物語の概要
本作は、現代日本を舞台にした異能バトルファンタジーである。主人公・賀茂一樹は、地獄からの転生を経て、閻魔大王の神気を宿した最強の陰陽師として活躍する。第三巻では、百足神の討滅から半月が経過し、一樹は高校の陰陽同好会の実績作りのため、会員を国家試験で上位合格させるという新たな試練に挑む。龍神の娘・柚葉や妖狐のクオーター・香苗らを弟子として鍛え上げ、さまざまな困難に立ち向かう姿が描かれる。
主要キャラクター
- 賀茂一樹:地獄から転生した陰陽師。閻魔大王の神気を宿し、圧倒的な力を持つ。
- 柚葉:龍神の娘で、一樹の弟子。陰陽術の素質を持つ。
- 香苗:妖狐のクオーターで、陰陽術の素人ながら一樹の指導を受ける。
- 五鬼童凪紗:神童と名高い陰陽師。国家試験の三次試験で柚葉と香苗の前に立ちはだかる
物語の特徴
本作の魅力は、現代社会における陰陽師の存在をリアルに描写しつつ、伝統的な陰陽術と現代技術を融合させた独自の世界観にある。一樹が弟子たちを鍛える過程では、式神の活用や呪力の強化など、陰陽術の多彩な技法が紹介され、読者を飽きさせない。また、弟子たちとの師弟関係や、試験でのライバルとの対決など、人間ドラマも丁寧に描かれており、物語に深みを与えている。
書籍情報
転生陰陽師・賀茂一樹 3~二度と地獄はご免なので、閻魔大王の神気で無双します~
著者:赤野用介 氏
イラスト:hakusai 氏、きばとり 氏
出版社:TOブックス
発売日:2024年5月20日
ISBN:978-4-86794-186-7
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
百足【ルビ:ムカデ】神の討滅から半月。
魂の浄化のため妖怪退治に奔走する一樹の次なる試練は――弟子育成!?
高校の陰陽同好会の実績作りのために、会員を国家試験で上位合格させねばならないのだ。
龍神の娘・柚葉はまだしも、妖狐のクオーターの香苗は陰陽術の素人で一般人と変わらない。
残り二か月もなく普通なら諦めるはずが、なぜか一樹は自信満々!
式神用に雪女を捕えたかと思えば、三尾の気狐が君臨する豊川稲荷で歌唱奉納を行い呪力を超強化。持てる力と伝手を使って教え子たちを怒涛の勢いで鍛えていく!
だが、三次試験にて二人が神童と名高い五鬼童凪紗と急遽戦うことになり……!?
「一人前にしてくださいね、お師匠様?」
とある陰陽師が地獄から返り咲く無双萬屋、第三弾!
感想
A級陰陽師としての風格と任務の重み
本巻では、一樹がA級陰陽師としての実績を重ねる過程が丁寧に描かれていた。槐の妖魔による障害、戦国武将・穴山信君の霊との対決、さらには虎狼狸の退治と、事件の規模は確実に拡大している。その中でも、相手の力に押されることなく、逆に配下として従わせてしまう一樹の立ち回りは痛快であり、陰陽師としての威厳を見事に示していた。
育成という新たな挑戦と青春の香り
今回の物語の軸のひとつは弟子の育成である。高校の陰陽同好会の会員である柚葉と香苗を、国家試験合格へと導くという任務が課せられる。柚葉はまだしも、素人同然の香苗を合格させるため、一樹が取った手段はかなり過激でユニークであった。雪女の配下化を目指して雪山に赴き、妖狐に力を借りて強化するなど、やややりすぎとも思える展開もあったが、それがまた本作らしい面白さに繋がっていた。
豊川と宇賀の存在感と魅力
サブキャラである豊川と宇賀の活躍も印象的であった。特に、主人公よりも強く、冷静かつ頼れる二人の立ち位置は、読者にとって安心感を与える存在である。彼女たちのビジュアル面での魅力もさることながら、作中での実力行使やフォローの描写には説得力があり、脇役ながら物語を支える柱として確かな存在感を放っていた。
解説の頻出によるテンポの停滞
一方で、設定や用語の補足が過剰であるという印象も否めなかった。登場するたびに長文の解説が挟まれるため、会話や流れが分断され、物語への没入感が削がれる場面があった。設定を深掘りしたい作者の意図は理解できるが、それが読者の集中力を途切れさせる結果となっていたのは惜しい部分である。
締めくくりに次巻への期待
物語終盤では、国家試験の三次試験にて凪紗との直接対決が描かれ、盛り上がりを見せながらも、あえて次巻に持ち越されるという構成であった。この「仕切り直し」は読者の期待を高める絶妙な引きであり、次巻での決着に向けた布石として効果的であると感じた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
登場キャラクター
賀茂一樹陣営
賀茂一樹
本作の主人公であり、地獄から転生して現代に甦った陰陽師である。合理的かつ冷静な性格で、過去の贖罪を背負いながらも、自らの信念に従って人助けと妖怪調伏に取り組む。仲間との信頼関係を重視し、式神との絆を軸に行動している。
・所属:賀茂家、陰陽師協会所属A級陰陽師、花咲高校生徒、賀茂陰陽事務所代表
・国家試験を首席合格し、陰陽協会の注目を集めた新星として高く評価されている
・牛鬼、八咫烏五羽、鎌鼬、水仙、雪女など多数の式神を使役し、地獄の怨霊や邪神と渡り合う
・槐の邪神(穴山信君)を式神化し、虎狼狸の群れ865体を霊狐軍と共に殲滅
・霊的神器(管玉・勾玉)の収集と運用によって味方の戦力を大幅に強化
・冥府にて新たに出現した王との戦いを制し、自らが新王として秩序を再構築した
・陰陽術と神気の融合により「神仏と交信し神力を自在に操る」高次の霊的領域へと到達
・蒼依、沙羅、水仙と日常生活を共にし、同居者としての家族的関係も築いている
・陰陽同好会を指導し、香苗や柚葉といった若手育成に努めている
・五鬼童家の天才・凪紗とも対等に渡り合い、次世代の象徴として位置づけられている
・地獄と現世、神と妖、人と霊をつなぐ橋渡し役としての存在感を放っている
蒼依
山姥の孫にあたる妖怪出身の少女であり、人間を襲うことを拒み、人としての生活を望んだ存在である。一樹と契約し式神となったことで、人間社会に適応している。物理戦に長けており、事務所での生活面も支えている。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・山姥化を抑えるため、一樹から定期的に気を供給されている
・主に前衛として近接戦を担当し、高い身体能力を活かして戦闘を補佐
・家事全般や料理も担当し、事務所の生活基盤を支えている
五鬼童沙羅
五鬼童家出身の実戦派陰陽師であり、冷静かつ論理的な思考を持つ人物である。かつて国家試験で一樹と戦い、敗北後に彼の実力を認めて協力関係を築いた。現在は一樹の事務所で活動している。
・所属:五鬼童家 → 賀茂一樹陰陽師事務所、陰陽師
・国家試験にて一樹と戦い敗北した経験を持つ
・その後、母蜘蛛との戦闘で重傷を負い、一樹の治療を受けた
・事務所職員として実戦・調査・交渉など多方面で活動している
水仙
元は人を襲う妖怪・絡新婦であり、一樹との戦闘を経て式神として契約された存在である。非常に高い知性を持ち、心理戦や諜報活動を得意とする。主に情報支援や戦術面で一樹を補佐し、実務面や学業面でも貢献している。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・絡新婦としての能力と知識を保持しながら諜報活動を担当
・学力に優れており、一樹の生活・学業面を補佐する役割も担っている
・蒼依と力関係では劣るが、忠誠心と助言能力において高い評価を得ている
穴山信君
武田家に仕えた歴史上の武将であり、その怨霊が槐の邪神として顕現した存在である。通行税として財宝を集め、妖怪としての強大な力を持っていたが、討伐後に一樹の呼びかけに応じて式神契約を受け入れた。
・所属:妖怪(槐の邪神)→賀茂家(準式神)
・虎狼狸掃討作戦の前哨戦として討伐対象となった
・一樹との戦闘後、条件付きで式神化され、完全従属ではない
・財宝の隠匿先を案内し、貴重な霊具である勾玉や管玉の回収に貢献した
牛鬼(うしたろう)
元は恐れられていた妖怪であるが、一樹との接触により悪意がないことを見抜かれ、式神として使役されるに至った。温厚な性格であり、物理的な強さと高い回復力を持つ。現在は「うしたろう」と名付けられ、家族同然の存在として扱われている。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・鉄鼠討伐や槐の邪神戦などで前衛として活躍
・高い耐久力と怪力を武器に、式神軍の主力戦力を担っている
・一樹から個体名を授けられ、人格ある存在として尊重されている
鎌鼬(三柱のうち一柱)
三柱からなる神霊であり、「転ばせる」「斬る」「治癒する」の三種の能力を有している。そのうち治癒を司る一柱と一樹が契約を交わし、回復支援の要として活躍している。戦闘面ではなく補助要員として極めて重要な位置にある。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・沙羅の四肢再生や一樹の指の修復など、実績ある治癒行為を実行
・槐の邪神戦では、複数の前衛支援により味方の生存率を確保した
・式神の中では珍しく回復専門として信頼を集めている
陰陽同好会
花咲小太郎
花咲高校に通う男子生徒であり、花咲グループの理事長の息子である。一樹とは同級生で、陰陽同好会の中心メンバーのひとり。表立った戦闘能力は描写されていないが、組織運営やサポート面で存在感を示している。
・所属:花咲高校、花咲家、陰陽同好会メンバー
・陰陽同好会の立ち上げに尽力し、活動場所の手配を行った
・一樹や豊川との雑談を通じて、周囲の理解を深めている
・家柄と人脈により、組織的支援やバックアップにも関与している
赤堀柚葉
赤城山の龍神を母に持つ少女であり、人間社会での自由を得るため一樹の保護下に入った。龍神の加護によって高い呪力を備えており、国家試験では霊符作成で実力を発揮した。陰陽同好会の一員として活動している。
・所属:花咲高校、陰陽同好会、龍神の眷属
・国家試験では護符六枚を三時間で作成し、高評価を獲得
・母の力を引き継ぐことで霊力を強化し、神女に近い存在とされた
・一樹に対して強い忠誠を示し、将来は彼の下で働くことを希望している
祈理香苗
妖狐の血を引くクォーターであり、当初は一般人として生活していたが、陰陽師への道を選んだ少女である。学力や経験では劣るものの、柔軟な発想と実行力で頭角を現した。式神との絆を重視し、精神的成長を遂げていく姿が描かれている。
・所属:花咲高校、陰陽同好会、陰陽師候補生
・国家試験に合格し、D級陰陽師に認定された
・白狐・金狐と式神契約を結び、試験での逆転勝利に貢献
・雪菜とも契約を結び、B級陰陽師・凪紗との試合に勝利した
雪菜
長野県白馬大雪渓に現れた雪女であり、精霊に近い霊的存在である。幼い少女の姿を持ち、強力な氷雪系の術を操る。人間に対して敵意はなく、香苗の式神として忠実に行動するようになる。
・所属:賀茂家(香苗の式神)
・香苗との契約により、式神として正式に加わった
・エキシビションマッチにて凪紗に氷雪華の術を放ち、勝利の決定打を与えた
・普段は礼儀正しく、好奇心旺盛な性格が見られる
花咲高校
花咲理事長
花咲高校の理事長であり、小太郎の父親でもある人物である。教育と陰陽の両立に理解を示し、陰陽同好会の活動にも一定の支援を行っている。陰陽師ではないが、学園内外の実務や制度設計に影響力を持っている。
・所属:花咲学園、理事長
・陰陽同好会の設立を黙認し、国家試験合格を条件に部へ昇格を認めた
・外部指導者としての一樹の活動を認可し、教育面から後押しした
・息子・小太郎の進路と同好会の成果に高い関心を寄せている
陰陽師協会
宇賀
陰陽師協会の副会長であり、組織の運営と独立性維持に深く関与する人物である。理知的で沈着な態度を貫き、豊川や諏訪とともに協会の自治権を守るために尽力している。一樹に対しては高い評価を与え、重要任務を託す信頼を示している。
・所属:陰陽師協会副会長
・奈良県御所市に本部を置く協会の中央理事として活動
・疫病妖怪への対処任務に一樹を推薦し、姫魚の予言を伝達
・無人島での予知任務や山梨への派遣を一樹に命じた指導者の一人
豊川りん
陰陽師協会のA級三位に位置する気狐であり、人間の文化には不慣れだが、誠実で実力に優れた存在である。霊的存在であると同時に陰陽師として高い判断力を備え、式神軍団を率いて討伐任務を遂行する指揮能力を持つ。
・所属:陰陽師協会、A級陰陽師、気狐(四尾)
・山梨県にて槐の邪神および虎狼狸討伐に参戦
・狐霊軍を召喚し、殲滅戦を指揮して勝利を収めた
・一樹との協力により管玉を譲渡され、天狐への昇格が目前となった
白面の三狐
かつて豊川りんと関係のあった三尾の霊狐であり、霊魂として召喚された存在である。かつての先達として豊川の成長を見守りつつ、戦力としても狐軍団を率いて活躍した。軽妙な語り口と威厳を兼ね備えている。
・所属:霊狐軍団、豊川りんに従属
・管玉の力によって豊川が召喚し、虎狼狸掃討に参戦
・豊川に対して先輩風を吹かせつつも忠実に指示を遂行
・戦闘では高位霊獣としての圧倒的な力を発揮した
良房(三尾の狐)
三尾の狐であり、白面の三狐と並ぶ高位霊獣のひとりとされる存在である。豊川の召喚により出現し、虎狼狸掃討に加わった。かつての先達として狐霊の中で特別な位置を占めている。
・所属:霊狐軍、豊川りんに従属
・管玉を用いた召喚によって現世に顕現
・豊川に対し親しみを込めた態度を見せ、言葉を交わした
・虎狼狸の掃討戦に参加し、高い霊力を発揮した
高倉
陰陽師協会の一員であり、春日弥生の部下または同僚として活動する中堅陰陽師である。豊川りんや向井と連携し、現場での戦力として派遣されることもある。実務能力に長け、調整役としての立場にある。
・所属:陰陽師協会、陰陽師
・豊川りんの戦線において補佐的役割を担った
・直接の戦闘描写は少ないが、現地での調整や後方支援に従事
・虎狼狸掃討後の報告にも関与し、組織運営に携わっている
洞泉寺源九郎
陰陽師協会に所属するベテラン陰陽師であり、伝統派の代表格とされる人物である。五鬼童家と関係が深く、格式と儀礼を重視する立場を取る。技術や功績よりも家系や格付けを重んじる傾向が見られる。
・所属:陰陽師協会、陰陽師
・陰陽師国家試験の試験官として登場し、若手の評価に関与
・凪紗の才能を高く評価しつつも、香苗や柚葉に対しては懐疑的であった
・最終的には成果を認め、一定の譲歩を示すに至った
安倍晴也
かつて一樹と国家試験で対戦した青年陰陽師であり、後にD級へ昇格した。真摯な性格を持ち、霊的存在に対しても誠意をもって向き合う姿勢を見せている。自我を保つ妖怪とも協力関係を築こうとする柔軟性を備えている。
・所属:陰陽師協会所属、D級陰陽師
・A級妖怪・キヨと協力し、戦力評価により昇格が承認された
・陰陽師協会常任理事会でも名が挙がる有望株とされた
・夕氷との契約失敗を経て、清姫(キヨ)と関係を築いた
向井
陰陽師協会の会長を務める人物であり、組織全体の統括と陰陽師たちへの指示を行う最高責任者である。柔軟な判断力と実務的な対応を持ち味とし、一樹に対しても高く評価を下している。
・所属:陰陽師協会会長
・試験後の打ち上げ文化や報酬制度の説明を通じて一樹を導いた
・虎狼狸の掃討結果を承認し、一樹の貢献に謝意を示した
・豊川りんに対しても敬語で接するなど、階級秩序を重んじている
守鶴(しゅかく)
向井の祖先とされる存在であり、過去に神との関係を持った陰陽師と推測されている。物語内では直接の登場はないが、血脈や能力の由来に関わる示唆として言及される。
・所属:故人/霊的伝承上の存在
・向井の家系が神霊と交わった末裔であることを象徴する人物
・作中では伝承上の影響として名前が登場
・霊的系譜の説明の中で、その存在が取り上げられた
春日弥生
陰陽師協会所属の上級陰陽師であり、秋田県の統括陰陽師を務める。五鬼童義一郎の妹であり、実務能力と交渉力に優れた実務家である。国家試験や討伐作戦においても中心的な役割を果たしている。
・所属:陰陽師協会、秋田県統括陰陽師
・青森県の妖怪対策において自衛隊動員と倍額報酬を提示し、主導権を握った
・母蜘蛛討伐では戦力編成を担当し、作戦の成功に貢献した
・五鬼童家の一員として試験運営と討伐戦術の調整に関与している
五鬼童義一郎
五鬼童家の長兄であり、国家試験の統括責任者として登場する。現場主義で冷静な判断力を持ち、指導者としての資質に優れる。弟妹に対しても公平でありつつも、成長を促すよう意識して接している。
・所属:五鬼童家、A級陰陽師
・国家試験や討伐作戦における総指揮を担当
・エキシビションマッチの実施や再戦提案などを通して若手の実力を試した
・一樹の成長と協力体制に一定の信頼を寄せている
五鬼童凪紗
五鬼童家の次世代を担う天才陰陽師であり、鬼神と大天狗の力を操る実力者である。冷静沈着で実力主義を貫く性格だが、戦闘では常に全力を尽くす誠実さも持ち合わせている。姉の沙羅に匹敵、あるいは凌駕する才能を有している。
・所属:五鬼童家、陰陽師候補生
・国家試験の実技部門で圧倒的な実力を見せつけ、一位通過
・香苗と柚葉の連携に敗北したことで、自身の限界と課題を受け入れた
・将来的に花咲高校への進学と一樹への接近を希望している
若槻姚音(わかつきよういん)
陰陽師協会に所属する陰陽師であり、春日家と並ぶ名門の関係者とされる。伝統を重視する考え方を持ちつつも、戦場では現実的な判断を下す。若手陰陽師の育成や試験監督にも関与している。
・所属:陰陽師協会、陰陽師
・国家試験において評価官を務め、香苗や柚葉の実力を観察
・格式ある家系としての自負を持ちながらも、実力主義にも理解を示した
・結果を重んじる姿勢から、凪紗敗北後も冷静に状況を把握した
卿華女学院中等部
伏原綾華(ふしはらあやか)
賀茂一樹の実妹であり、母方の伏原家に引き取られている中学生である。家庭の事情で兄とは離れて暮らしているが、一樹に対する信頼と尊敬を深く抱いている。物語中では陽鞠の件で兄に相談を持ちかけた。
・所属:伏原家(母方)、中学生
・陽鞠の霊に取り憑かれた状態で兄・一樹に助けを求めた
・兄の対応を通して心を救われ、兄妹としての絆を強めた
・霊的感応力はないが、重要な依頼のきっかけを担った
陽鞠(ひまり)
中学生の少女であり、不慮の事故により死亡した後、霊体となって現れた存在である。亡霊となった後も自我を保ち、綾華に憑依し、後に北川楓の肉体を借りて現世に戻ることとなった。
・所属:霊体 → 北川楓の身体
・綾華の身体に取り憑いた後、北川楓の肉体を借りて生活を再開
・人格を持つ存在として周囲に受け入れられ、社会的にも承認された
・人間として第二の人生を送ることが許容された特異な事例である
その他
カボエネ
霊能系YouTuberであり、一般人ながら妖怪に関する依頼を一樹に持ち込む人物である。クラウドファンディングなどを通じて妖怪討伐を配信し、社会的関心を集めることで知名度を上げている。
・所属:無所属(YouTuber)
・鉄鼠討伐などの案件を一樹に依頼し、動画配信により注目を集めた
・霊的異常が発生する地域に赴き、視聴者の支援を得て活動を継続
・一樹との信頼関係により、再度の依頼や協力が描かれている
妖怪
天邪鬼(あまのじゃく)
妖怪の一種であり、悪意を持って真逆の行動や言動を取ることで知られる存在である。花咲高校に出現し、騒動を引き起こしたが、一樹によって討伐された。具体的な姿や性格には言及が少ない。
・所属:妖怪
・花咲市にて不審者の目撃や混乱を招く行動を繰り返した
・陰陽同好会の活動により発見され、一樹の指揮下で調伏された
・他者の心を逆撫でする性質を持ち、精神的な混乱を引き起こす力がある
獅子鬼
虎狼狸と同じく、疫病を媒介するとされる妖怪である。力が強く危険な存在であるが、詳細な描写は少ない。狐霊軍の掃討作戦において、他の妖怪と共に一掃されたとされている。
・所属:妖怪(敵性存在)
・身延山の周辺にて活動していたとされる
・豊川の召喚した狐たちによって討伐された
・疫病拡散の懸念から危険種として位置づけられていた
黒鬼
虎狼狸掃討作戦の際に出現した敵性妖怪のひとつである。個体としての性格や能力は不明であるが、狐たちによる霊的戦闘の中で撃破された。羅刹・獅子鬼と並ぶ存在として名が挙げられている。
・所属:妖怪(敵性存在)
・山中の妖怪群に属し、狐軍により殲滅された
・個体描写はないが、狐たちの討伐対象に含まれている
・霊的存在として強度は高いと推察される
蜃(しん)
霊的存在の一種であり、虎狼狸や羅刹と共に山中に潜伏していた妖怪である。幻術を得意とする性質があるとされるが、本作では詳細な能力描写は少ない。狐霊軍による掃討戦の対象として言及された。
・所属:妖怪(敵性存在)
・身延町の霊災地域にて確認された複数の妖怪の一体
・豊川りんの指揮による狐霊たちの掃討作戦で撃破された
・名前から幻術系の存在とされるが、本作内での行動描写は限定的である
荒ラ獅子魔王(あららししまおう)
妖怪の中でも特に強大な存在として名前のみが登場した存在である。物語中においては直接の登場はないが、今後の展開や世界観の拡張を示唆する象徴的な名前である。
・所属:妖怪(名前のみ言及)
・地獄界または高位の異界に属する存在とされる
・一樹や地獄の新勢力との関連性を匂わせる形で登場
・強力な敵または過去の災厄の象徴として語られた
展開まとめ
第三章 逢魔時
第一話 姫魚の予言
陰陽師協会の常任理事会への初出席
中禅寺湖での百足神討伐から半月後、一樹は奈良県にて陰陽師協会の常任理事会に初出席した。常任理事はA級陰陽師七名で構成され、一樹は六位として招集された。会議では、協会の起源や歴史が語られ、政府からの独立性を堅持する姿勢が確認された。協会の財務は極めて健全で、年間収入は五百億円を超え、内部留保は一兆円規模であった。
組織の独立性と政府からの圧力
かつて政府は、陰陽師協会を東京に移転させようと試みたが、協会はそれを拒否し続けた。副会長の宇賀や豊川、一位の諏訪らが中心となり、各地に根ざす陰陽師の独自性と信仰体系を守るため、神社ごとの移転提案も却下された。結果として、協会本部は今も奈良県御所市に位置し、中央政府の影響を受けずに活動を続けている。
全国陰陽師分布と昇格者の確認
会議では、全国に所属する陰陽師の人数と等級分布が報告された。B級陰陽師の減少が特に東北で顕著であり、補充が追いついていないことが課題とされた。昇格候補者には、A級怨霊・キヨと協力関係を築いた安倍晴也の名もあり、一樹の報告をもとに、A級相当の戦力としてB級昇格が承認された。
統括陰陽師の配置問題と将来の育成方針
統括陰陽師の配置に関する議題では、地方に有力者が不足している現状が共有された。一方で、将来的に昇格が見込まれるC級上位者が育成されつつあるため、現段階での強引な任命は避ける方針が確認された。議論は円滑に進行し、会議は満場一致で予算案と方針を可決して終了した。
新たな脅威と指名任務の開始
会議終盤、宇賀副会長より「疫病を流行させる妖怪」への対処依頼が持ち上がり、適任者として一樹が名指しされた。この妖怪は江戸時代に数十万の死者を出した過去を持ち、強力かつ予知能力を持つとされた。
無人島への移動と神秘的な対話
一樹は宇賀に同行し、長崎県平戸市の沖合にある無人島へ移動した。移動手段には幽霊巡視船ではなく新幹線が選ばれ、目的地では周囲に人工の灯りもない環境が広がっていた。そこではネズミの駆除を行いながら、宇賀が「姫魚(ひめうお)」という予言獣にまつわる話を語り始めた。
姫魚の予言と一樹への使命
姫魚は疫病の流行と豊作を予言したとされる存在であり、かつては「姿を描くことで難を逃れられる」と伝えられていた。今回、宇賀を通して「疫病の流行を防げるのは一樹だけ」との予言がもたらされ、その対応が正式に一樹に託された。彼はその責務を受け入れ、次なる地へと向かう覚悟を固めた。
蒼依と沙羅への出動要請
疫病をもたらす妖怪の予知を受けた一樹は、蒼依と沙羅に連絡を取り、山梨県への出動を要請した。学校はゴールデンウィーク直前であり、理事長の配慮により同好会活動として公欠扱いとなる見込みであった。蒼依と沙羅はB級上位および中位の戦力であり、近接戦に不向きな一樹を補完する重要な存在であった。
山梨県への移動と豊川との合流
翌朝、一樹は長崎から山梨県南巨摩郡身延町に移動した。現地は人口一万人未満の田舎町であり、陰陽師協会が手配した古民家が宿泊地に指定されていた。そこにはA級三位の気狐・豊川りんが先着しており、囲炉裏で食事の準備をして一樹を迎えた。
古民家での会話と協会の財力
豊川は、料理を用意していた一方で、一樹に調理を求めるつもりがないことを明言した。陰陽師協会本部には一兆円以上の内部留保があり、本部の予算で料理人を呼ぶことも理論上は可能であったが、予知に基づく依頼であるため予算からの前払いは不可とされていた。
今回の任務の内容と危険性
今回の任務は、コレラを媒介する妖怪・虎狼狸の駆除と、その縄張りに居座る槐の邪神の討伐であった。虎狼狸は江戸時代のコレラ流行と結び付けられた存在で、無症状保菌者として疫病を撒き散らす危険な妖怪である。対して槐の邪神は、不動明王の八大金剛童子によって倒された記録を持つ強敵であり、並の陰陽師では太刀打ちできない存在であった。
豊川との協力体制と報酬の取り決め
豊川は、この地に財宝を溜め込む槐の邪神の討伐によって得られる物資を報酬とし、その分配を一樹と折半することを提案した。法律的にも陰陽師が妖怪から得た財宝には所有権が認められており、後日不足分は陰陽師協会が補填するとされた。一樹は条件を了承し、報酬に合意した。
食事と豊川の過去の示唆
合意後、一樹は囲炉裏で焼かれたイワナや豚汁を口にし、素朴ながら温かみのある食事を味わった。豊川はかつて人間と暮らしていたことを明かし、真っ当に生きる者には助けの手を差し伸べることがあると語った。その言葉は短く、囲炉裏に響く薪の音が、静かな余韻を残していた。
第二話 身延町の怪異
槐の邪神に関する調査と五行思想の考察
蒼依・沙羅と合流した一樹は、虎狼狸退治の前提として、槐の邪神に挑む必要に迫られた。妖怪の出現時間帯とその強度について、五行思想を用いた説明がなされ、怨霊が夜間に顕現しやすい理由が明示された。特に「死気」の増大により怨霊が力を増すことが、安倍晴明の記述と共に語られた。
槐の木と武士怨霊の由来
槐の邪神が宿る木は、かつて中国でも学問や権威の象徴とされ、穴山信君という歴史的実在の武将の怨霊が宿っていると推測された。信君は武田家ゆかりの名将であり、彼の一族が家を潰された無念が怨霊化の原因であると推察された。また、槐の邪神が財宝を集める行動は、かつての通行税を徴収していた領主意識の表れと考えられた。
除霊の困難さと式神化という代替手段
槐の邪神は、宿る木を切っても新たな木に移るため、物理的な除去は現実的でなかった。身延町全域に広がる槐の木を根こそぎ除去するには現代の技術でも不可能であると判断され、代替手段として式神化が提案された。一樹は陰陽師協会における唯一の式神使いとして、槐の邪神を倒し使役する案を打ち出した。
財宝へのGPS装着と本体位置の特定
通行税として槐の邪神に渡す財宝にGPS装置を仕込み、本体の槐の位置を特定する策が実行された。財宝を受け取った怨霊は、GPSにより本体が宿る黒槐の位置を露呈させた。翌日、一樹は信君の霊と再び対面し、式神化による領民救済の道を丁重に申し出た。
式神化をかけた戦闘の開始
信君は申し出を受けて立ち、一樹は水仙・沙羅・牛鬼・鎌鼬らを動員して交戦に入った。蒼依や沙羅が前衛を務め、鎌鼬は奇襲を担い、戦力バランスを崩して優位に立つ策が功を奏した。一方、信君は強靭な霊体と武士の技量で応戦し、一樹に脇差を投擲するも、豊川の機転により阻まれた。
勝利と式神契約の試み
最終的に一樹の指揮と式神たちの連携により信君は倒れ、槐の邪神は排除された。一樹は信君に敬意を持って式神契約を申し出、信君も条件付きで応じたが、完全な従属は成立しなかった。これにより従来の式神契約時に得られた力の上昇は体感できなかったものの、虎狼狸討伐の障害は取り除かれた。
財宝の発見と信君の導き
槐の邪神討伐を終えた一樹は、信君が長年集めていた財宝の回収に着手した。信君に仕込んだGPSを頼りに進んだ先で現れたのは、数百年もの間、信君が隠し続けていた地下の貯蔵庫であった。武田家の金山技術と穴山家の隠匿術を活用したその構造には、金銀珠玉に加え、霊物としての価値が極めて高い勾玉と管玉が収められていた。
勾玉と管玉の霊的価値
勾玉は呪力や霊力を蓄える霊具として知られ、三種の神器にも数えられる八尺瓊勾玉を例に、歴史的・霊的価値が解説された。翡翠製はB級、滑石製はC級、そして管玉はA級に相当する力を持ち、霊力の蓄電器として桁違いの性能を有していた。現代では製法が失われており、希少性は極めて高い。
財宝の分配と豊川への譲渡
一樹は財宝の分配において、管玉を豊川に譲ることを即断した。これは彼女の助力に対する報酬であり、同時に一樹自身の信頼の表れでもあった。蒼依と沙羅には翡翠製の勾玉を一つずつ、残りは神域創造の訓練用に充てられた。一樹自身は金銀珠玉を身延町への慰問金とし、地元住民への還元を決めた。
豊川の年齢と霊的階位
管玉の獲得により、豊川は「四尾」への昇格、すなわち天狐への到達が目前となったことを明かした。彼女はすでに八百歳を超える気狐であり、平安時代を生き延びた存在であった。狐の霊的階位の解説とともに、九尾の伝説に至るまでの時間の長さが語られた。
蒼依の自責と一樹の励まし
戦闘中に信君を抑え切れなかった蒼依は、自身の無力さを悔いたが、一樹はその努力と抑止効果を正当に評価し、むしろ信君から武術を学ぶ機会とするよう促した。そして、主従の信頼関係を深めるように、蒼依を抱き寄せて労った。
豊川の陣と狐の召喚
豊川は獲得した管玉を用いて陣を描き、豊川稲荷とつながる儀式を開始した。陣からは次々と狐の霊魂が現れ、その中から白面の三狐と呼ばれる雄の三尾が姿を現した。三狐はかつての先達であり、豊川の成長を讃えつつも軽口を交わした。
狸狩りの開始と狐軍の出動
豊川は白面の三狐を含む狐の軍勢に、虎狼狸の駆除を命じた。狐たちはその指示に昂揚し、一斉に山中へと駆け出した。豊川は彼らの労に報いるため、妙厳寺への供物を約束し、霊狐たちは喜び勇んで身延山に広がっていった。
第三話 打ち上げの慣習
豊川との役割分担と妖怪掃討の総括
虎狼狸の討伐後、一樹たちは花咲市に帰還し、通常の学園生活へと戻っていた。中間テストを前に、陰陽師協会長・向井から連絡が入り、槐の邪神や虎狼狸掃討の評価が伝えられた。槐の邪神を式神化した判断は、豊川が召喚した霊狐を守る意義もあり、結果的に合理的な選択と認められた。一方、実際の戦力差から一樹は、豊川が自分より格上であることを痛感していた。
虎狼狸掃討戦の顛末と狐霊の圧倒的戦力
虎狼狸掃討は豊川に委ねられ、召喚された霊狐は付喪神化した百年以上の霊魂で構成されていた。その実力は圧倒的であり、三尾の霊狐までもが召喚された結果、虎狼狸のみならず、山中の鬼たちも殲滅されるに至った。一樹はその勝利を確信し、豊川に戦線を完全に委任した。
陰陽師協会内での格付けと報酬交渉
向井協会長との会話では、陰陽師協会における格の違いも明らかとなった。A級上位に位置する豊川は、常任理事として協会内でも特別な立場にあり、協会長ですら「様」付けで呼称していた。報酬については、豊川から譲渡された霊物(勾玉および管玉)により十分と認定され、一樹も追加報酬を辞退した。
勾玉の流通と希少性に関する知識
一樹は、霊物としての勾玉の価値とその流通事情についても再確認した。翡翠製は高価かつ破損しにくく、滑石製は消耗品で信頼性に乏しいため、希少価値が極めて高い。発掘による入手が稀少であり、海外流出が進んでいる現状において、今回の入手は破格の幸運であった。
陰陽師の打ち上げ文化と協会の風習
協会長は、一樹に打ち上げの文化についても伝えた。陰陽師同士の慰労の場は、料亭や温泉旅館だけでなく、いわゆる“お姉さんの店”やホストクラブ、ゲイバーにまで及ぶとされ、一樹はその情報に困惑しつつも理解を示した。豊川は未成年である一樹を霊狐の宴に誘わず、代わりに3万円を個別支給し、打ち上げに代える意図を示した。
蒼依との水族館デート計画
協会からの報酬を口実に、一樹は蒼依を水族館に誘った。断られた場合の心理的ダメージを避けるため、「仕事の打ち上げ」として装いを整えたが、蒼依は快諾し、無事に予定が成立した。一樹は誘いの成功に安堵しながらも、沙羅への労いも別途必要と認識していた。
服装準備と水仙の助言
一樹はデート用の服装選びに自信がなく、式神の水仙に助力を求めた。水仙はTPOに即した選び方を説き、男性側が目立たず女性を引き立てるファッションを推奨した。インターネットでの調査結果と水仙の助言に基づき、一樹は地味で清潔感のある服装を整えることとなった。
蒼依との水族館デートと衣装の描写
五月晴れの下、一樹は蒼依と共に水族館を訪れた。蒼依は白いワンピースを着こなし、その清楚さと美しさで周囲の風景に映えていた。緊張する一樹は、礼儀として水仙に教わった褒め言葉を口にし、蒼依からも褒め返されることで、互いの関係が一歩前進した。
水族館の背景と施設の発展
水族館は花咲市の海沿いに位置し、三〇年前に花咲グループが地元還元事業として設置した施設であった。地元の魚介類を活用し、天然の海水を引き込む構造により運営コストを削減していた。無料の駐車場や食事処が功を奏し、黒字経営を維持しながら外来客も増加し、規模を拡大していた。
ジンベエザメ展示と伝承の紹介
最初に訪れた展示は、地下三階から地上三階にまたがる巨大なジンベエザメ水槽であった。その存在は来場者に圧倒的な印象を与え、館内には伝承や民俗学的知識も掲示されていた。ジンベエザメはかつて「ジンベイ様」とも呼ばれ、漁の吉兆とされていた歴史が紹介されていた。
カップル限定展示棟と怪異の再現
施設内に設けられたカップル限定展示棟に興味を抱いた一樹は、蒼依の手を取り中に入った。展示の意図を知らされないまま進むうちに、館内で「乾鮭の怪物」の展示に出会い、蒼依が驚いて一樹の手にしがみついた。この妖怪は京都に伝わる怪異であり、村人に人身御供を要求した過去を持つとされた。
妖怪伝承の再現と演出意図
乾鮭の怪物に関する展示は、江戸時代の伝承を基にしたものであり、人身御供の儀式、妖怪の姿、退治の逸話が紹介されていた。怪異は恐ろしいが、展示の意図はカップルに接近の機会を与える演出であり、一樹はその意図に乗じて蒼依を守る姿勢を示した。
陰陽師掲示板での反響とネットの雑談
デート後、陰陽師たちの掲示板ではその様子を撮影した写真が話題となった。地元の風景写真と偽りつつ、内容は一樹と蒼依の関係性を示唆するものとして注目され、虎狼狸掃討任務の完遂情報と共に、陰陽師の私生活や実力、血統の話題が活発に交わされた。
虎狼狸掃討作戦の正式発表と影響
掲示板の盛り上がりの中、陰陽師協会は虎狼狸の大発生とその駆除作戦について正式に発表した。豊川と一樹の二名が槐の邪神を調伏し、計八六五体の虎狼狸を駆除したことが明かされた。対応が遅れれば、日本全土にコレラが蔓延し、数十万人規模の死者が出た可能性もあるとされ、その迅速な対応が高く評価された。
第四話 歌唱奉納
成績順の席替えと担任の意図
中間テスト後の月曜日、一年三組では担任によって成績順の席替えが行われた。一樹は2位、蒼依は3位、沙羅は1位という結果であり、席順は窓際から順位順に配置され、後列の陰陽同好会メンバーが固まる形となった。この席順には校内の治安維持や情報保護の意図が込められていたと、一樹は推察した。
授業後の雑談と豊川の印象
授業後、一樹は小太郎と豊川について語り合った。豊川は人間の文化に不慣れなものの誠実であり、過去の打ち上げでの狐たちとの交流からも、善狐としての側面が強調された。一樹の目には、豊川は現代に適応しきれないが信頼に足る存在として映っていた。
陰陽師国家試験に向けたメンバーの評価
陰陽同好会では、小太郎、柚葉、香苗の三名が国家試験を受ける予定であり、特に柚葉は龍神の娘として呪力が向上し、C級相当の実力を持つと評価された。香苗も呪力値は高く、練習次第で十分に合格圏に達すると判断されていた。試験合格により同好会の実績を築き、高校生活を安心して送ることが一樹の狙いであった。
蒼依の受験見送りと山姥化の懸念
蒼依はB級上位の実力を持つものの、山姥化の可能性と神域創造の途上にあるため、今年の受験は見送られた。陰陽師として注目されすぎれば、素性が明るみに出るリスクがあったためである。一樹は蒼依の将来的な安全と穏便な立場確保を優先し、受験を控える方針を固めた。
香苗の正体と承認欲求
香苗は妖狐の血を引くクォーターであることを告白し、自身の承認欲求についても語った。一樹と同好会の仲間たちはその告白を受け入れ、香苗の存在を肯定した。香苗は、音楽活動と陰陽師試験の両立を通じて、自らの価値を認められたいと望んでいた。
式神による試験対策と雪女の選択
香苗はE級上位の呪力を持つが、術の習熟が不十分であるため、三次試験に向けた対策として一樹は式神の使役を提案した。実力差が明確となる実戦形式において、式神の助力は不可欠であり、一樹は「雪女」の使役を香苗に勧めた。夏季に冬の妖怪を選ぶという意外性が示されつつも、合理的な戦略として提示された。
白馬大雪渓での雪女探索
賀茂一樹は、香苗・蒼依・沙羅と共に、長野県の白馬大雪渓へ雪女を調伏するため赴いた。雪女は夏に弱体化するため、使役目的で探すには適した時期と判断された。一行は登山道を徒歩で進み、険しい道のりを経て目的地に到達した。雪女は精霊に近く、物理的な絶滅は不可能であり、また人間と子を成す可能性を持つため、本格的な調伏対象から外れていた。
雪女の式神化を目論む理由
雪女は冬に強く、他の季節では使いにくいとされるが、一樹は充分な呪力を与えれば冬のように力を発揮できると考えていた。彼は香苗に対し、滑石製の勾玉を与え、その呪力によって式神を扱えるよう支援した。香苗は元々呪力を持たない一般人に近かったが、試験突破のためにこの力を得ることとなった。
柚葉との比較と戦力分析
香苗と同様に試験を受ける柚葉については、元々の能力が高く、母親が龍神に昇神したことによる加護もあったため、特別な準備は不要とされた。一樹は彼女に対し若干の不信感を抱きつつも、万が一敗北しても下積みからやり直せば良いと割り切っていた。
呪術陣による雪女の召喚
一樹は白馬大雪渓の万年雪上に、陰陽術における九字を模した「ドーマン」の陣を描いた。雪女は水属性の陰であるため、五行において「土剋水」と「水生木」の理に基づいた陣で封じ、木行へ誘導する形で顕現を促した。呪力を流し込むと、淡い光と共に雪上から少女の姿をした雪女が出現した。
出現した雪女と一樹の困惑
出現した雪女は中学生ほどの外見であり、力は未熟ながら独り立ちしたばかりの存在であった。彼女は現れるなり、一樹の周囲に女性が多いことを指摘し、意表を突いた発言で一樹を困惑させた。一方、沙羅はその雪女を「良い子」と評し、微笑ましい一幕となった。
自宅での静かな生活と前兆
賀茂一樹は平穏な生活を送っていたが、地獄から新たな波動を感じ取り、異変の兆候を察知した。彼は陰陽師としての責務を再認識し、再び行動を開始した。
地獄の異変と新たな冥府の王の出現
地獄では新たな冥府の王と称する存在が現れ、旧勢力の再編と共に混乱が拡大していた。一樹は地獄の安寧を保つため、現世からの介入を決意した。
かつての敵と仲間たちの再集結
過去に戦った敵と旧知の仲間たちが再び登場し、それぞれが異なる思惑で動き始めた。一樹は彼らの動向を把握しつつ、必要な協力を得ることで戦力を整えていった。
地獄の勢力との交渉と対立
一樹は新たな冥府の王と交渉を試みたが決裂し、戦闘へと突入した。地獄の法則と霊的存在との戦いが繰り広げられ、冥界における一樹の権威と力が改めて示された。
強敵との戦闘と陰陽術の極地
一樹は陰陽術の粋を尽くして強敵と渡り合い、その中で新たな術式を発現させた。霊的な存在との戦いにおいても優位を保ち、敵対勢力を退けていった。
現世への影響と霊災の阻止
地獄での動乱は現世にも波及しかけていたが、一樹は霊障の発生を未然に防ぐべく、強力な結界を展開した。彼の迅速な行動により、大規模な被害は回避された。
再構築される地獄秩序と新たな決意
最終的に、一樹は新たな地獄の秩序を構築し、自らが冥府の王として君臨する道を選んだ。その決断は、再び地獄に堕ちぬための覚悟の証でもあった。
第五話 黎明期
修行の再開と周囲の変化
賀茂一樹は、かつて封印された「大口真神」を撃退した後、祖父からの指導のもと再び修行に励んでいた。依頼をこなす日常の中、彼は一層の実力を蓄えていった。一方で、彼に関わる人々、特に春日弥生は一樹への敬意と信頼を深めていた。
新たな依頼と古の祟り神
ある日、一樹はかつての依頼人・霊能系YouTuberのカボエネから連絡を受ける。舞台は栃木県日光の山中にある古寺であった。そこには異常な霊的現象が続き、供養しきれぬ死者たちの想念が満ちていた。一樹は、式神たちと共に現地に向かい、その地を汚染していた「磯撫で神」という祟り神の存在を確認した。
式神との共闘と信仰の力
戦いの中、一樹は式神たちを巧みに使役し、古の神格と対峙した。磯撫で神は信仰を失った土地に根付いた存在であり、その力は強大であったが、一樹は春日神の加護と陰陽師の技を用いて、地縛から解放し、浄化を果たした。
封印解除と未来の兆し
戦いを終えた後、一樹は自らの信仰と陰陽術がかつてないほどに融合しつつあることを実感した。霊的存在の本質を理解し、神と人間の関係性を見つめ直す中で、彼は「神気」を自在に操る術へと到達しつつあった。春日弥生や他の仲間たちも、彼の変化に気づき、次なる戦いに備える意志を強くした。
新たな脅威の予兆
物語の終盤、一樹は都内で異常な気配を察知する。それは、前回対峙した「人造の鬼」とは異なる未知の存在であり、より大きな災厄の到来を示唆するものであった。一樹は、再び地獄のような戦いに足を踏み入れる覚悟を固めた。
柚葉の決意と龍神の加護を用いた護符作成
柚葉は国家試験において、六枚の守護護符を三時間で作成するという二次試験に臨んだ。陰陽同好会に所属する彼女は、賀茂一樹の役に立つことを強く望んでおり、自身の将来を一樹の元で働くことに重ねていた。母龍の力を引き出すことで霊符に強力な加護を与え、神女としての資質を発揮した。柚葉の霊符には、一般的な陰陽師が達し得ない次元の力が籠められており、試験を超えた水準の作品であった。
香苗の霊視と白狐による守護符創造
香苗は試験開始と同時に霊的ヴィジョンを受け、白狐と金狐という二体の霊的存在を視認した。彼女は陰陽道の形式に則りながらも、玄武ではなく白狐のイメージを選び、護法神の入魂を行った。白狐と金狐は守護の意思を強く持ち、霊符には圧倒的な忠誠と防衛意識が刻まれた。香苗の呪力が護符に分配されると、二体の狐は持ち主を死守する意思を明確に伝え、六枚分の加護が整えられた。
五鬼童凪紗の天才的技量と孤高の実力
五鬼童家の凪紗は、試験において群を抜く天才としての実力を見せつけた。鬼神と大天狗の力を自在に操る才能を持ち、その力量は姉である沙羅と同等かそれ以上とされた。護符作成においても彼女は二〇分で一枚を仕上げ、その後も同等品を次々に完成させていった。同世代に対抗者はおらず、年上の義一郎をも超える能力を備えていた。凪紗は、もし一樹と同世代であれば自身がその役目を担っていたと考えるも、現実を受け入れていた。
試験結果と掲示板での反響
試験終了後、掲示板では成績の速報が共有され、凪紗が一位、香苗が二位、柚葉が三位という結果が示された。前年の一位であった一樹と比較される形で今年の結果は驚きを持って受け止められた。掲示板では、彼女らが所属する花咲高校や陰陽同好会の背景、指導者の系譜、符呪の構造、さらには賀茂家の伝承とその霊符作成技術について、専門的かつ活発な議論が展開された。
賀茂式符呪への評価と期待
賀茂家が用いた符呪の入魂法「急急如律令」は、五つの印を組み合わせた複雑なものであり、陰陽師の伝統に基づく深い知識と技能が求められた。この術式は、既存の陰陽師たちの常識を超える効果を発揮し、国家試験の合格率を劇的に引き上げると評価された。将来的には賀茂父への弟子入り希望者が殺到すると予測され、その教育的資産の希少性が浮き彫りとなった。
エキシビションマッチの検討と戦力分析
義一郎は国家試験後の余興としてエキシビションマッチの再実施を提案し、一樹は凪紗の実力を考慮しつつ、柚葉と香苗の力量差に着目して反対の意志を示した。凪紗はB級中位、香苗はC級中位、柚葉はC級下位とされ、その戦力差は歴然であった。一樹はこのままでは試合にならないと見積もったが、義一郎が二人の昇格を支援する意図があることに気づき、試合を受ける決断を下した。
補助戦力と呪力強化の方策
香苗には滑石製の勾玉が一つ譲られ、柚葉は龍神由来の呪力を受けて強化された。両者の呪力総量は一万程度まで引き上げられ、凪紗との差が幾分縮まった。試合に使える呪具は譲渡されたものに限られ、不正行為は厳しく禁じられているため、一樹は式神化や呪力の流し込みといった手段で補助する方針を取った。
試合前の凪紗との対話と因縁
試合当日、凪紗は香苗と柚葉に声をかけ、柚葉の呪力強化を見抜いた。彼女は見鬼の力を持ち、相手の気や所持品の呪力を即座に把握できる才能を備えていた。花咲高校への進学を希望する凪紗は、沙羅の反対を受けており、その背景には一樹への個人的関心があった。柚葉は凪紗の進学希望を素直に肯定し、会話を終えた。
エキシビションマッチの開戦と式神召喚
試合が始まると、凪紗は金翅鳥を想起させる金色の翼を出現させ、猛然と突進してきた。これに対抗して香苗は滑石の勾玉を使い、霊符試験で見た白狐と金狐の式神を召喚した。白狐は近接戦闘、金狐は遠距離支援を担い、巧みに凪紗の攻撃を捌いた。柚葉も神降ろしにより母龍の力を得て、不知火の術で鬼火を迎撃した。
凪紗との拮抗と戦術の駆け引き
凪紗の放った鬼火に対し、香苗と柚葉は次々と対抗したが、凪紗の呪力は二人の合計をも上回る圧倒的なものであった。それでも白狐の水蜘蛛の術による空中戦、金狐の破魔矢、柚葉の不知火による持久戦で、互いの守護護符を削り合う激戦となった。凪紗の力をもってしても、狐の特攻と柚葉の神懸かりの術により、試合は次第に拮抗していった。
雪女・雪菜の参戦と勝敗の決着
追い詰められた香苗を凪紗が狙ったその時、香苗が召喚した雪女・雪菜が猛吹雪と共に出現し、氷雪華の術で凪紗を包囲した。凪紗は抵抗したものの、右肩への攻撃が護符に致命的な損傷を与え、凪紗側のランプが赤に変わって試合が終了した。呪力を使い果たした香苗は座り込んでいたが、彼女のランプは青、柚葉のランプも二枚の護符を残して黄色のままであった。
世代を超えた下克上の瞬間
陰陽術を始めてわずか四ヶ月、しかもC級の呪力しか持たぬ香苗と柚葉が、A級常連・五鬼童家の天才・凪紗を破るという奇跡のような下克上が達成された。この勝利は陰陽師試験会場にいた者たちに衝撃を与え、会場内外に強い余韻を残した。
エキシビションマッチ再提案と一樹の懸念
義一郎は前年と同様に国家試験の余興としてエキシビションマッチの実施を提案した。一樹は香苗と柚葉の呪力が凪紗に比して著しく劣ることから、当初は参加を拒否した。しかし、義一郎の真意が二人の昇格を支援するものであると理解し、昇格制度の実情や支援の妥当性を踏まえた上で最終的に参加を決断した。
香苗と柚葉の強化策と呪力計算
香苗には滑石製の勾玉三個が提供され、合計でC級上位相当の呪力を獲得した。柚葉もまた、龍神から授かった龍気の端数を用いて一段階強化され、C級中位へと到達した。二人の呪力総量は合計約一万に達し、凪紗のB級中位(約二万)に対して半分程度まで近づいた。
試合形式と戦術構想
エキシビションマッチは実戦形式ではなく、守護護符三枚による安全な競技形式で行われるため、一樹は二人に不利な戦況下での学びを得させる好機と捉えた。式神の使役による間接的支援と、直接的な呪力供与を通じて二人を後方から支える方針を固めた。
試合直前の凪紗との接触と見鬼の能力
試合前、凪紗は香苗と柚葉に接触し、柚葉の呪力増加を瞬時に見抜いた。彼女は見鬼の力を持ち、気の流れと呪物の存在を即座に把握することが可能であった。さらに、凪紗は花咲高校の受験希望を語るが、最大の反対者が沙羅であると明かし、香苗と柚葉はその因縁を察した。
試合開幕と各陣営の布陣
試合開始と共に、凪紗は金色の翼を纏い、天狗のような高速突撃で襲いかかった。香苗は二尾の白狐「洞泉寺源九郎」と金狐を召喚して迎撃し、柚葉は神降ろしによって母龍の意識を顕現させ、不知火の術で間接支援を行った。
凪紗との激戦と式神の奮闘
白狐は空中戦を展開し、水蜘蛛の術による三段跳びで凪紗に致命打を与えた。金狐も破魔矢で凪紗の翼を封じ、凪紗を地に引きずり下ろした。凪紗は鬼火と薙刀を駆使して式神たちを撃破し、護符の一枚を削られながらも金狐と白狐を順に討ち取った。
最終局面と雪女・雪菜の出現
戦力を失った香苗に凪紗が襲いかかった瞬間、猛吹雪と共に雪女・雪菜が登場し、「氷雪華」の術で凪紗にトドメを刺した。凪紗の右肩に集中攻撃を受けた結果、守護護符が破壊され、凪紗側のランプが赤に変わって試合が終了した。
逆転劇の余韻と世間の驚愕
香苗は力尽きて座り込んだが護符は無傷、柚葉も二枚を温存しており、勝利は明白であった。A級常連の五鬼童家、その中でも天才と称された凪紗を、陰陽術歴わずか四ヶ月の香苗と柚葉が討ち果たしたことに、会場は驚きと感嘆に包まれた。
白狐・源九郎の来歴と魂の継承
香苗が召喚した白狐「洞泉寺源九郎」は、かつて源義経に仕えた霊狐であり、静御前が打つ鼓の音に導かれて生まれた伝承上の存在であった。江戸時代に毒殺され、豊川稲荷に魂が留まっていたが、香苗の歌唱奉納によって魂の欠片が託され、今回の戦いに現世の姿を顕現させた。
第六話 逢魔時
陰陽師同好会の打ち上げと幽霊巡視船の式神化
国家試験から四日後、一樹は花咲高校陰陽同好会のメンバーを引き連れ、瀬戸内海でクルーズを実施した。会場となったのは、B級の幽霊海賊船に対抗するために式神化された巨大巡視船であり、全長117メートルの構造はホテル並の設備を備えていた。一樹の式神運用により、乗船中でも巡視船は自動的に妖怪を調伏し、乗員らも式神として機能していた。
メディア取材の制限と協会の力学
香苗はC級でB級の凪紗を打ち破ったことについて、世間が騒がないことに疑問を抱いたが、一樹は「受験生への取材は協会により厳しく制限されている」と説明した。これは、優秀な陰陽師を守るための制度であり、ルールを破るメディアに対しては霊的制裁が加えられる恐れもあるため、メディアも従順であった。協会には強大な霊力を操る人物が存在し、敵対者への呪詛や報復が黙認されていた。
花咲グループの影響と経済的連携
同好会の打ち上げ費用は花咲理事長の私費から支払われており、花咲家の息子である小太郎の合格を祝う名目も兼ねていた。陰陽師の活躍は花咲グループの信用向上に直結しており、不動産の除霊やブランド戦略を通じて巨額の利益が生まれていた。理事長は陰陽師を含めたグループの活動を支援することで、実利を最大限に享受していた。
沙羅の解説による凪紗の戦術の真相
沙羅は一樹に対し、凪紗が放った鬼火の実体は意識を失った浮遊霊であり、呪力によって操作されているに過ぎないと説明した。そのため、凪紗の才能というよりも術式運用と呪力量が勝因であり、意外にも安全性が高い戦法であるとされた。凪紗の多様性と汎用性は高く、将来的なA級昇格も確実視されていた。
沙羅と凪紗の比較と昇格判断
一樹は沙羅の実力もB級中位に達しており、地蔵菩薩と龍神の加護に加え、翡翠製の勾玉を保有している点から凪紗を上回る可能性を指摘した。沙羅は昇格について一樹の判断に任せると述べ、会話に加わった柚葉が半ば巻き込まれる形で昇格議論に絡められた。
無縁仏の処理と静岡県統括の霊障対応
一方、場面は富士霊園へ移り、無縁仏の供養と管理に追われる僧侶と静岡県統括の陰陽師・高倉のやりとりが描かれた。無縁仏は怨霊化しやすく、僧侶の供養にも限界があるため、高倉は直接祓うことで霊障を除去していた。協会は宇賀の指示のもと、全国の霊園で定期的に霊障を確認・調伏する体制を築いていた。
高倉の退任と後任への引継ぎ
高倉は来年には退任する意向を明かし、後任には殉職した前統括の息子が任命される予定であった。彼は復讐を目的に静岡赴任を志願し、協会もそれを了承していた。高倉は引退に際し、名誉職と退職金を得て穏やかに去る立場にあり、後任の若き陰陽師には既にB級昇格が見込まれていた。
僧侶の正体と羅刹の復活
高倉が霊園を去った後、僧侶の正体が羅刹であったことが明かされた。羅刹は地獄の獄卒とされる存在であり、日本各地に伝承を持つ魔族である。僧侶に擬態していた羅刹は、荒ラ獅子魔王の復活を奉じ、富士霊園を贄に用いることを宣言した。羅刹は地に伏して魔王の命を待ち望み、復活の狼煙が上がることを歓喜をもって迎えた。
深夜の異変と感知能力による警戒
瀬戸内海クルージングから帰宅した深夜、一樹は異常な気配に目を覚ました。気を飛ばして探査した結果、花咲市内に脅威はなく、遠方に自分以上の霊力を持つ存在が出現したと判断した。一時的に対応を見送り、念のため巡視船の警戒体制を強化して再就寝した。
蜃の出現と避難命令の発令
早朝、テレビの緊急放送により、静岡・山梨・神奈川の各地域で妖怪災害による避難命令が発令された。蜃と呼ばれる巨大な龍のような存在が出現し、自衛隊が演習場から砲撃を続けていたが、物理攻撃はすり抜けて効果を示さなかった。政府は状況の打開を協会に依頼し、臨時常任理事会が招集された。
協会理事会と蜃の正体の判明
協会長・向井の指導で会議が進行し、宇賀は妖怪の正体を「蜃」と断定した。蜃は中国の古典にも記された、蜃気楼を吐く巨大龍の一種であり、蛟竜と同属に分類される霊的存在であることが説明された。蜃にはハマグリと混同された経緯もあるが、歴史的にも正統な解釈は龍とされていた。
蜃への対応方針と原則の適用除外
協会は通常「一等級下の存在と戦う」原則に従っていたが、蜃がA級を超える脅威であると判定されたため、序列上位三名の参戦を回避する判断を下した。宇賀は一樹に対し、逃走計画と事前の広報対応も同時に準備するよう助言した。
作戦準備と戦力配備
午後、蜃は御殿場市を経由して北富士演習場方面へと進行。山中湖に展開された幽霊巡視船に一樹が搭乗し、遠距離からの砲撃準備が進められた。誘導には協会長・五鬼童・花咲らA級陰陽師が参戦し、各地の支部から攻撃用の呪符も搬入された。
蜃の危険性と被害予測
蜃は霊的攻撃を吸収し、ダメージを回復する能力を持ち、半径数百メートル以内に入った人間を即死させる妖気を放っていた。東京都心部への到達を阻止すべく、協会は全力対応を決定し、A級四位から七位までの陰陽師が総動員された。
豊川稲荷からの加護と支援
良房(三尾の狐)が巡視船に現れ、かつての香苗への奉納に対する返礼として一樹を守護した。香苗が得た強化は、泰山府君の神気を籠めた霊具と歌唱奉納によるものであり、三尾の加護はその見返りであった。
各陰陽師の特性と協力関係
協会長・向井は狸系の式神を駆使し、花咲は犬神、五鬼童は飛行型の鬼火によって誘導を行った。良房との会話では、向井が伝説の化け狸「守鶴」の子孫である可能性が示唆され、その呪力の高さが遺伝に由来することが語られた。
蜃への砲撃開始と霊弾の効果
蜃が射程に入ると、フェーズ三として一樹の操る巡視船が霊弾による砲撃を開始した。毎分330発、時速約3,675kmの速度で発射される砲撃は蜃の腹を貫き、吐き気と白煙を伴って苦しませた。被弾した蜃は妖気を吐いて周囲を白く染めたが、遠距離の巡視船には届かなかった。
蜃の沈黙とフェーズ四への移行
一樹は呪力の8割を費やし、蜃の動きを完全に停止させるまで砲撃を継続した。これによりフェーズ三は終了し、義一郎・協会長・花咲の三名がトドメを刺すべく接近した。
突如の異変と新たなる怪物の出現
しかし蜃の体から激しい白煙が立ち上り、その中から身の丈五丈(約15m)を超える巨大な獅子鬼と、牛鬼にも匹敵する醜悪な黒鬼が現れた。蜃は倒されたわけではなく、さらなる変異と新たな脅威を内包していたことが明らかとなった。
義一郎と獅子鬼の交戦
獅子鬼が跳躍し、義一郎に斧を振り下ろした。義一郎は桃色の膜で衝撃を和らげたが、吹き飛ばされ富士山の山肌に激突した。彼の懐から現れた桃色の海鳥は、水弾を放って獅子鬼に反撃し、酸性物質に近い効果で苦しめた。海鳥の正体は、かつて一樹が無人島で見た女性の簪であり、最終的に獅子鬼の斧によって破壊され、消滅した。
戦況の悪化と撤退命令
諏訪頼軌の託宣により、陰陽師全体に撤退命令が出された。一樹は巡視船の甲板へ走り、花咲の元には黒鬼が接近していた。中級陰陽師の花咲は黒鬼の斧によって命を落とし、犬神も消滅した。協会長は車で北へ逃げ、黒鬼はそれを追跡したが、協会長は呪符で応戦した。
良房と獅子鬼の白狐戦
獅子鬼は新たな斧を生み、山中湖へ向かう。一樹は巨大な鳩で空中へ脱出し、良房が白狐に変化して時間を稼ぐために獅子鬼に突撃した。一樹の「鳴弦」の術により亡者の手が獅子鬼を捕え、白光の矢と白狐の攻撃が続いた。狐火によって獅子鬼は右手を焼かれ、白狐に食いちぎられた。
連続攻撃による獅子鬼の劣勢
白狐の攻撃と白虎の祓の矢により、獅子鬼は両手に大きな損傷を負った。怒りに任せて白狐を蹴り飛ばし、術が解けた狐は人型に戻って消滅した。白狐の敗北と共に一樹の姿も消え、戦場は獅子鬼の咆哮に包まれた。
羅刹と蜃の撤退
獅子鬼は羅刹と蜃に撤退を命じた。蜃の気によって姿を隠した三体は、自衛隊の包囲下で姿を消した。
戦後処理と協会の対応
臨時常任理事会の開催と損害の確認
富士山麓の戦いから四日後、協会は臨時会議を開いた。義一郎は脊椎損傷により再起不能となり、花咲は戦死した。宇賀と豊川は、事前の準備があったからこそ最悪は回避できたと述べた。
避難区域の状況と被害
神奈川県の一部を除いて避難命令は継続された。護符なしで立ち入った住民は蜃に殺され、道路も封鎖された。
魔王勢力の正体と脅威
宇賀は、魔王がS級中位、羅刹がA級中位、蜃がその式神であると分析した。獅子鬼が呪力を蜃の回復に充て続けた結果、蜃は倒されず撤退を選んだ。一樹や良房の攻撃が重なり、魔王は手傷を負っていた。
仏教的序列と戦力の再評価
神格と仏格による考察
毘沙門天に敗れた魔王の過去から、地蔵菩薩の神気も有効であると推定された。だが蜃気楼による逃走力により、捕捉は困難であるとされた。現代兵器の効果も限定的であった。
陰陽師の後継と昇格の検討
宇賀は花咲家の後継と五鬼童家の嫡男の昇格を提案し、B級陰陽師の拡充を要望した。一樹は沙羅と凪紗をB級に推薦する旨を表明した。
天邪鬼
始まりの相談と猩々の風習
卿華女学院の中等部に通う伏原綾華は、クラスメイトの若槻姚音から放課後に呼び止められ、陽鞠と共に談話室で相談を受けた。姚音の出自は和歌山県・天神崎に住まう妖怪「猩々」であり、その村には人間との婚姻を通じて血を繋ぎ土地を守るという古い風習が残されていた。笛を吹いた者に猩々の娘が付き従う風習は、人身御供的な性格を帯びており、姚音の一族は弱い妖怪ゆえ、強者との縁故を築いて生存を図ってきた。
天邪鬼の登場と意地悪な要求
姚音の村には現在、女鬼「天邪鬼」が居座っていた。天邪鬼は心を読んで嫌がることを要求する性質を持ち、村長が娘を嫁に出すことを拒んだ心を読み取って逆に「娘を寄越せ」と迫っていた。しかも天邪鬼は醜く中年太りで、明らかに嫌悪感を抱かせる存在であり、かつて富士山を削ろうとした伝承も持つほど強力な存在であった。
一樹の出動と村への同行
一樹は姚音の依頼を受けて村に赴くが、綾華と陽鞠も同行を望んだため、共に村を訪れた。村では、牛鬼に匹敵する呪力を持つ天邪鬼が待ち構えており、醜い容姿と嫌味な態度で綾華たちを品定めしていた。呪力を計測した一樹は、正面からの力比べでは勝ち目がないと判断したが、天邪鬼の心を読ませぬよう策略を立てていた。
力比べの勝負と天邪鬼撃退作戦
一樹は「小元島をどちらが早く崩すか」で勝負することを提案した。天邪鬼が得意げに島へ駆ける中、一樹は事前に潜伏させていた幽霊巡視船からの砲撃命令を下した。天邪鬼は島へたどり着く前に砲撃され、神気を込めた弾丸により重傷を負った。砲弾には地蔵菩薩の神気が籠められ、天邪鬼を押さえつけていた明王すら超える霊格によって効果を発揮した。
圧倒的優勢と天邪鬼の撤退
一樹はさらに複数の式神を召喚し、呪力総量でも天邪鬼を二倍以上上回った。天邪鬼は戦況の悪化に焦りを見せ、内心の困惑が演技だったと知って怒りを爆発させたが、砲撃の前に力を削がれ、ついには海中へと逃亡した。追撃は続けられたが、天邪鬼の完全撃破には至らなかった。
村の反応と奇妙な結末
村長は一樹の力を高く評価し、「娘を連れて行ってくれ」と婚姻を認める発言をした。猩々の村では強い者に娘を託して守ってもらうことが習わしであり、村人たちも一樹を婿として歓迎する構えを見せた。陽鞠はこれに反発し、「一樹は予約済み」と宣言して一樹の左腕に縋った。最終的に姚音までもが綾華に「お義姉ちゃんと呼ぶか」と冗談めかして尋ねるが、綾華と陽鞠の冷たい視線を受けた一樹は、天を仰いで現実逃避するしかなかった。
同シリーズ






同著者作品

類似作品





その他フィクション

Share this content:
コメントを残す