小説「ゲート外伝 1 <上> <南海漂流編>」感想・ネタバレ

小説「ゲート外伝 1 <上> <南海漂流編>」感想・ネタバレ

ゲート外伝1上 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 南海漂流編の表紙画像(レビュー記事導入用)

物語の概要

■ 作品概要

『ゲート外伝1<上> 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<南海漂流編>』は、柳内たくみによる自衛隊×異世界ファンタジー小説の外伝作品(前編)である。 物語の舞台は、日本と異世界を繋ぐ『門(ゲート)』が封鎖されてから5ヶ月後である。「特地」と呼ばれる異世界で孤立した自衛隊が食糧や燃料不足といった諸問題の対応に追われるなか、一方の帝国も国力の低下によって辺境各地で紛争が頻発していた。この状況を打開すべく、帝国と日本は合同使節団を紛争国へ派遣することを決定する。しかしその道中、使節団を乗せた大型船が座礁し、帝国の皇太女ピニャと護衛の自衛官である伊丹の二人が大海原へ放り出されてしまう。絶海を舞台にした過酷なサバイバル劇が展開される異色のエピソードとなっている。

■ 主要キャラクター

  • 伊丹耀司(いたみ ようじ): 陸上自衛隊の自衛官であり、シリーズ本編の主人公である。本作では合同使節団におけるピニャの護衛役を務めていたが、船の座礁により彼女と共に海へ投げ出される。飄々とした性格の重度なオタクであるが、数々の修羅場を潜り抜けてきたレンジャーあがりであり、いざという時には優れたサバイバル能力と冷静な判断力を発揮する。
  • ピニャ・コ・ラーダ: 異世界にある「帝国」の皇太女である。伊丹と共に海難事故に巻き込まれ、絶海での漂流生活を余儀なくされる。皇族としての強い責任感と誇り高き精神を持つが、過酷な自然環境のなかで、価値観の異なる伊丹とともに生き残りを懸けたサバイバルに直面することとなる。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、近代兵器を用いた大規模な軍事衝突や国家間の政治的駆け引きが主軸となる本編とは打って変わり、「絶海での遭難サバイバル」という局地的な極限状態に焦点を当てている点である。部隊の支援や自衛隊の圧倒的な火力がほとんど頼れない環境下で、現代日本の自衛官と異世界の皇太女という立場の全く異なる二人が、いかにして協力し生き抜くかが詳細に描かれる。 すでに構築されたミリタリーファンタジーとしての重厚な世界観を背景にしつつも、あえて登場人物を海に孤立させ、彼らの個人的なサバイバル技術やキャラクター同士の濃密な掛け合いをクローズアップしている点が、本編とは違う本作ならではの魅力であり、読者にとって非常に興味深いポイントである。

書籍情報

ゲート外伝1<上> 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<南海漂流編>
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子
出版社:アルファポリス
発売日:2014年12月28日

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あらすじ・内容

累計150万部突破!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、外伝文庫化第一弾・前編! 『門』封鎖から五ヶ月――『特地』で孤立した自衛隊が食糧・燃料不足など諸問題の対応に追われるなか、帝国の国力低下に伴い、辺境各地では紛争が頻発していた。この状況を打開するため、帝国と日本は合同使節団を紛争国に派遣することを決定する。ところがその道中、使節団を乗せた大型船が座礁し、皇太女ピニャと護衛の自衛官伊丹の二人が、大海原へ放り出されてしまう!

ゲート外伝1<上> 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<南海漂流編>

感想

門の向こうで繰り広げられる海洋冒険譚

門が閉じて異世界に残された伊丹達の物語である。視察の旅となる筈が、思いがけない船の不具合から海へと投げ出されてしまう展開には、いきなり引き込まれてしまった。

アクアス族との出会いと略奪の痕跡

過酷な海の上を三日間も彷徨った末に、人魚のような姿をしたアクアス族に助けられた。然し、安息も束の間、案内された彼等の村落は無残にも壊されていたのである。略奪の痕を追いかけていく途中で、襲撃した連中を見付けるのだが、此処からの展開が何とも歯痒い。正義感から彼等を救おうと動いたピニャが、何と海賊のロゼと間違えられて捕まってしまうのである。皇太女という高い身分でありながら、地下牢に入れられ酷い目に遭わされる彼女の姿には、読んでいて非常に冷や冷やさせられた。

冷徹な政治判断と影武者作戦

一方で、ピニャを見失ってしまった船の残存組の動きも、大変興味深い。普通なら大慌てになる処だが、残された家臣や外交官達は、トュマレンとの交渉という任務を優先する判断を下した。そして、何と顔が似ているという理由で、捕まえていた元無法者の海賊の女をピニャの影武者に仕立て上げてしまうのである。彼等の抜け目無く冷徹とも言える決断力は、政治の現実的な部分を抉り出していて、此の作品の奥深さを感じさせた。

伊丹の単独潜入と運の良さ

そして本作で一番見所だと感じたのは、矢張り伊丹の単独行動である。ピニャを救い出す為、彼は港町シーミストへと密かに潜入した。最初は「現代の人間が異世界の街に入れば、流石に目立って危険ではないか」と心配になった。然し、其処は交易が盛んで、海棲の亜人など様々な種族が入り混じる、非常に大らかな港町であったのである。其の御陰で彼が風景に紛れ込めたのは、非常に巧妙な設定だと感心した。

更に痛快なのは、立ち寄った食堂での場面である。伊丹は何と、其処で美味しい食事を取りながら、今回の事件の鍵を握る連中と呆気無く接触してしまうのである。此の、飄々としながらも確実に鍵となる人物を引き当てる伊丹の行動力と運の良さは、実に素晴らしい。彼らしい肩の力が抜けた遣り取りに、思わず笑みが零れてしまった。

全体を通して、絶望的な窮地と、其れを覆す伊丹の頼もしい姿が、非常に良い均衡で描かれていた。人間関係の擦れ違いや、思いがけない出会いが如何に繋がっていくのか、下巻での鮮やかな救出劇が今から非常に楽しみになる、そんな一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

伊丹耀司

陸上自衛隊に所属する自衛官である。物事を外見だけで判断しない慎重な性格を持つ。価値観の押し付けを避ける自衛隊の方針を重んじる。日頃は怠惰な生活を送っている。ピニャの護衛として行動を共にする。

・所属組織、地位や役職

 陸上自衛隊・二等陸尉。

・物語内での具体的な行動や成果

 武装集団の馬を狙撃して機動力を奪い去る。

 ピニャと共に海で漂流生活を経験した。

 シーミストに潜入し、情報収集の拠点を見つける。

 地下牢へ向かい、ピニャの救出を成功させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 暇であったため交渉の随行役に選出される。

 アクアス族の狂宴でも理性を保ち信頼を獲得した。

ピニャ・コ・ラーダ

帝国の皇太女である。過去の経験から虐殺を見過ごせない強い正義感を抱く。国家の利益を優先して自身の感情を切り捨てる覚悟を持つ。伊丹に対して特別な感情を寄せている。

・所属組織、地位や役職

 帝国・皇太女。

・物語内での具体的な行動や成果

 捕らわれた女性達を救うため武装集団へ突撃した。

 海で漂流したのち、アクアス族に救助される。

 海賊ロゼと誤認されて地下牢へ投獄された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 外交実績を作るためトュマレンへの同行を決断する。

 秘密の同人漫画を国家機密として隠している。

狭間

陸上自衛隊の幹部である。部下の士気を維持するための方策を深く考える。困難な状況下でも生存を優先する判断を下す。責任は自らが負うという力強い姿勢を見せる。

・所属組織、地位や役職

 陸上自衛隊・陸将。

・物語内での具体的な行動や成果

 賠償金を給与や食糧購入費へ流用する決断を下した。

 兵站不足を補うため、石油精製や稲作の可能性を検討させる。

 トュマレンへの交渉使節団に護衛を同行させる方針を固めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 物資欠乏の状況下において駐屯地の最高意思決定を担う。

 伊丹を随行役に起用する流れを承認した。

菅原

外務省に所属する人物である。帝国の情勢悪化を警戒している。戦国化を防ぐための対外工作を立案する。伊丹の生存を信じて交渉任務を重んじる。

・所属組織、地位や役職

 外務省・外交官。

・物語内での具体的な行動や成果

 帝国と同盟関係にあると誤認させる交渉を提案した。

 海賊船から回収した物資を船員へ自由に分配させる。

 ロゼをピニャの影武者に仕立てて交渉の場に座らせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 捜索よりもトュマレン政府との外交任務を重視する。

 ロゼの奔放な態度により結果として交渉を有利に進めた。

ハミルトン

ピニャに仕える秘書官である。主君の強い責任感を理解して心を痛めている。ピニャが伊丹に好意を抱いていると推測する。二人を結びつけるための策を練る。

・所属組織、地位や役職

 帝国・皇太女秘書官。

・物語内での具体的な行動や成果

 伊丹の足を縛り上げて拘束した。

 媚薬入りの酒を用いて既成事実を作ろうと計画する。

 トュマレンとの交渉において帝国側の代表として奔走した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ピニャの船酔いにより恋の策略は失敗に終わる。

 ピニャ不在の交渉で影武者を立てる決断を下した。

アルバイン

シーミストの領主を父に持つ青年である。英雄や勇者として称えられている。純朴な性格で策謀を持たずに行動する。女性を政治の道具にすることを嫌う。

・所属組織、地位や役職

 シーミスト領主の息子。勇者。

・物語内での具体的な行動や成果

 盗賊討伐の激励を受け、義勇軍を率いると宣言した。

 アクアス族の娘達を救出する。

 出雲に人質として捕らえられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 自身の功績の多くが仲間の手柄によるものだと自覚している。

 父の目論見により義勇兵の指揮官へ据えられた。

ケーブル・クラム・ハイボール

シーミストを治める領主である。息子の名声を利用して自身の格を上げようと企む。半島諸族を束ねる王の地位を狙う。権力志向が強く冷徹な思考を持つ。

・所属組織、地位や役職

 シーミスト・領主。

・物語内での具体的な行動や成果

 アルバイン名義で義勇兵の募集を発表した。

 総督から日本刀を褒賞として受け取る。

 捕らえたピニャを独立承認の交渉材料にしようと画策した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ワレサ総督から軍事顧問の受け入れを条件として提示される。

 出雲に息子を人質に取られ、ピニャへの手出しを諦める結果となる。

ボルホス

シーミストの警備隊長を務める男性である。元は帝国軍に所属していた経歴を持つ。軍人としての誇りと責任感が強い。与えられた任務を忠実に遂行する。

・所属組織、地位や役職

 シーミスト警備隊・隊長。

・物語内での具体的な行動や成果

 地下牢が破られた事実を領主に報告した。

 逃亡したピニャの追跡部隊を指揮する。

 出雲との対峙で軍人として戦う覚悟を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 短期間で傭兵から隊長格へ昇格する。

 アルバインの悪乗りにより戦意を喪失した。

カンフォート

アルバインに従う黒髪の青年である。解放奴隷の出身という背景を抱える。主君に対して自ら距離を置いている。無実の者を助ける正義感を持つ。

・所属組織、地位や役職

 アルバインの従者。

・物語内での具体的な行動や成果

 捕らえられた女性が本物のロゼであるか疑念を抱く。

 裏門から地下牢へ向かう道案内を引き受ける。

 ピニャを無実の罪から救い出す決断を下した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 契約と借金によりアルバインに従っている立場である。

 伊丹の誠実な態度を見て協力を決意する。

ロゼ

海賊船を率いる赤毛の女性である。足枷を自由の証として身につけている。誇り高く物怖じしない性格である。刹那的で奔放な振る舞いを見せる。

・所属組織、地位や役職

 シードック号・船長。女海賊。

・物語内での具体的な行動や成果

 自衛隊の圧倒的な火力により船を撃沈された。

 海に漂流していたところを救助されて捕虜となる。

 ピニャの影武者としてトュマレンとの交渉の場へ出向いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 裁判なしで奴隷として扱われる危機に陥る。

 無責任な発言が結果的に交渉を有利へ導いた。

出雲

特殊作戦群を率いる自衛官である。伊丹の性格や行動原理を深く理解している。状況を冷静に分析して的確な指示を出す。目的達成のためには卑怯な手段もいとわない。

・所属組織、地位や役職

 陸上自衛隊・二等陸佐。特殊作戦群。

・物語内での具体的な行動や成果

 行方不明となった伊丹とピニャの捜索部隊を指揮する。

 ピド村で不審な木造帆船を発見して状況を推測した。

 アルバインを人質に取り、シーミスト兵を撤収させる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 当初は重要な役職のため交渉の随行役から外されていた。

 伊丹の逃走方向を偽装する癖を見抜く。

ロゥリィ・マーキュリー

黒衣を身にまとう亜神の少女である。伊丹に対して強い執着心を抱いている。戦いにおいては圧倒的な力を発揮する。誇り高い相手との戦闘を好む。

・所属組織、地位や役職

 亜神。

・物語内での具体的な行動や成果

 伊丹の任務に同行できないことへ不満を漏らす。

 伊丹の遭難を聞きつけて捜索隊へ参加した。

 シーミストの指揮所へ突入して兵の撤収を要求する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 伊丹の生存を確信して周囲を鼓舞する役割を担った。

 ボルホスと対峙し、互いの戦意を最高潮へ高め合う。

出来事一覧

01

武装集団との戦闘と逆転
  • 当事者: 伊丹耀司、ピニャ・コ・ラーダ vs 武装集団(後にアクアスの女性達も敵対) 。
  • 発生理由: ピニャが武装集団を盗賊と断じ、鎖で繋がれたアクアスの女性達を救出するため奇襲を決断したため 。
  • 結果: 伊丹とピニャが奇襲により武装集団を落馬させ戦闘不能にするが、アクアスの女性達が救出者であるピニャを海賊と罵倒して捕らえた 。倒れていた小男に殴打されピニャは意識を失い、救出行動は失敗に終わった 。

02

農業知識と担当を巡る衝突
  • 当事者: 幹部陣 vs 女性自衛官 。
  • 発生理由: 食糧不足対策として、幹部が女性自衛官に農業担当を打診したため 。
  • 結果: 女性自衛官は蟲への強い嫌悪から担当を拒否し、民間側に生産を託す案が提起された 。
伊丹の再出発告知と三人の反発
  • 当事者: 伊丹耀司 vs ロゥリィ・マーキュリーを含む三人 。
  • 発生理由: 伊丹が新たな任務のため留守にすることと、任務の性質上三人を連れて行けないと告げたため 。
  • 結果: 三人が強い不満を示し、同行を拒まれた埋め合わせを要求した 。伊丹が後で一人ずつ返す約束をして場を収めた 。

03

機密漏洩疑惑による伊丹の拘束
  • 当事者: ピニャ・コ・ラーダ、ハミルトン vs 伊丹耀司 。
  • 発生理由: ピニャのトランクから散乱した同人漫画の原稿(国家機密)を、同室にいた伊丹が見た可能性があったため 。
  • 結果: ピニャの命により、ハミルトンが伊丹を縛り上げて拘束した 。その後、逃亡防止のため伊丹に奴隷用の足枷が装着され、ピニャの足首と繋がれた状態で常時監視されることになった 。
ハミルトンによる既成事実化計画(未遂)
  • 当事者: ハミルトン vs ピニャ・コ・ラーダ、伊丹耀司 。
  • 発生理由: 国家機密問題を解決し、伊丹を帝国側に縛り付けるため、媚薬入りの酒を用いて二人の間に既成事実を作ろうとしたため 。
  • 結果: ピニャが本格的な船酔いを発症し、薬入りの酒を飲ませることができず、計画は実行前に頓挫した 。

04

海賊ロゼとの交戦
  • 当事者: 剣崎率いる自衛官達(ヒューゴ号) vs 女海賊ロゼ率いるシードック号 。
  • 発生理由: 接近してきたシードック号が威嚇射撃の矢を放ち、自衛隊側がそれを敵対行為と認定したため 。
  • 結果: 特殊作戦群の銃撃と擲弾射撃によりシードック号は短時間で撃沈・壊滅し、生き残ったロゼは捕虜として監禁された 。
ヒューゴ号の座礁と短艇の落下(事故)
  • 当事者: 伊丹耀司、ピニャ・コ・ラーダ(被害者) 。
  • 発生理由: 船が暗礁に乗り上げたことに加え、事前にハミルトンが酒樽を隠す際に短艇のロープを誤って傷つけていたため 。
  • 結果: 伊丹とピニャが退避のために乗り込んだ短艇のロープが切断され、海へ落下した 。二人は母船から引き離され漂流を開始した 。

05

アクアス族の狂宴
  • 当事者: アクアス族、ピニャ・コ・ラーダ vs 伊丹耀司 。
  • 発生理由: アクアス族とピニャが酒を飲んで異常な高揚状態となり、理性を失って伊丹に迫ったため 。
  • 結果: 伊丹は冷静さを保って手を出さず、夜の狂騒を耐え抜いた 。翌朝、理性を取り戻したアクアス族は羞恥心と罪悪感に苛まれ、激しく後悔した 。
ピド村の壊滅(過去の出来事)
  • 当事者: アクアス族(ピド村) vs 武装集団(トュマレン関係の勢力と推定) 。
  • 発生理由: 単なる略奪ではなく、地域を荒廃させる政治的・軍事的目的を持った行動であったと推定される 。
  • 結果: アクアス族の集落は破壊・焼き討ちされ壊滅した 。生存者は見当たらず、若者達の肉親は死亡したか捕虜として連れ去られた 。

06

ピニャの誤認逮捕と投獄
  • 当事者: ピニャ・コ・ラーダ vs シーミストの看守・警備勢力 。
  • 発生理由: 以前の戦闘でピニャがアルバイン側と衝突した経緯から、救助を妨害した「海賊ロゼ」であると誤認されたため 。
  • 結果: ピニャの無実の訴えは聞き入れられず、地下牢に投獄され、裁判なしで処刑予定の囚人として扱われることになった 。
従者達の不満と鬱憤
  • 当事者: カンフォートらアルバインの従者達 vs アルバイン(城側の扱い) 。
  • 発生理由: 従者達が危険な任務を果たしたにもかかわらず、功績の多くが主君アルバインの手柄として扱われているため 。
  • 結果: 契約や借金により離脱できない従者達は、城の宴会には参加せず居酒屋で不満をこぼしていた 。

07

独房前での対峙とピニャの救出
  • 当事者: 伊丹耀司、カンフォートら従者達 vs 看守モダー 。
  • 発生理由: 海賊と誤認されたピニャを救出するため 。モダーがピニャに対して「処刑前に客を取らされる」などの脅迫を行っていたため 。
  • 結果: 従者スニーストがモダーに口止め料を渡し「襲撃されて気絶した」体裁を作ることで合意した 。モダーは死んだふりをし、伊丹が銃で南京錠を破壊してピニャを救出した 。
ヒューゴ号での捜索方針を巡る対立
  • 当事者: ハミルトン、剣崎 vs キングストン船長、菅原 。
  • 発生理由: 漂流から四日が経過し、船の損耗や外交任務を理由に船長と菅原が海上捜索の打ち切りを主張したことに対し、ハミルトンらが反発したため 。
  • 結果: 外交任務を優先する菅原の決断が通り、海上捜索は打ち切られた 。空陸併用の捜索に切り替えられ、トュマレンとの交渉にはピニャの身代わりを立てることが決定した 。

展開まとめ

01

・特地 グラス地方
武装集団の出現と対峙

特地グラス地方にて、伊丹耀司二等陸尉は伏せ撃ちの姿勢で五人組の武装集団を観察していた。彼らは統一性のない装備から正規軍ではなく、傭兵や盗賊の類と推測された。帝国皇太女ピニャ・コ・ラーダは外見と武装を根拠に盗賊と断言したが、伊丹は外見のみでの判断に懐疑を示した。

正義観を巡る応酬

両者は互いの呼称を巡って軽口を交わしつつも、集団の正邪について議論した。ピニャは荷車に鎖で繋がれたアクアスの女性達の存在を示し、彼らを邪悪と断じた。一方、伊丹は特地の慣習や奴隷制度の合法性を挙げ、価値観の押し付けを戒める自衛隊の方針を説明した。しかしピニャは、かつての自身の体験とピド村の惨状を引き合いに出し、今こそ果断に救出すべきであると強く主張した。

奇襲の決断と攻撃開始

戦力差は五対二であり、奇襲以外に勝機はないと判断したピニャの意志に押され、伊丹は殺傷を極力避ける条件で承諾した。伊丹は馬を狙撃し機動力を奪う策を選択し、合図とともに発砲した。先頭の男の馬を撃ち倒し、混乱に乗じてピニャが突撃した。

戦闘の優勢と誤算

伊丹の援護射撃とピニャの突撃により、次々と男達は落馬し戦闘不能となった。だが最後の一人を制圧し、アクアスの女性達に御者を押さえるよう命じた瞬間、事態は一変した。女性達は救出者であるはずのピニャを捕らえ、馬から引きずり下ろしたのである。

救出の失敗と逆転

女性達はピニャを海賊と罵倒し、敵側の青年アルバインを気遣った。倒れていた男達も次々と起き上がり、状況は逆転した。小男が楯でピニャを殴打し、彼女は意識を失った。奇襲は成功したかに見えたが、救出対象の認識違いにより完全な失敗に終わったのである。

02

アルヌス駐屯地
賠償金の流用決定と補給逼迫の共有

狭間陸将は、当面の給与支払いと食糧購入費を帝国からの賠償金で賄う決断を下し、責任は自分が負うと明言した。閉門騒動後の救助収容で備蓄が尽き、食糧と燃料が欠乏している現状が幹部間で確認された。狭間は士気維持のため米の重要性を説き、特地で確認できる稲は細長い粒のオリザルに限られる点が問題視された。

稲作の現実性と農業知識の衝突

柘植が種籾の存在を想起し、吉井准尉の畑にあるが量は僅少であると女性自衛官が説明した。米を全員に行き渡らせるには膨大な田面積と種籾が必要で、農薬や化学肥料もないため病害虫や野生動物被害が深刻化すると指摘された。女性自衛官は蟲への強い嫌悪を露わにしつつ、幹部からの農業担当打診を拒否し、協同生活組合など民間側に生産を託す案が提起された。減反やTPP、文民統制、マスコミといった反発要因も示され、幹部は苦悩しながらも生存のため自前確保を優先する方針を固めた。

燃料問題と石油精製案の精査

燃料不足が議題に上がると健軍は苛立ちを見せたが、狭間は特地で原油が得られる点を示し、精製を検討すると述べた。若い隊員から提出された内政案には荒唐無稽なものも多かったが、石油精製プラント案は具体性が高く、化学や危険物取扱、機械・配管に知識を持つ者に実現性を検討させる方針となり、幹部は一息ついた。

情勢悪化への警戒と対外工作の提案

外務省の菅原は、帝国が内乱と対立を抱え、諸国が利権を主張して紛争が頻発していると説明した。動乱は難民流入を招き、アルヌス州を日本として管理する以上、出入国や住民管理、国境警備が必要になるとの認識が共有された。菅原は戦国化を防ぐため、帝国の軍事プレゼンスを補完する行動として、帝国と同道して他国に赴き同盟同然だと誤認させる茶番の交渉を提案し、狭間は護衛名目で人員を出すと決めた。

随行人選の難航と伊丹の抜擢

交渉には日常会話が可能で地位のある随員が求められたが、残留幹部は初級が多く上級は兼務で手が空かなかった。特戦の出雲は外せず、嘘の肩書きも危険と退けられた末、暇で言葉も問題ない者として伊丹耀司二等陸尉が候補に挙がった。閉門騒動後に任務が薄れた伊丹は怠惰な日常を送っており、幹部の不満も相まって、厄介な随行役を押し付ける形で起用が決定した。

アルヌス街・組合食堂「あさぐも」

伊丹の再出発告知と三人の反発

伊丹耀司二等陸尉は組合食堂で、新たな任務によりしばらく留守にすると親しい者達へ告げ、任務の性質上みんなを連れて行けないと説明した。ロゥリィ・マーキュリーを含む三人は強い不満を示し、同行を拒まれたことへの埋め合わせを個別に求めた。伊丹は負い目を自覚し、後で一人ずつ返す約束をして場を収めたが、精神的には疲弊した。

倉田らの揶揄と女心講義

伊丹が落ち込む中、倉田三等陸曹が現れて、放置の代償が大きくなると揶揄した。倉田の背にはフォルマル伯爵家メイドのベルシアが甘えるように同伴していた。さらにボーゼスが加わり、曖昧な関係は女性の不安を増幅させ、居場所を確保しようとして同行を望むのだと説いた。富田は苦笑しつつ同席し、ボーゼス自身も婚姻手続きの困難から形式に先んじて生活を整えた経緯を示し、講義の説得力を高めた。

同行提案の却下と特戦随行の説明

倉田と富田は、三人が不在なら伊丹の安全が心配だとして同行を申し出たが、ベルシアとボーゼスの牽制もあり、伊丹は断った。伊丹は今回の任務には剣崎ら特戦が随行し、遠隔地で支援も受けにくいため腕っ節が優先されたと説明し、自身が呼び出された経緯には断る余地がなかったと内心で振り返った。ボーゼスは行き先が帝都経由でトュマレンに向かうことを確認し、困難な相手だとして注意を促し、伊丹は礼を述べて出発した。

ボーゼスの急報と鸚鵡鳩の伝書

伊丹が去ると、ボーゼスは執事セバスチャンとメイド達を呼び、皇太女ピニャ・コ・ラーダへ緊急の知らせを送る準備を命じた。用意されたのは羊皮紙と鵞ペン、そして極彩色の鳥である鸚鵡鳩であった。ボーゼスは手紙を認め、鸚鵡鳩の脚に装着して放ち、この機会を逃すなと殿下に伝える意図を示した。富田が波風を懸念して問うても、ボーゼスは結果の正否は誰にも決められず、壊れるならそれまでで深まるならそれでよいと述べ、自身がかつて伊丹に寛恕を得るための人身御供だった経験と、そこから得た幸福を語った。

伝書網の実用性と家の利得

ボーゼスは鸚鵡鳩の帰巣本能を利用した伝書手段を研究させており、帝都まで馬で十日かかるところを三日で届けられると説明した。セバスチャンは運搬や飼育の手間と費用を指摘しつつも、構想が実用化されればボーゼス家の権威が高まると述べ、当主も帝国全域への伝書網拡大を考えていると明かした。さらにセバスチャンは富田へ、鸚鵡鳩の功績でボーゼスへの勘気が解けたことを示し、今後の貢献次第で結婚の公式承認もあり得ると示唆した。ボーゼスは今でも充分に幸せだと富田を気遣ったが、セバスチャンは皮肉を交えつつ更なる成果を促し、富田は困惑しながら受け止めた。

帝都皇城 皇太女執務室

執務室での密かな楽しみと縁談問題

帝都皇城の執務室で、ピニャ・コ・ラーダは機嫌よく鉛筆を削りながら机に向かっていた。輸入紙や筆記具を整え、何かを始めようとしていたが、ハミルトンに呼びかけられると慌てて紙を隠し、不機嫌な態度へ切り替えた。話題は再び配偶者斡旋問題となり、ハミルトンは意中の相手がいると宣言して縁談を断るべきだと進言した。しかしピニャは該当する人物はいないと否定し、政略上の事情から避けられない問題であると語った。

皇太女としての覚悟

候補者が増え続ける現状に困惑しつつも、ピニャは皇太女である以上、自身の意思より帝国の利益を優先すべきだと断言した。皇帝とは自分の身や心すら自由にできない存在であり、国家に益をもたらす者へ身を委ねるべきだと述べ、自身の感情を切り捨てる姿勢を示した。その覚悟を前に、ハミルトンは主の強い責任感を理解しながらも心を痛めた。

理想の配偶者像

ハミルトンに問われたピニャは、帝国のみならず多種族からも信頼され、野心を持たず、贅沢を好まず、自身の芸術趣味に寛大であり、さらに強大な軍事的後ろ盾を持つ人物が理想だと語った。その条件は極めて都合の良い内容であり、ハミルトンは現実に存在するのか疑問を抱いた。

ボーゼスからの書状到着

そこへ近衛将校がボーゼスからの書状を届けた。極端に小型の羊皮紙で送られた手紙は特殊な通信手段によるもので、ピニャは苦労しながら内容を読み取った。手紙には伊丹耀司がスガワラの護衛として帝都へ来訪し、さらに随行していた女性達が同行しないことが記されていた。

トュマレン同行の決断

手紙を読んだピニャは、外交実績を作る目的と配偶者問題の沈静化を理由に、自らもトュマレンへ向かう意向を示した。ハミルトンはその説明に違和感を覚え、思考を巡らせた末、ピニャが伊丹を強く意識している可能性に気付いた。

ハミルトンの推測と決意

ピニャの語った理想像が伊丹の特徴と一致していると理解したハミルトンは、ピニャが想いを抱きながらも身分差ゆえに諦めているのだと推測した。そして今回の遠征を、想いに決着をつける最後の機会と考えているのではないかと結論づけた。だがハミルトンはそれを受け入れず、ピニャが望む相手と結ばれるべきだと決意する。

密かな策略の開始

ハミルトンは、伊丹の欲のなさが最大の障害であると分析しつつも、あらゆる手段を用いて二人を結びつける覚悟を固めた。ピニャがトュマレン行きを決断する中、ハミルトンは準備を引き受け、すべてを成功へ導くと宣言する。こうして彼女は、主君の恋を成就させるため独自の行動を開始したのである。

帝都郊外 エネト川港

トュマレン行きの行程確認と海路採用

帝都からトュマレンへは、陸路で三十日かけて進む方法と、エネト川を下って港町プロプトーへ出てから海路で七〜十日進む方法の二つがあった。一行は安全性を重視し、民間商船をチャーターして海路を採用する方針であった。菅原が地図を広げ、陸路は帝権擁護委員残党や盗賊地帯、さらに係争地グラス通過の危険が大きいと説明し、伊丹も納得する。

皇太女ピニャの突然の同行

一行が川船を見て不安を抱いたところへ、ピニャがハミルトンらを伴って現れ、自身がトュマレンへ行くと宣言した。菅原は外交上の均衡が崩れることを懸念したが、ピニャは随員を極限まで減らし、同行はハミルトンと護衛のグレイのみとすることで配慮を示した。身辺警護の不足を補うため、日本側に護衛協力を求める形となる。

伊丹の「殿下付き」決定

船内では身分によって同席や居室が厳格に分けられるため、ハミルトンは「卿号」を持つ伊丹をピニャの側に付けたいと要望した。菅原は階級社会の制約を踏まえ、伊丹に殿下警護を依頼し、伊丹も了承する。グレイとも再会し、以後は伊丹がピニャの護衛兼同席要員となった。

グラス半島沖の視察提案と対立

ピニャは、プロプトーから海路でトュマレンへ向かう途中、係争地グラス半島沖を通って現地情勢を視察しながら進む案を提示した。ハミルトンは海賊出没海域で危険だとして反対したが、ピニャは最新情報の把握が交渉上必要であり、武装した自衛官がいる以上、海賊に屈するはずがないと押し切った。菅原も「危険に近づきすぎない」条件付きで同意し、グレイも与えられた任務を果たすだけだと静観した。

プロプトーで大型帆船へ乗り換え

川船でプロプトーへ移動後、一行は全長約五十メートル級の三本マスト風帆船へ乗り換えた。伊丹には船楼最上階の二人部屋が割り当てられ、同室はグレイとなる。狭いが上等な待遇で、卿号保持者として当然の配慮であると水夫が説明した。

出航前の「殿下の威厳付け」同席要請

出航に際し、船長らがピニャへ挨拶に来るため、ハミルトンは伊丹に同席を依頼した。目的はピニャの威厳付けと、護衛として伊丹の存在を示すことにあった。伊丹は拳銃を携行し、案内されてピニャの部屋へ向かう。

トランク騒動と下着散乱

ピニャは贈られた大型トランクを開けて捜し物をしていたが、急な来客で慌てて閉めようとして失敗し、トランクが反動でひっくり返って衣類や下着、書類、ケント紙が床に散乱した。ピニャは人目を避けようと必死に身体で隠し、ハミルトンと手分けして回収するが、畳まずに詰め込むため余計に蓋が閉まらない。

伊丹の提案で強引に施錠、そして誤爆

伊丹が「蓋に座って重みで閉め、隙にロックをかける」方法を提案し、ピニャとハミルトンが蓋に腰掛けて押さえ込み、伊丹が施錠して収拾した。身繕いの後、ピニャは伊丹が最初から居たことに気づき、見たかどうかを強く問い詰める。伊丹は礼儀として否定するが、ピニャはそれを許さず激しく動揺し、下着以上に「見られて困る何か」があった可能性を示唆する。

「国家機密漏洩」扱いで伊丹拘束

ピニャは突如「国家機密の漏洩だ」と言い出し、ハミルトンに伊丹の逮捕を命じた。ハミルトンは反射的に動き、伊丹を床に倒して腕をねじり、敷布などで手足を厳重に縛り上げた。伊丹は誤解だと感じつつ、ハミルトンが手加減していることと「悪いようにしない」と囁かれたことで抵抗せず従った。

機密の正体は秘匿のまま、隠匿方針へ

ハミルトンが機密の内容を問うても、ピニャは「誰にも話せない」「帝室にとって重大」と明言し、皇城に置けばメイドに見られるため持ち歩いていたと説明した。船長らを待たせたままでは説明不能で、日本側に気取られれば大騒ぎになるため、ハミルトンは「今はイタミ殿を隠す」と提案する。しかし船室には収納が乏しく、寝台下もトランクで埋まっており、隠し場所がない状況で終わる。

皇太女の船出

御座船ヒューゴ号への乗船
トュマレンへ向かう御座船ヒューゴ号に乗り込んだピニャ・コ・ラーダは、船長キングストン以下の幹部乗員から正式な挨拶を受けた。皇太女として威厳ある態度で応じ、航海の成功を命じると乗員たちは感激した様子で退室した。やがて出航命令が下され、展帆作業が始まり、船はゆっくりと桟橋を離れて航海へと入った。

女帝らしさを演じようとするピニャ
出航後、ピニャは威厳ある皇帝らしい振る舞いを試みていたことをグレイに明かした。女帝の風格を演出しようとしていたが、率直な評価として全く似合っていないと告げられ落胆する。しかしグレイは、若さこそが今のピニャの魅力であり無理に威厳を装う必要はないと諫めた。忠言を受け入れたピニャは自然体でいることを決め、グレイは船内巡視のため退室した。

隠されていた伊丹の存在
グレイが去ると、部屋に潜んでいたハミルトンが安全を確認し、ピニャは緊張を解いた。その直後、背もたれ代わりにしていたクッションの中から縛られた伊丹耀司が現れる。ピニャは伊丹を密かに船へ連れ込み、発覚を避けるため隠していたのであった。

国家機密を巡る対応の議論
伊丹に秘密を知られた可能性があるとして、ハミルトンは口封じや抹殺を提案するが、ピニャはそれを強く拒否した。記憶消去の方法も現状では不可能であり、監禁も長くは隠し通せないと判断される。最終的にピニャは、伊丹を表向き護衛任務として常に側に置き監視する方針を決定した。

常時同行という問題
しかしその方法では旅の間、食事や休息などあらゆる場面で同行せざるを得ないことが判明し、ピニャは動揺する。ハミルトンは結婚して身内にしてしまう案まで提示するが、ピニャはそれでは脅迫同然になり伊丹に迷惑をかけるとして拒否した。

伊丹への強制的な協力要請
結局、記憶処理の手段が見つかるまで同行させる方針が採用される。ハミルトンは伊丹に状況を通告し、協力しなければ処分もあり得ると暗に示した。拘束された伊丹には選択肢はなく、ただ頷いて同意を示すしかなかったのである。

03

トュマレン航路 皇太女執務室の出来事

御座船への乗船と出航
ピニャ・コ・ラーダは御座船ヒューゴ号に乗船し、船長キングストンら乗組員の挨拶を受けた。皇太女として尊大な態度を装い応対したが、それは女帝としての威厳を演出しようとした試みであった。出航後、側近グレイに率直な評価を求めた結果、その振る舞いは似合っていないと指摘され、若さのままで良いという忠言を受け入れた。

伊丹拘束の発覚
グレイが退室した後、隠していたクッションの中から縛られた伊丹耀司が現れた。国家機密を見られた可能性を理由に拘束していたことが明らかとなる。ハミルトンは口封じや監禁を提案したが、ピニャは伊丹を害する案を強く拒否し、記憶消去の方法が見つかるまで護衛として常に側に置く方針を決定した。

監視体制としての足枷
伊丹は解放されたものの、逃亡防止のため奴隷用の足枷が装着され、その鎖はピニャ自身の足首にも繋がれた。これは常時監視を可能にするための措置であり、ハミルトンが鍵を管理することとなった。伊丹は不満を示しながらも状況を理解し、協力する姿勢を見せた。

二人きりの謝罪
ハミルトンが退出すると、部屋にはピニャと伊丹だけが残された。ピニャは突然跪き、日本式の土下座で謝罪する。伊丹は状況を受け入れる意思を示し、これまでの出来事にも慣れていると語ったが、その言葉は逆にピニャを自責の念へと追い込んだ。

結婚観を巡る対話
会話はやがて配偶者問題へ移り、ピニャは皇太女として結婚が政略問題である現実を語る。国家と政治を背負う立場では感情より利益が優先されると述べ、私情による離婚すら戦争の原因になり得ると説明した。一方、伊丹は自身の離婚経験を語り、結婚は相手次第であり理解の難しい関係であると語った。

価値観のすれ違い
伊丹の話を聞いたピニャは、相手を思いやって別れを受け入れた姿勢を評価し、自身には許されない選択であると感じた。そして皇族の結婚が義務的な役割に近いものであることを率直に語る。伊丹は冗談交じりに受け止めたが、ピニャはその価値観の違いに強い興味を抱くこととなった。

航海初日 ハミルトンの策謀

既成事実を狙う秘書官の決断
ハミルトンは現在の状況を好機と判断し、計画を前倒しして行動を開始した。晩餐の準備に合わせ、帝都で入手した日本製ウイスキー樽を抱えてピニャの船室へ向かう。その酒には、男女の関係を強制的に進展させる効果を持つ薬物が仕込まれていた。

帝都での薬物入手と検証
この薬は帝都の裏街で購入されたものであり、ハミルトンは効果の真偽を慎重に確認していた。動物、使用人夫婦、さらには自身と婚約者を用いた段階的な実験を経て、強力な効力を持つことを確信する。そして最終的に残っていた薬をすべて酒樽へ投入し、ピニャと伊丹を男女関係へ発展させる計画を完成させた。

計画の目的
ハミルトンの狙いは、二人の間に既成事実を作り出すことであった。そうなれば国家機密問題も解決でき、伊丹を確実に帝国側へ縛り付けられると考えたのである。逃げ道を断つため、形式より結果を先に成立させるという強引な方策であった。

船室での食事準備
ハミルトンは料理人達を伴い船室へ入り、船酔いを理由に部屋食を整えさせた。外部の目を避けるための配慮でもあり、クッションに隠された伊丹の存在も露見しなかった。準備が整うと乗員達は退出し、計画実行の環境が整った。

予想外の事態
しかしその直後、ピニャは本格的な船酔いを発症する。激しい吐き気と体調不良により食事も酒も受け付けない状態となり、寝台で休むしかなくなった。ハミルトンは動揺するが、体調不良の主君に薬入りの酒を飲ませることはできなかった。

計画の頓挫
こうして周到に準備された計画は、開始前の段階で完全に失敗に終わる。ハミルトンは主の回復を待つ以外に手段を失い、事態は一時停滞することとなった。

航海三日目 回復した皇太女

船酔いからの回復と甲板散策
出航直後に倒れていたピニャ・コ・ラーダは、航海三日目には船の揺れにも慣れ、甲板を歩けるほどまで回復していた。碧く澄んだ海と心地よい潮風に触れ、閉じこもっていた鬱屈が洗い流されるようだと語る。透明度の高い海には魚影も見え、穏やかな航海の空気が漂っていた。

グレイへの釣り命令
非番の自衛官達が釣りを楽しむ様子を見たグレイは強い興味を示すが、護衛任務を理由に遠慮する。しかしピニャは危険のない状況を理由に休息を命じ、自らの食事用の魚を捕ってくるよう正式な命令を下した。大義名分を得たグレイは喜び勇んで釣りへ向かい、ピニャは久しぶりの一人の時間を得る。

菅原との航路確認
間もなく菅原が現れ、体調回復を確認する。現在はグラス半島付近を航行しているものの、安全確保のため上陸は行わず遠方観察に留めていることが再確認された。視察よりも安全を優先する航海方針に、ピニャは不満を抱きつつも受け入れる。

不審船の接近
その最中、右舷方向から正体不明の船が接近していることが報告される。信号旗による誰何にも応答がなく、船長は高い確率で海賊船であると判断し進路変更を指示した。水夫達は接舷戦闘に備えて武器を配布し、緊張が甲板に広がる。

自衛隊の戦闘準備
剣崎率いる自衛官達は攻撃準備を整え、接近前に迎撃する方針を示す。しかし木造船同士の戦いを前提とする水夫達には、銃火器で船を撃沈するという発想自体が理解できなかった。ピニャは彼らが日本の兵士であり、その戦力が帝国軍を打ち破った現実を説明する。

海賊ロゼとの交戦
接近してきた船は女海賊ロゼ率いるシードック号であることが判明する。威嚇射撃として放たれた矢を敵対行為と認定し、剣崎は正当防衛射撃を命令した。特殊作戦群の銃撃と擲弾射撃が一斉に浴びせられ、海賊達は抵抗する間もなく壊滅する。

圧倒的火力による撃沈
擲弾は船腹を貫き喫水線に大穴を開け、マストは破壊され船体は急速に浸水した。暴れる帆やロープにより海賊達は次々と海へ投げ出され、シードック号は短時間で沈没する。水夫達は従来の海戦常識を覆す光景に戦慄し、日本兵の戦力の異質さを痛感した。

海戦の常識の崩壊
沈みゆく海賊船を見届けながら、ピニャはこれが帝国軍敗北の現実であると静かに語る。船長達もまた、日本と敵対しないという認識を強め、海の戦いそのものが変わる時代の到来を実感することとなった。

04

女海賊ロゼの捕縛と晩餐会前夜

沈没後の生存者確認と救助判断
剣崎は沈没した海賊船の残骸と死体の中に、樽に掴まって生き残っている赤毛の女を発見した。射撃を止めた特殊作戦群は処遇判断を菅原に委ね、菅原はピニャにこの地の海賊の扱いを確認した。ピニャは「裁判なしで捕虜は奴隷、財物は捕縛者の物」という慣習を示し、救助は問題ないと許可した。

戦利品回収と船員の熱狂
船長は短艇を出して女海賊を引き揚げ、漂流物資も回収させた。菅原は物資の所有権を主張せず、船員達に自由に分配させたため、回収作業は過熱し、沈船まで潜って漁る者も出た。海賊撃退と戦利品で船内は祭りのような空気となり、船員達は沈没の光景を繰り返し語り合う。

ロゼの正体と処分方針
引き揚げられた女はロゼと呼ばれ、足枷が“トレードマーク”だと水夫が説明した。ロゼはそれを屈服の証ではなく「足枷を引きちぎる自由の証」と言い張り、辱めるなら好きにしろ、嫌なら殺せと啖呵を切った。菅原は水夫達に下げ渡すのを避け、ピニャへ処置を委ねた。ピニャは帝国法に従い「正当に裁かせる」とし、ロゼは船倉奥深くに監禁されることになった。

晩餐会提案とハミルトンの思惑
監禁を終えたハミルトンは船長と会い、快気祝いと祝勝会を兼ねた晩餐会の開催を提案される。ハミルトンは内心、媚薬入りの酒を飲ませる機会として利用する算段を立てつつ、返事は殿下に確認するとして一旦保留し、当初「明日の晩」として伝える方向で動いた。

ピニャと伊丹の“同居”状態の露呈
ピニャの部屋では、足枷の鎖で繋がれたままのピニャと伊丹が、それぞれ腹ばいで同種の薄い本を読み、挙動まで揃う異様な一体感を見せていた。ハミルトンは晩餐会が「明日」であると伝えると、ピニャは快諾する。

晩餐会当日の最大問題と監視体制
ハミルトンは、船酔いを口実に部屋へ籠もる猶予が尽き、明日以降は食堂利用や船内視察で人目が増えるため、伊丹の扱いが破綻すると警告した。ピニャが伊丹同伴を提案するが、ハミルトンは菅原らに会わせること自体が機密保全上の禁忌として拒否し、自分が部屋に残って監視し、晩餐会にはピニャとグレイのみで出席する段取りにする。

シェイダー事件の真相と機密の本質
ピニャは「シェイダー事件」を引き合いに出し、国家の命運が個人の弱みで左右され得ると語る。漏洩した“重大機密”の正体は、皇帝フストーが禿であり鬘で隠していたという私的劣等感で、トュマレン使節が「御髪が蘇る秘薬」を仄めかす形で心理を揺さぶり譲歩を引き出した、というものだった。ピニャは自らの機密も同種の「見る者にはくだらないが、為政者の弱みとして国家機密になり得る」類だと示し、詳述は避けつつ、伊丹に迷惑をかけている現状への謝罪と、それでも守らねばならぬ立場の矛盾を吐露した。

座礁事故と短艇漂流

謝罪の受容と二人の距離の変化
伊丹はピニャの謝罪を受け入れ、拘束状態についても気にしていないと告げた。むしろ警護名目で読書をして過ごせる現状を好意的に受け止めていた。帝都での園遊会を思い出しながら二人は過去を語り合い、関係は以前よりも自然なものへと変化していく。その様子を見たハミルトンは、媚薬入りの酒さえ飲ませれば二人の関係は決定的になると確信した。

ハミルトンの失策の種
船長へ晩餐会受諾を伝えに向かう途中、ハミルトンは酒樽を持ったままであることに気付く。盗み飲みを警戒した彼女は短艇の中へ樽を隠したが、その際に覆いを切り裂く過程で短艇を吊るロープを傷つけてしまった。この小さな損傷が後の事故の原因となる。

国家機密を巡る対話
伊丹は自分を拘束している理由となった秘密について尋ねるが、ピニャはそれだけは明かせないと拒む。理不尽さを指摘されながらも、為政者として守らねばならない最後の尊厳であると強く主張した。その直後、船体に激しい衝撃が走る。

ヒューゴ号の座礁
船は暗礁に乗り上げ大きく傾斜し、船内は滑り台のような状態となった。漏水は発生したものの即座に沈没する状況ではなく、水夫達は防水作業へ向かう。伊丹とピニャは転倒の衝撃で抱き合う形となりながらも脱出準備を開始し、必要な荷物と武器の回収を決めた。

短艇への退避判断
傾斜が強まり移動が危険になったため、ピニャは舷側に吊られた短艇で状況を待つ案を提案する。伊丹はピニャを抱えたまま移動し、荷物を短艇へ積み込んだ。二人は安全確保のつもりで短艇へ乗り込む。

船内指揮と状況整理
一方、菅原と剣崎は船長から座礁の報告を受け、無闇な行動を避けて情報収集を優先する判断を下した。伊丹とピニャについても、伊丹の危機回避能力を信頼し大きな心配はしていなかった。

短艇落下と漂流開始
しかしその直後、損傷していたロープが切断され、短艇は甲板をなぎ倒しながら海へ落下した。中には伊丹とピニャが乗っており、短艇は急流の潮に乗って母船ヒューゴ号から急速に引き離されていく。救助も追跡も不可能なまま、二人を乗せた短艇は夜の海へ流されていった。

05

漂流三日目と国家機密の正体

極限状態の漂流生活
短艇が母船から流されて三日目を迎え、ピニャと伊丹は強烈な日差しと水分不足に苦しんでいた。食料も真水も存在せず、唯一積まれていたのは業務用ウイスキー樽のみであったが、伊丹は脱水を悪化させるとして飲用を厳しく禁止する。二人は体力消耗を避けるため、極力動かず救助を待つ方針を取る。

生存方針を巡る対照的な性格
焦燥に駆られたピニャはオールで陸を目指そうとするが、伊丹は無闇な行動こそ死を早めると判断し制止する。怠け者を自称し合理的に動かない選択を取る伊丹と、責任感から行動しようとするピニャの性格の違いが浮き彫りとなる。しかしその会話の中で、ピニャは自身の判断が座礁事故を招いたのではないかと強く後悔していた。

互いへの理解と信頼
伊丹はピニャを愚かではないと断言し、真面目さゆえに空回りする人物だと評価する。その言葉にピニャは救われ、自身を客観視できる余裕を取り戻す。極限状況の中で二人の精神的距離はさらに縮まっていった。

呼び方の変化と秘密の開示
死を意識したピニャは「殿下」ではなく名前で呼ぶよう求め、伊丹もそれを受け入れる。そして互いに他人行儀をやめる流れの中で、ついに問題となっていた国家機密を明かす決意をする。

国家機密の正体
ピニャが差し出した封筒の中身は、自ら描いた同人漫画の原稿であった。日本文化に触れられなくなった飢えから創作に挑戦したものだったが、画力不足への強い羞恥心から他人に知られることを恐れ、それが結果として国家機密扱いとなっていたのである。

伊丹の予想外の反応
拍子抜けしながらも、伊丹は嘲笑する代わりに真剣な助言を与える。絵は練習によって必ず上達すると語り、隠す必要がなくなるまで努力すればよいと励ました。その言葉はピニャにとって初めて与えられた肯定であり、大きな希望となった。

生還への意思
希望を取り戻したピニャは伊丹に身を寄せ、無謀な行動をやめ救助を信じて耐える決意を固める。極限の漂流状況の中で、二人は生き延びるための精神的支えを互いに見出したのであった。

アクアス族との遭遇と狂宴の夜

アクアス族による救助
漂流していた伊丹とピニャは、海女を名乗るケミィという女性に発見され救助された。彼女達は海棲亜人アクアス族であり、水中から次々と仲間が姿を現す。女性は下半身に尾ビレを持つマーメイドの姿で、男性は人族に近い外見をしていた。三日三晩飲食していなかった二人は救助されたことを理解し、生還を確信する。

酒と引き換えの支援
ピニャは真水を求め、対価として短艇に積まれていた酒樽を差し出した。酒を貴重品とするアクアス族は歓喜し、その代わりに水と食料を惜しみなく提供する。二人は久しぶりの水を飲み、さらにアクアス族が用意した焼き魚によって体力を回復させた。

漂流生活の反省と交流
食事の中でピニャは漂流中に魚を捕れなかった事情を説明し、海に出る際は水や釣具を備えるべきだという助言を受け入れた。また巨大なフカを伊丹が射殺した話が伝わると、アクアス族の男達は驚嘆し、伊丹への評価を大きく改めた。

陸への帰還見込み
日が傾く頃、ケミィは潮流の流れから翌朝には陸が見えると説明し、その夜は共に短艇で過ごすことを提案した。救助の見通しが立ったことで場の空気は安堵へと変わっていった。

異変の始まり
しかし時間が経つにつれ、酒を飲んだアクアス族の様子が急激に変化し始める。身体の火照りを訴える者が増え、互いに強く接触し合う行動が広がっていった。周囲では男女が水中へ入り込み、理性を失ったような騒ぎとなる。

伊丹への接近と混乱
ケミィもまた伊丹へ強く迫るが、伊丹は状況を理解できず距離を取ろうとする。やがてその影響はピニャにも及び、彼女も異常な高揚状態となって伊丹に縋りついた。伊丹は酒や食事の組み合わせによる作用を疑うが原因は特定できなかった。

狂宴の中での決断
逃げ場のない海上で伊丹は冷静さを保ち、混乱する場からピニャを守ることを優先する。警護という立場とこれまで築かれた信頼から彼女を見捨てる選択は取らず、伊丹は理性を保ったまま夜の狂騒が過ぎ去るのを耐え続けたのであった。

狂宴の後始末とアクアス族の決断

翌朝の沈鬱な空気
夜が明け、短艇は陸を遠望できる位置まで流されていた。しかしアクアス族の男女は誰一人として動こうとせず、深い落ち込みに包まれていた。理性を取り戻した彼らは前夜の行動を思い出し、羞恥心と罪悪感に押し潰されていたのである。

後悔と混乱の拡大
女性達は絶望して取り乱し、海へ身を投げようとする者まで現れた。伊丹は必死に制止するが、逆に「なぜ止めなかったのか」と恨まれる始末となる。男性側もまた海中で集まり、互いに愚痴をこぼし合いながら精神的打撃から立ち直れずにいた。

ピニャの疑問と伊丹の信条
混乱が続く中、ピニャは伊丹に対し、なぜ自分に手を出さなかったのかと問いかけた。伊丹は正気を失った相手に関係を迫るのは信条に反すると答え、結果として後悔を生まなかったことを良しとした。その言葉は周囲のアクアス族にも届き、場の空気に変化が生まれる。

アクアス族の協議
やがて男女は集まり、真剣な話し合いを始めた。狭い共同体で生活する彼らにとって、今回の出来事が将来の血縁関係や子孫に影響する可能性が問題となったのである。責任の所在を個別に分けるのではなく、共同体全体で受け止める方法が模索された。

全員結婚という結論
長時間の議論の末、アクアス族は全員で家族となる「多夫多妻の大家族」を形成するという結論に至った。生まれる子は全員の子として育て、父母も共同体全体で担うという独自の解決策であった。伊丹とピニャはその大胆な決断に驚きつつも、文化の違いとして受け入れるしかなかった。

陸への出発と価値観の違い
問題を整理したアクアス族は気持ちを切り替え、短艇を陸へ案内する役目を引き受けた。ケミィは新たな家族関係を前向きに受け止めており、伊丹は彼らの価値観が根本的に異なることを理解する。

アクアス族の生活圏
航行中、ケミィはアクアス族の暮らしについて語った。彼らは完全な海底生活ではなく、入り江の汀に家を築き、海水を引き込んだ住居で生活しているという。木材や金属資源が乏しい海の環境に適応し、壊れれば作り直すという柔軟な生活様式を持っていた。

新たな目的地へ
アクアス族の集落へ向かえば沈没した船の情報も得られる可能性があると聞き、ピニャは訪問を決断する。こうして伊丹とピニャは、救助者であるアクアス族の案内のもと、新たな土地へと進むことになったのである。

アクアス族集落への帰還と壊滅の発覚

ケミィ達が伊丹とピニャを集落へ案内しようとした背景には、自分達が決めた「全員結婚」という決断に対する大人達の反発を和らげる意図があったと考えられる。客人を理由に議論を先延ばしし、その間に既成事実として認めさせる算段であった。しかし集落に到着した彼らを待っていたのは、叱責ではなく完全な沈黙であった。

石積みの外壁は破壊され、葦の屋根は焼き払われ、集落全体が廃墟と化していた。周囲にはアクアス族の遺体が散乱しており、若者達の肉親や縁者は誰一人生き残っていなかった。

襲撃の痕跡と状況分析

状況を確認したピニャは、直近に武装集団による襲撃があったと即座に判断した。馬蹄や荷馬車の轍から、敵は二十騎前後で三台の荷馬車を伴っていたと推測される。帰路の轍が深いことから、大量の略奪品を積載して去ったことも明らかであった。

集落側も抵抗しており、武装した傭兵風の襲撃者の遺体や放棄された馬が残されていた。しかし戦力差は大きく、最終的に村は壊滅したと見られた。生存者は見当たらず、捕虜として連れ去られた可能性が高いと判断される。

敵勢力の正体と目的

ピニャは襲撃者を、グラス半島を荒らしているトュマレン関係の勢力と推定した。通常の盗賊であれば住民を皆殺しにし集落を焼き払う行為は行わない。人がいなければ富も生まれないためである。

つまり今回の襲撃は単なる略奪ではなく、地域そのものを荒廃させる政治的・軍事的目的を持った行動である可能性が高かった。

正義を巡る対立と進路の決定

伊丹はまず帰国手段の確保を優先すべきだと考えたが、ピニャはそれを退けた。皇太女として課された義務は正義を為すことであり、虐殺を見過ごすことはできないと断言する。

証人確保のため襲撃者を捕らえ、トュマレンとの交渉材料にすると決意したピニャは、放置されていた馬に跨り行動開始を宣言した。漂流から生還した直後にもかかわらず、二人は新たな戦いへ向かうこととなった。

06

地下牢への投獄と誤認逮捕

物語は冒頭の場面へと繋がる。石造りの地下牢へ投げ込まれたピニャは、鉄格子が閉ざされる音と共に囚人として拘束された。彼女は無実を訴えるが、看守は一切耳を貸さず、ピニャを「海賊ロゼ」と断定して扱った。

看守の説明によれば、ピニャが衝突した相手はシーミストの英雄と称される勇者アルバインであり、彼こそがアクアス族の娘達を救出した人物だとされていた。結果として、ピニャは救助を妨害した海賊として捕縛されたのである。

勇者アルバインとの認識の食い違い

ピニャは戦闘時の相手を思い返し、勇者と呼ばれる人物像に違和感を抱いた。力量や威圧感から見れば別の戦士が相応しいはずだったが、実際に勇者と崇められていたのは最も目立たなかった優男であった。

この事実により、ピニャは正義側同士が誤って衝突した可能性に気づく。悪党同士の競合ではなく、互いに救出行動を取った結果の誤解だったのである。

皇太女として名乗れない事情

自身の潔白を証明するため帝国皇太女であると名乗ろうとしたピニャだったが、途中で言葉を止めた。グラス半島は政治的に不安定な地域であり、帝国皇太女の存在は交渉材料、あるいは人質として利用されかねない危険があったためである。

この地では盗賊勢力やトュマレンの影響も強く、身分を明かすことはかえって状況を悪化させる可能性が高かった。

死刑囚としての絶望

看守はピニャを完全に海賊と決めつけ、処刑予定の囚人として扱った。裁判すら行われないまま縛り首になる可能性を告げられ、地下牢に残されたピニャは孤立する。

助けを求める叫びは石壁に反響するだけで誰にも届かず、皇太女でありながら無実の罪で処刑寸前という絶望的状況へ追い込まれることとなった。

シーミスト潜入と状況判断

ピニャが拉致された状況を確認した伊丹耀司は、即座の救出行動を取ることを避けた。多数の敵を相手にした戦闘や、人質の危険性を考慮し、まず安全かつ確実な救出方法を選択するべきだと判断したためである。男達が気絶したピニャを荷車に積み、海側へ向かう様子を遠距離から追跡し、行き先の特定を優先した。

やがて一行は港湾と城壁に守られた都市へ到達する。そこには軍事施設を兼ねた城砦と、一定規模の街が存在していた。隠れ拠点ではなく、公然と人が生活する都市であることから、拉致犯が単なる無法者ではない可能性も浮上する。領主や統治組織そのものが関与している可能性を含め、伊丹は慎重に状況分析を進めた。

情報収集のための市街潜入

救出には情報が不可欠と判断した伊丹は、街へ潜入する。城門は開放されており、出入りの規制はほとんど存在しなかった。内部は狭い路地と水路が複雑に入り組む構造で、建物は水上に張り出す独特の港湾都市形態をしていた。

一見スラムのような外観でありながら、水路は清潔に保たれ、橋や渡り石など生活導線も整備されていた。見張りに街の名を尋ねた結果、この都市が「シーミスト」であることを知る。

海棲亜人都市シーミストの実態

街では多種多様な亜人が生活しており、特に鱗や触手を持つ海棲種族が多数見られた。水路から現れた異形の存在を目撃した伊丹は強い精神的衝撃を受け、街全体を危険な無法都市ではないかと疑い始める。

しかし、その直後に水路から声を掛けてきた人物によって状況は一変する。

人魚メイド・ヴィアとの接触

伊丹に声を掛けたのは、メイド服を着た人魚の少女ヴィアであった。彼女は水路沿いに営業する居酒屋「カモメ亭」の店員であり、伊丹は知らぬ間に店の前に立っていたことを知る。

ヴィアとの会話により、先ほど見た異形の存在も街では珍しいものではないと判明する。精神的動揺を落ち着かせた伊丹は、情報収集の拠点として店を利用することを決めた。

食事を通じた情報収集の開始

ヴィアから名物料理として生魚料理を勧められた伊丹は、日本人として刺身文化に慣れていることからそれを注文する。陸の人間が生魚を食べる例は珍しいらしく、ヴィアは驚きを見せた。

酒は過去の経験から避け、水のみを注文する。多くの客が集まる飲食店で周囲の情報を集めることが、ピニャ救出への第一歩になると判断したためであった。

こうして伊丹は、港湾都市シーミストにおいて静かに情報収集を開始することとなった。

アルバイン従者達との接触

空席を見つけた伊丹耀司は警戒を解かず、武器をマントの下に隠したまま店内の様子を観察していた。その時、店内に歓声が上がり、ピニャを捕らえた男達が入店する。伊丹は正体を悟られぬよう顔を隠しつつ、彼らの背後の席で会話を盗み聞く体勢を取った。

男達は「アルバイン様の従者」として知られる存在であり、黒髪のカンフォート、灰狼グレイデル、知恵者スニースト、青錆ズーズーズーの四名であった。しかし歓声とは裏腹に、彼らの表情は不満と疲労に満ちていた。危険な任務を果たしたにもかかわらず、功績の多くが主君アルバインの手柄として扱われていることへの鬱憤が語られていた。

従者達の立場と内部事情

会話から、彼らは契約と借金によってアルバインに従っている立場であり、自由に離脱できない状況にあることが明らかになる。また城ではアルバインを中心とした正式な宴が開かれているが、従者達は身分や遠慮を理由に参加していなかった。

特にカンフォートは解放奴隷の出身であり、主君の側に立つ資格がないと自ら距離を置いていた。一方で仲間達の間には、今回捕らえた女性について拭えない疑問が残っていた。

伊丹とズーズーズーの交流

料理を待ちきれないズーズーズーの様子を見た伊丹は、自分の料理を先に譲ることで接触の機会を作る。これにより自然な形で同席を許され、男達のテーブルに加わることに成功した。

海鮮料理を共に食べながら会話を交わす中で距離は徐々に縮まり、伊丹は彼らが地域で知られる存在である理由を聞き出す。名声の源はアルバイン本人であり、吟遊詩人によって英雄譚が広められている影響だと判明した。

捕縛された女性への疑念

やがて話題は捕らえた女性へ移る。従者達は彼女を有名な女海賊ロゼと認識しているが、カンフォートは強い違和感を抱いていた。戦闘能力は噂通りであったものの、行動や戦い方に不自然な点が多く、本当にロゼなのか確信が持てないという。

さらに城側がアルバインの名声を優先し、人違いの可能性を十分に調べないまま処理する危険性も語られる。もし誤認で処刑されれば、後に真実が判明した際に大きな問題になるとの懸念が共有された。

この会話から伊丹は、ピニャが海賊ロゼと誤認され拘束されている事実を把握する。そして状況を動かすため、自然な流れを装いながら従者達へ一言を投げかけた。

本人に直接会って確かめればよいのではないか――と。

07

宴席の誇示とケーブルの虚栄心

シーミスト領主ケーブル・クラム・ハイボールは、総督ワレサを含む高官・近隣諸族の族長達が揃った宴席を見て満悦していた。著名人が集まる規模そのものが主催者の社会的地位を示すためであり、ケーブルは息子アルバインの名声を利用して自らの格を引き上げる方針を固めていた。

「英雄の物語」から「王」構想へ

ケーブルは吟遊詩人の語る炎龍討伐譚に触れ、当初は自分を英雄譚に重ねて空想したが、すぐに息子へ置き換えて発想を膨らませた。英雄の名声が諸族の信望を集めることを踏まえ、次期領主であるアルバインが英雄化すれば、半島諸族を束ねる地位、すなわち「王」を成立させ得ると確信した。

グラス半島は地勢と種族の雑多さから王を持たない合議的連合体として存続してきたが、帝国の敗戦と内乱で支配の拘束が緩み、独立機運が高まっていた。ケーブルはこの好機に、強固な王権の下へ諸族を集める必要があると判断した。

皇太女ピニャという切り札

ケーブルは、捕らえた赤毛の娘が実は帝国皇太女ピニャであると知り、独立承認を帝国に迫る「武器」を得たと見なした。ただしこれは秘中の秘として伏せ、族長達には明かさないまま独立構想の正当性を説こうとした。

族長達の懐疑と「次の試練」提示

族長達はアルバインの評判を認めつつも、評判だけでは自分達が靡く理由にならないと渋った。そこでケーブルは、次なる試練としてトュマレンの走狗たる盗賊の討滅を掲げ、アルバイン名義で義勇兵募集を発表すると宣言した。盗賊退治を主導できれば、藩王国軍よりアルバインが民衆の拠り所となり、義勇兵を王権の兵へ転化できるという計算である。必要ならトュマレンすら利用するという冷徹さも示された。

総督ワレサへの働きかけと「日本刀」の褒賞

ケーブルは総督ワレサに栄典の斡旋を求めたが、ワレサは功績の安売りはできないと渋った。代わりにワレサは、ニホン由来の武器「カタナ」を褒賞として提示し、切れ味を実演して名品であることを示した。ケーブルは地位や権威の上積みにならないと内心落胆したが、表向きは受け入れざるを得なかった。

アルバインの機転と義勇兵容認

アルバインは「民草のために働け」という激励を「盗賊討伐の命令」と解釈し、義勇軍を率いて殲滅すると宣言した。ケーブルは総督が前言を翻せぬよう周囲を巻き込み、他領主達も治安回復の大義で同調する。

ワレサは義勇軍の危険性を理解し拒もうとしたが、代案を示せず追い込まれ、最終的に「軍事顧問の受け入れ」を条件として募兵を許可した。顧問は監視と指揮権掌握の布石であるが、アルバインは善意で受け取り無邪気に歓喜した。ケーブルは息子の純朴さが策として働いたことに複雑な感情を抱き、ワレサもまたアルバインが策謀ではなく善良さで動いていると理解して拍子抜けした。

成功ムードの破綻と脱走報告

こうして義勇兵募集が決まり宴席は沸いたが、直後に警備隊長ボルホスが地下牢破りを報告する。帝国との交渉切り札であるピニャの脱走が判明し、ケーブルは狼狽えた。

面会提案と地下牢行きの決定

伊丹は「ロゼが本物か気になるなら、本人に会って確かめればいい」と促し、カンフォート達はその発想自体がなかったことに驚いた。カンフォートは宴席に近づかず裏口から地下牢へ行く方針を示し、仲間も同調して動き出した。伊丹も同行を申し出るが、部外者の侵入を懸念される。グレイデルが「部外者の意見も役に立つ」と押し切り、同行が認められた。

裏門突破と人数のごまかし

一行は宴会で混む正面を避け、海側の木戸へ回った。門番ボゴは酔っており、カンフォートは厩番に用があると誤魔化して通過する。人数増加に気付かれるが、グレイデルが「英雄譚に歌われる従者の人数は五人」と誘導し、伊丹を含めて五人だと数えさせて納得させた。

地下牢の看守への口実と「宝の隠し場所」

地下牢の扉前では酔っていない看守モダーに止められ、カンフォートは理由を言い淀む。従者がアルバインの判断を疑う形になるためである。そこで伊丹が「有名海賊なら財宝を隠しているはず」と持ちかけ、モダーの欲を刺激して扉を開かせることに成功した。

ピニャへの脅しの実態と伊丹の焦り

移動中、モダーは囚人を黙らせるため「縛り首」「処刑前に女は客を取らされる」などの脅しをしたと語る。ズーズーズーは激怒し、伊丹も顔色を変える。ボルホスが「誰にも会わせるな、触れるな」と命じているため、ピニャはまだ“その段階”にされていないと分かり、伊丹はひとまず安堵する。しかし放置すればいずれ酷い目に遭うと判断し、救出を急ぐ決意を固めた。

独房前の対峙と正体の露見

独房の奥からピニャが「近づくな、舌を噛み切って死ぬ」と叫び、モダーが囃し立てる。ピニャは「自分はロゼではなくシャンディー・ガフ・マレノだ」と名乗るが、モダーは信じない。伊丹は鉄格子前にしゃがみ込み、忠臣シャンディーの名を出す矛盾を突いて「殿下」と呼びかける。ピニャは伊丹の声に気付き、鉄格子にしがみついて泣きながら助けを求め、伊丹は今回は助けに来たと明言した。

「皇太女ピニャ」宣言と状況説明

伊丹は一同に向け、この囚人が海賊ロゼではなく帝国皇太女ピニャ・コ・ラーダであると告げた。モダーは荒唐無稽だと否定するが、伊丹は「特使として派遣→御座船座礁→漂流→この地へ」と経緯を説明する。スニーストは情勢的にあり得ると受け止め、グレイデルは「なぜ襲ってきた」と反発するが、ピドの惨状に怒り、盗賊と誤認して奇襲したのだと伊丹が整理し、グレイデルも誤解だったと理解する。

小銃の示威と「馬を倒したのは自分」告白

伊丹は外套の下の小銃を見せ、馬を倒したのは自分だと明かす。殺さずに止めたのは誤認の可能性を考えたためで、今はそれが正しかったと述べる。スニーストは「牢を開けて女を連れて逃げる要求だ」と展開を先読みし、伊丹もその通りだと認める。

ピニャの信念とカンフォートの決断

グレイデルは「名乗れば命は助かる」と促すが、ピニャは人質外交の刃を理解しており、国を売ってまで助かろうとしない姿勢を貫く。カンフォートは短時間で「助ける」と決断し、無実の女性がロゼとして辱められ処刑されるのを黙認できず、皇太女が交渉具にされるのも正しくないと断じる。伊丹の“説得を選ぶ誠実さ”も判断材料となった。

分担と追跡の予測

スニーストは、ボルホスが正体を知りケーブルに報告しているはずで、逃がせば厳しい追跡になると見通す。それでも退かない方針が固まり、スニーストとズーズーズーは残ってアルバインに事情を報告し、カンフォート・グレイデル・伊丹が救出側に回る形で話がまとまりかける。

看守モダーの処理と口止めの取引

モダーは自分だけが処罰されると激しく抵抗するが、スニーストが耳打ちで「襲撃を受けた体裁」を作る案を提示し、財布ごと渡して口止め料とする。モダーは「殴られて気絶したことにする」と言いつつ、戦死級に迫真の“死んだふり”で倒れ込み、場が収まった。

救出開始

カンフォートはピニャに敬意を示し、安全な場所へ案内すると宣言する。ピニャは従者達の内に正義の心を感じ取って信頼を示し、伊丹も最終判断をピニャに委ねる。伊丹はピニャを独房の奥へ下がらせ、牢の南京錠へ銃口を向けて引き金を引き絞った。

私室での緊急召集

ケーブルは人払いした私室にボルホスを呼び出し、帝国式の敬礼を見て満足する。だが同時に、その敬礼はボルホスだからこそ似合うもので、シーミスト兵に真似させる気はないという認識も示された。

脱走の原因認定と「交渉は無意味」という結論

ケーブルは「皇太女はどうやって牢を破った」と問い、ボルホスは外部侵入者――皇太女に付き従っていた護衛の仕業だと断じた。ケーブルは「堂々と引き渡しを求めればよかった」と言うが、ボルホスは、ケーブルが素直に応じるはずがないと切り返す。ケーブル自身も、皇太女の存在を否定し「ロゼとして処刑する」あるいは「傷つけずに引き渡せと言うなら対価を要求する」と腹を明かし、護衛はそれを見越して不意打ちで牢を破ったのだ、という整理に落ち着いた。

忠誠の確認と「ロゼとして捕らえる」建前

ケーブルは、皇太女が旧主筋に当たるボルホスが捕縛に躊躇しないかを試す。ボルホスは「ゾルザルに従いピニャに弓を引いた身であり、今さら躊躇はない」と答え、さらに「捕らえるのは皇太女ではなくロゼだ」という建前を強調して、従命姿勢を明確にした。

ボルホスの経歴と現在の立場

ボルホスはゾルザル死後、敗残兵として流浪し、盗賊化・農夫化・土木組合への転身などの道がある中で、軍人以外の生き方を選べず、帝国へ降伏復帰することも自尊心から拒んだ。その結果、帝国から離れた地の族長の下で傭兵として雇われ、軍人としての能力で頭角を現し、短期間で隊長格に任じられていた。

追跡指揮の狙いとアルバインの「実戦経験」育成

ケーブルは、ロゼ追跡の捕縛任務をアルバインの指揮で行わせ、ボルホスをその麾下に入れる方針を示す。背景には、義勇兵計画でワレサ総督から「指揮経験不足」を突かれ、軍事顧問に主導権を握られかねない事情がある。ケーブルは、この件を「アルバインに経験を積ませる教材」にしようとしている。

アルバインの気質への懸念とケーブルの押し切り

ボルホスは、アルバインの性格上、皇太女(ロゼ)捕縛に納得しない可能性を指摘する。ケーブルは「言って聞かせる」「政の陰の部分を知る頃合いだ」と述べ、息子に現実の統治(=綺麗事だけでは済まない面)を学ばせる意図を明言した。

出動決定

ボルホスはケーブルの方針に従い、アルバイン指揮下でロゼ捜索に就くことを承諾し、再度帝国式の敬礼で忠誠を示した。

四日目の海上捜索と逼迫する状況

ヒューゴ号はグラス半島沖で、ピニャが乗っているはずの短艇を捜索し続けていた。剣崎の要請で出動したファントムが高高度から海域を探索しているが、アルヌスからの距離の関係で滞空時間は限られ、効率は高くない。すでに四日が経過し、水も食糧もない漂流であれば絶望的との見方が出る中、ハミルトンはピニャの体力と気力を信じ、剣崎も伊丹の生存力に期待をかけて諦めを退けた。

船の損耗と撤退判断の圧力

ヒューゴ号は座礁の影響で船体を損傷し、船倉の食糧と水に被害が出ていた。直ちに飢餓に陥るわけではないが、余裕はない。キングストン船長は、この一隻で捜索を続けるより、周辺領主に協力を求めて大規模捜索を行う方が現実的だと主張する。さらに、仮に虜になっていても命があれば望みはあると述べるが、ハミルトンは「殿下のご無事は生きていることだけではない」と、辱めの危険を示唆し強く反発した。

責任の所在と使節団の制約

船長は、捜索継続の責任が自らの一族郎党に及ぶ覚悟を示しつつも、乗員乗客全員を守る責務を優先すると断言する。現在は日本の使節団、菅原達が同乗しており、命尽きるまで捜索を続ける選択は現実的でない。議論は、海を探し続けるのではなく、陸に流れ着いている可能性に賭けるべきだという方向へと移った。

陸上捜索案と任務優先の決断

船長は、四日も五日も漂流なら絶望的だが、陸に流れ着いていれば生存の可能性が高いとし、海岸や陸の捜索を提案する。剣崎は上陸して捜索に当たる意向を示すが、菅原は首を縦に振らない。トュマレンとの交渉という任務は放棄できず、「外交とは口舌でする戦争」であり、伊丹やピニャが陸で生きていると仮定するなら、むしろ交渉を優先すべきだと論じた。

空陸併用の捜索と帝国への連絡

菅原は、空からの捜索に加え、海岸や陸への人員派遣を手配する方針を示す。地元に察知されぬよう慎重に進め、帝国側にもアルヌス経由で伝達するという段取りである。ハミルトンはなおも不満を示すが、菅原は伊丹を信じるべきだと説いた。

皇太女の身代わり策

問題は、ピニャ不在でいかにトュマレン政府と交渉するかであった。菅原は「殿下の身代わりを立てる」と明言し、容姿の似た者を着飾らせ、表に座らせる策を示す。実際の交渉は自らが担い、身代わりは沈黙を守ればよいという構想である。その役割には、かつてのならず者の女性を充てるとし、ハミルトンにその監督を命じた。依頼の形を取りながらも、菅原の決意は揺るがなかった。

富田の出立とボーゼスの覚悟

富田はボーゼスの屋敷を訪れ、伊丹とピニャの捜索に向かうことを告げた。出産を控えたボーゼスは安楽椅子から立ち上がり、富田に抱きついて無事を祈る。富田は出産に立ち会えないことを詫びつつ、必ずピニャを連れ戻すと約束した。

人数制限と民間協力者の動員

屋敷を出ると、完全装備の倉田と革鎧姿のペルシアが待機していた。エルベ藩王国王宮から、他国軍の大規模な立ち入りを制限されたため、軍人の代わりに民間協力者を増やす必要があるという。倉田は片端から声をかけ、捜索隊を編成していた。

ロゥリィ達の参戦

ヘリポートには黒衣のロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオが既に待機しており、周囲には彼女達の従者や関係者も集結していた。空気は張り詰め、剣呑な雰囲気が漂う中、栗林がロゥリィに伊丹の生存を確認する。

ロゥリィは、ピニャのことは分からないとしながらも、伊丹が生きていることは確実だと断言した。伊丹が死ねば自分のもとへ来る運命であると胸を叩きながら語る。

総出での救出決意

ロゥリィの言葉を受け、栗林は伊丹が無事ならばピニャも生きているはずだと断じ、全員で迎えに行こうと号令をかける。捜索隊はそれぞれの覚悟を胸に立ち上がり、救出へ向けて動き出した。物語は下巻へと続く。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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