小説【ドラマ化】「イクサガミ 地(2)」感想・ネタバレ

小説【ドラマ化】「イクサガミ 地(2)」感想・ネタバレ

ジャンル
明治時代を舞台とした歴史時代小説かつバトルロワイヤルである。主人公らは「こどく」と呼ばれるデスゲームに巻き込まれ、東海道を巡る生存競争に挑む。金、命、誇りをかけた壮絶な戦いが展開される。

内容紹介
東京を目指して旅路を続ける中で、少女・双葉が攫われた直後、剣客・愁二郎を待っていたのは十三年ぶりに邂逅する義弟・祇園三助であった。292人による「こどく」への参加が続く中、兄弟の間に潜む因縁と、刀を握る者たちの執念が東海道に激しい戦いをもたらす。文明開化の時代、侍たちの“最後の戦い”が鮮烈に描かれる物語第2弾である。

主要キャラクター

  • 嵯峨 愁二郎:本作の主人公。かつて剣客で、京八流の後継者の一人。家族を救うため大金を求めて「こどく」に参加する。奥義「武曲」の使い手であり、信念を胸に戦う剣士である。
  • 香月 双葉:12歳の少女。母の病を治すために愁二郎と共に「こどく」を旅する。短剣を携え、聡明さと純粋さを併せ持つ存在である。
  • 柘植 響陣:元伊賀同心で暗器使い。変装や方言の使い分けが得意で、ふたりと行動を共にしながら独自の視点を加える参謀的キャラクターである。
  • カムイコチャ:アイヌ出身の青年戦士。神の子の名を冠し、弓矢の名手として双葉らを守る守護者的立場にある。
  • 菊臣 右京:美形の剣士であり、正々堂々と戦う信念を重んじ、双葉を助ける際に誇りを示す理想的な武人である。

物語の特徴

本作の魅力は、明治維新直後の混乱期を生きる侍たちが、“金”“命”“誇り”を懸けた究極のデスゲーム「こどく」に挑むところにある。仲間と敵の境界が曖昧になる中で、刀だけが真実を語る過酷な行路は、他の歴史小説にはない戦慄と文学性を融合させている。また、兄弟との邂逅や守るべき少女との絆といった“人間ドラマ”が深い感動を呼ぶ。

書籍情報

イクサガミ 地
著者:今村 翔吾 氏
レーベル:講談社文庫
発売日:2023年05月16日
ISBN:9784065280126

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あらすじ・内容

討て。生きるため。
武士の時代の終幕――魂の戦い!

読者の熱烈な支持を受けた、明治バトルロイヤル譚。
待望の第2巻!



〈あらすじ〉
東京を目指し、共に旅路を行く少女・双葉が攫われた。
夜半、剣客・愁二郎を待ち受けていたのは、十三年ぶりに顔を合わせる義弟・祇園三助。
東海道を舞台にした大金を巡る死闘「蠱毒」に、兄弟の宿命が絡み合う――。
文明開化の世、侍たちの『最後の戦い』を描く明治四部作。待望の第2巻!
【文庫書下ろし】

イクサガミ 地

感想

読み終えて、まず感じたのは、物語の展開の激しさだ。前巻から続く旅路の中で、主人公の愁二郎を待ち受ける試練は、想像をはるかに超えるものだった。特に、幻刀斎との因縁には息をのんだ。彼の圧倒的な強さは、まさにチートキャラと言っても過言ではない。一体どうやって立ち向かうのか、ページをめくる手が止まらなかった。

今回の騒動の裏に、ただならぬビッグネームが関わっていたことにも驚かされた。警察の生みの親である川路利良。彼の名前が出てきたときは、思わず「なるほど」と納得してしまった。作中で語られる理由を読めば、彼なら本当にやりかねないと思わせる説得力がある。しかし、まさか大久保利通暗殺まで絡んでくるとは…。物語のスケールの大きさに、ただただ圧倒されるばかりだ。

この作品の魅力は、単なるバトルロイヤル譚にとどまらないところにあると思う。明治という時代の変わり目、武士の時代の終焉を描きながら、登場人物たちの魂の戦いを深く掘り下げている。愁二郎と祇園三助の兄弟の宿命、双葉との絆、そして、それぞれのキャラクターが抱える過去や葛藤が、物語に深みを与えているのだ。

激しい戦いの描写はもちろんのこと、登場人物たちの人間関係にも心を揺さぶられた。特に、愁二郎と双葉の関係は、読んでいるうちに自然と応援したくなる。彼女が攫われた時の愁二郎の焦燥感は、読者である私にも痛いほど伝わってきた。

『イクサガミ 地』は、戦いの激しさ、時代のうねり、そして人間ドラマが複雑に絡み合った、読み応えのある作品だった。次の展開がどうなるのか、今から楽しみでならない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

嵯峨愁二郎

嵯峨家の一員であり、蠱毒に参加している。義弟・祇園三助を追いながら、仲間や双葉を守りつつ戦いに臨んだ。冷静さと仲間への信頼を大切にする人物である。

・所属組織、地位や役職
 郵便局員。かつては「人斬り嵯帳刻舟」と呼ばれた剣客。

・物語内での具体的な行動や成果
 三助の意図を探って戦人塚に赴き、兄弟たちと対峙した。幻刀斎との戦いにも加わり、三助の最期を見届けた。池鯉鮒宿や浜松宿で彩八や四蔵と再会し、協力して幻刀斎討伐の策を練った。浜松郵便局では川路利良の謀反を暴こうと電報を送信し、戦闘に参加した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 郵便制度の父・前島密との縁を持ち、大久保利通へ直訴を試みた。兄弟間の不信を調整する役割を果たし、物語の中心人物として行動した。

双葉

愁二郎たち兄弟に同行する女性であり、他者の協力を求める発想を持つ存在である。

・所属組織、地位や役職
 特定の組織には属さない。

・物語内での具体的な行動や成果
 三助に囚われたが解放され、その後兄弟たちと行動を共にした。蠱毒参加者に協力を求める提案をし、愁二郎や響庫を動かした。進次郎を救い、黒札の重荷を共に背負った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 蠱毒の主催者である標にさえ影響を与え、その行動が監視する側を揺さぶった。

祇園三助

愁二郎の義弟であり、蠱毒に参加した。冷徹な判断力を持ちながらも、兄弟と妹を思う心情を隠して行動した。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 戦人塚で兄弟たちを呼び寄せ、幻刀斎討伐を目指した。七弥の最期を語り、幻刀斎の脅威を訴えた。最終的に双葉を託し、奥義「禄存」を彩八へ伝授した。幻刀斎との死闘で一瞬の隙を突き傷を与えたが深手を負い、「骨の無い部分が弱点」と叫んで倒れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妻子を持つ立場を失い、兄弟のために命を投げ出した。兄弟たちにとって重要な情報を残し、物語の転機を作った。

化野四蔵

愁二郎の兄弟であり、奥義を複数会得した剣士である。力強さと警戒心を併せ持ち、仲間の盾として立ち続けた。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 戦人塚で三助や彩八と交戦した。幻刀斎出現時には廉貞を駆使して応戦したが劣勢に立たされた。浜松宿では愁二郎らと合流し、蠱毒の黒幕について議論した。浜松郵便局戦では東六市を討ち取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 西南戦争で銃を手にした過去を明かし、時代の変化を語った。兄弟内でも最も堅実で、戦力の要とされた。

化野彩八

嵯峨家の兄弟の一人であり、機敏な剣士である。感情をあらわにしやすいが、仲間を守る意思は強い。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 戦人塚で三助と共に四蔵に挑むが、圧倒される。三助から奥義「禄存」を託され、双葉を守る役割を引き受けた。池鯉鮒宿や浜松宿で愁二郎と合流し、幻刀斎討伐の策を共に練った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 旅一座「銀組」で覆面をしていた過去を語り、仲間との絆を深めた。歩法や気配消しに優れた技を会得し、重要な戦力となった。

幻刀斎

白髪の怪老であり、蠱毒参加者たちに立ち塞がる剣士である。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 戦人塚に出現し、四蔵や愁二郎と交戦した。彩八と三助を狙い、三助との死闘で一瞬の隙を突かれて傷を負った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 七弥を討ち、兄弟の憎悪の対象となった。肉体に「骨の無い部分」という弱点を持つことが明らかとなった。

柘植響庫

愁二郎たちの仲間に加わった剣客である。冷静で分析力に優れ、仲間にとって戦術面での支えとなった。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 池鯉鮒宿で愁二郎と合流し、三助の死や幻刀斎の出現を共有した。浜松宿で前島密との通信に立ち会い、傍受電報の暗号を解析して川路利良の黒幕性を突き止めた。浜松郵便局の戦いでは後衛として支援を行い、撤退戦に加わった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 情報処理と暗号解読に長け、戦闘だけでなく知的側面でも仲間に不可欠な存在となった。

田中進次郎

愁二郎たちに加わった青年であり、黒札を持つこととなった参加者である。観察力に優れ、銃の知識を持っている。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。元郵便局員の家系。

・物語内での具体的な行動や成果
 黒札を託され、狙われる立場となった。御油の戦闘ではリボルバー銃の種類や残弾数を即座に見抜き、仲間を救った。浜松郵便局戦では間の拳銃を拾って愁二郎を援護し、貫地谷無骨に銃撃を加えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「最後尾」を引き受けることで仲間に報いようとし、黒札の存在によって仲間を団結させる契機となった。

菊臣右京

蠱毒に参加した剣客であり、愁二郎に信頼される人物である。冷静で仲間思いの立場を取った。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 宮宿で愁二郎を救った。協力者としての可能性を愁二郎や双葉に認められ、幻刀斎討伐の策の中でも名が挙げられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 明確な合流は描かれていないが、愁二郎にとって信頼の対象として位置づけられた。

貫地谷無骨

「乱斬り」と呼ばれる狂気的な剣士である。暴力を好み、戦場に混乱をもたらした。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。川路利良に利用される存在。

・物語内での具体的な行動や成果
 池鯉鮒宿で蹴上甚六と戦い、浜松郵便局戦では警視局の助っ人を装って出現した。愁二郎と激闘を繰り広げ、右目を負傷するも狂気的な力を増して襲いかかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 主催者側に利用される形で戦局をかき乱し、愁二郎の強敵として立ちはだかった。

ギルバート・カペル・コールマン

「碧眼の騎士」と称される英国出身の竜騎兵である。剛力と剣技を兼ね備え、異国から蠱毒に参加した。

・所属組織、地位や役職
 元英国陸軍第十三竜騎兵隊・隊長。

・物語内での具体的な行動や成果
 クリミア戦争で突撃を成功させ、南北戦争ではストーンウォール・ジャクソンと行動を共にした。日本では愁二郎と対峙し、互いに痛み分けの形で札を分配した。島田まで急ぐよう忠告し、横浜突破の期限を告げて去った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 祖国に家族を残して戦う動機を抱き、愁二郎にとって協力を望むほどの実力者であった。

前島密

郵便制度を築いた人物であり、愁二郎にとってかつての上司でもある。理知的で行動力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 駅逓局長。郵便制度の父。

・物語内での具体的な行動や成果
 愁二郎からの密告を受け、大久保利通に蠱毒の存在を直接報告した。浜松郵便局に姿を現し、局戦では愁二郎たちと共に戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 郵便制度を通じて蠱毒の妨害をかわし、愁二郎の戦いに希望を与えた。

川路利良

警視局長であり、蠱毒の黒幕である。旧武士を「亡霊」と見なし、自然淘汰の思想を持つ。

・所属組織、地位や役職
 警視局長。初代大警視。

・物語内での具体的な行動や成果
 蠱毒を計画し、財閥の協力を取り付けた。浜松郵便局を襲撃し、前島や愁二郎を葬ろうとした。大久保利通暗殺を企て、櫻を切り札として差し向けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 政府高官としての地位を保ちながら反乱を企図し、財閥を巻き込んで大規模な謀略を進めた。

大久保利通

明治政府の中心に立つ政治家であり、内務卿として国家の改革を推し進めた人物である。国の近代化を急ぎつつ、士族反乱や旧勢力に対して厳しい姿勢を取った。

・所属組織、地位や役職
 内務卿。明治政府の実力者。

・物語内での具体的な行動や成果
 紀尾井坂へ向かう途上で刺客に襲撃され、舟波や化野四蔵に救われた。川路利良の謀反を前島密から知らされ、警視局を潰す決意を固めていた。桐野利秋に迫られながらも国家のために生を懸ける覚悟を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 西郷隆盛との訣別を経て内乱を受け入れ、国家統治を優先する思想を確立した。暗殺の危機に晒されながらも最後まで近代国家建設の要として描かれた。

桐野利秋(中村半次郎)

西南戦争で死んだはずの旧薩摩藩士であり、「人斬り半次郎」と呼ばれた剣客である。川路の策で再び姿を現した。

・所属組織、地位や役職
 元薩摩藩士。西南戦争の将。

・物語内での具体的な行動や成果
 紀尾井坂で舟波を居合で斬り、大久保を襲撃した。化野四蔵と一騎打ちを繰り広げ、破軍や廉貞を退ける居合の技を見せた。大久保襲撃後は「石川県士族の仕業」と言い残して姿を消した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「蠱毒で東京に入れるのは九人。そこに俺を加えて十人だ」と語り、四蔵との再戦を予告した。旧士族の亡霊の象徴として立ち現れた存在である。

東六市

撃剣大会の上位者であり、警視局側の剣士として愁二郎らに差し向けられた。

・所属組織、地位や役職
 警視局剣客。

・物語内での具体的な行動や成果
 浜松郵便局戦に突入し、化野四蔵と交戦した。廉貞を突き立てられて討ち取られた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実力者であったが、四蔵との戦闘で命を落とした。

五泉悠馬

撃剣大会の上位者であり、警視局に属する剣客である。

・所属組織、地位や役職
 警視局剣客。

・物語内での具体的な行動や成果
 浜松郵便局戦で彩八と交戦し、数多の傷を受けた末に喉を掻き切られて斃れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 高い剣技を持ちながらも、彩八に打ち破られた。

舟波

前島密の護衛として行動した男である。銃を扱い、大久保利通の救援にも現れた。

・所属組織、地位や役職
 駅逓局関係者。前島密の護衛。

・物語内での具体的な行動や成果
 紀尾井坂で大久保を援護し銃撃を放った。浜松郵便局戦では拳銃を駆使し、愁二郎らと共に奮戦した。最期は桐野利秋の居合で斬殺された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 忠実な護衛として行動し、命を賭して前島と大久保を守ろうとした。

舟波と共に前島密の護衛を務めた人物である。

・所属組織、地位や役職
 駅逓局関係者。護衛。

・物語内での具体的な行動や成果
 浜松郵便局戦に参加し、愁二郎たちを支援した。だが貫地谷無骨に惨殺され、その死が愁二郎や進次郎に影響を与えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死後、拳銃を進次郎が拾い、戦局に用いた。

秋津楓

会津の婦女隊の生き残りであり、薙刀を操る女剣士である。幼少期に母と姉が従軍して戦死した過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 会津藩婦女隊の生き残り。蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 御油宿の松並木で愁二郎たちを襲撃した銃使いを討ち取り、両脚を切断して止めを刺した。札を巡る戦いに介入したが、愁二郎たちに敵意はなく、卑怯な銃使いを許せないとして助勢した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦いの後、愁二郎たちに札を譲らず去っていった。女としての誇りを胸に戦い抜く覚悟を示し、双葉に強い印象を与えた。

蹴上甚六

防御に徹する剣法を操る剣士であり、蠱毒参加者の一人である。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。剣士。

・物語内での具体的な行動や成果
 池鯉鮒宿で貫地谷無骨と交戦し、徹底した防御で攻めを凌いだ。屋根から放たれた矢をも斬り落とし、その堅牢な戦法を示した。戦闘は警邏の接近で中断され、無骨を退かせる要因となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「食狼」と呼ばれる戦法を持ち、愁二郎たちにとって幻刀斎討伐の鍵となる存在と位置づけられた。

赤山朱道

愁二郎らと行動を共にした蠱毒参加者である。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 川本宙松と共に警察署へ出頭したが、牢内で警視局の役人に斬殺された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 その死は、蠱毒からの離脱が不可能であることを仲間に知らしめる結果となった。

川本宙松

赤山朱道と行動を共にした蠱毒参加者である。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒参加者。

・物語内での具体的な行動や成果
 赤山と共に警察署へ出頭し、牢内で警視局の役人に斬殺された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死によって警視局の関与が明確となり、愁二郎たちが黒幕の存在を確信する契機となった。

蠱毒の主催者の一人である。直接の行動は少ないが、参加者を監視する立場にある。

・所属組織、地位や役職
 蠱毒の監視役。

・物語内での具体的な行動や成果
 進次郎に黒札を渡す際、罰の内容を意図的に漏らしたと推測される。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 双葉の存在に影響を受け、監視者でありながら揺らぎを見せた。

仏生寺弥助

越中国射水郡の百姓の次男・豊次郎であったが、斎藤弥九郎に見出されて江戸へ出て「仏生寺弥助」と改名し剣士となった人物である。孤独と劣等感を抱えていたが、剣の才覚を発揮して急速に頭角を現した。

・所属組織、地位や役職
 練兵館・門弟。後に師範代を凌ぐ実力を持つ剣士。勇士組の一員。

・物語内での具体的な行動や成果
 初立ち合いで多田を打ち破り、長州藩士宇野金太郎を圧倒した。江戸で名声を得て道場破りを退け、京では勇士組として多くの敵を斬った。沖田総司に敗北し、その後は彼を討つ執念に囚われた。最後は息子・刀弥に斬られて絶命した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 剣士として急成長し、江戸や京で恐れられる存在となった。だが家族への責任を拒絶し、父としての立場を放棄した。死の間際に息子を「天明」と呼び、その才覚を悟った。

斎藤弥九郎

練兵館を開いた剣士であり、豊次郎を江戸に連れ出した人物である。自らの過去を重ね、最も恵まれない者を救いたいと考えて豊次郎を選んだ。

・所属組織、地位や役職
 練兵館・師範。剣術の指南役。

・物語内での具体的な行動や成果
 豊次郎の感覚を見抜き、剣術を学ぶ機会を与えた。京で勇士組への参加を弥助に勧めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 江戸剣術界で高い地位を持ち、門弟たちに大きな影響を与えた。

利貞

斎藤弥九郎の師であり、豊次郎の特殊な感覚を最初に見抜いた人物である。

・所属組織、地位や役職
 練兵館の剣術師。

・物語内での具体的な行動や成果
 豊次郎に剣の才覚を認め、正式に門弟となる道を開いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 弥助の剣の道を決定づけた存在として描かれている。

沖田総司

壬生浪士組の剣士であり、弥助を圧倒した存在である。若くして恐るべき剣技を示し、弥助に敗北感を刻みつけた。

・所属組織、地位や役職
 壬生浪士組の剣士。

・物語内での具体的な行動や成果
 弥助との戦いで圧倒的な剣技を見せ、彼に肩を斬る致命的な敗北を与えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 弥助の人生観を大きく変え、執念の対象となった。

歴舟家の娘であり、弥助と関係を持ち、刀弥をもうけた女性である。

・所属組織、地位や役職
 歴舟家の娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 弥助に婿入りを求めたが拒まれ、子を抱えて家を出された。後に再び弥助に息子と共に暮らすことを願ったが拒絶された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 息子に仏生寺の姓を名乗らせたいと望んだが果たされなかった。

刀弥(天明)

弥助と絹の息子であり、幼くして沖田を凌駕するほどの才覚を持った。

・所属組織、地位や役職
 特定の組織には属さない。

・物語内での具体的な行動や成果
 母の死を告げ、弥助に姓を求めた。最終的に弥助を斬り、その生涯を終わらせた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 弥助から「天明」と呼ばれ、天が稀に生む才と位置づけられた。

展開まとめ

壱ノ章 仏生寺弥助

練兵館と豊次郎の生い立ち
越中国射水郡の百姓の次男である豊次郎は、容姿や貧しさから将来に絶望していた。婿養子の道も望めず、村の女たちから忌避され、孤独と劣等感を抱えていた。十四歳の春、同郷の斎藤弥九郎が雑用係を募りに村へ戻り、二十五人の志願者の中から豊次郎が選ばれた。弥九郎はかつての自分を重ね、最も恵まれない者を救いたいと考えたのである。

江戸での生活と弥九郎の期待
豊次郎は練兵館で雑用係として江戸暮らしを始め、衣食住の安定を得て満ち足りた生活を送った。弥九郎は豊次郎に「何かを持つ者」と感じ取り、彼を特別視した。二年が経ち、豊次郎は十六歳となり、雑用の合間に剣術稽古を覗き見るうちに、稽古者の背から立ち上る不可思議な「気配」を感じ取る能力を自覚した。

利貞との出会いと剣の道
弥九郎の師である利貞にその感覚を見抜かれ、剣術を学ぶ機会を得た。初めての立ち合いで門弟の多田を打ち破り、驚異的な才覚を示したことで正式に門弟となった。弥九郎の提案で姓を「仏生寺」、名を「弥助」と改め、剣士としての道を歩み始めた。

急速な成長と頭角の出現
弥助は数日のうちに練達者を打ち破り、半年で師範代を凌ぐほどとなった。十七歳の頃、長州藩士宇野金太郎を三本勝負で圧倒し、練兵館内で弥九郎と並び称される実力を持つと噂されるまでに成長した。

愁二郎の追跡と三助の誘い
一方、愁二郎は宮宿で双葉を奪われ、無骨の襲撃を菊臣右京に救われた。右京の行動に信頼を抱きつつも、三助を追って鳴海宿に至る。そこで三助が残した紙片と張り紙を発見し、戦人塚での集結を知る。三助は兄弟妹を呼び寄せようとしており、急迫した状況が窺えた。愁二郎は義弟の意図を推し量りつつ、戦人塚に向かう決意を固めた。

残り、七十六人

弐ノ章 戦人塚

愁二郎と三助の対峙
夜半、愁二郎は戦人塚に赴き、縛られた双葉を発見した。そこに義弟・祇園三助が現れ、双葉を人質に取った。三助は愁二郎のみならず、蠱毒に参加する他の兄弟も呼び寄せており、継承戦を終わらせるために幻刀斎を討とうとしていると語った。愁二郎は共闘を訴えるが、三助は幻刀斎の異常な強さを説き、七弥が討たれた過去を語った。

七弥の最期と幻刀斎の脅威
三助はかつて七弥と行動を共にし、彼が婿養子として佐賀県の役人となり、妻子を得て幸せに暮らしていたことを語った。しかし七弥は幻刀斎に襲われ、家族と共に無惨に殺されたという。七弥は奥義「廉貞」を駆使したが敗北し、その際に骨を折るほど無理を重ねた痕跡が残っていた。三助はその光景から幻刀斎の異常な実力を知り、何としても継承戦を終わらせねばならないと決意した。

兄弟の再会と衝突
そこに彩八が現れ、続いて四蔵も合流した。四蔵は奥義「破軍」「巨門」「廉貞」を併せ持ち、強大な力を誇っていた。三助と彩八は彼に挑むが、圧倒的な力に苦戦する。愁二郎は必死に説得を試みるが、兄弟たちの間には不信と憎悪が根深く残っており、戦いは避けられなかった。

幻刀斎の出現
戦いの最中、幻刀斎が突如姿を現した。白髪の怪老は恐るべき速度と剣技を見せ、彩八を狙うが、四蔵が割って入り交戦となった。四蔵は「廉貞」を駆使して必死に応戦するも劣勢に立たされ、愁二郎も加わり二人掛かりで挑むが、決定打を与えられなかった。幻刀斎は三助と彩八を討つべく森へ走り去り、二人は必死に追った。

三助の決断と最期
逃走の最中、三助は彩八に奥義「禄存」を伝授し、双葉を託して自ら幻刀斎を迎え撃つ決意を固めた。幻刀斎との死闘で三助は策略を駆使し、一瞬の隙を突いて傷を与えるも深手を負う。最後の力で幻刀斎の弱点が「骨の無い部分」であると叫び、妻子への想いを胸に倒れた。こうして三助は命を落とし、残る兄弟たちに戦いの行方を託したのである。

残り、六十八人

参ノ章 鞍馬より歳月

池鯉鮒宿での死闘
池鯉鮒宿は活気ある宿場であったが、突如として騒乱に包まれた。貫地谷無骨は札を逆走して集める男に苛立ち、襲撃したが、その男――蹴上甚六に全て防がれた。甚六の剣は徹底的な防御を旨とし、無骨は攻めあぐねた。戦いの最中、屋根上から矢を射る男が現れ、矢は異様な軌道で甚六と無骨を襲った。甚六は矢をも斬り落とし、無骨は歓喜しつつも矢と剣に追い詰められた。警邏の接近により、無骨は一旦退き、西へと姿を消した。

彩八と双葉の進軍
彩八は双葉を伴い森を抜け、池鯉鮒宿を目指した。三助の最期を悟り、その無念を胸に刻みながら幻刀斎を討つ決意を固めた。途中、待ち伏せしていた元京都見廻組の男を斬り捨て、双葉に苛立ちを見せながらも共に進んだ。やがて愁二郎と合流し、三助から受け取った奥義「禄存」を語り合った。

愁二郎と警邏の遭遇
愁二郎は池鯉鮒宿で警邏と出会い、貫地谷無骨、カムイコチャ、そして甚六の人相書きを見せられた。甚六が池鯉鮒宿で戦闘に巻き込まれたと察した愁二郎は、彩八と双葉と再会する。彩八は三助の最期を口にし、兄弟たちの無念を分かち合った。

四蔵の合流と三助の死
やがて四蔵が到着し、三助が幻刀斎との戦いで命を落としたことを伝えた。三助は「骨の無いところが弱点」と叫び、幻刀斎の不気味な肉体の秘密を示して絶命したという。四蔵は遺髪を埋め、脇差を愁二郎に託した。兄弟たちは三助の無念を胸に、幻刀斎を討つ誓いを新たにした。

幻刀斎討伐の策
三人は幻刀斎の不規則な体捌きと、骨の無い箇所を狙うしかない弱点について議論した。四人で挑んでも勝算は薄いと認めつつ、甚六の「食狼」が要であると結論づけた。だが、甚六は既に先へ進んでおり、合流が困難であることが懸念された。

双葉の提案と協力者探し
双葉は他の蠱毒参加者にも協力を仰ぐべきだと訴え、兄弟たちを驚かせた。四蔵や彩八もやがて賛同し、英国の軍人風の男、無骨、右京、カムイコチャらの存在が話題に上がった。特に菊臣右京と柘植響庫には可能性を見出した。

浜松での再会を約して
愁二郎と双葉は池鯉鮒宿に残り、響庫と合流を図ることにした。一方、四蔵と彩八は甚六を追って東へ進む。三者は浜松で再会することを約し、それぞれの道を歩み始めた。残る参加者は六十二人となり、幻刀斎との決戦へ向けて運命が収束していった。

肆ノ章 郵便屋さん

弥助の栄華と退屈
文久二年、三十三歳となった仏生寺弥助は、免許皆伝を得て以来江戸で名声を轟かせ、道場破りを退けて銭を得ながら遊興に明け暮れていた。美酒や博打、美しい女に囲まれ満ち足りていたが、真に生を実感するのは強者を打ち砕く瞬間であり、年々その機会が減ることに退屈を覚えていた。

絹との関係と子の存在
弥助は歴舟家の娘・絹と関係を持ち、刀弥という子をもうけた。絹は婿入りを迫ったが、弥助は自由を失うことを嫌って拒んだ。絹は子を抱えて家を出され、弥助から金の援助を受けていたが、弥助は子に会おうとはしなかった。父としての自覚を欠いた己を内心で壊れていると認めていた。

京への誘い
文久三年、師の斎藤弥九郎から京での抗争に参加する勇士組への加わりを勧められた。弥助は強敵との邂逅を望み、これを快諾した。退屈からの解放であり、己の渇望を満たす機会と受け止めた。

愁二郎と響庫の合流
一方、愁二郎と双葉は池鯉鮒宿で響庫と狭山進次郎を迎え入れた。愁二郎は三助の死や幻刀斎の出現を語り、共闘を求めた。響庫は即座に承諾し、双葉の存在が兄弟たちを協力へ導いていることを愁二郎は痛感した。

赤山と川本の最期
響庫は赤山朱道と川本宙松を警察署へ出頭させたが、二人は牢内で斬殺された。犯人は警視局の役人であり、署長も面識を持つ正真正銘の警察官であった。これにより蠱毒の背後に警視局の関与があることが浮かび上がった。

黒幕の疑念と動機の不明
蠱毒が新聞の配布、寺の封鎖、死者の処理までも可能にしていることから、警視局の関与は辻褄が合った。だが、なぜ役人自らが手を下したのか、なぜこのような大掛かりな遊戯を行うのか、その動機は依然不明であった。

脱落不可能の現実と決意
赤山と川本の死により、蠱毒からの離脱は不可能であることが明らかとなった。双葉の案も破れ、一行は全員で東京を目指すしかなくなった。愁二郎は黒幕を探るため、内務卿・大久保利通に密かに訴える決意を示し、仲間を驚愕させた。

電報での策謀
愁二郎たちは池鯉鮒宿を抜け、岡崎郵便局へと急いだ。目的は内務卿・大久保利通への密告だった。電報ならば主催者の妨害を掻い潜れると踏んだのである。だが局員に規則を理由に拒まれ、愁二郎は元郵便局員の知識を活かして「上電報」を要求、さらに刀を抜きかけて迫った。結果、大久保宛てに最上級の伝達が実現した。

黒札の罠と進次郎
池鯉鮒宿では、進次郎が「最後尾」とされ、通常の札と引き換えに十九点を持つ「黒札」を渡された。黒札は褒美と罰を併せ持ち、その存在は全参加者へ伝達される仕組みだった。つまり進次郎は“狙われる獲物”となったのである。だがその一方で、双葉の必死の訴えと愁二郎の決断により、進次郎は仲間として救われた。彼自身も覚悟を決め、最後尾を引き受けることで恩に報いようとした。

前島密との縁
大久保との連絡は果たせなかったが、愁二郎は郵便制度の父・前島密と交信することに成功した。十数年前、薩摩藩に招かれた前島を護衛した縁があり、その後に郵便局員として迎えられた過去が明かされる。前島からの返信は浜松で受け取る約束となり、わずかながらも希望が灯った。

双葉の存在と主催者の揺らぎ
双葉は進次郎を救うために宿場へ戻り、愁二郎の心を動かした。さらに主催者の一人・標が、罰の内容をわざと漏らしたのではないかと推察される。双葉の言動が、蠱毒を監視する側の人間にさえ影響を与えていることが浮き彫りとなった。

次なる舞台・浜松へ
黒札を抱えた進次郎を守りながら、愁二郎たちは浜松へ向かう。浜松は三つ目の関所で、一人十点が必要。進次郎の黒札を含めれば四十点に達するが、黒札は分割できないため、あと九点が不足していた。道中で新たな戦いは避けられず、黒札の存在が他の参加者を呼び寄せることも必至であった。

家族への想い
岡崎での電報は、前島宛の密告だけでは終わらなかった。愁二郎は控えを改め、もう一通、風に乗せた。そこには「カラダイタワリマテカナラズカエル」と、故郷・神奈川の家族への想いが刻まれていた。残る参加者は五十四人。死闘の先に、わずかな希望と家族への約束が交錯するのだった。

伍ノ章 天明

京での享楽と勇士組の役割
仏生寺弥助は京に出てきて約半年、酒や料理、京女との遊興に浸り、浪士として富商から金を脅し取って暮らしていた。壬生浪士組も同様に商家から金を巻き上げており、京は強者にとって容易に金を得られる場であった。弥助は勇士組として長州藩の矛を担い、反対派の要人や護衛を斬る役目を果たしていた。彼には剣士の力量を「陽炎」として視る才能があり、京で多くの達人と渡り合い三十人以上を斬っても一度も後れを取らなかった。

沖田総司との邂逅と屈辱
ある日、長州の命で護衛付きの男を狙った際、弥助は壬生浪士組の二人と対峙した。若い方の男は初めは弱々しい陽炎しか纏っていなかったが、瞬時に凄まじい勢いで陽炎を噴出させた。その男こそ沖田総司であり、弥助は圧倒的な剣技により肩を斬られて退却を余儀なくされた。この敗北は弥助の心を蝕み、酒も飯も女も味気なく感じられるようになり、彼の生きる張り合いは沖田を斬ることに変わった。

芹沢鴨との結託
弥助は壬生浪士組局長・芹沢鴨と奇妙な縁で親交を深め、浪士組への移籍を誘われるまでになった。芹沢は沖田総司の名を告げ、弥助が斬りたいという望みを容認した。両者は利害を一致させ、沖田を倒した後に弥助が浪士組へ加わる算段を交わした。

家族との再会と拒絶
弥助の前にかつての女・絹が現れ、息子・刀弥と共に暮らして欲しいと懇願した。だが弥助は興味を示さず、強者にしか心を動かされぬと冷酷に突き放した。絹はせめて姓を名乗らせて欲しいと願ったが、弥助は突き放し、沖田を斬ることだけを念頭に置き去った。

謀略と裏切り
長州藩や勇士組から余所余所しく扱われ始めた弥助は、浪士組との関係を疑われていた。八月八日の宴席の後、帰途で勇士組や長州藩士に襲撃され、激戦の末に十数人を斬り倒して遁走した。だが長州藩邸は彼を拒み、完全に見捨てられたことを悟った。

刀弥との対決と最期
逃亡の果てに弥助の前に現れたのは沖田ではなく、己の息子・刀弥であった。幼いながら沖田を凌駕するほどの陽炎を纏った刀弥は、母の死を告げ、弥助に名を求めた。困惑と恐怖に苛まれた弥助は「仏生寺の姓をやる」と告げたが、刀弥は冷然と刀を抜いた。圧倒的な一撃を受けた弥助は喉を裂かれ、月下に崩れ落ちた。絶命の間際、彼は刀弥を「天明」と呼び、天が稀に生む才と悟ったが、その言葉を言い切ることは出来なかった。最後に見たのは、母に似た不気味な笑みを浮かべる童の顔であった。

三河高原での備えと襲撃
岡崎宿から藤川宿を抜け、赤坂宿へ向かう道中、愁二郎・響陣・双葉・進次郎は、黒札の存在を意識しながら一列で進んだ。進次郎と双葉を守るため、愁二郎が前、響陣が後ろを固める布陣をとる。
やがて三人組の刺客に待ち伏せされる。囮の大男、上から襲う僧形の槍使い、背後から迫る小柄の男という連携攻撃だった。愁二郎と響陣は乱戦の中で応戦し、激闘の末に小柄を討ち取る。小柄の名は琉球士族・楼順。彼の口から、僧形は奈良の僧・製験、槍術の使い手。大男は元新発田藩士・巻伝肉であると明かされる。楼順は琉球国王・尚泰への無念を残して息絶え、十三点の札を託した。

赤坂宿から御油宿へ
赤坂宿に入ると、遊女の多さに双葉が気づき、愁二郎は曖昧に答える。響陣は妙に険しい顔をするが、すぐに誤魔化した。双葉の疲労を考慮し、次の御油宿で休むことを決める。姫街道を進む案も出たが、時間を食うこと、黒札の追跡網を考え、危険と判断して見送った。

御油の松並木での銃撃戦
御油宿に入ると有名な松並木で待ち伏せに遭う。現れた五人の中の一人がリボルバー式拳銃を所持しており、愁二郎を狙撃する。進次郎は即座に銃を「S&Wモデル1」と見抜き、残弾数まで指摘して仲間を助けた。愁二郎は間一髪で銃弾を避けながら四人を牽制し、状況は膠着する。

薙刀の女・秋津楓
そこへ突如現れたのは、薙刀を手にした女。天龍寺で見かけたことのある人物だった。女は果敢に銃使いへ突撃し、残弾を巧みに凌いで両脚を切断、一撃で止めを刺した。残る敵は散り散りに逃げ、戦闘は収束する。
女は名を「秋津楓」と名乗り、会津の婦女隊の生き残りであった。幼き頃に母と姉が従軍して散ったことを明かす。彼女は「卑怯な銃使いは許せない」と言い、札を得るための戦いで愁二郎たちを助けただけだった。別れ際、薙刀を誇りとして戦い抜く覚悟を示し、御油方面へ去って行った。

女たちの時代
双葉は楓の強さに憧れを抱き、愁二郎は彩八や志乃を思い出す。新しい時代を女たちもまた、それぞれの形で生き抜こうとしていることを痛感した。
この時点で蠱毒の参加者は残り三十五人にまで減っていた。

陸ノ章 碧眼の騎士

クリミアの竜騎兵
1854年、アルマ川の戦い。イギリス竜騎兵隊の若き隊長ギルバート・カペル・コールマンは、混乱する戦場で突撃命令を受ける。副官が止めるも「今動かねば負ける」と決断。第十三竜騎兵隊を率いてロシア軍陣を切り裂き、その名は「ワイバーン」として恐れられるようになった。
ギルバートはヨークシャーの名門騎士家に生まれ、幼少から鍛錬を積み、剛力と剣技を兼ね備えた天才だった。十六歳で入隊、十八歳で竜騎兵となり、クリミア戦争で隊長に抜擢され、数々の武勲を挙げた。

幸福な家庭と新たな任務
戦後、ギルバートは幼馴染のレイラと結婚。二男二女に恵まれ、家庭人としても幸せを噛みしめる。だが1862年、アメリカ南北戦争に軍事顧問として派遣される。名目は南軍支援だったが、真の任務は戦況報告と秘密裏の工作だった。

ストーンウォール・ジャクソンとの出会い
ギルバートが合流したのは「石壁」の異名を持つ名将、トーマス・ジャクソン准将。小柄で飄々とした人物ながら、機動力と用兵で北軍を翻弄し続ける天才だった。バレー戦役をはじめ、数々の戦場を共にし、ギルバートは深く敬愛するようになる。ジャクソンもまた「本物の騎士」と称えてギルバートを信頼した。
だが戦況は次第に南軍不利へと傾き、ジャクソン自身も「敗北は避けられない」と語る。奴隷制にも苦悩しつつ、己の信念を貫けなかった弱さを打ち明ける一方で、教え子や兵を見捨てることは出来ぬと最前線に立ち続けた。

裏切りの命令
1863年春、ギルバートに届いた本国の密命は「ストーンウォール・ジャクソンを討て」。南軍を切り捨て、北軍に和解の手土産とするためだった。
ギルバートは拒絶するが、ジャクソンはすべてを見抜き、「英国は我らを裏切った!」と叫んで自ら銃火の中に身を投じる。戦闘の末、彼は味方の誤射に見せかけて瀕死となり、ギルバートの腕の中で息絶えた。最後に託したのは愛用の拳銃「シェリフズ」と「失ったならば取り戻せ」という言葉だった。

失意と彷徨
ギルバートは抜け殻となり、死を求めて戦場を彷徨う。だが死に場所は得られず、やがて日本へ渡る。薩摩の顧問として戦にも加わったが、ここでも生き延びてしまう。
横浜で一人、拳銃を手に自決を試みた時、港に現れた軍艦に「Stonewall」の名を見つける。南軍が英雄の名を冠した艦で、今は日本に渡って「東艦」と呼ばれていた。それを見て、まるでジャクソンが彼を止めに来たかのように思った。

再び立ち上がる理由
やがて本国からの手紙が届く。コレラが流行し、両親は死去。妻子は生き延びているが、故郷は飢えに苦しんでいる。レイラは「お願いだから戻って」と訴えていた。ギルバートは「少しだけ待ってくれ」と返事をし、古い軍服をまとって日本の都へ向かう。
彼が目にしたのは奇妙な新聞。そこには「人々を救う術」が示されているように思えた。ジャクソンの声が胸に甦る。「失ったならば取り戻せ」。
ギルバートは再び剣を執り、戦う覚悟を固めた。

砂浜での邂逅
御油を出た愁二郎たちは親居宿を経て浜松を目指す途中、砂浜で三対二の対峙を目撃した。そこにはかつて遭遇した坂巻伝内とその一味、そして長身の西洋人がいた。西洋人は剣と手斧を帯び、怪我人を庇って立ち塞がっていた。日本語を流暢に操る彼は坂巻たちに退くよう促すが、応じる気配はなかった。

圧倒的な力
やがて戦いが始まると、西洋人はサーベルと手斧を駆使し、坂巻たちを瞬く間に蹂躙した。腕力は常人離れしており、坂巻を片手で持ち上げ叩きつけて絶命させた。愁二郎はその怪力と剣技に驚愕し、彼の只者ならぬ実力を悟った。

愁二郎との対決
西洋人は「やるか」と愁二郎を挑発。響庫も名乗りを上げるが、愁二郎が一騎打ちを受けた。熾烈な攻防の最中、愁二郎は咄嗟に吹き矢の刺客を脇差で討ち取り、戦いは中断される。西洋人は自らの敗北を認め、木札を譲ると言い、互いに痛み分けとして札を分配することとなった。

英国竜騎兵の名乗り
西洋人は自らを「元英国陸軍・第十三竜騎兵隊 ギルバート・カペル・コールマン」と名乗った。愁二郎と互いに理由を明かし、彼もまた祖国の家族を救うために参加していることを語った。札の不自然な消失については、響庫が「徒党の裏切りによるもの」と推察し、集団内部で札を奪い合う状況が生じていることが明らかになった。

札の分配と別れ
残された十二点を半分ずつ分け合い、愁二郎たちは六十一点を得て、島田突破まであと三点に迫った。ギルバートは「島田まで急げ」と忠告し、さらに「五月二十日までに横浜を抜けろ」と警告する。その日は英国の要人が来航し、警備が厳重になるという。
彼は「東京で会おう」と告げて去っていった。愁二郎はその力を幻刀斎討伐に誘いたいと考えつつ、浜松へと歩みを進めた。双葉は屍に手を合わせ、その姿に愁二郎は彼女の強さを改めて感じた。

浜松宿での合流
二二郎たちは十二日の朝に浜松宿へ到着した。ここで双葉、響陣、進次郎に加え、四蔵と彩八と合流することとなった。宿場の人通りは多く、徳川家康の「出世城」としての縁から旅人が集まる土地柄であった。合流場所は四蔵が選んだ「たつ屋」という旅籠で、出入口が多く襲撃に備えやすい構造をしていた。四蔵は慎重な警戒を怠らず、愁二郎らを迎え入れた。

進次郎の同行と彩八の登場
進次郎の帯同について四蔵は眉をひそめたが、彩八が到着してから説明することとなった。やがて彩八が姿を現し、驚くほど気配を消した歩法を身につけていたことが判明した。愁二郎は池鯉鮒宿での出来事を説明し、進次郎が同行する事情を語った。彩八は「甘い」と批判しつつも双葉の覚悟を受け止め、同盟の目的があくまで幻刀斎討伐であることを強調した。

甚六の行方と情報交換
彩八の聞き込みにより、甚六は姫街道を進んでいることが判明した。愁二郎たちより一日ほど先行しており、追いつける可能性が示された。また、蠱毒の黒幕が警視局に関わる可能性や、愁二郎が大久保利通と繋がりを持っていることも語られた。この事実に四蔵と彩八は驚きを隠せず、愁二郎が人斬りであった過去を初めて知ることとなった。

過去の告白と時代の変化
愁二郎は兄弟を斬りたくなかったことを吐露し、四蔵もまた西南戦争で銃を手にし、多くの命を奪った経験を明かした。銃の進化が人を容易に殺す道具となり、誰でも「化物」になれる時代が来ていると語った。彩八もまた自らの過去を語り、大坂を拠点とする旅一座「銀組」に所属していたことを明かした。覆面をして演じていたため、素顔を知られることはなかったという。互いの過去を少しずつ知る中で、結束が深まっていった。

郵便局へ向かう決意
愁二郎は前島密からの返答を受け取るため郵便局へ向かう意志を示し、四蔵はむしろ人目につくことを選んだ。残り人数が三十人余りとなった今、四人の強者が群れて行動することは他の参加者に大きな抑止力となると考えたのである。

札の確認と監視の目
蠱毒担当の像、社、相らが現れ、札の確認が行われた。愁二郎たち四人分で六十一点、進次郎の黒札を含め十分な点数であることが証明された。四蔵側も十点を確保しており、両者とも突破条件を満たしていた。その最中、彩八は緑存で周囲の会話を拾い、他の参加者が自分たちを強敵として警戒していることを察知した。尾行や襲撃の意志は見られなかったため、一行は足を速めて次の行動へ移った。

残された人数
この時点で生き残りは三十一人。浜松宿を突破する緊張感の中、愁二郎たちは郵便局へと歩みを進めた。

漆ノ章 局戦

前島密との再会
浜松郵便局を訪れた愁二郎たちは、局員に電報の有無を尋ねるが見つからない。そこへ現れたのは、直々に出向いた前島密であった。護衛の舟波・間は拳銃を帯びており、進次郎がその種類を即座に見抜く。旧幕臣の叔父から銃の知識を学んでいたことが明かされ、仲間たちを驚かせた。前島は愁二郎の依頼を受け、大久保利通に直接会い、蠱毒の件を報告したことを語る。

警視局過激派の影
大久保は蠱毒の背後に警視局内の過激派がいると睨んでいた。抜刀隊の功績で勢力を増した彼らは、不平士族を封じるためと称し、武技に秀でた者を一堂に集めて排除する企みを進めているという。前島は電報の傍受状況を説明し、特に富士山麓から異常に多くの電報が発せられていることを突き止めていた。そこが蠱毒の本拠と推定された。

響陣の暗号解読
傍受した暗号電報を響陣が解析。幕府時代の「百人組」が用いた共通暗号に酷似しており、読み解けた内容は衝撃的であった。

  1. 黒幕は過激派ではなく、警視局長・川路利良本人である。
  2. 川路は石川県士族による暗殺計画を利用し、大久保利通を討つ意図を固めている。
  3. まもなく警視局と静岡県庁第四課が浜松郵便局に突入する。

前島も川路の異常を認め、政府に対する造反の可能性を悟った。

東京への急使と富士山麓奇襲
大久保暗殺を防ぐため、前島は四蔵を東京に急行させることを決定。双葉が十九点を譲渡し、伝馬制と横浜からの特別輸送で最速の進軍を約束した。同時に、富士山麓の本拠奇襲の必要性が語られ、響陣がその役を担うこととなる。双葉は十四点を託し、愁二郎たちは浜松突破すら危うい点数にまで減じた。

迫る局戦
浜松郵便局を包囲する第四課の数は百を超えた。凶悪犯に前島が人質に取られているとの虚偽の筋書きで突入が迫る。前島は「駅逓局と警視局の戦」と断言し、避難を済ませた局員に感謝を告げた。愁二郎たちは前島と共に戦うことを選び、「東京で会おう」と誓いを交わす。

そして局舎の裏から銃声が響き、駅逓局と警視局の衝突=局戦の幕が切って落とされた。

夜の会議の召集
富士山麓の洋館に集められた四人の客人は、それぞれ豪奢な客室で思い思いに過ごしていたが、夜十時、急遽呼び出された。集まった先で、川路利良は「厄介なことになった」と切り出し、まず一同の覚悟を問い質した。榊原が即座に「土族は全て滅ぶべき」と応じ、場の緊張が高まった。

川路利良の回想と信念
川路は、西南の役に至るまでの自らの経験を語った。幕府与力という下級武士出身である彼は、藩の上士から冷遇されつつも勉学と勤労で初代大警視にまで昇り詰めたことを誇りとした。西郷隆盛の乱では田原坂の激戦に身を置き、旧武士たちの怠惰と反乱を「亡霊」と断じ、滅ぼすべき対象と位置づけた。川路にとって武士身分は虚構にすぎず、生き残るのは能力ある者であるという自然淘汰の理念が全てであった。

蠱毒計画と財閥の協力
川路は「亡霊退治」の手段として蠱毒を編み出し、警視局内部の支持を得たが、それだけでは力が不足していた。そこで彼は四大財閥(三菱・住友・三井・安田)の有力者に声をかけ、密かに協力を取り付けた。榊原(三菱)、諸沢(住友)、神保(三井)、近山(安田)がそれぞれ立ち上がり、武士による「乱」を恐れる立場から資金や支援を約束した。乱は秩序を崩壊させ、財閥の安定的な繁栄を脅かすため、彼らにとっても亡霊の根絶は利害が一致する課題であった。

前島密の介入と嵯峨愁二郎の名
川路は「厄介事」の正体を明かした。蠱毒の存在が大久保利通に伝わったのである。調査の結果、その情報源は前島密であり、さらに郵便局員の嵯峨愁二郎が関わっていると判明した。愁二郎はかつて「人斬り嵯帳刻舟」として知られた剣客であり、前島との縁で郵便局に入ったと推定された。彼の動きによって蠱毒の秘密が露見し、黒幕である川路と財閥の関与までも暴かれる危険が生じた。

対策と謀略
川路と秘書長・平岸は既に手を打っていた。

  • 静岡県庁第四課に前島を逮捕させ、その混乱に紛れて暗殺する。
  • 嵯峨愁二郎や仲間(柘植響陣・田中次郎・衣笠彩八)に備え、警視局から五泉悠馬と東六市を派遣。
  • さらに軍を動かし銃火器を投入。
  • 愁二郎に執着する者を「助っ人」として四課に潜り込ませる。

この徹底した布陣に、財閥の面々も驚愕した。

大久保利通暗殺計画
最後に川路は、大久保を討つ決意を表明した。表向きは石川県士族による暗殺として擦り付け、自身の関与を隠す算段であった。切り札は「櫻」と呼ばれる刺客であり、京都で安藤神兵衛を瞬殺した腕を持つ。川路は財閥の協力者たちに向かって低く告げた。

「これより警視局と駅逓局の戦争を始める」

捌ノ章 浜松攻防

執務室での激突
浜松郵便局に踏み込んだ愁二郎らは、すでに二十人を超える警邏と遭遇した。舟波が弁明を試みるも即座に拒絶され、戦闘が始まる。愁二郎は群れに飛び込み、抜刀警官をも斬り伏せ、四蔵は破軍でサーベルを圧し折り敵を蹴散らした。さらに軍服姿の銃兵が雪崩れ込み、銃撃が始まるが、彩八は緑存で撃鉄の音を捉えて先制し、舟波は拳銃で援護、戦況を辛うじて拮抗に持ち込んだ。

電報の送信と撤退作戦
前島が執務室に入り、内務卿大久保利通への電報を打ち始める。内容は川路警視局の謀反を告げ、至急の帰還を促すものだった。撤退戦の計画は、四蔵・前島・舟波・響陣がまず脱出し、残る者が殿を務めるというもの。敵は二百近くの兵力を投入しており、軍の銃兵と抜刀警官が絶えず押し寄せる。

東六市と五泉悠馬の討死
突入してきたのは撃剣大会上位者の東六市と五泉悠馬。四蔵は廉貞を用いて東を突き刺し、銃弾を楯にして討ち取る。彩八も五泉を圧倒し、幾多の傷を刻んだ末に喉を掻き切って斃した。これにより敵の士気は大きく揺らいだ。

貫地谷無骨の出現
戦況が混沌とする中、突如として現れたのは「乱斬り」貫地谷無骨であった。川路の手引きで警視局の助っ人と偽って潜入していたのである。無骨はまず間を惨殺し、義眼を暴きつつ愁二郎に執拗な斬撃を浴びせた。愁二郎は北辰で右半身の隙を見抜き、ついに無骨に傷を負わせるが、布で右目を覆った無骨は逆に狂気的な力を増し、戦いは熾烈を極めた。

進次郎の奮戦と脱出
業火が局舎を呑み込む中、進次郎が間の拳銃を拾い、愁二郎を援護して無骨に銃撃を加える。弾数を巡る虚実を駆使し、愁二郎と共に辛くも裏口から脱出した。火の回った郵便局は崩落し、兵も退避する。双葉と彩八はすでに先行し、愁二郎と進次郎は雑踏に紛れて撤退した。

浜松郵便局は深紅の炎に包まれて崩れ落ち、残る参加者は二十八人となった。

玖ノ章 紀尾井坂へ

大久保利通の多忙と決意
明治十一年五月十四日、払暁から大久保利通は面会に臨んでいた。福島県令・山吉盛典と国政を語り合い、国会開設や公共事業、条約改正、不平士族への対応に関する思いを述べた。西郷隆盛との訣別を思い返しつつも、国家を守るために内乱を受け入れざるを得なかったと自らを納得させている。四日前、前島密が川路利良の謀反を告げ、浜松から「川路警視局謀反万全」との電報を打ってきたことを受け、大久保は警視局を潰す決意すら固めていた。

馬車襲撃と援軍の到着
参内を急ぐ途中、紀尾井坂で大久保の馬車は刺客に囲まれる。御者・中村太郎が必死に馬を操るも、前後から十数名に挟まれ絶体絶命。その時、銃声と共に舟波が現れ、援護射撃で大久保を救う。さらに化野四蔵も到着し、「刻舟の義弟」と名乗って大久保の前に立ちはだかった。

桐野利秋の再臨
刺客の中に、居合い一閃で舟波を斬殺した編笠の男がいた。その正体は西南戦争で死んだはずの桐野利秋=中村半次郎。かつての「人斬り半次郎」である。大久保は愕然とし、かつての盟友に「悪かが斬られてくれ」と告げられる。

四蔵との死闘
四蔵が破軍を繰り出すも、半次郎は刀を「滑らせる」ことで折らせずに受け切る。巨門や廉貞をも駆使する四蔵の猛攻と、袋中流特有の居合いを操る半次郎の一騎打ちは、互いに命を懸けた激闘となった。ついに四蔵は清水谷への退避路を開き、大久保の馬車を脱出させる。

川路の策謀と石川県士族
半次郎は深追いせず、「石川県士族がやってくれた」と呟く。川路は護衛を引き付けるため半次郎を差し向け、大久保を清水谷へ誘導し、石川県士族に討たせる計画を敷いていたのだった。大久保の命は依然として風前の灯である。

半次郎の言葉と蠱毒の先
半次郎は「蠱毒で東京に入れるのは九人。そこに俺を加えて十人だ」と語り、再戦を予告する。さらに「七番・化野四蔵、東京一番乗りを認める」と告げ、黄金の煙の中に姿を消した。

――この刻、残り二十三人

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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