物語の概要
■ 作品概要
本作は、魔法や貴族が存在する世界を舞台としたライトノベルである。森の奥にある湖の小島でひっそりと暮らす「湖の魔女」ロゼのもとに、彼女が4年間片思いをしていた王宮騎士ハリージュが現れる。しかし彼の目的は、ロゼへの想いではなく別の誰かのための「惚れ薬」の調合依頼であった。失恋を確信しつつも、少しでも長く彼と一緒にいたいと願ったロゼは、薬の完成を引き延ばすために様々な難しい材料の調達をハリージュに要求する。ところが、ハリージュは調達の合間に、なぜか関係のない美味しい食べ物を毎日庵へ届けるようになる。引きこもりで嘘がつけない魔女と、真面目で少し上から目線な騎士による、惚れ薬から始まる恋物語である。
■ 主要キャラクター
ロゼ:森の奥の湖の小島にある庵で、一人で暮らす「湖の善き魔女」。魔女であるため魔法以外の嘘をつくことができない制約を持つ。真実を悟られないよう、常に深くフードを被り無表情を装っているが、実は4年前からハリージュに片思いをしている。
ハリージュ・アズム:王宮に勤めるエリート近衛騎士であり、アズム伯爵家の三男。王女ビッラウラから懇願され、惚れ薬を求めてロゼのもとを訪れる。真面目で高圧的な一面もあるが、食生活が偏っているロゼを心配し、たびたびパンや焼き林檎、タルトタタンなどを差し入れる面倒見の良さと優しさを持つ。
ビッラウラ(ラウー):ハリージュが警護を担当するマルジャン国の王女。大国ニフリートの40歳以上も年上の老王へ嫁ぐことになり、異国で夫を愛し生き抜くための心の拠り所とするために惚れ薬を求めた依頼主である。
ティエン・コン:ロゼと馴染み深い商人。幼い頃からロゼを知っており、祖母を亡くした彼女の親代わりのように世話を焼く。
■ 物語の特徴
「嘘をつけない」という魔女特有の制約が物語の重要な要素となっている。主人公のロゼが自身の恋心や真実を隠すために必死に振る舞う健気な姿が読者の共感を呼ぶ。また、片思いの相手から惚れ薬を依頼されるという切ない導入でありながら、ハリージュが持参する美味しい食べ物を通じて、二人が食卓を囲み徐々に距離が縮まっていく温かな日常描写が本作の魅力である。身分も立場も違う不器用な二人のすれ違いと、惹かれ合っていく過程が丁寧に描かれている。
書籍情報
どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。 1
著者:六つ花えいこ 氏
イラスト: Vient (ヴィエント) 氏
出版社:双葉社(Mノベルスf)
発売日:2019年10月18日
ISBN:9784575242171
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あらすじ・内容
人間と離れひっそりと暮らす”湖の善き魔女”である少女、ロゼ。彼女のもとに依頼にきたのは、ロゼが4年間秘かに片思いをしていた騎士だった! 「惚れ薬を作って欲しい」 ――そして、ロゼは失恋した。 せめて一緒にいられる期間を引き延ばそうと、様々な材料を頼むロゼだったが、憧れの騎士様は魔女の体調を心配したのか、毎日関係のない食べ物を運んでくるようになり……?引きこもり魔女と、真面目で上から目線な騎士の、惚れ薬から始まる恋のおはなし。
感想
「好きな人に惚れ薬を依頼された」というタイトルを初めて見た時は、かなり重く、救いのない恋愛物語を想像していた。
四年間も片思いしている相手が、自分ではない誰かを振り向かせるために惚れ薬を求めてくる。
設定だけを聞けば、失恋する未来が最初から決まっているようにも見える。
しかし、実際に読んでみると、本作はただ切ないだけの物語ではなかった。
湖の小島で一人暮らす魔女ロゼと、生真面目な騎士ハリージュが、食事や会話を重ねながら少しずつ互いを知っていく。
派手な事件よりも、白いパンを食べることや、同じテーブルを囲むことが大切に描かれている。
惚れ薬という危うい題材を扱いながら、物語の中心にあるのは、人の心を無理に変える魔法ではない。
誰かを気にかけ、時間を使い、その人の暮らしへ少しずつ関わっていくことだった。
切なさと笑いがありながら、最後には温かな気持ちになれる恋物語である。
好きな人から惚れ薬を頼まれる残酷さ
主人公のロゼは、湖の小島にある庵で暮らす魔女である。
ある日、そんなロゼのもとへ、王宮に仕える騎士ハリージュ・アズムが訪れる。
彼の依頼は、惚れ薬を作ってほしいというものだった。
ロゼは、ハリージュへ四年間も片思いをしている。
しかしハリージュは、ロゼが自分を好きであることはもちろん、彼女の存在すらほとんど知らない。
その相手から、別の誰かに使う惚れ薬を頼まれる。
ロゼにとっては、かなり残酷な依頼である。
それでも彼女は、惚れ薬を作ることを拒まない。
代わりに、必要な材料を一つずつ伝え、完成までの時間を引き延ばしていく。
満月の夜に採った虹色キリギリスの触角。
断崖に咲く花の花粉。
天から最初に落ちる雨粒。
ハリージュは、なぜ材料を一度に言わないのかと怒る。
しかしロゼにとって、薬が完成するまでの時間は、ハリージュが庵へ来てくれる時間でもあった。
好きになってもらえるとは考えていない。
ほんの少しだけでも、自分のことを覚えていてほしい。
レタスばかり食べていた変な魔女がいたと、いつか思い出してもらえればそれでよい。
そんな小さな願いで時間を稼ぐロゼの姿が、切なく感じられた。
四年前に救われた言葉
ロゼがハリージュを好きになった理由も印象に残った。
祖母を亡くしたばかりのロゼは、調薬に必要な材料を買うため、初めて一人で王都へ出かける。
そこで耳にしたのは、湖の魔女が死んで安心したと笑う人々の会話だった。
魔女は残酷で危険な存在である。
近くに住んでいるだけで街の評判が悪くなる。
これからは子供を森へ近づけても安心だ。
人々は、ロゼの祖母が亡くなったことを喜んでいた。
ロゼは、それまで自分たちがそこまで嫌われているとは知らなかった。
祖母はその悪意を知りながら、幼いロゼへ悟らせないよう守っていたのかもしれない。
そう考えるほど、ロゼは深く傷ついてしまう。
その時、客たちを咎めたのがハリージュだった。
彼は、魔女も人に違いないと告げる。
実際に危害を加えられたわけでもないのに、人が死んだことを喜ぶのは間違っていると断じる。
ハリージュは、近くにロゼがいることも知らない。
誰かに褒められるために言ったわけでもない。
だからこそ、その言葉には嘘がなかった。
魔女を特別な怪物ではなく、一人の人間として扱った。
その姿に救われたロゼが、彼へ恋をするのも自然に思えた。
ロゼが惚れたのは、整った顔だけではない。
誰も見ていない場所でも、人の死を喜ぶことを許さなかった誠実さだったのだと思う。
恐ろしい魔女とはほど遠いロゼの暮らし
人々から恐れられているロゼだが、その実際の生活はかなり質素である。
彼女が普段作っているのは、虫除けや湿布、肌へ塗る薬といった日用品が中心だった。
魔女の秘薬は高価で、頻繁に売れるものではない。
そのため、安価な薬を大量に作り、馴染みの商人ティエンへ渡して生活費を得ている。
恐ろしい呪いや毒を日々作っているわけではない。
村や騎士団で使われる、ごく普通の薬も作っている。
その姿は、恐れられる魔女というより、森の中で暮らす不器用な薬師に近い。
一方で、生活能力はかなり危うい。
庵は物であふれ、床には足の踏み場もない。
棚を開ければ中の物が壊れ、食べかけのレタスは数日間放置される。
普段の食事も、畑から採ったレタスをそのまま食べるだけだった。
調薬には優れていても、自分自身を世話することには関心が薄い。
祖母を亡くした後、誰にも注意されなくなったことで、少しずつ暮らしが崩れていったのだろう。
一人で生きることには慣れている。
しかし、きちんと生きることには慣れていない。
そんなロゼの危うさを最初に見抜いたのが、ハリージュだった。
鶏の脚より細いと心配される魔女
ハリージュは、ロゼがレタスばかり食べていることを知って驚く。
彼女の腕をつかみ、鶏の脚の方がまだ肉がついていると指摘する。
ロゼにとっては、好きな相手から突然触れられるだけでも大事件である。
しかも至近距離には、彼女が何度も心の中で拝みたくなるほど整った顔がある。
ロゼは内心で混乱しているが、ハリージュは純粋に健康状態を心配しているだけだ。
この二人の感情のずれが面白かった。
ロゼは、少し優しくされるだけで期待しそうになる。
ハリージュは、自分が若い女性をどれほど動揺させているのか分かっていない。
恋愛には疎いのに、騎士として困っている人を放っておけない。
その結果、無自覚のままロゼの心へ深く入り込んでいく。
ロゼが何とか距離を保とうとしているのに、ハリージュの方から自然に近づいてくる。
本人たちだけが、その意味に気づいていない。
このもどかしさが、本作の大きな魅力だと感じた。
白いパンがロゼの世界を変える
本作で特に印象に残ったのは、ハリージュがロゼへ白いパンを持ってくる場面である。
レタスしか食べていないロゼを心配し、柔らかな白いパンと林檎バターを買ってくる。
ハリージュにとっては、栄養不足の依頼相手を心配しただけだったのかもしれない。
しかしロゼにとって、それは非常に大きな出来事だった。
好きな人が、街で食べ物を見た時に自分を思い出した。
自分のために選び、森と湖を越えて持ってきてくれた。
ただそれだけで、ロゼは胸がいっぱいになる。
ロゼは、硬いパンしかほとんど食べたことがない。
初めて食べる白いパンの柔らかさや、林檎バターの甘さに驚き、夢中で頬張る。
その様子を見たハリージュも、持ってきてよかったと感じる。
惚れ薬よりも先に、食べ物によって二人の距離が縮まっていくのが興味深かった。
誰かと一緒に食べる。
美味しいと感じる。
次も同じ時間を過ごしたいと思う。
恋心は、特別な魔法によって突然生まれるものではない。
こうした小さな日常が積み重なり、少しずつ形になっていくのだと思う。
タルトタタンに祈るロゼがかわいい
ハリージュは、白いパンを届けた翌日も庵へやってくる。
次の日も、また次の日も、食べ物を持って訪れるようになる。
ロゼが食べ物をあまりにも美味しそうに食べるため、差し入れを持ってくることが習慣になっていく。
なかでもタルトタタンを食べる場面が印象的だった。
飴色に煮詰められた林檎。
カラメルのほろ苦さ。
白い生地との美しい断面。
ロゼは食べる前から見入ってしまい、一口食べるとあまりの美味しさにフォークを置いて祈る。
「神はここにいた」とでも言いたげな姿には、思わず笑ってしまった。
普段は無表情で、神秘的な魔女を演じている。
しかし食べ物を前にすると、年相応の少女らしい表情が出てしまう。
ハリージュも、そんなロゼの反応を見ることを楽しみにしていたのだと思う。
最初は惚れ薬を完成させる前に衰弱死されては困るという理由だった。
やがて、何を持っていけば喜ぶだろうと考えるようになる。
自分の行動がすでに恋へ近づいているのに、本人はまだ気づいていない。
その鈍さが微笑ましかった。
二人だけの食卓が生まれていく
ハリージュが頻繁に来るようになると、散らかっていた庵にも少しずつ変化が起きる。
物置になっていたテーブルが片付けられる。
清潔なテーブルクロスが敷かれる。
祖母が使っていた青磁の皿も取り出される。
ロゼは、次にハリージュが来た時に使えるよう食器を用意する。
本人は客が増えたからだと言い訳するが、実際にはハリージュのためだった。
以前のロゼにとって、食卓は必要のないものだった。
一人でレタスを食べるだけなら、皿もテーブルも必要ない。
しかしハリージュが来るようになり、同じ場所へ座って食事をするようになる。
庵の中に、誰かと一緒に過ごすための空間が生まれていく。
この変化がとても温かかった。
部屋が片付くことは、単なる生活改善ではない。
ロゼの心の中に、誰かを迎え入れる場所ができたことを表しているように感じた。
そのため、ティエンがいつもの席へ座った時、ロゼは自分とハリージュだけの場所を奪われたような寂しさを覚える。
特別だと思っていたのは自分だけかもしれない。
そんな不安を抱えるところも、片思いらしくて切なかった。
嘘をつけない魔女の孤独
ロゼには、魔法を使う代償として嘘をつけないという制約がある。
何でも正直に話さなければならないわけではない。
沈黙したり、話を逸らしたり、顔を隠したりすることはできる。
しかし、口にした言葉を嘘にはできない。
そのためロゼは、人との接触を避けてきた。
本心を悟られないよう、フードで表情を隠し、感情を表へ出さない。
魔女が不気味で無愛想に見えるのは、自分の身を守るためでもあった。
この設定が、ロゼの孤独とよく結びついていた。
人と話せば、秘密を暴かれるかもしれない。
誰かへ心を許せば、隠していたことが顔に出るかもしれない。
だから、一人でいる方が安全である。
しかしハリージュは、偶然その秘密を知ってしまう。
彼はそれを利用せず、騎士として決して他言しないと誓う。
さらに、秘密を知る自分だけが、ロゼが顔を見せて話せる相手なのではないかと気づく。
言いたくないことがあれば、嘘になるから言いたくないと正直に言える。
その言葉を受け止められるのは、自分だけだろうと告げる。
この場面には、強く胸を打たれた。
ハリージュは、ロゼへ無理に秘密を話させようとしない。
秘密を知った責任として、彼女が安心して話せる相手になろうとする。
孤独なロゼにとって、これは食べ物以上に大きな贈り物だったと思う。
忘れていた家族の愛を教えてくれる
ハリージュとの会話によって、ロゼは亡くなった家族の愛にも気づいていく。
ロゼの畑には、薬草だけでなくレタスが植えられている。
祖母から、畑を絶対に維持するよう命じられていたからである。
ロゼは、珍しい薬草を守るための指示だと考えていた。
しかしハリージュは、祖母が一人になったロゼを心配していたのではないかと語る。
薬草を育てるためなら、ロゼは朝に起き、外へ出て水をやる。
レタスが実れば、面倒でも食べる。
直接「規則正しく暮らしなさい」と言っても聞かなかったかもしれない。
だから祖母は、ロゼの性格に合った形で生活を守ろうとした。
ロゼはその時初めて、自分がどれほど大切にされていたのかを知る。
さらに、紅茶の作り方を伝える歌も、祖母ではなく、幼い頃に亡くなった母が歌ってくれたものだと気づく。
忘れていたと思っていた母の記憶は、歌の中に残っていた。
自分一人では気づけなかった家族の愛を、ハリージュとの会話が掘り起こしてくれる。
ハリージュは、新しいものをロゼへ与えるだけではない。
ロゼがすでに持っていた大切なものの意味にも気づかせてくれる。
そこが、二人の関係の温かさだと感じた。
魔女への偏見に怒るハリージュ
ロゼが街へ出た際、子供たちから泥玉を投げられる場面も印象に残った。
子供たちは、魔女は悪い存在だから退治したのだと主張する。
大人たちもロゼ本人を心配するより、魔女に報復されることを恐れて許しを請おうとする。
そこでハリージュは、相手が魔女かどうかは関係ないと告げる。
人へ泥を投げつけること自体が悪い。
知らない存在を恐れる気持ちを、何もしていない相手へぶつけるのは卑劣である。
さらにロゼが作っている薬が、虫除けや湿布として人々の生活を支えていることも説明する。
四年前と同じだった。
ハリージュは、魔女だから守るのではない。
一人の人間が理不尽に傷つけられているから怒る。
ロゼが彼を好きになった理由が、改めて伝わる場面だった。
泥に汚れたロゼへ自分の外套をかけ、今後生活を脅かされた時には力になると申し出る。
しかしロゼは、その申し出を断る。
いずれいなくなる人へ頼ることに慣れてしまえば、一人へ戻れなくなるからである。
ロゼの拒絶は、ハリージュを信じていないからではない。
大切になりすぎているからこそ、失う前に離れようとしている。
その寂しさが胸に残った。
自分で飲む惚れ薬の試験
ついに完成した惚れ薬を渡す前に、ロゼは短時間だけ作用する試験薬を自ら飲む。
ハリージュが口をつけた紅茶へ薬を加え、効果を確かめるためである。
ロゼはもともとハリージュを好きである。
その感情が薬によって強く増幅され、普段は押し隠している恋心があふれ出してしまう。
ハリージュを好きかと尋ねられれば、嘘をつけないロゼは肯定するしかない。
別の誰かを愛している人から優しくされれば、期待してしまう。
それが苦しいと涙を流す。
四年間、誰にも見せずに抱えていた想いが、本人の前でむき出しになる。
読んでいて、ロゼの胸の痛みが伝わってくるようだった。
しかしここで、ハリージュは惚れ薬を使うのは自分ではないと明かす。
薬を依頼したのは、彼が護衛する王女ビッラウラだった。
ハリージュ自身が誰かを惚れさせようとしていたわけではない。
それを知ったロゼは、薬の作用も重なって大きな喜びに包まれる。
ハリージュの手へ口づけ、名前を呼んでほしいと願う。
二人の顔が近づき、唇が触れそうになる。
ところが薬の効果が切れた瞬間、正気に戻ったロゼが彼の口を手で塞ぐ。
感情のまま進みそうになった場面から、一瞬で冷静な魔女へ戻る落差には思わず笑ってしまった。
ロゼにとっては、後から思い返すだけで床を転げ回りたくなるほど恥ずかしい出来事である。
しかしハリージュの心には、その時のロゼの声や表情が残り続ける。
薬によって増幅された恋情であっても、ロゼが自分へ向けた姿を忘れられなくなる。
惚れ薬が、誰かを無理に好きにさせるより先に、隠れていた感情へ気づくきっかけになっているのが面白かった。
関係を終わらせたくないハリージュ
惚れ薬を渡したことで、ロゼは依頼が終わったと考える。
ハリージュが来る理由はもうない。
期待を断ち切るため、来客を知らせる鐘を外し、テーブルクロスや二人分の食器を片付ける。
二人で過ごした時間の痕跡を消し、一人の暮らしへ戻ろうとする。
しかし翌日、ハリージュはいつものように菓子を持って訪れる。
ロゼは、もう来る必要はないと拒もうとする。
一方のハリージュは、二人の時間がなかったことにされたような喪失感を覚える。
そこで彼が考えた方法が、もう一度惚れ薬を依頼することだった。
薬を頼めば、材料集めや調薬のために長く庵へ通うことができる。
ロゼの食事を支える理由も作れる。
ハリージュは、自分がなぜそこまでロゼと会いたいのか分かっていない。
それでも関係が終わることには耐えられない。
ロゼが最初の惚れ薬を完成させないために時間を引き延ばしたように、今度はハリージュが二人の時間を延ばすため惚れ薬を依頼する。
同じ行動を、今度は逆の立場で行っている。
この構図がとてもよかった。
王女が惚れ薬を求めた本当の理由
惚れ薬を求めた王女ビッラウラの事情も、単純ではなかった。
彼女は十六歳でありながら、国のために四十歳以上年上の異国の王へ嫁ぐことが決まっている。
故郷も家族も友人も離れ、知らない国で生きていかなければならない。
ビッラウラが惚れ薬を求めたのは、相手を自分へ夢中にさせるためではない。
自分自身が夫を愛せるようになりたかったからである。
愛することができれば、異国で生きる支えになるかもしれない。
不安や孤独に押しつぶされず、王妃として生き抜けるかもしれない。
人の心を歪める危険な薬ではある。
しかし彼女にとっては、逃げ場のない人生を受け入れるための希望でもあった。
ロゼは、その願いを聞いて、自分の作る魔女の秘薬が誰かの希望として求められたことを誇らしく感じる。
惚れ薬をただ悪いものとして否定しないところが印象的だった。
薬そのものに善悪があるのではない。
どのような事情で、誰がどのように使うのかによって意味が変わる。
ロゼが依頼人を簡単に裁かず、話を受け止める姿に、「湖の善き魔女」と呼ばれる理由を感じた。
誰かに守られて眠る幸せ
ロゼは来客を知らせる鐘へ常に注意を払い、長い間まともに眠っていなかった。
いつ客が来るか分からない。
危険な人物が現れるかもしれない。
一人暮らしである以上、自分の身は自分で守らなければならない。
その事実を知ったハリージュは怒り、ロゼを寝台へ運ぶ。
来客があれば自分が対応するから、安心して眠れと命じる。
ロゼにとって、誰かに守られた状態で眠ることは久しぶりだった。
最初は不安を抱きながらも、ハリージュの声を聞き、深い眠りへ落ちていく。
翌朝、ロゼは自分が限界に近かったことに初めて気づく。
その間にハリージュは、庵を片付け、魚を釣り、畑へ水をやり、朝食まで作っていた。
レタスや魚を使ったサンドウィッチ。
ロゼの歌を思い出しながら淹れた紅茶。
祖母が生きていた頃のような温かな朝が戻ってくる。
ロゼは、それを人生で最も幸せな食事だと感じる。
この場面には、派手な告白以上の愛情があった。
眠っている間に生活を整え、食事を作り、目覚めるまでそばにいる。
ハリージュはまだ自分の恋心を理解していない。
それでも行動には、すでに深い愛情が表れていた。
一人で生きられることと、一人で生きたいことは違う
ロゼは、これまでずっと一人で生きてきた。
危険な客が来れば地下室へ隠れる。
食事も睡眠も自分で管理する。
誰かに頼らなくても、生き延びる方法は知っている。
しかし、強盗が庵へ侵入した時、ロゼは強い恐怖を感じる。
以前なら、命への執着はそこまで強くなかったのかもしれない。
ところが今は、もう一度ハリージュと食事をしたい。
また話したい。
これからも同じ時間を過ごしたい。
そう願うようになったため、死ぬことが怖くなっていた。
ロゼを助けに来たハリージュも、冬の湖を泳いで小島へ渡っている。
自分の命を危険へさらしてまで、彼女を救おうとした。
その後、ハリージュはようやく、自分がロゼを愛していることへ気づく。
離れていても、寒くないか、空腹ではないか、寂しがっていないかと考えてしまう。
会いたいと焦がれる。
それは義務や責任ではなく、恋だった。
一人でも生きられるロゼと、彼女を守りたいハリージュ。
大切なのは、ロゼが一人では生きられないから助けるのではないことだと思う。
一人でも生きられる相手と、それでも一緒に生きたいと願う。
そこに二人の関係の優しさがあった。
ハリージュまで惚れ薬を飲んでしまう
物語の終盤では、ハリージュ自身が惚れ薬を誤飲する。
眠気覚ましと薬を取り違えたことで、体内で魔法が暴れ、激しい熱と苦痛に襲われる。
そこへ偶然ロゼの飲んでいた紅茶が口へ入り、惚れ薬が正常に作用する。
今度はハリージュの恋情が強く増幅されることになる。
ロゼを抱きしめ、名前で呼ぶよう求める。
触れたい衝動を抱えながらも、ロゼを傷つけないよう慎重に耐えている。
惚れ薬によって理性を完全に失うのではなく、強い感情を抱えながらも相手を思いやろうとする。
その姿に、ハリージュの誠実さを感じた。
ロゼは、薬による感情だと分かっている。
それでも長年好きだった相手から大切にされる幸福を、少しだけ受け入れる。
切なさのある場面だが、窓の外から子供たちに目撃されることで、一気にドタバタへ変わる。
二人の様子を見た子供たちは、ロゼが男に乱暴されていると勘違いする。
以前は魔女を退治しようとしていた子供たちが、今度は魔女を助けようと大人を連れてくる。
ロゼがただの女の子だと訴え、泥玉を構える。
同じ泥玉が、今度はロゼを傷つけるためではなく守るために使われる。
子供たちなりの変化が感じられ、笑いながらも少し温かくなる場面だった。
惚れ薬が切れた後の求婚
惚れ薬の効果が切れた後、ハリージュは突然ロゼへ結婚を申し込む。
ロゼは、まだ薬の影響が残っているのだと考えて拒絶する。
しかしハリージュは、すでに正気へ戻っている。
惚れ薬を飲む前からロゼを好きだった。
薬は、もともと存在していた感情を強くしただけだった。
ロゼは、魔女と人間は違う存在だと説明する。
魔女は国や法に属さず、人間の倫理に反する薬を作る可能性もある。
代々の魔女は結婚せず、子を残してきた。
人間と同じ家庭を持てるとは限らない。
それでもハリージュは、どれも問題にしない。
彼が求めているのは、一般的な妻でも、守られるだけの女性でもない。
魔女であるロゼ本人だった。
ロゼが最後に口にしたのは、魔女は死を喜ばれる存在だという傷だった。
四年前に祖母の死を喜ぶ声を聞き、自分も同じように扱われると思ってきた。
それに対しハリージュは、ロゼの死を喜ぶ者がいれば全員殴ると告げる。
非常に彼らしい、不器用で真っ直ぐな言葉だった。
魔女全体への偏見をすぐに消すことはできない。
社会の価値観を一言で変えることもできない。
それでも、自分だけはロゼの生を喜び、彼女が傷つけられれば怒る。
ロゼが安心できる場所を、自分が作ろうとする。
その言葉には、惚れ薬よりも強い説得力があった。
「好き」と言えない返事
ハリージュは、ロゼへ自分を好きかと尋ねる。
嘘をつけないロゼにとって、非常に答えにくい質問である。
好きではないと言えば嘘になる。
好きだと言えば、隠してきた想いをすべて認めることになる。
そこでロゼは、嘘になるから答えたくないと返す。
これは以前、ハリージュが教えた答え方でもあった。
言いたくないことがあるなら、嘘になるから言いたくないと言えばよい。
秘密を知るハリージュにだけ使える言葉である。
ロゼは「好き」と直接言っていない。
しかしハリージュには、十分すぎる返事だった。
嫌いなら、簡単に否定できる。
否定できないこと自体が答えになっている。
二人の間に積み重ねてきた信頼があるからこそ成立する告白だった。
惚れ薬のような派手な魔法ではない。
一見すると遠回しで、不器用な言葉である。
それでも二人にとっては、何より正直な想いの伝え方だった。
惚れ薬よりも強かった日々の積み重ね
『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。1』は、惚れ薬を巡る恋物語である。
しかし、本当に二人を結びつけたのは惚れ薬ではない。
白いパン。
林檎バター。
タルトタタン。
祖母の青磁の皿。
片付けられたテーブル。
一緒に飲んだ紅茶。
誰かに守られながら眠った夜。
目覚めた時に用意されていた朝食。
こうした小さな時間の積み重ねだった。
ロゼは、ハリージュによって外の世界の美味しさや、人に心配される喜びを知る。
ハリージュは、ロゼと過ごすことで、魔女を得体の知れない存在ではなく、不器用で可愛らしい一人の女性として知っていく。
最初から相手を好きだったロゼと、自分の感情へなかなか気づかないハリージュ。
二人の歩み方は違う。
それでも同じテーブルで過ごすうちに、少しずつ同じ場所へたどり着く。
惚れ薬は人の心を一時的に強く変えることができる。
しかし、薬の効果が切れても残った想いこそが、本物だったのだと思う。
孤独な魔女が誰かと生きる物語
本作で最も心に残ったのは、ロゼの孤独な暮らしが少しずつ変わっていく過程である。
ロゼは一人で生きる強さを持っている。
魔女として薬を作り、畑を守り、危険から身を隠しながら暮らしてきた。
しかし、強いから寂しくないわけではない。
一人に慣れているから、誰かを必要としていないわけでもない。
ハリージュと出会い、誰かに気にかけてもらう喜びを知る。
美味しいものを一緒に食べる。
自分の表情を見てもらう。
家族の記憶を語る。
安心して眠る。
そうした経験によって、ロゼは生きることへ以前より強く執着するようになる。
誰かを好きになることは、弱点を増やすことでもある。
失えば傷つく。
別れれば、一人だった頃よりも孤独を感じる。
だからロゼは、何度もハリージュを遠ざけようとする。
しかし同時に、誰かと過ごすことでしか得られない幸せも知ってしまう。
孤独へ戻ることを恐れるほど、今の時間が大切になっている。
その変化に、恋愛だけではない、人と関わりながら生きることの温かさを感じた。
「好きな人に惚れ薬を依頼された」という切ない始まりから、最後には互いの想いを確認する二人。
嘘をつけないロゼと、自分の恋心に気づくのが遅すぎるハリージュ。
不器用な二人だからこそ、一つひとつの言葉や行動が愛おしく感じられた。
読み終えた時には、惚れ薬の力に頼らず、これからも二人で食卓を囲んでほしいと思う。
切なさと笑い、そして温かな日常が詰まった、心地よい恋物語だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
孤独な湖の魔女
孤独な湖の魔女の境遇と救済の全貌
『魔女と過ごす日々』における「孤独な湖の魔女」について、物理的・血縁的な孤独、世間の偏見による孤立、嘘をつけないという魔女の制約、ハリージュがもたらした温もりと孤独の終わり、および湖の善き魔女としての誇りの各点から解説する。
物理的・血縁的な孤独
ロゼは王都の外れにある深い森の奥、湖に浮かぶ小島の古びた庵でたった一人で暮らしている。
・幼い頃に母を亡くし、魔女の師でもあった祖母も4年前に他界したため、彼女には家族と呼べる存在が存在しない。
・訪れる人間も少なく、馴染みの商人であるティエンを除けば、小舟を漕いでやってくる一部の依頼人しか接触する機会がなかった。
世間の偏見による孤立
魔女という存在は、人々から恐れられ、忌み嫌われる対象であった。
・4年前に祖母が亡くなった際、街へ出たロゼは人々が魔女が死んで安心したと喜ぶ姿を目の当たりにし、自分たちがどれほど世間から疎まれているかを思い知らされた。
・街の子供たちから迷惑している、いなくなればいいと泥玉を投げつけられる事件も起きており、謂れのない悪意と偏見が彼女を社会から孤立させていた。
嘘をつけないという魔女の制約
魔女には魔法を使う代償として、魔法以外の嘘をつけないという致命的な弱点が存在する。
・この不利な制約を他人に悟られないようにするため、ロゼは常に深くフードを被って顔を隠してきた。
・感情を表に出さず無表情を装い、人との関わりを自ら避けるようにして身を守ってきた。
ハリージュがもたらした温もりと孤独の終わり
彼女の閉ざされた生活は、騎士ハリージュ・アズムの来訪によって大きく変化した。
・ハリージュは魔女であるロゼを化け物としてではなく、一人の人間、そして女性として扱った。
・ロゼが畑のレタスばかり食べていることを知ると、彼女の体を心配して白いパンや林檎バターを差し入れ、共に食卓を囲むようになった。
・彼と向かい合って美味しいものを食べ、言葉を交わす時間は、ロゼに途方なく幸せだと感じさせるものであった。
湖の善き魔女としての誇り
ロゼはただ恐れられるだけの存在ではなかった。
・4年前、祖母の死を喜ぶ客に対し、ハリージュが彼女が善き魔女であることを祈るんだなと咎めた言葉を偶然聞いて以来、ロゼはその言葉を人生の指針とし、湖の善き魔女であろうと努めてきた。
・人々から泥を投げられても、虫除けや湿布といった日用品の薬を作り、陰ながら人々の生活を支え続けている。
・物語の結末では、強盗事件などを経てロゼの安全を危惧したハリージュの提案により、彼女は昼間は庵で魔女として働きつつ、夜はハリージュの屋敷で過ごすようになる。
・こうして、長く暗い孤独の中にいた湖の魔女は、彼からの深い愛情に包まれ、一人きりの生活に終わりを告げることとなった。
まとめ
孤独な湖の魔女の境遇と救済を巡る一連の全貌は、森の奥深くにおける血縁なき物理的孤立から始まり、世間の強い偏見や嘘をつけない制約による隔絶、騎士ハリージュとの出会いがもたらした人間的な温もりと愛情、そして善き魔女としての誇りを保ち続けた果ての救済に至るまで、その歩みを明瞭に示している。偏見や不遇な環境という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、誠実な生き方がもたらした救済の記録である。孤立した日々から、ハリージュとの交流、善意の奉仕、安全な生活拠点の獲得、そして愛に満ちた二人での生活へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
惚れ薬の依頼
惚れ薬の依頼とすれ違う想いの全貌
『魔女と過ごす日々』における惚れ薬の依頼について、片思い相手からの残酷な依頼と魔女の小さな抵抗、依頼の真の目的と王女ビッラウラの悲壮な覚悟、板挟みになる騎士ハリージュの苦悩、および依頼がもたらした予想外の結末の各点から解説する。
片思い相手からの残酷な依頼と魔女の小さな抵抗
湖の小島で暮らす魔女ロゼのもとに惚れ薬を依頼しに来たのは、彼女が4年間ひそかに片思いをしていた王宮騎士ハリージュ・アズムであった。
・ロゼは彼が別の誰かを振り向かせるために薬を求めているのだと思い込み、胸を痛めた。
・少しでも長く彼と一緒にいたい、せめて自分のことを覚えていてほしいという切ない願いから、ロゼは完成を引き延ばす行動に出た。
・満月の夜にむしった虹色キリギリスの触角など、時間のかかる入手困難な材料をあえて一つずつ要求し、ハリージュとの時間稼ぎを行った。
依頼の真の目的と王女ビッラウラの悲壮な覚悟
ハリージュ自身が薬を使いたかったわけではなく、真の依頼主は彼が護衛を務めるマルジャン国の王女ビッラウラであった。
・彼女は16歳という若さでありながら、大国ニフリートの40歳以上も年上の老王のもとへ政略結婚で嫁ぐことが決まっていた。
・彼女が惚れ薬を求めたのは、相手を籠絡するためではない。
・自分自身が夫となる老王を愛するために、自ら服薬することを望んでいた。
・家族も友もいない異国で何があっても笑顔で生き抜くための心の拠り所として、夫への愛情を薬の力で作り出そうとする悲しくも気丈な覚悟が込められた依頼であった。
板挟みになる騎士ハリージュの苦悩
ハリージュは幼い頃からビッラウラを妹のように大切に思っており、人の心を歪めるような薬を彼女に使わせたくはなかった。
・これまで一度も我が儘を言わなかった彼女からの生涯一度の願いを切り捨てることはできなかった。
・王女の醜聞を防ぐために自ら身分を隠して魔女の庵へ通い続けていた。
・この依頼は、忠義と兄のような愛情を持つハリージュにとっても苦渋の決断であった。
依頼がもたらした予想外の結末
ロゼは苦しい思いを抱えながらも薬を完成させた。
・効能を証明するためにロゼ自身が試験薬を飲み、ハリージュに対する激しい恋情を剥き出しにして涙を流す出来事が発生した。
・ハリージュはそこで初めて、ロゼが抱える想いと自身が彼女に惹かれていることに向き合うこととなった。
・ビッラウラのもとへ渡った本物の惚れ薬は、思いがけない形で使用された。
・ニフリート王はビッラウラが持参した秘薬を自殺用の毒薬だと勘違いし、幼妻を守るために自ら飲み干した。
・惚れ薬はニフリート王に作用し、ビッラウラの切実な依頼は互いの思いやりが交差する温かな結末へと繋がった。
まとめ
惚れ薬の依頼とすれ違う想いを巡る一連の全貌は、片思い相手からの依頼に対する魔女の切実な時間稼ぎから始まり、政略結婚に挑む王女の壮絶な覚悟、護衛騎士の苦渋の葛藤、そして試飲を通じた恋心の自覚と老王の思いやりによる予想外の結末に至るまで、その歩みを明瞭に示している。運命の翻弄や誤解という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、不器用な優しさと誠実な想いがもたらした奇跡の記録である。偽りの依頼から、真の目的の露呈、恋情の暴露、自責の飲み干し、そして真実の愛の芽生えへと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
騎士との交流
騎士との交流と深まる絆の全貌
『魔女と過ごす日々』における騎士ハリージュと魔女ロゼの交流について、4年前の出会いとロゼの密かな片思い、惚れ薬の依頼による再会と不器用な時間稼ぎ、食を通じた距離の縮まり、秘密の共有と素顔での対話、騎士としての献身と庇護、および身分差を越えた歩み寄りの各点から解説する。
4年前の出会いとロゼの密かな片思い
二人の接点は、物語が始まる4年前に遡る。
・祖母を亡くし、街で魔女が死んで安心したと人々から陰口を叩かれて傷ついていたロゼを、魔女も人には違いない、彼女が善き魔女であることを祈るんだなと庇ったのがハリージュであった。
・この言葉に救われたロゼは彼に一目惚れし、それ以来、善き魔女であることを人生の指針としてひっそりと片思いを続けていた。
惚れ薬の依頼による再会と不器用な時間稼ぎ
4年後、ハリージュは王女からの頼みで惚れ薬を求めてロゼの庵を訪れた。
・片思いの相手から別の誰かのための惚れ薬を依頼されるという残酷な状況であったが、ロゼはせめて少しでも長く一緒にいたいと願った。
・入手困難な材料を一つずつ要求して調合の時間を引き延ばし、二人が定期的に顔を合わせる交流の始まりとなった。
食を通じた距離の縮まり
当初はハリージュも胡散臭い魔女に対して不信感を抱いていたが、ロゼが普段レタスばかり食べている貧しい食生活を知り、彼女の体を案じるようになった。
・ハリージュは柔らかな白いパンや林檎バター、タルトタタンなどの美味しい食べ物を庵に差し入れるようになった。
・二人はテーブルクロスを敷いた食卓を共に囲むようになった。
・孤独だったロゼにとって、好きな人と美味しい食事や紅茶を楽しむ時間は途方もなく幸せなものとなっていった。
秘密の共有と素顔での対話
魔女は嘘をつけないという弱点を隠すため、常に深くフードを被り無表情を装っていた。
・ひょんなことからその制約を知ってしまったハリージュは、言いたくないことが万が一顔に出ても嘘になるから言いたくないと正直に言える相手は俺しかいないのだろうと語りかけ、彼女にフードを外させた。
・秘密を共有する家族を失っていたロゼにとって、ハリージュはありのままの素顔で安心して対話ができる唯一の存在へと変わっていった。
騎士としての献身と庇護
交流を重ねるにつれ、ハリージュはロゼを守るべき一人の女性として大切に扱うようになった。
・ロゼが街の子供たちから泥玉を投げつけられた際には本気で怒って彼女を庇った。
・ロゼの庵に窃盗犯が侵入した夜には、彼女を救うために氷のように冷たい冬の湖を自ら泳いで駆けつけた。
・こうした命がけの献身が、ロゼの頑なな心を大きく揺り動かしていった。
身分差を越えた歩み寄り
惚れ薬の誤飲事件などを経て、ハリージュはロゼへの恋心を自覚し、真っ直ぐに求婚した。
・ロゼは魔女と騎士という身分や立場の違い、そして魔女が世間から忌み嫌われる存在であることを理由に最初は拒絶しようとした。
・どんな障害があろうとも自分を愛し守ろうとするハリージュの深い愛情に絆された。
・最終的には彼をハリージュさんと呼び、日中は庵で魔女として働きつつ、夜だけは彼の屋敷で食客として同居するという、二人なりの新しい関係性へと歩み寄ることとなった。
まとめ
騎士との交流と深まる絆を巡る一連の全貌は、4年前の救いの言葉と密かな片思いから始まり、惚れ薬の依頼に伴う不器用な時間稼ぎ、食卓の共有やフードを外した素顔の対話、命がけの庇護行動、そして身分差を克服した同居生活の開始に至るまで、その歩みを明瞭に示している。身分差や世間の偏見という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、愚直な誠実さと深い愛情が手繰り寄せた救済の記録である。一目惚れから、定期的な交流、真実の共有、危急の救出、求婚の承諾、そして共に歩む未来の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
魔女の不文律
魔女の制約と不文律の全貌
『魔女と過ごす日々』における「魔女」について、人間社会から切り離された存在として生きていくための代々受け継がれてきた独自の制約や信条(不文律)を、魔法の代償としての嘘をつけない制約、客の事情を詮索せず他言しない信条、国や法に属さない独立した存在、結婚をせず子種だけをもらう慣習、調薬の材料は客に手配させる原則の各点から解説する。
魔法の代償としての「嘘をつけない」制約
魔女には、魔法という嘘を使う代償として、魔法以外の嘘をつけないという絶対的な制約が存在する。
・この致命的な弱点を他人に悟られれば命取りとなるため、魔女は人里離れて生活してきた。
・無愛想に振る舞い、常にフードで顔を隠して感情を読まれないようにするという処世術を身につけてきた。
客の事情を詮索せず、他言しない
魔女の秘薬を求める客は、大金持ちであると同時に、自身ではどうにもならない切実な願いを抱えている。
・客が誰であれ事情を詮索したり、他言したりしないことが魔女としての重要な信条となっている。
・客の事情を詮索することは、魔女としての信条を裏切る恥ずべき行為とされる。
国や法に属さない独立した存在
魔女は国に属さず、教会で洗礼を受けることも存在しない。
・古来より独立した自治を行っており、絶対的な数の少なさから特例として許容され、人間の定めた法に従うこともない。
・守るべき国も法もない代わりに、犯すことも犯されることもない人と違う世界で生きている。
・人間の倫理観で裁かれる対象ではないという立場を貫いている。
結婚をせず、子種だけをもらう慣習
魔女は基本的に人間との結婚を行わない。
・自分の魔法を次の世代へ伝える時が来た際には、どこかで子種だけをもらうという方法で子孫を残すのが、ロゼの母や祖母の代から続く慣習となっている。
・この慣習のため、ロゼ自身も自身の父親の存在を知らずに育っている。
調薬の材料は客に手配させる
魔女の調薬において、薬の材料は客自身に集めさせるのが基本である。
・魔女自身では材料を手配しないという確固たる信念が存在する。
・物語序盤でロゼがハリージュに次々と無理難題な素材集めを要求したのも、彼との時間を稼ぐための口実であると同時に、このルールに則ったものであった。
まとめ
魔女の制約と不文律を巡る一連の全貌は、魔法の代償である嘘の禁止と防衛策から始まり、客への守秘義務と詮索の拒絶、国家や人権の枠組みを超えた独立的自治、子孫を残すための特異な慣習、そして客自身に材料を揃えさせる原則に至るまで、その歩みを明瞭に示している。世間からの偏見や孤立という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、孤高の防護壁としての不文律の記録である。制約の遵守から、独立性の維持、掟の遂行、ハリージュとの出会い、そして一人の人間としての温かな関係の獲得へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
過去の孤独と救済
過去の孤独と救済の全貌
『魔女と過ごす日々』における「過去の孤独と救済」について、血縁の喪失と世間の悪意による深い孤独、4年前のハリージュの言葉という最初の救済、家族の愛情への気づき、騎士ハリージュによる無条件の肯定、および孤独な日々の終わりの各点から解説する。
血縁の喪失と世間の悪意による深い孤独
ロゼは幼い頃に母を亡くし、4年前には魔女の師でもあった祖母も他界したため、森の奥の湖に浮かぶ小島でたった一人で暮らしていた。
・祖母が亡くなった直後、一人で街へ出たロゼは人々が湖の魔女が死んで安心したと喜ぶ姿を目の当たりにした。
・自分たちは死んで喜ばれる存在なのだと突きつけられたこの出来事は、彼女に世間の理不尽な悪意と自身の深い孤独を自覚させるものであった。
4年前のハリージュの言葉という最初の救済
絶望的な悪意に晒されたその日、ロゼを救ったのはハリージュであった。
・ハリージュは魔女の死を喜ぶ客に対し、自分なら自分が死んだことを喜んだ奴など呪ってやると語り、彼女が善き魔女であることを祈るんだなと咎めた。
・この言葉は孤独のどん底にいたロゼにとって一縷の光となり、以降彼女は湖の善き魔女であることを人生の指針として生きるようになった。
家族の愛情への気づき(母と祖母からの救済)
ハリージュとの交流が深まる中で、ロゼは過去の家族の愛情に気づかされた。
・ハリージュの指摘により、畑にレタスばかりが植えられていたのは、食事を疎かにしがちなロゼがきちんと生活できるよう祖母が意図的に残したものだと理解した。
・ロゼが調薬の際に歌っていた紅茶の歌は、顔も覚えていない母が幼いロゼに何度も歌って聞かせてくれていたものだと気づいた。
・自分が決して孤独ではなく、母や祖母から深い愛を注がれて育ったことを知ったロゼは、途方もない幸せを感じて涙を流した。
騎士ハリージュによる無条件の肯定
魔女は嘘をつけないという弱点を隠すため、ロゼは常にフードで顔を隠し、感情を殺して生きてきた。
・ロゼは自分は死んで喜ばれる存在だという呪縛に囚われていた。
・ハリージュはそんな彼女を魔女という記号ではなく一人の人間として扱い、泥玉を投げる子供たちから庇い、彼女が人々のために役立つ薬を作っていることを擁護した。
・ハリージュは、もしロゼが死んで喜んでるような奴がいたら俺は片っ端からぶん殴っていくと告げ、彼女の存在を力強く肯定した。
孤独な日々の終わり
強盗事件を経て、ロゼの安全を危惧したハリージュの提案により、ロゼは夜間だけ彼のアズム邸で食客として暮らすこととなった。
・街の人々も次第に魔女に対して友好的になり、子供たちが庵の前に木の実を置いていくなど周囲との関係にも変化が訪れた。
・長く暗い孤独の中にいたロゼは過去の呪縛から解放され、温かな愛情と繋がりの中で生きていくこととなった。
まとめ
過去の孤独と救済を巡る一連の全貌は、肉親の喪失と世間の悪意がもたらした深い孤立から始まり、4年前の庇護の言葉による救済、母や祖母から注がれていた本当の愛情の発見、ハリージュによる人間的尊厳の無条件肯定、そして安全な生活環境と温かな人間関係の確立に至るまで、その歩みを明瞭に示している。理不尽な世間の呪縛や孤独という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、愛と理解を通じた心の救済の記録である。絶望の体験から、生きる指針の発見、過去の愛の自覚、存在の全面受容、そして孤独の完全な解消へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
偏見の払拭と変化
偏見の払拭と変化の全貌
『魔女と過ごす日々』における「偏見の払拭と変化」について、死んで喜ばれる存在という世間の偏見、ハリージュの認識の変化、泥玉事件を機にした人々の意識の変容、王女ラウーによる秘薬の肯定、および歩み寄りと温かな交流の芽生えの各点から解説する。
死んで喜ばれる存在という世間の偏見
物語の前提として、魔女は人々から気まぐれで残虐な存在だと恐れられていた。
・4年前に祖母が亡くなった際、ロゼは街の人々がこれで安心だ、いなくなって清々したと喜ぶ姿を目の当たりにした。
・自分たちが世間から深く忌み嫌われていることを思い知らされることとなった。
・街の子供たちから迷惑している、早く森からいなくなればいいという理由だけで泥玉を投げつけられる事件も起きた。
・謂れのない悪意と偏見がロゼを社会から孤立させていた。
ハリージュの認識の変化
ハリージュ自身も、最初は魔女を胡散臭いと警戒し不信感を抱いていた。
・庵に通いロゼと交流を重ねる中で、彼女がレタスばかりの質素な生活を送っていることを知った。
・不器用で健気な一人の若い女性であることを理解した。
・魔女という色眼鏡を外し、ロゼを守るべき一人の人間として扱うようになった。
・この認識の変化がロゼの心を救う大きな要因となった。
泥玉事件を機にした人々の意識の変容
ロゼが泥玉を投げつけられた際、ハリージュは周りの大人や子供たちを厳しく諭した。
・知らないものを恐れるのは仕方ないが、その恐れを罪のない人にぶつけるのは最低な行いだと喝破した。
・人々が日常的にお世話になっている虫除けや湿布といった薬を作っているのが、他ならぬロゼであることを明かした。
・大人たちは自分たちが無意識に魔女の恩恵を受けていたことに気づき、態度を改めるきっかけとなった。
王女ラウーによる秘薬の肯定
魔女の秘薬は、一般的に人の心を歪める卑怯で不気味なものとして蔑まれがちであった。
・王女ラウーは異国へ嫁ぐ過酷な運命の中で、自身が夫を愛し笑顔で生き抜くための希望として惚れ薬を求めた。
・世間から恐れられる魔女の存在やその薬が、一人の少女を救う希望として真っ向から肯定されることとなった。
歩み寄りと温かな交流の芽生え
物語の終盤では、街の人々がロゼに対して友好的になり始め、様子を見に来てくれるようになった。
・泥玉を投げた子供たちが森の小島へ遊びに来た際、ロゼが小舟で焼き芋を振る舞った。
・後日お返しとして庵の前に森の木の実が置かれるという心温まる変化が描かれた。
・世間の偏見を恐れて心を閉ざしていたロゼ自身も、人々からの不器用な好意を受け入れるようになった。
・魔女と人々の間に確かな絆と変化が訪れることとなった。
まとめ
偏見の払拭と変化を巡る一連の全貌は、忌み嫌われる魔女への理不尽な偏見と孤立から始まり、ハリージュによる人間的な理解、泥玉事件を通じた住民たちの意識改革、王女ラウーによる秘薬の肯定的評価、そして住民たちとの相互の歩み寄りと温かな交流に至るまで、その歩みを明瞭に示している。無知や恐怖から生じる偏見という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、誠実な貢献と相互理解の記録である。孤立した生活から、ハリージュの理解、薬の真価の啓蒙、王女の肯定、子供たちとの交流、そして地域社会との共生へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
湖の魔女と関係者
ロゼ
湖の小島で暮らす魔女である。母を幼くして亡くし、祖母を四年前に失った。王宮騎士のハリージュに四年間片思いをしている。魔法を使う代償として、嘘をつけない制約を持つ。
・所属組織、地位や役職
魔女。
・物語内での具体的な行動や成果
ハリージュから惚れ薬の依頼を受けた。薬を渡すまでの時間を引き延ばすため、彼に様々な素材の調達を要求した。効能を確かめるために試験薬を自ら飲み、彼への恋心を剥き出しにした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
強盗事件を経て、日中は庵で働き、夜間はハリージュの屋敷で食客として生活するようになった。
ティエン・コン
ロゼと馴染み深い商人である。異国風の若い男の容姿を持つ。幼い頃からロゼを知っており、親代わりのような存在として世話を焼く。
・所属組織、地位や役職
商人。
・物語内での具体的な行動や成果
ロゼにビリジアンブルーのローブや化粧品を贈った。強盗事件の後には、鉄を編み込んだ新しい舟の手配などを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ロゼの持参金として、大量の荷物を庵に運び込んだ。
ロゼの祖母
ロゼの魔女の師である。四年前に他界した。ロゼに魔女の仕事と家事を引き継がせた。
・所属組織、地位や役職
魔女。
・物語内での具体的な行動や成果
ロゼが食事を疎かにしないよう、畑にレタスを植えて維持するように命じていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や特筆すべき影響力の記載はない。
ロゼの母
ロゼが幼い頃に他界した魔女である。
・所属組織、地位や役職
魔女。
・物語内での具体的な行動や成果
紅茶の淹れ方を伝える歌を、幼いロゼに何度も歌って聞かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や特筆すべき影響力の記載はない。
アズム家
ハリージュ・アズム
王宮騎士である。アズム伯爵家の三男として生まれた。ビッラウラの護衛を務めている。最初はロゼを胡散臭い魔女と疑っていたが、交流を経て彼女に惹かれていく。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・王宮の近衛騎士。後に第二王子付きの近衛騎士となる。
・物語内での具体的な行動や成果
ビッラウラの依頼でロゼに惚れ薬を注文した。ロゼの体を心配して、パンやタルトタタンなどの食事を庵に差し入れた。窃盗犯からロゼを救うため、冬の湖を泳いで駆けつけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
誤って惚れ薬を飲み、ロゼへの恋情を露わにした。薬の効果が切れた後もロゼへの想いを自覚し、彼女に求婚を行った。
サフィーナ
アズム家に仕える初老の男性である。使用人頭として屋敷の者たちをまとめる役割を持つ。
・所属組織、地位や役職
アズム家・使用人頭、執事。
・物語内での具体的な行動や成果
ハリージュの命を受け、ロゼのために二日に一度の頻度で食事を庵へ運んだ。ロゼに感謝し、彼女を善き魔女と呼んで接した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
キッチンメイド
アズム家の台所で働く年配の女性である。
・所属組織、地位や役職
アズム家・キッチンメイド。
・物語内での具体的な行動や成果
ハリージュがロゼのために用意したブーツの評価を求められ、黒いブーツはどんな女性にも似合うと意見を述べた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
アズム家の使用人たち
アズム家で働く人々である。
・所属組織、地位や役職
アズム家・使用人や下僕。
・物語内での具体的な行動や成果
サフィーナと共に、倒れたハリージュを庵へ運んだ。深夜に帰宅したハリージュの命を受け、馬や薬の準備を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
マルジャン国
ビッラウラ(ラウー)
マルジャン国の王女である。十六歳の少女として描かれている。気品と慈愛の心を持つ。大国ニフリートの老王へ嫁ぐことが決まっていた。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
異国で夫を愛し生き抜くための拠り所として、ハリージュに惚れ薬の調達を依頼した。城を抜け出してロゼの庵を訪れ、直接悩みを打ち明けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ニフリート王と結婚し、後に懐妊したことを手紙でロゼに伝えた。
第二王子
マルジャン国の王子である。ビッラウラの兄にあたる。ハリージュの幼馴染みである。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・第二王子。
・物語内での具体的な行動や成果
物語本編に直接登場して行動する描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ビッラウラを送り届けた後のハリージュが、彼付きの近衛騎士に配属された。
マシャー
歴史を担当する若い男性教師である。ビッラウラに熱っぽい視線を向けている。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・歴史教師。
・物語内での具体的な行動や成果
ビッラウラの要請で駆けつけ、クリエルンの歴史について講義する準備をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
ゲオネス
ハリージュの同僚である。人の良さそうな顔を持つ。誰からも親しみを持たれている。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・近衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ハリージュに眠気覚ましの薬を差し入れた。窃盗犯から聞き出した情報をハリージュに伝達し、休暇の手続きを代行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
クヴァラービタ夫人
大の話好きである貴族夫人である。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国の貴族夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
出不精のコースマス外交官夫人を説き伏せ、晩餐会へ参加するように手配した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
マルマラ夫人
妹がクリエルンに嫁いでいる夫人である。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国の貴族夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
物語本編での直接の行動描写はない。ビッラウラが彼女に面会する時間を調整するよう侍女に命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
ビッラウラの侍女たち
ビッラウラに付き従う女性たちである。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国・王女の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ビッラウラの指示を受け、マシャーの呼び出しやマルマラ夫人との面会調整のために動いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
持参金の一部として、ビッラウラと共にニフリート国へ赴いた。
マルジャン国の楽団
楽器を背負って行進する集団である。
・所属組織、地位や役職
マルジャン国の楽団。
・物語内での具体的な行動や成果
ビッラウラの輿入れのパレードにおいて、寸分の乱れもなく行進を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
ニフリート国
ニフリート王
大国ニフリートの王である。四十歳以上も年上の男やもめである。
・所属組織、地位や役職
ニフリート国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い頃のビッラウラに亡き妻の面影を見いだし、彼女が成人するのを待って求婚した。ビッラウラが持ち込んだ惚れ薬を自殺用の毒薬と勘違いし、彼女を守るために自ら飲み干した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
薬の効果により、結果として惚れ薬の作用を受けた。
コースマス外交官夫人
クリエルンを故郷に持つ外交官夫人である。大の出不精である。
・所属組織、地位や役職
ニフリート国・外交官夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
物語本編での直接の行動描写はない。クヴァラービタ夫人に説き伏せられ、晩餐会へ参加することになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
アルナブ・スルフファー警備団
ナジャ・ハサラ
王都周辺の窃盗事件を捜査している警備兵である。
・所属組織、地位や役職
アルナブ・スルフファー警備団・第六警備部隊所属。
・物語内での具体的な行動や成果
不審者の通報を受け、ロゼの庵を訪れた。ハリージュの正体を知ると態度を変え、謝罪して立ち去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
カフ・ビゼル
ナジャ・ハサラと行動を共にする警備兵である。
・所属組織、地位や役職
アルナブ・スルフファー警備団・第六警備部隊所属。
・物語内での具体的な行動や成果
ロゼの庵に強引に押し入った。ハリージュの所属と名前を聞いて驚愕し、敬礼をして逃げ帰った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文書内に地位の変化や昇進の記載はない。
アルナブ・スルフファーフィルサーフ
警備団の責任者である。
・所属組織、地位や役職
アルナブ・スルフファー警備団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
物語本編での直接の行動描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
若い頃にハリージュの父の従士をしており、ハリージュと面識がある。
展開まとめ
プロローグ 魔女と失恋の惚れ薬
突然の依頼
湖の小島で暮らす魔女ロゼのもとに、王宮騎士ハリージュ・アズムが身分を隠して訪れた。彼はロゼに惚れ薬の調合を依頼し、費用や時間を惜しまないばかりか、拒否権はないと告げた。ロゼは威圧的な態度に戸惑いながらも、依頼を引き受けたのである。
湖に浮かぶ魔女の庵
ロゼは森の奥にある湖の小島で、狭く散らかった庵に一人で暮らしていた。母を幼くして亡くし、四年前に祖母も失って以来、薬草や調薬道具に囲まれながら魔女として依頼を受けていた。庵を訪れるには小舟を自ら漕ぐ必要があり、ハリージュも夜の森と湖を越えて通っていた。
終わらない素材集め
ハリージュはロゼに指定された火鼠の肝を持参したが、ロゼは調合にはさらに別の素材が必要だと告げた。これまでにも崖に咲く花の花粉や最初の雨粒などを一つずつ要求されていたため、ハリージュはなぜまとめて伝えないのかと怒りを爆発させた。
大声に驚いたロゼが震えると、ハリージュはすぐに謝罪した。しかしロゼは恐れていたのではなく、近くで見る彼の美しい顔が眩しかったのだと答えた。呆れるハリージュを眺めながら、ロゼはその表情さえも好ましく感じていた。
ロゼの片思い
ロゼは以前街で見かけたハリージュに一目惚れしていたが、彼はロゼの存在すら知らなかった。片思いの相手が別の誰かを惚れさせる薬を求めて現れたため、ロゼは薬を渡すまでの時間を少しでも引き延ばし、自分を覚えてもらおうとしていた。
ロゼは次の素材として、満月の夜に採った虹色キリギリスの触角を要求した。満月は一週間前に終わっていたため、ハリージュはさらに一か月待たねばならなかった。忙しい彼は不満を漏らしたが、薬を完成させるためには自分で材料を集めるしかないと悟り、深いため息をついた。
美しい男のため息
ハリージュが多くの時間と労力を費やしてまで惚れ薬を求める姿から、ロゼは彼にどうしても振り向かせたい相手がいるのだと考え、胸を痛めた。それでも彼のため息を見逃したことを惜しみ、美しい男のため息は薬の材料になるので次は知らせてほしいと告げた。
ハリージュは怒声を上げ、不機嫌なまま庵を立ち去った。ロゼは感情を隠した無表情のまま、その背中を見送ったのである。
第一章 湖の善き魔女
祖母を失った王都
祖母を亡くしたばかりのロゼは、失敗した調薬の材料を補充するため、初めて一人で王都へ出かけた。家事と魔女の仕事を引き継いだばかりで疲れ果てていたうえ、見知らぬ街並みに戸惑い、人に道を尋ねることもできなかった。
魔女を喜ぶ人々
ロゼは軽食屋の客たちが、湖の魔女の死を喜び、魔女を残虐で恐ろしい存在として語るのを耳にした。祖母が人々から疎まれていた事実を初めて知り、自分だけが悪意から守られていたのではないかと考え、深く傷ついた。
ハリージュの言葉
灰色の髪をした男が、人の死を喜ぶのは胸くそが悪いと客たちを咎めた。男は魔女も人であり、実際に危害を受けたこともない者が悪く言うべきではないと断じた。ロゼは、騎士団の藍色のマントをまとって立ち去るハリージュ・アズムの背を見つめ、その日から彼に恋をした。
四年越しの恋心
四年間ひそかに想い続けたハリージュが、別の誰かに使う惚れ薬を求めて庵を訪れたため、ロゼはやり場のない感情を抱えながら薬作りを続けた。魔女の秘薬だけでは暮らせないため、虫除けや日用品の薬も大量に作り、馴染みの商人へ売って生計を立てていた。
湖畔の洗濯
古いローブが汚れて臭い始めたため、ロゼは湖でローブとドレスを洗った。ハリージュがいつ訪れるかわからず洗濯をためらっていたが、身なりを整える薬まで加えて髪も洗った。来客を知らせる鐘が鳴るたびに慌てたものの、現れたのは鹿だけだった。
湖に浮かびながら、ロゼはハリージュが会いに来るのは自分ではなく魔女であると自戒した。彼の訪問によって揺れ始めた感情を、きちんと理解しなければならないと考えた。
ティエンの贈り物
ローブを求められた馴染みの商人ティエン・コンは、大量の華やかな布を庵へ持ち込んだ。ロゼは派手な色を拒んだが、ティエンは湖面に映る森のようなビリジアンブルーの布を選び、襲名祝いとして新しいローブを仕立てることにした。
ティエンはさらに紅や頬紅なども次々に買い与えた。ロゼはハリージュのマントに似た藍色の布を意識しながらも、それを選べば気が散ると考えて避けた。
夜の来訪
次にハリージュが訪れた夜、ロゼは新しいローブを着るか迷った。しかし、彼のために新調したと思われることを恐れ、補修した古いローブを選んだ。化粧も使わず、頬をつねって血色を整え、緊張しながら玄関で彼を迎えた。
散らかった庵
ハリージュは頼まれた材料を持参したが、庵の散らかりように呆れた。ロゼが収納棚を無理に開けて中の物を壊しても平然としていたため、彼は両手で片付ければよいと指摘した。さらに数日前から放置されたレタスを見つけ、ロゼの暮らしぶりに疑問を抱いた。
レタスだけの食生活
ロゼは畑にレタスしか植えておらず、調理せず食べられるため普段はほとんどレタスだけで暮らしていると説明した。驚いたハリージュはロゼの腕を掴み、鶏の脚より肉がついていないと指摘した。
突然触れられたロゼは、至近距離にあるハリージュの顔に動揺した。ハリージュはすぐに謝って手を離したが、ロゼの胸は激しく高鳴っていた。
ひと月後の約束
ロゼは平静を取り戻すと、受け取った材料で調薬を進めると伝えた。今後の工程には時間がかかるとして、ハリージュにまたひと月後に訪れるよう求めた。ハリージュはうんざりした声を漏らし、ロゼは事務的に頭を下げた。
第二章 魔女には危険な林檎の実
昼の来訪
夏を迎えた湖で水浴びをしていたロゼは、ひと月後まで来ないはずのハリージュが対岸に立っていることに気付いた。裸同然の姿を見られたロゼは庵へ逃げ込み、ティエンから贈られたビリジアンブルーのローブを素肌に羽織って彼を迎えた。
名前を知る魔女
動揺したロゼは、まだ名乗られていないハリージュの名前を口にしてしまった。追及されると、四年前から彼を知っていたことを明かしたが、恋心まで知られることを恐れ、これ以上尋ねられれば何もかも話してしまうと訴えた。
魔女は魔法を使う代償として嘘をつけないという秘密まで明かしたロゼは、失態に耐えられず壁へ頭を打ち付けた。さらに毒薬を飲もうとしたが、ハリージュに取り押さえられた。
騎士の誓い
ハリージュはロゼを椅子へ座らせ、命を絶とうとするほど重大な秘密を暴いたことを謝罪した。魔女の秘密は決して他言しないと騎士として誓ったため、ロゼは恋心を誤解されたまま安堵した。
白いパンの差し入れ
ハリージュが昼間に訪れた理由は、レタスばかり食べるロゼを心配し、白いパンと林檎バターを届けるためだった。好きな相手が自分を思い出して食べ物を買ってくれたことに、ロゼは大きな喜びを感じた。
二人は散らかったテーブルを片付け、ハリージュが持参したクロスを敷いてパンを食べた。柔らかなパンと林檎バターを初めて味わったロゼは、その美味しさに夢中になった。
惚れ薬を求めた王女
ハリージュが惚れ薬を求めていたのは、警護を務める王女ビッラウラに頼まれたためだった。人の心を歪める薬を使わせたくはなかったが、これまで一度も我が儘を言わなかった王女の切実な願いを拒めず、人目を忍んで魔女の庵を訪れていた。
ハリージュは当初、ロゼを胡散臭い魔女だと疑っていた。しかし水浴びをしていた姿を見たことで、ロゼが若い女性であり、無理な素材の要求も調薬に必要なものだったと知った。さらに貧しい暮らしや恥じらう姿に触れ、彼女への認識を改めた。
一人暮らしへの心配
ロゼが庵でずっと一人暮らしをしていると知ったハリージュは、その危険を案じた。怪しい者が来れば地下室へ隠れるというロゼに、若い女性は誰かに守られるべきだと考えたものの、自分に口を出す資格はないと黙り、代わりに林檎バターを多く塗ったパンを差し出した。
続く差し入れ
翌日もハリージュは食べ物を持って庵を訪れ、本を読みながら長く滞在した。休暇を取るよう部下に促されており、森の中にある庵は落ち着くのだと説明した。ロゼは彼の訪問に戸惑いながらも、森が好きだという共通点を喜んだ。
古い紅茶がカビていたため、ハリージュは翌日も茶葉を持って来ると告げた。ロゼは頻繁な訪問に心臓が耐えないと思いながらも、彼の差し入れるタルトタタンを夢中になって味わった。
青磁の食器
今後もハリージュが来ることを意識したロゼは、祖母が使っていた青磁の食器を取り出そうとした。高い戸棚に手が届かなかったため、ハリージュが代わりに開けたが、目的の箱の場所が複雑だったため、ロゼを抱き上げて探させた。
ロゼは自分が女性として見られていないと落ち込んだが、取り出した美しい皿をハリージュ用に使いたいという本心を隠し、客が増えたからだと言い訳した。
唯一の話し相手
ハリージュはロゼのフードを外し、顔を見せて話すよう求めた。ロゼが拒むと、魔女の秘密を知る自分だけが、彼女が本心を隠さずに話せる相手なのだろうと告げた。
秘密を共有する家族を失ったロゼの話し相手になろうとする彼の優しさに、ロゼはフードを外した。しかしハリージュから可愛らしい顔だと言われ、激しく動揺して再び深く被った。
祖母の紅茶
翌日も訪れたハリージュのため、ロゼは祖母から受け継いだ歌に従って、香辛料や柑橘を加えた紅茶を淹れた。ハリージュは初めての味を受け入れ、牛乳を入れても合いそうだと語った。ロゼは新しい物を教えながら、自分の大切な世界を否定しない彼の寛容さを好ましく感じた。
薬草畑のレタス
ロゼは日用品として使われる薬を作り、騎士団にも自分の薬が流通している可能性を知った。畑にレタスが植えられているのは、珍しい薬草を守り続けるよう祖母に命じられたからだと説明した。
ハリージュは、祖母がロゼの生活を案じ、薬草と共にレタスを育てさせることで、食事や規則正しい暮らしを続けさせようとしたのだと気付いた。ロゼは初めて祖母の意図を理解し、自分が深く愛されていたことに胸を詰まらせた。
母の歌
紅茶の淹れ方を伝える歌を誰から教わったのか尋ねられたロゼは、祖母は歌う人ではなかったと思い出した。父や兄弟を知らない以上、幼い頃に何度も歌ってくれたのは母だったのだと気付いた。
忘れていた母の記憶と祖母の愛をハリージュに教えられ、ロゼは涙を隠せなくなった。魔女の秘密を知りながら話し相手となり、自分の表情まで理解してくれる彼の前でパンを噛みしめ、ロゼは今が途方もなく幸せだと感じた。
第三章 魔女であること
王女ビッラウラの務め
十六歳の王女ビッラウラは、舞踏会に出席する外交官夫人をもてなすため、その故郷の歴史や料理、音楽について準備を命じた。再来月には大国ニフリートの老王へ嫁ぐ予定であり、国のために休む間もなく公務と勉学へ励んでいた。
護衛を務めるハリージュたちは、孫のいるほど年上の王へ嫁がされるビッラウラを案じていた。しかし本人は、女性騎士と侍女を伴えるだけでも恵まれていると気丈に振る舞っていた。ハリージュは残された二か月の間に、彼女が最初で最後に望んだ惚れ薬を必ず手に入れようと決意していた。
特別なテーブル
久しぶりに庵を訪れた商人ティエンは、テーブルの周囲が片付き、客を迎える空間になっていることに驚いた。ロゼは来客の鐘をハリージュだと思い込み、彼との食事に使っていたテーブルクロスを敷いてしまっていた。
ティエンがいつもの席に座ると、ロゼは自分とハリージュだけの場所を奪われたような寂しさを覚えた。しかし、その席を特別だと思っているのは自分だけだと言い聞かせ、何でもないように振る舞った。
焼き林檎の土産
ハリージュは焼き林檎とパンを携え、歩き慣れた森の道を庵へ向かった。ロゼが喜ぶ顔を思い浮かべながらも、差し入れは惚れ薬の完成前に彼女が衰弱しないためだと自分に言い聞かせていた。
桟橋に小舟がなく、庵に別の客がいると気付いたハリージュは、ロゼにも客がいることに安堵した一方、いつものように窓から迎えられなかったことを物足りなく感じた。
ティエンへの嫉妬
庵から出てきたティエンは、ロゼと親しげに話し、自然な仕草で彼女のフードに触れた。ロゼも気安くその手を払い、桟橋まで見送った。自分はそのように見送られたことがないハリージュは、二人の親しさに苛立ちを覚えた。
すれ違ったティエンはハリージュの顔立ちを褒め、ロゼにも同じことを言われたのではないかと尋ねた。さらに、ロゼのローブやテーブルクロスの変化から事情を察し、楽しげに森へ去った。
ロゼの名前
小島へ着いたハリージュは、ティエンがロゼの名前を呼んでいたことを問いただした。自分もロゼと呼ぼうとしたが、彼女は即座に拒絶した。ティエンには許しているのに自分には許さない態度に、ハリージュは不満を募らせた。
庵に入ると、テーブルには二つのカップが残されていた。自分だけのものだと思っていた素顔や名前、席まで他の男と共有されていたことに胸を痛めたハリージュは、帰ろうとした。しかしロゼに体調を心配され、胸の不調を胃の不調と誤解されたまま、薬を煎じてもらうことになった。
泥玉を投げる子供たち
材料を買いに街へ出たロゼは、森の桟橋で子供たちから泥玉を投げつけられた。子供たちは魔女を恐れず退治したのだと誇り、ロゼを泥だらけにして逃げ去った。
偶然現れたハリージュは事情を察し、ロゼを舟から降ろしてハンカチを渡すと、子供たちを追って森へ走った。ほどなく四人を捕まえ、大人たちの前へ連れ戻した。
魔女への偏見
子供たちは、ロゼが魔女だから街に害を与え、子供を攫う前に倒すべきだと思ったと主張した。大人たちも魔女の報復を恐れ、ロゼを持ち上げて許しを請おうとした。
ハリージュは、相手が偉大な魔女かどうかは関係なく、人に泥をぶつけること自体が悪いのだと断じた。さらにロゼの許可を得て、彼女が虫除けや湿布など、人々が日常的に使う薬も作っていることを明かした。
大人たちは、自分たちも知らないうちにロゼの薬の恩恵を受けていた可能性に気付いた。ハリージュは、未知のものを恐れる気持ちを無実の相手へぶつけるのは卑劣だと諭し、子供たちに謝罪させた。
ハリージュの外套
泥に濡れて震えるロゼに、ハリージュは自分の外套をかけた。ロゼは服が汚れると遠慮したが、彼は命令するように羽織らせ、頬に残った泥まで手で落とした。
ハリージュは、今後ロゼの生活や平穏が脅かされた時には力になると申し出た。しかしロゼは、これまでも一人で生きてきたのだから今後も自分で対処すると断った。いつまでも頼れない相手に寄りかかることを恐れていたのである。
人としてのロゼ
ハリージュは四年前と変わらず、魔女であるロゼを特別な怪物ではなく、一人の人間として扱っていた。その言葉と行動に救われたロゼは、この記憶があれば今後も一人で生きていけると思った。
だからこそ、これ以上彼から何かを受け取らず、望まれた薬を早く完成させようと決意した。ロゼは一週間ほとんど眠らず調整を続け、ついにハリージュが求めていた惚れ薬を完成させた。
第四章 魔女と約束の惚れ薬
惚れ薬の完成
ロゼは完成した惚れ薬をハリージュへ差し出し、飲ませた相手が半日の間、使用者を誰よりも深く愛することや、その記憶が一生残ることを説明した。ハリージュは薬を呪いのようだと感じながらも受け取り、使用者の体液と共に飲ませる方法を確認した。
試験薬の服用
効能を確かめるため、ロゼは短時間だけ作用する試験薬を自ら飲むことになった。ハリージュが口を付けた紅茶に薬を加えて飲み干すと、もともと抱いていた恋情が強烈に増幅され、抑えていた想いが剥き出しになった。
ロゼは顔を隠して耐えようとしたが、ハリージュに好きなのかと尋ねられ、震える声で肯定した。ハリージュは薬による負担を案じ、ロゼを椅子へ導いて優しく手を取った。
溢れ出した恋心
ロゼはハリージュが別の誰かを愛していると思い込み、優しくされれば期待してしまうと涙を流した。ハリージュは惚れ薬を使うのは自分ではないと明かし、ロゼを安心させた。
喜びに支配されたロゼはハリージュの手に口づけ、名前を呼んでほしいと願った。ハリージュが何度もロゼと呼ぶと、二人は唇が触れそうな距離まで近づいた。しかし砂時計の砂が落ちきると、正気に戻ったロゼが手で彼の口を塞ぎ、冷静な魔女として試験を終えた。
消えない余韻
ロゼは惚れ薬と引き換えに代金を受け取り、ハリージュを送り出した。その後、床を転がりながら自分の振る舞いを思い返し、激しい羞恥と後悔に襲われた。
薬の効果は切れても、増幅された恋情の記憶は鮮明に残っていた。ハリージュが惚れ薬を使う本人ではなかったことを喜びながらも、依頼が終わった以上、二度と会えないのだと考えて胸を痛めた。
消された二人の時間
ロゼは期待を断ち切るため、来客を知らせるカウベルを外し、テーブルクロスや二人分の食器を片付けた。ハリージュが残した干し林檎入りのクッキーを一人で食べたが、以前のような美味しさは感じられなかった。
再び訪れたハリージュ
翌日、ハリージュはいつも通り菓子を持って庵を訪れた。惚れ薬に不備があったわけではなく、薬はすでに依頼人へ渡したと説明したが、ロゼは試験薬での出来事を忘れてほしいと頼み、今後の訪問も拒もうとした。
ハリージュは片付けられたテーブルクロスや食器を見て、自分との時間まで消されたような喪失感を抱いた。ロゼに食べ物を受け取ることさえ拒まれ、二人の関係を一方的に終わらせようとする態度に傷ついた。
二つ目の惚れ薬
ハリージュは庵へ通い続ける理由を作るため、新たな薬を依頼すると告げた。求めたのは、再び惚れ薬だった。ロゼは今度こそハリージュ自身が使うのかと疑ったが、客を詮索するなと返され、依頼を引き受けた。
時間がかかると告げたロゼに対し、ハリージュは望むところだと晴れやかに笑った。
ハリージュの未練
試験薬が切れた後も、ハリージュはロゼの声や体温、潤んだ瞳を忘れられずにいた。ロゼの恋情は薬によるものだったと考えていたが、自分の中には胸の高鳴りが残り続けていた。
庵を再訪すれば以前と同じ時間が戻ると思っていたものの、ロゼは彼の痕跡をすべて片付けていた。拒絶された理由も、自分がなぜこれほど傷つくのかも理解できなかったハリージュは、惚れ薬を再び依頼すれば長期間庵へ通えると考えた。
材料集めや調薬にかかる時間を利用してロゼとの関係を繋ぎ止め、彼女の暮らしを支えることもできる。その妙案に満足したハリージュは、自分の感情の正体に気付かないまま笑った。
第五章 お姫様に魔法をかけるのは魔女
冬支度の来訪者
冬支度に追われていたロゼは、昼に鳴った鐘を獣の仕業だと思い込み、夕方まで放置していた。やがて森の桟橋にうずくまる少女を見つけ、冷え切った体を庵へ迎え入れた。少女はラウーと名乗り、ロゼは足を湯で温め、キルトとローブで包んだ。
ラウーの切実な願い
ラウーは、切実な願いがあれば人の心を変える薬を求めても許されるのかとロゼに問いかけた。ロゼは、心と体へ特別な作用を与える点では薬師の薬も魔女の秘薬も変わらず、自分にとって依頼人は皆大切な客だと答えた。
ラウーは遠国の四十歳以上年上の男へ嫁ぐことになり、故郷や家族、友人と別れねばならない不安を打ち明けた。彼女が求めていた惚れ薬は相手を籠絡するためではなく、自ら夫を愛し、異国で生き抜くための心の拠り所とするためのものだった。ロゼは魔女の秘薬を希望として頼られたことを誇らしく感じた。
王女ビッラウラ
夜になってハリージュが行方不明者を探す薬を求めて現れたが、庵にいるラウーを見て、彼女が王女ビッラウラであると判明した。城を抜け出した王女を見つけたハリージュは激しく叱責しかけたものの、無事を喜び、自分が護衛できなかったことを謝罪した。
ビッラウラはロゼへ感謝を伝え、次はゆっくり茶を飲みたいと約束した。ロゼは冬の森を歩く彼女へ新品のアザラシ革のブーツを贈り、再び訪れる可能性が低いと知りながら見送った。
二度目の惚れ薬への疑念
ビッラウラを送り出す際、ロゼはハリージュが再注文した惚れ薬も王女のためなのではないかと嫉妬から問い詰めた。さらに王女に自分を忘れさせないためか、駆け落ちさせるためかと口走ったため、ハリージュは頬を掴んで黙らせ、否定した。
ハリージュは魔女としての信条を破ってまで詮索するロゼを責めず、珍しい態度だと微笑んだ。そしてまたすぐに来ると告げ、王女を城へ送り届けた。
月光の採取
ハリージュはその夜のうちに再び庵を訪れ、王女を保護した礼を述べた。ロゼが惚れ薬の材料を採るため湖へ向かうと知ると同行し、月光が湖面に作る道を進んだ。
ロゼは湖に映る月の光を小瓶へ掬い、惚れ薬の材料であることを明かした。庵へ戻ると、月光を糸のように紡ぐ魔法をハリージュの前で披露した。ハリージュは初めて見る魔女の魔法を熱心に眺め、ロゼは見られる緊張を抱えながら作業を終えた。
安らかな眠り
ロゼが来客の鐘に備え、長年まともに眠っていないと知ったハリージュは激怒した。彼女を寝台へ運び、来客があれば自分が迎えに行くため安心して眠れと命じた。
ロゼは誰かに守られた状態で眠ることへの不安を抱いたが、ハリージュの優しい声に安堵し、深く眠った。翌朝は近年にないほど体調が良く、自分が限界に近かったことを悟った。
ハリージュの朝食
ロゼが眠っている間、ハリージュは部屋を片付け、湖で釣った魚とレタス、林檎バターを使ったサンドウィッチを作った。さらに畑へ水を撒き、ロゼの歌を思い出しながら紅茶も淹れていた。
祖母が生きていた頃の温かな朝を思い出したロゼは、ハリージュへの感謝と幸福を噛みしめた。彼が用意した朝食は、ロゼにとって人生で最も幸せな食事となった。
早すぎた完成
ロゼは前回の混合液と採取した月光を合わせ、二度目の惚れ薬を完成させた。ハリージュは予想外の早さに戸惑ったが、ビッラウラの輿入れが十日後に早まり、自身も国境まで同行すると明かした。
ロゼは別れを早めるように薬を押しつけ、代金も不要だと告げた。ハリージュは彼女を薄情だと評したが、ロゼは幸福な日々をこれ以上望めば一人へ戻れなくなると恐れ、関係を終わらせようとしていた。
窃盗犯の疑い
街の警備兵が庵を訪れ、若く背が高い灰色の髪の男が窃盗犯に似ているとの通報を調べに来た。ロゼはハリージュの名誉を守るため、彼を床下へ隠した。
警備兵は庵へ強引に入り、ハリージュに似た男を知らないかと尋ねた。嘘をつけないロゼは、彼を庇うため初めて虚偽を口にしようとしたが、激しい胸の痛みと呼吸困難に襲われた。
ハリージュの正体
苦しむロゼを見かねたハリージュは自ら姿を現し、彼女を抱き上げて膝に座らせた。警備兵の無礼を咎め、所属と名前を確認したうえで、自分が王宮騎士ハリージュ・アズムであると明かした。
ハリージュは警備兵へ、ロゼを傷つけたことを問題視していると圧力をかけた。庵にいる理由を問われると、自分は男でロゼは女であり、それ以上の説明が必要なら警備団へ直接赴くと答えたため、警備兵たちは二人が恋仲だと思い込み、逃げるように立ち去った。
ロゼの激怒
ロゼは、自分が苦しんでまで隠そうとしたのに本名を明かしたハリージュを責めた。ハリージュは王女が間もなく嫁ぎ、自身も近衛騎士の任を解かれるため、噂が広がる心配は少ないと説明した。
ロゼは彼を守ろうとした思いを無駄にされながら、恋人のように庇われたことを喜ぶ自分にも混乱した。ついに感情を抑えきれず、完成した惚れ薬を押しつけ、激しい罵声と共にハリージュを庵から追い出した。それはロゼが人生で初めて激怒した日となった。
続く食事の贈り物
ハリージュが王女の輿入れ準備で忙しくなると、使用人サフィーナが二日に一度、ロゼの食事を運ぶようになった。主人からロゼが食べ終えるまで帰るなと命じられており、サフィーナはハリージュが初めて見せた我が儘を喜んでいた。
ロゼは理由のない施しを受け続けることに困惑したが、善き魔女と呼ばれると断れなかった。四年前にハリージュが願った善き魔女であろうとすることが、ロゼの生き方そのものになっていた。
輿入れの祭り
サフィーナに勧められ、ロゼは初めて王都の祭りへ出かけた。街はビッラウラの輿入れを祝う花や旗、人々の歓声に包まれていた。
花嫁行列が現れると、ロゼは馬車の中から国民へ手を振るビッラウラを見つけた。その傍らには青いマントをまとい、正装したハリージュが騎乗していた。普段とは異なる騎士としての姿を見たロゼは、その凛々しさに圧倒された。
行列が王都の外れへ至ると、ビッラウラは馬車を止め、遠く森の奥にある魔女の庵へ向けて一礼した。その意味を理解したのはハリージュだけだった。未練を断ち切った王女を乗せ、馬車は異国へ向かって再び進み始めた。
第六章 贅沢な夜と魔女
焼き芋と子供たち
ハリージュが国境へ旅立った後、ロゼは冬の静かな庵で彼を思い出しては気持ちを持て余していた。サフィーナが二日に一度食事を届けるため、忘れようとしてもハリージュの存在を意識させられた。
そんな中、以前泥玉を投げた子供たちが森で遊んでいるのを見つけたロゼは、焼き芋を載せた小舟を対岸へ送った。子供たちは姿を見せなかったが、夕方には芋がなくなっており、ロゼの小さな歩み寄りは受け入れられていた。
灯りのない来訪者
ハリージュの出立からひと月後の夜、来客を知らせる鐘が鳴った。ロゼは帰還したハリージュを期待したが、対岸の人影がランタンを持たず、小舟も桟橋ではなく庵の裏へ回っていることに気付いた。
不審者だと悟ったロゼは薬を探したものの、焦って瓶を割り、相手に存在を悟られたと判断した。抵抗を諦めたロゼは床下の祈祷部屋へ隠れ、息を殺した。
窃盗犯の侵入
男は鍵を開けて庵へ侵入し、若い魔女を襲い、薬の売上金を奪うつもりであることを口にした。ロゼの尻の下にはハリージュから受け取った大金があり、硬貨がずれた音によって隠れ場所を気付かれてしまった。
足音が迫り、ラグが剥がされる気配に、ロゼは激しい恐怖へ襲われた。以前より強く怯えたのは、再びハリージュと過ごしたいと願い、生きることへ執着するようになっていたためであった。
ハリージュの救出
地下室の扉を開けたのはハリージュだった。ロゼは安堵のあまり彼の濡れた腕へしがみつき、呼吸を乱した。ハリージュも震えながらロゼを抱きしめ、怪我がないことを確認した。
侵入者は、以前ハリージュと間違えられた灰色の髪の窃盗犯であった。ハリージュは男をクワで打ち倒し、動けないよう厳重に縛っていた。
冬の湖
ハリージュは庵の異変に気付き、灯りを消したまま近づく窃盗犯を追うため、冬の湖を泳いで小島へ渡っていた。全身が濡れ、体は冷え切っていたため、ロゼは彼に服を脱いで布団へ包まるよう命じた。
ロゼは窃盗犯へ眠り薬と痺れ薬を使い、ハリージュの服を暖炉で乾かした。さらに森へ戻って置いてきた服や剣、青い騎士のマントを回収した。
帰還途中の寄り道
ハリージュは窃盗犯を連行しようとした。ロゼがなぜこの時間に庵へ来たのか尋ねると、ハリージュは任務から戻る途中、彼女が無事に暮らしているか気になり、灯りがついていれば立ち寄ろうと思ったと明かした。
ロゼは冬の湖を泳いでまで助けに来た理由を深く追及せず、心から礼を述べた。ハリージュはその頭を乱暴に撫で、窃盗犯を担いで夜の森へ去った。
ハリージュの恋心
騎士団へ窃盗犯を運んだハリージュは、同僚ゲオネスから今にも男を殺しそうだったと指摘された。実際、地下室で怯えていたロゼの涙を思い出すたび、窃盗犯への怒りは消えなかった。
ハリージュはひと月の任務中も、ロゼが寒さや空腹に苦しんでいないか、寂しがっていないかと案じ続けていた。ビッラウラから魔女の秘薬でも治らない病だと揶揄されるほど、ロゼのことばかり考えていた。
離れていても案じ、会いたいと焦がれる感情の正体を、ハリージュはついに理解した。ロゼに抱いているものが恋であると悟ったのである。
侵入の真相
窃盗犯は酒場で湖の魔女が若い女性だと知り、高貴な客を相手に多額の金を得ていると誤解していた。ロゼがほとんど外出せず、二日に一度サフィーナが食事を運ぶだけの生活を送っていると調べ、容易に襲えると判断していた。
ハリージュはロゼの暮らしが狙われたことを重く受け止めた。帰宅後すぐに休暇を取り、出立前から準備させていた何かを急がせるよう使用人へ命じた。疲労を眠気覚ましで押さえ、再び出かける支度を整えた。
第七章 魔女と騎士と惚れ薬
サフィーナの安堵
サフィーナはロゼの無事を涙ながらに喜び、窃盗犯に荒らされた庵の片付けを手伝った。ロゼは一人で何もできなかった自分を責めていたが、サフィーナの姿を見て、生き延びたことを素直に喜んでもよいのだと思えた。
苦しむハリージュ
掃除を終えて二人で紅茶を飲んでいると、体調を崩したハリージュが使用人に支えられて現れた。使用人が眠気覚ましと別の薬を取り違えたらしく、ハリージュは守秘義務を理由にサフィーナたちを帰し、ロゼへ解毒を求めた。
ハリージュが誤って飲んだのは、ロゼが作った惚れ薬だった。使用者の体液を摂取していなかったため魔法が行き場を失い、激しい熱と苦痛となって体内で暴れていた。
ロゼへの恋情
ハリージュが倒れた拍子に、ロゼの飲んでいた紅茶が彼の口へ入った。惚れ薬が正常に作用すると、ハリージュはロゼを強く求めるようになり、名前で呼ぶよう頼みながら抱きしめた。
彼は激しい衝動に耐え、ロゼを傷つけないよう慎重に触れていた。ロゼは混乱しながらも、薬によるものとはいえ、長年想い続けた相手から慈しまれる幸福を受け入れた。
子供たちの目撃
ハリージュがロゼへ顔を寄せているところを、以前泥玉を投げた子供たちが窓の外から目撃した。子供たちはすぐに逃げ去り、ロゼは二人の様子を言いふらされると取り乱した。
ロゼは怒りと羞恥のあまり泣き出し、今すぐ正気に戻るよう求めた。しかしハリージュは、自分はすでに正気であり、ロゼへ思うまま触れたい衝動を必死に抑えているのだと訴えた。
四年前の記憶
薬の効果が切れるまで話をすることになり、ハリージュはロゼが四年前から自分を知っていた理由を尋ねた。ロゼは街で青いマントを着た彼を見かけ、その場で名前を知ったと答えた。
会話を交わしていないのに覚えていたと知り、ハリージュは喜びを隠せなかった。やがて薬の効果が切れ、彼はロゼから離れたが、突然結婚してほしいと告げた。
魔女との結婚
ロゼは、求婚も惚れ薬の影響だと考えて拒んだ。しかしハリージュは正気に戻っており、ロゼと結婚すれば幸せになれると断言した。
ロゼは、魔女が国や法に属さず、人間とは異なる存在であることを理由に挙げた。将来、彼の倫理に反する薬を作っても裁かれない可能性や、魔女が結婚せず子を残してきた慣習も説明したが、ハリージュはどれも問題にしなかった。
死を喜ばれる魔女
追い詰められたロゼは、魔女は死を喜ばれる存在なのだと漏らした。四年前、祖母の死を喜ぶ人々の会話を聞いていたことを知ったハリージュは、彼女が抱えてきた傷を理解した。
それでもハリージュは、ロゼの死を喜ぶ者がいれば全員殴ると告げた。彼が望んでいるのは魔女であるロゼであり、冬の湖へ飛び込んだのも、彼女を愛しているからだと明かした。
答えられない想い
ハリージュは、自分を好きかとロゼへ尋ねた。嘘をつけないロゼは、答えれば本心が露わになるため、嘘になるから答えたくないと返した。
それはハリージュだけに許された、信頼を示す言葉だった。彼はロゼが嫌いなら簡単に否定できたはずだと悟り、嬉しそうに顔を寄せた。
泥爆弾の救援
二人が口づけを交わそうとした瞬間、ハリージュの後頭部へ泥玉が命中した。窓から二人を見た子供たちが、ロゼが男に乱暴されていると誤解し、大人たちを連れて助けに来たのである。
子供たちは魔女もただの女の子だと叫び、再び泥玉を構えた。ロゼは羞恥に顔を赤くしながら、その場へ蹲った。
エピローグ魔女
休日の魔女の庵
森の奥の湖にある魔女の庵は、長い年月を経ても変わらず存在していた。ロゼは休日になるとハリージュと共に庵を訪れ、閉店中の札を開店中へ戻して仕事を始めた。
ハリージュは休暇のたびに同行し、テーブルクロスを敷いていつもの席で本を読みながら、ロゼと同じ時間を過ごしていた。
ハリージュの屋敷
ビッラウラを送り届けた後も、ハリージュは王宮騎士として勤め続けていた。一方、強盗事件を経験したロゼは、夜だけハリージュの屋敷で食客として暮らすようになっていた。
ハリージュは庵に住むと言い張ったが、ロゼは代々の魔女が守った場所を離れられなかった。そのため昼は庵で魔女として働き、夜は屋敷で過ごす形に落ち着いていた。
街の人々との変化
街の人々は以前よりロゼへ友好的になり、時折森まで様子を見に来るようになった。子供たちも湖で遊び、庵の前へ木の実を置いていくことがあった。
ロゼは人々の心が完全に変わったとは考えなかったが、向けられる厚意をそのまま受け入れていた。
新しいブーツ
ロゼはハリージュから贈られた新しいブーツを履いていた。黒い革にガラスビーズの蔦模様が施された、実用性と美しさを兼ね備えた品であり、ロゼは歩くたびに輝く様子を気に入っていた。
ラウーからの手紙
庵のポストには、ビッラウラから三通目の手紙が届いていた。手紙には異国での暮らしや近況が綴られ、さらに懐妊したことが記されていた。
ハリージュは驚愕したが、ロゼはビッラウラが望んで夫婦となり、惚れ薬も役立ったらしいと伝えた。
ニフリート王の服薬
ニフリート王は、幼い頃のビッラウラに亡き妻の面影を見て、成人まで待って正式に求婚していた。しかし結婚後も彼女へ無理を強いず、恋愛関係を求めようとしなかった。
焦れたビッラウラは、関係が変わらなければ薬を飲むと脅した。王はそれを毒薬と誤解し、彼女を守るため自ら飲み干したため、結果として惚れ薬が王に作用していた。
ティエンの荷物
来客の鐘が鳴り、ロゼとハリージュが窓を覗くと、大量の荷物を積んだ三頭のロバを連れたティエンが立っていた。
ハリージュは贈り物ではないかと警戒し、必要な物は自分が揃えるため、他の男から受け取るなと告げた。ロゼはその嫉妬に赤くなりながらも、ティエンが祖母から自分を託され、親代わりとして世話をしてきたことを説明した。
ロゼの持参金
ティエンが運んできた大量の荷物について、ロゼはついに持参金のつもりなのだと明かした。
ハリージュは複雑な表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。持参金を受け入れようとするロゼの言葉は、彼との結婚を考え始めていることを示していた。
森にはやがて白い花が咲き、赤く甘い実を結ぶ季節が訪れようとしていた。
番外編 魔女の影と、幸せのゆりかご
庵への同居提案
強盗事件と惚れ薬の誤飲から二か月後、ハリージュは防犯のため自分も魔女の庵に住むと言い張った。ロゼは新しい鍵や丈夫な舟、自警団の巡回など対策を進めていたが、春になれば湖を泳いで渡る者もいるため、ハリージュの心配は消えていなかった。
想いが通じ合ってからも恋人らしい関係に慣れないロゼは、彼と同居する状況に耐えられないと拒んだ。ハリージュは庵の粗末さを気にせず、ロゼを育てた家だから好きなのだと告げたが、彼女の戸惑いを察して話を一度引いた。
名前を呼ぶ距離
ハリージュは同居の代わりに、いい加減名前で呼んでほしいと求めた。拒み続けるロゼの額へ口づけ、自分たちはこうした触れ合いを許される仲だと示したため、ロゼは観念してハリージュ様と呼んだ。
さらに唇を指で撫でられたロゼは、彼の美しさと親密な仕草に耐えきれず、床へ崩れ落ちた。ハリージュはそんな反応にも慣れた様子で彼女を抱き起こした。
シャーベットへの誘い
翌日、ハリージュはビッラウラの成婚を記念して振る舞われる氷菓子を食べに行こうとロゼを誘った。菓子と聞いたロゼは喜んで支度し、二人は辻馬車で街へ向かった。
道中、ハリージュは泥玉事件と輿入れの行列で、ローブを脱いだロゼを見かけていたと明かした。パレードで目が合ったのはロゼの思い込みではなく、ハリージュも偶然会えたことを喜んでいた。
ハリージュの屋敷
馬車から見える静かな道の先に自宅があると教えたハリージュは、何かあった時だけでなく、何もなくても好きなだけ訪れてよいと告げた。さらに、自分の家もロゼに好きになってほしいと願った。
ロゼはその優しさに胸を高鳴らせながら、まともな返事もできずに小さく応じた。
街での恋人扱い
街の人々はハリージュを、休日にも見回りをする親切な男として慕っていた。彼がロゼを連れだと紹介すると、周囲は恋人がいたのかと騒ぎ始めた。
ロゼを普通の娘だと評する者に、ハリージュはどう見ても可愛いと即座に言い返した。耐えられなくなったロゼが離れると、ハリージュは手を繋ぎたいと正面から尋ねた。嫌ではないため断れないロゼは、言いたくないと答えながら彼の手を取った。
初めてのシャーベット
初めて口にした林檎味のシャーベットに、ロゼは夢中になった。配布に間に合わず泣いていた幼い兄妹を見つけると、ハリージュは自分の分を迷わず譲った。
最初から食べるつもりはなかったという彼に、ロゼは自分の分を一口だけ分けると申し出た。残り少ない菓子を惜しみながらも、屈んで口を開けたハリージュへ食べさせた。
ハリージュの背中
街を歩き回って疲れ切ったロゼは、帰りの馬車で眠ってしまった。森で目を覚ますと、ハリージュに背負われていた。
恥ずかしさから降ろすよう抵抗したが、彼はロゼを羽より軽いと言って離さなかった。顔を見なくて済む背中の上で、ロゼは初めて自然にハリージュさんと呼んだ。
夜だけの暮らし
街で人々が親しみを込めて呼ぶハリージュさんという響きを聞き、ロゼもその呼び方を好きになっていた。
ロゼは彼の背中へ顔を寄せたまま、夜だけ屋敷で世話になってもよいかと尋ねた。ハリージュは驚きながらも即座に承諾した。二人の長い影が春の森を進む中、ロゼは幼い頃の温かな記憶を思い出し、安心して再び目を閉じた。
【電子限定特典】 番外編 睨み付けられた蛙と、 魔女の靴
納品されたブーツ
アズム邸のサロンでは、依頼品の納期を大幅に遅らせた商人が、ハリージュの厳しい視線に怯えていた。だがハリージュが気にしていたのは遅延や値段ではなく、完成したブーツが若い女性に喜ばれるデザインかどうかであった。
黒い生地に金色の装飾を施したブーツは、華やかさと上品さを備え、履くほど足に馴染む実用的な品であった。ビッラウラへ予備の靴を譲ったロゼのため、ハリージュが出立前から特別に注文していたのである。
サフィーナのお墨付き
ハリージュはサフィーナにも意見を求めた。贈る相手を明かされていなかったにもかかわらず、サフィーナはロゼに似合うと確信しているように答えた。
その言葉に安堵したハリージュは、さらに女性の感想を求め、台所で働く年配の使用人まで呼び寄せた。
キッチンメイドの詮索
呼ばれたキッチンメイドは、ブーツを自分への贈り物だと冗談を言った後、誰に贈るのか、いつその女性を屋敷へ連れてくるのかとハリージュを問い詰めた。
ハリージュは詮索を避けながら感想だけを求めた。キッチンメイドは、黒いブーツは可愛らしい女性にも美しい女性にも似合うと太鼓判を押した。
初めて選んだ贈り物
二人の使用人から評価を得て、ハリージュはようやく安心した。これまで女性への贈り物はすべてサフィーナに任せており、自ら選ぶのは初めてであった。
商人が包装紙やリボンを勧めるたび、ハリージュは真剣に睨みつけて選び続けた。怯える商人とは対照的に、使用人たちはロゼへの贈り物に悩む主人の姿を微笑ましく見守っていた。
同シリーズ

その他フィクション

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