小説「極東救世主伝説 4 ―教導大隊発足編―」感想・ネタバレ

小説「極東救世主伝説 4 ―教導大隊発足編―」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容

本作は、ロボット戦争と魔族の襲撃が交錯する近未来/異世界融合型のライトノベルである。主人公の少年が学園祭を襲撃した魔族を一騎討ちで討伐した功績により、新設される「教導大隊」の大隊長という重責を負うこととなる。だが配属された部隊はクラスメイトの女子ばかりという異例の状況であり、距離感に気を付けながら訓練を進める中、部隊ごと第一師団の海外遠征に同行する命令が下る。さらに、遠征先で現地を守る第四師団から主人公個人に対する「依頼」が浮上する――という展開である。

主要キャラクター

  • 川上 啓太:本作の主人公。学園祭での魔族襲撃事件を単騎で討伐したことで注目され、新設教導大隊の大隊長に任命される。

物語の特徴

本作の魅力は、少年が「大隊長」という役職を与えられ、部隊を率いて海外遠征へと赴くというスケール感のある展開にある。普通の学園モノや日常寄りの異世界ものとは異なり、明確に「部隊」「師団」「遠征」「魔族との戦闘」といったミリタリー・ロボット・ファンタジー要素を兼ね備えており、その組み合わせが読者に異色かつ迫力のある体験を提供する。他作品と差別化される点として、「学園祭襲撃→魔族討伐」「クラスメイト部隊という異例」「新設教導大隊の発足」「海外遠征付き遠征先での“依頼”」という構成が挙げられる。

書籍情報

極東救世主伝説 4 少年、大隊長となる。 ―教導大隊発足編―
著者:仏ょも 氏
イラスト:黒銀  氏
出版社:KADOKAWAカドカワBOOKS
発売日:2025年11月10日
ISBN:9784040761572

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あらすじ・内容

少年に与えられたのは――友への生殺与奪の権利。
命令に従い、学園祭を襲撃した魔族を一騎打ちで討伐した川上啓太。これまでの功績もあって、新設される教導大隊の大隊長に就任することになったものの、配属された隊員はクラスメイトの女子ばかり。距離感に注意しつつ訓練を進める啓太だったが、今度は部隊ごと第一師団の海外遠征に同行することになってしまう。さらに、現地を守る第四師団には、啓太個人に【依頼】があるようで……?

救世ロボットアクション、舞台は魔族との戦いの最前線へ!

極東救世主伝説 4 少年、大隊長となる。 ―教導大隊発足編―

感想

設立前夜――異例の任命とその背景
学園祭の魔族との一騎打ちで功績を立てた川上啓太は、十二月中旬、新設の教導大隊の現場指揮官(大尉)に任命される。上層部は啓太の操縦をOS性能の賜物と誤解し、試験運用を省いて量産を急いだ結果、運用不能機が続出。再教育のための組織として教導大隊が立ち上がる。構成は同校の学生が中心で、同級生の女子が多数を占め、啓太は「学生であり隊長」という異例の立場で部隊づくりに向き合う。

訓練開始――技術要訣と監視体制
部内のハラスメントや冤罪を避けるため、啓太は訓練施設への監視カメラ設置を要請し、上官の久我中佐が承認。操縦の核心は「コマンド入力と無意識の身体連動の峻別」にあると啓太は整理し、必要情報は許可者に限定して開示する方針が敷かれる。専用機を巡る誤解で一時的な対立は起きるが、合理的説明で沈静化し、訓練はシミュレーター主体で回り始める。

帯同決定――政治と現実のはざまで
第一師団上層部の海外遠征への帯同が決まり、学生主体の部隊を戦地へ出す是非をめぐって重圧が生じる。技術陣や各師団の思惑、広報上の効果などが絡み、最終的に「反撃力の実地検証」と「教育課程の実戦データ獲得」を目的に受諾。啓太は「盾」としての自分に依存しない育成を意識しつつ、必要なら後詰に回る覚悟を固める。

現地到着――空の脅威と“安全な初陣”の設計
年の瀬、ベトナム戦域へ。上空を制するグリフォンの群れに現地部隊は苦戦中。啓太の御影型(120mm級狙撃運用)はこの状況で圧倒的に有効で、短時間に撃墜を重ねる。だが啓太は独壇場にせず、この機会を「安全側に寄せた実戦訓練」と位置づけ、教導大隊に段階的に経験を積ませる提案を行う。

初陣――翔子の恐怖と一歩
単機潜伏の試作三号機で翔子が初陣に臨むが、「外せば死ぬ」緊張で硬直。致命の瞬間は啓太が後詰の狙撃で救う。その後は支援体制の下で成果が積み上がり、翔子は撃墜を重ね、静香や那奈らも戦果を得る。部隊は「当てれば倒せる」条件を活かし、無理筋の任務を“現実的な成功体験”へ変換していく。

終盤の気配――利害の衝突と次巻への含み
教導大隊の活躍は現地勢のメンツや利権を刺激し、政治的な摩擦が芽生える。一方、魔族側も損耗を感知し、均衡維持を図る示威の用意を進める。啓太の“異常なまでの強さ”だけでは呑み込めない規模と政治が動き始め、物語は次巻の衝突拡大を示唆して幕を引く。

総括
本巻は「学生隊長による部隊創設」→「教育の言語化と統制」→「政治に押し出される遠征」→「空の脅威を用いた安全側の初陣設計」という明確な上り坂で構成される。啓太の規格外さは要だが、体制整備・情報統制・後詰設計といった“指揮の現実”が物語を厚くし、翔子の初陣はその象徴的成果である。強さだけでは解けない政治と戦略の層が前面に出ており、次巻は「戦果配分」と「均衡を崩す側・守る側」のせめぎ合いが主題となる見込みである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

川上啓太

国防軍軍学校に在籍しつつ教導大隊の現場指揮官を務める青年機士である。前世の記憶を前提にした独自の操縦感覚を持ち、混合型や御影型を例外的な精度で運用する存在である。合理主義者で自己保存を重視するが、学生隊員の安全と教育課程の構築にも意識を向けている。

・所属組織、地位や役職
 国防軍第一師団系統の軍学校所属。教導大隊現場指揮官。階級は大尉。

・物語内での具体的な行動や成果
 教導大隊の現場指揮と訓練方針の整理を引き受けた。量産型運用の要訣を自ら言語化し、五十谷らに開示した。専用機配備を巡る誤解で殴りかかってきた五十谷を最小限の力で制圧し、規律違反の線引きを示した。試作三号機一機体制のリスクと資源事情を妹に説明し、需要と供給の観点を整理した。ベトナム戦線では御影型でグリフォンを狙撃し、第四師団が半年かけても落とせなかった脅威を短時間で撃墜した。安全な状況を利用して教導大隊に実戦経験を積ませる構想を提示し、後詰として学生の初陣を支援した。潜伏中の五十谷が硬直した場面では、先制狙撃で命を救った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 短期間で三階級昇進し、大尉となった。昇進理由には第一次大攻勢での大型魔物討伐や同盟国の姫と民間人救出、学園祭での魔族との一騎討ち勝利が含まれる。民間への広報と慰謝の意味も込めて象徴的存在として扱われている。国防軍上層部や最上重工業からは、量産型と新型機運用の基準となる規格外の戦力として注目されている。

久我静香

国防軍中佐であり、軍学校の教官として教導大隊を統括する指揮官である。学生で構成された部隊を戦場へ出すことに強い葛藤を抱きつつ、軍全体の方針と現実の狭間で判断を下す立場にある。

・所属組織、地位や役職
 国防軍統合本部配下の軍学校所属。教導大隊指揮官。階級は中佐。教師兼上官。

・物語内での具体的な行動や成果
 教導大隊新設と啓太の現場指揮官任命を本人に通達した。監視カメラ設置を冤罪予防と暗殺抑止として正式に承認し、安全管理体制を整えた。第三師団再建凍結や他師団の損耗を踏まえ、人事再配分方針を啓太へ説明した。技術者の上奏で決まった第一師団遠征帯同案に対して強く疑問を抱きつつも、統合本部長の方針と軍全体の再建計画を踏まえて受諾した。女子隊員たちに対し、戦場での一つのミスが死に直結する現実と、生存を最優先とする指揮方針を伝えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 階級や肩書に変化は示されていないが、教導大隊の責任者として機体運用教育と実戦帯同の両方を預かる立場となった。啓太を「一般家庭出身の変態」と評価しつつ、その戦力を最大限に活用する覚悟を固めた。同時に、啓太に理不尽な犠牲を強いた場合には反発も辞さない内心を持つ。

五十谷翔子

武家の家に生まれた女子学生であり、教導大隊の量産型候補の中でも試作三号機の専任機士として抜擢された存在である。生存志向が強く、草薙型の殉職実態を直視した上で新型機への乗り換えを選んでいる。

・所属組織、地位や役職
 国防軍軍学校所属。教導大隊隊員。試作三号機専任テストパイロット。

・物語内での具体的な行動や成果
 啓太の録音を通じて、量産型運用の要訣と監視カメラ導入の意図を知った。草薙型から量産型への乗り換えを「賭け」と認識しつつ、殉職を避けるため自発的に参加した。専用機配備を啓太の口利きと誤解して殴りかかり、逆に制圧されたのち、誤解の説明を受けて納得した。試作三号機での射撃訓練を重ね、「目標をセンターに入れなくてよいからスイッチ」という指針で射撃操作を反復した。第一師団遠征帯同決定を最上隆文から知らされ、仲間に情報を共有し死ぬ気で訓練する必要を説いた。最終的にグリフォン四体の撃墜を達成し、教導大隊の戦果に大きく貢献した。初撃の場面では恐怖で硬直し、啓太の狙撃に救われた経験も持つ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 階級は准尉待遇とされ、学生でありながら下士官相当の待遇を受ける立場となった。最上重工業の試作三号機を任されたことで、企業側からも「動かせる人材」として注目されている。遠征前の場では、同級生の不安を正面から受け止め、武家の娘として覚悟を言葉にしたことで、静香から感謝と信頼を得た。

田口那奈

量産型機体と強化外骨格の両方で訓練を進める女子学生である。教導大隊の一員として、整備側から重点的に育成対象と見なされている。

・所属組織、地位や役職
 国防軍軍学校所属。教導大隊隊員。量産型機体と強化外骨格の操縦候補。

・物語内での具体的な行動や成果
 当初は強化外骨格中心の訓練を行い、量産型シミュレーターの搭乗頻度を増やしていった。専用機配備を巡る教室の騒動では、五十谷への吊し上げに関わり、後に処分としてトイレ掃除五日を科された。遠征帯同が決定した後は、整備側の保身も背景に持ちながら、量産型習熟の強化訓練を受けた。グリフォンとの初陣については、海外での戦場の方が撤退が可能である点から、今回の遠征を選ぶ利点を認めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 明確な昇進や階級の変化は示されていない。第一師団上層部に自派出身機士として知見を届ける可能性が期待されており、師団側の利害にも組み込まれている。

橋本夏希

強化外骨格と量産型機体の習熟を進める女子学生である。評価と矜持に敏感であり、戦場参加の有無が自らの価値と直結すると受け止めている。

・所属組織、地位や役職
 国防軍軍学校所属。教導大隊隊員。強化外骨格運用候補。

・物語内での具体的な行動や成果
 週次の進捗確認では、強化外骨格中心で劇的な変化はないと報告した。遠征告知後は量産型シミュレーター訓練を追加され、射撃可能水準への到達を目指した。正式通告後には、もし習熟していなければ遠征を回避できたのではないかと仮説を立て、基準と判断の仕組みを検討した。戦場行きを恐れるというより、修練時間の不足による不完全な状態での実戦投入を懸念した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 昇進などの変化は示されていない。新型機や強化外骨格を預かる立場で戦場に立てない場合、自身が落ちこぼれと見なされることを嫌い、初陣への参加を選択した。

綾瀬茉莉

綾瀬勝成大佐の娘であり、教導大隊に所属する女子学生である。新型機や強化外骨格の運用候補として期待を集めている。

・所属組織、地位や役職
 国防軍軍学校所属。教導大隊隊員。第二機甲連隊長の娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 強化外骨格中心の訓練を進め、シミュレーター訓練の追加を受けた。遠征情報を知らされていなかった三人の一人であり、習熟の遅れが告知保留につながっていた可能性を指摘された。遠征決定後は、習熟不足による帯同見送りが「役立たず」の烙印に直結すると理解し、参加の道を選んだ。小型や中型魔物の撃墜スコアを積み上げ、教導大隊の討伐実績に寄与した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 階級の変化は示されていないが、第四師団側からは「自派出身の機士」として認識されている。父が現地の第二機甲連隊長であることから、教導大隊の運用が第四師団の内部事情と政治的に結び付いている。

最上隆文

最上重工業の社長であり、自らも天才かつ変人と評される技術者である。混合型や御影型、試作三号機などの開発を主導してきた人物である。

・所属組織、地位や役職
 最上重工業の代表者。開発部門の中心技術者。教導大隊のメインメカニック。

・物語内での具体的な行動や成果
 教導大隊名簿を確認し、試作三号機を五十谷に割り当てる判断を行った。御影型の実戦運用と試作三号機の射撃訓練データを通じて、自社機体の問題点と「腰」に相当する無意識の身体連動の重要性を分析した。射撃訓練では、上半身のみ接続して制動を全自動化する方法を採用し、試作三号機だからこそ可能な運用方式を確立した。ベトナム遠征では啓太とともにフエへ上陸し、森林地帯対応の改修と焼夷榴弾運用の方針を検討した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 企業の立場から国防軍上層部と関係を持ち、教導大隊の機体運用に大きな影響を与えている。試作三号機配備は、自身の開発成果を実戦で検証するための布石であり、啓太に次ぐ操作可能な人材を確保する意図がある。軍への情報提供については企業競争上の事情から慎重であり、量産型の詳細データの開示を制限している。

浅香涼子

国防軍統合本部長であり、全軍の再建方針を決める立場にある。防衛一辺倒から反撃能力の整備へと方針転換を行っている。

・所属組織、地位や役職
 国防軍統合本部。統合本部長。

・物語内での具体的な行動や成果
 教導大隊の第一師団遠征帯同案を軍の総意として支持した。目的を迎撃ではなく反撃能力の醸成と位置付け、量産型と新型強化外骨格の「川上以外の運用性能」検証を急務と判断した。試作三号機が射撃可能段階にある事実を最低条件の達成と評価し、教導大隊に実戦の空気とデータを獲得させる方針を示した。遠征を承認する代わりに、技術者側など関係者への処分も決定し、責任の所在を整理した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 国防軍再建プランの中心人物として、防衛体制から反撃体制への移行を進めている。川上の戦績については秘匿範囲を調整しつつ士気高揚に活用する計画を持ち、情報統制と広報戦略の両面で影響力を行使している。

綾瀬勝成

国防軍第四師団に属する第二機甲連隊長であり、綾瀬茉莉の父である。ベトナム戦線の現地司令として、対空脅威への対処を模索している。

・所属組織、地位や役職
 国防軍第四師団。第二機甲連隊長。階級は大佐。サパ近郊駐屯地司令。

・物語内での具体的な行動や成果
 フエ港で啓太を最上隆文より先に出迎え、基地司令室でグリフォン対処の依頼を正式に提示した。体高六〜七メートルの飛行魔物に対し、草薙型や八房型で苦戦してきた戦況を説明し、御影型の遠距離狙撃で選択的撃墜を図る作戦案を示した。啓太の提案を受け、教導大隊の学生を実戦に参加させるかどうか逡巡したが、啓太の後詰と責任の引き受けを条件に、初陣としての参加を認めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 師団内の司令官として、教導大隊の戦果が第四師団の面目や現地ベトナム側の立場に与える影響も意識している。娘が教導大隊に所属しているため、職務上の判断と父親としての感情の両方を抱えた立場にある。

伊佐木源心

ベトナム北部サパ近郊に展開する第四師団の師団長である。制空権の欠如が戦況に与える影響を認め、外部戦力導入に踏み切った。

・所属組織、地位や役職
 国防軍第四師団師団長。サパ駐屯部隊の最高指揮官。

・物語内での具体的な行動や成果
 制空権を軽視していた過去の判断を改め、空を飛ぶ魔物への対応の遅れを認めた。草薙型や八房型、与一型の損耗と少数の撃墜実績を踏まえ、自力での完全解決を断念した。第一師団の来援と統合本部長・浅香の調整力に活路を求め、面子よりも事態収拾を優先する方針を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 師団長として、対空戦力の欠落と戦後の予算配分が現在の危機につながった歴史を受け止めている。第一師団上層部視察と教導大隊帯同の決定により、自師団の戦況改善と同時に、他部隊との協調関係を再構築する役割を担う。

由布月繁

第四師団の参謀を務める少将である。上空の脅威が兵士の士気と統制に与える影響を分析している。

・所属組織、地位や役職
 国防軍第四師団参謀。階級は少将。

・物語内での具体的な行動や成果
 空を飛ぶ魔物が常時頭上に存在することにより、兵の精神が削られている状況を指摘した。時折の攻撃が殺傷力を証明しているため、ストレスが増幅していると分析した。上官不信や兵の暴走、住民被害による外交問題化を懸念し、最悪の場合には他国による離間工作に利用される危険を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 師団内で危機認識を共有させる役割を担い、伊佐木師団長とともに外部戦力導入の必要性を裏付けた。精神面と政治面を含めた広い視野で戦況を評価する参謀として描かれている。

ロウラン

大陸南部に縄張りを持つ魔族であり、子爵の称号を持つ存在である。南部戦域の管理を任される立場にある。

・所属組織、地位や役職
 南部戦域を担当する魔族。子爵。侯爵シュレンから地域の管理を任された監督者。

・物語内での具体的な行動や成果
 侯爵シュレンの召喚を受け、ベトナム方面でのグリフォン多数撃墜の報告を共有した。日本遠征軍の新型機による狙撃が原因であると説明を受け、今後の対応を検討した。ベトナム軍は殲滅してよいが、日本軍には不自然に見えない軽微な損害のみを与えて退かせる方針を伝達された。巨鳥型最上級戦力『鵬』を預かり、必要に応じて威嚇投入する任務を受け入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 子爵としては「外れ籤」と感じる任務であったが、他者の失策で自らが危機に陥る事態を避けるため、迎撃と限定攻撃の管理任を受諾した。必要人員の起用と魔物運用の裁量も与えられ、南部戦域の実務担当として描かれている。

シュレン

南部一帯の監督権を持つ魔族の侯爵である。悪魔の要請する【闘争】の均衡を維持するため、戦場の設計を行っている。

・所属組織、地位や役職
 南部戦域全体を統括する魔族。侯爵。地域最強の魔族として監督者の権限を持つ。

・物語内での具体的な行動や成果
 共生派からの通報を受け、ベトナム方面でグリフォンが多数撃墜されている状況を把握した。日本遠征軍の新型機による狙撃を要因と見なし、ベトナム軍の出兵計画と日本軍の動向を整理した。ベトナム軍については殲滅を許容し、日本軍には軽微な損害を与えて退かせることで、戦力均衡と闘争継続を図る方針を立てた。ロウランに巨鳥型最上級戦力『鵬』を預け、必要な場合に威嚇投入して敵軍心理を崩す計画を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 南部一帯の監督者として、魔族側の戦略全体を調整している。『鵬』の誇示によって敵に数年単位の準備期間を強いることで、南部戦域に安定期間を確保する狙いを持つ。国家威信や貴族の意地を「平時の装飾」とみなし、準備なき越境と周到な迎撃の差が勝敗を決めると認識している。

展開まとめ

一章 教導大隊設立前夜

召集と告知
十二月中旬、川上啓太は上官・久我静香に呼び出され、学園祭の騒動処理が終息したことを知らされる。同時に、新設される教導大隊の現場指揮官に任命され、大尉へ昇進する旨を通達された。啓太にとっては想定外の辞令であり、戸惑いを隠せなかった。

教導大隊設立の背景
軍は量産型機体の運用法と教育体系を確立するため、教導大隊を新設することになった。本来は試験運用を経て量産に入るが、啓太が混合型を独自に操縦し成果を上げたことで、上層部はOS性能による成功と誤解。工程を省略して量産に踏み切った結果、稼働しない機体が多数発生し、再教育組織の必要に迫られた。

異例の昇進と広報意図
短期間に三階級昇進した啓太は妥当性を疑問視するが、久我は過去の実績を理由に説明した。第一次大攻勢での大型魔物討伐、同盟国の姫および数千名の民間人救出、そして学園祭での魔族との一騎討ちの勝利が評価されたという。特に最後の戦闘は民間への宣伝効果が大きく、広報および慰謝の意味を含む昇進であった。

学徒動員に近い新体制
新設の教導大隊は青梅分校の学生と整備士によって構成される。これは実質的に学徒動員に近い体制で、編入者は実戦経験を積むことを前提としていた。久我は国家の逼迫を認めつつも、全学生を徴用する意図はないと釘を刺した。

権限と責任の所在
啓太は現場教導と指揮の任を負うが、人事権と最終判断権はすべて久我が保持する方針であった。啓太は学生として教育過程にあり、責任を一任される立場ではないことを理解して承諾した。

初期人員と発足理由
初期メンバーは啓太を含む五名で、五十谷・田口・橋本・綾瀬の四名が名を連ねた。彼女たちは量産型のテストパイロット候補であり、訓練進度を合わせるため、教導大隊は四月を待たず年明けに発足することとなった。啓太は同級生を部下として鍛えることに複雑な思いを抱きながらも、任務として受け入れた。

訓練環境と安全対策
男女比の偏りから誤解や冤罪を懸念した啓太は、訓練施設への監視カメラ設置を要請した。久我は呆れつつもこれを了承し、教導大隊の安全管理体制を整える方針を示した。啓太は上官の柔軟な対応に安堵しつつ、新体制の始動を実感した。

監視体制の確定
久我静香は監視カメラ設置の意義を、冤罪予防と犯罪・暗殺抑止として正式に認めた。告知の徹底も同時に了承されたのである。

師団事情と人事の再配分
第三師団再建の凍結、第二・第六・第八師団の損耗により尉官・佐官の大量補充が決まった。各師団は将来性のある学生に投資する方針へ転換し、五十谷・田口・橋本・綾瀬は各師団の戦力として活用される見込みであった。

「賭け」と量産型への乗り換え
四名にとっては、慣れた草薙型から量産型への転換が賭けであると久我は位置付けた。これに対し啓太は、二年以上の訓練期間がある以上、適応は可能であると反論した。

訓練哲学の相違
久我は「戦場を前提とした二か月」と「学生の二年」を同列視しないと指摘した。啓太は量産型の本質がコマンド操作にあり、覚悟や感情はむしろノイズであると述べ、車両操作になぞらえて「入力に対し機体が反応するだけ」と説明した。

コマンドシステムの要訣
量産型は直感的な“感覚操縦”とコマンド入力が二重化すると誤作動を起こしやすい。無意識で担う部分と意識的入力を峻別する調整が核心であると啓太は整理した。この技術的勘所は教導大隊で検証・標準化すべき課題であると結論づけられた。

情報開示と統制
啓太は要訣を秘匿しない方針を示したが、久我は「許可した相手にのみ開示せよ」と指示し、上層の利権勢力から啓太を保護する意図を明言した。五十谷ら四名への共有は許可済みとなった。

会談の締め
詳細は逐次通達とされ、啓太は退室した。去り際、久我は「上官として教師として応える」と独白し、啓太の意図に報いる決意を固めていた。

三 五十谷翔子

録音共有と所感
久我静香は、川上啓太が機体操作の要訣を快く開示した録音を四人に共有した。五十谷翔子は、啓太が「覚悟は不要どころか邪魔」と述べた点や、最初の懸念をセクハラ冤罪対策に置いた点に驚きを示したが、冤罪防止と暗殺抑止のための監視カメラ設置は妥当と受け止めた。

量産型への「賭け」と本音
五十谷は草薙型から量産型への乗り換えを「賭け」と理解しつつ、実家の反対を押し切って参加を決断した。本音は、魔族や大型相手での草薙型の限界と殉職実態を直視した結果、「死にたくない」という生存志向であった。啓太や柿崎中尉の戦闘事実が、量産型での生存可能性と武功獲得の道を示したためである。

情報開示と統制
啓太は秘匿に消極的であったが、久我は「許可者にのみ開示」の統制を指示した。四人は軍機の重さを再確認し、教導大隊で得た情報を外部(実家含む)へ報告しない誓約を受諾した。

訓練計画と機体配分
当面はシミュレーター訓練が中心と通達された。例外として実機が用意され、総数は三機であった。一機は久我が使用し、残りを共有する運用と示された。

専用機の割当と対立の芽
続けて「五十谷には最上重工業から別機体を用意」と発表された。那奈・橋本・綾瀬は五十谷の“抜け駆け”を疑い緊張が高まったが、五十谷は関与を否定した。久我は介入して場を収めた。

五十谷の評価と決意
五十谷は、啓太が要訣を即時開示し、冤罪対策まで織り込む周到さから、彼が指導を本気で遂行する確度を高く見積もった。結果が出なくとも「方法の検証データ」は得られると判断し、同時に今回の混乱の“元凶たる男”に対する制裁を内心で誓った。

専用機配備の真相
五十谷翔子は、自分に専用機が割り当てられたのは川上啓太の働きかけによるものと考えていた。しかし実際には、啓太は一切関与していなかった。

啓太は英雄視され最上重工業とも関係を持つが、一介の大尉に過ぎず、五十億を超える機体を特定個人に与える権限も影響力も持たない。最上重工業が啓太を厚遇するのは、彼が唯一試作機を動かしたテスターであり、強化外骨格の実戦で企業の評価を高めた功労者だからであって、便宜供与はあくまで彼から正式に依頼された場合に限られる。

啓太の不関与
啓太が教導大隊設立を知ったのは、上官・久我静香から説明を受けた直後のことであり、専用機の準備を依頼する時間も理由もなかった。五十谷を特別扱いする意図も持ち合わせていない。したがって専用機の配備は啓太でも久我静香でもなく、別の人物の判断によるものだった。

真の仕掛け人
その答えは単純である。製造元――最上重工業自身が動いたのだ。

最上隆文、同社社長にして天才であり変態と評される技術者は、教導大隊の名簿を確認すると満足げに笑い、
「へへっ。これで試作三号機も日の目を見ることができるぜ」
と呟いた。

五十谷への機体配備は、彼自身の開発成果を実戦で検証するための布石であり、最上重工業にとっても啓太に次ぐ“動かせる人材”を確保する絶好の機会であった。

二章 教導大隊についてのあれこれ

開幕の乱闘と拘束
川上啓太は登校直後、五十谷翔子から奇襲の拳を受け、最小限の力で逆関節と足払いにより制圧し拘束したのである。五十谷は専用機配備を巡る誤解から突発的に行動したが、啓太は即応で被害を抑えた。

専用機配備の誤解解消
五十谷が受けた同僚三名(田口・橋本・綾瀬)からの吊し上げは、専用機が「啓太の口利き」と疑われたことに起因した。啓太は、最上重工業の事情と教導大隊の機体不足、過去の訓練データの蓄積を根拠に、選定理由を論理的に説明し、五十谷への疑念を解いた。三名は形式的ながら謝罪し、関係は一応の沈静化を見た。

規律の再確認と処分線引き
啓太は大尉であり、五十谷は准尉待遇である。下位者による上位者への暴力は厳罰対象であると啓太は指摘し、現場の目撃多数ゆえ揉み消し不能であると告げた。あわせて、上官へのセクハラ冤罪めいた冗談を制し、部隊の連帯責任を明言して軽率な悪ノリを牽制した。

最上重工業の狙いの再整理
啓太は、試作三号機のテスター不足と量産型の教育需要を結び付けた最上重工業の供給戦略を提示した。五十谷は訓練回数と実績、学内序列、支援母体(第六師団)との接続可能性により最適候補と評価された、という位置付けである。

教室の混乱と指揮系統
久我静香がHRのため入室した時点で、女子側は動揺、男子側は状況を把握できず混乱した。武藤と笠原は情報未共有のまま経緯確認に動く構えを見せ、久我は場を収めつつ規律運用を前提に次手を図る構図となった。

規律違反への処分と訓練体制
久我静香は混乱を収束させ、川上啓太の対応を是認したうえで、五十谷・田口・橋本・綾瀬に「トイレ掃除五日」の罰を科した。量産型と強化外骨格の並行習熟、実機とシミュレーターのローテーションも指示され、発足直後の実務が一括で整えられたのである。

家庭での情報共有と教育的意図
啓太は日常的に妹へ軍学校での出来事を報告していた。目的は家計と将来設計に関わる共有、第三者視点からの気づきの獲得、ならびに軍学校特有のリスクと規律の事前周知であった。

指揮系統と懲罰の整理
下位者が上位者に暴力や冤罪を仕掛ければ懲罰対象である一方、上位者の勘違いによる暴力は重大問題に発展し得ると啓太は説明した。監視カメラの設置はセクハラ冤罪など相互リスク低減の施策であると位置付けられた。

試作機が一機しかない理由(資源とリスクの論理)
試作一号機は「浪漫機体」であり、啓太搭乗により初陣で多数撃破→急速成長・最適化が進み、フラットな基準機としての価値を失った。二号機は軍に接収され、製造元に基準機が残らなかった。三号機は大型魔物素材を多用するため材料が極端に稀少で、複数製造が不可能であった。さらに、未検証の高額機を複数並行製作すれば「動かない高額機」という最悪リスクが生じ、供給側(最上重工)・需要側(各師団・実家)双方で信用と経理が崩壊する可能性が高い。よって、先に五十谷で有効データを取得し妥当性を確認する段階的アプローチが採用されたのである。

妹の理解
妹は上記を踏まえ、試作三号機が一機のみである理由を「需要と供給双方のリスクマネジメントの帰結」として理解した。啓太は説明を終え、日常へ戻った。

三章 動かない機体

コマンドシステムの誤解
量産型や試作三号機に搭載されているとされる「コマンドシステム」は、実際には最上重工業が意図して組み込んだ機構ではなかった。川上啓太が自分の操縦感覚を「ボタンを押すようなもの」と表現したこと、また八房型の操縦時に似た操作が見られたことから、軍内で「混合型はコマンド操作で動く」という誤解が広まったに過ぎない。
最上重工業の公式見解では、混合型はコマンド入力を必要とせずに操縦できる設計であったが、テスト不足と実例の欠如がその信頼性を損ねていた。特に量産型では、柿崎中尉以外にコマンドを用いず操縦できた者はおらず、その柿崎中尉も機体ごと消滅している。したがって「コマンドシステムがなければ動かない」という認識が定着していた。

啓太の例外性と精神論の拡張
啓太が混合型を自在に動かせた事実から、軍は「命が懸かった状況でも冷静にコマンドを押せる精神力こそ必要」と解釈した。この“精神性重視”の風潮が強まったことで、本来の設計思想は置き去りにされていった。

最上隆文の技術者的視点
最上重工業の社長・最上隆文は啓太の見解を一部認めつつも、問題の本質は別にあると考えていた。
車で言えば、アクセルやブレーキ、ハンドル操作だけでなく「腰」が重要であるように、機体操作にも無意識の身体的連動が求められる。隆文はこの“腰”こそが啓太が御影型を自在に扱える理由であり、他人が模倣できない核心部分だと捉えていた。

啓太が無意識に行う感覚操作を言語化することは困難である。魚に「どうやって呼吸しているか」と問うようなもので、啓太の「ボタンで動かせばいい」という説明は、彼にとって自然な行為を単純化した結果に過ぎなかった。

設計上の誤算
隆文は、自分たちが機体構造を精密に造り込みすぎたせいで、無意識の“腰”を使えない者には操縦が困難になってしまった可能性を認めていた。試作一号機の性能実験で確認すべきだったが、啓太の規格外の才能によって検証の機会は失われた。

技術者の複雑な感情
隆文は啓太の功績を誇りに思いながらも、同時に彼の成功が技術者としての検証を阻害した現実を苦々しく感じていた。だがその感情は次の挑戦へと転じている。
邪悪な笑みを浮かべた隆文の視線の先では、試作三号機のコクピットに新たなテストパイロット――五十谷翔子が乗り込もうとしていた。

五十谷翔子の訓練
冬休みを目前にしたある日、五十谷翔子は試作三号機による射撃訓練を続けていた。彼女は「目標をセンターに入れなくて良いからスイッチ」と繰り返し唱えながら、機体の反応を確かめていた。軍が求める最低条件は「射撃ができること」であり、反撃を受ける前に撃つことができれば十分とされていた。翔子はその方針に従い、移動を伴わない基礎訓練に集中していたが、単調な訓練の繰り返しにより疲労の色が濃かった。

訓練の意義と啓太の例外性
川上啓太はその様子を観察していた。翔子の目前に存在する成功例――すなわち彼自身――が、彼女の焦燥を招いていることを理解していたが、自らを「例外」と断じていた。啓太は前世の記憶により独自の感覚で機体を操る特異な存在であり、一般の訓練成果と比較できるものではなかった。そのため、彼は助言や補佐に徹し、訓練の支援と観察を役割とした。

教導大隊の目的
教導大隊の目的は「学生が混合型を操れるようになること」ではなく、「学生が卒業までに操縦技術を習得できる教育課程を構築すること」であった。ゆえに、翔子たちの成果は短期的には問われず、卒業時点で形になることが求められていた。最上隆文もこの段階では焦らず、継続的な試行に価値を見出していた。

技術者側の事情
整備班は複数の企業出身者で構成され、企業秘密を理由に情報共有が制限されていた。そのため、量産型を担当する久我静香や田口たちは射撃すら困難な状態にあり、特に下半身制御の連動が課題であった。翔子が射撃を成功させていたのは、上半身のみを接続し、制動制御を全自動化していたためである。これは試作三号機に用いられた大型素材の柔軟性と強度によってのみ可能な方法であり、量産型には適用できなかった。

情報の断絶と企業の意地
翔子の訓練データは最上重工業が管理していたが、同社は軍側への情報提供を拒んでいた。企業間の競争関係がそれを阻み、教導大隊内でも情報の断絶が生じていた。久我中佐は冬の間は各自の方式で訓練を続け、春以降に成果を比較する方針を示した。

第一師団遠征計画
一方で、量産型の整備班は第一師団の遠征に同行する許可を求めていた。啓太は首都防衛任務を理由に留守番を望んでいたが、第一師団上層部が護衛目的で彼の同行を要請していた。冬季の間は北方が静穏であるため、遠征の好機と判断されたのである。啓太は自らを「保険」として同行させる軍の判断を理解しつつも、複雑な心境を抱いていた。

不安と諦観
実戦同行の正式命令は時間の問題であり、久我静香がその処理に追われていることを啓太は察していた。翔子の射撃訓練が続く音を聞きながら、啓太は「なるようになる」と心中で呟き、事態の推移を静観することにした。

四章 遠征は誰のために

召集と重責の空気
訓練終了間際、川上啓太は「訓練後に大隊指揮所へ出頭せよ」との命令を受けた。指揮所に入ると、呼び出した久我静香中佐が深い溜息をついていた。啓太はそれを見て戸惑いながらも、第一師団遠征への派遣命令に関わる件だと察した。教師と学生で構成された未熟な部隊を戦場に出すことは、常識的に見ても無謀であり、久我が頭を抱えるのも無理はなかった。啓太は彼女が抱える重圧を理解し、あえて見なかったことにするのではなく、状況を支える側に回る決意を固めた。

遠征の件を切り出す啓太
啓太は空気を和らげるため、先に話題を切り出した。「お呼び出しの用件は遠征の件ですよね」と静かに問うと、久我は短く「そうだ」と答えた。その声音には疲労と迷いが滲んでいた。啓太は誤解を避けるため、知っている情報を正直に開示した。技術者側から「根回しが終わっている」「上層部が護衛を望んでいる」と聞かされたのみで、具体的な日程や目的地は知らされていないことを明言した。

情報の齟齬を防ぐ意図
啓太は、情報の齟齬が戦場での誤命令につながる危険を強く意識していた。小さな誤解が全滅を招く可能性を考慮し、ここで事実関係のすり合わせを求めた。久我もこれに同意し、「こちらが伝えられた内容を話す」と答え、双方の情報を比較して整合を取る形を選んだ。

重圧を共有する二人
啓太は心中で「本来なら知りたくない話だ」と思いながらも、副官として責務を果たすために耳を傾けた。久我が抱える負担を軽減することが、自身に課せられた役目だと理解していた。久我は静かに口を開き、「ことの発端は第一師団上層部の遠征日程が決まったことにある」と語り始めた。

二 久我静香

帯同通達への反応
久我静香は、教導大隊が第一師団上層部の遠征第一陣に帯同するとの通達を受け、非常識であると断じた。学生と未熟な機士を前線に出す合理性は現状において皆無であると判断した。

技術者の上奏判明と静香の怒り
提案の発信源は最上重工業ではなく、企業から出向中の技術者集団であると判明した。彼らの狙いは第一師団との人脈構築、最上製機体の調査、川上啓太の量産型実戦データ取得であると静香は推察した。指揮官を迂回した上奏に対し、静香は迂闊さと被操作感に忸怩たる思いを抱いた。

受け入れ側の利得と包囲
第四・第五師団は、最新兵装の直接観察と自派出身機士(綾瀬・橋本)経由の知見取得を期待し、帯同に前向きであった。首都防衛上の川上不在も、第一師団が「支障なし」と答えれば反論が封じられる構図が成立していた。

浅香の本意と軍の方針
統合本部長・浅香は帯同を軍の総意として支持した。目的は迎撃ではなく反撃能力の醸成であると明言し、量産型と新型強化外骨格の「川上以外の運用性能」検証を急務と位置付けた。試作三号機が射撃可能段階にある事実を最低ライン達成と評価し、遠征経験を通じて教導大隊に実戦の空気とデータを獲得させる方針であった。川上の戦績は秘匿範囲を調整しつつ士気高揚に活用する計画であった。

静香の最終判断
上奏の重なりと軍上層の明確な意志により、静香は反対不能と結論し、帯同を受諾した。目的は上層部の意識改革に留まらず、反撃体制確立のための実地検証と人材成長であると理解した。

遠征判断の整理
技術者側の上奏を端緒として、国防軍は教導大隊の帯同が「望ましい」と結論した。個人としての不満はあれど、軍事上は妥当であると川上は理解した。

国防軍の再建プラン
第二師団の半壊により、防衛一辺倒では崩れると軍は判断した。川上は「大型十体超」に相当する戦力として機動待機に回され、来春卒業予定の上級生を第二師団へ重点配属して「数だけは整える」方針であった。

教導大隊の役割
本隊は冬季遠征で実地経験とデータを獲得し、国内の他教導枠は量産型運用カリキュラムの確立に専念する計画であった。実戦で魔晶に魔力を蓄え、その「補助輪」を制御に流用する発想が中核であった。

指揮官の懸念の核心
中佐の懸念は「学生を戦場へ」でも「上からの叱責」でもなく、自身の未熟であった。具体的には、川上という盾に依存したまま焼夷榴弾運用で経験のみを稼ぎ、第二次大攻勢で失敗した機士群のように機体が矮小化し、現場や家族から失望される事態を恐れていた。

川上の評価と助言
川上は、指揮官に必須なのは戦闘力ではなく、観測と判断と政治であると整理したうえで、最終的には訓練で射撃習熟を積むしか不安は解消しないと結論した。

直後の行動
中佐は逡巡を断ち切り、川上に集中特訓を命じ、両名は直ちに訓練へ移行した。

幕間 一

突然の遠征命令と翔子の動揺
啓太と静香の遠征参加が話題となる中、五十谷翔子は訓練の振り返り中にメインメカニックの最上隆文から、第一師団上層部のベトナム遠征に自分たち教導大隊も帯同すると告げられた。冗談と思って確認したが、隆文は否定し、翔子は自分たちが本当に戦場へ行くと理解して絶句した。

技術屋の暴走と翔子の推測
翔子は学生を戦場に出す軍の意図に納得できず、最上重工業が技術的実績を得るために軍へ働きかけた結果だと推測した。かつて隆文の暴走で同級生が戦場に出た前例を思い出し、今回も企業の思惑によるものと考えたのである。

国防軍の思惑と命令の正体
翔子が強く反発する一方、隆文は今回の決定が最上重工業によるものではなく、国防軍上層部の要請であると明かした。そこには翔子の実家も関わっており、既得権益を守ろうとする勢力や、実戦経験を積ませたいと考える者など、複数の思惑が交錯していた。

現実を突きつけられた翔子の決意
命令が覆らない現実を告げ、隆文は翔子に覚悟を促した。翔子は「死ぬ」という言葉に衝撃を受けたが、次第に現実を受け入れ、訓練強化と情報収集の必要性を自覚した。自分だけが苦労するのは御免と考え、仲間への周知徹底を誓う姿は、武門の娘としての責任感と反骨心を示していた。

五章 その頃女子たちは

進捗確認と情報の出し渋り
啓太と静香が遠征を語っていた頃、五十谷翔子・田口那奈・橋本夏希・綾瀬茉莉の四人は週次の進捗確認を行っていた。夏希と茉莉は強化外骨格中心で劇的な変化はないと述べ、シミュレーター搭乗頻度の増加のみを共有した。翔子は成長の隠蔽を察したが、部隊の性質と機密性から一定の秘匿が常態であることは理解していた。

教導大隊の情報共有方針
教導を冠する部隊方針として、将来的な教導者育成のために相互の情報開示が推奨されていた。習熟度の差による全体停滞を回避する意図があり、部隊指揮官である啓太が保持する上位情報との差も前提化されていた。

翔子が把握した遠征決定
翔子は訓練後に最上隆文から第一師団上層部の遠征帯同が決定事項であると告げられていた。対話の端緒で翔子は余裕がないとして前置きを排し、情報交換の姿勢を改めさせた。

那奈・夏希・茉莉が遠征を知らなかった背景
翔子は三人が遠征情報を与えられていない事実に気づき、習熟度の遅れが告知保留の要因である可能性に至った。現時点で翔子は射撃訓練段階に達していたが、那奈や静香は一週間前の時点で射撃を満足に行えない状況であった。

上奏と承認の時系列
学園祭は十月中旬、遠征と教導大隊発足の決定は十月下旬、遠征は十二月下旬から一月上旬の内示であった。第一師団上層部の護衛需要や遠征軍の視察意向、教導大隊への経験付与といった利害の一致により、上奏は約半月で最速に近い承認となった。

整備側の想定と現実の齟齬
財閥系企業から派遣された整備士は、量産型データの最低ケースである第三師団機士を基準に、二か月で射撃可能に至ると楽観視していた。現実には那奈や静香の習熟が未達で、見切り発車の上奏は「射撃すら行えない機体で前線へ向かう」事態を招く算段となっていた。

責任リスクと唯一の回避策
告知を正面から行えば、企業や上層部が強い抗議と処分に直面する構図であった。統括本部長の浅香は、既に根回しが済んでいること、啓太の存在、翔子が射撃段階に到達していることを踏まえ帯同を容認し、関係者への処分実施も決定していた。整備側が死地を避ける唯一の策は、遠征までに那奈たちを射撃可能水準に引き上げ、実戦で討伐実績を得ることであった。

訓練強化の実施
整備側は那奈だけでなく、夏希と茉莉にも量産型シミュレーター訓練を課し、習熟底上げに踏み切っていた。動機は保身であったが、訓練と整備への投入は本気度を増していた。

翔子の通告と三人の反応
場の緊張感の欠如を見た翔子は、第一師団遠征への帯同決定と今月下旬の出立を明言し、死ぬ気で訓練しなければ死に至ると断じた。那奈・夏希・茉莉は現実を知らされて動揺し、淑女らしからぬ罵倒を発するほどの衝撃を受けた。

射撃可能水準への到達と正式命令
十二月下旬、もしくは告知から数日後、少女たちは死力を尽くした修練の末にシミュレーター上で辛うじて射撃と呼べる操作を実現していた。統合本部はこれを資格十分と判断し、軍学校所属の教導大隊へ遠征軍帯同を正式通告した。通告を受けた面々は承認自体を喜ぶよりも、差し迫る実戦に対する不安を優先させていた。

参加基準と回避可能性の検討
橋本夏希は、もし現段階まで成長できていなければ帯同を回避できたのではないかと推測した。最低限の射撃すら満たさない学生を護衛に欲することはなく、習熟不足を名目に見送りとなる可能性は高かった。夏希は戦場を怖れてではなく、修練時間の不足を懸念していた。

遠征を現在受ける利点と初陣の選好
五十谷翔子は、回避しても実戦が遅れるだけで、初陣がより過酷な戦場に重なる恐れを指摘した。今回の遠征先は他国であり最悪撤退可能であるのに対し、先の大攻勢は自国防衛で退けない戦場であった。初陣として選ぶなら前者が望ましいという点で田口那奈も同意した。

評価と矜持の問題
綾瀬茉莉は、習熟不足による帯同見送りは落ちこぼれや役立たずという烙印に直結すると述べた。新型機や強化外骨格を預かる立場で戦場に立てないのは、第一師団上層部の失望を招く。しかも傍らには専用機でも量産型でも強化外骨格でも自在に操り武勲を重ねる川上啓太が存在し、比較による無能視は屈辱であった。

機会への態度と決意の形成
四人は本来、啓太の武勲と昇進を目の当たりにして自らも機会を求めていた。啓太自身の初陣も不意の投入であった事実を踏まえ、与えられた機会である以上は逃げずに受けるべきだと再確認した。翔子は恐怖を認めつつも軍令に異を唱えないと明言し、草薙型ではない完全新型という不安材料や、最上隆文ら技術陣の過激さ、基礎データの多くが啓太と最上重工業由来である事情を承知の上で後退しない姿勢を固めた。

指揮官の出現と評価
覚悟を言語化した直後、中佐が現れ、翔子の気概を武家の娘として相応しいと評価した。四人は公式命令の重みの下で、初陣に向けた決意を確かなものとした。

三 久我静香

翔子の覚悟と静香の感謝
翔子が恐怖を押し殺し、武家の娘として覚悟を語ったとき、久我静香が抱いたのは驚愕ではなく感謝であった。静香は未熟な学生を戦地へ連れていくこと、そして覚悟を迫ったことを悔いていたが、翔子の言葉を受けて己の認識を改めた。彼女を「未熟な学生」と見くびっていたことを恥じ、むしろ同級生の不安を和らげた勇気に心からの感謝を覚えた。

指揮官としての決意
教師であり上官でもある静香は、感謝を口にする代わりに、何を犠牲にしても彼女たちを生かすと心に誓った。利用できるものはすべて使う覚悟であり、なかでも「一般家庭出身の変態」こと川上啓太の戦闘力を最大限に活用するつもりであった。もっとも、啓太が理不尽な犠牲を強いられれば反逆も辞さないことは承知していた。

静香による叱咤と誤解の修正
静香は部下たちに、戦場は一つのミスが死に直結する場だと厳しく告げた。夏希が「命令に従って死ぬのも任務か」と問うと、静香は「そうだ」と即答しつつ、死を命じるのは最悪の場合に限ると強調した。彼女たちのような未熟な部下に死を命じるつもりはなく、むしろ生き延びることを最優先にせよと諭した。

緊張緩和と団結の再構築
静香の説明により、夏希や那奈、茉莉の表情には安堵が戻った。翔子は「必要なら後ろに向かって全力前進すればいい」と言って笑いを誘い、場の空気を和ませた。静香は彼女の機転を評価し、部隊全体の士気を維持したまま本題である最終ブリーフィングへと移行した。

最終ブリーフィングの実施
静香は国内での最後の作戦確認を始め、疑問点や改善点の提示を求めた。那奈たちはそれぞれ意見を述べ、静香は指揮官としての見識を深めた。一方、翔子は確認事項を終えた後、唯一の疑問として「アイツは?」と問いかけた。

啓太の不在と理由
その場に川上啓太の姿はなかった。静香は落ち着いた口調で「大尉なら先に現地に入っている」と答えた。主力である啓太はすでに前線へ派遣されており、国内での会議に参加することは不可能だったのである。この報告に少女たちは驚き、遠征がもはや現実として迫っていることを改めて理解した。

幕間 二

サパ駐屯地の危機認識
ベトナム北部サパ近郊の第四師団駐屯地で、師団長・伊佐木源心と参謀・由布月繁少将は、現場から届く悲壮な報告に頭を悩ませていた。両名は制空権の欠如が戦況に与える影響を軽視していた過ちを認め、対応の遅れを痛感していた。

空を飛ぶ魔物と対空戦力の欠落
空を飛ぶ魔物の出現により、旧来の航空戦力は無力化され、戦後の予算転換で対空専門家が不在となった歴史的経緯が裏目に出ていた。初動で脅威を野生動物並みと見誤り、確実な撃墜手順の確立に失敗した結果、敵数の増加と学習で与一型の集中掃射も通じにくくなっていた。

士気低下と統制崩壊の懸念
上空に居座る脅威は兵の精神を削り、時折の攻撃が殺傷力を証明したことでストレスは増幅していた。由布月は、上官不信や暴走、さらには住民被害による外交問題化を懸念し、最悪の事態が某国の離間工作に利用される危険を指摘した。

打開策としての外部戦力の導入
伊佐木は自力解決を断念し、第一師団の来援と統合本部長・浅香涼子の調整力に活路を見いだした。浅香の後方支援と政治的威光は最悪の事態回避に有効と判断され、面子より事態収拾を優先する方針が示された。

対空解決への目算と教導大隊
伊佐木は、狙撃設計の実績機と教導大隊の帯同により、対空への実践的解決策が見つかる可能性を見込んでいた。第一師団上層部の直掩として教導大隊が合流する手筈が整い、局面打開の期待が高まった。

解決の兆候と新たな火種
数日後、本国からの「台風」めいた存在により問題の大半は処理される見込みとなったが、その余波で新たな問題の発生も示唆されていた。

六章 啓太、ベトナムに立つ

ベトナム帝国の成り立ちと日越関係
ベトナム帝国は十九世紀後半にフランスの植民地とされたが、第二次世界大戦中に出征した日本軍と協力して独立を果たした国家である。その中心的人物バオ・ダイを祖とし、約二千万人の人口を抱える立憲君主制国家として存続していた。

日本との関係は大戦期の協力にとどまらず、戦後もバオ・ダイへの支援やインフラ整備、さらには中華民国(現・中華人民連邦)との第一次ベトナム戦争、そして魔族の侵攻を撃退した第二次ベトナム戦争を通じて深い同盟関係を築いていた。近年では日本からの遠征軍が駐留しており、中央政府との関係は極めて良好であった。

地域情勢と環境の特徴
ただし親日的なのはあくまで政府レベルの話であり、現地民全てが同様の感情を抱いているわけではなかった。また、この世界の戦史におけるベトナムは前世で知られた枯葉剤散布などの環境破壊を経験しておらず、国土は豊かな熱帯雨林に覆われていた。緑に満ちたその風土は、戦後に独立を成し遂げた一般的な東南アジア諸国の姿に近いものであった。

遠征軍の到着
その自然と湿気に包まれた地へ、川上啓太ら「変態」と称される精鋭たちが足を踏み入れたのは、年の瀬も迫る十二月下旬のことであった。

上陸と環境への違和感
年末まで一週間を切った頃、川上啓太は「英雄」「救世主」「黒い変態」と呼ばれ始めながら、整備主任の最上隆文らと共にベトナム中部【フエ】へ上陸した。気温二十五度前後の温暖な気候に啓太は違和感を覚えたが、寒冷地での作業に比べれば快適であった。隆文も「この方が整備には都合が良い」と淡々と語った。

最上隆文の思考と改造計画
隆文は早くも森林地帯対応の改修を思案していた。障害物が多い地形では平射や近接戦が不利で、焼夷榴弾は民間被害を避けて封印対象とする必要があると判断した。しかし最終手段として積載を外すつもりはなく、結果として啓太もまた同様の覚悟を共有していた。

啓太は「機体に嘘をつかない整備士」である隆文を信頼しつつ、自身も「最悪のときは全て燃やす」と割り切っていた。妹・優菜を残して死ねないという理由から、彼はどんな非難を受けても生存を優先する決意を固めていた。

特異な整備士と機士の関係
隆文は機体に誠実である一方、現地の事情や倫理を一切顧みない。啓太もまた同様に、自己生存を最優先とする冷徹な現実主義者であり、両者の価値観は奇妙に一致していた。結果として、彼らは最悪の場面で「焼き払う覚悟」を共有する、理想的かつ危険な主従関係を形成していた。

単独行動の理由
啓太が教導大隊と別行動を取るのは、単純に技量差のためであった。軍は部隊行動時に最も遅い兵種に速度を合わせるが、啓太の機動力は他の隊員と比較にならず、同行すれば行軍全体を遅滞させる結果となる。上層部は啓太を部隊戦力ではなく独立戦力として運用する方針を採り、彼に先行上陸と現地偵察、ならびに露払いを命じた。

任務環境と心境の余裕
現地には国防軍第四師団が駐屯しており、補給や情報面の支援は確保されていた。啓太はむしろ同級生を護る必要がない分、単独行動の方が気楽だと感じていた。隆文ら整備士についても「危険と見れば勝手に逃げるだろう」と冷静に割り切っていた。

案内役との邂逅
フエ到着後、啓太を出迎えたのは第四師団所属の綾瀬勝成大佐であった。彼は教導大隊員・綾瀬茉莉の父でもあり、丁重に歓迎の意を伝えた。啓太も軍人として正式に挨拶を返したが、内心では「この人を頼りに使い倒すか」と静かに企みを巡らせていた。

綾瀬勝成の出迎えと違和感
綾瀬勝成大佐(第二機甲連隊長・綾瀬茉莉の父)がフエ港で川上啓太を先に出迎えた。取引先社長である最上隆文より啓太を優先した挨拶は異例であり、啓太は「急ぎで自分に頼みがある」と見抜いた。

利害の読み合い
勝成は世間話を装い啓太の人となりを測るが、意図を見抜かれ初手から後手に回る。命令系統が異なるうえ民間企業である最上重工業の存在があるため、第四師団としても拙速な依頼は避けたいが、状況は待てない。

基地司令室での打診
勝成は基地司令としての立場で両名を司令室へ招き、正式に依頼を提示。最上隆文は「物理的に不可能な作業は受けない」と先手で釘を刺し、啓太も「命令でなく依頼」である点を明確化した。

脅威の正体―グリフォン
提示映像は体高6〜7m、翼幅約10m級の飛行魔物グリフォン。確認数は10体以上。中型相当で通常兵器は無効、草薙型の40mm機関砲では決定打に欠け、高度を取られると無力。与一型の弾幕で撃墜例はあるが、敵が学習し集結地点を上空から先制するため被害が増大。八房型の機動砲撃で「追い払う」ことは可能だが、数は減らせず制空不在が継続していた。

依頼の核心と期待戦力
勝成は「遠距離狙撃が可能な啓太の機体で、選択的に撃墜して数を削りたい」と要請。啓太は現物確認を条件に前向き。最上隆文は「御影型の性能実証と素材回収」を即断で後押しし、現地での実見へ移行。

方針決定と現地偵察へ
啓太は勝成の案内で多発地域へ向かうことを承認。第四師団の士気低下と被害拡大を踏まえ、まず実地観察→狙撃条件の設定→段階的な殲減という流れで対処に入ることとなった。

七章 ね? 簡単でしょ?

空の優位性と対象の性質
飛行能力は決定的優位であると位置付けられた。対象は体高6〜7m級のグリフォンであり、中型相当の魔力砲撃と鉤爪・嘴による近接能力を備える存在であった。鳥類のような脆弱性はなく、魔力と筋肉が高密度で詰まった個体であると推定された。

命中困難と反撃能力
地上用火器の継続命中は困難であった。グリフォンは空域で自在に回避し、着弾の連続化を阻害した。さらに上空からの魔力砲撃と急降下攻撃が決定打となり、地上戦力は被害を累積した。

第四師団の損耗
半年で草薙型5機、八房型3機、与一型10機超を喪失した。一方で撃墜できたグリフォンは2体のみであった。結果、第四師団はグリフォンを「通常中型の五倍以上=30m級大型に匹敵」する特記戦力と再定義した。

脅威規模の推定
確認数は10体以上であった。換算上は中型50体分、または大型10体分に相当する制空優勢を敵が保持していると評価された。恒常的頭上脅威は兵站と士気を大きく侵食した。

現行対処の限界
草薙型の40mm機関砲は決定打に欠け、与一型は弾幕依存で学習後の敵に通じにくくなった。八房型の機動砲撃は「追い払い」には有効だが「減殺」には至らなかった。草薙型へ狙撃兵装を付す案は習熟時間と運用負荷が致命的と判断された。

最悪事態の想定
魔族・悪魔が航空集中攻撃を指導する可能性が指摘された。現時点で実施されていない理由は不明だが、いつ転化してもおかしくないと結論づけられた。

転機の到来
第四師団は本国へ狙撃・砲撃兵装の増備を上申しつつあったが、その矢先、第一師団上層部の最前線視察(懲罰的派遣)と同行戦力の到来が判明した。これにより制空脅威への選択的撃墜と殲減に向けた新たな作戦立案の余地が生じたのである。

グリフォン狙撃の開始
ベトナム北部サパ周辺。川上啓太は120mm滑腔砲を備えた御影型で出撃し、空を旋回するグリフォンを次々に撃墜していた。徹甲弾の一撃は40mm機関砲とは比較にならない破壊力を持ち、命中すれば即座に爆散。草薙型でも苦戦していた敵が、一方的に撃ち落とされていった。

啓太は「撃てば当たる、当たれば死ぬ」と冷静に分析。AI補助による照準制御が精密なため、自身の仕事は引き金を引くことだけだった。遮蔽物のない空を油断して飛ぶ敵に対し、彼は機械的に淡々と引き金を引き、わずか数分で三体を撃墜した。

撃破の容易さと分析
第四師団の草薙型や八房型の射撃はグリフォンに通じなかったが、御影型の狙撃では圧倒的優位が証明された。啓太は「的にしかならない」と断じつつも、威力過多により素材が残らない点を難点とした。

綾瀬勝成大佐は驚愕し、最上隆文は満足げに「大尉の腕と機体の性能が違う」と誇示。啓太は内心「機械が全部やってる」と苦笑していた。

戦略的判断と啓太の提案
啓太は三体を撃墜した時点で状況を整理した。敵は即死しており情報共有は起きていない。群れが異変に気づくまで時間があり、魔族側が対応策を講じるにも猶予がある。つまり、今が最大の好機であった。

だが啓太は単独殲滅を避け、「この好機を自分だけで使うのは勿体ない」と考える。彼は五十谷翔子たち教導大隊の面々、特に初陣を控える者に安全な実戦経験を積ませる機会として利用すべきだと提案した。

啓太の狙いと上官としての意図
啓太は同級生であり部下でもある五十谷翔子たちを「危険の少ない状況で戦わせる」ことを目的とした。実際の戦場で恐怖を克服するには、実弾環境での経験が不可欠であると判断したためである。

最上隆文もまた、新型試作三号機の実戦データ取得には関心を示しており、啓太の意図を理解した。こうして啓太は「安全な実戦訓練」として、次段階の作戦――後続部隊を交えた狩猟戦――の布石を打つことを決めたのであった。

実戦参加の提案と指揮系統の確認
川上啓太は、グリフォン討伐を自らの独壇場にするのではなく、後続の教導大隊――特に五十谷翔子ら学生隊員に経験を積ませるべきだと提案した。しかし、最終判断は現地指揮官である綾瀬勝成大佐に委ねられる。軍の正式命令下で動く以上、啓太の独断で学生を戦場に連れ出すことはできなかった。

綾瀬大佐は当初、この提案に強い迷いを見せた。第四師団が長期間苦戦してきたグリフォンを、新設の学生部隊に「経験値扱い」で相手をさせることは、師団の面目にも関わる。また、自身の娘・綾瀬茉莉が教導大隊に所属していることも心理的な重荷となっていた。

能力の確認と責任の所在
綾瀬大佐は「他の隊員も君と同じことができるのか」と問う。啓太は即答する。
「狙撃の精度や機体制御は異なりますが、“当てられれば倒せる”状況です。今なら問題はありません」
グリフォンの耐久は中型相当であり、現状の無警戒な飛行パターンを考えれば命中さえすれば撃墜可能であると啓太は判断した。

後詰の保証と信頼の形成
啓太は続けて、「自分が後詰として支援に入る。失敗が続くようなら自分が単独で処理する」と明言した。学生の未熟さを承知したうえで、責任を引き受ける姿勢を示すことで、綾瀬大佐の懸念を払拭する意図である。

軍の要請ではなく、あくまで教導大隊側からの「実戦訓練の申し出」として処理することで、師団間の面子にも配慮していた。

綾瀬大佐の決断と啓太の内心
慎重に言葉を選んだ啓太の提案に対し、綾瀬大佐は沈思の末に了承した。部下に犠牲を出させないという指揮官の矜持と、現場の現実が交錯した上での苦渋の同意であった。

啓太は内心で微かに笑みを浮かべる。これで学生たちに実弾環境での初陣を経験させる許可を得たからである。

――五十谷翔子の願い、すなわち「実戦に立つ機会」は、まもなく実現しようとしていた。

翔子の激昂と恐怖の自覚
翔子は啓太の「狙って撃つだけで簡単」という物言いに激昂しつつも、初陣の緊張下で“外せば死ぬ”現実に直面し、手の震えと恐怖を抑えられなかったのである。

単騎配備に至る経緯
第四師団はグリフォン対処で与一型や草薙型が機動・隠蔽で劣勢にあり、集団運用は上空砲撃の的となっていた。そこで射撃性能が実証済みの試作三号機のみを単独潜伏させる判断に至り、翔子が先行配備された。静香は反対したが、状況判断により受容した経緯である。

自己認識の破綻と怒りの転化
翔子は「できる者が前に出る」軍隊の論理を失念し、試作機運用の優位が戦場投入を早めることを理解しきれていなかった。苛立ちは啓太への怒りとなって表面化した。

発見と死の錯覚
潜伏中、グリフォンに視認されたと誤解し、反撃の魔力砲撃を確信して硬直した。射撃に踏み切れず、「当てれば反撃は来ない」という理屈が実行不能となった。

啓太の介入と救命
グリフォンが攻撃に移る瞬間の隙を、離隔支援していた啓太が狙撃で撃破した。翔子は命を救われたが、初撃を自ら成せなかった事実が尊厳に影を落としたのである。

戦術的含意
・空対地であっても、獲物を狙う直前は最大の隙である。
・単機潜伏+外部狙撃支援は成立するが、初陣者には心理的負荷が極大である。
・「当てれば終わり」の理屈は正しいが、実行には射撃技量と恐怖耐性が必須である。

八章 敵のような味方、味方のような敵の存在

状況概要
サパ近郊の駐屯地に展開する教導大隊は、空を飛ぶ魔物「グリフォン」への対処で一定の成果を上げていた。啓太の後詰を前提として、教導大隊の若手操縦者らが森林地帯での実戦に投入されていた。

戦果
啓太の支援を受けつつ、翔子が四体、静香と那奈が各二体、合計で十一体のグリフォン討伐が確認された。併せて夏希・茉莉らは小型・中型魔物の撃墜スコアを稼ぎ、教導大隊の討伐実績は遠征軍内で突出した。

懸念点
現地ベトナム軍や貴族層は、「戦功機会を外部(遠征軍)に奪われる」との認識を強めており、教導大隊の活躍が地元勢力の政治的・社会的立場へ影響を及ぼす可能性が高かった。特に、装備が新型/試験機である点と「我々は客扱いである」と見なされる事情が問題視されていた。

影響と見通し
第四師団は教導大隊の帰還を許さず、遠征日程の延長が必至であった。やがて地元の援軍(貴族中核の部隊)が到着する見込みであり、到着部隊の戦力や士気次第では教導大隊の運用に新たな面倒事が生じると判断された。

エピローグ

時と場所
十二月下旬、旧湖南省長沙市の居城にて、侯爵シュレンが子爵ロウランを召喚したのである。

魔族の序列と監督者
爵位は領地規模ではなく戦闘力を示す称号であり、両者に主従はなかった。魔族は下級の暴走で有用な人間資源が失われるのを嫌い、地域最強の魔族を【監督者】として配置し統制していた。シュレンは南部一帯の監督権を帯びていた。

問題認識
共生派からの通報で、ベトナム方面でグリフォンが多数撃墜されている事実が上がった。要因は日本遠征軍の新型機による狙撃であると把握された。

敵情と戦況評価
地元貴族と軍は「面目と存在意義の回復」を掲げ、数万規模での出兵を準備していた。主力はベトナム帝国軍、装備は中華由来の旧式機約一〇〇〇機と日本機の少数であった。日本軍本隊は手柄配分の観点から静観の公算が高いと推定された。

作戦方針
ベトナム軍は殲滅して差し支えないが、日本軍には「不自然に見えない軽微な損害」を与えて退かせることを目標とした。悪魔が望む【闘争】の均衡を維持するため、日本戦力の過剰消耗は避ける方針であった。

投入戦力
統制なき魔物の奔出は禁じ、攻勢方向と標的を管理下に置く計画であった。シュレンは保険として巨鳥型最上級戦力『鵬』(翼開長一〇〇M超)をロウランに預け、必要なら威嚇投入を許可した。

意図された効果
『鵬』の誇示により敵軍心理を崩し、戦わずして後退させることを狙った。対策準備に数年を要させることで、南部戦域に安定期間を確保しつつ、悪魔の要請する【闘争】の継続条件を満たす算段であった。

ロウランの決断
外れ籤ではあるが、他者の失策で自分が危機に陥る事態を避けるため、ロウランは迎撃と限定攻撃の管理任を受諾した。必要人員の起用と魔物運用の裁量も認められた。

帰結の示唆
国家威信や貴族の意地は平時の余裕があってこそ成立する装飾に過ぎないと二人は結論した。無準備の越境と周到な迎撃の勝敗は論ずるまでもなく、以後の局面は魔族側が設計した均衡の上で推移する見通しであった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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