物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジーかつスローライフ系である。素材を採取しながら旅を続ける“素材採取家”が主人公の、癒やしと発見に満ちた物語である。第5巻では、地下墳墓での探索と仲間の心の再生がテーマとなる。
内容紹介:
仲間のドワーフ素材採取家クレイが大切にしていた槍を誤って折ってしまったことから、タケルたちはクレイの先祖が眠るという地下墳墓へ足を踏み入れる。その墳墓には槍を直す秘密があると言われる一方で、亡霊の噂や数々の罠が立ちはだかっていた。探索の中、タケルは墳墓に潜む“試練”に直面し、クレイの家族の歴史と向き合いながら、村の再建構想へと話は広がっていく。
主要キャラクター
- 神城 タケル:元サラリーマンから異世界に転生した素材採取家。素材採取と旅をこよなく愛する穏やかな性格だが、仲間のためには危険な探検にも挑む頼りがいのある存在。
物語の特徴
本巻の魅力は、「素材採取という穏やかなテーマ」と「墓所という閉ざされた探索空間における心の葛藤・再生」を両立させている点にある。他の異世界冒険譚がバトルや魔法の派手さを前面に押し出すなか、本作は“素材を探す喜び”と“仲間の心の痛みや再出発”に焦点を当て、静かな感動と人間ドラマを丁寧に描く点が際立っている。
書籍情報
素材採取家の異世界旅行記 5
著者:木乃子増緒 氏
イラスト:海島千本  氏
レーベル/出版社:AlphaPolis(アルファポリス)
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あらすじ・内容
大ヒット! 累計10万部突破! ほのぼの素材採取ファンタジー第5弾! 仲間のクレイが大事な槍を折ってしまったため、彼の先祖が眠るというお墓にやってきたタケルたち。この地下墳墓には槍を直す秘密があるとのことだったが……その一方で不気味な噂があった。どうやら、亡霊が出るらしい。嫌な予感を覚えながらも、タケルたちが墳墓内に足を踏み入れると、罠、罠、罠のラッシュが彼らを急襲。さらには噂の亡霊(?)が現れ、タケルたちに妙な「試練」を課すのだった――異世界の難関ダンジョンに潜って、探索して、宝物ゲット! 採取家タケル、トレジャーハントに挑む!
感想
仲間であるクレイの槍が折れてしまったことから始まる、新たな冒険を描いた物語である。今回は、槍を新調するために、クレイの先祖が眠るという地下墳墓へと向かうことになる。
墳墓の中は、まるでダンジョンのように様々な罠が仕掛けられており、タケルたちはそれを一つ一つ突破していく。そして、扉の先で出会ったのは、『エデンの民』のハーフエルフ、リピだった。彼女の課す試練を乗り越えることで、クレイは壊れた月の槍の代わりに、太陽の槍を手に入れることができるという。
リピの相棒である機械人形、リンデ3号が暴走してしまう場面では、タケルが持ち前の技術でそれを直してしまう。このあたりは、彼の才能が遺憾なく発揮されていて、読んでいてとても面白い。試練をクリアし、新たな槍と竿を手に入れたタケルたちは、トルミ村へと帰還する。
トルミ村では、「蒼黒の団」の拠点を築くために、村の大改造が始まる。エルフやドワーフ、緑魔人たちの手によって、柵から家、道路まで、村全体が魔改造されていく様子は圧巻である。大改造後の宴会で、リザードマンの墓での試練が少し薄れてしまったように感じたのは、読む間隔が空いてしまったせいかもしれない。しかし、タケルの大盤振る舞いは、きっと皆を楽しませたことだろう。
今作では、タケルの秘密がチームメンバーに打ち明けられるという展開もあった。「蒼黒の団」の拠点ができたことで、今後のトルミ村がどのように変わっていくのか、全く予想がつかない。自重しない方向に進んでいくのではないか、という期待と不安が入り混じった気持ちになる。クレイやブロライトには、ぜひとも頑張ってほしい。
リザードマンの先祖の墳墓がダンジョンと化し、クレイがそこで成人の試練を受けるという展開は、王道でありながらも新鮮さを感じさせてくれる。墓守のハーフエルフの魂や、アンドロイドになったドラゴニュートの英雄が登場するなど、ファンタジーならではの要素も満載である。
相変わらずドタバタな展開ではあるものの、タケルの膨大な力であっさりと解決してしまう場面も多い。しかし、それこそがこの作品の魅力なのだろう。読んでいると、心が温かくなり、自然と笑顔がこぼれてくる。
全体を通して、戦いや日常、人間関係など、様々な魅力が詰まった作品だと感じた。今後の展開にも、ますます期待が高まる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
神城タケル
異世界マデウスで素材採取家として活動する人物である。「成せば成る」を座右の銘とし、平穏を望みながらも危険な環境で仲間と共に行動した。仲間に対して支援と調整を担い、修復や浄化などの能力を発揮した。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・採取担当。転生者。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下墳墓探索で罠を回避し、修復魔法や結界で仲間を守った。リンデルートヴァウム三号の修復を行い、墓域の動力を再建した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 仲間や墓守から信頼を得て、地下墳墓再建に不可欠な役割を担った。釣りを趣味として新たに取り入れ、生活の幅を広げた。
クレイストン
ドラゴニュートの戦士であり、蒼黒の団の中心人物である。折れた愛槍を補うため、地下墳墓で試練に挑んだ。仲間を先導しつつも、重要な局面では単独で立ち向かった。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・戦闘担当。リザードマンの郷の英雄。
・物語内での具体的な行動や成果
 極寒の試練を突破し、リンデルートヴァウム三号と死闘を繰り広げた。最終的に太陽の槍を継承した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 郷の象徴的存在として、神器を得たことでさらに信望を高めた。折れた月の槍を祭壇に還し、新たな段階へと進んだ。
ブロライト
両性のエルフであり、蒼黒の団の一員である。冷静に仲間を支えつつ、魔法や弓による支援を担った。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・後衛。弓使い。
・物語内での具体的な行動や成果
 罠の突破や素材採取で貢献した。灼熱の試練で環境制御を支援し、弓と魔素水を併用して天井装置を破壊した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦闘支援と生活面双方で不可欠な存在として機能し、仲間からの信頼を維持した。
ビー
古代竜の幼生であり、蒼黒の団の仲間である。感覚や直感に優れ、探索や危険察知で役立った。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・同行者。古代竜の幼生。
・物語内での具体的な行動や成果
 落とし穴や小扉を察知し、仲間を危機から救った。タケルと共に魂リピの声を感知した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 探索と危険回避において独自の役割を担い、仲間に安心感を与えた。
プニ
誇り高い馬の神であり、馬化して馬車を牽いた。仲間の移動や探索を支えた。
・所属組織、地位や役職
 蒼黒の団・移動支援。幻獣。
・物語内での具体的な行動や成果
 湿地帯の底なし沼を越えて安全な進行を可能にした。戦闘時には防御や支援を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 移動手段と守護役を兼ねる存在として不可欠であった。
リピ
白い魂の姿で現れた少女であり、かつて地下域の試練を担っていた。エデンの民の末裔であり、長命と魔力を備えていた。
・所属組織、地位や役職
 地下墳墓の案内人。エデンの民。
・物語内での具体的な行動や成果
 月と太陽の槍の来歴を明かし、試練を課した。タケルに機械人形修理を依頼し、墓域の維持に協力を得た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 タケルの力で存続の希望を得て、エデンの民探索を新たな目標とした。
リンデルートヴァウム(三号)
古代の技術で造られた機械人形である。アダマンタイト製の骨格を持ち、墓所の守護者として存在した。
・所属組織、地位や役職
 墓所守護の機械人形。ランクS人工遺物。
・物語内での具体的な行動や成果
 第三の試練としてクレイストンと戦闘した。暴走後にタケルの修復を受け、言語機能を回復した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 墓域の維持に協力し、仲間と交流する存在へと変化した。
ジェロムーア・バッカスフント
トルミ村で雑貨屋を営む元冒険者である。Bランクまで昇格したが夢破れて故郷に戻り、村で商いを続けていた。常識外れの行動を見せるタケルを理解しきれず、呆れながらも見守った。
・所属組織、地位や役職
 トルミ村・雑貨屋店主。元Bランク冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 タケルから渡された古代の金貨を商人に見せ、価値が明らかになった。村の変貌や多種族交流の進展を目にした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冒険者としては退いたが、村人や来訪者との橋渡し役を担い続けた。
コルウス
鳥獣人の商人であり、トルミ村を訪れた際に村の発展を目の当たりにした。タケルがもたらした風呂や整備された街並みに驚愕した。
・所属組織、地位や役職
 行商人。鳥獣人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジェロムと共に古代の金貨を鑑定し、価値が800万レイブに及ぶと明らかにした。村でエルフと交流を持ち、驚きを隠せなかった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村外からの視点でタケルや村の変貌を評価した存在であった。
フラク
エルフの一人であり、レインボーシープの飼育のため村に滞在していた。美貌を備え、商人からも注目を集めた。
・所属組織、地位や役職
 エルフの職人。牧畜支援。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジェロムの雑貨屋を訪れ、注文した斧を受け取った。村の住人や商人と交流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 多種族交流の象徴として村の生活に関わった。
リベルアリナ
精霊王であり、タケルに協力してトルミ村に恩恵をもたらした。豊かな自然と加護を授け、村の変貌に寄与した。
・所属組織、地位や役職
 精霊王。自然を司る存在。
・物語内での具体的な行動や成果
 村に緑や花をもたらし、温泉探しに協力した。隠匿されたデルブロン金貨を胸元に取り込み、祝福と共に輝かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村人に畏敬され、タケルの活動を陰で支える存在となった。
ペトロナ
エルフの木工職人であり、仲間を率いてトルミ村に赴いた。村の再建と強化に大きく貢献した。
・所属組織、地位や役職
 エルフの職人団・木工指導者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ガナフの木を用いて家屋や柵を建設した。蒼黒の団の屋敷や温泉施設の建設を監督した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村人や他種族から信頼され、交流の中心となった。
グルサス
ドワーフの親方であり、職人団を率いて村の防御を強化した。堅固な建造物を築き上げる技術を持つ。
・所属組織、地位や役職
 ドワーフ職人団・親方。
・物語内での具体的な行動や成果
 柵を城壁のような防護壁に改造した。巨大な鍵や防御魔法を施し、防御力を飛躍的に高めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村に安全をもたらし、村人から深い感謝を受けた。
村長
トルミ村の指導者であり、タケルの提案を受け入れた。村の存続と発展を重視し、外部勢力との協力に前向きであった。
・所属組織、地位や役職
 トルミ村・村長。
・物語内での具体的な行動や成果
 村改造計画に同意し、外部からの職人受け入れを承認した。宴や交流の場を主催した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村の改革を支え、種族間交流を導いた。
マーロウ
村を守る兵士であり、タケルの帰還を出迎えた。村人と冒険者の橋渡しを担った。
・所属組織、地位や役職
 トルミ村・警備兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 タケルや仲間を歓迎し、村の警備を続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 村人から信頼を得て、安全を支える役割を果たした。
ギンガ
クレイストンの息子であり、釣りを好む。父から譲られた黒い釣り竿を大切に扱った。
・所属組織、地位や役職
 リザードマンの郷・次世代の若者。
・物語内での具体的な行動や成果
 タケルを河口釣行に誘い、疑似餌釣りの技術を教えた。刺身を共に味わい、家族や仲間との交流を深めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父の遺志を継ぎ、太陽の槍継承に関わる家族として存在感を示した。
展開まとめ
神城タケルの生活と座右の銘
神城タケルは異世界マデウスで素材採取家として活動していた。彼は「成せば成る」を座右の銘とし、まったりと生きることを望んでいたが、実際には死と隣り合わせの日常を送っていた。謎の青年から授かった力を糧に、彼は幾度も死の危機を乗り越えながら生活を続けていた。
危険な世界での活動
村や町の外は凶暴なモンスターが徘徊する危険地帯であり、外での行動は自己責任であった。タケルは冒険者チーム「蒼黒の団」に所属し、仲間と共に未知の場所を訪れては素材を集め、生計を立てていた。
クレイストンの槍の破損
蒼黒の団のリーダーであるドラゴニュートのクレイストンは、愛用していた槍を壊してしまった。その槍はかつて伝説の勇者が使用していた由緒ある武具であり、彼にとって強い思い入れのある存在であった。
地下墳墓への探索決定
槍を新調するため、蒼黒の団はリザードマンの偉大な先祖が眠る地下墳墓へ向かうことを決めた。しかし、平穏なお墓参りになるはずはなく、困難が待ち受けていることをタケルは予感していた。
1 渦潮~うずしお~
目的地カリディア湿地帯の性質
神城タケルらは、スタルート・ドイエからさらに南に広がる湿地帯カリディアを目指すことにした。そこは濃霧が絶えず立ちこめ、雲が陽光を遮る陰鬱な土地であり、リザードマンの祖先が眠る場所であるとクレイストンは説明した。
装備準備と危険想定
タケルは食料や調理器具を十分に携行し、広大で迷路状と噂される地下墳墓に備えて飲み水を大樽四つ分用意した。転移門が作動しない場合には天井を破壊しての脱出も視野に入れており、罠が巡らされた墓を実質的にダンジョンと同等に見なしていた。
亡霊への不安と浄化の懸念
ブロライトは亡霊の出現を恐れ、浄化魔法の可否をタケルに問いただした。タケルは空想上の怪異への嫌悪を認めつつも、自身に霊感がないため過度な恐怖は抱かず、淡々と応じた。
副次依頼の受注
一行はギルド「ネレイド」に立ち寄り、地下墳墓周辺に自生する野草や蔦の滴を採取する依頼を受けた。郷の者が先祖の安眠を乱すことを忌避するため供給が不足し、報酬水準が高く設定されていたのである。
出立と秘匿方針
翌早朝、クレイストンの息子ギンと村長に見送られつつ、ブロライトの不安を宥めながら出発した。郷の英雄であるクレイストンの地下墳墓行きは混乱を避けるため極秘とされ、少数精鋭で臨む方針が徹底された。
南下行と海原への所感
一行はクルルク街道を南下し、危険な吊り橋を避けて進んだ。馬化したプニが馬車を牽引し、穏やかな海原や跳躍する巨大トビウオを眺めながら、タケルは大陸横断の航海への関心を新たにした。
封筒の開封と空白の油紙
村長から託された筒をタケルが開封すると、中には古びた油紙が入っていたが、記述は消え失せていた。解析の結果、それがリザードマンのヘスタス・ベイルーユの遺言書であることが判明した。
修復魔法による文面の復元
クレイストンの促しを受け、タケルが修復魔法を無詠唱で行使すると、古代カルフェ語の文字が再び浮かび上がった。冒頭には封印の呪文を解いた者を称える文言が記され、一同はその真正さに注目した。
遺言の要点と二本の槍の記述
遺言には、赫々たる祖先の眠るカリディアへの埋葬希望と、遺産の家族譲渡に加え、月と太陽の槍を墓に納めるべき旨が記されていた。特に太陽の槍が生涯ヘスタスを認めなかったという記述は、対となる二本の槍の存在を示唆していた。
折損槍の精査と“月”の刻印
クレイストンの折れた槍をタケルが調べると、金属装飾部に極小の三日月の意匠が刻まれていることを発見した。他の装飾に紛れる精巧な細工であり、この槍が“月の槍”である可能性が高まった。
“太陽の槍”探索への含意
遺言と刻印の符合から、もう一方の“太陽の槍”がヘスタスの埋葬地に眠っている可能性が浮上した。こうして地下墳墓探索の目的に、槍の真相を解き明かすという新たな課題が加わったのである。
2 砂紋~さもん〜
湿地帯カリディアへの到着
神城タケル一行はプニが牽く馬車で南下し、午後にはカリディア湿地帯へ到達した。街道の終端から先は濃霧と湿気に包まれ、底なし沼が点在する危険地帯であったが、プニは地面からわずかに浮いて進行し、地下墳墓の入口に接近した。
地下墳墓の入口と進入準備
苔むした階段の先には人跡の乏しい入口があり、クレイストンは祖先の安眠を乱さぬため参拝が途絶えている事情を説明した。タケルは地図が全容の三割しかないことを確認し、転移門の帰還点を入口に固定するなど警戒を徹底して進入した。
序盤の罠発動と回避
内部は湿気に満ちた広間と通路が続き、タケルは探査によってモンスター反応の希薄さを把握した。しかし壁の薬草に気を取られた一同は、光感知による可動壁と無数の針の罠を作動させ、さらに誘導灯りに誘われて床が崩落する落とし穴に遭遇した。タケルは咄嗟に飛翔を全員に付与し、底知れぬ堕落坑を回避した。
罠の正体と古い魔法
崩落床は自動修復し、プニは古い魔法の残滓を感知した。罠は機械仕掛けではなく古術によって稼働していると推定され、一行は規律を再確認し、警戒の徹底を誓った。
連続罠の突破と消耗
床のスイッチや壁の仕掛け、さらには休息用の岩にまで罠が仕込まれており、一行は次々と発動させながらも被害を避け前進した。罠師を雇わなかった判断を悔やみつつも、経験と即応によって突破を続けた。
広間での休息と罠の由来
高天井の広間で休息を取り、空気循環の魔道具によって腐敗臭が溜まらない構造を確認した。クレイストンは、かつて英雄の財宝を狙った盗掘が横行し、他種族の術師に依頼して罠が敷設された歴史を語った。罠が参拝者すら拒む設計である理由は不明であったが、財宝の規模が背景にあると推測された。
宿営と食事の支度
タケルは清潔展開と結界魔石で安全域を確保し、馬車を拠点として宿営した。夕食には約束していたカニ麦飯雑炊を供し、翌朝も同じ料理を再び調理した。タケルは自作のめんつゆ風調味液の手順を説明し、旅の食事が一行の士気維持に寄与している実情を示した。
再進行と通路の変化
清潔と探査を維持しながら進むと、通路は次第に広く高くなり、馬車の移動が可能となった。左右には古代カルフェ語で名を刻んだ墓所の扉が等間隔に並び、罠の発動は減少した。湿気は薄れたが気温が上昇し、環境の変化に不審が募った。
第一の門:炎の試練の予告
やがて前方に巨大な石門が現れ、古代カルフェ語で「ここは第一の門。勇気を試す炎の部屋」と記されていた。クレイストンは古いまじないの唄を思い出し、複数の試練の存在を示唆した。タケルの探査は門の先に十体以上のモンスター反応と強い熱源を検知し、一行は希少素材獲得への期待と同時に高難度戦闘への覚悟を固めたのである。
3 不知火~しらぬい〜
扉の条件とクレイストンの開扉
第一の門はリザードマンのみが開ける仕様であり、ブロライトや神城タケルでは反応がなかった。クレイストンは集中ののち巨扉を押し開き、隙間から灼熱の熱風が噴き出した。これにより扉通過自体が試練の導入であると一行は受け止めた。
暑熱対策と“援助は最小”という方針
タケルはミスリル魔鉱砂の結界ペンダントによる暑熱緩和を提案し、ブロライトは起動して負荷を軽減した。一方でクレイストンは己の試練と捉え、過度な外部支援を避ける判断を示した。タケルは水筒を配し、熱中症対策を優先したうえで進入準備を整えた。
砂嵐の闘域とフロガ・ターキの出現
内部は砂嵐と熱に満ち、視界が奪われていた。探査の結果、四方から多数の高速反応が接近し、炎を吐くBランクのフロガ・ターキが襲撃した。タケルは盾を展開して初撃を受け止め、クレイストンが突撃して一体を切り伏せ、戦闘が本格化した。
広域結界による環境制御
視界と熱の制圧を優先し、タケルは広域結界を試行して砂と熱風を封じた。これにより部屋の全容と天井の発熱・送風装置が露わになり、戦闘行動の自由度が向上した。以後、クレイストンは敵処理に専念し、タケルとブロライトは戦域整備と素材回収に回った。
天井装置の無力化と想定外の爆連
タケルは過熱源の無力化を決め、ブロライトがブロジェの弓に魔素水を併用して照明装置を狙撃した。小矢は連鎖爆発を誘発し、天井装置の多くが破壊された結果、室温は急落した。タケルは崩壊を懸念して退避後に修復を施し、構造の維持を確保した。
退出扉の発見と離脱
ビーが砂に埋もれかけた小扉を察知し、一行は討伐継続より離脱を優先した。結界解除と同時にクレイストンが体当たりで突破し、転倒しながらも部屋外へ脱出した。背後では扉が自己修復で原形に戻り、砂嵐と灼熱を完全に遮断した。
小休止と“勇気”の意味への疑義
清潔を展開して砂を払い、体勢を立て直した。一行は炎と風と群敵を耐え抜く行為が“勇気の試練”なのかを議論したが、タケルは無謀との境界を問題視した。直後、タケルとビーのみが幼い女性の声を耳許で聞き、勇気を試さねば何を試すのかという言葉を明瞭に捉えた。不可視の話者の存在が示され、試練の主体と意図に新たな謎が付加された。
4 細小波~いさらなみ~
白い影の正体
薄闇の通路で、神城タケルとビーだけが白い人魂を視認した。プニは存在を感知できたが、クレイストンとブロライトには姿が見えない。声は幼い少女のもの。罠回避で枯渇した魔力が原因と察したタケルは、照光で魔力を分け与え、輪郭を持たせた。
“リピ”という魂
現れたのは白ローブの少女リピ。自らを「エデンの哀しみの魂」と名乗り、かつてこの地下域の仕掛けと試練を担っていたと語った。プニは彼女を“エデンの民(ハーフエルフ)”と看破。長命と強大な魔力ゆえに他種族の争いに利用され、族は千年以上前に滅んだという。ドラゴニュートに庇護され、やがて宝物庫は「試練の場」を経て、今のリザードマンの墓所へ変遷した。
成人の儀と第一門の意図
リピの説明で、先ほどの灼熱砂嵐はリザードマンの「成人の儀」の第一門に相当すると判明。一同が“勇気”の意味に首を傾げていた折、耳元の声の主も彼女であったことが繋がった。
二本の槍の来歴
タケルが折れた槍を示すと、リピはそれを「月の槍」と断言。対となる「太陽の槍」とあわせ、ドラゴニュートのリンデルートヴァウムがドワーフ王ディングスに造らせた特注品だと明かした。勇者ヘスタスは成人の儀を最短攻略した報奨として二槍を得たが、終生“月”のみを実用とし、“太陽”は誇りとして携え続けた。
クレイストンの請願
クレイストンは太陽の槍の継承を嘆願。リピは月の槍を“壊すほど”引き出した実力を評価しつつも即答はせず、「残る三つの試練を越えよ」と条件を示した。まじないの唄が示す順序――炎/氷/鋼の心/名を遺す――のうち、炎は突破済み。以後はリザードマン本人の力を測る領域につき、タケルたちは別導線から随伴、支援は最小限にと釘を刺された。
別離と支度
タケルは水筒・回復薬・携行食を渡し、結界ペンダントの運用を再確認。ブロライトとビーの声援を背に、クレイストンは単身で次の門へと消えた。タケルは「レア素材のお土産」を半分冗談に言い残しつつ、残余の試練の苛烈さを胸中で見積もった。
5 汀~みぎわ~
クレイストン、第二の門へ
氷気が満ちる鋼の扉前で、クレイストンはあえて松明を掲げた。仲間の支援魔法に頼っていた自分を省みつつも、恐れはなく、誇りのみを拳に乗せて門を押し開いた。ここから先は独力で臨む覚悟であった。
タケル一行、最深層を別導線で進行
リピの案内により罠を避けつつ、タケルとブロライト、ビー、プニは墓域深部へ。壁一面の蔓に実る赤い「レッドマッシュ・ヴァイン」を採取し、薬効のある粘液滴を小瓶に集めた。勇者ヘスタスの石棺も通過したが、目的はあくまで調査と採取である。
財宝室と“欲”のすれ違い
リピが開いた扉の先には金銀財宝と希少鉱(ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン)が山積みであった。だがタケルたちは手を付けず、茶を点てて一息つく。欲の薄さにリピは呆れつつも、彼らの流儀を知る。
地下に残る魔素とリピの事情
リピは魔素の枯渇で霊体が弱っていたと明かす。近年の地変で流れが止まり、仕掛け維持にも支障が出ていたという。タケルが先に与えた魔力で辛くも持ち直したが、長期的には不安が残る状態であった。
クレイストン、極寒試練を突破
伝令代わりの小型機械が告げるところによれば、第二の門の主――ランクA「ダークキャモル」は、クレイストンの拳で瞬時に沈んだ。装備に頼らず通る一撃。実力の底が、ここでも顔を出した。
第三の門の“相棒”と芋虫の正体
リピは次の試練の要を示す。茶色に光る“芋虫”は、巨大機構「リンデルートヴァウム三号」のエネルギーカートリッジであった。タケルが魔力の灯光を注ぐと、鉄屑の山が脈動し、失われていた輪郭が再生していく。
機械人形、起動
現れたのは泥人形を模した機械人形――アダマンタイトの骨格を持つ古代の人工遺物。うねる装甲が組み上がり、立ち上がったそのシルエットは、魔王降臨時のクレイストンを想起させる威容であった。
リピは胸を張る。「第三の試練は、これが相手」。太陽の槍へ至る道は、なお険しい。
6 絶海~ぜっかい〜
人工遺物の説明と譲渡の仕組み
人工遺物とは大昔の技術者が造った魔道具や武具であり、譲渡により次の持ち主に力を示す仕組みがあった。クレイの月の槍が折れたのは、完全な譲渡がされなかったことが理由の一つであった。ブロライトのジャンビーヤは譲渡を経た人工遺物であり、正式な所有権が確立されていた。
リンデルートヴァウム三号の正体
リピは宝物庫の守護神である機械人形リンデルートヴァウム三号を所有していた。外装の大半はアダマンタイトで構成され、自己診断や再生機能を持つランクSの人工遺物であった。元は巨匠ディングスによるシリーズの第三号であり、ドラゴニュートの姿を模して造られていた。
クレイの挑戦と試練の始まり
極寒の第二の試練を突破したクレイは疲労を残していたが、回復薬や魔素水で補給し、リンデルートヴァウム三号との対戦に臨んだ。クレイは始祖の血を覚醒させず、自身の力のみで挑むことを宣言した。リピの合図で両者は戦闘を開始した。
死闘の展開と観戦する仲間たち
クレイは拳と尻尾を駆使し、メカクレイと激しくぶつかり合った。メカクレイは火炎放射を放ち、疲労を知らぬ機械人形の力を見せつけた。タケルは実況のように戦況を口にし、ブロライトとプニも息を呑んで見守った。時間が経つにつれてクレイに疲労が見え始め、戦況は次第に不利となっていった。
リピの語るヘスタスの真実
戦いの最中、リピは最強勇者と称されたヘスタスの実像を語った。彼は運の強さで英雄と呼ばれるようになったが、女好きで子供も多く、晩年は地下墳墓でリピと共に過ごし、彼女に寂しさを残して死んでいった。リピは哀しげにその記憶を語り、タケルは英雄の孤独に理解を示した。
戦いの異変
クレイは重い一撃を受け壁に叩きつけられたが、再び立ち上がろうとした。だがそのとき、リンデルートヴァウム三号の動きが止まり、頸部から煙を噴き出した。赤い瞳は輝きを失わなかったが、異常が発生したことは明らかであった。
7 上紺水〜じょうこんすい〜
クレイストンの重傷とメカクレイの停止
タケル一行が駆けつけると、クレイストンは満身創痍でありながらも戦闘態勢を維持していた。メカクレイは突如として停止し、リピは必死に呼びかけたが応答はなかった。プニは内部にタケルの魔力を感知し、核が危険な状態にあると指摘した。
暴走の発生
沈黙していたメカクレイは再び起動すると暴走し、ブロライトへ攻撃を仕掛けた。タケルの盾に初めて亀裂を入れるほどの力を示し、地下墳墓の壁をも破壊し始めた。リピの呼びかけは届かず、状況は危機的であった。
回復と魔王化
墳墓保全を求めるブロライトの叱咤を受け、クレイストンは自らの血を受け入れて回復薬と魔素水を用い、魔王の姿へと変化した。タケル、ブロライト、ビーらは連携し、メカクレイを破壊せずに制止することを目指した。
総力戦と脳の発見
クレイストンの猛攻と仲間の援護によりメカクレイは劣勢となり、動きを止めた。その脊椎部分には脳のような器官が存在しており、タケルは治癒術を施して鎮静化させた。リピは涙を流し、仲間たちは安堵した。
復元の試みとタケルの消耗
タケルは魔素水を補給し、復元の魔法を用いてメカクレイの損傷を修復した。作業を終えると極度の疲労に襲われ、仲間に後を託して眠りについた。
再起と余韻
目覚めたタケルは仲間たちと合流し、短時間の休息を経て体調を取り戻した。焚火の側では、修復されたメカクレイとクレイストンが手合わせをしており、新たな段階の試練が始まっていた。
8 龍燈~りゅうとう〜
食事と手合わせの再開
タケルらはブロライトが調理したダークキャモルの塩焼きを囲み、クレイが第二の試練で得た獲物の味を堪能した。休息ののち、クレイと修復済みのリンデルートヴァウム(メカクレイ)は剣で手合わせを行い、激しい応酬を見せたが雰囲気は友好的であった。
修復完了への安堵と評価
リピは数百年ぶりに活力を取り戻したリンデルートヴァウムの姿に安堵し、タケルの魔力による修復と回復の処置を高く評価した。タケルは魔素水と治癒術、さらに復元の魔法による対処に過ぎないと述べ、リピはその異常な規模の魔力に驚愕した。
清潔の展開とリピの説明要求
タケルは清潔の魔法で一行の身支度や調理器具を整えた。リピはタケルの能力と出自について説明を求め、場はタケルの自己開示へと移行した。
リンデルートヴァウムの言語回復と謝辞
リンデルートヴァウムは言語機能を取り戻し、タケルに最上の礼で謝意を示した。リピもまた救済に対する感謝を表し、結果としてタケルの修復がリンデルートヴァウムの完全な復調に直結したことが明確となった。
タケルの来歴開示と周囲の反応
タケルは前世の記憶を持つ転生者であること、加護や技能が多数付与されている現状を調査によって示した。ブロライトとクレイ、プニは大きく動揺せず受容し、リピとリンデルートヴァウムは非常に驚いたが、最終的にタケル個人として評価する姿勢に収束した。
リンデルートヴァウムの素性と槍の件の整理
リピはリンデルートヴァウムがかつてのエルディアス・リンデルートヴァウムに由来し、肉体喪失後に機械人形として存続した経緯を説明した。月の槍が折れた件については、リンデルートヴァウムが槍の意思と長年の働きを誇りとし、非難の意志がないことを明言した。クレイはその言葉により負い目を解消した。
墓守の実態と機械人形の事情
リピは過去に複数体の機械人形が存在したが、長い時の中で多くが停止した実情を語った。機械人形は魔力消費が大きく、リンデルートヴァウムは稼働と休止を繰り返して墓所を守ってきたことが共有された。タケルはマデウス各地に同類の技術や個体が存在する可能性に関心を抱いた。
第四の試練への移行
一行が情報を整理し終えた時点で、リピは第四の試練の開始を宣言した。状況は休息から再び試練の段階へと移行し、次の展開が示唆されたのである。
9 海神〜わだつみ〜
第四の試練と「選択」の真意
リピとリンデルートヴァウムの案内でクレイストンは第四の試練の間へ入った。部屋一面に金銀財宝や武具が満ちていたが、リピは「何でも一つ選べ」とだけ告げた。クレイストンは逡巡の末、息子ギンガへの土産として太い黒塗りの釣り竿を選んだ。これは欲に触れれば業火が発動する「真意を試す幻」の間であり、クレイストンの動機は自己利益ではなく家族への想いであったため試練は即座に終了した。財宝の幻は消え、選んだ釣り竿のみが現実として残った。リンデルートヴァウムはその無欲と他者想いを称え、リピは最後まで罠に掛けられなかったことを悔しがりつつも合格を認めた。
太陽の槍の継承と月の槍の終幕
最深部の祭壇には朱塗りの筒が安置されており、クレイストンが意思を込めると伸縮して槍となった。これは巨匠ディングス・フィアルによるSランク神器「太陽の槍」で、柄は幻獣ペリュトンの背骨をアダマンタイトで補強し、刃はエルディモの鋼とミスリル魔鉱石から成る人工遺物であった。リンデルートヴァウムは、かつて美に偏った武具しか造れなかったディングスが覚悟を決め、歳月をかけて太陽と月の二槍を鍛え上げた経緯を語った。槍は持ち主を選び、クレイストンを新たな主と認めて炎を纏うように輝いた。クレイストンは折れた月の槍を祭壇に還し、リピの手でその輝きは静かに失われた。クレイストンは涙し、ブロライトとビーも胸を詰まらせた。
地下墳墓の動力復旧とリピの希望
タケルは祭壇の銀盆、ミスリル魔鉱石、魔素水を用いて結界付きの魔素発生装置を創出し、地下墳墓全体とリピ、リンデルートヴァウムの存続に足る魔素供給を確保した。リピは消滅の恐れから解放され、エデンの民の生存者探索という希望を吐露した。タケル、ブロライト、クレイストン、ビー、プニは今後の旅の「ついで」として捜索を引き受ける意思を示し、リンデルートヴァウムも礼として力添えを約した。
別行動の開始と機械人形格納室の発見
クレイストンは太陽の槍の継承を郷へ報告するためブロライト、プニと共に先行帰還した。タケルとビーはリピとリンデルートヴァウムに伴われ、地震で損壊した機械人形格納室を見学した。そこには土砂に押し潰されたドラゴニュート型の個体、壁装のリザードマン型の個体群、さらにディングスがリピのために造った女性型機械人形が眠っており、こめかみの破損が原因で長く稼働不能となっていた。
取引の成立と修復の日々
リピはタケルに取引を持ちかけ、タケルはこれを承諾した。以後四日間、タケルはリピの指示で機械人形の修復に専念し、美女機械人形の導きで次々と作業室を渡り歩いた。タケルは疲労困憊となりながらも応じ、地下墳墓の守護体制再建に寄与した。
番外編 タケルと疑似餌と青い空
帰還とささやかな報酬
クレイストンが太陽の槍を得てから五日後、タケルは地下墳墓の機械人形修理を終えて郷へ戻った。報酬としてリンデルートヴァウムからダークキャモル五体とキノコグミの苗を得て、キエトの洞での栽培を思い描いた。帰宅直後に気力が尽き、玄関先で倒れたタケルは、ギンガに介抱されて目を覚ました。
父子の贈り物と河口釣行
ギンガはクレイストンから譲られた黒い釣り竿を磨き、タケルを河口へ誘った。リザードマンの主流が飛び込み漁であるのに対し、ギンガは趣味として釣り竿と疑似餌を使うことを好んだ。タケルは竿を借り、ビーと共に澄んだ河口で釣りを始めた。
疑似餌釣りの講義と実地
ギンガは流下餌を演出する操作や、上流に顔を向けて待つ魚の習性を語り、疑似餌釣りの手軽さと奥深さを説いた。二人は次々と魚を掛け、タケルは玉網での取り込みに四苦八苦しつつも釣果を得た。
刺身の歓びと食卓の賑わい
釣り上げた魚は刺身に仕立てられ、タケルはダヌシェで覚えた生食の記憶を重ねた。醤油を添えた味わいにギンガは感嘆し、やがてクレイストンの家族が加わって食卓は賑わった。夕刻にはブロライトとプニも帰還し、刺身の会は豪勢な夕餉へと発展した。
贈与と新たな趣味
満足げなギンガは愛用の釣り竿をタケルに託し、タケルは今後は自作疑似餌をグルサスに依頼しようと心に決めた。以後タケルは隙を見ては竿を携え、釣れても釣れなくても、青空の下で静けさを味わう時間を新たな趣味として楽しむようになった。
10 タケルのトルミ村大改造
里帰りの決意と仲間たちの同行
タケルは蒼黒の団と共に馬車でトルミ村へ向かった。美味いスープの素を補充する目的に加え、世話になった村へ挨拶をするためであった。クレイやブロライトも同行し、道中でタケルは村の居心地の良さと改善したい点を語った。
トルミ村での再会と歓迎
村に到着すると、警備兵マーロウや雑貨屋ジェロムをはじめ、村人たちはタケルを盛大に歓迎した。子供たちはタケルやビーに飛びつき、懐かしさと喜びに包まれた。タケルは仲間たちを紹介し、村長の家でもてなしを受けた。
村改造計画の提案
タケルは村長に拠点設営と村全体の改造を提案した。水はけ改善、家屋修復、柵の造り直し、そして風呂の建設を強調した。村人たちは結界魔道具の恩恵でモンスターの肉を得ており、タケルに大きな恩義を感じていた。タケルは自分の我儘として村の改善を進める決意を示した。
リベルアリナの召喚と温泉探し
風呂建設のため、タケルは精霊王リベルアリナを呼び出し、地中の温泉探索を依頼した。リベルアリナは快諾し、村に豊かな緑と花をもたらした。村人は驚きつつも受け入れ、タケルは計画を本格的に始動させた。
エルフの職人団による支援
エルフの木工職人ペトロナを中心に、多くの職人がトルミ村に駆けつけた。ガナフの木を用いた柵や家屋の建設が進められ、村は急速に変貌した。タケルはその規模に驚きつつも感謝し、村の改造が拡大していった。
ドワーフ職人の参加と防御力強化
グルサス親方率いるドワーフ職人も加わり、柵は城壁のように強固な防護壁となった。巨大な鍵や防御魔法が施され、村は圧倒的な防御力を得た。村人や仲間たちはエルフとドワーフの協力に感嘆した。
宴と多種族交流
夕餉の席では刺身やスープなど豪華な料理が並び、人間・エルフ・ドワーフ・獣人が共に食事と踊りを楽しんだ。タケルは旅の話を語り、村人たちは目を輝かせて聞いた。村全体が賑やかな宴に包まれ、種族を越えた交流が実現した。
レインボーシープの導入と副業化
タケルはレインボーシープの飼育を提案し、エルフの協力で導入した。七色ウールの生産や肥料の利用により、村は新たな収入源を得た。村人は羊を気に入り、癒しと実益を兼ねた副業が始まった。
屋敷と温泉施設の完成
エルフの職人たちは蒼黒の団の屋敷や立派な温泉施設を完成させた。村の家屋は清潔に修復され、上下水道も整備された。トルミ村は快適で安全な環境へと生まれ変わり、住人は感謝を込めて頭を下げた。
去りゆく職人たちと残された恩義
エルフやドワーフはそれぞれの郷に戻ったが、一部は村に残り羊の飼育を手伝った。タケルは彼らの温かさに胸を熱くし、プニやリベルアリナにも感謝を伝えた。数日の滞在で村は大きく変貌し、種族を越えた交流の場となったのである。
10.5 番外編 おっさんの憂鬱
デルブロン金貨の由来
タケルが地下墳墓から持ち帰り、リピに押しつけられた古代のデルブロン金貨は、幻の天空都市キヴォトス・デルブロンで流通していた遺物であった。双頭の竜が刻まれたその貨幣は芸術品としても高い価値を持ち、貴族社会では所有が地位の証とされていた。
ジェロムとタケルの縁
トルミ村の雑貨屋を営むジェロムーア・バッカスフントは、元Bランク冒険者であったが、夢破れて故郷に戻っていた。彼は常識知らずながらも不思議な教養を持つタケルと出会い、その成長を見守ることになった。タケルは半年で冒険者として地位を築き、仲間と共に村を変貌させた。
村の変貌とコルウスの訪問
雑貨屋に訪れた鳥獣人のコルウスは、タケルがもたらした風呂や整備された街並みに驚嘆した。ジェロムもまた、タケルが魔道具を惜しみなく配布する非常識さに呆れつつ、村の豊かさを認めていた。栄誉の竜王すら仲間にしたタケルに対し、ジェロムは複雑な感情を抱いた。
エルフとの交流
レインボーシープ飼育のため村に滞在するエルフのフラクが雑貨屋を訪れ、注文した斧を受け取った。商人コルウスはその美貌に動揺し、ジェロムは自らもエルフと酒を酌み交わす日が来るとは思わなかったと感慨を抱いた。村は多種族が交流する場へと変わっていた。
デルブロン金貨の正体発覚
ジェロムはタケルから渡された汚れた貨幣をコルウスに見せた。鑑定の結果、それはラティオ黄金で鋳造されたデルブロン金貨であり、希少性から一枚で800万レイブの価値を持つと判明した。ジェロムとコルウスは衝撃で気絶し、以後タケルから不用意な品を受け取らないと誓った。
祠への隠匿とその行方
二人は危険を避けるため、村の祠に祀られた緑色の像の下へ金貨を埋めた。しかし数日後、金貨は忽然と姿を消した。やがてそれはリベルアリナの胸元に現れ、彼女の祝福と共に輝きを放ち続けたのである。
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