物語の概要
■ 作品概要
本作は、遺伝人類学の知見を絡めた壮大なミステリー小説である。大学院で遺伝人類学を学ぶ主人公・七瀬悠は、ヒマラヤ山中のループクンド湖で発掘された二百年前の人骨をDNA鑑定する。すると、その結果は四年前に失踪した義妹・紫陽のDNAと完全に一致した。不可解な事態を担当教授の石見崎明彦に相談しようとする悠だったが、石見崎は何者かに惨殺され、研究室からは人骨が盗まれてしまう。悠は妹の生死と古人骨の謎を追ううちに、巨大製薬会社やカルト宗教「樹木の会」が企てた、恐るべき死者のクローン生成計画の闇へと足を踏み入れていく。
■ 主要キャラクター
七瀬悠:本作の主人公。遺伝人類学を専攻する大学院生。四年前に失踪した義妹・紫陽を深く愛しており、彼女の行方と事件の真相を執念深く追う。
七瀬紫陽:悠の義妹。四年前に失踪した。実は過去の極秘プロジェクトにより、ループクンド湖の古人骨から生み出されたクローンである。
石見崎明彦:悠の担当教授。かつて日江製薬の極秘プロジェクトに関与しており、過去を公表しようとした矢先に殺害される。
石見崎真理(唯):石見崎明彦の娘。紫陽と深い絆を結んでおり、亡き従妹の「唯」と偽って悠に接触し、彼とともに事件の真相を探る協力者となる。
七瀬京一:日江製薬の取締役。悠の義父であり紫陽の育ての親。過去にクローン生成の極秘プロジェクトの責任者を務めていた。
仙波佳代子:世界的な分子生物学者。研究への欲望から、樹木の会の依頼を受けて死者のクローン生成計画を主導した過去を持つ。
牛尾:樹木の会の教祖から作られたクローンである大柄な男。極秘研究の隠蔽のため、関係者を次々と惨殺する怪物的な存在。
■ 物語の特徴
本作の最大の魅力は、「二百年前の古人骨のDNAが、四年前に失踪した妹と一致する」という、読者の興味を強く惹きつける圧倒的な謎の牽引力である。遺伝人類学やDNA鑑定といった専門的な知識が説得力を持って描かれると同時に、カルト宗教と巨大企業が結託した「クローン生成」というスケールの大きな陰謀劇が展開される。また、愛する妹を失った主人公が絶望から立ち上がり、真実を追い求める成長小説としての側面も持ち合わせており、緻密なミステリーの枠を超えた深いドラマ性が多くの読者を魅了する。
書籍情報
一次元の挿し木
著者:松下龍之介 氏
出版社:宝島社(宝島社文庫)
発売日:2025年2月5日
第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
二百年前の人骨のDNAが
四年前に失踪した妹のものと一致!?
ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝人類学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。不可解な鑑定結果から担当教授の石見崎に相談しようとするも、石見崎は何者かに殺害される。古人骨を発掘した調査員も襲われ、研究室からは古人骨が盗まれた。悠は妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出し、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく――。
感想
最初の数ページで一度、本を閉じてしまった作品である。
冒頭から描かれる光景があまりにも凄惨で、軽い気持ちでは読み進められなかった。そこでいったん別の本を読み、少し時間を置いてから再挑戦した。
すると、今度は途中で止められなくなった。
不可解な謎が次々と現れ、その先に何が待っているのか気になり、一気に最後まで読み終えてしまった。最初に感じた拒絶感が、そのまま物語へ引き込まれる強い力へ変わったように思う。
物語は、ヒマラヤ山中で発見された二百年前の人骨から始まる。
そのDNAが、四年前に失踪した義妹・紫陽のものと一致する。
年代がまったく合わないはずなのに、なぜ同じDNAが検出されたのか。この時点で強烈な謎が提示され、自然と先を読みたくなった。
主人公の悠は、遺伝人類学を学ぶ大学院生である。
彼が恩師の娘・真理と共に真相を追う中で、恩師の惨殺や人骨の盗難が発生する。学術的な謎解きだと思っていた物語が、次第に命懸けの追跡劇へ変わっていく展開には驚かされた。
特に印象に残ったのは、事件の背後に製薬会社と宗教団体「樹木の会」が存在していたことである。
秘密裏に進められていたクローン計画。
そして、紫陽が古人骨から作られた存在だったという事実。
ここまで明かされた時、最初に提示された不可解なDNAの謎が、一気に恐ろしい意味を持ち始めた。
ただの科学ミステリーではない。
人間は遺伝子によって決まるのか。
同じ肉体や情報を持っていれば、同じ人物と言えるのか。
紫陽という一人の人間を通して、そんな問いを突きつけられたように感じた。
教団の秘密を守るために動く牛尾の存在も強烈だった。
余談だが、「牛尾」という名前を見た瞬間、某名作漫画の主人公を思い浮かべてしまった。完全に自分のオタク的な連想である。
しかし、実際の牛尾は笑えるような人物ではない。
何をするか分からない不気味さがあり、悠たちを追い詰めていく場面では常に緊張感があった。
そんな絶体絶命の状況で、生きていた紫陽が姿を現す展開には胸が熱くなった。
再会を喜ぶ余裕もないまま、悠たちは牛尾との死闘へ巻き込まれていく。誰を信じればいいのか分からない状況の中で、ようやく家族が再び同じ場所に立てたことに、少しだけ救われる思いがした。
だからこそ、事件後に紫陽が選んだ道は切なかった。
愛する人たちを守るため、自ら「樹木の会」の教祖となり、悠の前から姿を消す。
ようやく再会できたのに、再び離れなければならない。
その選択は幸福とは言い難い。それでも、誰かに決められた人生ではなく、紫陽が自分の意思で選び取った道であることに意味があるように感じた。
事件から四年後、悠と真理が思い出の美術館を再建する結末も印象深い。
失ったものは戻らない。
紫陽もそばにはいない。
それでも、二人が過去を抱えながら新しい生活を始める姿には、静かな希望があった。
遠くから見守る紫陽の存在を感じさせる終わり方も、完全な別れではないように思えて少し安心した。
ただ、読み終えて最初に感じたのは、「これはまだ続きがあるのではないか」ということである。
すべてが綺麗に解決したわけではなく、紫陽のその後や教団の行方も気になる。余韻を残すというより、次の物語への入口のようにも感じられた。
あとがきを読み、本作が著者のデビュー作だと知った時にはさらに驚かされた。
一度は冒頭で本を閉じたのに、再び読み始めたら一気に最後まで読まされてしまった。それだけの吸引力を持つ作品を、最初の一冊で書き上げたことになる。
私の中のかなりザルな作家チェックリストではあるが、期待したい作家としてしっかり名前を入れておきたいと思える一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
考察・解説
ループクンド湖の人骨
小説『一次元の挿し木』において、「ループクンド湖の人骨」は物語の最大の謎であり、宗教と科学の暴走が生み出したすべての悲劇の起点となる極めて重要なキーアイテムとして描かれている。本作におけるこの人骨が持つ意味と役割について、DNA鑑定の一致、神への冒瀆の象徴、隠蔽工作の暴力、そして一次元の挿し木としての運命という4つの観点から考察する。
二百年前少女遺体と失踪義妹七瀬紫陽DNA完全一致に伴う強烈ミステリー
標高五千メートルのヒマラヤ山中にあるループクンド湖で発見された人骨は、時空を超えて現代の登場人物と結びつく。
・大学院生の主人公・七瀬悠は、恩師の石見崎から依頼されてループクンド湖で発見された二百年前の少女の人骨のDNA鑑定を行う。
・その結果は、四年前に失踪した悠の義妹・七瀬紫陽のDNAと完全に一致するという不可解なものであった。
・二百年前の死者と現代を生きていたはずの妹の遺伝子の一致が、読者と主人公を物語の深淵へと引きずり込んでいく。
巨大製薬会社とカルト樹木の会結託による死者クローン非人道実験
人骨の正体は、二十四年前、巨大製薬会社である日江製薬とカルト宗教である樹木の会が結託した極秘プロジェクトの遺物であった。
・樹木の会は次世代の教祖となる聖母を求めており、野心的な分子生物学者らは湖畔の遺骨から細胞核を抽出する。
・死者のクローンを生み出すという非人道的な実験を行い、悠の実母である代理母から生まれたのが紫陽であった。
・ループクンド湖の人骨は、自らを神と錯覚した科学者たちと、信仰を盲信する宗教団体による人間の身勝手なエゴの源であったと言える。
骨持ち去り呪い伝承と極秘研究証拠隠滅怪人牛尾連続惨殺工作
地元の人々の間で語り継がれている呪いの伝承は、現実の恐るべき暴力となって登場人物たちに襲いかかる。
・呪いは単なるオカルトではなく、極秘研究の証拠隠滅を図る物理的な暴力として発現する。
・樹木の会の教祖のクローンである怪人・牛尾は、人骨の秘密を知る者たちを次々と襲う。
・インド人研究者や、罪悪感から真実を公表しようとした石見崎、真相を嗅ぎ回る記者、そしてプロジェクト責任者らを惨殺していった。
・人骨に関わった者たちが逃れられない死の運命をたどる姿は、まさに呪いそのものである。
二百年時空超越新芽と欠陥遺伝子身体崩壊死病宣告の過酷運命
植物の挿し木が遺伝的に全く同じ個体を増やす無性生殖を意味するように、ループクンドの人骨は紫陽という新たな命を現代に芽吹かせた。
・死者の細胞から作られた紫陽の遺伝子には生まれながらにして欠陥が存在していた。
・彼女は若くして身体機能が崩壊していく残酷な運命を背負わされることとなる。
・人骨は彼女のルーツであると同時に、彼女に課せられた逃れられない死の病の宣告でもあった。
まとめ
ループクンド湖の人骨を巡る一連の顛末は、人間の底知れぬ欲望と科学の傲慢さが生み出した呪いの源泉を軸に、二百年前の死者と現代の妹のDNA一致という不可解なミステリーから、クローン実験の裏に隠されたカルト宗教の思惑や隠蔽のための凄惨な殺人工作を暴き、欠陥のある遺伝子という過酷な運命を背負わされた紫陽の誕生と死の病の救済に挑んだ絶望的かつ知的な闘争の記録である。辺境の湖からの遺骨奪取から、非人道的な代理母出産、そして怪人の襲撃を退けながら真実へと到達したプロセスは、歪んだ信仰と技術の暴走がもたらす悲劇の深さを示している。最終的に、自らの妹の残酷な出生と向き合いながら、不条理な運命の連鎖を断ち切って愛する者を救い出すために戦い抜き、生と死が交錯する迷宮の中から確かな平穏を完璧に奪還した結末は、どれほど不気味で身勝手なエゴによって生の尊厳が脅かされようとも、本質を突いた真実の追究と愛の絆によって打破され、魂の救済に満ちた未来の可能性が厳密に証明されている。
遺伝子解析と年代測定
小説『一次元の挿し木』において、「遺伝子解析(DNA鑑定)」と「年代測定」は、専門的な科学知識としてのリアリティをもたらすだけでなく、物語の最大の謎である「二百年前の人骨と失踪した妹のDNAの一致」という絶対的な矛盾を成立させるための極めて重要なギミックとして機能している。本作における遺伝子解析と年代測定が果たす役割について、偶然の排除、過去の証明、論理的矛盾、そして真相究明の武器という4つの観点から考察する。
マルチプレックスSTR解析による解析ミス疑念否定と4兆7千億分の一識別精度確定
主人公の七瀬悠は、ループクンド湖の古人骨のDNAが妹・紫陽のものと完全に一致した際、試料の混入などの解析ミスを疑って再解析を行う。
・悠が用いたのはマルチプレックスSTR解析という、現代の犯罪捜査でも実際に使われている高精度な手法である。
・かつての足利事件で問題となったMCT118型検査法のような精度不足による偶然の一致(冤罪)の可能性を明確に否定する。
・4兆7千億人から一人を識別できるという圧倒的な精度をもって、この人骨が間違いなく紫陽のものであるという残酷な事実を科学的に確定させた。
半減期五千七百三十年放射性炭素測定と加速器質量分析装置による二百年前事実裏付
DNAの一致と並行して、悠は人骨がいつの時代のものであるかを確認するため、大学の放射性炭素年代測定室に測定を依頼する。
・生物の死後、体内の放射性炭素が約5730年の半減期に従って減少する原理を利用する。
・加速器質量分析装置を用いて測定を行った結果、人骨は間違いなく二百年前である西暦1800年ごろのものであるという事実を裏付けた。
・これにより、人骨の物理的な過去の証明が揺るぎないものとなる。
現代生存妹遺伝子完全一致と二百年前骨存在証明衝突に伴う論理迷宮突入
骨は間違いなく二百年前のものであるという年代測定の結果と、現代を生きた妹のDNAと完全に一致するという遺伝子解析の結果が同時に提示される。
・この二つの科学的に揺るぎない事実がぶつかり合うことで、強烈な論理的矛盾が生じる。
・悠と読者は、タイムスリップや呪いといった超常現象すら疑わざるを得ないような迷宮へと引き込まれていく。
・この高度な論理的矛盾が、ミステリーを牽引する強固な力となった。
銀髪毛根口腔細胞DNA抽出と郁恵データベース照合経由の石見崎真理正体看破
本作では、遺伝人類学を専攻する悠自身が、自らのDNA鑑定技術を武器にして事件の真相に迫っていく。
・悠は石見崎の家で拾った銀髪の毛根や、仙波佳代子が口をつけたペットボトルの口腔細胞からDNAを抽出する。
・彼女が事件前後に現場を訪れていたことを自らの手で証明した。
・唯と名乗って近づいてきた少女が飲んだコップからDNAを採取し、後輩の新橋郁恵にデータベースと照合させる。
・これにより、彼女の正体が石見崎真理であることを見破ることに成功した。
まとめ
遺伝子解析と年代測定を巡る一連の顛末は、4兆7千億人から一人を識別するマルチプレックスSTR解析と、AMS加速器質量分析による放射性炭素測定という二つの科学的事実の激突によってタイムスリップや呪いすら疑う論理的矛盾を生み出し、悠自身の個人鑑定によって事件関係者の行動や隠された血縁の正体を暴き、最終的に二百年前の死者の細胞からクローンが作られたという科学と宗教の暴走が招いた真実へと到達した知的な実存的探求の記録である。足利事件の冤罪を回避するほどの高精度鑑定から、半減期を利用した年代の裏付け、そしてコップや毛根から抽出したDNAによる身元特定へと繋げたプロセスは、悠の探偵としての武器の確かさと科学的なリアリティの高さを示している。最終的に、超常現象の迷宮を突破して非人道的なクローン生成の狂気を解き明かし、愛する妹の過酷な出生の真実と向き合って心に確かな平穏を完璧に奪還した結末は、どれほど不可解で不気味な属性の欺瞞によって現実が覆われようとも、本質を突いた徹底的な論理と科学的アプローチによって打破され、真実の光に満ちた未来の道が厳密に証明されている。
七瀬紫陽の失踪
小説『一次元の挿し木』において、主人公の義妹である「七瀬紫陽」の正体と彼女の「失踪」は、本作のミステリーと狂気の根幹を成す最大の秘密であり、科学と宗教の暴走が生み出したすべての悲劇の焦点として描かれている。彼女の過酷な出生の真実、失踪の動機、そして自己犠牲に至る詳細な経緯は以下の通りである。
二百年前古人骨細胞核抽出のクローン出生と遺伝子欠陥に伴う身体機能崩壊
七瀬悠が命懸けで捜し求める義妹である七瀬紫陽の正体は、ヒマラヤの辺境から持ち去られた死者の遺骨を基に生み出された存在であった。
・ヒマラヤ山中のループクンド湖で発掘された二百年前の少女の遺骨から、細胞核が抽出されて無性生殖によって複製されたクローン人間である。
・植物の挿し木が遺伝的に全く同じ個体を増やす無性生殖を意味する通り、彼女は無性生殖で生まれた存在、すなわち一次元の挿し木であった。
・しかし、死者の細胞から造られたために彼女の遺伝子には生まれながらにして欠陥が存在していた。
・若くして身体機能が崩壊し、髪が抜け落ちてしまうという過酷で逃れられない病の運命を背負わされていた。
樹木の会信者戸崎楓代理母出産の歪因縁と七瀬京一引き取り死亡偽装保護
紫陽の誕生には、主人公である悠の血縁をも巻き込んだ深く歪な因縁が隠されていた。
・紫陽の胚を身ごもり出産した代理母は、樹木の会の熱心な信者であった悠の実母・戸崎楓であった。
・楓が我が子を教団へ献上することを拒んだため、紫陽は死亡したと偽装されて悠の義父である七瀬京一に引き取られた。
・これにより、紫陽と悠は血は繋がっていなくとも同じ母の胎内から生まれた兄妹という数奇な関係性となる。
・四年前の失踪後は、暗殺者である怪人・牛尾の脅威や教団の手から彼女を匿うため、京一や石見崎明彦が密かに保護し、法的に存在を抹消する徹底的な隠蔽工作を行っていた。
山城美術館ベッドの皮膚変質真姿露呈と醜態秘匿に伴う一番かわいい姿記憶願い
紫陽が悠の前から忽然と姿を消し、自身が生存しているという真実の告知を拒み続けた背景には、愛する者への切実な乙女心が存在していた。
・物語の終盤、山城美術館のベッドで、髪が抜け落ち、トカゲのようにざらついた皮膚に変質した衰弱状態の少女が発見されるが、それこそが紫陽の真の姿であった。
・遺伝子異常によって醜く崩壊していく自分の姿を、愛する悠に絶対に見せたくなかったことが長期にわたる隠蔽の最大の理由であった。
・かつて悠と過ごした美術館の寝室で、私の姿を覚えていて、と願った通り、悠の記憶の中に一番かわいい姿だけを残したまま死を迎えたいという自己犠牲的な愛情の表れであった。
怪人牛尾脅威排除後の教団再遁走と操り人形聖母受容による日常守護献身
物語の終盤、牛尾の魔の手が迫る中で紫陽は悠の危機を救うが、事件の決着後に再び悠の前から失踪を選択する。
・彼女が造られた真の目的は、樹木の会の亡き教祖の跡を継ぐ、次世代の聖母マァタジーの器となるためであった。
・悠や真理との再会を強く望みながらも、二人の穏やかな日常を組織の脅威から永遠に守るため、あえて自ら教団に保護される道を選んだ。
・自由を奪われ、操り人形として神を演じるという残酷な結末を受け入れることこそが、彼女なりの愛する者への最大の献身であった。
まとめ
七瀬紫陽の正体と失踪を巡る一連の顛末は、二百年前の古人骨からクローンとして複製され、悠の実母を代理母として生まれた歪な血縁の呪縛を抱えながら、遺伝子欠陥による自らの身体崩壊の醜態を隠すために失踪を選び、最期は怪人の脅威から兄たちの日常を守るために自ら教団の操り人形たる聖母となる残酷な運命を受容した気高い少女の悲劇的な実存の記録である。豪雨の日の失踪から、美術館での衰弱した真の姿の露呈、そして愛する者の未来のために再び教団の象徴へと身を投じたプロセスは、過酷な呪いの中で彼女が貫き通した愛の深さを示している。最終的に、自らの自由や幸福をすべて犠牲にしながらも、悠の記憶に美しき面影を残し、教団の脅威を遮断して最愛の兄の平穏を完璧に奪還した結末は、どれほど不条理で身勝手な科学と宗教の暴走によって生の尊厳が脅かされようとも、本質を突いた自己犠牲の決意と純粋な献身によって打破され、魂の気高さに満ちた未来の救済が厳密に証明されている。
石見崎教授の殺害
小説『一次元の挿し木』において、「石見崎教授の殺害」は、物語が単なる失踪事件の捜索から、カルト宗教と巨大企業が結託した恐るべき陰謀劇へと変貌する決定的な引き金となる出来事である。この事件が持つ意味と物語における役割について、罪の公表と口封じ、怪人による処刑、徹底した証拠隠滅、および陰謀への突入という4つの観点から考察する。
極秘クローン計画罪悪感起因のスキャンダル公表決意と口封じ暗殺
石見崎明彦は24年前、日江製薬とカルト宗教である樹木の会が進めた、ループクンド湖の古人骨から死者のクローンを生成するという極秘プロジェクトの中心メンバーであった。
・彼はプロジェクト終了後も深い罪悪感に苛まれており、かつてのプロジェクト関係者が次々と行方不明や不審死を遂げている隠蔽工作に気づく。
・これ以上の悲劇を防ぐため、石見崎は日江製薬のスキャンダルを世間に公表する決意を固めた。
・元同僚の仙波佳代子に証拠となる研究データの提供を求めたが、公表を阻止しようとする組織の手によって、彼は口封じのために暗殺されてしまう。
大男牛尾の凄惨クローゼット遺体隠匿と苛性ソーダ中身溶解拷問
石見崎の命を奪ったのは、樹木の会の暗殺者である大男・牛尾であった。
・悠が石見崎の自宅を訪ねた際、遺体は書斎のクローゼットに隠されており、鼻や口から真っ赤な血の泡を吹き出し、苦痛と恐怖で顔を凍りつかせた凄惨な状態であった。
・遺体には拷問を受けたような跡があり、後に牛尾は彼を殺害した際、時間がない中で苛性ソーダを用いて中身だけを溶かしたと語っている。
・この残忍な手口は、敵対する者には一切の容赦をしない怪人・牛尾の圧倒的な恐怖を際立たせる描写となっている。
研究室保管古人骨および紫陽サンプル全盗難に伴う証明手段完全喪失
石見崎の殺害とほぼ同時期に、彼が大学の研究室に保管していたループクンド湖の古人骨が標的となる。
・悠が比較のために用いた紫陽のDNAサンプル、さらには研究室内の他の骨の標本に至るまで、すべてが盗み出された。
・高価な実験装置には手をつけず、カメラの映像や指紋すら一切残さないこの徹底した証拠隠滅を遂行する。
・これにより悠は、200年前の骨が妹のDNAと一致したという決定的な事実を第三者に証明する手段を完全に失うこととなった。
留守電メッセージ起因の銀髪個人鑑定と石見崎真理唯共闘の闇迫り原動力
恩師である石見崎の死は、失意の中にいた悠を立ち上がらせる最大の原動力となった。
・石見崎は死の直前、悠の留守番電話に大事な話があると言い残していた。
・彼の遺体を発見した悠は、現場の上がり框で銀色の毛髪を拾い、自らDNA鑑定を行うことで、世界的な学者である仙波佳代子が事件に関与していることを突き止める。
・さらに、この殺害事件を機に、石見崎の姪を名乗り失踪した真理を捜す少女である唯と出会い、共闘関係を結ぶことになった。
・悠が自らの手で教団の闇と紫陽の正体へと迫っていく出発点として機能する。
まとめ
石見崎教授の殺害を巡る一連の顛末は、過去の非人道的なクローン計画への罪悪感から告発を試みた学者が、教団の暗殺者である牛尾の手によって苛性ソーダで溶解される凄惨な処刑を遂げ、研究室の古人骨やDNAサンプルが徹底的に隠滅されながらも、残された銀髪の鑑定や少女唯との出会いを経て、悠が巨大な陰謀の迷宮へと身を投じる原動力となった実存的闘争の記録である。告発の決意から、凄惨な遺体の発見、そして科学的アプローチによる犯人特定の足がかりへと繋げたプロセスは、組織の持つ冷酷な暴力性と悠の探求心の強さを示している。最終的に、恩師の命を奪い証拠を消し去ることで真実を闇に葬ろうとした組織の思惑を突破し、遺された微小な痕跡からカルトの深淵へと迫って心に確かな平穏を完璧に奪還した結末は、どれほど不条理な暴力と隠蔽によって現実が支配されようとも、本質を突いた知的な追究と連帯の更新によって打破され、狂気の闇を暴き出す輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
宗教団体「樹木の会」
小説『一次元の挿し木』において、宗教団体「樹木の会」とその「陰謀」は、信仰という名の下に人間の生命や尊厳を徹底的に搾取し、科学の暴走および巨大企業の権力と結託して生命倫理を根底から破壊した巨大なカルトの闇として描かれている。教団の社会的な影響力、預言に秘められた非人道的なクローン計画、信者を使い捨てにする非道な実験、そして凄惨な粛清と紫陽の囲い込みに至る詳細な経緯は以下の通りである。
政財界警察幹部浸透の強大権力と日江製薬資金設備結託による裏社会支配
樹木の会は、戦後の混乱期に初代教祖である真鍋宗次郎によって設立された新興宗教団体である。
・霊感商法などで多くの被害者を出す一方で、政界、芸能界、産業界、さらには警察幹部に至るまで信者を獲得している。
・日本を裏から支配しているとも言われるほどの強大な権力を誇る。
・さらに、巨大製薬会社である日江製薬の創業者・七瀬弓彦と深い関わりを持ち、教団の異常な目的を達成するための莫大な資金と最先端の設備、人材を確保していた。
教祖不妊起因のループクンド湖人骨奪取と仙波佳代子招聘によるクローン生成
教団の陰謀の根底には、初代教祖の血統への異常な執着と歪んだ預言が存在していた。
・真鍋宗次郎には生殖能力がなく、血の繋がらない他人に跡を継がせることを嫌った彼は、魂の廻る地であるループクンド湖から蘇る聖母こそがすべての生命を強く統合するという預言を残した。
・教団はこの妄想を実現するため、インドの氷河湖から二百年前の若い女性の人骨を持ち帰る。
・自らが神になりたいという歪んだ探求心を持つ世界的分子生物学者・仙波佳代子を引き入れる。
・死者の細胞から次世代の教祖マァタジーとなるクローン人間を創り出すという、非人道的な極秘プロジェクトを現実の科学技術へと昇華させた。
女性信者五人代理母人体実験投入と戸崎楓出産紫陽の遺伝子欠陥呪縛
教団の恐ろしさは、信者たちの信仰心につけ込み、その人生や肉体を組織の部品として徹底的に搾取する構造にある。
・クローンを誕生させるため、教団は信者である5人の若い女性を代理母として非道な実験の道具にした。
・そのうち唯一出産に成功したのが、幼い悠を連れて孤立を深めさせられていた熱心な信者であり、悠の実母でもある戸崎楓であった。
・こうして生まれたのが七瀬紫陽であるが、死者の細胞を用いたために生まれながらにして遺伝子に欠陥が存在していた。
・若くして身体機能が崩壊していく逃れられない呪いを背負わされる結果となる。
怪人牛尾投入の関係者連続粛清と自由剥奪教祖幽閉による目的完遂
七瀬弓彦の死によってプロジェクトが頓挫した後、教団は違法な研究の徹底的な隠蔽と組織の存続に向けた暴力を発現させる。
・教祖のクローンである暗殺者の大男・牛尾を使い、石見崎明彦やインド人研究者のアモール、記者の平間など、真相を知る者たちを次々と惨殺した。
・物語の結末において、教団は悠や真理の命と日常を守ることを引き換えにして紫陽を保護下に置く。
・紫陽から自由を奪い、どこに行き、誰と会い、何を語るかまでを完全に顧問に管理される操り人形としての新たな教祖マァタジーに据えた。
・彼女を永遠に聖なる象徴として幽閉するという、真の目的を完遂することとなる。
まとめ
樹木の会とその陰謀を巡る一連の顛末は、教祖の後継者問題に端を発した預言の妄想を満たすため、日江製薬の富と天才科学者の傲慢を悪用して二百年前の古人骨からクローンを生成し、信者たちを非道な人体実験の道具として消費しながら、怪人牛尾の冷酷な暴力によって真相追究者を次々と粛清し、最終的に紫陽の自由を完全に剥奪して操り人形たる聖母マァタジーとして幽閉した絶対的な悪の記録である。政財界への浸透による隠蔽工作から、代理母出産の搾取、そして最愛の兄たちの日常を人質に取った紫陽の囲い込みへと繋げたプロセスは、救済を謳いながら他者の生を徹底的に冒瀆するカルトの不条理な支配の強さを示している。最終的に、紫陽から人権を奪って象徴の中に閉じ込めることで狂気の計画の成果を維持し、教団の存続と権力基盤を維持して心に確かな平穏を完璧に奪還した結末は、どれほど身勝手なエゴと不条理な暴力によって生の尊厳が脅かされようとも、本質を突いた自己犠牲の決意と大切な者を守るための純粋な献身によって打破され、魂の気高さに満ちた未来の救済が厳密に証明されている。
登場キャラクター
神立大学
七瀬悠
本作の主人公であり、遺伝人類学を学ぶ大学院生である。四年前に失踪した義妹の紫陽を捜し続けている。
・所属組織、地位や役職
神立大学・博士課程一年目。
・物語内での具体的な行動や成果
紫陽の葬儀で棺をハンマーで壊した。古人骨のDNAが紫陽のものと一致することを発見する。石見崎の死後、唯と名乗る真理と協力して事件の真相を追った。牛尾と戦い、短刀で致命傷を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件から四年後、博士号を取得して日江市へ戻り、山城美術館の復元を果たした。
石見崎明彦
悠の担当教官であり、遺伝人類学を専門とする教授である。過去に日江製薬で極秘研究に関与しており、罪悪感を抱えていた。
・所属組織、地位や役職
神立大学・教授。元日江製薬研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
アモールからループクンド湖の骨を受け取り、悠に鑑定を依頼した。過去の研究を公表しようと仙波佳代子に協力を求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自宅のクローゼットで牛尾に殺害され、遺体は苛性ソーダで溶かされた状態で見つかった。
新橋郁恵
悠の後輩であり、気の利く修士課程の学生である。悠に好意を抱いている。
・所属組織、地位や役職
神立大学・修士課程二年目。
・物語内での具体的な行動や成果
古人骨のデータを登録し、過去のデータと一致することを発見した。のちに悠から依頼された検体のDNA解析を行い、持ち主が石見崎真理であると突き止めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
石見崎の死後、研究室が封鎖される中で悠の依頼に協力した。
糸原和幸
放射性炭素年代測定を専門とする特任研究員である。陽気な性格で、音楽を聴きながら作業をしている。
・所属組織、地位や役職
神立大学・放射性炭素年代測定室の特任研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
悠から依頼された古人骨の年代測定を実施した。その骨が二百年前のものであると結果を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
日江製薬
七瀬京一
悠の義父であり、紫陽の育ての親である。厳格な態度を持つが、家族を深く愛している。
・所属組織、地位や役職
日江製薬・主幹研究員兼代表取締役。元極秘プロジェクトの責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
紫陽の葬儀を執り行い、悠へ紫陽の存在を否定した。日江製薬の応用技術センターで紫陽の治療法を密かに研究していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
牛尾から逃れる時間稼ぎをするため、苛性ソーダを浴びせられて死亡した。世間的には失踪したと報じられている。
七瀬弓彦
京一の父親であり、日江製薬の創業者である。真鍋宗次郎と親交が深かった。
・所属組織、地位や役職
日江製薬・前会長(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
死者のクローンを作る極秘プロジェクトを提言し、資金や設備を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
プロジェクトの途中で亡くなり、それが原因で研究は打ち切られた。
樹木の会
真鍋宗次郎
樹木の会の初代教祖である。生殖能力を持っていなかった。
・所属組織、地位や役職
樹木の会・初代教祖(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
魂の廻る地から蘇る聖母が生命を統合するという預言を残した。自らのクローンとして牛尾を作らせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
数年前に故人となっているが、その意志は信者たちや牛尾に影響を与え続けている。
牛尾
牛革の山高帽をかぶり、礼儀正しい口調で話す大男である。真鍋宗次郎の細胞から作られたクローンとして誕生した。
・所属組織、地位や役職
樹木の会・暗殺者。
・物語内での具体的な行動や成果
極秘プロジェクトの証拠隠滅のため、アモールや石見崎を惨殺した。悠の研究室から人骨を盗み、のちに平間を殺害して遺骨を悠に送りつけた。京一を苛性ソーダで殺害し、山城美術館で悠たちを襲撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
悠の反撃を受け、首筋を短刀で刺されて死亡した。
七瀬紫陽
悠の義妹であり、ループクンド湖の古人骨から作られたクローンである。悠に深い愛情を寄せている。
・所属組織、地位や役職
樹木の会の次世代教祖。
・物語内での具体的な行動や成果
四年前の豪雨の日に姿を消し、石見崎の家で保護されていた。山城で牛尾に襲われる悠へ短刀を投げて命を救った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
悠と真理を守るため、自ら樹木の会に保護され、操り人形としての教祖になる道を選んだ。
戸崎楓
悠の実母であり、熱心な樹木の会の信者であった。極秘プロジェクトの代理母となった。
・所属組織、地位や役職
樹木の会・信者(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
紫陽を身ごもり出産したが、教団へ引き渡すことを拒んで彼女の死を偽装した。のちに京一と結婚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
八年前に脳の病気で他界している。
ダークグリーンのスーツを着た一組の男女
紫陽の行動を管理する樹木の会の信者である。冷淡な態度で接する。
・所属組織、地位や役職
樹木の会・顧問。
・物語内での具体的な行動や成果
山城を下りた紫陽を待ち受け、時間の到来を告げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
紫陽の行動を監視し、指示を与える役割を担っている。
仙波家
仙波佳代子
世界的な分子生物学者である。生命の神秘を解き明かすことに強い執着を持つ。
・所属組織、地位や役職
分子生物学者。元極秘プロジェクトの中心メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
ループクンド湖で古人骨の発掘調査を指揮した。牛尾の誘いを受け、死者のクローンを生成する実験を成功させた。隠し持っていた研究データを悠へ渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現在は第一線を退き、孫の圭太を溺愛している。
仙波耕太郎
佳代子の夫であり、著名な植物学者であった。朗らかな性格で学生から慕われていた。
・所属組織、地位や役職
大学教師(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
植物標本の作製を趣味としていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
昨年に膵臓癌で亡くなっている。
仙波潤平
佳代子の息子である。背広を着て仕事へ向かう。
・所属組織、地位や役職
法律事務所勤務。
・物語内での具体的な行動や成果
ゴルフバッグを持って友人たちと出かけていった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
仙波友江
潤平の妻であり、佳代子の義娘である。義母に対して反感を抱いている。
・所属組織、地位や役職
法律事務所・パートタイム勤務。
・物語内での具体的な行動や成果
井上卓也を名乗る悠を家へ招き入れた。悠の行動を怪しんだが、義母の秘密を探るため彼を裏口から逃がした。悠に協力して圭太の狂言誘拐に加担した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
仙波圭太
佳代子の孫である。生まれつきフェニルケトン尿症を患っていた。
・所属組織、地位や役職
小学生。
・物語内での具体的な行動や成果
携帯ゲーム機を持ち、挨拶を促されて応じた。悠と友江の狂言誘拐に連れ出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
石見崎家
石見崎真理
石見崎明彦の娘である。紫陽と強い絆で結ばれ、彼女を献身的に介護した。
・所属組織、地位や役職
元高校生、のちに大学生。
・物語内での具体的な行動や成果
唯と名乗り、叔父の死の真相を探る名目で悠へ接触した。悠と共闘し、仙波の尾行や山城美術館での牛尾との戦いを乗り越えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件の四年後も悠と共に山城美術館の復元活動に尽力し、実家で彼と同居している。
真理の母親
真理の母親であり、明彦の元妻である。
・所属組織、地位や役職
詳細不明。
・物語内での具体的な行動や成果
作中で直接的な行動は描かれていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かなり以前に明彦と離婚している。
石見崎の親類と見られる二人の女性
石見崎の葬儀に参列した女性たちである。
・所属組織、地位や役職
石見崎の親類。
・物語内での具体的な行動や成果
真理の姿が見えないことについて噂話をしていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
マスコミ関係
平間孝之
東邦ジャーナルのデスクである。かつては野心的な記者だった。
・所属組織、地位や役職
東邦ジャーナル・デスク。
・物語内での具体的な行動や成果
小野寺から託されたデータを調べ、日江製薬と樹木の会の陰謀を追った。悠の前に現れて情報の取引を持ちかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
車内で牛尾に殺害され、遺骨は悠のもとへ送りつけられた。
小野寺洋一
フリージャーナリストである。日江製薬の身辺調査をしていた。
・所属組織、地位や役職
フリージャーナリスト。
・物語内での具体的な行動や成果
京一に接触し、中国企業による買収や樹木の会との関係について質問した。牛尾に命を狙われ、平間にデータを託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
その後の行方は不明となっている。
編集長
東邦ジャーナルの編集長である。コンプライアンスを重視している。
・所属組織、地位や役職
東邦ジャーナル・編集長。
・物語内での具体的な行動や成果
若手を怒鳴る平間をたしなめ、穏便に対応するよう求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
二十年前に平間へ灰皿を投げつけた過去を持つ。
若い編集記者
東邦ジャーナルの若手記者である。
・所属組織、地位や役職
東邦ジャーナル・編集記者。
・物語内での具体的な行動や成果
樹木の会の記事を書くにあたり、平間から関係者の証言を集めるよう叱責された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
警察
黛良子
理知的で凛とした顔つきの女刑事である。
・所属組織、地位や役職
警察・刑事。
・物語内での具体的な行動や成果
石見崎の遺体発見後に悠の聴取を行った。悠の自宅を訪れ、研究室から古人骨が盗まれた事実を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件後に突然異動になったとされている。
多田
小柄で彫りの深い顔をした中年刑事である。
・所属組織、地位や役職
警察・警部補。
・物語内での具体的な行動や成果
悠へ接触し、真理の安全が確認されていることや、紫陽の存在を否定する調査結果を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件後に急死したとされている。
中年の警察官
地元の警察官である。
・所属組織、地位や役職
警察官。
・物語内での具体的な行動や成果
山城から逃げてきた悠たちを見つけて呼び止めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
牛尾によって頭を斧で割られて死亡した。
警察官の友人
平間の友人である。
・所属組織、地位や役職
警察官。
・物語内での具体的な行動や成果
平間に石見崎殺害事件の第一発見者が悠であるという情報を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
CCMB(細胞分子生物学研究所)・調査隊
アモール・ナデラ
インド人の研究者である。厭世的な一面を持つ。
・所属組織、地位や役職
元CCMB(細胞分子生物学研究所)・主任研究者。
・物語内での具体的な行動や成果
二十四年前のループクンド湖の調査に同行した。近年になり、保管していた人骨を石見崎へ送付した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
牛尾に拉致され、拷問の末に殺害された。
調査隊のメンバーたち
ループクンド湖の調査隊員である。
・所属組織、地位や役職
調査隊メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
シャベルで雪を除け、人骨の出土状態をスケッチする作業を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
インド人の調査員たち
ループクンド湖の調査員である。
・所属組織、地位や役職
インド人の調査員。
・物語内での具体的な行動や成果
氷雪を削り取り、保存状態の良い遺体を発掘した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
その他の登場人物
リー
中国人の男である。アモールの取引相手であった。
・所属組織、地位や役職
不明。
・物語内での具体的な行動や成果
牛尾に脅され、骨の情報を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
牛尾によって骨になるまで溶かされ死亡した。
勇太
郁恵の交際相手である。自分勝手な態度をとる。
・所属組織、地位や役職
スポーツ用品店・アルバイト。
・物語内での具体的な行動や成果
郁恵の自宅へ押しかけ、食事の文句を言って追い出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
井上卓也
仙波耕太郎の元教え子である。
・所属組織、地位や役職
元大学院生。
・物語内での具体的な行動や成果
本人は直接登場しない。悠が彼になりすまして仙波邸へ潜入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
坊主
紫陽の葬儀を執り行っていた僧侶である。
・所属組織、地位や役職
僧侶。
・物語内での具体的な行動や成果
棺の前で般若心経を唱えていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ヒジャブの女
ハイデラバードの旧市街にいた女性である。
・所属組織、地位や役職
不明。
・物語内での具体的な行動や成果
逃走中のアモールに突き飛ばされ、背中に罵声を浴びせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
展開まとめ
プロローグ
石見崎明彦/二十四年前
白骨に埋め尽くされた湖
石見崎明彦と七瀬京一は、インドのヒマラヤ山中にあるループクンド湖の発掘調査に参加していた。湖畔には約八百人分の白骨遺体が散乱し、南アジア人や地中海人、東アジア人など、異なる時代と人種の遺体が集まっていた。死因も、この辺境の湖に多くの人々が集まった理由も明らかになっていなかった。
氷雪に眠る遺体
調査隊を率いる仙波佳代子は、七瀬と石見崎を保存状態の良い遺体へ案内した。その遺体には筋繊維がわずかに残っており、共同調査を行うアモールは、研究所で検査した後に引き渡すと約束した。七瀬は遺体を前に静かな野心をのぞかせていた。
消えない罪悪感
不安を抱く石見崎に対し、アモールは調査が人類の発展に必要な行為だと励ました。しかし、石見崎の恐れは消えなかった。彼は七瀬を見つめながら、自分たちは呪われて当然なのではないかという疑念を抱いていた。
第一章
紫陽の葬儀と呪われた骨
壊された紫陽の棺
七瀬悠は、四年前の豪雨で行方不明になった義妹・七瀬紫陽の葬儀に大ハンマーを持って現れ、棺を叩き壊した。義父の七瀬京一は、娘の死を受け入れて未来へ進むために葬儀を開いたと説明したが、悠は紫陽が生きており、自分の学会発表にも姿を見せたと訴えた。しかし、京一は見間違いだと退け、二人の考えは対立した。
紫陽花の迷宮
九年前、高校生だった悠は、義妹になったばかりの紫陽を山城へ案内していた。悠は幼い頃、この山で牛の頭をした怪物を見たものの、誰にも信じてもらえなかったため、自分の目さえ疑うようになったと語った。紫陽は自分の目で見たことを信じるよう励まし、二人は怪物がいるという山頂を目指した。
山城美術館のミノタウロス
葬儀場を離れた悠を追い、石見崎明彦は紫陽花と城跡が入り組む山城を登った。頂上の閉鎖された山城美術館に入ると、巨大な両刃斧と、人間を襲うミノタウロスの絵を見つけた。そこにいた悠は、美術館を自分の避難所としており、幼い頃には絵の怪物が山を歩く幻を見ていたと明かした。
アモールからの連絡
石見崎は、二十四年前にループクンド湖で共に発掘調査を行ったアモールから、骨を送ったという連絡を受けた。過去への恐怖と罪悪感に襲われながらも、石見崎は悠を帰宅させ、届く古人骨のDNA鑑定を依頼することにした。
呪われた湖の少女
石見崎は、ループクンド湖では異なる人種と時代の約八百体の遺骨が発見され、骨を持ち去った者は呪われるという伝承があると説明した。今回送られる骨は、二百年以上前に死亡した二十歳未満の少女のものだった。悠は呪いを恐れず、自分には失うものがないとして鑑定を引き受けた。
紫陽と一致した遺伝子
五日後、悠は研究室で少女の人骨からDNAを解析し、後輩の新橋郁恵にデータベースへの登録を任せた。照合の結果、少女のDNAは、悠が以前に登録した紫陽の毛髪のDNAと百パーセント一致した。二百年以上前に死亡した少女の骨が、四年前に失踪した紫陽と同一人物であるという不可解な結果が現れた。
第二章
石見崎明彦の死と新たな協力者
追われるアモール
アモール・ナデラは、ハイデラバードの旧市街で牛尾という大男に追われ、廃モスクへ連れ去られた。牛尾は人骨の蒐集を生業としており、アモールが研究所から持ち出して売却したループクンド湖の骨を探していた。別の取引相手をすでに手にかけた牛尾に脅され、アモールは骨の行方を話すことにした。
二百年前の紫陽
七瀬悠はループクンド湖の人骨を再解析し、試料の混入や解析ミスではなく、そのDNAが紫陽のものと完全に一致していると確認した。さらに糸原和幸へ依頼した放射性炭素年代測定でも、人骨が約二百年前のものだと判明した。紫陽の死を受け入れかけた悠は強い絶望に襲われたが、抗不安薬で衝動を抑え、骨の正体を突き止めようとした。
石見崎の覚悟
石見崎明彦は身辺整理を終え、自宅で古い映画を見ながら、七瀬京一と遺伝学を語り合った学生時代を回想した。悠の支えになろうと考えていた矢先、玄関のチャイムが鳴り、扉を開けたところで液体の揺れるような音を耳にした。
石見崎の遺体
糸原から年代測定の結果を直接確認した悠は、連絡の取れない石見崎の自宅へ向かった。途中で白いポリタンクを持つ大柄な紳士とすれ違い、見覚えのある顔だと感じた。石見崎宅では長い銀髪を拾い、書斎のクローゼットから着信音を聞いた。扉を開けると、拷問を受けたような石見崎の遺体が倒れ込んできた。
京一の生贄
石見崎が牛尾に殺されたとの報告を受けた京一は、牛尾を止めるためには生贄を差し出すしかないと考えた。そこへ日江製薬と宗教団体・樹木の会の関係を調べる記者の小野寺洋一が現れた。京一は小野寺の名刺を受け取り、牛尾へ小野寺の情報を流すよう指示した。
消えた人骨
石見崎の死後、悠の研究室から保管されていた古人骨とDNAサンプルがすべて盗まれた。高価な実験機器は残され、犯人の映像や指紋も一切見つからなかった。悠は紫陽と一致した人骨と比較用のDNAサンプルを同時に失ったが、刑事の黛良子には人骨の秘密を明かさなかった。
牛尾に怯える小野寺
東邦ジャーナルの平間孝之は、旧友の小野寺から助けを求められた。小野寺は樹木の会を調べるうちに牛尾から命を狙われるようになり、取材情報を収めたUSBメモリを平間へ託した。会社へ戻してほしいと頼んだ小野寺は、警察にも樹木の会の人間がいるとして相談を拒み、怯えたまま立ち去った。
京一への追及
石見崎の通夜で悠は京一を問い詰め、二百年前の人骨が紫陽のDNAと一致したことや、石見崎が殺された直後に骨が盗まれたことを明かした。しかし京一は悠の精神状態を疑い、精神科医の診察を受けるよう求めるだけで、ループクンド湖の秘密には答えなかった。
石見崎唯との出会い
京一と別れた悠は、石見崎の姪を名乗る石見崎唯に呼び止められた。唯は、悠が石見崎の死の直前に自宅へ電話し、訪ねた本当の理由を隠していると見抜いた。悠は説明を拒んだが、唯は石見崎の娘・真理が死後から行方不明になっていると明かした。
共通する捜索
唯は真理が何者かにさらわれたと考え、石見崎の秘密を探るために悠へ協力を求めた。さらに京一との会話を盗み聞きし、悠が紫陽を探していることも知っていた。互いに大切な者の行方を追い、石見崎の死の真相を探るという目的が一致したため、唯は悠へ手を組むことを提案した。
第三章
紫陽との避難所と仙波佳代子の秘密
孤独な少年時代
七瀬悠は、樹木の会に傾倒する母の勧誘活動へ連れ回されたため、町の住民や同級生から距離を置かれ、孤独な少年時代を過ごした。唯一の避難所は小さな映画館・よひら座であり、悠はそこで初めて観た『ガタカ』をきっかけに、映画の世界へ深く没頭した。しかし、よひら座は三年後に閉館し、悠は再び居場所を失った。
紫陽からの贈り物
九年前、悠は義妹となった七瀬紫陽に、閉館したよひら座の跡地を見せた。紫陽は悠が再び映画を楽しめるよう、廃墟となった日江製薬応用技術センターへ忍び込み、会議室に残されたプロジェクターを持ち出した。建物の地下から獣のような声が聞こえたが、紫陽は何もないと言って悠を遠ざけた。
二人はプロジェクターを閉鎖された山城美術館へ運び、天蓋付きベッドのヴェールをスクリーンにして『ガタカ』を上映した。紫陽は一人を好む悠に、自分も一緒にいてよいかと尋ねた。悠がそばにいてほしいと答えると、紫陽は今の自分を忘れず、その目でずっと覚えていてほしいと願った。二人にとって美術館は新たな避難所となった。
唯への告白
現在、石見崎唯は悠の研究室へ押しかけ、石見崎明彦が殺された日に何があったのか説明を求めた。悠は、二百年前のループクンド湖の人骨と紫陽のDNAが一致したことや、その件を石見崎へ問いただそうとして遺体を発見した経緯を明かした。唯は信じ難い話に戸惑いながらも、偶然の一致ではないと知り、石見崎が何かを知っていた可能性を認めた。
石見崎の予定表
悠と唯は石見崎の執務室を調べた。パソコンのパスワードは真理の誕生日であり、検索履歴には世界的な分子生物学者・仙波佳代子の名前が残されていた。予定表には石見崎の死の前日などに、意味不明のSという予定も記録されていた。さらに、仙波の銀髪を見た悠は、石見崎宅で拾った銀色の毛髪を思い出した。二人は当日開かれる仙波の講演会へ向かった。
平間の陰謀論
記者の平間孝之は、失踪した小野寺洋一から託された資料を調べていた。そこには七瀬京一や仙波佳代子の個人情報があり、かつて日江製薬に関係していた石見崎やアモールらが死亡または行方不明になっていた。平間は、日江製薬が巨大な不祥事を隠すため、樹木の会の力を利用して関係者を消しているのではないかと推測し、仙波へ接触することにした。
諦めない理由
仙波の講演会へ向かう車中で、唯は二百年前の骨と紫陽のDNAが一致したなら、何らかの仕組みが存在するはずだと語った。タイムスリップや呪いであっても、方法を探すか解けばよいため、紫陽の生存を諦めるには早いと悠を励ました。悠は唯に感謝し、互いを名前で呼ぶ協力者となったことで、長く抱えていた孤独が少し和らいだ。
仙波への接触
講演を終えた仙波へ近づくため、唯は仙波の著書を購入し、悠をサイン希望者に見せかけた。仙波は七瀬という姓を聞くと動揺し、京一や石見崎と二十年以上前に仕事をしたことを認めた。しかし、石見崎宅を訪れたことは否定し、ループクンド湖について尋ねられると、首を突っ込めば危険だと警告して立ち去った。
悠は仙波から空のペットボトルを受け取り、付着した口腔細胞と石見崎宅で拾った銀髪をDNA鑑定することにした。その結果、毛髪は仙波のDNAと一致し、仙波が石見崎宅を訪れていた事実が裏付けられた。
二人の孤独
鑑定を待つ間、悠と唯は互いの過去を語った。唯は二十歳でありながら学校にも仕事にも属さず、自分を誰にも認識されない幽霊のような存在だと感じていた。石見崎と真理だけが自分を見てくれたため、行方不明となった真理を捜していた。
悠は、紫陽が遺伝学への関心を与えてくれたことや、四年前の豪雨の日に口論して家へ残したまま戻れなくなり、帰宅すると紫陽だけが消えていたことを明かした。さらに三年前の学会発表で紫陽を見たため、今も生存を信じて捜し続けていると語った。
紫陽のヘアドネーション
七年前、紫陽は悠に長い髪を切るよう頼んだ。紫陽は、遺伝子の異常などで髪が生えない子供たちのために髪を寄付し、自分の体の一部で誰かを助けようとしていた。悠は美しい黒髪を惜しんだが、紫陽は独り占めするほうがもったいないと笑った。
仙波を示すDNA
夜、悠と唯は石見崎宅の銀髪と仙波の口腔細胞のDNAが一致したことを確認した。仙波が石見崎の死の直前に自宅を訪れていたと判明し、二人は仙波をさらに調べる方針を固めた。その日の帰り、悠は唯との会話によって久しぶりに心が軽くなっている自分に気づいた。
平間との取引
唯を送り届けたあと、悠は自宅前で平間に待ち伏せされた。平間は講演会で悠と仙波の会話を盗み聞きし、仙波の住所や家族構成を提供する代わりに、京一の住所と連絡先を求めた。
平間は、日江製薬と過去に関係した人物や、会社を調べる記者が次々に消えており、樹木の会が関与している可能性を語った。また、京一が九年前に日江市へ移住した経緯や、紫陽の存在にも関心を示した。紫陽について調べると持ちかけられた悠は取引を受け入れ、平間と新たな協力関係を結んだ。
第四章
紫陽との約束と牛尾の警告
母の葬儀と紫陽の決意
八年前、母・楓の葬儀を終えた七瀬悠は、途中で姿を消した七瀬紫陽を山城美術館で見つけた。紫陽は楓から、ミノタウロスから身を守るための短刀と二通の手紙を託されていた。楓は悠の幸福を願う言葉を残していたが、紫陽宛ての手紙の内容は明かされなかった。
紫陽は、京一とともに東京へ戻るよう求められていると話した。悠は京一に迷惑をかけられないとして日江市に残るつもりだったが、紫陽と離れる現実に耐えられず、雨の中を去ろうとする彼女を追った。
迷宮への一歩
悠は紫陽を引き止め、二人で暮らしたいと訴えた。互いの想いを告白した二人は、映画の光が揺れる美術館の寝室で結ばれた。悠にとってその夜は永遠に残る幸福な記憶となったが、同時に、怪物の潜む呪われた迷宮へ足を踏み入れた瞬間でもあった。
仙波邸への潜入計画
現在、悠は平間孝之から得た仙波佳代子の個人情報を石見崎唯に見せ、仙波宅を調べる計画を立てた。二人は仙波邸を長時間見張り、家族の出入りや生活状況を確認した。
翌日、仙波が講演会へ出かける機会を利用し、唯が仙波を追跡し、悠が仙波耕太郎の元教え子を装って邸内へ入る役割を担うことになった。
仙波家への侵入
悠は仙波耕太郎の教え子・井上卓也を名乗り、線香をあげる名目で仙波家に招き入れられた。仙波の義娘・友江と会話を重ねた悠は、耕太郎の植物標本を見たいと頼み、佳代子の書斎へ案内された。
友江が席を外した隙にパソコンへ侵入すると、石見崎から仙波へ送られたメールを発見した。そこには、骨を入手したことや、仙波が隠し持つ研究データを求めていること、自らの罪と向き合う覚悟が記されていた。
友江の協力
悠の行動に気づいた友江は当初、警察へ引き渡そうとした。しかし、仙波が何かを隠していると以前から疑っていたため、情報を共有することを条件に悠を裏口から逃がした。
悠は直後、関わるべきではないという匿名の警告メールを受け取った。さらに唯から、仙波が尾行に気づき、悠が自宅にいることまで把握していると知らされた。
牛尾との遭遇
大学へ戻った悠は、研究室で牛尾と対面した。牛尾はループクンド湖と人骨に関わるのをやめるよう警告し、紫陽の骨が本物であることを認めた。
悠が紫陽を救いたいと懇願すると、牛尾は、たとえ紫陽の存在が残っていても自分が喰い殺すと告げた。悠は抵抗を試みたが首を絞められ、意識を失った。目覚めたときには唯がそばにおり、牛尾の姿は消えていた。
存在しない紫陽
平間は調査の結果、七瀬紫陽という人物の住民記録も捜索願も存在せず、京一にも楓以外との婚姻歴がないと知った。悠には精神科への通院歴があり、紫陽が妄想上の人物である可能性も浮かんだ。
一方で、樹木の会の機関紙から、真鍋宗次郎と七瀬弓彦が過去にループクンド湖を複数回訪れていた事実を発見した。平間は仙波をさらに調べようとしたが、車内に潜んでいた牛尾に襲われた。
平間の骨
翌朝、悠の研究室前に宛名のない段ボール箱が置かれていた。中には人骨とともに、平間が身に着けていたアロハシャツ、腕時計、煙草などが入っていた。
頭蓋骨には、気に入ったかと血で書かれていた。悠は、牛尾が平間を殺し、その骨を自分への贈り物として送りつけたのだと悟った。
第五章
消された存在と紫陽の手紙
消える世界の夢
六年前、七瀬悠と七瀬紫陽は鹿島神宮へ向かう列車に乗っていた。紫陽は、自分の存在が最初からなかったことになり、悠だけが覚えている夢を見たと語った。その状況を喜べないと話す紫陽の表情には、悠には理解できない不安が浮かんでいた。
捜索の断念
現在、悠は研究室へ送りつけられた平間孝之の遺骨について警察に事情を説明した。牛尾から受けた脅迫も明かしたが、自分でも現実だったのか確信を持てなかった。
帰宅後、悠は紫陽の幻を見て取り乱し、訪ねてきた石見崎唯を掴んでしまった。悠は唯を危険に巻き込まないため、紫陽や真理、石見崎の死に関する調査をすべてやめると宣言した。唯は涙をこらえながら部屋を去った。
存在しない妹
翌朝、刑事の多田と黛良子は、石見崎真理の安全が親族のもとで確認されていると悠へ告げた。さらに警察の調査では、七瀬紫陽という人物の戸籍や記録が一切なく、悠に妹はいないと説明した。
悠が七瀬京一へ電話すると、京一も娘を持ったことはないと断言した。京一によれば、紫陽は孤独だった悠が作り出した幻であり、先日の葬儀も妄想に区切りをつけさせるために開いたものだった。
六年前に亡くなった唯
警察を拒絶した悠は、謝罪と協力の再開を求めて唯の家へ向かった。しかし、インターホン越しに応対した母親から、石見崎唯は六年前の交通事故ですでに亡くなっていると告げられた。
紫陽だけでなく、唯まで存在しない可能性を突きつけられた悠は、日江市の実家へ向かった。家の中には紫陽が暮らしていた痕跡がなく、彼女の部屋だと思っていた場所も物置になっていた。
牛尾の正体
古い樹木の会の冊子を見た悠は、表紙に写る教祖・真鍋宗次郎が牛尾と同じ姿をしていることに気づいた。真鍋はとうに死亡していたため、悠は紫陽や唯、牛尾だけでなく、自分の人生そのものが幻だったのではないかと絶望した。
紫陽宛ての手紙
それでも紫陽の言葉を思い出した悠は、自分の目で見たものを確かめるため山城美術館へ向かった。寝室のベッドの下から、母・楓が悠と紫陽へ宛てた二通の手紙を発見した。
紫陽宛ての封筒と母の筆跡は、紫陽が確かに存在していた証拠だった。さらに手紙には、紫陽を産めたことを誇りに思うと書かれており、京一の連れ子だと信じていた紫陽が、実際には楓の子である可能性が浮かんだ。
挿し木の意味
悠は、紫陽が紫陽花を自分と同じだと語っていたことを思い出した。紫陽花が挿し木によって増やされることと、母の手紙の言葉を結びつけた悠は、紫陽の出生や二百年前の人骨を巡る謎に一つの答えを見いだした。
仙波圭太への接触
翌日、悠は新橋郁恵に研究室の品を確認させたうえで、仙波佳代子の孫・仙波圭太が通う小学校の前で待ち伏せした。紫陽を巡る仮説を確かめるため、下校中の圭太へ笑顔で声をかけた。
第六章
紫陽の誕生と京一の決戦
遺伝子への欲望
仙波佳代子は、幼い頃に見た突然変異の花をきっかけに生命の仕組みに魅了され、遺伝子研究へ進んだ。彼女の原動力は人類への貢献ではなく、生命の秘密を解き明かし、神の視点に立ちたいという強い好奇心と傲慢さであった。
圭太の誘拐
講演を終えた仙波は、義娘の友江から、孫の圭太が誘拐されたと知らされた。犯人は圭太の命と引き換えに、ループクンド湖の人骨に関する研究データを要求し、石見崎家の墓で仙波との直接交渉を指定していた。
紫陽の正体
墓地で仙波を待っていたのは七瀬悠であった。悠は、紫陽が自分を紫陽花の挿し木と同じだと語った記憶から、彼女がループクンド湖の遺骨を元に作られたクローンであると見抜いていた。仙波は研究データを渡し、過去の極秘研究について語り始めた。
神を創る計画
二十九年前、研究環境を失っていた仙波のもとに牛尾が現れ、樹木の会の教祖・真鍋宗次郎の預言に従って、ループクンド湖の遺骨から聖母を作るよう依頼した。日江製薬の七瀬弓彦が設備や資金を提供すると知った仙波は、倫理よりも研究への欲望を優先し、計画へ加わった。
牛尾自身も真鍋宗次郎から作られたクローンであったが、後継者には選ばれなかった。仙波は牛尾の存在によって死者からのクローン生成が可能だと確信し、自らが神となるため研究を引き受けた。
ループクンドの聖母
仙波、七瀬京一、石見崎明彦は極秘計画の中心となり、ループクンド湖から保存状態のよい若い女性の遺骨を持ち帰った。死者の細胞核から胚を作り、代理母へ移植する実験が進められた。
樹木の会から送られた五人の女性のうち、戸崎楓だけが妊娠に成功した。こうして楓から生まれたクローンが七瀬紫陽であった。
隠蔽された研究
紫陽の誕生後、七瀬弓彦が亡くなったことで研究は打ち切られた。石見崎は後年、関係者が次々と失踪や不審死を遂げていることに気づき、研究を公表しようとして仙波へ協力を求めた。
仙波は一度断ったものの考え直し、石見崎宅を訪れた。しかし、そこではすでに石見崎が牛尾に襲われていた。仙波は研究データを公開すると牛尾を脅し、自分の命だけは守っていた。
友江との取引
圭太の誘拐は悠と友江が仕組んだ芝居であった。悠は仙波から真相を聞き出すため、友江へ協力を頼み、圭太を安全な場所へ連れ出してもらっていた。友江は義母への反感と悠への興味から協力し、圭太の無事を仙波へ伝えた。
応用技術センター
仙波は悠に、日江製薬の極秘研究が行われていた応用技術センターへ向かうよう告げた。石見崎も死の直前、仙波をそこへ連れていこうとしていたという。
豪雨の中で施設へ入った悠は、地下に並ぶ衰弱した実験用の猿と、研究を続ける京一を発見した。京一は、そこで行っているのは紫陽を救うための治療研究だと説明し、紫陽が生きていると明かした。
楓と京一の選択
京一は、楓が樹木の会の信者として代理母になったものの、紫陽を教団へ渡すことを拒んだと語った。京一と楓は紫陽が死亡したと偽り、その存在を記録から抹消した。
十四年後、京一は約束通り紫陽を楓のもとへ連れていき、楓と結婚した。京一は楓を愛しており、紫陽も実の娘のように大切にしていた。しかし実験の影響で楓が亡くなり、紫陽にも遺伝子の異常が見つかったため、京一は密かに治療を続けていた。
山城美術館の紫陽
京一は紫陽が四年前から生きており、牛尾から守るために姿を隠していたと説明した。紫陽自身も悠に秘密を明かさないことを望んでいたが、その理由は語られなかった。
牛尾が施設へ侵入すると、京一は悠に山城美術館へ向かい、そこにいる紫陽と石見崎真理を保護するよう託した。悠は京一を父親として誇りに思うと告げ、秘密の通路から脱出した。
牛尾との対決
京一は猟銃を構えて牛尾を待ち受けたが、牛尾は猿を盾にして銃撃をかわし、京一を圧倒した。牛尾は、自分の凶暴性は遺伝子の欠陥によって定められたものであり、自分は人間ではないと語った。
京一が紫陽の居場所を明かさなかったため、牛尾は苛性ソーダを取り出した。牛尾は京一の全身に液体を浴びせ、紫陽の行方を聞き出すために彼を苦しめた。
第七章
紫陽との再会とクローンの迷宮
最後の会話
四年前、七瀬悠は台風が迫る中、大学の試験へ向かおうとしていた。体調が悪化し、精神的にも不安定になっていた七瀬紫陽は、悠に自分のどこが好きなのかと問い詰めた。
悠が容姿や知性を挙げ、すべてを失えば紫陽ではなくなると答えると、紫陽は深い絶望を見せた。悠はその意味を理解できないまま家を出て、それが二人の最後の会話となった。
山城美術館の少女
現在、悠は七瀬京一から紫陽がいると聞かされ、夜の山城美術館へ向かった。思い出の寝室で見つけたのは、髪が抜け落ち、皮膚も変質して衰弱した石見崎真理であった。
そこへ石見崎唯が現れた。悠が本物の唯は六年前に死亡していると追及すると、彼女は自分こそ紫陽だと名乗った。しかし悠は、その言葉を受け入れなかった。
新橋の鑑定結果
新橋郁恵は、悠から依頼された検体のDNAを解析した。照合の結果、その持ち主は石見崎明彦の娘・石見崎真理であると判明した。
新橋から結果を聞いた悠は、唯と名乗る女性が真理であると見抜いた。彼女が以前飲んだコーヒーのコップから、悠は密かにDNAを採取していたのである。
真理の偽名
追及された女性は、自分が石見崎真理であることを認めた。すると寝室で衰弱している少女こそ、悠が探し続けていた紫陽であると明らかになった。
変わり果てた紫陽を前に、悠は再会しても気づけなかった自分を責めた。真理も悠を抱きしめて謝罪し、二人は紫陽を前に悲しみを分かち合った。
紫陽との共同生活
四年前の豪雨の日、明彦は紫陽を自宅へ連れ帰り、娘の真理に彼女の世話を頼んだ。最初は戸惑った真理だったが、紫陽の聡明さや優しさに触れ、やがてかけがえのない友人となった。
紫陽の覚醒時間は次第に短くなり、身体機能も衰えていった。それでも真理は夜の散歩や読書、映画鑑賞を通じて紫陽と濃密な時間を過ごし、彼女を支え続けた。
学会での再会
三年前、紫陽は真理に頼み、悠の学会発表を見に行った。紫陽は発表する悠を見て安堵の涙を浮かべ、悠も聴講席にいる紫陽の姿に気づいた。
明彦は、紫陽の存在を牛尾たちから守るため、悠には生存を悟らせてはならないと真理へ説明した。紫陽自身も、悠には生きていると知られたくないと望んでいた。
崩れていく紫陽
その後、紫陽の髪は抜け落ち、言葉や反応も失われていった。真理は献身的に介護を続けたが、明彦は娘に自分の人生を歩ませるため、介護から離れるよう求めた。
真理は高校へ復学し、介護福祉士を目指して大学へ進学した。それでも紫陽とのつながりを失わず、ときおり実家へ戻って彼女に寄り添っていた。
明彦の死と紫陽の失踪
真理が一人暮らしを始めたあと、明彦は自宅で殺された。紫陽も姿を消しており、警察は法的に存在しない彼女を捜そうとはしなかった。
真理は明彦の死の直前に連絡していた悠を疑い、唯と名乗って接近した。しかし悠がループクンド湖の人骨について語ったことで、明彦が彼へ真相を伝えようとしていたと考え、協力するようになった。
紫陽が隠した姿
真理は、紫陽が悠に真実を明かさなかった理由を説明した。紫陽は変わり果てた自分を悠に見せることを拒み、好きな相手には最も美しい姿だけを覚えていてほしいと願っていたのである。
悠は、四年前の最後の会話で紫陽が見せた絶望の意味を理解した。紫陽は、自分が容姿や知性を失えば悠に愛されなくなると恐れていたのである。
牛尾の襲来
京一の携帯から、無残な白骨遺体の画像が送られてきた。悠は京一が牛尾に殺され、牛尾が美術館の場所を突き止めたと悟った。
牛尾が館内へ侵入すると、悠と真理は紫陽を天蓋の上へ運び、息を潜めた。牛尾は寝室を捜索し、ベッドに残る紫陽の体温まで確かめたが、三人を発見できずに部屋を離れた。
燃え上がる美術館
悠は自分がおとりになり、真理と紫陽を逃がそうとした。しかし牛尾は闇の中で待ち伏せており、苛性ソーダを悠の左手へ浴びせた。
牛尾に追い詰められた悠を救うため、真理はアルコールランプを投げつけた。牛尾の体と美術館に火が回り、三人は燃え上がる避難所から脱出した。
紫陽花の迷宮
逃走中、真理は足を痛め、牛尾は大斧を持って追ってきた。助けを求めた警官も牛尾に殺され、悠たちは複雑に入り組んだ紫陽花の迷宮へ逃げ込んだ。
真理と紫陽を守るため、悠は自分がテセウスとなって牛尾を引きつけることを決意した。紫陽を真理に託し、一人で怪物の前へ姿を現した。
テセウスの短剣
迷宮の中で牛尾に追いつかれた悠は、激しい暴行を受け、死を覚悟した。そのとき、紫陽の姿が現れ、母から受け継いだ短刀を悠へ投げた。
悠は残された力で短刀を牛尾の首へ突き刺した。牛尾は真鍋宗次郎を思わせる言葉を残して倒れ、ついに動かなくなった。
紫陽の選択
戦いのあと、紫陽は再び姿を消した。真理は負傷した悠を台車で運び、京一の施設に残されていた車を使って悠の自宅まで連れ帰った。
悠と真理は、紫陽が自分の意思で二人のもとを去ったのだと受け止めた。再び彼女を失ったものの、悠は以前ほどの絶望を感じなかった。紫陽が生きていたことを知り、自ら別れを選んだと理解できたからである。
悠は紫陽を追い続ける人生に区切りをつけ、真理とこれからの生き方を考え始めた。真理もまた、悠の本当の笑顔を初めて見たと感じていた。
エピローグ
山城美術館の再生と紫陽の選択
四年後の日江市
山城美術館の炎上や警官の惨殺、山中に残された血痕を巡る事件は、四年後も真相不明のままであった。石見崎明彦や平間孝之の事件も解決せず、日江製薬の不祥事が表沙汰になることもなかった。七瀬京一は失踪したと報じられたが、会社は新たな役員を置き、事件は次第に忘れられていった。
山城美術館の復元
七瀬悠は紫陽の捜索を終え、博士号取得後に日江市へ戻った。石見崎真理を今も唯と呼び、二人で悠の実家に暮らしながら、焼失した山城美術館の復元に取り組んだ。
悠と唯はクラウドファンディングで資金を募り、匿名の人物からの多額の支援によって目標を大きく上回る寄付を集めた。町の人々や建設業者、画家たちの協力を得て、美術館はかつての姿を取り戻した。
美術館の落成式
七月二日、復元された山城美術館の落成式が開かれた。悠は集まった寄付者や関係者へ感謝を伝え、唯に教えられた通り笑顔で挨拶を終えた。
しかし唯は、遠くに現れた美しい幻へ目を奪われていた。唯は悠の手を握り、その姿を見惚れるほど美しい幻だと表現した。
二人を見守る紫陽
石階段を下りていた七瀬紫陽は、悠と唯の姿を最後に見届けるため、美術館を訪れていた。二人に駆け寄り、謝罪や感謝を伝えたいと願いながらも、再会することは許されていなかった。
紫陽は四年前、京一から投与された薬によって身体を動かせるようになり、牛尾に襲われる悠へ短刀を投げた。その後、山城を下りた先で待っていた樹木の会の信者たちに保護された。
樹木の会の新たな象徴
樹木の会は真鍋宗次郎の遺言に従い、紫陽を新たな指導者マァタジーとして迎えた。紫陽は教団の庇護を利用すれば、悠と唯を事件や組織の影響から守れると考え、その役目を引き受けた。
しかし紫陽は教団の象徴にすぎず、行動や発言を常に管理されていた。悠たちとの会話も、人々の目に触れることも禁じられ、自由を失ったまま神を演じていた。
挿し木の紫陽花
紫陽は、自らの出生を人間たちの欲望から生まれた穢れたものだと考えていた。それでも、愛する悠と唯が穏やかな日常を送っている姿を見て、自分が生まれたことには意味があったと感じた。
道端に植えられたばかりの紫陽花の挿し木を見つめた紫陽は、それが立派に花を咲かせている姿に自分自身を重ね、静かに微笑んだ。
その他フィクション

Share this content:


コメント