物語の概要
本作は現代日本に「魔」と呼ばれる存在が潜む世界を舞台とした転生×努力ファンタジーである。通り魔に刺されて死んだ主人公イツキは、祓魔師の家系に赤ん坊として転生し、「死なないために最強を目指す」と幼少期から魔法修練を重ねる。努力を積み重ねた結果、いつのまにか常人の枠を超え、「凡人の努力無双」という異名を背負ってしまう。第4巻では、二年生に進級し、事件をきっかけにニーナと同居生活を始め、平穏を謳歌するも、ニーナの父を殺した強敵「第六階位」との対峙、イツキ自身の心の闇である「心奥」が浮き彫りにされる──『理想郷』編の幕開けである。
主要キャラクター
- イツキ:本作の主人公。前世の記憶を携えた転生者で、幼児期から魔法と鍛錬を重ね、凡人ながらも規格外の実力を持つ祓魔師。第4巻ではニーナとの関係や自身の心の闇と向き合う。
- ニーナ:イツキと同居する少女。父を亡くしトラウマを抱えるが、イツキと共に成長し、第六階位との抗争に巻き込まれていく重要人物。
物語の特徴
本作の魅力は、努力によって凡人が最強となる“純粋努力成長譚”である点である。前世の知識にも依存せず、赤ん坊時代からの積み重ねに重きを置いたプロットは説得力があり、無双ものの爽快感を生む。また、魔法や祓魔師というファンタジー要素に加え、ニーナのトラウマやイツキの内面に触れることで、心情面にも深みがある。第4巻では“理想郷”を求める敵の登場や、前世との葛藤などドラマ性が際立ち、シリーズの中でも重厚な展開が堪能できる。
書籍情報
凡人転生の努力無双4 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~
著者:シクラメン 氏
イラスト: 夕薙 氏
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あらすじ・内容
相対するは、ニーナの仇敵――。
「ニーナをイツキさんの家で預かっていただくことにしました」
とある事件をきっかけにニーナと一つ屋根の下で暮らすことになったイツキ。二年生に進級し、さらに友達も増えたイツキはニーナとともに魔法の練習を重ねたり、デートをしたりと充実した毎日を送っていた。
しかし、平穏な日常は突如変貌する――。
相対するはニーナの父を殺した仇敵。蕩けた地獄を生み出す第六階位。
理想の世界を追い求め数百万の子どもたちを手にかけたモンスターの毒牙が迫る中――イツキは《心奥》にて自らの前世と向き合うことに。
「僕の心奥は『夜』。何でも呑み込む空っぽの世界だ」
ニーナを守るため、あらゆる過去を打ち破る『理想郷』編!
感想
毎回、”現代陰陽師は転生リードで無双する”と勘違いしてしまう”凡人転生の努力無双”の4巻は、日常と非日常が複雑に交差する物語でありながら、“人としての痛み”や“生きる意味”を問いかけてくるような、非常に密度の高い一冊であった。
まず印象的だったのは、悪霊やモンスターたちが放つ言葉の不気味さである。セリフの一つ一つが読者の心理にじわじわと染み込んでくるようで、単なる恐怖演出以上の“存在の異常性”が描かれていた。ぬいぐるみやブリキの劇団員といった造形の可愛さとは裏腹に、その行動は異常で、読み進めるうちに胸の奥が冷えていく感覚があった。
一方で、主人公イツキの成長もまた、この巻の見どころの一つである。
忙しい親の都合でイツキの家に住む事となったニーナ、魔法の練習や日々の暮らしの中で、彼自身の心の奥深くにあった闇と向き合っていく姿は、少年というよりすでに“覚悟を持った大人”のようであった。
友達と過ごす学校生活の一方で、魔物との戦いや精神的な重圧を背負い、それでも笑おうとする姿に胸を打たれた。
とくに心を揺さぶられたのは、ニーナの心が壊れていく過程である。彼女が父の仇と再び対峙し、自らの無力さや孤独に呑まれていく描写はあまりに痛々しかった。「嬉しいことがあった日には一人になるのが怖い」という彼女の言葉には、あまりにも深い哀しみと依存の芽が感じられ、それに静かに寄り添うイツキの優しさもまた、読者の心に温かな余韻を残す。彼らはただの“特別な子ども”ではなく、誰よりも“弱さを知る存在”であると感じた。
また、戦闘描写の激しさとは対照的に、学校での運動会や日常の交流が鮮やかに描かれていた点も本作の魅力である。モンスターに囲まれた世界にあっても、友達と一緒に走り、夢を語り合う時間が確かに存在する。その小さな日常こそが、イツキたちの心を支える“理想郷”なのだと気づかされた。
終盤にかけて明かされる「劇団員」の正体や、皮を被ったクラスメイトたちの恐ろしい真実は、現実が仮面を被っているかのような錯覚を引き起こす。一度信じたものが崩れる恐怖、そして「自分の心奥が“夜”」であるというイツキの告白には、読む側もまた自身の内面と向き合わされる感覚を覚えた。
本作は、単なる魔法バトルや異能系の物語ではない。友情、依存、喪失、そして再生。それらを通じて、「何が本当の強さか」「自分が何者であるか」を問いかけてくる作品である。そして何より、“壊れた心をどう支えるか”というテーマが貫かれていたように感じた。
次巻ではアヤとニーナの邂逅が予告されており、感情の修羅場が予感される。だが、それ以上に彼らがどのようにして“絶望の続き”を生き抜いていくのか、その歩みに目が離せない。続きも、強く期待したい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
序章 器
高校での進路希望提出と迷い
高校一年の二月、主人公は進路希望表の未提出を担任に指摘され、提出の必要性を改めて理解した。高校では二年次から進学・就職でクラス分けがあり、そのために進路希望表が必要とされていた。周囲の生徒が難なく書く中、主人公は自身の進路について何も書けずにいた。大学進学にも就職にも前向きになれず、やりたいこともない自分に困惑していた。
幼少期からの「夢のなさ」と現実の壁
小学生の頃から将来の夢を書けなかった主人公は、周囲に合わせてその場しのぎの夢を記入してきた。しかし高校生になり、具体的な進路選択を迫られる中で、そうした誤魔化しは通用しなくなっていた。ゲームエンジニアやアニメーターのように一度書けば進路に直結する状況に、選択肢と決断力の欠如を痛感し、行き詰まっていた。
担任との対話と大学進学の決断
思い悩む主人公に、担任は大学進学を提案した。自身も目的があって大学に進んだわけではなく、現実的な選択として教職に就いた過去を語り、進学してからやりたいことを探すという道もあると助言した。大学進学に対する思い込みを打ち崩された主人公は、その提案に少しの希望を感じ、進学を決意した。
目的のない進学とその後の人生
目的のないまま進学した主人公は、大学でもやりたいことを見つけられなかった。やがて地元の就職先を慌てて選び、そこでもただ与えられた作業をこなすだけの日々を過ごすこととなった。担任に勧められて選んだ進学という選択が、就職活動を避ける理由にもなったが、結果的に主体的な選択ではなかったという自己責任の感覚が残った。
忘れられた顔と残り続ける記憶
今では担任の顔も声も思い出せなくなったが、あの時のやり取りだけは今も記憶に残っていた。やりたいことが見つかるはずだと期待した当時の希望と、最後まで何も見つけられなかったという苦しさが、今なお胸に残っていた。
第一章 夢への挑戦
魔法と剣術の鍛錬の日々
イツキは小学二年生になっても魔法の鍛錬を欠かさず、特に『共鳴』の練習をアヤやニーナと共に継続していた。また、父から夜刀流の型を教わっており、身体の成長を妨げないように実戦形式の稽古は控えられていた。氷魔法など属性限定の術については、自らの力では使えず、共鳴を通してのみ発動可能であると理解した。
新たな友人との交流と小さな嘘
放課後、イツキはサッカーを通じてレンと親しくなり、初めて祓魔師ではない友人を得た。しかし、自身の正体を隠すために「格闘技をしている」と嘘をついていた。試合中にはレンとの連携で見事なプレーを披露したが、実力差を感じた他の子どもたちから不満が出たため、チームを分けることとなった。
ニーナとの再会と放課後の会話
教室に戻ると、ニーナとエマが残っていた。ニーナはイツキと同じクラスであり続けることを担任に希望していたと語った。裏門から帰る途中、ニーナはイツキが友達を増やしていくことを羨ましく思っていると打ち明けた。イツキはその思いに応じつつも、友人を作ることへの自覚が薄いままであった。
妖精魔法の実演と新たな発見
自宅に招かれたイツキは、ニーナの提案で自身が習得した妖精魔法を実演した。ピクシーを使った物探しの魔法が『妖精の導き(フェアリーガイド)』と呼ばれることをニーナから教えられた。この魔法は母親の財布を探す際に偶然発見したものであり、モンスター捜索にも応用できる可能性があると知らされた。
モンスターの接近と捜索行動
突如としてピクシーがモンスターの存在を感知し、イツキとニーナはその動きを追ってマンション内を移動した。妖精の導きにより13階の六号室にモンスターが潜んでいると突き止めたが、扉はオートロックで閉ざされていた。ニーナが解錠魔法でそれを開くと、ふたりは中に突入した。
凄惨な光景とぬいぐるみ型モンスター
室内には強烈な血の臭いとともに、少女が拷問される残酷な光景が広がっていた。ぬいぐるみの姿をしたモンスターは少女に腐敗したケーキを無理やり食べさせており、異常な行為を楽しんでいた。さらに、少女の母親と見られる女性が壁に磔にされており、血で「ハッピーバースデー」と書かれていた。
戦闘とモンスターの消滅
イツキは共鳴による雷魔法『析雷』を放ったが、モンスターには大きな効果を与えられなかった。さらに『天穿』『風刃』を続けて放ち、ニーナが妖精を使ってモンスターの足を消し去ることで体勢を崩すと、イツキは高威力の雷魔法『火雷』を発動させた。その魔法によりモンスターは内側から爆発し、完全に祓われた。
救出とその後の対応
モンスターの消失によって生じた黒い霧が部屋を満たす中、イツキはすぐさま傷ついた少女とその母親に導糸を伸ばし、治癒魔法を施した。同時に、ニーナには『軀』への連絡を頼んだことで、事件は無事に終息へと向かった。
治療後の評価とイレーナの到着
イツキは応急処置後、部屋を索敵したがモンスターの反応はなかったため、母娘の治療に専念した。しばらくして『軀』の後処理部隊と共にイレーナが到着し、イツキの治癒魔法に問題がないと評価した。実戦での効果を認められたイツキは安堵し、母娘は救急隊により搬送された。
精術の導入と緊急性
モンスターの出現が身近な場所で起きたことを受け、イレーナは予定を早めてイツキに精術(リファイン)を教えることを決意した。本来は七歳の七五三の後に伝える予定だったが、事態の緊急性から前倒しする必要があると判断された。イツキが内容を理解する前に、イレーナはすぐに出発する必要があることを告げ、タクシーでの同行を提案した。
タクシー内での決定とモンスター動向の説明
イレーナは、イツキの母・楓と話し合った結果、ニーナを当面の間イツキの家で預かってもらうことを決定していた。タクシー運転手も『軀』であると明かされ、車内でモンスター出現数の増加傾向とその原因が不明であることが説明された。イレーナはニーナを一人にすることへの不安を語り、二年前のロンドン事件とモンスターの脅威を重ねて心情を吐露した。
自宅到着とイレーナの出発
自宅に到着すると、イレーナは楓に深く頭を下げ、ニーナの同居を正式に依頼した。さらにイツキにだけ、ロンドンを襲ったモンスターが東方、つまり日本へ向かった可能性を示唆し、不安を打ち明けた。そのままイレーナは羽田空港へと向かった。
焼き肉の夕食と家族の時間
緊張した様子のニーナを迎えて、楓は焼き肉の用意をしていた。ニーナは日本で焼き肉を食べるのは初めてであり、イツキに勧められて少しずつリラックスしていった。妹のヒナとも食卓を囲み、和やかな時間を過ごした。イツキは事件後でも普通に食事を取れる自身の感覚に驚きながらも、友人たちの無事を喜んでいた。
食後の会話と魔法練習の習慣
食後、イツキは自身の部屋で魔法の基礎練習を行おうとしていた。ニーナが声をかけてきたが、部屋に入ろうとはせず、服装を理由に断った。イツキの練習習慣や魔法への不安に触れつつも、二人は障子越しに会話を続けた。
ニーナの不安と感謝の言葉
ニーナは、フットボールを中断して教室に戻ってきたイツキの行動が嬉しかったと打ち明けた。自分には友人が少なく、イツキが離れていってしまうのではと不安になることを語った。それに対しイツキは、ニーナの存在が大切であることを明言し、信頼の言葉を伝えた。
夜の独白と過去の記憶
ニーナが去った後、イツキは基礎練を終えて布団に入ったが、様々な思考が浮かび上がった。イギリスで起きた過去の惨劇や、ニーナの心が壊れた理由、イレーナによる記憶封印、そして未だ祓われていないモンスターの存在について考えを巡らせた。東へ向かったとされるその存在が、日本に迫っているのではないかという不安が、イツキの中に深く刻まれていた。
第二章 怪物工場
治療後の評価とイレーナの到着
イツキは応急処置を終えた後、部屋の中を念のため索敵したが、他にモンスターの反応はなかったため、母親の治療に集中した。やがて『軀』の後処理部隊と共にイレーナが現れ、イツキの治癒魔法に問題はないと判断した。実戦での魔法使用が有効であったことに、イツキは安心した。その後、母娘は救急隊に引き取られた。
精術の前倒しとその理由
イレーナは、マンション内でモンスターが出現した事態を受け、精術「リファイン」を早めに教えるべきだと判断した。本来は七五三の後に伝える予定であったが、個人的な理由により前倒しを決めた。イレーナはニーナに教示可能かを尋ねたが、ニーナは精術をまだ使用できなかった。イレーナは、教えることで学びが深まると補足した。
タクシー内での決定とモンスターの状況
イツキとニーナはイレーナに伴われてマンションを出た。タクシーに乗車すると、イレーナはニーナをイツキの家で預かってもらうことになったと告げた。運転手も『軀』の一員であったため、車内での会話に制限はなかった。全国的にモンスターの出現数が増加していることが報告され、その原因は不明であるとされた。イレーナは過去のロンドンでの惨劇を想起し、不安を吐露した。
イレーナの去来と不穏な示唆
自宅前でイレーナはイツキの母・楓に深く礼を述べ、ニーナの受け入れを正式に依頼した。さらにイツキにだけ、小声で「二年前、ロンドンを襲った『第六階位』が東に向かった」と告げた。日本が東の果てに位置することから、その脅威が接近している可能性を示唆した。イレーナはそのまま空港へと向かった。
家庭での歓迎と焼き肉の夕食
ニーナは緊張しながらもイツキの家での生活を始めた。楓は焼き肉を用意して歓迎の意を示し、ニーナにとっては初めての焼き肉体験となった。食卓では妹のヒナも加わり、和やかな雰囲気が広がった。イツキは自身が事件後でも平然と食事を取れることに軽い戸惑いを覚えつつも、日常を大切にしようと努めていた。
夜の会話と感情の交流
就寝前、イツキが魔法の基礎練習をしていると、廊下越しにニーナが声をかけてきた。パジャマのデザインを理由に部屋に入ろうとしないニーナは、イツキがフットボールの練習を中断して自分の元に来てくれたことに感謝を伝えた。友人が少ない自分が取り残される不安を抱えていたと語り、イツキは彼女を大切に思っていることを言葉で返した。
就寝前の思索と迫る脅威
イツキは眠る前、前世での癖と同様に様々な思考が頭を巡った。ニーナの過去や、彼女の父親がモンスターに殺されたこと、その影響で心を壊し記憶を封じられた経緯を思い出した。ロンドンを襲ったモンスターが未だ祓われていないことに思い至り、その脅威が日本、そして自分たちの近くに迫っているのではないかという予感を抱いた。
エマの不安と仲間の支え
放課後、エマは「走ることになった」と不安を抱えてイツキのもとへ駆け寄った。レンはそれを励まそうとしたが、言い方が悪くエマを沈黙させてしまった。レンはイツキを遊びに誘ったが、イツキは家の用事を理由に断り、そのまま教室を後にした。ニーナも無言で同行し、下駄箱に向かう道中で、イツキはニーナにエマの名前を名簿に書いたか尋ねたが、ニーナはクラスメイトの名前をほとんど知らなかった。
妖精の導きとモンスターの疑問
ニーナとともに校門を出たイツキは、空に現れたピクシーの導きに従って歩き出した。その途中、イツキは最近モンスターが学校に現れない理由について疑問を口にした。ニーナは「イツキがいるから」と説明したが、それでは辻褄が合わないとイツキは考えた。
不審なモンスターとの遭遇と撃退
住宅街でイツキたちは、奇妙な中年男性に擬態したモンスターと遭遇した。彼は壊れたラジオのような口調で運動会を語り、自販機に頭を下げていた。イツキはその姿に正体を見抜き、『風刃』でモンスターを撃退。ニーナはそのモンスターが学校の行事と関係あるかを疑ったが、イツキは知能の低いモンスターがただ言葉を真似ただけだと推測した。
妖精の追跡と魔力の特性
モンスターの霧を辿って集まった妖精たちにより、魔力の追跡が可能であるとニーナは説明した。ピクシーたちは人の魔力の個体差を識別できる能力を持ち、警察犬のような働きをするという。イツキは妖精の可愛らしさに触れつつ、他人の妖精が見える自分の特異性を再確認した。
修練場での魔法訓練とリファインの習得
ニーナの案内で、イツキは修練場に彼女を連れて行った。そこは彼が幼少期から魔法訓練を積んできた場所である。ニーナは「リファイン」の練習を始めるにあたり、まず重い魔力をさらに重くするための変質操作について説明した。イツキはそれを聞きながら、自身が過去に学んだ「共鳴」との共通点に気づいた。
共鳴と妖精魔法の構造的共通性
イツキは丹田の魔力を二分し、共鳴反応を生じさせてリファインに成功した。ニーナはその魔力に触れて感嘆し、イツキに「シャドウ」の召喚を依頼。初回は失敗したが、二度目の試行で魔力を均一に流すことで影の操作に成功し、リファインが実用化されたことが証明された。
リファイン成功の意義とニーナの想い
ニーナはイツキを「天才」と称したが、イツキは自身が独自に発見したわけではなく、過去に共鳴を学んでいたからだと説明した。夏合宿で得た知識が妖精魔法のリファインと構造的に似ていたため、再現できたのである。それを聞いたニーナは少し落ち込んだが、イツキはニーナの教えがあったからこそできたと励ました。
共鳴の伝授へ
イツキは導糸が使えないニーナのために、今度は共鳴のやり方を教えることを申し出た。そして、彼女の手を取って共鳴の練習を始めようとする。魔法の技術を共有し、二人の関係もまた一歩進展を見せていた。
共鳴練習と影の魔法の性質
イツキとニーナは母親に呼ばれるまでの間、共鳴の練習に励んでいた。その合間にニーナは「影の中では魔法が逆になる」という母の言葉を思い出し、影を鏡に見立てた魔法の理論について話した。イツキは影の中での魔法『朧月』の効果に思いを巡らせたが、実践には至らなかった。
日常の終わりと違和感のある登校風景
その日の夜は平穏に過ぎ、翌朝、二人はいつも通り登校した。しかし通学路に小学生の姿が見えないことにニーナが違和感を覚えた。登校中、二人は先日に祓ったモンスターと同じ顔を持つ男に再会する。男は他人には見えず、霊感を持つ二人だけが認識可能であった。イツキは即座にこれを祓い、モンスターは黒い霧と化して消滅した。
モンスターの再出現とその異質性への疑念
この出来事により、昨日祓ったモンスターがなぜ再び現れたのかという疑問が生じる。イツキは過去に見た分裂型のモンスターを連想するが、黒い霧になった個体が復活することはないと断言しつつも、複製の存在を考慮する。ニーナは母から聞いた「モンスターが増えている」という警告がこの現象に関連しているのではないかと推察する。
登校の異常とクラスメイトたちの失踪
登校後の教室では、いつもより多くの生徒が遅れて到着し、欠席者も目立った。レンは登校中に「運動会に出ないか」と話しかけてくる男に遭遇したと語り、他の生徒も同様の体験をしていた。ニーナとイツキはこれがモンスターによるものだと直感し、妖精たちを使って探索を開始する。
モンスターの大量出現と救出行動の開始
妖精の報告により、数え切れない数のモンスターが出現していることが判明。イツキとニーナは保健室に行くと偽って学校を抜け出し、妖精の導きでモンスターの集まる場所へと向かった。途中、複数の同一姿のモンスターを祓いながら進むと、囚われた生徒たちが別の場所にいると判明し、急ぎ救出に向かった。
地下工場とモンスター製造の実態
到着した先は廃工場のような建物であり、中に入ると地下に広がる大規模な工場施設が存在していた。そこではプレス機やオーブンのような装置を用いて、砂から人型を成型し、中年男性の姿をしたモンスターを大量生産していた。子どもたちは床に転がされ、大人は「赤い液体」に変えられていた。
セールスマン型モンスターとの対峙
現れたモンスターは、かつてカフェで遭遇した「セールスマン」に酷似した存在であり、子どもの願いを叶える代わりにモンスターを生み出していた。彼は「百二十人の願い」を叶えることで「劇団員」に昇進すると語り、その目的のために人間を素材にしていた。イツキは言葉を引き出しながら、最終的に『朧月』によってこの存在を消滅させた。
閉じた世界の崩壊と現実への帰還
モンスターの消滅とともに工場は崩壊し、周囲の風景が砕けるように消えていく。目を開けるとそこはただの地下室であり、工場は閉じた世界であったと判明する。赤い液体にされる前の大人や子どもたちは無事であり、ニーナの妖精と協力して救出を開始した。
未解決の疑念と今後への示唆
一連の出来事により、かつて出会ったぬいぐるみ型モンスターと今回のセールスマンとの共通点が明らかとなる。イツキは、それらが同じ「夢を叶える」という目的を持ちつつ、モンスターの組織的な行動に関与している可能性を強く意識するようになった。物語は、救出とともに謎を残して幕を閉じた。
第三章 友達百人できたかな
事件から一ヶ月後の平穏な日常
一ヶ月前に発生したモンスター工場事件は、子どもたちの健康状態の検査や、大人の行方不明処理といった対応を経て終息した。証拠の機械が消失したため、調査は進展せず、事件は他の案件に紛れていった。そうして日常が戻った中、イツキたちは運動会のリレーに向けた放課後練習に励んでいた。エマは事件後も無事で、打ち解けた様子で練習に参加していた。
子どもたちの夢と本音の共有
練習の合間、子どもたちは将来の夢について語り合った。レンはプロサッカー選手、ニーナは母親の家業継承、エマは絵本作家を目指していた。イツキは夢を決めかねていると誤魔化したが、内心では祓魔師としての自分の役割を意識していた。練習後、レンが兄の死と自分の夢を打ち明け、サッカーは兄の夢であり、自分は陸上が好きだと本音を明かした。イツキはその覚悟に感銘を受け、二人の友情はより深まった。
新たなモンスターとの遭遇と妖精魔法の活用
帰宅途中、イツキとニーナは街灯に貼られた怪しい貼り紙を発見した。そこからモンスターが出現し襲いかかるが、イツキは新たに習得した妖精魔法「影送り」を用いて撃退する。捕獲した一体から情報を探るが、前回のような組織的関与は確認できなかった。ニーナはイツキの魔法の成長を称賛し、イツキはそれが彼女のおかげだと感謝を伝えた。
運動会本番とクラスリレーの勝利
週末の運動会当日、父親は不在であったが、母親が応援に訪れた。イツキのクラスはリレー競技に挑み、練習の成果もあって好成績を残した。エマの走りは決して速くなかったが、誠実に走る姿勢が仲間たちを支えた。最終走者となったイツキは途中でモンスターを発見するも、ニーナの援護を受けて退け、ラストスパートでトップに躍り出て優勝を果たした。
クラスの一体感と達成感
リレーの勝利後、クラスメイトたちはイツキやニーナを称え、仲間としての絆を深めた。エマも結果を共に喜び、イツキは競技を心から楽しめたことを素直に認めた。祓魔師としての活動とは別に、学校行事でも全力で取り組むことの楽しさと意義を再認識したイツキは、仲間と過ごす平穏な日常の価値を噛みしめていた。
第四章 幸福の残額
遊園地へのお出かけ
運動会の振替休日に、主人公一家は母親の提案でニーナも交えて遊園地へ出かけた。平日の午後であるにもかかわらず、園内は大学生や家族連れで賑わっていた。最初のアトラクションとして選ばれたのはメリーゴーラウンドであり、ヒナは馬車、イツキとニーナは馬に乗った。大学生の楽しげな様子を見て、イツキは将来もっと友達を作りたいと考え、小学校での目標「友達十人」を思い返した。
軽食とアトラクションの連続
メリーゴーラウンド後、ヒナとニーナがコーヒーカップを全力で回転させ、イツキは目を回しながらも皆で売店へ向かい、チュロスを食べた。その後、地図を広げて次のアトラクションを検討し、ジェットコースターを望んだヒナは身長制限で断念。代わりに園内を回るトロッコを選び、待ち時間を経て乗車した。その後もゴーカートや回転型アトラクションで遊び、皆でベンチで休憩した際、疲れたヒナは母親の膝で眠り、イツキとニーナは二人きりで園内を回ることになった。
観覧車での対話と心の共有
イツキが自ら選んだアトラクションは観覧車であり、ニーナとともに乗車した。夕日が沈みゆく中、ニーナはイツキに感謝の気持ちと孤独への不安を吐露した。彼女は友達を作ることに対して恐怖心を抱いており、過去の経験がその原因となっていた。イツキは彼女の勇気と強さを認め、友達作りを支えることを約束した。ニーナもまた、イツキが友達でいてくれることを確認し、前向きな気持ちを抱いた。
夜の語らいと心の癒し
観覧車を降りた後、家族でファミレスに立ち寄り、帰宅。イツキは入浴後、基礎的な魔法練習である『廻術』を行いながら眠気を待っていた。その最中、ニーナが突然訪ねてきて、同じ部屋で寝てもよいかと尋ねた。理由は「嬉しいことがあった日には、一人になるのが怖い」というものだった。彼女は幸せが幻であってほしくないという恐れを抱いており、それを共有するためにイツキの部屋を訪れた。
心の弱さと支え合い
暗闇の中、イツキもまた自らの不安を語った。自分の弱さが周囲を危険に晒すかもしれないという恐怖であり、それゆえに魔法の鍛錬を欠かせないと語った。ニーナは自身の眠れぬ夜の対処法として、ぬいぐるみと一緒に眠ることを打ち明け、ぬいぐるみがないためにイツキの部屋を選んだと説明した。互いの存在が安心をもたらすことを感じた二人は手を繋いで眠りにつき、その夜は悪夢に悩まされることがなかった。
朝の余韻とささやかな変化
翌朝、イツキは暑さで目覚め、ニーナが自分の布団に移って寝ていたことに驚いた。彼女はいつの間にかイツキに抱きついて眠っており、照れながらも朝の支度に取りかかった。妖精たちの手助けで布団を片付けながら、彼女は今日もイツキの部屋で眠ることを暗示するように布団を残したまま部屋を出た。イツキは静かに朝の準備を始め、そんな小さな変化の兆しに思いを馳せた。
登校と友達作りの決意
運動会翌日の登校中、ニーナはイツキとの会話を思い返し、友達作りに挑戦する決意を語った。緊張する彼女をイツキが励まし、教室へ向かうが、扉を開けた先で異様な光景が広がっていた。生徒たちは静止し、神田先生が抱えたブリキの玩具が突如語りかけてきた。
劇団員の再登場と襲撃
ブリキの玩具は以前ニーナの家で祓ったモンスター「劇団員」であり、変身とともに再登場した。イツキはニーナをかばいながら対処するが、劇団員は「箱庭」と呼ばれる閉じた世界を展開し、空間と時間を操作する。さらに劇団員は過去に憑依していたモンスターと同じ劇団に属していたことが判明する。
仮面と化した日常の崩壊
劇団員は神田先生に憑依し、続けて彼の皮を剥いで正体を現す。イツキの詠唱による魔法も完全には通用せず、劇団員は更なる告白を始めた。クラスメイト全員がすでに殺されており、皮を被ったモンスターであったこと、リレーの選出も劇団員の誘導だったことが明かされた。
信じていた友人の正体
レンとエマだけは正体を現しておらず、イツキは希望を抱いたが、レンも皮を脱ぎ捨て劇団員であることを示した。レンの夢さえも現実のものだったことを語られ、イツキは精神的に追い詰められていく。最後まで残っていたエマもモンスターであり、導糸とともに爆発した。
反撃と劇団員の消滅
イツキは絶望を押し殺し、魔法『朧月』によって劇団員の分身体を祓う。周囲の机や椅子ごとモンスターを消滅させたが、空間は元に戻らなかった。ニーナの無事を確認し、イツキは現実との境界が保たれていない現状に不安を募らせる。
屋上への招待と逃走不能
窓には血文字で英語のメッセージが書かれ、屋上へ誘導される。逃れようと階段を進むと、次々に新たなモンスターが現れた。巨大な人面ムカデや眼球モンスター、そして知能の低いなぞなぞを語るモンスターも出現するが、イツキの魔法で撃退された。
遊園地の異常空間
ついに屋上へ到達した二人は、そこに広がる無限の遊園地を目にする。夜の中に巨大観覧車やアトラクションが煌めき、明らかに閉じた世界のさらに内側に新たな世界が形成されていた。遊園地のゲートの一つが校舎と繋がっていることから、さらなる異常が明らかとなる。
仮面のモンスターとの邂逅
空中には無数の仮面を纏ったミノムシのようなモンスターが浮かんでいた。仮面は様々な文化を反映しており、その中心にはヴェネチアンマスクがあった。彼らはニーナに過去の記憶が封じられていることを指摘し、子どもたちは幸せであるべきだと主張する。
共鳴構造の理解と魔力測定
イツキはかつて経験した「閉じた世界の中の閉じた世界」という現象を想起し、現在の遊園地が同様の構造であると推測した。この仮説が正しければ、元の世界に戻るためにはこの遊園地内のモンスターを討つ必要があると理解した。
眠りの呪いと最後の術
イツキが導糸で反撃を試みた瞬間、モンスターの仮面たちが一斉に「眠れ」と呟き、彼の意識を奪った。二重に閉じられた世界の中で、イツキは深い眠りへと誘われていった。
独白 たった一人の幸福論
熱中できるものの不在と自己認識の空虚
大学生になった主人公は、自身が何にも熱中できないことに気づいた。周囲の人々は何かしらに没頭しており、それぞれの道を進んでいたが、主人公にはそのような情熱がなかった。過去に好きだと思っていた物事も、逃避のために選んだものであり、大学生活の自由の中で逃避すら不要になると、何もせずに時間を浪費するだけの日々が始まった。
無気力な生活と惰性の日常
SNSや動画配信などに時間を費やすだけの生活を送りながら、主人公は何かを変える意思も持たず、変化にかかる労力を嫌って現状に留まり続けていた。就職後も趣味もなく、貯金が増える一方で使い道も見出せず、人生はただ惰性で進んでいった。にもかかわらず、そのぬるま湯のような生活を「愛している」と内心で肯定していた。
異常者との遭遇と小さな安心
いつものコンビニに向かう途中、主人公は電柱に包丁を突き刺す異常な男と遭遇する。恐怖から逃げる中、自分も何も持たない人間であることを再認識しつつも、少なくともああはなっていないことにわずかな安心を抱いた。
突然の異変とブリキの劇団員の登場
コンビニから帰宅後、電子レンジを開けると中にはラーメンの代わりにブリキのおもちゃが座っていた。その劇団員は主人公の理想世界に疑問を投げかけ、「第七階位」という存在でありながら凡庸な生活を選ぶ主人公の在り方に困惑し、やがて失望を露わにした。
劇団員との対話と魔力の本質
劇団員は第七階位に相応しい強欲さを欠く主人公を異常と評したが、主人公はそれを否定せず、自らが何も持たない人間であることを受け入れていた。劇団員が焦燥する中、主人公は「御伽の国」の目的が子どもを集めることであると見抜き、友人たちが殺されてはいないと確信する。
心奥の世界と『朧月』の顕現
物語の舞台は主人公の心奥の暗闇へと移行し、その中で主人公は劇団員に対し、自身の魔力の本質が「空虚」であることを明かした。自身には何もないからこそ、その世界はあらゆるものを呑み込む「夜」であり、それが『朧月』の性質であると語った。
自己肯定と過去との和解
前世も含めて自分自身を肯定しつつ、現世で出会った人々を大切に思っていた主人公は、劇団員によって壊されたそれらの関係に対し怒りを覚えていた。そして、虚無の中で劇団員を呑み込む決意を固め、心奥そのものである『朧月』により相手を消滅させた。
終焉と再出発への決意
劇団員が消えた後、主人公は誰もいない暗闇の中で静かに空を見上げ、遺宝を手に取って歩き出す。その姿は、空虚を抱えたまま、それでも前に進もうとする意志を表していた。
残痕 蕩けた遊園地
幼き日の記憶と才能への葛藤
ニーナは幼少期から「天才」と称され、第四階位の能力を持つ祓魔師として期待されていた。だが、百鬼夜行に巻き込まれて父を失い、日本へと移住してからは才能への確信を失い、魔力の低下にも悩まされていた。そんな中で出会ったイツキの存在に圧倒されつつも、友情を通して勇気と希望を得るようになっていった。
父との再会と夢のような遊園地
ある時、ニーナはかつての父と再会する幻想のような世界に入り込んだ。彼女は父と共に遊園地を巡り、懐かしさと幸福感に浸るが、徐々に違和感を覚えていく。イツキの不在、父の奇妙な受け答え、現実との齟齬がその心に影を落とし始めた。
モンスターの襲撃と地獄の幕開け
突如、空に浮かぶ仮面のモンスターが現れ、百鬼夜行が開始された。祓魔師にしか見えないその存在は、遊園地を混乱に陥れ、無数のぬいぐるみ型の劇団員を使って大人たちを次々と殺害し、子どもたちを連れ去ろうとした。パパは妖精魔法を用いて応戦するが、強大な敵に対して劣勢を強いられる。
父の奮闘と命を懸けた最後の抵抗
ニーナの父は、娘を守るために大精霊イフリートを召喚し、自らの命を魔力の供物とする決断を下した。身体の一部を失いながらも戦い続け、ニーナに愛と覚悟の言葉を残しながら、完全なる献身でモンスターに立ち向かった。だが、その力はモンスターには通じず、彼の身体は失われていった。
笑顔の強要と絶望の支配
父を喪ったニーナは、主犯である第六階位のモンスター「パペット・ラペット・マリオネット」によって笑顔を強制される。全身の自由を奪われ、笑いたくもないのに笑わされる狂気の中で、彼女の心は崩壊寸前に追い込まれた。周囲では無惨な殺戮が続き、恐怖と絶望が支配する世界が広がっていた。
イツキの登場と希望の再来
すべてが崩壊する寸前、空からイツキが降臨した。彼は破魔札を用いてニーナを呪縛から解放し、失われた希望を再びその場にもたらした。全てが消え去った虚無の中で、ただ一人立つイツキが、これからの戦いの決意と責任を胸に、彼女に安心を告げた。
第五章 誰がための理想郷
遊園地に現れた幻想の敵
舞台は学校屋上に作られた遊園地であり、主人公イツキはニーナの過去に起因する地獄のような幻想空間に足を踏み入れていた。彼は破魔札の力を使ってマリオネットと呼ばれるモンスターと対峙し、雷魔法『火雷』や隕石魔法『隕星』を駆使して攻撃した。しかし、マリオネットは自己再生能力を持ち、なおも攻撃を仕掛けてくる強敵であった。
魔法の応酬と劇団員たちの襲撃
戦闘中、遊園地中に存在する無数のブリキのおもちゃやぬいぐるみが動き出し、イツキとニーナに襲いかかった。イツキは高威力の範囲雷魔法『鳴雷』によって敵を一掃し、逃れた敵には『析雷』を放って対処した。遊園地は黒い霧で満たされ、敵が消滅する一方で、マリオネットはなおも理想郷を説きながら攻撃を続けた。
イフリートとの戦いと魔法の模倣
マリオネットはニーナの過去に関係する炎の精霊イフリートを召喚した。イツキは黒い月の魔法『朧月』によってこれを瞬時に封じ、マリオネットに反撃するが、相手もイツキの魔法を模倣し、同様の魔法『析雷』『焰蜂』『隕星』を使用してくる。イツキはその全てに備えを施し、迎撃しながら接近戦を挑んだ。
正体と反撃の糸口
戦闘の中で、マリオネットが生み出していた劇団員は分身体であり、根源を祓わねば解決しないことが判明する。さらに、イツキの強力な魔法『朧月』を模倣され、自身がそれに呑み込まれる危機に瀕するが、事前に用意していた「入れ替え」対策で脱出に成功した。
ニーナの葛藤と共鳴の決意
極限状況下でニーナは自責の念に囚われ、自分には資格がないと嘆くが、イツキの言葉により「資格ではなく勇気」が必要だと気づかされる。二人は導糸と魔力を共鳴させ、新たな魔法『白陽』を創出。それは『朧月』を貫き破壊し、マリオネットの身体を消し飛ばす決定打となった。
最終決着とマリオネットの末路
戦況が逆転し、マリオネットは逃亡と交渉を試みるが、イツキは一切を拒絶する。最終的に導糸を使った『朧月』によって完全に祓われ、黒い霧と化す。マリオネットの夢と理想郷は崩壊し、地面までもが消え去る結末を迎えた。
空中からの帰還と校庭への着地
戦いの果てに地面が消失し、イツキとニーナは空へと投げ出された。彼らの下には校庭が広がっており、舞台は学校の屋上から現実の地上へと戻っていた。イツキはニーナを抱き寄せるとともに、空から降ってくる多数のクラスメイトたちを視認し、導糸で形成した空中の網により彼らの落下を受け止めた。さらに、空に浮かぶ亀裂の向こうに壊れた遊園地を確認し、そこから落ちてくる魔力の球体を回収したことで、それが遺宝であると理解した。すべての生徒が着地したのを確認した後、イツキは校舎に固定していた導糸を解き、網を地上へ降ろした。
気絶した生徒たちとニーナの沈黙
グラウンド一面には、静かに横たわる気を失った生徒たちの姿があった。イツキは事件の重大性を認識し、後処理のために軀に連絡を取る必要性を感じて校舎へ向かおうとする。しかしその直前、ニーナが彼の服を強く掴み、動けなくなる。彼女は俯いたままで表情は見えなかったが、その震える手に不安の兆しがあった。イツキは彼女を抱きしめ、その変化を静かに受け止めた。
ニーナの告白と精神的な崩壊
ニーナはイツキの言葉を嬉しく感じた一方で、自分の価値を否定し、魔法や才能、妖精のすべてが不要だと語った。イツキが来てくれるなら、それだけでいいと告げた彼女は、涙を浮かべて笑いながら、彼を強く抱きしめた。その圧は痛みすら感じさせるほどであり、彼女の心の危うさを象徴していた。イツキは壊れそうな彼女を拒まず、ただ強く抱きしめた。ニーナはイツキの存在だけを必要とし、他のすべてを否定するほどに依存を強めていた。彼女の視線にはイツキだけが映っており、精神的に極限状態にあったことが明白であった。
断章 トラジディーキッチン
日常の描写と祓魔師試験の開始
主人公の少女は中学二年生の天才祓魔師候補であり、最終試験として後輩の少女・つむぎと共に第二階位の“魔”を祓う任務に就いた。試験場所は都内の古いマンションであり、事件のあった305号室に向かう途中、つむぎの未熟さや覚悟の甘さに苛立ちを覚えつつも、その資質を確認していた。少女は、自らの才能と努力に絶対的な自信を持ち、足手まといのつむぎを守る役目を課されていることに不満を抱きながらも、現場に向かった。
異常な事件現場と第一の異変
事件現場の玄関では上半身のみの死体が発見され、つむぎが怯えるなか、少女は冷静に部屋の状況を確認しながら進入した。室内には血の跡が広がっており、リビングには異常な静けさが漂っていた。キッチンからは包丁を使うような音が響き、少女は音の発生源に魔法で攻撃を仕掛けたが、そこには何も存在していなかった。やがて電子レンジやタイマーなどの家電が自動で作動し始め、少女は不可視の“魔”の存在を疑った。
空間変容と高位階位の出現
廊下が無限に続く異様な空間に変貌し、幻覚ではなく空間そのものが“魔”によって書き換えられていることが明らかになった。異様な声が二人に呼びかけ、“お客様”として“もてなし”を始めると、異形の者たちが廊下に出現し、少女の魔法で一体を撃退した直後、さらなる“魔”たちが扉から現れた。少女は岩の壁を生成して一時的に後方を塞ぎ、つむぎを連れて最も近い扉に逃げ込んだ。
閉鎖空間での絶望と葛藤
扉の向こうはまたも“魔”が作った空間であり、通信手段は一切通じなかった。絶え間ないノイズと迫る“魔”たちに精神を削られる中、少女は焦燥と怒りに支配され、無力感と共に泣き叫んだ。努力と才能を信じてきた自負が崩れ始め、「なぜ自分だけが」と現実に対する怒りをぶつけながら、あまりに理不尽な試験に絶望していた。
救世主の登場と“魔”の消滅
チャイムの音と共に、突如として岩の扉が破壊され、小さな男の子が廊下を歩いてくる姿が見えた。彼の存在が周囲の“魔”を一掃し、空間を崩壊させていった。その少年は少女たちに気づくと、つむぎを抱えて脱出へと導いた。外に出た彼女たちは新宿の夜の街に帰還し、事態が本当に終わったことを実感した。
真実の力と少女の目覚め
少年の名は如月イツキであり、第五階位の“魔”を一撃で祓う圧倒的な力を持っていた。彼はただ「死にたくないから」強くなったと語り、その姿勢は少女に大きな衝撃を与えた。これまで信じてきた「天才としての特権」が根底から覆され、自身の無力さと向き合うことを余儀なくされた少女は、初めて本物の存在を知り、自分が天才ではないことを痛感した。月光の下で、少女は自分の小ささを受け入れざるを得なかった。
幕間 それは世界の簒奪者
異界に覆われた無人島
日本が保有する無人島の一つに、空と海が墨のように黒く染まり、自然や人工物がすべて無彩色と化した異様な光景が広がっていた。その島に立つのは銀髪の巫女アカネと、対峙する禿頭の法師・玄墨公師であった。彼は第六階位に属する“魔”であり、異界の住人として自身の領域を作り、そこから本来の世界への侵攻を行っていた。空に刻まれた黒い一文字は、その異界との接点であった。
異界からの侵攻と審問
アカネは玄墨公師に対し、今回の騒動に乗じて“魔”を送り込んだ目的と数を問い質した。送り込まれた“魔”は第六階位が八体、第五階位が二十二体であるとアカネは把握していたが、玄墨公師は肯定も否定もできず、沈黙のまま答えを回避した。これを確認と見なしたアカネは、導糸によって彼を祓い、瞬時にその存在を消滅させた。
黒の解除と世界の修復
玄墨公師の消滅と共に、空を覆っていた黒い線は砕け、海と島は元の色を取り戻した。アカネは異界と接続していた空の亀裂を視認し、導糸を用いて縫合を開始した。その裂け目には巨大な瞳が浮かんでいたが、アカネはそれを意に介さず修復を続けた。
報告と子どもたちの保護指示
作業中に部下が現れ、如月イツキからの報告を伝達した。内容は、マリオネットと呼ばれる存在が祓われたこと、そしてその過程でニーナが記憶を取り戻したというものであった。アカネは一時的に苦悶の表情を浮かべつつもすぐに平静を取り戻し、子どもたちの保護と癒やしのため仙郷の準備を指示した。部下の懸念に対しては、イツキであれば困難を乗り越えられると断言した。
未来への祈り
アカネは再び世界の裂け目を縫いながら、子どもたちの無事を静かに祈った。その祈りは、ただ年長者として、次代を担う者たちの未来を想う純粋な願いであった。
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