小説「ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 3」感想・ネタバレ

小説「ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 3」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は学園バトル/青春サスペンスものライトノベルである。政府設立のエリート学校である“高度育成高等学校”を舞台に、生徒たちがクラスごとに厳しい競争と試験を通じて「真の実力」を争う学園制度を描いている。3年生編も後半に差し掛かり、第3巻では夏の“特別試験”として、クラス対抗による無人島でのサバイバルゲームが実施される。生き残りを懸けたサバイバルと心理戦、仲間との裏切りや信頼、そしてクラスのプライドと未来が交錯する展開である。

主要キャラクター

  • 綾小路清隆:本シリーズの中心人物。冷静沈着で高い分析力と身体能力をもち、周囲には“普通の生徒”を装って行動するが、常に裏で状況をコントロールする策士である。3年生編では別クラスに移籍し、自らの信念と過去を巡る思惑を抱える。
  • 椎名ひより:3年生編3巻の表紙にも登場するヒロインの一人。感情と信念に揺れ動きながら、自らの誇りとクラスの勝利のため葛藤を抱える人物である。無人島試験において重要な決断を迫られる。

物語の特徴

本作の魅力は、「学園≠安全地帯」という前提の下で繰り広げられるサバイバルと心理戦の緊張感にある。仲間・クラス・階級といった人間関係の階層構造が“実力至上主義”という制度によって研ぎ澄まされ、裏切り・計略・駆け引きが常に張り巡らされる。今回の無人島試験という極限状況によって、生徒たちの“素の部分”や本性、隠された動機が次々と露わになる。そのうえで、ただの頭脳戦・駆け引きにとどまらず、友情・裏切り・挫折・覚悟といった人間ドラマが複雑に絡み合う点も、他の学園モノとの差別化ポイントである。さらに、シリーズを通じて「強さ」「運」「策」「人間性」が総合的に問われる構造により、読者を簡単に飽きさせない奥深さとリアリズムが備わっている。

書籍情報

ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編3
著者 衣笠彰梧 氏
イラスト トモセ シュンサク 氏
出版社 KADOKAWAMF文庫J
発売日 2025年11月25日
ISBN 9784046854407

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あらすじ・内容

今年の無人島特別試験は、クラス対抗のサバイバルゲーム!
3年生、最後の夏、今年の無人島試験はペイント銃を用いたクラス対抗のサバイバルゲーム。15×15マスに分けられたエリアを移動、出現する食料や銃弾を取得しながら、他クラスの生徒を倒し競い合う。最初に全滅したクラスは退学者選定のぺナルティが発生するため、攻守の戦略が重要となる。司令官の役職の生徒は5分毎にクラス別の色で表示された全生徒のGPSが確認できるため集団での行動が必須。
「頭はこっちが押さえてるが……どう動く、綾小路」「そうね……一歩リードしたはずなのに、それでもやっぱり怖いわね」「綾小路くんは負けない。ううん、私が負けさせない」
3泊4日の無人島特別試験、その決着は――!?

ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編3

感想

読み終えてまず浮かんだのは、物語冒頭の椎名ひよりの独白が放つ不穏さである。潮風の中で綾小路との夕焼けの記憶を反芻し、「好きだ」と告げないまま距離を取る選択をした彼女の迷いと覚悟が、今回の特別試験へとそのまま接続していく。敵同士として綾小路を倒そうと決意しながら、同時に自分の敗北も予感しているひよりの姿は、静かだが重い予告編のように物語全体のトーンを決めていた。

そこから舞台は、全学年が再び訪れた無人島での特別試験へと移る。ペイント銃を使ったサバイバルゲーム形式という大胆なルールを最初に知った時、「本当にこのシリーズでサバゲーをやるのか」と戸惑い、思わず表紙を確認したほどである。しかし、エリア制限や物資争奪、退学ペナルティといったシステムが細かく積み上がっていくにつれ、この形式は単なるお遊びではなく、綾小路をはじめ各クラスの思惑を可視化する装置として機能しているのだと分かっていった。

試験が進むにつれて印象に残るのは、「予想外の展開」が続くのに、読み返してみればほとんどすべてが綾小路の想定の範囲内に収束していく構図である。開幕早々の龍園クラスの奇襲による半壊、Aクラスへの時間切れを利用したカウンター、終盤の四クラス入り乱れる決戦まで、表面上は綱渡りと混乱の連続でありながら、その裏には綿密な計画と冷静な判断が通底している。他者を駒として切り捨てるのではなく、感情の揺れや信頼関係まで含めて「戦力」として読み切る姿勢に、綾小路という人物の異常なまでの特異性が改めて浮かび上がった。

その一方で、綾小路の計算の外側から殴り込んでくる存在として描かれるのが龍園である。暴力性と大胆さだけでなく、「優位に立った人間は語りたくなり、その瞬間に隙が生まれる」という人間の弱さを理解したうえで利用するしたたかさがあり、口数の多さすら戦力に変えているのが興味深い。試験序盤の奇襲から最終局面での綾小路との直接対決まで、龍園は綾小路とはまったく異なるベクトルの恐ろしさと魅力を発揮し続けた。綾小路にとって「唯一読み切れないノイズ」としての龍園の位置付けは、本巻でも健在であると強く感じた。

終盤、フィールドが極端に狭まり、各クラスのVIPが一点に集約されていく中で、綾小路は戦局を「調整」する存在として動き続ける。AクラスのVIP情報を意図的に流して戦場をかき回し、C・D同盟を組ませたうえで、自らは単身でAクラス陣営へ突入し、時間切れルールを逆手に取って敵を大量アウトに追い込む。結果だけを見れば目まぐるしい撃ち合いの応酬だが、その裏側にあるのは「自分は退学を引き受ける」と宣言したうえで盤面全体を見続ける視点であり、その冷徹さと自己犠牲のバランスが印象に残った。

そんな激しい試験の決着が見えたところで、「サバイバルゲーム特別試験の終了」と「本当の無人島特別試験の開始」が告げられる構成も巧みである。無人島編が終わったと思わせてから、信頼と裏切りをテーマにしたさらに厳しい試験が続くという宣言は、読者の緊張をほどくどころか、むしろ次巻への不安と期待を強く掻き立てた。3年生編の夏が総まとめのようでありながら、まだこの先に大きな山場が控えているのだと知らされた気分である。

刊行ペースが今後やや落ちるという告知については、これまでの異常なスピードを思えば、ようやく「安心して待てる」段階に入ったというのが正直なところだ。今回の無人島編だけでも情報量とドラマの密度は十分であり、このレベルのクオリティを維持するために時間をかけてくれるなら、読者としてはむしろ歓迎したい。

試験の緊張感、仲間同士の関係性の変化、敵対する者たちとの読み合い。そのすべてが詰め込まれた一冊であり、無人島の暑さ以上に物語そのものの熱が強く残る巻であった。次の「本当の」特別試験がどのような決着へ向かうのか、今度は焦りではなく静かな期待を持って待てる一冊だったと感じている。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

綾小路清隆

Cクラスに所属する男子生徒である。冷静な思考と観察力で状況を整理し、特別試験の戦略構築と最終調整を担う立場にいた。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の生徒である。無人島サバイバルゲーム特別試験では護衛として前線にも立ち、同時にクラス全体の実質的な指揮役を務めた。

・物語内での具体的な行動や成果
 退学ペナルティを自ら引き受けると宣言してクラスの不安を抑えた。Cクラス奇襲を受けた後も撤退と再編を指示し、Dクラスとの同盟構築を主導した。Aクラスキャンプへの時間切れ寸前の突入で、時間外発砲を誘発して複数名をアウトにし、最終日には単身でBクラス陣営に揺さぶりをかけた。終盤では龍園や伊吹と交戦し、龍園との相打ちに持ち込んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Cクラスは半壊したが、同盟形成や戦局調整により最終的に二位確保の流れを作った。クラス内外から戦略面で大きな影響力を持つ存在として見られていることが示された。

椎名ひより

Bクラスに所属する女子生徒である。穏やかな性格であり、龍園に協力しつつも物語の構造や結末について冷静な視点を持つ立場であった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Bクラス所属の生徒である。龍園の陣営に属し、クラス内で情報や助言を行う立場にいた。

・物語内での具体的な行動や成果
 夕焼けの記憶として綾小路への想いを抱きながらも、試験では彼を倒す覚悟を固めた。龍園に対して、物語の始まりと結末に関する比喩を用いて今後の展開を語り、良い方向にも悪い方向にも転ぶ可能性を指摘した。龍園がどのような選択をしてもそれに従う姿勢を言葉で示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 龍園に対して強い信頼と忠誠に近い態度を見せたことが描かれた。Bクラスにおいて、龍園の思考や決断に影響を与える発言役として位置付けられていることが示された。

龍園翔

Bクラスを率いる男子生徒である。攻撃的な思考と統率力を持ち、綾小路を最大の脅威と見なして早期に叩く方針を取る立場であった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Bクラス所属であり、クラスのリーダーである。無人島特別試験ではBクラスの作戦立案と指揮を担当した。

・物語内での具体的な行動や成果
 開幕直後から全体GPS停止戦術と奇襲を組み合わせ、Cクラスを半壊に追い込んだ。Bクラスの本隊を本部周辺に配置し、物資イベントを押さえることで他クラスに物資差をつけた。終盤ではAクラスやCD同盟との三つ巴の戦場で指揮を執り、生存戦を意識した行動を続けた。最後は伊吹と共に綾小路と交戦し、砂浜でペイント弾の相打ちとなった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 奇襲成功により一時は大きな優位を得たが、高円寺との戦闘で護衛を多数失い、C・D同盟の形成も招いた。最終的にクラス順位は三位となり、綾小路への読みの甘さを認める場面が描かれた。

堀北鈴音

Aクラスを率いる女子生徒である。理知的な判断を行いながらも、綾小路に対する感情や信頼の揺れを抱えた立場にあった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Aクラス所属であり、クラスのリーダーである。無人島特別試験では陣地選択と戦闘方針の最終判断を担った。

・物語内での具体的な行動や成果
 北エリアへの脱出や物資回収の優先順位を決め、早期損耗を避けるディフェンシブな戦略を採用した。Bクラスとの決戦地点を選び、挟撃の危険を踏まえつつE9方面への前進を決断した。綾小路の単独奇襲に対しては、時間切れ後の発砲がルール違反となることを見抜き、自陣のアウト処理を受け入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Aクラスは最終的に最下位となり、VIP三名全員を失った。堀北は綾小路に対する信頼と疑念が入り混じる状態となり、彼との関係や感情が今後の課題として残された。

一之瀬帆波

Dクラスを率いる女子生徒である。温和な人柄でありながら全体の戦局を俯瞰し、Cクラスとの同盟構想を早期から考えていた。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Dクラス所属であり、クラスのリーダーである。無人島特別試験では全体方針の策定と最終判断を担当した。

・物語内での具体的な行動や成果
 序盤からCクラスとの接触時には先に撃たないよう仲間に伝え、同盟の可能性を残した。龍園クラスのGPS停止戦術にいち早く気付き、Cクラスへの奇襲を予測したが、ルール上直接警告できずに試験を見守った。Cクラスと合流した後は、指揮権を綾小路に一任する方針を神崎に伝え、CD連合の形成を後押しした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Dクラスは最終的に一位となり、同盟構想と慎重な戦術の有効性が結果として示された。Cクラスから見ても、信頼できる協力相手として位置付けられている。

神崎

Dクラスの男子生徒である。落ち着いた性格で、Cクラスとの交渉窓口および連合側リーダー格として行動した。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Dクラス所属の生徒である。CD連合では現場の指揮と情報共有の中心を担った。

・物語内での具体的な行動や成果
 外周マスの使用禁止情報から、最終的に中央へ押し込まれる構図を読み取った。綾小路や橋本と対面した際には、最初は警戒を崩さなかったが、一之瀬の意図を踏まえて銃を下ろし、話し合いに応じた。連合形成後は、体調不良者への早期リタイア提案など、戦力温存の判断を任されていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 CD連合において綾小路と並ぶ意思決定役となり、Dクラス側の信頼と発言権を保持した。試験結果により、連合の中心人物として評価される立場になった。

島崎

Cクラスの男子生徒である。思考に集中することを得意とし、司令官役としてGPS情報と戦術コマンドを扱った。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の生徒である。無人島特別試験では司令官役を務めた。

・物語内での具体的な行動や成果
 三年生特別試験のルール説明を受けた後、自ら司令官に立候補した。タブレット機能を使い、各クラスの位置の記録や、高円寺の位置へのタグ付けなどを行った。全体GPS停止中の不自然な静止に気付けず、Cクラスが龍園の奇襲を受ける一因となったが、その後も報告役として動き続け、綾小路の指示に従って戦況把握を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 司令官としての経験を通じて、情報処理と戦術理解の面で課題と成長の余地が示された。クラスからは、綾小路の補佐役として認識されている。

白石

Cクラスの女子生徒である。観察力と報告能力に優れ、司令官と現場をつなぐ情報係として機能した。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の生徒である。無人島特別試験では、VIPと司令官をつなぐ連絡役として動いた。

・物語内での具体的な行動や成果
 腕時計やタブレットの仕様把握に関わり、戦術使用中はGPS情報が消えることを綾小路に伝えた。奇襲後も島崎との通信窓口となり、各クラスの位置やイベント状況を継続して報告した。夜には綾小路から指揮への不安点を問われ、迷いのない信頼を言葉にしたことで、彼に違和感と警戒を抱かせるきっかけにもなった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 その言動から、過去の経緯や他クラスとのつながりを含む、未知の背景を持つ可能性が示唆された。Cクラス内では、情報伝達と司令官補佐の重要な役割を担っている。

橋本

Cクラスの男子生徒である。前線のまとめ役として振る舞い、綾小路の意図をクラスメイトに伝える役割を担った。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の生徒である。護衛として戦闘にも参加し、場面ごとに指揮代行を務めた。

・物語内での具体的な行動や成果
 奇襲時には殿役の鬼頭と連携して撤退を支え、その後の隊列再編でも前列中心の配置を担当した。再編後はCD連合の説明役を引き受け、同盟の必要性をクラスに伝えて合意を取り付けた。終盤では平田と一騎打ちの撃ち合いを行い、わずかな差でアウトとなったが、心理戦を交えた戦闘を演じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 クラス内での信頼が厚く、綾小路の方針を言葉にして周囲へ広げる橋渡し役であることが強調された。

鬼頭

Cクラスの男子生徒である。射撃技術に優れた護衛として描かれ、奇襲からの撤退を支える役割を担った。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の護衛である。前線での撃ち合いに積極的に参加した。

・物語内での具体的な行動や成果
 龍園クラスによる奇襲を受けた際、大木の陰から反撃を行い、多数の敵をアウトにして追撃を一時的に止めた。撤退戦の殿を務め、クラスメイトの離脱に時間を稼いだ末にアウトとなった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 早期に戦線離脱したが、その奮戦がCクラスの生存者を増やす結果につながった。護衛としての実行力が示された人物である。

高円寺六助

Aクラス所属の男子生徒である。強い身体能力と独自の行動方針を持ち、単独で戦場を動き回る立場であった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Aクラス所属の生徒である。無人島特別試験では、司令官とも連絡を取らず単独で行動した。

・物語内での具体的な行動や成果
 Bクラスの物資回収隊と遭遇し、姿を見せない射撃で護衛九名を次々にアウトにした。諸藤がVIPであることを把握したうえで、あえて撃たず物資を持ち帰るよう促し、自身の楽しみを優先して戦場を離れた。船に戻る意志を示し、今後邪魔をしないようBクラスへ警告を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 単独行動と圧倒的な戦闘力により、A・B両クラスの戦力バランスに大きな影響を与えた。Bクラス側からは、予測困難な存在として警戒されている。

佐藤麻耶

Aクラス所属の女子生徒である。VIP候補の一人として挙げられ、終盤の標的として集中攻撃を受ける立場にあった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Aクラス所属の生徒である。無人島特別試験ではVIPの一人を務めた。

・物語内での具体的な行動や成果
 綾小路がAクラスキャンプを奇襲した際、護衛の動きからVIP候補として特定された三名のうちの一人であった。最終盤の乱戦では、三クラスから銃口を向けられる標的となり、須藤に抱えられて集中砲火から退避させられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Aクラスで唯一生き残ったVIPとして扱われ、複数クラスの戦術が彼女の位置を軸に動いた。VIPシステムの中核として重要視された存在である。

平田洋介

Aクラスの男子生徒である。穏やかな性格で、クラス内の調整役として機能しつつ、前線指揮も担った。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Aクラス所属の生徒である。無人島特別試験では護衛として戦場に立ち、方針決定にも関わった。

・物語内での具体的な行動や成果
 物資回収と戦闘のバランスを考え、早期の損耗を避ける方針を堀北と共に確認した。最終盤ではCD同盟側の橋本と一騎打ちとなり、残弾の少ない状態から読み合いの末に先に命中弾を与えて勝利した。戦闘後にはトリガーを引き続けることを避け、橋本に背を向けて戦場支援へ向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Aクラス内での信頼は維持されており、戦闘面でも落ち着いた判断を見せた。今後もクラスのまとめ役として機能することが示唆されている。

須藤

Aクラスの男子生徒である。高い身体能力を持つ前衛として、近距離戦で大きな役割を果たした。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Aクラス所属の生徒である。無人島特別試験では護衛として主に前線で戦った。

・物語内での具体的な行動や成果
 最終盤の乱戦で、集中砲火の対象となった佐藤を抱き寄せて守り、弾痕の位置から敵が事前にVIP情報を得ていると察した。その後、自ら敵陣へ飛び込み、佐藤を逃がすための時間を稼ぐ戦いを行った。綾小路の奇襲の危険性も理解し、自身も一歩間違えばアウトであったことを後に振り返った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Aクラスの主力戦力として位置付けられ、VIP防衛の象徴的存在となった。クラス内での信頼は強固であることが描かれている。

伊吹澪

Bクラスの女子生徒である。高い戦闘能力と負けず嫌いな気質を持ち、個人勝負にこだわる姿勢が描かれた。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Bクラス所属の護衛である。龍園陣営の主力戦力の一人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 最終決戦の場で、龍園と山下と共に綾小路の前に現れ、自ら勝負を申し出た。素早い動きとサブマシンガンで攻め続けたが、綾小路の射線管理により脚を撃たれてアウトとなった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 決戦で敗れたものの、個人戦力としての高さが再確認された。龍園陣営における重要な前衛であることに変化はない。

葛城康平

Bクラスの男子生徒である。理性的な参謀役として龍園の判断を補い、リスク管理を担当した。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Bクラス所属の生徒である。クラスの戦術面で助言を行う立場にいる。

・物語内での具体的な行動や成果
 Cクラス半壊後の追撃について、綾小路を仕留め損ねた状態での深追いは危険であると指摘し、龍園に追撃中止を進言した。高円寺との戦闘で護衛九名を失った事実を整理し、諸藤が生還した点のみを最小限の収穫として挙げた。CD同盟成立後には、人数差と戦力差の分析を行い、Aクラスとの同盟案が非現実的であることを論じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 龍園の感情的な選択を抑える役割を果たし、Bクラスの現実的な状況把握に貢献した。クラスの参謀格としての位置付けが明確である。

真嶋

教師であり、三年生特別試験の運営と監督を担当した人物である。生徒たちにルールとペナルティを伝える役割を担った。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校の教員である。三年生サバイバルゲーム特別試験の担当教諭である。

・物語内での具体的な行動や成果
 無人島特別試験の概要や役職、退学ペナルティ、重大違反の内容を生徒たちに説明した。綾小路が退学枠を引き受けると申し出た際、現時点では公式に確定できないとしつつ、その考えを教師として受け止めた。試験終了時にはサバイバルゲーム特別試験の終わりと、新たな無人島特別試験の開始を宣言した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 試験全体の進行役として機能し、生徒たちに対する警告とルール管理を一貫して行った。教師側の緊張感や次の試験への布石を示す存在である。

竹本

Cクラスの男子生徒である。VIP役を務め、一部行動では少人数隊を率いる場面もあった。

・所属組織、地位や役職
 高度育成高校Cクラス所属の生徒である。無人島特別試験ではVIPを担当した。

・物語内での具体的な行動や成果
 イベント物資回収では、橋本や護衛四名を伴ってDM方面へ向かう隊の中心となった。終盤にはH10周辺の拠点移動や物資回収に関わり、綾小路から司令官への指示伝達役を任される場面もあった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 VIPとして最後まで残り、Cクラスの生存条件を維持する役割を果たした。司令官との連携と現場行動の両面で重要な位置にいたことが描かれた。

展開まとめ

椎名ひよりの独白

夕焼けの記憶と踏み出せなかった想い
椎名ひよりは潮風に当たりながら、綾小路と校舎前で過ごした夕焼けの情景を思い返していた。それは彼女にとってかけがえのない記憶であったが、好きですという言葉だけは伝えられないまま終わった。ひよりは、それが正しい選択であったと理解していた。二人はクラスの違う敵同士であり、関係が深まれば試験の勝敗に影響をもたらす可能性があったためである。

特別試験への覚悟と苦悩
ひよりは今回の特別試験を前に、大きな覚悟をもって綾小路を倒すと心に決めていた。綾小路に負けをつけさせるという決断は、彼女にとって活路と死路の両方を孕む選択であった。そのために自分が何をし、何ができるのかを必死に考えていたが、その胸には自然と切なさが込み上げていた。

敗北の予感と別れの想い
ひよりは自分がクラスの役に立てず、最後の勝負にも敗れるだろうと悟っていた。そして龍園と綾小路の両方に対し、情けない自分を赦してほしいと心の中で詫びていた。それでも綾小路への想いが変わることはないと確信し、遠く離れても気持ちは揺らがないと静かに誓った。

汽笛が響くまで続いた孤独な決意
広い海を前に一人立ち尽くし、ひよりは終わりを告げる汽笛が鳴る瞬間まで誰もいない世界を見つめ続けた。そこには、別れを受け入れながらも綾小路への想いを抱き続ける、彼女の静かな孤独があった。

開幕・サバイバルゲーム特別試験

無人島到着と三年生の状況
6月下旬早朝、全学年を乗せた客船が昨年と同じ無人島へ到着しつつあり、三年生は三年連続の無人島試験を前にした。語り手と橋本は船内カフェで眠気や受験への影響を愚痴りつつ、三年生だけに新型体操服への着替えと私物放棄が義務付けられている状況を受け止めていた。上陸後、整備が進んだ浜辺に集められた三年生は、段ボールの山と担任たちを前に、三年のみで試験が開始されることを察した。

特別試験の概要と役職ルール
配布されたルールブックにより、最大三泊四日で行われるペイント銃を用いた無人島サバイバルゲームであることが説明された。各クラスは司令官、VIP、護衛、分析官、偵察官に生徒を割り当て、VIPと護衛の生存数に応じた得点で競う形式であった。司令官はタブレットで味方の位置把握や戦術行使を行い、VIPは倒されればクラス敗北に直結する存在として位置付けられていた。

イベントとエリア制限の仕組み
試験時間は毎日9時から18時までと定められ、一定時刻ごとに物資箱が出現するイベントや、二日目以降に使用禁止エリアが順次追加される仕組みが設けられていた。禁止エリアに留まり続ければ強制アウトとなるうえ、夜間はGPS更新が停止し前日の滞在エリアから再開する必要があり、最終局面に向けた位置取りが重要になると語り手は理解した。

退学リスクとクラス側の選択肢
最初に全滅したクラスは退学者を一人選定しなければならず、プロテクトポイント保有者を選べば退学回避が可能であることも明示された。これにより、各クラスには犠牲を最小限に抑える逃げ道が用意されている一方、消極策ばかり取れば引き分けからのサドンデスという運任せに陥るため、どこかで交戦を避けられないと語り手は分析した。

ペイント銃・腕時計の仕様と禁止事項
真嶋や企業担当の岸波から、試作ペイント銃とセンサー付き体操服・腕時計の仕様が説明された。銃種ごとの射程や装弾数、弾数制限と物資箱での補充、環境負荷のない塗料が示され、誤作動時の救済措置も用意されていた。一方で、腕時計の取り外しやルール外の暴力行為、アウト判定後の攻撃継続、試験時間外の交戦などは重いペナルティや退学の対象とされ、不正行為は断固として処罰される方針が強調された。

初期位置抽選とCクラスの方針
腕時計の機能説明と体調不良時のリタイア手順が示された後、各クラス代表が無人島四か所から初期位置を決めるくじを引くことになり、Cクラスでは真田が代表として選ばれた。語り手と橋本は、互いに漁夫の利を狙いたくなるルールであるがゆえに、まずは他クラスと距離を取り様子見をしつつ戦況をうかがう必要があると判断していた。

スタート位置決定と初期物資の確認
くじ引きの結果、CクラスはE12からのスタートが決定した。端のエリアを取れなかったことを真田が謝罪したが、綾小路は不可避の結果として気にしないよう伝えた。続いてクラスごとの初期物資の説明が行われ、段ボールを開けると、人数分×2個のブロック栄養食と水だけという極端に少ない食料が確認された。これにより、イベント物資に頼らない限り食料が持たないことが判明し、イベント参加が半ば強制される構造であると悟られた。

食料不足がもたらす戦略議論
白石は、戦わなければペイント弾は減らない一方で、食料問題だけは逃れられないと指摘した。これを受けて杉尾は、開始直後にAクラスを避けて山越えし、北東エリアのイベントを独占する案を提案した。しかし島崎は、他クラスも同様の発想をする可能性や、イベント出現位置の不確実性を挙げて反対した。山越えに伴う体力消耗や遭遇リスクも含め、どの選択にも大きな不確定要素があるため、綾小路は現時点で明確な正解を出すことは不可能と判断し、いったん議論を保留してリーダーである自分の判断に委ねる流れとした。

生活物資・テント・武器配分の方針
次の段ボールからは地図や筆記具、歯ブラシや生理用品といった小物が見つかり、これらは回収を条件に無制限に持ち出し可能と説明された。さらにテントがサイズ別に多数用意されており、綾小路は快適さと機動力の両立を考え、多人数用と少人数用を組み合わせて持ち出すべきだと判断した。戦闘用物資としてはアサルトライフル二十丁、サブマシンガン十丁、ショットガン十丁、ハンドガン二丁が用意されており、護衛の人数分は行き渡る構成であった。森下から分析官をゼロにして武器を多く持ち出す案も出たが、後の役職変更時の管理負担や余剰武器の扱いを考慮し、綾小路は「荷物は増やさない」として余計な武器を持たず、必要なものはイベントで補う方針を取った。

退学ペナルティと綾小路の自己犠牲宣言
物資の担当を振り分けた後、綾小路はクラスメイトを集め、全滅時に発生する退学ペナルティについて事前に決めておきたいと切り出した。Cクラスにはプロテクトポイント保持者がいないため、全滅すれば誰かが必ず退学になるという事実が確認され、的場や真田は、事前確定は重すぎる判断ではないかと懸念を示した。森下と橋本のやり取りの中で冗談めかして橋本を犠牲にする案も出たが、綾小路は最終的に、自分が退学枠を引き受けると宣言した。新参者であり、クラスを勝たせるために編入した自分が敗北の責任を取るのが筋であると説明し、クラスの不安を抑える意図を明かした。真嶋はルール上、現時点で公式に確定させることはできないとしつつも、その考えを教師として受け止める姿勢を見せた。

役職決定の開始と司令官の重要性
真嶋が説明を締めくくり、生徒だけで30分以内に各役職を決めるよう告げた。時間内に決まらなければ学校側がランダムに割り当てるとされ、判断は生徒に委ねられた。森下は、全体把握と戦術行使を担う司令官が極めて重要であり、最初に決めるべきだと指摘した。田宮はリーダーである綾小路を司令官に推したが、橋本は綾小路の戦闘力を評価し、前線で戦う護衛にすべきだと強く主張した。

綾小路の役職方針と司令官候補の不在
綾小路は、VIP・分析官・偵察官は候補から外し、司令官か護衛のいずれかに就く方針を内心で固めていた。司令官は全生徒の位置把握と戦術行使が可能で魅力的であったが、Cクラスには身体能力に優れた生徒が少なく、指示だけでは勝てないと判断した。そのため自らは護衛を希望し、司令官には別の適任者が必要と考えた。候補として森下を思い浮かべたものの、森下は護衛として参加したいとし、司令官就任を明確に拒否した。

島崎の立候補と役職割り当て完了
司令官候補に悩む綾小路の前に、島崎が自ら司令官に立候補した。島崎は無人島を動き回るより思考に集中する方が戦力になれると述べ、綾小路も頭脳面を評価して申し出を受け入れた。その際、司令官の結果責任は一任した自分が負うと明言し、島崎の重圧を和らげた。その後、VIPには竹本・白石・西川が立候補して就任し、分析官には真田と中島、偵察官には塚地が選ばれ、残りは護衛として配置された。

司令官への情報伝達方針と出発準備
役職決定後、綾小路は出発前に島崎へ、他クラス司令官の表情の変化やGPSの違和感など、些細な異変も報告するよう求めた。島崎は情報過多による混乱を懸念したが、綾小路は報告窓口を白石1人に限定することでノイズを抑える方針を示し、島崎も最終的に同意した。その上で、本部到着後に確認してほしい事項も伝えた。最後に生徒たちは安全確保のためゴーグルを装着し、ジャージ着用でもセンサー判定は有効であることなど、装備と安全面のルールを再確認して試験開始に備えた。

奇襲

北上方針と司令官からの報告

綾小路は、退学を引き受ける覚悟を示したことでクラスの信頼を得ており、開幕と同時に北上してG8を最初に越える方針を示した。CクラスはE12から北を目指し、龍園クラスと堀北クラスに挟まれた状況から抜け出そうとした。移動開始直後、島崎からVIP西川を通じて各クラスの司令官が松下、金田、一之瀬であると伝えられた。その後のGPS更新で、AクラスとBクラスはいずれも北へ直進し、Dクラスは東へ距離を取る方針を選んだことが判明した。

交戦リスクと一時待機への転換

AクラスとBクラスが即時交戦を避けていると分かったものの、G8付近での先行争いは三つ巴の戦闘を招きかねないと判断された。橋本はペースアップを提案したが、綾小路は移動速度を上げれば相手にも察知され、競争と交戦リスクが高まると退けた。さらに吉田が銃の扱いを知らないまま戦闘に入る危険性を指摘し、森下も同調したため、綾小路は自らも同じ考えだったと明かし、この場で一度足を止めて武器訓練を優先する方針へ修正した。

高円寺の単独行動と戦術の試用

待機中のGPS更新により、Aクラスから一つの反応が外れH9へ単独で向かっていることが判明した。綾小路は高円寺の過去の無人島試験での行動を踏まえ、高円寺が自由を得た状態である可能性を説明しつつも、確証を得るため人物特定の戦術を使うよう白石経由で島崎に依頼した。同時に西川に連絡を試みさせ、司令官とVIPは一対一でしか通話できない仕様であることも確認した。その後、戦術によりH9の護衛が高円寺であると確定し、脅威度の判断材料とした。

情報伝達の指示と隊列の再編成

綾小路は島崎に対し、イベント開始までは三クラスの動向を五分ごとに報告し、その後は状況が落ち着いた段階で小休止に入るよう、西川を通じて伝達した。さらに今後の行動のため、クラス全体の隊列を三分割することを決めた。VIPは前列に白石、中列に作本、後列に西川を配置し、それぞれを中心に護衛を付ける形でグループ化した。前列には橋本、後列には鬼頭を置き、中列に運動面で不安のある生徒を集めることで、一度の奇襲で全滅する事態を避け、離散時にもVIP単位で再合流しやすくする狙いであった。

森下の不満と最終的な隊列確定

森下は自分が中列に配置されたことに不満を示し、自分こそ主力であると主張したが、橋本に軽くいなされ、中列へ戻るしかなかった。森下は山村と自分の扱いを嘆きつつも隊列には従い、最後に白石から島崎へ隊列構成が詳細に共有された。これにより司令官はタブレット上の位置情報と役割を結び付けて指示を出しやすくなり、Cクラスは武器訓練と情報体制を整えた上で、次の行動に移る準備を完了したのである。

ルール確認と他クラスの動き

護衛たちが武器の構え方や持ち方を試行錯誤する中、綾小路は重大ペナルティの内容を確認し、暴行や銃の破壊、虚偽報告などがクラスポイント減少や退学に直結することを理解した。学校は特別試験の品位を損なう行為を決して許さないと読み取り、グレーゾーンを突く戦法は龍園でさえ取れないと判断した。その頃、島崎からの報告でAクラスがG8目前まで進み、高円寺が急速に山側のエリアへ移動していること、BクラスとDクラスは足を止めて話し合いに入ったことが伝わった。

司令官の制約と武器ローテーション策

島崎の追加調査により、司令官同士の接触や私語が禁じられ、タブレットの画面は撮影しても写らないこと、GPSには個別タグでメモを付けられることが判明したため、高円寺の位置には名前が記録された。綾小路はイベント開始後の混戦を見据え、武器の扱い方を集中的に講習すると告げたうえで、戦う自信の薄い護衛から順次VIPに銃を預け、数時間ごとにローテーションさせる策を提示した。VIPに武器を持たせることで敵にVIPを特定されにくくしつつ、誤射防止のためマガジンとチャンバー確認を徹底させ、自ら実演して鳥羽に手順を教えた。

勝利目標と一之瀬クラス同盟案

武器訓練が一段落したところで、鬼頭が本気で1位を狙うのか問うと、綾小路は1位ではなく2位を最終目標にすると明言し、その理由として一之瀬クラスに1位を譲る同盟構想を語り始めた。四クラスで争う試験において、一之瀬クラスと協力関係を結べば敵が実質二クラスに減り、味方が増えると説明したが、元土肥や的場は1位を捨てる形の提案とタイミングに強く反発した。綾小路は即時決定を求めるつもりはないと述べ、この特別試験の結果を踏まえて改めて同盟の是非を議論したいと引き取り、いったん話題を収めた。

奇襲の察知と撤退行動

同盟の話を終えた直後、綾小路は風音に紛れた複数の足音を捉え、他の生徒が油断している中で橋本に声をかけ、全員に今すぐ逃げろと叫んだ。直後、森の奥から敵クラスの怒号とともに大量のペイント弾が降り注ぎ、森重や元土肥をはじめ後方の生徒たちが次々と被弾してパニックに陥った。荷物を拾おうとして撃たれる者も出る中、鬼頭は即座に大木の陰に身を隠して反撃し、腕時計のアラームが鳴るほどの戦果を上げて敵の進撃を一時的に止めた。町田ら男子も続いて遮蔽物から撃ち返し、綾小路は前列の被害が少ないうちに鬼頭たちに殿を任せて撤退を指示し、自ら先頭に立って細い人工の山道を選んでクラスメイトを率いて森の奥へと退いた。

龍園クラスの戦術の看破と消耗した撤退

南東へ逃走した一行はF12に到達したところで、体力限界が近い生徒が増えたため綾小路が速度を落とした。竹本を介した島崎の報告から、タブレット上ではBクラスの位置に動きがなく、全体GPS停止の戦術が使われていたと判明した。綾小路は、龍園が開幕直後に距離を取って油断を誘い、そのうえでGPS停止中に金田の情報を頼りに奇襲を仕掛けたと分析した。奇襲は博打でありながら、最初の数回の停滞と各クラスの様子見を読んだ龍園らしい一手であると評価した。

司令官の限界と被害状況の判明

休憩を取りつつ水分補給を行い、綾小路は全体GPS停止中に誰も動かない不自然さを島崎が見抜けなかったことを内心で課題と捉えた。島崎と竹本のやり取りから、鬼頭が時間稼ぎの末にアウトとなった一方で、矢野・沢田・司城の三名は合流できず単独行動に陥ったと判明した。また六角が撤退時に武器を放棄したため、綾小路は紛失として学校側に回収を依頼し、六角を空いた役職枠に組み込む方針を示した。これらの報告を受けても綾小路は冷静さを崩さず、橋本に生徒の不安を拾うよう指示した。

勝機の維持と今後の方針

橋本の問いかけに対し、綾小路は開幕からの状況悪化を認めつつも、VIPを倒し返せば勝ち目は残ると述べた。龍園クラスとの再交戦を避けるため距離を保つことを最優先とし、油断すれば再び仕掛けられる可能性を警戒した。白石は全滅ペナルティと綾小路退学の危険性を口にしつつも、一緒に勝利を目指す姿勢を示し、綾小路はVIP一人を含む十五名が脱落した現実と、三名が敵に先に発見される危険を整理した。

近藤の単独奇襲と再撤退の開始

橋本と森下が、島崎の見落としの責任について言い合おうとした瞬間、綾小路は音の違和感からBクラス近藤の接近を察知した。綾小路は森下を引き寄せつつ即座に発砲し、近藤の胸部に命中させアウトにした。近藤はリーダーを狙っていたことと龍園の戦略を語り、橋本は不意打ちの見事さを認めた。吉田はBクラスの位置確認を提案したが、白石が戦術使用中はGPS情報が消えていると説明し、綾小路たちは近藤の挑発を背に受けながら、再び南側へ向けて退避行動を続けた。

司令官の制約と一之瀬の違和感

約30分前、金田が戦術でBクラス全員のGPSを停止させた頃、一之瀬はタブレット機能を一通り確認し、他クラスのGPSに任意で名前や役職をメモできると把握していた。司令官同士の会話は禁止され、本部から生徒への直接接触も不可能であり、司令官は無線で自クラスVIPに伝えることだけが許されていた。そのなかで一之瀬は、金田だけが休みなく無線とタブレットを操作し続けていることに違和感を覚えた。視線を交わした際の自然すぎる態度も含め、不自然さとして記憶に刻んだ。

龍園クラスの戦術看破と警告不能の歯がゆさ

一之瀬が自テントに戻りタブレットを確認すると、龍園クラスのGPSが5分前と寸分違わず固定されていると気付き、金田が既にGPS停止戦術を発動したと判断した。最も近くで足を止めている可能性が高いCクラスが標的と察し、島崎に異変を気付かせようと本部内で視界に入る位置に立ち続けるが、島崎はタブレットから顔を上げず、一瞬目が合っても何も反応しなかった。一之瀬はルール違反とDクラスへのペナルティを避けるため警告を断念し、自クラスには初日は交戦回避とイベント優先を指示した。その後のGPS更新でもCクラスはほぼ停止、龍園クラスは完全固定のままであり、一之瀬はCクラスへの奇襲が目前と悟りつつも祈るしかなかった。

奇襲後の被害状況と体制の再編

奇襲後、本部近くのF13まで撤退したCクラスは、白石を通じて島崎からの報告を受けた。Bクラス本隊のGPSはCHエリアからF10へ大きく移動し、はぐれていた3名は不運にもその付近へ向かった結果アウトになったと判明した。さらに、F10南東のエリアに青いGPSが10人分移動しており、綾小路は迷子を迎えに行くためVIPと護衛が動いた可能性と、戦術による個別GPS特定を恐れた結果だと推測した。全体GPS停止は一度きりであり、個別停止を重ねても追跡の継続は難しいと判断し、追撃の危険は低いと結論付けた。地面に座り込んだ一行は、残存がVIP2人、分析官1人、護衛15人の18人と把握し、中島の穴を六角で補って護衛を14人に再編する方針を決めた。綾小路は、距離が開いた時点で安全だと判断して長く立ち止まった自身の油断と慢心が、この半壊状態を招いたと認識していた。

見えないプレッシャー

龍園の奇襲と綾小路対策

特別試験開始から1時間未満で、龍園率いるBクラスの奇襲によりCクラスは半壊状態となった。生徒たちが悔しさや恨みを露わにする中、龍園は長期戦になる前に綾小路を叩くことを狙い、開幕直後から戦術を投じる方針を最初から固めていた。特別試験が続けば続くほど綾小路に思考の時間を与え、有効な戦術運用や他クラスの思考の読み切りを許してしまうと判断し、その前に一気に叩く戦略であった。

追撃中止と山下隊編成

葛城は金田経由の報告として、Bクラス側の被害は3人、Cクラス側は15人がアウトとなり、その中に鬼頭やVIPの西川が含まれていることを伝えた。また、Cクラスから逸れた3人が周辺を彷徨っているため、山下を中心に10人を派遣し、小宮の救出と処理に向かわせる方針が決まった。これは少数で動けばVIP特定の戦術で山下の正体を見抜かれる危険があると龍園が判断したためである。一方で石崎らはCクラスへの追撃を求めたが、龍園は綾小路を仕留め損ねたことを重く見て深追いを拒否し、倍の戦力差をひっくり返されるリスクと罠への警戒を優先した。奇襲が通じた事実と同時に、綾小路にも付け入る隙があると分かったことが龍園にとっての最大の収穫であった。

綾小路の再建策とイベント方針

一方Cクラスは、半壊後に人員整理と再配置を終え、橋本がいつでも動ける体制が整ったと報告した。午前10時からの第1回イベントでは、真田がタブレットで発生位置を読み上げ、橋本たちが地図に書き込んで状況を整理した。Cクラスは近場で安全に狙えるG13とDMの物資を優先し、H9の食料イベントはA・Bクラスとの激突リスクが高いとして見送る方針を取った。綾小路は本隊をG13へ向かわせつつ、VIPの竹本に護衛4人を付けてDMへ向かわせ、司令官との連携で確実に物資を回収する作戦を示した。山村が逸脱や孤立への不安を打ち明けると、綾小路は自分の判断の甘さでクラスが半壊したと認めたうえで、撃てなくてもアウトにならず残り続けることが大きな価値であると説き、山村に生存そのものの重要性を理解させていた。

Aクラスの北上と綾小路への警戒

Aクラスでは、堀北が篠原や松下と連携してイベント位置と各クラスの動きを確認し、H9の物資はBクラスやCクラスとの交戦を招きかねないとして捨てる判断をした。平田も長期戦では早期の損耗が戦略の幅を狭めるとし、北エリアへの脱出と安全な物資回収を優先するディフェンシブな方針に賛同した。池や須藤は、龍園の奇襲によりVIPを含む多数を失った綾小路の敗北に驚きつつも、彼が油断する人物ではないという認識から素直に負けを受け入れられず、同じ条件なら自分たちも同様の結果になったと分析した。高円寺を戦力として期待できない状況を織り込みつつ、点数面でAクラスとBクラスが並び、Cクラスが最下位に落ちた現状を有利と捉えた一方で、堀北と須藤は綾小路が残っている限り安心しきれないと感じていた。二人は、龍園も同じ恐怖を抱いたからこそ深追いを避けたのだと結論づけ、見えないプレッシャーを意識しながらも、北エリアへ向けて不要な交戦を避けつつ物資を確保する方針で歩みを進めていった。

イベント物資と各クラスの動き

CクラスはG13とD14のイベント物資を回収し、ペイント弾や水、米と缶詰、最低限の日用品を得たにとどまった。物資箱は地中に半ば埋められており、食料だけではなく飯盒やライターなど調理手段も併せて確保しなければならないと判明した。Aクラスは交戦を避けて北へ抜け、Bクラスは二手に分かれて遠方を含めて物資を取りに行き、結果として最初のイベントでは各クラスが二か所ずつ物資を確保した。

Bクラスの圧力と物資不足

その後もイベントが続き、Cクラスは計五個の物資を確保したが、弾薬や食料、水はいずれも十分とは言えず、他クラスとの物資差は開き始めていた。龍園率いるBクラスが本部近くに陣取り、G9とG10周辺を押さえ続けたため、Cクラスは本部周辺から東や南にしか動けず、西側や中央の物資はBクラスに奪われていった。この状況に森下や的場らは苛立ちと閉塞感を募らせたが、綾小路は無理な突破は自殺行為であり、相手が攻めてくることも期待しにくいと冷静に分析した。

最後のイベントと綾小路の判断

午後五時の最後のイベントでは、Cクラスが実質狙えるのはD12とI10のみであった。クラス内からは戦力を一か所に集中すべきとの意見が出たが、綾小路は全員で動けば他クラスが安全に物資を回収し、翌日以降の食料不足で自滅すると説明し、二か所同時狙いを決定した。危険度の高いI10には綾小路が単身で向かい、他の生徒は竹本と橋本を中心にD12へ向かう方針となった。その後、綾小路は単独で物資箱を発見し、少量の米と水、パンを確保して無事に合流を果たしたのである。

キャンプ設営とクラスの空気

Cクラスはテントや仮設トイレを設営し、集めた食料と水を全員で公平に分配した。綾小路は、一度に多く摂取するより少量をこまめに摂った方がエネルギー効率が良く、生存日数も伸びると説明し、的場も食料を持ち運ぶ負担を受け入れた。橋本は冗談や過去の失敗談を披露して場を盛り上げ、半壊したクラスの中に残る重苦しさを和らげた。男子テントでは、試験の不利な状況にもかかわらず、くだらない雑談で笑い声が上がるまでには回復していた。

白石との密談と芽生えた疑念

夜、綾小路は白石をテントの外に呼び出し、自分の指揮に不安を感じた点があれば教えてほしいと尋ねた。すると白石は、綾小路は常に一人で考え迷いなく結論を出す人物だと思っていたと語り、不安は一切なく必ず期待に応えてくれると断言した。この揺るぎない信頼に、綾小路は違和感を覚える。奇襲で大きな損害を受けた直後であり、橋本や他の生徒が不安を抱く中、白石だけが綾小路の敗北を疑っていないからである。以前から綾小路を知っていたかのような物言いに、綾小路は坂柳との繋がりなど得体の知れない背景を連想しつつ、白石の言動を記憶に刻んでおくことにした。

巡り合わせ

龍園の早朝の思案と葛城との議論

早朝、龍園翔は地図とGPS情報を見直し、どのクラスをいつ叩くかを検討していた。物資不足はBクラスもCクラスも同様であり、学校側が戦闘を誘導していると理解していた。龍園は綾小路を狙ってCクラスを攻めたいと考えつつも、倒した後にAクラスとDクラスと戦うのは困難だと自覚していた。葛城は奇襲で得た優位を温存し、物資回収を優先すべきと主張し、龍園の綾小路への執着が判断を狂わせかねないと危惧していた。

高円寺の位置とCクラス側の方針確認

午前九時、司令官の島崎から白石にGPS更新の報告が入り、すべての生徒が前日と同じエリア付近に留まっていることが判明した。高円寺六助もD6に残っており、綾小路はリタイアせず無人島を満喫している可能性に違和感を覚えていた。高円寺は司令官とも連絡が取れず、位置情報だけが把握できる状態であるため、綾小路は偶発的な接触や堀北に動かされる可能性を警戒しつつも、イベントまでは待機を基本とする方針を共有した。

Dクラスが知ったフィールド縮小の予兆

午前十一時、Dクラスの神崎は安藤のタブレットに表示された新たな物資位置と、外周マスが使用禁止になる告知を見て戦慄した。外周から段階的に使用禁止エリアが増えれば、最終的に四クラスが中央付近に押し込められ、戦闘を回避できなくなると推測したのである。一之瀬からは自分が全体方針を考えるから目の前のイベントに集中してほしいと連絡が入り、神崎はO14を含む物資回収のために三班に分かれて行動する方針を維持した。

Bクラス物資回収隊と高円寺との遭遇

同じ頃、Bクラスは龍園の指示で二つの物資回収隊と本隊に分かれ、小宮はVIPの諸藤を連れてE9の物資を取りに向かっていた。そこへD6から動き続けている単独のGPS、すなわち高円寺と鉢合わせする可能性が浮上したが、小宮は一人なら問題ないと楽観視し、ショットガンを撃ちながら高円寺を挑発した。その直後、姿の見えない相手から正確なペイント弾による射撃が始まり、小宮、木下、山脇ら護衛たちが次々と被弾してアウトとなった。司令官の金田とも連絡がつかない中、短時間で護衛は全滅し、諸藤だけが取り残された。

高円寺の圧倒的な射撃と去り際の警告

姿を現した高円寺は、挑発的な声と銃声を頼りにこの場所へ来ただけだと語り、無人島試験の勝敗には興味がないと明言した。諸藤が物資を取りに来たことを認めると、高円寺はAクラスとBクラスが敵同士であるにもかかわらず、VIPである諸藤を撃たず、物資を持ち帰るよう告げた。特別試験の結果はどうでもよく、自分にとって重要なのは楽しみであると述べたうえで、今後自分の邪魔をしないよう強い口調で警告し、船へ戻る意志を示してその場を去ろうとした。

使用禁止エリア拡大の分析と綾小路の判断

午前十一時、Cクラスは外周マス全てが使用禁止になった情報を受けて作戦会議を行った。橋本が外側から内側へ順次エリアが狭まる可能性を口にし、森下と綾小路清隆も最終的に密集戦になると見て同意した。サバイバルとサバゲーのどちらが主目的なのかという疑問を抱きつつも、最終盤では位置取りと小さな流れを呼び込んだクラスが勝つと結論づけ、四クラスの動きとVIPの扱いまで含めた複数の展開を綾小路が頭の中で組み立てていった。

G11物資を巡る博打と龍園クラスへの接近

綾小路は逃げ続けても戦闘は避けられないと判断し、クラスをG11の物資回収に向かわせる方針を示した。そこはBクラスと衝突する危険な位置であり、的場は博打だと難色を示したが、綾小路は相手より先に辿り着く必要性を強調した。移動後、CクラスはG1付近で龍園たちのGPSが近いことを確認し、あえて五分待機して相手の動きを探ったうえで、再度待機時間を延長し、最も有利なタイミングで前進する構えを取った。

Bクラスとの撃ち合いとCクラスの敗北

前進開始直後、森の奥からBクラスが先制射撃を仕掛け、Cクラスは距離と遮蔽物の差で劣勢に立たされた。的場の指示で集中的に撃ち返して一人はアウトにしたものの、正確な反撃により前衛から次々と被弾者が出ていった。橋本が陣形の立て直しと後退を指示し、綾小路も損害の大きさから撤退を決断した。退却の途上では森下が山村美紀を庇ったように見える形で被弾し、自らを善良な心が働いた結果だと語ってアウトになり、護衛役として目立った戦果を挙げないまま戦線を離脱した。

敗走後の分析と高円寺の九人撃破

CクラスはH12まで後退し、綾小路、白石、橋本が状況を整理した。橋本は守り側の強さとBクラスの射撃技量に素直な敗北感を吐露し、綾小路は龍園の高圧的な統率が士気と熱量に繋がっていると認めた。白石からの報告で、E9に向かったBクラス十名のうち九人が高円寺六助と交戦してアウトになり、高円寺は無傷で残っていることが判明した。橋本は龍園にとって予想外の損害だと喜んだが、綾小路は勢力バランスへの影響を慎重に考える必要があると受け止めた。

Dクラス同盟再提案と綾小路の受諾

満身創痍の的場が現れ、先日一度打ち切られたDクラスとの同盟の話をこの段階で正式に進めたいと申し出た。Bクラスに押し切られた現状と今後のエリア縮小を踏まえ、Cクラス単独では勝ち残れないと判断したためである。橋本も約五十人規模の連合となる合流案を支持し、綾小路も自らの油断で追い込まれたことを認めたうえで、クラス全体が納得するなら同盟に賭ける価値があると承諾した。橋本はクラスメイトへの説明役を引き受け、意気揚々と皆のもとへ向かった。

山村の違和感と綾小路への問いかけ

その様子を見ていた山村は、的場の再提案を綾小路が意外なほど素直に受け入れたことに違和感を覚え、もっと早く同盟を再検討できたのではないかと遠慮がちに口にした。奇襲後のタイミングで話を戻せていれば森下がアウトにならずに済んだかも知れないという思いを抱え、責めるつもりはないと言いつつも、綾小路が「一度無しにしろと言われていたため言い出せなかった」と答えたことで、山村の表情にはさらに影が落ちていった。

同盟

Cクラスの決断とDクラス接触

Bクラスに敗れたCクラスは、外周縮小の進行を見極めつつ東へ向かい、Dクラスとの合流と同盟成立を目指した。綾小路は、一位を譲ってもDクラスには裏切る利得がなく、信頼崩壊の損失の方が大きいと説明し、両クラスで上位二つを取る方針を示した。クラスは一位放棄への迷いを残しながらも二位確保を妥協点として受け入れ、橋本は不安を抱えつつ交渉役を買って出た。

神崎との交渉と同盟受諾

接触地点で綾小路と橋本は武器を預け、Dクラスの前に出た。神崎らはGPS戦術による伏兵を警戒して銃口を向けたままだったが、綾小路は争意がないことと、両クラスで大部隊となる同盟案を提示した。神崎は一度は拒否を口にしたものの、一之瀬から事前にCクラス接触時は先に撃たないよう言われていたことを明かし、最終的に銃を下ろして仲間を呼び入れ、話し合いに応じた。

一之瀬の構想と準備

少し前、一之瀬はタブレットでCクラスの連敗を見つめつつ、自分が負けさせないと小橋に語っていた。一之瀬は、Cクラスを取り込んだ最大勢力になれば、BクラスもAクラスも攻めにくくなり、互いを三位に落とそうとする争いに向かうと読み、DクラスにはCクラス接触時は先に攻撃しないよう周知していた。

CD連合の形成とDクラスの強み

合流後、警戒心の強いCクラスに対し、Dクラスは穏やかな態度で積極的に話しかけ、普段の学校生活と変わらない距離感で交流を促した。その対等な接し方がCクラスの警戒を急速に和らげ、連合クラスは人数と信頼関係を兼ね備えた集団となる。綾小路は、上位クラスが仕掛けにくくなる一方、どのクラスも漁夫の利を狙うため先に動きにくいと分析した。

夕食時の対話と同盟の真意

夕食で白米を囲む中、神崎は今後の指揮権を一之瀬から綾小路に一任するよう言われていると伝えたうえで、なぜ進級前から得にもならない同盟を提案したのかと問い質した。綾小路は、龍園の奇襲で半数を失った現状では同盟がなければ最下位は避けられず、保険として機能していること、Dクラスが浮上してもCクラスへの悪影響は小さく、堀北や龍園の意識を分散させられる利点があると説明した。さらに、伸びしろの大きいDクラスとならAクラスを射程に捉えられると示し、神崎にも一之瀬と同じ方向を見る覚悟を求めた。

本当の狙い

Bクラスの苦境と龍園の迷い

Bクラスは浜辺のキャンプで朝を迎え、葛城がCクラスとDクラスの密集状況から同盟成立の可能性を報告した。高円寺との戦闘で九人を失った損害と小宮たちの判断ミスも整理され、諸藤が生還したことのみが不幸中の幸いとされた。結果として同盟側は五十人規模に膨れ上がり、人数差は二十人以上に拡大した。石崎はAクラスとの同盟を提案したが、譲歩の価値が乏しく信頼もないため非現実的と退けられ、三日目に同盟を許したことがBクラスにとって厄介な一手になったと結論づけられた。

龍園の思考と椎名の忠誠

龍園は海辺で地図を見つめ、Aクラスへの総力戦か、下位同盟への総攻撃かを思案したが、どの選択も綾小路の想定内に収まり、自らが後手に回っていることに不快感を覚えた。そこへ散歩中の椎名が現れ、物語の構造を暗い冒頭からの再生や贖罪の例として語りつつ、先の展開は良い方向にも悪い方向にも転び得ると警告した。そのうえで椎名は、Bクラスのためになるなら相手や結末を問わず、龍園が迫る非道な選択にも迷わず従うと明言し、龍園は綾小路打倒を勝利と並ぶ渇望として再確認して仲間のもとへ戻った。

同盟側の疲弊と龍園の狙いの分析

一方でCクラスとDクラスの同盟陣営では、三日目に入り物資不足が深刻化し、墨田と南方らに体調不良が出始めた。綾小路は神崎に、護衛なら早期リタイアも選択肢とし、無理をさせないよう伝えるよう指示した。続いて綾小路は、龍園が高円寺の不確定要素を警戒し、AクラスではなくCクラスに奇襲を選んだ理由や、その結果として護衛一人と全体GPS停止の戦術を失った現状を整理した。使用禁止エリアが広がるほど全体GPS停止の価値は増すと見たうえで、龍園は焦って攻めず、エリア縮小で四クラスが近接した局面まで時を待つ守勢を取る可能性が高いと結論づけ、同盟側は当面交戦を避ける方針を維持した。

エリア縮小と綾小路の単独行動計画

午前と午後のイベントで使用禁止エリアは段階的に狭まり、回収が難しい地点ほど食料の比率が高まった。綾小路と神崎は、人数温存を優先し多くの物資を見送る一方で、同盟の拠点をH一〇周辺に移し、竹本たちによるH一〇やJ一二、H一二など最低限の回収に絞る方針を取った。夕刻の更新で生存可能範囲は六掛ける六マスにまで縮小し、AクラスはG八付近へ南下、Bクラスは朝からE一二二付近に留まり続けた。綾小路はG九の物資回収隊に自ら同行し、回収を終えた帰路で竹本に次のGPS更新と同時に自分の個人GPSを停止させるよう司令官へ伝えることを命じたうえで、本隊には戻らず今夜から単独行動に移る意図を示した。

夕方のG8到着と奇襲

堀北たちは夕方、待ち伏せを警戒して遠回りのルートを取り、午後五時二十五分頃にG8へ到着した。BクラスとC・Dクラスが距離を取っているとの報告を受け、G9の物資回収に来ていた八つのGPSが二十五分時点でH10へ戻ったことも確認した。高円寺がBクラスの十人と偶然交戦し九人の護衛を倒してリタイアした経緯を踏まえ、堀北は諸藤が唯一生き残ったVIPであると特定していた。堀北は他クラスより自分たちの安全確保を優先し、近くの八人だけでAクラスを攻めてくる可能性は低いと見て警戒を続けるよう指示し、G9のCクラス生徒が同盟本隊と合流しつつあることを確認したうえで、その場で休息を取る判断を下した。

堀北と軽井沢の本音の会話

テント設営中に本堂のテントが枝で破れる小さなトラブルが起きる一方で、堀北たちは食料も水も乏しいまま三日目の夜を迎え、過酷な状況に疲労を滲ませていた。堀北は軽井沢を人目の少ない場所へ連れ出し、CクラスとDクラスがいつから手を組むことを決めていたのかを問いかけた。特別試験の詳細告知時点では接触が不可能だったことから、堀北は綾小路がクラスを抜けた始業式の時点で一之瀬と接触していた事実を挙げ、水面下での協力関係が早期から始まっていた可能性を探った。軽井沢もその見立てに同意し、両クラスの関係がこれまでより深まっていると認めたうえで、話題を綾小路への感情に切り替え、堀北の動揺から好意を指摘した。さらに軽井沢は、一之瀬も綾小路を好きであり、交際とまではいかないがそれに近い関係に見えると述べたところで、キャンプ地からの騒ぎに気付き会話は中断された。

綾小路の単独突入と時間切れの罠

午後五時五十五分過ぎ、キャンプ地からペイント弾の発砲音が繰り返し聞こえ、堀北と軽井沢は異常を察知して駆け戻った。腹部に被弾した伊集院や背中を撃たれた森、小野寺らの姿から、Aクラスが奇襲を受けていることが判明し、須藤たちが敵を追撃していると知らされる。堀北は武器を手に前進し、仲間たちが大木の裏に追い詰めた標的が綾小路一人であることを宮本から聞かされる。多方向からの包囲により綾小路の退路は断たれ、堀北はリスクに見合わない行動に疑問を抱いたが、判断する間もなく、綾小路が一歩前に出て銃を構えようとした瞬間に本堂の号令で複数の生徒が発砲した。綾小路の右手、右足、脇腹にペイント弾が命中し、腕時計のアラームが鳴ったことで池は綾小路撃破を歓喜したが、堀北は午後六時〇分三十二秒を指す腕時計を確認し、試験終了後の命中は無効であり、時間外に発砲した側がアウトになるルールを指摘した。綾小路はそれを利用していたと認め、午後六時を過ぎてから敵陣に突入し、怒りに駆られたAクラスに発砲させることで、自身はセーフのまま七名をリタイアさせる結果を生んだ。

敵陣でのテント設営とAクラスの動揺

午後七時過ぎ、学校側が到着して綾小路に新たな体操服を支給し、時間外発砲を行った四名が自主申告によりリタイアとなった後もAクラスは騒然としていた。その中で綾小路はAクラスのキャンプ地内に当然のようにテントを設営し、本堂から抗議を受けるが、どこに設置しても自由だと淡々と返した。平田は、時間外の戦闘は禁止であり、不正をすれば綾小路がリタイアになること、翌朝九時には同じエリアからスタートせざるを得ないことを理由に、綾小路を遠ざけるほど逃走しやすくなると説明した。綾小路も朝になれば包囲されることを承知のうえで、無駄な労力を避ける意図を語り、その態度に篠原は敵の檻の中にいる自覚がないと苛立ちをあらわにした。綾小路はそれを否定せずテントの中へ入り、堀北は声をかけられないまま呆然とその背中を見つめるしかなかったのである。

決戦の時

最終日開戦前の状況整理

無人島サバイバルゲーム最終日、各クラスの残存人数はA27名、B24名、C12名、D35名となっていた。北エリアと西エリアの物資を確保したA・Bクラスは被害が少なく、開幕でBクラスに叩かれたCクラスは半壊し、同盟相手のDクラスと共に食料難に陥っていた。朝八時四十分、堀北は撤収を終えて即応体制を整え、使用禁止エリアの拡大で四クラスが至近距離に集まりつつある緊迫した状況を確認した。

綾小路の奇襲の余波とAクラス内部

堀北は本隊帰還と見せかけてAクラスを奇襲し、時間切れギリギリを突いてルール違反アウトを誘発した綾小路の行動を須藤と共に思い返していた。須藤は自分も一歩間違えば池たちと同様にアウトだったと震え、平田はアウトが護衛だけでVIPを守れた点を前向きに評価した。堀北は練習の成果に一定の手応えを感じつつも、元クラスメイトへの不信と動揺を抱えたまま、亡失した信頼の重さを自覚していた。

最終日の戦略確認と陣取りの選択

平田は地図を広げ、使用禁止エリアが中央に寄せられている現状と、十一時以降のさらなる縮小を予測した。堀北はもはや物資はおまけであり、弾薬は十分なので無理な回収は不要と判断し、残る戦術の使いどころは当初の予定から変えないと確認した。そのうえで、西に寄ればBクラス、東に寄れば同盟クラスに当たる位置関係と、南が縮小すれば逃げ場を失う危険を踏まえ、Bクラスとの決戦を見据えてG8からE9への移動方針を受け入れた。

綾小路包囲とルールの制約

興奮した本堂らが綾小路を取り囲もうとしたが、堀北は進路を完全に塞ぐ行為は拘束と見なされ違反になると制止した。クラスメイトたちはわずかな通路だけを残して半包囲の形を取り、堀北はそれで朝九時に正面から撃てると判断した。綾小路はGPSを監視する学校側の存在を踏まえ、進路封鎖が行われれば自ら拘束を訴えるつもりであると冷静に指摘し、これも特別試験のルールを利用した戦い方であると語った。堀北は須藤を送り出せば一騎打ちとなり、敗北時の損失が大きすぎると考え、綾小路が戦わず逃走に全力を注げば数的有利でも止められないと見抜いていた。

Bクラス・同盟クラスの動きと挟撃の危機

午前十時過ぎ、綾小路はAクラスを振り切りH10へ帰還し、竹本と橋本に迎えられた。綾小路はAクラスに緊張感が欠けていた理由を、堀北がプロテクトポイント使用を早期に明言し安心感を与えているためだと推測し、全員が必死な龍園クラスとのモチベーション差を認識したうえで、VIPを連れない少数のCクラス生徒をBクラス側に送り込む危険な指示を出した。その後、使用可能エリアと物資出現マス、午後三時以降の厳しい使用禁止ルールが一気に提示され、生存そのものが困難な終盤戦になることが明らかになった。

三クラスの同時北上とAクラスの決断

正午、G9の物資を確保したAクラスがF9に移動すると、偵察官の西がF10付近でアウトになり、Cクラスが二人を囮に使った可能性が浮上した。続いて松下から、同盟クラスがH10から北西のG9へ向かい、BクラスもE12から北上を始めたとの報告が入り、堀北たちはAクラスを挟み撃ちにする動きだと判断した。園田は逃走やクラス同士の衝突待ちも選択肢と示したが、堀北は三クラス同時交戦を避けるため、E10でBクラスと戦う決断を下した。BクラスがAクラスの動きに合わせて引き返し、同盟クラスが西へ迂回する中、堀北は四クラスの動きが綾小路の指示で組み立てられている可能性に戦慄しつつ、ここからが腕の見せ所であると自らを鼓舞して前進したのである。

最終盤の布陣とAクラスの奇襲

午後1時、物資出現が0となり補給ターンは終了した。AクラスはD11、BクラスはD12、CD同盟はE10に位置し、全クラスが急接近していた。BクラスはAクラスと接触寸前まで北上したが、Aクラスが戦術でGPSを停止させたため所在を見失った。その間にC・Dが前方から近づき、Bクラスは挟撃の危険を察して南へ後退しようとした瞬間、背後からAクラスの奇襲を受けて戦闘に突入した。

VIP佐藤への集中攻撃と須藤の奮戦

背後からの攻撃によりBクラスは劣勢に立たされ、伊吹は堀北への私怨から石崎を盾役にして前線へ突撃した。一方、側面から回り込んだAクラスでは須藤が高い身体能力を生かして次々と敵をアウトにし、倒した中にBクラスのVIPも含まれていると報告された。しかしAクラス側もVIPが倒され、VIPは2対2となった。続いてC・D・Bの三方向から銃口がAクラスのVIPである佐藤に集中し、須藤が身を投げ出して佐藤を抱き寄せ、集中砲火から救い出した。周囲の弾痕から須藤は、戦闘前からBクラスに佐藤がVIPと知られていたと察し、それでも佐藤を逃がさず守るため、自ら敵陣へ飛び出して撃ち合いに挑んだ。

平田と橋本の一騎打ち

別の戦場では、同盟クラスと対峙する平田の隊に橋本が迫り、両者は木々を遮蔽物にしながら近距離で激しい撃ち合いを繰り広げた。互いに残弾が少ない中で心理戦も交錯し、橋本は綾小路の言葉を利用して平田の心を揺さぶろうとした。読み合いの末、同時に飛び出した決め撃ちで平田の弾がわずかに早く命中し、橋本はアウトとなった。平田は銃口を橋本の額に押し付けるほど追い詰めたが、トリガーを引く寸前で思いとどまり、黙って背を向けて別の戦場支援へ向かった。この行為は橋本に深い恐怖として刻まれた。

綾小路によるVIP情報操作と戦局調整

戦術効果が切れた後、司令官の白石は残存146名という荒れた戦況を綾小路に報告した。綾小路は、混戦と混乱によって各クラスの戦力を削り、最終的にはVIPを逃がして全滅だけを避ける方針であると整理していた。彼は三日目夕方にAクラスのキャンプを奇襲した際、護衛たちの動きからVIPが王美雨・佐藤麻耶・幸村輝彦であると特定し、その情報を朝にBクラスへ渡していたため、三クラスがAクラスのVIPだけを執拗に狙う状況が生まれていた。結果としてAクラスはVIPを2人失い、残る佐藤のみが集中攻撃の的となった。さらにFI周辺でBクラス優勢により同盟側の被害が増えているとの報告を受け、綾小路はDクラスVIPを戦術で逃がす準備を指示し、自らもFIへ向かい戦局の「調整」に乗り出したのである。

見せてみろ

Dクラス合流と最終局面の整理

AクラスがVIP三人の脱落によって全員アウトとなり、綾小路のもとに山村、白石、神崎とDクラスのVIP二人が合流した。残りはC・D連合と、龍園・伊吹・山下だけとなり、得点的にDクラス首位、Cクラス二位がほぼ確定していた。綾小路はあえて自分の弾を削り、神崎にマガジンを譲ることで、護衛側に弾を集中させた上で残り時間の勝負に臨む方針を固めた。

龍園との決戦と伊吹撃破

綾小路は別府を伴って前進し、接近してきた龍園一行を誘い出した。伊吹が綾小路への勝負を宣言し、山下を下げた龍園と二対一の形で対峙が始まった。伊吹は素早い機動とサブマシンガンで攻め立てたが、綾小路は距離と遮蔽物、射線を計算し続け、最後は視線と体の向きと銃口の向きをずらすフェイントで出し抜き、伊吹の脚に一発を命中させてアウトに追い込んだ。

砂浜での心理戦とペイント弾による相打ち

伊吹を倒した直後、綾小路は弾切れとなり、龍園に追われて森から遮蔽物のない砂浜へ逃げ込んだ。綾小路は両手を上げて降参を示しつつ、浜辺が相手も無防備にする場であることや、背後から忍び寄るには最適な環境であると説明し、山村が背後に潜んでいる可能性を示して龍園の警戒心を極限まで高めた。龍園が確認のために背後を振り向いた刹那、綾小路は右手に挟んでいた一発の傷ついたペイント弾を全力で投げつけ、自身も銃撃を受けながら龍園の腹部にも命中させ、腕時計の同時アウト判定で相打ちに持ち込んだ。

奇襲の真相と同盟形成の意図

戦いの後、綾小路は龍園に対し、序盤のBクラスによる奇襲をあえて受けたのは、Cクラスを追い込みDクラスと組むしかない状況を作るためだったと明かした。無防備なままDクラスと手を組めば、A・B側が同盟を検討せざるを得なくなると読み、その上でAクラスのVIP特定情報をBクラスに渡して戦局を荒らしたことも語った。龍園は自分が綾小路への執着と読みの甘さで敗北したと認め、今後は本当の意味で一切手加減せず戦うと宣言して去った。

暫定結果と「本当の」無人島特別試験

試験終了後、生徒たちは下船して砂浜に集められ、Aクラス最下位、Bクラス三位、Cクラス二位、Dクラス一位という結果がほぼ確定していると示唆された。橋本や吉田、綾小路は、教師たちの異様な緊張感と未開封の段ボールの搬入から、ただの結果発表ではない何かを察した。やがて真嶋が拡声器でサバイバルゲーム特別試験の終了を告げた直後、無人島特別試験の開始を宣言し、これまでよりはるかに厳しい「信頼」と「裏切り」の戦いの幕開けであることを告げた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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