小説「夜哭烏 羽州ぼろ鳶(2)」感想・ネタバレ・アニメ化

小説「夜哭烏 羽州ぼろ鳶(2)」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
江戸時代の火消しを主人公とし、義務・身分・制度の縛りの中で「火を消す」だけでなく、人々を救うことに命を懸ける男たちの群像劇である。

内容紹介
明和の大火から一年後、江戸の街は復興の途上にあった。しかし、相次ぐ不審火や放火事件が市中を恐怖に陥れる中、大名火消し「加賀鳶」を率いる大音勘九郎が身内を攫われ、出動を妨害されるという陰謀に巻き込まれる。火消としての誇りを守れず諦めようとする勘九郎に対し、羽州ぼろ鳶組の頭取・松永源吾は仲間たちと共に立ち上がる。鐘の音が鳴らず、制度の枷が動きを縛る中でも、源吾たちは業火と不正に抗して江戸の人々の命を守るため奔走する。

主要キャラクター

  • 松永 源吾(まつなが げんご):羽州新庄藩の火消頭取であり、かつて「火喰鳥」の異名を持った男である。源吾は低い身分から鳶を集め、ぼろ鳶組を立て直し、江戸の業火や陰謀に立ち向かう意志を持つ。
  • 大音 勘九郎(おおと かんくろう):江戸随一の火消「加賀鳶」を率いる頭であり、「八咫烏」の異名を持つ。勘九郎は身内を攫われ出動を妨害されるという不正の標的となり、火消としての矜持と家族への想いの間で葛藤する。
  • 鳥越 新之助(とりごえ しんのすけ):ぼろ鳶組の頭取並の立場にある若き鳶。源吾に拠り所を持ちつつ、鳶としての誇りを胸に、制度の不条理を打破しようと奮闘する。

物語の特徴

本作の魅力は、火消しという職業のリアリズムと江戸時代特有の制度の重さが交錯するところにある。火を消すことそのものだけでなく、出動を妨げる制度的な制約(たとえば太鼓や鐘の鳴らし方の規定など)や不審火を許す社会背景が、物語にミステリアスで切迫した空気をもたらす。さらに、主人公たちの諦めない意志、家族や仲間との絆、苦難に直面しても火消しとして命をかける姿勢が読者の胸を打つ。制度と格の差、貧富の格差などの社会問題も織り込まれており、単なる時代活劇を超えて深みがある。

書籍情報

夜哭烏 羽州ぼろ鳶
著者:今村翔吾 氏
出版社・レーベル 伝社文庫(祥伝社)
発売日:2017年7月
ISBNコード:9784396343378

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あらすじ・内容

命の選択に、正解はあるか!?
火消としての矜持を捨てない男の姿に感涙!
「八咫烏」の異名を取り、江戸一番の火消加賀鳶を率いる大音勘九郎を非道な罠が襲う。身内を攫い、出動を妨害、被害の拡大を狙う何者かに標的にされたのだ。家族を諦めようとする勘九郎に対し、「火喰鳥」松永源吾率いる羽州「ぼろ鳶」組は、大音一家を救い、卑劣な敵を止めるため、果敢に出張るが……。業火を前に命を張った男たちの団結。手に汗握る傑作時代小説。

夜哭烏――羽州ぼろ鳶

感想

アニメ化されると聞いて、原作である今作『夜哭烏――羽州ぼろ鳶』の第二巻を手に取った。読み進めるうちに、火消したちの熱い心意気に、すっかり心を奪われてしまったのである。

物語は、火付盗賊改方の長谷川さんが京都へ異動になったことがきっかけで、江戸の町に不穏な空気が漂い始める。なんと、火付けをする者が火消しの家族を攫い、「火消しをするな」と脅迫するという、なんとも卑劣な事件が勃発するのだ。その背後には、田沼意次の失脚を狙う者たちの影が見え隠れする。

そんな状況を打破するのが、「火喰鳥」の異名を持つ松永源吾率いる羽州「ぼろ鳶」組だ。彼らは、大音一家を救い、卑劣な敵を打ち倒すため、危険を顧みず立ち上がる。業火を前に命を懸ける男たちの姿は、まさに圧巻。手に汗握る展開に、ページをめくる手が止まらなかった。

特に印象的だったのは、源吾の行動力と、仲間を思う熱い気持ちだ。武家の門を躊躇なく壊してしまうシーンには、江戸火消しらしくて思わず笑ってしまった。そして、まさかの田沼意次ご本人が深雪に会いに行く展開には、驚きを隠せなかった。

この作品は、単なる時代小説ではない。火消したちの戦いを通して、人間の強さや優しさ、そして、生きる意味を問いかけてくる。困難な状況に立ち向かう彼らの姿は、私たちに勇気を与えてくれるだろう。

アニメ化によって、この作品の魅力がどのように表現されるのか、今からとても楽しみである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

新庄藩火消(羽州ぼろ鳶組)

松永 源吾(まつなが げんご)

江戸方角火消の総指揮を担う“火喰鳥”である。命を最優先に現場判断を下し、矜持と柔軟さを両立した人物である。
・所属・役職:新庄藩火消 御頭/東の大関格
・主な行動:半鐘不鳴の連鎖で孤軍奮闘し、麹町・丸屋町・深川木場で陣頭指揮を執った。鳳丸を用いた波圧鎮火を断行し、江戸壊滅を回避した。
・変化・特記:加賀鳶・大音勘九郎と並び立ち、町・武家の垣根を越えた共闘を実現した。深雪の懐胎を受け、家長としての覚悟を固めた。

鳥越 新之助(とりごえ しんのすけ)

若き頭株。剣速と記憶力で現場を切り拓く切先である。
・所属・役職:新庄藩火消 頭株
・主な行動:白金・麹町・深川で先陣を務め、箪笥町では単独で賊十二名を制圧して人質二名を救出した。風早甚平を甲板戦で制圧した。
・変化・特記:軽挙を叱責されつつも実力を認められ、隊の柱として信任を得た。

加持 星十郎(かじ せいじゅうろう)

智略の参謀。常識の盲点を突いて事態を切り開く冷静な策士である。
・所属・役職:新庄藩与力格/調略・探索担当
・主な行動:「太鼓→半鐘」の前提を逆手に取る脅迫手口を暴き、牛込特定の暗号解読、火盗の運用を主導した。
・変化・特記:長谷川平蔵の後ろ盾を得て機動力が増し、現場と政の橋渡し役を強化した。

折下 左門(おりさか さもん)

折衝と法手続きの要。剛胆さと分別を兼ね備える調停人である。
・所属・役職:新庄藩家老付/折衝担当
・主な行動:奥平家への直訴を法手続きへ誘導、老中筋への連絡線を確保した。
・変化・特記:平時の盾として機能し、非常時の刃を支えた。

彦弥(ひこや)/寅次郎(とらじろう)

現場の双柱。俊敏の梯子師と剛腕の壊し手である。
・所属・役職:新庄藩火消 組頭
・主な行動:白金・丸屋町で危険な壊し手突入と散水遮断を遂行、牛込偽出火作戦で鐘を鳴らし陽動に成功した。
・変化・特記:継ぎ接ぎ装束の矜持を体現し、隊の士気を牽引した。

深雪(みゆき)

内政と後方の中枢。家政と補給を掌握し、隊を生かす実務の核である。
・所属・役職:松永家当主代行/補給・饗応・会議運営
・主な行動:非常時の人員偽装・装備配備、会議運営の規律化、人心の統御を担った。
・変化・特記:懐胎を明かし、源吾の生還意志を支える“錨”となった。

町火消(加賀鳶・万組 ほか)

大音 勘九郎(おおと かんくろう)

加賀鳶の総大将“八咫烏”。鉄の統率と火中決断で知られる。
・所属・役職:加賀藩江戸火消 大頭/番付西の大関格
・主な行動:麹町・深川で新庄と並立指揮、身代人質の逆風下でも出動を決断した。
・変化・特記:宿命と父としての情の狭間でなお職責を貫徹した。

牙八(きばはち)

“狗神”の異名を持つ鋸の名手。粗剛だが情に厚い。
・所属・役職:加賀鳶 八番組頭 → 一時新庄庇護下
・主な行動:火除地構築で大立ち回り。お琳誘拐後は新庄に土下座で協力を懇請し、修繕・物資面で力を尽くした。
・変化・特記:敵対心を越えて相互信頼に至り、連携の要となった。

清水 陣内/仙助/甚右衛門

加賀の実働三羽。避難誘導・煽ぎ・切り落としの達人である。
・所属・役職:加賀鳶 組頭級
・主な行動:深川最前線で延焼線を押し止め、退路の確保に貢献した。

武蔵(むさし)

万組の“魁”。竜吐水の先掛けに長ける技の化身である。
・所属・役職:万組 頭 → 解散後 新庄藩火消 一番組頭・水番
・主な行動:先打ちで人命を救い、深川では万組を率い突破口を開いた。
・変化・特記:嘆願により江戸残留を許され、新庄の第一線指揮を担うこととなった。

お琳(りん)

勘九郎の一人娘。芯の強さと観察眼を備える。
・所属・役職:加賀鳶縁者
・主な行動:誘拐の最中も暗号で居所を伝え、自らも現場の士気を鼓舞した。
・変化・特記:父の背を継ぐ覚悟を示し、“ただの娘”を卒業した。

武家火消・定火消・所々火消

和間 久右衛門(わま きゅうえもん)/中田 和次郎(なかだ わじろう)/神保 頼母(じんぼ たのも)

太鼓を拒み自刃に至った三頭。
・所属・役職:奥平家・諏訪家・松平家 火消頭
・主な行動:異常な“太鼓不鳴”を引き起こし、連鎖的混乱の震源となった。
・変化・特記:脅迫・内通・心理攪乱の標的であり、事件の鍵を握る犠牲者である。

賀来 浪江(かく なみえ)

奥平家江戸家老。
・所属・役職:奥平家 家老
・主な行動:事情聴取に応じ、和間の異変を証言した。
・特記:組織の沈黙と現場の乖離を象徴する立場であった。

所々火消(伊達家ほか)

家格と規例の板挟みで初動を失った武家勢。
・所属・役職:諸藩江戸屋敷 火消侍
・主な行動:太鼓・半鐘破壊により機能不全となるも、万組の鐘で再起した。

幕府・公権

田沼 意次(たぬま おきつぐ)

老中首座。実利と胆力を備えた治政の中枢である。
・所属・役職:江戸幕府 老中首座
・主な行動:復興を主導し、今回の政争絡みの攪乱を看破。火消法の見直しを示唆し、鳳丸の件を“不問”に落とし込んだ。
・特記:一橋の策動を抑止しつつ、市井の動揺収束を図った。

長谷川 平蔵(はせがわ へいぞう)

火付盗賊改方の棟梁。
・所属・役職:火付盗賊改方 長官
・主な行動:星十郎に便宜を与え、探索線を強化した。
・特記:政と現場の連携点として機能した。

島田 政弥(しまだ まさや)

火盗方の現場役。
・所属・役職:火付盗賊改方 与力
・主な行動:当初は後手に回るも、以後は拘束・踏み込みで巻き返した。

一橋家系・攪乱勢

風早 甚平(かざはや じんぺい)

一橋家に育成された剣客。忠と打算が絡む“駒”である。
・所属・役職:一橋家 家臣(工作)
・主な行動:鳳丸で新之助と死闘、木場攪乱の統括。
・特記:最期に「旗本」「千両」「殿」を遺し、背後の権力を仄めかした。

市井・周辺

権五郎(ごんごろう)

鳳丸の肝の船頭。海の勘で賭けに乗る漢である。
・所属・役職:弁財船「鳳丸」 船頭
・主な行動:舵喪失後も操艦をやり切り、体当たり鎮火に協力した。
・特記:江戸救済の無名の功労者として記憶されるべき存在である。

お七(おしち)

町娘。胆力と機転で局面を動かした。
・所属・役職:市井
・主な行動:囚われの身から暗号を発し救出に繋げた。
・特記:新之助・彦弥と縁深く、市井の“声”を具現する。

展開まとめ

序章

火災現場の混乱
白金二丁目の商家から出火した火は周囲の建物へも延焼し、夜半の街を覆い尽くしていた。新庄藩火消が駆けつけると、すでに町火消「て組」が先着しており、両隣を潰すべきだと主張した。新之助はまだ間に合うと反論し、指揮を執ろうとしたが、言い間違いや戸惑いを見せ、仲間からも急かされていた。彦弥は苛立ちを隠さず、纏を担いで屋根に飛び上がり、周囲を驚かせた。

羽州ぼろ鳶組の登場
寅次郎は部下を率いて突入し、巨斧を振るって柱を打ち砕いた。その怪力に町火消たちは唖然とし、羽州の鳶の存在に驚愕した。彦弥は屋根の上で纏を掲げ、新之助は指揮を続けながら周囲に応じていた。やがて彦弥が羽州ぼろ鳶組と名乗りを上げると、野次馬から歓声が沸き、組の面々はさらに勢いを増して消火作業に当たった。

第一章 鳴らずの鐘

明和の大火の記憶と二組の評価
明和の大火は九百余の町と多数の大名屋敷・寺社を焼き、膨大な犠牲者を出した出来事であった。加賀鳶は小塚原から浅草へと火勢を押し返して鎮火させ、統制と腕前を示したと記されている。一方、新庄藩火消は日本橋の渡河困難を戸板で補って群衆を救い、加賀鳶との合流で北進を止め、駒込でも活躍したと語られていた。

ぼろ鳶組の由来と呼称の変容
新庄藩は飢饉で財政が傾き、継ぎ接ぎの衣装から蔑称「羽州ぼろ鳶組」と呼ばれていた。しかし、身分にとらわれず救命を最優先し、妨げる相手を相手取ってでも排除する姿勢が庶民の心を掴んだ。大火後は畏敬と愛着を込めて、衣装が新調されたのちもその呼称が親しまれていた。

復興加速と田沼意次の主導
焼け野原となった江戸は一年で活気を取り戻しつつあった。田沼意次が早期から復興を主導し、財源投入を渋る同僚を一喝して方針を定めたことが大きい。全火消に瓦礫撤去を命じた施策も奏功し、町の再建は通常より速やかに進行していた。

訓練の区切りと会議の常態
白金の火災を四半刻で抑え込んだ翌日、新之助は早めに訓練を切り上げた。新庄藩火消は十日に一度の会議を恒例とし、出火予測や風向への備えから隊員の私事のフォローまで幅広く議題にしていた。御頭の不在で会場は講堂となり、この日は新之助、彦弥、寅次郎の三名で進められた。

不在者の動向と新之助の重圧
御頭は国元の防災体制整備の下見で帰郷し、奥方同道の短期滞在の予定とされていた。加持星十郎は京で暦の討議に随行し、さらに京都西町奉行・長谷川平蔵から奇怪な事件への助力を請われ、帰還は遅れる見込みであった。曲者揃いの隊を束ねる新之助は、大火が再来した際に独力で防ぎ得るかという不安を抱えていた。

相次ぐ出火の整理と先着の不自然
近頃は再建直後の家屋からも出火が続き、各組の鎮火実績が蓄積していた。寅次郎は湯島天神下町の火事で板倉家中屋敷至近にもかかわらず、半里離れたわ組が先着している点に疑問を呈した。彦弥は功名狙いの放火を示唆したが、火付けは露見すれば火炙りであり、報奨も名誉のみであるため割に合わないと結論づけられた。わずかな不審は残ったものの、この場では深追いせずに収められていた。

復興任務と市井の反応
新庄藩火消は田沼意次の命により復興手伝いに出て、瓦礫撤去と町割り点検を進めていた。往来では「ぼろ鳶」への声かけが相次ぎ、新調の装束であっても通称は親しまれたままであった。新之助は呼称への複雑な心境を抱えつつ作業を続けていた。

焦げ臭の察知と出火地点の特定
新之助は風に混じる燻りを感じ、彦弥が屋根上から北方の煙を確認した。地点は銀座南端の丸屋町と見極められ、八丁火消の奥平家や周辺大名の出動が想定された。道具不足を踏まえ、新之助は自ら半隊を先発し、彦弥に装備回収を命じた。

半鐘が鳴らない町と空白の現場
丸屋町に到着すると野次馬は溢れていたが、火消の姿は無く、両替商・豊郷屋の火勢は拡大していた。新之助が奥平家とも組の不在を質すと、町衆から奥平家が門を閉ざして応じない実情が伝えられた。

先打ちの禁と板挟み
駆け付けたも組副頭・時太は、太鼓が鳴らぬ以上半鐘は打てないと語り、先打ちは軽くて誠、重ければ死罪という規例を示した。新之助は規制の重さに歯噛みしつつも、方角火消として御城の危急を看過できぬと判断した。

退避誘導と戦術の転換
新之助は野次馬を北東へ退避させ、隊で消火に当たる決断を下した。だが装備欠如と防火装束なしでは定法の遂行は困難であり、寅次郎は危険を承知で壊し手の突入を進言した。新之助は豊郷屋を含む三軒の損失を覚悟し、両隣の切断による延焼阻止へと作戦を切り替えた。

壊し手の突撃と装備の合流
寅次郎は大鉞で柱を粉砕し、壊し手は熱波と火傷に晒されながらも突破口を開いた。やがて彦弥が竜吐水二基と玄蕃桶、増援を率いて到着し、新之助の指示で壊し手の頭上に散水して戦線を維持した。

竜吐水の運用と火除地の確保
限られた水槽容量を玄蕃桶で補給しつつ、炎の動きに応じた散水で勢いを削いだ。装備本来の用法を外れた運用であったが効果は上がり、半刻の奮闘で火除地の形成に成功した。野次馬からは歓声が上がり、新庄藩火消の働きが称えられた。

鎮圧後の負傷と新之助の怒り
寅次郎は火傷と熱に消耗しつつ任を果たし、新之助は労いながら介抱させた。新之助の胸中には、太鼓を打たず出動を拒むかのように振る舞った奥平家への怒りが渦巻き、東方の屋敷を強く睨み付けるに至ったのである。

類焼の規模と隊の消耗
丸屋町の出火は周囲六軒へ類焼し、死者は出なかったが負傷者は多かった。管轄の火消が現れず、方角火消の新庄藩は装備不十分のまま突入したため被害は拡大した。壊し手は全員が火傷と疲労で消耗し、先頭に立った寅次郎は高熱で床に伏したのである。

新之助の直訴と折下左門の制止
新之助は奥平家の不出動を糾すべく邸へ向かい、折下左門は公的手続きを促して制止したが、新之助は配下を危険に晒した責をただすと強硬に主張した。門前では門番が取り次ぎを拒み、押し問答となったが、左門が老中田沼への相談を示唆すると態度が一変し、奥へ取り次がれた。

江戸家老・賀来浪江との会談
新之助と左門は奥平家江戸家老の賀来浪江と対面した。左門は世間話で場を和ませたのち本題に踏み込み、出動が遅れた理由を質した。賀来は苦渋をにじませ、当日、火消頭・和間久右衛門の様子が尋常でなかったと明かした。

和間久右衛門の異常と太鼓破壊
火事の報せにもかかわらず、和間は腕を組んで目を閉じ、太鼓を打つことを拒み続けた。配下が裁可なく太鼓へ近づくと刀を抜き、一刀の下に太鼓を両断したという。無外流の達人である和間は取り押さえにも抵抗し、説得は難航した。

腹切りと幕閣の不可解な裁定
やがて新庄藩が消火に当たっているとの報が届くと、和間は刀を収めたが、その直後に自刃したと伝えられた。素行不良の兆しはなく、待望の嫡男が生まれたばかりで、家中の信望も厚かったという。奥平家は大目付へ速やかに報告し、厳罰を覚悟したが、返ってきた裁定は一切のお咎め無し、ただし他言無用という異例の内容であった。

残された疑問と新之助の空白
理由なき沈黙と自害、そして幕閣の迅速かつ不可解な沙汰に、左門は不審を深めた。怒りの矛先を失った新之助は、京にいる加持星十郎の見立てを仰ぎたいと嘆息し、落日を仰ぎながら答えの見えぬ余韻に沈んだのである。

麹町での異常出火と集合
弥生十六日の黄昏、麹町三丁目で空き家から出火が発生した。火付けの疑いが濃厚で、太鼓も半鐘も鳴らず、逃げ惑う人々の報で新庄藩火消が教練場へ即時集合したのである。奉書の未発給が確認されたが、方角火消として出動を決め、現地対応を優先した。

寅次郎の復帰と「朱土竜」の記憶
新之助は寅次郎の待機を命じていたが、寅次郎は負傷を押して合流した。先の大火で新之助が土蔵の扉を開けて焰風を招いた「朱土竜」の件が引き合いに出され、互いに軽口を交わしつつ出立が整えられた。

定火消屋敷の沈黙と大名方の不在
現地へ向かう途中、半蔵門外の定火消屋敷前に人だかりができ、太鼓が打たれない異常が判明した。く組の町火消は門を叩き続けるも反応はなく、八丁火消は水野・永井が登城中、南部は不動、前田のみ本郷の上屋敷に使者を走らせたという。定火消は最上位にもかかわらず沈黙し、初動は著しく遅れていた。

兵力不足と判断の岐路
新之助は自隊のみでの消火を決断したが、同行の町火消からは人員不足を指摘された。新庄藩は三組のうち二組のみで、先日の負傷者も多く、総力は万全ではない。新之助は門を激しく叩きつつも、焦燥を抑えきれずにいた。

平常心の回復と緊張の緩和
彦弥と寅次郎が割って入り、新之助に平静を促した。新之助は鬼の御頭と般若の奥方を引き合いに出して場を和ませようとしたが、二人は蒼白のまま空を仰ぎ、背後の気配を示した。振り返ると、御頭の奥方・深雪が能面のような無表情で立っており、新之助は狼狽したのである。

火喰鳥・松永源吾の帰還
その直後、御頭・松永源吾が指示を終えて姿を現した。再会するや否や新之助は拳骨を受けたが、叱責はむしろ心強さをもたらし、胸中の不安は薄らいだ。新之助は涙を拭い、隊は御頭の下で改めて体勢を整え、麹町の火勢に立ち向かう準備を進めたのである。

源吾と深雪、麹町へ
新庄から戻った松永源吾は、麹町方面の黒煙に異常を察知。深雪は自ら駕籠を手配して同行を決め、駕籠舁きも巻き込み一路現場へ。

定火消屋敷の沈黙―太鼓を叩かせる
半蔵門外の定火消屋敷は応答なし。水野・永井は登城中、南部は動かず、前田は本郷へ使者。新之助らの兵力は百五十に満たず、膠着のなか源吾は掛矢で門を叩き破り「四十七で討ち入りだ」と号令。寅次郎らが穴を穿ち、彦弥が塀越えで内部へ侵入して陣太鼓を乱打させる。全域で太鼓・半鐘が連鎖し、ようやく市中の出動が動き出した。屋敷内の火消侍は自責に沈むが、源吾は追及より先に現場を優先する。

現場布陣と加賀鳶の参戦
火勢は八軒に拡大。源吾は風向と月齢を読み、西に三・南北二・東一の火除地を指示し、まず西を自ら受け持つ。ほどなく加賀鳶が大挙到着。大頭・大音勘九郎(“八咫烏”)が目代・小頭役を手際よく配し、北・南・東の全域を「すべて引き受ける」と宣言。源吾と勘九郎、火消番付の両大関が並び立ち、作業は一気に加速する。

鎮火、そして互いへの意識
ぼろ鳶と加賀鳶の競い合いは凄烈で、一刻で鎮火。加賀側からも「ぼろ鳶に後れを取るな」と鼓舞が飛び、東を任された小頭役・牙八は苛烈な叱咤で隊を押し切る。源吾はその声まで拾い、互いが互いを強く意識していることを確信する。

牙八(狗神)の素性
牙八は東の前頭七枚目、巨大な鋸で柱を断つ“狗神”。幼少期、酒乱の父に母が刃を向け家に火を放った過去があり、炎上現場で勘九郎に救われて加賀鳶へ。激昂しやすさが番付の足枷だが、勘九郎には子犬のように従順。源吾には対抗心を燃やす。

余韻と一幕
焼け跡の後処理で源吾がぽろりと昔話を漏らすと、新之助は“般若”絡みの言い訳を取り違え、源吾は「後で伝える」とため息。深雪は背後で町の女たちと談笑しながら、静かに戦い上がりを見送っていた。

源吾の帰還と情報整理
源吾が戻った翌昼、新庄藩の面々は源吾宅に集う。折下左門が諏訪主殿頭配下の内情を探索した結果、定火消の火消頭・中田和次郎は十日ほど前から様子がおかしく、ぶつぶつ独語や奇声、憔悴が見られたという。さらに昨夜、和次郎は自害。奥平家でも火消頭・和間久右衛門が太鼓を拒み自刃しており、二件の“太鼓不鳴→自害”が不気味に響き合う。

火付盗賊改方の不信と“手口”の差
島田政弥の火盗は要領を得ず、朱土竜のような高度な仕掛けでも、真秀(秀助)のような天才的放火でもないらしい。源吾は秀助の形見の朱い鈴を確かめ、復讐の連鎖を断つ決意を新たにする。

非番の調査、麹町へ
弥生十八日、源吾は非番ながら麹町へ。道連れは新之助と子犬・鳶丸。途中、人だかりの先で“親子の土左衛門”に遭遇。火盗は排除的で情報を伏せるが、新之助は一瞥で見抜く——溺死ではなく斬殺のうえ遺棄、しかも迷いのない刀傷は熟練の腕前。母の手拭いの柄が、諏訪家で肩を落としていた者の腰に挟まれていた反物と断ち口まで一致している、と異常な記憶力で断言する。

浮かぶ仮説と重なる嫌な気配
奥平は“頭が単独で暴発”、諏訪は“配下ごと沈黙”——同じ“太鼓不鳴”でも様相が異なる。それでも二家の頭が続けて自害、さらに麹町で親子が斬られて濠に棄てられる——線がどこかで繋がっている。諏訪火消屋敷は内から息を潜める気配のみで応答なし。源吾と新之助は引き揚げるが、御城を仰ぎ見た源吾は「きな臭い」と低く呟く。鳶丸だけが無垢な眼で二人を見上げ、物語は次の不穏へと進む。

緊急の集会と方針決定
源吾は奇怪な事件の解明のため、夕刻に一同を集めた。左門も仕事を後回しにして駆け付けた。会議の末に、源吾は長谷川平蔵へ事態を伝えると宣言した。島田では頼りにならず、背後に大きな力を感じるためであった。深雪は老中田沼直々に訴えるべきだと口にし、皆を驚かせた。

食事と深雪のけじめ
会議後、恒例の食事の場で深雪が鍋を振る舞った。だが同時に、家を会議に使う以上は費用を徴収すると告げた。これは慣れを防ぎ、感謝を損なわせないための深雪なりの信念であった。左門や寅次郎には感謝を示し、彦弥には多方面での女性関係を理由に百二十文を徴収した。新之助も般若と口にした件で二両を求められ、突っ伏して許しを請うこととなった。

星十郎召還の決意
深雪は会話の中で星十郎の必要性を示唆した。源吾も左門もその意図を理解し、京都西奉行として遠方にいる彼を呼び戻す決意を固めた。新之助にも笑みが戻り、一同の方針が定まったのである。

第二章 魁の火消

半鐘先打ちの異変と出動
源吾は半鐘先打ちの異常を察し、深雪の手助けで急ぎ支度して隊を教練場に集結させた。現地状況から飯田町方面が火元と判断され、城下西へ進発した。半鐘先打ちは禁忌であり、源吾は事態の深刻化を予期したのである。

松平隼人家の屋敷へ潜入
定火消・松平家の屋敷前には群衆が集まり、町火消の姿が見当たらなかった。源吾は旧知から隠し口の存在を見抜き、塀を破って内部に進入した。庭の陣太鼓前では白刃を抜いた神保頼母が立ちはだかり、周囲は鵜殿平左衛門を含めて手出しできずにいた。

神保頼母の拘束と自害
源吾は旧恩に触れて宥めようとしたが、頼母は理由を語らず太鼓を阻んだ。新之助が電光石火で取り押さえ、鵜殿が陣太鼓を乱打して警報は回復した。しかし頼母は直後に舌を噛み切って自害し、源吾と新之助は衝撃を抱えたまま火元へ走った。

万組頭・武蔵との対面と確執
火点では万組が鎮火を主導し、新庄藩の介入を拒んでいた。源吾は頭・武蔵と対面するが、過去に源吾が太鼓を打たなかった一件で三名の死者が出たと武蔵は責め、援助の申し出を拒絶した。さらに本件で武蔵自身が半鐘先打ちの御法度を犯しており、処分覚悟の最後の出動であると明かした。

「魁(さきがけ)」の真価——先掛けの竜吐水
万組は少数ながら訓練精鋭で統率が良く、武蔵は自ら竜吐水を操作して前線に立った。炎へ直掛けは素人筋なら誤策だが、武蔵は火勢の呼吸を読む勘で銃身を繊細に振り、弱点へ無駄なく放水して延焼の道を断った。この「先に掛ける」技から、武蔵が火消番付の東小結「魁」、すなわち“先掛け”の異名を取る由来が示された。源吾はその技量の冴えを認め、火は程なく収束に向かうと見通したのである。

被害の小ささとその理由
飯田町の火事は三軒の焼失で収まり、死傷者は出なかった。規則に囚われず半鐘を先打ちした武蔵の判断と、万組が日頃から主導した防災訓練が奏功した結果である。避難指導の徹底もあり、火元に群衆が滞留しなかった事実が裏付けとなった。

武蔵への沙汰と前例の問題
弥生廿一日、武蔵が町奉行に召喚される噂が広がった。先打ちは身分制上の禁忌であったが、明確な罪目は乏しく、従来は叱責と自主謹慎で処理されてきた。今回は二度目であるため、町人が武士の振る舞いをしたとして「詐欺」の適用が検討され、所払い等の重い処分の恐れがあった。

深雪の防火意識と家内の会話
深雪は夜の火気管理を徹底し、行燈も最小限とした。二人は火の用心を再確認しつつ、武蔵の行く末に思いを巡らせた。源吾は「町火消七十年で二度の先打ちは前例がない」とし、結果の読めない事態であると認めた。

運命の歪みと鵜殿への感情
深雪は「運命が狂ったのは自分たちだけでなく武蔵も同じである」と指摘した。源吾は鵜殿平左衛門の策謀を想起しつつも、現在は怨嗟よりも事実への直視を優先した。

源吾と武蔵の邂逅(明和元年)
九年前、源吾が火消番付・東の大関に昇り、月元右膳から縁談を受けていた頃、万組の新鋭として武蔵が頭角を現し、私的にも親交を深めた。武蔵は「魁」の渾名どおり竜吐水の先掛けに長じ、源吾を「源兄」と慕った。

縁談の進展と深雪の気遣い
明和二年、縁談は現実味を帯び、深雪は差し入れを重ねた。武蔵は配慮して差し入れを自分の手柄に見せるなど、二人を間接的に支えた。源吾は内心で深雪の思いに気づきつつ、言葉少なに受け止めた。

鵜殿の妨害と源吾の負傷
月元家隣家の出火時、源吾は太鼓打ちに向かう途上で鵜殿一味に暴行され、脚に深手を負った。深雪は父・右膳の説得で様子見に走り、源吾は配下を呼んで現場へ急行した。

炎中救出と借りの成立
現場では死者三名、負傷多数の報があり、病の老女救出に飛び込んだ万組頭・武蔵が生死の境にあった。源吾は濡れ羽織で武蔵を庇い、老女を先に託した後、再び炎中に戻って武蔵を担ぎ出した。源吾は己の身を省みず踏み出し、以後の確執と連帯の原点となる「命の借り」を刻んだのである。

朝の不調と不穏な気配
源吾は寝相の悪さを指摘され、体の重さと食欲減退を自覚していた。深雪は心労を見抜き、武家火消の妨害や武蔵の謹慎など最近の難事が負担になっていると諭した。源吾は謝意を示しつつ、深雪から「今宵、話がある」と告げられ、内心たじろいだのである。

教練場の来訪者—お琳の出現
非番の逃げ場として教練場へ向かった源吾は、若い娘が鳶衆に啖呵を切る現場に出くわした。娘は十歳前後の「お琳」と名乗り、火消番付で源吾が東の大関に返り咲いた理由を詰問した。源吾が「番付は遊び」と受け流すと、娘は安堵を見せ、ついで父の名を「大音勘九郎」と明かした。勘九郎は加賀鳶の雄であり、お琳は彼を誇りに思い、将来は自らも火消になると宣言するほどの気概を見せた。

家内の緩和と“偵察”宣言
帰宅後、源吾は出来事を語り、深雪はお琳の父への敬慕を微笑ましく評した。お琳は再訪を予告しており、その目的は「賄賂の有無を見抜くための偵察」との由であった。深雪の機嫌は和らぎ、家内の空気は持ち直した。

加持星十郎の早帰還
配下の急報で加持星十郎の帰還が判明した。伝馬の手配は長谷川平蔵による便宜であり、江戸の不穏を早期に察知したものとわかった。星十郎は長旅で痩せてはいたが、すぐに合流し報告に臨んだ。

三件の異変と“太鼓—半鐘”の盲点
丸屋町・奥平家の和間、麹町・諏訪家の中田、飯田町・神保の三名はいずれも実直の士で、各々の騒動後に自害していた。中田の妻子は堀で仏となって見つかり、残る家族は軟禁され面会不能である。星十郎は湯島天神下町の火事記録に注目し、「板倉家が後着なのに半鐘は鳴っていた」という非合理を指摘した。ここから「太鼓が先、半鐘が後」という常識が外部者には共有されていない可能性を導き、板倉家は脅迫で動けず、下手人は仕組みを知らず半鐘だけが鳴ったと仮説を立てた。源吾は即断で翌日の板倉家訪問を決め、星十郎も同意した。

深雪の采配と贈り物の簪
深雪は店仕舞い後にも店を開かせて食材を調達し、来客の膳を整えた。星十郎は懐から鼈甲の簪を取り出し「御頭からの品」と手渡したが、源吾には覚えがない。それでも深雪は満面の笑みで礼を述べ、座は和やかにまとまった。星十郎は人との距離の取り方もいつしか如才なくなり、かつての孤絶は影を潜めていた。

次の一手—板倉家へ
当事者の自害と家族の沈黙で探索は行き詰まっていたが、星十郎の視点が突破口を示した。源吾は苛立ちを煙管で抑えつつも、常識の盲点を突く追及で真相に迫れると判断し、板倉家への直接照会に踏み出す構えを固めたのである。

出立と土産話
翌日、源吾は星十郎と板倉家へ向かった。道中、源吾は前夜の簪の代金を申し出たが、星十郎は辞退し、ついでに御徒町「小諸屋」の看板娘・お鈴の件を相談したいと明かした。源吾は「己のままでよい」と助言しつつ、深雪との縁が十五年前に遡ることを思い返していたのである。

板倉家の門前と密談への誘い
板倉家は面会を拒絶し、情報は得られないかに見えた。そこへ昨年の大火で共闘した板倉家火消水番頭・藤井十内が密かに現れ、懇意の掛茶屋へと二人を導いた。周囲を憚る態度から、重大な秘事があることは明らかであった。

脅迫の実相—「太鼓」と「半鐘」の盲点
藤井は、湯島天神の火事の三日前に板倉家火消頭の五歳の子が誘拐され、「出動すれば子を殺す」と脅迫文が届いたと告げた。火消頭は市井とわが子の双方を救うため、あえて太鼓だけを打つ賭けに出た。半鐘の前提となる太鼓の合図を知らぬ下手人は、門が閉じたままであることだけを監視して子を返し、板倉家は町火消と新庄藩火消の出動に賭けて延焼を抑えたのである。

口封じと沈黙の理由
事件翌日、三通目の文書が到来し、「他言すれば再び同じ目に遭わせる」との恫喝が加えられた。これにより家老は箝口令を布き、板倉家が沈黙を守っている事情が明らかとなった。星十郎は「助かる道を示すことで要求を呑ませる」という心理の仕組みを指摘し、下手人が火消の常識に疎いと判断したのである。

付け火の稚拙さと“秀助不在”の影
星十郎は一連の火付けが朱土竜や時限の火縄などの巧緻さを欠き、手口が陳腐であると断じた。炎の機微に通じた秀助を欠いている形跡が濃く、犯行の質が落ちていると見たのである。

黒幕の仮説と報告の決意
板倉家が最初の標的で、失策に気づいた下手人が口止めのうえ手段を修正したと推定された。星十郎は畏まった口ぶりで“従三位の公卿”を仄めかし、源吾は「一橋」と名指して舌打ちした。身分や官位に関わらず命の価値は等しいという源吾の信念は揺らがず、最終的に田沼への直報を決意したのである。

城下の春と視線の先
桜は既に散り、新葉の香りが満ちていた。源吾は新緑の息吹を吸い込み、御城の方角へと目を向けた。次に打つべき手は定まり、動くべき時が来たと見極めたからである。

田沼への連絡難航
板倉家訪問から三日、源吾は田沼意次への伝達手段を模索したが、平蔵は上洛中で糸口がなく、左門も老中直通は断固拒否した。主君名を借りた書状は出したものの、田沼の目に届く保証は薄かったのである。

思わぬ来訪—“山本又兵衛”の正体
帰宅すると、深雪が通した来客は田沼家家臣・山本又兵衛と名乗る初老の男であった。源吾が警戒して座敷を開けると、その人物は正体を明かし、老中・田沼意次本人であることが判明した。田沼は柔和な挨拶から一転、読んだ書状の要点へと鋭く切り込んだ。

一橋の策動と“最安の攪乱”
田沼は、一橋家が将軍継嗣を巡る政争で江戸の治安を“火”で揺さぶる策をとっていると断じた。浪人を多数抱え、正式家臣も含む工作網を敷いているとし、秀助は口車に乗せられた位置付けであると説明した。暗殺でなく火付けを選ぶ理由は、民衆を巻き込んで治世への不信を最大化でき、かつ“最も安上がり”だからであると示された。

田沼家の備えと平蔵・意知
田沼は自らが斃れても、嫡男・意知が若くして政務を担えると冷静に述べ、暗殺が抑止される構図を示した。一方で平蔵の栄転には一橋の根回しが働いており、江戸の抑えを意図的に薄くされた可能性が示された。

当面の方針—火事と人質の二正面
下手人の拘束には“人質が囚われた地”を押さえる他ないが、その間も火事は起こり得る。源吾は「拙者が必ず消し止める」と応え、三河武士の血に誓って現場の責を負う決意を固めた。田沼は老獪な微笑を返し、暗闘の継続を予告したのである。

家内の一幕と小さな約束
深雪は質素ながら腕によりをかけて饗応を申し出た。田沼は多忙のため辞退しつつも、大根を昆布出汁で炊いた膳を賞味する談笑で和ませ、完成間近の大船への招待を約した。深雪は笑顔で応え、緊張の座敷に一瞬の温かさが満ちたのである。

苛立つ源吾と深雪の諭し
下手人が動かず手が出せない状況に源吾はいら立っていたが、深雪は「目の前のことに懸命に」と諭し、公開訓練に気持ちを向けさせた。

公開訓練の盛況
新庄藩中屋敷での公開訓練は大入りとなり、寅次郎の大丸太回し、彦弥の梯子渡りが喝采を浴びた。新之助と星十郎は後段の講座の講師として見守った。

お七とお琳の口論
観客席で彦弥贔屓のお七と、加賀鳶を誇るお琳が「ぼろ鳶か加賀鳶か」を巡って口論となった。源吾は間に入り、「加賀鳶は上だが、ぼろ鳶も負けてはいない」と宥め、新之助も「皆で江戸を守ればよい」と収めた。

不穏な嗤いと源吾の言葉
場が和む中、源吾は群衆の中に感情の欠けた冷たい嗤いを感じ取り、眉をひそめた。直後、源吾はお七とお琳の頭に手を置き、「応援があるから火に飛び込める。自分も勘九郎も同じだ」と語り、二人は眩しい笑顔を見せた。

鳳丸進水式への特別招待と随行者騒動
卯月朔日、田沼の肝煎りによる弁財船・鳳丸の進水式に、新庄藩は家老不在のため名代として松永源吾、その妻・深雪、供一名の帯同を許されることとなった。随行枠を巡って鳥越新之助が熱望し、深雪は渋々ながらも「供はあくまで外待ち」と釘を刺して同行を容認したのである。

巨船の威容と深雪の見立て
江戸湊で千二百石の巨船に乗船した一行は、その構造と規模に驚嘆した。源吾は星十郎と左門から仕入れた知識を披露し、深雪は千七百五十両程度と即座に試算しつつ、北前船を含む物流拡充、ひいては南蛮技術の導入と外洋進出までを見通しとして語った。

船上の異変—新之助と異貌の男
評定遅延で田沼が不在のまま、甲板が酒で賑わう中、新之助は荷の格納庫近くで不審を察し離れた。やがて船首で新之助が抜刀し、褐色の肌と深い二重を持つ男と対峙。男は油撒きを否定し、水掛け論に持ち込むが、新之助は家名を背負って告発した。

一橋家家臣・風早甚平の名乗りと落水救助
男は「一橋家家臣・風早甚平」と大音声で名乗り、周囲の幕臣に無実を訴えた。風早は剣に長け、新之助を体当たりで海へ突き落とす。源吾は抜刀を堪え、下帯一丁で飛び込み新之助を救出した。

進水式中止と処分の綱引き
騒擾により進水式は中止。取り調べは一橋家の特殊身分ゆえ難航し、治済は新庄藩糾弾を督促、田沼は無罪放免を指示した。最終的に「先に抜刀」の責を受けて新之助が謹慎処分となり、事態は一旦収束した。

風早への確信と次の標的
三日後、源吾が見舞うと、新之助は風早の太刀筋の癖から「火消家族を斬っているのは奴」と断言。さらに公開訓練の場に風早が来ていたと証言し、新庄藩が次の標的となる恐れを示した。源吾は全員への警戒通達を決め、風早単独ではなく仲間がいると見做して備えを固めた。

“絵で憶える”記憶と陰る微笑
新之助は群衆の顔ぶれを「絵として憶える」と明かし、その異能で風早の存在を確信したと述べた。最後に「忘れられたほうがよいこともある」と寂しげに笑い、源吾はその言葉の重さを受け止めたのである。

第三章 加賀の牙

連続する不審火と崩れる“太鼓—半鐘”
新之助の警告を受け、新庄藩火消は家族護衛と外出制限で警戒を強めた。直後に神田紺屋町で太鼓不発のまま延焼が起こり、以後七日連続で不審火が続発した。二日目麻布は新庄藩が半鐘なしで鎮圧、三日目四谷は太鼓が鳴るも同日夕刻に定火消頭取並の母が殺害され、四日目通塩町では町火消・に組が定火消屋敷へ殴り込み太鼓と半鐘を強制起動して鎮火した。

加賀鳶の介入と矜持
五日目春木町の出火では、定火消が沈黙する中で加賀藩上屋敷が太鼓を先打ちし鎮火。勘九郎は「昼寝の手助け」と痛烈に皮肉り、定火消は反論できず引き下がった。

六日目—自焼する定火消屋敷
市谷左内坂では定火消屋敷そのものが放火され、太鼓革は事前破壊、犯人の定火消は謝罪ののち焼身。規模の小さいく組では抑え切れず、八丁火消が逡巡する中、ぼろ鳶と加賀鳶が南北から同時到着し消火に入った。牙八と彦弥は火除地の速成で火花を散らしつつも、両勢は実務で拮抗した。

止まらぬ連鎖と“罰せられぬ沈黙”の悪循環
田沼の配慮で太鼓不発の組は処罰を免れており、そのこと自体がさらなる不作為を誘発。新庄藩は本来の守護地を超えて昼夜全域対応を余儀なくされ、疲弊が色濃くなった。

七日目—駿河台から西へ、飯田町の危機
寅の刻、駿河台発火は強風で西進。飯田町の定火消密集地帯は管轄争いで初動が遅れがちで、しかも万組頭・武蔵は謹慎中で出動困難。途中、加賀鳶二番組頭・清水陣内が「加賀鳶は出られぬ、飯田町で止めてくれ」と並走で懇請。加賀鳶内部は誘拐被害で割れ、勘九郎出動に詠兵馬らが反対、牙八は身を挺して進発を阻止していた。新庄藩は要請を受け現場急行、歓呼なき視線と疑念を背に、それでも「たとえ一組だけでも行く」と炎へ進んだ。

長雨の援護と一時の眠り
辰の上刻からの豪雨が新庄藩に味方し、延焼は鎮まり、新庄藩火消は決着を付けた。源吾は煤まみれのまま帰宅して短く眠りに就いたが、深雪に起こされ来客に応対することとなった。

武蔵の来訪と変わらぬ壁
訪れたのは武蔵であり、万組頭として正式に礼を述べたが、両者の間には過去の確執が残っていた。武蔵は太鼓・半鐘不発の背景に広がる脅迫の噂を質し、火消の「当然」と現実の「矛盾」を突き合わせた。源吾は理想を語りつつも、身内を人質に取られた場合に太鼓を打てるかは答えを出せず、武蔵は失望を滲ませた。

真相を伏せる源吾と深雪の涙
武蔵は九年前の火中救出の真相を問うたが、源吾は「あの日助けたのは万組の頭」と事実を伏せ、自身が太鼓を打てなかった罪だけを認めた。武蔵は去り、深雪は涙を落としたが、源吾は「火消は死んでも太鼓を打つべき」と自責を抱え続けた。

小康の間の整備と疲弊
雨で小火も止み、新庄藩火消は講堂で道具の整備に当たった。竜吐水は老朽し、新調の余裕はなく修繕で凌ぐほかなかった。星十郎は「後詰めのない籠城」に例えて疲弊を憂い、打開策の提示を示唆した。

星十郎の三策—上・中・下
星十郎は方針を三段に分けた。中策は「下手人は現場近くに潜む」と見て周辺監視を厚くする案であった。上策は人質に五色米を忍ばせ、拘束時に必ず触れる指先などから痕跡を撒かせ追跡する急進策で、源吾は「火消が人を数で捉えたら火消でなくなる」として退けた。下策は敵の綻びを待って耐えるのみで、二人は中策の実行と連携強化に傾いた。

牙八の土下座とお琳誘拐
その最中、顔に青痣を刻んだ牙八が駆け込み、泥に額を擦り付けて助力を請うた。攫われたのは勘九郎の一人娘・お琳であり、勘九郎は次の出火で太鼓を打ってでも江戸を守る覚悟を固め、加賀鳶は賛否で割れて牙八は追放同然となった。牙八の真意は「加賀鳶が出る前に新庄藩が先に消してくれ」という懇請であり、源吾はそれを受け止めた。

牙八の受け入れ
行き場を失った牙八を、源吾は自宅に迎え入れた。深雪は嫌な顔ひとつ見せず、身支度や着物の世話を甲斐甲斐しく行い、牙八は借りてきた猫のように従順であった。その姿に源吾と牙八は、深雪の人柄の大きさを改めて知った。

牙八の過去とお琳との絆
牙八は十歳で両親を失い、大音家に引き取られて育った。勘九郎から厳しい訓練を課され、常人を凌ぐ体力と精神力を得た。琳が誕生すると、実兄のように世話を焼き、琳からも慕われた。琳の言葉が励みとなり、ついには加賀鳶八番組頭の地位にまで昇ったのである。

お琳の失踪
一昨日の昼、琳が姿を消した。夕刻に脅迫状が発見されるまで誰も気付かず、勘九郎は藩務に忙殺され家に寄り付けなかった。琳は寂しさから度々町へ姿を消し、牙八が諭しても聞かなかった。牙八は相談を怠ったことを悔い、自らを責めていた。

長雨と迫る決戦
牙八もまた、長雨が止めば敵が動くと察していた。敵は過去の失敗を挽回するため全力を尽くすと見られ、源吾は勘九郎に「次は自分たちだけで火を消す」と呑ませる決意を固めた。厳しい戦いが予想され、不安は募るばかりであった。

仲間の集いと宴
源吾は牙八を励ますため配下を集め、深雪が大鍋を用意した。新之助の謹慎解除の報せや、仲間たちの軽妙なやり取りが場を和ませた。深雪は牙八の逗留を断固として受け入れると宣言し、牙八は雷に打たれたように感銘を受けた。源吾はその様子を横目に、深雪の存在の大きさを改めて感じていた。

新之助の復帰と備え
小雨の続く中、新庄藩は決戦に備えて準備を進めた。新之助の謹慎解除が迫り、戦力増強は唯一の朗報であった。牙八は教練場で竜吐水の修理に力を発揮し、源吾からもその器用さを称えられた。

源吾と勘九郎の対面
源吾は加賀藩邸を訪ね、勘九郎と書斎で対峙した。琳の安否を問う源吾に対し、勘九郎は「仕方あるまい」と答え、娘を犠牲にしても火に立ち向かうと断言した。源吾は憤りを露わにしたが、勘九郎の決意は揺らがなかった。

勘九郎の覚悟
勘九郎は各藩の火消頭へ「恐れず火に立ち向かえ」との書状を送り、孤立を承知で覚悟を示していた。返答は無かったが、それでも火消の矜持を貫こうとしていた。

源吾の思いと対比
源吾は勘九郎を火消としての極致と認めつつ、自らは全ての命を諦めない道を信じていた。互いの在り方の違いを前に、言葉を交わせぬまま二人は別れた。

第四章 二翼標的

脅迫状の出現
源吾は新庄藩に届いた脅迫状を手にし、鳥越家の息女を人質に取ったとの文面に衝撃を受けた。新之助には妹も娘もおらず、不可解さが残った。星十郎は敵が加賀鳶と新庄藩の両方を封じる意図を持つと推測した。

お七失踪の発覚
新之助が飼う犬の散歩を日常的にしていたお七の存在が浮かび上がり、彦弥は真っ先に彼女の家へ向かった。やがて母親ともども所在不明であることが判明し、攫われたのがお七であると結論づけられた。彦弥は怒りのあまり新之助を殴りつけたが、寅次郎が制止し、場を収めた。

絶望と決意
牙八は新庄藩の出陣が封じられたことに絶望し、勘九郎を止められないと嘆いた。源吾は江戸を焼かせず、お琳とお七を必ず救うと宣言した。仲間からは無謀とする声が上がったが、源吾は最後まで足掻く覚悟を示した。

左門の激情と共鳴
左門は過去の飢饉に触れ、人災を許せぬと訴えた。ぼろ鳶の諦めの悪さを示そうと檄を飛ばし、火消たちの心を奮い立たせた。ずぶ濡れの一同が闘志を燃やす中、新之助だけは項垂れて沈黙していた。

夜襲に備える会議
源吾の宅に一同が集まり、敵の行動は間もなく起こる可能性が高いと判断された。星十郎は天候の変化を注視しつつ、刻限が近いことを強調し、常に気を張って待機する必要があると告げた。左門は主家から蠟燭を多数用立てて状況会議の灯りを確保した。

二方向作戦の立案
星十郎は同時に二つの任務を遂行すべきだと宣言した。ひとつは火付けに備えて防備を整えること、もうひとつは攫われた二人の所在を突き止めることであった。上屋敷から人員を移し、火消半纏を着せて教練場に留める偽装を行う案が示され、これにより多数の者を町中に潜伏させ、事が起これば定められた地点に集合する手筈を整えようとした。

懸念と不足の指摘
寅次郎は平装のまま炎に立ち向かわせる案に危惧を示した。前回の成功は運が良かったに過ぎず、同様の方法で配下を危険に晒すべきではないと主張した。星十郎は予備の衣装について示唆を与え、疑念を和らげる方向を示したが、人質の所在を特定する手掛かりが極めて乏しいため確実な解決には至らないと認めた。

希望とさらなる模索
偽装が奏功すれば人質が戻る可能性も示唆されたが、火事場を監視する者の存在や屋敷外での見張りの可能性があり、その見込みは確実ではなかった。星十郎は府外ではなく府内に人質が連れて来られていると推定したものの、場所の特定は困難であると述べ、諦めずにさらなる策を練るために一晩中思案する意志を表した。

晴れ間と待機の焦燥
翌朝には雨が上がり、昼前の小雨も短く終わった。町は日差しで急速に乾きつつあり、夕刻には決起の条件が整う恐れが高まった。鳶は早朝から順次潜伏に移り、源吾は星十郎と牙八とともに最後に出る段取りで、緊張の中で休息を試みたが眠れなかった。

深雪との短いやり取り
源吾は出立前に深雪へ話の有無を質し、干し芋を勝手に食べた件の買い直しを求められた。張り詰めた空気の中の小さなやり取りが、出立前の心の隙間を埋めた。牙八は不眠の極みにあり、深雪が宥めて休ませていた。

命の値と決断をめぐる対話
予定より早く訪れた星十郎は、大音勘九郎の判断が妥当と見立て、時を変えられていれば手の打ちようがないと率直に述べた。源吾はかつて星十郎が語った命の値は量れないという言葉を引き、最後の時まで諦めずに足掻くしかないと意を固めた。

鳶丸の帰還と紅の布
新之助らが駆け込み、泥だらけの鳶丸が戻ったことを告げた。足には薄紅の布片が結ばれており、指で紅を引いた七字が読めた。本半、芝一足、武言という文言であった。牙八は布が八掛けであり、お琳の好む一斤染の裏地だと断じた。お七発の伝達であり、同所にお琳も囚われている可能性が浮上した。

暗号解読と牛込の特定
星十郎は切絵図を広げて即座に解読に着手した。本は本郷、芝は芝を指し、半と一は半刻と一刻の時距離、足は足らずと読むと結論づけた。本郷を中心に小円、芝を中心に大円を描いて交点を絞ると、馬喰町と牛込が浮かんだ。武言は武士言葉と解し、武家地が広がる牛込を本命視した。馬喰町は町火消の監察が厳しく、火付けの潜伏は困難という源吾の経験則も牛込有力を裏付けた。

方角確定と動員の機運
風が出て雲は東へ流れ、陽が戻る兆しが濃くなった。源吾は牛込と断じ、一同は力強く頷いた。天候が味方に回る前に動くべき刻が迫り、潜伏と救出の二正面作戦を現地指向へと収斂させる段となった。

指揮と連絡体制の確立
源吾は即時出立を決め、星十郎を火付盗賊改方へ走らせた。牛込に絞れた以上、武官主体の火盗なら迅速な捜索と踏み込みが期待できると見たためである。馬は三頭を割り当て、源吾と牙八、新之助と彦弥、寅次郎は単騎で配置した。

牛込潜入と空き家の洗い出し
道中で新之助は武鑑と切絵図の記憶をもとに、先月時点で残る空き家を納戸町・箪笥町・築土町・無量寺門前の四つと即答した。空き家を虱潰しに当たる方針に対し、新之助は火事が起きたと喧伝して内部の人間を炙り出す案を提示し、実火ではなく虚報で揺さぶる狙いを明らかにした。

偽出火作戦と鐘の強行
配置を四手に分けて監視とし、接触は火盗合流まで禁じる統制を敷いた。彦弥は鐘声を広域に届かせる役を引き受け、ゐ組の鐘楼に忍び込んで鐘を鳴らした。直後にゐ組の面々が猛追したが、彦弥は屋根伝いに離脱し、源吾は無量寺門前と納戸町の確認へ動いた。

初動確認と空振り
無量寺門前は牙八が自制して潜伏監視を続けており、動きなしと報告した。往来は一時混雑したが、誤報の噂が広まると速やかに収束し、築土町でも反応は見られなかった。

深雪の示唆と小さな不穏
牙八は出立前に深雪から自重を言い含められていたと語り、さらに今は心労が祟るといけない時期だとだけ示し、詳細は深雪の口から聞くべきだと促した。源吾は一瞬それを思い返しつつも、行軍を優先した。

新之助の単独行動の兆しと急行
寅次郎・彦弥と合流し、残る標的が箪笥町に絞られた矢先、源吾は新之助がこのところ笑みを見せず、単独で事を起こす気配を読み取った。大火や鳳丸での先行遭遇の前例も脳裏を過ぎり、今の新之助なら一人で踏み込むと判断した源吾は、箪笥町へ緊急に馬を駆った。陽は西に傾き、決戦の刻限が迫っていた。

潜伏の的中
築土町の空き家で脇門が開き、浪人風の男が半鐘の所在を探って姿を現した。続けて二人目も現れ、中で囁き合って引き返したことで新之助は当たりと見抜いた。身のこなしから武芸は高くないと判断したが、先日の風早甚平の凄みを想起し、独断踏み込みは避けるべきだと自重した。

駕籠と麻袋の発見
閉め忘れた脇門の隙から屋敷内がのぞき、駕籠が複数用意され、さらに人一人が入る大きさの麻袋が二つ運び出されつつあることが判明した。遠目に七名以上の気配があり、移動の兆候が濃厚であると新之助は直感した。

単独突入と初撃
新之助は自然な足取りで門を潜り、問いかけに応じた男の鳩尾へ肘を打ち込んで無力化した。麻袋は激しく動き、中からお七とお琳の反応が返った。束ね役の合図で十二名が抜刀し包囲を狭める中、新之助は鼻先で太刀を躱し、裏拳で一人を沈めて牽制した。

乱戦の制圧
刀を下段に構え、急所を外しつつも迅速に応じた。手首や指を落として武器を奪い、低く回転して脹脛を断ち、三人を瞬く間に不能にした。残りと乱戦に移ると受けに回る場面もあり着物は裂けたが、腕を折り小柄で鼻梁を砕いて数を減らした。最後の一人が麻袋に刃を当てて脅すと、新之助は脇差を投擲して肩口を穿ち、間合いを詰めて逆胴で制圧した。

叱責と救出
そこへ源吾、彦弥、寅次郎が駆けつけ、源吾は新之助の独断を厳しく叱責した。新之助は移送の兆しに動いたと弁じつつも謝し、猿轡を外してお七を解放した。寅次郎は駕籠からお琳を抱き出し、源吾が縄を断って介抱した。牙八は震える手でお琳の容体を確かめ、彼女もまた牙八の痣に涙して寄り添った。

拘束と小休止
新之助は気絶から覚めかける賊を鞘で小突いて回り、寅次郎は縄で確実に縛り上げた。新之助は源吾の心配に照れを含ませて応じ、修羅よりも皆と笑える日常を望む心を胸に、ひとまず救出の成就を確かめた。

救出直後の報と、分散された人質
星十郎が火付盗賊改方を率いて到着。お琳とお七の証言から、二刻前に別働三名が「今度こそ燃やせる」と出立、さらに他所にも人質がいると判明。星十郎は“最初に白状した者は放免、二番は減刑”と心を攻めて情報を抽出し、千住宿の糸屋に女二名の人質、下手人の統括は風早甚平で、放火先と手法は彼の胸中のみと割り出す。

最悪の着火点――深川木場
知らせが飛び込み、星十郎が即断で「深川木場・材木商い名胡屋」と指示。木場は備蓄が平時の五倍超、海風で炎が津波の如く押し寄せる地。にもかかわらず本所・深川は定火消・八丁火消・町火消・方角火消・所々火消、さらには飛火防組合までひしめくはずが動かず、唯一、加賀鳶が四十名のみ急行中と判明する。

勘九郎の覚悟と、お琳の決断
源吾は勘九郎が「股肱の四十名」で人柱になる覚悟だと見抜く。牙八は同行を願い出、お琳は「父上に迷うなと伝える」と静かに志を示し、娘の殻を脱ぐ。

総員発進と深雪の届け物
お七を火盗に託し、新庄藩火消は外濠沿いを南進。逃げ惑う群衆の中、配下が合流を重ね三十、やがて五十に。紀伊国橋の集合地点では深雪が刺子羽織・半纏を抱えて待ち受け、場の只中で源吾に一言、「嬰児が出来ました」。生還を促すため“今、言う”。源吾は喜びを嚙みしめ「喰ってくる」と出陣の言葉を返す。

ぼろ鳶、復帰の号砲
左門らの偽装待機に新調装束を回しているため、一同は煤と継ぎはぎの旧装束を纏う。「肌に馴染むのはこちら」と笑い合い、源吾・新之助・星十郎が先頭で馬を躍らせる。往来の人々は逃亡者から野次馬へと反転し、「ぼろ鳶が帰ってきた」「火喰鳥、頼むぞ!」の声が渦巻く中、細く天を穿つ火柱を睨み据え、新庄藩火消は炎の海へ突入した。

第五章 烏と鳳

火消たちの混乱と新之助の憤り
新大橋西詰には火消が大勢集まっていたが、誰も消火に動こうとせず混乱が広がっていた。町火消は八重洲の定火消が太鼓を打たねば動けぬと主張し、武家火消も所々火消を差し置けないと拒んでいた。新之助は有無を言わせぬ口調で迫ったが、頑なに拒否され憤慨した。源吾もまた大火の際に一体となった記憶を思い出し、人々が利害に縛られて協力を拒む現状に強い失望を覚えていた。

風向きと大手組の静観
星十郎が風向きを読み、南南東の風は御城には被害が及ばぬと指摘した。寅次郎らは江戸を全力で走り抜けて疲弊していたが、方角火消大手組は御城を守ることを優先し出張らぬと見られた。源吾は迷いを断ち切り、配下に前進を命じた。

所々火消との対立
源吾は御籾蔵の防衛に奔走する所々火消に迫り、太鼓を打つよう叱責した。伊達家の火消侍は家格を誇示して嘲笑し、源吾は額をぶつけながらも引かず問い質した。星十郎は家紋の多さを皮肉り、寅次郎や彦弥も加わり因縁を語った。やがて伊達家の火消は、太鼓や半鐘がすべて壊され盗まれているため叩けぬのだと告白した。敵が火消の仕組みを理解し、内通者を利用した策を講じていることが明らかとなった。

源吾の決意とお琳の覚悟
源吾は伊達家の火消に独眼竜が泣いていると吐き捨て、お琳には危険だから戻れと告げた。しかしお琳は首を振り、勘九郎の娘として覚悟を示した。源吾はその姿を深雪になぞらえ、彼女を前に乗せて守ることを誓った。そして配下に向けて木置場を目指すと宣言し、死に急ぐ火消に格好をつけさせるなと奮い立たせた。新庄藩火消は走り出し、他の火消たちは羨望と自己嫌悪に苛まれながらも勇気を持てず項垂れるばかりであった。

勘九郎の覚悟と配下の奮闘
勘九郎は炎を前に死を覚悟し、避難が終わらぬ以上退くことを許さなかった。清水陣内が後退を進言するも、仙助や甚右衛門らは大頭の意志に従い命を賭して奮戦した。陣内は人々を救い、仙助は炎を煽ぎ、甚右衛門は鳶口で梁を切り落とした。それぞれが背負う事情を胸に、命を惜しまず火と対峙していた。

大音家の歴史と勘九郎の葛藤
勘九郎は一族郎党が炎に散る宿命を受け入れつつも、娘お琳を残して逝くことに赦しを請うた。病に苦しみながら送り出してくれた妻の記憶が甦り、お琳がその面影を宿していることに胸を締め付けられた。配下の熱意と忠義にも甘え、彼らと共に紅蓮へ突撃する覚悟を固めていた。

お琳の登場と再会
その時、遠方からお琳の声が響き、馬上で新之助に抱きかかえられた娘の姿を目にした。勘九郎は歓喜しながらも冷たく叱責したが、お琳は加賀鳶の最強を示せと訴えた。その言葉に勘九郎は涙を流し、大音家の娘に相応しいと認めた。

火喰鳥との共闘
火喰鳥と新庄藩火消も駆け付け、勘九郎と共に炎へ挑む構えを見せた。互いに軽口を交わしながらも、心は一致して火勢を押し返そうとする気迫に満ちていた。勘九郎は鳶口を収め指揮棒を取ると、お琳に必ず帰ると告げ、炎へ向かって再び歩み出した。

本所の火勢と即時展開
源吾はお琳を退避させると、鳶を急展開して前線を固めた。木場の延焼は想定以上で、加賀鳶が築いた火除地を炎が飛び越え、家々へ噛みついていた。星十郎は卯月十四日酉刻・南東強風と状況を整理し、当面は百五十名で堅守するほかないと結論づけた。源吾の号令で新庄と加賀が一斉に火勢へ打って出た。

加賀と新庄の連携と持久戦
仙助は屋根上で団扇と纏を操り、甚右衛門は長鳶口で梁を落とし、寅次郎は体当たりで柱を折った。陣内は避難誘導に徹し、星十郎が介添えした。勘九郎は戦力不足を悟りつつも前面を押しとどめ、牙八には鋸で障害物の切除を命じた。新庄・加賀の奮戦にもかかわらず、熱気は増し、各所で新たな火点が生まれていた。

分進の是非と「火消」の基準
源吾は南の遮断、自らの持ち場の分割を指示したが、新之助は損耗を懸念して反対した。源吾は火事場で命の重さに唯一差を付けるなら火消とそれ以外であり、一人を救うために三人が倒れることも厭わぬと告げた。新之助は逡巡の末に了承し、なお諦めぬ姿勢を共有した。

伝説の半鐘と万組の登場
絶望的な局面で半鐘の特殊な打ち方が響き渡った。将軍のみが許されると伝えられてきた合図であり、万組の一団が半鐘を掲げて北から進出した。魁武蔵は正面の火勢を竜吐水五台で受け持つと宣言し、町火消の矜持を叩き起こした。鐘を合図に伊達家の火消も動き出し、府下の火消が己の務めを自問自答しつつ再起した。

火元攻略への策と決断
勘九郎は万組との共闘を受け、源吾に火元攻撃を託した。星十郎は船による回り込みを示唆したが、戦力と時間の不足を憂慮した。源吾は別案を閃き、勝手に借用すれば大罪となる代物でも、人命と秤に掛けるまでもないと断じた。新之助は荒事の抑えを引き受け、二騎で発進。星十郎は背後を預かり、前線は万組・加賀・新庄が一丸となって持ちこたえる態勢となった。

追跡者の分断と鳳丸への強行
源吾は仲間を信じて木場攻略へ転じ、霊岸島から江戸湊へ疾駆した。背後には騎馬三騎が迫り、そのうち風早甚平が食らいついた。新之助は迎撃のために反転し、二騎を落馬させたが風早のみが突破した。源吾は田沼肝煎りの弁財船・鳳丸へ渡し板ごと強行突入し、袋の鼠と化す前に新之助も乗り込ませた。

船頭・權五郎の決断
甲板の海の男たちは当初敵意を示したが、源吾は木場の地獄を指し示し、この船を木場にぶつけて高波で鎮火する策を直言した。無断使用の大罪と引き換えでも人命を取ると誓ったことで、船頭・權五郎は覚悟を決め、乗組員は即座に持ち場へ走った。

風早甚平の乱入と新之助の制圧
風早は鉤縄で船尾に取り付き、網や棒をものともせず甲板を蹂躙した。新之助は居合いで立ちふさがり、鍔迫り合いの末に峰打ちで胸を断ち、縄で拘束した。風早はなお匕首で縄を切って暴れ、舵を体当たりでへし折ったが、新之助の追撃で再び戦闘不能に追い込まれ、海へ転落した。

舵喪失と「風」を起こす賭け
舵を失った鳳丸は海面を弧描して逸走しかけた。權五郎は東風が少しでも吹けば立て直せると見立てたが、実際の風は岸へ真っ直ぐであった。源吾は船底右舷後方に菜種油を撒いて点火し、上昇気流で東からの風を呼び込む策に出た。新之助の救助で辛くも甲板に戻り、船は再び木場へ向きを正した。

体当たりと豪波の鎮火
鳳丸は側面から岸を抉り、轟音とともに天を衝く大波を立てた。豪雨のごとき海水が木置場を叩き、炎は断末魔を上げて沈黙した。火元の木材は消し炭となり、周囲の火点も幼い火へ退化した。甲板では歓声と嗚咽が入り交じり、源吾は勝利を確信した。

代償と別れの言葉
船尾に点けた火は収まらず、鳳丸は後部を焼失する運命となった。權五郎は浅瀬で沈静化する段取りを付け、源吾に江戸を救った自負を分かち合った。源吾と新之助は縄梯子で下船し、權五郎は万里の波濤を越えると笑って見送った。源吾は芝の自宅に招くと叫び返し、ふたりは再び前線へと駆け出したのである。

火消たちの総力戦
火元を絶った炎は最後の勢いで北進したが、深川界隈にはかつてない数の火消が集結していた。伊達の所々火消や八丁火消、大手組、町火消、さらには飛火防組合までが参戦し、開府以来の規模となった。混乱を避けられたのは勘九郎の指揮と星十郎の補佐、そして武蔵率いる万組の放水による突破口があったためである。源吾と新之助も合流し、全体が統制された動きを見せた。

炎との最終決戦
勘九郎と源吾は左右から炎に突撃し、八咫烏と火喰鳥が並び立つかのように奮戦した。深川で炎を討ち果たしたのは亥の刻であり、武家火消と町火消が東西から追い込み、徹底的に殲滅した。さらに二刻をかけて種火の一つさえ残さぬよう見回り、丑の刻にようやく解散となった。

武蔵との再会と真実
疲弊した源吾のもとに煤まみれの武蔵が現れ、再会を喜びつつも鐘を打った行為の重さを問われた。武蔵は源吾に救われた過去を前頭から聞き出し、真相を知っていた。源吾は罪を背負うつもりで黙していたが、武蔵は裏切りと思い込んでいた自らを悔い、源吾に謝意を示した。互いに大人になったと認め合い、武蔵は江戸払いを覚悟しつつも臥煙として火消を続ける決意を語った。その背には寂しさを帯びつつも、確かな誇りがあった。

武蔵の処分と嘆願の力
十日後、左門が源吾を訪ね、武蔵の処分が伝えられた。結果は万組の解散のみで、江戸払いもなく奉公構いも付かなかった。武家火消十八家と町火消三十四組による嘆願書が効力を発揮し、さらに鵜殿が自ら責を認めて助命を請うたことも影響した。庶民は半鐘を将軍が打ったと信じ、幕府もそれを否定しなかったことも有利に働いた。

武蔵の迎え入れ
源吾は裃姿で新之助や星十郎らを伴い、長屋を訪ねて武蔵に新庄藩火消への加入を申し出た。武蔵は一度は大坂で再出発を考えていたが、万組の者たちが直々に新庄藩へ嘆願したことを知り、胸を熱くした。源吾は温情ではなく必要だからだと伝え、武蔵は頭を下げて承諾した。

新之助の不安と和解
新之助は武蔵の実力に引け目を感じ、自分の存在意義を疑ったが、武蔵から火消としての働きを高く評価され、機嫌を直した。周囲もそのやり取りを微笑ましく見守り、和やかな空気が広がった。

武蔵の抜擢と誓い
源吾は武蔵を新庄藩一番組頭に抜擢し、水番も兼ねさせた。武蔵は驚きつつも、命を懸けて務めると誓った。源吾は新たな仲間に囲まれながら、過去を引きずっていたのは武蔵だけでなく己自身でもあったと悟り、穏やかに笑みを浮かべた。

田沼邸の沙汰――処断か、祝言か
鳳丸沈没の件で田沼家に召された源吾は、切腹も覚悟して登城。だが田沼は深雪と示し合わせて“父になる覚悟”を引き出す一芝居を打っており、鳳丸は「強風に煽られ偶然座礁し偶然鎮火した事故」として不問に。權五郎ら水夫が一貫して“偶然”を証言したおかげで、処罰なし。田沼は鳳丸を何度でも建造し直すと豪語し、源吾にあやかった名まで付けたと明かす。さらに今回を機に火消の法の見直しを約束した。

風早甚平の素性と最期の言葉
新之助の問いに、源吾は風早が一橋に拾われた孤児で、技を叩き込まれた駒だったと伝える。海に落ちる直前に漏らしたのは「旗本」「千両」、そして最後に「殿」。金や地位に加え、主への歪んだ忠があったのだろうと二人は推し量る。

加賀からの贈り物――名馬・碓氷
牙八とお琳が来訪。勘九郎の名代として、名馬・碓氷を進上する。勘九郎の言葉は「火事場以外で馴れ合う仲でもなかろう。借りは作りとうない、黙って受け取れ」。お琳は「加賀鳶が一番、皆様は二番」と挑発しつつも、感謝と見直しを率直に告げる。牙八も「一番は譲らねえ」と本来の気概を取り戻し、夕陽の中へ去っていく。

深雪と源吾――遅れてきた口約束
緊張の沙汰を終えた夜、源吾は深雪に「俺でいいのか」と長年の負い目を吐露。貧苦と沈黙の時期を経てなお支え続けた深雪に、改めて「俺と夫婦になってくれ」と真正面から求婚する。深雪は「あの日助けてもらった時から決めていた」と応え、二人は笑い合う。田沼(=山本)の“家事せよ”の教えで皿洗いを買って出る源吾。子が生まれたら「小遣い半分」と冗談を飛ばす深雪にたじろぎつつ、初夏の風と蛙鳴に包まれ、父と夫になる覚悟を胸に刻む。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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