑問
イザベルは偽前妻がデルベ伯爵に雇われた者ではないかと連想したが、銀髪の聖女の噂は以前から流れていたため、夫妻が無関係と言い切れないとも考えた。さらにイザベルは、あの偽聖女が浅はかで愚かな振る舞いをして自ら捕まるような事件を起こしたことに、どのような利点があるのか疑問を抱いた。
SIDE テオバルド
ポタージュの記憶とデルベ伯爵への疑念
公爵邸へ戻り執務室に入ったテオバルドは、教会で偽前妻が口にした言葉を思い返していた。彼女が自分の嫌いなものとして挙げたポタージュは、幼い頃に苦手だった事実であり、そのことを知るのはウォルト、乳母のマディソン、そしてデルベ伯爵だけであった。両親ですら知らないはずの事実を女が知っていたことで、兄のように慕っていたデルベ伯爵が裏切っている可能性が頭をよぎった。
鉄鉱石の調査報告と不可解な行動
そこへ影の調査報告が届き、デルベ伯爵家の鉄の行方についてウォルトが説明した。掘り出された鉄鉱石は集積場に保管されたままで使用された形跡がないという。市場に出さず値を吊り上げる可能性も考えたが、代替素材の存在によりその方法は意味を持たず、むしろ価格が崩れる恐れがあるため目的は不明のままだった。今回の偽前妻事件にも関与の可能性は高いが、行動の利点が見えないことが疑問として残った。
ベルの動きと影による継続調査
テオバルドはイザベルが何かに気づき、妖精たちを動かして調査していることにも触れた。危険なことはさせたくないと考えていたが、ウォルトはイザベルの性格から止めても無駄だろうと苦笑しつつ、影による調査を継続すると告げて執務室を去った。
裏切りを否定したい思いと決意
一人残ったテオバルドは、デルベ伯爵が裏切っていない証拠が出てほしいと願いながらも、その望みが薄いことを理解していた。そして目的を確かめるためには、直接デルベ伯爵に問いただす必要があると考え始めた。
第五章 目的
テオバルドからの呼び出し
イザベルがノアと積み木で遊んでいると、テオバルドが現れ、少し話があると呼び出した。イザベルが立ち上がるとノアもついて行こうとしたが、テオバルドは二人で大切な話をする必要があると伝えて止めた。ノアは寂しさをこらえて引き下がり、イザベルは絵を描いて待っていてほしいと約束してからテオバルドの執務室へ向かった。
フィオーレ騒動の黒幕の可能性
執務室に入ると、テオバルドはデルベ伯爵について話があると切り出した。先日のフィオーレ家の騒動には、誰かが背後から人々を誘導した可能性があると考えていると語る。フィオーレ家の者たちは自分たちの意思で行動したと主張していたが、テオバルドは知らぬ間にそう動くよう仕向けられていたのではないかと推測した。そして偽の前妻を名乗った銀髪の聖女もまた、誰かに雇われた人物である可能性が高いと語り、その雇い主がデルベ伯爵ではないかと考えていると明かした。
デルベ伯爵への直接追及
しかしデルベ伯爵がそのようなことをする目的は不明であり、確かな証拠も存在しなかった。そのためテオバルドは翌日、本人を直接問いただし、その反応を見るつもりだとイザベルに告げ、協力を求めた。
デルベ伯爵の突然の告白
テオバルドに呼び出されたデルベ伯爵は、イザベルやウォルト、護衛が同席する場で、銀髪の聖女は自分が雇った者であるとあっさり告白した。テオバルドが理由を問うと、デルベ伯爵はフィオーレ家の者たちが不審な動きをしており、将来ディバイン公爵家の足枷になると判断したため、彼らを一掃するために偽聖女を利用したのだと説明した。
公爵家のためという主張
デルベ伯爵は、テオバルドが教会へ出向くよう仕向けたのも、公爵家に悪い噂が広がるのを防ぐためであり、さらに民衆にイザベルこそが深く愛されている妻だと印象づけるためだったと語った。そして主家であるディバイン公爵家を守るために独断で行動したと述べ、勝手な振る舞いを詫びた。
読めない真意
飄々と語るデルベ伯爵の態度からは真意が読み取れず、この告白によってむしろ忠臣としての立場を強めたようにも見えた。しかしテオバルドがその説明を完全に信じているのかは不明であり、イザベルは彼の本当の目的に疑念を抱いたままであった。
知育菓子の準備とデルベ伯爵夫人の不躾な行動
デルベ伯爵の告白に納得できない思いを抱えたまま過ごしていたイザベルに、ミランダから知育菓子に使うハーブをシェフが乾燥させ粉末にしたとの報告が届いた。ノアも楽しみにしていたため、イザベルはレッスンが終わってから一緒に見に行こうと考えた。
その最中、デルベ伯爵夫人が突然声をかけてきた。伯爵夫人は侍女を四人も引き連れ、公爵家の私的な廊下をまるで自分の家のように歩いていたため、ミランダは強く不快感を示した。イザベルは丁寧に迷っている客として扱い、ミランダに部屋まで案内するよう命じた。ミランダはここが公爵家の家族以外立ち入れない場所であると明確に伝え、伯爵夫人を部屋へ送り返した。伯爵夫人はイザベルを睨みながら渋々従った。
テオバルドの心配
その後、庭にいるデルベ伯爵を眺めながらイザベルが落ち着かない気持ちを抱いていると、背後からテオバルドが現れた。彼は伯爵夫人が私的な場所へ入り込んだという報告を受け、心配して急いで来たのだった。イザベルは嫌がらせの可能性を感じつつも、まだ様子を見るつもりでいた。しかしその判断を後悔する出来事がすぐに起こることになる。
ノアへの侮辱
ノアのダンスレッスンが終わった後、イザベルは約束通りノアを連れて厨房から受け取ったハーブの粉末を試していた。水に溶かすと炭酸が発生する現象にノアは目を輝かせていたが、侍女のカミラは怒りを抑えきれない様子だった。理由を尋ねると、デルベ伯爵夫人がレッスン中に現れ、ノアの踊りを見てダンスが苦手なのかと嘲るように言い、自分なら上手に教えられると侍女たちと笑ったという。
ノアはその言葉に傷つき、自分はダンスが上手ではないのではないかと落ち込んでいた。イザベルはノアの踊りが大好きだと優しく伝えて励ましたが、息子の様子を見て怒りを抑えきれなくなった。
母としての決意
炭酸の泡を見つめながら沈んだ表情をするノアの姿を見た瞬間、イザベルの中で堪えていた怒りが切れた。イザベルはノアを抱き上げ、テオバルドのもとへ向かう決意をする。子供は大人の悪意を敏感に感じ取り、その傷は長く残ると理解していたためである。たとえ社交界の重鎮であろうと、息子に悪意を向けたデルベ伯爵夫人を許すつもりはないと固く決意した。
SIDE テオバルド
イザベルの怒りの報告
執務中のテオバルドのもとへ、イザベルが険しい表情で訪れた。普段は仕事中に訪ねてくることのない妻の様子から異常を察したテオバルドは、すぐに彼女をソファへ座らせた。イザベルの腕にはノアが抱かれていたが、ノアは俯いたまま黙っていた。
事情を尋ねると、イザベルはデルベ伯爵夫人のことで相談があると切り出した。その言葉とノアの様子から、テオバルドはすぐに伯爵夫人がノアに何かしたのだと察し、怒りを覚えた。
ノアへの侮辱
イザベルは、デルベ伯爵夫人がノアのダンスレッスンに口出しし、ノアの踊りをけなしたうえ侍女たちと笑ったと説明した。普段は自分への嫌がらせには動じないイザベルであったが、息子への侮辱には強い怒りを見せていた。テオバルドもまた、幼い子供に悪意を向けた行為に強い不快感を覚えていた。
追放を求める決意
イザベルは、幼い子供に悪意を向ける人物を客としてもてなすことはできないと断言した。そしてテオバルドに対し、デルベ伯爵夫人を公爵邸から追い出す許可を求めた。
アフタヌーンティーでの対決
テオバルドから追放の許可を得たイザベルは、デルベ伯爵夫人をアフタヌーンティーへ招き、話を切り出す機会を作った。伯爵夫人は上機嫌で、若い公爵夫人には自分のような者の助けが必要だと語り、イザベルにまつわる悪い噂が社交界ではそのまま信じられていると侮るように笑った。
その態度に侍女たちは冷ややかな視線を向けていたが、伯爵夫人は気付かず侍女たちに同意を求めていた。イザベルは伯爵夫人がかつてテオバルドの婚約者候補であったことを持ち出し、無遠慮な性格のためにテオバルドに強く拒絶されたという話が有名だと指摘した。
伯爵夫人のマナー違反の指摘
イザベルは冷静に、目下の者から目上に話しかけてはならないこと、他家の私的空間へ無断で入ってはならないこと、他家へ訪問する際に多くの侍女を連れてはならないことなど、伯爵夫人の数々の無作法を挙げていった。そして子供に悪意を向けることは淑女以前に人間として許されない行為だと告げた。
伯爵夫人は一度怒りを露わにしたものの、すぐに態度を変えて誤解だと主張した。迷って私的な場所に入っただけであり、ノアのダンスレッスンを見たのも親切心から助言しただけだと弁解した。
ノアへの侮辱への反論
しかしイザベルは、そのような親切は不要だと断言した。さらに伯爵夫人の振る舞いはディバイン公爵家の夫人に対して無礼であり、主家に仕える者としてのマナーすら守れていないと指摘した。伯爵夫人は自分が社交界で大きな影響力を持つ存在であると威圧したが、イザベルは家の格を軽視する発言にも反論し、社交界の評価など自分にとって価値はないと切り捨てた。
伯爵夫人の追放
イザベルは、無断で私的空間に入り、ノアのレッスンを邪魔し、さらに公子を侮辱した行為は看過できないと告げた。そしてディバイン公爵家の夫人としての権限により、今後デルベ伯爵夫人が公爵家へ出入りすることを一切禁じると宣言した。伯爵夫人は屈辱を覚えながらも退くしかなく、イザベルは息子を傷つける者には容赦しないと冷然と言い放った。
テオバルドの反応
伯爵夫人を追い出した後、イザベルはやり過ぎたのではないかと気にしていたが、様子を見に来たテオバルドはその様子を見て笑った。イザベルが社交界での立場を失うのではないかと心配すると、テオバルドは社交界での立場は夫や実家の地位、人脈、話題性によって決まるものだと説明した。
イザベルはディバイン公爵夫人であり、さらに新素材を開発したシモンズ伯爵家の出身でもあるため、むしろ周囲から人脈が集まる立場だと語った。そして今回の件では、むしろデルベ伯爵夫人の方が立場を失うだろうと告げた。
デルベ伯爵への処分
テオバルドは、妻と息子に手を出された以上何もしないわけにはいかないとして、デルベ伯爵をしばらく謹慎処分にしたと明かした。妻の問題行動を抑えられないのは一門の者として問題があるため、主家として処罰したのだという。
デルベ伯爵の過去への疑問
イザベルは、テオバルドが兄弟のように慕っているというデルベ伯爵について尋ねた。テオバルドは、デルベはウォルトと同じく幼い頃から自分のそばにいた人物で、真面目で実直であり常にディバイン公爵家を第一に考えていたと語った。しかし話している途中で、デルベ前伯爵夫妻がテオバルドの両親の事故死の直後に亡くなっていた事実を思い出し、言葉を止めた。
第六章 八面六臂
皇后への報告と“正当防衛”の承認
イザベルは、デルベ伯爵夫人と伯爵を謹慎に追い込んだ件を妖精通信で皇后に報告した。皇后は大笑いし、証拠がない段階で先手を打つのは禁物だが、相手が仕掛けてきた以上は徹底的に叩いて正解だと断言した。主家から謹慎を食らえば社交界で大きな顔はできず、皇后は社交界の主導権が自分とイザベルに寄ると豪語した。
デルベ伯爵の監視継続
話題はデルベ伯爵へ移り、皇后は夫人は単純だが伯爵は狡猾で、限りなく黒に近いと評価した。イザベルは妖精たちが証拠掴みに苦戦していること、監視を継続していること、アオが張り切っていることを伝えた。
皇族の“大家族”事情と着想
皇后は、十二人きょうだいの皇族が末弟リュークの世話役を取り合っている騒がしさを語り、イーニアスが手伝いたがる様子を嬉しそうに話した。イザベルは皇后に子育ての方法を尋ね、乳母など専門家が中心で皇后自身も手と口を出すが、専門家には口で負けがちだと聞く。
その会話からイザベルは、前世の知識にある「子育て支援センター」の概念を想起し、乳幼児死亡率を下げるために家庭支援施設を作る構想を固めた。皇后に呼びかけられて我に返り、良案を得たことを感謝した。
シュワシュワ水の正体と炭酸ハーブ
皇后は、ノアからイーニアスに「シュワシュワのお水」の報告が入ったと聞き、正体を問うた。イザベルは炭酸水だと説明し、あるハーブを乾燥・粉末化して水に溶かすと炭酸が発生することを明かした。湧水の炭酸とは違い、粉末を溶かすだけで炭酸水が作れる点に皇后は強い衝撃を受けた。
イザベルは知育菓子への応用を狙って粉末化したが、粉にすると香りが飛んで無味無臭になり、甘味をどう付けるかが課題だと整理した。皇后は、無味であることこそ利点で、味付けや混合の自由度が増すと指摘した。イザベルは発想を切り替え、炭酸の粉として独立させれば味付けは後から自由にできると理解した。
実験の加速
皇后の助言で方向性が定まり、イザベルは炭酸粉を軸に、他の植物粉末との組み合わせや水・ジュースへの溶解など、実験を繰り返していくことになった。
デルベ伯爵夫人の激怒
公爵邸から追い出されたデルベ伯爵夫人は、自室で激しく癇癪を起こしていた。自分があのような若い女に追い出されたことに納得できず、怒りを爆発させていた。周囲のメイドや侍女たちは震えながら必死に宥めようとしたが、夫人の怒りは収まるどころかさらに強まっていった。
使用人への怒りの矛先
やがて夫人は、先ほどの場面で自分から距離を取った侍女たちに目を向けた。怒りの矛先が自分たちに向けられたことに、使用人たちは恐怖で身体を強張らせた。彼女たちは主を落ち着かせるよりも、この場から逃げ出したいという思いが強くなり、互いに目配せしながら扉の近くへ移動しようとした。
復讐の決意
しかし夫人は怒りを収めるどころか、イザベルと自分の侍女たち双方への憎悪を口にし、絶対に許さないと叫んだ。その直後、部屋の中では物がぶつかる鈍い音や悲鳴が響き渡ったが、屋敷の者たちは誰もその部屋へ近づこうとはしなかった。
SIDE 皇后マルグレーテ
イザベルの多才さに感心する皇后
妖精通信を終えた皇后マルグレーテは、イザベルがまた無自覚に新しいものを生み出したことに感心していた。発明家のようでもあり、植物学者のようでもあり、料理研究家や経営者のようでもある彼女の多才さに改めて驚く。読書が趣味だと言いながら国の歴史や小さな貴族家の歴史まで詳しく読み解く様子は、まるで歴史学者のようだと感じていた。
皇帝ネロの突然の来訪
独り言を呟いていると、いつの間にか皇帝ネロが部屋に入ってきていた。マルグレーテは勝手に入ってきた夫を睨みつけ、皇帝らしく堂々とするように叱る。ネロはしょげた様子で、妻や子供たちの顔を見たいだけだと弁解した。マルグレーテは部屋に来ること自体は許すが、ノックをして返事を待ってから入るように言い聞かせた。
イザベルを“御用商人”と認識する皇帝
ネロは先ほどの歴史学者という言葉について尋ね、ディバイン公爵夫人は商人のようなものだから多くの知識を持っているのだろうと答えた。組み立て式模型や子供のおもちゃ、馬車などを手配していることから、ネロはイザベルを皇家御用達の商人のように認識していた。マルグレーテはその考えに戸惑いつつも、結果的にはそのような立場に近いのかもしれないと考えた。
子供主催パーティーの発覚
さらにネロは、今度イザベルに子供たちのパーティー用の衣装を頼もうと思っていると話した。マルグレーテが事情を尋ねると、ネロは子供たちが自分たち主催のパーティーを開きたいと言ったため了承したのだと説明する。初めてその話を聞かされたマルグレーテは驚き、なぜ事前に相談がなかったのかと怒りをぶつけた。ネロは慌てて謝罪することになった。
くしゃみと噂の迷信
イザベルは風呂に入ろうと考えていた時、突然くしゃみをした。心配した妖精チロが風邪ではないかと尋ねると、イザベルは前世にあった迷信を思い出し、誰かが噂をしているのだろうと説明した。チロはそれを特別な能力だと勘違いして感心したが、イザベルはただの迷信だと訂正した。
周囲の心配と入浴
チロは風邪ではないと知って安心したものの、身体を冷やさないよう早く風呂に入るよう促した。使用人たちも心配していたため、イザベルは入浴することにした。結果として、チロやミランダたちに気を遣い、少し長めの入浴になった。
誰が噂しているのかという疑問
入浴を終えながら、イザベルは自分のことを噂していた人物が誰なのかと不思議に思った。
SIDE イーニアス
父と兄との会話から始まった子供パーティー
イーニアスは父ネロと第一王子ソロモンと共におやつを食べていた時、以前ディバイン公爵家の楽しいパーティーに母と参加した出来事を話した。ネロは羨ましそうにし、自分も行きたかったと残念がった。父を喜ばせたいと思ったイーニアスは、ノアと公爵に頼んでみようと提案した。しかしソロモンから公爵に迷惑をかけてはいけないと諭され、自分が軽率なことを言いかけていたと気付き恐ろしくなった。
イーニアスが落ち込みかけると、ソロモンはきちんと反省できたことを褒めたうえで、ディバイン公爵に頼むのではなくイーニアス自身がパーティーを主催し、ネロとノアを招待してはどうかと提案した。
ノアとの相談で生まれたアイデア
その後イーニアスは妖精を通してノアと話し、子供パーティーについて相談した。ノアはお菓子の家があったら楽しいと言い、さらに屋台もあると嬉しいと提案した。好きな屋台に行って食べ物をもらうのが楽しいのだと説明し、イーニアスもその発想に胸を躍らせた。
ソロモンへの報告
イーニアスは廊下でソロモンを見つけると急いで追いかけ、ノアと話した内容を報告した。妖精を通じて会話したことをうっかり口にしそうになったが、困っている様子を察したソロモンはそれ以上追及せず、話題をパーティーの内容へ戻した。
パーティー準備の始動
イーニアスはノアが出してくれた案として、お菓子の家と屋台を提案した。ソロモンはお菓子の家は絵本に出てくるもので、パーティーの目玉になるだろうと評価し、パティシエに依頼することを決めた。一方で屋台については二人ともよく知らず、ノアに詳しく聞く必要があると考えた。
成功を誓うイーニアス
初めて兄や姉たちと一緒にパーティーを主催することになり、イーニアスは大きな期待を抱いた。ノアとネロが驚くような楽しいパーティーにするため、準備を頑張ろうと決意した。
皇帝と皇后からの突然の呼び出し
イザベルは突然皇帝と皇后に呼び出され、戸惑いながら皇后の宮を訪れた。部屋に通されると二人そろって現れ、皇后が子供たち主催のパーティーを開くことになったと説明した。皇子や皇女たちが親しい者を招く企画であり、ノアも招待される予定だと聞き、イザベルは楽しそうな試みだと喜んだ。
しかし皇后はその計画を前日に初めて聞かされたばかりであり、皇帝ネロは謝罪することになった。
イザベルへの依頼
皇帝は、子供たちの衣装や準備について相談に乗ってほしいとイザベルに頼んだ。皇子たちの発注や依頼は第一皇子ソロモンが担当するため、紹介したいとも説明した。ネロはイザベルを皇家御用達の商人のような存在だと考えており、その能力を頼りにしていた。
第一皇子ソロモンとの対面
呼び出された第一皇子ソロモンは、礼儀正しく落ち着いた態度でイザベルに挨拶した。十二歳とは思えないほど理知的で控えめな振る舞いを見せ、皇族としての品格も備えていた。彼は皇帝とは血の繋がりがないが、皇帝と皇后は誇らしげに彼を見守っており、血縁を超えた家族の絆が感じられた。
イザベルも丁寧に自己紹介し、ソロモンに会えたことを光栄に思うと伝えた。ソロモンはイザベルを女神と称して歓迎したため、イザベルは照れながらその言葉を冗談として受け流した。
子供パーティーへの関与
こうしてイザベルは、子供たちだけで開かれるパーティーの準備に商人として関わることになった。そして彼女は、この機会に例のハーブを使った知育菓子を活用できるのではないかと考え始めた。
子供パーティー当日の朝
子供パーティー当日、ノアは朝から楽しみにしており、早く皇宮へ行こうと張り切っていた。パーティーは昼からであるためまだ早いとイザベルは諭したが、イーニアスたちが準備を頑張っていると聞くと、ノアは自分も手伝うと言い出した。イザベルは招待客が手伝うと主催者が困ると説明し、代わりに皇子たちへのプレゼントの確認を任せた。
ノアが用意したプレゼント
ノアが殿下たちのために選んだプレゼントは知育菓子であった。水を加えると膨らむもの、炭酸ジュースになるもの、固まってグミになるものなどがあるが、特にノアが気に入っていたのはグミになる菓子である。船やドラゴンの型に粉を入れて水を垂らすと、その形のグミが出来上がる仕組みで、これを皇子たちへの贈り物として用意した。
ノアはそれぞれの皇子に贈る形を考えながら確認し、さらに皇女ブルちゃんが好きなテディの形のものも贈りたいと言い出した。イザベルはその優しさに感動し、ブルちゃんの分も用意することにした。
母としての心配
今回のパーティーは子供だけが会場に入る形式で、親は別室で待つことになっていた。ノアは不安を見せながらも大丈夫だと笑い、イザベルは食べすぎないこと、走り回らないこと、必ず侍女に伝えることなどを丁寧に言い聞かせた。
イザベルが関わったパーティー準備
今回の子供パーティーでイザベルは商人として準備を手伝っていた。担当したのはお菓子の家の助言、屋台の準備、殿下たちの衣装、そして会場の装飾である。
目玉となるお菓子の家は高さ二メートルほどの巨大なもので、皇城のパティシエや公爵家のパティシエ、「おもちゃの宝箱」カフェの職人、さらに皇帝ネロまでもが協力して完成させた。クッキーやチョコレートで土台を作り、飴細工やキャンディ、マシュマロなどで飾られた夢のような菓子の家であり、見て楽しめるだけでなく実際に食べることもできる仕上がりだった。
またイーニアスの希望で用意された屋台は、庶民の屋台ではなくコックが料理を取り分けるビュッフェ形式に変更された。さらに夜店を思わせるミニゲームのブースも設けられ、子供たちが楽しめる工夫が加えられていた。
衣装と新しい発想
皇子や皇女たちの衣装は、お菓子の家の持ち主である魔女をイメージした装いで、ゴシックロリータ風に可愛くアレンジされたものだった。アクセサリーはすべてお菓子モチーフで統一され、皇后マルグレーテはその出来栄えを大いに喜び、肖像画を描かせたいほどだと興奮した。
イザベルはこのアクセサリーを店で販売することも考えていたが、その考えは皇后に見抜かれてしまう。二人は友人として笑い合いながら、子供たちが今頃パーティーを楽しんでいるだろうかと思いを巡らせた。
SIDE イーニアス
紐引き菓子ゲームで遊ぶ二人
子供パーティーの会場で、イーニアスはノアを紐引き菓子のゲームに誘った。紐の先に吊るされた菓子を引き当てる遊びであり、どの紐に何が付いているかは引いてみるまでわからない仕組みであった。ノアはいちご飴を狙うと決め、自信満々で紐を引いた。
しかし出てきたのはいちご飴ではなくベビーカステラであった。ノアは少し驚きながらも、美味しそうなお菓子が当たったことを喜び、小さな袋に入ったベビーカステラをイーニアスに見せた。
同じお菓子で笑い合う二人
次はイーニアスがノアのためにいちご飴を取ろうと紐を引いた。二人で掛け声を合わせて引き上げたが、現れたのは再びベビーカステラだった。イーニアスは少し落ち込んだが、ノアは同じお菓子になったことを嬉しそうに伝えた。
イーニアスもそれに笑顔で応え、二人はおそろいのベビーカステラを食べながら笑い合った。そして次こそいちご飴を取ろうと、もう一度ゲームに挑戦しようとした。
皇后のママ友とテオバルドファンクラブ
子供パーティーの待機会場には皇后マルグレーテの親しいママ友たちが集まっており、その中にはテオバルドを熱烈に支持するいわゆるファンクラブの面々もいた。彼女たちはイザベルに次々と話しかけ、テオバルドの近況や新しい情報を求めて興奮した様子で質問を重ねた。
イザベルは戸惑いながらも、テオバルドは健康で食事もきちんと取っており、家族には笑顔を見せることもあると説明した。その話を聞いた女性たちは感慨深げに頷きながら、その情報を大切そうに受け止めていた。
夫たちの話題と愛情
会話はやがて彼女たち自身の夫の話題へ移った。枕の臭い、抜け毛、すでに髪がないなどと冗談めかして語り合いながらも、彼女たちは健康や生活習慣を気遣っており、夫への愛情が感じられる様子であった。
その流れで、テオバルドは年齢を感じさせない外見であることが話題となり、十年前より若く見えるのではないかという冗談まで飛び出した。
テオバルドの噂
やがて話題は奇妙な噂へと発展し、テオバルドは人間ではなく妖精王なのではないかという都市伝説まで語られた。実際に妖精を使役している事実を知る皇后は、その噂を面白がるようにウィンクして笑った。
皇帝の不在
その後イザベルは、皇帝ネロの姿が見えないことに気付き皇后へ尋ねた。皇后は言われて初めて気付き、どこへ行ったのかしらと首をかしげた。イザベルは、推しの話ばかりでなくたまには自分の夫にも注意を向けてほしいと思うのであった。
SIDE 皇帝ネロウディアス
皇帝の変装潜入
皇帝ネロウディアスは、子供たちのパーティーを見守るため料理人の姿に変装して会場へ忍び込んでいた。大人は基本的に入室禁止であり、入れるのは料理人や護衛、侍女のみであったため、その格好で紛れ込んだのである。
子供たちはネロも手伝って作ったお菓子の家の前に集まり、可愛い、美味しそうだと歓声を上げていた。ネロはその様子を誇らしく眺めていたが、近くにいた城の料理人から、皇帝がする格好ではないのではないかと困惑した様子で声をかけられた。ネロは自分の変装は完璧で、子供たちにも気付かれていないと自信満々に答えた。
ノアに正体を見抜かれる
そこへノアがやって来て、どら焼きを求めて声をかけた。ネロは喜んで大きなどら焼きを渡そうとしたが、ノアが当然のようにネロおじさまと呼んだため驚いた。ノアは白い服を着たネロおじさまだと何の疑いもなく認識しており、ネロはその洞察力に感心した。
秘密の約束
ネロはノアに、自分がここにいることをイーニアスには内緒にしてほしいと頼んだ。イーニアスは最後まで子供たちだけでパーティーをやり遂げたいと思っているため、皇帝がいると気が散るかもしれないと考えたからである。ノアは素直に約束し、ネロはその可愛らしさに感心した。
料理人の呆れ
しかし側にいた料理人は、皇子たちはすでに皇帝が来ていることを知っているはずだと呟き、皇帝は大人の中で唯一招待されている存在であるのに、そのことを聞いていないのだろうと呆れた様子でため息をついた。
SIDE イーニアス
ノアからのプレゼント
パーティーの終わり際、ノアは恥ずかしそうにもじもじしながらイーニアスにプレゼントがあると伝えた。皇子や皇女たちがパーティーを主催してくれたことへの感謝として、皆への贈り物を用意してきたのだという。カミラが持ってきた箱は、皇子や皇女の人数分だけ丁寧に包まれていた。
ノアは一人一人に箱を手渡し、イーニアスたちは胸を高鳴らせながら包みを開けた。中には船の形の器と粉が入っており、それが何なのかをイーニアスはノアに尋ねた。
粉から生まれる船
ノアは器に粉を入れて少し水を垂らすよう説明した。侍女が水を用意し、言われた通りに試してみると、粉の色が変化して固まり、船の形のものが出来上がった。その不思議な様子に周囲の子供たちは驚き、歓声を上げた。
出来上がったものはグミであり、食べられる菓子だとノアは説明した。恐る恐る口にしたイーニアスたちは、その美味しさにさらに驚いた。興味を持った子供たちは次々と試したがり、粉がまだ残っていることを知ると皆で体験することになった。
皇帝の声
その騒ぎの中で皇帝ネロの声も聞こえていたが、イーニアスは反応しなかった。父は今かくれんぼのように身を隠しているのだと理解していたからである。本来は父にも楽しんでもらうために開いたパーティーだったため、その理由を少し不思議に思いながらも、イーニアスは気付かないふりを続けた。
感謝の言葉
最後にノアは改めてイーニアスにパーティーお疲れ様でしたと伝えた。イーニアスもその言葉に感謝し、二人は笑顔で互いに礼を交わした。
子供パーティー終盤の様子
パーティー開始から二時間ほどが経ち、イザベルは子供たちの会場の近くを通りかかった。会場からは子供たちの歓声が聞こえ、お船やお粉という言葉が飛び交っていた。ミランダはそれがノアのプレゼントではないかと気付き、イーニアスがグミパウダーの知育菓子を開けたのだろうと推測した。子供たちが取り合いにならないかを心配するミランダに対し、イザベルはパウダーを多めに入れてあるため大丈夫だろうと答えた。
ノアがプレゼントを渡したなら、子供パーティーもそろそろ終わりだろうと考え、イザベルは大人たちへの贈り物を配る準備を始めた。
大人へのプレゼントの目的
その贈り物は皇后マルグレーテからの依頼で用意したものであった。初めての試みとなる子供だけのパーティーであり、不安を感じる親もいるだろうと考え、親子で帰宅後に楽しめるものを用意してほしいと頼まれていたのである。子供たちはパーティーそのものを楽しめるが、親は隣室で待つだけであるため、帰宅後に親子で楽しめるものが必要だとイザベルは考えた。
炭酸ハーブ入浴剤の発案
そこでイザベルが用意したのが炭酸ハーブパウダーの入浴剤であった。無味無臭の炭酸を出すハーブの粉末を活用し、菓子以外の用途として思いついたものである。当初は粉のまま浴槽に入れる形だったが、さらさらしているため量を入れすぎる問題が起きた。
その時、ノアがネチャネチャ草の接着剤で模型を作っている様子を見て、ネチャネチャ草はお湯で溶ける性質があることに気付いた。そこで接着成分を利用してパウダーを固める方法を試したところ成功し、固形の入浴剤が完成した。さらにネチャネチャ草には保湿効果があり、肌がしっとりするという副産物も得られた。
香りを巡る試行錯誤
しかし入浴剤には香りが必要であり、無臭のままでは贈り物として不十分であった。香油を混ぜると炭酸の発生が弱くなる問題が起きたため、イザベルは原因に悩んだ。そこで皇后から精油は油脂とは異なると教えられ、その香りを利用することで問題は解決した。
こうして炭酸の血行促進効果、ネチャネチャ草の保湿効果、さらに香りによるリラックス効果を備えた入浴剤が完成した。イザベルは試用の後、皇后の了承を得て、大人たちへの贈り物として用意することになった。
楽しかったパーティーの帰り道
パーティーの帰りの馬車の中で、ノアはお菓子の家やミニゲーム、白い服を着た皇帝ネロ、殿下たちへのプレゼントのことなどを興奮した様子で話し続けていた。いつもなら帰りの馬車では眠くなるが、この日は楽しさの余韻で目を輝かせていた。イザベルとカミラは、その様子を微笑ましく見守りながら、邸に着いた途端に眠気が来るだろうと話していた。
妖精からの緊急警告
その時、妖精アカとアオが突然現れ、危険だからこの道を通ってはいけないと叫んだ。デルベ伯爵夫人がイザベルを攫うよう依頼する手紙を書いていたと独り言で話していたことを聞いたという。二人は文字が読めず誰宛ての手紙かは分からなかったが、この先で襲撃が起こると警告した。
一本道のため進路を変えることができず、イザベルは状況を瞬時に判断した。
ノアを逃がそうとする決意
イザベルは自分が狙われていると考え、ノアだけでも皇宮へ逃がそうとカミラに命じようとした。しかしノアは母と離れたくないと泣きながら抱きつき、必死に離れようとしなかった。悪魔の事件を思い出している様子の息子を見て、イザベルは胸を締め付けられた。
それでも冷静さを取り戻し、カミラとミランダに襲撃の可能性を伝えた。ミランダはすぐに護衛の準備を整え、緊張した空気が馬車内に広がった。
テオバルドへの連絡
逃げ場のない状況の中で、イザベルは妖精通信を思い出した。テオバルドに連絡して合流すれば助かると判断し、アカとアオに緊急連絡を頼んだ。
しかしその瞬間、チロがすでに連絡を済ませており、テオバルドがこちらへ向かっていると知らせた。イザベルはその報告に安堵し、迫る危機に備えながら救援を待つことになった。
SIDE テオバルド
妖精からの緊急通信
皇城の執務室で仕事をしていたテオバルドのもとへ、妖精チロから緊急通信が届いた。突然の助けを求める声にテオバルドは顔を上げ、同席していた執事長ウォルトも異変に気付いて作業の手を止めた。時間から考えて、ベルとノアは子供パーティーを終えて帰路に就いている頃であった。
チロはベルとノアが乗る馬車が狙われていると告げた。さらに、その場所は道幅が狭い一本道であると伝えられた。
場所の特定と出動
テオバルドはその情報から場所を即座に特定した。皇宮から公爵邸へ向かう途中にある一本道は一ヶ所しかなく、チロが現在地を教えてくれたことで大まかな位置も把握できた。移動中の馬車でも場所が分かるならば、ある手段を使えると判断した。
テオバルドはすぐにウォルトへ出動準備を命じ、同時に近くの小妖精に皇后との通信を頼んだ。ウォルトは即座に部屋を飛び出して準備に取りかかり、テオバルドは救出へ向かう決意を固めた。
救出への決意
ベルとノアが危険にさらされていると知ったテオバルドは、二人を必ず助けると心に誓い、急ぎ救出の行動を開始した。
襲撃の警戒体制
ミランダは外の護衛へ手旗信号で襲撃の可能性を知らせ、護衛たちは即座に周囲を固めて警戒態勢に入った。妖精アカとアオは、襲撃者は大人数であると伝えた。一本道の周辺に潜める場所は限られており、イザベルは近くにある粛清された元貴族の空き屋敷を拠点にしている可能性を推測した。
ミランダは馬車の扉や窓を絶対に開けないよう忠告した。馬車は新素材で作られており、盾として機能するため、中にいれば安全だと説明した。その言葉にイザベルは少し安堵し、泣いているノアを抱きしめた。
テオバルドの到着
その時、地響きのような音とともに馬車が揺れた。襲撃かと緊張が走ったが、妖精たちはテオバルドが来たと知らせた。ほどなくしてカミラが後方からテオバルドが馬を駆けさせて近づいていることを確認し、ミランダは皇后の力で転移してきた可能性を推測した。
テオバルドは怒りを露わにしながらベルとノアの無事を確認し、護衛の報告を受けると、空き屋敷を調べて賊を殲滅すると命じた。まだ襲撃は起きていなかったが、彼の怒りはすでに最高潮に達していた。
ノアの決意
父の到着で場の空気は一気に明るくなった。ノアは母を守る騎士になると宣言し、凛々しい表情を見せた。先ほどまで泣いていたとは思えないほど勇ましく振る舞う息子を、イザベルやミランダ、カミラは温かい目で見守った。
不審な状況
しかしミランダは状況に違和感を覚えていた。通常であれば襲撃前に下見や打ち合わせが行われるはずだが、この地域は騎士団の巡回が増えており、大人数が長く潜伏すれば必ず痕跡が残るはずだった。だがそのような報告はなかった。
騎士団に裏切り者がいる可能性も考えられたが、妖精が監視しているためその可能性は低いとミランダは判断した。むしろ空き屋敷が別の場所と繋がっていると考える方が自然だと結論づけた。貴族の屋敷には脱出路があることが多く、さらにこの地域は元鉱山であるため地下通路が存在する可能性もあった。
襲撃者の発見
その推測の最中、アカとアオが仲間の妖精から情報を得て、襲撃者のアジトを発見したと報告した。テオバルドもその情報を受けて騎士たちへ新たな指示を出した。
襲撃者たちはまだ動いていなかったが、すでに包囲されつつあった。イザベルは、早く現れすぎたヒーローの前では、彼らに勝ち目はないだろうと静かに確信した。
襲撃者たちの動揺
空き屋敷に集まっていた襲撃者たちは、予定外の事態に大きく動揺していた。彼らの前に現れたのは、グランニッシュ帝国最強と恐れられるディバイン公爵、通称「氷の大公」であった。本来は公爵夫人と子供だけを狙うはずだったため、公爵本人の出現に場は戦慄に包まれた。
ディバイン公爵の氷の魔法で凍らされた者は砕け散るという噂が広く知られており、襲撃者たちは恐怖に怯え始めた。仲間の中には、この仕事から手を引こうと主張する者も現れた。
退路を断たれた男たち
しかしリーダー格の男は、すでに依頼人から受け取った前金を使い切っていることを指摘し、今さら逃げる選択肢はないと怒鳴った。さらに公爵夫人を拉致して船に乗せ、外国へ売れば莫大な金が手に入るが、依頼主の組織から逃げれば命を狙われるだけだと告げた。
その言葉によって男たちは追い詰められ、恐怖と絶望の中で決断を迫られた。
襲撃決行の命令
逃げ場がないと悟った男たちは表情を変え、リーダーは馬車を襲い公爵夫人を連れ去るよう命じた。恐怖を抱えながらも、襲撃者たちは行動に移ろうとしていた。
襲撃の本格化
皇后が馬で駆けつけ、危険を承知でイザベルの馬車へ乗り込んだ。
彼女は転移能力を持つが、敵の前で使うのは避けたいという判断だった。皇城の騎士にも応援要請をしており、さらにテオバルドがいるため状況は優位だと皇后は余裕を見せる。
会話の中で、襲撃の黒幕はほぼ デルベ伯爵夫人 だろうという認識が共有される。ただし、妖精たちの証言だけでは法的証拠にならないため、決定的証拠はないと判断された。
その直後、約三十人の武装した男たちが雄叫びとともに突撃してくる。
テオバルドの圧倒
男たちは馬車へ突進するが、テオバルドが地面に張った薄い氷で足を取られて次々転倒。
騎士たちにより瞬く間に捕縛され、戦力は半分以下に減る。
馬車内では、皇后が「早すぎるヒーロー」というイザベルの表現を面白がり、比較的落ち着いた空気が流れていた。
しかしその油断を突く形で、見知らぬ男が突然馬車内に出現する。
特異魔法の刺客
男はミランダの仕込み針を避け、ディバイン公爵家の影だと見抜く。
転移系の特異魔法の使い手と思われ、戦場の混乱に紛れて馬車内へ侵入していた。
その瞬間、ノアが前に出る。
- 「わるいことしたら、めっ」
すると男の足元が凍り始め、膝下まで氷に覆われる。
さらに妖精たちの指示で両手も凍結し、完全に拘束された。
ノアの魔法だった。
皇后すら引きつるほど容赦ない拘束だったが、捕縛寸前で男は影の中へ溶け込むように消失する。
影移動系の能力だった。
魔王の到着
直後、外で悲鳴と氷が砕ける音が響く。
窓の外に現れたのはテオバルドだった。
侵入者はすでに彼によって撃破されていた。
背後では氷の破片が舞い、戦闘は一瞬で終わったことを示している。
テオバルドは馬車に駆け寄り、まず確認する。
- 「ベル、ノア、怪我はないか」
ノアは胸を張って答える。
- 「わたちいるの! だいじょぶよ」
テオバルドは息子を褒める。
- 「よくやった。約束どおりベルを守ってくれたのだな」
誇らしげに「はい!」と答えるノア。
こうして襲撃事件は、ほぼ完全に制圧された。
デルベ伯爵夫人の激怒
襲撃失敗の報告を記した手紙を受け取ったデルベ伯爵夫人は、怒りに震えていた。拳を震わせ、顔を真っ赤にし、唇を血が出るほど噛み締めていた。その様子を見た執事は八つ当たりを避けるため、すぐに部屋を出ていった。彼は自分が仕えているのはこの家の当主であり、夫人ではないと考え、足早にその場を離れたのである。
当主への報告
執事はマホガニーの重厚な扉をノックし、当主の返事を待ってから部屋へ入った。そして先ほど届いた手紙の内容、すなわち襲撃が失敗した件を包み隠さず報告した。さらに、これ以上デルベ伯爵夫人の好きにさせてよいのかと懸念を示し、これまでも当主が多くを背負ってきたことを案じていた。
当主の諦念
報告を聞いた当主は苦しげに言葉を返した。彼は、すでに限界なのかもしれないと口にし、デルベ伯爵夫人の心はとっくに壊れているのだろうと語った。その言葉を聞いた執事は、ただ静かに当主を見つめることしかできなかったのである。
SIDE テオバルド
暗号の存在の判明
テオバルドは、捕らえた襲撃者と残党の調査結果についてウォルトから報告を受けた。影と妖精を用いた調査の結果、襲撃者たちのやり取りには暗号が使われていたことが判明していた。ウォルトは、「船」という言葉が海の船ではなく、港に停められた船のマーク付き荷馬車を指す暗号であったと説明した。また、公爵夫人を外国に売るという発言の「外国」という言葉も、別の意味を持つ暗号である可能性が高いと報告した。テオバルドは内容を理解し、引き続き調査を命じた。
デルベ伯爵の行動
ウォルトはさらに、デルベ伯爵領の鉄鉱石について新たな情報を伝えた。デルベ伯爵夫人が横流ししようとしていた鉄鉱石を、デルベ伯爵が手を回して止めていたという事実であった。この報告にテオバルドは驚いたが、ウォルトは鉄鉱石以外の件についてはまだ判断できないと続けた。大旦那と大奥様の事故やノアの乳母の事故については依然として疑いが残っているため、デルベ前伯爵夫妻の死因も含めて調査を続ける必要があると説明した。テオバルドもそれに同意し、引き続き調査を指示した。
証拠の欠如
続いてウォルトは、妖精が見たという手紙について報告した。賊のアジトや伯爵家を調べたものの、その手紙は発見できず、すでに破棄された可能性が高いという結果であった。テオバルドは証拠が見つからないなら作り出せばよいと述べ、ベルを危険に晒した行為を絶対に許さないと強く示した。
テオバルドの決意
ウォルトは、デルベ伯爵夫人をデルベ伯爵が守ろうとしている可能性を指摘した。しかしテオバルドは冷たい声でそれを遮った。彼は、デルベ伯爵夫人が何度もベルに害を及ぼそうとしている以上、守るべきではなく止めるべきであると断言した。そしてもしデルベ伯爵が処分を妨げるなら、デルベ伯爵も処罰すると告げた。ウォルトはその命令を受け入れて一礼した。テオバルドはその後視線を外し、妻ベルの笑顔を思い浮かべていた。
SIDE 皇帝ネロウディアス
皇帝ネロウディアスの執務
子供パーティーが終わり、皇帝ネロウディアスは執務室で仕事に向き合っていた。難しい書類を前に判子を押し続けていたが、同席していた皇后レーテが突然お手洗いに行くと言って部屋を出てから、一時間以上戻ってきていなかった。ネロウディアスは、先ほどのお茶会で多くのお菓子を食べていたレーテが腹痛で長くトイレにいるのだろうと考えていた。
レーテを心配する皇帝
長時間判子を押し続けたネロウディアスは右手も左腕も限界に近づき、疲労を感じていた。それでもレーテが戻らないことを心配し続け、ついにはトイレで倒れているのではないか、干からびて死んでしまうのではないかと極端な想像まで抱くようになった。彼はレーテを探しに行こうと立ち上がった。
侍従との押し問答
ネロウディアスはレーテを探しに行こうとしたが、侍従が扉の前に立ちはだかり、女性の手洗いについて言及するのは問題だとして止めようとした。ネロウディアスはレーテの身を案じて部屋を出ようとし、侍従と扉の前で押し問答になった。
レーテの帰還と叱責
その最中にレーテが戻ってきた。ネロウディアスは彼女が無事だったことに安心したが、トイレで干からびているのではないかと心配していたと説明したため、レーテは呆れと怒りを露わにした。そしてネロウディアスに対し、今日はずっと判子を押して仕事をするよう命じた。
判子押しの刑
レーテは、これまで仕事をサボっていた分のツケだとして、ネロウディアスに執務を続けさせた。こうしてネロウディアスは一日中判子を押し続けることになり、判子押しの刑はもうこりごりだと嘆く結果となった。
エピローグ
襲撃翌日の安堵
ノアとともに襲撃を受けた翌日、イザベルはノアの心に昨日の出来事が傷を残していないかを心配していた。しかし庭で楽しそうにブランコに乗って遊ぶノアの姿を見て、イザベルは安堵した。ミランダは、テオバルドが非常に早く到着したことがノアの心に大きな傷を残さなかった理由ではないかと述べた。イザベルもその速さに驚いたが、同時に大きな安心を感じていたと振り返った。
残る不安
一方でイザベルは、今回の事件の根本的な問題が解決したわけではないと考えていた。襲撃犯は一斉に捕らえられたものの、それは氷山の一角にすぎない可能性があると感じていたのである。さらに、襲撃者の中に特異魔法の使い手がいたことも気に掛かっていた。ミランダは私見として、特異魔法を持つ者が集まった犯罪集団の可能性を指摘し、イザベルも同じ考えを抱いていた。
守る決意
もし再び同じような事件が起こり、ノアに危険が及ぶことを想像すると、イザベルは胸が締め付けられる思いになった。しかしミランダは、テオバルドだけでなく優秀な護衛が周囲にいることを伝え、自分も常にそばで守ると励ました。その言葉を受けたイザベルは、起きてもいないことを思い悩んでも仕方がないと自分を奮い立たせ、護衛たちを信じる決意を新たにした。
母としての誓い
青空に向かって足を伸ばし、楽しそうにブランコを漕ぐノアの姿を見ながら、イザベルは改めて心に誓った。この子は何があっても自分が守るのだと。そしてイザベルは久しぶりに自分もブランコに乗ろうと提案した。ノアは喜び、どちらが空に近づくか競争しようと無邪気に応じたのであった。
皇帝陛下のプロポーズ
過去のプロポーズの回想
皇帝ネロウディアスは、かつてマルグレーテに皇后になるよう求めた際、自分は政治が不得意であるため皇后である彼女がそれを担えばよいと語っていた。そして自分は彼女が産む次期皇帝を支える者を多く作ると述べたため、マルグレーテは他の女性と子を作るつもりなのかと激怒し、ネロウディアスの首を締め上げた。ネロウディアスはクズではなく朕であると主張しながらも、最終的にはこの国の国母になれるのはマルグレーテだけだと告げていた。
皇后マルグレーテの不満
現在の茶会でマルグレーテは、その時のプロポーズがろくなものではなかったとイザベルに愚痴をこぼしていた。ネロウディアスは洗脳されていた時期のことでもプロポーズの内容は覚えていると言っているが、当時は他の女性と子作りをするような発言だったため、マルグレーテの中では納得がいかないままであった。洗脳が解けた後は他の妃との関係を解消しているものの、心の中のわだかまりは消えていなかった。
若い女性への怒り
さらにマルグレーテは、先日のパーティーで若い女性が皇帝は若い女性が好きなのではないかと言ったことに強い不快感を覚えていた。ネロウディアスがそのような相手を取り合うことはないと理解していながらも、怒りは収まらず、思わず物騒な言葉を口にするほど苛立っていた。
皇帝ネロウディアスの感動
茶会の帰り、イザベルはテオバルドと話していたネロウディアスを呼び止め、マルグレーテがプロポーズのことを誤解している様子を伝えた。するとネロウディアスは、マルグレーテが昔のプロポーズの言葉を覚えていたことに驚き、感動して震え出した。彼女はそんな昔のこと覚えているわけがないと言っていたため、ネロウディアスはなおさら嬉しく感じていた。
ノアの手紙
イザベルはその後ノアとテオバルドとともに帰宅したが、皇帝夫妻のことを考えているとノアがドレスを引き、イーニアスから文字を教わったと話し始めた。ノアは覚えた文字で手紙を書いたと言い、それをイザベルに渡した。手紙には母への感謝と大好きだという気持ちが、まだ歪な文字で綴られていた。その手紙を読んだイザベルは深い愛しさを感じ、ノアを強く抱きしめたのであった。
SIDE 皇帝ネロウディアス
秘密の庭園への誘い
晩餐の後、皇帝ネロウディアスはマルグレーテの手を引き、皇宮の廊下を歩きながら秘密の庭園へと誘った。そこは二人だけが入ることのできる黒蝶花の咲く庭園であり、ディバイン公爵夫人から譲り受けたライトで木々や足元が照らされ、星が降りたように輝いていた。ネロウディアスが自ら準備したその光景を見て、マルグレーテは美しいと感嘆した。
幼い頃の出会いの回想
庭園を歩きながらネロウディアスは、初めてこの場所でマルグレーテと出会った日のことを思い出していた。当時十二歳だった彼は、周囲の誰にも見えない存在のように扱われ孤独を抱えて泣いていた。そこへ現れたマルグレーテは、彼を妖精だと勘違いしながらも話しかけ、互いに孤独であることを打ち明け合った。そして二人は友達になり、お互いを必要とする存在であると約束したのであった。
プロポーズの誤解
現在に戻り、ネロウディアスはマルグレーテに当時のことを覚えていると伝えた。マルグレーテは、かつてのプロポーズで他の女性と子を作ると言われたと怒りながら主張した。しかしネロウディアスは、その言葉は次期皇帝を支える人材を多くの貴族に頼んで育てるという意味であり、他の女性との子作りを意味したものではないと説明した。マルグレーテはその説明に驚き、当時誤解していたことを知った。
二度目のプロポーズ
ネロウディアスは、洗脳中に行ったプロポーズには自分も納得していないと語り、改めてマルグレーテの前で片膝をついて手を取り、もう一度プロポーズをした。彼はマルグレーテこそ自分が唯一望んだ女性であり、これから先も恋人も妻も彼女だけであると告げ、どんなことがあっても守り続けると誓った。
夫婦としての約束
マルグレーテは、若い女性に惑わされないかと確認しつつも、今のネロウディアスを信じていると答え、二度目のプロポーズを受け入れた。ネロウディアスは喜びのあまり涙を流し、マルグレーテは呆れながらも笑った。こうして二人は再び想いを確かめ合い、互いを思いやり決して一人ぼっちにしないという幼い頃の約束を胸に、夫婦として歩み続けることになった。
ノアのたのちいダンス
デルベ伯爵夫人の言葉による衝撃
デルベ伯爵夫人から公子はダンスが苦手だと言われたことで、ノアは強いショックを受けていた。イザベルはその様子を見て慰めたいと思ったが、ノアが悲しみを隠して明るく振る舞っていたことに、母として頼られていないのではないかという悲しさも感じていた。デルベ伯爵夫人の言葉の暴力への怒りと同時に、幼い息子に気を遣わせてしまった自分への悔しさを抱いていた。
ダンスへの誘い
イザベルは、今回の出来事でノアがダンスを嫌いになってしまうことを心配し、ノアに自分と踊ってほしいと頼んだ。ノアは自分はダンスが上手ではないと俯きながら答えたが、イザベルが自分の言葉を信じていないのかと問いかけると、ノアは慌てて母を信じていると答えた。その言葉に励まされながら、イザベルは久しぶりにノアのダンスが見たいと伝え、二人は踊ることになった。
ウォルトの伴奏
部屋の中央へ移動すると、執事長ウォルトがピアノの前に立っていた。イザベルが急遽伴奏を頼んでいたのである。ウォルトはノアの好きな曲をワルツに編曲して演奏すると告げ、優雅にピアノを弾き始めた。その曲はノアが好きなミュージカルの曲であり、演奏が進むにつれてノアの表情は明るくなっていった。
ダンスの楽しさの回復
ウォルトの見事な編曲に合わせて踊るうち、ノアの動きは軽やかになっていった。曲が終わる頃には、ノアは再びダンスを楽しむ気持ちを取り戻していた。ノアはダンスが楽しいと笑い、イザベルも以前より上達していると褒めた。
母子の温かな時間
ノアはダンスも母も大好きだと嬉しそうに語り、イザベルもノアとノアのダンスが大好きだと答えた。ダンスを終えたノアを抱きしめたイザベルは、その温かさに包まれながら、甘いホットココアを飲んだ時のような穏やかな幸せを感じていた。
お揃いのリュックとスニーカー
運動靴を作る発想
イザベルは、弟オリヴァーが開発した新素材のゴムを踏まえ、子供用品に応用できる構想を膨らませていた。庭でナラとデュークとかけっこするノアの足元が革靴であることに気づき、子供の薄い皮膚や汗のかきやすさ、運動量に対して革靴が硬く不向きではないかと考え、運動に適した靴としてスニーカーを作る案に至った。
靴職人との衝突と計画の頓挫
イザベルは布と革を併用し、靴底にゴムを用いるコンビネーションスニーカーを想定し、異素材の接合には接着剤を使う考えを示した。だが、公爵家御用達の靴職人に簡単な絵だけで完成図を示したことで、革靴職人の誇りを傷つけたとして強い反発を受け、職人は怒って帰ってしまった。イザベルは準備不足を悔い、スニーカー計画は一度頓挫した。
ノアの慰めと再挑戦の決意
計画が進まず悶々としていたイザベルのもとにノアが来て、元気がないのかと気遣い、頭をそっと撫でて慰めた。さらにノアは一緒に遊んでほしいと頼み、ジグソーパズルを協力して完成させた。イザベルは、協力が必要なこともあるのだとノアの言葉と行動から受け取り、改めて職人にきちんと説明し、理解してもらう決意を固めた。
工房での謝罪と技術説明による和解
数日後、イザベルはミランダと護衛を伴って靴職人の工房を訪れ、先日の無礼を謝罪した。職人は革靴への誇りから疑問を呈したが、イザベルは革靴の品質を認めたうえで、ノアが運動を始めたこと、合わない靴が足の不調の原因になり得ること、幼い時期には屈曲性の高い靴が重要であることを説明した。職人は異素材への関心もあったとして謝罪し、両者は謝罪を重ねたのち、ミランダに止められて話し合いは収束した。
サンプル完成とノアの反応
職人との打ち合わせが進み、スニーカーのサンプルが完成した。ノアは履いて歩き回り、やがて小走りから鬼ごっこへと発展し、履き心地を楽しんでいる様子を見せた。ノアはクマの意匠が可愛く、雲の上のようにふわふわだと喜び、たくさん走れると伝えた。イザベルは職人たちや関係者の努力を感じ取り、ノアの感謝の言葉も職人に伝えるべきだと考えた。
お揃いの贈り物の用意
イザベルはノア用の青いスニーカーに白いクマの意匠を施し、子供が脱ぎ履きしやすいテープ式にしていた。さらに、ノアが親友のイーニアス殿下にも贈りたいと言い出すことを見越し、色違いの赤いスニーカーに茶色のクマをあしらったものも用意していた。加えて、クマのリュックも子供用にアレンジし、新素材を活用して作らせており、殿下の分も用意していた。
皇宮での献上と殿下の喜び
翌日、ノアの希望で皇宮を訪れ、皇后の迎えを受けてイーニアス殿下の宮で過ごした。皇后は当初、ノアが描いた肖像画を想像したが、イザベルは子供用の靴とバッグであると説明し、受け取ってほしいと申し出た。イーニアス殿下はノアとお揃いかを確かめ、贈り物を喜んだ。殿下は自ら包装を開け、クマの意匠や色違いの工夫に興味を示し、スニーカーのテープを繰り返し試し、実際に履いて雲の上のようだと感じた。
二人のお揃い姿と周囲の反応
ノアも自分のリュックとスニーカーを身につけ、二人は色違いのお揃いで遊び回った。皇后はその光景に強く心を動かされ、絵師を呼ぶよう叫んだ。皇后は、イザベルが生み出す品が生活を変え得ると示唆しつつも、イザベルは職人たちの力こそが大きいと受け止めた。終盤では、将来スニーカーとリュックが子供だけでなく大人にも流行する可能性が語られ、物語は余韻を残して締めくくられていた。
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あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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