物語の概要
本作は異世界へとクラス転移されてしまった三十五歳の冴えないコンビニ店員・乙木雄一を主人公とする異世界ファンタジーである。勇者召喚に巻き込まれた高校生たちがチートスキルを獲得して転移する中、乙木は余り物の“廃棄スキル”しか与えられず、王宮からも追い出される。しかし、彼は長年の現場経験から「いまあるものを有効活用」し、魔道具の発明や商売を通じて成り上がっていく姿が描かれている 。
主要キャラクター
• 乙木雄一:クズスキルばかり与えられた現代日本のコンビニ店員。泥臭く「あるもの」を活用し、異世界で最強を目指す主人公。
物語の特徴
本作の魅力は「異色のチートもの」である点にある。通常の勇者や聖女のような最強の力ではなく、乙木は“ゴミスキル”を泥臭く応用し、魔道具や商売によって居場所と力を獲得する。現代での労働経験が異世界でも武器になる点がユニークで、必ずしも力任せではない“頭脳派チート”が他作品との差別化となっている
書籍情報
クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。
著者:結城焔 氏
原作: NarrativeWorks(日浦あやせ)氏
イラスト: 鱈 氏
出版社:ぶんか社(BKコミックス)
ISBN:9784821129263
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あらすじ・内容
目の隈に猫背と無精ヒゲを備えたコンビ二バイトの冴えないアラサーおっさん・乙木雄一。 地元の高校生たちに絡まれていたところ、彼らを異世界に呼ぶ魔法に巻き込まれてしまう。さらに高校生たちは女神様から強力なスキルを与えられるが、巻き込まれた乙木に残されていたのは廃棄予定の余り物クズスキルだった。半ばやけくそ気味に女神様からクズスキルを与えられるものの、乙木はその大量のクズスキルをうまく組み合わせて魔道具屋を開業! 姪の黒ギャルJK・美樹本有咲を店員に雇い、異世界に新風を巻き起こしていく!
感想
異世界召喚というテンプレに乗りつつも、本作が描くのは、戦闘ではなく生存であり、力づくではなく地道な段取りであった。
主人公・乙木雄一は、疲弊したコンビニ勤務の社畜おじさんである。
その外見やステータスに“冴えなさ”を詰め込まれた彼が、誰も見向きもしなかった余り物スキルの活用によって生き残り、レベルを上げていく姿は、非常に痛快であった。
ク◯ガ◯に召喚に巻き込まれ、駄女神にチートスキルを貰えず、ゴミのようなスキルを押し付けられても、乙木は諦めなかった。
むしろ“廃棄スキル”を組み合わせて道具を開な発し、魔道具の自作、販路の構築、労働環境の改善までやってのけるその姿には、現実社会を生きる者として共感せざるを得なかった。
とりわけ、受付嬢シャーリーに専属契約を提案して労働時間を制限してあげる場面は、労働に疲れ切った社畜にとって癒しでもあり願望でもあった。
ブラック労働の渦中にいた乙木だからこそ、「人を使う側」となった時の配慮が本物であり、経営者への恨みを感じる構成だった。
一方で、乙木の性癖はややアクの強い部分があり、“キモさ”や“拗らせ”といった印象があった。
特に、シュリヴァとの童貞卒業をめぐる約束などは、評価が分かれる要素であると感じた。
ただしそれも、乙木というキャラクターの“アクの強さ”として見るならば、むしろ愛嬌とも思える。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
乙木雄一
異世界に巻き込まれた元コンビニ店員であり、余り物スキルを駆使して自力で活路を見出す中年男性である。
・元の世界では深夜勤務中心のコンビニバイトとして労働に追われていた
・異世界召喚時は予定外の存在であり、女神より不要スキルをまとめて与えられた
・付与魔法の研究とスキル応用を通じて実用的な魔道具を開発し、自営店舗を構想・開業した
・シャーリーとの専属契約を成立させ、彼女の労働環境改善にも尽力した
・姪である有咲を住み込み従業員として保護し、照明魔石の量産や販売戦略にも取り組んでいる
美樹本有咲
乙木の姪であり、かつて異世界召喚された高校生の一人である。
・不良グループ内でも一目置かれる存在で、乙木を救った過去がある
・召喚後、スキルの活用に難があり、王宮を追放されて困窮していた
・乙木の申し出を受けて住み込みで働くことを決意し、店舗の共同運営に加わった
・照明魔石の量産に協力し、店名の看板作成や装飾も担当した
・乙木と生活を共にする中で次第に信頼と心の距離を縮めている
マルクリーヌ
ルーンガルド王国の騎士団長であり、乙木に理解を示した初の異世界住人である。
・乙木の異世界転移後、冷静な対話によって信頼関係を築いた
・王宮内での行動を監視しながらも、図書室の利用や知識習得を支援した
・戦争の構図に葛藤を抱えており、乙木に共感を寄せた描写が見られる
シュリヴァ
宮廷魔術師であり、百歳を超えるが少女のような外見をもつ男性である。
・乙木の発想力と理論に強い関心を持ち、付与魔法の指導を引き受けた
・乙木に研究ノートや魔道具素材、金銭を含む餞別を与えた
・乙木と「弟子と師匠」の関係を築き、再会と個人的な“約束”も交わした
シャーリー
冒険者ギルドの受付嬢であり、労働環境に悩む中で乙木と関わりを持った人物である。
・週七勤務の過酷な状況にありながら、丁寧な対応を続けていた
・乙木の提案により専属契約を結び、労働条件の改善に成功した
・「薬草おじさん」として評価される乙木の支援者としても信頼を寄せている
・乙木を「洞窟ドワーフ」と形容し、親しみと尊敬の念を抱いている
ガイアス
冒険者ギルドに所属するCランク冒険者であり、かつて乙木と因縁があった人物である。
・照明魔石の試用を乙木から依頼され、性能に関心を示した
・乙木によって広告塔として活用され、販売戦略の一環を担った
女神
異世界召喚を担当する存在であり、高校生たちにスキルを与えた主導者である。
・勇者召喚に際してチートスキルを割り振ったが、乙木には予定外として対応した
・廃棄予定のスキルをまとめて乙木に与え、異世界へ転移させた
・軽口を交える態度を取りつつも、システム上のルールを遂行した存在である
金浜蛍一
真の勇者として召喚された高校生の一人であり、他の生徒と比して高い能力を持つ。
・全ステータスがSランクという規格外の能力を保有している
・他の三人とともに「真の勇者」として区別されている
・国王の戦争目的にも一定の理解を示しており、乙木の危惧とは立場を異にしている
展開まとめ
第1話 乙木雄一の召喚
孤独な日常とコンビニ勤務
乙木雄一は三十五歳の独身男性であり、荒れた外見のまま生活していた。彼はコンビニ夜勤のシフト調整を担いながら、ギリギリの人員で回される職場で苦労していた。夜勤に入ると、レジ対応や商品の補充、清掃作業に追われ、身体の痛みと鎮痛剤が日常の一部となっていた。
高校生の来店と侮辱
翌日、彼の母校である六ツ賀谷高校の生徒たちが来店し、ある女子生徒が労いの言葉をかけた。しかしその直後、別の生徒から心無い言葉を浴びせられ、乙木は淡々と受け流した。その後、昼の学生バイトの遅刻によって勤務延長を強いられた。
不良学生との対峙と有咲の登場
退勤間際、店舗前にたむろする学生への対応を頼まれ、乙木は不良学生たちと対峙した。彼は冷静に対応を試みたが、暴言を浴びせられ、物理的な威嚇まで受けた。そこへ現れたのは、不良グループの中でも一目置かれている有咲という少女であり、乙木の姪であった。彼女の介入により暴行は回避された。
異世界への巻き込まれ召喚
突然、不良学生たちの身体が光に包まれ、乙木も巻き込まれて異世界召喚の魔法陣に取り込まれた。彼は意識を失い、気づけば真っ白な空間にいた。
女神による説明と勇者スキルの付与
女神の声によって、異世界での魔王の脅威と勇者召喚の経緯が明かされた。高校生たちは順にチートスキルを与えられ、異世界へ転移していった。聖女や剣聖、賢者などのスキルが与えられ、選ばれた者たちは称号に相応しい性格や特徴を有していた。
特殊スキルの授与と生徒たちの多様な反応
その後、勇者以外の生徒にも魔法無効化、即死魔法、暗殺術などの特殊スキルが授与された。不良生徒を含む多様な人物に割り当てられたが、スキルの強大さに反して慎重な扱いが求められた。
チートスキルを持たぬ乙木の立場
全員の転移が完了した後、乙木だけが残された。女神の確認により、彼は召喚の予定外であったことが判明した。しかし元の世界に戻す手段もなく、廃棄予定だった無数の不要スキルがまとめて彼に与えられることとなった。女神の軽口とともに乙木は異世界へ転移し、再び意識を失った。
異世界での目覚めと誤認の対処
目を覚ますと、乙木は異世界の宮殿にいた。鎧姿の騎士たちに囲まれながらも、落ち着いて事情を説明し、信頼を得る。特に騎士団長マルクリーヌは理解を示し、彼に説明役を買って出た。丁寧なやりとりを経て、乙木は新たな世界での第一歩を踏み出すこととなった。
ルーンガルド王国の現状
乙木雄一はマルクリーヌに案内され、ルーンガルド王国の概要と魔王軍との戦争について説明を受けた。ルーンガルドは人類最大の国家であり、十年前から魔国との間で領土を巡る攻防を続けていた。魔王軍との戦争は正義と悪の戦いではなく、単なる利権を巡る衝突であった。その現実に、乙木は召喚された高校生たちの境遇を憂い、マルクリーヌの葛藤にも理解を示して寄り添った。
国王の演説と偏った情報操作
乙木を含む勇者たちは王の謁見の間に集められ、国王から戦争の経緯と目的を説明された。しかしその内容は魔国への一方的な非難に終始し、乙木は情報操作の意図を見抜いた。大人たちが姿を見せない状況も、口を塞がれる恐れを物語っていた。乙木は、四人の真の勇者だけがこの流れを止める可能性を持っていると考えたが、多くが国王に賛同する様子を見せたため、その望みも薄れつつあった。
ステータスの開示と能力格差の露呈
国王の指示で勇者たちは自身のステータスを公開した。真の勇者である金浜蛍一ら四名の能力は群を抜いており、特に金浜のステータスはSランクが並ぶ規格外であった。それに対し乙木は全能力がG、スキルはエラーと記載された異常なものであった。不良生徒たちにからかわれたが、乙木はそれを逆手に取り、王国の戦力構想から外れることを望んだ。
王宮からの追放命令と一週間の猶予
ステータス公開後、乙木は王から正式に追放を言い渡された。異世界転移の例外者であり、勇者にとって不要な存在であるというのが理由であった。乙木は反論し、女神の意図と王宮に送られた意味を引き合いに出して抵抗した。その結果、処分は一週間後に延期され、マルクリーヌを監視役として王宮内の行動が許可された。
知識の獲得と魔法理論の理解
乙木はマルクリーヌの協力のもと、大図書室で魔法とスキルに関する書籍を集中的に読破した。魔法とスキルの本質的な違い、条件と恩恵の関係、属性の役割などを理解したことで、自身の持つ無数の“発動条件不明のスキル”をどう活用するかを検討した。そして最終的に、付与魔法という手段でスキルを物体に宿らせるという活用法に辿り着いた。
第2話 おっさん、冒険に出る
付与魔法習得への第一歩と変態の称号
乙木は付与魔法を習得するため、宮廷魔術師のシュリヴァを訪ねた。少女のような外見ながら百歳を超える男性であるシュリヴァは、乙木の発想と理論に強い興味を示し、協力を快諾した。互いに変人同士で通じ合う部分もあり、乙木は愛称「シュリ君」と呼ぶことで指導を受けることに成功した。マルクリーヌからも変態と称されるが、乙木はそれを前向きに受け止めていた。
追放までの準備と決意
残された期間で乙木は付与魔法を習得し、スキル活用の第一歩を踏み出す準備を整えつつあった。追放される身であっても、彼はこの異世界で生き抜くための戦略を着実に進めていたのである。
付与魔法の習得と旅立ちの準備
乙木は王宮でシュリから付与魔法を学び、最低限の回復・支援魔法も習得して旅立ちの準備を整えた。魔力不足のため使用頻度は限られていたが、付与魔法は一日十回まで行えるほど効率が良かった。二日間の研修を経て、乙木は王宮を離れる日を迎えた。
門前での別れと餞別の授受
出発の朝、王宮の門前でシュリが待っており、乙木を見送りに来ていた。別れを惜しみつつ、シュリは餞別としてアイテム収納袋と手書きの研究ノートを渡した。袋の中には金銭・野営道具・魔道具素材などが揃っており、ノートには貴重な付与魔法の研究内容が記されていた。弟子としての立場を得た乙木は深く感謝し、その場で再会と童貞喪失の“約束”を交わすこととなった。
冒険者ギルドへの登録と制度の理解
城下町に到着した乙木は、冒険者ギルドで登録手続きを行った。書類記入時に自身のレベル1・全ステータスG・スキルエラーという極めて低い能力が明らかとなり、ギルドランクは最下位のGに認定された。受付のシャーリーからは丁寧な説明を受け、館内の冒険者マニュアルを読んで制度や依頼の流れを学ぶことにした。
冒険者制度と現実の搾取構造の分析
乙木はマニュアルを熟読し、冒険者制度が日雇い労働に酷似した構造であると理解した。未開地の資源採取と魔物討伐が主業務であり、日当制で宵越しの金も持たぬ生活が当たり前となっていた。ギルドは手数料を徴収する一方で流通や安全管理に多大なコストを要し、その実態は中間搾取組織として機能していた。
ベテラン冒険者との遭遇と機転による対処
マニュアルを読む乙木に絡んできたベテラン冒険者に対し、乙木は機転を利かせて丁寧な態度とお世辞でその場を穏便に収めた。言葉巧みに相手の機嫌を取りつつ内心で嘲笑し、周囲の受付嬢からも好意的な目で見られる結果となった。
第3話 余り物スキルで無限レベルアップ
薬草採取とスキル活用による成果
初仕事として乙木は薬草採取を選び、装備と道具を整えて森へ向かった。魔物のゴブリンに襲撃されるも、スキル付与されたローブにより無傷で撃退。また、自らの身体から異臭を放つ『加齢臭』スキルで敵を追い払った。採取活動では収納袋の利便性と準備の徹底が功を奏した。
異常スキルの特性と活用法の発見
乙木はスキル『スキルチェック』により自身の能力を調査し、過去の生活で得たスキルが異世界に転移した際にスキル化されていたことに気づいた。『不眠症』や『夜目』、『病魔』といったスキルを応用し、眠らずに活動を続けて経験値を獲得し、ついにレベル48に到達した。
成長した実力と今後の展望
全ステータスがCに成長した乙木は、ついに冒険者として自立できる力を得たと実感した。高難度依頼は避けつつ、蓄財していずれは小売業へ転身するという計画を明確にし、新たな一歩を踏み出した。
シャーリーとの早朝の出会い
乙木は一晩中薬草を採取し、早朝の王都へ戻った。そして誰もいないギルドに足を運び、受付嬢シャーリーと会話を交わした。彼女は勤務状況に苦しんでおり、今後週七勤務になる可能性に悩んでいた。乙木は彼女の労働環境を改善するため、スキル「完全記録」を活用して情報を精査し、専属契約の可能性に着目した。
専属契約の提案と成立
乙木はシャーリーに専属契約の提案を持ちかけた。この契約によりシャーリーは労働時間の上限が設けられ、午後の休暇が確保されるようになる。彼女は乙木の提案を受け入れ、専属受付嬢となった。以後、乙木は毎朝六時に薬草を納品する日課を開始した。
薬草おじさんとしての評判の変化
乙木は徹夜で採取した薬草を納品し続け、ギルド内で「薬草おじさん」とあだ名されるようになった。初めは揶揄の意味を含んでいたが、彼の納品する薬草の品質と希少性が評価され、ギルドにとっての重要な収入源となったことで尊敬を集めるようになった。シャーリーの評価も併せて上がり、乙木は冒険者や職員たちから受け入れられていった。
採取活動の拡大と目標達成
乙木は薬草以外の採取依頼も受けるようになり、評判と収入を順調に伸ばしていった。数ヶ月の努力の末、彼はついに資金を蓄え、店舗経営を始めるという目標を達成した。
冒険者引退の意思表明
ある朝、乙木はシャーリーに冒険者としての活動を控える意思を告げた。彼は高ランク冒険者の待遇の裏に潜む過酷な現実とリスクを指摘し、自身の命を守るために引退を決意したと説明した。シャーリーは最初こそ困惑したものの、彼の考えに理解を示し、決断を受け入れた。
洞窟ドワーフという称賛
シャーリーは乙木を高く評価し、彼のような冒険者と働くことにやりがいを感じていたと語った。彼女は乙木の外見を「洞窟ドワーフ」に例え、親しみやすく可愛らしい存在として見ていた。乙木はこの印象が今後の店舗経営にも活かせる可能性に気づき、自らの外見に意義を見出した。
店舗開業準備と身分証明書の発行依頼
乙木は蓄えた資金をもとに不動産屋を訪れ、物件の購入に動き出した。購入には正式な身分証明書が必要であるため、ギルドで発行手続きを行うこととなり、混雑する中で受付に並んだ。
ギルドでの再会と聞き耳スキルの使用
書類の発行を待つ間、乙木はギルドに現れた少女に目を留めた。彼女は有咲といい、かつて乙木を勇者召喚に巻き込んだ姪であった。乙木はスキル「聞き耳」を発動し、彼女の会話内容を探った。
追放された勇者の現実
有咲は王宮から追い出され、頼る家もなく冒険者としての登録を試みていた。彼女は生活のために冒険者になる決意を語り、住居も家族も無いと明かした。その様子から、彼女が困窮していることは明らかであった。
乙木の新たな決意
有咲の境遇を知った乙木は、彼女の今後を案じた。子供が空腹に苦しむような現実を見過ごせるはずもなく、彼の中で一つの考えが固まりつつあった。
第4話 洞窟ドワーフの道具屋さん
依頼掲示板での困惑とトラブルの発生
冒険者として登録を終えた有咲は、依頼掲示板の内容が理解できず困惑していた。依頼の選び方も分からず戸惑うなか、複数の男冒険者に絡まれ、危険な目に遭いかけた。乙木が介入したことで騒動は収まり、有咲は助けられた。
有咲の追放理由と乙木の申し出
王宮から追放された有咲は、スキル「カルキュレイター」の活用が難しく評価を下げていた。精神的にも追い詰められていた彼女に対し、乙木は自分の商店で住み込み従業員として働くよう提案した。乙木が実の叔父であると明かすと、有咲は驚きつつも納得し、提案を受け入れた。
店舗物件の契約と移転
乙木はギルドから発行された高評価の責任保証書を不動産屋に提出し、立地と条件に優れた宿屋跡の物件を購入した。宮廷魔術師の弟子であることをさりげなく示したことで信用も得た。購入後、有咲とともに新たな住居兼店舗へと移動した。
店内の清掃と開店準備
元宿屋の建物を店舗として改装すべく、乙木は内装の計画と清掃を開始した。有咲には一室を与え、自室として整えさせた。店の看板には廃材となったテーブルを再利用し、店名を「洞窟ドワーフ魔道具店」と定めた。有咲に文字を書かせ、装飾も任せた。
冒険者ギルドでの素材調達
店舗開業のため、乙木は冒険者ギルドを訪れ、不要品として廃棄予定だったクズ魔石を無料で譲り受けた。これらを加工して商品化することで、仕入れ費用を抑える戦略であった。
魔石を用いた照明魔道具の試作
自宅に戻った乙木は、蓄光と発光のスキルをクズ魔石に付与し、光源として機能する照明魔道具を完成させた。日光で魔力を蓄え、任意で点灯と消灯が可能な実用品であり、今後の量産の基礎となる成果であった。
再度のトラブルと乙木の武力介入
有咲が夕食の帰り道で再び男冒険者に絡まれていた。乙木は彼女のもとへ駆けつけ、男たちの挑発にも冷静に対応しつつ、物理的な圧力をもって撃退した。乙木の戦闘能力の高さが周囲にも明らかとなり、有咲は彼に対する信頼を深めた。
第5話 照明魔石で24時間営業
互いのステータスと能力の確認
乙木は有咲に自らのレベルとスキルを明かし、有咲も勇者としてのステータスを開示した。魔力の高さ以外はまだ未熟であったが、乙木はその潜在能力を認めた。二人は道すがら軽口を交わしつつ帰路についた。
保護者としての決意と新たな関係
乙木は姪である有咲の安全を守ることを再確認し、今後も彼女を助けていく決意を口にした。有咲も徐々に心を開き始め、二人は家へと戻っていった。照れ隠しのような有咲の態度が、微妙な距離感を残しつつも関係の変化を感じさせた。
店舗準備と看板の完成
乙木は自宅に戻ると、収納袋からランプを取り出し、照明魔石が本稼働するまでの間、室内灯として使用した。辺りは既に暗く、ランプの灯りによって作業環境を整えた。看板の確認では、依頼した文言と若干異なっていたが、有咲の工夫を尊重し、そのまま設置することとした。
主力商品の披露と有咲の反応
乙木は、有咲に主力商品である照明魔石を見せた。当初は光らないただの石と訝しまれていたが、魔力を流し込むことで発光させると、有咲はその明るさに驚嘆した。乙木は照明魔石によって24時間営業の再現が可能であることを説明し、元コンビニ勤務の経験を活かす考えを語った。
作業工程の分担と魔法の仕組み
照明魔石の量産にあたり、乙木は有咲にも作業を任せた。魔法陣は、乙木のスキルを反映しつつ、他者の魔力によって作動するよう設計されていた。これにより、有咲が魔力を流しても乙木のスキルが付与される形を実現し、効率的に作業が進められた。二人は夜遅くまで作業を続け、すべてのクズ魔石への付与を完了させた。
市場調査と照明器具の比較
翌日、乙木は商店街に向かい、照明器具の価格調査を行った。松明は安価で便利だが、使い捨てである。油ランプは壊れやすく不人気であり、魔力ランプは高価なうえ維持費もかかった。最も人気があるのはヒカリゴケランプで、耐久性と使いやすさが評価されていた。乙木は、自作の照明魔石が明るさ、維持費、持続時間の点でこれらを上回ると判断した。
価格設定における戦略的判断
性能上は金貨数十枚でも売れると考えられたが、乙木は普及と長期的な利益を重視し、価格を抑える必要性を認識した。安すぎる価格は市場を破壊し、自身に過剰な製造負担を課す恐れがあった。そのため、銀貨十枚から二十枚の価格帯に設定することで、適度な利益と持続的な需要の両立を図る方針を定めた。
広告戦略としてのガイアスの利用
乙木は冒険者ギルドを訪れ、かつての因縁があるCランク冒険者ガイアスに照明魔石を手渡した。ガイアスは試用を快諾し、その性能に強い興味を示した。乙木は、ガイアスのような影響力ある冒険者に使わせることで、商品への信頼性と話題性を確保する狙いを持っていた。
販売戦略の意図と効果
クズ魔石にしか見えない照明魔石を銀貨十数枚で売るには、信頼の担保が不可欠であった。乙木はガイアスを広告塔として利用することで、商品の認知度を高める仕組みを構築した。無料譲渡という形で、将来的な売上と信用を得る布石としたのである。
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