小説「嘆きの亡霊は引退したい 12 王位継承戦」感想・ネタバレ・アニメ化

小説「嘆きの亡霊は引退したい 12 王位継承戦」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジー・勘違いコメディである。主人公クライを巡る誤解や誤動作を軸に、仲間育成と戦闘を盛り込んだ構成を持つ。
内容紹介
クライはレベル9昇級試験として、高機動要塞都市「コード」へ無理やり潜入することとなる。そこで彼は、コード王の末娘アリシャ・コードと接触し、なぜか王位継承戦に巻き込まれてしまう。さらに、コードの牢獄に囚われていた“偽者パーティ《嘆きの悪霊》”の面々を救出し、クラヒ・アンドリッヒらとともに、空中都市を舞台とした戦いに挑むことになる。 

主要キャラクター

  • クライ・アンドリッヒ:本作の主人公。最弱と評価されつつも、予感と指揮力で状況を打開しようとする人物である。
  • アリシャ・コード:コード王の末娘。クライと関わる中で王位継承戦へ巻き込まれる重要人物である。

物語の特徴

本巻の最大の見どころは、「舞台の拡大」と「勘違い要素」の深化である。空中都市という異質な場所での戦い、王位継承戦という国家的スケールの事件への巻き込み、そして偽者パーティの救出というドラマティック展開が絡み合う構成となっている。読者はただの力比べではなく、誤認・策略・心理戦の読み合いにも引き込まれるであろう。また、クライという“誤解されがちな最弱”主人公が、周囲に振り回されながらも自らの道を切り開こうとする姿勢が本作の魅力を際立たせている。

書籍情報

嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 12
著者:槻影 氏 (独占インタビュー)
イラスト:チーコ  氏
出版社/レーベル:マイクロマガジン社GCノベルズ
発売日:2024年9月30日
ISBN:9784867166383

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あらすじ・内容

レベル9昇級試験で高機動要塞都市コードに(いやいや)潜入したクライ。
コード王の末娘であるアリシャ・コードと接触し王位継承戦に(なぜか)参加することになってしまった彼は、コードの牢獄に囚われていた偽者パーティ《嘆きの悪霊》の面々、そして《千天万花》クラヒ・アンドリッヒと共に空中都市を舞台にした戦いに挑むのだが……!?

TVアニメ決定なのに頼れる仲間は全員お留守番!
前代未聞の勘違いファンタジー、待望の12巻!!

嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 12

感想

今回もクライは、期待を裏切らずに、いや、期待を遥かに超えて、騒動を巻き起こしてくれる。レベル9昇級試験で潜入した高機動要塞都市コードで、彼はまたしても、とんでもない事態を引き起こしてしまうのだから、本当に目が離せない。

今回の舞台は、コード王の王位継承戦。クライは、コード王の末娘であるアリシャ・コードと出会い、成り行きで王位継承戦に参加することになる。しかし、いつものように、彼はただ引っ掻き回すだけではない。クライの行動は、死に際の王までも動かし、事態は思わぬ方向へと転がっていく。

また、クライが行方不明になった際、姫が泣いているのを見ていられなくなり、土産を買い忘れたと言って帰ろうとしないクライを王が叱りつけて帰らせるシーンも心に残った。王は人の気持ちを理解し、行動できる優しさを持っていることが伝わってくる。

そして、今回の物語で特筆すべきは、《千変万化》の異名を持つ彼にしかできない方法で、アリシャ姫を外の世界へと連れ出す姿は、まさに圧巻だった。いつもながら、クライは色んな思惑を雪だるまのように巻き込み、予想外の結果を叩き出す。血で血を洗う争いをするはずだった兄弟姉妹が、最終的に仲良くする所まで持っていく手腕は、もはや尋常ではない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

クライ・アンドリヒ

外部の探索者であり、《千変万化》として知られる策動家である。アリシャの近衛となり、王塔での一連に深く関与したのである。
・所属組織、地位や役職
 アリシャ近衛。クラス7保有者。
・物語内での具体的な行動や成果
 王に直訴してチョコレート製造の猶予承認を引き出した。王塔最上階で王杖に触れ、停止プロトコルを起動させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王からの昇格によりクラス7となった。行動が都市全体の進行に直接影響した。

アリシャ・コード

幽閉されていた第六子であり、クライの補佐で外出を実現したのである。都市同調で思考加速を行い、実戦で成果を示した。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。クラス8。
・物語内での具体的な行動や成果
 万能接続ユニットでジーン・コードを圧した。王塔突入で宝玉と端末を確保した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 幽閉解除により行動範囲が拡大した。市民の前で影響力を得始めた。

クロス・コード

現王であり、王位継承戦の設計者である。晩年に規範を緩め、アリシャ扉の黙許に踏み切ったのである。
・所属組織、地位や役職
 コード王。王塔管理者。
・物語内での具体的な行動や成果
 王命体系を維持しつつ通達で介入した。臨終前にクライへ謝意と託宣を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 崩御により王位が空位となった。遺した設計が全勢力へ影響した。

アンガス・コード

第一子であり、兵器偏重の体制で優位を築いたのである。広域展開で他派を圧した。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。第一エリア管轄。
・物語内での具体的な行動や成果
 機装兵と無力化ガスを量産した。ジーン・ゴードンを参謀に据えて布陣を固めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王崩御後の最有力に数えられた。外征を視野に計画を進めた。

ノーラ・コード

強化騎士団を育成し、兵士中心の派閥を築いたのである。都市設計で市民鍛錬を制度化した。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。近衛騎士団主導。
・物語内での具体的な行動や成果
 研究資源を投じて強化人間を量産した。クライの行動を裁量で黙認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦力整備で勢力を拡大した。封印指定の扱いを検討対象にした。

トニー・コード

人脈と融通で影響を広げたのである。物資と施設の即時建設で賑わいを生んだ。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。調整役。
・物語内での具体的な行動や成果
 小型クモを試作しクライへ貸与した。屋台群を整備して人流を創出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 経済風の導入で統治手段を拡張した。外者対応で評価を得た。

モリス・コード

外周部の弱小派であり、巨大機装兵に活路を見出したのである。ケンビ来訪で計画が破綻した。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。外縁エリア管轄。
・物語内での具体的な行動や成果
 人操式機装兵のコアをユニット化してアリシャへ託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 切り札喪失で影響が縮小した。アリシャ支援に転じた。

ジーン・コード

権限奪取で宣戦を布告した王族である。門前に三枚の切り札を配置した。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。臨時統率者。
・物語内での具体的な行動や成果
 傭兵と模造兵を混成した。王塔内でアリシャに劣勢となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王命奪取で一時的に主導を握った。内部戦で後退した。

ジーン・ゴードン

アンガスの片腕であり、製造と戦術試験を統括したのである。
・所属組織、地位や役職
 アンガス陣営。参謀。
・物語内での具体的な行動や成果
 カイの性能試験で対雷耐性を検証した。兵器配備を管理した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 陣営の実務を担い発言力を強めた。

クラヒ・アンドリッヒ

雷で肉体を鍛え上げた武人である。防衛砲火を突破しつつ生還した。
・所属組織、地位や役職
 外部の大戦力。《雷帝》。
・物語内での具体的な行動や成果
 王塔前面でカイザーと交戦した。ケンビをクウビへ分担した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 都市内で「英雄視」を受けた。監視対象の筆頭となった。

カイザー・ジグルド

近接戦に秀でる切り札である。命令下の仮面運用を受けた。
・所属組織、地位や役職
 アンガス側戦力。門番の一枚。
・物語内での具体的な行動や成果
 門前で《雷帝》を押し返した。拘束後に戦線整理へ移行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 仮面破砕で制約から解放された。個の脅威が再確認された。

サヤ・クロミズ

不可視群体“さらさら”を視認・使役する者である。長時間戦闘の耐久に優れる。
・所属組織、地位や役職
 アンガス側戦力。門番の一枚。
・物語内での具体的な行動や成果
 ケンビと空尾の動きを同時に封殺した。仮面拘束を内側から剥離した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 能力の本質が露見した。戦局を反転させた。

ケンビ(剣尾)

九尾の影狐の最高位であり、飛ぶ斬撃で施設を断ったのである。
・所属組織、地位や役職
 九尾の影狐・首級。モリス近衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 巨大機装兵を一刀で無力化した。門番として威圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 対都市兵器優位を示した。脅威認定が最高段階となった。

空尾(クウビ)

同組織の重鎮であり、途中で方針転換したのである。
・所属組織、地位や役職
 九尾の影狐。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦線を崩す内側からの一撃を行った。過去因縁を理由に離反した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 同盟網の再編を引き起こした。信頼性が低下した。

ザカリー・コード

消息不明とされた王族であり、下級民の庇護者である。地下拠点で勢力を保った。
・所属組織、地位や役職
 コード王族。影の指導者。
・物語内での具体的な行動や成果
 “権限外空間”でネットワークを維持した。《雷帝》を最後のピースと評した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 存在の再出現で局面に影を落とした。動員を加速した。

オリビア

アリシャ側の侍従長であり、現実対応を促す実務責任者である。
・所属組織、地位や役職
 アリシャ侍従長。運用管理。
・物語内での具体的な行動や成果
 近衛機装兵の権限移譲を進めた。情勢変化を速やかに共有した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 混乱下で信認を保った。意思決定を支えた。

ジャン

アリシャ側の実務官であり、情報整理を担ったのである。
・所属組織、地位や役職
 アリシャ側近。管制補佐。
・物語内での具体的な行動や成果
 王の黙許の危険性を指摘した。会議の予兆を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 助言機能で判断を補強した。現場連絡を維持した。

ザザ

ノーラ領の若者であり、洞察力により異例の任を受けたのである。
・所属組織、地位や役職
 ノーラ領市民。お目付け役。
・物語内での具体的な行動や成果
 クライの案内を務めた。ノーラからの直指示を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 昇格の機会を与えられた。現地調整で役割が拡大した。

ルル

ノーラ領の少女であり、街案内と危機対応で存在感を見せたのである。
・所属組織、地位や役職
 ノーラ領市民。訓練参加者。
・物語内での具体的な行動や成果
 チャージスタンドへ案内した。転落時に救助対象となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外者との交流で視野が広がった。周囲から信頼を得た。

クトリー・スミャート

下級民ネットワークの案内役であり、地下導線を開示したのである。
・所属組織、地位や役職
 下級民側調整役。
・物語内での具体的な行動や成果
 “権限外空間”へ誘導した。口頭連絡で傍受を回避した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ザカリー系の動員に寄与した。情報経路の要となった。

ハット

探索者協会の職員であり、事後処理の中心に立ったのである。
・所属組織、地位や役職
 探索者協会・本部職員。
・物語内での具体的な行動や成果
 市民救助と犯罪者処理を統括した。残骸保全の調整を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 業務過多で現場が逼迫した。対外調整の負荷が増大した。

展開まとめ

第12部王位継承戦Chapter XII “GAME OF THRONE”

Prologue 待ち

コード潜入と任務の整理
クライは高機動要塞都市コードに潜入し、王と王族を保護して都市外へ退避させる任務に就いていた。都市が機動能力を回復して征服を開始する前が期限であり、危険度は高かったが、クライは都市システムそのものへの関心も抱いていた。コードでは居住者の衣食住が自動化され、クラスに応じた機能が付与されると把握していた。クライはアリシャ王女の近衛となり、ノーラ王女とも接触していたため、自身の割当分は概ね完了と判断して待機姿勢を取っていた。

クラヒ来訪と行動要請
クラヒがクールら仲間を伴って訪れ、手助けの可否を求めた。クライは大役の丸投げを避けつつも王族の保護が可能かを試みに示唆したが、クールは無謀と制止した。情勢説明を要するため、クライは段階的に実行する方針に切り替え、まずアリシャの部屋の扉の解錠可否をクラヒに問いかけた。

防衛システムの発動と離脱
クラヒが扉に接近した瞬間、扉周囲と廊下全体に銃塔群が顕現し、物理弾が嵐のように射出された。クラヒは雷を纏って回避を続けたが、攻撃は建物破壊を回避する形で継続し、扉への雷撃も床や天井に吸収され無効化された。防衛システムは標的をクラヒに固定して追尾を続け、クラヒは窓に開いた穴から外へ離脱した。以後、同ビルに戻れば再発動することが判明し、クライは不測の誘発を悔いた。

アリシャの権限とチョコバー
アリシャは王に連絡できる立場にあり、かつてチョコバー入手のため物質送付システムの復旧を認めさせていた。クライは防衛停止の可否を問い、アリシャは王に要請したが却下された。王族に弓引く行為の抑止は重い規範であり、知識導入の便益とは次元が異なるとアリシャは説明した。クライは状況の打開に至らず、当面の行動を保留した。

クロス・コードの視点と王位継承戦
王塔最上階のクロス・コードは、王位継承戦を第三子トニー、第二子ノーラ、第一子アンガスの駆け引きとして注視していた。スペアとして造られ幽閉された第六子アリシャの動きは想定外であり、防衛解除要請も受け入れなかった。過去に探索者協会の魔導師集団の襲撃により王命を消費した経緯から、都市は魔導師対策を完了しており、アリシャ室の扉が《雷帝》にも破れなかった事実をもってシステムの有効性を確認していた。クロスは外界の菓子を投げ捨てつつ、コードに存在しない物の価値を一瞬思案し、直近の継承戦と外敵警戒を優先したのである。

クールの自省と《千変万化》の格
クールは《千変万化》の名声を利用して《嘆きの悪霊》を立ち上げた判断が誤りであったと悟った。神算鬼謀は成果によってのみ証明され、素人目にもわかる「意味不明さ」と「結果」の両立こそが本物の格であると痛感したのである。

クラヒの離脱と戦闘能力の更新
防衛システムの集中砲火を受けたクラヒ・アンドリッヒは、雷による自己強化で肉体を鍛え上げており、高層からの飛び降りでも無傷で離脱した。奥義「雷槍天滅神来花」の不使用をクールが諫め、アリシャの安全を優先する判断が確認された。

拠点再構築と王族保護の課題
クラヒは「誰でもよいから王族を保護する」というクライの要求を実行に移す決意を示したが、都市全域の監視と王族側の最大警戒が障壁となっていた。特に所在不明のザカリー・コードは王の権限なしには探知不能であり、常道では手が出せない状況であった。

下級民ネットワークへの接近
クトリーの案内で一行は下級民の拠点へ向かった。都市システム外で生存する彼らは独自のネットワークを保持し、外部者である《雷帝》を“英雄視”して受け入れる姿勢を示した。会話がクラス8に盗聴されないとする自信の根拠の提示が求められた。

隠し導線と“権限外空間”
拠点ビルの通路から地下への隠し階段が開示され、都市システムの干渉を避ける“権限外空間”が示唆された。下級民が武装していた点についても、単なるシステム欺瞞ではなく、より強固な後ろ盾の存在が示唆された。

ザカリー・コードの顕現
地下の小室で玉座にいたのは、消息不明とされた王族ザカリー・コードであった。王族相互でも把握不能な秘密は隠匿可能という構造により、下級民は事実上ザカリーの庇護下にあった。ザカリーは《雷帝》を“最後のピース”と呼び、協力して「何をしでかすかわからない連中」を討つと高らかに宣言した。

転機の確定点
本節の転機は、王族保護の“不可視の道”が下級民経由で実存化し、その中心がザカリー本人であった事実である。これにより、王族確保は「王の介入なしでは不可能」という前提が崩れ、クラヒとクールに新たな進路が開かれたのである。

第一章 初めての我儘

アンガス陣営の優位と懸念
第一エリアの城に籠るアンガス・コードは、片腕のジーン・ゴードンから兵器製造と戦力拡充が順調である旨の報告を受けたのである。ノーラ・コードの強化騎士は脅威であったが、アンガスは機装兵と無力化ガスの量産で対抗可能と見積もっていた。ただし地脈から吸い上げるマナ・マテリアルが減少し、全陣営の製造効率が低下した点を懸念として抱えた。また、モリスは決戦兵器に傾注、ザカリーは取るに足らずと評価され、スペアのアリシャと近衛《クライ・アンドリヒ》の動きは監視対象に据えられた。

アリシャの“おやつ”問題と近衛再編
アリシャ・コードはチョコバーを偏愛し、クライは手持ちが尽きた事実を告げたのである。そこで侍従長オリビアが失態の償いとして“新近衛”を推挙したが、連れてきた傭兵団ドンタンファミリーはクライの顔を見るなり恐慌して逃走した。かつて駅で遭遇し“さらさら”で痛手を負った面々であり、近衛として不適格であることが露見した。クライは土下座で“謝罪の手本”を示し場を収めつつ、肝心の課題をチョコレートの追加調達へ立ち戻らせた。

ノーラ拠点への直談判
クライはノーラ・コードの拠点へ単身で向かい捕縛されたが、当面の敵意は表明せず「チョコレートが都市システムで生成可能か」の確認を優先した。ノーラは嘲弄を交えつつも、初代コード王が『都市の種』起動後に発した『王命』によって“生成リスト”が定礎化されていると説明し、クラス8の裁量では追加生成が難しい可能性を示した。ただし“現物参照と十分なリソースがあれば実現余地はある”という含みも残した。現物はアリシャ側で食べ尽くされ、検証は不成立に終わった。

王命への接続可能性と方針転換
ノーラの談話から、根幹システムに介入できるのは王のみという要点が抽出された。クライは“王ならチョコバーを作れる”との仮説に至り、アリシャ経由の働きかけを次手として確定させた。ノーラは《雷帝》クラヒの名を出す交渉姿勢に激昂したが、最終的に「次に来る時は《雷帝》を連れてこい」と要求を残し、クライは一旦引き上げるに至った。

情報の収穫と次の探索対象
本章の収穫は三点である。第一に、アンガス優位の戦力構図と資源逼迫という対立の地盤が明確化したこと。第二に、チョコレート生成の鍵が王権限(王命系統)にある可能性であること。第三に、ノーラは幽閉どころか実効支配力を拡大しており、保護優先度は相対的に低いという運用判断である。クライはアリシャの要望(チョコ)を満たす経路として“王へ直訴”の糸口を探りつつ、カイザー・ジグルドとサヤ・クロミズの所在確認を進める方針へ舵を切ったのである。

ノーラの戦力構築
ノーラ・コードは派閥に頼らず、自らが絶対に裏切らない存在を欲した。そのためリソースを投入して強化人間を作り出し、近衛騎士団を編成した。彼らは機装兵を超える戦闘能力を持ち、クラス8の干渉を退ける戦士として特権を付与された。こうしてノーラは兵士重視の最大派閥を築き上げた。

アンガスとの拮抗
最大の敵は長子アンガス・コードであった。兵士を磨くノーラに対し、アンガスは兵器を集中的に開発した。監獄のルール書き換えでは一歩後れを取るなど、都市システム理解ではアンガスに分があった。両者の勝負は一見拮抗していたが、アンガスは移民を募り兵器の担い手とする計画を進め、優位を広げつつあった。

クライへの違和感
招かれざる客クライ・アンドリヒを見送ったノーラは、彼の行動意図を測りかねていた。お菓子のために動いていると口にしたが、裏には仲間の存在があると推測した。カイザーやサヤという名がその証拠であった。ノーラは都市システムを通じて出入国管理を調査しようとした。

アンガスからの通信
そこへアンガス・コードが久々に姿を現し、降伏勧告を突きつけた。彼はカイザーとサヤを既に確保していると告げ、その二人が《雷帝》クラスの戦力であると誇示した。カイは機装兵十体を同時に相手取り、サヤは五十を無傷で破壊したとされ、ノーラに衝撃を与えた。

封印の切り札
アンガスの挑発に、ノーラは監獄最奥の封印指定存在を切り札にする可能性を示唆した。だがアンガスは、それは《雷帝》をも超える危険な存在であり、王の力をもってしても御し難いと忠告した。ノーラは反発を抱きつつも危険性を理解していた。

クライの危うさ
通信の最後、アンガスは「クライと関わるな、阿呆が移る」と警告した。ノーラが半信半疑でアリシャの居室を映すと、クライがアリシャに土下座を指南し、王にチョコレート製造を頼む計画を語っていた。ノーラは戦慄し、王の逆鱗を買う危険を悟った。アンガスの言葉通り、クライは常識外れであり、彼との関わりが王位争奪の行方を揺るがす可能性があると痛感した。

アリシャの“隠しチョコ”発覚
クライがノーラから得た知見を携えて戻ると、アリシャは「もう無い」と言っていたチョコバーを頬張っていた。クライは咎めず、王なら製造できる可能性を伝えたのである。

王への直訴と“土下座”指導
アリシャは一度は拒んだが、クライの指南で土下座による嘆願を実行した。所作は洗練され、王への敬意を内包した“百点超え”の土下座であったが、返答は不許可であった。

“駄々こね”作戦とルシャの助勢
土下座が通らぬ以上、クライは最終手段として“駄々こね”を提示した。ルシャが“おねだり”の型を示し、アリシャは「ぱぱ」に甘える言い回しから全力の駄々こねに移行したが、効果は乏しかった。

白の虚空での“王”との対話
その最中、クライの意識は白一色の空間へ転移した。声の主は自らをクロス・コードと名乗り、アリシャを「スペア」と呼び捨て、愚行をやめさせよと迫った。クライは「アリシャと呼べ」と応じ、王としての度量を問うたうえで、「承諾はするが“研究に時間がかかる”と伝えて鎮める」策を進言した。

条件付き了承と事態収束
直後にクライは元の場所へ戻り、アリシャには「製造は可、ただし時間を要する」との王からの返答が届いた。アリシャは歓喜し、クライは当面の時間稼ぎに成功したのである。

クライの内心と次の布石
クライは“王直訴”が実を結んだ事実を認めつつ、アリシャの執着を他の楽しみに逸らす必要を自覚した。外界にはより多様な美味があると示し、保護後の適応に向けて関心の転換を図る構えであった。

アンガス、王の通達と情勢判断

アンガス・コードはコード王からの通達を受け、外来者の軽挙で禁が破られた事態を認識していた。クライ・アンドリヒの無能さは王族の間でも問題視され、王は惑わされるなと明言したため、アンガスは通達を無視して自陣の強化に専念するのが最善と判断した。彼はノーラやトニーの動向、モリスの周辺に送り込んだ女の進捗に注目しつつ、戦力の底上げを優先したのである。

カイの性能試験と戦術的価値

実験場でジーンの主導により、カイの回復状況と戦闘能力の検証が行われた。光学兵器の熱線はカイの独自の足運びと身のこなしにより実質的に無効化され、機装兵の打撃は重心操作と力の転用で弾かれた。さらにカイはマナ・マテリアルで手の平や肘を強化していると推測され、雷撃にも高い耐性を示した。アンガスは《雷帝》級に対抗し得る切り札としての有効性を認めつつ、模倣困難な個人資質ゆえに量産強化には向かないと結論づけた。

サーヤ未解析と備えの二枚看板

サーヤの能力は依然不明であり、アンガスは性急な実戦投入を避けた。王位獲得は通過点であり、外界進出を見据える彼には攻守二枚の切り札が必要であった。よって仮面に慣れさせる訓練を継続し、モリスの近衛に潜り込ませた女の工作を進め、状況次第で封印指定の扱いにも警戒を強める方針とした。

ノーラ、王の警告と取捨選択

ノーラ・コードは王の前代未聞の注意喚起を受け、クライの排除は容易であるとしながらも《雷帝》の友人という接点を重視した。彼女は主導権を手放さず、クライを下位に置く関係なら協働は可能と判断した。アンガスの想定外を突く狙いもあり、《雷帝》が味方してもなお一手不足と見て、封印指定の活用を検討対象に加えたのである。

アリシャの認識転換と情報収集への志

アリシャ・コードは、クライの進言が王の判断を動かした経緯から、教育システムの絶対視に揺らぎを覚えた。外界の優れた知を取り入れるのは王族の務めであると再定義し、部屋から出られぬ制約下でもクライ経由の情報収集と報告書提出で都市機能を動かす方策を見出した。

近衛機装兵の配備と権限移譲

都市システムは不足する近衛を補う救済措置として近衛機装兵二十三体を配備した。クライは運用権限を確認し、アリシャは自らの権限で全近衛機装兵の管理権をクライへ移譲した。しかし未改造のままでは護衛計画に不足があると判明し、アリシャは次策を講じる必要に迫られた。

リソース再配分と三体の特化改造

アリシャは救済措置の機構を応用し、配備直後の機装兵二十体をリソースに戻して再配分することで、残る三体を防御・武装解除・機動撹乱の各特化仕様へと即時改造した。色分けで識別性も高め、クライの評価を得るに足る戦力を短時間で整えたのである。

クライの外部確認とアリシャの待機

クライは強化済み三体を借用して外部状況の安全確認に向かった。アリシャは外出の実現を期待しつつ、王命の制約と近衛の安全基準を踏まえ、窓辺から都市を見下ろしながら次の一手を思案して待機したのである。

外出の決意と行動方針
クライはアリシャから強化近衛機装兵三体の貸与を受け、陽光下で街へ出た。第一目的は王族の保護支援(カイとサヤのサポート)であり、第二に高度物理文明由来の宝具収集、第三に都市視察と味方との接触機会創出であった。護衛確保により安全行動が可能になったため、単独偵察を兼ねて歩調を進めたのである。

無人都市の印象と探索上の疑問
街区は高層ビルが過密に林立し、清掃は行き届いていたが人影は稀薄であった。衣食住が都市システムにより供給される環境ゆえ、店舗機能の実在性や市民動線が不明瞭で、観光目的の歩行は成果に乏しかった。クライは一時休憩を取り、方角指針の欠如を課題と認識した。

近衛機装兵の支援機能と立体地図
青色機体が手を翳し、立体投影による都市地図を提示した。地図は広域の外観を示しつつも、詳細表示は一定範囲のみ明度が高い仕様で、中心にアリシャの居住ビルと最上階の観測姿が可視化されていた。挙動は宝具「迷わずの道標」に類似しつつ、解像度と即時性で上位互換の性能を示した。クライはまず明域外への突破を短期目標と定め、探索を再開した。

アリシャの資源再配分の効果
アリシャは配備直後の機装兵をリソース還元し、三体を防御特化・武装解除特化・機動撹乱特化へと再設計した。識別色は赤・緑・青で、クライの野外偵察に即応する実用的チューニングであった。これにより市街地での情報収集と自衛の両立が可能となった。

クトリーの警戒と連絡動線
クトリー・スミャートはアリシャ外出の可否に逡巡しつつも、都市内監視体制の厳格さを踏まえて慎重な行動を選択した。ザカリー・コード陣営には熱狂的支持者と自爆覚悟の下級民が混在する兆候があり、王崩御時に大規模攪乱が生じる懸念を共有した。クトリーはクライ宛てに「例の男の所」で合流する旨を口頭伝達とし、通信傍受を回避した。

アリシャの待機心理
アリシャはクライの外部安全確認を理解しつつも、静的待機に退屈を覚えた。王族権限の段階的解凍と運用に手応えを得ており、次の意思決定(外出実行の条件整備)を促す材料の帰還を待望していた。

現在のリスクと当面の課題

  • 都市監視と権限階層が高密で、王族外出は発覚時の政治的リスクが大である。
  • ザカリー周辺の過激化兆候により、王位継承局面での不確実性が増大した。
  • 市街地は無人領域が多く、人流データの欠如が探索効率を阻害している。

次手の提案(作中方針案)

  • クライは青機体の地図明域を段階的に拡張し、明域外へ安全回廊を設定するべきである。
  • 赤機体を先行盾、緑機体で武装スキャンと解除、青機体で通信遮蔽と地図更新という三位一体の運用に最適化するべきである。
  • クトリー経由でザカリー側の動員タイミングと合流地点を非同期に複数化し、陽動と退避導線を同時に確保するべきである。

第二章 イレギュラーな男

コードの歩行観光と小さな不便の発見
《千変万化》は高機動要塞都市コードの清潔で歩きやすい環境を評価しつつ、店が見当たらず生活物資の多くが都市システムで賄われている実態を確認していた。スマホの具現化が許可されないことも判明し、ノーラに相談したいが、前日の叱責やクラヒ行方不明の件が未解決で遠慮していた。

暗転領域の境界と剣士の出現
地図上で暗く表示された境界に到達した《千変万化》は、結界指の防御を準備して越境した。直後、モリス王子の管轄と告げる長身の女性剣士が現れ、他王族の近衛の無断侵入は筋が通らないと牽制していた。

剣尾の試斬と圧倒的剣技
女性は海底色の大太刀を抜き、通りのビルを半ばで断つほどの飛ぶ斬撃を披露した。《千変万化》は刃を視認できないまま結界指が自動発動して連撃を防いだが、持続時間から再攻撃に耐え難い状況を悟っていた。女性は借りがあることと大仕事の最中であることを理由に撤退を示し、再会を予告していた。

撤退判断と移動
《千変万化》は女剣士の危険性を認め、モリス王子の保護はカイザーとサヤに任せるべきと判断した。観光はノーラのいる賑やかな区画で十分とし、都市システムからクモを呼び出して移動していた。

モリス王子と剣尾の応酬
場面はモリス王子側に転じ、王子は他近衛への攻撃は規約違反だと剣士を咎めていた。女剣士はケンビ(剣尾)と名乗り、先の攻撃は《千変万化》には遊びにもならないと評しつつ、王位争奪の渦中である王子に脅しを含む助言を与えていた。

九尾の影狐の失策と再起策
剣尾は秘密結社『九尾の影狐』の最高位であり、空尾が武帝祭で『大地の鍵』を発動して失われた影響力を回想していた。大国の本格的追及と内外の同盟解消により組織は混乱中で、コードとの連携を勢力回復の切り札と位置付け、次代コード王への貸し作りを狙っていた。

コード警備の限界認識
剣尾は王族警備システムの反応時間が十秒前後である点を、刹那で決する殺し合いには長すぎると評していた。機装兵や都市兵器の大半は脅威にならず、近づければ王族暗殺も可能だと冷徹に見積もっていた。

王位継承方式とモリス陣営の脆弱
モリス王子の管轄エリアは外周部で市民が少なく、支持基盤が脆弱であった。王位継承は王杖の奪取による殺し合いで、敗者は地盤やクラス8特権すら失う悪辣な制度であると描写されていた。モリス陣営は下級貴族中心の少数派で、一発逆転を賭けて都市システムの資源を投じた決戦兵器の製造を進めていた。

《千変万化》評価の相違と監視指示
都市システムは《千変万化》を低評価していたが、剣尾は空尾の『大地の鍵』発動を止めた実績から最大級の脅威と認定していた。アリシャ王女の近衛に収まった経緯を踏まえ、剣尾はモリス王子に《千変万化》とアリシャ王女の監視を命じ、自身は斬る役割を負うと明言していた。

クモ移動とノーラ街区到着
クライは都市システムのクモで移動し、ノーラの管理エリアへ到着した。中心寄りに位置する同エリアはビル間隔が狭く、道路もクモが単線走行できる幅に限られていたが、人影は多く活気があった。クライは機装兵を伴って歩行に切り替え、周囲の安全を確認した。

結界指の枯渇を認識
先刻の女剣士との交戦余波により、結界指が全て空であることが判明した。クラヒ不在の現状では再充填までの被弾リスクが高く、早急なチャージ手段の確保が課題となった。

住民の生活様式の観察と聞き込み
クライは「チョコレート」の情報収集を試みつつ、住民に聞き込みを行った。コードでは食住医療を含む生活基盤の大半を都市システムが供給しており、独自の生活様式が形成されていることを把握した。

ルルと少年たちとの遭遇――ノーラ式“鍛錬都市”
ビルの隙間から現れた少女ルルと、空から降り立った少年三名(うち一人はザザ)と接触した。彼らはノーラの騎士団入りを目標に日々鍛錬しており、ビル壁面を跳躍・登攀する高い運動能力を示した。ノーラ街区の都市設計は、市民の身体能力向上を狙った大規模アスレチックとして機能していた。

機装兵の飛行追随と屋上展望
クライはアリシャ王女(おひいさま)から借り受けた近衛機装兵の飛行で子ども達に追随し、屋上から街を俯瞰した。ビル間には段差や突起、ジャンプ台が多数設けられ、鍛錬ルートとして統合されている実態を確認した。

王族エリアの相違点の聴取
子ども達から、各王族エリアの方針差を聞き取った。アンガスは武官・文官試験と支給武器、トニーは貴族協働の職域提供、モリスは武器使用の厳禁と警備の閾値低さ、ザカリーは警備停止による弱肉強食の噂、アリシャはクライが精通という構図であると理解した。観光先としてはアンガスとトニーが有望と判断した。

突風による転落事故と救助
屋上での視察中、突風によりクライとルルが同時に転落した。近衛機装兵が超高速で両者を救出し、致命傷を回避した。ルルと少年達は動揺したが全員無事で、ルルはクライに感謝を示した。

チャージスタンドの発見と宝具再充填
ルルの案内で「チャージスタンド」に到達した。雷マークの箱に宝具を投入すると自動充填され、完了時に青色点灯する仕組みであった。クライは結界指十六個を一括投入し、一瞬の赤点灯を経て全数のチャージに成功した。コードの設備が外部ハンターの根本課題(魔力充填)を解消し得る事実に強い関心を抱いた。

相互取引の成立と次の探索意図
ルルたちは街案内を快諾する代わりに「外の世界」の話を所望した。クライは応じ、併せて「この街で宝具を入手する方法」の探索支援を求め、観光と情報収集を加速させる方針を固めた。結界指の復活により、当面の安全保障も確保された。

外来者への所感と評価の違和感
ザザは外部移民に威圧的な者が多い中、クライ・アンドリヒだけは穏やかで気の抜けた笑みを見せる異質な存在であると感じた。総合評価は4点と低いが、身分はクラス6という下級貴族であり、数値と地位の乖離が強い印象を残したのである。

クラス6付与の希少性
クラス6は王族のみが厳数で任命できる地位であり、一度上げれば原則回復不能であった。ゆえに任命は極めて慎重で、クライがその地位にある事実は偉業に準じる重みを持っていたのである。

ノーラ領の都市設計と強化方針
ノーラのエリアは市民の身体能力向上を目的とした街区設計であり、跳躍・登攀に適したビル間距離や突起が意図的に配置されていた。強化人間技術の適用には健全で頑強な肉体が前提であり、日々の鍛錬が制度として根付いていたのである。

宝具獲得の制度――闘技場トーナメント
地下闘技場では訓練と定期トーナメントが実施され、好成績者には宝具が下賜された。市民が都市システム外の武器・宝具を所持するには貴族の許可が必要であり、ノーラ領では実績で価値を示す方式が採られていたのである。

好カードを前にした離脱
強化人間候補同士の好試合が組まれたが、クライは観戦途中で先を急いだ。ザザは意外に思いつつも案内を継続し、射撃場や訓練施設など戦闘関連の拠点を巡ったのである。

宿泊の申し出と“外の話”の交換
日暮れ、ルルがクライを自宅に招き、外界の事情を語る交換条件で宿泊が決まった。クライは貴族であっても都市機能の詳細に疎く、現地の生活知を得る必要があったのである。

クラス制限と物資申請の現実
ザザは貴族でなければ申請できぬ物資や端末機能が多い実情を説明し、訓練用に機装兵や強化装身具の申請を依頼した。クライは端末から申請を実施したが、強化装身具にはクラス5以上という制限があり、通常は通らぬ案件であった。

ノーラの監視と裁量判断
ノーラは当該エリアへの外者流入を厳密に監視しつつ、今回は協力関係構築を優先して裁量を発動した。チャージスタンドの警告抑止や闘技場入場の黙認など、水面下で複数の便宜を図っていたのである。

強化装身具の可否と大量申請の顛末
クライは自身で装着を試みるも評価4点で弾かれた。続いて複数個の装身具を申請し、本来なら違反として却下されるところを、ノーラは王位争奪の切迫と技術流出の非現実性を勘案して特例承認したのである。

ザザの資質とお目付け役任命
ノーラはチャージ警告の消失や試合差し替えなどの不自然さに違和感を抱くザザの洞察力を評価し、クライ行動の誘導役として直々に連絡を入れる決断を下した。これにより、ザザはクラス2ながら異例の“お目付け役”としてノーラの意思を現場に伝える役割を担うに至ったのである。

ザザの動揺と特命
ザザはクラス2にもかかわらずノーラから直メッセージを受け取り驚愕する。内容は「クライを厚遇し、ノーラ領の力を見せよ。成功すれば昇格」。同時に、ザザは“お目付け役”としてクライの行動誘導を任される。

クライの無邪気な越権とノーラの裁量
クライは仲間の子ども達へ強化装身具を配り、さらにノーラ専権の増強サプリを“全種・人数分”で申請。通常は論外だが、ノーラは王位戦間近を理由に便宜を図り承認する。クライは危機察知宝具の反応からサプリを「毒みたい」と評し、ノーラは激怒(ただし対外的には関係維持を優先)。

研究所見学案の却下と方針転換
ザザはノーラ研究所見学で“ノーラの威”を見せる計画を立て、ノーラの許可も得るが、クライは興味を示さず。代わりに別エリア――トニー領の観光を希望。

トニーの興味と“人”に投じた戦術
トニーはノーラからの依頼(クライ受け入れ)を面白がって承諾。自らは兵器開発ではなく“人(貴族ネットワーク)”にリソースを注ぎ、各派の機密や物資を把握・融通する特異な立ち位置を築いている。

ドンタンファミリーの進言と“無力化ガス”テスト
外部傭兵ドンタンファミリーはクライ=《嘆きの亡霊》の首魁と断じ、危険性を警告。トニーは真偽判定のため、屋内で無力化ガスを用いた“力試し”を決行。結果、クライは即落ち(子ども達=ザザとルルは口を塞ぎ一部意識保持)。

決定的観測:演技ではない
続く多方向銃座の“外し射撃”でもクライは反応ゼロ。都市システムの覚醒情報からも完全昏倒が確認され、演技の余地なしと判定。トニーは救援を手配し、“誤作動”としてノーラに謝意と弁明を送る準備に入る。

後始末と評価の更新
トニーは市民(ザザ・ルル)を巻き込んだ点を重く見て素早く回収・ケアを指示。過剰に煽ったドンタンファミリーは放逐。クライ個人の戦闘的脅威評価は“未知数のまま”だが、「少なくとも不意のガスには無抵抗で落ちる」という実測が残る。一方で、ノーラ領の若い市民の胆力(即応・介助意思)には高評価。

現在地
クライはトニー領観光の途上で昏倒し救助中。ノーラはザザを介した間接誘導を継続し、トニーは“面白さ優先”で次の接待と関係調整へ舵。アンガスは不在だが、各陣営の思惑がクライ一点で交錯し始める。

五日後の目覚め
クライは見知らぬ白い天井の部屋で目を覚ました。彼は大きなベッドに五日間眠っていたと知らされ、ザザやルルの安堵の声を受けた。原因はトニー領の防衛システムによる無力化ガスであり、クライは異常に長く昏倒した新記録の対象であった。体調は問題なく、白衣の技師も驚きを隠せなかった。

トニーとの再会
赤髪の青年トニー・コードが現れ、クライに謝罪した。監獄へ送った時に会った人物であり、王族の一人と明かした。クライは軽く受け流し、互いに握手して和解した。クライは王族が貴族に監視されている事実に気づき、トニーも自分のエリアを貴族達に運営させていると認めた。

会話と発想の衝突
クライは観光を急ぎたいと述べ、トニー領の特色を尋ねた。貨幣経済が根付かない都市において金貨の偽造が存在することを知り驚きつつも、レストランや酒場、温泉といった娯楽施設の発想を語った。人は生存だけでなく楽しみのためにも働くと説き、トニーは効率を否定しつつ「試してみる価値がある」と興味を示した。

宝具の扱い
クライは宝具を求めたが、トニーは宝具は王が製造し王族に分配する戦略物資であると説明した。王以外が作ることは不可能であり、都市システムが生み出す通常の武器や物資とは異なる特別な存在であった。クライは内心で王にスマホの製造を頼む可能性を考え、目的を改めて意識した。

小型クモへの関心
最後にクライは、一人用の小型クモがあれば便利だと提案した。これはまさにトニーが道楽で研究していた新型乗用機であり、彼を驚かせた。クライの無邪気な発言はトニーに強い印象を与え、研究の試乗や食事処の設置を「面白さ」を理由に進める決意を抱かせた。

トニーの評価
無力化ガスの試験は肩透かしに終わったが、クライの飄々とした態度、恐れを見せない物腰、効率に縛られない発想は、トニーにとって新鮮であった。彼はクライを「面白い対象」と見定め、王位争奪戦の只中で自らのエリアに新しい風を取り入れることを決断した。

王都コード・トニーの小型機体試走

クライはトニーから貸与された三脚の極小型クモに騎乗し、念じて起動する方式で試走した。想定外の加速と壁面走行により制御が困難で、同伴のルルとザザは近衛機装兵に抱えられて追随したのである。

王の領域への接近と被弾・無事離脱

暴走気味の小型機が王塔の空域へ飛び込み、対空砲と雷撃の射撃を受けてクライは吹き飛ばされたが致命傷は避けた。地表の不可視境界内に留まっていたにもかかわらず追撃はなく、機装兵は境界線上で威圧的に待機していたため、三名は速やかな離脱を決めたのである。

ノーラ本拠での対面と特別待遇の確認

ノーラの拠点に到着後、ザザは見学許可や物資供与などの厚遇を報告した。ノーラはトニーの件を叱責しつつ不問とし、クライに所見を求めたが、クライは研究所見学に関心を示さなかったため、ノーラは苛立ちを見せたのである。

協力要請と呼称問題の提示

ノーラはクライに協力を要求し、見返りにスペアの命の保証を示した。これに対しクライは協力自体は承諾したが、条件としてアリシャをスペアと呼ぶのをやめるよう求めた。クライが冗談交じりにとっても可愛いアリシャちゃん等の呼称を挙げると場は凍りつき、近衛らは逆に姉としての振る舞いを勧め、議論は紛糾したのである。

「姉ノーラ」受諾と過剰課題の提示

混乱の末、ノーラは半ば意地で立派な姉になると表明し、その達成条件として監獄最下層の封印指定たる異能力者の懐柔をクライに命じた。対象は都市システムを無効化し《雷帝》を凌ぐ存在と説明され、騎士団は不可能だと進言したが、ノーラは撤回しなかったのである。

突然の態度急変と退去命令

その直後、ノーラは何かに怯えたように硬直し、条件提示を棚上げしたままクライに即時退去を命じた。クライは不可解としつつ離脱し、拠点へ帰投する方針に切り替えたのである。

コード王の介入と帰還強制

帰途でクライは白い空間へ転移させられ、コード王から叱責と指示を受けた。アリシャが六日間泣き続けているため追撃を抑え、ノーラにも解放を命じたと明かされ、クライはただちに帰還して涙を止めるよう命ぜられたのである。

拠点帰還とアリシャの迎え

拠点最上階でアリシャは笑顔で出迎えたが、髪と衣服は乱れ目は腫れており、泣いていた痕跡があった。クライは外の様子と土産として小型クモや強化装身具を渡し、観察結果を報告したのである。

外出希望の表明と扉問題の再燃

アリシャは街への案内を希望したが、扉は王のロックで開かない事実が障壁であった。クライが消極的な返答をするとアリシャは再び落胆し、泣き伏したのである。

再度の王の内声と解決策の示唆

コード王は内声で、王としてロック解除はできないが都市システムの穴を突いてクライが開けよと示唆した。王は老境と多忙を嘆きつつ、アリシャの涙をこれ以上見たくないと本音を漏らしたのである。

扉解錠と状況の反転

クライがシステムの穴を突くと宣言した直後、扉は自動的に開いた。アリシャは震える手でクライに触れ、方法を問い質した。クライはシステムの穴に加え、鍵を残した父への礼も促し、事実上王の意向が解錠に働いたことを示唆して場を収めたのである。

王塔の孤独と終い支度
クロス・コードは王塔に独座し、自身の死後に発動する王位争奪戦の段取りが整ったことを確認していた。子の数、教育、貴族配置、エリア割当てまで長年かけて設計し、都市の機動能力を修復して次代に巨大戦力を渡すことを己の使命と定義していたのである。

アリシャ観察の開始と揺らぎ
本来関知しないはずのアリシャ・コードの様子を、クロスは偶発的に確認した。寂しげに窓外を見やり、やがて声を殺して泣く姿は、都市システムの記録に残らぬほど慎ましいものであった。この変化の契機が、クライの“外”への言葉と行動にあることも、クロスは即座に把握していた。

過去の恋人の残影と製造システムの示唆
泣くアリシャの所作に、クロスは百年前の恋人を重ねた。人間製造システムが蓄積データから“気の利いた”生成を行った可能性に思い至り、アリシャは単なるスペアではなく、唯一愛した女の面影を宿す存在であると推測した。ただし制度上の位置づけや継承権の扱いを変える意図は明確に否定したのである。

公平という自己規範のひび
クロスはこれまで子らに“平等に顔を合わせない”を徹底してきた。しかし、アリシャの将来が劣後処遇に陥る設計であることを自覚しつつ、感情的な違和感が芽生えた。王は自らの決定に責任を持つべきという原則と、父としての微かな情が衝突し、内省はため息へと変わった。

規範逸脱:扉解錠の容認
ノーラへの干渉停止の通達、トニーの無力化ガス事件への叱責に続き、クロスはアリシャの扉について“システムの穴を突く形”での解錠を事実上容認した。名目上はクライの行為としたが、王の鍵に対する黙許は明白であり、クロス自身も「明確なルール違反」と認識していた。

波紋の拡大:通達とアンガスの動揺
この黙許は王族一同に電撃のように伝播した。アンガスはメッセージを繰り返し確認し、処罰条項の欠落=王の暗黙許容を読み取って身震いした。優位に立つ現状は揺るがないと自己説得しつつも、王位争奪戦直前での前提崩しに苛立ちを隠せず、側近ジーンの前で鷹揚を装っていた。

現状認識と今後の火種
都市は形式上安定していたが、王の規範逸脱は三つの火種を残した。第一に、クライの存在が王塔の意思と貴族秩序の間隙を広げたこと。第二に、アリシャが“スペア”から感情的・象徴的価値を帯びた点。第三に、アンガスら有力王族の計画に不確実性が注入された点である。クロスは「最善を尽くした」と自己点検しつつも、都市システムが沈黙する王座の間で、初めて“迷い”を言葉にしたのである。

第三章 コードの御子

扉解錠の余波と侍従長の動揺
アリシャが幽閉から解放された翌朝、オリビアとジャンは「システムの穴」による扉解錠を知り動揺したのである。ジャンは王の黙許が混乱を呼ぶと推測し、事態の深刻さを示したのである。

外出計画と護衛体制の確認
アリシャは上機嫌で外出を望み、クライはビル外での行動を慎重に提案したのである。オリビアはもはや事態の挽回は困難と述べ、現実的対応を促したのである。

勢力図の変化と直接的脅威
オリビアはドンタン系傭兵団がトニー配下から離反し、アンガスに合流した事実を通告した。アンガス陣営は有象無象の増勢ながら数の暴力でクライの抹殺を企図しており、アリシャ同行時の安全保障は一層の課題となったのである。

クラヒ合流方針とコミュニケーション課題
クライはクラヒとの再会を決め、ズリィに案内を求めた。アリシャは即答で同行を望み、クライは対外的生活に向けて会話習熟の必要性を認識したのである。

ザカリーの思惑と《雷帝》の条件
ザカリーは下級民動員を加速させ、《雷帝》の名声で勢力を伸長していた。《王杖》確保を最短目標に据えつつ、《雷帝》の要求に従いクライの許可獲得を優先課題とした。ザカリーはクライを“只者ではない”と評価し、将来の登用も視野に入れたのである。

ノーラとの再会と仮面の襲撃者
ノーラはアリシャを歓待し、クライと《雷帝》・クウビに護衛を委ねた。併せて、仮面の大男が強化騎士団を瞬時に無力化した映像を提示した。クライは男をカイザーと断じ、被害ゼロから“操られているふり”だと看破し、任務上の意図を示唆したのである。

トニーのエリア変貌と即席経済圏
トニーの領域は短期間で屋台と店舗が林立し、人流が激増した。トニーは都市システムで即時建設し、独自鋳造の“金貨”を市民へ配布して消費行動を誘発した。アリシャは金貨袋を受け取り、三者は巡回を実施したのである。

市民の反応と熱狂の効用
店の商品はシステム調達でありながら“見る・選ぶ”行為自体が娯楽となり、トニーは予想外の熱狂を確認した。経済的意味は薄いが、統治上の“未来と可能性”の萌芽として評価されたのである。

アンガス優勢の現実と禁圧の予見
トニーはアンガスの戦力と参謀ジーンの手腕を踏まえ、次代がアンガスである公算を認めた。その場合、アリシャとクライの処断、並びにトニー施策の禁止が想定された。アリシャには群衆を惹きつける資質が芽生えており、放置は危険視される段階に至ったのである。

クライの方針と当面の要請
クライは「プランがある」として楽観を示し、アリシャは全面的信頼を表明した。トニーは最終的に協力を明言し、当座の要請として小型クモの修理依頼を受諾したのである。

王位争奪戦前夜の観光と帰還
クライはアリシャを伴って各王族の領域を巡り、ザカリー、ノーラ、トニーと面会した。クウビを仲間に加え、トニーの領域で屋台や店が並ぶ賑わいを目にし、アリシャは終始楽しげで活力に満ちていた。外界の刺激により彼女は精神的に大きな変化を見せ、幽閉されていた頃の面影は薄れていた。

王塔への転送と王との邂逅
帰還後、クライは突如転送され、玉座の間で衰弱したコード王クロス・コードと対面した。クロスは己の寿命が尽きかけていることを認め、クライに礼を述べた。彼は子らに王位を競わせる制度を設けたこと、他者を信じられず孤独のうちに決断を続けてきたことを語った。

過去の恋人とアリシャの影
クロスは前回の王位争奪戦で探協に走った恋人を想起し、その面影をアリシャに重ねた。都市システムが遺伝子情報に加えて過去の記録を参照し、彼女の生成に影響を及ぼした可能性を悟ったのである。

コードの真実と使命
クロスはコードの本質を明かした。現在の都市は本来の「高機動要塞都市」ではなく、初代王が拡張した個人用の浮遊都市に過ぎない。そして本来コードは、高度物理文明を滅ぼした怪物と戦う使命を持っていたと語った。次代の王はその戦いを担う運命にあると示したのである。

王杖とクライへの託宣
クロスは王杖を一瞬だけ顕現させ、クライに「全てが終わったら子ども達へ謝罪を伝えて欲しい」と願った。さらにクライのカードをクラス7に昇格させ、アリシャへの贈り物としてチョコレートバーを託した後、息絶えた。玉座は沈み、クライは転送によって元の場所へ戻されたのである。

第四章 王位を巡る戦い

モリスの決断と密かな切り札
都市システムが王の崩御を通達すると、モリス・コードは逡巡を終え、アリシャ・コードに与すると決めていたのである。数日前の観光で見せたアリシャの無邪気な歓喜が決め手となり、彼女を王に据えれば都市はより楽しい場になると確信していた。モリスは王族としてのリソースを注ぎ、全長十メートル超の人操式巨大機装兵を極秘工場で完成目前まで進め、王塔への突破口とする算段であった。

継承方式と戦場配置の優劣
今回の継承は、崩御から三日後に王のエリアが再開し、王塔頂上の杖を先に手にした王族が即位する方式であった。王塔近傍にエリアを持つのはアンガス・コード、ノーラ、トニーであり、正面広範囲を押さえるアンガスが地の利と戦力で最有力と目されていた。待機期間に広域展開で妨害線を築くことが予想され、他の王族には厳しい局面であった。

ケンビの電撃と決戦兵器の崩落
モリスが決意を述べた直後、近衛のケンビは一閃で防衛機構と近衛機装兵を斬断し、極めて短時間に巨大機装兵を修復不能なまでに寸断したのである。ケンビは遊びで近衛になったのではなく依頼を受けて接近したと明かし、モリスが王位を狙わない以上、支援の余地はないと断じた。さらにコードの総力では卓越した個を制せないと述べ、自身がその気なら王族全員を滅ぼし得たと示唆して去った。モリスは切り札を失い、計画は頓挫した。

クライの受難と方針の単純化
一方でクライは王の臨終に立ち会い、最後の頼みを託されていた。都市では貴族が王族に都市システムの悪用を強制しているとする依頼内容と異なり、王族は自由に見え、さらに王位争奪戦という新事態が加わって状況は錯綜していた。クライは思考を単純化し、王族全員を保護して都市から撤退するという一点に収束させ、カイザーらが生むであろう隙を狙うために待機する方針を固めていた。

クラス7の告知と危険の増大
オリビアはクライの胸元にあるクラス7のカードを見て驚愕し、王にのみ与えられるはずだと動揺した。ジャンはクラス7が前王の庇護の証ゆえに、次代の王の裁量次第では毒にもなると冷静に分析した。クライはそれでも三日後の開戦前に逃げ切る計画を優先し、外部保護と撤退の実行を掲げ続けた。

おひいさまの慟哭と遺言の伝達
アリシャは蒼白の面持ちでクライに縋りつき、父の死を告げた。クライは王から託されたチョコレートバーと今まで悪かった、皆を頼むという言葉を伝えた。アリシャは沈黙ののち決壊して泣き崩れ、クライは赤の他人としてできる唯一の応答として遺言の履行を誓っていた。

会議の予兆と動く条件
オリビアはノーラらクラス8が次代を巡る会議を開くと掴んでおり、決裂から戦闘開始は必至と見立てた。アンガス陣営は万全、ノーラも退かないという情勢下で、クライはアンガス側の保護はカイザーに委ね、会議終結後に自分たちも保護行動へ移るとした。残る懸案は、ノーラらが素直に保護を受け入れるかどうかであった。

来訪と急報
ノーラらが合流し、ジーンがアンガスの権限を奪取して全王族に宣戦布告、探索者協会本部への報復を狙う事実を告げた。アリシャは憤り、制止ではなく討伐を選ぶ決意を示したのである。

モリスの“中身”の切り札
ケンビに破壊されたのは装甲のみであり、本体機能を担う「コア」は無事であった。モリスは万能接続ユニットとしてペンダント化したコアをアリシャに託し、装備連動の戦闘補助として力とした。

戦力評価と最大課題
ジーンはアンガスの基盤を丸ごと継承し兵力はノーラ側の五倍に及んだ。正面入口を《カイ》《サヤ》《ケンビ》の三枚で固める布陣が想定され、数と切り札の双方で劣勢であることが確認された。

迂回侵入案――“上”の門
トニーが王塔の飛行機装兵出入口(上部)を指摘。通常は王のエリアの停止制限で侵入不能だが、停止無効の小型クモと助走台で“上”からの突入が可能であると示した。これにより正面の突破負担を軽減する作戦軸が成立した。

アリシャの意思表示
ノーラが危険性と交代可否を提示したが、アリシャは退かず、「賊を倒し王となり、皆で世界を見る」と明言し、ユニットを装着して先行突入の意志を固めた。

ジーン側の用意周到
ジーンは傭兵と“模造兵”を混成運用し、さらに《破軍天舞》(カイザー)と《夜宴祭殿》(サヤ)を仮面で縛った上でケンビを門番に置いた。空尾(クウビ)拘束歴を持つケンビは、情報網“狐”と提携し二人の正体まで把握していた。

開戦――《雷帝》の進撃と迎撃
王塔解放と同時にジーン軍が包囲進軍。《雷帝》クラヒは紫電で軍勢を薙ぎ払うも、門前でカイザーに迎撃され、近接力の差で押し返された。《雷帝》はケンビをクウビに任せ、自らカイザーを抑える二正面運用を選択した。

衝撃の離反――空尾の“内側からの一撃”
ここで空尾が《雷帝》側ではなくジーン側を攻撃。《千変万化》の素性と過去策動を理由に、前日ケンビと和解していたことを明かし、空間衝撃で戦線を崩した。クライ側の計算は大きく崩れたのである。

“さらさら”の顕現――《夜宴祭殿》解放
サヤは命令に従わず沈黙。やがて“さらさら”という不可視の群体が現出し、白面を“内側”から剥ぎ取った。赤い足跡と手形が可視化され、不可視の“手”がケンビの動きを封殺、空尾を空中拘束、カイザーの仮面を圧砕した。サヤは自律思考する不可視存在を視認・使役する“魔眼”能力を明示し、七日七晩の連戦逸話の真価を示したのである。

戦局の反転と後始末宣言
拘束から解放されたカイザーは態勢を立て直し、サヤの制圧下で“後始末”に移行する構えを取った。門番三枚のうち二枚が無力化され、正面圧力は急速に低下。上方侵入路の実行条件が整い、アリシャ突入作戦の成功確率は飛躍的に上がった。

現時点の到達点
ノーラ側は「上からの侵入+正面の切り札無力化」により王杖争奪の主導権を再獲得した。一方でジーンは“模造兵”と残余兵力で遅滞を図る可能性が高く、内部決戦でのアリシャとジーンの直接対峙が不可避となった、という局面である。

決意の確立
アリシャ・コードは、連日の激変を経て王族として恥じない冒険を選ぶと確信し、ノーラらの妨害作戦と並行して、クライと共に「上方出入口」から王塔へ侵入する方針を固めたのである。目的は王杖の先取りであった。

上層突入とユニット展開
トニーが改修した小型クモで助走台を駆け上がり、王塔上層の飛行機装兵出入口に着地した。アリシャはモリスから託された万能ユニットを起動し、金属触手で減衝・制動、さらに可変翼で低空高速移動へ移行した。王塔内部は兵器呼出不可のため、身体能力とユニット運用が主戦力となった。

ジーンとの遭遇と交戦
最上階へ急ぐ途上、アリシャはジーン・コードと交戦した。ジーンは携帯焼却銃と金属鞭・剣で迎撃したが、アリシャはユニットの接続制御で銃を無効化し、都市システムとの同調で思考加速・弾道予測を行い優位に立った。ジーンは鍛錬の跡こそ見せたが、都市システムの熟達度で差が開き、最終的に打擲で壁へ叩きつけられ劣勢に転じた。

クライの最上階到達と王杖
クライはクラス7カードで最上階へ通過し、王杖(杖頭に宝玉が浮遊する“ラウンド・ワールド”外観)を取得。台座へ挿入したところ、初回挿し込み不足で警報を誘発、深々と挿し直した結果、都市法に基づく「非継承者侵入=機能停止プロトコル」を起動させてしまった。

都市シャットダウンと崩落開始
王塔内外に警報と赤色灯が鳴動し、都市システムは全面停止シーケンスへ移行。高所にある王塔の外壁が透明化して都市の沈降・崩落が可視化された。アリシャは緊急対処として王杖に再アクセスするも、プロトコルは停止できず、王杖は最終的に破損、宝玉のみが残存した。

最終取得物と撤退決断
アリシャはクライの要求に即応し、端末生成でスマートフォンを引き出し確保。時間切れと同時に王杖は罅裂・崩壊、アリシャは宝玉を回収して撤退を宣言した。クライは「コードがなくとも世界は見て回れる」と応じ、両名は離脱へ移った。

地上側の結末
高機動要塞都市コードは探協本部接近中に急速降下し、都市外縁から約五キロ地点に墜落。多数の市民が脱出・避難し、周辺は空前の混乱となった。事件へのハンター関与は各国に認識されたが、探索者協会は公式発表を控えたままである。

Epilogue 嘆きの亡霊は引退したい12

本部の余波と“功罪”
カイザーとサヤはカフェテリアでクライの“やらかし”――空中都市コードの墜落――を茶化しつつも評価。レベル9試験は混乱のまま終了し、原因は有耶無耶。死者は出ず、市民救助と傭兵大量拘束で探協は一時機能不全。クライは王族保護は達成したものの、最終局面の大失点を悔い、レベル9は辞退するつもりだと明言。そこへリィズら《嘆きの亡霊》が合流し、クライはパーティに復帰する。

現場組の心境
クールは一連の顛末(カイザー戦、空尾の離反、サヤの“さらさら”、都市墜落)を振り返り、《千変万化》の策謀は二度と真似できないと戦慄。仲間たちは半ば達観しつつも、次任務として空尾&剣尾の護送依頼を持ち込んだクラヒに総ツッコミ。

探協の地獄と王族たち
職員ハットは、1万人超の市民・500人超の犯罪者処理、技術配分、残骸保全で疲弊。コード由来の“原始的=システム非依存”武器が各国の争奪対象となり、調整は難航。王族の処遇も未決のまま。
アンガス、ノーラ、トニー、モリスらは口々に主張(市民統制、外征志向、クモ売却、ユニット有効活用など)をぶつけ合い、場はさらにカオスに。

アリシャの“次の一歩”
アリシャは「クライに会いたい」と駄々をこねつつ、最終的に「トレジャーハンターになります!」と宣言。6人編成のパーティに好適とノーラに胸を張る。ハットは引きつり笑い――新たな騒動の予感で幕となる。

Interlude 怪異

怪異の噂の広まり
ゼブルディア帝国の魔術学院にて「望む宝具が必ず手に入る宝物殿」の噂が流布した。選ばれた者にのみ入口が現れ、力ではなく心を試され、必ず生還できると囁かれていた。呪い騒動後の学院復旧直後に広まり、学生達の間で病のように浸透した。

セージ・クラスタの懸念
学院教授で半精霊人のセージ・クラスタは、噂を軽視していたが、事態の深刻さを把握した。ルシアに問い質すと、彼女は無関心を示したが、セージは実際に探索を試みた者が多数存在すると告げた。

生徒失踪の異常事態
調査の結果、既に百人以上の生徒が消えており、しかも家族や友人の認識まで阻害されていた。単なる噂ではなく、宝物殿に特有の「ルール改変効果」が作用している可能性が高いと判断された。

依頼の発令
探索者協会にも連絡済みであったが、噂の源泉は不明で拡散を阻止できない状況にあった。セージは《万象自在》ルシア・ロジェに対し、ハンターとしてこの怪異の調査を正式に依頼した。

外伝 新米商人グレッグの栄達

新たな生活の始まり
グレッグ・ザンギフは元レベル4トレジャーハンターであったが、新米商人としての生活を始めていた。客の要望を聞き、伝手や旧知のハンターを介して物を仕入れる仕事は思いのほか順調であり、危険もなく新鮮な面白みがあった。将来は店舗を構える夢も見えていた。

帝都の騒がしさと機会
帝都は呪い騒動やユグドラからの皇女来訪で騒がしく、依頼や観光客が急増していた。グレッグはセレン皇女のぬいぐるみを製作し利益を得た経験もあり、《千変万化》との縁を商人としての強みとして活かしていた。そして、《始まりの足跡》のクランレベル上昇の報を知り、顔を出すことを決めた。

エヴァの依頼
クランハウスを訪れたグレッグを迎えたのは副クランマスターのエヴァ・レンフィードであった。彼女は「困り事はないか」と切り出し、グレッグを地下へと案内した。そこには大勢のアンダーマン達が待機しており、彼らが帝都に潜伏している事実を明かした。

秘密の通路とユグドラ
さらに奥には、帝都の地下からユグドラへ繋がる秘密の通路が存在していた。それはセレン皇女が転移魔法を面倒と考え、アンダーマンと共に造り上げた抜け道であった。エヴァはこの件を極秘に管理しており、国家に知られれば重大な処罰が下る危険を理解していた。

危険な商談
セレン皇女はアンダーマン達と共同でユグドラに施設を建設する計画を進めており、グレッグには建築資材や食料の調達を依頼した。報酬は宝石で支払われ、運搬はアンダーマンが担うと説明された。グレッグは違法性を指摘したが、エヴァは「今報告すれば制御不能になる」と一蹴した。

試練の始まり
結局、グレッグは巻き込まれる形でこの危険な取引を担うことになった。三十五歳の新米商人としての栄達は、こうして波乱の幕を開けたのである。

同シリーズ

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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