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フィクション(Novel)最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い読書感想

小説【出涸らし】「最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 2 」【感想・ネタバレ】

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フィクション(Novel)
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どんなラノベ?

普段は出涸らしと呼ばれる、臣下の貴族、臣民に馬鹿にされてる皇子。

でもその実態は古代魔術を駆使するSS級冒険者のシルバー。

そんな彼が双子の弟を次期皇帝にしようと暗躍する。

前巻からのあらすじ

皇帝主催の騎士狩猟祭。
その裏で吸血鬼が魔獣の暴走を誘導して皇帝殺害を企てる。

その危機に惰弱な自身が脚を引っ張る事を良しとしないアルは、サッサと棄権して勇者の末裔のエルナを皇帝の元に送る。
そして、弟のレオを援護するためにシルバーとして援軍を転移させて吸血鬼をエルナと討伐する。

その功績でレオは他国への使節として派遣される。
それを他人事にしていたアルの顔を見て、イラッと来た父親が嫌がらせで同行しろと命令される。

読んだ本のタイトル

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い  2 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する
著者:タンバ 氏
イラスト:夕薙 氏

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あらすじ・内容

「小説家になろう」にて絶大な人気を誇る作品が満を持して書籍化! 

無能で無気力な底辺皇子・アルノルト。気ままに過ごす彼は「優秀な双子の弟に良い所を吸い取られた『出涸らし皇子』」と、帝国中から馬鹿にされていた。しかし、皇子達の帝位争いが激化し危機が迫ったことで、遂に”本気を出す”ことを決意する。
「皇帝になる気は無いが、負けて殺される気もさらさら無いな」
隠していた類まれな才覚による策略や交渉術、そして「禁忌の古代魔法を操る、最強のSS級冒険者」という真の力とその地位――全てを駆使し、正体を隠して暗躍する出涸らし皇子は、彼に尽くす国一番の美姫を従え、帝位争いを影から支配する!
最強皇子による縦横無尽の暗躍ファンタジー、ここに開幕!

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する

感想

前回の魔獣の暴走で弟に手柄を立てさせホクホク顔をして、帝位争いを他人事のように見ていたアルへ皇帝が嫌がらせをして来た。 

弟と外交の使節をしろと。

そして2隻の船に乗りその国へ行こうとしたら友好国と敵対している国の公子達が挨拶に来た際に体調不良の弟になり変わって対応したが、、

ただの挨拶では無く進路を変えてくれと言う。

それに従い進路を変えたのだが、水竜が発生させた嵐に巻き込まれて、2人が入れ違ったまま2隻は引き離されてしまう。

そしてアルが乗っていた船は数多くの遭難者を発見する。
急いで救出したが3隻の船の遭難者を1隻で救出しないといけない。
それで載せていた荷物を投棄して出来る限りの人を乗せて行く。
そしてたら先程挨拶した公子達もおり、彼等から水竜が暴れて乗っていた船を沈められたと知る。

そして、救出した重傷者を助けるため急いで港へ運ばないといけないのに。
相手は戦争をしてないとは言え敵対国。

そのため臨検に来た軍艦の静止を振り切って、白旗を掲ながら強引に入港してしまう。

そして多くの遭難者が助かったのだが、、
アル達は立場上、捕虜になってしまう。

だが、公子達と多くの船員達を救出したとして歓迎され食糧、水などを補給してレオと合流。
ちなみに全てレオと他のアルは入れ替わっていたので、アルが行った遭難者救出は全てレオがやった事になっていた。

そして最後はシルバーになって水竜をブッコロ。

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展開まとめ

第一章 帝都暗闘

後宮訪問と母ミツバとの再会
騒動から二週間が経過したが、混乱の影響で帝位争いに大きな動きはなかった。その中でアルとレオは後宮を訪れ、母ミツバと再会した。ミツバは東方出身の踊り子であり、皇帝に見初められて妃となった人物であるが、後宮においても気さくで飾らない態度を崩さなかった。久々の再会でありながら軽妙な会話が交わされ、母子の関係性の近さが示されていた。

家族の団欒とクリスタの登場
アルとレオが用意された菓子を囲んでいると、クリスタが現れた。クリスタは幼少期に母を亡くしており、ミツバに育てられたことで深い信頼関係を築いていた。そのため自然に膝に乗り、甘える様子を見せていた。アルたちとも親しい関係であり、穏やかな家族の時間が流れていた。

補佐官任命と母の価値観
会話の中で、アルはエルナの行動によって補佐官という役目を任されたことを明かした。面倒事として捉えるアルに対し、ミツバは結果を委ねた者を信じる姿勢を示し、失敗を過度に咎めることもなかった。その価値観は他の貴族とは異なり、自由と信頼を重んじるものであった。

蒼鷗姫を巡る話題と動揺
穏やかな空気の中、ミツバは突然、蒼鷗姫フィーネがどの妃になるのかを問いかけた。これによりアルとレオは動揺し、場の空気は一変した。さらにクリスタがフィーネはアルの友人であると述べたことで、アルとフィーネの関係が茶化される形となり、アルは困惑を深めた。アルは関係を否定したものの、母は興味深そうに受け止めていた。

後宮を後にし暗躍再開
やがてアルは予定を理由に退出し、母と別れた。後宮の穏やかな空間を守るためにも、休むわけにはいかないと決意を新たにしたアルは、外に出るとすぐに行動を開始した。セバスに対し中立貴族の弱みを探るよう命じ、帝都での暗躍を再び進めていくのであった。

ベルツ伯爵への接触と噂の追及
アルノルトは帝位争いから距離を置く宮廷貴族ベルツ伯爵の屋敷を訪れた。副工務大臣として有能でありながら中立を保つ人物であったが、妻の派手な遊興に関する噂が広がっていたためである。アルノルトが国の資金流用の疑いまで示唆すると、伯爵は強く否定しつつも動揺を隠せず、実際には借金によって妻の浪費を支えている状況を明かした。

妻ベティーナの介入と家庭の実態露呈
会話の最中、妻ベティーナが乱入し、無礼な態度でアルノルトを嘲笑した。彼女は贅沢な生活に慣れ、皇族のように振る舞っていたが、その背景には伯爵の過度な甘やかしがあった。伯爵は彼女を諫めきれず、結果として状況を悪化させていたことが明らかとなった。

離婚問題と皇帝との関係
ベルツ伯爵が離婚に踏み切れない理由は、結婚時に皇帝から祝福を受けていたためであった。皇帝が伯爵を高く評価していることもあり、本人は離婚に踏み出せず追い詰められていた。アルノルトはその事情を踏まえ、皇帝の意向を利用して問題を解決する必要があると判断した。

勢力取り込みと救済策の提示
アルノルトはベルツ伯爵をレオナルトの勢力に取り込むことを決め、レオナルトを通じて皇帝に現状を報告し、離婚を後押しする方針を示した。伯爵は救いを得たようにこれを受け入れ、レオナルトへの嘆願の手紙を記した。アルノルトは伯爵に対し、あくまで主は皇帝であることを強調しつつ協力関係を築いた。

離婚成立と勢力拡大
その後、レオナルトを説得して皇帝に状況を伝えると、皇帝は即座に離婚を認めた。これによりベルツ伯爵は妻から解放され、レオナルトの勢力に加わることとなった。こうして帝都における勢力はわずかながら拡大し、アルノルトの暗躍は成果を上げたのであった。

ベルツ伯爵救済への疑問
アルノルトが書類をまとめている最中、フィーネはベルツ伯爵を味方に加えたことに疑問を呈した。ベルツ伯爵が若い妻を甘やかし、自ら招いた問題を制御できなくなった末に離婚へ進んだことに、女性の立場から納得できないと感じていたのである。これに対しアルノルトは、問題は夫婦間だけで完結するものではないと説明を始めた。

ベティーナの出自とザンドラとの繋がり
ベティーナの生家であるダウム伯爵家は、南部最大級の貴族であるクリューガー公爵家の縁戚であり、さらに第五妃を通じて皇族とも深く繋がっていた。第五妃の娘であるザンドラ皇女との関係が重要であり、アルノルトはそこに今回の件の裏事情があると見抜いていた。フィーネは当初、その繋がりの深さを軽く見ていたが、アルノルトは帝位争いにおける支持基盤の性質から話を展開した。

支持基盤の違いとザンドラの弱点
アルノルトは、エリクが文官、ゴードンが武官、ザンドラが魔導師を支持基盤としていることを踏まえ、帝都において最も弱い基盤はザンドラであると説明した。文官や武官は役職の都合で帝都に集まりやすいが、魔導師は各地に散らばっており、帝都の中枢に支持者を持ちにくいからである。そのためザンドラは、自身の支持者を重要役職に就ける必要に迫られていた。

大臣職乗っ取りの仕組み
アルノルトはクッキーを使って、ザンドラの策略を視覚的に示した。副大臣のような大臣候補をあらかじめ取り込み、現職大臣を失脚させれば、その地位を支持者に渡せるという仕組みである。フィーネはそこで、ベルツ伯爵が副工務大臣であることと話が繋がり、今回の件が単なる家庭問題ではないと理解した。

ザンドラの長期計画の全貌
アルノルトは、ザンドラが母方の縁を通じてベティーナを操っていたと明かした。ベティーナには豪遊を続けさせてベルツ伯爵を追い詰める一方で、現工務大臣には不倫工作を仕掛けて失脚の準備を進めていた。不倫相手に工務大臣を選んだのも、皇帝がその縁談を取り持っていたため、不義が発覚すれば皇帝が激怒することを見越してのことであった。こうしてベルツ伯爵を苦しめ、最後に助ける形で取り込み、工務大臣の不倫を皇帝に告発させれば、工務大臣の地位を支持者に渡せるという筋書きであった。

計画の横取りと帝都での均衡崩し
アルノルトは、ザンドラが数年かけて進めてきた計画をそっくり奪ったのだと語った。フィーネは、これから帝都を離れるのにザンドラを怒らせてよいのかと不安を示したが、アルノルトはそれこそが狙いであると答えた。自分たちが帝都を離れれば三勢力から攻撃される危険があるが、先にザンドラの勢力に動揺を生じさせれば、エリクやゴードンがそこを突いてザンドラを攻めるはずであり、自分たちへの圧力を分散できると考えていたのである。

セバスの働きとベルツ伯爵への再評価
この計画を見抜けたのは、セバスが暗殺者から重要情報を引き出し、ベルツ伯爵の周辺事情まで調べ上げたからであった。セバスが元暗殺者であり、死神の異名を持つ凄腕だったことを聞かされたフィーネは大きく驚いた。さらにアルノルトは、ベルツ伯爵が女に相手にされなかったことすらザンドラの工作であった可能性を示し、結婚から破綻に至るまで数年単位で踊らされていた伯爵の境遇を哀れなものとして語った。

帝位争い激化への備え
アルノルトは工務大臣の不倫に関する書類をまとめ、それをベルツ伯爵から皇帝へ提出させる方針を固めた。これによりザンドラとの暗闘が本格化し、さらにゴードンもこの機を逃さず動くと見込んでいた。ゴードンとザンドラが互いに消耗すれば、自分たちにとって有利になる。アルノルトはその展開を見据えつつ、帝都を離れている間に他勢力を疲弊させようと考えていた。

工務大臣の不倫発覚と皇帝の激怒
ベルツ伯爵が提出した資料によって、工務大臣の不倫は皇帝ヨハネスの知るところとなった。ヨハネスは工務大臣を厳しく問い詰め、部下の妻に手を出したうえ、誘惑されたと責任転嫁する態度を激しく非難した。長年信頼してきた大臣が、自ら仲介した縁談を踏みにじり、しかも目をかけていたベルツ伯爵を苦しめていたことに、ヨハネスの怒りは一層強まった。

ベルツ伯爵への信頼と工務大臣更迭
ヨハネスは以前からベルツ伯爵の真面目さと職務への忠実さを高く評価していたため、今回の件でもベルツ伯爵が策を巡らせたとは考えなかった。むしろ工務大臣が自分の立場を守るため、ベルツ伯爵の妻を利用して伯爵を追い詰めたように映っていた。そのためヨハネスは即座に工務大臣を罷免し、自宅謹慎と処罰を命じたのであった。

ベルツ伯爵の謝罪と工務大臣任命
その後、呼び出されたベルツ伯爵は、元妻の不始末を自らの監督不足として詫びた。しかしヨハネスはその純朴さこそがベルツ伯爵の美点であると告げ、責任を負う必要はないと諭した。そして以前から大臣職を任せたいと思っていたことを明かし、工務大臣の後任に据える意向を示した。ベルツ伯爵は一度は辞退しようとしたものの、最終的にはその任を受け、国のために尽くすことを誓った。

宰相フランツの登場と策謀への疑念
ベルツ伯爵が退出した後、宰相フランツが現れた。貴族出身ではなく、才覚のみで宰相に上り詰めた人物である。フランツは工務大臣更迭自体には異論を唱えなかったが、ベルツ伯爵をそのまま後任に据えることには策謀の匂いを感じ取っていた。だがヨハネスは、仮に背後に策略があったとしても、ベルツ伯爵本人に能力があり、本人が謀略を考える性格ではない以上、任命に問題はないと判断していた。

帝位争いと皇帝に必要な資質
ヨハネスは、帝位争いにおいて大臣の取り合いが起こるのは当然であり、策謀を巡らせる力もまた皇帝に必要な資質だと語った。フランツもまた、かつて皇子時代のヨハネスに参謀として仕え、策略面を支えていた人物であった。二人は過去の帝位争いを思い返し、それが血に濡れた道でありながらも、強い皇帝を選び出すために必要な過程であると認識していた。

皇太子暗殺への確信と第四勢力への注目
会話の中でヨハネスは、亡くなった皇太子が暗殺されたとの確信を改めて示した。証拠は見つからなかったものの、優しすぎた皇太子はそこにつけ込まれたのだと考えていた。そのうえで、現在の第四勢力に強い関心を寄せていた。一見するとレオナルトが中心の勢力に見えるが、その背後で急速な勢力拡大を支える者がいると見ており、それがアルノルトであると推測していた。

アルノルトへの評価と双黒の皇子への期待
ヨハネスは、無能を装いながらも裏で動くアルノルトに、自身と似た気配を感じ取っていた。前回の騒動で真っ先にエルナを送り込み、自分の腕輪を壊してでも彼女たちに責任が及ばぬようにした行動からも、巷で言われるほど無能ではないと見ていた。一方でフランツは、ヨハネスとは異なりアルノルトに明確な野心が見えないことを危惧していた。とはいえ二人は、正道を歩むレオナルトと陰で補佐するアルノルトを合わせて双黒の皇子と評し、二人が力を合わせれば帝位に届く可能性もあると見ていた。

帝国の安泰を願う皇帝の思い
ヨハネスは、先を行く皇子や皇女たちもまた傑物揃いであり、優秀な者たちが帝位を争うことは帝国にとって好ましいと考えていた。優れた皇帝が生まれるなら帝国は安泰であるからである。しかしその一方で、子供たちが流す血が少しでも少ないことを密かに願っていた。その思いは皇帝として口には出せぬまま、ヨハネスは次の政務へと向かっていった。

ザンドラの報復と調略戦の激化
夜の帝都では、各勢力による調略合戦が激化していた。ザンドラの計画をアルノルトたちが奪って以降、ザンドラは報復としてレオナルトの支持者を次々と切り崩し始めた。レオナルトは離反を防ぐため自らも奔走し、支持者の維持に追われることとなった。アルノルトはこの状況を、表面上の損失よりも敵の真意を見極めるべき局面として捉えていた。

ザンドラの本命としてのフィーネ
アルノルトはセバスとともに、ザンドラの狙いを分析した。その結果、支持者の切り崩しは本命ではなく、真に狙われているのはフィーネであると判断した。フィーネだけが、アルノルトとレオナルトが帝都を離れた後も旗印となりうる存在だったためである。露骨に襲撃すれば皇帝が黙っていないが、支持者をまとめるために外を動き回る最中に襲われた形にすれば、責任をアルノルトたちに向けさせることも可能であった。

フィーネ隔離の決断とアルノルトの警戒
その危険を見越し、アルノルトはフィーネを城内には置かず、安全な場所へ移していた。帝剣城は外からの防備は堅いが、内部から手引きされれば危険が生じるためであった。セバスは、ベルツ伯爵を取り込んだことでアルノルトの能力がザンドラに露見した以上、その判断には大きな価値がなかったのではないかと指摘したが、アルノルトはすでに無能を装い続けられる段階ではなく、最大限の警戒を払っているからこそフィーネを遠ざけたのだと答えた。

徹底防御に転じた理由
セバスは、普段のアルノルトであれば敵の狙いが見えた時点で必ず反撃策を講じるはずなのに、今回はそれをせず防御に徹している点に着目した。そしてそれは、フィーネを危険な目に遭わせたくないからではないかと指摘した。アルノルトはフィーネがクライネルト公爵家の娘であり、ここで失えば勢力が再起不能になるからだと説明したが、セバスはそれだけではないと見抜いていた。アルノルトはその追及を打ち切り、自ら安全確認に赴くことを決めた。

避難先としてのアムスベルグ勇爵家
アルノルトがフィーネを匿った先は、帝都で最も安全で、かつ最も強い存在がいるアムスベルグ勇爵家の屋敷であった。そこはエルナの実家であり、アルノルトにとっても幼少期から深い縁のある場所であった。門番たちに自然に迎え入れられるほど馴染みがあり、その過去を思い返しながらアルノルトは屋敷へ入っていった。

アンナとの再会と昔話
屋敷ではエルナの母アンナがアルノルトを迎えた。若々しい容姿を保つ彼女は、昔と変わらぬ親しげな態度でアルノルトを中へ案内した。会話の中では、子供の頃にエルナに振り回され、泣かされていた頃の話まで持ち出され、アルノルトは相変わらずこの家には敵わないと感じていた。アンナはセバスを手伝いに連れていき、アルノルトには客室で待つよう告げた。

不用意な扉と予想外の遭遇
アルノルトが指定された客室の扉を開けると、そこには下着姿のフィーネとエルナがいた。フィーネはエルナを着せ替え人形のように扱っており、二人は女同士しかいないと思って無防備なままであった。思いがけずその場面を目撃したアルノルトに対し、二人はすぐさま顔を真っ赤にし、特にエルナは即座に枕を投げつける体勢に入った。アルノルトは、アンナにはめられたと悟りながら、その枕を顔面で受ける羽目になったのであった。

予期せぬ事故とエルナの激昂
アルノルトは客室に入った直後、エルナとフィーネの着替えの場面を目撃してしまい、エルナから枕を投げつけられたうえに壁へ叩きつけられた。さらに部屋を出てきたエルナは剣を手に取り、覗きの責任を追及しながらアルノルトに襲いかかった。アルノルトは必死に回避しつつ弁明を試みるが、エルナは聞き入れず、理不尽な追及が続いた。

アンナの介入と騒動の収束
騒ぎはアンナの一言によって収められた。アンナは大人として冷静になるようエルナを諭し、その場を強引に落ち着かせた。その後、全員で客室に戻り事情を整理すると、フィーネの衣装選びが長引いた結果、アンナが偶然アルノルトをその部屋へ通したという流れであったが、アルノルトはそこに意図的なものを感じ取っていた。

結婚話への発展と混乱
アンナは冗談めかして責任問題を結婚に結びつけ、エルナとフィーネの双方との縁談を持ち出した。これにより場は一気に混乱し、エルナは動揺し、フィーネも取り乱した。しかしアルノルトはこれをきっぱりと否定し、結婚の意思がないことを明言したことで、騒動は冗談として収束した。

フィーネ保護の依頼
本題に移ったアルノルトは、フィーネをしばらくアムスベルグ家に匿い、可能な限りエルナと行動を共にさせてほしいと依頼した。アンナは当初、帝位争いへの関与を理由に断ったが、フィーネが皇帝のお気に入りであることを理由に守るのは不自然ではないという理屈を提示され、最終的に協力を受け入れた。

ザンドラの脅威と防衛方針
アルノルトは、ザンドラがフィーネを狙う可能性が高く、また自分自身も命を狙われる状況にあると説明した。自身が身を隠せばレオナルトが狙われるため、あえて囮となってザンドラの注意を引きつける方針を取ると決めていた。フィーネはその危険性を案じたが、アルノルトはセバスの存在と自身の備えにより問題ないと告げ、安心させた。

激化する帝位争いへの覚悟
ザンドラの攻勢は短期間で終わる見込みであり、その間を耐えきれば他勢力が動き、均衡は崩れるとアルノルトは見ていた。そのため数日間は極めて危険な局面となるが、ここを乗り切ることが今後の展開を左右する重要な分岐点となる。アルノルトはその覚悟を固め、次なる局面に備えていた。

ザンドラの襲撃とアルノルトの迎撃準備
フィーネの安全が確保されたことでアルノルトたちは動きやすくなり、ザンドラに狙われそうな支持者へ釘を刺して回っていた。しかし二日目の夜、ついにザンドラが動き出した。馬車で移動中に襲撃を察知したアルノルトは、予想通りの展開にため息をつきつつも冷静に状況を受け止めた。ザンドラの行動は他勢力に隙を与えるものであり、感情に任せた判断であると見ていた。

セバス離脱と単独での対峙
セバスは別働の暗殺者たちを排除するために馬車から離れ、アルノルトは単独で進むこととなった。従者は恐怖から逃げ出し、アルノルトは一人で暗殺者と対峙する状況に追い込まれた。現れた暗殺者は高い実力を持つ手練れであり、暗殺ではなく拉致を目的としていた。アルノルトは防御結界によって余裕を保ちながらも、情報を引き出す機会として状況を利用しようと考えていた。

暗殺者の攻撃と不意の介入者
暗殺者が炎の短剣で攻撃を仕掛けた瞬間、横から現れた少女がその一撃を打ち消した。少女はクライネルト公爵領で見かけたA級冒険者であり、事情を知らぬまま介入し、殺しを見過ごせないという理由でアルノルト側に立った。暗殺者は少女を敵と認識し攻撃を加えるが、少女は変形する魔剣と音による睡眠効果を駆使して応戦した。

戦闘の決着と暗殺者の撤退
少女の持つ魔剣は盾や槍へと自在に形を変え、さらに音によって敵の意識を削ぐ能力を備えていた。暗殺者はその異質な戦い方に対応しきれず、状況不利と判断して撤退した。直後にセバスが戻り、事態は収束した。

リンフィアの正体と願い
少女はリンフィアと名乗り、アルノルトが皇子であることを知ると、自らの目的に近づく機会を得たと語った。そして命を救ったことを理由に、自身の頼みを聞いてほしいと申し出た。アルノルトは本心では介入を望んでいなかったが、皇子としての立場上これを無下に断ることはできなかった。

新たな問題の発生
アルノルトはリンフィアの話を城で聞くことを提案し、馬車に同乗させた。事態は収束したものの、新たな問題を抱えることとなり、帝都での暗闘はさらに複雑さを増していくのであった。

リンフィアの願いと流民の村の実情
城へ戻ったアルノルトはリンフィアを部屋に招き、改めて話を聞いた。リンフィアは帝国南部国境付近にある流民の村の出身であり、その村では若い娘や子供が人攫いの標的になっていると語った。村には複数の流民が集まって暮らしており、多くが混血であったため、虹彩異色を持つ者が生まれていた。虹彩異色の者は珍しさと高い魔力ゆえに高値で売買されるため、村は人身売買の対象になっていたのである。

帝都まで来た理由と現地の無反応
リンフィアは村を救うため、まず近隣の領主や軍関係者に訴えたが、証拠がないことや村そのものを認めないという理由で誰も動かなかった。そのため帝都の有力者に助力を求めるしかなくなり、シルバーを通じて皇族に接触しようと考えて帝都まで来ていた。アルノルトは、その話から現地の領主や軍関係者が人攫い組織と通じている可能性まで考え、問題が単なる村の被害では済まないことを悟った。

時間不足と妥協案の提示
しかしアルノルトとレオナルトには、近く全権大使と補佐官として他国へ向かわなければならない事情があり、すぐに動くことはできなかった。セバスもその点を指摘し、命の恩人とはいえ今この問題を抱え込む危険性を警告した。リンフィアはせめて村を守るための資金援助を求めたが、アルノルトは妥協案として、帰国後にできる限り協力すること、その間は信頼できる冒険者を派遣して村の安全を維持することを提案した。

リンフィアの取引と協力の申し出
リンフィアはその提案を受けつつ、自らも対価を示した。村を守ってもらえるなら、自分がアルノルトを守り、その守りたいものを守ると申し出たのである。村にはA級相当の冒険者を派遣すれば十分対応でき、自分は帝都に残っても問題ないと説明した。さらに、もしアルノルトが約束を破った場合は、不利になる情報を持って他陣営に駆け込み、それを報酬として村を救ってもらうつもりだと告げた。アルノルトとセバスは、その実力と冷静さ、駆け引きのできる胆力を高く評価した。

アルノルトの決断と取引成立
アルノルトは、リンフィアを見捨てればレオナルトやフィーネが黙っておらず、むしろ事態を複雑にすると判断した。そのため最初から助けたほうがよいと考え、リンフィアの提案を受け入れた。こうしてリンフィアはアルノルトに協力し、アルノルトはリンフィアの村を救うため協力するという取引が成立した。リンフィアはアルノルトの評判と実際の姿が大きく異なることに驚きつつも、最後には握手を交わし、両者は新たな協力関係を結んだのであった。

勇爵家訪問とエルナへの誘い
アルノルトはフィーネを匿ってくれた礼として、勇爵家を訪れエルナを食事に誘った。軽い会話の末、昼食だけの予定だったがエルナの意向で帝都を巡ることとなった。準備を終えたエルナは認識阻害の魔導具を用いて身分を隠し、二人は外出した。

帝都巡りと思い出の回想
帝都を歩きながら、二人は幼少期の思い出の場所を巡った。アルノルトがいじめられていた場所や、その後エルナに鍛えられた記憶などが語られ、当時の関係性が改めて浮き彫りとなった。エルナにとっては懐かしく楽しい記憶であったが、アルノルトにとっては理不尽さの伴う苦い思い出でもあった。

エルナの本音と関係性の再確認
エルナは当時の行動がアルノルトを守るためであったと語り、自身にとっては大切な時間だったことを明かした。一方アルノルトは、過去と変わらぬ距離感を保ちながらも、その関係が現在まで続いていることを認識していた。セバスが陰で二人を繋いでいた事実も明らかとなった。

帝都外周での騒動と自由奔放な行動
その後も帝都各地を巡る中で、エルナは悪ガキたちへの制裁や感情的な反応を見せ、自由奔放に振る舞った。アルノルトはそれに振り回されつつも付き合い続け、久々の時間を過ごした。

雨と愛の宿への突入
突如として雨が降り始めたため、エルナはかつて利用していた宿へ向かおうとした。しかしその宿は現在、恋人向けの高級宿へと変わっていた。アルノルトは利用を止めようとしたが、エルナは騎士としての発言を曲げられず、強引に入ることを決めた。

浴室での気まずい時間
部屋に入った二人は濡れた服を乾かすため、交代で風呂を使うこととなった。浴室は外から見える構造であり、互いに気まずい状況に置かれた。アルノルトは理性で行動を抑えつつ入浴し、その後エルナも同様に入浴したが、精神的な動揺は大きかった。

エルナの信念と弱さの露呈
エルナは騎士としての言葉を曲げられないという信念から行動したものの、その結果に強い羞恥と動揺を抱えていた。それでも自らの信念を優先する姿勢を崩さず、アルノルトとの価値観の違いが浮き彫りとなった。

娼館の話とアルノルトの行動理念
エルナの問いに対し、アルノルトは娼館の女性を外へ連れ出す行動について語った。彼女たちに束の間でも自由を与えるための行動であり、偽善であってもやらないよりは良いと考えていた。評判が悪化することも承知の上での選択であり、自身の立場を利用した行動であった。

穏やかな時間と関係の深化
その後、二人は他愛のない会話を交わしながら服が乾くのを待った。騒動と緊張の続く状況の中で、久しぶりに穏やかな時間が流れ、アルノルトとエルナの関係は改めて深まっていった。

帝都出発と残された者への不安
アルノルトとレオナルトが大使として帝都を出発する日、二人は皇帝からの言葉を受け、厳重な護衛のもと港へ向かうこととなった。しかし二人の胸中には、自分たちが不在の間に残された者たちが帝都での攻勢を乗り切れるかという不安があった。

フィーネ側の体制と人材配置
アルノルトは事前にリンフィアを登用し、セバスとともにフィーネの補佐に据えていた。これによりフィーネを中心とした体制を整え、帝都での防衛に備えていた。一方でレオナルトは、自身の勢力をマリーに託し、フィーネと協力して難局を乗り切るよう指示した。

マリーの懸念とレオナルトの信頼
マリーは帝都に残る人員については問題ないとしつつも、レオナルト自身の側近が手薄であることを懸念した。特にアルノルトに対する信頼に疑問を呈し、率直に不安を示した。しかしレオナルトは、アルノルトの実力を強く信じており、その存在こそが最大の支えであると断言した。

兄への評価と信念の違い
レオナルトは、自身が努力で成し得る存在であるのに対し、アルノルトはその気になれば努力なしで大抵のことを成し遂げられる人物だと評した。この言葉にマリーは複雑な思いを抱いたが、主に仕えると決めた以上、その考えを受け入れ、支える決意を新たにした。

使節団の出発と新たな局面
こうしてアルノルトとレオナルトは帝国使節団として帝都を出発した。向かう先は大陸南部の不安定な地域であり、帝都では残された者たちが、外では二人がそれぞれの役目を果たすこととなる。帝位争いは新たな局面へと移行していった。

第二章 異国へ

フォーゲル大陸と派遣先ロンディネ公国
フォーゲル大陸は鳥に例えられる地形を持ち、その中央にアードラシア帝国が位置していた。アルノルトとレオナルトが派遣されるのは南部、いわゆる尻尾にあたる地域にあるロンディネ公国であり、南部戦乱を勝ち抜いた国家の一つであった。二人は使節船団に分乗し、万が一に備える体制で航海に出ていた。

エルナの同行と水恐怖症
護衛として同行したエルナは重度の水恐怖症であり、船上ではまともに動けない状態であった。過去にアルノルトが風呂で溺れかけたことが原因で恐怖症を発症しており、揺れや海の存在そのものに怯えていた。アルノルトは呆れつつも結界で揺れを軽減し、状況を見守っていた。

アルバトロ公国との接触
航海中、隣国アルバトロ公国の軍船が接近し、会談を求めてきた。レオナルトが船酔いで動けないため、アルノルトはレオナルトになりすまして対応することとなった。現れたのは公女エヴァンジェリナと公子ジュリオであり、彼らはロンディネへの進路変更を求めてきた。

進路変更の決断
アルバトロ側は理由を明かさなかったが、強い警戒を示していた。アルノルトは状況を察し、独断で遠回りの航路を選択する。エヴァたちはその判断に驚きつつも感謝を示し、会談は終了した。アルノルトはそのままレオナルトの役割を演じ続けることとなった。

嵐の発生と異変の兆候
出航後まもなく、突如として嵐が発生した。晴天から一変した異常な現象により、船団は分断され、アルノルトの船はレオナルトの船と離れてしまう。船長は自然現象ではなく海の魔物の関与を指摘し、状況は急速に悪化していった。

海竜の存在の推測
アルノルトはアルバトロ公国の行動と嵐の発生を結びつけ、海竜の存在を推測した。嵐の中心はアルバトロ海域にあり、船はその中心へと流されていた。このままでは海上で海竜と対峙する危険が高まり、極めて不利な状況に追い込まれていった。

嵐の中での決断
アルノルトは探知魔法で嵐の規模を把握し、即座に離脱を指示した。しかし状況は厳しく、船は制御を失いかけていた。こうしてアルノルトはレオナルトの立場のまま、海竜の脅威が潜む嵐の中に巻き込まれていった。

海竜の嵐の正体と危機の認識
嵐を乗り越えたアルノルトは、現在地がアルバトロ公国の海域であると知った。船長の説明により、嵐は海竜が引き起こすものであり、船をそのもとへ引き寄せる性質を持つと判明した。アルノルトは嵐の特徴と一致することから、この海域に海竜が存在すると確信し、状況の深刻さを理解した。

アルバトロ公国の意図の推測
アルノルトは、アルバトロ公国が進路変更を求めた理由を推察した。海竜の存在を秘匿するため極秘に調査していたが、結果的に刺激してしまい嵐を引き起こした可能性が高いと考えた。すでに公国の船が破壊されている状況から、エヴァたちの生存も絶望的と判断していた。

生存者発見と葛藤
漂流する船の残骸の中に生存者が確認されると、アルノルトは救助を行うべきか葛藤した。合理的に考えれば即座に離脱すべき状況であったが、レオナルトとして振る舞う以上、救助を拒否すれば不自然となる。さらに入れ替わりが露見する危険もあり、決断を迫られた。

レオナルトとしての決断
アルノルトは最終的にレオナルトとしての立場を優先し、救助を命じた。これは本意ではなかったが、国家の代表としての振る舞いとレオナルトの性格を再現するための判断であった。結果として、自身の合理的判断とは逆の行動を取らざるを得なかった。

救助活動の拡大と負担
救助された者の証言により、他にも多数の生存者が存在することが判明した。これにより滞在時間の延長や物資の不足といった問題が発生し、状況はさらに悪化した。アルノルトは内心で強い不満を抱きつつも、行動を継続するしかなかった。

危険下での強行救助
船長は夜間の救助や海竜再襲来の危険性を理由に反対したが、アルノルトは命令として救助継続を指示した。嵐後であれば海竜の再出現は当面ないと判断し、全力で生存者を救う方針を貫いた。

レオナルトの理想とアルノルトの現実
アルノルトはこの行動が非合理であると理解しながらも、レオナルトの人格と評価を守るために従った。結果として、海竜の脅威が残る危険な海域で救助活動を行うという極めて危険な状況に身を置くこととなった。

海竜海域での救助継続
アルノルトはレオナルトとして振る舞い、危険な海域で救助活動を継続した。海竜の存在が疑われる中での行動は極めて非合理であったが、レオナルトの人格と評判を守るため、すべての生存者を救う方針を貫いた。

ジュリオたち生存者の極限状態
一方、アルバトロ公国側ではジュリオが生存者をまとめ、必死に励まし続けていた。船はすでに大破し、十時間以上漂流した彼らは極度の疲労と恐怖に晒されていた。姉エヴァは意識を失っており、ジュリオはその代わりに気丈に振る舞いながら仲間を支えていた。

帝国船の発見と希望の再燃
絶望が広がる中、遠方に帝国船が現れた。当初は敵対関係から救助されない可能性も考えられたが、拡声魔導具によるレオナルトの宣言により救助が確約され、生存者たちは再び希望を取り戻した。ジュリオは涙を流しながら仲間を鼓舞し、船へ向かわせた。

救助規模の拡大と苦渋の決断
救助活動が進むにつれ、生存者の数は想定を大きく上回り、収容能力や物資の不足が問題となった。アルノルトは最終的に、ロンディネへの手土産を含む食料以外の物資をすべて海に投棄するという決断を下した。これは外交的損失を伴うものであったが、生存者の命を最優先とするための選択であった。

ジュリオ救出と乗組員の覚悟
救助の最中、ジュリオは縄を掴んだ直後に力尽きて海へ沈みかけた。アルノルトは即座に海へ飛び込み、彼を救出した。この行動に触発され、帝国の乗組員たちも次々と海へ飛び込み、救助活動に加わった。恐怖を乗り越えた行動は、船全体の士気を高める結果となった。

マルクとの再会と過去の縁
救助後、アルノルトは壮年の騎士マルク・タイバーと会話を交わした。マルクはかつて勇爵家に仕えており、幼少期にアルノルトを救った人物であったことが判明する。二人は再会を果たしつつも、この危険な状況が長引くことを予感していた。

救助完遂と新たな進路
最終的にアルノルトは八十名以上の生存者を救助し、一人も見捨てることなく任務を遂行した。その後、船は予定を変更し、アルバトロ公国最大の港である公都へと進路を取ることとなった。帝位争いとは別の形で、アルノルトは大きな決断と責任を背負うこととなった。

レオによるアルの模倣と苦戦
アルノルトがレオナルトとして行動している一方で、レオナルトはアルノルトを演じることに苦戦していた。騎士への対応一つを取ってもアルらしさを再現するのは難しく、エルナから不自然さを指摘される場面が続いた。レオは自身の性格とアルの振る舞いの差に悩みつつも、露見すれば重大な問題になるため必死に演技を続けていた。

エルナによる指導と違和感の指摘
エルナは冷静にアルノルトの言動を分析し、レオに具体的な助言を与えていた。特に女性との距離感や軽口の言い方など、アル特有の振る舞いを再現できない点が大きな問題となっていた。レオは礼節を重んじる性格ゆえに砕けた対応ができず、その違いが露呈する危険性があった。

過去の関係とアルへの評価
会話の中で、レオはアルノルトの本質的な能力の高さを語った。努力によって成果を得る自分とは異なり、アルはその気になれば多くのことを自然にこなせる存在であると認識していた。その評価は確信に満ちており、マリーとは対照的な見方であった。

エルナの葛藤と劣等感
エルナは自身の立場と能力に対して葛藤を抱えていた。アルの評判を改善しようとした行動が裏目に出たことや、今回も十分に役立てていないことに対して強い無力感を覚えていた。また、リンフィアがフィーネの護衛役として選ばれたことにも不満を抱いており、自分が担うべき役割を奪われたと感じていた。

リンフィア起用への不満と理解
エルナはリンフィアの能力を理解しつつも、感情的には納得できていなかった。レオはその判断が合理的であることを説明し、護衛を複数確保する必要性を説いた。エルナも理屈では理解していたが、自身の役割に対する執着から完全には受け入れられずにいた。

レオによる信頼と励まし
レオはエルナの価値を認め、彼女にしかできない役割があると伝えた。アルノルトも内心ではエルナを頼りにしていると語り、その言葉はエルナの感情をわずかに和らげた。最終的にエルナは助言者としての役割を引き受け、レオを支える姿勢を見せた。

ロンディネへの航路と不安な状況
こうしてレオとエルナはロンディネへ向かう航路を進み続けた。しかしその裏では、アルノルトが危険な海域で救助活動に巻き込まれていることを知らず、二人はそれぞれの立場で困難に向き合い続けていた。

容態悪化と時間制限の発覚
公都目前まで到達したものの、生存者の多くが重篤な状態に陥っていた。船医は治療の限界を告げ、アルノルトは焦燥を強めた。怪我は癒せても病や衰弱には対応できず、このままでは救った命を失う可能性が高まっていた。

入港許可を巡る対立
港の軍船は入港許可がないことを理由に上陸を拒否した。公女と公子が乗っている事実を伝えても規則は覆らず、公王の判断を待つよう求められた。アルノルトは時間の猶予がない状況に苛立ちつつも、形式的な手続きに阻まれ動けずにいた。

命を優先する決断
生存者の容態が急変したことで、アルノルトは即座に決断を下した。入港許可を待たず、不法入港という強硬手段を選択したのである。これは外交的リスクを伴う行為であったが、目の前の命を救うことを最優先とした判断であった。

強引な行動とその意図
マルクはレオナルトらしくない強引な判断を諫めたが、アルノルトはあえてその印象を利用し、レオナルトに決断力のある評価を与える意図を示した。甘さだけではない一面を印象付けることで、今後の評価を変える狙いがあった。

白旗と説得による突破
船長の提案で白旗を掲げ、攻撃意思がないことを示したうえで、アルノルトは港全体に向けて救助の経緯と生存者の窮状を訴えた。公国海軍の判断に委ねる形で人道を強く訴えたことで、進路を阻んでいた船は動きを止めた。

公都入港と救助完遂への一歩
最終的に帝国船は公都の港への入港に成功した。アルノルトは即座に負傷者の搬送を最優先とするよう命じ、救助した生存者を治療へと繋げた。こうして危険と政治的リスクを乗り越え、命を救うための行動を貫いたのであった。

第三章 南部騒乱

ザンドラの苛立ちと失策の連続
アルノルトとレオナルトが南部へ向かった後、帝都ではザンドラが激しく苛立っていた。暗殺者を鞭で痛めつけるほど感情を爆発させていたが、攻勢は思うように進まず、逆にゴードンの勢力に支持者を奪われる状況に追い込まれていた。自らの動きが読まれていることを理解しつつも打開策は見出せず、やむなくレオナルト勢力への攻撃を一時停止する決断を下した。

情報戦における劣勢と均衡崩壊の危機
ザンドラの攻勢に対しては、的確なタイミングで他勢力が介入し、結果的に自らの支持基盤が削られていた。特にゴードンの動きが連動していることから、情報が外部に流れていると推測され、戦況は不利に傾いていた。このままではゴードンの一人勝ちとなる可能性が高まり、ザンドラは守勢に回らざるを得なくなった。

リンフィアの参入と戦局の安定化
一方、レオナルト陣営ではリンフィアの存在が大きな役割を果たしていた。限られた情報から敵の動きを読み、他勢力へ情報を流すことでザンドラの攻勢を封じることに成功した。これによりザンドラは慎重にならざるを得ず、積極的な行動を取れなくなった。

フィーネの信頼と役割認識
フィーネはリンフィアの助言を全面的に受け入れていた。それはアルノルトへの信頼に基づくものであり、自身は立場そのものが価値であると理解していたためであった。個人の能力ではなく存在そのものが重要であると認識しているため、他者の働きを素直に受け入れる姿勢を持っていた。

リンフィアの疑問とフィーネの本質
リンフィアは身分差にもかかわらず自分を信頼するフィーネに疑問を抱いたが、フィーネが自己よりも他者を優先する性格であることを理解した。フィーネは自分が役に立ちたいと願いながらも能力不足を自覚しており、その葛藤を抱えたまま行動していた。

新たな戦略としての商会接触
リンフィアはフィーネに対し、商人勢力との関係構築を提案した。特に帝都進出を狙う亜人商会との接触は、他勢力との差別化と勢力拡大に繋がると判断された。吸血鬼が率いる商会というリスクはあるものの、逆にそれを利用することで確実なパイプを築けると見込んだ。

フィーネの決意と次の行動
フィーネは提案を受け入れ、まずは亜人商会の代表と直接会うことを決断した。自らの立場を活かしつつ役に立とうとする意思を固め、帝都での新たな動きを開始した。その決意は南部にいるアルノルトへ向けられていたが、彼が直面している危機を知ることはなかった。

アルバトロ公国との謁見と謝罪
アルノルトはレオナルトとしてアルバトロ公国の城へ招かれた。玉座の間では公王ドナートが自ら膝をつき、重臣たちと共に深く頭を下げて謝罪と感謝を示した。国王が自ら頭を下げる異例の対応に驚きつつも、アルノルトは公王を立たせ、自身も礼を尽くして応じた。そして救助は当然の行為であると述べつつ、代わりに食料や財宝の提供を求め、形式を整えた。

海竜レヴィアターノの存在と過去の経緯
公王は海域に海竜が存在することを明かした。その名はレヴィアターノであり、二百年前に古代の魔導具によって眠らされていた存在であった。しかしその封印が破れ、再び活動を開始したことが今回の異常な嵐の原因であった。アルバトロ公国はこの魔導具の守護を担ってきた家系であり、独自に調査を進めていたが、それが結果的に被害を拡大させる要因となっていた。

対応策の検討と制約
状況を把握したアルノルトは、対策として冒険者ギルドへの依頼が現実的であると判断した。しかし竜討伐には高額な報酬と時間が必要であり、即時対応は困難であった。また帝国としても海上での竜討伐に直接介入するのは容易ではなく、軍事的解決にも限界がある状況であった。

ロンディネ公国との同盟提案
アルノルトは新たな打開策として、対立関係にあるロンディネ公国との同盟を提案した。海竜という共通の脅威を前にすれば、争いを続ける余裕はないと判断したためである。さらに帝国の全権大使として自らが仲介に入ることで、同盟成立の可能性を高める意図を示した。

公王の逡巡と時間的猶予
公王は提案を受け入れる方向で検討する姿勢を見せたが、重臣との協議を必要とし即答は避けた。アルノルトは早急な決断を促しつつも、内心ではロンディネ側にレオナルトがいることから急激な情勢悪化は起きないと見込んでいた。こうして一時的な猶予を得たアルノルトは、今後の行動を見据えながら謁見の場を後にした。

亜人商会訪問と事前の釘刺し
フィーネとリンフィアは、帝都進出を目指す亜人商会の支店へ向かった。道中、リンフィアはフィーネに対し、吸血鬼や亜人に偏見を持たない考え自体は美徳であるが、それが常に一般に受け入れられるわけではないと諭した。個人的な正しさをそのまま表に出せば、勢力に不利益を招く可能性があるためである。フィーネはその指摘を素直に受け止め、今回の会談で不用意な発言を避けるよう気を引き締めた。

支店での長時間の待機
亜人商会の帝都支店は完成していたが、東部の騒動の影響で表立って営業できず、看板も掲げられていなかった。二人は支店の奥へ通されたが、部屋には誰もおらず、そのまま長時間待たされることとなった。リンフィアは二時間も待たされたことに苛立ちを覚えたが、フィーネは会ってもらう側なのだから待つのは当然だと静かに受け止めていた。自分には時間と誠意を示すことしかできないと語るその姿に、リンフィアはフィーネの自己評価の低さと献身性をあらためて感じ取った。

代表ユリヤの登場
ようやく現れた代表ユリヤは、吸血鬼の特徴を備えた妖艶な女性であった。彼女は謝罪もなく当然のようにフィーネたちの前に座り、自分たちは誰とでも手を組むわけではなく、亜人商会を安売りするつもりはないと宣言した。交渉の主導権を完全に握る姿勢を隠さず、リンフィアの牽制も意に介さず、あくまで向き合う相手はフィーネであると明確に示した。

待機時間そのものが選別だったことの判明
ユリヤは、自分たちの協力を求めて帝位候補者たちが代理人を寄こしてきたことを明かした。そのうえで、四勢力の代理をそれぞれ別の場所で待たせ、どのような反応を示すかを観察していたと語った。ゴードンとザンドラ側の代理はすぐに怒って帰り、エリク側も二時間ほどで見切りをつけたため、最後まで残ったのはフィーネたちだけであった。つまり今回の長時間の待機は、交渉相手として値踏みするための試験でもあった。

ユリヤの条件提示と場の掌握
ユリヤは、他の帝位候補たちにはすでに大商会の後ろ盾があるため、レオナルト陣営が亜人商会を欲する理由は理解していると指摘した。そして逆に、亜人商会がレオナルト陣営に協力した場合、自分たちにどのような利益があるのかを問いかけた。完全に相手の土俵に乗せられた形となり、リンフィアは自分の読みの甘さを痛感し、フィーネには荷が重い相手だったと後悔した。

フィーネの無垢な切り札
しかし、そこでフィーネは駆け引きを一切挟まず、自分自身を交渉材料として差し出した。自分を好きなように利用する権利を与える代わりに協力してほしいと真っ直ぐに告げたのである。ユリヤは、公爵家の娘には本来させられないようなことまでさせるかもしれないと揺さぶりをかけたが、フィーネは一切動じず、それでも構わないと即答した。その無垢で迷いのない覚悟は、むしろ百戦錬磨のユリヤを押すほどの力を持っていた。

フィーネの覚悟が商人を圧倒する
ユリヤは、フィーネを好きなように利用できる権利に見合う対価を自分が支払えないと悟り、彼女の覚悟に圧されていた。フィーネは自らの身を差し出すことすら厭わず、レオナルトを皇帝にするためなら何でもするとはっきり告げた。その自己犠牲は常識外れであり、ユリヤは弱みでも握られているのではないかと疑ったが、フィーネはただ役に立ちたいだけだと静かに答えた。

ユリヤの譲歩と交渉本題への移行
本気で身を差し出す覚悟を見せるフィーネに対し、ユリヤはこれ以上の駆け引きは通じないと判断し、自ら引き下がった。商談をまとめること自体に価値があると見たユリヤは、必要なものを率直に問うた。そこでリンフィアは、帝位争いに必要な資金援助と、他候補と繋がりの深い商人や商会に商人の土俵で打撃を与えることを求めた。ユリヤはその要求を即座に受け入れた。

亜人商会の要求とフィーネの価値
ユリヤが求めたのは、フィーネの名前と、できれば顔を商売に使う権利であった。帝都で絶大な人気を持つフィーネの存在は、それだけで商売上の巨大な価値を持っていたからである。リンフィアにとっては予想通りの要求であったが、ユリヤはそれ以上の条件を求めず、むしろ不利な条件でも商談をまとめることを優先した。フィーネの価値を正確に見抜いていたからこその判断であった。

フィーネの答えとユリヤの興味
なぜそこまで帝位争いに身を投じるのかと問われたフィーネは、公爵家の娘として民に誇れる皇帝を後押しする義務があると述べたうえで、個人的には大好きな人を応援するのは当然だと答えた。双子のどちらを想っているのかは秘密だと微笑んでかわし、その可憐さと率直さはユリヤの興味をさらに強めた。ユリヤはフィーネが特殊で特別な存在だと認め、自分を大事にするよう忠告した。

契約成立と相互確認
リンフィアは、レオナルト勢力についた以上、ほかの帝位候補者と接触するような不誠実な行為をしないよう釘を刺した。ユリヤもそれを理解し、帝位争いの性質上、他候補と同時に繋がることは得策ではないと受け入れた。こうして亜人商会はレオナルト勢力への協力を正式に約束し、フィーネとリンフィアは満足のいく形で支店を後にした。

ユリヤの新たな関心
二人を見送った後、ユリヤは自分が汗をかいていたことに気づき、フィーネの目に気圧されていたことを自覚した。そして、あのフィーネが想いを寄せる相手がどのような男なのかに強い興味を抱いた。早く成果を出してレオナルト勢力に売り込み、できれば本人に直接会いたいと考えるようになり、場合によってはその男を奪うのも面白いとまで思い至った。秘書はそんなユリヤの悪癖にため息をつきつつ、開店準備を進めるのであった。

レオを演じ続ける疲労と新たな懸念
アルはアルバトロ公国の城でようやく一人になると、レオを演じ続けた緊張から大きく息を吐いた。レオとして振る舞い続けることに強い疲労を覚えながらも、今度は逆にアルを演じているはずのレオのことを案じた。エルナが傍にいる以上、どうにか誤魔化しているはずだと信じるしかなかったが、経験のないぐうたらな振る舞いを続けるのは、レオにとって自分以上に難しいだろうと考えていた。

海竜討伐の手段と制約
アルは次に海竜レヴィアターノへの対処を考えた。即効性のある手段としては、自らがシルバーとして動くか、帝国から皇帝の名代を派遣してエルナに聖剣を使わせるかの二択が浮かんだ。しかし前者は、シルバーが南部に現れる理由がなく不自然であり、後者は帝国との往復に時間がかかるため即応性に欠けていた。どちらも決定打にはならず、名案は見つからなかった。

エヴァの来訪と感謝
そこへ意識を取り戻したエヴァが、礼を述べるためにアルの部屋を訪れた。アルはレオとして穏やかに応対し、彼女の無事を喜んだ。エヴァは生存者たちが皆、レオナルト皇子のおかげで助かったと語り、特にジュリオを救うため真っ先に海へ飛び込んだ行為を英雄的だと称賛した。アルはそれを無我夢中だっただけだと受け流したが、エヴァの熱を帯びた反応に危機感を覚えた。

公女の好意とアルの焦り
エヴァの言葉や態度から、アルは彼女がレオに強い憧れを抱き始めていると察した。弟のジュリオまでもが理想の皇子だと語っていると聞き、姉には惚れられ、弟には憧れられるという状況に、今後の面倒を強く感じた。レオを演じている以上、好感度を下げるような真似もできず、かといってこのまま親密さを深めれば後でさらに厄介になると考え、どう対処すべきか悩んだ。

食事の誘いと無難な応答
エヴァはさらに部屋へ入ることを求め、次には一緒に食事をしたいとまで申し出た。アルは報告書を書いている最中だとやんわり断りつつも、レオとして不自然にならないよう曖昧に受け流した。エヴァが去ると、アルは急いで扉を閉め、このままではまずいと焦りを露わにした。今の感情は救われたことへの憧れに過ぎないと考え、余計な刺激を与えず自然に熱が冷めるのを待つしかないと判断した。

帝国への報告と今後の方針
気持ちを落ち着けたアルは、帝国への報告書作成に取りかかった。入れ替わりの事実を帝国上層部に知られれば、自分がレオを演じられるだけの力量を持つと露見してしまうため、あくまでレオとして報告するしかなかった。内容としては、海竜の出現が帝国にも被害を及ぼしうること、アルバトロ公国との関係維持のために聖剣使用許可を求める形を想定した。しかし、アルバトロ公国がすぐに冒険者ギルドへ依頼できない事情も理解しており、結局はロンディネ公国との対立をどうにかして、アルバトロ公国が海竜対策に集中できる環境を作るしかないと結論づけた。そうしてアルは、まずロンディネへの対応を進める方針を固めたのであった。

ロンディネ公王への拝謁と援助要請への応答
レオはアルノルトとしてロンディネ公王カルロに拝謁した。公王はレオナルトの船が嵐に遭ったことに触れつつ、使節団の長としての立場を確認し、帝国が先に求められていた対アルバトロ公国援助への返答を求めた。ここでエルナが前に出て、帝国が正式に軍事介入すれば他国も動き、南部全体の疲弊を招くため、皇帝は援助要請に応じられないのだと説明した。そのうえで、帝国は関係を断つつもりではなく、まずは自分を派遣することで帝国の武威を示そうとしているのだと伝え、公王を納得させた。

勇爵家の力の披露と騎士たちの圧倒
エルナの説明を受けた公王は、勇者の家系たるアムスベルグ勇爵家の力を見たいと望み、城内の腕利き騎士十人を呼び寄せた。エルナは一対十という条件をあっさり受け入れ、模擬戦が始まった。最初に突っ込んできた大柄な騎士の模擬剣を一振りで断ち切り、その後も三方向からの同時攻撃を容易く捌いて剣を斬り落とした。圧倒的な実力差を見せつけたあと、エルナは騎士たちを叱咤し、後半は相手の面目を保つためにあえて剣を受け止めるなど手加減を交えながら戦った。ロンディネ側はその技量に歓声を上げ、帝国の武威は十分に示されたのであった。

レオの内心とアルへの信頼
その様子を見ていたレオは、こうした場をまとめる苦労を思いながら、南部でレオを演じているアルのことを考えていた。レオにとってアルは昔から、自分には思いつかない方法で問題を解決してしまう兄であった。幼い頃、誰も登れなかった木の上にいた傷ついた小鳥を、アルは皇帝の部屋にあった宙に浮ける魔導具を無断で持ち出して助けてみせたことがあった。そうした記憶から、レオはアルなら自分の代わりもきっと上手くこなしているはずだと信じ、自分は自分の役目に集中しようと決めた。そしてロンディネでは、アルノルトらしく見えるよう必死にぐうたらに振る舞おうと決意したのであった。

アルバトロ公国からの正式要請
アルバトロ公王は一日置いたのち、ようやくロンディネ公国との橋渡しをレオナルトに依頼した。対応の遅さにアルは国としての鈍さを感じたが、ロンディネとの長年の確執を思えば無理もないとも理解した。海路の方が早いと判断したアルは、海竜の危険を承知のうえで船を出す決断を下し、公王に対してはレヴィアターノの注意が今はアルバトロ側へ向いているはずだと説明して出航した。

ジュリオへの助言とレオへの評価
出航前、ジュリオは自ら礼を述べるために現れ、助けられた恩を忘れないと語ったうえで、どうすればレオナルトのように立派になれるのかを尋ねた。アルは、レオナルトは世間が思うほど完璧でも英雄的でもなく、優しさは甘さとも評され、勇敢さは無謀とも言われる存在だと率直に語った。そのうえで、それでも正しいと思ったことを迷わず決断できる点こそが誇るべき長所であり、誇らしくありたいなら自分が正しいと信じたことを迷わないことだと教えた。アル自身は、レオには皇帝向きではない甘さがあると認めつつも、決断できるという一点が皇帝に最も必要な資質だと考えており、だからこそレオを皇帝に推していた。

アル自身の限界と本音
ジュリオを見送ったあと、アルは自分には皇帝は向かないと改めて思った。師でもある曾祖父から、皇帝に必要なのは多くのことに対する意欲であり、それが欠けている以上は他の資質を持っていても向かないと言われていたためである。数日間レオを演じただけで精神的に消耗していたアルは、早く元の立場に戻ってぐうたらしたいと強く思いながらも、レオと合流するまでは耐えるしかないと考えていた。

海竜との遭遇と沈黙の航行
出航初日は何事もなく過ぎたが、二日目にロンディネ公国の海域へ入った途端、海の底から唸り声が響いた。アルはすでに船全体に気配遮断の結界を張っていたため、レヴィアターノに見つからずに済んでいたが、海の深部を移動する圧倒的な存在感は船上の全員に生命の危機を感じさせた。誰も動けぬまま一時間以上が経過し、ようやく通過したと判断されてから船は再び進み始めた。アルは、この海竜がロンディネを襲いに来たのか、あるいはすでに何かをして帰る途中なのかはわからないが、いずれにせよロンディネでも厄介事が起きているはずだと見ていた。

ロンディネ公都襲撃と帝国船の救援
その予感はすぐに現実となった。ロンディネ公都は大小さまざまなモンスターに襲撃されており、海上では帝国の旗を掲げた一隻の船が単独で食い止めていた。それを見たアルは、すでにレオが決断して動いているのだと察し、すぐに全速前進で援護に向かうよう命じた。対海竜用に借り受けていた魔導砲も使用準備に入らせ、自身も一応レオの剣を腰に帯びたが、重すぎて満足には振れないことを自覚していた。こうしてアルは、元の立場に戻る機会を探りつつも、目前の戦場へ向かっていったのであった。

ロンディネ公都襲撃への即応
レオは偶然にも出航直前に港で物資確認をしていたため、モンスター出現の異常をすぐ察知し、船を出して海上から迎撃にあたった。これにより港への被害拡大はある程度防げたが、その代償として船自体が複数のモンスターの標的となった。現れたシーサーペントは陸近くに出ること自体が異常であり、事態が通常のモンスター襲撃ではないことが示されていた。

アルとして振る舞う難しさ
レオはアルノルトとして冷静に、モンスターを倒すより海上で引きつけ続けるべきだと判断したが、普段軽んじられているアルの指示は船長に聞き入れられなかった。信頼のない者の言葉が戦場では届かない現実に直面し、レオは兄が普段どうやって人を動かしているのかと苦悩した。そこへアルの船が到着し、レオはようやく反撃の機を得た。

双子の連携によるシーサーペント撃退
アルの船とレオの船は、シーサーペントを挟み込む形で位置を取り、一斉砲撃を加えた。アルバトロ公国から借り受けた最新鋭の魔導砲は高い威力を発揮し、シーサーペントは集中砲火を受けて海へ倒れ込んだ。これによって海上の大きな脅威は一度退けられ、帝国船側には歓声が上がった。

戦闘中の再入れ替わり
その後、ほかの小型モンスターがレオの船へ取りついていると判断したアルは、騎士たちを率いて乗り移った。レオと合流し入れ替わる機会をうかがっていたところ、倒れたはずのシーサーペントが再び襲来した。混乱の中でアルはレオへ剣を投げ渡し、レオはそれを受け取ってシーサーペントの目に一撃を加えて撃退した。その直後、二人は姿勢や雰囲気を瞬時に切り替え、水をかぶって乱れた格好を利用して完璧に元の役割へ戻った。

再会後の軽口と本来の役割への復帰
入れ替わりを終えた二人は、互いの苦労を軽口混じりに語り合った。アルはレオを演じるのは二度と御免だと愚痴をこぼし、レオもまたアルを演じる難しさを実感していた。だが最終的には、海上戦はレオ、陸側の対応はアルとエルナという従来の役割分担に戻ることを確認し、それぞれの持ち場へ散った。

アルの休息とレオへの信頼
元の立場に戻ったアルは、海上防衛の詳細を船長に任せ、自分は部屋に戻って休むと告げた。船長には呆れられたものの、アルはレオがいれば海はどうにかなると信じていた。こうしてアルは久しぶりに惰眠をむさぼることができ、激動の中でようやく束の間の休息を得たのであった。

戦闘後の帰還とエルナとの再会
戦闘が終わるとアルは目を覚まし、港へ戻ってロンディネの地に降り立った。陸上ではエルナがほとんどのモンスターを殲滅しており、その力量が明確に示されていた。アルはエルナと軽口を交わしつつ、自身の疲労を口にしながら城へ戻ろうとしたが、やり取りの末に足止めされ、最終的にはレオを迎えに来た馬車に同乗することとなった。

ロンディネ公王への報告と緊急性の提示
その後、アルは再びレオとしてロンディネ公王の前に立ち、海竜レヴィアターノの覚醒とアルバトロ公国の被害、さらにモンスター襲来との関連性を報告した。突然の事態に公王は動揺するが、アルは冷静に状況の深刻さを説明し、海竜の存在がロンディネにも無関係ではないことを強調した。

航路封鎖によるロンディネの不利の指摘
アルはさらに、海竜の活動によって南部の航路が事実上封鎖される可能性を指摘した。これによりロンディネ公国は陸路に依存せざるを得なくなり、アルバトロ公国の領土に左右される立場となるため、戦略的に不利に陥ることを論理的に説明した。また帝国の支援も航路が封じられれば困難になると示唆し、現状を放置する危険性を強く訴えた。

対竜同盟の締結決断
アルの説得により、公王はついに決断し、アルバトロ公国との対竜同盟を受け入れた。これにより両国は協力して海竜への対処に当たることとなり、アルバトロ公国は冒険者ギルドへの正式な依頼を進められる状況が整った。

アルの役割終了と暗躍への移行
同盟成立をもって、アルはレオとしての表向きの役割を果たし終えたと判断した。今後はロンディネの艦隊行動には同行せず、裏での行動に移る方針を固める。こうしてアルは表舞台から一歩引き、次の局面に備えて暗躍へと移行したのであった。

第四章 海竜討伐

アルの離脱と単独行動の開始
アルは艦隊出撃に際してレオたちと別れ、一人で行動することを選択した。海竜の標的がアルバトロ公国にあると判断し、ロンディネに残る自分は当面安全であると見ていたためである。エルナの不安定な様子を見抜きつつも、戦闘はレオたちに任せ、自身は城へ戻った。

シルバーとしての潜入と冒険者ギルド接触
城に戻ったアルは幻術で自分の身代わりを用意し、密かに外出した。そして正体を隠すためSS級冒険者シルバーとして冒険者ギルド支部に潜入し、他の冒険者を眠らせた上で遠話室を使用した。受付嬢に身分を示して信頼を得ると、本部との通信を確立する。

海竜討伐依頼とギルドの状況把握
アルは副ギルド長クライドと接触し、アルバトロ公国から正式に海竜討伐依頼が出ていることを確認した。討伐ランクはS級予定であり、状況次第ではSS級に引き上げられる可能性があると知らされる。しかしアルは、複数のSS級冒険者を投入すれば周辺被害が甚大になると指摘し、その方針を否定した。

帝国介入の兆候と懸念
さらにアルは、ギルドの極秘情報が帝国へ漏洩している事実を知る。帝国が救援を検討していることにより、状況が混乱する危険性が高まっていた。アルは、艦隊派遣では被害が拡大するだけであり、精鋭派遣や聖剣使用の判断が問題になると分析した。

討伐方針の決定と帝都帰還の判断
アルは海竜出現時に即応する条件で討伐を引き受けると伝え、常時待機は拒否した。ギルド側もそれを了承し、出現報告後の迅速対応を求めた。通信終了後、アルは帝国とギルド双方の思惑が衝突する可能性を懸念し、一度帝都へ戻る決断を下す。

フィーネへの懸念と今後への備え
アルは帝国の動向だけでなく、フィーネの行動にも不安を抱いていた。彼女が自己を顧みず行動する性質を思い出し、無茶をしていないかを危惧する。状況全体を見極めるためにも、帝都へ戻る必要があると判断し、次の行動に備えて城へ戻ったのであった。

帝都帰還とセバスからの報告
翌朝、アルは体調不良を装って部屋に籠もり、幻術で寝ているように見せかけたうえで転移魔法により帝都へ戻った。帰還先の隠し部屋ではセバスが待っており、帝都の勢力争いは概ね順調であること、特にリンフィアの働きが大きかったことを伝えた。しかし同時に、フィーネが亜人商会との交渉で自分自身を取引材料に差し出したことも明かされ、アルはその自己犠牲的な姿勢に強い危うさを感じた。

曽祖父の指摘とアルの自覚
そこへ現れた曽祖父は、フィーネだけでなくアル自身もまた自分を顧みない点で同類だと指摘した。帝位争いに翻弄される中で、子供が子供でいられない状況そのものを嘆きつつ、フィーネを責める資格はアルにはないと諭した。アルもそのことは理解しており、フィーネに会う決意を固めて部屋を出た。

フィーネとの対話と特別な関係の確認
アルはレオたちの拠点でフィーネを待ち、リンフィアを下がらせて二人きりになると、亜人商会との交渉について問いただした。フィーネは交渉が上手くいったことを嬉しそうに報告したが、アルはそれ以前に、彼女が自分を軽く扱いすぎていることを問題視した。そしてシルバーの仮面を外し、秘密を共有している唯一無二の存在としてフィーネを大切に思っていること、彼女が傍にいてくれること自体が自分の支えになっていることを率直に伝えた。

フィーネの涙と互いの反省
アルの言葉を聞いたフィーネは、それまで押し込めていた感情が溢れ出し、涙を流して泣きじゃくった。秘密を知ったことが責任となり、自分が役に立たねばならないという思い込みが彼女を追い詰めていたのである。アルは、自分もまた余裕を失ってフィーネへの配慮を欠いていたことを認め、二人の問題として一緒に反省しようと語った。そしてフィーネが落ち着くまで、優しく髪を撫で続けた。

南部情勢の共有と協力の約束
落ち着きを取り戻したフィーネに対し、アルは南部で起きている事態を包み隠さず説明した。海竜が近く動き出すであろうこと、帝国内でその異常事態への介入を企てている者がいること、それを阻止しなければ無用な犠牲が増えること、そして理想は帝国の介入を最小限に抑えたうえで自分が海竜を討伐することであると話した。フィーネはその考えに同意し、自分にも帝国の介入を抑えつつ南部を救うための案があると申し出た。アルもまた一つ案を持っており、その鍵となる人物の説得をフィーネに託した。フィーネはその役目を引き受け、柔らかく微笑みながら必ず説得してみせると応じたのであった。

帝都への帰還と新たな策の立案
フィーネとの話し合いを終えたアルは、リンフィアにも南部の事情を説明した。南部には海竜が出現しており、シルバー単独で動けば事態が余計に複雑化する恐れがあるため、聖剣使いを動かすための皇帝の名代が必要であると伝えた。帝国上層部は軍まで派遣しようとしているが、アルが必要としているのは皇族一人と少数の護衛だけであり、その条件を満たせる人材として帝位争いに加わっていない第四皇子トラウゴットが最適だと判断された。

第四皇子トラウゴットへの依頼
アルたちは第四皇子トラウゴットのもとを訪ねた。トラウゴットは相変わらず文筆に執着しており、傑作を制作中だからと即座に依頼を断った。しかし彼は愚鈍ではなく、アルたちの狙いが軍を切り離して皇帝の名代だけを南部へ送ることにあると正確に見抜いていた。そのうえで、南部の民や兵士のためという理由では動かないと冷静に返し、自分にはそこまでの義理はないと述べた。

フィーネの食い下がりと揺さぶり
それでもフィーネは引き下がらず、南部にいるアルやレオだけでなく、もし彼が断ればクリスタや末弟のような年少の皇族に頼らざるを得なくなると告げた。その言葉にトラウゴットは強く反応した。特にクリスタを危地へ送ることは本意ではないとしつつも、なお決断には迷いを見せていた。

フィーネの真っ直ぐな説得
そこでフィーネはさらに踏み込み、南部へ赴けば妹を守れるだけでなく、自身の名声も高まり、それによって多くの文人が集まる可能性もあると利を並べ立てた。しかし最後にトラウゴットの心を動かしたのは、利ではなくフィーネの率直な言葉であった。どうしてそこまでするのかと問われたフィーネは、大切な人の危地を救うのに理由がいるのかと真っ直ぐに答えた。その飾り気のない答えに、トラウゴットは強く心を打たれた。

キーマンの確保
フィーネの言葉を受けたトラウゴットは、それほど真っ直ぐで美しい答えを返されては動かぬのは文人の恥だと語り、ついに依頼を引き受けた。そしてその言葉そのものを報酬にすると述べ、南部行きを承諾した。こうしてアルたちは、海竜討伐に必要な条件を整えるための重要人物を確保することに成功したのであった。

皇帝への直訴の失敗とシルバーの登場
トラウゴットは皇帝への直訴を試み、玉座の間へ勢いよく突入したものの、即座に叱責されて追い返された。本人は言いたいことを言ってきたつもりでいたが、実際には一方的に怒鳴られて終わっただけであった。その直後、シルバーが静かに玉座の間へ入り、南部の件で皇帝に面会した。無断で城へ入ったことを咎められたが、南部の海竜問題について話し合うためであると明かし、無礼を承知の上で拝謁したのであった。

シルバーの警告とフィーネたちへの役割委譲
シルバーは、帝国が南部へ誤った形で介入すれば事態を悪化させると警告した。しかし何が正しく何が誤りかを自分が説明する立場ではないとして、一歩引いた。代わって前へ出たのはトラウゴットとフィーネであった。皇帝はフィーネを温かく迎えたが、トラウゴットは空気を読まず、いきなり自分を皇帝の名代にして南部へ派遣してほしいと願い出た。

フィーネの進言と軍派遣否定の理屈
フィーネは、自分がトラウゴットを説得して連れてきたことを明かし、帝国が軍を南部へ送るのは利が薄いと説明した。到着まで時間がかかるうえ、相手が海竜では艦隊でも壊滅する危険があり、古来より竜退治は数より質がものを言うと論じた。そのため、名代としてトラウゴットを派遣し、現地にいるエルナに聖剣の使用許可を与えるのが最も帝国の利になると訴えた。

三勢力との応酬とゴードンの本音
皇帝はその理屈を受けつつも、なぜ名代がトラウゴットでなければならないのかを問うた。フィーネは、エリク、ゴードン、ザンドラの三人では格が高すぎ、名代が単なる聖剣の運搬役に終われば名声や威信に傷がつくためだと答えた。さらにゴードンが、軍を率いて自らが名代になってもよいのではないかと反論すると、フィーネはシルバーの転移魔法を用いれば少数精鋭で即座に南部へ向かえ、聖剣使いとシルバーだけで十分であると返した。エリクはこの案に賛成し、ザンドラは冒険者ギルドと協力する形に反発した。一方ゴードンは、南部救援を機に南部そのものを帝国の手中に収めるべきだと本音を露わにした。

皇帝の裁定とトラウゴットの名代就任
皇帝は、南部を今すぐ手に入れる利は薄く、海竜討伐に軍を派遣することも帝国の利益にならないと判断した。さらに前回の件も踏まえ、今回はシルバーの顔を立てて冒険者ギルドに協力する方針を取ると決めた。そしてトラウゴットを正式に皇帝の名代に任じ、指輪を用いて権限の一部を託した。これにより、南部へ赴いて聖剣を届ける役目はトラウゴットに決した。

海竜出現の報と南部行きの決定
裁定が下った直後、アルバトロ公国に海竜が出現し、冒険者ギルドがシルバーを探しているとの報告が入った。皇帝は近衛騎士隊を一つ護衛につけると告げ、シルバーにトラウゴットを託した。シルバーは無傷で返すと応じ、こうしてトラウゴットたちと共に帝都支部へ向かうこととなった。

海竜レヴィアターノの出現
皇帝の名代としてトラウゴットが選ばれ、シルバーも南部へ向かう準備を進める中、アルバトロ公国では海竜レヴィアターノがついに姿を現した。竜巻によって両国の艦隊の三分の一ほどが海の藻屑と化した直後、透き通るような青い鱗を持つ巨大な海竜が海上に現れたのである。その威容は伝承を上回るものであり、誰もが圧倒された。

公都への砲撃とエルナの防衛
レヴィアターノは人間たちを意に介さず、巨大な水弾を生成してアルバトロの公都へ放ち始めた。エルナは王や民の避難を優先しつつ、水弾の進路を変えることで被害軽減に努めたが、聖剣のない状態では限界があった。愛剣はすぐに刃こぼれし、右腕も痺れていたが、それでもエルナは一人で街を守り続けた。

レオの出航と海上での奮戦
レオはこのまま同盟が崩壊するのを見過ごせないと判断し、混乱する艦隊を指揮するため船で海上へ出た。エルナは危険を訴えたが、レオは兄が結んだ同盟を守るために動くことを選んだ。海上ではレヴィアターノの注意を港から逸らすべく砲撃が続けられ、かつてアルの港突入を止めようとした船も真っ先に援護に加わった。さらにアルバトロ、続いてロンディネの船も集まり、急造の艦隊が形成された。

海竜の無関心と艦隊の苦戦
しかしレヴィアターノは艦隊の砲撃にほとんど興味を示さず、作業のように水弾を公都へ撃ち込み続けた。艦隊は必死に注意を引こうとしたが効果は薄く、港ではエルナが進路変更で凌ぐ一方、街や地形は次々と破壊されていった。海上も陸上も、戦況はきわめて厳しいものとなった。

エヴァの懇願と全支部への救援要請
その頃、護衛とはぐれたエヴァは半壊した冒険者ギルドの支部へ辿り着き、遠話室で海竜討伐の依頼を懇願し続けた。建物の損傷によって遠話室は全支部への一斉発信モードとなっており、エヴァの必死な願いは大陸中の冒険者ギルド支部へと届いていた。多くの冒険者や職員は助けたいと思いながらも、南部へすぐ向かう術がなく、無力感に苛まれていた。

シルバーの出現と希望の到来
そんな中、帝都支部に現れた男が全支部に届く形で、すぐに行く、待っていろと告げた。そして次の瞬間、エヴァのいる遠話室の空間に裂け目が生じ、そこから銀の仮面をつけた黒いローブの男が現れた。男は帝都支部所属のSS級冒険者シルバーを名乗り、依頼を受けに来たと告げた。絶望の只中にいたエヴァにとって、その登場はまさに救いそのものであり、同時に各地の冒険者たちも代表たる存在の到着に歓声を上げたのであった。

帝都出立とエヴァの懇願への応答
帝都を発つ際、フィーネは城に残り、アルに帰りを待っていると小声で告げた。アルはその言葉を受けて帝都支部へ向かい、そこで大陸全土に流れていたエヴァの救援要請を耳にした。助けを求める少女の声に冒険者たちは無力感を募らせていたが、アルは彼らを代表するように、すぐに行くと告げて転移の裂け目を開いた。そして第四皇子トラウゴットと近衛騎士たちを伴い、南部へ急行した。

アルバトロ公都での救援開始
壊れた支部に到着したアルは、膝をついていたエヴァと再会し、自らがSS級冒険者シルバーであると名乗って依頼を受けに来たと告げた。エヴァはようやく救援が来たことに涙を流しつつ、弟ジュリオが城へ向かったことを明かした。アルは急いで外へ出て状況を確認し、港や街が深刻な被害を受けていること、そして海竜レヴィアターノがさらに巨大な水弾を準備していることを知った。

ジュリオの決死の囮とシルバーの防衛
そのとき、城の最上階からジュリオの声が響いた。ジュリオはかつて海竜を封じた魔導具を手に、自ら囮となってレヴィアターノの注意を引きつけていた。レヴィアターノはその魔導具を認識し、再封印を恐れて最上階に向けて超巨大な水弾を放った。アルは即座に転移の裂け目を開いてジュリオの前へ現れ、巨大な防御魔法を展開した。神の大盾イージスを顕現させ、その一撃を真正面から防ぎ切ったのであった。

トラウゴットと双子への接触
水弾を防いだ後、エヴァも転移の裂け目を通ってジュリオのもとへ駆けつけた。アルはジュリオとエヴァにシルバーとして名乗り、さらにトラウゴットも帝国第四皇子として名乗った。トラウゴットは一瞬エヴァの容姿に気を取られたものの、アルに促されて本来の役目を果たすこととなった。

聖剣召喚のための演説
トラウゴットは拡声の魔導具を用い、アルバトロ公国のすべての者に向けて演説を始めた。自分は皇帝の名代として来たが、この地を救うためではなく、皇帝の権限を届けるために来たのだと宣言し、そのうえでこの地を救いたいと願う騎士に名乗りを求めた。騎士たちは誰もが応じたい状況であったが、その号令に応えられるのはただ一人であった。

エルナの登場と聖剣の顕現
トラウゴットの呼びかけに応じ、エルナが現れて名乗りを上げた。トラウゴットは皇帝ヨハネスの名代として、エルナに聖剣を取るよう命じた。その瞬間、天より極光が降り注ぎ、エルナの手の中で聖剣が形を成した。こうして帝国外では使えないはずの聖剣が、皇帝の名代の許可によって正式に顕現したのであった。

決戦開始前の最終確認
聖剣を手にしたエルナを見届けたトラウゴットは、自らは高みの見物をすると語り、帝国最強の騎士と帝国最強の冒険者の共闘を見届けるつもりでいた。アルは空に浮かびながらジュリオに向き直り、依頼主であるアルバトロ公国の意思として、海竜を討伐してよいかを確認した。ジュリオは迷いなく許可を与え、アルとエルナは並んでレヴィアターノへと向き直った。こうして海竜討伐の戦いが始まろうとしていた。

エルナとの連携と役割分担
アルは挑発的な言葉でエルナを煽りつつ、公都全体に防御と治癒の結界を展開した。エルナの奮戦により民の被害は抑えられていたが、混乱は完全には収まっていなかった。エルナは海竜討伐の方針を問い、アルは自らが囮となって海竜の注意を引きつけ、エルナが決定打を与える役割を引き受けた。

海竜との対話と激突
アルはレヴィアターノに語りかけ、その動機を問いただした。レヴィアターノは封印への復讐と竜の誇りを理由に人間への敵対を宣言する。これに対しアルは人間の力を侮るなと返し、両者は無数の水弾と魔法をぶつけ合う激戦に突入した。互いに手数を増やし続ける消耗戦となり、空には激しい衝突の光が広がった。

海竜のブレスと戦況の変化
やがてレヴィアターノは切り札である水のブレスを放った。極限まで圧縮された水は光線のように放たれ、アルの幾重もの防御魔法を貫通し、背後の山を容易く貫いた。その威力にアルは防御戦の不利を悟り、早期決着の必要性を認識した。

エルナの一撃と海竜への打撃
その間にエルナは空中で精神を集中し、機を見て急降下した。放たれる水弾を最小限の動きで回避し、聖剣による一撃をレヴィアターノに叩き込む。巨体ゆえに完全には避けきれず、胴体を大きく斬り裂かれ、さらに翼の一つを失ったレヴィアターノは苦悶の声を上げて海中へ沈んだ。

追撃不能とエルナの弱点露呈
本来であれば追撃の好機であったが、エルナは海上への接近をためらい、降下と上昇を繰り返す奇妙な動きに終始した。海上戦への恐怖により決定打を与えられず、戦況は停滞する。アルはその様子を見て役割変更を提案するが、エルナはあくまで自分が本命であると主張した。

致命的な違和感の発生
しかし追撃できない状況の中で、エルナはアルの言動に違和感を覚える。アルが自分の水への苦手意識を知っていることに気づき、その理由を問いただした。その問いは、アルの正体に繋がる重大なほころびとなっていた。

正体露見の危機と咄嗟の誤魔化し
エルナに水恐怖症を知っている理由を問われたシルバーは、動揺を抑え込みながら平静を装った。シルバーとしては弁明すべき理由がないと判断し、情報源を明かす義務もないと突っぱねつつ、海竜の動きに意識を向けさせることでその場を凌いだ。エルナはなおも追及する姿勢を見せたが、戦闘が再開したことでひとまず話は中断された。

海竜との再戦と時間稼ぎ
レヴィアターノは傷を負わされた怒りを露わにし、竜の誇りを理由に決して退かないと宣言した。シルバーは挑発を交えながら相手の注意を引きつけ、高度を上げて時間を稼いだ。その間、艦隊は竜の咆哮に動揺し、海域にはなお多数の船が残っていたため、すぐに決着を急ぐことはできなかった。

海上戦への恐怖と作戦変更
エルナは海上での戦いを苦手としており、先ほどの一撃の後も追撃に踏み込めずにいた。シルバーはその状況を受け、海の一部を結界で隔離して戦場ごと海を割る案を提示した。結界を解除すれば海中に取り残されるという危険性にエルナは強く反発したが、帝国の騎士である以上、我儘を言っている場合ではないと諭された。

アルノルトの名を使った説得
なおも不信を抱くエルナは、自分の弱点を誰から聞いたのかを再度問い詰めた。シルバーは、アルノルトから手のかかる幼馴染だがよろしく頼むと伝えられたと答えた。その言葉にエルナは動揺しつつも、シルバー本人ではなく、彼を信用したアルノルトを信じるとして作戦への協力を了承した。こうしてエルナは海竜の傍まで降下し、決戦の準備を整えた。

海を割った決戦場の形成
シルバーはレヴィアターノとエルナを中心に巨大な四角い結界を展開し、海水を押し出して海底が露出する戦場を作り上げた。周囲の船はその結界によって戦闘海域から遠ざけられ、レヴィアターノは一対一の戦いを挑まれたと認識した。エルナにとっては四方を水に囲まれた最悪の環境であったが、それでも彼女は聖剣を構えて戦う意思を示した。

幼馴染を思う覚悟と聖剣の解放
エルナは恐怖を抱えながらも、これ以上アルノルトを心配させるわけにはいかないと覚悟を固めた。そして聖剣へ魔力を注ぎ込み、その力を解放した。聖剣は強烈な光を放ちながら集束し、太陽のような輝きを帯びた刃となった。対するレヴィアターノは水のブレスで迎え撃ったが、エルナはそのブレスすら聖剣で斬り裂きながら前進した。

必殺の一撃と海竜討伐
エルナは加速し、そのまま必殺のラディアントスラッシュを放った。その一撃は五十メートルを超えるレヴィアターノの巨体を両断し、同時にシルバーの結界までも斬り裂いた。シルバーは即座に降下してエルナを抱え上げ、海水が流れ込む前に空へ退避させた。エルナは助けられながらも反発したが、結果として海竜は討伐され、勝負は決した。

海竜の死体処理と被害国への配慮
その後シルバーは結界の穴を塞ぎ、内部に残った水を排出してから、レヴィアターノの死体を港へと運んだ。通常であれば討伐者の所有物となる竜の死体であったが、今回は被害を受けた国の復興に役立てるべきだと判断したためである。エルナはその判断に少し感心したが、シルバーはなおも軽口を叩き、彼女を苛立たせた。

共謀者という言葉とロンディネへの帰還
立ち去ろうとしたシルバーをエルナは呼び止め、アルノルトとどのような関係なのかを問いかけた。シルバーは、自分たちは同じ謀を描き実践する共謀者だとだけ答え、それ以上は本人に聞くよう告げた。そして短距離転移でアルバトロ公国の城へ移動したが、そこでトラウゴットがエヴァに妙な願望を口にしているのを見て、すぐに見切りをつけてロンディネの自室へ戻った。

疲労の果ての眠り
ロンディネへ戻ったアルは、急いで服を着替え、シルバーとしての痕跡を幻術ごと荷物に隠した。そしてベッドに横たわると、今回もひどく疲れたと呟き、そのまま眠りに落ちた。何か大切なことを忘れている気がしたものの、それを考えるだけの体力も気力も残っていなかったのであった。

戦後の帰還と新たな懸念
海竜討伐から数日後、アルはロンディネを出航しアルバトロ公国へ向かった。しかし、エヴァに惚れられた事実をレオに伝え忘れていたことに気づき、不安を抱えていた。到着後、レオとエヴァが親しげに会話している様子を目撃し、事態を測りかねて動揺する。だがマルクから、エヴァの想いはすでにレオに伝えてあると知らされ、ひとまず安堵した。

エルナとの対面と緊張した空気
馬車に乗り込んだアルは、不機嫌なエルナと二人きりとなった。シルバーに自分の弱点を伝えたことへの怒りを覚悟していたが、エルナはまず怪我の有無を問われたことで調子を崩す。その後、アルが自分を心配してシルバーに頼んだと説明し謝罪したことで、エルナの怒りは和らいだ。

共謀関係の告白
しかしエルナは、アルとシルバーの関係について問いただした。アルは観念し、自分とシルバーがレオを皇帝にするという共通目的を持つ共謀者であり、裏で勢力を拡大していることを明かした。さらに、帝位争いを優先するあまり南部での被害を許容したことも語り、その冷酷な選択を認めた。

帝位争いの現実と覚悟の共有
エルナは、アルやレオが本当に命を狙われているのか確認した。アルは皇太子の死後、兄姉たちが野望を剥き出しにし、やがて自分たちを排除する存在になると断言した。そのためどんな手段を使ってでもレオを皇帝にする決意を示し、エルナにも距離を取るよう警告した。

エルナの決意と協力の表明
それに対しエルナは、幼い頃からの誓いとしてアルを見捨てないと宣言した。たとえ家名や立場を捨てることになっても協力すると述べ、全面的な支援を約束した。アルはその覚悟を受け入れつつも、現状では勢力が強くなりすぎることを警戒し、表立った行動は控えるよう釘を刺した。

関係の修復と軽口の応酬
緊張した話し合いの後、二人の関係は和らぎ、軽口を交わす空気に戻った。エルナは隠し事をしないよう求め、アルが過去の贈り物に関する真実を明かすと、怒りの拳を受けることとなった。しかしこのやり取りにより、互いの信頼関係はより強固なものとなった。

帝位争いの激化への備え
アルは今回の出来事でエルナという強力な協力者を得た一方、レオの功績により帝位争いが激化することを予見した。今後は他の皇子たちも本格的に動き出し、不注意が許されない状況になると認識する。自身の失態を教訓とし、より慎重に立ち回る決意を固めた。

エピローグ

フィーネとの再会と安らぎの場所
帝都へ帰還したアルノルトは出迎えを受けた後、自室へ戻った。そこにはフィーネが待っており、紅茶を淹れて迎え入れた。フィーネは自分には戦う力も知略もないと自覚しながらも、アルノルトが素の自分に戻れる場所を守る役割を担うと語った。アルノルトはその言葉に救われ、自分にとって彼女の存在が不可欠であると実感した。

日常の共有と心の緩み
アルノルトは南部での出来事をフィーネに語り、彼女はそれを静かに受け止めた。戦いだけでなく政治や人間関係が絡む現状に疲弊していたアルノルトは、ここでも気を張っていた自分に気づき、ようやく心を緩めた。フィーネの支えにより、自分が一人ではないことを再認識した。

ゴードン陣営の不満と野望
一方、第三皇子ゴードンは南部で軍を出せなかったことに強い不満を抱いていた。側近たちも同様に、戦争による領土拡張の機会を逃したことやレオナルトの功績を認めざるを得ない状況に苛立っていた。ゴードンはシルバーがレオナルトに肩入れしていると分析しつつも、戦争さえ起こせば自らが勝つと確信していた。

戦争を見据えた軍備強化
ゴードンは自らの強みである軍事力を軸に帝位争いを制する方針を明確にした。怪しい組織の兵器開発も利用し、戦争を引き起こすことで主導権を握ろうとしていた。反対意見を述べた部下を排除するなど、その姿勢は次第に強硬さを増していた。

エリクの静観と余裕
対照的にエリクは冷静に状況を見守っていた。ゴードンの強引なやり方を愚かと評しつつ、他の候補者同士が争うことを前提に構えていた。最大勢力を持つエリクにとって帝位争いは通過点に過ぎず、最後に勝ち残った者を相手にすればよいという余裕を見せていた。

帝位争いの激化への兆し
こうしてゴードンの強硬な戦争志向と、エリクの冷静な静観、そしてレオナルト陣営の台頭が交錯し、帝位争いは新たな局面へと進み始めた。それぞれの思惑が絡み合い、争いはさらに激しさを増していく兆しを見せていた。

『反則』

稽古の誘いと拒否
ある日の昼下がり、アルノルトのもとにレオナルトが訪れ、剣の稽古を持ちかけた。アルノルトは自身の剣の才能のなさを理由に拒否したが、レオナルトは軽い打ち合いでよいと食い下がった。最終的にアルノルトは渋々応じ、二人は稽古場へ向かった。

技術の応酬と読み合い
稽古が始まると、レオナルトは技巧のみで攻め、アルノルトはその意図を読み取って防ぎ続けた。双子ゆえの読み合いにおいてアルノルトが優位に立ち、レオナルトの攻撃は決定打に至らなかった。最後に放たれた工夫を凝らした突きも見切られ、アルノルトは自らの勝利を確信した。

奇策による逆転
しかしレオナルトはエルナの名を出してアルノルトの注意を逸らした。エルナの存在を警戒したアルノルトが背後を確認した隙を突き、レオナルトは軽く一撃を当てて勝利を宣言した。

勝敗を巡る応酬
アルノルトはその勝利を反則だと非難したが、レオナルトは劣勢を覆すための戦術であると主張し、自らの勝利を譲らなかった。帝位を狙う者として必要な手段だと語るレオナルトに対し、アルノルトは納得できず、反則負けだと言い続ける結果となった。

最強出涸らし皇子 シリーズ

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最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い
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最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 10
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最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い11  無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する

その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

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