どんな本?
『商人令嬢はお金の力で無双する2』は、ファンタジー小説である。前作に続き、商才に長けた少女サラが、領地の立て直しに奮闘する物語を描く。彼女は新たな事業を計画し、領主代官のサポートとして活躍する。
主要キャラクター
• サラ:商才に優れた主人公の少女。領地の経営改善に尽力し、新しい事業を立ち上げる。
物語の特徴
本作は、前作に続くやり手少女の荒稼ぎファンタジー第二弾である。サラのビジネス手腕と行動力が際立ち、彼女が周囲の大人たちを巻き込みながら領地を再建していく様子が描かれる。また、コミカライズ企画が進行中であり、巻末には書き下ろしの番外編も収録されている。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 発売日:2024年7月20日
• ISBN-10:4867942553
• ISBN-13:978-4867942550
読んだ本のタイトル
商人令嬢はお金の力で無双する 2
著者:西崎ありす 氏
イラスト:フルーツパンチ 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
領主代官のサポートとして新しい事業を目論むサラにとある報せが届く。なんと、領地グランチェスターの畑に人体に有害な麦角菌が広がっているらしい。このままじゃ、稼ぐどころか民の健康も危うい。急いで現場に向かうと、この土地の麦栽培は終わりだと農民たちが絶望していた。
でも、この大きな土地の可能性を探らないなんて馬鹿らしい。子どもだと舐めてきた文官を秒で黙らせ、薬師たちに売れる作物を調べさせる。さらに植物妖精のポチに出してもらったジャガイモや亜麻などの栽培を農家の大人たちに提案し――?
「麦畑ここにある金脈ビジネスチャンスが見えなくて?」
農民を味方につけて金儲けまっしぐら!? やり手少女の荒稼ぎファンタジー第二弾!
感想
現実的な善意に支えられた物語の魅力
本作はファンタジー作品でありながら、登場人物の多くが善意を基盤に行動している点に特徴がある。
麦角菌の蔓延という深刻な事態に対し、サラは領民の健康と経済の両面を救うべく迅速に行動した。
誰かを悪として断罪するのではなく、問題に向き合い、解決へ導く姿勢が物語に穏やかなリアリティをもたらしていた。
少女の行動力と説得力が描く政治的成長
麦角菌に汚染された畑を前に、絶望する農民たちを励まし、売れる作物への転換を提案するサラの姿には、年齢を超えた胆力と商才が見られた。
周囲の大人たちを論理で納得させ、薬師やギルドと連携する姿勢は、商人であると同時に優れた指導者の資質を感じさせるものであった。
文官の偏見を跳ね除ける場面などは、爽快感を与えると同時に、少女の成長を印象付けた。
混乱する情勢と商人らしからぬ立ち回り
森の狩人たちによる暴動が、実は他国の侵略であったという展開は予想外であり、物語にスリルをもたらした。
しかし、サラが外交・軍事的な問題にまで踏み込んでいる点は、商人というよりは政治家に近い印象を受けた。
作品としての面白さは増していたが、「金儲けまっしぐら」というキャッチフレーズとはやや乖離が感じられた。
総評:知略と行動力で切り拓くファンタジーの第二幕
商人としての視点に留まらず、広い視野で社会問題に取り組むサラの姿は、多くの読者に勇気を与えるであろう。
経済・政治・魔法が交錯する複雑な世界観のなかで、少女が自身の力と知恵で道を切り拓く様子は、今後の展開にも大きな期待を抱かせるものだった。
シリーズとしての深まりを感じる第二巻であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
備忘録
プロローグ
過去の職場での教訓と誠実な姿勢
更紗は、過去に勤めていた企業で食品部門に配属されていた際、業界全体を揺るがす食品偽装事件が発生していた。この事件は更紗の会社とは無関係であったが、製造工場の衛生管理不備や原材料の偽装などが発覚し、企業の株価は大暴落した。事件の影響は業界全体に波及し、更紗の職場も緊張感に包まれていた。
更紗の上司である部長は、食品を扱う上での誠実さを重んじていた。彼は「お客様に対して誠実であれ」という信念を掲げ、質の悪い食品を扱うことを厳しく拒否していた。部長はたとえ上層部からの圧力があっても、自ら調査を行い、納得のいかない業者との取引を断っていた。
この部長の姿勢は周囲からは「融通のきかない奴」と評価されていたが、更紗にとっては信頼できる上司であった。部長の徹底した品質管理によって、更紗の会社は食品偽装問題の影響を受けることなく事業を継続することができた。
部署異動と新たな責任
更紗はその後、繊維関連などの複数の部署を経て、最終的に酒類を扱う部署でリーダーの任を受けた。酒類業界もまた、原材料偽装や認可外添加物の使用といった多くの問題を抱えていた。更紗は以前の上司から教わった「誠実さ」を胸に、日々の業務に取り組んだ。
更紗の責任が重くなるにつれ、誘惑や不正の誘惑も増えていった。かつて自分が指導した部下が業者からリベートを受け取り、偽装を見逃そうとしたことを知った更紗は、告発を決断した。その部下はブランド品を購入するなど、不正行為の証拠が明らかであった。
告発は辛い決断であったが、更紗は「お客様に対して誠実であるべき」という信念を貫いた。
過去からの覚醒と再確認
サラは意識を取り戻し、自分がグランチェスター城内の自室にいることを確認した。先ほどの出来事は前世の夢であったと理解した。過去の記憶を思い出したサラは、誠実であることの重要さを再確認し、微笑みを浮かべた。
ライ麦畑で抱え上げられた!
開拓地への到着とギルドの準備
休憩を挟みつつ四時間ほど馬を走らせた末に、サラたちは目的地である開拓地へ到着した。錬金術師ギルドと薬師ギルドの関係者、および乙女たちの馬車はすでに到着しており、作業場所となるテントを設営していた。彼らは通達を受けてから夜通しで準備を行い、夜明け前には荷車と共に現地へ向かっていた。
冒険者ギルドの護衛とジャン夫妻の登場
サラは傍らにいたポルックスから、冒険者ギルドに乙女たちの護衛を依頼した経緯を聞いた。ジャンと彼の妻も護衛任務に就いており、妻は冒険者ギルドの酒場で女将を務める有名な冒険者であった。
菌核の発見と刈り取り命令
テオフラストスとアレクサンダーが現地で刈り取ったライ麦を調査し、麦角菌に感染したことを確認した。グランチェスター侯爵は、土壌への感染を防ぐために、この地域のライ麦をすべて刈り取ることを命じた。
農民の反発とサラの提案
開拓地を代表する農民ジェイドは、すべてのライ麦を刈り取るという命令に反発した。侯爵はライ麦の補償を約束したが、農民たちは将来への不安を拭えなかった。サラは農民たちに、錬金術師や薬師が必要とする薬草を植えることで収入を得ることを提案した。
土地の開拓とジェイドの苦労
ジェイドは、痩せた土地で小麦を育てるのが困難であったため、ライ麦を栽培することに切り替えた過去を語った。彼は十年にわたる試行錯誤の末に、ようやくライ麦栽培に成功したが、今回の麦角菌の感染でその努力が無駄になることを嘆いていた。
エルザの指揮と農民たちの協力
ジェイドの妻エルザは、農民たちに麦角菌の危険性を伝え、協力してライ麦を刈り取るよう指示した。彼女の指揮のもと、農民たちは刈り取り作業を迅速に開始した。
アインの誤解とサラの説明
徴税官アインは、農民たちに十分な説明をせずに命令を出したため、反発を招いていた。サラは、病気の詳細と危険性をきちんと説明することの重要性を指摘した。
侯爵とロバートの評価
グランチェスター侯爵とロバートは、サラの対応を高く評価し、アインの態度を非難した。サラは農民に理解を得ることの重要性を説き、アインの高慢な態度を批判した。侯爵もまた、サラの指摘を正当なものと認め、アインに改善を促した。
農民と貴族の違いへの疑問
サラは、自分と農民が異なるというアインの考え方に疑問を呈した。侯爵は矜持を持つこと自体は悪くないとしながらも、農民を見下すような態度を改める必要があると述べた。
全体的に、本作は商人令嬢サラが錬金術師や農民たちと協力し、新たな作物の栽培や地域復興に取り組む姿を描いている。また、サラの柔軟な思考と交渉力が強調されている点が物語の魅力である。
麦角菌の問題と対策の議論
テオフラストスと娘のアリシアは、菌核のある畑の範囲を特定し、地図を用意してサラたちと共有した。サラは安全のためにライ麦と周囲の雑草をすべて刈り取り、焼却することを決定した。しかし、焼却時の胞子拡散を防ぐために風属性の魔法を使うことも提案された。アリシアが薬の利用可能性を指摘し、錬金術師や薬師の興味を引いたが、最終的に侯爵が研究を許さず、安全性を優先して焼却することに決まった。侯爵は麦角菌の拡散がグランチェスター領全体に及ぶことを懸念しており、その危険性を避けるための決断であった。サラも納得し、研究は断念された。
農業政策と栄養に関する議論
サラはライ麦の栄養価について説明し、特に脚気の予防に有効であることを指摘した。アレクサンダーとアメリアは脚気の原因に興味を示し、サラは栄養不足による病気であることを説明した。特に肉類やライ麦、大豆、ナッツなどに含まれる栄養が重要であると伝えた。アメリアは患者の多くが高齢者であることを指摘し、肉を避ける傾向があることも明らかになった。この議論を通じて、農作物の選定と食事の改善が求められることが理解された。
薬草栽培と農業の改善提案
アメリアは薬草リストを提供し、サラはその中に「馬鈴薯」(ジャガイモ)が含まれていることに気づいた。食用として栽培されていないことを知り、サラはその栄養価の高さを説明し、食用として利用できることを提案した。また、サラはライ麦の代替作物として豆類や馬鈴薯を使い、輪作によって連作障害を防ぐ方法を考案した。さらに、マルベリー(桑の実)の利用についても検討したが、シルクの生産に関する知識や技術が不足しているため断念した。
農業と地域振興の計画立案
ジェイドは、サラの提案を受けて有用な作物を育てることの重要性を理解し、地域の生活を豊かにするための取り組みに前向きな姿勢を示した。テオフラストスとアレクサンダーも協力する意思を示し、地域全体で有用な作物を育てることを目指して取り組むことが決まった。侯爵とロバートもこの計画に賛同し、グランチェスター領および国全体の発展に寄与することを目指して支援を行うことを誓った。
今後の方針と問題点の整理
サラは、妖精の協力を得ることで特定の植物を栽培できる可能性を考えたが、農家が独力で管理できる方法を優先する方針を取った。彼女は、自分たちで困難を乗り越えた経験が今後の発展に重要であると考えた。また、農業の改善を図るための提案を実行するにあたり、関係者との調整や作物選定の重要性を再確認した。サラは実務的な取り組みを進めることを決意した。
新しいお友達
妖精たちの呼び出し
サラは、花園の妖精たちを呼び寄せることを提案した。レベッカの助言に従い、フェイを通じて妖精たちへ声をかけることに決定した。サラは人目を避けるために周囲を確認したが、レベッカは自分の存在が知られていることを理由に問題ないと判断した。ミケも現れ、サラの呼びかけに応じて集まる妖精たちを見守った。
ジャン一家との対話
護衛として待機していたジャンとその妻シータが登場した。ジャンは冒険者であり、妻と息子夫婦と共に乙女たちを守っていた。シータは冒険者としての経験を活かし、弱者を守ることを志としていた。彼女は農家出身であり、農業に詳しいことが判明した。サラは彼らの助力に感謝を示し、作業を効率的に行うための助言を求めた。
刈り取りの提案と農業経験の共有
シータはグランチェスター領が他領と比べて女性冒険者の比率が高い理由を説明した。アクラ山脈からの自然環境が豊かであり、薬草採取や狩猟が盛んであるため、冒険者ギルドでの即席パーティーも頻繁に組まれていた。サラは農作業を手伝うかどうかを迷っていたが、アメリアやレベッカの意見を参考にすることにした。
妖精たちの協力と麦角菌の処理
フェイの呼びかけにより、多くの妖精が集まり、病気に侵されたライ麦の調査を始めた。妖精たちは麦角菌の存在を確認し、処理を試みた。緑色の犬の妖精は、サラの目の前で麦と麦角菌を一瞬で消滅させる力を見せた。この能力にサラは恐れを感じたが、妖精は彼女の感情を理解し、励ました。
妖精ポチの誕生
緑色の犬の妖精はサラに友達になりたいと申し出た。ミケは嫉妬して反発したが、サラはミケを諭し、妖精とも仲良くすることの大切さを伝えた。最終的にミケは納得し、緑犬も友達として受け入れられた。サラは新たに現れた妖精に「ポチ」という名前をつけた。ポチはサラとの友情を喜び、新たな仲間として受け入れられた。
議論に水を差す(物理で)
魔法使用許可と専門家たちの対立
サラはテントに戻り、魔法使用の許可を得るため侯爵に会った。そこでは、錬金術師アレクサンダーと薬師テオフラストスが栽培する作物の選定を巡って激しく言い争っていた。ジェイドは仲裁を試みたが失敗し、侯爵とロバートは状況を見守っていた。サラは議論を止めるため、二人に氷水をかけて強制的に冷静さを取り戻させた。そして、彼らの議論が実際には建設的な意見交換ではなく、互いの主張を押し付け合うだけのものだと指摘した。サラは、作物の選定を決定する権限はジェイドたち農家にあるべきだと説き、意見を求めた。
サラの提案と農業知識の活用
サラは自分が育てたい作物として馬鈴薯を挙げ、それをジェイドに栽培してもらいたいと頼んだ。サラはコンパニオンプランツの概念を説明し、マリーゴールドやフラックスを馬鈴薯と共に植えることで、害虫予防や収穫量の向上を図れることを提案した。また、フラックスを栽培することで亜麻布の生産にもつなげようと考えた。ジェイドはサラの提案に賛同し、自分たちの畑で試験的に栽培することを承諾した。
妖精たちの協力と栽培計画の立案
サラは妖精たちを呼び寄せ、彼らの知識を借りて栽培に適した植物を選定する計画を立てた。妖精たちは様々な植物の組み合わせや栽培方法について教え、サラはその情報を基に具体的な栽培計画を作成した。錬金術師ギルドと薬師ギルドが必要とする薬草も含め、収入を確保するための農作物の育成を提案した。
農作業の魔法による支援と新たな魔力の発見
サラは魔法でライ麦を刈り取り、雑草を取り除きながら土地を整備した。さらに、魔法を使って畑を耕し、肥沃な土壌を作り出すことに成功した。周囲の人々はサラの魔法の力に驚嘆し、感謝の言葉を述べた。しかし、サラは魔力をほとんど消費していないことに気づき、妖精から自分が自然の魔素を取り込んで魔力に変換する能力を持つことを知らされた。
新たな作物栽培と未来への展望
サラは、今後も妖精たちの知識を活用しつつ、様々な作物を試験的に栽培することを決意した。特に亜麻布の生産や薬草の栽培によって地域経済の活性化を図ろうと考えた。また、食料になる作物の栽培にも取り組み、多角的な農業展開を目指した。サラの新しい挑戦は、今後の地域発展に大きく影響を与える可能性を秘めていた。
控え目に言って最高
農場の作業と収穫
サラは魔法を使い、刈り取ったライ麦や雑草を穴に集めた。農家やギルド関係者が集まる中、ポチを使って馬鈴薯などの作物を大量に作り出すことを決意した。彼女の魔力を半分ほど消費する作業であったが、目の前には収穫物の山が築かれた。
鹿との遭遇と狩猟
サラとレベッカが夕食のために領主館へ戻る頃、近くで農民たちが野生動物と遭遇したと叫んだ。冒険者のジャンとその家族が迅速に対応し、武器を持って現場に急行した。サラもその騒動に興味を持ち、近くで鹿を発見した。護衛の騎士に守られつつ、状況を見守った。エルザは弓を使い鹿を狙ったが、矢は角に弾かれた。好戦的な鹿はサラたちに近づいてきたが、ジャンの襲撃によって討たれた。
ムーアベアの捕獲と解体準備
さらに、ムーアベアと呼ばれる巨大な魔獣も捕獲され、農民たちが協力して運搬を行った。ジャンやシータも手伝い、サラは魔法で解体のための設備を整えた。水場を作り、解体を効率的に進める準備を整えたことで、周囲の人々に感謝された。
開拓地の水問題と井戸掘りの提案
サラはこの地域の水源不足に気づき、妖精の助言によって地下に豊富な水源があることを知った。しかし、深い岩盤の存在によって人力での掘削は難しいと判明した。ジェイドは専門の井戸掘り職人へ相談することを決意した。
新しい命への祝福と農地の発展
サラはエルザを気遣い、妖精たちからの祝福を受ける場を提供した。妖精たちはエルザの子供に対し、植物を育てる力を少しだけ高める贈り物を与えた。サラは農地の発展を目指し、彼女の魔法で様々な作物を生産する試みを続けた。ポチの助けを借り、多くの収穫物を得ることに成功した。
開拓地の暮らしと希望
サラは周囲の人々の生活を観察し、開拓地の厳しい環境とそれに立ち向かう人々の強さを理解した。新たに作り出された作物は農民たちの生活を支える一助となり、彼女もまた成長する中でさらなる挑戦を見据えていた。
収束あるいは終息
天使と妖精に救われる
農作物の準備と指示書の提供
サラはジェイド一家を呼び出し、種と苗を準備したことを伝えた。ジェイドは家族と共にサラのもとへ向かい、妻のエルザがサラの用意した指示書を確認した。指示書には畑に何を植えるか、また妖精から聞いた育て方が詳細に記載されていた。エルザはその分かりやすさに感謝し、指示書に従って作業を進めることを決めた。周囲の農家やギルド関係者もそのやり取りを見守り、新しい農作物に興味を示していた。
馬鈴薯の試食と農家の反応
サラは蒸した馬鈴薯を人々に振る舞い、彼らはその美味しさに感動した。農家の間で馬鈴薯を育てたいという声が広がり、他の野菜や薬草にも関心を寄せる者が増えた。サラは農家に新しい作物を紹介し、それを育てるための苗や種を提供することを約束した。
収穫祭のような宴会の発展
試食会が次第に盛り上がり、村の周辺は祭りのような雰囲気に包まれた。農家たちは提供された作物を調理し、ギルド関係者や錬金術師たちもそれぞれ調理を始めた。集落全体が新しい作物の可能性に期待を寄せ、賑やかに食事を楽しむ様子が広がった。
天使と妖精に救われる─SIDEジェイド─
ライ麦の異常と徴税官の指示
ジェイドはライ麦の中に黒い種子が混ざっていることに気づき、領都へ調査依頼を出した。数日後、徴税官のアインが訪れ、全てのライ麦を刈り取り、翌年もライ麦を育てることを禁止する命令を下した。ジェイドはその決定に納得できず、絶望感を覚えた。
サラの救済と新たな作物の提供
領主と共に現れたサラは、ライ麦農家全てに補償金を支払うと約束した。さらに、サラは妖精の力を借りて新しい種や苗を準備し、農家に提供した。サラの魔法と妖精の協力により、農家たちは新たな作物を育てる準備を整えた。
村としての登録と開拓の進展
サラの支援により、集落は新しい作物を育てることに成功し、バレイ村として正式に登記された。村の開拓は順調に進み、ジェイドは初代村長として「ここは天使と妖精に救われた村」と称し、人々の信頼を得ることとなった。
侯爵との話し合い
グランチェスター城への帰還
サラたちは麦角菌の騒動を終え、グランチェスター城に帰還した。侯爵やロバート、ポルックスはすでに戻っており、錬金術師ギルドと薬師ギルドのメンバーも共に領都へ帰還した。サラを迎えた侯爵とロバートは、夕食を共にすることとなった。
サラの将来についての問いかけ
侯爵はサラに対し、「これからどのように生きたいか」と尋ねた。サラは平民として育った過去があるため、貴族令嬢としての生活に適応するのは難しいと述べた。貴族社会での立場の困難を予測し、自分の才能を公開することも慎重に考えていた。
女性としての生き方の制約
レベッカは、貴族社会における女性の立場の困難を説明した。貴族女性は基本的に男性に従属し、自分で生き方を決めることができないと述べた。侯爵はこれに反論するが、女性が高い能力を持っていても評価されず、不自由さを感じる場合もあるという事実を受け入れた。
サラの強さと評価
サラは自らの強さを認識しつつも、貴族女性としてその能力を表に出せない現実を理解していた。彼女の能力を示すことで「女のくせに生意気だ」と言われることを恐れていた。また、ジェームズやベンといった文官がサラの意見を受け入れたことを恵まれていたと述べた。
ロバートの養女になる提案
侯爵は、サラがグランチェスター家を離れずに済むために、ロバートの養女になることを提案した。サラは即答を避けつつも前向きに検討することにした。また、サラの能力をどこまで公開するかという問題についても議論が続いた。
サラの能力とそのリスク
サラは自分の能力をなるべく隠そうと考えていたが、状況によっては能力を見せざるを得ないことも多かった。彼女の行動はしばしば予想外の結果を招き、王室に目を付けられる危険性も高まっていた。侯爵とレベッカは、サラが能力を完全に隠し続けることは難しいと考えていた。
新しい身分「ソフィア」の設立
侯爵は、サラの自由を守るために「ソフィア」という新しい身分を用意した。商会を設立し、ソフィア名義で活動することで、サラの能力を隠しながら活かすことを目指した。サラはこの提案に感謝し、商会の運営に取り組む決意を固めた。
サラを巡る王室との関係
レベッカは、サラが社交界に出ることで注目を集める可能性について説明した。特に王都での子供たちのお茶会や演奏会に参加することが求められると予想された。サラの能力や演奏技術が公になることを懸念しつつも、完全に隠し通すことは難しいと認識されていた。
侯爵の覚悟とサラの決意
侯爵はサラに「普通の貴族令嬢として生きる必要はない」と告げ、グランチェスター家を去らないで欲しいと頼んだ。ロバートやレベッカも同様にサラを支え続ける意思を示し、サラは感謝の涙を流した。彼女は自分の能力を活かしつつも、家族や仲間との絆を大切にすることを決意した。
真夜中の魔法少女
サラの夜の試み
サラはマリアに手伝ってもらい夜着に着替え、ミケとポチと共に就寝の準備を進めていた。妖精の恵みで体を変化させても服はそのままであることに不便を感じたサラは、ポチの提案により自身の魔法と組み合わせて服を変化させることに挑戦した。サラは木属性の魔法を用いて、木綿の服を自在に変化させることに成功したが、素材の不足によりドレスの丈が短くなってしまった。サラはその後、収納魔法を試み、成功を収めた。さらに、収納した素材を取り出してドレスに変化させる訓練を重ね、細部までイメージする難しさに苦戦しながらも、無事に完成させた。
魔法による着替えの発見
サラは自身の魔法を利用して、収納したドレスを自由に取り出し、瞬時に着替える技術を身につけた。これにより、貴族の複雑なドレスを一人で着替えられるようになり、彼女はこの新しい魔法の便利さに驚嘆した。サラは更紗時代の記憶を活かし、物流システムのイメージを魔法に取り入れることで、迅速な取り出しと着替えを実現したのである。
成長魔法と新たな発見
ミケの助けを借りて、サラは自身の肉体年齢を変化させる魔法を試みた。16歳の姿に成長したサラは、鏡に映る美少女の姿に喜びを感じた。さらに妖精たちの遊びによって、サラは様々な年齢へと変化させられ、美しい容姿が保たれることを確認した。髪や瞳の色の変化はできないものの、成長による容姿の変化を楽しむことができた。
ミケとの交流と休息
サラはミケやポチと共に深夜まで魔法の練習を続け、ついにはソファーに倒れ込んで寝てしまった。翌朝、マリアが部屋を訪れると、散乱するシーツやカーテンに驚き、レベッカに報告した。事情を聞いたレベッカは、サラの魔法の使用に対する方策を考えるため、サラに休息を取らせることにした。サラはレベッカに呆れられたのではないかと不安を抱いたが、実際にはレベッカが彼女を心配していたのである。
嵐の予感
執務室の緊張と暴動の発端
レベッカの授業が中止となったことで、サラは執務棟を訪れていた。扉の前で祖父の怒声を耳にし、入室を躊躇していたが、ベンジャミンが青ざめた表情で出てきたため、室内に案内された。中では侯爵とロバートが緊張を漂わせ、猟師による暴動の報告を行っていた。グランチェスター家の狩猟場で、待遇への不満から猟師たちが蜂起し、ウォルト男爵邸を囲んだという。これは、木こりと猟師の報酬体系の不公平が原因であった。
狩猟場の運営と猟師たちの不満
グランチェスター家の狩猟場は自然管理を要する領域であり、木こりと猟師の役割が分業化されていた。かつては兼業が主であったが、近年は冒険者を兼ねた猟師が増え、収入が不安定になっていた。一方、木こりは薪の販売などで利益を得ており、それが猟師の不満を招いていた。さらに、狩猟禁止区域である狩猟場において、木こりが例外的に狩りを行えるのに対し、猟師にはそれが許されなかったため、不公平感が広がっていた。
暴動の経緯と対応
猟師が狩猟場内で違法に狩りを始め、男爵が取り締まった結果、一部の猟師が蜂起した。暴動は騎士団の出動により即座に鎮圧されたが、不満は依然燻っていた。彼らの要求は狩猟場での狩猟許可であったが、侯爵はそれを認める意志はなかった。狩猟大会の人気と領経済への貢献が大きいため、場の秩序維持が優先された。
ベンジャミンの動揺と私情の介入
暴動に関連してベンジャミンの従妹が怪我を負い、彼は激昂して執務室を飛び出していた。ロバートと侯爵は彼の無謀な行動を危惧し、必要な対処を考慮していた。サラは冷静に状況を分析し、お見舞いの必要性と共に、冷静な対話の重要性を述べた。
サラの提案と施策の整理
サラは、木こりと猟師の待遇を分けて議論するべきと提案した。まず、木こりが狩猟場内で得た獲物は必ず男爵家に納める制度を導入し、報告義務を課すべきと述べた。二つ目に、狩猟場の一部を猟師に開放し、宿泊施設周辺などでの狩猟を許可することで、収入源を確保する方策を示した。
抗議活動と統治制度への提言
暴動に対しては厳正な処罰を求めつつも、サラは領民が意見を伝える手段の確保も重要であると指摘した。合法な集会や行進の制度化を提案し、透明で公正な許可制の必要性を説いた。統治者の独断による許可判断は独裁に繋がる危険性があるとし、制度設計の公明性を重視する姿勢を示した。
文官たちの評価とサラの予感
サラの提言に対して文官たちは高く評価しつつも、彼女がアカデミーで議論を交わすことを想像して冷やかしていた。サラはその意図を察しながらも、今後の展開に波乱の予感を抱いていた。
グランチェスターの騎士
暴動の発生と侯爵の出動
昼食の後、グランチェスター侯爵が騎士団を率いて暴動の現場へ向かうことを決定した。サラはその暴動に違和感を抱き、猟師に加えて他領の冒険者が参加している点や、身元不明の者が多数含まれていることに疑念を示した。さらに、少数の騎士団で制圧に赴くことが、敵の策略に嵌る可能性を指摘した。
男装の麗人
食糧庫と戦略的価値の分析
サラは暴動が猟師の待遇問題だけではないと判断し、敵の本当の狙いが食糧庫であるグランチェスターの混乱と判断した。騎士団の動きや配置を読んだ上で、敵が騎士団長を含む上層部を狙っている可能性を説いた。備蓄された小麦を失えば国全体の食料供給に影響が及び、配給の混乱やさらなる内政の動揺を引き起こす恐れがあると警告した。
騎士団団長ジェフリーとの対面と指揮命令
サラは騎士団長ジェフリーと初対面を果たし、自らが侯爵の孫であると明かした。侯爵はサラの分析を認め、ジェフリーに対し騎士団の半数を率いて暴動鎮圧に向かわせ、残りは予備役を含めて登城、特に農村地域の巡回を強化するよう命じた。音楽会は延期され、緊張感が城内に漂った。
森林火災の発生と急報
サラが目覚めた夕刻、妖精たちが狩猟場の火災を知らせに現れた。火属性の魔法が制御を失い、広範囲に燃え広がっていた。サラは急ぎレベッカやロバートに報告し、鎮火の手段を考えたが、現地に有効な水属性魔法使いは存在しなかった。自らが鎮火に赴くことを決意し、そのためにレベッカの衣装を借りて男装し、十八歳の姿に変身した。
変身の準備と正体の開示
サラはレベッカの忍び用の男装を借り、ミケの力で十八歳の姿に変化した。騎士団内での混乱を避けるため、ジェフリーの提案でフード付きマントを着用した。サラは自身の正体と力を一部明かし、全属性魔法を扱える希有な存在であることを告げた。侯爵とロバートはサラの意思を尊重し、狩猟場への同行を許可した。
狩猟場への道中と火災の現地状況
狩猟場への移動は困難であったが、サラたちは急ぎ現場へ向かった。途中、森林火災が確実に進行している様子を確認し、妖精たちからも切実な訴えを受けた。現地に到着すると、ウォルト男爵邸が火災の最前線に位置し、既に避難が困難な状況であった。
ウォルト男爵との接触と避難誘導
ロバートとレベッカはウォルト男爵に接触し、邸の住民を避難させるよう説得した。レベッカは自らの立場を示し、妖精との友好関係をもって説得に成功した。サラは男装を解いて十八歳の姿となり、火災鎮圧に向けて行動を開始した。
鎮火作戦と科学的応用
サラは風と水の魔法を応用し、火元に水を集中投下する戦術を取った。その後、冷却による熱奪取を目的に、ドライアイスを模した炭酸ガスを用いる方法を選択した。結果として火は鎮まり、森の妖精たちの安堵の声を受け取ることができた。
戦況の変化と新たな脅威
鎮火に成功したものの、サラたちはまだ森に潜む武装した敵の存在に気付いていなかった。狩猟場ではただの暴動にとどまらない、より大きな陰謀が静かに動いていた。
治癒魔法の発現
火傷を負った二人の救出と治療
ミケが倒れている人間を発見し、サラたちは現場へ急行した。倒れていたのはベンジャミンと見知らぬ少年であり、二人とも重度の火傷を負っていた。レベッカが治癒魔法を使うが効果は限定的であり、サポートとして水属性魔法による冷却が施された。時間稼ぎのため、ミケが少年の時間を遅延させる魔法を展開した。サラはレベッカの魔法を観察するうちに、治癒とは何かを直感的に理解し、独自の光属性の治癒魔法を発現させた。これによりベンジャミンの火傷は一瞬で癒え、レベッカもその力に驚愕した。
襲撃と即応防御
サラたちはベンジャミンと少年を荷馬車に乗せて避難しようとするが、矢が飛来し襲撃を受けた。サラは即座に荷馬車を土で覆い、内部を魔法の光で照らした。周囲を確認するため、ドームを高くし、金属メッシュの窓を設けたところ、外には百名近い兵が取り囲んでいることが判明した。彼らの装備から、暴徒ではなく傭兵であると推測された。
少年の証言と傭兵の目的
ベンジャミンは目覚め、少年との関係を明かした。少年は傭兵団に誘拐され、奴隷のように扱われていたと語り、火災の原因が自分の魔法暴走にあったことを認めた。傭兵団はロイセンの貴族に雇われ、騎士団を襲撃して略奪する計画だったが、それに失敗し、代替案としてサラとレベッカを攫おうとしていた。
包囲への反撃と拘束
サラは傭兵団全体に炭酸ガスを吹き付けて昏倒させ、魔法で土に貼り付けて拘束した。縛る縄が足りなかったため、魔法で彼らの衣服を縄に変えた。この過程で、サラは使用人たちに「略奪者に同情はいらない」と言い放ち、彼らの協力を得て拘束作業を完了させた。
バレなきゃいいんです
自警団の到着と尋問
ウォルト男爵率いる自警団が到着し、迅速に傭兵の拘束を進めた。傭兵団のリーダーはロイセンの元騎士であり、サラとレベッカの治癒魔法の価値を見て身柄を取引材料に使おうとするが拒絶された。レベッカは妖精と契約した魔女として正体を明かし、傭兵たちの計画が各地で破綻していることを明らかにした。
過去の因縁と敵の正体
傭兵団長は、かつてレベッカが拒絶したアドルフ王子の部下であったことを告白し、彼女のせいで今の境遇に落ちたと逆恨みを述べた。レベッカとサラは冷静に反論し、男の自尊心を徹底的に打ち砕いた。
拷問と徹底的な尋問
男は自決を試みるが、サラの治癒魔法で即座に治療され、さらに挑発により再び攻撃を試みるも、今度は手足を切断された。サラは再び完全に治療してみせ、男の心を完全に折った。以後、男はすべての情報を漏らすようになった。この行動により、周囲の人々はソフィア(サラ)を「男の心を折る女」と陰で呼ぶようになった。
問題視された処置の理由
サラはロバートとレベッカに理由を問われ、「治せば問題ないと思った」と答えたが、レベッカから「心は治らない」と説教されることになった。彼女の徹底的な対応は敵の心まで砕いたが、やや過激すぎるものであった。
乙女の寝室
ウォルト男爵邸での目覚めと誤解
サラは見知らぬ邸で目を覚ました。彼女は夜着に着替えた状態で、どうやらウォルト男爵邸に運ばれたらしい。昨夜の記憶は曖昧であり、騎士団の到着とジェフリー卿の姿だけが断片的に思い出された。レベッカの説明により、サラは騎士団到着と同時に気を失い、ジェフリーの腕の中で倒れたことを知った。その状況から、使用人たちにはジェフリーの婚約者と誤解されていた。
日常の会話とドレスへの戸惑い
サラは大人用ドレスの着替えに苦戦しながらも、レベッカの助けを得て支度を整えた。ドレスの構造やパーツの多さに戸惑いながら、魔法を使って一瞬で着替えるという反則技も披露したが、これは人目に慣れる必要性を認識させた。レベッカはかつて王宮の侍女見習いをしていた経験から髪の結い上げや化粧を手際よく施し、サラに貴族としての振る舞いを促した。
狩猟場の後始末
侯爵邸での政治的会議と妖精の介入
サラとレベッカは侯爵をはじめとする重鎮たちと応接室で会談し、今回の暴動の裏に他国の策略があることを明らかにした。妖精の怒りによってレベッカが協力を得たことや、森の回復を妖精の力と偽ってサラが行う提案がなされた。グランチェスター領の横領事件も敵の工作の一環とされ、情報の公表に関しては、正直でありながらも有利な構成を持つ戦略的報告が必要であるとサラは説いた。
ジェフリーの提案と学友の追加
ジェフリーはサラと共に魔法訓練を行う新たな少年の保護と育成を申し出た。また、彼の息子も火属性魔法を扱えるため、同じ訓練に参加させたいと希望した。レベッカも賛同し、学問・乗馬・ダンスの指導を含めた教育体制が整えられた。侯爵は少年の保護と訓練に同意し、サラの意見と提案を積極的に取り入れる姿勢を示した。
事件の報告戦略と演出
グランチェスター領における事件の報告方法として、敵の策略を強調しつつ、領民が一丸となってこれに対抗した形をとることが決定された。また、帳簿の再整備による証拠提出や、火事によって発生した伏兵の発見も都合の良い事実として扱う案が採用された。レベッカは火事が魔力暴走であったことを秘し、計画的に焼いたとすることで、妖精の力を借りる大義名分を演出した。
晩餐と令嬢の誤解、政治的含意
晩餐では、サラが男爵令嬢に熱い視線を送られた。令嬢はサラを憧れの存在として見ており、これによりジェフリーやロバートへの興味が希薄であることが明らかになった。侯爵は森林火災の回復にサラとレベッカの力を借りることを決定し、妖精の協力を偽装する方針を継続した。猟師たちの処遇に関しては、ロバートに一任され、サラの提案が実行される見込みとなった。
今後の展望とサラの懸念
サラは早く商会の仕事に戻りたいと願っていたが、領内の再建と政治的調整により、彼女の提案や知恵が今後も求められる状況が続くことが示唆された。騎士団による護送や尋問、王都への急報、領内統治と様々な任務が動き出しており、グランチェスターの名誉と国益を守るための駆け引きが本格化していく兆しを見せた。
それぞれの戦い
日常の描写と騎士装束の選択
サラが目覚めたのは、朝の冷たい空気と使用人の物音が響くウォルト男爵邸であった。メイドの手で整えられた髪と身支度により、彼女は見目麗しい騎士風装束に身を包むことになった。この装束は、前夜にソフィアが男装していたことを受けて用意されたものであった。装束に戸惑いつつも、サラは素直に着替えを済ませ、侯爵の出立を見送った。
騎士団との別れと剣術提案
侯爵の出立後、ジェフリーはサラに剣術の習得を提案した。これは見た目の整合性を保つためのものであったが、レベッカがその話に割って入り、サラ本人として剣術を学ばせるべきと主張した。ジェフリーとロバートの軽い対立を経て、話は落ち着き、レベッカとサラは森へと向かうことになった。
森の再生と妖精たちの活躍
サラとレベッカは狩猟場の火災跡地に到着し、木こりや自警団と合流した。サラの風と光の魔法によって雰囲気が演出される中、妖精たちが登場し、森の再生が始まった。ポチとミケの協力で土壌改良が進み、魔法で若木が育ち、松茸までもが生成された。妖精の光によって森は幻想的な風景に包まれ、妖精の森として後に知られる場所となった。
昼食と香辛料への渇望
森の再生後、サラとレベッカはウォルト男爵邸に戻り、ロバートや男爵と共にジビエ中心の昼食をとった。肉の味は良かったものの、サラは胡椒の風味を恋しく感じた。この世界では胡椒は極めて貴重であり、入手困難であると知る。彼女は胡椒の栽培を試みる可能性に思いを巡らせた。レベッカはかつての求婚者アドルフ王子の過剰な胡椒使用を思い出したが、今ではサラの影響でその香りに好意的であった。
晩餐の誘いと出来過ぎた状況への違和感
サラたちはその夜の晩餐にも招かれ、滞在を延長することになった。しかし、出来過ぎたタイミングに疑念を覚えたサラは、レベッカと共に客間へ引き上げた。二人は事件の背後に潜む陰謀について議論を始め、ジェフリーとロバートを交えて情報を整理した。
傭兵による侵攻とその不自然さ
捕虜はすべて傭兵であり、正規軍が存在しない点にサラは違和感を持った。奇襲を成功させたいならば、精鋭や物量を用いた方が効果的であり、傭兵のみの構成は杜撰にすぎると分析した。また、政情不安なロイセンが侵略戦争を起こす合理性が乏しいことから、サラは第三者の介在を疑った。
狙いの分析と複数の可能性
サラは、暴動の目的が小麦の焼却や略奪、祖父の戦線離脱誘導であった可能性を指摘した。さらに、ロイセンの名を借りた偽装により、アヴァロンとの関係悪化を狙った勢力の存在を示唆した。この事件が外敵による経済攪乱か、国家間の離間工作かは判断がつかず、今後の調査が必要であると結論づけた。
祖父への報告と慎重な対応
サラは、祖父に事件の可能性を報告するため、妖精に手紙の運搬を依頼することを決めた。彼女は冷静に事態を分析しつつも、陰謀の全貌を明らかにするために慎重に動く決意を固めた。
グランチェスターの策士たち
─SIDEウィリアム─
王都報告と密書の作成
暴動の報告と王都到着
侯爵は途中で馬を何度も乗り換えつつ、急ぎ王都のグランチェスター邸に戻った。息子のエドワードが玄関ホールまで出迎え、狩猟場付近の暴動を既に耳にしていた。侯爵は暴動を鎮圧したものの、狩猟場の一部が火災で焼失した事実を伝えた。エドワードは親戚であるウォルト男爵の責任を追及し、管理者の交代を主張したが、侯爵はそれを一蹴した。
侵略者の存在と報告の必要性
侯爵は今回の暴動が暴徒を装った他国の侵略者によるものであったこと、そしてその侵略者を捕らえたことを国王に報告すべきだと語った。しかし同時に、領内で発生した横領事件の存在も明らかにしなければならず、エドワードはこれに強く反発した。侯爵は冷静に事態の重さを見極め、人払いを命じて密書の作成に取りかかった。
密書の作成と内容の整理
侯爵は、密書に以下の事実を記した。手練れの工作員に唆された代官が横領事件を起こし、逃亡の際に証拠書類を破壊したこと。また、この混乱に乗じて傭兵が暴徒を装って領内に侵入し、食料を狙っていたこと。さらに、これらは敵国による侵略の一環である可能性が高いこと。そして、レベッカの提案により伏兵を炙り出すために狩猟場を火属性魔法で焼いたことも明記し、それによって狩猟大会への影響が出る可能性も添えた。
密書の送付と王宮への召喚
侯爵は特殊な魔法紙と封蝋を用いて密書を完成させ、家令に王宮への速達を命じた。内容には国王との早急な会見希望も含められていたため、早ければ今夜中に召喚があると見込まれていた。
次期当主への説諭と内省
その後、侯爵はエドワードを執務室に呼び、事件の背後にある他国の関与について説明した。しかし、エドワードは事件の隠蔽と家の面目ばかりを気にし、領民の被害を気遣う様子を見せなかった。侯爵はそれを咎め、貴族としての真の矜持について考え直すよう諭した。そして、自分がエドワードやロバートの意見を聞いていないことに気づき、サラやレベッカの意見を重んじていたことを省みた。
女性たちの影響と過去への思索
侯爵はグランチェスター家の女性たちがいずれも策士であることを改めて感じた。エドワードの妻エリザベスもまた一種の策士であり、亡き妻もまたその類であったと回想した。もし妻が存命であれば、自分や息子たちも違った形で育ったかもしれないと、過去を思い返す場面もあった。
召喚状の到着
予想に反し、王宮からの召喚状は昼食中に届いた。侯爵は夜になるだろうと予想していたが、それが甘かったことに苦笑を禁じ得なかった。
王都にて王に応答して王太子に応対する
グランチェスター侯爵と王宮の密書
猫の使者と密書の到着
グランチェスター侯爵が王宮に向かう支度をしていた最中、突如三毛猫が空間から現れ、侍従の持つカフリンクスに飛びついた。その猫は妖精の使いであり、サラからの急ぎの手紙を届けにきた存在であった。侯爵は感謝の意を述べ、礼として酒を振る舞おうと申し出た。妖精はこれを受け入れ、人間の美女の姿に変身し、ワインを楽しみ始めた。
密書の内容と侯爵の懸念
侯爵は届いた手紙を読み、ロイセンの仕業でない可能性を指摘する文面に、陛下への奏上内容の変更を決意した。状況が出来過ぎているというサラの見解を受け、侯爵は慎重に事態を分析する姿勢を見せた。
王との対話と事件の報告
王宮に到着した侯爵は、王の私室にて密書の内容について話し合った。王は横領の責を問う可能性に言及したが、侯爵は潔く事実を認めた。傭兵団が関与していたことから、ロイセンの関与に疑念を持ち、真の黒幕が別に存在することを仄めかした。
ゲルハルト王太子の登場と外交的配慮
王の呼び出しで現れたのはロイセン王太子ゲルハルトであり、侯爵は驚愕した。王は彼との秘密交渉を進めていることを明かし、ロイセンとの関係悪化を避けたい意向を示した。ゲルハルトはロイセンとしての関与を否定し、王もまた犯行の粗雑さから国ぐるみの陰謀ではないと判断した。
ロイセン国内の粛清と王子の過去
ゲルハルトは十年前の粛清について語った。アドルフ王子が周辺国への侵略を企てていたことが原因で、王は断腸の思いで粛清を決行したと明かした。その結果、貴族家の取り潰しが相次ぎ、ロイセンは経済的にも政治的にも打撃を受けた。
事件の処理と報告方針
ゲルハルトはロイセンの名誉を守るため、王に対してロイセンの関与を否定してほしいと懇願した。王は了承し、事件は「ロイセンを騙った暴徒による略奪未遂」として報告されることになった。横領に関しては伏せられ、侯爵の手柄として処理される段取りとなった。
王宮内の思惑とゲルハルトの訪問理由
ゲルハルトの訪問には、王位継承にまつわる国内事情が背景にあった。粛清によって不満を抱く貴族たちが旧第三王子を担ぎ上げようとしており、アヴァロンとの連携強化が求められていた。ゲルハルトは中立的または友好的な立場を依頼するとともに、アヴァロン王に正妃候補の紹介を求めた。
過去と現在を繋ぐ因縁
アヴァロン王は、十年前の騒動の原因ともなったレベッカが現在グランチェスター領に滞在していることを示唆し、晩秋の狩猟大会へのゲルハルトの参加を提案した。これによりゲルハルトとアヴァロンの貴族令嬢との新たな出会いを演出しようとした。
恋と政略の交錯
ゲルハルトは過去に政略結婚で迎えた正妃を愛し、側室も持たなかった経緯を語った。その妻は十五歳を迎える前に病死しており、以来独身であった。アヴァロン王は、政略と恋愛が交錯する中での王子の慎重な姿勢を評価しつつ、新たな縁を促す意向を示した。
新たな火種の予感
王はグランチェスターの狩猟大会へのゲルハルトの参加を正式に勧め、両国の関係強化と王太子の縁談の場とすることを狙った。ゲルハルトもこれを受け入れ、グランチェスターの地に新たな火種が撒かれることとなった。
幕間 ロイセン王室の秘密
ロイセン王国・王位継承の悲劇
王子たちの出生と力関係
ロイセン王国では一夫多妻制が採られており、王子たちの出生背景も複雑であった。第三王子は正妃の嫡男として生まれ、側室腹の第一王子および第二王子に対して年齢的にも立場的にも優位に立っていた。しかし、穏やかな性格の第三王子は兄たちを立て、争いを避けていた。一方、第二王子の母は有力な侯爵家の娘であり、王太子の地位を巡る野心を強く持っていた。
陰謀と側室の策略
第二王子の母は王の寵愛を得られなかったものの、自らのメイドを王に差し出すことで第一王子を誕生させた。そのメイドは忠誠心の高い人物であり、第一王子も第二王子に頭を垂れる関係で育てられた。正妃として迎えられた他国の王女は、争いを避けて静かに暮らしていた。
温室での悲劇
数年後、第三王子の妻が温室を訪れた際、偶然にも第二王子が娼婦との密会のために同じ場所を訪れ、酒に酔っていた彼は妃を娼婦と勘違いし、暴行に及んだ。止めようとした侍女も暴力を受け命を落とし、王子妃は自ら命を絶った。第三王子は変わり果てた妻を見て感情を押し殺し、復讐のために第二王子の宮殿を訪れた。
復讐と魔法の暴走
第三王子は第二王子を問い詰め、彼と第一王子を殺害した。その際、抑えきれぬ憤怒により風属性の魔法が暴走し、周囲の護衛たちも巻き込まれて命を落とした。第二王子は四肢を斬り落とされ、無惨な最期を迎えた。王は事態を隠蔽し、第三王子による粛清ではなく自らの命令によるものと偽装した。
王国の混乱と第三王子の拒絶
王は有力貴族の粛清を進めたが、国内産業は大打撃を受けた。王は第三王子に王位を継がせようとしたが、彼は王位継承を拒否した。正妃は第三王子が王の子ではないことを告白し、実の父は彼女を守って命を落とした近衛騎士であることが明かされた。
王と王子の血縁の真実
王もまた、第一・第二王子が自らの子でないことを吐露した。側室たちは他の男の子を身籠もり、王はその事実に気付かぬまま王子たちを育てていたのである。王と正妃は互いの過去を受け入れ、夫婦として改めて絆を深めた。
新たな王太子の誕生
第三王子は王位継承を放棄し、王の甥であるゲルハルトが新たな王太子に指名された。騎士を目指していたゲルハルトは戸惑い、王族としての教育も受けていなかったが、王命により覚悟を決めた。彼の戸惑いは深かったが、貴族の思惑が交錯する王国の中で、新たな未来が動き始めた。
月夜の猫とワイン
グランチェスター家の決意
王宮からの帰還と密談
侯爵は王宮でのやり取りをエドワードに報告し、横領の件は完全な免責ではなく、陛下の寛大な処置で修正申告を条件に罰則を回避できることを明かした。陛下の対応には外部勢力による挑発を危惧した意図があると説明し、ロイセンとの外交問題にも配慮していた。
親子の対話と葛藤
侯爵はエドワードの能力を一時的に否定したが、その後謝罪し、エドワードが領地の経営と次代への橋渡しに努めていることを認めた。話題はサラに移り、子供たちによるイジメにエドワードが気付かなかったこと、エリザベスの対応、サラの容姿がアデリアに似ていることへの複雑な感情などが語られた。
アデリアの手紙と過去の告白
侯爵はアデリアからの手紙を受け取りサラを引き取る決意をした経緯を語った。アーサーの死が事故ではなく、殺害の可能性があると推察され、商人チゼンとラスカ男爵が関与していたことが明かされた。侯爵は怒りを表明しつつ証拠固めを進めていた。
妖精ミケとの語らい
侯爵が部屋に戻ると妖精ミケが酒瓶に囲まれて眠っており、二人は酒を酌み交わした。ミケはサラの心の傷や過去、転生者であること、そして母アデリアの矜持がサラの人生に影を落としたことを語った。サラは貴族にも侯爵にも恨みは抱かず、むしろ感謝していたことが明かされた。
魔法の発現と家族の驚き
エドワードは妻エリザベスとアダムの盗みに関する問題について語り、息子との対話の必要性を感じていた。一方でサラの魔法発現がきっかけとなり、彼女の過去の被害、子供たちによる池への突き落としが明るみに出た。子供たちは隠蔽しようとしたが、侯爵ら大人たちにより厳しく叱責された。
母エリザベスの決断
エリザベスは自らの育児失敗を悔い、子供たちを粗末な衣装に着替えさせ、自身も修道院入りを覚悟した。彼女の本気を感じた家族は緊張し、侯爵が調停に乗り出した。アダム、クロエ、クリストファーはいずれもサラへの仕打ちを認め、涙ながらに謝罪した。
教育の見直しと希望
侯爵は子供たちに反省と成長の必要性を説き、クリストファーには兄姉から独立した判断力を求めた。また、サラが何も告げなかった理由を信頼の欠如と捉え、それを回復するために謝罪を促した。エドワードとエリザベスは離婚や廃嫡の話を一旦棚上げにし、まずはサラと向き合う決意を固めた。
平穏への第一歩
侯爵は身支度を整え、グランチェスター領へと出発した。エドワードと家族も狩猟大会のため同行することが決まり、家庭に生じた亀裂の修復と未来への歩みが始まった。ミケはその様子を密かに見守りながら、静かに満足げな気配を漂わせていた。
神の愛は不公平
─SIDEエリザベス─
グランチェスター家の回想
貴族令嬢としての成長と変化
少女時代、語り手はグランチェスター家の三公子に憧れを抱いていたが、自身は騎士爵の娘であり距離を感じていた。十四歳の時、王都で流行した疫病により伯父が亡くなり、父がロッシュ伯爵を継ぐことで語り手は伯爵令嬢となった。それにより、慈善活動や淑女教育に励み、次第に社交界に身を置くようになった。エドワードとの距離も縮まり、淡い恋心を抱くようになったが、身分差を理解しつつも、その想いを秘めていた。
エレオノーラの提案と結婚への葛藤
予想に反して、エドワードの母エレオノーラが語り手を息子の嫁として望み、正式な縁談が持ち上がった。語り手は喜びを抱きつつも、エドワード自身からの想いがないことに寂しさを感じていた。貴族の結婚の宿命を受け入れ、彼を支える決意を固めた。
レベッカとの対比と劣等感
レベッカの来訪により、語り手は自身の容姿への不安と劣等感を強くした。レベッカは幼馴染でありながら、光属性の治癒魔法を持ち、美貌と名声を兼ね備えた女性として社交界で注目されていた。語り手はその存在を脅威と感じながらも、ロバートかアーサーと婚約することを予想していた。だが、レベッカは他家に嫁ぐことになり、語り手は密かに安堵した。
アーサーの恋とその悲劇
アーサーは平民の商人であるアデリアに恋をし、家の反対を押し切って駆け落ちを決意した。語り手はそれを知り、密かに資金援助を行った。建前では反対の姿勢を貫きながらも、彼女は二人の自由を支持する心情を抱いていた。しかし後にアーサーが亡くなり、支援したことを後悔した。女主人としての責任を果たさず、黙って見送ったことに深い悔恨を覚えた。
サラの登場と動揺
アーサーの娘サラがグランチェスター家に引き取られた際、その姿と瞳にエレオノーラの面影を見出し、語り手は心を乱された。サラは賢く、周囲に甘えることもなく、独自の存在感を放っていた。語り手は彼女の才覚に驚きつつ、自身の子供たちと比較して複雑な感情を抱いた。
子供たちの教育と限界
長男アダムは我儘で、幾度も家庭教師を辞めさせていた。語り手はかつてアダムを厳しく叱った際のトラウマから、彼を強く叱れずにいた。その結果、アダムは教育を拒み続け、問題児として成長していた。次男クリストファーは寡黙で従順だが、その内面は掴みにくく、語り手は彼の資質を理解できずにいた。娘クロエは語り手の真似をするが、皮肉な言葉まで模倣しており、語り手は自身の姿勢を顧みることとなった。
いじめの黙認と破綻
語り手はクロエたちによるサラへのいじめを知りながら、それを認めることができず見て見ぬふりをしていた。しかし、サラが池に突き落とされかけた事件を知り、愕然とする。自分の子供たちが加害者となり、それを隠そうとしたことに恐怖と絶望を感じた。
魔法の才能と家督の不安
サラが複数の属性魔法を発現したことで、語り手はさらなる危機感を抱いた。アダムやクリストファーには魔法の才能がなく、サラが家を継ぐ可能性すら浮上した。語り手はそれを阻止すべく、謝罪と修道院入りを計画し、自身の立場を改めて示すことで家督の維持を試みた。子供たちに対しても、地位の重みを自覚させる最後の機会と捉えていた。
信仰と不平等への疑念
語り手は最後に、神の愛が公平に与えられるという教えに疑念を抱いた。サラの存在と自分の境遇を比較し、不公平な現実に対する嘆きと諦念を抱えていた。
エピローグ たぶん三人目だと思う
妖精セドリックとの出会いと騒動
ミケとポチの帰還
サラはグランチェスター城への出立準備を整えていた。そこへ猫妖精のミケと犬妖精のポチが帰還し、ウィルとの交流や王都での出来事を報告した。ミケはウィルと酒を飲み、フレンドリーな関係を築いていた。サラはミケからグランチェスター邸での出来事を聞かされ、親族の反応に憤慨した。
新たな妖精との遭遇
ポチは新たな妖精を連れて現れた。黒服の執事風の妖精は、自らがサラのかつての屋敷にいた存在であると名乗った。人間の営みに興味を持つ稀有な存在であり、ミケとウィルの同衾すら観察していたという情報通でもあった。彼は名を与えられることを望み、サラの「主人」になりたいと申し出た。
セドリックの契約と正体
妖精はサラから「セドリック」という名を与えられ、契約が成立した。その瞬間、セドリックは人間大の姿に変化し、淑女教育を受けたサラを動揺させた。彼は知識と情報を愛し、王宮の寝室の会話まで収集可能と豪語した。サラはその有能さに即決で受け入れたが、ミケとポチは警戒を隠さなかった。
情報提供とグランチェスター家の事情
セドリックは、サラが池に突き落とされた件について、父エドワードと母エリザベスが当初知らなかったことを報告した。エリザベスは責任を感じて離婚と修道院入りを申し出たが、それは表向きのパフォーマンスであったと推測された。従兄姉たちは責任逃れや自己正当化を試み、長男と長女は特に反省の色を見せなかった。
アダムの発言と妖精の印象
セドリックは従兄のアダムがサラを「人形のように可愛い」と評していたことを伝え、サラと妖精たちは嫌悪感を示した。セドリックは彼なりの解釈を持っていたが、それを口にせず控えた。このようにして、サラは三人目の妖精——もといスパイのような存在——を仲間に加えることとなった。
精霊たちの酒宴
妖精たちの深夜の酒宴
酒宴への不満とセドリックの登場
ミケとポチは、突如加わった新たな仲間セドリックに不満を抱きつつも、サラのためを思って受け入れていた。セドリックは王都で人間を観察し続けてきた妖精であり、自らを「情報を司る妖精」と称していた。彼の語る情報論理にミケとポチは困惑しつつも、次第に理解を深めていった。
妖精たちの存在意義と事象の理解
セドリックは、妖精とは事象を司る存在であると語り、自らが扱う「情報」の概念を説明した。ミケは時間、ポチは植物という事象を扱っており、それらの違いを理解しながらも、三者は共通する存在であることを認識していった。
言葉と嘘の美学
セドリックは人間の言葉と嘘について考察を展開し、人はしばしば思いやりや様式美の中で意図的に嘘をつくことがあると述べた。ミケとポチもこれに同意し、サラが貴族的な会話術を学んでいる過程で嘘の教育も受けていると実感していた。
サラの誕生と特異な魔力
ミケはサラの誕生時の様子を語り、その魔力の特異さを回想した。セドリックは、サラが胎児の頃から母アデリアの魔力に触れていた可能性に言及し、サラの転生者としての側面がその特異な体質と関係していると推測した。
妖精たちの役割と自信の揺らぎ
ポチは自分の貢献に不安を覚えていたが、セドリックの言葉により植物という実体ある支援がサラにとって有益であると知り、自信を得た。ミケもサラの本質的な魅力に触れながら、妖精としての存在意義を改めて感じていた。
サラの介入と宴の強制終了
深夜の酒盛りが続く中、サラが寝室から現れ、酒の匂いや騒がしさに苦言を呈して妖精たちを追い出した。妖精たちは素直に応じ、セドリックはワインの香りを漂わせつつ部屋を去った。
宴の余波と新たな風習の起源
妖精たちはその後、秘密の花園で大宴会を再開した。グランチェスター侯爵は酒の減少に気付きながらも、妖精との縁を重視して黙認した。このことが契機となり、妖精に酒や食べ物を供える風習が王国中に広まり、後に願い事を添える習慣へと発展していった。
同シリーズ


その他フィクション

Share this content:
コメントを残す