小説「バスタード・ソードマン 6」感想・ネタバレ

小説「バスタード・ソードマン 6」感想・ネタバレ

Table of Contents

物語の概要

ジャンル
ファンタジー異世界系で、ギルド活動・剣技・仲間との交流を主軸に据えた物語である。
内容紹介
レゴールのギルドに、大型新人・レオが加わる。彼はウルリカの幼なじみであり、優れた近接戦闘技術を有している。ウルリカの強い推薦もあって、“アルテミス”の二人目の男性メンバーとして迎えられた。モングレルは彼と親しくなろうと試みるも、レオはなぜかモングレルにのみ“妙な視線”を送る。それをきっかけに、ギルド内での人間関係や三角関係が動き出す。

主要キャラクター

  • モングレル:本作の主人公であり、適当なギルドマンながらも平穏な日々を望む“だらだら生きたい派”。料理や釣りを好みつつ、時折ギフト能力で魔物を倒す実力を見せる男である。
  • ウルリカ:ギルド“アルテミス”の女性メンバー。レオを推薦し、ギルド内で人脈と影響力を持つ。レオとの関係性が本巻で物語を動かす鍵となる。
  • レオ:本巻で登場する大型新人。ウルリカの幼なじみという縁でギルドに参加し、近接戦闘能力に秀でている。モングレルに対して“妙な視線”を向けることで謎を抱える存在となる。

物語の特徴

本巻の特徴は、「人物関係の動揺」と「新キャラクター加入による波紋」である。レオという新たな存在がギルドに割り込み、登場人物たちの関係性に揺れをもたらす。特にモングレルに向けられるレオの視線は、ただの友情や嫉妬を超えた謎を感じさせ、読者に「何が隠されているか」を問いかける要素となっている。また、これまでの日常寄りの展開から一歩踏み出し、三角関係や心理戦が表面化する構成も魅力である。ギルドという限られた舞台の中で、キャラクター間の動きが丁寧に描かれる点も、本作ならではの見どころである。

書籍情報

バスタード・ソードマン 6
著者:ジェームズ・リッチマン 氏
イラスト:マツセダイチ  氏
出版社:KADOKAWA
発売日:2025年8月29日
ISBN:9784047382541

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あらすじ・内容

モングレルを巡る三角関係、勃発――!?
レゴールのギルドに、大型新人がやって来た。彼の名前はレオ。なんとウルリカの幼なじみだという。爽やかな美少年で人当たりもよく、ブロンズにしては優秀な近接戦闘技術を持つ彼は、たちまちギルド内の注目の的に。さらにウルリカの強い推薦もあり、レゴールに来てから一週間も経たぬうちに、“アルテミス”の二人目の男性メンバーとして加入することに。そんな中モングレルも新たな後輩との親睦を深めようとするのだが、なぜかレオは彼にだけ”妙な視線”を送ってきて――!?

バスタード・ソードマン6

感想

まず最初に心を奪われたのは、アーレントさんのカラー口絵だった。過去最高に笑えた。
足をセクシーに組み、木にもたれかかって寂しげに微笑むムキムキマッチョの禿げたおっさんが「やあ」と挨拶してくる姿は、想像を遥かに超えていた。歴戦の戦士で外交官という設定とのギャップが、強烈なインパクトを与えてくる。

巻頭のカラーイラストを見たときは、一体どんな変態なんだろうかと不安になったけれど、読み進めていくうちに、意外とまともな人物であることがわかって安心した。それでも、物語の重要な鍵を握る人物であることは間違いないようだ。主人公のモングレルとは直接関係のない場所で、アーレントさんがどのような動きを見せるのか、今後の展開が非常に楽しみである。

そして今巻では、モングレルの過去も少しだけ語られていた。明るく振る舞う彼の裏に、重くてひねくれた過去が隠されていたことを知り、胸が締め付けられるような気持ちになった。過去の経験が、今のモングレルを形作っているのだと考えると、彼の言動の一つ一つがより深く理解できるように感じられる。

物語の中心となるのは、レゴールのギルドにやってきた新人、レオを巡る三角関係だ。ウルリカの幼なじみであるレオは、爽やかな美少年で、ギルドの注目の的となる。モングレルも彼との親睦を深めようとするのだが、レオはなぜかモングレルにだけ”妙な視線”を送ってくる。この複雑な人間関係が、物語にどのような波乱を巻き起こすのか、目が離せない展開となりそうだ。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクタ

モングレル

現地暮らしの前衛であり、実用重視の職人気質である。仲間との関係づくりを重んじ、面倒見がよい立場である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド・ギルドマン。
・物語内での具体的な行動や成果
 東門外でゴブリンを討伐した。
 黒靄市場のメルクリオへ私製品を委託販売した。
 レオの試技で対戦し、弱点を突いて時間切れに持ち込んだ。
 王都護衛でケンとサリーを支え、移動と荷運びを担った。
 外交官アーレントを救助し、副長へ引き渡した。
 ライナと鳥撃ちを成功させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 若手の訓練に協力し、信頼を得ている。
 発明・衣類仕立てなど内職の幅が広い。

ケン

菓子職人であり、味と素材に強いこだわりがある。説明好きで暴走しやすい性格である。
・所属組織、地位や役職
 レゴールの菓子店主。
・物語内での具体的な行動や成果
 アイスクリームとビターゼリーを完成させた。
 伯爵邸のお茶会で提供し、場を和ませた。
 王都で素材探しと試作を続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 伯爵筋からの依頼を受ける技量を示した。
 ウイスキーとの組み合わせを広めた。

サリー

落ち着いた魔法使いであり、仕事優先の指揮者である。依頼の選択に厳格である。
・所属組織、地位や役職
 「若木の杖」団長。魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都行の護衛を引き受けた。
 光の魔法で宿の作業を支援した。
 伯爵邸で給水作業を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王都ギルドからの直接依頼を断る判断力を示した。

モモ

素直な性格の若手魔法使いであり、母を気づかう同行者である。
・所属組織、地位や役職
 「若木の杖」。サリーの娘。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都護衛に自発参加した。
 闇と水の魔法で補助を行った。
 宿と伯爵邸で雑務をこなした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実地経験を重ね、戦力として計算できる段階に入った。

レオ

礼儀正しい双剣使いであり、機動力に長ける新戦力である。ウルリカを強く慕う立場である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」。ブロンズ帯。
・物語内での具体的な行動や成果
 風の鎧で機動戦を展開した。
 試技でモングレルと交戦した。
 誤った風聞を訂正し、関係を修復した。
 王都で「エレオノーラ」として外出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 前衛要員として評価され、入団が決定した。
 対人戦の課題を自覚している。

ウルリカ

明るい性格の前衛であり、家事と調理にも強みがある。幼なじみのレオを支える立場である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」。前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 弱点看破で射撃精度を高めた。
 王都でレオの外出を助けた。
 クラン内の調理を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 新加入者の受け入れで信頼を得た。

シーナ

実務に強い団長であり、適材配置に長ける判断者である。柔軟さを重視する統率者である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」団長。弓手。
・物語内での具体的な行動や成果
 レオの面接と試技を主導した。
 冬季の任務方針を定めた。
 装備交換会で矢の回収を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 高額護衛の受注で評価を高めた。

ナスターシャ

無表情で理知的な魔法使いであり、設備と理屈に強い研究者である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」。魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
 クランハウスの湯沸かし器の開発に寄与した。
 冬のバロアの森の危険を説明した。
 王都で水供給の任務に従事した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実務面の要として存在感を示した。

ライナ

素直で努力家の弓手であり、初の王都に胸を躍らせる若手である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」。弓手。
・物語内での具体的な行動や成果
 寒中伐採で作業を進めた。
 セディバードの射撃を成功させた。
 外交案件の同行と報告をこなした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 遠征経験を得て成長が加速した。

ゴリリアーナ

寡黙な力持ちであり、現場作業に強い後衛である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」。前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 伐採任務で丸太を運搬した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 重作業の要員として信頼を得た。

バルガー

楽器を手にする中堅であり、実戦では体力面の課題を抱える。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都でリュートの練習を行った。
 修練場でレオの相手を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 若手との力量差を自覚した。

アレックス

冷静な剣士であり、実技に強い試験協力者である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド。
・物語内での具体的な行動や成果
 木剣でレオを制して勝利した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 技術の確かさを周囲に示した。

ジェルトナ

慎重な副長であり、危機管理に長ける調整役である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド・副長。
・物語内での具体的な行動や成果
 外交官アーレントの事情聴取を進めた。
 修練場での身元確認を主催した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上層との連携で事態を収めた。

ラムレイ

温和な長であり、実力評価に厳正な立会人である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド・ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
 アーレントの模擬戦を立ち会った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 判断の公正さで信頼を保った。

エドヴァルド

諜報寄りの呪い師であり、「月下の死神」と呼ばれる実力者である。
・所属組織、地位や役職
 ギルド諜報部。呪い師。
・物語内での具体的な行動や成果
 白頭鷲アーレントの相手役として模擬戦を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 近接でも高水準である点を示した。

ウィレム・ブラン・レゴール伯爵

慎重で誠実な当主であり、政略と安定を重んじる統治者である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都別邸でお見合い茶会を開いた。
 婚姻の意思を率直に伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ステイシーと婚約へ進む合意を得た。

ステイシー・モント・クリストル

行動的で礼節をもつ元騎士であり、現実的な視点で結婚に向き合う当人である。
・所属組織、地位や役職
 侯爵家の令嬢。元騎士団所属。
・物語内での具体的な行動や成果
 伯爵邸のお茶会で菓子を賞味した。
 ウィレムの申し出を受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 婚約の合意により公的な立場が動いた。

アーレント

サングレールの元聖堂騎士であり、「白頭鷲」の異名をもつ外交使節である。
・所属組織、地位や役職
 サングレール聖王国・聖務官。外交官。
・物語内での具体的な行動や成果
 森で保護され、ギルドへ引き渡された。
 模擬戦で実力を示し、本人確認に応じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 力の封印処置を受け、管理下に置かれた。

メルクリオ

抜け目ない露店主であり、素材の価値を見る目がある仲介役である。
・所属組織、地位や役職
 黒靄市場・露店主。
・物語内での具体的な行動や成果
 モングレル製の私製品を高値で売り切った。
 量産提案を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 仕入れ眼で市場の発言力を保った。

アーマルコ

職務に忠実な執事であり、場を整える管理者である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵邸・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
 ケンの長話を制止して連れ出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 茶会の秩序を維持した。

マシュバル

公平な試験官であり、剣技を見極める査定者である。
・所属組織、地位や役職
 ギルド・シルバー試験官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ロレンツォ戦を立ち会い、勝敗を確定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 判定の一貫性で信頼を得た。

ロレンツォ

突きに優れた剣士であり、冷静な立ち回りを見せる受験者である。
・所属組織、地位や役職
 ギルド・シルバー帯。
・物語内での具体的な行動や成果
 試験でウォーレンを先に倒した。
 モングレルとの一騎打ちを制した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 試験合格相当の実力を示した。

アレクトラ

飾らない物言いの女性であり、率直な欲求を語る常連である。
・所属組織、地位や役職
 レゴール伯爵領ギルド周辺の常連。
・物語内での具体的な行動や成果
 酒場の女子会で話題を引っ張った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 場の空気を変える発言力を持つ。

ジョナ

台所を支える内勤であり、気配りのできる年長者である。
・所属組織、地位や役職
 「アルテミス」台所担当。
・物語内での具体的な行動や成果
 待合室で茶を配り、場を整えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後方支援で信頼を得ている。

展開まとめ

プロローグ

流浪の過去と不安定な生活
語り手はレゴール伯爵領に落ち着く以前、ハルペリア王国を各地放浪していた。宿暮らしや野営を繰り返し、収入も住居も安定せず、幾度も騙され襲われたが、持ち前の力で切り抜けてきたのである。幼さゆえに怪しい流れ者でありながらも仕事を与えられ、雑用や魔物退治をこなしていた。

人の冷たさと出会いの積み重ね
その時代は人の冷たさや厳しさを知り、人間不信気味になった時期もあった。しかし旅の途中で良き人々と出会い、普通の人間として扱われたことで、この国を嫌い切らずに好意を持つに至ったのである。

第二の故郷としての定着
最終的に辿り着いたレゴール伯爵領は、長い時間を過ごす中で人間関係を築き、自らの立場を確立できた土地であった。完全に骨を埋める覚悟はないものの、強い愛着を抱く場所となっていた。

仲間と人との繋がり
気心知れた仕事仲間や街の友人たちに囲まれ、関係は拡大し続けていた。その中で語り手は、人は孤独よりも誰かと共にいる方が楽しいと実感していた。そして、その当然の事実を時に見失うこともあるのだと振り返っていた。

第一話 ゴブリンの襲来、砕け散る鎧

クランハウス完成の祝宴
若木の杖のクランハウスが完成し、ギルド酒場でメンバーたちが祝宴を開いていた。施工の難所は特注の湯沸かし器であり、その開発に貢献したナスターシャが功労者として紹介された。仲間たちは乾杯や拍手で賑やかに祝ったが、彼女は無表情でエールを飲み干していた。

鎧作りと金策の会話
その場でモングレルは黒靄市場で集めた金属札を編み込んで鎧を作成していた。これは戦場で散った兵士の装備の寄せ集めであり、完成品を売って金を得るつもりであった。若いギルドマンたちは起業のような発想で金稼ぎを語り合ったが、モングレルは現実を説き、地道な任務をこなすよう諭していた。

ゴブリン襲来の報せ
そんな折、衛兵が駆け込み、三十を超えるゴブリンの群れが東門に迫っていると告げた。緊急任務の発令によりギルド内は一気に引き締まり、複数のパーティーが出動を決めた。寒さを理由に動かない者もいたが、多くのギルドマンが次々に立ち上がった。

鎧の崩壊と怒りの討伐
モングレルも出陣のため鎧を持ち上げたが、繋ぎ方が悪く金属札は崩れ落ち、鎧は砕け散った。失態に場が静まり返る中、彼は怒りをゴブリンに向け、皆殺しを叫んで駆け出した。結果、東門外で五匹のゴブリンを討伐し、金属札は宿屋に積まれたままとなった。

第二話 新たなるオプションアイテム

金欠と冬季の稼ぎ口の不足
モングレルは深刻な金欠に陥っており、冬で任務も少なく過酷な作業を避けたい事情から、短期で高額を得る手立てを模索していた。貯金には手を付けたくない性分であり、以前に立てていた鎧の売上計画が崩れたため、代替の収益源を必要としていたのである。

アダルトグッズ再開の決断
モングレルは気乗りしないながらも、前回の実績から儲かると分かっているアダルトグッズの製作を再開する決断を下した。露出を避けるために宣伝は行わず、メルクリオへ委託して密やかに流通させる方針であった。

素材選定と製作方針
素材には前回同様ホーンウルフの角を用い、女性向けのストレート形状の品を三点と、端材を加工した楕円球を連結した道具を一点製作した。形状や衛生面を考慮しつつも、加工の手間や紐のコストに苦労していた。

メルクリオへの委託と販売準備
モングレルは完成品を黒靄市場の露店を営むメルクリオに託し、高値での販売を依頼した。メルクリオは材質の独自性を評価し、強気の価格設定で早期に結果を出すと請け負っていた。

日常業務と懸賞への参加
委託後、モングレルは都市清掃や伐採警備など地味な仕事をこなし、ギルドの昇級試験を見物しつつ、広場の懸賞で翌年の標語を繁栄と予想して応募していた。

完売報告と売上受領
数日後、メルクリオから全品完売の報告があり、モングレルは売上金を受け取った。強気の価格ながら、客は目の色を変えて購入したという。

購入者の傾向と心境
購入者は女性が中心で、前回の購入者の再来もあったと伝えられた。モングレルは娼館での使用を想起しつつも、破損時は即時使用中止と廃棄を望む立場を示していた。

量産提案の拒否
メルクリオは量産店の開業を提案したが、モングレルは即座に拒否した。利益を認めつつも、自身の矜持と心理的抵抗から継続的な事業化を望まなかったのである。

第三話 リュート弾きと尋ね人

収入確保と市場の買い出し
モングレルはいかがわしい道具の売上で当面の生活水準を維持し、市場巡りでスパイスやヤツデコンブを補充していた。残金は半分以下となったが、任務をこなしつつやり繰りできると判断していた。

酒場の盤上遊戲と即興演奏
ギルド酒場でモングレルはミルコとリバーシとムーンボードを組み合わせた即席の盤上遊戲に興じ、バルガーは買ったばかりのリュートで基礎練習をしていた。周囲の勧めでモングレルが演奏を始めようとすると、若木の杖の面々が集まり、曲の選定を巡ってやり取りが続いていた。

黒髪の来訪者と尋ね人の依頼
演奏の最中、ブロンズ2の認識票を下げた黒髪の青年がギルドに現れ、ウルフリックという名のギルドマンの所在を受付に尋ねていた。該当者が見つからず、代わりにウルリカの名が挙がると、青年は手紙の預かりを求めた。

レオの素性とウルリカの近況共有
青年は自らをレオと名乗り、ドライデン支部所属の剣士であり、ウルリカとは同郷で同い年の幼なじみであると明かした。モングレルはウルリカが現在アルテミス所属で貴族の護衛任務に出ており、明後日頃に戻る見込みであると伝え、レオは二日後に再訪する旨を述べて去っていった。

残された酒場の空気
演奏は中断されつつも続き、テーブルでは軽口が交わされた。モモはツインネックのような新型リュート構想を語り、ヴァンダールは難色を示しつつも耳を傾けていた。モングレルはレオの礼儀正しさと腕前に一定の印象を抱きつつ、ウルリカの帰還を待つ空気の中で酒場の時間を過ごしていた。

第四話 疾風の双剣使い

宿での再会と身の上
モングレルは二日後の朝、宿スコルでウルリカの幼馴染みであるレオと再会した。レオも同宿に滞在しており、ブロンズ2ながら二刀のショートソードを携え、自らの稼ぎに自信を見せていた。

朝食時の事情と移籍の理由
朝食を共にした二人は近況を語り合い、レオがドライデン支部からレゴールへ拠点を移す決断をした理由が、人間関係の悪化と戦時の試験前倒しを経た早期昇級にあったことを共有した。レオは幼少期から狩猟と解体に慣れ、技能習得が早い気質であり、村ではウルリカが中心的存在だったという回想を述べた。

アルテミスとの合流と試技の提案
ギルドに到着するとアルテミスが早期帰還しており、ウルリカ、ライナ、ゴリリアーナ、シーナらが談笑していた。シーナはレオの経歴を聞き、有望株として流出前に見極めたい意向を示し、修練場での試技を提案した。

試合開始と風の鎧
模擬戦はモングレル対レオで行われ、序盤はスキルなしの打ち合いとなった。レオは高い機動力と手数で圧をかけ、モングレルは盾受けとバスタードソードの間合いで対処した。続いてレオは風の鎧を発動し、速度特化の連撃で回り込みを強めたが、モングレルは軽量化という弱点を突いてバッシュで打ち上げ、距離を取って時間切れを誘発した。

実力評価と入団決定
シーナはレオをブロンズ上位相当と評価し、飛び道具耐性という役割面も含め高い適性を認めた。レオはウルリカ同様に男性である点を明言したうえで入団の意思を示し、シーナは柔軟性を掲げて受け入れを表明した。こうしてアルテミスに新戦力が加わり、モングレルは礼を述べつつも部外者として見守り、周囲は新加入を喜びながらも、女所帯に現れた美形剣士の加入が波風を立てる予感を抱いていたのである。

第五話 レオの入団案内

面接と経歴の確認
アルテミスのクランハウスで、シーナがレオの面接を実施した。レオはウルリカの同郷で猟師出身、剣の腕前に優れ村で一番の剣士だったと説明され、当人は緊張しつつも誠実に応答していた。加入は既定路線であったが、シーナは為人の確認を重視して形式を整えていた。

討伐実績と身体強化
レオはボリス村周辺でハルパーフェレットやホーンウルフを相手にし、双剣と防御寄りの装備で単独十五体ほどの討伐実績があると述べた。さらに魔力による身体強化を習得していると明かし、スキル無しでも対処可能であると説明した。シーナは前衛としての適性を評価した。

バロアの森と冬季事情の共有
ナスターシャはサンライズキマイラの存在が冬季のバロアの森に局所的な熱帯圏を生み、魔物が冬籠もりせず奥地で活動するため、冬は討伐に向かないと解説した。シーナは冬季狩猟の不可を明言し、他所から来た者が驚く特異性であると補足した。レオは迂闊であったと理解し、春以降の適応を誓っていた。

冬季の任務方針と雑務受け入れ
討伐が乏しい時期のため、レオには街中の仕事やクランハウスの雑務、内職に従事してレゴールへ慣れる方針が示された。レオは何でも取り組む姿勢を見せ、シーナとナスターシャは男手としての即戦力に期待を寄せた。

調理試験と台所事情
台所運営はジョナやフリーダら第一線を離れた面々が支えていたが、現役側の腕前は不均一であった。試しにレオが即席の昼食を用意すると、手際と味で合格点を得て、ウルリカと並ぶ調理担当を任されることになった。

工房設備と作業分担
アルテミスは矢の費用削減のため専用工房を備え、矢羽付けや再生作業を日常的に行っていた。レオには部屋の清掃や簡易作業に加え、剣の扱いに通じる鎌の研ぎを勧められ、手の空いた時に担当することで合意した。

部屋割りと心情の整理
クランハウスには空室があり、レオとウルリカには個室が与えられた。レオは好待遇に恐縮したが、ウルリカは努力の正当な評価だと背中を押し、レオは面映ゆさを抱えつつ自信を得ていた。

生活上の注意と賑やかな日常
ウルリカはレオに対し、シーナやナスターシャへの不躾な視線は厳禁であると注意を促した。討伐が始まるまでの間は実入りの少ない雑務が続く見込みであったが、レオは旧友にからかわれながらも、賑やかな日々の再来を喜んでいた。

第六話 送られ狼と眠れる獅子

エレオノーラとして育てられた過去
レオは男でありながら、悪代官による少年誘拐から逃れるため「エレオノーラ」として女装を強いられて育った経緯を回想した。父は「代官はいつか去る」と耐えるよう諭し、レオは振る舞い・言葉遣いまで女性として装って生き延びてきたのである。

羨望と救いとしてのウルリカ
同じ境遇の中、ウルリカは容姿と所作の自然さで周囲に受け入れられ、明るさで村の希望となっていた。レオは嫉妬と羨望を抱きつつも、その存在に救われていたことを自覚していた。

酒場での再会と現在の距離感
レゴールの酒場でレオとウルリカは再会し、かつての狩りの記憶と今後のアルテミスでの共闘を語り合った。ウルリカは依然として女性的な装いを保ち、レオは驚きと称賛を示した。話題はモングレルの戦闘力と人柄にも及び、レオは礼儀と清潔さに好印象を抱く一方、私的関係の気配に不安を覚えた。

色気の発露と揺さぶられる自認
酔いの回ったウルリカは、過去よりも「女の子」を体得したと示唆し、必要ならレオ(=エレオノーラ)にも「教える」と囁いた。この艶めいた物言いにレオは動揺し、自身の男性としての現在と過去の女装の記憶がせめぎ合う感覚に陥った。

送迎の帰路と芽生える警戒心
レオはウルリカをクランハウスまで送る道すがら、色香を帯びた変化の背景にモングレルの影を重ねて一瞬疑念を抱く。しかし会話の節々から悪意は感じられず、考えすぎと自制してその夜は休むことにした。かくして、レオの胸中には懐旧・嫉妬・保護欲が渦巻き、眠れる獅子のような警戒心が静かに芽生えていたのである。

第七話 美味しい酒と美味しいアイス

市場での邂逅と衝動買い
モングレルは冬の市場でウイスキーを発見し、値段も見ずに即購入。高価な一本を抱えてケンの菓子店へ駆け込み、試飲させる。

ケンの覚醒と提案
初ウイスキーに衝撃を受けたケンは「菓子に合う酒」と絶賛。モングレルは「店で扱え」と勧めるが、ケンは先約の“若い女性貴族向け・新作菓子”競作の話を明かす。モングレルは慢心しかけるケンを戒め、他店の台頭を指摘。

切り札=アイスクリーム
モングレルは “冬でも冷たい新菓子”としてアイスクリームを提案。材料は牛乳・生クリーム・卵黄・砂糖。氷室と塩で即席急冷し、途中かき混ぜを繰り返す。待ち時間、モングレルは修練場でチャックを適度にボコる。

完成、そして飛ぶ組み合わせ
夜、アイス完成。新鮮な乳と卵の旨さに二人で歓喜。さらにモングレルがウイスキーをひとたらし——ケンは「菓子×酒」の相性に再度驚嘆し、審査後に本格導入を検討すると宣言。

競作の相手と本当の相手
依頼主が「さるお方」=レゴール伯爵筋と知り、モングレルは内心青ざめるも路線は揺るがず。ケンは「負ける要素がない」と豪語し、伯爵も喜ぶと自信満々。モングレルはガッツポーズを決めつつ、心の中で(伯爵案件なら先に言え)と突っ込みを入れるのだった。

第八話 シルバー昇級試験

試験の趣旨と基準
ギルドではシルバー帯の昇級試験が実施中。ブロンズまでの緩さと違い、シルバーは信用・知識・規則理解に加え、対人戦闘力が厳しく査定される。実戦基準は「適当なブロンズ二人を制する力」。

ロレンツォ戦:モングレル+ウォーレン vs シルバー
試験官マシュバル立会いのもと、シルバー2のロレンツォに対し、お邪魔役としてモングレルとウォーレンが挑む。スキル禁止・木剣・有効打一発アウトの条件。
ロレンツォはロングソードの突きを軸にウォーレンを早々に撃破し、人数差を解消。以降はモングレルと一騎打ちへ。モングレルは突きを完封して斬りに誘導し、剣筋の総合力を観察。最終的に胴を受けて“死亡”扱いを自ら受け入れ、ロレンツォの勝利が確定。ロレンツォは手加減を見抜いて不満げだが、マシュバルが「勝ちは勝ち」と判定を締める。

レオの試技と力量感
別枠ではアレックスがレオの双剣を武器弾きで制して勝利。レオは木剣の扱いづらさと自らの未熟を認めつつ礼を尽くす。スキル(風の鎧)込みで本領を発揮するタイプだけに、シルバー帯の審査を見据え課題が明確化。

余韻と小さな距離
試験後、モングレルが声をかけるも、レオはどこか素っ気ない反応。モングレルは(手加減が癇に障ったのか)と内心で首をかしげつつ、時間が解決すると見て場を収める。全体としては、シルバーの「強さの壁」と対人基準の重さが改めて示された一日だった。

第九話 レオの風聞と冬の仕事

レオ加入の波紋と沈静化
アルテミスに黒髪二刀の美青年レオが加入し、女所帯への男加入という話題性でギルドは一時大荒れ。だがレオの礼儀正しさとウルリカの幼馴染みという事実が広まり、さらに大手パーティーの自浄通達で次第に沈静化した。

モングレルの違和感とライナの王都行き
モングレルは「レオが自分にそっけない」違和感をライナにぼやく。会話は春の王都インブリウム護衛任務へと移り、ライナは観光に胸を躍らせるが、モングレルは王都商人のぼったくり事情を警告する。

冬の稼ぎ—伐採任務
高価なウイスキーで再び金欠のモングレルは、寒中伐採で稼ぐことに。現場でレオとゴリリアーナに遭遇し、三人で手際よく作業を進める。丸太を軽々と担ぐゴリリアーナの怪力が光る。

レオの本心と噂の種
作業中、レオは「モングレルが暴力的」「ウルリカに酷いことをしている」といった風聞に影響され、最近距離を取っていたと打ち明ける。モングレルは即否定し、これまでの面倒見を挙げつつ笑い飛ばす。レオは謝罪して関係を修復、「悩みがあれば相談して」と互いに助け合いを約束する。

余韻
モングレルはレゴールの穏やかな秩序(大地の盾の統率)と、アルテミスの家族的な結束を再確認。レオは真面目ゆえにやや息苦しい面も見えるが、誠実さは本物。冬の静けさの中、春の狩場と王都行きに向けて、それぞれの立ち位置が少しずつ固まっていく。

第十話 冬の装備交換会

雪とウイスキーと足早の朝
雪が本格的に降り始め、モングレルはバルガーとギルドへ。馬車駅の報告ついでに、寒空の下で装備交換会に参加する羽目になる。

装備交換会の空気
会場は物々交換のみ。価値の端数は投げナイフや革端材などの消耗品で調整。武器は使い古しのショートソード、防具はハードレザーや凹んだ盾が多く、小物・補助具の需要が高い。大地の盾は修繕前提の防具を大量回収して会を活気づけ、若木の杖の魔法装備は客層が薄く不人気。アルテミスは矢の回収・再利用を中心に立ち回る。

それぞれの“得”と“欲”
シーナは半矢の矢を丁寧に買い戻し、コスト圧縮。ウルリカは使用済み胸当てを“思い出込み”の強レートで交換し、相手は満面の笑み。ライナはサイズが合わず装備探しに難航。

モングレルの物色と珍品
モングレルは端材や投擲具を狙うも“チャクラム無し”に落胆。自分のテーブルへ戻ると、アレックスが鉄製グリーブに目を留める。踵の“ピザカッター”が実は拍車だと判明し、騎兵装備であることを教わる。買い取り希望に対し「面白い武器かチャクラムがないなら不可」と突っぱねる。

十徳ナイフとの遭遇
ライナに呼ばれて見に行くと、出品台にモングレル自作の十徳ナイフ。出品者は酔狂で買ったが不便と交換希望。モングレルは「滅茶苦茶欲しいが交換しない。買ったお前が末永く使え」と断固拒否。

締め
収穫ゼロのまま撤収。モングレルは「面白みに欠ける真面目な装備ばかり」とぼやきつつ、拍車付きグリーブの冷たさに足を凍らせて帰路についた。

第十一話 第一回女だらけの猥談インタビュー

雪と女比率MAXの酒場
雪が舞うなか、色街「砂漠の美女亭」で特別ダンスがあるせいで男連中は外出。ギルド酒場は珍しく女だらけに。シーナ、ナスターシャ、ウルリカ、ライナ、サリー、ミセリナ、モモ、バレンシア、そしてアレクトラが卓を囲む。レオも同席しても全く動じず。

アレクトラの大暴投トーク
アレクトラは「男抱きてぇ」「結婚したい」と欲望ダダ漏れ。かつてディックバルトを誘ったら“料金交渉”を始められて萎えた過去を吐露。三十路オーバーの色恋ぼやきが場を支配。

結婚観とちらつく百合
サリーに「結婚のコツ」を雑に尋ね、シーナとナスターシャには結婚願望の有無を直撃。二人は今は仕事優先のスタンスながら、どこか親密な空気が漂う。

モングレル参戦→猥談加速
モングレルが合流すると話題は性と発散へ。モングレルは「風俗だけが手段じゃない、男は皆どこかで処理してる」と赤裸々告白。ティッシュの無い世界での“過酷な現実”を語り、ライナとモモはドン引き。ナスターシャは学者目線で「男の精神性は不便」と総括。

レオへの釘刺しとウルリカの無邪気
シーナはレオに「同意なしの接触は即射撃」と厳命。レオは冷静に「その時は脳天を撃って」と応じる。ウルリカは相変わらず無邪気で、モングレルの“連れション”話にさらっと乗りかけて周囲を慌てさせる。

オチ:現実逃避のアレクトラ
酒量を重ねたアレクトラは、妄想の結婚から“娘の結婚式”にまで話を飛躍。モングレルが(まず自分の結婚が先だろ)と心中でツッコみ、女だらけの夜は猥談とため息に包まれて更けていく。

第十二話 たまには宿で服作り

ぐしゃ雪と内職デー
雨で雪がボドボド。外出は捨て、モングレルは発明ではなく“自分が着て満足できる”ものづくりへ。今日はクロスレザーで春用シャツを仕立てることに。

クロスレザーの利点
布のように通気する高級革(若羊ほど薄手)。ヤスリ&叩きで質感を布寄りにでき、上等服の素材として人気。既製服より“便利&快適”を狙い、ポケット盛り盛り設計。

安全ギミックを検討
噛まれた瞬間に香の灰が漏れて魔物を退ける“反応装甲”チューブを思い出すが、シャツ/ベストには仕込みづらいと見送り。手袋や靴には応用の余地。

縫いながら脱線する頭の中
・雨具→既にポンチョあるし革新性薄
・アイロン→作れるが大流行までは…
・靴→動きやすさを底上げできる最有力候補
・指にブスッ→輸血や血液型に思いが飛ぶが、禁忌や設備の壁で即ボツ。まずはヒーラー育成と止血法が現実的
・活版印刷→影響がデカすぎるので封印(伯爵も王都も揉める未来が見える)

完成、からの凡ミス
型紙の微調整が効き、シルエット・着心地は上々。ただし“巨大ポケット”にボタンを縫い込んでしまう痛恨の人災。最終的にポケットを一つ外してリカバリー(針穴はヤスリで目立たなく処理)。

――雨音をBGMに、モングレルの「便利で格好いい」春シャツ、一応の完成。次は靴、かもしれない。

第十三話 置き去りの禿鷲

鳥撃ちの計画と季節の狩り
モングレルとライナは春先のバロアの森に入り、セディバードという水辺の鳥を狙うことにした。セディバードは鳩ほどの大きさで白っぽい燕のような姿をしており、貝を食べる習性から内臓に「虹色真珠」を宿すことがあるという。鳥撃ちは小規模な稼ぎだが、狩りの雰囲気を味わうには十分であった。

森の入り口での異様な人物
森の入口に立っていたのは五十代の筋骨隆々の男で、頭頂部は禿げていた。名はアーレントと名乗った。彼は真冬に夏服同然の格好で震えており、火を求めて声をかけてきた。ライナが火打石で焚火を起こし、モングレルと共に暖を取らせた。

置き去り事件の経緯
アーレントは本来、護衛として雇ったギルドマンたちと共に行動していたが、野営中に荷物ごと姿を消され、薄着で森に取り残されたと語った。彼らは「月の騎士団」と名乗っていたが、真偽は不明であり、金品を奪ったうえでアーレントを凍死させる意図があったと見られた。

救助と同行の決定
目的地が同じレゴールであることから、モングレルとライナは彼を街まで送り届けることを約束した。ライナは保存食を分け与え、アーレントは感謝の涙を流した。二人は「夕方に獲物を持ち帰り、一緒に食事をしよう」と提案し、アーレントも承諾した。

狩りの再開と新たな目的
当初は気楽な鳥撃ちのつもりだったが、アーレントに振る舞うための食糧確保が加わり、任務に責任が生じた。モングレルとライナは三羽以上を狙う目標を掲げ、再び森へと足を踏み入れた。

第十四話 食欲と平和のハト

セディバードを求めての狩猟開始

モングレルとライナは、アーレントを焚き火で暖めつつ休ませた後、狩猟に向かった。狙いはセディバード三匹であり、必要数を確保したら戻る計画であった。ライナは見事に一匹目を矢で仕留め、二匹目もモングレルが外した直後に迅速に射抜いた。三匹目はモングレルがチャクラムを用いて首を切断し、初めて遠距離武器で成功を収めた。これにより狩猟は順調に進行し、短時間で目的を達成した。

アーレントの焚き火失敗と再会

森を抜けて戻った二人は、火が消えてしまった現場でアーレントと再会した。アーレントはモングレルが用意した毛皮で寒さをしのいでいたものの、自力で火を保つことに失敗していた。原因は、生木であるバロアの枝を大量に投入したことにあり、焚き火に不慣れな様子が露呈した。ライナは再度火を焚き直し、調理に取りかかることとなった。

食事と異国の来訪者の正体

羽根をむしり、セディバードの肉を串焼きにして塩だけで味付けした料理は、アーレントの空腹を満たした。特にモツ系の部位は栄養補給のために彼に分け与えられた。アーレントは感謝の言葉と共に、自身の境遇を語り出した。荷物を盗まれ、道に迷って命の危機に瀕していたところをモングレルたちに救われたのだという。

外交官アーレントの正体と衝撃の告白

会話の中で、アーレントは自らをサングレール聖王国の外交官であると明かす。ハルペリアとの国交樹立のため、書状を携えて来ていたが、それを紛失してしまったという。自身の政治的知識の乏しさを自覚しながらも、国の命により任務を引き受けていたと語る様子には、場違いな人選への不安を感じさせた。さらに、護衛なしで単独行動を選んだ理由も語られたが、その判断が危機を招いたことは明白であった。

危うさを孕む外交とギルドの失態

ライナとモングレルは、アーレントの無防備な行動とギルドマンの護衛という安易な選択に対し強い疑念を抱いた。アーレントが語る任務の重要性に比して、その振る舞いは軽率すぎた。国交正常化のための使節であるならば、あまりに不用心な失策であり、外交的な緊張を招きかねない事態でもあった。

第十五話 おい、厄ネタ食わねえか

外交官アーレントの危険性と対応方針

モングレルは、護衛もなく単独でハルペリアに現れたアーレントの不用心さに驚愕していた。重要書類の紛失や身包みの剥奪といった状況は、外交的な火種になりかねず、ただの旅行者としては扱えないと判断した。そのため、穏健派の貴族やギルドに引き渡す方針を決め、特に戦争過激派の貴族に接触させないよう慎重な行動を選んだ。

入城計画と身分の一時偽装

モングレルはアーレントを安全に街へ迎え入れるため、彼を旅行者として振る舞わせるよう提案した。門番には素性を伏せ、ギルドへ直行する方針を取る。アーレントも協力的に武器の預かりを申し出た。馬車を捕まえ、東門を通過した際も特に追及されることはなく、アーレントの素直な受け答えもあって観光客として扱われる結果となった。

ギルドへの到着と副長との接触

ギルドに到着した一行は、さりげなく行動しつつ副長のジェルトナを訪ねた。モングレルは要人の同行を伝え、個室での対応を依頼する。観光に見せかけたやり取りを経て、アーレントをギルドの応接室に案内し、ようやくモングレルは事態を他者に委ねることができた。

外交官としての事情説明と副長の困惑

アーレントは自己紹介を行い、サングレールからの外交使節であり、国交正常化のために派遣された旨を説明した。だが、護衛として雇ったギルドマンに裏切られ、書簡と荷物を盗まれた経緯を明かす。水浴び中に上着も奪われ、凍死しかけていたところをモングレルたちに救われたという。

副長の反応と事情聴取の開始

ジェルトナ副長は、門番を通さず自分のもとに連れてきたモングレルの判断に頭を抱えつつも、事態の重大さを理解し、アーレントに出国からの時系列に沿った詳細な説明を求めた。アーレントも書簡の回収を願い、話を始めようとする。モングレルは副長と娘の約束を潰してしまったことに恐縮しつつも、外交問題回避のためにはやむを得ないと覚悟を固めていた。

第十六話 込み入った話のバトンタッチ

アーレントの正体と任務の背景

アーレントは自らの素性を明かし、フラウホーフ教区出身の元聖堂騎士団であり、「白頭鷲」と呼ばれた人物であると語った。現在は終戦派であるドニ神殿長の補佐として、聖務官の立場で活動している。ハルペリア訪問はドニ神殿長からの書簡をウィレム・ブラン・レゴール伯爵へ届けるためであり、それが「友好関係を結ぶための第一歩」とされていたが、肝心の書簡は盗まれてしまっていた。

無防備な旅路とギルドマン誤認の失策

アーレントは補佐官を伴わず、一人でスピキュール教区からトワイス平野を越え、ハルペリアへ入国した。国境検問にかからなかったのは、襲撃による道の逸脱が原因であった。その後、ベイスンのギルド前でたむろしていた若者たちに護衛を依頼したが、正式な手続きを踏んでおらず、偽のギルドマンに荷物と書簡を奪われた。彼らは「月の騎士団」と名乗っていたが、その名称はギルドで認められないものであり、偽名であった可能性が高いと副長は判断した。

白頭鷲の真偽と過去の因縁

副長ジェルトナはアーレントの正体を確認するため、名乗りの証明を求めた。アーレントは過去にサングレール軍として数々の戦場で戦い、ナックルダスターのみで敵を倒したと語るが、今はその名残も薄れ、外見は「白頭鷲」よりも「禿鷲」に近いと揶揄された。ライナはサングレール軍人への不信から複雑な感情を抱いたが、アーレントは戦争の責任を受け止めた上で、聖戦終結のために残りの生涯を捧げる覚悟を示した。

身柄拘束と力の確認への同意

副長はアーレントの戦闘能力を確認し、必要に応じて貴族街との折衝に備えることを決定した。そのため修練場での実力確認を提案し、並行して盗難事件の調査も進めることとなった。アーレントは監視と拘束を受け入れつつ、希望として粥の提供を喜んで受け入れた。

任務の終結と報酬の受け取り

モングレルとライナはアーレントの引き渡しを無事に終え、ジェルトナから特別報酬を受け取ることとなった。ギルドの酒場では無料での飲食を許可され、ようやく安堵の時間を得る。ライナは政治の複雑さに戸惑いながらも、モングレルの助言に耳を傾ける。モングレルもまた、派手さのない日常を好む心情を語り、共に笑いながら杯を交わした。彼らは慎ましい暮らしの中にこそ幸福があることを改めて実感していた。

第十七話 白頭鷲の証明

アーレントの真偽確認のための模擬戦

夜のギルド修練場にて、アーレントの身元を確認するための戦闘試験が行われた。照明魔法のもと、ギルド長ラムレイと副長ジェルトナの立ち合いのもと、相手役には“月下の死神”と呼ばれる呪い師エドヴァルドが選ばれた。彼は諜報部所属の精鋭であり、近接戦でも一般のギルドマンを凌駕する実力者であった。

基礎戦闘で示された規格外の実力

最初の戦闘はスキルなしの制限付きで始まった。アーレントはゆっくりとした動きの中に精緻な型を交え、エドヴァルドを確実に追い詰めた。速度を上げた後はさらに攻撃の密度が増し、エドヴァルドの強化魔法をもってしても防戦一方となる。格闘術の完成度と攻撃の正確性は、見る者すべてを驚嘆させた。

スキル解禁と白頭鷲の戦闘技術

エドヴァルドの要請によりスキルの使用が許可され、アーレントは「鳥瞰」および「羽根舞踏」などの高度な戦術を展開した。俯瞰視点と空中機動による立体的な攻撃により、エドヴァルドの全方位防御魔法をもってしても完全には防ぎきれなかった。模擬戦の最終局面では、象徴的なスキル「圧撃」を寸前で止めて見せ、その戦闘力の本質を明確に示した。

圧倒的な戦闘力と正体の確証

アーレントの戦いぶりは、サングレールにおいて語られてきた伝説の「白頭鷲」そのものであった。ラムレイとジェルトナもその実力に疑う余地はなく、アーレントが本物であると確信するに至った。しかしその一方で、彼が本気で暴れた場合の被害を想像せずにはいられず、両者とも内心では畏怖の念を抱いていた。

拘束と力封印の必要性の認識

模擬戦後、アーレントには呪具による力の封印処置が必要と判断され、全会一致で即時の装着が決定された。外交使節に対する無礼を承知の上での対応であったが、安全確保のためにはやむを得ない措置であった。これにより、アーレントの貴族街への出入りや交渉は当面制限されることとなった。

証明と代償、そして沈黙の承認

アーレントは力によって自らが「白頭鷲」本人であることを証明し、同時にその力ゆえに拘束される運命を受け入れた。すべてを終えた彼は、ややもの悲しげに眉を垂らしつつも、与えられた役割と制約を静かに受け止めていた。彼の証明は終わったが、戦いの痕跡は観る者に強い印象を残していた。

第十八話 狩猟本能の捌け口

ギルド内の異変とアーレントの余波

モングレルとライナは、アーレントの件が極秘であるがゆえに続報を得られずにいたが、ギルドへの異様な来客の増加から重大事であることを察していた。特に“月下の死神”が連日顔を見せるなど、尋常ではない様子であった。これは副長ジェルトナが上層部と連携を取り、慎重に動いている証とも言えた。

戦争と訓練の温度差

ギルド内では、戦争の可能性についての話題も交わされた。バルガー、レオ、ウルリカらとモングレルは、過去の戦争や訓練の必要性について語り合った。レオは対人訓練の不足と二刀流ゆえの防御の脆さを自覚し、ウルリカは自身のスキルが地味であることに不満を漏らしていた。冬季は魔物狩りが困難なため、スキル成長の機会が減り、焦りを募らせる者も少なくなかった。

模擬戦の実施とモングレルの献身

訓練不足のウルリカとレオのために、モングレルは防具を装着して矢の標的役を引き受けた。修練場では模擬戦が始まり、バルガーはレオの相手を、ウルリカはモングレルに対して射撃練習を行った。ウルリカは補助スキル「弱点看破」を発動し、より正確な射撃を披露した。矢は次々と命中し、モングレルは痛みに耐えながらも訓練に協力した。

訓練の成果と世代差の実感

モングレルはスキルが生まれることはなかったが、ウルリカは満足げであった。一方、バルガーはレオの動きに圧倒され、体力的な限界を感じていた。こうして若手と中堅ギルドマンたちは、それぞれの立場から訓練と実力向上に向き合う時間を過ごした。モングレルは苦笑しながらも、こうした日常が戦いの緊張を和らげる一助になっていることを実感していた。

第十九話 春前の任務受注

春の気配と稼ぎへの焦り

春の訪れが近づき、街は活気を取り戻し始めていた。モングレルは小物討伐や工事手伝いで細々と稼いでいたが、大きな金にはならず不満を抱えていた。物流の活発化に備えて出費も増える中、より稼げる仕事を求めていた。

ケンからの護衛依頼と指名受注

そこへ現れたのは菓子店主ケンであった。王都インブリウムへの個別馬車による移動を控え、護衛を探しているという。モングレルは信頼されて指名され、依頼を快諾する。依頼者との親しい関係性もあり、彼はやる気を見せたが、旅程が数日間に及ぶと聞かされやや動揺する。

同行者選びとアレックスの辞退

ケンは同行護衛としてモングレルの知人アレックスにも声をかけたが、彼は広域討伐任務で多忙のため辞退した。護衛の人数は増やす予定であり、今後の編成に期待がかかる。

王都事情と発明文化の興隆

アレックスとの会話で、王都でも発明品の品評会が開催されていることが明かされた。モングレルはそれに興味を示し、発明こそが人類の進歩だと語った。加えて、王都の特産である魔除け香木が土産として話題に上がり、文化的な話題にも花が咲いた。

任務の概要と覚悟の確認

ケンは正式に依頼を発注し、モングレルはその場で受注を決定した。しかし任務の日数が複数日に及ぶと聞かされ、少し戸惑うものの受け入れることにした。任務の詳細は後日共有される予定であり、モングレルは内心で覚悟を決める。周囲の仲間からはからかわれつつも、王都行きへの期待を高めていった。

第二十話 二人目の便利な随行員

王都インブリウムの現実と警戒感

モングレルは王都への同行が決定したものの、その地に対して複雑な感情を抱いていた。王都は地方出身者にとって憧れの地であると同時に、詐欺や差別に満ちた挫折の場でもある。特にサングレール系の血を引く者には露骨な態度を取られるため、モングレルは王都をあまり好んでいなかった。

ケンの依頼と重要任務の背景

ケンが受けた依頼は、レゴール伯爵からの菓子提供依頼であり、王都でのお茶会で高級菓子を振る舞うという重要任務であった。以前の菓子コンペで好評を博したアイスクリームを改良し、貴族向けに提供する予定であり、材料選びからケン自身が手がけるという徹底ぶりであった。

任務内容と報酬の確認

モングレルは護衛内容を確認し、道中の護衛、王都内での買い物同行、荷物持ちなど多岐にわたる任務を引き受けることを了承した。報酬も十分であり、腕に覚えのあるモングレルにとって断る理由はなかった。

サリーという人選と交渉の成功

火と水の両魔法を扱える魔法使いとして、モングレルはサリーの名を挙げた。ケンは報酬面に糸目をつけず即決し、モングレルはギルドでサリーと接触する。パーティー“若木の杖”の団長でもあるサリーは、条件を聞いたうえで任務を引き受けることを快諾した。

任務体制の確定と再編成への期待

サリーとモングレルは再びペアを組むこととなり、前衛・後衛の役割分担も明確にされた。サリーの存在によって危険度が下がることが予想され、モングレルは荷物持ちの任務が主になりそうだと感じていた。任務そのものは長期にわたるが、食材探索や貴族との接点など、刺激も多い旅となることが予想される。

レゴール伯爵との接点を願って

任務の背景にはレゴール伯爵の名があり、モングレルはその人物と直接会う機会が得られればと淡い期待を抱いていた。しかし護衛という立場上、その可能性は低く、実現は困難だと理解していた。にもかかわらず、王都行きには確かな興奮と展望が含まれていた。

第二十一話 整備された街道と宿場町

王都への出発と意外な同行者

出発日、モングレルたちは西門の馬車駅で集合し、王都への旅を開始した。依頼主のケンと、護衛のサリーに加え、サリーの娘モモが突如として参加することになった。モモは母親の単独行動を危惧して同行を希望し、報酬不要で戦力にもなると申し出た。ケンも了承し、魔法使いがさらに一人加わることとなった。

快適な街道と宿場町の利便性

王都へ向かう街道は整備が進んでおり、馬車の移動は比較的快適であった。移動用の定期便ということもあり、護衛たちも荷台でくつろぐ余裕があった。道中に通過する宿場町ブレイリーは、馬の世話や宿泊施設が充実しており、旅人の拠点として発展している。モングレルはかつての宿暮らしの経験から、安心できる宿の選定を自ら申し出た。

街道での警戒と衛兵の巡回

街道では治安維持のために衛兵が巡回しており、馬車が呼び止められる場面もあったが、それは積み荷の確認が目的であり、危険はなかった。ケンは一時的に暗殺者の襲撃かと勘違いして慌てるが、モングレルたちは冷静に対応し、不審物が道を塞いでいる場合の注意点も共有した。

モモの魔法能力と戦力評価

モモは闇と水の魔法を得意とし、幼少期から教育を受けていた。母のサリーが光魔法の使い手であることから、あえて対となる属性を学ばせた経緯が語られた。実戦経験こそ浅いものの、戦力としては頼もしい存在であり、今後の護衛任務でも期待がかかる。

ブレイリーの因縁と個人的回避

宿場町ブレイリーにはモングレルの祖父がかつて宿屋を営んでおり、その因縁があった。祖父との関係は良好ではなく、かつて「もう顔を出すな」と言われたことから、今回もブレイリーでは祖父の宿を避けるつもりであった。個人的な事情から距離を取る姿勢を崩さず、宿の選定にも慎重を期していた。

第二十二話 突き返された二人分の墓

王都への道のりとモモの同行

モングレルは依頼主ケンの護衛として王都への旅に出発し、サリーとその娘モモと合流した。モモは心配のあまり自ら馬車に乗り込み同行を決めた。彼女は闇魔法の使い手であり、護衛戦力としては十分であると判断された。馬車にはケンの菓子作りの材料が大量に積まれ、荷物運びは自然とモングレルとモモの仕事となった。

整備された街道と宿場町ブレイリー

旅の道中はよく整備された街道を進み、宿場町ブレイリーで一泊することとなった。ブレイリーは宿や馬具、飯屋が並ぶ典型的な中継地で、モングレルはその地に詳しかった。宿選びでは、サリーの過去の体験から宿主の人柄や部屋の位置に気を配るべきと助言がなされ、旅慣れた者としての知識が共有された。

馬車内での揺れと発明への関心

馬車の揺れに不満を漏らすモングレルに対し、モモは揺れを抑える装置を本気で考え始めた。街道では衛兵による検問もあったが、盗賊の危険性は低く、特に街道周辺では襲撃の例も稀であった。ケンの過剰な警戒に対し、モングレルが冷静に説明することで場の空気は和らいだ。

モングレルの過去とブレイリーでの拒絶

馬車で眠りについたモングレルは、十歳の頃にブレイリーを訪れた忌まわしい記憶を夢に見た。戦火に焼かれた故郷シュトルーベから両親の遺骨を携えて祖父ビルを頼ったが、「混じり者」と罵られ宿泊を拒否された。両親の遺骨の埋葬も断られ、わずかな銀貨とともに追い出されるという仕打ちを受けた。窓越しには祖母の罵声も響き、モングレルは絶望の中、両親の墓を自らの手でシュトルーベに建てる決意を固めた。

王都への到着と再出発の決意

目覚めたモングレルは、悪夢を見たことを仲間に隠しつつ、王都への到着を迎えた。ケンは市場巡りを楽しみにしており、サリーは魔道具店の訪問を考えていた。モングレルは護衛としての任務を再確認しつつ、久しぶりの王都の空気を少し楽しむ余裕を見せた。過去の記憶に引きずられながらも、今を前に進む覚悟を固めていた。

第二十三話 インブリウムの夕暮れ

王都インブリウムへの到着

モングレルたちは王都インブリウムの関所を通過し、馬車駅に到着した。王都らしく出入りが多く、靴磨きや荷物持ち、観光ガイドを名乗る胡散臭い人物もいたが、ギルドマンの護衛がついていることで干渉を避けられた。ケンはかつての馴染みの宿へ向かい、厨房付きの宿を確保した。市場に近く、調理にも適したその宿は高価ではあったが、ケンにとっては理想的な場所であった。

王都の街並みと差別の気配

王都ではモングレルに対して敵意を向ける者もおり、差別意識の強い衛兵への警戒から慎重に行動する必要があった。任務中であることを強調し、問題を避ける工夫を凝らしていた。王都の街並みを歩く間、ケンはお菓子作りへの意欲を見せ、再び活発な市場へと足を運ぶことを望んでいた。

市場での食材探しとケンの創作意欲

夕暮れ時の市場は活気を失っていたが、ケンは干しクラゲなどの食材から発想を得ようと試みた。食材を丁寧に吟味する姿勢により移動は少なかったが、明日からの買い出しのペースに一抹の不安を覚える者もいた。結局この日は控えめな買い物で終わり、宿へ戻って夕食の準備を始めることになった。

宿での夕食準備と光魔法の支援

ケンは宿に飯場がないため、自ら料理を担当することになった。サリーは調理のための光魔法を天井に固定し、安定した明かりを提供した。モモは水の補充などの雑務を買って出て、ケンの寛容さとモモの責任感が表れた場面であった。モングレルは「全力で寛ぐ」と宣言しつつも、手持ち無沙汰に隣室へと移動した。

湯沸かしをめぐるやりとりと個人のこだわり

モングレルはモモとサリーにお湯を魔法で出してもらうよう依頼し、自身の清潔さへのこだわりを明かした。モモは渋々応じたが、温度の微調整には真剣に取り組む姿勢を見せた。サリーもモングレルの習慣に共感を示し、宿屋での快適さを高める工夫がなされていた。

明日からの本格的な護衛に備えて

ケンが市場での活動に早朝から動く可能性を考慮し、一行は翌日の行動に備えることにした。モモは自分の同行が問題ないか不安を抱いていたが、モングレルはケンの了承があれば問題ないとし、彼女の魔法での支援を肯定した。ただし、同行者のサリーが食事への不満を口にする可能性があるため、モングレルは念を押して釘を刺した。

穏やかな夕食と満足な宿泊環境

ケンの料理は無難に美味しく、サリーもケチをつけることなく穏やかな夕食となった。良質な食事と快適な寝床を得られる今回の仕事に、モングレルは満足感を覚えていた。王都での生活は始まったばかりでありながら、すでにその居心地の良さを感じさせる幕開けとなった。

第二十四話 アルテミスの荷造り

王都行きに向けた準備と期待

クラン「アルテミス」の面々は、王都への重要任務に向けて身支度を整えていた。中でも最年少の弓使いライナは初めての王都訪問に浮かれており、観光への期待を隠しきれない様子であった。団長シーナは任務最優先であることを釘刺しつつも、ライナの様子を優しく見守っていた。

要人護衛任務とその意義

今回の任務は、王都からレゴールまで侯爵家の女性ステイシー・モント・クリストルを護送するという内容であり、さらに王都でも彼女と面会するという珍しい依頼形態であった。報酬は高額で、貴族の護衛という実績もクランにとっては大きな箔付けとなる。これが成功すれば、シーナやナスターシャのゴールド昇格にも寄与する可能性があった。

ナスターシャの別任務とシーナの協力

ナスターシャは王都で魔法の塔に水を補充する地味ながら重要な任務に従事することになっていた。魔力節約のため、野鳥駆除などにはシーナの協力を仰ぐこととなり、二人は現実的な作業に向けた段取りを確認し合っていた。

王都への個人的な期待と買い物の話題

ゴリリアーナも王都訪問を楽しみにしており、長持ちするポーションや香水などの買い物について話が弾んでいた。任務優先であるとはいえ、王都での自由時間を活用したいという気持ちは隊員たちに共通していた。

レオとウルリカの会話、服選びの本音

ウルリカは王都初訪問となるレオの部屋を訪れた際、彼が女性用のロングスカートを取り出している場面に遭遇した。レオは言い訳をしようとしたが、ウルリカはすぐに見抜き、持って行くよう勧めた。ウルリカはレオが自分らしい装いを選ぶことを後押しし、一緒に王都で服を選ぼうと提案した。レオは最初こそ消極的であったが、ウルリカの言葉に後押しされ、最終的に協力を頼むことにした。

同好の士としての絆の形成

服選びを楽しそうに語るレオの姿を見たウルリカは、ようやく趣味の合う仲間ができたことを喜んでいた。普段はお洒落に関心を示さない他のメンバーに対し、レオとのやり取りは新たな絆を感じさせるものであった。

昇格への意欲とさりげない想い

レオは今回の任務を機にブロンズからシルバーへの昇格を目指しており、そのためにも気を引き締めていた。一方で、ウルリカの横に並びたいという本音も漏らし、その言葉は彼女に強く印象を残した。ふざけ合う中でウルリカはレオに抱きつき、冗談めかした会話を交わすなど、二人の距離はさらに縮まっていった。

旅立ちを前にした静かな決意

翌日に迫った王都への出発を前に、レオは再び女性用衣類を手に取り、静かに荷造りを進めていた。新たな仲間との関係、任務への意欲、そして自分らしさを模索する時間が、静かに流れていたのである。

第二十五話 よそ者に甘くない

ケンの菓子作りと素材探し

王都滞在中、ケンは本番に向けたお菓子作りに没頭していた。市販の粉では満足できず、王都で購入した粉を試しながら理想の食感を模索していた。試作品は美味だったが、ケンは食感や仕上がりに納得せず、素材探しに出かけることを決意した。

買い出しに奔走するケン

市場ではスパイスや果物など、目に留まった品を次々と購入していくケンの姿があった。乳製品については日持ちの観点から使用を断念し、代替素材による品質向上を模索していた。王都の物価の高さや品揃えの良さに感嘆しつつも、彼は日々の仕込みを繰り返していた。

甘味への飽きと各自の自由行動

三日間にわたるケンの試作により、同行者たちは甘いものに飽き始めていた。モングレルは甘味中心の食生活に疲れを感じ、街に出てしょっぱい料理を求める決意を固めた。ケンに断りを入れた上で、彼は自由行動に出ることにした。

三者三様の行き先

サリーは王都の魔法商店に、モモは同行し、モングレルは武器屋を訪れることとなった。モングレルはサリーから魔法の習熟用指輪を使うよう求められたが、気乗りしない様子であった。彼は魔法に関心を示さず、武器屋を優先して行動した。

武器屋での情報収集と交流

王都の武器屋では、よそ者であるモングレルに対し多少の警戒はあったが、ギルドマンの証で辛うじて入店が許可された。彼はチャクラムの値段を確認し、店主との雑談を通じて戦争後の装備需要の変化や、装備の傾向について情報を得た。クッキーを振る舞いながら、軽い交流を楽しんだ。

王都ギルドの雰囲気と食事

その後、モングレルは王都のギルドを訪れた。建物は大きく、格式を感じさせる造りであった。視線を意識しつつも自然な態度で依頼掲示板を確認し、酒場の空いた席に落ち着いた。王都ギルドの酒場は整備されており、田舎のギルドと比べて気品ある落ち着いた空気が漂っていた。

異なる空気の中での安堵

モングレルは馴染みのない空気の中でも落ち着きを保ち、チキンソテーとクラゲの酢の物を注文した。甘味に飽きた彼にとって、王都ギルドの食事は何よりの癒しであり、たまにはこうした空気に触れるのも悪くないと感じていた。

第二十六話 古巣に来る人

夕刻のギルドとよそ者の視線

王都ギルドの酒場は夕方に近づくにつれ賑わいを増していった。護衛任務を終えたギルドマンたちが続々と戻り、会話と装備の華やかさで場が満ちていった。パーティー単位で活動する王都の風潮は、装備の見た目にこだわる者が多く、それがそのまま実力の証明ともなっていた。

キースとの出会いと勧誘

酒を楽しんでいたモングレルの元に、青髪の剣士キースが現れた。王都を拠点とする「青い旗の守り手」の副団長である彼は、モングレルを下部メンバーとして勧誘した。ギルドハウス完備、実績次第で昇格も可能と甘い誘いを見せたが、モングレルはその言葉の裏に搾取的な構造を感じ、即答は避けた。

“若木の杖”の来訪と空気の一変

そこに現れたのが、サリーとモモの親子であった。サリーが「若木の杖」の団長として王都ギルドで知られた存在であったため、周囲はざわめき、キースもその名前に驚愕した。サリーはモングレルとの関係を明示し、下部組織の勧誘を強引に断ると、席も譲るよう求めた。キースは渋々退いた。

再会と食事、昔のギルドの面影

三人は空いた席で改めて食事を注文した。サリーは炭酸抜きエールやオリーブを楽しみ、王都ギルドの変わらぬ雰囲気に懐かしさを覚えていた。レゴールと比べて清潔感や設備の充実度に優れ、モングレルもその違いに納得していた。

サリーへの新たな依頼とその断り

食事の最中、ギルド職員がサリーに直接依頼を持ちかけた。しかしサリーは護衛任務を理由に即座に断った。ランクの高さゆえに仕事は舞い込んでくるが、彼女は現在の任務を優先し、新規の依頼は受けない姿勢を貫いていた。

再婚と家族観を巡る会話

場が落ち着いた後、酔ったギルドマンがサリーに軽口を叩いたことを契機に、結婚や再婚の話題へと移った。モングレルは独身の気楽さを主張し、モモはそれをダメ人間と一蹴した。サリーは子育ての経験からもう一度出産したいと語り、モモに孫を望む気持ちを口にした。サリーの発言は母親らしさを見せたが、魔法教育を語るあたりでいつもの風変わりな性格が垣間見えた。

王都での存在感と変わらぬ日常

その後もサリーに挨拶する者が相次ぎ、彼女の存在感が改めて周囲に認識されていった。モングレルはサリーの変人ぶりに苦笑しつつも、王都での日常の中に溶け込む様子を見守っていた。かつての拠点である王都に再び足を踏み入れたサリーたちは、懐かしさと変化を抱えつつ、新たな一日を迎えていた。

第二十七話 ほろ苦いゼリー

完成したゼリー付きアイスの試食

貴族向けのお茶会を翌日に控え、ケンは宿で最後の調整としてゼリー付きアイスを完成させた。白いアイスに添えられた黒いゼリーは、クラゲ料理の話から着想を得たもので、麦・ナッツ・ナーガの皮を煎じた茶を、天然食用膠で固めたものであった。冷たいアイスの甘さと、香ばしくほろ苦いゼリーの組み合わせは絶賛され、試食したモングレルたちは満足げにその味を称えた。

ケンの早寝と護衛側の待機予定

ケンは万全の体調で本番を迎えるため、早めの夕食の後に就寝した。モングレルたち護衛役は、お茶会当日、ケンを建物前で引き渡した後は控室での待機となる予定で、伯爵と顔を合わせることもないとのことだった。厨房への同行もケンに拒まれたため、それぞれ自由行動となった。

薬草園周辺の散策と王都の歴史

モングレルは魔除けの香草を扱う薬草園方面に向かい、その由来や王都インブリウムの成り立ちを思い返していた。かつて魔物が寄り付かない天然の安全地帯だったこの土地は、今ではポーションの産地として栄え、薬草園周辺では薬草の強い匂いが漂っていた。

偶然の再会と気まずい対応

薬草園の前でモングレルは一人の女性とぶつかる。彼女はロングスカートを穿き、化粧を施した美しい姿だったが、すぐにその正体がレオであると気づく。モングレルは咄嗟に見知らぬ少女として接し、レオの変装を尊重する形で気づかないふりを貫いた。結果として、極めて気まずい言動をとってしまい、心中で苦悩しながらその場を去った。

ウルリカとの合流とエレオノーラの決意

その直後、ウルリカが現れ、レオ――改めエレオノーラに声をかけた。エレオノーラは動揺を隠しつつも、少しだけこの格好を続けていたいと告げた。ウルリカはそれを喜び、仲間の存在の心強さを語りながら、二人は再び連れ立って歩き出した。

第二十八話 獅子と狼の王都散策

エレオノーラとしての過去と現在

エレオノーラとは、レオがボリス村で女児として生き延びるために使っていた別名である。村の男児は代官の魔手を逃れるため、皆が女子の格好をしていた。代官の失脚と共にその必要は消えたが、レオは女装を完全には否定できず、今もわずかな名残を抱えていた。そして王都にて、ウルリカに誘われる形で再び「エレオノーラ」として街に出ていた。

王都での服選びと自信の回復

レオとウルリカは王都の有名な服飾店を訪れ、手袋やソックス、チョーカーなどを次々に手に取っていた。スムースゲッコーの皮を使った高級品もあり、レオはその滑らかさと上品さに惹かれていた。女装に不安を感じていたレオであったが、モングレルに気付かれなかったことで小さな成功体験を得たことが自信に繋がり、再びこの趣味に向き合おうとする意欲が芽生えていた。

買い物の終わりと喫茶店での会話

買い物を終えた二人は、『アルテミス』の宿近くにある喫茶店で休憩を取った。王都の喫茶店は渋めの紅茶と素朴な焼き菓子を主に提供しており、パイプ煙草の香りが漂う落ち着いた空間であった。荷物の多さを嘆きながらも、レオはウルリカと一緒に過ごす時間そのものを楽しんでいた。

レオの想いとウルリカへの恋心

レオは昔からウルリカに特別な感情を抱いていた。村で過ごした頃から、女性的な振る舞いが自然にできるウルリカに惹かれ続けており、それは単なる憧れではなく恋心へと変化していた。ただし、レオは同性愛者ではなく、その想いはウルリカ限定のものであり、他の男には全く興味がなかった。

女装の葛藤とウルリカの強さ

レオはレゴールで女装することには抵抗を持っていたが、ウルリカは自分が男であるとバレることを恐れず、堂々と振る舞っていた。レオはそんなウルリカに感嘆し、自分にも同じだけの覚悟と自信が持てればと願っていた。

男としての魅力と女としての願望の狭間

レオは王都での活動を通して、自分が女性らしくあることを求めている一方で、男としてギルド内で人気が高い事実にも気付いていた。整った顔立ちと礼儀正しい言動により、女性からの人気が高く、嫉妬されることも多かった。だが本人は恋愛に関心を持っておらず、レオ自身の心は常にウルリカの方に向いていた。

恋と願望の交錯

レオにとって、ウルリカが恋愛対象として求める性がどちらかによって、自分の在り方も変わり得た。だがそれを直接訊ねる勇気もなければ、自分の気持ちを伝える自信もなかった。ただ、今のように並んで街を歩き、会話を交わせるだけで幸せだと、レオは紅茶を口にしながら自分に言い聞かせていた。

第二十九話 伯爵邸の待合室

王都貴族街への到着と案内

お茶会当日、モングレルたちは王都インブリウムの貴族街へと足を踏み入れた。街区は広く洗練されており、レゴール伯爵の王都別邸へ向かう際には案内役の従士が付き添った。厳重な防備は見られなかったが、それは貴族街の治安への絶対的な信頼の現れでもあった。

伯爵邸での分離と護衛の待機

一行は伯爵邸に到着後すぐにケンと護衛組に分けられ、護衛は調度の少ない質素な待合室に通された。貴族邸らしい清潔な部屋ではあったが、物品管理への慎重な姿勢も感じられた。用意されたお茶と菓子を楽しみながら、ケンの成功を願いつつ気長に待つこととなった。

“アルテミス”との再会と情報交換

しばらくすると、“アルテミス”の面々が同じ部屋に案内されてきた。久々の再会に場は一気に賑やかになり、護衛任務や王都での観光についての会話が交わされた。“アルテミス”の任務は貴族女性ステイシーの護衛と接待であり、滞在は長期にわたる見込みであった。

荷物運搬の打診と報酬交渉

シーナから土産物の運搬を頼まれたモングレルは、銀貨を提示されると快く引き受けた。ギルドマン同士の助け合いの一環とはいえ、交渉には対価が必要であるという姿勢は崩さなかった。

魔法使い三人組の給水作業

サリー、ナスターシャ、モモの三人は、家令からの要請を受けて館内の給水作業へと向かった。魔法を使って水を供給するという地味だが重要な仕事であり、大邸宅ならではの負担の大きさが垣間見えた。

王都観光の感想と護衛の雑談

待合室では引き続き和やかな談笑が続き、ライナは王都の神殿観光について語り、レオも都会の規模に驚いた様子を見せた。ウルリカは相変わらずの買い物好きで、所持金が尽きたことを気にも留めていなかった。ジョナは全員にお茶を注ぎ、気配りを見せた。

ケンの成果への期待と不安

護衛の役目として見守るしかない中、モングレルはケンの振る舞いが貴族の心に届くことを願っていた。同時に、彼の無遠慮な発言が何かしらの問題を引き起こしていないかを危惧してもいた。ケンの腕と誠意に賭けるしかない状況の中で、護衛たちは静かにその時を待っていた。

第三十話 ウィレムとステイシーのお茶会

政略結婚の始まりと予想外の再会

レゴール伯爵ウィレムは、友人ナイトオウルの妹ステイシーとの政略的なお見合い茶会に臨んでいた。緊張の面持ちで準備を整えたウィレムだったが、登場したステイシーは活動的で豪放な性格の持ち主であり、彼の想像とはまるで異なっていた。ナイトオウルが席を外すと、気圧されながらもウィレムは茶会を進行する決意を固めた。

菓子と会話で縮まる距離

お茶会ではレゴールから招いた菓子職人の焼き菓子が振る舞われ、ステイシーはその味を心から楽しんだ。明るく活発な彼女は、見た目とは裏腹に礼儀正しく、会話の間も相手に配慮した姿勢を見せた。理知的な面もあり、職人の説明にも的確な質問を返していた。次に出されたアイスクリームとビターゼリーにも喜びを見せ、ウィレムとの間に自然な笑顔が生まれていった。

料理人ケンの暴走と笑いの共有

アイスクリームの製作者であるケンが登場し、お茶や焼き菓子、ゼリーとの相性を延々と語り出したが、執事アーマルコによって途中で連れ出された。奇抜な振る舞いだったが、ステイシーはこの一幕を楽しげに笑い、茶会の雰囲気をさらに和らげた。

ステイシーの過去と結婚への決意

茶会の後半、ステイシーはかつて剣術に励み騎士団に所属していた過去を語り、自らを「剣豪令嬢」と自嘲しつつもその経験に誇りを持っていたことを明かした。貴族の格式とは無縁の人生を歩んできた彼女が、今ようやく結婚を考え始めた背景には、ナイトオウルの後押しと親衛騎士ブリジットの薦めがあった。

ウィレムの告白と誠実な申し出

ウィレムは、自分に自信がないこと、結婚への不安、そしてレゴールの安定のためという政治的な理由から婚姻を申し出た。華やかな言葉や情熱的な表現は苦手だと告げたが、ステイシーはその不器用で誠実な姿勢を喜び、笑顔で「婚約しましょう」と受け入れた。ただしその上で、自分を「乙女にしてみせる」と言えるような関係を目指してほしいと、茶目っ気を込めて頼んだ。

新たな関係の始まりと互いの覚悟

ウィレムはその言葉に応え、覚束ないながらも決意を込めて彼女の手を握り返した。政治、恋、そしてこれからの未来に向けて、二人は歩み出すことになった。ステイシーは、戦争でも恋でも、まずは相手を知ることが重要だと語り、ウィレムと向き合うことを楽しみにしていた。

裏ではケンが大騒動

一方その頃、料理人ケンは貴族相手に長々と解説を続け、執事に制止されて奥へと連れ去られていた。貴族邸での無遠慮な言動は無礼討ち寸前とも言える状況で、モングレルたちはその様子に慌てていたが、ケン本人はなおも熱弁を振るおうとしていた。

第三十一話 レゴールへの帰還、あるいは帰宅

伯爵邸での事件とケンの無事

伯爵邸での騒動は、ケンが貴族相手に熱弁を振るってつまみ出されたことが最大の事件であった。モングレルは、処罰が下るのではと内心怯えていたが、意外にも大事にはならず、ケンは無事であった。本人はなおも「なぜ解説を聞かないのか」と愚痴を漏らしており、改めて常識に縛られない人物であることが再確認された。

即日の帰還とケンの提案

王都での任務が終わった一行は、“アルテミス”と別れ、ケンの提案によって即日レゴールへの帰還を決めた。ケンは「やはりレゴールから菓子を広めるべき」と語り、社交より製菓に専念すべきだと悟った様子であった。モングレルは、ケンには黙ってカウンターに立っているのが似合うと評し、職人気質の人間は喋らない方が良いと結論づけていた。

旅路と荷物、護衛の雑談

帰路は平穏であり、野生動物や魔物の出現もなく、気の抜けた馬車の旅であった。モングレルはシーナから預かった大量の土産物と共に移動していたが、ウルリカからは荷物を覗いていないかと問い詰められた。封を開けるだけでも犯罪になるという話題が飛び出し、護衛としての緊張感を保ちつつも、空を漂うジェリースライムに春の訪れを感じていた。

ギルドでの報告と和やかな会話

レゴールに到着後、一行はギルドで任務の報告を行った。ケンのお菓子は王都でも好評であったようで、依頼主本人が同席していたこともあり、報告は円滑に済んだ。サリーやモモも安堵の表情を見せ、アイスクリームの話題で笑いが生まれた。ケンは王都でウイスキーを仕入れており、それを聞いたモングレルは喜びを隠さなかった。

日常への回帰とお土産配り

その後、モングレルは“アルテミス”のクランハウスへ荷物を届け、王都で買った土産物を各所に配って回った。最後には宿「スコル」で過ごす家族に菓子を手渡したが、子供たちは大はしゃぎで女将に叱られていた。王都で作られたケンの焼き菓子はその残りであり、モングレルは既に食べ飽きていた。

我が家の安心感と手紙の山

風呂でさっぱりした後、モングレルは久々の我が家に帰り、心からの安堵を味わった。やるべき片付けや買い物の整理は全て翌日に回し、まずは溜まっていた手紙の確認に取りかかった。商売仲間のメルクリオからは重要な伝達のため来訪を求める手紙が届いており、明日には店を訪れることを決意した。

明日からの日常と一時の眠り

他にはギルドの拡張工事や精霊祭、志願兵募集といったお知らせもあったが、どれも特段急ぎではなかった。モングレルは仕事よりも久々の討伐を楽しみにしつつも、春の祭りで散財する未来を予感していた。パン一姿でベッドに寝転ぶと、まぶたが重くなり、心地よい眠りに落ちていった。

前世の夢と明日からの生活

その夜、モングレルは前世でのクリスマスの夢を見た。ケーキ屋に並び、チーズケーキとショートケーキを買うという夢であったが、目覚めた今はもうケーキを食べたいとは思わず、肉と粥の日常へ戻る覚悟を静かに固めていた。

特別書き下ろし番外編 モングレル少年の旅

孤児となった少年の旅立ち

十三歳のモングレルは、祖父から絶縁され、両親の遺骨を故郷シュトルーベに埋葬した後、サングレール軍の撃退に専念していた。戦いが一段落し、ハルペリア王国全体への興味が芽生えた彼は、初めての一人旅に出ることを決意した。装備はボロの服とバスタードソード一振り。治安が悪い街道を歩くなかで何度も無法者に襲われたが、故郷で鍛えた戦闘能力で撃退していた。

盗賊を撃退しながら旅を続ける日々

モングレルは、道中の盗賊たちを次々に返り討ちにしていた。報酬代わりに彼らの金を巻き上げ、貴重な生活資金としていたが、殺しは極力避けていた。後の面倒を恐れたからである。夏には故郷に戻って戦い、その他の季節は旅をするという生活サイクルを確立し、孤独だが自由な暮らしを続けていた。

訪れた村とギルドマンの真似事

旅の中でモングレルは、祖父の住む村の近くまで足を伸ばした。そこでは、ギルドマンの真似をして村の困りごとを聞き出し、依頼を受けて報酬を得るという生活を試みていた。訪ねた村では、森に棲みついた魔物クレイジーボアの討伐依頼を受け、報酬を巡って交渉を行ったが、金の乏しい村では条件は厳しかった。

クレイジーボアとの戦闘と勝利

報酬の交渉の末に、クレイジーボアの肉を自身の取り分とする条件で依頼を引き受けたモングレルは、森に入り、自己流の方法で魔物を誘い出した。そこへ女性の叫び声が届き、魔物が出現。一撃で討伐に成功した。木の上に避難していた女性は救貧院の支援物資を集めていた最中で、命拾いに感謝しつつ、村の現状を語った。

報酬の受け取りと肉の分配

村に戻ったモングレルは、クレイジーボアの尻尾を証拠に報酬を受け取った。交渉時に険悪だった村人も、結果を認めて誠実に支払いを済ませた。だが、肉の大半は重くて持ち帰れず、救貧院の前に置いてきたと語った。名前を聞かれた際には、「ハルペリア最強のクソガキ」と名乗り、村を後にした。

優しさが息づく世界と少年の感情

旅先で出会った救貧院の女性や、口は悪くとも誠実な村人たちの存在を通して、少年モングレルはこの国にもまだ優しさがあることを知った。それは些細ながらも、孤独で斜に構えた彼の心を癒す出来事となった。報酬や肉以上に、誰かを救おうとする人々の姿が、旅を続ける力となった。

終わらぬ旅路への苦笑

モングレルは再び歩き出す。「次はどこに行こうか」とつぶやきながら、旅を続けることに迷いはなかった。ただ一つ、過去の自分に言いたいことがあるとすれば、「もう少し早く腰を落ち着けろ」という苦笑混じりの忠告であった。長すぎる旅を振り返る中で、彼の旅路はなお続いていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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